●
夜闇に覆われた世界でも、星は輝く。
あの星が本当に空に浮かぶ星なのか、幻なのかは誰にも分からない。
けれど小さく清らかな光は、確かに人々の頭上に浮かぶのだ。
そしてこの地には、星を映す鏡――巨大な湖が存在している。
水面に満点の星空が映される光景は、きっと何よりも素晴らしいものだろう。
集落の人達もそうだと噂していた。私も楽しみだ。
人々が湖に向かう『習わし』まではあと少し。
あの湖を血で汚すのは申し訳ないけれど、これも必要なことだ。
私は星が好き。ずっとずっと見ていたい。
だから太陽を取り戻そうとするやつは、全員殺す。
殺すためには力がいる。だからあの湖を血に染めてでも、力が必要だ。
星々よ、待っていて。
せめて流れる血が、あなた達への供物になりますように――。
●
「集合に感謝する。まずはこの間の戦争、お疲れ様だ」
カイ・シュリック(紫苑の殺戮代行者・f02556)は緩く笑顔を浮かべつつ、猟兵達へと頭を下げる。しかし顔を上げると同時に表情を引き締めた様子から、依頼の案内を行おうとしているのが伝わってきた。
「ダークセイヴァーにおけるオブリビオン・フォーミュラ『祈りの双子』は皆のお陰で倒すことが出来た。しかしこの世界にはまだ多くの敵が残っていて、危険が迫っている場所も多い。今回はそのうちの一つ、とある集落の危機を救ってもらいたい」
戦争で勝利を収めても、戦いはまだ続く。
ダークセイヴァーの真の平和はまだ遠いが、一歩ずつ着実に向かっていくしかないだろう。
「この集落には一体のヴァンパイアが潜伏していてな。そいつは学者のフリをして、人々に溶け込みながら暮らしている。彼女はいずれ人々を虐殺し、力をつけて出ていくつもりだ。だが幸いなことに、彼女が虐殺を決行する日が判明したんだ。だから皆には、その日に集落に乗り込んで人々を救って欲しい」
話を続けつつ、カイはグリモアを起動する。そこから映し出されたのは――満点の星空と、それを映す美しい水面だった。
「ここは集落の近くにある湖だ。かなり浅い湖らしく、水の上に立つことも出来る。この星空を映す湖に、集落の人々が祈りを捧げる『習わし』があってな。その日がヴァンパイアの虐殺決行日だ。そこで皆も『習わし』に参加して、さり気なく人払いをして欲しい。そうして人々の安全を確保したところで、ヴァンパイアと戦ってくれ」
集落の人々は猟兵達の指示には素直に従う。
事情を話して逃げてもらってもいいし、何か理由をつけて離れてもらってもいい。
とにかく人々がいない状況を作れば、ヴァンパイアとも万全に戦えるはずだ。
「怪しまれないために、『習わし』を楽しんでいてもらってもいい。ヴァンパイアの方は星空に執着しているようで、湖から離れたりはしない。しかし分かりやすく避難活動が行われれば、何かに勘付かれるかもしれないからな」
『習わし』のやり方は単純で、空と足元の星を楽しんだり、星に祈りを捧げるだけでいい。
美しい光景を楽しんだり、誰かと歓談したり。楽しい雰囲気や穏やかな雰囲気なら、ヴァンパイアも疑いはしないだろう。
「潜伏していたヴァンパイアは、力を付けることを目論んでいた。強さとしてはそれなりだ。人々を人質にされたり、彼らから血を奪われなければ大きく苦戦する相手ではないだろう」
大事なのは、どのように人々を遠ざけるか。どう怪しまれないように行動するか。
下準備が大切な依頼となりそうだ。
「今回のような事件を解決していけば、『ケルベロス・フェノメノン』から入手した
小剣の研究も進んでいくようだ。今後の進展のため、そしてダークセイヴァーの平和のため、皆の力を貸してほしい」
カイは猟兵達にもう一度頭を下げ、そして転移の準備を進めていく。
「今回もよろしく頼む。良い知らせを待っている」
ささかまかまだ
こんにちは、ささかまかまだです。
謎多き世界でも、美しいものは美しい。
ダークセイヴァー戦後シナリオの成功本数に比例して、『ケルベロス・フェノメノン』から入手した
小剣の研究も進展していきます。
●一章『星鏡の夜』
人々が暮らす集落の側、星を映す湖での『習わし』に参加しましょう。
ここはウユニ塩湖のように浅い湖で、上に立つことも出来ます。
人々は星空と水面の映る星に祈りを捧げたり、皆で美しい景色を楽しみつつ過ごします。
出来ることは大きく分けて二つです。
1.ヴァンパイアとの決戦に備えて人々を湖から離れさせる。
説得してもいいですし、理由を誤魔化して帰らせてもいいです。
2.ヴァンパイアに疑われないように『習わし』を楽しむ。
『習わし』を楽しむ人が多ければヴァンパイアも避難等には気づかないでしょう。
●二章『星空を詠む者』
人避けが終わればヴァンパイアとの決戦です。
一章で多くの人を湖から離脱させていれば、ヴァンパイアとの戦いもより有利になるでしょう。
●
どの章からでも参加していただいて大丈夫ですし、特定の章だけ参加していただくのも歓迎です。
進行状況や募集状況はマスターページに適宜記載していく予定です。
締め切りの告知もそちらで行っているので確認していただけると幸いです。
それでは今回もよろしくお願いします。
第1章 日常
『星鏡の夜』
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POW : わくわく過ごす
SPD : どきどき過ごす
WIZ : 静かに過ごす
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猟兵達が転移を終えれば、目に飛び込んできたのは煌めく星空だ。
星の煌めきは大小様々、色も違えば強さも違う。けれどそのどれもが、確かに空に浮かんでいる。
ダークセイヴァーの構造を考えれば、あの星空は偽物かもしれない。
けれど偽物であろうとも、ずっと見ていたくなるような光がそこにあった。
視線を下に向ければ、そちらにもきらきらと輝く景色が見える。
薄い湖の上に空の様子が反射して、もうひとつの星海を作り上げているのだ。
頭上と足元、双方にある星の煌めきに包み込まれれば、美しい絵物語の中にいるような錯覚すら覚えそうだ。
湖の上に立つのは集落に暮らす人々。
ある者は静かに祈りを捧げ、ある者は隣人と楽しく語らっている。
過酷な暮らしを強いられている人々も、今だけは穏やかな気持ちで過ごしていることだろう。
少し離れた位置では、一人佇む女が見える。
うまく正体を隠しているが、彼女こそが虐殺を企てるヴァンパイアだ。
下手に刺激しなければ、彼女が何か行動を起こすことはないだろう。
ただし全く警戒されていない訳でもない。露骨な行動は避けた方が無難だ。
人々を守るため、闇の世界を救うため。
まずは猟兵達も、星空と星海の中に踏み出そう。
レクス・マグヌス
1.離れさせる
【心情】
フォーミュラを倒しても戦いが終わるわけではない
それ自体はどの世界も変わるわけではないが、この世界の場合だとより深刻だな
祈りの双子の言動にも気になることは多かったが、今はひとまず一つ一つ対処していくか
【行動】
自身の身分を明かして説明
学者が吸血鬼であることは一旦話さない
「習わしのタイミングでヴァンパイアの襲撃が起きることが分かった」と伝えて離れてもらう
「気取られるといけないので、周りにも伝えずこっそり離れるように」とも
習わしを出来ないことを「礼儀作法」で丁寧に謝罪
「索敵」で動きを気取られていないか警戒しつつ
状況にもよるが「学者は逃げ遅れて殺されてしまった」とする方がいいかもな
●
『習わし』が行われる湖の周囲は静かで、穏やかな空気が流れている。
集落からやってきた人達ものんびりと動いているようで、時折聞こえる話し声だって楽しげだ。
レクス・マグヌス(嵐をもたらすもの・f07818)は彼らの様子を窺いつつ、この間まで行われていた戦いに想いを馳せていた。
オブリビオン・フォーミュラは倒された。けれど夜闇の世界そのものが平和になった訳ではない。
今は穏やかなこの場所も、ヴァンパイアに狙われてしまっている。改めてこの世界の過酷さを思い、レクスは少しだけ目を伏せる。
(祈りの双子の言動にも気になることは多かったが、今はひとまず一つ一つ対処していくか)
とにかく今は出来ることをしよう。レクスは顔を上げ、集落の人々へ視線を向ける。
目に留まったのは一人の男性だ。時折周囲の人々と言葉を交わす様からは、信頼されているのが見て取れた。
彼ならこちらの話も信用してくれるだろう。レクスは星空映す湖を進み、男性の元へ向かっていく。
ちょうど男性は雑談を終え、一人で星空を鑑賞し始めていた。そこにレクスは歩み寄り、静かに顔を寄せる。
「『習わし』の最中にすみません。少しいいですか?」
「うん? 見ない顔だけど……どうした?」
「僕は猟兵のレクス・マグヌスと申します。一つ情報を得たので、聞いてもらいたいなと」
猟兵だと名乗った瞬間に男性の顔が強ばる。それは警戒というより緊張の色で、何かを悟ってくれた様子だ。
レクスもそれに安心し、更に言葉を紡いでいく。
「『習わし』のタイミングでヴァンパイアの襲撃が起きることが分かったんです。ですから、皆さんにはここをこっそり離れてもらいたいと」
「……本当か?」
「はい。素敵な行事を中断させることになってしまって申し訳ないのですが、状況が状況なので……」
丁寧に、けれどはっきりと状況を伝えてくれるレクスに対し、男性は頷きを返す。どうやら納得してくれたようだ。
「それじゃあ老人と子供を帰らせるようにするか。他の皆にも伝えるよ、ありがとう」
「こちらこそ、協力に感謝します。それから……」
レクスはちらりと視線を学者に向け、更に小さな声で語りかける。
「あの学者さんには僕から伝えておきます」
「分かった。あの人、変わり者だから気を付けてな」
どうやら吸血鬼は集落の人々とは距離を置いている様子。それなら彼女に関しては、あとで誤魔化しが効きやすいかもしれない。
なんにせよ、信頼は勝ち取れた。男性はきっと人々を逃してくれるだろう。
そして彼を動かしたのは、間違いなくレクスの真摯な様子だった。
大成功
🔵🔵🔵
ソルレ・ベルナルディ
ほほう、僕は夕焼け派ではあるけれど、
星の光って言うのもいいもんだねえ。水辺も本当に鏡みたいじゃないか。綺麗だねえ。
……穏やかに過ごしてる集落の人々、祈りを捧げている彼らがいるから、より美しく見えるのかもしれないねえ。
だからこそ、そんな光景を血に染めようなんて無粋な輩にはお引き取り願わないとね。
僕は一緒に楽しむ側に回ろうかな。
せっかくだから水の上に立って歩いてみたり、いい所だねと同じく楽しんでいる人と話してみたりしちゃおう。
今はただ大人しく楽しんでおくよ。
●
空と足元、それぞれに光が広がる様は幻想的で、不思議な浮遊感を与えてくれる。
そんな光景を前にして、ソルレ・ベルナルディ(夕凪の・f38999)は緩く笑みを浮かべていた。
ソルレは自分の髪色と同じ、夕焼けが好きなタイプだ。けれど星空だって嫌いじゃない、むしろ好ましいくらいだ。
空に輝く光は優しく瞬き、世界をそっと照らし出す。
足元に広がる水は清らかで、そこに映る星空もまた美しい。自分の姿も映っているのは鏡のようでなんだか愉快だ。
「綺麗だねえ」
一つこくりと頷いて、視線を上げれば見えるのは人々の姿。
祈りを捧げたり、雑談したり。思い思いの時間を穏やかに過ごすのは、近くの集落の人々だ。
上下二つの星空に挟まれる彼らも絵になっている。この温かな光景が、より景色を美しくさせているのかもしれない、なんて思ったりして。
だからこそ――この光景を血に染めようなんて無粋な輩を放ってはおけない。
ソルレはこっそり視線を動かし、一人佇む吸血鬼の姿を見る。
彼女は星空に夢中のようで、ずっと頭上を見つめている。周囲の様子には気付いていないようだ。
既に人々の避難は始まっており、こっそりと湖を離脱する人もいる。彼らの存在にもまだ気付かれていないようで、ソルレは小さく息を吐いた。
(……よし、僕は『習わし』の参加者のフリをしておこうか)
吸血鬼に勘付かれないよう、この場に残る人だって必要だ。
だからソルレは何も知らないフリをして、ただこの光景の中に溶け込む。
頭上に輝く星々は、やっぱり綺麗だ。
ぱしゃぱしゃと湖の上を進んでいけば、水鏡に波紋が走っていく。
その様子が楽しくて、ソルレは弾むように湖を進んでいた。
そうすれば、自然と雑談する人達との距離も近付いて。顔をあげた彼らに対し、ソルレは緩く手を振る。
「やあ、楽しんでる?」
「ええ、今日は穏やかに過ごせて楽しいです」
笑顔を返す人々は少々疲れている様子。それもそのはず、この間までこの世界は戦乱の中にあったのだから。
だからこそ今日のような日に落ち着いて過ごせるなら、それは幸福なはずなのに――この世界は今もオブリビオンの脅威に晒されれいる。
笑う人々も、美しい景色も、それは決して血で汚されてはいけないものだ。
強い決意がソルレの胸の内に渦巻くが、今はそれを沈めておいて。
「それは良かった。僕も楽しいよ、この景色も気に入ったから……だから、大切にしたいね」
ソルレは変わらず笑みを浮かべ、人々へ向けて言葉を紡いだ。
その温かな心は、きっと彼らに伝わっただろう。
大成功
🔵🔵🔵
風魔・昴
麻生竜星(f07360)と参加
彼の事は『竜』と呼ぶ
アドリブ歓迎
星達の祭りの日に多くの血を流すなんて許せない
必ず阻止してみせるわ
「わぁ、見てみて竜!足元にも夜空にも凄い星だわ」
私達は敵が避難に気が付かないように『習わし』を楽しむの
でも……なんだか純粋に楽しんでしまいそうだわ
それも足元も、こんなに美しいのだもの
景色を楽しみながら歩いていると、彼が話しかけてくる
「あ、本当ね。流れ星じゃないけれど願い事しようかな?」
彼が見つけた一番明るい星にそっと願いを……
【この世界に早く幸せな時間が訪れますように……】
避難終了確認した彼と一緒に敵に気づかれ無い様ゆっくりと仲間と合流
(この世界の平和を守るために……)
麻生・竜星
風魔昴(f06477)と参加
彼女の事は『スー』と呼ぶ
アドリブ歓迎
星空の日を、楽しいその祭りを悲しみの日にしたくない
それは星達も望まないし命が犠牲になることも……な
「これは綺麗だ。星の中を歩いてるみたいだな」
昴の言葉に頷いて微笑む
俺達は『習わし』を楽しむことに
「スー、少し先に明るい星がある。あれがこの世界の中心星かな?」
彼女の提案に肯定の返事をすると、その星に向かってそっと目を閉じ祈る……
【この世界が明るく優しい幸せな世界になりますように……】
そして避難が終わりそうなのを確認すると、ゆっくりと仲間のもとへ
(さぁ、清らかな『習わし』を守るために行こう……)
●
空に瞬く星々と、足元に映る星鏡。双方の輝きを見つめつつ、風魔・昴(星辰の力を受け継いで・f06477)と麻生・竜星(銀月の力を受け継いで・f07360)も『習わし』の地に足を運ぶ。
周囲には思い思いに過ごす人々の姿もあり、流れる空気は非常に穏やかだ。
美しい星々の日、人々の祈りの日。それを台無しにしようとする吸血鬼は、昴と竜星にとって決して許すことの出来ない相手だ。
こんな素敵な日を悲しみで塗りつぶさせる訳にはいかない。
例え空に輝く星が偽物であろうとも、あの輝きは本物だ。彼らも人々の命が失われることは望んでいないだろう。
「……ヴァンパイアの計画、必ず阻止してみせるわ」
決意を籠めて拳を握る昴に対し、竜星もこくりと頷いて。
「ああ。絶対に止めないとな。そのためにも、今は……」
まずは周囲にいる人々を逃さなくては。
既に猟兵により、集落の者達へ情報は流されているようだ。少しずつ湖から離れる人々の姿も見える。
彼らが逃げていることが分からないよう、『習わし』の雰囲気は維持しなければ。
そこで二人が選んだのは『習わし』の参加者になることだった。純粋に楽しむ者がいれば、吸血鬼も異変に気付かないだろう。
猟兵達は顔を見合わせ、共に空を見上げる。
吸い込まれそうな星空がどこまでも広がっている光景は、二人の決意をより強めてくれていた。
戦いに向ける気持ちも十分にあるけれど、星を楽しむ余裕がない訳ではない。
じっくり星を観察する昴と竜星の顔は、次第に穏やかな色を帯び始めていた。
「改めて……ほら、見てみて竜! 足元にも夜空にも凄い星だわ」
昴は湖に映る星空を見つめつつ、顔を綻ばさせる。
星空を見上げることは多いけれど、見下ろす機会は滅多にない。
ここに来たのは猟兵の仕事の為だ。けれど美しい光景を前にすれば、純粋な喜びだって生まれてくる。
「ああ、綺麗だ。星の中を歩いてるみたいだな」
竜星も頷いて昴と共に湖を覗き込む。
見える星々があまりに人工的なものなら、その違和感に引っ張られるかも――なんて思っていたけれど。
空に浮かぶ星も、湖に映る様も、竜星のよく知る星空に変わりはない。
原理は分からないが、今目の前にある星々の輝きは確かなものだ。それはとても喜ばしいもので、見ていて楽しい。
それならもっとじっくり星を観察しようか。そう思った竜星は、暫し星空をじっと見つめた。
「なあ、スー」
「どうしたの?」
一緒に星を観察していた昴が、名を呼ばれて竜星の方へ向き直る。
その表情も楽しげで、竜星もつられて顔を綻ばせていた。
「少し先に明るい星がある。あれがこの世界の中心星かな?」
「あ、本当ね。流れ星じゃないけれど願い事しようかな?」
二人の見つめる先には、一際輝く大きな星が。
少しだけその星の方に近付いて、一緒に目を伏せて。
静かに思うのは、この世界へ向けた祈りだ。
この世界に早く幸せな時間が訪れますように。この世界が明るく優しい幸せな世界になりますように。
祈りの双子が倒れた今も、夜闇の世界は多くの脅威に晒されている。
けれど生き残った人々は懸命に生活し、戦い、少しでも世界をよくしようとしている。
星空へ向けた祈りだって、そんな彼らの真摯な気持ちから生まれているのだろう。
それを受け止める星はより強く輝いて、清らかな湖に光を反射させる。
そしてその輝きが人々の心を癒し、彼らに生きる活力を与えてくれるはずだ。
「……素敵な風習よね。私も星にはいつも励まされているから、気持ちも分かるわ」
祈りを終えた昴は、視線を人々の方へ向けて微笑む。
竜星もまた目を開けると、昴の見ている方向を見た。
「そうだな。星や月、そういうものは本来ならば人々の道標になるものだ。星は勿論、月もそうなるようにしたいよな」
此処で輝く星は本物、あるいは本物と同じく清らかなもの。
けれど二層に浮かぶ月は紛い物で、人々を傷つけるものだ。あれが存在していることも、この世界の過酷さを示している。
自分達の戦いもまだ終わってない。そう思いからこそ、猟兵達は立ち上がるのだ。
二人は暫く集落の人々と星を見つめていたが、空気は少しずつ変わり始めている。
吸血鬼に気付かれないようこっそりと、けれど着実に人々の避難は進んでいるようだ。
ちょうど二人が見守っていた人々も、他の仲間から情報を受けて湖を離れていく。
その様子を確認し、猟兵達は顔を見合わせた。
「スー、そろそろ」
「ええ、竜。私達も向かいましょう」
この世界の平和を守るため、清らかな『習わし』を守るため。
猟兵達は戦いに向け、意識を揃えていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
「あの世界、随分長い間訪れていなかったのですけれど…彼の世界の方々は、彼の場所の物しか食べられなかったでしょうか…?」
疎覚えだったので彼岸花の造花の花籠だけ持参
「世界には、こんなに素晴らしい場所があるのですね…」
異世界だから、ではなくて、異世界にもこんな素晴らしい場所があることに感動した
UC「魂の歌劇」
色々な鎮魂歌と子守唄を湖の畔で歌い人を招く
「花の咲く時期ではなかったので、造花ですけれど。此の花の花言葉は、転生なんです。貴方達の大切な方へ。どうぞ捧げて来て下さい」
寄ってきた人々に彼岸花の造花を1輪ずつ渡していく
(自分の家か墓地か。大切な方の転生願い捧げる花なら、きっと此処を離れて下さるかと)
●
「あの世界、随分長い間訪れていなかったのですけれど……」
目的地に向かう最中、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はふと考え込む。
ダークセイヴァーのことはあまり詳しくない。だから持ち込むものを考える時も、少々考える必要があって。
「彼の世界の方々は、彼の場所の物しか食べられなかったでしょうか……?」
とりあえず、と用意したのは彼岸花の造花の花籠だ。
あの世界だと彼岸花は珍しいだろう。綺麗な花だと気に入ってもらえるといいのだけれど。
ぎゅっと花籠を抱きしめつつ進んでいけば、転移の終わりもやってくる。
視線をあげた桜花を出迎えるのは――満点の星々だ。
上を見れば空には星が輝いて、下を見れば澄んだ水面が星を映す。
幻想的な光景を前に、桜花は思わずほぅ、と息を吐いていた。
「世界には、こんなに素晴らしい場所があるのですね……」
それはきっと『異世界だからでは』でなく『異世界にも』。
心震わす光景は、あらゆる場所に存在している。それを桜花は好ましい感じていた。
自分を包み込む星々を楽しみつつ、向かうのは湖の畔。
ちょうどそこでは人々がのんびりと景色を眺め、穏やかな時を過ごしているようだ。
「こんばんは。良ければご一緒させて頂いてよろしいですか?」
人々に軽く挨拶してから、桜花は湖の畔に腰掛ける。
そのまま息を吸い込んで、紡ぐのはユーベルコードを乗せた歌。
響け魂の歌劇、この一瞬を永遠に。桜花の紡ぐ子守唄は、周囲の空気を壊さず、けれど人々の関心を集めていく。
歌声に惹かれ人々が集まった頃合いに、桜花は彼岸花の造花の花籠を差し出す。
「花の咲く時期ではなかったので、造花ですけれど。此の花の花言葉は、転生なんです。貴方達の大切な方へ。どうぞ捧げて来て下さい」
一輪一輪手渡していけば、その度に人々の顔は綻んで。
今は穏やかに過ごしている彼らも、きっと大切な人を弔ってきたのだろう。ありがとう、大切に捧げるよ。返ってくる言葉に桜花もゆっくりと頷いた。
花を渡された人々は少しずつ湖を離れ、集落へと戻っていく。きっと花を捧げに行くのだろう。
彼らが湖から離れたことに安堵しつつ、桜花は目を伏せる。
いずれこの世界にも、穏やかな転生が生じますように。心の底から、そう願う。
大成功
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八坂・詩織
ダークセイヴァーにもこんなに綺麗な場所があるんですね…
ウユニ塩湖もいつか行ってみたいと思ってましたが…行った気分になれますね。
履物を脱いで湖に入ってみれば上も下も満天の星空で。星の中に浮かんでいるみたい…写真を撮りたいくらいですがそこは我慢。
でも夜の星たちも、明るい昼間や美しい夕焼けがあってこそ輝くもの。人にはやっぱり暖かい太陽が必要なんですよね…
思い出すのは先日の戦争、ライトブリンガーと戦った時のこと。光を奪ったってどういうことなんだろう、あの匣の中の太陽がこの世界の太陽だったんでしょうか…
力尽きるほど全力出したのに結局倒しきれてないのが悔しくて。
次こそはきっと、と決意を固めて祈りを。
●
目の前に広がる青色と、きらきら煌めく星の光。
美しい光景を前にして八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)はゆっくりと息を吐いた。
ダークセイヴァーは夜闇に包まれ、吸血鬼や怪物が蔓延る恐ろしい世界だ。けれどそんな過酷な世界にも、美しい光景がある。
それが喜ばしくて、詩織は少しずつ歩を進める。湖の畔まで辿り着けば、履物を抜いて足を伸ばして。
湖の上にそっと立ってみれば、星海の上に波紋が広がる様も幻想的だった。
「ウユニ塩湖もいつか行ってみたいと思ってましたが……行った気分になれますね」
ウユニ塩湖といえば青空のイメージがあるが、この地のように夜空を映す様もきっと美しいだろう。
更に暫く進んでいけば、詩織の足元には星鏡だけがきらきら光る。
視線を上へと上げれば、こちらにも満点の星々が。確かに星は輝いているが、けれど主張しすぎない明るさが心地良い。
上下どこを見ても星空が広がる様に、自分も星の中へ浮かんでいるような錯覚すら感じられた。
本当はこの光景を写真に収めたいけれど、それがはぐっと我慢。吸血鬼に警戒されないよう、あくまでこの世界らしく楽しまなくては。
視線を遠くに向ければ、湖から離れていく人々の姿が見えた。
彼らは無事に避難を行っているようだ。その様子には、ほっと一安心して。
集落の人々も星空は十分に堪能したようで、避難しつつも笑顔を浮かべている。それは嬉しい、のだけれど。
(夜の星たちも、明るい昼間や美しい夕焼けがあってこそ輝くもの。人にはやっぱり暖かい太陽が必要なんですよね……)
詩織が想いを馳せるのは先日までの戦争のことだ。
ライトブリンガーとの戦いで彼女の話していた内容、持っていたもの。光を奪ったと語っていたのは、どういうことなのだろうか。
そして彼女の手の中にあった匣には太陽が――あれがこの世界の、本物の太陽なのだろうか。
自分達は精一杯ライトブリンガーと戦った。詩織も全力で戦い、意識を失うまで相手に食らいついた。
それで確かな傷は刻めただろう。けれど彼女はまだ生きていて、太陽は取り返せていない。
あの時の悔しさも、決意も、絶対に忘れない。詩織は固く握った拳を胸に当て、空を見上げる。
「……次こそはきっと」
次の一歩に進むため、まずはここから。詩織は人々を救うべく、此度の討伐対象――吸血鬼の女をじっと睨んだ。
避難活動は無事に完了した。
ここからは、戦いの時間だ。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『星空を詠む者』
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POW : 宵のしるべ
【魔剣・夜空の残り火】が命中した対象に対し、高威力高命中の【様々な高速剣技】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 夜半のおきて
【夜の美空ダーガグリース】【明星の遣いゲッケビルドー】【しじまの主オードゥーイ】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 暁のやくそく
自身の【亡くした信念と心】を代償に、【獣となって夜空の残り火に全身全霊】を籠めた一撃を放つ。自分にとって亡くした信念と心を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
👑11
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湖の周囲に残ったのは、猟兵達と星を見上げる女のみ。
女はようやく周囲の異変に気付き、猟兵達をじっと見た。
「……なるほど、そういうこと。私の計画は失敗したのね」
自嘲気味に笑いつつ、女――『星空を詠む者』は猟兵達へ歩み寄る。
彼女が纏うのは確かな殺気だ。計画が失敗したからといって、吸血鬼もそのまま逃げるつもりはないらしい。
「どうせ目の前に太陽を取り戻そうとする奴らがいるのよ、放置は出来ないわ。それはあなた達も同じでしょう? だったらいいわ、殺し合いましょう」
話し合いは無用。猟兵とオブリビオン、顔を合わせたらすることは一つだ。
このまま彼女を取り逃がせば、間違いなく多くの被害が出る。
それを防ぐためにも、吸血鬼はこの場で討伐するしかない。
煌めく星に挟まれながら、戦いの幕が開く。
ソルレ・ベルナルディ
太陽が戻ってきたとしても夜になれば星はまた見えるようになるのにねえ。それじゃダメなのかい?
まあ、そう言って引き下がってくれるわけないか。やれやれ。おじさん基本は平和的にいきたいんだけどねえ。
さて、全身全霊を込めた攻撃を出してくるのか……おお、こわいこわい。(※全然怖がってない)
なら、ちょっと場所を変えようか。指を鳴らして【シェイプ・オブ・ウォーター】発動。
僕はほら、深海生まれたがら【深海適応】が可能だけど……お嬢さんはどうかな? なかなかに動きにくくなるんじゃないかな。まあそれが狙いなんだけどね。
相手が動きにくくなってる隙に水流を操って水の【属性攻撃】で攻めていっちゃおうね。
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此方を睨む吸血鬼に対し、ソルレ・ベルナルディが向けるのは緩やかな笑みで。
「太陽が戻ってきたとしても夜になれば星はまた見えるようになるのにねえ。それじゃダメなのかい?」
その程度で止まる相手とも思っていないが、聞くだけは聞いてみよう。ソルレが紡いだ言葉に、吸血鬼は案の定目つきを鋭くさせた。
「忌々しい太陽が昇る時間が勿体ない。私はいつだって、星を見ていたいから」
「やれやれ。おじさん基本は平和的にいきたいんだけどねえ。まあ、そう言って引き下がってくれるわけないか」
「……当たり前だ。私は星を探す、無くした記憶を取り戻すために。邪魔はさせない」
吸血鬼は炎のような揺らめきを纏いつつ、己の肉体を巨大な獣へと変身させる。
そこから伝わる情念自体はなかなか熱くて嫌いじゃないが、けれど手段は滅茶苦茶だ。
きっと彼女は、この美しい星鏡を血で汚す。エゴのために動くというなら、此方も自分なりに動くだけ。
「おお、こわいこわい。けれどこの綺麗な景色を汚すのはキミだって望んじゃないだろう? だから……」
ソルレが指をパチンと鳴らせば、世界が変わる。
空から降り注ぐのはきらきら煌めくソーダ水の雨。そこから広がる魔力は世界を侵食し、環境を変えていく。
「ッ!? 何をした!?」
「ちょっとおじさんの故郷に環境を合わせただけだよ。ほら、海の底から見る星だって綺麗だろう?」
ソルレが発動したのはシェイプ・オブ・ウォーター――戦場を深海へと同じ環境に変える能力だ。
セイレーンであるソルレにとって、海の底は馴染んだ場所。
けれど吸血鬼にとって全くの異空間であり、どれだけの情念を抱こうが動きづらい環境だろう。
それに――二人が見上げる空は、海の底から見上げるようにゆらゆら揺れて、ぼやけている。
ソルレにとってはそんな星空も美しいけれど、吸血鬼にとってはそうでもないのだろう。
「ふざけるな……私の星空を返せ!!」
獣と化した吸血鬼は怒りのままに飛び込んできたが、その動きは緩慢だ。
攻撃を回避することも、此方の攻撃を叩き込むことも容易。ソルレは水の魔力を周囲に展開し、飛び込む獣を見据える。
「一度頭を冷やすと良いさ、それこそ骸の海でね」
生み出した魔力で周囲に水流を生み出して、それで獣を飲み込めば、巨体は海の中へと流され揉まれていく。
何処から見ても、何処にあろうと、星空の美しさは変わらないのに。いつかそれが分かるといいね。
沈む吸血鬼の姿を見遣り、ソルレは眉を落としつつ笑うのだった。
大成功
🔵🔵🔵
レクス・マグヌス
【心情】
お前は星空を奪われると思っているんだろうが、この世界の者たちは100年の間、太陽を奪われた
だから、取り戻すんだ
逆の立場になったことに哀れみはないでもないが、太陽を奪われた人々の悲しみも同じことだ
「陸で戦わないか? 湖を血で穢したくはない」
【戦闘】
「聞くがいい! 我が名はレクス・マグヌス! 滅びし都の最後の王!」
獣となった『星空を詠む者』の攻撃を「残像」「オーラ防御」「武器受け」で防ぐ
「フェイント」「生命力吸収」「武器から光線」で隙を作り、UCを発動して攻撃する
「嵐よ起きろ、戦いの時だ!」
哀しいな
空無き世界の星空が美しいと感じることには、僕も、村の人々も同じだったというのに
●
怒りを滲ませ猟兵達を睨む吸血鬼。
そんな彼女に対し、レクス・マグヌスが向ける視線は落ち着いていて、それでいて真っ直ぐだった。
「お前は星空を奪われると思っているんだろうが、この世界の者たちは100年の間、太陽を奪われた。だから、それを取り戻すんだ」
レクスが思うは夜闇の世界の歴史。
大切なものを奪われた苦しみは、多くの人が抱いているだろう。それをあの吸血鬼も味わうことになることに、哀れみを感じない訳ではない。
けれど太陽を取り戻さなくては、同じ悲しみを積み重ね続けるだけだ。レクスは迷うことなく、眼前の吸血鬼と戦うつもりだった。
「陸で戦わないか? 湖を血で穢したくはない」
「……お前の主張は気に食わないが、その提案には乗った。いいわ、そっちで殺してあげる」
吸血鬼は躊躇することなく陸上へと向かい、そちらからレクスを睨む。
レクスもまた美しい湖から進んでいき、吸血鬼の前へと立った。
「分かっていると思うけれど容赦はしない。ここでお前を潰す!」
怒りを滲ませた叫びと共に、吸血鬼は巨大な獣へと姿を変える。
星を望む獣に対し、立ち向かうは魔剣を従えた嵐をもたらすもの。
「聞くがいい! 我が名はレクス・マグヌス! 滅びし都の最後の王!」
魔を以て魔を打ち払う――自らの役割と果たすべく、レクスは獣との戦いへ飛び込んだ。
獣と化した吸血鬼はひたすら突き進みながら、レクスを撃ち落とそうと攻撃を繰り出す。
動きは単調だが、その威力は凄まじい。一発でも喰らえば凄まじいダメージを受けるだろう。
そこでレクスは残像を生み出しつつ、縦横無尽に戦場を飛び回る。
なるべく相手を撹乱し、少しでも隙を作るため――振るわれた拳を回避した瞬間、見えたのは此方を睨む獣の瞳。
「――今だッ!」
レクスは剣を握る手に力を込めると、そこから眩い光を放つ。
夜闇を切り裂く煌めきは獣の瞳に突き刺さり、彼女の動きを大きく鈍らせるだろう。
攻撃するなら今がチャンスだ。災厄を解き放て、今こそその力を振るう時。
「嵐よ起きろ、戦いの時だ!」
レクスが剣を振り払えば、そこから生じる嵐は一気に獣を飲み込み切り裂く!
溢れ出る鮮血は大地に吸い込まれ、湖を汚すことはないだろう。
「……哀しいな。空無き世界の星空が美しいと感じることには、僕も、村の人々も同じだったというのに」
道を違えたケダモノに出来ることは、その道を終わらせることだけだ。
だからこそ、レクスは迷わず戦う。この勝利が、いずれみなを正しい道に連れていけると、そう信じて。
大成功
🔵🔵🔵
麻生・竜星
風魔昴(f06477)と共闘
呼び方→スー
アドリブ歓迎
太陽はいらなくて星は必要だって?
お前は何を言ってるんだ
太陽も星も同じもの。違うのはその距離だ
お前の言い分なら、星達もいらないということになるんだがな……
そして、星達は生贄など望んでいない
なぜなら星達は生命を生み出すものだからな
敵の攻撃は【見切り・オーラ防御・第六感・残像】で回避
攻撃は【斬撃波・衝撃波・呪殺弾】を昴と連携を取りながら行う
「スー、同時に行くぞ」
ダメージが蓄積されたなら、昴に合図
同時にUCを放つ
「粒子に戻って生命の事を学び直してくるといい」
風魔・昴
麻生竜星(f07360)と共闘
呼び方→竜
アドリブ歓迎
私も星が好きだし素晴らしいと思う
ずっとずっと見ていたいとも思う
だけど日の光も尊いものなの
それがなければ土地はやせ細り草木は育たない
草木が育たないと生物は生きていけない
それに何より星達は命が犠牲になるなんて望まないわ
……きっとそう話しても理解はできないかもね
だから貴方が好きなこの場所で永遠に眠らせてあげる
敵からの攻撃は【オーラ防御・見切り・残像・第六感・結界術】を使って回避
こちらからの攻撃は【衝撃波・斬撃波・呪殺弾・音響弾】を竜星と連携を取りながら行う
「了解、竜」
竜星の合図に頷き同時にUCを
「星達の中で永遠に眠らせてあげるわ。感謝しなさいね」
●
吸血鬼は太陽を憎み、星を望むといった。
星を愛する気持ちは麻生・竜星にとっても風魔・昴にとっても理解出来るもの。だからこそ、吸血鬼の主張は見過ごせなかった。
「……私も星が好きだし素晴らしいと思う。ずっとずっと見ていたいとも思う」
「ならば何故邪魔をする!」
静かに紡ぎ出された昴の言葉に、吸血鬼が怒りを顕にする。けれど昴はその怒気に負けないよう、更に強く言葉を紡いだ。
「だけど日の光も尊いものなの。それがなければ土地はやせ細り草木は育たない、草木が育たないと生物は生きていけない」
星の光だけでは世界は育まれない。
太陽が世界を育て、月と星が世界を癒す。そのサイクルがあるからこそ、生命は広がり続けることが出来るのだ。
吸血鬼もその原理は理解出来ているのか、顔を歪ませ昴を睨み、返す言葉は苦々しいもので。
「だが……それはあくまで人間達の話。私には関係ない」
「だったらこういうのはどうだ? 太陽も星も同じもの。違うのはその距離だ」
今度は竜星が言葉を紡ぎ、吸血鬼を睨む。彼女も学者のフリをしていたのだから、世界の仕組みについてはある程度理解しているだろう。
「太陽はいらなくて星は必要だって? お前は何を言ってるんだ。お前の言い分なら、星達もいらないということになるんだがな……」
「うるさい……元が同じものだとしても、太陽は私達の身体を焼く。星は導いてくれる。齎すものは違うだろう!」
「……そうね。確かに星はいつも私達を見守ってくれている」
竜星の隣に立ち、昴もしっかりと吸血鬼を見据える。
ここにいる者は誰もが夜空を愛している。だからこそ――見過ごせないものがあるのだ。
「だからこそ星達は命が犠牲になるなんて望まないわ。彼らの為に血を流すのはやめて」
「ああ、星達は生贄など望んでいない。なぜなら星達は生命を生み出すものだからな。やめるなら今のうちだ」
猟兵達が真っ直ぐに向けた言葉。それを受け、吸血鬼は少しだけ目を伏せる。
しかし彼女が出した結論は変わらなかった。
「……お前達に何が分かる。今更止められるか!」
「……やっぱり理解は出来ないわよね。だから貴方が好きなこの場所で永遠に眠らせてあげる」
昴は銀杖を構え、戦いへ向けた姿勢を取る。その隣では竜星も金剣を構え、呼吸を整えていた。
「行こうか、スー」
「ええ、この星空と星鏡を守るために!」
大切なもののために、星空の元で戦いの幕が開く。
吸血鬼は巨大な獣に変身し、口に魔剣を咥えて戦うようだ。
変身した彼女の姿を睨みつつ、猟兵達は呼吸を合わせる。
「まずは相手の攻撃を凌ぎましょう!」
「チャンスを見つけたら突撃だな、了解だ」
互いの戦い方はよく知っている。打ち合わせは最小限で大丈夫だ。
獣は分かりやすく此方に突撃し、巨体と剣技を合わせて嵐のような攻撃を放つ。
その斬撃に対し、竜星は軽やかな身のこなしで飛び込んでいく。致命傷になりそうなものは回避して、迫る刃は剣にて受け流して。
一方昴のほうはオーラの防御を展開し、離れた位置から相手の様子を確認していた。
「まずは削っていかないとね……!」
身を守りつつ昴が発動するのは、星の魔力を籠めた斬撃波の魔術。
煌めく刃は獣の巨体を切り裂き、その動きを鈍らせる。その隙に潜り込むのは竜星の役目だ。
「ここか!」
相手が大きく腕を振るった瞬間を見計らい、振るうのは鋭い斬撃。
竜星の放った一閃は獣の身体を切り刻み、大きなダメージを与えていた。
猟兵達は互いに声を掛け合い、支え合って敵と戦い続けた。
少しずつ敵も弱ってきている。そろそろ大きく攻め込む時だろうか。
「スー、同時に行くぞ」
「了解、竜」
互いの顔を一瞬だけ見合って頷き合って。武器を構えて発動するのは必殺のユーベルコードだ。
「月光よ、弾丸となり乱れ飛べ!」
「夜空に輝く数多の星達よ。不浄なるかのモノを浄化せよ!」
竜星の構えた剣からは輝く月光の弾丸が放たれ、昴の銀杖からは星空の光が降り注ぐ。
その魔力はこの世界に輝く星と、輝き映す湖から与えられている。
やはり星達は誰かの犠牲を望んでいない。猟兵達に止めてほしいと願うから、力を貸してくれているのだろう。
煌めく輝きは吸血鬼の身体を浄化して、獣の肉体を吹き飛ばす。
その中から飛び出したのは幾つもの傷を負った吸血鬼の本体だ。
倒れ伏す彼女の様子を見遣りつつ、猟兵達は再び武器を構える。
「粒子に戻って生命の事を学び直してくるといい」
「星達の中で永遠に眠らせてあげるわ。感謝しなさいね」
いずれ彼女が本当の星の美しさを、願いを理解出来るようになるため。
そして人々と星々を守るため。
猟兵達は何度でも、輝きと共に戦い続ける覚悟を抱いていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
八坂・詩織
起動!
髪を解き、瞳は青く変化し防具『雪月風化』を纏う。
星は好きだけど太陽は嫌い、ですか?おかしなことを言いますね、星も太陽も同じ自ら光を発する恒星ですが…まあ、この世界ではその辺の知識がないのも無理はありませんけど。
この世界はさながら終わらない極夜のようなものかもしれません…でも陽射しの暖かさも知ってほしいと思います。だから太陽は取り戻させてもらいます。
ところで月はお好きですか?
月煌絶零発動。魔氷と麻痺で敵の動きを止めます。貴女がどれだけ自分を強化しても、消えない氷と貴女自身の強化の代償が貴女を蝕むでしょう。
絶対零度の凍気はいかがですか、太陽の熱が恋しくはなりませんか?
●
多くの傷を受けつつも、吸血鬼の瞳から戦意は衰えない。
相手がそのつもりなら、此方も全力で戦い抜けよう。八坂・詩織はイグニッションカードを手に取ると、夜空へ向けてそれを掲げる。
「――
起動!」
カードが起動すると同時に詩織の長い髪は解かれ、纏う衣服も白く美しい着物へ変わる。
夜空と同じ深さと宿した青い瞳が敵を睨めば、紡がれるのは確かな言葉だ。
「星は好きだけど太陽は嫌い、ですか? おかしなことを言いますね、星も太陽も同じ自ら光を発する恒星ですが……」
「……頭では分かっているつもりだ。けれど私にとって、星はやはり特別なものなんだ」
知識があろうと吸血鬼は止まらないのだろう。それは彼女の在り方だけでなく、この世界の歪さを映し出しているようで。
当たり前に太陽が輝く世界なら、目の前の吸血鬼の思想も違ったものになっただろう。けれどここまで歪んでいるのは、世界自体が歪んでいるから。
「確かに、この世界はさながら終わらない極夜のようなものかもしれません……でも陽射しの暖かさも知ってほしいと思います」
先程まで湖にいた人々。彼らはきっと、太陽の暖かさを待ち望んでいる。
苛烈な戦いを超えても尚、太陽の灯らない世界。だからこそ猟兵達は、まだまだ戦い続けるのだ。
「だから太陽は取り戻させてもらいます。それから……月の輝きも」
「そうか。なら私もやるだけやらせてもらおう。滅びろ、猟兵!」
吸血鬼は星の魔力をその身に宿し、詩織の元へ肉薄する。
決着の時まではあと少しだ。
「月はお好きですか? 私は好きです。だってこんなに頼もしいのですから」
詩織は空を見上げ、きっと遠くで輝く月へ意識を向ける。
この世界で見た月だって偽物だった。けれど本物の月だって、いずれ取り返して見せる。
そんな詩織の決意に応えるよう、戦場に降り注ぐのは青白く輝く月光だ。
その光に照らされた吸血鬼は動きを止めて、身を震わす。
「何をした
……!?」
「月煌絶零。あなたの強化は自らを蝕むもののようですね。それを受け取りつつ、凍らされるのは辛いでしょう」
詩織の言葉通り、吸血鬼は口の端から血を流している。その状態で月光から魔氷の戒めを付与されれば、苦しみを掻き消すことも動くこともままならないだろう。
「絶対零度の凍気はいかがですか、太陽の熱が恋しくはなりませんか?」
「いやだ、認めたくない。太陽の熱なんて……」
「……この世界に生きる人々は、確かに月や星からの加護を受けています。けれど太陽の暖かさだって、生きるのに不可欠なんですよ」
詩織の諭すような言葉を聞きつつ、吸血鬼は目を閉じる。そしてその目は、二度と開かれることはないだろう。
残ったのは静寂と猟兵達。
そして空と湖に煌めく、美しい輝きだけだった。
大成功
🔵🔵🔵