●奈良県某所
街が生まれたのは遥かな昔。
街が生きるために何かを作っていたのは過去の話。
今は人の行き交いが街を、人を、生かす……はずであった。
「おはようございます」
今日も一日が始まる。
商店街のシャッターが開き、土産物屋が商品を並べる。
街路を制服姿の男女が歩き、バス停へ向かって駆けていく。
「こんにちは」
誰かが何かを買い、ガイドブックを持った中年夫婦が少しさびれた道を歩いていく。
まるでそれが当然かと言うが如く。
「おやすみなさい」
シャッターが閉まり、店は看板を下ろす。
あるのは夜の帳越しに見える灯火、そして蟲の音……いや、蜘蛛が顎をかち合わせる音のみ。
ここに居る誰もが知らない。
既に繭の中に居ることを。
ここに居る誰もが気づかない。
囚われ、記憶を操作され、偽りの一日を過ごし、そして繭の中で眠ることを。
全ては国見・眞由璃の為した事。
かつての土蜘蛛の女王の残滓は質量を得て、再び人類に刃を向ける。
捕食者として、来訪者として。
それが土蜘蛛たる自らの矜持なのだから。
●グリモアベース
「過去はやり直しがきかないから、過去なんですけどねえ」
グリモア猟兵、流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・f35258)が自らのグリモアたる回転動力炉を手に弄りつつ、机に腰かける。
「俺の個人的な感想は後にしつつ、本題と行きましょう。かつて銀誓館学園と戦った来訪者勢力――シルバーレイン世界における人間以外の種族ですね。その一つ、土蜘蛛の女王、国見・眞由璃がオブリビオンとなって蘇り、街一つを土蜘蛛の檻と呼べるもので覆い、外部と隔絶させました」
眼鏡を直し、グリモア猟兵は話を続ける。
「檻の中の人々は記憶を操作され、普段通りの日常を送っていると思い込んでいるが実際は檻に囚われています。最終的には人々から生気を奪い、喰らい、そして土蜘蛛オブリビオンを増殖させようとするでしょう……もう分かりますね?」
影郎の言葉には有無を言わせない何かがあった。
「順を追って作戦を説明します」
グリモア猟兵が一本の指を立てた。
「まずは檻の中で日常生活を送る人々に対して、外からの来訪者として共に日常生活を送りつつ、徐々に彼らの違和感を増大させ、現在の環境に疑問を持たせましょう。繭で眠っている人々を見つけて物理的に引きはがして現実を見せつけることも可能です」
次に二本目の指が立った。
「そうなると相手方は繭の損傷に気づいて土蜘蛛化したオブリビオンを送ってきます。これを撃退すれば、国見・眞由璃への道が開かれます」
そしてに影郎が立てるのは三本目の指。
「最後は女王との対面です、あちらは交渉を望んできます。こちらに関しては……皆様にお任せします。俺の今までの説明を聞いた上で、それでも必要と判断したならば、こちらからは止めることは出来ません、作戦は以上になります」
説明が終わり、唸りを上げた回転動力炉が道を作り出す。
「俺は土蜘蛛との戦争の後に銀誓館に来た人間です、知っているのは資料と伝聞だけですが……当時の銀誓館の生徒は異種族と遭遇した結果、彼等が人を殺める事、そして生徒の中に犠牲者が出たことから戦争を選択しました……ですが土蜘蛛が来訪者という事実を知ってからは方針を変え、来訪者に対して極力交渉にて接触する方向へと進みました」
現地へ続く道を見つめながらグリモア猟兵は語る。
「過去は変えられません、ですが未来は変えられます。けれど相手はオブリビオン、過去の残滓……皆さんはどうしますか?」
その問いかけは重く感じられたのは気のせいだろうか……。
みなさわ
ここが運命の分かれ道。
過去は変えられない。
やり直しはきかない。
それでもあなたは望みますか?
こんにちはみなさわです。
今回は決戦シナリオ、『土蜘蛛の女王』国見・眞由璃との戦いです。
●戦場
奈良県のとある観光地のある都市。
観光が主な産業ですが、現在は土蜘蛛の檻で外界と隔てられております。
●第一章
オープニングでも説明した通り、土蜘蛛の檻に囚われて日常生活を送っていると思い込んでいる人々への接近です。主な舞台は商店街となりますが他の場所での行動も可能です。
●第二章
土蜘蛛化オブリビオンとの戦闘です。
詳しくは断章にて説明しますが、少しだけ敵の様子は違います。
純戦です。
●第三章
国見・眞由璃との対面です。
土蜘蛛の女王は交渉を望んできます。
皆さまお考えの上、行動お願いします。
●その他
マスターページも参考にしていただけたら、幸いです。
それでは皆様、後悔無き選択を。
第1章 日常
『商店街探訪』
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POW : 食事をしよう
SPD : 買い物をしよう
WIZ : いろんな店を覗いてみよう
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●変わらない一日
「おはようございます」
今日もいつもと変わらない一日が始まる。
シャッターを上げ、売り物を並べる大人達。
行ってきますと外へ駆けだし学び舎に行く子供達。
こんにちはとやってきて土産物を買いに来る観光客達。
彼らは気づかない。
昨日も同じことをしていたことに。
彼らは知ることが出来ない。
一昨日もその前も、いや……かなり以前より自分達が同じような一日を繰り返していることに。
そして何度も続くであろう出来事にもやがて終わりの時期が来るであることに。
だが猟兵は間に合った。
観光客の行き交う商店街の中、どうやってこの矛盾を解くべきか。
時を知らせるか、心に問うか、それとも繭を引き裂き眠りから覚ますか。
どちらにせよ、終わりの時期は来た。
おそらくは女王が望まないであろう道筋で……。
久遠寺・絢音
(装いを整え、櫛やメイクポーチを鞄に仕舞う。何とも言えない苦い顔で溜め息)
……向き合わないといけないわよね
旅行者を装い、存在感や誘惑で引っかかった人に声をかける
「こんにちは、この観光地まで行きたいんですけど……バスや電車はどうしたら?」
地図を広げて示すのは、檻から外れた場所。まずは様子見ね
ああ、バス停や駅までご一緒して下さいますか?ごめんなさい、道に迷ってしまったみたいで
歩きながら、相手の一日や最近のことをそれとなく質問して聞き出す
「昨日、一昨日、更に前。あなたの記憶は毎日同じなのではありませんか?」
観光客も、同じ人が毎日来るなんて。そんなことあります?
おかしいと気付いて。お願い……!
●向き合うこと
装いを整え、久遠寺・絢音(銀糸絢爛・f37130)は櫛やメイクポーチを鞄に仕舞った。
「……向き合わないといけないわよね」
その表情は曇りが陰り、溜息が口から漏れた。
土蜘蛛として目覚め、そして眠りにつき戦争が終わった後に銀誓館へと合流した土蜘蛛。
故にこれは来るべくして来たものだと絢音は悟っていた。
「こんにちは」
旅行者を装って土蜘蛛の女が声をかけるのは地元の警察官。
「この観光地まで行きたいんですけど……バスや電車はどうしたら?」
絢音が広げた地図。
示すのは檻の外、この町から出るための道。
「ああ、それでしたら」
気さくに警官はルートを指差しそこへ至るための交通手段を手持ちのタブレットで検索してピックアップした。
……電波が届いている?
土蜘蛛の女が昔を思い出し、そして女王がオブリビオンになったことを痛感する。
「すみません、よろしければバス停や駅までご一緒して下さいますか? ごめんなさい、道に迷ってしまったみたいで」
グリモア猟兵が最後の告げた言葉の意味を知っている。
だからこそ、檻に綻びを穿たなければならない。
「ええ、私でよろしければ」
地元のお巡りさんは快活なほどの笑みを浮かべて応じ、旅行者を装う土蜘蛛を案内すべく歩き始めた。
人の少ない観光地を二人の男女が歩く。
「……今日は、どのような一日をお過ごし、だったのですか」
女が何気なく問いかけると
「ここは平和な町です。皆さんがこうやって来てくださる事でにぎわっております」
男は来訪者が嬉しいかのように応える。
「最近、変わったことは無かったですか?」
「特にありませんよ……そうそう、そろそろ春になります。その頃に忙しくなるかもしれません」
土蜘蛛の女が腕時計を見た。
時は既に春の終わりを示している。
女の足が止まった。
嘘をつく時間は終わり。
久遠寺・絢音が現在を示す時計の日時を警察官へ見せた。
「昨日、一昨日、更に前。あなたの記憶は毎日同じなのではありませんか?」
「……お姉さん、何をおっしゃるですか?」
絢音の言葉に警官が不思議そうに答えを返す。
だが女は食い下がる。
「観光客も同じ人が毎日来るなんて。そんなことあります?」
おかしいと気付いて。お願い……!
絢音が祈る、矛盾に気づいてくれと。
「今日は貴女が来てくださいました、だから同じ人が毎日なんて……毎……日?」
警察官の様子が変わった。
自分の中で見えなかったものが少しずつ鮮明となり、そして――
「――動くな!」
警官は女に銃を向け、そのままの姿勢で倒れ伏した。
『何か』を見ていたに違いない。
自分がするべき仕事をしようとしたに違いない。
だからこそ限界を迎え倒れた。
向き合い、穿たれるは綻び一つ。
それは終わりの始まり。
大成功
🔵🔵🔵
御桜・八重
待っている人が来なかったら、悲しいね。
会いたい人に会えなかったら、寂しいね。
夕暮れ近く、お土産屋さんで聞いた待ち合わせスポットで、
人待ち顔をしながら辺りを眺める。
春のお出かけ着で来たから変に浮くことはないハズ。
待ち合わせのためにココに来ている人を見定めたら、
目の前で財布を落とすなどして興味を引き、
拾ってくれたらお礼がてらに声をかける。
「ありがとう! あなたもココで待ち合わせ?」
待ってる相手のことを話して時間潰し。(コッチは通クン)
……でも、この時間からでは、きっと相手は来ない。
「待ち合わせの日と、時間、合ってる?」
時間を意識させ、違和感を呼び起こす。
この人を会わせたい。
ずっと、待っている人に。
●待っていること
待っている人が来なかったら、悲しいね。
会いたい人に会えなかったら、寂しいね。
夕暮れ近く、お土産屋さんで聞いた待ち合わせスポット。
佇み、想い、人を眺めるのは御桜・八重(桜巫女・f23090)。
春の装いはこの町には若干肌寒かったが、それでも場違いというわけではない。
そんな格好な人々を見る表情はまるで誰かを待つかのよう。
彼女自身の待ち人がここに来ることは無いけれど、それでも……誰かが待っている人には会わせてあげたい。
それが八重の心を動かしている。
ある女性が足元に落ちている財布に気が付き、手を伸ばす。
「あ! それ、わたしのです!」
息を切らせて駆け寄るは彼女より年下の少女。八重だ。
「はい。見つかってよかったですね」
女性が財布を手に取って桜の巫女へと渡す。
「ありがとう! あなたもココで待ち合わせ?」
受け取った八重は礼を述べ、そして彼女を助けるために話題を切り出す。
「ええ、今日の夕方に友人が来るの」
少女より幾分長い年月を過ごした女性は笑ってバス停の向こうを見る。
……一台も来ることがないバス停を。
「わたしも待ち合わせ。あいつったら、早い時はとても早いのに時々思いっきり遅れちゃうんだ」
頬を膨らませて八重が話す。
半分嘘で、半分本当。
少女の待ち人は時々大遅刻をやらかす、それは本当。
「でも、必ず来てくれるんだ……」
これは嘘、八重のあいつは今はグリモア猟兵として動き、駆けつけることが出来ないのだから。
「そうなの」
少女の表情に思わず女性は笑みを浮かべる。
まるで経験があるかのように。
「私の友人はいつもは鎌倉に居るの。そして週に一回はこっちに帰ってくる……今日がその日」
空を見上げれば、太陽は赤に染まり月に変わらんとする頃。
彼女はずっと、こうやって繰り返してきたのだろう。
だからこそ……
「待ち合わせの日と、時間、合ってる?」
八重は時計を見せ、日時の狂いを指摘した。
「ええ、勿論。今日、彼が帰ってくるのよ。いつも18時に着くバスに乗って、この町に」
「今日って、いつ? この日で合ってる?」
少女がもう一度時計を見せた。
「ええ、今日で合ってるわ。この時間に……この日?」
同じように女性が手首の時計を見て、そしてスマホを見る。
「……嘘、じゃあ今まで……私は」
戸惑い、呟き、そして女は意識を失い、力なく倒れる。
土蜘蛛の檻に捕まっていた見えない疲労。
狂わされた記憶の矛盾。
心が壊れないように脳が意識をシャットダウンしたのだ。
崩れ落ちる女性を八重が受け止めた。
「この人を会わせたい」
それは決意。
――ずっと、待っている人に。
だから御桜・八重はここに来た。
大成功
🔵🔵🔵
マリーア・ダンテス
「俺が最初に出会った眞由璃こそが異端者だった、そういうことかよ」
苦い顔で周囲見回す
「こんにちは。今週末は教会にて説法を行います。よろしければご参加下さい」
チラシを配り歩きながら店先にカレンダーがある店を探す
「あら、ずいぶん日付の古いカレンダーですね?もう6月ですのに」
「今何時です?あら、スマホの電源が切れていらっしゃるようですね。この前充電したのはいつです?」
時期や時間絡みで疑問を持たせる
夜になったら直接繭を破りに行く
「寝るならベッドがお勧めです。こんな所で寝ては、神敵に喰われてしまいますよ」
「もちろん助けに来たのです。神は迷える子羊を見捨てませんとも」
助けた人々は一ヶ所に集め守る
●助けに行くこと
「俺が最初に出会った眞由璃こそが異端者だった、そういうことかよ」
マリーア・ダンテス(サイボーグの処刑人・f37225)が苦い顔で町を見下ろした。
彼女が出会った国見・眞由璃。
一人の土蜘蛛として旅をする彼女もまた一つの道、可能性。
シルバーレインという世界が何かの分岐を始め、マリーアはその一端に触れていた。
そして機械義肢のシスターはもう一つの可能性に足を踏み入れる。
そう、ここが運命分岐点。
「こんにちは。今週末は教会にて説法を行います。よろしければご参加下さい」
シスター服を身に纏ったマリーアが雑踏の中、チラシを配り歩く。
神社仏閣が観光の主となっているこの町では人々の反応は芳しくないが、話しかける切っ掛けを作るにはちょうど良い。
「あら、ずいぶん日付の古いカレンダーですね? もう6月ですのに」
店先に吊るされていたカレンダーに視線を送り、マリーアは土産物屋の店主に何気なく声をかけた。
「そうかい?」
不思議そうな表情を浮かべて店主は答える。
「まだ6月は遠いだろうに?」
「……本当にそう思いますか?」
シスターの笑みに男は答える言葉を持たなかった。
「今何時です? あら、スマホの電源が切れていらっしゃるようですね。この前充電したのはいつです?」
次に訪ねたのはスマートフォンを弄っている若者。
「あれ? いつの間に切れたんだ……おかしいないつも夜には充電しているはずなのに」
戸惑う若者を視界に収めつつ、マリーアはおかしいですね? とだけ答えた。
土蜘蛛の檻の中に囚われているなら突き破れる季節と日時という矛盾。
さらにスマートフォンの電源は大きなファクターとなった。
夜に土蜘蛛の繭の中に眠るなら、充電するという行動をすることは難しいのだから。
記憶を操作し、行動させる事は出来る。
だが全てを再現することは不可能に近い。
水面に石を投げ、波紋を起こすが如く切っ掛けは作った――後は目覚めの時。
夜が更ける。
行動の時間だ。
シスターの機械義肢が繭に包まれ眠りにつく人々の安らぎをその糸ごと破り捨てる。
「寝るならベッドがお勧めです。こんな所で寝ては、神敵に喰われてしまいますよ」
「……君は昼間の?」
戸惑い訪ねるのは土産物屋の店主。
「もちろん助けに来たのです。神は迷える子羊を見捨てませんとも」
マリーアは足元おぼつかない店主に肩を貸し、自らのトラックへと運び込んだ。
「……当たりだ」
素に口調が出た、確証は得た。
視界に入る繭には人々が眠っている。
だが、一人ずつ繭を破っていくのは時間が惜しい。
ならば使うしかない――神の奇跡を。
「神を讃えよ!」
カミ ノ カゴ・サン
神の加護・参
神気がその場を照らし、繭に囚われた人々の記憶を癒し、動き出す力を与える。
「あれ、俺?」
「なんで、こんなところへ」
繭を破り起き上がる人々の前に立つのはマリーア・ダンテス。
「説明は後で、今はこちらに避難を!」
声を張り上げ、人々を導く。
こそこそと行動する時間はもう終わりだ。
何故なら聞こえるからだ、遠くから害を加えんとする羽音を。
目覚めの時が来た。
ならば次は動く時だ!
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『誘蛾少女』
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POW : 汚泥弾
【汚泥の如き呪詛塊】を放ち、命中した敵を【呪詛】に包み継続ダメージを与える。自身が【汚れた姿を】していると威力アップ。
SPD : 凶兆の化身
自身に【凶兆のオーラ】をまとい、高速移動と【疫病】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 穢れの気配
【ケガレ】を纏わせた対象1体に「攻撃力強化」「装甲強化」「敵対者に【疫病】を誘発する効果」を付与する。
👑11
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●蟲群
空に羽音が響く。
鳥の羽ばたきではない、蟲の硬い羽音。
地に足音が響く。
人や獣のような重さの無い、虫の這う足音。
それは人のようで、蛾のようで、蜘蛛のよう。
人の身体にそれ以上の大きさの羽、そして蜘蛛の脚と腹を持った『それ』こそが土蜘蛛化したオブリビオン。
疫病をまき散らすと言われ、自ら以外を醜いと憎む誘蛾のゴーストは新たに植え付けられた蜘蛛の力を顕現させ、人々を――眠りから目覚めし者を駆逐せんとする。
眠りの夜はもう無い。
これから始まるのは土蜘蛛の女王へと至る戦いの道。
ほぼ無限に等しい数で迫る軍勢を排除しつつ歩まねばならぬのだ。
国見・眞由璃の元へ。
選択肢は無きに等しい。
無視すれば無辜の人が死ぬのだから。
前に進むしか、道は無かった……。
嘉納・武道(サポート)
シルバーレイン世界で接骨院を営む三十路男。
幾度の死闘を潜り抜けて来た元能力者にして現猟兵。
表向きは寡黙な性格。
根は情に脆い熱血正義漢。
己に厳しく他者に甘い。
道を窮めようとする者特有の知識の深さと探求心を持つが、
専門外の事には若干常識が怪しい時がある。
戦闘は[体勢を崩す][グラップル][足払い]を用いた近接格闘主体。
敵からの攻撃は[受け流し][武器受け]で対処。
UCは活性化した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず目標
完遂の為に積極的に行動します。
長年の修練の過程で鍛え上げた身体は、ナチュラルサイボーグと
言っても過言ではない発達をしている。
●上記を含む、他の言動・行動はマスターに委ねます。
●舞い戻りしは蜘蛛を知る男
蜘蛛の身を宿した誘蛾の亡霊。
彼の脅威に対し前に立つのは柔道着の男。
「土蜘蛛の女王がオブリビオンとは……これも運命の糸が織りなすものなのでしょうか」
下駄がアスファルトを踏むごとにカランと乾いた音を立てる。
「それが縁というのなら――ここで払い捨てん!」
先ほどまでの穏やかの口調から一転、男が腰を落とし構えると周囲の空気が冷え込む様に感じられた。
男の名は嘉納・武道(柔道整復師にして青龍拳士・f36325)。
若かりし頃の名は柔道番長――かつての能力者にして土蜘蛛との戦いを知る猟兵の一人である。
「フッハアァァアっ!!」
裂帛の気合。
続くのは何かが削れる音。
武道の歩法が摺り足へと変わり、下駄が路面を削っているのだ。
挑むは誘蛾少女一体。
目隠しされているはずの人の顔が惑わず柔道家へと向き、汚泥の如き呪詛塊を吐き出す。
けれど武道の姿はそこに無し。
目の前に飛び込む様に身を乗り出し肩から前転、そのままの勢いで立ち上がる技こそは前回り受身の挙動。そして叩き込むは龍顎、裏拳。
顎を揺らされ、脳を揺らされたオブリビオンの襟もとに柔道家の指がかかる。
誘蛾の意識がそちらに飛んだ瞬間、その身が浮いた。
足首を払われたのだ。
ゴーストが気が付いた時にはもう遅い、足を掬われそのまま消防士が人を担ぎ上げるような動作からの投げ――肩車で顔面から叩きつけられた。
大!
立ち上がった武道へとオブリビオンが腕を伸ばす。
それを打ち払えば、流れるように叩き込まれるは龍尾、膝蹴り。
ゴーストが身体をくの字に曲げれば、その延髄に肘を落とし背負う。
雪!
地面に叩きつけられ甲殻を破壊された誘蛾の亡霊がまた一体こと切れると、武道に覆いかぶさんと別のオブリビオンが襲い掛かる。
「――遅い!」
だが、その動きは柔道家の一喝と喉元への貫手によって止まり、直後に叩き込まれる蜘蛛脚への踵による踏み付け。
脚が折れ、即座に羽根にて距離を取ろうとするゴースト。
だが、すでに懐に武道が潜り込んでおり、直後、誘蛾少女の身を跳ね上げた。
――巴投げ。
山!
嘉納・武道の動きに終わりも止まりもない。
それは身長に見合わないほどの圧倒的な筋肉量が産み出すフィジカルと青龍拳士として培われた流水が如き連続攻撃から練り上げられるテクニック。
形容するはそう……
――雪崩落!!
柔道という一つの武道を突き詰め、大河の流れが如き青龍の拳士としての錬磨が産み出すユーベルコード。
是こそ大雪山雪崩落
そう彼は呼んでいた。
「さあ、道は開きました」
突出してきたオブリビオンを片付け、武道は新たに構える。
敵はまだ残っている。
戦いは始まったばかりだった。
成功
🔵🔵🔴
久遠寺・絢音
覚悟はしていたけど、なんてこと
(視界に入ったオブリビオンに眉を顰めて)
別種のゴーストがベースってのは分かってるわ。ゴーストタウンで何度も見かけたし
でも、土蜘蛛化してるってのはこう、くるものがあるわね
汚泥弾は硬質化した白妙月虹で防御し、疫病はオーラ防御と浄化で対処
でも、早めにカタをつけないとヤバいわよね
銀糸絢爛を操り、周囲の物へひっかけるようにして糸を張る。360度、網のドームのようにね
狙いはそこに引っかかったヤツ。糸をかけ終わって10秒、私目がけてやってきて引っかかった子達へ絡新婦の羽衣
振り返り、もう一発
あら、私が糸を使って悪いかしら?
私も土蜘蛛なのよ。正真正銘のね
通して頂戴……押し通るわ!
●押し通るは土蜘蛛たる女
土蜘蛛の一部を植えつけられたオブリビオン。
その奇怪な姿に久遠寺・絢音は眉を顰めた。
「覚悟はしていたけど……なんてこと」
言葉が漏れた。
「別種のゴーストがベースってのは分かってるわ。ゴーストタウンで何度も見かけたし」
頭では理解できる。
もう子供では居られないのだから。
「でも、土蜘蛛化してるってのはこう、くるものがあるわね」
だが心の奥に何かが引っかかる。
来訪者たる土蜘蛛は確かに人類の捕食者であったが、ゴーストではなかったのだから。
故に人に交わり生きていた土蜘蛛の女は人が生きるために前に出る。
それが少女の頃から自分に課してきた役目なのだから。
怨嗟の雄叫びが響く。
声の主は誘蛾の少女。
纏いし凶兆のオーラがオブリビオンを凶鳥へと誘うかのように羽を振るわせる。
鳥にしては硬い羽音が耳障りだった。
亡霊が飛んだ。
口から吐くのは民が皆病むと書いて疫病。
人の身体を中から蝕む古の魔。
「させないわよ」
絢音の目が誘蛾少女を睨み白い薄布を舞わせる。
かつて布槍と呼ばれし自在に硬化する布は、纏われしオーラによって虹色に彩られ浄化の一閃となって疫病を払う。
「早めにカタをつけないとヤバいわよね」
病をばらまくオブリビオンの攻撃。
人々が巻き込まれるリスクを考えた土蜘蛛の女は自然と早期の決着を選ぶ。
細い指先から水晶の錘がゆっくりと垂れ下がる。
白い指が踊り、水晶が空を走る。
まるで何かを張り巡らすかのように。
直後、怨嗟の叫びを放っていた誘蛾少女が空で止まった。
まるで何かに囚われたかのように。
「私が糸を使って悪いかしら?」
その指から伸びるのは――土蜘蛛の糸。
年月を経た結果、身に着けた研鑽の技。
「私も土蜘蛛なのよ。正真正銘のね」
オブリビオンが蜘蛛糸を引きちぎらんと羽を羽ばたかせ、そして逃がさないとばかりに絢音へと糸を放つ。
だがその糸はまた別の糸が絡めとり、そして引きちぎっていく。
――絡新婦の羽衣
それこそが久遠寺・絢音の真の糸。
絢爛あれ、銀糸の舞を。
絢音の糸に絡み取られた誘蛾の少女が操られるように振り回される。
力は必要ない。
ちょっとしたコントロールで絡み取ったものは容易く望む方向へと誘導できるのだ。
オブリビオンが向かった先に居るのは――同族たる亡霊。
硬い物が砕ける音が響き、二つの塊が地面に落ちた。
「通して頂戴……押し通るわ!」
剣を抜き、絢音は走る。
自分は会わなければならない――蜘蛛だからこそ。
土蜘蛛の女の歩は自然と速くなっていた。
成功
🔵🔵🔴
マリーア・ダンテス
「ここにいる眞由璃は神敵だな」
咥え煙草を吐き捨てヒールで踏みにじる
「神の子羊を食い物にしたテメェらが、これ以上地上にいられると思うなよ。悔い改めてとっとと骸の海に沈んじまえ」
中指おっ立ててからガトリングガン乱射
傷つけた敵にスティグマ付与し更に継続ダメージ
ウェットな部分が少ないサイボーグなのでガトリングガンを小枝のように振り回して銃弾をばらまく
「俺の後ろにゃ子羊がいるからな。テメェら残して先には進めねぇんだよッ」
多くの人を目覚めさせた責任があるので、少なくとも自分の方に向かってきた敵は殲滅してから前に進んでいく
戦闘で大音量を出す分、他の猟兵に向かう敵が減るなら、それで良いと思っている
●奏でるは神罰の葬送
――ここまでの流れを振り返る。
人々に偽りの記憶を持って檻の中に囲い込み、侵入者に対して自らの力を植えつけたオブリビオンを放った場合。
人はどう判断するか。
「ここにいる眞由璃は神敵だな」
マリーア・ダンテス、彼女はそう断じた。
咥え煙草を吐き捨てヒールで踏みにじるとシスター服を脱ぎ捨てる。
身に纏うは戦闘用の修道服。
怪異退治の専門家たる正装。
若干、露出が多いのは、彼女の身体が熱を呼ぶためかそれとも太陽を浴びる事で力を得る彼女の資質を最大限に活かすためか……。
それを知る機会はいずれ訪れるだろう。
だが今は――
「神の子羊を食い物にしたテメェらが、これ以上地上にいられると思うなよ。悔い改めてとっとと骸の海に沈んじまえ」
オブリビオンに神罰を与える時!
不浄なるサインをその指で示し敵であると侮蔑すれば、棺桶を模した武器庫から展開されるのはガトリングガン。
普通の回転式機関砲と違うのは、システムの駆動と力を付与を担う回転する動力炉。
そう――これはシルバーレインの武器、詠唱ガトリングガン。
亡霊を打ち払う現代のヘパイトスの火である。
駆動音が響き、遅れて機関砲弾が誘蛾の亡霊へと叩き込まれる。
弾丸が刻むのはスティグマ。
だがそれは聖痕ではなく――神罰へのマーキング。
カミノラクイン
――神の烙印!
銃創から切り裂かれるような光が漏れる。
それはまさに御印の様。
だが、それは恩寵の証ではない。
罰たる予兆なのだ。
それを裏付けるかのようにスティグマが刻まれた箇所から爆発が起こり、オブリビオンが四散する。
「俺の後ろにゃ子羊がいるからな。テメェら残して先には進めねぇんだよッ」
給弾を停止し、空回りする銃身を闇に向けマリーアが啖呵を切る。
事実、彼女の背後にあるトラックの中では人々が身を隠している。
自分だけが先行することは難しかった。
だが、構わない。
この銃声で少しでも亡霊を引き寄せれば。
この銃火と爆発で少しでも無辜の人々に勇気を与えることが出来れば。
他の猟兵達が前に進むことが出来るのだから。
earth to earth, ashes to ashes, dust to dust
「土は土に、灰は灰に、塵は塵に、そして――」
なおも迫りくる誘蛾少女に向かい、砲火が唸る。
Ghosts must go away!
「亡霊は消えちまいな!」
マリーア・ダンテスの奏でる葬送曲はしばらく続いた。
大成功
🔵🔵🔵
荒谷・つかさ
さて……調査に出遅れた分、身体は動かさないとね。
対多数戦闘の手札は多くないけれど、まあなんとかしてみせるわ。
【轟烈鬼神熱破】発動
敵との距離が遠ければ威力・貫通力重視の収束タイプで狙い撃つ
ある程度近く、数が居るなら攻撃範囲・延焼重視の拡散タイプで薙ぎ払う
呪詛塊も一緒に迎撃し、燃やしての無効化を狙う
炎属性には浄化の効果も乗るし、対呪詛には相性がいいはずね
至近距離まで近づけるつもりはないけれど、もし強行突破してきた奴が居たら「怪力」でぶん殴って迎撃するわ
どこからでも来なさい。
目覚めた人に近づくつもりなら……みんな灰に還してあげるわ!
●焼き払うは鬼神の魂
戦いは続く。
調査に潜った猟兵は少ない。
だが少数精鋭が故に、静かに人々に異変を知らせ、眠りから覚ませることが出来たのだ。
しかし、ここからは違う。
戦いとなれば人がいる。
そしてそのために。
「さて……援軍に来たからには身体は動かさないとね」
荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)はここに立つ。
「ふん!」
まずはとばかりに飛び掛かってきた誘蛾少女の顔面に拳を叩き込む。
人外無双の膂力に首が飛び、胴が飛び、肉と化したオブリビオンの骸が弾丸となって、後に続く亡霊を吹き飛ばす。
「対多数戦闘の手札は多くないけれど、まあなんとかしてみせるわ」
握った拳を開き、つかさは掌を敵に向ける。
単体で無双することは容易だ。
だが数が多く取りこぼすことが懸念される。
それは目覚めたばかりの人々の安全にも影響する。
ならば、どうするか――。
「轟烈!」
突き出すは双掌。
「鬼神熱破!」
螺旋の如く回転されば、それが焔への着火点。
熱波が誘蛾少女を襲った。
オウガ・ヒートウェイブ
轟烈鬼神熱破
数が多いなら、広範囲に焼き払えばいい。
収束した熱波がオブリビオンの集団を貫き、さらに薙ぎ払うように腕を動かせば振るわれるのは拡散した炎の嵐。
亡霊の肉を糧に延焼した火がさらに荒れ狂い誘蛾の少女への追撃となる。
その中で抵抗しようとしたオブリビオンが汚泥の弾丸を吐いた。
「遅い!」
羅刹の女が叫び、放った熱波が泥を焼き、砂へと変える。
それは最早炎熱の地獄であった。
詠唱兵器でなければ倒せないゴーストならいざ知らず、土蜘蛛の力を植えつけられたオブリビオンにはユーベルコードに抗う力を持っていない。
さらに炎という属性が亡霊にとっては相性が悪かった。
古来より炎は浄化、破魔の面を持ち。
呪詛にも使われるがゆえに、呪詛の力を持つ誘蛾少女をさらに強い力で調伏させることも可能。
何よりも……その熱波に生き残れるという過去をオブリビオンは持っていなかった。
地獄を潜り抜け、一体のゴーストが飛び出してきた。
同胞の骸に潜み静かに憎しみをぶつけんと近づき、そして飛び掛かる。
だが、その首は熱を帯びた手刀に寄って撥ね飛ばされた。
「どこからでも来なさい」
熱が残る両手で何かを掴まんと構え、戦場に轟く声でつかさは叫ぶ。
「目覚めた人に近づくつもりなら……みんな灰に還してあげるわ!」
それは決意。
水鏡の如く静かな心の奥に燃える魂の叫び。
その後姿に人々は勇気づけられ、果てしない夢からの脱出を望まんと心が――動く。
成功
🔵🔵🔴
御桜・八重
「来たね!」
相手が穢れを纏うなら、穢れを祓うのがわたしの役目。
いつもの巫女服でUC発動!
「祓いたまえ、清めたまえ。天女となりて、邪気を討つ!」
桜色の羽衣を纏って宙に飛ぶ。
スラリと抜いた二刀には神気を湛えたオーラの輝き。
急上昇で誘蛾少女に突っ込む!
穢れで強化されるのは攻撃・防御・BS付与。
運動能力まで上がらないのなら、空中戦は負けない!
小柄な体躯を活かしてヒラリヒラリと攻撃を見切り、
懐に飛び込んで穢れを斬り祓う。
敵の強化を解除し、動揺する隙をついて急所を貫く!
疫病は気合いで跳ねのける。
「病は、気からーっ!」
あの女性のように、誰かを待っている人たちがここにいる。
なら、ここで退くわけにはいかないよ!
●払い進むは桜の天女
武道が、糸が、銃火が、熱波が、蜘蛛を植えつけられた誘蛾の亡霊を駆逐する。
だが、それでも突き進む亡霊の一団。
けれどその向こうには女王に続く道があった。
「来たね!」
御桜・八重がぽっくり下駄の鼻緒を確かめて、両の手に刀を握る。
敵は穢れを纏いしオブリビオン。
ならば穢れを払うのが巫女たる八重の役目。
巫女服を翻し、呟く祝詞は
「祓いたまえ、清めたまえ。天女となりて、邪気を討つ!」
――ユーベルコヲド。
サクラテンニョ
桜 天女
桜色の花が空に舞った。
遅れて誘蛾少女だった肉片が地面に転がっていく。
異変を悟ったオブリビオンの視線が闇の空へと向けられると返ってくるのは視界に突き刺さらんばかりに輝く淡い桜。
羽衣を纏いし桜の天女の両手には陽の一振り、桜花爛漫。闇の一刃、宵闇血桜。
桜が見せる表と裏、それを現す刀を携え、八重は飛び込む。
誘蛾の亡霊がケガレを纏う。
それは自らに力を与え、蜘蛛の膂力、蜘蛛の硬さ、そして土蜘蛛がもたらすと言われし病をその手に。
だが、疫病をもたらすその手は螺旋が如き回転と共に両腕を広げた天女の刀が斬り落とした。
「――遅い!」
次々と殺到するオブリビオンをひらりひらりと舞うように八重は避け、そして切って捨てる。
これは御桜・八重の強さとユーベルコードの相性がもたらす結果であった。
力と硬さと病をもたらす亡霊のユーベルコードに対し、桜の天女が授かるのは刀の威力向上と飛翔する力。
身の軽さと突進に慣れた八重にとっては空中戦は独壇場。
誘蛾の少女の手は緩慢なほどに遅く見えているのだ。
「病は、気からーっ!」
そして疫病の力すら、オーラを輝かせ気合で跳ねのけてしまった。
亡霊達が後ずさる中、天女は後ろを振り向く。
視線の中に入るのは夕暮れ時に会った人。
ずっとずっと彼を待ち続けていた人。
――あの女性のように、誰かを待っている人たちがここにいる。
「なら!」
決意と共に叫ぶ。
オーラに反応したのか胸元のロケットが放電したかのように感じられた。
八重は頷き、そして。
「ここで退くわけにはいかないよ!」
オブリビオンへと突き進んだ!
土蜘蛛の片鱗を宿したオブリビオンは駆逐され、道は開けた。
そこには待つのはただ一人。
――女王、国見・眞由璃!
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『土蜘蛛の女王『国見・眞由璃』』
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POW : 眞由璃紅蓮撃
【右腕に装備した「赤手」】が命中した部位に【凝縮した精気】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD : 疑似式「無限繁栄」
自身の【精気】を代償に、1〜12体の【土蜘蛛化オブリビオン】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
WIZ : 土蜘蛛禁縛陣
【指先から放つ強靭な蜘蛛糸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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●運命分岐点
土蜘蛛化したオブリビオンの群れ。
それを駆逐した先にあるのは歴史を重ねたであろう大きな寺であった。
平和な時ならば観光の目玉として人々が訪れるであろう本堂。
今、そこは蜘蛛糸が作る繭が張り巡らされた玄室と変貌を遂げていた。
「ようこそ、いらっしゃいました。猟兵の皆様」
玄室の中央に立つのは右肩から伸びる異様な長さと鋭い爪を持った、蜘蛛脚が如き籠手を身に着けたセーラー服の女。
その顔に若さを残した黒髪の少女の名は国見・眞由璃。
またの名を――土蜘蛛の女王。
「ここまで来られたという事は、私の檻も子供達も破られたという事ですね――本来なら、此処で貴方達に立ち向かうのがオブリビオンとしての正道であろうと思いますが……」
武器を構えることもなく女王は口を開いた。
「今回は交渉を以て貴方達に対峙したいと思います」
対話を求めるために。
「現状、この檻の中の規模では中にいる人々はいずれ精気を失い死に至るでしょう……ですが、解決策が一つあります」
何気なく、繭を指で弄びつつ眞由璃は提案を持ちかける。
「規模を大きくすれば、一人にかかる負担は減り。精気を得るために住民を捕食して命を奪う必要は無くなります。そして――」
女王は檻を作りし蜘蛛糸を引きちぎり、告げる。
「猟兵――いや、銀誓館の方々は『やりなおせる』……この一言で充分な材料となりうるかと思います」
糸を捨て、猟兵に向けた笑みは慈愛に満ちたものであり、そして人で無き者の証であった。
「私は後悔しているのです」
天井を、空を、眞由璃は見上げ、そして呟いた。
「銀誓館の方々の取った手段に対して『見事であった』と言えず、残ったものの助命を嘆願したことに」
視線は再び猟兵達に向けられる。
「あなた方が能力者ではなく、猟兵であることは知っています。ですが……『やりなおせる』のです。今度こそ誰も死なないという道を」
右手の長い籠手――赤手が動き、床に線を刻んだ。
「お選びください。この線を乗り越え私と戦うか。それとも踏みとどまって共にやり直すか」
刻まれしは分岐の道。
過去が提案するのは銀誓館が唯一出来なかった土蜘蛛への対話。
だが、そこに立つのは過去の残滓オブリビオンとしての国見・眞由璃。
そのための条件は人々の自由を生贄にしたもの。
命は奪わない、だが犠牲は伴うものであった。
「答えは――如何に」
女王が促す。
返答如何でシルバーレインという世界が変わる。
それでも選ばなくてはならないのだ。
そのために、今、君達はここに居るのだから。
久遠寺・絢音
…… 眞由璃様
はい、私も土蜘蛛です。その後、同胞の友と共に銀誓館で学びました
かつての、世界結界成立前の時代であれば、眞由璃様の提案もノブレスオブリージュとして受け入れられたことでしょう
ですが、時代は変わりました。能力者も増え、来訪者すら人間を片親とする子が多くなってきたのです
今の時代にその提案は受け入れられない
ですから……
今を生きる土蜘蛛の娘として、貴女に牙を剥きます!眞由璃様!
(硝子の軌跡は迷いなく線を踏み越えて)
本堂内へ銀糸絢爛を張り巡らせて罠を張り、召喚された土蜘蛛化オブリビオンを足止め
眞由璃様へ向けて心宿ノ赤星を振るい、薔薇の剣戟を叩き込むわ!
やはり……貴女も、過去なのです
●未来
その提案は『一部の者』の心に響くものだったかもしれない。
やり直せないものがやり直せる。
彼らはそうだと知らなかった。
初めて仲間が死んで。
無辜な人々が死んだ。
多くの犠牲を伴う戦争の末に倒して――真実を知った時はもう遅かった。
それからの銀誓館学園は可能な限り来訪者との交流を重視し、彼らが人を害する時のみその力を振るった。
「……眞由璃様」
久遠寺・絢音はその生き残りにして、後に銀誓館に合流した者である。
「同族である、貴女ならお分かりになられるでしょう」
国見・眞由璃の言葉に絢音は頷いた。
「はい、私も土蜘蛛であるのですから。ですが、その後、同胞の友と共に銀誓館で学びました」
けれど、その頷きは全てを肯定したものではないのは明らか。
「かつての、世界結界成立前の時代であれば、眞由璃様の提案もノブレスオブリージュとして受け入れられたことでしょう」
言葉通り、それは昔の話。
「ですが時代は変わりました。能力者も増え、来訪者すら人間を片親とする子が多くなってきたのです」
世代の移り変わり、新世代ゴーストの誕生。
「今の時代にその提案は受け入れられない」
世界結界の復活を経てもなお、時代は進んでいるのだ。
「ですから……」
土蜘蛛の女は超える。
「今を生きる土蜘蛛の娘として、貴女に牙を剥きます! 眞由璃様!」
未来への一線を!
「……分かりました」
女王の言葉は肯定ではない。
「ならば、過去より戻りし土蜘蛛の女王として貴女を倒し、私は生き残ります――童よ!」
カサカサと何かが這いよる音が天井から響く。
夜に光る赤い目。
土蜘蛛化オブリビオン――いや、最早それは土蜘蛛の子、蜘蛛の童。
「させない!」
水晶の錘が飛び、銀糸が走る。
絢音が張るのは蜘蛛糸の罠。
童達が囚われる中、潜り抜けた一匹を柘榴石の刀身を持った薙刀が斬り捨てる。
そこへ影が舞った。
長く赤い腕が伸びる。
炎を帯びた爪が、眞由璃の赤手が、同族の女の首を刎ねんとしたところを絢音は濃藍の柄で受け止める。
すかさず女王の指が伸び、貫手一閃。
刹那の間合いで回避した絢音の髪が舞った。
「眞由璃様!」
女が叫び、薙刀を軸に空を蹴り背後を奪う。
国見・眞由璃が振り向いた時、薔薇が舞った。
薔薇の剣戟!
心宿ノ赤星が放つ一撃を女王の赤手が払いのける。
「やはり……貴女も、過去なのです」
久遠寺・絢音は土蜘蛛特有の膂力を持ち合わせていない。
だが、それを埋めるに充分な速さと技を持ち合わせていた。
即座に振るわれる二撃目を受け、眞由璃がバランスを崩したところへ石突きでの追い打ち。
そして――袈裟に振られた一刀が女王の肩に叩きこまれた!
「……糸」
鈍った一撃、刃にまとわりつく蜘蛛糸を見て絢音が呟いた。
「言ったでしょう」
肩口から赤いものを流し眞由璃が口を開く。
「私は何としても生き残らねばならないのです」
大成功
🔵🔵🔵
マリーア・ダンテス
「それは提案とは言わねぇぞ、神敵」
「テメェが生き残るためだけに子羊を生け贄にして、子羊にゃなんのメリットもねぇ。俺が会った眞由璃は、一方的に繭を作らず、この世を学び、子羊を害する神敵と戦い、共存する道を探したいと考えてた。テメェは一つもかすらねぇ。俺が敬意をもって話す国見眞由璃はアイツだけだ。テメェはさっさと消えろ、神敵」
ザッと線を踏み越える
「罪の清算といこうか、神敵…燃え尽きろォ!」
体表8割以上露出でダメージUP
怪力でガトリングガンを振り回して乱射し弾幕代わり
敵の赤手を弾き飛ばして近づけさせない
「心なんざ多様性の塊だ。国見眞由璃の欠片もやることが違って当然だろ。テメェはこの世にいらねぇよ」
●神敵
その選択肢は人よっては揺らぐものかもしれない。
だが、それ以外の者にとっては全くの空言に過ぎない。
「それは提案とは言わねぇぞ、神敵」
マリーア・ダンテスの答えは詠唱ガトリングが吐き出す弾丸。
「テメェが生き残るためだけに子羊を生け贄にして、子羊にゃなんのメリットもねぇ」
正論と。
「俺が会った眞由璃は、一方的に繭を作らず、この世を学び、子羊を害する神敵と戦い、共存する道を探したいと考えてた」
過去に出会ったもう一人の国見・眞由璃との違いが。
「テメェは一つもかすらねぇ」
マリーアの心をざわめかせる。
同じ顔、同じ声。
なのに思考は違う。
歩み寄ることもせず、一方的に自らの立ち位置を動かず、来訪者としての自分の視点で物を見る。
「テメェはさっさと消えろ、神敵!」
だからこそ女王の言葉に揺れることは微塵もない、あるのはただ怒り。
一線を越えうるには充分であった。
「神敵ですか……」
赤手を盾代わりに銃撃を凌ぎつつ国見・眞由璃は呟いた。
「ああ、神敵だ!!」
シスターの言葉に笑みを浮かべる。
「何が可笑しい!?」
「いえ……懐かしく思っただけです」
マリーアの言葉に応えるは女王。
「人類の捕食者――夷敵と呼ばれた頃を思い出しましたので」
「そうか……」
やはり違う。
マリーア・ダンテスは覚悟を決め、戦闘用修道服の外套を脱いだ。
「罪の清算といこうか、神敵……燃え尽きろォ!」
機関砲の銃身が回転し、炎を吐く。
飛び出すのは弾丸――いや、不死鳥!
フェニックスキャノン!!
強烈無比なるは神罰の一撃。
赤手で防ぐこと叶わず、眞由璃は吹き飛ばされ、その身を魔炎に包まれていく。
「心なんざ多様性の塊だ。国見眞由璃の欠片もやることが違って当然だろ。テメェはこの世にいらねぇよ」
「確かに……私はこの世に要らない存在かもしれません」
紅蓮が女王の身を包み消えないはずの魔炎を吹き飛ばす。
――紅蓮撃
ユーベルコードの炎ならばユーベルコードで吹き飛ばせる。
自らの身に一撃叩き込み、爆風消火の要領で魔炎を吹き飛ばし、国見・眞由璃は立ちあがる。
「それでも、私は生きなければならないと本能が告げているのです」
人類の捕食者たる矜持ゆえに。
「……そうか」
それだけ呟くとマリーア・ダンテスは一歩下がった。
自分が言うべきことも為すべきことも終えた。
神罰はいずれ下る。
だがその前に――他の猟兵も女王に対して思うところがあるだろうから。
心の中で噛み締めるものは苦い。
それを隠すかのようにマリーアは外套を羽織り、全てを見届ける決意を固めた。
大成功
🔵🔵🔵
荒谷・つかさ
悪いんだけど、あんたが何のつもりなのかまるで判らないわ。
対話を望むなら順番が間違ってるし、「やり直せる」の意味も解らない。
ただ一つだけ確かな事は、あんたがオブリビオンであるってことよ。
女王に対して正面から突撃
そのデカい籠手に真っ向から右腕で【鬼神爆炎掌】を叩きつけ、コード同士のぶつかり合いに持ち込む
操作に対しては持ち前の「怪力」で対抗、爆破されるにしても最低相討ちには持っていくつもりで捨て身で当たる
ただし、私の攻撃はこれで終わらない
右を潰されても再度左で【鬼神爆炎掌】発動、今度は頭狙いでトドメを狙う
私は『ワイルドハント』、斬り込み担当……荒谷・つかさ。
全てのオブリビオンを狩り尽くす者よ。
●残滓
その場の雰囲気に呑まれなければ、己自身を保っていれば。
矛盾には気づくであろう。
「悪いんだけど、あんたが何のつもりなのかまるで判らないわ」
自分を確立している荒谷・つかさの言葉は当然であった。
「対話を望むなら順番が間違ってるし、『やり直せる』の意味も解らない」
国見・眞由璃を知らないものにとってはそれはただの傲慢な言葉にすぎず。
「ただ一つだけ確かな事は、あんたがオブリビオンであるってことよ」
故に過去の残滓なのだ。
「そうですね。伝わるべきことが伝わらない……私はまだ世界を知らないようです」
土蜘蛛の女王の表情に変わりはない。
ただ淡々と自らの未熟を述べ、そして。
「でも貴方達は納得してくれないでしょう。繭の中に囚われることに」
赤手を構える。
「だから、このように状況を作り上げる必要があった。銀誓館の人間と交渉するために」
「あんたは気づいていないようね」
全ての言葉を受け止め、つかさは構えた。
「私は銀誓館の人間ではなく猟兵だという事に」
歩は駆と変わり、羅刹と蜘蛛は同時に一線を超えた。
つかさの拳が奔る。
舞うように眞由璃の掌が舞い剛拳を打ち落とせば、その勢いで身を翻し長さと重さに優れた赤手で薙ぎ払う。
強く床板を踏む音が響き、後に続く掌が何かを受け止める音。
「私もそれなりの膂力を持っていますが……貴女はそれ以上という事ですか」
「悪いけど、腕力には自信があるのよ!」
羅刹の頭を狙った土蜘蛛の赤手、それを鬼は掌一つで受け止める。
世が世なら古代日本においての夷敵であろう生まれの二人。
だが猟兵は受け入れられた世界で育ち。
亡霊は世界に拒まれた中で生まれた。
互いに距離を取る。
力量は分かった。
小細工は要らない。
女王の赤手に精気が凝縮され、鬼の拳が真っ赤に燃える。
眞由璃が駆けた。
――眞由璃紅蓮撃!
つかさが走った。
――鬼神爆炎掌!!
互いの掌が重なり合い、そして気と熱と――心が重なった。
世界結界というベール、何も知らなかった若き能力者達。
すれ違いの末、土蜘蛛という組織は滅亡し。生き残りは銀誓館へと取り込まれた。
確かに懇願は受け入れられた。
だが、心の奥に有った組織として、氏族としての誇り。
次代の女王を見ることなかった悔恨。
それが国見・眞由璃を過去から戻した。
「それだけの理由で!」
「それだけの理由です!」
つかさの答えに対し女王は炎熱を精気で貫き、鬼の右の掌が爆散させる。
「オブリビオンとなってでも土蜘蛛の未来をやりなおすために!」
「……悪いけど叶えさせるわけにはいかないわ」
肉片が舞う中、羅刹の左の掌が伸び眞由璃の頭を掴んだ。
「あんたと同じ土蜘蛛が言ったじゃない。時代は変わり今を生きているって」
オウガ・バーニングエンド!
もう一つの鬼神爆炎掌が放たれ、女王が吹き飛ばされた。
「まだです!」
土蜘蛛が立ちあがる。
白磁のように美しかった顔を炎熱で焼き焦がしながら。
「私は――土蜘蛛の女王なのですから」
そう、女王として生きるために。
苦戦
🔵🔴🔴
御桜・八重
眞由璃の前に進み出て、まっすぐに目を見つめる。
生きたいと願う本能。
一族を繫栄させたい願い。
それそのものは決して悪ではないよ。
でもね。
なぜ、繭を作る前に対話を求めなかったの?
誰かを、何かを犠牲にしてからでは、理解を得るのは難しいのに。
人類の捕食者。
それがあなたの矜持なら、それを認めるわけには行かない。
わたしはここに囚われた人たちをそれぞれの生活に帰す。
あなたはやり直す時を間違えたんだよ、眞由璃さん。
しっかりとした足取りで線を踏み越える。
そのまま急加速で接近。赤手の間合いの内側へ。
一歩も退かずに彼女と打ち合う。
覚悟を見せなきゃ。力を見せなきゃ。
そうでなければ彼女を納得させられない。
倒れても気合いで立ち上がる。
凌駕するように何度でも。
彼女の本能を超えて、その心に届くまで、手を伸ばす。
狙いは紅蓮撃。
その一撃に合わせ、【花旋風】で赤手を弾く。
振りぬいた勢いで更に回転。
剣速を増した二撃目を眞由璃に叩き込む。
いつか、本当に手を取り合える日が来るといいね、眞由璃さん。
●覚悟
ぽっくり下駄を鳴らし、御桜・八重が歩む。
「生きたいと願う本能。一族を繫栄させたい願い」
言葉と共に八重の青い瞳が見つめるは国見・眞由璃の紅の瞳。
「それそのものは決して悪ではないよ」
やがて床に刻まれた線の前に立ち。
「でもね」
問う。
「なぜ、繭を作る前に対話を求めなかったの?」
その性急な行動と交渉という矛盾な行動に。
「誰かを、何かを犠牲にしてからでは、理解を得るのは難しいのに」
その結果、生み出されるものに。
「貴女のおっしゃることは分かります。本来ならばそれが正しいのでしょう」
眞由璃は頷き、そして。
「ですが、このような檻を作ると話をしてもあなた方は首を振らないでしょう。だから状況を作り出しました。貴方達が話を聞いてくれる状況を、私達が数を増やし、その上で人を殺めない……そういう話が出来ることを」
女王として答える。
暴力を以て、無理矢理交渉のテーブルに着かせる。
組織としての一つのやり方。
「人類の捕食者」
確認するかのように八重が呟く。
「それがあなたの矜持なら、それを認めるわけには行かない」
それは今を生き、未来を守る猟兵が故に。
「わたしはここに囚われた人たちをそれぞれの生活に帰す」
今も会えない自分の親友のように、会うことが出来ない人を見るのはもう沢山だから。
「あなたはやり直す時を間違えたんだよ、眞由璃さん」
「そのようですね……もっと早く目覚めるべきでした」
すれ違う思い。
言い知れぬ感情を心の中で握りつぶし、桜の巫女は一線を踏み越える。
八重桜が舞ったのは幻か、眞由璃の懐に潜り込んだ八重が二刀を持つ手に力を込めた。
目の奥に火花が散り、鉄の味がした。
桜の巫女が気が付いた時にはカウンターの膝に顎が打ちぬかれていた。
脳が揺れ、酔うような感覚が襲う。
だが、おぼつかない足取りを押さえつけるかのように思いっきり床板を踏みしめると八重は跳躍。
女王の肩に手を乗せて、そこを視点に背後を取り、刀を振る。
「させません!」
しかし赤手が薙ぎ払うように振るわれ、結果は小柄な巫女の身が吹き飛ばされるだけ。
何度も転がりながらも八重は立ちあがる。
「やぁああああっ!」
そして自らを鼓舞するかのように声を上げ女王へと走った。
一歩も退かずに彼女と打ち合わなければ。
覚悟を見せなきゃ。
力を見せなきゃ。
そうでなければ。
「――あなたは納得しないでしょう、眞由璃さん」
「よくお分かりで」
赤手を構え、応えるは国見・眞由璃。
正面から応えるのは女王の務め。
桜の巫女の覚悟から目を逸らさないのはオブリビオンとして……いや、自分の中にある守るべき何かのため。
だから土蜘蛛は全力を以て八重を叩き伏せるのだ。
「終わりにしましょう、若き巫女よ」
打ち倒した末に構える赤手に炎を灯った。
凝縮した精気の残滓が熱を帯び焔となった証。
セーラー服を翻し、眞由璃が走った。
――紅蓮撃!!
「……待っていた」
立ちあがった八重が女王の構えを見て、そして呟いた。
「いざ吹き散らさん」
八重が走る。
低く、速く、鋭く!
赤手と陽刀・桜花爛漫がぶつかり合い、爆縮した精気と退魔の魔力そして振り抜く速さが互いを拒み、籠手は跳ね上がり刀は天井へと突き刺さった。
だが戦いはそこで終わらない。
左手に持っていた闇刀・宵闇血桜を両手に持ち変えて威力を重ね、回転を以て速さを加え、信念を込めて八重は眞由璃を胴を横に薙いだ。
それこそが――咲いて散る一撃……いや二撃。
名を――
花旋風!
と呼んだ。
「あ、……」
腹を切られ、流れる朱が床を汚す。
土蜘蛛の血は赤く、人と変わりはない。
先に膝を着いたのは御桜・八重。
ユーベルコードに全てを賭け、結果、蓄積した負傷と疲労で足から力が失われる。
続いて膝を着いたのは国見・眞由璃。
この負傷、戦い続ければ死ぬのは必至。
だが、もう引き返せない。
「いつか、本当に手を取り合える日が来るといいね、眞由璃さん」
「残念ですが、私は過去の者。貴方達と手を取り合うのではなく、対等たるべくして還ってきた者」
よろめきつつも立ちあがる眞由璃。
「それに貴女の願いは後の世代が成し遂げてくれました」
だから引き返せないのだ。
ここに居るのは過去からの亡霊。
出来っこないやり直しを望むしかなかった者なのだから。
成功
🔵🔵🔴
嘉納・武道
運命の糸が繋がったか……成らば、是非も無し。
殲滅戦に参加した立場から言わせてもらえば、アレは正しくて間違っていた。
世界結界による記憶と記録の断絶が齎した結果とは言え、だ。
「やりなおし」か……。(本堂の繭を目に入れ)国見・眞由璃殿、やはり貴女は過去に囚われた人だ。この行いは15年前の焼き直しに過ぎない。
俺は、やりなおしが効かないからこそ、生命に価値が生まれると思っている。だから、囚われている彼らの人生、返してもらおうか!
線を乗り越え、名乗りを上げる
「姓は嘉納、名は武道、号は柔道番長。推して参る」
[体勢を崩す]為に[威圧][殺気]を籠めた[残像]を眞由璃の周囲に発生させ攪乱。至近の間合いで拳・蹴り・衝撃波の連撃を放つ(ここまで演出攻撃)
【眞由璃紅蓮撃】を受けた身体の箇所から赤手を通し、俺の青龍と白虎の気を練り上げた【白虎絶命拳・塊】を[カウンター]気味に叩き込む!
国見・眞由璃!貴女の本当の後悔、『見事であった』と言わせてやるよ!
真の姿:虎紋覚醒と同じ状態
上記を含め、他の行動・言動は委ねます。
●運命
下駄を鳴らして本堂に踏み入れる男が居た。
「殲滅戦に参加した立場から言わせてもらえば、アレは正しくて間違っていた」
柔道着の男が履物を脱ぎ捨てると重い音と共に床板が揺れた。
鉄下駄だった。
「世界結界による記憶と記録の断絶が齎した結果とは言え、だ」
かつての能力者は過去を振り返る。
「貴方には『お久しぶり』と言うべきでしょうか、それとも改めて『初めまして』と?」
自分を知る者。
自らが命を落とした戦いに居た者。
国見・眞由璃は道着の男に対して言葉を選ばんとするが
「どちらでも構わん」
男はこだわることは無かった。
それよりも伝えるべき言葉があるのだから。
「『やりなおし』か……」
本堂の繭を視界に入れた男の眉が曇った。
「ええ、そうです。やりなおしを致しましょう。私を知る者よ」
女王の言葉に柔道着の男はゆっくりと頭を振った。
「国見・眞由璃殿、やはり貴女は過去に囚われた人だ。この行いは15年前の焼き直しに過ぎない」
今を生きる能力者にして猟兵は毅然と言い放つ。
国見・眞由璃が過去の虜囚、オブリビオンだと。
「俺はやりなおしが効かないからこそ生命に価値が生まれると思っている。だから、囚われている彼らの人生、返してもらおうか!」
幾多の道を超え、厚くなった裸足の一歩。
それが一線を越えた。
再び戦うために。
「姓は嘉納、名は武道、号は柔道番長」
男の名は嘉納・武道。
「推して参る!」
狂い始めた世界結界の元、再び戦いに舞い戻った能力者……いや猟兵である。
「やはり土蜘蛛と人間は分かりあえませんか……いえ」
土蜘蛛の女王は赤手を構え、呟き、そして否定した。
「これも私が過去の残滓故、銀誓館にこだわり続けた故の結果でしょう」
体中に刻まれた傷は猟兵の意思。
焼かれた顔を堂々と晒し、鮮血を零しながら眞由璃は歩む。
生きるため。
「けれど、ここで引くわけにはいきません」
――いや
「私は土蜘蛛の女王として、人類の捕食者として、戻ってきたのですから」
戻ってきたのだ。自分の中にある後悔に抗い、やり直すため。
武道と眞由璃、ほぼ同時に駆けだし、そして互いの間合いへと飛び込んだ。
先手は土蜘蛛。
赤手の爪に焔を宿し、猟兵を貫かん。
後手は武道。
威と殺を伴った残像にて幻惑すれば長き籠手を潜り抜け、中足にて蹴りを打たん。
スカートが舞い、眞由璃が片足を上げて蹴りを捌き踏み込み、貫手を持って喉を狙う。
柔道着の男は身を屈ませて鋭き手刀を避ければ、錬磨を重ねた体幹から放たれる直拳を人中へと繰りだした。
女王の肘が落ちる。
武道の突きと交錯し威力を殺せば、狭い間合いから赤手を振り上げ一気に振り下ろす。
脳天へと叩き込むために。
「破ァッ!!」
裂帛の気合に共に男が大地へと掌底を向ける。
直後、床板に反射した衝撃波が眞由璃の籠手を跳ね上げて、それを機に二人の間合いが開く。
「……シュゥ」
深い呼吸。
国見・眞由璃が構えるは紅蓮。
銀の雨降る世界にて土蜘蛛が土蜘蛛たる一撃。
「――呼ッ雄ォ!」
息吹。
嘉納・武道が練り上げるは気。
流れる川の如き青龍と獣の如く研ぎ澄まされた白虎の業。
決着の時が――来る!!
先手はやはり眞由璃だった。
自らの精気を凝縮させ、爆破もしくは操る自らの名を冠した一撃。
眞由璃紅蓮撃!!
武道の掌が開く。
彼は拳士であるが本来は柔道家。
故に開手が必勝の切り札なのだ。
紅蓮を宿した赤手の一撃を受け捌くと同時に叩き込むは――
白虎絶命拳・塊!!
練り上げられた気が凝縮された気とぶつかり合い、力を逃げ場を失い特徴ある土蜘蛛の籠手が爆砕し、さらに気の奔流が女王の体内を破壊し、その膝を崩す。
「国見・眞由璃! 貴女の本当の後悔」
迸る気の奔流で柔道着が破ける中、男が袖を掴み眞由璃の外側へと潜り込む。
「『見事であった』と言わせてやるよ!」
衣失い鍛え抜かれた男の筋肉に走るは虎の紋。
虎紋覚醒――いや、それこそが武道の真の姿。
そして投げるは止めの一撃。
逆技――袖釣込腰!!
本堂が揺れ、女王は頭から床板に叩きつけられた。
「……やはり私はオブリビオン。過去に囚われ者」
天を仰ぎ、国見・眞由璃は呟く。
「やり直すことは出来ず、繰り返すだけの存在でしたか……」
「眞由璃殿、それは違う」
残心にて見下ろす武道が女王へと言葉を返す。
「皆が言っていたではないか、貴女はやり方を間違っていただけだと」
「……そうでした」
瞳を閉じ、自らに傷をつけた猟兵の言葉を思い出す眞由璃。
目を開くと男を見据え、一言。
「見事である――猟兵よ」
「……押忍」
消えゆく土蜘蛛を前に武道も一言で返す。
これにて歴史の再現は終わる。
銀の雨の世界がこの先どうなっていくかは分からない。
だが運命が一つの道筋を歩み始めたのは確かだった。
大成功
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