「……暇だな」
(自称)レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)がいつもの如くゆったりと椅子に座って手を組んでいる。
「特に、これと言った事件もイベントも……無くは無いが、致命的案件には繋がらん。人間案件も大体は住民で対処出来るしな」
事件らしい事件は特に起きていないようである。
「折角の機会だし、どこかに遊びに行ってくるか?」
けものマキナの大まかな全体地図を広げる。
「自然豊かなマキナタでは定期的に収穫祭をしているようだ。魔術を学ぶ生徒がいるアルワーツ魔術学園で生徒に特別授業をしてもいいかもな。キャバリオン自治集落ではキャバリアランクマッチが流行っているようだし、ウォール・アクアでショッピングを楽しむのもいい。ゴブリン集落は相変わらずだし、アラクネの里とかハーピーの里とか、ドラゴンの秘境と言った色んな種族をメインにした集落もある。後は崩壊前世界の情報が発掘できる機械図書館遺跡なんかもあるようだ」
地図のいくつかのポイントにピンを打つ。
「他にも色んな場所があるから好きな所を見てくるといい。バトルがお望みならその辺で抗争もやってるだろうし、人間襲撃事件も無くは無い。それと……あの塔、行きたいと言うなら送ってはやるぞ」
あの塔と言うのはGFBTの事だ。その名の通りの場所である。
「仕様上私は行けないがな。まあ好きな所に行って好きに遊んでくるがよい」
Chirs
ドーモ、Chirs(クリス)です。今回は試験的常設シナリオとなっております。
ノベルだとも字数制限があって書きにくいという個人的事情でノベルは引き受けませんが、このシナリオにて実質的にノベルのように任意の場所、任意の場面、任意の人物との交流等を描きます。
例えば、マナキタ集落の収穫祭に参加したり、アルワーツ魔術学園で生徒と特別授業したり、キャバリオン自治集落でキャバリアファイトしたり、ウォール・アクアで買い物したり、ゴブリン集落で遊んだりとか出来ます。過去に登場してない場所でも構いません。
……え、GFBT? 行きたければどうぞ。まあ、いきなりアレは何なので、GFBTに関しては需要があるなら別シナリオとして出します。このシナリオは実際健全です。たぶん、そうなる筈です。
通常プレイングの場合書けそうなら書くと言う感じになる事をご了承ください。ただ、通常プレイングでも何度も再送頂いた場合は採用率は上がります。オーバーロードで頂いた場合は内容を問わず誠心誠意書かせていただきます。
ノベルの文字数上限を取っ払うシナリオなのでアドリブは大盛りで行きます。連携要素は、性質上同じ場所に居なければ発生しませんが。皆さんの望む日常風景を提供出来れば良いなと思う所存でございます。
第1章 日常
『プレイング』
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POW : 肉体や気合で挑戦できる行動
SPD : 速さや技量で挑戦できる行動
WIZ : 魔力や賢さで挑戦できる行動
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ラスカル・ノース
さて、久しぶりに来て行くぜ。
マナキタを歩いて収穫祭ってのを眺めていくぜ。
そろそろ寒くなっているころだし、どんなのが出てるのか眺めていくぜ。
あとは、どうするかな??
●あわせの門
「さて、久しぶりに来て行くぜ」
ラスカル・ノース(アライグマの機械技師・f37198)はウォーキングマシンをがっしゃんがっしゃんと鳴らしながらマナキタの里の収穫祭に向かっている。
「この辺のはずだが、なんか思ったよりこじんまりとしてるなぁ」
確かに少し遠くに祭りの賑わいを感じる。だが、マナキタの里は人間の五分の一程度の体格であるフェアリーを中心とした集落だ。全てのサイズが五分の一になるので仕方が無いか。
「おいアンタ、まさかそのまま乗りこむつもりじゃないよな?」
と、向かっている途中でスタッフらしき人に誰何された。
「いや、降りるぜ。駐機場はどっちだ?」
「あっちだ」
指を刺された方向には確かに、様々なメカが停められている。ただ、ここは森の中のマナキタの里。自動車などではそもそも到達できないのでウォーキングマシンやキャバリア、ヘリやVTOLらしき物まである。
しかし、そのどれもが妙に小さい。何となく本物っぽくはあるのだが全てフェアリーサイズだ。
「その前に”あわせの門”だな。そうだな……お客さんだけなら5番から3番って所だが、それ込みだと……うん、7番から3番だな」
「なんだそのあわせの門ってのは」
「あっちにある残滓だよ。ちゃんと言った通りの番号を通れよ?」
指を刺された方向には石のような物体を積み上げて作られた門のような構造物がいくつも並んでいる。奇妙なのはその門のどれもが違う大きさで、時折人が門に入ると消えてしまい、逆に門からいきなりフェアリーサイズの人が出てくる事だ。
「なるほど、大きさを変えるマシンって訳か」
ガジェッティアであるラスカルにはピンと来た。これは通った物体の大きさを変えるマシンだ。
「あわせの門、な」
「オーケーオーけー、そう言う雰囲気作りって大事だよな」
ウォーキングマシンに乗ったまま7番の門を通ると、周囲の空気が変わったように感じる。周囲の風景が全てあいまいに霞んで見える。門と番号だけがはっきりとその姿を見せている。
「へー、流石に原理までは分からんが凄い技術だな。これ、他の番号から出るとどうなるんだ?」
たぶん、より大きな番号から出たら今より大きくなるのだろう。ただ、絶対に言われた番号から出てこいと言われている以上何らかの副作用があるかもしれない。逆に、指示通りにしておけば副作用は無い筈だ。
「うーん、興味はそそられるがまずは言われた通りにしてみるか」
ちなみに、ラスカルの推測通り他の番号から出ると一定の比率に大きくなったり小さくなったりする事ができる。ただ、小さくなる分にはさほど害は無いのだが、元より大きくなってしまうと異常に体力を消耗すると言う欠点がある。
ラスカルは3番の門から出ると、周りの風景が一変していた。
「おお~、本当にフェアリーサイズになっちまったぞ」
乗っていたウォーキングマシンまでその大きさが変わっている。ミニチュアサイズになった乗り物はこういう理由だった訳だ。
「……いや待て、ヘリとかVTOLとかどうやって通ったんだよ。通れそうな大きさはあるけど」
一番大きい門は確かにキャバリアが悠々と通れる大きさはあるのだが、流石に航空機で侵入するのは無理があるのでは。出来る奴が居るんだろうな。
●収穫者達の月夜
「おお、こじんまりしてると思ってたがこの大きさになると全然違うな!」
マシンを降りて収穫祭の会場に着くと、大喧騒に迎えられた。中央のメインステージでは歌姫が美声を響かせ、様々な種族の無数に人達が行き交っている。その半数以上はフェアリーだが、他の種族も結構見受けられるので遠方から訪ねてくる客も多いのだろう。
ラスカルは目に付いた屋台でまずフレッシュフルーツジュースを買ってみた。甘いフルーツの香りがたまらない。
「美味いなこりゃ、果汁100%って感じだ」
それもその筈、住民の大きさは五分の一でも食べ物の大きさは変わらない。食材の大きさが五倍になったような物だ。
「なるほどな、こりゃ遠方からも客が来る訳だ」
もし巨人がブドウ100%のジュースを飲もうとしたらかなり大量のブドウが必要になる。だが、フェアリーサイズなら一粒でも十分だ。わざわざ客の大きさを統一しているのはこの豊富な食文化を十分に楽しんでもらう為である事に違いない。
どこからか香る金木犀。アケビ色に染まる空に、星が僅かに覗く時刻。
スモークチーズ、出来立てのキッシュの香りが食欲をそそる。朴葉で包まれたヒメマスが焼き上がる。
行き交う人々は皆楽し気で、世界が喜んでいるようだ。
ラスカルも釣られる様に次々と屋台グルメを買い歩いてしまう。
「こんな夜に合うお酒はいかが?」
「それも頂くぜ」
ボタニカルに山椒の効いた素敵なお酒。小さくなったこの手でも月さえ掴めそうな気分だ。
ブナの葉のざわめきが耳をくすぐる。飾り付けられるように咲いた秋咲きのクレマチスが夜風に揺れる。
収穫祭のマーチが遠くに聞こえる。酒精でほんのり体があったまっていい気分だ。
今度の屋台は洋梨のタルトにレモンパイ。ドライフルーツのイチジクに口元がほころび、世界がワクワクで包まれる。
「今度はコーヒーの屋台か、シナモンローストってなんか洒落てるな」
軽くなった体は空だって飛べそうだ。
気を急ぐ木枯らしの風はもう少し待っててくれるようだ。満たされた季節はあっという間に過ぎていく。
オイルサーディン、煎りたてのナッツ、ほんのり炙ったカラスミ。ミニマムグルメに舌鼓を打っていると酔っ払いに巻き込まれて一緒に盛り上がる。なんてことないお喋りが止まらない。全部飛び越えて笑い合っている。
今度は何を飲んでみようか。桑酒でカクテルなんてどうかな? 誰かが言った。
ここにしかないみんなと繋がったちょっと小さな世界。
この騒ぎは朝まで終わらない。
大成功
🔵🔵🔵
●
何者も捕らえざる男
「やれやれ、生身で脱出しながら遠隔操縦とはね。戦争は変わる物だ」
その男、ハンス=ウルリッヒ・ルーデルは光学迷彩機能付きウィングスーツで空を滑空しながら誰にともなく呟いた。
『ふーむ、変形機構がダウン。推力は30%まで減少か』
「機体を乗り捨てておいて正解だったな」
飛行に集中する為手足は使えず、機体制御は脳波コントロールに委ねる事になる。
『まだ戦えはするがね』
と、言っては見た物の。
「これは手詰まりだろう」
空に青々とした光球が輝く。アサルトアーマーの光だ。
「よし、これで脱出に専念できるな」
その時には既にパラシュートを開いて着陸態勢にあった。
「それにしてもあんな事が出来るとはな。面白い物を見せてもらったよ」
所で、今この男は誰に話しているのだろうか。
「
見ているんだろう? 見ているだけなら手は出さないさ」
私はグリモアベースから事象を観測しているだけだ。確かに見てはいるが、果たして見られている側にそれを知覚する事が可能なのだろうか。それとも、ただのブラフか。
「退屈しないように話し相手にでもなってくれるんなら別だがね」
それから、いったい何度彼を見失ったのだろうか。
はるか彼方のグリモアベースに居るとは言え、大量の情報を手に入れられるグリモア猟兵の監視を搔い潜ると言うのは尋常ではない。本来であれば一度見付けた相手はタグ付けして見失うような事にはならないのだが、付けたタグごと見失っては予測もしてなかった所にぽんとタグが現れる。
私が見つけたのではなく、相手に見せ付けられている。そうとしか思えない。とんでもない潜伏能力だ。
その気になれば完全に振り切る事は出来ただろう。だが、そうしなかったという事は……やはり。
「やあ、帰ったよ」
「ハンス=ウルリッヒ・ルーデルか。機体の喪失は確認していたが、まさか生きて連中から逃げきるとはな」
「追撃されなかったしね」
「それは……尾行されてるんじゃないのか?」
「無いと思うよ。確かめてみたらいい」
数人の人間が周囲をクリアリングに向かった。私は尾行はしていない。グリモア猟兵として備わっている予知の情報を使っているだけだ。だから、地上をクリアリングされた所で見つかる筈も無い。
とは言え、これは正規手段とは外れた使い方で情報精度も落ちる。相手に見つかる可能性は無い物の、出来る事と言えば位置の把握と会話の盗聴位の物か。
「それでどうだった?」
「ああ、あの学園は感染が広がっていたね」
「やはりか……早急に手を打たねばな」
そこで、ルーデルと話していた男は銃を向けた。見えないので恐らくそうだという推測だが。
「お前も感染している」
「だろうね」
「なら」
どさっと、何かが倒れる音がした。発砲音はしなかった。
「知らないのか。この距離ならナイフの方が早い」
「貴様……!」
「私が忠誠を誓った祖国はもう無いらしいな。それでも出撃できる戦場があればいいと思ってはいたが、こんな所で死ぬのは御免だ」
「お前に行き場など無いぞ」
「どうかな?」
「では、新任の先生を紹介する」
所変わって数日後のアルワーツ魔術学園の朝礼。アルワーツ魔術学園もあくまで集落の一つではあり、イクサをする事はある。ただ、この世界においてもかなりの精鋭揃いである学園に本気でイクサ吹っ掛ける集落はそうそう居ないので生徒だけに限ってイクサをする事が多い。
先日の魔王襲撃はそのめったにない本気のイクサだった。先生も生徒も持てる力を出し切れたいいイクサだった、と言うのがアルワーツ側の認識である。暢気と言うか、剛毅と言うか。
一方で猟兵達は逃げた魔王を警戒してまだこの学園に滞在していた。あの男は数日で戻って来る。まあ、ついでにまた先生としてユーベルコードを教えたりなどもしていたが。
「新任のハンス=ウルリッヒ・ルーデル先生だ」
「「「「えええーっ
!?」」」」
「ドーモ、新任のハンス=ウルリッヒ・ルーデルです。担当教科はまだ決まってないが」
「た、確かに数日以内に戻って来るとは言ったが」
「こんな、こんな事……いいんですかアルバス・ゲンドーソーセンセイ!?」
「ほっほっほっ、行き場が無くて困っていると言う話だったのでな」
「でも、その人は数日前にこの学園を爆破しようとした人だプゥ!」
「よくある事じゃろう。それが成功しなかった事も含めてのう」
「はっはっはっ、まあそういう訳だから猟兵諸君も今後は仲良くしてくれ」
「おいおいおい、先生が寄ってたかって新任教師虐めかね?」
朝礼が終わって各々が一時限目に入ろうと言う時間に、受け持っていた生徒達に自習を出して猟兵達はルーデル先生を問い詰めた。
「アンタ、自分のしようとした事は分かってるだろ」
「その点については校長先生から説明した通りだろう。それとも、今この場であの時の続きを始めるかね?」
「いや、それは……」
ルーデルからは一切の敵意を感じない。機体も無いし、武器も持ってないように見える。今なら殺すのは簡単、なように思える。
「それはやめておこうぜ。その気だったらとっくにどうにかなってる」
「じゃあ、いくつか聞かせろ。どうしてこの学園を襲ったんだ?」
「任務だからだ、で済ませて構わんか?」
「構わなくない」
「では私からの推測になるが、この学園は単純に戦力と大きい。しかも将来的に周辺の戦力を上げる役割もある。戦略的に見て叩かない理由が無い」
「戦略的には納得できる。でも、ここには沢山の子供達が学んでいる場所だ。そんな所を襲ってもいいと思っていたのか?」
「その事を私が知ったのはつい昨日の事だ。私は兵器の製造工房と聞いていたのでね」
「騙されていた、と?」
「間違っている訳でもあるまい」
見方を変えればそう言う解釈も出来る。子供を兵器と呼ぶのならば……ただ、子供と言っても実際元々は生体兵器ではあるのだが。
「誰がそんな任務を出したんだ?」
「私を作った本物の人間、らしいぞ? この辺は私も良く分からんのだがね」
「されじゃあ今はその人間に潜入して来いって言われてるのか?」
「いや、命令できるのは作り出した時だけらしいな。今は私の独自判断で行動している」
「独自の行動か……アンタ、味方に殺されかけたらしいな?」
「銃を向けられた話かね? あの位では殺されかけた内にも入らないが」
「感染って何だ」
私の効いた情報は既に猟兵にリークしている。先の会話に出来てた”感染”と言う単語も当然に。
「君達猟兵がデモンズコードの使い手と接触するとな、感染するのだよ」
「何にだ」
「ユーベルコードに」
「……なんだって?」
「デモンズコードがユーベルコードに変質するんだ。君達の中にもその経験はある者も居る……いや、これを自覚するのは難しいらしいがね」
「デモンズコードがユーベルコードに変質すると何がマズいんだ?」
「そこまでは分からん。私はユーベルコードは世界を終らせる存在を呼ぶとしか聞いてない」
「世界を終らせる存在……」
「眉唾物だろう」
「いや、それなら」
心当たりがある。猟兵ならば特に。
「……オブリビオンだ」
この世界にオブリビオンは確認されていない。今は、まだ。だが、猟兵の存在がオブリビオンを呼び出すと言うのだろうか。
「だからユーベルコードを使う猟兵は倒さなきゃならないと言われたんだが正直出来る気がしないね。世界を終らせる者ってのも良く分からん」
オブリビオンの存在する世界に猟兵が来るのか。猟兵のいる世界にオブリビオンが来るのか。
その答えは出しようがない。だが、この世界では……後者である可能性があるのかもしれない。
ちなみに、その後三日ほどで箒の飛行術を習得したルーデル先生はあっという間に学園一の飛行術の使い手となって生徒達にその技術を教え込んでいると言う話だ。
叢雲・凪
「ドーモ ハンス=ウルリッヒ・ルーデル=センセイ 改めまして…」
「ジンライ・フォックスです」
真正面から向き合った礼儀正しいアイサツからコンマ0.1秒後!殺意を込めた回し蹴りをルーデルの首筋向けて放つ。しかし おぉ 見よ!薄皮一枚で足は接触していない!。
「受けない 逃げない 怯えない」
表情一つ変えないルーデルを見て 足を下げて姿勢を正す。
「なるほど… 非礼をお詫びします。」
【だが… はっきり言わせてもらう… ボクはあんたを信用しないし 信頼もしない】(声のトーンが下がり敬語から【敵に対しての口調】になる 威圧的に目が赤黒く放電し睨みつける。
【間違った情報を掴まされた?アルワーツの子供達が兵器?】
【笑わせるな あの子達には心がある。銃や戦車と同じにするな】(声を荒げ 睨みつけ)
【同じ学び舎で共に過ごし 友情・信頼・愛を育む… お前はそんな子供達を兵器というか!。】
【生まれや己の持つ力は関係ない、重要なのは『その力をどう使うか』だ。すくなくとも ボクはそんな子達を導きたいと思っている】
●稲妻の名を持つ者達
「ドーモ、ハンス=ウルリッヒ・ルーデル=センセイ。改めまして……」
叢雲・凪(断罪の黒き雷【ジンライ・フォックス】・f27072)は真正面から向き合った礼儀正しいアイサツをした。
「ジンライ・フォックスです」
「ドーモ、ジンライ・フォックス=サン。ハンス=ウルリッヒ・ルーデルです」
アイサツをされればアイサツを返さねばならない。アイサツ中の攻撃はスゴイ・シツレイであり、一方的なアイサツからの一方的な攻撃もカナリ・シツレイなのだ。
「イヤーッ!」
アイサツ成立から0コンマ1秒! ジンライ・フォックスは殺意を込めた回し蹴りをルーデルの首筋向けて放つ!
ルーデルは突然のカラテに身動き取れない。しかし、おぉ、見よ! ショージ紙一枚分で足は接触していない!
「受けない、逃げない、怯えない」
「それもアイサツの作法の一つかね? 不勉強で済まないな」
突然のカラテに僅かな不快感すら見せず、むしろ自分の非礼を案じている。
「なるほど……非礼をお詫びします」
ジンライ・フォックスは脚を下げて姿勢を正した。
「殺意はあれど害意無し。これでも結構な死線を潜っているのでね。そう言うのは分かるんだよ」
ルーデルは普段通り変わった様子も無い。
「それで、何の用かなジンライ・フォックス=センセイ。カラテ防衛術の特別レクチャーでもしてくれるのかい?」
「だが……はっきり言わせてもらう」
どろり、と場の
雰囲気が淀んだ。
「ボクはあんたを信用しないし、信頼もしない」
それはもはやセンセイ同士の会話では無く、ただの敵への威圧。
「なるほど」
レクチャーではない。そんな事はもう既に分かっていた事だ。ルーデルもまたコンバット・カラテ姿勢を取る。
「間違った情報を掴まされた? アルワーツの子供達が兵器?」
いつでも首を切断できる。一触即発の張り詰めたカラテを構えたままジンライ・フォックスは問い詰める。
「笑わせるな。あの子達には心がある。銃や戦車と同じにするな」
声が自然と荒ぶる。眼光に込められたカラテが赤黒く放電。
「同じ学び舎で共に過ごし、友情・信頼・愛を育む……お前はそんな子供達を兵器というか!」
ルーデルは動かない。威圧され、動けないのか? 無論そうでは無い。自らの意思で、カラテで動かないのだ。
「生まれや己の持つ力は関係ない、重要なのは『その力をどう使うか』だ。すくなくとも、ボクはそんな子達を導きたいと思っている」
「なるほど。子供達を兵器と言ったのが問題だったか」
今ここで二者の間にマグロを投げ付ければ瞬時にしてネギトロと化すであろう。二人は動いていない。だが既に、カラテ攻防は始まっている。互いに一瞬の隙を見せればそこから凄まじいカラテの応酬が始まる事に違いは無い。
「いや、素晴らしい考えだ。実に、そうであるべきだと思うよ。教鞭をとる者の一人となった今なら正しくね」
「ならば」
「いや、発言の撤回も訂正も無い」
ルーデルは、動かない。それに対しジンライ・フォックスは……動けない。
(この、妙なカラテ圧は一体
……!?)
先に動けば負ける。それを確信している。ルーデルはまるで山の様であった。
「今この世界に生きる者達は全て生物兵器として生を受けると聞いている。実際、幼い子供の様であっても凄まじいポテンシャルを感じる。この世界の子供達は正しく、兵器と呼ぶべきだ」
「まだ、言うか」
「言うとも。私は兵士だ。誰よりも兵器を知り、兵器こそを友とする物だ。君の言葉を借りるなら……君は銃や戦車、そして戦闘機を信頼もせずに扱えると思うのかい?」
ジンライ・フォックスは答えず、続きを促す。
「信頼できない銃の引き金を引くのは愚か者だけだ。信頼できない戦車などただのガラクタだ。信頼できない戦闘機に乗るなどとは、凡そ正気ではない」
「だが、兵器に心は無い」
「それこそ兵器に対する侮辱だ。私はそう言う心無い兵器を幾つも葬ってきた。確かに兵器に魂は無い。だが、それを作る者は違う。誰もが皆ギリギリの状況で可能な限りの調整を施し、私の様な兵士にそれを委ねる。彼られにとっては兵器もまた子供のような物だ」
ルーデルはもはや、カラテ姿勢を取ってすらいない。
「だから私は彼らの子供を丁重に預かる。確かに、この両手は多くの血で染まっている。だからこそ、忠を尽くすべきは祖国だった」
祖国、と言ったルーデルの目は少し悲しげだった。
「……私はもう、その祖国を失った身だがね。遥か未来に突然投げ出されるとは夢にも思わない」
そして、少しお道化て見せた。
「考えられる筈も無いだろう? まさか、魔法学校で先生をする事になるなんて。一体どこの誰なら想像が付くんだい?」
「……それは、そうだろうな」
ジンライ・フォックスも……いや、凪も。自然とカラテが抜けていくのを感じていた。
「君が私を警戒する気持ちは分かっているつもりだ。それは構わない。だが、私は子供達を使い捨ての道具のように粗末には扱わない。かつてこの身を預けた相棒、スツーカのように。或いはヘンシェルやガーデルマンのような
戦友として。出来る限りの事をすると誓おう」
「ならば、その誓い違えた時はその首は飛ぶ物と思っておけ」
「肝に銘じよう。所で、折角だしここは一つカラテ防衛術のレッスンを授けてはくれないかね?」
「ほう、今この場であえてか」
「ああ。素手での格闘は多少の心得はある程度なのでね」
「ならば授けようか、カラテのインストラクションを!」
多少の心得はある。と、言ったか。幾度も被墜し生還した男のカラテがその程度である筈がなかった。
確かにジンライ・フォックスのような速さは無い。だが一撃は的確で、守りが硬く重いカラテであった。結果としてジンライ・フォックスにとっても有意義なカラテトレーニングになった一幕であった。
大成功
🔵🔵🔵