白き世界でリンと鳴る。
冷たき夜に尚涼やかに。
静なる夜に謳いしは、凛と輪とリンと――
白き世界に赤が咲く。
鮮なるあかが点々と。
真白の雪に香しは、花の薫かそれとも――
●
「皆々は、風鈴市に興味はおあり?」
そう問いかけながら秘色の髪を揺らした、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)へと、この時期に? と、ある猟兵が首を傾げた。その姿を藤色に映し、ころりと笑った彼女はこう続ける。
「ほほ、そうじゃなぁ。昨今春めく日もあれど、山間とあれば未だ冬の真っただ中。そんな時期に風鈴と聞けば、聊か、時期外れに聞こえるじゃろうか。しかしな、UDCアースのとある村にて、この冬の時期に行われる風鈴市があるのじゃと」
件の地は、過疎化の進んだ山村だという。椿山と呼ばれている丘とも思える小さな山、その北方の麓にある村で、嘗ては同じ山の東西南にも村があったそうだが、今残るのはそこひとつ。
「さて、妾から斯様に其方らへと声を掛けた、ということは、これが唯の市でないのは、薄々感じておられよう?」
にこりと笑った彼女が続けることには、その風鈴市の元となった村の祭りこそが、『その地に古き昔封印された、UDC怪物を引き続き封じ続ける為の儀式』であったのだという。
しかし、過疎化を辿った今の村では祭であった面影は消え失せて、現状残る風鈴市でさえ、高齢化の進む村民だけでは維持が難しくなり、また、季節外れの風鈴を買い求める者も今や殆どいないとあって、今年で終わりだろうという話も、実しやかに囁かれているのだ。
「そうして儀式が廃れてきたが故に、封印されていたUDC怪物が――今まさに、表に出て来ようとしておる」
しかも、本来は、今は失われた東西南の村々の祭りと四身一体であった為、もはや完全なる再現は叶わず、怪物の封印が解かれるのを防ぐ術はない――の、だが。
「しかし、しかしじゃ。その一片でも……儀式の『現代に残る一片』だけでも利用することができれば、敵の力の一部を封じ、蘇りし相手ともかなり有利に戦える。そうして……猟兵の力であれば、そう、封じることなく倒すことが叶うじゃろう」
だから、現存する北の村。
玄多家村へと赴き、催される冬の風鈴市や村民との会話から儀式の断片を読み解いて来る怪物の復活に備え、最終的にはそれを退治してほしい、というのが今回の依頼だ。
「折角赴くのじゃ、風鈴市やかの村の雰囲気も楽しんでくると良い。村より続く山道を往けば、『
椿寿寺』という寺を参ることも出来よう。名の通り、参道や寺のあたりには椿が美しく咲く地だそうじゃよ」
嘗ては、東西南の村からこの寺に続く道もあったようだが、廃村となってからはその道も廃れているという。情報収集含め赴くならば、玄多家村か、村から椿寿寺までとするのが良いだろうと彼女は語った。
「妾も全てを知るわけではない。現地にて得られる情報をもとに、かの地に平和をもたらして差し上げて」
どうか、よろしく頼むよぅ、と締めくくり、秘色の髪とそこに咲く鈴蘭を揺らした彼女は、猟兵達を玄多家村へと送り出したのであった。
●
ほうらみて、風鈴の屋台がたくさん並ぶんだ。
柄で選ぶか、音色で選ぶか……
形もそれぞれ、色もたくさんあるものだから、
君だけの風鈴が、きっと見つかるだろう。
歩き疲れたら、さあ一度立ち止まって。
風と音色に耳を傾けるといいだろう。
ほうら、耳を澄ませて。
リン、リン、リィン――
あゝ今年も雪景色に風鈴の音が冴えるよう。
椿山の椿もうつくしいだろうねえ。
あゝけれど、おかしいねぇ。
あたしの若い頃にゃ、白椿ばかりだと思ったけれど。
いつからだろう、あかい椿が点々と。
年おうごとに、増えゆくようだ。
四ツ葉
初めまして、またはこんにちは。四ツ葉(よつば)と申します。
此の度は当オープニングをご覧頂き、有難うございます。
未熟者ではございますが、今回も精一杯、皆様の日々を彩るお手伝いが出来ましたら幸いです。
それでは、以下説明となります。
●シナリオ概要
★各章について。
(日常章の能力値による選択肢は参考まで、行動はご自由にどうぞ!戦闘章は指定UCの能力値によって相手の使用技が決まります)
第1章:日常 『君を呼ぶ音に誘われて』
山の麓にある過疎化した村において行われる冬の風鈴市へと赴き、その元となった祭であり儀式の断片を探って下さい。
村の人々も市を立てている人も高齢ばかり。かつての話を聞けば何かしら情報が手に入るかもしれませんし、山頂にある『椿寿寺』を調べることによって気付きを得られるかもしれません。
調査は勿論のこと、風鈴市を楽しむのも勿論いいですし、猟兵の働きかけや知恵によっては今年限りと噂される冬の風鈴市が存続するかも――? など、やれることは様々ですので、思い思いにお過ごし下さい。
村の風鈴市には様々な風鈴が売っております。硝子製、陶器製、金属製などなど。素朴な市の為、絵付体験やフルオーダーの叶うような場所はありませんが、売り物の風鈴の舌を選ぶくらいは出来るでしょう。お好みのものを探し、楽しんで下されば幸いです。
第2章:日常 『心音鳴らして、宵の果て』
時は夜。一章にて得た情報を元に、祭に交えて継承されてきた儀式の一部を再現しつつ、山寺『椿寿寺』へと参拝下さい。完璧な再現は叶わずとも、一部再現出来れば、その地に封じられているUDC怪物の弱体化が叶うでしょう。
詳細は、1章の結果を受けたものを綴った後、章冒頭に追加致します。
第3章:ボス戦
『?????』
『椿寿寺』に封印されていたUDCとの準戦です。
蘇ったUDC怪物を倒し、この地に迫る災を祓って下さい。
詳細は、3章公開後に章冒頭へと追加致します。
●プレイングについて
OP及び各章公開後、MSページ及びタグにて、受付開始日をお知らせ致します。
受付前に頂いたものは、お返しとなりますのでご注意ください。
受付の〆についても、同様にご連絡差し上げますので、お手数をおかけいたしますが、プレイング送信前にご確認下さい。
有難くも想定より多く目に留めて頂けた場合、採用出来ない方が生じる可能性もございます。
決して筆が早い方ではありませんので、全員描写の確約は出来ませんことを念頭に置いて、ご参加頂ければ幸いです。
また、その場合は先着順ではなく、筆走る方から順に、執筆可能期間内で出来る限りの描写、となりますので、ご了承頂けますよう、お願い申し上げます。
●その他
・同行者がいる場合は【相手の名前(呼称可)とID(f○○○○○)】又は【グループ名】のご記入お願いします。キャパの関係上、今回は1グループ最大『2名様』まででお願い致します。また、記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
・逆に、絶対に一人がいい。他人と組んでの描写は避けたい、と言う方は【絡み×】等分かるように記載して頂ければ、単独描写とさせて頂きます。記載ない場合は、組んだり組まなかったりです。
・グループ参加時は、返却日〆の日程が揃う様、AM8:31をボーダーに提出日を合わせて頂ければ大変助かります。
では、此処まで確認有難うございました。
皆様どうぞ、宜しくお願い致します。
第1章 日常
『君を呼ぶ音に誘われて』
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POW : 重厚な音や、熱血的な色で選ぶか
SPD : リズム感のある音、涼しげな色がいい
WIZ : 澄み通った音を、柔らかな色を探す
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天城・潤
【月灯】
風鈴は夏に鳴らすものと旅団の皆さんに伺いましたが
「冬景色に涼やかな音も悪くないのではないかと」
神臣さんとご一緒出来るのも嬉しいです
寒がりでらっしゃるのでストールのご用意をしました
かけて差し上げて散策しましょう
神臣さんとご挨拶をしながら村人に風鈴市のお話を伺います
古老の中には恐らく言い伝えや口伝を知る方もおいででしょう
風鈴も買い、上りながら知った情報を吟味しましょうか
椿を寿ぐ寺とは良い名ですね
寺社への参拝は生まれ育ちがダークセイヴァーで
余り経験が無いですが何か霊力溢れる場所に感じます
白燐蟲の残花ちゃんの加護に謝しながら
出来るだけ調べたり
参拝の方がいたらお話を伺い
情報を得られたらと思います
神臣・薙人
【月灯】
冬の風鈴市ですか
なんだか不思議な雰囲気ですね
…この白に、赤が増えないようにしなくては
天城さんとはぐれないよう注意しつつ
椿寿寺を目指して歩きます
行き合う人がいれば挨拶をして
風鈴市の事を尋ねてみます
この季節に風鈴市は珍しいですね
何か謂れがあるのでしょうか
言葉の端々にでも
儀式の情報が得られれば…
お話を聞いた後はお礼を言って
また先へ進みますね
折角ですので風鈴も一つ買って行きます
私は静かな音色のものが好きですね
天城さんは如何ですか?
椿寿寺へ着いたら
白燐蟲で視界を確保
壊れた箇所等が無いか確認
あればどのような状態か詳しく調べます
不審な箇所については天城さんとも情報共有
少しでも何か分かれば良いのですが
●
冬の集落を、積もる雪が真白に染める。
さく、さくと白を踏みしめ白い息を吐く神臣・薙人(落花幻夢・f35429)の耳に、リィンと風鈴の音色が届いてくる。目を向ければ、白に覆われる村の景に様々な色と音した風鈴が、あちらこちらと屋台の軒先で揺れていた。
「冬の風鈴市ですか、なんだか不思議な雰囲気ですね」
ぽつりと零れた彼の言葉を拾い頷いたのは、薙人の隣往く、天城・潤(未だ御しきれぬ力持て征く・f08073)。
「風鈴は夏に鳴らすものと、旅団の皆さんに伺いましたが……」
潤が知識として知る其れは夏のもの。けれど、今目の前に広がる光景と耳に届く音色に暫し心傾けて、視線を薙人に向けた潤はこう思う。
――冬景色に涼やかな音も、悪くないのではないかと。
感じるままに紡がれた潤の言葉は真っ直ぐと。それを受けた薙人もまた、自身の目の前の景を瞳に映して、一つ頷いた。
「そうですね、それに……この白に、赤が増えないようにしなくては」
来る脅威へと、その阻止へと意識を向けた薙人の瞳は真摯な色。そんな彼と行動を共に出来るのも嬉しいことだと思うから。その思いのまま、潤が手に取るのは柔らかくも暖かなストール。
「神臣さんは、寒いのが苦手でらっしゃったでしょう」
その言葉に視線を向けた薙人の肩にふわりとそれが掛けられて。礼を告げる彼と受けた彼、ふたりは歩みを揃えて村を奥へと進み、目指す先は『椿寿寺』。
互いが逸れぬよう注意しつつ往くものの、市が並ぶもどこか閑散とした村の様子はその心配がなさそうだ。張った気を和らげるように一つ息を吐いた薙人の傍を、村民らしき老齢の女性がゆったりと歩いてゆく。
「あの、こんにちは」
「はい、こんにちは。市に来られた方……ですかの」
「そうなんです。この季節に風鈴市は珍しいですね」
何か謂れがあるのでしょうか、と問う薙人に老女が答えることには、彼女が幼い頃からこの冬の風鈴市はあったのだという。嘗ては椿寿寺に風鈴を奉納する祭に合わせ、市井の手にも縁が渡るよう、こうして市が立っていたのだそうだ。
「市だけになって随分経ちますから、祭の記憶はもう薄っすらですがね」
歳をとりますと余計にね、と笑った老女に話への礼を告げ、ふたりは再び先へと歩みを進めてゆく。
「椿寿寺への、風鈴の奉納祭が由来だったんですね」
「ええ、良い情報だったのではないでしょうか」
そんな会話を交わし歩むふたりの耳に、風鈴の音がリン、と歌うように届いてきた。
「折角ですので、風鈴も一つ買って行きます」
「いいですね、僕も一つ、見ていきましょう」
頷きあったふたりは、重なるように風鈴が謡う市へと足を運んだ。
先の女性よりも幾分か年若い初老の男性が、屋台から顔を出す。
「いらっしゃい。
他所の人かね、珍しいこともあるもんだ」
「こちらの風鈴を、見せて頂いても宜しいでしょうか」
「勿論さ。他所の人に買って貰えるなんて久々だからね。ゆっくり見ていきな」
「有難う御座います。冬の風鈴市は珍しいですね」
古老の中には恐らく言い伝えや口伝を知る方も多かろうと、潤が軽く話題を振る。それに、瞬き一つ返した男は軽く笑って。
「そうだろう、儂もあまり外を知らないが、普通とは季節が真逆だろう」
「元は奉納祭が由来だったとか」
「おや、誰かから聞いたかね。そうさぁ、儂の爺さんも奉納鈴作ったって自慢してたやな」
――亀の神さんを描いたんだぞ~ってなぁ。
酒片手にガキの儂に自慢してよぉ、と笑う男の話に暫し付き合う中、風鈴の短冊に願い事を描いた覚えがあるという思い出話も聞いた。それらを心に留め乍ら、二人は再び目の前の風鈴へと意識を戻す。
「そういえば、神臣さんは、どのようなものがお好きなのでしょう」
とりどりと並ぶ風鈴を前に問う潤の声に、そうですね、とその視線を同じく鈴の群れへと向けた薙人は徐に瞼を伏せる。そうして、
「私は静かな音色のものが好きですね。天城さんは如何ですか?」
「僕ですか? 僕は――」
そんなやり取りを交わす後、椿寿寺へと足踏み入れた二人の手には、かの屋台で迎えた風鈴がひとつずつ。割れぬようと包み渡された其れは袋の中。今は音すら出ぬものの、彼らに寄り添うような心地がする。椿寿寺へと至れば、道中にも見かけた椿はすっかりと赤ばかり。雪中の赤が目に鮮やかだ。
「椿を寿ぐ寺とは良い名ですね」
ダークセイヴァーで生まれ育った潤にとって、寺社への参拝は経験なきことであるが――
――何か、霊力溢れる場所に感じます。
そう、感覚を研ぎ澄ますよう目を細めた潤の視界が、薙人の白燐蟲の力によって明瞭となって行く。
「これで、調べやすくなるでしょうか」
「残花ちゃんの加護ですか、有難う御座います」
潤の言葉に薙人も眼を細めて頷いて、其々に周囲を調べ始める。先に此処を訪れていた猟兵仲間以外に人の気配はなく、ここで村民からの話は聞けそうにないが、その分何ら咎められることもなく調べられそうだ。無住寺乍ら損傷の少ない寺の周囲を巡り、ふわりと光上る先へ視線を向ければ、ふと目に留まるものがある。それは、屋根の四隅、隅木飾に施された彫りの装飾。よくよく見れば、そこに模られているのは四方を司る獣神の姿。そしてその先には何かが吊るせるような鈎状の突起が付いている。
「神臣さん」
「はい、これは、なにか手掛かりになりそうですね」
そう頷きあったふたりは、陽が傾き始めた空を見上げた後、情報共有と話し合いを行うべく一度村へと引き返すのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リグノア・ノイン
【公園】
我が故郷のUDCアース
この村も、そしてこの音色も
破壊はさせません
In der Tat.
これが「ノスタルジー」という感情
興味深く周りを見渡しながら歩きますが
シリル様から仏閣の説明を受けつつ
辺りの柔らかな喧噪にも包まれ
なんだか安心する、という心持です
「
Ahh.優しい喧噪です」
椿寿寺で何か情報を得られたらと思うのですが
シリル様にお聞きした「罰当たり」な事は行わないよう
細心の注意を払って対応致します
「
Gott segne Sie.という事ですね」
暗視スコープで暗い場所や藪をかき分け
可能な限りの情報を集めます
「
Ja.お力になれると嬉しいです」
シリルーン・アーンスランド
【公園】
護りが失われる前で良うございました
リグノアさまの故郷でもあるこの地
しっかと憂いを断ちましょう
古き時代の農村という風情ですのね
リグノアさまは仏閣をご存知無く興味を持たれたご様子
どういう所かお伝えしながら参ります
お寺は古びても手入れを丁寧にされているようです
「大切に護ってこられたこと良く分かりますわ」
ですが無住寺の様子にて
大変恐縮ながら参拝後手分けしお調べを
暗い場所の絵馬や書きつけはリグノアさまがスコープで
庫裏の隠し部屋のからくりはわたくしが
読み解きはご一緒に
「助かりましてございます」
バチアタリにだけは気を付け推論を得ましたら村へ戻りましょう
「次の一歩へ向けて頑張りましょうねリグノアさま」
●
静かな農村の景色。真白に染まる様は静かで、望郷の心を呼び起こすよな素朴な地の景を、リグノア・ノイン(感情の渇望者・f09348)は、じっとその瞳に映す。それは、彼女の故郷でもあるUDCアースという世界への確たる思い。
「この村も、そしてこの音色も、破壊はさせません」
音と紡がれるその思いを耳に、隣に立つシリルーン・アーンスランド(最強笑顔の護り風・f35374)は、こくりと頷いて見せた。
「ええ、護りが失われる前で良うございました。リグノアさまの故郷でもあるこの地」
しっかと憂いを断ちましょう。そう紡いだシリルーンは、彼女へと視線を向けたリグノアと頷きあって、村へと歩みを進めてゆく。そんな彼女らを迎えるのは、木造家屋並ぶ村の景色。
「古き時代の農村という風情ですのね」
「
In der Tat.これが「ノスタルジー」という感情」
シリルーンからの言葉を受け、ふつ、と胸の奥の方に湧き上がる感覚に言葉を準えるよう、胸に手を当てたリグノアが、紡ぐ。
この景色そのものにか、それによって湧き上がる自身の感情にか、興味深げな視線を向けて辺りを見回しながら歩んでゆくリグノアに、シリルーンはゆったりと歩みを合わせて共に行く。そういえば、ここに来るまでの会話の中で、リグノアが特に仏閣へと興味を示していたことを想い出したシリルーンは、それがどういう所であるのかを伝えゆきながら歩むこととした。
「
In der Tat.仏閣とはそのような存在であるのですね、シリル様」
丁寧に、彼女に伝わる言葉を選びながら語りゆくシリルーンの話に、興味深く耳を傾けていたリグノアに耳へと、周囲の柔らかな喧噪が届いてくる。緩やかにと交わされる人の声に交じり、澄んだ鈴の音、吹く風の音と揺れる枝葉の囁き。それは、戦場とも都会のそれとも異なって――柔らかで、そう、音が鼓膜を揺らすだけでなく身をも包むような。それは――
――なんだか安心する、という心持です。
ふと、その喧噪に身を浸すが如く歩みを止めたリグノアへ、シリルーンもまたゆったりと付き添うように歩みを止めた。何かを待つように目を細め見つめるシリルーンの前で、柔く瞼を閉じたリグノアが、ぽつりと言の葉を零した。
「
Ahh.優しい喧噪です」
「ええ、そうですわね。リグノアさま」
ゆったりと、されどしっかりと。護るべき村の存在を身に受けたふたりが赴いたのは、村の南に位置する『椿寿寺』。山中に存在するその寺は、決して大きなものではないが、確かな存在感を放っている。周囲に赤い椿が咲き誇る中建つ本堂は、経た年月で古びてはいるが、誰かが手入れしているのだろうか、大きな破損個所もなく丁重に扱われているのを感じる。それを感じ取ったシリルーンは、ほう、と感嘆の吐息を零し、再びその寺の全景を見つめた。
「此処が、大切に護ってこられた場所であること、良く分かりますわ」
ならばと周囲を見渡してみるものの、人の気配は感じない。
「人は、居ない――ようですね」
「ええ、仕方ありません、周囲を調べさせて頂きましょう」
「
Ja.何か、情報が得られたらいいのですが」
「少しお待ち下さいませ、リグノアさま」
早速と調べに往こうと足を踏み出すリグノアを引き留めたシリルーンは、本堂の正面を指し示す。
「先ずは、ご挨拶を兼ねて参拝いたしましょう」
「
Ja.それが作法というものですね」
道中に彼女から聞いた話も思い出し、『罰当たり』なことを行わないよう、細心の注意を払って対応しなくては、と背筋を伸ばすリグノアと、その様を穏やかな笑みをもって見守り、見本となるべく礼儀をもって寺と向き合うシリルーンは、厳かな気持ちで寺の正面に立ち手を合わせた。
「
Gott segne Sie.という事ですね」
「ふふ、そうですわね。さあ、それでは大変恐縮ながら、お調べを」
手入れはされているとはいえ、無住寺と思しき境内は草木の伸びきった場所も多い。加えてこの雪景色だ、開けた場所も多いながら調べ物をするには視界良好とは言い難い。さてどうするかと軽く首を捻るシリルーンの隣、リグノアが一歩前に出る。
「シリル様、暗視スコープを使います」
こういった事態も任務上の想定内だと、暗視スコープで暗い場所や藪をかき分けリグノアが周囲を探る。勿論、『罰当たり』な行為は避けてのこと。そんな彼女に笑みを向けたシリルーンも彼女に続く。
「リグノアさま、助かりましてございます」
そうしてリグノアが見つけたのは、藪に覆われ隠れてしまっていた小道。大きな枝を掻き分ければ、路の先に見えたのは真白の椿に囲まれた
絵馬掛所。しかし普通の其れと異なるのは、やや大きく設えられた其処に掛かっているのが小さな風鈴であること。
「風鈴、ですわね。聊か古いもののようですけれど……あら」
よく見れば、風鈴に下がる短冊に文字が書かれている様子。くすんでしまっているそれをリグノアの力で共に読み解けば、どうやら全てにささやかな願いや礼が書かれているようだ。絵馬の代わりに願いを、想いを、風鈴に託していたのだろうか。引き続き境内を調べれば、これと同じ絵馬掛所が四方に存在することが分かった。
隠し部屋といったようなものは見つからなかったが、収穫は得た。それらをもとに推敲を重ねつつ、陽が落ちる前にと二人は村への道を引き返す。
「次の一歩へ向けて頑張りましょうねリグノアさま」
「
Ja.お力になれると嬉しいです」
踏み出す二人の足がさくりと静か雪を踏みしめる音に、リン、と微かな風鈴の音が風に乗って聞こえた気がした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
冴島・類
真珠さん(f12752)と
春待つ季節に風鈴の音を聞く
珍しい冬の市を見に
何かを封じる儀式が由来と言いますが
音を魔除けにしてるんですかね
りん、ちりん
風に揺らされ鳴る音色に導かれ
お寺の椿も楽しむとして
風鈴も見て行きましょうか
どの音も綺麗ですねぇ
硝子の子だと貴方は馴染み深いかも
真珠さん、気になる子いますか?
僕は陶器のはお迎えしてないから
音が少し柔いんだな、と興味が
ふふ、今年は並べてみようかな
狸さん愛嬌あって和みますね
僕は…この地に因んで
紅白の椿柄を手に
冬の静けさに音がよく響く
ええ、と頷き
何かの切欠で話題になったり
後に惜しまれ、続く祭もある
市の景を持参したかめらで写真におさめ
この趣き、残したいものですね
雅楽代・真珠
類(f13398)と
風鈴は音を聞いて涼やかな気持ちになるものだ
この時期というのは珍らかだね
成る程、魔除け
そうかもしれない
白と赤
りんと涼やかな音
人には冷たい音に聞こえるかもしれないけど
本性がびいどろの僕には耳馴染む
伏していた瞼を持ち上げて
お前の言葉に顎を引こう
玻璃の物は僕も多く所持している
だから僕も陶器のものにしようかな
不思議な感じがするね、類
確か類の棲家にも夏に下がっていた
ふたつ並べて聴き比べるのも良いかもね
この狸みたいなのにしよう
ほら、舌も尾みたいだ
ぶんぶく茶釜が鳴っていると思うと面白い
類は?絵柄はどうするの?
今年限りの噂には、勿体無いなと思うよ
僕等はヤドリガミだから、絶たれるのは心寂しい
●
真白の雪に覆われた村の景色。
春待つ季節たる
今日に、風鈴の音がちりりと鳴り響いている。そんな珍しい冬の市へと繰り出して来たのは、冴島・類(公孫樹・f13398)と、雅楽代・真珠(水中花・f12752)。吹く風に、りん、ちりん、となる鈴の音に耳傾けて、真珠は白き瞼をふわりと伏せる。風鈴は音を聞いて涼やかな気持ちになるものだ。
「この時期というのは珍らかだね」
彼に変わり白を踏みしめる執事人形の腕の中、白色人魚の花唇から発せられた言の葉に、類はこくりと頷いて。
「ええ、何かを封じる儀式が由来と言いますが、音を魔除けにしてるんですかね」
「成る程、魔除け。そうかもしれない」
ちりん、りん。
涼やかで清涼な響きを再び耳に迎え入れ、うん、とかろく首を縦に振った真珠の視線が、椿山の方を向く。決して遠くない山道の始まりから、ちらりと見える白と赤。そうして周囲に満ちた雪の白。身を冷やす空気の中で響く涼やかなる鈴音は、なるほど、人には冷たくも聞こえるかもしれない。けれど――
――本性がびいどろの僕には耳馴染む。
今ひとたび。瞼を伏せて風に鳴る音へ心傾ける真珠の隣、同じく清涼な響きに導かれるようにして、左右二色を宿した類の瞳が周囲を巡る。右の市から、ちりりん、ちりん。左の市から、ちん、ころん。まるで呼んでは歌うよに、風に身を揺らす風鈴たちに自ずと頬を和らげて。
「真珠さん。お寺の椿も楽しむとして、風鈴も見て行きましょうか」
「ああ、そうだね」
伏していた瞼を持ち上げて、彼の言葉に顎を引いた真珠は視線をちらりと執事人形へと軽く向け、それと同時歩みを再開させたなら、彼らは重なりゆく鈴の歌声の内へと身を進ませた。
素朴とは言え年に一度の村をあげた市ともあれば、様々な風鈴が多くの屋台で揺れている。硝子や陶器、金属といった素材は勿論、大きさや形、舌や短冊によっても音色や印象が変わる。とりどりの姿や音を眺めつつ、類は穏やかに眼を細めた。
「どの音も綺麗ですねぇ。硝子の子だと貴方は馴染み深いかも」
きらり陽光透かした硝子風鈴へと視線を送りながら、真珠さん、気になる子いますか? と、歩む足緩やかに問いかけた矢先、類の目にふと飛び込んだのは陶器製の風鈴を扱う屋台。ちりりと高い音を立てる硝子製に比べ、から、ころとどこか柔く丸い音を立てる風鈴の音にも惹かれた。
「陶器の風鈴屋台だね」
「ええ、僕は陶器のはお迎えしていないから」
少し興味が、と、向けた視線を留め語る類へ、ふむ、と顎に指先を当てた真珠は嫋やかに花唇の端を擡げ。
「……見ていくかい? 玻璃の物は僕も多く所持している」
だから僕も陶器のものにしようかな、と。淡く笑んだ真珠の容と言葉に背を押されるように、類の爪先も陶器の屋台へと先を向けた。
ころり、からり。ちん、からん。
涼やかでいて、どこか温かみある柔い音色を奏でる陶器の風鈴。その重なり合う音に暫し耳を傾けて、真珠はふぅんと、興味深げな声を零した。
「不思議な感じがするね、類」
「ええ、陶器のものは少し音が柔いんですね」
「……風鈴、確か類の棲家にも夏に下がっていた」
いつかの夏。彼の棲家に下がっていた其れを想い出す。揺れる風鈴、ひとつのその隣にもう一つ、下がっているのも良さそうだ。
「ふたつ並べて、聴き比べるのも良いかもね」
並べることで新たな響きが生まれるかもしれない。異なる二つが並ぶ様もまたいいものだ。
「ふふ、そうですね。今年は並べてみようかな」
そうと決まればどれにしようか、と。視線巡らせた先、あ、と真珠が小さな声を上げた。
「僕は、この狸みたいなのにしよう。ほら、舌も尾みたいだ」
ころんとまあるい狸を模した濃茶の風鈴に、小さくもぽってりとした尾型の舌が揺れるそれは見ていて心が和むよう。舌の先の短冊は大きな葉の形をしていた。
「狸さん、愛嬌あって和みますね」
「そうだろう。ぶんぶく茶釜が鳴っていると思うと面白い」
ふふ、とふたり笑みを交わせば、真珠の視線は類へと真っすぐ向けられて。
「類は? 絵柄はどうするの?」
「僕は……この地に因んで、これにしようかな」
そうして伸ばした手に迎えられたのは、紅白の椿柄が絵付けされた白地の風鈴。雪積もる今の景を思わせる其れは、円かな曲線を描いたシンプルな形でありながら、揺らせば耳馴染む音をよく響かせた。
――……冬の静けさに音がよく響く。
うん、と。一つ頷き、店主へ一声かけてふたりは其々に風鈴を迎えゆく。屋台に背を向けた彼らの目には、再びとりどりの風鈴が並ぶ村の景色が広がった。華やかと称すにはどこか素朴で、けれども其れ故に不思議な懐かしさとあたたかみを帯びた冬の市。そんな姿を目に留めて、真珠の脳裏に過るのは――
「今年限りの噂には、勿体無いなと思うよ」
そう、この鈴鳴る景色が、これを限りに終わりかもしれない、と。耳にした噂が蘇る。
――僕等はヤドリガミだから、絶たれるのは心寂しい。
静か、長い睫毛を伏せて零した真珠の言葉に、ええ、と類の声が重った。
「ですが、何かの切欠で話題になったり、後に惜しまれ、続く祭もある」
そう、終わるかもしれない。けれども、『かもしれない』のならば、終わらないかもしれない。何か、そちらに傾く切欠を生むことが出来るなら。小さな何かも重なれば、『もしも』が形になるかもしれない。縁とはそういうものでもあるのだ。
類は持参したレトロな趣のインスタントカメラから市の景を覗き、かろい音を立てその景色を写真におさめた。想い出に、そうして、カタチに。
「この趣き、残したいものですね」
願いをも込めて、今しがた写し取った景色を真珠にも見せながら、柔い笑みと共にそう告げる類へと、真珠もまた嫋やかに顎を引いて見せるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と
UDCアースに足を踏み入れるのは初めてだな
だけど、なんだかこの山村は懐かしさすら感じる
それに寒い中、風鈴の音が響くのは本当に幻想的だ
「澄んだ空気に、良い音色だな」
相棒と歩きつつ調べる方針も軽く決めないとね
村の名前も儀式にも関係しているかもな
子の方位で始まり、北極星として始点、そして敗北の文字
「一つの指標として、どんな意味を持たせても北は重要な位置だからな」
考えを纏める為に相棒に説明しながらだけど
なんだか教師をしてる時を思い出す
「まぁ、あくまで参考にだけどな。色々聞いてみよう」
まずは現地の人達に聞いて回る所から
時人程うまくはできないけど
「昔の儀式の様子とか…良ければ聞かせて貰えたらって」
時の流れの中で消失している要因も考えると
細かい所がヒントになるかもしれない
「そうだ、廃村になった順番とか覚えてますか?」
最後に残った場所が北な事も気になるからね
情報収集をしながら風鈴を一つ買うよ
村の一助になる事と、心地よい音色と一緒に村を回りたいから
「冬の風鈴も本当に良い物だな」
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と
冷涼な空に響く風鈴の音って良いな
訪れた鄙びた山村の風景も凄く好きだ
「今回限りかもなんて勿体無いよね」
何よりこの音が絶えたらお仕舞なの本当に拙いよね
陸井が此処が「北」だってことを考えてる
漢字の成り立ちも教えて貰って
「さすがセンセ!」
「じゃあ『敗北』って負けて逃げるって意味か!」
OK情報収集!まずそこからだね
「冬に風鈴って珍しいですよね」
「旧いしきたりとか儀式とか興味あるんですけど…」
俺も正攻法
お年寄り多いしちゃんと敬語使うよ
個人的には四方全部でしてたってとこから
四神相応の感じ?とか考えるしその辺も掘るよ
聞いたら陸井と情報共有
村人に冬の風鈴は対魔の意味がきっとある
邪気封じとか上手く紐づけて続けて欲しいと伝えて
「折角のお祭りですから!俺も初めて来ましたしね!」
風鈴も買うよ
「昔さ、買って貰えなくて欲しいって思ってた…」
あった!硝子風鈴!
鈴の形は竜胆だけど、まるで葡萄みたいに沢山ついてて
音はしゃらんしゃらんって淡い感じ
俺はこれ!
「うん、俺もずっと続いて欲しいって思うよ」
●
冬の冷たい風が吹き抜けて、草木の雪がふわりと風に舞う。その煌く白を追うように、葛城・時人(光望護花・f35294)は、視線を上へと持ち上げた。冷たく澄んだ空は高く、青く。その青き視界にちりりと涼やかな音が乗ってきた。
「冷涼な空に響く風鈴の音って良いな」
ぽつりと零れた相棒の言葉に、隣立つ凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)が、緩やかに頷き返した。
「澄んだ空気に、良い音色だな」
陸井がUDCアースに足を踏み入れるのは初めてのこと。けれども、周囲に広がるこの山村の景色にはどこか懐かしさすら感じて。ほう、と吐いた彼の白い息が清涼な空に融けてゆく。この寒い中、風鈴の音が響きゆくのも本当に幻想的だ、と、陸井は目を細めた。
止めた足を踏み出すとともに、時人も空へと向けていた視線を村の景色へと移す。目に映る鄙びた山村の風景も、凄く好きだと感じる。だからこそ――
「今回限りかも、なんて。勿体無いよね」
絶えさせたくはない。その思いも抱いて紡がれた言の葉は、真摯な響きをも纏って陸井の耳に、そうしてこの村の空気へと静かに、確かに、伝った。
そんなこの村の景色を味わいつつ、想いをも確かにしつつ、ふたり歩みを進めながら、さて、と指先を顎に添えた陸井が視線を時人へと向ける。
「村を歩きつつ、調べる方針も軽く決めないとね」
「ああ、そうだね。陸井は何か気付いた事とか、ある?」
彼の知をかっている時人の視線は、どこかきらりとしていて。そんな視線を受けながら、小さく笑った室井は、そうだな、と思案気に暫し。
「村の名前も儀式にも関係しているかもな」
「村の?」
首を傾げて聞き返す時人へと陸井が語るのは、この村の位置に関する事。子の方位で始まり、北極星として始点、そして敗北の文字……そう指折り連ねる陸井の表情は、物を教えるときの顔になっている。
「一つの指標として、どんな意味を持たせても北は重要な位置だからな」
「おお、さすがセンセ!」
そうして、自身の考えを纏める意味でも、相棒たる彼に語り説明する陸井の言葉に、感嘆の声を零しながら、きらきらとした目で聞き入る時人。そんな姿を見ていると、陸井もなにやら、教師をしている時を思い出す心地ともなってくる。そんな心地に押されて、北という漢字の成り立ち迄語り終えれば、時人も声高に、じゃあ『敗北』って負けて逃げるって意味か! と手を打ち鳴らした。そんな彼に笑んだ後、個人授業は此処まで、とばかりに彼もまた小さく手を鳴らし。
「まぁ、あくまで参考にだけどな。村の人達からも、色々聞いてみよう」
「OK、情報収集! まずそこからだね」
にっと笑った時人が頷けば、二人は止めていた足を再び前へと踏み出して、情報収集を開始した。
まずは現地の人達に聞いて回る所からかと、陸井が周囲へと視線を巡らせていたところ、先に時人が動く。道ゆく村人の姿を目に留めて、即座に動くところが彼らしい。
「こんにちは! 冬に風鈴って珍しいですよね」
「おや、村外から来なすったひとかい?」
「はい、この季節に風鈴市をやってるところがあるって聞いてきました」
年長者向けにと敬語で話す時人の様はどこか新鮮でありながら、相手との距離を縮める人好きのする態度は常の彼と変わらない。計算でなくそれが自然な彼の姿であるのが、相棒の良い持ち味だな、と陸井は頬を緩めた。さて、自分は彼ほど上手くは出来ないが、とも思い乍ら、目に留まった屋台の一つへと歩みを寄せた。情報収集は手分けした方が効率が良いだろうという判断だ。
自分の居る位置とは反対の屋台へと歩んでいった陸井の姿を視界の端に入れながら、時人も会話を進めてゆく。
「俺、旧いしきたりとか儀式とかに興味あるんですけど……」
この風鈴市にも、そういった由来があるのだろうかと問う時人へ、そうさなぁ、と顎を撫ぜた老人が暫し思案する。
「しきたりってぇ、堅いもんじゃねえが。昔はこの村も、風鈴を椿寿寺に納めてたらしいね」
「この村、も?」
「ああ、俺ぁさ、元々は此処の出じゃねえのさ」
山南の
朱登利村からここに移ってきたという男の話によれば、元の村では夏に同じような催事を行っていたという。村を去るまで、其処では祭りの形式も残っていたようで、毎年夏の夜に奉納の鈴を寺に納めていたのだそうだ。
「夏に風鈴を、お寺に?」
「そうさ。ここじゃどうだったか知らねえが、なんかこう、赤い火の鳥を描いたやつを寺用に用意してよ。他の風鈴は、願い事書いて絵馬みたいに吊るすのよ。夜に皆でチリチリ鳴らして持っていくのは……ああ、あんたの言う『儀式』っぽかったのかもな」
「此処では、どうしてやってないでしょう?」
「まあ、祭が市と同じ時期ってんなら、今だろ? 冬の夜、山道登って納めに行くってなりゃ、若いのが居ないと続かなかったんじゃねえか」
俺だって今この時期に上るのはやだね、と、豪快に男は笑った。なるほど、それでもせめてと残された形が、この市だったのかもしれない。
「あの、納めていた風鈴に描かれていた火の鳥って、朱雀、じゃないでしょうか」
嘗ては、四方の村全部で行われていたという所から、四神相応へと結びつけた時人は、その方面からも掘り下げてみる。
「あー、なんかそんな名前だった気もするな」
「他の村のことも気になるんですけど、他に移ってきた方とかご存じですか?」
「んー、そういや、山川のばぁさんが確か、
青多都村の出だったか」
あっちで風鈴売ってら、と指し示した男に礼を告げ、時人は示された方向へとくるり、身を向けた。
一方、時人と別れた陸井も情報収集の為、村民との会話に勤しんでいる。風鈴屋台に座っていた店主と他愛無い世間話の後、元となった祭りの話を聞きながら、頃合いを見て問いかける。
「昔の儀式の様子とか……良ければ聞かせて貰えたらって」
「儀式、儀式ねえ。其れっぽいといや、祭の最後に風鈴納めに行くぐらいかね」
「祭りの最後に?」
「あゝ、先頭に寺に奉納する風鈴持ったやつが歩いてさ。その後を皆でちりちり鳴らしながら行くのさ、あの山道を」
椿寿寺までね、と指差せば、その先には椿山の山頂へ続く山道であり参道が見えた。そう高くはない山であり、道も整ってはいるが、積もる雪もあり歩きやすいとは言えなさそうだ。
「この時期に上るのは、少し大変でしょうね」
「そうさぁ。だからね、若いのが居なくなってからは、市だけんなっちまったよ」
参道を埋めるよな白椿は、綺麗だったんだけどねぇ、と店主の女は目を細めた。
「そういえば、山の四方に他の村もあったと聞いています」
「そうそう、どこも……過疎化ってのかい? 若いのが減って無くなっちまった」
皆、都会に行っちまってね、と。侘しそうに語る店主の様に陸井の眉が僅か下がる。
「それは、寂しいものですね」
「まぁねえ。でも、時代の流れってのもあるからねぇ」
「そうだ、廃村になった順番とか覚えてますか?」
最後に残ったのが北にあるこの村であることが気になった陸井は、そう問いかける。
「順番かね、そうさね。無くなった村から移り住んでくる人もいるもんだから、その順で言えば、東の青多都村、南の
朱登利村で、西の
白登良村――かねぇ」
「他の村も、祭はもうされてなかったんでしょうか」
「移ってきたもんの話聞いてだけど、最初に出来なくなったのはうちの村みたいだね。冬の山に登るのがきつくなっちまってさ。他は暫く続けてたみたいだけど、やっぱり人が減って難しくなったって言ってたよ」
なるほど、と。話の一つ一つを心に留めてゆく。些細なことも、逃さぬように。
――時の流れの中で消失している要因も考えると、細かい所がヒントになるかもしれない。
その後、一言二言交わし、礼を告げた陸井は屋台を後にする。と、こちらに向かって歩いてくる時人の姿が目に入った。ひらりと手を振る時人と合流すれば、互いに得た情報を共有し合う。
「……と、いうわけで、これから山川さんの屋台に行くとこ」
「なるほど。じゃあ、そっちは一緒に行こう」
陽も傾いてきた、情報収集の最後は其処にしようと、ふたりは共に歩みだす。ちりり、と涼やかな硝子風鈴の並ぶ屋台。
「あった! 硝子風鈴!」
指差す時人はどこか跳ねゆくような声音でそう告げた。様々な形や色の硝子風鈴が吊るされた屋台に、ひとりの老婆が座っている。
「こんにちは。あの、山川さん、ですか?」
「はい、はい。そうですよ、いらっしゃい」
にこやかに対応する店主と挨拶を交わし、青多都村の出身である彼女から、祭の話を聞きたいのだと申し出れば、懐かし気に目を細めた彼女はゆっくりと話してくれた。祭りの際には、青い龍の装飾を施した風鈴を椿寿寺に収めていたこと。いつからか村を出ていく若者が増え、祭が続けられなくなったこと。といったことを話してくれた。
「春の季節に鳴る風鈴も、良かったんですけどねぇ」
「青多都村では春に催されていたんですね」
「ええ、ええ。一足早い夏支度と、楽しみにしたものですよ」
――けれど。
「冬の風鈴も、馴染んできたのですけれどねぇ。ここも終わってしまうんでしょうかね」
そう、寂しそうな笑みを浮かべた店主の様子を、言葉を受け止めて。顔を見合わせたふたりは、視線を屋台の風鈴へと向けた。
「お話、ありがとうございます。風鈴も見ていっていいですか?」
村の一助になる事ももちろん望みながら、心地よい音色と一緒に村を回りたい、との思いも共に陸井は店主にそう告げる。
「あ! 俺も風鈴買うよ。実は……」
――昔さ、買って貰えなくて、欲しいって思ってた……
内緒話をするように想い出を手繰るようにそう告げた時人と、それを見守るよな陸井のふたりを店主は穏やかに笑んで見つめ返し、頷いた。
「ええ、ええ、どうぞ」
ごゆっくり、と嬉し気な音を交えて応えた店主が見守る中、ふたりは風鈴を眺める。涼やかな硝子風鈴が並ぶ様は、きらきらと夕刻の光を反射してどこかあたたかくも見えた。
くるりと見回した陸井の目がふと留まったのは、澄んだ青い硝子に花の咲く風鈴。優しい紫色の舌が添い音を鳴らし、黒猫の描かれた短冊が揺れていた。縁深い様に自然と指先伸びたその風鈴を手に迎える。
「陸井はそれ? いいね! じゃあ俺は……」
にこりと笑って、視線を巡らせた時人の耳に届いた、しゃらりと鈴鳴るような音。淡くも惹かれるその音を追えば、竜胆を模した硝子の鈴がまるで葡萄のように房と咲く風鈴が目に飛び込んできた。
「決めた、俺はこれ!」
一目ぼれ、と言ってもいい。心にぴんと響いたその鈴を手にして、時人は笑む。
会計を済ませながら、あの、と店主に話しかけた時人は、真摯な色を瞳に宿してこう告げる。冬の風鈴は対魔の意味がきっとある。だから、邪気封じとか上手く紐づけて続けて欲しい。と。
「折角のお祭りですから! 俺も初めて来ましたしね!」
そう明るく告げた彼の言葉に、店主はゆったりと頷いて、ありがとうの響きと共に、ふたりへと風鈴を手渡した。
真白が朱く染まる夕刻の村内を、ふたつぶんの風鈴が鳴る。包まれた袋から取り出した其々を鳴らしてふたりは往く。
「冬の風鈴も、本当に良い物だな」
「うん、俺もずっと続いて欲しいって思うよ」
しゃらり、ちりん。添い響く音と共に村を往きながら、ふたりは思い新たに椿寿寺のある椿山へと視線を向けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月守・ユエ
風鈴市…か
懐かしさに背を押され歩み出す
――僕の故郷も山の麓にある村だった
閉鎖的な処ではあったけど
同じような催事があって
清音が響くこの日は、何となく好きだった思い出がある
今年が最後だなんてもったいない
情報収集しつつ
存続できるお手伝いしたいな…
スマホで写真を沢山撮ろう
流行りのSNSに旅レポートとして口コミとかできたらいいなぁ
お店で風鈴を眺める
綺麗な音ですね、と店主に話しかける
「風鈴市と村の祭事って何か言い伝えとか…あるんですか?
ふふ、僕の故郷でも同じような祭があったので共感しちゃって!
皆さんの住む村や山頂の椿寿寺の事を覚えて帰りたいなって
椿寿寺の参拝のお作法とかあれば…!ご伝授も頂きたいんですっ」
ほんわりと無邪気に好奇心を秘めた子供のように笑顔を見せる
風鈴は硝子製のものを選ぶの
海月のように透明でまあるい形の可愛らしい風鈴
今年の夏に、飾ろうかな…?
心地よい音色は、心を癒す調べとなってくれるだろう
●
「風鈴市……か」
リン、と響く鈴の音に目を細めた、月守・ユエ(皓月・f05601)は、懐かしさに背を押され歩み出す。真白に染まる村の景色を眺めながら思うのは、自身の故郷のこと。
――僕の故郷も山の麓にある村だった。
思い出す故郷は、不思議とこの村との共通点が多い。そう、閉鎖的な処ではあったけれど、同じような催事があって。ちりり、ちりん、と、清音が響くこの日は、何となく好きだった思い出がある。
風に揺れ、涼やかな音に満ちる村の景色。故郷と重なるからだろうか、他人事とは思えない心で胸を満たしながら、ユエは形も音も様々な風鈴の群れを、瞳で、耳で、全身で感じ往く。
「今年が最後だなんて、もったいない」
そう、心底思うから。
「情報収集しつつ、存続できるお手伝いしたいな……」
きゅ、と。知らず胸に当てていた掌を柔く握り、想い噛み締めるように僅か落としていた視線を持ち上げて、ユエは歩みを進めてゆく。握り解いた掌に手招くのは、その手に馴染んだスマートフォン。そう、これで写真を沢山撮ろう。この世界は情報の巡りも早い、撮った写真を流行のSNSに旅レポートとして口コミを載せたなら、この村のことも、この催事のことも知る人が増える筈。そうしてこの地を訪れる人が増えたなら――そうと決まれば、と、さっそくレンズを向ければ、軽やかな、今を切り取り伝える音が涼やかな風鈴の音に交じった。
景色を写真におさめながら、並びゆく市を、そこに揺れる風鈴を眺める。ふと目に留まった屋台へと足を寄せれば、店番をしていた店主に笑んで話しかけた。
「綺麗な音ですね」
「おや、あんたも村の外のひとかい? 今年はなんだ、珍しいね」
ぱちりと瞬いた店主が、目を細めていらっしゃい、と言葉を続ける。
「ええ、この村を、この市を知る機会がありまして」
「そうかい。外のひとも、機会があればこんな田舎に来てくれるもんなんだねぇ」
こんなとこまでご苦労さん、と笑った店主へ、笑みを返しつつユエは視線を屋台の風鈴へと向ける。
「あの、風鈴市と村の祭事って、何か言い伝えとか……あるんですか?」
「おや、祭に興味を持ってくれる人も今日は多いねぇ」
「ふふ、僕の故郷でも同じような祭があったので共感しちゃって!」
「ほお、そうなのかい。実はあたしも、元々他の村に住んでてね。ここには嫁入りで来たんだよ」
「そうなんですか?」
「そうさ、あたしが住んでた村ではね、秋にやったもんだよ。風鈴市をさ」
今はもう村ごとなくなっちゃったけどね、と哀愁漂わせて語る老婆に少しばかり下げた眉を、キュッと擡げてユエは続ける。
「僕、皆さんの住む村や山頂の椿寿寺の事を覚えて帰りたいなって。店主さんの故郷の話も聞いていいですか?」
努めて明るく、無邪気に問うユエに店主の女も淋しげな雰囲気は拭われて、どこか微笑まし気な笑みを浮かべて頷いた。店主の話によれば、彼女の生まれは山の西にあった
白登良村で、かの地では秋に同じような市が立っていたのだという。白い虎を描いた風鈴を椿寿寺に納めると共に、自分たちも願いを書いた短冊を風鈴に下げ、両親に手を引かれて夜の椿寿寺に吊るしに行った記憶があると語った。
「この村に来てね、あゝここでは冬に市が立つんだなあと思ったもんさ」
「そうなんですね! 玄多家村以外でも、風鈴市が」
「ああ、他の村でも季節違いで同じようにやっていたなら……昔は一年中、椿寿寺に風鈴が響いてたんだろうねぇ」
「あの、僕、椿寿寺にも行きたいと思ってて。参拝のお作法とかあれば……!ご伝授も頂きたいんですっ」
店主の話を記憶に書き留めながら、ほんわりとした、それでいて好奇心を秘めた子供のような笑顔を見せてユエは乞う。おや、おや、と、それこそ孫を見るような心地にもなった店主は、それじゃあねぇ、と、ゆったりと記憶を手繰り。
「とくに此処だけって作法とかは無いだろうけどもね、あんたが村の祭にも興味があるってんなら、風鈴持って夜に行ってみな。短冊に願い事書いてさ」
「夜の椿寿寺に、風鈴を?」
「そうさ、あんたが良ければだけどね、話してたら子供ん時を思い出しちまったよ」
椿寿寺の神さんは、願い事が好きなんだってさ。そうして、鈴の凛とした音で人と繋がってたいんだと。リンと、凛と、輪と。鈴音で縁を繋いでいて下さるんだ、と。そんな、嘗て聞いた話を想い出すように店主は語り。
「ああ、夜の山道はキンと冷えるからあったかくしなよ。雪道で滑るんじゃないよ」
「ふふ、ご心配ありがとうございます!」
行ってみますね、と笑ったユエは、あ。と、一声。
「家に飾る、お土産用の風鈴も見ていっていいでしょうか?」
「あはは、勿論さぁ。ゆっくり選びな」
からりと楽し気に笑った店主は、風鈴を選び眺めるユエのことを温かな視線で見守っている。そんな視線を受けながらユエが選んだのは、澄んだ透明の硝子製。まるで水の如くに向こうを映す風鈴は、海月のようにまあるい形で可愛らしい。
「わあ、これ、可愛いです」
「音もちりんと軽やかで可愛いもんさ」
揺らしてみな、と笑んだ店主に頷いて、細いひもを指で摘まんで揺らせば、ちりりと唄うように鳴る。
「涼し気で可愛くて、良いですね。今年の夏に、飾ろうかな……?」
「それがいいさ、包んであげるよ」
そうして、受け取った風鈴は丁寧に包まれて、ユエへと手渡された。今は包みの中で静かにしている風鈴だが、先ほど聞いた響きが今も耳に残っている。ああ、あの心地よい音色は心を癒す調べとなってくれるだろう。そんな確かな思いを胸に、ユエは椿寿寺のある山の方をそっと見つめた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 日常
『心音鳴らして、宵の果て』
|
POW : 風鈴揺れる道を歩む
SPD : 風鈴の音を楽しむ
WIZ : 風鈴に願いを託す
|
●
此の地を訪れた猟兵たちが日中に集めた情報を交換し合い、共有されたものを纏めると、大まかには以下の通りだった。
『椿山周囲には、北の
玄多家村以外に、東に
青多都村、西に
白登良村、南に
朱登利村が存在していた』、『風鈴祭は各村で、春夏秋冬、其々の時期に行われていた』、『各祭りではそれぞれ四神の描かれた風鈴が椿寿寺に奉納されていた』、『市井の民も願いを書いた風鈴を椿寿寺へと納めていた』、『風鈴の奉納は夜に行われていた』、『椿寿寺の本堂屋根には四神の彫られた隅木飾があり、風鈴を吊るせるような場所があった』、『椿寿寺の周囲四方には、願いの描かれた風鈴が下がる絵馬掛所があった』。
そのほか細かな情報は個々に会話の中で共有し、共通の儀式の鱗片として再現することにしたのは、今宵、『短冊に願いを描いた風鈴を、椿寿寺の絵馬処に奉納すること』と、『四神の絵付けがされた四つの風鈴を、本堂の同じ四神が掘られた隅木飾に吊るすこと』。幸い、四神の絵付けが為された風鈴は村の市では馴染みのようで、四種揃えることが叶っており、これらは全ての猟兵が願い事の風鈴を絵馬処に納めた後、皆で揃って隅木飾へ吊るし納めることとした。
さて、情報共有が終わってから陽が落ちるまでに時間はある。願掛け用の風鈴を新たに得るも良い、陽が落ちるまで村を巡って田舎らしい雰囲気を楽しむのも良いだろう。この村を、市を、世に知らせるための行動を取ってもいい。
そうして各々の時間を過ごし夜の帳が降りたなら。月の光に照らされて煌々と道示す雪の白に赤花混じる参道を往き、椿寿寺へと参りましょう。りぃんりんと、涼やかな音響かせて。リンと、凛と、輪と。願いを乗せた清涼な音を、重ねて鳴らして山の上。数多の椿に見守られ、見つめられ、山のお寺に参りましょう。
リン、リン、リィン。
あなたのねがいは、なぁに。
繋ぐ縁は音に乗せ、響け、届け、白の中。
冴島・類
皆さんの集めて下さった情報があれば
先で片鱗の再現もできそうだと感謝
真珠さんを見送った後
夜までの間に
持ち帰るのとは別の願掛け用の風鈴を得たなら
参道から椿寿寺へ参ろうか
月の明るい夜道
雪に浮かぶ椿の赤が…
美しいが、妖しくもあって
昔は白ばかりだったのが赤が増えた…か
怪異の影響もあるのかな
市で撮っていた写真は
思い出もあるが
後日でもこの地や市を広めるのに使いたいのもあるから
椿も撮っておこう
門の前で礼し
本殿を参った後
絵馬どころで短冊に願いを
そうだな、終わるのが惜しい
美しい祭りと景色が…
沢山の方の目に触れる機会がありますようにと綴り、祈りをかけ奉納を
封じられた災いを祓えば
危険は、無くすことができるだろうから
●
暗くも明るい、月光が雪道を照らす夜。
リンと涼やかな風鈴が、冴島・類(公孫樹・f13398)の手許で鳴る。日中を共に過ごした真珠を見送った後に迎えた風鈴は、願掛け用にと改めて迎えた一品。きらり煌めいた風鈴は、ちりり彼の手元で歌う。椿寿寺へと続く参道を往きながら、足音に重ねかろく唄う子へと視線向け、思い返すは情報共有を行った時間。
「皆さんの集めて下さった情報があれば、先で片鱗の再現もできそうだ」
感謝だね、と。穏やかに囁いた声は、温かな響きを伴って夜に融ける。
暗き冬の宵とはいえ、雪の月夜は存外明るい。白が月光を反射して、ぽうと灯るよな雪道は静謐さをも孕んでいる。そこに浮かび上がるよに、てん、てん、と赤が咲く。
「雪に浮かぶ椿の赤が……美しいが、妖しくもあるな」
そうして想い馳せるのは、村人の話に上った一つの事柄。
「昔は白ばかりだったのが赤が増えた……か。怪異の影響もあるのかな」
深い緑の葉にも雪を乗せ、艶と咲く鮮やかな椿へと、そうと伸ばした指先が触れれば、ぽそり、と赤が雪の上に落ちた。怪異の件を思えば、妖しさも孕む赤たれど、雪景色に咲く椿の景に目を惹かれるのもまた事実。日中に市で撮った写真は思い出も勿論あるけれど、後日でもこの地や市を広めるのに使いたいといった意味でもあるから。
――椿も、撮っておこう。
そうっと構えたレンズ越しに見えた赤花は、雪景色に艶やかで。写し取った写真を眺めた類は、静か一つ頷いた。そうして手にしたカメラで夜道を彩る白と赤の景を収めながら参道を上りゆけば、見えてきたのは椿寿寺の門。その前で立ち止まった類は一礼をして其処を潜る。
「なんだか、厳かな場所だね」
語り掛けるような言葉を零し往くのは寺の本殿。手を合わせ参った類がくるりと視線を巡らせれば、話に聞いた絵馬掛所へと続く道が見えた。ちりり。手にした風鈴の音に耳傾けて、其方へと往く。
「さて、短冊に願いを書かないと」
そうだな、と。少しばかり思案気に筆を手にした類の裡から湧き上がるのは、そう。
――終わるのが惜しい。
ふつ、と湧いた思いのまま、慣れた手つきで筆を滑らせ、浮かぶ願いを短冊に書きつけてゆく。
「美しい祭りと景色が……」
沢山の方の目に触れる機会がありますように。文字と形を成したその願いは、類の手にした風鈴の下、ふわりと揺れて。ちりりとかろい音を立ててゆく。祈りをかけて納められた類の願いは、涼やかな音色と共に夜に融けてゆく。
「封じられた災いを祓えば、危険は、無くすことができるだろうから」
そう、己が手で其れを叶えることが出来たなら、きっと、きっと。
この願いと祈りも……そう、きっと。
願い新たに、もう一つ握るのは真白の虎鈴。それを西に唄わせるべく、類はまた一歩踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵
神臣・薙人
【月灯】
短冊に願い事
本当に夏のお祭りのようですね
お願い事を書いたら
角灯で道を照らしつつ
天城さんと椿寿寺まで向かいます
私はこのお祭りが忘れられませんようにって
お願いしましたが
天城さんのお願い事は何でしょう
気にはなりますけれど
尋ねるのも野暮な気がしますから
お寺に着いたら手早く奉納します
天城さんのお願い事
気になっていた事に気付かれてしまいました
み、見ませんよー
四神の風鈴は
間違いが無いよう
彫られた神様を確認してから吊るします
私の背で届かなければ
踏み台に出来そうなものを探します
見付からない時は…
…天城さん、ちょっと持ち上げて頂いても良いでしょうか
音が気持ち良いですね
少しでも儀式の助けになると良いのですが
天城・潤
【月灯】
僕は異世界の風習全般に疎いですが
神臣さんの助けを頂いて理解しました
紙が靡く事で鈴が鳴るなら
きっと音が書かれた願いを風に載せ遍く運ぶのでしょう
ならば事が成就しこの地が平穏であるよう願いを
物問いたげな気配を感じますが僕からは問わず
仰りたくない事を無理強いは良くないですしね
「灯をありがとうございます」
あ…ふふふ、解りました
「良いのですよ?」
赤くなったお顔が可愛らしく感じますね
大切にお持ちの四神の風鈴を掛けようと背伸びされるのもまた
「はい、勿論です」
失礼します、と声を掛けそっとお身体を持ち上げます
掛けた時は無風でしたが、さあ、と風が吹くと
良い音が
「これで儀式の再現が僅かでも出来れば良いですね」
●
しんと静謐な雰囲気をも纏う夜道。リンと歩む度に鳴る風鈴が静かな宵闇に音を足す。そんな風鈴の下揺れる、願いを乗せた短冊を見つめて、神臣・薙人(落花幻夢・f35429)は、つ、と目を細めた。
「短冊に願い事。本当に夏のお祭りのようですね」
角灯で道を照らしつつ椿寿寺への道を歩む薙人の隣、その言葉を耳に拾った天城・潤(未だ御しきれぬ力持て征く・f08073)も、柔く目を細めた。生まれ育った世界以外の風習全般にはいまだ疎い彼であるが、薙人の助けもあり夏の風物詩たるそれも知識と得た。
「いつか、その夏の祭も実際に見ることが出来るでしょうか」
知れば、この景から思いこされる夏の祭も気になるもので、彼から教わった其れへと思い馳せながら穏やかに告げれば、薙人の笑みが柔く咲いた。
りぃん、りん。
ちりん、りん。
参道を往くふたりの手元で、風受けた風鈴が重なり唄う。
「紙が靡く事で鈴が鳴るなら、きっと音が書かれた願いを風に載せ遍く運ぶのでしょう」
ならばと、潤が短冊に乗せたのは、『事が成就しこの地が平穏であるように』との願い。声と乗らぬその願いは、風鈴が音と響かせる。
隣往く彼の言葉を聴きながら、風に乗る響きへと耳傾ける薙人の綴った願いは、『このお祭りが忘れられませんように』。人々の記憶から消えてしまうものは寂しいことだから、この身で感じた村での時をも思い、切に願う。ひらりと揺れた己の短冊を見つめれば、ふと、隣の彼の願いも気になって。
――天城さんのお願い事は何でしょう。
気にはなるけれど、尋ねるのも野暮な気がして。浮かんだ問いを、潤へ向けた言葉に変えることはせず、そうして、彼へと向けそうになる視線を務めて前へ。この興味がこれ以上漏れ出でてしまわぬようにと、薙人は少し足早にと寺への歩みを進めていった。
かくいう潤はと言えば、薙人からのもの言いたげな気配をしかと感じ取ってはいた。けれども。
――仰りたくない事を、無理強いは良くないですしね。
足早になる彼の背へと柔い笑みを浮かべるにとどめて、己から問うことはしなかった。代わりにと告げるのは、薙人が一歩前を往くことにより、潤の目前を標の如く照らす角灯の光への感謝の気持ち。
「灯を、ありがとうございます」
穏やかに響いたその声は、ふたりの風鈴の音に重なった。
暫し続く長い参道の階段を上りきれば、ふたりを迎えるのは椿寿寺の山門。迎え入れるように立つ其処を、揃い潜り歩んだふたりは正面に見えた本堂で手を合わせた後、ちりんと鳴る風鈴の音とと共に絵馬掛所へと向かった。
手早く納めようと向かう薙人の意識は、未だ潤の手元に向かっている。
――あ……ふふふ、解りました。
向けられた視線から、先ほどから感じていた薙人のもの言いたげなそれの意図を察すれば、何やら微笑ましい気持ちとなって視線を彼の方へと向ける。同時に、風鈴から持ち上げられた薙人の瞳が潤のそれとぱちりと合った。そわそわとした心地の視線が何かを察したような視線と重なったことで、はたと薙人の目が開かれる。
――気付かれてしまいました。
「み、見ませんよー」
「良いのですよ?」
少しばかり慌てたようなそんな言葉と共に、顔を赤く染め視線を逸らす薙人の様が、その顔が、可愛らしくも感じて、潤は小さく笑みを零してそう告げた。
そうして暫くの後、各猟兵が絵馬掛所に願い風鈴を奉じ終えた頃、薙人は自身の手に預けられた風鈴の絵を見つめる。手にした其れと間違いないよう、隅木飾に彫られた神獣の図を確認して、確かに違いないと頷けば、風鈴をそこに吊るそうとする、が。
「……ん、」
背伸びをしてみても、薙人の手では聊か届かなさそうだ。きょろりと視線を巡らせてみたものの、欄干に乗るにも微妙な位置で、周囲に踏み台に変わりそうなものもない。暫し考えた後、おずおずと潤へと視線を向けて問いかける。
「……天城さん、ちょっと持ち上げて頂いても良いでしょうか」
「はい、勿論です」
一連の行動をも、やはりどこかお可愛らしいと、内心抱く想いのまま、笑顔で快く頷いた潤は、失礼します、と声を掛けそっと薙人の身体を持ち上げた。
ふたりの手により、しかと飾られた朱雀の風鈴は月明りに朱い翼を広げている。暫し、しんとどこか厳かな空気が漂っていたが、さあ、と風が吹くと澄んだ良い音が辺りに響く。
「音が気持ち良いですね。少しでも儀式の助けになると良いのですが」
「ええ、これで儀式の再現が僅かでも出来れば良いですね」
そう願う儘、月明りに融けゆくような涼やかな音の中で、ふたりは暫し瞼を伏せた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と
玄武、青龍、朱雀、白虎
皆で分担したから明確になったんだと思うよ
「少し昔の依頼思い出した感じあるね」
願い事の奉納風鈴持って夜道を行く
「ククルカンお願いだよ」
喜んで強く光りながら
低いとこ飛んでくれるから足元も安心
雪に光が映えて闇を照らすのホント綺麗だ
なんか隠してるけど珍しいなあ
面白いから一寸じゃれ合いみたいになったけど…
やっぱり椿の花色が気になって
「赤が清浄な白を喰ってる…?」
考えが正しいなら本当にギリギリと強く思う
予知してくれて本当に良かったね
陸井が言う事も強く同意しかない
「ん。当時の犠牲の為にもきちんとだ」
居住まいを正し真剣に儀式を執り行う
全ては此処の平穏を護る為に
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と
四神相応、各村から奉納された神々
時人が聞いてた事が正にだったな
「読みが的中なんだから、十分凄いよ」
風鈴とちょっとした願いを書いた短冊を持って
時人と夜の山道を進んでいく
「確かに、これ程の星空は街中では見れないもんな」
願い事は…ちょっと気恥ずかしいから誤魔化しだ
こうして儀式に向かっているけど
頭に浮かぶのは封印されている相手だ
四つの村が協力して、これ程大掛かりに
毎年行わないと綻んでいくような
そこまでしないといけなかった怪物
封印する時は相応の犠牲も出ただろう
「雪と椿の白に、侵食する様な赤か」
儀式が失われたように、その過去も消えるから
「まぁ…俺達がきっちり終わりにしよう」
●
玄武、青龍、朱雀、白虎。四神相応、各村から奉納された神々。此度の調査で明らかになった、祭に織り込まれた儀式の断片。
「時人が聞いてた事が正にだったな」
そっと視線を隣往く相棒、葛城・時人(光望護花・f35294)の方へと向けて、柔い笑みと共にそう告げた凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)の言葉に、少しばかりはにかんだような笑みを浮かべて、時人は返す。
「皆で分担したから、明確になったんだと思うよ」
「読みが的中なんだから、十分凄いよ」
時人の言葉も間違いないが、それでも、と想いを付け足すように告げる。正しく、彼の読みは当たっていたのだから。そんな陸井の言葉に、時人はまた擽ったげに笑う。
「少し昔の依頼、思い出した感じあるね」
想い返すのは、嘗て熟した一つの依頼。そうして重ね合わせる出来事が浮かぶほどに、数多のことを熟してきた。今日この日も、いつか思い出し重ねゆく日に変わるだろうか。その時も、相棒と共に。
月光を照らし返す雪道を、ちりんと涼やかな音立てる風鈴を手に歩みゆく。かろい音を立てる風鈴に寄り添うのは、其々の願いを綴った短冊。願いを乗せて音に添い、ちりりふわりと揺れる願い事。さくり、さくりと雪を踏みしめる音が続けば、目の前には夜の山道。月明りはあれど、足元を確かにする為、と。視線を交わし合う後に時人が願う。
「ククルカン、お願いだよ」
紡がれた言葉と共に現れたのは、ぽうと光燈す時人の白燐蟲。彼の願いに歓び応えるように、強く光りながら彼らの足元を明るく照らす。夜道の標は任せてと言わんばかりに、低く飛び往く姿は愛らしくも頼もしい。
「これで足元も安心だね」
「ああ、頼もしいものだ」
山道を往くふたりの足元を、ククルカンの光が月光と共に照らしてゆく。頼もしさと共に幻想的なその景に、時人は目を細めた。
――雪に光が映えて闇を照らすの、ホント綺麗だ。
ほつり、と零れるように紡がれた時人の言葉に、陸井も柔く頷いて。同じ光を瞳に映した後、そのしせんをゆっくりと擡げてゆく。足元には白燐とそれを纏う雪の光。そうして――
「確かに、これ程の星空は街中では見れないもんな」
宵色を綺羅と飾らんと、煌々と煌めく数多の星々。それはひとの光が多い都会では隠されてしまいやすい、淡くも美しい星の営み。冬の澄んだ空気の中に在ってか、より一層近く、鮮やかにこの目に飛び込んでくるようにも思えた。
暫し見惚れるように、歩みを止めて夜空を、景を眺めたふたりの耳に、風に揺れてりんとなる風鈴の唄が聞こえてきた。呼ばれるようにして視線を戻せば、互いの風鈴がちりりと鳴りながら、ふわりと短冊を揺らしている。
「そういえば、陸井はどんな願い事を?」
「ん? ああ、まあ、ちょっとした願いだよ」
「なんか隠してるけど珍しいなあ。なに? 隠すような願いなの?」
「そういうわけじゃないが……いう程のものでもない、ってだけさ」
「えー、そう言う言い方が、なんかますます気になる」
「ほら、もういいだろう」
そろそろいこう、と。どこか気恥ずかし気に誤魔化して、陸井は先を指し示す。相棒が珍しく隠し事なんてするものだから、つい面白くて、一寸じゃれ合いみたいになったけれど、隠し事を無理に暴く気もないものだから。その他愛ないやり取りを楽しんだなら、ふたりは笑って歩みを再開した。
そうして再び、ちりんと響く音と歩み往きながら、陸井が思い馳せるのは向かう先に待つ、封印されし相手のこと。四つの村が協力して、これ程大掛かりに毎年行わないと綻んでいくような、そこまでしないといけなかった怪物。
――封印する時は、相応の犠牲も出ただろう。
遥か昔。けれども、その時のことを人々を思えば、陸井の眉はつ、と潜む。思案する瞳が捉えたのは、白に交じり咲く鮮明な赤。陸井が花に視線を向けるとほぼ同じ、時人もまた、気になるままにと椿の花色にと視線を向けた。
「雪と椿の白に、侵食する様な赤か」
「赤が、清浄な白を喰ってる……?」
ふたりの声が重なって、互いを見つめ合う。その考えが正しいのだとしたならば、本当にギリギリなのだと強く思う。
「予知してくれて本当に良かったね」
それ故に、動くことが出来るのだから。改めて自分たちの為せることをと強く思う。そう、過去に起きたことは変えることは出来ない、時を巻き戻せもしないけれど。けれども。
――儀式が失われたように、その過去も消えるから。
そう、陸井は時人をしかと見つめて紡ぐ。
「まぁ……俺達がきっちり終わりにしよう」
「ん。当時の犠牲の為にも、きちんとだ」
相棒の紡ぐ詞に同意しかない、と。しかと頷きかえした時人は、居住まいを正し真剣に儀式を執り行うべく、ふたりして山門を潜った。その手には、己が願いを乗せた風鈴と。青き龍の描かれた東方守護の風鈴ひとつ。
そう、全ては此処の平穏を護る為に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リグノア・ノイン
【公園】
「
Ja.無事判明して何よりです」
四神の存在と意図もシリル様にご説明いただきました
四方を守る神と同じ夜に、共に奉納される願い達
なんだかその願いの在り方も愛おしいと感じます
共に夜道を照らしながら進みましょう
「勿論、お任せください」
進む先に視えているのは椿の花達
鮮やかで、植物の出す赤さと違う紅さに
私もどこか禍々しさを感じます
「封印の代わりに、花が身に受けているのでしょうか」
シリル様の仰る通り、何はともあれ
優先すべきは儀式の完遂ですね
お預かりした風鈴達を奉納し
四神の風鈴もお掛けして
優しい音色たちが風にふかれて舞い踊ります
「
Wunderschön.とてもとても、美しい音色」
シリルーン・アーンスランド
【公園】
三人寄れば文殊の知恵という言葉がございますが
まさにその通りにて
「解き明かせて良うございました」
リグノアさまに四神のご説明などしつつ短冊を書き参りましょう
夜気は冷たく夜道はあやめも解らぬ闇ですが
リグノアさまのビーム灯とわたくしの強力灯で
バッチリ
「助かりましてございます」
些か風情に欠けるやも知れませぬが
椿の色を良く見たいと思いましたの
「何かこう、矢張り禍々しさを感じますね…」
ご依頼の最初に聞いた『紅い花が増えた』というお話に
警戒感を覚えます
ですが何事も儀式を済ませてから
風鈴を捧げ、四神の風鈴をリグノアさまにお掛け頂くと…
始まりの鐘の如く涼やかな音が
成就なりますようにと祈りを捧げたく存じます
●
静かな夜道を歩みつつ、シリルーン・アーンスランド(最強笑顔の護り風・f35374)は、他の猟兵達と交わし合った情報について思いを馳せていた。
――三人寄れば文殊の知恵という言葉がございますが……
まさにその通りにて、と。浮かぶ思いと共に口端を柔く擡げ、一度瞼を伏せたシリルーンは、その紫色の瞳を隣往くリグノア・ノイン(感情の渇望者・f09348)へと向けた。
「解き明かせて良うございました」
「
Ja.無事判明して何よりです」
シリルーンの言葉に頷いたリグノアもまた、彼女の瞳を真直ぐに見つめ返してそう応える。情報の中に出てきた四神については、リグノアの知識の範囲外。東方守護の青龍、西方守護の白虎、南方守護の朱雀、そうして、北方守護の玄武。其々の獣神の司るもの、伝わる外見、己の知る知識を彼女に伝わりやすい言葉を選びつつ、シリルーンはリグノアに語り往く。
さくり、さくりと参道へと向かうふたりの踏みしむ雪の音に交じり、彼女の澄んだ声が耳に届く。四方を守る神と同じ夜に、共に奉納される願い達。
――なんだかその願いの在り方も、愛おしいと感じます。
在りようを知ればこそ、そこに抱く想いも増えてゆく。抱いた愛おしさを確かめるよに、そうっと掌を胸に当てたリグノアがふと視線を上げれば、そこは既に椿寿寺に至る参道。雪の積もる道は存外月明りでも明るく感じるものであるが、それでも参道を外れた茂みや草木の影となった部分は宵闇が深く包み込む。
「夜気は冷たく、夜道はあやめも解らぬ闇ですが……」
「勿論、お任せください」
「ふふ、でしたら手筈通りに」
詞を切り、ちらりと向けられたシリルーンからの視線に、リグノアもしかと頷いて見せる。そうして暗い夜道を煌々と照らしたのは、リグノアのビーム灯とシリルーンの強力灯。ふたりのあかりが、しっかりばっちり周囲の様を明確にする。
「リグノアさま、助かりましてございます」
「
Ja.共に夜道を照らしながら進みましょう」
「ええ、そうですわね」
煌々と照らされた夜道は些か風情に欠けるかもしれない。そう過りはしたものの、こうして灯りを灯すことに決めたのは、椿の色を良く見たいと思ったから。進む先に視えているのは椿の花達。鮮やかで、どこか植物の出す赤さと違う紅さに感じるその色は――
「何かこう、矢張り禍々しさを感じますね……」
「
Ja.私もどこか禍々しさを感じます」
同じ感想を抱いたふたりは、顔を見合わせて頷きあう。
「『紅い花が増えた』というお話に、警戒感を覚えますわ」
「封印の代わりに、花が身に受けているのでしょうか」
一面の白であった頃の景色へも思い馳せながら、今目の前に咲く紅を眸に映し刻む。様々な想像を駆け巡らせながら、赤と白に見守られた参道を歩みゆけば、いつしかふたりを山門が出迎えた。
「色々と思う所はございますが、何事も儀式を済ませてから、ですわね」
「
Ja.シリル様の仰る通り、優先すべきは儀式の完遂ですね」
そう頷きあったふたりは、確かな歩みを進めて寺の山門を潜りゆく。
迷わず歩みを進めた先には、日中に見つけた絵馬掛所。自分たちの物は勿論として、話を聞いた村人から預かった風鈴も持参している。ふたりで手分けしてそれらの風鈴を絵馬掛所に奉納すれば、掛けられた風鈴をそうと撫でゆくように風が吹き、ちりり、ちりりと鈴が唄った。まるで合唱するかのような鈴の唄に、顔見合わせたふたりは柔く頷きあって、涼やかな音に見送られるようにして本堂へと向かう。
「お預かりした此方の玄武の風鈴は、リグノアさまに」
「
Ja.確かに、間違いなくお掛けします」
シリルーンの手から受け取った、玄武の描かれた風鈴をリグノアは本堂の北、同じ玄武の飾りが施された隅木飾の突起へと、丁寧に吊るす。しかと掛けられた風鈴が、リグノアの指先から離れ、暫し厳かな静寂の時が過ぎた後――
――リィン、リン……リン、リィン
さやと吹いた風に乗り、始まりの鐘の如く涼やかな音が辺りを満たす。
その音は一つにあらず、数多の鈴が唄うよに重なるように、凛と、リンと、輪と響く。それはまるで、優しい音色たちが風にふかれて舞い踊るかのよう。
「
Wunderschön.とてもとても、美しい音色」
「ええ、ほんとうですわね」
己をも、寺の全てをも包むような鈴の音に身を心を委ねて、ふたりは自ずと瞼を伏せた。
――成就なりますように。
抱く願いを、祈りと変えて。
清涼で清浄な響きの中、願い、想いに包まれて捧ぐ祈りは、きっと――
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『断ち切り椿』
|
POW : どうせだったら面白い遊戯が見たいな
【妖刀<孤鷹>よる斬撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 不成の巫女が今祈る。さぁ、遊ぼうよ
自身が装備する【妖刀<孤鷹>】から【降り注ぐ金色の雷】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【感電】の状態異常を与える。
WIZ : 全てを断てば、ねぇ、何を見せてくれるの?
【巫蠱と毒と妖刀<孤鷹>】を解放し、戦場の敵全員の【縁】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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●
リィン、りん、ちり、チリン。
ちりりん、リン。
宵に響く風鈴の音。
願いを乗せて風に唄う鈴の音が重なった。
小さな願いを受け止めて、大きな先へと届けるように。
四方の獣鈴も声高に唄う。
リィン、リン。
ちりん、りん。
そうして椿寿寺一帯が風鈴の音色に、澄んだ其れに包まれたその時だ。
――噫、嗚、嗚呼、ああ、あゝ五月蝿い!
不機嫌そうな聲が辺りに響いた。
「五月蝿い、煩い、うるさいなあ!」
紫煙の如き雲を伴って、椿寿寺の本堂前に現れたのは、立烏帽子に水干を纏った少年巫女。しかし纏う空気は清浄なものとは言い難い。短い眉を不機嫌そうに顰め、煩わしいと言わんばかりに首を振る。
「ちりちり、ちりちり、頭に響くうるさい音も止んで、鬱陶しい守り神とやらも大人しくなって、やっと自由になれると思ったのに」
――邪魔をするのは、いったいだれ?
じろりと苛立ちを隠さぬ視線で、その灰瞳に猟兵達を映した少年巫女は、ふん、と鼻を鳴らすまま、手にした大太刀を鞘から少し引き出し、妖しい煌めき宿す刀身を月光に晒した。
「……お前たちか。いいよ、眠気覚ましに遊んであげる。ちりちり煩い音も、願いとやらを喜ぶ奴らの力も、少しばかり邪魔だけど……僕がこうして動けるようになったのは、間違いないんだから」
――邪魔ものがぜんぶいなくなれば、僕は本当に自由だろう?
小さく笑って振り抜いた刀が、赤く咲き誇る椿を掠め、真白の雪にぽとりと落ちた。
「僕は椿。断ち切りの椿。『孤鷹』と一緒に縁を断ち切ってあげるよ。知っているんだ、縁は切りたくなるモノさ。そうして望んで、僕の力を求めるやつだっていっぱい居たよ。何かを捧げて願う程。……切りたいもんだよ、縁ってさ」
此処の奴らは、そんな縁を有難がってるみたいだけど。と、本堂をちらりとみた椿は小さく笑う。
「でもそんな奴らの縁だって、僕がすこうし綻びを切ってあげたら、瞬く間に薄くなって。こんなに忘れられて寂れちゃってさ。今じゃ、こうして僕を縛る事すらできなくなった」
可笑しいよね、と、再び猟兵達を見据える。
「さあ、お前たちも切ってあげよう。遊んであげよう。そして」
――君たちの泥沼に何が咲くか、何を捧げるのか見せてよ。僕に。
そう薄ら笑った少年巫女が空を蹴り、猟兵達の前へと躍り出た。
「ほら、遊戯の時間だよ」
赤と白、そうして風に唄う鈴音の中、戦いの火蓋は切って落とされた。
シリルーン・アーンスランド
【公園】
縁の破壊を尊ぶ気性なのですね…
遠い縁を大切に護るを優しい方々を
「傷つける事はわたくしたちが許しませぬ」
ああ、リグノアさまのお顔おもてが激情に揺らいで…
でもこれは怯懦ではなく
きっと分からないと仰せだった『恐怖』を見出されたがゆえ
「なれば斯くの如き悪辣なる者にも意義はありましたことね」
リグノアさま仰せの通り
「消えぬ絆はございます…此処に!」
メガリス・さまよえる舵輪を詠唱し
来たる雄々しきロボさまにいつも通り優雅に一礼し
「ロボさま!どうか我が友とわたくしと共に邪悪に鉄槌を!」
今日のロボさまが何時にも増して猛く見えますは
縁を軽んじる者へのお怒りが強いからやも
強き縁持つ四筋の奔流にて疾く消えませ!
リグノア・ノイン
【公園】
縁を切りたくなるものという言葉に
息が詰まるような思いを感じます
私自身、縁が繋がって此処へ来たのです
縁でなく、この恐怖を断ち切る様に強く
「
Nein.縁とは、結ぶ物。紡ぐものです」
きっと、願いの中には子供の喧嘩や
すれ違いから願ってしまった物もあったでしょう
それを面白いと一笑に付して切ってきた相手を
「
Ich werde es nicht zulassen.」
戦闘開始と同時にキャバリアを召喚
シリル様のロボと共に、四人で戦いましょう
「私達と共に戦う者達、そして、私達の絆。絶てるものならどうぞ」
【Flügel "Lignoa"】でシリル様達と同時に一撃を放ちます
●
「お前たちの縁も、今ここで切ってあげるよ」
――いつか切りたくなる前に。今のうちにさ。
そう云い捨てて、抜き身の刃を振り抜きながら猟兵達との距離を一息に詰める椿の前におどり出で、甲高い音と共にその切っ先を弾いたのは、リグノア・ノイン(感情の渇望者・f09348)。手にした無骨なナイフは小さいながら的確に大太刀の勢いを削ぎ、その切っ先を逸らす。逸れた刃を構えなおす椿を前にリグノアは、縁を『切りたくなるもの』と称す彼の言葉に、息が詰まるような思いを感じていた。今まで感じたことの無い、苦しい気持ち。その根底から湧き上がるのは、己の中に積み重なった確かな事実。
――私自身、縁が繋がって此処へ来たのです。
そう、だからこそ。強く、強く、心の裡に感情が燃え上がる。彼の言う『縁』ではなく、彼の言葉によって裡より湧き上がる『恐怖』をこそ、『断ち切る』ように、強く。強く。
「
Nein.縁とは、結ぶ物。紡ぐものです」
凛と紡がれた言の葉と共に、ふわりと揺れた真白の髪から覗く彼女の瞳をみとめた、シリルーン・アーンスランド(最強笑顔の護り風・f35374)は、ああ、と吐息を零す。
――リグノアさまのお顔おもてが、激情に揺らいで……
けれども、そう。それと同時に、シリルーンは気付いていた。彼女のこれが、怯懦ではないのだということに。これはきっと、いつか彼女が分からないと言っていた『恐怖』を見出すことが出来たが故の揺らぎ。それを知るのもまた、シリルーンが彼女と共に他でもない『縁』を重ねてきたが故。
「なれば、斯くの如き悪辣なる者にも、意義はありましたことね」
縁を断つ。そう声高に語る少年巫女が、リグノアに新たな感情を見出す『縁』となるとは。そのことに小さな笑みを口許に浮かべ、ほつりと言葉を零したシリルーンは改めて、縁を奪わんと刃振う椿と、激情纏い交戦を続けるリグノアを瞳に映し、攻撃と援護を続ける己の瞳にも意志の輝きを纏わせてゆく。
「いくら結んで繋いでも。其れこそ糸のように、解れて切れていくじゃないか」
それに、それだけじゃない。椿は言う。自ら断ち切ることすら望んでくるじゃないか、と。結局要らないものなんだろう? と。それなら奪ってあげると、重ね告げた少年巫女は、巫蠱と毒の力を妖刀『孤鷹』に注ぎ紡ぐ。そんな椿へと、
Nein、とリグノアが重ねた。
「きっと、願いの中には、子供の喧嘩やすれ違いから願ってしまった物もあったでしょう」
それを面白いと一笑に付して切ってきた相手を、強い怒りと共に彼女は真っ直ぐと見据える。
「縁の破壊を尊ぶ気性なのですね……」
リグノアと椿の言葉を耳に、シリルーンが裡に抱くのは真逆の想い、縁をこそ尊ぶ心。そう、遠い縁を大切に護るを優しい方々を――
「傷つける事は、わたくしたちが許しませぬ」
「
Ich werde es nicht zulassen.」
ふたりの其々の想いが、言葉が、重なった。
視線を交わし、刹那見つめ合ったふたりが頷きあい、リグノアがコールすれば召喚されるのは彼女の愛機たる白き機体のキャバリア『Weiß of Pfeil』。そうして――
「リグノアさま仰せの通り、消えぬ絆はございます……此処に!」
――キャプテンさま……! ハナさま! 皆様! どうかお力お貸し下さいませ!
高らかと宣言したシリルーンが詠唱し、呼声に応えあらわれたるは雄々しきロボ。かのメガリスロボこそが、シリルーンにとって何よりの縁たる証。自ずと浮かぶ笑みを隠すことないまま、来る『ロボさま』にいつも通り優雅に一礼した彼女は、居住まいを正し、凛とした佇まいで願いを口にする。
「ロボさま! どうか我が友とわたくしと共に、邪悪に鉄槌を!」
そうして、月光を背に並び立つよっつの影を前に、椿は少し息を呑んだあと小さく笑って、切る縁がふえただけだと宣った。けれども、その様な言葉もシリルーンたちの心を揺らがすものになりはしない。ともすれば――
「今日のロボさまが何時にも増して猛く見えますは……」
――縁を軽んじる者へのお怒りが強いからやも。
ちらり、と。常から頼もしいロボさまの、ここにあっていっそうの存在感を、結ばれし縁を深く感じ入れば、シリルーンの胸の裡も熱さを増す。そんな彼女の隣に、リグノアと愛機の『Weiß of Pfeil』もまた、確かな縁を伴って共に在る。
「私達と共に戦う者達、そして、私達の絆。絶てるものならどうぞ」
「強き縁持つ四筋の奔流にて、疾く消えませ!」
大きな敵を前に、金色の雷撃を放たんと構えた椿を目掛け、縁に結ばれた四つの力が同時に放たれる。紡ぎ合い、結び合い、ひとつとなった力は荒れ狂う雷雨を潜り抜け、前へ、前へ、前へ――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神臣・薙人
【月灯】
どうやら弱体化には成功したようですね
今のうちに倒してしまわなければ
これ以上、縁が断たれる前に
初手
白燐奏甲使用
多重詠唱で天城さんにも同時に
これで少しは
幸と不幸の天秤が釣り合うようになるでしょう
私の蟲がもたらす不運
きちんと受け取って下さいね
縁が奪われても
天城さんが共に戦う仲間である事に
何も変わりはありません
手を伸ばしてまた縁を繋ぎましょう
天城さんの攻撃に合わせて
白燐蟲を呼び出し攻撃
…お命を削るのは、心配ですから
早めにかたを付けましょう
天城さんに攻撃が向いた際は
声を上げて注意喚起を
妖刀の動きには注意を払い
攻撃時には
直撃を避けるようにします
人の縁は断ち切るだけではない
また繋ぐ事も出来るのですよ
天城・潤
【月灯】
この音を五月蠅いとは
「存在を許されざる禍つ者の証拠ですね」
自己紹介頂けて何よりですよ
天秤の良い傾きを僕にも下さるのですね
「ありがとうございます、神臣さん、残花さん」
これで勝負ができます
たかが怒りとあさましい『願い』など
この音色と僕たちの力で
吹き飛ばしましょう
我が命を用い何時もより強く願って
全力で護剣・断罪捕食を詠唱します
知っていますか
縁は繋ぐのも切るのも確かに一瞬で出来ますが
紡ぎ続けるには時を要します
「僕は今、あなた如きに奪われて終わる縁は持っていません」
そもそも不要な縁は自分で斬って捨てましたからね
此処には今大切な仲間の神臣さんが居て
その縁と絆が僕の力、真の糧
必ず圧倒してみせましょう
●
「ああもう、煩い、五月蝿い! 音が邪魔だ!」
身に受けた負傷を庇い、交戦していた猟兵達と距離とるように後方へ跳び、己を蝕む何かを掃うかの如くかぶりを振る椿の様を、神臣・薙人(落花幻夢・f35429)は、その瞳を細め見据えた。
「どうやら、弱体化には成功したようですね」
「ええ、それにこの音を五月蠅いとは……存在を許されざる禍つ者の証拠ですね」
自己紹介いただけて何よりですよ、と。鋭さを帯びた瞳で椿を見つめた、天城・潤(未だ御しきれぬ力持て征く・f08073)は、武器を構えた。そんな潤の言葉を耳にして、不機嫌そうな顔を其方に向けた椿が眉間の皺を深める。
「存在を許されない、だって? 僕を望んだのは、ヒトの癖に」
切ってくれって。断ってくれって。だからお望み通りにしてやるんだよ、と。椿の手が抜き身の『孤鷹』をひと撫ですれば、そこに纏われゆくのは巫蠱と毒の力。禍つ力が宿るそれで全てを断ち切らんと、椿は口元を歪めた。
そんな刃を構える椿と対峙する潤、その姿を見て薙人は改めて思う。今のうちに倒してしまわなければ、と。そう――
――これ以上、縁が断たれる前に。
その強い意志を抱く儘、彼の手がふわりと空を撫ぜれば、雪道で見た明りに似た、それでいて確かな力帯びる白燐蟲の光がふたりを包む。多重に重ねられた詠唱で増した光が、己と潤の身を装甲の如く護りゆく。同時に宿すのは、敵対者に不運を呼ぶ白燐蟲の力。
「これで少しは、幸と不幸の天秤が釣り合うようになるでしょう」
己の身にも纏わされた白燐の鎧にあゝ、と感嘆の声を零した潤は視線を薙人と添う白燐蟲――残花へと向ける。
「天秤の良い傾きを僕にも下さるのですね」
――ありがとうございます、神臣さん、残花さん。
温かな響きを孕んだ礼を告げ、これで勝負ができます、と、潤は改めて椿と対峙する。
「天秤がなんだって? どんな小細工だって……うわっ!」
縁と一緒に切ってやる、そう紡ごうとした椿の言の葉は、己が放った無差別な斬撃の余波で倒れてきた樹に遮られた。先に奪い得た幸運によってか直撃は免れたように見えたが、椿の幸と不幸の天秤は揺れたまま。
「その程度ではないですよ。私の蟲がもたらす不運、きちんと受け取って下さいね」
この程度で許しはしないと、静かな薙人の視線が椿を捉える。
「ええ、たかが怒りとあさましい『願い』など、この音色と僕たちの力で吹き飛ばしましょう」
ちりり、りん、尚も響く風鈴の音へと耳寄せて、忌々し気に表情を崩す椿を見据えて潤は言う。
「こっちだって、お前たちの縁を糧に不運如き断ち切ってやるよ」
天秤の傾きを引き寄せんと、再び妖刀の力を解放した椿の攻撃が紫煙の雲を伴って薙人達へと襲い掛かる。何か大切なものを奪われゆくような感覚は目に見えぬ不安を呼び覚ますけれど、それをも上書きしてみせると、紡ぎ繋ぎなおして見せると、薙人はその手を潤へと伸ばす。
「例え縁が奪われても、天城さんが共に戦う仲間である事に、何も変わりはありません」
揺るぎない薙人の声が、涼やかな風鈴の音とともに響く。澄んだ声が潤の耳に届いてくる。確かな手のぬくもりが、己に添うてくる。どちらともなく視線を交わせば、ふたりは同時に頷いた。縒り合わさった糸のように、一本奪われようとも切れはしない、なお太く繋ぎ紡ぎゆけばいいだけのこと。一本奪われたなら二本、三本。決して切れぬ程に。
そうしてそれを護るためにこそ、願いは強く、強く。たとえ其れがこの命を用いるものになるとしても。潤は手にした剣へと何時もより強く願いを込めて詠唱する。同時にその剣は強き捕食の力を帯び、月光に煌めいた。
――知っていますか。
静かに、そして確かに紡がれた潤の言葉が椿へ向かう。
「縁は繋ぐのも切るのも確かに一瞬で出来ますが、紡ぎ続けるには時を要します」
「……何を」
「僕は今、あなた如きに奪われて終わる縁は持っていません」
そもそも不要な縁は自分で斬って捨てましたからね、と。その思いは裡で告げ、しかと言い切った潤が地を蹴り駆けると同時、彼を援護すべく薙人の白燐蟲が傍を疾く翔ける。潤の力に意志に確かな信頼はある。けれど。
――……お命を削るのは、心配ですから。
過る想いは静かに裡へ。確と相手を見つめた薙人が口にしたのは此方だけ。
「早めにかたを付けましょう」
薙人の声に前を向くまま頷き一つ、捕食の剣を振う潤に椿もまた奪う剱を振りまわす。切られど繋ぎなおす意志は其の儘に、されど幾度も奪われる訳にもいかぬ故、確と攻撃の軌跡へと目を凝らした薙人の声が潤を援護する。その確かな助力にも、薙人の存在をしかと感じて潤は笑む。そう、此処には今、大切な仲間の薙人が居る――
「その縁と絆が僕の力、真の糧。必ず圧倒してみせましょう」
「人の縁は断ち切るだけではない。また繋ぐ事も出来るのです」
それを示して見せよう、何度でも。かの脅威が去るまで、幾度も。幾度でも――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
冴島・類
一部を見てそれを全てと見做すのは
どうでしょうね
拗れたり悪縁と成り果てた場合に
仕切り直したい方や…
切ることを望む方もいはしたとしても
逆に結い
手を離さないでと
繋ぎ、続けることを祈り励む方も
沢山いたのでは?
願いの背を押すのではなく
横槍で綻びをつくのは如何かと
ともあれ、切られる気はさらさらないが
何やら…刀も彼も特殊な力を秘めていそうなので
保険で破魔の結界も張り
斬撃はなるべくは見切りで避け
それ以外にも、薙ぎ払いを刀の振り下ろす側面狙い軌道を逸らしたい
弾きや逸らしが成功したら…僅かでも隙はできるだろうか?
それがもし見えれば
刀持つ手を狙い業滅糸を放ち絡め、攻撃を
思うより、想いやら縁の糸は
強いものですよ
きっと
●
縁なんて。そう紡ぎながら刃を振う椿の剣筋を見切り避けながら、冴島・類(公孫樹・f13398)は、静けき色した眸を彼に向ける。
「一部を見てそれを全てと見做すのは、どうでしょうね」
「どういうことだよ」
響く鈴の音が煩わしいのか、対峙する猟兵達にか、深く眉間に皺寄せた少年巫女は不機嫌そうな顔のまま、手にした刃を振りまわす。断ち切ることが使命だと言わんばかりに、握られた『孤鷹』は依然、縁を断ち奪う力を孕んでいる。確かに、縁を切ることを望む者もいただろう、けれども、そこにだって理由はあったはずだ。
「拗れたり悪縁と成り果てた場合に、仕切り直したい方や……切ることを望む方もいはしたとしても」
けれども。其ればかりでもなかった筈だと類は思う。
――逆に結い、手を離さないでと。
「繋ぎ、続けることを祈り励む方も、沢山いたのでは?」
それが、こうして今日まで立ち消えることの無い鈴の音となって、今ここに響いてもいるのではないか。この地の鈴の音ばかりではない。結い、繋ぎ、離さないでと願う縁。類自身、それを身で知るからこそ。
「願いの背を押すのではなく、横槍で綻びをつくのは如何かと」
真っ直ぐと相手を見据えた二色の瞳が、椿を射貫く。
「……そうか、お前にもそういう縁があるんだろう」
大事に抱えたその縁を、切ったらその目はどんな色に染まるんだ。己を見据えるその瞳を、じぃと見返した灰色が、薄らを弧を描いたと思えば、類の目の前に大太刀の切っ先が振り下ろされる。獲ったと思ったのだろう、笑みを深めた椿の瞳が、キン、と甲高い音とともに見開かれる。切っ先を弾いたのは、類の仕込んでいた破魔の結界。
――こちらも、切られる気はさらさらないので。
読みの通りといった具合に、静かな笑みを浮かべた類の言葉に、刃弾かれ後方に跳んだ椿の瞳がぎらりと燃えた。
「そう言われたら……益々切りたくなるだろう!」
癇癪を起した幼子のよに、声高に叫ぶまま地を蹴った椿は、次こそはと刀を類へと向かって振り下ろす。気の乱れた相手程、軌道の読みやすいものはない。賺さず手にした銀杏色の組紐揺れる短刀を横に薙ぎ、刃の側面を払い抜く。
「うわっ!」
軌道逸らされ、身を崩しかけた椿の隙を類が見逃すはずもなく、刃握る利き手を狙い放つ糸は赤き炎纏いて業を焼く。利き手に熱き傷を負い、それでも刃を手放さぬ椿を見つめ、類は静か糸を手繰る。
「思うより、想いやら縁の糸は強いものですよ」
――きっと。
それを彼が知るときは来るだろうか。己が知ったように。
それは未だ判らないが、この戦いを終わらせるべくと繰る炎糸が桜結をきらりと煌めかせた。
大成功
🔵🔵🔵
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と
成程、この澄んだ音色が耳に響くのか
自由に動けるとはいえ俺達が行った儀式も
敵の弱体化も成功しているのだろう
「あぁ、行くぞ。相棒」
過去に犠牲になったであろう人々への弔いの気持ちもある
こうして相対し、人の縁を嘲笑う悪意からも倒すべき敵と思う
だけど、その敵に何処か憐れと想ってしまう
縁を切るという、それだけを視れば悪意だが
それを要とする人達も世の中にはいる
封じられていたとはいえ、願いを叶える存在だ
捻じ曲がらなければ、一部の人の希望となって
崇め奉られる神として在れただろうに
「だから俺は憐憫を以て…能力者として、相対させてもらおう」
それに、相棒と俺の縁は何よりも強いと信じている
「お前に、この縁は切れないよ」
相棒と共に挑発して起動し、真の姿へ
俺達の全力で相手をするよ
敵の攻撃は技能をフルで使用して紙一重でも回避
時人の前へ出て狙いを引き受けつつ攻撃する
攻撃は【戦文字「縛」】を使用
ダメージよりも行動を阻害して相棒の一撃へ繋げる
「俺は倒すしか能がないからな。還すのは、相棒に任せるよ」
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と
断ち切ってあげる、か…
願った者、異能を崇めた者の
祈りの果てだとしても
切るだけじゃない
どれ程か細くなっていたとしても
長く封じ俺達が来るまで繋いだのは
努力した者達の意思と縁だ
存在の否定はしない
きっと必要悪だったと思う
でも
望まれた時だけでなければ
「ただの殺戮者でしかない」
今のこの地には不要のもの
「ああ、往こう相棒」
起動し真の姿を解放
陸井と俺は強い縁を以て此処に居る
「断ち切れると思うか?」
最も縁強い『アビリティ』で戦う
絶叫と激攻を躱し
詠唱しようとして気付く
もしかして
本当は縁を結びたかったのでは
切るだけの身で縁を見せつけられ
より激高しているのではないか、と
「逆なのか…」
正しいかは分からないけど俺はそう思った
繋ぎたくともその権能は持ち得なかったのだと
ならば光で還そうと決め
高速・多重詠唱も用い
全方位でアークヘリオン発動
倒すよ
けどせめて清浄な聖光で灼けば…或いは次は
陸井も苦しみを視た戦い方に見えるね
「なあ…お前は巫蠱じゃなくて巫女だろう?」
勝てたら瞑目を
そして新しい縁を祈ろう
●
他者の縁を奪い己の幸と変える。妖刀『孤鷹』の力を解放しながら戦う椿は、尚も断ち切りの言の葉を繰り返す。
――断ち切ってあげる、か……
そんな椿の様を見つめながら、凶刃を避けた葛城・時人(光望護花・f35294)は思う。願った者、異能を崇めた者の祈りの果てだとしても、縁とは切るだけじゃない。その証、事実として嘗て脅威とされた『断ち切り椿』は、今日この日まで封じられ、今尚――
「あゝもう、煩い!」
「成程、この澄んだ音色が耳に響くのか」
凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)の耳にはどこまでも清涼に響くこの音色が、目の前の少年巫女にとっては煩わしくて仕方がない物となっている。時を経て薄らいで、弱まりはした其れであれ、今日まで人々によって継がれ続いた嘗ての『儀式』は、確かに災を退けてきた。
「自由に動けるとはいえ、俺達が行った儀式も敵の弱体化も、成功しているのだろう」
「ああ、どれ程か細くなっていたとしても、長く封じ俺達が来るまで繋いだのは」
努力した者達の意思と『縁』だ。そのことを確信し音に乗せれば、そこに紡がれ繋がれてきたものをいっそうに強く感じる気もした。
「断ち切りを望んだのは、願ったのは、ヒトじゃないか。そうだろう?」
そこにある縁を切れと、だから祈るんだ、と、椿は言う。そうして、薄ら笑いながら手にした『孤鷹』の刀身を撫で上げて、どこか唄うように諳んじる。
――……不成の巫女と、さぁ、遊ぼうよ。
そうして振り上げた刃の先から、金色の雷撃が発せられ降り注ぐ。見境なしに落ちる金色を避けながら、陸井は数え切れぬ雷柱の向こうに立つ巫女を見た。この姿をこの景を、過去の者も見たのだろうか。圧倒的な、神罰とも思しき無数の雷を放つ『不成の巫女』を。そう思えばこそ、その犠牲となったであろう人々への弔いの気持ちもある。こうして相対し、人の縁を嘲笑う悪意からも、倒すべき敵だと思う。……だけど。
――……何処か憐れと想ってしまう。
紙一重で雷撃を避けゆきながら、真直ぐと椿を見つめる陸井の瞳に憐みの色が宿る。縁を切るという、それだけを視れば悪意だが、それを要とする人達も世の中にはいる。事実そうであったのだろう、椿の言葉を耳に尚そう思う。
「封じられていたとはいえ、願いを叶える存在だ。捻じ曲がらなければ、」
――……一部の人の希望となって、崇め奉られる神として在れただろうに。
「俺も、存在の否定はしない。きっと、必要悪だったと思う」
相棒の瞳に今までと異なる感情の色が宿ったことに気付いたのだろうか。真っ直ぐに、椿の姿を見据えた時人は紡ぐ。そう、否定はしない、確かに彼を望んだ者もいただろう。――でも、
「望まれた時だけでなければ、ただの殺戮者でしかない」
そう言い切った時人の言葉に、短刀銃を構えなおした陸井が静か頷き返す。
「あぁ。だから俺は、憐憫を以て……能力者として、相対させてもらおう」
何かを決めたかのように、一度伏せた瞼を持ち上げて真っ直ぐと椿を見つめ告げた陸井の姿に、時人も頷き返す。
「ああ、往こう相棒」
「あぁ、行くぞ。相棒」
交わし合った視線に、重なる言葉に。互いの縁を絆を強く感じる。そうだ、互いに相棒との縁は何よりも強いと信じている、感じている。それを以て、ここにふたりは立っている。そんな『縁』を――
「断ち切れると思うか?」
「お前に、この縁は切れないよ」
『『
起動!』』
重なる言葉で解放された、真の姿を以てふたりは立つ。それは、銀の雨の世界にて最も馴染んだ『縁』の強い戦い方。
「俺達の全力で相手をするよ」
重ねる挑発の言葉と共に、陸井は時人の一歩前に出る。ふたりからのわかりやすい挑発、けれども椿の神経を逆撫でるには十分だった。
「うるさい、煩い、五月蝿い! 切れるさ、切るんだ!」
――切ってあげるよ! 僕が、ぜんぶ!
声高に叫んだ椿が猛攻に出る。今のふたりの言葉はきっかけに過ぎなかったのかもしれない。己を苛む儀式の鱗片、目の前に示された強き縁の数々を見せつけられて、かの不正の巫女は平静を欠いていた。
轟く雷鳴、振り回される妖刀、其処より発せられる巫蠱と毒。そのひとつひとつを紙一重で捌きつつ、陸井はここぞという機を作るべく、時人と椿の間に立ち、その狙いを引き付ける引き受け立ち回る。
ひときわ大きな雷音が鳴った。それを躱した陸井の後方から、時人が『アビリティ』を叩き込もうと口を開いたその時だ。狙い定めるため凝視した先、椿の表情が目に留まる。清涼な音に苛まれるだけでない、苦悶の表情の奥に哀し気な色を見た気がした。絶叫の向こうに、泣き声のような響きを聞いた気がした。それは、時人だけでなく――
――もしかして。
詠唱を行おうとした唇が止まる。本当は、
――縁を、結びたかったのではないだろうか。
切るだけの身で縁を見せつけられ、より激高しているのではないか、と。その想いが心を占める。
「逆、なのか……」
この考えが正しいかは分からない。けれど、時人はそう思ったのだ。繋ぎたくとも、その権能は持ち得なかったのだ、と。もし、そうなのだとしたら――
刹那の間、時人が意志を変えたことを陸井もまた感じ取っていた。戦いの最中交差する視線に、互いの想いを見た。
――ああ、陸井も苦しみを視た戦い方に見えるね。
ならば、と。時人が紡ぎ編むのは光で還すための力。椿と相対す陸井もまた、時人の詠唱の時間を確保するよう、椿の剱に宿る彼の想いをも受け止めるよう、真正面から対峙する。
「俺は倒すしか能がないからな。還すのは、相棒に任せるよ」
時人ならきっと。そう、確かな信頼を置くがこそ、その時間は己が稼ぐ。しかと瞳に宿した意志のまま、陸井が放つのは『縛』の文字。陸井の手にした鈍色に煌めく銃身から放たれた力宿すその文字は、的確に椿を射貫く。
「すぐに終わらせる。だから」
――……そこから動くな。
「……あ、」
やりどころのない感情を打ち付けるかのよに、刃を振っていた椿の動きがぴたりととまる。どこか呆然とした表情から、決して離すことなく、けれども力の抜けた刃持つ利き手の様から、彼より動く意志』が奪われたのだと知ることが出来た。
「時人!」
「ああ!」
相棒の声を受け、時人が展開するのは高速多重の光の力。彼を中心として広がりゆく全方位への『アークヘリオン』。
「倒すよ。けど、せめて」
清浄な聖光で灼けば……或いは次は。終わりの先を願い、を『始まり』を齎すべく、圧倒的な光の力は刻印を描き広がってゆく。何処までも広がる光の印と、数多の願いを乗せて唄う風鈴の音色が場を――椿を包む。
「なあ……お前は巫蠱じゃなくて、巫女だろう?」
時人の言葉に、虚空を見ていた椿の瞳が、彼をそうして、始まりの刻印を眸に映す。虚ろな灰色に、光が差したように見え――直後、周囲に展開していた刻印から放たれる創世の光が、椿の全てを呑み込んで灼いた。光の向こう、静かに涙しながら、小さく小さく咲った少年巫女が見えたのは、気のせいではないだろう。その手には、妖刀の姿はなかった。
夜の闇を包み貫くような光が収まる後に残るのは、夜空に煌めく星月の光。そうして、それを照らし返す真白の雪。灯るよな真白の上にぽつりと落ちた赤い花は、風に唄う鈴音に包まれていた。
リィン、リン。
ちり、ちりん。
重なる音は、風に唄う。清なる響きに抱かれて、それでいて、静なる空気に包まれて。陸井と時人を始め、この地に集う猟兵達は、この地の平穏が保たれたことを知る。
「終わったな」
「ああ」
「いや――始まった、のかな」
「……そう、だといいな」
雪に落ち咲く赤をひとつ、手に取って。鈴音にもう一つ願いを乗せる。どうか、どうか――
その後、猟兵達の願いと尽力の甲斐あって、
玄多家村の風鈴市は世の知るところとなった。これで終わりと囁かれた噂は、噂のまま立ち消えた。代わりに囁かれるのは、山の麓のある村で、冬の風鈴祭があるという噂。とりどりの彩を纏う風鈴に願を掛け、紅白の椿が見守る寺に納めれば、悪しき縁を断ち、良縁を結ぶという噂。縁切りと縁結びは表裏一体。赤と白の椿が祭りのシンボルなのだという。
年に一度と聞くその祭は、盛況たれば、いつか四季折々と催されるようになるかもしれない。『椿』の花と、四つの神獣が寄り添う儘に。けれどもそれは、未だ見ぬ未来のお話。
今はただ、この平穏を噛みしめて。
咲く花と、唄う鈴と、そこに添い揺れる願いとともに。
大成功
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