第二次聖杯戦争㉑〜君の面影、英雄の貌
かつて
吾人の眼前には『生の世界』が、背後には『死の世界』が広がっていた。
いまや
吾人の前では万物が渾然となり、時すらも未来に流れるとは限らない。
標無き未来の英雄との邂逅もまた、必然。
たとえ許せぬ姿をしていたとしても、許せぬ言葉を吐いたとしても。
その英雄はそなたが未来の姿のひとつ。
信じたくなくば己の胸に問うがよい。
その理由は、いったい――?
「こういう、何でもありなものを出してくるところはさすが『生と死を分かつ者』というか……なかなか面倒な相手だね。いろんな意味で」
仰木・弥鶴(人間の白燐蟲使い・f35356)が示す戦場は小立野。かつて金沢大学の工学部があった市街地はいまや『
闇の大穴』が噴出し、過去と未来の交ざり合った混沌の中にある。
「まるでその全てが一堂に会したかのような惨状だ。閻魔王を名乗る謎めいたオブリビオンはその中央にたたずみ、このキリング・フィールドに入った者だけを自動的に攻撃する」
果たして戦場を制圧してみるまでトドメを指せるのかどうかもわからないわからない相手だ。
その上、㉒の制圧までに制圧できなかった場合は忽然と消え去ってしまうのだとも。
「その懐から取り出してくるのは猟兵ひとりにつき1体の『英雄』だ。そして閻魔王と英雄の2体がかりで襲いかかって来る。ところが、彼は言うんだね。『その英雄はそなたが未来の姿のひとつ』なのだ、と」
その英雄が美しいか醜いか、あるいは恐ろしいか優しいかはともかくとして、本人にだけはそれが自分の未来の姿であると『信じたくない理由』があるらしい。
「英雄と呼ばれるだけあって、未来の君は明らかに格上だ。それでも、相手が未来の自分であると信じたくない理由を見つけ出し、それを克服する気持ちが強ければ……あるいは、勝つ手段が見つかるかもしれない」
弥鶴は肩を竦めた。
「過去の次は未来、と。次々に来るね」
まるで、皆を試すみたいに。
実際にそういう意図があるのか、それとも偶然なのかは知れない。
だが、閻魔王の口ぶりからするとおそらくは必然……ここで自分の未来の可能性のひとつと対峙することはこの戦いを勝ち抜く上で避けられぬ試練であるのかもしれなかった。
「君がそれを未来の自分だと信じたくない、何かしらの理由……か。きっと大事なことなんだろうね。そしてそれが未来の君を英雄たらしめている。どうか、穏便なる克服を」
ツヅキ
プレイングを送れる間は常時受付中です。
執筆のタイミングによっては早めに締め切られる場合があります。
●第1章
あなたの未来の可能性のひとつである『英雄』と閻魔王の2体が同時に襲ってきます。『英雄』については攻撃方法などをプレイングから指定いただいても大丈夫ですし、お任せも可能です。
「自分の未来の姿」を想起し、それを克服する/閻魔王と「未来の姿」の先制ユーベルコードに、両方とも対処するとプレイングボーナスです。
第1章 ボス戦
『生と死を分かつもの』
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POW : テンタクル・ボーダー
戦場全体に【無数の触手】を発生させる。レベル分後まで、敵は【死の境界たる触手】の攻撃を、味方は【生の境界たる触手】の回復を受け続ける。
SPD : キリングホール
レベルm半径内に【『死』の渦】を放ち、命中した敵から【生命力】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
WIZ : 閻魔浄玻璃鏡
対象への質問と共に、【無数の触手の中】から【浄玻璃鏡】を召喚する。満足な答えを得るまで、浄玻璃鏡は対象を【裁きの光】で攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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高峰・勇人
高そうなスーツの上下に派手な色合いのシャツ、威圧的なサングラスに咥えタバコ?
この敵の姿は……反社になった俺!
そうか、社畜との二足の草鞋や友の敵討ち、諸々の縛りに耐えられなくなったんだな……
しかしだからと言って開き直るな
詠唱銃の斉射で閻魔を牽制しつつ、未来の俺にスパナで殴りかかる
反射の俺は自由を謳歌してそうだが…
やめろイキるな寒気がする
このヘルメットも迷彩服も、今では『恥ずかしい過去』だ
でもこれを選んだかつての俺には志があったはずだろ
腕前では劣っても、それを忘れたお前に負けはしない
とどめの一撃をヘルメットで逸らしてカウンター
こいつをどけたら回復してる方の触手を糧に、閻魔に限界まで銃撃を加えてやる
「…………」
そいつを見た瞬間、高峰・勇人(再発性頭痛・f37719)はヘルメットをずり下げて自分の視界を覆い隠した。
「なァ、なんで目ェ逸らすの?」
「…………」
「改めて見るとださいヘルメットだよなァ、それ。今時さァ、
迷彩服なんて流行んないよ?」
――その言葉そっくりそのまま返してやりたいんだがあああ頼むからやめろイキるなどうしたらそんな偉そうな顔で自分はイカしてるとでも思って否ミリほども疑っていないなその顔は。
ちら、と勇人は横目でもう一度『英雄』とやらの風体を確かめる。
高そうなスーツ……は実際に高いのかもしれないしあるいは繁華街にあふれる海外製のコピー品であるのかもしれない。どちらなのかはちょっと判別がつきかねた。だってあんなの近くで見たことも自分で買ったこともないし。
派手な色合いのシャツ……もたぶんブランド品なのだろうが正直言って趣味が……あまりというかかなりよろしくなく、どぎつい色合いとファンキーな柄が非常に目の毒だ。
それに、お約束のような厳つい
色眼鏡を鼻に引っ掛けるような感じで少しずらしながらかけている。軽く眉間に皺を寄せ、火の付いた煙草を咥えたまま下目使いにこちらを威圧してくるのはもはや完全に反社の人そのものだった。
(「……がっでむ……」)
しかも、自分が
ああなった心当たりがちゃんとあるのがまたきつい。
(「いろいろあったからな……いや過去形じゃなくて現在進行形というべきか」)
社畜との二足の草鞋とか友の敵討ちとかその他諸々。
「耐えられなくなったんだな……」
すると、未来の勇人がにやっと開き直るように笑う。
「羨ましいだろ。毎日、昼過ぎまで寝てられる」
「…………」
「月の稼ぎは軽く
コレだ。お前くらいの年ん時、月給いくらだっけ?」
「…………」
ちゃき、と詠唱銃を構えた勇人は有無を言わさずその銃口をそいつの隣で楽しそうに触手を動かしている閻魔王に向けた。
「どうした? たとえ認めたくなくとも、その『英雄』は未来のそなたなのだ。仲良くするといい」
「――ご遠慮申し上げます」
低く言い放ち、絡みついて来る触手の牽制も兼ねて閻魔王ごと斉射を浴びせる。これは寒気だ。自らの恥部をさらけ出された時、人は恥ずかしさよりも空寒い感情を覚えることがあるのだなんて一生知りたくなかったぞこの野郎。
「おっとォ」
こちらがやる気と見た『英雄』は上着を指で跳ね上げ、中に仕込んであった銃を抜いた。無骨だがよく手入れされた勇人のそれとは違い、オートマチックの洗練されたデザイン。なるほど自分の延長上にいる存在だからかまるっきり違う戦い方をするわけでもなさそうだ。
勇人は閻魔王を弾幕で牽制しつつ、もう片方の手に握り締めたスパナで殴りかかる。先制の弾丸が頬や肩口を掠めるが構わない。
「ちッ」
仕留めきれず、懐に入られた『英雄』はスパナを銃身で受け止めつつ後方へ転がって距離を空ける。
「……このヘルメットも迷彩服も、確かに
今じゃ『恥ずかしい過去』だ」
でも。
「お前は忘れてる」
「何を――」
「志を、だ」
ぐい、とヘルメットを上げて勇人は真っ直ぐに『
英雄』を見つめた。サングラス越しの瞳の色だけは今の勇人と変わらない。
「これを選んだかつての俺にはそれがあった。にも関わらず、お前はそれを思い出せないんだろう? ならば俺は負けやしない。お前に勝ち、この戦場を超えてみせる」
「はッ、口先だけなら何とでもいえるよなァ……!」
『英雄』の指先が引き金にかかった。
構わず、勇人は前へ。
「あばよ、昔の窒息寸前だった俺」
一発で殺そうとしたのは、自分の腕を過信する心からかそれとも――。
顔を狙った弾丸は俯いた勇人のヘルメットによって弾き逸らされた。目を見開いた『英雄』にカウンターの一発がめり込む。
「う、そだろ……ッ?」
そのまま仰向けに突き倒し、彼に回復の触手を伸ばしかける閻魔王へ再び銃口を突き付けて。何かを言う暇も与えず叩き込むありったけの弾丸。完全な弾切れになるまで勇人は引き金から指を離さなかった。
大成功
🔵🔵🔵
山吹・慧
あの英雄は僕が全てを…
友も仲間も愛する人すら切り捨て、
人の心を捨て、強さだけを求めた姿。
そのような強さなど認められるものではありませんッ!
僕は彼女や彼らがいたからこそ
ここまで来れたのですッ!
閻魔王の先制には【リミッター解除】した
【衝撃波】の【乱れ撃ち】で触手を【吹き飛ばし】て対処。
英雄の先制は【集中力】による【気功法】で
気を読んで回避。
凄まじい攻めですが守るものがない故に
攻撃重視で実に読み易い。
そして自分の命すら守ろうとしないが故、防御が疎か。
攻撃の隙を突き【功夫】の【カウンター】で反撃。
仲間を巻き添えにする事も厭わないので
【グラップル】で閻魔王を盾にして【魔斬りの刃】で
2体纏めて攻撃します。
強さを求める者の前に、その命題は常に現れる。
人の心と強さを天秤にかけて。
最強になるために、その片方を捨てる覚悟はあるか――と。
得心、だった。
その『英雄』はそういう意味で、山吹・慧(人間の玄武拳士・f35371)が思っていた通りの姿をしている。
今の自分から友を捨て仲間を裏切り、愛する人すら斬り捨てたらきっとこういう顔をしているのだろう。
「どうしました? 僕はあなたの理想とする姿をしていると思いますが……どうしてそんな目で睨むのです」
「さすが、人の心を捨てただけのことはありますね。今の僕の気持ちを察することもできないとは驚きです」
慧は手袋を嵌めながら、きっぱりと告げた。
「あなたは大きな勘違いをしています。強さだけを追い求め、人であることを捨てた強さなど認められるわけがないッ!」
「それは綺麗ごとです」
そう言って微笑む『英雄』の非人間的な笑顔といったらない。
「誰もが強さを求めている。あの聖杯を手にした女もそうだ。強さとは絶対的な指標である」
「……あなたは黙っていてください」
慧は短く言い、手袋を嵌めると同時に限界まで振り切れた功夫を衝撃波の形で乱れ撃った。触手が飛び散り、辺り一帯に吹き飛ぶ中を『英雄』が動く。慧と鏡映しのような動きだが、速さも威力も桁が違った。
「『英雄』の名は伊達ではない」
「そういうことです」
――ならば、慧は証明せねばなるまい。
「本当の強さとは」
「!?」
慧を捉えたと思った拳が空を切った。
常軌を逸した集中力で気功を操り、『英雄』の気を読むことで攻撃を先読みしたのである。
「ふッ、どうやら運がいいようだ」
いつかは当たるだろうと軽く考えた英雄は続けて攻撃を繰り出す。手が届く距離に置いては投げ、距離が離れたら衝撃波で追い込み、隙あらば必殺のグラップルを叩き込む。
凄まじい攻めだった。
躊躇がない、迷いがない。
殺すことも、死ぬことすらも。
(「――だが」)
だからこそ、攻撃重視が過ぎて逆に読み易い。
揺らぎがなく、機械のように最も有効な打撃を組み立てるだけの死んだ拳。
「?」
そのうちに彼も気づくだろう。
なぜ、当たらないのか。
なぜ、慧は倒れないのか。
「……強さとは、人の心があってこそ至れる境地。僕は彼女や彼らがいたからこそここまで来れたのですッ!」
「ッ――!?」
唐突な反撃を『英雄』は躱せなかった。
心がなければ、自分の命に対する感受性もなくなる。
「おのれ……」
来たる反撃を予測し、慧はとっさに閻魔王の襟首を掴んで『英雄』の前に差し出した。
「なにをする!」
直後、大量の触手が拳を受けて爆ぜた。ほら、誰かを傷付けることも厭わないから同士討ちだってこんなに簡単に起こってしまう。
慧の構える両手に宿る手刀は魔斬りの刃。
もはやあれは『英雄』ではなく――『悪』。
ゆえに2体纏めて、絶つ。
右手の刃が『英雄』を、左手の刃が閻魔王を同時に切り裂いた。
「未来の可能性のひとつと此処で出会えたこと、それ自体には感謝します。おかげでより、皆を大切に想う心が強まりました。僕の歩む道は間違ってはいないのだと胸を張って言えるのですから」
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
信じたくない未来の自分、それはきっと…。
残酷な未来への覚悟を決めて飛び込むと、そこには邪神様なりきりセットに身を包んだ
自分が…。
待って下さい!普通そこは『色々なものに絶望して邪悪な存在に成り果てた自分』が出てきて、それでも諦めずに戦うというのが王道でしょう!?
『汝にそのような未来は無い。』と一言で切り捨てる閻魔王と、「あれだけデビルキングワールドで好き勝手やっておいて何を今更。」と笑い飛ばす自分。
詩乃は激怒した。それはもうメロス並みに。
閻魔王と自分(攻撃方法はお任せ)の先制攻撃は第六感と心眼で予測して、”結界術・高速詠唱による防御壁”または”オーラ防御を纏った天耀鏡による盾受け”または”見切り・ダンスで舞うように回避”で対応。
それでも危険な時は念動力で身体を移動。
《神性解放》発動。
残像を残しつつのUCの高速飛翔で幻惑し、神罰・光の属性攻撃を籠めた煌月によるなぎ払い・衝撃波・範囲攻撃・鎧無視攻撃で閻魔王ともう一人の自分をまとめて斬ります!
非常に不愉快でした…😡。
「此処が、閻魔王を名乗る『生と死を分かつもの』の拠点ですか……『
闇の大穴というだけあって、今にも吸い込まれそうな深い闇です……それでも、行かねばならないのなら参りましょう」
大町・詩乃(阿斯訶備媛アシカビヒメ・f17458)は毅然と背を伸ばし、閻魔王の前に進み出る。
「よくぞ来たな」
「覚悟ならできています。きっと残酷な未来が待ち受けているのでしょうね。ですが! たとえどんな姿の私を見たとしてもこの決意は揺らぎません」
啖呵を切った詩乃の前に現れたのは、邪神となった自分――ではなくて。
「え?」
「私は邪神様なのです。見た者は死ぬのです」
未来の『
英雄』は不気味な被り物を着て言った。
「え?」
「さあ、早く死になさい!」
「…………ふぁー
!!!!!!!!????????」
詩乃の顔が火を噴いた。
耳まで真っ赤だ。
なんですかこれなんですかこれなんですかこれ!?
「待ってください! 普通そこは『色々なものに絶望して邪悪な存在に成り果てた自分』が出てきて、それでも諦めずに戦うというのが王道でしょう!? これ、単なるなりきりじゃないですか。コスプレじゃないですか!!」
「汝にそのような未来は無い」
と閻魔王。
一言で斬り捨てられた。
「あはははは!」
一方の『英雄』はひとしき笑った後で言う。
「あれだけデビルキングワールドで好き勝手やっておいて何を今更」
「お、おのれー!!」
詩乃は激怒した。
それはもうメロス並みに。
ということは国語の教科書に載るレベルということだ。
問題です。
この時の
登場人物の心情を答えなさい。
「答えは、非常ッにッ、不愉快です
……!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
どうやら『英雄』はなりきりごっこを続ける間にそれっぽい能力を得ているらしかった。何やら唱えるとその身体は自在に色々な形を取ってこちらを翻弄する無貌の技……かと思いきや、幻影で誤魔化しているだけらしく見破られたらジ・エンド。
「そういうことですか!」
第六感によってからくりを見切った詩乃は心眼で幻影を無効化しつつ、瞬く間に高速で紡ぎ上げた結界によって閻魔王の触手を跳ね除けた。
「まずはその邪神様なりきりセットを没収します!!」
天耀鏡を盾のように使い、死の境界だなんて物騒な名前の触手にできるだけ触らないよう回避する。
「しつこいッ!」
後退する足取りはまるで舞踏を踏むような華麗さで。
『英雄』がひそひそと閻魔王の耳に囁いた。
「分かつちゃん、私は右から行くから左からお願いしますね」
「承知した」
どうやら、結構仲がいいみたいだ。
「待ちなさい! いつの間に友誼を結んでいるのですか!? そんなに仲がいいなら、纏めて斬ります
!!!!!」
挟み撃ちにするつもりならばむしろ好都合だ。
詩乃の身体を若草色のオーラが包み込む。同じ色の残像が『英雄』の幻影を引き付けながら戦場を高速で飛翔、待ち受ける閻魔王に向かって
薙刀を薙ぎ払った。
「おお……ッ?」
ほろほろと崩れるように閻魔王の触手が消滅する。その刃に宿した神性なる光が神罰を与えたのだ。詩乃は更に武器を振り回し、竜巻のように生み出した衝撃波が『英雄』をも巻き込み斬り伏せる。
「まったく、とんでもない相手でしたね!!」
忘れたい、と詩乃は嘆いた。
「これじゃ黒歴史が増えただけじゃないですか? あああああ、忘れたい!!」
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
武器:漆黒風
私たちは、四人の悪霊ですが。外部認識で一人にまとまった存在です
いつしか、その境はなくなって、本当に一人になった私が目の前に
信じたくはありませんよ。だって『四で一』ですからねー
素早く四天霊障の封印を解いて範囲攻撃、それで英雄の攻撃も触手も吹き飛ばしてしまいましょう
私ベースで『一つ』ならば。あなたは突っ込んでくるでしょう
ですが、だからこそ攻撃が読みやすい
戦闘知識からの見切りで回避、漆黒風を投擲していきましょう…もちろん、UCつきで
四天霊障は、私の制御外れてますから、相手には読みづらい攻撃でしょうね
彼を見た馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)――その第一『疾き者』は「おやおや」とため息をついたものであった。
未来の可能性の一つ、『英雄』となった彼は四人ではなくなった一人の
私として義透の前に顕れたのである。
「これはそなたの未来の可能性のひとつ。さあ、どうだ? 受け入れる心の準備はできているか」
「ははは。正直言って信じたくはありませんねー」
閻魔王の勝手な口上を義透は笑い飛ばした。
だって、これではもはや義透とは呼べまい。
「『四で一』が私たちですから。四人の悪霊が外部認識で一人にまとまった存在……だから定義からして崩壊しちゃってます。というわけで、さようなら」
襲いかかる触手を吹き飛ばすのは素早く封印を解かれた四天霊障の重力波だった。閻魔王は起き上がり小法師みたいに倒れ込み、『英雄』は自分の突撃を読まれていたことを知ってすぐさま飛び退こうとする。
「それもわかってますよ」
なにしろ、相手は自分。どうしたらこうするという戦闘知識や経験があれば他の誰よりも動きを読みやすい存在だ。
『英雄』が後退しながら放つのは漆黒風が形を変えた投擲具。義透はその武装に他の悪霊たちの影響を見た。なるほど、一つになっているだけあってその威力は桁違い――だが。
「当たらなければどうにもなりませんよねー」
飄々と見切り、投擲した漆黒風に乗せた『|風《トノムラヨシツナ』が『英雄』の身体を裂いた。避けられるはずだった。
――四天霊障が義透の制御を外れてさえいなければ。
「ッ――
……!?」
ずしん、と上から落ちてくるそれ。全く動けなくなった『英雄』はどうにか抜け出せないものかと一通り足掻いた。
「無駄ですよ」
ぽつりと義透が告げる。
「だってそれ、私にもどうなるかわかりませんから。読みづらいでしょう?」
やがて、彼の目の前に漆黒風が迫り、急所を貫いて。
「勝負あったか」
閻魔王が感情の読めない声で呟いた。
「お前の勝ちだ、猟兵。『英雄』が失ったものがお前の中に生きている」
大成功
🔵🔵🔵
鈴鹿・小春
…家族、皆を守る為に今一度倒す…!
英雄の武器は合体剣の通連…だ、ね…?
待ってあの箱まさか玉鋼の塗箱!?
恋を果たすために、邪魔するものを喰らいましょう…完全に代償食らってるし!
力求めて塗箱奪取して只管喰った未来…どれだけ犠牲重ねたんだろ。
生きて、愛した人を守る為には力がいる。いつか分かる日が来る…って。
そんな未来認められないよ。その感じだと仲間ももういなくなってるだろうし、絶対に超える!
触手はオーラ防御で防ぎつつ見切り生命力逆に奪い切り払う。
英雄は合体剣の間合い、塗箱の超強化に注意し捕食形態の攻撃を見切り斬撃波当てて鈍らせ怪力で受け流す。
兎に角防御に専念し凌ぎ耐えて、準備できたら鮫剣で受け流しながら捨て身で合体剣掻い潜り、小通連に持ち替えつつ懐に飛び込み零距離からUCの連続コンボ叩き込み練り込んだ気を流し込んで石化させるよ!
そのまま石化した英雄を閻魔王に怪力で投げつけ奇襲、一気に近づいてUCの連続攻撃叩き込み畳み掛けるよ!
…そんな力の合わせ方、繰り返しちゃダメなんだ。
※アドリブ絡み等お任せ
「来たか、猟兵」
『
闇の大穴』の主である閻魔王『生と死を分かつ者』は過去と未来が混然一体となった戦場にひとりの『英雄』を取り出した。
「これはお前の未来の可能性のひとつ。さあ、これを見てどう思う? 感じるのは喜びか戸惑いか、それとも――」
鈴鹿・小春(万彩の剣・f36941)の眼前に顕れた『英雄』の武器はある程度予想がついていた。それは『通連』、合体剣の。それはいい、いいのだが――。
「……その手に持ってるの、まさか玉鋼の塗り箱!?」
驚愕する小春をよそに、『英雄』は何ともじゃ悪な顔で笑うのだった。
「恋を果たすため、僕は決めたんだ。邪魔するものは全て喰らうと……他には何もいりません。過去の僕も世界すらも」
「あちゃー、これ完全に代償食らってるよ……駄目だこれ、全然話が通じない」
それでも、小春は聞かざるを得なかった。
「目的は分かったけど、いったいその塗り箱どこで手に入れたの? もう結構喰べちゃった? ……いったいどれだけの犠牲を重ねたのか想像するだけで恐ろしいよ……」
「知りたければお前もこうなればいい」
「いや、遠慮します」
即答。
「僕はもっと別の未来の可能性を選ぶよ、うん。絶対に」
「お前にも分かる時が来る。生きて、愛した人を護る為には力がいるんですよ」
「暴論だ……そんな未来認められないよ。だって、その感じだと仲間ももういなくなってるよね? そんなの絶対にいやだ!」
だって、小春は家族や皆を守るために戦っているのだから。
「話は終わりか?」
「あなたも黙っててください!」
にじり寄る触手を生命力吸収の念を乗せた気で跳ね除け、捕食形態を取った合体兼の間合いに入り込まないよう慎重に距離を取る。
なにしろ、あの塗り箱はまずい。
「あれってやっぱりやられたら僕も喰われちゃうんだろうな……冗談じゃないよ。いくら未来の可能性のひとつっていったって、『
英雄』にやられるのはごめんだって!」
小春は牽制するように斬撃波を当て、勢いを鈍らせた後で受け流す。それでも凄い力だ。持ち得る怪力を全開にしてやっと、脇へ払いのける。
とにかく、小春は耐えた。
凌いでいればいつかチャンスは回って来る。格上だからといって、体力が無尽蔵にあるわけはないのだ。こうやって昔の自分相手にいい気になって力を奮っているうちに必ず、隙が生まれる時が来る。
「防御ばかりじゃ勝てませんよ」
「わかってるよ、そんなことは! ――今だ、銀狐八点衝!」
小春は合体剣の襲撃を鮫剣で受け止め、うまく身体を捌きながら力点を移動。真横へ受け流して立ち位置を入れ替える。捨て身だ。合体剣の真下を死ぬ気で潜り抜ける小春に狐の耳と尾が生え、九尾扇の『小通連』を手に取る。
「まさか?!」
カウンターの形で懐に入ったので、相手はまだ反応が効かない。そこからは一瞬だった。星が瞬く刹那のような閃きの間にコンボを入れ、のけぞったところへ叩き込む白虎の一撃――!!
「ふう」
無事? に石化した『英雄』を小春は怪力で持ち上げる。それをどう使うのか――想像を超える一撃が閻魔王を襲った。
「えい!」
――投げた。
「おお?」
うっかりそれを抱き留めてしまった閻魔王が重みで動けない間に、『小通連』の連撃が彼を襲った。何度も斬り付け、触手ごとばらばらにする。
「……そんな力の合わせ方、繰り返しちゃダメなんだ」
小春は自分に言い聞かせるように言った。
呪いの剣と、呪いの箱。
そんな組み合わせで道を踏み外したのは、かつての
彼らだけでいい。
大成功
🔵🔵🔵
石蕗・つなぎ
「お豆が良いんだったわよね」
胸だけ成長してない未来の自分に今から対策を取っておけばその未来はあり得ないと克服
先制攻撃は第六感にも手伝って貰って見切って躱す
残像を伴い可能なら受け流したり未来の自分やオーラも盾に
未来の自分に関してはこちらと同じオブリビオンにしか効果のないUCならスルー
「当たってあげるつもりはないわ」
他のUCなら分かつもの同様に見切って躱します
「今度はこちらの番よね」
分かつものの巨体なら当たりやすいだろうと範囲攻撃し、斬撃波と衝撃波の二回攻撃の追撃に続けます
「食らっておいて」
未来の自分が妨害に来るなら赤手で掴んで分かつものの攻撃の盾に
「流石にシールドバッシュにまでは使わないけど」
他の誰が気にしなくていいのに、って言っても自分では認めたくないことってある……よね?
石蕗・つなぎ(土蜘蛛の白燐蟲使い・f35419)は未来の『
英雄』を見てから、ぽつりと言った。
「お豆が良いんだったわよね」
「?」
閻魔王が首を傾げる。
「なんの話だ」
「お豆」
「だからなんの」
「……豆」
それは、胸だけ成長していない未来の自分を克服するための決意。
まだ成長期は終わっていないもの。
帰りに豆乳のパックを買っていこう。
それが別の未来の可能性を実現するための第一歩。
――つなぎ、頑張ります。
「吾人はそれぞれのよさがあると思うのだが」
「あなたの意見は聞いてないの」
第六感に従い、つなぎは赤手で触手を払いながら横へ跳んで攻撃を躱した。残像のせいで狙いが定めにくかったらしく、少し迷うように泳いだ隙に『英雄』の背後に回り込んで更に攪乱する。
「そなたも手伝え」
「それが……」
未来の『英雄』はつなぎらしい口調で言った。
「オブリビオンにしか当たらないから」
「何だって?」
「これ、破魔矢。闇を祓うためのものだから人には効かないのよ」
「なんだって? あたたたた!」
試しに戦場へ矢雨を降らせてみると、案の定、閻魔王にだけ突き刺さる。
「やめ! やめなさい!」
閻魔王は慌てて攻撃を止めさせ、せめてこちらが戦いやすいように支援を頼んだ。未来の『英雄』は頷き、赤手を構える。
だが、反撃の準備を整えたのはつなぎも同じで。
「今度はこちらの番よね」
幸い、閻魔王は巨体。
当てやすい、と判断して一気に矢雨を降り注ぐ。さっきの『英雄』と違って今度は本気だ。閻魔王は逃げ場を求めるが、射程外まで逃がすつもりはつなぎにもなかった。
すかさず、赤手を振るって追撃を入れる。
「おお!?」
閻魔王の背をざくりと斬撃波が刻んだ。
続けて、第二陣の衝撃波。
タイミングをわざと外した攻撃は彼をこの場に転がした。その体勢からも触手は放つことができる。つなぎはとっさに、閻魔王を庇うために両者の間へ割り込んだ『英雄』を盾にすることを思いついた。
「食らっておいて」
「え?」
赤手で肩をつかみ、相討ちの形で触手の盾に。
「流石にシールドバッシュにまでは使わないけど」
どうやら勝負あったみたいだ。
つなぎはちら、と自分の胸を見る。
「大丈夫。まだ時間はあるわ」
大成功
🔵🔵🔵
ヤーガリ・セサル
『祈る』、ことで結界を作り、UCをしのぎます。
祈りはあたしと共にあり、少なくとも、まだ祝福はあるようですから。
ああ、獣性に飲まれ人をやめたあたしがいる。
バーヴクトすら殺し、血肉を喰らいその座につき。
神には背き、痛む手はとうに切り落としているのでしょう。
あたしがいまだにひととしてもがいているならば、わかる。
あたしが奇跡行使の果てに塵となるならば、まだわかる。
あたしが、魔術師としてバーヴクト、獣しか友のない悪魔に侍ることもまだわかる。
あたしはひとを愛しています。陳腐な言葉ですが。
ターマイェンをあたしは愛しています。地獄を選ぶなら、彼に見られながら堕ちましょう。
バーヴクトは、あたしを愛しました。あれの孤独に寄り添うならば、とことんまで。
全ての愛を否定した先にあるのは、ひとの終わりです。
あたしは英雄より、ひとの生を望む。
祈りを込めてあたしへ、「あなたへの言葉」を。
あなたがまだ人のあたしを思い出すならば、共に敵を討ちましょう。
そして、謝ります。どこかのあたしが、そのような未来を選んだことに対して。
『
闇の大穴』――その名に相応しき闇と領域を滑る閻魔王はヤーガリ・セサル(鼠喰らい・f36474)の前にひとりの『英雄』を取り出して見せた。
「これはそなたの未来の可能性のひとつ。さあ、とくとご覧あれ」
彼はゆっくりと進み出た。
彼はうっすらと微笑んだ。
彼の心に人としての理性は残っていなかった。
ああ、とヤーガリは悲嘆する。
それは獣性に飲まれ人をやめた
自分だったから。
「いくつかお尋ねしてよろしいでしょうか」
「なんなりと」
「バーヴクトがいないようですが」
「殺しました。血肉を喰らい、その座を簒奪するために」
彼は言った。
罪を罪とも思わず、神への背信を畏れもせず。
「痛む手は……とうにありません」
「切り落としたのですね」
「よくご存じで」
ああ、とヤーガリは痛哭する。
「取り返しのつかないことを……」
自分が、未だに人としてもがいているのならば、わかる。
あたしが、奇跡行使の果てに散りとなるならば、まだわかる。
魔術師が、ハーヴクト、獣しか友のない悪魔に侍ることも、まだわかる。
「あたしはひとを愛しています。」
その祈りを結界と変え、ヤーガリは襲い来る触手から身を護った。『英雄』の攻撃にしても同様に。幸か不幸か、『英雄』が人の道を堕していたことは祈りと祝福の“敵”として拒絶と守護の在りようをはっきりと示したかに見えた。
けれど――けれど。
ヤーガリは呻いた。
彼の力が、まさしくバーヴクトを想わせたから。その血肉、座を得た時にそっくり成り代わったのだ。なんてことだ。
「……陳腐な言葉かもしれませんが、愛しています。ターマイェン。地獄を選ぶなら、彼に見られながら堕ちましょう」
『英雄』は何も答えない。
能面のような顔と、得も言われぬ不気味さを湛える瞳が過去の自分の告白を眺めている。
「そして、バーヴクトはあたしを愛しました。あれの孤独に寄り添うならば、とことんまで……では、あなたは? 『英雄』となったあなたに愛はありますか」
真っ直ぐにヤーガリは『英雄』を見つめた。
嘘は許さない。
偽りは何も齎さない。
暴くのだ、彼が何も持たぬことを。
そして許しを乞うのだ、ヤーガリがどこかの時点で何かを間違い、そのような未来に彼を歩ませてしまったことに対して。
「全ての愛を否定した先にあるのは、ひとの終わりです。あたしは英雄より、ひとの生を望みましょう」
祈りを込め、
あなたへの言葉を未来の『英雄《あたし》』へ伝える。そっと差し伸ばす指先はあまりにも真摯かつ愚直。『英雄』は笑ってその手を刈ることもできただろう。だが、そうはしなかった。
「どうしたのだ? 『英雄』。お前は過去の自分と戦わねばならない。それがお前を呼び出した吾人との約束――」
ハーヴクトの力が閻魔王の触手を断つ。
彼は言った。
「下種な口を慎んでください」
そして、共に敵を討つ。
痛みと愛しさが同居する共闘であった。ふと一緒に戦っているのがハーヴクトであると錯覚してしまうほどに。その錯覚こそがその世界戦からハーヴクトが失われたことを示しているからこそ、ヤーガリは深い絶望と贖罪の意識に苛まれながら戦う他なかったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
楊・暁
【朱雨】
英雄は罹る前の大人の俺
闘い方も今と同じ
霊媒以外での戦法
昔は唯喚び従えるだけで
霊の事なんざ微塵も考えなかった
更に幼い頃は命を奪う事に躊躇い恐怖した
けど殺(や)らなきゃ殺られる
だから心を殺した
霊へ心寄せる事もやめた
惑って死ぬか気が狂っちまうから
今は霊を喚ぶのが怖ぇ
命と想いの塊みてぇな魂(もん)を
無数の命奪い霊を粗雑に操ってきた俺が扱える自信がねぇ
でも断末魔の瞳はまだ在る
だから
瞳で視えちまう場所は避けてきた
俺の罪を問うならそれは
自分から逃げてきた事だ
想い浮かべ語りかけたらどうだ?と前に言ってくれた
ああ、藍夜
四つ花(あいつら)は笑ってる
花みてぇに
英雄(お前)の事はよく知ってる
けど"本当の"藍夜のいねぇお前に負ける気はしねぇ
敵の攻撃は剣圧で吹き飛ばしかオーラ防御
UCでカウンター
青白く揺らぐ霊魂の様に炎を繰る
怖ぇだろ?俺も怖ぇ
でも逃げてばかりは嫌だ
藍夜の声だけ聞いて姿だけ見て
傘の下がある俺は揺らがねぇ
望む未来を掴む為
自分の非力さに嘆かねぇ為に
この先も俺は強くなる…!
御簾森・藍夜
【朱雨】
それは心音の戦い方
でも違う
俺の知っている心音は“俺”と一緒に戦ってくれる
気が付いたら自然に
俺も、気付いたら心音と戦うのは当たり前になってたんだ
でもお前に俺はいないんだ
だって…あっちの俺は一人で木に取り憑かれてやがる
そうだな、なりたかった…ヤドリギの魔女―…
でも俺は雨を降らせ、雲間からは月光を
それが俺の全て
雨降り男で月の魔女となった俺
俺を知ってくれた心音は、俺の朝だから
俺の雨は木々を腐らせ食うだろう
俺の月光は一人ぼっちの影を伸ばすだろうUC
俺には朝がいる
なぁ心音、今―どうだ
ちゃんと
四片の花の笑顔は浮かぶか
ほら、前話しただろ?
俺がお前を死なせない俺の雨と月はお前を守る
本当に聞かなきゃいけない声を恐れなくていい
いらない声は全部雨の音が消す
傘のうちの声は俺が聞く
その目は、朝は俺から離すな
怖いところから逃げていい
でも必ず
ここに帰ってきて
俺はいつでもここにいる
だから―なあ
英雄
寂しいよな
知ってるよ
苦しいよな
分かるよ
だから寂しさも苦しさも終いにしよう
閻魔王『生と死を分かつ者』は何を考えているのかわからない顔で『これ』と『これ』なんて言いながら懐を探って2人の英雄を取り出してみせた。
そしてお約束のように言う。
「彼らはそなたが未来の姿のひとつ。信じたくなくば己の胸に問うがよい。その理由は、いったい――?」
九尾扇を口元に当て、澄ました顔で楊・暁(うたかたの花・f36185)を見つめるのは運命の糸症候群に罹る前、年相応の姿をした大人の
自分だった。
「俺から行くぞ」
断りを入れるところが律儀だな、と思っているうちに黒い子狐が彼の周囲に顕れる。暁はとっさに薙ぎ払った打刀で急所に至る傷を防ぎ、飛びかかって来るのを順番に吹き飛ばす。オーラの上から鎧無視の力で襲いかかる牙や爪はかなりの脅威だ。
「霊媒の力は使わないんだな」
「お前には関係ねぇ」
「とっくの昔に心を殺しちまったもんな。霊へ心を寄せるってのは大変だ。下手すれば惑って死ぬか気が狂っちまうから」
「黙れよ」
――昔は、霊の事をただの道具だと思っていた時期があった。喚べば応える便利な存在。更に以前はそもそも命を奪うことが怖くて、躊躇いがあって。けど
殺らなきゃ殺される……だから、心を殺して何か感じるのを止めたんだった。
「あれは心音の戦い方だ」
御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)の囁きに暁が頷いた。
「だが、違う。あれは心音じゃない。敢えて呼ぶならば、暁、と」
それはとても他人行儀な呼び方だが、藍夜としては『
英雄』を心音とは間違っても呼びたくない。
「あれは“俺”の隣にはいない。だから心音ではない。だって、あっちの俺は――……」
藍夜は戦場の片隅でヤドリギと融合する『
英雄』に目を向け、微かに眉根を寄せる。木に憑りつかれているというのにどこか幸福そうな薄ら笑いを浮かべているのがひどく不愉快だ。
それも仕方ないことかもしれない。だってあれは、自分がなりたかったヤドリギの魔女になれた姿。ある意味では理想の姿なのだから。
「『英雄』になった彼らはとても強い。そなたらがないものを持ち、そなたらから何かを欠いているといった違いがあろう。そして、決して許せない部分があるはずだ。その理由を述べるがよい」
閻魔王は触手から浄玻璃鏡を取り出しながら尋ねた。
だから、これが先制攻撃の一環であると知れる。
暁は微かに唇を震わせ、ごくりと喉を鳴らした。
「……それは、俺の罪を突き付けてくるからだ。自分から逃げ、霊への恐怖を克服できなかった弱さが巡り巡ってそいつのツケになっちまってる」
正直、今だって霊を喚ぶのが怖いのだ。
あれは命と想いの塊のような
魂だから、どうやったら無数の命を奪い、その霊魂を無造作に自分の思うままに操って来た俺に従ってくれと頼める? 恨んでいるだろう、憎んでいるだろう。だから怖い。扱える自信がない。
――なのに、まだ
断末魔の瞳は在るんだ。
「ずっと、
そういう場所を避けて生きてきた。それが俺の過去。そこから派生した未来の『
英雄』の成り立ちだ」
「なるほど」
閻魔王は頷き、今度は藍夜を見る。
「そなたの理由はなんだ?」
「いないんだ」
「いない?」
「あっちの俺には、心音がいない」
彼は一人ぼっちで雨を降らせている。
あれでは何も癒せない、ただ腐らせるだけだ。そしてそれを自分で食らう。孤独な循環。雲間からは月も差さず、朝の来ない夜を延々と生きるだけの屍……。
「心音がいなければ、俺はああなってしまうんだ。だからそうならなくて済んだ俺の、これが出来る精一杯」
一人ぼっちの影を伸ばしてやれ、狐雨降る星夜の月よ――……。
藍夜は言った。
俺には朝がいると。
じゃあ、心音には今――どうだ。
「ちゃんと
四片の花の笑顔は浮かぶか」
「ああ、藍夜」
心音が言った。
四つ花は笑っていると。
ほら、花みてぇにさ――なあ。
『英雄』との戦いは苛烈を極めた。
暁は彼のことをよく知っている。
だからこそ、負ける気はしなかった。
「……お前は一人で平気なのか? 寂しくはねぇのかよ」
抜き払った打刀の周囲に揺らめく幻楼火に彼が一瞬怯えるような反応を返したのを見逃さない。
「安心しろ、俺も怖ぇ。でも逃げてばかりも嫌だから、……向き合うさ。恐れも怯えも全部受け止めて。じゃなきゃ前には進めねぇ」
――
傘の下がある自分は、決して揺らいだりしないから。
「――、俺は」
何かを言いかけた『英雄』を青白く揺らぐ霊魂のような炎が取り巻いた。打刀で薙ぎ払うが、ぽんと爆ぜて体が痺れる。
「月が綺麗だろう。お前の雨は既に流れ、俺のそれが戦場を支配する」
藍夜の顔は傘に隠れて半分ほどしか見えなかった。
隣では暁と彼の『英雄』が死闘を繰り広げている。藍夜の月はさりげなく彼を照らして支援するまでだ。
決して、お前を死なせない。お前を守る。癒す。
『英雄』が何かを言いかけたが、続く言葉は全部雨の音がかき消した。傘のうちの声は俺が聞くから
断末魔の瞳は――朝は俺を見て。俺から一時たりとも離さないで。
「逃げてもいい、怖くても大丈夫。でも必ず帰ってこい、心音。俺はいつでもここにいる」
「ははッ」
嬉しそうに暁が笑った。
「聞いてるよ、藍夜。見てるよ、お前だけを。さあ、望む未来がこの戦いにかかっているんだ。後で後悔したくねぇからさ、非力な自分に嘆くのはもう終わり。『
英雄』を倒して俺は強くなる。この先もずっと……!」
「――ずるい」
『英雄』が顔をしかめ、子狐を連れて幻楼火の向こう側へ消えてゆく。
「何が、強くなるだ。そんなの……くそッ!」
「さあ、後はお前だけだ――なあ『
英雄』」
虚ろな目を向ける未来の自分に藍夜は自嘲ぎみに微笑みかけた。どちらかというと笑顔というより泣きそうな顔だった。
彼の寂しさを知っている。
苦しさがわかってしまう。
だから、もう終いにしよう。
「寂しさも苦しさも今日までにして、朝が来たら……楽しいことをしよう。とびきりの未来を生きるために」
けぶる雨に溶けるようにして『英雄』は輪郭を崩していった。元の場所に戻るのだろうか。次第に何も見えなくなってゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵