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闇の救済者戦争⑪〜La Danse Macabre

#ダークセイヴァー #闇の救済者戦争


「……ふーん。ボクが見せ物かあ」
 決闘の舞台で、少年が呟く。
「ま、悪くはないかな。お行儀良くお客様してるのなんてつまんないもんね?」
 盤上において、少年は歌うように言葉を紡ぎ、そうしてから昏い空を仰ぎ見た。
「いいとも、いいとも。見せてあげるさ。たのしいたのしいショウステージをね」
 そうしてから、今暫くのお待ちを、とばかりに少年はお辞儀する。
 そこは剣の原に浮かぶ、盤状の決闘場アリーナである。
「じゃ……始めよう」
 微笑む少年の手の中には、ひと振りの短剣グラディウスが光っていた。

「状況は把握しているな。戦争案件だ。すぐダークセイヴァーに向かえ」
 グリモア猟兵、イリス・シキモリ(f13325)は言った。
「だいたいは把握しているだろう。手短に話す」
 イリスは手元の端末を操作し、用意したモニターに画像を映し出した。
「お前たちが向かうのは第三層。『剣の草原』に建てられた闘技場だ。ここでお前たちにはオブリビオンと決闘をしてもらう。……否、カードデュエルではない。生身で殺し合うほうの決闘だ」
 曰く。
 第三層にあるその闘技場で、オブリビオンが猟兵たちを待ち受けている。
 これを下すことで、敵の拠点を砕いて猟兵たちは先に進むことができる、ということなのだが。
「だが、ここでの戦いにはひとつ条件がある」
 ぴっ、とイリスが指を立てた。
「この戦場に足を踏み入れると、闘技場の下の『剣の草原』から短剣グラディウスが一本お前たちの手元に飛んでくる。これは呪いのようにお前たちの手にぴったりとくっつき、決着がつくまで離れなくなるのだ」
 この戦いの中では、この短剣のほかに武器を手にすることはできない、ということだ。
「戦場には戦場に相応しい流儀がある、ということなのだろう。術的な力の流れも阻害されるようだからな。シンプルに剣の技で決闘に臨まなくてはならない、というわけだ」
 この戦いに要求されるのは、正々堂々と剣での戦いを挑むこと。持たされた短剣で、剣闘士として試合に臨むことが必要なのである。
「普段の力を出せないことになるため苦戦を強いられることになるだろうが……だが、短剣グラディウスしか使えないのは敵も同じだ。
 ユーベルコードによる無茶苦茶な超常能力で一方的に嬲られる、という展開にはならないため、そこは安心して欲しいとイリスは言い添えた。
「……要は、純粋な剣の腕だけで正々堂々敵と死合え、という話だな」
 いけるか、と呟きイリスは猟兵たちに目配せする。
「これで説明は以上だ」
 そして、無愛想に話をまとめた。
「では、準備の整った者から戦場に送り込む。覚悟のできた者は私に声をかけろ」
 そうしてから、イリスはその手の中でグリモア光を輝かせる。

 かくして、猟兵たちは決闘の舞台へと向かうのであった。


無限宇宙人 カノー星人
 ごきげんよう、イェーガー。カノー星人です。
 せんそうです。よろしくおねがいします。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「闇の救済者戦争」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 このシナリオにはプレイングボーナス要項があります。ご確認ください。
☆プレイングボーナス……飛来した短剣グラディウスを用いて戦う。
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第1章 ボス戦 『少年公『ロイド・ミーク』』

POW   :    いっぱいボクと遊んでよ
レベル×5本の【炎】属性の【蝙蝠】を放つ。
SPD   :    ボクを虐めるひとにはおしおき!
全身を【他人の血液】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ   :    出口はどこかなー
戦場全体に、【肉塊】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​
メフィス・フェイスレス
【血反吐】

あーもう、やっぱこういうの苦手だわ
(短剣を受け止めそこねて腕を貫かれていた。💢マークが見えるようだ)

ナニ見てんのよ。見せモンじゃないんだけど?
(笑う敵を睨み、憮然としながら引き抜いて手の中に収めて)

ま、いいわ。言っとくけど私は技とかそういうのよく分かんなくてね
つまらない泥仕合になるから、覚悟しときなさい

無造作にも程がある技量を感じさせない正面からの斬りかかり
……当然捌かれるでしょうね。そんなのは承知の上
返す刃で切り刻まれても顔色の1つも変えず――大ぶりな動きで敵を背後に回らせる――

短剣で自ら胴体を貫き背後の敵を諸共貫く
幾ら腕が立つっつっても死角からの攻撃には対応しおうがないわよね



「やあ。今夜のダンスパートナー、君?」
「はあ? 寝言は寝て言いなさいよ」
 ――メフィス・フェイスレス(f27547)は、開口一番、闘技場で相対した少年公に悪態を吐いた。
「ふーん。元気だね、君。いいよ。そういう子ほどいたぶるの好きなんだ」
「なによ。アンタもそういう手合い? ダークセイヴァーの連中ってこんなんばっかじゃない。嫌ンなっちゃうわ」
 メフィスは不快気に息を吐き出しながら緩々と首を振った。
 ――決闘場下の剣の草原から、ひと振りの剣が飛んできたのはちょうどその折である。
「ああ、武器ってこれ……痛った!!」
 ざぐ、っ。
 メフィスは飛来した短剣グラディウスを掴み損ね、その刃が腕に突き立っていた。
「……あーもう、やっぱこういうの苦手だわ」
 メフィスは眉を顰めながら突き刺さった短剣を引き抜く。
「あっははは! どうしたの、君。素人~?」
 そのざまを見て、少年公はひどく愉快そうに笑った。
「ナニ見てんのよ。見せモンじゃないんだけど?」
 メフィスは少年公を睨めつけながら、その手の中に握った剣の柄の感触を確かめる。
 そして、対峙した。
「いーや。見世物だよ。この闘技場がなんのための場所なのか、わかんないってことはないでしょ?」
 対する少年公は、にこにこと媚びるような微笑とともに軽く腕を振って、刃を構える。
「見せてごらんよ。君の技をさ。……せいぜい、お客様方に楽しんでもらえるようにね?」
「……ああ、“見てる連中”がいるってコトね」
 舌打ち交じりのため息。メフィスは再び眉間にしわを寄せた。
 しかし、すぐさま構えなおす。その身体が纏う、戦意。
「ま、いいわ。言っとくけど私は技とかそういうのよく分かんなくてね……つまらない泥仕合になるから、覚悟しときなさい」
「その心配はないよ」
 瞬間、少年公の姿が掻き消えた。
 ――否。消えたのではない。闇の種族の身体能力フィジカルが行使されたのだ。目にもとまらぬ素早い機動! 悪意の気配がメフィスに迫る!
「――ボクが、鮮やかに魅せてあげるからね!」
「つ、っ!!」
 ざしゅ、ッ! ――脇腹! メフィスの躰に赤く刻まれる刃傷の線!
「……強いじゃないのよ、こいつ!」
「あれぇ? ひょっとして甘く見てた?」
 反撃とばかりにグラディウスを振りかざしたメフィスであったが、少年公は嘲笑うようにそれを躱しながら盤上を馳せる。刹那、続けて滑り込むように現れたのはメフィスの側面!
「く、ッ!」
 しかして今度は防御が間に合った。振り抜いた短剣が、少年公の刃を弾く。
「おっと……」
「そこよ!」
 続け様! 反動を受け切れず後退する少年公めがけてメフィスは短剣を振り上げ突っ込んだ! 真正面、渾身の一撃でメフィスは斬りかかる!
「雑じゃん!」
「くあ……ッ!」
 だが、メフィスの刃が通るよりも速く敵は態勢を立て直していた。跳ね上がるグラディウスの切っ先がメフィスの剣戟を弾いたのだ。
「ボクをなんだと思ってたのさ――――この世界を支配する、闇の種族だよ!!」
「ごフっ」
 更に少年公は踏みこみながら間合いを詰め、刃をメフィスの胸元へと突き込んだ。喉奥からせり上がる血液がメフィスの口から零れる。
「そらッ!」
「ぁ、ぐ……!」
 少年公は刃を引き抜くと、返り血を浴びながらその顔に悪辣な笑みを浮かべた。更なる追撃がメフィスの身体を切り刻む。
「こ、……ッ、の……!」
 だが――メフィス・フェイスレスという猟兵はもとよりつぎはぎだらけの死人デッドマンだ。痛みで立ち止まれるような繊細さなど持ち合わせてなどいない。
 メフィスは歯を食いしばりながら一歩を踏み出し、もう一度刃を大上段へと構えてみせた。
「愚かだなあ」
 その姿は上位者を名乗る闇の種族からしてみればひどく醜く滑稽なものであっただろう。少年公は嗤いながらするりとすり抜けるようにメフィスの背後に回り込み、口の端を吊り上げながら刃をかざした。
「じゃ、これでとどめだよ」
 そして掲げられた凶刃がメフィスの頸を狙う――――!

 ――しかし、その瞬間である!
「……そこ、だッ!!」
 ぼしゅ、ッ!
「なに……ッ!?」
 メフィスの背中から、刃が突如として"生えた"のだ!
 背後からのとどめを目論んでいた少年公の胸元へと、その不意の一撃は届けられた!
「が、ッ、あああああああ!! い……ッ、痛いッ! 痛いッ! ぼ、ボクに、ボクが、こ、こんな、傷をォッ!!」
 掻き切られた胸の傷から血を噴き出しながら、少年公は絶叫と共に後退る。
「……甘く見てたのは、そっちだったわね」
 メフィスは振り返りながらその口の端に“してやったり”の笑みを乗せた。
 その胸郭は完全に破壊されていた。――メフィスは手にした短剣を自刃めいて自らの胸元に突き立て、そして渾身の力で押し込むことでその刃を背中にまで貫通させたのだ。背後へと回った少年公へと、この不意の一撃を浴びせるために。
「お、前、ェェ……ッ!!」
 少年公の表情は恥辱と激昂で朱に染まり、その双眸には憎悪の色が灯されていた。
「何よ。自分たちだってさんざん他人を痛めつけてきたくせに」
 ――この程度で痛むのか、と。メフィスは目を細める。
「やる気だっていうなら来なさいよ。アンタが死ぬまで相手してやるわ」
 そして、グラディウスの柄を強く握りなおした。

 かくして、闘技場における戦端は開かれる。
 噎せ返るような血の匂いが、戦場を満たし始めていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

夜刀神・鏡介
敵味方問わず強制的に短剣を使って戦わせるとは。公平なのか違うのかよく分からないが
まあ、一方的に不利な条件を押し付けられるよりはマシだと思っておこう

右手に短剣、左手は無手で敵と相対
普段の刀と長さや重さ、勝手は違うが幾らか共通して考えられる部分もある
それに、普段の立ち回り……敵の動きを見極めて避けるか受け流すという基本の動きを守れば十分に対抗できる

とはいえ決定力に欠けるのは如何ともし難いので、漆の型【柳葉:梵】によって反撃
片手片足、そして胴体にごく薄く、限りなく違和感を与えないように斬りつけて僅かに、だが着実に戦闘能力を削いでいく
精々、殆どダメージを受けていないと慢心していればいいさ



「……ふうん」
 夜刀神・鏡介(f28122)は飛来した剣の柄を掴み取り、軽く振ってその感覚を確かめながら構えを取った。
「君が次の挑戦者?」
 そして、その眼前に相対するのは闇の種族の一人。少年公ロイド・ミークである。
 少年公の手には、鏡介の手にしたものと同じ短剣グラディウスが握られていた。
(敵味方問わず強制的に同じ武器を使って戦わせるとは。公平なのか違うのかよく分からないが……)
 鏡介は静かに息を整えながら、じりじりと敵との間合いをはかる。
(……まあ、一方的に不利な条件を押し付けられるよりはマシだと思っておこう)
 鏡介は手の中の短剣をもう一度軽く振る。――なんとなく、であるが、その感覚は少し理解できた。鏡介はグラディウスを手にしながら、少年公へと相対する。
「黙ってないでさ、なんとか言いなよ?」
「こっちも慣れない武器に戸惑ってるところでな。余裕がないのさ」
「ふうん。それはご愁傷様?」
 二人はごくしぜんに言葉を交わしながら――その一方、互いに仕掛けるタイミングを距離を測り続けている。
 薄皮一枚隔てた場所に抑えた敵意と殺気を滲ませながら、二人は戦端を開くべきタイミングを探った。
「……」
「……」
 じりじりと、二人の間合いが縮まってゆく。
 言葉はなく、ただその眼差しに宿した敵意と身に纏った殺気だけが、無言のままにその意志を交わし続けていた。
 ――即ち。必ず屠る、と。
「はっ!」
 次の瞬間、均衡は崩れ去る。
 仕掛けたのは少年公だ! 闘技場の床面を蹴立て、その身体が飛ぶように駆け抜ける! ――刹那、至近の間合い! 跳ね上がる切っ先!
「――ッ!」
 だが、鏡介はその襲撃を捌いてみせた。
 鏡介はもとより剣を用いた戦闘様式でもってユーベルコード戦闘に挑む、いわば剣士と呼ばれるタイプの猟兵だ。剣という得物を用いた近接戦闘という分野において、彼に並ぶ実力を持つ者はそう多くはない。
 そして、短剣グラディウスとて剣は剣。普段の愛刀と勝手は異なるものの、武具としての性質にはいくらかの共通点を見出すことができる。
 ――であるが故に、彼の剣士としての戦闘技術はこの状況に於いても遺憾なく発揮されていた。
「おっと……!」
「見えている、ッ!」
 鏡介の技量は少年公のそれを大きく上回っていた。乱れ舞うように薙がれた切っ先は、少年公のグラディウスの刃を完全に捌き切ったのである。
「……やるじゃん。人間の割にはさ!」
「む、っ!」
 だが、敵もただ押されてばかりというわけではない。――少年公ロイド・ミーク。彼は幼気な少年のような顔をしてこそいるものの、その中身は力によって暴威を振るい、人間を支配する闇の種族の一員だ。そこに秘められた肉体的な力フィジカルは見た目からは想像できないほどに強力なのである。
 即ち――少年公はここから本気を出した。遊ぶような軽やかな剣戟からうって変わって力任せの剛剣へとその太刀筋が変わる。
「く、っ……! さすがに、強いか!」
 オブリビオンであり、そして闇の種族である少年公の身に秘められたパワーはあまりにも強大だ。文字通りに斬鉄の威力を持った一撃は、鏡介ほどの剣士でなければ容易に捌けるものではなかっただろう。
「これでどうかな!」
「っ……させるか!」
 振り下ろされる強烈な一撃――! 対し、鏡介はそれを受け流すことで捌いた。刃の方向を逸らし、威力を削ぐことで致命傷を避けたのだ。
「はあっ!」
 そして、太刀筋を逸らしたその隙に鏡介は刃を薙いだ!
「浅いよッ!」
「くっ!」
 しかして、少年公の猛攻の前にはその反撃も大した傷には至らぬか。迎え撃つ剛力の剣に鏡介は後退る。
 ――そこからは、一進一退の攻防であった。
 少年公が力強い太刀筋で攻め入れば鏡介はその勢いを逸らし、反撃の剣を放つ。しかして少年公は負けじと鏡介の刃を迎え撃ち、強烈な斬撃で鏡介の気勢を削ぐ――。
 互いに決定打に繋がる一撃を叩き込めぬまま、いくらかの時間が過ぎた。
「ぜ……っ!」
 鏡介が荒く息を吐く。――猟兵と言えど、無限の体力があるというわけではない。激しい戦いを続けていれば、疲労が重なってくるのも無理のないことだっただろう。
「……はは!」
 しかして一方、闇の種族オブリビオンはそうではない。無尽とまでは言えぬものの、人類を遥かに上回る存在力。そこから繰り出される膂力と体力フィジカルこそが最大のアドバンテージなのだ。
 ――そう。言ってしまえば、ここにきて少年公と鏡介の間には、体力の限界値という差が見え始めていたのである!
「さあ――これで終わりだよ!」
 荒く息を吐き、疲労の色を見せた鏡介へと向けて少年公が刃を振り上げる。
 閃く白刃! 鏡介へと振り下ろされるその刃! おお、なんたることか! オブリビオンの凶刃が鏡介を貫く――――

 ――かと思われた、その瞬間である!
「はあッ!!」
 一閃!!
 跳ね上がったグラディウスの切っ先が、少年公の剣を跳ね除けたのである!
「……なに、っ!?」
 馬鹿な。――夜の種族であるこのボクの、渾身の一撃が。全力で振り下ろしたはずの、この一撃が?
 信じられないものを見た、という顔で、少年公は困惑した。
「気づいていなかったようだな」
 そこに生じた隙を逃すことなく、鏡介は一歩を踏み出して間合いを詰める――その距離、至近!
「な、にを……!?」
「封魔の剣技……とでも言っておけばわかりがいいか」
 ――【柳葉:梵】!
 それは鏡介が磨き上げた剣の技のひとつである。その技によって傷を刻まれた者は、その力を削がれ、ユーベルコード出力の発露までもを封じられるのだ。
 ここに至るまでの交錯の中で、鏡介は少年公へとこの剣技を密かに打ち込んでいたのである!
「馬鹿な……、ッ! ボクの力を、封じたとでも……!?」
「そうだ」
 剣を握る手に力が入らない。
 それに気づいた少年公がその表情を歪めるも、気付いた時には既に遅い。
「お、まえ……!」
「悪いとは思わない――お前を、斬る」
 閃く刃――絶叫。
「ぐああああああああっ!!!」

 そうして、少年公の躯体には猟兵たちの手によって深々と傷が刻まれる。
 少年公ロイド・ミークは、追い込まれつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

八咫烏・みずき
【血反吐】
「理解が出来ないわね…
こんな見世物の何が楽しいというのかしら。」
剣術は素人だけど、やるしかなさそうね。
サイボーグの体で多少の攻撃なら耐えられる、と思うしかないか。

自分の持つ心臓の鼓動がかろうじて
相手の攻撃を交わさせてくれるけど
流石にこっちから押し込んでいくしかない。

あんたは…何のために戦うの?
まぁどんな理由であってもそれが信念なんでしょうね。
私にも同じように信念はある。
必ず復讐を成し遂げる…そしてお姉ちゃんの心臓を取り戻す。
その時まで私は、死ねないのよ!
(強い意志が一気に前に進ませる気力を振り絞らせる。)



「理解ができないわね……こんな見世物の何が楽しいというのかしら」
 剣の原を見下ろす戦舞台の上に、八咫烏・みずき(f36644)は立つ。
 その手の中にはひと振りの短剣グラディウス。彼女は既にこの血腥い闘技場の剣闘士として、戦場に立っていた。
「みんなね、血が見たいんだよ」
 相対する少年公は、にこりと笑いながらみずきに囁く。
「どんな生き物もさ、みんなみんなみーんな、他人の血を見るのがすきなんだ。ボクたち闇の眷属も。ニンゲンたちも」
「……」
 笑顔のままに悪辣な言葉を吐き出す少年公の態度に、みずきは眉根を顰める。
 ――奴の言うことには、ある程度の理があるかもしれない。彼女の育ったサイバーザナドゥ世界においても、そうした『他人の血を見るのが好き』な連中はいくらでもいる。
(……私の故郷ザナドゥも、この地獄も。そう変わらない、ってことかしらね)
 なんて厭な結論だろうか。
 舌打ちしたくなる気持ちを抑え込みながら、みずきは静かに剣を構えて少年公へと対峙した。
「御託はもう結構よ。……始めましょう」
「いいとも。君のおなかを掻っ捌いて、みんなに綺麗な血と肉を見てもらおう」
 血腥い匂いの風が吹く。
 瞬間、戦いの幕は上がった。

「あっは!」
「くっ!」
 猛襲! 少年公の握った短剣グラディウスが激しくみずきに攻め寄せた!
「けど……!」
「おぉや……?」
 ガガガガガッ! 甲高く鳴り響くのは金属同士の打ち合う音だ。少年公の繰り出した激しい連撃を、みずきは機械義肢の装甲部で受けたのである。その頑丈さが幸いして致命的なダメージは免れていた。
「肉の感じがない……鎧? 篭手? ……うーん、違うなァ?」
「……」
 少年公はグラディウスから返る固い手応えに首を傾ぐ。
「キミ、作り物?」
「人間よ、私は!」
「じゃ、その部分を探してみよっか!」
 少年公は悪辣に嗤って飛び込んだ。激しく、鋭く、そして強烈なグラディウスの連撃が再びみずきを襲う。
「ッ、……!」
 敵の狙いはみずきの肉体の中央から顔面――生身の部分があるだろう、と少年公が類推した部位に集中していた。
「そら、はやく血を見せてよっ!」
「お、ことわり……よッ!」
 苛烈な攻め手の連続に、みずきは防戦一方を強いられていた。――闇の種族特有の絶大な膂力が、みずきの必死の抵抗を突き抜けてその胸元に傷を刻む。
 しかして、辛うじて致命傷は避けている――みずきは密かにその胸の内にある彼女の動力源心臓の出力を高めていたのだ。鼓動は彼女の身体を衝き動かし、敵の攻撃を躱しきるだけの活力を彼女へと与えてくれている。
 だが、それでもまだ反撃の糸口はつかめない。流石にこの世界を闇に染め続けてきた支配種族の一員だ。その力は絶大である。
「あんたは……何のために戦うの?」
 手にした短剣でもって襲い来る刃を弾きながら、みずきは半ば無意識的に呟いていた。
「何のために?」
「……そうよ」
 みずきの胸で鼓動が高鳴る。心臓が僅かに熱を帯びた。
「決まってるじゃん。『支配』だよ。偉大なるボクらの闇の種族が作り上げたこの世界の支配体制の守護。それから――『愉悦』!」
 ざ、ッ! 鋭く突き込む一撃! みずきの頬に赤く傷が刻まれる!
「そう」
 だが、みずきはその痛みを堪えながら、その双眸で少年公をつよく睨んだ。
「……あんたにも、理由があるように。私にも、曲げられない信念がある」
「へえ?」
 少年公はそれを嘲笑い、弄ぶように手の中で剣を回した。
「じゃあ、聞いてあげよっか。キミこそなんのために戦ってるの?」
 少年公は面白がるように笑いながら、みずきへと問う。
「復讐」
 ――みずきは、力強く答えた。
 瞬間、その胸の内で心臓の鼓動が高鳴る。鼓動は更に熱を帯びた。
「私は、必ず復讐を成し遂げる……そして、お姉ちゃんの心臓を取り戻す」
「あっははは……いい目標だね」
 少年公は微笑んだ。
「じゃあ、残念だったね」
 しかして次の瞬間――少年公はその笑みを悪意に満ちた残虐なかたちへと変えながら、みずきに向けてその刃を振りかざす! その狙いは――首筋!
「その復讐は――――ここで終わりだよ!」
 悪意と殺意に満ちた凶刃が、みずきの喉元を狙った。
 しかし。
「終わらない」
 グラディウスの刃が首筋に触れる寸前。みずきは揺らめくように身体を逸らし、切っ先の軌道から逃れてみせた。
 驚異的な反応速度と巧みな体捌きであった。躱せるはずがない、とたかをくくっていた少年公は、躱された、という事実に困惑する。
「……!」
「復讐を遂げる、その日まで……」
 心臓が、力を生み出す。
 みずきはそこに生じた隙を逃すことなく、剣の柄を強く握りしめ――そして、振り抜いた。
「その時まで私は、死ねないのよ!」
「が、アアアアアッ!!」
 見事なカウンターであった。
 みずきが振り抜いたグラディウスの刃は少年公の胸元に深々と傷を刻み込み、その傷口から血を噴き出させる。
「あ、ぐゥ、っ……! 痛い、ッ! 痛いッ!! な、なんで……なんで、ニンゲンなんかにボクが傷つけられてるんだッ!?」
 絶叫と共に後退するロイド・ミーク。みずきはその姿を睨めつけながら、その手の中の剣を握りなおす。
「あんたの『愉悦』よりも、私の『復讐』の方が強い。……そういうことじゃない?」
「ッ、調子に、乗ってェ……!」
 少年公は痛みと恥辱に顔を歪ませながらみずきを睨み返した。

 ――そして、再び開く戦端。
 盤上に於いて、猟兵たちと闇の種族の戦いは続く。

成功 🔵​🔵​🔴​

エドゥアルト・ルーデル
ああ…武器はグラディウスなのか?
当然!「短剣」だッ!古来より決闘とは「短剣」ッ!それが流儀ィィッ!

短剣構えて突撃…などと思ったか!切り結ぶ直前にしゃがみ足払い!転倒させてからのストンピング!
蹴りの方が短剣より当然リィィィチが長いでござるからなァ!足元注意だ!

それに…いまの見切れなかったでござろう
身体能力に優れる相手に剣だけとはとてもムチャだと思わないか?ムチャであればある程…力が湧いてくるんだ!
拙者は
とにかく
ヒリついていたいんだよ

オラッ小足、小キック、足払い!だが拙者のあんよばっかり見てると…ほら上段から喉元を短剣が襲うでござろう?
よそ見してるからむやみやたらにこうなるワケDEATHよ



 飛来する剣。
「ああ……武器はグラディウスなのか?」
 その柄を力強く掴み取り、エドゥアルト・ルーデル(f10354)は笑った。
「そうとも。ここは闘技場だからね。流儀に則って」
「当然!! 「短剣」だッ!古来より決闘とは「短剣」ッ!それが流儀ィィッ!」
 そして、口上を述べようとして少年公の言葉をクソデケェ声で遮り、エドゥアルトはグラディウスを掲げる。
「……」
 少年公は眉根に皺を寄せた。
「おお~~~っとぉ どうしたでござるかぁ~~~??」
 気勢を削がれて微妙な顔をする少年公へと向けて、エドゥアルトはにっこにこの煽り顔で迫って挑発的に問いかける。
「……品のない奴だなぁ」
「デュフフ!! 馬鹿野郎! 戦場で生きるか死ぬかやってる中で品性なんか気にしてられるか!!!」
「ええ……」
 そして――決闘の盤上においても、エドゥアルトは実に普段通りであった。
「……むかつくなー」
「フン!! そう思うなら実力行使でやってみるといいでござるよ!!」
「うざーい! あーあーもういいよ、わかったよ! その喉元さー、いますぐ掻っ捌いてあげればいいよね!!」
 戦端は開かれた。少年公は不快げに叫ぶと、手にした剣を構えなおしながらエドゥアルトへと向けて前進する。
「死んじゃえっ!」
「よーしよしよしよし……いいだろう。相手になってやる」
 瞬間、エドゥアルトは急に真面目ぶった顔をした。彼にしてはきわめて珍しい真剣なまなざしで、短剣を構えて進み出す!
「いくぞ!」
「殺してあげるよッ!」
 かくして――交錯! 互いに剣を握った者同士、手にした刃で至近距離の間合いへと入り込み、その剣の技でもって切り結ぶ――!
 ――――かと思いきや、である!
「フンッ!!!」
「えあっ!?!?」
 突如、少年公の視界の中からエドゥアルトが消えたのだ!
「オラッ!!」
「な……ッ!」
 続けて少年公は不愉快な浮遊感に襲われる――ぐらり、と身体が揺らがされたのだ!
「デュフフ……拙者が素直に真正面から突撃などすると思ったか!」
「こ、いつ……ッ!!」
 次の瞬間、少年公は戦場の床へと尻餅をつかされる――エドゥアルトに足払いをかけられたのだ!
 そう。エドゥアルトは短剣グラディウスでの真っ向勝負を挑む――と見せかけて、接近の瞬間にしゃがみ身体を沈めてロイド・ミークへと足払いを仕掛けていたのである。
 不意を打つかたちで繰り出したその技は少年公を見事に陥れていた。
「オラッ!! 反省しろコラ!!」
 外道ッ! 更にエドゥアルトは追撃をかけてゆく! エドゥアルトは転倒した少年公の腹をめがけてジャンプし、跳躍の勢いを乗せたストンピング攻撃を加えていたのだ!
「がふッ!! お、お前ぇっ!! 卑、ッ怯だと、思わないのかッ!!」
「フン! 卑怯もラッキョウも大好きでござるぞ~~!! それに蹴りの方が短剣より当然リィィィチが長いでござるからなァ! 足元注意だ!」 
 雨のように降り注ぐストンピングの連打が少年公に襲い来る! ロイド・ミークはここでたまらずその肉体を蝙蝠の群れへと解いてこの状況を離脱。そして蝙蝠を再結集させて肉体を再構成しながら態勢を立て直した。
「……なんて卑劣なやつ!」
「おおっと、これは戦争ですぞ~~? 勝てば官軍! ウム、良い言葉ですな!!」
 再び対峙した少年公とエドゥアルト。少年公はエドゥアルトの卑劣極まりない振る舞いにその怒りを隠しもせず鋭くその顔を睨みつけていたが、しかしてエドゥアルトはそれをまるで気に掛けぬように微笑みながら頷いた。
「それに……少年! お前が本当にすごいやつならこの程度の小細工は見抜けた筈……しかし、いまのは見切れなかったでござろう?」
「……お前っ、ボクをどこまで愚弄すれば……!」
「まあまあまあまあ! 待つでござるよ少年!!」
 激昂し掴みかかろうとする少年公の肩を抑え、エドゥアルトはなだめすかすように語り掛ける。
「……それに~。このくらい許してくれてもいいでござろ? 身体能力フィジカルに優れる闇の種族を相手に剣だけとはとてもムチャだと思わないか?」
「……いや、たしかにそれはそうなんだけど……」
「よォし許されたでござるな!!」
「許してないんだけど!!」
 話を聞かないエドゥアルトはガッツポしながら頷いた。
「しかぁし! 拙者はこのムチャを通してみせるでござるよ~~!! そう、こうして死線を潜り抜けていくことこそ拙者の悦び……うむ! 戦いがムチャであればある程…力が湧いてくるんだ!」
「……な、なんなんだ、こいつ……なんなんだよ!?」
 ここにきてエドゥアルトの正体がきわめて異常な人物であることに気づいた少年公は、エドゥアルトの理解不能かつ理不尽な言動に慄きゆっくりと後退った。
「おう、逃げるなよ」
 だが、エドゥアルトはその様子を見遣り、『逃げるな』と因縁をつけながら悪辣な微笑をその口の端に浮かべる。
「さあ、決闘の続きといくでござる……」
「こいつ……!」
「わかってくれよ~~……そう、そうだ。拙者は、とにかくヒリついていたいんだよ」
 苦々しく吐き捨てる少年公へつかつかと歩み寄り、エドゥアルトは変わらず悪辣な笑みを浮かべた。
 それから少年公の肩口へと掴みかかり、同時に片足を滑らせる。――大内刈りの要領ッ!
「ぐあ……っ!!」
 ダークセイヴァ―世界には残念なことに武術という概念の浸透は難しい。
 闇の種族は、そのような小細工を必要としないからだ。虫を殺すなら叩けばよい。
 ――だからこそ、こうした戦闘技術に対し少年公ロイド・ミークは対処する方法を知らなかった。
 こかされた少年公の背中は床面へと強かに叩きつけられ苦悶の声を漏らす。
「こ、ッ、の……下等で、下品で、下劣で、下衆な、下郎風情が、っ!!」
 それに、ロイド・ミークのプライドは激しく傷つけられた。少年公は素早く態勢を立て直し、剣を握りなおしながら再びエドゥアルトへと襲い掛かる。
「オラッ小足!」
 対し、エドゥアルトは迎撃の足技を繰り出した! 鋭いローキックが少年公を牽制する!
「ちッ!」
「小キック!」
「この……!」
「足払い!」
「なめるなっ!」
 エドゥアルトは続けざまに足技を連続して繰り出す――だがこれに対し、ロイド・ミークは同じ手は二度と通用しないとばかりに躍起になって回避機動のステップを刻んだ。
「――おっと」
 しかし――次の瞬間!
「な……ッ!?」
 ざぐ、ッ。
「いかんでござるな~~~ 拙者のあんよばっかり見てると……」
「あ、ッぐ……!!」
 鮮血――! 少年公の喉元に刻まれた鋭い裂傷から、赤く血が迸る。
「ほれ。このように上段から襲われるでござろう?」
 無論、それはエドゥアルトの仕業である。
 そう――エドゥアルトは足技を執拗に繰り出して足元へと意識を向けさせることで、急所への攻撃に対する警戒を薄れさせていたのだ。そうしてエドゥアルトは喉元にその刃を届けたのである。
「よそ見してるからむやみやたらにこうなるワケDEATHよ」
 してやったり、という顔でにやつくエドゥアルトは、追撃とばかりに少年公の身体に蹴り足を叩き込んだ。
「が、ッ……! き、ッさま…………よくも、ォッ!!」
 喉の傷口からごぼごぼと血を吐き出しながら、ロイド・ミークは激昂と共に吠える。

 その肉体はもはや大きく消耗していた。
 聞こえ始めた死神の足音に、少年公は焦燥しながら足掻き猟兵たちへと更なる敵意と憎悪を燃やしてゆく。

 決着の瞬間は、刻一刻と迫りつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティエン・ファン
短剣、短剣かぁ。
戦闘知識としてざっくりとした使い方は分からなくもないんだけど、やっぱり使い慣れたT定規より得意な武器は無いわけで。
でも、その状況を何とかするのが除霊建築士の腕の見せ所だよ!
……それに、この短剣はこの地の物だしね?

慣れない短剣でも防御に集中すればそう簡単に負けることは無いはず。それに一応T定規と同じ片手武器だし、なんとなく似たような使い方もできる、かも?
ともかくそんな感じで最初は時間を稼ぎつつ、戦場の地形把握に努めるよ!
把握が済んだらいよいよ反撃!
除霊建築学・巒頭を使って一気呵成に攻め立てるよ!
何しろこの短剣もこの戦場の物だからね!この戦場を巡る気とはとっても相性が良いはずだよ!



「短剣。……短剣かぁ」
 ぱし、と音をたてて、ティエン・ファン(f36098)は剣の原より飛来した短剣グラディウスをその手に掴んだ。
「おや――慣れない武器じゃあ戦えない、なんて言う気じゃないよね?」
 ううむと唸るティエンを煽るように、少年公は首を傾いだ。
「そういうわけじゃないんだけど……」
 ティエンは腰に吊るしたT字定規詠唱定規に視線を落とす。
 それは銀誓館学園に在籍していた時期から今に至るまで長く愛用している詠唱兵器だ。除霊建築士というジョブの戦い方を今日まで続けてきた彼女にとって、それ以上に頼れる相棒はない。
「残念だけど、その剣で挑んでもらわなくっちゃだめなんだ」
 少年公はティエンへと対峙しながら、手にしたグラディウスの切っ先をティエンへと向けた。
「それじゃ――Êtes-vous prêts準備はいいね?」
「うん、まあ……大丈夫」
 合わせるようにティエンは剣を構え、少年公へと向かい合う。
(……でも、この状況を何とかするのが除霊建築士の腕の見せ所だよ!)
 ティエンは心の中でぐっと拳を握りしめた。
(そう……なんと言っても、この剣はこの地の物だしね?)
 そして、手の中にある短剣の柄の感触を確かめる。
Allezいくよ!」
 ――次の瞬間、少年公のコールが響くと同時に戦いは始まった。

「ハッ!」
「っと……!」
 ぎぃんっ! 剣同士の打ち合う音が高く盤上に響き渡る!
 素早く鋭い一撃――少年公の放った初撃は強烈であったが、ティエンはなんとか捌いた。
「だあっ!」
「よっ!」
 続く一閃! 少年公は前進しながら真っ直ぐに刃を突き出した。これもティエンは側面へと逃れる体捌きで躱してみせる。
「小賢しいな……ッ!」
「そう簡単には、負けないよっ!」
 少年公は焦れながらもティエンへと更なる攻勢をかけてゆく。突き。切り上げ。切り下ろし。横薙ぎ。再び突き! 闇の種族特有のフィジカルを生かした素早く重い攻撃の連打だ。常人であれば瞬く間にばらばらにされていたであろう見事な剣技であったが――死と隣り合わせの青春を駆け抜け、無数の戦いを経験してきた元銀誓館の能力者ならば、この猛攻とて躱しきるのは不可能ではない。
(慣れない武器でも、守りに集中すればなんとか……!)
 更に、ティエンは敢えて攻撃を捨て、守ることに意識を集中していたのだ。
 短剣が片手で振るうタイプの武器であったことも幸いした。まったく同じ、とはいかないものの、片手武器という大雑把な括りならば愛用のT字定規と似通う部分があるとも言える。ティエンは手にしたこのグラディウスを、思いのほか上手く扱えていたのである。
 そうした幸運も重なって、ティエンが固めたガードは少年公に突破されることもなく戦いの流れは保たれていた。
「やっ!」
「くっ……けど、守ってばかりじゃ勝てないよ!」
「それはわかってるんだけど、ねッ!」
 再び剣と剣がぶつかり合う。
「この勝負に時間切れはないからさァ……時間稼ぎなんかしたって無駄なんだよ!」
「お、っと……!」
 ギャンッ! 激しく鳴り響く金属音! 渾身、強烈な一撃ッ! 少年公の振り下ろした短剣が、強かにティエンのグラディウスを叩いたのだ。衝撃を受け切れず、ティエンは数歩たたらを踏んで後退る。
「その隙、見逃さない!」
「……!」
 ――追撃! 少年公は口の端を歪ませながら床面を蹴って跳んだ。掲げた刃が、ティエンの脳天へと迫る――!
「終わりだよ!」
「……ううん。整った」
 だが、その瞬間である。
「はッ!」
 ティエンは一瞬伏せるようにその身体を屈めると、滑るように前方へと進み出たのである。
「な、ッ!?」
 流れるような体捌き。ティエンは舞踏めいてステップを踏みながら素早く少年公へと間合いを詰め、剣を躱しながらその腹に肘を叩き込んだのだ。
「あぐ……ッ!」
 ばぁん、っ! 衝撃に押され後退する少年公。その顔は叩き込まれた肘の痛みに苦悶しながら、困惑に歪んでいた。
「なん、だ……? こいつ、急に動きが……?」
「……掴んだよ。この地の氣の流れ」
 ティエンはその手の中で短剣をくるりと回しながら、少年公へとあらためて相対し、構えなおす。
「気、の……流れ?」
「そ。この世界にはそういう概念ないかな?」
 ティエン・ファンは除霊建築士である。
 除霊建築学とは即ち風水学や陰陽道といったオカルティックな分野から、土地や建造物に影響を及ぼす様々なものを解し、整える学問だ。
 その知識の中には、その土地にあるエネルギーの流れ――龍脈と呼ばれるものを感じ取るための技術が存在する。
 彼女がここで行っていたのは、まさにそれであった。
「除霊建築学・巒頭」
「なに……? なんだよ、それ……!」
「この場所の地形……それから、ここを通ってる気の流れを感じて、合わせる技術、って言ったらいいかな」
 それは、土地を理解し、流れる気脈に自身の波長を合わせることで土地との合一化を図り、土地と繋がることで大地から力を得る技術であった。
 そう――ティエンが先まで守りに集中していたのは、この“合わせる”時間を稼ぐためだったのだ。
「わけのわからないことを…………なにが土地だよ、気の流れだよ……地面なんかただの土じゃないか! そんなもので、ボクら闇の種族が――!」
「侮っちゃだめさ」
 憤る少年公ロイド・ミークであったが――気が付いた瞬間、ティエンの姿は彼の真横にあった。
「生き物はみんな土に根差して生きてるんだからね。……味方にできれば、これ以上心強いものもないんだよ!」
「ぐ、ぅ……!」
 横薙ぎ!振り抜く一撃!――力強いグラディウスの一太刀が、少年公に叩き込まれる!
「な、んだよ……! なんで、こんな力が!?」
「そりゃあ、何しろこの短剣もこの戦場の物だからね!」
 悲鳴をあげる少年公へと、ティエンは言う。――何しろこの短剣は、眼下に見える大地そのものから“生えて”いた、いわば土地の一部だ。
 この武具が、この戦場を巡る気と相性が良いのはもちろん――ティエンの行使する、除霊建築士の技とも波長が合っていたのである!
「さあ、これでどうだっ!」
「ぐあああああっ!!」
 かくして、土地の力を引き出したティエンの技はオブリビオンを圧倒するパワーを見せつける!
 ここから先の展開は、ティエンが優勢に立ったまま形勢が傾いていくだろう。

 この戦場において、猟兵たちの優位は確実なものになりつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

中村・裕美
「あらあら、なかなか可愛らしいボウヤですこと」
シルヴァーナの人格で参加
「普段と違う得物で申し訳ございませんが、ダンスにお付き合い頂けますかしら?」
【早業】による【切断】攻撃、グラディウスによる【武器受け】、残像の残るようなステップでダンスを踊るかのようにして攻撃を避ける【パフォーマンス】。蝙蝠を放つなら、避けつつも自らを彩る照明がわりにしましょう
「ダンスのスピード、パートナーに合わせてもう少しゆっくりの方が良かったかしら?」
と軽く【精神攻撃】で煽って冷静さを奪ったところで、相手に致命傷を与える急所攻撃(首なり他の動脈なり)。成功率を【優雅なる一時】で引き上げた状態で、斬る



「あらあら、なかなか可愛らしいボウヤですこと」
「それはどうも。……でもさ、侮ってたら痛い目見るよ?」
 中村・裕美(f01705)――――その内面に在るもう一人の人格、シルヴァーナは、短剣グラディウスを手に戦場に立つ。
「まさか。侮ってなどおりませんわ」
 シルヴァーナは優雅に微笑みを湛えながら、にこやかな表情で少年公へと相対した。
「まずはご挨拶を。わたくしはシルヴァーナですわ」
「おや、珍しく礼節の概念をもってる猟兵だ。じゃあ名乗りを返そう。僕の名はロイド。ロイド・ミーク」
 二人は貴族然とした優美な所作で互いに挨拶を交わし合う。
 ここが血腥い決闘の盤上でなければ、社交界の風景の一部であったかのようにも見えたかもしれない。
 ――しかして、あくまでもここは戦場だ。
「ではロイド様。普段と違う得物で申し訳ございませんが、ダンスにお付き合い頂けますかしら?」
「もちろん喜んで。あなたの息の根が止まるまで共に踊ってさしあげますよ」
 二人はともに双眸の奥へと隠し切れない殺気と猟奇的な色に染まった光を灯しながら、剣を構えたままに対峙する。
「では」
unいち
deuxにの……」
「「troisさん!」
 そして、舞台の幕開けめいたスリーカウントとともに、二人は動き出した。
「はっ!」
「まあ、情熱的!」
 瞬間、互いに間合いを詰めるように前進していた二人はすぐさまに近接戦闘の間合いへとお互いを捉える。跳ね上がった切っ先! グラディウス同士がぶつかり合い、刀身と刀身が火花を散らして悲鳴をあげる!
「随分なお転婆!」
「お互い様ですわ!」
 二人は互いに押し合い、同時にその反動でどちらも後退。間合いを開きなおす。
 だがそれも一瞬のこと。二人は再び床面を蹴って前進していた。またしても短剣同士がぶつかり合い、激しく打ち鳴らされて金属音が響き渡る。
 首筋を狙う少年公の刃をシルヴァーナは振り上げた剣に滑らせて逸らした。刹那、シルヴァーナは反撃の刃をロイドの胸元めがけて突き出す。だがロイドはすんでのところで感づいて躱し、僅かに後退してから態勢を整えなおして逆襲。今度はシルヴァーナの脳天を狙う――と見せかけたフェイント! ロイドは敢えて頭部をスルーし、シルヴァーナの側面へと回り込むように入ってゆく。同時に繰り出す脇腹狙いの斬閃ッ! しかしてシルヴァーナは接近の気配を気取り、これを辛くも躱す。皮膚一枚に浅く傷がつく程度のダメージで抑えた。
(なるほど、流石に永きに渡ってこの世界を支配し続けてきた闇の種族……。一筋縄ではいかない相手のようですわね)
 ――敵は思いのほか強力だ。不遜な態度であったが、それもその実力が伴ってこそか。シルヴァーナは微かに笑う。
(ですが――わたくしは、こんなところで足を止めるわけにはまいりませんのよ!)
 その心の奥底で、シルヴァーナは奮起した。優美な微笑の仮面を崩さぬよう努めながらも、シルヴァーナはその全身に力を滾らせる。
(一歩でもいい――彼より先に、彼よりも、速く!)
 ステップ。ステップ。ステップ! ギアを上げてゆくように、シルヴァーナは加速した。
「む……ッ!」
 そうして加速したシルヴァーナの戦闘機動の速度は、僅かだが少年公を上回る。
「……随分、ステップがお得意のようだけど!」
「まあ。あなたに合わせてもう少し落とした方が良かったかしら?」
 そして――シルヴァーナは、精一杯の嘲りをこめた悪辣な笑みを浮かべて、嘲弄めいた声音でロイドへと囁きかけた。
「こいつ……なめるなッ!!」
(――かかりましたわ!)
 瞬間、シルヴァーナはロイドが冷静さを失った隙を見逃さなかった。
 ――感情の高ぶりは。激昂は。動揺は。体の動きに乱れを生む。
 それはほんの小さな歪みでしかないかもしれないが――そうして生じるほんの僅かな隙間は、歴戦の猟兵たちにとっては絶好の好機となる。
 そう。いまの挑発的な言葉は、そうした感情のブレによる乱れを誘発させようとする、シルヴァーナからのちょっとした精神攻撃だったのだ。
「はあッ!!」
 激昂と共に切りかかるロイド・ミーク。
 しかして、この状況を仕掛けたシルヴァーナは当然ながらそれを予期していた。
「そこ――ですわ!」
 シルヴァーナは襲い来る短剣の襲撃を躱すと、大振りの攻撃の合間に生じた隙を見逃すことなく、そこへカウンターの一撃を突き入れる。
「な……ッ!」
 ざしゅ、ッ。――気づけば少年公ロイド・ミークの胸元には、シルヴァーナの掲げた短剣グラディウスの刃が深々と突き立てられていた。
 湧きあがる怒りに支配され、その行動を鈍らされた結果が、これだ。気づいた時にはもうすでに手遅れであるが。
「これで、いかがです!」
 シルヴァーナはそこから傷口を引き裂いて広げるように、グラディウスの刃で少年公の胸元から脇腹にかけて傷を切り裂いてゆく!
「が、あああああああああああああああああッ!!」
 激しく迸る返り血。ロイド・ミークは血を噴き出しながらその痛みに絶叫した。
「この勝負……わたくしの勝ち、ですわね?」
「お、ッ、のれ、ぇ……!」
 手応えはあった。――間違いなく、いまの一撃はロイド・ミークのオブリビオンとしての存在核に届いたはずだ。
 ロイドは突き立った短剣を身体から強引に引き抜いて後退。憎悪と敵意に満ちた目でシルヴァーナを睨む。
 だが、もはやその滅びは既に免れぬものとなっただろう。突き入れた剣から感じた反応から、シルヴァーナはそれを確信していた。
「では、わたくしが幕を引いて差し上げますわ!」
 ならば、勝者の礼儀として介錯をしよう――そう考えたシルヴァーナであったが。
「ふざけるなアッ!!」
 ロイド・ミークは怒りの叫びとともに後ろへと下がり始めた。
 ――彼自身も、刻まれた傷の深さに気づいているのだろう。その表情には怒りと憎悪のほかに、困惑と焦りの感情が色濃く混じっている。
 だが、まだ生き足掻いているのだ。オブリビオンという仮初の命であれど、その存在は自らの滅びに抗おうとしている。
 しかして相手はオブリビオンだ。滅びから逃れようというのを容認するわけにはいかない。シルヴァーナはとどめを刺すべく、彼を追って走ってゆく――。

 この戦場における戦いの決着の時は、刻一刻と近づいてきていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱鷺透・小枝子
【血反吐】
人工魔眼も機能しない、か?
……短剣ひとつ。戦う術があるなら上等だ!壊せ!!

【ダッシュ】で短剣を突き付けに行きながら、
【瞬間思考力】自身の動き、敵の動きを認識、
次の行動、その次の行動を思考、剣を叩きつけ合い、
【早業】敵の短剣を空いている方の手で受け止め──
【激痛耐性】そのまま【怪力】で相手の剣と手を掴み!
【急所突き】短剣を体に突き立てる!!

痛み、傷、そんなものはどうだっていい!
壊れろ!!壊せ!!壊れても壊せ!!!

【追撃】強引に抉り裂きに掛り、
【継戦能力】反撃を貰おうとも【闘争心】で己を、戦いを続行させる!
【不意打ち】腕の骨を折られれば口で短剣を噛んで頭ごと振るい、【切断】する!!



「……」
「……」
 朱鷺透・小枝子(f29924)と少年公ロイド・ミークは、短剣グラディウスを手に相対した。
 ロイドの顔にはもはや余裕はない。猟兵たちとの交錯を幾度となく重ね、その身体に蓄積したダメージはもはや無視できない。
 しかして、手負の獣こそがもっとも恐ろしいという言葉もまたあるように――その消耗度合いとは裏腹に、その戦意は高まり、むしろ研ぎ澄まされてさえいた。
(……殺気が、高まっている)
 そうして放たれる鋭いプレッシャーを、小枝子は鋭敏に感じ取っていた。
 戦乱のための駒として生み出され、無数の修羅場を潜り抜けてきた末、無自覚のうちに死すらも踏み越えていまだ戦場に立ち続けている小枝子にとって、そのプレッシャーは幾度となく触れたことのある感覚だ。
 すなわち、強敵である。
「猟兵」
 冷たい声音が、刺すように小枝子を向く。
「勝負だ」
「……いいだろう」
 剣呑な気配。
 二人は互いに攻め入るタイミングを探るようにじりじりと間合いをはかりながら鼓動を早めた。
 きゅり、と音をたてて小枝子の左の眼窩の中で人工魔眼ガンマが駆動する。
(む……)
 本来であればその瞳は千里眼めいて戦場のすべてを見通し、更に超常の力を呼び起こす媒介となる鍵であったが――小枝子はその反応が鈍っているのを感じる。
(説明されていた術的な力の阻害か……? なら、人口魔眼ガンマは機能しない、と思った方がいい、か)
 小枝子は短く息を吐き、そうしてから視線をあげて少年公へと向き合った。
「……短剣ひとつ。戦う術があるなら上等だ!」
「やってみなよ、猟兵!」
 瞬間、二人は殆ど同時に床面を蹴っていた。
 ――飛び出すロイド・ミークと小枝子が、盤上の中心で交錯する。
「壊せ!!」
「壊してあげるよッ!!」
 ガン、ッ! ギィンッ!! 打ち合う刃と刃! 互いに渾身の力で叩きつけた短剣グラディウスがはげしくぶつかりあい、甲高く響く金属音の悲鳴で戦場を満たす。
「だああっ!」
「があッ!!」
 反動で下がったかに見えた二人は、獣めいた唸り声とともに再び刃を掲げた。
「はあッ!」
 攻め手が速かったのは――少年公! 突き出したグラディウスが、小枝子の首筋を狙う!
「おおおっ!」
 だが、ここで小枝子は首元に突きつけられたその刃の前へと――掌をかざして受け止めた!
「なにッ!?」
 ぶづりと音をたて、赤黒く血を撒き散らしながら剣は小枝子の掌を貫通する。刃と骨が擦れてごりごりと音をたてた。
「ぎ、ッ……!」
 しかして小枝子はぎりと歯を食いしばり、騒ぎかけた痛みを殺す。
「こわ、せ……ッ!」
 そして貫かれた小枝子の掌はぎりぎりと蠢き、その五指でもって短剣の刃を握り込んだ。――これで、敵の得物を抑え込んだかたちだ。
「こいつ……ッ! こんな、ことが、ッ!!」
 相当な激痛のはずだ。命を賭した戦いの場といえど、これほどの無茶は正気の沙汰ではない。ロイド・ミークは小枝子の行為に困惑する。
「痛み……、傷……、ッ! そんな、ものは…………どうだっていい、ッ!!」
「ッ、……!」
 それは狂気的なまでに徹底し尽くされた、『敵を斃す』という強烈な意志の発露であった。
 悪鬼めいて叫ぶ小枝子は、咆哮と同時に自由な方の手で握ったグラディウスを掲げた。
「壊れろ!!」
「ぐ、が……ッ!!」
 そして、振り下ろす! 小枝子の掌に自分の剣が深々と突き刺さりしかも握り込まれている現状、少年公にこれを防ぐ術はない。
「がああっ!!」
「壊れろォッ!」
 少年公の胸元へと、小枝子の剣が突き立った。返り血に小枝子の顔が赤く染まる。
「こ、いつ…………女ぁっ!!」
 しかして、少年公もまた吼える。
 ロイド・ミークはぎりと歯を噛み鳴らしながら渾身の力で小枝子の掌から剣を引き抜いた。噴き出す血を浴びるも、その顔に愉悦の色はひと欠片たりとも浮かばない。
「壊せ、壊せ、壊せッ!!」
 一方、小枝子は少年公の胸元から短剣を引き抜いた――かと思いきや、すぐさまもう一度振り下ろし、再び刃を突き立てる!
「なめるな、猟兵イェーガァアアアッ!!!」
 少年公は絶叫と共に反撃の刃を放った。相討ちめいて小枝子の胸元に刃が突き刺さる!
「がああッ!!」
「壊せぇッ!!」
 二人は同時にお互いの身体へと突き立てた刃に力を込めた。加えられた力が互いの傷口を抉り、引き裂き、その血肉を更に傷つけた。二人はお互いの身体に突き立てた刃を同時に引き抜き、それからすぐさま同じように斬り合い突き立て合い抉り合った。二人は死人めいて血みどろになりながら、殺意と闘争心に衝き動かされるように互いの肉体を破壊しあう。
「壊せ壊せ壊せ壊せ壊せッ!! 壊れても壊せ!!」
「望み通り壊してやる……壊してやるよッ!!」
 暴力が、嵐のように吹き荒れる。
 地獄の底で互いを喰らい合う餓鬼のように、二人は苛烈に殺し合った。飛び散る血飛沫が、ダークセイヴァー世界を満たす血腥い風に乗って流れてゆく。
「これで……どうだァッ!!」
「ぐあ……ッ!!」
 その争いは互角のように見えていたが――しかして、ここで訪れる転機!
「く、ッ……」
 ロイド・ミークの叩き込んだグラディウスの一撃が、剣を持つ小枝子の腕の骨を破壊したのだ。
 ――もう片方の腕は、先ほど敵の剣を受けた掌が破壊されているがために使い物にならなくなっている。これで小枝子は両腕を失ったも同然であった。
「これで終いだよ……ボクの勝ちだッ!!」
 そして、燃え立つような殺意を双眸に宿しながら――少年公は無防備となった小枝子の首をめがけ、断頭台めいて刃を振り下ろす!
 ――――しかし、その瞬間であった!
「があッ!!」
「な、に……ッ!?」
 少年公の刃が、不意に弾かれたのである!
「……!」
 馬鹿な、と声を出そうとした瞬間に続けて少年公が見たのは、短剣の柄に齧りつき、咥えた剣でもって襲い掛かる小枝子の姿であった!
「あ、ぐ……ッ!」
 裂かれる胸元に噴き上がる赤の色彩。少年公の身体がぐらりと揺らぐ。
「……猟、兵ァアアッ!!」
 だが、ロイド・ミークはその躯体に重篤なダメージを負いながらも咆哮する。
 彼は既に風前の灯火というほどにその存在を消耗し尽くしていたが、負けられないと。負けたくないと。その胸で未だ殺意と戦意が燃え続けていたのである。
「まだ、やるつもりだというのなら……徹底的に、壊す!!」
 そして、小枝子は剣を咥えたままの恰好で少年公を睨み返す。

 ――それから、二人の激闘は再び幕を開けた。
 噎せ返るような濃密な血の匂いの中、彼らの戦いは続いてゆく。

成功 🔵​🔵​🔴​

ウルル・マーナガルム
ナイフとはまた違う感じだけど、近距離戦闘術効率を突き詰めた殺しの技術の応用で行けそうかな
ライフルバッグはハティに預けて、ジャケットも脱いじゃう
ゴーグルは付けたまんまでいいよ
丁度いいハンデでしょ?
(挑発。実際は、目線から狙う箇所がバレるのを防ぐ為)
先手も譲ったげる、お先にどうぞー
……なんて、ホントはカウンター狙いだけど

危険なのは刃の厚みの数ミリだけ
体を少しズラすだけで大丈夫
素早く踏み込んで、狙うのは手首、その先の脇、首元
人間なら致命的な急所へ斬り込んだけど、途中で逃げられちゃった
流石に反応が速いね

細かい足捌きステップワークで間合いを保ちながら
時々フェイントを混ぜて相手の攻撃を誘う
致命的な攻撃以外は無視するよ
チャンスが来たら、回避と同時にゴーグルを外す
もう一段階の加速
脇をすり抜けざまに斬りつつ背後に回って、首の頸動脈を狙う
対応されたら、膝裏を掬い上げて体勢を崩させる
主導権を渡さないよう、攻め手は緩めないよ

ボクら軍人は殺し合いなんかしない
やるとしたら一方的な殺し、それだけだよ



「ふうん」
 ウルル・マーナガルム(f33219)は、手にした短剣グラディウスをかるく振ってその感覚をたしかめた。
「ハティ。バッグとジャケットお願い」
『わかりました。戦闘終了まで預かります』
 それから、ウルルは羽織ったジャケットを随伴する犬型メカハティへと渡した。
「準備はできたかい」
 ――ウルルの眼前。相対する少年公ロイド・ミークは静かに尋ねる。
 その躯体はここに至るまでに経てきた猟兵たちとの戦いで、既に致命傷といえるほど損傷を受けているようにすら見えた。
 だが、ウルルは少年の双眸の奥に燃える殺気を見逃さない。――こういう手合いは、厄介だ。ウルルは僅かに警戒心を強める。
「大丈夫。……そっちは疲れてるみたいだし、ハンデもつけてあげるよ」
 ウルルは挑発的に――かつ、慎重に。敵の様子を観察しながら、ゴーグルの奥に隠した瞳を鋭く細めた。
「先手も譲ったげる、お先にどうぞー」
 戦場には不釣り合いな気だるげな声でウルルは少年公を誘う。
「いいとも」
 瞬間。
「じゃあ、殺そう」
 ウルルの眼前から、少年公の姿は消えた。
「……!」
 否、死角へと逃れただけだ。その証拠に――側面! 襲い掛かるプレッシャー。殺気!
「お、ッと……!」
 襲撃の方向に気づいたウルルは身体をずらすような体捌きで短剣の一撃を避ける。腕の皮膚が浅く裂かれたが、痛がるほどの傷ではない。
「はッ!」
「!」
 ウルルはすぐさま態勢を立て直し、カウンター気味に短剣を振った。狙うのは少年公の手首――そこから腕を伝うように切り上げて首元まで!
「チッ!」
 だが、ロイド・ミークは致命的な手傷を負うより前に後退し、ウルルの殺気から逃れていた。
「流石に反応が速いね」
「こっちも余裕がないからね」
 視線が交錯しあう一瞬――その刹那の間を置いて、二人の攻防は再び幕を開けた。
「はっ!」
「っと!」
 斬! 凶刃がウルルへと襲い掛かる! しかしてウルルは巧みな足捌きで攻撃を回避。間合いを開きなおして態勢を立て直す。
「……」
 ウルルはかるく剣を振って前進した。迎え撃ちにきたロイド・ミークの剣がウルルへと襲い掛かる。
 ここでウルルは退いた。今のは相手に手を出させるためのフェイントだ。ウルルは慎重に探っている。敵の動きの癖と――攻め入る好機を。
 そこから幾度かの交錯があった。
 ウルルが再び剣を振るい、迎え撃ちに来た剣を躱して退く。かと思いきやロイド・ミークが前進し、ウルルの喉元や胸元の急所を狙って剣を振りかざした。間合いを開く戦い方をしていたが故に、ウルルはそれらの攻め手を余裕をもって躱せていたが、敵の攻め手は少しずつ激しさを増し始めていた。
「はああっ!」
「……」
 しかして、ウルルは冷静に状況を見極める。
 ――敵の攻撃が激しさを増した一方、戦いが始まったときよりも彼の振るう太刀筋は乱れているように思えた。
(なら、そろそろ……かな!)
 袈裟懸けに振り下ろされた一撃を躱したとき、ウルルは頭のゴーグルをむしり取るように剥がして放り捨てた。同時、姿勢を低くしながら床面を蹴って飛び出す!
「な、に……!」
 横をすり抜ける気配に、消耗したロイド・ミークは対応しきれない。
 立て直そうとしたときにはもう既に遅い。ウルルは、少年公の背後にポジションをとっている。
闘技場ここじゃ決闘が流儀らしいけどさ」
 ウルルは片手で少年公の頭を掴むと、剣を握る方の手にぎゅっと力を込める。
軍人ボクらは殺し合いなんかしない。やるとしたら一方的な殺し、それだけだよ」
 呟くように言い捨てて、ウルルは少年公の喉元へと短剣グラディウスの刃を深く突き立てた。
 ウルル・マーナガルムという少女は、猟兵であるという以前に、軍属の兵士であった。であるが故に鍛えられた殺人技術は、今この場において遺憾なく発揮されている。
 それは単純に、彼女が身に着けた技を披露した、というだけではなく――戦いを『遊戯』や『見世物』とするダークセイヴァーの闇の種族たちに対する反抗でもあったのかもしれない。
 そうだ。これは、この戦いは、戦争だ。
「お、ゴ……ッ!!!」
 ぞぶりと肉を引き裂く音がして、ウルルの剣が頸動脈を断つ。
 ロイド・ミークの喉奥から、ごぼごぼと音を鳴らして溢れ出した血が漏れた。抵抗するようにもがいていた少年公であったが、およそ十数秒ほどでその全身から力は失われた。
 それから――――からりと音を鳴らして、彼の手から落ちたグラディウスは盤上の床面へと転がる。
 ――それが、この戦いの決着であった。
「よし、任務完了。ハティ、上着」
『こちらに』
「ありがと」
 そして、ウルルは残る遺骸が骸の海へと還るのを見届けた後、ハティから返却されたジャケットを羽織りなおして小さく息を吐く。
 そうしてから――ダークセイヴァー世界の赤黒い天蓋を仰ぎ見た。
「……じゃ、次いこっか」
『了解しました』
 ウルルはハティと頷きあい、グラディウスを放り捨てながら決闘場を後にする。
 見世物や興行などとは違い、戦争は演目が終われば幕を下ろすというものではない。――最終目標である敵の指揮官フォーミュラを打倒しなければ、この戦いは終わらないのだ。
 そうしてウルルは、次の戦場を目指す。

 戦士たちの去った闘技場に残るのは、打ち捨てられた剣と乾いた風ばかりであった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年05月14日


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#ダークセイヴァー
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#闇の救済者戦争


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ケルスティン・フレデリクションです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト