敗北ふわふわパンケーキ~そして皆は食べられた
安済・司奈
【🍰】【メルティアームズ】 マスター様が書きやすいように描写の変更・アレンジは大歓迎です。その他、おまかせ致します。 <おおまかな共通内容> お菓子工場に潜入した猟兵一行だったが各々敗北して全滅、仲良くパンケーキに加工されて皿の上に積み重ねられた挙句、オウガに食べられ体内で一塊にされて排泄されてしまう…
【安済司奈希望個別描写】
先んじて手も足も出ずに敗北「い、嫌です!パンケーキにされて死にたくありません…!」と命乞いをするも容赦なく魔法のフライパンで焼かれて泣き顔が特徴のパンケーキにされる。人気配信者から焼きたてパンケーキに転職して魂がほかほかの蒸気と一緒に昇っていく。これから・これまでの活躍も全ておいしく完食されてしまった。
※このノベルで登場するオウガは、ウノ アキラがアリスラビリンスに登録しているオブリビオン(https://tw6.jp/gallery/?id=97625)をモデルとしています。
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「ふぇあー! あちこちから甘い匂いがするのだわー!」
小さな冬の妖精ポーラリアがふわりと舞い上がった。上からあたりを見渡せば、見えるベルトコンベヤには加工途中の材料が乗っていて次の機械へ運ばれている。運ばれたものは徐々に違う形へと加工されている様だった。
「これらのお菓子って材料は何処からきて加工品は何処へ行くんでしょうかね?」
「どうだろうね。……けれど、少なくともここに迷い込んだ
アリスは犠牲となってしまっている様だよ」
司奈の感想に答えたスプラは、近くの大きなお菓子の正体に気がついて悲しい顔をする。それらのお菓子には人間を思わせる部位があり、ここに迷い込んだ
アリスの成れの果てではないかと思わされる。
食べられずに放置されているのは形が悪いからだろうか? それとも事故で製造ラインから落ちただけ? もしかすると理由があって破棄されたのかもしれない。
スプラは人のように見えるクッキーやチョコに短く黙祷を捧げた。
「早くオウガを倒してこれ以上の犠牲を出さない様にしなければならないね」
「こっちは遅れてる後続も含めて七人です。リアルでもつよつよ傭兵のしなやすちゃんもいますし、オウガの一匹や二匹は秒です秒」
「そういえばここに居るのは四人だね。残りはどこへ……?」
「足を滑らせてベルトコンベヤに落ちてたよ? とシエナは見たことをそのまま伝えます」
「なんだって……」
「まあ、そのうち来るでしょう。私たちが先行していけば前と後ろで挟み撃ちにもできますし、別に我々だけで倒してしまっても構わないのですから」
司奈、スプラ、シエナが話をしながら歩いていると飛んでいたポーラリアがひょいと戻って来てお菓子に興味を持った。
「よく見たらこれお菓子だ! わ、わ。まるで生きてるみたい。美味しいのかしら?」
「ポーラリア、拾い食いは止めておいた方が良いんじゃないかな。食べても安全なのか解らないからね。さあ、共に先に進もう」
スプラは、元
アリスのお菓子を食べようとするポーラリアを止めると共に進む事を促した。しかしここに居るメンバーは自由人が多い。
「あ! あっちに冷え冷えの冷気があるわ! このベルトがひんやり冷たくて気持ちいい~♪ アイスクリームもある!!」
「新しい『お友達』候補はこの辺りには居ないみたいだね。あっちかな? とシエナはわくわくした気持ちと共に進みます」
「おっ、皆さんやる気ですねぇ。これはしなやすちゃんも負けてられませんよ」
このようにそれぞれが思い思いに進んでいくのだ。スプラは慌てて皆の後を追っていった。
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ベルトコンベヤに落ちたころもと、エマ、グリルド(グラタニア)の三人は、先行する四人とは別の道を進んでいた。
「危なかったのだわ……あのままベルトで流されていたらドーナツと一緒に熱々の油にドボンだったのだわ」
「あら、わたくしはてっきり近道を見つけたのかと」
「ボクは動く床おもしろかったよー! あはは!」
エマはそう笑うと、踊るようにくるくる回って床や壁にスプレー缶の塗料を吹き付ける。動きを途中で一度止めたら「ブシャー!」と言いながらさらに色を塗り重ねていった。ここまで歩いた道にも、このようにエマが描いた動物や果物の絵が残されている。
そして、その側ではグラタニアが何やら口をもぐもぐ動かしていた。
「何を食べているのだわ……?」
「これですわ」
ころもが聞くと、グラタニアは道の隅にある人の姿をした大きなクッキーを指さした。ころもにはそれがどう見ても元
アリスに見える。なので「さすがに食べるのは止めておいた方がいいのではないかしら……?」と言うのだが、当のグラタニアは他者の死に興味が無い様で「どうしてですの?」と小首をかしげる。グラタニアは新たにクッキーの頭部をパキっと割ると「美味しいですわ~♪」と食べ始めた。
美味しそうに食べられるクッキーにころもの視線が吸い込まれる。そこに込められるのは羨望だ。砂糖菓子の妖怪であるころもにとって、おいしそうに食べられる姿は本能に訴えかける何かがある様だ。
そんな風に上の空だったものだから、ころもは足元の落とし穴にすぐに気づけなかった。
「……へ? 私落ちてるのだわ……? ぶぇっ!?」
白いどろりとしたものどぼんと落下したころも。慌てて頭を出して見上げれば頭上の穴からはエマとグラタニアが覗き込んでいる。そして、機械の動く音がするところもの視界がぐるぐると回り出した。
ころもが落ちたのは小麦を溶いた巨大な生地だった。そして今、その生地が装置によって捏ねられ始めたのだ。中央の巨大な金属の軸が回転すると一緒に細い金属もグルグルと回ってパン生地の様にぐるりぐるりと捏ねられていく。
「ぎゃわーーーーっ!?」
生地の中からころもの絶叫が響くが……まぁ、猟兵なら大丈夫だろう。それを見たエマは目を輝かせた。対してグラタニアは怒りを強く露わにする
「わー! おもしろそー!!」
「わたくしの友達を返しなさいませ!!!」
グラタニアはグルメツールのフォークスピアで近くの機械をげしげし叩く。しかし下の装置が止まる気配はない。そうしているとエマが楽しそうに生地の中へ飛び込んでいった。
「ボクも!! ボクも捏ねられたーい!!」
「エマたんも!? おのれオウガ許すまじですわ!!!」
全てをオウガのせいにして怒り心頭のグラタニア。彼女はオウガに報復するために目の前の道を走りだした。
「お二人の仇はとってみせますわ!!!」
「まだ生きているのだわ!? そして助けるとかそいういうのはないのだわー!??」
「あはははははは!! 目がまわるー! ふわふわねちょねちょだー!!」
捏ねられる生地からころもの叫びとエマの笑い声が響いた。
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ガガガ……と鳴る規則的な音。その音に起こされたころもはすぐに身体が動かない事に気がつく。しかも何も見えず息も苦しい状態だ。
(ここは生地の中なのだわ!?)
懸命にもがいてようやく手と顔が出たころもだが、自分の手を見てみればそこにあるのは生地。しかも自分が動かした通りに動いている
「パンだー! ボク、パンの生地になってるー!」
エマの声がする方を見ればそこには顔の浮かんだ生地があり、腕をくねくね躍らせていた――そして近くの金属の面にころものいまの姿が映る。
「生地と一体化してるのだわ!?」
生地自体に魔法のような効果が施されているのだろう。中に落ちたころもとエマは捏ねられていくうちにこの生地と融合してしまっていた。恐らくは落とし穴に落ちた者を捕まえて食品にしていく罠なのだろう。
こうもモチモチしていては逃げられず、二人はこのまま他の生地と一緒にベルトコンベヤに乗せられて運ばれていく。しかも直ぐに嫌な予感がする音が近づいてきた。
ガション! プシュー。
けたたましい音はプレス機械だ。二人の前に並んでいた生地が次々と潰されて別の型へと入れられていった。これより次の加工が始まるのだ。
「んぎゃあああ!? このままだと潰されるのだわー!?」
「うわー! やばいねこれ!!」
「どうして楽しそうに目を輝かせてるのだわ!?」
ころもは大慌てで身体を動かすが、生地になった体の一部がもにょんと軽く動く程度で手足の役目を果たしそうにない。
ガション! プシュー。
「ア゛ッーーーー!?」
「あははは! ころもぺったんこだー!」
ガション! プシュー。
「うきゃー!」
ガション! プシュー。
潰された二人は機械のアームにつまみ上げられた。ぺらりと揺らぐ丸い生地には目を回した顔が張り付いている。二人はそのままそれぞれの型の中へと放り込まれてしまった。
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……ころもとエマが生地と一体化している頃、司奈はいち早く一人でオブリビオンの元に辿り着き、そして戦いを挑んで負けていた。
彼女が手も足も出ず負けたのは戦闘開始時にカメラとモニターのドローンが現れたためである。オウガが操る魔術によるものなのだが、コメントやスパチャがリアルタイムで流れたら配信者としては反応せざるを得ないというもの。その隙にやられてしまったのだ。
「さっきはひとの事を散々小バカにしてくれたじゃない。誰がザコなのかしら?」
ボロボロの司奈に馬乗りになるとオウガは振りかぶって司奈の腹に拳を埋めた。バカにした仕返しだとばかりに、二度、三度と。腹に拳がめり込むたびに司奈の胃と喉が引き攣って、声の代わりに涙が目から溢れ出た。
「げぇっ……ゲホッ、ゴホッ」
「さてどうしてやろうかしら。猟兵はしぶといから仲間が来る前に無力化しないといけないのだけれど……」
そう呟くとオウガは「あれが良いわね」と大きなフライパンを持ってきた。それを司奈の脚に被せるとフライパンに触れた部位から脚がぐにゃりと溶けて潰れだす。
下半身から顔の方へ。ゆっくりと、大きなフライパンが掬いあげるように司奈を呑み込んでいく。フライパンの底にはドロドロになった司奈の身体が溜まっていた。
「な、なんですかそれ。やめ、やめてください……っ!」
「はい、全部入った。いい姿ね。これでもうろくに動けないでしょう? もう少ししたら魔法が馴染んでパンケーキの生地になるわよ♪」
司奈の身体は徐々にだがクリーム色の生地に変化し始めていた。がんばって動こうとしても、顔の部位がすこし持ち上がる程度で今の司奈はまともに動く事ができない。
「た、食べるんですか!? い、嫌です! パンケーキにされて死にたくありません……!」
「まだ元気があるのね。そういえば貴女、ここまでの敗北シーン全部撮られてるわよ? ほら見てごらんなさい。あなた人気者なのねぇ」
カメラとモニターのドローンが司奈に見える位置に移動した。これらは魔術で作られた偽物。偽物の、筈だ。
(けれどもし実際に配信されていたら……)
「やだ……こんなやられ方恥ずかし……」
思わず司奈の目から涙が出る。しかしその涙もパンケーキの生地になっていた。
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「見つけた! とシエナは喜びます」
シエナがオウガの元に到着した。見知った声に司奈は懸命に顔を上げるがフライパンのフチからちらりと見えるのみである。今の司奈はパンケーキの生地への変化が進んでもはや声は出ず、ただ見る事しかできない状態だ。声が先に使えなくなったのは恐らくこのオウガの趣味だろう。
司奈は仲間の到着にいくばくかの希望を見出した。そして、オウガが倒されて自分が助け出される事を祈った。
「あなたもわたしの『お友達』になって! とシエナは思いを伝えます」
そう言ってシエナは満面の笑顔でオウガに近づいていく。だがその表情とは裏腹にシエナからは強い呪詛が渦巻いていた。この呪詛は『お友達』にするのに必要なものでありそこに敵意はない。
その様子にオウガは「あなたには……これが効きそうね」と呟くと魔術で綺麗なテーブルと椅子、そしてティーセットを用意する。
「いらっしゃい、歓迎するわ。疲れたでしょう? まずはお茶でもいかがかしら」
オウガはそう言うと、自身も椅子に座ってシエナに紅茶を勧めていった。シエナは勧められるままに座り何も疑わずに紅茶を飲んだ。シエナが飲んだことを確認すると、オウガは次々と話題を振っていく。それはまるで時間を稼ぐかの様だった。
「貴女の連れている子たち可愛いわね。ひとりずつ、詳しく紹介してくれるかしら」
「いいよ! とシエナは嬉しさと共に『お友達』の紹介を始めます。この子はね――」
まずは道中の罠の攻略で一緒にいた子から。シエナの『お友達』はとてもたくさんいるので、『ひとりずつ、詳しく』と言われてしまえば時間稼ぎには十分すぎる。
「じゃあ次はここに居ない『お友達』を紹介す……」
シエナがスカートから『お友達』を出そうと立ち上がった時に異変が起きた。シエナの体重を支え切れず足がぐにゃりと曲がったのだ。
「あれ? とシエナは困惑を浮かべま――」
ベチャっ。
倒れるシエナは床に落ちた粘土の様に潰れてしまった。地面に接した部分が平らに潰れ、全身も重みでぐにゃりと曲がってしまったのだ。顔は地面にぺたりと張り付いて喋れなくなっている。そのままモゴモゴと言って立ち上がろうとするシエナだが、力を入れる側からぐにゃりと曲がってろくに動くことが出来なかった。
「紅茶に入れた軟化剤が効いてきたわね」
オウガはもがくシエナへ近づくと、背中の一部をちょっと千切って指先で弄ぶ。
「こうなってしまえばもうただの素材ね。……って、リンゴの香り? どういう事かしら」
シエナの肉体から香る甘酸っぱい匂いを不思議に思い、一度は警戒を見せるがちょっとだけ味見を試みる。その香りはお菓子の素材としてはとても素晴らしいのだが……シエナを食材にするにはあまりにも呪詛が強かった。
「……うげ。これは駄目ね。食べられないわ」
しばし思案するオウガ。その目線がちらりと巨大フライパンへと向く。
「そういえば、あのパンケーキを置く大皿が無かったわね。服の軟化は……まあ面倒だからいいわ」
オウガはシエナの服をはぎ取った。軟化したのは肉体のみであったので服は加工に邪魔なのだ。その後、オウガはシエナが抵抗できないように下半身と上半身を千切って分ける。二つに別けられたそれは最早シエナではなく、人形っぽいパーツの粘土だった。
司奈はフライパンからここまでの一部始終を見ていた。何もできず、ただ見ている事しか出来ないままでだ。助かるかもしれないという希望が跡形も無く潰える感覚と無力感。それらを突き付けられて、司奈は絶望に塗りつぶされていった。
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粘土のように柔らかくなり動けなくなったシエナ。その上半身がオウガによって持ち上げられる。地面からはがされた顔は倒れた時の衝撃で潰れて平らになっていた。
オウガはシエナの上半身を縦に置くと平らな顔を上にした。潰れているのは腕と顔だけであり、その腕も掴めるものを探してぐにゃぐにゃと動いている。そしてヘソ辺りから下は分離されて近くに転がっていた。
オウガは縦に置いたシエナに板を乗せるとぐっと体重をかける。そうやって縦に潰して厚みが殆ど無くなったところで板を退ければ、潰れたシエナの姿がそこにあった。平らな面の中央には顔があって、周りには体の一部がはみ出ている。顔の下は胸と腹、上の隙間は腕をぐるりとまわして形を整えれば皿として遜色ない形となる。
「髪も模様としてもうちょっと整えようかしら。表情もぶつかった時のままは可愛くないから笑顔に変えて……っと」
皿として機能するようにフチもすこし高くした。シエナは加工される間も少しぴくぴく動いていたが、表面に硬化剤を塗られてしまえば微動だにしないただの大皿となってしまった。
「さてと、じゃあ
こっちは……そうねぇ。パンケーキに合わせるシロップ入れにでもしようかしら」
残る下半身を縦に置いた。安定した断面を下にしてぐにゃりと曲がる足を上にする格好だ。足はぐっと曲げて取っ手として整えて。足の付け根の間のものを指先で広げると、そこの穴へと指を入れて裂けない様にゆっくりと広げていく。その間、加工中の蜜壷は時おりぴくりと震えて甘い香りの露を染み出していた。
「……もしかしてこの娘、感じているの? ……こんな姿に変えられているのに、なんていやらしいのかしら」
最後に豆の様な部位の周辺を前へと突き出す形に変えたなら、元からあったぷっくりの溝が液体を注ぐ時に伝う注ぎ口となる――シロップ入れの完成だ。
形が崩れないよう外側にだけ硬化剤を塗るとオウガは満足気に大皿とシロップ入れをテーブルの上へと置いた。
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「完全に皆を見失ってしまった……。どうか無事でいてくれ……!」
スプラは最初、バラバラに動く面々を探しながら進んでいた。しかし結局は見失い、今は目的地であるオウガの近くで合流できる事を祈っている。
だが道中は侵入者を防ぐ機能が既に動作して罠で溢れていた。落とし穴、隠された魔法陣、プレス機械に機械のアーム……時には怪しげな液体も降って来るが、スプラはサメ型フロートを巧みに操ってそれらに対処していった。
それだけではなく、スプラはこの国に迷い込んだ犠牲者たち――
アリスだったお菓子――もこれまで幾度と目撃していた。もっと早くここを知っていればかれらを救えたかもしれない。そんな無力感がスプラを蝕む。それでもスプラは足を止めようとは思わなかった。ここでオウガを倒せば、少なくとも未来の犠牲は減らせるはずだからだ。
そうして進んでいくと、スプラは途中から破壊の音が近づいてくることに気がついた。同時に知り合いの声も聞こえてくる。
「わたくしの友達を酷い目に合わせたオウガは許せませんわ、食べて差し上げますわ!!!」
「グリルド? いや、今はグラタニアかい? 何にせよ合流出来て良かった、今は落ち着くんだ。怒りに身を任せてはいけないよ!」
暴れるグラタニアを諫めるスプラ。しかしグラタニアはすっかり冷静さを失っており、簡単に足を止めてくれそうにない。その時、スプラはグラタニアの姿に違和感を覚えた。
(……あれ? なんだかグラタニアの頭部が……)
グラタニアは既に身体が軟化しつつあった。途中何かの罠でぶつけたのだろう……グラタニアの頭部は半分平らに潰れている。この軟化の原因はグラタニアが食べていたクッキーだ。あれに食べた者を軟化させる薬が混ぜられていたのだ。
「グラタニア、待って! 君の身体がおかしくなっている!」
その時、スプラは罠を踏んでしまった。
機械のアームが横から伸びてスプラを素早く瓶の中に入れてしまう。それはあっという間の事だった。
「しまった……!」
スプラはセイレーンだ。身体が深海の水で出来ている精霊なので身体を自由に変えられる。しかし瓶に入れられてしまえば逃げ場がない。彼女は直ぐにサメ型風船に跨って上から出ようとした。
「こんな瓶、上から出られ……うわっ!?」
スプラは上から大量の砂糖をまぶされた。身体を構成する水分が砂糖に奪われそうになったが、しかし急いで肌の質感を変えて水分が奪われるのを防ぐ。
「……危なかった。しかも、さっきの隙に蓋を閉められてしまったね」
レイピアで破壊できるだろうか? そう考えてスプラはレイピアを手にとり――レイピアが瓶の底にカランと落ちた。
「……え?」
固いものが落下して下にぶつかる音が響く。スプラはレイピアを掴み損ねた自分の手を見た。その時、スプラは自分の身体が溶けている事を知った。
「これは一体……どういうこと……にゃの……」
スプラの身体がとろとろに溶けながら瓶の底へゆっくり垂れていった。さっきの砂糖は触れた生き物をシロップに変える砂糖だったのだ。しかもスプラは身体が水で出来ている。その効果は絶大だった。
「身体が……たもてにゃ……やだぁ……とろとろいやぁ……」
スプラの身体がシロップへと変えられていく。身体だけじゃなく思考や口調もとろとろに。甘く、甘く。とろりと溶けていく。
●
グラタニアはようやくオウガを見つけた。今のグラタニアが考えている事はただひとつ、このオウガを食べるということ。
いつもなら食材化して調理をするのはグリルドの役割なのだけど、最近のグリルドは頼りない。どうやら以前に食べられる経験をした時から調理されて食べられる側に悦ぶ様になってしまった様なのだ。調理師がこうでは頼りない。だから、
わたくしグラタニアが敵を食材にする。
グラタニアは無機物・オブリビオンを食材化するユーべルコードを発動させながらオウガへと飛び掛かった。
「みんなの仇
!!!!」
しかしそのフォークは届かない。グラタニアの軟化は大きく進行しており、限界だった。そのため勢いをつけたダッシュは一歩目から洗剤糊のスライムのようにぐしゃりと崩れたのだ。グラタニアは沸き上がる敵意のままにオウガに言葉を浴びせていく。
「かかってきなさい臆病者! 罠がないと安心できない卑怯者! アナタ太ももと尻がでかいのよ!!」
「今日は客人が多いわねぇ……」
相手が迂闊に近づけばフォークを刺して食材にしてやろうと思ったのだが、オウガはその手に乗ってこなかった。オウガはため息をつくと木の枝を取り出して、枝を成長させてハンマーを創り出す。そして、そのハンマーを床を這うグラタニアへと振り下ろした。
ズン、と音が鳴りハンマーが上げられると、軟化が進んでいたグラタニアは押し花の様に潰れてしまう。もう武器を持つ力も無い……。それでもグラタニアは身体をうねらせてオウガへと向かっていく。せめて噛みついてやると言わんばかりの気迫だった。
「わたくしに食べられ、奪われ、汚泥となりなさい!」
しかしこの姿では抵抗もまともに出来ない。グラタニアは摘まみ上げられるとあっさりボウルの中に入れられてしまった。
続けてオウガが指を鳴らせば機械のアームが下りてきてボウルの中のグラタニアを捏ねていく。捏ねて丸まれば取り出して、別のアームが伸ばし棒で平らに潰す。綺麗に潰れたら、再びボウルに入れて捏ねていった。
捏ねて丸めて潰して伸ばし、捏ねて丸めて潰して伸ばす。何度も何度も執拗に。
グラタニアの身体は捏ねられていくうちにどんどんくっついて赤と色白の肌の二色のマーブル模様になっていく。その様子をオウガは冷めた目で見降ろしていた。
手も足も出ないとグラタニアは思った。捏ねられて潰されてまた捏ねられて、その度に心も潰され砕けていく。さっきグリルドの事を頼りないと思ってしまっただけに、グラタニアは今の自分がより一層みじめに感じていた。そして、同時に興奮も感じていた。
「も……もう、やみぇてぇ……♡」
辛うじて声を出す。それは高慢なグラタニアにあるまじき嘆願。
「に……にどとなみゃいきなこと、いいましぇんかりゃ……♡ やめぇてぇ……♡ これいひょうは……おかひくなりゅぅう……♡」
「だぁめ♪ 止めないわ。貴女はそのままお菓子になって私に若さと命を献上するのよ♪」
オウガはにこりとほほ笑んだ。
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グラタニアが完全に沈黙するとオウガはマーブル模様のソレを別の生地へと放り込んだ。これはころもとエマが落下した生地と同じものだ。
同様に捏ねられて、ベルトコンベヤで運ばれてプレスされて新たな型へと入れられる。この時グラタニアは完全に昇天して意識はグリルドのものになっていた。グラタニアが頼りないと評した様に最近のグリルドは食べられる事に悦びを見出しており、今この状況も興奮の渦中で震えている。
「ああ……ボクお菓子になっちゃう。ボク美味しく食べられちゃうんだ……」
「あ! グリルドだ! やっほー!」
「やっぱりこれお菓子へ調理中なのだわ!?」
その時ころもとエマの声が聞こえた。声は隣に置かれている型から聞こえていた。近くにはグリルドが入れられたものと同じ型が二つあり、ドロドロになった生地が入っていた。
「最初はパン生地みたいだったのにだんだんドロドロしてきて変化しているのだわ……私たちどんなお菓子にされるのだわ……」
「ころたんエマたん無事だったんだね! グラタニアがとても心配してたよ。えっとね、たぶんパンケーキじゃないかな? 普通は捏ねすぎるとクッキーみたいになるんだけど、不思議だよね。ボクの身体も良い感じのとろみが出てきたよ!」
グリルドは興奮気味に、そして嬉しそうに答える。
「パンケーキって事はこの後焼かれるのだわ……? ってやっぱり食べられるのだわ!?」
「ふわふわになれるかなー!」
「大丈夫、ボクたちならきっとおいしいパンケーキになれるよ! ああ……楽しみ……♡」
「危機感が無さすぎなのだわ!?」
そうして話していると上から三本のアームが伸びてきた。アームはそれぞれ三人の入った型を掴むと何処かへ運んでいく……。三人はこのまま、独りずつ熱々の巨大フライパンに流し込まれた。
「熱っ、熱いのだわー!?」
「やべー! 焼けてる! あははは!」
「熱いけど美味しく食べてもらえるようにがんばる……♡」
火が通ったら巨大なフライ返しでひっくり返されて、顔もこんがり焼かれたら三人は再び何処かへと運ばれていった。
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司奈が入っていたフライパンから湯気が昇っている。完全に生地になるまで魔法のフライパンの中に置かれていた司奈に、いよいよ火が入ったのだ。
裏に火が通れば次は表。表に火が通って再びひっくり返せば、そこには司奈の泣き顔の模様がある。ゲーム配信の人気配信者『しなやすちゃん』はすっかり焼きたてパンケーキになってしまった。
司奈はそのまま
大皿へと乗せられた。するとすぐに別のパンケーキも乗せられていく。司奈のパンケーキの上にころものパンケーキが乗り、エマのパンケーキが乗って、最期にグリルドのパンケーキがふわりと乗った。四段重ねのパンケーキだ。オウガは「あらまぁ、今日は大漁だったのね」と呟いた。
そこへ飴色の液体が入った瓶も運ばれてくる。それはスプラだったシロップだ。オウガはシロップの瓶を抱えるとシエナだったシロップポットへと注いでいく。スプラは落ちまいと抵抗するのだがトロトロになった身体はろくに動かない。大した事も出来ないままスプラはリンゴの香りのする穴へ注がれていった……。シロップが注がれていく間、シロップポットの艶めかしい内側はピクリと震えていた。それはまるで内の刺激を感じている様であった……。
「クンクン、とってもいい香りがするわ。出来立ての香り、何のお菓子かしら」
ここで小さな妖精がふらりと飛んできた。このときオウガは大きな瓶を抱えてシロップ入れに移し替えている最中でポーラリアには気づいていない。
ポーラリアは見つからない様にそっと大皿の近くに降り立った。
「おいしそう。ちょっとつまみ食いしちゃお……下の方ならバレないよね? ……んー?」
パンケーキに近づいたポーラリアは、大皿の模様がなんとなく誰かの顔に似ている事に気がついた。そしてふわふわのパンケーキをぺらっとめくって大皿の模様を確認しようとする。
やがてポーラリアは、皿の模様がシエナそっくりな事に気がついた。
「ふぇあ!? え、もしかしてシエナん? お皿になっちゃった!?」
全体を見てみようとふわりと飛んでみれば、よく見るとパンケーキにも顔がついている。ポーラリアが上から一枚ずつパンケーキをめくってみるとそのいずれにも知っている顔がついていた。
「えええっ!? みんなパンケーキになっちゃった!?」
それはまさかの味方の壊滅を意味していた。そして驚くポーラリア自身もパンケーキをめくっている間にオウガに忍び寄られていて、そのままわし掴みで捕獲されてしまう。
「ふぇあ!? あわわわ!?」
「あら、もう一匹いたのね。ちょうどバターが足りない所だったのよ」
ポーラリアが目を白黒させているうちにオウガはポーラリアを機械の中へと放り込む。そして冷気で抵抗する間もなくポーラリアはグルグルと回された。
「ふぇあああああああっ!? 目がまわるるるー!?」
まるでミルクを遠心分離するかのように、ポーラリアは機械で高速で回された。するとポーラリアの身体が徐々に柔らかくなっていきバターの様になるではないか。どうやらこの機械はそういう変化を起こす装置だった様だ。
ポーラリアが目を回している間も加工は進み、最後にはひんやり冷やされて冬の妖精は固形のバターに生まれ変わった。
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完成したバターはパンケーキの上に乗せられた。それは焼きたての熱でゆっくりと溶けだして、ポーラリアはその温かさで目が覚めた。
「うーん……あれ? あたし何時の間にか寝ていたみたい……?」
いつものように飛び立とうとしたけれど、今のポーラリアには羽根がない。ポーラリアは何が起きているのかわからずに混乱したまま溶けていった。
やがて自分がバターになっていることに気づいた頃には、大皿に垂れるほど溶けきってどうしようもない状態になっていた……。
(ほわー……なんだか変な感じ。ポーラが薄く広がって、……みんなに染み込んでるの)
そこに上からスプラのシロップがとろりとかけられる。もちろんシエナのシロップ入れからだ。リンゴの香りとともにスプラがポーラリアと混ざりながらパンケーキ広がった。
とろとろになった思考の中でスプラは仲間との再会を直感する。
(ふにゃ……パンケーキだぁ……僕が染みこんでくよ
……。……ああ、みんなここにいたんだねぇ……)
ずっと探して心配していた仲間との再会……。この事に心から安堵すると、スプラの意識は完全に溶けきってしまった。
「ふふ、それではおやつタイムといきましょうか♪」
大きな四枚のパンケーキにバターとシロップをとろりとかけて、付け合わせる飲み物は香りの良い紅茶を用意。侵入してきた猟兵も倒したしまずまずの成果とオウガは上機嫌だ。
まずは一番上のパンケーキ。グリルドのパンケーキにフォークを刺してかぶりつく。まだ一部には声を出す元気もあるようだけれど元よりオウガは人肉を喰らうもの。恐怖にせよ、狂った歓喜にせよ、それは食事の彩りになる。
ひと噛みして口に含めば、ほんのり感じるリンゴの香りとパンケーキの香ばしさ。そこにシロップの甘みが加わって舌の上へと広がっていく。ここにバターのコクと、命の味が深みを与えてくれるのだ。
グリルドは口の中で小さくかみ砕かれていた。パンケーキになった身体を歯がサックリもっちりと嚙み千切り、そのまま唾液と混ぜられながら舌で転がされて味わわされる。それは間違いなく食べられている感触。けれどそれだけでもなく、全身が温かさで包まれる感覚もあった。砕かれ混ぜられ小さくなるにつれて自分とそれ以外の感覚があやふやになり、けれど冷たくなくて体温で温められて暖かい。それは安心と不安が混ざりあった不思議な気持ちの混沌だ。
グリルドからため息に似た声が漏れた。
かみ砕かれる。舌が這う。口内の粘液がねっとりと絡んで唾液が染み渡る。暗闇で視界が機能しないからこそ自分がどうなっているかを全身でより感じてしまう。
「あ……みゃっ♡ こわれりゅっ♡」
ぐちゃぐちゃになったグリルドはやがて飲み込まれた。そこには口内よりも液体が存在していてグリルドだったものを消化する。
「もっと、もっとぉぉぉっ……っ〜〜♡」
グリルドの意識はここで途絶えた。最後に身体の本来の持ち主であるティシャの意識が微かに残ったのだが、しかし彼女もできる事は何もない。ずぶどろの流動体のまま、腸の蠕動に運ばれてただただ腹の中を運ばれていった。
そしてエマも自分が溶けていく感覚を楽しんでいた。意識があるままお菓子になって消化されていくなんて、しかもそれを苦痛もなく経験できるなんて滅多にないことだ。
エマは暗闇の中でじゅわじゅわする感覚を感じていた。周りは真っ暗で体の感覚もあいまいで、最早自分がどうなっているかも解らない。でも口やお腹の中はふんわりと温かかった。どろりと混ざりあう中にはバターになったポーラリアもいて、みんながひとつになっているようにさえ感じる。このまま吸収されたらどうなっちゃうの? 消化されなかった残りは? 知識としてはわかっているけど、経験としては未知なのだ、そのことにエマはワクワクが止まらない。
(けど、ちょっと眠いな……)
オウガのお腹で最後まで残っていたエマの意識も、腸のあたりでゆっくりと消えていった。
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「ご馳走様。ん-♪ 魔力と命が満ちていくわぁ。一番おいしいのは
アリスなんだけど……まあ、今回もこれはこれで」
オウガはパンケーキを食べ終えると満足げに紅茶を飲んだ。ほぅと一息ついたところで、さてとと腰を上げて立ち上がる。
「後始末はどうしようかしら……」
オウガはこの後の事を考えた。猟兵は滅多な事では死なず一部では生命体の埒外にあるものとまで言われている。復活を警戒するべきだ。そのため、
栄養は摂れたのでさっさと出すものを出して遠くに捨てなければならないだろう。
「……ここに丁度いい入れ物があるじゃない」
オウガはテーブルの上に残るシエナの大皿とシロップ入れを見てニヤりと笑う。オウガは大皿とシロップ入れを持つと工場内のトイレへと向かっていった。
さて、お菓子工場の国のトイレにオウガはやってきた。手には大皿とシロップ入れを持っており、トイレに着くやそれらを床にトンと置く。
これはシエナが加工されてしまった成れの果て。大皿は中央には平らに潰された顔が笑顔で張り付いている。上半身を縦に潰したので顔の下には潰れた胸とお腹があり、頭の上は腕で面積を確保している。そしてシロップ入れは下半身だ。腰の断面を底とした上下逆の状態で加工しており、足を取っ手にしてから付け根の穴を丁寧に広げて液体を入れる空間としている。
オウガは下着を脱いでスカートを捲り上げた。そして猟兵だったものの残りカスを大皿の顔の上へと排泄する。
―――――。
その時微かに声が聞こえたような気がした。
続けてオウガはシロップ入れを跨ぐように立った。そして、そのまま少し腰を落として零れない様にと近づけて、蜜が染み出す壷穴にはおしっこを注ぎ入れた。
こうして猟兵だったものを一通り体内から出したオウガは、これらをまとめてゴミ袋に二重に入れて、どこか遠くへと捨てるのだった……。
成功
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