猟兵昔話「フューチャーの笛吹き」
「皆さまは『ハーメルンの笛吹き』というお話はご存知ですか?」
そう言ってルウ・アイゼルネ(飄々とした仲介役・f11945)は本のページをめくる。
「大量に発生したネズミを笛吹きは自分の能力を使って退治するが、領民たちが約束を破って報酬を支払わなかったため怒って町中の子供達をネズミを退治した時と同じ手を使ってさらってしまった、というお話です。約束はきちんと守らないとそれ相応の報いを受ける、という教訓譚でもあります」
少なくともハーメルンという街の歴史書には「我らの子供達が連れ去られてから10年が過ぎた」という記述があるため、恐らく事実を改変して作られた話だと言われているが、それが誘拐事件なのか徴兵なのか奴隷商なのか、何が原因なのかは未だに議論が繰り広げられているらしい。
「で、今回のオブリビオンは音楽によって人々を洗脳し自分の住処へと連れ去ろうとしているようです。連れ去られた人間の行く末は……賢明な皆さまなら想像がつきますよね?」
童話と違うのは連れ去る理由と、子供だけでなく大人までをターゲットにしている所だろうか。
「しかも問題としてはぶん殴ってもオブリビオンが使っている楽器を壊しても洗脳は解けない、という点です。そこで皆さまにはこちらを使っていただきます」
そう言ってルウが物陰から持ってきたのは多種多様な大量の楽器だった。
「音楽で洗脳させているならば、それを超える音楽で目を覚ましてやればいい。簡単なことですよね?」
平岡祐樹
はじめましての方ははじめまして、平岡と申します。
誰が望んだ? 「フラグメントを見ていたら有名童話を第六猟兵の世界にぶち込めそうだったのでぶち込んでみた」第二弾でございます。
第1章・第2章ともに「調査」という名目で洗脳されたキマイラフューチャーの人々を正気に戻してもらい、第3章にて犯人と対峙していただきます。
目が覚めるような熱いプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『到来、音楽観賞ブーム!?』
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POW : 派手なロックで場を支配しよう!
SPD : ポップで明るく楽しく、ノリノリでいこう!
WIZ : クラシックで美しく聞き惚れさせよう!
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フューチャーコンサートは会場内であればどこでも演奏可能というスタンスで、事前の申し込みは運営からの宣伝が要らなければ出す必要がなく、手さえ出さなければどれだけ大音量で演奏しても許される……というキマイラフューチャー特有の緩さが前面に出た催しである。
その宣伝をするための印刷物にはピンク色に髪を染めたツインテールの女性が笑顔でフルートを握っている写真が一番大きく写っていた。
この……「バアル・ゼブル」と名乗っている女性こそがこの催しの一番の目玉であり、問題のオブリビオンである。
そんな彼女が演奏する予定の舞台では、目に焦点があってない人々が周りに集まり出していた。
七詩野・兵衛
SPDポップで明るく楽しく、ノリノリでいこう!
アドリブ等歓迎するスタイル
我輩の名は七詩野兵衛。アルダワ魔法学園応援団『轟嵐会』団長だ。
知っているか?応援団は演奏もお手の物。
我輩にも応援団団長として音楽には拘りがあるのだ。
披露するのはユーベルコードで召喚した楽団員の演奏と、
我輩を先頭に応援団員達の演武によるパフォーマンスだ。
ポップな曲調に、「気合い」のこもったノリノリの合いの手と、
スカイダンサーとしての空中演武とくとお見せしよう。
洗脳など我らが高めた気合と情熱で解除してみせるのである!
気合と情熱を高めろお前たち!さあいくぞ、押忍!戦え!応援団。
「我輩の名は七詩野兵衛。アルダワ魔法学園応援団『轟嵐会』団長だ! 知っているか?応援団は演奏もお手の物!」
まるで応援の交換を行うかのように、大声で七詩野・兵衛(空を舞う熱血応援団長・f08445)は叫ぶ。
『この声援に応えねば漢が廃る。我輩の生き様とくと見よッ!』
「応!!」
どこからともなく七詩野とほとんど同じ制服を着た人々がその後ろに集う。
そして太鼓やラッパ、シンバルなどの楽器を構えた。
「洗脳など、我らが高めた気合と情熱で解除してみせるのである!気合と情熱を高めろお前たち!さあいくぞ!」
「押忍!」
七詩野の号令と共に後ろの団員達が一斉に演奏を始める。
音とシンクロするように七詩野達応援団は腕を振り、足を動かし、合いの手を入れる。
その轟音に通りかかった人々はなんだなんだ、と足を止めて応援団の周りに集まる。
ほとばしる汗を拭うことなく懸命に応援を続ける七詩野の体が突然宙に浮き始める。
重力という枷から放たれた七詩野のパフォーマンスと演奏はさらに激しさを増し、空中に浮いたことで遠くにいる客にも見えるようになり、珍しい物好きのキマイラ達がさらに七詩野達の周りに集まる。
「破っ!!」
演奏の終了と共に着地した七詩野の周りに集まったキマイラ達が歓声を上げて拍手をし思い思いのお金を投げる中、バアルの周りに座り込む人々は全く七詩野のいる方を向こうとしない。……そもそも気づいているかどうかも怪しい。
新たな被害者を生み出す危険性は減らせたものの、すでに洗脳された者達の心を震わせるだけの音を楽団員たちはどうやら発せなかったようだ……。
苦戦
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霧亡・ネリネ
WIZ
……むぅ、イヤなやつだ
音楽は楽しむものだ、悪いことに利用するなんて。
洗脳のためだけにうたわれる音楽なんてかわいそうだぞ。
ホルンをケースから出して、演奏を始めるぞ
クラシックでありつつ、美しくも楽しげなポルカを奏でる
演奏で呼び出した魔法にゃんこさんも一緒にうたってもらう
(〈子猫のポルカ〉使用、楽器演奏、歌唱、パフォーマンス技能使用)
かわいそうな音じゃなくて、楽しい音をきいてほしいな。ここは普段から楽しいところだろう?洗脳されて静かになっちゃうの、らしくないぞ
「……むぅ、イヤなやつだ。音楽は楽しむものだ、悪いことに利用するなんて。洗脳のためだけにうたわれる音楽なんてかわいそうだぞ」
ルウから相手の企みを聞いた霧亡・ネリネ(リンガリングミストレス・f00213)は大きな手さげのケースを片手に眉間にしわを寄せたまま会場の中に入る。
惨劇を起こそうと企む演者がいるとは思えないほど活発に楽しそうに思い思いの演奏をする中で霧亡の仏頂面はどこか浮いていた。
霧亡はバアルのステージが見えるところで、空いてるスペースを見つけると路上に背を向けてケースを地面に置き、中身を組み立て始めた。
そして組み立て終わり、振り返った霧亡の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「さぁ、始めよう!」
気持ちと仕事は別の話。プロでなくとも舞台に立っていた経験のある霧亡にはその切り替えは容易なことだった。
霧亡のホルンから奏でられる美しくも楽しげなポルカに周りの人々が足を止める。
それに呼応されるのは観客だけではない。
ホルンのベルの部分から1匹の子猫が突然飛び出してきて観客が驚く。
子猫は綺麗に着地すると恐る恐る見守る観客達をよそに、マイペースに霧亡の吹く音楽に合わせるように鳴く。その可愛さに何人かの観客はスマートフォンを取り出し動画撮影を始めていた。
「あれ、まだまだ時間あるじゃん。他の人のも聞かないともったいないよ」
「ほんとだ。……でも聞き逃すともったいないから近くで回ろうか」
そんな中、ステージの外周でバアルが出てくるのを待っていた何人かのカップルがふと腕にしていた時計を見て立ち上がり、近くにいた霧亡のコンサートに足を運ぶ。
「かわいそうな音じゃなくて、楽しい音をきいてほしいな。ここは普段から楽しいところだろう?洗脳されて静かになっちゃうの、らしくないぞ」
霧亡が出発前に語っていた想いはどうやら届いたようだ。
成功
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フローライト・ルチレイテッド
SPD分野で。
UC【DDD~魅惑のダンディ】でバックバンドを呼んで、MCを交えて観客を煽りながら演奏と行きましょう。
「さあ皆、退屈な時間を、塗り潰すんだッ!!」
UC【歌~Ride on Sound】で自分のステージを召喚、
【パフォーマンス、歌唱、楽器演奏、鼓舞、誘惑、おびき寄せ】を駆使し、大音量で演奏開始!
サビで観客側と掛け合いを試みつつ、派手にやっていこうー
※部分 コーラスでリピートし観客にマイクを向ける。その場のノリでサビ全体を繰り返す
(※)Ride on! 音に乗れ! (※)スポット 照らせ!
(※)Clapping! 打ち鳴らせ! 愛と 夢の CRAZY TIME!Ah! Ah!Ah!
自分よりも大きな、風情のある演奏用ロボットたちを従えたフローライト・ルチレイテッド(重なり合う音の色・f02666)は足元を慣らすように向く方向を変えながら何度も地面を蹴っていた。
「お、フローライト・ルチレイテッドだ」
「マジか。久々じゃないか?」
元々キマイラフューチャー出身であり、この世界で何回もライブをしていることもあり、フローライトの周りには早くも人集りが出来始めていた。
準備か心構えが出来たのか、フローライトは正面を向くと不敵な笑みを浮かべながら叫んだ。
「さあ皆、退屈な時間を、塗り潰すんだッ!!」
フローライトがギターをかき鳴らすと、彼らが立つ地面が突然盛り上がって宙に舞い上がる。
これがフローライトの代名詞、巨大スピーカー付飛行ステージ「歌~Ride on Sound」だと知っている者も知らない者も総じて歓声をあげる。
「Ride on! 音に乗れ! スポット照らせ! Clapping! 打ち鳴らせ! 愛と夢のCRAZY TIME! AH!」
「AH!」
「AH!」
「AH!」
ポップ調のチューンのサビ終わりの掛け合いに観客たちのボルテージは返される度に増していく。
その熱に呼応したかのように、座っていた男性客の集団がぞろぞろと移動を開始し始めた。
「さぁ、まだまだ祭りは終わらねぇ!どんどん 盛り上がっていくぞ!」
「Yeahー!」
一曲目を終え、二曲目に入る前の雄叫びに負けず劣らずの歓声を観客たちは元気に返した。
成功
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カルナ・ボーラ
踊るのは嫌いじゃないが、踊らされるのは大嫌いだな。
あんたらだって本当はそうだろう?
頭を殴っても駄目なら魂を揺さぶるだけだ。
熱いリズムとビート、そして獣のようなシャウトで彼らの精神を洗脳から目覚めさせよう。
楽器なんてろくに弾いた記憶はないが……まぁ、いいだろう。
激情に身を任せ、それを掻き鳴らしてこそ『ロック』ってやつなんだろ?
『叫べ、吠えろ。そして抗え』ってな。
「楽器なんてろくに弾いた記憶はないが……まぁ、いいだろう。激情に身を任せ、それを掻き鳴らしてこそ『ロック』ってやつなんだろ?」
カルナ・ボーラ(趣味は爪研ぎ・f14717)はバアルのステージがよく見える場所で初心者向けのギターのバイブルを読んでいたが……面倒くさくなったのか、途中で閉じてしまった。
適当に弦に爪をあてるだけでも音は鳴る。それだけで楽器初心者のカルナにとっては充分だった。
「踊るのは嫌いじゃないが、踊らされるのは大嫌いだな。あんたらだって本当はそうだろう?」
めちゃくちゃに弦をかき鳴らしてカルナは叫ぶ。それらに明確な言葉や意味は無かったが、熱い感情は込められていた。
『叫べ、吠えろ。そして抗え』
あまりに勢い任せで拙い演奏に、通行客は微笑ましそうな目線を向けながら通り過ぎる。
しかし感情を失わされていた者達には関係がない。
小手先の技術に頼らない、無骨でストレートな想いは確かに彼らの胸を捉え、正気に戻させた。
成功
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キャラメリア・エトワール
私に出来ることは少ないかもしれませんがお役に立てるなら…。
音楽を洗脳に使ってしまうのは悲しいですね…有効性を知ってる身としてはあれなんですけど…。
さてどんな歌を歌いましょうか。そうですね民族音楽的なやつにしましょうか。
異国の歌。それでも懐かしい響きがするそれを…。
【パフォーマンス】【歌唱】
〜♪
少しでも心に響いたなら幸いです。(スカートをつまんでお辞儀
「音楽を洗脳に使ってしまうのは悲しいですね……有効性を知ってる身としてはあれなんですけど……」
どこか遠くを見ながらもキャラメリア・エトワール(お菓子のように。・f11119)は寂しげな表情で問題のポスターを見ていた。
「私に出来ることは少ないかもしれませんがお役に立てるなら……」
そう宣言してキマイラフューチャーの世界に送り込まれたキャラメリアの前には巨大なカラオケの機械があった。
運営が楽器を持ってないが、参加者の演奏を聴いて歌いたい欲が掻き立てられた人のために用意しておいてくれた物らしい。
「さてどんな歌を歌いましょうか。そうですね、民族音楽的なやつにしましょうか?」
機械の前に立っていた運営員から番号札と電子目次本を渡されたキャラメリアは手慣れた手つきでそれを操作する。
「異国の歌。それでも懐かしい響きがするそれを……」
送信を終え、何人かが歌い終わるとキャラメリアの順番が回ってくる。
運営員から新しいマイクを受け取ったキャラメリアは胸の前にマイクを構えて歌が始まるのを待った。
ゆったりとしたピアノのバラードが始まり、それに弦楽器の演奏が合わさる。
豊作を喜び、神に感謝の意を伝えるために作られた歌を美味しそうでふわふわした見た目のキャラメリアは雄大に、しんみりと歌い上げる。
見た目と歌声のギャップに観覧者は驚き、聞き入り、思わず足を止める。
スピーカーからの演奏が終わるとキャラメリアはスカートをつまんで小さくお辞儀をした。
「少しでも心に響いたなら幸いです」
何人かが賛辞の拍手を送る中、次の人にステージを譲るためキャラメリアは急かされながらステージを下りる。
その視界の端には動きはのろいものの、バアルのステージから離れていく女性の姿が見えた。
成功
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鈴木・志乃
楽しもう
そして、盛り上がっていこう
世界はこんなにも輝いてるんだから!
ノリノリの青春系ポップス
疾走感のある跳ねるようなギターのメロディライン(音源CD持参)
第一声からおもいっきり声だしていくよ!【パフォーマンス】
【SPD】【歌唱】
※1
飛び出せ!世界の向こう側へ
明日のことなんて分からないけれど
胸の高鳴りは止められないから
駆け出せ その先にある未来まで
待ってなんてもういられない
今すぐに走って行こう!
※1
(転調。甘めの声で【誘惑】)
黙ってうつむいてる らしくないね
いつもみたいに笑ってみせてよ
カーテン開けて差し込む光
大空が広がってる
(以下しばらく続いて※1リピートで勢いを取り戻す
後ろで花火上げようかな)
「楽しもう! そして、盛り上がっていこう! 世界はこんなにも輝いてるんだから!」
配信者としても有名な鈴木・志乃(ブラック・f12101)がマイク片手に叫ぶと、観覧客が大声で応える。
志乃がリクエストしたのは疾走感のある跳ねるようなギターのメロディラインが特徴的な、ノリノリの青春系ポップスだった。
「飛び出せ!世界の向こう側へ 明日のことなんて分からないけれど 胸の高鳴りは止められないから 駆け出せ! その先にある未来まで 待ってなんてもういられない 今すぐに走って行こう!」
キマイラフューチャーのテレビの夜の連続ドラマの主題歌として使われていたこともあり、観覧客は戸惑うことなくついてくる。
「黙ってうつむいてる らしくないね いつもみたいに笑ってみせてよ カーテン開けて差し込む光 大空が広がってる」
転調してバラードの落ち着いた物に変わると、志乃は自分が出せる限りの甘い声でしっかりと歌い上げる。
そして曲は再び転調し盛り上がるサビ部分に入る。
「飛び出せ!世界の向こう側へ 明日のことなんて分からないけれど 胸の高鳴りは止められないから 駆け出せ! その先にある未来まで 待ってなんてもういられない 今すぐに走って行こう!」
時間制限があるため、2番までには入らずドラマサイズの所で演奏が終わるが客のボルテージは十分高まっている。
それに呼応するようにカラオケステージの後ろから特大の花火が打ち上げられた。
それは志乃が事前に仕掛けていたものだったのだが、何も知らされてなかった運営員はてんてこ舞いになる。
ステージの後ろでこそこそ怒鳴る運営員達に申し訳なく思いながら、志乃はステージの周りから聞こえる拍手に手を振って応えた。
成功
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第2章 冒険
『立ちはだかる子供たち』
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POW : 力自慢を生かしてアピールし、子供を説得する
SPD : 芸を見せることで子供の気を引き、猟兵への協力をお願いする
WIZ : 言葉で話しかけて説得し、子供たちから情報を聞き出す
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バアル・ゼブルがフルート片手に壇上に上がっていく。
前もっての宣伝の効果もあり、ステージの周りには人はいたもののバアルはその観客に違和感を感じた。
……観客の目に光があるのだ。
(まぁ、別にいいでしょう。根はすでに植えつけています。一度根ざした物はすぐに元通りになります)
しかし彼女は動じることなく、唇を歌口に当てる。
彼女が発した音楽はスピーカー越しに会場に響き渡る。
すると、親に連れられていた子供達の目からハイライトが無くなり、彼女のステージがある方へ向かおうとする。
突然感情を無くしたように声を出さなくなり、制止も聞かなくなった子供達に親も異変を感じて色々と手を尽くすが、どうすることも出来ない。
(さすが、子供は素直ですね。何も知らず、曇りがなく、無邪気で。……だからこそ、与し易い)
彼女は目を閉じ、演奏を続けながらもながらもほくそ笑んだ。
カルナ・ボーラ
踊るのは嫌いじゃないと言っただろ?
たとえどんな音楽であろうとも、それが鳴り響くならここは一つのダンスフロアだ。
相手の演奏の曲調が把握できたら、そっからが俺の出番だな。
その演奏に合わせた踊りで子供の気を引いていくか。
小鳥がさえずるように、鈴を転がすように、そんなフルートの音色に合わせた緩やかな踊りを楽しもうか。
楽しむと言っても相手の演奏を楽しむのではなく、それをただの背景音楽として利用して楽しむ。
そうやって自分で楽しそうに踊ることで、子供らにも同じように楽しんで踊ってもらおう。
別に下手だろうが、覚束なかろうが笑いはしない。
だから一緒に楽しまないか?
カルナはギターを置き、耳を澄ませながら軽く足踏みをしてリズムをとっていた。
「……よし、大体このくらいだな」
納得したように何度も頷くと、ふらふらと歩いている子供達の行く手を阻むように前に出た。
そして先ほどまでの荒々しい演奏とは一転して、小鳥がさえずるように、鈴を転がすように、そんなフルートの音色に合った緩やかな踊りを披露する。
その表情も、真剣そのものだった演奏時と違い柔和で、どこか楽しそうである。
しかし楽しんでいると言ってもバアルの演奏を楽しんでいるのではなく、あくまでそれをただの背景としてでしか把握せず、自分が踏むステップやフリのみを楽しんでいるように見えた。
子供達は足を止めてその踊りを見るが、一切乗ろうとはしない。
「別に下手だろうが、覚束なかろうが笑いはしない。だから一緒に楽しまないか?」
カルナは手を差し出すが、それに応える者はいない。
遠慮しているのか、単純に進むのに邪魔だから終わるのを待っているのか、カルナの思いは届いているが洗脳によって「踊る」という行為に至ることができないのか。
お面のように無表情な子供達の表情から原因は見て取れなかった。
苦戦
🔵🔴🔴
フローライト・ルチレイテッド
SPD分野でー
「何かを作るってことはこんなに楽しい!さあ、始めよう!」
【存在感、誘惑、歌唱、楽器演奏、パフォーマンス、鼓舞】を駆使して、
UC【Sound Crafter】を使用。
歌いながら体積20.25立法mの巨大スピーカーを作成。
爆音で鳴らします。
尚、歌う時は振りつきで。
煙舞う ファクトリー見渡して
床いっぱい図面を 投げ出して
トンテンカン 槌振るい
ぼくは作るのさ
トンテンカン 鳴り響く
最高の音の夢を見て
I 'll craft a sounds! 音を立て
Making! Making!
この空の下 作ろう Oh Yeah
宇宙の果てまで届けよ Someone's songs!
Here we go!
「何かを作るってことはこんなに楽しい!さあ、始めよう!」
「歌~Ride on Sound」のブースターをかっとばし、フローライトは子供達の前に立ちふさがる。
「煙舞うファクトリー見渡して、床いっぱい図面を投げ出して、トンテンカン槌振るいぼくは作るのさ」
その言葉を合図に空から巨大なスピーカーが歌~Ride on Soundのそばに落ちてきた。
スピーカーはフローライトのマイクに接続されており、歌と演奏を大音量で流し始める。
「I 'll craft a sounds! 音を立てMaking! Making! この空の下作ろう Oh Yeah」
スピーカーによって行く手を阻まれた子供達は別の道を行こうとしたが、大演奏と熱唱に当てられ次第に足を止め、フローライトに熱中し始める。
「宇宙の果てまで届けよ Someone's songs!Here we go!」
フローライトの曲が終わると足元からまだらな拍手が起こり始める。拍手は時間が経つにつれて広がっていき、一分もたたないうちに万雷の物へ変わっていった。
成功
🔵🔵🔴
森園・巧
なるほど。
まずは子供達をこちらに魅了しないといけませんね。
となるとSPDと楽器演奏とパフォーマンスとコミュを駆使してやりますね。
PB62-MK2の新調したからね。ただこれベースだし、私は歌うの苦手なんだよね。
フローライト・ルチレイテッド(重なり合う音の色・f02666)が飛び入りで何かしてくれないかな?
同じ旅団だから、息は合うはずなんだが。無ければ無いで演奏(ソロ?)頑張りましょうか。
それに、こういう場を盛り上げるなら一人より二人より大人数なんだね。
楽しさは共有する人が多ければ多いほどいい。演奏者にしろ聴衆にしろ。
といこうとで、これ以降に続く人たちのお手伝いも出来る範囲でやりたいです。
「おい、フローライト!」
別の大通りへとフローライトがステージを動かす中、渋めの声が彼を呼び止める。
フローライトはステージを止めて下を覗き込み、声の主に笑顔で手を振ってみせた。
「巧さん、お疲れ様です! 遅かったですね!」
「悪い、こいつを取りに行くのに手間取っちまてな」
フローライトの声に応える森園・巧(人間のサンソルの破戒僧・f03705)が挙げた手にはまだ傷がついていない真新しいケースが握られていた。
「で、今はどういう状況なんだ? そいつを慌てて走らせてるってことはあっちも動き出した、ってことだろう?」
バアルの曲が流れ出した途端に子供達が変な動きを始めたため運営はスピーカーの電源を一斉に落としており、先ほどまで良い意味で騒がしかった会場は異様な静けさに包まれている。何かが起きていることは明確だった。
「詳しいことは移動しながら話します! これを!」
フローライトが上から投げたロープを受け取り、巧も空の人になる。
フローライトがバアルが演奏し始めてからの経緯を説明する中、巧はケースからベースを取り出し、チューニングを始めた。
「なるほど。踊りでも止められることは止められるが洗脳が解けた様子は無く、別の曲を大音量で聞かせてやればとりあえず洗脳は解ける、って感じか」
「そんな感じですね。他の方々も色々手を尽くしてくれてはいるんですが……」
「あまり芳しくない、と。……とりあえず他の奴らにも呼びかけよう。人数は多ければ多い方がいい」
そう言って巧は自分が立ち上げた音楽サークルのグループにメッセージを送信した。
「巧さん、そろそろ止めますが大丈夫ですか?」
「いつでも大丈夫だ、歌はやってくれるな?」
「えー、たまには巧さんの歌も聞きたいんですけど……」
フローライトが残念そうな表情を浮かべるが、巧は鼻で笑った。
「俺の下手な歌なんかより上手いやつが歌った方がいいだろう?」
「はいはいわかりましたよー」
フローライトはステージを止めるとマイクを持って下へと呼びかけた。
「さぁ、ここでスペシャルゲストの登場だ! SWEET SOUNDZ、森園たーくみー!」
フローライトの紹介に歓声と拍手が上がる中、巧はステージの下を見やる。
そこにはフローライトの声に応える観客の間を縫いながらまるでゾンビのようにフラフラと中央のステージに向かう子供達の姿があった。
「次の曲、いくよ!」
フローライトのかけ声に合わせてドラマー役のロボットが動き出す。そのメロディラインに聞き覚えがある巧は遅れることなく演奏に入っていった。
成功
🔵🔵🔴
ピオニー・アルムガルト
行動【WIZ】
人の見えない場所から多くの人を洗脳し操り連れ去ろうなんて陰気な奴ね!
楽器は扱えないからアカペラ【歌唱】!皆の魂を【鼓舞】してあげるわ!
子供は素直で、何も知らず、曇りがなく、無邪気。
「そう、だからこそ自由なの!」
空を飛ぶ鳥の様に、地を駆ける獣の様に、海を泳ぐ魚の様に、何も縛られる事もなく命の鼓動は確かに力強くビートを刻む。
この世界はキマイラ『フューチャー』。
「夢がいっぱい広がるこの世界に感情の抑制なんて似合わないでしょう?」
さあ私のPollyannaに共感したのなら、自分の意志で歩き出すのよ♪
子供は素直で、何も知らず、曇りがなく、無邪気。
「そう、だからこそ自由なの!」
ピオニー・アルムガルト(ランブリング・f07501)は奇しくもバアルと同じことを考えながらも、そこから導き出される答えは全く別の向きを示していた。
「『貴方を信じる思いを歌に込めて』、Pollyanna!」
ピオニーの手には楽器は無く、周りにも演奏している者はいない。
空を飛ぶ鳥の様に、地を駆ける獣の様に、海を泳ぐ魚の様に、何も縛られる事もなく命の鼓動は力強くビートを刻んでいる。彼女にはその音だけで十分だった。
生命の神秘に感謝し、自由に気の向くままに走り出すことを賛美する歌は子供達の耳を捉え、その足を止めさせる。
「夢がいっぱい広がるこの世界に感情の抑制なんて似合わないでしょう?」
誰かが遺したポップでサイバーパンクな都市に、なんでか生き残った者達が自分達の気の向くままに楽しく暮らす、それが「キマイラフューチャー」。
自分の欲望をしまい込んで、人の目を気にし、人の指図に乗って生きるのは、この世界ではありえない。
最初はアカペラだった彼女の歌は近くで面食らって手を止めていた演奏家達の心を掴み、思い思いのアドリブによる伴奏によってさらに雄大さを増していた。
(私のPollyannaに共感したのなら、自分の意志で歩き出すのよ♪)
ビブラートを効かせた、最後の高音域の叫びと共に伴奏を弾く者達も全力を尽くす。
子供達は振り返るとピオニーとすれ違うように元の道を走り戻っていった。
子供は素直である。何も知らず、曇りがなく、無邪気で。……だからこそ、自分の欲望には忠実。
彼らが心の底から求めていたのはバアルの演奏を聴くことではなく、大好きな人たちのいるところで笑顔でいることだった。
大成功
🔵🔵🔵
フローライト・ルチレイテッド
WIZ分野で
巧さんの演奏に後押しされながら、
出しっぱなしの【歌~Ride on Sound】のスピーカーと、
手持ちの【真っ赤な夜】(浮遊スピーカー)、可能ならさっき作ったスピーカーも使って呼びかけを!
手持ちのバーチャルレイヤー【Dress】を使って衣装チェンジ。ヒラヒラキラキラした服装へ。
バックに同UCのインストゥルメンタル版を流しつ
【パフォーマンス、鼓舞、存在感、誘惑、コミュ力】を駆使して、
UCで呼んだ見えない翼で飛ぶ妖精達と、追従する【真っ赤な夜】と一緒に飛んだり跳ねたりしながら呼びかけを。
「皆、教えて!!やりたいことはなぁに?ぼくは、皆と音楽を楽しみたい!だから聞かせて、皆の声を!」
フローライトが観客に見えないように何かのスイッチを入れるとタンクトップに短パンという若々しい服装からヒラヒラキラキラしたアイドルめいた服装へ早変わりした。
巧の位置からはバーチャルレイヤーによって映像がフローライトの体に合わせて照射されていることが分かるが、地上にいる者達には突然何のアクションも無く服装が変わったようにしか見えなかった。
『夢を見る少女たち 星の空に今飛んでゆく♪ 羽 広げ 羽ばたいてゆく♪ Fly !Fly !Fly !Fly!!』
見えない翼で飛ぶ妖精達が周りに現れたのを見て、フローライトはギターをドロイドに任せてステージから飛び降りる。
普通なら重力によってフローライトの体は地面に落ちるのだが、フローライトは空中で、妖精達が先回りしてあらかじめ作っておいた見えない床を何度も蹴って再び宙に舞った。
手持ちの浮遊スピーカーの電源を新たに入れてフローライトは大声で叫ぶ。
「皆、教えて!!やりたいことはなぁに?ぼくは、皆と音楽を楽しみたい!だから聞かせて、皆の声を!」
大通りを進んでいた子供達は足を止め、空を見る。
まるでライトアップされたクリスマスツリーのように様々な色で輝く妖精達を従えて飛び回り歌うフローライトにその視線は釘付けとなる。
そんなフローライトのパフォーマンスに感化され、負けないように巧やドロイド達の演奏も熱を増していく。
「なるべく多くの奴に届けないとな」
巧の呟きに応じて彼の持つベースから大量のスピーカーが飛び出し、方々へ散っていく。
空中に突如生まれたステージのコンサートは運営の力を全く借りずに会場全体を取り囲み、飲み込んだ。
「さぁ皆、歌え、弾け、叫べ、踊れー!!」
小さなステージでしか奏でられていないバアルのフルート一本ではこの音の波に敵うわけがない。
自分の演奏が掻き消されていくことに遅ばせながら気づいたバアルの顔から先ほどまでの余裕は完全に失われていた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『悪食の欠片』
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POW : 頭喰らい
【異形の口】による素早い一撃を放つ。また、【空腹や飢餓感】等で身軽になれば、更に加速する。
SPD : 大喰い
戦闘中に食べた【肉や相手のユーベルコード】の量と質に応じて【全身の細胞が再生し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ : 暴走
【理性】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【腕が数倍に膨張、まるで本体かのよう】に変化させ、殺傷力を増す。
👑11
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バアルの手の中にあったフルートが突然砕けて地面に落ちた。
フローライトの演奏に気を取られていたステージ周りの人々はその金属が割れて地面に落ちた音に反射的に振り返った。
「……もう、いいです。私がバカでした」
バアルは血だらけになった手を見つめ、項垂れる。
「こんな小細工なんかせずに、最初から片っ端から食べてしまえば良かったんです」
そう呟いた瞬間、バアルの体が変化を始めていく。
突然桃色の髪を抜け落ち、頭が白く変色しながら風船のように膨らんでいく。
白かった細身のドレスが膨張する体に耐えきれず破れ、縞模様の肌が露わになる。
突然の変貌に、純粋に彼女の演奏を聴きに来ていた観客は悲鳴をあげながらステージの周りから逃げ出す。
清楚だった写真の面影は無くなり、醜悪な見た目になったバアルは、誰もいなくなったステージの中心で赤く大きな目を爛々と輝かせて耳のあたりにまで開いた口角を上げた。
「ゼンイン、ワガケツニクトナッテシマエェェェェ!!」
ピオニー・アルムガルト
(フローライトさん、巧さん、ホワイトちゃんと同行)
策士、策に溺れるというのはこの事ね!
『悪食の欠片』が姿を現したのは良いけどまだ曲の途中なのよ、演奏を止めるなんて無粋な事しないわよね?
まあ聞いても無駄だと思うけど、どっちみちこのまま倒すし!
【歌唱】でバックコーラスのサポートやユーベルコードで炎や水の演出をするわね。ロックなんだし派手に行きましょう!
攻撃手が足りない様ならしれっと演出に巻き込んで攻撃してやるわ。
音楽は誰もが自由に歌えるもの、そんな音楽で皆を洗脳しようとしたのが大きな間違い――
「音楽で挑んできたのがあなたの敗因よ!」
森園・巧
さて、参りますか。
私は戦闘においてはユーベルコードの「ロックショウ」とかによる支援がメインですね。「PB62-MK2」による爆音でかく乱とか。
機会があれば「スライディング」からの接近戦も考えてますが、まずはあのナイフとフォークの動きに注意ですね。
フローライトがハードな音楽(ロック?)をかますようなので、そこはお手伝いです。私は彼を引き立てるようなフレージングを。
他の人の行動でもお手伝い出来ればいいですね。
そうそう、おじさんナメたら痛い目に会うよ。
本当はその笛の音だけを純粋に聞いていたかったのですが、そういうことなら残念ながら決別ですかね。音楽で分かり合えたら、また違う道が見えたのでしょうね。
ホワイト・アイスバーグ
(フローライト様、巧様、ピオニーお嬢様と同行でございます)
ロックと言うならドラムも必要ですよね。
【楽器演奏】にてドラムをお借り受けさせて頂きステージに参加させて頂きます。まだ楽器演奏は不慣れですが、譜面を見て規則正しく叩くのなら従者としての行動の正確さが生かせると思います。
『悪食の欠片』様がステージ上で暴れるのは演奏に影響が出てしまいますので、咎力封じにて動きを拘束させて頂きますね。
『悪食の欠片』様が心をロックした様に我々の演奏は皆様の心のロックを開けたのです。もう後はありません、お覚悟を。
フローライト・ルチレイテッド
さあ、このライブの幕を引こう!
キミも歌え!ラストソングを!
【地形の利用】で立ち位置を確保しつつ、【歌唱、楽器演奏、パフォーマンス、鼓舞、マヒ攻撃、催眠術、早業】を駆使して、UC【Phantom Ignition】を使用、っていうか演奏。
ロックバンドの霊を召喚し攻勢に出ます。
敵の攻撃は【野生の勘、視力】で見極め、【パフォーマンス、早業】の身軽さで回避を。
ダメージを受けたら【激痛耐性】で耐えます。
空一面 帳降り星もない 退屈な、暗闇♪
唇には煌めく赤いルージュ 開幕 さあ 笑えよ♪
祈れ ただ祈れ 行くぜ!
空走る 突っ込むのさ!
獣のように吼えてやれ!
例えもう壊れても 最高の歌を歌うのさ 歌うんだ!
霧亡・ネリネ
……むぅ。
バアルさんにとっては、音楽は小細工にすぎなかったのか。
私にとってはすごく楽しいものだから……ちょっとイラっとして、ちょっとかなしいぞ。
*WIZ能力を重視
人形「フリューゲル」を起こして《諧謔》を使っていくぞ
おまえもイラっときただろう、フリューゲル。出番だぞ
2倍程ではないが人形の巨体を存分に使った〈時間稼ぎ〉、〈おびき寄せ〉で注意をこちらに向けてもらい、しっかり〈逃げ足〉や〈オーラ防御〉で被害も減らす
特に腕には注意だな、ぺろりと頂かれないように回避や防御をがんばるぞ
攻撃がブレたり、理性が腹ぺこになってきたような感じがしたらみんなに知らせよう
「まだ曲の途中なのよ、演奏を止めるなんて無粋な真似を!」
突然の豹変に近くにいた客も演奏家達も悲鳴をあげて慌てて逃げ出していく中、ピオニーは一人その場に残って憤慨していた。
「ピオニーお嬢様、お待たせいたしました!」
人々の間を縫い、ホワイト・アイスバーグ(ミレナリィドールの咎人殺し・f14288)がピオニーの元にたどり着く。全力で走ってきたにも関わらず、呼吸を乱さず汗もかいてないのはミレナリィドールだからかメイドの嗜みか。
そんな二人の上を突如、巨大な影が遮った。
「……むぅ。バアルさんにとっては、音楽は小細工にすぎなかったのか。私にとってはすごく楽しいものだから……ちょっとイラっとして、ちょっとかなしいぞ」
その頃、霧亡は悲しげにぐっとホルンを握り締めていた。足元で魔法にゃんこが心配そうな声をかけた。霧亡はしゃがみこむとその喉を軽く撫でた。
そんな霧亡の後ろから、蓄音機のラッパを模した巨大な人形が立ち上がる。表情はわからないが、どこか怒っているように見えた。
「おまえもイラっときてるだろう、フリューゲル。出番だぞ」
ステージからすさまじい跳躍力で飛び降りたバアルがどこからか取り出した巨大なフォークを模した槍を振り回す。
その刃先が逃げ遅れていた老人の胸をつらぬこうとしたが、その腕にロープが巻きつき、思いっきり引っ張られたため軌道が逸れた。
「暴れるのは演奏に影響が出てしまいますので、咎力封じにて動きを拘束させて頂きますね」
ステージ上からホワイトが放った拘束ロープをもう片方の手に握ったナイフで切ろうとしたバアルだったが、背後に現れた人形によって叩き潰された。
『冗談にみえたか?正確さは本物だぞ』
霧亡が糸を繋いだ手を見せながら歩み寄り、近くにあったベンチに腰掛ける。バアルはフリューゲルの拘束から逃げようと体をじたばたさせるが、その度に霧亡が小まめに指示を出して拘束を緩めさせない。
「黙って聞いていろ、君に向けたレクイエムが始まるぞ」
先ほどまでバアルが立っていたステージに、空を浮かぶステージが隣接しそこから楽器や機材を抱えたドロイド達と演者が飛び降りてくる。ドロイド達が手早く手馴れた手つきでセッティングを済ませて下がっていき、代わるように中央に立った少年はバアルを指差して叫んだ。
「さあ、このライブの幕を引こう!キミも歌え!ラストソングを!」
フローライトのギターと巧のベースを追いかけるように、ホワイトが譜面を睨み付けながら恐る恐るといった手つきでドラムを叩き始める。
「空一面、帳降り星もない」
「退屈な、暗闇♪」
「唇には煌めく、赤いルージュ」
「開幕、さあ 笑えよ♪」
フローライトの歌声を、ピオニーがバックコーラスとして盛り上げるように歌い上げる。その歌声は会場中に散らばらせた自前のスピーカーだけでなく、バアルの演奏を流さないために一時的に電源を切られていた運営側の物からも流れ始めていた。
「ナニガ、レクイエエエエエエエエエエム!」
「あ、まずい……!」
バアルの腕が突如として膨れ上がったのを見て、霧亡はフリューゲルに下がるように指示を出す。下がるとほぼ同時にフリューゲルの腕があった所にバアルの腕から伸びた巨大な口が空を噛んだ。
同時にホワイトが巻きつけていたロープもちぎられ、バアルは一瞬でステージに肉薄する。取り残された霧亡はステージ上の4人に向かって叫んだ。
「すまない、そっちにいったぞ!」
「上等だ!」
『祈れ ただ祈れ 行くぜ! 空走る 突っ込むのさ! 獣のように吼えてやれ! 例えもう壊れても 最高の歌を歌うのさ 歌うんだ!』
フローライトのサビに応えるように、出来る仕事人のオーラを感じさせる壮年の演奏家達の霊が姿を見せる。演奏家達は示し合わせたようにフローライトと巧の演奏に併せてセッションを始める。
どこか楽しげにも見えるハイレベルの演奏にモニター越しで観覧する客達は歓声をあげるが、現地にいるバアルは耳を押さえてその場でもだえ苦しみ始めた。
「ロックなんだし派手に行きましょう!」
スタンドマイクの奥でピオニーが腕を上げると、炎をまとった竜巻がステージ上に巻き起こる。そのパフォーマンスにモニター越しで観覧する客達は歓声をあげるが、その根源に巻き込まれたバアルの体を焦がす。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
意味を成さない雄たけびをあげながら、バアルは燃え盛る体でステージに上がり巧に噛み付こうとした。
それが一番近くにいたからか、本能から巧のベースが全体の戦意や技の威力を高めていることを感じ取ったのか、ステージの上にいる中で一番歳をとっていたからか、はたまた一番美味しそうに見えたのか……それはわからない。しかしその判断はこの時においては一番の間違いだった。
この4人の中で最も接近戦に強いのは……。
「おじさんナメたら、痛い目に会うよ」
不敵な笑みを浮かべた巧の素手による一撃がバアルのみぞおちに直撃し、その体を貫通する。バアルは何が起きたのかわからないまま体中の口を開けたまま固まり、その体は末端から塵となって空へ溶けていった。
それと同時にPhantom Ignitionの演奏が最後の盛り上がりを向かえた。
「音楽は誰もが自由に歌えるもの、そんな音楽で皆を洗脳しようとしたのが大きな間違い――音楽で挑んできたのがあなたの敗因よ!」
遠くから大歓声が聞こえてくるのを感じながら、ピオニーがミス無く演奏を終えられたことで脱力するホワイトの体を持ち上げくるくる回り、フローライトはステージを降りて歩み寄ってきた霧亡とハイタッチを交わす。
そんな中、巧は自分の足元に落ちたフルートの残骸を拾い上げていた。
洗脳などしなくても純粋に彼女の演奏が高いレベルだったこと、惚れた者・聞きたくなった者がいたことは、豹変するまでステージの周りから人波がなくならなかったことが何よりの証拠である。
もし音楽で分かり合えていたら、彼女がオブリビオンとしてではなく一人の演奏家として真摯に取り組んでいたら……また違う道が見えたかもしれない。
「でも、小細工(そういうこと)と思っていたなら残念ながら決別ですかね」
しかし終わってしまったことを今更くどくど考えてもしょうがない。
巧は軽く息を吐いて残骸を静かに握り潰すと、大成功に沸く4人の下に歩を進めた。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年03月14日
宿敵
『悪食の欠片』
を撃破!
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