●三十六計逃げるに如かず
日乃和の首都、香龍。香龍の東側沿岸一帯の殆どは港湾施設が占めている。その内のひとつである大津貿易港に、今宵は見慣れぬ潜水空母が大柄な体躯を埠頭に寄せていた。
「予定よりも遅れてるぞ! 急がせろ!」
艦橋に男の怒声が響く。金髪の角刈りに白人系の肌、貫禄のある体型に見合った強面は日乃和人の特徴とは明らかに異なる。纏う衣類こそバトルドレスユニフォームだが、迷彩柄のパターンは日乃和軍のものではない。どう贔屓目に見ても堅気には見えないその男が睥睨する先では、港湾施設特有の眩い照明に照らされた埠頭で、作業者とフォークリフトがコンテナ類の搬入作業に追われていた。
「ったく、戦争屋の俺達が何だってこんな……!」
夜逃げの準備をしなければならないのか。苛立つ脳裏に浮かぶのは連日報道されていたネットニュース。
『首相官邸占拠事件の首謀者は国外を拠点に活動する反社会的武装勢力と判明』
『特務艦隊隷下の白羽井灰狼両隊と猟兵により事態終息』
朝起きたら全く見ず知らずの騒動の主犯格として自分の写真が拡散されていた。更には回転寿司店の醤油ボトルを舐め回す等といったどうしようもない数々の迷惑行為の犯人にまで仕立て上げられていた。
「首相官邸の占拠だぁ? んなもん知らねぇぞ!」
怒声を床に叩き付ける。この国の連中が何を考えているのかは知らないが、どうやら自分達は組織ごと真犯人の替玉にさせられたらしい。だが弁明した所で国際的な犯罪組織に耳を貸す者などいない。
思えばこの国に入り込んだ事自体が間違いだったのかも知れない。戦火を撒き散らしてやろうと勇んでやって来たはいいものの、警察機関の力が強過ぎてまともに活動できたものではなかった。活動の為の資金調達にも苦心する日々。日乃和を震え上がらせる筈だった戦争屋が、まさかその辺のチンピラと同じく売春や麻薬密売で細々と生計を立てなければならない底辺にまで落ちぶれるとは。
「せめて最後に一泡吹かせてやりたかったが……」
こんな国にこれ以上の長居は無用だ。三十六計逃げるに如かず。不幸中の幸いにして海軍の監視を掻い潜って潜水空母を港に付けられた今、一刻も早く荷造りを終えて脱出するべきだ。この際プライドがどうのと言っている場合ではない。
だが男は後に自分の勘違いを思い知らされる。監視を掻い潜ったのではなく、人身御供として大津貿易港という名の処刑台の上に乗せられていたのだと。
●テロリスト排除
「お集まり頂きまずは感謝を。依頼の内容を説明するわ」
集った猟兵を前に水之江が緩慢に腰を折る。
「雇い主は日乃和政府。目的は大津貿易港に集結したテロリストの排除よ」
長杖を振るうと三次元立体映像が生じた。それなりの規模を持つ港湾施設らしい。
日乃和の首都郊外にある大津貿易港にて反社会的武装勢力が集結している。潜水空母で国外へ脱出を図るつもりらしく、現在は物資の搬入作業を進めているようだ。
「猟兵さん達は日乃和海軍の第六独立機動艦隊と共にこれを強襲、一人残らず全滅させてちょうだい」
●テロリストの概要
テロリストは日乃和国外から侵入した犯罪組織であるらしい。主な活動は武器の密売や政情不安を煽る事を目的とした無差別テロだが、日乃和では警察機関の力が強く殆ど活動出来ずにいた。
「……だったんだけれど、暫く前に日乃和の首相官邸を占拠する重大事件を起こしたんですって」
テロ自体は猟兵並びに白羽井小隊と灰狼中隊を隷下とする特務艦隊によって阻止されたが、この事件を切掛に日乃和政府は同テロリストの徹底的な排除に乗り出した。日乃和の全国各地に点在していた活動拠点は大津貿易港を除いて全て摘発済みだ。
「今回のテロリスト掃討計画には、国内外に対して強い姿勢を示す意図も含まれているみたいね」
●作戦領域
今回の作戦領域は大津貿易港となる。
大津貿易港は大規模な港湾施設だ。大型輸送船の受け入れを前提とした設計となっているため、湾内の水深はかなり深い。
陸側には積み上げられたコンテナやガントリークレーン等の他に物資を集積する倉庫等がある。戦闘時には遮蔽物としても使用可能だろう。
なお現在の大津貿易港には排除対象以外の船舶は錨泊しておらず、民間人もいない。
人類の生活圏に違いはないので大量破壊兵器の使用には極めて大きな制限が掛けられているが、通常の戦術兵器を使用した戦闘行動を妨げるものは殆ど無いだろう。
●作戦内容
「作戦は全部で三段階に分けて実施されるわ」
第一段階では物資搬入作業中のテロリストを猟兵達が強襲し、周囲を警備中のキャバリア部隊を一掃する。
強襲自体に細かな指定はない。正面から仕掛けてもいいし、隠密に徹してもいい。港湾施設なので水中から忍び寄るのも手かも知れない。
「警備中の部隊の主力はMRCA87F-サイクロプスよ」
機体としては旧式だが搭乗者は戦争を生業とするテロリスト。油断が最大の敵となるだろう。
第二段階ではテロリストの潜水空母の撃破とそこから出現する増援への対処が主な内容だ。
この際にCT043-cloud――ガガンボの通称で呼ばれる飛行能力を有したキャバリアも大量に出現する。
だがそちらは友軍の増援である日乃和海軍第六独立機動艦隊が対処に当たる。
「私の予知通りなら、テロリストのリーダー格が出撃してくるわ。搭乗する機体はWWD-004キラー・イェーガーよ」
この機体は特殊な機能で性能を向上させる事が可能であるらしい。
「同時にテロリストの潜水空母が攻撃を始めるから気を付けてね」
巨大な船体に見合った重装甲を有しているだけではなく火力も相応に高い。ミサイルや対空砲などの苛烈な弾幕に曝される事が予想される。
「どちらか片方の対処に専念するのも手だと思うわ。どうするかはお任せするけど、無理はしない方がいいかもね」
第三段階では残存する敵戦力の掃討を行う。
ガガンボは勿論ながら潜水空母が健在であればそれの撃破も任務に含まれる筈だ。作戦第二段階でキラー・イェーガーとの並列処理が厳しいようであれば、作戦第三段階へ処理を先送りにするのも選択肢のひとつだろう。
「因みにテロリストの身柄は……契約書には確保した場合は雇い主に引き渡すようにとしか書いてないわね」
●オブリビオンマシン
テロリストが保有しているキャバリアは全てオブリビオンマシン化している。
働いた犯罪行為の全てがオブリビオンマシンによる精神汚染を起因とするものかは不明だが、何にせよ猟兵として関与する理由には不足ない。
「予知通りなら放っておくと他所の国でもっと酷い悪さを始めるみたいよ。世の為人の為を思うなら、ここで壊しておいた方がいいでしょうね」
●友軍戦力
作戦が第二段階に移行する頃には、日乃和海軍所属の第六独立機動艦隊が大津貿易港に到着している筈だ。
同艦隊は敵潜水空母への砲撃を行い、猟兵がキラー・イェーガーと交戦中の際には艦載部隊の白羽井小隊と灰狼中隊がガガンボの対処に当たる。
●終わりに
「まあ、出てきた敵を全部倒せば万事解決って事ね。簡単簡単。こんなところかしら? 報酬はそこそこ……やってみる? 興味のある人は契約書にサインをどうぞ」
締め括りとして水之江は深く腰を折る。
果たすべき役割は至極単純。そこに矜持を見出すか、得られる報酬に納得するか、承諾の是非は各猟兵に委ねられる。
塩沢たまき
ご覧頂き有難う御座います。
以下は補足と注意事項です。
●第一章=集団戦
出現する敵を排除してください。
敵はサイクロプスとなります。機体自体は旧式ですが、搭乗者は実戦に慣れています。
作戦開始直後の猟兵は敵から発見されていない状態となっています。
以降の作戦領域は共通して大津貿易港となります。大津貿易港はそれなりに大きな港湾施設です。湾内の水深は大型船が円滑に往来出来る程度に深いです。陸側にはガントリークレーンや積み上げられたコンテナ、倉庫などがあります。
作戦開始時間帯は夜間。天候は晴れです。
●第二章=ボス戦
出現する敵を排除してください。
敵は潜水空母一隻とキラー・イェーガーとなります。キラー・イェーガーは搭乗者に対する負荷を代償に機体の能力を向上させる機能を有しています。
●潜水空母
二章から攻撃対象として選択可能になります。大津貿易港の埠頭に錨泊しています。数は一隻。
巨大な船体に相応しい分厚い装甲を有しています。主な兵装はミサイルや対空機関砲等。
三章でも撃破が可能です。
●第三章=集団戦
出現する敵を排除してください。
敵はガガンボです。二章の時点で潜水空母から出撃していますが、二章では第六独立機動艦隊が対処に当たります。
二章で潜水空母を撃破していなかった場合は三章で撃破が可能です。
●第六独立機動艦隊
日乃和軍が派遣した艦隊です。旗艦の装甲空母大鳳と戦艦の三笠等で構成されます。
二章開始前に作戦領域に到着します。猟兵が要請すれば様々な手段で支援を行います。
大鳳の艦長は葵・結城大佐。
三笠の艦長は佐藤・泉子大佐。
●白羽井小隊
お嬢様士官学校出身者が中心のキャバリア部隊です。大鳳から出撃します。
隊長はアークレイズ・ディナに、その他の隊員はイカルガに搭乗しています。
隊長は東雲・那琴少尉。
●灰狼中隊
キャバリア部隊です。大鳳から出撃します。
隊長はアークレイズ・ディナに、その他の隊員はイカルガに搭乗しています。
隊長は尼崎・伊尾奈中尉。
●その他
高速飛翔体を無差別砲撃する暴走衛星『殲禍炎剣』にご注意ください。
キャバリアをジョブやアイテムで持っていないキャラクターでも、キャバリアを借りて乗ることができます。
ユーベルコードはキャバリアの武器から放つこともできます。
第1章 集団戦
『MRCA87F-サイクロプス』
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POW : エンドレス・バタリオン
自身が戦闘で瀕死になると【同型機で編成された一個小隊 】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : ヴァリエーション・ツイン
【白兵戦仕様のS型と砲撃戦用改修機のK型 】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : エアリアル・アタック
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【所属する編隊 】から【統制同時射撃】を放つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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●嵐の前
「静か過ぎるな」
テロリストのリーダー格の男が呟く。民間の船舶が殆どいないじゃないか。潜水空母の艦橋に詰めている要員の多くが抱く所感も同じだった。
艦橋の窓から見下ろす大津貿易港の埠頭では、荷物の搬入に追われる作業員とフォークリフトが忙しく往来している。すぐ横では何機ものサイクロプスが名前の由来となった単眼のセンサーカメラを周囲に注意深く光らせていた。警戒に当たっている機体は埠頭のみならず大津貿易港の各地に配置してある。
「この船のステルス性能のお陰じゃないですか?」
空気を和ませようと操舵士が要らない気を効かせた。
「んなワケあるか」
日乃和の対潜戦能力はそんな生易しいものではない。
過去の大戦で敵国の潜水艦に海上路を壊滅させられて以降、日乃和は病的なまでに潜水艦を恐れている。あの時領海に侵入出来たのは、日乃和海軍の殆どが他所に出払っていたからだ。
その出払っていた海軍が戻ってきている今、日乃和周辺海域の哨戒網には蟻が通れるほどの隙間も無く、入る事も出る事も叶わない。だからこうして潜水空母を港に横付け出来ている状況は、向こう側の都合に乗せられているからに他ならない。
人質の存在を警戒しているのか、はたまた大量破壊兵器……それこそ核や超重力兵器、もしくは化学兵器の類いを警戒しているのか。無論外洋で仕掛けている可能性も大いにあり得る。しかしだとしてもあまりにも静か過ぎる。
それに端の端とは言えどもここは日乃和の首都の香龍なのだ。こうも大っぴらに積荷の運び出しをやっていれば軍より先に警察が飛んで来て然りだ。日乃和の警察は耳が早い。でなければ現状は生まれていない。それさえも無いという事はやはり。
「嵌められてやがるな……」
自分達は敢えて大津貿易港に誘い込まれた。ならいつ仕掛けてくる? この後すぐか? 外洋に出てからか? 一戦交える事は確定だ。
「相手方は必ず仕掛けてくる。レーダー監視サボるんじゃねぇぞ。警備中のキャバリア部隊に伝えろ。余所見した奴はぶっ殺す。無人機はいつでもすぐに出せるようにしておけ」
額に浮かぶ焦りを振り払うかのようにして矢継ぎ早に指示を出す。
「いっそ積荷を諦めちまったら……」
「アホが、出来るわきゃねぇだろ」
怒気を含んで遮ると、通信士の肩が跳ねた。確かに命が惜しければ積荷など置き去りにしてさっさと逃げてしまうべきだ。しかしその選択肢は無い。何故なら現在搬入中の荷物は辛うじて確保出来たなけなしの儲けなのだから。
「今回の仕事は損失がデカ過ぎた。これを全部持ち出せりゃあトントンだが……」
荷物の大半は日乃和軍で運用されている戦術薬剤とキャバリアの部品だ。前者は如月能力研究所が、後者は葵重工業の横流しをくすねたものだ。それらを警察の摘発を受ける間際に各支部から持ち出して掻き集めた。相当な量を確保してある。これを組織に献上すれば取り敢えずの言い訳は付けられるだろう。でなければ文字通り首が飛ぶ。自分達は組織の面子を潰し過ぎた。
なお自分達をこの国に送り込んだ組織の人間はとっくの昔にそそくさと退散してしまった。そもそもの日乃和来訪の切掛が私怨であったらしいが、詳細は聞かされていない。とは言え仮に在留していたとしても、まともに動けたものでは無かっただろう。初動で軍の機体に手を付けたのは悪い意味で大胆が行き過ぎた。結果として不死身の灰色狼の異名を持つ頭のいかれたキャバリアパイロット率いる討伐隊に逃げ帰るまで追い回される羽目になったのだから。
「どいつもこいつも舐めた真似しやがって……!」
苛立ちと憤怒を籠めた拳を超剛性プラスチックの窓に叩き付ける。面子を潰した挙句、触りもしていない首相官邸占拠事件の主犯にまで仕立て上げられた。事情は知らないがまんまと政治の道具に使われたのだろう。
しかもそんな矢先に一部の愚かな構成員が回転寿司店で皿や醤油瓶を舐め回す動画をネットワーク上にアップしてくれた。付いた渾名がペロリストだ。思い返すだけで腸が煮え返りそうになる。下らない迷惑行為でしかないが、民衆とはそういった身近な悪意にこそ強い敵愾心を抱くものだ。そして叩き易い悪人をいつも探し、個人情報を特定して面白おかしく祭り上げる。結果として支部の所在と構成員の顔を割るのに一役買ったという訳だ。
だが必ずしも悪い事ばかりでも無かった。日乃和の女は具合が良い。特に軍属の女は別格だ。しかもこの国の軍人は上から下までやたらと女が多いときた。
日乃和に入り込んで間も無い頃、灰狼中隊などという連中から強奪したイカルガに付いてきたおまけ達には長らく楽しませて貰ったものだ。薬漬けにしても中々壊れない根性と身体は嬲り甲斐があった。最終的には孕んでしまい、使い物にならなくなって胎児諸共ミートグラインダーに叩き込んでしまったが……今頃は他の加工肉に紛れてハンバーグにでもなっているのだろう。思い返せば惜しい事をしたかも知れない。もっと纏まった数を捕まえられていれば良い稼ぎ柱になっただろうに。
どれもこれも日乃和の連中のせいだ。世界中を震え上がらせる戦争屋の顔に泥を塗った落とし前を付けさせてやりたいところだが、時と状況はこちらに味方していない。
「日乃和のザコメスどもが、来るなら来やがれってんだ……纏めて返り討ちにしてやる……!」
遥か彼方の闇を彩る香龍の都心を睨め付ける。政府の奴等もきっとこちらを睨め付けているのだろう。世界を転がしているのはお前達ではない。戦争屋である俺達だ。俺達がその気になればこんな辺鄙な島国などいつでも火の海に出来る。俺達の逆鱗に触れればどうなるか、後悔を以てそれを理解させてやる。リーダー格の男が張った虚勢に、艦橋の誰しもが迂闊に口を開く事を恐れていた。
そして終ぞ予想も及ばなかった。光の届かない暗闇の向こうから、最強最悪の脅威――猟兵達が虎視眈々とこちらを狙っていようなどと。
斑星・夜
【特務一課】
キャバリア:灰風号搭乗
「オーケー、ギバちゃん!いつでも行けるよー!キリジちゃん、今日も思いっきり行こうね!」
と応えて、ギバちゃんの鶴から出撃
同時に『ねむいのちゃん』に頼んで情報収集
敵機の位置情報含めて、戦闘情報を蓄積しておこう
あっ!久しぶりだし、俺も挨拶しときたいな~!
『はーい!白羽井のみんな久しぶりー!元気だったー?』
戦友に生きて会えるのって嬉しくなるよね
さーて、それじゃ、景気よく行こうか!
まずは『ブリッツ・レーゲングス』で電撃で範囲攻撃
ビリビリ感電している敵機にダッシュで接近して『RXブリッツハンマー・ダグザ』で部位破壊
一機も逃さないよ
……俺ねぇ、テロリストって嫌いなんだよねぇ
天城原・陽
【特務一課】
『第六独立機動艦隊所属機へ、テロリストを追い込む。10秒内に散開。巻き込まれても知らないわよ』
挨拶代わりのバスターランチャー
『こちら第三極東都市、特務一課。これより武力支援を開始する』
「我らが『鸛』に障害物無し…マダラ、キリジ、行きなさい!」
Vigilanteよろしく、共に海の向こうからSFSで飛んできた僚機の降下と共に戦場に乱入
『アスラ01より各機へ。状況は把握しているわ。……久しぶりね、アンタ達。元気だった?』
各機の返答には「それは結構!」とばかりに敵機を蹂躙しつつ鋭角機動
戦友会にしちゃちょっと早すぎるけど再び世界の歪みを叩き潰す時が来た
猟兵が現れるというのはそういう時だ
キリジ・グッドウィン
【特務一課】
GW-4700031に搭乗。
「やってることめちゃくちゃすぎるだろ」
これはテロリストと特務一課、どちらにも言える
出たトコ勝負になるか、空と海で挟み込めればそれはそれで良いか…賭けだな
そしてギバもマダラもその手のギャンブルは何故か強いときた
鸛での強襲。自在に飛び回りBS-Aスクィーズ・コルクによる制圧射撃でガン攻め。なるべく一所に集めりゃ、味方の攻撃も巻き込みやすくはなるだ
ろう
派手にぶん殴っても良かったんだが、テロリストの分まで倉庫の賠償請求とかされても困るか…と<Irritated Shot>を御見舞いする。一度全部当てりゃそれで吹ッ飛んでも被害は全部あっち持ちだしなァ!
●強襲作戦
夜の闇が深みを増す頃、大津貿易港には東の大海原を遥々渡ってきた風が吹いていた。潮の香りを孕んだ微風は、港湾内の海面を穏やかに波立たせ、埠頭を滑ると積み重なる貨物コンテナに衝突して失せた。
夜逃げの準備に追われる無法者達は荷物の運び込みで忙しい。周囲ではサイクロプスが警戒に当たっている。騒音に満たされながらも不穏な気配が降りる空気が、東の水平線上から猪突するジェットエンジンの轟に戦慄し始めた。
「こちら第三極東都市、特務一課。これより武力支援を開始する」
赤雷号のコクピットで操縦桿を握る天城原・陽(閃紅・f31019)は、爆発的な推力が生み出す重力加速度に眉間を顰める。海面を引き裂いて駆け抜ける赤雷号の輪郭は、一見すると異形であった。SFU――サブ・フライト・ユニットの鸛と一体化したアンダーフレームは、脚部というよりも巨大な推進装置そのものだ。
「第六独立機動艦隊所属機へ、テロリストを追い込む。10秒内に散開。巻き込まれても知らないわよ」
先手必勝で出鼻を挫く。これぞ強襲だと言わんばかりの鋭い眼差しを放つ天城原がトリガーキーに指を掛ける。赤雷号は加粒子の光を零し始めた二十二式複合狙撃砲の砲門を正面に向ける。
『第六独立機動艦隊、まだ作戦領域に到着していません!』
「あぁ? なんだって?」
支援AIことねむいのちゃんの電子音声に対して天城原は殆ど脊髄反射で怪訝に応じた。
「えーっとねぇ、まだ水平線の向こうみたい! 到着するまでもうちょっとかかりそうだねぇ」
ねむいのちゃんに代わって伝えたのは斑星・夜(星灯・f31041)だった。彼が搭乗する灰風号は鸛の下部にマウントされている。正面に展開した可変式シールドを傾斜させて空気抵抗を減らしているようだ。
「そういや、んな事言ってたっけな……連中の出番はオレ達の後だったか?」
GW-4700031――エメリィの操縦席に収まるキリジ・グッドウィン(what it is like・f31149)が腕を組んで記憶情報を辿る。サーヴィカルストレイナー越しに伝わる夜風の風圧が強烈だ。だがそれも致し方ないだろう。なぜなら灰風号の隣に懸架されているエメリィは機体全身にまともに向かい風を受けているのだから。
「そう? ま、返って都合がいいわ」
今モニターの向こうに見える大津貿易港には敵しかいない訳だ。これで遠慮なく撃てる。悪いが那琴達に仕事は残してやれないかも知れないぞと、天城原の口角が無意識の内に吊り上がる。二十二式複合狙撃砲の兵装ステータスに充填加粒子臨界点のメッセージが表示され、電子的な警告音が鳴り響く。
「そのまま突っ込みなさい! 赤雷号!」
搭乗者の啖呵に応えるかの如く、赤雷号の動力炉が唸りを上げる。左右に割れる白波を置き去りに、鸛と一体化した赤雷号は低空を疾る彗星となって大津貿易港の埠頭に差し掛かった。
「見ておきなさい! これが強襲ってもんよ!」
港内で警戒に当たっている何機かのサイクロプスのモノアイセンサーと視線が交差した。天城原の指先が操縦桿のトリガーキーを押し込む。赤雷号の二十二式複合狙撃砲が収束した加粒子を放出する。果たしてバスターランチャーの青白い光芒が港内を直線になぞった。直後に連続して炸裂する青の火柱。光芒に触れたサイクロプス達が溶解しながら爆散し、コンテナは内部から膨れ上がって弾け飛ぶ。
ただの一撃で大混乱に陥った着弾地点の真上を赤雷号が高速で飛び抜ける。天城原が横目を送ると、生き残りなのか周囲から駆け付けたのか、サイクロプスK型が対空砲火の火線を上げ始めていた。しかし鸛と一体化した事で暴力的なまでの加速を発揮する赤雷号を捉え切れるものではない。天城原はブーストペダルの踏み込みを緩めて操縦桿を横に倒した。
「我らに障害物無し……マダラ、キリジ、行きなさい!」
「オーケー、ギバちゃん! キリジちゃん、今日も思いっきり行こうね!」
戦域を大きく旋回して再突入する鸛が、灰風号を懸架していた接続基部を解放する。左右に展開したアリアンロッドを安定翼代わりとして滑空し、足裏から火花を散らせながらアスファルトの路面上に降りた。貿易港と銘打たれているだけあって、港内の道路は大型貨物車輌の往来に適した広さに設計されているらしい。これなら獲物のブリッツハンマー・ダグザも存分に振り回せるだろう。斑星は操縦桿越しに武器の重みを感じた。
「滅茶苦茶しやがるな……」
キリジの言葉は天城原とテロリストのどちらに向けられたものだったのだろうか。或いはどちらにも向けられたものだったのかも知れない。
「キリジ! 鸛はアンタが使いなさい!」
「へいへいっと」
鸛との固定を解いて横に飛び立った赤雷号に代わり、エメリィが上側へと就く。
「なんとも慣れねぇな……」
脚が飛行機擬きになるってのは――脚が丸々別の器官に変化してしまったような名状し難い感覚に苛まれながらも、エメリィと鸛の制御機能を接合する。
「ギバちゃん! キリジちゃん! 敵の配置送るよ! さっきのバスターランチャーでどんどん集まってきてるみたい!」
斑星はねむいのちゃんが集積した敵位置座標をそれぞれの機体の元へと送信する。テロリスト側は戦争屋だけあって対応が早い。
『なんだこいつら!? 日乃和軍のキャバリアじゃねぇぞ!?』
「お?」
倉庫の角から複数のサイクロプスが道路上に躍り出た。灰風号を見付けるや否や高速滑走しつつアサルトライフルとミサイルを立て続けに撃ち放ってくる。
「なるほどねぇ、確かに戦い慣れしてるかも」
躊躇いがない。灰風号は円形に繋ぎ合わせたアリアンロッドを正面に向ける。殺到した銃弾が甲高い金属音を鳴らす。誘導弾が近接信管を作動させて赤黒い爆煙を膨らませた。
「だけど!」
左右に分たれたアリアンロッドが黒煙を払った。無傷の灰風号が掲げたブリッツハンマー・ダグザから雷光が迸った。乱れ飛ぶブリッツ・レーゲングスは高速機動を繰り返すサイクロプス達に振り注ぎ、機体各部からスパークを生じさせて挙動を著しく鈍らせた。
「動きを止めちゃえば……」
地面を蹴って瞬間加速した灰風号がサイクロプスの一機に肉薄する。サイクロプスは咄嗟にヒートホークを抜こうとするも、ブリッツ・レーゲングスによってアビオニクスに異常を来たしていたが為に動作が中断されてしまう。
「こう!」
無慈悲な鉄槌が叩き付けられた。頭部から胸部までを陥没させられたサイクロプスは派手に爆発四散するでもなく、その場で仰向けとなって転倒する。
『まさかこいつら、イェーガーか!?』
運動機能を麻痺させられながらもアサルトライフルを応射しつつ後退を試みるサイクロプス。
「おっと、一機も逃さないよ」
双眸の中で金の瞳が冷たい光を宿す。灰風号は片側のアリアンロッドで銃弾を難なく弾き返すと、そのまま直進加速して盾ごと正面衝突した。背中をアスファルトの路面に付けて火花を散らせながら滑るサイクロプスに、跳躍した灰色の影が戦鎚を振り翳す。
「……俺ねぇ、テロリストって嫌いなんだよねぇ。しかも大勢の女の子に酷いことしたよね? よくないなぁ、そういうの」
そこに普段の斑星の表情は無かった。口元は温和に笑っているものの、細められた目付きは鋼の如く冷淡に研ぎ澄まされている。
『あぁ!? 日乃和のアバズレどもに何しようが――』
「喋らなくていいよ」
サイクロプスのパイロットが上げた短い悲鳴は、ブリッツハンマー・ダグザによって叩き潰された。
「……珍しくキてんな、ありゃ」
灰風号の動作として放出される斑星の圧力は、他者の感情の揺らぎに疎いキリジでさえも察しが付くほどであった。
「さあて、派手にぶん殴ってもよかったんだが……」
ここは曲がりなりにも貿易港なのだ。やり過ぎて損害賠償を請求されでもしたら天城原が煩そうだ。神経回路を介して鸛の推力を増大させる。倉庫や建屋の上を滑空すると案の定対空火線が伸びてきた。伸びてくる方角はねむいのちゃんの索敵情報通りだ。
「その調子で食い付いてきやがれよ」
鸛には左右への切り返しを繰り返させながら、エメリィはスクィーズ・コルクの掃射を浴びせに掛かる。頭上から注ぐそれはまさしく荷電粒子の雨。紫電の集中豪雨をまともに受けたサイクロプスが機関部を爆散させて火球へと変ずる。されど敵側もただ撃たれ続けている訳ではない。複数機で隊列を組み、倉庫やコンテナを遮蔽物として反撃の火線を走らせる。
「どうしたァ? 戦争屋がそんなもんかよ? シロウトが」
銃弾が鸛に命中するも、そう易々と堕とされるほど脆くはない。キリジは嘲笑を乗せた対地掃射を繰り返す。敵側は頭上を忙しく飛び回るエメリィをなんとしても叩き落とすべく増援を呼んで追い回す。そしてそれこそがキリジの狙いだった。
「いい感じだね、キリジちゃん!」
突如として敵集団の側面より稲光が迸った。灰風号がブリッツ・レーゲングスを閃かせたのだ。
「上出来よ!」
空中に青白い推進噴射の軌道が鋭角に疾る。エメリィと交差した赤雷号が加粒子砲を立て続けに撃ち放つ。キリジの誘導によって纏められ、斑星のユーベルコードによって動きを止められた敵集団に、幾つもの光の槍が突き刺さる。
「纏めて喰らっとけ!」
そこにエメリィのイリテイテッド・ショットの追撃が加わる。如何に戦争慣れした者が搭乗しているサイクロプスであろうと、運動機能を阻害された上で空対地攻撃を受ければ成す術もない。両腕部の荷電粒子砲が明滅を繰り返す度に、サイクロプスが内部から膨張した爆球に呑み込まれた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
川巳・尖
首相官邸占拠事件の首謀者、か
何にせよ相当なことやってるんでしょ、こいつらって
…撃つのに遠慮はいらないよね
大きい港で遮蔽物も多いなら好都合、海側から静かに近付いて奇襲を仕掛けたいな
埠頭の敵機も全部が海側を見ていないだろうし、水妖夜行で狙い易い奴を撃破しつつ上陸、手近なコンテナにでも隠れて次の標的を選ぼうか
経験豊富な戦争屋って話だし態勢を立て直すのは早そう、一度に複数を相手取るようなことは避けて、一旦海中に隠れて別の位置から攻撃する
連中の注意が低い位置に集中しているならそれもチャンスだね、一気に上昇して敵の頭上から撃つよ
あたいみたいなのに翻弄されて今どんな気持ちかな、ペロリストさん?
●河童の仕業
夜が降りしきると、大津貿易港は幻想的な光で彩られる。遠方からはガントリークレーンや桟橋の明かりが、闇夜に点在する星のように輝いて見える。ネオンの色彩が混ざり合い、港内全体を魅惑的な輝きで包み込んでいるようだ。
テロリストの潜水空母の停泊地から離れた埠頭の近辺で、二機一組のサイクロプスと何名かの構成員が哨戒に当たっていた。
「あーあ、日乃和とも遂におさらばかぁ」
いずれかの構成員だろうか。サイクロプスの歩行音の隙間に男の声が聞こえる。
「未練ったらしいな。こんな窮屈で辺鄙な国、さっさと引き上げちまうに限んだろ」
「まあそうだけどな? ここの女共は抱き心地がなぁ……」
「またその話しかよ馬鹿くせぇ」
「お前だって散々犯ってただろうが。特にボスがとっ捕まえてきた軍の女をよ」
「あの灰狼中隊とかいうところのか? ありゃ別格だ」
「だろ? 全員ガキが出来ちまったってんで纏めて挽肉にしちまったけどさ、やっぱ勿体無かったよなぁ。ガキなんざ堕ろしてもっと使い込めば……」
「キメすぎてぶっ壊れたイカれメスなんざ使いもんにならねぇだろうが。最後は死んだタコみたいになってただろ」
「なあ、どうせトンズラするなら最後に誰か掻っ攫っちまえばいいんじゃね? 街中に出りゃ一人ぐらい楽勝だろ?」
「バーカ、見付かったらボスに殺されんぞ。それに日乃和のポリ公がすっ飛んでくるだろうが」
「そういや昨日のポリ、女だったなぁ……ああいうのが泣かせ甲斐があるんだよな……」
サイクロプスのアンダーフレームがアスファルトに接地する度に、男達の声が遠ざかって行く。
「首相官邸占拠事件の首謀者、か」
夜空の闇を映す真っ黒な内湾で、川巳・尖(御先・f39673)は顔の半分だけを覗かせて会話を聴いていた。
零した呟きの真の首謀者が誰なのか、どのような経緯で終結に至ったのか、尖は始終を全て知っている。だから今回の依頼で排除する運びとなったテロリスト達は何ら関係していない事も既知の内にある。
「何にせよ相当なことやってるっぽいね、あいつらって」
次第に遠ざかるサイクロプスの背中を見る瞳が、無味で冷たい蛍色の光を灯す。
尖は首相官邸占拠事件後、暫くの間香龍都内の病院に入院していた。入院中は特にやる事もなく携帯端末でネットニュース巡りをしていたのだが、その中で今回のテロリスト連中と同一らしい人物達が起こした数々の犯罪行為の情報も知り得ていた。
彼等がペロリストとの汚名を被る切掛となった回転寿司店に対する迷惑行為――通称で寿司ペロ事件が炎上案件として有名だが、実際には更に凶悪性の高い事件を組織的に繰り返している。
麻薬売買、児童売春、特殊詐欺、強盗殺人、強姦殺人……列挙に切りがない程に軽きから重きまでの犯罪を満遍なく網羅しているが、特に殺人と性犯罪が群を抜いて多い。色情狂いなのかはいざ知らず、戦争屋とは言えば格好が良いが、内実は理念無き反社会的組織だ。
「………撃つのに遠慮はいらないよね」
新改なら文字通りに唾棄するような連中だ。脳漿をぶち撒けさせたとしてもお咎めはないだろう。尖は抜いたマコモHcのスライドを引き、チャンバーに弾丸が装填された事を確認すると手を離した。
「今回の仕事先が港でよかったかもね」
水辺はあたいの領域――覗かせていた頭を海面の下に沈めると、音もなく泳ぎ出す。濡女の系統に連なる水の妖ならば、水中を自在に潜航して遊泳する事など造作もない。
気取られないように慎重に、かつ素早く。水底を這うように泳ぎながら水面を見上げる。規則的に伝わる振動はきっとサイクロプスの足音だろう。距離はかなり近い。急浮上して顔を出す。狙い通りに哨戒部隊の背後を取っていた。
「まずは……生身の相手から仕留めようかな?」
海中の両足に青と緑の靄状の光が纏わりつく。光は尖の身に宙を駆ける浮力を与えた。水を蹴り出して跳躍すると、合成樹脂製の草履は静かにアスファルトの地へと降りた。
「逃さない」
アイアンサイトの向こうに歩哨の頭部を捉える。撃てば発砲音で気付かれる。殺るなら一発。掌握を支える手に力が篭る。トリガーに添えた指を引くと、銃口が翡翠色のマズルフラッシュを焚いて跳ね上がった。
「ぎゃっ」
極短い悲鳴と共に西瓜が破裂した。それが尖の感想だった。呪弾を頭部に受けた歩哨は首無しの身体となって膝から崩れ落ちる。脳と髪と血液が混じり合った赤黒い肉片が飛び散り、ほんの一瞬だが他の歩哨達は何が起きたか分からずに呆気に取られていた。
「敵だ!」
だが直後の状況適応力は早い。腐った色情狂いでも戦争屋ではあるらしい。尖が条件反射で横に跳ぶと、先程まで立っていた場所を無数の銃弾が素通りしていった。一拍子遅れてサイクロプスも攻撃に加わる。
「援軍呼ばれる前に片付けたいけど……」
積載された貨物コンテナの影に飛び込んだ尖は更に場所を移動する。ミサイルかグレネードが撃ち込まれたのか、強烈な爆轟と共にコンテナが吹き飛ばされた。
「あっつ!」
身を焦がす熱波に片目を閉ざしながらも跳躍。コンテナの上に登ってもう一度跳躍。後を追う銃撃を振り切って湾内の海面に飛び込んだ。
「畜生! なんだあのガキは!? ポリでも軍の奴でもねえぞ!」
「飛び回りやがって! 天狗かよ!?」
「いや潜ったし河童じゃねえのか?」
尖が飛び込んだ海面に対して歩哨とサイクロプス達が集中掃射を掛ける。だがもう尖はそこにはいない。海底を高速で泳ぎ、全く別の場所へと移動していたのだ。
「ファック! 消えやがった!」
「応援を呼べ! 散開して捜索すんぞ!」
「水面をよく見ておけ。必ず浮かんでくるはずだ」
「ほらやっぱり河童じゃねぇか」
「うるせえ! 黙って探せ!」
歩哨がどこぞへと通信で呼び掛ける傍ら、サイクロプス達は携行したアサルトライフルの銃口で尖を探しながら多方面に向かう。尖はそれらの様子を貨物コンテナの上に身を伏せた状態で観察していた。
「やっぱり水の中が気になってるみたいだね」
当然と言えば当然だろう。向こうはこちらを河童か何かと勘違いしているらしいのだから。実際には濡女や川ミサキなのだが。なんだか釈然としない気分になってきた。まあいいや、どうせ永遠にさよならするし。
サイクロプスの一機がサーチライトを当てて海中を覗き込む。背中をこちらに晒している格好だ。この好機を逃す道理は無い。尖は慎重に立ち上がって深く息を吸い込む。そして吐き出すのと同時にコンテナの天板を踏みつけた。闇夜の宙に描かれる水妖夜行の軌跡。
「うおお!? なんだァッ!?」
狼狽えるサイクロプスの搭乗者。海を覗き込んでいたら突然褐色肌の少女に画面全体を覆われたのだから致し方ない。
「あたいみたいなのに翻弄されて今どんな気持ちかな、ペロリストさん?」
サイクロプスの頭部に取り付いた尖は、手にしたマコモHcの銃口を装甲に押し当てる。
「てめっ! オレ達をその名前で呼ぶんじゃねぇ!」
振り払われるよりも先に尖が引き金を押し込んだ。マコモHcの銃口より翡翠と蒼炎の朧げな光が噴出し、金属が金属に食い込むような不快音が響く。そして尖自身は射撃の反動を活かして後方に飛び退いた。
「バカが! んな豆鉄砲で――」
着地した尖にサイクロプスがアサルトライフルの照準を重ねた瞬間、機体全体に紫の亀裂が蜘蛛の巣状に巡った。
「これはね、あんた達が育てた怨み」
立ち上がった尖が横目を送る。するとサイクロプスは硝子が砕けたかの如く無数の断片と化して崩壊した。マコモHcに込めた呪弾が機体を蝕んだのだ。
「って……もう聞いてないか」
増援を呼ぶ間も無く砕けたサイクロプスの残骸の跡からは搭乗者の気配は感じ取れない。呪いは機体のみならず中に収まる人間をも祟っていたのだろう。嬲られ慰みものにされ、殺されていった者達の呪い――それらの依代という訳ではないにしろ、悪霊と化した尖は意図せずして呪いの代弁者となっていた。
「次はどうしよっか」
マコモHcのスライドを引いてチェンバーを確認する。鈍い金色の照り返しを放つ薬莢を認めると、尖は視線を海面へと移す。アスファルトを蹴り出して真っ黒な湾内に身を投げ入れた。
大成功
🔵🔵🔵
フレスベルク・メリアグレース
下衆ですね…良いでしょう、この世の道理を教えてあげましょう
瞬間、サイクロプスに騎乗したテロリストごと爆弾化
そのまま肉体の操縦権を支配して自律型爆弾に
警備網が乱れていない状態のまま自然に荷物…戦術薬剤とキャバリアの部品を莫大な熱量で吹き飛ばします
これで流出は阻止…
オープン回線を開いた後、無線で宣戦布告
罪無き民の血を流す事でしか存在意義を果たせない矮小なスカベンジャーよ
わたくしはフレスベルク・メリアグレース
聖教の名の下罪無き女性を蹂躙した獣を駆除しに来ました
あなた方に降伏の選択肢はありません
苦悶と絶望に満たされたまま、死になさい
回線を切り上げ、更に爆弾化したサイクロプスを起爆していく
●ボマー・クイーン
深夜の訪れとともに、大津貿易港は幻想的ながらも寂寥とした姿を見せていた。闇に包まれたその場所は、かつては船の出入りで賑わっていた筈だ。されど今宵は船舶の警笛の代わりに、鋼の巨人がアスファルトの大地を踏み鳴らす音ばかりがそこかしこで聞こえる。大津貿易港内で動き回っているのは、国外への逃亡準備に追われる反社会的勢力が配置した歩哨達だ。
そんな大津貿易港には幾つかの入り口が存在する。フレスベルク・メリアグレース(メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263)は陸側の入り口の中でも最も大きな正面玄関口から入港を果たしていた。神騎ノインツェーンに乗るでもなく、教皇級聖別天衣を帯びた少女の生身一つで。翡翠色の眼差しは正中を見据えており、唇は固く結ばれている。潮の香りを孕む微風に煽られた裾の揺れる様子には、内より立ち上る怒気が含まれていた。進む歩調は一定の間隔を崩さない。
「おい! 止まれ」
正面入口のゲートは開放されている。だが差し掛かった途端に男の声が飛んできた。フレスベルクは足を止める。するとバトルドレスユニフォーム姿の男が二人、行く先を遮るようにして現れた。奥では複数機のサイクロプスが単眼型のセンサーをこちらに向けている。
「こんな時間にお嬢ちゃんが何してる? お散歩か?」
男の一人が尋ねる。ゴーグルを掛けている上に髑髏をあしらったフェイスマスクを着用している為素顔は伺い知れないが、日乃和人では無いようだ。携えるアサルトライフルの銃口は斜め下に降ろされているが、気分次第でいつでも発砲姿勢に移れるのだろう。
「大津貿易港に用事があって参りました」
フレスベルクの声音には一切の物怖じがない。
「今は立ち入り禁止だ。とっとと帰んな」
「いいえ、帰りません」
凛然と放った拒絶に、神経を逆撫でされたらしい男が首を傾げて一歩踏み込む。
「おい待て、こいつの顔どこかで……」
だが隣の男がそれを腕で制した。フレスベルクは相手を見据えたまま動かない。止められた男は改めて夜間に何の前触れもなく現れた少女をまじまじと観察する。頭頂部からつま先まで。存在を主張する胸の膨らみと、前垂れと黒いニーソックスの隙間から覗く素肌に視線の動きが止まった。
「ほぉ? 細っこいお嬢ちゃまだと思ったが、身体の方の肉付きは悪くねえな」
フレスベルクは下衆めいた視線に全身を舐め回されるのを感じた。肌が泡立つ。だが射抜くような眼差しは相手から微動にも逸らさない。おおよそ相手が何を考えて、何をするつもりなのかは察しが付く。
「そうして無辜の者達を己の劣情を満たす為だけに穢してきたのですか」
肌に纏わりつく嫌悪に目元が歪む。
「小難しい喋り方するんだな? いいとこ育ちか?」
「港に入りたいんだったな? なら手取り足取り案内してやるよ」
卑しく嘲りながら男二人がにじり寄る。
「潔いまでの下衆ですね」
フレスベルクの唇から深い呆れの意味を含んだ吐息が漏れる。
「良いでしょう、ではこの世の道理を教えてあげましょう」
「そりゃ楽しみだ。で? どうやって?」
「崩壊するは肉体と精神と魂魄。それは魂に宿る衝動を以て奈落を具象化する元型……」
「あ?」
何事かを聞き返す男の足が止まった。
「その名を
赤き糸の結合者と呼ぶ」
しなやかな右腕が目線の高さまで上げられ、細い人差し指が真っ直ぐに伸ばされる。爪の先が指し示す先には男がいた。
「訳の分からん事をゴチャゴチャと――」
男の台詞は最後まで続かなかった。なぜならば、突如胸部が膨れ上がったかと思いきや内部より爆裂。間欠泉の如く血肉や骨片を周囲に飛び散らせたからだ。
「ひっ……」
すぐ隣で人体の構成物を諸に被った男が掠れた悲鳴を漏らす。乗せる胴体を失った脚が痙攣しながら倒れた時には、既にフレスベルクの指先はもう一方の男の元へと向けられていた。
アサルトライフルの銃口と視線が交差する。男が短い呻き声をあげる。一瞬だけ膨らんだ頭部が、内部に爆弾でも仕込まれていなければこうはならないといった様子で爆裂する。聖女の深域・奈落へは燃え上がり灰塵となる様に――フレスベルクの指先が示す男の人体は、ユーベルコードによって爆弾へと変容していたのだ。
『なんだァこいつはッ!?』
『あいつメリアグレースのガキ教祖じゃねえのか!?』
場馴れしている戦争屋なのか、何の前触れもなく人間が爆弾に作り変えられるという常軌を逸脱した光景を前にしても即座に対処行動に移れる程度の判断力は備えているらしい。待機していたサイクロプスが慣れた動きで編隊を組み、フレスベルクに対して各々の火器を向ける。かと思いきや周囲に積まれていた貨物コンテナが次々に爆発を起こし始めた。生じた爆風と金属片の嵐は何の備えもしていなかったサイクロプス達を薙ぎ倒して切り刻む。
『クソが! なんだあのバケモンは!』
爆発に飲まれて四肢を失ったサイクロプスより脱出するべく、搭乗者はコクピットハッチを緊急排除した。そこへフレスベルクが軽やかな足取りで飛び乗る。冷たく鋭い翡翠色を湛える瞳が搭乗者の姿を捉えた。
「よ、よせ! 降伏する!」
人差し指を伸ばすと搭乗者が身を逸らす。
「あなたは救いを乞う者に慈悲を掛けたのですか?」
「は?」
「辱めた者に対して慈悲を掛けたのですか?」
フレスベルクが双眸を細めた。既に得ている情報が正しいのだとすれば、彼等は女をボロ雑巾になるまで姦した挙げ句死に至らしめている。それも一人や二人では済まされない。
「待ってくれオレは殺ってない! ただ――」
「あなた方は慈悲を掛けなかった。よって、あなた方に降伏の選択肢はありません」
サイクロプスの搭乗者の脳の中に生成した極小の爆弾が炸裂した。亀の甲羅の模様にも似た亀裂が頭蓋に走り、搭乗者は項垂れて動かなくなった。フレスベルクは緩慢に瞬きをして吐息を吐き出すと、コクピット内のコンソールに細指を這わせて通信機能を起動させる。そして全周波数帯域で通信回線を開いた。
「罪無き民の血を流す事でしか存在意義を果たせない矮小な死出虫よ。わたくしはフレスベルク・メリアグレース。聖教の名の下、罪無き乙女達の魂を穢し、蹂躙した獣を駆除しに来ました」
微かに顎をあげる。獣共に聞かせるつもりなどない。これは一方的な宣戦の布告だ。
「苦悶と絶望に満たされたまま、死になさい」
声音は静かで淑やかだった。通信を終えたフレスベルクは仰向けに横たわるサイクロプスの骸から飛び降りる。着地で屈めた身を立ち上がらせると、煌々と燃える炎が横顔を緋色に照らし出す。その面持ちは威風に満ちており、ひたすらに冷厳だった。
大成功
🔵🔵🔵
杓原・潤
うるうには難しい事は分かんないけど、オブリビオンマシンの悪さは止めなきゃね!
テルビューチェは泳げるから、海からこっそり近付くのが良いかな。
敵の一体の脚かなんか掴んで【重量攻撃】して、いきなり水中に引き摺り込んでびっくりさせちゃえ!
そしたら他の敵が混乱してる隙に【高速詠唱】で魔法発動!
これでここは大体深海、そのキャバリアじゃ飛べないでしょ。
こっちはサメだから【深海適応】もばっちり!
後は【水中機動】で近付いて剣で【切断】したり【暴力】的に噛み付いて倒したり……まぁ好きに暴れちゃえ、テルビューチェ!
でもパイロットはなるべく怪我させないようにね。
そっちはバブルワンドの【属性攻撃】で無力化しとくから!
●
殺滅、襲来
夜に包まれた大津貿易港は、静寂という名の幕を引いていた。闇がその一帯を覆い、各所の街頭やガントリークレーンが眩い光を放つ。巨大なコンテナが積み上げられた埠頭は、風の音を運び、時折鋼鉄の音が響き渡る。それは港内の歩哨に就いているサイクロプスが奏でる駆動音だった。湾内で穏やかに波打つ真っ黒な海面は、月明かりと人工の照明を映している。
「うるうには難しい事は分かんないけど……」
どうにも複雑な事情背景と依頼主の思惑が見え隠れしている作戦内容だが、それはそれとしてオブリビオンマシンの悪行は阻止しなければならない。湾内の水底に潜む鮫魚人型のキャバリア、テルビューチェの背面に備わるコクピットの中で、杓原・潤(鮫海の魔法使い・f28476)は、星雲のガスを宿したかのような紫の瞳を海面へと向けていた。小柄な少女の身を覆うのは、機体との親和性を意識したかの如き鮫を想起させる意匠のパイロットスーツ。表面も鮫肌に近い質感の照り返しを放っている。
潤はテルビューチェと共に息を潜めて獲物に忍び寄る。戦争慣れしているテロリスト連中とは言えど、湾内の海底まで覗き見る事は出来なかったようだ。索敵自体はソノブイでも使えば不可能ではないのだが、急な夜逃げとあってはそこまで厳重な警戒網を築く余裕もなかったらしい。結果として水中を泳いでこっそりと近付く戦術判断を取った潤は想定通りに敵の背後を取るに至った。
埠頭を歩行するサイクロプスは時折サーチライトを海へと向けている。だが強力な光も海底までは届かない。一方の潤は歩行の振動で敵の位置を把握出来ている。慎重に少しずつ距離を詰め、いよいよ直線の間合いで10メートルを切った。
「いまっ!」
搭乗姿勢を安定させる為のグリップを握る手に力が籠もる。潤から跳躍の思考を感受したテルビューチェはテールフィンとアンダーフレームで海水を蹴った。急激な加速が生じて機体が一気に浮上し、海面を爆発させて宙に躍り出た。
『なん――』
サイクロプスの編隊の最後尾の機体が振り返るよりも先に、埠頭に乗り上げたテルビューチェがホオジロザメのように巨大な顎を開く。鋸状の牙がサイクロプスの装甲に食い込む。
「引き摺り込んじゃえ!」
テルビューチェが頭部を横へと振るとサイクロプスが転倒する。そのまま敵機諸共海中へと消えた。
『さ……サメだとォッ!?』
『馬鹿野郎! キャバリアだ! 応戦しろ!』
戦争屋だけあって現実を飲み込むのは早い。だがテルビューチェは現実を飲み込んだ時には既に白い水柱を立ち昇らせて姿を消していた。残されたサイクロプス達が泡立つ海面に向けてアサルトライフルを撃ちまくる。海底に潜ったテルビューチェの装甲に幾つかの銃弾が連続して衝突するも、水という分厚い緩衝材で殺傷力は殆ど減衰されており、鈍い金属音を海中に広げるだけだった。テルビューチェが噛み砕いたサイクロプスから搭乗者が命からがらに脱出する。それを横目に入れた潤は片手で握ったバブルワンドを向ける。すると搭乗者は巨大なシャボン玉状の水の檻に閉じ込められてしまった。
「今の内に……!」
先の奇襲で敵は確実に動揺している。畳み掛ける好機だと潤は囁くように詠唱する。
『雨!?』
『晴れてるのにか?』
雨雲と呼べそうな雲など見当たらない大津貿易港の夜空から雨が降り注ぎ始めた。泡立つ炭酸水の雨がサイクロプスの緑色の装甲を打ち付ける。
『なんだ? 機体が尋常じゃなく重いぞ
……!?』
異変はすぐに訪れた。海面に向けて発砲を繰り返していたサイクロプス達が次々に膝を付き始める。まるで何かに上から抑え付けられているような――それこそ、水圧という逃れ難き空間的な重量に抑え付けられているかのように。
「そのキャバリアじゃ、もう動けないでしょ!」
海面に頭部を出したテルビューチェのコクピットの中で、潤の表情に喜色が滲む。彼女が降らせた炭酸水の雨は単なる雨ではない。雨の降り注ぐ全域を擬似的に深海と同様の環境に作り変える広域ユーベルコードだったのだ。
『ファック! このサメ野郎!』
アサルトライフルの照準を向けるサイクロプス達の挙動は鈍く重い。
「サメ野郎じゃなくてテルビューチェだよ!」
発砲を受けるよりも先にテルビューチェが飛んだ――というよりも宙を泳いだ。そしてサイクロプスの一機に飛び掛かると、未知の木材と魔獣の牙で構成された近接武器、ヌイ・ロア・レイ・オ・マノを打ち下ろす。木製らしからぬ重厚な衝撃がサイクロプスを叩き伏せ、一気に引き切ればずらりと並ぶ牙が内部機構ごと装甲を抉り切る。
『こいつ日乃和軍のキャバリアじゃねえぞ!』
「暴れちゃえ、テルビューチェ!」
潤の瞳が新たな獲物を見定めた。すぐに多方向より火線が伸びるも、正面をヌイ・ロア・レイ・オ・マノで防御しながら強引に突撃する。深海の環境に作り変えられたこの場において、通常の火器はさほど脅威とはならない。テルビューチェのシャグリーンプレートが金色の火花を散らす。開かれた巨大な顎が悲鳴ごとサイクロプスを噛み砕き、機体から放り出された搭乗者はシャボン玉の戒めに閉じ込められた。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィリー・フランツ
心情:PKOに合流しようと進発準備はしてたが…その前に港に棲み着いたネズミ駆除が先だな。
手段:「よーしひよっこ達、俺からの最後の授業だ」
ヘヴィタイフーンに搭乗、先ずはアウル複合索敵システムで広範囲を捜索、索敵完了後【スーサイダードローン】を全機発進させる。
後は突っ込ませ、数を出来る限り減らすぞ。
例え空を飛んでもサイクロプスはイカルガのような高機動空戦機じゃねぇ、むしろ残ったドローンやピラニアミサイルの良い的だぜ。
万が一、相手が先制してもこっちは何時もの重装甲だ、逆にコングⅡ重無反動砲の対空霰弾で叩き落としてやる。
それとな、カメリアの一件と俺の教え子達を脅かした礼だ、機体諸共消えてもらう。
●因果応報
大津貿易港の貨物集積区画には、名が示す通りに多数の貨物コンテナが積み重ねられている。さながらまるで巨大な迷宮のようだった。夜の闇に包まれたその場所には、無数のコンテナが鋼の壁としてそびえ立ち、静かな威厳を湛えている。
HL-T10 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹが潜んでいたのは、まさにコンテナの迷路の中だった。
「アンサズ連合のPKO部隊に合流しようと進発準備はしてたが……」
その矢先にこれとはな。コンソールパネルの放つ光が、ゴーグル型HMDを付けたヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)の顔を幽鬼のように浮かび上がらせる。西州で小銭稼ぎする前に、港に棲み着いたネズミを駆除するのは特段やぶさかではない。それに加えてテロリスト連中には個人的に返しておきたい礼もある。
「向こうがこっちに気付いている気配は無し……か」
アンダーフレームの膝関節を曲げて身を屈めるヘヴィタイフーンMk.Ⅹがコンテナの角から向こうの様子を伺う。複数機のサイクロプスが油断無くアサルトライフルを携え、左右に動く頭部のモノアイから視線を走らせている。戦争屋だけあって警備に抜かりはないらしい。だがヴィリーもまた戦争屋である。コンソールパネルを人差し指と中指で何度か叩くとアウル複合索敵システムの制御プログラムが立ち上がった。メインモニター上の端にサブウィンドウが表示され、枠の中に大津貿易港の二次元地図情報が表示された。地図上に灯る幾つもの赤い光点は敵機の反応を示しているものだ。ヴィリーは腕を組んで「隙の無い配置だな」と呟くと、再度コンソールパネルに指を伸ばした。
「スーサイダードローン展開、行って来い」
短く号令を発するとヘヴィタイフーンMk.Ⅹの周囲に次々とドローンが出現した。数にして数百以上。ドローンは出現するや否やすぐに高度を上昇させて四方に散開する。向かう先は索敵システムが捉えた光点の位置。
『ん? ドローンだと?』
サイクロプスの搭乗者は果たしてリーダー格の男に報告を入れようとしたのだろうか? 或いは迎撃しようとしたのだろうか? いずれにせよどのような判断を選ぶつもりだったのかはもう永遠に分からない。標的を見付けたドローン達が有無を言わさずに特攻して機体を爆散させたのだから。
『敵襲! 日乃和軍か!?』
『自爆ドローンだぞ! 撃ち落とせ!』
一回の爆発と一機の損失だけで状況を飲み込んだテロリスト達は即座に応戦に当たる。サイクロプスが対空火線を上げると銃弾を受けたドローンが呆気なく黒煙を吐き出しながら墜落した。だが一機のドローンが撃墜されている間に十機のドローンがミサイルの如くサイクロプスに突っ込んでくる。しかも同時に多方向から。迎撃能力を飽和したオールレンジ攻撃に為す術もなくまたサイクロプスが爆散した。
『飛んで機動戦に持ち込め。殲禍炎剣の照射判定高度に注意しろ』
小隊長か誰かだろうか。強くも冷静な口調で指示を飛ばす。編隊を組んだサイクロプス達が飛び立ち、コンテナの迷路の上を滑空しながら突撃銃や誘導弾を連射する。撃墜されたドローンが空中に火球を膨らませるも、ヴィリーはこの展開を予見した上でドローンを放っていた。
「イカルガのような高機動空戦機ならともかくな、チンタラ飛んでたらピラニアミサイルの餌食だぜ」
実践してやろうと言わんばかりにヴィリーはレティクルをサイクロプスに重ねる。操縦桿のトリガーキーを引き絞ると、ヘヴィタイフーンMk.Ⅹの肩部に備わる8連装ミサイルポッドより一発の誘導弾が発射された。敵機は誘導弾警報にてピラニアミサイルの接近に気付くももう遅い。誘導弾はサイクロプスに着弾して赤黒い爆炎へと変じた。姿勢を崩したサイクロプスは地上に墜落し、そこへスーサイダードローンが殺到して物量でのとどめを刺す。
『未確認機を発見! あそこだ!』
「ほう? 戦争屋は伊達じゃないってか?」
ヴィリーの眼差しがサイクロプスのモノアイと視線を交差させた。こちらを発見するや否やアサルトライフルを集中掃射して驀進してくる。だがヘヴィタイフーンMk.Ⅹは回避運動を取るでもなくコングⅡ重無反動砲を構えた。コクピット内では被弾を知らせる警報音が鳴るも、機体各部のステータスは良好を示す緑色から変化が無い。サイクロプスの放った銃撃はヘヴィタイフーンMk.Ⅹの装甲を叩いて跳弾するだけに留まった。
「重装甲がこいつの売りでな」
無反動砲がバックブラストと共に榴弾を発射した。弾体は迫りくるサイクロプスの直前で炸裂すると近接信管を作動させ、内部に秘められた無数の弾子をばら撒いた。強烈な衝撃と正面衝突したサイクロプスは速度を一気にゼロまで落としてアスファルトの地べたへと落下する。
「カメリアの一件と俺の教え子達を脅かした礼だ、機体諸共消えてもらう」
ヴィリーの目付きはゴーグルに覆われている為伺い知れない。だが口から放たれた言葉は至極冷淡だった。毒ガスと核攻撃による大量虐殺、拉致と連続強姦致死――やったのは同じ組織の別人だからなどという言い訳は通用しないし、言い訳する猶予など与えるつもりはない。叩き落されたサイクロプスにスーサイダードローンが次々に飛び込んでゆく。ゴーグルに反射するその光景は鳥葬のようでもあった。奴等に捕らえられて辱められた末、殺されたのであろう灰狼中隊の隊員も似たような死に様だったのだろうか。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
ヒャアー!(機体上で逆立ち威嚇)
元気?というか貴様ら隊長二人はあの時拙者が殺したはずでは…ナズェイキテルンデス!!まあいいか、よろしくなぁ!
聞いてよ東雲氏、尼崎氏、ここんとこドン暗い世界ばっか行ってたんでござるよ…なんかよくわかんないのも居たし…だから軽率に人間で
戦いてぇよなぁ!
じゃ、再開のプレゼントにサイクロプスとテロリストの首あげてくっから見てて❤
という訳で生身で堂々と乗り込んだのだ
集団でチンタラ飛んでんじゃねぇぞオラッ!統制射撃は悪くないが…まあ拙者には当たらんが…なぜか?それは拙者が
紳士だからです
ホイカメラアイ狙撃!ホイ武装!ホイスラスター!飛べなくなったら後は重力と地面が仕上げてくれるでござる
一体一体丁寧にやってやらないとネ!
拙者を満足させられないぐらい弱っちい癖に何が戦争屋だ!同業を名乗らないで頂きたい!
転がってる敵を外部からブッ叩いて徐々に小さく丸めて
理解らせてやる!頭ねじ切ってオモチャにしてやるぜェ!
首獲ったどー!いる?
●シャイニングおじさん
日乃和列島の東沖を航行している大鳳の飛行甲板上には戦闘前特有の緊迫した空気が流れていた。頭上には星々が無数に輝き、月から降る銀色の光が海面に映り、潮の香りを孕んだ向かい風が吹き付ける。役割識別の為に派手な上着を着込んだ甲板員達が各々の作業に追われて走り回り、出撃を控えるキャバリアのコクピットの中では、パイロット達が黙して時を待っていた。
「ヒャアー! 元気?」
そんな空気を開口一発でぶち壊したのがエドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)だった。本来ならば猟兵がこの場に居るのはおかしいのだが――加えて言及するならキャバリアの上に立ってザリガニがするような威嚇の姿勢を取っている事態などあり得ないのだが、彼の場合は存在している時空が異なる為細事を気にしても仕方ない。
「んんー? 反応薄いでござるな?」
「もう慣れましたのよ」
ザリガニのような髭面の中年男性なのか、髭面の中年男性のようなザリガニなのか、名状し難い人のようなものが那琴機の上に立っている。搭乗者の反応は素っ気なかった。
「というか貴様ら隊長二人はあの時拙者が殺したはずでは……?」
「あの時?」
「わたくしに聞かれましても……」
伊尾奈と那琴は身に覚えがないと機体越しに互いの顔を見合わせる。
「ナズェイキテルンデス!?」
エドゥアルトは毎週日曜朝に放送していた特撮番組の登場人物のように滑舌が悪い。
「そんな事言われてもね」
「夢でもご覧になられていたのでは? というより、それを仰るなら毎回お亡くなりになられているエドゥアルト様こそ何故生きてらっしゃるんですの?」
「さあ? ギャグ時空の住人だから?」
「ああそうですの。ならわたくし達も同じ理由で存命しているのでしょうね」
那琴は考えるのをやめた。
「まあいいか、よろしくなぁ! ところでさ聞いてよ東雲氏、尼崎氏、ここんとこドン暗い世界ばっか行ってたんでござるよ……なんかよくわかんないのも居たし……」
「わたくしからしたら貴方の方がよく分かりませんのよ……何故こちらにいらっしゃいますの? 港の方に行ってくださいまし」
恐らくエドゥアルトが言わんとしているのは闇の救済者戦争なのだろうが、猟兵でない那琴達には当然考えも及び付かない。
「だから軽率に人間で
戦いてぇよなぁ!」
案の定人の話しを聞いていないエドゥアルトに那琴は気怠い溜息を禁じ得なかった。
「じゃ、再会のプレゼントにサイクロプスとテロリストの首あげてくっから見てて!」
「首を取るのは結構ですけれどプレゼントはいりませんのよ」
那琴が全部を言い切る前に、エドゥアルトは飛行甲板上に突如として生えてきた土管に飛び降り、吸い込まれていった。
テロリストのサイクロプス達が我が者顔で闊歩する大津貿易港の倉庫街。その交差路上に土管が生えてきた。何の前触れもなく唐突に。
「という訳で生身で堂々と乗り込んだのだ」
どういう理屈なのかは不明だが、兎に角エドゥアルトは土管から出現した。
『あ? なんだこいつ?』
『土管から出てきたぞ? いやそもそもなんでこんな所に土管が』
ただでさえ目立ち過ぎるエドゥアルトが敵の勢力圏真っ只中で奇妙奇天烈極まりないエントリー方法を取れば当然ながら周囲の目を過分に引いてしまう。哨戒に当たっていた複数のサイクロプスがモノアイ型センサーを閃かせ、エドゥアルトにアサルトライフルを向ける。
『構うな。女でも無ければ使い道は無い。侵入者は殺せ』
隊長機らしき機体がバーニアノズルを閃かせると『了解』の声と共に周囲の機体が続いた。戦争屋らしい統率の取れた編隊陣形を組むと、倉庫街を縦横に走る幅の広い車道を高速滑空してエドゥアルトに迫る。
「集団でチンタラ飛んでんじゃねぇぞオラッ!」
サイクロプスのアサルトライフルの銃口が明滅を焚くや否や、エドゥアルトは迫りくるサイクロプス達に向かって駆け出した。真正面から殺到する銃弾に飛び込む自殺行為――なのだが、エドゥアルトはそれらをぬるぬると避けてゆく。
「統制射撃は悪くないが……まあ拙者には当たらんが……なぜか? それは拙者が
紳士だからです」
サイクロプスの編隊との相対距離が零に達した刹那、エドゥアルトはマークスマンライフルを抜いて一射を放った。エジェクションポートから薬莢が跳ぶのと同時に金属同士が衝突し合う音が響く。
『ファック! センサーをやられた!』
銃撃はサイクロプスの一機のモノアイを砕いていた。
『あの変態野郎、ナマの人間じゃねえぞ!』
「そうです、私が変な野郎です」
エドゥアルトは身体を捻って後方に過ぎ去った編隊に銃口を向ける。
「そっちが編隊ならこっちは変態だぞクルルァ! ホイ武装! ホイスラスター!」
セミオートで発射される銃弾がサイクロプスの背後に次々に撃ち込まれる。主機を損傷して推力を喪失した機体が姿勢を崩し、路面にのめり込む格好で墜落した。そして派手な火花を散らしながら地べたを滑って倉庫に突っ込んだ。
「拙者を満足させられないぐらい弱っちい癖に何が戦争屋だ! 同業を名乗らないで頂きたい!」
何事かを憤慨するエドゥアルトに、旋回して戻ってきたサイクロプスの編隊が火線を集中させる。
『おうそうかよ! なら腹一杯くれてやる!』
「デュフフフ! ドゥフフフ! ゲヒヒヒヒ!」
対するエドゥアルトはあまりにも紳士的過ぎる笑顔で紳士的な歓喜の声を上げていた。雨霰と降り注ぐ銃弾は何故か掠めもしない。 250億分の1の確率で生まれる特異な生存体なのでは無いかと疑いたくなるほどに。片やエドゥアルトが撃つマークスマンライフルは一機また一機とサイクロプスを地に堕としている。理由は極めて単純である。彼は――変態だったからだ。
「
理解らせてやる! 頭ねじ切ってオモチャにしてやるぜェ!」
撃墜したサイクロプスに飛び付き、どこから取り出したか分からないパンジャン式チェーンソーという世にも恐ろしい凶器を狂気で振り回す。唸るモーター。抉り引き裂かれる装甲。舞い散る内部機構。
「ハァイ、調子良ィ?」
そして切り開いたコクピットの装甲の狭間に、冬の間は豪雪で閉鎖されるホテルの管理人職を得た小説家志望が登場する映画のワンシーンの如く顔を突っ込んで今日一番の笑顔を作る。搭乗者の悲鳴にチェーンソーの唸り声と赤黒い飛沫が続いた。
それから暫く経過した後、大鳳の飛行甲板上に土管が出現した。そしてエドゥアルトが生えてきた。全身を赤黒い液体と肉片塗れにして。片手では虚な表情の男の頭部をぶら下げていた。背骨付きだった。
「首獲ったどー! いる?」
「いりませんわよ!」
大成功
🔵🔵🔵
メルメッテ・アインクラング
Hanon-60.Probeに搭乗し戦場へ
敵方の1機に通信を入れ対話を試みます「今晩は。よろしければ、投降致しませんか?」
相手の方のお話は未知の単語だらけで、戸惑うばかり。己の無知を痛感致します
きっと『主様』でしたら難なく理解し解決されるのでしょう
「結論と致しましては、決裂なのでございますね」心から残念です。相手の方は恐怖や損害が減り、私も弾薬を節約できると思ったのですが……
障害物の物陰から夜闇に紛れ【目立たない】よう潜んでおりました
1つは敵機下半身、もう1つは片腕へと狙いを定めていたBS-B重力砲の引金を引きましょう
増援にも慌てず指定UCを発動
両腕部に数多の小さな蝶翅を生やしてRS電磁連射双銃を【乱れ撃ち】、【マヒ攻撃】
すかさず威力を絞った重力砲で敵機の四肢を破壊致します
初撃から全てコックピットは外し、無力化に留めましょう
メルメッテ・アインクラング。『主様』の命により単身で参りました
「ええ。”初めまして”で、ございますね」
折角の機会です。撃ち惜しみはせず、存分に指慣らしをさせて頂きます
● 斉奏ノ翅
大津貿易港は名前が示す通り、他国との物資流通を支える為に建設された港湾施設だ。平時であれば日夜を問わず大であれ小であれの船舶を湾内に受け入れ、遥々海を渡って届けられた物資の積み下ろし作業が行われている。そうして大津貿易港に降ろされた貨物の大半はコンテナに詰め込まれた状態で暫しの間施設内の所定の位置に集積される。その有様はさながらコンテナの壁、或いは山のようであった。
規則正しく積み上げられたコンテナの物陰に潜む重量級の機体――Hanon-60.Probeが頭部に埋め込まれた単眼式のセンサーカメラを忙しなく動かす。大柄なオーバーフレームを支えるアンダーフレームはこれもまた大柄かつ重力級で、一見すればタンク型に見えなくもない。だが実態は重装甲のフロート型である。現在は動力を停止させているらしく、地に足を付けて動き出す気配を漂わせていない。
コクピットの中、自動二輪車に跨るような前傾姿勢で操縦席に着くメルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)の面持ちを、メインモニターとコンソールパネルが灯す光が薄暗闇に浮かび上がらせる。
『主様』の命に従い単身で来たものはいいが……今日は主様がいない。だから全部自分で考え、行動しなければならない。暫しの間押し黙り、思案を巡らせる。よからぬ輩とは言えども相手は人間。人語を解せない人喰いキャバリアとは異なり、話しを聞く耳を持っていれば考える頭もあるし喋る口もある。なら必ずしも命懸けの撃ち合いに興じる必要はないのではないか? メルメッテは意を固めて顎を引いた。
乳青色の目がサブウィンドウ上のレーダーグラフを見遣る。近場には歩哨に立っているらしき敵機の反応が複数。申し入れを行う相手としてはこれらが手頃だろうか。アンサーウェアの保護皮膜に覆われた指先がコンソールパネルを滑る。通信回線が全周波数帯域に合わせられた。後は画面上の通信開始の項目に指を触れるだけ――伸びた指が寸前で止まった。
主様と御一緒する普段の作戦中の多くでは対外的な通信の全てを絶ってきた。そんな自分がちゃんと喋れるのだろうか。否、喋るのだ。この場に参じたのは主様の命によるもの。だからきっとこれも主様から課せられた試練なのだ。指先を画面に押し付けると、通信回線が開かれた事を示す電子音が鳴った。
「今晩は」
開口一番に発したのは極普段通りに努めた挨拶。そう、挨拶は大切だ。初対面の相手に対しては尚更。それに挨拶をされたなら返さなければならないのが不文律というものである。
『あ? どこの誰だ?』
『女の声……知らん声だな?』
不躾な反応が返ってきた。だがメルメッテは当然であるとも考えていた。急に呼びかけられてしまえば戸惑って然り。だから嫋やかに言葉を重ねる。失礼のないように。
「ええ。初めまして、でございますね」
こちらを伺い探る沈黙が返ってきた。
「よろしければ、投降致しませんか?」
失笑が弾ける。受け入れて貰えた? メルメッテが抱いた思いは直後に打ち消される。
『いきなり何を言い出すと思えば……日乃和軍か? 警察か?』
『這いつくばって土下座してみろよ。そしたら考えてやる』
『やれやれ、俺たちも舐められたものだ。周囲を探索、見付け次第殺せ』
『ふざけやがって! そこを動くんじゃねえぞ! ファックしてやる!』
飛び交う罵詈雑言には品性の欠片もない。声量は音割れするほどに大きい。それらの多くがメルメッテにとっては未知の言語だった。主様なら理解なされたのだろうか? 尋ねたい相手はここにはいない。
「結論と致しましては、決裂なのでございますね……」
言語は分からずとも敵意を向けられているという事は理解出来る。肩を落として深く呼吸を吐く。投降してくれれば相手側としては無駄な損耗を出さず、此方側としては無駄な弾薬費用を精算せずに済んだのに。レーダーグラフ上の敵反応を示す赤点が動き出す。挙動からは獲物を探索する殺気が漂っていた。メルメッテは操縦桿を握り締めて機体を起こす。Hanon-60.Probeの脚部がフロートエンジンを発動させた。重量級の機体が粉塵を散らしてアスファルトの地表より僅かに浮き上がる。
腰部両側面に搭載された大口径砲が砲身の鎌首をもたげ、バレル内部から紫の光を滲ませる。画面上のインターフェースに表示された出力は二割程度。殺傷を求めない威力としては十分だ。メルメッテの指先がトリガーキーに添えられたのと、コンテナの影から緑色の巨人が現れたのはほぼ同時だった。
『見付けたぞ!』
サイクロプスが携えるアサルトライフルがマズルフラッシュを焚く。金の火線がHanon-60.Probeに到達するも、黒く重厚な装甲の表面を叩いて火花を散らせるに留まった。
取るに足らない被弾を代償としてメルメッテは二つの砲門の照準を合わせる。片や敵機のアンダーフレームに。片や銃火器を携える腕部に。細指がトリガーキーを押し込むのと同時に、Hanon-60.Probeの重力砲が暗い紫の光軸を解き放った。独特な重低音が轟いた直後、サイクロプスはアサルトライフルごと片腕を、アンダーフレームを丸ごと抉り取られて擱座する。
『こいつ、日乃和の機体じゃねえぞ!』
交錯する通信に狼狽した男の声が混じる。メルメッテは緩やかにHanon-60.Probeを後退させながら操縦桿のホイールキーを親指で転がす。サブウィンドウ上に表示されている兵装の項目が電磁連射銃に重なった。
『相手はガチガチの重装甲タンクだ。火力を集中しろ』
「いえ、タンクでは……」
なくフロート脚部なのですがと続ける間も無く新手のサイクロプス達が現れる。K型が対キャバリアミサイルを撃ち放ち、F型がヒートホークを片手にアサルトライフルを乱射して爆進してくる。淡い瞳孔が双眸の中で縦横無尽に動き回り、迫るミサイルに照準完了を示すマーカーが灯る。低速で後退を続けるHanon-60.Probeが左右のマニュピレーターに保持する電磁連射銃を閃かせると、標的を追い立てる誘導弾が相次いで爆炎を咲かせた。
『マヌケがぁッ!』
ヒートホークを振り翳したF型が黒煙を裂いて飛び掛かる。
「封じさせて頂きます」
メルメッテは強かに息を吸い込む。それに呼応するかの如くHanon-60.Probeの両腕部に数多の蝶翅――斉奏の翅が生じた。淡い空色の翅は迸る電磁加速弾体に紛れて燐光のように舞い散り、爆ぜてEMPを生じさせる徹甲弾の追撃にとサイクロプスの四肢を貫く。
『蝶々だと!? んがぁッ!?』
途端に制御不能に陥ったサイクロプスが失墜し、派手な音と共に鉄屑と化す。Hanon-60.Probeの単眼はそちらに一瞥をくれるまでもなく奥に控えるK型へと視線を移す。再度重力砲が禍々しい光軸を伸ばした。
万物を砕く呪いによってアンダーフレームを、腕部を抉られたサイクロプス達は有無を言う間も無く倒れ伏す。
『死者、無し……』
敵の機体から伝わる鼓動が潰えていない事を確認すると、メルメッテはゆっくりと肺の中の酸素を吐き出した。戦争屋だけあって指慣らしには不足無い――まだまだ弾は残っている。眼差しをレーダーグラフに走らせると、フットアクセルを踏み込む。Hanon-60.Probeはフロートエンジンを唸らせ、語らぬ残骸を跳ね除けながら大津貿易港の闇を進み始めた。
大成功
🔵🔵🔵
アルバート・マクスウェル
さて、今回は拓也が別件でクソ忙しいから、おじさんが頑張ろうかね。
それにだ。クロリダとグランシスコでの借りをちょいと返させてもらおうか。
先ずは第1フェーズとして警備のキャバリアを片付ける。UCを発動し、マイティ・スナイパーⅡを操る5人をアルファチーム、残りは俺を含めた歩兵のブラボーチームとする。最初にアルファチームが遠距離から狙撃し、アルファチームに目がいっている間にブラボーチームが物陰に隠れながら接近し、C6爆弾を設置して爆破したり、対戦車誘導弾で奇襲を仕掛ける。
敵を粗方片付けたら、アルファチームに敵の監視とブラボーチームの援護を命じ、自分はブラボーチームを率いて潜水空母へ向かう。敵歩兵がいた場合は装備している自動小銃などで排除する。数が多い時はアルファチームに支援してもらう。
敵潜水空母に近づいたら、第2フェーズの準備を始める。
目標は敵潜水空母内部に突入し、海図や貨物リスト、又はそれに関するデータなどを奪取する事だ。
拓也だって無理してるんだ。俺も偶には無理しないとな。
連携・アドリブ可。
●黒豹強襲
日乃和の首都の端に位置する大津貿易港。物流の支柱のひとつであるこの港は、常に活気に満ちているが、深夜になると別の顔を見せる。商人たちは日の出前に到着し、積み下ろしを行い、取引を始めるための準備を始める。しかし今夜は日頃と違った顔の様相を示していた。輸送船が犇めく内湾は閑散としており、代わりに錨泊しているのは日乃和の技術体系とは出自を異にする潜水空母。漂う空気が含むのは港に似つかわしくないひりついた緊張感。
「チーム・ブラックパンサー、状況を開始する」
コンテナの角から歩哨のサイクロプス達を伺うアルバート・マクスウェル(TF(タスクフォース)101司令官・f29495)の眼差しは、強かな思惟の色を湛えていた。クロリダとグランシスコでの借りを返させて貰う――毒ガスと核攻撃の報復としては溜飲が下がるほどではないが、でなくともテロリストの跳梁跋扈を放置する理由などない。背後に控える黒豹分隊の隊員とキャバリアパイロット達も思う所はさして遠くないだろう。
「先ずは警備部隊のキャバリアを片付ける。アルファチーム、攻撃を開始せよ」
イヤホン型の通信機に指を添えて呼び掛ける。5機のマイティ・スナイパーⅡから構成される分隊がコンテナの影から大通りへと進み出た。それぞれに携行するMSPⅡ専用超高速実弾・ビーム両用狙撃ライフルの銃口を単眼の人型機動兵器に向けると、蛍光色の粒子を噴射した。伸びる複数本の光線はサイクロプスの一機に集中して殺到し、装甲を溶かし貫いて内部構造を抉りながら背面へと抜けた。荷電粒子を浴びたサイクロプスはセンサー類から光を失せさせて膝より崩れ落ちる。
『キャバリアだと!? 軍か? ポリ公か?』
『構うな、排除しろ』
戦争屋は伊達ではないらしく、奇襲に対しての応答速度はそれなりに機敏だった。マイティ・スナイパーⅡ達を視界に入れるや否や、散開して建造物やコンテナ等の遮蔽物に飛び込む。アルファチームも同様に遮蔽物を盾とし、機体の半身を覗かせて狙撃ライフルを撃つ。
「アルファチーム、そのまま引き付けろ」
マイティ・スナイパーⅡとサイクロプスの射撃戦の傍ら、アルバートは歩兵戦力のブラボーチームを率いて倉庫街の狭間を駆け抜ける。纏うバトルドレスユニフォームは夜に溶け込む闇色だった。アルファチームは役割を過不足無く遂行しているらしく、敵のサイクロプスは迎撃に専念しているようだ。お陰でアルバート達ブラボーチームは気取られる気配も無く敵集団の側面へと回り込めた。
「どおれ、脅かしてやるとするか」
アルバートと隊員達がサイクロプスの足元へと接近する。這い寄る蛇の如く迅速かつ静粛に。手を伸ばせば届く距離にまで迫るも、単眼の機械巨人は撃ち合いに夢中で足元にいるブラボーチームの存在に一瞥さえもくれない。片やアルバート達はサイクロプスの脚部の装甲に粘土で吸着する長方形の物体を次々に取り付けていた。僅か数秒間の作業を終えると音も立てずに退散。建屋の影で身を屈める。
「起爆しろ」
アルバートが発した簡潔な命令の直後、サイクロプスの脚部に緋色の華が咲いた。華は熱と衝撃波を以て片足を粉砕すると、脚が支えていた機体を否応無しに横転させる。無防備を晒したサイクロプスの元に届くのはアルファチームの集中攻撃。実体弾と荷電粒子弾の雨を浴びた機体は、先程よりも派手な華を咲かせて爆発炎上した。
『ファッキンシット! 今のはキャバリアの攻撃じゃないぞ!』
『ネズミがいるな。足元に注意しろ』
反応は悪くない。内心で僅かながらの関心を零すアルバートを先頭としてブラボーチームが続く。こちらの存在に勘付いたサイクロプスが倉庫街の狭間にモノアイ型センサーを向けるも、既にそこには居ない。またしても側面を取ったブラボーチーム。敵機はマイティ・スナイパーⅡとの射撃戦に興じる傍ら、足元をしきりに気にしているようだ。
「爆弾だけじゃないんだな、これが」
ロケットランチャーを携行する隊員にハンドサインを送る。隊員は前に出て膝立ちの姿勢を取ると、機械染みた精密な挙動で照準装置を展開した。トリガーに乗せた指を引く。ランチャーの後部より高熱かつ高速の気流が噴出し、前部より弾体が射出された。対戦車誘導弾はガスの尾を引き連れながらサイクロプスの頭部に向かって突進。弾着と同時に爆炎を膨らませた。メインカメラを潰された上に強烈な衝撃を受けたサイクロプスが二歩三歩と後ろによろめく。アルファチームのマイティ・スナイパーⅡ達が容赦なく火線を集中させる。オーバーフレームが内部より爆裂した頃には、アルバート達は既に次なる目標地点へと走り出していた。
「アルファチーム、上出来だ。引き続きブラボーチームを援護しつつ敵機を掃討せよ。こちらは潜水空母に――」
『発見した』
全てを言い切るよりも先に、進路上に複数の人影が出現した。倉庫街の暗闇の中で明滅する緋色はマズルフラッシュだ。ブラボーチームは隊長の命令を待つまでもなく遮蔽物に身を潜める。
「歩兵戦力か……数が多いな……」
倉庫の角から僅かに身を出してUDCK-416で反撃の射撃を見舞う。相手も相応の修練を積んでいるらしく、おいそれと身を晒す愚は犯さない。これは手こずるな――そう思った矢先に敵集団の側面斜め上方向から火線が降り注ぐ。地上を舐めるように。直後に標的達の身体が派手に弾けた。
「アルファチーム、良いサポートだ」
友軍のキャバリア部隊が作り出した好機を逃すまいとアルバート達ブラボーチームが再度走り出す。目標地点は敵の潜水空母。狙いは海図や貨物リスト、その他諸々に関連したあらゆる情報だ。これから攻撃対象となる潜水空母に入り込む事がどれほど危険であるかは重々把握している。だからこそ己がやらねばならない。
「拓也だって無理してるんだ。俺も偶には無理しないとな」
今頃は遥か海の彼方の大陸で業務処理に当っているであろう男の顔が浮かぶ。紺碧の眼光の先には、埠頭に沿って身を横たえる巨大な船体があった。
大成功
🔵🔵🔵
カシム・ディーン
少し前
なんつーか…やるきねーなー
「罪を被せてやっちゃうから?」
まぁな。流石のカシムさんでもちと同情しちまうが
(と、そこで灰色中隊の子達に色々お願いされる
…あー…そうか…彼奴ら僕が昔所属してた盗賊団と似たような感じか
まぁ…同じように最悪だなこりゃ
「それじゃぁ?」
狩り尽くすぞ
後で素敵にエロいお礼があるかもしれねーしな?
「ひゃっはー☆」
機神搭乗
【情報収集・視力・戦闘知識】
集団の陣形と配置
更に武装とコックピットの位置を把握
敵機の構造から何処を破壊すれば機能停止するかも捕捉
【属性攻撃・迷彩】
光水属性を機体に付与
光学迷彩で存在を隠し水の障壁で熱源や音を隠蔽
特にやりすぎなければいいみたいだが…まぁスマートに行くのも盗賊流だな
【スナイパー・念動力】
念動力で機体の動きを止め…
【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
わたぬき発動
静かに襲い掛かり…鎌剣で制御部分を切断…
武装強奪(オブビリオン化の影響受けてたら即廃棄
そして中のパイロット強奪
同じように多くの敵機を無力化
そして強奪
後は縛り裸にして灰狼中隊に譲渡
●腸抜
「なんつーか……やるきねーなー」
界導神機『メルクリウス』の操縦席に座すカシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)は腕を組んで瞑目する。
「罪を被せてやっちゃうから?」
頭上に乗った鶏――メルクリウスの対話式インターフェースが少女の声音を借りて問う。
「まぁな。流石のカシムさんでもちと同情しちまうが……」
まず依頼内容の前提からしておかしい。敵は首相官邸を占拠した反社会的武装勢力との扱いになってはいるのだが、その件と連中が関連していない事実はカシムは知っている。首相官邸が占拠されたあの晩、実際に香龍に居たのだから間違いようがない。そして真犯人が誰なのかも知っていた。さしずめ事実を隠匿したい政府によって、偶然居合わせた奴等が体の良い生贄とされたのだろうが……だがそれはそれとして排除対象者の所業は盗賊を以てしても目に余る。
ネットニュースで見聞きした情報と灰狼中隊の隊員から聞いた内容を照らし合わせるに、連中は灰狼中隊所属の機体を強奪した際に搭乗していた隊員達も拉致していたらしい。内数名は既に発見されている。散々に辱められた挙げ句遺体となった状態で。
「彼奴ら、むかし僕が所属してた盗賊団と似たような感じか……」
戦争屋と呼べば響きは良いのだろうが、調べられる限りの所業だけで判断するなら女子供を喰い物にする外道だ。どこまでがオブリビオンマシンの精神汚染に依るものかはいざ知らず、だとしても人間として守るべき最低限のルールというものがある。
「まぁ……同じように最悪だなこりゃ」
それが守れないのならば、必ずや報いを受ける。
「それじゃぁ?」
嬉々とした声音にカシムは双眸を開いた。
「狩り尽くすぞ」
組んでいた腕を解く。左右五本の指と手のひらが、思惟を籠めて操縦桿を握り締める。
「後で素敵にエロいお礼があるかもしれねーしな?」
「ひゃっはー☆」
灰狼中隊の隊員から向けられた熱っぽい眼差しを思い出し、不意に緩んだ口角が吊り上がる。宙で静観を決め込んでいたメルクリウスの機体色が、大津貿易港の夜空に溶け込むような闇色へと移り変わる。機体に宿した光の悪戯が色という概念を覆い隠し、水の加護が機体の発する熱と音を覆い隠す。
どこから切り崩したものか――カシムの視線が錯綜する。メルクリウスがセンサーカメラで捉えた大津貿易港の各所には、警戒監視に当たるサイクロプスが相当数配備されている。どれもが編隊を崩さず互いを援護し合える位置関係を常に保っているようだ。つまり、どこに手を出しても一対多数の構図は避けられない。
「よーし、完全に理解した」
「解ってないでしょ?」
カシムはうるせえと声を尖らせるとフットペダルを踏み込む。メルクリウスは背負う天輪の翼から推進力を迸らせ、飛び込むかのようにして急速降下を開始した。
「特にやりすぎなければいいみたいだが……まぁスマートに行くのも盗賊流だな」
直接空襲してもいいのだが推進噴射の光で勘付かれるかも知れない。倉庫街を縦横に通る車道を滑空し、狙いを定めた手頃な一団の元へと接近する。音もなく影もなく、タラリアのバーニアノズルから箒星の尾をなびかせながら。
『……ん?』
戦場で培った勘というものだろうか。背後から迫る圧力に身体が反応したのは。隊列の最後尾を行くサイクロプスが振り返ろうとした。だが挙動が果たされる事はなかった。
「生首いただきっ!」
メルクリウスが交差した刹那、鎌剣ハルペーを横に薙ぐ。単眼の生首が飛び、アスファルトの路面へと落下する。
『敵――』
アサルトライフルを向けようとするサイクロプスに対して、慣性を得たままのメルクリウスが機体を翻して片腕のマニピュレーターをかざす。広げた掌から発せられた念動波が実体を持った呪縛となってサイクロプスの動きを封じ込めた。
「万物の根源よ。我が手に全てを奪う力を示せ」
静かに、だが強かにカシムは唱える。戒めを受けたサイクロプスに驀進するメルクリウス。後方や側面から火線が飛ぶも、こちらの機体を目視で確認出来ていない為か命中弾は殆どない。斯くしてメルクリウスは機体諸共サイクロプスに突撃し、片腕の正拳突きをコクピットブロック目掛けて叩き込んだ。間髪入れずに腕を抜き、ハルペーの刃を左右に往復させる。推進装置を用いた瞬間加速で横に跳ぶと、アンダーフレームとオーバーフレームを分断されたサイクロプスが火球に変じた。
『ステルス機か!? 光学迷彩だ!』
『バーニアの光を追え』
駆け付けた敵機の増援が隊列を組んでアサルトライフルやミサイルを乱れ撃つ。メルクリウスは張り巡らされた火線の網目を擦り抜けて新たな獲物へと肉薄する。
「当たらねーな、そんなんじゃ!」
敵機とのすれ違い様にハルペーを振って腕部を切り落とし、後方に抜けて再加速。サイクロプスの背後から腕部を突き込む。そして引き抜く。だがサイクロプスの背面に開いているはずの大穴は見当たらない。しかし機体は途端に動きを止めてしまっている。まるで搭乗者がいなくなってしまったかのように。
「あれー? 殺っちゃわないの?」
マニピュレーター内の違和感に気付いたメルクリウスが尋ねるとカシムは「まあな」と短く応じた。視線をメインモニター上のサブウィンドウに移すと、マニピュレーターに握り込まれたサイクロプスのパイロットが戒めを脱しようと足掻いていた。
「裸にひん剥いて縛り上げて灰狼中隊の子達にプレゼントしてやろうと思って、なぁっ!」
抜け殻となったサイクロプスを蹴り出して加速を得るメルクリウス。直後に敵機の編隊が放った誘導弾と突撃銃、無反動砲の暴威が殺到し、サイクロプスを爆炎で埋め尽くす。
「お仲間ごと巻き添えかよ?」
これはいよいよ碌でも無いなと胸中に零したカシムは、機体の姿勢を翻して次なる敵機へと突入を試みる。こうして猟兵に滅ぼされるのもかつて所属していた盗賊団と同じ――よりによって自分が滅ぼす側に立つとはな。微かに過ぎった因果の皮肉を振り払うかの如く、フットペダルを踏み込んでメルクリウスを加速させた。
大成功
🔵🔵🔵
露木・鬼燈
世の中にはこーゆーお仕事もあるよね
まぁ、お賃金はいただけるわけだしね
それに心痛む相手でもないから問題ないっぽーい
とゆーことで迅速にお仕事させてもらうですよー
アポイタカラ、出撃するっぽい!
ふむふむ…まぁ、見つかっていないとゆーアドを捨てる必要はないよね
なので先ずは忍びとしての技で暗殺していくですよ
化身鎧装<影猫>
影に潜行してサーチ&デストローイ!
敵機の影まで移動してそこからテイルブレードを突き刺すですよ
一撃でコクピットを貫けば襲撃がすぐさま発覚、とはならないでしょう
バレる前にできるだけ削っていくっぽい
まぁ、バレたらバレたで普通に戦って殲滅すればいい
影への潜行を組み合わせた射撃なら戦闘とゆーよりは狩りだね
死角から射撃して素早く潜行して移動を繰り返せばよゆーなのです
それと捕虜とか捕るとめんどーなので確実にコクピットは破壊するですよ
歩兵とかを見かけた場合はてきとーにフレシェット弾でも撃っておくです
なんなら重量子ビーム砲できれいにお掃除してもいい
まぁ、第一段階はそんな感じでいくですよー
●忍殺
人は闇を払うために光を用いる。だが光を用いれば影が生まれる。夜空から降りた暗闇を払うべく、煌々とした光を灯す大津貿易港には影が溢れていた。ガントリークレーン、倉庫、コンテナ、ビル……光射さぬ場所の列挙には際限が無い。それらの影のいずれかが、闇の中にあって一層暗い影の輪郭を膨らませる。輪郭はやがて人型の虚影となり、赤鉄の鬼となって顕現した。
「……世の中にはこーゆーお仕事もあるよね」
アポイタカラのコクピットに身を沈める露木・鬼燈(竜喰・f01316)がメインモニターの傍に表示されたサブウィンドウに一瞥をくれた。口に出すまでもなく今回の案件には政治的な思惑が絡んでいる。センサーカメラが捉えたサイクロプスを運用しているテロリストが首相官邸を占拠した犯人達との触れ込みだが、こちらの認識とは前提からして解離があるようだ。
「まぁ、お賃金はいただけるわけだしね。それに心痛む相手でもないから問題ないっぽーい」
報酬の支払いを渋られている訳でも無いし、排除目標は事実の如何に関わらず碌でなしの集まりだ。先の一件には守秘義務も課せられている。だから黙って作戦内容を遂行する事自体に文句を言う理由は無い。
ともなれば仕事を早く終わらせるに限る。忍は機動なり。アポイタカラが建屋の壁面を背にして頭部を覗かせる。片側三車線はある幅の広い大通りの向こうに、サイクロプスが複数機展開している。強盗強姦殺しに特殊詐欺とやっている事はチンピラ被れだが戦争屋ではあるらしく、機体の挙動からは油断無き警戒心が見て取れる。無策で飛び込めば確実に手痛い迎撃が待ち構えているであろう。
「ふむふむ……まぁ、見つかっていないとゆーアドを捨てる必要はないよね」
鬼燈が手で印を組む。するとアポイタカラが足元から溶け始めた。否、溶けたのではなく影に沈み始めたのだ。赤鉄の機体は影そのものとなり、目を潰さんばかりの照明を受けた建屋が伸ばす影の中を潜り進む。音もなければ気配も無い。
『うん?』
サイクロプスの一機が建屋の影にアサルトライフルを向けた。
『どうした?』
隣の機体から飛んできた通信に『いや』と応じる。モノアイが影を注意深く睥睨するも、影は変わらず黒い染みを広げているだけだ。
『いま何か動いた気がしたんだがな……』
『何もいないが?』
見間違いか。サイクロプスのパイロットはそう結論付けたらしい。影に背を向けると哨戒順路を辿るべく隊列の最後尾に戻って歩行を開始する。その背後で影の中から刃が鎌首をもたげた。空気を切る音に金属の切削音が連続する。
『どうした!?』
最後尾より一つ前のサイクロプスが後方へと旋回する。すると後ろを付いて来ていた筈の機体が忽然と消え失せていた。
『おい、どうした? どこに行った?』
辺りをしきりに見渡すも機体の姿は見当たらない。かと思いきや背後でまた同じ衝撃音が鳴った。
『なんだ!? どうなっている!?』
またしても機体が消えた。編隊内に恐怖が急激に伝播してゆく。また衝撃音。また機体が消える。一瞬だが宙をのたうつワイヤーと刃が見えた。
『敵か!? 出て来やがれ!』
闇雲にアサルトライフルを乱射するも、建屋の壁に穴を開けて黄金の火花を散らせるばかり。恐慌に駆られたサイクロプスの背後で、地より滲み出た影が赤い鬼の姿を成した。
膨れ上がる殺気を察したのだろうか、サイクロプスが後方へと振り返る。
「必ず殺すっぽい!」
アポイタカラは長重砲の口をサイクロプスのオーバーフレームに押し当てた。一切の躊躇なく引かれたトリガーに合わせて銃口より重量子の光軸が伸びる。数秒にも満たない期間で光軸が失せた後、コクピットが存在した筈の箇所には大穴が穿たれていた。
「あいつ……アポイタカラじゃねえか! ファック! 日乃和の連中イェーガーを雇いやがったのか!?」
怒声と共に炸薬が爆ぜる音が続き、金属が金属に衝突して跳ね返される音が無数に巻き起こる。銃声の出所へと鬼燈が頭を向けるとアポイタカラも合わせて頭部を向けた。サイクロプスに随伴していた歩兵だろうか、健気に対人用突撃銃で攻撃を加えている。無論小銃の弾が魔術的保護を帯びたナノクラスタ装甲を貫ける道理などない。
「戦闘とゆーよりは狩りだね」
アポイタカラがキャバリアライフルより発射したフレシェット弾は歩兵達の肉体を冷徹に粉砕した。文字通り挽肉となった肉片が路上に赤黒い染みとして扇状に広がる。その有様を眺める鬼燈の眼差しには、障害を排除したという事実を確認する以外の感情は籠められていない。
「捕虜を取る必要がなくて楽ちんっぽいー」
最終的に全部倒せばよかろうなのだ。テロリストの身柄を確保しろと言われれば出来なくもないのだが、契約内容には確保出来たら引き渡せとの記載しかなかった。むしろ捕まえると面倒事が増えそうだ。予めそう決まりを付けていた鬼燈の動きには、まるで精密機器の如く淀みが無い。騒ぎを聞き付けて接近中らしい敵機がレーダーグラフ上に光点として表示される。まだ暫く続くであろう狩りの為、鬼燈は再度アポイタカラを影の淵へと沈み込ませた。
大成功
🔵🔵🔵
シル・ウィンディア
那琴さん、元気になったんだね。
よかったぁ…。ほんとによかった…。
さぁ、それじゃ、ここからはお仕事モード。
ブルー・リーゼ、シル・ウィンディア、行きますっ!!
推力移動で陸上をホバー移動。
敵影をとらえたら…。
移動しつつ、狙撃モードのビームランチャーで撃ち抜かせてもらうよっ!
狙うはオーバーフレーム。少しでもダメージを与えられたらいいしね。
狙撃したあとは、ランチャーを単発のビームライフルモードに変えて射撃戦。
ビットは使わず、ランチャー、ツインキャノンとバルカンで射撃戦。
こっちの事を単純な射撃型とみてもらえたらそれでいいしね。
なにせ、あとが控えているから見せる手は控えめで…
戦闘は白羽井小隊と連携しつつ行動を行うね
こっちの射撃を見せ攻撃にして、彼女たちに落とさせる方向で動こうかな。
彼女たちに意識が向き始めたら、高速詠唱のエレメンタル・バラージ。
ファランクスだと巻き込んじゃいそうだしね…。
行動時は常に声を掛け合って、危険があれば庇いに行くよ
オーラ防御展開ッ!簡単に破れるとは思わないでねっ!!
●猛禽強襲
大津貿易港は香龍が内包する港湾施設の中でも五本の指に入るほどの規模を持つ。東の海に向かって迫り出す埠頭の多くは、迎え入れる船舶に比例して巨大だった。そして船舶から降ろされた貨物を運搬する為の道路――港区の縦横に伸びる大動脈も同じく幅が広い。
「那琴さん、元気になったんだね」
アスファルトの路面を滑走するレゼール・ブルー・リーゼ。その胸部でシートに背を押し付けるシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)が一抹の安堵を零す。受けた依頼の説明通りであれば、香龍の一件の後に那琴は部隊に復帰したらしい。苦労して散々な大立ち回りを演じた甲斐があったというものだろう。これでレゼール・ブルー・リーゼも壊し損ではなかった。
空色を宿した瞳が視線を移す。レーダーグラフ上では件の第六独立機動艦隊は到着していない。作戦の初動となる猟兵の強襲が完了する頃には到着しているのだろうが……眼差しを正面に戻す。
「ブルー・リーゼ、シル・ウィンディア、行きますっ!!」
裂帛と共にフットペダルを踏む足に力を籠める。増した重力加速度が身体を一層シートに押し付ける。青い髪が風を受けたようになびき、パイロットスーツの腰部プロテクターにあしらわれた半透明素材の青いベールが揺れた。
レゼール・ブルー・リーゼが背負うウイングスラスターが青白い噴射光を伸ばす。箒星となった機体が衝撃波を押し広げながら大津貿易港の大通りを直進する。建ち並ぶ倉庫がシルの視界の中で次々に後方へと流れていった。
『動体反応接近中、速いぞ』
『日乃和軍のイカルガか? 応戦しろ』
レーダーグラフ上に幾つかの光点の集団が表示された。一方は正面、もう一方は側面から迫りつつある。いずれも敵機のサイクロプスである事に疑う余地はない。そしてシルの選んだ戦術判断は正面の敵梯団の突破だった。
「……見えたっ!」
大通りの遠方で推進噴射の光が瞬く。続く被ロックオン警報。レゼール・ブルー・リーゼは速度を緩めるでもなく、ヴォレ・ブラースクの銃口を正面に向けた。シルが引いたトリガーキーの入力操作を受け、細く研ぎ澄まされた魔力粒子が直線となって夜を引き裂く。遠方で火花と青い粒子が散り踊った。
一機のサイクロプスのアンダーフレームを撃ち抜いたのも束の間、反撃の銃弾と誘導弾が真正面から飛んできた。加えて側面からも火線が伸びる。敵側は初めから十字砲火の陣形に追い詰める事を狙っていたらしい。
「わっとっと!?」
シルが操縦桿を左右に倒すと、レゼール・ブルー・リーゼがエール・リュミエールから生じる推力を横方向に偏向させる。銃弾が白と青の装甲を擦過して鈍い金属音が鳴った。
「やっぱりこの人達、慣れてる……!」
だが場数を踏んできたのはシルとて同等、または質ならそれ以上だ。この程度でさして動じるでもなく瞳を走らせ、迫る誘導弾を視線で捕捉する。エリソン・バール改が魔力粒子の飛沫を飛ばすと、青い光を放つ破線が迸った。間もなく近接信管を作動させるかといった間合いまで肉薄した誘導弾が次々に火球に転じ、爆炎と黒煙を膨らませた。
「オーバーフレームだけをっ!」
黒煙の最中を裂いてレゼール・ブルー・リーゼが駆ける。正面の敵集団に迫りながらマニピュレーターに保持したヴォレ・ブラースクを単発連射した。魔力粒子弾に装甲を抉り取られ、被弾の衝撃で急激に失速したサイクロプスが墜落してアスファルトの路面を削る。
『ブルー・リーゼだとぉ!? イェーガーか!』
敵集団と交差して後方に抜けたレゼール・ブルー・リーゼを幾つもの火線が襲う。だが青白色の機体は軽快な切り返しと上昇でそれらを潜り抜けて反転。背面の兵装懸架装置を介して搭載した二門一対の砲を前方へと向ける。
「グレル・テンペスタ!」
砲身の奥底に集束された青白い粒子が光軸となって解き放たれる。サイクロプスの編隊は瞬時に散開するも、反応が僅かに遅れた一機が光軸に触れ、右上半身を抉り取られた。
『奴は装甲が薄い。追い込んで火力を集中しろ』
敵部隊は撃墜された一機を代償にレゼール・ブルー・リーゼを取り囲んだ。シルの目が横に滑り、口元が苦しく歪む。全方位からこちらを睨むアサルトライフルの銃口が一斉にマズルフラッシュを焚いた。
「フィールドでぇッ!」
夥しい数の火線が青と白の装甲を貫こうとした直前、レゼール・ブルー・リーゼは蛍光色の青い球体に包み込まれた。
『バリアだと!?』
敵が驚嘆する傍らでシルは視界を一巡させた。メインモニター上に映り込んだ敵機に次々とロックオンマーカーが灯る。
「精霊達よ集いて力になり――」
レゼール・ブルー・リーゼが両腕部で支えたヴォレ・ブラースクの銃口を頭上に掲げる。
「すべてを撃ち抜く力となれっ!」
シルの思惟と共に、それぞれの属性に対応する光弾が放出された。光弾は螺旋状の軌道で頭上に昇ると四方八方に散開、誘導弾或いは自律攻撃端末の如く敵機を探索して降り注いだ。反応が遅れたものはそのまま、逸早く勘付いたものでさえも攻撃に傾注していた為か回避が間に合わず光弾を受け、オーバーフレームを爆砕させられ戦闘力を喪失した。
「……やった?」
静かになった周囲を見渡すシル。搭乗者の頭部の動きと同調してレゼール・ブルー・リーゼが頭部を旋回させる。取り囲んでいたサイクロプス達は上半身の大部分を破壊されて炎上、擱座していた。シルは深く息を吐いて額の汗を拭う。
「数もかなり減ってきてるみたいだし、もうちょっとかな?」
大津貿易港の各地から聞こえる爆轟とレーダーグラフ上の敵反応で判断する限りではあるが――動体接近を知らせる警報が鳴る。シルは今一度操縦桿を握る細指に力を通わせて顎を引く。双翼を広げて敵機に迫るレゼール・ブルー・リーゼの姿は、獲物を強襲する猛禽のそれに等しかった。
大成功
🔵🔵🔵
支倉・錫華
【ネルトリンゲン】
政治的な決着の生贄にされたのは可哀想だと思うけど、
それなりにやらかしてきたみたいだし、同情の必要はなさそうだね。
ま、いろいろ風紀も頭も緩んでたみたいだし、
『戦争屋』として幕引きのタイミングだったってことなんじゃないかな。
さて、相手は潜水空母みたいだし、わたしはせっかくだし海から行くよ。
潜って逃げられるのも嫌だしね。
アミシア、スヴァスティカを海中戦仕様で。
ネルトリンゲンの射撃後に『サイクロプス』の陣を抜けて海まで出る。
フィラさん、理緒さんの開けてくれた楔の傷口広げつつ、海までまっすぐいくよ。
海上に出たら反転、潜水空母の頭を押さえつつ、理緒さん、シャナミアさんと挟撃ってことでよろしく!
わたしは【FdP CMPR-X3】で射撃を行いつつ、潜水空母の動きを牽制。
無人機なら散弾でも足止めできるだろうから、敵の動きをとめたところで、
フィラさんの『ヘタレれてない大火力砲』アテにしてるよ。
無人機に遠慮はいらないから、いっきに蹴散らしちゃおう。
あ、もちろんしくったらみんなにおごりね♪
菫宮・理緒
【ネルトリンゲン
ま、そうだね。
いつのまにか首謀者にされてるとか、それはそれで大変だと思うけど、
それでも、あなたたちがやってきたこと聞いちゃうと、ギルティ一択だよね。
日乃和の政治的責任とかはどうでもいいけど、
捕虜への虐待や暴行は、どんな軍隊でも極刑だから、諦めてもらおう。
とりあえず首謀者とっつかまえるためにも、第一陣を突破しないとだね。
相手が無人機なら【E.C.M】でコントロール系にジャミングかけちゃおう。
みんなには七面鳥撃ちでちょっとものたりないかもしれないけど、
そのあとのメインイベントのためだと思ってもらえればいいよね。
それと、錫華さんが海まででたいみたいだから、そのための援護かな。
シャナミアさんはわたしといっしょに陸からいこうね♪
ということで『希』ちゃん、海までの最適なルート、出してもらえるかな?
主砲、および【M.P.M.S】算出ポイントにピンポイント砲撃。
着弾後、錫華機とフィラ機をカタパルト射出!
楔の一撃入れれば、あとはなんとかいけると思うから、最初の一撃だけ思いっきり行くよー♪
フィラ・ヴォルペ
【ネルトリンゲン】
……なんか嬉々としてるな、お前(錫華の方をみて)
まぁ元気なのはいいことだ、変に貶められなくて済むからな(遠い目)
まぁいい
『ヴォルペ・リナーシタ』出るぞ!
ほら、先いけ、援護してやるよ
錫華の横並びになりながら
『ラピッドファイア・ビームランチャー』で連射
前にいるサイクロプスの足狙って潰していくぞ
それにしてもいつも海潜りたがるのはなんなんだ
人魚か何かなのかお前は……
ちゃんと釣り上げてこいよー?
その間、こっちは『キャバリアキャリア』で海上待機
ってーか、チャージスタートだ
ここらの安全も確保しておかないとな
浮き上がってきたら銃口しかないとか洒落にもならねぇ
【SC・SW】
無人機の群れくらいならこれでどうにかなんだろ!
拡散モードセット、後は適当に、いけぇぇぇっ!!
残ってる敵機にゃビームランチャーで丁寧に仕留めるとして
おーい、そっちの首尾はどうだー?
釣れたかー?
ならそっちにも手を加えるとしようか!
シャナミア・サニー
【ネルトリンゲン】
なんていうかさー
某博士並みの理不尽さを感じるよ、さすがに同情を禁じ得ない
まぁでもそもそもテロリスト叩くことに躊躇いは感じないし
なかなかオイタが過ぎてるみたいだし?
竜のメス舐めたらどうなるか教えてあげよう
っても戦うのはレッド・ドラグナーだけどね!
たまにゃクレバーにいきますかねえ
【バックウェポン・アタッチメント】で重装備化
チョイスはフリージングパイル・シングルバレルシューター
ま、瀕死にならなきゃいいわけでしょ
有人機っぽい動きしてるヤツだけ狙っていくとしようか
その場に全力で縫い留めてあげるよ
フリージングパイル、シュートッ!!
感覚的にネルトリンゲンの甲板上で固定砲台になるけど
たぶん大丈夫でしょ
どっちかっていうとこっちに注意ひけた方が
錫華さんとフィラさんは楽できそうだし
近寄ってくる敵機には標準兵装で迎撃
バックウェポンは標準兵装使えるのが便利だわ
おっと、次弾装填の間だけは油断しないようにしないとね
いやーネルトリンゲンに運んでもらうとラクチンだなー
こんな待遇受けてたらダメになるわ
●強襲のガルヴォルン
黒い夜空に黒い海面。煌々と灯る照明。夜間の寂寥が香る大津貿易港の大気が戦慄く。臓腑を底冷えさせる轟きが伝わってくるのは西側の内陸。そちらへ顔を向けた誰もが目の当たりにしたであろう。低空を進む真珠色の巨躯――ミネルヴァ級戦闘空母、ネルトリンゲンの船体を。
「なんていうかさー、某博士並みの理不尽さを感じるよ。さすがに同情を禁じ得ない」
ネルトリンゲンの飛行甲板上で待機するレッド・ドラグナーの中で、シャナミア・サニー(キャバリア工房の跡取り娘・f05676)はグリモア猟兵の顔を思い浮かべていた。背景を全て知っている筈の人間がなんと白々しい。守秘義務が課せられているとは言え、あたかも知らぬ存ぜぬ他人事のような口振りでの依頼内容の説明が薄ら寒かった。依頼主である日乃和政府も然り。
「政治的な決着の生贄にされたのは可哀想だと思うけど、それなりにやらかしてきたみたいだし、同情の必要はなさそうだね」
支倉・錫華(Gambenero・f29951)の声音は冷淡で抑揚が薄い。レッド・ドラグナーと同じくネルトリンゲンの飛行甲板上に立つスヴァスティカ SR.2の輪郭は、装着したサラスヴァティ・ユニットによって一回り肥大化して見えた。
「いやさ、テロリストをしょっぴく事自体に躊躇いがある訳じゃないけどさ……」
「いつの間にか首謀者にされてるとか、それはそれで大変だと思うけど、やってきたこと聞いちゃうとギルティ一択だよね」
言葉尻を澱ませたシャナミアに代わって菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)が後を引き取る。ネルトリンゲンの艦長席に座す彼女の瞳がメインモニターの上を忙しく巡った。索敵範囲内で捉えた敵反応がレーダーグラフ上で赤い光点として示されている。光点は皆一様にネルトリンゲンを目指して西進しつつあった。これだけの大質量が動いていれば誰とて嫌でも気付くというものなのだろう。
「日乃和の政治的責任とかはどうでもいいけど、捕虜への虐待や暴行は、どんな軍隊でも極刑だから、諦めてもらおう」
どこまでが真実なのかはさておき、首相官邸占拠がでっち上げにしてもその他の余罪は理緒が調べられる範囲だけでも相当にあるらしい。
いずれも組織的な売春から麻薬密売に特殊詐欺、強盗殺人、強姦致死、そしてペロリストの渾名を得るに至った要因――回転寿司店に対する業務妨害が一般層での認識として根深い。
だが軍内部での認識は少々異なる。灰狼中隊の隊員を拉致し、その内の数名を女性としての尊厳を悉く蹂躙した末に遺棄した件で凄まじい敵愾心を買っているようだ。
「戦争屋って言うより半グレ?」
業種としては傭兵組織のガルヴォルンも同様なのだろうが、まず人間性からして同列だとは到底考えられない。レーダーグラフに点灯する赤い光点が次々に破線の赤丸で囲まれる。それは即ち理緒が言う極刑の判定が下された印でもあった。
「ま、いろいろ風紀も頭も緩んでたみたいだし、戦争屋として幕引きのタイミングだったってことなんじゃないかな」
大津貿易港の各所で明滅する推進噴射の光を遠方に見て、錫華は操縦桿を握る指先に力を籠める。
「……なんか嬉々としてるな、お前」
ヴォルペ・リナーシタがフィラ・ヴォルペ(レプリカントのアームドヒーロー・f33751)の神経命令――IFRの入力を受けてスヴァスティカ SR.2にセンサーカメラを向けた。
「そう?」
錫華は別になんとも無いと含ませて短く訊く。
「まぁ元気なのはいいことだ、変に貶められなくて済むからな」
これ以上余計な物言いは止めておこう。また奢りだ何だと吹っ掛けられかねない。意識を前に向けると機体の頭部も搭乗者の意識に続いた。
『ロックオンパルス検知、ミサイル来ます』
M.A.R.Eの電子音声に理緒が「進路と速度そのままで」と応じる。被弾警報が鳴り、大津貿易港の方々から放たれた誘導弾が白煙を引き連れてネルトリンゲンの元に到達する。誘導弾は近接信管を作動させると内部火薬を炸裂させ、爆炎と金属片を撒き散らした。
『艦首底部被弾』
「損傷は?」
『軽微です』
対キャバリアミサイルで艦艇がそう簡単に沈む訳が無い。想定通りであると浅く頷く。
『誘導弾更に多数接近中』
「E.C.M作動!」
理緒が鋭く言い切ると、ネルトリンゲンを中心として白色の稲光を伴う力場が球体状に生じた。実体を持たない力場は急激に拡大して誘導弾を飲み込む。力場の内側に達した誘導弾は途端に標的を見失い、出鱈目な軌道で蛇行し、建屋や路面に衝突するか虚空で火球に変貌した。
「おーおー、撃ってくるねぇ」
レッド・ドラグナーがネルトリンゲンの艦首から眼下を見下ろす。敵のサイクロプスは遮蔽物を利用しながら牽制射撃を加えてこちら側に接近しつつあるようだ。さしずめ対艦兵器の類を用意していなかったので艦に直接取り付くつもりなのだろう。
『ネルトリンゲンってこたぁ、例のメスだらけの傭兵か!』
『日乃和のファッキンシット共! ガルヴォルンを雇いやがった!』
『どこかにストライダーが隠れている筈だ。出てくる前に堕とせ』
混線する通信から聞こえてくるのはテロリスト達の声のようだ。
「メスって……なら竜のメス舐めたらどうなるか、教えてあげよう」
下劣な物言いに気後れしながらもコンソールパネルに指を伸ばす。
「フリージングパイルでいいかなっ……と」
レッド・ドラグナーが両脚を肩幅程まで広げる。足裏のアンカーがネルトリンゲンの甲板の溝に噛み付く。
「ま、瀕死にならなきゃいいわけでしょ?」
機体を砲塔の如く船体に固定したレッド・ドラグナーが、背部の懸架装置を介して搭載する長銃身の砲を閃かせた。
「狙って狙って……」
照準方式を手動に切り替え、メインモニターの中央で揺れるレティクルを敵機に重ね合わせる。飛来するミサイルは理緒のE.C.Mで誘導機能を妨害されているかネルトリンゲンの装甲が肩代わりしてくれている。お陰でシャナミアは全神経を照準補正だけに注ぐ事が出来ていた。敵機がコンテナから建屋へ、建屋からコンテナへ移動する一瞬。その一瞬を読み込んだ上で移動先に照準を置く。
「シュートッ!」
シャナミアの人差し指がトリガーキーを引く。レッド・ドラグナーの両肩部に支えられた砲身が青い硝子の杭を解き放つ。硝子の杭は射線上の空気に含まれる水分を凍結させ、星屑のような輝きを後に残しながら直進。遮蔽物から遮蔽物へ渡るサイクロプスの元に辿り着いた。
「はい命中!」
『凍結弾だと!?』
サイクロプスに着弾したフリージングパイルが絶対零度の華を咲かせる。華の中に機体の大部分を取り込まれた標的は、路面に縫い付けられて挙動もままならない。
「終わるまでそうしてなー。はい次!」
氷漬けにしたサイクロプスを捨て置き、シャナミアの柘榴石が新たな獲物を見据える。薬室に装填された氷の杭が砲身の内部を滑り砲門から射出された。二本の杭は狙い澄ました照準通りの軌道で突き進み、迂闊にも先行し過ぎたサイクロプスの一機に命中。着弾の衝撃で建屋に叩き付けるのと同時に氷結させた。
「いやーネルトリンゲンに運んでもらうとラクチンだなー、こんな待遇受けてたらダメになるわ」
ロックオンしてトリガーを引くだけ。苛々しながら位置取りを考える必要も無いしジャンプペダルとブーストペダルを忙しく繊細に踏む必要もない。いっそネルトリンゲンが居る内はこんな砲手の真似事を続けるのも悪くないかも知れない――戦闘開始早々に砲塔と化したレッド・ドラグナーの操縦席の中では誰に気取られるでもなかった。
「シャナミアさん、そのまま砲撃よろしく」
「ほいほい」
理緒は二つ返事の一つ返事を横に、そろそろ出撃したくて辛抱堪らなくなっているであろうスヴァスティカ SR.2とヴォルペ・リナーシタへ「二人ともそろそろ出撃準備おねがーい!」と呼び掛ける。
「希ちゃん、海までの最適なルートは?」
尋ねるより早いか、メインモニター上に新たにサブウィンドウが開いた。現在地点から東側の海に抜けるルートの案が複数提示されている。いずれにせよ敵機の頭上を飛び越えて行かねばならない。頭上では絶対の調停者である殲禍炎剣が監視しているので当然ながら高度制限もある。
「こんな感じだけど、どうする?」
希が提案した順路情報は近接戦術データリンクを介して錫華とフィラにも共有されている。
「最短ルートで行く」
錫華の即答に「言うと思った」とフィラが肩を落とす。
「了解、ある程度お掃除するから待ってて!」
理緒の指令を受けたM.A.R.Eが火器管制機能を立ち上がらせる。ネルトリンゲンの船体各部のハッチが続々と口を開き、内部に格納されていた誘導弾の頭を覗かせた。
「M.P.M.S、1番から10番まで発射!」
マルチランチャーシステムが白煙を噴き出し、ロケットモーターを焚いた誘導弾がガスの尾を引き連れて飛び立つ。誘導弾は夜間の冷ややかな空気を引き裂いて突き進む。あるものは予め捕捉していたサイクロプスを追い立て、あるものは手動照準した地点に着弾して炎を伴う黒煙を立ち昇らせた。
「おいおい、大丈夫なのかこれ?」
後で損害請求されたらどうしよう。脳裏を過った発想にフィラは背筋を冷やした。
「錫華機! フィラ機! 発進どうぞ!」
「行くよ」
スヴァスティカ SR.2がカタパルトデッキの初速を借りて大津貿易港に解き放たれる。錫華は全身にのしかかる重力加速度に声にならない呻めきを漏らした。
「ヴォルペ・リナーシタ、出るぞ!」
サブフライトシステムであるキャバリアキャリアの背に屈み込んだヴォルペ・リナーシタが同じくしてネルトリンゲンを発った。援護砲撃で見送るレッド・ドラグナーが横目に高速で通り過ぎ、火柱と照明で彩られた港湾施設の情景が高速で後ろへと流れ行く。
「ほら、先いけ、援護してやるよ」
ヴォルペ・リナーシタが腕部に固定兵装として備わる大口径ビームランチャーを撃ち散らす。進路上をなぞるようにして炸裂した荷電粒子は、低空を突き進む二機を待ち構えていたサイクロプスの編隊を散開させた。
「じゃあお先に。しくったら奢りね」
「お前はどうしても俺の金で飯を食わねえと気が済まないのか?」
尋ねた相手は答える暇も無く行ってしまった。今度は嘆息している場合ではない。対空砲火が上がってきているからだ。
「碌でなし連中でも腕は本物かよ……!」
気を抜けば撃ち落とされる。フィラは舌を打ちながらキャバリアキャリアを翻す。アサルトライフルの火線を切り、ミサイルをラピッドファイア・ビームランチャーで迎撃しながら応射を見舞う。だが敵機は自分が標的にされるや否や遮蔽物に隠れてしまう。しかも一部の編隊は湾に向かった錫華を追い掛けているようだ。
「手こずってもいられねえか!」
こちらもさっさと抜けて湾に出なければならない。
「重力変動が残る程の重力兵器は御法度なんだったか? ええい……!」
構わずぶっ放してしまいたい衝動を堪えつつコンソールパネルを叩いて出力を絞る。
「ブラックボックス・ポイントオープン……グラビティ・ブラスター、リミットアップ!」
音声入力を受け付けたコア・ヴォルペが機体の動力源から腕部へとエネルギーを送り込む。ヴォルペ・リナーシタが正面に突き出したマニピュレーターに限りなく暗黒に近い紫の球体が生じた。迸る稲妻が闇を切り裂く。
「さぁて、ショータイムだ!」
重低音と共に放射された暗い紫の衝撃波。波動は扇状に拡散放射し、ヴォルペ・リナーシタの進路を飲み込んだ。重力波動に接触した建屋がひしゃげ、コンテナが悲鳴を上げて歪み、サイクロプス達が地に伏して機体の駆動部から火花を散らす。
「これで十分だろ」
グラビティ・ブラスター放射を終えたヴォルペ・リナーシタがサイクロプス達の頭上を駆け抜ける。横目を後方に向けるが追ってくる火線は極まばらだ。殆どのサイクロプスは重力波動によって駆動系を粉砕されたのであろう。あの程度の出力ならば重力変動を残して契約違反になる恐れもあるまい。我ながら絶妙な手加減だったと感心――している場合ではない。倉庫建屋が並ぶ区画を抜け、コンテナの集積所を抜け、湾内の海上に出た。埠頭に横付けされている潜水空母の周辺の海面に水柱が連続で上がっている。
「おーい、そっちの首尾はどうだー?」
「ん、頭は押さえた」
スヴァスティカ SR.2 がオーバーフレームを海面から出し、敵の潜水空母を中心点として衛星軌道で半円旋回を行なっている。FdP CMPR-X3がマズルフラッシュを明滅させる毎に海面が炸裂した。
「アミシア、ネルトリンゲンの方は?」
『東進中です』
なら焦る必要は無い。錫華は胸中で呟きながらトリガーキーを引く。本格攻勢はネルトリンゲンが更に接近してからでいいだろう。あの巨体を少数のキャバリアだけで相手取るのは些か骨が折れる。
「まあそっちは大佐がやってくれると思うけど……」
敵艦の応射と埠頭に展開するサイクロプスの砲火を海中に潜航してやり過ごす傍ら、湾外の海底に意識を向けた。今頃はストライダーが重力砲の充填を始めているはず。とびきり時間を掛けて。命中するか否かは撃ってみなければ分からないが、威力だけなら一撃で潜水空母を沈めるに足るであろう。むしろ重力変動の被害を気にした方がいいのかも知れない。そこはミスランディアが上手く調節してくれると信じているが――。
「それにしてもいつも海潜りたがるのはなんなんだ? 人魚か何かなのかお前は……」
潜航中のスヴァスティカ SR.2 に攻撃が集中したタイミングを見計らってヴォルペ・リナーシタがサイクロプス達の頭上から荷電粒子弾の速射を浴びせに掛かる。すぐに地対空の火線が伸びるもキャバリアキャリアが噴射光を力強く滾らせて急加速、離脱する。
『敵潜水空母の直掩に当たっているサイクロプスが最後の梯団です』
浮上間際に聞かされたアミシアの電子音声に瞬きを返事とし、錫華はブーストペダルを踏み締めた。ウォータージェットで得た推力で横滑りするスヴァスティカ SR.2がFdP CMPR-X3を抜く。銃口から押し出された徹甲榴弾がサイクロプスの緑色の装甲に食い込むと、火炎の球を膨らませて右半身を粉砕した。
大成功
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セレーネ・ジルコニウム
「ミスランディア、本艦の現在の座標は?」
『予定通り、大津貿易港の外洋の海底じゃ。
迷彩装置も正常稼働。光学装置でもレーダーでも発見されることはないじゃろう。
……ところでセレーネよ、本当にやるのかの?』
私は機動戦艦ストライダーの制御AIであるミスランディアの声に、艦長席に座ったまま頷きます。
「私設軍事組織ガルヴォルンとして、オブリビオンマシンの存在を看過するわけにはいきません」
『そうじゃな。寿司文化を愚弄する者どもには天罰あるのみじゃ』
あ、そーいえば、ミスランディアは魚好きでしたっけ。
怒ったミスランディアは怖いですよー。(経験者
「というわけで、ミスランディア。
ストライダーの【全力射撃】用意です。
機関の全エネルギーを主砲の『戦術級超重力波砲』にチャージしてください」
『ストライダー、全エネルギーチャージ開始じゃ。
チャージに時間がかかるので、発射できるのはおそらく次の章になるじゃろう』
「了解です。それでは、それまで海の底で息を潜めていましょうか」
『寿司の恨み、晴らしてやるので覚悟するのじゃな!』
●潜航のガルヴォルン
日乃和列島の東には広大な海洋が広がっている。一帯の平均水深は4000m程度にあり、陸地からさほど離れていない香龍湾の周辺であっても、海原の青は底知れない深淵まで続く。
深く広い生命の揺り籠は数多の海洋生物を擁し、種の中には遥か太古の時代から現代にまで世代を繋げているものも少なくない。メガロドンはその種の一端である。
暗き海底を悠然と泳ぐのは、丸みを帯びてずんぐりとした体型の巨大な鮫。全長は目算で15mには届くであろう。絶滅が危惧されてしまうほどに個体数を減らしてはいるが、依然として海洋の生態系の上位を占める肉食魚に違いない。多くの海洋哺乳類や同じ鮫科の魚類までもが捕食対象で、天敵と呼べる生物は極限られている。シャチ等のより獰猛かつ知能の高い海洋哺乳類か、それこそアーレス大陸の神話で語られる海の怪物か、武装した人間か。
メガロドンが向きを変えて泳ぐ速度を上げた。獲物を見付けたという様子ではなく、後方から何者かに追い立てられ逃げている身振りが見受けられる。つまりはいずれかの天敵が出現したのであろう。
天敵はすぐに姿を現した。海洋生物を想起させる長大な船体。昼夜を問わずに光が射さない海底の闇を、艦首に備わる二つのサーチライトで裂いて進む。
「随分大きな鮫ですね……」
ワダツミ級強襲揚陸艦、ストライダーの艦長席に座すセレーネ・ジルコニウム(私設軍事組織ガルヴォルン大佐・f30072)の赤い瞳が、メインモニターに拡大表示された尾びれの動きを追う。
『メガロドンじゃな。15mを越えておるから年季が入った成体じゃの』
艦の主要機能を司る機械知性体たるミスランディアの電子音声が艦橋内に満ちた。海底だからなのか、音が籠もっているように感じる。
「さっき見掛けたダイオウイカもそうですけど、この辺りの魚はどれも大きいんですね」
『日乃和の近海には海底プラントが多数あるらしくての、そのプラントが酸素を生成しておるようじゃな。じゃから水産資源が豊富で魚が大きく成長し易い環境になっておるんじゃろうの。お陰で他所の地域ではとうに絶滅してしまった古代生物も生息しておるんじゃな。中には危険な生き物もおるが……ストライダーが襲われる事はあるまいて』
深海の闇の向こうに吸い込まれたメガロドンの尾びれを見送ったセレーネは、正面に視線を戻して息を吸い込んだ。
「ミスランディア、本艦の現在の座標は?」
『予定通りに大津貿易港の外洋の海底じゃ』
ミスランディアは口で説明するよりも早いと言わんばかりに海域地図と周辺の三次元地形情報を表示する。この辺りの海底は起伏に乏しく平面で、日乃和列島に向けて緩やかな登り坂が続いているだけだ。海底を這うように航行するストライダーを妨げるものはないし、ネルトリンゲンからの連絡通りなら、大津貿易港内での強襲作戦も問題なく進行中だ。セレーネは浅く強かにうなずいた。
「ガルヴォルンとして、オブリビオンマシンの存在を看過するわけにはいきません」
強く言い調う。これは半ば自分への宣誓でもあり、自己に課した義務と責任でもあった。今回の依頼が説明通りの単純な事情で成立しているとは限らない事を、セレーネは理緒伝手に既知している。だがオブリビオンマシンが関与している一点に関しては揺るぎない事実であるし、それを排除するのがガルヴォルンの存在意義である点も揺るがない。
『そうじゃな。寿司文化を愚弄する者どもには天罰あるのみじゃ』
「その通りです。……ん?」
場違いな名詞が含まれていたミスランディアの電子音声にセレーネが首を傾げる。
『セレーネはまだ見ておらんかったかの?』
更に首を傾げると、艦長席の手元のモニターで動画の再生が始まった。回転寿司店のテーブル席で撮影された映像らしい。カメラの視点を撮影者として、長机を挟んで対面する男は白い肌に金髪――日乃和人ではない。体格の良さと入れ墨、そして人相からしてどうも堅気の世界の住人でもないらしい。セレーネは傭兵組織に所属する自分たちと似ていて、それでいて限りなく遠い匂いを嗅ぎ取っていた。
「ああ……例の醤油瓶を舐めたっていう連中の……」
映像の中の男が醤油瓶の蓋を開けて舐めた頃からセレーネの表情が引き攣り始めた。この事件を切掛に日乃和国内の回転寿司店は回転レーンでの寿司の取り扱いを止めたらしい。
「そーいえば、ミスランディアは魚好きでしたっけ」
これがミスランディアの電子知能に設定されている怒りの感情を発露させる引き金に触れたようだ。ミスランディアを怒らせるとどうなるかセレーネは経験を以て知っている。ペロリスト達も思い知る事となるであろう。
「寿司に限らず悪行三昧じゃったらしいがの」
頼んでもいないのに表示されるのは、今回の依頼で排除対象となっている輩が起こした事件の数々。麻薬密売特殊詐欺売春誘拐強盗強姦殺人……犯罪の科目は殆ど網羅しているらしい。漢字が多すぎて目が痛くなる。
「これじゃテロリストっていうよりヤクザか半グレじゃないですか」
『テロリストらしい派手な悪事が働けなかった分、細かい悪事で小銭を稼いでおったようじゃな』
「悪事に細かいも大きいもあるものですかね……」
職種で言えばガルヴォルンとて戦争屋と呼ばれる分類に入るのだろうが、あれと同列に語られるのは愉快な気がしない。セレーネは艦長席に背を預け、息を深く吐き出して肩を落とす。
「というわけで、ミスランディア。作戦通りにストライダーは射撃準備です。機関のエネルギーを主砲の超重力波砲にチャージしてください。集束率は70パーセントに固定」
事務めいた声音を飛ばすと『あいわかった』とミスランディアが応じた。
『艦首ハッチ開放。バレル展開。超重力波砲、エネルギーチャージ開始じゃ』
海中に鈍い衝撃音が拡がった。ストライダーの艦首に備わる長方形のハッチがゆっくりと口を開く。ハッチは水平より少し先端部分を持ち上げた角度まで跳ね上がると、船体側へと向かってスライドする。開け放たれた口から巨大な筒状の砲身が顔を覗かせた。
ストライダーの艦首に格納されている巨砲、超重力波砲。
通常のキャバリアの全高をゆうに越す口径から放たれる重力波は、然るべき充填時間を経た上で放てば街一つを難なく壊滅させてしまうほどの効果範囲を持つ。勿論人類の生活圏が戦闘領域となる本作戦でそのまま使用すれば、単純な破壊規模は去る事ながら、照射を受けた大津貿易港は数十年に渡る重力異常によって生物がまともに活動出来ない死の土地と化してしまう。だが対処法――或いは抜け道はある。集束率を絞れるだけ絞り、それこそ針の穴に通す糸のように細く研ぎ澄まして照射すれば生じる重力異常は抑制出来る。
『照準は難しくなるが――』
「そこは理緒さん達に誘導して貰えばどうとでもなるでしょう」
それに加えて実際に照射する際には目標となる敵潜水空母に接近するのだから。セレーネが先回りして答えるとミスランディアは皆まで言わなかった。
『ネルトリンゲンから暗号電文が来たぞい。作戦第一段階の目標は達成じゃ』
大津貿易港を警備しているサイクロプスは撃滅されたか……つまりは深海に潜んでいる時間も終わりを迎えたという事だ。
「彼等には必殺の一撃を受けてもらいましょう」
『寿司の恨み、晴らしてやるので覚悟するのじゃな!』
ストライダーの機関が唸り、泡沫を伴う水流を噴射した。尚も暗い海面に向けて緩やかに浮上を始める。その一瞬の間にも超重力波砲は船体から送られる電力を蓄え続けている。砲身内部のファンの奥底では、紫色の光が心臓のように脈動していた。
大成功
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第2章 ボス戦
『WWD-004『キラー・イェーガー』』
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POW : REAPER ALTER SYSTEM起動
自身が操縦する【WWD-004 キラー・イェーガー 】の【機動性と反応速度】と【武装の威力と命中精度】を増強する。
SPD : WWD-W002 デス・フィンガー
【左掌の近接攻撃 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【零距離射撃のビーム砲】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : WWD-W005 バスターライフル
【右手に装備したバスターライフル 】を向けた対象に、【高威力広範囲のビーム】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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●強襲成功
大津貿易港の各地で同時に発動した強襲。同港湾施設に展開していたテロリストの警備部隊は、猟兵達の電撃の如き速攻によって瞬く間に壊滅的な損害を受けた。サイクロプスの多くは大破したか行動不能に陥っており、方々では爆発炎上した機体の残骸が夜空に向けて火柱を昇らせている。
作戦の第一段階は当初の予定通りに進行し、予定通りの結実を果たした。故に戦況は停滞する事なく第二段階へと移行する。
●強襲前夜
日乃和海軍はアーレス大陸屈指の海軍戦力を保有する。その戦力の中でも装甲空母の大鳳は特に大型の部類であった。船体が大きい大鳳の内部施設は広い。当然ながら作戦会議室も広い。小隊一つと中隊二つの総員を詰め込んでも空間がまだ余っている。
「作戦第一段階では猟兵の皆様が大津貿易港を強襲、展開中の敵警備部隊を殲滅します。我々第六独立機動艦隊が同港に到着した時点で作戦は第二段階へ移行。敵艦より出撃する無人機を白羽井小隊と灰狼中隊が殲滅します。猟兵の皆様がキラー・イェーガーを撃破した後は作戦を第三段階に移行、潜水空母を含む残存する敵戦力を殲滅してください」
「作戦が第二段階に移行したのと同時に、敵艦の足は我が三笠が止める。白羽井小隊と灰狼中隊の各位は敵機の処理に専念してくれたまえ。なお艦隊の護衛は赤城と加賀の艦載部隊が対応する。背後を気にする必要はないぞ」
大津貿易港の全貌を平面地図として表示している大型モニター。それを背として左手側に結城が、右手側に泉子が立つ。那琴は最前列の席に行儀良く座って二人の大佐の作戦説明に聞き入っていた――違う。結城の眼の動きをずっと追っていた。
蠱惑的に細められた双眸の中で潤った琥珀色の瞳が照明の光を反射する。ほんの一瞬だが視線が交差した。唇の端に微かな笑みが滲む。鎖骨に、胸元に、脇腹に、太腿に刻まれた痣が疼く。
「なお、本作戦は政治的な判断の元に立案されています。各位は作戦内容並びに作戦行程の厳守徹底に努めてください」
政治的判断――解ってはいたが、改めて思い知らされると臓腑が重い。何の躊躇もなく言ってのける結城とは対照的に、泉子は平静な面持ちの顎を僅かにだが引いていた。きっと自分も無意識に同じ反応をしていたのだろうと那琴は思った。泉子は私達を恨んでいるのかも知れない。後藤大佐を焚き付けて死に至らしめたのは私達なのだから。それがのうのうと生きながらえて元の所属に蜻蛉返り。今すぐ射殺されたとしても不思議ではないし、泉子にはその権利があると思う。
「また、本作戦の発動直前に、バーラント機械教皇より作戦行動に対して書面での声明がありましたので、皆様にもお伝えしておきます」
何故ここでバーラントの名前が出てくる? しかも機械教皇? アナスタシア・アーレス・リグ・ヴェーダなどという仰々しい名前のあの機械教皇か? 那琴は怪訝に眉宇を曲げて首を下げる。
「大津貿易港にいる潜水空母艦への攻撃は即刻中止しろ。さもなくば相応の報いを受けてもらう。以上が原文です」
いつも通りの抑揚と口調で語る結城。忌まわしく眉間に皺を寄せる泉子。隣席の伊尾奈は馬鹿馬鹿しいと言いたげに鼻を鳴らす。後ろでは小声での騒めきが起こっていた。那琴自身はあまりの突拍子の無さに困惑するばかりであった。
「で? お偉いさんの方々はなんだって?」
伊尾奈が尋ねると騒めきが途端に止む。
「声明の信憑性に関わらず、攻撃中止要求は断じて容認出来ない。以上が内閣府の見解です」
「そりゃ結構だね」
那琴の所感は伊尾奈と兼ね同じだった。しかし一抹の不安はある。もし万が一本当に機械教皇が言う相応の報いとやらが出まかせではなかったとしたらどうする? 誰でさえどうにも出来まい。政府側としてはテロリストからそういった要求が出た時点で拒否する以外の選択肢は選べないし、自分達は元より与えられた任務を遂行する以外に選択肢は無いのだから。
「ここまで何かご質問はありますか?」
真っ先に隣の席で手が挙がる。伊尾奈の質問と結城の解答の応酬に那琴は身構えた。
「敵艦の積荷の中身は?」
「不正に入手したキャバリアの部品や違法薬物が主な内容です。いずれも捜査のために意図的に流出させたものです。破壊許可が降りているので回収の必要はありません」
「とんでもないブツを積んでたらどうする?」
「大量破壊兵器や極めて高い毒性を有する兵器の類の積載は確認されていないとの調査報告を受けています」
「もし調査が外れてたら?」
「その場合であっても作戦内容の変更は認められません」
強行したい理由があるのか? それとも調査によほど自信があるのか? 那琴は伊尾奈の重い声音に割り込んで質問するほどの度胸を持ち合わせていなかった。
「人質を取られたら?」
心臓が強く脈打つ。全身が泡立ち冷たい汗が噴き出すのを感じる。
「その場合であっても作戦内容の変更は認められません」
一字一句変わらず繰り返された答えが、室内に冷たく張った沈黙を降ろす。数秒の間を置いてから伊尾奈は「了解」との言葉を最後に口を噤んだ。
「他にご質問がある方はどうぞ」
結城は一人一人に視線を送って嫋やかに尋ねる。作戦会議が終わったらすぐに伊尾奈の後を追おう。那琴はそればかりを考えていた。私は尼崎中尉が人質の存在を気に掛けた理由を知っている。そして理由を作る切欠になったのは自分だという事も。
●強襲直前
太陽は西の果てに沈みきって久しい。香龍東沖を進む第六独立機動艦隊の旗艦、大鳳の飛行甲板上には、仄かな潮の香りを含んだ向かい風が吹き抜けていた。
「あの……尼崎中尉」
甲板の縁で腰を下ろしている背中に、那琴は意を決して声を掛けた。
「なんだい?」
パイロットスーツ姿の背中は灰色の髪を風に流すばかりで振り向く気配も匂わせない。
「申し訳……ありませんでした」
何故謝る? 伊尾奈の背中から無言の問いが立ち上ったように思えた。
「わたくしがあの時、彼等を落としていれば、このような事には……」
取り繕った言葉が詰まって行き場を無くす。やり場を無くした視線が床に落ちる。あの時――那琴達白羽井小隊は、とある猟兵との演習中に国外より侵入したテロリスト達に襲撃された。そのテロリスト達というのが今回の排除目標である。そして灰狼中隊の隊員を拉致した者達でもある。
拉致された隊員達の一部は既に解放済みか発見済みだった。生命機能が停止した状態で。それだけではない。女性としての尊厳を、精神的にも肉体的にも徹底的に破壊し尽くされた上で。体内からは様々な薬物の反応が検出された。だがそれもあくまで一部の隊員だ。残りは未だテロリスト達の手中にあるのかも知れない。
あの時の自分が撃墜出来ていれば、あの時の自分にも猟兵達のような力があれば、彼女達が獣に嬲られて死ぬ事も無かったのに。
「アンタがうちの連中を拐って犯して殺したって?」
不意に隣から聞こえた声に那琴は肩を跳ねさせた。
「違うなら筋違いってもんじゃないか」
「ですが……」
肩に乗せられた手が続く言葉を押し留める。
「当てにしてるんだけどね、アンタの腕は。気が済まないってならその腕で返しておくれ」
那琴は灰色の前髪から覗く赤い瞳を目の当たりにした。肩から手を離して去り行く伊尾奈。表情は無味だったが、伊尾奈らしからぬ穏やかで酷く弱々しい瞳は間違いなく那琴を見ていた。
『総員、第一種戦闘配置。繰り返す――』
戦いの始まりを告げる大音量の放送が、艦上のみならず海原に拡がる。伊尾奈を呼ぶ声はそれに掻き消された。
腕で返せ。たった今自分は確かに言われたのだ。他ならぬ不死身の灰色狼から。受けた言葉を胸中で反芻しながら、伊尾奈が進む飛行甲板の先を見る。
「そう……ですわね、今のわたくしなら……」
やれる。あの時とは違う。撃墜出来なかった自分とは違う。猟兵達と同じような力が無かった自分とは違う。那琴は伊尾奈に倣って歩き出した。新たに与えられた機体――アークレイズ・ディナの元へと。
●激昂
「ファック! どうなってやがる!?」
潜水空母の艦橋に怒号が響く。リーダー格の男が血走る眼を向けた先ではサイクロプスが次々に爆発炎上していた。大津貿易港の全域に張り巡らせた警備の網は、ほんの数分間で糸も容易く引き裂かれてしまった。
『ボス! 奴等日乃和のポリ公でも軍の奴等でもな――』
断末魔の直後に通信がノイズで満たされる。
『ネルトリンゲンだ! 奴等ガルヴォルンを雇いやがった!』
『ブルー・リーゼがいやがるぞ!』
『こちら正門前! メリアグレースのガキ教祖から攻撃を受けている! 至急救援を!』
『サメが襲って――』
『一つ目のタンクを止めろ!』
『極東の特務一課の連中か!?』
『あの大鎌持ち……飛び回りやがって……!』
『河童だ! 河童の仕業だ!』
『なんでカメリアの機体がこんな所に!?』
『ヘヴィタイフーンだと!? 奴等イェーガーだぞ!』
『赤い機体……あいつアポイタカラじゃ……』
錯綜する阿鼻叫喚の通信回線。聞き取れたイェーガーという言葉にリーダー格の男は食い縛った歯の隙間から唸り声を漏らす。
「あんのゴミムシどもが……! やりやがったなァァァッ!」
扉に向かって走り出すと何者かが背後から呼び止めた。
「ボス!? どちらへ!?」
「キラー・イェーガーで出る! 無人機を出せ! 全機だ! 奴等を一匹残らずぶっ殺せ!」
艦にも攻撃準備をさせろ。そう通達しようとした矢先に船体が激震に見舞われた。艦尾から走った衝撃は全体へと拡大し、続いて喧しい警報音が鳴り響く。
●軍神の雷
漆黒の海を引き裂く鋼鉄の鯨の群れ。第六独立機動艦隊隷下の三笠は、並び進む友軍艦と共に水平線を乗り越えて大津貿易港に迫りつつあった。
「メガビーム砲……撃ち抜けぇぇぇぇい!」
艦長席を立った泉子が裂帛と共に右腕を振り下ろす。三笠に備わる双発式の巨大な砲塔が荷電粒子の奔流を解き放った。青い稲妻にも見える光は、大気による減衰効果を全くものともせずに直進。海面を捲り上げて突き進んだ末に、遥か遠方の大津貿易港――その埠頭に錨泊している潜水空母の艦尾に突き刺さった。
直後に生じる青白い爆轟。巨大な船体が揺れ動く。
「弾着確認。敵艦は推進機関を損傷した模様」
観測手の報告に泉子は強かに頷く。
「敵の注意は完全に逸れていた……猟兵諸君は想定以上に派手に暴れてくれたようだな」
出力を三割程度にまで絞った二連装メガビーム砲は狙い通りの部位だけを撃ち砕いた。これで万が一にでも逃げ切る事は出来まい。政治的判断とやらが絡む作戦の中で、三笠に与えられた工程の一つはこれで達成されたという訳だ。これ以上はもう手出しが出来ない。泉子の私情としては煮え切らず澱んだ灰汁が渦巻いているが、将校の情としては迷いを挟む余地など無い。奴等は国民の生活を脅かす敵であり、防人の誇りを辱めた害悪なのだから。
「敵艦が離発着デッキを解放しました。キャバリア反応多数出現。砲塔も起動しています。本艦に対する被照準信号を検知しました」
次はこちらが撃たれる番だ。泉子を含めた艦橋の誰しもが面持ちに緊張を顕にする。だが焦りはない。
「全艦、対空監視を厳となせ! 以後は白羽井小隊と灰狼中隊、そして猟兵諸君の職分である!」
口惜しさを宥めるように、昂る感情ごと腰を艦長席に落ち着ける。三笠の艦橋から見る大津貿易港では、潜水空母から出撃したキャバリアの推進装置が星の如き光を瞬かせていた。
●狼犬対峙
『尼崎伊尾奈、アークレイズ・ディナ……行くよ』
先んじて伊尾奈機が大鳳から出撃した。すぐに甲板作業員が誘導棒を振り下ろす。出撃の合図だ。
「東雲那琴! アークレイズ・ディナ、参ります!」
叫んだ決まり文句と共に電磁加速射出装置に乗った機体が前方向へ突き飛ばされた。全身に強烈な加重が加わる。肺が圧迫される。那琴はこの感覚が嫌いではなかった。重力加速度の苦痛がもたらす緊張感は思考を切り替えてくれるからだ。
大鳳の飛行甲板が一瞬で通り過ぎ、真っ暗な空と海の狭間に放り出された。遠方の大津貿易港で閃く光は、きっと猟兵達とテロリストの戦闘が発している光なのだろう。埠頭に横付けされた潜水空母の側では水柱が立ち昇っている。
『――全機散りな!』
刃物のような伊尾奈の声を受けた身体が機体を横方向へ突き飛ばしていた。ほんの一瞬遅れて弾道予測システムがメインモニター上に赤い効果範囲を表示させる。そして灼熱の奔流が真正面から突っ込んできた。
「荷電粒子……!」
ガガンボの装備ではない。潜水空母かキラー・イェーガーが出所だろう。機体が自動展開したEMフィールドが飛散粒子を浴びて青白く明滅する。味方は無事? 那琴の眼がサブウィンドウに走る。白羽井小隊と灰狼中隊の隊員が並ぶ一覧の項目の色は全て緑だった。
『狼のエンブレム……ってこたぁ、灰色狼の尼崎伊尾奈か?』
全周波数帯域に割り込んできた男の声音。那琴は機体を左右に振りながらレーダーに灯る赤い光点の方角を見る。砂漠色のキャバリアがスラスターを焚いて真っ黒な海面を驀進していた。後ろをガガンボの集団が追従している。
『だったらなんだって?』
伊尾奈が探るように問う。後続の隊員達も含め、誰もが敵に火器を向けて間合いを開けたまま回避運動を取っていた。
『いやな、お前の部下には世話になったからな……礼を言っておくのが筋ってもんだろ?』
『後にしてくれるかい? アタシはアンタの取り巻きを殺すので忙しくってね』
『まあまあ聞けよ。お前の事は散々聞かせてもらったんだがな』
『あ?』
音域が下がった伊尾奈の声に、那琴は臓腑に底冷えを覚えた。
『伊尾奈中尉が必ず助けに来てくれるーとか尼崎隊長が来てお前らなんて皆殺しだーとかなんとか……ったく、うるせえったらなかったぜ』
『そうかい、それは世話になったね。で? ウチの連中を引き取るにはどこに行けばいいって?』
『お陰でぶっ壊し甲斐はあったがな。にしたって一体どんな鍛え方してたんだ? 並の奴なら三本でイカレる薬に十本は耐えやがったぞ? 結局最後は脳味噌が蕩けちまったが――』
『ウチの連中をどこにやったかって聞いてるんだよ』
『あ? 知らねえな? 今頃豚の餌にでもなってんじゃねえの?』
「何を……!」
双眸を見開いた那琴の髪が騒めき立ち、両肩が浮き上がる。
『聞こえなかったのか? 使い物にならなくなっちまったからミンチマシーンに叩き込んだって言ったんだが?』
嘲笑混じりの男の声音に那琴の戦慄く指先が勝手に動き出す。駄目だ、奴等を撃つのは自分達の役割ではない。これは猟兵達の役割。首筋に鈍痛が走った。イェーガー・デストロイヤー・システムを起動仕掛けた激昂が、戦術薬剤によって急速に冷めてゆく。
『ゴリゴリベキベキすげえ音立てながら機械に呑まれる瞬間は見ものだったぜ? 人間ってすげえよなぁ……胸までぶっ潰されてもまだ生きてやがんの』
『おじさんさぁ、さっきからべらべらぐちゃぐちゃうっさい――』
「フェザー02! およしなさい!」
食って掛かろうと前に進み出た栞菜機を那琴が寸前で留める。
『しっかしな……あんだけ殴っても犯してもイキり散らかしてたガキでも命だけは惜しいもんなんだな。いよいよ処分されるって直前になってからギャン喚きし始めてよ。いやー助けてー伊尾奈おねーちゃーん、わたしまだ死にたくないよー。残念ながら隊長さんは助けに来てくれなかったみたいだな? やれやれ、酷い隊長さんだぜ……』
『お前らぁっ!』
灰狼中隊のイカルガ達が攻撃の兆しを見せるも、伊尾奈機のブレイクドライバーがそれらを制した。その挙動に那琴は強烈な怖気を感じた。
「フェザー01より大鳳へ、作戦内容の変更を具申させて頂きたいのですが」
震える声帯を抑え、半ば縋るようにして結城へと呼び掛ける。わたくしにはもう抑えようがありません。栞菜達も、尼崎中尉も、自分自身も。ですからお母様、どうか――。
『大鳳よりフェザー01へ、作戦内容の変更は認められません。白羽井小隊並びに灰狼中隊はガガンボの対処に当たってください。キラー・イェーガーは猟兵の皆様が対処を担当します』
聞き飽きた嫋やかな口調は、一抹の望みを柔らかく退けてくれた。心臓に空いた暗く冷たい失望の後に安堵の暖流が流れ込む。これで良かったのかも知れない。でなければ自分は獣になってしまうから。
「フェザー01より白羽井小隊全機へ、聞いておりましたわね? わたくし達はわたくし達の役目を果たしますわよ」
『えー? あたしあのおっさん殺したいんだけど? つーかナコは悔しくないの?』
栞菜の非難を無視して機体を翻そうとした矢先に男の声音が割り込んできた。
『おいおい、これだけ言われてやり返す度胸もねえのか? だから日乃和の女は股を開くしか能が無いザコメスってんだよ。ゴミどもが、死に腐れ』
キラー・イェーガーが腕部に備えた砲より荷電粒子の光芒を伸ばす。それを切掛に白羽井小隊と灰狼中隊の各機は散開して急速に遠ざかる。
『悪いけどアンタの相手はアタシらじゃなくて猟兵連中って決まってるんでね』
後退する伊尾奈機から聞こえた通信音声。那琴はそこに微かな震えを聞き取っていた。これは殺気? 違う……恐怖? あの尼崎中尉が何を恐れるというのだ? 考えを巡らせる間も無くガガンボの集団が火線を降らせる。否応無しに応射を強いられた。
●傷跡
男の声が耳元で聞こえる。
『おいおい、これだけ言われてやり返す度胸もねえのか? だから日乃和の女は股を開くしか能が無いザコメスってんだよ。ゴミどもが、死に腐れ』
荒んだ灰色の髪の奥で、赤い瞳が戦慄く。目はどこも見ていなかった。
僅かに開いた便所の扉からこちらを見詰める下衆めいた眼差し。喉奥から金属を切るような短い悲鳴が飛び出す。扉が勢いよく開け放たれた途端、複数の男子が中に押し入った。伸ばされる幾つもの腕が、灰色の髪を、制服の胸元を、スカートを掴み、そして力任せに剥ぎ取る。無我夢中で助けと許しを乞うも、奴等はますます口角を喜色に吊り上げるばかりで聞き届けなどしない。下着に手を掛けられてずり下ろされる。脚の間を割って入られた。胎内に異物が侵入する不快感の後を、内臓が引き裂かれる激痛が追う。
これは誰の記憶? 知っている。アタシの記憶だ。身体中に刻み込まれた傷跡が蛆虫のように蠢き出す。
衣服を下着まで剥ぎ取られ、全身を得体の知れない体液塗れにされ、胎内に劣情を溢れるまで注ぎ込まれ、光が失せた瞳で天井を見上げ、便所に転がるこの少女は誰だ? 知っている。尼崎伊尾奈だ。
男の声が遠退く中で、自分の姿に隊員達の姿が重なった。奴等に攫われた隊員達の姿が。
臓腑の底で赤黒い泥が滲み出す。染み出した泥は神経を通って身体中に拡がり、やがて頭の中を染め上げた。だが首筋に突き刺さった鈍痛が意識を急速に無色透明へと巻き戻す。
奴等を殺すのは自分達の役割では無く、猟兵達の役割だ。違う。アタシだ。心と頭が相反するも、戦術薬剤の効能は感情に依った判断を強く圧した。
『悪いけどアンタの相手はアタシらじゃなくて猟兵連中って決まってるんでね』
殺意と恐怖で縮こまっている脳の代わりに、四肢が勝手に機体を突き動かす。傍を抜けていった荷電粒子を横目に、隊員達を引き連れてガガンボの集団へと向かう。どうしたって猟兵達が煮るなり焼くなりするだろう。どの道死ぬなら手を下すまでもない。冷め切った思考で自らに説く。だが傷跡の蠢きは収まらない。
●任務内容更新
『こちらは第六独立機動艦隊の旗艦、大鳳を預からせて頂いております、葵結城です。猟兵の皆様……此度の作戦へのご協力、誠にありがとうございます』
通信能力を有し、なおかつ回線を開いていた猟兵達の元へ粘着質な声音が届く。続くのは作戦第二段階の内容だった。
グリモアベースで受けた依頼の説明通り、キラー・イェーガーと潜水空母の撃破が作戦第二段階での猟兵の役回りとなる。
キラー・イェーガーは強力な火砲を備えており、特殊な機能によって機体性能を向上させる事が可能であるらしい。先に撃破したサイクロプスを越える脅威である事を疑う余地は無い。
潜水空母は三笠の砲撃を受けて航行機能を損傷しているが、戦闘能力は依然として健在だ。各砲は既に稼働状態にある。この世界に於ける兵器の主役はキャバリアとは言えども、巨大な船体に見合った堅牢な装甲と火力は単純であるが故に侮り難い。
キラー・イェーガーと潜水空母の二つを同時に相手取るか、片側一方に専念するか、戦術判断は各猟兵に委ねられている。当然ながら前者を選べばより苛烈な攻撃に曝される事は必須だろう。潜水空母の処理を作戦第三段階に見送るというのも選択肢の一つではある。
なお、潜水空母より出撃した多数のガガンボは白羽井小隊と灰狼中隊が対処に当たる。キラー・イェーガー並びに潜水空母と交戦する猟兵達の手を煩わせる事は無いだろう。そして大鳳と三笠を始めとする第六独立機動艦隊に要請すれば様々な支援を受けられる筈だ。
『本作戦の発動直前に、バーラント機械教皇より作戦行動に対しての声明がありましたので、猟兵の皆様にもお伝えしておきます』
曰く、大津貿易港に錨泊中の潜水空母艦への攻撃を即刻中止するよう要求してきたらしい。要求を受け入れなかった場合は報復も辞さないという文言も添えて。
『既に我が国の政府はこの要求に対する拒否を表明しています。よって、作戦内容に変更は発生しません』
猟兵達の戦いを妨げるものは存在しない。倒すべき敵を倒せば作戦第二段階の目標は達成されるだろう。
●猟兵殺し
猟兵――その名を聞いた途端、リーダー格の男は我が身の奥底に溶岩の如き煮え滾りを覚えた。
そうだ、奴等が手持ちのサイクロプスを根こそぎ壊し尽くしてくれたのだ。
「やれやれ、荒らした分の落とし前は付けて貰わねえとな……」
戦争屋に舐めた真似をするとどうなるか、教訓を与えてやらなければなるまい。コンソールパネルの盤面にREAPER ALTER SYSTEMの横文字が浮かび上がる。
「クソイェーガーどもが! ぶっ殺してやる!」
バーニアノズルが噴射する炎を背負ったキラー・イェーガーが驀進し、潜水空母が砲塔の鎌首をもたげた。全ては猟兵を抹殺する為に。
ガイ・レックウ
【POW】で判定
『……やかましいぜ、ド三流のへぼ傭兵!』
愛機:コスモ・スターインパルスを駆り、挑発しながら一気に接近するぜ。
『お前らが犠牲にした者たちの無念……その身であがなえ』
ブレードでの【鎧砕き】と【なぎ払い】、電磁機関砲での【制圧射撃】を潜水空母とキラーイェーガーに叩き込んでいくぜ。
相手の攻撃は【見切り】と【フェイント】を織り交ぜた【操縦】で避けたり、【武器受け】で対処する。
『さあ、焼き尽くすぜ!!』
ユーベルコード【獄・紅蓮開放『ヴリトラ・ファンタズム』】を相手の潜水空母の砲台とキラー・イェーガーを狙って発動、焼き尽くしてやる!!
●焼却
「……ガタガタ喧しいぜ、ド三流のヘボ傭兵が!」
ガイ・レックウ(
明日切り開く
流浪人・f01997)の怒気が籠もった推進噴射を炸裂させてコスモ・スターインパルスが猪突する。湾内を突き進めば、黒い海面が恐れをなしたかの如く左右に道を開けた。
『おおっと! 日乃和のザコメスよりかはマシかぁ?』
急速接近する機体を見留たキラー・イェーガーも直進する。コスモ・スターインパルスが特式機甲斬艦刀・烈火を縦に振り下ろす。加速が相乗した刃は鋭く、そして重い。対するキラー・イェーガーは格闘兵装としての機能を有する左腕で刃を真っ向から受け止める。両機の間に重い金属音が弾け、火花が暗い海上に明滅する。
「そのまま受けてろよ! 斬り砕いてやる!」
ガイは烈火の刃を食い込ませんと加速装置の出力を更に引き上げる。コスモ・スターインパルスが背負うドラゴン・ウイング・スペリオールが翼状の噴射炎を膨張させ、海面を戦慄させた。
『悪いがチャンバラに付き合うほど暇じゃねぇんでな!』
押し込まれたキラー・イェーガーの右腕が持ち上がる。備わる大口径砲の中から溢れ出る発光を見た瞬間、ガイは舌打ちと共に機体を退かせた。一秒以下の間を置いて放出された荷電粒子が横方向に瞬間加速したコスモ・スターインパルスの側面を掠めた。灼熱が装甲表面を炙る。
「どうした? 掠っただけだぜ?」
バスターライフルの二射目が続く。ガイは銃口が発する光を見切ってコスモ・スターインパルスを逆方向に加速させた。光芒が虚空を過ぎ去る。キラー・イェーガーを中心軸として試製電磁機関砲1型・改を撃ち散らしながら旋回機動を取る。敵機は近接戦闘に付き合うつもりは無いとの宣言通りに相対距離を開けて出力を絞った大口径砲の応射を繰り返す。そこで誘導弾照準警報がガイの耳朶を打つ。
「潜水空母からのミサイルか……!」
幾つもの対キャバリアミサイルが白煙を連れて向かい来る。ガイの視線がそれらに重ね合わせられると火器管制機能が誘導弾に照準を合わせた。後退推進加速を掛けながらコスモ・スターインパルスは試製電磁機関砲1型を撃ち続ける。青白い電光の軌跡が走り、誘導弾が赤黒い爆炎を膨らませた。
『余所見たぁ余裕じゃねえか』
爆炎を裂いて荷電粒子の光線が突っ込んできた。コスモ・スターインパルスは後方と横咆哮への瞬間加速を繰り返して苦しくも躱す。
「ええい鬱陶しい!」
潜水空母から尚も続くミサイルの発射にガイは歯噛みする。同時に対処する他無いか――キラー・イェーガーに電磁加速弾体の牽制射を浴びせて弾倉を排出する。機体を反転させるのと並行して再装填操作を行い、新たな弾倉を試製電磁機関砲1型のマガジンハウジングに叩き込んだ。向かう先は潜水空母。誘導弾を躱し、撃ち落とし、切り払い、中距離の間合いまで接近する。
「近場で見るとデカいな……」
これなら目を瞑ってでも当てられそうだ。コスモ・スターインパルスが駆け抜けながら試製電磁機関砲1型をフルオートで放つ。
「抜けねえか!」
電磁加速された弾体とは言えやはり巨大な船体の装甲厚を貫徹するのは生半にいかないらしい。殺気が後方で膨らんだ。ガイが操縦桿を横へ倒す。機体が縦軸に回転したのと荷電粒子が側近を過ぎ去ったのはほぼ同時だった。
『無駄だ侍野郎。そんな豆鉄砲じゃあな!』
追い付いてきたキラー・イェーガーより撃ち込まれる荷電粒子。コスモ・スターインパルスは上下左右の瞬間加速で避け、機体の姿勢を反転させる。
「ああそうかい」
撃って駄目なら斬ってみな。斬って駄目なら焼き尽くす。ガイが食い縛った牙を剥く。コスモ・スターインパルスが試製電磁機関砲1型を兵装懸架装置に戻した。左右のマニピュレーターで特式機甲斬艦刀・烈火の柄を握る。
「我が刀に封じられし、獄炎竜の魂よ!! 荒ぶる紅蓮の炎となりて、すべてを灰燼と化せ!」
ガイの裂帛が刀に銘打たれた炎を呼び覚ます。鍔から生じた炎が蛇の如き螺旋で刀身に纏わり付く。キラー・イェーガーも潜水空母も獄・紅蓮開放の間合いだ。今なら焼き切れる。
『おうおう、火遊びなら他所でやれよ!』
キラー・イェーガーからは大口径の荷電粒子砲が。潜水空母からは対空機関砲と誘導弾が放たれる。弾体の軌道の先にいるコスモ・スターインパルスは後退加速を止め、海面のその場に静止した。終わりだ――テロリストのリーダー格はほくそ笑む。
「お前らが犠牲にした者たちの無念……その身で贖えッ!」
ガイの怒号と共に特式機甲斬艦刀・烈火が横一文字に薙ぎ払われた。刀身に纏わり付いていた蛇の如き火炎が何倍にも膨張し、更には無数に枝分かれして荒れ狂う大蛇と化す。大蛇は全方位に拡がり、対空機関砲の銃弾を、誘導弾をも飲み込む。そして船体に食らい付いた。
『こいつ、バスターライフルのビームを……!』
リーダー格の男の毒づきが荷電粒子諸共に炎の大蛇によって紅蓮へと変ずる。妖刀から湧き出る怨嗟の炎は止まらず、渦となってキラー・イェーガー本体をも火炎で覆い隠した。
「燃え尽きろよ……!」
黒い海面が燃え盛る紅蓮を照り返す。睥睨するガイの双眸は、滾る怒りの色で染まっていた。
大成功
🔵🔵🔵
フレスベルク・メリアグレース
下種が……こちらこそ、生命体の埒外を侮るなら相応の報いを受けてもらいましょう
教皇用帰天召喚器を使い未来属性と過去属性を操作
REAPER ALTER SYSTEMの発動する時間を破却し、そのまま時を加速
猛烈なスピードに応じて装備を振るい、コピーするまでもなくオブリビオンマシンを殲滅します
加速した時の中ならば、潜水空母も狙えるでしょう
碎輝の力を宿すエネルギーと拡張機能が無限成長する超電磁砲で潜水空母を狙い、射出する
勿論キラー・イェーガーの方も忘れません
貴方には無間地獄に行ってもらいます
ヴォーパルソードを振るい、致命部に突き刺して冷たくそういう
●氷結の剣
埠頭に立つフレスベルクの瞳に熱は無い。宿るのはただ寒々とした緑の光彩だけだ。
「こちらこそ、生命体の埒外を侮るならば、相応の報いを受けてもらいましょう」
唇から滲み出たのは至極淡々とした声音。それが合図となったのだろうか、フレスベルクの背後の虚空に光の円陣が生じた。それを転移門として神騎ノインツェーンが降臨する。
フレスベルクの細身が浮き上がり、開かれたノインツェーンの胸部装甲へと吸い込まれた。玉座に就いたフレスベルクが肺の酸素を吐き出すと、胸部装甲がゆっくりと閉ざされる。外界から遮断された空間に少女の呼吸の音が充満する。
「我が信仰はこの蒼穹の下にて無辜に生きる民の為、故に我が信仰よ重力を支配して時を加速させよ。その果てに運命を変えるのだ――」
嫋やかに、だが冷徹に祝詞を唄う。一瞬が何倍にも伸ばされた時の中、フレスベルクは右手を前へと上げた。合わせてノインツェーンの右腕部も持ち上がる。そして正面に生じた光の円陣に押し込む。引き出した右腕には、籠手と長銃身の砲を組み合わせた神器が装着されていた。
雷神の力を宿した電磁加速投射砲――サイキ・アンリミテッドレールガン。銃口が向けられた先にあるのは潜水空母。フレスベルクが右腕に力を込めると銃身が黄金の稲光を纏い始めた。莫大な電力の反応に気付いたのだろうか、敵艦が幾つものミサイルを解き放った。引き伸ばされた時間の中で緩やかに迫る誘導弾の集団に構わず、フレスベルクは敵艦本体のみを見据えている。
「汝らに雷光の裁きを」
サイキ・アンリミテッドレールガンの銃口より電撃が迸った。直後に潜水空母の側面で黄金の炸裂光が爆ぜる。巨大な船体が僅かにだが傾いた。フレスベルクは着弾の効果を見届けるまでもなく次なる手を下す。サイキ・アンリミテッドレールガンを光輪の中に戻す。光輪が消えると新たな光輪が左右に生じた。ノインツェーンの腕部がそれぞれに入り込むと、白と黒の銃を引き抜いた。
未来と過去を手繰る教皇用帰天召喚器を構えたノインツェーン。マズルフラッシュと共に放たれた光弾が誘導弾を次々に射抜く。視界一面が爆煙で埋め尽くされた。
『これはこれは、メリアグレースのガキ教祖様』
ノインツェーンが軽やかな足取りで後方に飛ぶ。爆煙を裂いて到達した荷電粒子がアスファルトの地面に突き刺さって火柱を昇らせた。
「貴方には無間地獄に行ってもらいます」
海上を爆進するキラー・イェーガー。フレスベルクの冷ややかな声音を受けたノインツェーンが白と黒の双銃を撃ち続ける。
『機械神だか巨神だか知らねぇが! ガキが大人に勝てる訳ねぇだろ!』
オブリビオンマシン化の恩恵が妙なシステムを強化しているのだろうか? 帰天とユーベルコードを併せても尚速力は衰えない。されどフレスベルクは焦るでも無く敵機を正中に見据えている。相対距離が縮まる最中でノインツェーンが双銃を手放した。
「オブリビオンマシンに毒されているにしても……」
下品が過ぎるのではないか? フレスベルクが目元を歪める。遂に間合いが詰まった刹那、ノインツェーンが光輪より麗しき空色の刃を抜刀した。キラー・イェーガーの左腕とヴォーパルソード・ブルースカイが切り結ぶ。甲高い金属音と重い金属音が響き、激しい火花が湾内を照らす。
『間抜けが!』
キラー・イェーガーは切り返された反動で右腕が携えるバスターライフルの砲門を向けた。この距離で撃たれたならば幾ら機械神と言えど致命傷は免れまい。砲身内部の殺意が荷電粒子となって放出され、ノインツェーンを飲み込んだ。
「生憎ですが」
フレスベルクはリーダー格が息を詰めた事を察したのであろうか。ノインツェーンがヴォーパルソード・ブルースカイを真正面に突き付けた。その切先は荷電粒子の奔流を引き裂き、壁にかけられた水の如きに四散させる。
『どうなって――』
驚愕を漏らす男に構わず、ノインツェーンはバスターライフルの照射終了を待って一足踏み込んだ。
「下種が……」
フレスベルクの重く冷淡な呟き。ノインツェーンが薙いだ青い刃が閃くと、砂漠色の断片が宙に踊った。
大成功
🔵🔵🔵
天城・千歳
【SPD】
絡み・アドリブ歓迎
「ここまで下衆な相手だと過剰戦力で揉み潰しても全然気になりませんね」
港湾周辺を囲う様にサテライトドローン群を展開、通信・観測網を構築
艦隊との間にデータリンクを設定し、観測網と艦隊、キャバリア隊のレーダー及び各種観測機器を使い【偵察】【索敵】【情報収集】を行う。
収集した情報を元に【戦闘知識】【情報検索】【瞬間思考力】で分析し最適の迎撃パターンを選択しデータリンクを介して艦隊へ【情報伝達】し敵無人機を効果的に処理
艦隊上空で直掩する傍らで艦隊と観測網の演算能力を使いUCを発動し敵母艦へ【ハッキング】【データ攻撃】を行い電子的に制圧
敵機の攻撃は【対空戦闘】【自動射撃】で対応
●対艦電子戦闘
大津貿易港を遠方に望む海上。ホバークラフトによって浮遊する愛鷹の艦橋の中で、天城・千歳(自立型コアユニット・f06941)の電子頭脳は契約内容を再度確認していた。
確保した敵の身柄は依頼主に引き渡すように。そう記述はあるものの、殺してはならない、生捕りにしろとは記述されていない。
『ここまで下衆な相手だと、過剰戦力で揉み潰しても全然気になりませんね』
ウォーマシン型の義体が発した電子音声が人気の無い艦橋に降りる。実際跡形もなく消し去ってしまっても契約違反になるでもあるまい。どうしてくれようか……シミュレーションを繰り返している内に、湾内で光線が飛び交い火球が明滅し始めた。大津貿易港全域に展開したドローンから送られてきた映像では、キラー・イェーガーと猟兵達が交戦している。
『対キラー・イェーガー戦の戦力は十分を遥かに通り越して過剰ですし、此方は敵艦に絞った戦術を取りましょうか』
それも物理の殴り合いよりも電子の殴り合い方面で。こちらが手を出すよりも先に向こうがロックオンしてきてくれた。敵艦の単装砲が放った弾体が瑞鳳の傍に着弾し、盛大な水柱を立ち昇らせた。
『乱数回避始め』
指令を受け付けた愛鷹が艦首を横へと傾ける。だが単装砲は良しとしても、今しがた接近しつつあるミサイルは迎撃せねばなるまい。愛鷹の船体各所に備わる垂直発射システムがハッチを開く。次いで誘導弾が白煙の尻尾を引いて解き放たれた。それらは海上を突き進むと、敵艦が放った誘導弾と正面衝突して爆散した。
こちらは最早放置で問題ないだろう。千歳はラプラス・プログラムを回す。それは望んだ事象への道筋を手繰る電脳。代価となる情報は作戦領域全体に散ったドローン達によって十全に蓄積されている。
『先ほどの攻撃で敵艦の火器管制能力も大凡は掴めましたので……』
これを元に迎撃手順を構築するべく千歳の電脳が高速で巡る。海上で轟く誘導弾の爆音も、愛鷹の近辺に着弾する砲撃も、純然たる機械の千歳の思考を乱すには及ばない。
『……完了』
迎撃手順の構築は難なく終わった。第六独立機動艦隊の戦術データリンクを経由して三笠へと送り付ける。政治的な都合で防空に専念せざるを得ない泉子艦長達の溜飲も多少は下がるかも知れない。
『ついでに電子妨害も掛けておきましょうか』
誘導弾を迎撃している時点でそうそう無いだろうが、傍観してるだけと思われるのも感情論を抜きにして都合がよろしく無い。万が一にでも報酬減額などあってはならないからだ。迎撃にミサイルを散々使っているのだから報酬はしっかり貰わなければ。展開済みのドローンが構築したネットワークを経由して敵艦への電子介入を試みる。
保護は柔では無いが……電脳魔術師ならば突破出来ない程ではない。攻勢防壁を掻い潜って艦内の機能を司る制御装置の一端に潜り込む。まずは触りからと消火装置を暴走させてみた。損傷を受けた艦尾部分では停止させ、その他の区画では出鱈目に。早速傍受した艦内通信を聞く限りでは混乱が拡がっているらしい。
『排水機能も停止させておきますか』
より致命的な妨害を与えてもよいのだが――自分は兎も角、他の猟兵が相当殺気立っているようだから、多少忖度しても任務に支障はあるまい。むしろあまりにも簡単に終わらせたら予期せぬ所から要らぬ恨みを買ってしまいそうだ。千歳は機械的に、されども着実に潜水空母を追い詰める。真綿で首を絞めるかの如く。
大成功
🔵🔵🔵
杓原・潤
やだなぁ、戦争とかテロって……嫌な感じしかしないんだもん。
もうここで止めるよ、テルビューチェ!
今回も深海からから攻めよう。
まずはテルビューチェの【怪力】と【重量攻撃】であの大きな船を揺さぶろう。
潜水空母って言うからには簡単には動かせないだろうけど……沈められちゃうかも、って思わせたいな。
乗ってる人がパニック起こしてくれたり、敵のキャバリアを海に誘い込んだりできるかも。
そしたら後はユーべルコードの【召喚術】で攻撃だ!
潜水空母を背にして戦えばビームもそうそう撃てないはず。
今度の相手は本物のサメだよ!ノコギリ生えてるけど!
出来そうだったら【降霊】して、死んじゃった人の恨み言も聞かせてやるんだから!
●
殺滅、猛襲
暗い海面に緋色が弾ける。猟兵達とキラー・イェーガー、そして潜水空母の交戦が生じさせた緋色だ。
「やだなぁ……」
海底から海面を見上げるテルビューチェ。その操縦席で潤の瞳も同じ海面を見上げていた。紫の瞳に憂鬱が揺らめく。
初動からして良い気分では無い仕事ではあったが、全周波数帯域で聞かされた男の声に気分はますます暗い海に沈みつつあった。だが倦怠的になってばかりもいられない。
「もうここで止めるよ、テルビューチェ!」
それは半ば自分に浴びせた発破だったが、鮫魚人型の乗機は動力炉の唸りで応えてくれた。機種的にはテルビューチェも敵機と同じオブリビオンマシンではあるのだが、だからと言って仲良し子良しするつもりは無いらしい。
太く強靭なアンダーフレームが海底を蹴り、テールフィンが海水を打つ。急激に上昇したテルビューチェが向かう先は潜水空母の腹。恐らく敵艦はソナーなり何なりでテルビューチェの接近に気付いてはいるのだろう。だが何が出来る訳でも無かった。魚雷を撃ち込もうにも既に距離が詰まり過ぎている。敵艦の都合を知ってか知らずか、潤は真っ直ぐに乗機を突き進ませる。
「よいしょ!」
潜水空母の艦底部目掛けて加速を乗せたヌイ・ロア・レイ・オ・マノを振り降ろす。刀身の重量とテルビューチェの尋常ならざる膂力も相まって叩き込まれた一撃は、水中に重い衝撃音を轟かせるに留まらず、僅かながらにでも船体を揺さぶった。
「もう一回!」
返す刃で切り上げる。刀身に並んだ鮫牙が鋼鉄の装甲を抉り込んだ。更にもう一回――と振り被った瞬間、背後に猛烈な殺気を感じ取った。
『こんの鮫野郎! 何してやがる!』
キラー・イェーガーが格闘用兵装として機能する腕部で掴みかかった。
「うひゃあ!?」
テルビューチェが機体を翻す。すぐ側面をキラー・イェーガーが擦り抜ける。すかさず尾鰭を打って後退加速する。
「こっちこっち!」
潜水空母を背にヌイ・ロア・レイ・オ・マノを構えるテルビューチェ。対するキラー・イェーガーは攻めあぐねているのか、間合いを保ったまま睨め付けている。水中なので荷電粒子兵器が殆ど使い物にならないというのもあるだろうが、テルビューチェを迂闊に攻撃すれば潜水空母にも被害が及びかねない。
『ガキが……調子付きやがって……!』
「ガキじゃなくてうるうだよ!」
『うるせえサメガキ!』
「サメじゃなくてテルビューチェだよ!」
デス・フィンガーで掴み掛からんと接近するキラー・イェーガー。されどテルビューチェはその場を動かない。双方の相対距離が詰まった刹那、キラー・イェーガーがテルビューチェの目の前から消えた。
『うおおおッ!? なんだこいつ……鮫かぁ!?』
キラー・イェーガーの横腹に全長5メートル程度のホオジロザメが噛み付いて海中を引き摺り回す。キラー・イェーガーはバスターライフルの砲門をホオジロザメに押し当てて荷電粒子を放った。身体に大穴を開けられたホオジロザメが骸と化して力なく漂う。
「ひどい!」
『ざまあねえぜ!』
リーダー格の男の嘲笑と共にキラー・イェーガーが海中を脱する。これで鮫も襲ってはこれまい。空を飛べるでもなければ――。
『なんだとォッ!?』
先ほど確かに撃ち抜いた筈のホオジロザメが盛大に飛び跳ねて追いかけてきた。否、跳ねているのではなく飛翔しているのだ。しかも胴体に襟巻きのような回転鋸を生やして。
「死んじゃったサメの恨み! 思い知らせてやるんだから!」
海面に上がったテルビューチェがヌイ・ロア・レイ・オ・マノを掲げる。すると周囲の海が騒めき出した。そしてリーダー格の男は見た。無数のサメが、鋸状の襟巻きを備えたサメ達が、ミサイルの如く次々に突っ込んでくる光景を。苦し紛れにバスターライフルで迎撃するも、一匹を相手している間に二匹三匹が殺到し、牙と鋸で装甲を抉る。
『ファック! あのサメガキ、何しやがって……』
一際巨大な水柱が立ち昇る。敵機のみならずテルビューチェまでもが振り返った。
「えっ……あれって……」
覆い被さった巨大な影に、シャーク・トルネードを放った潤本人の顔が青褪める。
体長18メートル。体重48トン。それは、最強最大の鮫――メガロドンであった。
「ひえええっ!?」
潤は本能的にテルビューチェを走らせていた。大顎を開けて敵に飛び込んだメガロドンが着水し、海面を盛大に炸裂させる。やっとの思いで潤が振り返ると、白く泡立つ海を裂いてメガロドンの巨体が再度飛翔した。
大成功
🔵🔵🔵
アルバート・マクスウェル
おいおい、重役出勤か、嬢ちゃん達。もうおじさん達はおっぱじめているぞ~。
ところで結城大佐と泉子大佐、カメリアで起きた事件の事は知ってるか?
…やっぱ知らんか。
秘匿通信にて2人にカメリア同時多発テロの事、拓也が核攻撃に巻き込まれた事を話す。
ま、嬢ちゃん達には伏せておいた方がいいとは思うが…。
でも言われて嬢ちゃん達が暴走し始めたら、拓也は生き残った事、日乃和に書状を届けたのも彼だという事を伝えて、何とか止めようとする。
自分は前回と同じようにブラボーチームを率いて、潜水空母内部へと侵入。侵入にしたら二手に分かれて貨物リスト及び海図、それらの関連物の奪取を狙う。アルファチームはマイティ・スナイパーⅡは引き続きブラボーチームの援護だが、嬢ちゃん達が暴走した時は何とか止めてくれ。艦内の敵はナイフやアサルトライフル、グレネードで片付けていく。鍵付きの扉はC6爆弾でふっ飛ばす。
目的の物を探しつつ指令室を目指し、可能であれば艦長を生け捕りにする。後は余裕があれば日乃和軍の捕虜を探そう。
アドリブ・連携可。
●黒豹侵入
三笠が発射したメガビーム砲はテロリストの保有する潜水空母の艦尾に命中。ウェルドックの隔壁を貫いて推進力を司る幾らかの機能を破壊した。これはアルバートにとって非常に僥倖と言えた。船足が著しく鈍ってくれたお陰で、破孔から艦内へと難なく侵入する事に成功したからだ。ついでに体力も装備も温存出来た。
しかし悠長にもしていられない。既に潜水空母に対する猟兵の攻撃は始まっている。錯綜する無線で聞いた情報が正しいのであれば、155mmクラスター焼夷弾を叩き込もうとしている者と艦艇の重力波砲の照射を狙っている者がいるらしい。恐らく攻撃手段をユーベルコード化しているのだろうから、一撃必殺の威力であっても何らおかしくはない。つまりは手早く切り上げなければ潜水空母ごと心中しかねないのだ。
せめて大鳳と三笠にだけは一言断りを入れておくか――アルバートはブラボーチームに周囲の警戒を命じるハンドサインを送ると、身を屈めて耳元に指を当てがった。所属とコールサインを述べると返って来たのは甘く嫋やかな女性の声音。それから明朗な女性の声音が続く。潜水空母に侵入した旨を伝えた後に、ふとアルバートは思い出した。そう言えば彼女達は例の件を耳に入れているのだろうか?
「ところで結城大佐と泉子大佐、カメリアで起きた事件の事は知ってるか?」
『カメリアでの事件……でありますか?』
泉子が尋ねる。無言の結城も恐らくは知らないのだろう。無理もない。広域通信網が喪失して久しいこの世界では、他所の大陸の情報を得る手段は限られている。
「実はな――」
アルバートはカメリアで発生した同時多発テロのあらましを伝えた。そして防人拓也が核攻撃に巻き込まれた事も。
『そうでありましたか……カメリアではそのような……』
「連中の要求も案外ハッタリじゃ済まされないかも知れんな」
『しかし、そうなると先日の報道にあった防人少佐は別人だったのですか?』
「先日の報道?」
アルバートの眉宇が怪訝に傾く。
『ええ、作戦開始前日に防人拓也を名乗る男性が香龍警察署に連行されたと……』
「なんだとぅ?」
あいつ今度は一体何をやらかした? 警察の世話? 視線を左右に走らせて記憶を辿る。心当たりはないだろうか。そう言えば日乃和に向かう際には変装が云々と言っていたような――。
「あー、その、なんだ……取り敢えず拓也は無事だ。気にしないでくれ」
これ以上話していると余計な方向に飛躍しそうだ。だからもう聞かないでくれと言葉尻に願を懸けた。
『そ、そうでありますか……』
泉子は気配を察してくれたらしい。
「この件は今の所内密に頼む。作戦中に余計な混乱を起こしたくないんでな。特に嬢ちゃん達にはな」
アルバートとしては拓也の生死が那琴達にとって負の影響を及ぼすのではないかとの懸念があった。だが作戦開始の前日に防人拓也その人が日乃和国内に出没したという報道が広まっているらしい。ならば核攻撃の件を伝えたとしても暴走を招く様な事は無いだろうが……集中力を散漫させる原因を進んで作る理由は無い。
『了解致しました』
それまで黙って聞いていた結城が突然割って入った。
「以上だ。そいじゃ、おじさんは状況を開始する」
それを言い終えるのと同時に通信を絶った。急がねばなるまい。アルバートが潜水空母に侵入した目的は貨物リスト及び海図、それらの関連物の奪取である。もし船が跡形もなく吹き飛んでもしたらその時点で失敗だ。猟兵の攻勢が本格化する前に終わらせなければ。外で支援してくれているアルファチームも待ちくたびれてしまう。
「お前達は貨物倉庫へ向かえ。ブリッジはこっちで抑える」
黒豹を想起させる戦闘衣装の隊員が無言で頷く。アルバートが短銃身の突撃銃を構えて進むと、隊員達が影のように後に続いた。
鋼鉄製の床を踏み締めて進む。通路を塞ぐ扉のノブに手を伸ばし、慎重に捻る。
「ドアロックは……開いてるな」
潜水空母に対して電子攻撃を行った猟兵が気を利かせてくれたらしい。C6爆弾を万能鍵として使わずに済んだ。アルバートは扉を僅かに開き、隙間から様子を伺う。
「五人……いや七人か?」
船員の姿を視認した。消火装置が云々と言い合いになっているようだ。仕掛けるには絶好の好機であろう。手榴弾のピンを抜いて扉の隙間から転がす。すぐに扉を閉めると爆裂音が轟いた。
「行くぞ」
扉を勢いよく開いて隊員達と共に室内へ雪崩れ込む。消音装置を取り付けた突撃銃がマズルフラッシュを明滅させる。その度に悲鳴が上がり、敵兵が倒れた。
「クリア」
隊員達に向けて付いて来いのハンドサインを送ったアルバートを先頭に、一つの装置と化したブラボーチーム分隊が階段を駆け上がる。この先が艦橋に続いているようだ。道中偶然出会った敵兵の喉元にナイフを突き刺す。噴出した血液がアルバートの身に赤い染みを広げた。
「……あっ!? お前ら!?」
自動開閉式の扉から堂々と艦橋に入ったアルバート達は瞬く間に艦橋要員達を無力化してゆく。肩や手足を的確に撃ち抜き、喋れる身体を残したままで。
「この船のキャプテンは誰だ?」
銃口を押し当てて冷徹な声音で尋ねると、捕縛した艦橋要員達の視線がとある個人の一点に集約される。なるほど、こいつか――早速海図のデータを吐き出させようとした矢先、イヤホン型の通信装置から呼び出し音が鳴った。
隊長に直接確認して貰いたいものがあります。
別行動中だったブラボーチームの分隊からの通信を受けたアルバートが向かった先は、巨大な冷蔵室のような区画だった。吐く息が白い。
「これを」
隊員が降ろしたのはクーラーボックスだろうか? やけに重くて頑丈な作りの箱の中身を検めてくれと隊員が促す。箱の中には緩衝材が敷き詰められており、中央には大きなカプセル状の容器が収められていた。容器を満たすのは無色の液体。そして液体の中に赤黒い光沢を放つ肉塊が浮かんでいた。
「こいつは……臓器か?」
肝臓のように見える。
「こっちもです」
隊員が新たな箱を持ってきた。蓋を開ければやはり中身は同じ。こちらは腎臓らしい。綺麗に切り取られている。
「大きさからして大人のでは無さそうだが……」
アルバートが顎に手を当てがい、眉間に皺を寄せる。冷蔵室の奥から隊員が二人掛かりで縦長の箱を運んできた。かなりの重量があるようで、床に下ろすと鈍い衝撃音が室内に充満した。
「……まいったな」
中には人間の手足がぎっしりと詰め込まれていた。白い霜が凍み付いている様子には精肉店を彷彿とさせられる。凍結してはいるものの、肌の質感や爪の小綺麗さからして多くが十代半ばから後半の少女のものに見えなくもない。
「俺は捕虜を捜索しに来たのであって死体を回収しに来た訳ではないんだがな……」
臓器は兎も角、この裁断された人肉はなんだ? 変態にでも売り付けるつもりだったのか? アルバートはくぐもった唸りを押し殺す。隣の隊員が胸で十字を切っていた。
大成功
🔵🔵🔵
天城原・陽
【特務一課】
「最新の排泄物ってよく喋るのね」
知らなかったわ
どうでもいいけど
テロリストの罵詈雑言は意に介さず、斬って捨て
言葉を交わす必要も無い
「アスラ01より日乃和各機へ。業腹だろうけど任せて貰えるかしら。」
いつになく冷静に、そして冷徹に指示を下す
マダラ、キリジ。陣形アローヘッド。突っ込むから付いてきなさい
全兵装アクティブ、オーヴァドライブ
ブースト。
キラーが接近を試みようが関係ない
「ったく、身構えて損したわ。日乃和に仕掛けてくるからどんなヤバイ連中なのかと思ったらただの排泄物じゃない」
オラ、邪魔よ(ダメ押しとばかりに相手の土俵である接近戦。速度を乗せた蹴りでキラーを潜水空母の方へ吹っ飛ばしつつ)
斑星・夜
【特務一課】
※灰風号搭乗
ほんとよく喋るよねぇ
まぁでもね、懺悔くらいなら聞いてあげるよ
――何を言おうと直ぐに潰すけどさ
アローヘッド、オーケーギバちゃん!キリジちゃん!
交戦開始から、EPワイズマンズユニット『ねむいのちゃん』で情報収集、戦闘知識を蓄積します
得た情報はギバちゃんとキリジちゃんへ共有
『EPブースターユニット・リアンノン』で加速し急接近
『RXブリッツハンマー・ダグザ』で敵の武器ごと腕を部位破壊を狙う
「生身じゃないんだから腕くらい大した事ないでしょ。痛覚が連動していれば良かったのにね」
相手の動きを見つつ『グラウ・ブリッツ』で仲間の方へ敵機を殴り飛ばす
「ギバちゃんキリジちゃん、いったよ~!」
キリジ・グッドウィン
【特務一課】
キラー・イェーガーの搭乗者も運が無いな、猟兵達の恨みやフラストレーションを一気に請け負う形になったわけだ。
ちなみに俺はあちらさんへの当て擦りにはなるかもしれないし甚振る方に乗ったぜ
エメリィで。
オーケイ、ギバ。一番得意なヤツだ
バーニアを吹かしキラーを撃ち抜く楔となるべく
敵の猛攻を撃破された無人機やマダラが刈り取った敵機のパーツを盾にし、投擲も行い突き進む
「手前ェの拳で殴られる心地はどうだ」
捕虜の行く末に興味はないが、捕虜の拷問シーンを録画して送り付けるなんてよくある精神攻撃らしいぜ
お前さん達のご自慢の機体で再現してやろうか?
キャバリアなら股裂きくらい発禁にならねぇって
●特務一課清掃活動
海上では不利と判断したのであろうか、キラー・イェーガーがバスターライフルを乱射しながら港湾施設の内陸部へと下がる。地表を滑走して埠頭からコンテナの集積区画へ、更に倉庫街へと至った途端、進路上のアスファルトが続けて爆裂した。
『日乃和に飼われたゴミムシどもがァッ!』
急制動を掛けて後退推進加速するキラー・イェーガーに、倉庫建屋の屋根よりやや上の高度で滞空する赤雷号が二十二式複合狙撃砲の実体弾をセミオートで撃ち込む。
「へぇ、最新の排泄物ってよく喋るのね? 知らなかったわ」
精密機器の如くトリガーキーを引く天城原の顔付きに感情の色は浮かんでいない。赤雷号の左眼を介して捉えた敵機に照準を重ね、射撃の操作入力を繰り返す。大口径砲が炸薬を轟かせる度にコクピットが震撼した。
『……赤い修羅人ってこたぁ、お前ら極東の連中だな?』
探る問いを天城原は砲撃で返す。キラー・イェーガーが建屋を遮蔽物にバスターライフルで反撃するも、赤雷号は高機動推進ユニットから蒼炎を噴射して難なく躱して見せる。
「アスラ01より日乃和各機へ。業腹だろうけど任せて貰えるかしら」
『フェザー01よりアスラ01へ、そちらはお任せ致しますわ』
那琴の声音には抑圧された憤りが垣間見えた。伊尾奈は『了解』と短く答えるに留まったが、天城原には微かに掠れた声音の奥に震えが潜んでいるように思えた。これは怒りなのか? 恐怖なのか?
『極東の連中がなんでここに居る? 日乃和の犬ッコロに成り下がったか?』
「ほんとよく喋るよねぇ」
嘲笑混じりの男の問いに答えるつもりなど無いのは大通りで灰風号を驀進させる斑星にしても同様だった。或いは初めから人間の言葉として聞き取ってさえいないのかも知れない。
「懺悔くらいなら聞いてあげてもよかったんだけど……」
『あぁ? 地面に頭擦り付けて詫びんのはお前らの方だろうが!』
一瞬横切ったキラー・イェーガーが荷電粒子の光軸を走らせた。灰風号はアリアンロッドを正面で組み合わせて円形の盾を形成し角度を付けて構える。盾が受け止めた荷電粒子が斜め後方へと逸れて流れる。
「そっか、何を言おうと直ぐに潰すけどさ」
うんざりするほどに想定通りの反応をしてくれる。普段と変わらない穏やかな笑みが浮かぶ口元とは裏腹に、金色の眼は刃物の如く研ぎ澄まされていた。
「ま……奴も運が無いな、猟兵達の恨みやフラストレーションを一気に請け負う形になったわけだ」
灰風号を追走するエメリィの中で、キリジが呼吸
機関に溜まった空気を深く吐き出した。ついでに相手も悪かった。天城原は兎も角、斑星の地雷を踏み抜くとはな。向こうはそんな事を知る由もないだろうが――良くとも五体満足では済むまい。
「俺も当て擦りに乗るけどな」
甚振る正当な根拠付けは出来ている。斑星の降伏勧告を蹴り飛ばしたのは向こうなのだから。キリジが顎を引くと、エメリィも同調して頭部を俯瞰させる。デュアルアイセンサーの光が鈍く脈動した。
「で? ギバ、どうすんだ?」
「マダラ、キリジ。陣形アローヘッド。海側まで押し返す。突っ込むから付いてきなさい」
一段高度を落とした赤雷号がバーニアノズルを力強く焚いて灰風号とエメリィの前に出る。
「そりゃいい、一番得意な奴だ」
単純明快で大変結構。キリジが口の端を吊り上げる。アスファルト固めの路面を滑走するエメリィが機体の姿勢を傾斜させ、赤雷号の左舷後方へと就いた。
「オーケー、ギバちゃん! キリジちゃん!」
灰風号は赤雷号の右舷後方へと就いた。片腕ではブリッツハンマー・ダグザを担ぎ、もう一方の片腕ではペネトレーターを保持する。修羅人用の大型拳銃が連続して薬莢を排出すると、正面遠方でバスターライフルを構えたキラー・イェーガーが身動ぎして攻撃を中断し、回避運動を取った。そして特務一課全機のコクピット内で誘導弾の接近警報が鳴り響いた。
『敵艦よりミサイル来ます! 数は――』
「構うな! フォーメーション維持! 私が全部撃ち落とす!」
ねむいのちゃんの電子音声を天城原の裂帛が断ち切った。海側から昇った幾つもの光点が、白い尻尾を引いてこちらへと急速で到来しつつある。
「全兵装アクティブ、オーヴァドライブ……」
音声入力を受け付けた赤雷号が動力炉を唸らせ、高機動推進ユニットに懸架されたランチャーのハッチを全て開放した。その間に天城原の双眸の中では瞳が四方八方に動き回る。モニター上で捉えた全ての誘導弾に捕捉完了を示すマーカーが重なった。
「ブースト」
短く言い切るのと同時に赤雷号が突き飛ばされたかのように加速を得て、ランチャーユニットが夥しい白煙を吐き出した。開放された誘導弾が一斉に各々が目標とする敵艦の誘導弾へと向かい、近接信管を作動させて炸裂する。無数に撒き散らされた小型弾頭が火球を膨張させると、触れた誘導弾が赤黒い爆煙へと転じた。そこへ二十二式複合狙撃砲から伸びた加粒子の一線が横切り、天城原の前方の視界を爆発で埋め尽くす。
『な……っ!? デタラメが!』
気圧された様子を見せたキラー・イェーガーの隙を看過するでもなく、天城原は鋭い声音を飛ばす。
「マダラ! キリジ! 行きなさい!」
「了解ギバちゃん!」
「おうよ」
灰風号とエメリィが同時に再加速する。潜水空母の支援を受けるつもりなのか、海側に向かって後退加速を続けるキラー・イェーガーがバスターライフルで応射するも、二機は互いに軌道を交差させ、立ち位置を入れ替えて回避した。
『ブースターユニット・リアンノン、起動します!』
斑星が頼むまでもなく支援AIが動力機関に更なる力を与えた。灰風号の各部に備わる推進装置が青い噴射炎を爆発させる。ペネトレーターをアリアンロッド裏面の兵装懸架装置に戻し、ブリッツハンマー・ダグザの柄を左右のマニピュレーターで握り込む。
『バカが! 接近戦なんざ――』
「言ったよね? 潰すって」
リアンノンの瞬間加速を以て一瞬で相対距離を詰めた灰風号が戦鎚を振りかざす。あり得ない、まだ十分間合いが開いていた筈なのに……このスピード、こちらはREAPER ALTER SYSTEMを使っているんだぞ? キラー・イェーガーの搭乗者は息を詰めて目を剥いた。
バーニアの噴射と同時に振り下ろされた戦鎚。キラー・イェーガーは咄嗟に左腕の鉄拳を突き出す。激突する鋼と鋼が衝撃音を轟かせた。
『ぐおおぉッ!?』
二機が互いに弾かれ合う。だが超重量かつ高速の戦鎚を格闘兵装とは言えど腕部で打ち返したキラー・イェーガーには代償が伴った。腕部肘関節からスパークが散り、機能が停止したかのようにぶら下がる。
「腕くらい大した事ないでしょ」
斑星の瞳が獰猛染みた残光を描く。灰風号は跳ね返った反動を殺さず二撃目を構える。機体の姿勢を左周りに旋回させながら前進加速する。体勢を崩したキラー・イェーガーが辛うじてバスターライフルの砲門を向けるも僅かに灰風号の方が速い。
「痛覚が連動していれば良かったのに……ねっ!」
十分に遠心力を加えたグラウ・ブリッツが、キラー・イェーガーの横腹を捉えた。先程より一層重い衝撃音と共に青い稲光が炸裂する。打ち据えられた敵機は横方向へと吹き飛ばされる。もし斑星の言う通りに痛覚のフィードバックがあれば、全身の骨が砕ける感覚を味わえたであろう。
「キリジちゃん、いったよ~!」
「おう」
待ち構えていたエメリィがレフトフライかボレーよろしく紫電の剛爪で捕まえた。
『離しやがれッ!』
「まあ待ってろって」
胸部装甲に正拳突きを叩き込み、灰風号の鉄槌によって損傷した左腕にランブルビーストの爪を食い込ませる。肘関節を握り潰しながらスクィーズ・コルクの超接射を浴びせ、肘から下を文字通りに千切り落とす。しかしキラー・イェーガーは片腕を代償としてバスターライフルの砲門をエメリィに押し当てようとした。だがエメリィはそれを腕部で跳ね除ける。放射された荷電粒子があらぬ方向へと伸びた。
「手前ェの拳で殴られる心地はどうだ?」
先程千切ったキラー・イェーガーの腕部をエメリィが掴み、振り回し、叩きつける。頭部に、胴体に。
「捕虜の拷問シーンを録画して送り付けるなんてメンタル潰しの常套らしいぜ?」
尚もバスターライフルの接射を狙うキラー・イェーガーに対してキリジは機体を突っ込ませた。エメリィの頭部が敵機の頭部に衝突する。二機は接触した額の狭間で火花を散らせながら睨め付け合う。
「お前さん達のご自慢の機体で再現してやろうか? キャバリアなら股裂きくらい発禁にならねぇって」
『ああ、そうか……そいつが、その手があったなぁ……!』
ランブルビーストでボロ雑巾にしてやろうと爪を剥いた矢先、テロリストのリーダー格の男が引き攣った笑い声を漏らし始めた。
『お前にも見せてやろうか? 日乃和のアバズレ共の――』
「うるせェよ」
エメリィが腕部のロケットブースターを点火して右ストレートを放った。超至近距離でまともに受けたキラー・イェーガーは機体をくの字に曲げて吹き飛ばされ――。
「ギバちゃん! パス!」
吹き飛ばされた先で灰風号の鉄槌に打ち上げられた。
「ったく、身構えて損したわ。日乃和に仕掛けてくるからどんなヤバイ連中なのかと思ったら、ただの排泄物じゃない」
戦争屋と聞いていたのに。フットペダルを踏み抜く天城原の声音は失望感を反映しているのか抑揚が薄い。最早瞳には殺意さえ灯らず、敵を見ていなかった。
『極東のゴミ共があァァァッ! 俺をコケにすりゃお前らの都市なんざ火の海――』
「あっそう」
最大加速で繰り出された赤雷号の
蹴撃が大津貿易港の夜空に轟いた。またしても吹き飛ばされたキラー・イェーガーは潜水空母の側舷に叩き付けられる。
「そう言えば攻撃を中止しなかったら報復するんだって? ああ怖い怖い。一体何をどう報復されるのやら」
一切の躊躇いも容赦も滲ませない複合狙撃砲の追撃が続く。そこへ灰風号がペネトレーターを、エメリィがスクィーズ・コルクの火線を重ねる。至極粛々と。まるで道端に転がる塵を払うかのように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
安心してくだされ、拙者は国も、人種も、男女も、偏見なく分け隔てなく平等に扱うでござるからヨ!
東雲氏さぁちょっと拙者乗っかってるからあの空母の上飛んでくんない?スゴいことしようぜ!
どうもこうもねぇよ!上空飛んだら即落下!そして全身ドット化!キラーなんたらはひらひら華麗にスルーして潜水空母に着地でござる
外側のハッチ類から侵入、どんなに密閉してたって隙間はあるんだよなぁ…
このまま手近な機械類まで潜り込んでいきますぞ!そして管制システムにハッキングかまして電子な拙者をダイレクトに注入でござる!
オラッパーメットキメろォォ!スコア5!オーバーライド!どうも拙者が潜水空母の
妖精でござる
いえーい、テロリスト君見てる〜?これからぁ~君とこの艦をめちゃくちゃにしちゃいまーす!
ガガンボにキラートマトにミサイルと艦砲と…武装名なんてどうでもいいんだ、全弾撃てって!
うおォン、今の拙者はまるで人間火力発電所だ!
トドメは隊長機のどっちかがやってくれていいでござるよ❤そっちの方が屈辱感が凄そうだし…ネ!
● ドット職人の朝は早い
「安心してくだされ、拙者は国も、人種も、男女も、偏見なく分け隔てなく平等に扱うでござるからヨ!」
『あの……キラー・イェーガーか潜水空母の撃破を……』
「拙者は変態だが公平でござる。ここに人種差別など存在しない。イェーガーも、オブリビオンも、一般人も見下さん。みんな等しく価値がない! 拙者の任務は愛する海兵隊にふさわしくない役立たずを排除することでござる! ウジ虫ども、わかったか?」
高速機動を繰り返す那琴機に生身一貫で立つエドゥアルトが何事かを叫んでいる。那琴は彼が何を言っているのか全く理解できないので返事をしなかった。
「という訳でね……うん……まず東雲氏さぁ……あの空母の上、飛んでかない?」
『今度は何をするつもりですの?』
「どうもこうもねぇよ!」
エドゥアルトは顎髭の濃いラーメン屋の店主のような剣幕で吼えた。
『潜水空母の撃破は猟兵の方々の役割と言われていましたでしょう!?』
「いいから飛ぶんだよ! おうあくしろよ!」
エドゥアルトが巻き舌気味の滑舌で急かす。那琴は大きな溜息を一つ吐いて機体を潜水空母へと向かわせる。当然ながら敵艦は接近する那琴機に対して対空機関砲や対キャバリア誘導弾の迎撃を上げた。那琴はそれらの火線を掻い潜って潜水空母の真上に迫る。
『来ましたわよ! 次は!?』
那琴の声音は露骨に苛立っていた。
「アーイキャーン……フラァァァァァイッ!」
『……はぁ』
身体を大の字に広げて空中に飛び込んだエドゥアルト。その背中を那琴の嘆息が見送る。
『あんの変態髭親父、何を考えてやがる?』
だがキラー・イェーガーは看過しなかった。潜水空母に向けて自由落下し続けるエドゥアルトに対して右腕の砲を向ける。砲門から迸った荷電粒子の光が大津貿易港の夜を引き裂いた。
「バカめ! オープンドット!」
エドゥアルトは画像を構成する最小要素としてのドットが視認できる程度の解像度で描かれたグラフィックに変化し、被弾面積を極小化する事で光軸を躱す。何故飛散粒子の影響を受けないのかと問われれば彼はこう答えるだろう。私は変態だからと。
「よっしゃあタッチダウン!」
斯くしてエドゥアルトは難なく潜水空母に降着した。キラー・イェーガーの搭乗者は舌打ちする。潜水空母に張り付かれていれば迂闊に攻撃出来ない。
「どんなに密閉されても穴はあるんだよなぁ……」
ドット化したエドゥアルトはより変態染みた笑みを浮かべてハッチの横の電子施錠端末より艦内へと潜り込む。回線伝いに内部機能に浸透、管制を司る主幹機能にまで到達すると、プログラム化した自分を解き放った。
「逃げれば一つ! 進めば二つ! 壊せば全部だ! オラッ! パーメットキメろォォ! スコア5! オーバーライド! 動く! 踊れる! どうも拙者が潜水空母の
妖精でござる!」
誰かが描いた想像でもなく誰かが選んだ舞台でもなく自分が作っていく物語と言わんばかりに目一杯の祝福と言う名のプログラムを管制機能に流し込む。
「いえーい、テロリスト君見てる〜? これからぁ~君とこの艦をめちゃくちゃにしちゃいまーす!」
テロリストのリーダー格の男が何事か叫んでいたがエドゥアルトの耳には入らなかった。
「ガガンボにキラートマトにミサイルと艦砲と……武装名なんてどうでもいいんだ、全弾撃てって! うおォン、今の拙者はまるで人間火力発電所だ!」
戦艦空母が搭載する兵装の悉くが無秩序に放出され、さながら最強で究極のアイドルのライブステージのような光彩を拡散させた。
「トドメは隊長機のどっちかがやってくれていいでござるよ! そっちの方が屈辱感が凄そうだし……ネ!」
『それどころではありませんのよ!』
夜空に咲き乱れる火球と火線が国も、人種も、男女も、偏見なく分け隔てなく平等に飲み込んでゆく。那琴機が忙しく回避運動を繰り返す一方で、エドゥアルトは凄みのある表情で嗤い続けていた。
大成功
🔵🔵🔵
カシム・ディーン
大鳳に合流
結城艦長にじゃれまくり
前回でイロイロあったらしい
…貪り堪能するつもりが…(こほん
ま…子持ちも悪くねーな(可愛がられた模様?
協力要請
敵艦の構造と積荷…人質の位置として可能性の高い場所等知ってる限りの情報共有
後はそうですね…僕のメンタルケアお願いします(げっそりすりすり
絶望のUC発動
同時に疾駆する神発動
幼女軍団は甲板から発生!
1師団は大鳳内の主の直属護衛
灰狼中隊や白羽井小隊の子らにじゃれたり戦術補助
【属性攻撃・迷彩】
光水属性を外の幼女軍団と竜眼号に付与
光学迷彩で存在を隠し水の障壁を展開し熱源や音も隠蔽
10師団
竜眼号と大鳳の護衛
80師団
敵潜水空母を襲
【情報収集・視力・戦闘知識】
潜水艦と周囲の状況把握
灰狼中隊の子の存在と積荷の中身確認
【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
鎌剣で切り刻み分解して資源は強奪
積荷も可能な限り回収
一応いくらかは大鳳に提供
中隊生存者が居たら救出しペロリストも無力化して誘拐
残り
【念動力・弾幕】
リーダー機に物量で襲い掛かり切り刻み破壊し武装強奪
可能なら乗手も捕らえて誘拐
●頭部の行方
大鳳を背にして海面を滑走するメルクリウス。その操縦席に座すカシムは腕を組んでしきりに唸っていた。
「ううむ、けしからん……実にけしからん……」
険しい面持ちに浮かぶのは先程会ってきた結城の蠱惑的な笑み――だけではない。
「あれで子持ちだと……? やれやれ、子供の顔が見てみたいもんだな……」
「もう見てるんじゃないのー?」
操縦席の後ろに立つメルシーに「なんだって?」と問う。
「まあそんな事は置いといてだ、回収したものは全部結城艦長に預けてきたし、これで心置きなくあの船を沈められるって訳だな」
先に丸裸に剥いて縛り上げたテロリストは勿論、敵潜水空母の艦内の捜索に回した幼女師団が持ち帰った積載貨物の類は先程大鳳に送り届けてきた。先んじて艦内に侵入を果たしていた猟兵が居たため、回収自体はさしたる滞りもなく行えたのだが、達成感を得られる結果になったかと問われれば如何とも答え難い次第でもある。
「人質は無し……残っていたのは切り刻まれた身体と臓器だけか……」
やるせない嘆息が溢れる。連中が何をするつもりだったのかは想像力を働かせる他に無いが、拉致されていた灰狼中隊の隊員達の姿は無く、代わりに残されていたのは人体の断片。身元の確認は科学的検証を待つ必要があるが、恐らく幾つかは隊員達の成れの果てだろう。
「臓器売買業者の間違いじゃないのか? 戦争屋の肩書きが聞いて呆れるな」
艦内で回収出来た目ぼしいものといえばガガンボに関わる何らかの情報資料と裁断された人体の一部だけ。核弾頭の一発でも仕込んでいるのかと思いきやそんな代物は見当たらない。報復をちらつかせた割りには肩透かしの結果に、カシムはまたしても嘆息を禁じ得なかった。
「でも結城艦長になでなでしてもらったんでしょ?」
「まあな」
カシムはやはりけしからんと訝しく眉を顰める。
『膝枕して撫でてください! なんでもしますから!』
結城艦長様に対してそう単刀直入に申し上げたら困り眉を作って応じてくれた。あの太腿の柔らかさに抱擁感のある手の感触といったら――艦橋要員から凄まじい軽蔑の眼差しが向けられていたが、そんな事はどうでもよいのだ。
「……背後はもう気にしなくていいか」
後方の大鳳に視線を送る。光学迷彩によって不可視化しているが、対軍撃滅機構『戦争と死の神』で呼び出した悪夢の武装幼女軍団が直掩に付いているはずだ。傍には半身を海に浸した竜眼号が対空防御の目を光らせている。ともなれば後は敵を叩くのみ。メルクリウスは推進噴射の光を引いて加速する。
敵艦から迎撃のミサイルが昇るも、多くは立ち所に爆炎へと変じた。敵艦を襲撃中の幼女軍団が抑えてくれているのだろう。敵艦が放った無人機のガガンボと交戦している白羽井と灰狼両隊についても援護の幼女軍団を向かわせている。
伊尾奈のアークレイズ・ディナに抉り穿たれて墜落するガガンボを見たカシムは、先に幼女軍団が潜水空母から持ち帰ってきた資料の一項を思い返した。あのガガンボに搭載されている自律行動システムについての記載があったような。
「いいさ、直接聞いてやる……っとあぶねぇ!」
首筋に突き刺さった殺気が反射的に操縦桿を倒させた。荷電粒子の光軸がメルクリウスの側近を掠めて装甲を炙った。
「そっちから寄ってきてくれるとはな、ペロリスト」
続けて伸びる光軸。メルクリウスは機体を翻しながら光軸の出所へと驀進する。
「鎌野郎が、チョロチョロ逃げんなよ」
相対するキラー・イェーガーもバスターライフルを放ちつつ驀進する。
「メルシーは野郎じゃないゾ☆」
メルクリウスがハルペーを振り翳し、キラー・イェーガーがデス・フィンガーを構える。交差する二機の狭間で、火花と金属質な衝撃音が炸裂した。
「おい、あのガガンボに何を載せた?」
鍔迫り合いの最中にカシムが問うと『あ?』と呆けた声の後に嘲笑が続く。
『そうか……鎌野郎、お前見たんだな? ならご覧の通りさ』
「どこがご覧の通りだって?」
『灰色狼の手下共だよ』
騒めいた神経が無意識に操縦桿を引かせた。弾かれたかのように後退するメルクリウス。追撃の荷電粒子砲を向けるキラー・イェーガー。
『だけじゃねぇがな。使い物にならなくなった連中のくっせぇ脳味噌を全部取り出して、電極をぶっ刺して、装置に詰め込んで……』
「つまりお前らは人間の頭脳を生体制御装置に加工して、ガガンボに載せたのか」
潜水空母の艦内で首から上が見つからなかった理由はこれか。カシムは顎を引いて口を結んだ。メルクリウスが横方向へ瞬間加速する。バスターライフルの光軸が虚空を貫いた。
『頭を綺麗に割るにはちっとばかしコツがいるが、キャバリアに組み込むだけなら簡単なもんだぜ?』
「全員制御装置にしたのか? 人質は残さなかったのか?」
『人質が通用しねぇのは分かりきってるからな。大事に抱え込んでたら臭えし餌代が掛かって仕方ねぇ。ならさっさと屠殺して再利用した方が賢いだろ? ま、ゴミも使い様ってこったな。そうとも知らずあのイキり散らしたバカメス共はボコスカ落としやがって……やれやれ、日乃和の兵隊は血も涙もありゃしねぇな』
通信の向こうで伊尾奈が舌を打ち、那琴が息を詰めた。
『こいつを使って海軍の追撃を巻く手筈だったんだがな、てめえらクソイェーガー共の所為で滅茶苦茶だ。どうしてくれんだ? ああ?』
「知るか」
カシムは短く言い切るのと同時に機体を前進加速させた。キラー・イェーガーがバスターライフルの砲門より放出した荷電粒子の光とメルクリウスが交差する。メルクリウスがさながら瞬間移動の速度で格闘戦の間合いに飛び込んだ。
『ハッ! やっと本気になりやがったか?』
横薙ぎに振るったハルペーの刃がデス・フィンガーと激突して互いを跳ね返す。
「本気? 誰が? お前如き三下に?」
『てめえ……!』
メルクリウスが獰猛染みた気迫で食らい付き、鎌剣を縦横に閃かせる。辛うじて打ち返したキラー・イェーガーが二合目の反動でバスターライフルを突き付ける。
『バカが!』
解放される熱線。半身を逸らすメルクリウス。白銀の装甲を荷電粒子が擦過し、表面を赤熱化させた。
『躱しやがっただと!?』
「効かねえな!」
カシムは食い縛った牙の隙間から声を滲ませて機体を猪突させる。下段から上段へと掬い上げる斬撃。実体を持たない刃が黄金の軌跡を描く。一拍子遅れて砂漠色の装甲に浅からぬ切創痕が刻まれた。
大成功
🔵🔵🔵
メルメッテ・アインクラング
キラー・イェーガーを集中して狙います
私の機体はタンクとの情報が飛んでいるのですか?でしたら、意表を突くのはいかがでございましょう?
敵遠距離攻撃を【見切り】指定UCを発動し回避
電磁連射双銃を【乱れ撃ち】【マヒ攻撃】を行いながら、【瞬間思考力】を駆使し高速【推力移動】で距離を保ちます
「クラヴィーア、オープン!」
【誘導弾】のマイクロミサイル、次いでホーミングレーザーを放って足止めし、即座にHanon-60.Probeの単眼から【鎧無視攻撃】の、指定UCの光の束を撃ち出します
通常、目からビームは出ませんが今回は特別です
これは命と命の戦い、と認識を改めて。多少は無理をしませんと
お命は頂戴しません
裁くのは私ではなく日乃和の皆様。国家の法で裁かれるべきと判断致しました
引き渡された後はどうなるのか?私が介入する事では……
『他国に深入りしないよう』主様より教えられております
敵機搭乗者の言葉はよく聞き取れず、どれもあまり響かなくて……
透明な水面が少し揺れて、すぐ元通り。私の心には、それでお終いでございました
●湖面
絶え間ない波状の猛攻に曝されたキラー・イェーガーが堪らず港湾施設側に後退する。苦し紛れにバスターライフルの応射を繰り返すその機体を、単眼が密やかに睥睨していた。
埠頭に立ち位置を据えるHanon-60.Probeのセンサーレンズが砂漠色の機体を追う。モノアイが取り込んだ映像は三次元処理され、コクピット内のメインモニターに投影される。そしてコクピットシートに
跨るメルメッテの乳青色の瞳も同じく敵機を追い続けていた。
キラー・イェーガーに二色のロックオンマーカーが幾つも重複し、捕捉した数だけの電子音が鳴る。間隔は極めて短い。
『一つ眼のタンクか……!』
ロックオンパルスを検知したキラー・イェーガーがHanon-60.Probeへと機体を向ける。
「クラヴィーア、オープン!」
メルメッテが声を張り、左右のグリップのトリガーキーを引いた。Hanon-60.Probeの脚部の装甲板がスライドして展開し、内部に犇く超小型誘導弾が立て続けに放出される。機体が白煙に包まれる最中、左右の脚部より薄桃色の光線が走った。放射状に伸びた光線は滑らかな曲線を描き、先に放出された誘導弾達と共にキラー・イェーガーへと突き進んだ。
『タンク野郎が! バカみてぇに撃ちやがって!』
マイクロミサイルとホーミングレーザーの集団に襲われたキラー・イェーガーは止む無く回避と迎撃に追われる次第となった。後退推進加速しながらバスターライフルを横薙ぎに放つと夜間の空に爆炎の華が狂い咲く。だが撃ち損じた誘導弾が側面から肉薄して近接信管を作動させた。次いでツヴァイヘンディヒから伸びた光線が鮮やかな曲線の軌道を残して次々に突き刺さる。キラー・イェーガーの全容は緋色と黒の爆煙に呑まれた。されどメルメッテは感じ取っていた。早鐘を打つ鼓動を。
『ノロマがァッ!』
創痍のキラー・イェーガーが爆煙を割って突出した。有無を言わさずバスターライフルより荷電粒子を迸らせる。
「これは命と命の戦い……多少は無理をしませんと」
装甲越しに殺気を受けた時点でメルメッテは機体を動かしていた。再世照がHanon-60.Probeを思念波の光で覆う。夜間の黒に輪郭が浮かび上がる。そして荷電粒子の光軸が突き刺さる直前、機体が横方向へと瞬間加速した。
『……今の動き、てめえ……タンク脚じゃねえな?』
訝しい問いにメルメッテは眉宇さえ微動だにしない。メルメッテの聴覚は男の声を言葉としての意味を成さない雑音として認識した。Hanon-60.Probeが埠頭から横滑りして海上に降りる。脚部裏に備わる主機が生み出す浮力に海面が白く湧き立つ。舞い上がった飛沫が薄いヴェールとなって機体の周囲を覆う。
『タンク擬きのフロート野郎か! 一つ眼ェ!』
キラー・イェーガーがバスターライフルを構える。砲門の奥底に光が灯った。メルメッテの淡い瞳孔がそれを捉える。脳が発した思念波が機体の姿勢を逸らす。傍を光軸が擦り抜けた。余波を受けた装甲の表面が溶ける。しかしメルメッテの思考は湖面の如き静寂を保ち、Hanon-60.Probeも揺るがない。元より重装甲は伊達ではないのだから。
直感は機体制動に傾けて、薄く研いだ神経を指先に乗せてトリガーキーを押し込む。Hanon-60.Probeが左右のマニピュレーターを介して保持する機関銃が銃口をもたげた。フラッシュハイダーが青白い明滅を吐き出す。破線状の軌道が扇の形に広がる。幾つかの徹甲弾がキラー・イェーガーの装甲を掠め、明滅と同じ色の雷撃を咲かせた。
電磁パルスの枷に絡め取られたキラー・イェーガーのパイロットが罵詈雑言を叩き付けるがメルメッテの意中を揺らすに至らない。
「お命は頂戴しません……」
仄かに囁く。相手が人なれば、裁くのは法廷の役割なのだろう。自分は審判を下す役回りではないし、どのような結実であっても関与するべきではない。他国に深入りするなと他ならぬ主様より仰せ使っているのだから。
深く息を吸う。コクピットの中の空気はひんやりとしていて湿度が低い。息を止めて意識を額に集中する。数倍に伸張した一瞬の中で、電流に絡め取られたキラー・イェーガーが空中で蹴躓いた。
「いまっ!」
湖面に波紋が伝う。鋭い声音が飛ぶ。標的に張り付いて離れないHanon-60.Probeのモノアイセンサーの直前に青い光が収束する。直後に光球から光の束が走った。光の束は真っ直ぐに伸びてキラー・イェーガーの胴体部分と肩部を掠めた。
『ファック! そこから撃つのかよ!』
搭乗者の毒付きと共に装甲の断片が砕けて散る。メルメッテの意識を巡る思考が躊躇なく追撃を命じた。電磁連射双銃が薬莢を排出し、ツヴァイヘンディヒが曲がりくねる光線の雨を注ぐ。揺れた湖面は、既に硝子張りの様相に戻っていた。
大成功
🔵🔵🔵
露木・鬼燈
んー?これ、僕は必要です?
強化されているとは言え素体が素体だからなー
参加中の猟兵さんの数を考えると過剰戦力だよねー
気に入らないタイプのやつではあるけどね
わざわざ嬲り殺しするほどの価値があるってわけでもないし
まぁ、ほっといても他の猟兵さんががいい感じに処理してくれるはず
なので僕は潜水空母のお相手を頑張ろうかな
三笠に着艦し、そこから<制圧射撃>を行うですよ
装甲がいくら分厚かろうが空間振動弾にはあんまり関係ない
空間構造に作用するから装甲の厚さだけでは防げない
まぁ、効果範囲より装甲が厚ければ意味はあるけどね
そんな厚さの装甲は現実的ではないからね
なのでてきとーに撃っても十分な効果があるから
あと迎撃もちゃんとやるので安心してね!
フォースハンドを使えば電磁加速砲は4つ同時に使える
なので攻撃も迎撃も同時にできるっぽい!
それに艦船が損傷すると修理がいろんな意味で大変だからね
お得意様なのでこれくらいのサービスはするですよ
●戦力過多
三笠は日乃和海軍に属する大型戦艦の一隻だ。軍神三笠の二つ名は決して伊達ではない。旗艦を担っていた時代にはバーラントを筆頭とする列強国を悉く退け、アーレス大陸全土に日乃和海軍の精強さを象徴する戦艦としてその名を轟かせていた。
日乃和の海に近付くべからず。
さもなくば軍神三笠の雷を受ける。
畏怖と羨望を一身に背負っていた時代も今や昔。旗艦の座は
大和武命に譲り渡して久しく、船体構造も旧式化が著しい。
だが軍神は未だ朽ちていない。時代の流動に合わせて近代化回収を繰り返し、大鳳と共に戦線に在った。暁作戦に於いては東アーレス半島に向かう人喰いキャバリアの大軍勢を雷で以って祓い続け、遠く離れた日乃和西州で戦う猟兵達の戦線を守護り続けた。
そして今まさに軍神が睨む先には外界より渡来した敵がいる。三笠の側舷の甲板に佇立する赤鉄の鬼――アポイタカラのセンサーカメラもまた同じ敵を睥睨していた。
「んー? これ、僕は必要です?」
操縦席に腰を沈める鬼燈が怪訝に首を傾げる。敵の規模に対して戦力が過剰なのではないかと。
思うに――雇い主である日乃和政府の想定していた猟兵戦力は、頭数換算で四名か五名程度ではなかったのだろうか? 裏付けがある訳では無いが、提示された報酬金額からして推し量れなくもない。沙綿里島の防衛や暁作戦と比較して明らかに小口だったのだ。
鬼燈は腕を組んで眉間を顰める。重ねて思うに――雇い主側の想定としては、そこそこの頭数の猟兵がテロリストと良い勝負をして……それこそ民衆受けするエンターテイメント染みた戦いを演出し、メディアに面白おかしく報道させ、第六独立機動艦隊と猟兵を正義のヒーローとして祭り上げる……そんな目算だったのでは?
ところがいざ公募を掛けて参上した人材は暁作戦当時と遜色ない質と量。国家に深く関わる人材が複数。傭兵組織も複数。それらと比肩する能力を有した個人達。切れっ端を相手にするどころか、テロリストの背後組織を探って撃滅出来てしまうほどの面子ではないか? やはりこの戦力は明らかに過剰だ。
他の猟兵達と交戦中のキラー・イェーガーに視線を移す。撃墜は最早時間の問題だろう。
「気に入らないタイプのやつではあるけどねぇ……」
なら嬲り殺しにするかと訊かれればそんな価値は無いし趣味も無い。
「……まぁ、放っておいても他の猟兵さんが良い感じに処してくれるでしょ」
手出しすると返って味方撃ちしかねない。そう結論付けた鬼燈は、遠方に浮かぶ潜水空母へと首を向けた。搭乗者の視線を追ってアポイタカラも機体を旋回させる。
「潜水空母のお相手を頑張ろうかな?」
アポイタカラが左右の腕部とフォースハンドを前方へと突き出す。虚空に生じた揺らぎより引き抜かれたのは回転式多銃身電磁加速砲。四つの腕がそれぞれに一挺を携えた。さながらガトリングガンの怪物と化したアポイタカラの紫電の双眸が閃く。三笠の甲板に踏ん張りを効かせ、重々しい動作で多銃身砲を構えた。
「よーく狙って……」
拳大の大きさに見える潜水空母に照準を重ねる。慎重かつ緻密に。マーカーが赤に転じるのを待って鬼燈はトリガーキーを引いた。
回転銃身が唸る。バレル内部で電磁加速された無数の弾体が黄金の破線を残して潜水空母の元へ突き進む。されども潜水空母の装甲は分厚い。キャバリアが運用可能な機関砲で貫徹するのは容易い事ではない。アポイタカラが連射した電磁加速弾体と言えども装甲に傷を付けるのが関の山――に思われた。
電磁加速弾体が潜水空母に到達すると、着弾地点に歪みが生じた。空間を振動させ捻り切るようや歪みが元に戻ると、その箇所は虫に喰われたかのように抉り取られていた。
雨霰に撃ち付ける空間振動弾。潜水空母の装甲表面はたちまち穴あきチーズの様相と化す。潜水空母はアポイタカラの攻撃を三笠の攻撃と勘違いしたのだろうか。反攻のミサイルが白い尾を引いて幾つも昇る。対する三笠は撃墜処理するべく対空機関砲や誘導弾発射装置を身じろぎさせ始める。
「迎撃もちゃんとやるので安心してね!」
三笠の防空機能が働く前に先んじて、アポイタカラはフォースハンドで保持するガトリングガンをやや斜め上へと向けた。標的は潜水空母から誘導弾へ。極短い間隔で撃ち続ける空間振動弾が幕を形成し、三笠を目指していた誘導弾を堰き止め、火球へと変じさせた。
「艦船が損傷するといろんな意味で大変だからね」
『三笠よりアポイタカラへ! 貴官の支援に感謝する!』
いつぞやに聞いたよく通る女性の声音の主は泉子だった。
「お得意様なのでこれくらいのサービスはするですよ」
アポイタカラ本体のマニピュレーターで保持するガトリングガンは潜水空母に固定したまま、性懲りも無く飛んでくる誘導弾を撃ち落とし続ける。
そう言えば前にも似たような状況があったような……思い返すのは沙綿里島の防衛戦。あれから随分と遠いところに来たような気がする。アポイタカラが睨む遠方で、幾多の火球が華開いた。
大成功
🔵🔵🔵
セレーネ・ジルコニウム
「ミスランディア、敵潜水空母に接近している味方機に退避勧告を!」
『うむ。日乃和軍の暗号回線に繋ぐとしよう』
日乃和軍はガガンボの対応に回っていますので、
潜水空母の近くにいるとしたら猟兵たちということになるでしょう。
皆さんを『戦術級超重力波砲』の攻撃に巻き込まないように、暗号通信回線で呼びかけます。
「皆さん、これより本艦は戦術級超重力波砲を使います。
ただちにターゲットから距離を取ってください」
『これが想定被害範囲のデータじゃ』
あれっ、えっとー?
事前のシミュレーションより、一桁被害範囲が大きいような?
「あの、ミスランディア?
重力異常を起こさない程度に収束させるのですよね?」
『安心せい。わしの全力演算で被害はきっちり抑えよう。
じゃが、寿司文化を愚弄する者どもには、この程度の罰では生ぬるいわ!
ストライダーのリミッターをカット!
反応炉のエネルギーをすべて超重力波砲に回して全力攻撃じゃ!』
「ちょっとー!?
そんなことしたら、主砲がもちませんよっ!?」
修理することになったら大赤字じゃないですかーっ!
●超重力波砲
船足を挫かれ、幾多の猟兵の攻撃を受け続けた潜水空母は既に満身創痍の身であった。だが尚も抵抗を諦めていないのは、降伏した末に待ち受けている自分達の処遇に察しが付いているからなのか、まだ海外脱出を諦めていないからなのか。
大津貿易港の外海の真っ黒な海面が泡立つ。水飛沫を爆裂させて現れたのは、巨鯨の風格を漂わせる強襲揚陸艦だった。
『ストライダー、浮上完了じゃ』
「よし!」
ミスランディアに応じたセレーネの声がブリッジ中に響く。艦長席の肘掛けに備わる受話器型の通信機を手に取り、全艦放送のボタンを押して口を開いた。
「艦長より全クルーへ! これより本艦は敵艦の攻撃射程圏内に突入、敵潜水空母に対して最大出力の超重力波砲による攻撃を実施します!」
確実に敵艦のみを射抜くには接近して撃つ他に無い。万が一にでも地表に当ててしまえば深刻な重力変動を及ぼし、半減期を迎えるまで数十年間を要する。ともなれば深刻な契約違反で作戦失敗だ。一拍子置いて胸一杯まで酸素を吸い込んでから再度声を張る。
「最大照射の最終充填には本艦の全動力が必要となります! ストライダーは五秒間の最大加速の後に慣性航行に移行し、充填を開始します!
充填中は殆どの武装が使用出来ず、バリアユニットも作動出来ません! 姿勢制御も進路変更もままならない状態で敵潜水空母に接近するしかありません! 非常に危険な作戦ではあります! しかし!」
断ずるようなセレーネの口振りにストライダーのクルー達は皆顔と身体を硬らせて聞き入っている。艦内全体に満ちた緊張の空気を肌身に感じながら、セレーネは更に重ねた。
「作戦の成否を決定付けるのはこの一撃です! 総員の奮起を期待します!」
通信機を元の場所に戻し、小さな身体を背もたれに預けて深く息を吐く。
「射線上の友軍へ退避勧告! 総員、対加速衝撃防御! ストライダー! 全速前進!」
『了解じゃ』
セレーネが命じるとミスランディアに続いて船体が大きく揺れた。艦尾の全環境対応エンジンのノズルが推力を噴射し、ストライダーの長大な船体を前へと突き動かす。
「くっ……!」
小さな身体を苛む重力加速度に呻めきが漏れる。肘掛けを掴む手は力が篭もり過ぎて白くなっていた。
『ストライダー、最大戦速域に到達じゃ。五秒間の全速維持の後、慣性航行に移行するぞい』
全身が艦長席に押し付けられる。元々平坦な胸がもっとなだらかになってしまいそうだ。合成音声のカウントダウンが始まった。内臓が圧迫される中で聞くそれは一秒が途方もなく長く感じる。海面を文字通りに引き裂いて驀進するストライダーは、真上から見ればさながら大剣のようだった。
『加速終了じゃ』
「エンジン停止! 慣性航行始め! 全動力を超重力波砲へ!」
主機が発する轟音が遠退くと、セレーネは前のめりに姿勢を崩した。後ろの方向に加わっていた重力加速度から解放されたのだ。そしてブリッジの照明が落ちて薄暗い予備電源に切り替わる。ロックオンパルスを検知した事を報せる警告音が響いた。
『敵艦からミサイルじゃ。対キャバリアミサイルじゃのう』
「構いません! ストライダーがそう簡単に沈むものですか!」
攻撃目標とする潜水空母艦から幾つもの光点が上がり、弧の軌道を描く白煙を連れて海上を突き進むストライダーに到達した。火球が華咲く度に船体が震撼する。しかしそれだけだ。元よりワダツミ級はラムアタックで要塞に艦首を突っ込める程度の剛性を有している。対艦ミサイルならまだしも対キャバリアミサイルでは装甲表面を損傷させるのが関の山だろう。
ストライダーの装甲表面に伝播する衝撃音を圧して、艦首から砲身を露出させた超重力波砲より不気味な重低音の唸り声が轟く。作戦第一段階からじっくりと充填し続けていた超大口径の砲門に紫電の稲光が閃く。
『敵艦を射程内に捉えたぞい』
「重力砲の充填率は!?」
『280パーセントじゃ』
「いいでしょう! 友軍へ射線上から退避するよう再通告……うん?」
セレーネが首を傾げる。280だと? 予定では200パーセントの出力で発射するはずだったのだが。
「あの、ミスランディア? 重力異常を起こさない程度に収束させるのですよね?」
『そうじゃな』
「200パーセントの充填率で発射する予定では?」
『寿司文化を愚弄する者どもにはこの位のお灸を据えてやらねばの』
ミスランディアの人工知能は静かに激怒していた。そして憐れんでいた。醤油ボトルや皿を舐め回し、一部始終をネット上にアップロードしたペロリストを。本来ならば人の胃袋と心を満たすはずだったのにゴミ箱を満たしてしまった寿司達を。回転しない回転寿司屋だらけになってしまった今の世を。
「いや……それはいいんですけど砲身が耐えられ――」
『反応路の全リミッターをカットじゃ!』
「ちょっと! 勝手に進めないでください!」
『砲身が壊れても構わん! 全力照射じゃ!』
「構いますよ! 修理費で一体幾ら飛ぶと思ってるんですか!」
ミスランディアにセレーネの声は届かない。発射準備の最終段階まで勝手に進められてしまった。
『充填率320パーセントじゃ! セレーネよ、早う撃たんと砲身が艦首ごと吹き飛ぶぞい』
「早う吹き飛ぶぞい。じゃありませんよ!」
セレーネは声を荒げながらもミスランディアの言っている事は本当だと知っている。ただでさえユーベルコードで無理矢理充填率を引き上げている上に、本来注ぎ込める筈のないエネルギー量を注ぎ込んでいるのだから。
「ええい……これじゃ格好が付かないじゃないですか……」
憤慨を含んで咳払いをひとつ。艦長席から身を乗り出す。一撃で決める。覚悟を引き締め腹に力を入れた。
「超重力波砲! 撃てーっ!」
薙いだ腕と共に全身を声にして叫んだ。ターボファンエンジンにも似た砲身内部から紫の雷光が溢れ出し、光軸となって解き放たれた。ストライダーの艦首より真っ直ぐに伸びたそれは、左右に割れた海面の表層を滑るように突き進む。遅れて空間が水面のように揺れ動いた。
砲身の口径に比較して細い光軸は、故に凝縮して研ぎ澄まされている。万物を貫く悍ましい閃光が潜水空母の横腹に突き刺さった。分厚い金属が潰れ、抉れ、圧壊する轟音に大津貿易港中の大気が震撼する。照射が終了するのと同時に潜水空母の船体が中央からへの字に折れ曲がり始めた。
「着弾観測報せ!」
『直撃じゃな。船体中央のキールを貫いたぞい。放っておけば沈むはずじゃ。重力変動も無しじゃな』
鋭い声音にミスランディアが即座に応じた。セレーネは強かに頷く。するとストライダーの艦首より衝撃が伝わってきた。これは外部から生じた衝撃ではない。もしや――。
「重力砲は!?」
『先の一撃で深刻な負荷を受けての、爆発寸前じゃ』
まるで他人事のように言ってのける張本人に爆発しかけた憤怒を飲み下す。
「ただちに重力砲へのエネルギー供給をカット! 消火班と保全班はただちに対処を! 砲身の爆発だけはなんとしても防いでください! メインエンジン再起動!」
慌ただしく指令を飛ばすセレーネは視線を巨大なメインモニターに走らせた。真っ二つとなった潜水空母が各所から小爆発を繰り返し、海面を白く泡立たせながらゆっくりと沈んでゆく。その光景は二体の鯨が頭を出している様子にも見えた。
「これで残るはキラー・イェーガーですか……」
『それとガガンボじゃな』
前者の処理は対キャバリア戦を専門とする他の猟兵が上手くやるであろう。テロリスト達の足はこれで無くなった。もうどうした所で海外逃亡の目的は果たせまい。異国の地にて自分達の活動拠点となる船の喪失がもたらす絶望感とはどれほどのものか――沈む潜水空母にストライダーの似姿が重なり、ご愁傷様と因果応報の言葉が浮かんだ。
大成功
🔵🔵🔵
川巳・尖
バーラントってやつの要求、拒否してくれてありがとうね
さっきの通信聞いて、こいつら生かして帰せなくなっちゃったからさ
三笠の砲撃で潜水空母は逃げられないんでしょ、敵の指揮官機を狙うよ
あいつの広範囲に照射できる強力なビーム、炙り焼きは嫌だし水中に潜れば回避できるけど、こっちも撃てないね
水妖夜行で水面近くを飛びながら、あいつがあたいを狙って撃つタイミングに合わせて加速、足を水面につけて飛沫を勢いよく上げる
少しでもビームを減衰して直撃さえ避けられたら充分、敵機に取り付いて撃てるだけ撃ちまくるよ
一発で殺してあげたりしない、因果応報ってやつ
河童と違って尻子玉取ったりはしないけど、死にたくなるくらい、悪戯するね
この怨みが、怒りが、誰のものだっていい
あたいは祟らなきゃいけない連中を、逃がさず祟る
ヴィリー・フランツ
心情:…国際周波数帯でベラベラ喋ってんじゃねぇよ、三流のアホウが。
予定変更だ、アイツは生きたまま引き綴り出してやろう、面白いショーが見れるぞ。
手段:「此方はカイゼル、おいひよっこ達、作戦行動中はコールサインで呼べ」
先ずはスラスター全開で潜水空母に接近、【EP-155mmクラスター焼夷弾頭】を撃つ前に上空のひよっこ達へ半径130m
高度200m迄接近しないよう通達する。
炸裂すれば上部構造物は融解し深海に耐えれる装甲も剛性を失い、潜航すら不可能になるだろう。
キラーイェーガーは…これで3戦目だな、いい加減に見飽きたぜ。
左右へ機体を振り回し回避運動をしながらコングⅡで砲撃する、倉庫とコンテナの多少の破損はお目溢ししてもらう。
こっちは対ビームコート装甲だ、射撃も多少は耐えられる、距離が詰まったら肩のクロコダイル速射砲で牽制しながら突進、シールド打突を食らわした後、加熱したRSバーンマチェーテによる近接攻撃を試みる。
脱出して無駄だ、こっちのレーダーは生体センサー付きで逃さんよ。
シル・ウィンディア
白羽井小隊、灰狼中隊、後ろは任せるよ!
あなたがリーダーさんだね。
ひどい事したみたいだから、遠慮せずに行くからね。
潜水母艦からの支援砲撃に気をつけつつ、空中機動でお相手してあげるよっ!
リーゼも名前を知られているってことは手の内はバレているかな?でも、若干前と装備は違うんだよっ!
リフレクタービットを広域に展開。
ビットからホーミングビームで牽制射撃だね。
さらに、単射モードのランチャー、ツインキャノンで敵の足を強制的に動かして…。
高出力バスターライフルは、オーラ防御を展開して凌ぐよ。
ただ、こっちも高出力砲撃では負けないからっ!
空戦マニューバは怠らずに、射撃武装全部で攻撃を仕掛けつつ
多重詠唱で魔力溜めとUCの詠唱を同時開始。
近接レンジは、ビームガンをダガーにして受け止めつつ、セイバーでカウンター。
高度に注意して、敵機と潜水母艦が一直線上になるように移動をしてから、全力魔法のヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト!
あなたのバスターランチャーに負けない砲撃をプレゼントっ!!
撃ち合いになっても負けないよ
●殺す価値も無い
船体の中央から真っ二つにへし折れた潜水空母が大津貿易港の湾内に沈む。既に艦艇としての機能が残されていないのは言うに及ばず、後はただ白く泡立つ海面に吸い込まれるのを待つだけの運命であった。しかし念入りな猟兵達は看過するに留まらない。
風切り音とガスの尾を引いて無誘導ロケット弾が飛来する。弾体は潜水空母の片割れの直上に到達すると、小規模な爆発を起こした。爆発から生まれた幾つもの小型爆弾が散らばり、重力に従って落下する。そして火炎が液体のように弾けた。最大燃焼温度が数千度にまで達する紅蓮の揺らめきが、大破した潜水空母をたちまち覆い尽くす。船体を覆う分厚い装甲が融点を超えるまでそう時間を必要としなかった。
加えて青白い光軸が夜空を切って突き刺さる。一度のみならず二度三度と。着弾地点に生じた炸裂が、炎によって溶解しつつあった装甲を容易く抉り吹き飛ばす。
「わぁ……死体蹴りだぁ……」
海面から上半身を出した尖が引き攣った表情で呟く。爆発炎上する潜水空母からはほどほどに離れているものの、放つ熱波は肌をひりつかせるほどだった。
「こういうのはしっかり確実にトドメを刺しておかないとな」
埠頭の先端に立つヘヴィタイフーンMk.Ⅹが、肩越しに構えていたコングⅡ重無反動砲の砲門を下げた。メインモニターを通じて尖と同じ光景を見届けるヴィリーの目元はゴーグルに覆われて伺い知る事は出来ないが、特に感慨深い様子が酌めるものでもない。
「そうそう、何かの拍子に復活するかも知れないし」
シルが操縦桿のトリガーキーを引く。レゼール・ブルー・リーゼが最後の一押しに青白い光軸――グレル・テンペスタを放つ。放出した魔力粒子は潜水空母の亡骸へと吸い込まれるかの如く直進し、炸裂光を立ち昇らせた。
「そういうものなの?」
尖が訝しく尋ねるとヴィリーが「まあな」と投槍気味に答えた。
『おじさん! そっちに行った!』
通信装置が発した少女の声音が三者の耳朶を打つ。おじさんの一言でシルと尖の視線がヘヴィタイフーンMk.Ⅹの元で交差した。
「オジサンよりウルフ11、作戦行動中はコールサインで呼べ。カイゼルだ」
『ウルフ11よりカイゼルへ! キラー・イェーガーがそっちに!』
「カイゼル了解」
アウル複合索敵システムが捉えた動体反応をレーダーグラフ上に表示した。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹとレゼール・ブルー・リーゼ、尖が一様に同じ方角へと頭を向ける。派手な噴射炎と水飛沫を背負い、サンドブラウンのキャバリアが猛烈な速度で接近しつつあった。
『クソイェーガーどもがァァァ!』
潜水空母を潰されて相当お冠らしい。音声が音割れしている。
「キラーイェーガーは……これで3戦目だな、いい加減に見飽きたぜ」
ヴィリーにとって異なる仕事先でも度々見掛けた馴染みの顔にはもう溜息さえ出ない。指先で操縦桿のホイールキーを転がす。コングⅡ重無反動砲に装填する弾種の項目を対空霰弾に合わせると、機体側が自動で再装填動作を実行した。
「白羽井小隊、灰狼中隊、後ろは任せるよ!」
レゼール・ブルー・リーゼが双翼より光を噴射して宙を駆け出す。シルが横目を飛ばした先では、白羽井と灰狼両隊のキャバリア達がガガンボと射撃戦を繰り広げていた。敵機は順当に落とされているらしい。
『フェザー01よりレゼール・ブルー・リーゼへ、ガガンボはお任せを』
那琴の声音は張り詰めている気配はあれど余裕が無い様子とは違う。ガガンボの方は気にしなくていいだろう。シルはフットペダルを踏み込んだ。
「感謝しなきゃいけないかな? バーラントってやつの要求拒否したの」
足元より翡翠色の朧な光彩を放つ尖が海面に立ち、マコモHcのスライドを下げて装填中の弾丸を検める。結城曰く、作戦の開始直前になってテロリスト連中の後援組織か全然関係無い第三国かが攻撃中止の要求を突き付けてきたらしい。雇用主たる日乃和はそれを突っぱねた。もし突っぱねてなかったら……フラストレーションを抱えすぎて怨霊になってしまうところだったかも知れない。
「……報復? 教えてあげようか? 本当の報復……祟りってやつ」
あいつらはやり過ぎた。死んで終わりになどさせない。スライドから手を離すと金属同士がこすれる音が冷ややかに鳴った。
『こんのゴミクズどもがァァァッ! 一匹残らずブチ殺してやるッ!』
テロリストのリーダー格の男が吼える。キラー・イェーガーが速度を緩める事なく驀進してバスターライフルの砲門を正面に向けた。放射された荷電粒子が向かう先は埠頭。狙いはヘヴィタイフーンMk.Ⅹだ。
「国際周波数帯でギャアギャアベラベラ喋ってんじゃねぇよ、三流のド素人が」
ヘヴィタイフーンMk.Ⅹが脚部のバーニアノズルを焚いて横に滑る。遠方で荷電粒子が閃いた瞬間に真逆の方向に機体を突き動かした。熱線が側面を駆け抜け、飛散した粒子が耐ビームコーティング処理された装甲の表面を雨粒のように滑り落ちる。背後で生じた爆発の衝撃は、恐らく荷電粒子がコンテナか何かを直撃したのだろう。
『あァ!? オレ達を舐め腐って――』
「舐めてんのはお前達だろうが、寿司舐め野郎が」
左右の回避運動を繰り返しながらコングⅡ重無反動砲を三連射した。直進した弾体の一発目と二発目は躱されるも、三発目は近接信管を作動して無数のベアリング弾をばら撒いた。装甲を打ち据える細かな衝撃が壁となってキラー・イェーガーの速力を減殺する。
『こんなチャチな目眩ましなんざ効くかよ!』
REAPER ALTER SYSTEMが為せる業なのか、キラー・イェーガーは強引な急加速により散弾の雨の中を脱出する。ヴィリーはコングⅡ重無反動砲の投棄操作を行う傍らで舌を打つ。
「今の今までシステムの負荷に耐えられてる点だけは本物か……」
だが同時に満身創痍でもあるはずだ。機体側も幾多の猟兵の攻撃を受け続けている。そうそう長くは保つまい。
「だけどっ!」
キラー・イェーガーが脱した先で待ち構えていたレゼール・ブルー・リーゼがグレル・テンペスタを撃ち放つ。伸びた二つの光軸が標的を掠めた。そこへヴォレ・ブラースクの単発発射を重ねる。
『当たるかよ!』
小刻みな回避で光弾を躱す。左腕の重砲が荷電粒子を放射した。
「あっぶな!」
敵は勘も狙いも悪くないらしい。寸前で急上昇したレゼール・ブルー・リーゼの下面を熱の奔流が過ぎ去った。纏うフィールドが剥ぎ取られ、整流が乱れて電気のように明滅を繰り返す。
「ただ撃って当たらないなら……!」
レゼール・ブルー・リーゼは無作為に瞬間加速してヴォレ・ブラースクをフルオートで撃ち散らす。青白い破線が四方八方に伸びるが、いずれも標的から逸れて掠めもしない。
『マヌケが! どこ狙ってやが……がぁ!?』
あらぬ方向から飛んできた光弾がキラー・イェーガーの背面に着弾して炸裂した。レゼール・ブルー・リーゼが予め展開していたリフレクター・ビットのプリュームがヴォレ・ブラースクの光弾の行き先を偏向したのだ。全方位から飛び交う魔力粒子が結界を構築し、キラー・イェーガーを閉じ込める。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ、暁と宵を告げる光と闇よ……」
シルの唇が詩を紡ぐ。レゼール・ブルー・リーゼが双翼を反転させて後退推進加速する。
「もう逃げられないでしょ」
海面を滑る尖が入れ替わりに前へ出る。
『チョロチョロすんなよ、河童ガキ!』
「河童じゃなくて濡女とかそっち系なんだけど……」
尖がマコモHcを構えたのとキラー・イェーガーがバスターライフルを向けたのはほぼ同時だった。尖は背筋を駆け上がった冷たい感覚に従い、水中へと身を落とす。直後に荷電粒子を受けた海面が水蒸気爆発を起こして水柱を立ち昇らせた。
「あっつぅ!」
海面に出た尖が頭を振るう。まともに受けるまでもなく掠めれば蒸発は必至だ。敵機の動きはリフレクター・ビットの結界で抑制されているが、反撃能力は封じきれていない。接近して四肢に呪殺弾を撃ち込みたいところなのだが――などと歯噛みしていたらキラー・イェーガーの元に黄金の火線が殺到した。
「アイツは生きたまま引き綴り出してやろう、面白いショーが見れるぞ」
ヴィリーのヘヴィタイフーンMk.Ⅹがスラスターを全開にして海上を驀進する。肩部に搭載したクロコダイル単装電磁速射砲が発光する度にキラー・イェーガーが攻撃動作を阻止されて身動ぎする。
「シル! 抑えておくから上手く当てろよ!」
「六芒に集いて……ってえぇ!? あーもう、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
シルは途中で遮られた詠唱の最後の節を半ば強引に詠み上げる。レゼール・ブルー・リーゼが前方に突き出すヴォレ・ブラースクの銃口に収束した六色の光が一挙に開放された。光は蔦のように絡み合い、奔流となって大津貿易港の暗い海上を猪突する。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹの電磁加速弾体の弾幕とプリュームの結界に閉じ込められたキラー・イェーガーの側近を突き抜けた。一見すれば外したようも思えたが、多重詠唱の末に放たれたヘキサドライブ・エレメンタル・ブラストは見た目以上の有効範囲を発揮する。光熱に炙られたキラー・イェーガーの半身が溶け落ちて奔流に飲まれゆく。
『こんのクソガキがァァァ!』
「オープンチャンネルでギャアギャア騒ぐなって言っただろうが」
レゼール・ブルー・リーゼが照射を追えた直後にヘヴィタイフーンMk.Ⅹが機体ごと突っ込んだ。加速と重量を乗算したスパイクシールドの打突が鈍重な衝撃音を響かせる。キラー・イェーガーが機体をくの字に曲げた瞬間、間髪入れずにバーンマチェーテを抜剣。赤熱化した刃を上から縦に振り下ろす。砂漠色の装甲に覆われたキャバリアの腕部が宙に飛んだ。
「これで、ばらばら」
遂に滞空能力を喪失して背中から着水したキラー・イェーガーのアンダーフレームに尖が取り付く。両手で掌握したマコモHcの引き金に指を掛ける。アイアンサイトの向こうに敵機の頭部が見えた。全身の肌が泡立つ。これは怨み? 怒り? 誰のものでもいい。奴に向けられたそれらを弾に籠めた。重い引き金を引くと、強烈な反動が腕に跳ね返ってきた。キラー・イェーガーの頭部に命中した弾丸が装甲を穿ち、内部に浸透する。続けて撃つ。反動に腕が痺れる。まだ足りない。もっと撃つ。どこでもいい。華奢な身に掻き集めた悪霊が尖を突き動かす。牙を剥いて歯を食い縛っている事すら知らぬままに。
「ねぇ、あの……もういいんじゃない?」
シルが遠慮がちに声を掛ける。マコモHcのトリガーを引き続ける尖の指先が止まった。レゼール・ブルー・リーゼが支えるキラー・イェーガーは、四肢と頭部を喪失し、操縦席を内包する胴体部分を残すのみとなっている。呪殺弾によって達磨と化したらしい。
「キラー・イェーガーのパイロット、生きてるな? こっちは生体センサーで感知してるからとぼけたって無駄だ。さっさと出てこい」
ヘヴィタイフーンMk.Ⅹが油断なくクロコダイル速射砲を向ける最中、キラー・イェーガーの胸部ハッチが強制排出された。口を結んでマコモHcを構える尖。レゼール・ブルー・リーゼも頭部の機関砲の睨みを効かせている。
「ファッキンシット共が……!」
コクピットから這い出てきた男は金髪の角刈りに白人系の肌、貫禄のある体型に見合った強面。人種としては日乃和系では無い。パイロットスーツは裂傷し、頭やそちこちからは赤黒い流血が伝っている。
「こんな奴に……」
尖が無意識に呟くと、男の血走った眼差しが向けられた。口元に嘲笑が滲む。
「はは……クソイェーガーども、ヒーローごっこには満足したか? これで日乃和は終わりだ。遅かれ早かれ火の海だろうさ。オレをどうしようが組織の連中は黙っちゃいねぇ……あーあ、折角忠告してやったのになぁ?」
「黙ってない? 尼崎中尉……灰色狼に追い回されて逃げ帰った連中がか?」
ヴィリーにその気があったかは定かではないが、シルの耳にはどうにも哀れな生き物を眺めているような語感があるように思えた。
「うるせぇ! どいつもあの腰抜けと同じだと思うなよ!」
「ああそうかい、ま……その組織とやらは、お前なんざとっくに損切りしてるだろうがな」
「てめぇ……! 喋りが一々癪にさわ――」
全てを言い終えるより先に鈍い音が鳴り、リーダー格の男が膝から崩れ落ちた。
「うんざりだよ、あんたの息は臭すぎる」
尖がリーダー格の男の後頭部をマコモHcのグリップエンドで強打したのだ。倒れ込んで痙攣する大男の身体を見下ろす翡翠色の瞳は何の感情も映していない。
「おいおい……やっとこ捕まえたんだから殺すなよ?」
アウル複合索敵システムの検知結果が正しければ男の心肺機能は健在だ。ヴィリーは鼻腔から息を抜いた。
「こいつの尻子玉抜いちゃっていい?」
「やめておけ、手が腐るぞ。そもそも河童じゃないんだろ?」
「シリコン玉?」
聞き慣れない単語にシルが思わず首を傾げる。
「あー、シルは知らなくていいからな」
さてどうするか……ヴィリーが落とした視線に同調してヘヴィタイフーンMk.Ⅹが頭部を下げる。テロリストの身柄を確保した場合は雇い主に引き渡すようにとの契約条件があった筈だ。縛り上げて大鳳に預けてくるか。ついでに面白いショーが見られるかも知れない。
「ええっと、これで潜水空母とキラー・イェーガーは撃破完了……でいいのかな?」
半ば恐る恐るといった様子で尋ねるシルに「おうよ」とヴィリーが答えた。尖は無言を肯定とした。
「じゃあ後はガガンボだけだね」
レゼール・ブルー・リーゼが頭部を向けた先では、現在もなお白羽井小隊と灰狼中隊のキャバリアがガガンボと追った追われたの海上戦を繰り広げている。敵はどうやら相当の数がいるらしい。作戦完遂まで残り一段階。身体に覆い被さる疲労が重い。
大成功
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第3章 集団戦
『ガガンボ』
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POW : バルディッシュ並列化偽演粒子コーティングソード
【ユーベルコードで強化した装甲斬撃剣】が命中した対象を切断する。
SPD : D2エンジン起動
【補助動力炉D2エンジンを起動する】事で【通常時とは比較にならない高機動戦闘モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : マイナーチェンジ
自身の【各部、兵装】を【対空迎撃用又は対地砲撃用キャノンパック】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
👑11
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●キラー・イェーガーと潜水空母撃破完了
猟兵達の攻撃は苛烈で、火力は過剰だった。決して敵が脆弱だったのではない。比較して猟兵側の戦力が充実し過ぎていたのだ。
砂漠色のキャバリアは散々嬲られた末に達磨にされ、搭乗者は生きたまま捕らえられた。グリモアベースでの説明にあった通り、身柄は雇用主の代理たる大鳳へと預けられた。
拘束と監視は極めて厳重であり、意図的に超常的な現象でも起こさない限り脱走は不可能だろう。その他の構成員も同様に身柄を確保済みだ。
潜水空母は大破した上に徹底した破壊処理を受けて湾内の海底へと沈んだ。絶え間なく飛来する艦砲が猟兵達を苛立たせる事も無い。
二つの目標を撃破し、作戦行程は第三段階へと移行する。解き放たれた無人機――ガガンボ達は母艦を喪失した今も尚、登録された戦闘プログラムを実行し続けていた。
●悔い恨み
『使い物にならなくなった連中のくっせぇ脳味噌を全部取り出して、電極をぶっ刺して、装置に詰め込んで……』
那琴の頭の中で、男の声が何度も繰り返し再生される。キラー・イェーガーに搭乗していたリーダー格の男が言っていた事だ。男曰く、現在交戦中のガガンボには人体を原料とした制御装置が組み込まれているらしい。原料になったのはきっと奴等に拉致された灰狼中隊の元隊員達だろう。
ブレードで斬り込んできたガガンボを躱した。振り向き様に二連装突撃銃を集中射撃しようとしたが、指先がトリガーキーを押し込むのを躊躇わせた。
灰狼中隊とは暁作戦の開始前からずっと共に行動してきた。戦場でも生活でも。同じ釜の飯を食らい、同じ部屋で寝泊まりし、同じ戦場で同じ敵と戦い続けた。彼等の殆どが白羽井小隊の隊員達よりも歳下で、同僚や後輩と言うよりは妹弟が出来たような感覚だった。一人一人の顔だって覚えている。機体ごと捕らえられて帰って来なかった者達の顔も。
ガガンボの背中を見て奥歯を噛む。あの時自分が奴等を撃墜出来ていれば、奴等が現れなければ、彼が奴等を連れて来なければ――。
「こうして、わたくしも恨まれていたのですわね……」
尼崎中尉は自分を恨むのは筋違いだと言っていた。けれど筋の通る通らないとか、理屈や数字で全ての人間の心を納得させられるとは思えない。今にしてみればあれは自己暗示の言葉だったのではないか――。
『ウルフ01よりフェザー01へ、部隊の動きが鈍ってる。統率を取り直しな』
不意に飛んで来た重い声音に息が詰まる。了解を返すだけなのに声が出ない。
『これ以上アタシの部下の死体を玩具にさせるなって言ってるんだけどね』
頭の中を見透かされたかのような台詞に臓腑が冷えた。自分には躊躇う資格も誰かを逆恨みする資格も無い。そうする資格を持つ尼崎中尉は、誰よりも粛々とガガンボを落とし続けている。
「貴女が一番お辛いでしょうに……」
つい無意識に発してしまった言葉は、慌てて口に手を当てがっても取り消しにはならない。
『隊員の介錯は誰の仕事だったか覚えてる? 白羽井小隊の隊長殿』
いつも通りのぶっきらぼうな口振りが那琴にとっては返って痛々しく感じた。
「フェザー01、了解ですわ」
罪悪感を義務感で上書きしてはっきりと答えを返す。キラー・イェーガーと潜水空母を撃破した猟兵達もすぐに合流してくるだろう。今は一刻も早くガガンボを全て撃墜し、日乃和の防人としての使命を果たすべきなのだ。
「フェザー01より小隊全機へ、思うところがあるなら全て目の前の敵にぶつけなさい。あれはわたくし達の同志を切り刻んで作り上げた悪魔の兵器でしてよ」
悔恨を憎しみにすり替えて操縦桿を握り締める。戦い続けなければ。でないと何度でも振り返ってしまう。
●観客席
日乃和の首都、香龍。大都市の摩天楼郡を構成するホテルビルの一室は、平時と異なる物々しく緊張した空気が充満していた。
「ほへぇぇぇ、イェーガーって思ったよりまぁそこそこやりますね。こりゃあ聖下も気にする訳ですねぇ」
少女の声の質感は部屋を満たす空気とは真逆だった。三人分のソファを一人で占拠する少女が頭を揺らす度に、背もたれにかかった灼熱色の長髪が揺れる。髪と同じ焔色の瞳は、大型モニターに流れる大津貿易港の中継映像に食い入っていた。
「ねぇねぇ官房長官殿ぉ、やっぱり現場行っちゃダメ? 間近で見たいんだけど……」
背後に並ぶ完全武装の兵士達の刃物のような視線を意にも介さず、少女は席の隣に立つ中年男性に上目を送った。
「エクシィ・ベルンハルト一等執行官殿、その要求には応じられません」
東雲は腰の後ろに両手を回したまま石の如く動かず、鷲も竦まんばかりの眼差しで少女の紅蓮の瞳を見返す。席を挟んで反対側では、同じく直立不動で外務省の長官が横目で注視していた。
「ケチ! いいじゃないですかちょっとくらい! 見るだけ! 手出ししませんから! ねぇねぇ? 誰も損しないでしょう? 危ない事なんてしませんから!」
「貴官が我が国の領内に存在している時点で、安全保障上に少なくない懸念が生じています」
エクシィの早口を東雲は堅固な面持ちで跳ね返す。
「だぁかぁるぅぁん! 今日のわたしは戦争しにきたんじゃないんですって! アナスタシア聖下の名前を勝手に使った連中の様子を拝みに来ただけですよぉぉぉん!」
手足をばたつかせる様子はまさしく駄々を捏ねる子供のそれだった。
アーレス大陸に於ける最大最強の経済力と軍事力を誇る国家連合体、バーラント。
バーラントの最高指導者を担うのが機械教皇のアナスタシア・アーレス・リグ・ヴェーダ。
機械教皇の目となり見て、耳となり聞き、口となり語り、足となり動き、手となり力を行使するのが機械教皇に仕える執行官である。
赤髪を揺らすパイロットスーツ姿の少女――エクシィ・ベルンハルトはその執行官の一人だった。
「現状が貴官の要求に対する最大限の譲歩です。我が国と貴国は歴史的観点から見ても価値観の共有が難しい間柄に置かれている事を、エクシィ一等執行官殿も重々承知されているものと認識しておりますが」
そうだっけ? とでも言いたげにエクシィが眉宇を曲げる。
「そもそもとして、約一ヶ月前に貴国は我が国に対して事前通告無しに執行官を浸透させ、猟兵を襲撃しているのです」
知らぬ存ぜぬは通用しない。東雲の眼差しが重みを増す。
「やですねぇマジになっちゃって、あんなのお遊びですよぅ。そーれーにぃ、だぁれの血も流れてませんよね?」
「国家の主権の侵害は遊びのつもりだったでは済まされません」
「むしろ聖下とわたし達は外の大陸からやってきた機械神……あー、こっちじゃ巨神だっけ? ま、どっちでもいっか! 機械神を追っ払ってあげてるんですよぉ? 本当は日乃和神皇様のお仕事なのに……てーか! なんであの機械神素通りさせてるんですか!?」
モニターを指差すエクシィの目付きと声は鋭い。対する東雲の沈黙は、猟兵の雇用に関してそちらに干渉される筋合いは無いとの意味を含んでいた。
「まーた終末戦争起きちゃいますよ!? 官房長官殿は定命だから知らないでしょうけどねぇ、一度アーレス大陸が滅んだ理由の半分は外界から来た機械神達のせいなんですから!」
終末戦争、神々の黄昏、大破壊。呼び名は様々だが、遥か昔に発生した争乱の末にアーレス大陸は滅亡を迎えている。人喰いキャバリアを産み出し続けているゼロハート・プラントもその時代に建造されたものだという学説もある。東雲もそれを知っていた。だが今は先祖が歩んできた歴史について議論するつもりは無い。
「今回は戦争しにきた訳じゃないって約束ですからね? ちょっかいは出しませんよ? ただし! この件はアナスタシア聖下にチクらせて頂きますからね!」
「機械教皇が反社会的勢力を庇護するかのような意向を表明しなければ、機械神を運用する猟兵を雇用するに至らなかったやも知れませんが」
「それについても何度も言ってるじゃないですかぁ。なんで聖下が外界のテロ屋を庇わなきゃいけないんです? ましてや外界でイェーガーにお手紙渡して? めんどくさっ! それなら正々堂々直接渡しに来ますから!」
エクシィは神経を逆撫でする高い声で喚く。この執行官の少女が言う事は全て事実なのだろう。彼女の言い分では、機械教皇の名前を許可なく使用したテロリスト達の様子を見るため、実際に正々堂々と出向いて来たのだから。
彼女が日乃和に訪れたのは、東雲の元に機械教皇の書面が届けられたのと同時期だった。護衛もキャバリアも無しに少女の身体ひとつで。
安全保障の観点から来訪は拒否して然るべきだった。機械教皇に仕える執行官は、たった一人でも盤面を覆しかねない力を秘めているからだ。恐らくは猟兵に類似した存在なのだろう。
しかし日乃和政府はエクシィ一等執行官を受け入れた。そして拒否出来なかった。
まず第一の判断材料となったのが彼女の来日の目的だった。
バーラント機械教皇、アナスタシア・アーレス・リグ・ヴェーダの名前を騙る者達の姿を確認しておきたいとのエクシィの要求は、日乃和政府側にとって並ならぬ価値を有していた。テロリストに対する攻撃中止を求める文書は元より偽造の疑惑が高まっていたのだが、機械教皇の代理者たる執行官の言質を得られるならそれが確たる裏付けとなる。テロリストの排除に反対する野党勢力を抑える材料にもなるし、世論の流れを与党側に向ける事にも繋がる。
第二の理由は彼女が持つ危険性にあった。もし仮に拒否すればエクシィは諦めないだろう。日乃和側に不利益な形――例えば猟兵とテロリストが交戦中の大津貿易港に乱入する格好で干渉を及ぼすかも知れない。ならば監督出来る場所に留めておいて、目的を果たさせ早々にお帰り頂く方が穏便に済む。しかし万が一エクシィが癇癪を起こしたとして、部屋に配置した戦力だけで抑えきれると思えるほど東雲は自惚れてはいないし楽観的にもなれない。だから最悪の事態が生じれば、直ちに香龍海軍基地の剛天を緊急発進させて階層ごと爆砕する用意もしていた。
「大津貿易港にいる潜水空母艦への攻撃は即刻中止しろ。さもなくば相応の報いを受けてもらう……ねぇ」
隣に立つ中年男性が心中の覚悟を決めているなどと露知らず、エクシィは机上に置かれた書面を指で摘んで訝しく読み上げる。とある猟兵がバーラントの戦闘員と思しき者から受け取り、日乃和に届けた書面だ。機械教皇の署名が記載されている。
「聖下はもっと汚い文字で書きますよ。ん? そう言えば最後に聖下の書いた文字見たのっていつだっけ? し〜らないっと!」
興味が失せたのか、無造作に放り投げると書面は音も無く机上に降りた。
「おお? キラー・イェーガー落ちましたねぇ?」
エクシィの瞳の中で虹彩が輝く。彼女の興味は機械教皇の名前を騙るテロリスト達には既になく、それらと対峙する猟兵達へと向けられている。モニターの中では潜水空母が炎に包まれながら海中へと没し、二機のキャバリアがキラー・イェーガーに銃を突き付けていた。最終盤面に進む直前の映像だった。
●任務内容更新
『こちらは大鳳の葵結城です。猟兵の皆様……キラー・イェーガーと潜水空母の撃破、誠にお疲れ様でございました』
通信装置から伝わるのは嫋やかな女性の声音。眠気を誘う淡々とした状況報告が続く。
二つの目標を排除を以て、作戦は第三段階へと移行した。第三段階での目標はガガンボの撃破となる。
白羽井と灰狼両隊が先んじて掃討に当たっていたが、ガガンボはまだかなりの数が残存しているようだ。機体の性能自体は特筆するほどではないにしろ、数は常に純粋な力となり得る。油断が許される理由はどこにもない。
『猟兵の皆様が潜水空母艦内で入手した資料と、捕縛したテロリストの構成員から得られた情報を照合致しますと、当撃破目標には人体の一部を流用した制御装置が組み込まれている可能性が大いにございます』
テロリスト達は拉致した元灰狼中隊の隊員や民間人の脳を使用して生体制御装置を作成、ガガンボに搭載したらしい。装置の性質上からして電子的な干渉は受け難い構造となっているかも知れない。通常の戦闘手段で撃墜するのであれば困難は生じないだろう。
『生体制御装置に関しまして、先ほど参謀本部より破壊措置許可が降りました。戦闘中に於ける処理の如何につきましては猟兵の皆様のご判断にお任せ致します』
つまりは当初の作戦内容から変更は無いという事なのだろう。ただひたすらガガンボを撃墜し続ければ自動的に目標は達成される。
●最終工程開始
潜水空母は大破轟沈し、残存したテロリストの構成員とリーダー格は捕縛された。残された敵は無人のガガンボのみ。
搭載する生体制御装置は機械と人間の遺体の化合物であり、人の残滓は既に無い。電極を介して流し込まれた電気信号に神経が反応し、神経が機械に動作を入力しているだけだ。
光彩に満ちた大津貿易港での戦いは最後の仕上げに至った。繰り手無き人形達の糸を切る役回りを担うのは、猟兵達に他ならない。
ガイ・レックウ
【SPD】で判定
※アドリブ、連携可能
『胸糞悪いことしやがるぜ…せめて俺たちの手で終わらせるしかないか』
一旦、息を吐く
『フェザー01!ウルフ01!これ以上、死体を玩具にさせるわけにはいかねぇ!援護を頼む!』
【オーラ防御】を纏ったあと、ユーベルコード【竜闘技・天乃型『爆界天昇』】を発動!機体の【リミッター解除】とともに最大加速で突撃するぜ!電磁機関砲での【制圧射撃】とブレードでの【鎧砕き】で攻撃していくぜ!
『せめて、持てる力で派手に送るぜ‥!』
●雷葬
大津貿易港に飛び交うガガンボ達。それは光に誘われた羽虫のようでもあった。
「胸糞悪いことしやがるぜ……」
歯噛みするガイの眉間が深い皺を刻む。テロリストに捕らわれていた者達が還る事は既に無い。短機関銃の銃口を明滅させるガガンボからは、人間らしい挙動は見て取れなかった。コスモ・スターインパルスを横に滑らせながらガイは思う。生体制御装置とは言え、やはりもう人としての意識は喪われ、ただ単に遺体を流用しているだけなのか?
「せめて、俺たちの手で終わらせるしかないか」
国を守護る為に戦っていった者達の死に様が無碍にされてよいとは思えなかった。肺に滞留した息を吐き出す。胸につかえる淀みが抜けない。コスモ・スターインパルスがガガンボの集団に対して試製電磁機関砲1型・改で牽制射撃を見舞う。するとガガンボは攻撃の兆候を感知するや否や、バーニアノズルを焚いて急加速した。
「速いな……!」
滲む声は速力だけに向けられたものではない。相応に場数を踏んだ操縦者の如き反応速度――生体制御装置の性能は、素材となった人間の能力を引き継ぐとでもいうのか? だが動き自体からは人間味がまるで感じられない。脳裏に暁作戦の初戦で共に戦った灰狼中隊の隊員の声が蘇った。
「少し待ってろ、いま楽にしてやる」
届く筈の無い呟きだった。コンソールパネルを指先で叩いて通信回線を開く。
「フェザー01! ウルフ01! これ以上、死体を玩具にさせるわけにはいかねぇ! 援護を頼む!」
半ば自分に叩きつけた言葉だった。
『フェザー01よりコスモ・スターインパルスへ、了解でしてよ』
『こちらウルフ01、アタシらに何をどうしろって?』
「奴等をこっちに追い込んでくれ! ユーベルコードで纏めて落とす!」
両者からの了解を待って通信を終える。那琴と伊尾奈のアークレイズ・ディナが飛び回るガガンボに火線を伸ばし、追い込み漁の如くコスモ・スターインパルスの前へと集約させ始めた。
コスモ・スターインパルスが兵装懸架装置に電磁機関砲を預けると、腰部にマウントした特式機甲斬艦刀・烈火の柄にマニピュレーターを掛けた。刀身が鞘を滑り、鞘口から火花が舞う。抜刀した紅蓮の刃を示現流にも似た型で頭部の横に構える。
「たぎれ竜の雷! 天をも揺らし、明日を掴む力とならん!!」
刀身から吹き出した真紅の雷がコスモ・スターインパルスの機体全体を覆う。稲光に包まれたその様子はさながら雷球のようでもあった。
「せめて、持てる力で派手に送るぜ……!」
コンソールの盤面を滑った指が推進装置の出力制限を一括解除する。正面に見据えたのは那琴と伊尾奈が纏めたガガンボの群れ。二機が展開した弾幕の檻の中でも高速機動を繰り返し、短機関銃を乱射している。慌てているという様子ではない。ただ自己に向かう動体を避け、敵対する移動物体に攻撃を加えているだけの動作。ガイにはそう思えた。
「征くぞ! 竜闘技・天乃型! 爆界天昇!」
裂帛と共にフットペダルを踏み込む。急激な加速を得たコスモ・スターインパルスは紅蓮の稲妻となって疾駆した。インストールされたプログラムに従い短機関銃で迎え撃つガガンボ。幾つもの弾体がコスモ・スターインパルスに降り掛かるも、いずれも機体を覆う雷に阻まれた。ガガンボは反撃から回避へ戦術判断を変更するも既に遅い。コスモ・スターインパルスが目標から目標へと乱反射するような軌道を描く。湾内の海上に稲光が鳴った。
ガガンボの群れを抜けて機動を止めるコスモ・スターインパルス。侍がするようにして烈火を払う。背後でガガンボ達が次々に紅蓮の稲光を受けて砕け散った。
「あばよ、ゆっくり休め」
ガイの俯いた面持ちが横に向く。連動してコスモ・スターインパルスが頭部を同じ方向へと向けた。黒い装甲の奥に灯る紅のセンサーカメラの深淵は、搭乗者の苦く重い目付きを投影していた。
大成功
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杓原・潤
……行くよ、テルビューチェ。
あなたなら【空中戦】だって出来るよね。
うるうが魔力で武器を作ってあげる。
爪とか、口から吐くビームとか、剣をもっと強くしてあげるとか……【全力魔法】で限界まで破壊力を増やすよ。
テルビューチェの【継戦能力】とうるうの【オーラ防御】があれば、少しくらい攻撃されたって怯まない。
【空中機動】で真っ直ぐ近付いて、この子の【怪力】で武器を叩き付ける!
一発で倒せるように一体ずつ確実に攻撃していくよ。
うるうは魔法使いだけど、この事件をハッピーエンドにする事は出来ない。
力不足でそうなっちゃったのは分かってる。
でも出来たら……このロボットに人間が組み込まれてるなんて、知りたくなかったな!
●
殺滅、飛翔
暗い夜空を落とした海面をテルビューチェが進む。泡立つ白が波濤となり、鮫魚人型の機動兵器に怯え竦んだかのようにして左右に別れて道を開ける。
ガガンボの群れが海上を飛び交う。羽虫の如きそれらを遠くに見詰める潤の眼差しが細められた。
「うるうは魔法使いだけど、この事件をハッピーエンドにする事は出来ない」
時は巻き戻らず、潰えた命は帰らない。どうして? 自問に己が答える。力が足りなかったら。そんな事は分かりきっているのだと下唇を噛んだ。
「でも出来たら……このロボットに人間が組み込まれてるなんて、知りたくなかったな!」
叩き付けた吐露は憤りだったのか、後悔だったのか、自分でさえ判別し得ない感情が誰に向かうでも無く弾けた。
「……行くよ、テルビューチェ」
潤の仄かな声音が駆る鮫魚人型キャバリアの名を唱える。ハッピーエンドに向かわせる力は足りなかったかも知れない。だが戦う力はここにある。
光に集う虫のように飛び回るガガンボ達が動きを変えた。接近するテルビューチェを攻撃対象と見做したらしい。対地攻撃用の榴弾砲が撃ち込まれた。
「潜って!」
即座に潜航するテルビューチェ。頭上では海面という分厚い壁に阻まれた榴弾が炸裂を連鎖させた。籠った爆発音がコクピット内の潤の元にまで届く。
頭上を見上げる。敵機はテルビューチェが頭を出した途端に襲い掛かるべく待ち受けているようだ。それも海面からは高度を取った状態で。跳躍で届くかは怪しいところだし、集中攻撃を受ける事は必至だろう。
「テルビューチェ、あなたなら空だって飛べるよね」
うるうの魔法があれば――空気を吸って胸を膨らませた。
「夜の魔力よ、力を――!」
テルビューチェの機体を星屑の円環が螺旋状になって纏わり付く。マニピュレーターには強靭な爪を。剣はより巨大に。口腔内には砲身を。星夜の魔装を帯びたテルビューチェの輪郭は、先ほどまでよりも一回りほど大きくなって見えた。
「飛ぶよ!」
潤が鋭く声を飛ばす。テルビューチェが尾鰭で海水を打って急上昇した。破裂する海面。昇る水柱。待ち構えていたガガンボ達が一斉に榴弾砲を発射した。機体を包む球体状の魔力障壁が直撃を阻む。近接信管を作動した榴弾が緋色の炸裂を膨張させた。黒煙に飲まれるテルビューチェ。
「効かないっ!」
黒煙を割ってテルビューチェが一体のガガンボ目掛けて尚も上昇する。振り翳すのは木材と魔獣の牙から成る巨剣。潤の星夜魔装でより大きく、重量を増したそれが、機体本来の膂力を以てしてガガンボの正中に叩き付けられた。
粉砕としか言い表し様が無かった。強烈な衝撃音と共に砕け散ったガガンボの残骸と共に、テルビューチェは海中へと没する。すぐに集中砲火に見舞われるも、魔力障壁と鮫肌の装甲が破られる事はなかった。
「まだだよ!」
テルビューチェが再度翔ぶ。砲火を受けながらも強引に肉薄し、ガガンボに腕を伸ばす。マニピュレーターに装着された爪が月明かりを受けて獰猛に閃いたと思えば、ガガンボは細切れの残骸と化していた。
ガガンボ達は目の前で僚機が爆散しようとも構う素振りさえ見せない。生体制御装置を組み込まれているとは言え感情など微塵もない無人機に違いはないのだろう。一機を囮に他の機体がテルビューチェに砲撃を加える。連続して生じた爆発が重い衝撃となってコクピットを揺さぶる。潤が苦悶に顔を顰めた。
「そんなの……効かないってばぁ!」
振り払うような潤の叫びにテルビューチェが顎を開いた。顎の内部に覗く大口径砲が銃身を迫り出し、砲身の内部に紫の光を灯す。間髪入れずに放たれた光芒がガガンボを飲み込み、機体の殆どを抉り去った。
一撃を与えて海中へと潜航するテルビューチェ。撃墜したガガンボの成れの果てもまた海中に沈みゆく。肩で荒く呼吸する潤の眼には、どのように映っていたのだろうか。
大成功
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露木・鬼燈
最後の最後まで悪意たっぷりなことで
熟達の忍であっても気分が滅入ることはある
仕事には影響しなくてもいやな気分にはなるのです
救うことができない以上はどうやったところで自己満足
それなら効率重視でさっさと終わらせる方がいい
UAVを射出し目標を補足
<天津甕星>へのコード送信を確認
一気に終わらせるですよ
● 鎮魂の光
アポイタカラのデュアルセンサーは、キラー・イェーガーと潜水空母の撃破を三笠の艦上から見届けていた。揺らめく炎を海面が照り返している。
「最後の最後まで悪意たっぷりなことで……」
孤独なコクピットで嘆息の呟きが溢れた。目元を覆い隠す面当てを付けた鬼燈の顔色を窺い知る事は叶わない。だが落ちた双肩からは呟きと同じ気配がありありと見て取れた。
百戦錬磨、常在戦場たる熟練の忍とて滅入る事はあるし、嫌な気分にだってなる。いずれも業務に差し支えを及ぼす程度には至らない。だが嫌なものは嫌なのだ。この感情があるから鬼燈は思考できるし、選択できる。生を楽しむ事ができる。
推進噴射の光を引き連れて飛び交うガガンボは、遠目で見れば蛍のようでもあった。あの機体の中に、灰狼中隊の隊員の成れの果てが入っている。
暁作戦の記憶が呼び起こされた。他が為に命を賭して戦った者達の末路がこれか。泥と血に塗れながら進軍を続け、やっと芽生えた希望を踏み潰され、死線の先に暁を迎えた者達の末路が……鬼燈が見た光景は彼等の見た光景となんら変わらなかったはずだ。
テロリスト側からすればそんな事情は知ったところではなかったのだろう。狙いを付けたキャバリアに偶々乗り合わせていただけだ。もののついでに捕らえた少女達を嬲り、犯し、脳髄を取り出し――。
「さっさと終わらせるっぽい」
自らに唱えて思考を断ち切る。既に救う手段は失われた。ならどうする? 早急に事態を収拾させる以外に何があるというのだ。脳髄を制御装置に加工された者達は、どうしたって還る事などないのだから。
アポイタカラが左右のマニピュレーターとフォースハンドで保持していたガトリングキャノンを手放した。多銃身の巨砲がノイズめいた揺らぎに変じて消失するのを待たずして、右腕部を夜空に向けて翳した。
「アクセスッ!」
鬼燈が短い裂帛を走らせる。するとアポイタカラの周囲に魔術めいた紋様の円陣が生じた。数は141を下らない。その円陣ひとつにつき一機のUAV……無人航空機が機首を覗かせた。
「ごー」
間の抜けた声と共にアポイタカラが右腕部を振り下ろす。それを合図としてUAVが一斉に飛び立つ。アポイタカラから見て扇状に散開し、戦域の各地で飛び交うガガンボへと向かう。
ガガンボ達がアポイタカラの放った無人機群を見過ごす道理は無く、接近を感知するや否や対空迎撃用ミサイルで応戦した。幾つかのUAVはそれで撃墜されるも、元々の数が百を超えているため、目に見えて損失が出ている訳でもない。そして鬼燈の目的はUAVがガガンボを捉えた時点で既に達成されている。
「コード送信を確認……一気に終わらせるですよ」
アポイタカラが腕を薙ぐ。先に展開した円陣より更に巨大な円陣が直上に現れた。円陣の中から滲み出るようにして迫り出したのは、衛星型の無人攻撃端末――天津甕星。古代魔法帝国時代に産み出され、今は骸の海を漂う次元跳躍型攻撃衛星だ。
「発射っぽい!」
天津甕星が備える砲身からか細い光線が伸びる。照射時間はほんの一瞬。カメラのフラッシュのように明滅が連続する。
そして湾内に火球が膨らんだ。海面に緋色の照り返しを落とすそれらは、天津甕星のレーザー照射を受けて爆散したガガンボ達に他ならない。先に放ったUAVはこの照射の為の観測手だったのだ。
さながら殲禍炎剣の如き無慈悲なまでの正確性。天津甕星がレーザーの明滅を瞬かせる度に爆炎が膨張する。
暁作戦で戦線を共にした者達。その成れの果てが羽虫のように焼け落ちてゆく。遠く見つめる鬼燈がどんな面持ちだったのか、口元は結ばれるばかりで、面当てに秘匿された目付きは誰しも知る術を持たない。
大成功
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エドゥアルト・ルーデル
聞いてよ東雲氏(機体の肩の上で)
潜水空母で遊んでたらなんか爆散したんだよね、それはいいんだけど…
後始末しないといけないのはわかるけど、強敵でも何でもないからもうやる気でなくって…全然動けなくてェ…
女の子の間に挟まりたいなぁ
はああのガガンボそうなん…大変スね
正直いろんな世界を飛び回ってるから人肉工場だの
魂人だの…なんなら拙者も族滅とかしてたからそういう事あってもよくあるよねって感じでェ…感慨も湧かなくってェ…女の子の太ももに挟まりたいなぁ
でもなぁ善を蹴飛ばし悪を踏みにじるプロット・感慨破壊系猟兵としては…ネ
東雲氏も何とかしたいでござるよね?
なので逃げれば一つ!進めば二つ!奪えば全部!堕ちれば深淵!拙者は爆発!
ちょっと戦域のガガンボ撃墜してみてよ、もしかしたら中身がいい感じにリスポンするかもしれないでござるよ
まあちょっと精神性がやべー奴になったり…やべー奴になったりするかもしれんが
お代は東雲氏の太ももでいいでござるよ
このでけえ太ももが
今から拙者がギャグに変えてやる
●やはりここだけ別時空
「ねぇ聞いてよ東雲氏」
『嫌ですわ』
「潜水空母で遊んでたらなんか爆散したんだよね」
那琴の拒否の防壁は貫通された。機体の肩に乗るこの髭の中年男性との意思疎通は基本的に一方通行である。戦闘機動で四方八方から重力加速度を受けているのにも関わらず、固定措置も無しに何故平然と肩に乗っていられるのか。那琴は今更考える気にもなれなかった。
「それはいいんだけど……後始末しないといけないのはわかるけどさァ? 強敵でも何でもないからもうやる気でなくって……」
『そもそもエドゥアルト様にとっての強敵の基準が分からないのですけれど……』
「全然動けなくてェ……」
『予め申し上げておきますけれど、わたくしは涙の王国は存じませんわよ?』
「
女の子の間に挟まりたいなぁ」
一コマ目で完膚なきまで叩きのめされていそうな環境利用闘法を得意とする自衛隊の超軍人のような物言いをすれば『あぁそうですの』と他所に向けられた嘆息が返ってきた。
『せめて静かにしていてくださいまし。いまは手一杯ですので』
「なんでや? 今更あんなん出てきてもチョチョイのチョイでござろう? 拙者がパワーレベリングしてあげたの忘れたでござるか?」
『随分昔の事を……先ほど結城艦長のお話しにもありましたでしょう? あのガガンボにはわたくし達の同胞の頭脳が使われておりますのよ。ですから通常の無人機だと思ってかかれば痛い目に……」
「はあ、あのガガンボそうなん……大変スね」
『エドゥアルト様が本当にそう考えてらっしゃるとはとても思えませんけれど』
「そりゃねぇ? 正直いろんな世界を飛び回ってるから人肉工場だの
魂人だの」
『たまんちゅ……?』
「なんなら拙者も族滅とかしてたからそういう事あってもよくあるよねって感じでェ……」
『……そんな事をしていそうな御顔をしているとは前々から思っておりましたけれど、やはりなさっていたのですわね』
「感慨も湧かなくってェ……」
『貴方が感慨に耽っていた事がございましたかしら?』
「女の子の太ももに挟まりたくってェ……」
『わたくし、以前申し上げましたわよね? セクハラは許さないと』
那琴の声音が露骨に重低音化するが、エドゥアルトの口は塞がらないし止まらない。
「でもなぁ善を蹴飛ばし悪を踏みにじるプロット・感慨破壊系猟兵としては……ネ」
『ほらご覧なさい。やはり感慨に耽るどころか破壊する側ではありませんの』
「東雲氏も何とかしたいでござるよね?」
『それは……ですがもうどうこう出来る段階ではありませんもの』
「なので逃げれば一つ! 進めば二つ! 奪えば全部! 堕ちれば深淵! 拙者は爆発!」
『爆発するなら降りてからにしてくださいまし!』
「ナンデ?」
『ナンデ? じゃありませんのよ! エドゥアルト様は爆発しても復活するのでしょうけれど、わたくし達はそうはなりませんのよ!』
「東雲氏前見て前!」
エドゥアルトが前方を指差す。ガガンボが一機、正面を塞いでいた。真正面から浴びせられた弾丸が、那琴機のバリアフィールドに接触して初速を急激に減衰させつつ四方に散る。
『まったく誰のせいで余所見する羽目になっているのだと……!』
那琴が憤りを込めて操縦桿のトリガーキーを引こうとした矢先だった。
「やったれ東雲氏! 撃墜したら中身がいい感じにリスポンするかもしれないでござるよ」
『……はい?』
指先の動きが固まる。
「まあちょっと精神性がやべー奴になったり……やべー奴になったりするかもしれんが」
那琴機が攻撃を中断するや否や、横方向に急加速してガガンボをやり過ごした。
「おいィ!? なんで止めちゃうでござるか!?」
『なんでではございませんのよ! 一体何を企んでらしたのです!?』
「今から拙者がギャグに変えてやろうと思ってね?」
『この……この……っ!』
憤慨に絶句した那琴の身体が震える。
「お代は東雲氏の太ももでいいでござるよ?」
『払いませんわよ!』
「えー? いいじゃんそのくらい!」
『セクハラは許さない事にしていると先程言ったばかりでしょう? 三度目はございませんわよ?』
「一緒に寝た仲なのに?」
『言い方! 作戦中に同じ部屋で寝ただけですわよ!』
「つべこべうるせぇ! このでけえ太ももが! アトリエ構えてる錬金術師みてぇな太ももしやがって!」
エドゥアルトは当てつけと言わんばかりに那琴機の肩部装甲を平手で叩く。
『わたくし、三度目は無いと申しましたわよね?』
那琴機が海面に触れる寸前まで高度を落とし、速度を急激に引き上げる。
「あばばばばばー!」
ただでさえ色々と凄まじいエドゥアルトの顔が、吹き付ける強烈な風圧によって更に凄まじい形相と化した。鋭角かつ俊敏な急加速に振り回されるエドゥアルト。だが彼が落水する事は無い。何故なら、エドゥアルトはエドゥアルトだからだ。
大成功
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アルバート・マクスウェル
おいおい、さっきの重力砲。一体何だよ、アレ?! 威力おかしいだろ!?
退艦が遅れていたら、おじさん、マジで海の藻屑になっていたぞ! いや、生きていたからいいけどさ!
さて、残ったのはあの無人機達だけか。ま、正体がどうであれ、おじさんはやるべき事を成すだけだ。楽にしてやるさ。
よし、タブレットを取り出して…っと。海上に浮いているキングアーサーの主砲を敵無人機の群れに照準。
お~い、嬢ちゃん達。今から凄い弾をぶっ放すから、レーダーに表示される危険範囲から退避しろよ。後、凄く眩しくなるから目を閉じてろよ。
退避を確認したら主砲からFESを2発発射。無人機達を一掃する。
どうよ、これがキングアーサー級の力さ。カメリア合衆国はこれを複数配備しているって言うんだから、恐ろしいもんだぜ…。
さてお嬢ちゃん達、よく頑張ったな。よし、お嬢ちゃん達に何かご褒美をやろう! 美味しい物を奢ってやるか、拓也に会わせるか…他に何がいいかな?
食べ物や他の場合、まぁ当然かと納得。
拓也の場合、まさかの男!? と驚く。
アドリブ・連携可。
●荊棘の茎
潜水空母の巨大を一撃の元に貫徹した超重力波砲。その威力は完全無比という他に無かった。
「おいおい、一体何だよアレは!? 威力おかしいだろ!?」
命辛々に潜水空母艦内から港湾施設へと離脱したアルバートが肩を荒く上下させる。湾に面したガントリークレーンの根本から見る海上では、中央から真っ二つに割れた潜水空母が小爆発と炎上を繰り返して海中に沈みつつあった。もし一度目の退避勧告で即座に撤収の判断を下していなければ重力波によって跡形もなく押し潰されていたであろう。仮に運良く生き残ったとしても、直後にサーメートの炎か魔力粒子の奔流で焼かれていたに違いない。
「意固地にならなかったのは我ながら英断だったな……」
沈む潜水空母の艦首を遠目に見て、アルバートは人知れず胸を撫で下ろす。
「さて、残ったのはあの無人機達だけか……」
板状の端末の画面に指を走らせる。画面に双眸を細めた老年の兵士の顔が映り込んだ。
「ま、正体がどうであれ、おじさんはやるべき事を成すだけだ。楽にしてやるさ」
オブリビオンを殲滅する。契約の内容通りに働く。それが猟兵であり金で雇われた兵士という生き物だとアルバートは自認している。
端末を介して大津貿易港の外縁で待機するキングアーサーに攻撃要請の信号を送る。並行して湾内を飛び交うガガンボの集団へレーザー照準を向けた。続いて端末の画面上に指を滑らせ、日乃和海軍第六独立機動艦隊が使用している通信帯域に周波数を合わせた。
「お~い、嬢ちゃん達。今から凄い弾をぶっ放すから、レーダーに表示される危険範囲から退避しろよ。後、凄く眩しくなるから目を閉じてろよ」
『フェザー01、了解でしてよ』
『ウルフ01了解。全員対衝撃閃光防御しな』
ガガンボと近接航空戦闘中だった白羽井小隊と灰狼中隊のキャバリアが蜘蛛の子を散らすが如く四方に遠ざかる。外海に繋がる方角の海上から二つの風切り音が迫りつつあった。
殲禍炎剣の照射判定域寸前の高度を突き進む二つの飛翔体。それはキングアーサーの主砲が発射した特殊気化弾FESだった。二つの弾体はそれぞれのガガンボに着弾。直後に目を潰さんばかりの閃光が大津貿易港の夜を照らし出した。
アルバートが腕で顔面を庇う。暗い虚空に咲いた炎は、まるで雲のように拡大し、灼熱の衝撃を以てしてガガンボの集団を飲み込んだ。炎の雲に飲まれたガガンボは焼失し、波動を受けたガガンボは推進装置の機能を粉砕されて海面に没する。炎の雲の下で幾つもの水柱が昇る。
「どうよ、これがキングアーサー級の力さ。カメリア合衆国はこれを複数配備しているって言うんだから、恐ろしいもんだぜ……」
アルバートが誇らしげに鼻を鳴らす。
『そうですの……確かに恐ろしいまでの威力ですわね……ですが、人の生活圏で使うのは……』
那琴の引き攣った声音は最後まで言い終えるよりも先に消え入った。
「さてお嬢ちゃん達、よく頑張ったな」
アルバートは端末で敵反応を確認しながら言う。先程の特殊気化弾FESで十数機は撃破出来ただろう。カメリア驚異の科学力とでも言うべきか。火葬にしてはいささか派手過ぎたかも知れないが、直撃を受けたガガンボは跡形もなく焼失したのだから、生体制御装置にされた者達も本望というものだろう。
『いえ……任務ですので……』
通信装置越しに聞く那琴の声音からは、面持ちを陰らせ俯いている様子が見受けられた。
「よし、お嬢ちゃん達に何かご褒美をやろう! 美味しい物を奢ってやるか、それとも拓也に会わせるか……」
拓也の名前を出した瞬間、那琴の喉から風を切るような音が鳴った。アルバートの耳はそれを聞き逃さなかった。
「お!? まさかの男!? やっぱり拓也が御所望かな?」
片側の口角を上げて意地悪く笑って見せる。那琴は何かを発しようとしているらしいが、喉が掠れているのか言葉にならない。
ご褒美のメニューに何の前触れもなく憧れの彼の名前を出されてショック状態になっているのか? やれやれ、暫く会っていなかったとは言え初々しいものだ。どれ、ここは年長者がなかなか素直になれない少女のエスコートをして差し上げよう――。
『マクスウェル大佐』
重い声音が開き掛けたアルバートの口を遮った。
『……貴方は以前、あのテロリストは人喰いキャバリアなんかより質の悪い連中だと仰っておりましたわね?』
那琴の緩慢とした重い語り口が続く。怪訝に眉宇を傾けたアルバートが瞳を左右に動かして記憶を辿る。
「まあな、連中は化学兵器も使うし核も使う。こうして手段も選ばない。数に任せて攻めてくるだけの人喰いキャバリアなんて可愛いもんだろう?」
無意識に面持ちが苦味を増す。カメリアでの一件の記憶はいつだって即座に呼び覚ませる。ガスに巻かれて喉を掻き毟りながら死に逝く子供達。核の炎に焼かれ、焼け爛れた皮膚をぶら下げて彷徨う市民達。
母を呼ぶ幼子の悲鳴。水。熱い。痛い。苦悶の合唱。あれを地獄とせずして何と呼べばいい? あんなもの、人の所業ではない。端末を握る手に震えるほどの力が篭る。
『今日やっとその意味が解りました』
「そうか……」
カメリアが被った被害に比べれば、彼女達が受けた被害など塵ほどにも満たないだろう。だが僅かながらにでも理解してくれたのであればいい。アルバートは目を伏せて頷く。
『確かに防人少佐は、人喰いキャバリアと同じ位に許し難い敵を連れて来てくださったのですね』
那琴の言い回しにアルバートの目元の筋肉が微動する。
「いや、連中は勝手に拓也を追って来たのであって――」
『ウルフ01よりフェザー01ッ! 無駄話ししてる暇があるなら手伝いなッ! 奴等を猟兵の前に追い込むッ! そっちは北側から回りなッ!』
『フェザー01よりウルフ01へ、了解でしてよ! 小隊全機! 続きなさい!』
言い掛けた言葉は伊尾奈の殺気立った怒号とそれに応じた那琴の怒号に遮られた。ちょっと待てと割り込もうとした時には、既に通信は断ち切られていた。
「やれやれ、日乃和のお嬢様は気難しいもんだな……」
臓腑で煮えていた熱が急速に冷めてゆくのを感じながら、両肩を落として息を吐き出す。
『マック大佐ぁ、ナコのカノジョからアドバイスでーす』
「おう雪月准尉か? どうした?」
間の抜けた少女の声に不意を打たれたアルバートが反射的に応じる。
『しばらくナコ……というかあたしらの前でゼロえもん少佐の事話さない方がいいよ』
やれやれ、栞菜もか? やれやれ。内心で深い嘆息が生まれた。
「だから言っただろう? あのテロリストは拓也が連れて来た訳じゃないと……」
『分かってるよ。あたしらその場に居たんだから。でも、理屈じゃ納得出来ないことってあるでしょ?』
「そいつは逆恨みってやつじゃないか? 恨み辛みを向けるべき相手は拓也じゃなくてテロリストだろうが」
『ごめんね? あたしらまだ聞き分けのない子供だから。それにゼロえもん少佐やマック大佐みたいに強くないし』
謙遜か皮肉か。栞菜の声音は妙に湿っぽく、落ち着いている。
『まぁほんとはゼロえもん少佐は悪くないなんて事みんな解ってるし? その内落ち着くと思うからさ、いまはクールタイムが必要ってことで。じゃあねぇ〜』
待てと言い掛けるよりも先に通信が音を立てて切られた。
「やれやれ、言いたいことだけ言いやがって……」
今日何度目のやれやれだろうか? アルバートの遠い眼差しが、編隊を組んでガガンボを堰き止める白羽井小隊のキャバリアの軌道を追う。
「人の痛みなど、その人本人にしか解らない……か」
辛い。苦しい。悲しい。それぞれに抱える痛みの重さはそれぞれに違う。真に人の痛みを共感出来る者など、どこにもいないのかも知れない。そういう事なのかもなと含んだアルバートの呟きが、大津貿易港の夜に溶けて滲みる。
「やれやれ、反抗期か?」
またやれやれが出てしまった。自嘲に首を横に振り、双肩と共に視線を落とす。薔薇の茎は棘まみれで掴む余地が無い。時間の流れが棘を落としてくれるのだろうか? やれやれ。
大成功
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セレーネ・ジルコニウム
「残るはガガンボだけですね。
ストライダー、最大船速!
前線に到着次第、私がスティンガーで出ます!」
『残念じゃが無理じゃ』
ミスランディアの言葉にコンソールを見ると、メインエンジンの出力が低下中!?
重力波砲を無理して発射した代償で、本格的なメンテナンスを受けないと戦闘機動はできそうにありません。
『重力波砲とメインエンジンの修理……
今回の依頼報酬程度では大赤字じゃのう』
「誰のせいだと思ってるんですかっ!」
他に使える武装がないか確認し――
「ありました!
ミスランディア、長距離弾道ミサイル発射管オープンです」
『なんじゃと!?
アレは殲禍炎剣のあるこの世界では使えぬ兵器じゃぞ』
普通に使えば、ですけどね。
「ミサイルを水平発射に変更!
海中を飛翔するコースに設定し超高速魚雷として使用します!
これならば殲禍炎剣にも捕捉されません!」
ガガンボの足元の海中から飛び上がり、頭上に達したところで殲禍炎剣に撃墜されるように設定します。
破壊された弾頭からは侵食型ナノマシン群が放出され、ガガンボたちを撃破してくれるでしょう。
●初夏の雪
超重力波砲で潜水空母を撃沈せしめたストライダーは、一撃を加えた後に離脱し、再度海底に船体の腹を伏せて潜んでいた。
「ふぇっくしょい!」
『なんじゃ? 風邪かの?』
「今の日乃和は初夏ですよ? ブリッジのクーラーだって別にそこまで効かせてるわけじゃありませんし」
『それはそれとして、キラー・イェーガーの撃破を確認したぞい』
ミスランディアの合成音声を受け、艦長席に座すセレーネが頷く。
「残るはガガンボのみですね」
数はそれなりにいるようだが、彼我戦力差からして極端な脅威とは言い難い。戦術的にも対キャバリアミサイルと対空機関砲があれば十分に対処可能な規模だろう。そして、ストライダーにはセレーネの専用機たるスティンガーIIが搭載されている。
「ストライダー、最大戦速で浮上! 前線に到着次第、私がスティンガーで出ます!」
『残念じゃが無理じゃ』
キャバリアハンガーに向かうぞと勇んで立ち上がったセレーネが盛大に躓いた。
「何故です?」
手元のモニターには次々と船体状況を示すデータが展開された。一つに目を通す度にセレーネの眉宇が歪み、面持ちが渋みを増す。
「メインエンジンの出力五割低下……って、これは……」
『超重力砲を発射した代償じゃのう』
「代償じゃのう……じゃありませんよ! 誰が発射を強行したのか忘れたんですか!」
『わしじゃよ』
「忘れていないならもっと申し訳なさそうにするべきでしょう!?」
他人事めいた口振りのミスランディアに声を荒げるセレーネ。
船体の診断結果から言えば重症であった。ユーベルコードを用いて通常の三倍以上の出力で稼働させたのだから当然と言えば当然であるが。超重力波砲本体の被害についても同様である。
「あーあ……これじゃ当分はドッグ入りさせなきゃいけませんね……」
現在のストライダーは戦闘どころではない。船体の画像ではエンジンブロックが赤で表示されている。セレーネは思わず視線を逸らした。
『重力波砲とメインエンジンの修理……今回の依頼報酬程度では大赤字じゃのう』
「誰のせいだと思ってるんですかっ!」
よりによって比較的小口の依頼でよくもやらかしてくれたな。そう憤慨を籠めてメインモニターを睨め付ける。
ミスランディアに呪詛を掛けるのは後にするとして、超重力砲波とエンジン周り以外の被害は如何程のものか? セレーネの指先が端末の画面をなぞる。
「あ……」
兵装の項目に目を通すと思わず声が溢れて指が止まった。
「ミスランディア、六番ミサイル発射管への注水を開始してください」
『なんじゃと? アレは殲禍炎剣のあるこの世界では使えぬ兵器じゃぞ?』
「普通に使えば、ですけどね」
セレーネが唇の隙間から歯を覗かせて角を上げた。
長距離弾道ミサイル。それが六番ミサイル発射管に収納されているアレとやらの正体である。
弾道ミサイルとは、一般的に放物線状の軌道を描いて飛翔するミサイルを指す。その性質上、発射直後に高高度まで上昇し、目標の条件によっては成層圏をも突破する。
UDCアース等では猛威を振るう兵器だが、クロムキャバリアではこういった長距離ミサイルの類の兵器は全く陽の目を見ていない。何故か? 理由は単純明快である。殲禍炎剣が高速で飛翔する物体を分け隔てなく撃ち落とすからだ。
故に、いつぞやにワダツミ級の開発者から半ば無理矢理購入させられて以降出番が巡ってこなかった。
「軌道を手動設定! ガガンボの集団の直下までは潜水航行し、直下に到達次第、軌道を直上に向けて向けてください!」
鋭く声を飛ばすと、ミスランディアは一拍子押し黙った後に『まぁ、よいじゃろう』と疑わしくも応じる。
『軌道設定よし。注水よし。発射準備完了じゃ』
「長距離弾道ミサイル……発射!」
セレーネが広げた右手を前に突き出す。艦橋内に籠った金属音が伝播した。
ストライダーの船体上面に備わるヴァーティカル・ローンチ・システム――VLSの略称で呼ばれる垂直発射システムの蓋が開き、円柱型の大型弾体が解き放たれた。弾体は首を九十度直角に曲げ、銀色の泡を後に残して真っ暗闇の海中を進む。レーダーグラフ上の光点をセレーネが固唾を飲んで見守っていると、弾体は再度向きを変えて海面を目指して急上昇し始めた。泡立つ海水を割って海上に現れると、脱いだ外殻からミサイルが生まれ、ロケットエンジンに緋色の炎を焚いた。
誘導弾の出現に散開するガガンボ達。だがミサイルはそのいずれも標的とせず、一瞬の内に上空へと飛び去ってしまう。そして流れ星のような一筋の光が夜空に走った。
それはクロムキャバリアの空に於ける絶対の審判者が放った光。生命の埒外の猟兵であろうとも、その暴走衛星が下す判決と執行からは逃れられない。殲禍炎剣の撃墜判定高度に達した長距離弾道ミサイルは、無慈悲なまでに精密かつ正確なレーザー照射を受けて爆散した。黒のカーテンを降ろした空に花火を思わせる派手な爆煙が広がる。
「ここからです」
ミスランディアが発声する前にセレーネの声が先回りする。巨大モニターの中では、咲いた火球から淡い白の光を放つ粉塵が生じている様子が見てとれた。粉塵は重力に従って緩やかに降り注ぐと、直下で戦闘行動を継続中のガガンボ達に付着した。
数十秒ほどの経過後だろうか、ガガンボ達に異変が生じた。生体制御装置に記憶された通りの淀みない機動が途切れ途切れ、或いはぎこちなさを見せ始めた。かと思いきや身悶えするかの如き挙動の後、スラスターから光が失せて海中へと没した。いくつもの水柱が立て続けに立ち昇る。
『敢えて殲禍炎剣に撃墜させる事で侵食型ナノマシンを広域散布したんじゃな。セレーネにしては考えたのぅ』
「最後のは余計な一言ですよ」
セレーネが視線を尖らせながら言う。長距離弾道ミサイルに搭載していた弾頭には侵食型ナノマシンが詰め込まれていた。これがガガンボに付着して浸透、内部の主要な電子機関を破壊して深刻な機能不全に陥らせたのだ。
「本来なら大陸を越えて敵国を直接攻撃する為の兵器ですが……ま、物は使い様というものです」
セレーネは自分の発した言葉に薄ら寒さを覚えた。他世界では――特にUDCアースでは一撃で戦争の情勢を転覆させかねない強力な兵器として扱われているが、クロムキャバリアでは殲禍炎剣が存在する都合上殆ど使用されていない。だがもし殲禍炎剣が無かったらどうなるのか? 各国はこぞって長距離ミサイルの撃ち合いを始めるのではないのか? そうすれば、きっと戦争は今よりもっと手軽で早期に完結するものとなるのかも知れない。そして短期間の内にもっと大勢の人が死ぬ。
「存外、殲禍炎剣のおかげで破滅的な戦争を免れているのかも知れませんね、私達の世界は……」
夜空の何処かで自分達を見下ろしているであろう暴走衛星に意識を飛ばす。気流に乗ったナノマシンは、雪の如く降り続いていた。
大成功
🔵🔵🔵
天城・千歳
【SPD】
絡み・アドリブ歓迎
人間を加工して兵器の部品にする。いつからここはSSWになったんですか?銀河帝国や宇宙海賊、闇シンジゲート等々、そんな連中は多数相手にしてきましたから、今更躊躇する様な事も無いですね。
戦場を囲う様にサテライトドローン群を移動し、通信・観測網を再構築
艦隊とのデータリンクは引き続き維持
観測網及び前線の友軍機、日乃和艦隊と自艦の各種観測機器を使い【偵察】【索敵】【情報収集】を行い、【戦闘知識】【情報検索】【瞬間思考力】で分析しUCを使用し、最適の攻撃パターンを算出【情報伝達】で艦隊及び友軍機と共有
艦隊の上空直掩と艦隊及び通信・観測網の演算力を使用した【ジャミング】【ハッキング】【データ攻撃】による電子戦を継続し敵機に機能不全を発生させる。可能ならば制圧、自爆させる。
艦隊及び自艦に向かってくる敵は【誘導弾】【砲撃】【レーザー射撃】の【一斉発射】による【弾幕】【範囲攻撃】で攻撃し、抜けて来た機体は【対空戦闘】と自立砲台群の【自動射撃】で対応。
●戦理眼
大津貿易港を包囲する格好で配置されたサテライトドローン群。単眼のセンサーレンズを通して送られた幾多の映像は、海上で待機する愛鷹の元に届けられていた。
『……いつからここはスペースシップワールドになったんですか?』
艦橋で映像情報をつぶさに確認する千歳の電脳は、そんな所感を禁じ得なかった。人体を切り刻んで機械の制御装置に加工する……銀河帝国や宇宙海賊、闇シンジゲートらしからぬ発想――いや、世界は違えど反社会的組織の考えつく行き先などどこも同じなのだろうか? 千歳としてはそういった類いの輩は散々相手にしてきている。だから今更躊躇する理由も無い。重要なのは依頼主から要求された破壊対象であること、そしてオブリビオンマシンであることだけだ。
『ラプラス・プログラム起動』
女性的な声質の合成音声。薄暗い艦橋の操作卓に並ぶ計器類が、呼応して青白い光を発する。ダークブルーを基調とした装甲色の千歳の義体が、亡霊の如く薄暗闇に浮かび上がった。
千歳は義体を微動にもせず電脳を回す。構築した情報網の状態を改めて確認する。日乃和軍第六独立機動艦隊との近接戦術データリンクは今も健在であり、同艦隊所属のキャバリアの動きもこちらでトレース出来ている。自律浮遊砲台群も防空戦力として配備しているので、第六艦隊が被害を被る事態は万が一でも起こらない限りあり得ないだろう。
敵梯団の行動予測を照合し、より効率的な戦術を提案しようとした矢先、耳障りな接近警報が鳴り響いた。
『こちらを狙ってきましたか』
大津貿易港との位置関係として、大鳳と三笠よりも接近していた愛鷹をより優先するべき攻撃対象をとして見なしたのであろう。梯団を構成したガガンボが海面を滑るようにして迫りつつあった。梯団の一方は右舷側に、もう一方は左舷側にそれぞれ回り込むつもりらしい。
『VLS起動。自動迎撃開始』
千歳が短く言い切ると、愛鷹の船体各所に配置された垂直発射装置の蓋が次々に開いた。白煙と共に排出される誘導弾の数々。暗闇に流星のような尾を残してガガンボへと向かう。
誘導弾の照準を察知したガガンボ達は回避運動と迎撃処理に移る。後退推進加速しながら短機関銃を乱射し、肉薄する誘導弾を火球へと変じさせるも、その間に二発目三発目が到達して爆煙に埋め尽くされた。されど全てではない。補助動力炉を限界稼働させる事で得た驚異的な加速性能で、ミサイルの歓迎をパスしたガガンボが尚も愛鷹に接近する。
『想定より迎撃率が低いですね』
であるならばその足を動かす為の思考系を奪う。愛鷹を中心として半球状に発せられた電子の波動がガガンボを透過した。すると淀みなく戦闘機動を繰り返していたガガンボの挙動がぎこちなく途切れ途切れのものとなった。
『おや……?』
千歳が頭部を傾げる。制御中枢を掌握するつもりだったが、完全にとは至らなかった。生体部品を使用しているからなのか? だが電子部品を使用している事に変わりはなく、生半ならぬ呪縛を与えられた。得るべき結果としては足を引っ張る程度の枷を掛けられたならば十分だ。生き残りのガガンボは神風特攻も斯くやといった様子で愛鷹目掛けて強引に驀進する。
『自立砲台群、CIWS、近接防御……用意』
鋼の冷たさを含む千歳の命令を受け、愛鷹の火器管制機能が船体に備わる機関砲の砲門をガガンボの集団へと向けた。同じくして艦の周囲に展開していた自立浮遊砲台群が規則正しい戦列を組み、最後の指令を待ち構える。
『始め』
機関砲が銃身を高速回転させ、チェーンソーの唸りのような発砲音を轟かせた。夜の闇に撒き散らした緋色の破線。自立浮遊砲台群からは光線と誘導弾が間を置かずして連射された。
ガガンボはプログラムに従って回避運動を取るが、目標との距離が詰まり過ぎていた。蛇行する軌道を描きながら届いたミサイルにオーバーフレームを砕かれ、機関砲の銃弾に穴だらけにされた挙げ句、とどめのビームに正中を貫かれた。
愛鷹の前方の海面で、赤黒い爆煙が連続して膨張する。真っ黒な海面が緋色に照らし出された。
『接近中の敵機残存数確認……残存数、ゼロ』
冷徹かつ淡々と状況を述べる千歳。ライトブルーの光を灯すバイザーの奥で、センサーカメラが脈動するかのようにしてぼんやりと閃く。その眼差しは焼け落ちるガガンボの残骸を見届けていた。
大成功
🔵🔵🔵
メルメッテ・アインクラング
無人機。動かしているのは、もう、人では無いと。かしこまりました
敵攻撃はEP思念式防御機構で【オーラ防御】致します
重力砲の【エネルギー充填】を開始しつつ、マイクロミサイル:トーンライターを【一斉発射】!指定UCを発動し、炸裂衝撃に加えて【念動力】を用い、宙に留めましょう
【追撃】として、チャージを終えた重力砲で【制圧射撃】でございます。威力は可能な限り大きく……例えるならば、沈める微睡みのように、或いは毛布のように。夜色の確かな重みで敵機を包み込みましょう。柔らかな声で「おやすみなさいませ」
一機、また一機と落とすごとに、生とその終わりを思ってしまいます
人間は何処から何処までが存在していれば、生きていると言えるのでしょうか?
永久に失われる事を死と呼ぶのなら……メルは、死ぬのが怖いです
誰にでもいつか必ず最期が訪れると分かってはいるのです、けれども――
いけない。油断はせず目の前のお仕事に専念致しましょう
今はこの戦場を乗り越える事こそが私の生に繋がるのですから
戻り次第、主様への報告書をまとめませんと
●有人無人機
大津貿易港の湾内を飛ぶガガンボの集団。緩やかな曲線の軌道を描くそれらは、光に群がる羽虫のようにも思えた。
Hanon-60.Probeのコクピットシートに跨るメルメッテは、自身の鳩尾に握った拳をあてがう。あのガガンボ達からは鼓動は聞こえない。だがこれはなんだ? 人の意志のような、でも空虚な無味無色の波が発せられている。
「……もう、人では無くなってしまっているのですね」
自身に唱え聞かせるように零す。形を喪失し、機械に組み込まれた人体の一部が動かす機動兵器群が目を輝かせた。目線は紛れもなくこちらに向けられている。
メルメッテがフットアクセルを蹴ると、Hanon-60.Probeが海面を滑るようにして急速後退した。すぐ側近で爆発が幾度も生じる。ガガンボ発射した対地榴弾砲が近接信管を作動させたのだ。海水を巻き上げて左右に切り返しつつ後退するHanon-60.Probeの黒く重厚な機体を、衝撃が激しく揺さぶる。金属片と熱波が装甲の表面に巡らせたサイコ・フィールドに阻まれる度に光の明滅が繰り返された。
「目標、並列捕捉……!」
メルメッテの双眸の中で乳青色の目が忙しく動き回る。視線を感知するセンサーが瞳を追い、榴弾砲を撃ち込みながら接近するガガンボの一機一機に捕捉完了を示す赤いマーカーを重ね合わせた。
「トーンライター、発射!」
音声入力を承認した火器管制機能が自動で選択兵装を変更し、トリガーキーの入力を受け付けてアンダーフレームに備わる兵装格納庫のハッチを開放する。内部に犇めく無数のマイクロミサイルを一斉に解き放った。扇状に拡がった誘導弾は曲がりくねった軌道を残しながら捕捉した対象へと殺到する。
包囲網を崩して誘導弾から逃れるガガンボ達。迎撃能力を飽和した数の誘導弾が爆炎の球となり、炸裂した衝撃波によって姿勢が大きく崩れる。体勢の立て直しを待たずしてメルメッテが眼差しを鋭くした。マイクロミサイルを触媒として、鎖で縛り上げるイメージを重ねて意識を集中する。ガガンボは挙動を止めて身を曝け出した。
メルメッテの指先が操縦桿のホイールキーを転がす。メインモニターの端に表示された選択兵装の項目が重力砲に移動する。左右のトリガーキーを引く。充填率を表すエネルギーゲージが上昇し始めた。Hanon-60.Probeの腰部両舷に装備された大型砲塔が持ち上がる。砲門から暗い紫の光が溢れ出る。
出力は高く、収束率を研ぎ澄ます。重力変動を起こさないように。微睡みの中で一撃で沈められるように。充填率が臨界に達した。メルメッテの人差し指がトリガーキーから離れる。
「おやすみなさいませ」
砲身から伸びた暗い太軸は、密かな柔らかい呟きと相反するようにして重く、獰猛だった。二つの重力波はガガンボを射抜き、四肢の末端を残して装甲から内部機構に至るまでを微塵に潰し、抉り、消滅させた。Hanon-60.Probeが機体の向きを反転させ、再度重力砲を発射する。オーバーフレームを丸ごと抉られたガガンボが、爆散するでもなく鉄屑と化して海に没する。
一機を落とす毎に引き金が重みを増す。命が潰れ、落ちて、海に還ってゆく。あれは無人機であると、乗っているのはもう生きた人では無いと理解しているはずなのに。
「生きて……?」
人知れずメルメッテの喉から声が滲んだ。そもそも自分は生と死の規定を理解しているのか? 生物学的な話しではなく、もっと根本の部分の……あのガガンボに搭載された者達は、本当に死んでいると言えたのだろうか? 背筋に薄ら寒さが這い上がる。
いいや、死んでいるはず。だって鼓動が聞こえなかったから。願いも想いも何一つ残されていない。感じる心が、魂が喪われてしまったから。そしてそれは誰にだっていつか必ず訪れる。自分にさえ――臓腑が下に抜け落ちるような錯覚に駆られ、下唇を噛んだ。
「集中致しませんと……」
死への恐れが身体を突き動かす。周囲に撃ち込まれた榴弾。昇る水柱と爆煙。黒い煙の中をHanon-60.Probeが脱した。重力波の応射がガガンボを貫く。メルメッテの淡い瞳孔が海面に降る残骸を追う。
形は違えど、いずれ自分も同じように最期を迎えるのだろう。でも今じゃない。だから戦って乗り越える。
『勝手に死ぬ事は許さない』
記憶の中で聞いた言葉を反芻する。
「そう……でしたね」
この鼓動を消費する手段の決定権を自分は持たない。死ぬ生きるの以前にメイドとして果たさなければならない役目が残っている。ちゃんと生きて帰って伝えなければ。でないときっと酷く怒られてしまう。
「戻り次第、主様への報告書をまとめませんと……」
メルメッテが口許を結ぶ。榴弾の炸裂を振り切って驀進するHanon-60.Probeの放つ重力波が、消えた鼓動を正しく終わらせた。
大成功
🔵🔵🔵
川巳・尖
…もう、やるしかないんだね
数が多くて兵装も充実してる機体、でも時間をかける気はないよ
水妖夜行で出来る限り速く、こっちを認識して制御装置に信号が送られるよりもなるべく速く近付いて、撃墜する
制御装置の正確な位置、他に生体部品がないなら気配を感じ取れないかな
慈悲にも何にもならないかもだけど、一発で終わらせてあげたい
日乃和の人達にはあまりやらせたくないし、長引かせて良い事なんてない
まだ弾は充分あるし、作戦完了まで全速で、全力で戦い続けるよ
…幾つも戦場を、あの事件を生き延びたのに、どうしてこんなやつの部品にされなきゃいけなかったの?
こんな目に遭わなきゃいけないような、そんな人達じゃなかったでしょ?
…絶対に忘れない、許さない
●水葬夜妖
華奢な少女の身体が湾内の海上を滑走する。足元から生じる翡翠の光が、海面を左右に裂いて白い泡立ちを残した。
「どうして、こんなやつの……」
滲み出る声音は苦い。潮の香りを孕む風を受けた黒い前髪が揺れる。狭間で覗く双眸は、火線を散らすガガンボ達に向けられている。
文字通りに命を削りながら戦い続け、七千万の日乃和国民を守り抜いた防人達。彼等に与えられたのは名誉ではなかった。他国から勝手に上がり込んで来た輩達にもののついでにと攫われ、嬲られ、生きたまま切り刻まれ、部品に加工されてキャバリアに詰め込まれ――。
「……こんな目に遭わなきゃいけないような、そんな人達じゃなかったでしょ?」
噛んだ奥歯が軋む。あいつらに彼等を切り刻む権利があったのか? そんなものはない。あっていいはずがない。もしあったとしても絶対に認めない。水妖夜行が喚び寄せた怨讐が尖の身体を突き動かす。征け。壊せ。頭で思考するより先に身体が動く。ガガンボのセンサーカメラと視線が重なった。
「もう、やるしかないんだね」
こちらを見るガガンボの目には、命の気配は残滓さえ感じられない。何の躊躇なく発射された誘導弾に尖は確信した。目元を歪ませて身体を海中に沈める。頭上で爆音を伴う水柱が立ち昇った。海面を障壁として稲妻形に泳ぎ回る。絶え間なく生じる爆発が海中を泡で満たす。
足元に出れば――尖が海水を蹴り出す。頭から受けた海水が肩へと流れゆく。イルカのように海面を割って空中に出れば、そこはガガンボの包囲網の中心だった。敵機が反応を示すよりも先に尖が足元より翡翠の光彩を放った。生じる推進力が少女の身体を飛翔させた。ガガンボの一機との距離が急速に縮まる。
「制御装置は!?」
マコモHcの引き金に人差し指を掛ける。制御装置に人の頭脳を使用しているのであれば、僅かにでも気配を感じ取れるかも知れない。何倍にも伸長した一瞬の中で、銃口が目標を探す。喉から苦悶の呼吸音が漏れた。
胸部装甲の奥底。操縦席に相当する箇所に微かな気配を感じた。だがこれは人では無い。これは何? 生きているの? 死んでいるの? まるで死体が無理矢理蘇生させられ、無理矢理動かされているような。矛盾塗れの感触が口の中を突き抜けた。吐き気がする。
「いま終わらせるから」
人差し指を引く。腕が跳ね上がる。マコモHcが青と緑が入り混じった光を排出した。呪詛を籠めた銃弾がガガンボの正中を貫く。明滅するセンサーカメラ。糸の切れた操り人形の如く脱力したガガンボが真っ黒な海へと吸い込まれてゆく。
尖の元に残ったのは人を撃った手触りだった。
「いま、あたいは……」
何を撃ったの? 翡翠色の目を剥く。あれは確かに無人のガガンボだった。生体制御装置からだって人の気配は無かった。でも撃った瞬間に感じたあれは……状況は尖に考える暇を与えない。周囲のガガンボが短機関銃のマズルフラッシュを焚いた。尖は空中を蹴って横に飛ぶ。銃弾が風を切る悍ましい音が後方に伸びていく。
「……まだ生きてるの?」
マコモHcを向けたガガンボは短機関銃で応じるだけだ。
「そう」
胸が空洞になった気がした。トリガーを引くと薬莢が弾け、朧な光跡を引く銃弾がガガンボの胸部装甲の中心を射抜く。先程ガガンボを撃墜した時と同じ光景が繰り返す。そして手元に残る感触も。
制御装置に使用された頭脳は半死半生の状態なのだろう。きっと脳自体も身体と同じく切り刻まれているのかも知れない。もう元に戻す事は出来ない。例えユーベルコードがあったとしても……尖はマコモHcのグリップを握る手に一層の力を籠めた。
「絶対に忘れない、許さない」
アイアンサイトの先に見えるガガンボへ重く囁く。
この手に感じた怖気はずっと刻み込んでおこう。気持ち悪い味はあなた達の怨みだったんだ。怖かっただろうに。痛かっただろうに。あたいが全部の怨みを取り込み、祟ってやる。日乃和の人達の代わりに、あたいが全部。
爆ぜた妖光が、呪縛された魂を解き放った。
大成功
🔵🔵🔵
シル・ウィンディア
…死んだ人の脳?
人を人と思わない行為…。
命は玩具じゃないんだよっ!
大鳳へ移動して装備変更
遠くなる?大丈夫。すぐに戦場に戻れるから。
ロングビームライフルと機体の推力を全開にして低空飛行で空中機動を開始。
ロングビームライフル、ビームランチャーの狙撃モードで遠距離から撃ち抜くよ!射撃タイミングは若干ずらして撃つね。
遠距離から撃ちながらそのまま推力移動で距離を詰めるよ。
中距離になったら全武装開放!
ランチャーは連射モード。
機動力は負けるつもりはないけどさらに手数で勝負っ!
そのまま射撃戦で押していきつつ、フェザー01、ウルフ01へ通信。
「まとめて薙ぎ払うから、出来るだけ一直線になるようにガガンボを集めてっ!一直線上に並んだら大きなものを撃つからっ!」
ビームランチャーをおさめてロングビームライフルを両手で持ってから詠唱を開始。
多重詠唱の並列処理で魔力溜めも同時進行
ロックオンマーカーにも目を配り
瞬間思考力に第六感もフル活用
敵群の動きを見切ってから、全力魔法のヘキサドライブ・エレメンタル・ブラストだよっ!
●流星の魔女
大鳳の飛行甲板上で羽根を折りたたんだレゼール・ブルー・リーゼ。左腕にはヴォレ・ブラースクを、右腕には長大な銃身を有するビームライフルのエトワール・フィランドを脇に抱え込む格好で携行している。銃床に相当する部分が異様に膨らんで見える輪郭からは箒を想起させられた。
『出撃用意! 用意! 用意! 用意!』
レゼール・ブルー・リーゼの脇で甲板員が声を張って誘導灯を振る。それを見たシルは顎を引いて背中をシートに押し付けた。
『出撃! 出撃! 出撃!』
「レゼール・ブルー・リーゼ! シル・ウィンディア! 行くよ!」
大鳳の艦首に向けて振り切られた誘導灯を合図にフットペダルを思い切り踏み込む。スラスター類の出力を示すインジケーターが急激に上昇し、次いでエトワール・フィランドの兵装項目下部に表示された推進装置の出力ゲージが最大値に達する。
足をリニアカタパルトに捉えられた機体が突き飛ばされるかの如く急加速した。瞬間的に生じた重力加速度が少女の身に伸し掛かる。食い縛った歯の隙間から呻きが漏れた頃には既に大鳳の甲板上から放り出されていた。
射出装置と機体の主機、エトワール・フィランドの銃床部分の推進装置が相乗して生み出した推力はまさしく殺人的だった。視界の四隅が黒ずむ中、シルは必至に意識を取り留め、操縦桿を固く握り込む。
レゼール・ブルー・リーゼがロングビームライフルに半ば縋るようにして真っ黒な海上を突き進む。後方に拡がった衝撃波に海面が戦慄き、白い波濤が弾ける。目標地点となる前方の大津貿易港では敵味方の火線が交錯し合っていた。
「人を人と思わない行為……命は玩具じゃないんだよっ!」
フットペダルを踏む足の力を弱めてレティクルの中央を睨む。ロックオンマーカーがガガンボを捉えた。左の操縦桿のトリガーキーを押し込み、僅かな間を置いて右の操縦桿のトリガーキーも押し込む。ヴォレ・ブラースクが収束魔力粒子の光線を伸ばした。同じ磁極の磁石が反発するかの如く射線から逸れたガガンボ。されど直後に一回り太い光線がオーバーフレームの中央を刺し貫いた。黒煙の弧を描きながら海面へと墜落するガガンボから正面へと視線を移す。エトワール・フィランドのバーニアノズルが閃くと、レゼール・ブルー・リーゼが前方へ急加速した。推進噴射の光を引いて交戦領域の渦中に飛び込む。
「思ったより散らばってるなぁ……」
レーダーグラフに目配せしながら苦く呟く。各個撃破し易いと言えば響きはいいのだろうが、正直言って面倒だった。ガガンボが発射した中距離空対空ミサイルをヴォレ・ブラースクの速射で迎撃し、間を置かずにエトワール・フィランドを一射する。黒い爆煙を裂いて迸った青白い荷電粒子がガガンボを射抜く。撃墜状況を確認する間もなく背後から殺気が膨らんだ。エトワール・フィランドの銃身を真横に傾けてスラスターを焚く。機関砲の掃射が虚空を駆ける。
シルは段々苛立ってきた。やはり大津貿易港中に散った敵を一纏めにする策が欲しい。何か使えそうな手段は――レーダーグラフに落とした視線が友軍を示す光点を見付けた。
「ええっと、こういう時は……ブルー・リーゼよりフェザー01とウルフ01へ! でいいんだっけ?」
『フェザー01よりブルー・リーゼへ! 如何なされました!?』
『こちらウルフ01、なんだい?』
「まとめて薙ぎ払うから、出来るだけ一直線になるようにガガンボを集めてっ! 一直線上に並んだら大きなものを撃つからっ!」
長い付き合いだからなのか、意図を汲んだらしい二人は何をどうするつもりだと聞くまでもなく了解と応じた。レゼール・ブルー・リーゼがヴォレ・ブラースクの牽制射を撃ち散らしながら東の方角へと後退加速するのに合わせ、白羽井と灰狼両隊が南北と西側から縦長の包囲網を構築し、間隔を狭めてゆく。各機が張る弾幕が包囲を脱しようとするガガンボを堰き止める。
『ウルフ01よりブルー・リーゼへ、撃つ前にはちゃんと言っておくれ』
「わかってる!」
レゼール・ブルー・リーゼの左腕部が背面へと回された。兵装懸架装置がヴォレ・ブラースクの銃身を掴む。エトワール・フィランドの砲門を前へと突き出す。砲身側面からサブグリップが展開し、空いた左腕部のマニピュレーターがそれを握り込んだ。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ……」
双眸を細めたシルの唇が唱う。エトワール・フィランドの砲門を中心点として六芒星を内包した円陣が生じ、回転を開始した。更に六芒星の各頂点に火、水、風、土、光、闇を表すシンボルが浮かび上がる。
「以下略! 撃つよ!」
『全機下がりな!』
伊尾奈の裂帛でガガンボを包囲していたキャバリア達が一斉に飛び退く。
「全てを撃ち抜きし力となれ! ヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト!」
エトワール・フィランドの砲門から六色六条の光線から成る螺旋が解き放たれた。生じる強烈な反動を相殺するべく、銃床部分のスラスターが噴射光を炸裂させる。螺子状に縦軸回転しながら突き進む光芒が、直線上に纏められたガガンボの集団を抉るようにしてなぎ倒す。寸前で回避を試みた個体もあったが、余波を浴びた半身を溶解させながら海面に落下、水柱を立ち昇らせた。
大津貿易港の闇を荒れ狂う光彩が引き裂き、幾つもの火球が膨張する。やがてヘキサドライブ・エレメンタル・ブラストの照射が終わると、焼け落ちた機体の断片が緩やかに落ちていった。
『……大したもんだね』
「えっ?」
唐突に零された声にシルが目を点にする。
『尼崎中尉が人を褒めるだなんて珍しいですわね……』
「そうなの?」
那琴に問うたシルの言葉は、声の主が伊尾奈である事と褒められた事の二つの意味を含んでいた。
『ええ……ですのでシル様は本当に大したものなのでしょう。あの尼崎中尉がそう仰ったんですもの』
シルの耳には那琴の口振りが恐れ多いような、それでいて仰々しいように思えた。
あのと付くという事は相応の精鋭なのだろうか? そう言えば彼女の戦い振りをまじまじと観察した事は無かったような。暁作戦で同伴した際には隊の姉貴分といった印象を感じてはいたが……思考は遠方で光った緋色に中断された。エトワール・フィランドの推進装置が青白い光を噴射する。長銃を抱えて海面を滑空するレゼール・ブルー・リーゼの輪郭を真横から見ると、さながら箒に跨る魔女のようでもあった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィリー・フランツ
増加装甲をパージしたヘヴィタイフーンに搭乗【熟練操縦士】による効果で各能力アップ
心情:これより掃討戦に移行、イレギュラーが発生する前に仕事を終わらせる。
手段:「主の御許に幼き魂を送る罪深き我を赦したまえ」
コングⅡに対空霰弾を装填、地上から白羽井小隊と灰狼中隊を援護する。
援護前にアウル複合索敵システムによる
IFF反応をしっかり確認せんといかん、味方が周囲に居なければ対空霰弾、居る場合はクロコダイルによる見越し射撃で頭を抑えて、味方が落とせるよう援護する、近接でこちらを狙った時も同様、バーンマチェーテも抜いて近接に備える。
戦闘終了後
軍服を着て腰のホルスターに軍用大型拳銃を吊るして大鳳を訪問、必要なら尋問こちらでするが…白羽井や灰狼の連中も来るか?と言っても、潜水空母の士官も捕縛してるし、コイツからは大した情報も取れんだろうな。
着いてきた面々が居るなら…どうする?必要なら俺の銃を貸すし、硝煙反応なら適度な袋を被せれば問題ない、誰が撃ったかと言ったら俺の責任にすれば良い
●報復
大津貿易港の湾内を六色の螺旋軸が迸る。その光景を埠頭に立つヘヴィタイフーンMk.Ⅹのセンサーカメラが無言で睥睨していた。
「どうも解らん状況になってきたな」
落とした呟きが孤独なコクピットの中に充満する。
白羽井と灰狼両隊が持つ首相官邸占拠事件の首謀者という汚名の清算。それが依頼主の思惑である事をヴィリーは把握していた。偶然居合わせた不幸なテロリストを首謀者に仕立て上げ、なおかつ猟兵と共に撃滅させる事である種の政治的宣伝材料に祭り上げるつもりだったのだろう。
だが蓋を開けてみればどうだ? 損壊した遺体は出てくる。潜水空母から出撃した無人機は人間の脳を再利用した制御装置を搭載していた。作戦直前になってバーラント機械教皇とやらからの報復示唆。依頼主はどこまで知っていたのだ? 首筋が静電気を帯びたように苛立つ。どうも先程から……或いはもっと前から誰かに視られているような気がしてならない。真っ当な人間ではない誰かに。
「イレギュラーが発生する前に仕事を終わらせるぞ」
自分にしかと唱え聞かせる。操作盤を叩くと増加装甲排除を報せるメッセージが表示された。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹの全身各部を覆っていた傷だらけの装甲板がアスファルトの地面へと滑り落ち、重い金属音を響かせた。機体が軽くなって自分の身体まで軽くなったようだ。
「乱戦になってるな。こりゃ対空霰弾は使えんか」
アウル複合索敵システムによって明るみとなった敵味方の展開状況に思わず唸る。だが手札が一つ切り難くなっただけだ。制御盤を指で叩き、選択中の兵装項目をクロコダイル単装電磁速射砲に切り替える。
「カイゼルより白羽井灰狼両隊へ、援護する。敵機に近付き過ぎるな。最期の介錯はそっちでやってくれ」
ヴィリーは了解の応答を待って操縦桿のトリガーキーに指を添えた。
「……主の御許に幼き魂を送る罪深き我を赦したまえ」
眼差しの先でガガンボを捕捉した。抑揚の無い声音が無意識に溢れる。三回トリガーキーを引く。ヘヴィタイフーンMk.Ⅹの肩部に積載した電磁加速速射砲が黄金の光を三度吐き出した。電流の軌跡を残して飛んだ40ミリの弾体は、遠方で伊尾奈機が追うガガンボの一機に着弾した。一射目と二射目で撃たれた人間がするようにして仰け反り、三射目を受けて砕けた装甲を散らした。そこへ伊尾奈のアークレイズ・ディナが回転衝角を突き込む。紙切れ同然に千切れたガガンボの残骸が弾けて海へと降り注ぐ。
ヴィリーが寡黙にトリガーを引き、ヘヴィタイフーンMk.Ⅹがマズルフラッシュを焚く。仰け反ったガガンボに白羽井小隊のキャバリアが集中砲火を浴びせ、灰狼中隊のキャバリアが切り込む。無味なまでの規則正しい繰り返しが続く。
『ウルフ01よりカイゼル、そっちに抜けた』
反復作業は低い女性の声音によって唐突に断ち切られた。
「カイゼル了解」
海面を裂いて驀進するガガンボ。脇目もふらずにこちらへと直進してきている。だがヴィリーは特段怯む様子も無く操作盤に手を伸ばす。
加速を伴ったままコーティングソードで斬りかかるガガンボ。不動のヘヴィタイフーンMk.Ⅹが山刀型の実体剣を抜く。鈍い金属音と共に交差する二機。勝負を別けたのはヴィリーが培った熟練操縦士の技量と機体の装甲だった。ガガンボの刃がヘヴィタイフーンMk.Ⅹの装甲を断ち切るよりも先に、バーンマチェーテの赤熱化した刃がガガンボを溶断した。肩口から二つに裂けたガガンボは後方で積み重なっているコンテナに飛び込み、爆発炎上した。
『大鳳より同艦隊並びに猟兵の皆様各位へ、全ての敵反応の消失を確認しました。皆様、お疲れ様です』
通信装置越しに聞こえた結城の嫋やかな口振り。レーダーに目配せすると、敵を示す光点は既に失せていた。終わりか。胸中で密かに零して肺の中に滞留した重い空気を全て吐き出す。真っ二つにへし折れた潜水空母は、未だ炎上を続けていた。紅蓮が黒い海面に揺らめく。
全ての作戦工程を終えた直後、ヴィリーは真っ先に大鳳を訪れた。
結城に捕虜との面会を申し入れると、二つ返事で了承された。相変わらずの蠱惑的な笑みの裏にどういった思惑があるのかは伺い知れないが、ヴィリーとしては猜疑を挟むつもりはなかった。
「ですがお急ぎください。反社会的武装勢力の身柄は戦時の捕虜としてではなく、犯行の容疑者として扱われます。作戦が終了次第、身柄の管轄は警察へと引き継がれる予定となっておりますので」
とも言われてしまえば急がねばなるまい。艦隊指令のお墨付きは頂いた。契約書には『身柄を確保した場合は依頼主に引き渡すように』としか記載されていない。つまり管轄が移るまでは煮るなり焼くなりご自由にという事だろう。ヴィリーは警衛隊員の案内に従いながら艦内通路を足早に進んだ。
銀の光沢を放つ鋼の壁と、天井の四隅に設置された監視カメラ。窓は無く、外界との唯一の接点である分厚いドアには鉄格子を嵌められた除き窓がある。捕虜収監室としては極めてありふれた設計だろう。
「贅沢な部屋をあてがってもらってよかったな」
ヴィリーはゴーグル越しに虜囚を見下ろす。キラー・イェーガーのパイロット――テロリストのリーダー格と目される男は、手足を厳重に拘束された上で膝をつかされてはいるものの、思ったより丁寧に扱われているらしい。ガーゼ等から傷の応急手当を受けた痕跡が見受けられる。
だが扱いは慈悲を根拠としたものではないようだ。短機関銃を携える警衛隊員、背後に居並ぶ白羽井小隊と灰狼中隊の隊員達、那琴と伊尾奈、誰もが視認出来てしまうのではないかというほどの殺気を立ち昇らせている。
「よぉクソイェーガー。俺の顔が恋しくなったか?」
リーダー格の男が歯を覗かせて嗤う。
「ほら、あたしの言った通りブサイクなオッサンだったでしょ?」
栞奈が嘲るとリーダー格の男は肩を揺らした。
「イキんなよ、ザコメスが。で? 尋問か? それとも殺すか? どの道日乃和は終わりだけどな。この国だけじゃねぇ、てめぇらクソイェーガーどものバックに付いてる国だろうが学園都市だろうが、全部まとめて皆殺しだ。俺達に手を出した時点で、お前らの負けなんだよ」
室内に反響する引き笑い。昇る殺気が温度を底冷えさせる。
「つくづく何も知らない奴ってのは幸せ者だな……」
哀れみを多分に含んだ声音と共にヴィリーは首を横に振る。
「あ?」
リーダー格の男が重低音で凄む。
「どうする?」
ヴィリーは構わずに後ろを向いた。いつもの調子の栞奈を除き、皆が皆静かに酷い形相をしている。問いに疑問を返す者は居ない。抜いた大型自動拳銃で言わんとしている処を推して知ったのであろう。
「お前さんらの艦隊司令殿からは事実上の許可は降りている。必要なら俺の銃を貸すし、硝煙反応なら適度な袋を被せれば問題ない。誰が撃ったかと聞かれたら俺の責任にすれば良い。そもそもお前さんらが使っている銃とは弾も別物だからな」
「えー? どうしよっかなー?」
しきりに首を傾げる栞奈。那琴は怒気と申し訳無さが混じったような神妙な面持ちで目を伏せている。
「そうする資格があるのは……」
那琴の消え入りそうな声をヴィリーは確かに聞いた。暫く無言で続きを促すが、那琴は俯き押し黙ったままだ。
「なんなら俺が代行してもいいが?」
リーダー格の男に銃口を向けた。
「おう、さっさと殺ってみろよ?」
アイアンサイトの先に口角を上げて嗤う男の額が見える。慰めにもならないだろうが――人差し指をトリガーに乗せた直後、パイロットスーツの被膜で覆われた手がスライドに乗せられた。
「借りるよ」
重く低い女の声音。荒んだ灰色の髪の隙間から覗く赤い瞳が、ヴィリーの目をゴーグル越しにでも真っ直ぐに見詰めている。
「ロハでいいぜ」
ヴィリーが握っていた大型拳銃を受け取った伊尾奈がマガジンリリースボタンを押した。
「要らんのか?」
手渡されたマガジンを受け取りながら問う。
「まあね」
素っ気なく応じた伊尾奈がスライドを引く。薬室に装填されていた弾丸が飛び出して床に落ちると、甲高い金属音が鳴った。そしてグリップから手を離し、片手でスライドをしっかりと握り込む。ヴィリーを含む全員の視線を一身に集めながらリーダー格の男の前に立った。
「お前は……灰色狼か」
リーダー格の男が舌で肢体をなめるように眼球をゆっくりと動かす。伊尾奈は冷淡な眼差しで見下ろすだけだ。
「そんな睨むなって。お前には感謝してるんだがな? いやあ……日乃和のバカメス共は散々犯し回ったが、やっぱりてめぇのところの連中は別格だったぜ?」
周囲の者が一斉に一歩踏み出し、警衛隊員が脊髄反射で銃を突き付ける。だが伊尾奈の「待ちな」の一言で全員の動きが硬直した。リーダー格の男が鼻を鳴らす。
「そうそう、お前ら潜水空母に入り込んで情報すっぱ抜いたんだろ? なら貴重な一部始終の動画ももう見たよな? なぁ伊尾奈おねえちゃんよ? ありがとな? 俺がファックする為の女を大事に大事に育ててくれてよ。ま! どいつもこいつも股開くしか使い道のねぇゴミメスだったがな! ああ、そういや無人機のパーツ取りには使えたか?」
唾を飛ばして嗤うリーダー格の男を、伊尾奈は尚も無言で見下ろす。ヴィリーが横目を向けた先では、血走った眼差しの那琴が腰の銃に手を伸ばしていた。
「ま! それもぜーんぶてめぇらにぶっ殺されちまったがな! ったくあいつら、最後までゴミはゴミってか? せめてクソイェーガーの一人でも道連れにすりゃいいものを……おい! てめぇら! 自分が何やったか解ってんのか? 得意気にお仲間を殺し回りやがって……悪いことしたって自覚はねぇのかよ自覚はよぉ? 黙ってねぇで何か言ってみろよ、伊尾奈おねーちゃーん! 聞こえてますかー!? 伊尾奈おねーちゃーん!」
自棄になったのか、それとも元からの性分なのか、リーダー格の男はひたすらに口を動かし続ける。ヴィリーは腕を組んで顎を引き、その様子を静観していた。
「おい! 灰色狼! お前が育てたバカメスはお前らとクソイェーガー共にハエみてぇに叩き潰されちまったんだぞ!? あいつらが死んだのは全部お前のせいなの解ってんのか?」
伊尾奈の肩が僅かに跳ねる。
「お? やっとキレたか? ほらさっと殺してみろよ! 先に地獄に行ってお前のバカメス共をどつき輪姦してやるからな! 死んでもゴミはゴミってな! ファックされるしか使い道のな――」
続く叫喚を鈍重な音が遮った。横方向に跳ね飛ばされたリーダー格の男。床に散った赤い飛沫。伊尾奈が握る拳銃の銃床は、赤黒く濡れていた。
「……やっぱり俺がさっさとケリ付けちまった方がよかったか?」
ヴィリーが首筋に手を当てながら言う。
「いや、こいつが死ぬのは絞首台に吊るされる時だ」
伊尾奈の声音は、肩の荒い呼吸とは相反して平静だった。
「そうか。ま、気が済むようにやってくれ」
跳ね飛ばされたリーダー格の男の元に伊尾奈が近付く。振り下ろされる大型拳銃。響く打撃音。飛び散る血液。那琴達が無言で見届ける最中、同じ光景が幾度も繰り返される。それらの全てを、ヴィリーのゴーグルは反射し続けていた。
大成功
🔵🔵🔵
フレスベルク・メリアグレース
どこまでも下種な……
速やかに介錯してあげます
果てる事の無い「癒し」を注ぐ光の槍を射出し、組み込まれた遺体に『癒し』を注ぎます
せめて、眠る様に『癒し』の夢を……
出来る限り多くの彼女らを幸福な夢に包んで介錯した後、官房長官がいるホテルへと移動
バーラント国の執行官とやらがどの様な意図で日乃和に来たか、其れもありますが……
エクシィ・ベルンハルト一等執行官
あなた方が言う外なる機械神の巫女のフレスベルクと申します
信仰上わたくしのノインツェーンがアーレスに入るのは面白くないのは確かでしょう
しかし、人が人を救うのに理由は必要とせず、人が人を救う事にあらゆる思想・宗教的イデオロギーは一切の否定する力を持ちません
宣告しましょう
今後あらゆるアーレス大陸での活動が『人が人を救う事』である限り、ノインツェーンは光臨する
これは『人』の意志であり、メリアグレースの教義や国政に関係なく『誰かを救う』という人類種の根源的正義によって成す事、故バーラントに敵対的意志を持っての行動ではない
そう伝えて下さいますか?執行官殿
●早すぎた邂逅
大津貿易港の夜に白く強かな一条の閃光が走った。光は槍となってガガンボの正中を貫く。
「救済叶わねば、せめて癒しの微睡みを……」
ノインツェーンの胸郭の奥底でフレスベルクが密やかに呟く。光の槍に刺し貫かれたガガンボが力なく項垂れ、緩慢に高度を落として海面に飲み込まれていった。一連の光景をフレスベルクの伏せた双眸が見送る。最期に穏やかな夢を視れたのだろうか? 答えはなく、手元には無機質な感触が残留するだけだ。
「さようなら」
瞼を深く閉じる。暗闇に自分の呼吸とノインツェーンの脈動が拡充した。瞼を開いたフレスベルクが首を横へと向けると、視線の動きを追ってノインツェーンも同じ方向へと旋回した。
「残すところは……」
ノインツェーンの漆黒の眼差しが映すのは、遥か遠方――香龍の中心市街。夜の闇の中であっても尚一層鮮やかな光彩を放つ眠らぬ都市。その摩天楼群に此方を覗き見ている者がいる。
行かねばならない。ノインツェーンを継承した神子として。口許は無意識に固く結ばれていた。
どこの国の来賓を招いても無難に対応出来る空間。ホテルビルの一室を訪れたフレスベルクが抱いた第一印象としてはそんなところだった。部屋は広くもなく狭くもない。調度品は落ち着いた意匠のもので纏められている。
だが充満する空気はそれらと相反して重く、鋭い。
フレスベルクは長机を挟んで座る相手を――空気の重量感の根本的原因を改めて観察する。
燃えるような紅蓮の長髪に瞳。背丈は自分と同じ程度。年齢も見た目だけなら同じか少し下だろうか? しかし一挙手一投足から滲む気配から察するに、中身は人間とは異なる生物なのだろう。パイロットスーツを着用している点からキャバリアを操縦する技術は有していると見える。
「いやぁ、まさかそっちから来るとは」
心底驚いたといった様子で目を丸くするエクシィ。フレスベルクは浅く会釈を返しながら室内に視線を巡らせた。完全武装の警衛が数名。左手側のソファに外務省の高官。右手側に東雲正弘官房長官。誰しもが隠し難い緊張感を顕にしている。一際目を引く巨大なモニターには、大津貿易港の中継映像が流れていた。炎髪の少女達はここから猟兵達とテロリストの戦いを観戦していたらしい。
「よくここが解りましたねぇ? どうやって調べたんです? 日乃和に間諜でも潜り込ませたんですか?」
フレスベルクが口を開こうとすると「いーやいやいや、タネ明かしは結構ですよん」とエクシィが広げた掌に遮られた。
「神秘は神秘のままにしておきましょう?ま、
なんでも見通せる神の視点をお持ちという事で……年頃の少女の一人旅を覗きだなんて、良いご趣味を持った御方ですねぇ、メリアグレースの教皇サマは」
端が上がった唇には露骨な皮肉が籠もっていた。一呼吸置いたフレスベルクは今度こそ口を開く。
「申し遅れましたが、改めて。わたくしはあなた方が言う外なる機械神の巫女、フレスベルクと申します」
「ええ、勿論知っておりますとも。歴代メリアグレース教皇の内、文句無しに最強で、相手取るなら神秘根絶を持って来るべきなフレスベルク様ですよね?」
それは藤宮基地で刺客を送り込んだのは自分だという暴露に他ならない。フレスベルクの双眸が細められた。
「どういうワケかもうご存知なようですが、一応礼儀なのでご挨拶しますね? わたしはバーラント機械教皇庁の一等執行官、エクシィ・ベルンハルトでございます。どうぞお見知り置きを……」
眼と口許を半月状に歪ませて深く頭を垂れる。
「ではではでは……メリアグレースの教皇様。本日はどういったご要件で?」
「バーラントの機械教皇にお断りを述べさせて頂きたく」
エクシィの眉宇が跳ねた。引いた顎を続きをどうぞとの合図として解釈したフレスベルクは、深く呼吸してから面持ちをやや上げた。
「バーラントの機械教皇にとって、信仰上わたくしのノインツェーンがアーレス大陸に入るのは面白くないのは確かでしょう」
翡翠と紅蓮の瞳が視線を交差させ合う。エクシィは薄い笑みでフレスベルクを見詰めたまま微動だにもしない。
「しかし、人が人を救うのに理由は必要とせず、人が人を救う事にあらゆる思想・宗教的イデオロギーは一切の否定する力を持ちません」
一節一節を説くようにして語る。フレスベルクの声音と空調の音だけが室内に拡充する。
「宣告しましょう。今後あらゆるアーレス大陸での活動が人が人を救う事である限り、ノインツェーンは光臨する」
強かに言い切るとエクシィの面持ちから薄い笑みが消えた。
「これは人の意志であり、メリアグレースの教義や国政に関係なく、誰かを救うという人類種の根源的正義によって成す事、故にバーラントに敵対的意志を持っての行動ではない……バーラント機械教皇にそう伝えて下さいますか? 執行官殿」
暫しの沈黙が降りる。フレスベルクの眼差しはエクシィの瞳から動かない。何秒か、或いは何分が経過したのだろうか、双方が睨み合い、それとも見詰め合った状態は手を打つ音に破られた。
「いんやぁ素晴らしいお考えをお持ちですねぇ! やはり噂に違わず慈悲深い御方です! メリアグレースの教皇様は! 我が身を顧みない献身の精神! このご時世なかなかいませんよ! 拍手!」
笑みを作って手を打ち続けるエクシィ。この室内で笑っているのは彼女だけだ。フレスベルクは室内の空気が和むどころか一層重く緊迫感を持ったように感じた。
「ただまあ、ちょーっとだけ誤解されているようですので、その点にお答えさせて頂ければ……と。聞きます? 嫌ならいいですけど」
やはり来たか。フレスベルクは緩慢な瞬き一つを応じる合図とした。エクシィは机上の冷めきった紅茶を一口で飲み下し、再度フレスベルクの瞳に眼差しを戻す。
「えーっとあーっと……まずですね、信仰上の問題ってのはあんまり気にしないでください。何せこの地には八百万の機械神がいるんですから。アーレス教自体一神教ってワケでもありませんし? それにアナスタシア聖下はそういうのルーズですからねぇ。ああ、八百万ってのは言葉の綾ですからね? あぁ、ハッピャクマンじゃないですよ? ヤオロズですからね? ねぇ官房長官殿! 日乃和の言葉でトニカクタクサンって意味でしたっけ?」
低く短い「ええ」との男の声が空気を震わせた。途端によく喋る娘だ……フレスベルクが半ば呆れ気味に意中で呟く。
「でーでーでー! 慈善活動も問題ないです。問題なのはメリアグレースの教皇様があの機械神……そっちの御国では巨神でしたっけ? ノインツェーンと一緒に降臨しちゃう事なんですよ」
机上に身を乗り出すエクシィ。警衛達が引き金に指を乗せた。東雲が耳元に手を添えて小声で何事かを囁く。
「問題となる理由をお尋ねしても?」
フレスベルクは背筋を正したまま静かに問う。
「それ、わたしに聞いちゃいます?」
訝しく首を傾げるエクシィ。何が言いたい? フレスベルクがそう含めた眼差しを送る。重く深い溜息と共にエクシィの腰がソファに沈み込んだ。
「ご自身が一番良く理解してるはずですけどねぇ……あなたのような慈悲深い御方は尚更キケンがアブナ過ぎるんですよ。さっきもテロ屋相手に実証してきたばっかりじゃないですか?」
「イェーガーの……ユーベルコードの力を指して仰っているのであれば、わたくしだけとは限らないのでは?」
「いやまあ……それもありますけどねぇ……」
エクシィが腕を組み、眉を潜めて面持ちを下げる。
「ちょっとイェーガーの話しは置いておきましょう。それはまた別件なので。あ、紅茶おかわり貰えます? そっちの教皇様は?」
フレスベルクが嫋やかに会釈すると、控えていた給仕係が冷えたカップの中身を入れ替えてくれた。立ち上る湯気からは芳醇な茶葉の香りが立つ。視界の隅で東雲が眉間を摘んだ。
「なんでしょうねぇ……まあその……アレですよ。宣告しましょう」
フレスベルクはつい先ほど自身の口から発せられた言葉に耳朶を打たれた。だが声は自分のものではない。
「アナスタシア聖下がこの大地を救うのに理由は必要とせず、アナスタシア聖下の救済の前では、思想も宗教的イデオロギーも一切の否定する力を持ちません。メリアグレースの教皇様……貴女が仰る人が人を救う事も例外にはなりません。そして貴女の救済がアナスタシア聖下の神命の妨げとなるのであれば、敵対的意志の有無に関わらず貴女は我々の敵です」
こちらの台詞を真似て言って見せるのは挑発のつもりか? いつの間にかエクシィの表情から笑みは失せていた。
「アナスタシア聖下の救済とは?」
「アーレス大陸の支配です。遍くを調伏し、闘神アーレスの元に再統一する。これがアナスタシア聖下の救済です」
淀みなくはっきりと言ってのけるエクシィの硬い面持ちに、フレスベルクは以前聞いた話しの記憶を重ねる。
覇権主義を標榜するアーレス大陸最大最強の国家、バーラント。栞奈曰く、メリアグレースの悪の教国版で、アーレス大陸は全部自分達のものだと思い込んでいる頭の螺子が飛んだ連中だという。エクシィの発言を鵜呑みにするのであれば、あながち間違いではないのだろうか。
「わたくしとノインツェーンがその妨げになると? それが危険視する根拠ですか?」
「根拠ですし、あと多分アーレス大陸がまた滅びる切っ掛けになりそうですので」
フレスベルクが瞬きで続きを促す。
「メリアグレースの教皇様が自分の流儀をアーレスで通す限り、いつか必ずアナスタシア聖下と衝突します。じゃあその結果で何が起きますか? はい! 機械神同士の戦争! アーレス大陸滅亡! 人類は同じ過ちを繰り返す!」
仰々しく天井を仰いで熱っぽく語るエクシィだが、フレスベルクは率直に言って反応に困っていた。アーレス大陸の歴史などさして知らないし、機械神同士の戦争が大陸の滅亡に繋がる理由も解らない。人類は同じ過ちを繰り返すというからには、歴史上そういった出来事があったのだろうが……少なくとも自分には大陸を滅ぼすつもりなど無い。今のところは。
「とまぁ……いきなりこんな事言われちゃっても困りますよねぇ?」
「知識が至らず、ご不便をおかけします」
フレスベルクが淑やかに頭を垂れる。
「いやいやちょっと! 頭下げないでくださいよぅ! 仕方ないですよ、外界からのお客様なんてみぃぃぃんなそんなもんですから!」
頭を上げるとエクシィが音を立てて紅茶を啜っていた。カップがソーサーに置かれて陶器が触れ合う音が鳴る。
「じゃあ……要約致しますとですねぇ……アナスタシア聖下は外界の機械神を歓迎しません! 何故か!? 大昔に外界の機械神との争いのせいで大陸がメッチャクチャになったからです! メリアグレースの教皇様とノインツェーンの来訪はもっと歓迎しません! 何故か!? 貴女の掲げる救済がアナスタシア聖下の掲げる救済の妨げとなるからです! 以上! よろしいですか?」
敵対の意思の有無は関係無く、メリアグレース聖教皇国とバーラント機械教皇庁は根本的な思想からして相容れない。
自分がアーレス大陸で誰かを救い続ける限り、いつか必ず機械教皇と衝突する。
その衝突がアーレス大陸を滅亡に引き込む切掛になるかも知れない。
エクシィの言葉を頭の中で反芻しながら、フレスベルクは「ええ」と頷いた。実際は機械神同士の戦争等、不明瞭な点ばかりなのだが、これ以上対話を重ねても今の自分の知識量では恐らく理解が及ばないだろう。
或いは――
彼女と接触する時期があまりにも早すぎたのか?
「まぁまぁまぁまぁ、そんな険しい御顔しないでくださいよぅ。メリアグレース様のお言葉はウチの聖下にちゃーんと伝えておきますから。一文一句そのまんまで!」
頭に掛けられた明るい声音を受けて、フレスベルクは自分が無言で俯いて思案していた事に気が付いた。
「よろしくお願い致します」
「はい! このエクシィが! よろしくお願い致されました!」
フレスベルクが細指でカップの持ち手を摘む。口に運びながら視線をやや上に上げる。エクシィも同じく紅茶に口を付けていた。彼女から滲む得体の知れない気配は、今も紅茶の香りと共に室内に滞留している。
●テロリスト排除完了
警備中のキャバリア部隊の一掃。
潜水空母と指揮官機の撃破。
無人機の殲滅。
以上三つの工程の全完遂を以って、本作戦の完了宣言が発せられた。
猟兵達が潜水空母から接収した各種資料と元灰狼中隊の隊員と思しき者の遺体は依頼主である日乃和政府側に引き渡され、リーダー格の男を含むテロリストの身柄も同様に引き渡された。
テロリスト達の公判はそう遠くない時期に開廷されるであろう。その際には猟兵達が回収した情報が証拠の資料として役立つかも知れないし、役立たないかも知れない。いずれにせよ多くの猟兵にとっては関知に値しない事だろう。
正義は果たされた。
報道関係社は揃って白羽井小隊と灰狼中隊、そして猟兵達を正義の執行者として綺羅びやかに、そして民衆受けするよう面白おかしく脚色を付けて祭り上げる。
斯くして第六独立機動艦隊は英雄としての名誉が残された。猟兵達に残されたものは? 各々が得た結果だけが真実で、全てなのだろう。
●後悔役に立たず
第六独立機動艦隊の旗艦である大鳳は、作戦を終えて香龍海軍基地への帰路を辿っていた。飛行甲板上から見える北西の果てには、もう随分と小さくなった大津貿易港が見える。
「よろしかったのですか? 撃たなくて……」
甲板の縁に座る那琴が隣の伊尾奈に尋ねる。
「やっぱり撃っときゃよかったね」
揺れる灰色の髪の隙間から赤い瞳が覗く。大津貿易港では無数のパトランプが明滅していた。作戦終了を待ち構えていた警察が一斉に押し寄せて来たのだ。猟兵の大型拳銃を借りてしこたま殴り続けたテロリストは既に警察に引き渡されている。血飛沫で汚れた捕虜収監室はとっくに清掃された後だ。
「けどいいじゃない、戦闘中は猟兵に散々煮え湯飲まされたらしいからね」
猟兵――那琴はその名を聞いた途端、胸元に締まるような感触を覚えた。とある猟兵を追って浸透したテロリスト達。それを撃墜しそこねた自分。結果犠牲となった灰狼中隊の隊員と民間人。戦闘の最中、行き場を見失った感情がとある猟兵への恨みに変貌してしまった。理解している。彼の責任では無いし、彼に恨みを向けるのは筋違いだと。だがこうして自分も尼崎中尉に――。
「……やはり、恨んでおりましたのよね」
不意に漏らしてしまった呟き。出してしまった言葉は戻らない。吹き抜ける潮風が掻き消してくれるよう祈ったが、伊尾奈の頭が微かにこちらを向いた事で儚く散った。
「古傷を何度もいじるのは止めておくれ。奴等の大親分を殺し損ねたアタシだってあいつらに恨まれてるだろうし」
返された皮肉に沈黙で応じる他に無い。
「アタシに恨んで欲しかったらそう思い込んでればいいさ。ただ余計な気を起こすのは止めて貰いたいもんだけどね」
言葉の意味を察しかねた那琴が「余計な気……?」と問い返す。伊尾奈はうんざりとした溜息を吐いた。
「それを理由にして変な遠慮するんじゃないよって言ってんのさ。戦闘中には特にね。そもそも食わないことがあったら直接言えばいいじゃないか」
「あ……」
那琴は自分の傲慢さに羞恥心が爆発した。尼崎中尉の言う通りだ。尼崎中尉が自分に対して何を遠慮する必要がある? 自分はただ想像力逞しく勝手に恨まれていると思い込んでいただけではないか。
申し訳有りません。そう謝罪しようとした矢先、伊尾奈が立ち上がった。
「行くよ」
「どちらへ?」
「腹が減った。それとも一人で食えって? 寂しがりのアタシに?」
踵を返して多目的区画へと向かう伊尾奈。背中を追う那琴。後悔を抱えた者同士が去った後に、暗い海から吹く潮風が駆け抜ける。
●機械教皇
薄暗い広大な空間。床と壁には溝が走っており、その溝に沿って数秒間隔で紫色の発光が空間の中央から外側へと通過して行く。天井は霞む程に高い。立ち並ぶ太く巨大な支柱はどれもが複雑怪奇な機械部品で構成され、片時も休む事なく稼働し続けている。
その広大な空間の有り様を一言で言うのであれば機械の神殿だった。床と壁を通過する発光の元を辿った先――神殿の中央には全高15メートルの建造物が聳え立つ。楕円形の透明な水槽が中央側面に埋め込まれた四角柱のそれは、表面に通う血脈のような溝を紫に脈動させていた。クロムキャバリアの住人であれば、四角柱の建造物がプラントであると即座に看破したであろう。
バーラント機械教皇庁の最奥部、機械聖堂。
闘神アーレスと巫女を祀る聖域中の聖域である。
「聖下ぁ~! アナスタシア聖下ぁ~! あなたの可愛いエクシィが戻りましたよぉ~!」
炎髪を揺らしながら歩く少女の声が聖堂中に響き渡る。向かう先は機械聖堂の中央。肌はおろか、顔さえも伺えない司祭服を着込んだ者達がプラントを囲む。
「まだ寝てるんですか? ねぼすけさんですねぇ……聖下の名前勝手に使ってた連中、ボコされましたよぉ?」
エクシィがプラントに対して声を張った。
「騒々しい……聞こえておるわ」
プラントに埋め込まれた透明な水槽の中で、十代半ば程度の少女が薄く双眸を開いた。内部は液体で満たされているらしく、足元まで届くほどの紫の長髪が揺蕩っている。一糸まとわぬ裸体の素肌は絹地の如く滑らかだった。
水槽が開く。粘性を帯びた液体が溢れ出し、荘厳な意匠のタラップを伝い床に広がる。眠たげな目付きの少女が球体の外へ一歩踏み出すと、脊髄に沿って接続された管が次々に外れてゆく。
機械教皇――アナスタシア・アーレス・リグ・ヴェーダを前にした司祭達が一斉に跪く。
「結局イェーガーが駆除しちゃいましたよ」
「ほう? イェーガーか?」
タラップを降りきったアナスタシアの元に司祭達が集う。そして豪勢な刺繍が施された織物で髪や身体に纏わり付く滑った液体を拭き取り始める。
「思ったよりまぁそこそこ……ってどころじゃないですねぇ、アレ。聖下が気にする以上かも知れませんよ?」
「であろうな」
アナスタシアの紫の瞳に満足気な潤いが灯る。
「しぃぃぃかぁぁぁもぉぉぉ! ノインツェーン! まーた性懲りもなく来てましたよ! 折角忠告してあげたのに!」
「あの程度で折れるようであれば、元より機械神の巫女足りえん」
「あ! メリアグレースの教皇様から伝言預かってきました! 聞きます? というか聞いてください! いいですか!?」
食い下がるエクシィに鬱陶しそうに顔を背けるアナスタシア。それを了承と受け取ったエクシィは咳払いしてから背筋を正す。
「えー、今後あらゆるアーレス大陸での活動が人が人を救う事である限り、ノインツェーンは光臨する。これは人の意志であり、メリアグレースの教義や国政に関係なく誰かを救うという人類種の根源的正義によって成す事、故にバーラントに敵対的意志を持っての行動ではない……以上です! 全部言いきれた……」
「つくづく手を出したがるものだな、外界の機械神とその巫女は……」
哀れみか呆れか、アナスタシアの喉から深い吐息が漏れる。
「ででで、でぇぇぇん! どうするんです? わたしとしてはなるはやで処しちゃった方がいいと思うんですけど?」
「ならん。時期尚早である」
「でもでもでも! あの教皇様って自分の我は絶対通すタイプっぽいですよ!? 聖下とカチ合ったら救済だ! 人助けだ! で大陸全土滅ぼしてでも勝つまで戦い続けますって! 災いの芽はなんとやらぁぁぁんじゃないですか?」
「時期尚早と言った。静観に努めよ」
「え~?」
「それよりも――」
「イェーガーですよね?」
エクシィに言葉尻を遮られたアナスタシアの唇の端が微かに上がる。
「静寂か混沌か……我が地にもたらすものがいずれであろうとも、まだ時間が必要だ。見定める為の時間が」
「仰る通りで……」
双眸と口を半月状に歪めるエクシィ。アナスタシアの暗い紫水晶の如き眼差しは、此処ではない遥か彼方へと向けられていた。
大成功
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