エンドブレイカーの戦い⑩〜黙の追想
広大な砂漠にそびえ立つ、巨大な『爪』を中心とした都市国家――それが砂月楼閣シャルムーンである。
この砂の国には、美しき姫君にまつわる言い伝えがある。
その名も『シャルムーン姫の伝承』。
砂の国に、「シャルムーン」という名の美しいお姫様がおりました。
お姫様は、王族の掟により「声を出すこと」を禁じられていました。
だからお姫様は、言葉の代わりに宝物や花を与え、
それらの形状や色彩を通じて、自らの気持ちを表していました。
ある時、お姫様は恋に落ちました。
でも、言葉に出すことはできない。
でも、この気持ちを伝える宝物も思いつかない。
そこでお姫様は、自らの気持ちを表す宝物を、自らの手で作ることにしました。
甘やかな恋のおとぎ話が残るシャルムーン。
そんなエンドブレイカー世界における、バレンタインデーである『シャルムーンデイ』の発祥の地である砂の国にも、11の怪物たちの脅威は迫る。
●
黙の追想
砂の国に新たに現れたのはエリクシルドラゴン。
しかもただのエリクシルドラゴンではない。『11の怪物』に改造でもされたのか、戦場内の『声を発する者』全てを無差別に殺す」という自動発動型のユーベルコードを有している。もちろん、通常の攻撃手段であるユーベルコードとは別に。
つまりタイミングを計る合図や、己を昂らせる気勢はおろか、つぶやきひとつが命取りになってしまう。
だからこのエリクシルドラゴンと対峙する間は、固く口を閉ざし、声を発してはならない。
さながら古の姫君のように。
「だからね。シャルムーン姫みたいに大事なことを胸に秘めて、その想いを戦う力に変えたらいいんじゃないかって思うんだ」
砂除けのコートに、目を保護する眼鏡までかけたエルシェ・ノン(青嵐の星霊術士・f38907)は、至極まじめな顔で言う。
確かに筋は通っている。
秘めた想いは、とかく人の原動力になりがちだ。
強く想えば想うほど力が漲る――という展開は、数多の物語でも綴られがちの
シチュエーションでもある。
だが実戦に於いて、事がそう上手く運ぶとは限らない。とは言え、いずれにせよ声を発せぬ戦場なのだ。
「やるだけはタダ。やって損があるわけでもない」
ね、とにこやかにエルシェは笑う。そうして送り出す猟兵たちの背中へ、思い出したように告げる。
支えになる
想いがある人は、間違いなく強いよ――と。
七凪臣
お世話になります、七凪です。
ラズワルド様はモテ男。他の男性陣の皆様が不遇でなりませぬっ。私なら眼鏡一直線なのにー。
●プレイング受付期間
OP公開と同時にプレイングの受付を開始します。
受付締切は任意のタイミング。タグと個別ページにてお報せします。
●シナリオ傾向
心情書きたいマン。
●プレイングボーナス
一切声を出さずに戦う。
●戦場について
昼間の砂漠。足を取られる心配は不要です。
●採用人数
👑達成+α程度。
全採用はお約束しておりません。また、採用は先着順ではありません。
●同行人数について
ソロ推奨。
●他
今回に限り、オーバーロードは非推奨。
文字数・採用スタンス等は個別ページを参照下さい。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
宜しくお願い申し上げます。
第1章 ボス戦
『エリクシルドラゴン』
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POW : エリクシルブレス
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【宝石】属性の【ドラゴンブレス】を、レベル×5mの直線上に放つ。
SPD : 願望喰らい
噛み付きが命中した部位を捕食し、【対象の願望にもとづく強化】を得る。
WIZ : 絶望の龍牙
【龍の首】が命中した敵から剥ぎ取った部位を喰らう事で、敵の弱点に対応した形状の【龍またはドラゴン】に変身する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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ヴァニス・メアツ
(以下全部心の声)
シャルムーン姫は私にとって最も尊敬すべき勇者
だってチョコレートと言う究極の菓子をこの世に生み出したのだから!
って事で口封じ兼ねて口の中にチョコたっぷり含みながら出陣
姫のご加護よ此処にあれ(もご)
故に姫の故郷は私にとって聖地
宝石より心伝わり願いが叶う――チョコの力を見せてやる
銃を撃ちながら一気に駆ける
噛み付こうと敵が顎開いた時、UC発動
此華咲夜若津姫が形にし与えた力、此処に
目の前に次元扉開いて被撃寸前に消え、敵の背後に出口開き瞬間移動
二人の姫君の力を得た私に恐れる物は何も無い!
出来うる限りの連続蹴撃から、強く蹴って離脱と同時に全弾発射とばかりに紫煙弾をお見舞いしてやりますよ
口の中にとろりと残った甘さに、ヴァニス・メアツ(佳月兎・f38963)は砂漠の熱砂に焼かれながらも、チョコレート色の眸で三日月を描く。
――そう、チョコレート。
別に己が眼がその色だからというわけではないが、ヴァニスはチョコレートこそ此の世の至高の菓子と疑わない。
故に、チョコレートを
この世界に生み出したシャルムーン姫こそ、最も尊敬する勇者。つまり姫の故郷であり、その名を冠するシャルムーンは、ヴァニスにとって尊き“聖地”だ。
(姫の加護よ、此処にあれ)
もごり。口を封じる為にたっぷり含んできたチョコレートの甘さに、ヴァニスは決意を捧げ、疾く砂を蹴る。
March Hare――使い慣れた紫煙銃から立て続けに弾丸を放つ。しかし三月兎の如く跳ね回る弾道は、全てただの牽制だ。
天性の
空翔けは、右に左にと変則的に地を駆け、エリクシルを誘う。
あちらが踏み出してくれさえすればいい。ヴァニスを討つ意思を、行動で表してくれさえすればいい。
そしてただ攻撃されるつもりのないエリクシルドラゴンが、動く。
(宝石より心伝わり願いが叶う――チョコの力を見せてやる)
チョコレートに蕩けたヴァニスの口が、声を発することはない。だが心で雄弁に語る男は、翼とも竜とも知れぬ赤い宝石が、咢を開いた瞬間、世界を跳んだ。
静止した時の世界に通じる、不可視の次元扉を作成し、渡り越える。此華咲夜若津姫が形にし、与え給うた奇跡の
力。
(二人の姫君の力を得た私に恐れる物は何も無い!)
喰らわれるはずだった世界を置き去りにしたヴァニスは、飛び込んだエリクシルの懐で紫煙銃を撃って、撃って、撃って、撃った。
間合いはゼロ距離。エリクシルドラゴンに躱す術はない。
離脱の為に宝石の身体を蹴って後方へ跳んだヴァニスは、聖地を穢さんとする輩を“ざまあみろ”と笑った。
大成功
🔵🔵🔵
アレクシス・ミラ
アドリブ◎
…伝承とは真逆の残酷な脅威だ
鎧を『白夜・重騎士形態』へと変化
我が声と想いは、鎧と兜の裡に
剣から光の衝撃波『光閃』を放って
存在を示し、詠唱を阻害しよう
…直線攻撃の先には何もないとは限らない
ブレスの気配を見切れば
誰一人、何一つ傷つけさせない
此処で防ぎ止める覚悟と共に盾を構え
オーラ『閃壁』と【希望の福音】を展開
衝撃が襲おうとも耐え切ってみせる…!
(…指輪に、言葉で応えられないのは少し残念だけれど
戦いの中で視線を合わせれば全て伝わるように
きっと君なら伝わるだろう?
守り抜く理想を貫く為
力を貸してくれ
─僕の、青星)
耐え切れれば
『白龍吼』で砲撃し、怯ませよう
その隙を穿つが如く
光纏う剣で…竜を討つ!
強い日差しが照り付ける真昼の砂漠で、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は真白く輝く。
帯びた重装は、常よりアレクシスの動きを鈍くする。顏を覆う兜もそうだ。どうしても籠もる熱に、否応なしに頬は上気する――否。肌が赤らむのは、血が滲まんばかりの決意ゆえ。
愛らしい伝承とは裏腹の残酷な脅威に、アレクシスの裡は静かに滾る。
白銀の鎧の内側に
閉じ込めた想いと声が、アレクシスをますます昂らせてゆく。
そして一閃。
斬、と薙いだ騎士剣の暁光の軌跡から、光刃が放たれる。
続いて一閃。
編み出された衝撃波が、砂を巻き上げ、赤光の宝石竜へと迸った。
更に一閃。加えて一閃。重ねて、一閃。
どれだけアレクシスが剣を閃かせ、衝撃の波で大気を斬り裂こうとも、エリクシルドラゴンが傷つくことはない。せいぜい風圧に見舞われる程度だ。だが、アレクシスにとってはそれで十分だった。
(――来る)
全身を覆う金属を経て肌を粟立てる殺気に、アレクシスは強く砂の大地を踏み締める。
エリクシルドラゴンの目が口惜し気な感情を描いているように見える気がするのは、アレクシスだけかもしれない。しかしアレクシスが起こし続けた砂塵の圧が、宝石竜の詠唱を度々途絶えさせ、続けることを諦めさせたのは事実だ。
――アレスへ、幸せが訪れるように。
(力を貸してくれ――僕の、青星)
膨らみゆく赤き質量を前に、アレクシスは瞼を落とす。途端、アレクシスを包むのは鮮やかな星空だ。
存在するのは、アレクシスと、アレクシスの為の祈りと歌が込めた指輪のみ。
いつものように指輪に声で応えられないのは、正直さびしい。でも
彼とはアイコンタクトで事足りるように、繋がる想いさえあれば大丈夫。
(どうか僕に、守り抜く理想を貫かせてくれ)
轟音を伴い押し寄せたエリクシルブレスを、アレクシスはオーラの壁と暁星の聖印が放つ光の加護で、真正面から受け止めた。
そうして後方にあるなにもかもを守り抜き、アレクシスは衝撃に痺れる全身で宝石竜へ肉薄する。
よもや正面突破されるとは思っていなかったのだろう。今度こそ誰の目にも明らかな動揺がエリクシルの眼にはあった。
欲した好機を目の前に、アレクシスは光纏う剣をまっすぐに突き出す。
(――竜を、討つ!)
全霊を賭した渾身の一撃は、アレクシスの遠ざかる意識に、強固な宝石が割れた手応えを残した。
大成功
🔵🔵🔵
琴平・琴子
私はこの声が嫌い
大きくて、遠慮の無い言葉を発してしまうこの声が
この声を発さなくても良いというのは少し不思議
だけれども――ただ綺麗に舞うだけなら、言葉を発さなくても良いでしょう?
ねえオデット、オディール
舞台の上で何時だって勝つのはオデットの貴女
ただその足をおろせばいいだけだもの
だけどほんの少しオディールにも魅せ場をちょうだいね
ドラゴンブレスを防ぐ貴女の真白の翼は誰にも汚されない
誰にも受け流したりしない
その高潔も、純真さも誰にも汚されたりしない、私の幼心のようなオデット
誰にも触れさせない高潔さは貴女にもあるわねオディール
誰にも触れさせない高貴な貴女は私の今の心に似てる
良い子ね、
二羽とも
何でも褒めてくれる両親の元で育った琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)は、それに恥じぬよう、いつだって胸を張っていられるよう、凛と背筋を伸ばしてこれまでを歩んで来た。
しかしそんな琴子が、己の声を厭う。
(私は、この声が嫌い)
清廉潔白であるが故に、汚濁を是と出来なかった少女が、
教室で異端だったのは言う間でもない。
(大きくて、遠慮の無い言葉を発してしまう、この声が)
物怖じせず物申した事で、琴子は遠巻きにされた。親の勧めで入った合唱部でも、大きな声が妬みの対象となった。
その声を禁じる戦場に、琴子は言い知れぬ不思議を覚える。
(声を封じられたお姫様は、その後どうなったの?)
お姫様というと、琴子が思い出すのは一人。そして王子様も。
彼と彼女が琴子を助けてくれたみたいに、この砂の国のお姫様も誰かを助けたりしたのだろうか?
(ねえオデット、オディール。あなた達はどう思う?)
ふわり。
いつもより幼げな琴子の胸中の尋ねに、白鳥と黒鳥が顕現する。無敵の護り手たる白鳥と、全てを穿つ黒鳥だ。
大きく翼を広げる白鳥は、応えない。すっと頭を擡げる黒鳥もまた、応えない。
なれど琴子は、白と黒の美しき鳥の存在を微塵も疑わない。だって二羽は琴子に添う
力の片鱗。
(
二羽とも、もう前だけを見ているのね)
直後、凄まじい衝撃が琴子たちを襲う。エリクシルドラゴンのブレスだ。けれど何もかもが呑まれてしまう間際、白鳥の翼がしなやかに全てを受け流す。
(そう。何者にも貴女の真白は穢されない)
眩しいほどの真白と奔流が鬩ぎ合う様を間近に、琴子は穏やかに笑む。
轟と砂嵐を巻き起こす殺意の奔流を、琴子が恐れることはない。何故なら、オデットとオディールは“絶対”だから。
オデットとオディール。知らぬ者はいないほど著名な
鳥たちの名。
華やかな舞台の上で勝つのは、いつだってオデット。だって彼女は、ただその足を下ろすだけで良いのだ。
(でもオデット。ほんの少し、オディールにも魅せ場をちょうだいね)
途端、オディールが強く羽搏く。
オデットの、穢され得ぬ高潔さと純真は、さながら琴子の幼心。対して、誰にも触れさせぬ高貴さと一途さは、今の琴子そのもの。
(良い子ね。オデット、オディール)
真白の翼に守られた琴子は、黒き翼と嘴が赤き宝石竜を穿つのを見た。
大成功
🔵🔵🔵
ルシエラ・アクアリンド
…エルシェさん?
何時も想っているけど言えない事
出会ってかなりの月日が経つけれど何時も大切にしてくれるのは変わらなくて
とても誠実で時折それに泣きたくもなる
余りそういった愛情表現が得意では私に合わせてくれてか
他の人達とはちょっと違うかもだけど
自分たちらしく行きましょうと微笑んでくれたからこうして自由に安心して動き回れるの
誰かに置いていかれる事にもう耐えられないと心底思い知った時
偶然声を掛けて貰ってなかったらこの場には居無かったろうな
そう思うと少し不思議だなあ
UC発動し風と羽根で対応
身軽さ生かし攻撃躱し万一時にはオーラ防御
囮攻撃等隙を作り確実にダメージを
長らく愛用している魔導書も彼から頂いた大切な品
砂の海を渡る風に、ルシエラ・アクアリンド(蒼穹・f38959)は深い森の湖水を思わす髪をそよがせる。
頬を叩くはずの熱は遠い。耳朶に触れるはずの喧騒もまた同様に。
代わりにルシエラの裡には、泣きたくなるほどの優しい温もりが膨らむ。
それはまるで、
彼にルシエラが時おり覚える感情そのもの。
出逢ってからの月日は、それなりに経っている。
だのにルシエラのことを見つめる赤い瞳はずっと変わらない。
いつだって、大切にされていることをルシエラは知っている。欠片も疑う余地がないくらい、態度で示されている。
とはいえ、あまり人への愛情表現が得手ではないルシエラ相手だ。きっときっと、たくさん遠回りしてくれているし、ゆっくりとした歩みでルシエラに合わせてくれているはずだ。
二人の在り方は、他の人々からしたらもどかしく、そして異なる形であるのかもしれない。
でも。
――自分たちらしく行きましょう。
(そう微笑んでくれたものね)
覚えている。忘れるはずがない。大事な大事な記憶であり、今のルシエラの礎であり、今日もまたルシエラを自由に、安心して、走らせてくれてくれる“生”の源に、ルシエラは涼やかに微笑む。
ルシエラは、風だ。
どこまでも吹き渡り、何事でもないように手を差し伸べる。
そんなルシエラも、誰かに置いてゆかれる事にもう耐えられないと、心の底から思い知った時には、立ち止まりかけた。
そこへ偶然、声をかけて貰ったのだ。
何事でもないように。
だというのに、ルシエラはどうしようもなく救われた。救われて、また駆け出した。
あの時の出逢いが――声がなかったら、きっと今日この場に立つルシエラは居ない。
(そう思うと、少し不思議だなあ)
す、と。ルシエラはすっかり手に馴染んだ魔導書の表紙を撫でる。体温が移ったかのように思えるほどずっと愛用しているこれも、“彼”から貰った大切なもののひとつ。
そしてルシエラは、迫る赤き竜の咢を前に魔導書を開く。
(ああ――)
捲られたページが風と、淡い光の羽根を放つ。
襲い来る赤をも退ける薫風と光羽はどこまでも美しく、優しい光景を砂の国に作り出し、ルシエラに共に立つ心地を味合わせてくれた。
大成功
🔵🔵🔵
ルッツ・ハーミット
狩猟者だから音を殺すのは慣れている
死角を探して身を潜めるか
無ければ敵の背後を取るよう動く
慣れている、と言っても余裕なんて無い
今だって手が震えている、自分が嫌になる
音無く深呼吸して少し気を紛らわせよう
…甘やかな恋の話、か
秘めた想いが全部綺麗なものとは限らないけどね
打算で隠したり、臆病で閉じ込めたり
身に覚えがありすぎて零れる自嘲は心の中だけで
だけど今は迷いなく
大切だと言える彼女の顔が浮かぶから
――守りたいよ
君も、皆も、世界も
だから、戦える
洞察力なら多少自信はある
仲間が動きやすいよう援護したい
敵の行動もある程度読めてきたら
弓を構え集中
防御の薄い1点へ矢を放つ
もっと強くなりたい
今も変わらぬ願いを乗せて
森を駆ける心地でルッツ・ハーミット(朱燈・f40630)は砂原を走る足音を消す。
一歩の毎に、きゅ、きゅ、と砂は鳴きたがるが、腐葉土の上に積もった枯葉を制するよりは、難易度は低い。
(狩猟者の本領、発揮させてもらうよ)
森に居るばかりが狩猟者ではない。草原だろうが、荒野だろうが、砂原だろうが。狩るべき対象がいるのなら、そこは既に狩猟者たちの
領域。
身を隠すに容易い木々がなくとも、やりようは幾らでもある。
軽く開けたままの口で、浅い呼吸を繰り返す。顎の筋肉を上手く使えば、表に出る生命活動音は消し去れる。
気配は意識を内へ内へと沈め、消す。あとはひたすら敵の視野から外れるように、足を動かせばいい。
――しかし。
(しっかりしろ)
慣れと余裕は別物だ。今だって、手は勝手に震えたがる。それに覚える自己嫌悪を、ルッツは鼓舞で塗り変えようと足掻く。
(――守りたいんだろ?)
何を? 当然、世界をだ。そこに住まう皆をだ――いや、それだけではない。
漠然とした概念だけではなく、明確な輪郭が今のルッツの中には在る。直前に、シャルムーン姫の伝承を改めて耳にしたからではなく、だ。
とは言え、彼の
黙の姫君に触発された部分がないではない。
秘めた恋と聞けば、人はいじらしくも愛らしく、綺麗なものを思い浮かべるだろう。なれどそこに打算や、臆病があることをルッツは
知っている。
勇気が、自信が足りないから、隠すのだ。視得ぬ先を恐れて、閉じ込めるのだ。
(――)
身に覚えがあり過ぎて、ルッツは心の中だけで自嘲にわらう。表に出すのは、あくまで負けぬ意志と闘志のみ。
そう在れる強さと芯を、今のルッツは手に入れているのだ。
(守るよ、君も――)
大切だ――迷いなく言えるようになった
彼女の顔を、ルッツは思い浮かべる。
(だから僕は、戦える)
さして変化がないようで、くるくると感情を変える記憶の中の表情に、いつの間にかルッツの手の震えは止まっていた。
もっと、もっと強くなりたい。
「――」
今も昔も変わらぬただひとつの願いを胸で燦然と輝かせ、ルッツは完全に見切った刹那に矢を番える。
がら空きの背中は、狙いたい放題だ。ただし勝ち取った好機は一瞬。振り返り、身構えられる前にルッツは、エリクシルドラゴンの翼の付け根目掛けて矢を放つ。
疾く翔け征きし矢は、わずかもぶれることなく的を貫く。
その真っ直ぐな鮮烈さは、今のルッツそのものであるようだった。
大成功
🔵🔵🔵
クロービス・ノイシュタット
『もの語り』に語るなとは、これまた殺生な
…なんて
元来は、喋りは得意じゃないんだ、俺は
苦笑まで込み全て胸の裡
詠唱の間に距離を詰め時間を取らせず
顔や体の向き、詠唱途絶えたタイミング等から攻撃の兆し、方向を見切り
距離が長くとも直線なら、大きく脇に避けるか
首を回すならば軽業活かして、跳ぶなり屈むなり、回避を
間合いに入り次第、即UC
詠唱なんか要らないモンで
かの姫には、確かにまー苦労させられた
想うが故の力…ね
結局の所
俺は、昔も今も変わらず、生きる為に足掻いてる
過去は唯、生き残りたい、死んでなるものかと、意地の為
現在は…未来の為
生きる意義を、識ったから
で、意地っ張りは今もいきてる訳だ
一言だって発するものかよ
クロービス・ノイシュタット(魔法剣士・f39096)はもの語る男だ。
口許には緩やかに笑みを敷き、謡う様に数多の言の葉をつらりつらり紡ぐ。
(その僕に、語るなとはこれまた殺生な……なんて)
楽しみの予感に前のめる道化の調子で、クロービスは被り慣れた擬態をわらう。いや、染み付ききった今、それはもう一つの側面にまで昇華されたのかもしれない。
何れにせよ、光避けの眼鏡を愛用する程度には、長く暗闇でひとり生きた男は――。
(喋りは、得意じゃないんだ。元来の、俺は)
幾重もの皮肉を胸中で吐くクロービスの顔に表情はない。男はただ赤き宝石竜を見据え、直走る。
エリクシルに長い詠唱時間を与えてやるほど、クロービスの頭はおめでたい出来をしていない。要はさっさと突っ込んで、斬り結べばいいだけの話だ。そうすればどちらが生き残れる側かは、はっきりする。
(俺が、生き残れないとでも? そんな、まさか)
先ほどとは異なる温度のわらいを裡側へ短く落とし、クロービスは駆け征く軌道にゆさぶりを加えた。即座に反応したエリクシルドラゴンが、翼を傾ける。なるほど、そうやって照準を定めるわけか――と、悟れてしまえば後は容易い。
(俺は、昔も今も変わらず、生きる為に足掻いてる)
柔らかな砂地を蹴って、クロービスは跳躍する。置き去りにした残像に、敵が釣られることはない。少しは頭が回るようだ。覚えた手応えに、クロービスの口角が上がる。着地のタイミングを狙ってブレスを放ってくるのも、良い判断だと評価出来た。
しかしクロービスの“生への執着”は筋金入りだ。
過去は唯、生き残りたい、死んでなるものかという意地の為に。
現在は――未来の為に。
とうてい人が生き延びられるとは思えない環境で、文字通り地を這い泥水を啜り、獣だか何だか知らないモノを喰らって命を繋いだ男は、結んだ縁の果てに、生きる
意義を
識った。
故に、
負けるわけにはいかないのだ。
(ついでに、“意地”っぱりは今もいきてるって訳だ)
踏んだ砂を再び蹴って、右へ跳ぶ。バランスをとるために残した左腕に走った激痛は、歯を食いしばることなく耐えきる。そうして宝石の残滓の中、クロービスはエリクシルの懐へ奔った。
彼の姫君に手を焼かされたのは既に過去。なれど口にせぬ想いが力を引き出すというなら、クロービスは間違いなく眼前の敵を圧倒し得る。
(俺は、生き残る。絶対に、だ)
繰り出す氷の細剣に仕込まれた儀式魔法陣の発動は一瞬。
音もなく咲いた力の花は、エリクシルドラゴンの一翼を穿ち、百余秒の沈黙を科した。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィルヘルム・ファティウス
アドリブ歓迎
雄弁は銀 沈黙は金
…なんて言葉もあるようだが
実際のとこは如何なんだろうなァ
普段がお喋りって訳でもないし
声を発さぬ戦場ルールを守って
ひと仕事向かうとしようか
自傷した腕から生成される
紅い硝子の剣を手に
厄介そうな竜息の動きを
注視しつつ敵の姿を見遣り
秘めた想い……想い、ねェ
誰に云うでもないものならあるが
告げる相手が既に亡い場合は
果たして何と呼ぶべきで
朋友の真似事、
錬金術なんてやってるのは
彼奴に追い付こうと想っただけで
魔術とは違う、
無から有は生み出せない
代償を払い続ける此の行為に
意味をのせるとするならば
……ただ、お前のところに逝きたい
紅く煌きを増した此の剣は
何処まで届くことになるだろうか
――雄弁は銀、沈黙は金。
巷で耳にする言葉を、ヴィルヘルム・ファティウス(愚か火・f39128)は砂の国へ至る最中に思い出していた。
意思の疎通を何より助けるのは、会話だ。だのに語り尽くすより、口を噤むことの方が有益だなんて、俄かには信じがたい。
とはいえ、“間”の重要性はヴィルヘルムも理解している。
錬金術もそうだ。薬液に浸す時間、火にかける時間、寝かせる時間――数多の“間”が正しく働いて初めて、創造は成される。
(ま、普段がお喋りって訳でもないしな)
そうして工房でひとり過ごす時間を思い出し、ヴィルヘルムは
黙の制限が課された戦場へ降り立った――。
人は生きていれば、存外に口から音を発するものだと、ヴィルヘルムはエリクシルドラゴンと対峙して気付く。
例えば、呼吸音。射程の長い攻撃の的にされぬよう走りまわっていれば、自然と息が上がる。そうすると、乾いた喉がかすれた音を立てたがるのだ。
苦痛の呻きもそう。歯を食いしばりでもすれば、口の端から軋みが洩れる。だが代償に慣れたヴィルヘルムは、眉一つ動かさず腕から鮮血を溢れさせた。
温かい命の赤より、絶対零度の硝子剣が創造されるのは一瞬。しかし傷を得た腕は、どうしても重さを覚える。
(こんな時――)
無から有を生み出せる、魔術を使えたらよいだろう、と。自分は持ち得なかった才を、ヴィルヘルムは思う。
そも錬金術を始めたのだって、明友の真似事だ。
(彼奴に追い付こうと想っただけで)
代償を絶対とする以上、ヴィルヘルムは己が力に万能を認め得ない。例え幾千人にとっては垂涎の力であったとしてもだ。
(――っ、!)
誰かと斬り結んだエリクシルドラゴンの一翼の動きが鈍ったのを見止めて、ヴィルヘルムは一気に間合いを詰めにかかる。
振り向く宝石竜と目が合った。背筋に怖気が走る。弱って尚、エリクシルだ。なれどそのリスクが、ヴィルヘルムにとっては必要不可欠でもある。
(秘めた、想い……想い、ねェ)
誰に云うでもないものなら、ヴィルヘルムも胸に抱く。
何故、誰に云うでもないのかは、告げるべき相手が故人だから。
(こういうのも、秘す、に該当すんのかね?)
苦い笑いを口許に佩き、ヴィルヘルムはブレスを吐くのにもたつく宝石竜の懐へ滑り入り、
紅の
硝子剣を薙ぐ。
(俺は――俺は、ただ。お前のところに逝きたい)
それは願いか、はたまた血を流し続ける心の叫びか。
何れにせよ、今にも割れてしまいそうなほど薄く薄く研ぎ澄まされた刃は、エリクシルドラゴンの翼を断ち堕とす。
大成功
🔵🔵🔵
冴島・類
言の葉は大事な伝える手段だが
語られる姫様に倣う、以外にも
やりようは、あるさ
砂塵から目をかばうごーぐるは装備
駆ける相棒との意思疎通は言葉ではなく、手繰る糸で
龍の狙いを瓜江ではなく
自身の側に引き付ける為
薙ぎ払いを仕掛け
起こす砂塵に彼を忍ばせよう
首が襲いくる機を見切りで読み
声でなく視線で、連れた白薔薇りりに
力を貸してと願い
喚ぶのは、守護の茨
首や翼を縛り、勢いを削ぎ止めたい
瓜江や、花たるりりとも
日頃言葉は交わせないが
葉の動き、伝わる感情がある
生きる子らの笑顔を守る為の戦い…
やる気いっぱい、だろう?
全力でいこう
首の勢い削ぐ事叶ったなら
二回攻撃…こちらに気を引いている内に
隙を狙っていた瓜江の打撃で、攻撃を
城野・いばら
如何して禁止されたのかしら
…私も芽吹いた恋の蕾を一度隠そうとしたわ
隠そうとする度
胸に募るさざめきが…苦しくて
お喋りバラは結局
ポロリと溢し咲かせてしまったけれど
嬉しいと
受取ってくれた時の事は忘れられない
いとしい彼も
今頃別の戦場を掛けている頃ね
出来る事をひとつずつやろうと言うけれど
沢山、抱えていないか心配
でも想いは同じと知ってるから
お互い、いってらっしゃいと見送れる
おかえりって迎えられる
理不尽な終焉を止める為
沢山の笑顔の花を護る為に
想いを力に
叶えたい言葉は紡ぐ魔法の糸に籠め
攻撃は伸ばした茨蔓で武器受け
戦うコ達もかばう
アナタもお喋り禁止と大きな頭を狙い
捕えたら怪力と糸で捕縛
生命力吸収重ね、おやすみを
不格好に片足を突き出し、柔らかな砂へ爪先を埋めるように踏む。
ずっ、と沈み込む感覚は少し慣れない。が、バランスを崩し切らないうちに冴島・類(公孫樹・f13398)は低い軌道で鞘に納めたままの短刀を薙いだ。
ざざざ、ざ。
類の全身を覆う程に舞い上がった砂塵が、景色を幾らか煙らせる。もちろん、エリクシルドラゴンの視界も、だ。
――なれど、類の
本命は其れではない。
重力に引かれた砂粒が、再び砂漠と同化するより早く、類はまた新たな砂塵を起こす。右へ、左へ、前へ、後ろへ。
法則性があるようにも見える動きに、エリクシルの眼が眇められた。
その胡乱な視線を、類はあまり使い慣れないゴーグル越しに眺める。
頭を締め付けられる感覚が、少しだけ厭わしい。短髪のおかげか、ベルトに髪が絡まないのは助かった。何より、どれだけ被っても目に砂が入らないのがありがたい。
せっかくなら、左目の落ちた視力も補える逸品であれば良かったと考えもするが、高望みは棚へ上げる。
直後。
赤き宝石竜の首の一つが、不意に鎌首を擡げる。脈絡のみえない類との駆け引きに、焦れたのだろう。
そこに合わせて、類は敢えてエリクシルドラゴンへと突っ込み――今日一番の砂塵を空高くへ舞い上げると同時に、懐に抱いた
白薔薇へ上衣越しにそっと手を添えた。
言の葉が、大事な伝達手段であることは間違いない。なれど類には伝承の姫君に倣わずとも済む術がある。
(力を貸して――)
――ええ、まかせてちょうだいな。あなたを守り、願いへの力となれますように!
類の願いに、おしゃまなレディがうきうきと心を弾ませ応えた。聲ではなく、周囲一帯に無数の白薔薇を咲かせるという方法で。
そして穢れなき白から伸びる茨は、類へ敵意を向けるモノの動きを戒めるもの。
最後となった首を封じられたエリクシルドラゴンの唇が、戦慄く。驚嘆を吐かなかっただけでも見上げた根性だが、しかし。
「――っ!」
類を注視していた宝石竜は、背後で湧いた砂塵に息を呑みかけ、唇を噛み締めた。その隙に、砂に隠れていた瓜江が躍り出る。
そう。類が起こした砂塵は全て、瓜江の存在を隠すための
偽装だったのだ。
絡繰である瓜江、花である
りりにも、想いや熱情があることを類は知っている。類自身、それらが結実した
ものなのだ。
(やる気いっぱい、だろう?)
物語れずとも、生きる子らの笑顔の為に、瓜江やりりがやりたいことは分かっている。だから類は瓜江へ全てを任せ、赤き宝石の首筋を狙わせた。
(――!)
まあ、まあ、まあ!
歓喜に綻びそうな口許を、城野・いばら(白夜の魔女・f20406)は慌てて両手で押さえて、声を抑える。
砂塵で視界は悪い儘だが、それでもたった今、自分の力が使われたことは本能的に分かった。
Prosperityも、まだお喋りできない幼い白薔薇も、いばらが番の羽へ贈ったもの。彼を守りたいという、いばらの祈りそのもの。
(彼も此処に、来ているのね)
今ごろ、別の何処かで戦っていると思っていた。
『出来る事をひとつずつやろう』と言ながら、いばらの“いとしい彼”は、沢山のものを抱えがち。だからいばらの心配は尽きないのだけれど。
いってらっしゃい、と互いに振り合った手が、すぐそこにある。
ただいま、と、おかえりを、きっとすぐに交わすことができる。
そのことがいばらは嬉しくて嬉しくて仕方ない。
それは多分、“いとしい彼”の方も一緒。いばらの存在に気付いたら、緊張に強張らせた顔を緩めてくれるだろう。そしていばらと同じように、いばらの事を案じる心を、ほっと和めてくれるに違いない。
溢れて零れそうな歓喜に、いばらの白い頬が淡く色付く。このままだとベビーピンクの薔薇になってしまいそうだ。
(しあわせな、恋の色)
思わぬ幸せは、いばらの指先にまで染みる。爪紅めいて色付いた爪の先に、いばらはふと伝承に語られる姫君のことを思い出す。
どうして彼女が声を封じられねばならなかったのか――その理由をいばらは知らない。
でも、恋を伝えられない狂おしさは、いばらでも分かる。
最初は面映ゆくて、恥ずかしくて、怖くて。芽吹いた柔らかな恋の蕾を、誰しも秘そうとするだろう。故に“恋の始まり”の頃はいいのだ、声を封じられていることは。
けれど隠そうとすればするほど、ますます募りゆくさざめきは苦しさを増すばかり。
(――ふふ)
結局
お喋りバラは、唇は真一文字に引き結び続けることに耐えきれず、ぽろりと溢して、咲かせてしまった。
その花を、彼は『嬉しい』と受け取ってくれたのだ!
(ふふ、ふふ)
思い出すだけで笑み崩れてしまう嬉しさが、恋の蕾みたいにいばらの中でどんどん膨らんでいく。
ぷつんと棘の先が刺さっただけではち切れてしまいそうな幸福に満たされて、いばらは無敵の気分。だから弾けてしまう前に、素敵な笑顔の花たちを守る力に換える。
くるり、くるり。
指揮者が振るタクトのように薔薇の紡錘を繰り、いばらは魔法の糸を縒り。花の香りを届けるみたいに、エリクシルドラゴンの顔の周りに漂わす。
然して、後背から斬りつけられたばかりの宝石竜は、気付いた時には芳しい糸にすっかり絡げ取られ。ことり。枯れてしまった花と同じ末路を辿る。
赤い宝石が崩れ逝く先は、砂の国。
全ての赤が砂の粒より小さくなって消えた後、番い羽たちは手を取り合って“ただいま”と“おかえり”を交わすのだけれど。それは此処では語らぬ物語。
大成功
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