●GGO
ゴッドゲームオンライン。
それは究極のゲームにして『統制機構』という名の停滞と変化を許容しない世界においては、自由な世界であった。
猟兵たちは未だ『統制機構』というリアル世界に転移することは叶わない。
しかし、それでもゲーム世界であるゴッドゲームオンラインにならば生身で転移することができるのだ。
「これは驚いたな」
厳・範(老當益壮・f32809)は目の前に広がる光景に感嘆の声を上げる。
共に来ていた宝貝人形『花雪』も、二頭のグリフォンもまた目をパチクリしている。それほどまでにゴッドゲームオンラインの内部にある世界は本物と変わらぬ精度を持っていたのだ。
「すごいですね。この世界のオブリビオンはバグプロトコル、というのですよね」
「ああ、そう伝え聞いている。この草原地域にバグプロトコルが発生しているという話であったが」
二頭のグリフォンは、足元に感じる草の感触に驚くよりは喜んでいる。
なんとも居心地が良い世界であると思ったのかもしれない。
そんな彼等を遠巻きに見ている集団がいる。
それがゲームプレイヤーであることを範は知っていたのだが、自分たちは生身である。彼等はアバターと呼ばれるリアル世界の自分とは異なる分身を持って、このゴッドゲームオンラインの中にて冒険をしているのだ。
「な、なあ……もしかして、あんた、そのグリフォンは……」
「如何なされたか。何か問題でも?」
「い、いや、そうじゃない。そういうんじゃないんだ。グリフォンって言えば、騎乗できるジョブも限られているしさ、珍しいもんだから」
「なるほど。物珍しさで声をかけた、と」
「それも二頭も。聞いたことがないものだから。すまない」
「あ、いや。そう勘違いなされるな。気を悪くしたわけではないゆえに。やはりグリフォンは珍しいのであろうか」
範は今後、このゴッドゲームオンラインの世界で生きるのならば、ゲームプレイヤーたちの間にある常識を知っておくべきだと思っていたのだ。
「ああ、珍しいよ。乗れるのは騎士階級だし、持ってるだけでAIの貴族キャラからは尊敬されるものなんだよ。あんたは二頭も所持している。それだけでAIの反応が違うはずさ」
「なるほどの。教えてくれて助かる」
「いや、こっちこそ光栄だ。スクリーンショット、いいかな?」
そういうやり取りを終えて範はゲームプレイヤーたちと分かれる。
無事にバグプロトコルは打倒できたのだが、こうして多くの情報が得られるのが、このゴッドゲームオンラインの世界の良いところであると思えた。
「お爺さま、そろそろ戻りましょう。バグプロトコルは大方片付いたようです」
後は普通のモンスターエネミーだけ、ということであろう。
ならば、此処に猟兵としての己の役目はない、と戻ろうとして範は一つの鳴き声に反応する。
「……今、何か」
「クエッ!」
その鳴き声に二頭のグリフォンが反応する。白と黒。それが己のグリフォンである阳白、阴黒の特徴だ。
それまでゲームプレイヤーに話しかけられた時に人語を話すのは余計な詮索を受けるだろうからと黙っていたのだが、その鳴き声に反応してキョロキョロ見回す。
「なにかこえがしたね」
「うん、した。ぼくたちではないこえ」
「クエクエクエ! ピィ!!」
振り返ると其処に居たのは灰色のグリフォンであった。
阳白、阴黒とも違う羽色。そして、銅色をした瞳がキラキラと輝いていた。どうも二頭とは重ねた年月というものが違うらしい。
だから視点が違って見つけづらかったのだろう。
「えー? そう?」
「そんなに?」
「クエクエ!」
「んー、聞いてみないと」
「そうだね」
範には三頭の会話が理解できていたのだが、しかし割って入ることはできないと思っていた。
同族には同族なりのルールというものがあるはずであろうからだ。
「あのね、二人がバグプロトコルと戦っているのがすごくってびっくりしたんだって」
「それとぼくらのこともかっこいいって。だから、一緒についてきたいって」
「……」
範は悩んだ。
いや、わかっているのだ。
これはどう考えても自分たちが面倒をみなければならないだろうし、来る者拒まずの精神故に大所帯になっていることもまた言うに及ばずである。
受け入れることを悩んでいるのではないことを断ってから、範は考える。
何に。
名前である。そう、受け入れるのならば、名を考えなければならない。
「クエッ!」
なんでもやるよ! と言わんばかりのキラキラした瞳。灰色の毛並み。
でも、争いごとはちょっと……と灰色のグリフォンは言う。
なるほどな、と思うのだ。
ならば、彼には『若桐』のお店で番犬ならぬ番グリフォンをしてもらおう。
「ならば、ぴったりの名がある」
「クエ?」
「そう。その毛の色より、名を
『无灰』。これよりはそう名乗るが良い。当てにしておるぞ、その名に恥じぬ働きを――」
成功
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