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本と選択肢、開いて閉じた

#UDCアース #ノベル

鳶沢・成美
●鳶沢・成美が猟兵になるきっかけの話

場所はUDCアース日本の地方の古書店
ごく普通の地方都市、ごく普通の平凡な学生生活を送っていた。
本であれば大抵の物は読む濫読派である成美
新刊書店だけではなく古書店にもよく通っていた。

古書店は安く買えるし、これまで知らなかった古い本を発見できたりもする
昔ながらの古書店の狭くて少々かび臭い通路を面白そうな本がないかブラつく
そんな時『陰陽師入門―君もこれで陰陽師だ―』というタイトルの新書本が意識の端に引っかかった。
書架の間をブラブラ流していると、たまにこんな風に気になる本が見つかる事がある
そういう本は自分に読まれたがっている……そんな気がしてつい買ってしまう

「ふうん、聞いたこともないレーベルだけど、何だか面白そうだし買ってみようかな……」

じつはこの陰陽師入門が本物の魔導書で、成美は猟兵に覚醒してしまう事に


会計を済ませ店を出る成美を薄暗い通路の物陰から眺める男が一人
「さてさて、あの少年この先どうなりますか、楽しみですねえ……」

男の名は”魔導書配りの男”様々な形状の魔導書をばら撒き
それらを手に入れた人物の辿る運命を物語のように愉しむ愉快犯的UDC



 鳶沢成美はごく普通の地方都市で、ごく普通の平凡な学生生活を送る一般男子だ。
 他の学生と強いて言えば違うと言えるのは、本であれば大抵の物は読む濫読派であることだった。
 それは雑誌や小説、漫画だけでなく、図鑑や辞書でも面白そうな物であれば何でも読む。
 ただ文字が書いてさえあればいい、というわけでは無いので「活字中毒」までには足を踏み込んではいないだろう。たぶん。
 そんな文学大好き少年である成美は新刊を主に取り扱う書店や図書館だけではなく古書店にもよく通っている。
 古書店では今流行りの作者が書いた新刊を買うことは出来ないが、昔に書かれた名作と呼ばれる作品を比較的安く買えるし、これまで知らなかった古い本や絶版となって大手書店では注文すら出来ない本を発見できることもある。
 また商店街の2、3階しか無い低いビルの1階に唐突に入っている異空間感や、昔ながらの狭くて少々かび臭い通路の両脇に並べられた書庫には図書館の物とは毛色の違う、作者ごとなど整理されていないごった煮のような雰囲気が心地よく思えたのだ。
 そうして今日も決して多くはないお小遣いを懐に忍ばせつつ、成美は面白そうな本がないかブラついていた。
 成美の本探しには1つのルーティンというかジンクスのような物がある。
 それはあまりきょろきょろせず書架の間をブラブラ流すこと。そうしているとたまに書架の一部がぼんやりと光っているような錯覚を覚えることがあるのだ。
「『陰陽師入門―君もこれで陰陽師だ―』……?」
 そしてそういう場所を漁ると、いつもこんな風に気になる本が見つかる。そういう本は自分に読まれたがっている……そんな気がしてつい買ってしまいがちなのだ。
 本と本の間からそれを抜き出し、中を軽く流し見る。
 こういう手合いは額面通りのちゃんとした教本ではなく著者の論文めいた物だったり想像8割嘘2割のとんでもない物だったりすることもあるのだが、この本は陰陽五行思想の詳しい説明やそれを元にした占筮・地相のやり方、護符の作り方など実用的そうな内容が書かれていた。どうやら今回も勘は冴えていたようだ。
「ふうん、聞いたこともないレーベルだけど、何だか面白そうだし買ってみようかな……」
 もし偽物だったとしても、軽い話のネタにはなるだろうと成美は購入することを決める。しかし本には肝心の値札が貼られていなかった。
「おじいさん、これいくら?」
 ここの店主は気難しそうな顔をしているが、所謂「冷やかし」になってしまっても嫌な顔をしない人だ。
 しばらく何も買わないことが続いていた中、久々に会計に行った時に「今日は気になった本があったか」と笑ってくれて、雄弁ではないがしっかりとこちらのことを把握してくれている。
 だからと言って古本卸や古書交換会でこちらの好みっぽい品を優先的に仕入れてきてくれるわけではないのだが。
「どれだ? ……それだったら1000円でいい」
 遠巻きから成美が持つ本を確認した店主がつけた値段は外に適当に晒されている本や文庫本と比べたら高いが、この間別の店で見つけた古本には一番高いお札が一気に何枚も飛んでいく値段が付いていて見なかったふりをして静かに戻したこともあった身としては非常に手に取りやすいお値段だった。
「他は」
「いや、今日はこれだけで。結構読み応えありそうだし」
「そうかい」
 会計を済ませ店を出る成美の姿を向かいにある八百屋と肉屋の間にポッカリと空いた薄暗い通路の物陰から眺めていた1人の男は片側の口角だけを上げる。
「ようやく買われましたか。意外と時間はかかりましたが……買い手がつかずに処分されるよりかはマシでしょう」
 男は小説、参考書、文庫判、新書判、捕捉されないように大小異なる形状と題材の魔導書を生産しては様々な手段を用いてばら撒き、それらを手に入れた人物の辿る運命を物語のように遠くから眺めて愉しむ愉快犯———「魔導書配りの男」とUDCからマークされている人物だった。
 そして成美が買ったあの本も、男が製作して市場に流した物のうちの一冊だった。
 学生服から察するに、今回の購入者はああいう物に興味を抱く年頃。買ったはいいものの読まずに積んでしまい、UDCが訪問するまで一切手に取らない……ということはあり得ないだろう。
「さてさて、あの少年この先どうなりますか、楽しみですねえ……」
 力に溺れて世界を壊す者になるのか、逸脱したことを自覚しながらこの世の暗部を正す者になるのか……新たな観察対象がどの択を選んでくれるのか期待しながら男は行き着く先は行き止まりの通路の奥へ進み出す。
 横の肉屋からゴミ出しのために店員が勝手口を開けるが、その時にはもう男の姿はどこにも無かった。

 これが成美が真に「普通の男子学生」から道を外れて「猟兵」となり、同じ歳に2つの学校に通っていた記憶と知識を持つことになる発端となる出来事。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年06月28日


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