1
桃浪にあそぶ(作者 咲楽むすび
12


#封神武侠界  #戦後 


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#封神武侠界
🔒
#戦後


0



●グリモアベースにて
「ねぇ、桃の花を見に行かない?」
 春分も過ぎて少しずつ暖かくなってきているし、何より桃の花の旬はこれからだからと。
 グリモアベースに集まってくれた猟兵たちへそう言って、影見・輪(玻璃鏡・f13299)はにっこりと微笑んで見せた。
「場所は、封神武侠界の『桃源郷』だよ」
 年の初めから起こった殲神封神大戦で無事に勝利を収め、守ることができた世界だ。
 僕がこうしてまたこんな風に依頼の話をできるのも君たちのおかげだねと微笑んでから、輪は話を続ける。
「『桃源郷』は、封神武侠界の仙界にあって、桃の花が咲き乱れているんだって」
 あたり一面に咲く桃の花は、目にも美しいだけでなく、ほのかな甘い香りで訪れた人々を楽ませてくれるのだという。
 そして、そんな花々を愛でて楽しむためには欠かせないとばかりに宴も催されている。宴席では訪れた者たちへ向けてたくさんの料理や飲み物が振る舞われるのだとか。
 行きたくなったでしょ、と楽しそうに言ってから。ふいに何かを思い出したような表情になり、輪は改めて猟兵たちを見渡した。
「そんな『桃源郷』なんだけど。そこに辿り着く前に、一つ乗り越えないといけない『桃源郷』があるんだよね」
 桃源郷へ行くために桃源郷を乗り越えるとはどういうことか。
 怪訝そうな表情になった猟兵たちに、まぁそう思うよね、と。輪は笑みとともに軽く首を傾げて見せる。
「乗り越えるのは、幻覚で創られた桃源郷なんだ。本物にも勝るとも劣らない美しさと、君たちが幸せだと思う何かがそこにあって、君たちをその場にとどまらせようとするよ」
 その場所で何と、誰と遭遇するかは、訪れる者にしかわからない。
 幸せだった過去の何かや誰かの幻影かもしれないし、こうだったらいいのにと思い描く未来や願望なのかもしれない。
「きっと居心地がいいと思うから、少しだけとどまってその空間を楽しんでもいい。けれど、最終的には抜け出さないといけない。そのことは覚えておいて」
 最後は念を押すように少しだけ強い口調で言葉を紡いでから、再び柔らかな笑みを浮かべ、輪は言った。
「様々に思うことはあるかもしれないけれど。本物の桃源郷で皆とお花見できるの、楽しみにしているね」
 言葉とともに、輪はグリモアを展開させる。
「それじゃ、行ってらっしゃい」

●桃浪にあそぶ
 あなたの目の前に広がるのは、一面の桃色の世界だった。
 どこからともなく柔らかな風が吹けば、ほのかに甘い、桃の香りが鼻腔をくすぐってくる。

 豊かに広がる彩りと香りを楽しむように、あなたが目を細め、足を止めたその時。
 ふいにあなたの視界に入ったのは、桃の木々とは異なる何かの影だった。

 ――あれは、

 目にした瞬間。あなたは、その影が何であるかをすぐに理解する。
 同時に胸の奥から湧き上がったのは、言いようもない幸せな気持ちだった。

 幻覚で創られた桃源郷。
 グリモア猟兵が言っていた言葉を思い出しながら、あなたは目を閉じ、しばし考える。

 幸福感に心を委ね、しばしその場を楽しむか。
 あるいは、影に背を向けそのまま桃色の世界を通り抜けるか。

 どう動くかはあなた次第だ。


咲楽むすび
 「桃浪(とうろう)」は、三月の異名なのだということを最近知りました、日本語って奥深い…。

 そんなわけで、初めましての方も、お世話になりました方もこんにちは。
 咲楽むすび(さくら・ー)と申します。
 オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。

●内容について
 封神武侠界の依頼です。

 構成は下記のとおり。
 どの章からでも参加可能です。
 単体章のみのご参加も歓迎いたします。

 第1章:まやかしの桃源郷(冒険)
 第2章:桃園に遊ぶ(日常)

 第1章では、幻覚で創られた偽物の桃源郷を切り抜けていただきます。
 足止めとして遭遇することになる幻覚は、参加者様にとって幸せだと感じるものであれば、何であっても構いません。
 過去の誰かや何か、あるいは心の中の願望など、好きなようにプレイングに記載していただきましたら、できる限り対応させていただきます。
 なお、プレイングにはなくとも、最終的には切り抜けたものとして判定させていただきますので、その旨ご了承ください。

 第2章は、桃の花を愛でながらの花見の宴に参加していただきます。
 食べ物や飲み物はたいていのものは用意されていますので、あるものとして好きなようにご指定ください。
 お一人様で静かに過ごすもよし、複数人様で賑やかに過ごすのも良いでしょう。
 なお、未成年の方の飲酒は描写しません。記載がある場合はマスタリングさせていただきますので、ご了承いただけますと幸いです。

 輪ものんびり花見をしておりますので、お声がけいただければお相手させていただきます。ない場合は登場いたしません。

●プレイング受付について
 第1章は、オープニング公開直後よりゆっくりと受付いたします。
 締切はタグ、およびマスターページにてご連絡いたします。

 また、当方の状況により再送が発生する可能性が高いです。
 状況についても、マスターページで都度ご連絡させていただきます。

 それでは、もしご縁いただけましたらよろしくお願いいたします!
48




第1章 冒険 『まやかしの桃源郷』

POW強い意志をもって気合いで切り抜ける
SPD取り込まれる前に足早に切り抜ける
WIZ知恵を絞って切り抜ける
👑7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


鳴上・冬季
「…これはあの日の大宴会か」
洞を開いた師にも師父師兄が居るのは当たり前
師の師の更に師であったか
その師父の大号令で百を越える洞門が一斉に集い宴を開いたことがあったのだ
自分などまだ仙になったばかりの若輩で
宴の酒やら料理やらの手配に駆けずり回った
まだたった数十年前のこと

「あの方々も、最近お噂を聞かなくなった…」
尊過ぎる方々とは元々縁と呼べるほどの繋がりはなかったが
それでも師父師兄として崇めていた

「…刃覇」
既に封神された兄弟子が、酔って騒ぐ師を甲斐甲斐しく宥めていた
脱ぎ出す服を着せ水を飲ませ寝かしつけ…
他にも封神されたと聞く師父師兄が楽しげに騒いでいる

「いつか…いや」
その姿を目に焼き付け
踵を返した



「……これはあの日の大宴会か」
 桃色に染まる世界の中。繰り広げられる楽しげな宴の光景は、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)にも覚えがあるものだった。
(「確か、師の師の更に師であったか」)
 洞を開いた冬季の師にも、師父師兄がいるのは当たり前ではあるけれど。広がる伝承系譜の祖にも等しい師父の大号令によって開かれたその宴は、百を越える洞門が一斉に集う、何とも賑やかなものだった。
(「自分などまだ仙になったばかりの若輩だったな」)
 転生を繰り返した大妖怪、迅雷公にも駆け出しのころはあったわけで。宴の酒やら料理やらの手配に駆けずり回った当時を振り返れば、ふ、と知らず口の端が上がる。
 まだたった数十年前のことだが、こうして見ると酷く懐かしいものだ。

 誘うように頬を撫でる、甘やかな香りのする風を受けながら、冬季は視線を巡らせる。そうしてふと目を止めた先に、見覚えのある方々の姿を認めれば、蒼の瞳を細め、しみじみと息を吐く。
「あの方々も、最近お噂を聞かなくなった……」
 当時の冬季からすれば随分と尊い立場の仙の者たちだ。
 元々縁と呼べるほどの繋がりこそなかったけれど、それでも師父師兄として崇めていた方々だった。
 今でこそその噂を耳にすることがなくなってしまったとはいえ、盃を片手に歓談するその方々の姿は今見ても堂々たる貫禄があって、尊さを感じずにはいられない。
 尊過ぎる方々の宴を眺めやる一方で。ふいに聞き覚えのある声が耳に入れば、冬季は視線を向けた。
「……刃覇」
 そこには酔って騒ぐ師を甲斐甲斐しく宥める一人の仙。冬季の兄弟子だった。
 脱ぎ出す服を着せ水を飲ませ寝かしつけ……細やかに師の世話をする兄弟子に、思わずといった様子で冬季の口元がわずかに綻ぶ。
 そんな兄弟子も、既に封神された。あんな姿を見ることは、もうないのだ。
 兄弟子だけではない。それは、他にも。
(「あの方々も封神されたと聞く……」)
 楽しげに騒いでいる師父師兄もまた、今はもういない。
 彼らが健在であったあの頃。
 まやかしの桃源郷が見せるそれは、確かに冬季の中にある幸せな光景なのかもしれなかった。
「いつか……」
 ふいに胸の奥に湧き上がった想いが、ふと口をつくも。
「――いや、」
 言葉を切り、冬季は目の前に広がる桃色の世界を再び見渡した。
 師父師兄たちの楽しげな姿を、賑やかで懐かしい、幸福な宴の光景を。しばし自らの目に焼き付け――そして。
 それらを断ち切るように静かに目を閉じ、冬季は踵を返した。

「――師を敬い同門を助け己が望みに邁進せよ」
 口にしたのは、洞門の唯一の掟。
 あの日の宴を共に過ごした方々と、再び顔を合わせる機会はもうないのかもしれない。
 それでも、教わり継がれたその想いは、しっかりと冬季の中にある。
大成功 🔵🔵🔵

大宝寺・朱毘
リグさん(f10093)と一緒に行動。

「仙界の桃源郷か。綺麗なんだろうね」
緩みきった物見遊山モードで進み、幻覚ゾーンに突入。
出現するのはスイーツ好きの夢のような、ケーキその他のお菓子の山。すわ、花見の宴会が始まっているものと思ってはしゃぐ。
「そういやあたし、最近チーズケーキにはまっててさ。ベイクドもレアも好きなんだけど、特にこういうスフレチーズケーキに目がなくて……」
と言いつつ、スフレチーズケーキを切り分けてリグさんに渡すが、話が噛み合わない。
そこで、お互い見えている物に齟齬があるということは幻覚だ、と気付く。
さらに思い付く。
「逆に考えよう、リグさん。幻覚だったらいくら食べても太らない!」


リグ・アシュリーズ
朱毘さん(f02172)と

桃の花、可愛らしいわよね!
帝都の桜みたくずっと咲いてるのかしら?

気付かず踏み入れた先は幻の中。
え。もう宴会の準備しあがってる?
スイーツの山に目を瞬き、でも渡りに船とさっそくお皿を手にするわ!

まずはガトーショコラと、それから……あ、オペラもある!
そういって手に取る先、朱毘さんから渡されるケーキ。
あ、チーズケーキいいわよね!
私かためのベイクドが好き、で……?
渡されたのはスフレでなくベイクド。
という事は、都合の良い幻……?

……朱毘さんあなた天才??
そうよ、いくら食べたって太らない夢のビュッフェ!
不肖リグ、この幻から抜ける事を全力で拒……あっあっ、消えないでー!?



「仙界の桃源郷か」
 綺麗なんだろうね、と呟き漏らし、大宝寺・朱毘(スウィートロッカー・f02172)は降り立った世界をぐるりと見渡した。
 目の前に広がるのはどこまでも続く桃色の花咲く木々の群れ。思ったとおり美しい景色に、チョコレート色の瞳を穏やかに細める。
 グリモア猟兵の言葉を聞く限り、今回の依頼は人の生死が関わるような深刻なものでもない。ならば、今回はそれこそのんびりとこの景色を楽しんでも問題はないだろう。
 休めそうな時にしっかり休むことは、アイドルとして時間刻みの日々を送る身としてはとても大切なことだ。
 そんな朱毘と同じく、目の前の景色を楽しむのはもう一人。
「桃の花、可愛らしいわよね!」
 桜の花にも似ているけれど、よく見ると花の形や付き方が少し違っているのねと。
 木々へと近づき桃の花を見上げていたリグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)が、はしゃいだ声を上げ、朱毘に笑みを向けてくる。
 その亜麻色の瞳には、目の前の花々への興味津々な色がキラリ。
「リグさん、細かく見てるんだな。……そういえば花の色も桜と同じピンク色に見えて少しずつ違うな」
 楽しげな様子に朱毘もつられて足を止め、桃の花を見上げた。
 言われて見れば確かに少しずつ花の形が違っている。
 遠目から楽しむ色合いもいいけれど、立ち止まってじっくり眺めやるのもなかなか楽しい。
「朱毘さんにも見えた? あとね、深呼吸するとなんだかいい匂いがするのよ、これ、きっと桃の花の香りよね!」
 こうやってね、と。リグは両手を広げ、すぅと深呼吸の仕草をする。
 朱毘も同じようにすうっと息を吸い込めば、ほのかな甘い香りが鼻腔いっぱいに広がった。
「そうだな。確かに甘い香りがする」
 桃の果実を彷彿とさせる香りに、イメージするのは春スイーツの数々だったり。
 知らず口元を緩めた朱毘に、わかるわかると言わんばかりにリグも同意してくすくすとして。
「帝都の桜みたくずっと咲いてるのかしら?」
「少なくともここはそうかもしれないな。……そして、この景色もどこまで続くんだろうな」
「ふふ、確かにどこまでも……宴会の席までずっと続きそうね!」
 ――それならば。
 リグと朱毘は、互いの顔を見合わせる。
 そうして二人くすりと微笑み合ってから、のんびりと歩き出すのだった。


 すっかりとリラックスした、物見遊山モードで桃色の世界を歩いていた朱毘とリグであったが。
 その異変に最初に気がついたのは、リグだった。
「え、」
 ふいに足を止め、ぱちくりと瞳を瞬かせる。
「――もう宴会の準備しあがってる?」
 桃色の世界の中、目の前に現れたのは、広場のような空間だった。
 空間にはいくつもの台――いわゆるブッフェ台が設置され、さらにその上に並ぶのは色とりどりのスイーツたち。
 数段重ねのスタンドに並べられた春色のカットケーキの数々に、丸型の皿には季節のフルーツが盛り付けられたホールタルト、四角の大きな皿には愛らしく盛り付けられたロングサイズのロールケーキ。
 他にも視線を巡らせれば、様々な種類のスイーツが、それこそ山のように盛り付けられていて。
「ね、朱毘さん――、」
 リグが傍らの友人へとちらと視線を向ければ、
「――うん、リグさん、あたしにも見えてる」
 ミントグリーンの縁の丸眼鏡をかけたその横顔が、小さく頷きを返す。
「目の前に並べられてるの、お菓子……だよな?」
 返ってきた言葉にわずかにはしゃいだ色を感じるのは、リグも同じくらいワクワクした気持ちになっているからかもしれない。
「もう花見の宴会は始まってるなら、参加しない選択肢はないよな、リグさん」
 すわとばかりにブッフェ台ヘ駆け出した朱毘に、リグは満面の笑みを浮かべた。
「ええ、もちろんよ、朱毘さん!」
 渡りに船とはまさにこの事。ここまで用意されているのだ、思いっきり味わわなくてはもったいない!
 リグもまたブッフェ台へと近づき、うきうきと辺りを見渡した。
「まずはガトーショコラと、それから……あ、オペラもある!」
 最初に目に止まったのは、様々な種類のチョコレートケーキたち。わくわくと亜麻色の瞳を輝かせれば、リグは設置されていたトングを手にし、自分の皿へとケーキをのせていく。
 その一方で。皿を手にし、朱毘は慎重な面持ちでブッフェ台を見渡した。
 目の前に広がるのは、スイーツ好きの夢そのもの。甘い物好きな朱毘が、心躍らないはずもない。
 さて、どこから楽しもう。端から攻めるのもよいけれど、それでは美味しさを存分に楽しむことはできないかもしれない。あれもこれもと目移りしてしまうけれど、まずは一つをじっくりと味わって……。
 弾む気持ちとは裏腹に、チョコレート色の瞳に宿る色は真剣そのもの。
 そうしてお菓子の山を眺め――やがて一つのスイーツが目に止まれば、朱毘はぱっと顔を輝かせた。
「――そういやあたし、最近チーズケーキにはまっててさ」
 目が合ったリグへ向けて発された声は、思いの外はしゃいでるのが自分でもよく分かる。
「ベイクドもレアも好きなんだけど、特にこういうスフレチーズケーキに目がなくて……」
 言いながら、ケーキナイフを手にする朱毘。目の前に置かれた、ホールサイズのスフレチーズケーキを丁寧に切り分け、それから、リグの皿へと差し出して。
「あ、チーズケーキいいわよね! 私かためのベイクドが好き、で……?」
 差し出されれば、もちろん断る理由などない。朱毘が切り分けてくれたケーキを自身の皿で受け取ったリグは、実食とばかりに視線を落とし……不思議そうにぱちくりと瞬きをした。
「……あれ? ベイクド?」
「ん?」
 そんなはずはない。現に朱毘が見ているリグの皿の上には、今しがた切り分けたばかりのスフレチーズケーキがのっているのだから。
 それが、リグの目にはベイクドチーズケーキになっているのだとすれば。
「……お互い見えている物に齟齬があるということは、幻覚なんだろうな、これは」
「という事は、都合の良い幻……?」
 朱毘の言葉に、あからさまに残念そうな声になるリグ。
 無理もない。こんなに美味しそうに並ぶスイーツの山が、全て幻だなんて。こうやって触れている感触も、スイーツ特有の甘い匂いも感じられているのだから、食べた時だってきっと……、
 そこまで考えたところで、朱毘は自身の皿のスフレチーズケーキを見つめた。
 そうして、手にしたフォークで一口サイズに切り、ぱくりとする。
「……これは……」
 ふわりしゅわりとした食感とともに、とろけるような甘やかなチーズの風味が口の中を駆け抜けていく。今まで食べた中でも格別に美味しいチーズケーキだ。
「……逆に考えよう、リグさん」
 さらにスフレチーズケーキを口にして、朱毘はおもむろに言った。
「――幻覚だったらいくら食べても太らない!」
「!!!」
 まるで雷に打たれたかのような衝撃をうけ、リグはゆらりとよろめき、その体を震わせる。
「……朱毘さんあなた天才??」
 幻ならば、口にしたところで無意味だと思っていたが……その逆なのだ!
「そうよ、いくら食べたって太らない夢のビュッフェ!」
 キラキラと瞳を輝かせて。リグもまた自身の目の前のベイクドチーズケーキを一口パクリ。
「〜〜〜っ!」
 ――美味しい!
 程よい固さと、口に入れた瞬間に広がる濃厚なチーズの風味が美味しくて、頬がとろけてしまいそうだ。
 ああ、なんて、素敵な幻なのだろう。
 各々のチーズケーキを堪能し、しばし幸せに浸る二人ではあったが。
(「……しかし……ここで留まり続けるのもまずい、か」)
 スフレチーズを美味しく平らげたところで気持ちが落ち着いたか、ふいに朱毘の猟兵スイッチがオンになる。
 そういえば、グリモア猟兵はこんなことを言っていた。「最終的には抜け出さないといけない」と。
 ダイエットを気にすることなく永遠に楽しめるスイーツの山は抗いがたい魅力に満ちているけれど、さすがに長居はしない方がよいのかもしれない。
「……リグさん、そろそろ……」
 行こう、と。声をかけようとしてリグを見やった朱毘ははっとする。
 そこには自身の皿の上にのせたケーキをぺろりと平らげ、次のスイーツを攻めるべくブッフェ台へと突撃しようとするリグがいて。
「不肖リグ、この幻から抜ける事を全力で拒……」
「――言い出しっぺな上に思いっきり同意したいところだが、これ以上はダメだ、リグさん……っ!」
 ともすればこのまま幻想に留まりかねないリグの発言を制止するように。朱毘は虚空から取り出したエレキギターを構え、曲を奏で始めた。

「フィナーレの時間だぜ。聴かせてやるよ、幻想(あんた)の最期を彩る魂の旋律を! 【チューン・フォー・パニッシュメント】!」

 ――♪

 奏でられるは、この幸せな幻想を打破する旋律。
 アップテンポなロックサウンドが響き渡れば、一面のスイーツの山が、少しずつ薄らいでゆき――。

「……あっあっ、消えないでー!?」

 あとには、幻想の消滅を惜しむリグの声が、桃色の世界に響き渡るのだった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
金目で黒の長髪の女が私の目前に遮るように佇む。
過去を見れる天燈で認識した私の母親の姿だった。
母親は私をみると穏やかにほほ笑むと両腕を広げる。
ふむ。なるほど。これが私に対する『幸せ』か…。
ならば母親の幻影にかける言葉と起こす行動は一つ。
「すまないが、ここを通らせてもらう」
普段通りに言ったつもりだが何故か後味が悪い。
それは変化のない幻影の柔らかい笑顔の所為か。
それとも私と同じ貌。同じ瞳で見つめられているからか。
しかし。
残念だが実際に会ったこともない者を母とは呼べない。
そして『人間』だろう母親は既に亡くなっているはず。
なんとなく母親はヴァンパイアになっていない気がする。

「…さよならだ」
言いたくなったのはケジメなのか。それとも私は…。
肩越しに振り替えると幻はまだ柔らかい笑顔のままで。
今度は何も言わずにその場をそのままま去ろう
…。
そうか。あの笑顔は常に隣を占めるあの子と似ているな。
そういえばあの子は無事にまやかしから抜けただろうか。
まあ。あの子ならば問題…ん。少し不安だな…。


神坂・露
レーちゃん(f14377)
目の前に立ってるのは綺麗な銀色の長髪で素敵な金の瞳の女の子。
こんな女の子はあたしの知ってる限りでは一人しかいないわ。
初めはとっても嬉しくってきゅぎゅ~って思いきり抱き締めて。
迷惑な顔でいつもの単語を言って…でもやっぱり抵抗しなくって。
とってもとっても嬉しくって更に抱きしめて暫くして気が付いたの。
この子はレーちゃんじゃないわって。違うわ。この子は。
でもでも違うの!全く違うわ!この子はレーちゃんじゃない!!
『どうした?』とか『今日は変だな?』とか言ってくるけど…。
やっぱり違うわ。だからあたしは目の前の女の子に聞いてみたの。
「あなた、誰?」って。
女の子は当然って言うようにレーちゃんの名前を名乗ったわ。

「ごめんなさい。あなたはレーちゃんじゃないわ」
理由?そうね。幾つかあるけれど…。
「仕草が全く違うの。声音も違うし…視線も違うわ♪」
指折り数えて指摘してたらいつの間にか消えていたわ。
あれ?…まあいいわ。レーちゃんのところ行かないと!
姿見つけたら抱きしめるわ!



「景色も香りも……確かに桃の花で満たされているのだな」
 視界いっぱいに広がる桃色と、仄かな花の香りに、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は金の瞳を細める。
「桜とは異なるが……これもまた悪くはないか」
 目にも楽しく心地よい春の景色を見渡し。先へ行こうと、シビラが歩きだそうとしたその時。
「……ん?」
 ふいに呼ばれた気がして、シビラは足を止めた。
 聞き慣れたものとは異なる、けれど明らかにシビラを呼んだとわかる声は、目の前の桃の木から聞こえていて。
「……誰かいるのか?」
 警戒するように桃の木を見つめ、シビラが声を紡げば。応えるように桃の木の影からゆっくりと現れたのは、一人の女性だった。
 優しげな金の瞳に、長くつややかな黒の髪、美しい白磁の肌。
 それは、先日の幽世の祭で空へと放った天燈に映し出されていた――、
(「――私の母親……になるのだろうな」)
 あの日、映像の中で。ロッキングチェアに身体を委ね、愛おしそうに大きなお腹を撫でていた、シビラが母親と認識した女性。
 シビラの進路を遮るようにして立った女性は、穏やかな微笑みをシビラへと向ける。そうして、おもむろに両手を広げた。
(「……ふむ。なるほど。これが私に対する『幸せ』か……」)
 そんな女性をシビラは見つめ――ふと、女性の腕の中へと飛び込み、抱きしめられる自分自身を、そうして得られるであろう感覚を想像する。
 ふと思い出したのは、いつかの夕暮れの商店街で感じた、心にじんわりと広がるような温かみで。シビラはわずかに目を細めた。
 両親の……母親の温もり。
 自分では意識こそしていなかったけれど。こうして幸せの幻影として現れるくらいには、シビラは母の温もりを求めていたのかもしれない。
 ――しかし。仮にそうだったとして。目の前の幻影に心を委ねるようなシビラではなかった。

「――すまないが、ここを通らせてもらう」

 たん、と。紡いだ自分の声は、常よりも冷たく響いた気がした。
 普段通りのはずなのに、何故だか心の奥がちくりとする。
 それは、シビラが放った言葉を受けてもなお変化のない、女性の柔らかな笑顔のせいか。
 それとも、シビラが成長すれば瓜二つになるのであろう、同じ貌、同じ色の瞳に見つめられているからか。
(「確かに、母親……ではあるのだろう」)
 シビラは小さく息を吐く。
 向けられた笑顔に応え、母と呼べば、この妙な後味の悪さは晴れるのだろうか。
 けれど。
(「残念だが、実際に会ったこともない者を母とは呼べない」)
 そして。この女性と幻影以外でこの先会うことは、きっとないだろう。
 女性はおそらく『人間』で、すでに亡くなっているだろうから。
 なんとなく彼女がヴァンパイアになっていない気がするのは、三百年はゆうに生きているシビラの、長い年月を重ねて得た直感から来るものだ。

「……さよならだ」

 決別の言葉とともに。シビラは女性の横を通り過ぎる。
 なぜそう口にしたのかは、シビラ自身にもよくわからなかった。
 ケジメなのか、それとも。
 けれど、言わずにはいられなかったのは事実で。

 女性の黒髪がゆるやかになびく。
 ふわりと漂ったのは、桃の花とは異なる、けれどどこか懐かしい匂い。

 ――、

 ふいに女性が何かを言ったような気がしたが、あえて気に留めることはしなかった。
 歩みを止めることはなく、シビラはその場を通り過ぎて。

「……」
 そうして、通り過ぎた後。一瞬だけ足を止め、肩越しにちらりと振り返れば。女性の幻は、シビラを追うこともなく、現れたその場に佇んでいた。まるでシビラを見送るかのように、柔らかな笑顔を向けている。
(「さよならだ」)
 心の中だけでもう一度言葉を紡げば。シビラは再び前を向き、ゆっくりと歩き出す。

「……そうか。あの笑顔はあの子と似ているな」
 再び桃色の世界を歩きながら。シビラが思い浮かべたのは、常に隣を占める、白銀の瞳の少女。
 いつも賑やかで、シビラがうんざりするほどに大好きだと抱きしめてくれる少女の笑顔は、あの幻影の女性のそれと似ていたような気がする。
「……そういえばあの子は無事にまやかしから抜けただろうか」
 グリモアベースから転送される前は一緒だったから、近くにはいるのだろうけれど。
 今はこうして別々にいるということは、彼女もまた何らかの幻影と対峙しているのかもしれない。
「まあ。あの子ならば問題……ん、」
 幻影に揺さぶられるほど、心の弱い子ではなかったはずだから……、
 問題ないだろう。そう考えたところで、いや、と思い直すシビラ。
「少し不安だな……」
 先日の天燈の祭りでは、垣間見た記憶により懐郷の念にかられたと、シビラの背に顔を埋めて頷いていたのだ。今回が問題ないと、どうして言えるだろう。
「……やれやれ」
 シビラは肩をすくめて小さく息を吐いた。
 そうして桃色の世界をぐるりと見渡し……少女を見つけるために歩き出す。


「……レーちゃん!」

 グリモアベースから転送されて降り立った桃色の世界を一人歩いていた神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)は、ようやく見つけた親友の姿に、白銀の瞳を輝かせる。
 綺麗な銀色の長い髪。素敵な金色の瞳。真っ白な肌に、ぷにっとしたほっぺ。人形のように愛らしい姿は、見ているとぎゅっと抱きしめたくなってしまう魅力にあふれていると思う。
 見間違えるはずなどない。こんな女の子は、露の知る限り、たった一人しかいないのだから。
「もうもう! レーちゃんてば、また一人でどっか行っちゃって〜!」
 見つけるの大変だったのよ、と言いながら。仔犬がごとくまっしぐらに近づき、きゅぎゅ~っと親友を抱きしめる露。
「……やれやれ。毎度のことだが騒がしいな、君は」
 ふぅ、と盛大なため息をつきながら、並べられた言葉たち。
 愛らしい顔に迷惑そうな色を浮かべ、いつもの単語を言って……でもやっぱり抵抗しなくって。
 なんやかんや言ってそういうところが、親友の優しいところでもあり、露が大好きなところだ。
「えへへ♪ でもでも、レーちゃんにぎゅっとするのは、あたしの挨拶みたいなものだもの!」
 抵抗しないってことは、もっとぎゅっとしてもいいということだ。
 実際は抵抗しようとも抱きつくことをやめる気はないのだが、それはそれ。やっぱり受け入れてもらえるのはとってもとっても嬉しいことだもの!
 ちゃっかりとポジティブな解釈をして。露は更にぎゅ〜っと抱きしめ――、
(「……あれ?」)
 ふいに感じた違和感に、きょとんと瞬き一つ。
 おもむろに抱きしめていた腕をほどけば、一歩後ろに下がり。露は改めて親友の、頭から足元までをじぃっと見つめた。
(「違うわ。この子は……レーちゃんじゃないわ」)
 その姿は、確かに露の大好きな親友だった。少なくとも露にはそう見える。
 けれど……、
(「でもでも違うの! 全く違うわ! この子はレーちゃんじゃない!!」)
 それは、先ほどぎゅっと抱きしめた時に感じた、直感的なものだった。
 けれど、こういう勘こそが正しいことを、露自身はよくわかっている。
「……どうした?」
 目の前の親友の姿をした女の子が、不思議そうな様子で露を見つめてくる。
「今日は変だな? 君が自ら離れることなど今までなかったと思うのだが」
「……うん、そうね」
 こくりと頷き、露は同意を示した。
 そう、確かに。普段の露であればそうだ。けれど、今回はちょっと話が違う。
 目の前の女の子を見つめながら、思う。
(「やっぱり違うわ」)
 露のよく知る「レーちゃん」は、そんな風に不思議そうな顔で、露を見ることはない。

「……ねぇ、あなた、誰?」
「……何を言っているんだ君は」

 む、と。不機嫌と不思議そうな色の混ざった表情を見せながらも。
 親友の姿をした女の子は、当然といった様子で唇に音を乗せる。

「私は、シビラ・レーヴェンスだ」

 名乗る女の子の声を聞きながら、その表情を、仕草を。露は改めてじぃっと見つめて。

「ごめんなさい。あなたはレーちゃんじゃないわ」

 はっきりと口にした。
 最初は――そうだと信じていた時には、全く気が付かなかった。
 けれど、改めて見るとその違いがはっきりと分かる。
「……君がそう感じた理由は何だ?」
 そういえば、親友にこんな風に見つめられたことが、今まであっただろうか。
 向けられた金色の瞳の中に、自分自身の姿が映っているのを見ながら、露は口を開いた。
「理由? そうね。幾つかあるけれど……」
 外見はそっくり、瓜二つ。
 露の大好きな、親友の姿そのものだ。
「まず、仕草ね。全く違うの。レーちゃんはそんな風に不思議そうな様子なんて見せないわ」
 先ほど露が抱きしめていた状態から離れた時。親友であれば、目の前の彼女のように問いかけることはない。良くも悪くも他者に興味を示さない(実際はものすごく気遣いやさんだがそういうスタンスらしい)親友が「今日は変だな?」などと問うことなどないのだ。
「あと、声音も違う。本当のレーちゃんはもうちょっとトーンが低いの。さっきの『やれやれ』もそう! ふぅ、ってどこかちょっと疲れた感……というか、もうちょっと大人っぽいトーンなのよね。あとね、嫌がってたりちょっと怒っている時の声音とかもあたし的には嫌いじゃないわね♪」
 そういえば、どうしていつもちょっと疲れた感じなのかしらと疑問がよぎるけれど……まぁそれは後で親友本人に聞いてみればいい話だ。
「それからそれから……視線も違うわ♪ あなたはどっちかといえばちょっと上目遣い気味じゃない? でも、レーちゃんはもーちょっとね、冷淡に見下ろす感じなのよね、ちょっとゾクゾク感がするっていうか。でもそれがたまらなくかっこよくて可愛いの……」
 相違点を指摘していたら、いつの間にか親友への愛を語るモードへと移行し始めた露は、あれもこれもといいながら、指折り数えていく。
「……それでねそれで……あれ?」
 その指が片手から両手になり、その両手も埋まりかけた頃。ふと露が顔を上げた時には、女の子はいつの間にかいなくなってしまっていて。
「……まあいいわ」
 ぐるりと見渡し、その姿がどこにもないのを見て取り、露は小さく笑った。
 あの女の子が、グリモア猟兵の言う幻影だったのなら。露自身が思う『幸せ』は、もう手に入れているということになる。
「それじゃあ、今度こそ、本当のレーちゃんのところ行かないと……」

「……露?」
 ふいに背中越しに声がした。
 露が振り向いた視線の先には、先ほどまでいた幻影の女の子と同じ姿をした――、

「レーちゃん!」

 ぱっと顔を輝かせれば、露は駆け寄り、目の前の女の子を正面からぎゅぅっと抱きしめた。
「……なっ、」
「えへへー♪ そうそう、この抱き心地がレーちゃんなの! 本物のレーちゃんだわぁ♪」
「……やれやれ。全く」
 けれど振りほどくことはなく、されるがままに抱きしめられた親友は、ふぅ、と。少し疲れたような長い溜息を吐いた。
「……まあ、無事で何よりだ」
 やがてぽつりとこぼれたのは、安堵を含んだ小さな声。
 時折冷たくも響く声音に滲む、親友の心のあたたかさを感じて、露は再び笑った。
「ありがと、レーちゃん。だーいすきよ♪」
 叶うなら、今もこれからも。この大好きな女の子と一緒に、世界を歩いて行きたい。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

九瀬・夏梅
薄紅色の桃の花が広がる中に、赤い花をつけた梅の木が1本
その木を見上げるように男が1人

九瀬・見驚(くぜ・けんきょう)
A&Wで私を拾って育ててくれた養父
「九瀬」の名がそのまま通り名になっていた腕利きの冒険者
シーフになった私を「白鷺」と称した師匠
今にして思うとサムエンから神隠しで来た剣士

元々口数の少ない男は黙ってただそこにいる
老爺となった最期の姿ではなく、私を鍛えてくれた全盛期の頃の姿で
確かに、今得られない幸せというなら、私の足を止めようというなら
この男が出てくるのだろう
でも、男が持つのは日本刀「咲く野」だけ
対の小太刀「木の花」は私の手に在る

「あんたより長生きしちまってるよ」
男の隣に立ち、目の前に咲く梅の木を見上げて苦笑する

「咲く野」は、男が眠るその木の傍に置いてきた
「木の花」は、最期に託された私と共に歩んできた

ここ数年、墓参りに行けてない
不義理な娘だよ
今年もあの梅の木の花は、誰にも知られず咲いただろうか

しばし無言で、男と並んで梅の花を見上げてから
「木の花」を抜いて一閃
桃の花に静かに背を向ける



 薄紅色の桃の花が広がる中。遠目に見えたその光景に、九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は、足を止めた。
 そこには、紅い花をつけた一本の木。
 そして、その木を見上げるようにして立つ、一人の男の後ろ姿があった。
「『君たちが幸せだと思う何か』……ねぇ」
 グリモア猟兵から聞いた言葉を口にし、年を重ねるうちに薄くなった唇の端をわずかに持ち上げて。なるほどねと、夏梅は小さく笑った。
 夏梅は知っている。
 薄紅色の世界の中で凛とした存在感を放つそれが、梅の木であることを。
 背を向けて立つ男が、今は亡き養父であることを。
「確かに、今得られない幸せというなら、私の足を止めようというなら。この男が出てくるのだろうね」
 呟き。梅の木と男へ近づこうと思い立てば、夏梅はゆっくりと歩き出す。

 ――九瀬・見驚(くぜ・けんきょう)。
 アックス&ウィザーズで夏梅を拾って育ててくれた養父であり、「九瀬」の名がそのまま通り名になっていた腕利きの冒険者であり――、

(「――親として、師匠として。私に色んな事を教えてくれた」)
 例えば、音を立てずに忍び、対象へと近づく、この歩き方。
 シーフとしての基本であり、今の夏梅にとっては息をするのと同じくらいたやすいその所作を、最初に教えてくれたのは養父だった。
 それ以外にも。人として、冒険者として生きていくために必要な技や心構えの全てを、夏梅は養父から教わった。
 そうして経験と歳を重ね成長した夏梅が、シーフとして冒険者に名を連ねるようになった時。「白鷺」という名をくれたのも養父だった。
(「あの人に呼ばれたそれが通り名になったなんてこともあったねぇ」)
 かつてを思い出す間にも、夏梅と男との距離は少しずつ狭まっていく。
 男の屈強な身体つきは、後ろから見ても若々しさを感じる。
 幻影として立つその姿は、老爺となった最期のものではなく、夏梅を拾い育て、鍛えていた全盛期の頃を映し出しているのかもしれない。
(「……元々口数の少ない人だったが、幻影でも変わらないものなんだね」)
 養父の生来の寡黙さが幻影にも表れているのか、あるいは幻影だから声を発することのない、姿だけの存在なのか。
 どちらにしても、あの人らしいと思いながら。夏梅はふと視線を移し、男の腰元を見やった。
 本来であれば二本の刀があるはずのそこには、日本刀が一本だけ。
(「持つのは『咲く野』だけ。『木の花』はないんだねぇ」)
 対になる小太刀がそこにないことを見て取れば、夏梅は緑色の双眸を細める。
 そうして。男の隣へと立ち、目の前にある梅の木を見上げた。
(「隣のこの男と同じく、この梅もまた幻影なんだろうね」)
 その木もまた、夏梅がよく知る梅の木と同じ姿をしていた。
 それは、夏梅が育った世界においては、ただ一本しか見聞きしたことのなかったものだ。
 夏梅が小さい頃、お前の名だと言って養父が見せてくれたものであり。その日からこっそりと何度も訪れ、四季折々の姿を眺めていた、夏梅にとって縁の深いものでもある。
 その木の名が「梅」で、自分の名がその木の字だったと知ったのは、夏梅が猟兵になってからのことだ。
 様々に想いを巡らせながら。夏梅は、梅の木の紅い花を見つめ、口を開いた。
「私の名も、あんたの名も。この梅だったんだねぇ」
 養父の名の由来も、自らの名と同じく、様々な世界を行き来できるようになってから、知ったことの一つ。
 同時にそれは、養父がおそらく他の世界――エンパイアから、神隠しで来た剣士だったのかもしれないと考えるきっかけにもなった。
 だから。かつて、養父がどんな想いを抱いてあの梅の木を眺めていたのかも――今の夏梅は知っている。
「……あんたより長生きしちまってるよ」
 隣に立つ男に聞こえるような声で。しみじみとそう言って、夏梅は小さく苦笑を漏らす。
 それから、あの一本と同じように美しく咲く、梅の木と。その木を見上げる、無言のままの男の横顔と。その男が腰に差した日本刀とを、それぞれ眺めやる。
 そうして。夏梅がおもむろに取り出したのは、赤い鞘に収められた、小太刀だった。

 日本刀――「咲く野」は、男が眠るその木の傍に置いてきた。
 小太刀――「木の花」は、最期に託された私と共に歩んできた。

(「ここ数年、墓参りに行けてない。不義理な娘だよ」)
 あの梅の木と養父が幻影となって現れたのは、桃の木たちが夏梅の内心を見透かしたからなのだろうか。
 「木の花」を手にし、再び夏梅は梅の木を見上げた。
(「――今年もあの梅の木の花は、誰にも知られず咲いただろうか」)
 しばし無言のまま、想いを馳せる。
 夏梅以外の誰も知らないあの場所に根を下ろし、重なり巡る四季を過ごしているであろうあの梅の木と、その木の根に抱かれ静かに眠る養父の魂へと。

 ――そんな沈黙の時間が、どれだけ続いただろう。
 やがて夏梅は、手にしていた「木の花」を構え、すらと抜いた。
 煌めきを放つ刃にのせたのは、ユーベルコード【剣刃一閃】。
 この場に留まらせようとする幻影と、留まろうとする自らの想いとを。断ち切るように一閃させ、夏梅は静かに背を向けた。

 薄紅色の中へ溶け込むように消えていった幻影を視界の端に捉えれば、
「――そのうち、顔を見せに行くよ」
 そう、背中越しに小さく言葉を紡いで。振り返らずに歩き出す。
大成功 🔵🔵🔵

リオン・リエーブル
研究室の一角で三人の若い学生が魔法陣を描いてるね
議論しながら魔法陣描いてミスリル銀の錬成に取り組んでるのは
おにーさんとゆかいな仲間達
魔法陣には術式違い4箇所と構成違い2箇所
あれじゃ絶対失敗するね賭けてもいい
事実この実験は大爆発で終わったよね
顔が真っ黒で指差して笑い合ったっけ

アルダワに来て錬金術を学んで
初めて同年代の友達ができて
毎日が本当に楽しかったよ
隣で勉強してたミラに恋したのもいい思い出だよね
隣で勉強してた親友に取られるまでがお約束だよね

でもあの時は悲しくて悔しくてエルフの血を呪って
でも二人共大好きだったから幸せになって欲しくて
なのに
寿命も待たずに幼子を残して死ぬなんてひどいね

その子はおにーさんが引き取って育てて巣立って
その後二人の子孫を付かず離れず
代々見守ってたのは何の未練だろう
もう守る義理もないんだけどなんとなくね
でも二人の直系の子孫は途絶えようとしてるから
このお役目ももう終わりかな

さて帰ろうか
いつかパラスさんを見送ったらおにーさんのお役目も御免
青春の終わりみたいでちょっと寂しいね



 桃の花を見上げ、愛でながら歩いていたところから一転。いつの間にか迷い込んだその場所は、リオン・リエーブル(おとぼけ錬金術師・f21392)にとっては馴染み深い、アルダワ魔法学園のとある研究室だった。
 その一角で魔法陣を描く、三人の若い学生達の姿に、リオンは琥珀色の瞳を細める。
「おにーさんと愉快な仲間達、だねぇ」
 そう、あの三人のうちの一人はリオン自身。あとの二人は同年代の友人達だ。
 若い彼らが議論を重ねながら描いた魔法陣は、ミスリル銀の錬成についてのものだとわかる。
 当時の自分と友人達にしてみれば、議論を重ね導き出した最適解……だったはずなのだが。
「あれじゃ絶対失敗するね。賭けてもいい」
 今では「L」の称号を持つマスタークラス錬金術士は、当時を思い出して可笑しそうに笑む。
 描き出された魔法陣には、術式違い4箇所と構成違い2箇所。
 ぱっと見ただけでもわかる、複数の間違いを内包する魔法陣が導き出す結果は、実験せずとも明白で。

 ――案の定。
 ぼふん、と響いた爆発音とともに、吐き出された真っ黒な煙が研究室内を包み込んだ。

『んー、おっかしいなぁ、完璧だったはずなんだけどなぁ?』
『あっはははっ! あんなに話し合ったのにな!』
『ホントよね。……って、ちょっと二人共、顔真っ黒よ?』
『そういうミラもな?』
『えぇー、やだっ?!』

 真っ黒になった顔を互いに指差し笑い合う三人と、響き渡る楽しげな声に。リオンもまた、つられるようにくつくつと笑った。

「あの頃は、毎日が本当に楽しかったよ」
 アルダワに来て錬金術を学んで、初めて同年代の友達ができて。
 何もかもが初めてで、キラキラと輝いて見えた。
(「隣で勉強してたミラに恋したのもいい思い出だよね」)
 黒くなった自身の頬を拭いながら笑っている、ミラと呼ばれた娘の顔を見つめる。
 共に過ごす時間が多ければ、芽生える感情だってある。彼女が誰より愛らしく輝いて見えるようになったのはいつからだったか。その笑顔と言葉の一つ一つに心揺さぶられていた自分。
 今振り返ればそれは、リオンにとって初めての恋だった。
(「隣で勉強してた親友に取られるまでがお約束だよね」)
 くすりと笑んで視線を移せば、そこにはやっぱり真っ黒な顔をして、快活そうに笑う青年の姿。
 娘へ抱く想いとは別に、彼のこともリオンは好きだった。心を許せる友だと思っていた。
 だから、気が付かなかった。青年が娘に想いを寄せていたことを。そして、娘もまた青年を憎からず想っていたことを。
 そのことをリオンが知ったのは、二人が恋仲になった後。当人達の口から事実を知らされた時だった。
 今なら思う。そりゃあそうだろう。リオンが二人に対して特別な想いを寄せるくらいなのだ。ならば二人だって同じ。それくらい、三人で過ごす時間は長く濃かったのだから。
(「でもあの時は悲しくて悔しくてエルフの血を呪ったっけ」)
 恋破れ、娘と心通わせることが叶った親友とそうでない自分を比較し苦しんだ。
 時に自分の中に流れる種族の血すら疎ましく感じたりもした。
 それでも娘を、青年を大切に想う気持ちは変わらなかった。それくらい、二人のことが大好きだった。だから願ったのだ。幸せになって欲しいと。
「なのに……寿命も待たずに幼子を残して死ぬなんてひどいね」
 笑っている娘と青年。在りし日の二人を見つめ、リオンは思わず毒づく。
 おにーさんの想いなんて無視してくれちゃってさ。愛する我が子の成長を託しちゃう二人の気が知れないよ、ホント。
「……でも、安心してよ。その子はおにーさんが引き取って育てたから」
 思いもよらず託されてしまった幼子を放っておくことなんて、到底できなかったからねと。小さく付け加えて、ふ、と口の端を上げる。
 そして。両親二人の良いところをしっかり受け継ぎ、その子は立派に成長してくれた。
(「とはいえその後は……さすがに何の未練だろうって自分でも思うよ」)
 もう守る義理もないんだけどなんとなくと口にしながら。
 その子が巣立った後も、その子孫を付かず離れず代々見守ってきたのは、他ならぬリオンの意志によるものだ。
 かつて想い破れて呪いすらした、自身に流れる種族の血。
 それによってもたらされた、悠久の時を生きる力は、図らずも大好きな二人の子孫の歩みを見守る力にもなってくれた。

「でも……このお役目ももう終わりかな」
 ――二人の直系の子孫は、途絶えようとしてるから。
 琥珀色の瞳に幻影の二人を映しながら。口中でそっと呟いたリオンの脳裏をよぎったのは、黒目黒髪に白い肌を持つ、ドラゴニアンの少女。
(「いつかパラスさんを見送ったらおにーさんのお役目も御免」)
 成長し歳を重ね――いつしか「都市防衛の女神」と呼ばれるようになった彼女の、無愛想な表情と物言いを思い出しながら、リオンはゆっくりと目を閉じた。
 青春の終わりみたいでちょっと寂しいけれど、それもまた一つの定めなのだろう。
 ならばその行く末をしっかりと見届けたいと思う。

「――さて、帰ろうか」
 閉じていた目を開けて。リオンは過去の幻影をちらと見やり、小さく笑って背を向けた。
 自然な所作で向かう先は研究室の扉。そっと開いた扉の向こう側に桃色の花が広がる景色を認めれば、振り返らずに歩き出す。
大成功 🔵🔵🔵

ルインク・クゼ
この光景は……あっ、あたしがヒロアスのご当地ヒーロー協会の集会に初デビューした時のやね

集会とは言っても、各地のご当地ヒーローやその家族が、出店だしたり交流したりで、何かコミケに近い雰囲気あったなぁ。

「確か、最初はあたしが明石焼きの屋台で、明石焼き焼いてて……中の具は、タコ、タコわさ、穴子、エビ、餅とチーズ、すじコンニャク……」

「精が出とるにゃんね、ルインクちゃん」
あっ、紫のスコティッシュなケットシーは、お義姉ちゃんっ!

「後はわたしがやっとくにゃ、ルインクちゃんはヒナスミちゃんと一緒に、出店回って、他のご当地の郷土料理味わったり、この時期、新人のご当地ヒーローデビューしたての子も多いからにゃ、友達作って来た方がええんにゃよ」

お義姉ちゃんにそう言われて、ヒナスミちゃんと色々屋台回ったり、新人や先輩ヒーローからあたしの事色々聞かれたり

何人かと意気投合して、会場に乱入したオブリビオンを皆で倒したんやっけ、あたしが既に猟兵に覚醒しとったの

この時気付いたんかな。

[アドリブ絡み掛け合い大歓迎]



「ヒナスミちゃん、見てみぃ。桃の花、とても綺麗なんよ」
 相棒の巨大真蛸「ヒナスミ」とともに咲き広がる桃の花を眺めながら歩いていたルインク・クゼ(蛸蜘蛛のシーアクオン参號・f35911)は、ふいに漂ってきた匂いに鼻を動かす。
「これは……」
 どうしようもなく食欲をそそる、食べ物のいい匂い。
 桃の花のほのかな甘い香りを邪魔することはない、けれど誘うように漂ってきたその匂いは、なんだかとても懐かしい気持ちになる。
「ヒナスミちゃんも感じるんやね」
 巨大な蛸足でくいくいとルインクの手を引き、匂いの方向を示すヒナスミに、ルインクは頷きとともに微笑んだ。
「ほな、一緒に追いかけるんよ!」
 相棒と頷き合って匂いを辿るように歩けば。やがて目の前には、桃の花咲く木々の下、立ち並ぶ屋台と、それらを楽しむ人々の姿。
 桃源郷の祭りなのだろうかと首を傾げるも。その屋台の一つにかつての自分の姿を見つければ、ようやく思い出したとばかりに、ルインクは小さく笑った。
「この光景は……、あたしがヒロアスのご当地ヒーロー協会の集会に初デビューした時のやねぇ」
 集会というから、大勢で集まって演説を聞くような、何とも物々しい雰囲気を想像していたのだけれど。実際参加してみると、各地のご当地ヒーローやその家族が、店を出したり交流したり。お祭りのような感じはあるが、雰囲気はどちらかといえば同人誌即売会の会場にいるような、人と人とのやりとりをメインにした温かみを感じられるものだった。
(「ふふ、あたし、やっぱり緊張しとったんね」)
 屋台を切り盛りする過去の自分にそっと近づき、その様子を眺めるルインク。
 初めての集会参加ということで肩に力が入っていた自覚はあったものの、こうして外側から自分の姿を見ると、その緊張は表情にも表れていて。今見るとなんだか微笑ましい。
(「確か、最初はあたしが明石焼きの屋台で、明石焼き焼いてて……」)
 明石の地元では「玉子焼」の名で親しまれている明石焼きは、小麦粉と小麦のでんぷんを精製したじん粉に、卵とタコを使って焼き上げたものだ。
 卵色の生地のふわふわとした柔らかさとタコの歯ごたえのある食感。だし汁につけて食べることで、食感とあわせ、だしの味わいも感じることができる。
 タコと小麦粉を使った食べ物といえばたこ焼きを思い浮かべる者が多いのは事実。
 けれどだからこそ、たこ焼きと同じくらい魅力あふれる明石焼きと、地元明石のことをもっと多くの人に知ってもらいたい。
 そう思って明石焼きの屋台を出すことにしたんよね、と。
 具材を確認しながら懸命に明石焼きを焼いている自分を眺め、ルインクはほんわりと微笑んだ。
(「中の具は、タコ、タコわさ、穴子、エビ、餅とチーズ、すじコンニャク……やね」)
 明石焼きの基本の具材はタコだ。けれど、せっかくのお披露目の日だから、常とは違う、具材の変わり種があってもいいかもしれないと、複数の具材を用意していたことを思い出す。
 どの具材もルインクが事前に調べ、試食を重ねて吟味したもの。味には絶対の自信があった。
 だからだろう。屋台には、結構な数のお客さんが訪れてくれて、息をつく間もないほどで。

(「とても忙しかった記憶はあるけれど、こんなにお客さん並んでたんやねぇ」)
 傍から見ても分かる、忙しそうな自分。
 思わず手伝いたくなるけれど、幻影なのだからどうしようもない。
 やきもきしていると、

『精が出とるにゃんね、ルインクちゃん』

 ふいに聞き覚えのある声がした。
 見れば、一匹のケットシーが、忙しそうにする自分へ向け、にこにこと穏やかな笑みを浮かべていた。
 ぺたりと前に折りたたまれた小さな耳が愛らしい、スコティッシュフォールドを思わせる容姿に、紫色の美しい毛並み。
 そのケットシーのことを、ルインクはもちろん知っている。

「あっ、『お義姉ちゃんっ!』」

 思わずあげたルインクの声と幻影の中の自分が発した「おねえちゃん」が重なる。
 ルインクを育ててくれた、地元と同じくらい大好きな家族、久瀬家。
 その義姉が、デビューを飾るルインクを気遣って、様子を見に来てくれたのだ。
 あの時もすごく嬉しかったけれど、今改めて見ると、じんわりと胸が熱くなる。

『後はわたしがやっとくにゃ。ルインクちゃんはヒナスミちゃんと一緒に、出店回って、他のご当地の郷土料理味わったりしてきいにゃ』
『え、そやけど……』
『この時期、新人のご当地ヒーローデビューしたての子も多いからにゃ、友達作って来た方がええんにゃよ』
『ありがとう、おねえちゃん。……ほな、お言葉に甘えて行ってくるんよ』
 戸惑いながらも義姉の厚意に甘え、相棒を連れ、持ち場を離れる過去の自分。
 そんな自分の後を追いかけながら、ルインクはしみじみとする。
(「……ほんまに、お義姉ちゃんの言う通りやったわ」)
 義姉の言葉がなかったら、集会の間中ずっと自分の持ち場にかかりきりで、他のご当地ヒーロー仲間に出会うことなどできなかっただろう。
 実際、義姉の心遣いによって得られたものは大きかった。
 ヒナスミとともに色々屋台を回り、他のご当地の料理を購入したり、ごちそうになったり。
 先輩ヒーローに自分の事を話して、顔を覚えてもらったり。
 同じ新人ヒーローとも互いの情報を交換しあって、顔見知りになったり。
 出店を回ったり交流したりすることで、たくさんの人達と知り合うことができた。
 そして――、

 ――どごぉぉぉん!

 ルインクの思考を遮るかのように、聞こえてきたのは爆発音。
『――オブリビオンだ!』
 どこからともなく聞こえてきた声に、はっとしてルインクが視線を向けた先には、立ち並ぶ屋台をなぎ倒して暴れる、ロボットヒーローのような外見をしたオブリビオンの姿があって。
『……おぶりびおん……?』
 戸惑うように鸚鵡返しに口にした過去の自分に、交流で知り合ったヒーロー仲間が頷く。
『うん。ヒーローともヴィランとも異なる第三勢力。細かい話は省くけど、はっきりしてることは、アイツは、この集会をぶち壊そうとしてる敵だってことだよ』
『……そんなん!』
『許せないよね? それじゃあ、僕に力を貸して。ご当地ヒーローとして……猟兵として!』
『……いぇーがー? よ、よくわからへんけど。あたし、これでも明石のご当地ヒーローやから……絶対負けへんよ!』
『やったね! それじゃルインクちゃん、彼と私と一緒に呼吸をあわせて。――行くよ!』

「……何人かと意気投合して、会場に乱入した敵……オブリビオンを皆で倒したんやっけ」
 かつての自分が、仲間達と一緒に敵と戦う光景を、ルインクは見つめていた。
 もちろん、忘れてなどいない。
 これこそが、ルインクが明石のご当地ヒーローとして、猟兵として挑んだ初めての戦いだったのだから。

「……あたしが既に猟兵に覚醒しとったの、この時気付いたんかな」
 あの時。ルインク自身は、自分が猟兵に覚醒しているという事実はおろか、オブリビオンに猟兵という、言葉すら知らなかった。
 けれど、今こうして幻影でかつての自分達の戦いを目の当たりにして思うこと。
 あの時一緒にその場で戦った仲間達二人は猟兵だったのだろう。そして、ルインクが猟兵であることも、彼ら自身の直感のようなもので感じ取っていたのかもしれない。

「あれから……あたし、頑張ったんよ」
 ――ご当地ヒーローとしても、猟兵としても。
 見事にオブリビオンを撃退し、仲間と、周囲の人達と手を取り合って喜ぶ自分を見つめて、ルインクは赤の瞳を細める。
 この日からだ。猟兵のことを知り、そして自身も猟兵であることを知って動き出したのだ。

「もちろん、今も。これからだって頑張るんよ」
 ――ヒーローとしてたくさんの人達の笑顔を守るために。自分のルーツを知るために。頑張ってみせる。
 誓うようにそう呟き、ルインクは踵を返した。
 そうして。はじまりの日の自分に背を向け、ヒナスミとともに歩き出す。
大成功 🔵🔵🔵