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アモングループ ~希望と絶望の雪山山荘殺人ゲーム~

#UDCアース #人狼ゲーム #NPC多過ぎ #ループ物

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「僕は占い師です。ヤギくんはオオカミだ」
「フサユキさんがオオカミか。これは難しい展開になったな」
「待った、俺が占い師だ」
「私も占い師なんだけど」
「いいや、ボクが占い師だ」
 場に、気まずい沈黙が流れる。
「一旦待とう。なんだ、何で占い師ばっかりこんなに居るんだ?」
「しょうがないじゃん占い師どう見ても強いし」
「真っ先に殺される役職でもあるんだぞ?」
「占い師が一人とは限らないから起きてる事だよねー」
 再びの沈黙。互いに顔を見合わせて、誰が何を喋るかを慎重に伺っている所に。
「おれはぁ、うらないしだぁ! あはははは!」
「ここでオオカミジジイ氏からまさかのカミングアウト!」
「さー、分らない展開になってまいりましてどう思いますかチエリさん」
「何だかよく分かんないけどよくわかんないし、全員ぶっしゅぶっしゅ殺しちゃえば解決するんじゃないかな?」

「中々のカオス卓だな……ああ、以前も予兆した事があったな人狼ゲーム。あの時はゲームじゃなかったが、今回はゲームだ。概要を説明する」
 (自称)レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)がいつもの如くゆったりと椅子に座って手を組んでいる……が、今日も何だかそわそわしている。
「現場はUDCアース。最新式のVRを使った脱出ゲームのアトラクションに偽装した邪神復活の儀式が行われている。これに介入し、止めればいい」
 『アモングループ』と名付けられたこの脱出ゲームアトラクションのポスターの映像がベースに張り付けられる。最新型VRアトラクション、まるで現実。あなたは狂気の殺人鬼となるか、それを暴く探偵となれるか。そういう謳い文句が書かれている……割と、チープな作りで本当に最新技術が使われているとは思えない。
「実際の所一切何の機械も使ってないからな……現実の参加者たちは会場内のカプセルベッドですやすやお眠り中だ。だが、その意識は夢の中のゲームに捕らわれている」
 激しい吹雪の吹き荒れる雪山の映像がベースに表示される。その中央にはしっかりした作りのかなり大きい山荘が立てられている。
「ゲームの設定としては……突然の吹雪でこの山荘内に閉じ込められた登山者達。吹雪が明けるまで山荘で避難生活をしようと思っていたら、救難無線を送る通信機が何者かに破壊され、山荘の主人が無残な死体となって発見される。生前、山荘の主人が言っていた雪山の怪物『オオカミ』が人間に化けてこの中に紛れ込んでいる。生存者たちで話し合い、多数決で決めた一人を追放し、オオカミを全滅させろ……と、言うのが基本的な筋書きだ。雪山で人狼ゲームをする、その認識だけで十分だ」
 雪山の山荘と言うミステリーにありがちなクローズドサークルの基本を抑えた、ありがちな設定と言えるだろう。
「ある意味、本題はここからだ。さっき邪神復活の儀式だと言ったな。この参加者達はその為に集められた生贄な訳だが、このままでは条件が足りないらしい。参加者たちは1ゲームが終わる度に記憶をリセットされ、何度も何度もこのゲームを繰り返している。当然、当人たちもその事は知らない……介入できるのはゲーム開始後の1時間程だが、この時点で軽く100ループはしていると推測される」
 現実と夢の中では時間の流れ方が違う。普通は夢の方が現実より短く感じるが、この作られた夢の中では逆になっているのだろう。
「恐らく、夢の中で何らかの条件が満たされる事により儀式が完成する。その条件を突き止め、阻止して貰いたい。現場には催眠ガスが散布されているので行くだけで夢の中には入れる」
 復活の条件は現段階では不明、と言う事のようだ。
「一つ重要な事がある。ゲームの中ではユーベルコードの使用が大きく制限される。10分おきに1回だ。一度使う度に10分間のクールタイムが必要だから忘れないでくれ。これはどんな役職でも変わらない。そう、今回は役職がある」
 ベースに『役職』を示すカードの立体映像が表示される。
「まずはある意味主役である『オオカミ』占う相手がオオカミかどうかを判別できる『占い師』吊った相手がオオカミだったか識別できる『霊媒師』守っている相手をオオカミの襲撃から守れる『狩人』お互いをオオカミではないと証言できる『共有者』」
 一枚ずつ、カードを見せながら説明を続けるレイリス。
「相方が釣られると自分も死んでしまう『恋人』一人を指定してオオカミなら銃殺、オオカミじゃなければ自分が死ぬ『保安官』灯りで広い範囲の視野を確保できる『灯火』襲撃された時30秒時間を巻き戻せる『時守』あと、オオカミ陣営も参加者一人に成りすます『変異』死体を消せる『掃除屋』等もある。更に第三陣営もあるそ。自分の生存で勝利する『妖狐』自分が吊られると勝ちになる『吊男』生存者全員にオイルをぶっかけると勝つ『放火魔』……後、何があったかな」
 待って待って待って。どよめきと共にツッコミが入る。
 役職、多くない? 多過ぎない?
「このゲームな……開始時に一つ、好きな能力を貰えるんだ。その能力で陣営は決まる。この能力次第で色んな役職を作る事が出来てしまう。なんか、参加者全員が同じ姿とか意味が分からんループもあるな。だから役職被りは起きるし、それがオオカミとは限らない。ただ、参加者は記憶リセットされてるから選ぶ役職の傾向はある程度偏る」
 成程、カオス村になる訳だ。
「ゲーム終了条件は普通に、オオカミが全滅するか、人間の数が人外以下になるかだ。ただ、役職が選べる都合上選んだ時点で人外が多過ぎて即ループしてる事もある」
 何それ怖い。
「そうそう、通信機を直して救援を呼ぶと人間陣営の勝ちになるタスク勝ちと言う方法もある。山荘の色んな所で色んな事をすると何やかんやで通信機が直る」
 壊れた通信機、千切られた配線、散らばったタオル、散乱する書類、詰まったトイレ……後半はもう何が修理に繋がってるかよくわかんない。
「猟兵諸君は他の参加者と違う所が二つある。まず、ループ開始時点で貰う能力を選ぶ代わりに使うユーベルコードを選択する。ユーベルコードが一つだけなら人間側、二つ以上を使うとオオカミ側に決まる。ループの開始時点で好きな方を選択してくれ。もちろん、ループごとに変えていい。そして、猟兵諸君は記憶のリセットを受けない。推測だが、ゲーム内に紛れ込んでいるであろう首謀者のオブリビオンもまたリセットを受けていない。だから、記憶がリセットされていない奴が居たらそいつは怪しい。諸君の本当の勝利条件である儀式の失敗につながる可能性が高い」
 猟兵の記憶を弄れる程強い儀式ではない、そう言う事のようだ。
「いいか、色々言ったが諸君の目的は一つ。邪神復活の条件を見付け、それを防いでゲームを終了させる事だ。その為に自らオオカミになる事を選ぶ事も必要かもしれない。ループの果てに出口を見付け、ループを終わらせろ」
 すっと、横に手を振り全ての映像を消すと椅子に座って偉そうに腕を組み直すレイリス。
「常の事だが、私は見えた事件を解説するだけだ……今回は長かったが」
 そして、邪神の祭壇と繋がる転送用のゲートを開く。
「では、往くがよい」


Chirs
 ドーモ、Chirs(クリス)です。オープニングが長くて申し訳ない。色々言いましたが、一言で言うと某宇宙人狼ゲームのシナリオとなっております。宇宙人狼にある物は大体あります。
 今回の人狼シナリオは犠牲者を抑える必要はありません。人狼側になってぶっしゅぶっしゅ殺して回ってもオッケーです。ループすれば生き返ります。
 第1章はどんな立ち回りで遊ぶかを書いて下さい。なんやかんやで終了条件は炙り出せるので好きな用に振舞ってもらって大丈夫です。
 第2章では終了条件が判明しますが、引き続き宇宙人狼です。
 宇宙人狼と普通の人狼との違いは大体こんな感じです。
 誰かが死体を発見して通報すると即会議が始まります。また、一人一回任意で緊急招集をかけられます。オオカミは夜に一人ずつ殺す訳では無く、ガンガン人を殺せます。緊急招集されると強制的に中央ホールに生存者が強制的に集められます。また、会議では必ず一人吊るさなければならない訳では無く投票スキップしてタスク勝ちという手も使えます。
 今回はプレイヤーが推理する要素はありません。ごあんしんください。状況に対応したプレイングでなければいい結果にはなりませんが、それは当たり前の事です。
 この辺が普通の人狼と宇宙人狼との違いでしょうか。役職も割と別物なんですが、人狼にある役職は何らかの形で存在する事にします。
 今回もいつも通りアドリブも連携もマシマシになります。ある程度の人数が集まってから書き始めます。皆さんのやりたいカオスな人狼ゲームのお手伝いが出来れば良いなと思う所存でございます。
 10/14(木)9時からプレイング受付を開始します。それ以前に頂いたプレイングは採用できないのでご注意ください。プレイング受付期間はタグで表示します。
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第1章 冒険 『それでも人は夢を見る』

POW   :    無理矢理起こす

SPD   :    道具を使って起こす

WIZ   :    魔力を使って起こす

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


◆補足な
 舞台となる山荘は最大40人程が宿泊できる大きな山荘。ゲームなので色々と無茶が利く。会議を行う中央のメインホールは全員が座って話せる大きなテーブルがある。焚火ストーブもあり、ゆったりした時間を過ごせるだろう。オオカミが居なければ、だが。
 また、山荘の避難者全員にトランシーバーが配布されている。電話線は寸断されて電波は届かないので携帯電話の類は一切使えない。そもそも夢の中なので当たり前と言えば当たり前なのだが。通信機を直すのはあくまでゲームの終了条件である。
 このトランシーバーには緊急時通報ボタンがあり、これを誰かが押したら迅速に中央ホールに集まらなければならない。これはオオカミでも例外ではない。自力で移動できない状態であっても謎の力で運ばれる。まあ、夢の中なので。死んでいる人は集まらないので死者の確認にも使える。
 山荘にはそれぞれの個室がある。この個室は犯行現場としては極めて都合が良いので危険な場所だ。
 大きな発電機のある発電室もある。この山荘全体の電力を賄っている。これに異常が起きた場合、手早く直さないと全員凍死を免れない。ただし、オオカミは平気。発電機停止を一定時間継続すればオオカミ勝利となる。
 調理器具の揃った厨房もある。食材は十分ある。食事を作って提供したり、犯行の為の凶器を調達するのに便利だろう。
 それなりにしっかりした設備の医務室もある。ここではトランシーバーと連動して現在の生存者確認が行える。現在誰が生きていて、誰が死んでいるのか一目でわかる。
 警備室もあり、監視カメラの映像を確認できる。監視カメラは厨房、発電室、中央ホール、個室に続く廊下にある。
 外は極寒の吹雪が吹き荒れているので人間は外に出るとすぐに凍死してしまう。しかし、オオカミは吹雪の中で行動する事が出来る。人間に見つからないルートで行動する事が出来る。
 処刑は山荘の裏の崖から突き落とすという形で成される。オオカミだってこれは死ぬ。また、オオカミは殺した死体を隠す事は出来ない。必ず誰が何処で死んでいるのかは分かる状態での殺害になる。その代わり、返り血が付着したり、争った形跡がある等は一切考慮されない。全てはアリバイと証言で決める。
 ……説明し切れなかったのはこんな所か。まあ、要するにルールは宇宙人狼準拠な訳だ。
 ちなみに今回の初日犠牲者の山荘の主人はただの解説役のNPCなので黒幕だったりはしない。
木霊・ウタ
心情
夢で儀式で人狼でループものって
なんか盛り盛りだぜ
そんだけ凄い儀式ってコトだよな
絶対に阻止してやる

人狼ゲームってやったことないんだけど
まあやってやるぜ

行動
影の追跡者を監視カメラと併用して
常に山荘内外を探索させておく

参加者を観察
まずは全員と話をする
ループの時の手がかりになればってカンジ

一体何が儀式の条件なんだろう?
人外が多すぎると即ループってのは
ゲームの意味合いの他に
何か儀式上の意味があるのかも
一定数以上の死が必要とか?

なんで
出来るだけ人狼の殺害を防ぐように立ち回ってみる
発電機も勿論守る

そんな俺を吊るそうとしてきたり
仕向けてくる奴は誰かってのも覚えとく
記憶の持ち越しと合わせたらヒントになるかも



●LOOP 124 介入開始
「夢で儀式で人狼でループものってなんか盛り盛りだぜ」
 自身の寝室で目覚めた木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は状況を把握しながら自分のするべき事を復唱する。
「そんだけ凄い儀式ってコトだよな」
 軽く指先から炎を出そうとしてみる。炎は出ない。
「絶対に阻止してやる」
 想定通りの結果だ、何の問題も無い。
『おはようございます』
 ベッドから立ち上がると、空中にメッセージウィンドウが出現した。
 室内は精巧なモデリングで現実と見分けが付かない。だが、このメッセージウィンドウは明らかに異質。ここがゲームの中だと知っていればその事を正しく再認識させてくれる事だろう。
 最も、現在のUDCアースの技術でここまで完璧なバーチャルリアリティが実現できるという最大の違和感から目を背ければの話なのだが。
『使用するユーベルコードを選択してください』
 メッセージウィンドウにはウタの使えるユーベルコードの一覧が並んでいる。
「こっちの手の内は筒抜けだな」
 ウタは経て来た経験の割に使えるユーベルコードの数は多い方ではない。その分、一つ一つの扱い方は熟知している。
 だからこう言える。
「と、でも思って油断してくれないかな?」
 指先で【影の追跡者の召喚】をタップ。【影の追跡者の召喚】だけがいつも通りに使える感覚を確かめた。
『あなたは”人間”です。役職名は”追跡者”です』

 中央ラウンジでは大きい薪ストーブの暖かな光と、卓上に並ぶ暖かな食事で暖かな空気だ。外で荒れ狂う猛吹雪の事など忘れてしまいそうだった。
「どうぞゆっくり寛いでください。私は少々調べ物があるのでこれで失礼します」
 進行役の”山荘の主人”が定例句を言い残してラウンジを離れる。
「おじさん、ちょっと聞きたいんだけど」
 ウタは”山荘の主人”に声をかけてみたが、まるで聞こえていないかのようにそのまま行ってしまった。
「彼は第一犠牲者役のNPCだから話しても無駄だよ」
「そっか、そういう物か。あんたは?」
「えっと、僕はフサユキだ。よろしく」
 そう言ってフサユキは握手を求めて手を差し出す。ウタはその握手に応えて握り返した。
 違和感がある。このフサユキには何かがあると猟兵第六感が告げている。だが。これはオオカミと言う事なのだろうか?

 本来猟兵とオブリビオンはお互いをはっきりと認識できる。例え100人の中に紛れる1人のオブリビオンを特定しなければならない状況であっても易々と当てる事が出来る。
 だが、ここはゲームの中だ。猟兵もオブリビオンも本体ではなくゲームのアバターを通して接触している事になる。こうなるとそのアバターをオブリビオンが動かしているかどうかは分からない。

「人狼ゲームってやったことないんだけど、まあやってやるぜ」
「そうなんだ。僕はそれなりに経験はあるから頼ってくれてもいいよ」
「ああ、あんたが人間ならな」
 これは人間に紛れた人狼を探す人狼ゲームの裏で行われている、人間に紛れたオブリビオンを探す任務だ。その事を知っているのは猟兵とオブリビオンだけだが。

 ウタは全員と一通り雑談でもしておこうかと思ったが、そうはならなかった。
 大きな物音と男性の悲鳴。全員にはっきりと聞こえるように上げられた音はゲームの始まりを意味する合図だ。
 会話して人物像を掴みたかったが、そもそも人数が多い。だが、何人かは互いに知り合いのようだった。その人はオブリビオンの容疑者から外していいだろうか?
 少なくとも、ヤス、カオル、ヨリツグの三人はオブリビオンの容疑者から外していいと判断した。間違いなく肉親だからだ。ヤスとヨリツヅは兄弟で、カオルはその母親だ。仲がいい訳ではなさそうだが、根本的な所で互いに信頼している部分を感じる。
 親し気に近寄り、友人面をするオブリビオンはあり得るだろう。だが、肉親を偽造するとなると中々に手間がかかる。出来ない訳では無いが、少なくとも今回は違う。
 モッチーとハルカは仲がいい様だ。友人、或いはもっと親しい関係だろうか? オブリビオンが入り込む隙間はありそうだが。
 タエと言う老婆とコウゾウと言う老人は旧知の中の用だ。それとケイ、アスカ、アリスの男子高校生三人と、ルミ、オトハ、シノ、ミーコの女子高生四人は同じ学校の制服を着ている。トロリンはその学校の先生だろう。
 ……人間関係から洗える情報はこの程度だろうか。誰かと関わりを持つ人がオブリビオンでは無いと断定はできない。だが、可能性は他より低いと見積もってもいいだろう。そもそも人数が多過ぎるのだが。
 なお、何故話してもいないのに全員の名前が分かるかと言うと、頭上にMMORPGの如く名前が表示されているからである。とてもゲーム感がある。

 全員で確認したそれは、確かに”山荘の主人”の変わり果てた姿だった。
 腰から上の上半身が丸ごと消滅して、一本の骨が露出している……間違いなく、死体ではあるんだろうが、やけに漫画チックだった。突き出ている骨は漫画骨だし、グロさはあまり感じない。
 そもそも全員ラウンジで話していたという完璧なアリバイがある状況でどうして山荘の主人は死んだのか。それなりのトリックがありそうな状況だが、これはあくまでもゲーム開始の合図でありそれ以上の意味はない。山荘の主人はノンプレイヤーキャラクターとしての職務を全うした訳だ。

 最初の会議はほぼ何も決まらずに終わった。互いに挨拶をして、これからよろしくと言う感じだ。誰もがこれをゲームであると認識しているし、最初の状態では誰にも何の情報も無いので話しようがない。
 そして、このゲームでは会議の時に誰にも投票せずにスキップする事を選べる。これは一般的な人狼ゲームとの大きな差だ。たとえ誰かの死体が見つかって始まった会議でもスキップ票が一番多ければ誰も吊るされない。
「なんだかよくわかりませんが。よくわかりませんでしたね」
 全くその通りだ。

 普通の人狼ゲームであればこの後村人は就寝し、人狼は村人を一人襲撃して殺す。だが、このアモングループではそんな生活は許されない。何故なら君達は、いつ止むともしれない吹雪の吹き荒れる山荘で遭難生活をしているのだから。
 オオカミによって破壊された通信機。通常の電話回線もネット回線も寸断されている。救援を呼ばなければ助けは来ない。
 この山荘には充分な宿泊スペースがあり、食材もあるが調理する人はもう居ない。当然ベットメイクや掃除をする人も居ないし、風呂だって入れない。
 そんな訳で山荘の避難者はランダムで割り振られた仕事、タスクを完遂する必要がある。どう見ても通信機の修理と関係ない仕事でもやらなきゃ助けは来ないのだ。
 そして、オオカミにとってはここからが本番だ。孤立した者を狙って襲う。仲間以外の誰にも見られずに。
「とりあえず、フサユキさんは何となく怪しいよな」
 ウタは【影の追跡者の召喚】で呼び出した『影の追跡者』をフサユキを中心に見張らせる事にした。自分で見張るのは周りにオオカミが獲物を狙っている、と誤解されかねないので止めておいた。
 ウタはとりあえず出来るだけ人狼の殺害を防ぎ、発電機を守る。そういう動きをするつもりだった。
 普段のウタであればそれは問題無く出来る事だっただろう。
 そう、ウタは自分も今は無力な一般人の一人に過ぎない事を完全に考慮していなかったのである。
「ごきげんよう!」
 だから、発電機の前で誰かに自分が襲われて食べられる事を考えていなかった。

●LOOP 125 ループ
 気が付くと、ウタは自室で目を覚ましていた。誰かに襲われて喰われた。それは分かるのだが、自分がどう戦ったのかが全く記憶にない。そもそも戦えたのだろうか?
「ちょっと失敗だったかな」
『おはようございます』
 ベッドから立ち上がると、空中にメッセージウィンドウが出現した。前回と同じように【影の追跡者の召喚】をタップすると、
『あなたは”人間”です。役職名は”追跡者”です』
 のメッセージウィンドウが同じ様に表示された。

 中央ラウンジでは大きい薪ストーブの暖かな光と、卓上に並ぶ暖かな食事で暖かな空気だ。外で荒れ狂う猛吹雪の事など忘れてしまいそうだった。
「どうぞゆっくり寛いでください。私は少々調べ物があるのでこれで失礼します」
 進行役の”山荘の主人”が定例句を言い残してラウンジを離れる。
「おじさん、ちょっと聞きたいんだけど」
 ウタは”山荘の主人”に声をかけてみたが、まるで聞こえていないかのようにそのまま行ってしまった。
「彼は第一犠牲者役のNPCだから話しても無駄だよ」
「そっか、そういう物か。あんたは?」
「えっと、僕はフサユキだ。よろしく」
 そう言ってフサユキは握手を求めて手を差し出す。ウタはその握手に応えて握り返した。
 手に違和感を感じ、それをポケットに突っ込んだ。

「さて、今度は上手くやるぜ」
 全く同じ行動を取ると、周囲も全く同じように振舞う。それはさっきのラウンジで確認できた。当然だ、自分以外はこれが繰り返し行われている事を知らないのだから。その中で、一人だけ違う行動をした人物がいた。
 誰にも見られていない事を確認してからポケットの中に突っ込んだ紙片を開いた。
『一時間後に僕の部屋に来てください』
「なるほどな」
 フサユキは知っている。それは彼がオブリビオンだからか? そうであれば猟兵に接触した理由は何だ。
 それを考えながらタスクをこなしていたら30分後位にフサユキが無残な姿で発見されてしまったので今回はその理由を聞けずに終わってしまった。

●LOOP 126 探偵
 ウタは前回と全く同じように振舞った。それは案外、自然と行える行為だった。細かい内容に違いがあっても、大筋が変わらなければだいたい同じ流れになる。
 ただし、タスクはループ毎に変わっているので最初の会議を終えた後の展開は全く別物だった。誰がオオカミだったのかは前回と前々回で違ったので前回オオカミだったから今回もオオカミ、と言う訳には行かないようだ。

 ウタは次のループで指定された時間にフサユキの部屋を訪れた。今回はメモを受け取っていない。それは前のループの事だ。
「やあ、来てくれたね」
 だが、フサユキはそこに現れた。思った通りに。
「ごめんね、前回話そうとしたんだけど殺されちゃって」
「それは仕方ないと思うぜ。俺も殺される時に抵抗しようと思ったけど駄目だったし」
 前回のウタは大筋としては犠牲者を減らし、発電機を守ろうとした。だが、一人で居るとオオカミに襲われてしまう事を前々回で理解した。だから、発電機周りのタスクがある人に声をかけて一緒に居たのだ。
 まあ、声をかけた人がオオカミだったのは誤算だったのだが。ちなみに、オオカミにタスクは無い。
 このゲームの中ではオオカミに襲われたら抵抗は出来ない。それをはっきりと確かめた。
「僕は”探偵”だ。君は”追跡者”だね?」
「ああ、そうだぜ。やっぱりフサユキさんが”探偵”だったか」
 色々ある役職だが、どの役職がどんな事が出来るのかはいつでも確認できるようになっていた。人数分の役職があって、確認が大変だったが、大体は把握した。
 その中で一つ気になる役職があった。”探偵”である。役職の説明としては『追加で情報を得る』と書いてあったが、他の役職はどんな行動をした時にどんなの情報を得るか明記されていたのに”探偵”だけはそれしか書かれていなかったのだ。
 だからウタは”探偵”の持つ能力をこう推測した。
「あんた、今までのループの事覚えてるだろ」
 仮定ではなく断定。確信はあったが確証を得る為の質問。
「その通り。それが”探偵”の能力さ」
 返答は予想通りだった。
「だから聞きたい。君は何故、前回の事を覚えているんだ?」
 こう聞き返されるのは予想していた。熟慮した結果、こう答える事にしていた。
「俺は猟兵だ」
「……猟兵? そんな役職は聞いた事が無いな」
「だろうな」
 ウタは苦笑した。これでフサユキが実はオブリビオンであれば話は別だったが、猟兵と言う単語の反応からして恐らく違うと仮定する事にした。
 ウタは簡単に猟兵とオブリビオンの事を説明した。儀式の事も。フサユキは真剣にそれを聞いていた。
「……と、言う事なんだけど」
「色々と納得したよ」
「驚かないんだな」
「UDC絡みだろうとは思ってたからね」
「UDCを知ってるのか?」
 UDCアースでも、民間人がUDCの存在を知っている事は稀だ。UDC組織の職員でも無ければ知らないだろう。
「元カノがUDC関係の職員でね。ちょっとだけ体験した事がある」
「そう言う事か」
 巻き込まれた事件の当事者ならばその稀な例外に入るだろう。
「じゃあ僕は探偵として……ええと、探偵じゃなくて大学院生なんだけど……このループの中で得た情報を話すよ」

 フサユキの話を纏めるとこんな感じだ。
 記憶の継承をしてるのは自分だけだと思う。他にしている人が居てもそれを隠し続けている。
 ウタに接触したのは急に増えた参加者だから。このループを終わらせる条件を探す為に色々と試していたが、参加者が増えた事はなかった。
 同じ役職でも人間になる場合と、オオカミになる場合がある。フサユキは何度もオオカミ側も経験した。その上で、自分が生き残り人間勝利でもオオカミ勝利でもループは終わらない。何事も無かったかのようにゲームは再び始まる。
 役職はある程度偏る。記憶をリセットされているからだろう。オオカミになり易い人は居る。でも、一回もオオカミにならない人も居る。役職が同じでも陣営が違う事がある。
 だから、ゲームに勝つだけならもうさほど苦労はしない。

「だからまあ、勝ちたければ僕に言ってくれればいい。協力するよ」
「それは助かるけど、そもそもどうやってループに気付いたんだ?」
 それは最もな疑問だ。ループする事に気付かなければループした記憶を保持する役職などあり得ない。
「最初から能力選択する時に”前回の記憶を引き継ぐ”って言っておいたからだよ。だって、怪しいじゃないか? どうみたって最新設備なんか無さそうだったのにこんな大掛かりなバーチャルリアリティ作るなんて絶対普通の事じゃないでしょ」
「そりゃあまあ、そうだよな……」
 だからってループしてる事を仮定できるとかどんな発想してるんだろうこの人。オブリビオンかどうかは置いといても大分変な人ではある。

 なお、この後ゲームは普通に負けた。二人で密会してる時間を怪しまれて吊るされてしまった。
 まあ、人狼ゲームの勝ち負けはこの際どうでもいい事かも知れないが。

成功 🔵​🔵​🔴​


●LOOP 127 ちなみに
 【影の追跡者の召喚】は役に立たなかったかと言うとそんな事は全く無かった。
「俺が追跡者だ。タクミ今年の犯人はモッチーで、ケイ殺しの犯人はオトハだぜ」
 何せ怪しい人物が分かってればそいつに追跡者を張らせれば容易にオオカミは吊れる。ループ情報があれば大活躍だ。
「はいはーい、対抗でーす。ボクが追跡者」
「それは苦しい言い逃れだなぁモッチー」
 役職被りはあり得るのだが、どの役職が何人いるかは公開情報なので対抗カミングアウトと役職騙りは出来る。
「まあ、ケイを殺したのはオトハだよな」
「なんでよ!」
「分からないと思ってたのかよ!」
「往生際が悪い。黙って吊られろ」
「くそー、私は猫股だぞー! 誰か道連れにするぞー!」
「いや、猫股はオオカミジジイ氏だから」
「おれはぁ、オオカミじゃぁ、ないぞー」
「んじゃあ、最後にオオカミとしてバラすけどじっちゃんオオカミだから」
 確定黒として潔い態度なのか、最後の足掻きと取るべきか。
「へぇっへっへっへぇー」
 まあ、オオカミジジイは基本放置と言うのが全体方針。

「彼はね、自分が吊られたら勝ちの”吊男”か吊るされたら誰か道連れにする”猫股”のどっちかだからね」
 ループ経験者のフサユキ情報。
「自分が吊るされやすい事を理解した役職だと思うよ。ボケた振りしてるけど、どうなんだろうな」
 それがオブリビオンかと言われると良く分からない話ではあった。怪しい人物ではあるのだが。
黒江・式子
この手のゲームは初めてなので
似たゲームの配信動画等で予習してきました
とりあえず
味方が分かっている人狼側の方が
まだ気楽にやれそうです
どうせ私のUCは
ダーティーワークの方が活かしやすいですし(死んだ目)
調査を進める事を優先しようと思いますので
必要とあれば
身内切り等も選択肢に含めます
まあ、積極的にやりたい訳では無いんですが

使用するUCは
足元の影から沸き立つ黒い茨が
対象の影に潜り込んで
不都合な感情を奪う【竹馬の友】と
茨を対象の影に繋げ操る【暗者の指先】
騙りはもちろん
不意をついて暗殺したり
目撃されても誤魔化したり
死体を操って発見場所や死亡時刻を混乱させたり
それなりの仕事は出来るんじゃないでしょうか



●LOOP 128 オオカミ
 黒江・式子(それでも誰が為に・f35024)は割り当てられた個室のベッドで目覚める。
「この手のゲームは初めてなので、似たゲームの配信動画等で予習してきましたが」
 ベッドから立ち上がると、ゲーム的なメッセージウィンドウが表示される。
『おはようございます』
 視界の端の方にはユーザーインターフェースが表示されている。ボタンをタップする事で参加者の顔と名前一覧、現在のゲームの役職の一覧が表示されるようになっている。
「……これだけ精巧なモデリングしてんのに妙にゲームチックな……」
『使用するユーベルコードを選択してください』
 式子の使うユーベルコード一覧がインターフェースに表示される。現状、敵の手の内に居る事を考えると、ユーベルコードを全て知られている事には嫌な感じは受けるのだが。
「とりあえず、味方が分かっている人狼側の方がまだ気楽にやれそうです」
 そう言いながら【竹馬の友】と【暗者の指先】をタップしてOKを押す。
『あなたは”オオカミ”です。役職名は”翳喰”です』
「ふーん……」
 その程度の情報は調べられているか。ユーベルコードを知られているなら当然ではあるかな。
「どうせ私のユーベルコードはダーティワークの方が活かしやすいですし」
 式子は死んだ魚のような目で言った。
『”オオカミ”陣営になった事により身体能力の拡張を行います』
「おや?」
 これは聞いていなかった事だ。似たゲームでは狼側の陣営に属すると、視界が広がり停電でも普通に物が見えるようになる。それの再現だろうか。
 意識的にあまり変わった感じはしない。試しに、部屋の電灯を消してみるとその違いが分かった。
「なるほど」
 部屋の明かりが無くなっても全く問題無く見渡せる。暗視ではなく、どこかに光源があるかのように色付きで見える。
「これは、少し注意しないといけないかもですね」
 影の扱いに長ける式子はその危険性を一発で看破した。それは同時に、この性質を使った罠を思い付いたと言う事でもある。

 ラウンジではウタとフサユキが会話をしている。他の人の様子も探っているようだ。
 少なくとも、ウタが猟兵なのは知っている。ゲーム上敵対する事になるかもしれないが、本当の意味では味方だ。
 ウタが社交的な人物の様子を伺っているようなので、式子はあまり他の人と喋らない人をそれとなく観察した。
「…………」
 気になったのは、エリカと言う名前の人物。一見すると黒を基調とした仏教の法衣に近い服装をしているが、密教的なシンボルも見える。
 他の人は普通の格好をしているので浮いているような気もするが、コスプレの様な感じはしない。普段からこの格好なのだろう。
 そんなエリカの事を訝しげに見ていると、その視線に気付いたのか軽く会釈をされたので会釈を返した。どうやら礼節のない人物では無いらしい。

「はい。それではどんどん殺していきましょう」
 と、思っていたらコレである。
 予定調和の如く山荘の主人が無残な姿で発見され、特に何も決まらない会議が終わって各自がそれぞれのタスクに向かい始めた。
 式子は最初の会議の時に一部の人の名前表示が赤に変わっていた事に気が付いた。エリカも赤表示で、人物一覧を見ると式子自身も赤表示になっていた。
 これがオオカミ陣営と言う事なのだろう。
「殺すのはいいんですけど、誰から行くんですか?」
 他の人に聞こえない様に廊下を歩きながら小声で話す。
「孤立する方が狙い目かと。具体的にはフサユキ様。キヨヒコ様。ヨリツグ様辺りが狙い目です」
「成程……」
 式子はこの発言に大きな違和感があった。恐らく面識が無いであろう人物達の中から孤立しがちな人をあの短時間で特定できるのか。
 妙に目立つ服装といい、このエリカはオブリビオンでは無いだろうか。だが、そうだとしても……あまりに悪目立ちが過ぎる。
 まだ情報が少ない。ループは起きるのだろうが、式子は最初のゲームなので未経験のループを頼りたくも無い。
「この先の厨房に。ヨリツグ様が一人で。お入りになりましたね」
 エリカはそう言って、薄く嗤った。

 ”駅員”という役職がある。何故駅員が役職でこの能力なのか式子にはよく分からなかったが、
「ダァシエリイェス」
 どこかでドアが閉まった音がした。
「ダァシエリイェス。ダァシエリイェス。ダァシエリイェス。ダァシエリイェス」
 エリカが奇声めいてそう発音したので何故ドアを遠隔で閉める能力が駅員なのか分かった。
「デトロー。開けろイド市警だ」
「えー……」
 エリカさん、キャラ違いません?
「何だよ! 勝手に開けろよ俺の部屋じゃないんだから」
「では。許可を得たので入らせて頂きます」
 ドアの前でパスコードを入力して二人で厨房に入る。能力によりドアロックされると、開ける時にパスコード入力が必要になる。入力するパスコードは入力するキーの下に書かれているので落ち着いてやれば間違えないが、追われながらドアを開けると言う事はかなり難しくなるだろう。
 ドアを遠隔で閉める能力。大した事が無い様に聞こえるが、追う側にとっては効果的な足止めとなる。
「ア? なんだドアロックされてたのか」
 そこでヨリツグはドアがロックされていた事に気付いたようだ。元から空いていたドアなら締まる時に音がするので不審に思うだろうが、元から締まっていたドアの場合気付きにくい。
 静かな部屋ならロック音は聞こえるだろうが、この山荘内は外の猛吹雪の音で細かい音は掻き消されてしまう。遠くの音も聞こえにくい。
 後はこの目の前の獲物を美味しく頂くだけだが。
「ここは私がやりましょう」
 式子はエリカに小声で告げた。既に射程距離内。
「私達も厨房に調理するタスクがありまして」
 エリカは気取られない様にそう言いながら近付く。既に影の茨は伸ばし始めていた。
「料理なんてババアのする事なのになんで俺が」
 そんな事には一切気付かずに言った一言がヨリツグの最後の一言になった。
「1キルです」
「ごきげんよう」

「私が。図書館でキヨヒコ様の死体を。発見致しました」
「ああ、俺も一緒に目撃してるから間違いねぇ」
 その後、キヨヒコの死体を発見したエリカが通報して二度目の会議となった。殺したのはエリカ本人でセルフ通報だ。ヨリツグは同行させてそう証言させた。
「バイタル見てましたが、直近のキルで間違いないですね」
 トロリンがバイタル情報で補足する。トロリンはオオカミ陣営ではないが、実際見た事をそのまま報告しているだけで間違いではない。
「キヨヒコ君とエリカさんは直前まで何を?」
「厨房で。調理のタスクをしていました」
「俺が先にやってて、後から合流した」
「とりあえずエリカさんのセルフ通報の可能性は低そうですね」
「そうだね」
 と、言いつつフサユキは腑に落ちてはいない様子。実際その通りなのではあるが、現在の状況では証明できない。
「各自の最終位置を言ってもらおうか」
 アリスがそう促して、各自が最後に居た場所を証言する。
「監理室の情報と相違はない」
「バイタルと監理室情報があるなら確かだなぁ」
 監理室では現在どこに何人居るのかが誰でも調べられる。誰が居るのかまでは分からないが、食い違いがあれば誰かが嘘を言っていた証拠になる。
 最も、アリスも実はオオカミなので食い違っていたとしてもオオカミの不利になるような事は言わないだろうが。

 結局その会議はなんだかよくわかんないけどよくわかんなかったと言う事で終わった。
 式子は会議の前にウタから”探偵”の事を聞いて情報共有。自分がオオカミだとまでは言わなかったが。
「それじゃあ、最後の仕事をしてもらいましょうかね」

「ヨリツグさんの死体を発見しました。場所は発電室の前です」
「ちょっと待ってくれよ」
「ウタさん、発電室に居ましたよね?」
 式子は手筈通りに畳みかける。
「いや、俺が入ってきた時には死体なんて無かったって」
 知っている。ウタが少し発電室の様子を見に入った所に発電室の前でヨリツグを死体に戻したのだから。
「私もそれは見てるのよね。ヨリツグが発電室に向ったのも見たし」
「なら括るか」
 ハルカが証言を足し、コウゾウがそう締める。
「いや、これ”翳喰”の仕業だろ!?」
「そう思うなら根拠を出さないと」
「ええと……」
 ぶっちゃけるとウタは式子が”翳喰”である事を確信しているが、それは猟兵だから知っている情報だ。この場では出せない。
 式子は軽くごめんねーという仕草をするのを見て苦笑い。
「俺は”追跡者”だからな」
 観念して最後の仕事をする。どんな役職が居るかは公開情報だが、どの役職がオオカミ陣営なのかは非公開情報だ。役職的にオオカミではあり得ない役職な事はあるが、少なくとも”追跡者”はオオカミもあり得る。

 この状況を作ったのは式子の【暗者の指先】(アンジャノユビサキ)だ。まずは【竹馬の友】(チクバノトモ)でヨリツグの警戒心を警戒心を奪った後にキル。通常なら死体としてその場に残る筈だが、【暗者の指先】は影に潜らせた茨を介して死体を操れるユーベルコード。操っている間は生きているかのように振る舞う。解除するとその場で死体になる。
 この二つがセットになって”翳喰”という役職になっている。かなり凶悪な効果だ。

 その後も”翳喰”をもう一度使って死体偽装、証言偽証させて見事オオカミ陣営を勝利に導いた。
 それでループが終わると言う事はなかったが。

成功 🔵​🔵​🔴​


●LOOP 129 幕間の勝負
「式子さんの能力は厄介だな」
 自室で目覚めたウタはその対策を考える。
「ちょっと他の事も試して見るか」

「実際やってみればどうとでもなる物ですね」
 式子は前ループでの勝利の余韻に浸っていた。
「今回もオオカミで。エリカさんは怪しいのでもう少し情報を集めてみましょう」

「おやおやウタさん、こんな所に一人で居ると悪いオオカミに食べられちゃいますよ?」
「ああ、そうだな。目の前の人とかかな」
 場所はすっかりウタのホームグラウンドになりつつある発電室。誰かがこの場に居れば発電機を停止させる事は出来なくなるので悪手ではない。
「お互い手の内は分かってますからね」
「そうかな。今回の役職を確認したか?」
「え?」
 確認はした。だが、多過ぎるので全部は読んでいない。
「今回は”追跡者”は居ないぜ」
 ウタは中空から獄炎纏う『焔摩天』を引き抜く。
「戦闘系の能力? 襲撃したオオカミを撃退するとか」
 この時点で式子は己の失態を悟った。だが、やる事はやらねばならない。影の茨をウタに向けて伸ばす。

 ”焼灼”、それが今回のウタの役職だ。【ブレイズアッシュ】により肉体を傷付けずに理不尽な未来を焼き滅ぼす。
 相手の未来を攻撃するという独自の特性を持つが故に、ウタはこれから焼き滅ぼす未来を少しだけ見る事が出来る。正確にはそれを認識できる。認識できなければ未来を攻撃するという結果が起きない。
 だが、今のウタにはその能力が無い。だから見えない未来に攻撃を当てる必要がある。それでも、そこに有る事を知っていれば、当る。
 具体的には相手の役職を指名して、『焔摩天』を振り抜く事によってその効果が発動。指名した役職が正しければ対象の役職能力を焼き滅ぼす。正しく無ければ”焼灼”の能力を失う。
 ”保安官”に近いが相手の命は取らないのはウタらしいと言えるだろう。外しても相手がその役職で無かったと言えるメリットもある。
 そして、猟兵同士であれば。以前のループの記憶を持っているのならば。

「お前は”翳喰”だッ!」
 外しようがない。伸ばした影ごと獄炎で焼き滅ぼされる。
「やられた……!」
 式子は自分のユーベルコードが手の内から零れるのを感じた。このループ中はもう発動できない。
「でも、私はオオカミ。君は人間だ。それは変わらない」
「ああ、だからここに誘い込んだ」
 ウタは後方に跳躍! 式子はそれを追おうとして、
「ダァシエリイェス」
 突如閉まった発電室のドアに遮られた。
「一本返させてもらったぜ」

 その後、ウタの開いた会議で事の顛末を説明し、式子は吊られる事になった。
神咲・七十
アドリブ・連携お任せ

やったことがないゲームですが、おもしろそうですし行ってみましょうか

複数の力を使いやすいようですし、やりたい事的に人狼の方が都合がよさそうですね。

(何回かのループの間、UC『制約:征服者』を使用。全体の人の動きを把握しながら、その情報を集めて)

ほむ、まずはこんなものでいいですかね、ここからはお願いしますよ~♪

(UC『万花変生』を使用。隷属化した頭のいいクリスタリアンを呼び出して、全員の行動パターンを伝えて)

パターンが分かったら、記憶を引き継いでいる行動の人を見つける。そんな人は猟兵以外だとそんなにいないはずですし、怪しい人の行動からもしかしたら儀式妨害の糸口が分かるかもです。



●LOOP 130 仕込み
「やったことがないゲームですが、おもしろそうですし行ってみましょうか」

●LOOP 137 征服者
「大体の情報は集まった感じですかね」
 自室で目を覚ました神咲・七十(まだ迷子中の狂食者・f21248)は前回までのループを振り返る。
 誰が何を言ったとか細かい内容は覚えてないが、妙な動きを見せたのは五人居る。その内一人は一先ず敵では無いと言われている”探偵”。
「オブリビオンは四人、もしくは五人と言う事ですね」
 それが誰なのかまでは特定できていない。人間側の役職では能力に制限がかかり、ユーベルコードも本来の性能を発揮できない。それを7度のループで確認した。制限された”征服者”はどこに何人居るかを把握する能力、いつ何処に居ても管理室情報を得られる程度の能力に収まっていた。
 だが、このユーベルコードの威力は本来そんな程度ではない。だから七十は【制約:征服者】(セイヤクセイフクシャ)に加えて【万花変生】(バンカヘンジョウ)を選択した。
『あなたは”オオカミ”です。役職名は”征服者”です』
 ここから、本当の征服者の蹂躙が始まった。

 【制約:征服者】は血・寿命・生命力などを捕食する結界を戦場全体に張り、捕食した物で戦闘力強化と結界内の探知能力を得るユーベルコードだ。しかも対象を選択できる。この雪山山荘全体を覆う結界を張る事が出来る。
 これでどこに誰が居るのかが丸分かりだ。だがその強力さの反面、代償もある。代償によるダメージ自体はさほど問題ではないが、代償を払っている所を見られるのは不味い。呪縛、流血、毒のどれであっても使っている事はバレるだろう。
 ユーベルコードの使用は10分に1回の制限もある。継続発動型の場合は発動を止めた所から10分のカウントが始まる。
 何も問題はない。その為の仕込みだったのだから。

「そういう訳でオブリビオンはエリカ、タエ、オオカミジジイ、アスカの四人です。フサユキさんはまあ、分かりませんけどね」
「凄いユーベルコードだな!」
「助かります。後は邪神復活の条件と、それを阻止する方法を探すだけですね」
 七十の個室にこっそりと集まった猟兵三人での打ち合わせ。誰かが近寄ってきても七十が感知できるので問題はない。
「単純にこの四人? それか五人を始末してしまえばいいのでは?」
「試す価値はありそうですね」
「その為に今回は俺もオオカミ側で来てくれって事だったんだな」
 そう、今回のウタはオオカミだ。【ブレイズフレイム】【影の追跡者の召喚】【ブレイズブラスト】を指定している。役職名は”獄炎”。前回のループの時にこっそり渡された紙片に『次はオオカミで来て下さい』と頼まれていた。
「人間に交じったオブリビオンを倒すって事ならいつも通りだぜ」
「その為には一つ問題が残ってるんですけどね」
 式子はそう言いながらエリカの顔画像を指差す。
「オオカミがオオカミをキルする事が出来るのか」
 本来の人狼ゲームの類であれば何のメリットも無い行為。それがゲーム的にどう処理されるのか。
「やってみれば分かる事でしょう」
 七十は事も無げに言い切った。

「まあ、もう既に準備を終えているという意味ですけどね~♪」
 使用を指定したもう一つのユーベルコード【万花変生】(バンカヘンジョウ)それもまた”征服者”として相応しいユーベルコードだ。敗北や服従、屈伏の感情を与えた対象を攻撃し、隷属させるユーベルコード。
 敗北の感情なら前回のループで既に与えてある。あとは蒔いた芽を収獲するだけ。
「ゲームであるというのはこの点都合がいいですね~。ここからはお願いしますよ~♪」
 七十は実に楽し気に『蹂躙』を始めた。

 そこから先に起きた事は正しく蹂躙であった。
 まずは【制約:征服者】の効果を切る。一つのユーベルコードを使っている間は別なユーベルコードは使えない。しかも切ってから10分間のクールタイムがある。
 だから、そこで緊急招集をかけた。理由など何でもいい。
 なんかオオカミジジイがこっちをずっと見てて怖いから押しました。あの人何なんですか。これは本当で言った事。
 まあオブリビオンなのは知ってるんですけどね。これは今は言わない事。
 手動での緊急招集は一人一回だ。一回だけで十分だ。ただの時間稼ぎなんだから。

 会議の間は誰も何もできない。だが、全員必ずラウンジに集合する。強制的にさせられる。だから居場所を把握する必要が無い。
 一度に一人しか殺せないなど誰が決めたのか。あるのは10分間のクールタイムだけで、一度のユーベルコードで纏めて殺してしまえば何の問題も無い。
 式子が【竹馬の友】で殺さない相手から意識を奪う。殺す相手に気付かれる前に七十は【万花変生】で召喚した透明化クリスタリアンで羽交い絞めにする。相手がオブリビオンであっても一瞬の事で対応は遅れる。ウタが【ブレイズブラスト】でオブリビオンを纏めて始末する。
 たったこれだけ。その一瞬でオブリビオンは全滅した。一発ダメージを受ければ即死というゲームの仕様もあったのだが。

「終りませんでしたね~」
 結論から言えばそうだった。オブリビオンを全滅させてもゲームは終わっていない。
「え、ちょっと。今何が起きたんですか?」
 会議終了後の一瞬で四人がキルされた。誰も何も知覚できなかった。やった当人たちを除けば。
「フサユキさんを吊りましょう」
 七十は事も無げに言った。
「一応、それを試すしかないよな」
「そうですね。違う気はするんですけど」
 ウタと式子が追従したが他は誰も何も喋らなかった。
「あは、あはは! 凄い、凄いよ! 今何をしたんだい?」
 訂正、一人だけ敗北の感情を与え損ねた相手がいた。
「これはもう負けたね。いやぁ、でも凄かった」
 ノアだ。どこにでもいる様な印象の薄い少女。この盤面になって始めて七十はノアを撃ち洩らした事に気付いた。
「おっと、ごめんね。ちょっと興奮しちゃってね」
 即座に支配した。さっきの発言で敗北を認めている。

 だからもう、する事が無い。フサユキを吊らせて、ゲームが終わらないからオオカミより人間が減るまでキルした。
 ゲームは終わった。

●LOOP 138
 ループは終わらなかった。
「何か、前提が間違えている……?」
 七十は思考する。支配した相手の思考はある程度掴めるが、オブリビオンの思考は完全には読めなかった。
 その中でも特別大きな違和感が一つ。
「オブリビオン同士の連携が全く取れていなかったんですよね」
 さっきのループも、これまでのループも。猟兵同士が連携する事はあってもオブリビオン同士が連携した事が無い。
 同じ目的の下に動いているオブリビオンなら考え難い事だ。そして、読めた思考も内容がバラバラだ。
「まさか、この場に居るオブリビオンは……」
 全員が違った目的の為に動いている。七十の猟兵第六感がそう結論した。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●Before LOOP
「録画から皆こんばんはー、時間はともかく僕はもう寝てるからこんばんは」
 巨海・蔵人(おおきなおおきなうたうたい・f25425)はグリモアベースから動画配信を始めた。
「愉快なバイオモンスター蔵人君だよ、今回はキマイラフューチャーとUDC職員さん限定配信だよ。うん、画面はドローンの自動操縦で僕達が寝てるとこ。でも、夢の中で僕達猟兵が戦うことになってるんだ。皆のイイネが僕らの力! 無事に帰っきたら夢での話もするね」
「寝顔だけ配信してどうするんだ……?」
 ベース内なのでツッコミを入れるレイリスは華麗にスルー。そのまま転送用のゲートを抜ける。

●LOOP 138 幕間の会議
 蔵人は山荘の自室で目を覚ます。
「ここが夢の中の山荘か、結構リアルなCGだね」
『おはようございます』
「そこにこのいかにもゲームですって感じのUI……あれ?」
 そこで蔵人はここにある筈の無い物を見た。動画配信を撮影するドローンだ。
 正確に言えばこの場所にある事自体は不思議ではない。撮影用のドローンが正常に機能し、収録を続けている事自体が奇妙なのだ。
「まさか、配信されてたりして」
 蔵人は駄目元で自身の『眼鏡型ソーシャルデバイス』で自分のチャンネルを確認しようとした。

「配信が始まってる……?」
 配信は出来ているとして突入前の収録分までの筈だ。そもそもここは夢の中。外部と通信が成立している事自体が異常事態。
 シークバーを戻すと、グリモアベースからゲートに入るまでは正常に配信されている。だが、そこから先はまだ1秒しか経っていない。1秒の間に部屋で目覚め、ドローンに気付き、自分のチャンネルを確認する所まで超加速編集されているかのように押し込められている。
「これは、現実の方では1秒も経ってないのか」
 配信が今に追いつくと超加速は止まり普通に配信されているように見える。だが、シークバーを僅かでも戻すと突入前まで戻り超加速が始まる。1秒内に起きた内容が更新され続けている。
「うーん、謎に夢の中での出来事が配信出来てしまった。でも、これ編集で等速に戻そうとしてもカクカクだろうなぁ」

「いや、それはおかしいですよ」
 恒例になりつつある猟兵だけの密会。新たに加わった蔵人からの情報に式子は混乱している。
「夢の中と外が通信できる筈が無い。だって夢の中なんですよ?」
「いえ、夢の中とは言いますが。鏡と同じで、そもそも夢に中の世界なんてありませんよ」
 七十は自分の推測も交えながら話した。
「夢と言うのは突き詰めれば脳の電気信号です。それを何らかの手段で複数人を同期させているだけ。世界を移動するのとは違う、夢には本来入るべき場所なんて無いんです」
「まあ、以前夢の中に現れる猟書家を倒した事はあるんだけどな」
 別件で実際に夢の中で戦ったウタが口を挟む。
「猟兵とオブリビオンのやる事なんだから常識持ち込んでも仕方なくないか?」
「いや、案外こういう所に突破口があったりするものだよ。皆は自分の携帯とか試した?」
「いえ、そうですね。少し試して見ます」

 そんな訳で各自が各々の通信手段で外部との連絡を試みる。だが、どれも成功しなかった。蔵人の配信を除いては。
「僕のデバイスでも僕のチャンネルしか見れないんだよね。他の配信動画が見れる訳じゃない」
「つまり、この配信だけを意図的に流していると言う事になりますね。十中八九オブリビオンの仕業ですが」
 式子はそう結論付けた。
「この配信止めた方がいいかな?」
「いえ、むしろ続けるべきでしょう。確かに突破口に成り得ます」
「私としてはもう一つの可能性にも触れたい所ですね」
 七十が当たり前のように言ったが、他は誰も理解していない様子。
「皆さん、グリモアベースから転送後にこの山荘で目覚めるまでの事を覚えていますか?」
 各自が少し黙り、ゆっくり思い出そうとしてみる。
「駄目だ、何も思い出せない」
「なら、グリモアベースからここに直接転送されたという説はどうでしょう?」
「ええと、それは、つまり?」
「ええ、ここは夢の中なんかじゃないって事です」
 いとも容易く前提を覆した。
「物理的に存在しているんじゃないんですか? この山荘」
「いやいやいや、それは無いでしょう。死んでも生き返るし、ループしてますし?」
「だとすると辻褄は合うかもね」
 蔵人は一連の配信に関する謎を仮定する。
「僕に寝顔動画を配信させてはならない理由があった。だから、夢の中からの配信を繋げるなんて無茶をしている」
「それなら単に配信を妨害するだけでいいでしょう?」
「そうだね、その通りだ。だからオブリビオンは自ら望んで配信をさせてるんだよ」
「オブリビオンが配信をさせている?」
「これは配信者の勘だけどね。たぶん深い理由なんて無い。配信を見たいし、見せたいんだと思うよ」

 なお、この後は先のループで得た七十の『オブリビオン全員が違った目的の為に動いている』説でさらに一悶着あった。そして、会議が長くなり過ぎて怪しまれ、全員ローラーで吊るされた。
紡木原・慄
黒幕の目的は人狼ゲームによって生じる負の感情を集めることなのかしら?
それならゲームの邪魔をすれば黒幕は焦ってボロを出すはず
私は狼になるわね。常に狼陣営を把握しておきたいから
おそらく黒幕はゲームを盛り上げるために動いてる
狼陣営で仲間を煽ったり、疑心暗鬼の人間を演じて議論を混乱させたり、タスク勝ちの邪魔をしたりするかもしれないわね

行動
ゲーム開始時に公開中のUC3つを選択
狼になって狼陣営を把握
山荘では目立たずに可能な限り他の参加者と一緒に行動
参加者の行動を観察しながら、トランシーバーの通報ボタンの活用、指定UC、即席の罠などで狼の殺人を妨害
(指定UCは使いすぎるとアリバイがなくなるので使用は短時間)



●LOOP 149 憑依
 紡木原・慄(希望の物語を探す少女・f32493)は山荘の自室で目を覚ました。指先まで感覚を確かめるように動かしてから、ベッドから立ち上がる。
『おはようございます』
 中空に表示されるメッセージウインドウ。ここが非現実である事を強調しているかのようだ。
「黒幕の目的は人狼ゲームによって生じる負の感情を集めることなのかしら?」
 邪神復活の条件としては妥当と思われる。ループする事により負の感情は蓄積される。少ない人数で強力な邪神を呼び出すのが目的とすればこれ以上は1ループもさせるべきではない。
 慄はそう仮定して三つのユーベルコードを選択した。

『あなたは”オオカミ”です。役職名は”狩猟者”です』

 そして、割と早々に自説が揺らぐ事になる。
「はいはいはーい。私が。やりました。いぇい」
「そういう時は悲しみの表情を示すがよいぞ人間」
「わーん」
「よろしい」
「よろしくはない」
「で、誰の死体を何処で見付けた」
「キッチンで。タエばあさんが」
「なーんだ、タエばあちゃんか」
「いつもの景色」
「変わらぬ日常」
「じゃあいいか」
「いいよいいよ」

「いやいやいや、何一つとして良くはないよね?」
 再び猟兵集合会議。
「どうして全員ループしてる事を受け入れてるのよ?」
「どうも10回くらい前からオブリビオンがやり方を変えて来たんですよね」
 状況把握力の高い七十が解説する。
 以前はループ前の記憶を持っている事がオブリビオンの条件とされていた。そして、その条件に則って四人のオブリビオンを始末した。
 次のループから全員が妙に慣れてきた様子だったのだ。”探偵”フサユキに聞いてみた所、
『どうも、僕以外も以前のループの記憶持ち始めてるようなんですよね。全部じゃないんですけど、5回分位でしょうか』
「それじゃ結局オブリビオンは倒せなかったって事?」
「いや、手応えはあった。ダメージは入れた筈だぜ」
 実際に攻撃したウタの証言。
「それに、あの時オブリビオンだったエリカ、タエ、オオカミジジイ、アスカの四人はどうもオブリビオンじゃない気がするんですよ」
「恐らく感染型UDC、いえ、憑依型UDCとでも呼ぶべきでしょうか。参加者の中から四人を選んで憑依して操っているらしいと結論付けました」
「それじゃあ何度殺しても無意味って事?」
「いいえ。既に憑依された四人は除外出来ます。一度憑依を剥がした相手に再憑依は出来ないようです。更に、一度憑依先を決めると剥がされるまでは変更もできないようです」
「恐らくオブリビオンの本体は現実の山荘の方に居るんだよ」
「現実の山荘……?」
「これ以上会議長引くとまたローラーされないか?」
「次のループで勝負すればいいよ」

 そして、慄はここまで猟兵達の得た情報を共有し、猟兵達はローラーされた。

●LOOP 150 蓄積
 不味い。慄は明確な危機感を抱えた。
 他の猟兵が躊躇なくループを選択するようになっている。こんな明らかにオブリビオンの仕掛けた物に頼っている。
 そして、同じ様にループを繰り返せば自分もそうなると確信を持っている。ループは続く、終わりなど無い。
 蓄積される負の感情所の問題ではない。オブリビオンと戦うべき猟兵が、戦いの緊張感を欠いている。完全に黒幕の思う壺じゃないか。
「だったら、私は」
 猟兵にとってのオオカミになる。そしてゲームを破綻させる。

 現在、猟兵とオブリビオンは二重でゲームをしている事になる。表向きの人狼ゲームと、猟兵がオブリビオンを探す裏の人狼ゲーム。一見すると後者のゲームでは猟兵が負ける事はない。オブリビオンを見つけて始末するだけでいいのだから。
 その認識が危うい。だが、それを言葉で説得して通じるか? 通じはするまい。こういう時は行動で示すべきだ。

 【影の追跡者の召喚】はオオカミ側としても機能する。狙った獲物に張り付かせて監視し、隙を見て殺す。殺す時には【取材源の秘匿】(シュザイゲンノヒトク)は忘れずに。殺害時に偽装できる位置を予め用意する。
 猟兵にとっては犯人バレバレの犯行。だが、慄も結局猟兵の理になる行動をしていると信じているので放置される。それは間違いではないがその認識が甘い。
 見せ付けてやればいい。その可能性を。

「分からない、分らないですよ」
 追い詰められた七十は慄に問う。
「一体何の目的があって猟兵を狙い撃ちで殺して回っているのですか!?」
「それを分かってないから殺してんだよ」
 仲間だ、味方だなど慣れ合っているから鈍らされる。鈍らされている。目を覚ませ、ここは戦場だ。これは実戦だ。
 それを分かっていない七十の不快な視線が慄を貫く……この期に及んで私を殺す事を躊躇うのか。
「じゃあ、貴女も死んで」
 【視線恐怖の怪異】(シセンキョウフノカイイ)によって召喚された視線を遮る黒いゲル状の人型UDC怪物が七十を覆い殺した。

●LOOP 151 猟兵に反省を促す会議
「反省した?」
「反省しました」
「よろしい」
 とは言え、結局は自分もループを利用して味方殺しなんてしている訳ではあるのだが。
「確かに、ループを繰り返していつかは特定するなんて考えじゃ甘かったね。現実の僕らの肉体は多分現実の山荘に有るんだし」
「すやすや眠ってる所だろうな。それを狙って殺さないのは」
「それが出来ないか、する意味が無いから。罠にかかりに来た猟兵を最大限利用する為」
「それが、邪神復活の条件……」
「いいえ、この場に復活する邪神なんて居ないわ」
 慄は断言した。
「これは猟兵を狙い撃ちにした罠よ」
「やはり、そう思いますか」
 そう考えた方が腑に落ちるのだ。生贄を捧げて邪神を復活させたいのならループなど必要ない。まして猟兵を生き返らせるメリットなど何処にも無い。
 このループの中で猟兵を摩耗させる事自体が目的と考えれば辻褄が合う。
「まんまと嵌められた訳だね」
「いや、これが罠だと分かっていたとしても俺達はここに来た」
 ウタは己の炎に風を送り込む様に言った。
「あの人達は人間だ。絶対に助ける」
「違いない」
 相手の実体が今この場に居ないのなら、山荘内に取り込まれた人間は全て普通の人間で間違いない。
 ならそれを救うのは猟兵のする事だ。例え罠の渦中であろうとも。
「さあ、テンポを上げていくわよ。やる事は明白。オブリビオンに敗北を認めさせて憑依を剥がす。憑依先が無くなるまでそれを繰り返す。そうすればループを仕組んだ黒幕が場に現れるしかなくなる!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

御宮司・幸村
基本的にUCは指定UCのみとし、人間陣営を選択
能力や役割を悟られないように常に飄々と振るまい
マイペースでゲームで遊ぶ…
と、言うよりはUC発動条件がそうだから仕方ないね!
ちなみに食事睡眠トイレなどの時や1人の時は得た情報を精査
情報は他の傭兵さんと共有

役割的に占い師に近いかも知れないから、立ち回りは占い師
他に占い師が居るとか自身が占い師ではないと判定された場合
高い防御力(と言うより無敵)を活かして騎士ロール…
そこら辺は臨機応変に
猟兵以外でおじさんの能力を覚える奴も居るかもだしね

終了条件、または首謀者判明以降
複数のUCを使用して人狼側へ
精神干渉系UCなど適切なUCを使用して条件達成を優先するよー


バルタン・ノーヴェ
アドリブ連携大歓迎!

ふむ。オオカミや第三陣営も心惹かれマスガ。
今回は人間側として参加しマショー!

選択したUCを大いに活用しマース。
そう、山荘中にミニ・バルタンを放流するという暴挙デース!
数は暴力でありますな!「バルル♪」

まー、発言が「バルバル」だったり、トランシーバーはワタシの分しかなかったり、いろいろ問題もありマスガ。会議中なら筆談でカバーできそうデスネー。
作業のお手伝いはできそうデスガ、死体発見しても即時通報ができない部分をどのように乗り越えるか……。自走式多数監視カメラの運用でありますかな?

何はともあれ、115体もいれば人狼も動けないデショー!
HAHAHA!(なお真っ先に狙われると思われ



●LOOP 152 人間陣営の逆襲
 御宮司・幸村(いいかげんサマナー・f02948)とバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は同じループで合流した。
 最近はユーベルコードの使用制限の緩いオオカミ陣営による圧勝が続いていた。オオカミ陣営はある程度場の操作が出来る。人間陣営に劣るのは人数差位の物だ。
 人間陣営の方が人数が多く、頼みの役職能力もオオカミ陣営の方が強いとなれば人間側を選ぶメリットが薄くなっているように感じる。人外多過ぎて即ループと言う現象はそれに対する抑止力だったのだが。

 人数が増えすぎたので猟兵は全員集まって会議はしない事にした。他の参加者もループの記憶を持ち始めている以上、同じ様に固まっているのはそろそろ不審に思われる。
 幸村とバルタンに対しては蔵人と式子が説明役となってここまでの情報共有。
 ちなみに今回の式子は人間側だ。役職の方を大きく変えられない以上、同じ陣営ばかりを選んでいると役職で吊られかねない。蔵人も人間側だ。
「OK、大体の状況は把握したよー」
「こんがらがってしまいマスね」
「とにかくオブリビオンを見付けましょう。そうしないと話しが進みません」
「見付ける必要はないんじゃない?」
 幸村はここまで聞いた話からある手段を提案する。
「前回オブリビオンを倒した時みたいに会議終了時に全員殺しちゃえばオブリビオンも死ぬでしょ」
「それはもう試しました」
「あ、そうなんだー」
「どうやらただ殺すだけじゃダメみたいだよ」
「その条件は分かっているのデスか?」
「いえ。私達もどうして殺せたのかまでは」
「じゃあ決まりだ」
 幸村はHMDに指を添えて宣言する。
「このループでその条件を見付けよう」
「それって、このループ中に今オブリビオンが憑依してる人を見付けて始末するって事ですか?」
「そうだよー」
 簡単そうに言っているが、猟兵が介入を初めて28ループ目まで一度偶発的に起きた事象を任意で起こす手段を特定すると言う事である。
「大丈夫だよ、これはゲームだから」
 そう、今回は主戦場がゲームの中。幸村にとっては水を得た魚。
「ゲームだったら簡単に負けてあげる訳には行かないよねー」
「HAHAHA! ワタシにもとっておきの策がありマース! 最低でも時間稼ぎはオマカセデス!」

「「「バルバルバルバル♪」」」
「うわっ、なんだこれ」
「か、可愛い……」
「大量の……小さいメイド……?」
 【秘密のバルタンズ】(シークレット・サービス)によって作り出されたミニ・バルタン。その数何と115体。一人一体でも十分お釣りがくる。
「……バルバル♪」
「何か、めっちゃ見て来るんだけど」
「”給仕長”の能力のメイド召喚ってこういう事かよ」
 いくらこの山荘が広いと言っても115体も居れば何処に居ても監視できる。これではオオカミ陣営は動きようがない。

「うん、とりあえず会議を招集してみたんだけど……」
「「「バルバルバルバル♪」」」
「HAHAHA! 何か御用デスか? ちなみにワタシはもう全タスク終ってマース!」
「ぱ、パワープレイ過ぎる……」
「116票は私の好きに出来る事をお忘れなく!」
「キレそう」
「お前らは全員纏めて1票だ! いいな」
 コウゾウじっちゃんが一喝。
「ハイハーイ! ありマス!」
「お前のは聞かん」
「他に異論のある人は」
 ハシモトが改めて聞くが他の意見は無い。流石に猟兵でもバルタン一人に116票持たせるべきと言う無茶を主張する奴は居なかった。本人以外。
「無いようですね。でばバルタンさんは纏めて1票と言う事で」
「「「バルバルバルバル!」」」
「人種差別反対! と主張してイマス!」
「いや、人種って問題じゃないから。てか何なのよそれ。本当に何なの? 終わったら持ち帰っていい?」

 持ち帰りの是非を含めた議論はダンスダンスしてなんだかよくわかんないけどよくわかんなかったねー。

「死ぃねぇぇーッ!」
 議論終了と同時にカオルが着物の裾に隠した包丁をバルタンに向けて振り下ろす!
 自分がオオカミとバレてもコイツを殺さなければ何もできない。そう判断しての特攻行為だ。
 だが、その刃がバルタンに届く事はなかった。見えない何かに空中で遮られる。
「死ねッ! 死ねッ! 死ねぇーッ!」
 それでも構わず暴れようとするカオル!
「流石にこの手は読めなかったようだなオブリビオン、いや、オオカミ!」
 ”執行者”ウタがカオルに『焔摩天』を振り下ろす! オオカミ宣告の場合は役職まで当てる必要はない。
「おのれーッ!」
 カオルは死体になって転がった。下半身だけが残って漫画骨が一本突き出てるだけの戯画的でシュールな死体だ。

「さっきのは手応えがあったな。一人は減らせたはずだぜ」
「そうだね。確かめるにはループさせる必要あるけど」
 ウタと幸村は通信室でタスクをやりながら密談している。
「結局オブリビオンを仕留める条件は何なんだ?」
「まだ仮説だけどほぼ確定かな。条件は二つ。一つはユーベルコードを使ってキルする事」
 ウタは今回【ブレイズフレイム】だけを選択している。カオルの最初の攻撃が届かなかったのは狩人の仕業だろうが、即座に対処しなければ他の人をお土産キルされていた可能性は高い。一度会議を招集すると次の会議までは30秒のクールタイムが必要だ。だからウタは【ブレイズフレイム】により獄炎加速しカオルを両断した。
「元から猟兵とオブリビオンの戦いを決めるにはユーベルコードを使う事がほぼ必須。だから今後はオブリビオンの疑いがある相手へのキルはユーベルコードで行きたいね」
「投票で吊るのじゃダメなのか?」
「駄目だよー……いや、ユーベルコードで投票を操作して吊るのなら有効かも?」
「さっきのバルタンみたいな事をしてか?」
「いや、アレは失敗してるけどね。でも、バルタンのやった事はもう一つの条件を満たしてる」
「バルバルバルバル♪」
 まあ、もちろんここにもミニ・バルタンは居る訳で。
「敗北を認めさせる事、或いは敗北を認識させる事さ」
「なるほど、前回もそうだったな」
 圧倒的な猟兵の力を見せ付けた上でのユーベルコードによるキル。オブリビオンにとっては悪夢のような状況だ。
「今回は一人始末できたけどあと三人は?」
「もちろんやってもらうよ。検討は付いてる。後は状況を整えるだけさー」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●LOOP 152 オブリビオン
「くそっ、どこにも居ねえぞあのメイド女!」
「落ち着けヨリツグ。確かにこのままじゃ身動きが取れないが、この小さいメイドは本体に即座に情報伝達する手段は持ってない」
「アア? 確かかよ」
「確かめた」
「ならいいけどよ……」
 そんなオオカミ感全開で話すヤスとヨリツグをミニ・バルタンは見ていた……! が、見てるだけ。会議が始まれば本体に情報が伝わるが、今は連絡が出来ない。
 だから会議を起こさせない内に手際よく殺して回る。現在のオオカミが取れる最善手だ。
「あのオッサン、いま個室に入ったな」
 幸村が自分の部屋に入る所をヨリツグは見ていた。ミニ・バルタン以外の人目は無い。
 誘われている。ヤスはそう直感したが、この状況ではキルチャンスを見逃すのは痛手だ。誘いだとしても乗るしかない。

「お、オオカミが二人揃ってどうしたの?」
 幸村の個室。幸村は奥で何かをしている。背中を向けているので何をしているかは見えない。
「アア? どうして俺がオオカミだって言い切れンだよ!」
「この真っ暗な部屋で迷い無く歩いてるから」
「照明トラップか……」
 照明トラップ。灯りが無ければ人間は物を見る事は出来ない。だが、オオカミはどこかに光源があるかのように周囲を明るく見る事が出来る。
 山荘内の照明器具は多いが、光量が弱く薄暗い。真っ暗な場所はあまり無いが、隠れなければ全体が照らせる作りにはなっている。それを利用し、意図的に照明を落として暗闇を作り、そこを平然と歩いているのは暗闇が認識できないオオカミであるというのが照明トラップだ。
 最も、暗闇ではそもそも誰だか分からないし、人間は何も見えないので実用性は微妙な所だ。それに何よりも。
「ここで殺してもお前の死体は誰にも見つからないから無意味だな」
 根本的な問題。オオカミである事を証明しても他人に伝達できない。死体が無ければトランシーバーの緊急招集は押せない。死体抜きでも一人一回緊急招集がかけられるが、ラウンジにある緊急招集ボタンを押す必要がある。
 ”狩人”に守られていなければ話は別だが、今はバルタンを守っているのは確認された。少なくとも幸村を守る理由は”狩人”には無い筈だ。
 殺せばいい。目の前の幸村を。オオカミとしてはそれだけでいい筈だ。
 だと言うのに、手を出せば自分が詰むという予感がある。この状況は確実に何かがあるという予感が。
「君ら、オブリビオンだろ」
「な、違ぇーし!」
 罠は、こっちか。自分達がオブリビオンだと確信しての行動。やはり猟兵は油断してはならない。
「ヤス君はだんまりか」
「……オブリビオンって何ですか?」
 そう、オブリビオンという役職は無い。ある訳が無い。だからそれを知っているという時点で、違うと答えた時点で。
「おっと、鮮やかなライン切りだ。見事だね」
「僕には何の事だか分かりません。オオカミではありますが」
「その発言も結構黒いけどねぇー?」
 落ち着け、認めるな。
「あ、兄貴……」
 コイツはもう駄目だ。このループで二人目か。
「まあ、君がオブリビオンなの知ってるから無駄なんだけどねー?」
「そんな安いハッタリには乗れませんね」
 確かにこの状況が相当黒いのは認める。相手が猟兵だと知らなければ間違いなく即キルすべき場面で躊躇してしまった。
 状況証拠は確かに十分だ。だが、僕はまだ認める訳には行かない。母さんの為にも。
「ハッタリじゃないよ。ほら」
 だから、見せられた物を見て僕は絶句するしかなかった。
「お前らは……お前らは一体どこまで出鱈目なんだ……!」
巨海・蔵人
◼️事前行動
録画から皆こんばんはー、
時間はともかく僕はもう寝てるからこんばんは。
愉快なバイオモンスター蔵人君だよ、
今回はキマイラフューチャーとUDC職員さん限定配信だよ。
うん、画面はドローンの自動操縦で僕達が寝てるとこ。
でも、夢の中で僕達猟兵が戦うことになってるんだ。
皆のイイネが僕らの力!
無事に帰っきたら夢での話もするね

◼️【寝顔配信、悪夢のゲームに打ち勝つ耐久】
UC選べるって罠にかな?
複数って相手の強化するかもだし。
夢の中かぁ、狂気山脈ってとこだったりするのかな?

◼️配信者
僕は動画配信者のくろー君。
や、知らなくて当たり前位のだけど。
今回のこの機会で登録者アップ目指してます。
あ、ちゃんと電話で許可はもらったよ。(実際にしたよ帰す気ないからか普通に貰えた筈)
ドローンはあるけどそもそも動画データ持ち出しなんて生身の人間に出来ないよ。
(二回目以降は自己紹介だけ、僕の役割は監視の目があると思わせる事と囮)
それはそれとして予備のドローンを吹雪の中に放ってみるよ。
メインのは電池節約にだっこしておくね



●LOOP 152 プロジェクト・うぃっしゅ
「僕の配信動画?」
「うん、それで詰められる」
「うーん、今の所改めて見るような情報は無いと思うけど」
 蔵人は自分の配信動画を幸村に見せた。
「おー、本当に映ってるね。他の通信機器が一切使えない中でどうやって……ま、それはいいか。見当もついてるし」
 幸村は自分のデバイスでも蔵人の配信動画を見れるように設定した。リンクの直接入力なら接続の有無に関わらず見れるようだ。それもだいぶおかしな話だが。
「イェーイ、皆楽しんでるぅー? ここで皆に質問だ」
 幸村はニヤリと口角を上げて言った。
「他の参加者視点の動画見たくない?」

 【プロジェクト・うぃっしゅ】(ツナガル・ボクノセカイ)は、これから自分の配信動画を見る人達に呼びかけ、動画企画の成就に関わる願いを実現するユーベルコードだ。同系統のユーベルコードと違う一つの重要な特性がある。
 対象が『これから自分の配信動画を見る人達』なのだ。今現在見ている人ではない。未来で見る事を決めている人が対象なのだ。今は1秒だけの訳の分からない映像だが、いい具合に編集されたこの動画の再生数は大きく伸びる事は最早決定事項であった。

「ほーら、出て来たよ。他の人視点の動画!」
「おお、凄いや! 動画が30秒くらい伸びたよ!」
 蔵人自身の動画は1秒間に圧縮されている。伸びた分の時間は他の人視点の配信動画と言う事だろう。
「でもこれじゃ何が何だか分からないね」
「んー、ここからは情報の妖精さんの作業かな? 増えた分の映像解析してみるから進行はよろしく」

「これはヤス視点動画の重要部分で、こっちがヨリツグ視点だねー。おかしいなぁ、君ら二人の動きはもう100ループは越えてる様に見えるけど?」
 位置を把握するだけではない。どこを見て、何をしているか。それが全て筒抜けなのだ。
 見せ付けられた動画の映像にヤスはただただ茫然としていた。
「やっぱ殺すしかねーだろ!」
 ヨリツグが幸村に殴りかかる。単なる素手の殴打と侮るなかれ。オオカミのそれは一撃で即死する凶器だ。
「バーリアー! へいきだもーん!」
 当たればの話だが。
「くそ、何でだ! 近付けねぇ!」
「お前が”観測者”か……」

 【Die Wichtelmänner】(ジョウホウヲセイスルモノハタタカイヲセイス)により与えられた役職”観測者”。特定行動中、あらゆるオオカミの攻撃を遮断するとか言う悪夢の様な能力。特定の行動と言うのが分からなかったが、今届かないと言う事は。
「おじさんがゲームに没頭している間。これ自体がゲームである以上、おじさんは常に無敵って訳」
「出鱈目が……出鱈目すぎる!」
「兄貴、逃げるぞ!」
「当然逃がしませんけど」
 茨の影が、ヤスとヨリツグに絡み付いた。

「見えるからこそ見落とす場所もあるんですよ」
 物陰に潜んでいた式子の【竹馬の友】(チクバノトモ)が不都合な敵対心を吸収する。
「今回は人間側なので直接殺せませんが」
 ヤスとヨリツグが、お互いの首を絞めた。
「オオカミ同士に互いにキルして貰いましょうか。理由? 適当にでっち上げますよ」
「第三陣営の犯行って事でいいんじゃない?」
「居るんですか? 第三陣営。まだ見た事無いんですけど」
「……さあ? なる方法も良く分からないしね」

 今死体を報告すると式子と幸村の犯行にしか見えないので死体を放置してタスクを終わらせる。
 タスクは生存者全員が全てを終わらせる必要がある。一人が意図的に止めていればタスク勝利でゲームが終わる事はない。
 幸村が最後のトイレのすっぽんタスクを終わらせた事によりこのループは人間側の勝利となった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『希望の信仰者』

POW   :    『希望』は全てを解決してくれる
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【希望への渇望】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
SPD   :    『絶望』は殺すしかないよね
【一般人への擬態】を脱ぎ、【狂信的殺人鬼】に変身する。武器「【文房具や調理器具などの日用品】」と戦闘力増加を得るが、解除するまで毎秒理性を喪失する。
WIZ   :    これは高かったんだからね!
200G(万円)相当の【怪しい通販で買った召喚石】をx個消費し、ランダムな強さ・外見を持つ【邪神】族の【集団型オブリビオン】をx体召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●LOOP 153 状況整理
「んー、見えなくなってるな他の人視点の動画」
 幸村は自室でその事を確認した。
「一人逃がしたしなー。ま、7人解放して残りは17人かー……多いなー」
 とは言え、ここからは展開が加速する事が予測される。オブリビオンを排除する条件が分かったのだ。だがそうなればオブリビオンもただではやられまい。今後は自前のユーベルコードを使って来る事が予測できる。
「かえって分かりやすくなったかもね」

◆状況整理◆
 猟兵達の活躍により新たな情報が明らかとなった。
・猟兵以外の参加者の中に憑依型オブリビオンが潜伏している。
・憑依型オブリビオンに『憑依されている人を特定』し『ユーベルコードを用いて始末』する事により憑依を解除する事が出来る。
・一度憑依解除した相手には二度と憑依できず、解除されるまで別な相手に憑依する事は出来ない。
・オブリビオンの目的は『ループを繰り返して猟兵を疲弊させる事』にあると思われる(不確定情報)
・オブリビオンは統率が取れていない。複数の目的を持つオブリビオンが混在する可能性がある。
・憑依解除される度にゲームの難易度が上がり、何らかの形で参加者が強化される。
・他の参加者も以前のループの記憶を持ち始めているが、全てをはっきり記憶しているのは”探偵”フサユキとオブリビオンだけである。


◆連絡な◆
 第2章は10/28(木)より受付開始します。オーバーロードで頂ける場合は受付期限を無視して構いません。
https://tw6.jp/club/thread?thread_id=71123
 シナリオ参加者用相談スレッドを用意しました。良ければご活用ください。
御宮司・幸村
使用UCは3つ
指定
愚者の解放
召喚、転移魔術師

デコイをゲームの参加者に、役割はてるてる坊主とする
これはUC名の通り生贄人形だからね、吊られてナンボでしょー
影武者兼任って奴だよ!

からの愚者の解放!
何くわぬ顔で合流後NPCのフリをさせておじさんのUCと悟られないように参加

情報の精査とか証拠を揃えるのが得意だから、味方のサポートを命じるねー

さて…おじさんはと言うと
転移魔術師を召喚した後に「寝ている蔵人君の本体」へテレポートを試みるよ
理論上、仮に本体が同じ世界なら跳べる筈だし
蔵人君の寝顔も気になるしねー

跳べなかった場合は人目につかない所に潜伏し、味方間で跳び
メッセンジャーや援軍として暗躍しちゃうよー



●LOOP 153 現場調査
 御宮司・幸村(いいかげんサマナー・f02948)は自身のユーベルコードリストから三つのユーベルコードを指定する。
『あなたは”■■”です。役職名は”詐欺師”です』
「ん?」
 陣営が聞き取れなかった。幸村はコンソールを開いて確認するが、とりあえず人間側として扱われているらしい。
「んー、条件は分からないけどこれが謎の第三陣営って奴かなー」
 人間でも、オオカミでも無い者。厳密に言えば今までのループで第三陣営に所属していた可能性のある者は居た。オオカミジジイが”吊男”を選んだ場合、吊るされると一人勝ちという第三陣営役職だった。
 オオカミジジイは普通の会話もままならない相手なのでそんな詳しい事を聞き出すのは時間の無駄だろう。”吊男”はゲーム中に仕様として組み込まれている役職らしさがあるが、”詐欺師”の役職情報はもう滅茶苦茶だった。
『繧イ繝シ繝?縺ョ譬ケ譛ャ縺九i遐エ螢雁庄閭ス縺ェ繝√?繝郁?蜉』
「コレ、文字化けして読めないじゃん」
 これもオブリビオンの数を減らしてゲームを進行させた事によって起きた現象だろうか。
「まあ、いいか。これからやる事には関係ないからねー」
 ゲームとは常に真っ当な手段でクリアする物ではない。クリアする為の手順は用意してある物だが、結果的に通してしまえばそれで問題はないのだ。特に相手がオブリビオンなら尚更に。
「まずは……出でよ、もう一人の俺!」
 【憐れな生け贄人形】(インスタントデコイ)を発動し、幸村とそっくりの身代わりを作り出す。
「からのー……弁護士の召喚を要求する!」
 【愚者の解放】(イミテーションジャスティス)により呼び出されるのは青いスーツにギザギザ頭の弁護士。
「資料によると、今回の事件は……ゲームですか? はぁ……」
 彼もユーベルコードによる生成物なので幸村の持っている情報なら共有できる。
「表のゲームと時間稼ぎヨロシク」
「頼まれましょう」
「んで、これが本命。我は望む、彼の者が待つ転移の力。遊戯機の理に従い、我が声に応え汝の身を我が元へと顕現し、その力を発揮せよ。召喚、転移魔術師!!」
 【召喚、転移魔術師】(イチゲーカンケイハコレガアレバダイジョウブギミ)により呼び出されたのは転移魔法を使える妖精さん。
「ドコに行きマスか?」
「寝ている蔵人君の本体」
「アー、それちょっとトオイ」
「じゃあ無理?」
「ンー、デキナクナイ。ちょっとマッテ」
 妖精さんは複雑な魔法式を展開し、指先で術式を編み込んでいく。

 今回幸村がやろうとしている事は結構な無茶だ。ほぼ確信はあるとは言え、存在が仮定されているだけの現実の雪山山荘に移動する事。それも幸村の本体ではなく、ゲーム内のアバターで行くという事。
 幸村の本体で現実の山荘を探索する事は出来ない。現実の山荘ではゲーム開始からの経過時間が分からないからだ。蔵人の配信動画が1秒しかない主な要因は現実ではまだ1秒も経っていないという可能性が高い。
 だから、幸村の本体に意識を戻してしまえばゲームが終わるまでゲームに干渉できなくなってしまう可能性が高い。だから1秒に満たない短時間で行動できるゲーム内のアバターを飛ばす必要性がある。

「デキタよ。トぶ?」
「んじゃ、飛んでこよっか」

 転移の妖精さんと共に幸村は現実の山荘へと飛んだ。
「ってここゲーム内の山荘の入り口じゃん」
「ソウだよ」
 結果から言うと、転移先は山荘の入り口だった。
「”蔵人君の本体”の指定座標はココだよ」
「んー……どういう意味だ?」
 幸村はここまでの情報を整理して思案する。

●LOOP 154 首謀者
 結果から言えば前ループは失敗に終わった。最初の招集で強制的に集められて幸村が二人居るわなんか弁護士やら妖精やら連れてるわで怪しさが凄かったので問答無用で幸村ローラーが行われた。
 今度は【愚者の解放】だけを選択し、召喚。合流前に前ループの結果を整理する。
「猟兵の誰の本体を指定しても行先は玄関だったね」
「つまり、あなた達の本体は玄関に居るという事ですね」
「だよねー、それってさ……そもそも寝て無くない?」
「玄関で立ったまま寝る、というのは不自然すぎるでしょう。つまり考えられる状態は」
「今現実はゲートで転移された直後。んで、今は意識だけを仮想現実の中に閉じ込められている?」
「そうなりますね」
 そもそもゲートを抜けた後の記憶が無いのもそれで説明できる。
「猟兵を無理矢理寝かせた上に夢を繋げる催眠ガスなんて無茶な物が存在するよりは筋が通るかと」
「待ってくれ、それじゃ別な所で致命的な矛盾が産まれちゃうよ?」

『介入できるのはゲーム開始後の1時間程だが、この時点で軽く100ループはしていると推測される』

「1秒の間に50ループ以上してるのこのゲームが1時間以上続いてるってどういう事になるのさ」
「素直に考えればもっととんでもない回数ループしているという事になりますね」
 一体何度のループで1秒が経過するのか。天文学的な数になりかねない。しかもオブリビオンは参加者として混じっているのだ。とんでもない時間の記憶を保持したままで。
「そこまでしてループを続けて何の意味が?」
「……そこに、意味なんて無いんじゃないでしょうか」
 弁護士は、資料として物質化させているこれまでの情報の中からその答えを導き出す。
「してないんですよ、意味がない事なんて」
 そう、発想の逆転だ。
「このゲームには複数の首謀者が関わっている。それならば途中からゲームの内容その物が変わっている可能性がある」
「それってつまり?」
「つまり、つまり……そういう事です!」
「とりあえず意義はとりあえず却下するよ!」
「スイマセン……」
 弁護士バッジを突き付けられたらとりあえず却下なのだ。
「……一時間と言う時間は、ゲームを成立させる為に必要だった時間じゃないでしょうか」
「準備する為の時間って事?」
「はい。この山荘に被害者を移動させてからゲームを始めるまでにかかった時間。それが一時間だったんです。だから、このタイミングで割り込んで計画を止めさせる訳にはいかなかった」
「介入できるのは開始後の一時間位ってそういう事か」
 グリモア猟兵は事件が起きる前に事件の発生その物を止める事は出来る。だが、その場合事件発生後の偶発的事象から現れる別のオブリビオンを取り逃がす事になってしまう事もある。今回もそのケースなのだろう。
「予想外だったんですよ。この山荘を準備したオブリビオン達にとってもこのループ現象は」

『最新式のVRを使った脱出ゲームのアトラクションに偽装した邪神復活の儀式が行われている。これに介入し、止めればいい』
『いいえ、この場に復活する邪神なんて居ないわ』

 グリモア猟兵の予兆と相反する証言。そのどちらも正しいとするならば。
「やろうとした復活の儀式を別なオブリビオンに妨害された? だったらグリモア猟兵が復活の儀式の阻止って言う筈が無い」
「復活の儀式自体は問題じゃなかったんじゃないでしょうか」
「それを利用したオブリビオンの討伐が本命だったって事かい?」
「邪神復活の儀式を止める善良なオブリビオンなんてありえませんからね。わざわざ儀式を妨害してまで成し遂げたい別の目的があるんじゃないでしょうか」
 そう、今回のグリモアベースのレイリスに違和感があった。それと似た違和感があった件では彼女と因縁のあるオブリビオンが標的だった。

 だから、そうした。奴だけはどんな手段を用いても必ず仕留めなければならない。多少、正規の手順を外してでも。

「……改めて何者さ、今回のオブリビオン。邪神の復活を妨害して、ループ現象を起こしてる?」
「さあ、そればかりは現在の情報では……邪神の代わりに別な物でも呼び出したいんじゃないですかね」

成功 🔵​🔵​🔴​

黒江・式子
戦闘はからきしですが
調査でしたら多少はお役に立てるかと

【竹馬の友】を使用
攻撃する意思は勿論
隠したいと思う気持ちも吸収可能
洗いざらい自白して頂きます
まずはカオルさんから
お話を伺いましょうか
そんな感じで〝面談〟を繰り返し
他の猟兵さんの集めてくれた情報も鑑みて
確証が持てたら
クールタイムを待って緊急招集
皆が集まった所でUC使用
NPCの投票先を操作して
確実に吊ってしまいたいですね

…村人以外なら複数UCを使えるので
自衛もできて
より動き易そうな気はします
【諦観の泥濘】か【袋小路の轍】を使えば
時間稼ぎや戦闘補助もできますしね
どの陣営で行くかは
その時々で判断しましょう
村人以外でもキルはせず
調査や裏工作に徹します



●LOOP 153 暗躍する影
「複数の能力持ちはオオカミって事だよな」
 ヨリツグが役職を流し見ながら言った。
「お前らの能力は何だよ」
「待て、ヨリツグ。下手に誰が何の能力を持っているかをはっきりしてしまうとオオカミ陣営に狙われる」
「そーだけどよぉ。あるだろ、別に陣営関係なくバラせる能力」
 そう言ってヨリツグは目の前でヤスの姿に化けた。
「俺は”擬態”だ。こうやって他の誰かになれる。オオカミに化けりゃ使い道あるだろ」
「そっか。僕は”爆弾魔”だ」
 ケイは手の平で小さな爆発を起こして見せた。
「身体の一部、汗とか髪の毛を爆弾に変えて爆発させる事が出来る」

(上手く行ってるようですね)
 黒江・式子(それでも誰が為に・f35024)はオブリビオンをゲームの中でオブリビオンを洗い出して特定する為に、参加者達と二人になる状況を作り、【竹馬の友】(チクバノトモ)を使った心象操作をしていた。機能する時間に制限はあるが、一度変えた感情は不自然だったり不都合だったりしなければそのまま残る。
 オブリビオンを相手に使ってしまうと手の内を知られる。だから、既にオブリビオンでは無くなったヨリツグをテストケースとして試した。果たして彼は式子の思惑通りに能力の洗い出しにかかってくれた。
 オブリビオンが本格的に動くなら、猟兵と同じくオブリビオン本来のユーベルコードを使う筈だ。ゲーム内で仕様として与えられた能力とは別な能力を。とはいえ、
(希望への渇望であらゆる行動に成功、理性と引き換えの戦闘力強化、邪神召喚ですか)
 ある意味では儀式の必要無く邪神を召喚できてしまうユーベルコード。儀式抜きでは大した邪神が呼べる訳では無いんだろうが。
 理性を引き換えにした戦闘力強化は既に一度見ている。カオルがバルタンを殺そうとした時だ。今は全員ゲーム内のアバターなので身体能力は一般人程度に収まっている。場合によってはこのユーベルコード一つで複数人を一瞬にして殺す事も出来るかもしれない。
 だが、もう一つのユーベルコードは? 希望への渇望を対価として支払うという事は、自分が絶望的な状況でなければならない。追い詰めれば追い詰める程強力になるユーベルコードで、しかも発動しているかが分かり難い。
(これらを使わせる事によって特定するのが最善ですが、難しいでしょうね)
 だから、式子はそれ以外のゲームで仕様として与えられている能力を開示させた。能力を使う事自体のハードルを下げればオブリビオンが釣られて使うかもしれない。

 そんなこんなで議論はダンスダンスして何だかよく分かんなかったけどよくわかんなかった(投票スキップ)
 能力を見せたのは3分の1程度。今能力を見せた奴はオブリビオン候補から外してもいいだろうか?
 オブリビオン憑依者に【竹馬の友】を使った場合を想定してみる。まず、【竹馬の友】は間違いなく発動する。95秒間は操れるが、効果が切れればこちらの動きに気付き、警戒されるだろう。
 それでは駄目だ。敗北を認めるしかない完璧な状況を作り上げなくては。
「バルバル♪」
 なんか、ミニ・バルタンが頭にテレビウムを乗せている。独自の通信網を形成しているらしく、これはもうやり難くてしょうがないだろう……と、思ってたらいきなりミニ・バルタンが消えた。キルされたか。死体は暫く見つからないだろうな。バルタンは相当見つかり難い場所で潜伏している筈で、それを見付けてキルしたという事は死体も見つかり難いという事だ。
 ”狩人”がバルタンを守っていればキルはされない筈だ。バルタンの”給仕長”の能力は人間陣営としては破格の性能を誇るので優先的に守る対象の筈だ。なら、”狩人”がオブリビオンの可能性があるのだろうか?
(無くは無さそうです。覚えておきましょう)
 そして、ようやく目当ての人物と二人になる事が出来た。目立たない様にタスクを処理しつつ、彼女の本拠地と言える厨房で。

「やっぱり、私としてはここでお料理をしているのが一番ね。掃除や洗濯はいいけれど、配線繋ぎとかはちょっと良く分からないから」
「アレ、同じ色のケーブル繋ぐだけなのでそんなに難しくも無いと思うんですけどね、カオルさん」
 会話で注意を引き付けて、カオルに影の茨を絡み付かせる。気付かれる筈もなく効果は発動。
「どうしていきなりバルタンさんを襲ったんですか?」
「いつの話かしら? なんだかこのゲームが始まってから記憶がぼんやりしてるのよねぇ」
 今のカオルは猜疑心を持てない状態。どんな質問にも嘘は付けない。だからこれは、本当に思い出せないのだろう。
 ヨリツグもそうだった。オブリビオンに憑依されていた時のループの記憶は一切持っていない。
 便宜上憑依と言っているが、実際の所はオブリビオンが彼女達の言動をトレースして演じているのだろうか。その為には彼女達の記憶を、ゲームが始まる前の記憶も、全てを盗み見ている。
(気分のいい話じゃないですね……)
 こうして感情操作をしている自分もどうかと思わなくも無いが、その人の人生の大切な思い出に土足で踏み入るようなオブリビオンの卑劣さと比べるまでも無い。
 結局カオルとは当たり障りのない会話をして次の標的へと向かった。

(このオブリビオンは一体何なんでしょうか)
 何人かと面談を終えて、次に辺りを付けた人物が来るべき場所で待ち構えながら式子は思考する。
 さっきは成り代わった人物を演じていると思ったのだが、憑依を剥がした後の本人は普通に行動している。
(概念、いや、現象系UDCの可能性がありますね)
 UDCの中には一定条件で起きる現象その物がUDCである事もある。大半の事例では猟兵は倒すべきなんらかのオブジェクトを発見して倒して解決と言う形になるが、倒すべき何かが存在しない場合もあるのだ。
 質量を持つ過去であるオブリビオン。UDCアースでは邪神という形で現れる事が多いが、どんな強力な怪物よりもただの人間の方が恐ろしい事もある。

「そういう訳でケイさんには吊られてもらいます」
 十分な仕込みを終えた後の緊急招集。
「どうしてだよ? 死体があった場所の近くに居なかっただろ?」
「あなたの近くに死体が無さ過ぎるんですよ」
 式子は面談で得た情報と蔵人のテレビウムドローンから得た情報を総括してそう結論付けた。
「僕が殺したら派手に爆発しちゃうだろ?」
「そう思わせる為に貴方は能力を見せたんです。実際には、あなたは大きな音を立てずに爆破する事が出来る」
 式子はもう一つの仕込みを机の下で進めながら茶番を続けた。
「身体の一部を爆弾にする能力。自分の身体とは言ってません。恐らくは、触れた物を爆弾にする能力でもある」
「そんなのただの推測じゃないか」
「出来ない事の証明は出来ませんから。ああ、それで貴方が今のオブリビオンなので全員で吊って下さい」
「……は?」
 唐突に投げ込まれたオブリビオン宣言。
「あらそうなの。じゃあケイくん吊られてね」
「そうだな、ケイを吊らないと」
「ああ、今回はケイ吊りだな」
「いや、唐突に何? オブリビオンって何だよ! そんな役職ないぞ!?」
 過半数がケイ吊りを表明した事により、ケイの吊りが確定した。だが、
(吊られるのはいい、でも僕はオブリビオンだと認めてない)
「あなたがオブリビオンだと認めなさい」
 【竹馬の友】は不都合な感情を吸収する。自らをオブリビオンと認めない不都合な感情を。

(吊る前にコレをやっておけばオブリビオンを始末できそうですね)
 首に縄をかけられて崖の下に突き落とされるケイを見ながら式子はそう考えた。
(派手な一斉検挙に対しては同じ手段を封じて来るようですが、これは成立するまでのプロセスが長い。この状況を作るだけでオブリビオンに敗北感を与えていますから。最後の抵抗をはぎ取るだけです)

 残り16人。まだまだ多いが、一気に減らさなかった分難度の向上も低い筈だ。これは繰り返して使える。

成功 🔵​🔵​🔴​


●LOOP 153 詰める
 ケイの処刑後、ラウンジに全員が戻った時。唐突にそれは始まった。
「ぱんころ~」
 オトハがポケットからボビンの様な物を取り出して投げた。それは地面に着く前に巨大化し、その威容を示す。
 パンジャンドラム。英国紳士が紅茶をキメて作り出した決戦兵器。両側の二輪の車輪をロケット噴射で回転させて前進する陸上走行地雷である。
 なんでそんな物が唐突に登場したかって言うとオトハは熱狂的英国淑女でパンジャンドラムをこよなく愛しているので能力を選ぶ時に『パンジャンドラムを作る能力』しか選ばず、役職名も”英国面”というオトハの人物像を知る者にはバレバレなモノを使っているからである。
 まあ、飛ばされたループの中にはオトハがパンジャンで大暴れするループ(大体ケイを爆殺して吊られる)が何度かあったので猟兵も知っているのだが。
 だが、今回のループに置いてオトハのこの行動は全く別の意味を持つ。【これは高かったんだからね!】パンジャンを確定で召喚するオトハ専用パンジャン召喚石。ユーベルコードの力を伴って解き放たれたそれは今までとは比類にならない破壊力を持つ。
「やるのねオトハ、今ここで」
 ルミも呼応するように袖に隠したカッターナイフを抜いた。【『絶望』は殺すしかないよね】狂信的な殺人鬼と化し、日用品を武器に理性を喪失して暴れ回るユーベルコード。
(カオルさんの時と同じ状況……マズい!)
 明確にユーベルコードを使った二人は間違いなくオブリビオンだ。だが、それを今ここで露呈させるという事には何か重要な意味が隠されている筈だ。
 カオルの暴走は同じく絶望のユーベルコードを発動させたのだろう。だから、誰もバルタンを殺しに行く前に止められなかった。そして、”狩人”がバルタンを守り、それがユーベルコードを防ぐほどの力を有している事を確認した。
「片っ端から皆殺しよ」
 違う。危機に反応して鈍化する主観時間の中で式子はそれを否定した。無差別な殺戮に見せかけて誰かを殺すつもりだ。場を制圧した式子か? だとしたら間抜けだ。無差別を装うには距離が遠い。だから当然違う。
 ルミが猫の様にしなやかに跳ね、ハシモトとマミヤの首を斬り殺した。一瞬散った鮮血が01消滅し戯画めいた死体に変わる。効果継続型ユーベルコードであるが故に一行動で複数を殺せる。
「お前が”将軍”だな!」
 だが、三人目を手にかける前にウタがインターセプト。”執行者”ウタの振るう『焔摩天』とカッターナイフではリーチの差は歴然。獄炎加速を用いてギリギリで三人目を殺す前にルミを横薙ぎの一閃で執行した。
「私がケイを殺す前にケイを殺すなんて、絶対に許さない」
 狂気の地雷車輪が式子に迫る。そのパンジャンドラムは炸裂と同時に大量の破片をばら蒔く。かすり傷一つで死ぬこのゲームの中ではこの場に居る全員が確実に死ぬ。
(このループを強制的に終わらせに来ましたか)
 式子狙いはブラフだ。或いはオトハ本人の人格を元にした発言かもしれないが、オブリビオンの狙いはこの場の全員の爆殺である。誰も間に合わない。狙われたのが式子でなければ。
(私を人間側と勘違いしてくれて助かりましたよ)
 自分に向って来るパンジャンドラムに無数の影の茨が絡み付く。【諦観の泥濘】(テイカンノデイネイ)あらゆる活力を奪うこのユーベルコードならパンジャンドラムを爆破させずに鎮圧する事は可能。

 この間、主観時間にして10秒。猟兵でもオブリビオンでも無ければ反応すら出来ない。もちろん、トランシーバーの通報ボタンを押す事も。慄はパンジャンドラムの無力化を確認し、ボタンを押した。

「オトハ吊りに異論がある人は居るかしら?」
「ヤメロー! ヤメロー! シニタクナーイ!」
「またパンジャンを出される前にさっさと吊ってしまいましょう」

 勿論、本人以外の全員一致でオトハが吊られた。

 その後は特に語るべき内容は無い。オブリビオンは何処かに一人残っている筈だが、誰もその所在を掴めなかった。
「また、一人残りましたか」
 前回のループでも三人のオブリビオンを討伐したが、一人は取り逃がしていた。恐らく同じ人物だろう。巧妙で狡猾なオブリビオンだが、その手掛かりは残せた。

 残り14人。追加で二人を排除した事で対策はされたと見るべきだろう。
●LOOP 135 オマケの日常風景
「ケイどこー?」
 オトハがケイを探して歩きまわっている。
「ケイどこー?」
 ケイが見つからない。
「ケイどこー?」
 厨房も、
「ケイどこー?」
 監理室も、
「ケイどこー?」
 電源室も、
「ケイどこー?」
 ラウンジも、
「ケイどこー?」
 医務室も探して歩いてもケイが居ない。

「ケイが居ないじゃない!」
「後ろだ」
 オトハの肩にケイの手が触れる。
「ンアーッ!」
 オトハ爆発四散!
「お前には殺されない」
バルタン・ノーヴェ
アドリブ連携諸々OK!

HAHAHA!
ここで第三勢力、海賊のターンデース!

表向きは給仕長の面のまま、《秘密のバルタンズ》を動員して村人らしく行動してマース!
狼や、オブリビオンに憑依されている人たちを探してもらっておりマース!
また、幸村殿たちの暗躍を気取られぬよう、ワタシたちに注目を集める意図でもありマスネ!

連絡は密にとりつつ、オブリビオンを特定できたと情報を得たら行動開始。
山荘の床下や屋根裏を利用して(ベント移動)、ターゲットに迫って。
「メリークリスマス!」《模倣様式・木阿弥大津波》を浴びせかけマース!
ゲーム継続の意欲、企んでいる計画への渇望といったやる気を、ごっそり洗い流して差し上げマース!


木霊・ウタ
心情
邪神復活なんてさせないぜ
予知ってんだから間違いないはずだ
多分

行動
皆と協力して動く
オブリビオンを炙り憑依解除

猟兵同士の会話にちょいと違和感があんだよな
干渉されてるのか
化けてる奴がいるのか
一応、注意しとく

干渉が推測できるなら
その干渉という事象を燃やす
地獄の炎は何でも燃やせる

戦闘
ってわけなんで渇望も焼却
抵抗に成功されるんだろうけど
しつこく喰らい付く
延焼した獄炎が徐々に渇望を灰に

で獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払う

戦いながら延焼を広げて
この世界そのものをを焼却
夢の中だろうが
UCの世界だろうがどっちでも同じだ

現実世界に戻ったら
そのまま催眠ガスも燃やしとく

事後
時間があれば
オブリビオンとループの犠牲者へ鎮魂曲


神咲・七十
アドリブ・連携お任せ

うぅ……ちょっと前のあの言葉、耳がいたい(再生力頼みの特攻をよくする生き物)

……とりあえず今は置いておきましょう。
どうやら、さっきみたいにやらなくても私以上に情報収集に長けた人が多いですし、そちらはその人達に任せて私はオブリビオン撃破を優先した方がよさそうですね。

やっぱり残りの全員を相手していくとなると倒しにくい役職持ちにあたったら見送るしかなくなりますし、最悪対策されたりするともっと面倒ですからどんな相手でも倒しやすく出来るのがいいかもですね。

(UC『制約:略奪者』を使用。役職がUCで紐づいているのを利用して、面倒な役職持ちからUCを奪う感じで奪い、倒しやすくしようと)



●LOOP 154 私達の中に
 巨海・蔵人(おおきなおおきなうたうたい・f25425)は前ループでミニ・バルタンに持たせた端末と部屋に隠したテレビウムドローンの状況を確認する。
「反応無しか。予想通りって感じかな」
 ループして引き継げるのは記憶だけという事なのだろう。テレビウムドローンや端末自体が機能しているのは前ループで確認している。外部の中継器を必要とするインターネット・プロトコル・スイートへの接続は出来ないが、送受信を自前の機器だけで行う内部ネットワークは機能する。
 ミニ・バルタンの監視網に加えてこの情報網は最早ゲームの根底を覆す様な圧倒的な情報力だ。タスクも出来るミニ・バルタンと比較すると数こそ出せないが、遠距離通信が出来ないという欠点を克服している。しかも、蔵人がキルされても幸村なら問題無く通信網を引き継げる。流石に二人とも落ちると厳しいが。
 蔵人、幸村、バルタン。この三人を落とさなければ情報面での不利が覆らない。
「今まで以上にキルされないように気を付けないとね」
 自分に言い聞かせるように呟きながら、蔵人は四つのユーベルコードをタップする。
『あなたは”■■”です。役職名は”詐欺師”です』
「あれ? ”オオカミ”じゃないんだ」
 前のループで少しだけ幸村から聞く事が出来た謎の陣営。”詐欺師”という役職。コンソールを開いて確認すると今回の”詐欺師”は四人もいる。
 役職の解説は前ループの時と同じ表示。
『繧イ繝シ繝?縺ョ譬ケ譛ャ縺九i遐エ螢雁庄閭ス縺ェ繝√?繝郁?蜉』

「ゲームを根底から覆すチート、ねえ」
 今回も”詐欺師”となった幸村は自室でその意味を解読していた。文字化けと言う物は文字の変換が正常に行われていない時に発生する物であり、自力で変換してしまえば大体は読めるのだ。
「要するに猟兵の事だよねコレ」
「ええ、そういう事だと思います」
 参加者には望みの能力が与えられているが、それはゲーム側から配られた物だ。猟兵の持つユーベルコードはその理から逸脱できる。
「今まで役職として割り振られていたのはゲームの仕様内として実装できる範囲だったって事で、それを逸脱して最早ゲームとして成立させられなくなったからバグったんだ」
「何かもう自暴自棄って感じの言い回しですしね」

「”詐欺師”か、何だかよく分からないぜ」
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は自室で同じく”詐欺師”判定を受けていた。前ループの行動が原因とは考えにくい。
 ウタの場合はただ単純に、やろうとしている事が滅茶苦茶過ぎたのだ。
「何でもいいか。やる事は変わらないぜ」
 その背には『焔摩天』。ゲーム内のアバターではあるがほぼいつも通りのウタの姿だ。
「命を弄ぶ者に、俺が負ける訳がない!」

「ワッツ? ”詐欺師”呼ばわりとは心外デス!」
 バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は自室で同じ物を見て憤慨していた。
「ワタシは海賊デス!」
 実際、”給仕長”の時点で相当ギリギリのラインを突っ走っていたが、もう一つユーベルコードを上乗せした事によりもう手に負えないと判断されたのだろう。

「”人間”判定ですか。選択したユーベルコードは一つだけですしね」
 ”略奪者”神咲・七十(まだ迷子中の狂食者・f21248)は自室で選択結果を確認した。
「うぅ……ちょっと前のあの言葉、耳がいたい」
 死んでも死ななければいい、今回の場合ループ出来るからいい、という事は無い。それを自省する七十。
「……とりあえず今は置いておきましょう。私の手は割れていますし、さっきみたいにやらなくても私以上に情報収集に長けた人が多いですし。そちらはその人達に任せて私はオブリビオン撃破を優先した方がよさそうですね」

「あの、一ついいですか」
 第一犠牲者の山荘の主人の死体発見後の最初の会議。いつもはここであまり情報が出る事はないのだが。
「この”詐欺師”って何なんでしょう。意味が全く分からないんですけど」
「だが、誰が”詐欺師”かは大体分かる」
 フサユキの疑問にコウゾウは重い一言で答える。その鋭い視線は幸村を貫いていた。
「括るか」
「待ったッ!」
 ナルホドーの鋭い異議!
「あの……皆さんの害にはならないと思うので一先ず放置して貰えると助かります」
 異議の内容は鋭くも無い命乞いだった。
「……まあ、いつでも括れるからいい」
 とりあえず最初の会議で吊られるというどうしようもない結末は回避できたようだ。
「”弁護士”さんですよね……?」
「はい、弁護士のナルホドーと申します」
 ナルホドーは弁護士バッチを突き付けた。
「ああ、うん。本職の方……なんですかね?」
 あり過ぎる突っ込み所になんかもう放置でいいや、となったフサユキ。何せ、何も分からないのだ。
「今回も結局の所。何だかよく分かりませんが。何だかよく分からないという事でよろしいでしょうか」
「よろしいんじゃないでしょうか」

 誰も追放されなかった。何だかよく分からないけど何だかよく分からなかった。

「カモン、バルタンズ!」
「「「バルバルバルバル♪」」」
 フサユキはラウンジの緊急招集を押した。

「すいません今回”給仕長”居ないんですけど!」
「HAHAHA! ワタシが給仕長と言う事に何か問題デモ?」
「分からないなー! どうしてこの人達口も堂々とイカサマ宣言してるかが分からないなー!」
「そりゃあ、そろそろお遊びは終わりって事だよ」
 幸村が鋭く、宣戦布告をした。
「それはもう、括ってよかと言う事か」
「スイマセン吊らないで下さい」
「意義を、とりあえず意義を申し立てます!」

 誰も追放されなかった。何だかよく分からないけど何だかよく分からなかった。

◇続きます。出来れば毎日少しずつでも断章で進行できたらいいなと言う感じです。第3章は11/11(木)より受付開始予定です。期日が今日までの人は先に採用させて頂きますが、もちろんこの先出番はまだまだ増えるのでお待ち下さい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 一つ訂正をしておこう。コンソールを開いて確認すると今回の”詐欺師”は四人もいる、と言ったが五人の間違いだった。しっかり締め切り前に貰っていたのだからこれは単純に私のガバなので深く考えないで欲しい。

●LOOP 154 黒幕の一人
「なんとなく外にいる複数のオブリビオンが参加者を駒にして人狼ゲームをしている光景が思い浮かぶわね……」
 紡木原・慄(希望の物語を探す少女・f32493)は情報を整理しながらそんな予測を立てる。その予測が当たっているかどうかは今はまだ言えない。
「各プレイヤーで勝利条件が異なっていて誰も勝利条件を満たせなければゲームがリスタートするのかも……」
 ループの終了条件の一つが邪神召喚の儀式の成立である事は確かだ。そして、もう一つ分かっている猟兵の勝利条件が全てのオブリビオンをゲーム内から締め出す事でもある。
「オブリビオンの勝利条件に猟兵が関わっている気がするのよね……」
 この場に復活する邪神なんて居ない、と結論付けたのは他ならぬ慄なのだが。それ自体は確信を持ったからこその発言だ。
「この事件は情報が錯綜しすぎてる気がするわね。私たちにミスリードさせて何かに誘導しているような嫌な感じ」
 何者かの悪意を感じる。現状ではほぼ勘に等しいが、他のオブリビオンすら利用して自らの目的を成そうとするオブリビオンはただ一人なのではないだろうか。猟兵第六感はただの勘ではなくほぼ未来予測めいた精度を持つ。それがこのアバター状態でも発動出来ているかは分からない。他のユーベルコードを用いない猟兵としての能力はアバターでは無力化されているからだ。
 結局の所、猟兵達もまたゲームを動く駒でしかないのだ。この状況では、まだ。
「脱出前に少しでも多く有益な情報を得ておかないと足を掬われそうね」
 明確な悪意を持つ黒幕の一人。その企みを僅かでも暴ければ或いは。
 そう思考しながら、慄は全てのユーベルコードを一気に選択する。
『あなたは”■■”です。役職名は”詐欺師”です』
「このループで二度も逃げ切った最後のオブリビオンを詰める、確実に」

●LOOP 154 質疑応答
「そろそろ、派手に動くよ」
 蔵人は自分を自動的に追随録画するドローンに向って宣言する。
「と言うわけで動画配信者の96君です。皆、VRなんだし、色々試してみようぜ」
「色々って何だよ」
 ヨリツグが早速食いついた。なんだかんだ言っても彼は娯楽に飢える中学生。
「そんな事をしてる場合か」
 コウゾウが反意を示す。
「焦る必要性は何処にも無いでしょ」
 幸村はそれを見逃さずにフォローする。何せ、この計画はオブリビオンを含めた全員の同意が必須だ。
 ループを起こしている黒幕はただ一人で、それ以外のオブリビオンは巻き込まれただけであるという仮説を確立させに行く。
「一日一人殺さなきゃいけない訳でも、一日一人確実に殺される訳でもない。確かに、タスクは進まないけど全員で全員を見張れる状況なら困るのは人外だけだ」
「む……」
 筋の通る理屈を示せばコウゾウは引く。彼は頑固な老人だが、だからこそ筋が通るのであれば通さざるを得ない。
「皆もうループしてる事自体気付いてるんでしょ? そんな説明受けてないのに」
「そうですね……自分の中に不可解な記憶がある事には気が付いています」
「あー、この場面前も見た事あるなーって感じ? 何かずーっとこのゲームしてる気がするんだよね」
「確認してみましょう。皆さん、何か書く物を用意してください」
 ハシモトが会議の時の様にラウンジに全員座る事を促し、紙とペンを回す。
「確かに、時間はたっぷりあります」

(ハシモトさん、一瞬で仕切ったね)
 ハシモトはある程度名の通ったカメラマンだ。見た目は力士崩れの様な巨漢だが、こう見えて戦場カメラマンの経験もある……この体格でどうやって? とは思うが、あるのだから仕方がない。
 フリーライターのマミヤはハシモトが紙とペンの話を持ち出す前から既に準備をしていた。この二人は気心の知れた先輩と後輩なのだろう。
「何だ、お絵かきでもしようってか?」
「いえいえ、口で喋ると情報が錯綜しますから。紙を使って見える形ではっきりと情報を残した方がいいと思いまして」
 正しい。全く持って正しい。猟兵側としてもありがたい申し出だ。この期に色々と確認しておきたい事がある。
「皆さん、このゲームは何回目だ思いますか? 他の人に見えない様に回数を書いて下さい」
 さて、どうするか。幸村自身は実の所まだ三回目だ。一番多い猟兵のウタは31回目となる。
 誰も現在の正しいループ数を知る者は居ない。
「書けましたか? では一斉に出しましょう」

「大体10から15回って所ね」
 全員の提示した紙の数字をざっと見てマミヤは結論する。
「……で、ウタ君は31で、フサユキ君は154ね」
「嘘を付く理由は無いだろ」
 別に誤魔化しても良かったが、確かにウタがこの場で嘘を付く理由は無い。
 ちなみに、幸村とバルタンは回数が少ないので正直に答えた。17回の蔵人は多いかと思ったが、ここは正直に通す事にした。
 一方でウタの次に多い式子は15と少なめに申告。
「フサユキ君、その回数は正しいの?」
「はい。ループが始まる時に必ず書いていますから」
「154回って多過ぎでしょ」
「まあ、正確には僕が”探偵”になってから154回目です。もし”探偵”になる前があったとしたらもっと多い可能性はありますね」
「君はこれまでのループで起きた事を全て覚えているんだね」
「はい。僕自身も不自然だと思うほどはっきりと」
「完全記憶能力って奴じゃないよね?」
 世の中には一度見聞きした事を生涯忘れない人が居るらしい。幸村はその可能性を消しにかかった。
「違いますよ、僕はそんな大層な物じゃない。言ったでしょう、自分でも不自然だって」
 その違和感を他ならぬフサユキ自身が口にした。
「変な話ですよね。まるで記憶を強制的に与えているかのようだ」
「記憶を与える……?」
 だとしたらどういう事になる? 覚えてるんじゃなくて、これまでの記憶を強制的に与えられているとしたら。
 それはループした世界の記憶を保持しているなんて話よりよほど確実な話なんじゃないだろうか。

「だとしたら、確実にマズい話ね」
 その結論を口に出したのは慄。
「あなた達は誰とも知らない相手に与えられた記憶を自分の記憶と誤認していた事になるわ」
「そんな……」
 明言された危険な事実にざわつくラウンジ。
「まあまあ、それは可能性の話です。これはゲームでしょう? そんな危険な事は起きません」
「断言したわね」
 この場でゲームである事を殊更強調するのは明らかに黒い。それに気付かないハシモトではない筈だ。
(見付けたわ、逃げ続けた四人目のオブリビオン)
●LOOP 154 記憶と能力
「役職絡みで気になっていた事が一つあるんですけど」
 七十は少し前から疑問だった事をぶつける事にした。今は会議のような体裁だが実際には会議ではない。猟兵としては気になるが参加者に聞いたら黒要素と取られかねない発言も通せる。
「どうして皆さん同じ能力を続けることが多いんですか?」
 全ての記憶がリセットされていれば同じ能力を選ぶのは分かる。だが、今はそうではない。他の参加者も前ループの記憶を持っているのだから今度は別な能力で、と思っても不思議ではない。
「そりゃ簡単だよ。前のループの事思い出すのは能力と役職が確定してからだからさ……だよね?」
「うん、それで合っていると思う。”探偵”の場合正にその記憶の引継ぎ自体が能力だからね」
「……なるほど。ありがとうございます」

(その能力ってのはあからさまに怪しいけど、さっきの話と合わせて二重でアウトだよね)
(ええ、記憶の刷り込みは行われている、と見るべきでしょう)

「じゃあ、自分の能力で見つけた面白い使い方とかありマスか?」
 七十は今回白位置だ。黒位置のバルタンは七十の印象を薄める意味でも別な質問を投げ付けた。
「パンジャンドラムに弱点は無い。ありとあらゆる障害を機敏な動きで躱して対象を爆殺する」
「それの成功率そんなに高くないだろ」
「さっきも失敗してたしね」
 幸村がさっきの失敗と言うのは当然、前のループでオトハがオブリビオンで式子に止められた時の話だ。
 だが、オトハがパンジャンで失敗しているのは他にも何度かあるのでこういう反応になる。
「さっきっていつよ? ケイを殺し損ねた時?」
 やはり、オブリビオンだった時の記憶は持っていない。その確認はもうしているのでここはさらに詰める。
「さー、ここで問題。皆、紙とペンを用意して」
 折角の機会なので利用するだけさせてもらおう。
「おじさんが言ってるのはどの失敗の事でしょう?」
 これはさっきと同様に全員一斉に答えを出させる事で情報が落ちる場面だ。
「色々あるからなー」
「ちょ、私を晒しものにするのは止めー!」

 全員が書き終えて正解発表。
「正解は会議終了後にパンジャンぶっぱして式子に止められた時の話でした」
 ここまで具体的に言えば他の参加者もどの失敗を指しているのか明確に分かる。何せ、一つ前のループで起きた結構な事件だ。オブリビオンだったオトハ本人とルミ、ケイの三人は知らなくて当然。問題は他が知っているかどうか。
「え、アレでしょ? パンジャンで盛大に自爆した時」
「いや、角に追い込んで自分ごとパンジャンで轢いた時の方が……」
 等と弁明をしている手遅れな奴が二人。モッチーとキヨヒコだ。
 これは視点漏れだ。オブリビオンは全てのループの内容を把握している。だから、つい直近よりも一番インパクトが強かった失敗の方を上げてしまった。最初の四人ならこの失敗はしなかった。
(つまり、オブリビオンになった瞬間、全て憑依先のこれまでの情報を得るけどそれを扱い切れるとは限らないって事だねー)
 一度に得る情報が多過ぎる上に、前の憑依先の情報を排除して考えなければならない。この速攻勝負はオブリビオン側から準備させる時間を確実に奪っている。
(残り一人のオブリビオンも割りたいなー)
紡木原・慄
なんとなく外にいる複数のオブリビオンが参加者を駒にして人狼ゲームをしている光景が思い浮かぶわね…
各プレイヤーで勝利条件が異なっていて誰も勝利条件を満たせなければゲームがリスタートするのかも…

この事件は情報が錯綜しすぎてる気がするわね
私たちにミスリードさせて何かに誘導しているような嫌な感じ…
脱出前に少しでも多く有益な情報を得ておかないと足を掬われそうね

行動
UC全部を選択
憑依されている参加者にメダルをこっそり貼り付けて指定UCで精神攻撃を行う
自分は隠れてその反応を観察
UCで苦しみだした場合には近づいて直接尋問する
暴れだした場合は仲間と連携してUCで倒す
雪山の探索など脱出のために仲間と連携して動く



●LOOP 154 トラウマ
 やいのやいので議論がダンスダンスするいつもの流れになって来た。
 その裏で”詐欺師”は錯綜を加速させる。
「……うっ?」
「どうかしましたかハシモトさん」
「いえ、何でも無いです。少し、嫌な事を思い出しただけで」
 『影の追跡者』を使って『覚(さとり)のメダル』をハシモトの足に貼らせた慄。
(効果が薄いわね)
 【心の傷を抉る獣】(ココロノキズヲエグルケモノ)はメダルを張り付けた相手の辛い過去やトラウマを強制的に発露させて心の傷を抉る凶悪なユーベルコードだ。戦場カメラマンの経験を持つハシモトなら凄惨な場面を幾つも経験している筈であり、はっきり言って苦しみ方が足りない。
(逆説的に黒疑惑が更に高まったわね。まあ、これは単なる確認だけど)
 手の内はなるべく見せるべきではない。対策されてしまう。メダルをハシモトの足から回収する。
 さて、次は確定白の反応でも見てみよう。オオカミジジイの足に同じ様にメダルを貼ってみる。
「はあ? あは、へぇっへっへっへー!」
「じっちゃん、いきなり笑いだしてどうしたんだ? お迎えか?」
 ……心理的外傷を刺激したのに何故嗤う? 少し気になったがこれは例外的反応と見るべきだろう。改めてカオルの足に貼ってみる。
「ひぃぃぃぃいい!!」
 突然椅子から立ち上がり、悲鳴を上げながら部屋の隅まで後退るカオル……そう、これが本来の反応の筈だ。
(悪い事をしたわね……)
 素早く『影の追跡者』にメダルを回収させ、次なる容疑者キヨヒコの足にメダルを張る。
「アバッ! アババババーッ!? 最初に戻ったのナンデ!? 一体どれだけの大金をこの計画につぎ込んだと」
 これは、分かりやすい当たりだ。今回はメダルを回収しなくてもいいだろう。
「キヨヒコさん?」
「俺に近寄るなぁ! お、お前らただの」
「ふん」
 ハシモトのバッファロー殺戮武装鉄道めいたタックルがキヨヒコに炸裂し、一瞬で戯画めいた死体に変える。
「ああ、すいません。気絶させる程度のつもりだったんですが勢い余ってキルしてしまったみたいですね。僕を吊って下さい」
「ああ、処刑はするぜ」
 ウタが『焔摩天』を構える。
「吊りじゃないけどな!」
 突き付けた剣先から螺旋の獄炎が放たれ、ハシモトを包み込んだ!
「ちょ……いきなり何してるのよ!」
「地獄の炎は何でも燃やせる。オブリビオンは特にな」
 『焔摩天』を払うと、地獄の炎が霧散する。ハシモトは……なんと、無事である! 理不尽な未来だけを祓う【ブレイズアッシュ】だ!
「あ、あれ? どうしていきなりラウンジから始まってるんですかね?」
 困惑した様子のハシモト。さっきとは様子が違う。

「ええ、前回のゲームは確かオオカミ陣営の勝利で終わったと思っていますが」
「ハシモトさん、本当に今回のラウンジに来るまでの記憶が無いんですね?」
「ええ、全く覚えていません」
「何だよコレ、一体何が起きたんだ? 誰か説明してくれよ!」

(参加者への情報開示かー。悪い手ではないと思うんだけどね)
 説明済みのフサユキを除けば、オブリビオンの情報を他の参加者は持っていない。
「何度か出て来た事があるけど、オブリビオンって一体何なの?」
 マミヤがウタに詰め寄る。
 ……どうしようか。ウタは目線で幸村に問う。
(仕方ないんじゃない? それに、オブリビオンがこのループをどう扱うかが気になる所だ)
「オーケー、じゃあ一通り説明しよう」
「その前に、ウタさん。モッチーさんもお願いします」
「ひょえ!?」
「まあ、間違っててもリスク無いみたいですし?」
「ああ、安心してくれ。オブリビオンじゃなければ火傷一つ付かないぜ」

 全く、猟兵と言う物はつくづく出鱈目な奴らだ。まともなゲームなど成立しないじゃないか。

 ああ、本当に最高だなぁ猟兵は。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●LOOP 154 情報開示
「まあ、分ってる人は分かってるだろうけど俺達が”詐欺師”だよ。正確には俺、蔵人君、ウタ君、バルタンちゃん、慄ちゃんの五人が”詐欺師”。なれる人はまだいるけどね」
 情況理解度の高い幸村が解説役を買って出る。慄はまだ一人残っているオブリビオンを警戒している。
「普通の人は”詐欺師”にはなれない。UDCって知ってるかな?」
「ネットでたまに出て来る都市伝説の奴か?」
 アリスは思い当たったようだが、
「よくあるネットのデマだろう。それがどうした」
「そういう事になってるんだけどさ、UDCはデマじゃないんだよ。実在するんだ。俺達はUDC(アンディファインド・クリーチャー)から皆を守るUDC(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)なんだ」
 まあ、違うのだが。猟兵とオブリビオンの話をすると単なるUDCアースの一般人には途方も無さ過ぎて全く受け入れられないだろう。UDCの一員と言うだけでも中々厳しいが。
「あなた達も、ですか」
 そこで意外な反応を見せたのが一人。関係者にのみ通じる手帳を提示する。
「UDCエージェント、島護美耶です。彼らの話を保証します」
 ミーコと名前表示されていた女子高生だ。
「え、ミーコそマ?」
「マです。UDCは何処にでも居て、何処にも居ませんから」
 UDCには様々な人員が所属しているので女子高生が実はUDCの一員と言う事はある。
「なので、私とフサユキさんはこの憑依型UDCの対象にはならないと思います」
「ミーコちゃんはともかく、フサユキ君も?」
「はい。私は既に違うUDCを宿しているので憑依できませんし、記憶を触媒とするUDCと推測できるので記憶を偽造できないフサユキさんは対象外かと。推測ですが」
「だとすると残り10人。大分減ったね」
「で、そのUDCってのが何なんだよ」

 猟兵達はこれまで得た情報を掻い摘んで説明した。オブリビオンはUDCの一つである、という真実とは逆の説明をしているが。

「ちょ、ちょっと待て。それじゃ俺達このままじゃ死ぬのか!?」
「遠からずそういう事になる」
「そうさせる気は無いけどな」
「リアルデスゲームに参加する事になるとはね……」
 参加者達もある程度は自体が呑み込めたようだ。
「これはもうゲーム所じゃないな。何とかしてここから出られないか?」
「こういうのって下手に出ようとすると殺されるんじゃ……」
「それを確かめに行こう」
 蔵人が立ち上がる。
「この山荘の吹雪の先がどうなってるか、知りたくない?」
「でも、こんな猛吹雪の中外を歩くなんて」
「平気なんだなー、オオカミならね」
 そう言って立ち上がったのはチエリだ。
「面白そうじゃん。私も行くよ」
「じゃあ、君オオカミ?」
「そうだよ」
 全員が揃っている場でのオオカミカミングアウト。普通なら自殺行為に等しいが、今回のループはもう人狼ゲームどころではなくなっているので今すぐチエリを吊るすという意見は出る筈もなく。
「仲間はハシモトさん、キヨヒコ、タエばあ、アスカ。これでオオカミ全露出だよ」
「あんまりですじゃー!」
「おい、何勝手にバラしてんだ死ぬぞ!」
「もう今回はそういうのいいでしょ。で、どうするの? 一緒に来る?」
「僕も行かせてもらおうかな」
 そう言ってハシモトが手を上げる。
「そういう事は自分の目で確かめたい口でね」
「俺も一緒に行くぜ」
 ウタが続けて挙手する。
「何が起きるか分からないし、俺の炎なら大体何とかなる」

 念の為、山荘の中で見つけた防寒着を着込んで四人は山荘から吹雪の中へと歩み出す。
 緊急招集は参加者全員を強制的にラウンジに集めるので、探索中は緊急招集を押さないという事になった。オオカミもキルをせず、人間もタスクを進めない。
「着込まなくても寒くないんだけどね」
「オオカミだと涼しい位なんですよね」
 外は猛吹雪だが、不思議と寒さは感じない。逆を言うと、着込んでいても暑さを感じない。
「ゲーム的に不要だからって事かな」
 そんな推測を立てながら吹雪の中を只管進む。視界は相応に悪い。方位磁石などはあっても無駄だろう。
 山荘の明かりを背に進む。暫く、吹雪の中を進みながら切り出す。
「チエリさんオブリビオンでしょ」
「そうだよ」
 当たり前のように。チエリはあっさりとそれを認めた。
「もうやってらんないって感じ? 面倒だから全員殺して終わらせようとも思ったけど一人だったら死に戻って別な体使った方が楽だし」
「一体、何が目的でこんな事をしてるんだ?」
「私達がやる事と言ったら邪神様の復活だけでしょ。無理っぽいけど。ハメられたのよ私達も」
 オブリビオンの言う事を真に受けるのは危険だが、ようやく聞き出せるオブリビオン側の情報だ。聞く価値はある。
「20人位が互いに殺し合う事で邪神を召喚しようとした人、仮想現実に見せかけた魂を捕える仮想空間を作った人、この雪山山荘セットを用意した人。三人の計画を纏めて一つの儀式にした人」
「ちょっと待って、雪山山荘セット?」
「そうだよ。そろそろ見えてくる筈」
 見えて来たのは灰色の壁だ。かなり高さがあるが、明らかな建造物。
「ここ、室内かよ!」

 そう、この場所は雪山山荘に見せかけたセットだ。そうと気付かれない様に結構な広さがあるが、屋内である。30分も歩かずに壁まで到達した。
「間違いなく屋内だな、ここ」
 ウタが獄炎加速で壁を駆け上って確認して来た。オブリビオンの言う事は真に受けるべきじゃない。
「じゃあこれはゲームじゃなくて現実だったのか?」
「いや、ゲーム内の筈だよ。正確には仮想空間」
「だって、現実そっくりなCG作るより現物用意した方が楽なんだもん」
「この規模のセットを用意するのもそれはそれで大変だと思うけど」
 一体どれだけ大きい会場を抑えているのだろうか。
「アンタらと違ってワープとか出来ないから」
「僕達もそんなに簡単にできる訳じゃないけどね」
「せっかくここまで来たんだし、ちょっと壁の外を見て来るか」
「出口はここから結構歩くけど……」
「いや、ここに出口を作る」
 『焔摩天』を壁に突き立てる。赤熱した壁が溶解していき、人間がらくらく通れる通り道を作った。
「行くぜ」
「……全く、これだから猟兵は……」

 会場から壁一枚隔てて外、という訳では無く。どうやらここは野球場か何かのスタジアムのようだ。もちろん吹雪は無い。
「もう分かってると思うけど、あの吹雪はCGの様な物だよ」
 仮想現実を仮想現実と思わせない為の演出だったのだろう。ちょっと吹雪かせる位なら簡単だ。もう防寒着を着込む意味も無いので防寒着は脱いだ。
「私も、コレを知った時には結構驚いたけどね……」
 スタジアムを歩き、外に出る。

「何だ、これ……」
「これは一体どうなってるんだろう」
 スタジアムの外は時間が止まっていた。
 人も、動物も、自然物さえも。完全に止まっているように見える。
「いや、違うなこれは」
 蔵人は僅かな違和感から結論する。
「時間が止まってるのは僕達の方だ。正確には止まってるんじゃなくてそうとしか思えない程高速で動いてる」
「その通り」
 時間とは常に相対的な物だ。人間と動物の時間間隔は全く違う。同じ人間でも、状態によって変わる。眠っている間は特に大きく乱れる。
「君達以外は実際あの山荘の中で眠ってるんだよ。今頃、君達の仲間がそれを実証してるだろうけど」
「なんか、身体が重くないか……?」
「ああ、気のせいじゃなかったんですね……どうにも、私も身体が重い気がして……正直、話に付いていけませんしね」
 驚愕の事実を色々と見ているハシモトだが、さほどショックを受けているようには見えない。元からそういう人なのだろう。
「本体から大分離れてるからね。そろそろ魂だけで動くには限界って所?」
「幽体離脱って奴か……」
 これが夢ではないのだとしたら、何かが現実を動いていなければならない。魂を捕えて取り出し、現実世界に被せる形で仮想空間を構築した、仕組みはそんな所か。
「これ以上は慣れるのは危険そうだね、戻ろうか」
「その前に」
 チエリに『焔摩天』を突き付ける。
「情報提供には感謝するぜ。そのまま信じる事はできないけどな」
「別に今更だます気ないけどね」
「だとしても、だよ」
 獄炎がチエリを包み込む。残り9人。
 
●LOOP 154 裏取り
「君達の本体はそれぞれの部屋で寝ているみたいだね」
 オブリビオンを排除した事で味方と定義された参加者達の本体へ、転移魔法使いの妖精さんで確認して回る幸村。
「ほら、触ってみ? 見えないけどここに何かがある」
「本当だ、見えないけど何かがある……」
「何かじゃなくてケイだよ。身長とか体格とかそのままだし」
 オトハも遠慮なく触りながらそう断言した。
「……オトハさんはどうして分かるんですか?」
「えっ?」
「……私はそこまで自信をもって断定できないです」
「オトハ、お前な……」
 ルミの純粋な疑問。アスカとアリスの視線がオトハに刺さる。ちなみにこの二人、紛らわしい名前だが男子高校生である。
「い、いやほら、私はケイの幼馴染だし……? ちょっと身長と体重とスリーサイズと一週間分の食事と誰と何時間喋っててどこでどんな買い物してるか位知っててもおかしく無くない?」
「お、重い……」
 衝撃の重い女カミングアウトだった。

 その後全員分を確認して回ったが、猟兵以外の参加者の本体はどうやら各自の寝室にあるようだ。その後で一度”蔵人君の本体”として指定された山荘の入り口を女性陣が手探りで探すと、そこにも触れない空間があった。
「おっと、蔵人君から連絡だ。探索終ったってよ」

 全員でラウンジに戻り、緊急招集ボタンを押す。強制的にラウンジに生存者が集められ、それぞれの情報交換を行う。
 オブリビオンも全滅させているのでこのループはタスク勝ちと言う事で終わった。
 
●LOOP 155 ”詐欺師”ローラー
「それじゃ、誰も前回のループの事は何も覚えてないんだね?」
 蔵人は最初の会議で確認する。
「オブリビオンについて色々説明したんだけど」
「オブリビオンって何だよ? それよりも明らかに人外の”詐欺師”ローラーをさっさとやるべきだ」
「確かにな」
 実の所、今回のオブリビオンはもう見当が付いている。そもそもの候補が残り少ないが、この”詐欺師”ローラーを強行して押し通そうとするタクミ、キヨヒコ、マミヤ、トロリンの四人で間違いないだろう。まあ、キヨヒコは前のループでハシモトに逃がされたので元から確定だったが。
 残り少なくなった人員の中で発言力に秀でた大人で固めて来た辺りにオブリビオン側も後が無いと言う事を感じさせる。
 つまり、お互いここが勝負所と言う事だ。
「では、”詐欺師”としてローラーされる前に”略奪者”カミングアウトです」
 七十は現状で残っている猟兵側最後の人間陣営として宣言した。オオカミ陣営として残っている式子と合わせて数少なくなった”詐欺師”判定を受けていない参加者だ。
(”翳喰”はカミングアウトする訳にも行きませんからね。ここは頼みますよ)
「待ってください。僕も”弁護士”です」
 弁護士バッチを突き付けるナルホドー。
「「「それは知ってる」」」
「アッハイ……」(うう、皆の心証が下がったみたいだ)
 だらだらと汗を流しながら、ナルホドーは証拠品み見立てられた資料をめくって逆転の手を探している。
「それで、七十さんは今誰の能力を奪っているのですか?」
 トロリンは厳しく追及する。”詐欺師”でなくても猟兵ならば敵だ。
「ハルカさんですよ。面白い能力ですね、”神宿”は」

 前のループで死亡退場したキヨヒコ以外の能力は詳細に知る事が出来た。『捕食能力とユーベルコード奪う能力を持つ蔓を体から捕食した物を使って大量に出し、制御する蔓の能力と奪ったユーベルコードで自身を強化する』七十の【制約:略奪者】(セイヤクリャクダツシャ)は一つのユーベルコードでありながらその猛威を発揮する事が出来る。
「りゃくだつぅ……りゃくだつされちゃった……」
「お、おまえー! ハルカちゃんに何をした!」
「おいしく頂いただけですよ?」
 内容はご想像にお任せする。まあ、相手は一般人なので傷物にするような事はしていない筈だ。たぶん。
「トロリンさん、本当にバイタルと監視カメラばっかり見てますね。タスクしなくていいんですか?」
「……タスクは、後で一気にやるから。最悪死ねば完了するし」
「自らの犠牲を前提に動いている。すばらしい……オオカミでなければですが。オオカミはタスク要りませんからねぇ?」
 ”神宿”の能力は対象の30分間の行動を把握する事が出来る能力だ。クールタイムも30分かかると言う弱点があるが、後出しで行動を把握できるのはかなり強力だ。
「いや、トロリンがバイタルと監視カメラばっかり見てるのはいつもの事でしょ」
「ええ、なのでトロリンに”神宿”は使ってませんよー? 私はただ黒要素を言っただけです」
 にっこりと余裕を感じさせる笑みを浮かべる七十。
「タスク強者のマミヤさん、今のタスクの進捗を言ってもらってもいいですか?」
「全部終わっているわよ」
「あらあらそれは流石ですね? ええ、オオカミならタスクしなくていいですしね。所で誰かマミヤさんが今回タスクしてる所を見ている方は居ますか?」
「その事なら僕が証言できるね。彼女は確かにいつもの調子でタスクをこなしているよ」
 ハシモトが証言する。
「そうですか。ならハシモトさんのタスクの進捗はどうなんでしょうね? ずーっとマミヤさんにつきっきりで監視ですか?」
「確かに、あまり進んでいるとは言えないね。今回のマミヤ君は張り切ってタスクをしていたから気になって監視していたんだよ。僕も今回のマミヤ君には違和感があるねぇ」
「なっ!?」
 人狼ゲームに置いての基本の一つだが、隣人は信じてはならないと言う物がある。親しき間柄だからこそ利用するオオカミに漬け込まれる。オオカミ同士であれば話は別だが。
「随分と饒舌だな七十。ステルス気質の強いお前としては珍しい」
「ええ、タクミさん。確信を得るまでは黙して情報を集め、決定的証拠をつかんだ時は一気に要点を語るのはステルス派の基本戦法ですから」
「なら、何か決定的な証拠を掴んでいるのか」
「タクミさんがー、タエさんをヤってる所を見てしましたー」
 なお、今回のタエばあちゃんは既に死んでいる。安定の第一犠牲者。
「そうか。お前が俺視点で黒だって事はもう分かってたがな。だが、タエばあが死んでからもう二時間は経っている。なぜ今まで黙っていた?」
「死亡時間偽装はあり得ませんよ。バイタルで確認していますから」
 トロリンのバイタル援護射撃。
「あらあら、バイタルをちょくちょく見ていたのに決定的なタイミングで見落としてましたねぇ?」
 七十はくすりと不敵に嗤う。
「タエさんがお亡くなりになったのは三時間前です。死後一時間動いていたのは”翳喰”での偽装ですよ」
「何だと……!?」
 これは式子本人から聞いた情報だ。タエのキル現場を目撃したのは式子で、何かに使えると思って【暗者の指先】(アンジャノユビサキ)を使って死亡時間を偽装しておいたのだ。
「まあ、そもそもタエさんを殺したのはキヨヒコさんなんですけどね。貴方については、もう何も言う事は無いです」
 確定オブリビオンなので、という事は黙っておく。
「な……何とか言ってきたらどうだね!?」
「おやおや、自分から黒要素欲しがるんですかー? おかしな人ですねー」
「待て、なら結局……お前は誰に”神宿”を使ったんだ?」
「誰にも使ってません」
「……は?」
「普通に、歩いて、喋って、タスクもしながら情報収集しただけです。ここで皆さんにお伺いしますが」
 七十は全員を一瞥しながら宣言する。
「誰の過去を覗いて欲しいですか?」

 能力とは、必ずしも使って情報を得るだけではない。存在を誇示するだけで力となり得るのだ。それが強力であればあるほど尚更に。
「タクミにーちゃんだな」
「タクミさんで」
「タクミさん、ですね」
「タクミだ」
「では、拝見しますねー?」
 七十はタクミに蔦を伸ばしていく。
 そもそもこの会議は何故始まったのかと言えば、オオカミジジイの死体発見通報だ。通報者はタクミで現場はオオカミジジイの個室。
「この慎重な殺し方からしてタクミさんは元から怪しかったんですよ」
「や、やめろ……やめろー!」
 そして、決定的な瞬間。即ちタクミのオオカミジジイ殺しの確定が出てタクミ吊りの流れになった。
 それを一番強固に推していたタクミの排除で”詐欺師”ローラーの事は忘れられた。
 残り8人。
 
●LOOP 155 海賊
 オブリビオンの位置は把握済み。人間からは猟兵全体が黒寄りに見られていて不利。議論で勝って吊りに持ち込むより、ユーベルコードで対処した方が確実な盤面。
「HAHAHA! この状況を待っていたのデース! 海賊らしく頂いていくのデス!」

「くそっ、まさかタクミが吊られるとは誤算だ。次は私を吊るつもりに違いない……だが、私は簡単には殺されないぞ」
 キルを警戒して部屋に引きこもるキヨヒコ。あからさまなフラグなのだ。
「コンニチワ!」
「うわぁぁああーっ!?」
 突然現れたバルタンに驚いて後退る。しかし、バルタンが居るのは出入り口側。これはもう駄目だな。
「ま、まだだ、まだベントを使って逃げられ……」
 そこで気付く。そもそもバルタンが出て来たのが屋根裏を走る通気口、ベントである事を。
「命乞いが面白かったらお前を殺すのは最後にしてやるデース」
「と、取引だ。私を見逃せば他の仲間の情報をやる!」
 バルタンはファルシオンを抜いた。
「面白くないのでアウトデース」
「待て、本当だ! 話を聞け! 実は……実は、そう、そういう事だ!」
「具体性ゼロの見え見えな遅延行為はギルティデース!」
 バルタンは気合を込めたファルシオンを横薙ぎに振るう! ファルシオンから放たれた大海嘯がキヨヒコを押し流す!
「何故室内で津波が!?」
 【模倣様式・木阿弥大津波】(イミテーションスタイル・バーミリオン)は単に津波で攻撃するユーベルコードではない。肉体を傷付けずにやる気や欲望という積極性のみを攻撃するユーベルコードだ。
「ウタ殿に出来た事ならワタシにも出来ない筈が無いデース!」
 今回のオブリビオンは本体がこの場に居らず、遠隔で人を操っている状態だ。だから、受信側のアンテナとなる要素を排除できればオブリビオンの憑依を剥がす事が出来る。
 そもそも、この憑依と言う現象自体が【『希望』は全てを解決してくれる】で行われている事なので、対価となる希望への渇望が失われれば失敗は必然。
「……私は……もう、次のゲームか?」
 肉体を傷付けていないのでキルではない。
「何か、酷く疲れた……」
「では、ここで休んでいるといいデース。間違っても通報なんてしない様に。デハ!」
 来た時と同じように堂々とベントから退出するバルタン。
「……何という堂々としたベント移動……いや、私もオオカミだから通報する意味はない……筈だ」

「メリークリスマス!」
「ギャー!」
 マミヤベント処理! ワザマエ!

「何か、何かが起きている……このままではマズい!」
 トロリンは医務室でバイタルとにらめっこをしながら思案している。
「あれから誰も死んではいない。キルは起きてない。この場はタスク負けでもいいかしら? いいえ、ここで引くのは決定的にマズい!」
 オブリビオンでは無いオオカミが誰かをキルする可能性は残るが、最悪吊られる事になっても次のループで勝負できる。これ以上依代を失うのは避けなければ。
 何だ、あの”詐欺師”というのは。あんな物は私の作ったゲームに許可していない……!

 だって、ボクは猟兵が活躍する所が見たいんだし。ちょっと設定を弄る位の事はするよね。

 突然、医務室の扉がロックされた。エリカだろうか? ……何故、このタイミングで?
 咄嗟にベントの近くから離れた事がトロリンを救った。
「ハァーイ、トロリン」
 ベントからどこかのホラー映画めいて顔を覗かせるバルタン。
「コイツ、ベントを……!?」
 扉から逃げるか? 何故、こんな時にロックを。リカコは人間陣営。説得して能力を使わせたにしてはタイミングが良すぎる。

「ダァシエリイェス」
 七十がひっそりと囁いた。
「りゃくだつぅ……りゃくだつしゅんごいのぉ……」

「アイサツしてくれないのデスか? こっちにおいでよトロリン。逃げ道、欲しいデショー?」
「そっちから逃げられるようには思えないけど」
「タシカニ」
 ガバっとベントから飛び出し、ファルシオンを突き付けるバルタン。
「テンプレ遊びはこの位にしておきまショウ。ユー、マスト、ダイ!」
「舐めるなよ、キル能力自体は差異は無いんだ。私の射程内に入ってみろ、死ぬのはお前だ!」
「ワッツ? 残念だけど、その必要は無いのデス」
 このゲームの設計者たるオブリビオンはその可能性に気付く。
「遠距離攻撃ユーベルコード!? なら、撃たれる前に!」
 ポケットに隠し持っていたメスを投擲! かすり傷でも死ぬこの空間では先手を撃つ方が圧倒的に有利だ。
 しかも、この攻撃には【『絶望』は殺すしかないよね】を発動している。ただの攻撃ではなく狂信的殺人鬼と化した鋭い一撃。
「スロウリィネー!」
 だが、バルタンも既に【模倣様式・木阿弥大津波】を放っている! 大海嘯がトロリンの魂を洗い流し、オブリビオンを祓う。しかし、津波を切り裂き飛来したメスは? 同じくバルタンを切り付けて無残な死体へと変えてしまったのか?
「当たらなければどうという事は無いデース」
 素早くベントに飛び込んで事無きを得ていた。今すぐ残りのオブリビオンを仕留めたと言う事を報告しなくては!

『残りのオブリビオンを仕留めマシタ!』
「でかした!」
 蔵人の端末で迅速な情報共有。未帰還フラグなんて無かった。
 オブリビオンが依代に出来るのは残り5人。
巨海・蔵人
使用UCは
うっしゅは切らさず。
必要なループで
お料理動画、ヒロイックフィールド、リトルフラワーズ

■心情
うーん、邪神はいないかもって流れだけど。
レイリスさんの予知ではっきりと復活の儀式の阻止って言われてるからね。
他の人達もカプセルベットに入ってるって話だったし、ちょっとそっちの方も知らべてみよう

■仕込
とりあえず、バルタンズに紛れさせて部屋に隠してたテレビウムドローン達に僕の端末をバルタンズに配ってネットワークを構築しよう。
後設置もね、これもループ対象なのか確認だね。
ラウンジの通報ボタンの横にもテレビウムドローンを設置。
バルタンズとは連携していきたいね

■方針
そろそろ、派手に動くよ。
と言うわけで動画配信者の96君です。
皆、VRなんだし、あれやろう。を合図に色々やろうぜ。
お料理動画でスイーツやカロリーモンスターパーティーとか(憑依に効くの作ってみる、材料は蔵人君せれくしょんも使おう)
雪中探索を狼皆を誘って、乗ってきたら自分で通報、
後で独りでやってみる。

本格的な戦闘ならリトルフラワーズで心を満たすよ



●LOOP 155 終焉の獄炎
「よし、オブリビオンも居なくなったしカロリーモンスターパーティーしようか」
 バルタンが残りのオブリビオンを狩り尽くした後のラウンジでの手動緊急招集。
「いや、なんだよ。死体でも出たのかと思ったら誰も死んでないじゃねーか」
「待ってくれ、死んではいないのだが私は今回のゲームでこれまで何をしていたのか覚えていないのだ」
「私もそうなのよね。だから吊ってくれてもいいんだけど」
「私もです。記憶障害でしょうか」
「ああ、それはもう二度と起こらないから安心してくれ」
「その現象が起きる原因は排除しましたからね」
 幸村のナルホドーが明言した。
「……もう一回説明してもいいんだけど、あんまり意味は無さそうなんだよね」
「うん、だから違う事しよう。カロリーモンスターパーティー」
「カロリー。モンスター。パーリー?」
「凄まじく罪深い響きね……」
「ここはVR空間だからね。どれだけ飲んでも食べてもおなか一杯にならないし体重計を気にする必要も無い。だからしよう、カロリーモンスターパーティ!」
「……ここには安酒しかないが」
「その確認してる時点で飲む気満々じゃん」

 当然誰も追放されなかった(投票スキップ)

 そのまま全員でキッチンに移動。冷蔵庫で冷やされているジュースやアルコール類を持ち出し、適当なツマミを調達してラウンジへ。一方で料理の出来るメンバーはキッチンに残って調理を始める。
「私はあまり豪勢な料理は作れませんから」
「でも、カオルさんの家庭料理っておふくろの味って感じがしていいですよねー」
「そうだ、カオルさん。”ししなれ”って作れますか?」
「ええ、作れますけど……」

「じゃあ僕たちがスイーツを担当しようか」
「ワタシのメイド技術にオマカセデース!」
 蔵人とバルタンは罪深い白の巨塔を作り始める。
「生クリームを生クリームで包み、生クリームを乗せマス!」
「あ、シナモンとか苦手な人居るかな? フルーツもたっぷり使おうね。食材は豊富だから」

「安酒もたまには悪くない」
 ラウンジではコウゾウを中心に酒盛りが始まってる。
「じっちゃんがハメを外すなんて珍しいわね」
「……コウゾウさん、実はこの状況を正しく理解してるのかも……」
 フサユキはそれに付き合いながらそう分析する。次のループが始まればコウゾウはほぼ確実にオブリビオンに憑依される。

「ケーキ出来たよ!」
「お食事も色々と用意させて頂きました」
「「「おおー!!」」」
 湧き上がるラウンジ。何たる巨大な罪深き白の巨塔か! まさしくカロリーモンスター!
「んー! 甘い! ちゃんと甘みを感じられるのがいいわ!」
「こ、こんなに食べてもいいのかしら」
「まあ、お前の場合どこにも脂肪が付かないからな」
「ぱんころされたいのかしら?」
「ステイステイ! パンジャンは無し、ノーパンジャン!」

 宴は最高潮に盛り上がる。
 それでも、際限が無いとは言っても何事も終わりは来る。
「あー食った食った……食べてるんだけど満腹感は無いんだよな」
「おなかが減る事も無いんだけどね」
 いくら食べても満腹になる事は無い。いくらでも食べる事を楽しめるのだが、満腹にならないというのは何とも言えない虚しさもある物だ。
「仕舞にしよう。若いの、やれるんだろ」
 コウゾウがウタに言った。
「ああ、やれる。今なら妨害も入らないし、焼くべき対象はしっかり見定められてる」
「このゲームもいよいよ終わりかぁ。長かったけど、なんだかんだ言って結構楽しかったよな」
「ゲームだからね、楽しくしないと。だろ?」
「今回僕はあんまり役に立ちませんでしたね」
「一体何が始まるんだ?」
「祭りの終わりはキャンプファイヤーって所かな。最大火力で一気に行くぜ!」
 ウタが『焔摩天』を振り上げ、全力で床に突き刺した。

「明日があると思ってる奴には明日は来ない。明日を望み、明日を掴もうと手を伸ばして初めて、その明日が見えてくる」
「次のループで決着を付けるなんて言ってるから負けたんだよ、お前達はさ!」

 赤黒い獄炎が燃え広がっていく。山荘を、住人を、偽りの姿を全て包み込み、焼き滅ぼす。
 全ての偽りを獄炎が包み、灰にしていく。その中に、『希望の信仰者』と呼ばれる何かがあったようだが、偽りの世界と共に滅し消え果てるのが条理か。

 そして、夜が明ける。永遠の如き長き夜が。偽りの吹雪の殻を内側から焼き滅ぼしていく。

 ゲームは終わった。ここからは本当の戦いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『多稀望亜』

POW   :    君達が『希望』なら簡単に倒せるよね
レベル×1体の【配下のオブリビオン】を召喚する。[配下のオブリビオン]は【絶望】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD   :    ボクは何もしてないんだけどね
【狂気的に『希望』を求める心】を解放し、戦場の敵全員の【幸運】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。
WIZ   :    皆がボクのしたい事をしてくれるだけだよ
【何気ない仕草や目線】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠紅月・美亜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●LOOP END そして、真実が牙を剥く
 気が付くと、猟兵達は山荘の入り口に居た。
 全員が激しい頭痛と共に僅か1秒に圧縮された出来事を追想していた。予想通り、現実では殆ど時間が経過していない。
 だが、全てを思い出す事が出来る。この状況を作り出した目の前の相手が何者なのかも。
「やっぱり、お前が……黒幕だったか」

『あは、あはは! 凄い、凄いよ! 今何をしたんだい?』
『これはもう負けたね。いやぁ、でも凄かった』
『おっと、ごめんね。ちょっと興奮しちゃってね』

 ノア。どこにでもいる様な印象の薄い少女。七十が撃ち洩らした事に気付いてようやく居た事を思い出す程印象が薄かった相手。
 アバターではない猟兵の本体だから分かる。この、今目の前に立つ少女こそが今回の元凶『多稀望亜』であると。
「黒幕? それは違うよ。ボクはただゲームを面白くしただけだよ」
「他のオブリビオンが用意した計画を、利用して自分が望むゲームを成立させたかー……」
 幸村がガンガン痛む頭を押さえながら言った。
「うん。まあボクみたいな雑魚オブリビオンじゃ何もできないからね。手伝ってもらったんだ、時間を操れる邪神にね」
「時間を操れる、邪神!? 復活の儀式は止めた筈」
「儀式とか面倒な事はしなくても呼べる低級な奴さ。UDCだっけ? なんかそういう奴。知らんけど」
「知らんのかい」
「だって、君達ならこんな雑魚オブリビオン簡単に倒せるでしょ?」
 そう言って背後から現れたのは、大量の。
「なっ!?」
 その脅威を知る者は絶句する。未来を操作する『白騎士』と過去を喰らう『黒騎士』。世界が違う以上、同一の存在ではない筈だが、近い能力を持つ二種類のオブリビオンが配下として従っている。
「こいつ等で時間を操作してたのか……!」
「大分前に倒された奴の劣化版なんて簡単に突破できるでしょ? それじゃあつまらないだろうし、折角たっぷりと遊んだ相手が居るんだからちゃんと活用しないとね」
 そう、忘れてはならない。この山荘には捕らわれた参加者の本体が眠っているという事を。猟兵達がゲームを終わらせた以上、彼らもすぐに目を覚ます筈だ。
「ちゃんと厳選したループの記憶を与えておいたよ。上手い具合にお互いに殺し合ってくれる筈さ。まあ、猟兵の皆ならな簡単に止められちゃうだろうけど」
 それが全員、目覚め次第殺し合うと。望亜は宣言した。
「結局殺し合わせて邪神を復活させるのが目的か」
「全然違うよ。確かに殺し合えば邪神は復活するけど……それはどうでもいいんだ」
 望亜は歪な、酷く歪な笑みを浮かべて喜色満面に言い切った。
「ボクはね、君達猟兵を愛してるんだ! ああ、あんな絶望的な状況からゲーム自体をひっくり返して終わらせるなんて! 舌戦で綱渡りをして、ユーベルコードを使って一気にキル! 君達は本当に最高だ、最高の英雄だよ! だからボクにもっと君達の活躍を見せてくれ。その為の状況ならいくらでも用意するからさぁ!」

◆状況整理◆
 ゲームは終わりました。最早残るは眼前のオブリビオンを討伐するだけです。
 彼女は『白騎士ディアブロ』と『黒騎士アンヘル』に似た配下を連れていますが、本人の戦闘能力は極めて低いです。直接戦闘は配下に阻まれる場合が多いでしょう。『多稀望亜』さえ撃破すれば全てが終わります。
 しかし、山荘に捕らわれていた人々がもうすぐ目を覚ましてお互いに殺し合いを初めてしまいます。まだゲームの中であると誤認し、互いを憎み合う最悪の記憶を植え付けられた人達は何の躊躇もなく隣人を殺します。これを止めるかどうかは任意です。ただし、止めに行くとしても配下の妨害は受けるので容易ではありません。
 さあ、全てを終わらせましょう。

◆連絡な◆
 第3章は11/11(木)より受付開始します。オーバーロードで頂ける場合は受付期限を無視して構いません。
https://tw6.jp/club/thread?thread_id=71123
 シナリオ参加者用相談スレッドを用意しております。良ければご活用ください。
木霊・ウタ
心情
愉快犯ってカンジか

過去の化身となる前は
どんな奴だったのか判らないけど
色々と歪んじまってんだろうな
海へ還してやろう

戦闘
殺し合いを止める
獄炎纏う焔摩天で配下共を薙ぎ払い
道を切り拓く
妨害なんてさせないぜ

斬撃やレーザーを焔摩天を盾に防御
炎の熱と光でレーザーを捻じ曲げる

当たっても傷口から噴き出す炎でカウンター
損傷を炎の物質化

ルール?
そんなもんで俺を縛れると思うなよ
荒ぶる風だぜ

ルールという制約を地獄の炎で燃やす

序に空間に刻まれてる過去も
未来位置の予測も
絶望も焼却

炎の渦を広げて望亜を海へ還す
紅蓮に抱かれて眠れ

事後
鎮魂曲を奏でる
安らかに

腹減ったよな
拉麺喰いに行こうぜ

今度は本当の人狼ゲームをやってみたいぜ



●本当の始まり
「まぁ、ここに出るよね? ワープした時来てるしさ」
 御宮司・幸村(いいかげんサマナー・f02948)は押し寄せる情報の濁流を捌きながら言った。
「時間経過の誤差で情報処理が本業のおじさんでも処理するの大変だなー」
 大変だが、出来なくはないと。
「元はどうだったかわからないけど、ヤンデル属性同担拒否って感じだね。まぁ、こっちの応援もしてくれるなら僕なりにやらせてもらうだけだけどね」
 巨海・蔵人(おおきなおおきなうたうたい・f25425)も自分の見解を口にした。
「同担拒否ではないよ? ボクは言うなれば箱推しだし、もっと猟兵の素晴らしさを皆に伝えて共有したいと思ってる」
「その為に仕様外だった動画配信を無理矢理繋げるっていう歪さは否定のしようがないと思うけど」
「うん。まあボクはオブリビオンとしては間違いなく異端だしね。そうそう、君の動画もう普通に見れるようにしておいたからきっと凄い再生数になるよ」
「それはどうも……軽率に人の動画配信を改竄したとか言わないで欲しかったなぁ」
「愉快犯ってカンジか」
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は『焔摩天』を正眼に構える。
「過去の化身となる前はどんな奴だったのか判らないけど、色々と歪んじまってんだろうな。海へ還してやろう」
「別に元からボクはこういう奴だったんだけどね」

 一口に狂人とは言っても二種類の狂人が居る。
 一つは何かしらのストレスに耐え切れず、己の定義を狂わせた狂人。『希望の信仰者』はこのタイプだ。その要因はあくまでも外的であり、それさえ解消すれば正気に戻れる可能性がある。
 もう一つは常人では思い付きもしない要因から俗人とは異なる真理を見つけ出してしまった狂人。その一部は天才と呼ばれ俗世に評価される事もあるが、根本的に別の行動原理を持っている為どんな手段を用いても相容れる事は無い。
 この場に居る猟兵には知り得ない事だが、『多稀望亜』は元々はただの人間だった。異様なまでの幸運と異形と呼べるほどの精神。『希望の信仰者』が希望に飢えて求め続ける者なら『多稀望亜』は希望とは常にあり、全てを正しく導く不可思議な力である事を理解し疑っていない。
 自分が希望ではない事は明白。しかし、何処かに必ず希望は存在して、どんな悪巧みも必ず解決する筈だと確信している。
 だから、どんな最悪で悲劇的で難解で凶悪で度し難い惨状になっても必ず希望が解決する筈だと。出来ればそれをこの目で見たい。希望がある事を皆に教えたい。その為なら何を犠牲にするのも厭わない。
 ただの人間でありながら、その精神だけでUDCと認定される程の狂人。ただの人間程度の身体能力しか持たない最弱クラスのオブリビオンで、精神面だけでオブリビオンフォーミュラーに匹敵する程の危険性を持つ最悪のオブリビオン。
 それが『多稀望亜』だ。

「ナルホドー、因果律操作系かー……」
 幸村は猟兵としての目で望亜を見て、そのユーベルコードを理解した。
「さらに参加者さんの保護……まぁ、やらないでもいいんだけもー。目覚めが悪いのは嫌だよねー?」
 状況を整理する。幸村も猟兵としての高い身体能力は持っていない。広義で言えば同じタイプの猟兵とオブリビオン。
「当然、誰一人として犠牲者なんて出さないぜ」
 ウタは決まり切った事実として断言した。
「んー、それで? コイツらそこそこ強いらしいんだけどどうやって倒すのかなぁ? 早く見せて欲しいな」
 望亜の台詞は煽っているのではなく本心だ。この言葉には何一つ嘘は含まれていない。
 事実として白騎士と黒騎士の模倣体は単なる時間稼ぎとして配置されている。望亜も誰一人として犠牲者を出させない事を望んでいるのだ。それを全力で妨害はするし、意図的な失敗などしないが。
「ちなみに外から回るとしてもこの山荘の周囲にもちゃんと雑魚は配置してるよ?」
「言われなくても分かってるさー。で、この山荘の出入り口に射線を集中させている事もね」
 幸村は一発で巻き込まれた人達を救出するユーベルコードを備えている。だが、山荘全域を対象とするには射程距離が足りない。この山荘は上から見るとH型の配置になっていて、左右に寝室が続いている。右か左のどちらかを救出する事は出来てももう片方は救えない。
 別にそれは問題ではないのだが。
「お前の相手は俺達でするが、倒して通るには確かに時間が足りないな」
 ウタは『焔摩天』を自身の真横に掲げる。
「だからこうする」
「ではワタシ達が左側デース」
 バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は拳を握り左側の壁に向けて跳躍。同時にウタも右側の壁にむけ爆炎跳躍。山荘の壁を破壊し、人一人が十分に通れる道を確保した。
 アイコンタクトすら必要無い。黒江・式子(それでも誰が為に・f35024)は当然の事として左側の壁の穴に走り込み、幸村も右の壁の穴に向けて走った。
「なるほどなるほど。でも、それ予測済みみたいだよ」
 そう、今回の相手の片方は白騎士の模倣体。高度な演算能力により高精度の未来予測を行える。奇計奇策と言えど完全にその裏をかく事は出来ない。
 山荘を取り囲む様に配置された騎士模倣体は壁から飛び出した二人と二人にしっかりと照準を定めている。
「関係ない。分かった所で対応できない手段で行くぜ」
 ウタは【ブレイズブラスト】で獄炎の壁を作り、巨大な火の玉となって突き進む。収束し黒々と燃える獄炎がレーザーの角度を狂わせ、空間に刻まれた斬撃を焼き払う。
「つまり、ただのゴリ押しデース! 骸式兵装展開、岩の番!」
 バルタンは【模倣様式・絶対岩腕】(イミテーションスタイル・ブラキエル)を起動。未来に放つ白光も虚空からの斬撃も岩鎧で強行突破し、岩翼を広げ岩腕で殴りかかる!
 二人はそのまま宿舎の壁を突き破り、幸村と式子を送り届けた。
「邪魔はさせないぜ。お前達も全員海に返す」
「実はワタシはこう見えて、搦め手があまり得意ではありマセーン。よってパワープレイ! 脳筋の面目躍如、物理で攻めマース!」

「スゴイスゴイ! 流石猟兵だ、足止めにもならない!」
 望亜はその光景を白騎士のドローンで見ながら拍手喝采で褒め称えた。
「僕の動画視聴者達ならバットエンドなんて望まないからね」
 蔵人も自分で配置したテレビウムドローンでその光景を眺めていた。
「やっぱり、配信の邪魔はしないんだ」
「うん。ボクもその配信見たいからね」
 蔵人の【プロジェクト・うぃっしゅ】(ツナガル・ボクノセカイ)はこれから自分の配信動画を見る人達に呼び掛けて願いをかなえるという中々に凶悪なユーベルコードなのだが、補助的な使い方をすると効果の実感が薄い。
 蔵人の願いはただ一つ。完全無欠のハッピーエンド。
「皆の『イイね』が力になる愉快なバイオモンスター、蔵人君。イイねと応援、よろしくおねがいしまーす」
 蔵人はお決まりの挨拶をして次の手を考える。

◇続きます。備えよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●帰るべき場所へと行く前に
 ウタによって右側の宿舎へと無事侵入を果した幸村。
「んー、後は遙かなる故郷一発で解決はできるけどー」
 偽りの記憶を与えられ、殺人鬼状態の被害者たちを一発で正気に戻す上に家まで転移させる【遙かなる故郷】(オカエリ・キミノフルサトヘ)は確かにこの状況を一発で解決する最適なユーベルコードだ。
 でも、だからこそ。何か引っかかりを感じる。これが相手の罠とかそういう話ではなくあまりにも簡単に解決してしまっていいのかと。ここに居る人たちは結構な時間一緒に遊んだ相手でもあるし、何より遊んだゲームの記憶が悪い物しか残らないというのが気に食わない。
「もう一つ、何かないかなー?」
 あまり余計な事をしている時間は無い。何せ、通ってきた場所ではウタが絶賛足止め中(文字通りの意味で)な訳だし。
「ここは、ボクの出番じゃないでしょうか」
「あ、居たんだ?」
「ええ、解除されてなかったので。ゲーム内では今一つ活躍出来ませんでしたが今度は役に立って見せます」
 それは【愚者の解放】(イミテーションジャスティス)により召喚された逆転弁護士、ナルホドー。彼に戦闘力は無い。だが、状況を逆転させるという事にかけては右に出る者は居ない。
「記憶の一部を意図的に、選択的に与える事で殺人鬼にする……はたして、そんな都合のいい事が出来るでしょうか?」
「ぶっしゅぶっしゅ殺しちゃう」
「コロスコロスコロスコロス!」
「ケイどこー?」
「ククク、いよいよ私の真の実力を見せる時が来たようだな」
「出来てるんだよなぁ……」
 個室からドアを乱暴に開け出てくる参加者達。今すぐにでも殺し合いが始まりそうな一色触発の状況!
「異議ありッ!」
 ナルホドーが鋭く指先を突き付ける! 一瞬、動きを止めてナルホドーに視線が集まる。
「証拠品は揃っています」
 ナルホドーは幸村の持っている情報の全てを証拠品と言う形で共有している。幸村自身ですら整理し切れていない情報、今までのループで起きた様々な事件の全てを網羅している!
「記憶と言うのは選んで与えたり消したりなんて出来る筈が無いんですよ。思い出せなくなる事はあっても、無くなってはいない。その証拠品を提出します!」
 ナルホドーが残像を伴うような素早さでツカツカと決断的に歩く!
「くらえッ!」
 そして、全員に良く見える位置にそれを提出した! それは白く、巨大で、罪深い……白の巨塔!
「資料によると」
 次々と並べられる家庭料理!
「証拠品を提出します」
 次々と並べられるスイーツの数々!
「さあさあさあさあ!」
 続々と並べる安酒!
「あの時を思い出してください!」
「なんだ、こんなもの……」
「くっ、頭が痛い……!」
 幸村はその症状には覚えがある。圧縮された時間の記憶を思い出そうとする時の頭痛。だが、全てを思い出すのに一般人の脳では限界がある。
「ああ、そうだ。そういう事か」
 幸村はある一つの事実に辿り着く。
「都合の悪い記憶だけを厳選して与えた? 違うね、そんな殺伐としたゲームじゃなかったよ。皆結構楽しくやってた、だからその憎しみの記憶は全部……偽物って訳だ」
 幸村が手に持った『Spiel Onkel』から電子の海が放射される! それはナルホドーによって更に強化され、射程範囲内の対象の消去すべき偽りの記憶を洗い出す!
「消す者が分かれば後は簡単。ぽちっとな」
 【Jamming Storm】(キオクハボウキャクノカナタ)によって望亜が与えた偽りの記憶が消去される! それによって蓋をされていた本当の記憶が溢れ出て蘇っていく!
「ああ、そうか……」
「そうだ、ゲームだったんだ」
「ああ、結構楽しかったよな……」
 しかし、溢れる情報量は一般人には負荷が大きい事に変わりはない。だから、今こそ。全てを一発で解決するユーベルコードを使う時だ!
「さあ、楽しいゲームは残念だけどおしまいだ。君達には帰る場所がある」
 【遙かなる故郷】(オカエリ・キミノフルサトヘ)再び放たれる電子の海が、記憶の混濁と脳への負担を癒し、帰るべき場所へと転移させていく。一人、また一人と優しい眠りに落ち、参加者達は電子の海に泡のように溶けていく。次に目を覚ました時は本当の自分の部屋だ。
 今日起きた事は夢として処理されるだろう。夢と言うのは脳に溜まった情報を整理する作用もある。それが安らぎをもたらす、本来の夢の作用だ。
 全員が転移した事を確認すると、幸村は踵を返す。
「さて――後方の憂いはとれたけど、因果律操作系はほっておけないねー。素敵なゲームにご招待頂けたお礼もまだだし」
 
●翳喰らい
「あーもう、なんて面倒くさい事を……」
 バルタンの援護によって左側の宿舎に突入した式子も行動を始める。
「一般人の鎮圧位なら準備の前段階って所ですかね」
 自らの足元を起点に制御下の影の茨を張り巡らせる。現実としてのこの山荘はゲーム中の様な謎の光源は無い代わりに、天井に等間隔で並べられたLEDライトで照らされている。普通の光源で出来る普通の影なら式子の影は弾丸よりも素早く展開する。
「ケヒャー!」
 だから、突然扉を蹴破る勢いで突っ込んで来た老人にも易々と対処できた。
 【諦観の泥濘】(テイカンノデイネイ)相手の活力を奪う事により一時的な行動不能に陥らせるユーベルコード。
「ケヒャー!?」
「なんなんですかね、あなた。どうにもあなただけゲームとか関係なくそういう人のような気がするんですが、私は警察では無いので」
 死なない程度に生命力を奪い、落ちたナイフを蹴り飛ばす。そのナイフには危険な毒物が塗られていた。猟兵であれば即死はしないだろうが、十分に殺意の高い凶器だ。
「貴女には死んでもらう」
「ブッ殺してやる!」
「死ね死ね死ね死ねェーッ!」
「あなた達、もはや普通に仲いいですよね?」
 ナイフ、金属バット、包丁を手にして部屋から飛び出した三人を影の茨で捕える。この場は既に、式子の領域。張り巡らされた蜘蛛の巣の如く、微細な動きもすべて把握できる。
「一先ず、全員事が終わるまで自室で大人しく寝ててください」
 影の茨に捉えられた参加者達は回れ右して自室に戻る。飛び出して来なかった人も既に部屋の中で影の茨に捕らわれている。標的を視認する必要などない。【欺瞞の徒】(ギマンノトモガラ)は直接影を操作するのではなく、式子の意思に従う影法師を呼び出すユーベルコード。部屋の中に侵入した影法師が自動的に対処する。
「鎮圧完了ですね」
 式子はふと、己の懐の記憶消去銃を意識したが、使う必要は無いと判断した。操作されている記憶だけを選んで消すとなるとユーベルコードの領域だ。
 踵を返して戻ろうかとも思ったが、ちょっとした事を思いついたので山荘の中の方へと歩いていく。
「この山荘の内部構造は良く知ってますからね」
 そこにそれがある事は良く知っている。このゲームをまともに遊ばず、傍観者に徹した相手はある事は知ってても今猟兵が活用するとまでは思っていない筈。
「それにしても、うっとおしいですね」
 この戦闘の様子を撮影している白騎士のドローンを影法師で一掃し、式子は山荘の内部へ走り込む。
 
●未来を灼く獄炎、過去を纏う岩鎧
「後は追わせないぜ」
 そのままの勢いで幸村を宿舎に送り届けたウタは獄炎の翼を広げる。羽ばたくのではなく、背中側で爆発させた勢いを大きく受ける為の翼。空中制動の小さな爆発を挟みつつ、白騎士に『焔摩天』を振りかぶって一閃する。しかし、
「やっぱり、そう簡単には当たらないか」
 ただでさえ大振りで勢い任せな斬撃は多少の障害を無視して突き進める反面、避けようとすればあっさりと避けられる。相手は機動性と未来予知に特化した存在だ。だが、そんな分かり切った事にいちいち何かを思うウタではない。
「当たらないなら当たるまで斬り続けるだけだぜ!」
「イクザクトリィー!」
 岩の翼を広げ、岩の風切羽で豪快に空気をぶん殴って飛翔するバルタン。見た目岩の塊なのに何故か飛べるのは模倣しているのが神の祝福の名を持つ大天使だからか。
 空間に刻まれた斬撃を絶対物質の鎧で弾き飛ばしながら強引に接近。三種の呪剣もその効果を発動する前にブン殴って沈める。

 確かに、一見すると強力無比で対策しようがないユーベルコードは存在する。過去の鍛錬の経験を封じ、過去の戦闘の経験を封じ、戦うに至った過去を封じる呪剣等はまるで突破する方法が見いだせない。
 だが、そう言った効果を持つユーベルコード程逆に、単純な暴力で圧倒されると弱かったりもする。この場合は元になっている奴ほど個の出力が高く無い事もあるが。

「弱敵なのデスよー!」
 バルタン自身もかつての強敵を模倣したユーベルコードを使ってはいるが出力が違う。地を蹴り、一度の羽ばたきで距離を詰め、そのまま蹴り倒す。絡み付こうとする呪剣を蜘蛛の巣でも払うかのように腕を振るうだけで弾き飛ばし、地を蹴ってぶん殴る。
 近付いて殴る、やる事はただそれだけ。脳筋と言う物はこのたった二つの動作を極限まで突き詰めた者の事を言う。防ぐとか避けるとか纏めて攻撃するだとかは要らない。

 一方のウタはまた別の手段で対抗していた。ウタの場合、そもそも剣が当たる位置まで近付く必要すらない。相手が避けるなら避けられない攻撃をすればいいだけの事だ。
「纏めて焼き払うぜ!」
 『焔摩天』を振り回すのはその方が気持ちが昂るからである。気持ちの問題を軽く見てはいけない。調子に乗っている奴は足元を救われるが、慎重すぎても事は運ばないのだ。特に炎と言う熱を高める物を使う場合は勢いこそが何より大事だったりする。
 剣先から放たれるのは赤黒く燃える獄炎の嵐。例え光速で放たれる射撃を避ける手段があるとしても、降り注ぐ雨を全て避ける事など出来る筈もない。ましてやそれが横殴りの暴風雨で、雨ではなく獄炎ならば傘を差した所で纏めて焼き払われるだけだ。

「相手にならないかー、スゴイな!」
 その様子を観戦している望亜が歓声を上げる。
「あ、でもアレはちょっと防げない気がするんだけどどうするのかな」

 白騎士の攻撃は悉くが無効化されている。一体に付き66体の撮影ドローンを放って自身の予知精度を高めるユーベルコードもあるのだが、ウタの範囲攻撃はそのドローン事纏めて焼き払えるので全くの無意味だ。
 だから、この二人に通るのは黒騎士の持つこのユーベルコードだけ。

「うっ!」
「ンアーッ!」
 ウタとバルタンが一瞬足を止める。レーザーでも呪剣でもない。過去に刻まれた傷跡を再現する黒騎士のユーベルコードによってだ。直接ダメージを与えるのではなく、既に受けたダメージを再現するこのユーベルコードはどんな強靭な鎧であっても意味がない。
 だが、この二人にとってはそれすら関係なかったらしい。
「被ダメが怖くて脳筋やってられるかって話デース!」
 リアルマンとはかくあるべし。この場合はリアルウーマンか? そんな細かい事はどうでもいい。ただ近付いて殴るだけなら当然ダメージを受けまくる訳だが、それを嫌って防御や回避にリソースを割いているのは真の脳筋ではない。殴るべし、ただ只管に近づいて殴るべし。
「HAHAHAHAHA!」
 岩の鎧の隙間から血を滴らせながら哄笑し暴れ続けるのは狂気と紙一重。
 そしてウタもまた別の意味で傷を恐れていなかった。
「そんな物で俺を止められると思うなよ。俺は荒ぶる風だぜッ!」
 傷口から噴き出るのは血ではなく獄炎。己の存在を炎に換えてますます荒ぶる獄炎の嵐。
 一見するとただ闇雲に暴れているだけの用ではあるが、そこには一つの理由があった。
「過ぎ去った過去の傷を幾ら開いても、今ここに俺が居るという事実は消えないッ!」
「HAHAHA! 現在HP依存の割合ダメージなら死にはしないのデース!」
 そう、このユーベルコードではトドメが刺せない。無論、傷口が開けば出血し、血を流し過ぎれば猟兵とて死ぬ。だが、肉体を凌駕する魂を止めるにはやはりユーベルコードを以て仕留める必要がある。黒騎士と白騎士にはその一手が無い。或いは、本来の力を持つ白騎士と黒騎士ならばそんな事は無かったのだろうが、ここに居るのは結局は量産された模造品なのだ。

「防ぐ必要すら無いって訳だ」
 望亜はその様子を楽しそうに、いや、実際楽しく視聴している。何せ白騎士ドローンが駄目でも蔵人の配信動画がある。味方の活躍をばっちり収めるテレビウムドローンがある。
「で、そろそろ君達も僕に攻撃を届かせてもいいんだよ?」
「簡単に言ってくれますねぇ」
 七十が呟くように言った。
「直掩に一対のフルスペック黒騎士&白騎士モドキを置いておきながら。それを突破するのは簡単でもないんですよ?」
 この場に残った白騎士と黒騎士は僅か一対。しかし、この二体は模倣体でありながらかつて出現した本物に近い実力を持って立ちはだかっている。
 七十、慄、蔵人の三人は本体である『多稀望亜』をこの場に足止めし、隙あらば仕留めるべくこの場で戦っていたが、未だ決定打は打てずに居た。
神咲・七十
アドリブ・連携お任せ

面倒そうなあたりは他の方がやってくれるそうですし、私は倒すことに専念しますか。

とは言っても、この白騎士と黒騎士って人達、私完全に初めましてなんですよね~。
まぁ、いいや、たとえどのような相手であっても食べ尽くしちゃえば、すべて等しく私のものですよね~♪

(UC『万花変生』を使用。戦う前に識別できるように味方と中の人に香りをつけて)

準備はこんなものですかね?
絶望や希望とかの感情に訴えられるというのなら……感情も意識もすべてたった一つのものにまとめてしまえばいいですよね。

(自身の体を大量の草薬による自己強化と一時的に自身を食欲だけで満たしきり、香りをつけてない敵を大量の蔓と隷属の力を宿した肉弾戦で喰い尽くすまでそれ以外のことに目を向けないようにして戦います。隷属化できるならそのまま取り込んで隷属化しようともします。)


拉麺ですか……これから行くお店は早仕舞いすることになりますね♪(店の残ってる在庫を喰い尽くすつもりの生き物)



 
●蹂躙する狂食者
 時は少し遡る。四人の猟兵が宿舎側の対応に当たっている間に、残った猟兵はただ観戦した訳では無い。
 七十は広域制圧を得意とする猟兵だ。相手の数が多ければ多い程実力を発揮する。身体的には脆弱な『多稀望亜』に一発だけでも巻き込めれば終わる。だが、望亜はその場から動こうともせず、送られてくる映像に夢中になっている。
 随分と舐められた物だ。目の前にも猟兵は居るというのに。
「面倒そうなあたりは他の方がやってくれてますし、私は倒すことに専念しますか」
 七十は【万花変生】(バンカヘンジョウ)を発動し、未知なる植物の蔦を周囲一帯に張り巡らせる。だが、万花変生はあくまでも対象に敗北、屈伏、服従などの感情を与えなければ効果が発動しない。
 だから、全てを圧倒した。全てを敗北させた。
「この白騎士と黒騎士って人達、私完全に初めましてなんですよね~」
 過去を封じる呪剣、未来予知の光線。それが、どうした。
「まぁ、いいや。たとえどのような相手であっても食べ尽くしちゃえば、すべて等しく私のものですよね~♪」
 七十は一つのユーベルコードを切る。そのユーベルコードは四つのユーベルコードを紐付て発動させる、制圧する為のユーベルコード。
「Dornen, die Blut saugen」
 【制約:簒奪者】(セイヤクサンダツシャ)により、七十の内側から特異な杭が突き出る。寄る者全てから血と寿命、生命力を奪う紅の杭。
「Rose, die das Leben isst」
 【生を削り食う者】(セイヲケズリクウモノ)を強制発動する【制約:狂食者】(セイヤクキョウショクシャ)により一切の防御を捨て、再生力の超強化。
「Vine Quetschen des Blut」
 【制約:独裁者】(セイヤクドクサイシャ)で放たれるは夜陰のオーラ。今まで奪ってきた血、寿命、生命力に比例した自己強化と飛翔能力。
 その全てを一発で発動する【外伝:紅色蝶】(ガイデンベニイロチョウ)自体の性質により攻撃力を強化。
 それは圧倒的な、正しく相手を圧倒するユーベルコード。攻撃を加えて止めようにも即座に再生されるし、一切止まらない。瞬時に目の前まで詰められ、無数の杭で貫かれる。そのまま全てを奪われて隷属させられる。
 かなりの代償を支払うユーベルコードだが、支払う代償はその場で敵から吸収できるという暴虐っぷり。
「絶望や希望とかの感情に訴えられるというのなら……感情も意識もすべてたった一つのものにまとめてしまえばいいですよね」
 七十自身すら制御できているのかどうなのか。大量の薬草により自己強化と、全てを食欲で満たす事で半ば自動的に敵を貪り喰らう怪物となっている。
 ちなみに、味方に被害が行かない様に苦手な香りを付与済み。先に使った万花変生の植物結界によって範囲を絞って中央棟の中だけで暴れられるように対策済みだ。
「おお、こっちも凄いね。まるで死の河だ」
 次々と貪られていく白騎士を黒騎士を見ながら歓声を上げる望亜。だが、望亜本人に攻撃が及びそうになると、傍に控える黒騎士の斬撃結界がそれを弾く。白騎士の未来予測により弾き出された位置にあらかじめ斬撃を刻んでおく事により強固な結界になっている。側近の二体だけは本物に迫る実力か? 七十がそれを理解しているかどうかは定かではないが、そう長くない時間で暴れ狂った狂食者はその場にいた半数から生命力を奪い切り、残り半数を従えて残った三体のオブリビオンに突撃する。
 黒騎士が、過去を封じる呪剣を振るった。全てはこの一瞬、この瞬間、ただ一撃のみで十分だと。七十が隷属させ、構成していた物全てが幻の如く消え去った。
「おっと」
 七十自身の存在まで消されかけたので全てを切り離して後方に跳躍し離脱。本体へのダメージは無い。相手はたった三体だけを残して全てが消し飛ばされた。
「なるほど、これが猟兵最初の戦争で猛威を振るった白騎士と黒騎士の本当の実力と言う所ですか」
 発動コストも継続コストも現地調達した上で全部を全方位から収束し貪りに行ったのにただ一撃で弾かれた。

「で、そろそろ君達も僕に攻撃を届かせてもいいんだよ?」
「簡単に言ってくれますねぇ」
 七十が呟くように言った。
「直掩に一対のフルスペック黒騎士&白騎士モドキを置いておきながら。それを突破するのは簡単でもないんですよ?」
 相手の強さは認めよう。だが、七十に焦りはない。この時点で己が果たすべき最低限の目的は達成しているのだから。
「エントリィーッ!」
 再び壁を突き破りダイナミックエントリーしたのはバルタン。
「待たせたか?」
 窓を突き破り参上したウタ。
「お待たせー。他の人は全員退避させたよ」
 式子が無力化した分まで送還した幸村。
「残りは三体だけですか。随分と減りましたね」
 仕込みを済ませた式子。
「わあ、他の奴ら全部片づけたんだ! 凄いなぁ、雑魚とは言え強めの雑魚だったのに」
 それでも望亜は動じない。己が果てるその瞬間まで望みを失う事は無いのだろう。
「いよいよ戦いはクライマックスだ。皆、イイねと応援よろしく」
 蔵人はただ一つの叶える願いを見定めながらカメラに向けて言った。

 長かったこの戦いも、この夜も。いよいよもってここに最終局面を迎える。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バルタン・ノーヴェ
諸々OK!

山荘のエブリワンは幸村殿たちが対応してくださりマスネ?
ならばワタシは全力でオブリビオンの排除に向かいマース!

実はワタシはこう見えて、搦め手があまり得意ではありマセーン。
よってパワープレイ!
脳筋の面目躍如、物理で攻めマース!

真の姿、開放!
「骸式兵装展開、岩の番!」
そちらが白騎士と黒騎士の力を模倣するならば、我輩はオブリビオン・フォーミュラの力を模倣するであります。
未来に放つ白光も虚空からの斬撃も、岩鎧で強行突破。
岩腕や岩翼を振り回し、ヒャッハーと大暴れするであります。
貴殿の言う通り、敵が劣化しているが故に可能な力技でありますな。

焔や影法師を伴い、思う存分に派手に戦うであります。
そうして脅威を見せつける我輩へ対処しようと意識を向けたのならば、きっと皆様が隙をついてくださるでありましょう。

(無論、ただの囮で終わるつもりはなかろう? 我が力を以て、銀河帝国の残滓などねじ伏せて見せるがいい。)

(事後、解除して)
お疲れ様デース!
ラーメンでありますか?
良いデスネ! 良い店を教えてくだサーイ!



●過去を突き破る暴力と暴食
「気を付けてくださいね。あの呪剣、三本ともまともに当たると消し飛ばされますので」
「了解デース。骸式兵装展開、岩の番!」
 分かっているのかいないのか、バルタンは抱えた巨大な何かを頭上に掲げて突撃する。

 過去の鍛錬の経験を封じる白の呪剣、過去の戦闘の経験を封じる黒の呪剣。この二つはまだ対処は可能だ。だが戦うに至った過去を封じる灰の呪剣、これが厄介だ。この場に居る理由その物を消されてしまう。
 外に居る奴や、七十が蹂躙した奴らなら問題は無かった。この場に居る因果を消すには出力が足りなかった。だが、この限りなく本物に近い黒騎士は違う。灰の呪剣をまともに受ければどこか遠くに飛ばされて、今まで何をしていたのかすら思い出せなくなるだろう。
 七十はそうなる前に封じられた部分を切り離した。奪った部分は失ったが、七十本体にダメージは無い。

「HAHAHA! そんな攻撃では止められまセーン!」
 空間に刻まれた斬撃を岩鎧で受け止めながら、バルタンは突き進む。一見、何も考えていない無謀な突撃のようだが、彼女が掲げている巨大な塊が何なのかを理解すればそうではない事が分かる。
 投じられる黒と白の呪剣。念動力で生きる武器のように飛び、バルタンに斬りかかる。バルタンは岩鎧でそれを受ける。だが、白の呪剣は鍛錬を、黒の呪剣は経験を封じる。その効果自体、鎧で受けられる物ではない。
 だから、バルタンは岩鎧で受けて、自身で受けなかった。
「ジャケットアーマーパージ! ウィング展開、ドライブ全開!」
 命中する前に岩鎧を自分自身から切り離す。七十が先に実証している事だ。切り離してしまえば本体への影響はない。ただの岩なら経験も鍛錬も何もない。
 岩の翼を展開して翼で殴り、殴る傍から分離する。その歩みは決して早くないが、ツカツカと決断的な歩調であった。
「不明なユニットが接続されていマース。システムに深刻な障害が発生してマース。直ちに使用を停止してくだサーイ」
 バルタンを止める手段がない。半ば自らが積んでいる事を理解しつつも最後の呪剣、戦うに至った過去を封じる灰の呪剣を放つ。
「この瞬間を待っていたのデース!」
 バルタンは決断的に、頭上に掲げたソレで灰の呪剣を叩き潰した。
「定礎デスッ!」

 定礎とは、本来は建築物の基礎となる礎石を定める事を指していた。しかし、建物の完成や存続を祈る儀式としての意味合いが強くなり、現在ではほぼこちらの意味でしか使われていない。ビル等の入り口などにある「定礎」と刻まれたプレートの中には金属製の定礎箱が埋め込まれ、図面や出資者名簿などが入っているという。
 つまり、建物の歴史そのものである。それを消すという事はどうなるか。今ここに建物があるという事実が消えて、計画も何もかもが無かった事にされるだろう。
 それは己の主が望まない事だ。だから、定礎を灰の呪剣で破壊する訳にはいかなかった。
 まあ、そもそもの話。巨大な建物に相応しい巨大な定礎プレートを力技で引っこ抜いてこんな場所まで持ち込むという事自体本人以外誰も想定している筈が無い。

「ふー、やっと軽くなりマシた」
 封じられた呪剣。あまりに想定外の物を持ち込まれたという衝撃。それは黒騎士にとって確かな敗北感である。その隙を七十は見逃さない。
「ようやく、頂けますね」
 急速成長する奇怪な未知の植物。二本になった呪剣で刻み、既に刻まれた斬撃を使いながら暴食の植物に対処する。高威力、高命中ではあるが必中ではない。
「デェースッ!」
 そこにバルタンが殴り掛かる。やはり黒と白の呪剣は対処されてしまう。
 止められない、止めようがない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒江・式子
あーもう
なんて面倒くさい事を……

とにかく私が成すべきは
こちらの作戦を通す為の
隙を作る事
自分の足元を起点に
影の茨を広く巡らせます
ノアや騎士達はもちろん
一般の参加者達の影をも次々経由し拡散させて
彼らの足元から影法師を沸き立たせます
憎悪、執着、渇望
そういった心の〝翳り〟は
〝翳喰らい〟が特に好むものです
触れれば茨がほどけて全身に絡みつき
感情は希釈され
体力は擦り減り
行動しようとする活力は枯渇していきます
大丈夫、命に別条はありません
何のやる気も起きなくなる程度です
これで参加者の皆さんの抵抗も薄くなるでしょう
もしそれでも止まらなければ
記憶消去銃を使用します

オブリビオン達に対しては
足止めとは行かずとも
幾らかの妨害になれば十分
彼らの元に現れた影法師にも
私達を庇わせる事が出来ますので
良い時間稼ぎになるでしょう
これが私の精一杯です

いいですね
仕事明けのラーメン
ガッツリ食べたい気分です



●未来を祓う劫火に照らされ深まる翳
 同時にウタは白騎士に突撃を仕掛ける。攻撃を予測し、回避を予測する白騎士。どんな攻撃も当たらなければ意味は無い。
「貴方の未来予知、一体何処まで見えるんでしょうか」
 式子は距離を詰める必要もないので遠方からただ影法師を操る。
「1秒か、1分か、1時間か、1日か、1年か……まあ、流石に1年は無いですかね。まあ、バルタンさんが定礎を持ち込む事を予測できなかった時点でそんなに長くはないと思いますが」
 未来を予知するとは言っても、その全てを把握する事はほぼ不可能だ。認識力の限界がある。例えば、1時間までの情報を得る事が出来るとして、その情報を把握するのに1時間かかるなら何の意味も無い。情報を取捨選択し、圧縮する事で実用的な未来予知を実現しているのだろう。
 だから、あまり先の未来を見る事は意味が薄い。遠い未来で起きる大災害を予知するならともかく、今目の前で行われる戦闘に役に立つ予知となると精々1分程度を詳細に把握する方が役に立つのではないだろうか。
 白騎士は黙して語らない。だが、その考えは間違いではない事は行動で分かる。
「憎悪、執着、渇望。そういった心の〝翳り〟は〝翳喰らい〟が特に好むものです」
 与えられた偽りの記憶から生じた物だとしても、それはやはり負の感情に違いは無い。それを貪った翳喰らいの影法師は今やこのラウンジの至る所の影に潜んでいる。山荘中のベントを経由し、完全なる包囲網を敷いたのだ。
「お前の作る理不尽な未来なんて御免だ」
 ウタは赤黒い劫火を身に纏い、白騎士に斬りかかる。その炎の光に照らされ、影が動く。影が産まれる。光と影は常に表裏一体。
 全力で振り下ろされる『焔摩天』。その動きはやや精彩に欠けている。バルタンもそうだが、外の敵に対処した時に受けたダメージは軽くない。完璧な動きで躱し、反撃の光線を撃とうとする白騎士。だがそれは放たれる事無く影に喰われる。
 外での戦いは一人だった。だが、今度は背中を預ける相手が居る。振り向きながらの横一線。白騎士が躱す。ウタは横薙ぎの勢いのままに肩から体当りを仕掛ける。光源となる焔摩天が逆側にある事により生じる、ウタの影に潜んだ影法師が白騎士に絡み付き、反応を遅らせる。それでも避ける。後方にステップし、高く飛ぶ。空中ならば影は無い、とでも言わんがばかりに。
 確かに空中に影は無い。だが、天井に影はある。亡者の手の如く天井より伸びる無数の影の腕が、白騎士の身体に掴みかかる。下からは既に跳躍したウタ。横にスラスターを吹かして避けようとする。
「往生際の悪い。翳から逃げる事なんて誰にも出来ないのに」
 そう、光があれば影は産まれる。他ならぬ、白騎士自身の影だ。あええてそれを今まで使わなかったのは上に逃げると予測し、影法師を配置していたため。
 未来予知なんかなくたって、未来を予測する事は誰にでも出来る。それが猟兵なら猶更に。
「終わりだぜッ!」
 ウタの焔摩天が突き立てられる。白騎士を一気に焼却しようとする劫火。最早この先の余地も何もかも捨てて全力で逃げ伸びるより他に無い。ブースターを超過駆動し、強引に拘束を振り切る。劫火がその身を掠め、決して浅くない傷を刻む。

 白騎士にとってそこが死地である事は既に分かっている。だが、それでも。主は守らなければならない。最後のその瞬間までは。
 それこそが主の望みなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御宮司・幸村
まぁ、ここに出るよね?ワープした時来てるしさ
時間経過の誤差で情報処理が本業のおじさんでも処理するの大変だなー
白騎士と黒騎士、加えて『多稀望亜』
ナルホドー、因果律操作系かー…
さらに参加者さんの保護…まぁ、やらないでもいいんだけもー
目覚めが悪いのは嫌だよねー?

発動―遙かなる故郷!
対象は猟兵以外の全員
参加者さん達は安全に目を覚まし帰還する筈
ボスには効かないだろうけど、ダメージは期待出来るし
あわよくば白騎士黒騎士には御退場頂けるかもだしねー

さて―
後方の憂いはとれたけど、因果律操作系はほっておけないねー
素敵なゲームにご招待頂けたお礼もまだだし
おじさんも戦力で言ったら雑魚猟兵
でも、ゲームと因果律操作系はおじさんも得意なんだよー!

発動!【マンガやアニメでありがちなデスゲーム】
とは言えおじさんの武器はタッチペン1本…

隙はきっと仲間が作ってくれるから
生じた隙を見逃さずワンパン入れるよ

指定条件は《全ての望みを捨てる》事
希望、絶望、願望、渇望、眺望…etc
おっと失望もOUTだからねー?

新しいゲームの開始だよー


巨海・蔵人
◼️心情
元はどうだったかわからないけど、
ヤンデル属性同担拒否って感じだね。
まぁ、こっちを応援もしてくれるなら僕なりにやらせてもらうだけだけどね

◼️用意と方針
幸村さんに貰ったHMD装着、
これで処理能力上げてくよ。
まずは指定UCで改めて呼び掛け、からの、
いきなりクライマックスからになっちゃったから、
後で構成やり直すとして。
望亜さんのお望み通りテレビウムドローンでここにも配信したちゃおう。
皆の状況に合わせてそれぞれをクローズアップ、
これで僕のうぃっしゅでのブーストをある程度指向性ができるはず?
まずは幸村さんからね。
テレビウムドローンで山荘への侵入をするよ、
まぁ、囮なんだけど。
数は多いし、僕が防衛と配信特化のUC持ってるのは知られてるからね無視は出来ない。
後は幸村さんのUCに画像を合わせて、
なぜか幸村さんがホールインワン決めてるとこ?
後はバルタンさんとウタさん良い感じの活躍のところで望亜さんからは黒騎士白騎士で邪魔になるようにテレビウムドローンの画面の向きと位置取りするね。
帰りの拉麺屋ググりつつ



●願い
 黒騎士と白騎士を倒してこそいない物の、体勢を崩した瞬間。
「ここだ、この瞬間に決めるしかないよー!」
「皆の願い、今ここでホールインワン!」
 幸村がタッチペンを奔らせ、蔵人が視聴者に呼び掛けた。

 この瞬間、【プロジェクト・うぃっしゅ】(ツナガル・ボクノセカイ)は発動し、その願いは叶えられた。

「なんだかんだ言ってもさ……君、自分が還るつもりは無いよね。白騎士と黒騎士無理矢理残してるし」
「それはそうだよ。だって、還っちゃったらもう猟兵の活躍が見れないじゃん」
 望亜は当然のように答えた。
「ボクみたいな雑魚オブリビオンを倒すなんて簡単過ぎるだろうけど、こういう時は何故か生き残るんだよね。まあ、ボクのちっぽけなユーベルコードでも逃げる事位は出来るらしくて」
「そりゃそうだ。だって、猟兵が自分の手下を倒す事は君の願いで、おじさんたちはある意味今でも君の手のひらで踊ってるだけだからねー」
「わあ、気付いてたんだ」
「最初からね」
「凄いなー、それで次はボクを殺す気なんだ! 一体どうやってボクを止めるんだろう!」
 そう言って望亜は、己のこめかみに突き付けた銃の引き金を引いた。

●LOOP 156?
「あは、あははは」
 望亜は一人、哄笑する。
「ははははは! は は は は は!
 は  は  は  は  は  !」
 自室のベッドに寝たままで。起き上がるのも面倒だと言わんがばかりに。
「ざぁんねんでした! 折角ループを抜けたのに! またゲームは最初からで、また全員記憶を無くして、また全員吊るして、ボクの所に辿り着いて……何回目だっけ、コレ」

●LOOP 4643483
「この位かなぁ? ここまで来たのも初めてじゃなくってさぁ……何度も失敗してるんだよね! ボクの自殺を止められなくて! ボクが死んだらループの最初に戻る様にセットされてるから!」
 望亜は独り嗤う。
「ねえ、君達はあと何回続けられる? ボクは何回でも構わないよ。ずっと、ずーっと遊ぼうねぇ!」

●現実と虚構の狭間で
「と、言う具合の夢を見てるよ」
「「「うわぁ……」」」
 実現していたら中々の地獄絵図だ。
 蔵人の願いは『今ここで決着を付ける事』だ。望亜は実際、自分が死んだ時にループの最初に戻る罠を仕掛けていた。だが、動画視聴者達はそんな決着の先延ばしを望む筈が無かった。
 ゲームは既に、終わっているのだ。継続を望んでいるのは望亜だけだ。
 幸村の仕掛けた【マンガやアニメでありがちなデスゲーム】(テノヒラノソンゴクウ)によりエミュレートされた『アモングループ』の中で、望亜の意識だけがまだ遊び続けている。何度偽の猟兵と戦ったのか、何度偽りの結末を迎えたのか。
「もし君が全ての望みを捨てる事が出来ればそこから出られるんだけどね」
 英雄に希望を持ち、自分に絶望し、活劇を願望し、満たされぬ渇望と永遠の羨望に満たされた『多稀望亜』にとってそれは不可能な事だろう。己の在り方を曲げない限り、その在り方だけが唯一の武器であるが故に。
「じゃあ、終わらせてやろうぜ」
 それでもまだ、白騎士と黒騎士は主を守ろうとしている。もはや自分では指一本動かせずに微睡み続ける主を。

●エミュレータシステム・リトル・視線恐怖の袋小路の無限の万花全てを無かった事にブラスト
「状況スタンドアローン、中核ユニット停止、基幹システム該当無し。オーバーフロー開始、中核ユニットエミュレートシステムフラワーズ起動」
 巨海・蔵人のエミュレータシステム・リトル・フラワーズ(カリソメノガンボウキ)!
 未だ主を守ろうとする白騎士と黒騎士を仮初の幸福で満たし判断を鈍らせる!
「それでもまだ、そんな目で私を見るのなら!」
 紡木原・慄の視線恐怖の怪異(シセンキョウフノカイイ)!
 白騎士の敵意に満ちた眼差しに反応し、視線を遮る視線を遮る黒いゲル状の人型UDC怪物が出現し覆い尽くして対応を鈍らせる!
「最後に一つ、不運と踊って頂きます」
 黒江・式子の袋小路の轍(フクロコウジノワダチ)!
 既に斬撃結界を展開する余地を喪失した黒騎士に無数の影法師が解け壁の茨となって絡み付き、そのユーベルコードを全て封じる!「弾幕で負荷をかけマス! 六式武装展開、鉛の番!」
「「「バルバルバルバル!」」」
 バルタン・ノーヴェの無限の弾幕(アンリミテッド・バラージファイア)!
 ミニ・バルタンがガトリングガンを構えて全方位展開し、礫の嵐を浴びせる!
「ようやく、敗北を認めましたね~♪ まあ、もう何も命じる事はありませんが」
 神咲・七十の万花変生(バンカヘンジョウ)!
 謎めいた植物が白騎士と黒騎士に喰らい付き、遂にその隷属化を達成する!
「さて、そろそろ帰って来てもらおうか。最後のフィナーレ位見せてあげてもいいよねー! あ、ぽちっとな」
 御宮司・幸村の全てを無かった事にするモノ(ゼンアクノハメツ・ソシテセカイノオワリトハジマリ)!
 精神と肉体の強制リセットにより多稀望亜を強制的に現実へと呼び戻す!
「希望も絶望も終わりだ。紅蓮に抱かれて眠れ!」
 木霊・ウタのブレイズブラスト!
 過去も未来も全てを何もかも、焼き払い骸の海に還す獄炎が全てを焼き払う!
「サ・ヨ・ナ・ラ!」
 白騎士、黒騎士、多稀望亜は爆発四散! 猟兵達の完全勝利だ!

●本当に、本当にお疲れ様でした
 爆発四散を確認後も、まだ何かしらの仕掛け残ってない事を確認し、猟兵達はようやく残身を解く事が出来た。
「お、終わったー……」
「お疲れ様デース!」
「お疲れ様でしたぁー……」
 肉体的に負傷した者はその傷をユーベルコードで癒したが、精神的な疲労が強い。
 何せ、体感時間では相当に長い一日だった。夢の中で眠った所で眠ったような気はしない。
「今度は本当の人狼ゲームをやってみたいぜ」
「あーうん。なんか、普通の人狼したくなるよねー」
「えぇー……」
 体は疲れ切ってはいたが、眠いという訳でもない。まだここは敵地と言える場所だし、UDCが後片付けをしてはくれるんだろうが。何より今眠ると妙な夢を見そうだ。
「腹減ったよな。拉麺喰いに行こうぜ」
 それでもいつものように鎮魂歌を捧げ終えたウタがそう言った。
「ラーメンでありますか? 良いデスネ! 良い店を教えてくだサーイ!」
 疲れてはいるはずだが、元気なメイドが言った。
「いいですね、仕事明けのラーメン。ガッツリ食べたい気分です」
 一仕事を終えたエージェントが同意した。
「拉麺ですか……これから行くお店は早仕舞いすることになりますね♪」
 店の残ってる在庫を喰い尽くすつもりの生き物がそれに同意した。やめてあげなさい。
「いいねーラーメン! 行こう行こう!」
 HMDを付けたままのおじさんが言った。
「今からですか……まあ、たまにはこういうのも悪くない、かな」
 希望の物語を紡ぐ作家が言った。
「じゃあ、お店調べるね」
 見るからに大食いの大男が言った。

 何件か候補はあったが、こういう時は一先ず近い店に入る物だ。繁盛店に並ぶ程の余裕は無いし、あまり遠くの店までぞろぞろと歩くのも案外面倒な物である。
 選ばれた店は近くにあった道の駅のラーメン。半端な時間だったので他の客も居ない。
 メニューは多くは無かった。なんとなくそそられる物を感じて鯛だし白醤油炙りチャーシューメンを全員が選ぶ。
 黒い逆富士の器に盛られたチャーシューメン。炙られたチャーシューの香りが何とも食欲をそそる。
 まずはチャーシューを一口。口の中にさっぱりとした旨味が広がる。導かれるままに透き通るスープが絡む麺を口に運ぶ。
 美味い。さっぱりとした魚介スープが疲れた体に染み渡る。汁の一滴に至るまで旨味が詰まっているようで……気が付けば完食していた。
 ラーメン一杯分の質量がおなかに貯まる。特別量が多い訳では無いが、久しく感じていなかった満腹感だ。
 ある者はまだ足りないと追加の一杯を頼み、ある物はサイドメニューのから揚げに舌鼓を打ち、ある者は道の駅の土産コーナーに引き寄せられていった。

 こうして、ひとつの事件が幕を閉じた。世界の命運を左右する事は無く、20人の命を救った、猟兵達にはよくある事件の一つが終わった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年12月07日


挿絵イラスト