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鏖殺の宴

#ダークセイヴァー #お祭り2022 #ハロウィン


●祭り
 大きなかぼちゃをくりぬいてランタンを作った。
 夜には集会所に集まって、ロウソクに灯を点した。
 それは日々を生きることにさえ汲々とする村にとっては大変な『贅沢』。ちょっとした事件にだってなりえるような、非日常の『お祭り』だった。

「わぁ~……」

 小さく、あたたかな光がゆらぐ。
 かぼちゃの料理がテーブルに並ぶ。
 ホクホクしたかたまりが口の中で解け、ほんのりと甘い味。現代の品種改良された野菜と比べれば美味とは言い難いそれも、栄養不足の痩せた体にとっては染み入るような、滋味深いご馳走。

「おいしいね」
「ねー」

 子どもたちが嬉しそうに燥ぐ姿を見て、大人たちも目を細める。
 病魔、魔獣、吸血鬼――。
 願わくば支配者たちの暴虐からどうかこの子らが守られますように、と。
 ランタンに灯された小さな火に向け祈りを捧げる。

 ほんのささやかな宴。

 どこかの世界で誰かが言った。
 それは逆境に塗れた生を生き抜く糧。
 暖かな『記憶』というものが、人間には必要なのだ――と。

「ありがとうございます。わたしたちまで、こんな素敵なおまつりに招いてくださって」
「ほっほっほ……何。その方が皆も喜びますでな。良ければ、また旅の話を聞かせてくだされ」

 宴には3人の旅人が同席していた。
 剣士らしき青年とダンピールの娘。人狼の少女。
 仮装ではない異形を晒す娘たちにも村の者は穏やかに接していた。訳ありげな『旅人』たちの正体が何であるかなど、気にした風もない。

 だって、此処は『人類砦』の勢力圏内なのだ。
 異界の『闇の救済者』が伝えてくれたハロウィンを共に楽しむことくらい、きっと許されるはずだ。

 ささやかで、けれど確かにあたたかな光。
 あたたかなひとたち。
 自然と笑顔がこぼれでる空間。
 だれかのために用意された、あたたかな食事――。

「こんなものがあるから」

 常闇の世界で、誰かが言った。

「お前たちは、より一層、不幸になるのだ」

 ――と。

●グリモアベース
「……皆さんは昨年のハロウィンを覚えていますか? ダークセイヴァーでも、伝承の中にだけ残されていたそのお祭りが復活して、人類砦の人々はささやかなお祝いを楽しんでくれました」

 猟兵がその楽しみ方を伝えることで復活した、ハロウィンの祭り。
 それから一年がたって、極わずかではあるがダークセイヴァーでは今年もまたハロウィンの祭りをやってみようという村々があった。

「その村は、辺境にある人類砦の勢力下で。ヴァンパイアの支配地とは違って、そんな風にささやかなお祭りを楽しむことが出来る場所……だったはずでした」

 けれど、そんなささやかな非日常の楽しみは、常闇の世界に依然として君臨し続ける支配者たちの気に障ってしまったようだ。

「ヴァンパイアの……常闇の支配者たちの軍が、彼らを皆殺しにする光景が、見えました」

 グリモア猟兵のリア・アストロロジーが硬い表情で、努めて淡々とつぶやく。そうでなければ、声が震えてしまっていたかもしれないから。
 黙示録の地獄アポカリプスヘルで造られ、戦場に生きてきたフラスコチャイルド。リアは見た目通りの幼い少女ではなく、凄惨な現場も数多くその目に映してきた人類の『兵器』でもあったが。

「……恐るべき敵、です」

 辺境の村へと差し向けられた刺客たち。
 それは『罪を背負いし聖女』の集団と、『滅亡卿』と呼ばれている吸血鬼たちの『暴力装置』。
 村ごと彼らの心も肉体も何もかもを徹底的に打ち砕かんとする討伐軍の陣容からは、その怒りの深さが窺い知れると、リアは言う。

「かつて領主に虐殺された聖女たちは、抵抗の罪深さを、それが齎すより悲惨な結末を説いて、村の方たちの心を恐怖と罪の意識で染めようとしています。そして、それは彼女たちにとっては紛れもない事実」

 例えば病に苦しむ幼子の姿を見かねて、領主の所有物である森から一房の薬草を摘んで持ち出してしまったり。
 支配者に何らかの粗相を働いてしまった者を庇おうと、自分が代わりに罰を受けることを申し出てしまったり。
 逃げ惑い、暗がりで震えていたいのちを守ろうとして、咄嗟に吸血鬼のしもべに嘘をついて匿ったことだとか。

「そんな風に、だれかの痛みを憐れんで、彼女たちがとった行いが……」

 超能力PSIを持って生まれるフラスコチャイルドの中でも超感覚的知覚ESPに特化して創造された少女は、予知に及ぶ際も“深く見過ぎる”ようなきらいがあって。

「おこない、は……」
「……」

 続く言葉は、しばらく待ってみてもなかなか出てこなかった。
 けれど、言葉にせずとも、超常の能力に頼らずとも――時にそれらより雄弁に語りかけ、伝えてくるものがあることを、猟兵たちは知っただろう。

「……っ、すび、ばせ………ぅぐ……」

 悲痛に彩られぐしゃりと歪んだ表情のまま、ごしごしと目元を拭い、喘ぐように何とか言葉を続けようとする少女。
 いいさ、と誰かが言った。
 すると、まるでそれが合図になったかのように、リアは堪えきれずに泣き出してしまった。
 わぁんわぁん、と声を上げ、まるで十にも満たぬ幼い子どものように泣きじゃくる。
 だって、『彼ら』は絶対にこんな風に許してはくれなかったのだ。
 どんなに謝っても、後悔しても。
 泣いても、叫んでも、赦してほしいと懇願しても。
 これがお前の犯した『罪』の報いなのだと、嗤いながら『それ』を続けたのだ。

 そうして聖女たちは強き者による『断罪の刃』が振るわれるのを受け入れるしかなかった。
 当然だ。この光なき常闇の世界ダークセイヴァーでは、それこそが人と吸血鬼の“正しい”在り方なのだから。

「……大変失礼いたしました」

 やがて、落ち着いたのだろうリアが再び依頼の説明を再開する。

「皆さんのなすべきことをお伝えします。まず、滅亡卿が来てしまえば村は確実に壊滅します。弱い彼らを背中に庇いながら戦うというのも、現実的ではありません。だから、初めに村の方たちを避難させてあげてください」

 広範囲殲滅と異次元の移動能力を有する『滅亡卿』の目に留まる範囲に村人が残っていた場合、彼はまずそれを見逃さない。幸い彼がやってくるまでには時間の余裕がある為、避難がスムーズにいけば少なくとも人的被害は最小に留めることが出来るかもしれない。
 だが、その前に問題となるのが……。

「『罪を背負いし聖女』たちは、村人を武力ではなくその言葉と祈りで改悛させようとしてきます。彼女たちは逃亡を図る村人たちの行く先々で幾度となく立ちはだかり、逃げることを……生きるための抵抗を止め、支配者に降り、裁きを受け入れるように説得してくるでしょう」

 その言葉に村の者が動揺し避難が滞ってしまえば、待ち受けるのは悲惨な結末。
 ならば猟兵が問答無用で殺してしまえば良い、と考えるかもしれないが。

「村の方たちは、穏やかで心優しい方たちばかりです」

 武器さえ持たず、傷だらけの身体で何かを訴えようとする無抵抗な女性。その悲痛な叫びを消し去るために一方的に殺す『強者』の振る舞いを目の当たりにしたとき、彼らは何を思うだろうか。

「……一番大事なのは村の方たちの命が続くこと。だけど、叶うならばどうか……示して、見せてあげてください」

 ――せめて、あの方たちに蝋燭一つ分の灯り希望を。
 リアはそう言ってぺこりと頭を下げ、あなたたちを送り出したのだった。


常闇ノ海月
 Σ リアちゃんが……ないちゃったうさ! ひゃくねんいじょうもいきてて、おとなげないからうさ! おぶりびおんめ、まるでせいちょうしてないですうさぁ~!
 ……常闇ノ海月です。
 くせになってんだ……うさうさいうの。

 安心安全で楽しい常闇製ハロウィンシナリオ第二弾です。
 先行してるシナリオ優先でスローになるかもですが、それでも良いやと言う方は参加をご検討ください。
 以下は第1章についての情報です。第2章に関しては2章断章にて。

●目的
 村人たちを安全圏へと避難させる。

●障害(敵)
 基本、舌戦です。武力は役に立ちません。
『罪を背負いし聖女』の言葉、嘆き、祈りが村人たちを絡めとろうとします。
 また、彼女たちの言葉は全て『実体験に基づいた事実』から来るものです。

 ダークセイヴァーの民が理解、共感、奮起できるようなあなた自身の言葉、或いは行動を示すことで、彼女たちの主張で足を止めてしまうだろう村人たちを再び進ませてください。
 出身がダークセイヴァーだとちょっと有利かもしれませんが、猟兵目線が過ぎると正直厳しいかも。

 尚、聖女たちはオブリビオンですが、特に倒さなくとも構いません。
 彼女たちが生き残っていたとしても、あとには『滅亡卿がやってくる』からです。

●場所
 村から森へ向かい秘密の抜け道を通って人類砦へと避難します。
『罪を背負いし聖女』との遭遇が発生するのは森の表層までです。
 途中まで進めば、あとは居合わせた闇の救済者に護衛を任せられるようになります。

●闇の救済者
 人間のブレイズキャリバー(青年剣士)、ダンピールの咎人殺し、人狼の聖者(雨降りの聖女)が現地勢力として村に滞在しています。
 気にしなくても構いませんが、何か御用があれば、それが妥当な内容であれば協力してくれます。
 特に『雨降りの聖女』は猟兵の残した影響もあるのか第四層の現地人としてはかなり強力な力を持っていますので、滅亡卿との戦いでも囮や頭数の足しにはなるかもしれません。目立ちますが、必要とあらば『ヘヴンリィ・シルバー・ストーム』相当の極光オーロラのユーベルコードを使います。

 参考シナリオ:物語の風景の果てに(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=41877)

 ではでは、宜しければ猟兵が広めた『楽しいお祭りハロウィン』のもたらした結果を、共に受け取りに参りましょう?
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第1章 集団戦 『罪を背負いし聖女』

POW   :    抵抗してはなりません、それは罪なのです。
【直接攻撃をしない者との戦闘に疑問】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【凄惨な虐殺の記憶】から、高命中力の【戦意を抹消させる贖罪の嘆き】を飛ばす。
SPD   :    私が犯した罪は許されません。
【自身が犯した罪】を披露した指定の全対象に【二度と領主には逆らいたくないという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ   :    あなたの罪を浄化します。
全身を【流血させ祈ると、対象を従順な奴隷】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
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●GIFT
「そうだ。この祝うべき日に、彼らに素敵な贈りものをしよう」

 豪華絢爛な晩餐会。
 耳に心地よい“楽の音”、食べきれない程用意された“御馳走”。
 血のように紅い――否、血液そのものの色をした液体を飲み下し、尊き席に座す者が言った。

「ほう?」
「贈りもの、といいますと?」

 まだあたたかな、皿の上で湯気の立つ肉を味わう手を止め、退屈に倦んだ貴き者たちが興味を示す。
 新しい“遊興”はどのような趣向を凝らしたものだろう。

「ハロウィン、と言う祭りがある。それは善霊を引き寄せ、悪霊を遠ざけるのだそうだ」
「ほうほう。ならば、善良な支配者たる我々は、是非とも招待されるべきでしょうな!」

 厳選された最高級の『食事』も良いが、その土地ならではの野趣のある素材を、彼らが生きてきたその場所で直接味わうのもまた格別。
 逃げ惑う者たちを蹂躙し、家族の前で思うさまに嬲り、その悲鳴と絶望を味わいつくすのだ。

「まあ、待ちたまえ。悲しいことだが、招待されていないものはしようがない……」
「ふむ?」
「ほっほっほ。だから、贈り物なのですな」

 その通り、と。
 尊き席に座す者が嗤う。

「そうだな……先ずはこのめでたき日に罪深いあの者らを特に許し、『里帰り』させてあげようか」
「ほうほうほう!」
「何と……慈悲深い」

 大罪を犯した愚かな罪人にでさえ赦しを与え、人の手に還してあげようというのだ。
 それはきっと、祭りを楽しむ者たちにとってもこの上なく素晴らしい贈り物になるだろう。

「それからハロウィンというのは仮装をした者が紛れ込むらしい。……そこで、だ。――是非ヴォルフガング卿にご足労願おうでは無いか」

 Wolfgang――ドイツ語圏内ではありふれた、男性のファーストネーム。
 狼の道。獣の行進。狼に扮装した戦士――そのような意味を持つ名前。
 その名を持つオブリビオンは、山羊の骨のような物を仮面としていた。

「……なんと。それはそれは」
「滅亡卿を……」

 貴き者たちでさえ、思わず言葉を濁す。
 それは文字通り『滅亡』させる者。徹底的な殲滅と殺戮を行う暴力装置。
 そのやり口は、彼らが好む狩猟ハンティングとも遊興ゲームとも異なり――率直に言うなら些か面白みに欠けるのだ。

「諸君らの懸念はようく分かるとも。よって、ヴォルフガング卿にはなるべく『ゆっくり』向かって貰うことにしよう。久しぶりの里帰りだ、あの者たちにも積もる話もあるだろうからね」
「なるほど。そこまでお考えでしたか」
「かような下々の者にまで過分なご配慮。流石、君主の鑑でございますな」

 そうであるなら、『滅亡』が訪れるまでの時間はきっと愉しいことになるのだろう。

「何……100年もの間、我らが大地で生きることを許し、正しき道に導いてあげた子羊たちだ。薄情にも恩を忘れ独り立ちを望んだとしても、やはり可愛いと思ってしまうものなのだよ」

 赤い、赤い液体を飲み干し、

「ヴォルフガング卿にも良く言い含めておくさ。ただ、彼は少しばかり生真面目で仕事熱心が過ぎるから、何か勘違いして私の可愛い子羊たちを酷い目に合わてしまわないか、少しばかり心配だがね……」

 尊き席に座す者が嗤う。

「特別な祝いの日であれば、それもきっと大丈夫だろう。何せ、子羊たちのハロウィンのランタンは、悪しき霊を遠ざけてくれるそうだからね」
「!! ……ほっほっほ、それもそうですな」
「御慧眼ですな。仰る通り、やつらの信じ縋ったカボチャの皮が、きっとかの滅亡をも払ってくれることでしょう。クククッ……」

 貴き者たちの嘲笑の声ばかりが響く。
 それは館のあらゆる場所で今も鳴りやまぬ誰かの悲鳴を、呻きを、泣き声を、断末魔を飲み込んで。

 ――宴は、続いていく。
シキ・ジルモント
ヴァシリッサ(f09894)と
愉しそうかはともかく見過ごせないのは同感だ

ヴァシリッサに先導を任せる
ユーベルコードで周囲を警戒、遅れる村人に手を貸し進む
彼女の言葉には不安払拭の為はっきり同意を示す
間違いなく先へと向かう前進だ、と

聖女と村人たちとの間に入り庇うが、攻撃はしない
ダークセイヴァーの貧民街で暮らした昔の自分がそうだったように、村人たちにとって戦闘行為自体が恐怖の対象だろう

俺は抵抗を罪とは思わない、が…
罪と恐怖を煽る聖女には、言葉によって抵抗を示そう
罪なら俺にも覚えがあるが、経験上足を止めれば後悔しか残らない
それに恐れ諦めて立ち止まる事は、暗い世界で必死に生きてきた自身への裏切りに等しい

領主を恐れるな、ここまで生きた自身に報いる為に足を止めるなと
諦めず進む限り俺達が力を貸すと村人へ言葉を継ぐ
罪を負った時に裁きを下せるのは領主ではない、自らの行いを視てきた自分自身だ

ヴァシリッサの言うように、ここは通してもらう
彼等が繋いできた今を未来へ運ぶ為
あんた達が危惧する悲惨な結末を防ぐ為に


ヴァシリッサ・フロレスク
シキ(f09107)と
何でも大歓迎

あら?ンな愉しそうなパーティにアタシを招待しないなンてツレナイねェ
ま、この通り呼ばれなくッたって邪魔すンだケドさ?

任せナ、道草喰うのはゲリラ戦で慣らしてンでね
散々相手した対吸血鬼への【戦闘知識】と【学習力】を活かし村人を匿いながら獣道を誘導
【悪路走破】で接敵を極力避けつつ聖女達には手を出さない

【コミュ力】発揮で道中他愛無い世間話で打解け、不安も拭えれば
闇の救済者の面々も他人とも思えないし
イイかい?こりゃセンリャクテキテッタイってヤツだ
逃げてンじゃない
進んでンのサ♪
だろ?シキ♪

聖女が立塞がればUC発動
あァ、身を以ての忠告、痛み入るね
嘘じゃない事だッてもの良く知ッてるさ
同情も呉れてやるしアンタにゃ恨みは無い
だからこそ
黙ッて嬲られる程お行儀良か無いし
悪ィがアンタらみたいに此処で終い過去にするつもりは無ェンだよ
アタシはな

フフッ♪シキ、イイことゆうじゃない?
あァ、待ッてな
【覚悟】の違いを
アンタらが往けなかったきぼうを、魅せてやる

だから
通せよ


シホ・エーデルワイス
≪華組≫

聖痕が共鳴

誰かを助ける為に罪を犯し
死してなお
その罪に囚われる…
私と似た境遇だと思う

だからこそ彼女達が成した事を無意味にはさせません


人々はプリュイさんと一緒にコミュ力で優しく落ち着かせつつ『聖鞄』へ救助活動


罪を背負いし聖女には
彼女達が犯した罪のおかげで
救われた人々がいる事に礼を尽くし
晩節を汚させない為
滅亡卿に彼女達を鏖殺せたくない故
【終癒】で彼女達に敬意をもって弔う


生きて欲しかったから罪を犯してまで助けたのでは?
そんな目に遭ってまで助けた命を
今度は奪う側に加担して失わせてしまったら
貴女方は何の為に命を失ったのですか?

咎人の真の姿を晒して見せ

私も…許されない罪を犯し
世界の奴隷にされ
人々を救い続ける使命を科されました
でもそれは私にとって望む事でもあります

本当の所
貴女方はどうしたいですか?


外の様子は『聖瞳』を通じ聖鞄内の窓に投映
怖ければカーテンを閉めて下さい


プリュイさんも
一緒にUCで彼女達を送ってもらえませんか?


森の途中まで進み安全圏に来たら
プリュイさんに聖鞄を託して避難してもらいます


四王天・燦
《華組》

ちょりーっす再び
『聖女の生き血』なる銘の赤ワインを手土産にプリュイに挨拶
ヤバいの来るから超逃げてと説得だよ

罪の聖女が現れたら空気読まずにワインを勧めよう
酒を愉しむ権利がある、アタシは最初から罪を赦しているという意思表示さ

蹂躙された弱さは仕方なし
素直にご愁傷様
だが他者に破滅を勧める弱さは頂けない
決めるのは今を生きる者達なのだ
つーわけで死ぬ気で強く生きるか、弱く生きて死ぬか砦の皆に問いかけるぜ
『今まで』を無駄にするような選択をするなよ

聖女達も稲荷巫女のお説教で諭すよ
滅亡卿に殺られず、彼女達の魂が正しく輪廻に逝けるようにね

罪から赦されるには先ずは自分自身を赦さなきゃならない
弱さが罪なら、次に生まれ変わったら強く誰かを護れるようになればいい
そして幸せになるのが罪滅ぼしだと
受け入れてくれたら浄化・祈りの符術を持って輪廻に逝かせる

プリュイ達に避難先導してもらって滅亡卿招かれざる客をもてなす準備をするよ
青年剣士には双眼鏡を渡しておくぜ
ハロウィンのプレゼントだ、四王活殺剣をよーく見ておきな


レモン・セノサキ
聖女が現れたら武装は解除しよう
ついでに聖女の傷も【指定UC】で治癒したい
見てて痛々しいからね
村人の心象も悪くならない筈だ


聖女の演説が始まったら
最適なタイミングで質問を差し込みたい

領主様とやらの気に障った、たったそれだけで
温もりも失せた青白い骸ゴーストみたいなカラダにされたのに
村人たちをそんな奴の元に置き続けるのかい?

薬草で幼子を助けた娘が居るそうだね
あの時助けなければ良かったと、そう思ってるのか?

彼女らだって被害者なんだ
威圧的でなく▲優しさ絡めて言いくるめ、噛んで含めるように聞き出そう
村人の事を思う気持ちが残っているのなら
どうか言葉に詰まって欲しい


村人にも問いかけつつ、畳みかけるように発破をかけたいな

彼女らが処刑されたのは当然か?
可哀そうでも何でもない、自業自得か?
その哀れみって感情は理不尽さから来る物の筈だ
足を止めたら彼女らの思いやりは、犠牲は
全て無駄だったと嘲笑うのと同じだよ


聖女様、アンタ等が生前示した思いやりは間違いじゃない
いざとなったら閻魔の眷属、トゥルダクが弁護してやるさ



●再会と、出会いと
 尻尾がパタパタと揺れていた。
 黒に藍色が混ざったようなつややかな毛色の尻尾が、千切れんばかりに振られていた。

「ちょりーっす」
「!!!」

 ささやかなハロウィンの祝いを楽しむ村を訪ねた猟兵たち。
 四王天・燦(月夜の翼ルナ・ウォーカー・f04448)が以前に別の依頼で知り合うこととなった闇の救済者たる人狼の少女――『雨降りの聖女』プリュイへ、あの時と同じようにあいさつしてみせると。

「ちょりすー! こんにちは! おひさしぶりです、燦さん……っ!」
「おっ? 熱烈歓迎だな……さては、アタシに会いたくて仕方なかったんだr「はい! とってもとっても!」……うん、良い返事だ。どうやら元気にしてたみたいだね」

 人狼のクセに垂れた耳のどこか子犬っぽい少女は、犬っぽい仕草であふれる喜びを表現していた。
 一応(?)人間の脳みそが入っているので犬のように飛びかかったりはせず自制しているようだが、その様子からは明らかに興奮しているのが見て取れた。
 かつて“分水嶺”にあった命運を手繰り寄せ、まだ“こちら側”で生きて居られるだけの機会をくれたのが誰だったのかを、直感的に理解しているのだろう。
 それが猟兵として模範的な行いであったかはさておき、少なくともプリュイにとって燦は彼女が誰よりも慕う『お師匠さま』とお別れさよならするだけの時間をくれた、恩人だったのだ。

「ええとええと、前の時にありがとうがちゃんと言えなくてごめんなさい。たすけてくれて、ありがとうございます。それでね、それでね。わたしもあれからたくさんがんばったんですよ。それは今はまだ無理だってこともありましたけど、ちゃんとがまんしましたし。あっそうだ、燦さんおなかは」
「落ち着きなさい」
「ひゃあっ」

 興奮のままにわっと喋るプリュイを制したのはダンピールの娘だった。
 揺れる尻尾に手のひらをかざして優しく受け止めスススと撫ぜる手つきは慣れたものだ。
 おどろいて振り返ったプリュイににっこりと笑って、ポフポフと頭を撫でた。

「も、もう! 子ども扱いしないでください。お客さんの前で……」
「はいはい。でも、きっとあなたは後で私に感謝すると思うわよ?」
「え? あ…………あぅ……」

 羞恥心と共に少し正気に返ったプリュイをあしらい、ダンピールは猟兵たちに向き直った。

「しばらくぶりね。その節は世話になったわ」
「はい。……体は戻られたのですね」

 シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)が応じる。
 宿縁の魔性であった『聖女殺し』の鎖に囚われ姿を改変されていたダンピールも今は元通りの姿に戻ったようだ。
 妙な被害を残さずに済んでほっと一安心しつつ、はたと気付いた。

「その鎖は……」
「ああ、これ? 頑丈だし案外使いやすくて気に入っちゃったのよね。色々と便利に使えるし……あいつらをしばくのにも丁度良いのよ」

 それは『聖女殺し』が彼の理想を具現化する際に操った――といえば聞こえは良いが、変態が他人を無理矢理自分好みの美少女に仕立て上げる権能を持たせた磔台に括り付ける鎖ユーベルコードの残滓だった。

「そ、そうなんですか……」

 何かの役に立っているなら、悪いことでは無いのかもしれないけれど。

「そうなのよ。まだ取ってある分もあるけど、あなたも要る?」
「要らないです」

 思わず真顔で即答するシホだった。

「ああ、そうそう。こっちも手土産があるんだぜ」
「……燦、こっち“も”じゃない」
「あは。そうだっけ……?」
「ふふ、相変わらず仲良しね。さて、何かしら?」
「じゃーん。SAKEだー!」

 そうして燦が取り出したのは『聖女の生き血』なる銘の赤ワイン。

「お酒、ですか……」
「ん。プリュイはまだ飲めないか」

 少し残念そうにする人狼の少女は、年齢不詳な部分もあるが十代前半を超えてはいないだろう外見。そしてこの世界では謎の強制力により未成年の飲酒・喫煙はどんな罪よりも固く禁じられています。

「ええと。でも、せっかく燦さんがもってきてくれたし……」
「めっ! ですよ」
「……うぅ」

 シホにたしなめられて、プリュイの尻尾がしゅんと垂れ下がる。
 だけど、この法則ルールばかりはどうしようもないのだ。
 ……他にもっとヤバいこといっぱいあるやろ、などと思ってはいけないのだ(戒め)。

「ま、そのうち飲めるようになるさ。それよりも今は……」
「はい……今は」

 尻尾をゆらして見上げ、己の言葉を待つプリュイへ、燦はいつになく真剣な顔で告げる。

「ヤバいの来るから超逃げて」
「????」
「あ、やっぱりそういう感じの用件なのね……」

 ある程度は予想していたのか、ダンピールが苦笑しながらも頷いた。
 そう。猟兵たちは村と闇の救済者たちへ、避難を促すためにやって来たのだ。もうじき始まってしまうだろう、ヴァンパイアの手による『鏖殺の宴みなごろし』から身を隠し、命を守ってもらうために。

「……戦か」

 そうして猟兵たちが状況を説明すると、何故か今まで天井の梁に隠れていたと思しき青年剣士がようやく柱を伝ってスルスルと降りてきた。猟兵相手でも念のため警戒していたのだろう。
 その瞳に宿るのは絶えることのない旺盛な戦意と、冷たい復讐の炎。

「非戦闘員の砦への撤収ね。急ぐわよ」
「ほっほっほ……難儀なことですのぅ」

 流石に歴戦を潜り抜けた闇の救済者は理解が早く、村の長老も協力的だった。猟兵が伝えたハロウィンの祭りを行っていたということは、元から猟兵に対して好意的な村だったのだろう。

「それにしてもだよ。ンな愉しそうなパーティにアタシを招待しないなンて」

 恵みの季節が終わる夜。
 古代ケルトの人々にとっては『一年の終わり』だった夜に、繰り広げられるは阿鼻叫喚の鏖殺の宴か――それとも。

「ツレナイねェ」

 呼ばれていたらナニをするつもりだったというのか、ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)エンバー・エンプレス・f09894)は何だか下卑たことを考えていそうな顔でニヤついていた。

「ま、この通り呼ばれなくッたって邪魔すンだケドさ?」

 ダンピールであるヴァシリッサの外見は猟兵であること世界の強制力で何の違和感も無く受け入れられているが、

「たのしそう、ですか……?」
「……愉しそうかはともかく」

 それはそれとして気になるのかプリュイも注目しているようだったから。
 こほん、と小さく咳払いをしてシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が言葉を引き継ぐ。

「見過ごせないのは同感だ」

 妙な誤解を受けないようにとシキさんがとても真面目そうな顔で呟いた言葉によれば、ヴァシリッサさんのヴァンパイア仕草は要約すると『見過ごせない』という意味になるようです。

「あー。……なるほどね」
「……いつまでも馬鹿なことやってないで、行くぞ」

 ダンピールが二人を見比べうんうんと頷くのを半眼で睨み、青年剣士が促す。
 ハロウィンを楽しむ村は一転して慌ただしくなり、生き延びる為の逃避行を始めたのだった。

●避難
 夜と闇に覆われた世界。
 そんな世界では、光はその存在を遠くまで主張しすぎてしまうモノだった。
 それ故、極力見つからないようにと最小限の灯りのみで森へと向かうひとびとの群れ。

「ヴァシリッサ、先導を頼めるか」
「任せナ、道草喰うのはゲリラ戦で慣らしてンでね」

 闇を見ることに慣れた夜目を頼りに、赤髪の娘がその道行きを先導する。
 かつて異端の――狂える神々が巣食い、ヴァンパイアたちの支配を跳ねのけていた森の深奥へと。

(なるはやで急いだ方が良いンだろうケド……厳しいかねェ)

 来た道を不安げに振り返る者、暗い表情。
 体力のまだある内に距離を稼いで置きたいものの、村人には足腰の弱い老人や子どもらもいる。あまり険しい道を急がせるわけにもいかなかった。

「ふぉっふぉっふぉ……こうしておると、昔を思い出しますのう」
「ふぅん? ひょッとして、お爺ちゃんもヤツラと戦ってたのかい?」
「連戦連敗、いつもやられっぱなしでしたがの……ふぉっふぉっふぉ」
「あは。それで生き延びてンなら、上等サ♪」

 道案内役の少し胡散臭い謎の老人仕草の長老だけは無駄に元気なようだったが。
 ヴァシリッサが聞いた話では、村はどうやら人類砦の『闇の救済者』の戦士団には加わらず、引退して平穏な生活を望んだ者たちが興したものだったようだ。

「彼奴らの支配を逃れ、戦いをわすれて余生を過ごせればと思うておりましたがの。なかなか都合よくはいかんようですじゃのう……ふぉふぉふぉ」
「陰険で、しつっこいからねぇ、アイツらは」

 ヴァシリッサとて散々相手した吸血鬼との戦闘。
 狡猾で、残忍で、執念深く、知恵もある。そんな吸血鬼との戦いは一筋縄ではいかないものだ。
 猟兵と成った己の身一つならば話も違っただろうけど、いとも簡単に壊れる『それ』を守りながらとなると、グリモアの予知という情報面のアドバンテージを得てさえ正直なところ厳しいものがある。

「がまん、がまん……またがまん?」
「フフッ。辛抱すンのは苦手かい?」

 渋いものを口いっぱいに詰め込まれたような表情でぼやくプリュイ。
 ヴァシリッサは人狼であった実父、そして愛おしい人の同族でもあるその少女に、他人とも思えず何か助言でもと考え話しかけた。

「イイかい? こりゃセンリャクテキテッタイってヤツだ」
「センリャクテキテッタイ」
「そ。逃げてンじゃない――進んでンのサ♪」

 勝ちには乗じ、分が悪ければさっさと引く。
 言葉にすれば当たり前のことが出来ずに死んでいく者は多い。その点で言えば、『ちゃんとがまんした』などとのたまっていた目の前の少女は未だ危うさが目立つようにも映ったが。

「だろ? シキ♪」
「ああ……間違いなく先へと向かう前進だ」

 狼の耳をピンと立て【ワイルドセンス】のユーベルコードで周囲を警戒していたシキは、ヴァシリッサの会話もしっかり耳に入れていたようで、彼女の言葉に即座に反応し同意を示した。
 こんな時、沈むばかりでいるよりはその方が良い。空元気も元気の内なのだ。

「大丈夫か。……疲れたか?」
「ん……い、いいえ、まだ大丈夫」

 けれど、集団後方で遅れがちな者たちに手を貸しながら進むシキの胸中は、そんな前向きな言葉とは裏腹に妙にざわついていた。

(……イヤな感じだ)

 本当にこのまま進み続けて良いのだろうか? グリモア猟兵の予知の通りなら、自分たちはまるで待ち伏せをされているようだった。
 その為ヴァシリッサの先導は極力接敵を避けるべく、意図的に長老が示した本来の道を迂回する経路をとってはいたが……。

「無理はせず、歩けそうになかったらこちらで休んでくださいね」
「あ、あぁ……」

 シホは歩き疲れた者たちに、中に居住可能な空間が広がる『聖鞄』への避難を提案しながら、やさしく声をかけて励ましていた。その聖女仕草(?)を参考にするべくプリュイも一緒について回る。

「外の様子も見えるようにしておきます。でも、もし怖ければカーテンを閉めてください」
「か、かばんが……ひとを」

 鞄ひとつに収納される人々という不可思議な光景に、子犬がちょっと怯えていた。

●問答
(……?)

 森の中、『彼女』たちを初めに見つけたのはシキだった。
 死人のような色の無い肌。祈るように胸の前で手を合わせ、血の涙を流すかつての聖女たち。
 その不気味な外見と、人狼の鋭い感覚が察知した感情のゆらぎに、シキの中で違和感が膨らむ。
 けれど、その違和感の正体を探している時間はなく。

「……何の用だ?」

 シキは聖女と村人たちの間に庇うように立ちはだかり、彼女らへと誰何した。

「……これ以上、すすんではなりません」
「きた道をたどって、おかえりください」
「どうか、どうか……おかえりくださいまし」

 それは警告であり、忠告であった。
 シキが眉をしかめ、彼女たちが立ち尽くす森の――木々のはざまにわだかまる暗闇を睨みつける。

 行手に立ち塞がる聖女たちを黙らせることは容易いように思えた。
 殺すと決めたのならば、猟兵たちならば数分もかからずに終わらせられるだろうか……だが。

(ダークセイヴァーの貧民街で暮らした昔の自分がそうだったように、村人たちにとって戦闘行為自体が恐怖の対象だろう……それに)

 振るうべきではない場所でも力を誇示する粗暴さは、弱い者にばかり向けられるものだから。
 何故だろう、その行為を行うことは、ひどく腹立たしいことのような気がしてならなかった。

「それにしても寒そうな格好してるね。ワインでもどうだい? 温まるよ」

 俄かに緊迫した空気の中、あっけらかんとした様子の燦が土産に持参したワインをすすめる。
 それは『罪』を背負いし聖女たちに対する、燦なりの意思表示。すなわち、酒を愉しむ権利がある――『アタシは最初から罪を赦している』という意味を持っていたが。

「いえ……いいえ、どうぞお気遣いなく」
「それよりも、どうか、はやくおもどりになられてくださいまし」

 聖女たちは間を置くことなくそれを固辞して、引き返すようにと頑なに勧めてくるのみだった。
 ワインよりももっと赤い、血の涙を滴らせながら。

(……痛々しい)

 レモン・セノサキ(Gun's Magus魔砲使い・f29870)が最初に抱いた感想はそれだった。

 筋肉の衰えきった、棒のように細い手足。
 鋭い何かで引き裂かれボロボロになった衣服を体にかけてはいるが、癒えきらぬ生傷も隠せてはいない。支配者たちの下で彼女たちがどのような扱いを受けていたかは、一目見れば察することができた。
 そんな姿を目の当たりにした村人たちにも、動揺がさざ波のように広がっていて。

「ぉ、……おぉぉ…………」

 どうしたことか、こんな事態になってさえ泰然自若としていた村の長老までもが驚愕に目を見開いて、老骨をカタカタと震わせ、言葉を失っていた。
 レモンはそんな彼らの中から進み出ると、一旦武装を解除して戦う意志が無いことを示し。

「――悲不見世忌む哉。呱々の祟り、布瑠の言」

 数えるように歌い上げる詞に、目には映らぬ治癒の符が舞った。
 レモンのユーベルコード【天璽符・足玉道反タルタマチガエシ】の権能。
 それは自在に宙を舞うと、レモンの意志に従って聖女たちの傷を覆い、即座に癒していく。

「あ、あぁ……なんてことを」

 塞がっていく傷跡に気付いた聖女たちの反応は困惑と――恐怖。

「……やさしいお方。けれど、……感謝はいたしませんわ」
「この傷は、“尊き方”がわたくしたちに直接下さった、罪の報いだったのですから……」

 ――君たちの望み通り、せっかく罰を与えてあげたというのに。
 それをこんな風に無かったことにするのは良いことだろうか?
 ねぇ、……どう思う? ……ねぇ?

 暗闇の世界を支配する者の声が、幻聴となって聖女たちの耳元で囁いた。

 ――気を付けて答えたまえよ? でないと、また……

 ありもしないそんな声を聴いた聖女たちの細い躰は、どんなに恐怖を噛み殺そうとしても、どうしようもなく震えてしまっていた。

「痛み……それを拒むことも、また、罪なのです」
「……そうか。余計なことをしたなら、すまなかった」

 傷を癒されたことに感謝も無く、それどころか何かに怯えながら抗議めいた態度をとる聖女たち。
 村人たちの戸惑いと、血を見ることはなさそうな雰囲気に安堵する姿を確かめ、レモンは言った。

「ただ……見てて辛かったんでね」

 それは、村人たちの心情をも代表するような一言だった。

「それ、は……」
「……申し訳、ありません」

 聖女たちは、頭をたれて俯いた。血の涙を零しながら。
 罪悪感と、恐怖に染められた彼女たちは、村人たちへの悪感情があるようには見えなかった。

「ねぇ、私たちは今、差し迫る領主の軍勢から……追手から逃げようとしているんだけど、それを分かってて戻れって言ってるのかい?」
「……はい」
「逃げてはいけませんの」
「それは、罪なのですから……」

 それがどんな結末に繋がるか、分かっていながら。
 是と答える、そんな聖女たちへ、

「キミたちだって」

 出来るだけ威圧的にならぬようにと気を遣いながらレモンは尋ねる。

「キミたちだって領主様とやらの気に障った、たったそれだけで……そんな風に、温もりも失せた青白いゴーストみたいなカラダにされたのに?」
「はい……これは、当然の、報いですから」

 応え、罪を背負いし聖女が俯いた。

「……同じように『当然の報い』とやらを受けるとしても? 村人たちをそんな奴の元に置き続けるのかい?」
「……」
「とうぜんの、むくい、ですから」

 どうにか絞り出す声は、きっと本意では無いのだろう。
 レモンはそう信じたかったから、その真意を問うことを諦めなかった。

「薬草で幼子を助けた娘が居るそうだね」
「……」
「あの時助けなければ良かったと、そう思ってるのか?」

 村人の事を思う気持ちが残っているのなら。
 どうか言葉に詰まって欲しい……そんな願いは。

「はい。……かように愚かなことなど、するべきでは、ありませんでした」

 あっさりと否定された。

「どうして!」
「偉大な方々の意志に背くこと。それは、罪なのです」

 まるで話が通じない、オブリビオン過去の残骸
 快活だった少女が表情を曇らせる。
 彼女らだって被害者なのだと、そう思って優しく接するように努力したのに。今の彼女たちは慈悲を愚かと切り捨てる、ヴァンパイアの――支配者の傀儡でしかないのだろうか。

「その罪の……貴女たちが犯した罪のおかげで、救われた人々がいたとしてもですか?」

 シホが重ねて問いかけた。
 胸に刻まれたアセビの聖痕が共鳴し、疼く。
 犠牲となり生贄となり、人々を救えとシホに命じる。

(……誰かを助ける為に“罪”を犯し)

 死してなお、その罪に囚われる。
 それは、より多数を救うためとはいえ、かつて守るべき人々をその手にかけるという大罪を犯したシホと似た境遇のようにも思えた。
 だからこそ、彼女たちが成した事を無意味にはさせたくなかった。

「生きて欲しかったから罪を犯してまで助けたのでは? そんな目に遭ってまで助けた命を今度は奪う側に加担して失わせてしまったら、貴女方は何の為に命を失ったのですか?」

 けれど、

「……」

 かつて病に苦しむ幼子を救おうと、ほんの一房の薬草を盗んだ聖女は、悲し気に首を振った。
 そして、彼女の罪を告げた。

「私は、あの子を、救ってなどいません。それどころか……私、は……」

 血の涙を零しながら。
 聖女は告白する。かつてあった、己が招いた惨劇を――その愚かさの結末を。

 そうして、猟兵たちは一つの思い違いをしていたことに気付いた。
 彼女たちは悪意から破滅への選択を強いているわけではなかった。
 彼女たちの言葉は、支配者からの警告であり――己と同じ轍を踏まぬための、忠告だったのだ。



§



「言い残すことはあるかい?」
「……おねえ、ちゃん……の」

 ぜぇぜぇと苦しい呼吸にまぎれて、掠れる声がやけに鮮明に耳に届く。

「おかおが……みた……ぇす」

 その言葉を聞いた聖女は、せめて笑おうとした。
 どうにか引き攣った笑みを浮かべて――けれど、あの子の顔を見ることはどうしてもできなかった。

「そうかそうか。それくらいは、許してあげよう。私は寛大だからね」
「ぁ……あり……」
「でも、そこからじゃあ見にくいだろう?」

 ドン、と。
 重く分厚い刃が何かを叩く音がして、どさりと転がり落ちたソレを。

「ほうらご対面。これで、お前を見殺しにした聖女のお顔も、良く見えるだろう?」

 赤い血が滴る小さな首を掴み上げて、聖女の眼前に突き付け、ヴァンパイアが嗤っていた。



§



「……罪を犯さば」

 罰せられるのは、罪を犯した者だけとは限らなかった。
 助けようとした幼子も、その家族も、支配者の手で拷問され苦しみぬいた末に処刑された。
 だから、聖女は警告する。

「尊き方の意に反し、死を逃れようと思えば、“より悲惨な結末”が……訪れるだけなのです」

 時折、風に吹かれてぶらぶらと揺れる不気味な影。
 そこには縛り首にされたまま放置された死体が無数に連なっていた。
 男も女も、老人も子どももいた。獣が喰らい、鳥がついばみ、腐り落ちるに任せた無惨な遺体は、囚われとなった聖女を救おうと立ち上がってくれた者たちの――光と共に生きていきたいと、そんな願いを抱いた“やさしい人たち”の成れの果てだった。

 ――互いに庇おうなどとしなければ、死体の数は『一つ』で済んだものを。

 ヴァンパイアはそんな人間たちの浅はかな偽善を憎み、『罰』を与えては愚かだと嗤うのだ。

 獄中にある聖女を心配し、その世話役を願い出た侍女たちも。
 敵わぬと知りながらも剣を取って、せめて聖女を救い出し逃がそうとしてくれた騎士たちも。
 拷問の果てにボロボロになった体で、処刑される最期の瞬間まで聖女の助命を願った父親も。

 皆、皆、殺されてしまった。

 どんなに謝っても、後悔しても。
 泣いても、叫んでも、赦してほしいと懇願しても。
 ヴァンパイアはこれがお前の犯した『罪』の報いなのだと、嗤いながら『それ鏖殺』を続けたのだ。

「俺は抵抗を罪とは思わない、が……」

 シキがポツリと呟いた言葉は、後が続かなかった。

(……誰がそれを罪だというのか)

 罪を負った時に裁きを下せるのは領主ではなく、自らの行いを視てきた自分自身であろう。
 けれど、自らに恥じぬ行いを貫いたところで、その結果が周囲の大事な人たちをも巻き添えにした惨憺たる滅びでしかないのなら――その重みに、果たしてひとは耐えられるものだろうか?

(罪なら俺にも覚えがあるが)

 そんな時、シキの経験上足を止めれば後悔しか残らなかった。
 しかし彼女たちの語る罪は、シキの考えるそれとはまた異なる性質のものだった。

 常闇の支配者たちの治めるこの世界では、支配者の意に添わぬことは罪であり。
 人々を救い、癒やす存在は――聖女生まれながらの光は、ただそこに在るだけで許されざる咎人だった。
 だから甚振られ、穢され、聖なるものを闇へと堕とす昏い喜びのために“消費”された。
 ただ、それだけのことだった。

「蹂躙された弱さは仕方なし。素直にご愁傷様、だよ」

 立ちはだかる聖女たちのその意図を確かめるように、燦が言葉を続ける。

「……それで結局、お前たちは……巻き込む相手に迷惑かけないように、諦めろって言いたいのか?」

 秘密の抜け道――その先に在る、支配者たちには未だ秘匿されている人類砦。
 誰かを何かを頼ればきっとそこにも累が及んでしまうかもしれない。
 ……否、ヴァンパイアは必ずそうするのだろう。

「はい。痛みも、苦しみも、受け入れるのです……それだけが、わたくしたちにゆるされた全て」
「違うな。それを決めるのは今を生きる者たちだよ」

 だけど、と燦は思う。

「お前たちだって……生きていたんだよな。なのに」

 その選択は、支配者の悪意によって容易く踏みにじられた。
 伸ばそうとも手の届かぬそれ過去は、女の子を救うことを宿業と定めた妖狐にとってもひどく悲しいことに思えた。

「……同じ過ち失敗を繰り返さないように、と。だから貴女方はそこに立つのですね」

 グリモアの予知によれば、この後に彼女たちを待つのは破滅でしかない。
 猟兵たちが滅ぼさずとも、滅亡卿によって鏖殺される定めにあるのだ。
 シホは、彼女らにそんな風に虚しい終わりを迎えて欲しくはなかった。

「抵抗しては、いけないのです。そうすれば家族も、騎士たちも……使用人も、領民も、叛逆に連なるものとして連座させられるのですわ。いまだ、言葉さえ知らぬ赤子に至るまで……」
「……そう、ですか」

 シホは血の涙を流す聖女の目を真正面から見据えた。
 罪悪感と恐怖に塗れ、救わぬ神を拠り所に、祈りを捧げるかつての光。
 死を覚悟した者の目。
 生死よりも優先すべきことがあると。そう信じている者の目があった。

「それは、ただ自分が痛めつけられ、殺されるよりも……辛いことですね」

 すでに心を折られ、ヴァンパイアの手で念入りに穢し尽くされたはずの聖女たちであっても。
 彼女たちは彼女たちなりに、人々がより辛い目にあわぬようにと願っていたのだ。
 その姿は、シホにある種の敬意さえ抱かせるものだった。

「つまりわしらが人類砦を――闇の救済者を頼れば、より多くの者が不幸になるというのですな」
「……ええ、その通りですわ」

 そうして、縁者を悉く鏖殺された聖女は頷く。
 血の涙を零しながら。

「そうですかの……それは、困りましたのぅ……。ほっほっほっ……」

 長老が聖女を見つめ、力なく笑った。
 怪しげな老人仕草にも明らかにキレが無くなっていて――猟兵たちが見た彼のその背中は、まるで今にも泣きだしそうな頼りない幼子のようだ。

「聖女さま。それなら、わしは……」

 彼は今、苦しんでいるようだった。
 出立の際、猟兵たちは確かに知っていたはずだ。彼女たちの言葉は全て”事実”からであると。
 間違っては無いのだ、何も。
 この常闇の世界で生きる者たちにとって、それは現に起こった事、起こり得る事なのだから。
 そうして過去を知り、過去に尋ね、決めるのはこの世界で生まれ、生きてきた――彼ら自身。

 誰だって理不尽に殺されたくはない。当たり前だ。
 けれど。
 そう願うことで手を差し伸べてくれる多数の人々にまで不幸が舞い込むのだとすれば、それは心優しき彼らの足を止めるには十分な理由にもなり得たのだった。

●共通言語
 たとえば猟兵ならば。
 世界を終焉へと導く強大なオブリビオンにも認められ、永劫を得る事も可能なほどの『強き者』どもならば、そんな愚かで惰弱な選択など切って捨てるだけの根拠は幾らでも挙げられるのかもしれない。

「ちがう……」

 けれど、そうして過去に犠牲になった者を、ただただ当人たちが弱く至らなかったからだと切り捨てるならば……猟兵たちが今しようとしていることは、一体何なのだろう。

「……こんなことじゃ、ダメだよ」

 擦れっ枯らしの悪霊付喪神は、意気消沈する長老と村の者へ向けて声を上げた。
 その声音には深い悲しみと、もはや隠しようもない怒りが滲んでいた。

「なぁ、彼女らが処刑されたのは当然か? 可哀そうでも何でもない、自業自得か?」

 弱かったから? 愚かだったから? 身の丈に合わない願いを抱いたから?
 それも一つの正解だろう。
 取り繕ったところで、所詮世界は弱肉強食。騙される方が悪いし、奪われる方が悪い。
 強姦された被害者側が責められることもありふれていれば、死刑にされた少女もいる。

 そして、この世界では人類はすでに百年も前に敗北しているのだ。
 ならば、現在ある“平和”を乱さないためには、遺恨は捨てて支配者に従うべきなのだ。
 戦争に負ければ敗戦国の民はどんなに悲惨な目にあわされたとて、仕方ないのだから。
 それでも、

「違うんじゃ。聖女さまは……」

 長老はひどく苦しそうな表情で呻いた。
 犯した罪の重さに耐えられず、後悔に塗れて苦しむ者の顔だ。
 聖女たちと同じ思いを胸に抱く者の顔だ。

 だから、悪霊は――レモンは断言する。

「聖女様、アンタ等が生前示した思いやりは間違いじゃない」
「……!!」

 聖女たちの表情が、恐怖で歪む。

「理不尽に失われていく命を哀れむことは、その苦しみを何とかしてあげようとすることは、罪か?」
「いけません……そのような、恐ろしいことを考えては……」
「なぁ、弱い者を思いやって、危険を冒してまで守ろうとしたことは、本当に罪だったのか?」
「……やめてください」
「悪趣味な娯楽のために消費される命を、暗がりで震えるいのちを守ろうとしたことは――」
「やめて!!!」

 聖女は耐えきれず、叫んだ。
 それは罪なのだから……とは、もう言わなかった。

「いや。もう、いやなの」

 ただ、うずくまって耳をふさぎ、まるで子どものようにイヤイヤと首を振って……泣いていた。

「わたしのことはいいの。わたしがぜんぶわるいの」
「だから、もうやめてください。おねがいします、おねがいします」
「ころさないで。もうころさないでぇ……」

 それは、彼女たちの心身を痛めつける『最も効果的』な手段だったのだろう。
 レモンのように聖女の側に立ち、領主へと反駁した者たちは少なからず居たのだ。
 けれどその末路は――だからこそ、より悲惨なものとなったに違いなかった。

「……死なないし、殺させないさ」

 そうして、レモンは村人たちにも声を張って叫ぶ。

「アンタ等はどうする!? 受け入れるのか? 理不尽を!!!」

 発破をかけるようにして、その是非を問う。

「彼女らをこんな目に合わせて……思いやりを、犠牲を踏みにじって。テメェの気に入らないものすべて、それは罪だと宣いながらいたずらに命を奪う、そんな領主の思い通りになって……良いのか!?」

 ――痛みと、悲しみと。
 それはこの常闇の世界に満ちている、誰しもが抱く感情共通言語だった。

「ここで、足を止めたら……彼女らの思いやりは、犠牲は、全て無駄だったと嘲笑うのと同じだよ」
「……それは、良くはありませんのぅ」

 長老が感情を押し殺した声で答えた。
 けれど、そこに在るものが何であるか、分らぬ者など居ない。
 怒り――故に、百年に及び虐げられてきた人類は剣を取り、命がけの反抗を開始したのだ。
 猟兵の援けを得てようやくではあるが、その怒りの炎はいまや辺境とはいえ独力で地方の小領主など焼き尽くしてしまうほどに集い、燃え上がっていた。

「い、いけません! 愚かなことを、考えないで……!!」
「俺は抵抗を罪とは思わない、が。今のあんた達がそれを罪だと思っているとして――ではその時、苦しむ者たちをただ見捨てていたのなら、己を許せたのか?」
「それ、は……ですが、」

 そうして、シキの問いかけに言い淀む聖女へと、

「あァ、身を以ての忠告、痛み入るねェ!」

 どこか意地の悪そうな顔を向けながら、ヴァシリッサが挑発的な言葉を投げかけた。

「それが嘘じゃない事だッてのも良く知ッてるさ。同情も呉れてやるしアンタにゃ恨みは無い」

 だからこそ、と赤髪のダンピールは続ける。

「黙ッて嬲られる程お行儀良か無いし、悪ィが」

 凶悪な光が宿る瞳は、実際に“それ”を為した者だけが持ちえる自負と自信に裏付けられていて。

「アンタらみたいに此処で終い過去にするつもりは無ェンだよ。アタシはな」
「……ヴァシリッサの言うように、ここは通してもらう。彼等が繋いできた今を未来へ運ぶ為。あんた達が危惧する悲惨な結末を防ぐ為にもな」
「フフッ♪ シキ、イイことゆうじゃない?」

 そうしてついに進もうとする赤髪のダンピールと銀髪の人狼のふたりを、聖女たちは絶望の眼差しで見ていた。
 説得も祈りも、彼らの意志を変えることは出来なかったのだ。
 だから、待ち受けるのはより悲惨な未来。

「それ以上進むというのなら……わたくしを殺してから、お行きなさい」

 せめてその時が訪れるのを遅らせようと、聖女たちは両手を広げ、身を挺して立ちはだかろうとしていた。

「……あァ、待ッてな。覚悟の違いを。アンタらが往けなかったきぼうを、魅せてやる」

 ざわり、と。
 明らかに殺気だった威圧感がヴァシリッサから溢れ出していた。
 彼女のユーベルコード【鬼威】キリング・イン・ザ・ネームが起動しているのだ。
 それは敵を『凄み』によって戦意喪失・機能不全に陥らせ、さもなくば精神や制御系を苛み戦闘不能へと陥れる獄炎を与えるという、攻勢の権能ユーベルコード

 ヴァシリッサの放つそのあまりに剣呑な雰囲気に、村人たちも動揺していた。

「ち、ちょっと!?」
「……ここは任せてくれ、頼む」

 闇の救済者のダンピールが慌てて制止しようと動くのを、シキが留める。
 その耳はピンと立って、周囲の気配を注意深く探っているようだった。

「だから」

 ヴァシリッサがズイ、と歩を進め、触れるほどの距離まで詰めていく。
 シキは眉をしかめ、彼女たちが立ち尽くす森の――木々のはざまにわだかまる暗闇を睨みつける。

「通せよ」

 聖女たちは、震えていた。
 殺されることが恐ろしいのではない、これから起こるだろう惨劇を止められなかったこと。
 その罪悪感と、絶望ばかりが繰り返す世界の非情さに身を震わせ、終焉を待つ。
 赤い、血の涙を零しながら。

 そして、

 邪悪なるオブリビオンへと張り付いた獄炎が燃え上がり、甲高い悲鳴が森の静寂を切り裂いた。

Hallowe'en聖者たちの夜
 ――ギィァアアアア……ァァアアアッ!!!

「あはッ。どうだ? 中々クるだろ?!」

 炎に炙られ苦しみ悶えるソレを見下ろして、赤毛のダンピールが笑っていた。
 銀髪の人狼が素早く駆け、更にソレを――影が象る一羽の“蝙蝠”を掴み、取り押さえる。

「……やはり、気のせいでは無かったようだ。確証はなかったが」
「ッ!? 使い魔……!!」

 それは、領主が遣わせた影の蝙蝠。
 ヴァンパイアは聖女たちを尾行させ、一部始終を覗き見ていたのだ――彼自身の愉悦の為に。
 かつて聖女と呼ばれた者たちが、かすかでも確かに夜を照らす人類の光だった先達が、今を生きる者たちの――『闇の救済者』を僭称する者どもの手によって無惨に縊り殺される、そんな光景を期待して。

「フフッ、呼ばれなかったから覗きだなンて、大した趣味をお持ちの領主サマだねェ?」

 キィキィ、と鳴いてもがく蝙蝠を見下し、赤髪のダンピールはゲス顔でニヤついていた。
 そうして唇を寄せ何ごとか囁くと、主人と五感を共有していると思しき使い魔は輪郭を失くし消滅した。精神を苛むその苦しみに耐えかねて、使い魔のユーベルコードを解除したのだろう。

「なるほどね……」

 闇の救済者のダンピールが得心したように頷く。
 ヴァシリッサ然り、それは彼らに近しい者たちであれば、知っていることだった。

 常闇の支配者の、その底意地の悪さを。
 狡猾で、残忍で、執念深く、知恵もあるヴァンパイアが如何にして他人を陥れるのかを。

「みられて……いましたのね」
「……」

 ダンピールは罪を背負いし聖女たちへ、憐みのこもった視線を投げかけた。
 過去に彼女たちが犯したという罪。
 恐らくはそれも、はじめからそうなるように仕向けられたことなのだろう。

 彼女たちは罪を犯したから裁かれたのではない。
 もっともらしい理由の全ては、ただただ己にとって気に食わぬ“光”を甚振り苦しめるために、ヴァンパイアの領主が仕組んだ罠だったのだ。
 ならば如何なる選択をしたとしても、恐らく最終的な結末は変わらなかったのだろう。
 あえて言うならば、聖者として生まれたこと自体が、彼女らの罪だったのだから。

「私も……かつて許されない罪を犯し世界の奴隷にされ、人々を救い続ける使命を科されました」

 でも、それは私にとって望む事でもあったのだと。
 そうして咎人となった『真の姿』を晒して見せ、シホが聖女たちへと尋ねる。

「本当の所、貴女方はどうしたいですか?」

 支配者の目も届かなくなった今ならば、その本音望みを引き出せるかもしれないと、そう信じて。

「わたくし、は……」

 思い浮かぶのは大事だった人たちの顔。
 けれどその表情は苦悶に歪み、血に塗れていく。
 怖気を震わせるような冷たい声が、耳元で囁く。

 ――彼らが死んだのは誰の所為だと思う? 大事なことだから、よく考えて答えたまえよ。

「……」

 言葉は、出てこなかった。

「なぁ、罪から赦されるには先ずは自分自身を赦さなきゃならない」

 燦が【稲荷巫女のお説教セカイヲツムグウタ】を起動させ、彼女らへと言葉を投げかける。
 それは慈悲と許しの精神から来る、許しの物語――優しい【世界を紡ぐ歌】。
 燦自身が、そうであれと定めた猟兵としての権能ちから
 
 もしも、弱さが罪だったというのなら――けれど、

「……お前たちは、ただ、静かに平和に暮らしたかっただけなんだよな」

 彼女たちが原因となって、周囲の人々を死なせてしまったのは事実なのだろう。
 そしてその虐殺の元凶から念入りに刷り込まれた罪の意識は、呪いのように彼女たちを苦しめ続けている。

「お前たちがそれで、自分を許せないのだとしても……例え世界や閻魔様が何と言おうと、アタシは許す!」
「……だな。いざとなったら閻魔の眷属、トゥルダクも弁護してやるさ」

 燦の言葉に、嘗てトゥルダクだった魂――レモンもそう請け負う。
 彼女たちに罪など無かったのだと。
 そうでなければハロウィンを広めこの事態を招いた猟兵もまた、咎人であると認めるようなものだ。
 だれかの幸福を願うことが、痛みに寄り添うことが――大切な人たちにただ生きていて欲しいと願うことが、より不幸な結末にしかつながらない大罪であるなどと、到底認めるわけにはいかないのだから。

「いえ……いいえ」
「私が犯した罪は」
「……許されません」

 それですら頑なに拒む聖女たちへと――その内の一人へと、村の長老が歩み寄った。

「……聖女さま。それならば、悪いのは……わしですじゃ」

 緊急事態に陥っても動じなかった老人の後ろ姿は、今にも折れてしまいそうに頼りなく、心細いものに映った。
 そうして、長老は聖女の目前で跪いて地面に額をこすりつけた。

「……? あなたは、一体」
「わしの……所為なんじゃ」

 そう言って懺悔する老人が頭をたれるのは――かつて逃げ惑い、暗がりで震えていたいのちを守ろうとして、咄嗟に吸血鬼のしもべに嘘をついて匿ったという聖女。

「あの時、わしが……」
「……なにを」

 それ故に自治権を認められていた小領主の父も、騎士たちも、赤子に至る領民までもがことごとく鏖殺の憂き目にあったという、非業の死を遂げた聖女だった。

「死にたくないと……生きたいなどと、ねがわなければ」
「ま、さか……」
「……さしのべられたその御手にすがろうなどと、しなければ……」

 聖女が瞠目する。

「あぁ……」

 地面を強く掴んだ両手の指先から爪が剥がれて血を滲ませ、肩を震わせて。
 長老は泣いていた。 

「お久しゅうございます、『深藍の聖女』さま……それならば、どうか、この罪人を――」

 裁いて下され……との言葉は続かず、聖女の叫びにかき消された。

「あぁ……あああぁああああっ……!」

 深藍の聖女と呼ばれたその娘は、その呼び名と彼の振舞いで何かを確信したのだろう。
 目の前に土下座する老人が誰なのかを。
 それは彼女が許されざる大罪を犯す事となった――そうして何もかもを失わせた、その張本人。

 だから、彼女はそれを。

「……せ、聖女さま?」
「ああ……う、あぁ……うああああああぁぁあああああん……!!!」

 膝をついて縋りつき、力一杯抱きしめて。
 まるで子どものように、わけもわからず泣きじゃくる。
 溢れる感情に心は乱れ、体はもはやひとつも言うことを聞いてくれない。
 聖女はただ必死にしがみつき、枯れた老人の腕に顔をうずめるようにして、泣き続けるのだった。

(あぁ……)

 シホは見た。
 きっと流す涙もとうの昔に枯れ果てて、血の涙を流し続けるしかなかった聖女たちの目に、透明なしずくが溢れて零れ落ちるその光景を。
 奈落の闇へと堕とされた冷たい屍人の頬に、あたたかな涙が伝っていくその姿を。

 支配者たちが世界の天蓋を覆い、丹念に光を摘んで、遍く地上に絶望を敷き詰めたとて。
 そこに灯る火を完全に消し去ることなど、結局のところ出来なかったのだ。

 けれど、

「やはり、ゆるされないことです……」
「こんなにも、穢れてしまった、わたくしたちが」

 今の自分たちが恥ずべきものであるように。
 聖女たちは己の心さえ否定する。

 許せないのだ。
 愛しいと、いつまでも泣き止まないこころを。
 闇へと堕ち、闇へ与しておきながら、それでもいのちに触れていたいと願ってしまう――浅ましさを。

「いいや。お前さんたちはさ、今度こそは絶対に幸せになるべきだよ……」

 燦は言う。
 滅亡卿などに鏖殺されるのではなく、正しくあるべき所へ逝けるようにと。
 第四層で死んだ彼女たちは第三層で魂人として転生したはずで、オブリビオンに慈悲をかけるこの行いに意味があるのかは、実際のところ分からないけれど。

「……シホさん」
「はい。プリュイさんも、一緒に送ってもらえますか?」
「でも……」

 プリュイの操る極光のユーベルコードは空の景色を塗り変えてしまうもの。
 数ある中ユーベルコードの中でも遠くから観測可能で、一言で言えば目立つものだった。逃亡中にそれを使うことを危惧する少女へと、長老は言った。 

「聖女さま方にしてあげられることがあるならば、わしからもお願いしますじゃ」
「……ま、どうせこの場所までは、もう覗き魔にバレちゃってるみたいだしねェ」

 長老とヴァシリッサのその言葉を受けて。

「……わかりました!」

 暗闇の世界に――その天蓋を貫くように、赤の極光オーロラが顕れた。
 天空で赤い光がはためくたび、目には映らぬ神秘が鋭い矢玉となって降り注ぐ。
 それは苦痛を和らげ、幸福な記憶ゆめへと導くオーロラ極光

「む……」

 いつか見た記憶の中にある光と酷似したそれに、シキが俄かに眉を寄せた。
 それは狂った人狼の黒騎士が設えた、人を狂気へと誘う赤い光とあまりにも似ていたから。

「――死してなお彷徨うものに道標を」

 シホの祈りに、死者の霊魂を浄化し苦痛や負の感情を和らげる光が溢れた。
 その権能――『【終癒】死者へ捧げる弔いの祈りシュウユ・シシャヘササゲルサプリケーション』のやさしくあたたかな光は、降り注ぐ赤色とも混ざって、聖女たちの瘦せ衰えた躰へと沁みていく。

「旅立つ魂に、救いあれ……」

 シホは聖女たちへ敬意をもって弔い、送り出す。
 燦もまたその隣に立って、浄化と祈りの符術を放ち、彼女らが輪廻へと還ることを願った。

「ああ……もう、あんな目には……」

 病で苦しむ幼子のため、一房の薬草を盗んだ聖女が、小さな光を抱きしめて涙を流していた。
 レモンは彼女たちの為に弁護してやる必要など無かったことに、安堵する。

「……良かったな」

 かつてトゥルダクだった悪霊付喪神の目には、光の中で小さな女の子がボロボロに泣きながら、それでも大好きな人に会えて微笑んでいる姿が、確かに見えていたから。

 こうして記憶の中に息づく愛し愛された人々に導かれ、罪を背負いし聖女犠牲になったものたちは歪んだ因果から解放されて。

 ――聖人たちの夜ハロウィンに灯された光の中へ、溶けるようにして旅立っていったのだった。

●備え
「さて、これじゃ皆、『今まで』を無駄にするような選択は……出来ないよな」
「無論ですじゃ。ふぉっふぉっふぉ……」

 怪しい老人ムーブを復活させた長老が力強く請け負う。
 燦は思った。

(おおう。爺さん、無茶すんなよマジで……)

 死ぬ気で強く生きるか……とでも問えば、「老い先短い者から」と真っ先に死地に飛び込んでいってしまいかねないほどの、戦意が漲っていた。

「そうだ。領主を恐れるな、ここまで生きた自身に報いる為に足を止めるな!」

 急ぎ避難が再開され、シキの鼓舞に人々が着実に歩を進めていく。

「諦めず進む限り、俺達が力を貸す」

 そう。恐れ諦めて立ち止まる事は、暗い世界で必死に生きてきた自身への裏切り――そして、生かしてくれた者たち、いのちを繋いでくれた者たちの血の跡を、願いをも、手放してしまうことと同義だっただろうから。
 彼らは進む。
 例えその先が灰になって燃え尽きるだけの未来だったとしても、胸に宿る何かを繋ぐために。

(……因果、か)

 歩み続けるひとびとの中、シキは闇の救済者の重要人物らしい同族人狼の少女をそっと窺う。
 少女は注意深く見ねば気付かない確かな怒りを押し殺しながら、今は人々を援けて笑顔を見せていた。
 はじめて見た時にその全身で再会の喜びを表現していた姿が浮かび――ついで、森の中で遭遇した聖女たちのどこか不自然な印象と重なった。

「……そうか、喜んでいたのか」

 帰りたい場所があるならば。
 必ず帰る、と約束した場所があるならば。

「最後に人に会えたことを……再会を」

 シキにとっても、それは痛いほどに分かる感情共通言語だ。
 叶わなかった願いたちの、砕け散った破片を一つ拾い上げて、人狼は森の奥へ進んでいった。

 そして。

「ここまで来れば、どうにかですじゃ」

 巧妙に隠蔽された洞穴――その地下道を経由した先に、彼らの目指す人類砦はあるのだという。
 目的地まで無事に送り届けた猟兵たちは、現地の闇の救済者に後を任せ、踵を返す。

「……わたしも、たたかえますよ?」

 燦とシホから村人を先導することを言いつけられ、どうやら置いていかれることにされそうなプリュイはめちゃくちゃ不満そうにしていたが……。

「今回はお留守番だ、いいな?」
「うー……うー…………はい」

 燦がそう言うと、明らかに元気をなくしながらも頷いていた。

「そんで、こっちは……ハロウィンのプレゼントだ」
「!?」
「遠眼鏡か……くれるなら貰っておこう」

 青年剣士へと双眼鏡を送る燦に、プリュイは二人を見比べ泣きそうな顔でしばらく何か言いたげにしていたが……結局は何も言わなかった。

「四王活殺剣をよーく見ておきな」

 その言葉に、闇の救済者の中では符丁で『蛇』とも呼ばれる青年剣士が観戦の為に随行して、蝙蝠と子犬――ダンピールとプリュイは人類砦へと向かう。

 滅亡卿招かれざる客をもてなす準備は、そうして整えられていったのだった。

 ――極光オーロラの輝いた空の下、そう遠くない場所で。
 森を木々諸共吹き飛ばし、大地をひっくり返すような、低く重い砲声がどろどろと轟いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『滅亡卿』ヴォルフガング』

POW   :    滅び歌え轟砲連打の葬送曲
【処刑斧による大地割り砕く全霊の一撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を敵対者を自律砲撃する攻城兵器群に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    怒りの日
【世界焼き払い死者蘇らせる忌まわしき呪炎】を降らせる事で、戦場全体が【滅亡卿の操る屍兵が溢れる死者の帝国】と同じ環境に変化する。[滅亡卿の操る屍兵が溢れる死者の帝国]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    常闇の信徒
自身の【生身と相手の記憶の“自身に関する情報”】を捨て【影という影を瞬時に渡る闇そのもの】に変身する。防御力10倍と欠損部位再生力を得るが、太陽光でダメージを受ける。
👑11
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●怒りの日
 太陽の季節が終わり、暗闇の季節がはじまる。
 死が支配するその季節には、生者の世界と死者の世界を隔てる、目には見えない『門』が開くのだという。

 その日、かつてドルイドたちの祭典ではただ一つのかがり火を残して、村人は全ての火を消した。
 家に悪い霊たちが訪ねてくることが無いように。
 そうして、犠牲を捧げたかがり火の炎から、各々の家へ共通の火を持ち帰るようにしたのだ。

 現代のハロウィンに於いてジャック・オー・ランタンが重要な役割を果たすのも、同じ理由。
 恐ろし気な悪霊の姿、天国どころか地獄からもあぶれた『ろくでなしのジャック』はこの日、子どもたちの守護者として悪霊を払う役を仰せつかっているのだ。

 そしてこの夜。

 猟兵たちに導かれ村人たちが退去した村では、盛大なかがり火が燃え盛っていた。
 それは家を焼き、柵を焼き、田畑を焼き、ひとが生きるためにあつめ設えた諸々を悉く焼き払う。

 ――世界を焼き払い、死者を蘇らせる忌まわしき呪炎。

「汝らの罪は深く」

 ひとびとの安息の地は瞬く間に灰燼へと帰した。
 渦巻く炎の中、古の時代に滅びし『死者の帝国』が顕現する。
 屍の兵が溢れ、愚者の面を被った死者たちは『滅亡卿』の言葉に耳を傾ける。

「汝ら、罰せられ続けるべし」

 滅亡卿は彼らを引き連れ、村の集会所へと辿り着き、閉じた扉へ戦斧を叩きつけた。
 大地もろとも割り砕く処刑斧の強撃に、その傷跡から隆起する威容。
 地を揺るがし聳え立つは城壁をも砕く攻城兵器の群れ。

「永劫に」

 そうして響き渡るのは『滅びを歌う轟砲連打の葬送曲』。
 ほんの数時間前まではそこで村人たちがこの日を祝い、笑いあっていた場所で。

「だが恐れるなかれ」

 滅亡卿は彼らがかつてこの場所で生きた痕跡の全てを、遍く打ち砕く。
 すでに蝋燭の火が消えていたかぼちゃのランタンも、かぼちゃの料理がならんだテーブルも。
 形あるもの、何もかもを。

「全てを我に委ねよ」

 躊躇なく、容赦なく、徹底的に。
 一分の跡形さえも残らぬように破壊し尽くしていく。
 自らを『吸血鬼に仇為す者たちを滅ぼす暴力“装置”』と定めた老兵は、粛々とその“作業”を続ける。

「血で贖うのだ。他に道はない」

 世界を焼き払い、世界を呪う忌まわしき炎が降りそそぐ。
 その度に、屍の兵たちが溢れ出る。
 まるで地獄のような光景。

「我が戦列に加われ」

 愚者の面を被った、死者の帝国の住人どもが膝を折る。

「さすれば――」

 重装し騎馬に跨る者たちが轡を並べる。
 重厚な大盾を構えた歩兵たちが隊伍を組む。
 クロスボウを装備した者たちが足早に配置につく。

「汝の魂は……」

 その時、森の方角の空に赤い極光オーロラが顕現した。
 忌まわしき呪炎の中、仮面の屍人たちが一斉に天を仰ぐ。
 滅亡卿もまたそれを見上げ、恐ろしく平坦な声音で呟いた。

「……おろかな」

 吸血鬼の支配を、常闇の王国を揺るがす光。

「あんなものがあるから」

 滅亡卿は――その魂は影へと沈んだ。
 後に残された肉体が崩折れ、塵となって滅ぶ。
 だが、常闇の信徒たる彼は肉体を棄てたところで、闇の中より何度でも蘇るのだ。

 そうして闇そのものと化した滅亡の化身は、赤き光が降り注いだ地へと影を渡る。
 叛逆者どもの芽を摘むために。

 ――光のあるところ、影もまた常にあるように。







===================
●マスターより
 滅亡卿一兵卒 with 帝国屍兵友情(?)出演の皆さんとのハードな戦闘です。
 お前のような一兵卒がいるかのヒーリングこうかばつぐん! サモエドのようです!

●目的
『滅亡卿』ヴォルフガングの討伐。

●場所
 当初の想定戦場は村付近でしたが、すでに予知とのずれが発生しています。
 現在滅亡卿は聖女たちを弔った森の表層付近に陣を敷いています。
 なお、攻城兵器群、帝国屍兵はUC選択に関わらず既にこの場所からも出現しています。

●滅亡卿
 森を焼き払い、溢れ出る屍兵諸共消し飛ばしてでも、闇の救済者を炙りだそうとしています。
 高威力の砲弾が雨のように降り注ぐ中を、帝国屍兵の軍団を突破して滅亡卿の下へ辿り着き、影に移動される前にその隙を与えず討伐する必要が……ありますあります! しらんけど! がんばえー!!

 滅亡卿自体は、強力ではありますが紋章付きや戦争ボスと比べると一応能力的には劣っています。
 ただし、彼は猟兵たちを『生涯最大最強の天敵』と見做し“あらゆる手段”を尽くして戦いに臨む古参兵ベテランです。
 OPでリアが評した通り、『恐るべき敵』と考えて事に当たって頂ければ嬉しく思います。

●帝国屍兵
 古に滅んだ強大な帝国の戦士たちです。
 高度に分業、組織化された軍団が滅亡卿に操られ文字通りの死兵となって猟兵と相対します。
 攻城砲台群から降り注ぐ砲撃の中、彼らと戦うだけでも割と大変かもしれません。

 どんな部隊がいて、どんな作戦行動が展開されるかは……戦場の霧ということで。
 余裕があれば今ある情報から予想してみても面白いかもしれません。
 母数に比例して人材の層は厚くなりますので、中にはヤバいのも何名か混じってるかもです。

●闇の救済者
 一応、第1章の最後の方に書いた通りに移動中。
 設定的には青年剣士、ダンピールは闇の救済者の戦士たちの内、上位0.1%(千人に一人)に該当する逸材です。
 プリュイはそれ以上にレアで、すでに基礎能力も両名よりも上ですが……。
 ユーベルコードや肉体の性能の違いが、戦力の決定的差ではないらしいです。

●長老
 実は引退した『闇の救済者』の元戦士古参兵
 現役時代は『蜘蛛』の符丁で呼ばれる凄腕の暗殺者咎人殺しでした。
 人類砦が建設されてからは、保安上、防諜などの理由で直接の受け入れがむずかしい難民や孤児などを一時引き取り暮らせる村を用意し、その場所を守護りながら余生を暮らそうとしていたようです。
 
 避難中の洞窟の中には彼がついているため、村人たちは安全です。

●他
 いろいろ書きましたが、キャラクターのやれることには限界がありますので、あまり難しく考えすぎずにそのキャラクターが自分で納得がいくだろう行動をしていただければと思います。
 もし何かあっても、犠牲者は第三層で魂人に生まれ変わるからだいじょうぶです!(マテコラ)

 ではでは、敬虔なる常闇の信徒と共に、皆さま最強の天敵のご来訪をお待ちしております。
フォルク・リア
敵勢力を観察し。
「村一つには明らかに過剰、だが。
それをする事に今更驚く相手でもないか。」
自分の意に沿わなければ
虫一匹に幾万の軍勢を差し向けてもおかしくない
吸血鬼の性質を思い起こしながら。

「なら、此方も数を揃えようか。」
【式神使い】でエンドオブソウルを使い亡者の軍勢を召喚し
それにファントムレギオンの死霊を加えて敵の軍に対抗。
(これで相手とは遜色ない筈。…こっちは見た目だけだが。)
即席で数だけ揃えた亡者では長く持たないと察しつつ。

亡者が掃討される前に敵の射撃手を見つけ出して
密かに死霊を差し向けて倒し、射撃の隙ができ。
敵の連携に乱れが生じたらその隙に滅亡卿の元に接近。

「お前か。罪無き者を裁こうという傲慢は。」
【残像】を発生させて敵を攪乱し攻撃を回避しつつ
敵が影を渡る闇となったら周囲の影を消す為
フレイムテイルの炎を放つ。
周囲の影を消す事で敵が渡る先を自身のものに誘導し
自身の影に移った瞬間を【見切り】
影狼【ハイド】に攻撃させて捉え、
【2回攻撃】でシャイントリガーを発動。
光線、熱線で焼いて仕留める。


シホ・エーデルワイス
≪華組≫

滅亡卿の破壊っぷりに
凄まじいわね…

この一言に尽きます


滅亡卿の事は予め『聖録』に記載しておく

聖録は魔導書でもある故
持っているだけで記録を読取れる
また記憶ではなく記録として情報を保持し続ける

私一度記憶を失った事があるから…


『聖笄』で目立たなくなり狙われ難くなって直撃を避け
敵の砲弾を第六感と聞き耳による読心術で見切り
聖剣でダンスの様な動きで切払い
呪詛と火炎耐性のオーラで防御しながら
敵の間をすり抜け
燦と庇い合いながら滅亡卿を目指す

燦!
影から来ます!

燦が滅亡卿と戦っている間
私は燦の背中を守って戦いつつ
【乖崩】の詠唱開始

結界に封じ込められたら
燦に弱点は太陽光と伝えて手を繋ぐ

光に帰りなさい


戦後

村があったと思われる場所の様子を見に行き
再建できそうか確認

できそうであれば呪炎で汚染された地形を【樹浄】で浄化


あとは『聖鞄』から取り出した食材でボルシチを料理し
村人達に振る舞い元気付ける


プリュイさん
良ければ呼び捨てで呼んでも良いかしら?
私の事もシホと呼んでくれると嬉しいです


もう
燦ったら人前で恥ずかしいよ♥


四王天・燦
《華組》

プリュイも誰も死ぬなよ
祭りの日の死因は深酒だけで良いんだよ
そして今こそ四王活殺剣を青年剣士に見せようぞ

闇に紛れ前進するぜ
砲弾が飛来したら神鳴で斬り払う
シホと背中を合わせて屍兵を薙ぎ払い卿をおびき寄せる
美少女な騎士と侍は絵になるね♪

シホの警告と、第六感で『生涯最大最強の天敵』に対する殺気を感じ取れば強襲に対してカウンターで斬り伏せてやるぜ
生身晒している内に早業で首を刎ね頭を両断してやる
達人ぽく脊椎反射で『つい』殺っちゃうぜ

頭も再生するなら死合ごっこはこれくらいにして
シホの情報を元に稲荷符を撒いて光属性の範囲攻撃で影と言う影に牽制する
青年剣士に光量と身振りで『覗くな』と警告…失明されたら笑えねえや

牽制が効いている内にシホと手を繋ぎ詠唱開始
【乖崩】で太陽の魔力災害―即ち、核融合を一直線に叩き込む
光に還りな

式神使いで土くれからゴーレムを作って復興諸々と手伝いつつ(卿の財産ないかなぁ)プリュイ達に聖女ハーレムの進捗を聞きましょ
シホは聖女でなく嫁だから渡さないと抱き寄せイチャイチャします💕


シキ・ジルモント
【EXR.】
敵は強大と理解して
それでも仲間の期待を裏切らぬよう役割を果たすべく動く

前進時は仲間の撃ち漏らしを処理し挟撃を防ぐ
騎馬は足元へ潜り馬の脚部を攻撃、崩して突進を妨害
大盾兵は跳び超えつつ盾に邪魔されない上から狙う

砲撃や矢はレモンのブルーコアの援護も頼って回避を試みる
砲撃の間隔と方向から着弾時間と位置を予想
味方にも伝わるように声に出し回避に役立てて貰う

滅亡卿を射程に入れたら即座に攻撃
強力な屍兵はヴァシリッサに任せ
銃の射程を利用し強引にでも攻撃を捩じ込む

滅亡卿・屍兵への攻撃は銃を使いユーベルコードを乗せる
牽制射撃で屍兵の行動を妨害しヴァシリッサを支援
彼女の陽動に乗じて滅亡卿も攻撃し続け貪欲に撃破を狙ってみせ、レモンから注意を逸して行動支援を試みる
自分を餌として滅亡卿の攻撃を誘い、隙を引き出したい

狙うのはレモンの魔弾による滅亡卿の弱体化
屍兵が群れる環境すら彼女を隠すには好都合
影への変身や再生力の逆転で弱体化した所で反撃、一カ所に集中させて弾を叩き込む
…罰せられ裁かれるべきは村人達ではない


ヴァシリッサ・フロレスク
【EXR.】
『』はAIヴィッキーの台詞

圧倒的な寡戦
下手に救済者を庇い位置を気取られりゃ影渡りでジ・エンド

故兵聞拙速、未睹巧之久也ゴタクはイイんで疾ッととブッ潰せ
ッてネ

機動防御一択だ
戦闘知識を総動員
自身はリミッター解除した単車HATI、
AIヴィッキーにはUCにてタルボシュⅡを駆らせ
2TOPネルソン・タッチで一気に吶喊、敵軍を分断
物量差を挟撃、機動・打撃力で覆せれば

――I expects that every man will do his duty各員己が義務を果たさん事を期待す
『あんたこそ』

猛攻をレモン、シキの支援と持ち前の炯眼で見切りつつ弾幕で蹂躙
此方の重兵装なら敵の防備を貫くなど造作無い筈

派手に暴れて悪目立ち、陽動
多少の被弾は激痛耐性で凌ぐ
大物も惹付けたい

まァ
無視してみやがれ

本命はレモンの“銀の弾丸”に託す
弱体化が決まれば弾幕で敵軍を攪乱しつつ味方の射線を確保したい

Thx God I've done my duty♪

失せナ
Noble Blood腐れ外道が


レモン・セノサキ
【EXR.】
無数の「ブルーコア」をばら撒き▲自動射撃&▲レーザー射撃
矢弾を可能な限り撃ち落とさせる
抜けて来た矢弾を回避する瞬間に「幻符」を切り
自分は「霊体外套」を纏って姿と気配を消そう(光学▲迷彩&▲目立たない)
"やられて符に戻った"と見せかける

此処からは本気の隠形だ
視えず聴こえず気取るのも困難だろう
二人が滅亡卿の注意を惹いている間に
武器を「Sfz.275」から「Forte.50」に変更
戦場の爆音に紛れながら接近、有効射程距離に捉えたい

やっぱ狙撃は緊張で喉がヒリ付くね
二人を信じて極限まで息潜め、▲集中力を注ぎ込んで照準合わせ
最も早い段階で【逆刻の魔弾】を撃ち込める隙を探る
ほんの僅かでいい
致命的な隙を晒した一瞬、必中のタイミングでトリガーを絞る(▲スナイパー)

見た目は貫通力が高いだけの弾、ぶっちゃけ地味だ
だが間違いなくアンタは今処刑台に上がったよ
影潜り、鉄壁の守り
お前の誇ったもの全てが牙を剥くぞ
もちろん、欠損部位の再生さえもな
情状酌量も弁護もナシだ
汝罰せられるべし、死を以って贖え



●滅び
 ――ザァザァ、と。

 それはまるで雨のように降り注いだ。
 珈琲色の空に花火のように咲いて、大地を舐め尽くす炎の雨。その光景は恐ろしくも幻想的で、いっそ美しくさえあっただろう。

 迫る滅亡ほろびを呆然と見上げる人々。異様な事態に怯え、隠れる人々。
 彼等が逃げ込んだ石造りの家々の屋根を容易く貫いて、今度は地上に火柱があがる。家屋を内側から蹂躙し噴き上がる炎、人々の行き交う往来を駆け抜ける炎。
 灼熱の劫火は見渡す限りに連なり、街はたちまち辺り一面が火の海と化した。

 逃れる間もなく火に巻かれた人々から絶叫と悲鳴が溢れ、それは幾千幾万もの断末魔の合唱となって帝都の静寂を引き裂き――やがて途絶えていく。
 けれどそれは苦しみの終わりを意味してはいない。運悪く生き延びてしまった者たちが、熱と煙で潰れた喉に助けを呼ぶ声も発せぬまま、忌まわしき炎に生きながら炙られ極限の苦痛を味わってのたうちまわる。
 そうして苦しみぬいた末に、死んでいく、死んでいく――家族も、友も、そして……、

 ………。

 炭化した死骸を覆うように焼け落ち崩れていく故郷。
 空いっぱいに、雪が降るように火の粉が舞っていた。
 栄華を誇った帝国の、滅びの風景。

 やがて炎の中に浮かび上がった、山羊のような獣の髑髏が厳かに告げる。

 ――汝らの罪は深く

 肚の底から。
 殺意と憎悪が溢れ、灼熱は魂をも焼き焦がす。

 ――汝ら、罰せられ続けるべし
 ――汝ら、罰せられ続けるべし
 ――汝ら、罰せられ続けるべし
 ――永劫に……

 あまりに一方的な断罪に、語る口さえあったならばきっと異を唱え、例え敵わずとも武器を取り背いただろう。
 けれど、かつて己がそうであったように。

 ――全てを我に委ねよ

 生命の失せた骸には、もはや“ソレ”から逃れる術はなく、道はなく、耐えられず――奪われる。

 ――我が戦列に加われ
 ――我が戦列に加われ
 ――我が戦列に加われ……さすれば、

 そうして、世界をも滅ぼすに値する怒り、嘆きと絶望を抱え、かつての“英雄愚者”は歩き出した。
 声に従う身体は軽く、この世界ではそれこそが“正しい”行い適応なのだと教えてくれる。
 ならば、征くしかないのだろう。

 数多の戦場で轡を並べ、共に戦った戦友たちと共に。
 忌まわしき炎に抱かれ、世界を焼き払い、滅亡ほろびへと誘うために。

 ………。

 遠く、遠くの空に気配を感じて。
 仰ぎ見た空には幽かな光、どこか懐かしき光が地を照らす。

 ――……おろかな

 髑髏の言葉が響く。
 その通りだ、と思った。なぜなら愚者英雄は知っていた。
 希望、すなわち今は存在しない未来可能性――そんなものがある故に人は夢を見る。非情な世界に甘い夢を見て迷い、迷いは弱さとなって牙を剥く。そうして、迷いはいずれ贖いきれぬ後悔を生むだろう。
 だから、愚者は――かつて帝国の勇者最高戦力と呼ばれていた男は、その亡霊は――

●忍耐
 それは猟兵が護衛対象と別れ、滅亡卿の敷いた陣へと向かう前のこと。

「そういえばさ」
「……?」

 ――どうしたの? やっぱりわたしをつれて行ってくれる気になったの?
 そんな内心が透けて見えるような期待の目でじっと見上げ、パタパタと尻尾を揺らすのはプリュイ。その名に“雨”の意味を持ち、闇の救済者たちからも『雨降りの聖女』と呼ばれる、人狼の少女。

「いや。そういえば聖女ハーレムの進捗はどうなのかなと思ってさ」
「!?」

 しかして四王天・燦(月夜の翼ルナ・ウォーカー・f04448)の言葉は、かつて師を失い失意の内にあった少女が掲げた、師から継いだある目標聖女はーれむについて問うものだった。

「そ、それ、は……」

 余り状況ははかばかしくないのだろう、プリュイの尻尾がしゅんと垂れ下がる。
 この常闇の世界に於いてあまり長命とは言い難い、赦されざる存在、未熟なままに刈り取られる聖女たち。同じ様に悲惨な最期を迎えるはずだったいのちは、数奇な運命の果てに与えられた救済を――狂った過去聖女殺しから確かに受け取った恩を、同じ様に苦しむ誰かに返したいと願った。

「だけど、わたしは弱くて。お師匠さまよりもずっとよわくて……」

 少し前には彼女らが集められるだろう場所――聖者を高級素材の贄とする『紋章の祭壇』や『第五の貴族』について情報を集めて襲撃・解放しようと企てていたそうだが。

「そ、そりゃまた……剛胆というか」
「無謀、でしょ。リーダーも私もそう判断してるわ。あまりに勝算が無いから止めさせたのよ」

 ため息一つこぼしそう答えたのは、プリュイの保護者のように振舞うダンピール。

「ほら、私たち以前に伯爵級の吸血鬼にも敵わなかったでしょう? その更に上に挑んでも、現状ではどうしたって勝ち目はないでしょうから」
「が……がまん、なんです。うぅ……っ」

 戦闘能力で言えば闇の救済者の中でも最上位に近い戦士たちが、複数がかりで単騎の領主に圧倒されたのだ。故に彼女たちの上司である『傭兵』率いる戦闘集団は態勢を整え、再度同格の吸血鬼伯爵を目標として動いている最中なのだそうだ。

「奴らの影響から外れた人類の生存圏が広がれば、結果的に救われる者も増やせるでしょう」
「……」

 ダンピールの言い聞かせるような言葉にも、子犬は晴れぬ表情で俯いていた。
 今この時も、僅かな対価と引き換えに人買いに買われ、或いは人狩りの手でかどわかされ、縄をうたれて地獄への道を歩ませられている聖女やその候補たちがいるかもしれない。
 けれどいくら猟兵とは言えその手が及ぶ範囲は有限で、グリモアの予知があっても全てを救うことなど到底不可能だった。ましてや、猟兵ではないプリュイたちに出来ることは限られていて。

「そうなのか……協力してやりたいところではあるが。無茶はするなよな」
「そ、それなら……」
「!!」

 何かを訴えるプリュイの目。その縋るような光にはっと気づく燦。
 きっと言葉にせずとも伝わったのだろう、その切実な望みの在処。
 だから彼女は、

「そうは言ってもシホは渡さないぜ!? 聖女じゃなくてアタシの嫁だからな!」
「!?」

 嫁は渡さない宣言すると、おもむろにシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)を抱き寄せイチャイチャ💕しはじめた。

「もう、燦ったら。人前で……恥ずかしいよ♥」
「うぅ……ううぅぅ」

 すると、シホも恥ずかしそうにしつつも満更でもなさそうにイチャイチャ💕していた。
 そんな二人が展開した固有結界(?)の異空間に怯み涙目になりながらも、プリュイは叫んだ。
 さっきまで真面目な話をしていた筈なのに、そうやって見せつけるようにイチャイチャ💕するのは果たして良いことなのだろうか? いくら恩人相手とは言え、一言言ってやらねば気が済まなかった。
 
「――じゃ、じゃあ、かわりに燦さんをくださいっ」
「!?」
「あ……あげませんっ!!!」

 燦と絡めた腕に思わず力を込めながら、シホが反射的に叫んで振り向く――と、そこにはもうプリュイの姿はなく。

「あらら……」
「……くぅ〜ん」

 困った顔で下を向くダンピールの目線を追ってみると、どこかしょんぼりした様子の子犬が一匹。

「プリュイさん……なのかしら?」
「……わぅ?」

 ――プリュイって、だあれ? わたしは、ただのとおりすがりの、いぬですよ? とでも言いたげに首を傾げる子犬。

「プリュイ。服が……脱げてるぞ……それに、まだあたたかい……」
「くぅ~ん……」

 でも、子犬のいるあたりにはプリュイの脱げた服が散らばっていたし、誤魔化しようも無かった。

「きっと、燦が意地悪するから。……めっ、ですよ」
「!? ……アタシが悪いのか!?」
「おいで」

 シホがしゃがみ込み、遠慮がちに近寄ってきたそのモフモフした生きものの体を両手で抱き上げる。

「……ねぇ、プリュイさん。良ければ呼び捨てで呼んでも良いかしら?」
「ひゃぅん」
「うん。それで、私の事もシホと呼んでくれると嬉しいです」
「きゅ~ん……」

 通じているのかいないのか、子犬は尻尾を揺らしながら鳴き声で答えた。

「……な、なんだか、すっかりいぬになってしまっているようだな」
「こうなってしまうとね。いぬなのよ……」

 そんな訳でいぬになってしまったプリュイが素知らぬ顔でついて来ようとするのを捕まえてダンピールに預け、その頭を軽く撫でて別れを済ませてから、

(プリュイも……誰も死ぬなよ)

 結局、最後までなんだか情けない顔で見送る子犬を振り切って歩を進める燦。
 忌まわしき炎と死霊が埋め尽くす戦場は、“雨降りの聖女”と呼ばれる彼女にとっても戦力となりうる余地はあったのだろうが――予知によれば滅亡卿はまず戦闘力の無い村人たちから狙うことが示唆されていたのだ。ならば出来るだけ危険からは遠ざけておきたいと願うのも、自然な感情だったろう。
 ただ、

「………」

 戦場に残り猟兵と同道する青年剣士が虫けらを見るようなとても冷たい目でプリュイを見ていた。
 その目は、まるで人間の尊厳について問いかけているようだ。お前は本当にそれで良いのか? と。

「……きゅーん」

 でも、だってしょうがないのだ。まだ子犬なんだもの……。

「何から何まで、世話になりましたのぅ。感謝の言葉も見つかりませぬが、皆様……ご武運を」

 殿に残った村の長老が猟兵たちに礼を告げると、掩蔽された入り口を通って洞穴へと入っていく。
 その表情にあったのは住み慣れた村を離れ逃げ落ちる者の不安では無く、所縁ある聖女の魂を救ってくれた猟兵たちへの感謝と。

「それでは、また後ほどですじゃ」

 ――次代を作っていくのだろう未だ幼き聖女と子どもたちを護りぬく、古き戦士の決意だった。

●戦術論
 忌まわしき呪炎が森の木々を焼いて燃え盛っていた。
 それは世界そのものに敵対し世界を焼き払う魔の炎。故に、一向に鎮火する気配もなく、樹海を焼き尽くすように広がっていく。その根と葉に蓄えた水分を失い、焼け落ちた世界は、ここではない異相どこかへと――瓦礫の街並みへと変貌していった。
 そうして、灰にまみれた瓦礫の街からは死者の兵たちが溢れ出す。

「……国攻めでもする気か」

 現時点では人類砦避難先にいる闇の救済者の規模までは不明だが、襲撃されるはずだった村の規模は100にも及ばない程度。これを討ち滅ぼすつもりだったとして、明らかに過剰な戦力が差し向けられていたが。

「それをする事に今更驚く相手でもないか」

 金に縁取られた白いローブ。そのフードを目深に被ったダンピール――死霊術師の青年。フォルク・リア(黄泉への導・f05375)が呟く。
 フォルクは知っているのだ。ヤツラは、自分の意に沿わなければ虫一匹に幾万の軍勢を差し向けてもおかしくないことを。
 個体差はあるが、特殊な例外同族殺しなどを除けば総じて冷酷無道な夜の怪物。無慈悲な鉄槌を下し必要以上に力を誇示しようとするのは、それが他者を支配するのに有効だと知っているからか。

(あるいは……)

 怒りとは恐怖の裏返しでもある。ヒステリックに振舞う吸血鬼の性質を思い起こしながら、暗澹とした気分でため息を零す。それは人に似た生き物のサガなのかもしれず――

「仕方ない。なら、此方も数を揃えようか」

 魔導書『エンドオブソウル』に記された“死霊術”の秘奥。亡者に亡者を以て抗するべく、冥府の門を開いて死者の軍勢を召喚する。
 それは忌むべき禁呪。霊的物質により構成された例外を除いて死霊とは一般的に『オブリビオン』であり――死霊術とは暴走や術者への叛逆の可能性を孕む極めて危険な魔法体系。フォルクはそこに式神使いの手管を以て制御を重ね、使役し慣れた『ファントムレギオン亡霊の軍団』を中核として陣容を整えていく。

(これで相手とは遜色ない筈。……こっちは見た目だけかもしれないが)

 昏き森に溢れる死者の軍団は、その闇の深さに狂うことも無くフォルクの指示を待つ。
 けれど、術者であるフォルクは霊たちが抱く僅かな“畏れ”を感じ取っていた。それが彼我の力量差によるものだけではないことも。

「……死者は死を恐れはしない。何かある……気を付けた方が良いだろう」
「ああ……圧倒的な寡戦。下手に救済者を庇い位置を気取られりゃ影渡りでジ・エンド」

 ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)エンバー・エンプレス・f09894)は、不確定要素の多く不利な材料が数多く横たわる――そんな戦場の状況を整理するように呟く。

「出鱈目に破壊をばらまいてるトコ見るに、此方をまだ見つけられて無いのは僥倖か」
「ええ。だけど……凄まじいの一言に尽きますね」

 森を焼き払い、大地を味方諸共打ち砕く、呪炎と砲火の共演。
 そこに在るのは叛逆者忌まわしき光へ徹底的な滅びを齎さんとする冷たい意思。
 それは『滅亡卿』の討滅によってのみ止められるのだろう。

「私と燦は、身を隠し砲撃を避けながら滅亡卿を目指します」
「敵は兵器を山ほど揃えているようだ。ならば、俺の死霊は敵の射撃手の排除に向かわせよう」

 シホは火力の集中する正面を避け、迂回しつつ滅亡卿の下へ向かうと宣言。ならばとフォルクは小回りの効く地上兵力、中でもクロスボウの兵たちを優先的に排除するべく目論む。死霊の群れは仲間たちの姿をその中に紛れさせ、的を絞れなくさせるのにも有用だろう。

「良いじゃないの。“故兵聞拙速、未睹巧之久也ゴタクはイイんで疾ッととブッ潰せ”ッてネ」

 ヴァシリッサがウインクひとつ飛ばして口の端を吊り上げる。
 敵が万の兵を用意し数多の兵器を用いようとも、それらはユーベルコードの権能に過ぎず“滅亡卿”を討ち取れさえすれば無力化できるのだ。ならば目指すべきは早期決着。戦闘の終結が早まれば、その分だけ人類砦をその裡に隠す森への被害も軽減できるだろう。

「それじゃアタシらは精々派手に暴れて悪目立ち陽動と洒落こむさ」

 滅亡卿の操る屍兵たちは森を焼きながら広範囲に展開、進出しつつあった。地下道までは露見してはいないだろうが、それも森が焼き払われ屍の兵たちの手が及ぶようになればいずれ発見されかねない。
 その侵攻を挫くべく、そしてそれを以て滅亡卿の首級を狙う仲間への援護とすべく、ヴァシリッサはカスタムバイク『HATI』に跨り、出撃の準備を整えて。

「――I expects that every man will do his duty各員己が義務を果たさん事を期待す♪」
『フン……あんたこそ』

 局地攻撃機『TALBOSタルボシュ Ⅱ』を操るAI『ヴィッキーヴィクトリア』の素っ気ない声が応える。ユーベルコード【無手勝流の機智ヴィヴァ・ラ・ヴィクトリア】を帯びて駆動する機械仕掛けの兵士は、その存在意義を証明するべく、戦場へと赴くのだ。
 ――死と破壊に溢れ、生と死のはざまで剥き出しとなった、獣どもの狂気が渦巻く世界へと。

●戦線突破
 オブリビオンとの戦いにおいて兵器の優劣は必ずしも戦力や勝敗に直結するものではない。が、それでも高度なAIとユーベルコードの下に旺盛な火力を発揮する高速戦闘機は、阻む者など無いかのように敵陣を切り裂いて進んだ。

『まっすぐ……行って、』

 ヴィッキーが駆るタルボシュⅡと、自らも重火器を担いで最前線を行くヴァシリッサ。歴史的な海戦の名将に肖った2TOPネルソン・タッチの隊形。

『ぶんなぐるッ!』

 タルボシュⅡの吐き出す砲弾が屍兵の大盾をひしゃげさせ、その後方の兵諸共爆散させる。

 敵が姑息にも逃げ隠れ抵抗を続けるならば、その潜む森林ごと、村ごと焼き払ってしまえば良い。
 そんな、どこかの世界で聞いたような戦術を繰り広げる滅亡卿――かの者が送り込んだ先兵を猟兵たちは鎧袖一触に蹴散らしていく。

「ハン、造作も無いね……ケド、こいつァ……」
『散兵戦術。相手も、各個撃破される前提で動いてる?』

 一見して強引な突破を図るヴァシリッサたちに対して、敵の対応は幾分消極的なものだった。
 歩兵を中心に広範囲に展開していた部隊は、重厚な大盾を構えその身を挺して進撃を阻むべく立ちふさがるも、僅かな時間を稼ぐのが関の山で。

「退いていく……砲台の有効範囲まで引き込む気か?」

 比較的身軽なクロスボウ兵らがその隙に後退していくが。

「ならば今の内に削らせてもらう」

 フォルクは配下の死霊に命じて追撃させ戦果を拡大させていく。
 クロスボウは銃が台頭するまで戦場を支えた強力な兵器だが、その利点は銃と同じく訓練が容易で多数の兵の戦力化がしやすい点にある。数が揃えば脅威ではあるが個々の戦闘能力はそう高くないため、身を隠す掩蔽物もなく移動中の弓兵たちは、フォルクの死霊たちに良い獲物として狩られていった。

(攻めている……いや、攻めさせられている、か?)

 数に勝るという事は、それだけ取り得る戦術のバリエーションに富むという事でもある。“死んだふり”をした敵兵に背後から挟撃されることの無いようにと、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は目を光らせヴァシリッサとタルボシュⅡの撃ち漏らした兵を処理していく。

「……ヴァシリッサ」
「あァ、敵さん陣地に籠って防御の構えだ。十中八九、この先は罠ですよってナ」

 敵兵を蹂躙し、追い詰めていながらも気味の悪さを感じさせる動きに警戒を強める猟兵たち。避難する村人たちを護るべく切られた戦端はいつの間にか攻守を入れ替え、攻め寄せる猟兵に防御陣地を築いて待ち受ける滅亡卿という構図になっていた。

「さすがに古参兵ベテランというだけあるかもね?」

 攻撃側のアドバンテージである“機会タイミングの決定”を限定された攻勢。直線的かつ強引な機動での進撃は意表を突けたかもしれないが、どちらが戦闘の主導権を握っているのか、現状では判断は難しいだろう。

(敵は強大……)

 それは単純な力ではなく、あるいは老獪さであり、あるいは使命に殉ずる強固な意思。滅亡卿は猟兵よりも弱く、なればこそ配下を揃え兵器を揃え、陣を整え策を巡らし猟兵たちを――“生涯最大最強の天敵”と対峙していた。

(それでも。俺は仲間の期待を裏切らぬよう、役割を果たすべく動くのみ……)

 シキは大盾とその身を挺して僅かな時を稼ぐ兵の頭上へと跳躍し、頭上から拳銃を連射する。盾を持ち上げようともその重さから間に合わず撃ち抜かれた兵士が、『愚者の面』の向こうでくぐもった呻き声をあげて斃れた。
 着地を待たずに風切り音が連続で聞こえ、クロスボウから放たれた矢が殺到する。鋭き矢玉の尖端が肉体を穿つ――その前に。
 蒼いエネルギーを纏う無数の極小浮遊ビットが反応し、迎撃。光の線が走り、中空に眩い火花を咲かせて撃ち落としていった。
 今は霊体外套ゴーストクロークを纏い身を潜めるレモン・セノサキ(Gun's Magus魔砲使い・f29870)が展開した『ブルーコア』による援護だ。

(本気の隠形だ。視えず聴こえず気取るのも困難だろう?)

 レモンは派手な正面戦闘を繰り広げるヴァシリッサたちに追従し、その影に潜んで敵陣深くへと――首魁の姿を射程に捉えるべく進む。
 だが、敵の抵抗は中心に行くにつれ徐々に強力になっていった。森は焼き払われ異相へと変じ、迷い込んだのは『死者の帝国』。その瓦礫の町のそこかしこから溢れ出る濃密な死霊の軍勢。

 隊伍を組んだ歩兵たちが盾を並べ進撃を阻む。その排除に足が緩めば、クロスボウの一斉射撃がヴァシリッサやシキを貫かんと迫った。連射は効かないものの強力な多数の兵器が、ブルーコアのカバーをも超えて生身の肉体へと突き刺さる。

『マスター……!』
「大したこたァない。多少の被弾は織り込み済みサ」

 重機関銃が旺盛な火力を発揮して弾幕を形成し、次弾の装填を許さずクロスボウ兵たちを蹂躙した。
 ヴァシリッサはそうして凶悪な笑みを浮かべ、

「なに? これくらいで心配しちゃってんの?」
『……~~ッ! 知るか、バカ!』

 戦場にそぐわぬ軽口が転がり、タルボシュⅡが前に出る。文字通りの死兵と化して阻む兵たちに猛然と砲火を浴びせては抵抗を粉砕していく。
 ヴァシリッサの戦闘知識は此処が多少の被害に目を瞑ってでも前進すべき局面だと判断していた。速度を優先したため半ば包囲されるような状況、足を止めてしまえばそれこそおしまいだろう。

「抵抗が激しいなら、此処が正念場ってこと……」
「砲撃――来るぞ!!!」

 シキの鋭い警告の声が響く。
 城壁のように屹立する砲台群から轟音が連続し、見上げた空には砲弾の雨。面制圧の火力から逃れようと視線を巡らせても、一目見てわかるような安全地帯は既にどこにも存在せず。

「味方ごとかよ……滅茶苦茶しやがって」

 友軍の屍兵諸共消し飛ばす砲撃はその爆風と破片による破壊を広範囲にまき散らした。身を低く伏せても粉塵に塗れ、レモンは顔をしかめつつも前進を続けた。
 すり潰される前に本陣へ。
 死霊どもが無尽蔵に湧いて来ようとも、使役者の首級さえあげてしまえばそれで終わり――そして、その為の力はこの手の中にあるのだから。

●首魁を撃て
 それは大地を割いて聳え立つ攻城兵器群の上に立ち、大群に囲まれジリジリと消耗していく猟兵たちを睥睨していた。山羊のような捩じれた角を持つ獣の頭蓋骨を仮面に被り、天秤が描かれた大盾と身の丈ほどもある処刑斧を携えたオブリビオン。

『我が帝国に仇なす者ども。それが汚らわしい交雑種まざりものに、気狂いの畜生とはな』

 侮蔑と、何より憎悪のこもった視線がヴァシリッサとシキを刺す。
 首魁たるオブリビオンの登場に敵は勢いづき、その身を粉々に弾けさせながらも踏み止まり、既に少なからぬ手傷を負った猟兵たちを地獄へ引きずり込もうと試みた。

『忌々しい……叛逆者むしけらどもめが。楽に死なせてはやらぬ……』

 そう、此処は死者の帝国。猟兵はその守るべき則を犯し、あまつさえ支配者に刃を向ける大罪人なのだ。
 故に彼らは望む。ならばその五体を砕き、死を願うまで痛めつけよう。そうして死した魂さえも縛り、穢し、永劫に苦痛を味わわせてやる、と。

「ご挨拶だナ……ヤってみやがれよ」

 不敵に笑い挑発的な言葉を返すヴァシリッサ。
 けれど津波のように押し寄せる死霊の只中では余裕などなく、すでに何本もの矢が突き刺さった傷口からは血が溢れていてその呼吸も荒い。
 クロスボウの矢は本来は吸血種相手にも用いられていたのか、呪詛を帯びて蝕む矢玉はタルボシュⅡの装甲さえも溶かして突き刺さっていた。ハリネズミのように棘だらけとなった機体を駆ってヴィッキーが吶喊する。

『こんなの……痛くも、痒くもないッ……!』

 例え表面装甲が穴だらけにされたとて、主要な機関は未だ健在なのだ。砲台群からの集中砲火に晒されながらも火点を――聳え立つ砲台を潰し、敵の首魁への射線を切り開いて。

「……罰せられ、裁かれるべきは」

 立ち込める白煙を割って、白銀の人狼がしなやかにその身を躍らせた。
 拳銃を構え、トリガーをそっと絞る。『シロガネ』の名を持つ拳銃から発射されるのは必殺の一撃ではないが、それで十分。シキの狙いは最初から注意を惹き付けることにあり、【ガンロック・レイズ】の権能はその銃弾の及ぶ範囲で味方を援護アシストし、敵を牽制するものだ。

「俺達では……ましてや村人達では、ない」
『ほぅ。畜生風情が、言うではないか!!』

 遠間から発射された弾丸は盾に阻まれ固い音を立てた。敵の首魁が檄を飛ばす声が響き、視界の端には騎馬に跨る兵たちの大軍の接近が映る。鎧兜に覆われた重装備の騎兵らは猟兵の側面から後方を旋回し、全方位に完全な包囲を敷いていた。こうなってしまえば、猟兵とて今や袋のネズミ。

「罪無き者を裁こうという傲慢め……」
『汚らしい虫けらが、囀るな! 我こそが正義! 貴様らは生まれながらに穢れた罪人なのだ……!』

 フォルクは残って居た死霊を騎兵に充てて時間を稼がせ、敵首魁を射程に収めるもそれ以上は手が出せずにいた。影を渡る闇そのものと化す滅亡卿の権能を封じるべく『フレイムテイル』の炎を放とうにも、見渡す地平には影となるものがあまりにも多すぎた。聳え立つ砲台、砲弾が抉った大地の窪み、仲間たちや屍兵の大群――恐らく一度仕留め損なえば滅亡卿はその何処かへと姿を隠すだろう。

 ――……ならば、と。

(やっぱ狙撃は緊張で喉がヒリ付くね)

 気配を殺し、瓦礫の影に潜む狙撃手はそっと銃口をあげた。
 二挺のガンナイフ『Sforzando.275スフォルツァンド』から持ち替えたボルトアクションライフル『Forte.50フォルテ・イーブン』の照準器にその姿を捉え、諸元による修正を加え――

(“獲物”を噛み切る下顎は、その勝利の瞬間こそが最も脆いものさ)

 レモンは猟兵を見下し驕り高ぶるオブリビオンに向け、静かにトリガーを絞って見せたのだった。

●反転
『ぬっ……?』

 それは一見して何の変哲もない弾丸に見えた。意識外から放たれたライフルの弾丸はオブリビオンの肉体を貫通し――【逆刻の魔弾シェル・クロノス】に籠められた権能を発現させる。

「見た目は貫通力が高いだけの弾、ぶっちゃけ地味だ……だが」

 弾丸に宿った“神秘根絶の概念”はオブリビオンに授けられた常闇の加護を逆転させ、『死者の帝国』に適応することで祝福を得た魂を、ただの惨めな屍人へ――過去の残骸のあるべき姿へと還していく。

「間違いなくアンタは今、処刑台に上がったよ」
『ご、ぉ、ぉォ……』

 その死者は膝をついて蹲り、仮面を両手で抑えくぐもった呻きをあげる。
 影に潜ることも、鉄壁の守護も失われたのだろうか。逃げようとする気配はなかった。

「さぁ、お前の誇ったもの全てが牙を剥くぞ」

 欠損部位の再生すら果たせていないのか、ただ一撃の弾丸に悶え、苦しむ死者。
 レモンは責めるように言葉を連ねる。

「情状酌量も弁護もナシだ。汝罰せられるべし――」
『おのれ……なんと……なんと、卑劣な……』

 昏く低い、地獄の底から響くような怨嗟の声を漏らす過去の残骸。
 弱体化したその命脈を一気に断つべく、猟兵たちが殺到する。
 
 一方で自らの主を守護すべく騎馬に跨る重騎兵も急ぎ駆け付けようとするが、シキはその足元に潜り込むようにして低い姿勢から騎馬の脚部を狙い崩す。もつれるようにして倒れた先頭に巻き込まれて後続の足が鈍れば、

「燦!」
「あいあい、……っと」

 『聖笄』Hydrangeaハイドランダによって身を隠し迂回していたシホと燦も姿を現し、燦はそのシーフらしい身軽さで隆起した高層砲台へと駆けあがった。
 そうして振るうのは『四王活殺剣』の剣技。
 ――かの青年剣士はどこかで見ているだろうか? 彼には彼なりの戦い方がある、と早々に分かれ姿を晦ましてしまっていたが……。

(……何だかな)

 何のつもりか遥か格上の猟兵相手に警戒心を見せ、天井に潜んでいた青年の面影が一瞬過る。

『ゆる、さぬ……ぉォオ……この怨み……』
「失せナ。Noble Blood腐れ外道が
「――死を以って贖え」

 ふらふらと立ち上がるオブリビオンが漆黒の炎忌まわしき呪炎に包まれる。
 黒い松明のように燃え上がるその“世界の敵”の消滅を望む声が重なり。

『死は殉ずるもの――その先に在る滅亡こそが、唯一の真理である』

 ――まるでその断罪の言葉を嘲るような意思が、世界のどこかで、ひどく虚ろに響いた。

 白刃が煌めき、首を刎ねる。
 更にその首を両断すべく振るった刃は、頭蓋骨の仮面を叩き割るにとどまったが。

「ん……呆気ない。つまらぬものを斬ってしまったぜ……」
『おのれぇ…………ヴォ………ゥ……』

 斬り飛ばされた首は回転しながら空中を舞って、地に堕ちて拉げる。
 再生することもなく、反転した呪詛によって蝕まれ極限の苦痛を味わいながら、最後の瞬間まで憎き仇への呪いの言葉のみを吐こうとして――

(……これで)

 忌まわしき呪炎に焼かれ燃え尽きていく死者に目を落とし、チクリと痛む胸の『聖痕』を抑え、それでも戦闘の終結に安堵するシホの目の前で。
 その生首はカッと目を見開くと、

『ア……アァ……聖女、よ…………われらの……ひと、の……』
「……滅亡卿。ヴォルフガング……?」

 漆黒の炎に焼き尽くされ、その言葉を最後に塵へと還っていったのだった。

●影に潜む
(……マズイ。何かが……)

 何故だか死者たちは、屍の兵たちは、消えなかった。
 不穏な空気を察知したフォルクは影狼『ハイド』を呼び出し己の身を守らせる。

(……何かが、おかしい)

 ――アア、アァアアアアアアアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!

 悲嘆の叫び声をあげ、残っていた重装騎兵たちが我先にと猟兵へ襲い掛かる。
 クロスボウが斉射され、フォルクはそれらを残像を残して回避しながら。
 
「……この掌に在りしは天の日輪放つ撃鉄。降り注ぐは浄戎の炎」

 地を揺らして迫る軍勢に、それ以上に警鐘を鳴らす危機感に従って、現在の自らの最大火力――【シャイントリガー】の権能にして『フレイムテイル』から放たれる太陽光にも比肩する光を溢れさせた。

「我に仇為す汝らに、等しく光あれ」

 光線、熱線、電磁波による破壊は死霊を光へと溶かし、一撃でその大半を半壊させる。
 だが、それでも胸を騒がす焦燥は収まらず。

(――ッ。仕留め損ねた……何をだ?)

 何かがいるのは確かだ。けれど、猟兵たちはもう、それが何であるか分からなかった。
 強い光は影を生み、影は遠く遠くに伸びていく。

「ぐ、ああっ……!」

 既に割れただろう狙撃地点を捨て脱出を図るレモンの背後で。
 影の中に蠢くそれは瞬く間に山羊の頭蓋骨を仮面代わりに被った兵士の肉体を再生させ、巨大な処刑斧を叩きつけた。肩口から割られ大きく破損した肉体が一枚の符となって燃え尽きていく。その様子を無感動に見送って、滅亡卿は再び何処かの影へと渡った。

 忌まわしき呪炎が燃え盛る戦場で、死霊たちは猟兵に殺され、しかし飽くことなく消滅を繰り返す。

「アハ。こりゃ一杯食わされた、かね……」
『言ってる場合!? どーすんのさッ!!』

 つい先刻まで圧倒していた筈の戦場で、逃れようも無く寄せくる目の前の敵との戦闘を強制される。
 まるで毒を飲まされたような気分だった。

 記憶を消された猟兵たちにとっては正体不明の敵――けれど、ここまで来ればその『戦術目標』が何であるかはヴァシリッサにとっても明白だった。

「……時間稼ぎ、だナ。どうにかしないと本格的に拙そうダ……」
「狙いは一貫して闇の救済者だったか……囲みを突破するか? ならば援護するが」
「イヤ……このままじゃ動けない」

 かと言って今更引き返そうにも、下手をすれば正体不明の敵を人類砦へと引き連れ、闇の救済者を危機に晒す事になる可能性が高く。
 猟兵たちは引くも進むもままならない、死者の帝国という名の檻に囚われたのだった。

●滅亡卿
 それを油断とは到底呼べまい。神々やフォーミュラでさえ貫いただろう猟兵たちの連携、機を窺う慎重さ、強力無比なユーベルコード。
 けれど、紋章さえ持たないただの一兵卒に過ぎずとも、『古参兵』たる滅亡卿は知っていた。
 自らは“天敵”に狩られる側でしかない、弱い存在獲物であることを。
 だから彼は、猟兵たちがそうしたように、そして闇の救済者がヴァンパイアと戦う際にそうするのと同じように、己の存在を隠して生存と観察に徹していたのだろう。

 そして、それ情報が戦場において如何に重要かを知る故に、彼はまず意思決定を行うための『情報』を奪い、戦闘能力ではなく判断能力を機能不全に陥らせ、目標を喪失させたのだ。

「何が何だか分からねーが、やばそうだな」

 燦はシホと背中合わせになって死角を補い合い、今となってはオブリビオンの大海に浮かぶ小舟のような状況で敵を迎え撃っていた。

「それはそれとして、美少女な騎士と侍は絵になるね♪」
「燦……」

 そんな妄言を宣う恋人にちょっと呆れた目を向け、

「少し、時間を稼いでくれる?」
「いいぜ。どーすんの?」
「私、一度記憶を失った事があるから……ああ、やっぱり」

 そう言ってシホが取り出したのは一冊の書物――『聖録』|《Gladiolusグラジオラス》の日記帳。
 魔力を帯びて何かを訴えるようにあわく輝くその書の頁を紐解けば、そこにはいつの間にか欠落した記憶の断片が刻まれていた。

「その肉体を捨て闇と同化し影を渡る……人々の記憶からも自らの存在を消してしまう、常闇の信徒」

 死者の帝国に溢れる屍兵たちを操り、徹底的な破壊を齎す、『滅亡』の名を関するオブリビオン。
 猟兵を“生涯最大最強の天敵”と見做して戦いに臨む彼は、あえて強者と正々堂々戦うことなどせずに、吸血鬼から与えられた使命を果たすべく“あらゆる手段”を講じて猟兵たちを罠に嵌めたのだ。

(だとしたら……プリュイたちも危ないのかもしれない)

 胸を騒がす不吉な焦燥感。
 けれど猟兵を警戒し影武者を仕立て今も迂闊には姿を見せない滅亡卿を捉えるのは、それ自体が非常に困難だった。だれかが囮となっておびき寄せようにも、あえて虎を狩ろうとする山羊は居ないのだ。

「なるほど、弱者の兵法か……そういやアレも、ただの必殺仕事人ごっこかと思ってたが」

 自然界においても天敵から身を守るため、生物は迷彩や欺瞞など工夫を凝らす。その心理は猟兵たちよりも、常から格上を相手に無謀な闘いを演じ、仲間の屍を超えて進む闇の救済者らの方が理解できるものだったのかもしれない。
 だからこそ、だろうか。
 猟兵をして打つ手の無い状況を打開する一手は、その剣士の流す血によって贖われた。

 青白い炎がパッと咲いて、眩く空を照らし――消える。

 ――我が戦列に加われ……

 感情の失せた酷く平坦な声がその場所で空気を震わせて。
 ややあって、重い銃声が一つ響き渡った。

「!? レモンの狙撃か……?」
「ほら行くよ、ヴィッキー!」

 シキが、ヴァシリッサが銃声の響いた地点へと即座に駆け。

「燦、詠唱を……!」
「ああ、今度こそ逃がさねえ」

 シホは滅亡卿の弱点が太陽の光であることを伝えると、燦の手を取り共に【乖崩】のユーベルコードを練り上げていく。

「邪魔はさせない……行って、仕留めて」

 猟兵らの行く手を阻む屍兵はフォルクのシャイントリガーが眩く照らしその動きを食い止めて。

『ふぅ……“此度”はここまでか……』
「……何なんだよ、お前は」

 対峙するのは手傷を負い肩で息する抗体ゴーストと、胸に風穴を開けた滅亡の化身。
 その足元で身体を二つに割られ、血だまりに沈む闇の救済者の剣士。

其は天地開闢の際、乖離されし亜空間其は世界終焉にて全てを無に帰す破滅の嵐

 シホと燦の詠唱が重なり、時空が歪むほどの魔力が渦を巻く空間で、滅亡卿は間もなく訪れるだろう自らの破滅に何ら焦るでもなく、ただ天を仰いでいた。

御狐・燦の妖力をもって命ず捧げるものシホ、主に願い奉る

 触れ合うことで共鳴し累積融合する、【乖崩カイホウ】の名を冠する二つのユーベルコードの高まり。シホの【華弧連葬・天地乖離の領域カコレンソウ・テンチカイリノリョウイキ】が滅亡卿を亜空間の結界領域へと封じ。

『二人の力重なりて、森羅万象を覆し……』

 燦の【華狐連葬・時空崩壊の震動カコレンソウ・ジクウホウカイノシンドウ】がその内部で因果や根源さえ時空諸共崩壊させる魔力災害を発生させる。

『――世界の敵を撃ち滅ぼさん!』

 駆け付けたシキやヴァシリッサが油断なく目を光らせるその前で、亜空間の内部では太陽の魔力災害――即ち、核融合にも等しき力が荒れ狂っていった。

「……光に帰りなさい」「光に還りな」

 到底耐えられるはずも無く、塵に還っていく滅亡卿へと二人はそう声をかけ。

『虫けらは、光など……ただあの美しき滅びを、滅亡を……その為ならば、我は何度でも……』

 しかしその常闇の信徒は光に呑まれながらも、闇を纏う罅割れた影人形の姿のまま、ついには砕けるようにして塵ひとつ残すことなく消え去ったのだった。

●爪痕
「シホさん、燦さん……!」

 オブリビオンを討滅し人類砦へと赴いた猟兵たち。
 それに気づいたプリュイが駆け寄って、その無事を確かめるように強く強く抱きついてくる。

「わた……わたし、が。ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……!!!」

 再会を喜ぶよりも、激しく動揺している様子の子犬は、涙をぽろぽろと零しながら謝罪を繰り返す。
 ショックを受けている様子の少女をどうにか落ち着かせ。

「……そう、か」

 ダンピールに話を聞けば、やはり滅亡卿の放った刺客は彼らを執拗に追跡して来たようで。
 それでも、避難した村人たちには幸い人的被害は無かったようだが……。

§

「……全く、祭りの日の死因は深酒だけで良いんだよ」

 後日、大量の爆薬と仕掛けによって崩落した洞穴を式神のゴーレムに命じて掘り起こしていた燦は、土気色の顔で……それでもどこか満足げな死に顔を浮かべるその人に思わずため息をこぼす。
 避難する村人たちの殿を引き受けた長老は、強力な屍人との交戦の果てに命を落としていたのだ。

 今頃は第3層のどこかで、あの胡散臭い老人仕草で笑っているのかもしれないが――

「残される方の身にもなってくれっての」

 その犠牲に責任を感じているのだろうプリュイはひどく動揺し、今もふさぎ込んだままだ。幼少期の環境故か人狼病の影響かあまり身体が強くないことも相まって、寝込んだまま過ごす時間が増えていた。
 人類砦には『傭兵』と呼ばれるプリュイらのリーダーも訪れており、どうやらこの地方を支配する『伯爵』への攻勢作戦を練っている最中だったようだが――当てにしていた戦力がその様で、どう埋めるべきか頭を痛めているようだった。

「どうぞ。温まりますよ」
「……ああ、ありがとう」
「? あれ、素直ですね……」
「……」

 一方、人類砦を守護するように植えられた聖霊樹の傍で、シホは人々にお手製のボルシチを振る舞い元気づけようとしていた。受け取った椀から匙で一すくい口に入れ、何故か微妙な顔をするのは青年剣士。
 彼がそのどう見ても即死の状態から動き始めた時はすわアンデッド化したかと思われたが、どうやら生存に特化したユーベルコードの覚醒に至りつつあったようだ。一命をとりとめたばかりか、今では何ごとも無かったかのように回復してしまっていた。

「村の再建は……難しいようですね」
「……こうなった以上、まず一帯からヤツラ吸血鬼を駆逐しなければどうにもならんからな」

 逆に言えば、ヴァンパイアの伯爵――この領地を治める貴族さえ打ち滅ぼせば、もっと規模の大きな村や町で暮らせる可能性もあるのだそうだが。

「そう、ですか……」

 避難民を受け入れたことでもはや後には引けない人類砦では吸血鬼の報復に備えつつ戦争の準備を着々と進めており、近々大規模な戦闘の気運が高まっているようだ。
 そうして友の屍を積み上げながらも人類の生存圏を切り開かんとする闇の救済者たち――けれどその前途に横たわる闇は堆積する歴史と同じだけ深く、重く。

「皆、お祭りをして、楽しく過ごしたいだけなのに、それだけだったのに……それだけのことが」

 許されぬ世界。
 そこで必死に足搔き生きていく者たちの前途が、いつかは確かに報われるものであることを、猟兵たちは願わずにいられなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年03月08日


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はレナ・ヴァレンタインです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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