第4ターン(大陸歴939年2月第3週)
大陸歴939年2月13日23:55。
ライエルンジーゲン特別市オーベン=リンデン区/駐ライエルン・サクソニア連合王国公使館内/駐在武官室。
「その情報、内容に間違いはないか?」
「はい、大佐。国防軍内の協力者からもたらされた機密情報で、出処は確かです」
「情報提供者の身分や立場に間違いが無いからと云って、正確な情報とは限らんぞ。協力者自身の主観や思い込みが混じっていないか?精査を怠るな」
旧神聖ライエルン帝国時代の大貴族の邸宅を買い取り、数次に渡って改修を施した、サクソニア連合王国公使館。
改修工事の結果、建物からは、往時を偲ばせる優雅な装飾や調度品の幾つかは、(連合王国の在外公館としての最低限の威儀を保つためのものを除いて)取り除かれ、代わりに、外部からの侵入や盗聴・盗撮行為を防ぐための無数の仕掛けが張り巡らされた、要塞のような建造物へと変貌を遂げています。
「先週、総統臨席の下で実施された、図上演習の結果はどうだったのだ?」
「はい。状況設定を変えて、何度か実施されたシミュレーションの結果、概ね87%の確率でライエルン軍は初期の戦略目標を達成する、との結果が出た模様です」
「共和国本土の北半分が開戦後3週間以内に蹂躙される……という訳か」
「はい。幾つかの部隊は国境要塞や各地の都市に籠って抵抗を続けるでしょうが、共和国第1軍集団の主力部隊は軒並み壊滅状態に陥ります。共和国側が残存兵力を再組織化し、新たな防衛ラインとして機能する段階まで立て直す事は事実上不可能でしょう」
ふむ、と低い声を漏らした駐在武官……ライエルンに於けるサクソニアの情報活動を統括する大物スパイは、しばしの間、目を閉じて思考に耽りました。彼の所属する特別情報部(MIS)は、連合王国首相チャールズ・コリン・ラウンデルに直属する情報機関であり、連合王国陸海空軍の軍組織を通じた情報収集活動のほか、スパイによる各種工作活動、通信傍受、暗号解読等も管轄する、強大な組織です。各国に駐在するサクソニアの在外公館にはMISの支局が存在し、外交官の肩書で多くのスパイ達が合法・非合法を問わず様々な諜報活動を展開しています。
「共和国第2軍集団は、南部の守りを放棄して、首都防衛に駆け付けざるを得なくなるな」
「第1軍集団が潰滅する以上、残りの兵力を掻き集めた所で、結果は知れています。アストリアスの陥落は不可避かと」
「我々の親愛なる同盟国は、”アンドレライン”に国力を傾け過ぎたのだよ。要塞線の建設に投入した膨大な人的物的資源を軍の拡充と近代化に振り向けていれば、ライエルンとの軍事格差がここまで拡大する事もなかっただろうに」
「二度のヴェーヴェルスブルク戦役に於ける敗戦が余程堪えたのでしょう。共和国政府も国民も、ライエルンに対する積極攻勢戦略に対する自信を完全に失ってしまいました」
そう、状況を分析してみせた部下の言葉に、長年にわたり、諜報活動の世界に身を置いてきた男は静かにかぶりを振りました。
「理由はそれだけではないぞ。ゴール人達は……国民も、政治家も、軍人でさえもが、ライエルンの巧妙な情報操作に踊らされて要塞万能論の虜となってしまったのだ。『”アンドレライン”さえあれば、ライエルン軍が侵攻してきても恐るるに足らない。必ず撃退できる』と、今この瞬間も信じ切っているのだよ」
「何年もの間、国防予算の大半が”張り子の虎”同然の国境要塞群に浪費され続けているという事実に盲目になりながら、ですか?」
「その通りだ。加えて、ライエルン人は、今度は、その”アンドレライン”が無用の長物だったという真実を白日の下に晒す事で、ゴール人共の戦意を完全に挫こうとしている。敵ながら誠に天晴、見事な諜報工作と云わねばなるまいな……」
●今回、結論を出す必要のある議題(第4ターン)
親衛隊装甲軍の作戦行動方針。
ジーベルト参謀総長より、『親衛隊装甲軍の作戦行動方針について意見のある者は早急に提出するように』という指示が発出されました。
親衛隊装甲軍は、プランA・プランB共に、西方総軍直轄部隊として北部戦域で作戦に参加する事になっていますが、今回の定例全体会議に於いて提示されるプランAの改訂案では、A軍集団の一部と協力してメディス付近で”アンドレライン”を突破後、クリスベルンを経てノールに進撃する事になっているのに対し、前回の全体会議に於いて改訂案が提示済みのプランBでは、A軍集団主力と共にアイフェルに進出した後、西に向かうA軍集団と別れてメディスに向かい、ヴァノアール方面の連合軍の牽制にあたる事になっています。また、参謀達の間には(以前に比べれば、少し下火となってきているものの)依然として親衛隊装甲軍を北部戦域に投入する事への不満も燻り続けており、合意形成にはかなりの困難が予想されます。
参謀総長は、前回と同様、意見が纏まらない場合は、職権で決定を下す事も辞さない方針のようです。
●懸案事項の一覧(第4ターン)
(1)全体会議の前に、NPCに面会し、質問したり、交渉を持ち掛けたりする事が出来ます。
対象のNPCは、クロースナー上級少将、フリンゲル少将、ヴェーゼラー少将、グロースファウストSD上級少将の4人です。
なお、4人は多忙であり、複数人に面会を求めた場合、希望通りに面会出来ない可能性があります(いずれか1人に面会を求める場合は必ず面会出来ます)。
(2)ケラーマン元帥の後任のA軍集団司令官に門閥貴族派のエヴァルト上級大将が任命された事で、これまでラインハルト政権に距離を置いていた門閥貴族派の幾つかの家門が総統支持に転じました。その影響で、国防軍への志願者数の増加が見込まれるようになり、国内総予備から西方総軍に対して追加の増援が送られる事が決定しました。具体的には、西方総軍所属の二線級歩兵師団を2個、一線級の歩兵師団に改編するか?あるいは、二線級歩兵師団3個の増派が可能となります。
この懸案事項の解決にあたる場合、2個師団の改編又は3個師団の増派のどちらが望ましいと考えるのか?及び、西方総軍のどの歩兵師団を一線級化するのか?あるいは、3個師団をどの軍・軍団に配備するのか?を考え、プレイングに記述して下さい。
(3)ケラーマン元帥の後任のA軍集団司令官に門閥貴族派のエヴァルト上級大将が任命された事で、A軍集団司令部の幕僚達やA軍集団所属の各軍・軍団司令官達の間に不安が広がっています。
元帥は国防軍随一の総統派であり、部下の中にも熱心な総統支持者が多数存在していますが、退任する元帥の後任として門閥貴族派の将軍が任命された事に対し、彼らの多くは戸惑いを覚え、一部の者は強く反発している状況です。
この懸案事項の解決にあたる場合、元帥の部下達の不安や不満をどのようにして取り除くのか?具体的にプレイングに記述して下さい。
(4)総統府より、前回に引き続き、ラインハルト総統の『”金の場合”に於いては、親衛隊装甲軍が重要な役割を果たす事を期待している』という内々の意向が伝達されています。
今回も正式な総統命令ではなく、あくまで個人的な要望というレベルに留まってはいますが、どういった風の吹き回しか?要求のトーンは、これまでに比べてかなり弱いものとなっています。
安藤竜水
PBWアライアンス【Reyernland über Alles! シナリオ#1”金の場合”】へようこそ!
本ゲームは、異世界<レーベンスボルン>に存在する軍事国家ライエルン連邦とその西隣に位置するゴール共和国との戦争を題材とする仮想戦記風PBWです。
皆さんには、ライエルン連邦国防軍最高司令部に所属する陸軍参謀本部の参謀将校となり、数か月後に実施される予定の共和国侵攻作戦"金の場合"の作戦計画の立案にあたって頂きます。
ゲームの開催期間は約1年間、ターン数は5回です(なお、ゲーム内では1ターンは約1週間に相当します)。
ゲーム期間終了後、制作された全リプライを元に最終的な判定結果を導き出し、断章として執筆・公開を予定しています。
本ゲームへの参加にあたっての注意点です。
皆さんの立ち位置は、陸軍参謀本部の作戦課に所属する佐官クラスの参謀将校であり、前線司令部で部隊を直接指揮したり、自ら最前線に立って敵と戦ったりする立場ではありません。
従って、リプライの中で、戦闘や戦場の場面が描かれる事は基本的には無いものとお考え下さい(そもそも、このゲームの対象期間は、最後に制作する予定の断章を除き、ライエルンとゴールとの戦争が始まる数か月前の時期となっています)。
皆さんに行って頂きたいのは、
(1)公開済みのリプライやゲームサイトに掲載されている情報(各ターンの初期情報、戦略マップ、戦力表、各種図表類、ルール、世界設定等)を活用して、オリジナルの作戦案を立案する。
(2)ゲームサイトに掲載されている、NPCが立案した二つの作戦案のどちらかを支持し、正式な作戦計画として採用されるように努力する。
(3)各ターンのシナリオ・オープニングに掲載されている懸案事項に関して、意見を述べ、解決に向けて努力する。
のいすれか、です。
ただし、(3)だけを選択する事は出来ません((3)を選択したい方は、必ず(1)又は(2)と一緒に行って下さい)。
なお、(3)については、懸案事項を解決出来なかったとしても、ただちにゲーム上の不利益が発生する訳ではありませんが、解決に貢献したと認められた方は、上官や関係者からの好感を獲得出来るだけでなく、状況によっては、本国からの増援部隊の来援等、ゲーム上の利益となる事象が発生する可能性もありますので、挑戦してみる価値は十分にあるでしょう。
第1章 日常
『プレイング』
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POW : 肉体や気合で挑戦できる行動
SPD : 速さや技量で挑戦できる行動
WIZ : 魔力や賢さで挑戦できる行動
イラスト:みやの
👑11
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ヘルムート・ロートシュタット
私は、改訂したA案を支持する。
なぜなら、ノールを包囲して敵の退路を断つ事によって、A案の欠点である「敵主力を取り逃がす」という点は補われていると考えるからだ。
また、B案も改訂して、その欠点である「ヴァノアールから側面攻撃されて戦力を分断される」という点を是正しているが、親衛隊装甲軍だけではヴァノアールからの側面攻撃を受け止めきれないかもしれないので、B案よりはA案の方が確実性が高いと考えるからでもある。
更に、確かに、親衛隊装甲軍だけではノールを包囲する戦力が不足しているのは否めないが、その場合は、新たに増設される二線級歩兵師団三個を親衛隊装甲軍に配備すれば良いと考えるからでもある。
大陸歴939年2月17日16:45。
陸軍参謀本部・作戦課第1会議室。
「私は、改訂を行ったプランAを支持する。
なぜならば、ノールを包囲して敵の退路を断つ事によって、改訂前のプランAの欠点として指摘が上がっていた、敵主力を取り逃がす可能性に関しては、十分に対処する事が出来ると考えるからだ」
白熱した議論の交わされる大会議室内に、ヘルムート・ロートシュタット歩兵上級大佐の朗々たる声音が響き渡る。必ずしも技巧に優れているという訳ではないヘルムートの意見陳述だが、ライエルン社会に於いて美徳とされる質実剛健を絵に描いたような彼の風貌と自信に満ちた堂々たる立ち居振る舞いは、彼の発する言葉に、多少のレトリックの欠如などものともしない、雄弁な説得力を与えていた。
「たしかに、改訂前のプランAに関しては、ヴァノアールの連合軍が海路を用いて脱出する可能性に関する認識が甘かった点を認めなければならないだろう。だが、批判を受けて再検討を行った事により、プランAは、より強靭な、隙の無い作戦計画として生まれ変わる事が出来たのだ」
そう前置きして、改訂後のプランAと(前回の全体会議に於いて、既に改訂案が提示済みの)プランBとの比較論を展開し始める、上級大佐。
彼が行った、『北方からのヴァノアール方面への進撃と並行してノールに進軍し、ヴァノアールの連合軍部隊の退路を断つ』という基本方針に於いては、改訂後のプランAもプランBも大差はないが、プランBに関しては、ヴァノアール方面の連合軍が兵力の一部を割いてノール攻撃部隊の側面を衝こうとした場合、敵軍の投入兵力によっては親衛隊装甲軍だけでは攻撃に対処しきれない可能性がある』という指摘に対しては、プランBの支持者達から反論が相次いだものの、『至極尤もな意見である』と評価する参謀達も多く、激論となった。
一部の参謀からは、『これまで親衛隊装甲軍の北部戦域投入に散々反対しておきながら、一転してこのような改訂案を提示するとは、今までの議論は一体何だったのか?』という、皮肉のスパイスをたっぷりとまぶした揶揄の声まで上がったものの、ヘルムートが、改訂前のプランAについて欠陥が存在していた点を過小評価していた事を率直に認め、反省の弁を述べたのを『潔い態度だ』と好感を以て受け止めた者も多く、大きな批判にはつながらなかった。
もっとも、ノールに進撃させる親衛隊装甲軍の運用方法に関して、『親衛隊装甲軍の6個師団だけで、ノールまで進撃する事が本当に可能なのか?』と疑問を投げかける参謀達は一定数存在し、更なる議論を惹起する事となる。
ちなみに、この点に関しては、ヘルムート自身も全く不安を感じていない訳ではなかったため、『国防軍への志願者数増加に伴い、新たに編成されて西方総軍に配備される運びとなるでろう、二線級歩兵師団3個を、西方総軍直轄として親衛隊装甲軍の支援に回すべきである』という意見を付け加えている。
結局、親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、前回の全体会議と同様、プランAに賛同する参謀達の人数とプランBに賛同する参謀達の人数がほぼ拮抗し、議論はどこまでも平行線を辿り続け、最終的に、現時点での参謀間の合意形成は不可能だと判断したジーベルト参謀総長によって、議論の打ち切りと職権による作戦行動方針の策定が宣言される事になった。
そして、後日、参謀総長の名で、A軍集団直轄部隊の第24装甲軍団とC軍集団第1軍第49山岳軍団を西方総軍直轄に異動させた上で、親衛隊装甲軍と共に、改訂されたプランAの方針に沿う形でノールに向けて進撃する事に決定した、との通知が為される運びとなる(ただし、この決定は暫定的なものであり、次週(2月第4週)に予定されている定例全体会議に於いて決定される予定のA軍集団の作戦行動方針の内容次第で、白紙化も含め再検討が為される旨、明記されていたが)。
ヘルムートが主張した、新設される二線級歩兵師団3個を西方総軍直轄に配属させる、という提案は惜しくも採用には至らなかったが(ちなみに、件の3個師団は、C軍集団所属の第1軍に送られ、代わりに、第1軍に所属する第49山岳軍団が西方総軍直轄に異動する事になった)、ジーベルト参謀総長は、プランBを推す参謀達が指摘した問題点は正当な意見であると認めつつも、親衛隊装甲軍の作戦行動方針そのものは、基本的には改定後のプランAに沿って実施するべきだ、という判断を下したのだった。ヘルムートをはじめとするプランAの支持者達にとっては、(完璧な勝利とまでは言えないまでも)努力が実を結んだ形となったのは間違いないだろう。
なお、ヘルムートは、A軍集団司令部の幕僚達やA軍集団に所属する各軍・軍団の司令官クラスの士官達から、エヴァルト上級大将のA軍集団司令官就任への反発が出ている件について、エヴァルト上級大将にケラーマン元帥を立てるポーズを取って貰う事で、彼らの感情を宥めるべきだ、と考え、意見を同じくする参謀達と共に参謀総長に意見具申を行っている。
A軍集団の将兵から強い尊敬を集め、その精神的支柱となっているケラーマン元帥の顔を立てて見せる事で、将兵の心を慰撫し、動揺を沈静化させる心理的効果を狙った策であり、エヴァルト上級大将の側としても、部下であるA軍集団の将校達に対して、必要以上に大幅な譲歩を強いられる訳では無いという点で、比較的受け入れやすいという利点があった。
この意見具申はシーベルト上級大将の容れるところとなり、後日、エヴァルト上級大将自らが療養中のケラーマン元帥を見舞い、敬意を表するという形で実現する事になる。その結果、元帥の部下達の、新任のA軍集団司令官に対する感情は、少なくとも表面上は好転の兆しを見せ、門閥貴族派に対して根強い反感を抱く熱烈な総統派士官達(主に平民階級の出身者が多い)も大っぴらに不満の声を上げる事は少なくなっていった。
(……ギリギリの勝利ではあるが、勝ちは勝ちだ。最悪、親衛隊装甲軍の作戦行動方針がプランBに基づく形となった場合に備えて、追加の意見具申の準備も整えていたのだが、杞憂に終わったのは何よりだったな。
出来る事なら、今の勢いを維持しつつ、最後の全体会議に臨みたいものだが、プランBを支持する者達も、このまま大人しく負けを認めたりはせんだろう。プランAを”金の場合”の基本戦略方針として認めさせるためには、最後まで気を抜く事無く、持てる力を振り絞らねばなるまい
……!!)
大成功
🔵🔵🔵
ヘルミーナ・モルトケ
(2)全体会議では、改訂後のプランAを支持する。
改訂後のプランAは、改訂前のプランAの問題点として指摘を受けた、連合軍部隊の海路撤退の可能性を摘み取っている、と主張。
親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、改訂後のプランAの通り、行動すべきだと主張。
『親衛隊装甲軍だけでノール進撃が可能なのか?』という質問に対しては、『十分に可能』と回答(詳細は、補足プレイングに記述)。
懸案事項の(3)について、門閥貴族派のエヴァルト上級大将が総統派のケラーマン元帥の後任に選ばれた事に、元帥の部下達が困惑を覚えるのは無理からぬ事だ、と考え、参謀本部として注意を払い、必要ならば上級大将に指導を行うべきだ、と主張。
大陸歴939年2月17日13:20。
陸軍参謀本部・作戦課第1会議室。
「……以上、此の度改訂されたプランAは、改訂前のプランAに於いて問題点として指摘され続けてきた、連合軍部隊の海路撤退の可能性につきまして、これを完全に摘み取っていると申し上げて問題ないと確信いたします」
ヘルミーナ・モルトケ装甲兵中佐の淀みない説明が広々とした大会議室に響き渡る。
今回の全体会議に於いて、プランAが、これまで南部戦域で運用すべきだとしてきた親衛隊装甲軍を、北部戦域に投入する方向に方針を変更した事、そして、その判断に至った理由を、会議への出席者達に対して説明する役目を買って出た彼女は、理路整然たる論調と丁々発止の受け答えで、列席の参謀達の困惑や疑問を最小限に抑え込む事に成功していた。
(大丈夫。今の所、参謀達の反応は先週のような酷いものではないわ)
前回の定例全体会議に於いて、パウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐に向けられた激しい敵意を思い起こしつつ、心の中で息を吐くヘルミーナ。
パウラが”露払い役”を務めてくれたお陰だろうか?今回の全体会議では、親衛隊装甲軍の投入先を北部戦域に変更するという方針転換に対する、列席の参謀達(特に、これまでプランAを支持し続けてきた者達)からの反応は、
事前にヘルミーナが予想していたものよりも、ずっと穏やかで、冷静なものが多かった……少なくとも、表面上は。
(どうやら、大半の参謀達は、親衛隊装甲軍を北部の戦場に振り向ける事はやむなし、という半ば諦観の心境に達しているのかもしれませんね。加えて、ここ最近は、あれほど熱心に”金の場合”に於ける親衛隊の活躍を待ち望む意向を示されていた総統閣下も、その事を口にされなくなっているようですし、心理的な障壁も下がってきているのでしょう)
ラインハルト総統の豹変ぶりは、多くの参謀達の間で、『一体、どういう風の吹き回しなのだろうか?』と、大きな驚きと様々な憶測を以て受け止められているものの、ヘルミーナにとってその理由を想像するのは至極容易だった。おそらく、いや、ほぼ間違いなく、総統がこの問題に関する態度を一変させたのは、クロースナー上級少将がプランAの改訂を行うと明らかにした事によるものだろう。すなわち、(具体的な作戦方針は兎も角)親衛隊装甲軍を北部に投入する事が参謀本部に於いて事実上確定した以上、総統にとって”口先介入”を続ける必要は無くなった、という事であるに相違あるまい。
(まったく……国家元首として、他国や国内の反対勢力に容易に自分の考えを悟らせないようにする事を心掛けていらっしゃるのは理解できますが、総統閣下の秘密主義にも困ったものですわ。振り回されるわたくし達は本当にたまったものじゃないッ!)
親衛隊傘下の政治警察の耳に入ったならば、政治犯として即座に拘束される事請け合いの、最高指導者に対する愚痴を心の奥底で毒づきながらも、あくまで冷静沈着な発言内容と抑制的な口調で、親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、改訂後のプランAの通り、行動すべきである旨意見を述べる、ヘルミーナ。
彼女の主張に対しては、エリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐をはじめとするプランBの支持者達から、『親衛隊装甲軍と第24装甲軍団だけでノールへの進撃が可能なのか?』『仮にノールまで到達できたとしても、連合軍の反撃により後方のクリスベルンが解囲されれば、ノールに突入した部隊が孤立する事になるのではないか?』という疑問や批判の声が多く集まっていた。だが、あらかじめ、この種の反論が寄せられるであろう事を予想していたヘルミーナは、『親衛隊装甲軍(正確には、親衛隊装甲軍が所属する西方総軍直轄部隊)に、第24装甲軍団に加えて更に1個軍団の増援を送って突破部隊の戦力を強化すれば、ノールへの到達は十分に可能であり、連合軍側がクリスベルン付近に於いて分断を試みたとしても防ぎ切る事が出来る】と再反論を行い、両者の議論の行方を注視していた参謀達が改訂後のプランAに対して不安を募らせるのを防ぐ事に、かなりの程度、成功を収めたのだった。
ただし、親衛隊装甲軍への増援に関しては、ヘルミーナ自身はA軍集団第12軍所属の第47自動車化軍団の増派を望んでいたものの、既に軍集団直轄の第24装甲軍団を増援として提供しているA軍集団から更に装甲部隊を引き抜くのはいかがなものか?という懸念の声が多く上がったため、彼女の提案は不採用に終わってしまった。
代わりに採用されたのは、C軍集団第1軍所属の第49山岳軍団を西方総軍の直轄に移管した上で、同装甲軍への増援に充てる、というパウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐の意見である。第49山岳軍団は装甲部隊ではないため、ノールまでの進出は不可能だが、途中一度も戦闘を行わなければ、クリスベルンには到達できる。第3SD装甲軍団の代わりにクリスベルンの包囲に投入し、同SD装甲軍団をノールに向かわせるべき、というのが採用されたヒンデンブルク案の骨子だった。
喧々諤々の激論の結果、親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、プランAに賛同する参謀達の人数とプランBに賛同する参謀達の人数がほぼ拮抗し、前回の全体会議と同様、両者の議論はどこまでも平行線を辿り続ける事になる。そして、最終的には、現時点での参謀間の合意形成は不可能だと判断したジーベルト参謀総長により、議論の打ち切りと職権による作戦行動方針の策定が宣言されて、全体会議は終了したのだった。
また、ヘルミーナは、全体会議の席上、懸案事項の(3)について、『門閥貴族派のエヴァルト上級大将が総統派のケラーマン元帥の後任に選ばれた事に、元帥の部下達が困惑を覚えるのは、人間感情として無理からぬ事だ』と考えた上で、参謀本部としてこの問題に特別な注意を払い、必要であれば、エヴァルト上級大将に対し、軍集団司令部の幕僚達や各軍・軍団の司令官達の感情に対して配慮するよう、指導を行うべきである、との主張を行った。
軍法に照らせば、A軍集団のトップであるエヴァルト上級大将に対し、部下にあたる幕僚や軍司令官達はその職務上の指揮命令に服従する義務を負っており、これに従わない事は、抗命行為として軍法会議に送られても仕方のない重罪に該当するのだが、ヘルミーナとしては、この問題に関しては、軍法や軍の指揮命令系統のみに拠って解決を目指すのは、却って状況を悪化させ、A軍集団内部に深刻な相互不信を根付かせる結果に繋がりかねない、と危惧した訳である。
参謀達からは『中佐の懸念はもっともではあるが、エヴァルト上級大将にとっては、着任早々、出鼻を挫かれた形となり、内心面白くない事甚だしいに相違ない。もう少し、上級大将が受け入れ易い手段を用いた方が良いのではないか?』という意見が出て、討議が行われた結果、この件に関しては、ヘルミーナの提案は一時保留とした上で、まずはエヴァルト上級大将にケラーマン元帥を立てるポーズを取って貰う事で、元帥の部下達の感情を宥める、という策を講じる事になった。A軍集団の将兵から強い尊敬を集め、その精神的支柱となっているケラーマン元帥の顔を立てて見せる事で、彼らの感情を慰撫し、過激な行動を自制するように促す効果を狙った対応策であり、上級大将の側としても、部下であるA軍集団の将校達に対して、必要以上に譲歩を強いられる訳では無いという点で、比較的受け入れやすいという利点がある。
参謀達が下した結論はシーベルト参謀総長の容れるところとなり、後日、エヴァルト上級大将自らが療養中のケラーマン元帥を見舞い、敬意を表するという形で実現する運びとなった。その結果、元帥の部下達の、新任のA軍集団司令官に対する感情は、少なくとも表面上は好転の兆しを見せ、門閥貴族派に対して根強い反感を抱く熱烈な総統派士官達(主に平民階級の出身者が多い)も大っぴらに不満の声を上げる事は少なくなっていったのだった。
(……わたくしとした事が、A軍集団の一件に関しては些か先走り過ぎていたようですわ。元帥の部下達の感情だけではなく、エヴァルト上級大将の側の心理に対しても配慮を行うべきでした。今後は十分に注意するといたしましょう……)
成功
🔵🔵🔴
エリーシャ・ファルケンハイン
(2)"金の場合"の戦略方針に関して、全体会議の場で、プランBの採用が適当である旨、意見を述べる。
今回提示された改定後のプランAに関しては、ヴァノアールの連合軍が海路で撤退する可能性に対処を試みている点は改善と認めるものの、
親衛隊装甲軍だけでノールまで進撃するという作戦行動方針に関しては、兵力が不足しているのではないか?と疑問を投げかける。
なお、懸案事項の(2)に関して、新設の二線級歩兵師団3個の増派を主張。
配属先は、B軍集団直轄部隊とし、第56装甲軍団の代わりに、ヘルダーラント正面の”アンドレライン”への攻撃に投入すべきだ、と提案する(なお、第56装甲軍団は第2装甲軍に編入すべきと考える)。
大陸歴939年2月17日14:15。
陸軍参謀本部・作戦課第1会議室。
(今回の全体会議は、前回や前々回とは違う。"金の場合"の戦略方針決定に重大な影響を与える議論の場となるでしょう……)
自分の発言の順番を待ちながら、エリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐は緊張した面持ちを浮かべていた。
今回の定例全体会議の主要議題は、親衛隊装甲軍の作戦行動方針。これまで幾度と無く議論を重ね、その都度、結論を後日に持ち越し続けてきた、"金の場合"最大の懸案事項がついに決着の刻を迎えるのである。
("金の場合"に於いて顕著な武勲を上げる事を望む親衛隊と戦略決定での主導権を譲りたくない国防軍との対立に、政治的な思惑を秘めた総統閣下の言動が複雑に絡む、この厄介な問題が決着しなかったせいで、これまで、"金の場合"を巡る議論は停滞と空転を繰り返し、徒に時間だけが過ぎていく状況が続いてきましたが……)
胸の中で独りごちる、エリーシャ。視線の先では、普段通りの定位置に陣取ったジーベルト上級大将が、柔和な、それでいて本心を全く窺わせる事の無い、独特の微笑みを湛えつつ、参謀達の意見に耳を傾けている。
(……おそらく、参謀総長閣下としては、この状態をいつまでも続けている訳にはいかない、と腹を括られたのでしょう。そのためには、多少の火傷は覚悟の上で、火中の栗を拾うのもやむなし、と)
議論の中で、プランBを推す立場である彼女が展開したのは、これまで南部戦域での運用を主張してきた親衛隊装甲軍を北部戦域に投入する方向に舵を切ったプランAに対し、その方針転換そのものは、ヴァノアール方面の連合軍が海路で撤退する可能性に対処を試みている点に於いて一歩前進であると一定の評価を行いつつも、親衛隊装甲軍だけでノールまで進撃するという具体的な作戦行動方針に関しては、兵力が不足しているのではないか?と疑問を投げかける、という主張だった。すなわち、プランBに於いては、A軍集団主力が主体となって実施し、親衛隊装甲軍をその側面支援に就かせる事にしている、ノールへの突進を、親衛隊装甲軍のみで実行するという内容の改訂後のプランAの戦略方針について、改訂後のプランBは勿論、改訂前のプランBと比較しても、明らかに無謀な作戦であると批判しつつ、投入兵力の不足によってノールへの到達には相当な困難が予想されるのは勿論、仮に先頭を行く部隊がノールに到達できたとしても、連合軍側の反撃によってクリスベルン付近の部隊が撃破されれば、ノールに突入した部隊は本体から分断され孤立化する可能性が高い、と、かつて、プランAの支持者達が改訂前のプランBに対して指摘したのと同じ問題点を衝いてみせたのだった。
エリーシャのこの指摘に対し、改訂後のプランAを支持する参謀達は、ヘルミーナ・モルトケ装甲兵中佐やパウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐を中心に、親衛隊装甲軍(正確には、親衛隊装甲軍が所属する西方総軍直轄部隊)に1個乃至2個軍団の増援を送って突破部隊の戦力を強化すれば、ノールへの到達は十分に可能であり、連合軍側が分断を試みたとしても防ぎ切る事は出来る、と反論。また、プランBに於けるA軍集団主力とは異なり、改訂後のプランAに於ける親衛隊装甲軍の進撃ルートは、ヴァノアールに向かって進攻するA軍集団の進撃ルートのすぐ南に位置しているため、連合軍側の反撃を受ける可能性は相対的に少ないものとなる、という説明を行い、参謀達の不安を和らげる事に(かなりの程度)成功を収めていた。
その結果、親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、プランAに賛同する参謀達の人数とプランBに賛同する参謀達の人数がほぼ拮抗し、前回の全体会議と同様に、議論はどこまでも平行線を辿り続ける事になる。そして、最終的には、現時点での参謀間の合意形成は不可能だと判断したジーベルト参謀総長により、議論の打ち切りと職権による作戦行動方針の策定が宣言されて、全体会議は終了したのだった。
なお、エリーシャは、国内総予備から西方総軍に対して送られる事となった追加の増援について、新設の二線級歩兵師団3個の増派を求めるべきであると主張した上で、現在、B軍集団直轄部隊となっている第56装甲軍団を軍集団直轄から外し、第2装甲軍に編入すべきであるとの観点から、新設の3個二線級歩兵師団の配属先をB軍集団直轄部隊とし、第56装甲軍団の代わりに、ヘルダーラント正面の”アンドレライン”への攻撃に投入する事を提案している。
彼女のこの意見に対しては、二線級歩兵師団3個の増派に関しては賛同する参謀も多かったものの、3個師団の配属先に関しては異論も多く、残念ながら、彼女の意見は多数の支持を得る事は叶わなかった。ちなみに、最も多くの参謀達の支持を集め、採用に漕ぎつけたのは、パウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐の、3個師団をC軍集団に送る代わり、同軍集団に所属する第1軍の第49山岳軍団を西方総軍直轄に移管する、というプランだった。
そして、後日、参謀総長からは、A軍集団直轄部隊の第24装甲軍団とC軍集団第1軍第49山岳軍団を西方総軍直轄に異動させた上で、親衛隊装甲軍と共に、改訂されたプランAの方針に沿う形でノールに向けて進撃する事に決定した、との通知があった。
一応、この決定は暫定的なものであり、次週(2月第4週)に予定されている定例全体会議に於いて決定される予定のA軍集団の作戦行動方針の内容次第で、白紙化も含め再検討が為される旨、付記されてはいるものの、要は、プランBを推す参謀達が指摘した問題点に関しては正当な意見と認めつつも、親衛隊装甲軍の作戦行動方針自体については、パウラ達の主張を是として、改定後のプランAに沿って実施すると定めた訳であり、エリーシャをはじめとするプランBの支持者達にとっては、(完全な敗北とまでは言えないまでも)痛手を受けた格好となった感は否めなかった。
(これは、些か不味い状況になりましたわ。
何とかして、来週の全体会議までに劣勢を挽回する策を見出す事が出来なければ、未だ支持を明確をしていない参謀達の大半がプランA支持に回る事態ともなりかねません……)
成功
🔵🔵🔴
パウラ・ヒンデンブルク
(2)全体会議の場で、改訂後のプランAへの支持を表明。
親衛隊装甲軍については、同案の方針に沿う形で運用すべき、と主張する。
同装甲軍の北部戦域投入に不満を抱き続ける参謀達には『北部への投入といっても、ノールの包囲は補助的な任務であり、戦場の主役は連合軍主力と相対する国防軍部隊だ』と慰撫に努める。
懸案事項(2)については、二線級歩兵師団3個の増派を求めた上で、
これをC軍集団第1軍に配属する代わりに第1軍から第49山岳軍団を引き抜き、西方総軍の直轄に移管、クリスベルン包囲戦への投入を提案。
この件に関して、ヴェーゼラー少将に面会し、自案の意図を説明して協力を求める(詳細は、補足プレイングに記述)。
大陸歴939年2月15日16:30。
陸軍参謀本部・作戦課第3小会議室。
「新設される二線級歩兵師団3個からなる1個軍団をC軍集団に増派する代わりに、C軍集団所属の第1軍から山岳猟兵軍団を西方総軍の直轄部隊……要は、ノールに向かう親衛隊装甲軍の増援に回して欲しい、と。君が言わんとしているのはそういう事かい、ヒンデンブルク歩兵少佐?」
こめかみに手をやりながら訊ね返して来る、ハインツ・ヴェーゼラー陸軍少将に対し、短く、「その通りです」と答える、パウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐。真面目な表情を浮かべてはいるものの、形の良い藍色の双眸には、まるで悪戯っ子のような笑みが浮かんでいた。
「ただし、第49山岳軍団は装甲部隊ではありませんので、ノールまで進出させる事は不可能です。ですから、改訂後のプランAに於いて、第24装甲軍団が主力となって実施する事になっている、クリスベルンの包囲戦への投入を考えています」
「一見した所、C軍集団にはメリットがあるような提案とは思えないんだが」
「"C軍集団にとっては"その通りかもしれません。しかしながら、"C軍集団司令部にとっては"どうでしょうか?おそらく、大いに魅力を感じる提案ではないか?と想像いたしますが」
「ふむ……成る程、そういう事か」
こめかみを押さえていた指先を顎先へと移動させながら、C軍集団担当の主任参謀は、しばしの間、黙考に沈む。
目の前の女性参謀が、3個歩兵師団と引き換えに転出を要求している、第1軍所属の第49山岳軍団は、師団規模以上の装甲部隊が配備されていないC軍集団の中にあっては最も質の高い部隊の一つである。山岳地帯や森林地帯での作戦行動を主な任務として編成された山岳猟兵師団3個からなる当該軍団は、大口径の野砲や戦車等の重装備を有しない代わり、将兵の士気や練度は高く、総合的な戦闘能力では、同じ数の一線級歩兵師団によって構成される歩兵軍団にも決してひけを取らないと云って良いだろう。
(その山岳軍団と編成されたばかりの二線級歩兵師団3個を交換する……通常のケースであれば、軍集団司令部から猛反発を受ける事確実な話なんだがな)
現在のC軍集団司令部、なかんずく、軍集団司令官のリッター上級大将であれば、むしろ、喜んでその提案を受け容れようとする事だろう。その一方で、旺盛な戦闘意欲を持て余しているに相違ない山岳猟兵達にとっても、この申し出は歓迎しこそすれ、忌避する事など露程も思わないものであるのは想像に難くなかった。
「了解した、少佐。君の提案を前向きに検討すると約束しよう。
……ただし、この事と全体会議の場でプランAを支持するか否か?については別問題だからね。その点に関しては、くれぐれも誤解無きように」
「分かっていますよ、主任参謀殿」
念を押してくるヴェーゼラー少将に対し、にこやかな笑みで応じるパウラだったが、心の中では舌打ちを禁じ得なかった。
(今回の提案によって少将との距離を縮め、あわよくば、再度プランAへの支持を表明して頂ければ、と思っていたのですが、やはり、そう簡単には運びませんか。……まぁ、良いでしょう。少なくとも、現時点に於いて、少将にはプランB支持に回る意思はない事が確認出来たのですから、今回はこの結果で満足するといたしましょう)
ちなみに、ヴェーゼラー少将との面談の2日後に行われた、定例の全体会議の席上、パウラは改訂後のプランAへの支持を表明すると共に、親衛隊装甲軍については、同案の方針に沿う形で運用すべき、との主張を展開した。
同時に、同装甲軍の北部戦域投入に不満を燻らせ続けている参謀達に対しては、『北部に投入すると云っても、ノールへの攻撃は補助的な任務であり、戦場の主役は連合軍主力と相対する国防軍部隊です』という論法を用いて慰撫に努め、その感情を宥めようと試みる。パウラの説得は見事に功を奏し、改訂前のプランAを支持していた参謀達の不満は次第に鎮静化していき、(さすがに全員とまで行かなかったものの)彼らの多くは改訂後の同案の支持者となっていった。少なくとも、彼女が密かに危惧し、その出現を阻止しようとしていた、『当初の計画通り、親衛隊装甲軍はあくまで南部戦域に投入すべきである』などという過激な主張を行う者は最後まで現れる事無く、彼女を大いに安堵させる結果となった。
ちなみに、今回の全体会議の主要議題である、親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、プランAに賛同する参謀達の人数とプランBに賛同する参謀達の人数がほぼ拮抗し、前回の全体会議と同様に、議論はどこまでも平行線を辿り続ける事になる。そして、最終的には、現時点での参謀間の合意形成は不可能だと判断したジーベルト参謀総長により、議論の打ち切りと職権による作戦行動方針の策定が宣言されて、会議は閉会したのだった。
ちなみに、国内総予備から西方総軍に対して送られる事となった追加の増援については、(おそらくは、ヴェーゼラー少将が陰で色々と動いてくれたのが決め手となったのだろう)いくつかの意見の中からパウラの主張したプランが採用となり、新設される二線級歩兵師団3個によって構成される1個軍団をC軍集団に送り、その代わりとして、C軍集団に所属する第1軍の第49山岳軍団が西方総軍直轄に移管されるという部隊の配置転換が実施される運びとなっている。
そして、後日、参謀総長からは、A軍集団直轄部隊の第24装甲軍団とC軍集団第1軍第49山岳軍団を西方総軍直轄に異動させた上で、親衛隊装甲軍と共に、改訂されたプランAの方針に沿う形でノールに向けて進撃する事に決定した、との通知があった。ただし、この決定は暫定的なものであり、次週(2月第4週)に予定されている定例全体会議に於いて決定される予定のA軍集団の作戦行動方針の内容次第で、白紙化も含め再検討が為される旨、明記されている。要は、プランBを推す参謀達が指摘した問題点に関しては正当な意見と認めつつも、親衛隊装甲軍の作戦行動方針自体については、改定後のプランAに沿って実施すると定めた訳であり、パウラをはじめとするプランAの支持者達にとっては、(完璧な勝利とまでは言えないまでも)努力が実を結んだ形となったのは間違いない所と云えるだろう。
(……僅差の勝利ではありますが、何とか一勝を収める事が叶いました。
我々としては、上り調子のまま、次回の全体会議も乗り切りたいものですが、ヴェーゼラー少将はどうなさるおつもりでしょうか?最後までどっちつかずの態度を取り続ければ、”主任参謀として無責任に過ぎる”という批判は免れないでしょうから、おそらく、何らかの決断は下す腹積もりでいらっしゃるとは思いますが……)
大成功
🔵🔵🔵
ヴィルヘルミナ・グレーナー
(2)全体会議の場で、プランBへの支持を訴えます。
プランAについては『これまで親衛隊装甲軍の北部戦域投入に散々反対しておきながら、こんな改訂案を提示するとは、今までの議論は何だったのですか?』と、その一貫性の無さを批判します。
なお、懸案事項の(4)について、図上演習の場でのゲッペラー宣伝相の言葉は、『総統が本当に望んでいるのは、親衛隊装甲軍を北部戦域に投入する事ではなく、南部戦域に投入しない事の方である』という意味では?と推理した上で、
この件について確かめるために、グロースファウストSD上級少将に面会を求め、自分の推理をどう思うか?意見を求めます(詳細については、補足プレイングに記述)。
大陸歴939年2月12日13:30。
ライエルンジーゲン特別市内・ビアホール”バーデンヴァイラー”・個室スペース
「休日に呼び立てて済まなかったな」
「いえ、『出来るだけ急いでお目にかかりたい』と申し上げたのは私の方なのですから、それは別に構いませんが……」
日曜日の午後、ビールジョッキを片手に談笑する男女でごった返している、庶民的なビアホール。
店内に一室だけ設けられている個室の中で、ヴィルヘルミナ・グレーナー砲兵上級少佐は、グロースファウストSD上級少将と向き合っていた。二人共、軍服ではなく、私服姿……それも、平民階級の労働者達が着ているような、くたびれた衣服を身に纏い、アクセサリーの類は全て外した姿である。
「まぁ、悪く思わんでくれ。時節柄、耳目を集めるのは君も困るだろう……そういう時に人と会うには、こういった場所を使うのが一番だよ」
「は、はあ……」
そう言いながら、目の前の親衛隊連絡将校は、山盛りの馬鈴薯と酢漬けキャベツを肴に、安物のビールをガブガブと胃袋に流し込んだ。いかつい風貌と相まって、その姿は、傍目には、職工たちの棟梁か小商いに精を出す商店主にしか見えないだろう。何より、周囲は、真っ昼間から仲間達と大酒を飲んで騒ぎまくる酔客ばかりで、隣のテーブルで客同士が何を話し合っているか?関心を持つ者など誰もいない。落ち着いて会話のできる環境とは程遠いものの、確かに上級少将の言う通り、安全な会談場所には違いなさそうだった。
「……それで、君は、総統閣下の真の狙いは、親衛隊装甲軍を北部戦域に投入する事で、南部戦域で大きな戦闘が発生する可能性を減少させる事にある、とそう考えている訳だな?」
「はい、その通りです。先日のゲッペラー宣伝相のお言葉は、それを示唆したものではないか?と……」
周囲の騒音に負けじとばかり、声を張り上げる、ヴィルヘルミナ。
本来、こんな大声で会話するような話ではないだろうが、個室と云っても、ビアホールの一角をごく薄い煉瓦壁で仕切っただけの簡素な部屋であるため、大声を出さなければ、たちまち周囲のざわめきに掻き消されてしまい、会話など成立しようもない。
「何か、ご存じではありませんか?」
「そう言われてみれば、思い当たるフシもあるな……たとえば、リッター上級大将の一件だ。何故、総統閣下は、彼のような退役間際の消極的な老人をC軍集団司令官の要職に据えられたのか?ずっと引っ掛かっていた」
「ええ。確かに、親衛隊装甲軍に武勲を立てさせる事だけが目的であれば、C軍集団司令官はリッター上級大将でなければならない必要はないハズです」
「”親衛隊装甲軍に活躍の機会を与える”というのは表向きの理由で、本当の狙いは、親衛隊装甲軍を北部戦域に転出させる事で、南部戦域で大規模な戦闘が生じる可能性を大幅に減少させる事だった……そう考えれば、南部戦域を担当するC軍集団のトップにリッター上級大将のような人物を任命したのも頷ける」
「だが、何故だ?」炭火で炙った腸詰に齧りつきながら、首をかしげる、グロースファウスト。
「何故、総統閣下は、そうまでして、南部戦域での戦闘を避けようとされるのだろう?加えて、その御意思を参謀本部に対してはっきりと明言されず、”忖度”を求め続けているのはどうしてなのだ?……どう思う、上級少佐」
「それは……正直申し上げて、私も量りかねています。
南部戦域での戦闘を極力避けようとなされているのは、おそらく、軍事力ではなく、外交的手段あるいは諜報活動を用いて、共和国領の南部を無傷で手に入れたい、というお考えによるものなのでしょうが、何故、それを総統閣下御自身の言葉で私達に伝えようとはなされないのか……?」
「私の方もさっぱりだ。まったく、親衛隊員として情けない限りだよ……」
完全に壁に突き当たってしまったのだろう、深々とため息をつく、グロースファウストSD上級少将の姿を、半分空になったビールジョッキ越しに見やりつつ、ヴィルヘルミナは考えを巡らせた。
あるいは、自分に対して何か隠し事をしているのだろうか?という疑念も(一瞬ではあるが)脳裏をよぎったものの、目の前の親衛隊士官はそんな様子では全く無く、純粋に思考に行き詰っているだけのようである。元より、上級少将は親衛隊の高級士官の中では珍しく、治安・警察部門……すなわち、諜報活動に関わる任務を殆ど経験した事の無い人物であり、この問題に関して、これ以上の助力を得るのは困難であると云う他なさそうだった。
なお、ビアホールでの面談の5日後に行われた、定例全体会議の席上、ヴィルヘルミナはプランBへの支持を強く訴えた。
同時に、改訂後のプランAについては、『これまで親衛隊装甲軍の北部戦域投入に散々反対しておきながら、一転してこんな改訂案を提示するとは、今までの議論は一体何だったのですか?』と、皮肉たっぷりに揶揄しつつ、
親衛隊装甲軍の運用方法については、『親衛隊装甲軍の6個師団だけで、ノールまで進撃する事が本当に可能なのか?』と疑問を投げかけてみせる。
前者の発言に関しては、『一貫性の無さという点では、貴官も他人の事をとやかく言えないのではないか?』と冷笑を浮かべる者も多かったのだが、後者の疑問については同意する参謀達も多く、また、彼女の後に意見を陳述したヘルミーナ・モルトケ装甲兵中佐のように、プランBの支持者からその種の質問が返ってくる事を予想して回答を準備してきた者もいて、白熱した議論が繰り広げられる事になった。
その結果、親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、プランAに賛同する参謀達の人数とプランBに賛同する参謀達の人数がほぼ拮抗し、前回の全体会議と同様、両者の議論はどこまでも平行線を辿り続けた。最終的に、現時点での参謀間の合意形成は不可能だと判断したジーベルト参謀総長により、議論の打ち切りと職権による作戦行動方針の策定が宣言される運びになる。
そして、後日、参謀総長からは、A軍集団直轄部隊の第24装甲軍団とC軍集団第1軍第49山岳軍団を西方総軍直轄に異動させた上で、親衛隊装甲軍と共に、改訂されたプランAの方針に沿う形でノールに向けて進撃する事に決定した、との通知があった。ただし、この決定は暫定的なものであり、次週(2月第4週)に予定されている定例全体会議に於いて決定される予定のA軍集団の作戦行動方針の内容次第で、白紙化も含め再検討が為される旨、明記されている。
……とはいうものの、ジーベルト上級大将は、ヴィルヘルミナ達が指摘した問題点は正当な意見であり、更なる修正を加える必要ありと認めつつも、親衛隊装甲軍の作戦行動方針自体は改定後のプランAに沿って実施すると決定を下した訳であり、プランBを推していた参謀達にとっては、(完敗とまでは言えないまでも)一敗地にまみれた格好となってしまった事は否めなかった。
(何とももどかしい限りですわ。
総統閣下のご真意に近付きつつあるのは間違いありませんが、具体的にそれが何なのか?は未だ霧に包まれて、うすぼんやりとした影しか見えてはこない。その正体さえ分かれば、プランBにも逆転の可能性は残されているかもしれませんのに……)
成功
🔵🔵🔴
ヴィリー・フランツ
要所で【喫煙者】を発動し考えをまとめる
改プランAを支持
以下追記
●結論を出す必要のある議題
コチラも改プランAの海岸線進軍を支持。
追記
●懸案事項の一覧
(2)二線級歩兵2個師団部隊を一線級歩兵師団への改編を支持。
理由:戦力が増える事は大歓迎である。
具体的にはA軍集団第12軍第18軍団の二線級2個歩兵師団
それに、少数精鋭たる親衛隊装甲軍の後詰めとして師団をノール包囲戦に投入すると言う手段も取れる。
無論、親衛隊の実力は疑いない、だがコチラも敵の命運を断つ為に万全を期した献策と思って頂きたい。
(3)A軍集団の佐官と会談
内容:先ずは葉巻を勧める、銘柄は違うかもしれんが禁輸で吸いづらくなった舶来物だ。
追記
大陸歴939年2月14日9:30。
陸軍参謀本部・作戦課第1小会議室。
「いかがですか、私の修正意見は?」
ヴィリー・フランツ参謀大佐の問いかけに、しばし無言のまま、神経質そうな手つきで愛用の眼鏡を磨き続ける、クロースナー上級少将。
机上には、昨晩、ヴィリーが(ニコチンの力を借りて)超特急で書き上げた、プランAの改訂案に対する意見書が拡げられており、その傍らには、ヘビースモーカーとして名高い彼のために用意したものだろう(ちなみに、上級少将自身は非喫煙者である)、陶器製の灰皿が鎮座している。
「良案と云っていいだろう。短時間で纏め上げたにも関わらず、実によく練り上げられた内容だ。これならば、全体会議の場で発表する上で、特に問題となるような点は無い筈だ。無論、採用に漕ぎつける事が出来るどうか?については、当日、その場に臨んでみなければ分からないが……」
まずまずの評価を得られた事に、内心安堵を覚える参謀大佐。
緊張が解けた途端、ニコチンが無性に恋しくなり、半ば無意識のうちに愛用のシガレットケースに手が伸びた。
ヴィリーが提示した修正意見は、プランAの改訂案を元に、A軍集団所属の第12軍第18軍団の2個歩兵師団を二線級から一線級へと改編した上で、作戦開始後、第2週目まではA軍集団主力及び親衛隊装甲軍に追走する形でメディス方面に進出し、メディスの攻略成功後、第3週以降は親衛隊装甲軍の後詰めとしてクリスベルンへと針路を転じる、というものだった。無論、親衛隊装甲軍は全師団が装甲化されているため、第18軍団がノールまで進出した彼らに追いつく事が叶うのは、”金の場合”の作戦期間終了後とならざるを得ないのだが、ノールの包囲戦に参加する親衛隊の部隊にとっては、後方に予備戦力が控えているのといないのとでは、将兵の士気に雲泥の差が出るのは間違いない所だろう。
(……何しろ、親衛隊の兵士の多くは、国防軍の徴兵年齢に達しない十代半ばの少年達や何らかの理由で国防軍の徴兵検査で不合格となった者達によって占められているんだからな。士気は高く、装備も良好だが、兵士や下士官の練度という点では国防軍に比べて見劣りする……攻勢局面では強いが、ひとたび守勢に回れば、存外脆いかもしれない)
プカプカと紫煙をくゆらせながら、思考を巡らせるヴィリー。
依存症とまではいかないものの、喫い始めると止まらなくなるのは、間違いなく彼の悪癖と云えるだろう。一旦、ニコチンの魔力に支配されてしまうと、抜け出すのは至難の業であり、上官の前だろうが、喫煙習慣の無い人間が傍にいようが、事実上お構いなしである。
(……まぁ、たとえ手酷い失態を仕出かしたとしても、親衛隊は総統閣下のお気に入りだからな。余程の事が起こらない限り、真実はPK(国民啓蒙宣伝省)のプロパガンダ宣伝によって隠蔽されて、一般国民の知る所とはならないだろうさ。
万に一つ、秘密が外に漏れる事があるとしたら、他国のスパイに鼻薬を嗅がされた間抜けが国家機密を売り渡すケースぐらいだろうが……)
実際、その種の事件は、このライエルンに於いても、これまで幾度と無く繰り返されている。単に金銭などの報酬に目がくらんだ人間が情報を売り渡すというケースも多いが、ゴールやサクソニアの喧伝する民主主義や個人の自由、あるいは、ファントーシュの掲げる社会主義的理想といった、イデオロギーに対する憧憬が動機となったものもかなりの件数に上っており、中には、派閥争いや出世競争に敗れ、現在のライエルン社会や政治体制そのものに対して怨恨を募らせた官僚や軍人が、半ば自暴自棄に陥って外国勢力に協力するなどという事例も存在していた。
それらの反国家的な企ての殆どは、親衛隊保安部を初めとする警察・治安機関によって未然に防がれ、あるいは、深刻な情報流出へと発展する以前に摘発されて事なきを得ているものの、ゴール・サクソニア連合に対する武力行使の発動が迫る中、国内に於ける防諜活動の重要性はいやが上にも高まりつつあると云って良いだろう。
(ああそうか、総統閣下がああも秘密主義的で、総統命令を発出してトップダウンで物事を決定するよりも、参謀本部や軍部に対して頻繁に”忖度”を要求する手法を好んでいるのは、そういった連中を通じて、他国の情報機関に自分の意図が漏洩するのを回避するためなのかもしれないな。ゴール、サクソニア、ファントーシュ……我らの最高指導者が何を考えているのか?情報を欲しがっている諜報機関は数え上げればキリがない。
コトによると、身内にも鼻薬を嗅がされた連中が居るかもしれん。イカンイカン、こんな事考えてたら、開拓農民の息子である俺まで疑われちまうぜ……)
……結局、その日の面談は、ヴィリーのシガレットケースの中身が全て無くなるまで続き、さして広くもない小会議室は、充満したタバコの煙と匂いによって、この日の午後一杯、占拠される事態になった。クロースナ―上級少将は何も言わなかったものの、その日は、終始、(普段にも増して)不機嫌な様子だったという噂である。
なお、クロースナー上級少将との面談と並行して、ヴィリーは、個人的なコネクションを駆使し、軍集団司令官の人事を巡って混乱をきたしているA軍集団司令部の幕僚達のうち、親交のある者達に声をかけて回る事により、事態の沈静化に向けて動いていた。定例全体会議に向けた準備と同じタイミングでの作業とならざるを得なかったため、直接会って話をする機会を得られたのは、佐官クラスの数人だけに留まったものの、手土産として持参した西方大陸産の葉巻……連合王国による禁輸措置によって市場には殆ど出回らなくなった、高級品である……の効果は覿面で、首尾は上々だったと云える。
「エヴァルト上級大将を推薦した理由だが……まず、一つ目は親衛隊の動向だ。そちらにもある程度の情報は回っていると思うが、兎にも角にも、総統閣下の御意向がはっきりしなくてな。それをはっきりさせる為にも、敢えて門閥貴族派のエヴァルト上級大将を推挙してみたって訳だ。
それに、エヴァルト上級大将は、門閥貴族派の将軍とはいえ、総統支持の家門に属する身だ。ケラーマン元帥の部下達をそうそう蔑ろにするとは思えないが?
最後に国内の意思統一だ。カツカツの戦力をやりくりしながら、日夜神経をすり減らしてファントーシュの共産主義者共との対峙を続けなくてはならない、東部の辺境から華の西部戦線への栄転を見て、門閥貴族派の一部がこちらに鞍替えした。それにより、貴族連中の息のかかった企業の労働者や私立学校の学生の中から国防軍に志願する者が増加して、結果として戦力が増えた。今の所は、主に国内総予備に回されているが、今後も順調に志願者が増えていけば、A軍集団の戦力充実にも繋がっていく筈だ……分かってくれたかな?」
無論、貧しい開拓農民の息子として生まれ、一兵卒として陸軍に入営した後、戦場での武勲によって士官に任官し、現在の地位にまで昇進を遂げたヴィリーは、ライエルンに於ける、総統派と門閥貴族派の対立が、単なる派閥争い(権力闘争、と言い換えても良いだろう)だけには留まらず、ライエルン社会に於ける平民階級と貴族階級との階級間闘争としての側面を有している事を十分過ぎる程に理解している。従って、彼は、佐官達の説得にあたっては、『門閥貴族派』ではなく、あくまでも『エヴァルト上級大将個人』を受け容れる事は、A軍集団(あるいは、A軍集団内の総統派士官)にとって決して損にはならない、という論法を取り、両派の間に横たわる根深い対立構造に関わる言動は慎重に回避する事を心掛けていた。
苦労の甲斐あって、ヴィリーの試みは概ね成功に終わり、説得を受けた幕僚達は、周囲の同輩を説き伏せる役を進んで買って出てくれたのだった。
ちなみに、クロースナー上級少将との面談の3日後に行われた、定例全体会議の席上、ヴィリーは親衛隊装甲軍の作戦行動方針について持論を述べると共に、改訂後のプランAへの支持を強く訴えた。
その結果、親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、プランAに賛同する参謀達の人数とプランBに賛同する参謀達の人数がほぼ拮抗し、前回の全体会議と同様、両者の議論はどこまでも平行線を辿り続けた。最終的に、現時点での参謀間の合意形成は不可能だと判断したジーベルト参謀総長により、議論の打ち切りと職権による作戦行動方針の策定が宣言される運びとなる。
そして、後日、参謀総長からは、A軍集団直轄部隊の第24装甲軍団とC軍集団第1軍第49山岳軍団を西方総軍直轄に異動させた上で、親衛隊装甲軍と共に、改訂されたプランAの方針に沿う形でノールに向けて進撃する事に決定した、との通知があった。ただし、この決定は暫定的なものであり、次週(2月第4週)に予定されている定例全体会議に於いて決定される予定のA軍集団の作戦行動方針の内容次第で、白紙化も含め再検討が為される旨、明記されている。
ヴィリーが主張した、第18軍団の2個師団の一線級師団への改編とその後の運用方針に関する提案は、惜しくも採用には至らなかったものの、ジーベルト上級大将は、プランBを推す参謀達が指摘した問題点は正当な意見であると認めつつも、親衛隊装甲軍の作戦行動方針自体は改定後のプランAに沿って実施すると明確に定めた訳であり、プランAの支持者達にとっては、(完璧な勝利とまでは言えないまでも)これまでの努力が実を結んだ形となったのは間違いないだろう。
(この調子なら、次回の全体会議も、苦労はするだろうが、何とか乗り切れるだろう。
問題は、やはり、総統閣下の御意向だが……これまでの経緯から考えて、我々があーだこーだと散々議論を繰り返して打ち出した戦略案が、総統命令一つで全て引っくり返される、なんて事態は考えにくいにせよ、総統が”金の場合”に何を望んでいらっしゃるのか?については、しっかりと押さえておく必要があるだろうな……)
大成功
🔵🔵🔵