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7thKING WAR㉔〜侵食・侵襲・仮面の舞

#デビルキングワールド #7thKING_WAR #召喚魔王『ゼルデギロス』

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#召喚魔王『ゼルデギロス』


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●山が、動く
 それは大きさこそ埒外ではあるけれど、確かに人の形をしている。
 衣擦れは地鳴り、なびく髪は嵐。都市一つ分より大きな槍を掲げ、声は天地を震わせる。
 しかし紡がれた言葉は、少々意外なものであった。
「顔の仮面を破壊すれば私は死にます。六番目の猟兵達よ、いざ尋常に勝負!」
 己の弱点を晒し、倒してくれとすら言いたげなその言葉の後、別の声が響く。
『おのれ若津姫め……言う事を聞いて戦え!』
 声を発したのは、女の顔を覆う仮面のようだった。
 せめぎ合う二つの意思のうち、こちらに敵意を向けているのは間違いなく、仮面の方だ。仮面故に表情は読み取れないが、声には苛立ちが滲んでいる。

「ゼルデギロスが仮面(マスカレイド)を使います……心を強くお持ちください!」
 女が叫ぶ。その意味はわからずとも、何か危機を告げようとしている事は感じ取れる。
 周囲の空気が変わる。邪気が広がる。
 それは無数の仮面の形をとって、覆う。染み込む。呪いの坩堝に沈んで染まれと、招いている。

●グリモアベース
「そんなわけで、7thKING WAR……その戦場の一つに向かってもらうわけだが」
 黄葉・契次(牙折りクロムイエロー・f25437)は、集まった猟兵達の顔を順繰りに眺めながら告げた。
「相手はざっくりいうと、巨大な奴だな、うん」
 巨大な槍を携えた巨大な女性は、ガチデビルが特級契約書で呼び寄せた「異世界の魔王」なのだという。名を「ゼルデギロス」というらしい。
 女性の言葉通り、「倒すべき相手」なのは仮面の方で、仮面を破壊すれば、巨大な女性の命も尽き消滅する。
 しかしそれは彼女の望みだ。全力で挑み倒す事を、ためらう必要はない……というより、ためらうべきではない。
「巨大な身体を駆け上がって、仮面をぶち壊す。説明しちまえば意外とシンプルだな」

 戦場では、猟兵達は強制的に真の姿となる。力は増すが、敵に近付くと身体に「不気味な仮面」が生じ、精神と肉体を侵食していく。
 敵は先んじて攻撃こそしてこないものの、仮面や呪力の棘を用いて、挑んでくる者を操ろうとしてくる。
 精神汚染に抵抗する術をもって挑まねば、仮面に支配される。最悪、オブリビオンと化してしまう危険すらある。

「心を強くもて、ってのが『彼女』の言葉だったが――その強さ、信じてるぜ、猟兵」
 契次の手の中で、グリモアが輝いた。


関根鶏助
 関根と申します。いつも通り大体勢いで、戦争シナリオをお送りします。
 以下注意事項などなど。

 ※転送先では、猟兵達は強制的に真の姿となります。
 (真の姿については基本的にはイラストを参照する予定ですが、イラストがないor複数ある場合等は、プレイングに入れて頂ければそちらを優先します)
 ※敵の先制攻撃こそないものの、猟兵達の身体に仮面が生じて肉体と精神を侵食されます。無策で挑めば最悪オブリビオン化の危険がある、とのことです。抵抗する策を用意して挑めばプレイングボーナスがつきます。

 契次の説明通り、精神汚染に抵抗しつつ敵の巨体を駆け上がり、仮面を破壊すればOKです。

 プレイングに利用可能な省略記号についてはMSページに記載してありますので、必要に応じご利用ください。
 複数での参加は、【同行者の名前or呼び方(ID)、或いはグループ名:グループ人数】という形でプレイング冒頭に記載して頂き、できるだけ同日内(8:31~翌8:29)に送っていただければ検討致します。

 ※MSページの方では、プレイングの受付を「断章公開以降いつでも」としていますが、戦争シナリオに限り「オープニング公開次第いつでも受付」と致します。〆は基本的に、「🔵が必要数集まりシステム的に〆になるまで」です。

 それでは、良き反抗を。
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第1章 ボス戦 『魔王ゼルデギロス・マスカレイド態』

POW   :    マスカレイド・バインド
【呪力でできたトゲ 】が命中した部位に【魔王ゼルデギロスの悪しき呪い】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD   :    マスカレイド・ポゼッション
対象の【肉体のどこか 】に【不気味な仮面】を生やし、戦闘能力を増加する。また、効果発動中は対象の[肉体のどこか ]を自在に操作できる。
WIZ   :    ワールドエンド・マスカレイド
戦場内に【無数の『不気味な仮面』 】を放ち、命中した対象全員の行動を自在に操れる。ただし、13秒ごとに自身の寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

灯篭城・燈子
鬼門・f36273と ◎
真の姿は裾や袖がほつれた黒いドレスと魔女帽子

掃、背中乗せて
あんたの腕が使えるように、自分の腕と足でしがみつくからさ
魔法の杖で風を操って、飛んでくる仮面を
風刃で切り払ったり、空気抵抗をなくしたり
そんなことしてたら仮面がくっついちゃう
あーん、いやなこと思い出す~
迫害されたこととか、家族を焼かれたこととか
むかついて焼き返してやったこととか
こんな世界燃えちゃえばいいのよ
――そう思ったのも今は昔
なんならいま私のこと操ろうとするあんたが一番むかつくわ
仮面剥がして握って割る
何様のつもりってこと
回復魔法を掃にかけて、私の分までやっちゃえー!


鬼門・掃
魔女・f36229と ◎ しゃべりません
真の姿は現状ないので、そのまま強化されます

魔女を背負い、足に力を込めて、一気に駆け上がる
近づく仮面は切り捨てるが、それでもどこかしらに張り付くのだろう
精神汚染か
はたしてこの世界は守る価値があるのか?
こうして守った現在でさえ、一瞬後には過去になるというのに
それならば猟兵の活動なぞ徒労ではないか
いっそ一時に過去へと落としてしまえば
馬鹿げたことを言うんじゃない
たとえ賽の河原のごとく一秒後には崩れようが
現在という『日常』を積み上げない理由になどならない
生まれた時から呪われてるんだ
舌禍は慣れてる
張り付いた仮面を引き剥がし
魔女の支援を受けて、本体の仮面ごと蹴り砕く



●禍を越えるもの

 灯篭城・燈子(魔女・f36229)は、まさに魔女という出で立ちで戦場に立っていた。
 袖や裾がほつれた黒いドレスとつばの広い帽子が、紫色の長い髪が、邪気の臭う風に煽られて、羽ばたきにも似た音を立てる。
「掃、背中乗せて」
 傍らに立つ黒髪の長身――鬼門・掃(狩人・f36273)に声をかけると、彼は黙ったまま、すっと彼女に背を向けて軽く屈む。
 元々返事は期待していない。ひどく無口な男なのは、知っている。燈子は遠慮なく掃の背に乗り、彼の両手の動きを妨げぬよう、手足でしっかりと掴まる。その力と彼女の気遣いを確かめるような一瞬の間の後、掃は無言で駆けだした。

 滑らかで青白い肌を、鮮やかな赤の着物を、踏みつけ蹴って青年は突き進む。立ち止まる理由などない。身体には力が満ちており、どこまででも駆け抜けられる気がする。
 視界の端で、影が動いた。ゼルデギロスが放った仮面だ。掃は太刀を抜き、迫る仮面を薙ぐ。手応えはあった。だが、見上げれば仮面は無数に漂っており、更に増え続けている。
 彼らがいるのは巨大な身体の背の辺り。速度を落とせば、仮面に囲まれ逃げ場がなくなるだろう。遠くに見える肩、その向こうの頭まで、一気に進むのが最善の手だと、彼は判断した。
 掃は太刀を振るい、刃の嵐を盾に、敵の背を駆け上がる。しかしこれでは振り払えるのも見えるのも前のみ、後ろを振り返れば速度が落ちる。
 燈子がふわりと手を挙げる。現れた魔法の杖を握ると、そこから風が巻き起こる。空気が圧縮され、刃となって、仮面を切り裂く。後ろは気にしないで、と声をかけようとしたが、風の隙間を縫った仮面の一つが、燈子の肩に張り付いた。
 じわりと、どす黒いものが入り込む。
 暗い記憶が赤く熱を帯び、爆ぜるような音と共に、迫害された過去が照らされて浮かび上がる。
 炎が見えなくとも、火種は残っている。そこに風を送れば、燻る感情はいつだって燃え上がる。
 家族を焼いた炎、焼いた者を焼き返した炎、蘇る怒りの炎で、燈子の心がじりじりと炙られる。

 一方、前進し続けていた掃の方も、揺れていた。
 果たしてこの世界に、守る価値はあるのか。その問いが、離れない。泥のように、駆ける足に絡みつく。
 世界の敵は、襲い来る過去だ。しかし、ほんの一瞬の現在を守ったところで、それもまたすぐに過去になる。
 振り返れば、一歩前の足跡が、既に敵の領域だ。何歩進んでも、変わらずに。
(それならば、猟兵の活動なぞ徒労ではないか)
 冷たい雨に降られるように、掃の心が、冷えていく。

 こんな、世界など。
(いっそ一時に過去へと落としてしまえば――)
(燃えちゃえばいいのよ――)

 ――「でも」。

 立ち止まり、暗い所へ沈もうとしていた二人を繋ぎとめたのは、触れている相手の温度だった。言葉を交わさずとも、息遣いやわずかな動きに感情が現れている。
 彼の諦念、その冷気が、彼女の思考を冷ます。
 彼女の怒り、その熱が、彼の心に火を灯す。
 互いに命を預けて戦場に立っている事を、思い出す。

 掃は頭を振る。
(たとえ賽の河原のごとく一秒後には崩れようが、現在という『日常』を積み上げない理由になどならない)
 胸に当てた手に、異物が触れた。白い、仮面だった。張り付かれた事に気付かなかったというわずかな苛立ちと、あの昏い思いは仮面のせいだったのだという安堵が混じった息を吐きながら、仮面をむしり取って、投げ捨てた。
(生まれた時から呪われてるんだ、舌禍は慣れてる)
「燃えちゃえばいい、そう思ったのも今は昔、ってね」
 彼の背で燈子がそう呟いて、仮面を引き剥がして握り潰す。

 仮面の力で何を見て、何を思ったのかは、どちらも語らず、訊かなかった。

 燈子は山の頂上、仮面をつけた巨大な顔を見遣って、熾火のような声色で告げる。
「なんならいま私のこと操ろうとするあんたが一番むかつくわ――何様のつもりってこと」
 それから「行きましょ」と、掃の肩を一つ叩く。その手は、淡く光を帯びていた。
 『回復魔法(ネバーダイ)』。身体の奥深くまで染み込み癒す魔力は、「どんな重体でも綺麗に治す」と彼女が語る強力なものだが、それだけではない。彼女と積み上げた信頼で繋がる者に、力を与えるのだ。
 この戦場が彼らに注ぎ込んだ力を更に増幅して、魔女を背負った男は再び、太刀で仮面を斬って落としながら突き進む。後ろから来る仮面は、燈子が風の魔法で吹き飛ばしている。
 掃は更に加速する。駆け続けて、巨大な敵の肩を蹴って、巨大な顔の前へと跳ぶ。

「私の分までやっちゃえー!」
 どこか楽しげな、燈子の声が聞こえる。

 ――大丈夫。風も、味方をしてくれる。
「……ッ!!」
 掃の飛び蹴りが、巨大な仮面に突き刺さった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カシム・ディーン
機神搭乗

「ご主人サマ!メルシーもマスカレイドになりそうだよ!」
堪えろ!何度も食らってるだろ!(他依頼より
それにな…僕が使う仮面はこれって決めてるんです(帝竜眼を被る

【属性攻撃・念動力・浄化】
精神属性を己達に付与
そして浄化の権能で抵抗強化

僕は僕の意志でエロい事がしてーんですよ!仮面に操られてとか冗談じゃねー!
「メルシーもご主人サマとメルシーの意志でちゅーするのー♥」
更に煩悩で抵抗!

【情報収集・視力・戦闘知識】
仮面への最短ルートを把握
【弾幕・二回攻撃・スナイパー・切断・空中戦】
UC発動
何時もの行くぞ!
「了解だよ☆」
超高速で飛び回り仮面に弾幕を叩き込みながら距離を詰めて
鎌剣で切り刻み破壊を狙う!



●青く燃え滾るもの

 轟音と共に現れたのは、白銀の巨人だ。背には翼を思わせる黄金の武装、頭部や肩にも羽の意匠をもつそれは、機械仕掛けの天使といったところか。
 界導神機『メルクリウス』。それが、カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)が駆るサイキックキャバリアの名で――愛称を『メルシー』という。
「ご主人サマ!」
 操縦席のカシムに、甲高い声が降り注ぐ。
 メルシーは普段は少女の姿をして、カシムに寄り添っている。神機の姿でも、性格や声は変わらない。
「ご主人サマ!メルシーもマスカレイドになりそうだよ!」
「堪えろ!何度も食らってるだろ!」
 そう、彼らがこの巨大な敵と戦うのは、初めてではない。
 機体に張り付く仮面は操縦席からは見えないが、メルシーが過去の戦闘データも利用して侵食に抵抗しているのが感じ取れる。
 敵は仮面を直接、相手の身体に生じさせる。それゆえに、機体の中のカシムも侵食からは逃れられない。
 あんな仮面に操られて、オブリビオンになるなんて御免だ。
「僕が使う仮面はこれって決めてるんです」
 カシムは懐から取り出した『帝竜眼』――帝竜の力を宿す魔眼宝石半仮面で、自らの顔を覆う。抗う事を、誓うように。
「何時もの行くぞ! 加速装置起動……メルクリウス……お前の力を見せてみろ……!」
「了解だよ☆」
 彼が呼べば、彼女は応え、キャバリアは飛ぶ。濁った色の空に金色の光で、倒すべき敵までの、最適にして最速の軌道を描きながら。

 空気をつんざくエンジン音は、異世界の魔王には聞き慣れぬものであったろう。巨大な女の顔が、カシム達の方を向く。

 仮面に覆われて隠れているのに、『目が合った』と感じた。

 カシムの中に、どす黒い雫が滴る。敵からの侵食だと、直感する。
 広がる邪気を押し流そうと、輝くものを思い浮かべる。少女の姿のメルシーを――銀色の髪を、彼を映す瞳を、柔らかな肌を想う。
「僕は僕の意志でエロい事がしてーんですよ! 仮面に操られてとか冗談じゃねー!」
 仮面の内側に零した言葉に、少女の声が応える。
「メルシーもご主人サマとメルシーの意志でちゅーするのー♥」
 聞いていたのか、と驚いたが、カシムがいるのはメルシーの「中」だ。おかしくはない。
 この青く滾るものを、人は煩悩というのだろう。しかし、強い望みは確かに、心を支えるのだ。

 メルクリウスは速度を上げて、弾幕を張りながら飛び回る。張り付く仮面や機体を捉えようとする巨大な手から逃げるような動きをしながらも、敵の真正面で、相手の隙とこちらの機会が一点に交わる、その瞬間を待っていた。
 カシムの合図で、メルクリウスが鎌剣を振りかぶる。BX鎌剣『ハルペー』、不死者をも冥府に送る力をもつとされる金色の光の刃が、巨大な仮面に深々と傷を刻み付けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

月隠・望月
◇○
オブリビオンになる危険があるとしても、戦わない理由にはならない。敵と戦うのが戦う力がある者の役割。全力で倒す。

敵の体を【ダッシュ】で駆け上がり、【剣刃一閃】で仮面を破壊しよう。
問題は仮面の侵食……多少の【狂気耐性】と【浄化】の力はある。が、これでは気休め程度か。破魔の小太刀で【剣刃一閃】を使い、身体に生じる仮面を破壊すれば、侵食を遅らせることができるだろうか。
これで駄目なら、自身の肉体を傷つけてでも正気を保つ。猟兵であるわたしが味方を、世界を害するわけにはいかない。絶対に。

敵のトゲは躱すか、武器で受け流そう(【武器受け】)

真の姿:黒曜石の角が大ぶりなものに変化。尖った黒曜石全身を覆った黒鬼



●力と役割を背負うもの

 月隠・望月(天稟の環・f04188)の額の、黒曜石の角が伸びていく。尖った黒曜石が、身体を覆っていく。
 ぱきぱきという音と、黒曜石の冷たさを感じて、まるで凍っていくようだと、思う。

 敵の力に飲まれてしまえば、最悪の場合はオブリビオンになり果てると、この戦場に望月を案内した男は言っていた。
 しかしそれは、戦わない理由にはならない。
(敵と戦うのが戦う力がある者の役割。全力で倒す)
 決意を胸に、望月は走る。巨大な背を駆けて、振り落とそうと迫る巨大な手を足場に跳ねて、上へ上へと進んでいく。

 身体に、違和感が生じた。白い仮面が、黒曜石に覆われた身体に張り付いている。
(これが、侵食か)
 心がざわつく。狂気に襲われた時、対処する術は身に着けている。邪や呪詛を祓う力ももっている。しかし相手の巨大さを見れば、小さな人の身での抵抗など、気休めのようにも思える。
 破魔の小太刀を取り出して、自分の身体の黒曜石が砕けるのも構わず、仮面に突き立てた。破魔の力ゆえか、元々脆いのか、仮面は簡単に割れて崩れる。

 敵の肩まで登ると、上から黒い棘のようなものが降ってきた。呪力を感じるそれを、刀で振り払う。軌道を逸らした手応えはあったが、その刹那、空気が爆ぜた。爆風は避けきれず、望月は敵の真っ赤な着物の上を転がる。身を起こすと、今度は白い仮面が身体に浮かび上がる。小太刀で突くと崩れて消えたが、すぐに次の仮面が現れる。
 粘つく邪気を塗りつけられるような不快感に襲われる。頭の中をかき回され、心がかきむしられる。その向こうで、このまま身を委ねれば楽になると、仮面をつけた闇が手招きしている。
 望月は小太刀を、自分の左腕に突き立てた。先程よりも強く深く、黒曜石のその奥、自分の肉に食い込むまで。
 走る痛みが、血が流れる感覚が、狂気を幾分か遠ざける。
(猟兵であるわたしが味方を、世界を害するわけにはいかない。絶対に)
 黒曜石の黒鬼は、巨大な敵の顔を、その目元を覆う仮面を、射貫くような目で睨む。揺れる赤黒い髪を掴み、飛び移り、頭の上へと進む。
 よじ登られている事に気付いてか、巨体の魔王はかぶりを振った。望月は揺れる足場を蹴り、宙へ身を躍らせた。
 空中で刀を構え、目の前の仮面に向かって、落下の速度も加えて斬りつける。
 『剣刃一閃』――鍛錬の末にユーベルコードの域に達した斬撃が、闇色の仮面に縦に一筋、傷を刻んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱酉・夕烏
茜崎の兄さんと/f18631
男性人格・夕生/真の姿はそのまま
心情)戦場で声かけてきた兄さんと協力して戦うよ、よろしく。手が増えるのはありがてぇやな。じゃ、がんばって生き残ろうぜ。
行動)うお、いやたまげた、すげェな兄さん。けどよ、なんで鳥っぽいペイントされてんの? 仕様。へえ。
近付くにつれて腕に仮面が生える、暗がりから生まれた俺に意味など無いと嘲りやがる。気分が重くなる、けどな俺はひとりじゃアないンだ。
夕烏。俺の片割れ。俺の存在理由。お前の怒りが炎となって汚ェ声を焼くのがわかる。ああ、ああ、そうだ。俺たちは、まだ生きていたい!
UCで自分と機体を火で覆う。これが痛ェのは敵だけだ!
燃え尽きるがいい!


茜崎・トヲル
おーくん(f21853)と! 真の姿はないので、そのままです!

よろしくねー、おーくん!戦闘機に変身します!白鳥っぽいペイント!
えっ えーと、仕様……かな……そーゆー技なので……

まー性能は問題ないんで!まかせてね!

おーくんを乗せて、仮面までガッと飛びます!
肉体の侵食は肉体改造でやり返し!
精神汚染はー、いろいろ言われるけどいい人がどうしてくるしまなきゃいけないのか兄ちゃんのあの目とかおれの親友はどうして長生きできないとか
思わされるけど
そんなの、ずーーーっと考え続けてることだからねえ
いまは無視!!

おーくんがおれの仮面も焼いてくれた!ありがとー!
よーしっ、このまま、本体仮面にぶち当たるぞー!
砕けろぉ!



●駆け抜け貫くもの

 巨大な女がゆらりと揺れて、巨大な槍を杖のように大地に突き立てた。
 仮面に傷がついているのは、遠くから見てもわかる。
 空気を震わせているのは、呻き声、だろうか。

 存在の名は朱酉・夕烏(夕暮れに・f21853)、宿り戦う魂の名は夕生。彼女にして彼、二つの心をもつ者が、赤色の髪を揺らして佇んでいる。
 昼と夜の境目で燃える空の色に、それは似ている。
 茜崎・トヲル(Life_goes_on・f18631)が夕生に声をかけたのは、その赤色に目を引かれたからか、誰かと協力した方が有利と判断したからか、単純に気が向いたからか。多分、全部だろう。

「茜崎の兄さん、ね。よろしく。手が増えるのはありがてぇやな」
「よろしくねー、おーくん!」
 夕生は目を細め、じゃ、がんばって生き残ろうぜ、なんて軽く付け加え、改めて巨大な敵を見遣る。
 どうしたものか。あの巨大な女の身体を、登山よろしくよじ登るしかないか。夕生が思案していると、トヲルが「まかせて!」と自分の胸を叩いた。
 トヲルの姿が、光に包まれ変化する――光が消えた時そこにいたのは、白い戦闘機だった。
「うお、いやたまげた、すげェな兄さん……けどよ」
 風を裂く金属の翼、空を貫く流線形の機体、翼を持たぬ人間が、高みを目指して作り上げた知恵の結晶――なのだが。
 白い機体の先はくちばしを思わせる黒と黄色に塗られ、黒くつぶらな目と長い睫毛まで描かれている。よく見れば、翼にも鳥の羽らしき模様が描かれている。
「なんで鳥っぽいペイントされてんの?」
「えっ、えーと、仕様……かな……そーゆー技なので……」
 戦闘機が声を発する。人の姿のままであれば、俯いて赤面でもしていただろうという声色だった。
「まー性能は問題ないんで! まかせてね!」
 キャノピーが開く。促されるままに、夕生は模造の鳥に乗り込んだ。

 エンジン音が響く。身体が座席に押し付けられる。
 どう使うのかわからない無数のスイッチや計器は夕生に一瞬不安を抱かせたが、どうやらその辺りの制御はトヲルが行っているらしい。並ぶランプが、どこか楽しげに点滅している。
 分厚い雲か、かの魔王が放つ邪気の類か、空は淀んだまだら模様だ。その色が、キャノピーの外を恐ろしいほどの速度で流れていく。巨大な手が伸ばされたが、戦闘機はその指の間を簡単にすり抜ける。
 悪くない空の旅だ。胸の内のざわつきさえ、なければ。
 夕生は右手を伸ばす。そこに、白い仮面が生えている。来たか、と眉をひそめる。痛みはないが、不快感はある。
 探られる、かき回される、汚染される。暗がりから生まれたお前に意味などないと、嘲り笑う声が聞こえる。
「茜崎の、兄さん」
 仮面は、彼にも生じているだろう。機体が不自然に揺れた気がして、夕生は目の前の計器に触れて、呼びかける。

 エンジン音と風を切る音の中、トヲルの意識は確かに、夕生の声を聞く。
 案じてくれているのだろう事は、察した。しかし今の彼はいわば金属の塊で、更に高速で飛んでいる最中だ。身体のどこかに仮面が生えてるかな、なんて、自分で確かめる術はない。
 トヲルの思考はぐるぐる回る。飛び回る軌道より複雑に。
(いい人がどうしてくるしまなきゃいけないのか。兄ちゃんのあの目とか。おれの親友はどうして長生きできないとか)
 回り続けて、そのまま落ちていけと、誘われている。
(でも、そんなの、ずーーーっと考え続けてることだからねえ)
 思考は、ぐるぐる回る。いつだって、どうしようもなく。
 だから、他の誰かに回してもらう必要なんてない。
 暗い方へ引っ張ろうとする声を、今は無視!!!と振り払った。

 嘲笑に苛まれ、夕生は腕に生じた仮面に爪を立てる。
「けどな、俺はひとりじゃアないンだ」
 夕烏。俺の片割れ。俺の存在理由。
 お前の怒りが炎となって汚ェ声を焼くのがわかる。
「ああ、ああ、そうだ。俺たちは、まだ生きていたい!」

「死んでェ……たまるかよォ!」

 叫ぶ夕生の身体から、炎が巻き起こる。炎は操縦席からあふれて、白い戦闘機を見る間に覆いつくす。
「これが痛ェのは敵だけだ!」
 突然の炎に驚いた様子のトヲルに、夕生は叫ぶ。
 夕生が創り出したのは意思の橙火、貫く鉾であり守る盾だ。夕生の身体も衣服も、戦闘機も焦がす事はないが、取り付いた白い仮面は、見る間に黒焦げになって消えた。トヲルに付いていたであろう仮面も、今頃焼け落ちているはずだ。
「ありがとー!」
 白鳥を模した戦闘機は、さながら炎の鳥だ。トヲルは速度を上げ、一直線に敵の顔を目指す。
 呪いの棘が襲い掛かったが、機体にたどり着く前に炎に飲まれて灰になった。炎は更に勢いを増し、眩く輝いて、魔王のかんばせを照らす。
 巨大な仮面が苛立ったような声を響かせるが、女の唇は一瞬、微笑むような形を見せた。

「燃え尽きるがいい!」
「砕けろぉ!」

 巨大な仮面の真ん中に、炎が突き刺さり弾けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シキ・ジルモント

※真の姿(月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように変化、瞳は夜の獣のように鋭く光る)

いつの間に…
人のかたちのままで獣の凶暴性を強調するようなこの姿は好まない
しかし無理やり引き出された不快感より、精神汚染の影響が上回る

力が際限なく湧き出ると同時に精神が自分の制御下を離れていく感覚は、満月を見た時にも似ていて…これまで何度か経験した、人狼の凶暴化を思い起こさせる
普段どれだけ気を張ろうと少しのきっかけで簡単に揺らぐ
所詮自分はそういうもの、危険な存在なのかもしれない

…たとえ、そうだとしても
今は成すべき事がある
こんなものに容易く支配されてたまるか

手に持つ銃へと意識を集中する
この銃の元の持ち主である師は、力を持て余すなら他者の為に揮えば良いと教えてくれた
仮面の支配を上回るように、強く師の教えを思い起こす

真っ直ぐ駆けて、仮面へユーベルコードで反撃を
弾丸の威力を最大限に発揮する為に
自分の意思で駆け、引き金を引く

支配からの解放をゼルデギロスが望むなら
その意思だけは何者にも奪わせたくはない
必ず、遂げさせる



●終焉を撃ち抜くもの

 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、「異世界の魔王」の巨躯を駆け上がる。

 山より大きな女は、長い髪を振り乱して声をあげる。
 そのかんばせは今、黒い煙に覆われている。傷ついた仮面が燻っているのだ。
 あと少し、という猟兵達への鼓舞と、させるか、という声が争いぶつかり合い、空も大地も巻き込んで震わせる。
 雷のように響く呪詛、全てを塗り潰さんばかりの邪気――それが、手負いの魔王の最後の抵抗であることは、察せられた。

 進むごとに、シキの身体が、力で満ちていく。しかし、それは決して心地よいものではない。どろりと粘つくものが、身体に無理矢理注ぎ込まれるようだった。
 月光に似た淡い光を感じたが、月はどこにも出ていない。光を纏っているのは、己の身体だ。
 口の中の違和感は、犬歯が獣のそれのように大きく鋭く変化しているせいか。
(いつの間に……)
 シキの双眸は、夜の獣のように鋭く光っている。
 人の形を保ちながらも獣の凶暴性を強調するような、自分の「真の姿」を、シキは好まない。無理矢理引き出されたのだから猶更、不快である。

 人であれと理性が叫び、獣であれと本能が吼える。
 殺してやると仮面が叫び、壊してくれと女が告げる。
 全ての声が、シキという器に注がれて、シキの精神を押し流そうとしている。
 身体に浮かぶ狂気は、白く丸い仮面。脳裏に浮かぶ狂気は、白く満ちた月。満月は人狼を惑わせ凶暴化させる。
 気を張って身構えても、簡単に揺れてしまう。狂気の泥濘の上に張られた、細い綱を渡るが如く。
(所詮自分はそういうもの、危険な存在なのかもしれない)
 本質を覆い隠し、誤魔化そうなどと、無駄な事を。白い色が嘲笑う。
(しかし……たとえ、そうだとしても)
 今は成すべき事がある。こんなものに容易く支配されてたまるか。
 手にした銃に、意識を集中させる。
 ハンドガン・シロガネ――元々は、シキの師の持ち物だった。その名の通りの銀色の輝きは、獣の牙でも爪でもない、人が作った、人の力だ。
 力を持て余すなら他者の為に揮えば良いと、師は教えてくれた。
 流されるな。堪えて、制御して、研ぎ澄ませ。注がれる力を、反撃の力に変えてゆけ。

 体を這う虫を払いのけるように、巨大な手が動いた。空気をかき分け渦巻かせて迫る青白い指に、シキは躊躇う事なく飛び移った。
 異物を振り落とそうと動く巨木の如き指に、フック付きワイヤーを絡めて踏みとどまる。そこに、呪いの棘が降り注ぐ。いくつかは撃ち落としたが、逸れた棘が近くに刺さり、音を立てて爆ぜた。
 手の動きが起こす暴風と棘の爆風、二つの風がシキの身体を捩じるようにして、空中に放り出す。
 外れたワイヤーを巻き取り、再び射出する。フックは女の長い髪を捉えた。
 目の前に、女の顔が在る。黒と赤の仮面が、シキを飲み込もうと邪気を放っている。

 仮面の支配の奥にある彼女の意思を、何者にも奪わせたくはない。
 その望みを、必ず遂げさせる。
 だから、彼女の目の前で、折れるわけにはいかない。

 シキが取り出し銃に入れた弾倉は、いつもの物とは違う色をしている。中に入っているのは、反動度外視で炸薬を増量した、特別な弾だ。
 引鉄を引けば、鼓膜を破らんばかりの銃声が響く。巨大な仮面の中央に、弾が食い込む。広がるひびは仮面についた多くの傷を繋げて、破片を散らす。闇が割れて、砕けていく。
 巨躯は、ゆっくり仰向けに倒れていく。
 銃の反動で宙を舞うシキに、青白い手が伸ばされた。先程とは違う、包み込むような動きでシキを追うが、指先から崩れていく。
 ――山が、沈む。音もなく。
 仮面が外れたかんばせ、終焉の破壊を見届けた瞳の輝きと、感謝の言葉を紡ぐ唇、それらを最後に、巨躯は消え去った。

 視界を覆う魔王の巨躯も、仮面の呪詛も狂気も、跡形もなく。
 残ったのは静寂と、広い空と――遂げられた願い、その記憶。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2022年05月15日


挿絵イラスト