●(この村では)最終決戦
力持ちな愉快な仲間たちが住む村があった。
その村は何度か猟書家の襲撃を受け、その度ごとに猟兵に守られてきた。折しもアリスラビリンスは『鉤爪の男』との最終決戦が行われている。が、幸運にもこの村は戦火に見舞われる事も(今のところは)なく、愉快な仲間たちはひさかたぶりに訪れた平和を享受していた。
「あー、最近暇だなあ」
「あちこちじゃなんか戦争とかで大変らしいけど、このあたりは平和なものだあねえ」
「なんて言ってるとまーたあいつがやってくるかもしれんぞ」
「いやいやさすがにもう」
『ふはははははは!』
誰もが聞きたくなかった高笑い、同時に現れた四角いリング。
『私はチャンピオン・スマッシャーだ!』
覆面のマッチョな男はこれまでと同様に高らかに宣言した。
「来たな!箱舟から来た男!」
「あれ?フロンティアじゃなかった?」
「MSGとか言ってた気も」
「オクタゴンだったような……」
『どれも違う!私は闘強導夢からやってきたのだ!』
「……とう、きょう??」
なにがなんだかわからない愉快な仲間たちに、チャンピオン・スマッシャーはさらに衝撃的な事実を明かすのであった。
『実は私の目的は、鉤爪の男が起こす超弩級の闘争のために兵隊を集める事だったのだ!』
「な!なんだってー!!」
『そしてその闘争は既に始まっている。それが終わった時は兵隊集めという私の役割も終了となる……だが!私の戦いそのものが終わったわけではない!聞いた話によれば、この世界の外にプロレスがさかんに行われている世界があるそうではないか!私は弟子たちを連れてその世界に攻め入ってやろうというのだ!!』
「な!なんだってー!!」
『喜びたまえ!ここにいる君たちすべて私の弟子にして一から鍛え上げてあげようではないか!そして皆でプロレスやってる世界に攻め込もうではないか!』
「何言ってるんだてめえ!誰がお前の弟子なんかになるか!」
たちまち巻き起こる大ブーイングに構わず、チャンピオンはさらに続けた……いつもの、あのセリフを。
『ここに無限番勝負ロードオブグローリーの開催を宣言する!』
●たぶん最終決戦
「……システム上の問題で、仮に鉤爪の男が勝利したとしても、チャンピオンはその世界、たぶんアスリートアースだと思うんだけど、そこに攻め込む事はできないような気がするのだ」
大豪傑・麗刃(24歳児・f01156)の言葉に「そもシステムって何?」って疑問を持った猟兵は多いような気がしたが、構わず麗刃は続けた。
「【無限番勝負ロードオブグローリー】ってのはチャンピオン・スマッシャーの使うユーベルコードで、これをくらった人は戦意がむちゃくちゃ上がって逃走を考えられなくなり、さらに勝負に負けた時は対戦相手に服従してしまうという、大変な効果なのだ。で、このままだと愉快な仲間たちは全員チャンピオンとその弟子に戦いを挑んで、みーんな負けてチャンピオンの弟子になっちゃうのだ。なんとしても止めなきゃならないのだ」
麗刃がチャンピオン・スマッシャー関係の予知をしたのはこれで5回目である。さすがに説明にも慣れるというものである。
「きみたちがやることはシンプルで、愉快な仲間たちの代わりにリングに入って、まずチャンピオン・スマッシャーの弟子と戦って、ある程度ぶっ倒すとチャンピオンがリングインするから、今度はこれを倒せばいいのだ」
とはいえチャンピオンも強いし、チャンピオンに徹底的に鍛えられた弟子もそれなりに強い。なのでまともに戦ってもいいのだが、もっといい方法があると麗刃はいう。
「声援を得る事なのだ」
声援を得ると有利になるのは以前もあった。あの時はパフォーマンスで善玉悪玉いずれの方向であっても高い評価を得ると良いというものだったが、今回はちょっと違うらしい。
「ズバリ。愉快な仲間たちは、開幕すぐに必殺技を出して決めちゃうような戦いは好まず、殴ったり殴られたりして互いにダメージを受け合うとか、ギリギリまで追い込まれてからの大逆転とか、そういうドラマチックな戦い方を好むらしいのだ。声援を受けるためには、そういう戦い方をすれば良いらしいのだ」
それってつまり?
「いいプロレスやってほしいのだ!」
……納得いった者もいかない者もいるだろうけど、ともあれ猟兵たちは戦火のアリスラビリンスへと向かうのであった。
らあめそまそ
最終回があるならタイトルはこれと決めてはおりましたが、よもや本当に最終回が来るとは。らあめそまそです。
私が出すシナリオとしては『猟書家』チャンピオン・スマッシャーとの戦いはこれが最後ということになります。今回のシナリオにはプレイングボーナスがあり、それをプレイングに取り入れる事で判定が有利になります。
プレイングボーナス(全章共通)……力持ちと一緒に試合に参加する。
今回、力持ちたちには観客として試合に参加していただきます。で、猟兵たちは観客から声援を得れば得るほどプレイングいっぱいもらえる寸法です。具体的にはオープニングに書いたとおりです。皆様の考える最高のプロレスを期待しております。
それでは改めまして皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 集団戦
『量産型機甲戦乙女『モデル・ロスヴァイセ』』
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POW : モード・ラグナロク改
自身の装備武器を【徹底殲滅モード】に変え、【攻撃力】を上昇させると共に【防御貫通】能力と【高速連射】能力を追加する。ただし強すぎる追加能力は寿命を削る。
SPD : ヴァルキュリアバラージType-S
【最大速度レベル×100km/hでの飛翔】から、戦場全体に「敵味方を識別する【ミサイルの乱射】」を放ち、ダメージと【煙幕による命中力と回避力の低下】の状態異常を与える。
WIZ : 高速狙撃光線銃『ミストルテインII』
【大型の狙撃銃を呼び寄せ装備すること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【超高速のレーザーによる狙撃】で攻撃する。
👑11
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●そういや猟兵と戦ったわけじゃなかった
いつもの通り、無限番勝負ロードオブグローリーの開催を宣言したチャンピオンは奥の玉座に腰かけ、代わりにチャンピオンの弟子がリングに上がる。前回の戦いにおいて猟兵の助けを借りた力持ちがやっとひとり倒した相手【量産型機甲戦乙女『モデル・ロスヴァイセ』】だ。同名の今は亡き猟書家の姿と技を模した彼女らはオリジナルには及ばないが強敵だろう。むろん猟兵なので、ひとり一体相手にしてもらう事になる。
量産型機甲戦乙女『モデル・ロスヴァイセ』の能力は以下の3つだ。今回はユーベルコードの説明がそのまま適応するのではなく、プロレススタイルとしてちょっと強引かもしれないけど解釈してみた。
【モード・ラグナロク改】は自らの装備武器を徹底殲滅モードなるものに変えてとにかく強くなるものらしい。その強さ、まさにストロングスタイルといえるだろう。
【ヴァルキュリアバラージType-S】は高速移動で飛び回り、ミサイルの乱射でダメージと煙幕による敵のかく乱効果を狙う。メキシコのプロレス、ルチャ・リブレを思わせるスタイルだ。
【 高速狙撃光線銃『ミストルテインII』】は大型の狙撃銃で超高速狙撃し、一撃必殺を狙うものだ。プロレスでいうなら格闘技的な戦い方、UWF系に近い感じであろうか。
まとめると、POWはオーソドックスなプロレス、SPDはルチャ、WIZはU系(格闘技ぽい感じ)となる。猟兵側は相手のやり方に合わせてもいいし、逆に全く合わないスタイルで挑むのもおもしろいかもしれない。
前座試合ではあるが、メインイベントに備えて会場を温めるためにはここでいいプロレスを見せる必要があるだろう。皆様の思ういいプロレスをよろしくお願いいたします。
イリスフィーナ・シェフィールド
プロレスは詳しくありませんが……魅せる演技をするというなら分かりますわ
リング外からコーナーポストに飛び乗って更に中央に回転捻りなジャンプで身体能力をアピールしますわ
相手から新体操する場所じゃないよ、きれいな顔ボコボコにされたくないなら帰んなと挑発されます
ご心配なくボコボコにされるのは貴方ですわと返します
POWを選択で真正面からガッツリ組み合って開始
硬直から相手にロープに振られてラリアットを食らう
倒れた所にストンピングからのエルボードロップ
無理矢理起こされてサイドヘッドロック
開放されグロッキー状態で俯き伏せってる所にロメロスペシャル
四肢を決められた状態から脚を広げられ股関節を攻められ苦しんでるのを見せつけるようにゆさゆさ揺すられ、さっさと降参しなお嬢様と嘲笑われる
……もう十分ですわよね
ゴルディオン・オーラを発動して力技で拘束を解除
足首を掴んでリング状に叩きつけまくります
動かなくなったらコーナーポストからムーンサルトプレスで止め
わたくしプロレスは詳しくないけど演技はそれなりできますのよ
●文字通りの逆転劇
「プロレスは詳しくありませんが……」
アリスラビリンスに降り立ったイリスフィーナ・シェフィールド(相互扶助のスーパーヒロイン・f39772)はつぶやいた。初めてのアリスラビリンス、猟書家と戦うのも初めてだ。ましてやプロレスなどまったくの未経験だ。それでもなおプロレスの持つとある側面が、イリスフィーナの興味を惹いたようであった。
「魅せる演技をするというなら分かりますわ」
イリスフィーナの両親と兄は俳優、それもかなりの有名俳優らしい。イリスフィーナも何もなければ同じ道を選んだはずだったのだろうが、いろいろあったようで現時点ではその道から外れつつあるらしい。それでも演技そのものに関してはイリスフィーナは興味を持ち続けているし、自信もそれなりにあるようだった。
『さて、私に倒されるのは誰でしょうか』
リング上の【量産型機甲戦乙女『モデル・ロスヴァイセ』】は無表情で冷静な声をリング下の愉快な仲間たちに向けた。かつてアリスナイト狩りに従事していた猟書家ロスヴァイセを元にした量産型機であるが、その武装や性格はオリジナル譲りだ。チャンピオンに敗北して弟子にさせられて以来プロレスラーとしての修行を積まされてきたのであった。
「ここはわしの出番じゃー!」「いや俺が行くぞー!」
ただでさえ【無限番勝負ロードオブグローリー】の効果で戦意が最大級に高まっている愉快な仲間は、この挑発を受けて我先にとリングに殺到していったが、それを止めた声があった。
「ここはわたくしに任せていただきましょう」
「だ、誰じゃー!」
その方を見た愉快な仲間は驚愕した。バック転を繰り返しながらリングへと向かうイリスフィーナの姿がそこにあったのである。そのままリングサイドまで到着すると勢いを殺さぬままハイジャンプでコーナーポストに飛び乗り、間髪入れずに回転をひねりを加えながら華麗にジャンプしてリング中央にぴたりと着地。それはそれは見事な身体能力に会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。ちなみに服装は鉄壁なのでこんなアクションしてもめくれないのである。
(……ああ……気持ちいいですわ……)
いろいろあって他人からの評価に飢えているイリスフィーナには、愉快な仲間たちからの歓声は非常に心地よいものであった。そして対戦相手の量産型機甲戦乙女『モデル・ロスヴァイセ』A……長いから以降『A』で……はというと。
『体操をベースにした身体能力、ルチャ・リブレの使い手を想定します』
表情も変えずに冷静に判断した。体操出身のプロレスラーといえば真っ先に上がるのは、東北の英雄と呼ばれた覆面レスラーと、空中殺法を得意とした(元)女子プロレスラーであろうか。以来、体操をベースとしたプロレスラーは着実に増え続け、その運動能力を活かした華麗な動きでファンを魅了している……の、だが。
「……その、もうちょっと、それっぽい言い方していただけませんですの」
なぜか、イリスフィーナはちょっと不満な顔をしていた。
「例えば『ここは新体操する場所じゃねえぞ、きれいな顔ボコボコにされたくないなら帰んな』とか」
『不可解です』
相変わらず表情を変えないA。
『私の目的はあなたを倒して配下にする事。帰宅を促す必要などありません』
「いやそうなんですけど」
あのチャンピオンならそういう感じの挑発言いそうだが、残念なことに量産型ロスヴァイセたちはプロレスを叩き込まれはしたが本質的に冷静な点は変わらず、チャンピオンとしてはそこがちょっと不満で、もうちょっと感情出して欲しいなあと思っているとかどうとか。
「と、とにかく!」
相手に会場を盛り上げるつもりがなさそうなので、ここはイリスフィーナが自分でがんばるしかなかった。しょっぱい試合なんか見せたら、今は大人しく引き下がってくれた愉快な仲間たちが今度こそリングに入ってしまうだろう。Aに指を突き付けて、びしっと言い放った。
「ボコボコにされるのは貴方ですわ!!」
ゴングが打ち鳴らされ、大歓声の中イリスフィーナはAと手四つの探り合いからロックアップに移行、そこからAはイリスフィーナをロープに振ると、反動で戻って来たイリスフィーナの喉元に右腕を叩きつけた。Aの腕に装着された腕部装甲もあるが、細腕からは想像もできない衝撃にイリスフィーナの体が270度回転してリングに落下する。起き上がろうとしたところに追撃に下段前蹴り……ストンピングだ。
「ぐっ、この……」
なんとか起きようとしたイリスフィーナにさらにAは肘を落としてくる。ただでさえ肘に全体重乗せて落とすエルボードロップはかつて決め技に使っていたプロレスラーも存在したほどに強烈なのに、Aの肘部は腕部装甲のため硬く重いのだ。
「はうっ!くっ……」
そんなものを後頭部にまともにくらったのである。イリスフィーナが猟兵でなければ耐えられなかったかもしれない。動けずにいるイリスフィーナをAは強引に引き起こし、その頭を抱えるように両腕で締め付けた。ヘッドロックなど痛そうに見えないムーブではあるが、絞め方にコツがあって、うまいことやるとむちゃくちゃ痛いのだ。だが悶えながらも耐えるイリスフィーナに、Aはイリスフィーナをうつ伏せに倒すと背後から両手両足を絡めて固定し、180度回転させた。本場メキシコではサーフボードと呼ばれる
関節技、
吊り天井固めだ。ちなみにかけられているのが女子プロレスラーの時に相手の両足を開いてみせるのは代表的な辱めとされ、プロレスラーでない一般人男性が女性にこれをやってセクハラとして訴えられた例があるので注意が必要だ……が、Aはむろんそんな事はしない。代わりに声をかけた。
『タップアウトをおすすめします』
「くっ……そこはもうちょっと下品に『さっさと降参しなお嬢様』とか嗤いながら言う所でしょう……」
『相変わらず不可解な言葉ですが、まだ余裕がありそうですね』
Aはイリスフィーナを開放すると、投げ技で勝負を決めるべくバックをとった。後方に投げ捨ててイリスフィーナの脳天をリングに突き刺すつもりだろうか。さすがにこれを受けたら危ない……が。
「……もう十分ですわよね」
『それが最期に記録に残したい言葉ですね』
Aが力を込めたところでイリスフィーナの全身が光を発した。意志力を力に変える【ゴルディオン・オーラ】でパワーアップしたイリスフィーナはやすやすとAのクラッチを引きはがすと、一回転してAの後方に着地。そのままAの足を取ると思い切り振り回し、何度もリングに叩きつけたのだ。
力持ちのユーベルコードを思わせるムーブに会場が沸く。
「決めますわよ!」
握りこぶしを作って気合を入れ、コーナーポストに登ると、イリスフィーナはは後方270度回転してリング上に倒れるAの上に落下した。つい先日引退した天才と呼ばれたプロレスラーの代名詞とも呼べる技、ムーンサルトプレスだ。これにはAももはや抵抗できず、3カウントを聞いたのだった。
「わたくしプロレスは詳しくないけど演技はそれなりできますのよ」
追い込まれてからの逆転劇に会場は沸いた。それはイリスフィーナの俳優の血、あるいは矜持の為せる技であったかもしれない。いずれにせよ、猟兵対猟書家のプロレスは最高の滑り出しを見せたと言っても過言ではなかった。
大成功
🔵🔵🔵
(……ああ、この声援、最っ高ですわ……)
愉快な仲間の大歓声を全身に浴びながら、イリスフィーナは恍惚としたような満面の笑顔を浮かべるのであった。
(シングルマッチ)
【〇イリスフィーナ・シェフィールド(XX分XX秒:ムーンサルトプレス→体固め)量産型機甲戦乙女『モデル・ロスヴァイセ』A×】
リカルド・マスケラス
今回も愉快な仲間たちの体を借りて戦わせてもらうっすよ
「向こうの世界に渡る以前に、ここで活動されてるのも迷惑っすからね」
華麗にリングインし、まずは【グラップル】で派手に打ち合って相手の力量や技の精度を推し量るっすよ
「これで下地は整ったっすね」
【鏡魔眼の術】を相手に仕掛ける。敵意を反射し自滅に導く技、プロレスで使えばどうなるか
「攻撃は無駄っす。全て己自身に返るんすから」
相手が技を仕掛けようとすれば、かけようとした技を受けにかかるような体勢に体が自然と動いてしまう。そのカラクリに気づいて自ら攻撃をやめても
「試合中に完全に敵意や戦意を消せる達人がどれだけいると思うっすか?」
止めることはできないかもっす
●順逆自在の術
リカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)がチャンピオン・スマッシャーと戦うのは今回で4回目だ。うち、この村で戦うのは3回目になる。
「
別の世界っすか……」
そのチャンピオン・スマッシャーがアリスラビリンスでの活動終了として他世界に移動するという野望を持っている事を聞かされ、さすがに放置してはおけないようであった。システム上他世界への移動は困難だろうとグリモア猟兵は語っていたが、オブリビオンの世界移動自体は現在アリスラビリンスにて行われている最終決戦でクロムキャバリアのオブリビオンが流入していたり、その元凶たる【鉤爪の男】は獣人戦線への移動を示唆していたり等の実例があるので、決してありえないという事ではない。仮に本当に起きてしまったら迷惑この上ないだろう。しかもチャンピオンの行先とされるアスリートアースでオブリビオンと同列なダークヒーローはスポーツ勝負で打ち倒せればダーク化を解除できる。それが適応されるかどうかわからない他世界のオブリビオンを流入させるわけにはいかない。さらにリカルドはアスリートアースでプロレスをやったことがあるため、同地の危機は決して他人事では思えないのであった。もっと言うなら。
「向こうの世界に渡る以前に、ここで活動されてるのも迷惑っすからね」
そう。単にオブリビオンに暴れられるだけで十分迷惑極まるのに、加えてチャンピオン・スマッシャーの目的もあるのだ。現在【鉤爪の男】は自前で用意した兵力で戦争しているが、仮にチャンピオンが力持ちたちを配下にしたら、彼らが戦争に投入されかねないのだ。それはなんとしても防がねばならない事だった。
『同僚が不覚をとったようですが、まぐれは二度も続きません』
倒された量産型ロスヴァイセAがリングから運び出され、すかさず新たに入って来た量産型ロスヴァイセBは表情を変える事なく淡々と宣言した。
『私の相手になる無謀な者はおりますか』
「上等じゃねえか!やったらあ!」
「ちょっと待つっすよ」
ひとりの力持ちがリングに入ろうとしたが、そこに肩を叩く者がいた。振り返った力持ちの視線の先にいたのは、むろんリカルドである。
「自分の事、頭にかぶってほしいっす」
「お、あんたは確か……」
何度かチャンピオンと戦った経験もあり、リカルドもそれなりに名が知られていたようで、話はスムーズに進み、リカルドは力持ちの愉快な仲間の体を借りる事ができた。たちまち愉快な仲間の全身にリカルドの力がみなぎり、巨体に似合わぬ俊敏な動きで駆け出すと、コーナーポストまでひとっ飛び。不安定な場所であるにも関わらず、すっくと立ってみせ、人差し指一本立てて腕を振り上げた。かの伝説の虎マスクなプロレスラーの決めポーズだ。リカルドは狐面だが。
『愉快な仲間は猟兵ではなく、猟兵の本体は狐面の方ですか』
沸き立つ会場を全く意にも介さぬ無表情のままBは冷静に分析した。
『それでも力持ちが敗北すれば、自動的に猟兵も敗北となる』
「それは正解っすね、まー自分に勝てればの話っすけどね」
かくしてゴングが打ち鳴らされた。ロックアップからバックの取り合い、関節の取り合いに投げ合いと正統派なプロレスが展開された。やがて戦いは打撃戦へと移行、互いにチョップの打ち合いとなった。巨漢の愉快な仲間と比べ体格的には劣るBだが、持つパワーはそれを感じさせない。一方でリカルドもプロレスはさすがに数をこなしているため慣れたものだ。
『あなたの性能は大体理解しました』
「奇遇っすね、自分もっすよ」
完璧を名乗ったプロレスラーはただのロックアップで相手の実力をすべて計りきるというが、そこまでいかなくともある程度肌を合わせれば彼我の実力差は大体理解できるものらしい。リカルドもBも対戦相手の実力をおおよそ把握できたようだ。ただ、その瞬間に勝敗が決定してしまう事はそうはない。むしろここからが本当の戦いなのだ。互いの長所短所を加味した上で今後の方針を決定し、相手の想定を上回った方が勝つ……
「これで下地は整ったっすね」
『無駄に終わるでしょうが、やってみるのは自由です』
間合いを離し、互いに攻撃の隙を伺う。仕掛けたのはBだった。意味ありげに瞳を輝かせるリカルドに向け
胴タックルを仕掛けにいった……が。
『……!?』
「あ……ありのままに起こった事を話すぜ!『Bが胴タックルを仕掛けたと思ったらいつの間にか胴タックルをくらっていた』」
この時のことを、観客席にいた力持ちのひとりはこう語った。
「な……何を言ってるのかわからねーと思うがおれも何がおこったのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
『い、今何が起こったというのですか』
表情は変わらないが、Bの声は明らかに動揺していた。無理もない。観客ですらなにがなんだかわからなかったのだ。技をくらった本人はなおさら混乱したことだろう。その後も同様の展開が続いた。Bが技を仕掛けようとするのだが、全てリカルドに返されてしまう。驚くべきことにリカルドが返した技は、Bが使おうとした技そのものだったのだ。
「攻撃は無駄っす。全て己自身に返るんすから」
『……なるほど、理解しました』
リカルドの言葉に、Bは自らに起きていた事態を完全に把握した。リカルドのユーベルコード【忍法・鏡魔眼の術】は相手の敵意や戦意を反射して自滅に導く効果を持つ。そのためBは繰り出そうとした技を全て自分が受ける事になったのだった。しかしここでリカルドにも想定していなかった事態が起きた。
「試合中に完全に敵意や戦意を消せる達人がどれだけいると思うっすか?」
『生者ならともかく、私には可能です』
機械であるBにはそれができたのだ。感情なきマシーンと化したBはただただ機械的に技を繰り出し、それは失敗することなくリカルドに飛んでくる。だがリカルドは冷静だった。
「それは予想外っすけど、でも気付くのがちょーっと、遅かったみたいっすね」
Bには既にダメージが蓄積されており、そのために動きが鈍っていたのだ。リカルドはスピアーにきたBを上から潰すと、そのまま横回転させて逆さまにした。そして軽くジャンプするとBの脳天をリングに叩きつけたのである……必殺のツームストンパイルドライバーが見事に決まり、Bはそのまま3カウントを聞いたのだった。
(シングルマッチ)
【〇リカルド・マスケラス(XX分XX秒:ツームストンパイルドライバー→体固め)量産型機甲戦乙女『モデル・ロスヴァイセ×】
大成功
🔵🔵🔵
ニコリネ・ユーリカ
な!なんですってー!!
皆を引き連れて別世界に進出しようとしている事にも
これが最後の戦いになる事にも衝撃だわ(ぷるぷる
私を受け容れてくれた仲間達、第二の故郷の為にがんばる!
着慣れたコスチュームを握り締め、ダッシュで更衣室に向かうわ
角と翼を生やした悪魔、デビリネtypeP(プロレス)に変身!
徹底殲滅モードへの耐性と再生力を強化し
彼女の魅力を引き出しつつ、悪魔の頑丈さで受け止め、観客を惹き付ける!
闘強導夢から来た王者が作ったリングに天蓋がなければ
彼女の攻撃に加えて太陽光に苛まれる事になるけど、我慢がまんっ
(ヌルヌルは反則だから日焼け止めクリームも使わないわ
敵が最も近付いてくれた瞬間に関節を攻めーる!
●ムタも武藤も一緒ですからね
チャンピオン・スマッシャーの前に『猟書家』の三文字が付く時間は残り少ない。オブリビオン・フォーミュラ【鉤爪の男】のために動いてきたチャンピオン・スマッシャーだが、その鉤爪の男は今まさに自身が望んだ超弩級の闘争の真っ最中であり、いずれは猟兵によって倒されるだろう(たぶん)。その時チャンピオン・スマッシャーはどうなるか。結論から言えばただのいち野良オブリビオン(オウガ)と同じ扱いになり、散発的な活動は続けるかもしれないが、明確な目的をもってこの村を襲う事はおそらくなくなるだろう。つまりこの村での戦いは今回が最終回……
「な!なんですってー!!」
人類は滅亡するんだよ!とでも言われたかのように驚愕の叫びを見せたニコリネ・ユーリカ
(花屋・f02123)。それも仕方あるまい。これまでこの村にチャンピオン・スマッシャーが現れたのは今回を入れて5回。その全てにニコリネは参戦しているのだ。
「皆を引き連れて別世界に進出しようとしている事にも、これが最後の戦いになる事にも衝撃だわ……」
ぷるぷると身体を震わせながらやっと言葉を絞り出したニコリネ。そりゃあもう、村人たちともすっかり顔見知りになってるし、この村はUDCアースのデンマークに次ぐ第二の故郷になったといっても過言ではない。さらにできるかできないかは別にしてもチャンピオン・スマッシャーが
別世界への進出を目論んでいる事も衝撃であった。チャンピオンが世界移動をするということは、この村の人々がみな連れていかれるということなのだ。そんな事を絶対に許してはいけない。なんとか衝撃から立ち直ると、ニコリネは気合を入れた。
「私を受け容れてくれた仲間達、第二の故郷の為にがんばる!」
そう。戦いは終わるかもしれないが、この村自体がなくなるわけではない。その気になればいつでも遊びに来れるだろう……たぶん。そのためにもこの戦いは絶対に負けるわけにいかないのだ。そしてニコリネは更衣室へと向かった。その手に握られていたのは……。
オリジナルのロスヴァイセがそうであったように、量産型ロスヴァイセたちも非常に冷静でクールだ。なので2連敗という事態に驚愕して取り乱す事も、対戦相手である猟兵に対して萎縮する事もない。ただ淡々とリングに上がり、目の前の相手に対処するだけであった。プロレスラーとしてはともかく、戦闘者としては正解だろう。
『さて、私に倒されるのはどなたでしょうか』
量産型ロスヴァイセCはあくまでクールに観客に呼びかけた。その姿は間違いなく力持ちたちの感情をマイナス方向に逆なでするものであり、
「この野郎!今度こそ俺がやってやるぞ!」「なんのわしの出番じゃー!」
また例によって血の気の多い者達がリングに殺到する。だが。
「ここは私に任せてもらうわ!」
「こ、この声は……まさか!」
さすがに観客たちも反応せざるを得ない声。皆が一斉にその方を向くと……
「デービデビデビ!!」
「来たー!」
高笑いとともに現れたニコリネの姿にたちまち巻き起こる大歓声。さすがに力持ちたちが親の顔より見た(もっと両親とコミュニケーションとりましょう)ニコリネとあっては、観客たちも引き下がらないわけにはいかなかった。
「ニコリネだー!」
「いや、たしかグレート・O・ハーナ……」
「フラワー・ザ・グレートだったかもしれん」
「どれも違うわ!私の名はデビリネよ!」
「デビリネ!?」
そう。今の彼女は悪と戦うためにあえてよいこころを捨てて角と翼を生やした悪魔のような姿をとった、デビリネtype
Pなのだ。
『どれだって一緒でしょう』
会場が盛り上がっている中でただひとり空気なんか読まねえとばかりにまったく表情も変えないCは、オリンピック出場経験のある(元)レスラーを思わせるようなあまりにワカッテナイ言葉を投げかけた。
『こけおどしは結構です、早く上がってきなさい』
「デービデビデビ!言われなくてもそっち行ってあげるわ!」
そして3たびゴングが打ち鳴らされた。戦いは初めから壮絶な打撃戦となった。悪魔っ娘のデビリネと機械っ娘のCがリング中央で足を止めながらチョップを撃ちあう展開。剛腕と活火山のチョップ合戦を思い出した者もいたかもしれない。しかしその表情は対象的だ。必死な形相でチョップを撃つデビリネに対し、Cは。
『なるほど』
チョップが効いていないはずもないだろうが、まったく表情を変えずに言った。
『あなたが私とまともに撃ちあえるはずがないと踏んでいましたが、その珍妙な服装が手品の種ですか』
「珍妙とは失礼ね!」
無礼極まる言い方に腹を立てるデビリネだったが、内心Cの洞察力に舌を巻いていた。実際正解で、ユーベルコード
【Black Lilly】により、デビリネは
徹底殲滅モードで攻撃力を上げたCでも簡単に撃ち抜けぬほどの防御力とダメージの自動回復能力を得ていたのだ。とはいえまるきりダメージがないわけではなかった。
(ううっ、太陽がまぶしすぎて、ひりひりする……でも我慢がまんっ)
実は太陽光でダメージを受けてしまうという副作用があったのだ。今回のチャンピオンは闘強導夢から来たというのに試合会場は全天候型ドームではなく露天なのである。ただでさえ北欧出身のデビリネの白い肌は日光ですぐに日焼けを通り越して火傷に至ってしまうのに、これはさすがにきつい。あるいは日焼け止めクリームを使えば多少はマシなのかもしれないが……。
(でもヌルヌルは反則だから
……!!)
それは総合格闘技の話であってプロレスなら別にいいような気がしないでもない。その時事ネタを逆手にとって全身にローション塗りまくってたプロレスラーとかいたわけだし。
『いずれにせよその防御力は厄介、ならば』
デビリネのあまりの打たれ強さに業を煮やしたCはいったん間合いを取ると、スピアタックルを仕掛けた。グラウンドに持ち込めば締め技や関節技などダメージよりも激痛に特化した技を使いタップアウトを迫る事もできるという考えだったようだ。狙いは決して悪くなかった。ただCにとって計算外だった点は……
「そっちから来てくれるとはね!好都合だわデビデビ」
デビリネの狙いも関節技だった事だった。突っ込んできたCの勢いを利用していなすように回避すると逆にバックを取って足関節を極めた。こうなったら多少のパワー差があっても跳ね返せるものではない。
『……くっ』
これが実戦だったらCは自らの足を破壊してでも関節技から逃れ、戦闘を継続したかもしれない。だがこれはそういう場ではない。技を解除できず、ロープまで逃れる事もできないなら、とるべき手段はひとつだった。
『……タップアウトします』
Cの表情は変わらないものの、その口調かは悔しさがにじみ出ていた。終了のゴングが打ち鳴らされ、デビリネは技を解いて大歓声に応えるのだった。
「デービデビデビ!!」
(シングルマッチ)
【〇デビリネ(XX分XX秒:裏アキレス腱固め)量産型機甲戦乙女『モデル・ロスヴァイセC×】
大成功
🔵🔵🔵
ヴィルデ・ローゼ
ふっふっふ。待っていたわよ、チャンピオン!
御託はいいわ、始めましょう!
UCを早々に発動させ、リングの中央にどっしり構えて相手を迎え撃ちます。
相手の攻撃はすべて避けずに受け止め、やられたらやり返すスタイルで流れを作っていきましょう。
実戦的な「当てる・殺す」攻撃より、観客にもわかりやすく「見せる」動きを重視するわ。もちろん勝ち負けは大事だけど、プロレスはみんなで楽しんで楽しませるものよね!
中盤から徐々に大きな技も出すようにしていって、飛び技や投げ技も繰り出していくわ。
お互いフラフラになるまで楽しんだら、最後はノーザンライトボムで決めたいわね。
●そりゃ引退したレスラーは「なんであんなことやれてたんだろ」って言う
「ふっふっふ……」
これから待つ闘いへの期待に、ヴィルデ・ローゼ(苦痛の巫女・f36020)はほくそ笑んでいた。
「待っていたわよ、チャンピオン!」
ヴィルデがチャンピオン・スマッシャーの襲撃を迎え撃つのは今回が3回目。全てこの村の事であった。そのコスチュームはこれまで同様、あまりに露出度が高すぎる黒のビキニアーマーだ。かつて女子プロレスラーは競泳用水着をコスチュームとして用いており、ちゃんとしたコスチュームを着るようになった頃になってもリングコスチュームの俗語として水着という言い方はあった。に、してもヴィルデみたいなビキニ、それもマイクロビキニみたいな水着着てリングに上がった例はさすがに寡聞にして知らない。あえて言うなら昔は海外のプロレスでブラ&パンティマッチてのがあったようで。ただそれにしたってヴィルデみたいな服装で試合するんじゃなくて、ちゃんと着こんでるのを互いに服脱がせ合ってブラ&パンティな恰好になったら負けってルールだったらしい。むろん現在ではやっていない試合形式だ。ただまあ、ヴィルデがこんな防御力ガン無視な恰好をしているのは伊達や酔狂ではなく、彼女なりの理由はちゃんとあるのだが……。
『確かに私たちは3連敗を喫しました、ですがまだ戦いが終わったわけではありません』
リング上では既に量産型ロスヴァイセDが対戦相手を待ち構えていた。
『この村に他に強者がいるとは思えません、いなければ私達の勝利です』
黒星が続いているのにも関わらずこの物言いである。当然力持ちたちが黙っているはずもなく、ただでさえ無限番勝負ロードオブグローリーの効果で戦意がむちゃくちゃ増えている所に、熱い試合を3試合も見せられたのだから、今度こそ自分たちが戦いたいという気持ちはおさまるどころかむしろ増す一方で。
「今度こそわしが行くぞー!」「なんの俺の出番じゃー!」
「ここは私に任せて!」
だが、聞き覚えのある声が力持ちたちの動きを止めた。そして視線が一斉に集まった所にあったのがヴィルデのコスチュームにプロポーションなんだから、そりゃあ完全に力持ちたちの停止は一時的なものじゃあなくなったわけで。
「……おお……」
感嘆の溜息が会場を埋め尽くした。ただまあ、力持ちたちが戦いの権利をヴィルデに任せる事にしたのは、その扇情的な恰好だけでもなく、ヴィルデがこれまでこの村で積み重ねてきた闘いの記録もむろん大きかった。どんな(いろんな意味で)ワクワクさせるような戦いを見せてくれるか、期待しかなかったのである。
(苦痛の女神よ、照覧あれ……)
大勢の視線を集めながらリングに向かいつつ、ヴィルデは自ら信仰する女神に祈った。苦痛と夜を司る女神。苦痛というのは成長のために必要なもので、これを乗り越える事で人間は前に進む事ができる……な感じの信仰だったのかもしれないが、ただ偶然にも苦痛信仰というものがプロレスとあまりに親和性が高かったのであった。
「御託はいいわ、始めましょう!」
ともあれヴィルデはリングに上がった。力持ちの愉快な仲間たちがこれから始まる戦いに(様々な意味で)期待に胸を躍らせる中、ただひとり別段何も感じない様子のDは。
『到底戦闘に堪えうるとは思えぬ服装、不可解です』
「あなたにわかってもらおうとは思わないわねえ」
身もふたもない言葉を全く意に介せず、ヴィルデはリングの中央に来ると、どっしりと構えてゴングを待った。
「さあ、いらっしゃい」
『警告はしました、後悔しないことです』
ゴングとともに飛び出すとDは強烈極まりない張り手をいきなりヴィルデの顔に放っていった。ヴィルデはそれをまともに受けると、あまりにあっさり吹っ飛びリングに横たわった。
「はうぅ!くうっ……やるわね」
『……』
倒れながらもむしろ笑顔など浮かべてみせるヴィルデにDの表情は変わらなかったが、その動きは止まっていた。実際Dは戸惑っていたのである。
『あまりにも無力に技を受けておきながら、この余裕……あまりに、不可解』
「どうしたの?もう終わり?」
そしてヴィルデはあっさり倒れたのと同じくらいにあっさり立ち上がると、さらにDを挑発してみせたのだ。
「それとも試合放棄かしら?」
『!?』
さすがにこう言われてはDも攻勢を続けないわけにはいかない。内心の疑問は置いておいて、さらにヴィルデに追撃の打撃を加えたのだ。今度はヴィルデは倒れない。逆にDに向けてチョップを打ち返してきたのである。先刻の試合を思わせるような打撃合戦だ。だが先刻と違う点があるとすれば。
「ああ……イイ……」
ヴィルデの表情であった。攻撃を受けるたびに浮かべる、どこか恍惚としたような表情。その様子はDにさらなる困惑と混乱を呼び起こすものだったが、それでもDは攻撃を続けた。他に仕様がなかったのである。格闘技のような確実に当てて確実に倒す打撃ではなく、大振りで、打撃音が大きく、打撃を受けた時のヴィルデの反応も実に痛そうで、それが観客たちの興奮を確実に増幅させていった。
(……やっぱりプロレスはみんなで楽しんで楽しませるものよね!)
観客たちの反応にヴィルデは内心満足していた。場を盛り上げるためにわかりやすく「見せる」動きをする。ヴィルデがあえて攻撃を避けず、やられたらやり返すスタイルを通していたのはこのためであった。そしてその狙いは当たった……が、実はヴィルデのムーブの狙いはそれだけではなかった。
『……??』
ヴィルデがDの打撃を耐え、前進して組み付きボディスラムで投げ飛ばした時、Dにとある違和感が生じていた。明らかに試合開始時よりヴィルデの動きが良くなっているような気がしたのである。それが確信に変わったのは、コーナーポストに登ったヴィルデがDが起き上がった所を狙ってミサイルキックを繰り出した時だった。計算上容易に回避できるはずの飛び蹴りを、Dは避けられなかったのだ。
「ふうっ……あなたの技、すっごく、痛かったわよ」
ヴィルデの身体能力の上昇はユーベルコード【
苦痛回路】の効果だったのだ。苦痛を受ける目的で不利な行動をすると身体能力が上昇する……なんとも実にプロレスに使うにはこれ以上ない効果。Dはそこにまでは気付けなかった。ただヴィルデの身体能力が上がった事は間違いない。
『ですが、それなら私のやる事は決まってます』
相手が強化した以上、Dも身体能力を上げて対抗するのみ。【徹底殲滅モード】で自身を過剰に強化すると寿命を削るというデメリットがあったが、今やそんな事を言っていられる状況ではない。これ以上の敗北は許されないのだ。Dの全身から黒煙が噴き出し始めた。
「あら、あなたも必死なのね」
相手の覚悟を見て取ったヴィルデはむしろ満面の笑みをもってそれは受け入れた。相手の強化は、同時にヴィルデに与えられる苦痛……イコール悦びも増えるということなのだ。
その後の戦いは、壮絶というそのひとことであった。互いに一歩も引かぬ攻防が展開され、両者ともに立っているのがやっとという状況……に、観客からは見えた。しかしプロレスラーを名乗る者にとっては、むしろここからが本番なのだ。
「……とっても、楽しかったわぁ」
倒れる寸前まで苦痛を受けたヴィルデ。いわばそれは、果物が熟し切り、腐敗するほんの寸前の、もっとも甘美な状態。ボディスラムの形でDを持ち上げると、投げ落とすのではなく、ロックしたまま頭から落とす超危険技ノーザンライトボム。最高のコンディションでこれを受けたら、もはやDに再び立ち上がるほどの力は残ってはいなかった。
「……ああん、もう、最っ高……」
リング上に大の字になり、大歓声を受けながら、ヴィルデは最高の笑顔を見せていた。
(シングルマッチ)
【〇ヴィルデ・ローゼ(XX分XX秒:ノーザンライトボム→体固め)量産型機甲戦乙女『モデル・ロスヴァイセD×】
大成功
🔵🔵🔵
草剪・ひかり
POW判定
即興連携、ピンチ、お色気描写歓迎
貴方達が出向かなくとも、プロレス界の“絶対女帝”草剪ひかり様が参戦してあげる!
彼等が「ストロングスタイル」なら、私は「王道プロレス」
相手の手数を真っ向から「受け」、それ以上の「一発」で返し
「彼女」を挑発して更なる力を引き出す
徐々に加熱する攻防に、場内の空気も沸騰!
でも、相手の大技に、豊かすぎる肢体を揺らし激しくダウン
そんな私を、「プロレス」に反応した観客の声援が立ち上がらせる!
そして私の得意技の数々……ドロップキックにムーンサルトプレス、そしてジャーマンスープレックスで大逆転!
貴女もなかなかだったけど、私を超えるには
ちょっと足りないかな!
●本物が、来た
猟兵とオブリビオンのプロレス対決は気が付けば既に猟兵側の4連勝だ。プロレス団体でしばしば行われる軍団やユニット同士の対決だって片方が4勝もすれば既に大勢は決している。だがだからといってオブリビオンが、量産型ロスヴァイセ軍団があきらめるわけにはいかない。これ以上ふがいない試合を見せては彼女らの師匠であるチャンピオン・スマッシャーが黙っていないだろう。そしてもうひとつ。
『対抗戦では最後に出るのが大将格と決まってます』
こちらは全員同個体なので誰が最初で誰が最後でもまったく変わらない量産型ロスヴァイセEがつぶやいた。その表情は連敗中であるにも関わらず、内心はともかく見た目はまったく動揺を見せていたない。
『ならば、最後に出てくる者を倒せば黒星が上回ろうと観客の印象は私たちの勝利。要はこれより先、一本たりとも落とさなければ良いのです』
Eの言葉は暴論ではあるが、ある意味では確かに真実を突いていた。そもそも大前提として敗北が敵の軍門に下る事を意味するこの戦いにおいては、猟兵側は最後の戦い云々以前に1敗たりともするわけにいかないのだ。ましてや最後の戦いで負ける事などもってのほかである。
『私に倒されるのはどなたですか、時間も惜しいので早く出て来ていただきましょう』
その最後の戦いに出てくるのは……
「次こそわしがやってやるぞー!」「なんの俺が目に物見せてやるぜー!」
むろん、Eの挑発に飛び出した力持ちの彼らではない。
「貴方達が出向かなくとも」
会場に声が響き渡る。
「プロレス界の“絶対女帝”草剪ひかり様が参戦してあげる!」
草剪・ひかり(次元を超えた絶対女帝・f00837)。チャンピオン・スマッシャーとの戦いは3回あるが、いずれもアリスラビリンスの他の地域での事であった。4回目にしてついに村に来たのである。ひかりの姿を見た力持ちたちはざわついた。
「プロレスラーだ……」「本物のプロレスラーだ……!」
プロレスラー。この村で猟兵たちはさまざまなプロレスで敵と戦い、その強さと試合内容で村人たちを魅了してきた。その中にはプロレス団体に所属する猟兵もいた。だが、これからチャンピオンが侵攻を狙っているアスリートアース由来のプロレスラーをジョブとしている猟兵は、ひかりが初めてだったのだ。しかも絶対女帝だ。その活躍は確実にこの村にも届いていただろうし、実際にその戦いぶりを見たいと思っていた者も少なくないはずだ。たちまち会場に巻き起こる大ひかりコール。それに背を押されるように、ひかりは悠然とリングに上がる。
『どうやら本当に大将格が来たようですね』
あくまでクールを貫くEは会場の熱気や完全アウェーの空気にまったく動揺するそぶりもない。眼前のひかりはEにとっては世界最高のプロレスラーのひとり、はるかでも格上の存在でもなく、ただの敵であり、倒すべき相手。それだけだった。
『ならばあなたを倒せば、それは私たちの全ての勝利と同義です』
「その通り」
それはDの戦意の現われでも自信でもなく、単に事実のみを述べたものであった。そしてひかりはプロレスラーとしての矜持でそれを認めた。だがむろんそれは相手の勝利そのものを認めたわけではない。伊達や酔狂で女帝は名乗れないのだ。
「私に勝てれば、の話だけどね!」
かくして互いの視線が交錯する中ゴングが打ち鳴らされた。Eがリングを大きく動いてひかりの隙を伺い、ひかりは王者らしくリング中央でどっしり構えてEを待ち構える。ひかりの周囲をEが回る形になった。俗に格下が格上の周囲を回ると言われており、そのあたりを意識したムーブだろうか。やがて両者真っ向からがっぷり4つになり、ポジションの取り合いから関節の取り合い、いったん離れてからの打撃戦と展開していく。王者の動きは基本的な動作すら美しい。それだけでカネが取れるものであり、会場からは拍手と歓声が飛ぶ。
「あなたたちが『
徹底殲滅モード』で来るなら、私は『王道プロレス』ってところかしらね」
『王道?』
ひかりの言葉にEは的確に反応した。王道とストロングスタイル。それは事情を知る者にとってはすさまじく情熱を掻き立てる言葉である。今ではあるいは分裂を招き、あるいはそのスタイルから自ら脱却を図り、どちらも主流から外れて久しいが、それでもなおプロレスの歴史、そして現在を語るに絶対に外せない言葉であった。
『その言葉を聞いてしまっては、ますます負けるわけにはいかなくなりました』
「なるほどね」
Eの反応にひかりは笑みを浮かべた。猟書家であるチャンピオン・スマッシャーは間違いなく邪悪だが、彼がプロレス者として超一流なのは弟子であるEの今の反応から十分に伺えるものであった。間違いない、鉄面皮な中にも彼女なりのプロレスを貫き通す意思がそこには確かにあった。
「能書きはいいから、もっと全力でぶつかってきなさい」
『言われずとも』
戦いはさらに壮絶の度合いを増す。それは素早い動きと手数で攻めるEに対し、一撃の重さで戦うひかりという構図になっていた。Eが打撃や投げの連続で畳みかけるも、それを耐えたひかりが一発で流れを引き戻す。下手をすれば若手対トップレスラーのような無残な構図になりかねない形だが、ただEもさすがはオブリビオンにしてチャンピオンの弟子で、ひかりの攻撃で流れを断ち切られたように見えても完全に折れる事はなく、その後に続く攻撃を耐え抜き、再度自分のターンに持っていく。
「それなりにやるみたいね」
『もう既に私の力を見抜いたつもりですか、それは甘いというものです』
あまりに強すぎる王者に対抗すべく、Eはさらに力を上げた。自らの寿命を削るリスクを顧みず、徹底殲滅モードの強度をさらに上昇させたのである。そしてひかりの攻撃を回避するとそのままバックを取り、垂直落下式のバックドロップを決めてみせた。ひかりの体が後頭部からリングに落ち、肉体が情熱のバイブレーションを奏でる。
「くうっ!今のは効いたわ」
『まだまだ、ここからです』
畳みかけるようにEはひかりの両足の間に自身の右足を差し込むと、そのまま足を絡ませ、跨ぐようにして体をひっくり返した……サソリ固め。ストロングスタイルの象徴のひとりとされる元プロレスラーの得意技だ。下半身を締め付けられると同時に体を反らせる事で呼吸器の働きも制限される危険な技だ。
『タップアウトをおすすめします』
「だ、誰が……ああっ!!」
悶絶しながら苦しむひかりに、会場は一丸となって大声援を送る。
「ひーかーり!ひーかーり!!ひーかーり!!!」
「……こ、この応援がある限り、負けられない!」
ひかりは力を振り絞り、どうにかロープに手を届かせた。Eは相変わらずの無表情を貫いたが、その言葉からは明らかに動揺が見てとれた。
『不可解です、もうロープに逃れるだけの力は残っていなかったはず』
「あなたはさっき言ったわよね?『私の力を見抜いたと思うならそれは大間違い』って。そっくりそのまま返してあげるわ、その言葉!」
そう。プロレスラーは観客の応援があれば限界以上の力を出せるのだ。事実「1発でHPを35%減らせる」との触れ込みの技を3発食らったレスラーは、HPの105%にあたるダメージを受けたにも関わらず観客の応援で体力を回復させてKOを免れたのだ。
『ですが、その頑張りもこれで終わりです』
Eは右腕を振り回しながらひかりが起き上がるのを待つと、ラリアットを仕掛けた。タイミング的に回避が難しい技のはず……だが、ひかりは体を低くしてこれをかわした。そのまま反対側のロープに跳ね返ったEは再度のラリアットを狙ったが、そこにひかりのドロップキックがカウンターで炸裂したのである。
『おーっと人間ロケット!ここは種子島宇宙センター!プロレスの、宇宙の未来を背負い、草剪ひかりが今テイクオーフ!!』
『……な、なんですかこの珍妙なセリフは……不可解の極みです』
思わぬ反撃と謎のアナウンスに脱力したのか、起き上がれずにいるEに対し、ひかりはコーナーポストに登ると後方270度回転を加えて飛翔した。
『飛んだー!ムーンサルトプレース!肉体がウサギがついた餅のようにはずんだー!!』
『……だ、だからそのわけのわからん解説をやめろと……』
だがひかりはこれで終わらせない。勝利を完全なものにすべく既にグロッキー状態のEを無理やり起き上がらせるとバックを取り、クラッチをきめたまま後方に投げ飛ばしたのである。
『ジャーマンスープレックス!見事な人間橋!まさに肉体のベイブリッジだー!!』
『……わ、わけが……不可解……』
ひかりの
絶対女王の鍛え上げられた技の数々を受けたEは、もはや立ち上がる力は残っていなかった。決して実況の前に敗れたわけではない……たぶん。そしてひかりは万雷の声援に応えながら、Eを見下ろした。
「貴女もなかなかだったけど、私を超えるには
ちょっと足りないかな!」
(シングルマッチ)
【〇草剪・ひかり(XX分XX秒:ジャーマンスープレックスホールド)量産型機甲戦乙女『モデル・ロスヴァイセE×】
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『チャンピオン・スマッシャー』
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POW : グローリーチャンピオンベルト
自身の【チャンピオンベルト】が輝く間、【自身】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD : キス・マイ・グローリー
【プロレス技】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。
WIZ : アイ・アム・チャンピオン
自身の【攻撃を回避しないチャンピオンとしての信念】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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●たぶん最終決戦なんじゃないかな
『次の相手は……』
リングに上がった量産型ロスヴァイセFは、だが試合をすることはできなかった。眼前で展開された激しすぎるプロレスに滾る血が抑えられなくなったのか、いまだ1勝すらできない弟子たちのふがいなさに業を煮やしたのか、ついにチャンピオン・スマッシャーが玉座から立ち上がったのである。
「うおおおおおおおおお」
『!!??』
チャンピオンはリングに突撃するとかわいそうなFを殴り倒してリング外に追いやった。そしてマイクも使っていないのに村全体に響くのではないかと思わせるような大音響でしゃべり始めたのである。
『猟兵たちよ!少しはやるようだな!だが、しょせんきみたちは私の弟子に勝ったに過ぎぬ!ここからが本当の戦いなのだ!私が君たちにプロレスのなんたるかを教育してあげようではないか!』
チャンピオン・スマッシャーの能力は以下の3つだ。
【グローリーチャンピオンベルト】は攻撃回数を9倍にするものだ。ただでさえ恵まれた肉体を極限まで鍛え上げたチャンピオンの技はひとつひとつが強烈なのに、それが回数が増えるのはたまったものではない。なお9回全て対戦相手を攻撃すると寿命が削れるデメリットがあるが、チャンピオンは1度はリング下にセコンドとして控える量産型ロスヴァイセを攻撃することでこれを回避するようだ。
【キス・マイ・グローリー】はプロレス技をかけた相手を強制的に帰宅させてしまうものだ。むろん猟兵の使命からして帰宅なんかできるはずもなく、仮に帰宅なんかしたら敵前逃亡ということで反則負け扱いにされて【無限番勝負ロードオブグローリー】の効果が発揮されてしまう可能性だってある。そのため、ただでさえ強力なチャンピオンのプロレス技を追加ダメージ付きで受けなければならないだろう。
【アイ・アム・チャンピオン】はあえて攻撃を回避しない事で自らの能力を上昇させるという実にプロレスラーらしい技だ。まさに受けの美学。中途半端な攻撃はダメージ以上の身体能力上昇を招き、却って相手を利する事になってしまうだろう。むろん受けられるダメージにもさすがに限界はあるだろうが、相手の強化を上回るダメージを与えるか、それとも他にとるべき手段があるのか。
以上、どれをとってもプロレスラーとして強力な能力がそろっているが、それでもこいつを倒さない限り、村に平和は訪れないのだ。猟兵の皆様には戦いの最後を飾るメインイベントに相応しい戦いを期待しております。
イリスフィーナ・シェフィールド
POWを選択。
……出てきたのは結構ですが人としての礼儀がなっていませんわね。
弟子を足蹴にするようなその態度、師匠としていかがなものかと思いますわ。
目上の存在なのに目下の者を労れないなんて最低最悪ですわね(私情混じり100%)
ただ流石に今回は受けまくってから返すのは危険でしょう。
人柄は最低最悪でもパワーは凄まじそうですものね。
同じ技で相殺を狙うかガッツリ組み合ってその状態を維持するか。
パワーでは負けないつもりです、体格差からくる重量差が不安ですが。
押し負けるなら本格的にダメージ食らう前に弱ったふりを。
相手が焦れるかチャンスと思ってグローリーチャンピオンベルトを使ったら逆にチャンスですわ。
シルバリオン・アーマーを使って無効化。
デメリットを防ぐためにセコンドを攻撃しようとした所を追いかけてドロップキック。
よろめいた所を後ろから捕まえて投げっぱなしジャーマンで放り投げ。
すかさずコーナーポストに登って前回と同じムーンサルトプレスでトドメですわっ。
勝ったなら浴びせられる歓声にニッコリ笑顔で答えます。
●隙を見出す
チャンピオン・スマッシャー。邪悪な猟書家にてプロレスラー。自らをチャンピオンと名乗る男。そして
破壊者。それは眼前の敵を全て破壊するのみならず、オブリビオンとして世界そのものを破壊し尽くし骸の海に沈める事をも現しているのだろう。
そんな強大にして暴虐非道なチャンピオンを前にしてもイリスフィーナ・シェフィールドは決して引き下がりはしない。むしろ胸を張り、どうしても主張しなくてはならない事を堂々と言い切ってみせたのだ。
「……出てきたのは結構ですが人としての礼儀がなっていませんわね」
『礼儀だと?』
お嬢様育ちのイリスフィーナには粗野で野卑なチャンピオンとは性格面において水と油……とはいえプロレスラーと元俳優ということで通じる面はあるかもしれないが……なのはたぶん間違いないと思われるが、ただ今回イリスフィーナがチャンピオンに対して抱いた強い不満はそれではなかった。チャンピオンがリングに上がったその時のふるまいが問題だったのである。
「弟子を足蹴にするようなその態度、師匠としていかがなものかと思いますわ」
そう。イリスフィーナが問題視したのはチャンピオンがリングインした時に弟子である量産型ロスヴァイセFを殴り飛ばした事だったのだ。
「目上の存在なのに目下の者を労れないなんて最低最悪ですわね」
これが私情100%の発言である事はイリスフィーナは十分自覚していた。イリスフィーナは幼少期より両親から厳しく、それはもう厳しく育てられ、優しくされた記憶などまったくないぐらいであった。そのため、彼女自身が他者から評価される事を強く求めているのと同じくらいに、他人の事であっても親が子を、師が弟子をないがしろにするような態度をとる事が耐えがたいようであった。だがチャンピオンにはチャンピオンなりの言い分は一応あった。
『何を言うか!これはれっきとした教育だ!』
これはチャンピオンにとって、部下との絆をより深めたいという願いから発した行為であった。これは暴力ではない。もし暴力だと呼ぶ者があれば、出る所へ出ても良い。チャンピオンはそう思っていた。なにせプロレスの話だ。プロレスといえば体育会系特有の厳格極まりない上限関係の、極地とも言えるもので。もとをただせば日本プロレスの父と言われた男が相撲出身で、相撲特有の『かわいがり』『無理へんに拳骨と書いて兄弟子と読む』などという言葉で表される凄まじいばかりの上下関係をプロレスに持ち込んだのがその由来とされている。
「いったいいつの時代の話をしてるのですか!オブリビオンとはまさに過去の遺物ですわね」
むろんイリスフィーナがそんなチャンピオンの言い分を認めるはずがない。そんな事はせいぜい平成の初期で終わらせるべきものだ。角界もプロレス界も理不尽ないじめは徐々にではあるが撤廃される方向で動いている。以前は常識とされた体罰や恫喝も、表面化したら大問題となってトップの首が飛ぶぐらいには社会が変わって来た。さらにイリスフィーナは名前の通り日本以外出身の可能性があるので別の考え方も加わって来る。人前で部下を叱るというのを日本人は普通にやるが、諸外国をみるとこれは超絶的に常識はずれな行為で、その部下に殺されてもおかしくないほどの事らしいのだ。
『ええい!ならばいずれの言い分が正しいのか、リング上で決着をつけようではないか!』
「望むところですわ!」
かくして実にプロレスらしいやりとりののち、ついに最終決戦のゴングが鳴らされた。リング中央でがっぷり四つに組むイリスフィーナとチャンピオンだったが、ここはさすがに体格、筋力、プロレス技術の全てでチャンピオンが上回っていた。チャンピオンはイリスフィーナを圧し、上から押しつぶそうとした。
(くっ、さすがはチャンピオン、人柄は最低最悪ですがパワーは凄まじいですわね)
憎むべき相手だし、時として強い感情が戦力差をひっくり返す事はないではないが、それはそれとして彼我の戦力差を把握し、それをもとに戦術を組み立てるのは重要だ。
(流石に今回は受けまくってから返すのは危険でしょう)
先ほど量産型ロスヴァイセ相手にとった戦術をそのまま使う事はできない。そう判断したイリスフィーナだったが、現在がっぷり四つの状態から圧迫され、上から押しつぶそうとするチャンピオンの圧力をブリッジで耐える展開になっていた。
『どうした、威勢がいいのは口だけか?』
「……たしかに体格差はありますが、パワーで負けたくはありませんわ!」
猟兵のパワーは外見で推し量る事はできない。腕力、脚力、腹筋、これらを総動員させてイリスフィーナはチャンピオンのパワーに対抗し、押し込まれた体勢から起き上がり、姿勢を五分にまで戻していった。
『ふん、たしかにパワーだけはそれなりにあるようだな』
「だけではありませんわよ!」
手四つの状態が解除されると今度は打撃戦。凄まじいパワーと体格を誇るチャンピオンと、体格はともかくパワーでは決して劣っているつもりのないイリスフィーナが互いにチョップを撃ちあい、会場全体に選手ふたりの叫び声と壮絶な打撃音が響き渡った。
「そいやぁですわ!」
『ぐうっ!なんの!』
「や、やりますわね……」
先刻の量産型ロスヴァイセと違い、互いに感情を前面に出しての攻防となった。クール系美女もいいけれど、やはりプロレスは情熱を出し合う試合の方が観客にも訴えるものがある。すさまじい打撃戦は間違いなく観客の熱量を確実に上昇させていった。
『……ふむ』
やがて戦いは一進一退の状況となっていた。チャンピオンが技を仕掛け、それに対してイリスフィーナが同系統の技で切り返す展開。プロレスとは打投極全てを兼ね備えた総合格闘技である事を居並ぶ者たちは改めて思い知らされた形になった。だがやがて形勢はチャンピオンへと傾いていった。
『この私の技にここまでついてこれるか、なるほど大きな口を叩くだけはあるようだな』
「ま、まだまだ、こんなぐらいでは……終わりませんわ」
相手に称賛めいた事を言える程には余裕を見せるチャンピオン、一方でイリスフィーナは肩で息をついている状況だ。だがチャンピオンも攻め込んではいたものの、イリスフィーナの予想外の粘りに手こずっている様子にも見えた。
『ならば、これでとどめを刺してくれよう!』
じれたチャンピオンはついに切り札を抜いた。腰に巻かれたチャンピオンベルトが光り輝く。攻撃回数を9回に上昇させる凶悪なユーベルコード【グローリーチャンピオンベルト】が発動したのだ……だが。
(……どうやら、かかりましたわね)
実はこれこそイリスフィーナが狙っていた機会だったのだ。イリスフィーナはとにかく試合を膠着させる事に専念し、相手がユーベルコードを使うのを待っていたのである。予定よりも体力を削られはしたが、それでも策は成った。あとは成功させるのみだ。
『くらえッッッ』
チャンピオンが剛腕を振り抜き、必殺のラリアットをくらわせる。それをイリスフィーナは真っ向から受け止めた。
「絶対防御っ!【シルバリオン・アーマー】ですわ!!」
イリスフィーナの全身を銀色のオーラが包みこんだ。そのまま不動の姿勢で8発分のラリアットを受け止めた……ダメージは、ない。動けなくなるかわりに攻撃に対してほぼ無敵になるユーベルコードは、見事チャンピオンの攻撃を受けきったのだ。
『ちっ、あじな真似をしおって!』
チャンピオンは場外の方を向いた。その方向から悲鳴が聞こえる。おそらくセコンドがチャンピオンの技を1発分受けたのだろう……そしてこの瞬間こそ、まさにイリスフィーナの狙っていた機会だったのだ。ユーベルコードを解くと、チャンピオンの後頭部に両足をそろえて突っ込んでいった。
「敵に背を向けるとは、油断が過ぎますわよ!」
『ぐぼわっ!!』
敵を蹴り飛ばした反動で空中で一回転すると見事に両足からリングに着地し、イリスフィーナはそのまま体勢を崩したチャンピオンの背中に組み付くと、その巨体を見事に投げ飛ばしたのだ。体格差関係なしとばかりに繰り出された投げっぱなしジャーマンスープレックスに、会場はおおいに沸く。
「決めますわよー!!」
宣言から繰り出されたのは先刻の試合でも決め技に選んだムーンサルトプレスだった。疲労もダメージも感じさせないような素早い動きでコーナーポストに飛び乗ると、弧を描きながらチャンピオンへと爆弾を投下させた。見事な連続技に会場は大盛り上がり。そのままフォールにいったが、惜しくも3カウントを聞く前にキックアウト。戦いはまだまだ続く……それでも。
「これで決まらないのはちょっと惜しまれます……が、いい気分ですわ……」
会場を埋め尽くす大歓声に笑顔で答えながら、イリスフィーナは心底満たされた気持ちになったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィルデ・ローゼ
リングに上がる前にマイクパフォーマンスで彼を煽るわ。
これであなたも見納めと思うと、名残惜しいわね。
これは、いわばあなたの引退試合!オブリビオンに勝ちは譲ってあげられないけど、せめてこの私に痛み(魂)を刻んでいきなさい!
私はあなたのすべてを受け止め、そして勝つ!
チャンピオンが何か言ってくるだろうけど、もう彼の引退試合と断言して、彼を挑発しましょう。
もうお互い手の内もわかっているし、正々堂々真っ向勝負よ。
「苦痛回路」(POW)で8回の打撃を受けつつパワーとダメージを蓄積して、「苦痛与奪」(WIZ)でお返し。「神霊領域」(SPD)も交えて、彼のすべての技を味わい尽くしたいところね。
限界を超えて、まさに死力を尽くして痛みを受ける(愛する)。それが苦痛の巫女の矜持よ。
最後はパッケージ・パイルドライバーで決めるわ。
●文字通りの全て
このリングに上がる者には、大なり小なり様々な理由がある。純粋にプロレスを愛するがゆえ。アリスラビリンスという地、この村を愛するがゆえ。オブリビオンの、猟書家の野望を砕きたいがゆえ。そしてヴィルデ・ローゼはというと……。
「これは、いわばあなたの引退試合!これであなたも見納めと思うと、名残惜しいわね」
前任者の後を継いでリングに上がろうとしたヴィルデは途中でその足を止め、マイクを手にするとチャンピオンに挑発を始めた。リング上で見せる能力のパフォーマンスと同様に、マイクパフォーマンスもまたプロレスの華だ。プロレスの歴史には名言迷言とりまぜて様々なマイクパフォーマンスが記録されており、時代を経てもいまだに語り草になっている。
『ふん!安心しろ!これから毎日でも見られるぞ。なにせ貴様らはこの私に負けて、我が弟子となるのだからな!』
なので当然チャンピオンも言われっぱなしではない。口も回らないでプロレスのチャンピオンを名乗るわけにはいかないのだ(一部例外もあるが)。そしてヴィルデとしても投げ返されたボールは受け取らないわけにはいかない。
「そういうわけにはいかないわ!オブリビオンに勝ちは譲ってあげられない!その代わりにせめて……」
チャンピオンの敗北、すなわち(猟書家としての)引退は既に確定している。そう断言するかのように言い放つと、ヴィルデはリングに上がり、おそらくはもっとも言いたかった一言を叫んだ。
「せめてこの私に
痛みを刻んでいきなさい!」
痛み。そう、ヴィルデがリングに上がる理由は、まさにこれだったのだ。普通こういう言葉については「悔いの残らないように全力を出せ」的な意味で解釈されるものと思われるが……
「私はあなたのすべてを受け止め、そして勝つ!」
『いいだろう』
ヴィルデの真意に気付いてか気付かないでか、チャンピオンは完全に戦闘態勢を整えたようだ。先ほどの戦いでかなりのダメージを受けたはずだが、そんな様子はまったく認められない。間違いなくノーダメージと同様に戦える事だろう。
『ならば望み通り、私の全力を存分に味あわせてやろう!そして我が威光にひれ伏すが良い!』
「全力……」
その言葉を聞いただけで既にうっとりとしかけるヴィルデ。チャンピオンが魂からの全力を出すことで与えられる痛み。それがどのようなものか想像するだけで、嗚呼……いや想像だけの段階でまだまだそれは早い。早すぎる。そう間もない後にいくらでも期待するものは存分に味わえるのだ。
「……いいわね」
『え?』
「さあ!早く始めましょう!かかってらっしゃい!」
『……あ、ああ、そうだな。やってやろうではないか!』
ヴィルデの態度にちょっとあっけにとられたチャンピオンだったが、それでもすぐに戦闘準備を整えた。かくして戦いの火ぶたは切って落とされたのであった。
『行くぞ!私の力を見よ!』
戦いは一方的なものとなっていた。チャンピオンが攻撃し、それをヴィルデが一方的に受ける展開になっていた。ヴィルデはチャンピオンに殴られ、蹴られ、投げ飛ばされる。しかしその顔にあったものは苦痛ではない。
「ああん、これ、これよぉ……期待以上だわぁ」
むしろ攻撃を受ければ受けるほどにうっとりとした表情を浮かべていたのだ。感情をまったく出さなかった量産型ロスヴァイセもあまりプロレスラーらしくなかったが、これはこれでなかなか非典型的であるといえた。
『ええい!少しは手を出してこんか!』
「ええ、もうちょっと……はうっ!」
さすがのチャンピオンもこれには困惑した。ヴィルデが手を出そうとしなかった事もだが、それよりも気になったのがその耐久力であった。普通は技を受けるにしてもそれなりの方法があるもので、打撃を受ける場合はなるべく当たっても問題のない場所で受けるし、投げられたらちゃんと受け身を取って致命傷を防ぐようにする。ヴィルデはそれすらしようとしないのだ。いかに猟兵とはいえ、そんな受け方をしていたらすぐに戦闘不能になると考えるのが普通なのだが……。
「ま、まだまだよ、もっとやってきなさいな」
『……いいだろう!』
むしろ余裕すら感じられるようなヴィルデに、チャンピオンも覚悟を決めた。スタミナ切れを厭わず、全力でかかる事にしたのである。
『そこまで言うなら受けてみるがよい!俺の全力の攻撃を!』
チャンピオンの腰のベルトが光を放った。攻撃回数を9(実質8)倍にする必殺技【グローリーチャンピオンベルト】の合図だ。ユーベルコードを発動させ、雄たけびをあげながら突っ込んでくるチャンピオンを見ても当然のようにヴィルデは逃げようとはしない。それどころか。
「くうっ!あうっ!はああん……」
『アバーッ!!』
繰り出された8発のチョップを全て受け止めてみせたのだ。デメリット回避のために場外に放たれた1発を受けた量産型ロスヴァイセがもんどりうって倒れるようなそんな攻撃を8発もである。それでもヴィルデは倒れない。恍惚とした顔をしながらもしっかり大地に足を踏みしめて立つヴィルデに、チャンピオンは素早く背後を取ると、
『ならばこれならどうだ!』
両腕で首を絞めにかかった。チョークスリーパーだ。相手の頸動脈を絞めて脳への酸素の供給を遮断し、数秒で落とす危険な技だ。これを9マイナス1発受けるのである。さすがの猟兵であってもただではすまない……だが、これまで受けに専念していたヴィルデが、ここでついに攻めに転じた。
「苦痛の女神よ、苦痛を転移せよ!」
『ぐわああああああああ』
ヴィルデはただ単に苦痛を味わう為だけに受け一辺倒だったわけではない。いかに苦痛が悦びだとはいえ、耐えられる閾値というものは誰にでもある。ヴィルデはあえて不利な行動を一貫してとることで【
苦痛回路】の発動条件を満たし、身体能力を増大させる事で本来ならありえないほどにチャンピオンの攻撃に耐える事ができた。そしてチャンピオンが密着したタイミング【
苦痛与奪】を発動、これまで受けたダメージを全てチャンピオンに返したのだった。だがしかし、これと同じ展開をヴィルデは既に経験していたはずなのだ。
『うおおおおおおおお』
並みの猟兵なら何度瀕死からグリモアベースへの強制帰還に陥っても不思議ではないほどの大ダメージを、チャンピオンは【アイ・アム・チャンピオン】の効果で受けきり、ダメージを上回る自己強化を果たしたのだ。POWにはPOWを、WIZにはWIZを。それはチャンピオンがMSGから来たと名乗った時の展開と全く一緒だった。ヴィルデはそれを忘れてしまったのか……否。
「言ったでしょう、全部受け止める、って!」
ヴィルデはあえてやったのだ。全部受け止める、その言葉に嘘は全くなかったのである。ならば次にヴィルデが使うのは当然、SPD系。
「苦痛の女神よ!汝が試練と祝福を此処へ!!」
たちまちリングとその周囲に女神の領域が出現した。苦痛と夜を司る女神に相応しく、昼間であるにも関わらずリングを夜の闇が包み、どこからともなく表れた荊がリングを覆っていった。荊の責め苦はチャンピオンのみにもたらされるものであり、ヴィルデに与えられるのは夜の安寧による回復である。赤のショートパンツとブーツぐらいしか身を守るものを着ていないチャンピオンにはこれは相当堪えるだろう。
『ぐ、ぐおおおおおおお、ええいそんなに聖域が恋しいのならば、自分の居場所に帰るがいいわ!
我が栄光に項垂れるがよいわ!』
当然SPD系にはSPD系である。。
kiss my assに近い響きを持つチャンピオンのユーベルコードは、文字通り対戦相手に自宅に帰るかダメージを受けるかを迫るものであった。
「なんで帰る必要なんかあるのかしら?まだまだお楽しみはこんなものじゃないのよ!」
痛みに耐えながら放たれたラリアットを受け、当然ヴィルデは帰宅を拒否。たちまち襲い掛かって来る追加ダメージ。そこにアイ・アム・チャンピオンの効果で能力超上昇、さらにグローリーチャンピオンベルトによる8倍ダメージも加わるのだ。
「はううううっっっ!!」
これまでで一番いい顔をしたヴィルデ……だが倒れない。ダメージの転移や夜の安寧による回復があってもなお耐えられないはずのダメージだった。むろん、とうに限界は超えている。それでもなお受けきった。これはもうユーベルコードだけが理由ではない。
『くっ、おのれ、しぶといやつめ……』
こっちも限界が近いチャンピオンに対し、ヴィルデは笑ってみせた。
「もう一回、言うわよ」
それは苦痛の巫女としての矜持だった。相手から与えられる痛みを受ける事。それはとりもなおさず、相手を愛する事なのだ。
「全部、受け止めるわよ」
ほぼノーガードのまま互いに全力を叩き込む壮絶極まりない試合に観客のボルテージは最高潮に達していた。そしてついにヴィルデの大技、相手の両手両足を抱え込んだ姿勢で首から落とす超危険技パッケージパイルドライバーが炸裂したのである。
「……ああ……最っ高……」
惜しくも3カウントは奪えなかったが、ともに大の字となり起き上がれそうにはない。最高の笑顔と満足を胸に、ヴィルデは次の猟兵に後を託すのであった。
大成功
🔵🔵🔵
リカルド・マスケラス
また力持ちの体を借りるっす。基本は【空中戦】主体のルチャスタイルっすけど、他にも敵のUCに対策するっすよ
「プロレスの何たるかっすか……そんなもの、あんたに教わらずともみんなの心に根付いているもんっすよ」
『簡易キッチンセット』付属の野営道具でリングのすぐ近くにテント設営
「【キス・マイ・グローリー】敗れたり! ここを自分の棲家にするっすよ!」
仮に愉快な仲間達の家に強制転送だとしても、宇宙バイクをそこに待機させておき、リングアウトのカウント以内に戻った時の速度と勢いを活かして体当たりっすよ
「これが猟兵ロケットっすよ!」
技を破られたり何なりで隙を作れたなら、力持ちの【怪力】で空中に放り込み、関節技で手足を【捕縛】し、猛スピードでコーナーポストの鉄柱に叩きつける。関節技だけではクラッチが甘いようであれば【念動力】で鎖を伸ばして拘束「ま、5秒ルールっすよ」
「プロレスってのは、自由で、楽しくて、心を沸かせるさせるもんっすよ! 勝敗で、ましてや力ずくで相手を従えさせる為の道具なんかじゃないっすよ!」
●自由過ぎる戦い
時間は少し前にさかのぼる。
「お?何やってるんだ?」
猟兵とチャンピオン・スマッシャーの試合を見る事もなく、力持ちから離れてリカルド・マスケラスは何やら作業をしていた。
「見ての通りっす」
「見ての通りって……なんだ?キャンプでもするのか?」
リカルドが行っていたのはテント設営だった。手足がない種族ではあるが、そこはうまいこと器用に作業を行っていた。リングを作れるだけあってある程度開けた場所なので、キャンプしようが火を焚こうがある程度は問題ないと思われた。だが大自然の中でならキャンプも乙だが、ここは力持ちな愉快な仲間たちが住む村なのだ。
「宿がないんなら、俺のうちにでも来ればいいじゃねえか」
「いや、そういうわけじゃなくて……あー、そうか、そういうのもあったっすか」
力持ちの有難い申し出であったが、リカルドは別に宿泊目的でテントを作っていたわけではない。実はこれこそチャンピオンに対抗するためのリカルドの秘策だったのだが、それはそれとして愉快な仲間の言葉にリカルドははっとした。とある可能性について思い至ったのである。そちらについての対策も練らねばならない。
「いや、おかげで助かったっすよ」
「何がだ?」
「こっちのことっす。じゃ、チャンピオンとの戦いの時には、またよろしく頼むっすよ」
「??お、おう……任せておけ」
テントの意図についてはまったく理解できず、いささか釈然としないながらも、力持ちは戦闘面については快く強力してくれるようであった。それに安堵し、リカルドはテント設営を続けたのだった。その意味がわかるのは、それから間もなくの事になる。
そして現在。
これがもしプロレスだったらチャンピオン・スマッシャーは既に2回負けていただろう。だが猟書家としての、そしてチャンピオンを名乗る者の矜持が3カウントだけはなんとしても許さない。
『ええい、次は誰が出てくるか!まだ俺は負けたわけではないぞ!』
「呼ばれて来たっすよー」
力持ちの体を借りたリカルドは、その巨体に見合わぬ素早い動きでコーナーポストに登ると、人差し指を天に向けて突き出した。一説には相手を狙撃するピストルを模したものと言われ、そのため『シュートサイン』の名で知られるジェスチャーである。
『ほう、貴様か』
チャンピオンはマスクの下で目を細めた。力持ちの巨体をもって伝説的なプロレスラーのポーズをいともたやすくやってのけたその身体能力は並ではあるまい。くわえて先刻のBとの戦いもある。相手の技をそっくりそのまま返す技術は並大抵のものではない。チャンピオンはそう判断した。
『相手にとって不足なし!私のプロレスを全て叩きつけるに相応しい相手だ!』
「おー、それは怖いっすねー」
そこまで怖がってない様子でリカルドは返事をした。内心はどうあれ、リングの上に立ったら相手に恐怖を抱くわけにはいかないのだ。ましてや敗北が相手の軍門に下る事を意味する戦いである。ならば戦う前から敗北するような真似だけは決してしてはならないのである。
『ふん!度胸だけは一人前なようだな!まあよい、この私がきみにプロレスのなんたるかを存分に教育してあげようではないか!』
「プロレスの何たるかっすか……」
続くチャンピオンの言葉にリカルドは反応した。
「そんなもの、あんたに教わらずともみんなの心に根付いているもんっすよ」
『ほう?』
リカルドはチャンピオンが投げてきたボールを真正面から受け止めたどころか、全身全霊の豪速球をもって投げ返したのである。それははたしてど真ん中のストレートなのか、あるいはとんでもないビーンボールなのか。今確かめるべきことではない。今すべき事はただひとつ。
『いいだろう!その大言、自分の身をもって示すがよい!できるものならな!』
「望むところっすよ!」
かくして3度目のゴングが打ち鳴らされた。ルチャ・リブレのスタイルをとるリカルドは、ストロングスタイルのチャンピオンとはやはり動きが異なる。スピードのリカルド、パワーのチャンピオンという構図となり、とにかく前進制圧を狙うチャンピオンの勢いをリカルドはうまいこといなし、かわしていった。力持ちの愉快な仲間の体を借りてはいるが、それであってもチャンピオンのパワーはやはり脅威なのだ。
『ええい!鬱陶しい奴め!その体は見せかけか!』
「なんとでも言うがいいっすよ、これが自分のやり方っすから」
チャンピオンの挑発にも取り合わず、あくまでリカルドはマイペースを貫き通す構えだ。このままチャンピオンに無駄に体力を消耗させ、こちらのスタミナを温存できれば、リカルドは勝利をぐっと引き寄せることができるだろう。だがそこはチャンピオンだ。そう簡単に事を運ばせたりはしない。
『そんなにこの俺と真正面からぶつかるのが嫌なら、いっそどこへなりとも逃げ去るが良い!
我が栄光に屈せよ!』
チャンピオンが使用したユーベルコード。"Kiss my ass"という英語圏で有名な罵倒フレーズがある。直訳すると「私の尻に口づけをしろ」となるが、実際の意味は『クソくらえ』『ふざけるな』『くたばれ』等、状況に応じて変わるらしい。そして訳の一つに『失せろ』というのがあり、おそらくはこれを元にしたと思われる。プロレス技を放つ事により、相手を自らの棲家に送り返すか、追加ダメージを受けるかを選ばせる凶悪な技だ。むろん猟兵が逃げ帰るわけにはいかず……
「あ~れ~っすよ~」
って言ってるそばからチャンピオンのチョップを受けたリカルドの体が宙に舞い上がった。よもや帰宅を選んでしまったのか?ただ帰るだけなら良いが、逃走ということでTKO負けが宣言されてしまう可能性だってあるというのに……
「……ってなると思ったっすか?」
『何!?』
「キス・マイ・グローリー敗れたり! ここを自分の棲家にするっすよ!」
なんと!リカルドは試合前に完成させたテントの横に着地したのだ!むろんリングに近いのでリングアウト負けになる前にゆうゆうと戻ってこれる。正直この発想は本当になかった。素直に脱帽であります。
『ええい!なんという破り方を!ならばこれならどうだ!』
リングに戻って来たリカルドにチャンピオンは再度チョップをかました。再びその体が宙に舞う……が、今度はテントの所に落ちない。そのまま遥か彼方へと飛んでいき、たちまちその姿は見えなくなった。チャンピオンはリカルドではなく、彼が体を借りている力持ちの自宅を選んで技をかけたのだ。さすがにこれでは戻ってこれない……と、思いきや。
「惜しかったっすね、それも読んでたっすよ」
すっ飛んでいったリカルドが、なんと宇宙バイクに乗ってすぐさま戻って来たのだ。先刻の力持ちとの会話から、この可能性に思い至ったリカルドは、あらかじめ軌道上に宇宙バイクを待機させておいたのだ。そして超高速で戻って来た勢いのまま、チャンピオンに強烈な体当たりをかましたのだ。
「これが猟兵ロケットっすよ!」
『ぐおっ!き、きさま、プロレスに乗り物など持ち込みおって』
「なんとでも言うがいいっすよ(2回目)」
強烈な体当たりを受けて体勢を崩したチャンピオン。この絶好機を逃すわけにはいかない。力持ちの体を利用し、リカルドはチャンピオンの巨体を抱え上げると、思い切り空高く投げ飛ばした。超人系プロレスマンガではおなじみのフィニッシュホールドにつながる流れだ。
「プロレスってのは、自由で、楽しくて、心を沸かせるさせるもんっすよ!」
自らも空高く飛びあがると、空中でチャンピオンの全身を複雑に固め始めた。そう、テントを作ろうがバイクに乗ろうが自由。まさにこれこそ
自由な戦いなのだ……さすがにちょっと自由すぎる?まあそこはそれ。
「勝敗で、ましてや力ずくで相手を従えさせる為の道具なんかじゃないっすよ!」
『き、きさまあああああああ』
チャンピオンはそのありあまるパワーでリカルドのテクニックを破ろうとする。だがリカルドはそれを許さない。逃れようとした手足を鎖分銅で拘束したのだ。なに、5秒以内なら反則にならない。
「さて、さっきはアンタに自分ちに運ばれそうになったことだし、今度はアンタにちょっとしたドライブに付き合ってもらうっすよ」
やがてふたりは落下を始めた。上がリカルド、下がチャンピオン。明らかに重力による自由落下よりも高速で落下するその真下にはコーナーポストの鉄柱。
「目的地はアンタの敗北っすけどね」
『お、おのれえええええええ』
まさにそれは地獄への
暴風直行便だった。そして全身を拘束されたままチャンピオンは受け身も取れずにコーナーポストに直撃した……こんな状況でありながら3カウントだけは許さないのは、もはや意地というレベルでは説明できそうになかった。
大成功
🔵🔵🔵
草剪・ひかり
POW判定
キャラ崩し、お色気、ピンチ描写等歓迎
私のファイトも少しは刺さったかな?
今度は直接お相手して、味わってもらうね
アスリートアースには、私程度のプロレスラーが沢山
私くらい圧倒できないと、見せ場もなく追い返されちゃうよ?
まずはお互い「実力」同士でやりあおう
体格とパワーそのものは圧倒的劣勢でも
【グラップル】を下地に“レスリング”の攻防で押し返して魅せる
豊かすぎる肢体を密着させたヘッドロックやスリーパーホールド
巨体を抱え上げてのボディスラムやフロントスープレックスで地力を披露
相手が「能力」を使い始めれば、真っ向から受けきるのは厳しいけど
王道プロレスラーとしての矜持で立ち上がる
弟子への1回誤爆?でデメリットを回避するチャンピオンを嘲笑
「効率で闘うなんて、プロレスラー、ましてチャンピオンとしちゃ三流未満だよ?」
この挑発に乗っても乗らなくても、もう一撃貰ってギリギリのところで、お返しの
アテナ・パニッシャー
WKO状態で、私の出番は一区切り
決着は、この村での闘いの常連の皆に任せるよ!
●王道対ストロングスタイル
既にチャンピオン・スマッシャーはダウン寸前だ。だが、KO寸前まで追い込まれようと、それどころか長年の酷使で体がボロボロになり日常生活を送る事すら不便になったとしても、いざとなったら万全の状態同様に動けてしまうのがプロレスラーというものだ。ファンの前でなら俺はいつでも全盛期という言葉は決して誇張ではない……まあチャンピオンにファンはいないだろうが。少なくともこの場には。
『まだまだ、私はこの通り、元気イッパイだ!この私を折れるやつなど存在すまい!』
観客からの大ブーイングを浴びながら、それでもふてぶてしいまでに傲然と立つチャンピオン。果たしてこの男の心を折る者などいるのだろうか……それができる者がいるならば、チャンピオンと同じ立場の者かもしれない。すなわち……チャンピオン。
「私のファイトも少しは刺さったかな?」
草剪・ひかりは先刻戦った相手、量産型ロスヴァイセEの事が頭にあったのだろうか。チャンピオンの弟子らしく、その戦い方、そして思想がよく反映された、なかなか良いレスラーだった。その弟子を破った事で、チャンピオンがリングに上がっている。猟兵たちの戦いぶりがチャンピオンの闘志に火をつけたといっても過言ではない。そしてひかりの戦いぶりは、その最後の一押しとなった。いわばガソリンに投げ込まれたマッチの役割となったと言っても過言ではあるまい。ならば、次にやるべき事は決まっていた。
「今度は直接お相手して、味わってもらうね」
直接干戈ぶつかりあう。これしかあるまい。先刻の戦いは王道対ストロングスタイルということで、観客から見ても非常に見ごたえのあるすばらしい試合だった事は、盛り上がりからも確かなようであった。それが弟子ではなくチャンピオン本人だとしたら一体どうなるものか。期待は尽きないだろう。そしてひかり自身も、おそらくそれを楽しみにしていたはずだ。
『ほう、貴様か』
チャンピオンにしても、ひかりとの戦いは非常に楽しみだったはずだ。というのも、チャンピオンにとってひかりは自分が初めて戦う『プロレスラー』なのだ。むろん、これまでチャンピオンはプロレス団体所属の猟兵とは何度も戦ったし、当のひかりとはこれが4度目の対戦だ。しかし『プロレスラー』なるジョブが登場したのが2022年12月、つい最近の事だ。ひかりと3回戦った時にはまだ存在しないジョブだったのである。すなわちチャンピオンにとって、メイン・サブあわせてもプロレスラーをジョブとする猟兵と戦うのは、これが初めてなのだ。
『貴様も団体ではチャンピオンらしいな。ならば私の異世界遠征の壮行試合としては、これ以上ない相手だ』
「お生憎様、そう簡単に行くとは思わない事ね」
チャンピオンの挑発に笑顔で返すひかりだったが、実はここでチャンピオンはひとつ誤解していた事があった。ひかりはつい最近王座を失陥したばかりだったのだ。だが、それをここで口に出す必要はなかった。代わりに言ったのは。
「あなたが行きたがってるアスリートアースには、私程度のプロレスラーは沢山いるわ」
実際にアスリートアースで出会った超人プロレスラーの数々。正統派プロレスラーもダークプロレスラーも、みなすばらしい者達ばかりだった。そんな彼ら彼女らの顔を思い浮かべながら、ひかりはチャンピオンを挑発した。
「私くらい圧倒できないと、見せ場もなく追い返されちゃうよ?」
『おもしろい』
むろんチャンピオンはそんな言葉に萎縮する事などない。むしろますます闘志を燃え上がらせた。
『ますますアスリートアースとやらをこの目で見たくなったわ!望み通り貴様を圧倒し、私の輝かしい遠征の第一歩としてくれるわ!』
かくして4度目のゴングが打ち鳴らされた。互いに正統派らしく、リング中央でしばし間合いを取りあい、互いが互いの周囲を回るように円を描くように歩くと、やがてがっぷり四つに組み合った。上背で勝るチャンピオンが上からひかりを押しつぶす形になる。身長体重差は当然として、胸囲についてはひかりは並の男を上回るものがあり、その事に大変自信を持ってはいたが、残念ながらその分野に関してもチャンピオンはまったく並ではなかった。そして純粋なパワーの差……大昔、女子プロレスに定年があった時代なら、ひかりはとっくに引退していなければならない年齢だ。猟兵としては今が全盛期だが、プロレスラーとしては下降線を辿る瀬戸際で踏ん張っている状態なのは認めねばなるまい。それでも鍛え上げられた肉体は質量見た目の全てにおいて全盛期のそれを保っていると自負はしているつもりだ……が、強力な後進は次々に現れ、その地位を脅かそうとしている。そしてついに先日ベルト失陥に至ってしまった。一度の敗北で格付けが済んだとは言わない。が、ひとつの区切りとなった事は否定しきれるものではあるまい。それでもプロレスはパワーや体格が全てではない。長年プロレスの第一線に立ち続けてきたひかりは誰よりもそれが分かっていたと言っても過言ではあるまい。
「よっ、と!インサイドワークにはまだまだ改善の余地ありね、チャンピオンさん!」
『くっ!小生意気な!』
うまいことチャンピオンのパワーをいなして横に回り、ヘッドロックに捕えつつ相手を挑発するひかり。ちょうどひかりの胸がチャンピオンの頭に押し付けられる形になるが、互いに今はそのような事を気にしていられる状況ではなかった。チャンピオンはひかりの体をロープに押し込みハンマースルーを狙うが、ひかりは離さない。そしてチャンピオンの隙を突いてバックを取るとスリーパーホールドに移行した。ちょうどひかりの胸がチャンピオンの背中に押し付けられる形になるが、互いに今はそのような事を気にしていられる状況ではなかった(2回目)。チャンピオンはパワーでロープに手を届かせるが、ひかりはすかさずチャンピオンの巨体を見事なボディスラムで投げてみせたのだ。考え方を変えるならば、ベルトの失陥は逆に考えれば重圧から解放されて自由になったということではないか。こうして異世界でプロレスをするにはむしろ都合が良かったかもしれないのだ。
『なるほど絶対女帝の名は伊達ではないということだな、ならば私も本気を出してみせよう!』
チャンピオンのベルトが光を放つ。攻撃回数を9倍にする【グローリーチャンピオンベルト】の合図だ。約束された強烈極まりない攻撃に、さすがにひかりも身構えた。
(……来る、でも、ここが耐え時
……!!)
思いつつも顔には決して出さない。そして巨体に見合わぬ素早い動きでチャンピオンがひかりの背後を取ると、そのまま高速で後方に投げ飛ばした。王道型のブリッジをきめつつ真後ろに投げる通称『ヘソ投げ式』ではなく、ストロングスタイル型の相手を横抱きに投げる『ひねり式』のバックドロップだ。ただでさえ首と後頭部に強烈な打撃を与える危険な投げ技が、8度もダメージを与えてくるのだ。だがプロレスラーはよけないッッ 相手の技は全て受けきるッ 格闘家にゃ無理な芸当だろう。
『……ほう』
必殺の一撃ならぬ8撃を受けてなお立ち上がるひかりに、チャンピオンも感嘆の声をあげた。これこそまさに王道レスラーとしての、団体の長としての、そして絶対女帝としての矜持の為せる技であった。プロレスラーは相手がどんな殺人技を仕掛けてきても瞬時に覚悟をキメる!!そのダメージに負けないだけの量の覚悟をな。プロレスラーと格闘家では覚悟の量が違うんだよ。
「……効率で戦うなんてね」
そして、そんな状況でありながら、ひかりはにやりと笑うと、強烈な挑発をしてのけたのだ。その視線の先には、チャンピオンの1回分の攻撃を飛ばされて場外でのびている量産型ロスヴァイセの姿があった。
「プロレスラー、ましてチャンピオンとしちゃ三流未満だよ?」
寿命が減るリスクを恐れて攻撃回数を1回減らすなどプロレスラーの行いではない。痛い所を突かれた形になったが、チャンピオンにも言い分はあった。
『何を言うか!私はこれから海外遠征を控える身!こんな所で無駄なダメージを残すわけにいかないのだ!』
実際つい最近海外遠征直前の試合で脳震盪を起こして中止を余儀なくされたレスラーがいたばかりである。チャンピオンの言い分もわからないではない……が。それでもやはり突き刺さるものはあったようだ。
『だがいいだろう!その挑発に乗ってやろうではないか!!』
右腕をぶんぶん振り回しながらチャンピオンは軽くステップをした。ストロングスタイルを名乗る者がこのジェスチャーなら、やる事はほぼ決まっている。そしてそれは偶然にも……
「……それでこそ、チャンピオンね」
ひかりも右腕を高く掲げると、上腕二頭筋に左腕を添えた。狙いは互いに全く同じだったのだ。
『さぁ、絶対女王草剪ひかり! ここで遂に、激闘に終止符を打つ必殺の右を繰り出すか!?だがチャンピオンもまた右腕を叩きつける構えだ!果たして真のラリアットの使い手はどちらだー!!』
どこからともなく流れてきたアナウンスに合わせ、両者は相手に向けて突撃する。ひかりの【
戦女神の断罪の斧】と、チャンピオンの9倍ラリアットがリング中央で激突した。その瞬間、轟音が響き渡り、リングを爆発が埋め尽くした。そして爆風晴れた後、皆が見たものは……。
「……決着は……」
『……』
ひかりとチャンピオン、両者リング上で大の字のままついに起き上がる事ができず、両者ノックアウト裁定が下されたのであった。チャンピオンはそのままリングに残り、ひかりはどうにか起き上がると、両の足でしっかり大地を踏みしめてリングから降りていった。
「この村での闘いの常連の皆に任せるよ!」
大声援にこたえるかのように、そう、言い残して。
大成功
🔵🔵🔵
ニコリネ・ユーリカ
私は嘗てこの村を訪れた四人の王者をこの目で見て、手合わせしたわ
箱舟から来た男
フロンティアから来た男
MSGから来た男
オクタゴンから来た男
……どの王者も愉快で立派で、素晴らしいファイトを魅せてくれた
今回、闘強導夢から来たチャンピオンだって難敵に違いないけれど
私が戦った四人が、彼等との対戦経験が、立ち向かう勇気をくれる!
覚悟を決めたら、真の姿(id=51926)を解放!
花屋の最終形態「お花を愛するアゲハ蝶」になって能力を底上げし
自身が出せる全力を振り絞ってチャンピオンに挑戦するわ
攻撃を回避しないチャンピオンに、これまでの集大成を、
箱舟・フロンティア・MSG・オクタゴンの特色を取り合わせて練り上げた【オリジナル・スタイル】をぶつける!
勿論、歴代(?)の王者がそうであったように、私も「受けの美学」を全うして見せる
スティーブ、そして皆、見てて!皆がいてくれるだけで頑張れる
あなたの前にこの村を訪れた強者の力を!
そして彼等を撃退した皆の強さを!
この村を第二の故郷と決めた私が村民代表として示してみせるわ!
●最終決戦
「決着はこの村の常連の者に任せる」
直前までリングに上がっていた猟兵はそう言った。その言葉に、会場にいる力持ちの愉快な仲間達の多くは、おそらくひとつの名前に思い至ったことであろう。これまでこの村で行われた4度の戦い全てに参戦し、そして当然のように最後の戦いに挑まんとしている猟兵。すなわち……
「ニコリネ!ニコリネ!!ニコリネ!!!」
本人が出てくる前から会場を埋め尽くす大コール。彼らがその名を呼ぶニコリネ・ユーリカこそ、まさしくこの戦いの幕を閉じるにもっとも相応しい人選ではないだろうか。
「……私は嘗てこの村を訪れた四人の王者をこの目で見て、手合わせしたわ」
大声援を聞きながら、ニコリネはこれまでの戦いを回想していた。これまで4回村を襲撃したチャンピオン・スマッシャー。彼らは同一人物であり、それでいて同一人物ではない。それぞれがそれぞれの個性や特徴をもって、自分のやり方で戦いを挑んできたのだ。
「……どの王者も愉快で立派で、素晴らしいファイトを魅せてくれた」
そして改めて、それぞれの姿をいま一度思い浮かべる。
箱舟から来た男。「他のプロレスは全て筋書きのある八百長の見世物、箱舟こそ真剣勝負」を主張し、俗に『脳天受け身』と呼ばれるような、相手を頭から垂直落下させてまともに受け身を取らせないような過激な技を好み、また自らもそれを受ける事で強さを示そうとしていた。それはまさしくプロレスラーのナチュラルな強さや怪物ぶりを存分にアピールするのに十分なものであった。
フロンティアから来た男。フロンティア格闘のレスリングの使い手を名乗り、通常のリングではなく爆発物や有刺鉄線といった見る者に強烈な印象を与えるリングを用いたデスマッチを好み、過激な試合形式を戦い抜き生き残り勝利する事で強さを示そうとしていた。常人には試合どころかリングに足を踏み入れる事すら困難な過激な仕掛けの数々はプロレスラーの強さを存分に見せつけるものだった。
MSGから来た男。スポーツやエンターテイメントで有名な場所の出身者を名乗り、格闘技とエンターテイメントの高レベルな融合を目指し、プロレスの技術と同様にパフォーマンスによるアピールを重視、観衆に喜怒哀楽の強烈な感情を植え付ける事で強さを示そうとしていた。それは観客を盛り上げるためにあらゆる手段を取ろうとするプロレスの一面、そして強さを示すものだった。
オクタゴンから来た男。逃げ場のない八角形の金網リングを戦場として用意し、周囲からの介入も許さない場所でエンターテイメント性を排した純粋な格闘技の技術のみを競い、心技体の全てにおいて対戦相手を圧倒する戦闘能力を見せつける事で強さを示そうとしていた。それはプロレスの何より重要な一面、すなわち戦いにおける強さ。それを最大限に表現するものであった。
そして。
「今回、闘強導夢から来たチャンピオンだって難敵には違いないわ」
闘強導夢。闘いの強い者が導く夢。まさにプロレスのチャンピオンに相応しき名前ではないだろうか。プロレスはキングオブスポーツであり、そしてファンタジーなのだ。そのチャンピオンの戦いは、まさに強さを示すもの。ストロングスタイルの名こそ相応しいのである。例えるなら年に1回、その年全てを占うようなもっとも華々しい場面。そういう場で名乗るような名前であった。ニコリネが上がろうとしているのは、まさしくそういうリング、そういう対戦相手なのだ。しかしニコリネは恐れる事などない。
「私が戦った四人が、彼等との対戦経験が、立ち向かう勇気をくれる!」
そしてついにニコリネはリングへとつながる花道に一歩を踏み出したのだ。
つい先刻の戦いでダブルノックアウトの形となったチャンピオン。対戦相手は既に両の足でリングから降り、どうにか遅れて立ち上がったものの、その劣勢はもはや誰の目にも明らかだった。落日の闘魂……そのようなフレーズを誰もが思い浮かべた。それでもなおその闘志は、チャンピオンとしての誇りは、いまだに衰える気配を見せない。
『まだだ!私はまだ倒れてはいないぞ!あの猟兵も私から3カウントを奪うには至らなかった!』
あれは引き分けだ。負けたわけではない。あくまでそう言い切るチャンピオン。それを皆に信じさせるだけの迫力が、まだチャンピオンにはあった。しかし次の戦いこそチャンピオンの最期だ。それもまた誰もが信じる事であった。そして。
「待たせたわね!みんな!」
現れたニコリネ。そのコスチューム、そしてその背中の羽は……喜びとしてのイエロー、憂いを帯びたブルーに、世の果てに似ている漆黒の羽。ヒラリヒラリと舞い遊ぶように姿見せた『お花を愛するアゲハ蝶』。これこそ花屋としてのニコリネの最終形態、真の姿だったのだ。その艶やかで大胆な姿に観客たちの歓声はさらに強くなる。ニコリネは花道の途中で一度立ち止まると、リング上を睨みつけた。
「そして……チャンピオン!」
『……やはり、貴様が来たか』
指を突き付けたニコリネの視線を、チャンピオンはリング中央で腕組みをしたまま真正面から受け止めた。まるでこれから来る相手を予期していたかのように。そしてこの後で訪れる激戦の予感も。
『相手に不足なしよ、かかってくるがよいわ』
「あなたの前にこの村を訪れた強者の力を!そして彼等を撃退した皆の強さを!」
そしてニコリネもまた、戦いの舞台に上がる。
「この村を第二の故郷と決めた私が村民代表として示してみせるわ!」
ついに最後のゴングが打ち鳴らされた。
チャンピオンはリング中央で両腕を前に出したレスリング特有の構えだ。やはり頼れるものは自ら磨いてきたあプロレスの技術ということだろう。一方のニコリネはやはりレスリングのようなファイティングポーズをとる。だがそれはチャンピオンのものとは意味が異なっていた。過去の記憶からなんら変わる事のないチャンピオンに対し、ニコリネのスタイルはこれまで戦ってきたチャンピオンとの戦いで磨かれ、そして彼らのスタイルをも吸収して発展させた
彼女独自のスタイルなのだ。
「せいっ!」
ニコリネは先制の逆水平チョップを繰り出した。チャンピオンはそれを回避せずに胸で受ける。いい音が響き渡るもチャンピオンの巨体は小揺るぎすらしない。ニコリネは連続でチョップを叩き込み、何度目かの打撃でついにチャンピオンが倒れた、が受け身を取るとすぐに立ち上がり、何でもないという顔をみせた。
『どうした、もっと打ってきたまえ』
(……そうだったわね、チャンピオンの戦い方はこれだったわ)
挑発めいた顔をするチャンピオンに、ニコリネはすぐに気が付いた。攻撃を回避しない事で自らの能力を強化するユーベルコードを使っているのだ。相手の攻撃を極限まで受け止め、それを上回る力で打ち倒す。風車の理論。まさに
我こそ王者なりと戦い方そのものが勝ち誇っているような、そんなスタイルである。中途半端な攻撃は逆に相手にダメージを上回る強化を与えてしまう事だろう。ならばどうすれば良いか。考えられる手段はふたつあった。チャンピオンに強化を上回るダメージを与える事。もうひとつはチャンピオンを上回る自己強化をすることである。
(……両方よ!それしかないわ!)
チャンピオンは攻撃を回避しない。ならばダメージを与える事はできる。自分の力でチャンピオンの強化を超えるダメージを与えられないなら、自分を強化すれば良い。単純な足し算だった。
「ならばこれよ!」
ニコリネはチャンピオンの右足を狙ってローキックを放った。プロレスよりは立ち技格闘技に近い蹴りだ。
『巨漢なら足殺しのセオリーか?少しは頭を使ったようだな、だが甘いぞ!』
今度はチャンピオンも動き出した。蹴られた足の痛みも感じさせぬような動きで前蹴りを繰り出したのだ。その速度、威力はニコリネの想定を上回るものであり、間違いなくアイ・アム・チャンピオンによる強化が作用しているのがわかった。それでもニコリネはどうにかそれを回避すると、一気に接近して両足タックルをくらわせるとバランスを崩したチャンピオンからダウンを奪い、そのまま馬乗りになったのである。
「これは……オクタゴンから学んだ技!」
普通のプロレスではめったに見られない顔面へのマウントパンチを落としていくニコリネ。それはまさに格闘技スタイルをとったチャンピオンとの戦いで身に着けたやり方であった。巨体のチャンピオンといえどもマウントポジションから逃れるのは容易ではないだろう。あとはパンチを嫌ったところで関節技にもっていけば良い……と、思われたのだが。
『ええい、まだまだぁ!』
なんとチャンピオンは全身に力を込めると、渾身のブリッジでニコリネの体を浮かせ、そのままはねのけたのだ。恐るべきはチャンピオンのナチュラルパワー、そしてそれを強化してみせたユーベルコードの力か。なんとか倒れる事なく着地したニコリネに、すかさずチャンピオンの体当たりが迫る。さすがにこれは回避できず、巨体をまともに食らったニコリネはしばしふらついた後に受け身を取りながら倒れた。
『どうした、もう終わりかね』
「……くっ、さすがに強いわ、で、でも……」
嘲笑するようなチャンピオンの前で、歯を食いしばりながらなんとかニコリネは立ち上がる。
「スティーブ、そして皆、見てて!皆がいてくれるだけで頑張れる!!」
傷つきながらも多少大げさなぐらいの身振り手振りを加え、以前協力して戦った力持ちの名前を挙げつつ、情熱的に観客たちに呼びかけるニコリネの姿に、観客は魅了され、大ニコリネコールが会場を埋め尽くした……実のところ、これはMSGから来たチャンピオンと戦った時に身に着けた、観客へのアピールだった。
『おのれ猟兵め!』
ニコリネは観客を味方につけ、チャンピオンは観客の憎悪を買っている。声援ブーイングと真逆であるが、観客の支持を得ている者は間違いなく強い。展開はチョップ合戦へと移行していた。かなりの強化を受けているチャンピオンの水平チョップをニコリネは見事に受け止め、チョップを打ち返していた。宣言通り、応援してくれているみんながいるからこその頑張りだった。
『ふん、なかなかがんばるな』
「……言ったでしょ、私はこの村の代表だって!」
言いつつニコリネは親指を立ててみせた。それを見た愉快な仲間の何人からこっそり動き出していたが、チャンピオンも他の観客も誰ひとりとしてそれに気が付かなかった。
その後も壮絶な戦いが続く。攻撃を回避しないチャンピオンに対し、ニコリネもまたチャンピオン同様の『受けの美学』を全うすべく戦っていたのである。実に純プロレスらしいゴツゴツとしたやりとりである。そしてその最中にニコリネは。
「準備OKだ!」
大声援の中にその声を確かに聴いた。かすかにうなずくと、掴みかかって来たチャンピオンの巨体を逆に自ら組み付きにいくと、全力をもってその体をロープに押し込んだのだ。次の瞬間。
大爆発
『……!!??ば、馬鹿な……』
巻き込まれた両者は同時にリングに大の字になった。爆発によるダメージに加え、自身が用意したわけではないギミックに驚愕するチャンピオン。対して自らも爆風ダメージを浴びながらも、ニコリネは笑顔だった。
「ありがとう、いい仕事してくれたわね」
『き、貴様の仕業か!いつの間に!!』
試合前に愉快な仲間たちとの打ち合わせで、試合中にひそかに電流爆破の仕掛けをリングに作ってくれるよう依頼し、そしてそれは見事に成ったのである。爆発でチャンピオンに少なからぬダメージを与え、さらに過激な仕掛けで観客の度肝を抜く。これはフロンティアから来た男との戦いで身に着けたデスマッチの技術だった……そう、ニコリネはまさしく、これまで現れた4人のチャンピオンとの対戦経験をもってチャンピオンと戦っていたのだ。
『おのれ!ならばこれを耐えてみよ!』
全身の力を振り絞り同時になったふたりだが、先に動き出したのはチャンピオンだった。ニコリネの背後をとると、強烈極まりないバックドロップを仕掛けたのだ。それも受け身を取れるヘソ投げ式ではなく、受け身を取らせる気のない危険な垂直落下式だ。ダメージの大きいニコリネにこの危険技は……観客の誰もが絶望的な気分になる中、しかしニコリネは。
「……おあいにくさまね」
『!!??』
「この通り、ピンピンしてるわ」
見事に立ち上がった。これこそまさに歴代チャンピオンの最後の教え、箱舟戦士が見せてくれた、首受け身とも呼ばれる危険な技への受け。まさに受けの美学の極致である。しかし美学や応援だけで耐えられるものでもあるまい。実は歴代チャンピオンからの『学び』を試合に活かしたのはちゃんと意味があった。彼らとの戦いで身に着けたニコリネの
独自の戦い方は、それによって自身の戦闘能力を上昇させるユーベルコードだったのだ。そしてその上昇度は時間に比例して上昇する……すなわち、攻撃の受けで自己強化するチャンピオンと同様、ニコリネもまた試合を通して自身の超絶強化に成功していたのだ。
「お返しよ!」
ピンピンしているはずはない。むしろ薄紙一枚でなんとか耐えている状況だ。それでもここで体を動かせてこそのプロレスラーだった。疲れた体にムチを打ち、チャンピオンの巨体を持ち上げて見せると、真っ逆さまに落としたのだ。体格差のありすぎる垂直落下式ブレーンバスターに会場は大いに湧き上がる。
『ぐわぁ!』
この瞬間、ニコリネは悟った。これまでのダメージの蓄積、そして自己強化による今の一撃で、チャンピオンのダメージが強化を上回っていると。ならば決めるのは今だ。大の字になったチャンピオンの上半身を起こすとリバースフルネルソンの体勢で前方から首と両腕を極めにかかった。その技の名は……
羽根折り固め。
「ギブアップしなさい!チャンピオン!」
『き、貴様、このチャンピオンにギブアップを迫るだと……』
必死でロープに逃れようとするチャンピオン。しかし、今やニコリネの力はチャンピオンの力を上回っていた。もはや動くこともできない。長いような短いような時間が経過する。そして。
『……』
ダメージと屈辱に顔をゆがめつつ、チャンピオンの腕が、ニコリネの体を数度叩いた。
ゴングが打ち鳴らされた。
そしてチャンピオンの巨体は光の粒子となり、消えていった。最初からそこに存在しなかったかのように。
(……また戦おうではないか、次は私の勝ちだがな……)
「……終わったぁ……」
全身の力が抜け、リング上に大の字になるニコリネに、観客たちが殺到する。
「勝てたわよ……みんなのおかげで!」
何度も胴上げで宙に舞いながら、ニコリネはとびっきりの笑顔とともに、心の底から言ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
●To be continued
かくして長きにわたる村での戦いは終わった。
あとは今戦争を引き起こしている『鉤爪の男』が倒されれば、再びチャンピオン・スマッシャーが猟書家としてこの村に現れる事はないだろう。村はついに平和を取り戻したのだ。
……そう、誰もが思っていた。
(【クロムキャバリアより来た男】に続く)