闇の救済者戦争㉑~鏡写しの断面
●グリモアベース
「五卿六眼のひとり、『腐敗の王』との決戦のめどがついたわ」
戦争も佳境に進む中、グリモアベースにてコルネリア・ツィヌア(人間の竜騎士・f00948)が切り出した。
「まず前提として、『欠落』自体は健在だから、完全に滅ぼすことは出来ない。でも、倒す毎に『生と死の循環』が解放されてゆくみたいなの」
ダークセイヴァーの地で死を迎えた人が『魂人』となり、更なる苦しみを迎えるのは、腐敗の王が循環を停止しているからだという。
そして、今回の決戦で王を倒す毎に、僅かずつではあるが、循環通りの死を迎える確率が上がることになるようだ。
「この事実に意義を感じるなら、どうか、ひとつでも多くの勝利をもぎ取る為に、力を貸して頂戴」
祈りの双子を撃退次第、腐敗の王も撤退する。それまでに得た勝ち星、それが一つでもあれば。そして多ければ多いほど、世界は大きく変化するだろう。
「ただ、やはり強敵で、難敵でもあるわ。……『腐敗の王』はその能力のひとつとして、『死の循環』を加速することで、視界に映る全てを腐敗させていく」
血管で埋め尽くされた大地、立ち向かう猟兵たち。
腐敗させられ、消滅したその全ては、『オブリビオン』として腐敗の王の傍らで蘇ることになる、という。
「つまり、居るだけで消耗していく状態で、万全の状態で使役される自分、プラス腐敗の王と戦うことになるのよ」
更に腐敗の王単体としての能力も凄まじい。
自身の全身を熱き魂の炎と化して攻撃、ダメージの他に猟兵たちの武装を焼却し、攻防共に劣化させる。
腐敗による「消滅と忘却の宿命」の込められた一撃による攻撃。何らかの強化を得ていた場合、戦闘中ユーベルコードの知識を忘却させられる。
更に、世界を司る「世界法則」そのものから、戦場全体に死の循環を放ち、加速状態の所に更なる腐敗を与える……。
「勝ち筋としては、『死の循環』の加速中は、腐敗の王も傷を癒せず、耐久力も脆くなっているの。だから、ほんの一筋の傷でもいい。その一筋を、出来るだけ重ねて。それが、勝機になるわ」
断たれた循環を再び描くように。
小さな傷を積み重ねる。それが、腐敗の王をひとたび倒す為の方策だという。
「一太刀浴びせるだけでも大変な戦場だけど、その一太刀は必ず結果に繋がるわ。行ってくれるというひとは、どうか、お願い」
奪われた循環を、取り戻すひとつを得て欲しい。
厳しい表情で、コルネリアはそう結んだ。
越行通
こんにちは。越行通(えつぎょう・とおる)です。
『闇の救済者戦争』シナリオ、『腐敗の王』との決戦をお送りします。
OPにもありました通り、戦場は存在するだけでBSがかかります。
これは、基本的にはどんな種族も関係なくかかるものとします。プレイング上で、あるいはユーベルコード等での対処については、その都度判定します。
この戦場のプレイングボーナスは、以下のとおりです。
『プレイングボーナス…僅かずつでも腐敗の王に与えたダメージを重ねる。』
戦場の特性と強敵であることから、判定も普段より少し厳しめになるかもしれません。
その上で、どうか、自分らしく。どういう風にこの戦場を戦いぬくのか、その生き様を示して下さい。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『五卿六眼『腐敗の王』』
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POW : フレイムビースト
自身の【全身】を【熱き魂の炎】化して攻撃し、ダメージと【装備焼却】の状態異常を与える。
SPD : オブリビオンソード
【腐敗による「消滅と忘却の宿命」】を込めた武器で対象を貫く。対象が何らかの強化を得ていた場合、追加で【ユーベルコード知識忘却】の状態異常を与える。
WIZ : 死の循環
【この世界を司る「世界法則」そのもの】から、戦場全体に「敵味方を識別する【死の循環】」を放ち、ダメージと【肉体腐敗】の状態異常を与える。
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夜刀神・鏡介
こいつ、発言や態度は微妙にまともに見えてくるな
とはいえ、その能力は凶悪そのもの……どこまで食い下がれるか分からないが、出来る限りの事をやってみよう
神刀の封印を解除して、黎の型【纏耀】を発動
強い神気を纏って真の姿に変身、戦闘能力を大きく強化すると共に、状態異常の無効化する……とはいえ、この腐敗に対しては少々影響を弱める事ができる程度か
とはいえ装備焼却効果を受けないなら幾らかやりやすくなる
オブリビオン化した自分は斬撃波で牽制して、最小限の動きでやりすごす
一対二は不利だが、そちらを相手している間にも戦える時間は刻一刻と減少していく
渾身の力を込めた一撃で、炎の身体と化した腐敗の王を叩き切る
●
腐敗が満ちる赤と黒の地平で、腐敗の王は猟兵の到来を、確信と共に待っていた。
「死の循環」が加速し、すべてが沈んでいく大地。
こんな場所にすらも、自分から目指し、そして辿り着くだろう。
だから、まだ知らない、わからないことは、そんなことではない。
「果たして、どこまで戦えるものか。それだけは、実際に相対しなければ、わからない」
そうだろう、と顔を向けた先に、最初のひとりが降り立った。
――こいつ、発言や態度は微妙にまともに見えてくるな。
生と死、劫火と腐敗、魂と肉体。夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は何ともいえない心地で、二面性を抱く腐敗の王を見る。
だが、その思考も一瞬。たちどころに全身が異変を訴えるのに伴い、既に手を添えていた白鞘を取り払う。
――とはいえ、その能力は凶悪そのもの……どこまで食い下がれるか分からないが、出来る限りの事をやってみよう。
持ちえていた幾重もの護りに加え、神刀を解放してすら完全には退けられない、身体中の恐ろしい違和感に、希望的観測を捨てる。
溢れ出す神気を纏い、更に自身が神刀に潜るように、神刀が己に宿るように、分かち合っていたものをひとつにしてゆく。
その変化を前に、腐敗の王もまた、魂に火が点ったようだった。
魂の炎が、熱く燃え上がり、腐敗の王が、燃え盛る炎の塊となる。炎の中から、劫火そのものの声が、鏡介へと呼びかける。
「
私を前に剣を執る者。猟兵よ――見せてくれ、その埒外の限界を……!」
髪が変わり、燃え盛る腐敗の王の熱風になびく。開いた瞳は黄金色となって、王の全身を取り巻く炎を見据える。
僅かに緩やかになる腐敗。特に左腕に残った力で、握った刀を、水平に薙ぐ。
甲高い音を立てる、何かを阻んだ。
その結果を確認するより早く、飛びかかる腐敗の王に対し翳した神刀が、一度炎を押し返し、鏡介の全身を包む。
完全に炎に飲まれたかに見えた一瞬、内部から切り裂くように清廉な刀が、刀を握る腕が現れて、炎を置き去りに走り出す。
「我が炎でも燃えぬ刃、――こちらも持っていそうなものだが」
その言葉と共に、鏡介の『過去』が再び刀を振るう。今は利剣を使っているのは、鏡介の『常日頃』が反映されてのものか。
呼吸ひとつも無駄にせず、斬撃波を幾重にも放ち、己の過去を牽制すると共に、敢えて反動を緩し、前へと進む。
世界に満ちた腐敗とは別に、己の存在を削って、一刻も早く。
神刀とひとつになった今、すべての動きが、斬ると決めたものを斬ることのみに特化してゆく。
最低でも一太刀。届かせる為に切った切り札。いつ動けなくなるかわからない。一秒後に崩れ落ちても不思議ではないこの戦場で。
「――ッ」
距離を稼ぐ為に地を蹴った。身を捻る跳躍はそのまま神刀への重みを伴う軌跡となって、熱き魂の炎と化した『腐敗の王』を薙ぐ。
森羅万象の悉くを斬る刃が、炎を断つ。
炎が一度大きく渦巻き、被った布を剥がれたように、腐敗の王が姿を現す。
未だ健在ながら、――その胸元に、大きな刀傷が一筋。
成功
🔵🔵🔴
ロラン・ヒュッテンブレナー
・アドリブ連携歓迎
これが、生と死の循環を操るってこと…
それに、ぼく自身も敵に…
魂人への転生に、死、この戦場は、なんて苦しいの
でも、諦めないの
体は朽ちても、魔力が残ってる限り!
ドーム状の結界を展開、ぼくの偽物の攻撃は防げるの
魔道具たちも、崩れ落ちる前に、魔術回路を全力励起
ありったけの魔力を使って、様々な属性攻撃魔術を乱れ撃つの
ぼくを中心に、円周状に、腐敗の王も偽物も巻き込むように…
はぁ、はぁ、……
一つ、偽物のぼくじゃ、これは真似できないでしょ?
ぼくが撃ち込んだ魔術の痕跡同士を魔力でリンク、超大型魔術陣を展開
UC発動
これは、オブリビオンだけを祓う、ぼくのとっておきだから…
う、後は、任せたの…
●
血管に埋め尽くされた第二層の大地。空は夜の闇より尚暗く、まがいものの月が虚空に浮かぶ。
加えて、『死の循環』が加速された今、この場所はあらゆる存在を溶かし、解き、過去へと押し流す。
死を迎える前に、死後の腐敗と解体を迎える。理屈以上に理解したロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)が、己の存在を押し留めるように、足を踏みしめる。
「これが、生と死の循環を操るってこと……それに、ぼく自身も敵に……」
内側から腐敗したロランの血肉が、腐敗の王の手で、ロランという過去として、オブリビオンとなってゆく。
このようなことを自在に行えるのならば。魂人という存在の痛ましさを思い出し、苦痛に満ちた息を吐く。
「魂人への転生に、死、この戦場は、なんて苦しいの」
死より先の痛みに蝕まれて、仰いだ空はまるで逆さまの落とし穴だ。
「でも、諦めないの」
呟きと共に、結界術を起動・展開する。
燃えるような熱さ、それとも痛みなのか。それすらもわからないけれど。
「体は朽ちても、魔力が残ってる限り!」
結界の展開とほぼ時を同じくして、『ロラン』から、全力での数々の魔術が叩き込まれる。
削られ、補修し、削られ。腐敗の王が放つ、更なる腐敗の誘発が、均衡を崩す。
――早い!
出し惜しみなしで、ありったけのリソース、魔道具、魔術回路を全力励起、全てを注ぎ込んで虚空に円を描くような魔術の弾幕を放つ。
すべてここで消耗してしまうのが、恐らく一番効率がいい。――準備の段階から、全力で。
ロランを中心に円周状に展開した魔術は、腐敗の王と『ロラン』をまとめて穿つ。――普段ならば。
「はぁ、はぁ、……」
存在を削られ続けているロランと、常に最高の状態の『ロラン』で、同じような魔術の撃ち合う。
それは、悪手に見えたろう。
「死を厭わぬ魂よ。熱意は伝わった。だが、お前の刃は私には届いていない」
腐敗の王が剣を払い、ロランが放った属性魔術を流し、『ロラン』がそれらを打ち消した。
ロランは、ただ息を荒げて、残る魔力を練る。
「一つ、偽物のぼくじゃ、これは真似できないでしょ?」
魔力が流し込まれた先は、敵ではなく、ロランの撃った魔術の軌跡。
円周に魔力が流れ、繋がり、紋様が浮かび上がり、円から、意味を成す魔法陣へと変わる。
それは、腐敗の王と『ロラン』を囲んで尚広く。
「マジカスキャン、座標確定。各「マジカ反応」リンク。術式転送、転写。エネルギー充填、完了」
温度の消えたロランの声が、現象を呼ぶ。
黒い雷が閃き、雨のように魔法陣へと降り注ぐ。『ロラン』の結界をやすやすと突破し、いくつも風穴を開ける。
――これは、オブリビオンだけを祓う、ぼくのとっておきだから……。
膝をついてしまって、これ以上は見届けられないけれど。
「う、後は、任せたの……」
きっと、届いたと信じて。
後に続く誰かを思いながら、雷の音の中で意識を落とした。
大成功
🔵🔵🔵
末代之光・九十
メタ…と迄は言わない。
けど。滅んだ國の小神でも。死と生命の循環の管理は僕の仕事だったんだ。
だから。僕程君と相性の良い猟兵はそう居ないと思うなー
第九権・生命の循環を収集重ねる事九十九。第十権・結合にて九つの花。
展開!(UC使用)
さあ。生命の弾幕だ。
君のその力を押し返すのは足らないけど。届かせる事位なら出来るし…やって見せる!
今の僕はホノリ……生命の方で。大地の代行の依代。
全力で循環させて死の循環の力は可能な限り相殺。
それでも腐り落ちて敵に回ったオブリビオンの僕は…
…ま。弾幕で押し流しゃ良いね。ぶっちゃけ僕ってUC無しの素だと概ね丈夫なだけだし。
後は我慢比べだ。食い下がれるだけ食い下がって削るよ!
●
腐敗の王は生と死の循環を操るものであり、現状、かのものにとって有効なシステムが敷かれたダークセイヴァーに於いては神の権能にも等しい。
だが、それはそのまま神を意味するものではない。
「ホームであることの有利さは。認めるけれども」
猟兵は世界を渡る埒外。その奇遇を、末代之光・九十(
何時かまた出会う物語・f27635)は語る。
「メタ……と迄は言わない。けど。滅んだ國の小神でも。死と生命の循環の管理は僕の仕事だったんだ」
その言葉に反応して、腐敗の王が『この世界』の法則に手をかける。
「だから。僕程君と相性の良い猟兵はそう居ないと思うなー」
ゆるく伸びた言葉尻に、不思議な余韻を残して。
場が、撓むほどに満ちた。
「第九権・生命の循環を収集重ねる事九十九。第十権・結合にて九つの花」
望と我侭が渦巻いて、束ねた花は九つ。
「展開!」
――場に、無秩序に『生命』が広がる。
生命の概念。通常であれば治癒を施すそれは、概念同士の喰らい合いを生み出した。
「さあ。生命の弾幕だ」
「治癒もまた死への加速と――そんなことは、知っているのだな」
加速された死の循環は腐敗へと落ち続ける。その空間を生命の氾濫が揉みくちゃに流し、混沌とした均衡は水面のように危うく揺れる。
「君のその力を押し返すのは足らないけど。届かせる事位なら出来るし……やって見せる!」
「是非もない。お相手しよう……!」
「言ったよね。死と生命の循環の管理は僕の仕事。今の僕はホノリ……生命の方で。大地の代行の依代」
九十の頭は、ゆっくりと少しずつ、重くなってゆく。
この能力自体がそうである上、このような荒業同士でぶつかり、相殺を狙うと決めた時点で、見えない限界は定められている。
手足がぶれそうになる。腐敗を完全には御し切れていない。……ということは。
「腐り落ちて敵に回ったオブリビオンの僕は……」
どうやら、形成されてしまったようだ。腐敗の王の傍らで、一応得物を振るったり、呪詛を試しているようだが。
「……ま。弾幕で押し流しゃ良いね。ぶっちゃけ僕ってユーベルコード無しの素だと概ね丈夫なだけだし」
生命の氾濫の方に意識を集中すれば、想定通りあっさり押し流されている。辛うじて腐敗の王の盾代わりにはなったようだが、それ以上戦力にはなっていないようだ。。
万が一にでも『使い道』を理解されたなら話は別だが――そんな余裕を与えるつもりはない。
「後は我慢比べだ。食い下がれるだけ食い下がって削るよ!」
「歓迎しよう。見せてくれ、猟兵よ!」
頭は緩やかに重みを増して、手足は次第に弛緩しそうになる。
ゆるやかな侵食の中で、我慢比べの覚悟をする。それは、即死の覚悟とは別種の、比べようもない覚悟であった。
腐敗の王に刻まれた、胸の傷。魔術の痕跡。そして、脆くなった身体を打つ生命の氾濫。
未だに衰えは見えないまま。けれど、九十の感覚は、積み重ねられたものを、しっかりと感じ取っていた。
成功
🔵🔵🔴
リリスフィア・スターライト
お嬢様風だけれど妖艶な闇人格の
星夜で参加
腐敗の王の名の通り、厄介な能力の持ち主ですわね
でも傷を癒せない欠点があるなら、これを利用しない手はないですわ
装備も強化も機能しない状況なら、これしかないですわね
漆黒聖女で腐敗の王に少しでも苦痛を与えて差し上げますわ
しっかりと敵意を抱かせるよう挑発しますわね
腐敗の王の名前の通り、腐りきった醜い存在ですわねと
他の猟兵達と連携している状況なら、
同時に癒しも与えて援護しますわね
少しでも長く腐敗の王に苦痛を与えて、
じわじわと破滅への道を辿らせてあげますわ
それでも限界だと感じましたら退きますわ
腐敗の王の手駒になるつもりはありませんからね
レナータ・バルダーヌ
魂人さんが生まれるのは、あなたが原因でしたか……。
生きてこそ希望があると信じてはいますけど、永遠の苦しみを背負う彼らをこれ以上増やすべきではありません。
ここで倒して、自然な流れを取り戻してみせます!
【痛みに耐える】自信はいくらでもありますけど、長居はしない方がよさそうです。
失った両翼の痕からロケットのように炎を噴射し、【C:J.ディストラクション】で飛行。
腐敗が地獄の炎にまで及ぶとしても、体と違って継ぎ足せるので問題ありません。
自身のオブリビオンは、下手に負傷させないほうが相手は楽なはず。
速度を活かして振り切り、負傷も覚悟で敵本体に突撃。
この身の痛みを力に変え、展開した歪曲力場に巻き込みます。
●
ここで『死の循環』の加速を開始してから、どのくらい経過しただろうか。
加速を止めぬまま、腐敗の王はこれまでの戦いでついた傷を見下ろす。
「これは、一度死ぬかもしれないな」
更に多少存在を削られることにもなるかもしれない。
欠落が健在である以上、完全に滅びることはない。祈りの双子の目論見が潰えるまでは、もう少し猟兵との戦を求めよう。
それは、滅びる心配がないから、だけではない。
「魂人さんが生まれるのは、あなたが原因でしたか……」
その声に、炎を感じて、頭を上げる。
新たに現れた猟兵。――そう、それこそ、このような。
「
私は、見たいのだ。死を厭わぬ魂、生と死を超克した刃の輝きを」
小さく呟いた声が届いていたならば。あの猟兵の魂は、いかほどに燃え上がるだろうか。
全身を襲う痛みに耐えながら、レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)は腐敗の王を真っ直ぐ見つめていた。
かのものが阻害している生と死の流れ。それは最初から苦しみの為だけに行われる所業だ。
「生きてこそ希望があると信じてはいますけど、永遠の苦しみを背負う彼らをこれ以上増やすべきではありません」
生まれた者には希望を説きたい。だが、その生に刻まれた苦しみを思うのならば。
「ここで倒して、自然な流れを取り戻してみせます!」
彼女の背から、炎が噴き上がり、花開くように広がる。
全身に念動力場を巡らせ、炎の翼を一つに蕾めて噴射し、一気に空中を駆け抜けた。
腐敗の王が、炎へと変じる。素早さを最重視しての飛行の最中も、背中の地獄すら解こうとする腐敗はレナータを死へと追い落とそうとしている。
そして、もうひとつ。
「っやはり、そうしますか」
腐敗から生まれた、オブリビオンとしての『レナータ』が、レナータの速度を削ぐべく、各方向から念動力での攻撃を加えてきている。
それには敢えて反撃せず、自分自身ならどうするかを考えながら、その先を読んで攻撃から逃れる。
炎の翼すら、端から解けてゆくけれど。翼ならまだ継ぎ足せる。
『レナータ』の攻撃、腐敗の痛み、それに伴って継ぎ足されていく力を感じる。けれど、機を見失ってはいけない。
――耐え抜いて、その上で、腐敗の王へと辿りつかねばならない。
丁度そのとき、同じ頃合で戦場に降り立ったリリスフィア・スターライト(プリズムジョーカー・f02074)が、降り立った瞬間の感触に眉をひそめた。
「腐敗の王の名の通り、厄介な能力の持ち主ですわね。でも」
花咲き乱れる長い髪と深い赤のドレス、令嬢然とした物腰。――リリスフィアが封印していた人格、『
星夜』は、そうしたすがたで現れた。
炎の翼で空を舞うレナータと敵との攻防を見比べ、腐敗の王に刻まれた傷を見る。間違いなく、複数の猟兵の手によるもの。
「傷を癒せない欠点があるなら、これを利用しない手はないですわ」
ましてや、と呟きながら、目を細めた微笑には剣呑な余裕があった。
「装備も強化も機能しない状況なら、これしかないですわね。少しでも苦痛を与えて差し上げますわ」
ドレスの裾を捌き、あえて剣を持つことなく、ただ息を吸う。
腹から声を出す。よく通るように、あくまで優雅であるように、戦場を貫くべく。
「――腐敗の王の名前の通り、腐りきった醜い存在ですわね。お見苦しいこと」
既にこちらの存在には気づいていたものらしい。生成された『リリスフィア』のオブリビオンと共に、腐敗の王がこちらを見る。
空を飛ぶレナータから注意を逸らし続ける意味でも、更なる挑発を重ねる。
「お前も今、内側から腐敗しているが」
「それでお人形遊びしてるのはどなた? しかも、『見せてくれ』だなんて、いけ図々しいこと」
何処か愉快げな腐敗の王に、さも退屈そうな態度で応じてみせる
星夜。
「なかなかの挑発だ。乗ろう」
笑った腐敗の王が、炎を納め、死の循環の加速へと切り替える。
恐らく、苦痛は届いているのだろう。単純な敵意を持つふたりぶんのオブリビオンには覿面に効いている。あともう一押し。
一手を考えていた
星夜の視界を、炎の羽が横切った。
「助かりました。これならいけます!」
自分のオブリビオンを気にせず突撃出来るようになったレナータが、腐敗の王めがけて飛んでいく。
どうやら無事援護になったようだ、と認識すると同時に、咄嗟に
星夜は嘲笑をつくった。
「どうぞご自由に?」
レナータを迎え撃つか、
星夜の齎す苦痛に対処するか。
判断を下すまでの時間で、レナータは勢い良く腐敗の王に突撃してゆく。
腐敗の王が得物を翳す。構わず突撃したレナータの伸ばした腕、彼女の全身を覆う念動力場が、腐敗の王の得物に、これまで負ってきた傷に付加をかける。
引き、伸ばし、違えて――歪曲させる力場。
一方の
星夜も、嘲笑うような表情を崩さず、ふたりのオブリビオンを相手取って、苦痛の中に落とし込んでゆく。
「見事なお手伝い頂きましたところで……じわじわと破滅への道を辿らせてあげますわ」
連携してのふたりの攻撃は腐敗の王を著しく弱体せしめる。
その上で、退くようにと合図を送ったのは、
星夜が先だった。
「腐敗の王の手駒になるつもりはありませんからね」
レナータとしても、長居するつもりはない。
頷き合い、無駄なく撤退するふたりを、腐敗の王は、ただ、見送るだけだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シノギ・リンダリンダリンダ
腐敗の王。死霊を束ねる者として、お前の力はとても参考になります
生の循環、死の循環
もっと見せてください。見せてそして、略奪させてください
【全てを略奪せし者】を解放
万能宝石の欠片の装甲を全身に纏い、さらにその装甲に体内にある呪詛毒Curse Of Tomb、呪詛毒を吸収する呪詛毒Dead or Dieを浸透させる
腐敗に対抗する為にそれらを常に纏い、完全にシャットダウンできないにしても進行を遅らせる
腐敗した部分は排出し、常に新たな欠片を生み出して補っていく
武装焼却にも、攻撃に使用した欠片の腕、刃は燃えだしたら排出し、使い捨てにする
無限に生み出る万能宝石と死の循環
どっちが先にくたばるか、勝負ですね
●
腐敗の王は、己の死の気配を、色濃く感じていた。
死と滅びは違うものだ。今ここに居る己が死ぬことと、『腐敗の王』が滅び去るのは、死の循環より更に遠い摂理だ。
ただ全力で猟兵と相対してきた。己の保身を考えるならば、とうに退却している。だが、『腐敗の王』の退却は、今ここではない。
「腐敗の王。死霊を束ねる者として、お前の力はとても参考になります」
だから。その声に対しても、ただ己の能力を尽くすことを選んだ。
「生の循環、死の循環。もっと見せてください。見せてそして、略奪させてください」
言いたいことを言いたいだけ言ったシノギ・リンダリンダリンダ(
強欲の溟海・f03214)が、言葉と共にすがたを変える。
全身を覆う万能宝石の欠片の装甲。身長が、存在が、二回りほども大きくなってゆく。
腐敗の王が、魂を燃やす。腐敗から受け取る情報には、シノギの浴び続けた呪詛、毒、呪いが刻まれていた。
これほどの呪いを浴びて尚、己から何かを奪おうとする、シンプルで強固な決意。
腐敗は確実に進んでいる。だが、奪い続けてきたシノギのすべてを分解するのには、ひどく時間がとられるようだった。
纏う装甲もその一端を担っているのだろう。腐敗した欠片が排出され、すぐに欠けなく埋まる。
振り下ろされた腕を包んで燃やしても、呆気なく切り捨てる。
「捨てることに、躊躇いがないな」
「無限ですから。それに、なくなれば獲るだけですよ。さあ、もっと。もっとです」
海賊の女の輪郭をした災害の宝石が、その腕を振るう。足りないとばかりに増やした腕を、腐敗の王が焼き、じわじわと腐敗――解き、溶き、塵と化した『肉』を過去へと変える。
シノギのかたちをしたオブリビオンが生み出され、呪詛毒を撒き、欠片の装甲を剥ぐ。
「そう、それです。その仕掛け。それが見たいんですよ」
「奇遇だな。
私も、互いが何処まで保つのか、見たいのだ」
その言葉に、自分の顔をした
別物を巨腕でまとめてなぎ倒し、増やした腕で蹂躙しながら、シノギは言った。
「無限に生み出る万能宝石と死の循環。どっちが先にくたばるか、勝負ですね」
今も新たに生み出されるシノギのオブリビオン。極限まで腐敗に対抗する措置を行って尚、そうして現れる。
それを粒さに見る。一見同じことの繰り返しに思えるそれは、シノギの強烈な意思で成っていた。
――すべてを見て、再現したならば、それこそが略奪。
同じことの繰り返しに見えて、双方共に、少しずつ磨り減ってゆく。
ここまで重ねた傷と負傷。徹底的な防御策。そして何より、略奪への執着。
それら全てが、勝敗を決した。
「充分、見るものは見ました。あとはお前の蹂躙だけです」
動きを止めた腐敗の王に向けて、増やすだけ増やした巨腕と刃のすべてが、一斉に振り下ろされた。
●
赤黒き大地の循環が、元に戻る。
第二層全体の禍々しさは変わらないまま。ただ、戦場から死の偏りだけが遠のいてゆく。
そうして。世界の摂理に、小さなひとつの死が刻まれた。
大成功
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