第二次聖杯戦争⑦〜色彩浮遊泳
●グリモアベースにて
第二次聖杯戦争において、金沢市の各地でオブリビオンの襲撃が予知されている。予知のあった場所のひとつ、金沢21世紀美術館では、複数の儀式魔術が仕掛けられていることが判明した。
深刻な面持ちで、佐伯・キリカ(陽気に元気・f00963)は言う。
「儀式魔術によって美術館に来た人の命が奪われたら、敵が強化されちゃうんだよ……! 猟兵さんたちには、絵の中に閉じ込められた人たちを助けて欲しいんだよ!」
金沢21世紀美術館に布陣するオブリビオンは、謎のユーベルコードで人々を閉じ込めたらしい。それも、美術館に収蔵・展示されている抽象画の中へ。
「謎のユーベルコードのせいかわからないけど、閉じ込められた人がいる絵に触れると、猟兵さんも同じ絵の中に侵入できるんだよ。だから絵に触れて仲に入って、閉じ込められた人を助けて欲しいんだけど……」
そこまで言って、キリカは表情をくもらせた。
「絵の中は、絵の具の海みたいな場所になってるみたいなんだよ。加えて足場も無いから……普通に移動して閉じ込められた人を探すのは、とっても難航しそうなんだよ」
だがそれは猟兵たちだけであったなら、の話。今回は妖狐七星将『破軍』——銀誓館学園と同盟関係にあり、中国大陸を拠点とする『大陸妖狐』が猟兵に助太刀してくれるのだというから、話は別だ。
「協力してくれる破軍の『尾』は巨鮫の妖獣『鮫王』っていうんだよ。鮫王に騎乗すると、なんと! まるで水中にいるみたいに絵の具の海を泳いで移動できるんだよ!」
鮫王に騎乗することでスムーズに移動できれば、囚われた人を素早く救出できることだろう。これを利用しない手は無いというものだ。
「それじゃ猟兵さん、改めてお願いなんだよ。儀式魔術を阻止するため、絵の中に閉じ込められた人の救出を頼んだよ!」
そう言って、キリカは猟兵たちに頭を下げた。
雨音瑛
金沢21世紀美術館に飾られている抽象画の中で、囚われた一般人を探すシナリオです。
絵の中は、足場がない絵の具の海のような場所になっています。
絵の中に入ったところからリプレイが始まる予定です。
●プレイングボーナス
鮫王に騎乗し、要救助者を探す。
第1章 冒険
『抽象画の世界』
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POW : 大声で呼びかけ、要救助者を探す
SPD : 死角となる場所を重点的に探す
WIZ : 元の絵画の内容から、人の囚われていそうな場所を考察する
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神明・桐伍
鮫王殿、世話になる。では早速救助に参ろう。
どの絵に助けを待つ者が居るか判別がつかぬが、幸い我は月のエアライダーゆえ「エアシューズ」を履いている、高速走行しながらざっと触れてゆけば入れる絵が分かるであろう。
おお、絵の具の海とはこんな様相であるか。
さて、覇気を込めて大音声にて「誰かおらぬか、助けに参ったぞ!返事を致せ」と呼びつつそこここを巡るぞ。
返事があればそちらへ向かい、鮫王殿が入れぬ狭き場所は自分の足で直接確認するとしよう。
要救助者が動けぬならば念動力で移動させ連れ帰る。さて、幾人助けられるものか。
それにしても鮫王殿はよく泳げるな。その技量から学ぶことがありそうだ、確と見させていただこう。
美術館の中をエアシューズで高速走行する月のエアライダーは、ひとつの絵の前で足を止めた。この絵の中に、人のいる気配がある。
そう判断して絵の中に入った神明・桐伍(神将の宿星武侠・f36912)は、協力者——鮫王に乗った。
「世話になる。早速救助に参ろう」
正面に視線を向けると、思わず広がる風景に瞠目する桐伍。鮮やかな、あるいは鈍い色の塊が浮遊し、無限とも思われる奥行きを伴っている。この中に人が囚われているのでなければ、何も考えずに巡ってみるのも面白いだろう。
だが、桐伍は表情を引き締め、息を吸った。
「誰かおらぬか、助けに参ったぞ! 返事を致せ」
覇気を込めた声で呼びかける桐伍を背に、鮫王は絵の具の海をかき分け泳ぎ行く。
「……誰か! 誰か、助けて!」
「鮫王殿、あちらへ! 何人かいるようだ」
桐伍が声の聞こえた方角を示す。すると、鮫王はまるで海を行くように滑らかに目的地まで到達した。
「絵の具に囚われておるのか。大丈夫だ、今助ける」
意識のある者には手を伸ばし、絵の具の海から引き揚げて。
「あちらの者は動けないのか。ならば、これで」
意識の無い者は念動力で移動させ、鮫王の背に乗せて。
「……申し訳ないが、鮫王殿はここで少し待たれよ」
狭い場所にいる者は赤い絵の具の中を慎重に泳ぎ、抱えて鮫王の背に乗せる。
そうして絵の中を巡った桐伍は、五人ほどを救出した。
「意識の無い者をそのままにしておくのもな……一度絵から出るとしようか。鮫王殿、出口まで頼めるだろうか?」
尾を振って返答を示す鮫王は、速度を上げての移動を始めた。
それにしても、と桐伍は鮫王の見事な泳ぎを見遣った。
「見事な泳ぎであるな。確と見させていただこう」
出口に到達するまでの間、その技量から学べることは数多くあるに違いない。
泳ぐ鮫王を真剣に観察し、桐伍は己の糧とするのだった。
大成功
🔵🔵🔵
杼糸・絡新婦
貸してくれるならありがたく借りよ。
よろしゅうたのみますで、と言いつつ、
鮫王に騎乗し、要救助者を探す。
あと【変化の術】で祭祀服着用し
『失せ物探し』『追跡』を利用しつつ、
絵の中で死角になりそうな場所を重点に探す。
最終的に『野生の勘』も利用。
見つけて意識があるなら『コミュ力』で話しかけて、
外へ避難させる。
飴ちゃん食べる?落ち着くで。
あ、鮫王も食べる??
絵の中に潜れるのはおもろいけれど、
こういう扱い方はあかんやろ。
「よろしゅうたのみますで、鮫王」
微笑み、杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は鮫王の背にひらりと乗った。鮫王が動き出した後は変化の術で素早く祭祀服に着替え、周囲を観察する。
見渡す限りの海だ。不定形で、さまざまな色の絵の具で構成された。
この中に囚われた一般人を探す上で、絡新婦は死角の捜索を優先する。
「上の方なんか意外に探されてないやろ。鮫王、上昇してもらえるやろか?」
失せ物探しなら得意な絡新婦だ。絵の具の海に流されたであろう人の気配も追跡し、鮫王に移動の指示を出す。
鮫王が泳ぐごとに、視界の色はまだらに変わる。こうして絵の中に入り込めるというのは面白い。しかし、絡新婦は厳しい表情で呟く。
「こういう扱い方は――あかんやろ」
上昇を続ける中で、何かが絡新婦に感覚に引っかかった。視界には何かが映ったわけでもない。ただ、そこに何かがある、と勘が告げているのだ。
「鮫王、少し戻って……そこや!」
絡新婦が見つけたのは、まだ小さな女の子だった。
鮫王に乗ったまま腕を伸ばし、抱きかかえるようにして救い出す。
「嬢ちゃん、大丈夫?」
絡新婦が声をかけると、女の子はゆっくりと目を開けた。少しぼんやりとした様子だ。それなら、と、絡新婦は袖口をごそごそした。
「飴ちゃん食べる? 落ち着くで」
微笑みを向けて袖から飴を取り出し、差し出す絡新婦。女の子はこくりと頷いて、飴を受け取った。
「その飴ちゃん舐めてる間は無敵や、何も心配せえへんでええよ。さ、出口に向かうで。落ちんよう、しっかり掴まっとくんやで」
女の子が、絡新婦にぎゅっとしがみつく。
「あのね! ……ありがとう」
「どういたしまして」
絵の外に女の子を送り出し、自身も絵から出ようとして、絡新婦は立ち止まった。
「あ、鮫王も食べたかった?」
鮫王の口が大きく開いたから、絡新婦は一個、飴玉を放り込んだ。ありがとな、と言いながら。
大成功
🔵🔵🔵
二條・心春
敵の強化も、そのために人々が犠牲になるのも許すわけにはいきません。頑張って救助しますよ!
まさか物語みたいに絵の中に入るとは……。まずは鮫王さんにご挨拶をしないと。閉じ込められた人達を助けるため、力をお貸しくださいね。よろしくお願いします!お近づきの印にマシュマロは……食べないよね。
鮫王さんに乗せてもらって、私は死角となる場所を探します。タブレットでeyes of truthのアプリを起動すれば、見えない場所でも人の気配を感知して、効率的に探せるはず。うーん、鮫王さんの見た目ではちょっと驚かせちゃうかな。見つけたら私が優しく声をかけましょう。後は……あっ、よければこのマシュマロをどうぞ。
絵の中に入った二條・心春(UDC召喚士・f11004)は、まずは鮫王に頭を下げた。
「閉じ込められた人達を助けるため、力をお貸しくださいね。よろしくお願いします!」
鮫王は心春を背に乗せようと下降してくれる。鮫王に近づいて乗ろうとした心春の指先が、不意にマシュマロを入れた容器に触れた。
(「お近づきの印にマシュマロは……食べないよね」)
首を傾げつつ、鮫王の背に乗る心春。
はじめはゆっくりと、しかし徐々に速度を上げていく鮫王は、ここがまるで水中であるかのように滑らかな泳ぎで移動してくれる。
「絵の中に入るなんて、物語みたい……オブリビオンが関係無ければゆっくり見てみたいところだけど、今は救助を優先しないと、だよね」
UDCと出会わなければ訪れることがなかったであろう世界で、心春はUDC管理用タブレット端末を操作し、アプリのアイコンにタッチした。
このまま人々が囚われ続けていれば、いずれ儀式の犠牲になってしまう。加えて敵も強化されてしまう。
「絶対に、助け出すんだから……!」
起動したのは「eyes of truth」。UDCや目に見えないものを感知する力を高めるアプリだ。
心春は深呼吸し、意識を集中した。
「……鮫王さん、あの青い絵の具の向こう側です!」
目的の場所を指差せば、鮫王が加速して絵の具を突っ切る。
コートを着た中学生くらいの女の子が、青い絵の具の中に浮いている。
(「うーん、このまま近づいたら……鮫王さんの見た目ではちょっと驚かせちゃうかな」)
「すみません、鮫王さんはここで少し待ってもらえますか?」
加速を続ける鮫王に触れ、心春は告げる。
そうして静止してくれた鮫王から降りると、絵の具の中を泳ぐようにして女の子の元へ向かった。
「大丈夫ですか? 良かった、意識はあるようですね! さあ、こちらへ」
心春は女の子の手を引き、鮫王の元へ向かう。
「鮫王さんに乗ってここから出ますよ。もしかしたら鮫王さんにちょっと驚くかもしれませんけど、大丈夫ですからね……あっ、よければこのマシュマロをどうぞ」
女の子の不安そうな表情に気付いた心春は、マシュマロを差し出す。
マシュマロを受け取り、ゆっくりと口に入れた女の子の顔に、笑顔が灯った。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
一部界隈では鮫に乗るのは当たり前とは聞いたが、自分がそれをする日が来るとは思わなかったな
ともあれ、協力してもらえるなら断る理由もない。頼らせてもらおうか
鮫王の背に乗って要救助者を探す。速さも必要だが、見落とさない正確さが大切だろうな
声をかけつつも、意識がない可能性も考慮して、死角になりそうな部分などは特に重点的に探索
鮫王が入れない狭所などは、神刀を抜いて神気を纏い、水上歩行……ダッシュで移動して確認しよう
尤も、長時間の水上歩行はできないのと、一度行った後は次に出来るようになるまで少々時間がかかるので、基本的にはどうしても必要な場合に限る
要救助者は鮫王の背中に引っ張り上げてやればいいかな
鮫王の背に乗った夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は、何とも不思議な心地でいた。
「一部界隈では、鮫に乗るのは当たり前とは聞いたが……」
まさか、自分もそうする日が来るとは。しかし、協力してもらえるのなら断る理由も無い。何より、鮫に乗り、絵の具の海を泳ぎ行く必要があるのだから。
「頼りにさせてもらうよ、鮫王。さあ、急いで探そう。——誰か、助けを必要とする者はいないか! 猟兵が助けに来た!」
絵の中に囚われた人を探すため、鏡介は呼びかけをしながら移動を開始した。鮫王にある程度の速度を出してもらいながらも、一人とて見落とすことがないようあらゆる場所に視線を向ける。
特に見落としが怖いのは、死角となる場所。濃い色の絵の具が溜まっている場所は、向こう側が見えない。回り込み、慎重に確認してゆく。
捜索を始めて数分が経過した頃、鏡介は一人の青年を見つけた。
黒と青の絵の具の間に、挟まるようにして閉じ込められている。正確さを優先していなければ、見落とすところだったかもしれない。
「そこの青年、大丈夫か!」
呼びかけても返答はない。おそらくは意識がないのだろう。
すぐにでも助け出したいところだが、鮫王の背に乗ったままではなかなかに難しい場所だ。
そう判断した鏡介は、神刀を抜いた。神気を纏い、濁る色の上を駆けてゆく。この方法が長時間持たないことはわかっているから、青年を抱えて肩に担いだ後は急ぎ鮫王を待たせている場所まで戻る。
神刀を収めて青年の呼吸を確認したところ、問題はなさそうだ。
問題があるとすれば、先ほどの移動方法だろうか。次に同じことができるようになるまでは、少々時間が必要だ。何度も連続で出来る方法ではないが、鮫王の行けない狭隘な場所で一般人を救うには必要なことだったのだ。
青年を鮫王の背に乗せ、続けて鏡介自身も騎乗する。
「鮫王、引き続き頼むよ」
鏡介は視線を配り、色彩のあふれる海での捜索を再開した。
大成功
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煙草・火花
一般市民の救助!
これも大事な作戦行動でありますな!
鮫王殿という心強い味方も居るならば百人力であります!
よろしくでありますよ、鮫王殿!
とはいえ、小生もあまり頭を使うのは苦手な身……ここは素直に足で探すと致しましょう!
どなたかー! いらっしゃいませぬかー!!
鮫王の背で仁王立ちしながら、大声で要救助者への呼びかけをしていくであります!
元気さには自信があります故!
どんどん進んで、どんどん呼びかけるであります!
鮫王殿には声に対する反応がないかについても注意してもらうであります
邪魔な障害物などがあった時はドカンと小生の剣術の出番でありますな!
心強い味方を前に、煙草・火花(ゴシップモダンガァル・f22624)は元気に挨拶をする。
「よろしくでありますよ! 鮫王殿がいれば、百人力でありますな!」
笑顔で騎乗して人々の救助に向かう火花。だが、頭を使うのはそんなに得意では無かったりする。
であれば、取る手段はひとつ。火花は鮫王の背で、仁王立ちをした。
「どなたかー! いらっしゃいませぬかー!!」
火花は大きな声を出し、要救助者への呼びかけをする。もちろん、鮫王には移動を続けてもらいながら。
素直に足で探す作戦だ。鮫王にどんどん進んでもらい、声を絶やすことなく呼びかける。
「猟兵が助けに参りましたよー! ――そうだ鮫王殿、声への反応があったら小生にお知らせいただけると助かるであります!」
そうして声を上げながら探し始めて数分後、鮫王の動きがぴたりと止まった。
「これは……ずいぶんと大きな絵の具の塊がありますね! 無理に突破すると小生も鮫王殿も絵の具まみれになってしまうのでありますな……しかし問題ありませんよ鮫王殿、小生にお任せを!」
火花がすらりと抜いた七◯◯式軍刀丙、その刀身はガスで覆われている。
「威力はお墨付きでありますよ! いざ!」
軍刀を絵の具の塊に向けて振るえば、爆音が響き、色の破片が四方に飛び散った。
「ドカンと解決であります、これで進行可能でありますな!」
軍刀を納めた火花が鮫王を見遣ると、意図を汲んでくれたのだろう、再び移動を始めてくれた。
「ではあらためて、捜索再開であります。どなたかー! ……むむ、いかがされましたか鮫王殿?」
鼻先をやや斜め前方に向ける鮫王。火花が目を凝らすと、絵の具に飲み込まれつつあるスーツ姿の男性がいた。
「助……けて……く……れ……!」
「やや! 鮫王殿、あちらに急行であります!」
できる限り接近した後、火花は男性の腕を引き、鮫王の背まで引っ張り上げる。
「もう大丈夫でありますからね!」
「ありがとうございます、元気なお嬢さん。お手を煩わせてすみません……」
「いえいえ! 一般市民の救助も、大事な作戦行動のひとつでありますから! さあ、急いでここから脱出するでありますよ!」
火花がそう告げると、鮫王は尾で絵の具の海を弾き、出口に向かって泳ぎ始めた。
大成功
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栗花落・澪
絵の中に閉じ込められる…
物語として聞けば面白そうな展開なんだけどね
鮫王に乗せてもらい絵の中を移動
【高速詠唱】で杖の先端に光魔法を集め
それを光源代わりにしながら探索するよ
【聞き耳】と【気配感知】でわずかな音や気配も逃さないように
暗がりや死角等は特に重点的に
あとは…閉じ込められてる人も声は出せるのかな
敢えて自分達の存在を知らせるために覚醒マイクを使い
被害者を落ち着かせるように穏やかな【歌唱】を奏でたり
誰かいますかー!と声かけ
閉じ込められている時間次第だけど…もしかしたら疲れたり衰弱してる可能性もあるのかな
発見出来たら念のため生まれながらの光で回復を与えます
もう大丈夫だよ、一緒に乗って
外に帰ろうね
色がひしめく世界を、ひとつの光が移動してゆく。
鮫王に乗った栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が手にする杖、その先端に灯る光だ。
絵の具の海を照らしながら、澪は囚われた者の発見を急ぐ。
絵の中に閉じ込められている、というのは、物語として聞けばとても面白そうだ。しかし今回は美術館を訪れただけの無関係な人々が閉じ込められているというのだから、素直に面白がることはできない。
澪は天使の翼が装飾された拡声マイクの前で呼吸を整え、歌声を紡ぐ。
心が落ち着くような、穏やかな歌だ。これで澪の存在に気付いてくれれば良いと願いながら、歌を響かせてゆく。
ふと歌を終えた時、澪の耳にかすかな音が聞こえた。
「いま、このあたりから聞こえたような……?」
鮫王に停止してもらい、さらに耳を澄ませる。やはり、声のような音が聞こえてくる。
どうやら、すぐ近くにある暗い色をした絵の具の吹きだまりから発せられているようだ。普通に探していたのなら、死角となっていたことだろう。
澪は薄暗い場所に杖をかざし、声をかける。
「誰かいますかー!」
「……だ、れ?」
反応があった。弱り切った少年の、囁きにも近い呟きだ。
少年に光を向けると、身体の半分を絵の具に呑まれつつあることがわかった。
「君を助けに来た猟兵だよ。もう大丈夫だよ、一緒に乗って」
近づき、手を伸ばす澪。少年は澪の手を握り返してくれたが、その力は弱々しい。
鮫王の背に引っ張り上げた少年を確認すると、明らかに衰弱している様子であった。
澪は、すかさず光を放つ。聖なる光は少年を包み込み、弾けるようにして消えた。
「……あれ? さっきまで体が重かったのに……なんだか、とっても元気が出てきたよ!」
「ふふ、良かった。さあ、外に帰ろうね」
不思議そうに瞬く少年を見て、澪は微笑んだ。術の反動で身体に押し寄せる疲労を、まるで感じさせることなく。
そうして、澪は軽やかに歌った。二人を乗せた鮫王が絵の出入り口に到着するまでの間、少年を元気付けるように。
大成功
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