「いやー、暑いねえ!」
「こんな炎天下の昼下がりにも桜が舞い散ってるなんて、脳がバグりそう……」
ここはサクラミラージュ、帝都の大通り。
カンカン照りの太陽にも負けないニコニコ笑顔で爽やかに暑いと言う御桜・八重(桜巫女・f23090)は、対照的にグロッキー気味なミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)と二人連れだって、ひとときの休暇を堪能するべく歩を進めていた。
「? あれって……」
あまりの暑さにうんざりしたか、ジトッとした目つきで前を見ていたミネルバがふと呟くのを聞いて、八重もつられて前方を注視する。
「! 北大路さん!」
二人の視界が捉えたのは、かつて『篭絡ラムプ』事件で救出? した一般人にして、現在は帝都桜學府情報部に籍を置く北大路青年であった。
「……やあ、二人とも。相変わらず元気そうだね……」
「そっちこそ、っていいたいところだけど」
「何だか、ふらついてない?」
見れば、北大路青年はかっちりと桜學府の制服を着込んで、噴き出す汗は止まらず、顔色も真っ青で。
――これって、熱中症ってヤツでは?
即座に判断した二人の乙女は、北大路青年の両脇をがっちり固めて、迷わず馴染みのカフェー『小径』に雪崩れ込む!
「いらっしゃいませ……まあ! どうしましたか? お連れ様の顔色が酷く……」
「すみません、熱中症の疑いがあるんです。お水をもらえませんか?」
「はいっ!」
看板娘の「志のぶちゃん」が慌ててカウンターの奥に引っ込めば、満員だった店内からもこれは一大事だと席を空けて協力してくれるお客様も現れる。
「……うう……」
「北大路さん、もう大丈夫だからね!」
ゆったりとしたソファーに深々と腰掛けさせ、八重は北大路青年をメニュー表で扇いで冷房が良く利いた店内の空気を送る。
「どうぞ、お飲みになって下さい! 冷たいおしぼりもどうぞ」
「ありがとうございます! 北大路さん、お水飲める?」
「の……飲む……」
息も絶え絶えに、北大路青年がグラスから冷水を一気に飲み干す。
「よし、そうしたらこのおしぼりを顔に被せ……」
「(もごもご、もごー)」
「違う違う! 八重、首元に当ててあげて!」
コントかと思うじゃん? 八重ちゃんは至って真面目です。
「念のため、全身冷やしといてあげるわね。サービスよ」
ミネルバもオーラの力で冷気を起こし、北大路青年の全身を包んでやる。
「あ~~~、生き返る……」
こうして、北大路青年は生命の危機を脱したのであった。
人々の好意で席をひとつ空けてもらった八重一行は、カフェーの片隅で改めて一息ついていた。
「……で、あんな炎天下でフラフラになって、何があったの?」
八重がすっかり回復してアイスコーヒーを飲んでいる北大路青年に尋ねる。
「いやあ、それがだね。桜學府で近々昇進試験が行われるのは知っているかい?」
「八重、そうなの?」
「……そういえば、そうだった、ような……」
ミネルバはともかく、帝都桜學府所属の學徒兵でもある八重はアハハと空笑い。
「御桜くんは多忙だし、主に内勤の者向けの話だから知らなくても仕方がないさ」
聞けば、その昇進試験には座学も含まれているようで、夜を徹して猛勉強中。
一方で、日常の勤務も訓練もおろそかにすることなく誠実に取り組み、その上本来北大路青年の管轄ではない帝都の警邏任務までどこぞの誰かに押し付けられても文句一つ言わず引き受けて――この有様ということだった。
「頑張りすぎだよ~~~」
アイスティーを一口啜ってから、八重が嘆息を漏らす。
「そうよ、そもそも何で本来の任務以外のことまで引き受けなきゃならないワケ?」
クリィムソーダを行儀悪くぶくぶくさせるミネルバの疑問ももっともだ。
「ネリーちゃん、あのね……」
苦笑いで誤魔化そうとする北大路青年に代わって、八重が桜學府の裏事情を説明する。
「北大路さんがそもそも桜學府に採用された間接的なきっかけは『篭絡ラムプ』だった。いわば『特例中の特例』みたいなものでもあってね、それを良く思わない學府内の人もどうしてもいるんだ……」
裏口入学。
依怙贔屓。
その他諸々、表立っては言われないものの、密やかな中傷はどうしても起きてしまう。
それらを黙らせるには結果を出すのが一番だと、つい頑張ってしまうのだろう。
「体を壊したら元も子もないよー」
「ホントよ、バッカじゃないの?」
「いやはや、返す言葉もないよ……現に、君たちが居なかったら僕は行き倒れていた」
八重も北大路青年も、ミネルバの辛辣な言動の中に相手を心配すればこその気持ちを見出していたので、和やかな雰囲気はむしろ増したように思えた。
どうしてそんなに頑張るのか?
『あの
女性のためなんだよね』
そう言いたくなるのを、八重は呑み込む。
わざわざ言わなくても、これまでの言動から、痛いほど伝わってくるから。
けれど、これだけは言っておきたいということがあった。
「助けが必要な時は、ちゃんと頼ってね」
「……え」
「わたしも、北大路さんに助けてもらうから」
そう告げて、テーブル越しにすい、と手を差し伸べる八重。
「……そうだね」
一度服に掌をこすりつけてから、八重の手を握る北大路青年。
「その時は、全力を尽くそう――無理のない範囲でね」
北大路青年は、ようやく屈託のない笑顔を見せた。
「そういえば、君たちは二人でどこに行く予定だったんだい?」
付き合わせてしまって申し訳ない、という顔で尋ねる北大路青年に、八重は元気良く答えた。
「浴衣選び! 今度、彼とお祭りに行くんだ♪」
「はぁ!? リア充自慢とか、聞くんじゃなかったよ!」
口調こそ荒くもあり、笑顔はそのままに、北大路青年は席を立つ。
「今日は本当にありがとう、でももう大丈夫だから行かないと」
「ホントに? 気を付けてね」
「そうよ、死なない程度にね」
そのまま志のぶちゃんにも頭を下げながら店を出る北大路青年を見送ると、八重とミネルバは顔を見合わせて、悪い顔で笑った。
「……炎天下の警邏なんて押し付ける意地悪なヤツには
「そうね、『お仕置き』が必要ね」
二人の目が、ビカアッと光ったのは、気のせいだろうか?
成功
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