「ふふふ。この調子でパイプを増やしていけば、ゆくゆくは組織を作って取り込んで、やがてはわたくしによる支配の時代の到来ですわ……♪」
オブリビオンとして蘇ったリリスはビルの上で夜空を見上げ微笑んだ。その手に持つのはひとつの封筒。
「さてさて。土蜘蛛オブリビオンの方からいただいた、この情報の精度によっては土蜘蛛の方々と組むのもやぶさかではないトコロ……」
そう言って彼女は中の文と地図を月夜に透かして眺め見る。けれどすぐに今回の行動の影響に気がついて封筒を胸の中へとしまい込む。
「ていうか魅了でお願いしたのがバレて敵対行為と認定されたらヤベーですわね……? こうはしていられませんわ。急いで『檻』から離れて身を隠し、地道な活動に戻るとしましょう」
こうして、このリリスは慌てるようにビルから飛び降りると暗闇の中へと消えていくのだった……。
「――以上が、視えた映像となりますー」
グリモア猟兵の天日・叶恵(f35376)はそう言うと、『グリモア』に形取らせたテレビの映像を終了させた。
テレビを元のエネルギー体に戻すと、叶恵は資料を配りながら今回の依頼の説明をゆったりした口調で開始する。
「相手はオブリビオン化したリリス、名を『マリアッテ』という様ですー。このリリスは支配に快楽を感じるタイプの様子で、配下を増やそうとあちこち駆けまわっています。つい最近は土蜘蛛の檻とも接触している様ですねぇ」
先の映像でも見られたように、このリリスは部下を増やして組織を作ろうとしている様だ。その過程で土蜘蛛オブリビオンとの接触があった様である。そして、その計画の先には篭絡した一般人を犠牲にする儀式も含まれるはずだ。
「上手く情報を引き出すか、持っている封筒を奪えたならば、他のオブリビオンの動きがある程度分かるかもしれませんー」
配られた資料の前半にはマリアッテの能力が書かれていた。その能力とは近接範囲を魅了と麻痺に包む効果と、過去の忠臣の霊の召喚と、そして視線を交わした相手にかける強い魅了――厄介な能力を持つ様だ。
「さてー、資料の次のページからがこのリリスを倒す作戦の説明ですー。マリアッテはいま、潜伏する町で一人ずつ篭絡しては手下を増やしている様ですー。今は魅了で支配した一般人を手下として使っており、ここで皆さんには囮になっていただきたいのです」
最近は図書館で一人で過ごしていると同じ趣味を装って話しかけてくる者たちが居るのだそうだ。そこで猟兵たちが誘いに乗ってついていくと、リリスの元まで案内してもらえるという算段である。
「図書館で誘われたら、後に(二章で)新入りの顔合わせを兼ねて肝試しをしましょうとなって、魅了をかけるためにマリアッテの拠点のひとつに入ることになります」
そして資料の最期にもうひとつ、情報が付け加えられていた。それはマリアッテの魅了で支配された者の中に従属種ヴァンパイアが一人いると言う事。
「彼女とは廃ビル(二章)で出会う事になります。ユーベルコードを持たず、戦力としては猟兵には及びません。ですが戦闘になると彼女も参戦してきます……彼女の魅了を事前に解いておく事で戦いやすくなる筈です」
叶恵は最後にこう伝えて説明を終えた。事前にわかったことはこれで全てとなる様だ。説明を終えた叶恵は転移の用意を開始する。
「私は、転移の発動と維持のため同行できませんが、皆さんならきっと大丈夫です。よろしくお願いしますね。――それでは、いってらっしゃい」
ウノ アキラ
はじめましての方は初めまして。そしてこんにちわ。ウノ アキラです。
このオープニングに興味を持っていただき、ありがとうございます。
●執筆タイミングなど
土日にまとめて書きますので、プレイング受付はその前の【毎週木曜の8時31分から土曜の昼まで】となります。
他にもマスター紹介のページは一読頂けるとプレイングの文字数を少し節約できるかもしれません。
●依頼の補足
シルバーレインのキャンペーンシナリオ(続きもの)です。
関連シナリオを知らなくても事件の解決は可能です。
以下の三章構成になっています。
一章は日常です。
図書館で過ごしてください。魅了で支配された一般人がきっかけを見つけて話しかけてきます。
ちょろそうな感じに振舞うと次の有利な状況を得られます。
・会話の中でマリアッテの性格や弱点などの情報を引き出せます。
・二章に登場する魅了済み従属種ヴァンパイアがとても油断します。
二章は冒険です。
マリアッテに魅了された従属種ヴァンパイアが新入りの顔合わせを兼ねた肝試しを装って皆さんを廃ビルへ案内します。
従属種ヴァンパイアの魅了を解除すると次の有利な状況を得られます。
・三章の戦闘で猟兵に攻撃しません。
三章はボス戦です。
『マリアッテ』が現れます。
===================
今回は試験的に三章クリア後に次の展開をアンケート募集しようと考えています。シナリオが三章まで完結した時に【旅団『ちいさな集会所』】に自由参加のアンケートを立てる予定です。
そのアンケートには、三章のボス戦の結果によって次の選択肢と次回のボーナスが加わります。
◆封筒の入手……竜宮城決戦を追加。竜宮城決戦のOPで敵の情報や布陣が詳しく判明します。
◆従属種ヴァンパイアが【魅了ではない状態】で戦闘終了……人工島の戦いを追加。日本に拠点を置く貴種ヴァンパイアと連携がとれる関係になり、人工島の戦いで猟兵が有利になります。
◆マリアッテの欲望を利用して土蜘蛛の檻の場所を喋らせる……土蜘蛛戦争を追加。このキャンペーン内(戦争は除く)での「国見・眞由璃」との同盟の利点と欠点を土蜘蛛戦争のOPで示す予定。
===================
事前の情報は以上となります。
第1章 日常
『図書館へ行こう』
|
POW : 気になる本をあれこれ手に取ってみる
SPD : ジャンルや著者を絞って本を探す
WIZ : 古い新聞や郷土資料を探す
|
●日常の中
その図書館は広さ以外の特徴はないごく普通の場所。そこそこの人口の都市の町にある図書館で、一階には受付のカウンターに蔵書の並ぶ本棚と閲覧用のテーブルがいくつかある。
本棚で多少入り組んでいるが、空調が効いて比較的静かな空間であることもあり本と共に過ごす一般人も多い。このごく普通の日常空間に、オブリビオン化リリスに心を囚われてしまった者が紛れ込み仲間を探しているのだという……。
特に狙われやすいのは、寂し気な様子を纏い一人で過ごす者。
儀水・芽亜
&&&
支配欲のリリスですか。なるほど。
図書館で相手からの接触を待てばいいのですね。では、音楽関係の図書を読みながら、お誘いを待ちましょう。一冊読み終えて次の本を探しに行くときなんかが狙い目でしょうか。
ああ、何でしょう? ここは図書館ですから、会話は小声でお願いしますね。
会話は「コミュ力」で応答し、「審美眼」で相手の身なりや状態を把握。必要があれば「催眠術」をかけてみましょう。
はい、音楽は趣味で。下手の横好きです。竪琴を弾きながらの独唱が主ですね。
あら、同じ趣味の方がいらっしゃる? それは是非ともお会いしたいですね。これでも仲間には飢えていまして。どんな方なんですか? いろいろ教えてください。
●魅了による支配の鱗片
儀水・芽亜(共に見る希望の夢・f35644)が楽譜の読み方に関する本を棚へと戻す時に、大学生くらいの大人しそうな女性が声をかけてきた。
「あ、あのっ」
「ああ、何でしょう? ここは図書館ですから、会話は小声でお願いしますね」
そう答えた芽亜が彼女を観察してみると、その限りでは相手はごく普通の一般人である――最も、だいぶ前から視線があり事前に知った情報と合わせれば彼女がオブリビオン化リリスに篭絡されている可能性は高い。
(そろそろかと思っていましたが……相手には手の内だと思ってもらう方が都合がいいはず)
あくまでこの出会いは偶然である――そう装って芽亜は話を合わせていった。はじめはどういう曲を聞くのか? という話題。そして軽く自己紹介を交わした後に席へと移動してゆっくり会話を再開していった。
「儀水さんは何か楽器をされているんですね」
「はい、音楽は趣味で。下手の横好きです。竪琴を弾きながらの独唱が主ですね」
「竪琴ですか……! なんだかお洒落ですね。すごい……。私はピアノが少しだけ」
静かな図書館、その席のひとつでこの様に会話が弾んでいく。今のところはまだただの趣味の語らいだ。けれどやがて、彼女は何かを決意するように話題を切り替えた。
「うん――きっと、儀水さんなら私の友達とも仲良くできると思う。……その、私、昔はなかなか友達が出来なかったんですけど『ある方』のお陰で今は仲間がたくさん出来て……」
彼女の眼の色がにわかに変わった。それは『ある方』が最も尊く全てにおいて優先されるのだと言わんばかりの目の輝き――。
(……当たりですね)
その様子から芽亜は彼女が某リリスの魅了に取り込まれていることを確信した。ならば次に行うことはひとつ。
「あら、同じ趣味の方がいらっしゃる? それは是非ともお会いしたいですね」
相手は神秘に疎い一般人。であれば『催眠術』にかけることも容易いもの、芽亜は彼女の目をじっと覗き込み、同意に気が緩んだ相手の意識へと言葉を滑り込ませる。
「これでも仲間には飢えていまして。『どんな方なんですか? いろいろ教えてください』」
そこからはただ聞くのみだった。彼女は、尊い『あの方』について早口でまくし立て、芽亜と素晴らしさを分かち合おうと語っていく。
「――はい。彼女は、みんなマリアッテさん、マリぴー、って呼んでるんですが。率先して動いてくれるけど、慎重で、怖がりというか……でもすぐ謝るのにマウントとろうとするのがちょっと可愛いんです。でも言う事を無視しすぎるととても怖いんですよね。あと興味の有無で反応がすごく変わるのは、面白い所で、でも寂しい所でもあって。けどどこか憎めない感じが不思議な魅力があってとにかく可愛いんです」
この後、彼女の語りは出会いから最近ピクニックをした話まで二時間ほど続いた……。
「……あ、喋りすぎました……すみません。いつもはもっと抑えているんですが……」
そう言うと満足した様子で彼女は芽亜へメモを渡す。そこには地図と時間が書かれていた。
「もし興味がありましたら、今日、ここに来てください。……外から良くない人が入らない様に、仲間になる前に面接を兼ねた肝試しがあるんです……。ここでカヨという高校生くらいの子と会ってください。彼女は、マリアッテさんの秘書なんです。きっと儀水さんなら大丈夫です」
最後にそう伝えると彼女は去っていった。そんな彼女もオブリビオンが倒されてしまえば『世界結界』の働きで事件に関する記憶を忘れていく事になる。
芽亜はメモの地図の場所を確認しながら聞いた情報を頭の中で反芻した。
(これが支配欲のリリスですか。なるほど……)
大成功
🔵🔵🔵
レーゲン・シュトゥルム
&&
厄介な話だ
嘗ての揺籠の君クラスで無ければ成し得なかった連合軍…
それをオブリビオンとは言え、一介のリリスが為さんとするのだからな
だからこそ、結実する前に破綻させねばな
さて…「寂しげな様子」か
思えば銀誓館学園に編入する前の私は孤独ではあったのだろうな
その頃を思い出して演技するとしよう
後はそうだな
「ちょろそう」だったか?
魔術とか銃火器とか…
そう言ったニッチな本を一人寂しく読んで待ち受け、「同好の士が話しかけてくれた」と喜んで見せれば行けそうか?
分かりやすいニッチな話題は、話しかけやすい良い釣り餌として機能するだろう
連れていかれる途上で「他にはどんなメンバーが居るのか?」という体で情報を得ておこう
●その組織の規模は
静かな図書館の隅でレーゲン・シュトゥルム(黒風白雨・f36427)は魔術に関する本を手に取ってページをめくっていた。
(『寂しげな様子』か。思えば銀誓館学園に編入する前の私は孤独ではあったのだろうな――その頃を思い出して演技するとしよう)
昔を思い出し哀愁に浸るレーゲン。やがてそんな彼女へと声をかける者が現れる……それはレーゲンが銃火器のコーナーで読みふけっていた時からちらちら視線を向けていた相手だった。
「……魔術やオカルトの類にご興味が? ……失礼。同じ様な趣味だと思いましたので」
そう話しかけてきたのは大人しそうな青年だ。レーゲンは声をかけた彼へ口元をほころばせて返事をする。
「まあ少々は。……あなたも?」
「僕はファンタジー小説などに出る悪魔とかに少々……」
「ソロモン……とか?」
「黒本……ってご存じでしょうか」
ニッチな趣味を持つ者同士の、互いを探り合うやり取りが続いていく。そして――。
(……後はそうだな、「ちょろそう」だったか?)
――レーゲンはふっと笑みを漏らした。それは「同好の士が話しかけてくれた」と喜んでいるかの様に。
「あなたとは良い話が出来そうだ」
そしてしばしの趣味の語り合いが続いていく。小一時間は話しただろうか。そのあたりで青年はおもむろにレーゲンへと勧誘の話を切り出した。
「――そうだ。もしよろければ、仲間を紹介して構いませんか。みんな趣味はばらばらなんですけど、どんなマイナ―趣味でも孤立することなくみんな仲が良いんですよ。グループをまとめている『あの方』も、とても愛嬌があって、本当に仲のいいグループです。きっとあなたも気に入ると思います」
彼の眼の色が変わった。それは『あの方』が最も尊く優先されるのだと言わんばかりの目の輝き。この変化でレーゲンは彼が魅了に墜ちていることを確信する。
この様に件のリリスは他勢力のオブリビオンも虜にしているのだろう。その手口と魅了の効き方は放っておけるものではない。
(厄介な話だ。嘗ての揺籠の君クラスで無ければ成し得なかった連合軍……それをオブリビオンとは言え、一介のリリスが為さんとするのだからな。だからこそ、結実する前に破綻させねばな)
レーゲンが青年の誘いにうなずくと、彼はひとつのメモを手渡した。
「もし興味があれば、今日この時間にここに来てください。悪意を持つ人が混ざらない様に、面接を兼ねた肝試しを行っていまして……ここにカヨという子がいるので、彼女に認められたら僕たちは仲間になれます。そうしたらもっと語り合いましょう」
その誘いにレーゲンはさらに乗っていく。
「すまない。地図だと解りにくいから案内してくれないか」
それは確実に仲間に加わりたいというサインの様なもの。レーゲンは道案内を受けながらいくつか情報を引き出していった。
「他にはどんなメンバーが居るんだ?」
「色々です。もうすぐ50人は超えるはずです。さっき言ったカヨという子がマリアッテさんの秘書で……あ、マリアッテさんというのは僕たちのグループをまとめてる人で。親分気質な所がありますね。彼女の管轄になった物事について勝手に動くとすごく怒ります。……でも大半のことには寛大で、負けず嫌いなのに怖がりで可愛い所もあるんですよ」
彼はマリアッテとの出会いから海沿いの七不思議調査の冒険エピソードまでを楽しそうに語っていった。そんな彼もオブリビオンが倒されてしまえば『世界結界』の働きで事件に関する記憶を忘れていく事になる。
「あの廃ビルです。では僕はここで……仲間に慣れることを願ってますよ」
そう言って青年はレーゲンと別れた。レーゲンは今回知り得た情報を軽く整理する。
(50人ほどか……そのうち能力者やオブリビオンの割合はどの程度なのだろうか。……いずれにせよ今回がチャンスであることには違いない)
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
&&&
たまには陰の者になるか…
度を超えたぐるぐる眼鏡をかけて図書館に参上!日本語辞書とかそういうのを展開して見ますぞ
今の拙者は日本のカルチャーに憧れて最近ドイツから来日した、という設定でござるが…はー!黒髪ロングメカクレ人見知り文学美少女とかこねーかなー!
うんうんと唸って無知を装っておけば勧誘に来るだろ
ハーイ、セッシャサイキンニポンキタゴザル
イマ、ニホンゴレンシュウデスネームズカシーゴザル
適当に会話を合わせつつ時にわからない振りをしつつ勧誘に乗るでござるよ!後は適当に性格とか容姿とかねっとり念入りに聞いておくでござる
Oh、Sukkubus?ビショウジョデース?
やったぜ。イヤナンデモナイデース!
●人はそれを属性過多という
図書館に特徴的な人物が現れた。
それは度のきついグルグル眼鏡をかけたぼさヒゲの大柄な外国人男性――世界が猟兵へ与える違和感を感じさせない加護を貫通する勢いで怪しげな気配を漂わせるエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)だ。
エドゥアルトは眼鏡をクイッと調整しながら案内をガン見するとキョロキョロしながら移動をしていく。
「Ah~、Worterbuch……。ジショ、Japanese Dictionary……」
この挙動はエドゥアルトの作戦である。その作戦とは。
(今の拙者は日本のカルチャーに憧れて最近ドイツから来日した、という設定でござるが……はー! 黒髪ロングメカクレ人見知り文学美少女とかこねーかなー!)
というもの。図書館というより学校の図書室のヌシ的な美少女を所望している様子。そんなエドゥアルへとそっと声をかけられた。
「あの……何かお困りですか? May I help you?」
エドゥアルトがにっこり笑顔で振り向くと、そこに居たのはそこそこよくいる大学生という感じの女性。エドゥアルトは引き続き演技を続けていった。なおエドゥアルト曰くこれは『陰の者』の演技とのこと。
「ハーイ、セッシャサイキンニポンキタゴザル。イマ、ニホンゴレンシュウデスネームズカシーゴザル」
「OK。……すると、絵本ですかね。私で良ければ協力しましょう。その代わり貴方の国の事聞かせてもらっていいですか。外国に興味があるんです」
こうしてしばらく絵本の読み聞かせによる勉強が行われた。エドゥアルトは合間にうんうん唸ったりかぐや姫の黒髪に反応したりしつつ、言葉を学ぶ様を演じていく。その最中で女性は急に勧誘の話を切り出すのだった。
「そうだ……貴方に友達を紹介させてください。きっと今以上に文化に触れたり、言葉を覚えたりできると思います」
「トモダチ?」
この時エドゥアルトはひっそりユーベルコードを発動させていた。それは言葉の通じる相手に親しい隣人のような感情を抱かせ、思考誘導などを放つ『隣人力』――そのチカラによって、彼女は内に秘める思いをぶちまけ始める。
「ええ、みんな仲が良いんです。グループをまとめる『あの方』も、とても綺麗でかわいらしくて。沢山友達ができたらあなたもきっと充実するはずです」
その目は『あの方』が最も尊く優先されるのだと言わんばかりに輝いている――間違いなく魅了されていた。その話にエドゥアルトはうんうんと頷きながら会話を促していく。
「ビショウジョデース?」
「もちろん綺麗な方です。マリぴー……いえ、マリアッテと言って、気品のあるドリルヘアーでドヤ顔がまた子供みたいで可愛くて。慎重で怖がりなところがあって表立ったことをするととても怒るんですよね……。でもすぐ謝ったり、なのにマウントを取りたがったりと、所々が愛くるしいんです。気分屋で興味を失っているとどんなに頑張っても塩対応が返って来るのは寂しいですね……」
彼女は早口でまくしたて始めた。とりあえず美少女っぽいことは解ってエドゥアルトは小さくガッツポーズをする。
「やったぜ。イヤナンデモナイデース! オッパイ?」
「あー、胸も大きいですよ。そういえば、黒髪にも興味を持っていましたね。であればカヨさんが黒髪の長髪ですので、仲良くなれると良いですね。カヨさんはマリアッテさんの秘書をしている子で……。あ、もし興味があれば今日この時間に、ここに来てください。ここで行う肝試しが面接を兼ねていてカヨさんに認められたら私たちのフレンドグループに入れますよ」
そう言って、彼女は地図と時間が書かれたメモをエドゥアルトへと手渡した。女性と別れたエドゥアルトは手に入れた地図を確認しながら得た情報を頭の中で整理する。
(ドヤ顔ポンコツドリルおっぱいお嬢に、黒髪ロング秘書少女でござるかぁ……!)
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『心霊スポットの謎を追え』
|
POW : 身体を張って調べる
SPD : 文明の利器を駆使して調べる
WIZ : 魔力を活用して調べる
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
●勧誘の最終面接
指定の時間の指定の場所。そこは町からやや外れた雑木林に囲まれた廃ビルだった。そのビルの前には着物姿のスレンダーな黒髪長髪の少女が佇んでいた。
「こんにちは~。きみたちが図書館で勧誘された人らやね?」
彼女はそう、確認をする。
彼女の腰のポシェットからは詠唱兵器の術扇が、ベルトの収納には詠唱兵器のGペンが顔を覗かせており能力者であることがうかがえる――つまり彼女が件の従属種ヴァンパイアなのだろう。彼女はすでにマリアッテの魅了で洗脳されており、正気に戻すにはまず魅了を解く必要がある状態だ。
「どうもー、うちは西村・夏代(ニシムラ・カヨ)言います。ここに来たってことは、うちらの友達になりに来たということでええんよね? ほんなら肝試しでちぃっとだけうちらのグループに相応しいか見させてもらいます。せやけど、そんな固くならんでええよ。気楽にいきましょ」
そう言って彼女は涼やかにほほ笑んだ。今のところ警戒している様子はなく、猟兵たちのことをただの一般人と思っている様だ。
このまま彼女についていけばマリアッテの元まで連れていかれて、その先で支配のための魅了が襲い来るはずだが……その道中でできそうな事はやってみよう。
「それでは始めましょ。うちと一緒に来てくれはります? 中の各所のお札をとって集めたら終わり。途中にいろいろ仕掛けがあるんやけど、その中でみなさんが信用できそうかを見させてもらいます」
----------
●補足
肝試しになります。仕掛けにびっくりしたり怖がったり……あと従属種ヴァンパイア(マリアッテの秘書)の魅了を解こうと試みたりすることが出来ます。
●補足2
途中参加も問題ありません。一章に描写がなかっただけで実ははじめから居ました、という形になります。
儀水・芽亜
夏代さんですね。儀水芽亜と申します。よろしくお願いします。
ええと、一人ずつ夏代さんと一緒に廃ビルを巡ればいいんでしょうか?
では、一番手で、お願いします。
私、演技下手なんですよねぇ。「落ち着き」過ぎていて。
自然と「偵察」の目線で仕掛けがありそうなところに気づいちゃうんですよねぇ。
頑張って驚きましょう。その後で、仕掛け担当の方にもっと驚かせるにはどうすればいいかレクチャー。担当がいないのなら、どういうギミックがいいか提案しましょう。
お札をとってきて、他の皆さんも肝試しを終えて、これからマリアッテさんのところへ向かおうというところで『目覚めの時間』を夏代さんに。
これで魅了は解除出来るはずですが。
葛城・時人
&&&
目的を気取られてはならないしあくまで友好的に
兎に角魅了解除が目的
能力者がリリスに使役されるなんて許せないし
絶対助けたい
普段全員苗字呼び捨てだけど彼女には
できるだけ笑顔で西村さんと呼ぶ
楽しそうに面白がるように見せて
大げさにはしないけど吃驚したり怖がったり
仕掛けに気付いても一般人の振りを心掛ける
ある程度まで来たらUC「お菓子をどうぞ」を
口の中で詠唱
持参したのはクッキーに必要な材料
魅了解除を念じて作り
おやつ食べて一息つこうと提案
他の皆にも食べて、と笑顔で
効果は味に影響を及ぼさないから
単に美味しいクッキーなだけだし
…ちょっぴり甘み強めかもだけど
肝試しもなかなか疲れるし良いよね?
解除が成功し事情を説明出来たらリリスの所までは
連れて行ってくれるように頼む
必要ならこの時点で自分が元能力者と開示
この場の全員猟兵だと言う
解除後リリスを覚えていないなら探索続行
彼女には絶対戦闘に参加せず遠くに居てと伝える
オブリビオンの相手は俺達がするからね、と
必要なら、また可能なら後の魅了解除の為に
皆にクッキーを渡すよ
レーゲン・シュトゥルム
&&
肝試しか…
…大げさに驚いて見せれば良いのか?
私がやるとどうも態とらしくなりそうな予感がするが…まあ、やってみるか
(他の猟兵をチラリと見つつ)
私が失敗しても、そちら方面での搦手が得意そうな面子が揃っている様だしな
取り敢えず仕掛けに驚いたふりをしつつ西村の洗脳を解こうと思う
狙うのは所謂ショック療法という奴だな
驚いて抱き着くふりをしながら【浄化】の力を込めて瞬間的な衝撃を与える
最悪押し倒す形となっても構わない
洗脳解除まで行ければ良いが…最低でも洗脳に綻びを作れればと思う
しかし、猟兵と成った事で得たものも多いが…
こうした場面で役立ちそうな「浄化の風」や「浄化サイクロン」を使えなくなったのは痛手だな
凶月・陸井
&&&
相棒の手伝いで、現状とにかく西村さんに気取られないように
俺は事を運びやすいように手伝おう
何よりも、彼女自身もちゃんと助けたい
あくまで一般人として、と気を付けて
「初めまして。うん、是非友達になれればってね」
「時人は怖いの苦手だもんな、ま、まぁ俺は大丈夫だけどさぁ…」
冷静に…と見せかけて都度ちょっと体がびくっとしたり
時人が準備を始めたら俺も行動開始
道中で拾った小石を弾いて仕掛けの無い部屋から物音をさせ
物音で彼女の注意を引き、会話で時人からの意識を反らすよ
「ん?その部屋にもお札があるのか?それとも…本当に幽霊だったりしてな」
解除ができたら俺も猟兵として、UCのある自分達に任せてほしい旨を伝える
エドゥアルト・ルーデル
&&&
デュフフフ!黒髪長髪京都弁ガールキタコレ!さらに盛るじゃないか…!
もはやお化け屋敷デートと言っても過言ではあるまい…
設定は守らないとネ!外人らしくオーバーリアクションしときましょ
…洗脳を解かないとなんだっけ?ここはサプライズパンジャン理論でござるね
坂に差し掛かったら坂の上にこっそりパンジャンを設置、映画ばりに転がるパンジャンから二人で逃げるでござるよ!
もし突然予想外のパンジャンドラムが飛び出して来たらどうなる?そう…ビックリするさ!
ビックリした時点で「ビックリする事」が「マリアッテが好き」を凌駕するでござる!
すると洗脳はその瞬間強度を失うって訳だ!
あとヒールなので爆発にダメージはないヨ
●ふたりは白
図書館での勧誘で指定された廃墟ビル……そこには勧誘された際に聞いた通り、カヨ、と名乗る子がいた。時刻は夕刻。日が傾き始め闇と光が色濃く折り重なる景色に佇む着物姿は、そのものがこの世のものではない様な雰囲気を醸し出している。
彼女は猟兵たちを敵対する相手だと思わずに挨拶を行った。そして「うちらのグループに相応しいか見させてもらいます」と、そう告げる。彼女は件のリリス――マリアッテの秘書役を務めている。図書館での勧誘時に引き出した情報から鑑みるに、そのリリスは安全を確認できるまでは姿を現さないだろう。その安全の確認を、強い魅了で洗脳した能力者……西村・夏代を通して行っているという所か。
腰のポシェットとベルトに見えるそれらは一見すると日用品だが間違いなく詠唱兵器。警戒はしていないものの、普及済みの量産型イグニッションカードを使わず臨戦状態を維持しているということは、恐らくこの肝試しの中で害意のある能力者かを判別するつもりかもしれない。
――臆病で、慎重で。しかし自身が関心のあるものは自分で握っておかないと我慢がならない。そんなリリスに虜にされてしまった彼女は、危険性のある雑務をこうして一任されている状態の様だ。
かちり。と電池式のランタンに明かりが灯される。それはこの廃ビルの入り口のホールで唯一の人工的な明かりとなって、差し込む夕日が形作る闇を微かに照らしていた。
(Gペンと術扇か……ということは、コミックマスターと白虎拳士だろうか。あの足運びは武術に心得がありそうに見えるからね)
凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)は彼女のジョブを推察した。根拠は事前に聞いていた種族の情報と立ち振る舞い。そして、装備に制限があった能力者時代の戦闘知識である。
「初めまして。うん、是非友達になれればってね」
夏代へ視線を投げかけた陸井は、朗らかに微笑んで話しかける。そんな陸井に対して周りの暗がりに怖がってみせるのは葛城・時人(光望護花・f35294)。共生関係の白燐蟲――ククルカンに外に出ない様にねとお願いした上で一般人の振りを心掛けている。それに合わせる様に陸井も一般人のふりを意識して、不安があるそぶりを垣間見せていた。
「え、肝試しだなんて聞いてないんだけど……」
「時人は怖いの苦手だもんな、ま、まぁ俺は大丈夫だけどさぁ……」
「あら、お二人はこういう不思議なもんとか、暗い場所、不慣れなん? まあー……お化けの噂はあるさかいに気ぃつけて。出たら堪忍なぁ」
そう言いってくすりと笑む彼女は怪異を怖がる二人を神秘に縁遠い一般人であると完全に誤認した。
●ふたりは保留
そんな中、目元をにんまりさせて内心ほくほくなのがエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)であった。
(デュフフフ! 黒髪長髪京都弁ガールキタコレ! さらに盛るじゃないか……! さて設定は守らないとネ! 外人らしくオーバーリアクションしときましょ!)
度のきついグルグル眼鏡をクイックイッとさせながら演技を継続していく。
「オー、ナデシコガール! ドウゾヨロシクゴザル。ホワッツ、キモダメシ?」
「あー……ゴーストゲーム、やったっけ……? わかる? ごぉすとげぇむ」
「オー、ワカッタ。セッシャユウキアルゴザル。アナタマモリマース」
「わぁ、頼もしゅうてよろしおすなぁ」
(若干否定のニュアンスを感じたでござるがこれはもはやお化け屋敷デートと言っても過言ではあるまい……)
親指を立ててサムズアップするエドゥアルト。彼はこの後の展開に期待を高めていた。そしてレーゲン・シュトゥルム(黒風白雨・f36427)は。
(肝試しか……大げさに驚いて見せれば良いのか? 私がやるとどうもわざとらしくなりそうな予感がするが……まあ、やってみるか)
と黙り込んだまま脳内で実際に行う場合のシミュレートを開始する。夏代はそんな参加者たちの様子をつぶさに観察していた。
その中でも特に彼女が警戒を向けたのが儀水・芽亜(共に見る希望の夢・f35644)である。事前に図書館で勧誘を行なった者から聞いた話では、とてもスムーズに仲間になりそうという事だったが……。
「夏代さんですね。儀水芽亜と申します。よろしくお願いします」
ここが廃墟ビルではなく明るいオフィスビルであるような――そんな、この場に居ることさえ日常の一部であるような振る舞いが夏代の中でどうにも引っかかっている。その不自然さは芽亜自身も自覚していた。
(私、演技下手なんですよねぇ。『落ち着き』過ぎていて)
読心術の技能も交えて観察してみれば夏代は芽亜に対してどうアクションをとるかを考えている様だった。そのため、肝試しの仔細なルールを確認する様を装って提案を持ちかけてみた。
ルールの説明が事前にないという事はメンバーの様子に合わせて決めるつもりだったのだろう。しかしユーベルコードを持たない相手であれば油断をしなければ猟兵が遅れをとる事はない筈だ……それほどに『ユーベルコード』の有無は大きい。故に、芽亜は先手をとる。
「ええと、一人ずつ夏代さんと一緒に廃ビルを巡ればいいんでしょうか?」
「それでも別にだいじないかなぁ。そやったらまずは、芽亜さんとでええ? 大勢でまとめて……とも考えたけど、仕掛けの確認にもなりそうやし。それに、お姉さんこういうの"慣れてそう"やから」
「では、一番手で、お願いします」
●残るひとりは、黒
廃ビルの暗い廊下を二人の女性が歩いてゆく。ひとりは中学生から高校生ほどの黒髪の少女――夏代で、もうひとりは緑がかった髪の大人の女性――芽亜である。
床には吹き込んだ細かい土が積み重なって薄い層となっており、しかし無数に残された足跡がこの建物に頻繁に人が出入りしている様を物語る。壁や天井はまだしっかりしているが、ドアや窓は一部が歪み、またはガラスにひびが入っていた。外の夕日は沈み始め、建物の中はすでに暗くなっている。所々に差し込む夕日が、影をより一層濃くして視界をほのかに眩ませていた。
「足元気ぃつけてください」
夏代が懐中電灯を持つ形で二人は並んで歩いている。沈みゆく夕日は廊下の足元には届かず、差し込む日の強さに反して足元はいっそうと見え辛い。よそ見で懐中電灯の光から眼を離したものなら転がる箒や事務机の部品が足を絡めとることだろう。
(だからこそ、仕掛けがあるならここでしょう)
偵察の知見も交えて芽亜が目線を走らせれば、夏代が暗い手元でGペンをさらりと走らせているのが見えた。
(――成る程。アビリティのスピードスケッチですか。一般人であれば不思議な仕掛けと認識し、能力者であればアビリティだと分かる訳ですね)
描かれた白い布のようなスタンダードなお化けが床スレスレからくるりと回り込むと、懐中電灯の灯りに飛び込んで廊下の椅子へぶつかって消える。それに芽亜は驚いてみせるが。
「んっ、今何か通ってぶつかりましたね?」
「お上手やね。で、あんた何者? 要件は?」
同時に剣呑な雰囲気が放たれる。それは能力者のもつ本業能力、王者の風による威圧だ――能力者が発するそれは一般人にしか効果がない。つまりこれが効かないことで完全に一般人ではないことが確定する。
(もはや一般人とは思われていませんね。さて――)
少なくとも芽亜はこの場で事を起こすつもりはなく、彼女を傷つけるつもりもない。芽亜が対応を考えていると、夏代は威圧を止めて口を開いた。
「まあええわ。敵ならバレた時点で逃げるか攻撃かするやろうし。ただあんた、他の新入りと同じ扱いになるとは思わんといてな」
「ええ。それが妥当でしょうね」
その後、芽亜は信用を得ようと道中で仕掛けの案をいくつか提案していった。
スピードスケッチを使わない普通の仕掛けも加えた真贋を混ぜる方法を話していくが、しかし生返事しか返らなかった。
●その間の仕掛け
夏代と芽亜で先に出発をしたその頃。残されたメンバーは舞い込んだ仕込みのチャンスに行動を開始していく。
「んーと。これはもしかしなくてもクッキーを作るチャンスだね……?」
そう言いながら、時人は背中のリュックを下ろして中からバターや小麦粉などを取り出していく。
「状態異常を治療する料理を作るから、陸井は二人が肝試しから戻って来ないか見ててくれないかな」
「あぁ、わかったよ」
陸井が部屋の入口へ向かうと、時人は食材に対してユーベルコードを発動させた――それは手持ちの食材を消費して10秒ほどで特殊な料理を作れるというものだ。ユーベルコードの効果で『料理を作る』という結果を引き出すため、代償となる食材があれば調理場は特に必要ない部分が大変強い。
(兎に角魅了の解除が目的だ。能力者がリリスに使役されるなんて許せないし、絶対助けたい!)
その準備を見てエドゥアルトはここに来た目的を思い出しぽんと手を叩く。
「……洗脳を解かないとなんだっけ? ここはサプライズパンジャン理論でござるね」
「サプライズパンジャン理論?」
聞き返すレーゲン。するとエドゥアルトは説明を始めていく。
「もし突然予想外のパンジャンドラムが飛び出して来たらどうなる?」
「びっくりするな」
「そう……ビックリするさ! ビックリした時点で『ビックリする事』が『マリアッテが好き』を凌駕するでござる! すると洗脳はその瞬間強度を失うって訳だ!」
これはある人気作品のスピンオフでも語られた理論であり、精神に対するあれこれを突破する演出は、だいたいこれで説明が可能だ(筆者調べ)。
「というわけで拙者はそちらのクッキーの効果を底上げするべくパンジャンを仕掛けてくるでござるよ! あ、このパンジャンの爆発は回復効果なのでダメージはないヨ。ホントホント」
「パンジャン……?」
その背中を見送りながら陸井は思わず呟いた。一方でエドゥアルトの話を聞いていたレーゲンは今の話を参考に自分に出来る対策について考えこむ。
「狙うのは所謂ショック療法という奴だな。私が失敗しても、そちら方面での搦手が得意そうな面子が揃っている様だし……」
レーゲンも何かびっくり系で挑戦してみる様だ。そして――。
「っ、できた!」
時人の対魅了のクッキーが完成した。時人は出来上がった114枚のクッキーをせっせと小分けにして包んでいく。その包装作業が終わる頃にちょうど、陸井は戻って来る足音を察知した。
「みんな、来たみたいだ」
そう皆へ告げた陸井は小石をひとつ拾い上げておく。それは最後のダメ押し用。それぞれが用意する仕掛けをより的確に発動させるためのひと欠片となる筈だ。
(現状とにかく西村さんに気取られないように、俺は事を運びやすいように手伝おう。何よりも、彼女自身もちゃんと助けたい)
●魅了解除作戦、始動
「お札、無事にとれました」
芽亜は戻るなり札を見せて微笑んでみせたけれど、それに対して夏代の雰囲気がピリピリしている。何かあったのだろうか。しかし、はっきり敵対している様子でもなく、肝試しによる試験を中止する程の事では無いらしい。
ここで時人が先ほど用意したばかりの包みをリュックから出して、一休みを提案する。
「あの。さ、実はクッキーがあるんだけど……おやつ食べて一息つくのはどうかな? 最初は場所と時間しか知らされてなかったからおやつ持ってきたんだけど。肝試しもなかなか疲れるし良いよね? 時間的にもちょっとお腹空いてきちゃったし」
日はすでに沈む最中。夕焼けの空が紫へと落ちる時間帯であり、タイミングは不自然ではない。
「さ、みんなも食べて」
と時人は全員に包みを渡していった。そして一人、二人とおいしそうに食べ始める。
「俺もひとつもらうよ。うん……味付けが時人らしいというか……すごく甘いな」
陸井も食べたことで、手作りであることに警戒を示した夏代もひとつ口へと運んでいく。これは最初のやりとりで時人と陸井の二人を普通の一般人だと認識した事も大きい。
「まぁまぁやね。悪うない」
そう言いながら夏代も空腹だったのか二つ目を食べ、そして三つ目に手が伸びたその時に。
――カツン。と廊下に見える半開きのドアから音が鳴った。続けて部屋の中からカラカラと、何かが転がる音が聞こえてくる。それは陸井が隙を見て投げた小石によるもの。
「ん? その部屋にもお札があるのか? それとも……本当に幽霊だったりしてな」
「え、……そないなこと……?」
そう言って陸井が夏代の注意を逸らしたその時。
――ゴロゴロゴロゴロ……。
階段からホールへと丸い車輪が躍り出てきた。それはエドゥアルトのユーベルコード『ブレイブマイン・パンジャンドラム<<カイフクサセルパンジャンドラム>>』――物体を修復、生物を治療するカラフルな爆発を起こすという車輪型の走る爆弾である。
火を噴いて回転する巨大な二輪の車輪は、小石に気を取られ反応が遅れた夏代を目掛けて高速で転がって迫り来る。
「な、何なん、このけったいなもんはっ!?」
「危なーい! 映画ばりに転がるパンジャンから二人で逃げるでござるよ! さあ!!」
すかさず飛び出して夏代の手を取ろうとするエドゥアルト。しかしその手は空を切る事になる。
何故ならレーゲンが驚く様を装って夏代へ飛びついたためだ。
(よし、ショック療法だ……! 最悪押し倒す形となっても構わない。洗脳解除まで行ければ良いが……最低でも洗脳に綻びを作れれば良いだろう)
レーゲンは夏代へ飛びつくとそのまま抱き着く形で床へと転がった。追加で浄化の力も籠めれば状態異常の解除の一押しとなるだろう。
そして、その背後ではエドゥアルトがパンジャンドラムに轢かれて大爆発を起こしていた。
暗い部屋にサイケデリックな極彩色が発生して空間を眩く埋め尽くす。赤と黄、そして緑が波のごとく押しては返して揺らめいて。やがて渦と作ってパチンと弾けたら点から染み出た青が視界を埋めてオレンジ色にうねりだす。
――暗い部屋に極彩色の明滅が広がった。
●夢から覚めて
疲れにはとりあえず甘味である。あまーいお菓子は心と脳に安らぎと安心を与えてくれる。
「うん。美味いな」
クッキーを一口たべたレーゲンは、もうひとつを包みから出すと手で割って、ひと欠片を夏代の口へ放り込んだ。すると夏代の口がもごもごと動きだす。
「あ……美味し……」
極彩色の明滅がホールを埋めつくしたショックで視覚情報がオーバーヒートしていたようだ。それが甘いお菓子でじんわりと回復していく。
そうしてぼんやりする彼女の元へと芽亜が近づいて。
「クッキーと精神的ショックで魅了はほぼ解除されている様ですが、念のため」
ユーベルコード『目覚めの時間』を用いて最後の残滓を断ち切った。芽亜が『裁断鋏『Gemeinde』』を仕舞うと、夏代はハッとした表情で狼狽える。
「しもた。……うち『魔狼儀式』の調査中やったのに、何してるん……」
……魅了が完全に解けた様だ。その様子にレーゲンの口元が綻ぶ。
「魅了の洗脳が解けたみたいだな。上手くいって良かった」
(しかし、猟兵と成った事で得たものも多いが……こうした場面で役立ちそうな『浄化の風』や『浄化サイクロン』を使えなくなったのは痛手だな)
レーゲンは能力者と猟兵の違いのひとつを実感する。だが今は過去に思いを馳せる暇はない。
「それで立て続けですまないが……私たちはあなたに聞きたいことがある」
そうレーゲンが伝えると、時人と陸井が事情と状況の説明を開始した。
「みなさんにはえらい迷惑かけてしもうて……堪忍え」
「や、大丈夫だよ。こうして無事だったんだし」
「あぁ、それにオブリビオンが関わっているのなら、それは俺たち猟兵の仕事でもあるからな」
「オブリビオン……ここ六年くらいで出始めてるけったいなゴーストやな。猟兵という覚醒者のことと併せて、銀誓館学園のアルバート様経由でうちら日本のヴァンパイアの勢力にも情報は来とる。せやのに、うちのミスやわ……」
再び落ち込む夏代。けれどすぐに迫る問題に思い当って顔を上げた。
「あ、こないにしてる場合やない。時間経ちすぎたらあのリリスが怪しんで逃げてまう」
「私たちはそのリリスのオブリビオンを討ちに来たんだ。だから道すがら情報を教えてくれないか」
そのレーゲンの言葉に、夏代は頷く。共闘の意志が確認出来た所で、時人と陸井が戦闘への助力は不要である事もはっきりと伝えた。
「オブリビオンへの対処はユーベルコードのある自分達に任せてほしい」
「うん。オブリビオンの相手は俺達がするからね。あと、戦闘には絶対に参加せず遠くに居てほしい。また魅了にかけられると不味いからね」
●経験者はかく語りき
落ち着いた頃を見計らってエドゥアルトが夏代へ話としかける。
「オブリビオンなら拙者たちが玩具にしてやるぜ! だからマリアッテ氏の事をじっくりねっとり教えてくだち!!」
「もちろん、うちの分かる範囲やけど」
「あとついでに夏代殿の推しジャンルも」
「えっと、うちは基本ノーマルカプやけど美形なら同性カプもたまに書い……やなくて! 何なんこの人!」
(武器のGペンでピンときたが、やはりこっち寄りでござったか……!)
笑顔で親指をサムズアップするエドゥアルトをぽこぽこ叩く夏代。この会話で気持ちがほぐれたのか、以降の彼女は積極的に情報を伝えてくれた。
夏代が言うには、廃ビルの屋上にそのリリスのオブリビオンは居るらしい。その道すがら夏代はマリアッテの情報を猟兵たちへと伝えていった。
「一番危ないのは、魅了かなぁ。魅了を込めた視線を向けられると他がどうでも良うなってまう。あと身体から出る炎もじっと見ると何しようとしてたか忘れ易くやるんよ。ただそれだけやとまだ弱くて、あの人はこう……危なっかしいというか、ほっといておけんっちゅうか、どんくさい。……支えてやらんとって気持ちが掻き立てられてヤバい。魅了と組み合わせられると、気が付くと夢中になってまう」
――経験者はかく語りき。
「あの人直接の戦闘力も低くてなぁ……魅了さえ完封できたら素手でもボコれるんちゃう? ほんま誰かが支えへんとろくに戦闘できひんと思う。ただそれだけ、魅了に特化してて油断できひんってことでもあるわ。諜報は実際えろう上手いし」
そして、ここまで聞いた内容からレーゲンは取れそうな戦術を推測していく。
「どうやら魅了の対策さえしていれば戦闘に関してはあまり苦戦せずにすみそうだな……。すると……諜報で知っているであろう情報を吐かせるのに注力するのもありか……」
「あー……確かに最近、数日開けて戻って来たばかりやから何か知っとるかもなぁ」
出発前に共有された映像の封筒や、土蜘蛛の檻の場所あたりが候補となるだろう。
「あ、この上です。上の突き当りの部屋。手伝いでも戦闘には来よるなって言われたさかい、うちはここまでにします。ほな気ぃつけてください」
「あ、ちょっと待って」
わかれる直前、時人が夏代へと声をかける。その手には、さっき作ったクッキーがあった。
「これ、まだあるから貰ってほしいかな……なんて。……ちょっぴり甘み強めかもだけど」
「おおきに」
クッキーを受け取った彼女へ陸井も声をかけていく。
「俺たち猟兵は銀誓館学園と協力関係にある。だからオブリビオンの事件があれば銀誓館学園へ連絡してくれればこうして助けに来るよ」
「それに俺と陸井も、元能力者だしね」
「その時は頼りにさせてもらいます。ほな、気ぃつけて」
日本に拠点を置く貴種ヴァンパイア組織に属する従属種ヴァンパイア、西村・夏代はこうして猟兵たちを見送った。
この出会いで運命の糸が結ばれたならば、きっとまた会うことができるだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『計略のリリス『マリアッテ』』
|
POW : うう迂闊に近づきましたわね!(精一杯強がって)
近接範囲内の全員を【判断力が低下した状態】にする【間近で見ると理性が焼かれる魅了の炎】を放ち、命中した敵にダメージと麻痺、味方に隠密効果を与える。
SPD : わたくしの為に…って、それは言わなくていいの!
【助けを求めるマリアッテの心に応えた忠臣】の霊を召喚する。これは【マリアッテの萌え所エピソードのウザ語り】や【その霊が得意とする戦い方】で攻撃する能力を持つ。
WIZ : わたくしのオネガイ、聞いてくださいます?
【強い魅了と共に、視線あるいは身体の部位】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
●愛されリリス
廃ビルの最上階にそのリリスのオブリビオンは居た。その肉体は露出こそ無いものの服の上から十分にその魅力を主張している。……しかしこのリリスが人を虜にする理由は別の所にあった。
片側にあるドリルヘアーの先端を指でくるくるまわしながら彼女は独り言を呟いた。
「遅いわねぇ……夏代。もしかしてカップルを脅かして楽しんでるのかしら。それともカップル候補を見つけてくっつけようとしている……? 一度ちゃんと怒った方がいいわよね……うーん、でも能力者って半端にタフだからかえって加減が難しいのよね……それに厳しくしすぎて逃げられても困るし……」
まるでペットの躾に悩む様に眉をひそめている。
「……もう。どうしてうまくいかないのかしら。あれこれ指示して言う事を聞かせるのはゾクゾクするのだけど、褒美が面倒なのよねぇ……それでこの前は、何人かが拗ねてどっかいっちゃったし」
はぁ、とため息をひとつついて、彼女はティーパックを入れたカップに電子ケトルのお湯を注いで口を近づける(どうやらこのビルは実は電気が通っている様だ)。そして。
「熱っつ!?」
口から慌ててカップを離し――。
「熱ー!??? 」
熱々の紅茶を胸にこぼして悶絶した。
このドタバタの最中で机の上の封筒にも紅茶がばしゃりとかかる。するとマリアッテは顔を青くしてそれを慌てて拾い上げた。
「あわわ、これはオブリビオンの手下を作るための大事な情報……! ダメにするわけにはいかないわ。乾かさなきゃ……危ないけどまあちょっとくらいなら平気よね」
そう言うと、マリアッテは魅了の炎を指から出して、封筒を軽く炙って乾燥を試みるのだった……。
クライド・エント
「ドジなリリスね…そういう魅力も必要なのかね」
櫻井・優(f29623)と
【WIZ】
開幕は【切り込み】で攻めてくか、ただ手応えが無さすぎて逆に心配になってきた…
「おいおいそんなんで大丈夫か…?」
あっさりしすぎだなと思って転んだマリアッテに近づいてみる
そしたら、いきなり顔をあげこっちの手を握り、胸に持っていかれて上目遣いでこっちを見つめてきて「オネガイ」をされてしまう
(あれ、こんなに可愛い娘を苛めていたのか?俺はなんてことを…早く守ってあげないと!)
そのままマリアッテの僕となりつつ、支配欲を満たしてあげるぜ
(檻の場所を話すようだったら他の待機している猟兵に伝わるはず、魅了後についてはアドリブで)
櫻井・優
「庇護欲を掻き立てるリリスですか、確かに見た目は可愛らしいな…」
クライド・エント(f02121)と
【POW】
相方を一緒に戦闘に移ります!
【先制攻撃】で牽制、その後はタイミングを合わせて攻撃してく
ただ途中、転んだ相手に近づいた相方の様子がおかしい…
「クライドさん?大丈夫ですか!」
(様子が変だしこうなったら自分が!)
一気に勝負を決めようと近づくが、相手の身体から出る炎に見とれてしまう…
(あれ?自分は何を…彼女から目を離せない…)
そのまま守ってくれるように「オネガイ」されると、庇護欲が掻き立てられて言うことを聞いてしまう
魅了については自力で解けそうなら解く努力はしますが、結果はお任せします
儀水・芽亜
&&&
魅了に全振りですか。さすがはリリス、厄介な。
ごきげんよう、マリアッテさん。お仲間作りは順調ですか?
せっかくの対面です。一曲披露させてくださいな。小脇に抱えた竪琴で「楽器演奏」を伴奏に、「全力魔法」「催眠術」「郷愁に誘う」アンチウォーヴォイス。
彼女の郷愁は、配下の霊が生きていた時代のことでしょうか。
出来ればユーベルコードを封じたことを悟られずに話を進めたいところです。
私たちは友達ですよね? なら隠し事も無しにしましょう。
ここしばらく忙しくされていたと聞きましたが、どこかへお出かけされてたんです?
さて、名残惜しいですが、お別れの時間です。裁断鋏『Gemeinde』で身体を「切断」します。
エドゥアルト・ルーデル
&&&
あらかわいい、これは見事なドジっ子ぶり…西村氏が魅了されるのも無理のない話でござる
封筒も燃やしちゃうと見たネ
【忠臣の霊】の相手をしたる!拙者が相手だ!主人の新鮮なドジっ子エピソードをたずさえてかかってこい!相手になってやる
という訳で語られる痴態を…ドジっ子エピソードを傾注!全集中!マジ?そんなキャワイイエピソードが?見てたらしてくれるかしら…マリアッテ氏ドジっ子して!翔ぶが如く!翔ぶが如く!
あ、拙者は語らいと観察で忙しいので後はヨロシクゥ!
同好の幽霊を語らいで足止めしつつマリアッテ氏の雄姿を収めるのにめっちゃ忙しいんですけお!なので動けないのも仕方ないネ…いけー!マリアッテ氏がんばえー!
凶月・陸井
&&&
相棒の時人(f35294)と参加
此処まで来たんだ、これでまずは王手だろうな
一番の目標は兎に角情報を引き出す事と奪う事
倒すのはその後だな
魅了の事もあるから先手は相棒や一緒に向かう仲間達に任せ
俺は周りへの警戒とぱっと見でも重要そうなものがあれば確保に回るよ
もしもその上で証拠を隠滅しようとしたり魅了で何とかしようとしてきたら俺の番だ
怪しい動きを見せたら即行動。【戦文字「縛」】を使用して動きを止める
「おっと、悪いが何もさせるつもりは無いからな」
動きを止め、封筒の奪取が終わって居なかったらすぐに奪い
他に情報が取れないと判断したらすぐに攻撃へ切り替える
「暗躍しても、何が起こっても、俺達が阻止する」
葛城・時人
&&&
相棒の陸井(f35296)と
情報は絶対欲しい。必ず手に入れる
マリアッテを見たら友好的な雰囲気で笑顔で
「こんにちは、だよ」
魅了等は全技能を励起し堪え
UC「真摯なる瞳」を呟き詠唱
好意を引き出せる間に先ずは封筒の奪取を
でも焦りは禁物。落ち着いて話すよ
「ね、それ大事なものみたいだけど…びしょ濡れの
服大変じゃない?」
「良かったら拭く間、預かってよっか?」
笑顔であくまで好意や善意に見えるように
受け取れたら雑談に見せかけて他の情報も
聞けたらと
「ね、貴女はどんな事に詳しいの…?」
不測の事態には陸井や仲間が動いてくれる
天秤は絶対此方にある
以後は状況に応じ戦闘行動
白羽蟲笛からククルカンの乱舞で視覚阻害も狙う
レーゲン・シュトゥルム
&&
覚悟して貰おうか
行くぞ、イグニッション!
【浄化】の力を込めた【ヘヴンリィ・シルバー・ストーム】を発動し味方を支援する
味方に対する魅了効果と傷を回復させつつ、呼出された霊諸共マリアッテを攻撃する
雨音と雷鳴がウザ語りを軽減し、雨や雷光が炎を見え難くするわけだな
肝心の稲妻がマリアッテを傷付ける事は難しいだろうが…逆に封筒を回収する上では都合が良いな
【クイックドロウ】で魔法弾を【乱れ撃ち】、敵の退路を封じ続ける
一発必中ばかりが【スナイパー】ではない
【弾幕】であれ、最終的に命中すれば用を成すのだからな
ウザ霊に接近されたら【足払い】で転ばせ、【踏みつけ】て動きを止めた上で【零距離射撃】を見舞うとしよう
●魅了と天然
「熱っつ!?」
猟兵たちが扉を開けたのが、ちょうどこの辺りだった。
そこから先は冒頭のドタバタ騒ぎ。その様子を、ほほう、と眺めてエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)はにっこり微笑む。
(あらかわいい、これは見事なドジっ子ぶり……西村氏が魅了されるのも無理のない話でござる。封筒も燃やしちゃうと見たネ)
ここまでの情報でドジで愛らしいという話は度々出てはいたが……いざ実物を目にすると戦意も削がれ易いもの。特に討伐する気満々だったレーゲン・シュトゥルム(黒風白雨・f36427)はイグニッションカードを手に固まってしまっている。『誰かが支えへんとろくに戦闘できひんと思う』という前章での元秘書の言は信憑性が高そうだ。
そしてクライド・エント(だらしない海賊・f02121)と櫻井・優(人間のヴィジランテ・f29623)の二名は早速その姿に油断し始めていた。
「ドジなリリスね……そういう魅力も必要なのかね」
「庇護欲を掻き立てるリリスですか、確かに見た目は可愛らしいな……」
そんな相手の天然の策が炸裂している状態で、凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)と葛城・時人(光望護花・f35294)の両名はいち早く対話を試みていく。それはここで得ておきたい情報があるため。
(一番の目標は兎に角情報を引き出す事と情報を奪う事。倒すのはその後だな)
「あー……ちょっといいかな。まずは突然の訪問すまない」
「こんにちは、だよ」
「あら、あなた達が新しい仲間ね? ごきげんよう」
まずは挨拶。
強引に迫り敵意を示せばユーベルコードと魅了が入り乱れる混戦となるだろう。封筒はなんとかなるかもしれないが『大規模な土蜘蛛の檻』の情報はこの場では『マリアッテ』の頭の中にしかないため、この場はなるべく友好的に進めたいところ。
「……ところで、夏代は何処かしら。わたくしの秘書があなた達を案内していたはずなのだけれど」
そう言ってリリスは秘書の姿を探す。けれどそこに緊張感はなく、魅了で虜にしていた秘書がすでに正気に戻って帰ってしまったとは微塵も思っていない様子だ。ここに現れた猟兵たちに対しても、手下候補として見ており油断をしている。
だがこちらは気を抜けない。なぜならいま封筒を乾かしている炎も、間近で見てしまえば理性が焼かれる魅了の炎であり、直視すると虜になってしまうからだ。
(好意を引き出せる間に先ずは封筒の奪取を……)
そんな交渉が始まろうとした、その時に。
「開幕から切り込むか!」
「戦闘に移ります!」
クライドと優の二人がバスタードソードを手に『マリアッテ』へ襲い掛かった!
●魅了と計略
「なな、なんですのあなた達!?」
油断からの不意打ち。それに驚いたマリアッテは思わず封筒を放り出して戦闘体勢に入ろうと立ち上がり――自身のマントの裾を踏んづけてスッ転ぶ。
「ぎゃんっ!?」
「おいおいそんなんで大丈夫か……? 手応えが無さすぎて逆に心配になってきた……」
あまりに隙だらけ、そして一挙一動に運動センスが皆無。そんな敵に呆れつつ、クライドはバスタードソードを肩に担いでトドメを刺さんと近付いた。
このままではあっさり討伐されて終わってしまいそうだ。この流れは情報を引き出そうとしていた面々には都合が悪い。そのため陸井はユーベルコード『戦文字「縛」』で二人を止めようと宙に文字を描きだす。
「二人ともすまないが、縛らせてもらう……っ」
しかしこの時、クライドに異変が起きた。
彼の動きを止めたのは戦文字ではなく――マリアッテだった。
「待って! わたくしたちは言葉が通じる者同士、解り合えるはずですわ……!」
そう訴えて、彼女はクライドの手をぎゅっと握った。手のぬくもりで安心感を与え上目遣いの弱々しい視線で相手の心に隙を作ると、マリアッテは握ったクライドの手を自身の胸へと押し当てる。するとクライドの指は柔らかい膨らみへと埋まった。
「わたくしの鼓動がきこえますか。生きているんですのよ。だからお願い……わたくしに武器を向けないで」
――相手の同情と欲を掻き立て味方につける。それは、高い知性を持つリリスが取る事がある手段だ。一般人のフリをして日常に入り込むリリスは、オブリビオン化しても人間の心理と欲望をよく理解している。
故に――。
(あれ、こんなに可愛い娘を苛めていたのか? 俺はなんてことを……早く守ってあげないと!)
強い魅了に虜にされたクライドは武器から手を離した。
「クライドさん? 大丈夫ですか!」
(様子が変だしこうなったら自分が!)
その異変に気付いた優は慌ててマリアッテへ武器を向けるが……しかしクライドが優の前に立ち塞がって妨害する。
「クライドさん、そこを退いてください!」
「そこ! 迂闊に近づきましたわね!」
すると優のまわりを桃色の炎が包んだ。その炎は理性を焼き判断力を鈍らせて、魅力の虜となってしまう炎だ。
(あれ? 自分は何を……彼女から目を離せない……)
「お手」
「……はい」
「おかわり」
「……はい」
「……効いてそうですわね」
二人に命令が効いていることを確認したマリアッテは、大きな安堵のため息を吐く。そして。
「――で。あなた方はどういった立場で? 先ほどの混乱で仕掛けない所を見ると、今はわたくしに害意は無い様ですが」
そう言い不安げな表情を見せるマリアッテ。その隣にはいつの間にか忠臣の霊も召喚されていた。
●対話の用意を
虜にした猟兵もマリアッテの手勢と考えるのなら、いざとなれば逃げる時間だけは稼げそうな戦力比になっている。
だが先に仕掛けた二名を除けば残りは今すぐ危害を加えるつもりがない事も見抜いているのは幸いだろう。対話の継続は可能そうだ。
マリアッテの方も己の武器は理解しており、いざとなれば全員を虜にする自信が彼女にはある。何より支配下に置く手勢はひとりでも欲しい――そういう『欲望』がこのリリスをこの場に留めていた。
儀水・芽亜(共に見る希望の夢・f35644)はここまでのやりとりから緊張を一層と強める。
(魅了に全振りですか。さすがはリリス、厄介な)
力づくで倒してよいのであれば、ユーベルコードを用いればどうとでもなるだろう。しかし相手は今、こちらが欲しい情報という質をもっている。そして相手もこちらが何かを引き出そうとしていることを察している様であった。
だがこちらは敵側に善意は求めていない。猟兵側は緊張状態を想定した作戦を用意をしている。
「や、その。こんなことを言うのは虫が良すぎるかもしれないけれど……君が言う通り俺たちに攻撃の意志はないよ。改めて、こんにちは、だよ」
焦らず、落ち着いて。時人は友好的な雰囲気の笑顔で語りかけた。そしてレーゲンも話を合わせて補足する。
「ああ、私たちはこのビルで西村に会い、そして案内されて来たんだ。彼女は、所用があると言っていたが……あなたがグループをまとめている『あの方』で合っているのだろうか」
マリアッテの視線が品定めをするように五人を見つめた。もちろん友好的な行動を誘発する魅了を込めて。
そのとき時人は床に落ちた、紅茶の染みがついた封筒を指差す。
「ところでだけど……。ね、それ大事なものみたいだけど……びしょ濡れの服も大変じゃない?」
「確かに、火傷もすこし心配ですし」
そう芽亜も付け加えてマリアッテに気遣いを見せていく。一見すると二人もリリスの魅了に取り込まれての気遣いにも見えるが……芽亜は破魔と浄化の技能で抵抗し、時人は気合いと服に施した結界で耐えていた。
「良かったら拭く間、預かってよっか?」
時人はそのままマリアッテを真っ直ぐ見つめて提案する。この時、時人はユーベルコードをこっそりと使用していた。
ユーベルコード『真摯なる瞳』――その視線を受けた相手は二分近くの間、無意識に友好的な行動をとってしまうというものだ。これは対話が成り立つ場であれば大きな効力を発揮するだろう。
「え、ええ……そうね。それじゃあ……」
マリアッテは封筒を拾い上げると、そのまま時人へ手渡そうとした。
●水面下の心理戦
「いけませんマリアッテさま!」
その時だ、召喚済みの忠臣の霊が吠えたのは。その霊はゴテゴテしたフリルの多い衣装に身を包んだ少女の姿をしており、蛇のような髪がリリスの一種であることを思わせる。
「あなたの大胆さには時々肝が冷やされますが、しかし……ひぁっ!?」
突如、忠臣の霊の眼前に髭面の顔面がどアップで現れる。それはここまで状況を眺めていたエドゥアルトによるインターセプト。
「なるほどぉーっ、さすがマリアッテ氏の古き忠臣でござる。その物言いだと主人の新鮮なドジっ子エピソードがいっぱいあると見たネ! どんなのがあるん? 拙者もキャワイイエピソードいっぱい聞きたいなぁ!」
「え……そ、そう? 確かにマリアッテさまは可愛いわ。……ところで私はどう? 私は可愛い?」
この質問はリリスとしての本能か。エドゥアルトが親指をぐっと立てて同意を示すと。
「んもー仕方ないなぁ~。それじゃあこのエゴプリンセスが語ってあげる。世界で唯一この私より素敵なマリアッテさまの武勇伝!」
「いえーい!」
「そう、あれは私がゴーストタウンの紫刻館でマリアッテさまにスカウトされてから99日目の出来事……」
先ほどの諫言は何処へやら、忠臣の霊はエドゥアルトに思考誘導――ユーベルコード『隣人力』によるもの――されるままに語り始めるのだった。
「もうっ、あんまり恥ずかしい話をしないでくださいます!?」
と忠臣に対して頬を膨らませるマリアッテであるがまんざらでもない様子。マリアッテはそのまま封筒を時人に渡すと「着替えて来ます」と伝えて部屋の隅へ向かうのだった。
その時、ついでにクライドと優の両名も呼び寄せる。どうやら魅了を念のためかけ直す算段の様子。あとで二人も元に戻す必要があるだろうが……今はこのままでいいだろう。二人は、カーテンの布を持って着替えのスペースを作りだした。
「じっくり見せてあげたいけれど、そのご褒美は後でね。わたくしをしっかり守ってくださいまし……♪」
そう囁いて、マリアッテは着替えを覗かせることで魅了を重ね掛けていく……薄明りに映える白い肌と柔らかそうな肉体、そして豊満な胸と腰が着替えのスペースで露わとなって。
(可愛いだけではない、美しい……)
(なんて大胆なんだ……こんなの目を逸らすなという方が無理だ!)
濃厚な魅了に中てられた二人の意識はさらに忠実な僕へと塗り変えられていくのだった。
「さて……では改めて。お茶を用意しましょう」
マリアッテは支配下においた優へお湯と新たなティーバッグの用意をさせていく。最初の空気はいつの間にやら何処かへ吹き飛んで、友好的な雰囲気が形成されていた。
これは友好的な行動を誘うユーベルコードの撃ち合いによる要素も大きく、結果的に互いにある程度効いたことで対話の場をスムーズに作り出している。……そして何より、と時人は思った。
(不測の事態には陸井や仲間が動いてくれる。天秤は絶対此方にある)
……この戦いは、ここからが正念場となるだろう。相手におかしいと思われる前に、如何にして情報を引き出すか――。
●プリンセスに接待を
ここまでのやりとりで無意識か意識的か、いずれを問わずこの空間に魅了の状態異常がばら撒かれていた。
魅了を正面から受けないようにと主なやりとりを仲間に任せてなるべく目を逸らしていた陸井だったが、魅了に対する対抗を特に持たない彼には少々厳しいものがある。相手の視線が向くたびに彼は胸中がざわめき、その度に妻の顔を想い浮かべて対抗していた。
そしてお茶で一息つく流れになったこの時に陸井は時人へクッキーの残りを出すよう小声で伝える。
(「確かクッキーまだあったよな。あれをみんなで食べないか。直接狙われていないとはいえ、視線が来るたびに落ち着かない気持ちになってしまう」)
(「あ、うん。そうだね」)
それは、ここに来る前にマリアッテの秘書役になっていた従属種ヴァンパイアの西村・夏代の魅了を解くために作った、状態異常を治療する料理の余り。
「え、と。西村さん遅いね。じつはみんなと食べようと思ってクッキーを持って来てるんだけど……先に食べちゃおっか」
「あら、お茶請けだなんて気が利きますわね」
「でしたら私からも。せっかくの対面です。一曲披露させてくださいな」
と、芽亜は竪琴を取って演奏と歌を歌い始める。
「うーん♪ 紅茶を飲みながらクッキーを食べて、歌と演奏の余興まであるだなんて。素敵だわ、素敵な人材たちだわ。良きに計らいなさい!」
まるで接待を受けているかのような状態に、マリアッテは自身の魅了が全員に効いているという誤認を強めていく。その警戒心の低下と共に戦意もみるみる喪失していくのだった。
最も、戦意については芽亜の歌によるものが大きい――ユーベルコード『アンチウォーヴォイス』によって、マリアッテはそうと気づかないままに改めてのユーベルコードの使用が封じられていく。
下僕と化した優がカップとティーバッグを人数分用意してお湯を注いでいく最中、陸井はクッキーをひとつ食べて魅了を解除すると周辺の棚の物色を開始した。
「ここにあるもの、見ても大丈夫かな」
「構わないけれど、あまり荒らすと秘書の夏代があとでうるさいですわよ。だから、程ほどにね」
そう答えるマリアッテは、まだ秘書が姿を現さないことに疑問を持っていない。すでに魅了を解かれて帰ってしまった彼女だが、こうも疑問に思われないあたりイレギュラーな行動が多い娘なのかもしれない……。
許可が出たことで手持無沙汰なレーゲンも陸井と同じ様に棚のファイルバインダーを手に取ってめくっていった。やがて二人はさほど間を置かずに『霊石結界』の情報を見つけることだろう。
それは四国にある対ゴースト組織『天輪宗』によって結界に閉じ込められたオブリビオンの情報だ。残念ながら土蜘蛛の檻の情報ではないが、これも捨て置ける情報ではない。
●それは語らいのティーパーティー
「続いて、手作りスイーツが上手なリビングデッドをスカウトして配下に加えたばかりの時のことね――材料に卵が必要だったんだけど、マリアッテさまはせっかくだからと平飼いの高級卵を狙おうと言い出して卵を生産している農家に忍び込む計画を立てて……」
「ほほう! それでそれで!?」
やや煽り気味に気持ちのいい相槌を行っていくエドゥアルトの隣人力は、もてはやされる快楽から生まれたリリスであるエゴプリンセスの欲望といい具合にマッチしていた。
「……ニワトリに負けたのが悔しかったみたいで意地になってニワトリを支配下に置こうとしはじめちゃったの。流石に私も、えっ鳥に魅了を!? って思ったけど、マリアッテさまが可愛いからまあいいかって」
「えっマジ?! それでどうなったん?」
「騒ぎすぎたのか銀誓館の能力者がやってきてぇ、全力で逃げたの。そしたら途中でマリアッテさま電線に引っかかって川に墜落しちゃって。あの時は本気でダメかと思ったわー。結果的に上手く逃げ切れたんだけど……」
「えーっ!? 見てたらしてくれるかしら……マリアッテ氏ドジっ子して! 翔ぶが如く! 翔ぶが如く!」
「あなたねぇ、少しは話題を選びなさい! それは言わなくていいの!」
忠臣の霊とエドゥアルトの語り合いがヒートアップする中でお茶会の雑談はつつがなく進んでいく。
「私たちは友達ですよね? なら隠し事も無しにしましょう」
一曲歌い終えた芽亜はマリアッテへと質問を投げかけた。それは今回最も引き出したい情報――。
「ここしばらく忙しくされていたと聞きましたが、どこかへお出かけされてたんです?」
しかしその質問にマリアッテは。
「ふふーん、秘密ですわ」
と偉ぶって返すのだった。続けて時人もこう問いかけてみるが。
「ね、貴女はどんな事に詳しいの……?」
「そうねぇ……逆にあなたはわたくしの何を聞きたいかしら?」
マリアッテは支配を快楽としている。そのためわざと勿体ぶって話題の行方の主導権を握ろうとしているのだ。様々な形があるが、リリスは快楽や欲望から生まれる……それ故に、彼女もその欲望の影響が色濃い様で雑談は迷走の兆しを見せ始める……。
(……しかし、ひとまずは友好的に進んでいる様だな)
レーゲンは目を通したファイルバインダーを棚に戻すと、冷静に現状を分析した。魅了に対抗するクッキーが残っている間はまだ粘れるだろう。陸井も、先ほど見つけた『霊石結界』の情報を自身のメモ帳へと書き写すと対話を続ける時人と芽亜へと目を向ける。
(相手が敵対行動を取ったらすぐにも止めようと思っていたが、大丈夫そうだ。あとは情報を引き出せれば……)
●土蜘蛛の檻は和紅茶の産地の傍に
芽亜と時人との会話を焦らしてペースを握ろうとしつつ、その合間に下僕としたクライドと優に命令して胸元のクッキーのカケラを掃わせたり口へ運ばせたりと雑用をやらせているうちに、マリアッテはだんだん気分が良くなってきた。
明らかに調子にのった表情になっていき、会話の端々で「そんなことも知らないんですの?」とマウントを取る回数が増えていく……。そんな最中、ついにマリアッテが口を滑らせた。
「このティーバッグも飽きましたわ。この飲みかけのやつてきとーに処理して新しいの持ってきなさい」
マリアッテは二人の下僕へと命令する。
「そこの棚の……そう、その新しい和紅茶の箱よ。このまえ、でかい土蜘蛛の檻を見つけたときに、近くにあったお茶のお店に売ってたのよね」
――『土蜘蛛の檻』。その情報に芽亜は質問を重ねた。
「あら、実は私も紅茶には凝っていまして。……良ければどこで買ったか教えていただけますか。レシートがあれば、そこに記された販売店の住所を元に手に入れたいのですが」
「シモベ二号ー。その箱の袋にレシートあるかしら。そう、それ。持って来なさい」
優が命令通りレシートを取ってくるとマリアッテはしょうもない命令をさせたという支配的な行為にご満悦。ニコニコとレシートを芽亜に渡して気を良くしたまま『出張』の話をべらべら喋り始めるのだった。
――始めはわたくしの配下にした一般人の家族に対する違和感がきっかけでしたわ。本人の記憶に妙な空白があり写真にも空白がありましたの。
ああ、これは世界結界ですわねと勘づいて、そのゴースト或いはオブリビオンがわたくしの脅威となるか、それとも味方となるのかを把握しておくべきと考えて調査を始めたのですわ。
そして訪れた地には、異様に大きな土蜘蛛の檻がありましたの。さすがに喧嘩を売るのはヤベーのでわたくしはテキトーに一人たらしこんでしばらく調べてまわりましたの。そしたら、『国見・眞由璃』という者を女王とする土蜘蛛のオブリビオンの勢力らしいというじゃない。
全員魅了で虜にできれば一気にわたくしの地位が上がる思ったけれども、失敗したら確実に死ぬから軽い接触だけにしておいたわ。あちらは土蜘蛛オブリビオンの増殖と存続が一番の目的で、それ以外の望みは無さそうだし、まあいいかしらって。
この語りは忠臣の霊の拍手で締めくくられた。
「懸命な判断! さすがですマリアッテさま! 基本アホですけどそういう手堅い所は尊敬してます!」
「ちょっとあなた忠臣なのにわたくしに対する扱いひどくありません!?」
●語らいは終わって
『大規模な土蜘蛛の檻』の大まかな位置が判明した――これらの情報を元に探せばすぐにも件の檻は見つかるだろう。
一般人であれば『世界結界』の影響ですぐに忘れるか、うまく認識できないが、能力者や猟兵であれば世界結界の影響を受けずに見つけられるはずだ。
必要な情報は十分引き出した――レーゲンと陸井が目配せをすると、芽亜と時人も小さく頷く……それを合図に猟兵たちは一斉に動き出した。
「失礼」
芽亜はそう言いクッキーを二つ手に取ると、クライドと優の口へひとつずつ押し込む。これは前章で作成された状態異常を治療する料理の残りなため、二人は魅了から解放されてすぐに正気へと戻った。
同時にレーゲンがイグニッションカードから武器を取り出していく。
「覚悟して貰おうか。行くぞ、イグニッション!」
同時に放たれるのは浄化を込めた銀色の雨と万色の稲妻――ユーベルコード『ヘヴンリィ・シルバー・ストーム』。
その雨は継続的に味方を癒し、そして重ねた浄化が魅了の効力を軽減させていく。さらに万色の稲妻が視界を妨害することで視線による魅了をも阻害した。
そこへ時人が放つ白燐蟲――羽毛と翼持つ蛇の様な姿の蟲が、白く輝いて乱舞したならば視線の阻害はより一層と強まって、敵が魅了をかける手段をひとつ潰す。
これには忠臣の霊も参戦しよう動き始めるが……それはエドゥアルトによって妨害された。
「マリアッテさま!」
「まあまあ待つでござるよ、同好の士のエゴプリンセス氏。ほらマリアッテ氏オロオロしてて可愛いでござるね!!! あらエゴプリンセス氏のおみ足スベスベでござるな」
「うあああああじょりじょりするぅ~!?」
「あ、拙者は同士との語らいと観察で忙しいので後はヨロシクゥ! なので動けないのも仕方ないネ……いけー! マリアッテ氏がんばえー!」
一方でレーゲンは室内を埋める稲妻に紛れて、無尽蔵に魔法弾を射出する詠唱兵器の銃を乱れ撃っていった。
「退路は封じさせてもらおう――この弾幕を抜けられるとは思わない事だ」
(一発必中ばかりがスナイパーではない。弾幕であれ、最終的に命中すれば用を成すのだからな)
対してテーブルを倒し盾にしたマリアッテだったが普通のテーブルがそう耐えられる筈もなく、既にいくつか被弾している。加えて……。
「――ダメだわ。ユーベルコードも封じられてますわね」
接待の始めに一曲歌われた時の『アンチウォーヴォイス』の効果も重なって、マリアッテの状況は詰んでいた。
●計略はここで終わりとなる
「わたくしの魅了がまさか効いていなかったなんて……こんなこと、有り得ますのね。これまで友好的に接していたのは土蜘蛛の檻の場所を聞き出すためということかしら」
マリアッテはこの状況を少しでも打開しようと言葉を投げかけ糸口を探し始める。
「でしたら、わたくしと同盟を組みませんこと? わたくし、あなた方の知らない情報を集めるのにとーっても役立ちますわよ?」
テーブルを貫通した銃弾がひとつ、またひとつと突き刺さり血を流しながらマリアッテは提案を続けた――しかし彼女は、ここまで魅了による洗脳の強力さを見せつけすぎた。
能力者や猟兵、そして他のオブリビオンまでも支配下に置けるそのチカラは外からはわかりづらく、易々と監視できるものでもない。そのため言葉に耳を貸すこと自体がリスクとなるだろう。故に。
「おっと、悪いが何もさせるつもりは無いからな。暗躍しても、何が起こっても、俺達が阻止する」
陸井のユーベルコード『戦文字「縛」』が発動し、その文字はマリアッテへ纏わりついて動く意思を奪っていく……意志が伴わなければその動きは緩慢なものとなるだろう。そうして動きが鈍くなったところへ――。
「さて、名残惜しいですが、お別れの時間です」
「……ここまでですわね」
――クロスシザーズの『裁断鋏『Gemeinde』』を手にした芽亜が立っていた。
何時の間にかレーゲンの銃弾と稲妻は止んでおり、辺りは静寂に包まれている。巨大なハサミが開き、それは獣の顎のようにリリスのオブリビオンを挟み込んだ。
――ジョキン。
こうしてひとりのオブリビオンによる、組織作りの計略は断ち切られることとなる。
「終わったか」
レーゲンは消えゆく忠臣の霊から足を退けた。レーゲンはマリアッテに戦文字が当たった時点でその弾幕を止め、忠臣の霊の対処に加わっていたのだ。
目を向けると、事切れたリリスはその存在が消えていく最中であった。骸は骸へ、過去は過去へ。そのオブリビオンはやがて骸の海――過去へと還り、そして消えていった。
●事後行動
(試験的な試みですので、問題が大きければ次回以降は行いません)
【旅団『ちいさな集会所』】にて、事後行動として次回どの事件を追うかの投票を試験的に実施します。
https://tw6.jp/club/thread?thread_id=111728
よろしくお願い致します。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴