殲神封神大戦⑱~みんなこわれていく
●封神武侠界にて
そこは広大な書庫だった。
しかし、室内に備えられた書架の規模に比べれば、矮小であった。
そう、この有限の書庫にあるのは無限の書架。そこに集積されているのは森羅万象の知識と真理。すべて読破すれば、神をも超えられるかもしれない。
もっとも、誰であろうと読破どころか一頁も……いや、一字も読むことはできないはずだ。
書物を手に取る前に――、
「え゛う゛う゛え゛……」
「あ゛い゜お゛う゛……」
「え゛ぇ゜ん゜あ゛あ゛……」
――彼らと同じ運命を辿ってしまうから。
嗚咽とも喘鳴ともつかぬ不気味な声をあげている『彼ら』は半透明の髑髏。青白い尾を引いて、人魂のように書庫内を飛び回っている。
それはとても異様な光景だった。
だが、まだ序の口だ。
もうすぐ、やってくる。
『異様』というレベルを軽く振り切る者たちが……。
●グリモアベースにて
「本日のおやつは、具がぎぃ~~~っしり詰まった中華まんだぜ!」
伊達姿のケットシーが猟兵たちの前で特大サイズの肉包にかじりついた。
グリモア猟兵のJJことジャスパー・ジャンブルジョルトである。
肉包をものの数秒でたいらげると、ニンニク臭い息を吐きながら、JJは本題に入った。
「ただいま、封神武侠界は大戦乱の真っ最中! ……なんてこたぁ、言わなくても知ってるよな? で、おまえさんたちにも戦場の一つに赴いてもらいたいわけよ。その戦場ってのは三皇『伏羲』の祠だ」
封神武侠界の文化の祖とされる伏羲はまだオブリビオンとして蘇ってはいない。
しかし、主がいなくとも、その祠は脅威である。
恐ろしい魔力に満たされているのだから。
「伏羲の祠には無限の書架ってのがあってな。そこに収められた膨大な知識は、理性ある存在を知識中毒な状態にして脳を破壊――つまり、パッパラパーにしちまうんだとさ。しかも、そうやってパッパラパーにされたオブリオビンどもがうようよ蠢いてやがるってんだから、始末に負えねえや」
その『始末に負えねえ』オブリビオンたちを始末するのが今回の任務。
オブリビオンたちは群れをなしているが、個々の力はたかが知れている。しかし、問題は戦場の環境だ。無限の書架に『会話や文字を操る者』と見做されてしまったら、JJが言うところの『パッパラパー』にされてしまう。
「だから、戦闘の際には言葉を発しちゃダメだし、文字を書いてもダメだ。仲間との意思疎通は身振り手振りとかでやってくれ。いや、待てよ……」
珍しく真面目な顔で考え込むJJ。
ややあって、彼は再び口を開いた。
「ものすごいバカの振りをすれば、ちょっとくらい言葉を発しても書架に目をつけられないかもしれないな。いいか、『バカ』でもなければ、『すごいバカ』でもなく、『ものすごいバカ』だかんな? 俺みたいに骨の髄までシリアスなキャラにはとても無理だが、おまえさんたちなら上手く演じられるかもしれない。演じるまでもなく、素でいける奴もいるんじゃね?」
何人かの猟兵が拳を強く握りしめた。目の前にいる『骨の髄までシリアス』なケットシーを殴りたいという衝動を抑えるために。
「とにかく、頼んだぜ! 世界の命運はおまえさんたちのバカっぷりにかかっているんだ!」
大袈裟な言葉で猟兵を送り出すJJであった。
土師三良
土師三良(はじ・さぶろう)です。
このシナリオは1章で完結する戦争シナリオです。執筆ペースはゆっくりめなので(おそらく、リプレイが完結するのは終戦後)、スピードを重視されるかたはご注意ください。
●戦闘とプレイングボーナス
三皇『伏羲』の祠に巣くっている怨霊『冰灵』たちとの集団戦です。
「言葉と文字を使用せずに戦う」もしくは「ものすごいバカになる」という要素をプレイングに盛り込むと、プレイングボーナスがつきます。
「ものすごいバカになる」という要素をプレイングに盛り込むと、プレイングボーナスがつきます。二度言ってみました。
念のためにもう一度。「むぉんのすっごいバ~カになっちゃう~ん」という要素をプレイングに盛り込むと、プレイングボーナスがつきますですよー。
言葉や文字を使うと脳を焼かれちゃいますが、バカな振りしている状態なら何か言っても大丈夫です(でも、賢そうなこと言っちゃうとバレるかもしれないので注意しましょう)。
それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『冰灵』
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POW : 霊障
【冷気】を籠めた【すり抜ける体当たり】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【体温と精神と知能】のみを攻撃する。
SPD : 迷遊
自身の【数が10倍】になり、【何も考えずに飛ぶ】事で回避率が10倍になり、レベル×5km/hの飛翔能力を得る。
WIZ : 憑依
骸魂【となって、対象】と合体し、一時的にオブリビオン化する。強力だが毎秒自身の【魂】を消費し、無くなると眠る。
👑11
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馬飼家・ヤング
うわ、何かめっちゃ寒そうな敵出てきたやん
……さっむ!今体ン中ぞぞぞって来た!(ブルブルブル)
ああ、ここは何か言うたらあかん部屋やった
叫び声を喉の奥で飲み込んで、こういう時はアレや
わいもナニワの食い倒れ番長
しこたま食うて脂肪燃焼でホットホット!!
フグ型非常食バッグから無限に出てくる串カツにハムにフライドチキン!
わいアホやから今回はソースも遠慮なく二度漬けしたるでー!
ああ、燃焼系ゆーたら油(オイル)も欠かせへん
アメリカ名物フライドバター!
10段重ねバーガーにピザも追加で!
野菜不足?トマトケチャップかけたらほら野菜!
お肉パワァが腹ン中溜まってきたやろー
バカウケ・バーニング・ファイヤー!!
クリュサオル・ロードナイト
人格:R
「てか『冰灵』って何て読むんだよ!!(キレぎみ)」←本日唯一の台詞
(っと、うっかり「かかって来い」だの「殺す」だのと口走って知性有る者扱いされては大変。精神を破壊されるとかそれパッパラパーどころか生ける屍じゃん。
そうなる前に、喋れない状態になってから戦いを挑もう。
という訳で、現場でまず最初に取る行動は、脊髄反射で手近にある物を取り、口の中に押し込んで)
(丁度いい厚さの本もぐもぐ)←ものすごいバカアピールのつもり
(あとは無言でUC発動してひたすら ゴ リ 押 す)←ものすごいバカアピールのつもりその2
(お前もやれとばかりに敵の口にも本を押し込んでみたり。勿論読まない)←もの(略)その3
ティナ・ルウ
……がうっ!(思い切り敵に牙で噛み付いたり、爪で引っ掻いたりします)
普段から四つ脚で行動し、吠えたり唸り声を上げて威嚇する、好きな相手にじゃれ付くなど、思考や行動がかなり獣に近いのですが、さらに獣の本能に忠実に行動します。
……ペロペロ(他の猟兵が怪我したら傷をなめて治してあげます)
木元・祭莉
ものすっごいバカのフリかー。
おいらには、むずかしそうだなぁ。
JJも骨までシリアルだと難しいって言ってたしなー?
ん-とん-と。
まず、靴を手で履いてっと。
逆立ちしてぴょいぴょい移動することにしよっかな!
だいじょぶだいじょぶ、空中戦の宙返りの連続ワザみたいなモンだよね!
疲れたら、蛙飛びも混ぜていいんだよ。うん、憑かれたらね♪
もう、ウサギ飛びも混ぜちゃおかな♪
にぱり笑顔で尻尾と耳もひょこひょこ揺らしてね。
で。いい距離まで近付いたら。
腰に携えたミニスピーカー通して、父ちゃん直伝の謎歌を歌ってあげよう!
なんだかね、コレ聞くと敵が倒れるんだよねー?
きっと美声に聞き惚れちゃうんだろうな♪
そぉれい、ぼえぇぇ~♪
香神乃・饗
鳴北・誉人f02030こと誉人の腰に剣先イカを括り付ける(2対)ひーらきーっす!
スでイケるっすか
天然の見せ所。非常に重度の天然、話が通じている様で斜め四十五度にズレる、フェイントをかけていく
返事や相槌は調味料の名前を答えて応答するっす!――おろしポン酢っす!
用意した調味料を出すっす、でもきっと違う調味料っす
自分の脚に躓いて転びかけるっす!こんがらがってることに気付かずよたよたしながら歩くっす!
最後は面倒臭くて転がってるっす!ポーンっす!
よくわかっていないうちに武器が増えてて、ふよふよしてるっす
きっと勝手に跳んでいくっす!適当な放射線を描いて、何処かに刺さるんじゃないっすか。そこら辺の敵とかに
鳴北・誉人
饗(f00169)と
(むぉんのすっごいバ~カになっちゃう~んってJJサンが言ってた)
バカ…に、なる
バカ…
よし!俺はバカだァ!!(自己申告)
「これはァ、俺のォ、剣かァ?」
じっくりと手に持ったソレを見つめてみせる
腰から引っこ抜いてきたけれど
剣かなァ?
あれェ?
こォんな剣だったかなァ??
(むろん剣にあらず、剣先イカの干物だ!当然バカになってるので気づかない!ということにしておいてほしい)
あとで炙って食ってイーカー!?(人狼咆哮をかます、🦑ガチ勢本領発揮)
しょーゆゥ
マヨー
饗がなんか言ってるのを真似
イカに合う調味料を言いまくる
いちみ!イーカー!いちみ!
(つーか、バカってどうしたらいいンかわかんねえわ!)
●ある怨霊の視点
私は『冰灵』と呼ばれる怨霊。太古の昔から他の冰灵たちとともにこの書庫をさまよい続けている。
ここにある無限の書架に『理性ある存在』と見做された者は皆、脳を破壊されてしまう。それは怨霊とて例外ではないのだが、私はこうして思考することができる。なんやかやで偶然が重なり、知を司る機能の一部が奇跡的に残ったらしい。もっとも、肉体(いや、肉も骨もないのだから、『幽体』とでも呼ぶべきかな?)との繋がりは完全に絶たれてしまった。今の私は、理性なき魂が操る幽体の中の囚人。見ることと考えることしかできない。
そんな私にとっての唯一の楽しみ――それは、この書庫に訪れた者たちの哀れな末路を見物すること。
ヒトが脳を破壊されてケモノと化す様は実に面白い。
実に……。
今日もまた犠牲者たちが現れた。
数は六人。
無限の書架から知を得るために来たのだろうが……残念だったな。おまえたちはなにも得られない。それどころか、すべてを失い、破滅するのだ。
さっそく、犠牲者の一人――長髪の男が書架に手を伸ばし、一冊の書物を取った。それが破滅への第一歩とも知らずに。
男は背表紙に目を走らせると――
「……」
――なにも言わず、その書物を口にくわえた。
え?
くわえた?
くわえたぁーっ!?
なにやってんだ、おまえ!? 本を食べるつもりか!? ヤギさんなの!? ねえ、ヤギさんなの!? 意味わかんなーい!
●クリュサオル・ロードナイト(光と闇の狭間・f33687)
水か氷でできた髑髏みたいなオブリビオンどもが飛び交っている。
こいつらは樊城だの南蛮門だのにも出没していた怨霊らしい。なんでも封神武侠界の住人たちからは『冰灵』と呼ばれているのだとか。
……って、『呼ばれているのだとか』じゃねーわ!
これ、なんて読むんだよ!
な、ん、て、よ、む、ん、だ、よぉーっ!
思わずキレちまったけど、ホント、さっぱり読めんよな。『冰』も『灵』もお目にかかったことのない字だが、とくに判らんのは『灵』のほうだ。JIS第3水準だとさ。第2水準ですらないというね。どうやって変換すんの?
※マスターより
読みは『びんりんぐ』だそうです。
誰だよ、おまえ!? 人のモノローグに割り込んでくんな!
まあ、いいや。読み方も判ったことだし、気を取り直して戦闘開始といくか……おっと、その前に自分の口を塞いでおこう。うっかり言葉を発したりしないようにな。
さて、なにで塞ごうか?
あ? この本、使えそう。背表紙を見て、厚さをチェック。うんうん、丁度いい感じだ。
これを口にくわえて、と……よし、いくぜ! 『ダーク・ヴェンジェンス』発動!
●ある怨霊の視点
おいおいおいおい。なんか、更にヤバいことになってる。本をくわえた男の体が黒い粘液に覆われたぞ。
粘液まみれになった男は本をくわえたまま、冰灵たちへと襲いかかった。しかも、その襲い方も尋常じゃない。近くの書架から新たな書物を手に取っては『おまえも食えやー』とばかりに冰灵の口にねじ込んでる。こいつ、ヤベえ! マジでヤベえ! 脳を壊される前からイッっちゃってるじゃん!
……い、いや、大丈夫だ。落ち着け、私。確かにこの男はまともではないが、後の五人は違う。破滅の運命から逃れられぬ無力な虫ケラだ。ああ、そうだとも。そうに違いない。そうであってください。
五匹の虫ケラたちのうちの二匹は獣人の類らしく、獣の耳と尻尾を生やしていた。丈夫そうな衣装を来た少年とみずぼらしい格好をした少女という取り合わせ。少女のほうは恐怖のあまり、うずくまって身を縮めている。なんと哀れな姿よ。
「……るる……る……」
少女の口から声が漏れた。どうやら、知らんようだな。この場所で言葉を発してはいけないということを……。
「ぐるるる……」
ん? もしかして、これは言葉じゃない?
「ぐるるるるるる……」
う、唸ってるの? なにこれ、コワい! マジでコワい! あ? さっきは『恐怖のあまり、うずくまって身を縮めている』って言ったけど、よく見てみると、なんか違うし。うずくまってるんじゃなくて、四つん這いで身構えてんじゃん! 獲物に襲いかかる獣みたいに!
「がうがぁーうっ!」
唸り声を咆哮に変えて、少女は冰灵たちに飛びかかった! やだもー!
●ティナ・ルウ(人狐・f19073)
JJ、いってた。このばしょではことばをつかっちゃいけないって。
だから、ティナ、しゃべらない。
しゃべるかわりに、うなる。
「ぐるるるるるる……」
しゃべるかわりに、ほえる。
「がうがぁーうっ!」
そして、しゃべるかわりに……たたかう!
ティナ、とびまわってるオンリョーたちにくみついて、かみついて、ひっかいてやった。
ティナもきずをおった。オンリョーたち、はんげきしてきたから。
でも、だいじょーぶ。こうげきされたところをペロペロなめれば、きずぐちがふさがる。おまけに、ちからがつよくなる。これ、ティナのユーベルコード!
●ある怨霊の視点
プロローグで『ヒトが脳を破壊されてケモノと化す様は実に面白い』とかドヤ顔で語っちゃったけどさー……。
あの女の子、最初からケモノじゃん!
ガチでケモノじゃん!
冰灵たちに噛みついたり引っかいたりするだけでもケモノ度100パーって感じなのに、自分の傷を舐めて治したりしてんだよ? もう120パー超えてっし! やってらんねーわ!
……いかん、いかん。また取り乱してしまった。
本食い(&本食わせ)粘液男に凶暴野獣少女というトンデモ路線が続いたが、もう一人の獣人――あの少年は哀れな末路を迎えるに違いない。
少年は先程からずっと――
「……」
――無言で首をかしげている。なにやら考え込んでいる模様。
やがて、考えがまとまったのか、首の角度を垂直に戻し、ゆっくりと靴を脱いだ。いったい、なにをするつもりだ?
少年は靴を手に嵌めたかと思うと、その手を床につけて、両足を蹴り上げた。そして、上下が反転した状態で体をまっすぐに伸ばした。むぅ!? これは名著『知られざる暗黒中国武道』(民明書房刊)によって初めて詳らかにされた幻の拳法、その名も天地倒逆拳! ……とかじゃねーし! ただの逆立ちだし! なんで、この状況で逆立ちすんだよぉーっ!?
●木元・祭莉(マイペースぶらざー・f16554)
ものすっごいバカのフリかー。
おいらには、むずかしそうだなー。JJも骨までシリアルだとむずかしいとか言ってたっけ? シリアルってことは、牛乳やヨーグルトをかけたら、フニャってなるのかなー?
よーし。俺も脳ミソをフニャフニャにして、ジューナンに考えるぞー。ん-と、ん-と……あ? ひらめいた!
まず、靴を手で履いてっと。
で、こうやって逆立ちして、オブリビオンたちにぴょいぴょいっと近付いていこうか。
逆立ちだけだと単調に見えるかもしれないから、体の向きを元に戻して蛙飛びも混ぜてみよー。げろげーろ。
どうせなら、ウサギ飛びも混ぜちゃおっかな。にぱり笑顔で尻尾と耳もひょこひょこ揺らして、ぴょんぴょんぴょーん。
さて、充分に距離も詰まったことだし、ここからが本番だ。腰にたずさえたこのミニスピーカーを通して、父ちゃん直伝の謎歌を熱唱するぞー。
「そぉれい、ぼえぇぇぇ~っ♪」
なんかね、これを聴いた相手は卒倒しちゃったりするんだ。
きっと、美声に聞き惚れちゃうんだろうな。
●ある怨霊の視点
大、騒、音!
大、迷、惑!
少年の奇っ怪な歌によって、我が同胞たちは悶絶し、次々と消滅していく。いや、これを『歌』と呼んでしまったら、全国の歌い手さんたちに百メートルくらい助走つけて殴られそう。歌詞も意味不明だし
「にょろっとぺっとりこんぽぉ、ぺっぺかてんのとぉ~ん♪ ぴろろこっちゃ、ぺりりあっちょ、べんべんべんのほ~い♪ にゃっつらんぴんぴょ~ん、そんでもって――」
そんでもって?
「――ぼえぇぇぇ~っ♪」
はい、また『ぼえー』いただきましたー!
くそっ! 地獄の様相を呈してきたな。だが、しかーし! 私たちはまだ負けたわけではない。あのトンデモな三人はさておき、残りの三人には付け入る隙があるはずだ。
その中でもとくに与し易いと思われるのは……テレビウムの男だな。テレビウムというのは封神武侠界では珍しい種族だが、普通の人間だったとしても、その男は異彩を放って見えるかもしれない。紅白の縞模様に彩られた円錐型の帽子を頭に乗せ、同じく紅白縞模様の衣装を着て、おまけにフグを模した鞄を肩からかけているのだから(『猟兵はどんな外見をしていても違和感を与えないんじゃなかったっけ?』とかいうツッコミは無視させてもらう。こまけえこたぁ、いいんだよ!)。
そんなふざけた格好をしているにもかかわらず、性格は豪放でも豪胆でもないらしい。トンデモ三人組と冰灵たちとの凄惨な戦いを目の当たりにして、がたがたと恐怖に震えている。いやー、こういう素直なリアクションを見ると、『怨霊やっててよかったー』って思えるよねー。
さあ、哀れなテレビウムよ! もっと怯え、もっと恐れ、もっと慄くがいい! 絶望に押し潰されて、脳を焼かれてしまえー! ふはははははは!
●馬飼家・ヤング(テレビウムのちっさいおっちゃん・f12992)
寒ぅぅぅぅぅ~っ!
いや、ホンマ、めっちゃ寒いわ! 空飛ぶドクロちゃんたちの冷気、ハンパないって! 体の震えが止まらへーん!
ここは一つ、スベり知らずのワイがとっておきのオオサカン・ジョークでもカマして、常夏の空気にしたろかい……と、思うたけど、言葉を口にするのはNGやったな。
しゃあない。スマートな手段が使えへんのやったら、逆にファットな手段でいこか。そう、このフグ型非常食バッグから無限に出てくるごちそうをしこたま食うて脂肪燃焼でホットホットにしたるんや! ホットホォーット!
まずは串カツからいくでー。
うん、めっちゃ美味ーい! 二口目を囓る前にソースに二度漬けしたろ。ホンマは絶対にやったらアカンのやけど、今日のワイはアホアホモードやさかい、ルールもモラルも無視するでー。そーれ、二度漬け、じゃぶじゃぶ~♪
「ニドヅケ!?」
「ニドヅケェ!?」
「ニドヅケェー!?」
うわー。ドクロちゃんたち、めっちゃ怒ってるやん。たとえアッパラパーになっていても『ニドヅケ』と叫ばずにはいられへん……二度漬けっちゅうのはそれほどまでに強烈なタブーなんやな。
でも、おもしろそうやから、もっかい漬けたろ。じゃぶじゃぶっと!
「サンドヅケ!?」
「サンドヅケェ!?」
「サンドヅケェー!?」
期待を裏切らんなー。四度漬けといきたいところやったけど、三口で完食してもうたから、もうできへん。
串カツの次はボンレスハムの丸かじり!
その次はフライドチキン! しかも、ドラムオンリー!
あ、そうや。燃焼させるからには油も欠かせへんな。アメリカ名物フライドバター、いってみよか! 十段重ねバーガーにピザも追加で! 野菜不足? だいじょーぶ、だいじょーぶ。トマトケチャップかけたら、なんでも野菜になんねん。なんなら、タルタルソースもかけたろかい。
さあ、どんどん食うで! まだまだ食うで! ナニワの食い倒れ番長の底力を見せたるぅーっ!
●ある怨霊の視点
いやいやいやいやいや! カオスが加速してる!
あのテレビウムの奴、がたがた震えていたかと思ったら、いきなり食い物をがつがつ貪りまくり(しかも、二度漬けという禁忌を犯しやがった!)、それらを食い終わった途端、冰灵たちに襲いかかった。で、殴る蹴るの大乱闘。ちぎっては投げ、ちぎっては投げ……というヤツだ。てゆーか、本当にちぎりそうな勢い。
あー、でもね。なんかもう慣れてきたわ。うん、パターンが読めてきた。どうせ、アレでしょ? 後の連中も滅茶苦茶なことをしでかすっていう流れなんでしょ?
『後の連中』というのは二人組の男だ。かたや白い衣装を着込み、かたや赤い衣装を着込んでいる。
白いほうの男が腰から刀を抜き、まじまじと刀身を見つめた。
「これはぁ、俺のぉ、剣かぁ?」
はいはいはいはい。いかにもバカっぽく振る舞ってるねー。だけど、こっちはもう心の準備ができてるから、べつに驚いたり呆れたりツッコんだりはしな……って、ちょっと待てぇーっ! よく見たら、その男が持っているのは刀じゃなくて、美味そうな剣先イカの開き干しだぁーっ! しかも、同じものをもう一つ腰に差してる! 二刀流ならぬ二スルメ流!
だが、赤いほうの男はそこまで斜め上のことはやってない。右手に持っているのもスルメではなく、クナイのような武器だからな。
そして、左手に持っているのは――
「おろしぽん酢っす」
――ぽん酢かよ! なぜ!? なぜにぽん酢ぅ!?
●香神乃・饗(東風・f00169)
「剣かなぁ?」
誉人は剣先イカのスルメ(俺が用意したんすよ)をまだしげしげと見つめてるっす。
「あれぇ?」
言葉を発しているのになにも起こってないということは、つまり『ものすごいバカ』認定されたってことすね。
「こぉんな剣だったかなぁ?」
完璧なバカっ振りっす。さすが、誉人っす。
「あとで炙って――」
誉人の視線がスルメからオブリビオンたちに移ったすよ。これはアレが来る流れっすね? 俺は距離をあけさせてもらうっす。
「――食ってイーカァーッ!?」
はい、来たっす。『人狼咆哮』っすよ(たぶん、さっきの祭莉くんの『ぼえ~♪』な歌も人狼咆哮っすね)。
大声をぶつけられて、オブリビオンたちはまとめて吹き飛ばされったす。距離をあけてなかったら、俺も巻き込まれてたかもしれないっすね。
「炙って食ってイーカー?」
誉人は俺に向き直って、さっきの問いを繰り返したっす。もちろん、今度は普通の声で。
俺は、左手に持っていたおろしぽん酢の瓶を足下に置いて――
「おろしぽん酢っす!」
――そう答えたっす。
さあ、俺も頑張ってバカになるっすよー。
●鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)
バカ……に、なる。
バカに……。
バカ……。
よし! 俺はバカだぁ!! そう、バカだ! 自分でバカだって言ってんだから、間違いなくバカだぁーっ!
……はぁ~。
いっけねー。なんか色々と虚しくなって、思わず溜息ついちゃったよぉ。こういう時は自分を客観視しないほうがいいな。首をくくりたくなるから。
俺は気を取り直し、美味そうな剣先イカを構えて、またバカってみた。
「いかんともしがてえなぁ。イカだけに」
「山葵っす!」
饗が大きく頷き、懐からマスタードを取り出して床に置いた。
「まあ、あたりめぇの話だけどぉ。アタリメだけに」
「味醂っす!」
饗が大きく頷き、懐からケチャップを取り出して床に置いた。
「げっそりしちまうぜぇ。ゲソだけに」
「柚子胡椒っす!」
饗が大きく頷き、懐からタバスコを取り出し……って、ぜっんぜん会話になってねぇーし! いや、会話を成立させたら、バカじゃないってことがバレちまうから、これでいいんだけどぉ。いいんだけどぉ……なんだかなぁ。
いまや、饗の足下には調味料がずらりと並んでる(ちなみに宣言通りに出したのは最初のおろしぽん酢だけだ)。そして、周囲にはいくつものクナイが浮かんでる。調味料を取り出す度にクナイをユーベルコードで複製してたんだよ。
「ぽーんす!」
浮遊するクナイの群れを引き連れて、饗は歩き出そうとしたけれど、調味料の列を跨ごうとした拍子に足をもつれさせて倒れかけた。
でも、すぐに体勢を直した……と、見せかけて、やっぱり転んだぁ。
そして、立ち上がることなく――
「ぽんす! ぽんす! ぽーんす!」
――床の上をごろごろ転がり始めちゃったよぉ。
なんていうか、活き活きとバカってるなぁ。普段からちょっと天然入ってるから、こういうのは得意なのかも。
●あるおんりょーのしてん
赤いぽん酢男が床の上をごろごろ転がってる。そこだけを見ていると、平和な光景に思えるかもしれないが、視線をちょっとずらせば阿鼻叫喚の地獄絵図。ぽん酢男の動きに合わせるかのように無数のクナイが乱舞して、冰灵たちを刺し貫き、抉り抜いている。
「しょーゆぅ!」
ぽん酢男はまた調味料の名前を叫び始めた……いや、違う。叫んでいるのは白いスルメ男のほうだ。ぽん酢男リスペクト?
「マヨォー!」
醤油にマヨネーズだと? もしかして、イカに合う調味料ばかり挙げているのか?
「いちみー! い、ち、みぃー!」
あー、わかるぅー! やっぱ、スルメには一味唐辛子だよねー!
……と、共感してしまった瞬間、私の目の前にクナイが迫ってきた。
●再び、饗
あれ? ごろごろしている間にオブリビオンどもは全滅しちゃったみたいっす。
でも、なんだか楽しいから、もう暫くごろごろしとくっすね。ごろごろごろごろ~。
●再び、ティナ
たたかい、おわった!
ティナたちのかち!
だけど、けがしているなかま、いる。ティナ、ぺろぺろして、なおす。
●再び、ヤング
なんか知らんけど、ティナちゃんがワイを舐めようとしてくるぅー!
あかん! あかん! あかん! あかんって! 四十路一歩手前のオッサンが未成年の女の子に体を舐め回させたりしたら、ジアンになってまうから! 確実にジアンになってまうからー!
●再び、誉人
追いかけるティナ、逃げ回るヤングサン。
ヤングサンがなにを怖がってるか知らねぇけど、女の子が人形にじゃれついてるという微笑ましくて可愛い光景にしか見えないよぉ。テレビウムだし。
それより、このスルメはもう用無しだから、食べちまってもいいよなぁ?
饗が用意してくれた調味料をちょっと拝借してって……え? 嘘だろ。こんなに沢山の調味料があるのに、なんで醤油もマヨも一味もねえンだよぉ!?
●再び、祭莉
誉人ちゃんがボーゼンとしてる。どうかしたのかな?
まあ、いっか。
オイラたちの勝利を祝って、もっかいリサイタルしとこうっと。
「ぼえぇぇぇぇぇ~っ♪」
●再び、クリュサオル
祭莉がまた歌い始めやがった。さっきよりもデカい声でな。
しみじみ思うぜ。
口じゃなくて耳を塞ぐべきだった、と……。
大成功
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