僕は君が好きだった
●
黯
僕は彼を裏切った。心疲れ、弱り切った彼女に手を差し伸べ、君から彼女を奪ってしまったのだから。
私は彼を裏切った。貴方の夢に惹かれ、貴方の進む眩しさに惹かれ、そして疲れてしまい、彼の手を取ってしまったのだから。
俺は裏切られた。友に、恋人に、そして全てに。
夢はもう朽ち果て、未来はない。資金も無く借金が重なるだけ。
何もかも無いのだ。
あるのは絶望と憎しみのみ。
だから檄文をその手に取った。
帝都転覆なんて関係ない、ただ憎しみにて暴れる駒として終わりたい、消えてしまいたいだけ。
俺にはそれが相応しいのだから。
そして……応えは帰って来た。
「
黯党ハ君ヲ待ツ。君念ヅル時我等現ハル」
……と。
●グリモアベース
「
黯党を知っているかい?」
グリモア猟兵、氏家・禄郎(探偵屋・f22632)がタイプライターを打鍵しつつ問いかけた。
「サクラミラージュにおいて、帝都の腐敗や人民の腐敗を嘆き、民衆の一斉蜂起による帝都転覆を煽る危険な檄文を配っている輩だ。そして檄文の最後には必ずこう書いてある」
懐から取り出すのは檄文そのもの。
「
黯党ハ君ヲ待ツ。君念ヅル時我等現ハル……とね」
檄文をテーブルに置き、続いてグリモア猟兵は資料を数枚放り投げた。
「私がこの話をしているという事はこの檄文に本当に念じた者が居るという事だよ。そして彼は授けられた――悪魔甲冑『
黯瞞瑜』をね」
さらに資料を追加して、探偵屋は話を続ける。
「本題に入ろう。悪魔甲冑を手に入れた男がある資産家夫婦を狙っている。彼の名は金谷・敬一郎。大学にて飛行機の研究をしていた男だ。今は資金も無く、研究はとん挫し、ただ困窮した末に黯党の誘いに乗った男だけどね」
資料に挟まっていた写真には目つきは鋭いが夢に溢れた青年の顔。
「狙われている資産家夫婦は石先・一生とその妻、静。仕事自体は真っ当なことをしている……狙われた原因は三人が友人関係だったのと、ご婦人である静君が且つては敬一郎君の恋人だったという事だね」
要は恋人を取られ友情は決裂したと説明したかったらしい。
「静君が一生氏と結婚して以来、順調だった敬一郎の研究は行き詰まりを見せ、とうとう頓挫してしまった。研究が進めば船を使わずとも海を越えた向こうの大陸へと行けたらしいが、それはもう終わった話だ」
探偵屋は煙草に火をつけて、煙を肺に入れた。
話す内容を固めるために。
「では改めて内容を説明しよう。石先夫婦の邸宅が影朧に襲われている。まずはこれの排除を。ちょっと注意したいのはその体に『黯』と記された護符を着けており、強化されているという事だ。手強いが彼らの狙いは石先夫婦。上手く利用すれば片付くだろう」
グリモア猟兵がちょっとだけ意地の悪い顔をした。
「次は事情聴取となるかな? 石先夫婦から敬一郎君との決裂に至った話を聞くと良い。悪魔甲冑は着用者の恨みや怒りを動力源としている。全ての原因がハッキリすればこの後が
平和的に行く」
言葉に何か含むものがあったのは気のせいだろうか?
「そして悪魔甲冑『黯瞞瑜』の到着だ。こいつは影朧甲冑だ。普通に倒せば――分かるね?」
影朧甲冑を纏った者達は影朧の呪いに肉体を蝕まれ死にゆく定め。
だが、今回はそれ以外の解決法があると探偵屋は言いたいのだ。
「決裂の原因を知り、敬一郎君の心を理解し、そして和解の道へ持っていってくれ。そうすれば彼は死ぬことなく救出できる。勿論、甲冑を壊してからにしてくれ、危ないから」
苦笑は何かの誤魔化しだろう。
ベルが鳴り、ゲートが開かれる。
「愛する者を奪われ、夢を失った男の悲劇……とも思われるが、今回は多分違う。君達の苦手分野かもしれないが、すれ違った道を繋いでやってくれ」
グリモア猟兵は目の前で糸を結ぶ仕草をしつつ猟兵達を見送った。
みなさわ
友情、愛、夢、全てがすれ違えば憎しみとなり
黯瞞瑜は笑うだろう。
こんにちは、みなさわです。
今回は友情と愛と贖罪のお話を。
●シナリオ傾向
心情寄りです。
すれ違った糸を繋ぎなおす仕事になります。
●第一章
影朧が石先夫婦の邸宅を襲撃します。
OPでも説明した通り、何らかの強化をされていますので上手く立ち回って頂けたらと思います。
●第二章
石先夫婦から金谷・敬一郎との馴れ初めから決裂に至るまでと敬一郎氏の人となりを聞くお話となります。
石先・一生、石先・静、両名から話を聞くことができます。
●第三章
邸宅へとやって来た悪魔甲冑『黯瞞瑜』との戦闘です。
オリジナルは破壊され、量産型となっておりますが影朧甲冑としての性能は持っております。
良い面も悪い面も。
●人物
金谷・敬一郎:飛行機の発動機に関しての研究をしていた若者。研究はとん挫し、何もかも失っています。
石先・一生:資産家です、敬一郎とは友人でした。今は資産を集めることに力を注いでいます。
石先・静:一生の妻で、敬一郎の恋人でした。敬一郎の研究の助手を務めていた彼女は今は時を見て帝都の学者と会う時間を作っています。
●その他
マスターページも参考にしていただけたら、幸いです。
それでは皆様、此処から先への道標。
お願いいたします。
第1章 集団戦
『黒の落し子』
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POW : 悪食
戦闘中に食べた【悪意】の量と質に応じて【身体の影が濃くなり】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 悪逆
【隠された悪意を増幅する視線】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
WIZ : 悪言
攻撃が命中した対象に【悪意を撒き散らす影の口】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【聴こえ続ける心を蝕む声】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
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●襲撃
邸宅に黒き影朧が殺到する。
周囲の住人は危険を感じて逃げているか、閉じこもっているか。
勇気ある男がかつての戦傷を物ともせずに退魔刀を振りかざすが、悪意を散々に喰らいつくした黒い存在に対しては健闘虚しく吹き飛ばされ、若者たちは彼を抱えて逃げ出していく。
男が影朧との戦いから離れて久しいのもあるが、それ以上に……強化されているのだ。
――『黯』
たった一文字描かれた呪符により。
それが数をなして襲い掛かるなら為す術はない。
故は邸宅は黒で覆われた。
元々使用人などは雇っておらず、夫婦水入らず。
家を訪れる者と言えば、仕事でやってくる部下か妻が呼ぶ学者、後は近所の人間くらいだろう。
そのくらいに普通の家であった。
襲撃者への供えなど無いに等しい。
だからこそ、取ってつけたようなバリケードで扉を塞ぎ、雨戸を閉め、箪笥を動かすのが精一杯。
そんな邸宅の奥で、役人をやっているのが似合いそうな若者が使ったことのない散弾銃を持って待ち構える。
最後の抵抗というには無力に等しいだろう。
だけど、二人は今、死ねない理由があった。
そして、それ以上に……夫婦がここで殺される理由など、どこにもなかった。
故に門は開かれる。
超弩級戦力を導くため。
黯瞞瑜の物語は此処から始まる。
御桜・八重
黯党はまた人の弱みに付け込んで……!
絶対許さないっ!
「どいたどいたどいたーっ」
邸宅に向かって群れ成す黒の落し子。
こっちに背中を向けている今がチャンス。
一番敵の集中している窓やドアを目指して敵中突破だ!
邸宅の前に二刀を構えて陣取ったら、大立ち回りの開始。
石先夫妻がいるかのように見せかけながら戦う。
敵に『黯』の護符を見つけたら斬り飛ばして強化を解除。
数に任せて押し合いへし合い密集してきたところで……
「いざ吹き散らさん、花旋風!」
全て吹き飛ばす勢いで二刀を振るう。
禄郎さんが言ってた。縁を繋いでやってくれって。
すれ違ってしまっていても、きっと二人は手を伸ばしていたんだ。
敬一郎さんに。
●旋風
幻朧桜の花弁が風に吹かれて舞い上がる。
風が吹けばなんとやらと言われるだろうが、この場合は超弩級戦力の到来を意味していた。
彼女の名は御桜・八重(桜巫女・f23090)。
時に猪突猛進を思わせる勢いで戦場に飛び込んでくる桜の巫女だ。
「どいたどいたどいたーっ!」
流石の黒の落とし子も後ろから下駄で蹴られてはひとたまりもない。
――黯党はまた人の弱みに付け込んで……!
心中に燃えるは
黯党への怒り。
「絶対許さないっ!」
影朧を踏みつけ、群衆をかき分け、走りに走れば、窓を背後に二刀を構える。
「ここは……通さないから!」
それは決意の刃であった。
機を伺う。
そんな言葉は八重に似合わない。
いつも先手を取り、立ち回ることで自分の戦いを進めていくのだ。
今回も例外は無く、違う事があると言えば時々窓へと視線を送っている事。
まるで窓の向こうに石先夫妻が居るかのように。
それを察した影朧が殺到し始めた時、桜の巫女は走る。
その太刀筋は速さを活かし、刀の重さを腕のしなりで走らせるもの。
変則的にも見えるが、刃先で軽い物を斬り、吹き飛ばすにはこれで充分。
――つまりは『黯』と記された護符のような物なら。
そして幻朧桜の花弁が舞う。
それは御桜・八重が敵陣深くへと飛びこんだ証。
黒の落とし子が牙を剥かん、その悪意と言う名の毒を孕んで。
だが、その魔の手は届く事は無い。
「いざ吹き散らさん、花旋風!」
全てを蹴散らさんばかりに八重が身を翻していたのだから。
花旋風
回転力を刃に乗せて振り抜いた二刀。
その勢いに一体の影朧は残らず吹き飛ばされた。
「禄郎さんが言ってた……縁を……繋いでやってくれって」
呼吸を整えつつ、途切れ途切れに八重は呟く。
いつだって全力、それ故に息だって切れる。
「すれ違ってしまっていても、きっと二人は手を伸ばしていたんだ」
でも、この糸だけは切らしていけないと知っていた。
「敬一郎さんに」
そう、このすれ違った糸を――。
大成功
🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
人間誰しも、儘ならぬ人生もあろうよ
だからと言って、他者を傷付けても良いという免罪符にはならない
先ずは眼前の脅威から取り払わせて貰おう
出でよ、我が伴侶!
UCで喚び出した愛らしい妖精には、俺の話し相手になって貰う
何故か?
俺の心を蝕む声から気を紛らわせる為だ
何しろ我が伴侶は俺の言うことを全て肯定してくれる頼もしい存在だ
「いいぞ!」の一言で何でも解決する
さて、眼前の影朧共の狙いはあくまで石先夫妻という事か
バリケードを突破されぬよう細心の注意を払いながらも家の前に立とう
真っ向勝負と参ろうか
エレメンタル・ワンでの炎の属性攻撃で一体一体……
いや、範囲攻撃での一斉発射で散弾銃のように弾を放とう
此処は速攻が良い
●伴侶
「ぐうっ!」
ニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)の左肩が黒の落とし子の一撃によって傷つき、切り裂かれた皮膚は影を纏いし口へと変わる。
「人間誰しも、儘ならぬ人生もあろうよ」
時計卿、その言葉は誰に言うか、影の口の囁きか、それとも軍団の向こうに居る甲冑か。
「だからと言って、他者を傷付けても良いという免罪符にはならない」
心蝕む声を跳ねのけんばかりにニコは切って捨てる。
「先ずは眼前の脅威から取り払わせて貰おう」
とは言え、無視できるものでもない。
なので――自分の伴侶(イマジナリーの姿)を呼ぶことにした。
俺の考えた最強の妖精さん
人には誰だって、小さく大切なものがある。
そしてそれはいつだって自身の力になりうる最強のもの足りうる存在なのだ。
ニコ・ベルクシュタインの場合はそう――垂れうさ耳が生えたピンク色の可愛い妖精となる。
「この声、無視してもいいよな」
「いいぞ!」
ニコの問いかけにうさ……いや、妖精さんは力強く答えた。
それだけで充分、心を蝕む何かなどそれで吹き飛んでしまうくらいだ。
「さて、眼前の影朧共の狙いはあくまで石先夫妻という事か」
負傷さえ何とかしてしまえば、後は状況に対する対処のみだ。
黒の落とし子の真っ只中を駆け抜け、家の前に立てば振り返りざまに精霊銃エレメンタル・ワンが火を吹く。
目の前で燃えていく影朧。
それはまるで重油に火が灯ったような嫌な臭いと煙を発していた。
「真っ向勝負と参ろうか」
もう一体黒の落とし子を撃ち抜いてから時計卿はふと考える。
「数が多いな」
だから、精霊銃の弾丸を別の物に変えた。
「此処は速攻が良い」
エレメンタル・ワンから発射されるのは散弾。
点では無く、面を制圧する銃弾。
不足するであろう貫通力は炎が補ってくれる。
次々と上がる黒い煙の中、ニコは構える。
「これでいいんだよな?」
「うむ、いいぞ!」
傍らから聞こえる力強い肯定。
ニコ・ベルクシュタインは迷いなく、その引鉄を引いた。
成功
🔵🔵🔴
ティオレンシア・シーディア
機動甲冑なんかで空を飛べる機械はそこそこあったと思ったけれど…この世界、一般化はされてなかったのねぇ。ちょっと意外だわぁ。
…で、痴情の縺れからの自棄に見えて、もう一枚二枚裏がある、と。まあ、切羽詰まった手合いほど読み易くて転がしやすい相手なんてそうはいないものねぇ…
とりあえず窓とか扉に
エオロー・
オセル・
ソーンで障壁張って、と。
屋敷を覆うレベルの文字通り黒山の人だかりなワケだし、視線避けながらの戦闘は流石にちょっと面倒ねぇ。
――じゃ、返しましょうか。●消殺、自動展開。どう考えてもこれ、立派に「行動制限」よねぇ?
起動したのはラドの逆位置――すなわち「嫉妬による失態」。連中が対象として認識されるかはこの際二の次、自由に動けるのが最優先。ただでさえ物量で圧し潰されかねないのに一々抵抗なんてしてられないわぁ。
●黙殺・砲列の○弾幕とグレネードの○投擲で範囲攻撃バラ撒いてちょっとでも数減らしましょ。
聖観音印とか
金剛力士印あたりが覿面かしらねぇ?
●滅却
黒の落とし子はまだ消えることがない。
邸宅の中にいる人物への恨みが深いのか、それとも別の何かなのだろうか……。
「機動甲冑なんかで空を飛べる機械はそこそこあったと思ったけれど……この世界、一般化はされてなかったのねぇ」
屋根の上から影朧を見下ろしつつティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)はシトリンをあしらったペンを左手で回す。
「ちょっと意外だわぁ」
視線を黒の落とし子の大軍の向こうに向けてから、改めてティオレンシアは視線を足元に。
「……で、痴情の縺れからの自棄に見えて、もう一枚二枚裏がある、と。まあ、切羽詰まった手合いほど読み易くて転がしやすい相手なんてそうはいないものねぇ……」
左手が何かを描く。
それは太古の秘宝、ルーンと呼ばれる魔術文字。
『ᛉ』『ᛟ』『ᚦ』
邸宅の窓と扉に文字が浮かび上がり障壁が張り巡らされた。
もう黒の落とし子が入り込むことはないだろう。
そして魔術文字の使い手でもあるガンスリンガーはホルスターの中身を確かめると屋根から飛び降りた。
――影朧の視線を一身に浴びつつ。
着地と共に銃弾が黒い何かを貫いた。
だが落とし子から生まれた目を見たティオレンシアの指がそれ以上の動きを封じる。
――悪逆
隠された悪意による視線はティオレンシア・シーディアに友好的な行動のみを強要する。
……はずだった。
「どう考えてもこれ、立派に
行動制限よねぇ?」
腰だめに構えたリボルバー、そのハンマーを左手の指で弾き影朧は鉛に沈んで行った。
消殺
状態異常や行動制限に対して、仕込んでいた魔術文字と刻印による結界が発動する反射のユーベルコード。
描かれし刻印は――
反転されし『ᚱ』!
「ただでさえ物量で圧し潰されかねないのに一々抵抗なんてしてられないわぁ」
甘ったるい声で言い放つが、敵はその声を聴いていない。
反射された自らの視線により、敵対的な行動を取れなくなっているのだ。
ティオレンシアが対集団戦で何よりも必要としたのは行動の自由。
故に受動的なユーベルコードが最良の選択だったのだ。
「さて……ちょっとでも数を減らしましょ。ゴールドシーン!」
左手のペンを投げ、背中に背負っていたクレインクィンを巻きあげる。
その間に刻まれるのは真言――マントラであった。
グレネードをセットするとまずは遠くへ一発。
続いて、棍棒型の物を軍勢の真ん中へと投擲した。
爆発とともに輝く真言。
――
『स』
たった一文字が破邪の力を帯びて軍勢を吹きとばす。
その間に右手のリボルバーの再装填を済ませたティオレンシアが構える。
既にルーンは影朧へと刻まれ、ペン型の鉱物生命体ゴールドシーンも定位置ともいえる場所に戻っている。
後は――全てを打ち倒すだけ。
――
『अहूँ』と刻まれた目標に向かってファニングされた弾丸が猛威を振るった!
炎が次々と舞い上がり、黒の落とし子はその存在を朧すら残すことを許されなかった。
「こんなものかしらねぇ?」
小気味に愛銃のトリガーガードに指を引っ掛けてスピンさせた後、魔弾の女はリボルバーをホルスターに収める。
「それにしても……こちらのお二人は何をしていたのかしらぁ?」
ティオレンシアの視線は邸宅の方へ。
大体の事は予想が着く。
けれど、推理、推測だけでは悲劇を招きかねない事もあるのだ。
だから糸目の女はゆっくりと扉に手を添える。
まるで主を受け入れるが如く、障壁はティオレンシア・シーディアを邸宅の中へと誘った。
成功
🔵🔵🔴
毒島・雅樂
黯党ねェ…まァ、色々と探偵とシて興味を惹かれる話ではあるさね。
ンで、暴れるのと謎を解くのの両方が呼んでそうな事件…ってコトで、この依頼、乗った。
有象無象がどれだけ居ようが鎧袖一触、一炊の夢さねェ。
初手で【紫龍ノ嘆息】を使って戦場を制圧スるぜ。右往左往とシ始めたら当たるを幸いに斬り捨てながら夫妻の籠城する場所へ。着いたら声でも掛けて安心させねェとな。
後は、未だ元気なヤツが夫妻を襲うのを撃退して行けば、分かり切った結果…ま、妾の勝ちが待ってるってヤツだゼ。
っと、未だ名乗ってなかったなァ。
悲劇の前に探偵が来ルのは珍しいンだぜ、ってのはさておき…ドーモ。毒島雅樂です。
御園・桜花
「死なずに降りられる手段があるなら、是非ともそうなって欲しいです」
UC「シルフの召喚」
黯の護符をシルフに引き千切らせるのを優先
自分は軽機関銃で制圧射撃
敵の行動阻害しシルフが護符を毟り取り易くなるよう支援
敵の攻撃は第六感や見切りで躱したり盾受けしたりする
「一般の方が武器だけで立ち向かうのは辛すぎますもの。一刻も早く御夫妻の所へ向かわなくては」
敵が護符を無くして弱体化したら桜鋼扇でバシバシ敵を叩いて道を拓き石先夫妻の元に辿り着くのを優先する
「ご無事ですか、石先さま」
「一息ついて、少しでも英気を養って下さい。金谷さんとこれっきりになるか友誼を又結べるかは、全て御夫妻の胆力に掛かっていますから」
●敬一郎
「黯党ねェ……」
紫煙漂う煙管を咥えているのは毒島・雅樂(屠龍・f28113)。
「まァ、色々と探偵とシて興味を惹かれる話ではあるさね」
服装はハイカラ過ぎてはいるが、色んな意味でこの時代における『探偵』であることは確かだ。
「ンで、暴れるのと謎を解くのの両方が呼んでそうな事件……ってコトで、この依頼、乗った」
意気揚々と影朧に向かって歩く雅樂。
その隣を和装メイドの女が並んでいた。
「ご同業かい?」
竜神の言葉に御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は頷いた。
「死なずに降りられる手段があるなら、是非ともそうなって欲しいですから」
答えと共にその手はもう動いていた。
シルフの召喚
疾風の如き風の刃が走る中、桜花は機関銃のボルトを引く。
「おいおい、見セ場を取ンなヨ」
先を越された雅樂が苦笑した。
荒事なら自分も得意な方だが、これは性格の差だろうか?
人の心は本当に謎ばかりだ。
それともまだ、乗り気になれてないのか?
どちらにしても、任せてばかりは――。
「好みじャねェ」
煙管を咥え直し、煙を吐く。
「有象無象がどれだけ居ようが鎧袖一触、一炊の夢さねェ」
紫煙は龍となりて戦場を駆け巡り、黒の落とし子の視界を奪う。
紫龍ノ嘆息
竜神が警戒するのは視線のユーベルコード。
それを目にすれば友好的な行動しかとれないというなら、視界を奪ってしまえばよい。
そこへ――桜花の機関銃が火を吹いた。
桜の精が危惧していたのは戦闘中の悪意を喰らって力を増すもう一つのユーベルコード。
ある意味、存分に悪意を喰わされていたであろう影朧。
特に呪符はそれを助長させると桜花は睨んでいた。
「一般の方が武器だけで立ち向かうのは辛すぎますもの。一刻も早く御夫妻の所へ向かわなくては」
そしてもう一つは邸宅の中の石先夫妻。
猟兵によって結界は張られているが、万に一つという事もある。
力は削いでおくに越した事は無い。
故に紫煙の龍は風の精霊と共に舞い踊り、鉛弾を吐き出す音が舞踊を奏でる楽器となった。
「……行くさねェ」
雅樂が抜くのは一尺九寸の長脇差。
「参りましょう!」
桜花が手に持つのは桜の花びらの刻印がある鋼を重ねた鉄扇。
文字通り切り開かんばかりに二人の乙女は黒の大群へと飛びこんだ。
刀が影朧を切り裂き、扇が落とし子を打ち据える。
こんなものかと判断すれば竜神はドアを蹴破り、邸宅へと走り込む。
幸いにも先に入った猟兵が道を作ってくれたらしく、家の中には影朧は居ない。
雅樂に促され、桜の精は扉を数度ノックする。
「ご無事ですか、石先さま」
扉の向こうからは言葉が交わされるのが聞こえた。
まだ警戒心が抜けていないのだろう、しかし人の声と言うのは良くも悪くも不安を取り除くものである。
やがて、ドアが開かれると散弾銃を始めて構えたであろう男が立っていた。
「こういう時はどうだッたっケな?」
人ならざるイントネーションが混ざった言葉で竜神が桜花に問う。
「まずは名乗られてはいかがでしょうか?」
「っと、そウだな未だ名乗ってなかったなァ」
桜の精の言葉に快活に笑い、そして夫婦へと笑みを向ける。
「悲劇の前に探偵が来ルのは珍しいンだぜ、ってのはさておき……ドーモ。毒島雅樂です」
虹彩異色の瞳と軽口の混ざった名乗りに男は妻を後ろに控えさせ。
「ど……ドーモ、石先・一生です」
同じように名乗った。
傍から見ると滑稽な情景だが、それだけ夫婦にかかっていたストレスが大きい証拠だろう。
だから御園・桜花は助け舟を出すかのように本題に入った。
「一息ついて、少しでも英気を養って下さい。金谷さんとこれっきりになるか友誼を又結べるかは、全て御夫妻の胆力に掛かっていますから」
「敬一郎? 彼に何があったというのですか?」
名を聞いた男の目からは恐怖が消え、同じように後ろで控えていた女も前に出て問いかける。
「教えてください、この影朧達は敬一郎さんが関係しているというのですか?」
たった一人の名前が先ほどまで怯えていたであろう夫婦を人に戻した。
それほどまでに二人にとっては大きい存在であることを、雅樂と桜花は知るのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 日常
『香煙を薫らせて』
|
POW : 元気の出る香りを楽しむ
SPD : リラックスする香りを楽しむ
WIZ : ロマンチックな香りを楽しむ
|
●香煙の向こう側
部屋の中で香が炊かれる。
「そうですか……敬一郎が」
空気が変わり、とりあえずの安全が確保されたことで落ち着きを取り戻した石先・一生はただ男の名前を呟き、椅子に座って項垂れるばかり。
「一生さん、一生さん……えいっ!」
傍らに居た石先・静は夫の反応が鈍いことを確かめると後ろから椅子の底面を蹴り上げた。
「――!?」
飛び跳ねるように男が立ち上がる。
「項垂れてばかりじゃ、超弩級戦力の皆さんも困るでしょう……失礼しました。それで今回の事件に敬一郎さんが関わっている……という事ですね」
夫の様子を横目に静が問いかけた。
誰かが答えを言ったわけではない、ただ空気がそうだと教えてくれる。
香が漂う中でも一筋の冷たい何かが背筋を伝わるなら、それが答えだから。
「そうですか……静」
「――はい」
だから夫婦は――おそらくはずっと昔から懐に忍ばせていたものを猟兵に手渡す。
「僕が死ねば、資産は敬一郎へ」
「私が死ねば、各国の学者がまとめた研究論文の写しを敬一郎さんへ」
遺書と二文字だけ書かれていたそれはかつての友への何か。
「これだけだと、皆さん驚かれますよね。ご説明します」
困ったような笑いを浮かべ一生は肩を竦めた。
「僕達二人と敬一郎は学生時代からの友でした。彼には飛行機――海を渡る鉄の翼を作る夢があり、僕は無線士」
「そして私は副操縦士として、彼の翼に乗ると――約束しておりました」
男の言葉に女が続く。
「けれど私達は裏切ったのです。敬一郎さんを一人にして我々だけが夢の翼から降りた」
夫婦はそれ以上を語らない。
もし、全てを知るとするならば、こちらから問いかけるしかないだろう。
誰に問いかけ、何を問うのか?
何を裏切り、どうして遺書を託すのか。
香煙の向こう側に隠されたものは煙の中を歩んで掴むしかない。
選択肢は猟兵へと委ねられた。
ニコ・ベルクシュタイン
何故かを問うとすれば、そもそも何を以て金谷氏を裏切ったのか、だろうか
石先氏は金谷氏と静殿の関係をご存じだった筈
何方が先に――はさておき、何故金谷氏を独りにしてしまったのか
単純な痴情の縺れであるならば、俺は此の案件から手を引くが
等と厳しめに言いつつ、事のあらましをもう少し深く話して貰おうか
俺にはどうも石先夫婦の行動が回りくどく見えてならない
遺書一つにしてもそうだ、失意のうちに金谷氏の方が先に
自死を選んでもおかしくない状況であろうに
何故、自分達が先に死ぬ前提で何かを遺そうとする?
想像以上に糸が絡み合い過ぎて、やや俺の手には余るというもの
正直に俺の意見を伝え、其れに答えて貰う形を取ろう
●夢は二人を置いていき
――何故かを問うとすれば、そもそも何を以て金谷氏を裏切ったのか、だろうか?
ニコ・ベルクシュタインは考える。
石先氏は金谷氏と静殿の関係を知っていたはず、なのに行動に及んだ理由とは……。
「何方が先に――はさておき、何故金谷氏を独りにしてしまったのか?」
時計卿の口調はいささかに厳しい何かがあった。
「単純な痴情の縺れであるならば、俺は此の案件から手を引くが……事のあらましをもう少し深く話してくれないか?」
少しだけ語調を柔らかくしてニコは夫婦へと問いかける。
「全ては僕が――」
「いえ、私が――」
「……では、奥様からお願いしよう」
明らかに互いを庇わんとした姿にニコは違う形で促した。
耳を傾けるだけだと二人の行動が回りくどく見える。そう思えて仕方がないのだ。
「全ては私が弱かった故のお話です……」
石先・静の言葉には自責の念が重くのしかかっていた。
「我々三人で空を飛ぶ鉄の翼、飛行機を作るという夢。そしてそれを語る敬一郎さんは眩しいばかりの人でした――ハイカラさんだと誤解するかのように」
静は夫に視線を向けると一生はゆっくりと頷いた。
「学生の頃は三人で図面を引き、実験を繰り返したものです。最初は小さなプロペラから始まり何度も墜落したのは思い出の様でした。そうしている内に敬一郎さんに惹かれる自分に気づき、いつしか共に過ごす様になっておりました。ですが……」
「最初に僕が夢から降りることになります。元々は家業を継ぐために大学に行っていた身、故に自由は無かったのです」
助け舟を出すかのように夫は口を開く。
妻は頷き、言葉を続けた。
「それからは大学を卒業し、互いに学校に籍を置きながら研究を続けることになります……最初は楽しい日々でありました、ですが夢を実現するには帝都から亜米利加まで渡る翼を作るには数々の難関があり、敬一郎さんはそちらに集中し、私は彼を支える側へと回っていました……いつしか横に居た人の背中を追っていたのです」
香が漂う向こう側には疲れた女の顔。
「共に歩もうと決意した人が夢を追いかけて、振り向くこともしなくなった時……私は独りだと気づきました、疲れてしまったのでしょう。そんな時でした一生さんが再び現れたのは」
「大学を卒業し、家業の一部を任されるようになった僕は仕事先で静さんを見つけました。彼女の姿を見ていられないと思った僕は気が付いていたら手を差し伸べました……かつては憧れていましたから」
顔の前で神に祈るように手を合わせた一生が言葉を継ぐ。
「彼女も僕の手を取り、そして僕達は結婚するに至りました。僕が敬一郎から彼女を奪い、一人にしてしまったのです」
「成程……」
二人の言葉にニコは呟き、そして引っかかるものを感じた。
「では、遺書の理由は? 失意のうちに金谷氏の方が先に自死を選んでもおかしくない状況であろうに」
そう遺書である。
「何故、自分達が先に死ぬ前提で何かを遺そうとする?」
まるで、敬一郎を信じているかのように。
「裏切り者の僕達には彼に会う資格はありません」
「ですが、敬一郎さんの夢だけは叶えてほしいのです」
石先夫婦の言葉が重なる。
「私達は彼の友人で、あの夢だけは裏切りたくないのですから」
償いか、それとも言い訳かは分からない。
けれど二人の言葉に嘘は無かった。
大成功
🔵🔵🔵
毒島・雅樂
全てを友に…と言えば、美シいが、手に手を取って夢の翼から飛び降りた贖罪をするにシちゃ、チト大仰過ぎさね。それこそ…相続人が居りゃ、妾の本業の幕が華麗に上がるってトコだぜ。
ま、要するに…ちらっと聞いただけで違和感が凄ェンだ。
だから、洗い浚い吐いちまいなヨ。なンで夢の翼から飛び降り、なンでそこまでの後悔を引き摺り、なンで夢の翼に再び舞い戻らず、そシて今この時、どうシたいのかを。
妾は神父サマじゃねェので告解とはならねェが…真実を探偵に話シたら事件解決の幕開けってのは太鼓判を押シておくゼ。
あ゛~…全部、話シたンなら大丈夫だ。
分かり易い悲劇ってェのはどうもなァ…粋じゃねェ。まぁ、任せろってコト、サ。
●告解の始まり
「あの夢だけは裏切りたくない……だカら全てを友に……か」
耳を傾けていた毒島・雅樂が立ち上がって煙管を咥える。
勿論、空っぽの煙管だ。香煙漂う中、それくらいの粋は知っている。
「美シいが、手に手を取って夢の翼から飛び降りた贖罪をするにシちゃ、チト大仰過ぎさね?」
手近な椅子を引っ張ってくると背もたれに腕を乗せ、石先夫婦の前に座る。
「それこそ…相続人が居りゃ、妾の本業の幕が華麗に上がるってトコだぜ」
少なくとも遺言状があったとしてもその通りに履行されるとは限らない。
なのに何故、文をしたためたのか。
「ま、要するに……ちらっと聞いただけで違和感が凄ェンだ」
探偵たる頭脳が回る。
確かに贖罪として遺書を用意するには大げさすぎる。
匿名で資金援助を行い、人を使って研究を手助けする方法もあるだろうに。
「だから、洗い浚い吐いちまいなヨ。なンで夢の翼から飛び降り、なンでそこまでの後悔を引き摺り、なンで夢の翼に再び舞い戻らず、そシて今この時、どうシたいのかを」
なのに二人はそれをしない。
ならば直接聞くしかないのだ、それが一番の答えなのだから。
「妾は神父サマじゃねェので告解とはならねェが……真実を探偵に話シたら事件解決の幕開けってのは太鼓判を押シておくゼ」
「全ては……僕の弱さにあります」
最初に告解を行ったのは一生であった。
「先ほど話したように、家業を理由に僕が降りたのが始まりでした。いえ、逃げたのです、敬一郎の語る夢の眩しさから」
後悔と劣等感という色の双眸が竜神探偵の目に映った。
「どんなに自分が努力しても、彼の役には立たない。知識も思考も及ばない……僕に出来ることは困った時に何か出来るかと声をかける事と、父親から仕込まれた金の動かし方だけでした」
そこに居る男はとても小さく見えたのは気のせいか。
「だけど、敬一郎には何も要らなかった。何か出来るかと聞いても大丈夫だと答え、僕が夢を諦めてもそうかと笑って送ってくれた。これほどに嬉しく、そしてみじめなことは無かった。だから大学を出てからは仕事に打ち込みました。そんな時でした疲れ果てた静さんを見つけ、手を差し伸べたのは」
「そして、私はその手を取った愚かな女です。どんなに苦しんでいても私の手は要らず、いつも一人で乗り越えてしまう人。敬一郎さんはそんな人でした。だから逆に私が苦しい時に何もしてくれなかった。本当はそうでなかったと知ったのは一生さんと結婚した後でした」
続いて告解を行うのは静。
「独りになった彼は不器用な男だったと離れて初めて知りました。私や一生さんが居たから上手く行っていたのが、離れてしまったせいで出来る事すらできなくなって」
彼女の表情を彩っていたのは孤独と後悔。
「敬一郎さんの近況は聞いておりました。だから私達はできることをしようと思い一生さんは研究資金になりうる資産を作り、私は研究の助けになるために世界中の学者と出会い論文を……」
雅樂の手がそれ以上を遮る。
「話シたンなら大丈夫だ」
立ちあがり、煙管を咥えなおした竜神探偵が笑う。
「分かり易い悲劇ってェのはどうもなァ……粋じゃねェ」
夫婦の顔に光が宿る。
「まぁ、任せろってコト、サ」
毒島・雅樂の言葉は救いとなり告解は此処に終った。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「負の一念を持って黯瞞瑜に乗り込んだ者は、其の一念を昇華出来れば無事に降りる事が出来るそうです。先程の影朧は、金谷さんが此方を目指した先触れです。金谷さんに、負の一念を抱えた儘お亡くなりになって欲しくないのです。私達は金谷さんの事を、研究の資金繰りが悪化して頓挫した方、程度しか知りません。一生さんと静さんは金谷さんと親しかったと伺っています。一生さん静さんから見た金谷さん、金谷さんから見た一生さん静さんの関係を、お二人の想像で構いませんので教えて頂きたいのです」
「自死急死の予定無く親族以外への遺書を残すのは稀な事です。御三方の絡まった想いが昇華出来る機会は今しかありません。どうか教えて下さい」
●翼に魅せられた男
次に問いを求めるのは御園・桜花。
「負の一念を持って黯瞞瑜に乗り込んだ者は、其の一念を昇華出来れば無事に降りる事が出来るそうです」
まず告げるは敬一郎に生存の可能性があるという事。
「先程の影朧は、金谷さんが此方を目指した先触れです」
その上で事実を伝える。
「金谷さんに、負の一念を抱えた儘お亡くなりになって欲しくないのです」
そして自らの考えを述べる。
「私達は金谷さんの事を、研究の資金繰りが悪化して頓挫した方、程度しか知りません」
けれど、今、知っていることはわずかしかない。
「一生さんと静さんは金谷さんと親しかったと伺っています。一生さん静さんから見た金谷さん、金谷さんから見た一生さん静さんの関係を、お二人の想像で構いませんので教えて頂きたいのです」
だから問うのだ、金谷・敬一郎という男の為人を。
「敬一郎はとにかく真っ直ぐな男でした」
問いに答えたのは一生、最初に裏切った男であった。
「最初に出会った時、彼は僕に語ってくれました――なあ、海の向こうへ行ってみないか。船ではなく空を飛んで」
石先・一生の目に宿っていたのは過去を懐かしむ自分かそれとも……。
「今でも飛行機はあります。けれど帝都から亜米利加を渡る機体は有りません。もしあったとしてもそれは影朧を使った物になるでしょう」
一生もそれなりの知識があったようだ。過去に禁忌とされた研究も知っているのだろう。
「だから敬一郎は『それ以外』の方法で行くと言っていました」
「それ以外の方法?」
桜花が問い返すと答えは男の隣から返って来た。
「はい、
噴進機関――敬一郎さんが研究の果てに見つけたのがそれでした」
静であった。
「一生さんもおっしゃっていた通り、敬一郎さんは真っ直ぐな方でした。逆に言うと自分の研究と夢以外は無頓着と言うか純粋と言うか……馬鹿と言うか」
「彼は僕が先に夢から降りて家業を継ぐことになっても笑ってました。じゃあ飛行機の持ち主になってくれとまで言うくらいに――却ってその方が辛かった」
妻の言葉を補うかのように一生は語る。
そして静は項垂れるように話を続けた。
「けれど、研究が行き詰まり、資金が心もとなくなってからは敬一郎さんは変ってしまいました……焦ったのでしょうか、それとも挫折が怖かったのでしょうか、私には分かりません。だけど研究に執着する余り、誰も顧みなくなってからは……私では支えられない……だから逃げてしまったのです。彼から、夢から」
「……ありがとうございます」
桜花が頭を下げた。
「けれど、自死急死の予定無く親族以外への遺書を残すのは間違っていると私は思います」
その上で桜の精は告げるのだ。
「御三方の絡まった想いが昇華出来る機会は今しかありません。死して手渡すよりは生きてお伝えくださいませ。お二人の――想いを」
生きて伝える勇気を。
後ろめたさで物を残すのではなく……二人の手で渡すべきだと。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
ふぅ…ひとまずの脅威は去った、ってとこねぇ。
それじゃ、お話ししましょうか。
まあ、お二人と例の彼に因縁があるのは知ってるしそこらは他の人が訊きそうだから…
あたしは「研究が行き詰った理由」について訊いてみようかしらねぇ。
あたしもそこまで詳しくはないけれど…それまで順調だった研究が、お二人が離れてからいきなり芳しくなくなって頓挫、だなんて。あまりにも出来過ぎているじゃない?
何かきっかけとか心当たりとか、あったりしないかしらぁ?
大方
黯党がなにかしたんじゃないか、ってのはあくまでも現状あたしの想像だし…決定的な何かが掴めるまでは、口には出さないほうがいいわよねぇ。
●全ては黯の名のもとに
皆が夫婦へと話しかける中、ティオレンシア・シーディアは窓を見ていた。
――監視は無し、ひとまずの脅威は去った、ってとこねぇ。
荒事に慣れ、搦め手を使うからこそ彼女の視野は広い。
勘には頼らず、思考を巡らせ、探していたのだ『
黯党』の目を。
幸か不幸か尻尾を掴ませないためか、奴らは居ない。
ならば――。
「それじゃ、お話ししましょうか」
次は自分の番であった。
「お二人と例の彼に因縁があるのは知ってるの。だからあたしが聞きたいのは――研究が行き詰った理由」
ティオレンシアの言葉に石先夫婦は互いを見た。
「あたしもそこまで詳しくはないけれど…それまで順調だった研究が、お二人が離れてからいきなり芳しくなくなって頓挫、だなんて」
その姿を細く見開いた目で捉えつつ、言葉を続ける。
「あまりにも出来過ぎているじゃない?」
どうしても、そこが引っかかるのだ。
「何かきっかけとか心当たりとか、あったりしないかしらぁ?」
これはまだ推測の段階だ、だから石を投じることで反応を確かめる。
今持てる手札ではそれが一番の方法であった。
「……ひょっとして、あのことでしょうか?」
静が何かを思い出したように呟く。
「あのこと?」
糸目の女に対し女が頷いた。
「風の噂で聞いた話ですが私が敬一郎さんの元を去ってすぐの頃、陸軍の方が研究室に訪れてきたと」
陸軍、そして先程出て来た墳進機関、この言葉だけでティオレンシアは解を得る。
「それって……航空機の軍事利用の事かしらぁ?」
「恐らくは」
確認の問いは解の正しさを証明した。
「敬一郎さんの性格から考えて、お断りしたと思います。そこからまず研究資金の援助が止まり、そして大学の書庫の閲覧権が剥奪されたと聞きました。表向きは学内において問題を起こしたからという事になっていますが……」
「圧力がかかったと見るべきよねぇ……どんな人か分かる?」
ティオレンシアの言葉に静は頷いた。
「はい、陸軍とは聞いていましたが念の為、探偵を雇って調べさせましたところ……」
何度か呼吸を整えてから女は答える。
「黯党というテロル組織の仕業と」
「幸いと言うかその探偵が手を回してくださり、我々の方に危害は及びませんでしたが」
そこから先はと言わんばかりに一生が話し始めた。
「もし奴らが来た時の為にと……実は遺書をしたためた次第です」
「そう……もうちょっと聞いていいかしらぁ?」
予想は当たっていた。
この事件は仕組まれていたものだったのだ。
だから気になることがある。
「その探偵の名前は?」
テロ組織に対して行動を起こせる者は限られている。
「サクラ・イチロウと名乗っていました」
その名前にティオレンシアはわずかに眉をひそめた。
サクラ・イチロウ――かつて戦った組織が使う構成員の名前。
――今回は利害の一致というところねぇ。
「まいっちゃうわぁ……」
ティオレンシア・シーディアは呟くしかなかった。
目的の物を得たが余計な物にも触れてしまった気がしたのだから。
大成功
🔵🔵🔵
御桜・八重
『……悪ぃ』
言い訳もせずに背を向ける彼。
その傍らには腕を絡ませる胸の大きな女の子。
目を潤ませながらグシャグシャ顔の私。
「うえぇ~……殺ス!」
はっ!
浮気の想像してたらひどいことに!
敬一郎さんの気持ち、理解できる気はする……
夢まで失っちゃったんだもんね。
でもこうなったからには原因があるはず。
原因がわかれば取り返しだってつくかもしれない。
二人に聞いてみる。
「敬一郎さんって、どんな人なんですか?」
多分、夢に向かってまっしぐらな人。
寝食を忘れて周りのことが目に入らなくなるほどに。
一生懸命すぎて、三人で見ていたはずの夢なのに、
二人を置いてきぼりにしてきちゃったんじゃないのかな。
彼を応援したいけど、置いてかれたもの同士で
くっついた後ろめたさはある。
だから贖罪として遺書を用意した。
心中、なのかな……
「でも、それじゃダメだよ」
それは呪いになる。それじゃみんなが救われない。
夢は3人のものだ。3人で見なきゃだめだ。
生きて言葉を届けよう。
任せて。わたしが二人の言葉を届けるから。
(ぐ、と二刀を握る手に力を込める)
●三人の夢だからこそ
「……悪ぃ」
言い訳もせずに男は背を向ける。
その腕に絡みつくのはボディコンシャスなスーツを着た豊満なボディの女性。
女はこちらを一瞥すると勝ち誇ったような笑いを浮かべているのだろうか?
……その表情を読み取ることができなかった。
視界は涙の洪水に溺れてしまったのだから。
彼女がその肉体を愛していた人に押しつけると二人は自分の元から離れていく。
「うえぇ~……」
嗚咽だけがその場に残った。
彼の横に居るのは、彼の手を掴むのは自分だったはずなのに……彼は行ってしまった。
もう自分の手には何もなかった……いや、刀が一振りだけあった。
「殺ス!」
……。
…………。
………………はっ!
御桜・八重が現実へと舞い戻り冷や汗をかいた。。
炊かれた香の効果だったのだろうか、浮気という物を自分に当てはめていたらもう少しで修羅場になるところだった。
幻であることに八重は安堵し、二月十四日は少し意地悪をした方がいいかと思考しつつも、敬一郎の気持ちが少しは理解できると桜の巫女は考えていた。
隣に居る人が居なくなり、夢まで失ってしまったのだから。
けれど八重の心に引っかかるものはある。
此処までに至ったのなら原因がある。
それが分かれば取返しもつくはず。
だから八重は声を上げた。
「敬一郎さんって、どんな人なんですか?」
先ほど桜の精が問いかけた言葉をもう一度。
普通なら二度同じことを聞くのは、この場にいた者にとっては再度の確認になるであろう。
けれど、陸軍――いや黯党という言葉を思い出した今なら、遺書をしたためた理由を思い出した今なら、二人にとって奥底に秘めていた金谷・敬一郎という人物を言葉に出来るのだ。
「敬一郎さんは強くて……でも本当は独りでは何もできなかった人でした」
石先・静は懐かしむ様に笑みを浮かべた。
八重は敬一郎という男を真っ直ぐな人物と考えていた。
寝食を忘れて周りのことが目に入らなくなるほどに一生懸命で、三人で見ていたはずの夢なのに、二人を置いてきぼりするほどに駆け抜ける人間と。
けれど事実は違った。
「思えば敬一郎さんが私達に夢を語ったのは、自分一人では出来ないと分かっていたのかもしれません」
「そういえば敬一郎はよく言っていたな――俺はハイカラじゃないから、一つの事しか出来ないんだ。だから何か出来るかと聞いてくれる僕と、分け隔てなく耳を傾けて疑問を出す静さんが必要だと」
静の言葉に続いて一生が口を開く。
「思えば、あれは自嘲でもなんでもなく本音だったんだな。自分一人では出来ないから僕達が必要で、だから僕が離れる時も飛行機の持ち主という形でも関わってほしかったんだ」
「だから戻れなかったのよ。黯党なんて関係無く、敬一郎さんを裏切った私達が同じ場所に戻ることは私達自身が許せなかったのだもの」
「でも……それじゃダメだと思う」
二人の本音を受け止めた上で八重は否定する。
敬一郎を応援したいけれど、夫婦になることで裏切った後ろめたさ。
贖罪の為の遺書。
御桜・八重は最初はそう考えていた。
でも真実は違った。
金谷・敬一郎という男に対し、石先・一生も静も、彼の弱さを知っていたのに自分の弱さに耐えられなくなり、敬一郎の元を去り、結果的に裏切ってしまったのだ。
誰もが弱さと強さを持っている。
今回の事件はそれが全て重なった結果。
そこを黯党が一押し、二押しして、敬一郎を魔道に堕とした。
だからこのままでは呪いになる。
みんなが救われない。
「夢は三人のものだよ。三人で見なきゃだめだよ!」
八重は聖女でもなんでもない、ただの巫女で學徒兵だ。
「生きて言葉を届けよう――任せて。わたしが二人の言葉を届けるから」
だから言葉の重みが分かる。
それでも走ろうとする勇気がある。
知っているのだ……一人で出来ることに限りがあることを。
けれどここに居る猟兵がそろえば、それ以上のことが出来、石先夫婦の言葉があれば影朧甲冑の呪いだって撃ち砕ける。
「敬一郎を」
「敬一郎さんを」
男と女、二人の声が重なる。
「助けてください」
「――はい!」
凛と応えるその言葉がどれほどまでに救いになったのであろうか。
それはこの二人だけが知っている。
そして御桜・八重はただ握るのだ。
甲冑へと振るう二刀を――言霊と言う刃に乗せて。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『量産型アングラマンユ』
|
POW : 憤怒兜割
単純で重い【上段から】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 赫魔召喚
【籠められた影朧の憤怒】から、【獄炎】の術を操る悪魔「【アスモデウス】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。
WIZ : 不浄剣
自身と装備を【憎悪の瘴気】で覆い、攻撃・防御をX倍、命中・回避・移動をX分の1にする。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
●
俺はお前が好きだった
突如、外で何かが破壊される音が響き渡った!
時が来た。
そう、来たのだ――金谷・敬一郎が、悪魔甲冑アングラマンユが!
「――っ!」
「静さん!?」
物音を聞きつけた石先・静が駆け出し、それを石先・一生が追いかける。
それを猟兵が見逃せるわけはない。
自然、自然と外に足が向けば、その先には門を破壊した黒き大型の動力甲冑が一騎。
「敬一郎さん!」
『静……か?』
スピーカー越しのくぐもった声が庭に轟いた。
「敬一郎ぉ!」
自らの妻を庇うかのように一生が前に出た。
「もうよそう! これ以上、お前が罪を犯す必要はない」
『一生……静……う……わ……』
二人の姿を認めた直後、言葉は呻きに変わり、そして。
『嗚呼あああああああああああああああああああっっっっ!!』
怨嗟に変わる。
『殺す! 殺す、壊す、殺す、壊す、コロス……コワス』
怨嗟は力となり、力は金谷・敬一郎という男から人としての何かを奪い、友の言葉すら遮ってしまった。
――時は訪れた。
ここに立つのは量産型悪魔甲冑『黯瞞瑜』。
本来使われるべき
悪魔を得ることは出来なかったが解析の結果、影朧にて代用に至った非人道、不退転の悪魔作成装置。
影朧甲冑が産み出した悲劇が再び生まれようとしていた。
――だが!
それを覆す弾丸がある。
怨嗟を力にするが故に、それを失わせる
言霊が甲冑の呪いから敬一郎を解き放つだろう。
得られた弾は五つ。
思い出と言う鉛を真実と言う雷管で叩き、夢と言う火薬を燃やして叩き込め!
弾は超弩級戦力――君の手にある。
一つ!
二つ!
三つ!
四つ!
五つ!
撃ち込んで、今こそ呪いを解き放て!
ニコ・ベルクシュタイン
影朧甲冑の相手ならば幾度か心得は有るが
破壊が目的では無い以上、最善を尽くそう
要するに動きが愚鈍になる、という事か
理解した、其れでは此の銃は「不要」だな
エレメンタル・ワンを【花冠の幻】の発動に捧げよう
「先制攻撃」で攻撃を食らう前に虹色の薔薇で包囲、
「時間稼ぎ」をしながら甲冑の中の金谷氏に問わん
其の手を汚した所で、待つのは空虚だと誰よりも理解しているのは貴方だ
どんな形であれこうして再び会えたのならば
交わすべきは言葉では無いのか
罵倒でも詰問でも何でも良い、人と人ならば言葉を使え!
多少の負傷は厭わず、三人が存分に語れる時間を作る事に専念しよう
何、懐中時計さえ無事ならどうとでもなる
この機を逃すことなかれ
●一射、傾聴
最初の射ち手は時計が担う。
「影朧甲冑の相手ならば幾度か心得は有るが」
ニコ・ベルクシュタインの眉がわずかに歪む。
少なくとも❝アレ❞は不幸の棺桶、素晴らしい終わりなど生みはしない、だが……。
「破壊が目的では無い以上、最善を尽くそう」
救いの光明があるのなら、その道を進むまで。
歩みを止めることは時計が止まること。
それは人々の標が失われることになるのだから。
精霊銃――エレメンタル・ワンを片手にニコはアングラマンユへと近づいていく。
『邪魔を……ジャマヲ……スルナァアアアアアアアアア!!」
悪魔甲冑がその身を瘴気で覆う。
それは影朧という炉に火をくべる物。
爆発的な破壊力と頑健な魔力防御と引きかえに、精緻を失う。
「要するに動きが愚鈍になる、という事か」
その意味をニコ・ベルクシュタインが看破した。
「理解した、其れでは此の銃は『不要』だな」
用心金に指を通し精霊銃を回した時計卿がその手を掲げた時、掌から舞うのは虹色の薔薇。
虹の花弁が嵐となってアングラマンユを包み込む!
花冠の幻
「其の手を汚した所で、待つのは空虚だと誰よりも理解しているのは貴方だ」
幻の牢獄に甲冑を捕え、ニコは敬一郎へと問う。
それでいいのか……と?
「貴方と石先夫婦の事は聞いている」
夫婦……その言葉が契機となって花弁の嵐の中から黒き悪魔が歩み出す。
「どんな形であれこうして再び会えたのならば交わすべきは言葉では無いのか?」
アングラマンユが武器を振り上げる。
「罵倒でも詰問でも何でも良い、人と人ならば言葉を使え!」
『だ……黙れぇええええええええええっ!!』
時計卿の言葉と男の絶叫が響き渡り、遅れて重厚なる兵器が大地を穿った。
土煙が舞い足元が揺れ、空気が震える!
やがて全てが収まると……そこに立っていたのはこめかみから赤いものを流すニコ・ベルクシュタイン。
「二人が待っている……まずはそちらを顧みることだな」
アングラマンユが視線を移す。
かつての友に。
思い出に。
憎しみに。
最初の一発は甲冑の暴走を止め、耳を傾ける切っ掛けを作った。
成功
🔵🔵🔴
毒島・雅樂
さて…この黒甲冑の性能上、単純にぶン殴るよりは中身に話シかけながらぶん殴る方が効きそう、か。あンまり得手な動きじゃねェが、仕様が無ェ。
話す内容は当然ながら妾が夫妻から受けた話になルさな。なに、夢の翼を降りたヤツにゃ降りたヤツなりの葛藤があるってナ。
あ゛~…自分の了見の狭さを知りそうだからって聞かねェのはナシだゼ。世界に己のみ独り不幸って概念、黒甲冑毎粉砕シてヤるよ。
【赩龍ノ断罪】
探偵とシて振る舞っちまった以上、未解決事件にはできねェンでな。狙うのは黒甲冑の四肢等、中身に影響の無ェ場所に限る、ってのが絶対だ。
動きを潰したら、後は結果を御覧ジろ。あの夫妻の熱量を、妾は煙管を吸って眺めるだけさね。
●二射、葛藤
アングラマンユが足を止める。
さあ、此処から先は探偵の時間だ。
毒島・雅樂の解決を披露ご覧あれ――。
「……ッて、講談ならそういう流れさナ」
皮肉と共に雅樂が笑った。
残念なことに悪魔甲冑は大人しく話を聞いてくれそうにないし、何よりも自分がその気分じゃない。
安楽椅子を蹴り飛ばし、二本の脚で近づいて犯人の目の前で煙管を吹かすのが探偵たる毒島・雅樂だろう?
だから今日も歩むのだ、悪魔甲冑アングラマンユの目の前に。
「旦那サンの方はアンタに劣等感と……言いたいコトがあるソウだ」
甲冑が武器を振り下ろせば、庭が陥没し、足元が崩れる。
「そして奥方サンはアンタの事を勘違いシテ、そして後悔シた」
けれど雅樂に怪我は無く、振り下ろした武器の上に立ち煙管を吹かしていた。
「なに、夢の翼を降りたヤツにゃ降りたヤツなりの葛藤があるってナ」
『…………』
兵器の上を悠然と歩き、探偵が語れば敬一郎は沈黙で応えるのみ。
「あ゛~……自分の了見の狭さを知りそうだからって聞かねェのはナシだゼ」
武器の上に立つ女を振り落とそうと悪魔甲冑が腕を振りまわす。
だが重さは腕に伝わらず、声は足元から聞こえた。
「世界に己のみ独り不幸って概念、黒甲冑毎粉砕シてヤるよ」
鋭い踏み込み、地面からの反発にて身体を固定すれば龍が開いた勁道は余すところなく指先に伝わり、貫手は甲冑の装甲へと沈み込む。
そう、水に浮かぶ花紅葉が波紋を描くが如く静かに、音も無く。
赩龍ノ断罪
アングラマンユの膝に打ち込まれた貫手を引き抜けば、黒き朧が鮮血のように溢れ、甲冑の足が止まった。
「探偵とシて振る舞っちまった以上、未解決事件にはできねェンでな」
距離を取った雅樂が後ろを振り返れば、そこに立つのは一生と静。
「……ほらヨ」
後はお前達の番だとばかりに探偵は夫婦へとバトンを渡した。
「敬一郎……」
『……一生」
「敬一郎さん」
『静……』
互いに名を呼び。そして――
「すまなかった、お前から静さんを奪って」
「ごめんなさい、貴方から離れてしまって」
謝罪の言葉が零れた。
「もし、殺したいと思えば僕を殺してくれ。そうすればお前に僕の財産が渡るように手筈が整い、そして静さんはお前を助けてくれる」
「いいえ、死ぬのは私です。そうすれば私が調べた論文が貴方の手に渡り、一生さんの後押しでみんなの夢が叶います」
仲良く手を取り合いたいと思っていた、でも、その前に禊を済ませる必要がある。
二人はそれを知っていたからこそ、死を覚悟し。
『もう遅いよ……二人とも』
敬一郎も覚悟していた。
『俺はもうすぐ死ぬ。❝こいつ❞が欠陥品だってことは分かってた』
二人の膝が折れる。
「いいや」
だが、探偵は否定する。
「アンタは助かル……ヤツラの夢と葛藤を聞いたからナ」
二発目の弾丸は希望を撃ち込んだ。
成功
🔵🔵🔴
御園・桜花
赫魔は制圧射撃で足止めし黯瞞瑜に吶喊
桜鋼扇で連打し敬一郎の凝り固まった心のみ砕き自ら降りるよう説得
「家業が、状況が。貴方と共に歩むのが難しくなっても、資金援助や慰労献策で協力したいと一生さんと静さんが告げた時。君達の心配は要らないと先に拒んだのは貴方です、金谷敬一郎さん」
「手の差し伸べ方も分からなくなって其れでも貴方が心配で。貴方に付けられた傷を埋め合おうと支え合い、其れでも貴方の役に立ちたいと奮闘した一生さんと静さんが夫婦になった事の何がいけないのです。一生さんも静さんも、死後の金策や研究を全てお互いではなく貴方に譲ると遺言迄作っている。貴方の事しか考えていない2人に更なる傷を遺す心算ですか」
「独りになってお苦しかった事でしょう。只其れが自分の見栄が招いた事であったのも自分でお分かりだった筈です。苦しくて苦しくて仕方がなくて一生さんと静さんにぶつけたくなった事も、お二人には伝わっています。貴方を其処に留める想いは私が砕きましょう。もう1度自分を見詰め直して3人で話し合って欲しいのです」
●三射、砕心
『嘘だ……うそだ……ウソダ
……!!』
アングラマンユが吼える。
誰も彼もが信じられない。
一生、何故、お前は死を望む。
静、お前は、何故、死を望む。
二人とも、何故、俺に託す。
モウ、オレハ、シヌトイウノニ……ソレスラモ、ウソナノカ!?
「まだ、分からないのですか!」
機関銃が炎を吐き、召喚されしアスモデウスを撃ち抜く。
そこに立つのは桜の精、名を御園・桜花と言う。
『分からない……だと!?』
「ええ、貴方は分からず屋です!」
直後叩き込まれる鉄扇。
その衝撃は装甲に浸透し、中に居る敬一郎に直接響く。
精霊召喚・転生に至る痛撃
その扇はただの鋼ではない。
「家業が、状況が。貴方と共に歩むのが難しくなっても、資金援助や慰労献策で協力したいと一生さんと静さんが告げた時。君達の心配は要らないと先に拒んだのは貴方です、金谷・敬一郎さん」
桜の花びらの刻印がある鋼は光と闇が司る権能――沈静と浄化を帯びた魔法の鋼なのだ。
『当たり前……だ! 俺の夢の為にあいつらの人生を狂わせて溜まるか!』
「そこまで分かっていて、何故!」
さらに振るう一撃は重い。
「手の差し伸べ方も分からなくなって其れでも貴方が心配で。貴方に付けられた傷を埋め合おうと支え合い、其れでも貴方の役に立ちたいと奮闘した一生さんと静さんが夫婦になった事の何がいけないのです。一生さんも静さんも、死後の金策や研究を全てお互いではなく貴方に譲ると遺言迄作っている。貴方の事しか考えていない二人に更なる傷を遺す心算ですか」
『誰があいつらが一緒になることを拒むのだ……静を預けられるのはあいつだけだ!』
言葉が返ってきて同じように右腕の盾を悪魔甲冑が叩き込まん。
激しい金属音が響き、桜の精とアングラマンユの得物が互いに拮抗する。
何故、矛盾した答えが返ってくるのだろう?
どうして、此処まで友を、かつての恋人を気遣える男が、全てを憎むのだろう。
「独りになってお苦しかった事でしょう。只其れが自分の見栄が招いた事であったのも自分でお分かりだった筈です」
鍔迫り合いを押し切り、さらに一撃を叩き込む桜花。
悪魔甲冑との体格差は大きい、だが精神の強さはそれ以上に桜の精が上回っていた。
「苦しくて苦しくて仕方がなくて一生さんと静さんにぶつけたくなった事も、お二人には伝わっています。貴方を其処に留める想いは私が砕きましょう。もう一度自分を見詰め直して三人で話し合って欲しいのです」
最後に叩き込む一撃にアングラマンユが膝を着いた。
『それも良いかもしれないな……』
疲れたような声が伝声管を通して響いた。
「……ならば」
『けど、それは受けられない』
桜花の言葉を諦観が打ち砕いた。
『夢破れた時、俺は悪魔と契約した。もう戻れないんだよ、俺は』
それほどまでに男は夢に囚われていた。
「そんな契約、捨ててしまえばいいではないですか!」
桜の精が叫ぶ。
今までの言葉は何だったのかと、どうして勇気をもって振り払わないのかと。
『全てを賭けていたんだ、夢に。だから、それが失われたら……俺には何もない。死んだも同じことだったんだ』
優しくも空虚、頑なな心は砕けたのに、幸せはそこに無い。
『君には感謝している、二人と話せる最後の機会を作ってくれたのだから……でも無理だ。分かっているんだ、俺の身体に影朧が侵食しているのを』
敬一郎は桜の精に感謝を述べ、そして甲冑は二人に向き合った。
『さあ、話をしよう。今生の別れをお前達と迎えられるなら、最後に夢の話を託せるなら、それで満足だ』
直後、甲冑に衝撃が響く。
桜花であった。
ユーベルコヲドでもない、ただの一撃。
「他の方が言われたはずです」
感情のままの一撃だからこそ――それは響いた。
「貴方は助かると……そのために私達が居ると」
三発目の弾丸は頑なな心を砕いた。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
あー…サクラ機関、かぁ。…うん、今は後回しねぇ。
とりあえず、まずは甲冑ぶっ壊さないとよねぇ。
ラグと
摩利支天印で○残像迷彩を展開して●蕭殺を起動。刻むのは
烏枢沙摩明王印と
准邸観音印、補助に
カノと
イサ。
乗ってるのは本来荒事とは無縁な研究職。いくら攻防強化したとはいえ足引きされた鈍いベタ足の大振りじゃ当たってあげられないわぁ。諸々纏めて○浄化しちゃいましょ。
…カノの別意は「叡智」、イサの別意は「冷静」。もともと頭の良い人だもの、きちんと情報を認識できれば悪いことにはならない…と、思いたいわねぇ…
そうそう金谷サン?あなたに接触して圧力かけた陸軍サン、どうやらよろしくない連中と付き合いがあったらしいのよねぇ。
――黯党、っていうんだけど…ご存じかしらぁ?
それと…あたしも専門じゃないから断言はできないけれど。貴方の研究、間違ってないはずよぉ?
発展の末、彼方の星々にまで手が届いた世界を識っているもの。これ以上の証拠はないでしょぉ?
●四射、未来
――あー…サクラ機関、かぁ………うん、今は後回しねぇ。
ティオレンシア・シーディアはとりあえず頭の中から件の組織を追いやった。
当然だ。
サクラ機関が影朧や猟兵に関わるならまだしも、只人同士の争いに励んでいるなら追いかけている暇はない。
それに対処するのは別の人間の仕事だ。
何よりも――。
「とりあえず、まずは甲冑ぶっ壊さないとよねぇ」
未来を示さなくてはならない。
諦めている男の元へ……アングラマンユの呪いに蝕まれた者の元へ。
もう歩くことを止めた甲冑の腕が動く。
敬一郎が望んだことではない。
ただ彼の憎悪を喰らいし悪魔が、影朧が甲冑を動かし武器を振り上げるのだ。
重たい一撃が庭に叩きつけられる。
だがティオレンシアの姿はそこにはない。
「乗ってるのは本来荒事とは無縁な研究職」
――『ᛚ』『म』
「いくら攻防強化したとはいえ足引きされた鈍いベタ足の大振りじゃ当たってあげられないわぁ」
ルーンと真言による残像迷彩を囮に魔言のガンスリンガーはアングラマンユの背後を取りリボルバーの引鉄を引く。
一発――
『हूं』!
二発――
『बु』!
そして――
『ᚲ』と
『ᛁ』
全ての真言とルーンを刻む弾丸の名こそは……
蕭殺!
影朧のみを滅却する炎が悪魔甲冑を包み、そして憎しみと諦観に囚われた男の心に光明を与える。
何故ならば補助で刻み込んだルーンには別の意味があるのだから。
言葉は言葉通り捉えられるとは限らないように文字にも別の意味がある。
ティオレンシアが刻み込んだルーンの真の意味は叡智と冷静。
「もともと頭の良い人だもの、きちんと情報を認識できれば悪いことにはならない……と、思いたいわねぇ……」
浄化の炎が止んだ時、魔言のガンスリンガーは銃を納め、アングラマンユの前に立った。
「そうそう金谷サン?」
甘ったるい声をまだ動く甲冑の伝声管が拾った。
「あなたに接触して圧力かけた陸軍サン、どうやらよろしくない連中と付き合いがあったらしいのよねぇ」
けれど話す言葉には嘘を許さない強さがあった。
「――黯党、っていうんだけど……ご存じかしらぁ?」
『黯党……俺の元に来た奴らだ……つまり俺は』
ティオレンシアの問いに敬一郎が答える。
「そう、最初からあなたは罠にかけられていたのよ」
どうやらユーベルコヲドの効果は発揮されているようだ。
憎しみに囚われた只の男から妄執を奪い取り、そしてかつての英知を取り戻させ、解へとたどり着かせた。
『所詮は俺は井の中の蛙という事だったのか……畜生……畜生』
「それと……あたしも専門じゃないから断言はできないけれど。貴方の研究、間違ってないはずよぉ?」
悔やむ敬一郎。
言語を操る女はここで魔法の言葉をかける。
『……どういうことだ?』
男が問う。
「発展の末、彼方の星々にまで手が届いた世界を識っているもの」
白い指が差すのはもう夕闇に差し掛かる空。
「これ以上の証拠はないでしょぉ?」
『さすがは超弩級戦力だな……俺もそういう風になりたかった』
ティオレンシアの言葉に敬一郎は溜息一つ。
「その必要はないんじゃないかしらぁ?」
そんな男の前で女は口元に指を近づけ、首を傾げた。
「だって居るじゃないの……あなたには夢の翼たる友人達が」
横目に見るのは一生と静。
かつての友が恋人が見つめる目は信頼という輝きに満ちていた。
今度こそ友の翼とならんとするために。
四発目の弾丸は未来と翼をもたらした。
大成功
🔵🔵🔵
御桜・八重
悔しい。
一生さんが一緒に研究を続けたいと言えていたら。
静さんが敬一郎さんに寂しいと言えていたら。
敬一郎さんが二人に一緒にいて欲しいと言えていたら。
それぞれが抱えていた弱さを少しでもわかり合えていたなら、
今みたいにはならなかったのかもしれない。
でも、そんなに人は強くない。すれちがうことだってある。
だからこそ、人の弱さにつけこむ黯党は許せない!
黯瞞瑜の影朧が人に怨嗟を増強させるなら、その呪縛を絶てばよい。
學徒兵にはその術がある。
オーラの護りを最大限に高めつつ、振り下ろされる憤怒兜割の一撃を
二刀を交差して受け止める。
「んぎぎぎ、うおおおおっ」
地面にめり込む脚を踏ん張り堪え、
勢いが止まったところで武器を撥ね退ける。
「届け、この想い!」
懐に飛び込み、二人の想いも一緒に載せた陽刀を突き込む!
「二人は遺書を用意していたんだ」
贖罪のためではなく、夢を繋ぐために。
「あの二人の本当の想い、わかるよね」
「あなたも二人に伝えなきゃ」
「聞こえるでしょ? あの声が」
「さあ、戻ろう!」
二人の手と一緒に、彼の手を掴む!
●五射、結束
甲冑がゆっくりと歩く。
もう金谷・敬一郎に戦う意志はない。
後は友と語らい、そして呪いを解くのみ。
……そのはずだった。
『
黯瞞瑜は……』
伝声管から伝わる声は敬一郎のものではなかった。
『汝が望みを叶えん』
黒き澱みがあふれ出し、悪魔甲冑が一生と静へ向けて武器を振るう。
「危ない!」
咄嗟に飛びこんだ御桜・八重が夫婦を突き飛ばし、二刀で受け止める。
だがユーベルコヲドでは無いとは言え、影朧甲冑の一撃は重い。
小柄な八重ならたちまち吹き飛ばされると、邸宅の煉瓦に叩きつけられる。
少女の肺が衝撃で機能を止めた。
――悔しい
何度も咳き込み八重は立ちあがる。
悔しさを言葉にしようにも呼吸が出来ない、言葉を発せない、だがそれ以上に。
黯党に弄ばれた三人の姿が、その悔しさが、痛いほどに伝わるから、それが……許せなかった。
「――――ッ!!」
声にならない叫び。
それが功を奏した。
息を吐き出すことで自律神経の迷走が収まり、呼吸を取り戻す。
「一生さんが……一緒に研究を続けたいと言えていたら」
少女が立ち上がる。
「静さんが敬一郎さんに寂しいと言えていたら」
すれ違った糸を結びなおすために。
「敬一郎さんが二人に一緒にいて欲しいと言えていたら」
八重が進む。
「それぞれが抱えていた弱さを少しでもわかり合えていたなら、今みたいにはならなかったのかもしれない」
未来を変えるために。
「でも、そんなに人は強くない。すれちがうことだってある」
転がっていた二刀を掴み、桜の巫女が構える。
「だからこそ、人の弱さにつけこむ黯党は許せない!」
『この男は死を望んだ。
黯瞞瑜はそれに応えるのみ』
アングラマンユが走り出す。
もう敬一郎の手は離れている。
おそらくはそういう仕組みなのだろう。
悪魔を模した影朧による強制暴走。
だが――御桜・八重はただの戦巫女ではない。
「帝都桜學府、學徒兵――御桜・八重」
黯瞞瑜の影朧が絡みつかせる怨嗟と呪縛を断つ力を持った。
「参る!」
學徒兵なのだ!
桜が舞い、八重が駆け出せば最後の戦いが始まった。
『
黯瞞瑜は……』
悪魔甲冑が武器を振り上げる。
上段から叩きつけるユーベルコヲド。
『汝が望みを叶えん』
地形ごと八重を叩きつぶす気だ!
「うるさい!!」
両手に持った刃に桜色のオーラを纏わせれば十字に交差させ學徒兵の少女は一撃を受け止める。
「んぎぎぎ、うおおおおっ」
八重の足元で衝撃が反射し、地面が陥没する。
沈みゆく足元、その奥底へ下駄の歯を噛ませ、耐える少女。
アングラマンユのユーベルコヲドによって響く大地の揺れ。
それが収まった時――。
「おりゃああああっ!!」
八重の反撃が始まる。
大地を踏みしめ悪魔甲冑の得物を跳ね上げれば左手の闇刀・宵闇血桜を逆手に持ちアングラマンユの右肩を目掛け何度も斬りつける。
無駄だとばかりに盾をかざし刃を防ぐ悪魔甲冑。
だが、それこそが學徒兵の戦技。
武器を持った腕を跳ね上げられ、横から斬りつけられ盾で守れば正面に――道が出来る。
後は……貫くのみ!
左腕を引いた八重がその捻りを利用して前に進み陽刀・桜花爛漫をアングラマンユへと突き刺す!
「届け……」
それこそが學徒兵の術を自分なりに昇華させたユーベルコヲド。
「届け! この想い!!」
桜花一心
伝えたい言葉、届けたい想いが今、敬一郎を縛る影朧の邪念に突き刺さった!
「二人は遺書を用意していたんだ」
それは贖罪のためではなく、夢を繋ぐために。
「あの二人の本当の想い、わかるよね」
甲冑の貫いた刃からあふれ出る最後の影朧の奔流。
「あなたも二人に伝えなきゃ」
その勢いに耐え切れずアングラマンユの外殻が吹き飛び、敬一郎の姿が見えた。
「聞こえるでしょ? あの声が」
中に居た男が頭を上げると、そこには――友が居た。
「さあ、戻ろう!」
八重の――いや、一生と静も合わせた三人の手が敬一郎の腕を掴んだ。
かつて道を違えた友が再び手を取り合い、呪いの棺桶から解放されたと同時に悪魔甲冑『
黯瞞瑜』は黒き炎を上げて爆発した。
「……良かった」
御桜・八重がその場にへたり込む。
その視界に映るのは手を取り合う三人の姿。
もう大丈夫だ、すれ違った糸は此処に結ばれたのだから。
これから先、どうなるかは分からない。
でも分かることは夢の翼は再び空を飛ぶだろう。
――三人と共に。
……最後の弾丸はすれ違った糸を元通りに繋ぎ合わせた。
大成功
🔵🔵🔵