闇の救済者戦争⑲〜それが正義だとしても
●英雄譚を綴るには
意志の力だけが、人を『英雄』にする。
その思想は、男にとってまさしく信念と呼ぶべき代物でした。
ただ力だけを得て、それに振り回されるままに悪に堕ちていく者のなんと多いことか。
気高く尊い意志を抱きながらも、ただ強いだけの悪に踏みにじられる者のなんと多いことか。
力を御するための意志を、意志を貫くための力を併せ持った英雄など数えるばかり。
正しき意志を持つ者に、相応しき力を与えるには誰かの手が必要でした。
男がその誰かになろうと考えたのは、ある意味で自然の事だったのかもしれません。
●悪逆の道を否定する
「――という感じのオブリビオンが皆さんの所に
やってきます」
猟兵が集うグリモアベース。
そこで、五卿六眼の一角である『紋章つかい』について語った人狼の男は最後にそう締めくくります。
これまで何度も猟兵の前に現れた『紋章』……その源たるオブリビオンが予知に映ったというのです。
「どうも予知を見る限り……紋章つかいの方から皆さんに接触したがっているようですね。なんというか、嫌に友好的です」
曰く、猟兵たちが第二層に踏み込めば、あちらの方から姿を現すとのこと。
どうやら、猟兵を正義を知るものとして、自分と目的を同じくする存在であると考えているようでした。
「ですので、向こうは紳士的な交渉から入ってくると思いますよ……紋章研究のために検体になってほしい、と」
ただし、本当に目的が同じだとしても、彼の歩む道のりは到底許容しがたいものなのですが。
猟兵の中には、『第五の貴族』の紋章製造を食い止めた者も沢山います。
そこで見て、あるいは仲間から聞いた人々は紋章が人間を犠牲にして作られることは承知の事でしょう。
「仮に、紋章つかいが正義のために、正しい目的のために紋章を作るとしてもです。紋章を作るため、あるいは研究過程で生み出されるオブリビオンの犠牲になる人々のために、あれは討たねばならないオブリビオンです」
グリモア猟兵は、迷いなくそう断言すると幾つかの映像をグリモアから浮かべます。
虫のような形をした寄生型オブリビオン……猟兵たちがこれまでに出会った紋章たちです。
殺戮者、辺境伯、番犬、月の眼、不死……いずれも猟兵たちを大いに苦しめたその力を、紋章つかいは一度に操るというのです。
「ええ、それぞれ説明をした方がいいでしょう。『殺戮者』と『辺境伯』はそれぞれ純粋なスペックを向上させます。別のオブリビオンが使った際には代償が発生したりもしていましたが……紋章つかい本人にそういった事は起こっていないようですね」
「『番犬の紋章』はなんとしても最初に壊してください。紋章以外への攻撃を無効化してしまうので、これがある限りどうしようもないのです」
「『月の眼の紋章』は戦闘力を66倍にする強力な紋章なのですが……本来は生贄のようなエネルギー源が必要だったはずです。何か細工があるなら、ただ壊す以外の対処もできるかもしれませんね」
「『不死』は最後になるでしょうね……言葉通り宿主を不死身にしますが、何度も殺していればいずれ体表に紋章が出てきます。そこを破壊してください」
「紋章はこの五つですね……当然ですが、紋章つかい自体が強力なオブリビオンです。お気をつけてください」
一通りの紋章の説明を終えた男が、ふうと息をつきます。
紋章つかいは多くの強大な力を持つオブリビオンですが、ただ強いだけの相手に臆するわけにはいきません。
「皆さんが協力を拒めば、紋章つかいは失望し大いに怒るでしょう。その身勝手な怒りに付き合うかはお任せします。此方が求めるのは、彼を討ち紋章の犠牲となる人々を救うことだけです」
最後にそう言った男がグリモアを浮かべると、転移の光が猟兵たちを包みます。
その光が、やがて猟兵たちを暗いダークセイヴァーの大地へと運んだ時。
「――君達を待っていた。正しき意志を正しき英雄に導くために、ぜひ協力してほしいんだ」
親しい友にかけるような言葉に、今まで生んだ犠牲に対する悔やみは微塵も感じられず。
いっそ腹立たしいほどに明るい声が響くのでした。
北辰
OPの閲覧ありがとうございます。紋章ってどれがどの効果持ってたかごっちゃになりますよね。
私はなったのでいろいろ確認してきました、北辰です。
そういうわけでボス戦です。
今回の相手は紋章つかい。名前の通り歴代紋章豪華セットを携えて登場してきます。
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プレイングボーナス……敵の装備している紋章を壊す。
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今回ご用意されてる紋章はOPの通り、殺戮者、辺境伯、番犬、月の眼、不死の五つです。
一応此方でも説明しておきます。
・殺戮者、辺境伯……単純なスペック増強の紋章です。後述の月の眼より出力に劣りますが、破壊する以外の対処法は存在しません。
・番犬……番犬の紋章以外への攻撃を無効化します。その性質上、最優先の破壊が必要となる紋章です。
・月の眼……戦闘力を66倍にするふざけた紋章です。本来は
人間画廊に捕らえた人間をエネルギー源としますが付近にそれらしきものが存在せず、生贄を救出しての攻略が不可能となっています。
ですが、魔術的な仕掛けを見破れる猟兵ならば月の眼の紋章に繋がる無数の『管』が見えることでしょう。
何処に繋がっているかは不明ですが、攻撃で断ち切ることはできそうです。
・不死……⑭の戦場で出てきた不死身化の紋章です。苦痛に狂うこともない様子なので、体表に浮かんでくるまで殺し続けねばなりません。
なお、戦闘に突入した場合紋章つかいは激怒します。
正義を失った猟兵へ、あるいは(彼にとって)小さな犠牲で正しい行いをできなくなる弱さに対して怒りを現すでしょう。
特に付き合う必要はありませんが、猟兵様からも信念をぶつけてみるのも面白いかもしれません。
それでは、正しさのみを求めてすべての犠牲を踏みにじる傲慢なオブリビオンとの戦い。
正しさだけの敵に屈しない皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『五卿六眼『紋章つかい』』
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POW : 紋章正拳
【「番犬の紋章」を拳に装着しての正拳突き】が命中した部位に【紋章つかいの正義】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD : 紋章連脚
【「不死の紋章」を脚裏に装着しての飛び蹴り】【「辺境伯の紋章」を膝に装着しての膝蹴り】【「殺戮者の紋章」を爪先に装着しての連蹴り】で攻撃し、ひとつでもダメージを与えれば再攻撃できる(何度でも可/対象変更も可)。
WIZ : 紋章断罪翼
自身が装備する【「月の眼の紋章」を両翼に装着した漆黒の翼】から【細胞破壊光線】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【肉体宝石化】の状態異常を与える。
👑11
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夜刀神・鏡介
力なき正義は無力で、正義なき力は暴力。それはある種の事実だと思う
それに、何かを成し遂げる為には犠牲が必要になる事もある
表面上は冷静に話をしながら、紋章使いの元へと間合いを誤認させる歩法で無造作に接近
間合いに入ったところで、神刀による居合い切り――澪式・拾の型【征伐】
だが――お前のそれは絶対に間違っている。交渉の余地はないと、不意打ちでまずは番犬の紋章を叩き切りにいく
幾ら強敵とはいえ、不意打ちを決めれば幾らか動揺するだろう。その隙に追撃
こちらは手っ取り早く狙えそうなところを。何かしら壊せば確実に戦闘力は落ちるだろう
1人で全ての紋章を壊すのは無理だろうが、少しでも削って後に繋げよう
●偽物
力なき正義は無力で、正義なき力は暴力。
予兆として垣間見た紋章つかいの哲学は、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)にとっても真実そうであると感じるものでありました。
『選ばれた』彼にとって無力の盾となるべく戦場に立ち、暴力に立ち向かう刃として戦うことはこれまで何度も繰り返してきたことなのですから。
そして、そういった戦いの中で何かを犠牲にしなくてはいけないことも、また然り。
「お前が紋章つかいか。何を求めているかはわかっているさ」
「おおっ、流石は猟兵と言うべきか! 喜ばしい限りだ!」
だからこそ、鏡介と紋章つかいの邂逅は穏やかな言葉の交換から始まったのです。
「俺は紋章を人にも扱えるようにもしたい。だが、まだまだ研究不足でね。あらかた試しても成果が上がらないから、より強い身体を持つ
猟兵の力を借りたいのだ」
傲慢なオブリビオンは、鏡介の言葉を自分の都合よく解釈します。
自分の目的を知っているのなら、当然協力してくれるに違いないと決めつける紋章つかいが言葉を紡ぐのに対して、鏡介は自分の表情が怒りに歪まないよう必死に抑えつけていました。
相手の言う
試したという言葉は、それだけの犠牲を積み上げてきたということ。
それを、誇るべき研鑽のように語る鬼畜の言に対して、鏡介は笑みを浮かべて向き合わねばならないのです。
「ああ、俺たちはきっと正義のため力になれると思う」
そう言った鏡介が握手を求めるように差し出した手に、紋章つかいは何の疑問もなく応じます。
ダークセイヴァーを支配する五卿六眼の一人として君臨し続けた彼にとって、自分の判断に裏切られたことなど、一度もないのですから。
「だが――お前のそれは絶対に間違っている」
猟兵という存在に出会う、今日までは一度も。
「なっ!?」
するりと間合いの内側に入った鏡介が左手で刀を抜き放ちます。
逆手のまま抜き放たれたその刃は紋章つかいが驚愕とともに交代する前に、差し出されていた手の甲……番犬の紋章を切り裂くのです!
「貴様、何を考えて……ッ!」
「決まっているだろう……お前を斬る!」
不意の一太刀は番犬の紋章を破壊するには至りませんが、相手に与える動揺は絶大です。
何より、振り上げた刀を改めて両手で構える鏡介にとってはその二太刀目こそが正真正銘の
澪式。
神気を帯びた刀の一閃が奔り、その一瞬後に紋章つかいが背の翼を羽ばたかせて距離を置きます。
「おのれ……お前は偽の猟兵だったのか! なんたる卑劣な真似を……!」
「……本当に、自分の都合の良い風にしか考えないんだな」
両断されたはずの手で拳を握りながらオブリビオンが怒りに震え、鏡介は半ば呆れてそれを受け止めます。
不死の紋章による再生能力により、一見すると完全に回復したように見える紋章つかい。
けれども、彼自身の肉体ではない番犬の紋章は無残に両断され、彼の悍ましき力の一端が失われたことを確かに示していたのでした。
成功
🔵🔵🔴
レナータ・バルダーヌ
そうしてできた英雄さんは、何のために必要なのでしょうか?
他人の犠牲の上に成り立つ力も認めたくありませんけど、無意味な犠牲ならもっと許せません!
どんな攻撃でも【痛みに耐える】自信はありますけど、光線はそれでは済まなそうなので最後の手段です。
サイバーウイング「カノン」のスラスター6基の出力と推進方向を独立操作し、変則的な【空中機動】で出来る限り回避。
避けきれなければサイキック【オーラで防御】、必要ならカノンの装甲も盾に使います。
機を窺い、スラスター左右1基ずつを副腕形態に変形させて【Ψ:K.エイマー】で攻撃。
熱線の軌道を操作し、防ぐならすり抜け躱すなら追い、状況に応じて紋章か急所を確実に狙います。
●油断
「そうしてできた英雄さんは、何のために必要なのでしょうか?」
紋章つかいと出会った時、レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)の口を突いて出たのはそのような言葉でした。
既に猟兵と戦っていたはずなのに、平然と笑みを浮かべて姿を現したオブリビオン。
その拳の番犬の紋章はすでに砕けているのですが、そんな戦いの手傷も無いものであるかのように男は頷きます。
「無論、悪を正すためだ! この世界、いやより広い世の中においては間違った力を持った者が多すぎるからな!」
「……それは、このようなやり方じゃなくてもできるのでは?」
どこか誇らしげですらある口ぶりで話す紋章つかいに対して、レナータの表情が僅かに歪みます。
作るために人の命を使いつぶし、その運用を探る上でもまた夥しい犠牲を出すオブリビオンのやり方は、彼女にとっては認めがたいものなのですから。
あるいはその犠牲が、誰かを救うためにどうしようもなく生まれてしまう、苦渋の決断によるものだとするのならまだしも。
「そんなもの……俺がこのやり方が良いと思ったからで十分だろう?」
「――わかりました。わたしが協力することは何もありません!」
ただオブリビオンの傲慢さから生まれる無意味な犠牲であるのなら、レナータは決して許すわけにはいかないのです。
「なんと……また偽の猟兵か? 仕方ない、いつも通り力づくで検体にするか……!」
思い通りにならないものを偽物と断じる、自分本位な言葉とともに紋章つかいが黒い翼を広げます。
それと同時にレナータも電脳仕掛けの翼を広げると、空中へと飛び上がります。
六つのスラスターを駆使して空を舞うレナータを追うのは、オブリビオンが放つ細胞破壊光線です。
これこそ、五卿六眼の一人である紋章つかいの操るユーベルコードの一端。
単なる熱によるレーザーであるならばレナータが臆するものではありませんが、肉体を破壊し宝石へと作り変えてしまうその力を無防備に受けるわけにはいきません。
「ッ、この威力は……!」
「ほう、一発は防ぐか。やはり大いに期待できる生命力だ!」
縦横無尽に曲がり追ってくる光線の一つを念動力で受け止めれば、レナータの操るエネルギーを一瞬で食い破ってしまいそうな攻撃の威力に紫の瞳が揺らぎます。
レナータの機動力を支えるスラスターに当たればそれは重い宝石へと瞬時に変えられて、猟兵の制御を離れて落ちていきます。
そうして辛くも相手のユーベルコードから逃げ回るレナータを、紋章つかいは興味深い観察対象として愉快そうに眺めるのです。
その傲慢さが猟兵を敵に回し、自分の足元を救うとも気づかぬまま。
「そこっ!」
「むっ!?」
逃げ回るばかりと思っていたレナータが、油断し始めたオブリビオンへと熱線を放ちます。
副腕形態に変じたスラスターから放たれた攻撃は、まるで紋章つかいの光線と同じように敵へと向かいます。
もっとも、複数の紋章の力で強化されたオブリビオンの光線と比べれば威力も速度も見劣りしてしまうもの。
首元を狙ったその一閃は、紋章つかいの余裕の笑みとともに躱されてしまうのです。
……相手の力は自分より劣るのだから、それで終わりだと。
オブリビオンは何の根拠もなくそう信じてしまいました。
「目に見えるものに惑わされず、心で撃つ……!」
膝裏の衝撃、何かが砕ける音。
相手の力を軽んじる紋章つかいの悪癖は、レナータが攻撃の軌道を曲げることなど予想もせずに。
背後からの攻撃で砕かれた辺境伯の紋章こそは、その油断の対価に他ならないと気付くのは、もう数秒後の話なのです。
成功
🔵🔵🔴
バーン・マーディ
……嗚呼
そうだ
常に理不尽は力ある者から振るわされる
貴様は確かに正義なのだろう
そこにあるのは善意のみ
…だが我は悪ヴィランである
貴様の正義に叛逆し…粉砕せん!
UC発動
【戦闘知識】
敵の攻撃の癖や立ち回り
紋章の位置を正確に把握
【オーラ防御・属性攻撃】
炎のオーラを広めに展開
紋章使いの月の眼に繋がる管の捕捉
捕捉次第魔剣で切断
【切り込み・武器受け・カウンター】
敵の拳に向けて魔剣によるカウンターで番犬紋章を破壊!
【空中戦・二回攻撃・鎧破壊・鎧無視攻撃・怪力・切断】
飛び回りながら魔剣による連続斬撃を叩き込み可能な限り紋章を破壊
貴様の持つ正義とは外道をなす為の免罪符にすぎん
貴様に作れるのは屍のみよ!!
ウィルヘルム・スマラクトヴァルト
正義のために
他人の命を踏みにじる?
そんなの、私は正義と認めない!ただの独善ではないか!
私の正義は、世界を、人々を護ることにある!
人々の犠牲を良しとする貴様とは、決して相容れないと知れ!
紋章はどれが残っているか不明ですが、
番犬>月の眼>殺戮者=辺境伯>不死の順で破壊を狙います。
UCを発動し、『緑の大盾』による【盾受け】で
敵のUCによる蹴撃を受け止めます。
仮に受け止め損ねても、【オーラ防御】でダメージは防いで、
再攻撃などさせません。
敵の紋章連脚を受けきったところで、私の方から紋章連脚を連発。
紋章つかいへの憤怒と【怪力】を乗せてたっぷり2分以上蹴り続けます。
貴様には、ここで斃れてもらう!!
●騎士の覚悟
人を助けることが正義であるなら、ましてや正しい志を持つ人々の助けになりたいというのなら、それは正義と言えるのでしょうか。
「――だから、是非とも君たち猟兵の力も貸してほしいんだ」
少なくとも、ウィルヘルム・スマラクトヴァルト(緑の騎士・f15865)の前で微笑み、自らの目的を語る紋章つかいは是と答えるのでしょう。
その過程で犠牲が出てしまうのは仕方のないこと。百人、千人を殺そうとも万を救えばそれが正しいとこのオブリビオンは信じているのです。
「……正義のために
他人の命を踏みにじる?」
そんな男に相対する騎士の胸に沸き上がった感情は、怒りでした。
ウィルヘルムは騎士としての使命感、騎士であるための責務を背負って戦ってきた男です。
そうした戦いに挑み続けてきた彼にとって、オブリビオンの言葉は認めがたい醜悪さに溢れたものとして響きます。
「そんなの……「――貴様は確かに正義なのだろう、そこにあるのは善意のみ」
エメラルドの顔つきに僅かに滲む不快感。しかし、紋章つかいがそれに気づく前に別の声がオブリビオンの思考を遮りました。
ウィルヘルムが清廉なる正道の騎士であるのなら、その声の主はまさに魔道を歩む者。
黒い鎧に身を包み、厳めしい雰囲気と共にその場に立つバーン・マーディ(ヴィランのリバースクルセイダー・f16517)は、紋章つかいの正義を肯定してしまうのです。
「おお……おお! 分かってくれるか! やはり猟兵ならば理解してくれると信じていたぞ!」
「嗚呼、そうだ。常に理不尽は力ある者から振るわされる……それを正さんと願うことはまさしく正義に相応しい意志だ」
この上なく上機嫌に笑う紋章つかいに対して、バーンが静かに頷きます。
その言葉を聞き、いよいよ自らの怒りを隠せなくなってくるのはウィルヘルム。
バーンの言葉は至極もっともです。ですが、この闇の世界において理不尽を振るい続けてきたのは何者なのか。猟兵であるバーンが知らないはずはないだろうと、ウィルヘルムの視線は鋭くなっていきました。
「……
案ずるな」
「ん? 嗚呼、協力してくれるのだな? 確かに、何人も断られて少しばかり不安もあったが……」
だからこそ、バーンのその言葉が誰に向けたものなのか、ウィルヘルムにはすぐに分かりました。
呑気にはしゃぐ紋章つかいと会話しているように見えて、その実このオブリビオンなど無視したその言葉。
そう、ウィルヘルムという騎士が正義ではないからこそ紋章を認められないのと同じく。
この黒騎士は、正義だとしても紋章を認めることはありません。
「紋章つかいよ、貴様の心得違いを正してやろう。確かに我は猟兵だ……だが、我は
悪である」
「……なに?」
「分からないだろうな。犠牲者も猟兵もロクに見ていないだろう貴様に、私たちの在り方など」
紋章つかいは、猟兵たちと自分の願いが共通すると思ったからこそ協力の申し出をしました。
しかし、実際は猟兵とオブリビオンどころか、猟兵同士である二人の騎士でさえ、正義と悪の異なる立場に身を置いているのです。
その上で、異なる騎士道を掲げる二人はたった一人の敵を見つめ。
「貴様の正義に叛逆し……粉砕せん!」
強大なオブリビオンに、迷うことなく挑んでいくのです。
悪を名乗り自らに敵対するバーンに、躊躇うことなくその隣に立ち、共に紋章つかいを討たんとするウィルヘルム。
2対1の形で襲い掛かられる事になった紋章つかいですが、しかしその胸中に浮かぶのは混じり気のない怒りでした。
「おのれ、目先の命ばかり見る偽善者どもめ! 貴様らのような誤った強者が世を乱すとなぜ分からない!」
たった今悪と名乗ったバーンも一くくりに罵るその言葉は、ウィルヘルムの言うように如何に紋章つかいが猟兵たち一人一人を見ていないかを表すものです。
独善的で、自分の見たもの考えたもののみが正しいと信じ込むオブリビオンのまさしく悪癖の発露でありますが、この悪鬼にはそれを押し通すだけの力がありました。
ただでさえ強大なオブリビオンである彼に上乗せされる紋章の力は、複数の猟兵を同時に屠るだけの強大なものであるのは確かなのです。
「ぐぅ……! お前の掲げるものを私は正義と認めない! ただの独善ではないか!」
紋章つかいが放つ苛烈な蹴りの連撃は、守りを固めて立ち向かうウィルヘルムをその場に縫い留めてしまいます。
真っ先に飛び出し盾となるウィルヘルムの後ろに立つ形となったバーンの戦略眼には、既にこの状況がエメラルドの騎士の類まれなる奮戦による均衡であると見て取れました。
ただ速く、ただ重い暴力の嵐はそれだけで猟兵の身動きを許さない圧倒的暴威です。
守勢に優れたウィルヘルムが完全に守りを固めているからこそダメージを通さず堪え切れていますが、少しでも呼吸が乱れ体勢を崩されてしまえば、その瞬間に加速するオブリビオンの蹴撃はあっという間に猟兵を打ちのめすに違いありません。
故に、ウィルヘルムの頬を掠めんばかりの鋭さで突き出された
黒い剣は。
強大な力に対抗する二人の騎士の、常軌を逸したとすら呼べる胆力の証でしょう。
「――なっ!?」
驚愕に見開かれた紋章つかいの眼差しが凝視するのは、バーンではありませんでした。
このオブリビオンにとって、相手は既に猟兵の
名を騙る卑劣な悪党なのですから、後ろから味方ごと攻撃する程度の悪行に驚きはしません。
彼を驚かせるのは、顔の真横を通る形で繰り出された魔剣の突きにまるで揺るがないウィルヘルムの在り方にありました。
その動揺はまさしく、守るために盾を掲げ、背負うものの為に決して屈することなく立ち続ける騎士の正義への不理解でもあります。
どこまでも独善的なオブリビオンの硬直を、当然ウィルヘルムは見逃しません。
「この緑の大盾で受け止めたユーベルコード、そっくりそのまま返してやる!」
自らの盾で受け止めた技を映し、相手へと返すユーベルコードはまさしく紋章つかいの連撃を再現します。
先ほどのウィルヘルムがそうであったように、猛烈な蹴りの嵐で身動きを取れなくされる紋章つかいに迫るのは、当然バーンです。
筋骨隆々とした体躯により剛剣の印象を持たれ、事実比類なき怪力を誇る彼ですが、ただ力を振り回すだけの男が黒騎士と呼ばれる筈はありません。
紅きオーラを纏った彼が飛翔すれば、オブリビオンを拘束するウィルヘルムの連撃の隙間を縫うように敵へと肉薄します。
その狙いに気づいた敵が足元をかばう様に後ずさろうとするのを、エメラルドの脚が打ち据え咎めて。
「貴様には、ここで斃れてもらう!!」
「貴様の持つ正義とは外道をなす為の免罪符にすぎん。貴様に作れるのは屍のみよ!!」
荒々しさと繊細さが同居した魔剣の一閃は、オブリビオンの殺戮者の紋章を捉え、鮮やかに両断するのでした。
成功
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月白・雪音
…武力に物を言わせる事無く先ず対話から…、という姿勢は敵ながら好ましく思います。
英雄たるを決めるは力ではなく意志、精神。それも同意致しましょう。
されど貴方の往く道は過去の残滓もヒトも等しく『材料』と定めこの地の民の命を散らす道。
何よりも、この地には既に闇より世界を救わんとする『ヒトの英雄』が育っています。其れは志を同じくした者が団結し成し得た力。我ら猟兵とて、彼らにどれほど助けられた事か。
その恩義に、今こそ報いねばなりません。故に犠牲の上に成り立つ貴方の正義を、我が悪を以て討たせて頂きます。
UC発動、怪力、グラップルの無手格闘にて相対
野生の勘、見切りで敵の攻撃を察知しつつ残像にて回避、隙を見てのカウンターも併せ番犬の紋章を最優先で破壊
…私には魔を見通す眼は在りません。されど月の眼の紋章、それに繋がるが贄、即ち『死』であるのならば
私に気取れぬ道理は無し。
アイテム『薄氷帯』の効果で霊力を纏った五体を以て管を破壊
他の紋章も出来る限り破壊し殺人鬼の技巧も併せ確実に殺す一撃を入れ続ける
●信心
どれほど言葉を飾ろうとも、武力とは暴力です。
自分の意に添わぬ相手を無理やりに排除してしまうその力は、決して軽々しく振るうべきものではないと。
月白・雪音(
月輪氷華・f29413)の修めてきた武は、そのように己の強さを律する心も彼女に与えておりました。
「英雄たるを決めるは力ではなく意志、精神……同意致しましょう」
だからこそ、紋章つかいというオブリビオンに相対した時、彼女の口から放たれる言の葉はとても穏やかなものとして響いたのです。
「おお、分かってくれるか! いや、当然か。その素晴らしい鍛錬が積み重ねられた肉体、君こそ英雄に相応しい猟兵なのだろう!」
紋章つかいは、間違いなく強大なオブリビオンです。
五卿六眼という肩書だけではありません。多種多様な紋章を生み出すその能力だけでなく、一見すると華奢で儚げにすら見える雪音の力の本質をすぐさま感じ取るその振る舞いは、この世界の頂点に極めて近しい強者のものでした。
初めから猟兵を力ずくで捕えようとしたのなら、紋章の力も合わさりその目論見を容易く達成していたかもしれません。
ですが、紋章つかいは猟兵の意志を信じて対話という接触を選びました。
それは武の重みを知る雪音にとって、オブリビオンといえども好ましいと評価できる真摯さです。
「これまで、我欲を満たす『手段』として正義を掲げるオブリビオンも存在しました。貴方はそうではないという事も、信用致します」
雪音の言葉に、紋章つかいが嬉しそうな笑みを浮かべます。
彼女の言った通り、彼に悪意などはないのでしょう。
あくまで正義のままに……雪音の体を切り刻み、より優れた紋章を生み出すための方策を考えているのです。
「素晴らしい! きっと俺たちは分かり合えると信じて……「――されど、貴方の往く道は過去の残滓もヒトも等しく『材料』と定め、この地の民の命を散らす道」……なに?」
残酷に、そして誠実に。
血濡れた正義の研究を夢想するオブリビオンへと冷や水を浴びせるように、雪音の言葉は続けられました。
正義のためと語る紋章つかいの言葉を、雪音は信じています。
安易に暴力に頼ろうとしなかったこの男は、確かにそれを望んでいるのだろうと。
「何よりも、この地には既に闇より世界を救わんとする『ヒトの英雄』が育っています」
ただ
正義は、雪音がオブリビオンと同じ道を歩む理由にはならないのです。
正義とは尊いものでしょう。多くを救う正義のため、時には犠牲を受け入れ前に進まねばならない時があるのかもしれません。
「其れは志を同じくした者が団結し成し得た力。我ら猟兵とて、彼らにどれほど助けられた事か」
けれど、この暗闇の世界において、その尊い意志は既に芽生えています。
雪音のものでも、
紋章つかいのものでもない、小さく掛け替えのない正義たちが既にこの世界にはいるのです。
ですから、雪音がこの世界に立つ理由は決まっていました。
「その恩義に、今こそ報いねばなりません。故に犠牲の上に成り立つ貴方の正義を、我が悪を以て討たせて頂きます」
「……何故だッ! それほどの力を、それを手に入れるだけの意志を持つお前たちが何故ッ!」
紋章つかいの叫びに込められていたのは、憤りと同時に悲嘆でもありました。
強く、正しい意志を持っているはずの猟兵たちが何故自分に賛同できないのかと。
類まれな素質を持つ選ばれし者たちが、何故些末な事象に囚われ、正しい行いから目を背けるのかと!
「恩義!? 犠牲!? そんなものに惑わされ悪に堕ちるなど、最も唾棄すべき弱さだと何故分からん!」
激情と共に放たれる紋章つかいの蹴りの嵐を、雪音の手技が迎え撃ちます。
頭蓋を砕かんばかりの勢いで繰り出される回し蹴りを肘の打ち下ろしが叩き落せば、そのまま翼を羽ばたかせて姿勢を制御するオブリビオンが膝蹴りを試みて、雪音はその膝を一瞬受け止めるように手のひらで捉え、わざと吹き飛んで威力を殺します。
両者の応酬はおおむね互角と言っていいでしょう……激昂し感情のままに暴れる紋章つかいと、努めて冷静に敵の攻撃に対処する雪音が、です。
先の戦いで仲間の猟兵たちが紋章を破壊した分、確かに紋章つかいは弱体化しています。
ですが、そもそもが強力なオブリビオンである彼の翼に今も輝く月の眼の紋章。あれを無力化しない限り、紋章つかいは猟兵ですら打倒しえぬ強者として君臨し続けるのです。
タイムリミットは、紋章つかいの思考が憤怒に染まり冷静さを見失っているこの僅かな時間だけ。
「……慈しみはないのですか。正義を掲げる貴方が弱さと呼ぶ、他者を慮る意志は」
殺人鬼の
思考は、そうは考えませんでした。
翼を持ち、その気になれば自由に空を舞うことのできる相手に対して、直接の紋章破壊は必ずしも上手くいかないでしょう。
武人としての無意識でそう判断した彼女の言葉は、怒れるオブリビオンの理性に呼びかけるものでした。
「それを、捨てる事こそ英雄の強さだ! 敵ではなく、己の精神に勝ってこそ!」
雪音の問いを聞き流すでもなく返す紋章つかいの言葉に、僅かながら当初の誠心が滲んだ瞬間、雪音は駆け出しました。
雪音には、紋章の超常的な力をそのまま感じ取ることはできません。
純粋な武をもって戦う彼女は、オブリビオンの振るう力はそれが起こす物理的な現象として捉えるしかないのです。
故に、彼女の眼には紋章と遠い地の贄を結ぶ線は見えず――ただ、冷静さを取り戻したばかりに、一瞬だけその弱点に向いてしまった
紋章つかいの視線だけをしかと見定めて。
目の前の相手は噓をつかない、そう信じる殺人鬼が霊力を帯びて放った手刀は。
紋章が贄の命を吸い上げていた管を断ち切り、オブリビオンの掲げる正義に大きなひびを入れるのでした。
大成功
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ベスティア・クローヴェル
あなたの力を受け入れれば、私は命を削る必要がなくなる?
あなたの力を受け入れれば、より多くのヒトを救うことが出来る?
もしそうなら、それはとても魅力的な提案だ…
その紋章の材料として、私が救いたかった人々が消費されているっていう点に目を瞑れば
だけど私は目を瞑れず、その提案を受け入れることは出来ない
ヒトを救う為に他者を犠牲にするお前より、ヒトを救う為に力を授け、私にだけ犠牲を強いたアイツの方がまだ上等だ
相手の繰り出す紋章正拳にぶつけるように、私も焦熱を纏った拳を繰り出す
拳に宿した紋章が砕け散るまで、タイミングを合わせて拳をぶつけ続ける
元々、蒼炎が結晶化してなんとか形を保っている左腕だもの
爆破されて砕けたところで、一時的に不定形の炎になるだけ
痛くないわけじゃないけど、犠牲になったヒトのことを考えればなんでもない
あぁ、でも気を付けて
左腕の結晶は私の身体から剥がれると、ちょっとした衝撃ですぐ蒼炎に戻ってしまうから
それじゃ、お前の宿している紋章が全て砕けるか、私の炎が燃え尽きるかチキンレースといこうか
●痛みと嘆きがそれを育てる
「あなたの力を受け入れれば、私は命を削る必要がなくなる?」
何のために削る命か、紋章つかいがそれを問うことはありませんでした。
幾度の戦いを超えたオブリビオンの前に現れた猟兵、ベスティア・クローヴェル(salida del sol・f05323)が有する美しい獣の姿が、彼女自身すら燃やし尽くしてしまいそうな炎の気配が、その命を糧に存在していることを雄弁に語っていたのですから。
「あなたの力を受け入れれば、より多くのヒトを救うことが出来る?」
対峙する人狼を見やるオブリビオンに対して、ベスティアは質問を重ねます。
猟兵の力を借りて紋章の研究を加速させたいこの悪鬼からすれば、此処は是と答えるべき場面でしょう。
「――不可能だ。我が紋章は、君を救えるほどの完成度には達していない」
けれども彼は。
明瞭な言葉と共に首を振り、猟兵へと微笑むのです。
これまで何度も猟兵に拒絶され、戦いに発展した紋章つかいに残されたのは不死の紋章ただ一つ。
しかし、それでも彼は己が正しさを疑うことはなく……まことの猟兵であれば、きっと自分の正義を理解するだろうという考えも疑ってはおりませんでした。
「君が君のまま、俺の紋章でより多くの人を救うことはできないだろう……しかしだ! 君という英雄の協力でより高みへと至った紋章であれば、君が救う以上の民草を救い、君に続くだろう英雄の力になると約束しようじゃないか!」
高らかに宣言する紋章つかいの前で、ベスティアはため息のような小さな吐息を吐き出しました。
確かに、ベスティア一人が命を削り戦い続けるよりも、紋章の力を得た数多の人々が救う人間の方が多いのかもしれません。
そして、その救う側の力にもなると。
人々を守るための英雄的な戦いがどれだけの痛みと苦しみ、恐怖を伴うものかを知っている彼女にとっては、それを味わう人が少しでも減るというのもまた魅力的な言葉でした。
「嗚呼、それはとても魅力的な提案だ……その紋章の材料として、私が救いたかった人々が消費されているっていう点に目を瞑れば」
「……貴様も、
現在に執着するか」
けれど、猟兵とオブリビオンの間にあった対話の気配はあっけなく霧散してしまいます。
紋章研究が生み出す痛みを指摘するベスティアが視線を鋭く細めれば、彼女の拒絶を感じ取った紋章つかいもまた、その表情にあからさまな失望の念を浮かべるのです。
「払ってきた犠牲がっ! 今払う犠牲がなんだというのだ!? そんなものは有限の対価に過ぎん! 無限に広がる未来にこそ救うべき最大多数が、それを為す最高の英雄が生まれるのだ!」
「お前が目を瞑れるものに、私はどうしても囚われるって話だよ」
骸の海の過去が未来を尊び、
現在を生きる者が過ぎ行くものを慈しむ。
奇妙にあべこべとなった関係の中で、両者の緊張は高まり続けます。
「貴様の意志はわかった……魂人の検体を集めて併用すれば、猟兵の
死体でも十分役に立つだろう」
「……そこで私だけ犠牲にするとかなら、まだ上等なんだけどね」
『アイツ』のように、というベスティアの呟きは言葉にはされず。
会話を打ち切る二人は、猟兵とオブリビオンの本来の関係――どちらかが相手を打倒し意志を貫き通す、殺し合いへと突入するのです。
戦いの始まりは、思いのほかシンプルなものになりました。
紋章つかいが素早く構えて正拳突きを繰り出すのと同時に、ベスティアも自らの命を焚べて燃え上がらせる炎を束ねて左の拳に乗せるのです。
両者の拳が激突した瞬間、甲高い音を立てて砕けるのはベスティアの左腕。
「これは……!」
しかし、打ち勝ったはずの紋章つかいも決して楽観できる状況ではありませんでした。
多くの紋章を失ったオブリビオンの身体はもはや無敵ではありません。猟兵の炎に焼かれた傷はたちどころに癒えますが、それを支える紋章の力には限界があるのです。
そして、ベスティアの左腕を砕いたその感触。
人体ではない、より硬質で脆いものに触れた手応えはオブリビオンに警戒させるには十分なものであり……。
「もう一度だっ!」
ベスティアの激が飛んだ瞬間、砕け散った結晶の破片が蒼く燃え上がり、再び彼女の腕を象っていきます。
とうに失われている彼女の腕は、結晶化する炎によって作られる紛い物。
不死の紋章により体が再生する紋章つかいに対して、ベスティアもまた壊れていく体を強引に修復して戦いを挑みます。
「――くっ……これくらい!」
超常の炎で作られる義手は、本来の腕と遜色ない機能を有します。
それは、砕かれた時には骨と肉をズタズタに引き裂き潰されるような激痛を与えるほどに。
紋章つかいと激突するたびにベスティアの腕は砕かれ、突き抜け全身を揺さぶる衝撃と耐え難い苦痛に彼女の表情は歪みます。
「ヅ、ウゥ……! 紛い物の英雄めが……!」
その苦悶の様子は、紋章つかいも同じく。
紋章を失ってなおベスティアより強靭な肉体を有するオブリビオンであっても、猟兵との戦いで無傷ではいられません。
いいえ、それどころかベスティアの腕が砕かれ結晶がまき散らされるたび、蒼炎へと戻って周囲を焦がす灼熱に晒される彼の消耗はベスティア以上なのです。
砕かれては燃え上がり、再び形を取り戻して戦うもの。
焼かれてはその体内で何かが蠢き、傷を癒して戦うもの。
両者に、違いがあるとするのなら――。
蒼い炎が揺らめき、その勢いを弱めます。
何度も何度も砕かれるたびに引き出されたその力の根源、ベスティアの生命そのものの悲鳴です。
時を同じくして、紋章つかいの身体から悍ましい虫を象った宝石が浮かび上がります。
オブリビオンの体を修復し続けた不死の紋章もまた、その限界を宿主へと知らせていました。
「まずい……!」
「――そうだね」
限界を迎えようとする二人に違いがあるとするのなら。
強者として君臨し続けてきた紋章つかいにとって、この馴染みのない焦燥と恐怖は動揺を禁じ得ないものであり。
嘆きと苦しみを連れて戦ってきたベスティアにとっては、馴染み深い痛みと恐れでしかなく。
炎を纏った拳がオブリビオンの胸を貫き、砕け散る紋章の破片が宙を舞うその光景こそは。
現在の犠牲から目を逸らさなかった猟兵たちの、『
強さ』の証明でもありました
大成功
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