●殿中でござる
とある藩の藩主が江戸で急死した事件は藩をおおいに揺るがせはしたが、幸いにも幼少とはいえ嫡子がおり、新藩主が成長するまでは筆頭家老の大岩由良雄(おおいわ・ゆらお)をはじめとする家臣団が藩をまとめ、それで特に何も問題がないはずであった。
だが。
「非業の死を遂げた大殿の敵討ちじゃ!」
大岩が美人ではあるがどこか怪しげな雰囲気をただよわせた女性を伴い、居並ぶ家臣たちの前でそう宣言した事が、前藩主の死よりも藩を揺るがせる事になった。
「わしはここにおられる『小少将』殿より、大殿の死の真実を知らされたのじゃ!大殿は誰あろう徳川家光公に殺されたのじゃ!」
曰く。江戸にいた頃の藩主は些細なきっかけから家光より大小さまざまな嫌がらせを受けていたのだという。そしてついに耐えきれなくなった藩主は家光に斬りかかり、逆に返り討ちにあった、とのことであった。全ては藩主を合法的に亡き者にするための家光の策略だったのだ。
「このような屈辱が許されてなるものか!我々は家光公、いや家光めの首を挙げ、亡き殿の墓前に供えるのだ!幸いにもクルセイダー殿なる者が我らに合力してくださるとのこと!我らはクルセイダー殿とともに幕府を転覆するのじゃ!」
この言葉に藩は割れた。小少将の言葉をすぐに信用し、幕府打倒に同調する者。クルセイダーを知っており、信用できないとした者。だが、やがて反対する者も小少将によって洗脳され……。
所変わってグリモアベース。
「むろん家光公がそんなことをするはずがない事は、みんなも知っての通りなのだ」
大豪傑・麗刃(24歳児・f01156)に言われるまでもなく、猟兵たちは家光の事はよく知っていた。少なくとも、仮に嫌いな家臣がいたとしても嫌がらせを続けて暴発を誘い返り討ちと称して殺す、などという事をする人ではないだろう……たぶん。
「これは全て猟書家『小少将』の仕業なのだ!」
小少将。歴史上、その名を持った女性は何人かいるが、彼女らと関係がある人物かどうかは不明らしい。そんな事より恐ろしいのがその行動だ。藩主を洗脳してオウガ・フォーミュラたるクルセイダーに従わせ、藩もろともその目的である幕府転覆に協力させるというからすさまじい。その小少将が動き出し、幼き藩主に代わり藩政を取り仕切る筆頭家老大岩由良雄を洗脳して藩そのものを手に入れようとしてるのだという。
「それに疑問を持つ者たちも次々に洗脳させられるというからタチが悪いのだ。だが、今ならまだなんとかなるのだ」
猟兵たちのやる事は、全員が完全に洗脳される前に藩に乗り込み、猟書家『小少将』を倒す事だ。城に突撃したらまず小少将の配下オブリビオンが城兵を伴って迎撃に来るだろう。オブリビオンはかの魔軍将『日野富子』を憑装されており強化されている。一方で城兵たちは完全に洗脳を受けておらず、単に上の命令だからという理由で戦っているにすぎない。強力なオブリビオンだが城兵たちを説得して味方につける事ができれば有利に戦えるだろう。その後いよいよ小少将との決戦になる。
「しかし……」
そこまで言って、麗刃は首をひねった。
「わたしは知らないのだが、もうちょっと後に似たような事件が起きるらしいのだが、みんな知ってるかね?」
それを聞き、1702年12月14日に起きた、とある仇討ち事件を思い出した者もいたかもしれない。サムライエンパイアは今年1628年なので、74年後の話ということになる。麗刃が知らないのは当然だが、果たして今回の事と関連はあるのかないのか。
「……まあいいや。なにはともあれ、みんな女狐毒婦を討ち取ってほしいのだ!」
多少の疑問は残しつつも、麗刃の一礼を受け、猟兵たちはサムライエンパイアに乗り込んだのだった。
らあめそまそ
浅野内匠頭は要するに「あの憎い上司殺したい」を本当にやってしまった人間なので、社会人としては間違いなく失格だけど、一介のダメ人間としてはその行動におおいに共感を禁じ得ないし、だからこそ忠臣蔵はあんなに人気が出たんじゃないかと。以上個人の感想でした。らあめそまそです。
ともあれサムライエンパイアの猟書家依頼をお送りいたします。今回の依頼には第1章のみプレイングボーナスがあり、それをプレイングに取り入れる事で判定が有利になります。
プレイングボーナス(全章共通)……藩の武士達を説得する(第1章)
武士たちの中には何人か手練れの者がおり、必要なら下記のユーベルコードが使用できます。
剣刃一閃:近接斬撃武器が命中した対象を切断する。
それでは皆様のご参加をおまちしております。
第1章 集団戦
『『巫女雪女』寒珠』
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POW : 神威雪護装(ゴッド雪だるまアーマー)
無敵の【自身が奉る神に寄せた雪だるまの鎧】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD : 出でよ守護兎
自身の身長の2倍の【乗り換え可能な雪狛兎】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ : 猟氷封縛陣
【対象を飲み込む水を生む護符】が命中した対象に対し、高威力高命中の【水ごと氷結封印する氷の護符】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
👑11
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●前哨戦
念のため書いておくが、前藩主の死はあまりに不幸な事ではあったが純粋な不慮の事故であり、そこには我らが徳川家光公はまったく関係はない。また筆頭家老の大岩殿は十分な判断力を持っており、本来ならば前藩主が家光公に謀殺されたなどという戯言は一笑に付したことだろう……小少将に洗脳されさえしていなければ。
ともあれ、猟兵たちが城に踏み込むと、早速小少将配下のオブリビオンが一般兵を率いて迎撃に来ることだろう。【『巫女雪女』寒珠】という名の彼女らは、小少将と同じくらいに冷たい雰囲気を持つ女武人たちだ。雰囲気のみならず、実際にいろいろと冷たい。その能力は以下の3つだ。
【
神威雪護装】は雪だるまを思わせる鎧を身にまとい、攻撃力や防御力を大幅に増大させるものだ。能力に疑念を持つと弱体化するらしいが、さていかにして疑念を持たせれば良いのだろうか。
【出でよ守護兎】は大型の雪狛兎を召喚し、戦闘力を上昇させるものだ。機動力を活かした攻撃や、高所からの薙刀の一撃は強力だろう。雪狛兎は本体と生命力を共有しているとのことで、本体を狙った攻撃は雪狛兎が肩代わりしてしまう。
【猟氷封縛陣】は敵に護符を投げつけるものだ。最初の護符は大量の水を生み出し、それが当たったら氷の護符で追撃し、対象を水ごと凍らせて氷の棺に閉じ込めてしまうというものだ。水の護符を回避すれば次に来る氷の護符も当たらないようだが、当たってしまったら氷の護符はほぼ必中となるらしい。
さらに、これらの能力が魔軍将・日野富子のカネの力で強化されているという。なかなか強力な相手だが、一般兵を説得して協力を得る事ができれば有利に立ち回れるらしい。オードブルはあっさり済ませ、メインディッシュたる小少将に備えよう。
鹿村・トーゴ
【ケイラf18523】と
でも戦闘までは別行動かなー
飴行商姿で門番に接近
売込みより面倒そうな顔で「なんか戦の準備で?」
たぶんあっちけ的な扱いされるんで自在符をちら見せ「じゃ…謀反の動き有てのは真で?何ゆえに?」と小声で問う
侵入したら敷地内で【情報収集】未洗脳の武士のあたりを付け話しかける
オレは鹿村…
そそ。自在符持ちが来るって事はあの女がご家老を担いでる黒幕だぜ
行動起こせば藩に汚名着せてトンズラする…
マトモに考えて将軍殿がまどろっこしい事するか?お手討で済むだろ…
小少将の部下も妖しい小娘だ
…この藩が戦国時代に逆戻りの駒になるのはゴメンじゃね?
武士と共闘
オレはUCで遠隔攻撃し時に【かばう】
アドリブ可
ケイラ・ローク
【トーゴf14519】と一緒に戦うよ
前に侍エンパイアに来たときに可愛い着物買ったの(ピンクと白の市松柄)
トーゴに「それで戦の準備してる城に行くん?」とかジト目されたのよ
え?着物ならOKでしょ?💦
トーゴに続いてあたしも連れで~すってコミュ力発揮で同行
あたし?あたしは白ネコマタのおケイちゃんよ♪
おじさんの説得はトーゴがやるみたいだけど~
おじさん達!あたしも言いたい事あるのよねっ
覚悟を込めたパフォーマンス
戦争になったらきっとおうちが無くて孤児になる子も増えるわ
あたしはそれを止めたいのよ
戦闘はトーゴと合流ね
雪女にレーザー射撃を乱れ打ち!神様の雪の鎧も熱には勝てないのよ、常識ねっ
さあ見て♥
UC発動よ!
●平和のための戦い
城では戦の準備が着々と進められ、殺伐とした雰囲気があたりには漂っていた。そんな中に現れた猟兵ふたり、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)とケイラ・ローク(トパーズとアメジスト・f18523)は互いに知り合い同士のようであった。それはいいのだが。
「ケイラ……本当にそれで来たのか?」
「え?着物ならOKでしょ?」
トーゴのジト目にケイラはあっけらかんとした顔で答えた。
ケイラが着ていたのはピンクと白の市松柄の着物だった。以前エンパイアを訪れた時に買ったものだ。ケイラ本人は可愛いからと気に入っているようだが、トーゴは事前にそれを見せられた時「それで戦の準備してる城に行くん?」とかなり本気であきれたものである。ケイラはキマイラフューチャーの出身だ。それなものだからエンパイアの事情に疎いので仕方がない……とも言い切れはしないか。確かにお祭り等の場にはいい服装かもしれないが。ちなみにトーゴは飴の行商姿である。戦の場に潜入するのに相応しいという理由で選んだわけではなく、エンパイア出身の忍者なトーゴにとってきわめて普段通りの恰好である。
「ともあれだ」
多少弛緩したようなトーゴの顔が真顔になる。そう、ふたりはここに物見遊山に来たわけではない。ましてやお祭りを楽しむためなどではない。今や城の支配者となった猟書家『小少将』を倒し、無益な戦を終わらせるために来たのだ。
「手筈通り、まずオレが兵士たちを説得するから、ケイラはその後でオレと合流して、出てくるオブリビオンと戦うと。いいな?」
「おっけい!」
こちらは相変わらずの笑顔でケイラは応じた。かくして作戦が開始されるのだった。
ケイラと分かれ、早速城門前で見張りをしていた兵士に接触する行商人姿のトーゴ。
「なんか戦の準備で?」
単刀直入に聞いた。普段、飴の行商をしている時の営業スマイルとはまったく違う顔だ。一般兵としては、見ず知らずの商人風の男にそんな事を聞かれても、そうそう気安く対応するわけにもいかない。
「部外者には関係のない事だ、武具や兵糧の売り込みでもなさそうだし、平時にまた来るがよい」
「それが、そうもいかないんだよなあ」
むろんトーゴとしては、はいそうですかと帰るわけにはいかない。ここは猟兵の使える最強の切り札を使う場面だろう。
「何?……そ、それは!」
衛兵の顔がたちまちのうちに変わった。トーゴの懐から見えたそれは、徳川の葵の御紋が刻まれた符。紛れもない、将軍家光公が猟兵に与えた治外法権の証、天下自在符だった。むろんその意味は一般兵にも広く伝わっていた。
「という事はお前は……いえ、あなたは、猟兵!?」
「……謀反の動き有てのは真で?何ゆえに?」
顔を近づけて小声で問うトーゴを、衛兵は城内へとこっそり通してくれた。幸運な事にこの衛兵、どうやら上の方針については最初から疑問を持っていたようであった。そして早速トーゴは上の方針に疑問を持っている兵士を見極め、説得を開始した。
「オレは鹿村……そそ。自在符持ちが来るって事は、わかるだろ?」
「……やはり、あの小少将とかいう女は……」
「そ。オブリビオン。でもって、ご家老を担いでる黒幕だぜ。この藩を煽るだけ煽ってお上に逆らわせて、うまくいかなかったら藩に全部汚名着せてトンズラするって寸法よ」
「なんという事を……」
「大体、考えてもみな?マトモに考えて将軍殿が殿様を殺したいとして、わざわざ暴発させて返り討ちにする、なんてまどろっこしい事するか?普通に適当に言いがかりつけてお手討すりゃ済む事だろ?」
「ううむ……」
これは確かにトーゴの指摘通りであり、小少将が語る藩主の最期とやらは、家光公が自らの正統性を主張するためであったとしても、かなり回りくどいやり方であり、現実味に欠けると言わざるを得ないものであった。むろん我らが家光公はどんなに嫌いな家臣がいたとしても、特に落ち度がないのにそれを捏造してまでお手討ちするような方ではないと思うが、まあそこはそれである。
「おじさんたち!」
そこに割り込んできた声があった。その声にトーゴは驚愕した。
「ってケイラ?まだ説得は終わってないぞ?」
「わかってる!でも、やっぱりあたしも、どーしても言いたい事があるの!」
本来、戦闘が始まってから合流するはずだったケイラ。だがその顔は普段の彼女と明らかに違う、真剣なものだった。彼女なりに強い気持ちをもってここにいる事を察知し、トーゴは退いた。幸いにも、自分が言うべきことは全て言い終わったところである。
「お嬢ちゃんも猟兵か?」
「そ!トーゴの連れで、白ネコマタのおケイちゃんよ♪」
サムライエンパイアにおいて猫又は種族としては聞かない名だったが、それでも猟兵の特性で違和感なく兵士たちには受け入れられたようだ。まあ妖狐と似たようなものと認識されたとケイラ本人が知ったら、あるいは気を悪くしたかもしれないが。
「そんな事より!」
自分の事はどうでもいい。今はそんな事より、どうしてもケイラには言いたい事があるのだ。
「戦争はやっぱり良くないよ!」
先刻までの笑顔が嘘のような真剣なまなざし。半分はパフォーマンスだったが、半分は嘘偽りのない、本気だ。
「だって戦争になったら、きっとおうちが無くて孤児になる子も増えるわ!あたしはそれを止めたいのよ!」
それはかつてキマイラフューチャーで、ケイラが孤児がゆえのストリートチルドレンとして幼少期を過ごし、心底辛酸をなめつくした事と決して無関係ではあるまい。それが戦乱によって引き起こされたものであるかどうかはわからないが、同じ境遇の子供を増やすのはケイラにはどうしても我慢ならない事だったのだ。そしてトーゴもケイラに同調してみせた。
「小少将の部下も妖しい小娘だしな。この藩が戦国時代に逆戻りの駒になるのはゴメンじゃね?」
「うむ……貴殿らの言う通りなのであろうな」
もはや、ここにいる兵たちの心はひとつであった。小少将を倒し、藩をあるべき姿に戻す、と。
『曲者ぞ!出会え出会え!』
まさにその時であった。小少将の部下のオブリビオン【『巫女雪女』寒珠】が現れたのは。ある者は雪だるまを思わせる鎧に身を包み、また別の者は巨大な雪狛兎に乗っていた。本来なら彼女らは一般兵を引き連れているはずだったが……。
「我が藩を陥れるオブリビオンめ!我らが相手になるぞ!」
『ぬう?おのれ猟兵めにたぶらかされたか!』
巫女雪女らが従わせるべき兵士たちは、逆に刀を抜いて彼女らに斬りかかって来た。むろん雪女たちに容赦する理由はなく、氷の薙刀を振るって兵士たちを斬り凍らせようとする。いかに兵士たちが藩への愛着や侵略者への怒りを持っていたとしても、到底オブリビオン相手に勝てるはずはない。だが兵士たちには猟兵がついていたのだ。
「七針、お前たちの出番だな!」
「神様の雪の鎧も熱には勝てないのよ!」
トーゴが大型蜂を飛ばして雪女を牽制し、敵の隊列が乱れた所でケイラがレーザー光線とお花畑の立体映像を飛ばす。一般兵の情熱だけでは勝てぬ相手も、猟兵の援護と絆があれば、どうにもならぬ相手などそうはいないのだ。浮足立った雪女たちは次々に猟兵ふたりと一般兵たちに制圧されていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メディア・フィール
主にPOW選択
他PCとの絡みOK
プレイング改変・アドリブOK
一般兵に対しては、果たして藩主がいやがらせに屈するような人物だったか、嫌がらせを受けても正式な抗議もせずにいきなり斬ってかかる人物だったか、もし家光が主君にあらざると断じればその場で短慮を発せずにそれこそ藩を上げて立ち上がる気概の人物ではなかったのか、という問いかけで思い直させます。
寒珠には、相性がいいと思われる黒龍の炎で立ち向かいます。もし、その炎が冷気をも凌駕するのではないかと疑えば大幅に能力をダウンさせられるかもしれません。幸いなことに戦場全体を包む炎なので、本体と生命力を共有している雪狛兎や投げつけられた護符ごと一掃します。
●239年後に本当に起きるかどうかはわからない
「もう始まってたみたいだね」
メディア・フィール(人間の
姫武闘勇者・f37585)が城に到着した時には、既にあちこちで戦いの火の手が上がっていた。どうやら猟兵に説得された兵士たちと、いまだ説得されていない兵士を引き連れたオブリビオンの間で戦いが起きているらしい。このままでは兵士たちの同士討ちになりかねない。同じ城で同じ主君を仰ぐ者同士がぶつかり合うなどこの上ない悲劇だ。
「ボクがなんとかしないと……」
メディアは唇を噛み締めた。かつてメディアはブルーアルカディアのとある国の姫だったのだが、屍人帝国との戦いに敗れて国が滅亡し、常に最前線で戦っていたメディア自身は虜囚の身となり艱難辛苦を味わいつくしたという、あまりに厳しすぎる経験をしたのである。そのため、猟書家の手によって藩がひとつ滅びるかもしれないという事態を見過ごす事などできなかった。
『む?新手の猟兵か?』
そんな事を思うメディアの前に、早速猟書家配下のオブリビオン【『巫女雪女』寒珠】が一般兵を率いて現れた。雪女は薙刀を構え、巨大な雪狛兎に騎乗していた。一般兵は洗脳こそ受けた様子はないようだが、上の命令ということもあり、積極的にではないかもしれないがメディアに明らかな敵意を示している。わかっている。一般兵は敵ではない。むしろ猟書家の被害者であり、救うべき対象だ。
「みんな!ボクの話を聞いて!」
メディアは一般兵に呼びかけた。猟兵の呼びかけという事もあり、またあくまで上からの命令で戦っているに過ぎないという事もあり、一般兵の足が止まった。まず、話も聞かずにいきなり斬りかかられるという最悪の可能性は消えた。だがこれは入口に過ぎない。本番はここからなのだ。
「前の藩主は本当にいやがらせに屈するような人だったのかい?」
小少将は言った。前藩主は家光に有形無形のひどいイジメを受け、ぶち切れて斬りかかった所を正当防衛の名の元に成敗されたと。そしてこれが藩をして幕府に対して弓引かせる根拠となっている。ならば、まずはこの話を崩すところから始めるべきだとメディアは考えたようだ。
「仮に耐えかねたとしても、正式な抗議もせずにいきなり斬ってかかる人物だったかい?」
城兵たちは押し黙った。あるいは一般兵なので殿さまの人となりまではそこまで知っているわけではないかもしれないが、少なくともまあ、悪い噂はあまり聞かないのであろう。そうでもなければ、筆頭家老が殿さまの敵討ちとか言い出すはずはないのだ……まあそも敵討ち言い出した事自体が猟書家による洗脳を受けたためなのだが、そこはそれ。
『ええい何をしているか、猟兵を斬り捨てよ』
敵を前に動こうとしない一般兵にしびれを切らしたのか、威圧するように命令を飛ばす雪女。だがそうはさせじとメディアもさらに声を張り上げる。
「もし徳川家光が将軍として相応しくない人物であったと断じたならば、その場で斬り捨てるのではなく、まずは藩に戻り、味方を集めて大軍勢を為して江戸に攻め込む、それほどの気概のあった殿様じゃあなかったのかい?」
「!!??」
この発想はさすがに城兵たちのスケールのはるか上を行っていた。そうだ、その場で家光を斬ったとしても、藩主の切腹、いや斬首が不可避などころか、藩そのもののお取り潰しは免れない。正当性を主張するならばかつて徳川が豊臣と天下を争い勝利したごとく、同じ考えを持つ者を集めてエンパイアを二分して覇を競う、本当に徳川が暗君ならばそれくらいのことはやってもいいんじゃあないだろうか。それくらいの殿様であってほしい。死んだ人間に押し付けるにはちょっと過剰すぎ、あの世と言うものがもし存在したなら殿様苦笑いしたかもしれないが、まあ構うまい。要は生きてる人間を動かす事が最重要なのだ。
「大殿万歳!暴君徳川を打倒するぞ!」
「いや、だから仮に徳川家が暴君なら、って話だから!」
苦笑いしながらも、メディアは今や兵士たちの心が完全に小少将から離れたのを確信した。そして、それは雪女もまた同様だった。
『おのれ所詮は一般人、やはり当てにはならぬか、猟兵討ち果たしたのちに小少将様にしっかり洗脳してもらわねばなるまい』
「そんな事はさせない!」
あとは目の前のオブリビオンを倒すだけと、メディアは拳を握りしめた。寒珠は馬上ならぬ兎上にて薙刀を構え、斬りかかる体勢だ。
「キミは氷の力なら、ボクは闇の炎で冷気を全て溶かしてみせる!」
突っ込んでくる雪女に向けてメディアが正拳を突き出すと、超広範囲を覆うように暗黒の炎が発生した。炎は一般兵を傷つける事がなく雪女のみにダメージを与えていく。雪狛兎と生命力を共有しているなら、両方同時に叩けば良いだけの事だ。
『くっ……おのれ猟兵!!』
寒珠はメディアのもとに辿り着く前に、春を迎えた雪が溶けるがごとく、雪狛兎もろとも崩れて消えていった。一般兵の無事な姿にまずはメディアは安堵した。あたりを見回すと、戦いは明らかに猟兵側有利に進んでいるようだ。あと一押しで決着はつくだろう。しかしメディアは油断することなく次の相手に向かっていく……
大成功
🔵🔵🔵
フィア・シュヴァルツ
「ほう、ハゲのダメ上司によって殺された主の敵討ちとな。
それは見上げた心がけ!
この天才美少女魔術師たる我が敵討ちに協力するとしよう!」
『フィア様、味方する相手を間違っているのではございませんか!?
あと、誰もハゲとは申しておりません!』
うるさい使い魔のフギンの言葉は無視し、武士たちを説得するとしよう。
「お前たちも武士ならば、死した主の仇のひとつやふたつ、討ってみせぬか!
天誅というやつだろう!」
『武士の皆さんの説得というのは、そういう意味ではございません!』
武士たちを味方に付ければ目的達成だ。
我に歯向かう、呪符を投げてくる者どもはいらぬな。
「我の【極寒地獄】で、その呪符ごと凍りつかせてやろう!」
●勝てばよかろうなのだァァァァッ
オブリビオンが次々と倒され、一般兵たちは猟兵に寝返り、戦況は猟兵有利で進みつつあったが、それでもまだ敵オブリビオンの士気は軒昂であり、そしていまだにオブリビオンに従い続ける一般兵たちもまだまだいた。そんなオブリビオンと一般兵の一団が侵入者たる猟兵を討伐すべく出撃しようとした、まさにその時であった。
「主の敵討ちとな!」
大軍を前に、胸を張って堂々と立ちはだかったのはフィア・シュヴァルツ(宿無しキャンプアスリートの漆黒の魔女・f31665)だった。フィアの見た目は年若き少女であったが、実はとある理由で成長が止まっており、実年齢は不詳とのこと。外見年齢とさほど変わりがないのか、それとも3桁に達するのか、それすらもわからない。ただ、そのあまりに堂々とした立ち居振る舞いは少女のものとは思えない。それが元来の性格によるのか、それとも外見からは想定できない長年の経験によるものなのか、あるいは両方か。
「それは見上げた心がけ!」
少なくともひとつ言えるのは、敵兵たちがこの突然現れたフィアに対し、おそらく猟兵であろう事はなんとなく察知しているものの、どんな風に対処したものかいささか判断に苦しんでいる事であった。そしてその困惑はどんどん加速していくのである。
「ハゲのダメ上司によって殺された主の敵討ち、この天才美少女魔術師たる我が協力するとしよう!」
「……ハゲ?」
とりあえず、やはりこれが最も気になった事のようだ。自分で自分の事を天才とか美少女とか呼ぶのは、まあそこも引っかかる要素ではなくもないのだが、それでも一応は美少女と呼んで差し支えなさそうな容姿だし、天才かどうかはわからないけどまあ猟兵ぽいのでたぶん強いんだろうし、そこはまあ一応許容できなくもない。しかし……
『フィア様、味方する相手を間違っているのではございませんか!?』
ツッコミを入れたのは鴉の使い魔であるフギンだった。北欧神話の主神オーディンに従う2羽のワタリガラスの片方の名前を冠した使い魔の言う通り、たしかに猟兵がやる事は敵討ちを止める事であり、敵討ちに加勢する事ではない。
『あと、誰もハゲとは申しておりません!』
これもそうだ。流れからいけば敵というのは猟書家小少将がそうだと言っている我らが徳川家光公だけど、どう見ても髪の毛ふさふさである。ヅラの可能性は否定しきれるものではないけれど、まあ違うだろうたぶん。
「……まったく」
使い魔の分際で人が気持ちよく大演説ぶってる所に横から入りこむとはけしからん、フィアの顔は語っていた。ぶーたれた顔は、だがすぐにまじめな物になる。使い魔のことより、今は兵士たちを説得する事が先決だ。改めてフィアは胸をどーんと張って。
「お前たちも武士ならば、死した主の仇のひとつやふたつ、討ってみせぬか!天誅というやつだろう!」
『……ですから!武士の皆さんの説得というのは、そういう意味ではございません!』
……繰り返しになるが、第1章において猟兵のやる事は、殿様が将軍に殺されたという猟書家のウソに騙されて将軍打倒に駆り立てられようとする一般兵を説得する事であり、仇討ちに駆り立てる事ではない。念のため。
『いや、あの、だからですねえ』
困惑しまくる一般兵に向け、やむなくフギンがあるじの意思(?)を代弁した。
『フィア様がおっしゃりたいのは、本当の『仇』を見据えてそれを討つ事、ということなんでございますよ』
「……本当の仇?」
『そうでございます!上様が殿様を騙し討ちにするような卑怯な真似をするお方でない事は皆様承知でございましょう!』
「ううむ……」
このあたりの詳細については既に何名かの猟兵が語ってくれたので、改めて追記するような事はあるまい。ともあれ。
「なるほど、つまり小少将めが殿を!」
『……そ、その通り!そうなのでございます!』
これまでの経緯もあり、一般兵たちがこの結論に到達するのは必至であった。一応付け加えるなら、前述した通り前藩主の死は純然たる事故であり、別に小少将あるいは他のオブリビオンが手を下したわけでもないのだが、そこはまあ建前というものだ。
「な、なんだってぇー!我としたことがぜんっぜん気が付かなかったぁー!!」
『……申し訳ございませんがフィア様は少し黙っていてくださいませ』
何はともあれ一般兵を離反させることができたわけだが……
「我の説得が功を奏したのだな!」
『……もう、それでよろしいかと』
堂々と言ってのけるフィア。対称的に、なんかいろいろとあきらめた感じのあるフギン。そしてフィアは残されたオブリビオンに向き直る。
「とすると、我に歯向かうあの者どもはいらぬわけだな」
『ええい嘘八百を並べ立ておって!成敗してくれる!』
寒珠はぶち切れていた。まあフィアとフギンの言葉は噓八百までは言わないけど嘘四百ぐらいはあった気がするので仕方ない点もあろう。で、早速水の護符を投げつけたのだが。
「我の【
極寒地獄】で、その呪符ごと凍りつかせてやろう!」
残念ながらフィアは自分で天才と言うだけの実力はあった。氷結結界を発生させ、宣言通りに雪女と呪符の両方を同時に凍らせたのであった。
『ば、馬鹿な……雪女である私が凍らされるなんて、こんな屈辱が……』
「言ったであろう!我は天才美少女魔術師だと!」
堂々と言い放つフィア。確かに実力に関しては本物だったようだ。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『小少将』』
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POW : 墨に溺れて、武を忘れよ
【墨色の扇から呼び出される黒い津波】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を水場に変え、召喚した小型船に乗って】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 死生知らずの野武士のあなた
【扇から溢れる墨で創られた黒い具足を与える】事で【誑かした対象が天下無双の武者】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 傾城の烈女
【魅了】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【かつて『小少将』の夫だった亡者達】から、高命中力の【妻に言い寄る者を排除するための怨念】を飛ばす。
👑11
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●討ち入り
かくして一般兵を説得し、オブリビオンを次々と倒していった猟兵たち。そしてついに……
『やはり来ましたか、猟兵』
洗脳した筆頭家老・大岩由良雄を従え、猟書家『小少将』が自ら最前線に出てきたのである。
『ですが、これ以上の邪魔をさせるわけにはいかぬ、妾が自ら相手をしてやろう、光栄に思うがよい』
小少将の能力は以下の通りだ。
【墨に溺れて、武を忘れよ】は扇から黒い津波を放つ技だ。津波の勢い、ならびに込められた暗黒の力でダメージを与える技だが、外れたとしてもあたり一面を黒色の水辺に変え、本人は小型船を召喚してそれに乗り込み水辺に入る事で能力が上がるという二段構えの技となっている。
【死生知らずの野武士のあなた】は、洗脳した大岩に黒い具足を装備させる事で超絶強化させ、自らの代わりに戦わせるものだ。超強力なのは確かだが、今後の事も考えれば大岩を死なせるわけにもいかないというのも大変である。なんとかして大岩を傷つける事なく対処したいのだが。
【傾城の烈女】は、まず大岩ら藩の重臣を魅了した洗脳術で敵対者を自らの虜にする。術なので男女関係なく効くらしい。で魅了された者が小少将に言い寄ろうとした時、小少将の元夫の亡霊たちが嫉妬から怨念を飛ばして大ダメージ……なんとも回りくどい技だが、複雑な手順を踏むだけあって威力はかなりのものがあるらしい。亡霊の怨念は怖いのだ。
いずれの能力も強力きわまりないが、小少将さえ倒せば大岩ら藩の重臣たちにかけられた洗脳は解け、残党オブリビオンは離散し、藩に平和が戻って来る事だろう。その、なんだ。なんとかしてください。
フィア・シュヴァルツ
「おのれ、あの女が諸悪の根源であったとは、よくも我を謀ってくれたな」
『いえ、フィア様。初めから敵の正体は分かっておりましたが……』
使い魔フギンが何か言っているがスルーしよう。
要はあの女と、それに洗脳された者を倒せば一件落着なのであろう?
我の必殺魔法【竜滅陣】で、黒い具足で超絶強化された洗脳された武士をぶっ飛ばしてくれよう!
「さあ、我の最大最強の魔術で消し炭になるがいい!
そして亡き主君に、あの世で侘びてくるのだな!」
『フィア様、ですから大岩殿を殺してはなりませんー!』
ちぃっ、洗脳された武士にとどめを刺しそこねたか。
運のいいやつめ。
「まあ、邪魔な武士は排除した。
あとは武士たちに黒幕を倒させよう」
●事前情報は大事
ついに姿を現した小少将を目の当たりにして、フィア・シュヴァルツは怒りを隠しきれぬ様子であった。
「おのれ、あの女が諸悪の根源であったとは!」
……うん。その認識自体はまったく間違ってはいない。ただ……
『いえ、フィア様。初めから敵の正体は分かっておりましたが……』
使い魔フギンが言っていた通りである。今回の黒幕が小少将である事はブリーフィングの時点でちゃんと知らされていた事である。猟兵の中でたぶん知らなかったのはフィアだけだっただろう。さらに言うなら。
「しかも藩主を殺したのもあの女だとは!よくも我を謀ってくれたな!」
……小少将が黒幕であると知った際、この大嘘情報も同時に入手してしまっていたのである。ともあれフィアは改めて小少将に対して怒りを抱き、闘志を燃やすに至ったわけだ。
『……えっと、それは……』
結果的にその原因を作ってしまったフギンは、かなりばつの悪そうな顔をしていた。まあ仕方ない。フィアがちゃんと敵と戦ってくれるようになったから結果オーライだという事にしよう……と、この時は思っていたのだが。
「要は、だ」
すぐにその認識が誤っていた事をフギンは思い知らされるのだった。小少将と、その隣にいる大岩由良雄を見据え、フィアは言い放ったのだった。
「あの女と、それに洗脳された者を倒せば一件落着なのであろう?」
『わかってなかったー!!』
『大岩殿』
猟兵がそんな状況にあるとはつゆ知らず、小少将は傍らに立つ大岩に命令する。
『彼奴等も大殿を殺した憎き家光の手先なるぞ』
「なんだと」
小少将から与えられた禍々しき漆黒の具足を身にまとった大岩は、洗脳されている事もあり、その言葉を疑う事もなく受け入れた。そして刀を構えて身構える。
「大殿の仇じゃ、家光めの前に彼奴等を血祭に上げてくれようぞ」
小少将が持つ漆黒の扇より生み出された邪悪なる具足を身にまとった大岩は、その鎧の色が染みだしたような暗黒のオーラを全身から発散させている。その威圧感は見る者を萎縮させることだろうし、その強さについては素人目にもただ事ではない事がすぐに分かる事だろう。
だが猟兵はそんな事で萎縮したりしない。ましてやフィアは天才美少女魔術師なのだ。敵(ではないのだが)が攻撃態勢に入ったのを見て、すかさずフィアも攻撃の構えに入った。
「黒い具足で超絶強化されているらしいが、我の必殺魔法【
竜滅陣】の前では赤子の方がまだ歯ごたえあるというもの!あの洗脳された武士をぶっ飛ばしてくれよう!」
『フィア様~!ですから大岩殿を殺してはなりませんー!』
フギンが必死で訴えるものの、フィアは完全にスルーしているようだ。そも、その洗脳された武士が現藩主が幼い今だと藩の最高権力者である筆頭家老である事などまったく知らないようだし、知っていたとしても関係ないといった感じなので、仮にフギンの言葉を聞いていたとしても意味があったのかどうだか。
「漆黒の魔女の名において!」
向かってくる大岩を前にしてフィアは呪文を唱え始めた。
漆黒の魔女、それすなわち漆黒の衣装に身を包んだフィア自身の事。フィアが使うのはあくまで天才を自称するほどに強力な自らの魔力である。どこかの似たような美少女魔術師と違い、術を使うのに高位魔族の力など必要ないのだ。
「我が前に我が前に立ち塞がりし全てを消し去ろう!」
相手の事情など知った事ではない。いかなる理由があろうとも、天才美少女魔術師に歯向かう愚かなる者には等しく滅びを与えんとするフィアの魔法は、そして完成した。
「さあ、我の最大最強の魔術で消し炭になるがいい!そして亡き主君に、あの世で侘びてくるのだな!」
『ですからぁ~!!』
まともにくらえば巨大なドラゴンですら消し飛ばすを持つとされる超絶規模の破壊魔法が飛ぶ。だが大岩は回避する事なく真っ向から向かっていった。殿の仇と思わされている敵を倒すためか、小少将の誘惑によりそれを考える力すら奪われているのか。
『うおおおおおおおおお』
破壊魔法に向け、大岩は大上段に構えると、刀を振り下ろし……
大爆発。
『……』
だが、なんと大岩は原型を保っていた。これほどまでに小少将の力が強かったのか、あるいは大岩由良雄という人物の素の力がすさまじいものだったのか。
「ちぃっ、とどめを刺しそこねたか。運のいいやつめ」
『運……ですか』
心底悔しそうな顔のフィアに対し、安堵したようなフギン。運だけで済ませてしまうのも問題だが、実際、大岩の進撃は確かに止まっている。それでいて死んでいないし身体の欠損もなさそうだ。小少将による強化とフィアの必殺魔法、その双方が奇妙に噛み合った事で、大岩の行動不能、かつ生存という結果が生じたのだ。これは確かに運という言葉を使いたくもなるというものだ。
「まあ、邪魔な武士は排除した。あとは武士たちに黒幕を倒させよう」
結果には多少不満ではあったが、ひとまず自分の仕事は終わったとばかりにフィアはきびすを返した。小少将はまだ健在だが、それでも猟兵が先手を取った事は間違いないのだ。
大成功
🔵🔵🔵
ケイラ・ローク
【トーゴf14519】と
ねえトーゴ
あの目の黒いおばさんが敵?ふ~ん、着物ってああやって肩とか足とか見せる訳ね!
あら、違う?
ンもっ💢ローカルルール多過ぎ~💢
おばさん!アナタそうやっておじさん達をたぶらかして家庭内とか国家とか揉めさせてきたタイプでしょ
美女が煽ると男ってすぐ喧嘩や競争始めるわよね~
でもぉ戦争はダメ
とばっちり食らう人が不幸になりすぎるわ!
攻撃を避けておばさんを有利にさせない
受ける覚悟は出来てるの!
きゃん!でも痛いのよねっ💢
あたしのUCはこれよ!
逃げ足をつかい被害抑えたダメージを受け小少将を睨む
技が効いてきたらフラワービームのレーザー射撃を乱れ撃ち!
あ。おじさんには当てないよ~
鹿村・トーゴ
ケイラ【f18523】と参加
あいつの着方は未婚既婚とわずフツーと違うぞ
てか今小少将の着物の話してる場合と違うし
…なんかケイラ、あいつに対して棘があるなァ
ま、確かにイヤな感じのする女だ
唆すのが得意なのは間違いなさそ
まずご家老を止める
UCで全強化、代償の毒は【毒使い、薬品調合】で解毒し対策
一瞬動きを見【情報収集/野生の勘】使い強化した家老へ即詰め寄り具足ごと掴み投げ、手を離さ首を絞め気絶させ念の為に麻痺の【毒使い】一度戦闘不能に
家老を抑えたまま小少将へ強化した【念動力】でクナイ数本を【投擲】
家老の具足が解除されたらクナイを手にし壁、床を蹴り即座に接近
斬りつけ【傷口をえぐり、串刺し、暗殺】
アドリブ可
●猫騒動
『大岩殿、しっかりせぬか』
「……ううっ……」
先の戦いで猟兵によって戦闘不能にされた大岩だが、恐るべきは小少将の力である。扇より発せられた暗黒の力を流し込む事で大岩の傷は癒え、破壊された具足は修復され、たちどころに元の力を取り戻したのである。だが小少将とて不死身ではなく、強力な治癒はそれに見合った分だけ自分の力を削った事になるので、まるきり先ほどの戦いが無駄ではない事は救いではあった。
『ほれ、新手が来たぞ、大殿の敵討ちじゃ、妾のためにしっかりと戦ってたもれよ』
「……カタキ……倒す……」
「ねえトーゴ?あの目の黒いおばさんが敵?」
一方、ケイラ・ロークと鹿村・トーゴも敵の姿を視界に入れていた。当然、その横にいる漆黒の具足姿の男についても。
「だな」
で、早速戦闘態勢に入るものと思っていたのだが、ケイラはどうしても気になる事があった。
「ふ~ん、着物ってああやって肩とか足とか見せる訳ね!」
「……え?」
自身も着物を着てきたと言うこともあり、ケイラはエンパイア風の着付けには興味があるのだろうか。それを今聞く?と言った表情をトーゴはしたが、それでもしっかり回答をする。
「……あいつの着方は未婚既婚とわずフツーと違うぞ」
「あら、違う?ンもっ!ローカルルール多過ぎ~!」
それがルールだったらケイラも肩を出したのだろうか、とトーゴは考えた。まあケイラは普段着では肩出してインナーの肩紐を常に出しているようではあるのだが。ちなみに少し調べてみたが、本来着物で両肩を出す着方は我々の知る江戸時代にも一応存在はしたが、トーゴの言う通りに普通のものではない。いかにも色っぽそうな感じであるが、例えば江戸時代に色っぽい着物のおねーちゃんがいっぱいいる場所というと……まああれだ、全年齢のゲームであんまり詳細述べちゃいけないトコだよね。うん。女の子と楽しく『おしゃべり』するようなトコ。で、そういうトコにも格があって、ちゃんとお上の公認受けてるようないい所のおねーちゃんは、むしろ肌はなるべく出さない。ちゃんとかっちりと着物を着こんでいるわけだ。で、肩を出してるようなのは、非公認で最下級の、俗に夜鷹とか呼ばれるねーちゃんなわけでと。ちなみに未婚女性と既婚女性の着物の違いは……まあ振袖と留袖とかあるけどさすがに本題とズレてきたのでこのあたりで止めておこう。閑話休題。
「てか今、小少将の着物の話してる場合と違うし……」
あきれたように言うトーゴだが、じゃあなんで小少将はそんな夜の風俗嬢みたいな恰好してるのかというのは気にならないといえばウソになるかもしれなかった。実は本当に姫でもない風俗のねーちゃんだったのかもしれないし、我々の知る江戸時代と違ってエンパイアではああいうのアリだったのかもだし、はたまた骸の海でいろいろな情報が混ざったためかもしれないし。本当のところはわからない。だが、それよりもトーゴが気になった事がひとつ。
「……なんかケイラ、あいつに対して棘があるなァ」
「当たり前じゃない!」
トーゴが何気なく口にした疑問を、ケイラは意外なほどにあっさりと認めた。それもかなりの強い口調で。そしてケイラは小少将に指を突き付けると。
「おばさん!」
『!!??』
……強烈極まりない宣戦布告であった。
「アナタそうやっておじさん達をたぶらかして家庭内とか国家とか揉めさせてきたタイプでしょ」
ケイラの言葉はおそらく推測だったのかもしれないが、どうやら間違ってはいなかったようだ。たしかに小少将は権力者を堕落させて悪政を敷かせる事を得意としてきたようだ。ちなみにこの小少将は歴史上の小少将との関係は不明とされているが、歴史上の小少将でいうなら戦国時代の武将朝倉義景の側室の小少将が義景を堕落させて政治を思うままに動かし朝倉家の滅亡を招いたと言われている。繰り返すが猟書家の小少将と関係あるかは不明である。
「美女が煽ると男ってすぐ喧嘩や競争始めるわよね~。でもぉ、戦争はダメ!とばっちり食らう人が不幸になりすぎるわ!」
『……お、おば……』
戦争になると町は荒れ果てて孤児やストリートチルドレンが増える……自分のような。そんな不幸な人間を増やすわけにはいかない、と怒りを込めたケイラの言葉だが、当の小少将にとっては、その前の言葉の方が強烈だったようだ。傾国と呼ばれる程の魅了の力を持つと自負している者にとってはなんとも屈辱的な言葉だったことだろう。オブリビオンであってもおばさん呼ばわりは腹が立つようだ。
『大岩殿!』
顔を怒りにゆがませ、小少将は黒い具足姿の大岩を見やった。
『この無礼者をやってしまいなさい!』
「おお!」
ケイラに向かう大岩だったが、そこにトーゴが立ちはだかった。
「ま、確かにイヤな感じのする女だ。唆すのが得意なのは間違いなさそ……」
「トーゴ!」
「こっちはオレに任せときな、そっちはケイラ頼むわ」
「がってん!」
かくして戦いは2対2の様相からケイラ対小少将、トーゴ対大岩の形となったのだった。
邪悪な鎧で超絶強化を遂げている大岩に相対したトーゴが対抗するために取ったのは。
「くうっ!?……や、やっぱきちいぜ、こいつは」
超絶強化には超絶強化で対抗せんと、自らに化生を降して能力を大幅に上げる【降魔化身法】だった。我が身を侵す毒をあらかじめ用意した解毒剤で抑えつつ、トーゴは大岩に向かう。
「敵……殿の仇!」
「おっと、そうだった、そう思わされてるんだった」
大岩は刀を大上段に振り上げると裂帛の気迫とともに斬りつけてくる。刃の軌道そのものは実にわかりやすいが、超高速で振り下ろされると、わかっていても回避は困難だ。しかも回避されてもすぐに体勢を立て直して続けざまに攻撃が飛んでくる。回避してもなお風圧がその威力を伺わせる。さすがのトーゴも防戦一方だ。だがなんとかして反撃の機を掴まんと、相手を観察しつつ必死で回避に専念した。そして。
「今だ!」
本当に一瞬の隙だった。大岩が刀を振り上げた瞬間、トーゴは上昇した身体能力で一気に接近すると、そのまま刀をかいくぐって大岩に組み付いていた。そして忍者の技で大岩のバランスを崩させ、地に倒して組み伏せた。
「悪りぃな、こうなったらオレの方が上みたいだな」
「くっ!離せ!」
「やなこった」
むろん武士とて武芸十八般に柔術が含まれているぐらいには無手の技にも秀でてはいる。だがスピードと反応速度を重点的に上昇させた大岩を、全能力を満遍なく上昇させた形のトーゴの忍術がどうやら上回ったようだった。そのまま技術とパワーで大岩を抑え込むと、頸動脈を絞めにかかる。柔よく剛を制し、剛よく柔を断つ、だ。
「ちょっと寝ててくれ」
脳に酸素が行かなくなり、さらにダメ押しの麻痺毒まで受け、暴れていた大岩はようやっと動かなくなった。安堵したトーゴがケイラの方を伺うと……
「きゃんっ!」
『ほっほっほ、大口叩いておいてそのザマかえ』
小少将のユーベルコードは二段構えだ。飛び道具が当たれば普通にダメージ、回避されたとしても戦場を小少将有利な状況に変えるという、どう転んでも厄介なものとなる。ケイラが選んだのはあえてダメージを受ける方だった。ただでさえ強力な猟書家をさらに強化させないというのは理にはかなっている。だが、そのためにはそのただでさえ強力な敵の攻撃を受けなければならない。
『くっくっく、いつまで耐えられるかのお』
「んもう!せっかく可愛い着物なのに!台無しじゃない!」
お気に入りのピンクと白の市松柄の着物は、小少将の放つ黒い津波により真っ黒に染まっていた。洗って元に戻るものなのだろうか。むろん強烈な水圧と邪悪な魔力はケイラの体力を確実に削っている。ダメージは最初から覚悟はしていたし、うまい事ダメージを抑える戦術をとってはいたが、それでも痛いのは痛い。
『所詮は化け猫など禽獣の類。鍋島でさえ呪えぬ程度の小物の分際で、この高貴な妾に盾突く事など、天に唾するとはまさにこの事よのお』
余談ではあるが鍋島猫騒動と呼ばれる怪談自体は忠臣蔵同様にもうちょっと後の話だったりする。ただ元となった話はちょうど今のエンパイア頃の話らしいとか。
「……化け猫?禽獣?」
その言い方にケイラが反応した。それに気付いたのか気付いてないのか、さらに小少将は。
『戦で人が苦しむと?ほっほっほ、下民どもとて妾のために役立てるのじゃからむしろ光栄に思う事じゃろうのお』
「……猫をいじめると……」
高笑いする小少将についにケイラの怒りが臨界点を突破した。実はケイラの作戦も小少将と同じ二段階だったのだ。ダメージは抑える。抑えきれないダメージは……
「こわいんに゛ゃああああああああ」
やり返す。ケイラは渾身の恨みをこめて小少将を睨みつけた。視線そのものに攻撃力があるならば確実に死んでいたであろう殺意だ。そしてその殺意は確かに、届いた。
『ごふっ!!な、なんじゃこれは』
猫の意趣返しにより、小少将は吐血した。その腹部からは体内に発生した棘が腹部を貫通して突き出ている。これまで小少将が積んできたカルマ、そして今しがたケイラに吐いた暴言。それらの報いを全て受けているのだ。
「ネコマタを化け猫と一緒にするようなおばさんに負けるわけにはいかないわ!」
『おのれ化け猫めが、妾をなめるでないわ!』
血を吐きながらもそこは猟書家。大きなダメージを受けながらもなお扇を向けてケイラに津波を放とうとする。だがその動きが一瞬止まる。その背中にはクナイが突き刺さっていた。
「おっと、やらせねえよ」
大岩を無力化したトーゴが投げつけたものだった。それでも小少将は漆黒の津波を撃ち込むが、一瞬の動きの停止が仇となり、ケイラはそれを回避する。
「んもう!あたしひとりでも十分だったのに!」
「意地張るない、そんな真っ黒な着物で」
「それを言わないで!」
ダメージは大きいが、それでも軽口を叩き合う余裕はできた。あとは一気に畳みかけるだけだ。
『おおお……おのれ猟兵!!』
船を作り、回避によってできた漆黒の水場に入ろうとした小少将だったが、それを許すふたりではない。ケイラがフラワービームを連射し、トーゴはクナイを持って小少将に一気に接近、腹部にできた傷にさらに刺突を加えたのだった。
戦況は完全に猟兵に傾いていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メディア・フィール
SPD選択
他PCとの絡みOK
アドリブ・プレイング改変OK
闘龍衝破撃で大岩の足止めをすることに徹します。また、【墨に溺れて、武を忘れよ】にに対しては、水辺を【水泳】で泳ぎつつ、【焼却】で焼き尽くし、干上げることで小少将が水辺に入ることを妨害して能力値が上がることを防ぎます。可能ならば、もう一つのユーベルコード【邪竜黒炎拳】を使って戦場全体を炎に包み、水を相殺します。
「黒い津波には黒い炎だ! 相殺してやるぞ!」
「ごめんね! 悪いけれど動きを止めさせてもらうよ!」
「大岩殿はボクが足止めするから! 小少将はみんなに任せた!」
「忠臣を、忠臣ゆえに手駒にするなんて、そんな心を弄ぶようなことは許せない!」
●あきらめない
「……ぐ……」
一度は足止めを受けて意識を失っていた大岩だったが、注ぎ込まれた小少将の魔力がよほど強力だったのか、あるいは洗脳による思い込みとはいえ、大殿の仇をとらんとする意思が強力だったのか、しぶとくも意識を取り戻すと、ゆっくりと起き上がった。
「……殿の……仇……」
小少将は猟兵や一般兵たちに取り囲まれている。かなり押し込まれてはいるが、その力はいまだ健在のようだ。ならばまずやる事は、小少将を取り囲む者たちを排除してその安全を確保する事だ。そう判断した大岩は小少将のもとへ向かおうとした……が、そこに立ちはだかる者がいた。
「ここから先に進ませるわけにはいかないよ!」
メディア・フィールは小少将を皆に任せ、大岩の足止めに自ら志願したのであった。そして単身、超絶強化を受けた大岩の前にいる。
「貴様も……殿の仇の一味か!許すわけにはいかん!」
「忠臣を、忠臣ゆえに手駒にするなんて、そんな心を弄ぶようなことは許せない!」
メディアも大岩も心に怒りを抱いていた。だが、その意味合いは大きく違っていた。大岩は眼前の相手が怨敵と信じさせられているがゆえの怒り。そしてメディアは眼前の相手を利用する小少将に対しての怒りであった。
「くらえ!」
大岩は裂帛の気迫とともに全力でメディアに斬りかかる。スピードと反応速度を極限まで上昇させた大岩は、武士でとはいえ一般人でありながら猟兵顔負けの攻撃力を誇っている。常に最前線で戦ってきたメディアであっても、手を焼くほどの苛烈な攻撃だ。
「くっ……さすがに強い、でも!」
それであってもメディアはここで退くわけにはいかない。たった今小少将と戦っている仲間達のためにも、小少将の陰謀で大変な事になっている藩のためにも。そして何より、かつて一度折れてしまった自分のためにも。もう二度と負けたりしない。負けたとしても折れる事なく何度でも立ち上がってみせる。そう誓ったのだ。超高速の攻撃を必死で見切ると、大岩の振り下ろす剣を紙一重で回避し懐に潜る。そしてすかさず、右の拳を突き出した。必殺の【
闘龍衝破撃】だ。
「ごめんね!悪いけれど動きを止めさせてもらうよ!」
メディアの右拳から放たれた衝撃波が大岩を貫いた。そのまま前のめりに倒れる大岩。気を失って入るものの、どうやら息はあるようだ。メディアが安堵したのは、だがわずかな時間だった。
『そなたも猟兵かえ』
メディアの前に小少将が現れたのだ。どうやら他の猟兵たちから逃れ、大岩と合流するためにここに来たようなのだ。流れもあったとはいえ、本来大岩の足止めに徹するはずのメディアがこうして小少将と相対する事になるとはあまりに意外なことではあった。だが小少将はメディアにとっても倒すべき敵である事に変わりはない。精神を驚愕から戦闘モードに切り替えると、メディアは小少将に改めて向き直った。
「キミを逃がすわけにはいかない!今ここで、ボクが止める!」
『そなたごときがたわけた口をきくものじゃ、おもしろい、やってみせるがよい』
早速小少将は漆黒の扇を振りかざすと、墨色の津波を吹き出してメディアを襲う。だがメディアもその技に対してはしっかりと対策を立てていた。
「黒い津波には黒い炎だ!相殺してやるぞ!」
メディアの拳から黒い炎が噴き出し、黒の津波と衝突する。
邪竜黒炎拳は確かに闇の力だが、それを用いるメディアには間違いなく正義の心が宿っている。正義の目的で使用された闇の力と、悪しき願いを成就させるための闇の力がぶつかり合い、戦場一面に漆黒の蒸気が舞い飛ぶ。やがて闇の魔力は蒸気とともにサムライエンパイアの空へと消えていった。
『これは……妾としたことが、ここまで消耗していたとはの』
「疲れが出てるようだね!覚悟!」
あるいは小少将が万全ならば話は違っていたかもしれないが、真剣勝負においてタラレバほど意味のないものはあるまい。あるのはメディアが小少将のユーベルコードをふたつまで破ったという事実だけだ。
『仕方あるまい、これだけは使いたくなかったがのお』
……そう、ふたつまでは。これまで破ったのはPOW系とSPD系だ。そしてメディアは今回、WIZ系のユーベルコードを使っている。と、いうことは、小少将も残された最後のユーベルコード、WIZ系をついに使う時が来たということだ。
『さあ、妾の目を見るがよい』
「え……」
メディアの動きが止まった。これまで数多くの大名を篭絡し、そして今回は大岩由良雄を洗脳した必殺の誘惑術を、小少将がついに解禁したのだ。たちまちメディアの脳内に現れる、抵抗し難い衝動。それはかつての記憶によく似ていた。戦いに敗れ、抵抗に敗れ、そして選んだ最も楽な道。それは人生最大の屈辱であり、同時にこれ以上ない甘美なものであった。それに身を任せてしまえば間違いなく幸福が手に入る事だろう……魂の永遠の呪縛と引き換えに。
『さあ、妾の元に来るがよい』
「……あう……あ……」
ゆっくりと、戦意などまったくない瞳でメディアは小少将のもとへと歩き出した。だが小少将は大岩らのようにメディアを虜にして扱いやすい下僕にする意図など存在しない。メディアが魅了されたのと同時に、小少将の背後におびただしい数の亡霊が現れたのだ。彼らは皆、かつての小少将の夫であった人物だった。亡霊たちは明らかな敵意を持ってメディアを見ていた。妻である人物に魅了され、口説こうとしているように見えたメディアに対する殺意……理不尽といえばあまりに理不尽ではあるが、そういうものがぶつけられようとしていた。
「……この感覚……」
メディアに対して怨念が飛ぶ。だが、その殺意がメディアを覚醒させた。そうだ。かつて自分は壮絶なる殺意と相対し、敗れ、確かにその時一度折れた。だが、あの時は間違いなくそこから立ち上がったじゃないか。あの時さんざん浴びた殺意に比べれば、この程度……!!
「おおおおおおおおおお!」
メディアがかっ、と目を見開くと、おびただしい拳の連打が放たれ、そこから生み出された衝撃波の群れが怨念とぶつかり、消滅した。
『馬鹿な!妾の誘惑から逃れただと!?』
さすがにこれには小少将も驚愕を隠せない。そして同時に決定的な事が起きた。
「天才美少女魔術師がきてやったぞ!」
「いたいた!って、まーだ生きてたの?ほんっとしぶといおばさんね!」
「まったくだ、今度こそ、きっちりカタつけないとな」
「みんな!来てくれたんだ!」
『お、おのれ猟兵どもめッッッ』
猟兵と、一般兵たちの総攻撃の前に、今度こそ小少将は地に倒れ伏した。そしてたちまちのうちにその体は塵となり、最初からそこにいなかったかのように消えてなくなった。
(……だが妾は必ず戻って来るぞ……)
大岩をはじめとする藩の重臣たちにかけられた洗脳も解け、藩に日常が戻って来た。これからまだまだ大変な日々が続くだろうが、それでもどうにか困難を乗り越え、幼き藩主を盛り立てて藩を栄えさせてほしい、猟兵たちはそう願っていた。
そして70数年後、他の世界、例えばUDCアースと同様に、サムライエンパイアでもかの仇討ち事件は起こるのか。それを知る者は、現時点では誰もいない。
大成功
🔵🔵🔵