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春宵一刻

#サクラミラージュ


●春の宵、朧路
 幻朧桜舞う、帝都の片隅。
 満開に咲き誇る山桜へ夕刻の陰が落ちる頃。
 揺らぐ煙のような曲線を描き、天へと伸びる石段に覆い連なる朱い鳥居。

『最後まで登りきると幸運が訪れる』『願いが叶う』

 ――何処から、誰からそんな噂が出始めたのだろう?
 いつしか連ね鳥居には、噂を試す者が絶えなくなっていた。

 けれど気をつけて、この連ね鳥居にはもうひとつ噂がある。
 夕刻にこの石段を登ると、途中で何かに止められるのだ。

 在る者は不思議な声に呼び止められた、
 在る者はひやりとした手に足を掴まれた、
 在る者は不審な人型の影を見た、

 聴く声は様々で、ぼんやりと霞む朧のように不確かな、よくある話。
 けれど噂の裡に潜む不穏な影には、まだ誰も気付いていない。

●帝都パトロヲル隊
 桜舞う帝都の元に在る『帝都桜學府』
 影朧救済機関の中心として活動する彼等は、影朧事件への対処はもちろん、テロル組織の活動や影朧による猟奇事件の気配がないか等、日々帝都の巡回もしている。

「――今回は彼らに協力し、帝都の街を見回る依頼が届きました」

 眞白の翼を背に、イリス・ペタル(花迹・f38561)が集った猟兵達へ向けて静かに言葉を紡ぐ。
 此度、猟兵に届けられた依頼は、影朧が直接関わる事件ではない。
 けれど何れそうなるかもしれない、そんな場所の見回りと調査を兼ねた依頼になっている。

「まず、日の高いうちに帝都の街を軽く巡回していただいて……。夕方頃になったら、今回調査する場所である、神社へ行っていいただく事になります」
 イリスの話では、その神社自体には特におかしな処はないのだという。
 問題は、小高い山頂に在る社へと続く、長い長い石段なのだ。
 朱い鳥居を連ねたその道中で、行く者の足を止める怪異に遭遇したという報告が増えているらしい。
「登りきると幸運が訪れる……なんて噂もあるようです。でも、頂にある神社ではそういった御利益は聞いたことがないそうで――」
 まじないの様な噂は、此処最近になって人知れず何処かから広まり始めたようなのだ。
「噂と怪異、そのふたつに何か関連性があるのかもしれません……。大きな事件になる前に、わたし達の調査で原因を突き止められれば、」
 小さな事件の芽を摘んで、少しでも帝都の治安維持に貢献出来るだろうと。
 イリスは穏やかに微笑んで、集った面々にお願いしますと軽く頭を下げた。

●春のひととき
「――それと。學府の方々から今回の調査の礼にと、サアビスチケットというものをいただいたのです」
 顔を上げたイリスは思い出したように金の瞳を瞬かせ、徐に桜色と夜色のチケットを取り出した。

「此方のチケットは、帝都桜學府の近くにあるカフェーのものみたいですね」
 桜色のチケットには、洒落た字体で店名が綴られている。
 どうやら學徒兵たちにも人気のお店らしく、店内はいつも明るい声で賑わっているのだとか。
「パトロールの途中、休憩にどうでしょうか? おすすめのメニューは、クリームソーダらしいです。……どんな飲み物なんでしょう」
 きっと初めて聞く言葉なのだろう、少女は小さく首を傾げてみせた。

「それともう一つは、夜行列車のチケットのようですね」
 此方は一般にはまだ走っていない観光列車で、今回はその試運転も兼ねて、貸し切りでサービスを提供して貰えるそうなのだ。
「乗車時間は数時間ほどらしいですが、景色や料理などを楽しむ時間は十分にあるそうです」
 静かな春の夜を走る夜汽車に揺られ、今日の終わりをのんびりと過ごすのも悪くないだろうと、イリスは穏やかに微笑んだ。

「……クリームソーダに夜行列車、楽しみですね。いえ、もちろん調査も確り行わなければ、ですけど」


朧月
 こんにちは、朧月です。
 サクラミラージュより、春と宵のひとときを。
 どうぞよろしくお願い致します。

●シナリオ構成(日常/冒険/日常)
 帝都パトロール名目のもと、のんびりとした春の1日を楽しむシナリオです。
 途中から、途中まで、一部の章のみご参加も歓迎します。

●第1章『桜舞う、ハイカラカフェー』(日常)…<時間帯:昼>
 パトロールの合間に帝都で人気のカフェ―を楽しみましょう。
 店のオススメは彩り鮮やかなクリームソーダです。
 ソーダ以外に、通常のカフェメニューもあります。

●第2章『桜色の朧路』(冒険)…<時間帯:夕>
 様々な噂がある、連ね鳥居へ赴きます。
 長い石段の道中には、行く者の足を止める何かが居るのだとか。
 ※詳しいご案内は章開始時の断章に追記いたします。

●第3章『夜汽車に揺られて』(日常)…<時間帯:夜>
 夜行列車に揺られ、1日の終わりをゆったりと過ごしましょう。
 料理や同乗者様との語らい、春の夜の穏やかな空気を楽しんでください。
 乗車時間は日が暮れてから数時間程度の運行予定です。
 ※詳しいご案内は章開始時の断章に追記いたします。
 ※本章に限り、案内人のグリモア猟兵、イリスも同行しています。
 お声掛け頂きプレイングに問題ない場合はご一緒させて頂きます。

●受付・進行・採用について
 プレイング受付期間はマスターページ、シナリオタグでご案内します。
 お手数ですが都度ご確認いただきますようお願いします。
(基本的には章進行に必要な人数が揃った翌日24時には締め切ります)

 また、プレイング採用は下記の通りになりますので、
 ご了承の上、参加を検討してください。

 通常プレイング:期間内に執筆出来る分だけ。
 オーバーロード:内容に問題なければ採用。

●共同プレイングについて
 同伴者はご自身含めて2名様まで、でお願いします。
 【相手のお名前(ID)】or【グループ名】をご明記ください。
 送信日は可能な限り揃えていただけると助かります。

 以上です。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 日常 『桜舞う、ハイカラカフェー』

POW   :    軽食を頼む

SPD   :    デザートを頼む

WIZ   :    クリームソーダを頼む

👑5
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 ~喫茶『桜花亭』~

 桜の名を冠するそのカフェーは人々の賑わう帝都の中心街に構えるお店だ。
 外観はレンガ造りのノスタルジックな洋館で、二階には通りを望めるテラス席もある。

 カラン、と心地好く響くドアベルを鳴らし、店内に一歩踏み入れれば、橙色に灯る電球色に包まれた木のぬくもり溢れる空間が広がっていた。
 敷き詰められた赤い絨毯に、室内にはアンティークの机や椅子、棚にはレトロな調度品が飾られている。

 メニューはお腹を満たす軽食から、心を満たすスイーツまで、様々なものを取り揃えている。
 こんがり焼いたハムチーズホットサンド、ふわとろ卵のオムライス、クリーミーで濃厚なナポリタン。
 なめらか豆乳プリン、白玉抹茶あんみつ、フルーツたっぷりプリンアラモード。
 メニューの写真はどれにも目移りしてしまうけれど、一際目を引くのはクリームソーダの頁。

 カップに浮かぶ真っ白まあるいバニラアイスに、赤いさくらんぼをちょこんと乗せて。
 揺蕩うソーダ水は彩り鮮やか、色とりどりに染まっている。

 定番のグリーンはメロン味。
 真っ赤な赤色はいちご。元気な黄色はパイン。シックな紫はぶどう。
 鮮やかな青は空色をイメージして、桜色はさくら風味のソーダ味。

 メニューに並ぶ色や味以外にも、頼めばオリジナルの味を再現して貰えるらしい。
 あなたのお気に入りの色、好みの味を試してみるのも楽しいかもしれない。

 パトロールのさなか、昼下がりのひとときをのんびり過ごそうか。
夜鳥・藍
WIZ
カフェは楽しみですがそれでもパトロールの手は抜いてはいけませんね。

一通り街を巡ってからのカフェのメニューはやはり迷いますね。
クリームソーダだけではなんですから、軽くつまめるホットサンドも頼みましょう。
チーズの塩味が効いたサンドイッチのあとはクリームソーダ。
どのクリームソーダにしようかしら?
鮮やかな空色もいいのだけどここは定番のメロンもいいわ。オリジナルの味も頼めるとなるとますます迷いが。……夜空のソーダも出来るのかしら?色は藍色で味わいはさっぱりしたものを。バニラアイスが乗るんだからソーダはシンプルな味でもいいと思うの。
夜空色のソーダに浮かんだまん丸アイスはまるでお月様のようね。



 ――帝都の春は、今日も桜日和。
 賑やかな通り、ひっそり静まった裏路地にも、等しく緩やかな花吹雪が舞っている。
 ふと空を仰げば、煌々と照る太陽はほんの少し傾き始めていて。
 ……となれば、そろそろかしら、と。
 夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は足取り軽やかに、鞄に忍ばせたチケットの存在を確かめつつ、通り沿いに在る一軒のカフェへと足を伸ばす。

 一通り街を巡ってからのカフェのメニューはやはり迷ってしまうもので。
 軽く飲み物でも、なんて道中では考えていたけれど、いざ食欲を唆られるメニューを目の前にすれば、少し小腹も満たしたくなってしまって。
(「クリームソーダだけではなんですから、軽くつまめるホットサンドも頼もうかしら?」)
 チーズの塩味が効いたサンドイッチは決まり、それに添えるクリームソーダは……さて何味にするか。

 鮮やかな空色ソーダもいいけれど、ここは定番のメロンで落ち着くのも良い。
 オリジナルの味も頼めるとなるとますます悩んでしまうもので。
(「……夜空のソーダ、というのも再現出来るのかしら」)
 自分が頼みたいオリジナルの色や味と聞けば、まず思い浮かべるのは夜空や星空だった。
 色は藍色で味わいはさっぱりしたもので……バニラアイスが乗るのだからソーダはシンプルな味の方が良いだろうと。注文を受ける店員にイメージを伝えれば、後はそわそわと楽しみに待つ時間。

 程無くすれば、注文したメニューがテーブルに届けられ、藍の星の瞳がキラキラと輝いた。
 こんがりきつね色に焼いたホットサンドは、切り口からとろりとチーズが溶け出して。
 オリジナルのクリームソーダは夜を溶かした深いブルーと澄んだ青のグラデーションに染められている。
 浮かんだまんまるアイスは夜空に浮かぶ月のよう、勿論クリームソーダの象徴である真っ赤なさくらんぼも添えられている。
(「――なんだか、このグラデーションを崩してしまうのがもったいないかも、」)
 夜空色のソーダで満たされたグラスは、気泡と氷がキラキラと耀く星のようにも見えて、思わず眺めていたくなってしまったけれど――、
 ふと我に返った藍は、ホットサンドが冷めないうちにとナイフとフォークを手に取った。
 サンドイッチの塩見と夜空色クリームソーダの甘みが溶け合って。
 藍は体も心も満たす昼下がりひとときを、のんびりと味わってゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メノン・メルヴォルド
【イサリビさんf34679】と

ワタシ達、帝都のパトロヲル隊、ね(ひよこさんが肩の上でビシッ
実は…カフェも楽しみにしていたの

せっかくなので、噂のクリームソーダを頼みたいのよ
色が…いっぱいあって迷ってしまうけれど…やっぱりメロン味、かしら

イサリビさんは?
ん、美味しそう
…え、いいの?
もしかして、欲しそうな顔になっていた?(頬に手を当て恥ずかしそうに
ふふ、お言葉に甘えていただきます
イサリビさんもどうぞなのよ

このプリン、しっかりしていてお味が濃い、ね
クリームソーダは、こうしてスプーンでバニラを少し掬って(ぱくっ
シュワッとして美味しい
ね、と笑み返し

(言葉に大人しくしていたひよこさんとトラくんが急にそわわ)


イサリビ・ホムラ
【メノンさんf12134】と
あっはっは、こらちょっとした花見やわ。帝都のパトロヲルは風情がありますなぁ
軽く巡回したらカフェで一休みしましょか

メノンさんは何にします?
せやったら自分はプリンアラモードに
たっぷりフルーツと生クリームにプリン。どこから手をつけよか迷ってまいますなぁ
ふふ、おっさんひとりじゃ食べ切れんわぁ。メノンさんも一口どないです?

恥じらいには笑みを返して。どうぞの声にくつり喉を鳴らし
ははっ、自分も欲しそにしとったのバレてまいましたか
そんなら一口…お、バニラと一緒やとまろやかでええですなぁ。爽やかなシュワワも癖になりそうやわ

ひよこさんもとらくんも、食べられるもんがあるか聞いてみましょか



 晴れやかな桜都は今日も穏やかに。
 春の風に乗せて、ひらひら、ふわりと桜の花弁を舞い踊らせる。

「――こら、ちょっとした花見やわ。帝都のパトロヲルは、風情がありますなぁ」
 暖かな陽気に柔らかな風の中、桃色の髪を心地好く靡かせて、イサリビ・ホムラ(燻る漁火・f34679)は軽く視線を通りに巡らせていた。
「うん。ワタシ達、今日は帝都のパトロヲル隊、ね」
 そんなイサリビの様子を傍らで見上げながら、メノン・メルヴォルド(wander and wander・f12134)もパトロール隊らしく往来する人々の様子に目を配る。
 メノンの肩に乗るまんまる黄色いひよこさんも、ビシッと小さく背伸びをして気合十分だ。

 そんなこんなで、今日の二人は帝都パトロヲル隊。
 帝都の治安維持に貢献する大事な役目である。
 行き交う人々に紛れ、街の様子に目を配りながら、ゆるりと通りを巡回してゆく。
 然れど賑わう帝都の大通りは、どうやら今日も平和な様子だ。

「――ほな、軽く一巡りもしたし、ぼちぼちカフェで一休みしましょか?」
 程よく歩き回ったところでイサリビが提案すれば、メノンの表情がぱっと耀いた、
「ふふ。そろそろいい頃合い? 実は、カフェも楽しみにしていたの」
 嬉しげに花笑む少女の様子に、長身を屈めた男もにこりと微笑んで。
 二人揃って向かう先は、帝都で人気の例のカフェー。

 ――カラン。とドアベル鳴らし、レトロでモダンな店内へ足を踏み入れれば、二人は穏やかな春の陽射しが注ぐ窓際の席へと案内された。
「さて、メノンさんは何にします?」
 イサリビが備え付けのメニューを共に見えるようにとテーブルに開く。
「ワタシは……せっかくなので、噂のクリームソーダを頼みたいのよ」
 メノンが少し乗り出してメニューを覗けば、きらきらと彩り鮮やかなクリームソーダの写真が目に映る。
「うぅん……色がいっぱいあって迷ってしまうけれど……、やっぱりメロン味かしら?」
「メロン味、定番ですなあ。せやったら、自分はプリンアラモードにしよかな」

 注文を頼めば、後はそわそわと楽しみに待つ時間。
 穏やかな春の陽気にゆるりと二人の談笑も弾んで、気付けばトレイを手にした給仕人がそっと二人の間に割って声を掛けていた。

 メノンの前には、鮮やかなグリーンのメロンクリームソーダ。
 イサリビの前には、たっぷりフルーツと生クリームのプリンアラモード。

「わぁ、綺麗!色鮮やかで、なんだか混ぜちゃうのがもったいないかも。……イサリビさんのプリンアラモードも、美味しそうね?」
「せやなぁ、思うたよりずっと豪華やわ。どこから手をつけよか迷ってまいますなぁ」
 イサリビがスプーン片手に思案すれば、なにやら感じる熱い視線に思わず口元を緩ませて。
「……ふふ、おっさんひとりじゃ食べ切れんわぁ。メノンさんも一口どないです?」
「え、いいの?……も、もしかして、欲しそうな顔になっていた?」
 はわわ、とメノンは恥ずかしさに熱くなる頬を手で覆いつつも、何とか平静を装って。
「そ、それなら、お言葉に甘えていただきますね。あ、イサリビさんもクリームソーダ、どうぞなのよ?」
 そんなお裾分けのお礼に、イサリビもくつりと喉を鳴らして。
「ははっ、自分も欲しそにしとったの、バレてまいましたか?」

 フルーツや生クリームにも負けない濃厚な味のプリンに、
 爽やかソーダとバニラアイスの組み合わせは、まろやかさとシュワシュワ感がなんだか癖になる味わいだ。
 互いに頼んだ甘味を一緒に分け合えば、美味しさも愉しさもいっそう増す気がして。

 そんな和やかな空気と甘い香りに誘われて、メノンの膝下からひょこりと姿を覗かせる二匹の姿。
「――おや、ひよこさんもとらくんも、一緒に食べます?」
 イサリビの言葉に二匹のつぶらな瞳はきらきらと耀いて、その様子にメノンとイサリビも嬉しそうに微笑み合った。

 そうして、二人と二匹の穏やかな春のひとときは、ゆっくりと過ぎてゆく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユリウス・リウィウス
妻の【スフィ(f02074)】と

荒事でないなら、今回鎧の出番は無いな。どれ、墨染の着流しで人波に紛れてみるか。

なかなか一緒に出かけられなくて悪いな、スフィ。今回はせめてもの罪滅ぼしだ。楽しんでくれよ。

警邏は何事もなく過ぎて、件の『桜花亭』へ辿り着く。
夏はまだでも、黒装束にはいささか暑くなってきた。出されたお冷やで人心地付けてから注文だ。
ぶどうのクリームソーダとホットサンドを。スフィは?

道行く人の顔に怯えや卑屈さが見られない。戦乱とも圧政とも無縁な、いい世界の証拠だ。

ん? お互いのソーダを交換してみるのか? いいぞ。
この後も警邏が続くから、葡萄酒というわけにもいかんな。

馳走になった。ありがとう。


リリスフィア・スターライト
夫の【ユリウス(f00045)】とだね

私も私服姿で参加するね
そんなに気にしなくて大丈夫だよ
こうして誘ってくれたのだしね

パトロールも何事もなさそうだし、
『桜花亭』でお楽しみタイムかな
確かに黒装束は今の季節でも少し暑いよね
お冷で一息ついた所で一緒に注文かな
私はレモンのクリームソーダとパンケーキをお願いするよ

うん、そうだね
ここは本当にいい世界だと思うよ
だからこそ守らないとだよね

いい機会だしソーダだけでなく、
パンケーキとホットサンドも交換しようか?
折角だし食べさせてあげるね
こうして幸せを分け合うのはいいよね♪

それでも仕事は忘れずに店内でも件の噂が
聞こえてこないかも確認しておくね



 ――桜舞う帝都の春はゆったりと、穏やかな風が流れていた。

 行き交う人々の咲い声に愉しげな笑顔。
 一見、争いとは程遠い世界。けれども潜む影は必ず在るもので。
 そんな小さな影に目を光らせる、それが帝都パトロヲル隊の目的だ。

 然し、少なくとも今この場では、荒事とは無縁だろうと。
 ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)は普段身に着けている鎧ではなく、墨染の着流しをサラリと着こなし人並みに紛れることにした。
「……なかなか一緒に出かけられなくて悪いな、スフィ。今回はせめてもの罪滅ぼしだ。楽しんでくれよ」
 そう零しながら、傍らをそっと見やれば、金の髪に青い瞳の少女が微笑みながら見つめ返し、
「ふふ、そんなに気にしなくて大丈夫だよ?今日もこうして誘ってくれたのだしね」
 白いジャケットにふわりとスカートの裾を揺らして、リリスフィア・スターライト(プリズムジョーカー・f02074)も私服姿で夫のユリウスと共に街を巡回していた。

 人の往来が多い通り、脇道に逸れた裏通りにも足を向けつつ。
 夫婦二人で街巡りも兼ねて、パトロールは何事もなく過ぎてゆく。
 そうして一通り担当した地域を周れば、件のカフェ『桜花亭』へと足を伸ばす事にした。

 二人は休憩中も街の様子が眺められるようにと、通りが望めるテラス席を希望して席に着く。
 穏やかな春の昼下がりは燦々と降り注ぐ陽光に照らされ、暖かな空気を纏っていた。
「……夏はまだでも、黒装束にはいささか暑くなってきたな」
 ふぅ、ユリウスがと息を零せば。出されたお冷の氷が、カランと小さな音を鳴らす。
「確かに、黒装束は今の季節でも少し暑いよね。ふふ、冷たい飲み物でも頼む?この店はクリームソーダがおすすめみたい」
 よく冷えた水で一息ついた二人は、徐ろにメニューを眺めて、
「じゃあ俺は、ぶどうのクリームソーダとホットサンドを。スフィは?」
「んー……私は、レモンのクリームソーダとパンケーキをお願いしようかな」

 給仕人を呼び注文を終えれば、後は届くのをそわそわと待つ時間。
 けれどそんな待ち時間でも、ユリウスはテラス席から通りの様子を眺め見ていた。
「……先程も感じたが、道行く人の顔に怯えや卑屈さが見られない。戦乱とも圧政とも無縁な、いい世界の証拠だな」
「うん、そうだね。ここは本当にいい世界だと思うよ、だからこそ……守らないとだよね」
 リリスフィアも小さく頷きながら、通りの様子にも眼を配らせつつ、ゆったりとした春の空気を感じていた。

 ――程無くして、注文したメニューが二人の席に届けられる。
 紫と黄色、彩り鮮やかなクリームソーダは春の陽射しでいっそうキラキラと耀いて、ホットサンドとパンケーキも芳ばしく甘い香りが食欲を唆る。
「……わぁ!ふふ、美味しそうだね。――ねぇねぇ、少し交換し合わない?」
 パトロールの後で少し小腹も空いた手前、相手のホットサンドの味も気になってしまうもので。
 リリスフィアがそう提案すれば、いいぞ。とユリウスも快く頷いて。
「――せっかくだし、食べさせてあげるね。はい」
 蜂蜜とバターたっぷりのパンケーキを一切れフォークで掬い、リリスフィアが手を添えてそっと差し出せば、ユリウスは軽く目を瞬かせた後、ぱくりとそのパンケーキを頬張った。

「……うん、甘いな。馳走になった。ありがとう」
「ふふ、どういたしまして!」

 ――ほんのりと、甘い幸せを分け合って。
 仕事の合間、ゆったりとした夫婦二人の時間が過ぎていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハロ・シエラ
ええ、ロランさん(f04258)。
大分歩き回りましたし、少し休憩させて頂きましょう。
なるほど、確かに……では私はこちらでしょうか?
いちご風味の赤、少し親近感が湧きますから。
そうだ、少し軽食も頂きたいですね。
ホットサンドなんて素敵ですね、クリームソーダに良く合いそうです。
ロランさんは何か召し上がりますか?後で少し交換するとかいかがでしょう?
さて、お料理が来るまで今後の相談をしておきましょうか。
このまま進んで一通り見回ってみる感じでしょうか……ええ、後は頂いてからにしましょう。

ホットサンドも活力の出る味ですが、やはりクリームソーダは冷たくて疲れた体に嬉しいですね。
……ソーダの方もシェアしてみます?


ロラン・ヒュッテンブレナー
ふぅ、ハロちゃん(f13966)、席空いてて良かったね

ここはクリームソーダが人気みたいなの
パトロールで喉も乾いたし、これは頼もうかな
ぶどう味の色、ぼくみたいじゃない?

うん、ちょっとお腹空いたよね
そっちおいしそう
ぼくはオムライスが気になってるの
うーん、どっちにしようか迷うの…

うん、その方針で行こうか
あ、きたね
(地図とパトロール内容を書いたメモ帳を片付けて)
うん、おいしそうなの
いただきます、なの

卵がとろとろでふわふわしててあまいのがケチャップの酸っぱさと合ってておいしいの
うん、しゅわしゅわにぶどうの香りが爽やかなの
え、そ、それはだいじょうぶ、なの?(赤くなってわたわた)



 春の穏やかな風と桜の花弁を招き入れながら、喫茶『桜花亭』のドアベルが弾む音を響かせる。
 時刻はちょうど昼下がり、ランチタイムで賑わっていたであろう店内は人気も疎らに、一息つくにはちょうどよい時間でもあった。

「――ふぅ、ハロちゃん、席空いててよかったね?」
 嬉しげに尻尾をふわりと揺らし、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は案内された席へと腰を下ろす。
「そうですね。大分歩き回りましたし、この辺で少し休憩させて頂きましょうか」
 ロランと共に、ハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)も腰を落ち着かせると、そっと軍帽を脱いで漆黒に流れる髪を軽く掻き上げた。

「みてみて、ハロちゃん。ここはクリームソーダが人気みたいなの」
 ロランがテーブルの上にメニュー表を開いて見せれば、彩り鮮やかなクリームソーダの写真が目に映る。
 其れは、宛ら虹色ソーダが織り成すグラスの耀き。
 写真越しでもキラキラと、その煌めきが伝わるようで、ついつい眺め続けてしまうけれど。
 そんな七色の中でも一際目を引く色があって――、
「ふふ、このぶどう味の色、ぼくみたいじゃない?」
 ぱちりと紫のまるい瞳を輝かせてロランが指させば、ハロもなるほど、と頷いて。
「確かに……では私はこちらでしょうか? いちご風味の赤、少し親近感が湧きますから」
 ハロが指差す先は、彼女の瞳と同じ鮮やかな赤に耀くいちご味。
 そうだねぇ、と。ロランが嬉しげに笑みを浮かべれば、ハロもつられて微笑み返す。

 パトロールで乾いた喉を潤す甘さを決めた所で、他はどうしようかと別の頁をぱらりと捲り。
「――私は、少し軽食も頂きたいですね」
「うん、ちょっとお腹空いたよね? ぼくも、何か食べたいな」
 二人の目に留まったのはお腹を満たす軽食メニューの頁。
 食欲を唆られる幾つかの品書きに、空いたお腹はどれも惹かれてしまって。
「ふふ。ホットサンドなんて素敵ですね、クリームソーダに良く合いそうですし。ロランさんは何を召し上がりますか?」
「ハロちゃんはそれにするの? ぼくは……オムライスが気になってるの、でも。うーん……」
 迷い倦ねているロランの様子に、ハロは小さくクスリと微笑んで。
「――では、少し交換するとかいかがでしょう? 私もオムライス、気になりますし」
「えっ、いいの?……えへへ、じゃあそうしよっか。後ではんぶんこ、だね」

 二人が決めた注文を頼めば、料理が届くまでの時間はこのあとの作戦タイム。
 帝都の地図とメモ帳をテーブルに広げ、パトロール巡回ルートの見直しを相談する。
 穏やかで静かなカフェの店内に、ペンを走らせる音や愉しげな談笑が心地好く交ざり合ってゆく。

『――おまたせしました、』と、給仕人の掛ける声に気付き、ぱっと顔を上げた二人はテーブルに広げた相談道具を素早く片付け、待ちに待った料理のお出迎え。
 チーズ薫るこんがりきつね色のホットサンド、鮮やかな黄色に赤いケチャップが眩しいふわふわ卵のオムライス。そして互いの色に耀くクリームソーダを目の前に、二人の瞳もきらきらと輝いて。

 ――いただきます、と合わさる声。

「ふふ。このオムライス、卵がとろとろでふわふわしてて……あまいのがケチャップの酸っぱさと合ってておいしいの!」
「ホットサンドも活力の出る味ですよ。それと、クリームソーダも冷たくて疲れた体に嬉しいですね」
 半分この約束も、頼んでいた取り分け皿に移して其々分け合えば、美味しい幸せも分かち合えるようで。
「クリームソーダも、しゅわしゅわにぶどうの香りが爽やかなの」
 バニラアイスをちょっぴり溶かしつつ、ストローでソーダを楽しむロランを眺めながら、ハロも自分のいちごソーダを一口啜り。

「……ソーダの方もシェアしてみます?」
「え!……そ、それはだいじょうぶ、なの?」
 突然の提案へ思わず頬を染めたロランの様子に、ハロは不思議そうに小首を傾げて。
「ぶどう味も気になってしまいましたので……。いちご味も美味しいですよ?」

 柔く微笑むハロを余所に。ロランは、はわわ……とふわふわな耳をぺたり伏せたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『桜色の朧路』

POW   :    何がいようと関係ない。登り続ける。

SPD   :    何がいようと惑わされはしない。登り続ける。

WIZ   :    何がいようと振り返らない。登り続ける。

👑7
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●桜舞う、朧の刻
 帝都パトロヲル隊の任を無事終えた猟兵達は、調査を依頼された連ね鳥居の麓へと赴いた。
 郊外に位置するこの場に着く頃には既に夕刻で、ちょうど噂の時間と重なる頃合いだ。

 朱く染まった鳥居が、黄昏色に染まる桜の山の頂上へと連なるように導いて。
 春風に騒騒と木々が揺れ、桜の花弁が耀くように舞い踊る。

 一見すれば、見惚れるような幻想的な光景だが、此処には”何か”が居るのだという。
 それは、影朧に成りきれなかった霊魂か、将又もののけの類か。

 ……ねぇ、待って。行かないで。こっちへ来て、

 朧のように霞む姿と声で引き留めるそれは、
 君のよく識る者の姿かもしれないし、識らない者の姿をしているかもしれない。

 不安定に揺らぎ変わる存在は、手招くように誰かを、何かを待っているようだった。

********

●マスターより
 この章では鳥居連なる石段を登るシーンがメインとなります。
 登り続ける道中、何に、どのように引き止められるのか。
 プレイングにて分かりやすくご指定ください。

 朧路に潜む怪異への対応は、皆様にお任せします。
 敢えて立ち止まってあげてもいいですし、先を急いで頂いても構いません。
 どのような場合でも、猟兵達が関わることで怪異はこの場から去る流れとなりますのでご自由に行動してみてください。

 また、同行者様がいる場合。同じ体験を共有して頂くことも出来ます。
 逆に視えるものは別、でも大丈夫です。

 詳細、説明は以上となります。
 それでは、佳き時間をお過ごしください。
 
 
ユリウス・リウィウス
妻の【スフィ(f02074)】と

件の石段だな。こういう連ね鳥居、確かカクリヨの戦争であった気がするんだが、そっち方面じゃないよな?
ん、じゃあ手を繋ごうか。日が落ちてきたし、足下注意だな。
桜の花びらか。この世界にいると、どこでも舞い散っているな。

俺の耳に聞こえるのは、死霊共の嘆きか? ふん、どうせ俺も、そのうち『そちら側』だ。慌てずに待っていろ。
スフィの手を握り返し、それでもまだ魂はやれんと足を進め。

当たり前だろ、俺の隣を歩くのはおまえだけだ。
スフィの歩幅に合わせつつ、石段を上へ向かって上っていく。

そうだな。捨ててしまいたい記憶もあるがそれも抱えて、生きている以上は前へ進まなくては。


リリスフィア・スターライト
引き続き夫の【ユリウス(f00045)】とだね

いよいよ依頼されている調査の開始だね
長い石段のようだし間違って転んだりしないよう
ユリウスと手を繋いで歩いてもいいかな?
舞い踊る桜の花弁も綺麗だし、初々しい感じがしてしまうね

此処に何かいるという事だけれど…
とそんな事を思っているとどこからか引き留める声が聞こえるね
この声はどこかで聞いた覚えが…
もしかして小さい頃の自分自身かな?
懐かしくはあるしつい振り返ってしまいそうになるけど
ユリウスとしっかりと手を繋いでいる事に気付いて思い直すよ

それから改めて一緒に歩いていいかな?
と言ってユリウスと一緒に階段上りを再開だね

「猟兵が過去の幻想に囚われてはいけないよね」



「……此処が、件の石段だな」
 其の言葉に呼応するように、咲き誇る桜の木々が騒騒と花弁を散らした。
 ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)が見上げた先、桜色に埋もれるように連なる朱い鳥居は、まるで天を目指すように長く永く延びていて。
 この光景に何処か既視感を覚えつつも、ユリウスはそっと視線を落とす。
「――わぁ、雰囲気あるね」
 傍らで並んで見上げる、リリスフィア・スターライト(プリズムジョーカー・f02074)も目の前に広がる景色に見惚れつつ、思考は調査モードへと切り替えて。

「……それにしても、長い石段だね。途中で躓いたりしたら……」
 ひやりとする場面を想像しつつ、リリスフィアはちらとユリウスの顔を見上げた。
「――間違って転んだりしないよう。ユリウスと手、繋いで歩いてもいいかな?」
「ん?じゃあ繋ごうか。日も落ちてきたし、足下注意だな」
「ふふ、ありがとう」
 快く返してくれたユリウスの差し伸べた手を、リリスフィアは嬉しそうに取って。
 二人は揃って朱い鳥居を潜ってゆく。
 ひらひらと舞い踊る桜の花弁に、穏やかな春の風も相俟って、どこか清々しく初いた心地が巡る。
「――なんだか、桜が舞う中こうやって手を繋いで歩いていると、少し初々しい感じがしてしまうね」
「……そう、か?――桜の花びらか。この世界にいると、どこでも舞い散っているからな」

 並んで歩き、他愛も無い会話をしつつ。
 石段を暫く登り続ける二人の足が止まったのは、同じタイミングだった。
「……なんだろう、なんだか変な感じがするね」
「ああ、この辺りに。例の”何か”が居るのか」
 其処はちょうど、長い石段の合間に在る狭い踊り場だった。
 周囲には今迄の光景と同じように、沢山の桜の木々が咲き誇っている場所のように思えるが――。

(「此の声は――、死霊共の嘆きか?」)
 桜の木々のさざめきと共に、ユリウスの耳に幽かに聴こえる其れ等は、弱々しくけれど確りと耳の奥に響き語りかけてくる。

 ”――ねぇ、あなたも。あなたもこちら側に――、”

 そう囁く声に、ユリウスは ふん、と息を吐いた。
(「……どうせ俺も、そのうち『そちら側』だ。慌てずに待っていろ」)
 魂を啜る黒剣を携え、屍術師として亡霊も使役するユリウスにとって、死した魂は身近で見慣れたものだった。
 其れは良くも悪くも、だ。
 過去の記憶を抱え、生に疑問を抱いた事もあっただろうか。
 けれど自分の足は今もこうして歩み続けている。
(「――それでも、まだ此の魂はやれない。去れ、」)
 ユリウスが静かな剣幕を放つと、騒騒と耳障りな死霊の声は一際強く吹いた春風にのまれ、音もなく掻き消えていった。
 ふぅ、と一息付き。ユリウスは思い出すようにリリスフィアと繋がれた手を握り返す。

「――スフィ、おまえも何か聞こえたか?」
 傍らで同じように足を止めているリリスフィアを軽く覗き込むと、強張った彼女の表情が見つめ返してくる。
「……うん、なんだか懐かしい声、」
 そう。この声は何処かで聞いた覚えがあった。

 ”――待って、置いていかないで。一緒に行こうよ――”

 小さな子供のような、ううん。これは幼い自分自身が呼ぶ声だ。
 誰を呼び止めようとしていたのか、其れは上手く思い出すことが出来ない。
 けれど、酷く懐かしくて。つい、声の先を振り返ってしまいそうになるけれど――。

 その瞬間、ぐいっと強く引かれる感覚に、リリスフィアは青い瞳を瞬かせて顔を上げる。
「――ユリウス?」
「ああ、俺だ。此処に居る」
 互いに確かめるように、繋がれた手を握り返し。リリスフィアは眉を下げて微笑んだ。
「ふふ、今のはちょっと危なかったかも? でも、ユリウスのおかげで留まれたみたい」
 自分を見つめるユリウスの瞳が微かに細められたのに気付き、リリスフィアも柔く笑みが零れる。

 ――改めて見上げる石段はまだまだ長く続くようで、けれどその景色は先程までとは違って、より美しく晴れやかに視える気がした。
「……ね、改めて一緒に歩いてもいいかな?」
 リリスフィアがそっと零せば。当たり前だ、とユリウスは返す。
「俺の隣を歩くのは、おまえだけだからな」

 夕陽に照らされた二人は石段に影を落としつつ、ゆっくりとまた上を目指し登ってゆく。
 過去を振り返り、抱えることは出来るけれど。決して囚われないように。
 これからも共に生き、前へと歩んでいくのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
夕方……黄昏……誰ぞ彼時ですね。
どんな声が聞こえるのか少し怖くも、でも不謹慎かもしれないけれどわくわくするような気持ちも。

聞こえてきた声は少し低く。離れて欲しくないと引き留める声。一人になりたくないと泣くような懇願する声。
初めて聞くけど声の主の姿は知ってるわ。きっとあの人。その姿を見たくて振り返りそうになる。
でもだからこそその人じゃないって分かる。
だって彼の人は私を引き留めなんかしない。それどころか逆にそっと背を押してくれるような人。
足を止める事をあの人は望まない。だから私は先に進むの。

(あの人=過去世の自分。顔だちは似ていて、でも色合いはもっと薄い。孤独に過ごし亡くなった人物)



 沈む夕陽がゆっくりと、桜の山に其の姿を隠す頃。
 徐々に降る宵の空色が、咲き誇る桜と朱い鳥居に、夜の影を落としてゆく。

 幽かに薄暗さを増す、――夕刻、黄昏、誰そ彼時。
 あの人はだあれと、見定めかねる時。

 こんな時は噂に限らず、何かに出会いそうな。
 そんな怖さと好奇心が交ざり合う不思議な気持ちを抱えながら、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は件の連ね鳥居が導く石段を登っていた。
(「――どんな声が聞こえるのか。少し怖く、でも不謹慎かもしれないけれど、ワクワクもしてる」)

 そうして山腹に差し掛かった頃、ふと背後に何かの気配を感じ、藍は歩む足を止めた。
(「……これが、例の”何か”かしら?」)
 藍は振り向かず、其れの反応を待つように留まれば、風に乗り幽かに響く声が聞こえてきた。

 ”――おねがい、行かないで。……ひとりにしないで、”

 耳の奥に響き、低く残る其の声はまるで啜り泣くような、懇願する声にも聴こえて。
(「……初めて聞く声、だけど。私はこの声の主を知っている気がする」)

 ――きっと、あの人だ。
 藍は不思議とそう、確信めいていた。

 自分と顔立ちの似た、過去世に繋がりを持つ人物。
 其の姿を確かめようと、つい声の先を振り返りたくなってしまうけれど。
 ……でも、だからこそあの人ではないと藍は分かってもいた。
 本当に、本物のあの人だとしたら、こんな風に自分を引き留めなんてしないだろう。それどころか、立ち止まらず前に進めるようにと、この背を押してくれるはずだ。

「足を止める事を、あの人は望まない。――だから私は先に進むの、」
 そう言い残した藍の背後で、呼び止めていた声は風の音に紛れて小さく消えてゆく。

 再び歩みを進める藍の瞳は、空に耀く夕星を映し出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハロ・シエラ
ここからが本番ですね、ロランさん(f04258)。
事件を無事に解決し、またカフェーに寄りましょう。

さて、実際に登ってみれば……美しい場所ですね。
ゆっくり眺めていたい所なのですが、早速怪異のお出ましのようです。
来いと言われて素直に行くのも癪ですが、近付かなければ調べる事も出来ません。
私にはロランさんがついていますから大丈夫でしょう……今は何かぼんやりしているみたいなので、少し心配ですが。
相手が何かを見極めようと近付いた瞬間、ロランさんに手を引かれて少し驚きながらも後退しますが、どうやら怪異の行動から救ってもらったようです。
ありがとうございます、ロランさん。
でもあれは結局、何だったのでしょうね?


ロラン・ヒュッテンブレナー
うん、ハロちゃん(f13966)、解決できるようにがんばろね?

そうだね良いところなの
振り向いた先の景色もすごく綺麗だよ?
ん?どうしたの、ハロちゃん
怪異が出たの?
なんだろ、毛並みがざわざわってする…
それに、気配がする?
(動物的感受性で何かを感じるが判然としなくて耳を向けながらゆっくり見回してる)

ハロちゃんが向かってる先の方からぞくっとした何かを感じたの
ハロちゃん、だめ!
咄嗟に手を引いて向こう側に・・・・・行っちゃうのを慌てて防ぐの
何かが怒ったような気配がしてから、ざわざわがなくなったの…

もう、大丈夫みたいだね、行っちゃったの
何かは分からないの
でも、ハロちゃんが連れて行かれなくて良かったの



「――さて、実際に登ってみれば……とても美しい場所ですね」
 ハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)がふと足を止め、登ってきた道を振り向けば、少し冷えた春の風が吹き抜ける。
 花弁が舞う、桜色に耀く世界。連なる朱い鳥居も夕陽に照らされ幻想的な色を帯びていた。
 ただの観光であれば、時間を忘れてゆったりと過ごしたい処だが、
「そうだね、良いところなの。振り向いた先の景色も、すごく綺麗だよ」
 ハロに追いつき傍らに並んで、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)も同じように二人で登ってきた石段と鳥居の路を見下ろした。

「……さて、ここからが本番ですね、ロランさん。事件を無事に解決し、またカフェーに寄りましょう」
「うん、そうだねハロちゃん。解決できるようにがんばろね?」
 再び巡るクリームソーダなカフェーの楽しみを胸に、改めて調査へと思考を切り替えてゆく。

 軽く景色を眺め、一息ついた所で再び登りだそうとした、その時だった――。
(「なんだろ、毛並みがざわざわってする……。それに、なにかの気配がする?」)
 ロランの尻尾の毛がぞわりと逆立つ感覚と、無意識にぴこりと向く狼耳が示す先。
 石段から外れた桜の木々の向こう側から、此方を見つめる”何か”が居る――?

「……おや? 早速怪異のお出ましでしょうか」
 ハロも其の何かの気配に気付き向き直るが、花弁が舞う桜の木々の向こうには、怪しい姿形は見えない。
 唯、風に乗って騒騒と、不思議な声が二人の耳に届いてゆく。

 ”――ねぇ、待って。こっちへおいで――”

 引き留めるように呼ぶ声、そして誘う其の声は風に紛れるほど幽かに、けれど耳の奥に直接響くような。不思議で不可解な其れに、ハロとロランは一度視線を合わせると、一歩前に歩み出たのはハロだった。
「――ハロちゃん……!?」
「……来いと言われて素直に行くのも癪ですが、近付かなければ調べる事も出来ません」
(「――それに、私にはロランさんが傍らにこうしてついている。きっと大丈夫」)
 ふわふわとした足取りで声の主に歩み寄るように近付けば、次第にその呼び声も大きくなってくる。
 ――そう、もっと近くに。”――彼方側に”

「――っ待って!ハロちゃん、だめ!」
「……え?」

 呼び止めたその声は、ロランのものだった。
 咄嗟に引かれた手に導かれ、蹌踉めくように数歩後退りしたハロは驚いたように赤い瞳を瞬かせた。
「……あ、わたし、いま――?」
「ハロちゃん!なんともない……?なんだかイヤな予感を感じたの、それで……」
 留まった二人に対し、騒騒と桜の木々が枝を揺らし、強く靡く。
 まるで何かに怒るように、欲しがるように、風に花弁を撒き散らし、急に吹いた突風に二人は思わず目を覆った。
 ――そうして収まった風に、そっと目を開けば、
 元の穏やかな桜色の世界が広がっている。先程までの不穏な気配もすっかり消えていて、

「もう、大丈夫みたいだね、行っちゃったの」
「……の、ようですね。ありがとうございます、ロランさん。助けてもらって」
 少し迂闊だっただろうかと、反省するハロにロランは首をぶんぶんと横に振り。
「ううん!――でも、ハロちゃんが連れて行かれなくて良かったの」
「ふふ……、ですね。でもあれは結局、何だったのでしょうね?」

 姿は視えず、ただ呼ぶ声が聴こえてくる。桜の木々の奥から、何か感じたものはあったけれど。
「……何かは分からないの。でも、行っちゃったから今は安心だね」
「それなら、後はのんびりと景色を楽しめそうでしょうか?」
 もちろん、引き続き警戒はしながら進む事になるだろうけれど。
 だが不思議と、この先は問題なく山頂まで登れる予感がロランにはしていたのだった。

 夕陽が織り成す橙色が、徐々に紫色へと変化してゆく。
 もうじき日が暮れ、宵の空が落ちてくる。
 暗く成りきらない内に、と。二人は共に、逢魔が時の石段を登っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イサリビ・ホムラ
朱に韓紅に東雲色。ひとことじゃ言い表せませんなぁ
常世ゆうんはきっとこんな風に綺麗なんでしょか。これは怪異が迷い込んでまうのも道理かわかりません
自分はヤドリガミですよって平気の平左です。メノンさんは…あっはっは、難儀そうやなぁ
はてさて鬼が出るか蛇が出るか

中途で霧が立ち込めて、すぅっと空気が冷たく
ん、ここにおりますよぉ。ほんに足元くらいしかよう見えませんし、自分のでかい図体でも目印にしてください
そっちもはぐれんように…ってメノンさん?

聞こえてきた声に視線を巡らせる
見えるんはいかにもゆう風態で這い伸びてくる白い手
鞘太刀でメノンさんの足下を本人に気づかれんよう軽く払いますわ
可愛い子ぉと話したいんはわかりますけど、いまはこっちが先約ですよって。ちょっかい出すんはあきませんよ

垣間見た幻影は隣の少女に酷似していて決定的に何かが違う
悪い気配はせんし怪異ゆうにはなんや優しい声で…まぁ、今はええか
怪我ありませんか?ほっ、ドキドキだけで済んでなによりですわぁ
自分は一足はやく肝冷やしてまいましたわ(笑みを返して


メノン・メルヴォルド
【イサリビさんf34679】と

えっ、怪異?
夕陽が差し込み、光と影を作り出す朱色の石段
美しいままなのは変わらないけれど…

――連なる鳥居は異世界へと誘うようで

も、もう、イサリビさんったら…脅かして(大きな背中にそっと隠れ
鬼やヘビが出ても困るのよ

ん…なんだか霧が出てきた?
濃くなってきたみたいなの、イサリビさん?
あ、良かった…(姿にホッとして
一本道なのに迷子になってしまったかと思ったのよ

どうして、こんなに立ち込めてきたの、かしら
…視界が悪くて、朱色に閉じ込められたような感覚になるの(ぷるっ
イサリビさん?

――置いて行かないで

誰かの声なのか、自分の心の声なのか判らなくなる
イサリビさん
思わず伸ばした手が宙を掻く
イサリビさん!
手に触れるひやりとした感覚

…っ、

『おい、周囲に気を付けろ』
(霧の幻影のようにメノンの中の別人格である『兄』がイサリビへ警告)

ぎゅっと掴んだ体温に安堵して
大丈夫、ビックリしちゃっただけなの
ドキドキ、しちゃった(笑って見上げ

『――妹を守ってくれて、サンキュ』
(晴れゆく霧の幻聴のように)



 朱に、韓紅に、東雲色に染まる世界。
 咲き誇る桜と花吹雪の中、連なる朱い鳥居は天を目指すように空へと延びていた。

 視界に広がるのは、夕暮れの陽に照らされ、黄昏色に耀く美しき光景。
 それは、まるで――、
「……常世、ゆうんはきっとこんな風に綺麗なんでしょか。これは怪異が迷い込んでまうのも、道理かわかりませんな」
 半ば冗談めかしつつ、そう零したイサリビ・ホムラ(燻る漁火・f34679)は額に手を添えて鳥居の続く先を見やるが、登り続けている石段の先はまだまだ長く続くようだった。
「――えっ、怪異?」
 イサリビの傍らでふぅ、と一息付いていたメノン・メルヴォルド(wander and wander・f12134)が不安げに顔を上げる。
 夕陽に照らされ、光と影を作り出す朱色の石段はとても幻想的で。
 けれど導くように連なる鳥居はまるで異世界へと誘われているようにも視え、メノンは益々表情を曇らせる。
「も、もう、イサリビさんったら……脅かして」
 此処に来たのはもちろん調査が目的ではあるけれど、怪異……と聞くとちょっぴり恐くもあって。
 メノンはそっとイサリビの大きな背中に隠れるようにして、続く石段に目配せをした。
「ま、自分はヤドリガミですよって平気の平左です。メノンさんは……あっはっは、難儀そうやなぁ」
 隠れたメノンを気に掛けつつイサリビは普段と変わらぬ笑顔を見せ、そしてもう一度先を見据えると、ゆっくりとした足取りで歩を進めた。
「とりあえず、先に進みましょか。はてさて、鬼が出るか蛇が出るか」
「鬼やヘビが出ても、それはそれで、とても困るのよ……?」

 そうして夕闇の石段を登り続け、程無くした時だった。
 周囲の違和感に気付いた二人は、ぴたりと足を止めて互いに顔を見合わせる。
「ん……なんだか、霧が出てきた?」
 メノンが小さく首を傾げれば、暖かな春の陽気を塗り替えるように、白く冷たい空気が忽ち辺りを覆い尽くしてゆく。
「さっそくお出ましやなぁ……にしても、この霧深すぎへん?」
「そうね、どんどん濃くなってきたみたいなの」
 メノンは心配そうに隣に居るのイサリビを見上げるも、視界は真っ白な霧に覆われてしまって。
「――……あれ、イサリビさん?」
 慌てて彼の姿容を探すように声を掛ければ、何時もののんびりとした返事が返ってくる。
「ん、ここにおりますよぉ。ほんに足元くらいしかよう見えませんし、自分のでかい図体でも目印にしてください」
「あ……良かった。一本道なのに迷子になってしまったかと思ったのよ」
 ホッと安堵の声色を滲ませて、メノンはイサリビの存在を感じられるようにと、そっと傍に寄った。

(「――それにしても、どうして急にこんな、霧が立ち込めてきたの、かしら」)
 一寸先は白、そして時折揺らぐ朱色は自分達を取り囲むように覆う鳥居の色だろうか。
 それはまるで朱色に閉じ込められたような、そんな感覚で。メノンは思わず身震いをする。

 ”――置いて行かないで”

「えっ……?」「――ん?」

 霧の向こう側、何処からともなく聴こえてきた声に、二人は同時に反応した。
「イサリビさん?……の声じゃない、よね」
「残念ながら、自分やあれへんなぁ。――さぁて、何もんですかね」
 聞こえてきた声に視線を巡らせるイサリビだが、視界は霧に覆われて。目で見るのもは役に立たなそうだ。
 ……ともなれば、気配を察しようと感覚を研ぎ澄ませてみる。

 ”――置いて行かないで”
 ”――行かないで”
 ”行かないで”

 声が響き渡る。誰かの、何かの声なのか、自分の裡から聴こえる心の声なのか。
 メノンはその境さえ解らなくなってきていた。
 事実、其の声はどんどん近付いて、霧の向こう側から、徐々に徐々に、
 ――そうして気付けば、すぐ傍らに。
「……!」
 メノンの手に触れた、ひやりとした感覚。
 何かに掴まれた。そう悟った時には既に恐怖が身体を支配していて。
 ――……イサリビさん、イサリビさん!
 隣の彼に助けを求め発した筈の声が、声に成らなかった。
 其れは反響して、唯そのまま自分の中へと戻って来る。
 次は腕を伸ばす、……伸ばした筈。けれどそれも、意識の中の宙を掻くだけで。
 本物の身体は硬直して身動きすら取れなかった。
 ――どうしたら、どうしたら良いのだろう。どうしたら、
「……っ、」
 メノンは俯いたまま、ぎゅっと目を瞑ると、不思議とふっと感覚が楽になって――。

『――おい、周囲に気を付けろ』

「ん、……メノンさん?」
 いや、違う。
 今のは”彼女”の声ではない、けれど何処か似た、別の声だった。
 イサリビが声の聴こえたメノンを見やれば、霧の中から彼女の腕を掴む白い手に気付く。
 騒騒と、更に増えて這い伸びてくる白い手は明らかに彼女に向かっていて。
 ふぅ、とイサリビは怪訝そうな表情を浮かべつつ。
 まずはメノンの腕を掴む白い手をペシッと払い除け、自らの鞘太刀で這い寄る白い手も軽く追い払ってゆく。
「……可愛い子ぉと話したいんはわかりますけど、いまはこっちが先約ですよって。ちょっかい出すんはあきませんよ」
 イサリビが霧の中から現れた無数の白い手を払い除ければ、耳障りに呼ぶ声も徐々に静かになっていき。
 同時に、更々と、視界を覆う白い霧も晴れてゆく。
 霧の元凶、アレが怪異だったのだと納得すれば、消える霧に紛れるように聴こえてきた、もう一つの聲。

『――……妹を守ってくれて、サンキュ』

(「――、いもうと?」)
 イサリビがそう問う暇も無く、聴こえた幻聴もその気配も、霧と共に消えて行ってしまう。
(「悪い気配はせんかったが。それに、怪異ゆうにはなんや優しい声で……まぁ、今はええか」)
 それよりも、と。イサリビは未だに硬直したままのメノンにそっと声を掛ける。

「――メノンさん、大丈夫です?怪我ありませんか」
「……えっ!?――あ、あれ、」
 イサリビの一声で生気が戻るように、メノンはハッと我に返って声をあげた。
 と、同時に先程まで体験していた恐怖が込み上げてきて、思わず傍らのイサリビの腕をぎゅっと掴む。
 ――今度は、ちゃんと伸ばした腕も、声も届いている。
 温かな彼の体温を感じ、ほっと安堵の息を零して。
「ふふ。大丈夫、ビックリしちゃっただけなの。少しドキドキ、しちゃった」
 見上げて花笑むメノンの表情はいつも通りで、その様子にイサリビも緩く笑みを返す。
「だったら、ほっとしましたわ……。ドキドキだけで済んでなによりですわぁ」

「……まあ、自分は一足はやく肝冷やしてまいましたけどね」
 視線を逸しつつ、思わずぽつりと零したイサリビに、メノンはきょとんと眼を丸くして。
「――え?それって、どういう――」

 さやさやと、心地好く吹く春風は桜の花弁をひらりと舞い踊らせた。
 談笑の声を弾ませながら、二人並び歩く石段の路はもう暫く続く。
 朱く染まる鳥居も、黄昏色に染まる桜の木々たちも。
 今は静かに、二人の行先を見守っているようだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『夜汽車に揺られて』

POW   :    食堂車で過ごす

SPD   :    座席車で過ごす

WIZ   :    展望車で過ごす

👑5
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 ――太陽が沈み、夜の帳も下り始めた頃。
「みなさん、調査おつかれさまでした!」
 桜學府まで戻ってきた猟兵達を、紺色の桜學府制服に身を包んだ少女が笑顔で出迎えた。
 手に抱えるのは数枚が束になった紙とペン。
 ふむふむと、少女は紙に記された内容に目を通しているようだ。
「……みなさんからの報告書、確かに受け取りました! あとはわたしが纏めて、調査結果を學府の方に提出しておきますね」
 これで少しでも異変の解明が出来ればと、参加した猟兵達も頷きを返す。

「――あ!そういえば、みなさんはこれから夜行列車に乗る予定でしたっけ?」
 報告書を夢中で読みそうになっていた少女は、はたと顔を上げ。
 列車の場所まで案内しますね、と心做しか意気揚々と歩き出す。
「……わたしもまだ、乗ったこと無いんですよ、”星桜号”。あ、星桜号っていうのはその列車の愛称なんですけど」
 道中の少女の話によれば、”星桜号”はまだ一般には公開されていない夜行列車だ。
 何れ正式に運行し始めれば、帝都の街と地方とを繋ぐ寝台列車としても活用される予定らしい。
 ――が、今はまだ試運転の段階で。客として乗る者もごく一部に限られているのだとか。
「……なので、みなさんがとっても羨ましいです。わたしも、正式に運行されたら一度は乗ってみたいと思ってますけど」
 そんな会話を交わしつつ、まだ人波の多い大きな鉄道駅の端、
 一番奥にある歩廊へと向かえば、……静かに佇む黒い列車が猟兵達を待っていた。

 ”星桜号”という名の通り、車体は夜空に溶けるように黒く、そして星のように耀く桜の意匠が随所に施されている。
 その出で立ちは絢爛だが、豪華過ぎず。それでいて存在感を放つ、星夜の静けさを纏っていた。
 列車を見上げる猟兵達の傍らで、學徒兵の少女もきらきらと瞳を輝かせて。
「――ね、とーっても素敵、ですよね!」
 車体に見惚れるさなか、またもや少女ははたと我に返れば、構内の時計を見上げて「そろそろ……」と残念そうにぽつりと呟いて。改めてくるりと猟兵達へと向き直った。
「……それでは、わたしはこの辺りで戻りますね。みなさんはどうぞ、列車の旅を楽しんできてください!」
 また一緒にお仕事する機会があれば、その時はお願いしますね、と。
 一言残しつつ、手を振りながら去る少女の背中を見送った。


 猟兵達は列車案内人、アテンダントに先導され、”星桜号”に乗り込んだ。

 まず最初の車両は、大きな窓が開放感のある座席車。
 複数人で囲めるテーブル席、こじんまりと楽しめるカウンター席。
 どちらも外の景色が眺められるように椅子などが配置されていて、車内の限られた空間ながら、ゆったりとしたスペースが設けられている。
 車窓から望む光景は煌めく街並みから、郊外の疎らな夜明かり、木々が織り成す森を抜ける際は月灯りのみの静かな夜の景色が刻々と流れゆく。
 座席車は一部のみ窓の開放も出来て、ゆったり走る列車が纏う春の風や自然に咲く花の香りを楽しむ事も出来そうだ。

 続く車両は食堂車。
 車内に設けられたキッチンで作られた、温かい出来立ての料理を味わう事ができる。
 今回頼める料理は、季節のコース料理のみになるが、ちょうど時間も夕飯の頃合い。
 せっかくだから此処でお腹を満たしていくのも悪くない。
 気になるメニューは旬の春野菜や春の訪れを感じる桜鯛をメインに、彩り鮮やかな春の食材を盛り込んだ特別なコース料理になっている。
 日々の仕入れによって詳細は異なるらしいが、
 今宵は菜の花やアスパラガスの前菜、春の七草のかき揚げ、桜鯛の炙り造り、デザートに春苺を使用したパンナコッタなどが主に出されるらしい。
 勿論、食堂車に設けられた席からも車窓の景色を眺めることが出来る。
 食事とともに移り行く景色を楽しむのもまた一興だろう。

 また、食堂車ではドリンクだけを頼むことも出来る。
 それを持参して先に案内した座席車や、次に案内する展望車で飲み物片手にのんびりと過ごす事も可能だ。

 そして最後の展望車は、この列車の愛称の一部にもなっている”星”を意味する特別な場所。
 車内の左右と上方、全てがガラス張りとなっており、列車に乗りながら満点の夜空を眺められる構造になっている。
 この場所だけは照明も歩行に支障がない程度に落とされており、横にもなれるリクライニングシートが等間隔で用意されている。
 カタコトと揺れる列車のリズムと共に、ゆったりとした星見の時間を楽しむことが出来そうだ。

 そうして軽く案内された所で、列車が出発するアナウンスが流れた。
 ガコンと軋む鈍い音と共に軽い反動を受け、車窓の景色がゆっくりと動いてゆく。
 春の宵の穏やかなひと時を、”星桜号”に乗って。
 ――さて、どう過ごそうか?

********

●マスターより
 1日の終わり。夜行列車に揺られ、のんびりと過ごす日常章です。
 上記冒頭でご案内した内容の他にも、ご自由に過ごしていただけます。
 有りそう、出来そうな事ならば、何でも大丈夫かなと思います。
 ※列車の運行や車体、他参加者様のご迷惑になるような行為は勿論禁止です。
 ※プレイングの行動は何処か一箇所を主に書いていただく事を推奨します。

 乗車時間は数時間程度。
 帝都の周辺地域をぐるりと回り、夜も遅くならない内に再び同じ駅に戻ってきます。
 各車両には係の者が乗車していますので、なにか困った事があれば何時でも対応出来ます。
 列車後方には寝台車もありますが、今回は利用できません。

 詳細、説明は以上となります。
 それでは、佳き時間をお過ごしください。
 
 
夜鳥・藍
WIZ

お食事も気にはなりますが今は展望車の方が気になります。上方もガラス張りだとか。
食堂車で飲み物をいただいて展望車へ参りましょう。飲み物はアイスティーでも。
温かいものを頼んでもきっと眺めているうちに冷めてしまうでしょうから。

良く見える(とは言ってもどのお席もそうなのだと思いますが)席にゆったりと。
座っていただいたアイスティーを飲みながら眺めてますが、しばらくしたら席を倒して横になりましょう。
春の大曲線に大三角に、私の星座でもある乙女座。そして昴。時間もあるしゆっくり探そうとするけれど。
……いけない、ついうとうとしちゃった。
照明が落とされてるし、さらに列車のリズムが眠気を誘うわ。



 ――カタタン、コトトン。
 静かな夜に響く列車の音に包まれながら、ほんのひと時の特別な時間。
 春の彩を楽しめる食事も気になるけれど……。
(「さて、どう過ごそうかしら」)
 夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は暫し悩みつつ、ふと車窓に流れゆく夜の景色に目を向けた。
 そう、今日はせっかくの晴れた星夜なのだから。
 今宵は飲み物を共に、夜空を望める展望車へと行ってみようか。

 カラン、と氷が揺れる紅茶を片手に、辿り着いた展望車は静かな夜の空気が広がっていた。
 ゆったりとしたソファにも近いシートに藍は腰を下ろし、冷たいアイスティーをこくりとひと口。
 そして見上げれば、遮るもののない星空が車内から続くように広がって、
(「……本当に、よく見える」)
 藍は備え付けの台に紅茶を一旦置き、シートの背もたれを倒すと、ふぅと軽く息をついた。

 列車の走る速さに合わせて、ゆっくりと空の星も流れてゆく。
 藍の宙色の瞳は自然と、映る星の輝きと繋がりを辿っていた。
 北の空の天辺にある北斗七星を見つければ、夜空を駆け抜ける春の大曲線に、隣合わさる星座をつなぐ春の大三角。そして白く耀く星、おとめ座の一等星、昴も見つかる筈。
 順々に、夜空に線を描いて探していこう。
 夜の海を掬う柄杓の先端から曲線を伸ばして、橙色に耀く麦刈星。
 それから、それから――、
 ―――、
 ……、
 辿る星座の続きは気付けば瞼の裡に映されて、はたと藍は伏せていた瞳を瞬いた。
(「……いけない、ついうとうとしちゃった」)
 微睡んでいたのは一瞬だったか、暫し時間が経っていたのかも分からない。
 けれど見上げた星空は先程と変わらずゆったりと流れていて、藍は安堵したように再びシートに身を沈める。

 ――カタタン、コトトン。
 心地好く響く列車のリズムに誘われて、藍は再び星空の揺り籠に微睡んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユリウス・リウィウス
妻の【スフィ(f02074)】と

夜行列車か。さすがに着流しじゃ浮くな。洋装に着替えよう。

食堂車で軽食と飲み物を頼んでから座席車へ。
二人向かい合うのが丁度いい座席を選ぼう。
いい眺めだな。街の灯りが流れ星のように飛んでいく。叶うなら、このまま平和でいてほしいもんだ。

ん、食い物が届いたか。
サンドイッチに俺はワインで、スフィは何を頼んだんだっけか?
うん、見るからに濃厚なワインだ。仏蘭西産か、極東産か? この世界、定温輸送リーファーコンテナがあるかどうか怪しいから、本場物とはいかんかもしれん。まあ、いい地ワインがあればそれでいいが。

俺はカツサンドを食おう。赤には肉だ。スフィも楽しんでるか?


リリスフィア・スターライト
夫の【ユリウス(f00045)】とだね

星桜号…何だか親近感の覚える名前の夜行列車だね
こんな寝台列車に憧れていたんだよね
私も洋装に着替えようかな
ユリウスと一緒に食堂車で軽食と飲み物を注文するね
私はホットケーキとコーヒーかな
ユリウスはワインだね
立派な列車だし、きっといいワインもあると思うよ
座席車も思っていた以上に広くて快適そうだね
ユリウスが食事している様子と車窓の外から見える
夜景を眺めながら楽しい旅の時間を過ごすよ
ホットケーキも冷めないうちにだね、
ユリウスもひとつどうかな?
乾杯も忘れずに、コーヒーも飲んで目覚めもすっきり
しっかりと列車での旅を楽しめそうかな

「うん、一緒なら楽しいに決まっているよね」



「星桜号……、何だか親近感を覚える名前の夜行列車だね」
 星を冠するその名に、リリスフィア・スターライト(プリズムジョーカー・f02074)は思わず笑みを零した。
 夜に耀く星と桜を乗せた、こんな素敵な寝台列車に憧れもあって。
 けれど今夜は夜通し共に走ることは出来ないらしい。
 何時かまた機会があれば……、なんて考えてもみたりしながら。

「あ、ユリウスも洋装に着替えたんだね。私も、ちょっとだけおめかしして来たよ」
 落ち着いた色合いのワンピースの裾をふわりと揺らし、リリスフィアが笑顔を向ければ、シンプルな黒いジャケットの洋装を着こなした ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)も軽く頷いて見せる。
「――さすがに着流しじゃ、浮きそうだからな」
 和と洋とが織り交ざった世界と文化だからこその愉しみ方でもあるのだが、と。二人は軽く笑い合って。

 そうして夜行列車での短い旅のはじめは、まず食堂車へと。
「軽く飲み物とか頼んで、景色を眺めながらのんびり過ごす?」
 動いた後はやっぱりお腹も減るもので、リリスフィアはメニュー表を見ながら、うぅんと小さく唸っている。
「そうだな、少し小腹も空いたか。俺も何か、頼むかな」
「……じゃあ私も、軽食頼んじゃおうかな」
 互いにメニューを注文すれば、後は座席で寛ぎつつ、食事と飲み物が来るのを待つだけだ。

「――わぁ!思っていた以上に広くて快適そうだね」
 座席車の扉を開けて開口一番、リリスフィアの嬉しげな声が響く。
 窓際に配置された備え付けのテーブルも、此処が列車の中だと忘れそうな程にゆったりとした空間が設けられていて、二人は向かい合って座れる広めの席に腰を掛けた。
 大きな窓から見える景色に目を向ければ、街の煌めく灯りが次々と流れるように過ぎ去って。
 まるで、それは流れ星。
 流星群のように駆け抜けながら、視界に映っては消えてゆく。
「……いい眺めだな。叶うなら、このまま平和でいてほしいもんだ」
「――ん、そうだね。その平和を守るためにも、私達が居るんだもの」

 そうして夜景を眺めながら寛ぐ二人の元に程無くして、ほわりと好い薫りが運ばれてくる。
「ん、食い物が届いたか」
 お待たせしました、と乗務員が丁寧にテーブルへ食事と飲み物を提供していく。
 ユリウスの前には、しっとりとしたカツサンドにグラスに煌めく赤ワイン。
 リリスフィアはバターの香るふわふわとしたパンケーキに、温かなホットコーヒーを添えて。

「じゃあ、冷めない内にいただこう!よかったら乾杯もしようか?」
 リリスフィアの提案で、お互いグラスを手に軽く掲げ、二人はゆったりとした食事の時間を満喫してゆく。
「ユリウスはワイン、頼んだんだよね?」
「ああ、見るからに濃厚なワインだ。……仏蘭西産か、極東産か。まあ、いい地ワインであればそれで十分だが」
 ユリウスはグラスに揺蕩う淡く鮮やかなルビー色を軽く揺らし、香りを愉しみながら一口味わいつつ、お皿に綺麗に盛られたカツサンドをひとつ、口に運ぶ。
「……やはり赤には肉だ。――スフィも楽しんでるか?」
「ふふ。うん、一緒なら楽しいに決まってるよ」
 ユリウスの問いにリリスフィアは柔く笑みを零し、自身もほろ苦くて甘い珈琲を一口、じっくりと味わいながら飲んでみた。

 流れる夜の景色、列車の穏やかな揺れを楽しみながら。
 夫婦二人だけのひと時は、ゆったりと過ぎてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
ハロちゃん(f13966)、こっちの席が良さそうだよ?

飲物と大きめのクッションを借りて展望車にやってきたの
しっぽは腰に巻いて背中にクッションを置けば付け根を気にせず仰向けになれるの

飲物を飲みながらリラックスして景色を見るの
夜桜きれいだね
夕方の紅い陽と桜もきれいだったけど、こういう静かなのもすてきなの
リクライニングしたら星空もすごいよ、ハロちゃん!

たくさん歩いて、一緒に調査して…、不思議なのにも出会ったね
うん、無事でよかったの
ハロちゃんが連れて行かれそうになった時の焦燥感や胸の痛みを思い出して、体をハロちゃんの方へ寄せるの

近くにハロちゃんを感じたら、安心してうとうとしてきたの


ハロ・シエラ
まるで車体が存在しないようなこの車両……良い席ですね、ロランさん(f04258)。
この光景の中でゆっくりお茶を頂ける、と言うのも素晴らしいです。
なるほど、尻尾はそうやって納めるのですね。

ええ、夜になると全く表情が違いますね。
静かで、眠っているよう。
リクライニング……本当ですね、吸い込まれそうな夜空です。
夜桜と夜空の取り合わせ、ずっと眺めていられます。

そうですね、今日は色々ありました。
あの怪異からはあまり悪意を感じなかったのか、不覚を取りましたが……助かりました、ありがとうございます。
ふふ、もう大丈夫です。どこにも連れて行かれませんよ。
私も彼に身を寄せて、心地良い温かさの中で目を閉じましょう。



「ハロちゃん、こっちこっち!」
 大きなふわふわクッションを腕に抱え、手にしたドリンクのカップを溢さないように持ちながら、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は楽しげにぽふぽふと絨毯張りの通路を駆け上がった。
「この車両……まるで、車体が存在しないようですね」
 ロランの後を追うように、ハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)も照明の落とされた静かな空間に足を踏み入れる。
 二人の視界に広がるのは、遮るもののない、何処までも続く夜空。
 全面ガラス張りの展望車は防音設計もされているのだろうか、他の車輌よりも心做しか列車の駆動音が静かで。それでも耳を澄ませば、カタンコトンと一定のリズムを刻む音が聴こえてくる。

「ここでのんびり景色を見よう。……あ、ハロちゃん、こっちの席が良さそうだよ?」
 ロランが駆け足気味に向かったのは車輌の端、見上げれば夜空、横を向けば地上の明かりも眺められる絶景のロケーションだ。
「ふふ、なるほど。確かに良い席ですね、ロランさん」
 ハロも気に入った様子で、ペア席の片方にぽすりと腰を下ろす。
 ロランもうんうんと頷きつつ、抱えていた大きなクッションをまずはシートに置いて、そして尻尾をくるりと腰へ器用に巻きつつ、クッションを背にぽすんと席へ身を沈めた。
 その様子を隣でじっと見つめていたハロの視線に気付き、ロランはわわっと小さく声をあげる。
「……ああ、ごめんなさい。つい見てしまって。なるほど、尻尾はそうやって納めるのですね」
 口元に手を添えて笑むハロにつられて、ロランもへにゃりと頬を緩ませて。
「うん、そうだよ。こうすれば尻尾を気にせず仰向けでくつろげるんだ」
 二人の間に小さな笑い声が響き、ふと窓の外に目を向ければ、列車はちょうど夜の桜並木を通過してゆく所だった。流れ行く景色、それはほんの僅かな時間だったけれど、灯りに照らされた夜桜の美しさは一瞬でも二人の瞳に確りと焼き付いて。
「いまの夜桜、きれいだったね。夕方の紅い陽と桜もきれいだったけど、ああいう静かなのもすてきなの」
「ええ、夜になると全く表情が違いますね」
 昼や夕は世界が太陽に光耀いていたけれど。
 夜の訪れとともに、まるで街や空気も静かに眠ってしまったような。そんな錯覚も感じて。

「……ん?この席、背中を倒せるみたいだね。ハロちゃん、ちょっと倒してみても良い?」
 ロランが傍らにあるレバーに気付き、ハロに確認すれば、彼女もコクリと頷いて。
「リクライニングシートなんですね。ええ、もちろん大丈夫ですよ」
 軽く合図をしつつ、ロランがレバーを引けばシートの背もたれがカコンと下がる。
 そうすれば自然と二人は空を仰ぐ視線になって――、
「わ……!リクライニングしたら星空もすごいよ、ハロちゃん!」
「……本当ですね、吸い込まれそうな夜空です」
 視界に広がる星空に、ひらひらと舞う桜の花弁。
 夜桜と夜空が織り成す幻想的な光景はずっとずっと眺めて居たくなってしまう。

 景色に見惚れていれば次第に交わす言葉も少なくなって。
 それからぽつりと零したのは、ロランの方から。
「たくさん歩いて、一緒に調査して……、不思議なのにも出会ったね」
 なんてこと無い一日に思えたけれど、振り返れば長い一日でもあって。
「そうですね、今日は色々ありました」
 ふと先刻の事を思い出すように、ハロもぽつぽつと言葉を零す。
「あの怪異からはあまり悪意を感じなかったのか、不覚を取りましたが……。ロランさんには助けられてしまいましたね、ありがとうございます」
「……!本当に。うん、無事でよかったの……」
 ハロが連れて行かれそうになった、あの瞬間を思い出して、ロランの胸がきゅっと小さく痛む。
 それを隠すように、もそもそと身体を丸めてハロの方へそっと身を寄せた。
「……ふふ、もう大丈夫です。どこにも連れて行かれませんよ」
 ロランの体温を感じ、ハロもそっと彼に身を寄せて目を閉じる。
「えへへ、それなら安心なの……」
 ハロが傍に居る安堵感に、ロランも次第にうとうとと瞼が落ちてゆき――、

 ――カタン、コトン、
 静かな列車の響きと心地好い揺れに包まれながら。
 二人は温かな眠りへと誘われていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メノン・メルヴォルド
【星語り】

席、空いている、かしら…
静かな展望列車、思わず小声で囁くように

わあ…ここなら落ち着けそうなのよ
ペアでも座れるシートがあって良かったの
ふふ、全然狭くないのよ(気遣いを嬉しく思いつつ
これで、ぬくぬく、ね

シートの背を倒せば満天の星空が広がる
キレイ、ね
いつまでも眺めていられそうなのよ

ん、星空は大好き
星にまつわるお話は神話が多いけれど、童話も好き
ひとりぽっちのお星様のお話や、一番輝く一等星のお話とか
列車に乗って、銀河を旅しているみたい…色々な星を探検するの(小さく、くすくす

今日も楽しかったの、想い出がたくさん増えて…
夢の中で一緒に探検隊になってくれる?
…話しながら、うとうと
お互いに凭れかかって


イサリビ・ホムラ
【星語り】
えぇと、席は…ああ、あっちにありそうですわ。いきましょ
つられた小声でエスコートを

ええ、誰かと楽しめるようにとは粋ですなぁ
メノンさん狭くないですか?
二人で並んだら大判ブランケットをかけていざ天体観測

ほんまに。綺麗て感想しか出てこんくらい圧倒されてまいます
メノンさんはとりわけお気に入りみたいですなぁ
少女のうっとりした表情にくすり

ずぅっと昔から空に語り継がれる幾千粒の物語に想いを馳せるですか
ふふ、小さな探検家さんはロマンチックですなぁ
ひそひそと内緒話は続いて

一日めいっぱい頑張りましたし
銀河と星々の探検は夢のなかで、なぁ
ブランケットを首元まで掛けてあげたら、あくびをひとつ
やがて頭を凭れ合って



 カラカラと、木造りの引き戸がレールの上を滑る。
 車輌を繋ぐ扉をそっと開ければ、その先は今迄の煌々とした明るい車内とは全く違った様相で。
 遮るもののないガラス張りの天井の先は、星の瞬く夜の世界。
 ゆったりと流れゆく星空の様子に、メノン・メルヴォルド(wander and wander・f12134)は思わず弾む声を零しそうになって、けれど慌てて口元を抑えた。
「席、空いている、かしら……?」
 人の気配はするものの、ひそりと静まり返った車内の雰囲気に自然と声も小さくなってしまう。
 カタンコトン、と揺れる駆動音だけが思い出させてくれるような、静かな夜の展望車。
「えぇと、席は……ああ、あっちがよさそうですわ。いきましょ」
 メノンの後ろからひょこりと姿を覗かせて、車内の様子を見渡した イサリビ・ホムラ(燻る漁火・f34679)は幾許かの先客を確認し、その間の良さそうな席へ先導しつつゆっくりと歩む。

 二人が向かった席は、車輌のちょうど真ん中辺り。
 見上げれば満点の星空が広がる、夜空を見るには一番の特等席だ。
「わあ……ここなら落ち着けそうなのよ。それに、ペアでも座れるシートがあって良かったの」
「ええ、誰かと楽しめるようにとは。粋ですなぁ」
 メノンが先にぽすりと腰を下ろせば、その様子を見ていたイサリビはシートに手を掛けて少しばかり静止した。
「メノンさん、自分が隣に座ったら狭くないですか?」
 なにぶん自分はこんな図体なもので、と冗談めかして笑って見せれば、メノンはふるふると首を横に振って。
「ふふ、全然狭くないのよ? だからイサリビさんも、すわってすわって」
 そう促されたイサリビはへらりと柔く笑みを返し、メノンの隣にぽすりと腰を下ろす。
 振り向き、緑色と琥珀色の視線が合えば、自然と互いに笑顔が咲いて。
「――そしたら、コレはサービスです」
 そうしてイサリビの腕からふわりと広げられたのは、大判のブランケット。
 すっぽりと二人の足元を包み、ぽかぽかと感じられる温かな心地。
「――わぁ、何か抱えているなあと思ってたら。ふふ、ありがとう。これで、ぬくぬく、ね」
「ええ、先程こっそり借りておいたんですわ。これなら更にゆっくり寛げそうですし」
 そうすれば、準備は万全。
 シートの背をゆっくりと倒せば、満天の星空が広がる天体観測のはじまりだ。

「キレイ、ね。……いつまでも眺めていられそうなのよ」
 列車から眺める星空は、もっと早く流れ過ぎてしまうものだと思っていたけれど。
 眼の前に広がる光景は、地上から見上げる空と存外変わり無くて。
 それはきっと、列車が移動する距離よりもずっとずっと、遥か遠くに輝く星々が変わらず其処に在り続けているからなのかもしれない――。
 なんて想いを馳せれば、星を見つめるメノンの瞳がいっそう嬉々と瞬いた。
「ほんまに。綺麗て感想しか出てこんくらい圧倒されてまいます。
 ――メノンさんは、とりわけお気に入りみたいですなぁ」
 メノンの星を見つめる表情に、イサリビはくすりと小さく笑みを零す。
「……ん、星空は大好き。星にまつわるお話は神話が多いけれど、童話も好きよ」
 イサリビの方に振り向いたメノンは、ふわりと花咲く少女の笑みを見せ、何かの想い出を辿るように、ぽつぽつと小さく言葉を綴る。
 暗い夜の空にひとりぽっちのお星様のお話や、逆にどの星よりも一番輝く一等星のお話とか。
 様々な童話や逸話、その全ては遥か彼方に輝く星々の物語を想像して描いたもの。
「でも今はまるで、列車に乗って銀河を旅しているみたいね……。色々な星を、探検したり」
「――ずぅっ、と昔から空に語り継がれる、幾千粒の物語に想いを馳せる、ですか。
 ふふ、小さな探検家さんはロマンチックですなぁ」
 イサリビの言葉に、メノンも小さく、くすくすと笑んだ。
 二人の内緒話はひそひそと続いてゆき――。

「今日も楽しかったの、想い出がたくさん増えて……」
 メノンがそっと瞳を閉じれば、今日一日の記憶が蘇る。
 嬉しかったり、ちょっぴり不思議だったり、振り返れば色々な事が重なる一日で。
「……ね、イサリビさん。夢の中で、一緒に探検隊になってくれる?」
「ふふ、一日めいっぱい頑張りましたし。銀河と星々の探検は夢のなかで、なぁ」
 イサリビはそっとブランケットを手繰り寄せ、少女の首元まで掛けてあげれば、自分も小さく ふぁぁとあくびをひとつ。
 やがて、ふわりと身体の力が抜ければ。互いに軽く頭を凭れ掛かって。
 星の輝く夢の世界へと――。
 
 ―――。
 
 ふわふわと、微睡むメノンは一日を締めくくる銀河鉄道の列車の前に、ひとり立っていた。
 ふと振り返れば、見知った姿が此方に駆け寄ってくるのが見えて、思わず安堵の笑みを零す。
「――あ、イサリビさん!こっちこっち」
「ふふ、おまたせしました。もちろん、探検もご一緒させてもらいますわ」

 二人が列車に乗り込むと、扉はゆっくりと静かに閉まってゆく
 宵空を映す列車の行き先は、彼方に輝くあの星々だ。
 夜の空を駆ける冒険の物語は、まだこれから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年06月17日


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 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
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👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

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👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

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 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト