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とある殺意

#シルバーレイン


●とある殺意
 交差点を行き交う人々の群れの中に、男は居た。
 その身に滾る熱にも似た殺意が溢れだす。

 たとえば何気ない笑顔。たとえば帰路に着く姿。
 たとえば大切な誰かとの待ち合わせ。

 憎悪の理由なんてもう思い出せない。
 ただそれらを滅茶苦茶にしたくて、ひゅうひゅうと呼吸が荒れていく。

 ――ぐるる、と、獰猛な唸り声がした。

●なれた敵意
 猟兵達がグリモアベースに到着すると、見慣れぬ制服の少年が彼らを出迎える。
「来てくれてありがと、それにはじめまして。僕は津嶋・かなで、猟兵なりたての銀誓館の生徒だよ。どーぞよろしく……と、こっちは兄弟のみやこ」
 名乗った少年、津嶋・かなで(幻実アンファンス・f35292)の陰から、ひょこりと幼い背丈のスケルトンが顔を出す。ちいさく頭を下げると、スケルトンは再び少年の陰に引っ込んだ。
「早速だけど、シルバーレインで事件。僕の住んでる世界だけど、猟兵の皆はまだ馴染みがないかもな。けど、やることはシンプルだ。殺戮を止めてほしい、それだけ」
 猟兵なら慣れてるだろ、と、かなでは説明を始める。

「ある地方都市の交差点で、妖獣化オブリビオンの大量殺戮が起きる。妖獣化っていうのは、本能とか衝動、苦痛なんかに支配されて、人間を暴力的に殺戮する類の現象のこと。皆はさくっとこいつらをぶっ倒してくれればいい」
 とはいえ、オブリビオンの出現までには時間があるという。だからさ、と、かなでは取り出したタブレットの画面を表示する。そこには出現場所である交差点の画像が映っている。
「この交差点のすぐ傍に、ちょうどいいビルがあるんだよね。その屋上で、皆は適当に暇をつぶしてくれると助かる」
 時刻は昼間、天気もいい。戦いの前の腹ごしらえもよし、ぽかぽかの昼寝もいいかもしれない。読書にもちょうどいい。

「時間が来たら、妖獣化オブリビオンに汚染されて狂暴化した配下の群れが人を襲い始める。皆が戦えば敵はそっちに惹かれて、一般人は全員逃げられる。ビルから飛び降りるなり、直前に人ごみに紛れ込むなりして、さくっと始めちゃって」
 随分と雑なことを言う少年に、猟兵の一人が敵の特徴を問う。
「まず相手にするのはホチキスドッグ。普通の大型犬みたいな顔してるけど、獲物に近付いたら豹変してグロい見た目になる。でけぇ口で襲ってくるから気をつけて」
 ぱくぱくと、人間とは思えぬ硝子製の手が動く。
「グロい大型犬を全滅させたら、妖獣化オブリビオンが出てくる。連続通り魔殺傷事件を起こした男の怨霊だ。本人は死刑になってんだけど、世間への怨みと被害者の苦しむ姿を見た時の喜びが忘れられくて、ゴーストになって蘇ってる。つまり、相手に同情は要らない」
 こういうゴーストって地味に多いんだよね、と、少年はうんざりした様子で語る。

「必要な情報はこんなもんかな」
 そうして少年が宙へ放ったのは、ちいさな硝子玉。巨大化していく球体の中身は、何処か毒々しい淡彩の嵐だった。
 猟兵達を淡彩の嵐が包む途中、スケルトンが再び顔を覗かせる。
「……ああ、がんばって、だってさ。これでも僕らは、皆を尊敬してるからさ」
 交差点の喧騒が、ほのかに響き始めていた。


遅咲
 こんにちは、遅咲です。
 オープニングをご覧頂きありがとうございます。

●成功条件
 オブリビオンを撃破する。

 ※プレイング受付は12月3日(金)朝8時31分以降から。

 どの章からのご参加もお気軽にどうぞ。
 再送のお手間をおかけすることがあります。
 皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
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第1章 日常 『屋上にて』

POW   :    日光を浴びながら昼寝する

SPD   :    お弁当やパンを食べる

WIZ   :    街の景色を眺めて楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
御鍔・睦心
【POW】使用。

ガチで全く同情が要らねぇ相手みてぇだな。
なら、そいつが「二度と蘇りたくねぇ」って心底思うまで、しっかりシメてきてやるぜ。

時間までは指定されたビルの屋上から下の様子を確認しつつ、銀誓館学園に来てからの一ヶ月を思い返す。

「そういや……転校したてに受けた仕事でも、屋上で敵を待ってたな」

思えば色々とあったなぁ。
ゴースト擬き(オブリビオン)共にカチコミ掛けたり掛けられたり掛けたり掛けたり。
……でも、まだまだだ。
偉大な銀誓館学園の先輩方の前で、胸張って「先輩の意志を継いだ後輩っす」って言えるように、もっと頑張らねぇとな。

想定時間よりは少し余裕を持って下に移動し、直前には人ごみに紛れておく。



 冬の寒さが少しだけ身に染みる昼下がり。自動車の音、人混みの騒めき、そんな喧噪がささやかに地上からビルの屋上へと流れ込んでくる。
 真下に在る人の群れを眺めているのは、どことなく時代錯誤の、長い長いロングスカートの女子生徒。グリモア猟兵の言っていたゴースト擬きの特徴を思い返せば、彼女の正義感が燃え上がる。
「ガチで全く同情が要らねぇ相手みてぇだな」
 御鍔・睦心は一瞬、不機嫌そうに顔を曇らせる。けれどすぐに、ふん、と彼女らしい勝気な表情に戻して呟く。
「なら、そいつが『二度と蘇りたくねぇ』って心底思うまで、しっかりシメてきてやるぜ」
 己はそれだけの力を手に入れた。誰かを守るために悪を挫くための、強い力を。
 ひゅるり、風が睦心の茶髪をなびかせた。この程度の寒さはへっちゃらだけれど、まだ襲撃の時刻までは時間がある。少女は交差点の様子を見下ろしたまま、ぼんやりと銀誓館学園に来てからの一ヶ月を思い返していた。
「そういや……転校したてに受けた仕事でも、屋上で敵を待ってたな」
 あれは、休校日だった高校の屋上の話。ゲリラ豪雨だなんてホラを吹いて、準備運動の代わりに七支刀を振り回し、黒燐蟲と共に暴れてみせた。
 思えば色々とあったなぁ。ふいに零れる呟きと共に流れていく回想は、ゴースト擬き共にカチコミ掛けたり掛けられたり、掛けたり掛けたり。うん、大体カチコミ掛けてたな。
(――でも、まだまだだ)
 転校初日に知った、猟兵という新たな役割。ふたつの埒外の能力を使いこなせるようになるには、もっと鍛えていくしかない。
 偉大な銀誓館学園の先輩方の前で、『先輩の意志を継いだ後輩っす』と胸を張って言えるだけの存在になりたいと睦心は思っている。
「もっと頑張らねぇとな」
 雲が蒼を淡くさせる冬の晴れ空に決意を残して、そろそろだな、と屋上からビルの中へ戻るドアへ向かう。
 人ごみに紛れ込み、まずはホチキスめいた野犬を駆逐しよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フェミス・ノルシール
シルバーレインか
初めて訪れたが…なるほど、悪くない

建物の構造は
ダークセイヴァーの物に少し似てるだろうか
しかし、景色は正反対のようだな

「良い眺めだ…」

あとは待つのみ、とあれば

「これしかないだろう」

生き生きとした様子で
特製の紅茶セットを屋上の一角に準備して座る
無論、日傘も完備してある

茶葉を混ぜ合わせオリジナルのブレンドを作り
温めたポットへ入れ、先ほどの話を思い出す

一度処刑されて尚、罪を重ねるとは…
いや、むしろ好都合か
何の躊躇いもなく、断罪できるのだから

淹れていた紅茶の存在を思い出し
ティーカップへと注ぐ

「…少し、渋くなってしまったな」

(紅茶を淹れなおしつつ、その時を待ちます)
~アドリブ・連携歓迎~



 ふわり、冬の風が少女の銀髪を揺らす。寒さに膚を震わせることもなく、ちいさな唇が呟いた。
「シルバーレインか」
 初めて訪れた世界だけれど――なるほど、悪くない。フェミス・ノルシールの金の眼は、この季節独特の淡い空彩をちらりと見る。ついで、屋上から見渡す風景は、よく似た建物同士が集まりながら密集している。
 建物の構造は、ダークセイヴァーの物に少し似ているように思う。けれど、ここから見える景色の在りようは正反対。彼女にとって、それは悪いことではなかった。むしろ物珍しさと興味深さが勝っていて、
「良い眺めだ……」
 そう、淡い空に自動車の排気ガスが少ない屋上ならば、多少の喧噪も気にならない。あとは此処で暫く待つのみ――と、あれば。
「これしかないだろう」
 なんだか妙にいきいきと用意を始めたのは、ちいさなテーブルと椅子のワンセット。クロスを敷いて、並べているのはお茶会に必須なポットに茶葉、お湯を温めるミニコンロ。
 無論、日傘の用意もばっちり。冬であろうと紫外線は、乳白のような膚には天敵になりうるものだから。屋上の一角に完成した一席に座って、フェミスは茶葉を混ぜ合わせる。
 わざわざこんな場所でいちからオリジナルブレンドを作るのも、彼女の紅茶愛が本物である証拠。温めたポットに茶葉を投入し、紅茶が十分に彩と香りを灯すのを待つ。
 ふと、グリモア猟兵の言葉を思い出す。一度処刑されて尚、罪を重ねることを選んだ男の残留思念は、どれほど愚かで厄介だろう。
「――いや、むしろ好都合か」
 そう、だって同情する余地がないのならば。フェミスは処刑人として、何の躊躇いもなく男を断罪できるのだから。
 さて相手はどのような刑罰をご所望なのだろう。そんな風に思考していた時、淹れていた紅茶の存在を思い出す。慣れた手つきでティーカップへ注ぎ、ひと口。
「……少し、渋くなってしまったな」
 表情どころか感情にも出ないものの、ちいさな失敗に、ふむ、と頷いて。少女は再び紅茶を淹れ直す。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浅間・墨
ロベルタ(f22361)さん。
屋上に敷物を敷いて。
普段見慣れた瓦葺きの屋根が少ない街を見てのんびりします。
初めての世界ですがUDCアースと雰囲気は似ているでしょうか。
故郷のサムライエンパイアではとてもみれない高さからの景色。
寒い季節の所為か空が澄んでいるような気がします♪
…けれど故郷の景色よりも『綺麗』と思えないのは何故でしょう。
温かい日差しを受けながら故郷から持参した緑茶の葉を淹れて。
「…♪」
ロベルタさんを膝枕しながら時間まで一息つきましょう♪

…それにしても…。
グリモア猟兵さんの話を思い出しながら浮かぶ雲を眺めて。
世界が異なってもやはり起きる事件の内容に変化はないんですね。


ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)。
ビルの屋上から遠くの景色を見るのってそうそうないじぇ!
流れる雲とか遠くに見える山とかビル下の景色見て楽しむ。
けど飽きてきちゃったじぇ~。時間まで暇だねぃ~。うー。
…。
墨ねーが淹れてくれた緑茶を墨ねーの隣で何杯か飲んで。
今度は座ってた敷物の上をごろごろ。ころころ。ころん。
…。
やっぱり飽きて墨ねーの膝枕で空見上げながら雲をみて。
どーやってオブリビオン倒そうかなーっと一応考えてみるじょ。
『うーん。物理的な攻撃って通用するのかなぁー。蹴るとか』
心の中で呟いてみるけど実際の状況次第だし…って結論だして。
…。……。
お陽様の温かさと膝枕の気持ちよさで寝ちゃうじょ。…すぅー♪



 やわらかくのどかな陽射しの下、ほんのり沁みる寒さも冬の晴れ間らしさが窺える。ふんふんと鼻歌まじりにポニーテールを揺らして、幼い少女は街並みを見下ろしていた。
「ビルの屋上から遠くの景色を見るのってそうそうないじぇ!」
 柵に手を置いて風景を楽しむロベルタ・ヴェルディアナが、特徴的な語尾で話しかける。その背後で丁寧に敷物を敷いている浅間・墨も、休憩のための準備を手早く済ませて、ロベルタの隣にそっと立つ。
 見慣れたサムライエンパイアによくある、瓦葺きの屋根は見当たらない。コンクリートと鉄筋と、わずかばかりの木造で出来た建物の街並みは物珍しい。初めての世界だけれど、UDCアースによく似た雰囲気をしている。
 故郷では滅多にない――それこそ天守閣にでも登らねば出会えないような高さの景色は、物静かな墨の気分をなんとなく高揚させる。
「墨ねーも楽しそうだねぃ♪」
 ロベルタに尋ねられ、墨もちいさく頷く。寒い季節、雲がまざりつつ澄んだ彩をした空もなんだか気持ちがいい。それでも、故郷の景色よりも『綺麗』だとは思えなかったのは何故なのか、墨の胸にほんのわずかな疑問が残った。
 地方都市というだけはあるのか、街並みの向こうにはぽつぽつと集合住宅の集まった山々が見える。どこにでも人間は住んでいるんだな、なんて思いながら、ロベルタは真下へと視線を移す。
 信号機の色が切り替わる度に、人間が動き、自動車が停まり、人間が待って、自動車が走る。一定のリズムで進む光景は多少興味を惹かれるものではあったものの、暫くすれば、味気なく代わり映えのない景色へと変わる。
 そう、一言で言えば幼い娘は飽きた。襲撃の時間まではまだ余裕があって、つまり暇はまだまだ続く。
「うー」
 時間をもてあますのは、こどもには苦痛であって。そんなロベルタの肩を、控えめにちょんちょんとつつく指先。手招きする墨についていけば、敷物の上には日本茶を淹れるポットや茶葉のセットが用意されていた。
 とぽとぽと丁寧な手つきで淹れられた緑茶を、少しふぅふぅと冷まして口へ。ちょうどいい温度が喉を通って身体をあたためると、はぁ、とリラックスしたため息がこぼれる。
「墨ねー、もう一杯!」
「……♪」
 ちいさな湯呑みに、再び透き通った緑が注がれる。しかし、お茶といえど数杯飲んだらおなかいっぱいになってしまうもの。案の定美味しいお茶にも飽きたロベルタにせがまれて、墨は気軽に膝を貸す。
 それにしても、と。この穏やかなひと時を楽しみつつ、無口な戦巫女は空に浮かぶ雲を眺める。
 この世界に暮らすグリモア猟兵の話を思い出してわかったことは、世界が異なっていても、起きる事件の内容に変化はないということ。
 調伏すべき魔は此処にも居て、それを祓い平和を守る。きっと、猟兵としての仕事は何も変わらないのだろう。
 同じく、墨の膝に頭を乗せて膝枕を堪能するロベルタも、黙って空を見上げたままこのあと起こる戦闘について考えていた。さて、どうやってオブリビオンを倒すべきか。
(うーん、物理的な攻撃って通用するのかなぁー。蹴るとか)
 聞けばシルバーレインのオブリビオンは、残留思念だとかゴーストだとか、幽霊めいたもののように思える。実体のある敵ならば、幽霊だって蹴りが効くのだろうか。あとパンチとか。
 心の中で呟いてはみるものの、結局は実際の状況次第。そう結論付ければ、やはり襲ってくるのは暇と確かな眠気。
「……」
 寒さはあれど、ぬくぬくぽかぽかのお日様。そして墨のやわらかな膝枕とくれば、うつらうつらと瞼が重くなる。
「……?」
 ふと墨が視線を落とせば、すぅすぅと愛らしい寝息を立てるロベルタが居て。
「……♪」
 無防備な寝顔を見せる少女を起こさぬよう、戦巫女はもう一度緑茶を啜る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スカーレット・ブラックモア
【傭兵】WIZ
アドリブ:◎

ルナ(f04792)とは初対面
他の猟兵と共闘できた方が何かと好都合と判断
後の戦闘を見越し時間潰しに付き合ってもらう

現地の下見兼手持ちの軽食で小腹を満たしつつ互いの戦闘スタイルを確認
自身の戦い方は可変型拷問器具と召喚による中~遠距離型
軽食はサンドイッチ
簡単な物だが確かに携帯食料よりマシかもしれない
流石にしつこく何度もチラ見されれば気になって分けてしまう
「一人で食べるには多すぎるからな。気にしなくていい(建前)

・打ち合わせ後
「もうすぐ作戦開始時間だ。…後にしてくれ
暢気なルナに呆れこの先大丈夫かと少し心配に
「…恐らく、私の方が年長だぞ?
偉ぶるつもりはないが誤解はないように


ルナ・クレシェント
【傭兵】SPD
アドリブ:〇

スカーレット(f00474)とは初対面
外見から自分と同年代だと思っている
共闘を持ちかけられ、単独よりは余程いいと同意する
その後軽食を取りながら打ち合わせ

・(美味しそうでいいなー)
戦闘スタイルの打ち合わせで射撃戦しかできない旨を伝え、持ち込んできた美味しくないレーションを口にしてはスカーレットの軽食を見て「いいなー」って顔をし、打ち合わせ中に自分の食べ物と何度も見比べる

・「もう少し食べたいですね……ビルの中に売店はないでしょうか。入っちゃダメですかね?」
打ち合わせが終わってすぐの言葉。
ダメと言われれば「私とそう歳は変わらないはずなのにしっかりしてますね……」
とションボリ



 穏やかな晴天、地上から確かに聴こえる人々の営みの音。雑踏から解放された屋上で、二人の猟兵は軽食を食べながら戦場を見下ろしている。
「避難誘導は不要、しかしホチキスドッグが一般人を追いかけることも一応念頭に置いておくか」
 サンドイッチをひと口食んで咀嚼、飲みこんでから、スカーレット・ブラックモアは目線を交差点へと向けたまま語る。成長期の少年めいた、小柄で幼い見目とは違って、その口ぶりは落ち着き払った青年そのものだった。
「そうですね、適当に相手すればこっちに惹かれるみたいですけど……あ、私が威嚇射撃で足止めします? さっき言った通り、撃ちっぱなししか出来ないので」
 味気ないレーションを齧りながら、ルナ・クレシェントは傍らの青年に提案する。その視線は、スカーレットが口にするサンドイッチに釘付けで、シンプルな軽食は自分の携帯食料よりずっと魅力的だった。
 美味しそうでいいなぁ、なんて声には出さないものの。自分と彼の食事を何度もちらちら見比べる仕草と、わかりやすすぎる表情が青年には少しばかりうるさい。
「……少し食べるか?」
「いいんですか?」
「一人で食べるには多すぎるからな、気にしなくていい」
 ぱぁ、と月色の目を輝かせる娘に建前を述べて、これ以上その視線を食らわぬようサンドイッチの入った容器を差し出す。
 ルナは礼を言いながら、ハムとレタスに卵の入ったサンドイッチをはむり。レーションなんかより圧倒的に美味しいそれを堪能している彼女に、スカーレットは先程の提案への返事を返した。
「私が一気に敵を引きつけても構わない。恐らく犬は近距離攻撃が中心だろうが、遠距離の攻撃方法を持つ可能性も捨て置けないな」
 淡々と、二人並んであらゆる攻撃パターンを想定する。念入りに打ち合わせる理由は、二人が今回の仕事が初対面であったから。
 初めて赴く新世界での新しい討伐依頼、妖獣化オブリビオンという新たな概念。他の猟兵と協力するほうが何かと都合がいいと判断した青年が、娘に共闘を持ちかけた。同じくルナも、単独で立ち向かうより余程いいと同意した結果、こうして相談ついでの昼食会を行っている。
「えっと、妖獣化オブリビオンでしたっけ。通り魔なだけに、いきなり突っ込んできて切り裂き、とかされたら嫌ですねー」
 私、射撃専門なので。のほほんと話すルナの気楽さは、この冬空のお天気によく似合う。
「通り魔ってあと何があると思います? 殴ってくるのは動きがわかりやすいから、こっちも避けやすいし……あ、放火?」
「通りがかりに家を燃やすような輩は心底嫌だが」
 まるでピクニックの最中のような雰囲気を漂わせる娘の隣、青年は怪訝そうな表情を浮かべる。そんな風に打ち合わせを終えたと同時、二人の昼食もちょうど終わりを迎える。けれど、ルナはまだ物足りないようで。
「もう少し食べたいですね……ビルの中に売店はないでしょうか。入っちゃダメですかね?」
 おなかが鳴っている訳ではない。しいて言えば小腹がまだ空いているだけであって。そんな彼女の言葉に、流石のスカーレットもジト目になるというもの。
「もうすぐ作戦開始時間だ」
 後にしてくれ、と続けた青年は、内心この暢気な娘に呆れてしまう。共闘を持ちかけた側とはいえ、この先が多少心配にもなる。
「私とそう歳は変わらないはずなのにしっかりしてますね……」
 制止されてしょんぼりとしたルナの勘違いを正すため、スカーレットは静かに言葉を紡ぐ。偉ぶるつもりはないけれど、誤解はないようにしておきたい。
「……恐らく、私の方が年長だぞ」
「えっ」
 おそらく、このやりとりは猟兵同士のコミュニケーションならよくあることで。白雲が淡く染める空彩が、二人を見下ろしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ホチキスドッグ』

POW   :    ドッグバイト
【噛み付き】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    ホチキスファング
【ホチキスのように開いた大きく肉体】で攻撃する。[ホチキスのように開いた大きく肉体]に施された【開かれる口の大きさ】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
WIZ   :    下方からの脅威
敵より【体高が低い】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
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 晴れ渡る空の下、ぐるる、と唸り声が鳴り響く。
 首を傾げた通行人の目には、淡い色彩の犬の群れが映っている。

「あ、犬」
「かわい~」
「でも怒ってる?」

 唸り声がその獣から出ているのだと気付いたと同時、開かれる犬の口。
 大きく裂かれたそれに、彼らが噛みつかれる前に。

 猟兵達は、各々の勢いで交差点へと飛び出した。
穂村・耶子(サポート)
クールビューティを装っていますが、実際は甘党で大食いで、おまけに精神年齢も低いです。
予期せぬ事態に陥ると、慌てて素の部分が丸出しになり、盛大にキャラ崩壊を引き起こします。

戦闘時は主に剣術を使用。
手数の多さで数の不利を覆したり、後の先を取るためにフェイントを利用したりして戦います(小学生時代に見た時代劇番組の影響大)。

集団戦で用いるUCは『神雷焔狐』か『絶刃格子斬』です。
光と同じ速さで飛翔する焔を放っての撹乱するか、逃げ場のない空間の断裂を放って敵を纏めてバラバラに切断して掃討します。

その他、ネタにも積極的に絡ませて構いません。
公序良俗に反する行為、他の猟兵の邪魔になる行為は絶対にしません。



 やわらかそうな淡彩の毛並みの犬に、何も知らない女子高生が近付いた。かわいいね、と声をかければ、途端ぶちぶちと裂けた犬の口元に、え、と目を見開く。
「そこまで!」
 ホチキスドッグが彼女の腕を噛みちぎるよりも速く、ふわりと鮮やかな金色が獣を真っ二つに切断する。女子高生に飛び散る血飛沫を付着せぬよう、穂村・耶子は刀の風圧でそれらを吹き飛ばす。
「いまの、なに……」
「落ち着いて、これは野犬の群れだよ。君はとにかく此処から離れるんだ、いいね?」
 動揺する少女に耶子が状況を言い聞かせれば、異変に気付いた通行人達が逃げ出すのを見て、少女も即座に同じ方向へと走りだす。彼女をちらと見送って、妖狐は愛刀を構え直した。
「……野犬にしてはカラフル、かな」
 大きく吠えたてる暴犬の群れは、弱い餌を奪われたことよりも、目の前の新たな獲物に夢中になっている。理性のない獣が相手なら、冷静に立ち回れる自分のほうが圧倒的に有利。
 此方へと走り出した獣達の噛みつきを軽やかに躱すと、ふわりと九尾が揺れる。がちりと牙が噛み合う音がして、獲物を捉えきれなかった口元から唾液が噴き出している。
「君達は行儀が悪いね」
 ゴーストなら躾けようもないのかな、なんて呟いて、耶子はあえてホチキスドッグ達の意識を惹くように駆けまわる。
「おいで、相手をしてあげる」
 現代風の武者巫女の紅い裾が翻る度に、ひどく獣達を虜にさせる。猟狐と野犬達の追いかけっこは、いつのまにかホチキスドッグを一カ所に集めていた。鬼ごっこは、ここでおしまい。
 ――秘剣、絶刃格子斬!
 翡翠の眼が軌跡を遺して、刀を閃かせる。網目状に張り巡らされた空間の断裂が、愚かな獣達の逃げ場を閉ざす。格子状に割かれた犬共の残骸が、血飛沫と肉塊となって地に墜ちた。
 けれど、ぎゃんぎゃんと吠える声はまだまだ減らない。
「えっま、まだ居るの?」
 それなりに纏めて掃討したつもりなのに、と、娘は少しばかり慌てた様子でこぼす。落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせて、クールビューティーを取り戻しつつ。
「……は、終わったら甘いもの食べちゃお! 決まり!」
 ご褒美が決まれば大丈夫。九尾の娘は再び愛刀を振るう。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェミス・ノルシール
獣は得意ではないが…これ以上、被害を出すわけにもいかない
悪いが、大人しくしていてもらおうか

異変に気付き、すぐに下へと飛び降り
屍たちを使って、通行人と犬の群れとの間に壁を作ろう

所詮は獣…だが、四足ゆえに
人ではなし得ぬ不規則な動きをするだろう

しかし、知恵がなければやりようはある

屍を使って私へと向かう真っすぐな道を作り
巨大化させた【断罪剣】を振り下ろして真っ二つにする

「これで、もう逃げられまい」

~アドリブ・連携歓迎~



 にわかに騒がしくなった地上めがけて、フェミス・ノルシールはビルから迷わず飛び降りる。ふわり、ゴシック調のドレスを纏った軽い体は自由落下していく。
 正直言って、処刑人として人間には大抵対応できるものの、獣の対処はあまり得意ではないけれど。これ以上、被害を出すわけにもいかない。
 落下する少女の手招きに応じるように、屍の群れがぞろりずるりとビルの窓硝子から這い出て溢れる。とん、とん、と、幾人かの罪人達を足蹴にして、フェミスは螺旋階段を使うように優雅に地上に舞い降りた。
 幸い、一般人に目立った被害はない。そう確かめて、少女は無言で配下に次の指示を出す。
 牙剥くおぞましい犬に悲鳴をあげていたはずの通行人は、突如自分達と犬の間に割って入った屍の群れに恐怖する。
 それはまさしく、亡霊の肉壁。なんだあれは、と震えあがった通行人達が勝手に逃げ出すのを見送って、処刑人は仕事を開始する。
「さて、始めよう」
 少女めがけて吠え猛るホチキスドッグ達は、その名の通り大きく開かれていく口腔内を露わにする。ぶちぶちと嫌な音を立てて、顎の限界以上に達した亀裂は血飛沫と涎にまみれていた。
 所詮は獣。けれどフェミスは、この四つ脚共が人ならざる動きを見せると予測。彼女の考え通り、犬の群れはコンビネーションというには乱雑な爆走を繰り返し、フェミスの足を食い千切らんと交差点をがむしゃらに駆け抜ける。
 一匹が急接近を遂げた途端、少女の身代わりのように割り込んだ罪人の脚が無惨に食い千切られる。その肉は削げて骨が剥き出しになるも、彼の表情に苦痛は見えない。そもそも、表情などないのだから。
「悪いが、大人しくしていてもらおうか」
 知恵無きモノが相手ならば、いくらだってやりようはある。更に呼び寄せられた屍達は、駄犬を誘き寄せるように身体を揺らす。つられて屍を追いかけるホチキスドッグはだんだんと数を増し、気付けば無数の肉壁が長くまっすぐな道をつくりはじめていた。
 犬のなけなしの脳にあるのは本能のみ――殺処分への一本道とはつゆ知らず、囮の罪人を追いかける。
「そうだ、こっちだ」
 この先には、三倍にも巨大化した断罪の剣が待っている。華奢な手が握りしめた処刑剣は獲物を逃さない。異変に気付くことすら出来ない犬の群れの最後尾を、肉壁が詰める。
「これで、もう逃げられまい」
 少女がそう呟いたと同時に振り下ろされた刃が、群れを一気に真っ二つ。右と左に別たれた獣の遺骸が、いくつもいくつも血飛沫と臓物を散らす。
 ――断罪の刃が、赤くかがやく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スカーレット・ブラックモア
【傭兵】
アドリブ:◎

引き続きルナ(f04792)と

「来たぞ
「確かに、ぬいぐるみのような毛並に反して口を開いた顔は凶悪だな

事前に相談した手筈通りに
ビルから飛び降り着地までの間に[召喚術]による『サルベージ・ナイトルーク』発動
直接戦闘は召喚した騎士に任せ先ずは一般人が逃げる時間を作るため騎士をぶつけて敵の注意を逸らす
次に斬りつつ相手の行動を誘うように立ち回らせて戦闘パターンを分析
自身が攻撃されないように呼び出した城砦を遮蔽物に利用

戦い方から見た目通り噛みつくばかりで遠距離攻撃手段はなしと判断
ルナが撃つための隙を作らせるように騎士を戦わせタイミングを指示

「――今だ、撃て!


ルナ・クレシェント
「こういうのに文句言うものじゃないですが……悪趣味な見た目ですね」
「口の中ってのは大抵の生物にとって脆弱な部位です。まずはアレが弱点を大きく見せてくれてる野良犬か確かめましょう」

「いい遮蔽ですね、借りますよ!」
召喚された城壁の裏に隠れながら様子見。【流星撃ち】で狙う相手を選別、反射の軌道に目星をつけ合図と同時に口の中を狙い射撃。跳弾させなくても当たるなら直接狙う

「OK!おバカさんで助かります!」
有効であれば口の中への攻撃に集中

「あ、ダメですかそうですか……なんでおバカさんじゃないんですか!」
有効でなかった時の反応
次善策としてビルや背の高い構造物から反射させて頭上から銃弾を届かせるのを試みる



 犬の咆哮、人々の騒めき、それが戦いの合図。来たぞ、と短く青年は呟いて、迷わず屋上の柵を乗り越える。一気に地上へと落下する仲間を追って、艶ある黒髪を風になびかせ娘が続く。
 地へとまっすぐ墜ちる最中も、随分と幼い見目の彼は指に嵌めた紅い指輪に口づける。途端、宙に浮かんだ魔法陣から立ち昇る血煙から、するどく嘶く骸の騎馬がビルの壁面を駈け下りた。
 騎馬に跨る死霊の騎士は、落下スピードを使ってホチキスドッグへと襲いかかる。騎士の持つ剣が犬の群れを斬り払うと、通行人達は動揺を隠しきれない。
「なにあれ!?」
「さ、撮影かなにか……?」
「はいはーい、危ないですから此処からさっさと逃げてくださいね! 狂犬病ですよ、こいつら全員!」
 足場代わりに青年が外套から飛ばした鎖を利用し、軽い音を立てて着地した二人のうち、ルナ・クレシェントが通行人に呼びかける。明確に危険な病の名を告げられ、市民達は一目散に逃げていく。
「さて、こういうのに文句言うものじゃないですが……悪趣味な見た目ですね」
 顔を顰める娘の隣、騎士を嗾けたスカーレット・ブラックモアが鎖を素早く回収すると、犬の群れが肉が裂ける嫌な音を立てて口をかっぴらく。
 二人へと接近するホチキスドッグの間に割って入って、騎士が再び刃を振るう。一匹の身体を横薙ぎに斬り払った背後、スカーレットはルナに同意してみせた。
「確かに、ぬいぐるみのような毛並に反して口を開いた顔は凶悪だな」
「口の中ってのは大抵の生物にとって脆弱な部位です。まずはアレが弱点を大きく見せてくれてる野良犬か確かめましょう」
 月夜の娘に頷くと同時、青年は再び指に咲く紅い宝玉を輝かせる。土埃と共に姿を見せたのは、ほんの一瞬でその場に存在しえない巨大な城塞。猟兵達へと喰らいつこうとした駄犬共の前に立ちはだかる強固な砦は、そう簡単に敵がくぐることを許さない。その証拠に、骸の騎馬が再び嘶き、犬の群れの中で彼らを嘲笑うように駈ける。
「いい遮蔽ですね、借りますよ!」
 城砦に身を隠した娘が、狙撃手の眼で正確に判別した相手を黒い二丁の銃口が狙う。撃鉄は下ろされていて、引鉄はスカーレットの合図を待つのみ。
「――まだだ、」
 死霊騎士の跨る騎馬相手に、無数の犬が噛みつきを繰り返す。すらりと伸びた骸の四つ脚めがけて、連携のひとつもない乱れたテンポでダンスが続く。
 振るわれる刃の閃きに囚われたように、ホチキスドッグ達は城壁への意識を完全に殺がれていた。ただおもちゃの骨を追いかけ回す子犬じみた動きが、見た目通り噛みつくだけの攻撃であることをスカーレットに見抜かせる。
 ならば、狙撃手の出番は近い。騎士への指示はあくまでルナのために隙をつくること。あえてふらりと逃げ回るのをやめた騎馬へと、害犬達が一気に牙を剥く。
「――今だ、撃て!」
 青年の号令に従うように、娘は引き金を引く。流れ星より速く駆け抜けた雷の銃弾が無数に跳ねて飛び交って、くぱりと開いた大きすぎる口腔内に撃ち込まれる。
 悲鳴と共に、貫通した弾が血飛沫を飛ばす。あちこちから噴き出す血の海に、金の瞳が瞬く。
「OK! おバカさんで助かります!」
 続けざまに放たれる弾丸をひらりと避けて、騎士は主の言う通りに戦闘をこなす。スカーレットは念じるように死霊へと呼びかける。
(そのまま狙撃手の攻撃の隙を作り続けろ。ああ、だが)
 ――タイミングさえ合うなら、その刃でなるべく多くを駆逐しろ。
 果敢に獣を蹂躙する騎士を見て、月夜の娘は口笛ひとつ吹けそうな思いがした。騎士の刃に跳弾すれば、尚のこと都合がいい。
 彼女がそう考えた通り、一匹が胴を断たれた瞬間、刃にはじかれた弾が別の一匹の口に飛ぶ。
「私達って、結構いいチームじゃないですか?」
「さあ、どうだろうな」
 ルナのどこか楽しげな問いかけに、青年は変わらぬ様子で答えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)。
「墨ねー、先にいくじぇ! うぇーい!」
緊急で封印解いてからパフォーマンスを上げつつ飛び降りる。
落ちながら限界突破と多重詠唱して【雷神の大槌】発動する!
発動してからは大きく口を開けてる犬の頭部に向かって蹴る。
通行人達が噛まれる前に口を塞ぎたいしねぇ~ぃ♪
重量攻撃を付与した回転踵落としがいいかな~。うぇーい♪
一匹蹴ったら周囲を確認。現在進行形で襲ってる犬に一撃。
可能なら犬達が群がってるところに吹っ飛ばせればいいな。
こーすれば僕に注目が集まって時間稼ぎができるはず。

「…お、ぉ?!」
僕よりも低い位置から噛み上げてきた!?面白~い。
じゃあ僕もスライディングで滑り込んで蹴り上げる!


浅間・墨
ロベルタさん(f22361)
私もロベルタさんを追うようにビルから飛び降ります。
勢いで飛び降りてしまいましたが…何も考えてません。
着地地点の修正もできませんし…うーん。これは…。
下手をすると…いえ。これは確実に死にますね。私。
…と。
ロベルタさんが蹴り上げてくれた『犬』に一度乗り降りますね。
破魔と属性攻撃付与の【雪駆】を早業と2回攻撃で斬ります。
挟撃や死角からの攻撃を避けるために周囲を警戒しつつ動きます。
残像とフェイントを織り交ぜながら斬り動きましょう。
『犬』の動きは見切りと野生の勘と第六感で見極め回避します。

逃げ遅れた通行人さんが居た場合は私が時間を稼ぎましょうか。
…無論。油断はしませんが…。



 次々と屋上から飛び降りる猟兵達と同じように、幼い少女もまた笑顔で地上を見下ろす。
「墨ねー、先にいくじぇ!」
 晴れ渡る冬の天に、銀髪のふた結びがぶわりと舞う。うぇーいなんて楽しげに掛け声まで乗せて、ほんの少しの迷いもなく、ロベルタ・ヴェルディアナは屋上の床を蹴っていた。
 封印を解かれた少女の脚が、ぱちりぱちりと光を帯びる。ひゅう、となんの抵抗もなく墜ちていく最中にも、唇が勝手に唱える無数の詠唱。線香花火のような儚さだった光は、次第にばちばちと派手な音を立てながら雷光へと姿を変える。落下による加速を受けて、少女の片脚は更に眩しさを増していった。
「その口は塞いじゃおうねぇ~ぃ♪」
 墜落寸前に軌道を変えて、ぐるりと身体を一回転させる。大きく口を開けたホチキスドッグの頭部に向かった雷撃のごとき蹴りは、重力を加えて更に重たい。あっという間に、ぐしゃりと犬の頭てっぺんにめり込んだ。
「ひぃっ」
 眼の前で頭が潰れた犬を見た通行人は、避難を促すよりも先に散り散りに交差点から離れていく。
「う?」
 周囲を確かめれば、自分で勝手に逃げていく通行人達。首を傾げつつも、まぁいっか、とロベルタは此方へ肉薄する犬を一匹蹴り飛ばす。群がる犬達へと飛ばせば、害犬達の敵意は自然とロベルタのみに向けられる。
 一方、ロベルタの後を追うように、浅間・墨も宙に身体を預けていた。さて、勢いに任せて飛び降りてしまったものの……実のところ、この先は何も考えていなかった。着地地点の修正もできないし、うーん、これは。
(下手をすると……いえ、確実に死にますね)
 何もしなければこのまま墜落死。傍から見ればただの飛び降り自殺。不思議と冷静な頭で考えていると、地上から此方へと飛んでくるモノが在る。
「……と」
 チームメイトの少女が蹴りあげた“犬だった死骸”は、まだ骸の海に消えてはいない。ちょうどいいとばかりに戦巫女は死骸を踏んづけ、落下スピードを一気に減速。鞘から素早く刃を抜いて、地上への着地と同時に冷気を纏った居合を振るう。その速度は目に見えぬ二閃となって、牙剥くホチキスドッグの魂を凍てつかせる。
「逃げ遅れた人、は」
「居ないじょ! 時間稼ぎせいこーう♪」
 か細い声の墨の問いを聞き間違うことなく、幼いアリスはダブルピースを返す。途端、背丈の低いロベルタの視界よりも遥かに低い位置から噛みつきが襲いかかる。
「お、ぉ!?」
 彼女の咄嗟のバックステップによって、砕き損ねた血肉を求めて犬が唸る。ぱっと墨の視線がアリスに向けられるものの、すぐに戦巫女はロベルタの方角とは別の敵へと破魔の一閃をお見舞いする。
(だって、ロベルタさん。笑っていますから)
 墨の信頼通り、少女は笑顔で声を張り上げる。自身よりも低い位置から一瞬で噛みあげようとするなんて、それってすっごく、
「面白~い♪」
 無邪気に喜びながら、アリスは小柄な身を活かした相当な低姿勢でスライディングを見せつける。滑り込んだ末に素早く蹴りあげて、自分と大差ない大きさの犬を宙へと投げ棄てる。
「お返しだじぇ!」
 反撃を宣言したロベルタと少しばかり離れた位置。紅白の戦装束が、血にまみれたパステルカラーの間を駆け抜ける。敵の挟撃を避け、死角からの攻撃への警戒を怠らず。遺った残像に惹かれた犬の群れを背後から一気に斬り崩す。魂に一太刀を浴びて抜け殻となった死骸は、次々と形を亡くしていく。
 ジグザグに動きながら此方へ向かってくる獣の群れは、駆逐せねば無辜の民を傷つける。ならば、と墨はいくらでも刀を抜こうと思う。
 ふ、とちいさな吐息をもらした娘に呼応するように、刃はきよらな光を放つ。血飛沫を飛ばすことのない一撃は、すべて、雪の彩が駆け抜けていくようで。
 雷光と雪駆は、走り続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『通り魔の怨霊』

POW   :    滅茶苦茶にしたかった
【引火したガソリン】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    死なせてやろうと思った
【凶器に用いた呪詛を纏う包丁】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
WIZ   :    巻き添えにしたかった
【犯行時に用いた暴走自動車】を操縦中、自身と[犯行時に用いた暴走自動車]は地形からの激突ダメージを受けず、攻撃時に敵のあらゆる防護を無視する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

 駆逐されたホチキスドッグ達のまだ遺ったままの死骸が、突如炎に包まれる。
 一気に炎上した地面はあっという間に死骸を燃やし尽くして、焔も静まったけれど。

 猟兵達は、確かにそれを感じとる。
 男の全身はガソリンの臭いがしていて、手にした刃はまだ生々しい赤色が染みついていた。

 憎悪と殺意は、はっきりと猟兵達に向いている。
 彼が口を開かずとも、やるべきことはひとつだけ。
北条・優希斗(サポート)
『敵か』
『アンタの言う事は理う解できる。だから俺は、殺してでも、アンタを止めるよ』
『遅いな』
左手に『蒼月』、右手に『月下美人』と言う二刀流を好んで戦う剣士です。
自らの過去を夢に見ることがあり、それを自身の罪の証と考えているため、過去に拘りと敬意を持っております。その為オブリビオンに思想や理想があればそれを聞き、自分なりの回答をしてから斬ります。
又、『夕顔』と呼ばれる糸で敵の同士討ちを誘ったり『月桂樹』による騙し討ちを行なったりと絡め手も使います。
一人称は『俺』、口調は年上には『敬語』、それ以外は『男性口調』です。
見切り、残像、ダッシュ等の機動性重視の回避型の戦い方をします。



「敵か」
 そう呟いた青年は、ガソリンの臭いに顔をしかめることなく漆黒の瞳にゴーストの姿を映す。憎悪と殺意に満ちあふれた男に、北条・優希斗はあえて尋ねる。
「アンタは、本当に無差別に人を殺しかっただけなのか? なにか理由があって、そうしなくてはいけない理由があったんじゃないのか?」
 淡々と語る優希斗に、男が答えを返すことはない。ただ、にいやり嗤って、手にした包丁を振りかざす。
 ああ、と青年がちいさく吐息をこぼしたのは、それが明かな回答であったから。なんの理念も思想もない――こいつは、いのちを殺めたかっただけ。犠牲者への弔いの念すら、一ミリも感じられない。
「……よくわかったよ」
 残念だ、とは口にしない。情けをかける必要も、想いを遂げさせてやる必要もない。此方へとがむしゃらに走りだした男の凶器は、優希斗の胸元にぐっと刺さったように見えた。
「遅いな」
 霞のようにとけた青年の残像が、刺さったはずの包丁に空を切らせる。素早い身のこなしで躱した優希斗は、使い慣れた魔刀と妖刀の二振りを抜く。
「遅いな」
 二度の斬撃で男の動きを封じた後、黒衣を羽織った身体が宙を舞う。尋常ではない速度で飛翔したまま、蒼い月彩の剣舞を繰り出した。
 ――舞技・秘奥天翔蒼破斬。
 冬冷えのお天気は青いのに、優希斗の天翔ける舞は月のひかりを帯びている。
 残留思念でしかないかりそめといえど、人間であった頃の過去にどれだけ血にまみれようと、相手はいのちだ。だからこそ、男の犠牲になった人々の無念を棄てずにはいられない。
「アンタをそうさせてしまったなにかを、俺は知りたかった」
 知らないいつかの過去を夢見ては、罪の証だと確かめる。そんな風に生きていくことを選んだ青年は、過去の残滓達にも誠実にありたかった。
 目にも止まらぬ斬撃の嵐は、憎悪と殺意を断ち切るまで続く。

成功 🔵​🔵​🔴​

佐藤・和鏡子
相手が車を使ってくるため、こちらも車(救急車)を使って迎撃します。
車を使った相手に対抗できるのは同じように車を使う私だけですから。
具体的には相手の車に救急車をぶつけて停止させます。
(ユーベルコード+運転+重量攻撃+吹き飛ばしによる相殺)
敵車を停止させた後、相手が体勢を立て直す前に全速力の救急車で突っ込みます。
運転技術で自車の体勢を素早く立て直して急加速、確実に運転席を狙います。(重量攻撃・吹き飛ばし・捨て身の一撃を乗せて救急車そのものを弾丸にします)



 炎上し尽くした交差点を、アクセルを踏みぬいた黒のワゴン車が走り回る。ただの獲物だろうと猟兵だろうとなんでもいい、ただその場に居る人間を轢いて、跳ねて、壊して、潰したい。
 そんな感情だけで突き動かされているゴーストの運転はめちゃくちゃで、逃げ遅れた少女が一人ぽつんと立ち尽くしていた。
「あ……」
 悲鳴もあげられずに震える声が、ちいさく聴こえて。
 ドン、と激しい追突音がしたかと思えば、それはいきなり飛びこんできた救急車が、男のワゴン車の横っ腹に激突した音だった。急停車したワゴン車と突っ込んできた救急車を交互に見て、少女はなにが起きたのかわからぬままその場で固まっている。
「今のうちに走って!」
 運転席の開け放たれた窓から愛らしい声がして、少女は飛び跳ねたように交差点から離れるように駆けだす。それを見送った救急車の運転手は、素早い手さばきでギアを切り替えアクセルを踏んづける。
 一気に加速する白い車体の中で、佐藤・和鏡子はハンドルをしっかりと握っていた。
(間に合ってよかった……)
 車を使った相手に対抗できるのは、同じように車を操縦する自分しか居ないから。間一髪で一般人の被害を出さずに済んだことをちいさな胸で安堵しつつ、その眼差しは決して標的から逸らすことはない。
 相手が体勢を立て直すより速く、その勢いはフルスロットル。これが平時の交通状況ならありえないけれど、救急車はいつだって緊急時に急ぐものだから。
 急加速に耐えきれない地面に、きゅるきゅるとタイヤが廻る鋭い音が響く。見知らぬ数多のいのちを救うために、憎悪と殺意にまみれたひとつの過去を殺す。心優しい和鏡子という少女には、看護人形としてのそれだけのつよい覚悟が在った。
 ぱちり、菫色の瞳と黒のない目がぶつかり合う。正確に、視線があったとは言えずとも。
「――確実に、あなたにぶつけます」
 シルバーレインの世界の常識ならば、きっと本来は捕まってしまうけれど。人形娘は迷わない。ワゴン車の速度よりも、爆走するボロボロの救急車が速かった。確実に狙う運転席に、一気に突っ込む。
 硝子が砕けて車体が歪む、双方の車の損傷は激しく、けれど救急車の運転手はかすり傷のみで。
「ごめんなさい、あとできちんと修理しますから」
 和鏡子はそうっとハンドルを撫でて、エアバッグで身を守ってくれた愛車を労わった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スカーレット・ブラックモア
【傭兵】WIZ
アドリブ:◎

引き続きルナ(f04792)と

「無駄話はそこまでだ。最後の敵がお出ましだぞ
騎士と城塞を消して武器を構え直す
痛ましい姿だが悪質な咎人に同情の余地はない
出身世界でなくてもオブリビオンであれば狩りの対象
であれば処刑人として当然の処理を

ホチキス犬と違い遠距離へ発火手段を持つなら召喚物をデコイにした間接攻撃にも限界がある
「であれば火には水を
「炎で好き放題したお前にはお似合いだ。地の底で永遠に悔い改めろ
トリスメギストスを〔武器改造〕
『暗獄拷問術・参型』でガソリンと炎諸共敵を氷漬けに
相手が対応する可能性を見越し処刑器具で迎撃準備
同時にルナが撃つ隙を作る


ルナ・クレシェント
【傭兵】SPD
「ああ、もう最後でしたね。ならこの機会に新しい弾を試してみますか」
「既になかなかな外観ですが、更に凄惨なことにしてあげます」

「さて……気を引いてくれている間に準備を整えましょう。ああいう敵には手数より質です」
【結晶弾】を使用するために望月・新月を拡張バレルに交換する。遠距離でも攻撃される恐れがあるため、必要以上に自分が狙われないよう、1回の攻撃で決定打か動きを鈍らせるだけのダメージを与えることを狙う

「バレル交換完了、専用弾よし!いつでも撃てます!」
「期待通りの効果がありますよーに!シュート!」
狙いまで済ませた後にスカーレットへ声をかける。隙ができたと判断した瞬間に発射する



 偶然居合わせ、仮初の契約を交わした傭兵の片割れ――ダンピールの赤い眸がぱちりと瞬いた。
「無駄話はそこまでだ。最後の敵がお出ましだぞ」
 屍の騎士と誇りの城塞は煙のように消え失せる。スカーレット・ブラックモアが組み木のパズルを構え直すと、おや、とルナ・クレシェントは微笑む。
 二人の視線の先、ゴーストの男は損壊激しいワゴン車から這い出ていた。口からごぷりと吐いたものは赤黒く、それを血液と呼ぶには粘度が高すぎるようにも見える。
「ああ、もう最後でしたか。ならこの機会に新しい弾を試してみますか」
 娘の笑みは、既に随分な見目となった男の外観が、更に凄惨なことになるのを示唆していた。
「ちょっと準備が必要なので、それまで対応お願いしますね」
 ルナはスカーレットにそう頼んで、無事だった樹木の陰に引っ込む。油まみれの悪臭に、タールじみた何かに包まれた全身。青年には、それが痛ましい姿に見えていたけれど、悪質な咎人に同情の余地はない。
 此処が見知らぬ世界だとしても、オブリビオンであれば狩りの対象。で、あれば。
「処刑人として、当然の処理を行おう」
 ぽぉんと組み木のパズルを宙に放り投げれば、拷問器具は内部の変形機構を即座に稼働させる。男が引火したガソリンによる炎の海を撒き散らすよりも、青年の思考は素早く廻る。ホチキスドッグと違って、相手は遠距離への発火手段を持つ。召喚物を囮にした間接攻撃にも限界がある――で、あれば。
「火には水が妥当だろうな」
 組み木が無数の形に変わるように、拷問器具トリスメギストスはたっぷりと水を抱いた牢獄へと変形する。合図もなくいつの間にか男の頭上に配置された水牢が、ぽたりとわずかに雫を垂らす。
 その一滴に違和感を覚えて男が見上げたのと、スカーレットが冷ややかな眼差しを向けたのは同時。
「炎で好き放題したお前にはお似合いだ。地の底で永遠に悔い改めろ」
 頑丈に閉じられていた扉が解放されて、男の真上から一斉に降り注ぐ大量の水と、恐ろしいほどの冷気。さながら先程の屋上からの自由落下のように、冷気で一気に固められた水がゴーストを飲みこむ。
「うっわ、なんですかあの水責め。私は絶対やだなぁ、アレ」
 青年の拷問術を目の当たりにした月夜の娘は、引き気味な感想をぽつり。とはいえ、氷漬けになった男の身体から、徐々に焔熱がもれ出していることにも気付いている。
「さて……気を引いてくれている間に準備を整えましょう」
 ああいう敵には手数より質、慣れた手つきで愛用の黒い二丁拳銃を拡張バレルに換装する。一度でも外せば、簡単に必要以上に自分が狙われる羽目になる。撃ちっぱなしの攻撃力に特化しているルナにとって、それは致命的。
 こちらが狙うのは、たった一度の攻撃による決定打、あるいは動きを鈍らせるだけのダメージを与えること。
 かちりと最後のピースがはまって、照準はしっかりと標的に揃っている。うん、と娘は頷く。
「バレル交換完了、専用弾よし! いつでも撃てます!」
 ルナの声がスカーレットに届くと同時、男の氷結はほぼ融けていた。ごう、と燃える焔の群れを再び水牢が閉じ込める。
 滝のような激流に襲われた男の影が、水の合間から見え隠れしている。視界を奪われたゴーストの手にした凶器が光ったのを、狙撃手は見逃さない。
「期待通りの効果がありますよーに!」
 シュート!!
 同時に二発発射された結晶弾は、合計むっつの破片に分かれる。雪花のような彩のそれが、男の身体の四方八方を穿つ。肉の下にめり込んだ弾丸は、更に結晶として咲き誇る。
「どうです? 私のとっておきの味は?」
 その場で崩れ落ちた男にルナは微笑んで、あ、と思い出したように声をあげる。
「スカーレットさん、ハイタッチしましょうよ」
「は?」
「チームワーク大成功ってことで、ね!」
「必要性が感じられない」
 ふいっとそっぽを向いた青年に、いいじゃないですかぁ、と娘が口をとがらせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)
おー。これが今回の黒幕か。凄い敵意だねぃ。
霊みたいだから物理攻撃は効きそうにないっぽいねぃ。
なら【煉獄】の蹴りで魂とか邪心を直接蹴っちゃえ!

ダッシュで一気に懐に飛び込んで破魔と重量攻撃で【煉獄】。
懐に飛び込む前に何かしてきても対応できるように見切りを。
攻撃には見切りと野生の勘と第六感を利用した回避をするじぇ。

一度目は様子見で軽く蹴る感じに【煉獄】を喰らわせようかな。
どんな攻撃をするかわからないし反撃も少し怖いしねぇ。
二度目からは思いっきり全力で【煉獄】を喰らわせちゃう!
顎を思いっきり蹴り上げるのもいいし顔面でもいいし。
2回攻撃と破魔と重量攻撃に鎧砕きをつけた蹴りをお見舞い。

アリスラビリンスにも敵意凄いオブリビオンいたの思いだしたよ。
でもこの人のはまた別の殺意って感じだよねぃ。
あの用意周到で回りくどい感じの悪意じゃあなくて直接的な感じ。
うーん。何か不満でもあったのかもしれないけどねぇー。
それの発散の仕方が間違ってたんだろーなーって思うよ。
だが同情はしないッ!(蹴り)


浅間・墨
ロベルタさん(f22361)
確かに霊体を斬ったり蹴ったりすることは困難かもしれません。
なら私はリミッター解除後に限界突破と属性攻撃に破魔を籠めて。
この怨霊を『国綱』の一刀の【雪駆】で斬ろうと思います。

先ずは油(ガソリン)の匂いがキツイので身体を凍結させてみます。
凍ることで燃える攻撃を防ぐことができるかもしれません。
怨霊の身体に染みついている油なのでやはり難しいでしょうか。
困難なら素直に小細工なしで【雪駆】斬り捨てましょう。
ロベルタさんと呼吸を合わせて二人で交互に攻めてみます。
包丁を持ち出してきた場合はその包丁を『国綱』で受けて防御。
もしくは包丁を弾いて攻撃を防ぎ態勢を崩そうと思います。

故郷にも斬った感触が忘れられずにいて辻斬りになる方もいます。
肉や骨を断つ感触。血の匂い。浴びた血が冷えていく感覚。
それが堪らないということですが私には理解ができませんでした。
いえ。
人を斬り倒したことへの興奮は少しだけ理解できますがそれ以上は。
そうなる理由があるかもしれませんが…それを周囲に叩きつけるのは…。



 肉のあちこちを裂かれた身体を引き摺って、ゴーストとなった男は呻く。何故、何故思い通りにいかない。こちらは何ひとつ満たされてはいないのに。
 そんな思いはつゆ知らず、おーと声をあげたのはロベルタ・ヴェルディアナ。これが今回の黒幕か、としげしげ相手を見つめてふぅんと一人頷く。
「凄い敵意だねぃ」
 此処ではない地獄のおとぎの国。アリスラビリンスにも凄まじい敵意を持ったオブリビオンに出会ったことがあるけれど。
(でもこの人のは、また別の殺意って感じだよねぃ)
 あの用意周到でまわりくどい悪意ではなくて、もっと乱雑でシンプルな憎悪、怒り、我儘。これは一体なんなのだろう、と少しばかり疑問に思う。
 霊体ならば物理攻撃はあまり効きそうにないだろう。そう判断して隣の戦巫女に視線を遣れば、浅間・墨もこくりと頷く。
 肉体を宿しているとはいえ、通常よりも斬撃や蹴撃は困難かもしれない。ならば、と娘はすぅと息を吸って、吐く。途端、墨のほそい全身から雪の彩が揺らめく。制限していた半魔の力を解放すれば、ひやりと冷気が漂う。
「……」
 くん、と鼻の奥を突くような、ガソリンの臭いがきつい。男が焔油地獄を作る前に、ぶわりと広がる冷気が男の放とうとした炎を凍てつかせる。
 とはいえ、怨霊自身に染みついている油の臭いは消しきれない。少しばかり怪訝な表情を見せた墨が駆ける。
「墨ねーがそう来るなら、僕も直接蹴っちゃおうかなっと!」
 そう呟くや否や、ロベルタはなんの予備動作もなく加速する。墨よりも先に一気に男の懐に飛び込めば、とん、と軽く繰り出された蹴りは、しろく染まった脚に霊力が籠められている。まずは様子見、とばかりにお見舞いした攻撃を、男は間一髪で躱す。
「ありゃ」
 蹴りぬいた脚を素早く引っ込め、幼子はちいさな身体を屈めて横転。受け身をとった状態で転がりつつ、男から距離を離す。
 男がロベルタめがけて反撃の焔を撒き散らそうとした時、続けざまに墨が太刀に尋常ならざる冷気を宿した居合斬りを仕掛ける。既に猟兵達によって相当なダメージを蓄積された身体が、戦巫女の一太刀をまともに食らう。
 二人の少女の攻撃は、男の邪心と魂のみを打ち砕かんとする。見た目にはわからずとも、破魔を宿した刃によって確実に斬られた魂には罅が入っている。
 娘の故郷――サムライエンパイアにも、斬った感触が忘れられずにいて辻斬りになる者は居た。
 肉や骨を断つ感触、血の匂い、浴びた血が冷えていく感覚。それが堪らないのだと言った相手を、墨は理解することができなかった。
(――いえ、)
 本当は、少しだけ理解できることがある。人を斬り倒したことへの、わずかな興奮。気付いてはいけない瀬戸際のゾーン。けれど、それ以上は。
「墨ねー!」
 ロベルタの声に、思考を止める。男の手には凶器の包丁がぎらりとひかって、墨は迷わず愛刀『国綱』で受け止める。太刀と包丁では雲泥の差であるはずなのに、力の差が互角のように思えるのは、相手の殺意の烈しさを物語っているようだった。
「ロベルタさん、」
「任せろーっ」
 かよわくかすかな呼びかけを、幼子は決して聞き逃さない。走る、奔る、駆る。ちいさな身体を活かして、ブレーキなんて掛けられないスライディング。ぱっと墨が包丁を叩き落したと同時、ロベルタは墨の立っていた位置に居た。男の顎めがけて、しろく染まった脚が蹴りあげられる。
 この人には、何かおおきな不満でもあったのかもしれないけれど。
(それの発散の仕方が間違ってたんだろーなーって思うよ)
「だが同情はしないッ!」
 更に素早く折り曲げた膝の蹴りが、ゴーストの顔面にぐしゃりと命中する。破魔を宿した二度の襲撃には、おさない身体の十数倍もの重量をかけた威力が乗っていた。
 幼子の考えていることが読み取れて、戦巫女はちいさく頷く。
 そうなる理由があるかもしれない。けれどそれを周囲に叩きつけるのは、自己中心的で、赦されていいものではないから。
(私は、ほんの少しだけ理解できるとしても……ロベルタさんには、ずっと理解できないままでいてほしい)
 これも、自己中心的な我儘かもしれない。地面へと着地した幼子と消えゆく残留思念を見て、墨は愛刀を仕舞う。
 ガソリンの臭いは、綺麗さっぱりなくなっていた。


 夕闇の落ちる交差点。日中の騒ぎが嘘のように、人々はいつものように家路へ急ぐ。
 それとも、大切な誰かとの素敵な待ち合わせがあるのかもしれない。
 誰もがこの場がつかの間の戦場であったことを知らない。覚えていない。

 冬のよく晴れたこんな夜は、ビルの群れの間から覗く星空が美しいだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月13日


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 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#シルバーレイン


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は仇死原・アンナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト