――これは、あり得たかもしれない冒険の1ページ。
「皆の者、聞けい!」
サムライエンパイアの、とある大きな街。
この街を治める城に密かにオブリビオンが潜入している、と言う話を聞いたルイ・キャベンディッシュ(人間のシンフォニア・f33577)はだが、そのオブリビオンに敗北し、囚われの身となっていた。
全身に縄打たれて河原に引き立てられる、少女――のように愛らしい少年。役人の大声以上にその目を引く容姿に興味を惹かれ、なんだなんだと町人達が集まってくる。
「この者こそ、最近街を騒がせていた連続殺人の犯人である。多くの命を奪ったその罪、断じて許される物ではない!」
「むぐっ……むぐっ、むぅぅぅっっ!」
役人の言葉は、もちろん真実ではない。むしろこの役人の男こそが、本物を殺して成り代わったオブリビオンであり、事件の真犯人に他ならない。
今、ルイはこの男の罪を、擦り付けられようとしているのだ。当然反論しようとする物の、猿轡を噛まされており、言葉を発する事が出来ない。
「大人しくしろ!」
「むぐぅっ!!」
それでも必死に抵抗を試みるが、オブリビオンの部下である大男に蹴り付けられる。痛みに息を詰まらせ、苦しさに涙を滲ませるルイ。
そしてその間にもオブリビオンは、こちらに自身の罪を押し付けてくる。凶悪な犯罪者に仕立て上げられた彼に対し、町民達は怒りの声を上げた。
「なんて野郎だ……野郎? まあ良い、許せねぇ!」
「あんな可愛い顔をして、恐ろしい奴ね!」
何の罪もない町民達からの罵倒は、オブリビオンの罵倒よりも心に刺さる。口々に告げられる罵倒に、滲んだ涙は零れ落ちて。
だがそんな涙は、町民達の同情を引く事も、冤罪の疑いを喚起する事もない。
「ハチんとこの一家なんざ、まだ小さい子供もいたのによう!」
「はっ、そんな凶悪犯も年貢の収め時って訳だ。ざまぁねぇぜ!」
罵倒は嘲りに代わり……そして一人の町民が、ルイに石を投げつけた。それを切っ掛けに多くの町民達が、次々と石を投げ始めた。
素人の投石とはいえこれだけ投げられれば、一発二発は命中するものだ。こめかみに石がぶつかると、血が一筋流れ落ちる。
「やめぬか! ええい、やめぬか!」
オブリビオンは声だけは制止しつつ、具体的に何をする訳でもない。むしろ、最初に石を投げた町民は、彼が怒りを煽るために用意したサクラだ。
もはやルイは、町民達の怒りとオブリビオンの罪を一手に引き受ける極悪人だ。投石の痛み以上に、その『事実』を前に何も出来ない無力感にこそ、涙がボロボロと溢れる。
「これよりこの者を打ち首とする!」
「「おぉぉぉぉぉ!」」
そうして泣いても、やはり誰も同情はしてくれないが。それどころか刑の執行の宣言に対し、歓声すら沸き起こる程だ。
オブリビオンの手下である首切り役人が、刀を首に宛がう。白刃の冷たい感触が、これまで怒りや無力感で実感出来なかった『死』を、現実に意識させて。
「っ、っ~~!? むぐぅぅっっ!?」
目を見開き、必死に逃れようとするルイ。だが、大男2人にしっかりと押さえ付けられて、その身体はビクともしない。
白刃が一旦首から離れ、高く振り上げられる――いや、下を向かされているルイは、それを見る事も出来ないが。
(「嘘……嘘だろ? 本当に死ぬのか? いや……やだ、やめろ、助けてくれ
……!」)
人々の罵声。オブリビオンの嘲り。首に当たる鋭い殺気。全てに恐怖して涙を流し、だが抗うどころか、叫ぶ事もできない。
猿轡を噛み締め、必死に首を振り、助けを求める。だが誰も、彼を助ける事はなく。
――ヒュン、と刃が風を切る音が、彼が最期に聞いた音であった。
成功
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