●沙綿里島基地司令部
百年もの戦乱が続く世界、クロムキャバリア。
島国の日乃和は人喰いキャバリアと呼ばれる無人機の襲来に曝され続けていた。
現地時刻にして午前。天候は快晴。場所は日乃和の北西に位置する沙綿里島。その島の基地司令部には開戦前の独特な緊迫感が充満していた。
「敵勢力の上陸まで残り30時間以内か……」
陸軍の将校制服を窮屈そうに着込む筋骨隆々とした巨漢、後藤宗隆大佐は険しい目付きで大型モニターを睨んでいた。彼は沙綿里島基地の司令官を担っている。
モニター上では沙綿里島の西海岸を下地として自軍の部隊配置状況、そして西に広がる日乃和海から侵攻してくる敵群の予測進路が表示されていた。
アーレス大陸東沿岸より人喰いキャバリアの梯団が沙綿里島へ向けて侵攻中との報告を後藤が受けたのはほんの数刻前である。
電子音と通信士の声が忙しく錯綜する基地司令部で、後藤は腕を組んだまま戦力展開図を睨め付ける。すると扉が開かれ、通信士の少女が足早に駆け寄り敬礼もそこそこにタブレット端末を手渡した。
「後藤司令、あと4時間ほどで大鳳と三笠隷下の臨時編成艦隊が到着するとのことです」
十代半ば頃の少女の口振りは辿々しい。後藤は端末を受け取ると軽く眼を通して頷く。
「ほう? 結城と泉子か。これで幾らかマシになる。苦しい事にゃ変わらんが。まったく化物ども、よりによって暁作戦の準備を始めた矢先に動きを見せるなんざ、こっちの都合はお構いなしか。それとも南州を取り返されたんで躍起になったか?」
少女は端末を抱え込んで俯く。
「あの、後藤司令……敵の動きが早過ぎて、各軍はこれ以上の戦力編成が間に合わないと……」
「そう暗い顔しなさんな。お前らヒヨッコには苦労を掛けるが……なあに、香龍のジジイどもが猟兵を寄越してくれるそうじゃないか。アテにさせて貰うさ」
表情を沈めて黙りこくる少女の肩に後藤の手が乗せられた。浅黒く日焼けした肌の感触は硬く重い岩のようだった。
「すまんな、本当なら学校で勉強してなきゃいかん頃だったのに」
「……帰りたい」
喉からやっと絞り出された小さな声は司令部の喧騒に打ち消された。だが後藤と側に控えていた青年補佐官はそれを聞き逃さなかった。
「貴様! 士気を下げるような言動は!」
詰め寄ろうとした青年補佐官を後藤の丸太のような腕が制した。霊長目中の最大種を想起させる背中に気圧された補佐官は咳払いをすると元の立ち位置に戻った。
「大丈夫だ。暁作戦が終われば皆帰れる。その為にも今はこの島を守る事だけ考えるんだ。ほら、まだやる事があるんだろう?」
後藤は少女の両肩を掴むと身体を扉へと向かわせて背中を押す。少女は促された通り足早に去る。途中振り返った際に見えた瞳は涙で潤っていた。
「やれやれ、徴兵年齢と教練期間を下げに下げた俺達大人の責任だな。お前さんにも気苦労をかけるな」
視線を送られた補佐官は制帽を深く被り直す。
「いえ、自分は……」
「官僚共も分かってただろうに」
敵の勢力圏に面している上に国家戦略上重要なプラントを抱える要所として十分な軍備を蓄えられてきた沙綿里島だったが、敵の襲撃が散発的かつ小規模である事を理由に、本土の戦況が悪化するにつれ優秀な前線人材を抽出され続けていた。
結果残った兵員は義務教育課程を修了したかどうかといった少年少女達。練度の低下は極めて深刻だった。
城壁を築こうとも、支援砲火を大量に備えようとも、海上戦力を充実させようとも、最後に戦いの雌雄を決めるのはキャバリアと優れたパイロット達に他ならない事を後藤は重々思い知っていた。
「今となっちゃどこも同じ人材事情だが、どうもやり切れんな。残る頼みの綱は猟兵か。噂通りの切り札となってくれりゃあいいんだが」
沙綿里島は護国(まも)る。その上で近い将来日乃和から人喰いの怪物共を叩き出す。そして議会の連中に南州のツケを精算させる。
忘れもしない。現況を作り出した大元は当時判断を誤った政権にあるのだ。その政権は今も尚この国の基幹を担っている。後藤は喪き妻子へ立てた黒い誓約を燃やしていた。
●沙綿里島防衛戦
「お集まり頂きありがとう。依頼の内容を説明するわ」
猟兵達を前に水之江が緩慢な動作で腰を折る。長杖を適当に振るうと虚空に三次元立体映像が展開された。UDCアースの日本によく似た列島のようだ。
「今回の行き先はクロムキャバリアにある島国、日乃和の沙綿里島よ」
日本ならば佐渡島が存在する位置の島を杖の穂先で指し示して拡大表示させる。
「雇い主は日乃和政府。現在、人喰いキャバリアって呼ばれてる無人機軍団が沙綿里島に接近中なの。この無人機軍団を迎撃して島を防衛する事が今回の目標よ」
大陸を席巻している人喰いキャバリア達の一部が梯団を構成して日乃和の西の海域を渡海、沙綿里島の西海岸へ上陸する兆候を見せているのだという。
●作戦領域
主戦域となる沙綿里島西海岸は広大な砂浜だ。
その背後には高く分厚い壁が海岸に沿って築かれている。砂浜と海上で敵を迎え撃つ他、防壁を盾に火力投射を行う戦術も視野に入るだろう。
「壁の向こう側には住宅街があるわ。市民の避難状況は作戦開始時点で6割ぐらいを想定しているみたいよ」
現在も地元消防と警察が全力で島外への避難を行なっているが完了には程遠いらしい。作戦開始までに避難し切れなかった民間人は各地に点在するシェルターに退避する予定となっている。
「まあ、海岸で勝負を付けちゃえば気にせず済む話しよね。因みにこの島にはプラントがあるんだけれど、もう電源停止済みなんですって。今のところ特に防衛の指定は出ていないわ」
●敵群戦力
出現する敵機は航空戦力と地上戦力の二つに区分される。
飛翔能力を有するエヴォルグ量産機EVOLが先鋒として襲来、その後時間を置いて地上戦力のエヴォルグ量産機が上陸する見込みだ。
「エヴォルグ量産機が作戦領域に到達する前になるべく多くのEVOLをお掃除出来ていれば楽になるでしょうね」
敵の数は観測可能な範囲だけでも尋常ならない。個々の戦闘能力は特段優れたものではないにしろ殲滅は容易では無いだろう。
●友軍戦力
迎え撃つ日乃和軍は海岸沿いに戦力を全面展開している。
グレイルやオブシディアンmk4を中核に据えたキャバリア部隊が主力だ。
「だけどこのキャバリア部隊の中身の殆どが中学生や高校生なんですって。しかもまともに訓練も受けてないそうよ。まあ、仮免取ったドライバーぐらいの感覚に留めておいた方がいいんじゃない?」
質は兎も角頭数自体は相当数が揃っているらしい。
その他には高射砲等の固定砲台、事前敷設された補給コンテナ、艦艇の海上支援といった戦力が揃っている。
「あと猟兵さん達のバックアップとして戦艦の三笠と空母の大鳳、それからキャバリア部隊を付けてくれるそうよ。頼めば援護射撃ぐらいしてくれるかもね」
●ブリーフィング終了
結局のところやるべき内容は至極単純だ。出現する敵勢力を全て排除すれば良い。
「とまあ、こんな所ね。プラントを抱えている沙綿里島は戦略上とっても重要なんですって。今回の結果で後に控えてる大規模な作戦の進退も決まるとか」
例にも漏れず報酬はたんまりと支払われる事を付け加えて水之江は首を垂れた。
「いかがかしら? 良いお返事を期待しているわね。どうぞ宜しく」
塩沢たまき
塩沢たまきです。宜しくお願いします。
以下補足と注意事項となります。
●作戦目標
沙綿里島の防衛。
●第一章=集団戦
出現する敵勢力を排除してください。
敵はエヴォルグ量産機EVOLです。飛翔能力を有しています。
敵勢力は海上より侵攻してきますので、主な戦域は砂浜と海上になります。
海岸沿いの背後には分厚く高い防壁が築かれています。これを盾にして戦うのもよろしいかと思われます。
壁の向こうには住宅街が広がっています。
作戦開始時刻は午前。
天候は快晴です。
●第二章=集団戦
出現する敵勢力を排除してください。
敵はエヴォルグ量産機です。
●第三章=ボス戦
出現する敵勢力を排除してください。
●日乃和
人喰いキャバリアと呼ばれる無人機集団の襲撃を受けている国です。
●沙綿里島基地
本作戦の司令部が設置されています。
司令官は後藤・宗隆大佐。筋肉モリモリのマッチョマンです。
●日乃和軍
キャバリアを主力とした部隊が海岸沿いに展開しています。数は多いものの、殆どが実戦経験の無い少年少女なのであまり頼りになりません。
過去の猟兵の行動により、対エヴォルグ戦用の戦闘データが機体にインストールされ、パイロットに投与される戦術薬物には改良が施されました。
●大鳳
空母です。
要請があれば補給コンテナ投下などの後方支援を担います。
艦長は葵・結城大佐。
●白羽井小隊
お嬢様士官学校出身者だらけのキャバリア部隊です。全員イカルガに搭乗しています。
隊長は東雲・那琴少尉。
●三笠
戦艦です。
主に火力支援を担います。要請があれば随伴する艦艇と共に援護射撃してくれます。対キャバリアミサイルなど様々な弾種を使えます。
艦長は佐藤・泉子中佐。
●その他
今回の舞台はクロムキャバリアとなりますので、高速飛翔体を無差別砲撃する暴走衛星『殲禍炎剣』にご注意ください。
キャバリアをジョブやアイテムで持っていないキャラクターでも、キャバリアを借りて乗ることができます。
ユーベルコードはキャバリアの武器から放つこともできます。
第1章 集団戦
『エヴォルグ量産機EVOL』
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POW : フレッシュエヴォルミサイル
【レベル×100km/hで飛翔しながら、口】から、戦場全体に「敵味方を識別する【分裂増殖する生体ミサイル】」を放ち、ダメージと【侵蝕細胞による同化と侵蝕】の状態異常を与える。
SPD : エヴォルティックスピア
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【体】から【分裂増殖したレベル×10本の触腕】を放つ。
WIZ : EVOLエンジン
【レベル×100km/hで飛翔し、噛み付き】が命中した敵から剥ぎ取った部位を喰らう事で、敵の弱点に対応した形状の【進化した機体、EVOL-G】に変身する。
👑11
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●禿鷹は西海より来たる
敵の上陸予測時刻まで残すところ僅かとなった頃、作戦本部が置かれている沙綿里島基地司令部に詰める要員の間には落ち着きと緊張を混ぜ込んだ静けさが漂っていた。
「後藤司令、全部隊配置に就きました。援軍の大鳳及び三笠隷下の艦隊も同様です。猟兵部隊も戦闘準備完了とのこと」
オペレーターの少女から報告を受けた後藤が深く頷く。
「よおし、後は化物共を待つだけだな」
拳で打たれた平手から乾いた音が鳴る。現状取り得る最善の策は全て取った。戦力の出し惜しみも無い本気の勝負。そして接敵予測時刻がいよいよ迫り、各観測装置が一斉に警報を発し始めた。
「来ました! 敵影視認! メインモニターに回します!」
観測機が最大望遠で捉えた映像が巨大なモニターに映し出される。日乃和海を望む青の水平線を見た全ての者が息を飲んだ。
「海が……! 空が緑色だよぉ……!」
誰が言ったか定かでは無いが怖気を嗜める者はいない。海鳥の大きな群れにも見えるそれを構成しているのは、全て飛翔能力を有したエヴォルグだ。
「青が3分に緑が7分ってところか……」
呟く後藤の面持ちは苦い。空だけでこの数ならば海底を歩くか泳いで渡ってきている陸上部隊を合算したらどうなってしまうのか。嫌な予感は基地内のみならず前線の全てに拡大しつつあった。
「総員よく聞け。敵の襲来はほぼ予定通りだ。とんでもない数だな。だがそんな事は覚悟してたはずだ。違うか?」
展開中の日乃和全軍に向けて通信が発せられる。後藤の声音は至極落ち着いたものだった。
「俺達はその数を迎え撃つ準備をしてきた。だから予定通りに作戦を始めて、予定通りに終わらせりゃいい。大丈夫だ、お前達なら出来る。この島の軍で一番偉い俺が保証してやる。奴等に沙綿里島を荒らさせるな! この島は俺達のものだ!」
飛ばされた檄に喊声は挙がらない。だが士気は静かに燃え広がった。殆どは戦術薬物の作用に依るところが大きいが、少なくとも逃げ出そうとする者は現れなかった。
「敵群なおも接近! 間も無く砲撃射程圏内です!」
ひとりの観測手の言葉を皮切りに各々の要員が誰に言われるでもなく自身の仕事に取りかかり始める。
「砲兵部隊、焦るなよ。十分引き付けてからだ。海軍の連中にも伝えろ。まだ後が控えてるんだ、無駄弾を使わせるな」
渡鳥の群れにも見えるエヴォルグの集団。沙綿里島との距離は確実に詰まりつつある。始まりの号砲が轟くまでそう時間を必要とはしないだろう。敵群を臨む海岸線にはキャバリアの戦列が並ぶ。その中には猟兵達の姿も在った。
●増援
『遠路遥々ご苦労! 猟兵諸君!』
スピーカーがハウリングを起こす程に大きな声量で叫んだのは戦艦三笠の女艦長だった。
『南州第二プラント以来だな! あの時は挨拶しそびれたが改めて、私は本艦三笠の艦長、佐藤泉子だ! 宜しく頼む! 今回は戦艦扶桑と山城、重巡洋艦の高雄と愛宕、そして空母の赤城と加賀も連れてきたぞ! 支援の手が要り用ならば遠慮なく言ってくれ! 猟兵諸君の健闘を祈る!』
最前線から離れた洋上では艦隊が単縦陣で展開している。いずれの艦も砲塔は既に敵群の方角へと向けられていた。その端では大鳳も戦列に加わっていた。
『こちら大鳳、葵結城です。猟兵様方、本日もどうぞ宜しくお願い致します』
嫋やかに語る結城の口元に薄ら笑いが浮かぶ。
『フェザー01以下白羽井小隊全機、現在大鳳で出撃待機中ですわ。猟兵の方、共に幸運を』
大鳳の甲板上では那琴率いる白羽井小隊のイカルガが羽ばたく時をまだかと待ち兼ねていた。猟兵達と共に二度の実戦を潜り抜けた子女達の目付きは鋭く、荒鷲然としていた。
これらの艦隊は全て内閣府が直々に猟兵の支援として回した戦力だ。猟兵が望めば様々な手段で援護を行うだろう。
●開戦
間近に迫った敵襲。猶予はもう数分とも無い時、後藤は猟兵達へと通信回線を繋いだ。全員であったかは不明だが、少なくとも呼びかけに応じた猟兵には繋がったのだろう。
「沙綿里島基地司令、後藤宗隆だ。猟兵各位、宜しく頼む。作戦内容はもう聞いている通りだ。敵が来たら好きに暴れてくれ」
だが、と後藤は口を淀ませてから言葉を続ける。通信は受信相手を猟兵に限定した回線に切り替えられていた。
「察しの通り、前線を支えるのは本来なら数年使う教練過程を飛ばしに飛ばした素人同然の女子供連中だ。戦闘経験なら結城が連れてきた白羽井小隊の嬢ちゃんらが一番まとも……と言ったら深刻さが伝わるか? 其方さんらが回してくれた戦闘データと戦術薬物の改良で幾らかマシになってるとはいえ、薬を射った、新型機に乗った、それだけで万事解決するほど甘くない。敵に向けて弾を撃つ以上の動きを期待するのは酷ってもんだろうさ」
一呼吸置いてから後藤は再び口を開く。通信音声の裏では観測手が接敵までのカウントダウンを始めていた。
「面倒を見てくれとは言えんし、そんなつもりも無い。生憎猟兵への指揮権限は貰ってないんでな。しかし早く終わらせてくれれば、その分死なせずに済む。存分に戦ってくれ。以上だ」
「敵群! 射程圏内入りました! 海軍が攻撃開始します!」
悲鳴のような観測手の声と共に猟兵達と後藤の通信は切られた。
「よし! 砲撃部隊撃ち方始め! 群れの中心を徹底的に叩け! 抜けて来る奴は前衛にやらせろ! 前衛部隊! 奴等は壁を飛び越えてくるぞ! 撃ち漏らすなよ!」
寄せては返す小波の音色ばかりが続く沙綿里島西海岸に無数の号砲が轟いた。固定砲台と艦艇から放たれた様々な弾丸が海上を往くエヴォルグの群れに殺到し、いくつもの爆光の華を咲かせる。
飛び散る残骸と体液、そして砲弾から弾けた金属の鏃。それらが雨となって波立つ海面に降り注ぐ。無数の死を生み出した華が萎むと、すぐに後続のエヴォルグ達の姿が現れた。前線部隊の中に恐怖と緊張が走った。
『なんでさ……全然効いてないじゃん!』
『違う! 数が多過ぎるんだ!』
敵の多くは絶え間なく続く砲撃の餌食となるが、爆風から逃れたエヴォルグ達が防衛線の引かれた海岸に迫る。
『大鳳よりフェザー01へ、直ちに出撃を』
『フェザー01、了解ですわ。白羽井小隊全機! メインシステム、戦闘モード起動なさい! 猟兵の方々! 参りましょう!』
『三笠より各艦へ! 砲撃の手を緩めるな! 気合だ! 気合で行くぞ!』
快晴の空の下、広大な海岸線で戦端が開かれた。ここから先の生存競争は直接戦闘によって決する。そして結末への鎖を握るのは、猟兵達に他ならない。
シル・ウィンディア
エヴォルグ、たくさんいるねぇ…。
こんなのを放って置いたら、悲劇しか起こらないから…
…アルジェント・リーゼ、出るよっ!
今回の装備はオールレンジ型だね
ちょっと戦い方は違うから気を付けないと…
接敵前に、リフレクタービットを展開して、わたしに追従するように移動させるよ
接敵したら、アサルトライフルをフルオートで連射しつつ
ビットを周囲に展開っ!これだけなら、何ともないけど…。
本命はここからっ!
ホーミングビームを避けられても、ビットにあたるように着弾点を調整するね
避けても、ビットで乱反射のオールレンジ攻撃をどうぞっ!
通常攻撃しつつエレメンタル・ブラストでまとめてなぎ払うよっ!
接近はセイバーで切断だねっ!
●青き閃刃の先陣
昼下がりの西日乃和海は蒼天の下に凪いでいた。砂浜には波が緩やかに打ち寄せ、潮を孕んだ風が微かにそよぐ。されど静穏とは程遠い。アーレス大陸東部沿岸を彼方に臨む海上では、白面異形の鳥人間が犇いていたからだ。
「エヴォルグ、今日もたくさんいるねぇ……」
遠浅の海上を裂いて滑空する精霊機『アルジェント・リーゼ』の操縦席に身を収めるシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)の顔には、うんざりとした色がありありと浮かんでいる。南州第一プラントで交戦したエヴォルグ量産機EVOLとまたしても邂逅を果たしてしまった。
「良い思い出なんて全然無いんだけど、こんなのを放って置いたら、悲劇しか起こらないから……」
敵機に重ねられたロックオンインフォメーションが、間も無く射程圏内である事を報知すると、操縦桿を握り込む指に力が籠る。
「アルジェント・リーゼ、行くよっ!」
フットペダルを蹴り込めばアルジェント・リーゼの双翼、エール・リュミエールが推進噴射の光を舞い上がらせた。加速が生み出す衝撃波が海水を左右に押し退けて白波を立たせる。
「アルミューレ・リフレクター! リリース!」
敵群との相対距離を詰める最中、シルはオートビットの展開を命じた。アルジェント・リーゼの腰部後方に搭載されていたそれらは、枷を解かれるとアルジェント・リーゼを母機として追従し始める。弓矢の鏃のような編隊を構成して滑空飛行で海上を突き進む。エヴォルグの群れの先端を交戦距離に捉えるまでにさほど時間はかからなかった。
「入った! 狙えるっ!」
速度を落とさずにアサルトライフル、ブレシュールのトリガーを引く。セレクターレバーの位置はフルオートモードだった。銃口から断続的に速射された弾体が最も先行していたエヴォルグの一体を瞬く間に穴だらけにした。緑色の体液を撒き散らしながら海面に墜落するそれを他所に、シルは次の目標へとロックオンを切り替える。沙綿里島を真っ直ぐ目指していたエヴォルグ量産機EVOLの先頭集団は散開、脅威か或いは餌と見做したアルジェント・リーゼを取り囲むようにして旋回飛行を開始した。その挙動に合わせてアルジェント・リーゼが引き連れていたビット達が一斉に周囲へと散らばる。
「囲んできた? だけど!」
コクピット内に鳴り響く被ロックオン警報。侵食作用を有する恐るべき生体誘導弾がアルジェント・リーゼに向かい来る。シルは殲禍炎剣の照射高度までまだ余裕がある事を確認すると、機体を上方向へと急加速させた。続けて真横にブーストダッシュしながら頭部のエリソン・バールで誘導弾を次々に迎撃、包囲から脱すると選択兵装をリュミエール・イリゼに切り替えて羽付きのエヴォルグ達を照準に捉えた。
「行って!」
放たれたホーミングビームが星屑のような光の軌跡を引いてエヴォルグへと突撃する。幾つかの個体は回避運動らしき挙動を見せるも避け損なって翼や胴体部に被弾、飛翔能力を喪失して海面に墜落した。しかし半数ほどは翼を大きく翻して瞬間的な姿勢制御を行い大胆に回避して見せる。されどシルは予めそれを見越していた。
「本命はここからっ!」
標的に着弾しそびれたホーミングビームが突如として反射された。壁に衝突して弾かれたかのように軌道を変えたビームは跳ね返った先で更に乱反射を繰り返す。予測不能で回避不能な光の渦中に巻き込まれた羽付きエヴォルグ達は半生体表皮を貫かれて次々に撃破される。
リュミエール・イリゼのホーミングビームを跳ね返したものの正体とは、リフレクタービット『アルミューレ・リフレクター』に他ならない。事前展開していたこれらを接敵と同時に敵の死角へと潜り込ませ、回避を見据えた反射攻撃手段としていたのだ。
「まだまだ撃てるよ! オールレンジ攻撃をどうぞっ!」
アルジェント・リーゼはスラスター起動で飛び回りながらリュミエール・イリゼを撃ち散らす。数で勝るエヴォルグは相変わらず標的を包囲しようとするが、リフレクタービットとホーミングビームが織りなす全方位攻撃によって阻まれ、乱れ飛ぶ光弾に生体誘導弾ごと撃ち落とされては海面に叩き付けられる。
「近寄られたって!」
辛うじてオールレンジ攻撃を潜り抜けて来たエヴォルグが迫る。だが追い縋った瞬間にアルジェント・リーゼのエトワールが閃き、星の輝きを宿す刃が深緑色の身体を上下に二分割した。最前線で火力投射を継続しつつも飛び回るアルジェント・リーゼは、必然的に敵群の注意を大いに惹き付ける事となった。次第に敵の密度が飽和し始める。
「そろそろかな? 散らばって!」
シルが短く叫ぶとホーミングビームの連射を中断したアルジェント・リーゼが腕を振り払う。すると敵群の中を飛び交うアルミューレ・リフレクターが四方八方に散開した。光の乱反射が止んだ事で敵群が反撃に転じる。次いで夥しい数の生体誘導弾が発射された。アルジェント・リーゼは幾つかの誘導弾をエリソン・バールで撃ち落とすと反転し加速、生体誘導弾を引き連れて後退した。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ……」
シルの唇が唄を紡ぐ。ユーベルコードの放射触媒となるリュミエール・イリゼに4つの異なる光が収束され始めた。程なく臨界に達すると、アルジェント・リーゼは再び反転して敵群に向き直り、スラスターの噴射で急制動を掛けて空中に停止した。無数の生体誘導弾と迂回飛行して来た羽付きのエヴォルグが間近に迫る。そしてシルが操縦桿のトリガーキーを押し込んだ。
「我が手に集いて力となり、全てを撃ち抜けっ!」
リュミエール・イリゼの砲身から迸る四属性の魔力粒子弾。いずれも敵機を直接狙うのではなくアルジェント・リーゼを中心に円形に拡散放射された。するとアルミューレ・リフレクターが射線に割り込み、シルの思惟を乗せて放たれたそれらを乱反射させる。殺到し掛けていた生体誘導弾の全てが炸裂の華を咲かせ、接近を試みていた羽付きエヴォルグも乱れ狂う光線に身体を貫かれては絶命する。四属性の光の嵐が漸く収まった時には周囲から動体の気配は失せていた。
「よし……エレメンタル・ブラストとリフレクタービットの合わせ技、うまく決まったね……」
シルは瞬間的に膨大な魔力を消費した事で軽い酸欠のような感覚を覚えながらもレーダーを見遣る。滞空するアルジェント・リーゼを取り巻いていた光点は既に無い。モニター越しに辺りを見渡してみれば、海面にはエヴォルグの亡骸が浮かび、流れた緑の体液が青い海水と混ざり合って何とも形容し難い色味を醸し出していた。
「でも、まだまだおかわりがあるんだよねぇ……はぁ……」
視線を正中に戻す。西の海の遙か彼方では、艦砲の爆炎に曝され続けてもなお沙綿里島を目指して飛来するエヴォルグ量産機EVOLの群が健在だった。シルは溜息を吐き捨てると、サブウィンドウ内の機体ステータスを確認する。目立った損傷は無く推進剤の消耗も許容範囲内、ブレシュールを始めとする銃火器の残弾数も心許ないというほどでも無い。
「補給無しでもあと一戦ぐらいは出来るかな?」
中距離レーダーの探知圏内に新たな光点が生じるのと接敵警報が鳴ったのはほぼ同時だった。シルは頭を振るうと今一度左右の操縦桿を握り締め、フットペダルを踏み込んだ。
「……やるよ!」
シルの声にアルジェント・リーゼは光翼を羽ばたかせて応える。銀青は閃光となりて沙綿里島西海岸を駆け抜けた。
大成功
🔵🔵🔵
防人・拓也
「白羽井小隊、聞こえるか? こちらリーパー。愛宕連山で作戦を共に行動したが…どうやら元気そうで何よりだ」
と無線で伝える。
「もしヤバくなったら教えろ。直ぐに守ってやる」
と伝え、『死神の予測術』を発動しながら敵部隊に突撃。高機動を活かして敵の攻撃を避けたり、盾で防いだりしながら、高出力ビームライフルや高出力ビームサーベルなどで敵を片付ける。
もし小隊にミサイルや触腕が多く飛んで行くのを目撃したら、すぐに急行してミサイルや触腕を高出力ビームライフルで数を減らし、高出力ビームサーベルの出力を上げて剣の長さを広範囲に伸ばした後、敵ごと一刀両断して小隊を守る。
「言ったろ。守ってやるってな」
アドリブ・連携可。
●死を刈り取るもの
沙綿里島西沿岸部を巡る戦闘は初戦から激化の一途を辿っていた。海と空の境界を埋め尽くす深緑の鳥人間型半生体キャバリアは、日乃和の陸海両軍の砲撃の暴風雨を物ともせずに島へと突き進む。配備間もないイカルガを与えられている白羽井小隊は貴重な航空戦力として、迎撃の為に最前線への投入を余儀なくされた。
『ダメっ! 振り切れない! いやぁ! 助けてナコぉ!』
『フェザー08! こちらへ来なさい! 迂闊に機動しては……!』
エヴォルグ量産機EVOLと交戦する白羽井小隊所属の機体。その一機が有線式誘導兵器と化した緑の触手に追い回されて逃げ惑う。他の小隊機が救援に回ろうとするも、高い運動性能が仇となり恐慌に駆られたパイロットが闇雲に乗り回す機体に追い付けない。そして遂に触手がイカルガを貫こうとした瞬間、光芒が走った。
超高熱を帯びた粒子の光は、イカルガに迫る触手を正確に射抜き跡形も無く消失させた。那琴の視線が光の出所を追う。そこにはかつて見知った機体の姿があった。
「白羽井小隊、聞こえるか?」
『貴方は!』
触手を射抜いた光芒の出所、それは防人・拓也(コードネーム:リーパー・f23769)が手繰る機体、CX-78-RCリーパーキャバリアのビームライフルだった。
「こちらリーパー。愛宕連山で作戦を共に行動したが……あの日以来だな。どうやら元気そうで何よりだ」
『こちらフェザー01、ありがとうございます。またしても窮地を救って頂きましたわね』
恩人との久々の再会に喜色を滲ませる那琴とは対照的に、拓也の声音は至極職業軍人らしい冷静さを伴っていた。
「もしヤバくなったら教えろ。直ぐに守ってやる。それが任務だからな」
拓也は簡潔に言い切ると機体を旋回させ敵群の方角へと向き直った。
「まるで邪神の眷属だな……UDCアースで出くわしたとしても、この外見では何ら不思議には思えないぞ」
リーパーキャバリアの背部と両足に備わる推進装置のバーニアノズルから噴射炎が膨れ上がる。生じた加速が機体を突き動かした。撃破対象となる有翼のエヴォルグは島を目指して海上を直進滑空する。双方の相対距離が交戦の間合いまで詰まった。先手を取ったのはエヴォルグ達だった。それぞれが両腕をリーパーキャバリアへと向けると、その鋭い指先を触手状の有線兵器として伸ばした。
「見え透いているな。俺には分かる……お前の動きが、頭の中で手に取るように分かる!」
拓也は被ロックオン警報など意にも介さず操縦桿を小刻みに傾け、ブーストペダルを断続的に浅く踏み込む。死神の予測術で研ぎ澄まされた感覚が、脳内に触手の複雑怪奇な軌道を描き出した。リーパーキャバリアは操縦者の思惟を綿密に反映した瞬間加速を繰り返す。左右に機体を振って軌道の隙間を掻い潜り、傾斜を付けて構えたシールドで触手を受ければコーティングされた表面を擦過する。
「返すぞ」
触手の網を抜けたリーパーキャバリアが立て続けにビームライフルを連射する。通常出力モードで放たれた荷電粒子は有翼エヴォルグの頭部を撃ち貫いた。拓也は撃墜した敵機にかまけている隙など見せない。海面を滑走するリーパーキャバリアがスラスターを噴射して跳び上がる。直進する有翼エヴォルグと交差した刹那にバックパックよりビームサーベルを抜刀。居合染みた一太刀でエヴォルグの片翼を切断処理した。飛翔能力を喪失し螺旋状の挙動で墜落するエヴォルグ。リーパーキャバリアは半身のスラスターを噴射すると急速方向転換しビームライフルのトリガーを引いた。一発のみ放たれた荷電粒子弾は海面に叩き付けられる寸前のエヴォルグを背後から正確に撃ち抜き、機能を完全停止させる。とどめは確実に刺す。それを怠った事で生殺与奪の権利を逆転された者を幾度と無く見てきたであろう、正規の訓練を積み実戦経験を重ねてきた拓也らしい戦い振りだった。
「あれは……不味いか」
反転した際に後方に展開する白羽井小隊が視界に飛び込んできた。多くの有翼エヴォルグに包囲され防戦一方となっているようだ。フットペダルを踏み込む拓也の足に力が籠る。
『やっぱ多すぎるって!』
『泣き言をお言いではありません!』
『でもナコ、触手とミサイルの迎撃で戦い所じゃ……ひっ!?』
隊員の少女が短い悲鳴を挙げた。生体誘導弾と触手が混濁した攻撃の渦が白羽井小隊のイカルガに差し迫る。されどその攻撃のいずれもイカルガに届く事はなかった。
『リーパーの方!?』
「動くな!」
烈火の憤怒を想起させる白波を引き連れて突入するリーパーキャバリア。高出力モードで二連射されたビームが触手と生体誘導弾の群れを洗い流すように駆け抜ける。生じる爆光が宙に幾つも花開く。白羽井小隊と敵群との間に割って入ったリーパーキャバリアが、マニピュレーターで握るビームサーベルを肩越しに構えた。拓也がトリガーキーをクリックすれば、発生機関から伸びる荷電粒子の刃が数倍にまで膨れ上がる。
「最大出力! 薙ぎ払う!」
右から左へと降り抜かれたハイパービームサーベルが空間を撫でた。光刃が有翼エヴォルグの命を刈り取る。ある者は両断され、ある者は文字通りに消滅した。ビームが空気を焼く独特なイオン臭の満ちる空間で、リーパーキャバリアの周囲のイカルガ達は暫し呆気に取られていた。
「どうした? 言ったろ。守ってやるってな」
リーパーキャバリアがビームサーベルから生じる刃を収める。そこで漸く事態を飲み込んだらしい白羽井小隊が動き始めた。
『あ……ありがとうございます……あの数を、一太刀で……』
「礼はいい。まだ来るぞ。敵の密度が濃いな……敵群の先端を止めるぞ。射撃のタイミングを合わせてくれ」
『了解ですわ。フェザー01より小隊各機! 横陣で迎え撃ちますわよ!』
リーパーキャバリアがビームライフルを向けた先には、艦砲射撃の面制圧を掻い潜って海上を滑るように飛翔するエヴォルグ達の姿があった。白羽井小隊のイカルガ達が横に並び立つようにして編隊を組み直す。
「間もなくだ、構えろ。――今だ!」
『小隊全機! 撃ち方始め!』
高出力ビームライフルの号砲を合図にアサルトライフルとマイクロミサイルが後に続く。銃弾の津波が迫り来る敵の群れを押し流す。拓也によって生存の因を得た白羽井小隊。やがて繋がる結果が訪れた時、果たして彼と彼女達はどのような形で相見えるのだろうか。
大成功
🔵🔵🔵
フレスベルク・メリアグレース
日之和の政策には怒りと同時に最低限の理解を抱いています
また、無辜の民が貪り食われるという蛮行も看過できません
…出来る限り幼子を前線に立たせず、薬物でなく外部取り付け型強化装置を開発できないか打ち合わせを
瞬間、海上から千を超えるスーパー戦車砲が顕現
エヴォルグの群れをその破壊力と正確無比さで討滅していきます
純粋故に強い
これがオブリビオン・フォーミュラの力と言えるでしょう…
ああ、オブリビオン・フォーミュラとはなんであるか、ですか?
この世界で言えばあのエヴォルグも含めた全てのオブリビオンマシンの頂点に立つ存在、となるのでしょうね
●神の戦車
泡立つ波が寄せては返す砂浜。フレスベルク・メリアグレース(メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263)の座上機たる神騎ノインツェーンは、地表より僅かに足を浮かせたまま地平線を睥睨していた。清々しい蒼天と海原は今や有翼エヴォルグと爆炎によって支配されつつある。
「――日乃和の政策には怒りと同時に最低限の理解を抱いています。また、無辜の民が貪り食われるという蛮行も看過できません」
ノインツェーンの玉座に身を沈めるフレスベルクの声音は文言に対して嫋やかな語り口だった。南州第一プラントの件で日乃和に対する心証は地の底まで失墜していたが、一方で生き残る為にそうせざるを得なかった事情も酌量出来ない訳では無い。翡翠色の大きな瞳には、恐らく複雑な思いが渦巻いているのだろう。
『憤り御最もです、猊下。現況を招いたのは我々大人の仕業なもんですから』
フレスベルクの言葉を受けた音声出力装置が発したのは野太い男性の声。通信は本作戦の総指揮を担っている後藤の元へと繋げられている。
「出来る限り幼子を前線に立たせず、薬物でなく外部取り付け型強化装置を開発できないか、検討していただけませんか?」
『猊下から呼び掛けがあったという事で上に言ってはみますがね、正直良い返事はお約束できかねます。ご覧の通り、うちの国も色々と手一杯でして……』
後藤は僅かに間を置いて、声を窄めて再度口を開く。
『これでも大分マシになったもんですがね。猊下を含む其方さんらが持ってきてくれた戦闘データ、薬物改善案のお陰様でヒヨッコでもなんとか前線に立たせられる程度にはなったんですから』
口では言いつつも後藤はそれを良しとはしていない。そんな言外の感情をフレスベルクは表情を動かさずに感じ取っていた。
「分かりました。では、今は互いに役回りを務める事と致しましょう」
そう言い終えて通信を切ったフレスベルクは、双眸を閉じて祝言を紡ぎ始める。
「ここに無垢なる鋼の災厄は群生する。ここに無垢なる落とし子は量産される。ここに無垢なる者よ、数多に生まれ出でよ」
フレスベルクが両腕を水平の高さまで緩やかに持ち上げる。ノインツェーンが全く同じ挙動を見せ、細い指が開かれるとマニピュレーターも開かれた。ノインツェーンの周囲に幾つもの大きな光輪が出現する。砂浜の一区画を埋め尽くさんばかりに生じたそれらから、地を揺るがす無機質な轟音が響き渡った。
『なんだ!?』
「案ずる必要はありません。暫しの間、そのままでお待ちを」
布陣していた日乃和軍の前衛部隊から驚愕と困惑の声が上がる。程なく光輪から長大な煙突状の何かが姿を垣間見せた。アポカリプスヘルを巡る戦乱に関わった猟兵がいれば、それが何であるかすぐに察したであろう。軋む鋼の履帯の音を轟かせながら、何輌もの異形の戦車達が沙綿里島西海岸に現じた。
マルヤ・スーパーチャリオットによって産み落とされた戦車師団は海岸線に沿ってずらりと砲塔を並べている。その後方に控えるノインツェーンが片腕を宙に掲げた。
「放て」
振り下ろされた腕と共にフレスベルク直々に発せられた号令。常軌を逸脱した大口径の巨砲が弾丸を投射する。大気を戦慄させる爆轟は海原さえも震え上がらせた。無数の風切り音が伸びた後、遥か遠方の水平線上で爆炎の華が狂い咲いた。緋色と黒煙が織りなす嵐は有翼エヴォルグの群れを飲み込んで、凄まじい熱で焼き尽くして乱舞する金属片で微塵に切り裂いた。遅れて到達した衝撃波が爆音と共に砂浜を駆け抜ける。日乃和の兵達は怯え竦んでいた。
純粋故に強力。理屈抜きの火力の押し付けで有翼エヴォルグの梯団の一角は悉く蹂躙された。
「これが、オブリビオン・フォーミュラの力……」
フレスベルクの瞳が緑を塗り替えた爆炎の色を映す。
『オブリビオン・フォーミュラ……?』
偶然居合わせた日乃和軍のキャバリアパイロットが聞き慣れない言葉を問い返す。フレスベルクは静かに深く頷いた。
「破滅の根源、追い縋る過去……この世界で言えばあのエヴォルグも含めた全てのオブリビオンマシンの頂点に立つ存在、となるのでしょうね」
淑やかに語るフレスベルクに対し一兵卒はそれ以上何も追及できなかった。オブリビオンマシンの存在は一般的に語られている範囲で既知している。だが今の砲撃がその上位種らしきオブリビオン・フォーミュラの力だとしたら、オブリビオンを狩って回っているらしい猟兵とは一体何と戦っているのか。そしてオブリビオン・フォーミュラと同等の力を行使出来る猟兵とは何なのか。ひょっとしたら彼らにとってこんな戦いは児戯に過ぎないのではないのか。名も無き少年兵は背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。
戦車を従え災厄の暴雨を降らせた神騎の横顔は、座するフレスベルクと同じく黙して語らない。ただ水平線上の敵を見据えているだけだ。
「……裁きを」
再び轟く号砲。有翼エヴォルグ達に破滅の審判が下される。罪科を裁く神子代理の面持ちに慈悲は無かった。
大成功
🔵🔵🔵
ノエル・カンナビス
(エイストラ搭乗。武装はライフルx2・キャノンx2)
次段の戦闘を考えれば、兵数と士気とは重要です。
鋼のチェーンは弱い環から切れるもの、
本作戦の成否を分けるのは陸上戦力です。
陸のキャバリアと砲台と。私はその防御を行います。
陸上兵力の前上方に位置し、統合センサーをAWACSモードで動作、
索敵/操縦/ダッシュ/空中機動/推力移動/対空戦闘/継戦能力で
スナイパー/貫通攻撃/ライフル二挺・鎧無視攻撃/範囲攻撃/
キャノン二門の四火線を、それぞれ個別照準で一斉発射します。
バイブロジェットの機動力と航続時間とがあれば、
友軍前面を往復しつつ単独で防御線が張れます。
個体は抜けても構いませんが、集団は通しませんよ。
●シャトルラン
事前に想定されていた通りではあるが、やはり有翼エヴォルグの集団は艦砲射撃の面制圧をも凌いで沙綿里島西海岸に殺到しつつあった。だからこそキャバリアを中核とした前衛戦力が海岸線一帯に展開され、敵群の水際阻止を担っていた。
「戦況から察するに……本作戦の最後の成否を分けるのは陸上戦力ですね」
エイストラを駆るノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)の戦闘ドクトリンは日乃和軍のそれとさほど齟齬は無いらしい。広大な砂浜に控えるこれらの潤沢な陸上戦力を如何に温存し、兵員と士気を擦り減らさずに次段の戦闘に備えるかが鍵とも言えるだろう。そして防衛の鎖は脆弱な環から引き千切られるものだ。全体のどこにも綻びを見せずに戦い続けなければならない。
「少々慌ただしくなりますが、致し方ありませんね」
感情らしい色を映さないノエルの眼差しがサブウィンドウ上のレーダーを見遣った。エイストラに搭載されている統合センサーシステムは現在広域探知に優れたAWACSモードで稼働している。敵梯団の分布状況は勿論、友軍の展開位置に至るまでが探知対象だ。
「前衛部隊と敵群の塊を衝突させるのは避けた方が賢明ですね。ここは積極的に陸上兵力の前に出るべきでしょう」
戦術判断の要綱を決定したノエルの行動は迅速だった。フットペダルを深く踏み込んで左右両方の操縦桿を押し込むと、エイストラは砂の地面を蹴って飛び上がり、バイブロジェットブースターのフィンから甲高い振動音を立てて急加速した。目標は日乃和軍隷下のキャバリア部隊に迫る有翼エヴォルグの群れ。遠目に見れば緑の塊にも見えるほどの密度で形成された集団。これを真っ先に叩く。
「おや? 意外と反応がよろしいですね」
複数枚のフィンで構成される特異な主機の稼働音で勘付いたのだろうか、有翼エヴォルグの何体かが群れを離れてエイストラに襲撃を試みた。向けられた指の一本一本が無数の触手に変容した。先端に凶悪な爪を生やす有線式誘導弾が、蛇のようにのたうちながらエイストラへ殺到する。
「まあ、当たらないのですが」
エイストラは直進加速を緩めず上方向へと瞬間跳躍した。追尾対象を見失った触手が足下を擦過して行く。回避と同時にバーニアノズルが噴射光を吐き出し機体姿勢を海面に正対させた。左右交互に放ったプラズマライフルが触手を撃ち抜く。さらに側面から迫った触手は舞踏のような急速旋回で紙一重に躱し、反撃のプラズマライフルで触手を潰して追撃を封じる。
「消えてもらえますか? 忙しいので」
大回り気味に旋回飛行する有翼エヴォルグに対し、エイストラの携えるプラズマライフルが青白い光線を放った。研ぎ澄まされた狙いは目標の正中を貫通し、活動機能を奪って海面に落着させる。重ねて発射した荷電粒子光線も同じように他の有翼エヴォルグを穿つ。最期を見届ける間も無くエイストラは空気の振動音を引き連れて空中を駆ける。眼前の向こうでは前衛部隊に敵群が接近しつつあった。
「プラズマキャノン、ライト、レフト、アクティブ」
淡々とした音声入力に従い、エイストラの左右背面のガンマウントに接続保持されている大口径砲がバレルを伸長させ、正面に90度倒れた。モニター上に表示されている敵群をノエルが視線でなぞると、火器管制機能が統合センサーで得られた情報を参照して照準補正を行った。敵影に重ねられているロックオンマーカー自体は合計4つ。数十に及ぶであろう敵群を一度に処理するには不足しているようにも思われるが、各兵装を適切な射角で使用出来れば手数を補う事は可能だ。そしてノエルはそれを為し得られる技量を有していた。
「発射」
ノエルの指先がトリガーキーをクリックした。エイストラが左右のマニピュレーターで保持するプラズマライフル、左右背面のガンマウントのプラズマキャノン、其々の銃口から青白い粒子の光が膨れ上がった。放射された荷電粒子は敵群を側面から直撃、横殴りの鉄砲水を浴びせたかのようにして有翼エヴォルグの多くを押し流して消滅させた。しかし全てではない。難を逃れた若干の個体がなおも海岸線を守る前衛部隊へ向かっている。だがノエルは撃ち漏らしに意識を傾ける素振りも見せずに機体を直進加速させた。
「個体は抜けても構いません。高射砲と前衛部隊で十分処理可能な筈ですから」
ノエルの見立て通り、撃ち漏らした有翼エヴォルグは前衛部隊との交戦距離に入った途端に様々な弾丸の洗礼を受けて瞬く間に挽肉となった。エイストラは撃破した敵群を後方に置き去りに新たな敵群へと向かう。
「集団は通しませんよ」
後は同じ戦法の繰り返しだ。海岸線に展開するキャバリア部隊目掛けて滑空する有翼エヴォルグ集団の側面を取り、プラズマライフルとキャノンの四門同時斉射を浴びせる。これで群れの大多数を撃破したら踵を返して次の敵集団の側面に強襲を仕掛ける。取り零しには目もくれない。ノエルは単独で機動的な防衛線を構築する事で全体の損耗率を大きく抑制してみせた。
「……推進剤残量はまずまずといった所ですか。補給コンテナはそこら中にありますから、さほど留意するほどでも無さそうですが」
計器類に視線を流す。サブウィンドウ内の機体ステータスに今のところ問題は生じていない。空気を加速噴射するバイブロジェットブースターを主機としているエイストラは連続戦闘稼働時間が長い。前線を忙しく往復するこの戦術には最適とも言えるだろう。後は姿勢制御に使う通常のスラスターの燃料が尽きるか、ライフルかキャノンの銃身が限界に達するか、それまでノエルは機械的に駆除作業を繰り返す。レーダー上ではひとつの光点の塊が消えるとまたひとつの塊が現れる。機体制動の片手間にレーダーを横目で見たノエルは、まだまだ長引くであろう戦闘の気配を感じ取っていた。
大成功
🔵🔵🔵
朱皇・ラヴィニア
全く、戻った早々こんな状況か
相変わらず慌ただしいね…それじゃ行こうか
ユーベルコードでゼルとエルを分離して操縦
ボクは何か機体を借りよう
海上だからね、ある程度飛べれば何でもいい
大丈夫、乗りこなしてみせるよ
分割したヘイロゥで両機は推力移動
ゼルは肉体改造で反応速度向上し323を装備
エルは武器改造で手にした147の強度を強化する
ボク自身の機体は集団戦術の指揮の為リミッターを解除
各機を日乃和軍と白羽井小隊に向けて飛ばし
戦況の確認と戦術提案を行う
大丈夫、君達ならやれる
こういう時は手練に合わせたほうが容易い
お嬢さん達の攻撃に揃えて
一網打尽にしてやろうか
リモート各機で支援を行い連携を成就し
新人に自信を持たせよう
●戦域補助
日乃和海軍が擁する正規空母の大鳳。沙綿里島の防衛戦に馳せ参じ、艦載機である白羽井小隊のイカルガを早々に全機発艦させていた。飛行甲板直下にある格納庫のキャバリアハンガーは殆ど空室となっており、整備要員やフォークリフトが忙しく走り回る嫌に開けた空間と化している。だが格納庫の片隅のキャバリアハンガーには出撃しそびれたイカルガが数機取り残されていた。
「全く、封神武侠界から戻った早々こんな状況か……哪吒退治よりは遥かにマシだろうけど……」
取り残されていたイカルガの内の一機、そのコクピットに座す朱皇・ラヴィニア(骸の虚・f29974)の指先がコンソールパネルをなぞる。横目で見たサブモニターには強化服に身を包む自身の姿が反射していた。
『如何でしょう? 白羽井小隊の予備機ですので、コンディションは良好かと思われますが』
通信音声がラヴィニアの耳朶を打つ。声の主は大鳳の艦長である結城だった。
「まあ、問題ないかな? 海上だからね、ある程度飛べれば何でもいい。……ふーん、操作系はかなりオートマチックなんだね」
初めて乗った者とは思えない程になめらかな手つきで機体のステータス画面を呼び出す。バーニアの出力設定の状態を確認し、スロットルレバーを上下させたりフットペダルを左右交互に踏み込んで制御系の反応調整を行う。
「ちょっとシートが合わない気がするけど……大丈夫、乗りこなしてみせるよ」
背を沈める操縦席に若干の違和感を覚えながらも実戦で乗り回している内に気にならなくなるだろうと思い切り、ラヴィニアは細々とした設定確認工程を終えた。
『はい、仰る通りかと。その機体も元は猟兵様方がこの世界に持ち込んだものと伺っておりますので』
「そうなの? とにかく、これ借りてくね」
『承りました。どうか無事のご帰還を……』
結城との通信が切られるのと、ケージの枷が解かれるのは殆ど同時だった。キャバリアの出撃準備を報知する回転灯が点滅する。メインモニターを介して見る空母の格納庫は尚広大だった。足元では黄色のライフベスト姿の甲板作業員が誘導用ライトで移動を促している。ラヴィニアは誘導に従い操縦桿を押し込んだ。イカルガが合わせて足を一歩前に踏み込む。
「うわ、軽いなー」
普段乗り慣れているジャイアントキャバリア、或いはオブリビオンマシンと比較して明らかに軽過ぎる挙動に少しばかりの戸惑いを覚えながらも先導する作業員に追従する。機体をハンガーから完全に離脱させて方向転換を行おうとした際、視線の横に不穏な気配を感じた。
「ん……?」
ラヴィニアの頭の動きに合わせてイカルガの頭部がそちらへ向けられる。感じた気配の先には重厚な隔壁があった。『機密区画』『立入禁止』などと仰々しい明示が目に付くが、それ以上に妙なざわつきが胸中に宿った。強烈な憎悪、または敵意。よく見知っているような、知らないような、そんな空気が隔壁から滲み出ているように思えた。
『どうかしましたー!? エレベーターデッキはー! そっちじゃありませんよー!』
集音センサーが拾った作業員の声にラヴィニアの意識は隔壁から引き剥がされた。視線を声の元へと向けると作業員が急かすように誘導用ライトを振り回している。
「なんでもない!」
再度脇目で隔壁を見遣ると、やはり不穏な気配は今も滲み出ている。だが得体の知れない気配などにかまけている場合ではない。ラヴィニアは至って滞りなく機体を歩行させてエレベーターデッキへと乗せた。コクピット越しにも感じられる振動の後に昇降装置が作動する。
「眩し……」
差した陽光に思わず腕で眼を庇う。ラヴィニアの乗るイカルガは大鳳の飛行甲板に立っていた。
『出撃にはリニアカタパルトをご利用ください。すぐに前線に到達できますので』
再び結城から通信が入る。恐らく艦橋からラヴィニアの様子を見ているのだろう。
「そうさせてもらうよ。でもその前に、ゼルとエルを発艦させていいかな?」
『ゼルとエル、ですか?』
ラヴィニアのイカルガがマニピュレーターで指差す。予め甲板に待機させておいたその機体は、知らぬ者が見れば血塗れの鎧にも思えただろう。人体の骨格から外れた長く太い剛腕と、怒れる武者か修羅のような形相は、ただ直立しているだけでも仁王像の如き威圧感を放っている。名をブラディエルと呼ぶ。
そしてブラディエルの四肢が稲光の鎖に繋がれた状態で分離したかと思えば、甲冑に秘匿された内部が露わとなる。
赤い悪魔を外骨格として纏うこのジャイアントキャバリアこそラヴィニアがゼルと呼ぶ機体、シュラウゼル=ザインだった。ブラディエルと比較するとより人体に近い骨格構造をしているものの、強面振りは引けを取らない。
『ほう……これはこれは……』
大鳳の甲板に立つ二機を見た結城が零した声は、妙に恍惚染みていた。
「ご覧の通りという訳で……」
『どうぞ、如何様にもご活用ください』
リモート・レプリカントによって分離した二体の悪機はそれぞれに制御が可能だった。二分割されたEP-T33/2CBステラヘイロゥを背負うシュラウゼルとブラディエルがカタパルトデッキへと進む。先にRS-323Fラピッドラプターを装備するシュラウゼルが発艦し、続いてRX-147ロストオウスを装備するブラディエルが電磁加速投射された。最後にラヴィニアのイカルガが飛び立つ。
「朱皇ラヴィニア、イカルガ出るよ!」
凄まじい初速が生み出す重力加速度に身体がシートに押し付けられる。呻き声を漏らした時には既に大鳳の甲板は視界から消えていた。眼前にあるのは蒼穹の海と空。そして迸る火線と爆炎の球。海上を滑空するイカルガを挟み込むようにしてシュラウゼルとブラディエルが並ぶ。
「ゼルは白羽井小隊の援護に、エルは前衛部隊の援護に回って。ボクはデータリンクの中継機になる」
ラヴィニアの命を受けた二機は姿勢を傾斜させてそれぞれの方向へと飛び去った。
「戦況は良くもなく悪くもなくか。やっぱり数が多過ぎるね。イェーガーがいなければもう半壊してたかも」
集積した戦況情報を元に戦術を構築する。
「D5中隊! 聞こえる? 今から支援を送るからラインを下げて! 抜けて来た敵だけを叩けばいいから!」
「でも敵の数が……!」
「大丈夫、君たちならやれる。落ち着いて、周りをよく見て。ちゃんとバックアップするから」
ラヴィニアが真っ先に手を付けたのは敵群に絡まれている前衛部隊の負荷軽減だった。ブラディエルを差し向け、ロストオウスから繰り出される乱舞で次々に有翼エヴォルグを斬り刻む。だが攻撃はあくまで負荷を軽減するに留めていた。敢えて敵を残存させて日乃和軍が処理する猶予を与える。年端も行かない少年少女の兵達に勝ち癖を付け、自己肯定感から成る自信を付けさせる心理的狙いがあったのだ。
「エルの方はこの調子で良さそうかな? 問題は白羽井小隊の……あ、やばいかも?」
シュラウゼルが向かった先は最前線の中でも特に苛烈な戦闘区域だった。白羽井小隊は機動性に長けた航空機体を与えられているだけあって、背負わされる負担も前衛の倍に等しい。有翼エヴォルグの集団に包囲されつつある所にシュラウゼルが割り込んだ。強引に強襲を仕掛けラピッドラプターの速射を至近距離から浴びせる。瞬時に蜂の巣にされた有翼エヴォルグは体液を撒き散らしながら海面へと落下していった。しかし一体撃破すればまた一体もう二体と襲来が続く。
「いよいよ冗談じゃ済まないね。リミッター解除、フルブースト!」
最早直接手を下しに行かねば手遅れになりかねないと判断したラヴィニアは、フットペダルを限界まで踏み込んで機体を加速させた。
「もしもしお嬢さん達! 包囲を突破するから、攻撃タイミングを揃えてくれる?」
『イカルガ!? 誰が乗っているのです!? もしや猟兵の方!?』
ラヴィニアの通信を受けた白羽井小隊の隊長は、乗り手がいないはずの予備機の登場で驚愕気味に答えた。
「ちょっと借りて来ただけだよ! それよりもミサイルまだ残ってる? こっちで誘導するから一緒に撃って!」
偶然軌道上を妨げた有翼エヴォルグをビームソードで切り捨てた。シュラウゼルが追撃のラピッドラプターの掃射を重ねる。漸くラヴィニアと白羽井小隊のイカルガが合流を果たした。周囲では多数の有翼エヴォルグが旋回飛行しながら金切り声を上げている。
『面制圧という事ですの? 了解致しましたわ』
「話しが早くて助かるよ。それじゃあ今すぐに!」
『今すぐ!?』
既に照準を済ませていたラヴィニアがそのガイドデータを白羽井小隊に送り付ける。有翼エヴォルグが攻撃の兆候を見せたのはその時だった。
「撃って!」
全機のイカルガが一斉にマイクロミサイルを放出する。無数の白いガスの尾が有翼エヴォルグに向かって伸び、直後に幾つもの炸裂の光を明滅させた。周囲が爆煙で満たされ、飛翔能力を喪失した有翼エヴォルグが黒い煙を引きながら海へと没する。眼下では水柱が次々に立ち昇っていた。
「一網打尽ってね」
周囲を取り囲む敵の光点がレーダーから消えたことを確認したラヴィニアは満足気に肯く。
『お上手ですわね……』
「ん? 別に? ボクは手伝っただけだよ」
ラヴィニアとしてはあくまでも支援に徹して連携を成就させてやったに過ぎない。そうして新人に自信を持たせる。この判断は後にラヴィニアが想定する段階以上の効力を及ぼす事となる。
大成功
🔵🔵🔵
天城原・陽
【特務一課】
前回の第一プラント戦以降、只の武力介入による支援という国から与えられたお題目よりも強くエヴォルグシリーズ…引いてはオブリビオンマシン殲滅の意志を確固たるものにした。
そう、奴らは生かしてはおけない。あれらこそが世界の歪み。元凶。
そして…
「『仮免』の連中も生かす。あれは私達『都市の子供達』と同じよ。先がある。一緒に未来を見る権利と義務があるわ」
敵影にサイトを合わせる。照準に精密さは必要あるまい。撃てば当たる。それ程の数だ。
「面制圧は任せなさい!マダラ!!キリジ!!抜かれんじゃないわよ!!!」
ダブルファイア。徹甲榴散弾の爆炎と加粒子砲で敵陣を焼き払わんとする
斑星・夜
【特務一課】
※キャバリア:灰風号搭乗
これまたすごい数だねぇ。本当に緑に染まってる
アレを全部ぶっ飛ばせば良いんだねぇ。オーケーオーケー!そっちは任せたよ!こっちも俺達に任せて!
味方は一人も死なせない。敵は一匹だって逃がさない。全部叩き潰す
『EPワイズマンズユニット『ねむいのちゃん』』で、海岸付近の敵機の数ち位置を情報収集
突破しそうな敵や『仮免』の子達に対し危険そうな敵を最優先で潰します
RXブリッツハンマー・ダグザを『グラウ・ブリッツ』を込めて振り回し、周囲の敵を巻き込んで『範囲攻撃』や『部位破壊』
状況によって『EPブースターユニット・リアンノン』を起動し『リミッター解除』
加速接近し敵を攻撃します
キリジ・グッドウィン
【特務一課】
GW-4700031『(今回のキャバリア名、アドリブで)』搭乗
しかし日乃和も来るたび徴兵年齢の低下が著しいな、消耗戦になりつつある。…時間の問題かもな
エヴォルグ軍団を砂浜にて迎え討つ。ガキ達はなるべく前に出さないようにしろとギバからの仰せだ
ま、とりあえずぶっ飛ばす方向でいいよな
推力移動で前線に立ちランブル・ビーストのリミッターを解除、電圧を上げた拳で殴り込みエヴォルグ軍団を攪乱
知能がそん無ェだろうし目立てばこちらに気を取られるだろ?こっち来いよとりあえず殴らせなァ!
それでも日乃和のガキ共に近付くヤツはRSチックル・エビルによる制圧射撃
マダラがいるしそこまで心配はしてないがまあ一応な
●シー・オブ・ファイア
空と海の間に華開く爆炎。淀む黒煙を抜けて深緑の鳥人間擬が沙綿里島の西海岸に津波となって押し寄せる。正式採用された修羅人の一番機、赤雷号の左眼の複合センサーがその光景をレンズに反射していた。
「そう、奴らは生かしてはおけない。あれらこそが世界の歪み。元凶……」
赤雷号と同じ光景を天城原・陽(陽光・f31019)も視ていた。藍色の瞳の奥底には憎悪と憤怒が静かに混濁している。天城原は南州第一プラントの任務に参加していた者の一人だった。日乃和の暗部と今の惨状をもたらした直接的要因、エヴォルグ系列の機体の出自と本質を身を以て知った彼女は、第三極東都市から与えられた単なる雇用と武力介入という理由以上の戦意を燃やしていた。
「これまたすごい数だねぇ。本当に緑に染まってる」
海岸線の砂浜上に滞空する赤雷号の下方、そこで控える灰風号の操縦者である斑星・夜(星灯・f31041)は相変わらず人好きのするーー特に白羽井小隊の子女達に定評のある気さくな表情を浮かべてはいるが、眼差しはどこか刃のように冷えた光を湛えていた。
「まー、その分やり甲斐があるかな? ねーキリジちゃん」
灰風号が頭部を向けた横には黒鉄一色に微かな紫電を覗かせた機体が待機している。キリジ・グッドウィン(what it is like・f31149)のGW-4700031ことニアールは、搭乗者の挙動に同調して顔を背けた。
「面倒くせェだけだろうが。殴る相手にゃ困らねェが……しかし日乃和も来るたびに徴兵年齢が下がってんだな。素人ガキだらけじゃねェか」
キリジの視線の先には、グレイルやオブシディアンmk4などで構成されるキャバリア中隊が敵の襲来を待ち構えていた。事前情報で既知してはいたが、単なる待機状態を観察しているだけでも練度の低さが窺い知れる。訓練期間云々もあるだろうが、年齢の低さから来る心身の未熟さが主な要因だろう。
「消耗戦になりつつある……色々と時間の問題かもな」
或いはもう危険域を踏み越えてしまっているのか。そんな薄寒い予感をキリジは抱かずにはいられなかった。
「だろうね。だからこそ『仮免』の連中も生かす」
天城原が毅然とした声音で言い放った。
「あれは私達『都市の子供達』と同じよ。先がある。一緒に未来を見る権利と義務があるわ」
赤雷号が二十二式複合狙撃砲の大口を敵陣に向ける。
「そーそー、味方は一人も死なせない。敵は一匹だって逃がさない。全部叩き潰す……ってね」
灰風号が鈍銀の雷槌、ブリッツハンマー・ダグザを肩越しに構える。
「……ま、とりあえずぶっ飛ばす方向でいいんだろ」
ニアールがランブルビーストの剛爪を立てて紫電を散らせた。
「面制圧は任せなさい! マダラ! キリジ! 抜かれんじゃないわよ!」
「オーケー! 任せて!」
「声でけェよ!」
滞空する赤雷号をその場に残し、灰風号とニアールがそれぞれ相反する方向へと飛び退いた。
「丁寧にロックオンしてやるまでもない……! この数なら目を瞑ってでも当てられる!」
憎悪の籠る天城原の双眸がモニター上の有翼エヴォルグの群れを捉えた。敵群の予想侵攻軌道は現在地の浜辺へ脇目も振らず直進。操縦桿を握り込むとエントレインメント・マルチスーツの生地が軋む。照準モードをマニュアルに切り替えると、天城原はトリガーキーを引いた。
機体全長と同じ程もあろうかという長大な銃身を持つ二十二式複合狙撃砲の薬室に弾薬が送り込まれた。鈍く振動する音からしてかなりの炸薬量を誇る弾種なのだろう。同時に高機動推進ユニットのマウントアームを経由してエネルギーが充填され始める。双発式のフラッシュハイダーが青白い粒子を垣間見せていた。
「先に撃ってきたか!」
コクピット内に接近警報が鳴り響く。有翼エヴォルグの群れが赤雷号を射程に捉えたらしい。レーダーに視線を移すとミサイルを表す光点が幾つも表示されていた。
「はいはい結構結構、纏めて消し飛ばしてやるわ!」
トリガーキーから人差し指が離れる。直後に赤雷号を凄まじいブローバックが襲った。だがバーニアノズルより噴射炎をあげる事でそれを相殺、二十二式複合狙撃砲が大質量の実体弾を投射した。発射された弾は艦砲のような風切り音を立てて一直線に有翼エヴォルグの群れへと向かい、直前で炸裂し無数の榴散弾となって海と空の境目を爆炎で埋め尽くした。熱波と飛び散る金属片が生体誘導弾ごと有翼エヴォルグを八裂きにする。だがこれだけでは終わらない。
「動くんじゃないわよ! 本命が外れるから!」
二十二式複合狙撃砲のもう一方の銃口から青白い熱線が走った。赤雷号が発射の反動を推進力で打ち消しながらトリガーを連続して引く。榴散弾を辛うじて抜けた有翼エヴォルグの群れを加粒子が次々に撃ち落とした。掠めた程度でも機体の大半を溶解させられた有翼エヴォルグは立ち所に失速して海面へと墜落する。
「さっすがギバちゃん! お上手!」
敵群を文字通りに消し飛ばした赤雷号の戦い振りに斑星が賛辞で応えた。灰風号に接続されているねむいのちゃんが観測する広域索敵グラフを見れば、赤雷号を基点とした扇状の範囲から敵反応が瞬く間に消滅していた。しかし全てでは無い。まだ細々とした撃ち漏らしが残っている。制圧射撃を潜り抜けた有翼エヴォルグが、海岸線に展開する日乃和軍の部隊を襲撃せんと触手を伸ばす。その間に灰風号が割り込んだ。
「残念、そういう動きはねむいのちゃんが教えてくれるんだよね。ここは通さないよ」
青い稲光を纏ったブリッツハンマー・ダグザを力任せに振り回す。鉄槌に打ち据えられた触手は雷に焼き焦がされた上で質量物体の直撃により引き千切られた。続けて灰風号がシルバーワイヤーを射出し有翼エヴォルグの一体にアンカーを打ち込むとウィンチを巻き上げる。着弾の衝撃と引力を受けた有翼エヴォルグはなす術なく地上に引き摺り下ろされた。そこへ灰風号が鉄槌を振り下ろした。粉砕された頭部が深緑の染みを砂地へ広げる。されど後続の有翼エヴォルグの集団がすぐ目前に迫っている。潰れた死体を足場に灰風号が地面を蹴った。
「流石にギバちゃんみたいには出来ないけど、纏めてぶっ飛ばすよ!」
斑星の指先がコンソールパネルを二度叩く。メインモニターの片隅に立ち上がったサブウィンドウにリアンノンの起動を示すインフォメーションメッセージが現れた。跳躍した灰風号のバーニアノズルが力強く推進噴射の光を放つ。有翼エヴォルグの群れとの相対距離が限りなく零にまで縮まった。
「せーのっ、グラウ・ブリッツ!」
推進装置を使用した急速反転。振り抜かれたブリッツハンマー・ダグザが襲いかかる有翼エヴォルグを横殴りに打ち据えた。蒼天の霹靂の如き雷轟。巻き起こる衝撃波が周囲の有翼エヴォルグを纏めて吹き飛ばした。
「決まったー!」
会心のホームラン級ヒットを決めた斑星の挙動に合わせ、砂浜に降着した灰風号が左腕を天に突き上げた。
「マダラァ! 喜ぶンなら後にしやがれ!」
灰風号から見て、滞空中の赤雷号を挟んだ逆サイドで戦闘を続けるニアールは荒々しく敵に喰いかかっていた。
「とりあえず殴らせなァ!」
絶え間なく飛び掛かる有翼エヴォルグをランブル・ビーストで叩きのめしては引き裂く。紫電の剛爪はいつにも増して雷光の鋭さを研ぎ澄ましていた。
「うるせェ! 当たるかよ!」
喧しい誘導弾警報に毒突く。斉射された生体誘導弾を裏拳で薙ぎ払う。爪刃が弾頭を砕いて後を追う紫電が侵食因子を焼き尽くした。次いで推進跳躍、頭上を素通りしようとした有翼エヴォルグに掴みかかって頭部を殴り付ける。
「てめェらはここをぶん殴られると効くんだよなァ? どうなんだおい!」
ニアールは有翼エヴォルグごと砂浜に落下する。砂埃が舞い散る最中、プロペラントタンク一体型のロケットブースターを備える脚部で有翼エヴォルグを踏み付け、ランブル・ビーストで頭部を捉えた。マニピュレーターのサーボモーターが凶悪めいた駆動音を上げる。有翼エヴォルグは踠いて離脱しようとするがニアールは厳として抑え込む。キリジは機体越しに頭蓋骨を潰す感触を手に覚えた。ランブル・ビーストの握撃が有翼エヴォルグの頭部を砕いたのだ。深緑の返り血がニアールの頭部を濡らした。
影が頭上を過ぎ去ったのはその時だった。キリジが舌を打つ。ニアールのセンサーカメラが追った先では、日乃和軍のグレイルの一機が爆光と緑色のガスに見舞われていた。
「あの気色わりィミサイルか!?」
結論から言えばグレイルは撃破されなかったしパイロットも致命的な外傷は無かった。しかしある意味で被害は極めて深刻だった。
『なにこれ……!? 機体がおかしい!』
近距離通信で発せられたのは少女の悲鳴染みた声。被弾した際に機体を庇った両腕部にアメーバ状の何かが張り付いている。先の生体誘導弾で侵蝕を受けたらしい。
「おいガキ! 動くんじゃねェ!」
反射的にキリジは叫んでいた。ニアールがブーストダッシュでグレイルに急行する。異変に気付いた赤雷号と灰風号がニアールの方へと向き直った。
『うそ、機体の中に何か……やだ、やだやだやだ!!』
「動くなって言ってんだろうがッ!」
ニアールがランブル・ビーストでグレイルの胴体を鷲掴みにし、侵蝕された両腕の内の片方を力任せに引き千切った。肘関節の断面部分からのたうち回る緑のワイヤー状の何かが現れた。ニアールはすかさず腕を放り投げ、もう一方の腕部も同じように引き千切る。侵蝕は既に腕を超えて本体に達しつつあった。
「思ったより重症かよ……! マダラ! ギバ!」
「あらら、ヤバイ感じ? まかせて!」
「侵蝕ってそういう事か……!」
灰風号が鉄槌で、赤雷号が加粒子砲で投げ捨てられた腕を跡形も無く完全消滅させる。
「ガキ! 機体を棄てろ! 降りてこい! 喰われるぞ!」
『だめっ! 脱出装置が……! なんで!? イジェクトできないよぉ!』
少女のパイロットは涙声になりながら緊急脱出装置のレバーを引くが装置は全く反応を返さない。通信越しにその音を聞いていたキリジの表情が歪む。
「だぁァッ! めんどくせェ! おいガキ! コクピットの奥に引っ込んでろ! 絶対に何もすンな! いいな!?」
答えを待たずにキリジは行動に移る。サーヴィカルストレイナーのフィードバック係数を一時的に引き上げ、ランブル・ビーストの人差し指と中指をグレイルのコクピットハッチに掛けた。
『コクピットを切るの!? 待って! そんなのやだぁ!』
「うるせェ! 集中してんだから黙ってろ!」
「キリジちゃん怖い!」
「茶化すなマダラ!」
「バカ! もっと優しくしろって言ってんの!」
「ギバも……いやもう分かったから静かにやらせてくれ……」
そして慎重に上から下へとなぞるようにして表面を削り取る。人間一人分の亀裂が出来上がった。
「強化服は着てんだろうが!? 今すぐ出ろ!」
『ひいっ、うあぁぁ……! 助けてぇ!』
顔が涙と鼻水で酷い有様になっている少女がコクピットハッチの亀裂から這い出て来た。
「ちょっと失礼!」
颯爽と現れた灰風号が少女をマニピュレーターで器用に掬い上げると、生身に負担を掛けない滑らかな動作で後退した。グレイルのコクピットハッチの亀裂から無数の触手が生えてきたのはその時だった。
「キリジィ! ぶっ潰せェェェーーーッ!!!」
天城原が牙を剥き出しにして吼える。赤雷号は灰風号とニアールが抜けた穴を補填する為に鬼気迫る攻勢で弾幕を張り続けていた。
「言われなくても……なァッ!」
ニアールの左腕の鉄拳が紫電を纏い、一切の躊躇無く振り下ろされた。スカッシュ・フィストカフの直撃を受けたグレイルは木っ端微塵に叩き潰され、内部を汚染していたエヴォルグの因子はランブル・ビーストの電撃によって焼却消毒された。
「ったく、手間かけさせやがって……」
キリジはサーヴィカルストレイナーの係数設定を落としながら額を手で拭った。
「いやぁキリジちゃん、危機一髪だったねー」
救出した少女の身柄を他の日乃和軍の機体に預けた灰風号が拍手するような挙動を取って見せた。
「あの化物共……お陰で益々気に食わなくなったわ。マダラ! キリジ! 立て直しな!」
赤雷号の重砲が轟き、撒き散らされた徹甲榴散弾が遠方の海上で炸裂する。ひとつの窮地を抜けた特務一課の3機は再び戦列を整え、来たる人喰いキャバリアの津波を真っ向から迎え撃つ。遍く邪悪を滅ぼすまで、長銃と戦鎚と剛爪が収められる事は無い。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
ハーイ、調子良ィ?
久しぶりネ元気!?また肩の上に乗るけどよろしくなぁ!
所でこの敵キモくない!?多いし飛ぶし最悪でござる!ヴォエ!
そして物量でヤバい、速度でヤバい、ミサイルまで出そうものなら…戦場に【物理演算の神】が降臨する!お戯れのバグが来るぞ!ウヒヒ今日の神は一塊にしたいようでござるね
塊のデカいのが仲間を攻撃しだして同士討ちに!神が操ってるからな!
混乱しとる今がチャンスだ!小さいのから片づけるといいですぞ!
デカいのに近づくと塊にされかねないしネ
実はな東雲氏、困った事があってな、デカいのを始末する方法がないんだ…このままオブジェにしとく?
冗談でござるよ!バグった地面に土遁させてしまっちゃおうね
●物理演算の神再び
「ハーイ、調子良ィ?」
『ひぃぃいぃぃああああぁぁぁーーーッ!?』
鼓膜を破壊するほどに張り上げられた那琴の絶叫がコクピット内に響いた。メインモニターの全面を髭面の中年男性の顔面が覆い尽くしたからだ。那琴はその顔をよく覚えている。恩人にして奇人。半ばトラウマ染みた凶悪な笑顔。
『久しぶりネ元気!? おじさんの事覚えてる?』
「忘れられる訳ありませんわ……」
名前を出してはならないスーパーロボット、パンジャン召喚おじさん、そして物理演算の荒神。エドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)の名前と共に、どれもこれも強烈過ぎる記憶として脳に刻み込まれている。人相を含めてとても時間経過で風化させられるような代物では無い。
『それと機体に乗るのは構いませんけれど、メインカメラ前はお控えくださいと申し上げましたわよね?』
「あれれ? そうだっけ? じゃあまた肩の上に乗るけどよろしくなぁ!」
エドゥアルトはそそくさとイカルガの肩へと移動した。
『あの……地上を進んでいた以前と違って今回は飛んでいるのですけれど、大丈夫なのです?』
「ヘーキヘーキ! 気にせずカッ飛ばすといいですぞ!」
『は、はぁ……』
一応イカルガはかなりの速度を出しているのだが、エドゥアルトは相変わらず濃い表情を崩さず肩部に腰掛けていた。そして有翼エヴォルグはエドゥアルトを肩に乗せたイカルガにも容赦なく生体誘導弾を連続斉射しにかかってくる。那琴は反射的に回避機動を取ってしまうが、すぐにエドゥアルトの存在を思い出し、振り落としてしまってないかと機体の肩口を見遣った。
「ハッハー! まぁまぁなエキサイティィィンでござるな!」
『一体どういった理屈で張り付いていらっしゃるのです!?』
「なんだろ? マグネットパワー? それより前! 前!」
エドゥアルトに促された那琴が視線を正面に戻す。有翼エヴォルグが両腕を大きく広げて飛び付いてきた。
『ひぃっ! ああもう、やっぱり集中できませんわ!』
短い悲鳴を上げて咄嗟に機体を横に飛ばす。紙一重で有翼エヴォルグを擦り抜けた。
「所でこの敵キモくない!? 多いし飛ぶし最悪でござる! ヴォエ!」
『ちょっと! 吐くなら機体を汚さないでくださいまし!』
「そして物量でヤバい、速度でヤバい、ミサイルまで出そうものなら……」
などとエドゥアルトが言っている側から有翼エヴォルグの群れが生体誘導弾を揃って発射した。
『く……! 迎撃を!』
それらを撃ち落とさんとイカルガがアサルトライフルのトリガーに指を掛けた瞬間、エドゥアルトが腕で那琴を制した。
「いや! 待たれよ! 戦場に物理演算の神が降臨なさる!」
『はい……? はいぃ!?』
聞き覚えがある言葉。身に覚えがある状況。あの時と同じくエドゥアルトの表情は天使のような悪魔の笑顔だった。
「お戯れのバグが来るぞ! ウヒヒ! 今日の神は一塊にしたいようでござるね!」
突如としてイカルガに殺到する生体誘導弾が軌道を変えた。厳密には慣性を無視した謎の挙動を取り始め、出鱈目にそこら中を跳ね回り始めたのだ。挙動が狂ったのは誘導弾だけでは済まされない。周囲を飛び交っていた有翼エヴォルグまでもが高速回転と振動を繰り返し、オープンワールドゲームで度々見られるテクスチャバグのように外皮の一部が地平線の彼方まで伸長した。
『これは、まさか……またですの!?』
「神だ!! これは神の仕業ですぞー!!」
更に物理の法則が乱れる。荒ぶるエヴォルグやその他オブジェクトが次第に一点に集約され、巨大な一塊の球体状の何かに変貌した。球体は尚も物理演算の神の気紛れに弄ばれ、無茶苦茶な挙動と運動で他の有翼エヴォルグを跳ね飛ばしたり取り込んだりしてしまう。
『あれはなんですの!? 余計危険なものを錬成してしまったのではなくて!?』
「勘のいいガキは嫌いだよ! ほれ混乱しとる今がチャンスだ! 小さいのから片づけるといいですぞ!」
エドゥアルトの勧めを受けた那琴は、渋々ながらも謎の塊の吸引から逃れた敵に照準を向ける。今や有翼エヴォルグ達は狂乱する物理エンジンに捕らえられて跳ね回るバグオブジェクトと化していた。
『動き過ぎて狙い難いですわ……』
「あ、デカいのに近づくと死にますぞ」
『死!?』
「塊にされかねないしネ。君も仲良く物理演神の供物ですぞ!」
『それは御免被りますわね……ですけれど、この後どう致しますの? 時間経過で収まるのならまだしも、放置する訳にはまいりませんわよね?』
那琴の何気ない率直な問いを受けたエドゥアルトの表情が重大な問題を思い出したかのように強張った。否、思い出したかのようではなく思い出したのだ。
「実はな東雲氏、困った事があってな、デカいのを始末する方法がないんだ……」
『あらあらそれは大変ですわね……ってはいぃぃぃ!?』
那琴の声が裏返った。荒ぶる塊は今も海上を無秩序に跳ね回り有翼エヴォルグを吸収、ますます肥大化している。
「このままオブジェにしとく?」
『要りませんわ!』
「冗談でござるよ!」
『その御顔で仰られると冗談に聞こえませんわ! じゃあ早くなんとかしてくださいまし!』
「はいはいちょっとステンバーイ……コンソールコマンドを呼び出してーの……」
コリジョン設定がどうのだの地形透過が云々だのと呟きながらエドゥアルトは虚空に展開した仮想キーボードを叩く。どうも英文字の羅列をタイピングしているらしい。
「バグった地面に土遁させてしまっちゃおうね!」
エドゥアルトがエンターキーに平手を叩き付けた。その姿は旧きキーボード破壊者の如し。すると物理演算の神が創り上げた謎の塊が砂浜の方向へ吹き飛ばされた。展開中の友軍を巻き添えにして大惨事になるものかと思いきや、落下するのではなく地面に吸い込まれて消失してしまった。ゲームを知るものが見ていれば衝突判定を失った不具合そのものとしか思えなかっただろう。
「ウェェイ! ざまァねぇでござる!」
『相変わらず無茶苦茶ですわね……』
「だと思うじゃん? れっきとした電脳魔術なんだなァこれが」
イカルガの肩に座る髭面の中年男性は下衆染みた笑顔を浮かべている。ひょっとしたら彼は別次元から来訪した狂乱の大公の眷属か信者辺りなのかも知れない。兎にも角にもエドゥアルトが巻き起こした神の戯れにより敵群の多くが地形の衝突判定の狭間に消えた。物理法則の渾沌は十分過ぎる戦果をもたらしたのだった。
『戦果というより戦禍な気がしますけれど』
「勝ちゃあいいんでござるよ!」
大成功
🔵🔵🔵
セレーネ・ジルコニウム
【ガルヴォルン】
「生体型キャバリア……これ以上好きにはさせません!
機動戦艦ストライダー、空戦モード!
最前線からミサイル全弾発射です!」
『了解じゃ』
最前線上空で飛行させた戦艦の艦長席から、白羽井小隊や基地キャバリア部隊に通信を送ります。
「これより攻撃目標の指示を出します。
皆さん、それに従って攻撃してください」
『攻撃目標の最適解、算出完了じゃ』
【ガルヴォルン・フォーメーション】でシャナミアさんやキャバリア部隊に指示を出し、味方に被害が出ないように戦いましょう。
「って、敵の生体ミサイルを迎撃しそこねましたっ!?
ミスランディア、船体を盾にしてでもキャバリア部隊や市街地への着弾は阻止してください!」
『ええい、無茶をいいよる!』
もう、私の力不足で誰かの命を失わせはしません!
ですが、生体ミサイルの直撃を受けたストライダーは侵蝕細胞による侵蝕を受け……てません!?
『こんなこともあろうかと抗体プログラムを作成しバリアユニットに搭載済みじゃ』
「ならば……主砲の超重力波砲で一気に勝負をつけましょう!」
シャナミア・サニー
【ガルヴォルン】
やー、よかったー
封神武侠界で壊れた時にはどうしようかと思ったけど
直ったよレッド・ドラグナー
んでこの国はまた人喰いキャバリアに襲われてるの
ほんとどうなってんの??
放っても置くと夢見が悪くなりそうだし、まったくもう
ガルヴォルンに同行できたのは幸いだね
セレーネ大佐、甲板借りるよ
それじゃ、レッド・ドラグナー、いくよ!
【メインウェポン・チェンジ】(攻撃回数↑・装甲↓)で
『BS-MWファンシェイプ・マルチプルビームキャノン』をチョイス
機体重量調整で装甲減らさないとダメだけど問題ないでしょ
ポジション的に上取ってるし
この位置、最高だね
というわけで弾幕!
10連装ビームキャノンを連発
ミサイルごと敵機を叩き落す!
攻撃タイミングと照準は大佐の指示に合わせて
一応、ガルヴォルン所属ってことで
落とし損ねたエヴォルグもミサイルもストライダーに任せちゃおう
必死な大佐には悪いけど私はそこまで熱入らないから
でも、そうだね
白羽井小隊の娘たちにゃ守れなかった借りがあるし
あの娘たちの支援はしっかりやらせてもらうよ!
●赤竜と巨鯨
沙綿里島西海岸で始まった日乃和軍と人喰いキャバリアの攻防戦は第一段階の佳境を迎えつつあった。有翼エヴォルグの群れの矢面に立たされる最前線では両軍が放つ無数の銃弾が飛び交っている。
「生体型キャバリア……相対するのは今回で何度目でしょうかね。これ以上好きにはさせません!」
戦線維持を務める機動戦艦ストライダーの艦長席に座すセレーネ・ジルコニウム(私設軍事組織ガルヴォルン大佐・f30072)は毅然と言い放つ。彼女の思惟を体現するかのようにして、洋上に滞空するストライダーは砲塔で敵群を睨め付けていた。この世界とは異なる技術体系を母に持つ長大な軀体は、最前線に在れば友軍にとって勇気を湧かせる大きな旗印ともなった。
「やー、よかったー。封神武侠界で壊れた時にはどうしようかと思ったけど、直ったよレッド・ドラグナー」
ストライダーの飛行甲板上で待機するレッド・ドラグナーの搭乗者、シャナミア・サニー(キャバリア工房の跡取り娘・f05676)が機体ステータスの最終確認を行う。レッド・ドラグナーはとある任務で大きく損壊していたが、シャナミアの手によって完全復旧を果たしていた。機能面の不全も特に見受けられない。引き裂かれたコクピットハッチも喪失した腕部も今となっては綺麗に元通りだ。新たな装甲は陽光を受けて金属特有の冷たい照り返しを放っている。機体もさることながら、シャナミア自身も少なくない負傷を受けていたのだが、今ではもう傷跡すら見当たらない。それはドラゴニアンの生命力に因るものなのか、或いは隠された血に因るものなのか。
「シャナミアさん、機体の調子はいかがですか?」
セレーネからシャナミアへ向けて通信音声が発せられた。
「まぁまぁかな? セレーネ大佐、このまま甲板借りるよ。しっかし、この国ってまた人喰いキャバリアに襲われてるの?」
『また、というより毎度じゃのう』
二人の通信に割り込んだのは機械知性体のミスランディアだった。現在の彼女はストライダーの火器管制や情報統合の支援を司っている。
「どうなってんのか知らないけど、放って置くと夢見が悪くなりそうだし、あのエヴォルグってのが本当に夢に出てきそうだし、やる事はやるけどさ……」
「頼りにさせてもらいますよ、シャナミアさん。ミスランディア、全ミサイルポッドの自動照準を開始。日乃和軍とのデータリンクも随時更新してください」
『了解じゃ』
「青が3分に緑が7分……沙綿里島の基地司令も言っていましたが言葉通りですね」
ストライダーのブリッジのメインモニター上に表示されているレーダーは、上半分が敵群を示す光点で埋め尽くされていた。その光点にミサイルの誘導照準が完了した旨を示すロックオンマーカーが次々に重ね合わされる。巨大なメインモニターに出力されている外部映像上でも、渡鳥の集団のように迫り来る敵群へ同様のマーカーが重ねられていた。
『攻撃可能な分の捕捉は全て完了じゃ。後はセレーネが一声出すだけで撃てるぞい』
ミスランディアの報告を受けたセレーネが無言で短く頷いた。
「白羽井小隊の位置は?」
『ストライダーから見て南西側じゃな。補給から帰って来たところじゃ。もうすぐ敵と接触するじゃろうのぅ』
「そうですか、悪くないですね。では本艦との距離が最も近い日乃和軍の前衛部隊は?」
『F5からF8中隊が背後に控えておる。じゃが呼びかけるつもりなら、射角からしてE7とF9中隊にした方が得策じゃな。先に挙げた部隊じゃと背中に流れ弾を喰らうかも知れんの』
誰に頼まれるでもなくミスランディアが戦域の二次元地図情報をモニターに展開した。シャナミアのレッド・ドラグナーの元へも届けられている。
「そのようですね。では白羽井小隊とE7中隊、F9中隊へ回線を開いてください」
日乃和軍の戦術データリンクを経由して各隊へ通信を行う。モニターの片隅に各隊長の姿がポップアップするという形で返答はすぐに訪れた。
「これより攻撃目標の指示を出します。終末誘導はこちらで行いますので、皆さんはそれに従って攻撃してください」
白羽井小隊の他日乃和軍前衛部隊が順次了解の意思を告げる。通信を終えたセレーネは緑に染まる空と海の境目を見据えて腕を薙いだ。
「ストライダー、及び各部隊へ! 撃ち方始め!」
防弾パッドの仕込まれた胸を堂々と張って発せられた号令。ストライダーのミサイルポッドが一斉に轟音を上げる。ロケット推進によって白煙を後に引き連れた大型誘導弾が敵群へと向かい、白羽井小隊が発射したマイクロミサイルや日乃和軍前衛部隊の狙撃砲を始めとする多種多様な弾丸と混ぜこぜとなって殺到する。
「やるよ、レッド・ドラグナー!」
ストライダーの飛行甲板に控えるシャナミアの機体も面制圧の一手を担う。メインウェポン・チェンジにより換装したファンシェイプ・マルチプルビームキャノンは、その特異な10連装砲身を孔雀の尾羽のように開いた状態で敵群へと向けていた。重量が操縦桿越しにシャナミアの手元へと伝わる。だが重さは必ずしも枷ばかりになるとは限らない。荷重が加わるが故に安定性が増して命中精度や連射性の向上も見込める。火力投射を求められるこの状況下に於いてはマルチプルビームキャノンの重さが逆に有利に働いていた。
「ファンシェイプ・マルチプルビームキャノン、ランダムシュート!」
押し寄せる有翼エヴォルグの集団にストライダーと日乃和軍が放ったミサイルの暴雨が正面衝突した。赤と黒が混濁した爆炎が積乱雲のように膨れ上がる。間を置かずにレッド・ドラグナーの10連ビームが撃ち込まれる。初弾の数発は全門一斉射、以後は各砲門ごとに僅かな時間差を置いて絶え間ない弾幕を展開する。これには有翼エヴォルグがどさくさ紛れに発射するミサイルを迎撃する狙いもあった。乱れ飛ぶ荷電粒子の光線が深緑の悪機を貫く。
「攻撃継続! この梯団はここで一挙殲滅します!」
ストライダーの火力投射は終わらない。ミサイルポッドから誘導弾が発射される度に火球が有翼エヴォルグを飲み込んだ。
『白羽井小隊、了解ですわ!』
前線との距離を詰めていた白羽井小隊のイカルガ達が、やや距離を開けてストライダーの斜め後方に展開する。
「大佐は熱が入るねー」
甲板上で10連装ビーム砲のトリガーを連打し続けるレッド・ドラグナーの搭乗者の思惟は、苛烈な攻撃の応酬の最中にあってもどこか割り切りとも達観とも言える平静さを漂わせていた。なし崩し的に巻き込まれた、或いは単に雇用されているだけという立場上の理由もあるのだろうか。
「あの娘たちの支援はしっかりやらせてもらうけど……ねっ!」
だがそれは別として以前の件の借りは返す。弾幕を抜けた有翼エヴォルグの個体が白羽井小隊を側面から襲撃しようとするも、シャナミアの双眸はそれを看過しない。すかさず照準を交差させるとファンシェイプ・マルチプルビームキャノンの扇状に開いていた砲身を閉じて収束モードに変更。トリガーキーをクリックした。10連装砲身が放射する荷電粒子は平面な光の帯となり、有翼エヴォルグを擦過して溶解消滅させた。その断面図は熱したナイフでバターをスライスしたかの如く滑らかなものだった。
「にしたって数がまともじゃ……! 面制圧は効いてるはずなのに! あぁもう忙しい!」
レッド・ドラグナーがマルチプルビームキャノンをひたすらに撃ち続ける。最早照準補正など殆ど必要無い。総数が測定不能になるほどの敵の密度が幸いして撃てば必ずいずれかに命中するからだ。10体撃墜すると20体現れる有翼エヴォルグの大群勢。次第に焦ら立ちを募らせるシャナミアの口元は食い縛る牙を覗かせていた。
当初は闇雲に突入を継続する有翼エヴォルグだったが、次第に攻撃傾向に変化が訪れた。生体誘導弾をより積極的に使用し弾幕の中に紛れて突入を行う兆候を見せ始める。生体誘導弾も隙なく迎撃していたストライダーとレッド・ドラグナーではあったが、時間経過と共に数が飽和し、処理限界を超過しつつあった。
『抜けられるぞい。予測軌道からして沿岸部の前衛部隊が狙いじゃ』
「迎撃は!?」
『素人に全部は無理じゃろうのぅ』
「あー、ヤバめだね。ミサイルの数が凄い! 悪いけどこっちも手一杯で!」
ミスランディアとシャナミアの報告にセレーネは声量を張り上げた。脳裏にはかつて藤宮市での戦闘中に起きた艦内の惨殺劇が浮かんでいた。あれとまた同じ光景が繰り返されるのか。ひょっとしたら更に凄惨な結末が待っているかも知れないとも思えた。生体誘導弾の侵蝕の恐ろしさの断片を身を以て垣間見ていたからだ。
「ダメです! 船体を盾にしてでも着弾を阻止してください!」
「ちょっと大佐!?」
『ええい、無茶を言いよる!』
ストライダーはメインエンジンの片方より力強い噴射光を放出すると、敵梯団に向けていた艦首を横方向へと旋回させ始めた。側からは緩慢な動作に見えるが、強襲揚陸艦の長大な船体が急激な方向転換を行う際に生じる重力加速度には凄まじいものがある。
「うわっちょちょちょ! 落ちる! 危ないって! もう!」
最も煽りを受けたのは甲板上で火力投射を行なっているレッド・ドラグナーだっただろうか。崩れた姿勢で膝立ちとなって堪えている。だがその間もマルチプルビームキャノンの連射を中断する事は無い。こちらの都合などお構いなしに襲撃する敵をシャナミアは退け続けていた。
方向転換の終了とストライダーの船体が被弾の衝撃で震えたのは殆ど同時期だった。生体誘導弾が着弾した側舷で緑色のガスの炸裂が生じる。スティンガーⅡの件で船体が侵蝕汚染される前に取るべき手段はもう心得ている。僅かな判断の遅れが命取りになるという事も。
「間に合いましたか! ミスランディア! 被弾箇所の装甲排斥を!」
『それには及ばんぞい』
「なんですって?」
想定していなかった返答にセレーネは虚を突かれたかのような声を出す。
『こんなこともあろうかと抗体プログラムを作成しバリアユニットに搭載済みじゃ』
ミスランディアの声音はどこか誇らしげだった。論より証拠と言わんばかりに船体の被害状況を映像出力する。実際に被弾した箇所は僅かな物理的な損傷を受けただけに留まっていた。生体誘導弾は確かにバリアフィールドに阻まれ、浸食作用も及んでいなかった。
「なんで先に言わないんですか!」
『聞かれなかったからじゃ』
「聞かれなかったって……南州第一プラントの時も同じような事を!」
「ちょっとー! 大丈夫なら早く攻撃再開してくれないかなー!」
セレーネの続く言葉はシャナミアの切羽詰まった通信音声によって遮られた。レッド・ドラグナーはやはり甲板上で無数の有翼エヴォルグを相手に絶望的な対空砲火に明け暮れている。
「失礼! ストライダーは12時の方向へ回頭! もはや通常兵装だけでは埒が開きません。ミスランディア、重力波砲の発射準備を」
先程とは逆の動作で旋回するストライダー。艦首に備わるハッチが展開し、巨大な円筒状の砲身が前面へと迫り出す。ストライダーが搭載する禁忌の戦略級兵装が露わとなった。
「…….使って大丈夫なの? それ」
キャバリア鍛治を生業とするシャナミアは直感的にその兵装の脅威度を見抜いたらしい。
『海上で使う分には問題あるまいて。放射能を撒き散らす訳でもないからのぅ。重力異常は起きるやも知れんが』
既に重力砲へのエネルギー供給は始まっていた。伸長したバレル内部の多層構造タービンが高速回転し、縮退保持された重力斥力場が黒い稲光となって荒れ狂う。臨界に達した事を知らせるインフォメーションメッセージがモニターに仰々しく表示された。
「一気に勝負をつけましょう! 超重力波砲、発射ぁっ! あっ、シャナミアさん耐ショック姿勢を」
「先に言ってくれないかなー! いやまぁ察してたけどさ!」
甲板に伏せるレッド・ドラグナーを他所に、ストライダーの艦首大口径砲が黒い波動の迸りを吐き出した。万物を引き寄せ圧壊する重力が柱状となって有翼エヴォルグの密集空間を直撃。炸薬や荷電粒子とも異なる独特の衝撃音と共に有翼エヴォルグは握り潰された古紙のように圧縮、縮小させられた。超重力波が駆け抜けた後には何も残らない。威力とは対照的な静けさが不気味に漂うだけだ。
沙綿里島西海岸を襲った有翼エヴォルグの梯団の一角はガルヴォルンによって滅殺された。戦況は全体で見ればまだ序盤。しかし序盤であってもストライダーとレッド・ドラグナーの戦いは単純な戦績以上に周囲の友軍に対して大きな勇気を示していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
露木・鬼燈
今日もアポイタカラで出るですよ
僕は飛んで進行してくるのを落とすのがいいかも?
とゆーことで大鳳の飛行甲板を間借りするのです
更に戦術データ・リンクにアクセスするですよ
大丈夫だよね?許可下りるよね?
アクセスできれば大鳳と三笠のレーダーからの情報をもらうですよ
今回は超長距離射撃もする予定
なのでアポイタカラのセンサーだけだ精度が心配だからね
準備ができたので化身鎧装<与一>を展開
竜殺之剛弓による射撃を開始するですよ
まぁ、敵の数が多いので普通に撃ったのでは追いつかないよね
なので忍らしく忍術で補うっぽい
影分身の術を応用して飛翔中の矢を無数に増やすのです
これぞ忍弓術<八百万之一矢>、なんてね
さて、日乃和のキャバリア部隊の様子はどうだろう
戦士とも言えない女子供が戦場で散るのは好きじゃないからね
できる限り助けてあげたいところなのです
戦術データ・リンクで繋がっている…はず
なので向こうの様子もわかるよね?
危なそうなところには援護射撃を、ね
んー危ないところばかりじゃない?
これはちょー忙しくなるっぽい!
●竜殺の矢が疾る
戦域を水平線に望む洋上に展開する日乃和海軍の増援艦隊。戦列に並ぶ巨大な船体を有する大鳳の飛行甲板上に、剛弓を携える血染めの鉄鬼の姿が在った。露木・鬼燈(竜喰・f01316)は座す操縦席の中で制御操作板を指先で叩き、長距離射撃ならぬ長距離弓撃の下準備として火器管制機能の再設定を行っている。
敵群梯団の所在地までの距離は優に数十キロ以上離れていた。常人であれば視認が精々といったところだろう。だが異形心眼を有する鬼燈であれば狙撃など造作も無い――のだが、より確実性を得るべくもう一手の保険を掛ける。戦いに対する楽観視も無ければ過小評価も無い。日常的に戦いを生業とする鬼燈は周到な準備こそ雌雄を別つ要因になり得ると熟知していた。
一手の保険とは日乃和海軍の戦術データリンクの利用だった。広域レーダーは無論として艦艇が砲撃の際に使用する着弾観測などの情報を参照し、アポイタカラのセンサーシステムと同調させる事で狙撃の精度をより高めるのだ。
『存分に活用してくれたまえ! しかし弓とはな! その手並、拝見させて貰おう!』
「どーも」
データリンク接続要求は攻撃艦隊を率いる三笠の艦長である泉子によっていとも容易く承諾された。メインモニターにサブウィンドウが幾つか立ち上がり、受信した戦域情報が次々に流れ込んで来る。望む観測情報が得られた鬼燈は「よしよし」と二度頷く。アポイタカラがマニピュレーターに握る剛弓の本弭を飛行甲板の耐熱鋼板に突き立てた。
「超長距離射撃、始めるっぽい! この一矢は竜をも射殺す!」
纏う生体装甲が変貌を始める。腕部に籠手を形成し、肩部には新たな装甲板を作り出す。そして背面には長大な矢筒を拵えた。
『ほう! 弓取か!』
日乃和においても古きに伝わる弓兵の似姿を得たアポイタカラに泉子が感嘆する。化身鎧装<与一>への換装を終えた赤鉄の鬼がいよいよもって弓に矢を番えた。目一杯まで引き絞られた弦が軋む。鬼燈の瞳にロックオンマーカーが映り込んでいる。マーカーが捉える標的は海岸目掛けて滑空する有翼エヴォルグの内の一体。
「いまっ!」
アポイタカラのマニピュレーターから弦が離れた。番えられていた矢が跳ね出される。後方に生じた衝撃波が飛行甲板上に累積した土埃を吹き上げた。
竜殺之剛弓が扱う矢は大槍のように長く太い。轟く風切り音を引き連れて狙った目標へと素直な軌道で進む。鏃の先端が有翼エヴォルグの胴に突き刺さると、途端に身を回転させながら海中に没した。
「命中っぽい! でも敵が多過ぎるね。こんな調子じゃとても追いつかないのですよ」
ならばとアポイタカラは第二の矢を番えた。しっかりと引き絞った後に曲射されたそれは、途中までこそ先の矢と変わらず素直に敵へと向かったが突如として分身。百を超える無数の雨となって有翼エヴォルグの群れに降り注いだ。頭部や胴体や翼膜を貫かれた鳥人間擬きの怪物達は次々に海面へと落着してしまう。白い水柱が幾つも立ち昇った。
「これぞ忍弓術<八百万之一矢>、なんてね」
影分身の忍術のちょっとした応用で立ち所に集団の一角を降した鬼燈の視線が横に逸れる。その先にはキャバリアを主力とする前衛部隊が海岸線で防衛陣を敷いていた。武芸者から視た動きは益々素人染みている。
「ありゃりゃ、棒立ちなのですよ」
というよりもそもそも動いていなかった。教則書通りの統率は取れているようだが足を止めてひたすら撃っているだけだ。陣形の戦術によってはそれでも良いのだろうが、折角中隊で小分けにされているのに機動力と柔軟性が死んでいる。
データリンクを結んでいるアポイタカラは逐一日乃和のキャバリア部隊の動きや通信内容の情報を受信していた。兵とは名ばかりの徴用された女子供の素人集団。多くは有翼エヴォルグの大攻勢を前に恐怖で竦み上がっていた。戦術薬物で精神の抑揚は弱められているのだろうが、それでも頻繁に嗚咽や涙混じりの声が聞こえる。鬼燈はそんな者達が戦場で無碍に喰い殺される場面を見ていても愉快な気分にはなれなかった。
「できる限り助けてあげたいところなのです」
足場となっている飛行甲板に本弭を突き立てたまま、機体を横方向へ半歩動かす。見据える先は水平線から砂浜の波打ち際へと移り変わった。剛弓に番えた矢を引き絞って解き放つ。海上を突き進む矢が幾百にも拡散、前衛部隊に迫りつつあった有翼エヴォルグの小集団を撃ち据えた。
「危なくなったら援護射撃ぐらいは、ね……と思ったけど」
レーダーを確認すれば艦砲射撃の面制圧を躱した有翼エヴォルグが、先ほど駆除した小集団と同じ程度の規模を形成して次々に海岸へと向かって来ていた。加えて面倒事が重なる。
『ひゃっ! 誰か! やだぁ! 食べられたくない!』
甲高い少女の悲鳴の元を辿れば、撃ち漏らしたエヴォルグが日乃和軍のグレイルに取り付いていた。鬼燈は間髪入れずトリガーキーをクリックする。アポイタカラが放った矢が有翼エヴォルグの頭部に命中、即座に機能を奪って沈黙させた。
「危ないところばかりじゃない? これはちょー忙しくなるっぽい!」
前線に火力投射しながらも前衛を務める少年少女達のお守り役も担う。アポイタカラは僅かに休む間も無く矢を番えては次々に目標を射抜く。操縦席の鬼燈の双眸はレーダーグラフに照準レティクルにと、まさに言葉通りの意味で目まぐるしく動き回っていた。結果として多くの兵が救われたのだが、敵の第一波を退けるまで鬼燈はひたすら弓兵に徹し続ける次第となった。
大成功
🔵🔵🔵
メルメッテ・アインクラング
主様に乗り戦場へ
「主様。皆様は練度も士気も心許ありません
今はまだ拙くとも成長の可能性は無限です
どうか、皆様をお守りしながらの戦闘をお許し頂けないでしょうか?」
『人間如きに興味は無いが、人命も失われれば損害、アインクラングの名折れに繋がりかねんか
提案に乗ってやろう。私の顔を潰すなよ、メルメッテ!』
「感謝致します、ラウシュターゼ様!」
指定UCで光の蝶の渦を敵の群れへと放ち、戯れさせての【マヒ攻撃】です
壁への接近も、皆様の撃墜も、させません。
それに敵の動きが鈍れば皆様も多少は狙い易くなるでしょうか
皆様へ向けられた攻撃はソード或いは変化させたウィップで積極的に【武器受け】し【なぎ払い】ます
『甘やかし過ぎるな、当人の為にならん』
「ええ。続いて……今!」『這いずるが良い!』
UCの蝶を炎に変え、【逃亡阻止】も兼ねて敵へ盛大に過熱を加えます
地に落ちた敵を【踏みつけ】とどめの一撃と致しましょう
『お前の羽音は五月蠅いな。だが、もう飛べるまい?
芋虫が。空を、舞う、力を得たとて――この私から逃げられると思うな』
●告死蝶
陽光を受けた白亜の装甲が、曇りひとつない陶磁器のような照り返しを放つ。背面の推進装置から真紅の双翼を伸ばすラウシュターゼが海面を切り裂いて疾駆する。かの機体、或いは彼の後には左右に分かれた波濤が恐れ慄くかの如く道を開けていた。
「――主様。皆様は練度も士気も心許ありません」
外界との干渉から断絶された、主君と従者のみの空間たるラウシュターゼの胸中。その玉座にやや謙譲がちに身を沈めるメルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)が溢すように口を開いた。ふとした拍子に泡沫になってしまいそうなほどの淡い瞳孔は、サブウィンドウ上に拡大表示された日乃和軍前衛部隊へと向けられている。彼女が主様と呼ぶ白磁の機士は威圧的な無言を以て続く言葉を促した。
「今はまだ拙くとも成長の可能性は無限です。どうか、皆様をお守りしながらの戦闘をお許し頂けないでしょうか?」
機嫌の程度を探る慎重な口運びに、やや間を置いて主君は答えを返した。
『かの人間共如きがどうなろうとも、知ったところではないな』
メルメッテが表情を曇らせ俯く。しかし『だが』と続く声に目を丸くして面持ちを上げる。
『人命も失われれば損害、アインクラングの名折れに繋がりかねんか……』
語り口には渋々といった妥協感が浮き出ていたが、メルメッテの表情から曇天の色を取り除くにはそれで有り余る要素となった。
『勝利は常に完璧かつ無欠、そして圧倒的でなければならん。提案に乗ってやろう。私の顔を潰すなよ、メルメッテ!』
「感謝致します、ラウシュターゼ様!」
乳青色の目に瞼が下される。開いた時には戦意の色彩が灯っていた。ラウシュターゼのクラングウイング:オクターヴェが羽ばたいた。白波を立てながら海面寸前を高速滑空する。正面の片手には日乃和軍のキャバリア部隊、もう片手には中規模の集団を構成して海岸線に迫り来る有翼エヴォルグ。双方陣営の相対距離は交戦距離までもう間も無くといったところだろうか。メルメッテとラウシュターゼは両者の中間を駆け抜けた。
真紅の翼が引き連れた疾風が怒濤となって海水を沸き立たせる。宙に舞い散った白い飛沫、そして淡い空色の蝶。踊る光の鱗片は硝子細工にも似た煌めきを放ちながら渦を成しした。そこへ有翼エヴォルグが殺到する。空間に滞留する光の蝶に触れた、もしくは気取られるがままに口に入れてしまった個体群の挙動がぎこちなく強張る。
『動くものには何でも喰い付くか。つくづく間抜けな有様だな』
「壁への接近も、皆様の撃墜も、させません」
メルメッテがクラングウイングを触媒に放出した想音色。胡蝶の振り撒く麻痺毒が鳥人間擬きの機体或いは肉体を蝕んだのだ。翼の運動を妨げられて揚力を掴めなくなった有翼エヴォルグ達が失速し海面へと突っ伏す。矢継ぎ早に群れを爆炎や銃弾の雨が襲う。日乃和軍のキャバリア部隊が迎撃を開始したのだ。蝶の麻痺毒で立ち往生している標的を狙うのは素人集団にあっても鴨撃ちにも等しい。墜ちたエヴォルグは瞬く間に無惨な挽肉と化して海水を体液色に染め上げた。されど敵の群れはこれで終わりではない。誘導弾の接近を報知するアラートがメルメッテの耳朶を打った。後続の有翼エヴォルグが斉射した生体誘導弾が日乃和軍のキャバリア部隊へ津波となって押し寄せる。
「届かせません! 従奏剣ナーハ、ウィップモード!」
振り下ろした鋸刃の剣が伸長して怒る大百足の如く暴れ狂う。燃える血潮の色にも似たエネルギーの綱に連なる凶悪な刃が生体誘導弾を掠めるとガスを炸裂させた。侵蝕毒を持つ緑色の毒霧と優雅にさえ舞う光の胡蝶が混じり合う不気味な空間が海上に浮かんだ。
『まったく、世話焼きだな。それ位にしておけ。甘やかし過ぎるな、当人の為にならん』
やや呆れにも近い感情を含んだラウシュターゼの声音がメルメッテの意識に響く。
「ええ。あと一手と致しますので。続いて……今!」
生体誘導弾を発射した有翼エヴォルグの集団が混沌の雲に飛び込む。その光景にラウシュターゼがマニピュレーターを重ね合わせて爪を握り込んだ。すると蝶が帯びていた淡い空色が燃え盛る真紅へと変じ、見た目に違わぬ超高熱を発し始めた。陽炎すら揺らめく熱波が侵蝕作用を持つ毒霧を焼却し、故も知らずに飛び込んだ有翼エヴォルグを炙り立てる。身を焼く熱に人間のような断末魔で吼え喚く。多くは翼の筋肉繊維に重度の火傷を負って落水したか、キャバリア部隊の弾幕に曝され肉片と化した。内一体が辛うじて白波打ち寄せる浜辺へと到達し、両翼をもがれてもまだ四肢で這い回って前衛部隊のキャバリアに襲い掛かろうとする。だがそれは叶わなかった。
『お前の羽音は五月蠅いな。だが、もう飛べるまい?』
舞い降りたラウシュターゼの片足に背中を踏み付けられて砂地に伏す。足を捉えようと両手を出鱈目に振り回すが掠めもしない。地に踏み据える足の力が増すにつれて有翼エヴォルグの基礎骨格が軋む。
『どうした? 這いずらんのか? 芋虫が。空を、舞う、力を得たとて――この私から逃げられると思うな』
足に全重量が乗せられると人喰いの怪物の身は簡単に砕けた。耳障りな断末魔をあげる首が宙を舞う。ラウシュターゼが薙いだ従奏剣を振るい、刀身に伝う緑の血糊を払った。四眼に灯る憎悪とも愉悦とも付かない光が骸を睨め付ける。浴びた返り血は水玉となり、あらゆる穢れを拒絶する白磁の装甲から弾かれた。
一連を茫然として見ていた日乃和軍のキャバリア達が何かを問いかける様子を見せるも、メルメッテの元には届かない。ラウシュターゼもまたそれらには一瞥もくれる事なく身を翻した。
『……もう暫く遊んでやるとしよう。征け、メルメッテ』
「仰せのままに」
畏怖と驚愕の視線を背に受けたメルメッテが首を垂れた。ラウシュターゼが真紅の双翼を広げて飛び上がる。立つ先には尚も押し寄せる有翼エヴォルグの群勢。蝶が踊り従奏剣が伸びる度に死が撒き散らされる。日乃和軍の拙い兵士達の記憶に焼き付いた四つ目の機士の舞踏は、遍く怪物共を討ち滅ぼすまで続いたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
ロシナンテⅣ搭乗
あの物量…距離を詰められたが最後、接近戦の練度の面で若者達に未来はありません
飛び交う無線を傍受し瞬間思考力にて情報収集
弾薬も無限で無い以上、補給などで生じる隙に急行
陣形が崩れるのを少しでも食い止めましょう
…『死守命令』を指揮官に下させぬ事が此度の私の務めです
迫る生体機に大盾投擲 UCでビットに変換
花弁を支点にバリアを形成し激突させ侵攻阻止
停まった敵をサブアーム含めた四丁ライフル乱れ撃ちで処理
逃れた敵もバリアを消失・ギロチンの如く再展開したバリアで切断
銃を空に放り、距離詰めた残敵を剣で迎撃、殲滅
マニュアル操縦で銃をキャッチ
この場はお任せを!
補給終えた僚機が戻るまで保たせてみせましょう
今のうちに迎撃態勢を再構築!
継戦能力支える背部コンテナよりライフルの弾倉射出
ジャグリングの要領で四腕で二丁ずつマガジンリロード
次に向かうべきは…距離が遠い
司令部、白羽井小隊の補給は完了していますね?
イカルガの機動力なら…こちらの合流までの援護を要請します
私の分の補給コンテナ投下もあれば幸いです
●騎士奮迅
人喰いキャバリアとの戦いの殆どは物量との戦いと同義だった。実際のところ、極一部の特殊個体や大型種などを除いて個々の戦力は大したものではない。
『奴等は常に集団でやってくる! 編隊を維持! 囲まれたら終わりよ!』
沙綿島の西海岸に展開された前衛部隊。その内の一隊を率いる中隊長が隊員達に檄を飛ばす。グレイルとオブシディアンmk4を主軸に若干数のギムレウスで構成されるキャバリア部隊は、海と空の境界から押し寄せる有翼エヴォルグを水際で阻止し続けていた。レーダーマップを見れば正面半分は敵の光点で埋め尽くされている。検知可能な総数など既に限界値を超えていた。
『隊長! 弾が!』
『私も……! どうするの!? もう下がらないと!』
隊員の報告を受けた中隊長の背に冷たい汗が滲む。遅かれ早かれ弾切れの時が来る事は分かっていた。人喰いキャバリアとの交戦の際に命を落とす要因のひとつが補給作業であると短過ぎる教練期間中に何度も聞かされている。だが弾も無しで戦える訳が無い。この状況での正面火力の減退は致命的だが、覚悟の上で中隊長は補給命令を下す。やはりと言うべきか中隊機が後退した途端に襲来する敵の圧力は目に見えて増した。次第に生体誘導弾や触手の迎撃能力が飽和し、押し込まれた編隊が崩壊の兆しを見せる。弾幕を抜けた有翼エヴォルグが直前に迫った。次は自分が喰われる番か……そんな言葉が中隊長の脳裏を過った矢先、横から割って入った巨大な何かが有翼エヴォルグの攻撃を遮断した。
『花
……!?』
瞬間的にはそうとしか形容が出来なかった。割り込んだ何かの正体とは百合科の植物に連なるブローディア、更に細分化するならばトリテレイア・ブリッジェシーとも呼称される花弁の貌を採ったバリアフィールドジェネレーターだったのだ。
「この鋼の花弁の護り、易々と貫けると思わぬことです」
トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)をコアモジュールとして内包するキャバリア、ロシナンテⅣがメインアームとサブアームで保持したライフルを撃ち散らしながら猛進する。バリアビットに阻まれた有翼エヴォルグは、銃弾を横腹に浴びて体液を噴き上がらせる。肉薄したロシナンテⅣが加速を乗せた飛び蹴りを見舞うと宙で回転しながら吹き飛ばされて砂浜に落着、一切の身動き無く機能を停止した。
「この場はお任せを!」
霹靂の如く現れた機動騎士に困惑する中隊長を背に、ロシナンテⅣが迫る敵集団の前に立ち塞がった。
『あなたは……猟兵!? だけど……! いやしかし単機では!』
「問題ありません」
トリテレイアが短的に答えると誘導弾の接近警報が鳴り響いた。有翼エヴォルグから放たれる侵蝕弾が海岸線上に押し迫る。発射元の数が凄まじいだけあって弾の数も比例して増大している。しかしトリテレイアの電脳は状況を正確かつ実直に掌握、大盾が変じたビットを水平展開し花弁状の放出装置から隙間無くバリアを生じさせた。半透明の光の壁が形成され、そこに衝突した侵蝕弾が次々に炸裂して緑の霧を漂わせた。透過した弾体は万に一つも無い。
「……ご覧頂いた通り、このような次第ですので」
『な、なるほど……』
ロシナンテⅣが半身を後ろに向ける。根拠を実践された中隊長は喉から押し出すような声で応じた。
「貴官を含めた部隊員全員が補給から戻るまで保たせてみせましょう。戦争とはひとりで戦うものではありません。犠牲を厭うならば頼るべき場面では頼るものです。さあ、早く!」
強く促された中隊長は否応を言わずに他の隊員も連れて補給コンテナが敷設されている後方へと下がった。正面に向き直ったロシナンテⅣの眼前では今も生体誘導弾がバリアフィールドに阻まれて炸裂している。だが有翼エヴォルグは射撃では突破しきれないと判断したのか、誘導弾の斉射を中断して左右側面へと分かれると直接攻撃による襲来を試みた。
「散開後、即時再展開! 攻勢防壁!」
主機の電脳よりコントロールコマンドを受けたビットがバリアを解いて左右に散らばった。有翼エヴォルグの眼前を遮ると障壁を花開かせ強制的に直進を押し留める。そして他のビットが展開するバリアの縁を刃として首や胴体を跳ねて回った。しかしそれでも数で圧倒する鳥人間擬きが迎撃の網を潜り抜けて迫る。対するロシナンテⅣは高速で飛来する直近の敵をライフルで撃ち落とす――のではなく、あろうことか四本の腕に構えるそれら全てを宙に放り投げた。
「この物量……接近戦に及んでいれば、練度の面で劣る若者達に勝機は無かったでしょう」
銃を放り投げた主腕の一本が腰部へと伸びる。大口を開けて飛び掛かる有翼エヴォルグ。ロシナンテⅣは微かなスラスター噴射で相対軸を横にずらす。そして互いの距離が零の寸前まで縮んだ瞬間に冷たい光芒が走った。滑らかな抜剣の動作に繋がれた居合いが、有翼エヴォルグの顎から胴体に掛けてを引き裂いた。ロシナンテⅣが身を翻しながら直剣を横に薙ぐ。爪をかけようとしていた新手の有翼エヴォルグが頭部を切除された。
「これが少しなりとも抑止に繋がればよいのですが……!」
左右からほぼ同時に人喰いの鳥人間擬きが襲い掛かった。トリテレイアは凍みる鋼の如き思考で戦術判定を下す。導き出されたのは寸前まで引き付けた上での水平回転切り。瞬間的にスラスターを最大噴射して繰り出されたそれは、有翼エヴォルグを断ち切るというよりも切り殴ったに等しい。横殴りの重い斬撃を受けて跳ね飛ばされた有翼エヴォルグは、何度も砂浜を跳ねて転がった後に体液を噴出させ地に沈んだ。
ロシナンテⅣは直剣を一振りして血糊を払うと鞘に納めて四本の腕を天へと向けた。その一瞬後に宙を舞っていたライフルがそれぞれのマニピュレーターの元へ帰還する。すると今度は四挺の長銃で何もない空間を叩き付けた。衝撃で銃身のマガジンハウジングより弾倉が抜け落ちると、またしても銃を放り投げる。背面コンテナが射出した予備弾倉を副腕が受け取り、主腕で捉えたライフルのマガジンハウジングに叩き込む。弾倉のリリースボタンがロックされた。
『……大道芸?』
漸く補給より戦線に復帰してきた中隊長の感想はまさしくそれだった。トリテレイアの視界内に反映されている兵装のインフォメーションではライフルの残弾数が最大値に回復していた。
『本当に単機で支え切るなんて……』
緑色の体液まみれになった騎士型のキャバリアと周囲に散乱する人喰いキャバリアの骸を前に、中隊長には薄寒くも感嘆とした思いが浮かんだ。
「お待ちしておりました。急ぎ迎撃態勢の再構築を。私は次に向かわなければなりませんので」
『次? あ、待って!』
呼び止める中隊長に応じている余裕は無い。索敵範囲内で隣接する友軍部隊が敵集団に襲撃されつつあったからだ。ロシナンテⅣは救援に成功した部隊に背を向けると脚部のバーニアノズルから光を爆ぜさせた。急激な加速が後方に衝撃波を放つ。浜辺の砂が霧のように舞い上がった。
「次に向かうべきは……距離が遠い」
彼我戦力の分布図を睨むトリテレイアのモノアイセンサーが細められる。時速から計算して敵群の襲来までに到達が間に合う見込みは薄い。だがより速力に優れた航空機体ならば。ウォーマシンのコアユニットの決断は迅速かつ躊躇いが無い。戦術データリンクを介して白羽井小隊の所在と総残弾数を確認した後、作戦の全権を担う沙綿里島基地司令部へ通信を問い合わせた。視界の片隅に立ち上がったサブウィンドウには軍服を着込んだゴリラとも形容出来る巨漢の姿があった。
「司令部へ、C5中隊の戦況が芳しくありません。可能であれば白羽井小隊を即時救援に向かわせて頂きたいのですが」
『後藤だ。こんなすっちゃかめっちゃかしてる状況下でよく見ていたな……猟兵ってのはこんなに器用なもんなのか。待ってな、今結城に問い合わせて――』
『こちら大鳳、承りました。直ちに向かわせますので』
要請が舞い込む事を予め想定した上で待ち構えていたかのように結城が割り込む。
『……だそうだ、鎧の旦那さんよ。後の面倒はよろしく頼む』
トリテレイアは人間がするようにして浅く首を垂れる挙動を見せた。
『受諾に感謝致します。それともう一点、大鳳には私宛に補給コンテナの投下を要請します。座標位置はC5中隊の後方へ』
『内包物は如何致しましょう?』
「キャバリア用ライフル弾、それと推進剤さえ有れば。後はお任せします」
『了解しました、大至急手配します。それでは……』
終了した通信と入れ替わりに、集音センサーが背後から高速接近する推進装置の作動音を感知した。トリテレイアは音波形状を参照するまでもなくそれがイカルガ固有のものである事を記憶していた。
『騎士の方! 葵大佐の命により馳せ参じましたわ! C5中隊でよろしいのですね!?』
直進加速するロシナンテⅣのすぐ横に白羽井小隊の隊長機が匍匐飛行で並ぶ。トリテレイアが肯定のハンドサインの挙動信号を発すると機体の動作が追従した。
「こちらの速力では敵の襲来まで間に合いません。現地合流まで侵攻遅滞を重点とした対処を」
イカルガがマニピュレーターの親指を立てて応じる。
『了解でしてよ! お先に参ります!』
やや高度を上げて最大加速する隊長機。その後ろ姿を鏃の陣形を形成した複数のイカルガが追う。
「間に合いはしますが……」
周囲を機敏に動き回るブローディアを前面に集約しフィールドを形成、降り掛かる空気抵抗を緩和した上でロシナンテⅣは目標座標地点目掛けて砂浜を疾駆する。センサーカメラが捉えた遠方では早速複数の爆光が花開いていた。
死守命令は下させない。鋼の身に懸けた誓約のために、或いは戦線を守護り繋ぎ止め続けるために、機動騎士は持ち得る手段を駆使して奮迅する。
大成功
🔵🔵🔵
ティー・アラベリア
奉仕人形ティー・アラベリア、ご用命に従い参上いたしました
これはこれは、随分と華がある戦場でございますね
反重力機動機構を用いて空母上から戦闘空域に進出
下準備として反認識魔術を展開し敵の捕捉から逃れつつ、比較的陸地に近い敵を95式と92式のアウトレンジ火力で排除いたします
幸いにしてここは海上、敵性体も空を飛んでいるとなれば、地表を吹き飛ばす不安も無し
惑星表面で使うには些か過剰な兵装ではありますが、対文明を意図した兵器相手ならば丁度良いでしょう
残留放射線が周囲に影響を与えぬよう、繊細な出力調整をするもの一興という物です
艦隊の司令官に対閃光、対電子防護を勧告。前衛空域に展開する航空ユニットを指定ポイントまで後退させ、甲板上の人員を艦内に退避させることを推奨いたします
陸上部隊の司令官に対閃光防護を勧告。失明の恐れがございます。前衛として展開中のキャバリアは光学センサー感度を下げ、歩兵の皆様は肉眼で空中を直視しないことを推奨いたします
……ご協力に感謝いたします。それでは、星を砕く魔術の片鱗をご覧あれ
●戦略人形
彼……もしくは彼女は一体どこから来ていつからそこに居たのだろうか。日乃和海軍が誇る大型正規空母大鳳の飛行甲板の縁で、性別の次第も定かでは無い人の形をした何者かが、蜂蜜色の波打つ髪を潮風に靡かせていた。
「これはこれは、随分と華がある戦場でございますね」
鈴のような声が彼方の爆轟に打ち消された。ティー・アラベリア(ご家庭用奉仕人形・f30348)が薄ら寒い微笑を顔に貼り付けたまま双眸に収まる青い硝子玉を右へ左へと往復させる。軀体に内蔵されている火器管制が砲仕対象の品定めを終えるとヴァンプローファーの踵で鋼鉄の飛行甲板を小突いた。ほんの1秒にも満たない瞬間だけ魔術円陣が足下に現れて霧散する。ティーは認識阻害の魔術機構の発現を確認した後、おもむろに片手でスカートの裾を持ち上げるともう一方の腕をその内部へと潜り込ませる。内を弄り始めてからややあって引き抜かれた指先は身の丈ほどの長杖を握っていた。更に裾を持ち上げていた腕でもう一度同じ動作を繰り返して両手に直杖を携える。真偽は本人にしか解らないが恐らくスカート内部にウェポンベイを備えているのだろう。そんな一連の動作を目の当たりにした甲板作業員の数名は、いずれも開口の表情で手を止めていた。
「では、行ってまいります」
ティーは背後に振り返ると、長杖を携えた左右の腕を広げて嫋やかに腰を曲げる。そして腰を起こす反発で飛行甲板上から軽やかに飛び降りた。どよめく作業員達が慌てて海面を見ると、小波立つ海原をスケートリンクのようにして滑走するティーの姿があった。反重力機動機構で推力を得た人形は役割に違わず奉仕活動を行うべく交戦中の戦域へと向かう。
「折角の認識阻害と長射程ですのでファーストルック、ファーストショットとさせて頂きましょう」
海面寸前を滑空し砂浜に接近しつつある有翼エヴォルグの集団に対して、ティーが片手に握る長杖―― 95式思念誘導型魔杖を掲げる。制圧用兵装として分類されるその杖の末端より、青白い稲光を発する幾つもの球体が放出された。球体は鋭角に乱反射する不可思議な軌道を描いて有翼エヴォルグ集団の背後に迫り、接触するかどうかといった間合いに到達すると榴弾の如く炸裂して稲妻を迸らせた。のたうつ電流は有翼エヴォルグの身を貫いて内部に至るまでを焼き切り、或いは重篤な機能不全を引き起こして次々に海面へと落水させた。
「お次はこちらを……」
人工物らしく不自然に麗し過ぎる青い瞳が新たな標的を捉えた。進路上を飛ぶ有翼エヴォルグの小集団が浜辺に展開するキャバリア部隊に生体誘導弾を撃ち放つ。ティーは92式火力投射型魔杖を手元で一回転させると穂先で水平線を緩慢になぞった。その動作に合わせて先端に備わる球体部分から火炎槍が連続して射出される。重機関銃もさながらといった速射レートで発射されたそれらは生体誘導弾を悉く撃ち落とし、続く有翼エヴォルグの小集団を穿ち焼き払った。
「砲仕業務は滞りなく順調……ですが……」
敵集団を殲滅したティーが不意に足を止める。水平線に身を向ければ相変わらず深緑が空と海の境界線を埋め尽くしている。だが後続の集団は見られない。先鋒となる航空戦力は恐らくこれで最後なのだろう。その光景を滞空したまま無言で眺めていたティーの口角が、薄ら笑いの先に悍しい吊り上がりを垣間見せた。
「……幸いにしてここは海上、敵性体も空を飛んでいるとなれば、地表を吹き飛ばす不安も無し」
爛々と輝く瞳が周囲を見渡す。付近に展開中の友軍はいない。艦隊戦力の位置からもかなり離れている。
「惑星表面で使うには些か過剰な兵装ではありますが、対文明を意図した兵器相手ならば丁度良いでしょう」
使用も致し方無しと言いたげに頷くと、下準備を整えるべく躯体内蔵式の通信機関を介し、出立元の大鳳と沙綿里島基地司令部に回線を繋いだ。
「お時間を取らせてしまっては申し訳が立ちませんので手短に……対閃光、対電子防護を勧告。前衛空域に展開する航空ユニットを指定ポイントまで後退させ、甲板上の人員を艦内に退避させることを推奨いたします」
結城は薄い笑みを浮かべながら真意を図りかねて首を傾げた。
『あらあら、それは……?』
続けてティーは陸上戦力であるキャバリア部隊を統括する後藤へと呼びかけた。
「対閃光防護を勧告。失明の恐れがございます。前衛として展開中のキャバリアは光学センサー感度を下げ、歩兵の皆様には肉眼で空中を直視しないことを推奨いたします」
『んあ? おいちょっと待て人形の嬢ちゃん、一体何をおっぱじめるつもりだ?』
訝しげに詰問するゴリラのような体格の基地司令官に、今度はティーが首を傾げた。
「嬢……? 目的とする所存は、残存する敵梯団の一挙殲滅でございます。行使する手段を有り体に言えば戦略兵器の――」
ティーの視界内で表示されている小窓の画面の中で、目を見開いてモニターに掴み掛かる後藤の姿が投映された。
『戦略核だとぉ!? 止せ! 島をどうするつもりだ!』
荒れる後藤を演出ばかりの穏やかな表情でティーが宥める。
「いえいえ、核では御座いません。まあ……重力異常の抑制と残留放射線が周囲に影響を与えぬよう、繊細な出力調整が必要となりますが、それも一興という物です」
益々不穏さを増大させる言葉に後藤が口を開き掛けたが、結城がそれを遮った。
『後藤司令、ここは彼に一任されては如何でしょうか? 核では無い、深刻な環境影響を及ぼさないと仰っているのですから、それでよろしいではありませんか』
くれぐれも放射能汚染は引き起こさぬようにと、遠回しに釘を刺した結城の薄ら笑いにティーは同じ笑みを返した。
『私達に選べる選択肢は少ないはず……これで早期に状況が決するならば、戦地に引き摺り出した兵達も無碍に喪わずに済みますでしょう?』
後藤がくぐもった呻き声を漏らして顔を俯けた。
『やれやれ、猟兵ってのはとんだ出鱈目揃いだな。いいだろう。だがな人形の嬢ちゃん、こんな島だが俺たちにとっちゃ大事な住処なんだ。プラントだってある。そいつを念頭に突っ込んだ上でやってくれ』
『我が大鳳隷下の艦隊、及び海軍管轄の艦隊には既に通達致しました。良い戦果をお待ちしております』
奉仕人形が深々と首を垂れる。表情には相変わらず熱を感じさせない笑みが浮かんでいた。
「……ご協力に感謝いたします。それでは、星を砕く魔術の片鱗をご覧あれ」
『んだと!? 今星を砕くって言ったか!?』
怒号紛いの後藤の声を最後に通信回線を絶ったティーは両手に携える95式と92式を正面で束ね合わせ、穂先を敵梯団へと向けた。
「余剰次元への魔力伝導良好。特異点制御術式を拡散輻射型に変更」
2振りの長杖を触媒として暗い紫の粒子が集約され始める。同時にスカートの内部より飛び出した人工妖精達が周囲に散開し、ティーを中心とした巨大な魔術陣を形成する。構築された回路を高速循環する魔力がティーの躯体内の属性変換機構を経由して長杖へと注ぎ込まれた。
「――次元爆縮、開始」
短く紡がれた言葉がユーベルコードを実行させるコマンドとなった。重ね合わせた長杖に凝縮された超重力球体が投射される。その球体は敵梯団の中頃まで達すると瞬時に肥大化して禍々しい空間と視界を灼かんばかりの閃光を現じさせた。光も時間も魂さえも引き寄せて飲み込む超重獄が有翼エヴォルグを喰い尽くす。外ではなく内側に破裂するその有様は爆縮と言う他に無い。次元爆縮型魔杖拡散運用の事象が発動したのはほんの数秒にも満たない間だった。ティーが言う通り地上で使用するに当たって本来の威力を大幅に削いだのだろう。肥大化した超重獄は放射能と熱と電磁波を道連れとして即座に縮小した後に消滅、有翼エヴォルグの梯団は跡形も無く失せていた。
ティーは重ね合わせた長杖をゆっくりと下ろす。硝子玉にも見える二つの瞳が映すのは蒼穹の空と海原のみ。埋め尽くしていた深緑の色はもうどこにも無い。
「これにて清掃完了でございます。お気に召されたでしょうか? とは言え、まだ序曲ではありますが……」
誰に向けるでもなく首を垂れた。そよぐ潮風に金糸の髪が揺れる。ティーが放った滅亡の片鱗が、人喰いキャバリアの第一波を打ち消す最後の手となった。
大成功
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第2章 集団戦
『エヴォルグ量産機』
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POW : ヴォイドレーザー
【口内から無作為に分岐するレーザー】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : リボルティックスピア
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【自身から分離した触腕】で包囲攻撃する。
WIZ : EATエンジン
自身の【エネルギー補給機能を起動。自身】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[エネルギー補給機能を起動。自身]から何度でも発動できる。
👑11
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●敵航空戦力殲滅完了
空海の7割を埋め尽くしていた深緑の鳥人間擬き。索敵許容量を優に超過し、絶対絶命とさえ思われた数的不利は僅か15名の猟兵達によって覆された。戦略兵器の使用や物理法則の書き換えと思しき想定外の状況も見られたが、作戦自体は事前の見立て以上に順当な推移となった。
守備隊の損耗も少なく抑えられている。掃討戦は第二波の上陸予想時刻まで大きく猶予を残して完了。されども気を休める暇は無い。遅かれ早かれ必ず襲来する人喰いキャバリアの上陸に備え、それぞれの兵科と各部は迎撃態勢の再構築に追われていた。
●破城攻撃
「そろそろ敵さんの先頭が乗り込んで来る頃合いだ! 各隊は迎撃態勢! すぐに撃てるようにしておけ!」
後藤が詰める沙渡里島基地の戦闘指揮所は相変わらず喧騒に溢れている。しかし通信士や観測士の声はどこか弾みを含んでいるようにも思えた。猟兵達がもたらした結果は士気の高揚として日乃和軍全体に拡充していた。特に猟兵の戦い振りを間近で目の当たりにしていたキャバリア部隊にとっては足が浮き立つほどだったのだろう。
「後藤司令、沖合のソノブイが震音を探知しました。敵陸上戦力は予測進路通りに侵攻中、間もなく西海岸一帯に到達します」
オペレーターの少女が報告を上げる。猟兵さえ居てくれればどうにかなるという認識が生まれたのだろうか、開戦前の曇っていた表情も今は晴れ間を取り戻しつつあった。対して後藤の顔色は縄張り争い真っ最中のゴリラのように硬い。
「緩むなよ。まだ勝った訳じゃないんだ。そもそもが殆ど猟兵の手柄だって事を――」
「沖合に大型の動体反応発生! 並びに異常震音を探知!」
ひとりの観測士の声が戦闘指揮所の喧騒を止めた。
「動体反応だと!? 鯨じゃないだろうな!?」
後藤が詰め寄る。
「いえ、待ってください! 動体反応消失! ですが異常震音はまだ! これは……津波?」
貸してみろと後藤が観測士からヘッドセットを取り上げて耳に押し当てる。聞こえたのは確かに津波のような、或いは滝のような轟く水音だった。しかし津波が生じる要因となる地震が発生したとの観測報告はどこからも上がってきていない。となれば発生源は一瞬だけ探知された大型の動体反応なのだろうか。その矢先だった。
「なに……あれ……」
オペレーターの少女が戦闘指揮所の大型モニターを指差す。モニターには定点観測カメラが中継する映像が分割して出力されている。異常が見られたのは防壁に設置されたカメラの映像だった。
日乃和海の水平線上から出現した複数の白い点が、海面を引き裂いて沙綿里島の西海岸へと突き進んでいた。次第に接近するにつれて白点の正体が明らかとなる。白点は泡立つ水柱だった。極大の荷電粒子波動にも見紛う水の奔流の先頭が白点に見えていたのだ。
「放水砲……だと?」
後藤の手からヘッドセットが滑り落ちた。大気を震え上がらせながら突き進む複数の水柱は、射線上に偶然居合わせた不運なキャバリア部隊を巻き添えに、海岸線沿いに建ち並ぶ防壁の一部を直撃した。
大津波が叩き付けられたかのような凄まじい衝撃音と共に、高く分厚い巨大な壁が容易く粉砕された。余波が周囲に展開していたキャバリア部隊や補給部隊を薙ぎ倒し、砕けたコンクリート片が市街に飛び散って家屋を押し潰した。
「戦艦の主砲にも耐える防壁が、水鉄砲如きに一撃で……!? しかも殲禍炎剣の照射判定域を下回る極低軌道の長距離砲撃だと!?」
動揺は戦闘指揮所のみならず既に守備隊全域に浸透し始めていた。そして追い討ちが加わる。
「敵陸上戦力来ます! 先頭集団が上陸を開始しました!」
「市街に入り込むつもりか!? 迎撃させろ!」
未知の長距離砲撃と防壁の一部崩壊によってパニックに陥った前衛部隊に、後藤の指示に即時対応する能力は無い。遠浅の渚を駆け上がったエヴォルグ量産機は縦長の列を形成して防壁の崩壊箇所に殺到。割って入ったキャバリア部隊は緑の濁流に飲み込まれた。
時を同じくして人喰いキャバリアの陸上戦力が本格的な揚陸の兆候を見せる。浜辺沿いの海面が泡立ち、白波を割って深緑の巨人が次々に出現した。そして壁を隔てた背後では既に惨劇が始まっている。
●暴食
市街に侵入した人喰いキャバリアは梯団全体の数からすれば決して多くない。しかし最低限の戦力しか有さない市街の守備隊と警察消防を圧倒するには十分な規模に及んでいた。
陸に上がったエヴォルグ量産機達は渡海で消費したエネルギーを賄うべく食糧源を探索する。優れた対人探知能力を以てシェルターを探り当て、隔壁をレーザー照射で溶かして抉じ開けると、指先が変容した触手で内部の避難民を器用に絡めとって引き摺り出し、頭から齧り付く。
一部の避難民は戦況の好転を見て島外避難を再開していたらしい。女子供ばかりを満載したバスがエヴォルグに捕らえられた。蜘蛛の子を散らすが如く窓や扉から染み出た人間を深緑の人喰い巨人が取り囲む。にじり寄るそれらを前に逃げ場を失った人々は生存本能に突き動かされるがままバスの中に戻ろうとするも、長大な四本の指に背後を掴まれる。掌握された女性は母親だったのだろうか。残された幼子と必死に手を伸ばし合っていた。手足をばたつかせて足掻くも目前の白面が嘲るようにして顎を開く。足の筋繊維が引き千切られ、腕の骨が噛み砕かれる激痛に断末魔を叫んだ母が最後に見たものは、エヴォルグに捕まった我が子がアスファルトの地面に何度も叩き付けられ、赤黒い塊となった後で味わうようにゆっくりと咀嚼される光景だった。
シェルターを棄てて住宅地を逃げ惑う民間人。それらを容赦無く追い立てて手当たり次第に食い荒らすエヴォルグ量産機。防壁の一部を破られてからほんの数分間で、多くの非戦闘員が怪物の腹を満たす事となった。
●戦力分散
人喰いキャバリアの餌場と化した市街の惨状は、各地に設置された定点観測カメラによって戦闘指揮所に悉く中継されていた。後藤の牙が軋む程に噛みしめられる。彼に限らず誰もがモニターに釘付けとなっていた。
「ぐ……ぅ、げほ、おえぇぇ……」
怯え竦むオペレーターの少女が膝から崩れ落ち、床に胃液を撒き散らした。
「司令、すぐにキャバリア部隊を救援に――」
「ダメだ! 一隊も持ち場を離れさせるな!」
青年補佐官の具申の続きを後藤の怒号が遮断する。だが補佐官も譲らない。
「しかし民間人が見殺しに!」
「これ以上の敵の市街流入を許すなと言っているッ! それとも足元の民間人を轢き潰しながら市街地戦をさせるのか!? ヒヨッコ連中に!」
阿修羅のように血走った眼球を目の当たりにした補佐官はそれ以上口を開く事は出来なかった。
後藤は目を閉じて深く呼吸を整えると、なおも床に這いつくばり吐き戻しているオペレーターの少女の背を摩ると静かに立ち上がらせ、通信士の席に戻るよう促す。
「すまんが、お前さんにゃまだ働いて貰わなけりゃならん。やってくれるか?」
「待って、ください……薬……射たなきゃ……」
少女は咽せながら濡れた口元を袖で拭うと、懐から細長いケースを取り出した。中にはペン型の携帯注射器が収納されていた。
「ぎっ……ひ!」
注射針を苦悶の表情と共に首筋に突き立てる。そして戦術薬物の効能によって鈍化する感情の抑揚を自覚すると、日頃の実務通りに粛々とした手付きで通信回線を繋いだ。
「どうぞ……」
マイクを渡された後藤の顔色は苦い。元より手持ちのキャバリア部隊に他所に回せる程の余裕は持たされていない。こちらの要請に応じてくれるか定かではないにしろ、この状況の打開する糸口を持っているのは彼らだけだ。そんな確信にも近い決意を抱えて後藤は音声出力ボタンを押した。
「沙綿里島基地司令部より猟兵各位へ、緊急事態だ。敵勢力の一部が市街へ流入した。誰でも構わない。何名か市街の敵の対処に回って貰いたい」
一旦呼吸を置いて再度口を開く。横目で見たオペレーターの少女の瞳の色は朧げだった。
「海岸の防衛線は大丈夫……とは言わんが、随分と楽をさせてもらったお陰で頭数は十分に残っている。猟兵が幾らか抜けてもそこまで致命的にゃならんさ」
余裕がある訳ではないにしろ、先に殲滅した有翼エヴォルグと同程度の規模が襲来したとしても若干名の猟兵がいてくれれば問題あるまい。限りなく楽観視に近い現実評価の語り口は、端に物がつかえたような抑揚だった。
「壁をぶち抜いた水鉄砲の出所は探索中だ。恐らく潜ったか、水平線を盾にして隠れちまってる。この状況下じゃ手出しできそうにない。今は目の前の敵の始末に専念してくれ。だが敵の長距離砲撃はこれで終わりとは思えん。引き続き海岸の守りに就く猟兵は注意してくれ。以上だ」
一頻り喋り終えた後藤は深く息を吐き出した。猟兵への指揮権を有していない以上、便宜上は要請という形を取らざるを得ない。そして彼らが要請を飲んでくれる保障などない。それでも今は彼らに縋らなければ。海岸の防衛線を守護りながら市街に侵入した人喰いキャバリアを掃討するには猟兵の戦力無しでは不可能なのだから。
「我が軍のキャバリア部隊、間もなく敵の陸上戦力との交戦距離に入ります」
戦術薬物で心を仮死させられたオペレーターの少女が張りのない声音で状況を報告する。後藤は重い面持ちを上げた。
「各部隊へ! 奴等はぶっ壊された壁を狙って一目散にすっ飛んでくるぞ! これ以上は1匹たりとも市街に踏み込ませるな! 市街の事は心配せんでいい! 猟兵がやってくれる! お前達は足を引っ張らんように持ち回りの仕事だけに集中しろ!」
怖気に混乱する前線の兵士達を気迫と薬物で奮い立たせる。地を這う緑の津波となって押し寄せるエヴォルグ量産機に、グレイルとオブシディアンmk4が相対し、ギムレウスが火砲を降り注がせた。
●姫騎士達は
市街の惨状の報告は戦術データリンクを共有する白羽井小隊の元にも届いていた。大鳳に帰還して補給を終えた後、戦闘配置のままイカルガで待機を命じられている那琴以下小隊員は皆同じく中継映像に食い入っていた。
「なんという事を……!」
那琴の声帯から憎悪が滲み湧く。握る拳は強化服が軋む音を立てていた。愛宕連山で見た学友の死に際の姿が再燃し、背筋と足元には悪寒が這い登る。怒りと恐怖が混濁して心理波形が大きく乱れると、それを検知した強化服の自動投薬機能が作動して感情の波幅を無理矢理に宥めた。
「ナコ! あたしらはどうするの!?」
「なんで黙ってるの!? 人が喰べられてるんだよ!?」
逸る隊員の問いに那琴は双眸を固く閉ざして何も答えない。まるで何かを祈り待っているかのようにも見えた。
「大鳳より白羽井小隊へ――」
閉ざされていた双眸が見開かれる。続く結城の言葉を聞くよりも先に四肢が機体を立ち上がらせていた。
「敵の陸上戦力の一部が市街に侵入しました。白羽井小隊は直ちに再出撃し、これらの殲滅に当たってください」
「フェザー01より大鳳へ、了解致しましたわ。白羽井小隊全機! 聞いておりましたわね? 行きますわよ! わたくしに続きなさい!」
了解の応答と共に小隊員のイカルガ達が翼を広げて大鳳より飛び立つ。1秒でも早く急がねば。そんな焦燥に駆られる那琴が隊の最先端を務めて地獄の市街へと疾る。自分の奥歯が震えている事も知らずに。
●任務内容更新
謎の超長距離砲撃によって防壁の一部が崩壊、時期を合わせて揚陸した敵勢力の先頭集団が市街へ侵攻した。そして後に続く敵の本隊が海岸線沿い一帯に上陸を開始している。
猟兵に要請された任務の選択肢はふたつ。市街地の敵の殲滅、または海岸の防衛。
特色が全く異なる戦場だが、どちらを選んだとしても猟兵達が相対する敵はエヴォルグ量産機である事に変わりはない。
●市街
高く分厚い防壁の向こうに広がるのは閑静な住宅地。街並みはUDCアースの日本でもよく見られるそれとほぼ同様だ。通りの横幅はキャバリアが問題なく行き交える程度には確保されている。ここにエヴォルグ量産機が侵入し、シェルターや逃げ惑う避難民を手当たり次第に襲撃している。
現地には若干数の守備隊と武装警察が配備されていたが、既にほぼ壊滅している。実質的な戦力は救援に向かった白羽井小隊のみ。
なお猟兵に対する民間人の保護についての条件や要請は提案されていない。しかし日乃和全軍には民間人へ損害を与えないよう厳命が下されているため、艦砲射撃の支援は期待できない。
●海岸
渡海したエヴォルグ量産機の本隊は遠浅の海岸沿い一帯から上陸中だ。総数は測定限界値を超過している。砂浜は緑に埋め尽くされるだろう。
戦域の環境条件は先の交戦時と大差無いが、防壁の一部が決壊している。全てとは限らないにしろ多くの敵はその箇所に集中するものと想定される。
防衛を担う主力のキャバリア部隊は、多少損害を被ってはいるが殆どが健在だ。先の猟兵の介入によって全体の消耗が抑制されており、混乱はあったものの未だ士気は高い。
大鳳と三笠を筆頭とする水上戦力も十全に機能している。引き続き猟兵の希望に応じて様々な支援を行うだろう。
沖合いから発射された放水砲の攻撃は今後も継続するものと思われる。発射の兆候察知は容易であるため、日乃和軍が観測している限り不意を打たれる事態は考え難い。弾速自体も遅く、自走可能な者であれば視認してから回避運動を行っても十分に合う。ただし威力は凄まじく、戦艦主砲の直撃にも耐える防壁が一撃で粉砕されている。
●戦闘開始
変貌する状況は猟兵達に取捨選択を強いる。戦域は海岸と市街の二者択一。判断の基準は適性か、戦略か、それとも信条か。この分岐路に成否は無い。行動に伴う結果があるだけだ。沙綿里島の戦いは新たな転換期を迎えた。操舵輪はやはり猟兵達の手に握られている。
シル・ウィンディア
市街地戦ってことは、さっきのオールレンジは使えないかぁ…。
幸い、装備変更の時間はあったから、市街地戦型に変更してから出撃だよっ!
エヴォルグを見つけたら、気を惹くためにもアサルトライフルを撃ちながら突撃っ!
いつものランチャーとか使えたらいいんだけど、威力が強すぎるからね
中距離~近距離の間まで持ち込んで、左手ライフル・右腕部ビームガン・頭部バルカンの斉射だね。
気を惹けたら、空中機動からの空中戦で翻弄しつつ…
ワイヤーアンカーで敵の一体を拘束して、手元に引き寄せてから
セイバーで一刀両断っ!
地道に行くと時間がかかるから…
敵意を利用させてもらうよっ!
高速詠唱からのエレメンタル・バラージ
差ぁ、撃ち抜くよっ!
●閃青攻撃
市街に進出を果たしたエヴォルグ量産機達は、渡海で消費したエネルギーを補う為、真先に民間人の捕食を開始した。最早シェルターは身を守る避難所ではなく人喰いキャバリアの餌箱に他ならない。我先にと脱出した民間人の背後を白面の怪物が追い回す。
「見付けた!」
颯と共にアルジェント・リーゼが住宅街の低空を疾る。兵装は広域戦闘を前提としたものから市街地でのクローズ・クォーター・コンバットにおける取り回しの容易さを重視したセッティングに換装されていた。
キャバリアには目もくれずに四足獣の姿勢で走り回るエヴォルグ量産機達の後ろ姿に、シルが視線の動きでロックオンマーカーを重ね合わせる。操縦桿の引金を押し込めばアルジェント・リーゼがアサルトライフル『ブレシュール』を半自動モードで立て続けに連射した。連なる青い光点がエヴォルグ量産機の背面に降り注ぎ、無数の穴を穿ち体液を噴出させる。
「まだ生きてる!? いつものランチャーとか使えたらいいんだけど、ここじゃ……!」
アルジェント・リーゼは背面に背負う推進装置のバーニアノズルより光を吐き出して直進。相対距離を縮めながらラファルを集中的に撃ち込み一体を沈黙させる。続いてもう一体はエリソン・バールを頭部に掃射。人体の脳に相当する部位を損失したエヴォルグ量産機は微塵も動かなくなった。
「わっとと、レーザー!?」
膨れ上がった殺気を感じたシルは操縦桿を倒してフットペダルを短く踏み込んだ。アルジェント・リーゼが弾かれるようにして横に滑ると複数の光線が虚空を走った。重ねて発射されるレーザーをアルジェント・リーゼは前横前と滑らかな瞬発回避運動の連鎖で躱す。
「人を巻き込むのはやっぱり良くないから……いけっ! フィル・ド・フェール!」
幾度もレーザー照射を繰り返す敵の一体に小型シールドを向け、内蔵されているワイヤーアンカーを射出した。楔はエヴォルグ量産機の保護表皮に容易く食い込むと、衝撃を以て怯ませた。すかさずシルがスロットルレバーを引く。シールドのウィンチが作動しワイヤーを巻き始めた。
「寄せて斬ればっ!」
ワイヤーで捉えた敵を回避運動で振り回しながらも至近距離まで引き付ける。そしてエトワールを一閃。星の輝きを宿す刃が人喰いキャバリアの首を切り落とした。アルジェント・リーゼは体液を噴出させる身体からアンカーを引き抜くと蹴り飛ばして民家へと落下させた。
「それにしてもキリがないなぁ……」
市街に侵入した敵の数は決して多くはないとは聞いていたが、かといって少なくもないようだ。アルジェント・リーゼは宙で舞う蝶の如きスラスター捌きで照射されるレーザーを躱し、伸びる触手をエトワールで斬り払う。
「全部まともに相手してたら終わらなくなっちゃうね。なら!」
散々宙を飛び回って惹き寄せたその敵愾心を利用させてもらう。アルジェント・リーゼが右腕に装備するラファルに四つの異なる光色が収束され始めた。
「精霊達よ集いて力になり……以下略! エレメンタル・バラージ! 撃ち抜くよっ!」
飽きる程エヴォルグ量産機とその系列機と戦ってきたシルは、それらの半生体キャバリアの装甲を突破するにはさほど威力を要しない事を熟知している。詠唱を手早く最小限にして終えると、アルジェント・リーゼが右腕を天に向かって突き上げた。ラファルからそれぞれの属性色に対応した魔力弾が全方位に四散する。魔力弾はアルジェント・リーゼを攻撃対象と見做している人喰いキャバリア達へ自らを誘導して着弾。火炎爆発や風圧の裂波などを引き起こして深緑色の躯体を破断した。アルジェント・リーゼの周囲には瞬く間に骸の円陣が出来上がった。
「浜辺の時みたいにオールレンジ攻撃は使えないけど、なんとかいけそうだね……ってうわっ!」
ひと息吐こうとしたのも束の間、死角から伸ばされた触手をアルジェント・リーゼは咄嗟に急速反転で回避する。相対した瞬間にブレシュールの応射を加えて即時無力化した。
「あーもう! 次から次と!」
一体倒せば音を感知して複数体が現れる。四方八方が敵の光点ばかりとなっているレーダーを見たシルの表情には、うんざりとした色味が浮かんでいた。アルジェント・リーゼは開いた双翼より光を滾らせて市街を駆け抜ける。エトワールが閃く度に緑の鮮血が噴き上がった。
大成功
🔵🔵🔵
露木・鬼燈
市街地の方も気になるのですが…
大鳳からは遠すぎるんだよね
僕が到着するより先に他の猟兵が着く方が早いよね
それなら海岸で市街地に向かう猟兵の穴を埋める
たぶんそれが僕のやるべきことなんだろうね
とゆーことで減った戦力の穴埋めをするですよ
秘伝忍法<忍鯱>
120匹のシャチが装備する回転式多銃身電磁加速砲
たぶんこれなら敵の数にも対抗できるっぽい
シャチたち共に防壁が決壊した地点へと移動
そこで迎撃を行うですよ
んー火力は十分とゆーか過剰みたいだね
半数を分散させてキャバリア部隊の援護に回すですよ
必要とあれば盾となって散る
まぁ、シャチ君たちは送還されるだけで死なないからね
再召喚すれば元通りなのでへーきへーき
●完全装甲忍鯱
「市街地の方も気になるのですが……」
大鳳の飛行甲板に立つアポイタカラの操縦席の中で、鬼燈は防壁越しに市街の様子を推し量っていた。支援に向かいたい気もあるが、如何せん鬼燈の現在位置からは直線距離だけで見てもかなり遠い。恐らくは向かっている間に他の猟兵が駆け付けてなんとかしてしまうだろう。ならその分手薄となる海岸の防衛線の戦力維持に回った方が得策ではないだろうか。鬼燈の選択は固まった。
「という訳で僕は海岸で頑張るのですよ」
とは言え敵の数は途方も無く多い。先の有翼エヴォルグ同様、アポイタカラに備わる索敵装置上でも数値が測定限界を超過してしまっている。こちらも数を揃えて対抗する必要がある。鬼燈は眼前で握り拳を作ると、人差し指と中指を立てて囁くように忍の術言を唱えた。
「鯱の印からの口寄、忍鯱……なんてね」
すると大鳳の甲板上――ではなく空母直下の海上に、ワープドライブ使用時に発せられる光に似た円環が幾つも現れた。数は優に120。そして円環から生じたのは、海洋最強の哺乳類と目される海のギャングことシャチだった。しかもただのシャチではない。強化外骨格を装着している上に、ガトリングレールガンで武装した言わばフルアーマーシャチだったのだ。少し古い人間がこの光景を目撃したのならば、シャチが攻めてきたぞと宣ったかも知れない。
「れっつごーだーいぶ」
アポイタカラは大鳳の甲板から飛び降りるとフルアーマーシャチの群れの只中に降り立った。シャチ達は器用に編隊を組んで足場となると海岸目掛けて一斉に泳ぎ出す。アポイタカラは波打つシャチの群れの上で腕を組んで仁王立ちしていた。向かう先は決壊した防壁。シャチ達は海を高速で泳ぎ抜けて揚陸すると強化外骨格の足で陸上を歩き出し、市街に雪崩れ込もうとしていたエヴォルグ量産機の側面に襲い掛かった。
「者共、矢を放てー」
鬼燈の気の抜けた声と共にアポイタカラが腕を振り下ろす。それを合図に120のフルアーマーシャチが多銃身電磁加速砲を一斉射した。高速で投射された弾体の暴風雨は、柔軟性に富むエヴォルグ量産機の表皮をパイ生地の如く貫き、集団の流れを強制的に横に逸らして死体の山を築いた。
『シャ……シャチ!?』
『なんで!? シャチなんで!?』
周囲に展開していた日乃和軍のキャバリアパイロットは、突如出現した完全武装のシャチ集団に唖然または驚愕を禁じ得ない。一方の鬼燈はそんな様子にかまける素振りも見せずに、忍鯱が築いたエヴォルグ量産機の残骸の山を前に首を傾げている。
「んー、火力は十分とゆーか過剰みたいだね」
アポイタカラがシャチの群れに振り返り、身振り手振りで指示を与える。シャチ達は綺麗に半数の集団に分かれると、一隊はこの場に留まりもう一隊は隣接するキャバリア中隊の援護に向かった。
「がんばってねー」
中世の歩兵隊のような戦列を組んで進むフルアーマーシャチの背中をアポイタカラが手を振って見送る。日乃和軍のキャバリアは両者を交互に見比べていた。
『あの……援護は嬉しいんだけど、なんでシャチ? あれってキャバリアじゃないよね?』
恐る恐るといった様子でグレイルのパイロットが伺いを立てる。鬼燈はアポイタカラに頷くモーションを取らせながら答えた。
「うん、シャチ。キャバリアじゃないっぽい」
などと言っている間に隣接する部隊の援護に送り込んだフルアーマーシャチ達が交戦状態に入った。多銃身電磁加速砲とレーザー及び触手が忙しなく飛び交う。個々の戦闘力ではフルアーマーシャチが勝っているのだが、日乃和軍のキャバリアを庇いながら戦闘している都合上、被弾率が跳ね上がってしまっているようだった。程なくして何体かのシャチが爆発四散サヨナラした。
『ちょっとかわいそう……』
キャバリアパイロットの少女が溢した言葉に鬼燈は「気にしない気にしない」と再度口寄せの印を結んだ。すると初めに召喚してみせた時と同様に、アポイタカラの周囲にフルアーマーシャチが現れた。
「再出撃っぽい。ごーごー」
口寄せされたシャチは撃破されてもあくまで送還されるだけらしい。リスポーンしたフルアーマーシャチは何体かで小集団を形成すると、交戦中の友軍の元へと駆けて行った。日乃和軍の少年少女の兵達は憐み半分頼もしさ半分といった具合でフルアーマーシャチと戦線を共にする。盾となったシャチが散った分だけ兵が生き存え、鬼燈が何度でもシャチの兵員を招び戻す。その後、二方面の防衛線戦は忍鯱達によって終始支えられ続けた。
大成功
🔵🔵🔵
防人・拓也
市街地へ向かいつつ結城に
「そういえば挨拶がまだだったな。俺は防人拓也。階級は大尉。とある特殊部隊の所属だ。白羽井小隊の直接の上司にお会いできて光栄だ」
と挨拶。
「勝手に世話を焼いてすまない。あの子達は少々危なっかしい。臨時でもいいから教官として指導してやりたいくらいだ」
と肩を竦める。
「…という訳で俺はあの子達のフォローに行くが、許可を貰えるか?」
と言い許可を貰う。
「こちらリーパー。フェザー01、状況は?」
と少尉へ通信。
「了解。今着くぞ」
と言い、UCを発動しながら敵に接近。攻撃を回避しながらビームサーベルで爆発しないように急所を貫いて戦闘不能にし、その死骸を白羽井小隊の方へ投げる。
「それを遮蔽物にして陣地を形成しろ。多少の弾避けになる」
と言い、数体を同様に処理し白羽井小隊へ渡す。
だが、敵に襲われそうになっている民間人を発見。
「くそっ…!」
全速力で向かい、敵に背を向けて民間人を庇って攻撃をくらい、ビームライフルで反撃。
「…背部スラスターがやられた。だが、応急修理は後回しだな」
アドリブ・連携可。
●接点
要請を受諾し、市街地に向けて砂浜地帯をブーストダッシュで駆けるCX-78-RCリーパーキャバリア。特別仕様のコクピットの中、拓也は機体制動の傍で日乃和海軍の艦艇へ通信を問い合わせていた。
「……そういえば挨拶がまだだったな。俺は防人拓也。階級は大尉。とある特殊部隊の所属だ」
中継映像越しに見る結城は、常日頃から変わらず蠱惑的な薄笑いを浮かべている。だが拓也が特殊部隊という言葉を発した際、その目が微かに細められた。
『特殊部隊の方……でいらっしゃいますか。それはそれは』
僅かに間を置いて結城の唇が開く。
『改めまして、私は空母大鳳を預かっております、日乃和海軍所属の葵結城と申します。階級は大佐となっておりますが、共に属する国を違える身ですので、どうぞお気になさらないでください』
嫋やかに首を垂れる結城の瞳の奥底に得体の知れない粘質さを拓也は感じ取ったが、敢えて意に表す事は無かった。
「白羽井小隊の直接の上司……の認識で合っているだろうか?」
『ええ、現状は。とある作戦以降、我が大鳳の艦載部隊としてお預かり致しております」
「そうか、こうしてお会いできて光栄だ」
こちらこそと結城は緩慢な動作で会釈する。
「勝手に世話を焼いてすまない。あの子達は少々危なっかしい。臨時でもいいから教官として指導してやりたいくらいだ」
拓也がやや首を傾けて肩を竦める。愛宕連山の作戦で同伴した時に比べれば成長は著しいが、先の有翼エヴォルグの戦闘に於いてはやはり新規兵らしい荒削りな部分が多く見受けられた。
『拓也様はあの子達をよくご覧になられているのですね。若気の至りとでも言いましょうか? 誇りと矜持を抱えているが故に、しばしば無理を押す次第が多いようですね』
語り出しに結城が見せた表情。そこに拓也は子を想う母の感情を察した。母の様ではなく、実母そのものの感情をだ。だが今は追求する状況下では無い。拓也の目的は結城の人柄を探る事ではないのだから。
「……という訳で俺はあの子達のフォローに行くが、許可を貰えるか?」
放っておくとどんな飛び出し方をしでかすか知れたものでは無い。拓也にとって、彼女達もまた防衛(まも)らねばならない対象のひとつなのだ。
『それは勿論でございます。許可など滅相もございません。元より猟兵様方には内閣府より独自の判断権限が与えられております故、拓也様が必要とお思いになられたのでしたら、私としましてはその意向を尊重致します』
「そうか、了解した。承諾に感謝する」
『いえいえ、こちらこそ。ではご苦労をおかけするものと思いますがあの子を……失礼、白羽井小隊をよろしくお願いします』
最後に深く腰を曲げた結城の姿を最後に、大鳳と繋がれていた中継映像は切れた。
「言い出してお許しが出た以上は、期待以上にやってみせねばならんだろうさ……」
拓也は視線を正面に据えて左右の操縦桿を前に押し込む。フットペダルを強く深く踏み締めると、リーパーキャバリアの各バーニアノズルが推進力を圧縮放出した。破壊された壁の間を割って市街へと躍り出る。まず目に飛び込んで来たのは喰い散らかされた人間の成れの果てだった。
「酷い有様だな」
拓也が溢した言葉に感情は込められていない。リーパーキャバリアは若干速度を落として住宅街の通りを疾駆する。戦術データリンクを参照しながら白羽井小隊の位置を探っていると、聞き覚えのあるエンジン音が機体の集音装置に浸透した。
「この音、イカルガだな……こちらリーパー。フェザー01、状況は?」
広域回線で呼び掛けるとすぐに応答が戻ってきた。相互に中継映像が表示される。
『こちらフェザー01、現在敵と交戦中ですわ。ですが……市民が各所に散らばっていて、戦闘に巻き込んでしまいそうで……」
那琴の答えは要領を得ない。額に滲む脂汗に張り付く黒髪からしてかなり悪戦苦闘しているのだろう。
「了解。すぐに援護に入る。待っていろ」
通りを進むリーパーキャバリアが十字路に差し掛かった瞬間にバックブーストを掛けて急停止する。そして半身のスラスターだけを噴射して90度の方向転換を行う。目まぐるしく回る視界の中で白羽井小隊のイカルガとエヴォルグ量産機を捉えた。
「離れろ!」
背面からバーニア光を爆ぜさせ直進加速するリーパーキャバリア。イカルガは後方に飛び退き離脱した。すると高速接近する動体に感付いたエヴォルグ量産機が頭部をリーパーキャバリアへ向けた。口腔内から伸びた第二の顎より照射された光線がリーパーキャバリアに伸びる。
「見えているぞ!」
死神の予測術が開眼する。横方向への僅かなクイックブースト。レーザーをほんの僅かな回避運動で避けてみせた。そして加速を緩めずエヴォルグ量産機に肉薄、ショルダーチャージで押し込みながら頭部にビームサーベルの発振機を押し付けた。
拓也がトリガーキーを引く。超高熱の荷電粒子の刃が白面を刺し貫くと、エヴォルグ量産機は一瞬痙攣した後に機能を停止した。
『リーパーの方! ご無事ですの!?』
側からすれば無茶な戦い振りに思えたのだろう。不安げな面持ちの那琴が操縦するイカルガがリーパーキャバリアの横に降り立つ。縺れ合ったエヴォルグ量産機を跳ね除けて立ち上がると、頭部を損傷して死に体となった人喰いキャバリアの骸を掴んでイカルガへ放り投げた。
『あうっ!? ちょっと!?』
「それを遮蔽物にして陣地を形成しろ。多少の弾避けになる」
反射的に受け止めたイカルガより抗議が上がりかけるが、拓也の声が先を制した。那琴は拓也の意図に納得したらしく、周囲に散乱していたエヴォルグ量産機の骸と纏めて土塁のように積み上げる。
「数は多いが……それだけだ」
新たに出現したエヴォルグ量産機がリーパーキャバリアに触手を伸ばす。拓也の眼には触手の一本一本に至るまでの軌道が映し出されている。リーパーキャバリアが膝を屈めて跳躍、眼下に過ぎる触手を置き去りにして本体に飛び掛かる。鷲の強襲の如き一撃。機体重量を乗せたビームサーベルの突き込みが頭部を貫いた。糸の切れた操り人形のように崩れるエヴォルグ量産機を足場に、リーパーキャバリアは再度跳躍する。1秒前まで立っていた空間をレーザーが駆け抜けた。
「頭部を潰せば終わる、か。これはこれでやり易いな」
エヴォルグ量産機の目の前に着地したリーパーキャバリアが逆手に握ったビームサーベルを振り抜いた。白面を貼り付けた頭部が路上に転がり、首からは体液の噴水が立ち昇る。緑の血染めとなったリーパーキャバリアは、エヴォルグ量産機の遺体を掴むと白羽井小隊のイカルガへと放り投げた。
エヴォルグの骸を再利用した陣地形成は想定以上に迅速に進められた。なにせ材料となるエヴォルグ量産機は幾らでもあるのだから。
『もうそれらしい形になって参りましたわね』
「上出来だ。しかし……」
視界の隅で見遣っていたレーダーに小さな光点とその背後に敵を表す光点が生じた。反射的に振り向けばリーパーキャバリアも方向を転回する。血塗れの少女がひとり、エヴォルグ量産機に追い回されていた。両者の距離は瞬く間に縮む。
「不味いか!」
拓也は条件反射でフットペダルを踏み込んでいた。跳躍して瞬間加速したリーパーキャバリアが少女とエヴォルグ量産機の間に入る。白面の顎から覗かせた服顎が青白い光線を放つ。
「くそっ……!」
敵に背を向け少女に覆い被さる。レーザーの被弾の衝撃は拓也の手元にまで伝わってきた。直撃を受けた背部のスラスターが小爆発を起こす。だが拓也は損傷を甘受しながらも反撃の一手を下す。振り向き様にビームライフルを一射。荷電粒子の弾丸は白面を撃ち抜き溶解させた。リーパーキャバリアが遂に膝をつく。
『リーパーの方!』
駆け寄ろうとした那琴のイカルガをリーパーキャバリアの開かれたマニピュレーターが制した。
「俺はいい! 民間人を回収するんだ」
白羽井小隊のイカルガが血塗れの少女をマニピュレーターで慎重に抱え込む。外傷を負っているが生命に別状は無いようだった。無事回収された様子を見届けた拓也はコクピット内で人知れず深く息を吐いた。
「……背部スラスターがやられた。だが、応急修理は後回しだな」
推力は落ちるが戦えなくなるわけではない。ダメージコントロールを終えたリーパーキャバリアが立ち上がった。
『わたくしが言えた立場ではありませんが、リーパーの方、あまり無理なさらないでくださいまし』
中継映像で見る那琴の様子は幾らか落ち着きを払っている。
「俺はいいんだ。これも仕事だからな。フェザー01、敵が来るぞ。隊を統率し直せ」
『了解ですわ』
拓也と白羽井小隊が共同作業で築いた仮設の防衛陣地で人喰いキャバリアを迎え撃つ。ビームライフルを連射するリーパーキャバリアのセンサーカメラ越しに、拓也は冷徹かつ正確に敵を射抜き続けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
フレスベルク・メリアグレース
広域魂魄概念凍結UC、展開
瞬間、市街に純白の雪が降り注ぐと同時に戦場内のエヴォルグのみが一瞬で凍結していく
魂魄概念に干渉する冷気、それは指定した対象以外には累を及ぼさぬ広域攻撃が可能という事です
この場はお任せを、後藤大佐
わたくしのUCで市街地を覆い、エヴォルグのみを指定して広域で凍結させて一瞬で無力化します
市街地の上空に天使の如く機械翼を広げて佇み、次々とエヴォルグのみを凍てつかせる氷雪を展開するキャバリア
それは聖教に帰依する者がいれば、聖教における神機たるノインツェーンだと理解できるだろう
我が名はメリアグレース聖教皇国第十六代教皇、フレスベルク・メリアグレース
これ以上の暴挙は赦しません
●絶対冷怒
人命を保護する筈の退避壕は、人喰いキャバリアの襲来の前にさしたる意味を成さなかったどころか人間を詰め込んだ餌箱と化していた。分厚い鋼鉄製の隔壁はレーザーの集中照射で破られ、内部の人間は触手で次々に絡め取られて引き摺り出される。
辛うじて脱出した先の住宅街でもエヴォルグ達が待ち構えており、路上は逃げ惑う人々の血飛沫で染まり喰い残された肉片が散乱していた。
「この光景も、かつて人が創り出した力の答え……」
神騎ノインツェーンが天輪を背に宙をひた走る。フレスベルクは眼下に広がる惨状の一つにすら面持ちを背けない。静かな怒りを灯す翡翠の瞳がエヴォルグ量産機の集団を捕捉した。そちらへ意識を傾ければノインツェーンは淡い黄金色の粒子を散らせて加速する。
縦横の道が十字に交差する地点で、民間人が四方を人喰いキャバリアに阻まれていた。獲物を逃さぬよう、にじり寄る白面の怪物達を前に女子供が命を乞い泣き叫ぶ。無論フレスベルクが見過ごすはすが無い。しかし人と敵の距離が詰まり過ぎている。火砲を用いれば二次被害が生じかねない。機体ごと割り込ませれば制動に巻き込む恐れもあるし、バーニアの噴射炎で焼き殺してしまう危惧もある。窮地が目の前にありながら無血の介入が困難な歯痒い状況にあって、神子代理の思考は湖面に張る氷盤のようだった。
「――凍てつき静止するは罪人の魂魄。罪深き魂の叫びは凍結されて届かない。並ばこそ、奈落にて贖罪の罰を受けるが良い」
フレスベルクの唇が祝詞を紡ぐ。双眸には目蓋が降ろされ、両手は胸元で緩く結ばれていた。祈りがユーベルコードの奇跡をもたらす。
機械翼を広げたノインツェーンが嫋やかな機動で追い詰められた市井の頭上の宙に立つ。現れた光輝の機械巨人に茫然とする者達を眼下にして、天に掲げた右腕部より術陣の環が広がった。
エネルギーの補充を最優先としているのだろうか、エヴォルグ達は神騎には構わず獲物に飛び掛からんとした。だが直後に異変が起こった。快晴の空に似つかわしく無い白雪が市街に舞い落ちる。人の頭ほどもあろうかという雪の結晶がエヴォルグ量産機に触れた途端、時間が止まったかのようにして瞬時に身を凍てつかせた。ニブルヘイム・クライコンダクターの絶対零度の戒めは、人喰いキャバリアの思考波形を逆算して対象を限定、民間人を含む他のものに対しては一切の害を及ぼす事なく状況を打開してみせた。
ノインツェーンが人喰いキャバリアの氷像の前にゆっくりと降下する。緩慢に伸ばされた腕のマニピュレーターがそれに触れると、粉微塵の硝子細工となって崩れ去った。
「我が名はメリアグレース聖教皇国第十六代教皇、フレスベルク・メリアグレース……これ以上の暴挙は赦しません」
抑揚を抑えた語り口で宣告を発すると、他のエヴォルグの氷像も一様に崩れ始める。機体を旋回させて市民に向き直れば、何が起こったのか未だ飲み込み切れていない様子の市民が揃って開口していた。フレスベルクはノインツェーンの胸殻を開くと、外に身を乗り出して案ずるに及ばないと微笑みかけた。人々は神騎を操る少女の姿を見て更に驚愕するも、同時に安堵の色も広まりつつあった。一旦の事態収拾を付けたフレスベルクは片手を耳元に当てがい、基地の戦闘指揮所へと通信を繋いだ。
「後藤大佐、そちらで御覧になられていたものとは存じますが、市井を救出致しました。後の次第の程は如何に?」
『手間をかけましたな、猊下。ではご足労になっちまいますが、そのまま東方面まで連れて行ってやってはくれませんかね。迎えの車輌が来る筈です。しかし天候兵器とは……猟兵ってのは物持ちがいいもんですな』
「承知しました」
フレスベルクは眼を閉じて浅く会釈すると通信を終えた。
「我が神騎が皆様を安全圏まで先導致します。どうか恐れずに落ち着いて行動してください。わたくしが居る限り、如何なる害悪も皆様の元へは届きません」
声量は大きいが柔らかく穏やかな語り口で市民を説くと、フレスベルクはノインツェーンの胸の内へと戻る。神騎は両の足を地表から微かに浮き上がらせ、市民の歩行速度に合わせてゆっくりと前進を開始する。その様子はまるで信徒を率いて約束の地を目指す御使いの似姿であった。
大成功
🔵🔵🔵
ノエル・カンナビス
海岸防衛に少々不安がありますので、保険を掛けておきます。
私は単独行動で転戦するフリーランスの傭兵。
整備・補給拠点も自前で持ち歩いています。
機体の整備が終わり次第コンバットキャリアから有線EN供給、
二挺のプラズマライフルを増強モードで全力射撃します。
敵の物量戦を打倒する目的で開発された戦域兵器、
エヴォルグの集団程度は楽々蒸発させるインクリーザー二連装で
海岸を掃除しましょう。インゴット消費が酷いですが。
先制攻撃/エネルギー充填/限界突破/砲撃/一斉発射/鎧無視攻撃/
範囲攻撃/貫通攻撃/なぎ払い/指定UC。
なんでしたら水鉄砲に正面から叩きこんで、
巨大水柱を水蒸気爆発で粉砕する程度の出力はありますよ。
●殲光
エヴォルグ量産機の上陸を間近に控えた沙綿里島西海岸。守備隊のキャバリアが並ぶ砂浜に大型の装輪式戦闘車両が停車していた。牽引する野外整備車のハンガーケージには白を基調とする中量級キャバリアが捕われている。機体各部に配置されたノーマルスラスター類の推進剤補給口には供給ホースが繋がれており、取り外された装甲を幾つもの機械工作用ロボットアームが掴み、再度取り付け作業を行なっている。
「補給完了。関節駆動系の部品交換も終わりです」
ノエルはリンケージベッドの中で機体のステータスを確認する。彼女は特定の後援組織を持たず、元来から単独で各地を転戦する傭兵。コンバットキャリアは戦闘行動の自己完結を可能とするための移動拠点としてこの戦況下でも過不足なく機能していた。
ケージの枷からエイストラが解き放たれたのと遠浅の海岸線が泡立ち始めたのは殆ど同時期だった。ノエルはコンバットキャリアの側面まで機体を歩行させると、車輌の変電装置と直通になっている電源ケーブルを2本引き出した。それを車輌に備わるウェポンハンガーに懸架していた2挺のプラズマライフルに接続する。
「対物量の戦域兵器、使ってみますか」
長銃を手に取ったエイストラが緩慢に旋回した。ライトブルーに発光するツインアイが捉えた映像をモニターに出力する。海岸一帯を深緑の津波が埋め尽くしていた。そんな光景を見てノエルは特にたじろぐでもなく、無機質な面持ちのまま機体を数歩前進させた。エイストラの両足が肩幅以上に開かれ、砂地に埋没するほどに踏み締められる。
「バスターライフルモードに移行、エネルギー充填開始、照射角修正……」
ノエルのか細い指先が左右の操縦桿を繊細に操作する。マニュアルモードに切り替えたふたつの照準を上陸する敵の先頭集団に重ね合わせた。エイストラが両手に携えるプラズマライフルを正面に向けて構えると、フラッシュハイダーの奥底から青白い粒子の木漏れ日が滲み出した。銃床に繋がれた送電ケーブルは時折電流のスパークを散らせている。
照準補正を終え、プラズマライフルへのエネルギー供給も完了。発射に必要なプロセスは全て整った。
警報が発令されたのはその瞬間だった。沖合いで超長距離放水砲の発射兆候が確認されたらしい。複数発の内の一発は予測弾道がエイストラの所在位置と重なっている。ノエルは眉を顰めたが発射態勢を解く事は無かった。
波打ち際から砂浜へと到達した人喰いキャバリアの大群勢を瞳に映すノエルが微かに唇を動かした。
「Eバンク・リリース……インクリーズ」
プラズマライフルの銃口から荷電粒子が膨れ上がる。放出した莫大な熱量がエイストラを仰向けに吹き飛ばさんばかりの発射反動を生じさせるも、バイブロジェットとスラスターの噴射でそれを堪えた。二挺のライフルが撃ち放った光の御柱は、空気中の酸素と水分を燃焼しながら砂浜を直進。砂地をとろけた硝子に変容させてエヴォルグ量産機の群勢を押し流した。掠めてすらいないように見える目標さえも光に当てられた影となって掻き消えてしまう。眼を焼くばかりの極太の荷電粒子光線は、エヴォルグを溶かして消滅させるだけでは減衰する兆しを見せない。
やがて直進する水球にまで到達すると、蒼天を衝く大規模な水蒸気爆発を引き起こした。地を這う衝撃波はインクリーザーの照射を終えたエイストラの元まで到達し、機体を揺さぶった。
「やはり連射には無理がありますか」
サブウィンドウに表示された黄色いアラートメッセージにノエルの視線が流れる。熱量が飽和したプラズマライフルは緊急冷却モードに入っていた。銃身は外見こそ違いが無くとも、時折電流の火花が散り、発する熱が陽炎を揺らめかせていた。
「まあ……個人の戦果としては、これだけでも十分でしょう」
エイストラの頭部が向けられた海岸線は2本の大きな抉れ跡が渚にまで続いていた。砂の地表は赤熱化し、荷電粒子が奔った軌道の周囲には身体構造の大部分を損失したエヴォルグ量産機の骸が物言わず転がっている。エネルギーインゴットを悉く食い潰したインクリーザーの咆哮は、海岸戦線の脅威の一端を灼き払う殲光となった。
大成功
🔵🔵🔵
斑星・夜
【特務一課】
※キャバリア:灰風号搭乗
オーケー大丈夫、まだ間に合う。民間人も小隊の子達もまだ助けられる
まかせてギバちゃん、キリジちゃん
めいっぱい集めて行くから、よろしくね!
EPワイズマンズユニット『ねむいのちゃん』で民間人の生体反応を情報収集と避難ルートの算出
情報は二人とも共有します
敵の注意を引くように攻撃し市街地をダッシュで駆けます
狙う敵の優先順位は民間人を襲っている奴だ
『RXSシルバーワイヤー』を射出して敵を捕縛
相手の体勢を崩し、首を帯電熱超硬度短刀で切断します
走りながら、市街地の建物等を利用して『RXSシルバーワイヤー』を射出
『ワイヤートラップ・アラクネ』を仕掛け、誘い込んで敵をまとめるよ
キリジ・グッドウィン
【特務一課】
キャバリア(ニアール)に搭乗
「あーあ、酷いなこれは」
憐憫の気持ちなんてものは露にも持ち合わせておらず、犬が他人の部屋を散らかしたかのようにぼやく
ギバやマダラ、都市の二人の方が頭に血が上ってるようにも見えるがあれだけ出来るなら平気か
「ハッ!マダラ、お前も大概エグいな」
そんじゃまあオレも暴れるぞ、二アール
……ただ市街戦は派手に地形に変える事も出来ないから多少はお行儀良くやらねぇと
道路を駆け抜けBXS対装甲重粒子収束飛刀を脚部の収納から苦無のように抜き、エヴォルグに一気に接近し切り込みと投擲で首根っこを掻き切るなどして蹴散らす
「手前ェ等に逃げる隙すら与えねえよ!」
天城原・陽
【特務一課】
度し難い惨状、オブリビオンマシンの暴虐に血の気が引くのを自覚した
恐怖によるものではなく怒りによって
「市街地へ急行…民間人の安全確保及び…オブリビオンマシン排除に移行する。」
怒りを滾らせながら、静かに告げて機体制御。市街地へ向かう
「マダラ、陽動は任せたわ。出来る限り引き付けて民間人が退避する時間を稼いで。キリジは遊撃。十八番でしょ?」
通信を開き
『特務一課より白羽井小隊へ。これより武力支援を行う。』
市街地故にダブルもバスターも使えない…だったら…!!
マダラやキリジが引き付けた敵へフルブーストで接近、狙撃砲による零距離射撃を敢行
「ブッ散れ…!!」
仕留めたならば次の標的へ向かう
●オーバーキル
戦術データリンクにより共有された市街の映像。オブリビオンマシンが演出する捕食者と被捕食者の摂理を見て、猟兵達は果たしてどのような感情を抱いたのだろうか。
天城原は自身の脳神経が急激に冷える感触を覚えた。飽和した怒気が怪物共を抹殺するために、半ば理性と相反して思考を回転させ始める。
「了解。市街地へ急行……民間人の安全確保及び……オブリビオンマシン排除に移行する」
他者が天城原を借りて語っているかの如き口振り。冷静に事態を収めるつもりの脳と狂戦士と化すのも良しとする心が剥離しているのだろうか。声量を圧して下した指令に斑星とキリジは無言を返した。
赤雷号が先鋒となり後に灰風号とニアールが続く。決壊した壁の狭間より市街へ進出した特務一課の3機の前では、得体の知れない赤黒い臓腑や人体の一部が無作為に撒き散らされていた。
「あーあ、酷いなこれは」
ニアールが足元の血溜まりに足を浸ける。キリジが視線を下方に向けるとニアールの頭部も同調してそちらを向いた。胸から下を喪失した少女と視線が交差した。キリジに憐憫の色は無い。繰り返される日常風景に面倒な片付け仕事が増えてしまったといった嘆息とも付かない様子が感じ取れるだけだ。
「でもまだ間に合う。民間人も小隊の子達も助けられる。だよねギバちゃん?」
ニアールに並び立つ灰風号はしきりに首を左右に往復させている。センサーカメラに流れる走査線からして、ワイズマンユニットで情報収集を行なっているのだろう。結果的に市街の惨状を余す事なく精査する事となった斑星だが、表情には陰りも淀みも滲まない。しかし金色の双眸の奥底に宿す思惟も同じなのか、キリジならば推して量れたのかも知れない。
「マダラ、陽動は任せたわ。出来る限り引き付けて民間人が退避する時間を稼いで」
不気味なまでに抑揚が薄い天城原の指令に、斑星の灰風号は親指に相当するマニピュレーターを立てた。
「まかせてギバちゃん! キリジちゃん、めいっぱい集めて行くから、よろしくね!」
灰風号が前傾姿勢を取りアンダーフレームのバーニアノズルから噴射炎を放つ。アスファルトに接地した足裏より火花を散らせて市街を駆け抜ける。
「キリジは遊撃。十八番でしょ?」
「へいへい」
滞空する赤雷号にニアールは背を向けて手の甲を煽る。深く腰を落とすと黒鉄の両脚が地面を蹴った。スラスターの瞬間噴射と共に跳躍して民家を悠々と飛び越え、着地するとまた同様に跳躍を繰り返す。
「ギバやマダラ、都市の二人の方が頭に血が上ってるようにも見えるが……」
「なんか言った?」
「さあな」
重みを含む天城原の追求から逃れるようにしてキリジはニアールを跳躍させる。レーダーグラフに視線を伸ばせば市街の三次元マッピングと敵及び市民の分布状況が反映されていた。斑星のねむいのちゃんは名前に依らず仕事が早い。
灰風号は天城原の指示通り、陽動を目的として市街を疾駆している。散発的にペネトレーターで牽制射撃を浴びせて回り、民間人に喰らいかかるエヴォルグ量産機にはシルバーワイヤーを打ち込んで行動を阻止する。
「捕まえた」
冷ややかな声音と共に斑星がサイドパネルのスロットルレバーを限界まで引き下げた。ウインチのモーターが作動し、鉄線を巻き上げる。暴れるエヴォルグ量産機は灰風号の側近まで引き摺り倒された。
「すぱーん」
マニピュレーターに逆手で保持する短刀が電熱を纏う。薙いだ腕の後に刃が軌跡を残す。途端にエヴォルグ量産機が微動だにもしなくなった。首筋に赤熱した切創跡が走ると、頭部が首から転げ落ちた。遅れて噴出した夥しい量の体液が灰風号を深緑に濡らした。
「ちゃんとついて来てるかな……っと」
緩慢に半身を旋回させると後方から他のエヴォルグ量産機が迫っていた。誘引した内の一体が追いつきてきたらしい。斑星は照準を重ねると灰風号にペネトレーターの銃口を向けさせた。だがマニピュレーターが引き金に触れる寸前で、エヴォルグ量産機は横から跳んできた黒い機体に弾かれ、民家に身をめり込ませた。
「ハッ! マダラ、お前も大概エグいな」
仰向けになったエヴォルグ量産機へニアールが飛び掛かる。打ち据えられた剛拳は頭部を叩き潰した。
「キリジちゃん、続けて来るけど任せていい? まだワイヤー張り終わってなくてさー」
返答代わりに行けのハンドサインを出したニアールを背に、灰風号が方向転換し再度市街を走り出す。キリジの視界の隅ではエヴォルグ量産機が四足獣の姿勢で民家の屋根を這い上がっていた。
「面倒だが、人がうろちょろしてる内は多少なりお行儀良くやらねぇとな……」
照射されたレーザーを横方向への瞬間加速で回避。間を開けずに跳び掛かられるが後方に跳躍する事で躱した。両者の相対距離が大きく開く。ニアールは地に足を着ける瞬間、片腕のマニピュレーターを脚部へと伸ばした。その挙動に合わせて装甲内に収納されていたナイフシースが展開する。
「止まってろッ!」
マニピュレーター同士の間で対装甲重粒子収束飛刀の柄を挟み込み、腕を縦に振るう。投擲された刃が跳び付こうとしていたエヴォルグ量産機に掣肘を加えた。ニアールは降着の衝撃を膝関節で吸収するべく身を屈めると、姿勢復帰の反発を活かして前方に跳躍した。
「手前ェ等に逃げる隙すら与えねえよ!」
vengeance stabの連撃。加速に機体重量を掛けて重粒子の刃をエヴォルグ量産機の胴体に叩き込む。怪物の身を路面に平伏させると、刃を引き抜いて首元に突き刺す。肘と肩の関節部モーターを唸らせて腕を横に引くと、喉を抉り切られたエヴォルグ量産機は僅かに痙攣した後に機能を停止した。ニアールが立ち上がり、対装甲重粒子収束飛刀を手元で回転させて握り直すと脚部側面のナイフシースに戻した。そこで天城原より通達が届く。
「キリジ、マダラの仕込みが整った。なるべく敵を誘引してから指定地点で合流しな」
「案外早かったな……」
レーダーマップに追加された光点の座標位置を確認するとキリジはフットペダルを踏み込んだ。ニアールがアスファルトの地面を蹴ると視界が一気に開ける。民家が整然と建ち並ぶ住宅街の低高度帯域では、赤雷号に加えて幾度か見掛けた機体達が飛び交っていた。
「特務一課より白羽井小隊へ。これより武力支援を行う」
『フェザー01より特務一課へ。助太刀に感謝致しますわ……』
市街を逃げ惑う民間人を巻き込まないよう注意を払いながら交戦しなければならない状況に、白羽井小隊は普段以上に神経を擦り減らされていた。戦闘機動に市民を巻き込んではならんと余計に高度を取れば、殲禍炎剣の照射警報が喧しく鳴り響く。そして迂闊に火力投射が行えない環境条件は赤雷号を駆る天城原にとっても同様だった。
「ダブルもバスターも使えない……だったら……!」
白羽井小隊のイカルガにかまけているエヴォルグ量産機に対し、赤雷号が荒鷲の如く獰猛に滑空を仕掛ける。振り向く敵に突き出されたのは二十二式複合狙撃砲。双発式の銃口が胴体を捉えた。物理運動をもろに受けたエヴォルグ量産機の身体がくの字に折れ曲がる。
「ブッ散れ
……!!」
漸く生の感情を発露した天城原がトリガーキーを押し込んだ。握り込む操縦桿が軋む。セミオートで一射された大口径の実体弾がエヴォルグ量産機の背より抜け出ると、半生体材質の緩衝皮膜や内部機関を空中にぶち撒けた。家屋の屋根や硝子窓に深緑の肉片が降り注いでこびり付く。
「ギバもギバで大概だな」
ニアールが我が身にも降り注いだ半生体材質を払う。
「あ? なんだって?」
「狙い通りエヴォルグ共が寄って来てンぞ」
キリジの指摘通り、ねむいのちゃん伝に得た索敵情報を参照すれば赤雷号達を中心地点として敵反応が四方より集合しつつあった。
「ギバちゃん、キリジちゃん、こっちこっち」
赤雷号とニアールが視線を向けた先では、そこそこの面積を持った公園に陣取る灰風号が手招きしている。先の2名は何を言うでもなく灰風号に接近、ニアールは灰風号と背中合わせに、赤雷号は2機の頭上に位置取りした。
「白羽井小隊の皆んなも! 折角キリジちゃんが集めてくれたんだから、間違っても散開しちゃダメだよ!」
『わたくし達もですの!? 一体何が始まるのでして?』
「なんだと思う? 見てからのお楽しみー」
イカルガ達は互いに顔を見合わせていたが、斑星が言うならばそうなのだろうと納得したらしい。キリジは勿体振る必要があるのかと言いたげな表情だったが据わった目線を斑星に送るだけに留めていた。
斯くしてエヴォルグ量産機は特務一課と白羽井小隊を包囲した。レーダー上では敵を示す光点が公園を中心として凸凹した円形を形成している。渡海で腹を空かせたエヴォルグ達に待つという選択肢は無い。機体越しに人間の匂いを感じ取っているのだろうか、堪らず先走った一体を皮切りに他も一斉に走り出すか跳び掛かる。しかし獲物を捕らえられたものは一体たりとて存在しなかった。
突如としてエヴォルグ量産機達が宙に留まった状態で踠き始めた。まるで蜘蛛の巣に囚われた羽虫のように。よくよく目を凝らせばエヴォルグ量産機の身には陽光を反射して煌く鉄線が絡まっていた。
「よーし、成功成功」
斑星が満足げに頷く。灰風号は陽動を目的として市街を走り回る傍ら、シルバーワイヤーでワイヤートラップ・アラクネの仕込みを張り巡らせていたのだ。そしてこの場を収束点としてニアールと共に敵を漸減しつつ誘引、現在に至る。恐らくは今頃市街の各地でもここと同じようにエヴォルグ量産機達が囚われているだろう。
「上出来だ! 暴れるぞ、二アール!」
ランブルビーストの爪を剥いて打ち鳴らしたニアールが跳躍する。絡むシルバーワイヤーによって無防備を晒すエヴォルグ量産機の頭部を掌握すると有無を言わさず握り潰した。
エヴォルグ量産機達は罠から逃れようと闇雲に足掻く。しかし足掻くほどに灰風号が張り巡らせた罠はその保護皮膜に深く食い込む。ならば焼き切ろうとレーザーを照射するべく開かれた顎に長大な砲身の銃口が突き込まれた。
「残念」
二十二式複合狙撃砲を抱え込む赤雷号の複合センサーカメラが、双発式の銃口を咥えたまま金切り声を喚き散らすエヴォルグ量産機の姿を映した。天城原の眉間が険しく歪む。
「煩い、死ね」
機体を揺るがすほどの反動に銃身の先端部が跳ね上がる。ポイントブランクを反映した上で発射された銃弾は、体勢を崩しているどころでは済まない無防備なエヴォルグ量産機の首から上を微塵に撃ち砕いた。排出された薬莢が地に落ちる。弾倉より新たな弾丸が薬室に送り込まれる際の鈍い衝撃を操縦桿越しに感じながら、天城原は機体を旋回させた。
「さて……次はどいつの頭からブッ散らせてやろうか?」
赤雷号の構える複合狙撃砲が獲物を品定めするようにエヴォルグ量産機へと向けられる。天城原は冷たい殺意を乗せた指先でトリガーキーを引く。赤い修羅人の重い鋼鉄の咆哮が轟く度に、市街には人ではないものの鮮血と肉片が散乱した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ガイ・レックウ
【POW】で判定する
『民間人を殺戮たあ…ふざけやがって!!駆逐してやるぜ!!』
【オーラ防御】で防御を固め、【フェイント】を織り交ぜた動きでスラスターをふかして、突撃。
電磁機関砲での【制圧射撃】とブレードでの【なぎ払い】で攻撃していき、相手の攻撃には【武器受け】で対処。
ユーベルコード【炎龍一閃】で切り捨ててやる!!
『白羽井のお嬢さん方も成長してやがるな…』
●紅蓮剣
人喰いキャバリアが跳梁する市街をガイ・レックウ(明日切り開く流浪人・f01997)の特空機1型『スターインパルス』が走る。極低空を駆ければバーニアノズルが巻き起こす噴射風圧と加速の衝撃波が家屋の屋根を戦慄かせた。
「民間人を殺戮たあ……ふざけやがって!! 駆逐してやるぜ!!」
明確な怒気を含むガイの眼下では惨殺された人間の骸ばかりが過ぎ去る。フットペダルを踏み込む足に力が籠り、握る操縦桿は軋んでいた。僅かにでも疾く主戦域に到達しなくては。焦燥が神経を逆撫でる。
「やってやがるな……!」
接敵まではさしたる時間を必要としなかった。直近の区画で過去の任務中に何度も見掛けた機体が空対地戦闘を演じている。白羽井小隊のイカルガ達に割り込む格好で、スターインパルスが交戦の真只中に飛び込んだ。バーニアノズルが白熱した噴射炎を吐き出す。
「食らっとけ!」
イカルガに気取られているエヴォルグ量産機の背後に急速接近、擦れ違い様に特式機甲斬艦刀・業火の刃を鞘から覗かせた。刀身が放つ金属の冷たい閃きが深緑の表皮を滑る。スターインパルスが素通りしたのと同時にエヴォルグ量産機の胴体に裂傷が走った。直後に夥しい体液を噴き出して沈黙する。
「白羽井のお嬢さん方! 生きてるか!?」
『こちらはなんとか……!』
スターインパルスは加速を殺さずにアンダーフレームのスラスターのみを噴射して機体の姿勢を縦に180度反転させた。頭部が路面を向いて脚部が空を向く。天地が逆さまになった状態でガイは操縦桿のダイヤルキーをなぞって兵装選択を行う。スターインパルスが片手に試製電磁機関砲1型を握った。銃口がエヴォルグ量産機に重ね合わされる。セミオート連射で射出された弾体は三発。一発はエヴォルグ量産機の胴体に命中し、怯んだところへ着弾した二発目と三発目が白面を砕いた。頭部に内蔵する主要機関を破壊されたエヴォルグ量産機は背中から倒れ込むと機能停止した。その一連の攻撃に被せるようにして他のエヴォルグ量産機がレーザーを放つ。
「当たるかよ!」
ガイは寸前まで攻撃を引き付けると再度アンダーフレームのスラスターだけを作動させた。天地が元に戻り、曲芸飛行染みた姿勢制御の挙動を利用してレーザーを躱す。更に触腕が伸ばされたが、スターインパルスは敢えて脚を止めて業火を構える。
「相変わらず甘いな! お前らのやり口にも飽き飽きして来たぜ!」
研ぎ澄まされた刀を縦に振り下ろして横に斬り返す。数十本にも及ぶ触腕はたった二振りで無秩序に引き裂かれ、周囲に体液と肉片を撒き散らした。切られた触腕が痛むのだろうか、竦む挙動を見せたエヴォルグ量産機に容赦無く電磁機関砲を浴びせながら突撃。至近弾を連続して見舞い撃破すると、そのエヴォルグ量産機を足掛けに蹴り飛ばして直角な機動で次のエヴォルグ量産機に肉迫する。迎撃のレーザーが連射されるも、正面に集中展開したフィールドで受け流して加速を得たままに突進、敵機ごと民間にめり込んだ。
「取ったぞ!」
スターインパルスはエヴォルグ量産機の胴体中央に業火の刃を突き刺していた。もがく敵に構わずガイは操縦桿を押し込む。
「さあて、中から焼き切られる気分はどうだ?」
業火の刀身から名が示す通りの紅蓮が燃え盛る。突き刺さった炎剣に内部機関を焼かれたエヴォルグ量産機は更に激しく手足と尻尾を振り回してスターインパルスに食い付こうとするが、スラスターの噴射で背にした民家に押し込まれた状態では離脱など到底叶わない。
「この一手で終わりだろうが! 炎龍一閃!」
刀身が発する炎が白面の顎から溢れ出た瞬間、スターインパルスは剣先を上方向へと斬り上げた。胴体から喉、そして頭部に至るまでを引き裂かれたエヴォルグ量産機は、機体内部から体液では無く紅蓮の炎を吹き上がらせた。スターインパルスが急速反転して業火を振るって払うと、刀身に纏う炎が失せた。そして背後ではエヴォルグ量産機が全身を炎に焼かれ瞬時に炭化する。後に残されたのは黒い煤だけだった。
「ま、こいつを斬ったところでまだまだ後がつかえてるんだが」
ガイが次なる相手へと電磁機関砲の照準を重ねようとした時、複数機のイカルガが多方向より現れ集中射撃を浴びせて瞬時に撃破した。
「ほう? 白羽井のお嬢さん方も成長してやがるな……」
彼女らとは愛宕連山からの付き合いだが、当初の危なっかしさは払拭されつつある。ガイは感心気味に頷く。スターインパルスが浮き上がりバーニアノズルに火を灯す。急加速を得た機体はイカルガを追い回すエヴォルグ量産機の一体へと高速接近すると、電磁機関砲を一発撃ち込んで動きを止め、熱を帯びる業火の連続切りで細切れにしてみせた。ガイの剣戟は今暫く続く。炎を纏う刃が何度も紅蓮の軌跡を描いた。
大成功
🔵🔵🔵
ユーフィ・バウム
作戦参加は遅れましたが、
エヴォルグ量産機達を許してはおけませんね
市街に行きましょう
我らが振るうは蛮勇なれど、全ては命を守るため――
いざ、参りますっ!
ダッシュで市街地を回りつつ、エヴォルグを発見次第
搭載武装のブライト・ナイトビームで攻撃
注意を引き付けたところで一気に距離を詰めて【鎧砕き】の
拳でぶち抜きます
大勢に囲まれないように
一度に交戦するのを少数に抑えつつ
【功夫】や【グラップル】を生かした格闘戦で
倒していきますね
相手が無差別攻撃をするなら
市民の命を守るのが第一。市民を【かばう】
大丈夫、私もブライト・ナイトも頑丈ですッ
低空飛行で敵に迫り、自慢の【オーラ防御】に身を包んだ
《翠光の翼》で倒しますよ!
●拳聖
沙綿里島西海岸付近に広がる市街の一角にて、虚空にグリモアの転移門が開いた。光の円陣から抜け出るようにしてキャバリアがアスファルト固めの路面に降り立つ。
「この気配……状況はもう始まっていますね」
ダイレクト・モーション・リンクシステム方式のコクピット内でユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)は周囲を見渡す。搭乗者の挙動に従い輝闘機『ブライト・ナイト』の頭部が左右に動き、センサーで捉えた光景を全天周モニターへと反映する。やはりと言うべきか、エヴォルグ量産機が散々に食い荒らした人だったものの痕跡が無作為に転がっている。しかしこの程度の地獄ではユーフィの青い瞳は濁らない。
「我らが振るうは蛮勇なれど、全ては命を守るため――」
双眸に瞼を下ろして深く息を吸い込み、そして吐き出す。両の拳を小指、薬指、中指、人差し指の順に握り込み、最後にそれらを親指で締め込む。ブライト・ナイトが応じるようにしてブリッツ・ファウストを身構えた。
「いざ、参りますっ!」
ユーフィの双眸が見開かれるとブライト・ナイトのセンサーカメラに鋭い光芒が閃く。スラスターの類を起動する事なく関節部の屈伸のみを使ってブライト・ナイトが駆け出した。中距離以内の戦闘に於いてユーフィに電探は必要無い。全身に備わる神経が、生物や機械が発する電気信号を感受してくれる。闘士として鍛え抜かれた適応能力がそうさせるのだろう。戦意に任せて駆け抜けた先に敵がいる。されども闇雲に敵陣へ突撃するような無策は起こさない。交戦する個体数を絞り着実に敵の数を削いでゆく。原始的な弱肉強食の世界で磨き込まれたユーフィの戦闘眼は、実戦的かつ極めて正道であった。
「見つけましたよ」
幅の広い通りを四足獣の姿勢で走る複数体のエヴォルグ量産機。民間人を追い回しているらしく、こちらにはまだ気付いていないようだ。ブライト・ナイトは疾駆しながら右のブリッツ・ファウストを腰だめに構え、光を収束させた後に正拳突きの要領で突き出した。凝縮された闘気が稲光のような光線となってエヴォルグ量産機の背後を打ち据えた。ひしゃげた深緑が宙に弾かれて民家に落下する。衝撃を異変として察知したもう一体のエヴォルグ量産機が急制動を掛けて停止、ブライト・ナイトの方向へと向き直った。
「はっ!」
腰を落としたブライト・ナイトが飛び込む。短い呼吸と共にユーフィが左の拳を打ち上げる。ブライト・ナイトが全く同じ挙動でエヴォルグ量産機の顎にブリッツ・ファウストのアッパーカットを叩き込んだ。打撃というには些か凶器的なその拳は、白面の頭部を粉砕して首元から別れを告げさせた。首無しの胴体は宙に跳んで何度か回転して落着、人間の遺体がする様にして痙攣の後に全ての機能を止めた。
「む……? あちらに……?」
ユーフィが視線を向けた先ではまたしても数体のエヴォルグ量産機が道を走っていた。ここからでは見えないが奥に市民がいるらしい。ユーフィは機体の中にいながらも僅かな人の悲鳴を戦闘音の中から聴き分けていた。ならば市民の命を守護るのが最優先とブライト・ナイトを跳躍させる。
やはりユーフィの見立ては正しかった。エヴォルグ量産機は何名かの民間人を追い立てていた。
「させません!」
エヴォルグ量産機と民間人の間にブライト・ナイトが割って入る。文字通り降って湧いた機体に人喰いキャバリア達は条件反射で攻撃を開始する。開いた顎からレーザーを放つ。ユーフィは背後へ微かに視線を流した。民間人がいる以上迂闊に回避は出来ない。ブライト・ナイトが両手のブリッツ・ファウストを正面に構えてボクサーのような硬いガードを形成する。集中照射されるレーザーがブリッツ・ファウストの纏うビームと衝突し激しい明滅を繰り返す。すぐ背後では庇い立てに入って一身に攻撃を受け続けるブライト・ナイトを民間人達が不安げに見詰めていた。
「大丈夫、私もブライト・ナイトも頑丈ですッ! 行ってください!」
ユーフィの力強い声音に我を取り戻した民間人達が早々に退散する。背後が空いた事で反撃の準備が整った。ユーフィは守りを堅持した状態で全身に闘気を漲らせた。するとブライト・ナイトの背にスラスターの噴射炎にも似た光が翼状に広がり始めた。
「行きますよブライト・ナイト! これが私達の、必殺の一撃ですッ!」
ブライト・ナイトが大地を蹴った。翠光の翼を大きく羽ばたかせて正面の敵集団へと高速突撃し、機体全体を包み込む斥力場でレーザーを跳ね除けながら強引に突破して集団後方へと抜ける。翼を翻して反転すると、エヴォルグ量産機達は胴体や首を切断されていた。刃のように研ぎ澄ました闘気の翼が、たった一度の滑空で犇く人喰いキャバリアの群れを薙ぎ払ったのだ。
もう一度翼を大きく羽ばたかせるとそれは光の鱗片となって霧散した。そして周囲の敵意も同じく失せていた。
「これでこの場は大丈夫ですね。次に行きますよ、ブライト・ナイト」
拳を掌に打ち据えたユーフィは、再び輝闘機と共に市街を走る。この場から全ての悪意を滅するまで聖拳の唸りは止まらない。
大成功
🔵🔵🔵
朱皇・ラヴィニア
元に戻したブラディエルに乗り込み再出撃
数が多いね、それに……あの感覚
本命は海にいる。それは間違いないだろう
だがこれ以上の揚陸を止めるのが先
それにこの子なら距離は関係無い
肉体改造で機体の持久力を強化
666接続深度最大――リミッター解除
ヘイロゥ展開、機動戦術開始!
先ずは上陸の玄関から叩く!
残存している白羽井小隊に声を掛け
集団戦術で押し返そう
敵を分断して最速で各個撃破すればいい
君達ならやれる、大丈夫だ
砂浜もやる事は変わらない
ランチェスター…だっけ?
戦場を区画整理して一つずつ圧倒していくんだ
決壊した防壁に集結するまでに如何に減らせるか
必ず数的優位の上で敵を叩いて
そうして最後に盤面をひっくり返せばいい!
●ドミナンス
ラヴィニアは借り受けていた機体の返却及び乗り換えの為、大鳳に一時帰投していた。飛行甲板に立つシュラウゼルと合一化したブラディエルの操縦席の中で、モニターに出力された沙綿里島西海岸を双眸が睥睨する。
「やっと殲滅したと思ったらまたこれか……数が多いね」
白波が湧き立つ渚より押し寄せる深緑の半生体キャバリア。しかしラヴィニアの意識はそれら以上に日乃和海の水平線に惹き寄せられていた。長距離放水砲の大元は未だ姿を現さないが、恐らく敵の大本命となるのだろう。
「とにかく、今は揚がって来る奴等を片付けないとね……いくよ」
肩に力を入れて前傾姿勢気味に身を乗り出す。コントロールグリップを握る手が強化服の擦れる音を立てた。
「666接続深度最大――リミッター解除」
眼に瞼が下される。EP-666ウィッチズカースを介して自己の神経感覚に機体のセンサーシステムが重なり合う。見開いた網膜が映し出したのはモニター越しに見る世界では無く、機体の視界そのものだった。右手を開けば機体の右腕部マニピュレーターが開く。ブラディエルは傍らの兵装懸架棚からラピッドラプターとロストオウスの発振機を取ると、背面の推進装置を作動させて天輪の如く輝くエネルギーサークルを展開した。
「機動戦術開始! 先ずは上陸の玄関から叩く!」
空間跳躍を可能とするブラディエルにとって距離の概念はさほど意味を為さない。幾らかの稼働時間を代償とするため際限無く使用出来るという訳では無いが、少なくとも大鳳の甲板上から海岸沿いまで跳躍する程度ならどうと言う事もない。ブラディエルの足が地より離れると、背に負う天輪が頭上に移動し爪先に至るまでを通過した。側からすればブラディエルが輪を潜って消失したかのように見えただろう。ラヴィニアからすると景色が上から下へと塗り替えられてゆくように見えた。
『本当にワープしてきた……』
「この子にはこういう使い方もあるんだよ」
ブラディエルが跳んだ先は海岸沿いの最前線。そこでは白羽井小隊所属のイカルガが複数機先行して待ち構えていた。彼女達は市街の戦闘中に弾切れを起こしたので補給コンテナが敷設されている海岸地帯へ戻って来ていたらしい。だが多数の猟兵が市街の敵群排除に回った結果、戦況の早期安定が見込まれたため、補給後は海岸に留まり戦線を維持するようにとの指令を受けた。そこをラヴィニアに目を付けられて現在に至る。
『本当にあたしらだけでやるんですか?』
訝しげに問うお嬢様にブラディエルは首を傾げる。
「不安?」
『それはまあ……ナコもまだ市街の方だし……』
ラヴィニアが提案した作戦は機動的な集団戦術による各個撃破、及び敵集団の分断。短絡的に言えば高速機での轢き殺しだ。多数の敵が群れている中に突入を敢行する事となるので、やはり怖気を禁じ得ないのだろう。
「大丈夫、その機体と君達ならやれる。それじゃ、行こうか」
『猟兵の人って怖いもの知らずなんだなぁ……あーもう、なるようになれー!』
光輪を背負うブラディエルを先頭に後方を白羽井小隊のイカルガが続く。編隊は鏃の形を採っていた。海水で湿った砂塵を巻き上げながら猛進するキャバリア達の前方には、決壊した防壁に流れ込もうとする深緑の運河が出来上がりつつあった。ブラディエルがラピッドラプターを即時射撃姿勢で構える。
「ミサイル! 撃って!」
ラヴィニアの号令に合わせてイカルガ達がマイクロミサイルを斉射する。白いガスの尾が伸びた先でエヴォルグ量産機の群の側面に爆光を咲かせる。運河の一部が抉り取られた。しかし勢いが弱まる気配は薄い。
『あのー! やっぱり止めませんかー!?』
「だから大丈夫だって! 編隊維持! 火力を前面に集中! 一気に抜けるよ!」
抉った箇所を起点にブラディエルが突入する。ラヴィニアは照準補正を取り直す事もなくトリガーを引き続けた。フルオートモードのラピッドラプターの銃口からマズルフラッシュが迸る。後ろに続くイカルガ達もアサルトライフルを連射する。巨大な鏃の鋒と化したブラディエルがエヴォルグ量産機の運河を横から引き裂く。防壁に向かっていた集団は一時的にだが前後二つに分割された。これこそがラヴィニアが狙う集団戦術上に於ける重要なプロセスとなる。
『ほんとに抜けられた……!』
「全機リロード! 次行くよ!」
ラヴィニアは抜けた敵群に感ける事なく次なる目標へとブラディエルを走らせる。白羽井小隊の隊員が振り返った後ろでは、分断されて幾らか小規模な集団となったエヴォルグ量産機達に、前衛のキャバリア部隊が集中砲火を浴びせて瞬く間に殲滅していた。
『すごい……ちょっと分断しただけで、こんな簡単に……』
ブラディエルがラピッドラプターの弾倉をリリースすると新たな弾倉を叩き込んだ。
「元々質では日乃和軍のキャバリアの方が上だからね。一度にぶつかる量を少なくしてあげればご覧の通りさ。後は同じ戦法を繰り返していけば最終的に戦局を引っ繰り返せる。こういうのをランチェスター戦略……だったかな?」
『ウィンチェスター?』
「それは鉄砲だよ」
決壊した防壁は複数箇所に及ぶ。白羽井小隊の一部を率いるラヴィニアは振り返る事なく突き進み、市街への流入を試みる人喰いキャバリアの集団の横腹を抉り切る。そうして数の優位と圧力を失った敵集団を前衛部隊に叩かせる。ひとつずつの地道な圧倒だが戦域全体の情勢変動は着実に進められていた。ステラヘイロゥを背に、ブラディエルは尚も砂上を駆け続ける。
大成功
🔵🔵🔵
メルメッテ・アインクラング
焦りが広がります。ウイングで市街へ急行しましょう
『当然の光景だな。一々気に掛ける事でもない。コックピットを汚すなよ』
「ご安心下さい、私は体質的に吐けませんので
それに、主様にお会いする前は見慣れておりましたから」
胸の奥の重苦しさに変わりはありませんが笑みを保つよう努めて。問題なく、戦えます
「主様、こちらのユーべルコードの使用許可を下さいませ」
『――構わん。但し、使うべき局面で判断を違わず精密に利用しろ!
何を消費するのか分かっているな!無駄撃ちは絶対に許さんぞ!!』
ブレードビットを射出!指定UCを発動し【瞬間思考力】で触腕の軌道を【見切り】光線を放ちます
人々は生存者・亡骸関係なく同様に、急ぎ【念動力】で移動させ救出。これ以上は傷付けさせません!
「まだです!ベリーベン!」
高速でウィップを振るい【範囲攻撃】。敵の触腕の残り全てを首と共に【なぎ払い】ましょう
『まったく、苛立たせてくれる――時間が惜しい。さっさと消えろ』
『人命も資源だとは話したが、その為に、……。
敵増援が来るまでに気を引き締め直せ』
●フラッド・オブ・ア・ライフ
命が零れ落ちる。鼓動が潰える。真紅の双翼で風を掴みラウシュターゼが死街を疾る。口を噤むメルメッテの瞳の中を同じ惨状が何度も通り過ぎた。
『当然の光景だな。一々気に掛ける事でもない』
四眼の不遜な声音は変わらず冷たい。どこの戦場でも繰り返され、ありふれた場面に都度感情を抱く事など無い。気に掛ける件があるとすれば、胸中に収めた繰り手が保つか否かだろうか。
『コックピットを汚すなよ』
メルメッテは首を緩く横に振る。
「ご安心下さい、私は体質的に吐けませんので。それに――」
硝子の居城に連れてこられる以前の浅い記憶が滲む。今視界に流れている有様と大差ない。
「主様にお会いする前は……見慣れておりましたから……」
胸の奥底に宿る重力を振り切るようにして機体を加速させる。表情の色調から決して気取られぬよう努めるが、笑みは淡く曖昧だった。
『さて、どうだろうな?』
「問題ありません、戦えますので』
証として照準を重ねたエヴォルグ量産機へ急速接近を仕掛け、すれ違い様に従奏剣を横に滑らせた。一拍子置いて身体が上下に分断され、緑の鮮血が噴き上がった。
「想定していましたが、やはり混戦状態ですか……」
ラウシュターゼが双翼を拡大させて急停止した。アンサーウェアで減衰仕切れなかった重力加速度がメルメッテの身に圧しかかる。市街地の主戦域に到達したらしい。レーダーグラフを一瞥するまでもなく敵と民間人が入り乱れていた。エヴォルグ量産機は今も尚狩りに勤しんでいる。堂々と宙に留まるラウシュターゼには目もくれず、人間達を追い回しては喰らって千切り腹に収めていた。
この場で直接戦闘に持ち込むには民間人と敵との距離が近過ぎる。迂闊に武器を振るうどころか機体制動を行う事すら危うい。ブレードビットならその小型を活かした繊細な攻撃も可能ではあるものの、保険が欲しい。敵だけを確実に射抜く手段が。そしてメルメッテはその手段を持ち合わせていた。
「主様、再世照の使用許可を下さいませ」
操縦席越しにラウシュターゼの右肩が僅かに持ち上がる感覚が伝わった。
『――構わん』
やや間を置いて主君は従者に許しを与えた。メルメッテは目を伏せ無言で首を下げる。
『但し、使うべき局面で判断を違わず精密に利用しろ』
ラウシュターゼの口振りは念入りで重い。
「心得ております……では、ベグライトゥング!」
メルメッテが発する思惟に応じ、ラウシュターゼの周囲に複数の術式陣が展開した。そこから染み出るようにして飛刃が頭を覗かせる。
『何を消費するのか分かっているな! 無駄撃ちは絶対に許さんぞ!』
半ば憤慨に近い程度にメルメッテの主は言葉を荒げた。許さないと言われてしまえば従者は厳命に忠を尽くす他に無い。メルメッテは神経を刃の鋒としてベグライトゥングの使役に専念した。ラウシュターゼが往けと腕を払いビットが散開する。標的は周囲に展開するエヴォルグ量産機だ。
逃げ惑う、または怯えて立ち竦む人間達を絡め取ろうとエヴォルグ量産機が触手を伸ばす。だがそれらのいずれも獲物を捕らえる事は叶わなかった。
「私の生命の光を……!」
敵集団の渦中を乱れ飛ぶベグライトゥングが花開き、ヒートチャージャーを露わにすると、熱線ではなく薄い桜色の光線を放出した。無秩序にも見える軌跡だが、全ての光はエヴォルグの触手の動きを的確に捉え、人間に到達するよりも先んじて悉く溶断し尽くしていた。
『つくづく用意が良いものだな』
ベグライトゥングの殺戮劇を宙に留まるラウシュターゼの四眼が見下ろす。乱戦である以上誤射は止むを得ないのだろう、照射される光の束は時に人間をも貫いていた。しかし人体には一切の影響を及ぼさず、迫っていたエヴォルグ量産機のみを撃ち抜いては溶かし切る。ブレードビットを触媒にメルメッテの命の光が駆け巡る度に人喰いキャバリア達の鼓動が消える。そう、これはメルメッテの命の光なのだ。代償の時は直ぐに訪れる。
異常に勘付いたのか、漸くエヴォルグ量産機が傲岸不遜に滞空するラウシュターゼを意中に捕らえた。四方八方よりレーザーを浴びせにかかり、触手を伸ばす。全身を逆撫でる殺意にメルメッテの神経は無意識に剣を振るおうとしていた。
「まだです! ベリーベン……!」
視界が斜めにずれて指先に込めた力が抜け落ちた。身体が前のめりに沈みかけた瞬間、機体がひとりでに動き出して姿勢制御を行う。背中が操縦席に戻された。
「主様!?」
動揺するメルメッテを他所に機体の制御権限がラウシュターゼへと強引に移し替えられる。レーザーが着弾するも、磁器の如き艶を放つ装甲を覆う思念式斥力場によって表面を滑って弾かれた。
『そこまでだ。確かに無駄撃ちはしなかったが……』
従奏剣を抜き放つと真紅の鞭に連なる鋸刃が蛇のように踊り狂い、横方向への一薙ぎで触手を微塵に斬り刻む。緑の肉片の吹雪が舞った。怯む敵を睨め付ける四眼が煌く。
『まったく、怪物ども……相見える度に苛立たせてくれるな――だが、今は痛め付ける時間さえも惜しい。さっさと消えろ』
冷酷に返す刃が大気を一閃した。周囲を取り囲むエヴォルグ量産機達の挙動が全て同時に止まり、僅かな静寂の後に胴体より頭部が転げ落ちた。首無しの身体が深緑の液体を噴き上げて次々に倒れ込む。ラウシュターゼが巻き起こした死の嵐を目の当たりにした民間人は皆茫然としていた。
「お手数をお掛けして申し訳ありません、主様……後は私が……」
ユーベルコードに吸われた命がメルメッテの視界を眩ませる。しかし顔には映すまいと平静な息遣いで申し立てる。
『遅い。もう済んだぞ』
最早出る幕は無いぞと手振りで示すラウシュターゼに対し、メルメッテは頷きで応じた。
「はい。ですので、後の次第は私が執り行います」
ラウシュターゼは暫し沈黙を置いた後、結局無言で機体の制御権限をメルメッテに与えた。従者は浅く首を垂れると機体の高度をやや落とし、出力映像越しに見る民間人へと片手を重ねた。ラウシュターゼの腕も同様の動きで持ち上がり、マニピュレーターを広げる。
『これが後の次第か?』
「ええ、ここに残しておく訳にはまいりませんので、一時退避させて頂きます」
好きにしろとラウシュターゼは沈黙の外に付け加えた。メルメッテは民間人を思念波動の力場で包み込むと安全圏まで移動させる。対象は腰から下、または頭部を喪失している明らかな遺体にまで及んだ。
『人命も資源だとは話したが……仕事が丁寧過ぎるというのも考えものだな』
「遺体を残しておけば、人喰いキャバリアにエネルギー源を与えてしまう事に繋がりますので……」
『なるほど合理的な判断だ、とでも言って欲しかったのか?』
「いえ……」
メルメッテの制御に関わらずラウシュターゼが嘆息気味に首を振った。民間人の移送を終えると周囲から生命の気配が消失した。荒れた市街は緑と赤に穢され、吹く風が滅び去った虚無の音色を奏でる。
『敵の増援が来るな。気を引き締め直せ』
「はい、承知しております」
レーダーグラフの四方に、消えた光点が再び灯り始める。メルメッテは機体を旋回させながら高度をやや上げた。真紅の双翼から燐光が散る。
『命の使い所を見誤るなよ? お前の命も貴重な資源なのだからな』
不意打ち気味に投げれられた言葉にメルメッテは背筋を正して眼を丸くする。調子こそ穏やかながら微かに憤りに近い感情が含まれていた。
『ましてや他の生命の為などに……』
ラウシュターゼが続く言葉を言い澱んだのと敵群が視界内に現れたのは同時だった。
「参ります」
メルメッテは敵を見据えて戦意を奮い立たせる。受けた叱咤に胸中から込み上げる熱い何かを覚えながらフットペダルを踏み込んだ。双翼を拡げたラウシュターゼが切り込む。従奏剣ナーハが振るわれると、緑の鮮血が宙に踊った。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
街に行く小隊についてくついてく…
いたい気な少女達のメンタルの為にひと肌脱いでやっか!お薬でスン…となられてもいじりが…楽しくないでござるからね
何よりムカつくのだよ…獲物を前に舌なめずりする奴が
東雲機の上からI Can Fly!頭から落下して死にますぐえー
その場リスポーン!そして拙者の死体から湧き出す【ギャグ時空】が戦場を覆う!
これは拙者の無法のUC、見給え襲われてる住人を…やられたりしてるがなんか無事に復活してるだろ?
敵は殺し目的っぽいので嫌がらせに住民が死なない空間にしてやった!いいだろギャグ時空でござるよ?
コピーされてもギャグ時空出して死ぬだけだしな
デュフフ…惚れてもいいんでござrウッ
失礼、121秒たつと拙者は死ぬ!まあリスポーンするが
とりあえず小隊各機はバディでしらみ潰しにしてくだされ!爆発物がオチ向けでいいぞ!
拙者も討伐すっか…オラ死ね!小隊員とのコミュパートを邪魔した罪だ!
サイズ差なんて関係ねぇ!地獄の断頭台ーッ!
そういや監視カメラから指揮官が見てるんだっけ?ピスピース!…ウッ
●シリアスキラー
『……付いてくるのですわね』
「ダメ?」
『駄目とは言いませんけれど……』
やはりと言うべきか、エドゥアルトは市街へ向かう白羽井小隊に同行していた。定位置は変わらず隊長機の肩。この髭面の中年男性はどこからどう見てもBDUを着込んだだけの生身なのだが、相当な速度で滑空するイカルガの肩部に居座りながらも平然としている。対G機能を備えたスーツとはいえ、恐らくはまた物理法則の神に働き掛けているのだろうか。眩しい笑顔と視線が合ってしまった那琴は考えるのを止めた。
「いやぁ、いたい気な少女諸君の為に一肌脱いでやろうと思ってね!」
『ここはご協力に感謝するべきなのでしょうか?』
「あとお薬でスン……となられてもいじりが……」
『はい?』
「楽しくないでござるからね」
『今何か言い掛けましたわよね?』
「ん? 拙者が付いていれば族に鉄バットですぞ!」
『あまり強そうな響きではありませんわね……』
ずらりと並ぶ歯を見せて親指を立てるが少女陣営には不安しか湧いて来ない。海面から砂浜へ景観が移り変わり、海岸に沿う防壁を飛び越えればそこはすぐに市街地だ。人喰いキャバリアに浸透された生活圏には人体の残滓や赤黒い血溜りが無作為に散りばめられていた。
『現場がこれ程とは……』
「あーらら! 成人指定の洋ゲーもビックリなスプラッターでござるな!」
眉間を顰める那琴とは対照的にエドゥアルトは悪人面を微弱にすら歪めない。腐れ外道パイロットなのでこの位は気に留めるほどでも無いのだろう。程なくして視認距離に敵影を捉えた。エヴォルグ量産機の集団がシェルターを脱出した民間人達を追い立てているようだ。新しい玩具にエドゥアルトが意気揚々と身を乗り出す。
「敵の潜水艦を発見!」
『お止めくださいまし! フェザー01より小隊各機へ! 一度敵群の頭上を抜けて切り返し……』
「強請るな、勝ち取れ。それでも与えません」
『はい?』
高速で市街の低空を飛ぶイカルガの肩で、何の前触れも無しにエドゥアルトが二本の脚で立ち上がった。
『ちょっと髭の方! 危険でしてよ! せめて座っていてくださいまし!』
エドゥアルトはイカルガの頭部に振り向くと満面の凶悪な笑顔を作った。そして足場を蹴り宙に身を投げ出す。
「アーイキャーン……フラァァァイッ!」
『はああぁぁぁ!?』
ひっくり返った那琴の声がスピーカーを震わせた。紐無しバンジー或いはパラシュートフリーのスカイダイビングを敢行したエドゥアルトの身は、人喰いキャバリアが闊歩する市街の道路目掛けて物理法則に従い急降下する。当然ながら人体は落下速度を伴ってアスファルトに激突。肉が叩き付けられ骨が砕ける酷い音を立ててグロテスクなオブジェクトと化した。
『な、なんと言う事を……!』
奇行猟兵による予告無しの速攻投身自殺劇を目の当たりにしてしまった那琴以下白羽井小隊の一行はもはや戦闘どころではない。新しいトラウマが出来上がってしまった。彼女達だけではなく逃げ惑う民間人やエヴォルグ量産機までもが突然降ってきたエドゥアルトに無言で視線を集合させていた。
「拙者が死んだ! この人でなし!」
『ご自分で身投げされたんでしょうに! ってあら……?』
死んだ筈の人間の声が聞こえる。元を辿った先は那琴機の肩部だった。
「ウェェェイ!」
そこには飛び降りた筈のエドゥアルトが何故か居座り両手でピースを作っていた。
『何故生きておりますの!? 死んだ筈じゃ!?』
「残念だったなぁ、リスポーンだよ。そんな事よりご覧なさいよお嬢さん方」
エドゥアルトが指差す先では再び行動を再開したエヴォルグ量産機が民間人を捉えて捕食を始めていた。のだが様子がおかしい。身体を齧り付かれているにも関わらず喰い千切られる事はおろか出血すらしていない。更によく凝視してみれば人の造詣自体が変容している。
『なんですの、これ……』
民間人が皆エドゥアルトと化し、各々に同じ顔面で過剰な反応を繰り返していた。
「どーよ嫌がらせに住民が死なない空間にしてやった! いいだろギャグ時空でござるよ?」
『まぁこれで一安心……な訳がありまして!? 皆髭の方になってしまったではありませんか!』
「デュフフ、惚れてもいいんでござ……」
『惚れませんわよ! ちゃんと元に戻せるのですわよね!?』
「さあ?」
『さあって!?』
悪夢は続く。異変は民間人だけに留まらずエヴォルグ量産機にも及んだ。捕食対象の特性を取り込む機能が発動し、エドゥアルトのユーベルコードを学習してしまったのだ。白面の頭部がエドゥアルト化し事象の改変が益々悪化する。
「因みに121秒経過で拙者は死ぬ! ゴワッパー!」
『なんですそのたった今思い付いた設定みたいな死に方は!?』
ともあれユーベルコードが求む代償の通りにエドゥアルトは派手に吐血して二度目の死亡を迎えた。
「まあリスポーンするんですがね!」
『死んだり蘇ったり忙しい方ですわね……』
「とりあえず小隊各機はバディでしらみ潰しにしてくだされ! ほらほらお仕事お仕事!」
急かされた那琴は至極釈然としない様子で隊員に指示を下すと、渋々エドゥアルト量産機に攻撃を開始する。
『御顔のせいでもの凄く撃ち難いのですけれど』
「気にしなさんなって! あ、因みに撃つと爆発――」
刻既に遅し。トリガーは引かれてしまっていた。銃弾を受けた元人喰いキャバリアはデーモンコアによく似た発光を放ち直後に大爆発、巨大な茸雲が立ち昇った。
『な……』
唖然とする那琴以下白羽井小隊。しかし空間補正の影響か市街が消し飛ぶ訳ではないようだ。爆発した人喰いキャバリアだけが綺麗に消え去っている。
「オチは大爆発と相場が決まっとるからな!」
『普通に倒させてくださいまし……』
結局一体撃破する毎に戦術核一つ分の爆発が巻き起こった。戦況を中継監視している沙綿里島の戦闘指揮所は阿鼻叫喚となっていたのだがエドゥアルトにそんな事は関係ない。
「どーれ、拙者も討伐すっか」
手頃な人喰いキャバリアに目を付けると那琴機の肩より降りてその身一貫で飛び付いた。
『また無茶苦茶を!』
引き留めようとする那琴の声に背を向けて「いらんいらん」と手を振って返す。我が身に張り付いた遺物を振り払おうとする人喰いキャバリアにマークスマンライフルのフラッシュハイダーを押し付けた。
「オラ死ね! 小隊員とのコミュパートを邪魔した罪だ!」
『逆怨みも甚だしいですわね……』
人喰いキャバリアが暴れ回るがエドゥアルトは離れない。1マガジン分撃ち終えるとライフルを投棄し流体金属を刃状に形成して執拗に突き立てた。
「ムカつくのだよ……獲物を前に舌なめずりする奴が! 地獄の断頭台ーッ! 刺すタイプのエビルマンです! 本物です! ぐりんぐりーん! 青空は二度と見れなーいー!」
質量差など関係無いとばかりに力任せに一突きする度、人喰いキャバリアが身を大きく怯ませる。やがて首を断ち切られると、複数回痙攣した後に地面へ伏した。
「ほーれ一丁上がり!」
『本当に生身で倒してしまうなんて……』
人喰いキャバリアの骸の上に立つエドゥアルトを、那琴達は呆れ半分畏怖半分といった様子で眺めている事しか出来なかった。猟兵は現実離れが常だと認識してはいるのだが、彼は特に異なるベクトルで尋常から逸れているらしい。そんな思いを浮かべていると、エドゥアルトは周囲をしきりに見渡し始めた。
『何かお探しですの?』
「ちょっと監視カメラをね……おーっとアイツかな?」
柱に取り付けられたそれらしい装置を発見したエドゥアルトは今一番の決め顔で勝利のVサインを作った。
「ウッ!」
そして死んだ。
『あぁぁ!? あと何回お亡くなりになられれば気が済みますの!?』
那琴機がヒステリックな悲鳴と共に駆け寄る。一方その頃、エドゥアルトの渾身の笑顔は中継映像として基地の本部にも届けられていた。
『後藤司令、あのおじさんは……?』
『俺に聞かんでくれ』
オペレーターの少女が未知の生命体を目撃したかのように問う。後藤は俯けた顔を手で覆い首を横に振った。
大成功
🔵🔵🔵
シャナミア・サニー
【ガルヴォルン】
ったく、動物的な動きしかしないくせに!
誰の手引きで入ったんだか
大佐、急いで市街地に……っておーい!?
相変わらず無茶するなぁ(ストライダー見ながら
それじゃ突入の僚機は私が
乗り掛かった船ってやつだ、任せなよ!
数が少ない上に混みあった市街地
接近戦で仕留めていく方が良さそうだ
小回りの利く標準兵装で行く!
ドラグナー・ウイングでブースト
ビームブレイドを両腕とも展開
レッド・ドラグナー、突撃!
触腕はビームブレイドで切り払いつつ
スケイル・カイトシールドでシールドバッシュ!
体勢を崩したらそこから【コンバットパターン【A】】!
右手のビームブレイドを突き刺して機体と距離を固定したら
後は左手のビームブレイドで突き刺しまくる!
蹴って再び距離を取ったら両腕ビームブレイドで十字切断!
大佐の方は……大丈夫そうか
上手く隙をついているみたいだし
スティンガーの性能すごーい
はいはい、一気に行くとしよう!
もっかい【コンバットパターン【A】】
今度はツインバレルライフルを斉射&突撃ビームブレイド一閃
逃げられると思うな!
セレーネ・ジルコニウム
【ガルヴォルン】
「ミスランディア、ストライダーを防壁崩壊部に接舷。
船体を盾にこれ以上の敵の侵入を防いでください。
私はスティンガーで市街地に向かいます」
『それじゃと船体は生体キャバリアの攻撃か放水砲の砲撃か――
どちらにせよボロボロにされるじゃろうが、まあ鉄の壁くらいにはなれるかの。
艦の乗組員は総員退避させておくので、こちらは任せよ』
【近接フレーム】に換装したスティンガーに搭乗し市街地に向かいます。
「これ以上、私の目の前で命を失わせはしませんっ!
シャナミアさん、無謀な突撃になりますが、私のわがままに……付き合ってくださいますか?」
実体剣やビームブレードなどの装備を振るい、市街地の生体キャバリアに斬りかかりましょう。
「相手はまだキャバリアを捕食していないはず。
ならば攻撃手段のコピーはありません。
シャナミアさん、一気に敵を殲滅します!」
――ですが、そこで防壁の方向から轟音が。
ストライダーから爆炎が!?
『セレーネよ、わしのサポートはここまでのようじゃ。
強く生きるのじゃぞ』
「ミスランディアーっ!?」
●巨鯨墜つ
アーレス大陸の遺構群より発生した無人機群。人喰いキャバリアの俗称で呼ばれるこれらは、ひたすらに人類文明を滅ぼしながら前進するのみで戦略的思想は無いとされている。
「ったく! 動物的な動きしかしないんじゃなかったの!?」
だが実際はどうだろう。戦略的思想が無いものが前衛のキャバリア部隊ではなく防壁だけを狙うものなのか。ストライダーの甲板上に待機するレッド・ドラグナーの操縦席で苛立つシャナミアが舌を打つ。エメラルドグリーンの瞳が映す光景は海岸に沿って建造された防壁。人喰いキャバリアの津波を退ける筈だった堤防の複数箇所が、未知の敵性存在の放水砲によって粉微塵に砕かれていた。決壊した防壁に雪崩れ込んだエヴォルグ量産機は既に市街へ浸透を果たし、逃げ遅れていた市民達を手当たり次第に喰らって渡海で消費したエネルギーを補給している。洋上に潜む放水砲の発射元が何者でどのような意図を抱えているのかはいざ知らず、敵の浸透を許してしまった以上対処は急務だろう。
「大佐! 急いで市街地に――」
「ミスランディア、ストライダーを防壁崩壊部に接舷!」
「っておーい!?」
シャナミアの呼び掛けを遮ったセレーネの言葉は予想だにしない内容だった。
「ちょっと大佐! 本気なの!?」
焦燥混じりに追及するシャナミアへセレーネは毅然とした口調で答える。
「敵の侵入阻止が急務です。この戦況下では防壁は応急処置すらままならないでしょう。間に合わせでもストライダーで蓋をすれば時間稼ぎになる筈です。その間に私はスティンガーⅡで市街の救援に向かいます」
ガルヴォルンの長の声は硬い。
「そんな事したら水鉄砲のいい的でしょーが! あの威力見てなかったの!? バリアだって抜かれるに決まってる!」
『そして間違いなく人喰いキャバリアの集中攻撃に曝されるじゃろうな。艦内への侵入も許す事になるじゃろうて』
シャナミアとミスランディアの意見を受けてもなおセレーネの意思は揺るがない。
「そんな事は承知の上です! これ以上、私の目の前で命を失わせはしませんっ!」
二度と同じ惨劇は繰り返させない。決意を乗せて恐れを跳ね除けるように発せられた言葉にシャナミアは暫し押し黙る。
『やれやれ、戦隊長の言う事では仕方ないの。乗組員は総員退避させておくぞい。ストライダーは任せよ』
こうなってしまったセレーネは梃子でも動かないと既知しているミスランディアは遣る瀬無く承諾した。
「シャナミアさん、無謀は重々承知の上ですが、私の我が儘に……付き合ってくださいますか?」
シャナミアは深く息を吐き首を横に振る。
「そりゃあ雇い雇われの関係だし、付き合えと言われたらやるけどさ。仕方ない……乗り掛かった船ってやつだ、請け負うよ」
「ご協力に感謝します」
ストライダーの甲板に振動が伝わる。船体中央のエレベーターデッキのカバーが上に迫り上がり、昇降装置に乗ったスティンガーⅡが現れた。市街地での戦いのために各部に追加装甲を装備し、ブレードやダガーなどの複数の武装を搭載した近接フレームに換装されている。
『ストライダーを接舷させるぞい。総員耐ショック姿勢じゃ』
「今日はよく船に振り回されるなぁ……」
レッド・ドラグナーとスティンガーⅡが膝立ちの体勢で屈み込む。宙に浮くストライダーの巨大な船体が旋回を開始する。海上から防壁が建ち並ぶ砂浜へと移動すると、決壊した箇所に身を横たえて文字通りに自らを盾とした。その一連を周囲に展開する日乃和軍のキャバリア達が危なげに見守っていた。
『本艦は現在位置で固定! さあ行くのじゃ!』
ストライダーの多連装ロケットシステムが誘導弾の連射を開始する。海から迫り来る緑の津波に鉄の雨が降り注いだ。それを合図にレッド・ドラグナーとスティンガーⅡが甲板上から市街地へと飛び出した。
「相変わらず無茶するなぁ」
ドラグナー・ウイングのバーニアノズルが推進噴射の炎を排出する。アスファルト固めの路上に着地すると、僅かに跳躍して匍匐飛行を開始した。
「敵は市街地の中央まで浸透しています! 急ぎましょう!」
スティンガーⅡも住宅地の通りに足を降ろすとスラスターを焚いて地表を高速滑走する。視界を流れるのは破壊された家屋と人体の残骸、そして半生体素材の片割れ。長閑だった人の生活圏は緑と赤の渾沌に彩られていた。セレーネの表情が無意識に歪む。敵との接触はすぐに果たされた。
「私が先に仕掛けます! シャナミアさんは援護を!」
「はいはい、血気盛んな戦隊長様な事で……」
逃げ遅れた民間人を捕らえて食い散らかすエヴォルグ量産機へスティンガーⅡが猛進する。その後背に続くレッド・ドラグナーがツインバレルライフルを構えた。間を置かずに放たれた数発の銃弾がスティンガーⅡを追い越し標的の胴体を穿つ。着弾の衝撃で挙動を中断されたところに鋼の刃が煌めいた。
スティンガーⅡが深く踏み込み刀の一閃を繰り出す。袈裟斬りにされたエヴォルグ量産機は夥しい体液を撒き散らして倒れ込んだ。
「次は!」
セレーネが操縦桿を引き戻す。スティンガーⅡが急旋回し新たな目標を正面に捉えた。視界全体を無数の触手が埋め尽くす。だが動じる事なく刀を振るい、逆手に握ったビームダガーを横に滑らせるとそれらの触手を全て斬り払った。怯むエヴォルグ量産機にスティンガーⅡがビームダガーを投擲する。一瞬遅れて頭部に刃を生やした目標が背中から力無く倒れ込んだ。敵の絶命を待たずして新たな実体剣をウェポンマウントより抜刀する。鋼の刃が陽光を照り返して鈍い輝きを湛えた。セレーネは肺に残った酸素を全て吐き出し、ゆっくりと息を吸い込む。
「攻撃手段をコピーした個体は殆どいないようですね……シャナミアさん、一気に敵を殲滅します!」
左右のマニピュレーターに刃を握るスティンガーⅡが新たな敵へ吶喊する。その側面からエヴォルグ量産機が飛び掛からんとしていた。
「任せなよ! 標準兵装で来て正解だったね。動き易くて楽だなっと!」
正面にスケイル・カイトシールドを構えるレッド・ドラグナーが加速を伴ったままエヴォルグ量産機へ突進、空中で弾き飛ばした。民家に身を沈めさせた上で踏み付け、動きを封じて両の手甲から生じるビームブレイドで首を跳ねる。シャナミアは頭部が転がるのを見届けるまでもなく機体を反転させた。
「鬱陶しい!」
視界の左右から伸びる触手を光刃で斬り払ったレッド・ドラグナーが跳躍した。眼下に一体のエヴォルグ量産機を捉えるとスラスターを噴射して急降下。有線式誘導弾のように襲い掛かる触手をビームブレイドので薙ぎ払い、落下速度と機体の全備重量を込めて盾を叩き付けた。エヴォルグ量産機の基礎骨格が砕ける感触が操縦桿越しに伝わる。
「コンバットパターン、アサルト!」
盾の殴打で崩れた体勢にビームブレイドを右腕ごと突き込む。住宅に磔にすると左腕を連打しビームブレイドを刺突した。噴出する体液がレッド・ドラグナーを深緑に染め上げる。
「これで!」
エヴォルグ量産機の胴体を蹴り飛ばして瞬間的にスラスターを噴射する。反動で突き刺していたビームブレイドが引き抜かれ、レッド・ドラグナーは弾かれるように後退。双方の相対距離が開く。
「トドメ!」
シャナミアがフットペダルを限界まで踏み込み、操縦桿を押し込む。ドラグナー・ウイングが推進噴射の光を爆ぜさせ急加速した。住宅に減り込み身動きが取れないエヴォルグ量産機との間合いが一瞬で縮まる。斜めに振り下ろした左右のビームブレイドか十字の交差を刻む。両肩から二重に袈裟斬りにされたエヴォルグ量産機の身が崩れ落ちた。足下に緑の血溜まりと機械とも生体とも付かない物体が散乱する。
「大佐! そっちは!?」
「問題ありません!」
シャナミアが視線を飛ばした先ではセレーネのスティンガーⅡが剣戟を繰り返していた。複数の敵を同時に相手取っているが、迂闊にも間合いを詰めたエヴォルグ量産機を太刀の斬り上げで跳ね飛ばすとすかさず一足踏み込んで頭部にビームダガーを突き刺す。弱点である頭を潰す事による機能停止を狙った動き。流石に人喰いキャバリアとの付き合いが長いだけあって戦い振りはコンパクトに収められている。結果として周辺への被害や消耗も抑制されていた。
「大丈夫そうか。大したもんだねっと!」
視界外に発光を捉えたシャナミアは反射的に機体を飛び退かせた。直後に複数本のレーザーが擦過する。元を辿るとエヴォルグ量産機が口腔内から副顎を覗かせていた。
「コンバットパターンアサルト、もっかいやるよ!」
着地と同時にツインバレルライフルのトリガーを引く。交互に発射されたビームと実体弾が一直線にエヴォルグ量産機へと向かう。しかし偶々なのだろうが跳躍の挙動と重なって銃弾が虚無を貫いた。シャナミアが舌を打つ。
「逃すか!」
地面を蹴ったレッド・ドラグナーとエヴォルグ量産機が空中で交差する。その瞬間に光条が閃いた。双方立ち位置を入れ替えて着地すると、エヴォルグ量産機の身体が中央から2分割されて崩れ落ちる。レッド・ドラグナーの両腕部からは光の刃が発振されていた。
地表を戦慄させる重低音が轟いたのはその時だった。シャナミアとセレーネは音の発生元へと反射的に視線を向ける。建ち並ぶ防壁の決壊箇所の一部、そこで巨大な水柱が立ち昇っていた。
「放水砲!?」
冷たい予感がセレーネの脳裏を過る。続けて生じた幾つかの爆発音。水柱が収まるのと時期を同じくして黒煙が上がった。そしてストライダーからの通信がセレーネの予感を決定的なものとした。
『セレーネよ、わしのサポートはここまでのようじゃ。強く生きるのじゃぞ』
雑音混じりの通信音声は紛れも無くミスランディアのものだった。
「ミスランディアーっ!?」
「だから言わんこっちゃない!」
スティンガーⅡとレッド・ドラグナーがその場に立ち竦む。セレーネの叫びに、音声出力装置はノイズだけを返していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティー・アラベリア
では、海岸の援護と参ります
孤立している味方部隊を救出しつつ、敵の衝撃力を弱めましょう
反認識概念は継続展開
さっとお召替えをしまして、主兵装は偃月杖。副兵装として95式、92式、97式を周囲に浮遊させて展開。さらに自爆妖精、近接防護妖精、同化妖精を躯体内部で生成しておきます
上空から急降下する形で、孤立した陣地に取り付いている敵を襲撃
味方機至近の敵は偃月杖と97式で制圧し、後続の敵の動きは自爆妖精と95式の誘導弾で一時的に拘束
92式の砲撃で退路を確保しつつ、近接防護妖精を護衛用に展開し、孤立している部隊を味方部隊に合流させましょう
呆けている暇も怯えている暇もございませんよ。さぁ早く、急いで。敵がステップを忘れているうちに、後退してくださいませ
陣地周辺に敵の残骸が増えてきた頃合いで同化妖精を展開
敵と共食いさせつつ前進を止め、敵の動きを完全に拘束した段階で艦砲を用いて諸共に吹き飛ばしていただきます
ふふっ……はしたないことですが、返り血を浴びると、些か昂ってしまいますね
さぁ、次の陣地に参りましょうか
●妖精乱舞
防壁決壊からややあって、敵の第二波は海岸線を覆い尽くす津波となって押し寄せた。事前敷設された機雷や水上戦力の艦砲で多数が吹き飛ばされてもなお、地表は緑一色に染め上げられている。それらの多くは市街への浸透を優先しているらしく、防壁の決壊箇所目掛けて進軍を続けていた。
日乃和軍のキャバリア中隊が緑の濁流に飲まれて中洲と化している。辛うじて正面防御力だけは残っているものの、孤立にして無援。隣接する部隊と同じく数に押し潰される結果を待つばかりとなった矢先、その人形は何の前触れもなく舞い降りた。
「お待たせしました」
鈴を鳴らすような女性の声。宙に浮かぶ長杖を従え、軽やかに砂地へと足を付けたティーが中隊長機へ向かって首を垂れた。いつ着替えたのか定かではないが、先のエプロンドレス姿から若干異なった装いを纏っている。花柄があしらわれたそれは封神武侠界の気配を漂わせていた。海から押し寄せる敵群へと振り返ればスカートの裾が柔らかく拡がる。
両手の指が握る長杖を嫋やかに構えると、先端部より虚ろな刃を生じさせる。水面に浮かぶ油のような虹色を含む青の偃月が急速に肥大化する。
『人!? アンタは!? 猟兵なの!?』
「お構いなく。正面を掃討致します。くれぐれも前にお立ちにならないよう……」
突如として人らしき何かが舞い降りた時点で困惑している中隊長を背に、ティーは偃月杖を振り翳した。右から左へ、左から右へ砂浜を薙いだ長大な刃がエヴォルグ量産機の身を二重に斬り刻む。噴き上がる深緑の液体。ティーを起点として扇状に人喰いキャバリアの骸が散乱した。されどすぐに後続が死体を踏み越えて迫り来る。ティーは偃月杖を片手で握り直すと、もう一方の手で周囲に浮かせていた97式圧縮拡散型魔杖を手繰り寄せた。
「今暫しのお待ちを」
敵方向へと突き付けられた97式の先端部が粒子を収束する。そして放たれた光は拡散弾となって真正面から襲い掛かるエヴォルグ量産機を弾き飛ばした。ティーは長杖を指先の動きだけで一回転させると次弾を発射。魔力で形成された銃弾を浴びた敵集団が空中に投げ出されるようにして千切れる。立て続けに敵の後続の最中で爆発が巻き起こった。人知れず放出していた自爆妖精が浸透を果たしたらしい。想定通りに推移する戦況にティーは双眸を細めた。
「後続の敵は抑えますので、後退して友軍との合流を」
散弾での面制圧を維持したまま偃月杖を手放す。吸い寄せられるようにして95式思念誘導型魔杖が手に収まる。2時の角度に向けられた95式から複数発の光弾が放たれた。それらはティーが意図する敵集団の後続に降り注ぐと球体状の剛雷を生じさせる。流れを途切れさせられた濁流の圧力が一時的に弱まった。ティーは95式を放り投げると92式火力投射型魔杖を手に取る。駄目押しとばかりに旋回投射された火焔の暴力が遂に人喰いキャバリアの集団を圧殺した。
『こんな短時間で殲滅……!? なんなのよ、アンタ……』
凡人からしてみれば、ティーの立ち振る舞いは救われた事以上に畏怖を抱かせるものだったらしい。
「お急ぎください。呆けている暇も怯えている暇もございませんよ」
『いやでも、下がるにしたって敵が……』
躊躇う中隊長機にティーは面持ちを半分だけ向けて口元に微笑を浮かべた。
「道中の心配は無用です。近接防護妖精をお付け致しますので。ここで立ち止まっていても事態は変わりません。後ろに控えている御同輩も貴方がたを必要としていらっしゃる筈でしょう?」
中隊長の頭にはティーの言葉の内容が殆ど入って来なかった。何故なら、ティーのスカートの内側から妖精型自律端末が蜂の群れの如く湧いて出てくる光景を目の当たりにしてしまったからだ。一体あの中身はどうなっているのか。背筋を冷気が伝った。
「さぁ早く、急いで。敵がステップを忘れているうちに、後退してくださいませ」
『でもアタシらが居なくなったらアンタが孤立しちゃうでしょうが!』
「ご心配なく。すぐに増えますので」
『増える……?』
言葉の意図を察しかねて僅かな間沈黙が流れる。ティーの面持ちは相変わらず得体の知れない微笑を演出していた。これ以上の否応を言わせない薄ら寒さを感じ取った中隊長機は、漸く隷下のキャバリアに指示を下して渋々と後退射撃を開始する。道中やはり散発的な襲撃を受けたが、ティーが随伴させた近接防御妖精が誘導弾を打ち散らして難なく迎撃した。
中隊が後方の友軍部隊と合流したのを見届けたティーは視線を正面へと戻す。地を這う振動が足に伝う。遠方にはまたしても波打ち際の横幅全体を埋め尽くす緑の津波。先程殲滅した集団は全体からすればごく僅かでしかない。だが、思惑の内にある数としては十分だった。硝子玉のような青い瞳が双眸の中で左右に滑る。見渡したのはエヴォルグ量産機の骸。その量は砂地が判別出来なくなるほどに及ぶ。ティーの両手の指先から長杖が離れた。
「これより始まりますは無情悲惨の傀儡劇――騎士たちの活躍に祝福あれ☆」
穏やかな笑みの表情を作ると迫る敵集団を前に深く腰を折った。緩慢に上体を起こすと左右の指先でスカートの裾を摘み上げる。手が肘の高さほどに達した時、それらは産まれ始めた。
先の近接防護妖精と同じく躯体内で生産された人工妖精群。開戦直後から密かに延々と殖やし続けていた結果、蝗害の如く夥しい総数に達していた。深緑の体液と残骸に塗れた砂浜が、ティーの躯体内から滲み出た浸食同化妖精に染め上げられる。妖精はエヴォルグ量産機の骸に取り付くと内部へ侵入する。その僅か数秒後、完全に機能を停止していた筈の人喰いキャバリア達が痙攣を起こしながらゆらりと立ち上がり始めた。頭部を喪失し、両断され、半身を抉り取られた異形の怪物達がひとつの意思の元に活動を再開する。
ティーが摘んでいたスカートの裾を離すと、蘇ったエヴォルグ量産機達が一斉に海へと駆け出した。人喰いキャバリアと人喰いキャバリアが真正面から衝突し合う。怪物同士が互いを貪り喰い合う光景を眺めるティーが、表情を変えずに三笠へと通信を行う。
「後は宜しくお願い致します」
それだけ伝えるとティーは踵を返して歩き始めた。砲弾が空気を裂く音を伴って怪物の頭上に降り注ぐ。直後に連鎖して炸裂した赤黒い爆炎が黒煙を立ち昇らせた。地表を舐める爆風がティーのドレスを揺らし金色の髪を靡かせた。左右に長杖を従えて歩く人形は振り返らない。顔半分に被った返り血を手で拭うと、中枢の奥底で渦巻く昂りに口元を歪めてみせた。
「ふふっ……はしたないことですが――」
まだ足りない。首を左右に回して周囲を見渡す。目星を付けられる陣地は幾らでもある。
「さぁ、参りましょうか」
身を翻すと意気揚々と言った様子で歩を進め始めた。人形の歩いた後には何も残らない。何もかもが真っ黒に塗り潰されるだけだった。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
戦士や兵士が幾人死のうと、私が敗死しようと一切緩まぬ制限
世界の存亡掛かる戦か、か弱き民草の命が脅かされて始めて解禁される…
苛烈にして潔癖、貴女らしい線引きとは思いますが
兵士の死を見る度に、この剣を託された事を恨む事がございますよ
我が創造主
ですが、私に刻まれし御話がそうであるように
騎士とは弱きを救う者
為すべきは決まっておりますね
…用途申請、非戦闘員の保護!
電脳魔術でキャバリアサイズと化した電脳禁忌剣
大地突き刺しUC起動
戦場…市街地を兵器改造造兵廠に
壁や地面から生えるアームで人食い達を捕獲
…人型オブリビオンへの使用時よりは未だ“見れる”光景ですね
レーザーで頭部切開
兜状の制御用の電極突き刺し
敵の数の利を此方側の戦力増強に転用
恐怖と混乱を撒き散らす事は不可避
ですが、あらゆる手段用いてもこれ以上の跳梁は許しませんとも
彼らの優秀な生命反応探査能力を利用
“友軍”からの情報をⅣの頭部センサーで情報収集
己の瞬間思考力で演算処理
敵を倒し戦力補充する同胞殺しの兵団
前線指揮官機として生存者の救助と敵の殲滅を遂行
●アレクシアの残香
その枷は微動にも緩まなかった。
無碍に死に逝く戦士達の骸が数多に累積しようとも、所有者の全てが壊れて綻んでも。
世界が過去に蝕まれ、無垢の生命が潰える瞬間を除いて。
「貴女の思慮を推し量れば、貴女らしい線引きとも思えますが……」
ロシナンテⅣの内部に収まるトリテレイアは独り言つ。立つ死街に撒き散らされた恐怖と怨嗟。それらを吸い込むようにして剣が光の脈動を放つ。その剣は常に此処に在り、何処にも存在せず、トリテレイアの言う彼女が規定した線を越えない限り現れる事は決して無い。もし常に振るう事が叶うのならば、どれほどを救えたか――目の前で死せる兵達を見届ける度に悔恨の意思を抱かずにはいられなかった。或いはこの剣は現実を突き付けるための呪縛なのか。
だが己の創造主の意図がいずれにあろうとも、自身の果たす規範は既に決まっている。遠い遠い過去の因縁を終止させたその時から、彼と彼女が愛した道を理想とし、中枢に刻み込まれた記憶が語る御話がそうであるように。
理想とする道は騎士の道。騎士の道とは弱きの盾となるに他ならない。であるからにして、いま為すべきはひとつ。
「……用途申請、非戦闘員の保護!」
貴女ならこの所業を看過しない――トリテレイアに応えて電脳魔術陣が眼前に生じた。ロシナンテⅣが右腕を持ち上げ、マニピュレーターを開く。環を作る陣から滲み出るようにして剣の柄が現れた。それは自らの意思の元、開かれたマニピュレーターに収まった。柄を強く握り込み引き抜く。鞘となっていた電脳魔術陣が燐光に砕け、剣の全貌が露となった。
電脳禁忌剣アレクシア。悲劇の末に無尽の兵器製造機関の中枢となり果てた才女が遺し、そして託した魂の残香。元来はトリテレイア自身の剣なのだが、現実の事象すらも改竄するこの剣にとって大きさの概念などさしたる意味を持たない。封じられた力を発揮する際に自ずと相応しい有体を採るだけだ。
「用途倫理判定……例外承認。申請者処刑機構……解除確認。不肖の騎士たる我が責において、貴女が厭うた地獄を此処に」
トリテレイアの発声機関が抑揚の無い口振りで宣誓を紡ぐ。アレクシアが言葉を返す事はない。やってみせよと黙して示すかの如く刀身に光を脈動させる。ロシナンテⅣが両のマニピュレーターで柄を硬く握り締めると、切先をアスファルトの路面へと突き立てた。手応えは恐ろしく軽い。感覚としては刃を刺したというより刃が透過したと言った方が正しいだろう。実際にアレクシアの切先は大地に突き刺さったのではなく浸透していたのだから。
地に、家屋に、薄紫色に発光する筋が迸る。世界の改編は直後に起きた。剣を突き立てた地点を中心に万物が機械に改竄され始めたのだ。アスファルトや土は冷たい鋼鉄製の床に。ブロック塀は仕切り板として壁に。家屋は物々しい工作機械の集合体に。それは恐らく剣の本来の所有者が抱えていた力の似姿なのだろう。死街は機械工廠に作り替えられた。突然の世界変貌に市民はおろかエヴォルグ量産機達すらも驚愕に動きを止める。
「稼働開始」
短く言い切られた言葉を合図に工作機械が一斉に動き始めた。複数のロボットアームが有無を言わさずエヴォルグ量産機を拘束する。無論人喰いキャバリア達は抵抗するも、一本のアームを破壊すればそこら中から何十本ものアームが生えて全身を完全に封殺されてしまう。
「……人型オブリビオンへの使用時よりはまだ“見れる”光景ですね」
トリテレイアはロシナンテⅣのセンサーカメラ越しにロボットアームが捕らえたエヴォルグ量産機を睨め付けていた。拘束は下準備に過ぎない。様々な工作機械を先端部に取り付けたアームが人喰いキャバリアを取り囲む。白面の頭部がレーザーメスで切開されると、人間の脳によく似た内部機関が露出した。そこへ兜状の制御用電極が直接接続される。エヴォルグ量産機の身が激しく痙攣したのち動きを止めると、ロボットアームは拘束を解いた。前のめりに放り出されるとそのまま倒れ込み、やがて緩慢に立ち上がった。
だが最早エヴォルグ量産機は人喰いキャバリアではない。生体兵器造兵廠によって改竄されたトリテレイアの傀儡だった。
「騎士の道とは言い難い所業だと十二分に承知しております。ですが、あらゆる手段用いてもこれ以上の跳梁は許しませんとも」
言葉は恐らくアレクシアに向けられたものだろう。電脳禁忌剣は何の反応も示さない。ロシナンテⅣが突き立てていた剣を引き抜くと刀身を正面に構え、側面を片手で撫でた後に切先を前方へと向けた。改竄されたエヴォルグ量産機達はトリテレイアの意思の元、市街地の各方面へと散開する。狙うは同じエヴォルグ量産機。獲物の探索に特化した生体反応探知能力は人喰いキャバリアに対しても極めて有効に作用した。
「申請の通り、非戦闘員の保護を最優先させて頂きます。その上で脅威の除去も並行して実行する。どちらが欠けても我が創造主は納得しないでしょう?」
無論己もだがと言外に付け加え、トリテレイアはロシナンテⅣが集約した戦域情報を統合して精査する。情報は全て新たに増やした友軍機がもたらしてくれている。案の定民間人が人喰いキャバリアの手に捉われる寸前だった。そこへ改竄したエヴォルグを割り込ませて捕食を阻止、民間人はロボットアームで拾い上げてバケツリレーの要領で戦域外へと速やかに移送した。しかし中には移送も危険なほどに負傷が著しい者も存在する。トリテレイアは一ツ眼を細めると苦々しく対処判定を下した。
工作機械を用いた応急処置。負傷者をロボットアームで拘束し、食い千切られた腕や足をコの字型の針で強制縫合する。当然麻酔など悠長に掛けておく暇などない。処置の際の激痛に凄まじい断末魔があがるも、こうしなければ移送はおろか失血で数分後には死に絶えてしまう。この場に於いて痛みを伴わない救いは望めない。弱者にそれを強いてしまった現実に理想を屈折させながらも、トリテレイアは為すべきを果たす。視線は決して背けなかった。
その間もアレクシアによって決戦機動工廠都市と化した市街地ではエヴォルグ量産機の捕獲と改竄が休む間も無く続けられている。敵の数だけ無尽蔵に増え続けるトリテレイアの傀儡は、効率を重視する戦術思想の元に束ねられ、他のエヴォルグ量産機を複数機で圧倒し貪り喰らう。やがて最後の一体となった時、改竄エヴォルグは突如として後方に飛び退いた。入れ替わりにロシナンテⅣがスラスターの噴射光を背負って通りを猛進する。エヴォルグ量産機がレーザーを照射するも、それらは全てアレクシアが刀身の周囲に纏う六角形状の半実体障壁によって阻まれた。
「これで……!」
擦れ違い様に縦一文字に振り切られた大剣。エヴォルグ量産機は身を左右に分割され、裂け目から素粒子に転換されて消失した。アレクシアは人喰いキャバリアの存在そのものを許さなかったのだろうか。真偽は解らない。答えを知る者はきっともういないのだから。
トリテレイアはロシナンテⅣに逆制動を掛け急停止させると、意識の中にレーダーグラフを展開した。敵を示すマーカーはもう見当たらない。改竄された市街を見渡せば、工作機械が稼働する音だけが響いていた。
「敵反応消失を確認。残るは……海岸ですか」
ここで為すべき使命は果たされた。急ぎ前線に復帰しなければ。電子頭脳が戦術判断を急かす中、トリテレイアは視線を下に落とした。
「やはり苛烈にして潔癖、つくづく貴女らしいと思います」
ロシナンテⅣが腕を掲げるとアレクシアがひとりでに手から離れた。そして電脳魔術陣を拓きその内部へと還る。剣が再び枷の元に眠りに付けば、改編された現実が在るべき姿を取り戻す。電子頭脳の中で数列が虚しさと儚さとなってわだかまる。そんな感覚を過去に置き去りにするようにして、トリテレイアはロシナンテⅣのバーニアノズルを輝かせた。機械騎士は疾る。戦い続けるために。その後ろ姿を、少年と少女の夢幻が見送っていた。
大成功
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第3章 ボス戦
『機動殲龍『激浪』』
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POW : 戦域一掃機構『激浪』
【背部激奔流砲と口内精密奔流砲】から【圧縮した水の大奔流】を放ち、【命中時大幅に対象を戦場外まで吹き飛ばす事】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : 国土洗浄機構『国鳴』
【周囲の水を艦装化し全武装の一斉砲撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を一時的に海洋と同等の環境に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ : 無限起動機構『満潮』
【周囲の水を自身に変換する修復形態】に変身する。変身の度に自身の【生命力吸収能力を強化し、水の艦装化限度】の数と身長が2倍になり、負傷が回復する。
👑11
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●敵地上戦力迎撃成功
長距離放水砲による防壁決壊を発端として、敵の地上戦力との交戦は否応無しに開幕した。初動で市街に侵入した敵集団は猟兵達が速やかに制圧。その間の海岸地帯では猟兵達の侵攻遅延戦術が有効に作用した事で日乃和軍は戦線の維持に成功した。
航空戦力を退けた際に日乃和軍全体の損耗が想定を大きく下回っていたのも大きな影響点となったであろう。市街に向かった猟兵達が海岸戦線に復帰した時期を境に拮抗していた勢いは人類側に傾き、以後は時間経過と共に敵の漸減が図らつつある。
しかし戦闘中も洋上から放水砲は断続的に投射され続けており、防壁の殆どは大きな損害を受けている。だが防壁が破壊されるにつれ放水砲の到達頻度は減少し、戦況が掃討戦に移行する頃には殆ど鳴りを潜めてしまっていた。
●激浪
敵航空戦力に続いて地上戦力をも退けつつあったが、日乃和軍に喜色を浮かべる者はいない。基地の戦闘指揮所には静かに張り詰めた空気が充満していた。上陸した敵梯団は大半が撃破され、残存している群れの掃討も時間の問題だろう。後は沖合い遠方に出現した放水砲の発射元が何者なのか、確かめなければならない。
「猟兵達には今のうちに補給と整備を終わらせるよう通達しろ。観測班、どんな些細な変化も見逃すな」
両腕を組む後藤は堅い口振りで各部署へと指示を降ろす。これで終わる筈が無い。放水砲で防壁を打ち砕いた犯人が必ず動きを見せる筈。その場に居た誰もがそんな確信を抱いていた。恐らくは猟兵達の中にも同様の読みを持つ者達もいただろう。そしてそれはすぐに現実のものとなる。
「沖合いのソノブイに反応あり!」
叫ぶ観測手に全員の視線が一斉に向けられる。
「震音移動中……急速に近付く! 凄い速度です! 何ノット出てるんだ
……!?」
「進路はどうか!?」
後藤が観測手へ足早に歩み寄る。観測手はヘッドセットを手で耳に押し当てながら眼を忙しく右往左往させた。
「異常震音は直進中……予想進路は沙綿里島西海岸と思われます!」
全員の表情が強張る。後藤は「だろうな」と呟くとオペレーターの少女の元へ駆け寄る。顔を冷たいデスクに押し付けてうつ伏せとなっていた。肩を掴んで揺さ振りながら声を荒げる。
「おいどうした!? 寝てる場合じゃないぞ! 全キャバリア部隊に警戒態勢を取らせろ! 海から何か出てくるぞ! 海軍の奴等には攻撃準備だ! 出てきたのが敵なら即ぶっ放せ!」
濁った瞳が後藤を覗き返した。
「あー……? うー……?」
返って来た声は表情と同じく恍惚としている。開いた口から垂れ流されている唾液が水溜りを作っていた。後藤はオペレーターの少女の状態に漸く気が付いた。戦術薬物を短期間の内に過剰使用した事で脳が弛緩してしまったらしい。足下で乾いた木片が割れる音がした。視線を落とすと床には使用済みのペン型注射器が何本も散乱していた。後藤の表情が渋く歪められる。
「如月研め……」
戦術薬剤の製造元である如月能力研究所は、猟兵からもたらされた後遺症緩和改良案を取り入れたのを良い事に、薬効自体を従来の何倍にも引き上げていた。後藤は消え入り掛けた声で「すまんな」と呟くと、オペレーターの少女を医務室へ搬送するよう伝え、その席には代わりに補佐官を就かせた。
「震音なおも急速接近中! カメラに入ります!」
切迫した観測手の声に合わせて、後藤を含む全員の視線が大型モニター上で交差する。地平線の彼方より海を切り裂いて突き進む白波を定点カメラが捉えていた。
「なんだありゃ!? エヴォルグじゃないぞ!」
荒立つ白波に垣間見える黒い突起物は、エヴォルグ量産機などに見られる生物的な質感とは真逆の印象を持っていた。明らかな機械の質感。放水砲の発射元は未知の水棲エヴォルグなのだろうと立てていた予想が塗り替えられる。
「震音発生源、揚陸します!」
巨大な津波が岸壁に打ち付けたかのような衝撃音。白く泡立つ海水が宙に舞い上がり、陽光を受けて虹を作る。それと共に水面下に潜んでいた巨躯が蒼天直下の元に露となった。
太古の時代の海を支配していた水竜、モササウルスを想起させる全容。機体を覆う黒い装甲の各部には赤い光が灯っている。遠浅の海岸に乗り上げたそれは、異形とも言えるほどに巨大な機械の兵器だった。
「機体照合完了! 機動殲龍――」
「激浪だと!? ならあいつは……!」
補佐官の声に後藤の声が被さる。
「後藤大佐! 目標のIFFがレイテナに設定されています!」
矢継ぎ早の報告に後藤は内心でそうだろうなと頷いた。レイテナとはアーレス大陸東部の国家で、日乃和とは人喰いキャバリア問題に於いて軍事同盟を結ぶ関係にある。そして今回沙綿里島を襲撃した人喰いキャバリアはレイテナ領の大陸東部沿岸から侵攻して来ている。
「エヴォルグに侵蝕されたな……! 総員よく聞け! 奴はレイテナの機体ではない! 人喰いキャバリアに汚染された敵だ!」
恐らくはエヴォルグ量産機EVOLの侵蝕弾を受けてしまったのだろう。通信を呼びかけたが受信はされども反応は無い。きっとパイロットは生きていたとはしても人では無くなっている。
「激浪に攻撃の兆候あり!」
「全部隊散開! 回避しろ!」
後藤は反射的に叫んでいた。開かれた激浪の顎から海水の奔流が放射される。荷電粒子もさながらといった様子の放水砲が砂浜をなぞると、逃げ遅れたキャバリア達が水流の圧力に押し潰された。前衛部隊に混乱と恐怖が一気に拡散する。一部の部隊が反撃を開始するも、砲弾は命中こそすれど巨躯を覆う堅牢な装甲には殆ど通用していない。仮に通用していたとしてもすぐに再生されてしまうだろう。激浪の機体を覆う装甲はナノクラスタ装甲なのだから。
「三笠に繋げ! 泉子中佐! ぶっ放せ!」
「任せてもらおう!」
良くも悪くも目標は全高40mほどの巨体を有している。海上を突き進んでいた際は凄まじい速度を披露していたが、浅瀬に乗り上げた途端にその動きは酷く悠長なものとなっていた。攻撃を命中させるだけなら造作もない。キャバリアが駄目なら艦艇戦力だと三笠の砲塔が鎌首をもたげた。
「全艦! 撃ち方始め!」
三笠を筆頭として扶桑と山城、高雄と愛宕が其々の主砲を一斉に轟かせる。海面をも震わせるほどの衝撃に大気を切る音が続く。発射された砲弾は目標の頭上に到達し、炸裂の爆炎を咲かせる筈だった。
激浪の背部より幾多のか細い光芒が伸びた。遠目で見れば針鼠のようだった。直後に虚空で大爆発が連鎖する。
『馬鹿な!? 全弾迎撃だと!?』
必中を確信していた泉子が目を剥く。砲弾を撃ち落とした激浪は悠然とその巨躯を砲撃の出所へと旋回させる。背部で大口を開ける2つの砲門に収束された海水が、日差しを受けて青に輝いた。泉子が全艦回避の命令を下したのと同時に、沿岸沿いの防壁を粉微塵に粉砕した水球が発射された。2つの水球の内1つは狙いを逸れて海面に命中、三笠隷下の艦隊の周囲で巨大な水柱が立ち昇る。残る1つは扶桑の舷側を掠めた。船体が仰け反るようにして大きく傾く。
『ええい! なんたる体たらくだ! 扶桑の損害状況はどうか!?』
泉子は臆さず艦砲射撃を継続するも、弾体の殆どは対空放水砲によって目標に到達する事叶わず撃ち落とされてしまう。中には命中したものもあれど、巨躯を僅かに揺るがすだけで致命的な損傷には至らない。水上戦力はさしたる脅威では無いと認識したのか、激浪は沙綿里島の海岸へと旋回し直すと緩慢な速度で前進を開始した。
●殲龍を止める者は
想定外の巨大な敵の出現により混乱が拡大する戦線。放水砲が着弾する度にキャバリアが吹き飛び、放流が砂浜をなぞれば悉くが洗い流される。エヴォルグ量産機の掃討もまだ道すがらな状況下の日乃和軍には激浪を抑え込む余力など無かった。この場に於いて対等に渡り合える者達は彼等しかいない。
「司令、どうぞ」
オペレーターの席に座る補佐官が後藤へマイクを譲る。後藤は確信を込めて小さく頷くとそれを手に取り口を開いた。
「司令部より猟兵各位へ! もう分かっちゃいると思うが、今暴れまわってるデカブツは隣国の機体だ。どうもエヴォルグに乗っ取られたらしい。至急こいつの撃破を頼む。食い残しのエヴォルグ量産機はこっちのヒヨッコ共に任せて、デカブツの始末を最優先してくれ。支援には白羽井小隊を向かわせる。激務続きでキツいだろうが宜しく頼む。なあに、後で俺からも報酬の上乗せを掛け合ってやるさ」
海岸一帯ではまだエヴォルグ量産機が残存しているが、数は著しく減少しているため組織的な戦闘が可能な限り日乃和軍単独でも問題なく対処しきれる。これも猟兵達の行動によってキャバリア部隊の損耗が依然として抑制されていたからこそ取れた選択だ。被害の如何ではこうもいかなかっただろう。
「結城大佐! そういう次第だからお嬢様連中のお色直しを急がせろ! 当然バズーカの一本位持って来てるんだろうな!? 泉子中佐には砲撃を続行させろ! 無駄弾でいい! デカブツの迎撃能力を飽和させて猟兵連中の取り付く島を作れ!」
『承りました。直ちに手配致します』
口調を荒げる後藤とは対照的に結城は嫋やかに応じる。通信を終えた後藤は腕を固く組み直した。鋭い眼差しはモニターに表示された彼我戦力分布図に向けられている。これで舞台は整えられた。後は彼等がどのような役回りを演じるか。激浪は緩やかだが確実に沙綿里島へと前進し続けている。放水砲が叫ぶ度に砂浜では水柱が立ち昇った。
●任務内容更新
エヴォルグ量産機の上陸に先駆けて始まった超長距離放水攻撃。その出所たる機動殲龍『激浪』が海岸より島へ強襲揚陸、展開中の日乃和軍を蹂躙している。この大型キャバリアの撃破が作戦目標となる。
また、現在もエヴォルグ量産機の上陸が続いているが、日乃和軍単独で十分対処可能な数まで漸減されているため、猟兵としては特に何かを考慮する必要は無い。
●敵戦力
日乃和軍は『激浪』に関する詳細な情報を保有していた。元は軍事同盟関係にあるレイテナの海軍で運用されていた機体であるらしい。エヴォルグの侵蝕弾を受けた事により制御を奪取されてしまっているようだ。搭乗者の生体反応は確認されているものの呼び掛けには応じず、既に人では無い何かに作り替えられている可能性が高い。そして猟兵にしか知り得ないが、やはりオブリビオンマシン化を果たしている。
『激浪』は分類こそキャバリアだが、その全長は約40mと非常に大型となっている。海洋での運用に特化した水陸両用機で、背部と頭部には強力な放水砲を搭載。更に全身には対空砲の役割を果たす小口径放水砲も配置されている。
加えて深海の水圧に耐える為か、装甲は非常に分厚い。この装甲はナノクラスタ装甲で、海水を吸収して損傷を修復する機能を持つ。更には新たな艦装を製成する事さえ可能だという。
●友軍戦力
白羽井小隊は引き続き猟兵の直接支援に当たる。無反動砲や誘導爆弾などの重火力兵装で爆装した後に共に『激浪』への攻撃を行うだろう。
大鳳は引き続き補給コンテナ投下等の後方支援を担い、三笠隷下の水上艦隊は『激浪』に対し艦砲攻撃を継続、対空能力の飽和を図る。
その他の日乃和軍のキャバリア部隊や砲兵は残存するエヴォルグ量産機の掃討に専念する。
●戦域
海岸を侵攻する激浪に対し、猟兵側は同じく海岸一帯を使用して迎撃に臨む運びとなるだろう。
沙綿里島の西海岸は遠浅となっており、一般的な全高のキャバリアが完全に水没するほどの深さは無い。
周囲には二度の迎撃戦によってエヴォルグの骸や日乃和軍のキャバリアの残骸などが散乱している。特に前者は波打ち際に集中しているようだ。
海岸線沿いに建ち並んでいた防壁は放水砲によって殆どが粉砕されてしまった。敵の上陸を阻む物理的障害の役割は失われているが、日乃和軍のキャバリア部隊が健在であるため市街流入は阻止されるだろう。
●戦闘開始
「総員気合いを入れ直せ! これを凌げば終わりだ! 死ぬなよ!」
前線の兵に広まる不穏を塗り潰すべく後藤は檄を飛ばす。数ばかりを武器に押し掛けてきたエヴォルグ量産機に対して猟兵達はまるで寄せ付けない力を発揮した。だが真逆の性質を持つ激浪に対しても変わらず及ぶのだろうか。
火砲と水流が乱れ飛ぶ。海水が飛沫となって舞い上がり、爆轟に砂塵が躍る。太陽が西の空へと傾き始めた頃、幾つもの骸が累積する沙綿里島西海岸で、幕引き役を巡る猟兵達とオブリビオンが滅ぼし合う。
シル・ウィンディア
あんな大型機体どうしろと…
んー、近接は得意な機体に任せるとして、とりつく隙を作るか
近接装備は外して、ランチャー・ツインキャノン・ホーミングビーム・リフレクタービット・ビームバルカンのビーム射撃戦で行くよっ!
推力移動で空中機動に移行してからの空中戦っ!
まずは、遠距離からビームランチャー(狙撃)、ツインキャノンの同時発射っ!
まぁ、これでどうにかなるなら苦労はしないよね
そのまま、中距離射程迄近づいてから…
リフレクタービットを敵周囲に展開してから、全砲門からの射撃を開始っ!
敵を直接狙いつつ、ビットの乱反射も利用してのオールレンジ攻撃っ!
…フルバースト、いっけーーっ!!
フルバーストは空中機動しながら、脚は止めずに動き回りながら撃っていくよ
撃っても回復してくるなら…
それなら、回復できないくらいの威力をお見舞いしてあげるよっ!
フルバーストを行いつつ、ユーベルコードの射程距離に近づいて…
多重詠唱で魔力溜めを平行使用
限界突破の全力魔法でのヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト!
フルパワーだ、もってけーっ!
ユーフィ・バウム
小兵として巨大な相手を倒す
滾るではありませんか、ブライト・ナイト!
翠騎翼のパワー全開にしてダッシュ、
近接戦を挑みます
『激浪』がこちらを跳ね飛ばさんとするなら、
培った戦闘知識に野生の勘をフル稼働させ
発射角度を見切り、直撃を避けます
直撃でなければ――
自慢のオーラ防御で身を包み、気合い十分に耐え、
吹き飛ばされませんっ
遠距離の味方の援護も受けつつ、
すかさず距離を詰めて見せますよ!
取着いたなら、私の間合いですっ
ブリッツ・ファウストのビームの勢いを増しつつ、
鎧砕きの功夫の打撃で敵の装甲を撃ち抜いていきますっ
敵の巨体が揺らいだなら、好機ですねっ
オーラ全開の《トランスバスター》の一撃で
撃ち砕きます。貫けぇッ!
ノエル・カンナビス
おかしいですね。
全長40mは確かに大きいですが、たかだかトレーラー二台分です。
装甲厚は、まぁ350㎜もあれば扶桑山城の主砲も弾けますけれど、
重量は尋常ではありません。
さらに主砲の重量と出力、対空砲の重量と出力、補器類、
人員区画、機関部容積と、その容積に積める動力……。
重すぎる。
あの「小さい」機体では機関出力が足りない。
出力を満たせば機関交換が頻繁になって運用できない。
何か誤魔化しがある。
装甲版をモノコックにした単殻構造? 修復で歪むナノクラスタで?
どうしても通材が要る、スペースフレームに近い形で。
ではどこで重量を誤魔化す?
――あれは全体防御じゃない、特殊なタイプの集中防御だ。
仮に装甲に穴がなくとも、防ぐ力の向きが限定されています。
通常受けない方角からの打撃には弱い。
爆雷より大きな力で底面を打てば縦通材が歪む。通材は治らない。
先制攻撃/指定UC。
敵の周囲を低空で飛んで、腹の下の地面に貫通攻撃/串刺し/
ライフルを撃ち込み続けます。
海岸に水は多い。水蒸気爆発の連発で骨をへし折ってやりましょ。
●守護決壊
海岸の浅瀬に乗り上げた激浪。その側面遠方より3機のキャバリアが海面を引き裂きながら匍匐飛行で接近を試みていた。
「直接見ると益々大きいね……あんなのどうしろと……」
アルジェント・リーゼの操縦席に身を沈めるシルが表情を強張らせる。キャバリアが小人に思えてしまうほどの威容。機体を相手にしているというよりも、巨大な建造物を相手にしているとさえ感じてしまう。
「小兵として巨大な相手を倒す。滾るではありませんか!」
側近を疾るブライト・ナイトの中でユーフィは拳を打ち鳴らす。眼差しには爛々とした戦意を踊らせていた。闘士ならば相手が強大かつ巨大であるほど挑み甲斐があるものなのだろう。
「元気だねぇ」
視線をブライト・ナイトに流したシルは相も変わらずと言葉を溢す。
「おかしいですね」
呟きの出所にアルジェント・リーゼとブライト・ナイトの頭部が向けられる。その先は2機のやや後方を飛ぶエイストラだった。
「おかしい?」
意図を察しかねたシルが問う。
「重過ぎるんです」
「重過ぎるとは? あれほどの体軀ですと、重さも増して然りでしょう?」
ユーフィが首を傾げた。ノエルは面持ちを俯瞰させて続ける。
「主砲の重量と出力、対空砲の重量と出力、補器類、人員区画、機関部容積と、その容積に積める動力……そして装甲厚。それらの荷重を動かすには、あの小さい機体に収められるジェネレーターでは機関出力が足りるとは思えません」
「小さい? あれが?」
とてもそうとは思えないと、シルは激浪とエイストラを交互に見返した。
「ええ。全長40mは確かに大きいですが、たかだかトレーラー二台分です。これが大鳳や三笠のように数百mもあれば話しは別てすが」
「そ、そう言われるとそんなに大きくないかも……」
身近なものを具体的な例に挙げられると途端にイメージが増す。大きさを脳内で換算したシルが腕を組んで顔を顰める。実際確かに巨大ではあるのだが、戦闘前に武装換装の為に降り立った空母の大鳳と比較してしまえば半分以下の大きさだ。シルが言う通りトレーラー二台分と思えば存外大した事は無いのかも知れない。
「ですけどキャバリアなら8機分でしょう?」
「やっぱり小さくないかも!」
ユーフィの何気ない一言が納得しかけていたシルを揺さぶる。
「いずれにせよ、重量を誤魔化す何かがあるとも考えてよろしいかと。例を挙げるなら、装甲が衝撃変動式の――」
ノエルの言葉は続かなかった。遠方の激浪より無数の対空放水砲が伸びる。アルジェント・リーゼ、ブライト・ナイト、エイストラの3機は各々弾かれるように散開。凶悪な貫通力を伴う水流を潜り抜けた。
「お先に行かせて貰います!」
ブライト・ナイトが翠騎翼から闘気を膨れ上がらせ、急激な加速を得る。海面に接触する寸前の高度を走れば泡立つ白波が直進する道を開けた。
「援護するよ!」
シルはフットペダルを小刻みに踏み込む。アルジェント・リーゼが螺旋状の回避運動を行いながらテンペスタの砲身を伸長させ、その砲門を正面へと向ける。併せて収束率の高い狙撃モードに設定したブラースク改の照準も激浪へと重ねられた。
「修復で歪むナノクラスタを採用しているなら、装甲をモノコックにした単殻構造で軽量化してるとは考え難い……どうしてもムーバブルフレームが要るのでしょうが……」
ノエルのエイストラもプラズマライフルと背面に懸架されているプラズマキャノンを構えて砲撃体勢へと移行する。先にトリガーを引いたのはアルジェント・リーゼだった。一拍子遅れてエイストラが砲身内に縮退保持していた荷電粒子を撃ち放つ。交錯する放水砲と光軸の隙間を縫ってブライト・ナイトが駆け抜ける。シルとノエルが放った砲撃は難なく目標へと命中した。だが装甲表面に到達した途端、耐水性の衣類に浴びせられた雨水のように弾かれてしまう。
「やっぱり効かないかぁ……」
そう容易く行くわけが無いと見立てていたシルは予想通りの結果に深く息を吐く。この間にも対空放水砲は絶え間なく連射されている。どうやら一定範囲に入り込んだ動体を自動補足して迎撃しているようだ。アルジェント・リーゼは持ち前の運動性を活かして軽やかに身を翻す。
「単純な装甲厚だけで耐えている訳では無いようですね。ナノクラスタ装甲がある種の反応装甲と同じ役割を果たしているのでしょう」
エイストラは立て続けにプラズマキャノンを放つが、やはり結果は変わらない。無駄に撃っても砲身の寿命を縮めるだけだと攻撃を中断する。すると激浪が前進を止めて旋回を開始した。開かれた顎に海水が収束される。口内精密奔流砲の兆しだった。狙いは最も接近しているブライト・ナイトであるらしい。
「やば、避けて!」
シルが反射的に叫ぶ。
「ご心配なく!」
ユーフィは顎を開けた激浪を真正面に見据えたままブライト・ナイトを走らせる。海水の奔流が光線となって放射された。
「直撃でなければ!」
ユーフィは体幹をほんの僅かに横へ逸らした。ブライト・ナイトが搭乗者の動きを忠実に再現して奔流砲の側近を擦り抜けた。纏う闘気の斥力場が余波と衝突して激しい明滅を繰り返す。全天周囲モニターが水の飛沫で埋め尽くされ、滝を登るような光景が終わった瞬間、ブライト・ナイトの眼前に激浪が現れた。
「届きましたよ!」
接近時に得た加速をそのままに右の拳を振り翳す。ブリッツ・ファウストが残光を描くほどの高速の打撃。重量を相乗させた強烈な正拳突きが激浪の横腹に叩き込まれる。
「むっ……?」
機体越しに伝わる拳の感触にユーフィは眉を顰めた。打点は深く重い。だが海面を殴り付けたかのように反動が返された。ブライト・ナイトは続けて左の拳を打ち込む。やはり返ってくる手応えは柔らかい。更なる追撃の回し蹴りを繰り出すも先の2撃と同様だった。ユーフィは自己に向けられている殺気が鋭さを増したのを感じた。ブライト・ナイトが激浪の装甲を蹴り上げてその場を脱する。直後にいた空間へ全方位より対空放水砲が浴びせられた。
「如何でしたか?」
通信装置越しに後方から掛けられた声はノエルのものだった。ユーフィは首を横に振る。
「見た目通りの頑強さ、というだけではありませんね。感触が鋼のそれとは異なります。水でしょうか」
取り付いた敵機を追い払うべく対空砲を乱射する激浪。対してブライト・ナイトは折角詰めた距離を離すまいと俊敏な足捌きで身を躱し続ける。小規模な水柱が幾つも立ち昇った。
「えーっと、つまり?」
至近距離で対空砲水に曝されるブライト・ナイトを援護するためにアルジェント・リーゼはテンペスタを発射。魔力粒子の迸りはやはり装甲に阻まれて四散した。
「全体防御ではなく、特殊なタイプの集中防御……先に述べた通り、攻撃に対して強度と靭性を変動させるタイプの反応装甲なのでしょう。ただまあ、単純な装甲強度は事前情報通りで、なおかつ集中防御とナノクラスタ本来の自己再生を兼ね揃えた三重の護りとなっているようですが」
ユーフィに代わってノエルが答える。
「つまりのつまり? どうしたらいい?」
シルの追求にノエルは暫し間を置いてから答えた。
「全包囲攻撃による装甲反応能力の飽和、防ぐ力の向きを拡散させた直後に突破力の高い一点集中型の攻撃を加える……こんなところでしょうか。確証はありませんけど」
「なるほど、そういう事でしたら」
「まかせて!」
ユーフィの言葉尻にシルの吶喊が覆い被さった。アルジェント・リーゼが双翼よりスラスターの噴射光を靡かせる。激浪との間合いを詰めるにつれて火線ならぬ水線も密度を増すが、微細なスラスター制動で隙間に機体を飛び込ませて回避した。
「アルミューレ! 行って!」
横に払われた腕部の動きに合わせて腰部後方にマウントされていたビットが周囲に散開、激浪を取り囲む。
「フルバースト!」
ブラースク、テンペスタ、リュミエール・イリゼが一斉に魔力粒子弾を放出する。乱れ飛ぶ極彩色の光がビットに反射され、激浪の巨体をゲーミングカラーの炸裂で埋め尽くす。
「そのビット、お借りしますよ」
激浪を中心として遠巻きに旋回滑空するエイストラがライフルとキャノンを激浪の上方へと交互に連射する。雷電を纏う光軸は大気中の水分を蒸発させながら直進、射線に飛び出してきたアルミューレに命中すると直角に射角を偏向した。
「爆雷以上の衝撃を至近距離で受ければどうでしょう? 幸い爆発させる為の海水には事足りませんので」
激浪を逸れた荷電粒子が海面を叩く。瞬時に引き起こされる大規模な水蒸気爆発。海上に大穴を穿つほどの衝撃波が激浪の周囲を取り囲む。ナノクラスタ製の分厚い装甲は表面的なダメージは抑制出来ても内部の基礎骨格へ浸透するダメージまでは抑制し得なかった。機械の巨躯が首をもたげて蠢く。大気中に舞い上がった海水が虹を作り、エイストラの白黒の装甲に降り注いで表面を滑り落ちた。
「好機っ!」
アルジェント・リーゼとエイストラの攻撃時期に合わせて離脱していたブライト・ナイトが激浪に再度突入する。広げた翠騎翼が光の鱗片を散らせてはばたく。対する激浪は怯みながらも身をブライト・ナイトに向けて頭部と背部の奔流砲を同時発射して迎え撃つ。
「そんな遅い弾速では!」
ブライト・ナイトが宙を蹴って飛び上がる。巨大な水球と津波さながらの海水の奔流が海面に着弾した。空高く立ち昇る水柱を割って、輝闘機が現れた。
「行きますよぉっ!」
右のブリッツ・ファウストを前面に突き出して最大加速、激浪の頭頂部目掛けて一直線に突進する。夥しい数の対空放水の洗礼を受けるも、拳に纏う闘気がそれらを打ち消した。
「トランスッ! バスター!」
正面衝突するブライト・ナイトと激浪。海面を戦慄かせるほどの衝撃が生まれ、重く鈍い鋼同士がぶつかり合う音が轟いた。先の一撃の際とは異なる確かな手応えが打ち据えた拳からしっかりと伝わる。頭部を海面に叩き付けられた激浪の全身に灯る赤い発光が明滅した。
「さあ! 今なら!」
駄目押しとばかりにブライト・ナイトが激浪の頭部を蹴飛ばし、得られた反動で急速離脱する。
「どうぞお早めに。パワーダウンは一時的なものです。すぐ復帰されますので」
ノエルの感情の薄い瞳がリフレクタービットを追う。トリガーキーを左右交互に押し込むと、エイストラはキャノンとライフルを各々の次弾発射時間を埋めるようにして連射する。ユーフィの鉄拳で身を竦めた激浪の周囲で水蒸気爆発が絶え間なく連鎖し、姿勢制御すらも封殺する。
「分かってる! 撃つよ!」
アルジェント・リーゼはブライト・ナイトとエイストラの攻撃の最中に紛れて接近を果たしていた。シルは重ねに重ねた詩歌の最後の1項を紡ぐ。
「――六芒に集いて、全てを撃ち抜きし力となれっ!」
シルはブライト・ナイトが打点とした頭部に追撃を試みていたが、荒れ狂う暴雨の如く対空放水砲が浴びせられる。拘り過ぎれば逆に撃ち抜かれると、止む無しに機体を横方向へと滑らせて攻撃目標の照準を激浪の胴体中央へと合わせた。
「フルパワーで! もってけーっ!」
操縦桿を前に押し込み、指が軋む程にトリガーキーを握り締めた。ブラースク改の砲口に収束された6色混合の光が、迸る螺旋状の光芒となって照射された。発射の反動で後方へと押し戻されるが、アルジェント・リーゼは背中の双翼から推進噴射の蒼炎を滾らせて堪える。
ヘキサドライブ・エレメンタル・ブラストが激浪に達すると、反応装甲の守護と反発し合って四方八方にエネルギーを散らせた。だがエイストラと共に重ね続けた飽和攻撃で全体防御に綻びが生じ、ブライト・ナイトのトランスバスターによる一点突破で集中防御を崩された今、これほどの魔力総量を受け流すには至らない。数秒間に渡る照射が終わったのと同時に、激浪は被弾箇所より爆発を連鎖させてその巨体を傾けた。初手に動いたシルとユーフィとノエルの連撃が、大海の猛者を叩きのめしたのだ。
大成功
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ガイ・レックウ
【SPD】で判定
『デカブツか…仕方ないこっちもカードを切るか!!』
【オーラ防御】で防御を固め、【フェイント】を交ぜた【操縦】で接近。
電磁機関砲の【制圧射撃】とブレードの【鎧砕き】で攻撃と同時にユーベルコード【特式脳波コントロールシステム】を起動。機動戦艦『天龍』の三連衝撃砲3基9門での艦砲射撃とハイペリオンランチャーの砲撃と電磁機関砲の連射で攻め続けるぜ!!
●天龍飛翔
痛手を受けた激浪は倒れ伏すかに思われたが、周囲の海水を吸い上げて損傷箇所を修復すると再度活動を開始した。
「デカブツめ、見た目に違わずしぶといこったな」
操縦桿を握り込むガイの表情は硬い。猟兵総出で殴り続ける長期戦の気配を覚悟しながらフットペダルを踏み締めた。スターインパルスの背面のバーニアノズルが噴射炎を迸らせる。攻撃が苛烈な正面は避け、側面より匍匐飛行で交戦距離まで接近する。空中を駆けるスターインパルスの後を泡立つ白波が追った。
「好き勝手撃ってきやがって!」
正面よりはまだ良いというだけで激浪の攻撃は全面に対して隙が無い。対空放水砲を含め、新たに生成した砲門が一斉に超高圧の海水を乱射する。スターインパルスは姿勢を横に傾けて進路を逸らす。目標の軌道を二次予測した水球が眼前まで迫った瞬間、逆方向へクイックブーストを掛けた。凄まじい数の水球やウォーターカッターが側面を通り過ぎ、海面に接触すると大規模な水の炸裂を生じさせた。
「モロに浴びたら御釈迦だな……!」
放水砲の弾速は遅いが威力は尋常では無い。ガイはフェイントの後に十分な余裕を持った回避運動を繰り返す。メインモニターの中央に投映されている激浪の巨躯。それに重ねられているロックオンインフォメーションの色が緑から赤に移り変わった。左の操縦桿のトリガーキーに掛けられていた指先が押し込まれる。スターインパルスは左右への回避運動で切り返しながら電磁機関砲をセミオートモードで連射する。投射された弾体はいずれも確実に激浪へ着弾した。だが手応えは硬く軽い。
「流石にガードが厚いか!」
予想通りの結果ではあるがやはり嫌気が差す。サブウィンドウの兵装選択項目で電磁機関砲が赤い表示となった。残弾数はゼロ。ガイはマガジンのリロード操作を行う傍ら、特式機甲斬艦刀・業火の柄をスターインパルスの右腕マニピュレーターに握らせた。
「弾が効かないってなら……」
バーニアノズルが煌めき機体を加速させる。圧し掛かる重力加速度に全身を操縦席に押し付けられ、ガイは眉間を顰めた。
「こいつでどうだァッ!」
吹き荒ぶ対空放水の狭間を掻い潜って激浪に突入するスターインパルス。接触する寸前に業火を抜刀、紅の刃を激浪の装甲に突き立てて更に機体を加速させた。表層を駆け抜けるスターインパルスの後に業火が散らせた火花が躍る。そのまま逆の側面に抜けると、切断された対空放水砲が爆散して幾つもの黒煙を上げた。
「まだ終わりじゃねぇぞ!」
スターインパルスがバックブーストを掛けた後、機体を反転させて激浪へと向き直る。業火を納刀し腕を背に回す。背面のガンマウントが降り、搭載されていた折り畳み式の重砲をマニピュレーターが掴む。スターインパルスが携行する兵装の中でも屈指の威力を誇る試作型高圧縮重粒子砲、ドラゴン・ストライクがその長大な砲身を展開する。だがガイの手札はこれだけに留まらない。重砲の発射準備を整えながら息を大きく吸い込む。
「起きろ! 天龍!」
スターインパルスの現在位置から激浪を挟んで逆方向、大鳳などの日乃和軍の水上戦力が展開している海域で、突如水面が泡立ち始める。そして巨貎が船体を現した。
キャバリアの運用を主とした特式機動戦艦。計3基の三連衝撃砲を始めとしてランチャーシステムを備えた艦艇が海水を滴らせながら浮き上がった。既に全ての砲門は激浪へと向けられている。激浪は新たに出現した艦艇を攻撃対象とするが、奔流砲が海水を放射するよりもガイと天龍の動きの方が一足早かった。
「沈みやがれェェェーッ!」
天龍の三連装砲が叫び、誘導弾が流星群の如く激浪へと殺到する。対空放水砲に迎撃されるも幾つもの弾体が着弾。黒い爆煙で激浪の周囲を埋め尽くした。合わせて逆方向からスターインパルスが放つ電磁加速弾体とドラゴン・ストライクの圧縮重粒子が浴びせかけられる。光軸が激浪の横腹を打ち据え、左右両面より重火力を押し付けられた巨躯が二歩三歩と仰け反り怯む。遂に耐え兼ねた重装甲が砕かれて爆発が連鎖し、宙に舞い上がった金属片が小雨のように降り注いだ。
大成功
🔵🔵🔵
フレスベルク・メリアグレース
皆様、これが最後の戦いです!
気を引き締めて行きましょう!
瞬間、機神の霊が出現
戦場一帯のエネルギーを略奪していくと同時、オブリビオンマシンのエネルギーを吸収していく
更に武装を顕現
サイキ・アンリミテッドレールガン、エネルギー充填完了
目標、『機動殲龍『激浪』』
標準用意、発射!
瞬間、無限に進化する雷電エネルギーを纏うレールガンが『機動殲龍『激浪』』に着弾
それと同時にUCも出力を上げ、『機動殲龍『激浪』』を稼働させるエネルギーを略奪してレールガンに注ぎ込んでいく
これが終われば、次はどのような情勢となるのでしょうか……
●簒奪機神
太陽が西に傾き微かに緋色を増した蒼空。直下の海原は爆轟に震え、伝う風は戦禍の熱を帯びていた。
「激浪……エヴォルグの手に堕ちましたか」
巨大な機海獣を遙か遠方に見据えるノインツェーンは、遠浅の海の空中に留まっていた。艦砲の悉くを撃ち落とすか跳ね除け、猟兵の痛打を受けて倒れ伏しては無尽蔵の海水を糧として驚異的な再生力で立ち上がる。不死の怪物とすら思える激浪をフレスベルクの翡翠色の眼差しが睥睨する。押し留めるには再生能力を一時的にでも断たなければ終止が見えない。フレスベルクの双眸が薄く閉じられ、唇が祝詞を紡ぐ。
「其はあらゆる存在から力を奪う。其は活性化している事象ならば力を奪える。其は魔獣ならざぬ略奪を司る騎神なり――」
右の掌を虚空にかざすとノインツェーンのマニピュレーターも同様の挙動で広げられ、内環と外環で相反する方向に回転する二重の光輪が生じた。その光輪は正面に移動した後に90度倒れると拡大、輪の内が真白な光で満たされると滲み出るようにして虚ろな機械巨兵の姿を取る幻影が現れた。恐らくはメリアグレース聖教皇国に伝わる機械神の霊体なのだろうか。フレスベルクは翳した手を下ろすと再度唇を開いた。
「簒奪を」
短く微かな言葉を受けた霊機が暗い紫の波動を放った。波動は海面を瞬時に伝い激浪をも通り抜ける。しかし目に見える範囲では何も起こらない。だがこの時点で既に霊機の力は発現されていた。ノインツェーンの胸中の玉座に納まるフレスベルクの腕が前方に向けて緩慢に伸ばされる。機体も同じく腕を伸ばす。
「碎輝の力よ、今一度我が神騎とこの手に」
ノインツェーンの腕に黄金の稲光が這い回り、煌めく光の鱗片が形を成し始めた。無限成長の力を秘めた超電磁砲、サイキ・アンリミテッドレールガンが宿る。フレスベルクが指を握り込むと遂に砲身は現実となって確かな実体を得た。
同時に電力供給も開始される。発電元は先に召喚した略奪司りし霊機。そして霊機は激浪よりエネルギーを得ていた。激浪が有する驚異的な再生能力と自己編纂、その力を放った波動で吸収して自らに転換する。海水は無尽蔵ならば激浪の力も無尽蔵、ならば啜る力も無尽蔵、サイキ・アンリミテッドレールガンの許容荷電量もまた無尽蔵だった。
莫大な電力を蓄えた砲身が暴れ狂う龍のような電流を迸らせる。フレスベルクの冷徹な眼差しは激浪を見定めていた。
「放て」
フレスベルクが人差し指に力を籠めるとノインツェーンの右腕が跳ね上がった。強烈な放電音と共に機体を後方へと押し退ける衝撃が発生する。尋常ならざる電磁加速を受けて射出された弾体が海面を捲り上げながら激浪に直進、装甲に着弾すると鐘を突いたような甲高い金属音が響いた。機械仕掛けの巨躯が大きく傾く。砕かれた装甲と内部構造が吹き飛び青白いスパークと爆炎が巻き起こる。
「やはり一撃では倒れませんか。であるなら幾度でも放つまで」
ノインツェーンは碎輝の電磁加速投射砲を激浪へと向け直し電力供給を再開する。慈悲無き冷たい鋭さを湛えた瞳は既に敵ではなく遙か先を見ていた。沙綿里島の生殺与奪は恐らく激浪の破壊で終結するだろう。後は日乃和を巡る情勢はどう変動するのだろうか。猟兵が及ぼした勝利は何処に行き着きどのような答えに結ばれるのか。
「……その時が訪れるまで、もうさほど長くないのかも知れませんね」
不確かながらそう思わずにはいられない予兆が浮かぶ。フレスベルクが人差し指を引くと、ノインツェーンは電磁加速投射砲を撃ち放った。
大成功
🔵🔵🔵
露木・鬼燈
でかくない?
ちょっと手持ちの武装だと心許ない
サイズから想定される装甲厚だと貫けないかも
やっぱり火力を盛らないとダメっぽい
<凶鳥強襲>の概念付与ならイケルイケル
戦艦の主砲クラスの威力を持つ徹甲榴弾
これをマシンガン&ライフルで連射するからね
例え抜けなくても衝撃で装甲を歪める程度はできるはず
たぶん僕の攻撃では破壊までいけないだろうからね
装甲再生と艦装製成の機能を止めることを優先するですよ
海水の吸入孔に弾丸を叩き込むっぽい!
小口径放水砲や推進装置も壊したいところなんだけどね
まぁ、それは余裕があればってことで
後は小型ブースターを使って細かく動くことで攻撃を避ける
こんな感じでイケルイケル!
●凶鳥の凶兆
猟兵と激浪の交戦は一進一退ならぬ一進一停だった。巨躯が纏う分厚い装甲を打ち砕き、内部機関に損傷を与えれば一時的な機能停止に陥らせる事はできるものの、僅かな間を置いて再起動してしまう。今はひたすら入れ替わり立ち替わりに攻撃を加え続ける他に選択肢は無い。
「次はアポイタカラの番なのですよ」
青に輝く海面を赤鉄の鬼が推進噴射炎を引き連れて疾駆する。白い飛沫が左右に引き裂かれた。
「……お話しよりでかくない?」
相対距離が詰まるにつれ、改めてその質量を実感させられる。40mと聞いてしまえば空母や戦艦よりも小さいと思えてしまうが、全身を武装した上で重装甲を備えている威容は数値以上の圧力を放っている。その巨大機海竜がアポイタカラの接近を感じ取り、巨躯に見合わない滑らかな動作で回頭した。対空放水砲が一斉に発射される。
「これは……弾幕シューティングっぽい!」
アポイタカラは匍匐飛行を維持したままバーニアノズルを噴射して機体を横に滑らせる。後を追うようにして幾つもの水流が海面に着弾した。鬼燈は間髪入れずにフットペダルを細かく踏み付け、先程とは逆の方向へ瞬間加速を複数回に分けて行う。アポイタカラの機動を先読みしていた水球が虚空を走った。対空放水砲はともかくとして奔流砲は一撃でも受ければ保たない。掠めるのすら論外と鋭敏な左右への切り返しを連鎖させて、いよいよキャバリアとしての交戦距離にまで接近した。
「抜けないとは思うけど、ものは試しなのですよ」
左右のマニピュレーターが握るパルスマシンガンと、後方の左右に控えるフォースハンドが保持するライフルがそれぞれ1射ずつ弾体を撃ち放った。装填されていた徹甲榴弾はいずれも激浪の表面装甲に着弾して炸裂するも、外観だけで判断するならば損傷らしい損傷は与えられていない。
「んー、やっぱり火力を盛らないとダメっぽい」
絶え間ない放水砲の応射を潜り抜けてアポイタカラが激浪を中心とした旋回機動を取る。相手も旋回してくるが正面で立ち向かうよりはよほど良い。そういった観点からすれば火力も去る事ながら更なる機動性も欲しいところだ。
「ここは凶鳥強襲でどーでしょー」
アポイタカラのカメラアイに紫炎の光芒が迸る。直後に全身のスラスターから炎が爆ぜた。残影すら置き去りにする急加速。対空放水砲が跡を追うが照準補正も二次予測も間に合わない。
「はやい! はやい! はやーい! だけではないのですよ」
水面を蹴って跳躍したアポイタカラが激浪の直上よりマシンガンとライフルの暴雨を降り注がせる。装填されている弾種は先程と変わらない徹甲榴弾。だが着弾した瞬間、生じる爆炎は比較にならない威力を発揮した。ユーベルコードによって概念を編纂された弾体は戦艦主砲にも匹敵する炸薬量と質量を誇る。それを至近距離から連続して叩き込まれた巨躯が悶えながら黒煙に呑まれた。
「撃破まではいけなくてもー」
膨れ上がる黒煙を裂いてアポイタカラが躍り出た。海面に着水するとスラスターを盛大に吹かして逆制動を掛ける。応射された放水砲は小刻みな上下機動で躱してみせた。両腕が抱え込むマシンガンが立て続けに速射する戦艦主砲級の徹甲榴弾が着弾するたびに、激浪の全身に備わる小口径放水砲が砕け散った。即座に再度の生成が行われるも途端に爆風によって粉砕される。されどこの攻撃は牽制に過ぎない。鬼燈の狙いは別にあった。
「エラっぽいところはー? お、見つけたっぽい!」
鋭角な高速機動を繰り返しながら激浪の周囲を旋回していると、本命の攻撃箇所の発見に至った。航行時の水流を制御する為に備わっているであろう鰭状の部位の付近、そこに吸水孔らしきスリットを視認した鬼燈はマシンガンとライフルのクロストリガーを叩き込んだ。強烈な発射反動に肘関節が軋む。スリット部分が榴弾着弾時の緋色の爆炎に埋め尽くされると、激浪の奔流砲と対空放水砲の出力が目に見えて低下した。加えて装甲と兵装の再生能力にも綻びが生じたらしい。装甲の損傷箇所から内部骨格が垣間見えた。
「効いてるっぽい?」
首を傾げる鬼燈が、機体を左右に振りながら榴弾の連射を継続する。機能上防御が薄手にならざるを得ない吸水孔を狙う着眼点に間違いはなかったようだ。恐らくは内部にも損傷が及んでいるだろう。
「連射連射連射!」
アポイタカラは著しく本数が減った放水砲を軽快に避けつつも銃身が焼き付くまで榴弾を叩き込む。炸裂によって砕け散った金属片が、陽光を受けて煌めいた。
大成功
🔵🔵🔵
朱皇・ラヴィニア
攻撃を防げばいいかな?
なら任せて。甲板を借りるよ
補給したブラディエルinゼルで出撃
お願いがあるんだ。防衛対象の全データを送って欲しい
そう……全てだ
同期したデータを基にユーベルコード起動
広さは関係無い。認識さえしていれば――ボクの手は届く
絶対障壁拡張展開、敵の砲撃を防ぐ為に特大のバリアを張る
対象は全ての防衛対象。ボクは動けなくなるから……皆、頼むよ
大丈夫、戦い方はこれまでのやり方でいい
その代わり君達は、ボクが全力で守る
誰か、あの薬を貰えるかな? あの意識が飛ぶ奴
飛ばしたいんだ。効くかどうかわからないけど、多分効果はあるでしょ
己に打ち込んでリミッター解除――さあ行こうか
グッドラック、勇敢な戦士諸君
●レプリカントガール・オーバードーズ
日乃和軍のキャバリア部隊全体を延命させるため、文字通りに海岸を走り回ったラヴィニアとブラディエル、そして内包されているシュラウゼル。推進剤を使い果たした末に大鳳に帰還、激浪が沙綿里島西海岸に揚陸したのは補給を受けていた矢先だった。
「あーあ、派手にやってくれちゃって。これじゃ折角のボクの働きが全部パーじゃないか。ゼルとエルも頑張ったのに……」
大鳳の飛行甲板の縁に立つラヴィニアが眺める遙か遠方では、猟兵達と白羽井小隊、それに三笠隷下の打撃艦隊によって集中砲火に曝されている激浪が尚も止まる事なく侵攻を続けていた。海水の奔流が発射されるたびに空に立ち昇る水柱が生じる。大鳳が待機している海上は戦域からかなり離れているのだが、それでも衝撃は肌に伝わるほどだった。
「エヴォルグ量産機の掃討は順調みたいだけれど、これじゃ保ちそうにないね。やっぱり攻撃を防ぎに行かなきゃダメかな?」
ラヴィニアが遠目で見ている限りですら激浪が及ぼす損害は甚大だった。猟兵達に気取られはしているようだが、交戦の傍らで海岸線一帯に執拗な放水砲撃を繰り返している。おおよそ戦力の蹂躙そのものが目的なのだろう。
『補給終わりました!』
背中に掛けられた声に振り返ると大鳳の甲板作業員が両手を振っていた。その奥ではブラディエルが地に跪く格好で露天駐機されている。各部の姿勢制御用バーニアノズルには大小様々なホースが繋がれていたが、作業員達によって早々に取り払われつつあった。
「思ったより早かったね」
ラヴィニアは首を左右に捻って骨を鳴らすとブラディエルへと歩き出した。逡巡する思考の中では前線に舞い戻った後の計画策定が行われている。激浪を止めるのが最優先事項ではあるが、戦況全体と個人の能力を照らし合わせて本当にそれが最善手と言えるのだろうか。あのフルアーマーモササウルスの撃破は猟兵なくしては叶わない。だが猟兵はひとりだけではない。むしろ今は自分にしか成し得ない役回りを演じるべきではないか。だとしたらそれは。
「……いい事思い付いた」
ブラディエルに乗り込もうと装甲に手を触れた途端、不意に言葉が溢れた。ラヴィニアは後ろに振り返り甲板作業員の少女に手招きする。視線が重なった相手は青ざめた面持ちで駆け寄ってきた。
『問題ですか!? あっ! もしかして私違う燃料入れちゃいました!?』
「ん?」
切羽詰まった様子に虚を突かれたラヴィニアが首を傾げた。どうやら勘違いを起こされてるらしいと察して違う違うと手を振る。
「あぁ、そうじゃなくて、ちょっとお願いがあるんだけど」
『なんでしょう?』
「あの薬貰えないかな?」
ラヴィニアは身振り手振りでペン型注射器を首筋に突き立てる真似をして見せた。すると甲板作業員の少女は露骨に表情を顰めた。
『え……ありますけど、使うんです?』
「訳ありで意識飛ばしたくってね。ダメかな?」
『本当はダメなんですけど、まあ……でもあまりお勧めはしませんよ? 乱用して戻って来れなくなっちゃった人も大勢いますし』
渋々といった様子でジャケットの内側を弄る。引き出した手には長方形のケースが握られていた。ラヴィニアはそれを受け取ると蓋を開く。中には望んだ通りのペン型注射器型が納められている。ノックカバーを押し込むと先端から針が伸長した。
「なんか針太くない?」
『戦闘中に使う時、針が折れないようにって事で太くされてるとか……これ刺す時痛いんですよねぇ』
「ふーん、この辺に刺せばいいの?」
『えーっと、もう少し上ですね』
ラヴィニアは甲板作業員の少女から注射器の使用方法を手取り足取り教わった。次第に周囲には様子を見に来た作業員達で人集りが出来ていた。
『刺す時はひと思いにブスッと行った方がいいですよ』
「そうなの? じゃあ」
教授された通りに勢いを付けて突き刺した。
「いっっったぁ!?」
鋭いというより重い痛みが首筋に走る。戦術薬剤の注入は直後に自動で行われた。薬効が顕れるまでほんの数秒とかからなかった。
自分の思考が酷く客観的に思える。昨日見た動画の内容、面倒になって返していないSNSの返信、一昔前の嫌な思い出、そんな雑多な念の一切が浮かび上がらない。脳の活動が戦闘に必要なものに限定されている。五感の全てが先鋭化するのも確かに感じた。肌に触れる強化服の質感が脳神経に直接伝達される。視力が及ばない筈の遠方が見通せる。激浪の対空砲の微細な動きさえ視認出来た。呼吸をすれば大気に含まれている成分のひとつひとつさえ解るようだ。
『大丈夫です? 結構合わない人が居て、吐いたりおかしくなっちゃったりするんですけど……』
「なるほどね、思ったより悪くないよ。エースパイロットの感覚ってこんななのかな?」
しかしこれだけでは足りない。思い付いた良い事をするには本当に意識を掻き消すほどでなければならない。
「まだある?」
『え……』
「一本だけじゃ足りないみたい」
『いやいやいや! 使い過ぎると頭おかしくなりますよ!?』
「だろうね。でも必要なんだ。でないと君たちの仲間、大勢死んじゃうよ?」
他者から見たラヴィニアの様子はさほど変化は無い。だが抑揚の薄い声音が妙に切迫した重さを含んでいた。無言で唾を飲んだ甲板作業員の少女が周囲を見渡す。様子を伺っていた他の作業員達は咄嗟に目を背けると、各々の役割に戻ろうとした。
『各員、そちらの猟兵様が希望されている薬剤をご提供してください』
通信ではなく拡声装置から発せられた結城の嫋やかな声。どうやら艦橋から一連を伺っていたらしい。大鳳の艦長の指示とあっては知らぬ存ぜぬ関わらずする訳にもいかない。
「どうも」
甲板作業員達から片手で握り込めるかどうかといった本数のペン型注射器型を受け取ったラヴィニアは、それらを強化服のホルダーに差し込んだ。艦橋に向かって手を振ると漸くブラディエルへと乗り込む。コクピットハッチを閉じようとした時、先程の甲板作業員の少女が声量を張り上げた。
『気を付けてくださいね! 12時間以内に2本まで! それ以上使うと、どんな人だって脳味噌ゆるゆるになっちゃいますから!』
「連続で3本使えばいいんだね! ありがとう!」
『どういたしまし……そういう意味じゃなくって!』
ハッチが閉ざされると操縦席は外界から遮断された暗く孤独な空間となった。すぐに計器類に光が灯り、機体のセンサー越しに捉えた周囲の景観をメインモニターが映し出す。足下で誘導灯を振る甲板作業員の案内に従って機体を前進させる。リニアカタパルトに両脚部が乗せられると、機体固定用の爪がロックされた。
「今日だけで何回再出撃してるんだろ? さあ、行こうか。」
呼応するかのようにシュラウゼルの動力炉が唸りをあげる。甲板作業員が誘導灯を振り下ろした瞬間、ラヴィニアの全身を強烈な重力加速度が圧迫した。薬剤の痛覚鈍化が働いている影響なのか、不快感とも違和感ともつかない感触はあれど息苦しさに表情を顰めるほどではない。電磁加速で得られた初速は凄まじい。瞼を閉じて開いた時には既に最前線である砂浜の上を滑走していた。
「よっと」
ブラディエルはバーニアノズルを噴射して微かに逆制動を掛けると降着。砂埃を舞い上がらせながら停止した。周囲に展開して戦闘を継続している日乃和軍のキャバリア部隊が、彼方より突如飛んで来た紅の修羅に困惑する。
『猟兵ですか!?』
グレイルの1機が駆け寄る。ラヴィニアはブラディエルに親指に相当するマニピュレーターを立てさせてハンドサインで応じた。
「助けにきたよ。さて……」
視線を海に向ければブラディエルの頭部もつられてそちらへ向けられる。まだかなり距離は離れてはいるものの、遠目でありながら激浪の威容は非常に大型だった。いまだ若干数の集団を形成して上陸しているエヴォルグ量産機の掃討に手を焼く日乃和軍のキャバリア部隊を、背部の砲門から放たれる水球が吹き飛ばした。
「君、残存してる日乃和軍のキャバリアの位置座標を全部送って欲しい」
『全て?』
「そう、全部」
『これで一体何を……』
「言ったじゃない、助けにきたって。時間が惜しい。だから早く」
暫しの沈黙の末、ブラディエルの元に日乃和軍の展開情報が送付された。加えて戦術データリンク自体は現在も過不足無く機能している。友軍の所在を確認する分には何ら支障は無い。キャバリア部隊は海岸に沿って壁を形成している。ある程度深度が確保されている洋上に布陣する艦艇まで含めれば、戦力は非常に広範囲に分散していると言って良いだろう。
「流石に広いね。でも……認識さえしていれば――ボクの手は届く」
強化服のホルダーに差し込んでいたペン型注射器を引き抜き、一寸の躊躇いなく首筋に突き立てた。注入された薬剤が血流に乗って全身を巡る。先鋭化していた感覚が更に研ぎ澄まされ、自己の認識が拡大し、先程見た友軍戦力の分布図が実在の光景となって意識に広がった。空になった注射器が手から滑り落ち、更にもう一本取り出して射つ。喜怒哀楽から解放された意識が透明になる感覚を得ながら、ラヴィニアは操縦席に深く腰を沈めて最寄りの日乃和軍の機体へと通信を繋ぐ。
「ボクは動けなくなるから……後は頼むよ」
ブラディエルが緩慢に膝を付いた。機体の荷重を砂地が受け止める。
『どうしたんですか!? 頼むって何を!?』
「大丈夫、戦い方はこれまでのやり方でいい。その代わり君達は、ボクが全力で守る」
状況が飲み込めないパイロットにラヴィニアは半ば一方的に話しを進める。意識が完全に透明化するまで猶予はさほど残されていないからだ。
「絶対障壁拡張展開……」
それが最後の言葉となった。ラヴィニアの両手が操縦桿を離れ、双眸は浅く開かれたまま瞳に闇を淀ませている。ブラディエルも跪いて微動だにしない。すると西海岸に展開中の日乃和軍全機から赤い球体状の斥力場が生じた。
『な……これは!?』
ラヴィニアが意識の解放を代償として施した絶対守護の障壁は、キャバリアだけではなく大鳳や三笠を含む水上戦力にまで及んだ。エヴォルグ量産機のレーザーが照射されればそれを難なく跳ね返し、激浪の奔流砲が浴びせられれば衝撃で跳ね飛ばされるだけで直接の損害を遮断する。突如として生じた埒外の現象にグレイルのパイロットはただ驚愕するばかりであった。
『このバリア……あなたがやってるんですか?』
問い掛けられたラヴィニアは何も答えられない。ブラディエルも赤い障壁を纏い跪いているだけだ。するとブラディエルの位置座標が変動しない事を異変に思った大鳳より通信が入った。再出撃の際に大量の戦術薬物を持ち出した事を知らされ、漸くラヴィニアが何をしたのかの察しが付いた。恐らく猟兵達が操るユーベルコードなどという異能と戦術薬剤を組み合わせた結果、この障壁付与が作動したのだろう。
『何という事を……どうしてそこまで……』
偶々付近に居合わせた日乃軍のパイロット達は意図的に脳を弛緩させたラヴィニアの言伝を反芻する。戦い方はこれまでで良いと。1機のオブシディアンmk4が駆け出すと続けてグレイルが走る。上陸するエヴォルグ量産機の集団へ吶喊、絶対障壁を盾に猛攻を加えて瞬時に殲滅してみせた。
「グッドラック、勇敢な戦士諸君」
虚ろに揺らぐ意識の中でラヴィニアの唇が声を溢した。紅の明王は不動を堅持し、決して砕かれぬ結界が若過ぎる戦士達を守護り続けた。
大成功
🔵🔵🔵
キリジ・グッドウィン
【特務一課】
ニアールに搭乗
ハッ、大物のお出ましか。海水で装甲修復とかもうなんでもアリだな
エヴォルグとやらの相手にも飽きてたところだ。一発デカいのぶちかますぞマダラ!
(マダラに)ギバはいつも何か企んでるだろ、多分頭のCPUだけは無駄に食欲の事から悪巧みまで回転し続けてる。ま、その企み乗ってやってもいいぜ
…って、これ結局正面から突っ込んでるだけじゃねぇか!よっと
投げられた勢いのまま腕部のリミッター解除。マダラのハンマーに合わせ最大加速の拳
そのままRX-Aランブルビーストによる握撃
【使用UC】による零距離射撃で一気に畳みかける
修復といっても放水砲の何本か折っとけば蘇生までは出来ねぇだろ流石にな!
天城原・陽
【特務一課】
…ほんッッとタチ悪いわね、エヴォルグシリーズって
今は向こうの事態は置いておくとして…
「マダラ!キリジ!アレを沈めるには正攻法じゃダメだって事は分かってる?」返答に対してニヤリと笑って「そう、なら結構!」
「フェザー01!聞こえる?頼みがあるわ。二時の方向より火戦を集中させて。そこから私達がブッ込む。喜びなさいお嬢様方。ウチの星の王子様と狂犬の見せ場よ」
さて、大風呂敷は広げた…あとはやる事やって畳むだけよ
機体制御、灰風号とニアールを引っ掴んで飛翔。小隊が火線を集中させて拓いたラインを音速で突っ込み
「行って来なさい!!!」
文字通り二機を『ぶん投げる』
続けて突撃。全兵装使用で畳みかける
斑星・夜
【特務一課】
キャバリア:灰風号搭乗
これまた厄介そうな奴がお出ましだねぇ
だねぇギバちゃん。普通のやり方じゃ、ちょーっと難しそうだ!
あっギバちゃんのこの声さ、何か企んでる時のだよキリジちゃん!
おー!すごいスピード!オーケー、まかせて!
赤雷号に投げられた速度を利用して、さらに『EPブースターユニット・リアンノン』を起動
上昇させた攻撃力に、今の速度を加算した『RXブリッツハンマー・ダグザ』の一撃を『グラウ・ブリッツ』を込めて食らわせるよ!
上手く狙いを定められるなら、目標は放水砲、もしくは小口径放水砲だ
強力な攻撃手段でも水なら電気を通すんじゃない?
外側にはハンマーで、内側には電流で
思いっきりぶっ潰すよ!
●雷電
沙綿里島西海岸に揚陸した激浪は、キャバリアとしては規格外な巨体を這いずらせながら緩やかに前進を続けている。水深数メートルという遠浅の地形環境は激浪に大きく味方していた。海水を無限に吸い上げ、圧縮した後に水球や奔流として射出する。それらが着弾する度に海岸の砂浜には幾つもの穴状地形が穿たれ、激流の川が生じた。
「ハッ、大物のお出ましか。デカけりゃいいってもんでもないが、海水で装甲修復とかもうなんでもアリだな」
表情に露骨な厭気を浮かべるキリジのサーヴィカルストレイナーが騒めく。ニアールは激浪を前方に迎えて海岸の砂浜地帯に立つ。機械仕掛けのモササウルスが大顎を開くのと同時に、キリジは地表を蹴るイメージをニアールに流し込んだ。カルトゥーシュがそれを即座にフィードバックし、膝関節を屈ませた後にバーニアノズルの噴射と同時に伸ばす。ニアールが跳躍した眼下を極太の水流が駆け抜けた。激浪の攻撃は全体的に弾速が遅い。神経接続により操作の反映までの時間差が限りなく零に近いキリジとニアールであれば、十分な間合いを開けていれば視認してから回避するなど造作も無かった。
「侵蝕弾については知ってたけど……ほんッッとタチ悪いわね、エヴォルグシリーズって。ついでに見た目も悪いし」
毒突く天城原の赤雷号は、大型の高機動推進ユニットから力強く噴射炎を吐き出して滞空している。応射される小口径放水砲の雨霰は滑らかな挙動で躱し、反撃に二十二式複合狙撃砲を連射した。数発の実体弾が標的に吸い込まれるようにして着弾すると、炸薬が黒い爆煙を上げた。続けて伸びる加粒子砲の青白い火線が黒煙を裂いて装甲に到達する。数千度にも達する熱量は接触した瞬間に水の如く弾かれた。予想はしていたがやはり硬い。天城原は実に面白くないと眉間に皺を刻んで舌を打つ。
「チッ……適当な牽制じゃ傷も付きやしない。こいつも今頃中身はキモいウネウネまみれになってるんでしょうね。あぁ嫌だ、考えるだけも気色悪い」
「割ってみる? たぶん外はカチカチ、中はウネウネだよ」
「割ってみる? じゃないわよ。ウニじゃないんだから」
通信音声の元に赤雷号が視線を落とすと、斑星の灰風号が銀の照り返しを放つ大槌を担ぎながら前方に盾を押し出していた。身を躱し続けるニアールと赤雷号とは対照的に、灰風号は連結したアリアンロッドで小口径放水砲を防いでいる。角度を付けて構えられた二対一体の円盾に数多の水の光線が命中すると、軌道を大きく逸らして表面を擦過していった。
「対空砲なら余裕で防げるねぇ。でも大きいのは……っと!」
激浪の背面に備わる大口径砲に海水が収束されるのを視認した斑星は、フットペダルを浅く踏んで操縦桿を横に倒す。防御を解いた灰風号がスラスターを噴射して横方向へ瞬間加速した。発射された2発の水球が砂浜に着弾し、津波が堤防に衝突したかのような轟音と共に水の爆発を巻き起こした。
「今更だけどさ、弾薬は海水ってズルくない? 撃ち放題じゃん! お金掛からないし!」
灰風号は回避運動を取った先で身を屈めてアリアンロッドを地に突き立てた状態で余波を凌いだ。空に舞い上がった海水が曇天色の装甲に降り注ぐ。
「実際撃たれ放題だな」
傍らではニアールが強靭な腕部で防御を固めながら極短距離間の跳躍を繰り返してウォーターカッターを回避している。近接格闘戦を主体とするキリジとしては早々に取り付いてしまいたい所存ではあったのだが、如何せん弾幕の層が分厚い。迂闊に突出すれば大きな損耗を強いられる事は明白だった。
「やっぱりこっちから仕掛けないと埒が開かないか……マダラ! キリジ! アレを沈めるには正攻法じゃダメだって事は分かってる?」
特務一課の中では随一の攻撃射程距離を誇る赤雷号が二十二式複合狙撃砲を撃ち放つ。天城原は既に策を抱えていた。今発射している火線よりも更に強力な攻撃を激浪に対して文字通り届ける策を。
「あっ! ギバちゃんのこの声さ、何か企んでる時のだよキリジちゃん!」
天城原の声音の抑揚が無意識に重くなっていたのを斑星は鋭敏に感じ取っていた。そして何となく嫌な予感も。
「ギバはいつも何か企んでるだろ」
キリジがまるで当たり前と言わんばかりに条件反射で言葉を返す。
「多分頭のCPUだけは無駄に食欲の事から悪巧みまで回転し続けてる」
「え? キリジがバスターランチャーの零距離発射食らいたいって? やれやれ仕方ないわね、そこ動くんじゃないわよ」
「ギバちゃんのこの声は半ギレ気味だよキリジちゃん!」
「ま、その企みに乗ってやらん事もないぜ」
キリジは何事も無かったかのように涼しく返事をするが、赤雷号は狙撃砲の銃口をニアールに向けていた。
「そう、じゃあ乗る前に撃たせなよ」
「マジの眼で銃を向けるんじゃねえ! ロックオンパルス出てんぞおい! デカブツを潰すアテがあるなら早いとこ始めろよ!」
「……結構」
天城原は人知れず口角を歪めるとトリガーキーに掛けていた指を開いて操縦桿から手を離した。そしてサイドパネルを数回叩くとサブウィンドウに通信回線のチャンネル設定項目を立ち上がらせる。戦術データリンク経由で白羽井小隊へと通信を繋いだ。
『こちら白羽井小隊、フェザー01ですわ。特務一課の方、如何されまして?』
機体制動を続ける那琴の中継映像がサブウィンドウに表示された。ニアールと灰風号の元にも同じ映像が出力されているのだろう。斑星が緩い笑顔を浮かべて手を振ると那琴が浅い会釈を返した。額は汗で濡れていた。
「フェザー01! 聞こえる? 急ぎ頼みがあるから手短に伝える。二時の方向より攻撃を集中させて。そこから私達がブッ込む! 機体は今も爆装したままよね?」
『強襲を仕掛けるのですわね? 了解ですわ。お任せくださいまし』
天城原は通信対象を那琴隷下の白羽井小隊全員に広げた上で言葉を続けた。
「喜びなさいお嬢様方。ウチの星の王子様と狂犬の見せ場よ」
通信の先で微かに黄色い声が挙がった。果たしてそれは星の王子様に対するものなのか、狂犬呼ばわりされて訝しく表情を歪めた誰かに対するものなのか。すぐに那琴の嗜めが続く。
「マダラは兎も角オレもダシにしやがるのか……」
キリジが首を横に振りながら深く重く息を吐く。
「いいじゃない。キリジだってお嬢様方から結構評価高いのよ? 気付かなかった?」
「まー、あぁいう子達ってキリジちゃんみたいなの好きだからねぇ」
「知るかよ……で? オレとマダラをどう活躍させるって?」
「そうそう、ギバちゃんの企み拝見!」
すると狙撃砲の保持をマウントアームに預けた赤雷号が高度を落とし「こっちへ来な」とニアールと灰風号に手招きをした。二機は互いに頭部を見合わせて首を傾げると、赤雷号の元に短距離跳躍する。
「そこに並びな」
キリジも斑星も天城原の意図を察しかねながらも言われた通りに機体の肩を並べて赤雷号の前に並び立つ。するとニアールと灰風号のそれぞれの肩に赤雷号のマニピュレーターが乗せられた。
「おいギバ、遊んでんのか?」
「これでどうするの?」
益々困惑する二人に天城原は大きく息を吸い込んでから答えた。
「それはね」
遠方の激浪の周囲で複数の火球が生じた。白羽井小隊が誘導爆弾の投下による攻撃を開始したらしい。連鎖している小規模な爆発は無反動砲によるものだろう。頼んだ通りの方角より加えられた砲火を見た天城原が僅かに頷いた。
「こうするのよッ!」
「おいッ!」
「わーお!」
ニアールと灰風号の肩に乗せられていた赤雷号のマニピュレーターの握力が急激に増したかと思えば、キリジと斑星は急な浮遊感と重力加速度を一身に受けていた。赤雷号が二機を掴まえて急加速、激浪へと突撃を開始したのだ。オーヴァドライブの発現による音速を超過した滑空。視界から砂地が一瞬で消え、衝撃波に海面が左右に引き裂かれた。
「おー! 凄いスピード!」
「呑気な事言ってる場合かマダラ! おいギバ! 結局真っ正面から仕掛けるんじゃねェか!」
「細かい事はいいのよ。ほら準備しな!」
「準備って何をー?」
危機感の薄い声音で問う斑星に天城原は双眸を不敵に細める。
「発進準備よ! 行って来なさい!!!」
「おいィィィ!?」
「あーれー!」
赤雷号が両腕を大きく振り被り、下から掬い上げるようにしてニアールと灰風号を投擲した。白羽井小隊が激浪の攻撃を引き付けているため進路は拓かれている。5mの豪速球と化した二機のキャバリアは一直線に激浪へと超高速突入する。
「滅茶苦茶やりやがって! おいマダラ!」
キリジは怒気を散らしながらも機体制動を行う。ニアールに繋がる神経伝達回路を通じてランブルビーストの出力制限を解除、開いた剛爪が紫電の稲光を滾らせた。スラスターによる姿勢を終えたニアールが残光を引き連れる。
「まかせて! リアンノン起動!」
コンソールにセットされているねむいのちゃんが斑星の音声入力を受け付けた。モニターの青白い光が、口角に不敵な微笑を滲ませる斑星の表情を浮かび上がらせる。灰風号の背でブースターの噴射炎が膨らんで更なる推力を生み出す。過剰給電されたブリッツハンマー・ダグザが乱れ狂う青い稲妻を纏って火花を散らせる。
投擲されながらも攻撃体勢を整えたニアールと灰風号。激浪の元に到達するまであと僅かの所で対空放水砲の洗礼が待ち構えていた。優先攻撃目標を白羽井小隊から切り替えてきたらしい。キリジが舌を打つ。
「キリジ! マダラ! 構うな! そのまま突っ込め!」
二機の後を追う赤雷号が片手で狙撃砲を抱え込み、もう一方のマニピュレーターでキガントアサルトを握る。天城原は激浪を多重捕捉すると、推進ユニットの主翼下部に懸架していた多目的誘導弾を全弾発射した。それらは白いガスの尾を引きながらニアールと灰風号を追い越して激浪の表面に肉薄、信管を作動させて無数の散弾をばら撒いた。更に大口径実体弾、加粒子砲、電磁加速弾体が殺到する。小口径放水砲は次々に粉砕され連続する炸裂が激浪の側面部を覆い隠した。
「届いた!」
目標に取り付く寸前で灰風号が戦鎚を振りかざす。
「マダラ! ブン殴れ!」
一足遅れたニアールが左右の雷爪を開き激浪に襲い掛かる。
「せーのっ!」
リアンノンより噴射炎を爆ぜさせて瞬間的な超加速を得た灰風号が、駆動系出力を最大限にブリッツハンマー・ダグザを振り下ろす。加速と重量と膂力を極限まで乗算させた一撃。鋼が砕ける爆音の後に落雷の轟きが迸る。激浪を覆うナノクラスタ製の重装甲が弾け飛び、打撃点を中心に青い電流が暴れ踊る。グラウ・ブリッツの直撃を受けた激浪の身が大きく揺らぎ、悲鳴にも似た機械音を上げる。外部からの過電流によって機能障害を受けたらしく、各部に灯る赤い発光が明滅し始めた。
「おっ? 効果抜群? 水タイプならもしかしてと思ったけど、やっぱりねー」
斑星の見立て通り海水を武器と再生機能に使用している都合上、非常に通電し易かったようだ。そして灰風号の雷槌によってもたらされた装甲修復機能の阻害はニアールにとって絶好のつけ入る隙となった。
「鬱陶しい水鉄砲だな! 根本からぶっ壊してやる!」
灰風号の打撃に合わせて激浪に取り付いたニアールは得た加速のまま鉄拳を叩き込む。直撃を受けた放水砲は原型を留めないほどに粉砕された。更に拳を開いてランブルビーストの雷爪を突き立てる。手首部分を回転させ掘削、砲塔の主幹機関まで達するとスクィーズ・コルクを連射した。
「ガワは治せても、中身までは治せないよなァ? 食らっとけ!」
荷電粒子弾が内部を無秩序に破壊し尽くす。ニアールはもう一方のランブルビーストも突き込むと、内部を手当たり次第に握撃で潰しながらスクィーズ・コルクで念入りに蹂躙する。ニアールが手応えを失い腕を引き抜く。激浪は損傷箇所の修復を行うも、ナノクラスタ装甲が感電による機能障害を起こしている上に、ニアールが内部を破壊した箇所に限っては肉食獣に襲われた草食動物の遺体の如く損傷が凄まじ過ぎて現状復帰は見込めない。張り付く2機のキャバリアを振り払おうと激浪が巨躯を悶えさせる。
「暴れんなよ……暴れんな! マダラァ! もういっぺんブチかませ!」
「オーケーキリジちゃん! ハンマーで叩くならやっぱり頭だよね! 脳天ぶっ潰すよ!」
打ち込んだシルバーワイヤーを起点にしながら激浪の身を駆け登る灰風号。ブリッツハンマー・ダグサを正中に構え、そして力任せに叩き付けた。雷轟と爆砕音が海原に響き渡る。頭部直上に鉄槌の制裁を受けた機海獣が、その身を浅瀬に伏せた。
大成功
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防人・拓也
応急修理を終えてコックピットに戻り、敵を見て
「…アレを使うしかないか」
そう呟いて深呼吸をした後、広域回線を入れる。
「単機突入で心臓部を潰す。皆は下がってくれ」
反対意見が多数だろうが
「問題ない。アレを使う」
と言う。白羽井小隊が何か言うかもしれんが、構わずシステムを起動。
「葵大佐と約束したんだ。君達を守って欲しいと」
と白羽井小隊に言い、敵に突撃。攻撃を避けながら、ビームライフルで反撃する。しかし先程の損傷の影響で次第に反応速度に遅れが生じ、回避が間に合わず攻撃を盾で防ぐも吹っ飛ばされる。その時、白羽井小隊の誰かが援護しようと前に出るかもしれん。敵はそれを見逃さないはず。その時はすぐに味方を庇う。攻撃で俺の機体の一部が吹っ飛ぼうが関係ない。
「全く…世話が焼けるお嬢様だ」
と言い、敵に突撃。あらゆる武器を使って敵の心臓部を見つけ出して潰す。敵を仕留めた後、同時に事切れるかのようにシステムダウンし墜落する。
死んだかと思われたら
「…勝手に殺すな。まだ生きてる」
と言い、コックピットから出る。
アドリブ可。
●青い死神
リーパーキャバリアを駆る拓也は、市街に流入したエヴォルグ量産機の掃討戦を終えたのちに大鳳へと一時着艦していた。戦闘中に損傷を受けた背面の推進装置の修復を行う必要があったからだ。
「やはりマッチングは良好とはいかないか……」
ゴーグルの下に覗く拓也の表情は芳しくない。コンソールパネルを指先で叩く。メインモニターに表示された機体ステータスの診断結果では、背部の推進装置が黄色の表示となっている。大鳳にはリーパーに完全に合致する予備部品が存在せず、止むを得ずイカルガで使用されている該当部品を流用して間に合わせた。作動こそすれどシステムとの相性はよろしくなく、パフォーマンスの低下は免れない。
「猟兵が開発したキャバリアならばとは多少期待もしていたが、やはりそう甘い話しは無いな。それよりも……」
機体のステータス表を閉じてメインモニター越しに遙か遠方を見据える。艦艇やキャバリアの熾烈な攻撃を受け続けてもなお立ち上がり戦闘を続行する巨大な機海獣。数多の戦場で作戦を遂行し続けてきた拓也にとっても紛れもない強敵と映ったのだろう。
「……アレを使うしかないか」
僅かに視線を落として深く呼吸する。指先がコンソールパネルを滑ると日乃和軍の戦術データリンクを間借りし広域通信回線を開いた。
「大鳳へ、補給と整備に感謝する。こちらは直ちに再出撃し、目標に向けて突撃を試みる。リニアカタパルトを使わせて貰うぞ」
『了解致しました。ですが単機で向かわれるのでしょうか? 間も無く白羽井小隊も補給を終えますので、それまでお待ち頂いた方がよろしいのでは?』
最初に返って来た声は結城のものだった。拓也は首を横に振る。
「いいや、今は一刻でも惜しい。敵の再生能力を上回るには絶え間なく強力な打撃を与え続ける事が不可欠だ。それに――」
暫し言い淀んだ拓也は画面に浮かび上がるインフォメーションメッセージを見て僅かに顎を引いた。
「俺とリーパーには切れる札がある」
『切れる札……?』
那琴が通信越しに訝しげに問う。合成音声が『リーパーシステムスタンバイ』の旨を発したのと同時に、リーパーキャバリアのセンサーカメラを始めとする発光部分が真紅の煌めきを走らせた。
『まさか!?』
拓也が何らかのシステムを作動させた事を悟った那琴が反射的に声を上げた。恐らく愛宕連山で見たものと同じであろう直感は寸分の狂いなく的中していた。
『お待ちください!』
リニアカタパルトに両足を固定されたリーパーのコクピットの中で、拓也は操縦桿を握る五指に力を込めた。
『待たない。悪いが葵大佐との約束があるんでな。君達を死なせないで欲しいと』
投射機構への荷電が完了を知らせるメッセージがモニターの片隅に表示される。肺を空気で満たすと戦意を乗せて叫んだ。
『防人拓也、リーパー出るぞ!』
強烈な重力加速度が身体を操縦席に押し付ける。食い縛った歯が軋む。大鳳の飛行甲板から弾き飛ばされたリーパーキャバリアは瞬時に最高速度に達し、海面に白波の跡を残しながら激浪へと文字通りに突撃する。
「流石に出迎えが手荒だな!」
海水を超高圧縮した極太の奔流砲が真正面から迫る。拓也は操縦桿を傾けてフットペダルを強く短く踏み込むとリーパーの姿勢を横方向へと逸させた。すぐ側面を凄まじい破壊力を纏った水鉄砲が通り過ぎて行く。その衝撃波は装甲越しに拓也の肌にも伝わっていた。
「小手先の威力では通用しない。ならば!」
リーパーは奔流砲を躱しながらビームライフルを連射する。マグナムモードで発射された火線は素直な軌道で激浪の装甲に着弾する。だが小口径放水砲を破壊しただけに留まり、本体への明確な損傷を与えるには至らない。
「硬い……違うな、再生力が高過ぎるのか」
引き換えに数十発の対空放水砲に曝される。システムによって爆発的に引き上げられた機動性と反応速度を以って鋭角な回避運動を繰り返すも、次第に綻びが生じ始めた。
「遅れているな……やはり応急処置では……!」
ほんの一瞬だけ、バーニアノズルの噴射反応が拓也の操縦に間に合わなかった。コクピットブロックに直撃する射線の対空放水砲が伸びる。リーパーは姿勢制御による強引な回避で軸をずらし、コーティングシールドで受け流そうとする。だがシールドに対して直角な射角であったために衝撃をまともに受けてしまう。弾き飛ばされたリーパーへ更に幾つもの水の光線が伸びる。拓也の表情が苦々しく歪んだ。
『ダメ!』
視界に入り込む巨影。それは白羽井小隊所属のイカルガだった。リーパーの後に続いて出撃し追いついて来たようだ。弾かれたリーパーを庇い立てするべく我が身を盾に前に出る。
「フェザー08か!? 止せ!」
『うあっ!?』
半ば無理矢理に姿勢を立て直したリーパーが高速の回し蹴りを見舞う。脚部のスラスター制御を駆使した強烈な打撃がイカルガの脇腹を直撃、火花を散らして蹴り飛ばした。直後に水の光線の暴雨がリーパーを襲う。
「こんなものでは……!」
コクピットだけはシールドで防ぎ防御体勢を取る。左肩が貫かれた。関節駆動部から下を保持していた盾ごと丸々喪失した。他の部位も大小あれど損傷を受けている。されど拓也はむしろ胸を撫で下ろしていた。
『なんで!?』
庇い立てに入った筈が逆に庇われる結果に終わったフェザー08のイカルガから抗議とも困惑ともつかない声が上がる。
「何度言わせる? 俺は大丈夫だ。それに、さっき言った事を聞いていなかったのか?」
なおも苛烈な対空放水砲の連射は続く。リーパーは損壊しながらもシステムの恩恵で身を躱し続けられているが、イカルガはかなり危うい様子だった。これ以上時間を掛ければ白羽井小隊に死人が出ると悟った拓也は、リーパーを激浪に向けて再度最大加速させる。
「全く……世話が焼けるお嬢様だ!」
限界まで踏み抜かれたフットペダル。リーパーの機体各部に備わるバーニアノズルが一斉に噴射炎を吐き出して莫大な推力を生じさせる。浴びせられる放水砲を微細な挙動を連鎖させて紙一重で躱す。残された右腕部でマグナムモードのビームライフルを撃ち続ける。着弾するたびに火球が膨れ上がるもやはり決定打には届かない。Eパックが空になると投機、引き換えにビームサーベルを抜き放った。
「切り裂いてみせるさ……!」
自己の損傷を顧みず、加速を伴った状態で激浪へと体当たりし、足のイーグルクローを激浪のナノクラスタ装甲に食い込ませる。すぐに装甲は修復されるも、食い込んだ爪はそのままだった。
「これでいい。荷重を最大限に乗せられる!」
機体内にアラートが喧しく鳴り響く。システムダウンまでの時間が近い。拓也は右の操縦桿を限界まで引き戻すと、トリガーキーを握り込みながら前に押し出した。リーパーの片目から血の色をした光芒が灼熱のように走ると、ビームサーベルの刃が何倍にも伸長した。機体全ての駆動部から凄まじい唸りを立ててハイパービームサーベルを振り回す。それは斬るというよりも殴り付けていると表現した方が正しい動きだった。
「やってみせろ! リーパー!」
拓也が渾身で叫ぶと青い死神が怒りで応えた。横に薙ぎ払い、縦に振り下ろす。限界超過の出力で繰り出されたビームの斬撃が激浪の修復能力を上回って装甲を断ち切った。巨躯を横断する十字の切創。機海獣が呻き声のような稼働音を轟かせて身をたじろがせた。そして拓也が座すコクピット内から光が失せる。
「ぐ……限界か!」
リーパーシステムが稼働限界に達し、一時的に機体の機能が停止する。激浪の背中から放り出されたリーパーキャバリアはそのまま遠浅の海に吸い込まれるようにして落下し始めた。
『なんでそんな無茶ばっかり!』
海面とリーパーの間にイカルガが高速で割り込む。機体の胴を抱き抱え、激浪の側近から即座に離脱する。更にもう一機のイカルガが横から支えの補助に入った。いつの間にかリーパーは編隊を組んで海面を滑空する白羽井小隊の只中に居た。
『もしもし防人さん!? 防人さんってば! ヤバイよナコ! 返事しない!』
『こちらフェザー01! 拓也様! リーパーの方! ご無事なんですの!? 応答してくださいまし!』
『どうしよ……死んじゃったの!?』
不安げにひたすら呼び掛けを繰り返す白羽井小隊。ひょっとしたら先のシステム起動の負荷で死んでしまったのではないか。そんな不安が色味を濃くし始めた矢先、リーパーのコクピットハッチが開かれた。
「……勝手に殺すな。システムが落ちて通信装置が作動しなかっただけだ。この通り、まだ生きてる」
拓也は上半身を外に乗り出させると、加速による強烈な風を真正面から受けながら手を弱々しく振ってみせた。
『よかったぁ……』
フェザー08を始め白羽井小隊に安堵の溜息が広まる。
『こちらフェザー01、一旦大鳳に帰投致しますわ。まさか、まだ大丈夫だなんて仰りませんわよね?』
拓也は肩を竦ませて首を横に振った。
「了解だ。今やれる仕事は果たしたさ。これ以上リーパーを痛め付けてやる訳にもいかんしな」
横目で見た激浪の巨躯には、先程刻んだばかりの十字が赤熱して残っていた。黙する奥で満身創痍のリーパーキャバリアを労いながら一時後退の路に着く。一太刀以上の痛手は与えてみせた。これで多少なりとも白羽井小隊が生き残る可能性も上がっただろう。
拓也は因果の鎖を繋いだ。鎖は間も無く終焉へと結ばれる。だがそれはまだ誰も知らない。拓也も、那琴も。積み重ねた戦いの末路が勝利と悲壮と復讐に行き着くその時、拓也はどのような答えを選ぶのだろうか。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
海戦ステージなのでゲ…ポセイドンを創造しようと思っていたでこざる、が
やめました
これの乱用は決して許されないンDA!
東雲機の肩の上の景色は譲らないでござる…!拙者はサポート要員でござるからね!
ほーん…水陸両用の局地戦機…だが本質は水中戦用だな、なら局地戦でなくしてしまえばいいって事ジャンッ!
Intelligence溢れる拙者の大技!呪文はヤキュウガデキテタノシイナ!戦場の海を【地雷だらけ】の陸地へと変換でござる!
フィィィィッシュ!!これでアイツはKarpfen auf einem Schneidebrettですぞ
おっと東雲氏他は迂闊に動くと危ないですぞ、見たまえアレをピチピチ跳ねてるだろ?
無駄に図体でかいから枠からはみ出て地雷を踏みまくってるんでござる
水もない陸じゃ回復も自慢の水鉄砲もできまいて
小隊各機は距離をとって撃ちー方始めー!全弾撃ち終わったら離脱じゃーい!そういや東雲氏、マインスイーパって得意?
…冗談でござるよ帰り道はちゃんと解除しますぞ!その顔が見たかった…慌ててる可愛い顔が…!
●地雷おじさん
太陽が僅かに西に傾いて空に緋色が差し始めた。遠浅の海岸に乗り上げた大型特殊兵器、激浪に艦砲を含めた様々な攻撃が降り注ぐたびに、海面が爆轟に震え慄く。
『結局最後まで肩に乗り続けるのですわね……』
那琴の表情に引き攣った色が滲む。海面を匍匐滑空する白羽井小隊の隊長機のイカルガの肩にはやはり髭面の彼が居座っていた。
「東雲機の肩の上の景色は譲らないでござる……! 拙者は精神いやユーベルコードタンクでござるからね!」
『強化パーツみたいですわね』
腰掛けている機体は最大加速でなくとも時速数百kmほどの速度が出ている。にも関わらずエドゥアルトは涼しい顔のままだった。
『間も無く敵の射程圏内ですわ。振り落とされないよう気を付けてくださいまし』
「オーケーオーケー、オーケー農場!」
多面的な意味で言うだけ無駄だと分かってはいるが形式上は取り敢えず注意を促す。言葉通りに敵の攻撃はすぐに始まった。海面を這うように滑空するイカルガ達を撃ち落とそうと小口径放水砲より水の光線が幾つも伸びる。白羽井小隊のキャバリアはそれぞれに回避運動を繰り返す。エドゥアルトは言わずもがな、その場に溶接されているかの如く肩に居座ったままだ。手を庇に遠方の激浪の様子を伺う。
「ほーん……水陸両用の局地戦機……」
『何か策でもおありで?』
髭面に凄まじい笑みが浮かんだ。
「海上ステージだしここはゲットなスーパーロボットのポセイド――」
「おやめくださいまし!」
またしても名前を言ってはいけない三段変形機構を有したスーパーロボットが飛び出す寸前で那琴が遮った。
「ダメ!?」
『よろしい訳がおありですか!』
「そう? じゃあ代わりに水中で使えるケンプ……」
『もっといけませんわ! それにその機体は水中の地形適性はなくってよ!』
「では止めるでござる。それはそうとして、あのキャバリアーマーの本質は水中戦用ですぞ」
激浪は実際エドゥアルトの見立て通りに海洋での運用が大前提だった。陸に揚がれるというのは敵地制圧に関わる物のついでといった側面が強い。その点については那琴も同じ視点を有していた。
「つーまーりー! なら戦場を水周りでなくしてしまえばいいって事ジャンアゼルバイジャンッ!」
『それはそうでしょうけど……どうするのです?』
そう言い終えた途端に那琴は反射的に自分の口に手を当てていた。そんな那琴にエドゥアルトは凶悪な笑顔で視線を送る。口は災いの元。またしても狂気が始まった。
「Intelligence溢れる拙者の大技! 呪文はヤキュウガデキテタノシイナ!」
『今度は何をなさるおつもりなんですの!? また物理法則を滅茶苦茶にするおつもりですか! それとも漫画時空ですか!?』
違う違うとエドゥアルトは立てた人差し指を左右に振る。
「拙者が先程申したでござろう? 水周りじゃなくしてしまうんでござるよ! さあドキドキ地雷パニックの始まりだ!」
『地雷!?』
沙綿里島西海岸一帯の色が鮮やかな青から旧いオペレーションシステムのパーソナルコンピュータを想起させる地味な灰色へと変貌する。そして直線が縦横に走り無数の正方形の升目が現れた。最早その場は海ではなく、コンクリート造りの床に似た何かと化していた。激浪は完全に陸へと打ち上げられてしまった。
「フィィィィッシュ!! 奴はまな板に上げた猛者サウルスでござる! 今夜は海上最強のステーキだぜ!」
『なんですその大物を釣り上げたグランダーか奇跡のジムの名で呼ばれるアングラーのような叫びは!』
当然ながら陸に揚げられた激浪はナノクラスタ装甲の再生触媒も攻撃に必要な海水も吸水出来ない。エドゥアルトの意図は兎も角として、これを好機と見た那琴以下白羽井小隊は攻撃を行おうと接近を試みる。しかしエドゥアルトの手がそれを制した。
「ステイ! ステイ!」
『なんです!?』
「迂闊に飛び込むと危険が危なくてかなりデンジャーですぞ!」
エドゥアルトが激浪を指差す。盤面に乗せられたそれは鰭状の前足と後ろ足で這いずり海に還ろうとしていた。
「奴の足元をよーく見てみるんだ」
『足元?』
那琴は促されるままに激浪の足元を拡大表示し注視する。正方形の升目が凹んでいる事に気が付いた。
『床が引っ込んでいるように見えますわね』
「ポンピーン!」
『それがどうかされたのです?』
「そういや東雲氏、マインスイーパって得意?」
唐突な切り替わりに那琴は両目を瞬かせた。
『マインスイーパって……地雷が埋まっている箇所以外のマスを当てるゲームですわよね? あまり得手とは言えませんわね。わたくしはピンボールの方がこの……』
そこまで言い掛けたところで那琴は気が付いた。いま沙綿里島の西の海を覆い尽くしているこの灰色の床はどこかで見覚えがある。
『まさか……』
「そう……ここはマインスイーパ会場そのもの。海上だけに」
爆音が耳朶に轟く。発生元を辿れば激浪が足元から生じた幾つもの炎と黒煙に見舞われていた。大型過ぎる図体が災いして地雷が埋設されている升目を踏み抜き続けているらしい。吹き飛んだ装甲を修復しようにもリソースとなる海水はどこにも無い。
「ほらほら! 今がチャンスですぞ! フルアーマー猛者サウルスは攻撃できない回復できない! 小隊各機は距離をとって撃ちー方始めー!」
『何故か釈然としない気がしますけれど……確かに好機ですわね! フェザー01より白羽井小隊全機へ! 攻撃開始!』
イカルガ達は地雷の連鎖爆発に曝されている激浪を取り囲み、無反動砲を撃ち込み誘導爆弾を投下する。強味の海水の恩恵を完全に喪失した激浪側は迎撃も再生も叶わず、重火力兵器の直撃をまともに浴びる羽目となった。巨躯が爆炎に埋め尽くすされる頃には白羽井小隊の総残弾数はほぼ底を尽いていた。なおエドゥアルトは那琴のイカルガの肩部に留まり、両手を銃の形にして撃つ真似事をしている。
『弾切れですわ!』
「十分でござるな。全機離脱じゃーい! 急げ急げ!」
煽るエドゥアルトに応じて白羽井小隊がそれぞれに激浪との交戦距離から遠ざかる。弾薬を補充して再出撃するべく大鳳への帰投の路に着いた。眼下を流れる灰色のタイル。ふと那琴は重要な点に思い付いた。
『もし、こちらの盤面は元の海に戻せるのでしょうね?』
何気ない問にエドゥアルトの表情が固まる。
「そりゃあ勿論」
『ならいいのですけれど』
「クリアしたらね」
『そうなりますわよね。ってはいいいぃぃぃ!?』
那琴のみならず白羽井小隊全員から悲鳴とも怒気とも付かない叫びが上がった。エドゥアルトが改編したリアルマインスイーパ会場は地平線まで続いている。
『これを全部やれと仰るのですか!?』
「床の数字は周りにある爆弾の数を示しています。上手く避けましょう。右クリックで旗マーク……」
『おふざけでなくってよ! この地雷原をどうなさるおつもりなんですの!』
「冗談でごさる! ちゃんと解除するから! その顔が見たかった! 慌ててる可愛い顔が!」
『わたくしで遊ばないでくださいまし!』
「やっぱり折角だからやってかない? マインスイーパ」
『お断りですわ!』
黄色い声で喚く那琴をエドゥアルトが下衆めいた笑顔で宥める。最終的にはこの地雷原は撤去されるのだが、エドゥアルトは那琴の神経が限界に達するまで渋り続けていた。
大成功
🔵🔵🔵
ティー・アラベリア
相変わらずオブリビオンの能力は常軌を逸していますね
無論、奉仕人形たるもの、いかなる敵、いかなる状況であろうと対応は可能でございます
まずは自己再生能力を奪って差し上げましょう
属性発現を氷結に変更、目標は機動殲龍にあらず。その周囲の海水でございます
砲撃妖精達に凍結域を指示し、着弾時間を調整。隙間なく、時間差なく、海岸線を氷で閉ざしてご覧に入れましょう
修復と強化の仕組みを崩したとしても、相手が極めて強力な兵器であることに変わりありません
アフターサービスも万全を期しませんとね
問題はあの防空能力。ハリネズミのような兵装を叩くのは勿論、友軍のためにFCRを潰しましょう
探信儀と目視での観察でFCRの位置を特定し。自律飛翔魔槍を投擲しレーダー網の一角を破壊
同時に90式を用いて機体そのものにダメージを与えると同時に、周囲の防空兵装を破壊。敵の防空可能域の一角を削り取り、キャバリアの攻撃侵入可能方位や最適なを加えて友軍に共有
成功体験は大切です。今後を考えて、決着は日乃和の皆様にお任せするのが良いと思いまして
●氷獄
青く輝く海原に爆ぜる業火。注ぐ銃弾は初夏の暴雨の如し。されど激浪の巨躯は尚健在だった。修復速度を上回る痛手、或いは封殺された上で砲火に曝され続けても攻勢を緩める様子は無い。
「相も変わらず、オブリビオンの能力は常軌を逸していますね」
斯く言う奉仕人形が内包する機能も常人からしてみれば逸脱していると言っても過言では無い。海面を滑るティーの足元から反重力機構が生み出す斥力場の光が軌跡を残す。海を疾る潮風を受けて淡い黄金色の髪が踊る。
激浪の背を覆う対空放水砲より幾つもの細長い水流が噴射された。反認識機構で探知を遮断しているティーを直接狙ったものではないが、全方位に及ぶ攻撃は一定範囲内の対象物全てに分け隔てなく注いだ。対空防御を目的とした兵装ではあるが威力は致命的だ。
「損傷は嵩んでいるとお見受けしますが、いやはやまだ御元気なご様子で」
それでこそ叩き甲斐があると、ティーは含む微笑を浮かべて身を翻す。超高圧縮された海水の光線が側近を過ぎ去った。右へ左へと滑らかな軌道を描いて放水砲の無差別砲撃を掻い潜り激浪との距離を縮める。宙に舞う水の飛沫が靡く髪に触れて弾け散った。
「やはり、海上に留めておけば千日手となりましょうか」
見立ては付けていたが、直に交戦すると否応無しに実感が増す。海水に浸かっている限り激浪の攻撃は緩む事はなく、再生能力が止まる事は無い。そして激浪、或いは激浪に寄生したオブリビオンマシン自身も機体の圧倒的優位性はそこにあるものと理解しているらしい。さもなくば海上に留まり続ける理由も無いだろう。逆に言えば陸に揚げてしまえば攻撃手段と再生能力の脅威は希薄となる。やがてティーは激浪との相対距離を中ほどまで詰めると、海面を滑りながら片腕を擡げて開いた手のひらを激浪に重ね合わせた。
「砲撃妖精躍進射撃。機動殲龍に氷縛の呪戒を」
涼やかな声音が微かに溢れる。するとティーの足元より次々に妖精型自律戦闘端末が放出され始めた。その総数は優に500を超える。ティーが征けと腕を払うと砲撃妖精の群れは即座に散開し、激浪の周囲の空間を埋め尽くした。当然対空放水砲による迎撃が待ち受けているが、小型な妖精を撃ち落とすにはあまりにも口径が大き過ぎた。仮に数機が撃墜の憂目に遭っていたとしても恐らくティーの目論見にさしたる影響は及ぼさないだろう。
「全砲撃妖精、凍結砲弾一斉発射」
母機の命令を受けて妖精達が同時に砲弾を放つ。青白い絶対零度の球体は激浪自身では無く周囲の海面へと降り注いだ。球体が海面に触れた瞬間、時間が停止したかのように小波が凍て付き、青い海は寒々とした白に変色する。海岸沿いの海域一帯が氷河と化し、激浪は吸入する海水を喪失したどころか吸入済みの海水まで凍結させられた事で攻防共に著しい障害を受けた。
「初手は良好、ですが奉仕人形としてアフターサービスも万全を期しませんとね」
攻撃機能が麻痺したとは言え完全とは言えない。実際にまだ対空放水砲の幾つかは機能を果たしている。ティーは激浪を俯瞰出来る程度に飛び上がると、片方の掌の上にホログラフィックウィンドウを展開した。これは髪飾りの姿形を採る92式魔導波探信儀で得られた情報を視覚的に表示するものだった。ティーが探す対象は激浪のFCR――火器管制電探。複数の艦艇から放たれる砲撃を悉く撃ち落としている現状からして相当な防空能力を有しているのだろう。だからこそ無力化してしまえば得られる戦果は大きい。いま現在激浪の対空能力を飽和させる為だけに継続されている牽制射撃がそのまま効力射になるのだから。
「なるほど、発見致しました」
ティーの口角が強かに吊り上がる。探信儀が傍受した電波の元を辿ると激浪の背面の中央に行き着いた。そこだけ対空放水砲が生えておらず平面なパネルが配置されている。あからさまなレーダー装置を視認したティーはホログラフィックウィンドウを消失させると片手でスカートの裾をたくし上げ、もう一方の手で内部を弄った。
「確かこのあたりに……ありました」
指が棒状の物体を捉えた。スカートより引き抜かれたそれは因果歪曲型自律飛翔魔槍。明らかに裾の長さどころかティーの全高と同等かそれ以上の長身を有しているが、しかしどのように収納されていたかなど問題にはならない。ティーは魔槍の中程を握ると指先だけで数度回して見せて、投擲の構えをとった。狙うは激浪の背面にあるFCR本体。魔槍を投擲したティーの動きは日頃の嫋やかな動作からは想像し難いほどに速く鋭い。空気が裂帛したのとほぼ同時に魔槍が激浪の背面に突き刺さり、そして胴を貫通して横腹から外界へと抜けた。一拍子遅れて貫徹した箇所から爆発が生じて装甲と内部機構が弾け飛ぶ。
「FCRの破壊を確認……あとは下準備を整えて仕上げと致しましょうか」
魔槍を引き抜いた時と同じようにして90式爆縮破砕型魔杖を抜き放つ。内部を貫かれた衝撃で身を悶える激浪を見詰める瞳の奥に爛々とした潤いが宿る。突き付けた杖の穂先に凝縮した赤熱の魔力粒子が細長い光線となって伸びた。照射された光は激浪の背面装甲に到達すると対空放水砲を直撃、溶解させた後に爆縮現象を生じさせた。ティーは照射を継続した状態で90式を握る腕を上下左右に細かく動かす。激浪の背をなぞる熱線が次々に砲塔を破壊し、砲身に埋め尽くされた針鼠のような背を禿山に転じさせた。
「この程度で十分でしょう」
対空防御の半分程度を削り取ったティーは90式の照射を終えて緩慢に高度を落とすと海面へと足を付けた。そして内蔵する指揮通信機構を介して日乃和軍の三笠へと回線を開く。戦術データリンクを介して激浪の防空能力喪失範囲の情報を送り付けると続けて砲撃を要請する。ティーの攻撃能力であればこのまま直接打を与える事も不可能では無い。だがその役回りは敢えて日乃和軍へと譲渡した。
「ボクはご覧の通り、あくまでも奉仕人形でございますので。それに、成功体験は大切でありましょう?」
最後にそう言い終えるとティーは通信を終えた。眠たげにも見える双眸に唇が緩い笑顔を作る。多数の砲弾が空気を引き裂き、誘導弾がロケット噴射の音を引き連れて激浪へと殺到する。直後に連鎖する赤黒い爆轟。激浪を様々な火薬の炎が埋め尽くした。続けて日乃和軍のイカルガが誘導爆弾投下の一撃離脱を重ねる。
「此度の戦いで幕引きとはいかないのでしょうからね。例え決戦が間近だったとしても……」
対外的な感情を貼り付けたティーの顔に爆風の余波が吹き付ける。硝子玉のような青い眼差しは、氷獄に縛り付けられた激浪が業火に包まれる有様を映していた。
大成功
🔵🔵🔵
セレーネ・ジルコニウム
【ガルヴォルン】
「くっ、巨大キャバリアですか……
こんな時こそストライダーの出番なのですが……」
最後の通信以降、ミスランディアからの応答はありません。
ストライダーも完全に沈黙しています。
ミスランディア、もしかして……
「いえ、今はあの『激浪』を何とかするのが先です!
私が指揮をしますので、シャナミアさん、よろしくお願いします!」
スティンガーⅡの戦術リンクシステムを起動!
【ガルヴォルン・フォーメーション】で機体を連携させて攻撃を行います。
私も近接装備のままのスティンガーⅡで『激浪』に挑みますが……
放水砲による攻撃で近づけません!?
こんなことなら長距離攻撃用のフレームにしておけば……
「それに、ミスランディアのサポートがないので、私だけでは戦闘しながら戦術リンクシステムの制御ができません……!」
私、ミスランディアにいっぱい助けられていたんですね……
「って、この声は……ミスランディア!?」
もう、心配させるんですから!
ミスランディアがいれば百人力です!
「施設軍事組織ガルヴォルン、任務開始です!」
ミスランディア・ガルヴォルン
【ガルヴォルン】
『やれやれ、セレーネの無茶な指示にも困ったものじゃの。
ストライダーは……修理するまでは航行不能じゃのう。
とはいえ、わしがおらんとセレーネが心配じゃしな』
仕方ない。非常用のレプリカントのボディを起動させ行動じゃ。
わしはセレーネのサポートに回るとしよう。
「さて、使えそうなのは……
ストライダーの格納庫にある量産型キャバリアの試作機『ストレイワン』が数機に……
ストライダーのミサイルのマニュアル発射ならできそうかの」
【キャバリア・コントロール】で『ストレイワン』たちとデータリンクを確立。
セレーネの援護に出撃させよう。
「セレーネよ、聞こえておるか?
おぬしではスティンガーⅡの操縦とデータリンクの制御を両方おこなうことはできんじゃろう。
データリンクの方はわしに任せ、おぬしは操縦に専念するのじゃ」
『ストレイワン』を遠隔操作し、さらにストライダーからマニュアル操作でミサイルを発射じゃ!
航行不能になっているストライダーの射線上に敵を追い込んだら、超重力波砲を叩き込んでくれよう。
シャナミア・サニー
【ガルヴォルン】
でかっ!?そういうことする!?
いや、そんなこと言ってる場合じゃない!
たぶんミスランディアなら放り出してくれてるはず……
あったー!メインウェポンコンテナ!
問題は何が入ってるかだけど…シールドか!
でもこれで【メインウェポン・チェンジ】できる!(装甲↑、攻撃力↓)
大佐、こっちも準備できた、指揮よろしくっ!
レッド・ドラグナー、突っ込むよ!!
敵機の放水砲は私に任せて!
放水砲に合わせて盾を上に弾く角度に調整
盾をアンカー代わりにしつつ
電磁装甲、フル稼働!!
水ってんなら電流による蒸発で削れるでしょ!
レッド・ドラグナーのエネルギー、全部持ってけー!!
って、本当に持ってく普通?!
大佐ごめん、後一発が限界かもー!!
その間に作戦…っていやこれ電磁装甲の機構の方が持たないか!
2発目は…盾をオーバーロードさせて
その爆発で相殺するしか!
盾無しで突撃は自殺行為だよねえ?
って、お?お?
勝ち目が見えてきた感じ?
それなら乗っかるとしよう!
大佐、改めて指揮よろしくどうぞ!
標準兵装で砲塔を潰しにいくよ!
●巨鯨復讐す
エヴォルグの侵食弾によって制御系を乗っ取られたとされる巨大兵器、激浪。その巨躯は猟兵達と日乃和軍双方の苛烈な攻撃を受けて傷付きながらも未だ威容を放ち続けている。オブリビオンマシンとしての性質がそうさせるのだろうか、滅ぼすか滅びるかのどちらか一方に行き着かない限り破壊が止まる事は無い。
「くっ、まったくとんでもない代物を敵に奪われてしまいましたね……!こういう曲面でこそストライダーの見せ場なんですが……」
スティンガーⅡの操縦席の中でセレーネは歯噛みする。レーダーマップ上に表示された母艦の光点は微動だにしない。所在の方向へ視線を流すと、防壁にめり込んだ状態で横たわるストライダーの船体が在った。先の市街戦の最中に激浪の放水砲を受けたらしい。何度も呼びかけてはいるがミスランディアから返答は無く、艦の機能の多くも沈黙したままだった。爆発四散轟沈の目には遭っていないものの、主観機能と統括人工知能であるミスランディアが破壊されたか――脳裏に浮かんだ最悪の事態を首を振って掻き消した。
「指揮は引き続き私が行います! シャナミアさん、よろしくお願いします!」
今すぐにでも安否を確認しに行きたいところだが現状で最優先されるべきは激浪の対処であると、セレーネは務めて感情を押さえ込む。
「ちょっと待ってて! たぶんあるはず……」
シャナミアのレッド・ドラグナーはストライダーの周囲に散乱した残骸を漁っていた。折り重なる鉄板を押し退けると大型のコンテナが露となる。
「あった!」
喜色を含んだ声が上がり、続けてコンテナのサイドパネルが展開された。
「なんですか? 補給コンテナ?」
スティンガーⅡを歩み寄らせたセレーネが怪訝に問う。
「いや、メインウェポンコンテナ。ストライダーが墜ちる前にミスランディアならきっと射出してくれてると思ってたけど、やっぱりね」
肝心の中身をレッド・ドラグナーが物色し始める。重火器類が満載されていたが多くが落着の衝撃で損壊していた。それらを放り出して奥底に埋まっている平面体を引き出した。
「使い物になるのはシールドだけか。ま、これでユーベルコードの触媒にはなるけどさ」
コンテナの中に残されていたのは巨大な実体盾、エレクトロマグネティック・カウンターシールド。盾というよりも壁と形容した方が近いそれをシャナミアはレッド・ドラグナーの両腕で保持させる。
「よし、こっちは準備完了だよ!」
「了解です。それでは……」
レッド・ドラグナーとスティンガーⅡが同時に遠浅の海岸から迫る巨大キャバリアへと向き直る。激浪は対空放水砲で誘導弾や艦砲を撃ち落とし、頭部と背面に備わる大口径奔流砲で海岸線を薙ぎ払い洗い流す。まともに撃ち合っても勝ち筋は薄い。だが搦手が使える状況でもない。セレーネは幾度も思考を逡巡させる。
「こちらの現状の戦力で採れる手段は一撃離脱しか無さそうですね」
「だろうねぇ、ストライダーが動けるなら話しは別だったんだけどさ」
シャナミアの言葉にセレーネは無言で浅く頷く。超重力波砲ならば激浪に対しても有効な痛打を与えられたであろう。だが今のストライダーはミスランディアと共に黙して沈んだままだ。
「対空防御の薄い正面よりレッド・ドラグナーを先頭に突撃、接近して頭部奔流砲を同時攻撃。これで如何でしょうか? シャナミアさんには危険な役割を任せてしまう事になりますが……」
「まあ何とかなるでしょ。そういう危ない時の為のシールドもあるし」
シャナミアは半ば致し方無しといった口振りで肩を竦ませた。
「ありがとうございます。行きますよ!」
「レッド・ドラグナー、突っ込むよ!」
鋼の赤竜がドラグナー・ウィングより推進噴射の光を爆ぜさせる。同時にスティンガーⅡも砂の地表を蹴り出して跳躍バーニアノズルを輝かせた。先頭を進むシャナミアのレッド・ドラグナーの後にセレーネのスティンガーⅡが続く。匍匐飛行で猛進する2機の後では左右に引き裂かれた海面が白波を立てていた。
激浪の迎撃は2機を射程圏内に捉えた瞬間から即座に始まる。側面や背面よりまだ良いとは言えども小口径放水砲の応射は激しい。
「来たよ! 絶対にレッド・ドラグナーの影から出ないで!」
「了解です!」
レッド・ドラグナーは角度を付けて構えた大盾で水の光線を跳ね除けながら突き進む。その背後に張り付くようにしてスティンガーⅡがレッド・ドラグナーの僅かな機体制動に合わせて姿勢制御用スラスターを小刻みに噴射する。更に詰まる間合い。激浪が顎を開いた。内部に収納されている砲身に海水が収束され光を放つ。
「シャナミアさん! 奔流砲が来ます!」
「ちゃんと見えてるよ!」
だがレッド・ドラグナーに回避運動を取る兆候は見られない。シャナミアは機体の直線加速を維持している。そして放たれる奔流砲。荷電粒子のような様相の水の柱がレッド・ドラグナーとスティンガーⅡを飲み込んだ。
「電磁装甲! フルパワーでぇぇぇ!」
奔流の最中、レッド・ドラグナーは大盾を構えた状態でなおも突き進んでいた。盾の表面に展開された分厚い電磁障壁の層が海水と衝突し合い互いに打ち消し合う。目を灼く凄まじい明滅が止むのと同時に奔流の放射が終わった。コクピット内に警報が鳴り響く。
「げ! エネルギー全部持ってかれた!」
エレクトロマグネティック・カウンターシールドが展開した最大出力の防護障壁は激浪の奔流砲の照射を完全に受け流したものの、機体に課した代償は生半に少なくない。シールドに蓄えられていた電力だけでは事足りず機体からも供給を行ったのだが、先の一撃を防御するだけでエネルギーの残量が危険域に達してしまったのだ。
「大丈夫なんですか!? やはり無理がありましたか……!」
セレーネの言葉尻にも焦燥の色が濃く滲む。
「シールドをオーバーロードさせればあと1発はなんとか! でもごめん! 次ので本当に最後かも!」
激浪までの距離はまだ遠い。奔流砲の発射インターバルを考慮するならば最低でも残り2回分は防御の手を残しておきたいところだった。そして早くも最後の1発分の使用を強いられる事態となる。
「また来ます!」
「早くない!?」
レッド・ドラグナーは止む無く防御の手札を切らされた。奔流砲の直撃に合わせて電磁障壁を展開。見る見るうちにエネルギー残量を示すゲージが減少し始める。打ち付ける強烈な圧力が腕部伝いに操縦席にまで伝わった。
「限界か!」
奔流砲の照射が終了する直前で盾の電磁障壁機能の出力制限を解除し超過駆動、一瞬の限界防御の後に過電流に耐えきれなくなった大盾は爆散した。
「危なっ!」
あと僅かにでも耐えられる時間が短ければレッド・ドラグナーはスティンガーⅡ諸共水圧に押し流されていたであろう。だが危機が去った訳ではない。いまだ激浪との交戦可能距離は距離は開いているままだ。
「シャナミアさん! 作戦変更です! 側面から回り込みましょう!」
「放水砲が鬱陶しいけど仕方ないか……!」
2機は機体の姿勢を傾斜させて激浪の正面から軌道を逸らす。側面に回ればすぐに夥しい数の小口径対空放水砲の洗礼が待ち受けていた。スティンガーⅡとレッド・ドラグナーは編隊を解消し左右への回避運動を繰り返す。
「弾幕が厚い……! こんなことなら長距離攻撃用のフレームにしておけば!」
スティンガーⅡは回避と回避の僅かな隙間を縫って苦し紛れにビームダガーを投擲する。刃は激浪に到達する事無く海面に落ちて水中に没した。もしストライダーが、ミスランディアがいてくれたら今頃は――シャナミアにリスクを強いる事も無かっただろう。
「私、ミスランディアにいっぱい助けられていたんですね……」
立ちはだかる現実の壁と無力感に打ちのめされたセレーネが、硬く操縦桿を握り込む。一層の激しさを増す対空砲火に苛まれ、スティンガーⅡの装甲が削り落とされる。最早撤退か強行突入か、二者択一を迫られつつあった矢先、レーダーマップ上でストライダーの光点より複数個の光点が生じた。それはミサイルを示すマーカーだった。
「え!? ストライダーが!?」
咄嗟にセレーネは機体の頭部をストライダーの方向へと向けた。低空を滑空するミサイルの爆煙の尻尾は確かにストライダーから伸びている。
「セレーネよ、聞こえておるか? これよりミサイルとストレイワンで支援する。体勢を立て直すのじゃ」
「ミスランディア!」
「生きてたの!?」
通信機越しに聞こえた馴染みある声。セレーネとシャナミアが声を重ねる。ストライダーが更に発射した複数発の誘導弾が激浪に着弾し、黒煙と爆炎を膨れ上がらせた。
「生きてたならなんでもっと早く言ってくれないんですか! しかもあんな今世の別れみたいな捨て台詞を! どれほど心配したと思ってるんです!」
「レプリカントのボディにメインシステムを移しておったんじゃよ」
心配と怒気をないまぜにした感情を露わにするセレーネに対するミスランディアの語り口は何食わぬ様子で飄々としている。戦術データリンクを介した相互中継映像では、猫の耳を生やした白い軍服姿の少女が投映されていた。これこそがミスランディアの言うレプリカントの義体なのだ。
「とは言えストライダーは航行不能じゃぞい。その他諸々もまともに動かんの。まったく、我らが戦隊長の無茶にも困ったものじゃ」
「はいはい! 私が悪かったですよ!」
「大佐前見て!」
「ほわっ!?」
シャナミアに促されたセレーネが正面に視線を戻すと対空放水砲が目前に迫っていた。反射的にフットペダルを踏み込む。スティンガーⅡは横に瞬間加速して回避した。
「セレーネよ、この指定座標まで激浪を誘導するのじゃ」
セレーネとシャナミアのレーダーマップ上に新たな光点が表示された。この地点には何もない。2人は揃って首を傾げる。
「そこがストライダーの超重力波砲の射線となっておる」
「撃てるんですか?」
「手動照準かつ1射だけならの。ストレイワンも間も無く到着するぞい。ついでにスティンガーⅡとレッド・ドラグナー用の武器を持たせておいたから受け取るのじゃ」
ミスランディアの通達通り、編隊を組んだストレイワンが海面を滑走してセレーネとシャナミアの元に急行した。それぞれの機体は装備するランチャーからロケット砲を発射し激浪を牽制する。スティンガーⅡとレッド・ドラグナーは一旦後退しストレイワンと合流、各々に装備を受け取った。
「お、予備のツインバレルライフル持ってきてくれたんだ」
レッド・ドラグナーは予め携行していたものとストレイワンが届けたものとを左右のマニピュレーターで保持した。
「無反動砲ですか。これで幾らかまともに戦えますね」
スティンガーⅡも重火力兵装を装備し、いよいよ持って反攻の準備が整った。
「ストレイワンのデータリンクの方はわしに任せ、ふたりは戦闘と誘導に専念するのじゃ」
「分かりました」
セレーネが強く頷き深く呼吸する。そして眼差しに鋭い光を湛えて叫んだ。
「施設軍事組織ガルヴォルン、任務開始です!」
「はいはいっと!」
先陣を切るスティンガーⅡにレッド・ドラグナーが続く。2機の突入をストレイワンの編隊が重機関砲や無反動砲で火力支援を行う。そしてストライダーが数多のミサイルを降り注がせる。
「大佐! 砲台は任せて!」
レッド・ドラグナーが対空放水砲を鋭角な回避機動で躱し、ツインバレルライフルの応射を浴びせた。片方から放たれる弾体はビーム、もう一方は実体弾。矢継ぎ早に撃ち込まれる2種の弾が小口径放水砲を溶解させ或いは粉砕する。
「シャナミアさん! お願いします! ミスランディア! 私がレーザー誘導しますのでストライダーとストレイワンの攻撃を集中させてください! 押し込みますよ!」
激浪に限界まで接近したスティンガーⅡがセンサーカメラより誘導用レーザーを照射した。続けて無反動砲を撃ち放つとそれを合図にストレイワンが一点集中攻撃を開始、ストライダーの精密に誘導されたミサイルも重なり合った。凄まじい攻勢が生み出す数多の爆裂が激浪の巨躯を揺さぶり、誘導地点へ二歩三歩と否応無しに押し込ませる。そして遂に戦術目標とするストライダーの射線までの到達を果たした。
「もういいんじゃない!? 欲張るとロクなことにならないよ!」
レッド・ドラグナーがライフルの空になったマガジンをリリースすると機体の向きを反転させて急速離脱した。
「ミスランディア!」
装填されている弾の最後の1射を終えたスティンガーⅡが無反動砲を投棄して後退噴射を開始、ストレイワンの編隊も砲撃を行いつつ後退する。
「うむ、上出来じゃ。射線上に友軍機無し。超重力波砲……発射!」
ミスランディアがとどめの号令を言い放つ。ストライダーの艦首のハッチが僅かに浮き上がり後方にスライドすると、内部に格納されていた円筒状の巨大な砲身が露わとなった。それは新幹線の連結基部のように前面に迫り出して露出すると、砲身内部の多層ファンをそれぞれ逆方向に高速回転させ始める。収束された闇色の粒子が球体状に凝縮された途端、超重力の波動となって解放された。
極大の重力波は砂浜と海面を捲り上がらせながら直進、激浪を斜め前方より飲み込んだ。万物を分け隔てなく押し潰す絶対の法則と海水を触媒とする無限の再生能力が衝突し合う。動物がするようにして苦悶の咆哮のような音を立てる激浪。表面を覆うナノクラスタ製の装甲が、重力波によって圧壊し粉砕される。
数秒に渡る長い照射が終わった後、亀裂や圧壊の痕跡まみれとなった激浪の巨躯の各所から爆発と漏電のスパークが迸った。擡げていた頭部が海面に叩き付けられる。高く舞い上がる銀色の泡の飛沫。巨鯨が水竜に対して復讐を果たした瞬間だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メルメッテ・アインクラング
※真の姿変身使用
一瞬の眠気の後。髪は伸び、ドレスを着ていて。心も体も何故かとっても軽やかです
爆炎はまるで木漏れ日、喧騒は小鳥の囀り。誰かの呼ぶ声が、遠くから。
「なんて素敵な日でしょうか」うっとりと操縦を再開します
まあ、あれは?膨らんで、巨大なくす玉みたい。割れたら何が出てくるのでしょうね?
多量のブレードビットをぞろりと呼び、当てたら指定UCを発動。【念動力】で押さえ皆様にもご覧頂ける高度へ浮かせます
自機も一緒に飛び、突き立てた刃の一片とウィップを連結
「刀身展開、熱線出力最大!せーの!」
そのまま一気に引き下ろし【鎧無視攻撃】で熔斬します
きっと中からは煌めきが雨あられと降る事でしょう!
でも、私にはもっと違う、”果たすべき使命”があった、ような……
『――いい加減にしろ!!お前にはこの私のメイドとして生きる以外の使命など有りはしない!
戻って来いメルメッテ・アインクラング!私の名を呼べ、私はお前の何だ!?』
「ラウシュ、ターゼ……アインクラング、様……あるじ、さま。」
主様?あれ、メルは今まで、何を?
●無垢色の花嫁が滅びを告げる
ほんの僅かな微睡に、メルメッテは双眸の瞼を降した。時間の感覚をどこまでも引き伸ばされた意識が、宵闇色の海の底へとゆっくりと沈む。全身が重い液体に浸されたように動かせない。彼方で誰かが名前を呼んでいる気がする。その声の主が何者なのか思い出せない。けれどきっと決して忘れてはならない、忘れたくない誰か――私に光を見せてくれた貴方の。
薄く開いた視界が白で満たされる。折り重なる広葉の隙間から陽光が溢れ、何羽もの小鳥が囀りを奏でた。
「ここは?」
無意識に言葉が零れ落ちる。開いた両の手のひらを見れば、二の腕にまで及ぶ白い手袋が目に付いた。視線がその先を辿る。纏う白地の衣装は花嫁のそれだった。長く伸びた髪が潮風に靡く。何故、そしていつからこんな格好をしていたのか。そんな疑問が過る。だが重液に浸された身体が次第に解放され、清々しく軽やかな感覚に置き換わり行く中で些細な疑念など失せてしまった。
「なんて素敵な日なのでしょうか……」
背を伸ばすと足下から噴き上がる風が裾を靡かせる。忘却の淵に置き去りにされた自分の名前をまた誰かが呼んだ。双眸の中で淡い真珠色の瞳が横に滑る。
「まあ、あれは?」
海原に浮かぶ巨大な球体。周囲には幾つもの華が咲いては消え失せる。くす玉自体も陽光を受けて煌めく青の花弁を咲かせていた。中に何が詰まっているのだろうか。きっととても素敵なものが。想いが芽生えた時には既に無意識に手が伸びていた。
待て。背筋にそんな声が投げかけられたような。振り返るともう誰もいない。大切な貴方が。
「大切……?」
それは誰と己の手に問い掛ける。返る答えは無い。巨大なくす玉から幾つもの海色の流星が飛んできた。自分自身では無い誰かが、この身を覆う殻を衝き動かす。流星は星屑の軌跡を残してすぐ側を過ぎ去っていった。
「そういう遊戯でしたら」
柔らかな春の陽光のような笑みが浮かぶ。両腕で自らの肩を抱いて開く。殻を通して見る外の世界で数多の刃が円陣を形成して自身を取り囲んだ。
「これをどうぞ!」
片腕を天に翳す。思惟を乗せた刃が水色の流星と踊るようにして乱れ飛ぶ。そしてそれらの刃は巨大なくす玉の元へと達すると全方位より次々に突き刺さった。
「さあ、皆様にもご覧頂きましょう! きっと主様もお喜びになるはず……!」
そう言い掛けた矢先に言葉を紡ぐ唇の動きが押し留められた。自分は今主様と言ったのか。主様とは誰の――また誰かが自分の名前を呼んだ。叩き付けるような必死の声音。振り返るとやはり誰もいない。穏やかに満たされているはずの心に空虚が膨らんだ。目を閉じて首を振る。こんな想いはいらない。目を開いて上を見上げる。意図せずして身体が浮かび上がり、合わせて刃が食い込む巨大なくす玉も緩慢に浮かび上がった。西から差す緋色を帯びた陽光が眩しい。
「刀身展開、熱線出力最大!」
頭が働くよりも先に腕が、手が、指が動く。手繰り寄せた剣の柄を握り締める。この剣の名前はよく知っている。使い方も。それを教えてくれた貴方の事も。頭上に掲げた鞭状の剣に、くす玉に突き刺さっていた刃が次々に集約される。浮力を喪失して自由落下を始めるくす玉。剣から伸びる熱線は何重にも折り重なって巨大な光剣となった。
「せーの!」
自身ごと急降下させて光剣を振り下ろす。刃がくす玉を捉えた確かな感触が手に伝う。クリームを裂くような柔らかな手応え。より深く、より重く。入刀に果たして何秒、何分、それとも何時間を費やしたのだろう。手に感じていた手応えが途端に霧散した。支えを失った自身の身が海面へと降下し、嫋やかに爪先をつける。広がったドレスの裾が緩慢に萎むと、真上で大きな光の炸裂が巻き起こった。
「なんて綺麗な……」
握る剣から刃を失せさせ天を仰ぐ。星々が生まれて消えて、何度も命の瞬きを煌めかせる。細かな星屑が赤い軌跡を空に描いて海原へと散り落ちた。二つに分かたれた巨大な星が海に触れると、泡立つ大きな水柱が立ち昇る。いつしか見惚れていた自身は深く呼吸し、意識を虚に泳がせていた。
「でも、違う……」
世界はこんなにも美しいのに。今見ている世界は自分のものではない。自分には成すべき、果たすべき使命があったような。でもそれを教えてくれる貴方はこの世界のどこにもいない。
『――いい加減にしろ! お前には……この私のメイドとして生きる以外の使命など有りはしない!』
頭の中に響く痛烈な叱咤。これは誰の声なのだろうか。傲岸不遜で気難しい貴方のものなのだろうか。しかし貴方とは。
『戻って来い! メルメッテ・アインクラング!』
やっと自身の名前を叫ぶ声の元が分かった。いつでもそこに居て、ここには居ない。
『私の名を呼べ! 私はお前の何だ!?』
自身にとって、貴方は。幾多の記憶が巡って繰り返す。四季の流れが永久に続くように。
「主様は……私の……」
自身が思惟の奥底で手を伸ばす。すると光の先から腕が伸ばされた。鋭い爪に、少しでも穢れが付くと酷く不機嫌になる白磁色の装甲。その先では四眼が自身を見返している。紫の眼差しの中に、自身の姿が映り込んでいた。
『起きろ! メルメッテ!』
「ラウシュ、ターゼ……アインクラング、様……」
声帯から絞り出すようにして溢れた微かな言葉。伸ばされた手が自身の腕を掴んだ。
「ラウシュターゼ様!」
やっと主様の名前を呼べた。掴まれた腕が力強く引き上げられる。時間を高速で巻き戻すかの如く世界が過ぎ去って行く。やがて光が消えて闇が全てを満たした先に、また小さな光が現れた。あの時私を救ってくれた光が。
「……主様?」
メルメッテは目を白黒させながら呟く。辺りを見ればそこは常日頃見慣れた空間、ラウシュターゼの胸中だった。
「あれ、メルは今まで、何を?」
夢を見ていた感覚に近いのだろうか、先程までの記憶が希薄になっている。
『多過ぎる死者の思念に引き摺られたのか? だとすれば、感受性の鋭敏さが仇となったか……まったく、手間を掛けさせてくれたな』
淡々とした口振りで語るラウシュターゼの声には焦燥とも安堵とも付かない色味が滲んでいた。いまだ状況が把握出来ずにいるメルメッテはセンサーカメラ越しに外界を見る。激浪のものと思わしき巨大な残骸が2つ海水に浸かり、その周囲には燃え落ちる部品の欠片が散乱していた。
「激浪……? 誰が……」
『さてな、己に聞いてみたらどうだ?』
言外に含まれた意味を推し量り兼ねたメルメッテが首を傾げる。ふと視線が下に落ちると、見慣れぬ生地が目に入った。人差し指と親指で摘み上げると、それが自分自身が纏う白地のドレスの裾だと漸く気が付いた。
「なっ……メルはいつの間にこんなお召し物を!?」
間違いなく着込んでいたはずのメイドスタイルのアンサーウェアが、戦場では些か華やか過ぎる花嫁衣装に化けてしまっていた。益々混迷するメルメッテにラウシュターゼが追い討ちを掛ける。
『お召し物、だと? お召し物か。少し前からそんなお召し物だが? 鏡を見るがいい。恐らくはそれがお前本来の姿だぞ?』
メインモニターの隅に表示されたサブウィンドウにメルメッテ自身の姿が映し出される。
「か……髪が、こんなに伸びて……」
本当に自分なのか疑いたくなる程の映像と、曖昧な記憶の中で垣間見た断片が感情を如何しようとも無く混濁させる。
「申し訳ありません、主様。何か大きな失態を致してしまったようで……」
条件反射なのか、自然と謝罪の言葉が溢れて頭を垂れていた。ラウシュターゼは暫しの沈黙の後、嘆息して首を振った。
『何がどう申し訳ないのかすら理解してもおるまいに……ま、構わんがな』
ラウシュターゼは自己の制御権限をメルメッテより剥奪すると、浅い海に足を付けて歩き始めた。
『事は済んだ。戻るぞ』
「あっ……お待ちください、私が直ちに……」
『要らん。お前はそのままにしていろ』
しかしと言い掛けたメルメッテをラウシュターゼの無言の圧力が遮った。足を脛程まで海水に浸して砂浜へ向かう機体の中で、沈黙したメルメッテの身体が揺れる。
『……先の私の言葉、よくよく忘れない事だ』
ラウシュターゼが隠すように呟いた言葉をメルメッテは聞き逃さなかった。
「はい、主様」
果たしてどの言葉に対する返答なのか。明確では無いにしろメルメッテは表情を綻ばせていた。1人と1機、両者の間には確かな言葉など要らないのかも知れない。
●激浪沈む
エヴォルグに侵蝕された巨大キャバリアの激浪。猟兵達の度重なる熾烈極まりない攻撃に見舞われ続け、実質無限とも思われた再生機構を遥かに上回る損壊を受けた後、遂に全ての機能を完全に停止した。
時を同じくして残存していたエヴォルグ量産機の上陸も途絶える。続く敵の反応も現れず、沙綿里島西海岸から火砲の轟きが止んだ。時間にして夕暮れ時の事だった。
敵航空戦力の襲来から始まり、洋上からの長距離放水砲撃、それに伴う防壁決壊と敵陸上戦力の揚陸と市街侵攻。最後に出現した激浪の強襲。オブリビオンマシンによって行われた一連の攻撃は、反存在である猟兵達によって悉く退けられた。
猟兵ひとりひとりの戦術、戦略、はたまた暴走が沙綿里島を、強いては日乃和の国土と国民を守護ったのだ。骸の海より滲み出る破滅を打ち砕いて。
●残された者達
激浪の撃破を以って終決した沙綿里島西海岸防衛戦。だが日乃和軍の中で勝利の喝采を挙げる者は少なかった。
猟兵達には契約内容に従い規定の報酬が支払われている。内訳には激浪の撃破に纏わる追加報酬も加算されていた。
その後、猟兵達はそれぞれに帰還するべき場所へと戻っていった。それは全員だったかも知れないし、違うかも知れない。ひょっとしたら何名かの猟兵は暫く沙綿里島に残留し、戦闘終了後の後始末に付き合っていたかも知れない。もしそんな猟兵が居たのであれば、これから行われる火葬にも立ち会っていたのだろう。
時刻は夜。太陽が完全に没した頃、沙綿里島の夜空には星が輝き、月が瑠璃色の光を灯している。
猟兵達がエヴォルグ量産機と激浪との戦闘を繰り広げた西海岸にて、大きな炎が立ち昇っていた。辺りには肉を焼く独特な匂いが充満している。
「あんたら猟兵には最後まで付き合わせちまったな。礼を言わせてくれ。今日は本当によく戦ってくれた」
炎に照らし出された後藤の横顔が和かな笑顔を作る。そう言い終えると炎に向き直り陸軍式の敬礼姿勢を取った。
「こいつらには帰る場所も無けりゃ遺体の引き取り手も無い。親も親戚も全部国が奪っちまった。そして皆人喰いキャバリアに殺された。だから俺達がこうやって弔ってやるしかないのさ」
数多の認識票の鎖を握る後藤の拳は硬い。
「お前らの仇は、俺が必ず取ってやるからな……絶対に、命に換えても……」
「司令……」
後藤のすぐ横にはオペレーターの少女が立っていた。戦術薬物の過剰投与による脳弛緩から復帰した彼女も後藤に倣い、敬礼姿勢で燃える戦死者達の炎を見つめている。
周囲を見渡せば後藤だけに限らず此度の戦闘に携わった者達の多くが海岸に居た。砂浜に座り込み膝に顔を埋める者。警戒中なのだろうか、グレイルやオブシディアンmk4、ギムレウスに乗ったままコクピットハッチを開けて眺めている者。抱き合う仲間と互いに肩に顔を押し付けて泣き腫らしている者。哀悼の形は人それぞれだが、いずれも共通して勝利の喜色など無く、疲労と悲壮ばかりを浮かべている。
「私にも子供が居たんだ。子供が出来難い体質だったんだが、やっと授かった1人息子でな。しかし去年の頭の頃、徴兵年齢に達してしまって……」
不意に口を開いたのは戦艦三笠の艦長、佐藤泉子中佐だった。彼女は傍らに立つ結城と共に海軍式の敬礼で揺れる炎を眺めている。
「猟兵諸君なら知っているだろうが……南州第二プラント奪還作戦の折、第一プラントの奪還作戦も実施されていたのを覚えているか? 当時、私の息子は第一プラント側の部隊に配備されていてな」
抑揚の無い声で語る泉子に、南州第一プラントでの調査結果を思い起こされた猟兵も居たかも知れない。電力供給停止の為に突入した部隊は1人残らず戦死している。
「……死ねば誰しも悲しむ事すら出来ない。ならせめて、残された者が代わりに泣いてやっても罰は当たらないだろう?」
泉子の右眼から滴が零れ、頬を伝って顎から砂浜に落ちた。黒い滲みがひとつ、またひとつと広がるにつれて大きさを増した。
「皆、ごめんよぉ……! 怖かっただろうに、痛かっただろうに……!」
膨れ上がった感情に耐え兼ねた泉子はその場にしゃがみ込んで声を殺して泣き腫らした。側に立っていた結城が同じようにしゃがみ込むと、震える背中に手を添えた。炎が照らす結城の横顔には普段と変わらぬ妖しげな微笑が浮かんでいたが、瞳の中には憐憫の情が揺れていた。
那琴以下白羽井小隊の子女達も浜辺での合同火葬に立ち会っていた。膝立ちの姿勢で駐機されたイカルガの肩に立つ者もいれば、炎の側で敬礼して見送る者もいる。那琴は後者だった。
「御免なさい、わたくしがもっと上手く出来ていれば……」
嗚咽する泉子の背中越しに、那琴は戦死者を焼く炎に向かって海軍式の敬礼姿勢を取る。砂浜を撫でた潮風に長く黒い髪が波のようにうねった。
「猟兵の方には、また助けられてしまいましたわね。わたくしにも猟兵の方のような力があれば良かったのですけれど……」
目線を合わせずにそう語った那琴の表情の奥底には、より強い羨望と嫉妬が見え隠れしている。人の感情の揺れ動きに鋭敏な猟兵ならばすぐに勘付いたかも知れない。
「まあそう言うな。白羽井のお嬢ちゃん共もよくやってくれた。イカルガを回して貰ってるとは言え、嬢ちゃんらがあそこまで働けるとは正直思ってなかったがな」
オペレーターの少女を横に連れ立って後藤が歩み寄る。那琴は後藤の方に向き直ると踵を合わせて敬礼し直した。すると後藤は畏る必要など無いと手を振る。那琴は敬礼を解くと会釈を返した。
「猟兵、見てくれ」
日乃和海を背に後藤が指を差す。その先を視線で追うと破壊された防壁の奥に住宅地が広がっていた。更にその遥か遠方の内陸部には基地の建造物と、南州第一プラントと同形状のプラント施設が見て取れた。いずれも数に大小はあれど人工の光が灯っている。
「あの光はあんたらが守護ったんだ。香龍に比べりゃど田舎の光だが……それでもあそこにゃ人が居るし、人が生きてる。皆あんたらが生かした人間だ」
「そうですわね、猟兵の方が……」
猟兵がいなければ灯る事は無かったであろう沙綿里島の光。果たしてそれを守護った当事者達にとってはどのように映ったのだろうか。
戦乱と死がありふれた世界、クロムキャバリア。その世界の一国で、猟兵達が追い縋る過去を退けて繋いだ人の営みは続く。いつか全てが壊れて綻ぶまで。
そして猟兵達が結んだ鎖は終着点に辿り着く。それが訪れるまであと僅か。猟兵達のすぐ側で、オブリビオンマシンは期が熟す時を待っていた。
大成功
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