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【サポート優先】屍人帝国の逆襲~堕天使軍~

#ブルーアルカディア #屍人帝国の逆襲


●女神に愛されし神国
 アンカンシエル神国は単一の島国―――アンカンシエル大陸のみで構成された由緒正しい大皇国だ。
 単一の島国国家だからだろうか、神国には一風変わった宗教があった。
「我らが少女母神・ノワール、今日もお恵みに感謝いたします…」
「我らが少女母神・オランジュ、どうか今日も誰も沈むことがありませんよう。我らに飛翔と浮遊のご加護をお与えください…」
 アンカンシエル神国には少女母神教という土着の信仰があった。
 曰く―――夜の少女母神と黄昏の少女母神がアンカンシエル大陸を作り、初代皇帝に嫁ぎ、神託を授けた。
『汝、能く朝と昼を治めよ。なれば汝眠る夕夜は我々が守護せしめん』
 以降、皇帝は女神の血を引く神王としてアンカンシエル神国を統治している。

●現在、グリモアベース
「よくある神権政治というやつさ」
 グリモア猟兵・蓮が魔術でできたソファの上で足を組む。。
「むしろアンカンシエル神国は神権政治にしちゃ緩い方だ。何せ異教徒への差別がなく、言論の自由が保障されている。まあ少女母神・オランジェがブギ切れながら言論の自由と宗教の自由を絶対保障したからね。みんな真面目に守ってえらいなぁ」
 そんなんだからオランジェは教育と商売と異邦人の神としても祀られてんだ。面白いよな。余談を挟みつつ蓮は話を進める。
「しかし神国がそうだからといって他の国はそうとは限らない。特に隣島・レーゲンボーゲン帝国は絶対神教という宗教を奉じていた」
 絶対神教とは『唯一絶対神ライエル』が大地から放逐された人を憐れみ、空に全ての大陸を作ったというもの。
「帝国にしてみれば神国なんて国ぐるみで絶対神教を否定する異教徒集団なんだな。だから神の御名の元、滅ぼさなくてはならない。
 そんなわけで数年前、帝国は神国に宗教戦争を吹っかけた。
 そんで、滅んだ。きっと神国に腕利きの勇士がいたんだろうねえ。神国の被害は軽微、帝国は大陸ごと全部雲海の底に沈んじゃった」
 蓮は悠々と紅茶を喫む。
「そのまま沈んでてくれりゃ面倒はなかったのに、屍人帝国として蘇ったんだからさあ大変。滅ぼされた逆恨みまで引っ提げて、死してもなお打倒神国と言ってるわけだ」
 蓮はパンと手を叩く。
「そんなわけで予知だ。これから神国を滅ぼそうと帝国が強襲隊を仕掛けてくる。
 君たちはこれを撃退し、神国を守ってほしい。
 二度と面見せようって気にならないくらい雲海の底まで叩き落としてくれ」
 蓮にしては珍しく黒い瞳に好戦的な色を宿して言い放った。

●具体的な予知
「では具体的な予知だ。まずは屍人帝国の先遣隊(大軍勢)との戦いとなる。天使の群れだぜ。ワクワクするね。わたし、天使って好きなんだよ。何もしてなくても勝手にありがたがられるところなんて特にいい。
 かなりの【集団戦】になる。誰か一匹くらい捕えて持ってきてくれない?かなり好みの顔をしてるんだけど。だめ?余裕ない?余裕なんて作るもんだよ。…おっと。睨まれちゃった。冗談もそこそこにしておこうか。
 そうだな、有効打は…神国勇士達の駆る飛空艇に乗り、飛空艇を足場にするのがいいだろう。
 勇士達に猟兵ほどの強さはないが指示の元そこそこ戦うこともできるし、卓越した操舵の腕を存分に発揮してもらえればそれだけでもかなり戦況が有利になる。勇士達に指揮するのは十二分にアリだ。
 ………わたし? ああ、悪い。わたしは転送陣保持のために最後尾飛行艇の中に引きこもりっぱなしだ。魔術で応援飛ばすくらいならできるが。例えば君の耳元でずっと南無妙法蓮華経を囁くとか。いらない?わかった。般若心経ハードロックアレンジにするわ。
 まあ大丈夫大丈夫。戦況把握はちゃんとしているよ」
 他に質問ある人ー、と呑気な声。挙げる者は誰もいない。
「OK、それでは託したよ。相手が何か口走ってても気にしちゃ駄目だぜ、オブリビオンなんだから」

 闘う君たちに、大魔女の加護を。


柊アオル
 ※マスター業初参加かつ初シナリオなのでサポートさんオンリーです。

 サポートの皆様初めまして。柊アオルと申します。この度はサポートとしてご参加いただきまことにありがとうございます。素敵な猟兵さんたちをたくさん眺められる!わあい!
 あなたのキャラクターの魅力を最大限引きだすお手伝いをさせていただきますね。これをきっかけにご縁を繋げられたらいいな。よろしくお願いします!
 ちなみにこの神国を狙う帝国シナリオは定期的に開催していきたいなあと思っています。戦闘わちゃわちゃは楽しい!

 ここからは裏設定。
 実はレーゲンボーゲン帝国の宮廷学者は自分たちの大陸の寿命を察し、生き残るために宗教戦争の名を借りて神国を乗っ取ろうとしました。
 神国に滞在していた猟兵なりたての蓮が帝国の思惑を看破。神国皇帝に上奏。結果、神国は宗教戦争の体裁には一切乗らず、あくまでもトチ狂った蛮族を処理する体でのらりくらりと専守防衛遅延戦術停滞バッチコイ処理。そうしてる間に帝国が雲海に沈んで自滅しました。神国被害軽微なのはそういうこと(蓮も前線に出て専守防衛手伝っていた)。
 要はだいたい蓮(猟兵)のせいです。
 なので敵は猟兵を見ると我先にと倒しに来ます。一騎討挑まれたら絶対に受けます。猟兵への恨みが深い(特に蓮を恨んでる)。蓮は自分のせいで猟兵全員恨まれてることがバレたら絶対怒られると思ってるから、口封じも兼ねてとっとと帝国全員雲海の底に沈んでくんねえかなあって思ってます。

 大丈夫。同情は不要です。何せ帝国、戦争に勝った暁には神国国民を皆殺しにしようとしてた(単純に人口爆発増加したらみんな餓死するから減らさなきゃね、って話。この世界は土地がマジで限られてます。つまり耕地も限られてるってことなので、敗戦国民は奴隷にすらできない)上に、かつての高潔な志も真っ当な愛国心も全て喪われています。ただの破壊の権化です。
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第1章 集団戦 『天使病・テルクシノエ』

POW   :    彩唱
自身と武装を【光彩を放つ翼と大音量の歌声】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[光彩を放つ翼と大音量の歌声]を飛ばして遠距離攻撃も可能。
SPD   :    幸唱
【何もかもを魅力する美しい歌声】から、戦場全体に「敵味方を識別する【あらゆる傷から翼を生やす奇病】」を放ち、ダメージと【精神の混濁と混乱】の状態異常を与える。
WIZ   :    福唱
【あらゆる存在に祝福あれ】の主張を込めて歌う事で、レベルm半径内の敵全てに【体の各部位を破壊しつつ翼が生える奇病】の状態異常を与える。
👑11
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燈夜・偽葉(サポート)
★これはお任せプレイングです★
『ぶった斬ってあげます!』
妖狐の剣豪 × スカイダンサー
年齢 13歳 女
外見 黄昏色の瞳 白い髪
特徴 長髪 とんでもない甘党 柔和な表情 いつも笑顔 胸が大きい
口調 元気な少女妖狐(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?)

性格:
天真爛漫年下系ムードメーカー(あざとい)

武器:
刀9本
黄昏の太刀(サムライブレイド)を手に持ち
場合によっては念動力で残り8本を同時に操る

ユーベルコードはどれでもいい感じで使います

敵の動きは見切りや第六感を生かして回避
避けられなければ武器受けで対処します

多彩な技能を持っていて、問題に対していい感じで組み合わせて対処します


ミスティ・ストレルカ(サポート)
基本方針は専守防衛・他者フォローです
サポート故、連携重視のお任せ

知らない人にはどうにも気後れしてしまうけど
それでも他の人が怪我するのも嫌なので押すところは押すのですよ
主にサモン・シープ等攻撃系のUCで他者行動の隙を消す様に立ち回るのです
中遠距離をとり全体を掴む感じですね

防御系の技能で時間稼ぎも行けますので
生まれながらの光での前線維持、魔力性防御障壁の囮役も…ちょっと怖いけど
でもでも、みんなの居場所を守るのですよー

そうそう、えっちなのはいけないと思います。
興味がない…訳ではないですがひつじさんが怖い雰囲気纏って凄い勢いで止めにツッコんでくるのです
年齢制限がどうとか、らしいです


徳川・家光(サポート)
『将軍なんだから、戦わなきゃね』
『この家光、悪は決して許せぬ!』
『一か八か……嫌いな言葉じゃありません!』
 サムライエンパイアの将軍ですが、普通の猟兵として描写していただけるとありがたいです。ユーベルコードは指定した物をどれでも使いますが、全般的な特徴として「悪事を許せない」直情的な傾向と、「負傷を厭わない」捨て身の戦法を得意とします。
 嫁が何百人もいるので色仕掛けには反応しません。また、エンパイアの偉い人には会いません(話がややこしくなるので)。
よく使う武器は「大天狗正宗」「千子村正権現」「鎚曇斬剣」です。
普段の一人称は「僕」、真剣な時は「余」です。
あとはおまかせ。よろしくです!



●146cmの白銀少女たち
燈夜・偽葉(黄昏は偽らない・f01006)
ミスティ・ストレルカ(白羽に願う・f10486)



 空に地獄があった。
「ア、ァ、ア、ァ、ァ―――」
 蒼穹に天の川の如く群在する純白たちが歌う。声が紡がれる度、飛行艇の勇士たちの体中の皮膚を突き破り、蛆の如くびっしりと細かい羽が生え蠢く。勇士たちは血を吐いて蹲った。
「ガッ、な、なんだこれ…!?」
「ヒッ…あ、ああああ、お、俺の腹から、羽が 誰か――」
「嫌だ!!死にたくない!!誰か!!」
 さらに飛行艇が何隻か大きく傾いだ。おそらく操縦士が何人も倒れ、艇が維持できないのだ。このままなら遠からず雲海に沈む。何もかも。猟兵でさえ。
 ――――こんなものか。
 屍人帝国の先遣隊の天使たちは醒めた目で見下ろす。
 趨勢は決した。純白の笑みが歪む。こんなものか。こんなものに…!
「ア、ァ、ア、ァ、ァァアアアアアア…!」
 ――――沈め。沈め。沈め。全て沈め。暗き雲海(うみ)に。
 安息はそこにしかない。祝福を。鎮魂を。飛べない羽と共に。
 ――――沈め、鎮め、シズメ…!!
「――――いいえ!私たちは倒れませんっ!」
 最前艇に白の髪が輝いた。
 誰しもが血を吐き蹲る中。一人の少女が立ち上がり、舳先に足を掛ける。
 猟兵―――燈夜偽葉の姿だった。
「お待たせしました。いま私が足止めします!」
 猟兵に憎悪の視線が一斉に集まり歌声の集中砲火を浴びせる。しかし偽葉は怯まない。
「『それは墓場。誰の?』」
 偽葉から詠唱と共に血が吐き出される。それでも天使の大群を見据える瞳は揺るがない。
「『きっと、私達と貴方達の』」
 詠唱と共に蒼穹に裂け目ができ、異空間が現れる。彼女のユーベルコート『剣よ、迷いを導いて(メイキュウ)』だ。無数の剣でできた迷宮は天使たちを呑み込み、閉じ込め、飛行艇から隔離する。
「…!」
 異空間の迷宮に閉じ込められた天使たちは遮二無二に辺りを見渡す。しかし無数の剣があるだけで彼の猟兵は見えない。
 その瞬間。天使たちの背後で剣一振りが宙にゆらりと浮かび上がり、天使三体を斬り伏せた。周りの天使たちは分析する。――――これは念動力の類だ。では剣を操作する術者も必ず迷宮内にいる。
 ならば。
「ア、ァ、ア、ァ、ァ―――」
 天使の歌が最大音量となり、迷宮中に反響した。
 ―――その攻撃で、迷宮出口付近で念動力操作していた偽葉の脇腹から血と羽が噴き出る。
「いったーい。酷いことするよね!」
 零れる軽口は明るいが、狐耳は横撫でに伏せられて。歯を食いしばる。絶対に、倒れない。この迷宮は絶対に維持する。
(解除なんかするものか、ってやつだね…!)
 偽葉が天使を一体でも多く閉じ込め相対している限り、勇士の命が護られ、猟兵の反撃の糸口が広くなる。
「ここが最前線で最後の砦…。絶対、絶対、何があってもあなたたち一人も逃さない…ここでずっと迷っててもらうよ…!」
 ここが貴方と私の迷宮(墓場)。墓標は剣一つで十分でしょう?
(絶対に負けない!)
「支援します!」
 覚悟を決めたその時。偽葉の背後———迷宮出口から声と共に、光が飛び込んだ。光は偽葉を包み治癒する。光の方向を見れば白い髪の少女が立っていた。そして偽葉の一歩前に立ち、片手を翳し魔力性防御障壁を張る。――――歌声が和らいだ。偽葉から痛みが遠のく。
「あなたは…」
「ミスティ。あなたが天使をかなり迷宮に閉じ込めてくれたから、戦況はとても楽になったのです。だから…」
 障壁がじり、と後退した。天使の歌声が壁を打ち破ろうとしているのだ。障壁の端がピシリと音を立てて崩れる。ミスティの頬に一条の傷を作り、真白の頬が朱に濡れ―――蛆のように羽が生えた。けれど逃げない。彼女は両手を突き出して魔力を注ぎ、壁を補強する。
「だから、そんなあなたを護るのは私の役目なの!」
 ―――ミスティはグリモア猟兵の蓮から退くようにと警告を受けていた。
『偽葉嬢の迷路に飛び込めば確実にしんどい目に遭うからやめた方がいいよ、ミスティ嬢。まあ命の保証はできんな』
 でも
「…絶対に護る、です!」
 怖くないといえば嘘になる。けれどなおのこと―――偽葉一人で残すわけにはいかない。
 再び障壁が押し返される。ミスティはさらに魔力を込めた。この迷路の中には何体の敵がいるだろう。百体?千体?……百万体?
 一瞬不安に揺れるが、首を振る。
(知らない人にはどうにも気後れしてしまうけど それでも他の人が怪我するのも嫌なので押すところは押すのですよ)
 さらに全力魔法で障壁を二重展開。破れるものなら破ってみせろ。聖者(オラトリオ)の護りを破れるものなら。
「ミスティさん、ありがとうございます」
 回復しきった偽葉がひたと虚空を睨む。彼女の周りで刀が九本宙に浮き、真っ直ぐ迷宮の奥に放たれる。
「ぶった斬ってあげます!」
 斬撃音が聞こえた。さらにもう一撃。斬撃波も飛ばし範囲攻撃もしているらしく、次々と天使の歌声が絶えていく。
「あともう少しだけお付き合い願えますか、ミスティさん。あと三十分とかかりませんので」
「もっとゆっくりしてもいいんですよ、偽葉さん。私はあと三時間障壁張れるのですよ」
 ミスティの頬に脂汗が垂れた。やせ我慢だ。あのグリモア猟兵が言ったように、確かに辛い。苦しい。でも笑ってみせた。だってまだ偽葉が戦ってる。なら自分が先に膝をついてどうする。
 天使の純白とは違う二人の髪が揺れる。血に濡れても自ら輝く強い白が。
「頼もしいです。あんなのよりミスティさんの方がずっと天使に見えますね」
 ミスティはくすりと笑った。
「じゃあ偽葉さんの守護天使として頑張らせてもらいますね」
 ――――緒戦は開かれたばかりだ。

●侍たちの王
徳川・家光(江戸幕府将軍・f04430)



 悪事は許せなかった。
 だから、虐げられる民がいれば悪敵を討つ。侵略される国があれば夷敵を斬る。
 そうやって護っていけば平和になる。

 綺麗事だ。現実的じゃない。でも――――…………



「―――『削ぎ剥がせ、神話の獣』」
 飛行艇の中団にて、家光は虚空を睨んでいた。減ったとはいえ未だに天使は多く、虚空の遥か彼方頭上で輪唱を奏でる。それに向けて家光は神話の獣(鮫)を放つ。その数、百余。鮫は次々と天使の喉笛に食らいつき、群れを散らせ、歌を止ませる。天使の澄まし顔が怒りと憎悪で歪んだ。
 ふと、家光の耳に少女の笑い含みの声が届く。
『ああ、コレの根源は出雲のあいつか。良いセンスだ。救済の天使面(化けの皮)を剥ぐにはちょうどいい』
 最後尾飛行艇にいるはずのグリモア猟兵・蓮のものだ。そういえば彼女は『魔術で野次程度なら飛ばせる』と言っていた。
「グリモア転送したばかりで疲れてるでしょうに、魔力使って大丈夫ですか?」
『何を言う。鮫が空飛んでんだぞ、ポップコーン片手に鑑賞しなきゃ非礼というものだ。それとも意味もなく水着姿になろうか?』
 蓮の笑い声が耳朶を擽るが、家光は油断なく空を見る。百余の鮫が天使を喰らうが、それでも零れはある。天使の小群が鮫から距離を取り、飛空艇に向けて歌を放とうとする。家光は迷いなく鮫一匹に騎乗し、天使の小群へと翔けた。
『ま、わたしたちはこのまま鮫が天使を食い荒らすのをのんびり見ていれば――――何してるんだ?』
 天使の小群が家光に気付いた。憎悪(祝福)の歌声が一斉に家光を刺す。オーラ防御を張ってもなお劈く歌声は家光の肩口を裂いた。しかし家光は迷わず大天狗正宗を振るい、天使の羽を斬り落とす。
 返す刀でもう一体。剣舞の如き太刀筋が空に冴える。
 歌が降る。腿に一条の傷を作る。けれど撤退は――――無い。
『いや――――本当に君、何してるんだ?!』
 珍しく魔女が慌てた声を上げた。それに家光は薄く笑って独り言ちる。
「将軍なんだから、戦わなきゃね」
『将軍なんだから、逃げなきゃね。名称はどうであれ君は王だ。玉座を温めるのが仕事。嫁に叱られるぞ』
「この戦況でおめおめと逃げ帰る方が叱られますよ。サムライエンパイアの将軍はいつからこんなに腰抜けになったのか!…ってね」
 天使の歌が降る。カウンター。剣戟が煌めけば、一拍遅れて天使が三体落ちる。
 それでも家光の額に傷一条走り、羽が生えて蠢いた。
『一度退け。体勢を整えろ。さすがに分が悪い。軽く百体には囲まれてるぞ』
「退いてる間に勇士の皆さんが苦しみます。僕がここで舞ってる限り敵を引き付けられるなら、喜んで」
 その言葉に蓮は沈黙。家光はそれに目を伏せる。やはりこの魔女はわかっているのだ。現状、勇士たちに被害を出さないようにする唯一の方法はこれしかないのだと。
『君を見縊るわけじゃない。でも、敵があまりにも多すぎる。わたしは君をフォローできない。こんな無茶、一か八かといったところだ』
「一か八か……嫌いな言葉じゃありません!」
『待て待て待て待て待て待て!連れてきておいてなんだか、待て!!』
「僕たち猟兵は戦うため、神国の民を護るため来ました。見捨ててどうします。ここで我が身可愛さに引けば、僕たちは義に拠って立つ瀬を失います」
『――――ご退避なされませ、上様』
 重い溜息と共に、家光の右横に蓮の紋様の魔法陣が現れた。最後尾飛行艇に繋がる転送陣だ。家光は首を振り、天使を斬り結ぶ。
『御身の肩にはサムライエンパイアの民が乗っておられます』
「はい。そして僕の剣には世界全てが懸かってる」
『上様』
 畢竟、猟兵とはそういうことだ。護るものはサムライエンパイアだけではない。数多の世界だ。
「命を粗末にしていいってわけじゃないんです。でも、蓮さん。この帝国(悪逆)の犠牲だけは許してはいけないでしょう」
 ――――悪事は許せなかった。
 だから、虐げられる民がいれば悪敵を討つ。侵略される国があれば夷敵を斬る。
 そうやって護っていけば平和になる。
『綺麗事ですよ、上様』
「でも掲げないよりはずっといい」
 力があれば綺麗事は机上の空論ではなく、道となる。
 …故に、己には掲げなくてはならない責がある。
(大丈夫。まだ戦える)
 だから この心が折れない限りは
「この家光、悪は決して許せぬ!」
 覚悟と共に大天狗正宗を強く振るい、そう声高らかに叩きつける。斬っても斬っても天使は湧き出る。歌声はいっかな鳴りやまない。オーラ防御を張ってもなお突き抜けるそれに、傷は増えていく。
 でも、この程度で折れる心は持ち合わせてない。猟兵としてもっと巨大な敵と戦ってきた。今更臆するものか。
「この程度が帝国先遣隊ですか!我こそはという者はいないのですか!御首級はここですよ!」
 そう叫べば天使の憎悪の歌がますます突き刺さる。
 それでも笑ってみせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

雪代・桜花(サポート)
 桜の精の仙人×パーラーメイド、17歳の女です。
 普段の口調は女性的(私、~様、です、ます、でしょう、ですか?)
サクラミラージュの山奥で生じた桜の精で、普段は『帝都桜學府』に通いながら色んなアルバイトをしている猟兵です。

UCによる技能強化で他参加者の文字通りのサポート役(戦闘支援の他、一般人相手の情報収集や敵地の偵察、給仕など)が理想です。
UCの『オールワークス!』で状況や目的に応じた手持ちの防具に着替え、その初期技能を上昇させ【情報収集】や【破魔】などでサポートします。あるいは軽機関銃と素の【援護射撃】や【制圧射撃】で戦闘をサポート。
その他、桜の精として影朧の転生やUCによる回復も可能。


バルタン・ノーヴェ(サポート)
「バトルの時間デース!」
雇われメイド、バルタン! 参上デース!
アドリブ連携歓迎デース!

普段の口調:片言口調(ワタシor我輩、アナタ&~殿、デス、マス、デショーカ? デース!)
得意な技能:【一斉発射・焼却・武器受け・残像・カウンター・受け流し】デスネ!

遠距離ならば、銃火器類の一斉発射や各種UCによる攻撃が有効デース!
近距離戦闘なら、ファルシオンで白兵戦を挑みマース!
敵の数が多いor護衛対象がいるならば、バルタンズをお勧めしマース! 数の有利は得られるデショー!

状況に応じて行動して、他の猟兵のサポートに回っても大丈夫デス!
迎撃、防衛、襲撃、撤退戦。どのような戦場でも参戦OKデース!

頑張りマース!


寺内・美月(サポート)
アドリブ・連携歓迎
※エロ・グロ・ナンセンスの依頼はご遠慮願います。
・依頼された地域に亡霊司令官(顔アイコンの人物)と隷下部隊を派遣。美月がグリモアベースから到着するまで(サポート参加では現地にいない状態)、現地での活動に必要な権限を付与
・基本は一個軍団(歩兵・戦車・砲兵・高射・航空・空挺のいずれか)に、出動しない軍団から一個師団程を増強し派遣
・戦力不足の恐れがある場合は、上記の兵科別軍団を二十~三十個軍団ほど増派し派遣軍を編成
・敵に対し砲兵・高射・航空部隊の火力、戦車・空挺部隊の機動力、歩兵部隊の柔軟性を生かした戦闘を行う
・他の猟兵の火力支援や治療等も積極的に行い、猟兵の活動を援護


コーデリア・リンネル(サポート)
 アリス適合者の国民的スタア×アームドヒーローの女の子です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、機嫌が悪いと「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。

内気な性格のため、三点リーダーや読点多めの口調になります。
ですが人と話すのが嫌いでは無いため、
様々な登場人物とのアドリブ会話も歓迎です。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●メイドとパーラーメイドのスペシャルご奉仕、お気に召したでしょうか?
雪代・桜花(桜仙・f23148)
バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)



 とある飛空艇の中。操縦士は歯の根も合わぬほど震えていた。
(なんでこんなことに…!)
 魔術防壁術を施した硝子窓から思わず目を背ける。
「てんしさま」
「きれい きれい」
「てんしさま きれい」
 外ではガレオノイドやそのパイロットが恍惚の表情を浮かべながら、蛆のように噴き出す羽に覆われていく。目の前で化物へと変貌していく。その中には操縦士の同僚もいる。それでも助けに行けない。魔術防壁術を施した硝子窓に覆われたコックピットの中で操縦桿を握るしかできない。
「お願いします…我らが少女母神ノワール、オランジェ、女神諸神、どうか我らをお救いください…!」
 操縦士は必死に神々に縋る。しかし祈り虚しく――――劈く轟音と共に、コックピットの天井が半壊した。何事かと目を剥けば、同僚が自らの武器でコックピットの天板を引き剥がし、侵入してきた。
 右顔面にびっしりと真っ白い羽を生やし、操縦士に笑いかけていた。
「てんしさまの おうた きこう」
「ヒッ…」
「いっしょに きこう おまえも」
「い…嫌だ!!たすけて!!だれか!!あいつの顔が!!おねがい、誰か治して!!」
「すきだから きかせてあげる おいで おいで いっしょに しあわせに なろ?」
 操縦士は身を捩ってコックピット隅に逃げるが、遅かった。天使の歌が 聴 こエ
(あ――――)
 鼓膜に天使の歌が直撃した。操縦桿を握る手が翼に変じ、萎える。落ちる。高度を保てない。きっと歌声に魅了の魔術がかかってるのだろう。天使が美しく見える。ぐにゃり、視界が歪む。精神が混濁する。耳奥から蛆が這う音が聞こえる。ああ違う。これは羽だ。耳奥から羽が蠢いてるんだ。
「いや、いやだ―――たすけて――――女神様――――」
 桜の香がふわりと漂った。
(――――?)
 蒼穹に桜色の髪の少女が空にふうわりと浮かんでいた。
 仙女のような出で立ちをした彼女の頭には、双角のように桜の枝が咲き揃う。
「揺蕩って、幻朧桜………」
 彼女はまるで桜に願うように呟き、淡い燐光を纏った桜の花びら掌に乗せ、ふ、と吹き飛ばす。するとたちまち桜吹雪が巻き上がり、操縦士にも同僚にも降り雪ぐ。桜の花びらが触れた―――と思うや否や、二人の体から生えた羽が落ち、精神の混濁が晴れる。
 操縦士たちだけではなかった。同じように白翼に覆われていたガレオノイドやそのパイロットにも桜吹雪がそよげば、翼が跡形もなく消え失せていく。
 戦況が一変していた。絶望が覆っていく。
「手遅れになる前で良かった…」
 ふうわり、と。桜の仙女が操縦士と同僚の傍に舞い寄り、見下ろした。
 幽かな声は桜のように淡く甘い。眼差しは春の宵のように優しく、神秘的だった。
「破邪と浄化を込めた桜吹雪ですから、快癒しているはずです。駆け付けるのが遅くなり誠に申し訳ありません」
 操縦士は信じられない気持ちで幻想的な彼女を仰ぎ見る。――――こんな絶望的な状況で、己の祈りに応えてくれた。ならば彼女は
「女神さま、なんですか…?」
 思わず突いた言葉に、彼女は目を丸くする。
「まぁ…」
 微笑った。
 その瞬間、操縦士の心臓が大きく高鳴った。天使の魅了なんかよりもずっと強く彼女に惹きつけられる。
「女神様なんて畏れ多い。いいえ、私はただの猟兵。ただの桜の精にございます…」
 絶対に嘘だ。操縦士はただただ彼女に見惚れるしかできない。
 女神様に違いない。だって魅了魔術を使った天使より美しいなんて、神しかありえない。
「あ、あの―――お名前を…!」
「雪代桜花と申します。また何かありましたらお傍に参ります。
 …では、ごきげんよう」
 操縦士とその同僚を残し、彼女は再び飛翔した。

 ――――雪代桜花は悲し気に目を伏せた。
「なんて瘴気の濃さなのでしょう…」
 あたり一面見渡す限りの影朧(オブリビオン)は人間を蹂躙していた。寒気が走る光景に、桜花はユーベルコード《オールワークス》で纏った桜の巫女服を胸元で寄り合わせた。ユーベルコード効果で破邪の力を強め、普段は刀や銃に変じる幻朧桜の花びらをそのまま桜吹雪とし、戦場に舞わせる。
「破邪と浄化を―――」
 しかし彼女を天使が放っておくはずなかった。桜花を排除するためにナイフのように鋭く尖らせた翼を放つ。翼刃の雨だ。桜花の体を切り裂く――――はずだった。
「バトルの時間デース!」
 翼は明るい声と共に全て吹き飛ばされた。
「雇われメイド、バルタン! 参上デース!お怪我ないデスかー?」
 多種多様の銃器を抱えた緑髪のメイドが、小型飛空艇の舳先に立っていた。銃口から煙が立ち上っている。どうやら翼の全てを一斉放射で吹き飛ばしたらしい。桜花は目を丸くする。
「雇われ…メイド…?」
「ハイ!今回はグリモア猟兵の蓮殿からの依頼を受諾し、ココにいマース!」
 バルタンは相変わらず底抜けに晴れやかな笑み。
「蓮殿、言いマシタ―――『言い値で君の腕を買う。その代わりわたしが望むのは殲滅だ。塵も残すな』」
 バルタンは空弾倉を捨て、換装する。
「その殲滅のためにはアナタの桜吹雪の治癒(サポート)が最重要デース!というよりアナタが要デス。アナタが倒れたら戦術的敗北まっしぐらノンストップGOデス。だからワタシはアナタの護衛兼一帯地域の敵殲滅に来ました!」
「まぁ…それは頼もしいです。ありがとうございます」
 ふうわりと桜花は微笑み、再び桜吹雪を舞い上がらせる。
「では引き続き後方支援(サポート)をさせていただきますね」
「ハーイ!ワタシがいる限り、敵は気にしなくていいデス!ただのカボチャか豆腐だと思いマショー!」
「ふふ。愉快なお方…」
「それが身上デスカラー!」
 桜吹雪に集中する桜花から目を離し、バルタンは天使の大群を見据える。
「――――さて、ワタシはワタシの仕事をしますか」
 ユーベルコード、発動――――フルバースト・マキシマム。
 効果は実に単純。"全装備"の解放及び一斉放射。
 轟音と共に弾幕が天使を正確に射貫いていく。もはや銃撃戦というより花火のような明るさだ。十体、二十体、まるで射撃の的のように落とされていく。
 ――――しかし天使は冷静だった。 
 天使は自身と武装を光彩を放つ翼と大音量の歌声で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。そしてそっとバルタンの背面に回り、奇襲。翼刃を放ち
「見えてマスよ」
 ――――全て撃ち落とされた。
「…?!」
「観測手(スポッター)ミニ・バルタンズ、よく捉えマシタ。後で報酬出しマース!」
「バルバルバル!」
 見ればバルタンの足元には彼女とよく似たロボットが何体もいる。小型飛空艇を操縦しているのもそれらしい。そうか。ロボットはそもそも五感が無い。センサーで奇襲を見破ったのか――――と把握した時には遅かった。バルタンの正確無比な射撃が天使の眉間を貫く。
「データ更新…軌道修正アップデート……」
 ユーベルコード フルバースト・マキシマムの効果は実に単純。全装備の解放だ。
 つまりミニ・バルタンも、頭部に埋め込まれている更新機能付きマルチタスク用システムソフトウェアも攻撃に使用される。彼女の演算能力により攻撃はますます正確性を増していく。
「バルタン様、お怪我はございませんか」
 激しい銃撃戦を案じてか、桜花がそっとバルタンに寄り添う。バルタンはそれに気付き、底抜けに明るい笑顔を見せた。
「ワタシは大丈夫デス、心配ありがとうございマス!そうデスね、いまちょっと敵が遠巻きになって膠着状態になってマスし…ここで一度定期報告しときまショー」
「定期報告…?」
「蓮殿、聴こえマス?」
『もちろん。君の可愛い声が聴こえているよ』
 バルタンと桜花の耳にグリモア猟兵・蓮の声が届く。そういえば彼女は直接的なフォローはできないが、魔術で声を飛ばす程度は余裕だと言っていた。
「ワタシたちはこのまま飛行艇最前線に専念したいところデスが……蓮殿。中団は中団でお任せして大丈夫な状況デスか?」
『うん。でも前団がキツいなら、中団から最前線に何人か派遣しようか』
「絶対に駄目デス。中団死守デス。中団が割れたら自軍が分断されマス」
 桜花は脳内で図を思い浮かべる。神国飛行艇連合艦隊は大きく分けて前・中・後団に分けられる。その中団が敵に突かれ乗っ取られたら、前団と後団は分断され、連携が難しくなる。
『ではグリモアベースから追加召喚しようか?』
「お気遣いは嬉しいですが、それには及ばずデスよ。蓮殿の召喚陣と魔力がワタシたちをこの世界に留めてるんデスから、魔力温存でお願いしマース!」
『わかった。じゃ、紅茶でも飲みながらまったりしてようか』
「ハイ。メイドなのに給仕できず申し訳ありまセン。その代わり――――」
 ノールックでバルタンは内蔵式グレネードランチャーで天使を撃ち落とす。
「"掃除"は完璧にしておきますので」
『最高。わたしは綺麗好きなんだ。鼠一匹逃すな』
「雇い主のお望みのままに」
 蓮からの通信が途絶え、桜花はバルタンにおっとりと首を傾げた。
「あの…門外漢の不躾な質問ですみません。中団が大事なら、私たちも中団に駆け付けた方がいいんじゃないでしょうか」
 桜花は他にも最前線で戦う猟兵たちを見遣る。決して手が足りてるとは言えない戦況だが、それほど大事なら。しかしバルタンは軽やかに首を振る。
「戦争において前線維持は基本かつ必須デス。一番の鉄火場、一番戦力を投入しなくちゃいけないとこデース。
 ここが崩れれば何もかも水の泡になりマス」
「水の泡?」
 ハイ、と答えバルタンはチラリと後方を見遣った。
「後ろは任せまショウ。気配りできる方がいらっしゃるようデスので」


●少年少女の道半ば
コーデリア・リンネル(月光の騎士・f22496)
寺内・美月(霊軍統べし黒衣の帥・f02790)



「そろそろ本気で行きますよ!」
 コーデリアがそう叫んでユーベルコード・姫君の覚醒を発動させ、破魔のロッドを構え天使を打ち払う。――――それからもう何秒経っただろう。姫君の覚醒の代償は理性。擦り切れるそれを繋ぎ止めるため、コーデリアはグリモア猟兵・蓮にひたすら話しかけていた。
「いま、何体目…」
 敬語を使う余裕なんてとうの昔に無い。
『五百と六十四だな』
 直接的なフォローはできないが魔術で声だけは飛ばせると笑った蓮は、姿無くともコーデリアにずっと寄り添っていた。
『いやー、理性を代償にしてるだけはある。一秒あたりのキルレートがトップクラスだ』
「それでもまだこの数…!」
 蒼穹には相変わらず天使が湧く。前団に比べだたら数は少ないが、前団の迎撃をすり抜けている分、手練れだった。
 歯噛みしたコーデリアに、蓮の通信に乗って無邪気で軽やかな女の声が二つ響いた。
『コーデリアさま、かっこいいですわ~!』
『頑張ってくださいまし~!』
「……誰?」
『ああ、すまん…』
 蓮の苦笑いが響く。
『わたしの使い魔の花精…紅薔薇と白薔薇だよ。戦況把握のための"目"を担ってもらってる。どうやら君のファンになってしまったらしい』
「えっ…そうなの…?」
 喋りながらもコーデリアは天使に向けてロッドを振るう。天使の小群が纏めて雲海に沈んだ。それにまたワッと花精たちが湧いた。
『『コーデリアさま、素敵~!』』
「……ありがとう」
 無愛想に呟いてしまった言葉。しかしそれでも花精たちはきゃあきゃあと無邪気に喜ぶ。
『人間なんてみんな同じに見えるけど、コーデリアさまは別よ。特別よ』
『不思議ね。一等輝いて見えてよ』
「えっ」
『金のお髪(ぐし)がわたくしたちの大好きな太陽の光を思わせるから?』
『それとも柔らかなお顔が朝露のように瑞々しいからかしら?』
「ええと…」
 コーデリアは返答に窮した。褒められていることはわかる。けれどどう返したらいいかわからず、ただ黙り込んでしまう。
 蓮が薔薇たちを窘める。
『そこまでにしといてやれ。コーデリアが困ってるだろ』
『あら…ごめん遊ばせ。わたくし、はしゃぎすぎたみたい』
『コーデリアさま、あたくしたちのことお嫌いにならないでね』
 可憐な声が沈んで、コーデリアは必死に首を振る。――――どうも人付き合いは苦手だ。鬱屈と共に天使を更にロッドで打ち払う。
 その瞬間。コーデリアの背後から黒い軍人風の人影がぬぅっと顔を出した。コーデリアは咄嗟に距離を取り警戒する。
「新手…!」
『ああいや。彼らは元帥殿の部下だ』
「元帥殿?他に猟兵いたの?」
『本人から自己紹介してもらった方が話が早いな……待ってて。いまグリモアベースの元帥殿と魔力通信繋げるから』
「え…?いや待って。あなたさらっと言ってるけど、それ異世界越えての通信ってことなんじゃ『おっ スタジオに繋がったようですね!こちら現場の蓮でーす!グリモアベースの元帥殿、きこえますー?!』
 蓮に応え、涼やかな声がコーデリアの耳に届く。
『はい、お初に御目文字仕ります。寺内美月と申します。まだまだ見習いですが、戦技・法務・部隊運用等の教練を受ける帥にございます』
『だから綽名は元帥殿だ。大将でもいいけど』
『そして前線合流が二分ほど遅れて申し訳ありません。裏で動いていた分隊を潰すのに少々手間取りまして』
 コーデリアはそれに怪訝な顔を見せる。
「分隊…?」
『ああ。わたしも元帥殿から教えてもらったんだけどさ。なんかあの天使軍、本隊と分隊でわたしらを挟み撃ちにして潰そうって魂胆だったらしい。あっちにしてみれば猟兵なんて伏兵もいいとこだろうに、咄嗟の判断にしちゃ悪くないな』
『ですが本隊の動きが少々不審すぎました』
「何かおかしかったの?」
『桜花様に歌を無効化されても歌い続けたでしょう?他の攻撃ができないわけじゃないのに』
 コーデリアは思い出す。そういえばユーベルコードで歌を無効化した桜の精がいると聞いた。そう言われれば、コーデリアに対しても天使たちは基本的に歌に徹していた。
『もちろん数で捻じ伏せるために歌唱を続けるというのは策として十二分に有効です。ですが先遣隊の露払いで後続の負担が決まるのに、桜花様やバルタン様を排除しようとするか応戦以外、誰も猟兵に突撃しない。些か悠長ですね?それこそ艇に穴を開ければ猟兵だって雲海に沈むのに。あまりにも動きが統一されすぎている。まるで歌だけに専念する軍命が下ったかのような…』
『些細な違和感だが、元帥殿の前じゃ致命的過ぎる』
『その視座を持てば、なるべく無傷で私たちを前線に引き付けておきたいかのような動き―――釣りの可能性が浮上します。ですのでもしやと思い、私の部下を哨戒に当たらせたところ、敵分隊が自軍後団背後に回っていました。
 おそらく敵は分隊の挟撃に合わせ一斉攻撃を仕掛けるつもりだったのでしょう。そのためになるべく無傷でいる必要があった。だから歌だけに専念した』
「なるほどね…猟兵(わたし)たちが歌で潰れればそれで良し。潰れなくても時間が稼げれば挟み撃ちで一網打尽…!」
『はい。ですが時間稼ぎになったのは私も同じ。皆さんが折れず諦めず戦線維持してくださったからこそ、分隊を潰せました。どんなに策があっても前線が崩れたら何もできませんから。ありがとうございます』
「いえ…こちらこそ…」
 話を聞きながらも、コーデリアは天使を倒す手を休めない。そんな彼女に吐息が柔らかく笑った。
『敵も挟撃が潰された以上、次の策を練ってくるでしょう。私はそろそろ盤面の読み合いに戻ります。蓮様。引き続き情報を送っていただいてもよろしいですか?』
『任せろ。光よりも早くお届けしちゃう』
『コーデリア様』
「…なにかしら」
『今まで前線を支えてくださりありがとうございます。微力ながら私の部下にも援護させますので――――お辛いかと思いますが、どうか引き続きお願いします』
 かけられた労いと励ましに、思わず笑みが零れてしまった。
『いかがなさいました?』
「あなたみたいに凄い人に頼られたのが、嬉しいの」
 コーデリアは自他ともに認める口下手だ。人と会話するのが嫌いじゃないのに、内気な性格なせいでどうしても沈黙がちになってしまう。会話を続けようと一生懸命にならないと、会話が続かない。
 先程の花精にしてもそうだ。彼女たちはあんなにたくさん褒めてくれたのに、コーデリアは上手く返せなかった。そもそもコーデリアはあんなに軽やかに無邪気に―――ある種ミーハーで軽薄に人に接することができない。
 できないこと、苦手なことは多い。
 けれど
「それでも、いま戦うことは誰よりもできる…。
 あなたたちが求めてくれるなら、私は……!」
 ロッドから放つ光を最大限高めた。全力魔法に爆撃を重ね一気に放てば、破魔の光でできた弾幕が辺り一面に広がり、天使を纏めて薙ぎ倒していく。
 それに返ってきたのは大歓声だった。
『おっ キルレート更新だ!行け!いいぞそこだ、ブッ殺せ!!』
『コーデリアさま素敵ですわ~!』
『お美しいですわ、コーデリアさま~!』
 無邪気な声援にコーデリアは小さく笑んだ。さらにもう一撃、放つ。求めてくれる人がいるなら、この理性の一片が擦り切れるまで――――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『クールエンジェル』

POW   :    サブゼロ・ジャッジメント
【頭上の『天使の輪』が光るの】を合図に、予め仕掛けておいた複数の【詠唱中のクールエンジェル】で囲まれた内部に【絶対零度のダウンバースト】を落とし、極大ダメージを与える。
SPD   :    エンジェリック・アサルト
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【氷杖】から【レベル×5本の氷魔法の矢】を放つ。
WIZ   :    クール・エンジェル
敵より【クールな】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

●間章
※サポートのみでやろうと思いましたが、第二章からは通常プレイングも受け付けることにしました。というか解釈違いかどうかを探り探りストーリーを書くのがどれほど大変か身に染みたので、どしどし応募してくださると、とてもとても、とっっっってもありがたいです!!!よろしくお願いします!!!
3月2日まで受け付けてます!!!!!!


 帝国軍 飛行艇母艦―――飛空艇とガレオノイドを収納し戦場まで運搬するための巨大艦――――内にて。
 主力部隊・クールエンジェル隊を預かるクールエンジェル少将は溜息を吐く。策が潰されたと通信が入ったのだ。悔しげな通信士に冷静に返す。
「ドブネズミのような生き汚さね。本当に異教徒って出来損ないのクズだわ、おとなしく死ぬことすらできないなんて。
 先遣隊・テルクシノエ隊には、以降、主力部隊の支援に留まるよう伝達なさい」
 少将は吐き捨てる。冷徹な瞳の奥、憎悪の炎が燃え上がる。
「全官に通達。P号作戦に移行。繰り返す。P号作戦に移行」
 P号作戦――――クールエンジェルの能力・『サブゼロ・ジャッジメント』を応用する大規模作戦である。
 そもそもサブゼロ・ジャッジメントとは、頭上の『天使の輪』が光るのを合図に、予め仕掛けておいた複数の詠唱中のクールエンジェルで囲まれた内部に絶対零度のダウンバーストを落とし、極大ダメージを与える能力である。
 これを応用し、敵艦隊を包むようにダウンバースト対応型のステルスアンテナを撒き、少将が機を見て敵軍を一斉凍結するのがP号作戦である。
「クールエンジェル隊を三隊に大分なさい。
 一つ、陽動隊。なるべく派手に攻撃して猟兵どもを引き付けなさい。敵は陽動とわかっていても、異教徒が死にかければすっ飛んでくるわ。
 二つ、アンテナ隊。アンテナ配置係の護衛も含んで編成。
 三つ、ここ。クールエンジェル隊作戦本部。護衛に大隊を置くこと。
 繰り返す…」
 逆襲の第二幕が切って開かれる。


そんなわけで、陽動隊を放っておけば前線崩壊&被害甚大で詰み、アンテナ配置隊に気付かなかったら作戦遂行で詰みという状況です。
でもまあ、描写はしてませんが、蓮は猟兵50人くらい召喚している設定です。だから全部のプレイングが陽動隊に当たっても問題ありません。裏で名もなき猟兵たちがどうにかしてくれる。

陽動隊は積極的に猟兵を殺しに行く(ように見せかける)ため、猟兵を見つけ次第とにかく派手な攻撃を仕掛けてきます。あとはモブ勇士たちを落とそうとしたり、殺そうとしたり、燃やそうとしたりします。
アンテナ隊は隠密行動をしていますが、アンテナ配置係が猟兵から妨害を受けたら護衛係が飛び掛かってきます。バトル開始です。
アンテナはバスケットボール程度の大きさの水晶玉みたいな見た目です。それを100個くらい撒かないとP号作戦は発動できません。

プレイングボーナスは特にないですが、クールエンジェル隊作戦本部に乗り込みたいなら、死ぬほどめっちゃいる陽動隊にバレずに辿り着く方法を考えておくのがいいんじゃないでしょうか。
クールエンジェルはそこそこ強いです。生前、正規帝国軍の軍人張ってましたからね。生え抜きの精鋭ですよ。でもタイマンで猟兵に勝てるほど強くないので、常に複数人で殺しにかかります。
でもぶっちゃけタチの悪さで言えば一章のテルクシノエの方が上だと思います。
皆さんのプレイング、楽しみにしています!


●おまけ: あれからあのモブ、どうなった?

 桜花に助けられた操縦士と同僚はほうほうの体で飛空艇母艦に帰投した。
 二人の愛機は損傷激しく、特に操縦士のコックピットは天板がごっそりと失われている。そのため、同僚に曳こうしてもらいここまで来たのだ。
 ちなみにその天板を剥がしたのは天使の歌に狂った同僚である。
 操縦士は楽観的に胸を張った。
「オレたちには女神様と最強のメイド長がついてんだぞ。この戦争負けるはずがない」
「あれメイドじゃねーよ。メイド服着ただけの傭兵だよ」
「本人がメイドって言ってんだからメイドなんだろ。ああ…女神様…本当にお美しい……」
「はいはい……」
 同僚はぼりぼりと頭を掻いて、重い溜息を吐いた。
「実は俺、ガレオノイドなんだわ」
「は?なんでお前パイロットやってんの?」
「砲撃を一身に浴びるのが俺(ガレオノイド)だからだ。空は飛びたいが、粗雑に扱われるのだけは御免だね。
 ちなみに全長十八メートル。ただしなんか…数年前から見た目がちょっとデカい飛空艇(戦闘機)になった。あと一人しか乗せられなくなった。俺がお前ん愛機ぶっ壊しちまったから、今日だけはお前の愛機になってやる」
「スペックは?」
「超軽量型。第三種天使核搭載。スピードと燃費は優秀だが紙装甲。機銃と操縦性はお前の愛機と変わらねえ。あ、でも俺お前の愛機と違ってトイレとベッドとシャワーがついてる。あー、あと去年からアイスバーとジュースバーも増えた」
「オレの大好物じゃんありがとう乗るわ」
「…」
「大丈夫、お前には絶対瑕一つ付けさせねえよ。今日から頼むぜ、相棒」
クレア・フォースフェンサー

オブリビオンとして蘇った者が攻めてくるのは分かる。
しかし、あやつらは生前から異国を滅ぼそうとしておったのか。
なんとも狭量な神様を信奉しておったようじゃな。

数に頼っておるようじゃが、民のところになど行かせはせぬ。
オブリビオンへと堕ちたその身、再び骸の海へと還してやろう。

飛空艇の甲板など、広範囲に見渡せる場所で迎撃。
敵集団の動きを見切り、最大長の光剣をもって切り払っていこう。
雲海に落ちてしまう天使核があるのはちともったいないが、この際仕方があるまい。

敵の母艦が確認できたならば、光弓を用いて艦橋に一矢を放つ。
何を企み、かような陽動を行っているのかは分からぬが、その動きを牽制することはできよう。


イングリット・イングラム

異教徒の殲滅を掲げる一方で、世界の敵たるオブリビオンに堕ちた貴方達の存在は認めたまま――

貴方達の神は、御自身の信徒には随分と寛容なのですね
いえ、ひょっとすると、その神すらも島ごとオブリビオンへと堕ちてしまったのでしょうか

いずれにしろ、我が神は貴方達のような存在を認めたりはしません
等しく、骸の海へと還します

UCにより神の加護を発現
広域に暴風と雷雲による結界を張り、敵の侵入や組織的行動を阻害
結界内に入った敵は神罰たる雷で迎え撃ちます

残敵は、個別に撃破
《聖霊馬》で空を駆け、《聖霊装》による弓矢を用いて射落とします

UC指定
天候操作、結界術
索敵、神罰、電撃、範囲攻撃
騎乗、空中戦、スナイパー



●我ら人の技なれば
クレア・フォースフェンサー(旧認識番号・f09175)
高宮・朝燈(蒸気塗れの子狐・f03207)



 とある巨大ガレオン船の甲板に二人の人影があった。
 一人は刀を腰に携えた女。クレア。
 一人は騎乗型ガジェットに騎乗した妖狐。朝燈。
 眼前に広がるのはクールエンジェルの大群であった。その数、カウント不可。今はまだ攻撃の射程外だが――――遠からず、爆撃の雨が降ることは間違いない。
 敵軍はもう、一人一人の顔が視認できるほど迫っていた。冷徹、冷酷。それらを絵にしたような凍えるような殺気と眼が辺りに満ち満ちる。しかしそれに動じず、クレアは不敵に笑うだけ。
「オブリビオンとして蘇った者が攻めてくるのは分かる。しかし、あやつらは生前から異国を滅ぼそうとしておったのか。なんとも狭量な神様を信奉しておったようじゃな」
 その瞬間、天使が一斉にクレアを睥睨した。幾万の眼が憎悪と殺意で射殺さんばかりだ。
「そこの羽無し。貴様、今なんと言った」
 天使の一人が氷杖をランスに変じ、クレアに切っ先を向ける。
「なんじゃ、耳も悪いのか?不憫にのう。おぬしらの神様は狭量と言ったのじゃよ。信徒がこれなら主神の底も知れようて」
「ほう。ほう。異教徒の蛮族の分際で」
「飛べない下等種族の穢れた身で」
「不遜にも我らが唯一絶対の神を虚仮に」
「へえ――――」
 ――――接敵。射程距離内に入り
「腐った舌は要らぬと見える!!いいだろう、その四肢捥いで舳先に吊るしてやるわ!!」
 天使が一斉にランスを振り上げクレアへと突撃を仕掛ける。
「おぉ、怖いのう、怖いのう。恐ろしゅうて――――」
 光剣、抜刀。クレアは腰を低く落とし、迎撃の構えを取る。
「――――全機撃墜せねば、安心して夜も寝られぬわ」
 陽光の刃が甲板で輝く。しかし天使たちは鼻で笑った。相手は羽無し。浮かぶことすらできないただの人間。甲板から退けば容易く落伍する。
「殺せ。我らが神の御名の元、異教徒は残らず雲海行きにせよ!!」
 更に三体のクールエンジェルが飛び掛かり、クレアと斬り結び始める。怒りを隠そうともしない突進。激しい剣戟が飛び交う。
 ―――しかし何体かは距離を取った。敵前逃亡? 否―――ほくそ笑む。
(腕を二本しか持たない羽無しに、果たして幾万の氷が防げるか?)
 サブゼロ・ジャッジメント―――発動。クレアがいるガレオン船に向かってダウンバーストがまっすぐ放たれる。その数、百余。クレアは避けない。猛攻を凌ぐので精一杯で矢を見る余裕もない。
(獲った!)
 しかし、バーストはあらぬ方向に曲がった。
 空中に打ち上げられた小型機械へと真っ直ぐ吸い寄せられていく。
「?!」
「どうしたの?不調?林檎に当てるより簡単だと思うけど」
 天使の驚愕に応えるのは、くすくす 小さな笑い声。見下ろせば、小さな妖狐が小馬鹿にするように天使を見上げていた。
「そんなんじゃ天使様(キューピッド)の名折れだよ。廃業したら?」
「ちょうどいい。狐毛皮のコートが欲しかったところだ。お前たち、狩りの時間だ。何の妖術かは知らんが、仔狐一匹で贖える魔力なぞたかが知れてる。数で押せ。持久戦に持ち込め。利はこちらにあり!!」
「……ふーん。よーし、今回もレギオンガジェット、行ってみよう! …えいっ!」
 ガジェットが蒸気を上げる。と、同時に彼女の周りから五百を超える小機械群が宙に浮き出た。
 ユーベルコード発動 レギオンガジェット。
 その効果は小型戦闘用ガジェットを多数召喚する。…それだけだ。
「オブリ解析…バール先生、あいつを止めるよ!」
 ――――彼女がただの妖術遣いであれば。
「せー、のっ」
 合図と共にガジェット群から一斉に閃光弾が放たれる。それはか細い灯に酷似しており、天使たちは思い出す―――そう、あんな狐火を見たことがある。実は狐人の集落が帝国にひっそりと存在していたのだ。神隠しで帝国領に来た彼奴らは、龍脈なるものがないと生きられないとほざき、不法にも神聖なる帝国領に巣食ったのだ。獣とヒトが交わった穢れた血の分際でだ。だから集落ごと焼き払って民族浄化してやった。
 あの時の狐人もこんなか細い狐火しか出せなかった。天使たちに愉悦の笑みが浮かぶ―――また蹂躙してやろう。
「氷矢を一斉斉射しろ。妖術で逸らし続けるにも限界がある。すぐに魔力が尽きるはずだ」
「ハッ」
 天使たちが氷矢を広域に放つ。朝燈に。クレアに。そして船団に。
 そのどれもが正確に狙ったはずなのに、何故か途中で軌道変更し、狐火(閃光弾)に吸い込まれていった。放った氷矢の数は百。狙い通りの着弾は……無い。
「焦るな。こんな大技五分と持つはずもない。第二射、放て」
「ハッ」
 また、狐火(閃光弾)に吸い込まれていく。
「ほう?意外と粘るな。第三射」
「ハッ」
 また、狐火(閃光弾)に吸い込まれていく。
「さすがにトドメであろうな。第四射」
「ハッ」
 また、狐火(閃光弾)に吸い込まれていく。
 朝燈はガジェットの上で悠々と微笑む。その顔に―――疲労の色はない。
「………?!」
 さすがに―――おかしい!
「待てッ…どういうことだ…?!狐人…貴様、何をした…?!」
「何、って。ただの囮弾(フレア)だよ。知らないの?遅れてるー。UDCだったら普通にありふれた技術なんだけど」
「ふれ…?」
「ああ、ごめーん。排除するしかできない自国至上主義者が、他世界の技術なんて知ってるはずないよねー。難しい言葉使ってごめんねー」
「このクソメスガキ…ッ!」
 フレア。いわゆる『ミサイル逸らし』。朝燈は戦闘開始からの短時間で天使の魔力を解析し、氷矢に対応するようプログラムを組み、元々あったフレア機能にインストールしただけに過ぎない。
 つまり自前の魔力はほとんど動かしていない。強いて言えば燃料と電力を食うが、依頼先がブルーアルカディアと知った時点で太陽光発電に改造済みだ。
「魔力(バッテリー)切らしたいなら、太陽を撃ち落としなよ。
 氷の矢でできるものなら、ね」
 高宮朝燈。ただの妖術遣いに非ず。機工に優れた電脳魔術師である。
「クレアさん!氷矢(遠距離)は全部私が受け持つ!あなたはあなたの戦いをお願い!」
「託された。―――して、蓮殿。聞こえているじゃろう」
『どうしたクレア先生。わたしのドグラ・マグラ朗読が聞きたくなったのかい?』
 グリモア猟兵・蓮の賑やかな声がクレアの鼓膜を揺らす。最後尾飛行艇から魔術で声を飛ばしているらしい。
「頼みがあっての。ここ一帯から船団を引かせるよう指示を出してほしいのじゃ。他猟兵ともこうやって回線を繋げておるのであろ?」
『もちろん。何分退かせてほしい?』
「十五分で構わんよ。雲海に落ちてしまう天使核があるのはちともったいないが、この際仕方があるまい」
『大技宣言か!大きく出たなぁ!見たとこ五百近い敵がいるみたいだけど?』
「これでも小さく出たぞ。十五分あれば千仕留める策を考えられるじゃろう?」
『これだから軍人はおっかない。時間稼ぎ、わたしの花精(使い魔)を貸そうか』
「それには及ばず。おぬしの花姫は非戦闘員なんじゃろう?まだ彼女らが散る季節には遠かろうて。大切にしておやり」
『……すまん。恩に着る』
「なんの。これでも年の功だけはある退役軍人(ロートル)じゃ。心配召されるな、この程度の戦況いくらでもやりようはあるのじゃよ、大魔女殿。
 ―――のう、ひよっこ軍人ども。遠慮せずかかってこい。わしの胸を貸してやる」
 後半は声を張り上げ、天使へと。しかし天使たちは遠巻きにクレアを見ていた。警戒深く、固唾を飲んでいた。蓮との通話を親切に待ってやったわけではない。
 クレアに特攻した者は皆、彼女に斬って捨てられたのだ。故に警戒をしていた。
「やれやれ…臆病風に吹かれたか。一人前なのは啖呵だけ、どうせ此度の侵攻も童の癇癪のようなものじゃろ?」
 時間稼ぎのために挑発を仕掛けた。特攻するかと思ったが、意外にも応(いら)えは返る。
「この地を浄化するためだ。畏れ多くも我らが神を否定する悪魔を根こそぎ地獄に送る。見ろ―――見なさいよ、私のこの羽を!!」
 天使は羽を広げた。宝石のように煌びやかな羽が陽光に当たり、辺り一帯を照らした。クールエンジェルはもう冷静な顔なぞかなぐり捨てていた。
「美しいでしょう?こんなにも綺麗なのは神が御自らお造りになられたからよ!地面の上這って見上げるしか能がないくせに、どうして劣等種が優性種(私たち)の言うことを聞かないの?!私たちの美しさこそ神がいる証なのに、なんでそんな簡単なこともわからないの!!
 私は神に愛されてるのよ?そんな私に刃向かうなんて神に爪立てると同じだわ!」
「…神に愛されているから、己に逆らう者は殺しても構わぬ と」
「当たり前じゃない!私は神の似姿!私の望みは神の望み!私こそが神の代弁者なのよ!!他に何の証拠がいるっていうの!?」
「いや。―――もう何も言わなくて良い」
 クレアの剣が揺らいだ。
「…高みから見下すだけのおぬしには一生わからんであろうな。人(わし)らがどんな思いでたった一つの技を磨いておるのかを」
「はぁ?」
「数に頼っておるようじゃが、民のところになど行かせはせぬ。オブリビオンへと堕ちたその身、再び骸の海へと還してやろう。――――蓮殿」
『退避完了!ぶっ放していいぜ!』
 蓮の声と共に、クレアは光剣を振る。
「――――堕ちよ」
 天使は片翼になった。
「え―――」
 光剣の斬撃が伸びていた。目算、射程1km。そしてそのまま振れば、多くの天使たちが文字通り撫で斬られていく。斬られた天使は片翼でなんとかバランスを取り、クレアを睨む。
「なんで…なんで私が堕ちてんのよ…!おのれ異教徒どもめ…悪魔の術に手を染めるとは穢らわしい…!」
「いいや。人の技じゃよ」
 片翼も落とした。
「おぬしはどこにでもいる只人の矜持に敗れるのじゃ。おぬしが今まで踏み躙ってきたモノにな」
 光芒一閃。その驕りを断ち切った。

 ――――十五分後。宣言通り、天使は一掃されていた。甲板にはクレアと朝燈しかいない。
「朝燈殿。観測手を頼んでも構わぬか?」
「それは構わないけど…今のとこ敵はいないよ」
「これから敵母艦に光弓を撃つ。何を企み、かような陽動を行っているのかは分からぬが、その動きを牽制することはできよう」
「無茶するね。弓の有効射程は?」
「100kmじゃが足りるかの?」
「……相手に同情するよ。射程に問題はないけど、クレアさん結構疲れてるんじゃない?さすがに一息入れた方が…」
「いいや。この空域に天使が一体もおらぬ今の内にやった方が良い」
 クレアは緩やかに首を振り、自らの耳に…否、耳に付けた通信機に手を当てた。
「―――聞こえるか、イングリット殿。これより母艦に反攻する。こっちの空域に天使を一匹も通さぬようにしてほしい」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

高宮・朝燈(サポート)
『オブリ解析…バール先生、あいつを止めるよ!』
 妖狐のガジェッティア×電脳魔術士、9歳のませたガキです。
 普段の口調は「ちょっとだけメスガキ(私、あなた、~さん、だね、だよ、だよね、なのかな? )」、機嫌が悪いと「朝燈スーパードライ(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。

 ユーベルコードは、レギオン>お料理の時間>その他と言った感じです。レギオンで出てくるガジェットはお任せします。補助的な役割を好みますが、多少の怪我は厭いません。オブリは小馬鹿にしますが、味方には人懐っこくなります。なお、エンパイアの上越辺りに母方の実家の神社があります。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●主よ、人の望みの喜びよ
イングリット・イングラム(聖霊騎士・f35779)



「―――侵入阻害ですね。はい、承りました」
 イングリットは耳につけた通信機を押さえつつ、愛馬の手綱を引く。
「母艦を叩けば敵将が出てくると思いますが、その後はどうしますか?」
『相手の出方次第じゃの』
「わかりました。では桜學府教導に花丸を貰えるように頑張りましょう。
 ご安心を。蟻一匹通しません」
『これは頼もしい。では聖騎士殿のお手並み拝見じゃ』
 呵々とした笑い声と共に通信は途切れた。
「さて、オーダーはクレアさんの元に誰も行かせないようにすることでしたね。と、なると…」
 イングリットは自らの愛馬に跨り、戦場を見渡した。どこでも猟兵が天使と戦い、次々と撃滅していく。乱戦に次ぐ乱戦。しかし天使の内、何隊かが浮足立って戦場を離れていく。―――おそらく敵母艦が強襲を受けた報告が入ったのだろう。弾道からクレアの位置も割れたに違いない。
 イングリットは聖霊装を剣に変じ聖霊馬を駆けさせ天使の前に立ち塞がれば、天使は彼女目掛けて氷でできた剣を振るう。剣戟。鋭い音が蒼穹に響き、天使の袈裟斬りを真っ向から受け止めた。
「行かせませんよ」
「邪魔だ!退け!!」
「お断りします」
 更に剣と剣が交わり、火花が散る。至近距離。天使は低く囁く。
「後で殺してやるから行儀よく待ってるんだな、異教徒」
「異教徒の殲滅を掲げる一方で、世界の敵たるオブリビオンに堕ちた貴方達の存在は認めたまま――貴方達の神は、御自身の信徒には随分と寛容なのですね」
「……何が言いたい」
「いえ、ひょっとすると、その神すらも島ごとオブリビオンへと堕ちてしまったのでしょうか と思って」
「――――――――――」
 冷えた殺気が辺り一面に漂った。
 天使は背筋が凍るほどの殺意を漲らせイングリットを見据えた。
「殺す」
 たった一言。天使は宙返りで高く高く跳び上がり、天使の輪を輝かせた。すると、イングリットの周りから氷の竜巻(ダウンバースト)が巻き上がり、彼女を直撃する。イングリットは為す術もなくその氷の竜巻に飲まれた。
「ふ――――」
 サブゼロ・ジャッジメント。猟兵であろうと極大ダメージを与えるクールエンジェル族の必殺奥義である。眼下では氷の竜巻がイングリットを呑み込み、天高く渦巻いていた。あの竜巻の中では氷の礫に体を打たれ、斬風に身を細切れにされているだろう。天使は憎悪に歪んだ笑みで高笑い。
「ふは、あは、はははははははは!!猟兵何するものぞ!!見たか、これが我らの力だ!!我らこそ神に最も近き者。神に造られし者。なれば、この力こそが、ライエル神が下賜(くだ)した神威!!神を貶める不浄の口なぞ、凍り果てるがいい!!」
「――――凍る?」
「は――――」
 高笑いをしていた天使の横。疾風の如き矢が放たれ、横にいた天使を貫いた。驚愕の表情のまま、彼女の身体は氷のように砕かれ、堕ちた。
「なっ…?!」
 竜巻が晴れたそこには、光の楯でできた結界に護られ、弓に矢を番えたイングリットがいた。その身体に、傷はない。
「私の領地・ノルトの方が遥かに寒く、鋭く、厳しい冬(こおり)。この程度の凍気では足を止めることもできませんよ。
 我が神の威光は正道を征く者に照らされるのだから」
「この世で神はただ御一柱・ライエルのみだ!!貴様もあの少女母神などという悪魔に騙されるのか!!救いようがないほど愚かな…!」
「いいえ。私の神は少女母神ではありませんよ」
「…? では何故、貴様はアンカンシエルの異教徒どもに加担する」
「……………」
 イングリットは静かに佇んでいた。
「……いかなる神を奉じていようが、死んでいい理由にはならないからですよ。
 あなたはそんなこともわからないのですか」
 イングリットから黄金の燐光(輝き)が溢れ出す。それは後光となり天使たちの目を眩ませた。
「いずれにしろ、我が神は貴方達のような存在を認めたりはしません。
 等しく、骸の海へと還します」
 ―――ユーベルコード起動 神の加護 『発現』。
 空に雷雲が立ち込め嵐が巻き起こり―――それは天を突く防壁となった。
「突破できるものなら突破してみるがいい。クレアさんの元には蟻一匹向かわせません」
「なんだこれは…!?」
「ええい邪教め!!雲も雷もライエル神の所有物だというのに、なんと不敬な!!」
「無理にでも突破しろ!!母艦が強襲を受けてるんだぞ!」
 天使たちは雷雲と嵐にまかれながらも、なんとか結界内へと飛び込む。しかしやはりイングリットが立ち塞がる。
 この嵐の中、彼女だけは一糸の乱れもなく静かに凪いだ瞳で天使たちを見下ろしていた。
「我が神よ。御身の神威、拝借願い奉る」
 す、とイングリットがを視線を向ければ、天使の一体が雷に打たれた。
「な…何故…?なんだ、これは…?!」
 ―――我らこそ神に最も近き者。神に造られし者。なれば、この力こそが、ライエル神が下賜(くだ)した神威。
(そうだ。そのはずだ)
 では何故 この女に自分たちの神威が通じない?!
「み―――認めない…!」
 また一人、天使が雷に打たれて落ちる。あたかもそれは神罰。まるで、彼女こそが神の寵愛と神威を授かった"天子"であるかのような―――
「私は正しいんだ!!私たち神こそが!!それだけが!!唯一絶対の正義だ!!」
「"それだけ"が正義、ですか」
 イングリットが矢を番えた。
「助けを求める民がいる限り、それに応えるが騎士―――大義を見失ったあなたたちに負けるわけにはいきません」
「民?民だと?!下等種族なぞ放っておけば増える!顧みる価値もないわ!」
 自分たちこそが神に愛されし者。自分たちこそが神の似姿。神の代弁者。
 その、はずだ。
「我が神は貴方達のような存在を認めたりはしないでしょう。
 そして私もまた、貴方を認めない」
 じゃあ―――これはなんだ!!
「な―――何者だお前は…なんなんだ…!?」
「我が名はイングリット・イングラム。ノルトが守護者にして騎士。他の肩書はありません。
 私の道を示すのに、神も天も必要ない。ただこの心さえあればいいのですから」
 そして矢が天使を撃ち抜いた。
 真っ直ぐと。あたかも彼女の心を表したかのような軌道だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アレクシア・アークライト

翼が御自慢のようだけど、
私から見たら、翼を広げなきゃ空も飛べない、移動もできない鳥風情ってことになるけどいいのかしらね

閑話休題

《力場》で周囲の空間に干渉して自身を隠匿しつつ、《領域》を広域に展開して敵の動きを把握

水晶玉みたいなものを配置している奴らがいるわね
《領域》を介してハッキングし、それらから得た情報を元にUCで作戦本部に転移
空間の断裂やUCで破壊する

世界を浄化するために異種族や異教徒を蹂躙する、ね

私も同じだから否定はしないわ
貴方達の神様の教えは素晴らしいものかもしれないし、貴方達の中にだっていい人達がいるかもしれない
でも、貴方達はオブリビオン
その一点をもって私は貴方達を殲滅するわ



●エージェント・アークライトの日常(ルーティンワーク)
アレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)



 蒼穹。あちらこちらで勃発する電撃戦にアレクシアは目を細めた。
「翼が御自慢のようだけど」
 彼女は宙に立っていた。まるでそこに地面があるかの如く。
 天使が一体、アレクシアの隣を通り過ぎていく。
「私から見たら、翼を広げなきゃ空も飛べない、移動もできない鳥風情ってことになるけどいいのかしらね」
 細やかな疑問―――天使たちには大禁句――を投げかけるが、誰も反応しない。
 また一体。天使がふわり、彼女の横をすり抜けていく。
『これは驚いた』
 アレクシアの耳に感嘆の声が届いた。だが辺りを見渡しても誰もいない。アレクシアは僅かに笑みを浮かべる。
「私もいきなり話しかけられて驚いた。ふふ。あなた、グリモア猟兵の蓮ね?最後尾飛空艇にいると聞いたけど…ああ、魔術で声を飛ばすって言ってたわ」
『いかにも。驚かせて悪かったな。次は話しかけるよと言いながらいきなり話しかけることにしよう』
「それじゃ意味ないわよ。人を喰ったような魔女ね。まるで物語から出てきたみたい」
『実に正しい。魔女は人喰いだと相場が決まっているからね。
 そういう君は物語以上の超能力者だ、アレクシア。いや本当に驚いている。ここまで器用な超能力者はおよそ三百年ぶりにお目にかかった』
 また一体、アレクシアの横を天使が通り過ぎていった。攻撃はない。
 彼女だけ透明人間になったかの如くだ。
『呆れた離れ業だ。周囲の空間に干渉して君自身を隠匿してるんだろう?』
 蓮の言葉通り、よくよく見ればアレクシアには薄い膜のようなものが覆っている。
「ご名答。よくわかったわね。魔女(あなた)の専門外なのに」
『ああ。以前、超能力者の脳味噌を掻き混ぜたことがあってね。物理的に齧った程度の知識はあるよ。ふぅむ……敵の神経を直接ハッキングして認識阻害をしてるのか?それもご丁寧にわたしの"目"は遮断せず?……ん。違うな。これは―――概念干渉か!ウッソだろ、どんな脳味噌してるんだ……ねえ、後で君の頭貰っていい?大事に瓶詰めにするからさ』
「どんな最高の脳味噌(マシン)も魂(ガソリン)が無ければ無用の長物なのよ、大魔女さん。ちゃんと働くから勘弁してほしいわね」
『ほうほう?今度はどんな凄技を見せてくれるんだい?』
「あら。もう"見せてるわ”」
 アレクシアが、ス、と手を振れば戦場各地を映し出したモニターが何枚も現れる。天使と戦う猟兵。雲海に落ちていく天使。最後尾飛空艇で目を丸くしている蓮。それら全てが余すことなく映る。
「実は私自身の領域でこの空域を浸食して支配権を握ってたの。変わった動きしてる天使がいるから、蓮にも見てほしくてモニターを具現化したわ。ちょっと待ってね…。あった。ほら、水晶玉みたいなものを配置している奴らがいるでしょ?」
 天使がバスケットボール程の水晶玉を配置してはふわりと離れていく。まるでこそこそと人目を憚るかのような動きだ。
「私、魔術は専門外だけど、何かしらの大魔術の下準備と見てもいいのかしら」
『大正解。よくわかったね。魔力受信して発動するアンテナみたいなものだ。このアンテナ全てを結ぶと巨大陣が現れるのがセオリーだね』
「やっぱり。蓮、とりあえずこのアンテナは片端から壊した方がいいわよ」
『了承した。至急他猟兵を向かわせる。アレクシア、君もアンテナ破壊を―――』
「いいえ。同じ旅団の団員が身を張ってくれてるんだもの、私だって格好つけなくちゃね。それに―――」
 アレクシアの掌からバチリと赤い電光が走った。
「私は私で仕事があるから」

 ―――帝国軍 飛行艇母艦。護衛のクールエンジェル隊が悲鳴を上げていた。
「駄目です!!アンテナ破壊止まりません!!」
「残存アンテナ、四十……いえ、三十八!!」
「少将!!母艦の損傷が酷いです!!このままでは私たち、また…雲海に…」
 クールエンジェルを統括する少将は歯をむき出しに唸る。
「狼狽えるな!!弓兵は一人なんでしょう?つまりそいつさえ潰せばどうとでもなるわ」
「ですが嵐の結界のせいで突破できません!!」
「仕方ないわね。この母艦の護りは必要最低限でいいわ。第三隊から八隊まで出撃。疾く異教徒の首を並べなさい!!」
「ハッ!!」
 指示を出しきって、クールエンジェル少将は椅子に深々と座り直す。
「忌々しいドブネズミどもめ……私たちの手を煩わせるなんて万死に値するわ」
 目を閉じて深い深いため息を付く少将に護衛が口々に慰めた。
「全くです。多神教なぞ秩序無き混沌、正すのが道理なのに」
「先輩の言う通りです。必ずや民族浄化を果たし、世界を清潔にしましょうね、少将」
「ライエル神の御威光がある以上、この戦争は我らに義があります。あともう少しですよ」
「ええ。もう少しで終わるわ。あなたたちの首を並べることでね」
 ―――― 一拍 逡巡。
「…!?」
 少将は椅子を蹴って跳び退った。直後、椅子が音もなく半分に削られ、ごとりと床に倒れる。斬撃ではない。まるで急に産まれた空間の断裂が椅子を半分飲み込んだかのような………
「貴方だけが私のことを未確認……ってね」
 気が付いたら、赤髪の女が部屋の中央にいた。羽無しの人間。ドアを開けた形跡はない。
 最初からそこにいたかのように女はいた。
「おのれ、猟兵め…ッ」
 クールエンジェルの護衛は首だけとなり、丁寧に絨毯の上に並べられていた。
「貴様、どうやってここに…」
「さあ?考えてみたらどうかしら。答え合わせはしないけど」
 ――――あの後。
 アレクシアは水晶玉(アンテナ)の情報を解析しハッキングし、敵母艦の位置を割り出し、移動転移(テレポート)で飛んだ。
 ただ"それだけ"だ。
「世界を浄化するために異種族や異教徒を蹂躙する、ね」
 アレクシアは少将を眺めながら淡々と呟いた。その瞳には崇敬もなければ賞賛もない。少将は吼えた。
「ハッ 貴様も私を糾弾するのか?世界浄化のために異教徒を殺すのは間違ってるって?救いようがない頭の悪さね。多神教なんておぞましい混沌ってことが何故わからないの?善も正義も一つに統一されていない無秩序なんて争いの温床だわ!!だから唯一絶対の正義たる絶対神教に従わない者に罰を与える!!それの何がいけないの!!」
「いいえ?私も同じだから否定はしないわ」
 意外にも返ってきたのは賛同だった。
「貴方達の神様の教えは素晴らしいものかもしれないし、貴方達の中にだっていい人達がいるかもしれない」
「じゃあ―――なんで―――」
「でも、貴方達はオブリビオン
 その一点をもって私は貴方達を殲滅するわ。だってそれが私の仕事だもの」
「なっ…仕事…だと…?!そんな理由で…?!」
「あなたが蹂躙した命も同じことを言ったでしょうね。因果応報、懺悔なさい。尤も、聞き遂げるのは死神しかいないだろうけど」
 少将が氷の杖を取る。氷術 サブゼロ・ジャッジメントを発動しようとする。しかしそれよりも早く
「はじめましてオブリビオン。そしてさようならよ」
 少将の"背後"に回ったアレクシアの攻撃が、天使核を正確に貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『神聖将軍』エパミオン・ゴルギダス』

POW   :    神聖盾破
【紋章が刻まれた盾】から、戦場全体に「敵味方を識別する【衝撃波】」を放ち、ダメージと【移動力低下】の状態異常を与える。
SPD   :    寥斜線陣
【重装歩兵達】の霊を召喚する。これは【陣形を組み、連携しながら槍】や【盾】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    斬炎希翔
【飛ぶ斬撃】が命中した部位に【高熱のエネルギー】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●神聖将軍
 クールエンジェル隊は壊滅した。
 それをガレオン船から眺めていた女がいた。
「私の部下が滅んだだと…?!」
 神聖将軍エパミオン・ゴルギダス。天使たちを束ねる将だ。通常彼女の羽は大きすぎて死角を作ってしまうため収納しているが、彼女もまた天使の一人である。
 ――――だった、と言うのが正しいか。
 今はもうただの堕ちたオブリビオンなのだから。
「もういい。私が出る。残ったクールエンジェルを寄り集めろ。者ども仇討ちだ!!異教徒は薄汚い悪魔の術で我らの清廉なる同胞を罠に嵌めた卑劣漢だ!!容赦はするな、必ずや殺すぞ!!」
 仲間のため。部下のため。正義のため。そう謳うはずの彼女の瞳は昏い。
「そうだ。神(私たち)に従わない者は殺すべきだ……」
 薄く、笑った。


***
ボス戦です。
小難しい理屈は全部抜き。神聖将軍はガレオン船と少数の護衛(クールエンジェル)を引き連れて、猟兵の皆さんの前に姿を現します。

さあこの戦況も大詰めを迎えました。彼女を倒すためには猟兵の皆さんの力が必要不可欠、どうか最後までよろしくお願いします!!

神聖将軍は一見まともですが、中身はかなりキマってる狂信者です。神を御旗に掲げれば何しても許されると思ってるし、神国民全員殺すことに悦びを覚えます。
生前はとっても高潔だったんでしょうがオブリビオンになっちゃったのでね…かなしいね…。

次、執筆都合の関係で3/27 8:30からプレイング受付します。それ以前に送られたプレイングは一回流させていただきますので、ご承知おきください。
クレア・フォースフェンサー

よもや、さらに戦いを挑んで来るとはのう。
頭に血が上っているだけならば良いが、なおわしらに勝てると自負しているのならば、並大者の者ではあるまい。
姿や名が分かったなら、蓮殿に話を訊いた方が良いかもしれぬな。

もっとも、こちらとて全ての力を見せたわけではない。
その判断が過ちであったことを教えてやろうぞ。

遠間から光弓で攻撃。
ガレオン船が光剣の間合いに入ったなら、全エネルギーで斬り落とす。

残る光剣は2本。
初めは受けに回り、衝撃波や斬撃波を捌きつつ、実力を測る。
……なるほど確かに、このままでは届かぬな。

身体を完全戦闘形態へと移行。

強く美しき天使殿。
人が磨いた技術と技とをもって、おぬしを骸の海に還そうぞ。


アレクシア・アークライト

神聖で、将軍で、ゴルギダス?
まさか、転生したら美少女天使だった件について、なんて言わないわよね?

閑話休題

敵はほぼ壊滅状態
後は撤退するでしょうから、私達は掃討戦に移行

って思っていたんだけど、そうは行かないようね
メリット、デメリットじゃなく、
正しいか、正しくないかだけで判断する奴らは怖いわ

飛空艇で飛び回られたら面倒
転移して、ハッキング又は機関を破壊
そのまま雲海に落としてあげる
それが無理なら、せめて荒野に不時着させたいわね

《領域》で戦場を把握
敵の攻撃を《力場》で緩和、妨害しつつ、空間の断裂で攻撃

雑魚は任せてもらうわ
私もそれなりに戦えるつもりだけど、
デタラメーズのやりとりに一般人はちょっと、ね


イングリット・イングラム

敵がこちらに向かってくるのなら、望むところです
禍根は全て、ここで断たせてもらいます

敵が逃亡したり、他の街に向かったりしては厄介です
UCの効果範囲内に入ったら、結界を構築
敵を閉じ込め、機動力を削ぎます

神聖盾破は、《聖霊光》を纏わせた剣から斬撃波を放って相殺
相殺しきれずに味方が状態異常を受けたら、《聖霊光》で浄化
斬撃波等で護衛を倒した後にエパミオンと相対します

神の名を掲げなければ何もできない弱き者
全ての罪を神になすりつける卑しき者
私は私の意志でもって貴方を正面から討ち破る

全聖霊力を解放
敵を斬り裂き、貫きます

UC指定
結界術、逃亡阻止
斬撃波、カウンター、浄化
リミッター解除、オーラ防御、切断、串刺し


バルタン・ノーヴェ
POW アドリブ連携歓迎!

アナタがこの襲撃の将軍デスネー!
信じるモノを大事にするのは立派デスガ、相手が信じることを否定するのはノーグッド!
人にはそれぞれの良さがあるのデース!

……対話を断るならば、バトルで雌雄を決するのがベスト!
(真の姿、軍装を纏い冷徹な雰囲気になる)
エパミオン殿。人を害する御身を討伐させていただくであります。

空中戦には装備している滑走靴にて対応。
遠距離武装を構えつつ滑るように空を翔け、衝撃波の起動に合わせてカウンターを行うであります。
グレネードランチャーの爆撃を陽動に、アームドフォードの照準を定め、
「六式武装展開、氷の番!」
エパミオン殿の身体に致命の弾丸を撃ち込むであります。



●ブリキノダンス
クレア・フォースフェンサー(旧認識番号・f09175)
アレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)
イングリット・イングラム(守護騎士・f35779)
バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)



 最前線に飛空艇の群れがあった。数分前まではクールエンジェルの残党も残ってたのだが、猟兵たちが全て撃ち尽くし、そして誰もいなくなった。今は猟兵と、猟兵の足場となるべく飛び回った飛空艇勇士しかいない。
「ふぅ…」
 バルタンは戦闘機に似た小型ガレオン船に腰掛け、コックピット内の操縦士を労った。
「ずっと足場になってくれてありがとうございマス。自前の推力使わずに済んだから、体力温存できマシタ!」
「ッス!お疲れ様ですメイド長!メイド長の役に立てたならオレも嬉しいです!敵もいなくなったし、帰投を―――」
「イエ。ワタシはもうちょっとやることあるので、アナタは先に帰っててくだサイ」
「やること…?」
「ハイ。"賓客"の対応もメイドの仕事デスから。多分そろそろ頃合いデスね」
「? はあ…。えっと……よくわからないけど、とりあえず今上から哨戒指示が降りたのでオレはそろそろ行ってきます。あのっ お仕事頑張ってください!オレ、メイド長のこと、絶対、絶対忘れませんからっ!」
「ワオ!こちらこそありがとうございマス。アナタのガレオノイドサンにもよろしく伝えておいてくだサイ。このガレオン船、とっても良い船デス!」
「ありがとうございます!!あとで奥にいるあいつにも伝えておきます!」
 バルタンが陸空水路対応の滑走靴を発動させふうわりと空中に滑り立てば、ガレオン船は飛空艇群と共に流星のように去っていく。それを見送り、バルタンは小さく呟いた。
「さて。一般人も退避できましたし…あともう一仕事デスね」
「――――そうですね」
 不意に返答があった。声の方を見れば、白馬に跨った騎士然とした女と、小型ガレオン船に乗る女がバルタンの方へと駆け寄るところだった。騎士然とした女が軽く会釈を一つ。
「お初にお目にかかります。私はイングリット・イングラム。此度はグリモア猟兵の蓮さんの要請を受け、神国国防戦へと赴いた猟兵です」
「わしはクレア・フォースフェンサー。桜學府やUDCのセンセイというやつじゃな」
「オー!ワタシはバルタン、メイドデース!お二人はもしかしなくてもさっきのド派手な母艦強襲と嵐の結界のコンビデスね。おかげで前線維持とっても楽でシタ!今回、気配り上手サンばかりでワタシとっても大助かりデス!」
 バルタンはふいと何もない虚空を見遣り、ニッコリ笑った。
「もちろんアナタもデスよ。アナタが敵司令官の首を獲りに行ってくれたので、安心して前線維持に専念できマシタ」
「あら」
 空間が漣立てて揺れ、捻じれ……赤髪の女がふわりと現れる。
「私はアレクシア。あなたも超能力者なの?それとも魔女?」
「メイドデスよ。第三空間軸と第四軸の間に僅かな歪みがあったのを目(センサー)が感知したので」
「ああ…クレアの同族ってことね」
 蒼穹に一陣の風が吹く。アレクシアは悠々と足を組み、溜息一つ。
「でも残念ながら面倒なお知らせがあるの。私さっき母艦侵入してきたんだけど、まだ敵がいるみたい。しかも未だにやる気よ。一人で討ち取れればいいけど、もしできなかったら情報抱え落ちだから、ここまで撤退してきたわ」
 それにイングリットたちは頷く。
「ありがとうござますアレクシアさん。戦場において情報が生死を分けますから」
「賓客(ビッグゲスト)がついにお出まし、と。腕が鳴りマスネー!」
「よもや、さらに戦いを挑んで来るとはのう。姿や名が分かったなら、蓮殿に話を訊いた方が良いかもしれぬな」
『はぁい、お呼びになりました?みんなのフェアリーゴッドマザー・蓮ちゃんだよ~』
 蓮の飄々とした声が相変わらず猟兵たちに届く。蓮は立て板に水と言わんばかりに喋り出した。
『アレクシア、視界データの共有ありがとう。間違いない。あいつは神聖将軍ゴルギダス嬢。間違いなく今回の総大将だ。
 テルクシノエやクールエンジェルが搦め手を主体に使うのに対し、彼女は実に王道的な将軍だよ。剣と斬撃波と衝撃波の使い手、白兵戦から遠距離戦まで一通りできる。剣の技量は君たちでも舐めてかかれば死ぬレベルだ』
 蓮の言葉にアレクシアはクスリと笑う。
「神聖で、将軍で、ゴルギダス?まさか、転生したら美少女天使だった件について、なんて言わないわよね?」
「だとしたら女体化が実に不憫じゃの。まあもしかしたら夜な夜な男体化し、同じく男体化した部下と「クレア、ストップ。多分UDCの歴史ネタはバルタンとイングリットに通じないし、私解説するのも嫌よ」
『じゃあわたしが解説するぜ!つまりはベーコンレタスだ!!』
「蓮、飴ちゃんあげるからお口チャックね?」
『OK!蓮、いいこ!飴ちゃん!きゃっきゃ!』
「ええ、いいこ」
 閑話休題。イングリットは会話を戻す。
「敵がこちらに向かってくるのなら、望むところです。禍根は全て、ここで断たせてもらいます」
「イエス。元よりワタシは蓮殿のオーダーで殲滅するだけデスから」
「敵はほぼ壊滅状態。後は撤退するでしょうから、私達は掃討戦に移行……って思っていたんだけど、そうは行かないようね」
「ハイ。確実に敵は死に物狂いで殺しにかかりマス。追い詰められればどんな窮鼠も猫を噛みマスよ。こういう相手の捨て身の一撃が一番厄介デス」
「まったくね。メリット、デメリットじゃなく、正しいか、正しくないかだけで判断する奴らは怖いわ」
 アレクシアの言葉にクレアは片眉を上げて笑う。
「ではこのまま直帰するかえ、団長?」
「冗談。ここで帰ったら残業代が付かないわ」
 それにイングリットが控えめに微笑んだ。
「ではいち早く倒してオフと洒落込みましょうか」
「賛成じゃの。労働後の甘味は一段と美味でな。四人ともどうじゃ?」
「あらいいわね」
「誘ってくださるなら喜んで」
「行きマース!ワタシのお菓子作りの参考にしたいデース!」
『おっ 女子会か?!やったぜ!』
 蓮の言葉にイングリットはおっとりと首を傾げた。
「ジョシカイ?とはなんでしょうか」
『乙女たちが枕と菓子を持ち寄ってきゃいきゃいお話する会のことだよ。正装はパジャマだ。とびっきりの勝負パジャマで来るといい』
「パジャマ…?」
「真面目に受け取っちゃ駄目よ、イングリット。蓮、あなたも冗談言っていい相手くらい見極めなさいって、もー」
『イングリットが可愛いのがいけない。それに誰かがわたしを止めてくれるだろ。ねー、バルタン』
「ふふ、お任せあれー!ワタシは依頼料弾んでくれる雇い主殿大好きデスからね!」
「ま、愉快な会なことは違いないのう」
 乙女たちはころころ笑い、虚空の彼方を見遣る。
 クレアがスゥと目を細めた。
「――――では本日最後の大仕事の時間じゃ。敵も頭に血が上っているだけならば良いが、なおわしらに勝てると自負しているのならば、並大者の者ではあるまい」
 一船のガレオン船と護衛の如く侍るクールエンジェル隊の群れが、まっすぐ猟兵たちに向かってきていた。
「もっとも、こちらとて全ての力を見せたわけではない。
 その判断が過ちであったことを教えてやろうぞ」
「はい。神国民の未来のためにも、この剣に懸けて全て護り通します!」
「イエース!蓮殿のオーダーは鼠一匹も残さないこと。メイドの仕事に手抜かりも落ち度もありまセン」
「ええ。UDCエージェントだって忙しいのよ。これ以上過去に足も時間も取られるわけにはいかないわ」
 彼女たちの雰囲気が引き締まり、戦意が満ちていく。
 まず前に出たのはイングリットとアレクシアだった。
「アレクシアさん、援護を!」
「ええ。雑魚は任せてもらうわ。私もそれなりに戦えるつもりだけど、デタラメーズのやりとりに一般人はちょっと、ね」
「すみません、それは何の冗談ですか?」
『アレクシア、君も冗談言っていい相手くらい見極めろよ、もー』
「あら一本取られた。ふふ、とりあえず誉め言葉として受け取っておくわ」
 その言葉を最後にアレクシアの姿が忽然と消える。しかしイングリットは構わない。愛馬を駆り、ユーベルコード・発現を起動。
「我が神よ。民を、仲間を、世界を護るため、今一度その神威拝借願い奉る」
 四方八方に雷が落ち、雷雲が立ち込めた。雷雲はそのままドーム状の結界となり、猟兵たちと敵をすっぽり包む。ガレオン船から女がゆらりと姿を現した。
「自ら棺桶を作るとは殊勝な心掛けだ」
 神聖将軍 エパミオン・ゴルギダス。淀んだ目で嘲笑を上げる。
「貴様ら猟兵さえいなくなればアンカンシエルの艦隊も烏合の衆!!自ら退路を塞ぐとは愚昧と傲慢の極みよな!!行け、クールエンジェル!!奴らの腸を食いちぎれ!!」
 号令と共にクールエンジェルの群れが一斉に猟兵たちに襲い掛かり、エパミオンは盾を振りかぶる。そして盾に刻まれた禍々しい漆黒の刻印が輝き、呪いの衝撃波を放つ。
「神聖盾破!!」
「させませんよ」
 しかし呪いはイングリットが揮った剣の衝撃波で相殺される。一合、二合、三合―――何度も何度も撃ち合っていく。両者互角。しかし、エパミオンは嫌らしく唇を歪めた。
「―――頃合いか」
 がくん、と。イングリットの腕が急に落ちた。愛馬の足もまるで水中を藻掻いてるかのように鈍る。
「クク…クハハハハハハッ!!英雄気取りの騎士(バカ)がいるとは聞いてたが、まさか本当に真っ正面から飛び込むとはな。敵全員にかかる斬撃を一人で相殺し続けてるんだ。限界が来るに決まってるだろ、馬鹿め!!
 脆い、脆いなあ。神(私たち)に刃向かうからこうも惨めに死ぬんだよ!神は私たちを許してくださる!!だからこそこの強大な力を授けたのだ!!それを理解できないのが貴様の敗因だ、猟兵!」
 バルタンが真っ先にイングリットの傍に寄った。
「イングリットサンの相殺がないと詰みデス。いまワタシが全力で」
「ありがとうございますバルタンさん。ですが騎士の誓いは決して破られません。
 ――――照覧あれ」
 イングリットの体中から光が満ち溢れる。聖霊光。破邪と癒しの力を持つ、イングリットに授けられた力。光が満ちれば彼女の剣の冴えを取り戻す。
「全聖力、解放」
 衝撃波が立て続けに放たれた。エパミオンの護衛天使を切り裂き、貫いた。
「貴様、たった一個人の魔力で私の攻撃を馬鹿正直に相殺し続ける気か?!わ…私は帝国将軍。しかも神より強大な力を授けられてるんだぞ?!」
「だったらなんだというのです。
 神の名を掲げなければ何もできない弱き者。全ての罪を神になすりつける卑しき者。
 私は私の意志でもって貴方を正面から討ち破る」
 イングリットの聖霊光は止まらない。
「お三方、盾の相殺は私にお任せください!貴方たちには傷一つ付けさせません!民も仲間も必ずや護ります!」
「ワオ…! いいでしょう。騎士の誇り、受け取りマシたよイングラム卿!」
「うむ!」
 ガレオン船の上にて、クレアはエパミオンへと光弓を撃つ。エパミオンは舌打ちし剣で薙ぎ払った。
「これに報いねば兵(つわもの)の名が廃るというもの。のう、バルタン殿!」
「イエスマム!回路もショート寸前でフル回転になっちゃいマース!」
「猪口才な…クールエンジェル隊、あの船を落とせ!!」
 エパミオンの号令に天使たちが一斉に氷杖を掲げる。しかし、その動きは鈍い。まるで油が差し切らない機械のようにぎこちない。
「…どうした?何をしている!?おい!!」
「そんなに狼狽えることないじゃない。あなたがしたかったことをそのまま再現してあげただけよ?」
 アレクシアの声がエパミオンの耳に届いた。しかしその姿は見えない。
「な…っ クソ、なんの魔術だ…?!」
「残念。超能力っていうの」
 アレクシアが姿を消した時点で、この戦場は彼女の《領域》となっていた。コンピューターウイルスのように悪質なバグで、彼女の能力因子が徐々に空間を侵食していたのだ。今は敵の攻撃を力場で緩和し、妨害しているのだ。
「可哀想に。貴方だけが私のことを未確認……ってね」
 空間が割れ、断裂が生まれた。それに護衛天使が次々と飲み込まれ、羽を捥がれ、落ちていく。
「おのれ―――ぐっ」
 アレクシアを探し出そうと躍起になっていたエパミオンだったが、そこに弾幕が降り注ぐ。バックステップで避け、羽を広げて飛翔した。
 弾幕の先はメイドが一人。マシンガンの空弾倉を捨てて軽やかに笑っていた。
「アナタがこの襲撃の将軍デスネー!信じるモノを大事にするのは立派デスガ、相手が信じることを否定するのはノーグッド!
 人にはそれぞれの良さがあるのデース!」
「婢女(はしため)風情が神聖なる帝国将を否定するのか?!身の程知らずが、ドブネズミはドブネズミらしく残飯でも漁ってろ!!」
「んー、やっぱりお話通じないデスネ!……対話を断るならば、バトルで雌雄を決するのがベスト!」
 一歩踏み出す。ふわり、足元から影が伸び―――マントのようにバルタンを包む。
「エパミオン殿。人を害する御身を討伐させていただくであります」
 影が晴れれば、バルタンは闇よりも黒い軍装を纏っていた。
 真の姿、解放。陽気なメイドはただの表層。彼女の本質は傭兵である。先程よりもなお苛烈さを増した弾幕がエパミオンを襲う。その姿にクレアは嘆息を一つ。
「隙の無い御仁とは思うていたが。退役軍人(ロートル)の血が騒ぐのう。所属も主(くに)も違えど、"同族"に不甲斐ないところは見せられんわい」
 クレアは光剣の柄に手をかけ。
「―――少なくとも、この程度の不意打ちには負けてられん」
 白刃、閃光。クレアはいつの間にか抜いた剣で、高速で突進してきたエパミオンの剣を受けていた。エパミオンは鋭い眼光でクレアを一瞥。
「最近の若い者はせっかちじゃな」
「呑気な羽無しだ。そんなにのんびりしたいなら今ここで楽隠居させてやるよ。永遠にな」
 エパミオンは剣を鋭く振り下ろす。クレアはそれを凌ぎ、返す―――前に、エパミオンがまた攻める。防戦一方。クレアは臍を噛んだ。
(大将を務めるだけはある。状況判断は正確じゃ)
 エパミオンが近接攻撃に持ち込んだのは、バルタンとクレアの遠距離攻撃を嫌ってのことだろう。しかもここまで高速にクレアに密着すれば、バルタンは撃ち辛くなる。現に弾幕は弱まり、牽制射撃程度しか飛んでこない。
(しかも…純粋に強い…!)
 一振り一振りがまるでギロチンのように分厚く、重い斬撃。全てが明確な死の香りを纏う。それでいてバルタンに撃たれないよう立ち回る。堕ちてもなお技は冴えている。
「……なるほど確かに、このままでは届かぬな」
「諦めるなよ、異教徒。もっと足掻いて私を愉しませろ。そら、そら。次は当たるかもしれんぞ?」
「……………」
「ニオイでわかる。お前、猟兵のくせにユーベルコードとやらが使えないんだろ?
 粋がったところで所詮は羽無し。下等種族には限界があるんだよ。努力なぞするだけ無駄なんだ。虫が努力したところで獅子(わたし)に喰い殺されるのだから」
「……!」
 この戦争が始まって、初めてクレアの顔が変わった。
 ついにガレオン船の端にまで追い詰められる。
「一つ賢くなれてよかったな。ではそのまま死ね」
 そしてクレアに剣を振り下ろし―――――
「真の姿 解放。完全戦闘形態」
 躱された。
「な…?!」
 クレアの膝から下が尖鋭な槍で出来た義足に変じていた。彼女はまるでフィギュアスケーターのように高速でターンを決めたのだ。
「確かにわしはおぬしに比べたら別嬪ではないやもしれぬのう。うむ。実際、羽無しじゃし。ユーベルコードも使えぬ。結局わしはちゃんばらしか能がない悪餓鬼(バラガキ)よ。何も言い返せんわ」
 そのスピードのままエパミオンの死角に回り込む。
「じゃが『下等種族だからといって努力が無駄』の妄言だけは許さん。
 それはわしへの、わしの生徒への、そして生に向かう全ての命への否定ぞ」
 ――――非ユーベルコード 鍛え抜かれた技。
 ただ斬るだけの一振り。しかし達人の領域に至ったそれは霊魂すらも―――
「強く美しき天使殿。
 人が磨いた技術と技とをもって、おぬしを骸の海に還そうぞ」
 エパミオンの胸から腹にかけて、袈裟斬りに斬り捨てた。
「は…?」
 ――――なぜ、自分がこんな下等種族に追いやられている?
 苦痛よりも屈辱よりも湧き上がる呆然自失。しかしその隙を
「見逃すほど我輩は甘い戦場で育っておりませんので」
 バルタンが再びグレネードランチャーで弾幕を張った。発砲。エパミオンは舌打ちでそれら全てを衝撃波で打ち消す。爆風が巻き上がった。
「一太刀浴びせた程度で良い気になりおって―――随分と舐められたものだな、この程度で私を落とせるはずがないだろう!!」
「でしょうね」
 爆風の向こう。アームドフォードの照準を定めたバルタンがいた。
「貴殿は優秀な将です。ですので、必ずや全弾撃ち落とすと信じておりました。
 エパミオン殿。上位種族と誇るのは結構ですが、太陽に近づきすぎた天使は羽を溶かされたのですよ」
 そして
「六式武装展開、氷の番!」
 エパミオンの身体に致命の弾丸が撃ち込まれた。
「ガ、あ、ぁあああぁあああぁああああッ!!!!!!!!!!」
 エパミオンの身体が、羽が、氷に覆われていく。否―――血液が凍結することで、血管ごと氷の棘に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなっているのだ。
「み、認めない認めるものかぁああ!!!クールエンジェル隊!!何をやってるんだ!!私を助けろ!!」
「―――――誰もいませんよ」
 イングリットの凛とした声が響いた。彼女は愛馬に跨り、上空からただただ静かにエパミオンを見下ろす。
「神や部下のためを大義名分に立ったのに、自らの言葉で裏切るのならば、貴方はもう将ですらない。
 彼女たちがいなくなっていたことにすら、気付かなかったのですか」
 イングリットは護衛天使の全てを薙いだ。護るのが己の役目と定め、それを忠実に果たしたのだ。
「貴方に壊せるものは何もありません。ですが、剣を取りなさい。それが貴方に尽くした部下への礼です。
 将として一騎打ちを申し込むなら、私は応じましょう」
「羽無しが私を見下ろすなぁああああああッ!!」
 吼えたエパミオンは剣を捨て、真っ直ぐ自らのガレオン船へと翔けた。
(これで体勢を整える。帝国本国に帰ればまた戦力は補充できる…!)
 致死の弾丸を受け、翼は凍る。それでもガレオン船にはなんとか辿り着ける。ガレオン船で結界を無理に突破さえすれば、この屈辱も仕切り直しだ。エパミオンは片頬で笑う。
「貴様らの顔、覚えたぞ!!異教徒どもに呪いあれ!!どんな善行も間に合わない!私に刃向かった以上貴様らは地獄逝き、虫のように死ぬだけだ!!」
「あら」
 アレクシアの声がどこからか響いた。
「善行にも締め切りがあったの?知らなかったわ、あなたの神様ってお役所勤めなのね」
 エパミオンの目の前で、ガレオン船が爆発した。
「今度は期日前に書類申請するからよろしくって神様に伝えておいてくれる?
 別にいいわよね?これから同じところに行くんだもの」
 ぐらり、エパミオンの翼が止まる。
「私が ただしい のに――――」
 その一言を残し、彼女は雲海に沈んだ。

***

 そして再び蒼穹に平穏が戻った。エパミオン討伐の報が伝わったのだろう、遠くから快哉が聞こえる。
 イングリットは武装を解いて、空中で足を組むアレクシアを見遣る。
「お疲れさまです、アレクシアさん。ガレオン船の細工、大変だったでしょう」
「イングリットが呪いを一手に引き受けてくれたおかげよ。あのガレオン船、潰しておいてよかったわ。逃げられてたらちょっと面倒だったもの。獣も敵も手負いの方が厄介なのよ」
 こともなげに笑うアレクシアに、真の姿を解いたバルタンとクレアが大きく伸びをする。
「いやー、皆さんお疲れさまデース!五体満足無事デス?無事。よし、ではこれを以てオーダー完遂デスね!
 ――――というわけデス、蓮殿。バルタン・ノーヴェのご愛顧誠にありがとうございます。次のご利用をお待ちしてマース!」
『ああ。ありがとう!敵影はいないね、文字通り鼠一匹見えない!いやあ、ほんとうにみんなありがとうありがとう!これで任務終了だよ!
 ……ところでだな、終わったんだし…』
「わかっておる。約束の甘味処での女子会じゃな?」 
『ひゃほー!!待ってました!』


 彼女たちは羽を持たずとも、共に歩む道を知っている。



(了)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年03月31日


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#ブルーアルカディア
#屍人帝国の逆襲


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
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 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はピオネルスカヤ・リャザノフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト