これは今から少し前、スペースシップワールドの片隅に浮かぶ小さな宇宙船のお話。
一機の宇宙バイクが、宇宙空間を走っていた。
行く宛を探す一人旅。そんな目的と同じくらいに途方もなく広大な宇宙空間を、知念・ダニエル(
壊れた流浪者・f00007)はただひたすらに進んでいた。
「……お」
前方レーダーに反応あり。宇宙船だ。
「船団ってわけじゃなさそうっすね」
反応は一つ。船体は、居住型宇宙船としてはやや小ぶり。外から見る限り廃墟船などではなさそうだ。
「丁度いい。少し休憩していきましょうか」
ダニエルは宇宙バイクのアクセルを回し、宇宙船へと向かっていった。
「……入っていいんすよね」
ダニエルは思わず呟いた。宇宙港はオートマチックで完全無人。無機質な廊下には、長らく人が行き交った形跡もない。
重力エリアに足を踏み入れたダニエルが聞くのは、遠くから微かに響く機械の駆動音と、自分の足音だけ。
知らない土地に来たならば、その土地の文化などを知ろうと歩き出したはいいものの、こうも人がいないのならば文化もへったくれもない。
さてどうしたものか。中央の空間へと足を踏み入れたダニエルは、整った雑木林や、その間から覗く湖にさえまったく生気が感じられない様子を見て、はぁと息を吐いた。
「やっぱり廃船なんすかね」
理由はいくらでも考えられる。ともかく、この宇宙船はきっと主を失ったまま宇宙空間を彷徨う迷子なのだ。
なら、長居する必要もないだろう。宇宙バイクの燃料補給を終えたら、さっさとここを発とう。そう考えていると、あるものが目に映った。
「……へぇ」
ダニエルがぽつりと呟く。雑木林の向こうに城が見える。中世の時代のものを模したような建物だ。
様々な世界を渡り歩くダニエルにとって、城など珍しいものではない。だから城そのものに大した興味は湧かなかったが、もう少しだけ散歩をしてみるかという気持ちを抱かせた。
そんな時だった。
「……!」
城の扉が開いた。続けて、奥から一人の小さな少女が顔を出したのだ。
年齢は8~9歳くらいだろうか。
(「なんだ、人がいたんだ」)
なら、親もいるだろう。そう思って歩み寄ると。
「ぇっ!?」
ダニエルに気付いた少女が、ぎょっと目を丸くして固まってしまった。
「あぁ、俺は怪しい者じゃないっす。通りすがりの……」
「ひとですの!?」
「……は?」
思わず変な声が出てしまう。少女は構わず、瞳をきらきらと輝かせてダニエルに歩み寄った。
「あなた、ひとですの!?」
「は、はぁ……まぁ」
少女は自分のことをエリルと名乗った。
どうやらこの船に他の住人はおらず、たった一人で暮らしていたらしい。
「だから、わたくし、じょおうなの!」
たどたどしい口調なのは、言葉を発するのに慣れていないからだろう。
「そっすか、立派ですね」
ダニエルは子供をおだてるように返す。素っ気ない返答のように聞こえるが、単にそういう喋り方なだけ。エリルもそんな返答を気にする様子もなく、得意げに笑っている。
「で、あなたは、だあれ?」
エリルが問いかけた。
「俺は、ただの旅人ですよ」
多くを語る必要は無い。どうせすぐに別れ、二度と会うことも無いのだから。
――だが。
「たび!」
エリルの目が光った。
しまったと思った時には遅かった。好奇心に満ちた瞳で見上げられ、次から次へと質問が飛び出してくる。ダニエルは観念した様子で、質問に答えてゆくのであった。
「ねえ、たびって、たのしい?」
そんな中、エリルが聞いた。
ピクリと眉を動かして、ダニエルの表情が固まった。それから一瞬間を開けて、口を開く。
「……そうっすね、楽しいですよ」
言葉とは裏腹に、暗い声だ。
「ふぅん……」
首を捻るエリル。僅かな沈黙の後「あっ」と小さく零してから、ダニエルに顔をずいと近付けた。
「ねぇ、ならここにすんで、わたくしにつかえなさいっ」
「いいっすよ、お嬢」
「やったぁっ!」
「……ん?」
思わずおままごとのノリで返してしまった。やっちまった、と思ったが、エリルの嬉しそうな姿を見ると撤回するのも気が引ける。
仕方がない、と、ダニエルはエリルに尋ねた。
「……仕えるって、どうするっす?」
「まいにち、ダニエルはわたくしに、たびのこととか、いろんなことをおはなしするの! そしたらきっとあなたも、たのしいわ!」
理屈はよくわからない。だが、エリルなりの気遣いのようなものを感じ取り、暗い気持ちが和らいでいくのが感じられた。
「それに……そのー」
エリルが口ごもる。
「な、なんでもないですわ! さ、やくそく!」
表情を変えて、エリルが小指を差し出した。
「はい、約束っす」
ダニエルも笑って、小指を交えた。
ダニエルの旅はまだ終わっていない。
けれど、ここで少しばかり長めの休憩をするのも悪くはないだろう。
始まった二人の主従ごっこ。それがいつか終わる時までは――。
成功
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