――これは、あり得たかもしれない冒険の1ページ。
「やれやれ、冒険者如きが儂に歯向かうとはのう」
「くっ、離せ……!」
アックス&ウィザーズのとある貴族領。
圧政に苦しむ住民から依頼を受け、悪徳領主退治に向かった桐府田・丈華(カードバトルゲーマー・f01937)はしかし、罠に嵌まり囚われの身となっていた。
こちらを見下ろす領主の勝ち誇った顔を睨むと、殴り付けてやりたいと拳を握る。だが強固な手枷足枷を嵌められ、抵抗は許されない。
「くっくっく、貴様は見せしめに使ってやるとしよう」
「や、やめろっ……ぐっ!!」
乱暴に枷が引っ張られ、ズルズルと引きずられていく丈華。その行く先は、領主館前の広場。集められた住民達が、絶望の表情でこちらを見ている。
期待に応えられなかった申し訳なさに、その顔を直視出来ない。特に丈華に依頼した住民達は、過酷な罰を受けるのだろうから。
もっとも……そんな彼らに気を使っている場合でもない。広場の中央に置かれているのは、使い込まれた絞首台なのだから。
「ひっ……」
「可哀想になぁ、ま、恨むならお前に依頼した連中を恨むんだな」
思わず引き攣った声を漏らす丈華に、領主の私兵が嘲笑を向けてくる。焦りから暴れようとするが、当然枷は外れない。
それに、猟兵としてではなく、冒険者として受けた依頼だ。救援も望めない。もはや彼女に出来る事は、ただ、処刑台への道を歩く事だけ――。
「処刑なんかされて……たまるもんかぁっ!」
「うぉ、なんだっ!?」
いや。どんな絶望的な状況でも、彼女にはカードがある。服の下に予め潜ませていたそれが、まさしく最後の切り札だ。
ただのカードが彼女の武器になるなど、私兵達も想定していなかったのだろう。身体検査でも見通されたただ一枚から、キャラクター達が召喚され、私兵達を薙ぎ払う。
「ええい、何をしておるっ! さっさとそやつを捕まえんか!」
「退いてっ! 邪魔すると怪我するよ!」
さっきまでこちらをニヤニヤと見ていた領主達が、慌てふためき私兵達に指示を送る。キャラクター達に枷を破壊させた丈華は、すぐさまその領主へ攻撃を仕掛けた。
もし逃げたら、住民達がどんな目に遭わされるか。そう思えば、ここで領主を倒す以外に道はない。狙いは領主一人、それさえ倒せば、私兵達は戦意を失うはず――。
「退いて……退いてってばっ! キミ達に用はないんだからっ……!」
「ぐっ、そうはいかねぇなぁ!」
だが。領主が生きている限り、彼らは領主に従う。住民を弾圧し、私服を肥やして集めた私兵達は、予想以上に数が多い。
一体、また一体と損耗していくキャラクター達。領主まであと少しなのに、その距離が絶望的に遠い――。
「おら、捕まえたぜ!」
「しまっ……は、離せっ、ああっ!?」
そうしてついにキャラクターが全滅し、丈華も私兵達に再び捕まってしまう。カードも奪われ、完全に抵抗の余地をなくした彼女を、強引に処刑台に連れていく私兵達。
複数人の男に押さえつけられれば、少女である丈華に抵抗の余地などない。処刑台の上に、為す術なく押し上げられていく。
今度こそ、彼女に出来る事は何もない。
「や、やめろっ、やめっ……こ、殺さないでっ、いやぁっ!?」
「うるせぇ、大人しくしろ!」
ついに、首に縄がかけられる。絶望と恐怖に表情を歪めながら、必死に爪先を立てて足場の上に立つ丈華。
だが、その足場に、私兵の一人が足をかけ。
「ぁ――」
ガン、と足場が蹴り飛ばされると、浮遊感と共に、首に縄がめり込んだ。呼吸と血流が断たれ、首の骨が軋み、そして――。
――それから先、丈華が自分がどうなったかを知る事は、永遠にない。
成功
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