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戦火の陰で

#UDCアース

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#UDCアース


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●シビル・ウォー
 発端は政権に対する大規模なデモだった。最初期は武力の伴わない平和的な抗議行動に過ぎなかったが、しかし事態は一向に収束する気配を見せず泥沼化。やがて政府側と反政府側が武力衝突し、内戦状態に突入。
 その後は他国の介入、集合・離散を繰り返す反政権勢力間での闘争、混乱に乗じたテロリストの参戦等を経て国内は現在進行形で滅茶苦茶。政治、宗教、地理、経済、主義、主張、民族その他諸々が複雑に絡み合ってもう手が付けらない。
「……これが今回お前達に赴いてもらう都市(せんじょう)の、大まかな概要だ」
 刻乃・白帆(多重人格者のマジックナイト・f01783)がグリモアに触れると、ベースは揺らぎ、廃墟と化した街の景色を映し出す。
 どの建物も漏れなく損壊しているが、それでも辛うじて形を留めていた一棟の建築様式から察するに、UDCアース・中東付近だろう。

●戦場の怪談
「ラシェッドと言う名の医師が、まだ街が栄えていたころ、戦火に晒される以前からそこに住んでいた」
 元々は外科医だったが、他の医師が死亡や脱出で街からいなくなると、それを補って内科やメンタルケア等、本来専門ではない分野もたった一人でこなしていたらしい。
「ちょっと気分が悪くなってもラシェッド先生に相談すれば大丈夫、とな。だが……」
 およそ一年ほど前、忽然と姿を消してしまったのだと言う。
「場所が場所だ。彼を知るものは不幸にも何らかの戦闘に巻き込まれてしまったのだろう、と医師の死を惜しんだが……味方UDC組織はそう考えてはいないようだ」
 ラシェッド医師は困窮している病人からは報酬を受け取らず、尚且つ患者が誰であれ差別なく診て回り、良い意味で人種・宗教に頓着のない底抜けの善人だった。
 だが、全ての分野の治療を引き受けるようになって以降、詳細不明のオカルトに傾倒した痕跡があり、彼の失踪以後より、戦場には不気味な怪談話が囁かれるようになる。
「真夜中に人の腕がまるで蛇のように地面を這いずり回っていたとか、徘徊する首なしの兵士を見たとかな」
 そして、ラシェッド医師と怪談の関連を疑った味方UDC組織が彼の邸宅を捜索し、地下室からいずこかへ続く隠し通路を発見したのがつい先日。
「一年前に医師が失踪してすぐに調査を始めていたが、そこから先日までで得られた成果はその程度。内戦状態のお陰で進捗は芳しくない。だから普通の人間よりは多少無茶の利く俺達にお鉢が回ってきたって訳だ」
 言って、白は街の地図を広げた。
「今回の目的は隠し通路の先を探索し、何かしらの陰謀があるなら潰す事。医師の邸宅は街の北郊外にあるが、グリモアによる転移位置――スタート位置はこう、安全を考慮すると大幅に南へずれる。転移後即銃で撃たれたくはないだろう? 少なくとも、俺は御免だ」
 白が丸で囲った2点は、地図の丁度上端ぎりぎりと、下の端の更に外、余白の部分。
 スタートから邸宅(ゴール)まで直線距離でおよそ十数キロ。しかし大通りも裏道も瓦礫で埋もれ、車が乗り入れられないほどの悪路のみであり、その上高確率で何処かの兵士に遭遇する事になるだろう。
 兵士たちのこちらに対する友好度は、概ね初手で挨拶代わりに弾丸を放ってくる程度の高(ひく)さだ。
「遭遇した兵士にどう対応するのかは各自任せる。但し殺害するのはNGだ。精々気絶させる程度に留めて欲しい。徒に恨みを買えば、それだけ作戦の遂行が難しくなってしまう。まぁ、隠れる場所だけには不自由していないから、上手くすれば一切接敵せずゴールに辿り着く事も出来るかもな」
 時刻は白昼。天気は快晴。銃弾、手榴弾の類は引っ切り無しに飛び交うが、空爆と地雷の心配をする必要がないだけ絶好の探索日和だろう? と白は笑った。
「……もしかすると、ラシェッド医師以外にも不可解な失踪を遂げた人間が複数居るのかしれん。だが、『内戦』と言う名のベールが全てを覆い隠してしまっている。何にせよまずは……地下通路に辿り着いてからだな」


長谷部兼光
 戦場にも怪談話はあるのでしょう。

●目的
 ・戦場を突っ切り(冒険)
 ・隠し通路以降を探索し(冒険)
 ・ボスを撃破する。

●場所(第一章)
 銃弾飛び交う戦場(都市廃墟)。晴天、真昼。

●備考
 ・戦場に民間人は居ません。
 ・怪談について、市街で戦闘している兵士たちは『そういう噂話が流行っている』以上の情報を持っていません。
 ・一章で怪談の正体に遭遇することはありません。
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第1章 冒険 『戦場を突破せよ』

POW   :    遭遇した兵士を無力化して進む

SPD   :    速やかに移動して発見されるリスクを減らす

WIZ   :    地形を利用して進んだり、交渉して戦闘を避ける

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●スタート
 弾痕のある壁面。乾いた血の跡。砕けた床。広い空間に散らばる硝子片。
 恐らくここは等級(グレード)の高いホテル、そのロビーだったのだろう。
 だがそれを想起させるだけの残滓は最早欠片程度しか見つからず、優雅な音楽の代わりに猟兵達を歓迎するのは、消え失せたウィンドウの外から聴こえる野蛮極まりない銃声。
 ……『安全』、などと良くも嘯いたものだ。
 もしも準備が必要なら、ここで全て整え終えた方が良い。
 
 スタート地点から、踏破すべき戦場の入り口まで。その距離は凡そ――十数メートル程度に過ぎないのだから。
浅沼・灯人
こいつは面倒極まりねぇ。
ともかく目的地に行こう。
戦場にゃ慣れてる。

【POW】
用意するものは、アサルトウェポンと閃光弾。あと刀。
極力戦闘を避けるように物陰を移動するが、
どうにも歩きにくい場所は壊して良さそうな瓦礫を蹴り崩して進む。
後から来るやつが通るのに楽になるだろうしな。
……まあ、見つかるだろうが。

交戦の必要があるなら近くの建物に入り、
その中にいるやつや追ってきたやつが集まったところで、
目を隠しピンを外した閃光弾を投げる。
目潰しだ。しばらく眩んでな。

それでもだめなら武器を狙って銃撃。
クイックドロウとスナイパーを使う。
あとは峰打ち。鉄の塊で横っ腹殴れば大体寝る。

……わりぃな、こっちも仕事なんだ。


ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
I copy.
目的地までの移動を第一ミッションとして設定。
これよりミッションを開始する。

(ザザッ)
SPDを選択。
ステルス迷彩を活性化。
(目立たない+迷彩)

不可視化された状態で発見されるリスクを軽減しつつ、可及的速やかに戦場を駆け移動する。
(ダッシュ+早業)

敵に見つかった場合、もしくは敵を一時的に無効化させ押し通らなければならない場合はUCを使用。
『Craft: Bomb』を作動させ"スタングレネード"を生成し対象に投擲。
閃光と轟音で行動不能になっているうちに突破する。

本機の作戦概要は以上、実行に移る。
オーヴァ。
(ザザッ)


ロウガ・イスルギ
アドリブ・連携歓迎

傭兵としちゃあ都会の雑踏よりよっぽど落ち着けるんだがな、まあ
今回はスニーキングミッションのつもりで行くか

【迷彩】【野生の勘】【忍び足】【見切り】【目立たない】【逃げ足】
スキルはフル使用で迅速かつ目につかない様に
登攀が必要なら【ジャンプ】【ロープワーク】使用

余裕あれば非殺傷型で長時間拘束系の罠をレプリカクラフトで作成設置
どちらかといえば他メンバーのため?

戦う事になっても先ずはフック付きワイヤーによる【武器落とし】
【盗み攻撃】で武器を奪い無力化を狙う。後はこう、軽めにコツンと
当て身でも喰らわせておネンネしててもらおう。
「お休み兄弟……なあに気にするな、目覚める頃にはお別れだ」




 銃器が奏でる不協和音のオーケストラには一切構わず、壊れ朽ちた荒野を疾走する異形の黒豹。
 しかしその姿を肉眼で視認出来る好機があったのは、彼がホテルを出発してほんの一瞬、刹那に等しい時間だけだった。
「I copy. 目的地までの移動を第一ミッションとして設定。これよりミッションを開始する」 
 ノイズが混じった、変哲の無い状況確認の言葉だけを残し、ステルス迷彩を活性化したジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)の体は周囲の景色へ溶け込むように消え失せる。
 不可視の『怪物』は大通りを駆け抜け、トリガーに指を置く何処ぞの兵士の背後を通り過ぎ、オブジェと化した乗用車の屋根を踏み台に、扉(セキュリティ)の死んだビルの中へと飛び込んだ。
 都市の地図は頭の中に叩き込んだ。迷彩を駆使してるとは言え、可能な限り閉所を伝い、開けた場所は避けるのが安牌だろう。と、そう考えていたが……。
「……何だ?」
(「……!」)
 どうやら先客がいたらしい。
 不可視と言えど音までは消せない。耳聡い先客はライフルを構え、そろり、そろり、と警戒しながら透明なジャガーノートへと近付く。
 迷彩は維持している。見えては居ない筈だ。しかし……目鼻の先で銃口が右往左往し始めてから一体何秒経っただろう。
 兵士を演じるように、心を隠すように。今は無に……空間になりきらなければない。砂嵐(ノイズ)一つ上げてしまえば、それで終わりだ。
「おい、そこで何をしている?」
 ばれたか。
 ……いいや。
「こっちから物音が聞こえた気がしたんだが……」
「何もないじゃないか。どうせ跳弾か、ボロの壁が勝手に崩れたんだろうよ。ほら、行くぞ」
 そのようだなと先客は訝りつつも連れ合いの言葉に銃を降ろし、その場を後にする。荒事に発展せずに済んだようだ。
「本機外装の損傷……認められず。任務を継続する」
 0と1の言葉の節に、&にも似たノイズを挟み……。
 そして――ジャガーノートはゴールを目指す。


「……傭兵としちゃあ都会の雑踏よりよっぽど落ち着けるんだがな」
「奇遇だな。俺も戦場にゃ慣れてる方だ。まあ、それを差っ引いても、今回は面倒極まりねぇが」
 ロウガ・イスルギ(白朧牙虎・f00846)と浅沼・灯人(ささくれ・f00902)が兵士たちの小競り合いを躱して一息。がらくたが積み上がった物陰で呼吸を整える。
「波風立てるなっていうなら、たまのスニーキングミッション悪くないが……そう言えばさっきまでもう一人いなかったか? ほら、グリモア猟兵の。いやお前さんもグリモア持ちだが」
 ロウガは物陰から頭を出して、周囲を見回しながら灯人に尋ねるが、
「いいや知らねぇ。多分、上手い事逃げたんだろ」
 それでそっちは如何する? と灯人は逆に訊き返す。
「お前が良ければ同道する。同じ傭兵の誼ってのもあるが、何より多分、スタンスが似通ってると見た」
「……スタンス?」
「後続の為に、ってな」

 兵士たちを避けながら、目立たないようしかし迅速に。
 二人は協働し、悪路を越え、時に灯人が瓦礫を拓き、時にロウガが罠を敷設しつつ前進を続ける。
「因みにその罠、作動するとどうなるんだ?」
「気になるか? それなら踏めば一発で解るぞ」
「いやちょっと待て。踏みたくないから訊いてるんであってだな――」
 ガツン。与太話を続けつつ、灯人が瓦礫の壁を踏み崩すと大きな穴が開く。灯人はそのまま穴の先に半歩足を出そうとするが、直前、近くに複数の気配を察知して留まり、慎重に穴の向こうの様子を確認する。
(「……まあ、見つかるだろうが」)
 進路のすぐ近くに兵士が10人。幸運にもまだこちらに気付いていないが時間の問題だろう。知らぬ顔で素通りは出来そうに無い。
 どのみち最初から幾度かは交戦することになるだろうと腹は決めている。ならば引き返すよりは……と、灯人は閃光弾を片手に都合の良さそうな付近のビルを見繕う。
「そう言うことなら、オレが行く。何、ワイヤーを伸ばせばすぐの距離だ。お前はゆっくり来ればいい」
 ロウガはグレイプニルの強化ワイヤーを伸ばし、上手い具合にフックをビル3階部の縁に引っかけ跳躍すると、手慣れたロープワークでワイヤーを捌き自身を引き上げた。
 無論、白虎の大胆な登攀を外野が見過ごす筈もなく。兵士たちは発砲しながらロウガの姿を追ってビルに殺到し、そのお陰で灯人は驚くほど簡単に兵士たちの背後を取ることが出来た。
「目潰しだ。しばらく眩んでな!」
 兵士たちの虚を突いて、灯人は閃光弾を投げつける。
 投擲したのは一つだが、どう言う理屈か、灯人が己の目を隠す寸前、宙を舞っていた閃光弾は――二つ。
 ともあれ二つの閃光弾は炸裂し、轟音と閃光が兵士たちの自由を奪う。
 それでも兵士たちは武器を頑なに握りしめ、敵味方構わず乱射しかねない兆候が見えたので、ロウガと灯人は止む無く自身の得物を振るう。
 光が引いた空間に、ロウガがグレイプニルを疾らせ銃器を叩き落とし、灯人がアサルトウェポンの精妙精密な早撃ちで弾き落とす。放り出された全ての銃を、グレイプニルが呑み込むように絡め取り、これで兵士たちは丸腰だ。
「随分と手荒になっちまったが……赦せ、とは言わねぇよ。わりぃな、こっちも仕事なんだ」
 鉄の塊で横腹を殴れば高確率で人は寝る。灯人は脇差の峰で兵士を打ち据え、
「お休み兄弟……なあに気にするな、目覚める頃にはお別れだ」
 ロウガはコツン、と、気持ち軽めに当身を施した。
 
「気持ち良いくらいにハマったな。『3人』で協力した甲斐があったってもんだ」
 ロウガが吼えるように笑うと同時、虚空から、迷彩を解いたジャガーノートが姿を現す。二つ目の閃光弾は、彼の物だったのだ。
「本機としては偶然の遭遇、急場の共同戦線だったが、役に立てたのならば光栄だ」
 それから消耗品のケアは重要だろう、と、ジャガーノートは灯人に生成(クラフト)した閃光弾を譲渡する。
「遠慮はいらない。本機の残弾は無限だ。少々かさばるが、有れば有るだけ役に立つだろう」
「気前が良いな。もしかして代金は2000兆円だったりするのか?」
 悪戯っぽい口調でロウガが訊いた。
「2000……? いや。見返りは求めない」
「……全く。仕様も無い事を。真に受けなくていい。兎に角、助かる。有難く使わせてもらう」
「了解。本作戦に参加した全員の無事を祈る。オーヴァ」
 灯人が礼を述べると、ノイズを残し、ジャガーノートの姿が再び消える。響く足音は既に遠くから聞こえ――競う訳ではないが、もしかすると一番最初にゴールへ辿り着くのは彼なのかもしれない。
 一時の邂逅を経て。二人は再び瓦礫の荒波を掻き分ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三岐・未夜
ひとりになりたかった。
有り体に言えば、団地のひとには逢いたくなかった。
だから、ひとりで戦場に飛び込んだ。

……兵士は一般人だから無力化だけにしろ、だっけ。無茶言うなあ、当たり所次第で銃弾の1発で僕らだって死ぬのにね。
まあ、良いや。
弾なんて飛んで来たって溶かしちゃえばみんな一緒でしょ。
自分への飛び道具系の攻撃に対しては、一部融合強化した玄火を操り【操縦、誘導弾、範囲攻撃、援護射撃、属性攻撃、先制攻撃、全力魔法】で銃弾などを溶かし尽くすことで対処。
直接的な攻撃に対しては、兵士を傷付けないように配慮しながら【フェイント、見切り、第六感】で避け、【誘惑、催眠術】で戦闘行為を止めるように働き掛ける。


ベルゼドラ・アインシュタイン
何処もかしこも人の争いは止まねぇもんだな

他人様の内戦に絡まれてる暇は無ぇんだよ
こちとらサクッと目的地に向かいてぇんだ

到着早々に指を噛み血で拷問具を叩き起こす
仕事だ、邪魔するやつは容赦なくぶった斬れ


前線を正面から堂々と通ろうとする
戦場に似つかわしくないか弱い女を装いながら

遭遇する兵士には【殺気】で【恐怖を与える】
怯む奴らは構わず突っ切りゃいい

この時の蝿の王には背後で大人しくしててもらうんだわ
よっぽど数が多くて面倒臭い時でもありゃ
【ベルゼブブの鉄槌】をかましてくれるだろうさ
まぁ王の気まぐれだけどよ

「やぁね、か弱い女に銃を向けるの?」
「戦場に長居できる訳ないでしょう、だから行かせてちょうだいね。」


ルイス・アケーディア
政治、宗教、地理……ふむ。
よく分からんが、よほど戦うのが好きらしい。
あれやこれやと理由をつけなければ戦えないとは、一般人も大変だな。

準備すべきことはない。可能な限り先行しよう。
ユーベルコードを発動させたまま移動し、
飛んできた銃弾は操って軌道を変え無力化を。
出会った兵士がいれば、銃や手榴弾の類を浮かせて取り上げておく。

……仮に全ての武器が無くなったとして、争いが終わるとは思わないが。
戦えない理由は作った。今日くらいは早めに帰るといい。


ルフトゥ・カメリア
たっく、一般人が邪魔してくんじゃねぇよ。殺さねぇようにするのも手間なんだ。
つっても、戦場に立つ奴らに自分が永遠に死ぬ悪夢なんざ見させる訳にいかねぇし……仕方ねぇか、ちょっと無効化させて貰うわ。

手首の古傷を裂いて、溢れ出る炎を広げて自分の周囲を火で覆って近接は妨害。ちょっと地面溶けるかもしんねぇけど、分かりやすく危険ならそうそう近寄って来る奴もいねぇだろ。
……いたら流石に炎は消すけどな。どの道、防ぐから意味ねぇぞ。【かばう、武器受け、オーラ防御、激痛耐性】

遠距離は炎で溶かすか、【第六感】で避けるか、【武器受け、オーラ防御、カウンター】で兵士には当てないように弾き返す。

無駄な人死に出す気はねぇよ。


千桜・エリシャ
まあ!かくれんぼですのね!愉しそうですわ!
上手く見つからずに進みたいところですが、見つかってしまってもそれはそれで一興かしら?

ホテルで空の酒瓶を何本か調達しておきますわ
常夜蝶を先行させて偵察してもらいつつ進みましょう
自身でも周囲に注意を向けることも怠らずに
なるべく兵士がいない道を選んで進みたいところですが
八方塞りになってしまったら瓶を遠くに投げて
それが割れた音を囮にしてその隙に進みましょう

集団に遭遇してしまった場合は――致し方ありません
奥の手です
傾世桜花で魅了して、お願いしましょう
私、この先に用がありますの……通してもらえないかしら?

いずれも攻撃されてしまった場合は花時雨を開いて防御しますわ


ドアクローザ・バックチェック
戦場か。人間同士の殺し合いを見るのは初めてだ。
なんというか、やるせないな。

なるべく接敵を避けて行こう。
基本的に、スカイステッパーで高い場所から高い場所へと飛び移りながら、移動する。
兵士との遭遇を避けるために【野生の勘】を研ぎ澄ませて、人の気配を感じ取ろう。ここは隠れる場所が多いから、主に聴覚に頼ることになるか。

兵士に見つかってしまった場合は、蹴りで【吹き飛ばし】て隙を作り、その間に空中へ逃げるとしよう。手加減が難しいから、太刀は使わないでおくつもりだ。
相手がただの歩兵なら、私の方が機動力は上だろうし、気絶するまでやる必要はないだろう。


雷陣・通
父ちゃんが言っていたな
矢が降る雨の中でも走らないと行けないって
そういうことだろう?

●基本行動
基本は物陰に潜んで、身を低くしての移動
通気口や窓などは避けていき、出来るだけ壁につく形で
通路間はダッシュで駆け抜ける

●技能
基本行動に加えて、残像やフェイント、見切りで相手の射撃タイミングを狂わせて、時にはスライディングで移動
そして狙撃手が居そうな高層建築物から狙われるところは『スカイステッパー』で高くジャンプして、空を走り、狙撃がやりにくい高い位置で移動、何なら、蹴っ飛ばしておくのもいいかも

とりあえず、基本は目立たず、狙撃手に関しては相手より上に高く
この方針で突き進む
「それじゃ、ライトニングに行くぜ!」


零落・一六八
まぁ、殺しちゃいけねぇって言うんでしたら、
できる限り見つからないのが一番でしょうね

【地形利用】と【第六感】で見つかりにくそうな道を選んで
【迷彩】と【忍び足】でこそこそと
【聞き耳】をしながら様子を探りつつ進みましょう
見つかった場合は弾は苦無で弾き落としつつ消失錯視で避ける
見失ってる間に【逃げ足】で逃げます
野太刀は大振りで目立つので今は封印ですね

道探して困ってる人がいて暇だったら手招きして
「そんなお困りのあなたに耳寄りの情報が…」
胡散臭いセールスよろしく手招きして気まぐれに道教えてあげますかね
「情報料は2千兆円ぐらいでいいですよ!」
でもばれそうなら見捨てて放置っすね!

※アドリブ他との絡み大歓迎


グウェンドリン・グレンジャー
中東、かぁ……
アングロサクソン系、女一人……厄介かも(ごそごそ)
……よし(ブルカを着用)
知り合いに、あっても、これじゃ、分かんない、かも……ね

【POW】
うーん……どういう、ルート……がいいかなぁ……
【第六感】で、アタリ、つけて、【動物と話す】……で、死体を食べ……に来た、ハゲワシ、カラス、聞いてみよう……
(みんなー……干し肉、あげるから、これこれ、こーゆー……とこ、知って、たら、教えてー?)

遭遇、兵士……Imaginary Shadowを、使って、ちょびっと、生命力吸収、と、属性攻撃……闇の。
死なない、位、ちょっと、吸う……

急いだ、方がいい、時……は、Mode:Mórríganで、飛んでく




 別段に、必ずしもロビーから出発しなければいけない理由も無い。
 ドアクローザ・バックチェック(ケーキナイフ・f11864)はひしゃげたドアを開け放ち、ホテルの最上階よりさらに上――屋上に立つ。
 絶好の見晴らしを、我らの物と占拠するのは有象無象の塵芥。それらから特等席を譲り受け、どんなものかと市街を見渡すが、東西南北いずれも、戦火。
「戦場か。人間同士の殺し合いを見るのは初めてだ……」
 何と言うか、やるせない。
 地上から離れ、青く穏やかな天に近い位置を走れば、多少は胸で燻ぶる靄も晴れるだろうか。
 ドアクローザは助走をつけて空に飛び出し、2度、3度とステップを刻むように宙を蹴り、地上の喧騒などどこ吹く風と屋上から更に屋上へと飛び移って進攻する。
 幸いに、背の高い建物は選り取り見取り。目視と同時、兵士との遭遇を避けるため最大限に野生の勘も研ぎ澄まし、人の気配の有無を探る。
 そして、ふと。剥げた広告看板を掲げたとあるビルの屋上で、ドアクローザは小さな気配を感じ取る。
 兵士ではないだろう。大人が隠れきれない狭い死角に、幼子よりも小さな、しかし確かに息づく何か。
「誰かそこに居るのか?」
「にゃ~ん」
「なんだ、ねこか」

「……ねこ?」
「ねこだよ」
 恐らくドアクローザ同様スカイをステップしてきた猟兵(ねこ)だろう。
 こっちの事はお気になさらずとねこは言うので、軽い会釈を済ませてドアクローザは歩を進める。互いにゴールへ辿り着けば、顔を合わせる機会もある筈だ。
 それから大通りを挟んで東へ10棟、さらに北へ19棟の屋上を蹴り、20棟目の屋上を踏んだ直後。唐突に狙撃手らしき兵士と鉢合わせしてしまう。だが、気配を殺し潜む事を得意とする狙撃手に遭遇する可能性は、ドアクローザとて考慮の内だ。
 一拍遅れてドアクローザを認識した狙撃手は、それでもナイフの柄に手を伸ばすが、もう遅い。
(「太刀、はダメか」)
 長物故に力加減が難しい。ここは素直にお気に入りのスニーカーで踏みつけよう。
「ちょっと失礼」
 蹴り飛ばした狙撃手を発条代わりに、ドアクローザはさらに高く空へ跳ぶ。
 何処からかやって来た銃弾が屋上の柵を掠めたのは、それと全く同時だった。
 ……遠方から、こちらを狙う別の狙撃手が居る。蹴とばした狙撃手の反応が遅れた理由はそれだろう。
「良いだろう。振り切ってやる」
 宙を蹴る間隔を狭める。ドアクローザは思うままに空を駆け、姿の見えぬ狙撃手を翻弄する。


「父ちゃんが言っていたな。矢が降る雨の中でも走らないと行けないって。そういうことだろう?」
 目標としては父の雷と本物の落雷以外、ひらりと躱したいところだが、実際どこまでやれるかはやってみないとわからない。
 雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)は小柄な背中をぴたりと壁に引っ付けて、道路横断のチャンスを窺う。
 自身の体格なら建造物の通風孔を経由していく手もあるが、この惨状だ。瓦礫が詰まってないとは限らない。
 割れやすく、姿形を問答無用で映し出す窓の近辺もまずい。
 まだ小さな子供だからと自分を見逃す兵士が居た。たとえ子供でもと自分を撃つ兵士もいた。
 行先のど真ん中に陣取る眼前の兵士たちがどちらなのかは知れないが、どちらであっても構わない。頼るべきは運では無く、自分自身の実力だ。
 通は息を止めると意を決し、兵士たちのすぐ横、端から端へ道路を突っ切った。
「……ふぅ」
 横断を成した通は物陰で身を屈め、追い抜いた兵士たちを見遣る。こちらに気付いた様子が無い事を確認すると、止めていた息を大きく吐き出した。
 そのまましばらくは抜き足差し足で戦場を移動するが、不意に、今行く道が不思議と歩きやすい事に気付く。先行した猟兵が整えてくれたものなのかもしれない。
 ただし戦場である以上その道を歩いていても安全安泰とまでは行かず、しばしば兵士たちと遭遇は避けられない。
 何度目かの遭遇戦、通は叩き込まれた空手の体捌きに、残像やフェイントを織り交ぜ兵士たちを翻弄し、当てずっぽうに放たれた弾丸を完全に見切ると、一目散に飛び退いて、車体(トラック)の下、狭いトンネルをスライディングで滑りぬけた。
 それでもあきらめず通を追いかけようとした兵士は、不用意にユーベルコードで敷設された罠を踏み抜き、地面から包むようにせり上がってきた網(ネット)に捕獲される。
 罠に溺れる兵士はさておき、上方からの銃声を耳にした通が少し離れた位置にある高層ビルの屋上を見上げると、其処にはスコープを覗き込む狙撃兵の姿が。
 彼が何を狙っているか察した通は空を走り壁を跳ね、パルクールのような身軽さで駆け上がる。
「そうはさせないぜ! 受けろ、俺の汗と涙と鍛錬の結晶を!」
「グっ! このにお」
「それは気のせいだと思う!」
 十秒と立たず狙撃手に肉薄した通は狙撃手の顔面をぼろぼろのスニーカーで蹴っ飛ばし、彼が睨んでいた方角を転がり落ちたライフルのスコープで覗く。
 そこに居たのは、空を跳ぶ猟兵(ドアクローザ)。
 肉眼で見ると小人ほどに距離の離れたドアクローザは、通へと元気に手を振って、戦場横断を再開する。
「……よかった。大きな怪我はしてないみたいだ」
 改めてスコープで戦場を見回した結果、騎士な猫や真っ黒衣装の小さな烏など、空をとぶ猟兵も自分を含めて結構いるようだ。そして、各所に点在する狙撃兵も、
 スカイステッパーの能力を十分に発揮するためにも、狙撃兵よりさらに高い位置から彼らを蹴り飛ばしつつ突き進むのが良いのかもしれない。

「それじゃ……続けて目立たずひっそりと、ライトニングに行くぜ!」


「まあ! かくれんぼですのね! 愉しそうですわ!」
 戦場を揺蕩う千桜・エリシャ(春宵・f02565)の表情は、夜桜に彩られる新月の如くぱっとあかるく。
 上手く見つからずに進みたいところだが、見つかってしまっても……それはそれで一興だろうか。
 ひらひらと踊る常夜蝶に先行と偵察を任せ、エリシャ自身はホテルで調達した空の酒瓶を数本持ち込み、周囲を警戒しながら急ぐでもなく遅れるでもなく、往時の歩調で軽やかに戦場を行く。
 蝶を眺める余裕も無いのだろう、兵士たちは常夜蝶を見かけても、然したる感動も無く通り過ぎ、そのお陰でエリシャの道行きは、暫くの間廃墟の悪路にありながらとても平易なものだった。
 しかし北へ北へと進むうち、蝶が伝える警告の間隔も短くなり、行くも下がるも悩ましい場面が増えてくる。
 エリシャはその都度、温存していた空き瓶を遠く放り、がしゃんと割れて兵士たちの意識がそちらに映ったその隙に、するりと窮地を切り抜けた。
「単純な手ですが……だからこそ覿面ですわね?」
 一本、二本と慎重に瓶を消費して、最後の一つを投げたのが、スタートとゴールのちょうど中間地点。
 蝶が忙しなく危険を知らせるが、周囲に瓦礫は数あれど、身を隠すに丁度良い場所は無く、我楽多ひしめく地面を見回せば、瓶の代わりになりそうなものもいくつかあるが、少々遅かった。
「――致し方ありませんね」
 かくれんぼの終わり。なすがまま数名の兵士に遭遇したエリシャは気持ちを切り替えるように天を仰ぎ、
「……あら?」
『それ』の存在に気付いて数歩退る。
 刹那、空から降ってきたのは一羽の鴉。
 鴉は着地するなり羽根の如き不滅の影を広げ、兵士達を包み、その生命力を死なない程度に啜り取る。
 鴉の起こした闇に乗じ、エリシャは和傘・花時雨を盾に流れ弾を弾きつつ、ゆるりと稀覯本を取り出した。桜色の装丁の魔導書は独りでに捲れ、吹雪き、蠱惑の属性(いろ)を帯びた桜花に変じる。
「私、この先に用がありますの……通してもらえないかしら?」
 乱れ舞う桜花に誑かされた兵士達の答えは――述べるまでも無いだろう。
「ありがとうございます。助かりましたわ。ええと……」
 エリシャはそこから言い淀む。鴉の衣装は人種を隠すような真黒のブルカ。目元しか見えないその出で立ちでは、もしかして、と思っても、中々に判別はつけ辛い。
「久しぶり……に、なるのかな……」
 控えめにそう呟いて、ブルカを取る。金の瞳。灰の髪 色白の肌。ヴェールの中から現われたのは……グウェンドリン・グレンジャー(NEVERMORE・f00712)だ。

「さて、これからどういう風に進みましょう? なるべく兵士がいない道を選びたい所ですが……」
「うーん……どういう、ルート……がいいかなぁ……」
 二人は揃って考える。突き詰めて言ってしまえば、向こうも此方も人間だ。だから双方が同時に『安全そうなルート』を探している状態なら、自ずとかち合う公算は高くなる。
 ばさりと、悩む二人の頭上を本物の鴉が通り過ぎた。
「あ……!」
 その光景を見たグウェンドリンの第六感が閃く。人が考えて煮詰まるなら、いっそ……。
(「みんなー……干し肉、あげるから、ちょっと、来てー」)
 グウェンドリンは干し肉を掲げ、空飛ぶ屍肉食(スカベンジャー)達に呼び掛ける。
(「もし、人が来ない、安全なとこ、知って、たら、教えてー?」)
 動物と会話できる技能があるのなら、彼らも人に劣らず優秀な協力者になり得るだろう。
 他者から見ればただの鳴き声にしか聞こえない動物達の言葉から、グウェンドリンは貴重な情報を引き出す。
「……うん。うん。彼らの、餌場に、案内してくれるって……」
「餌場、ですか」
 なるほど、とエリシャは頷く。動物たちが安全に『食事』している場所を辿って行けば、最小限の接敵で戦場を抜けられるかもしれない。
「多分……グロテスクな、光景ばかりなのが……難点だけど……」
「それは覚悟の上、と言うより――」
 改めて、エリシャは都市を一瞥する。ひとたび意識すれば、其処にも、あそこにも、まるで前衛芸術のオブジェの様に。『それ』は至る所に転がっていた。
 ……これ以上ここに留まっていても何も変わらない。
 二人は飛び立つスカベンジャー達の後を追う。


 此処に来た時から既に息絶えていた、名も知らぬ、どこかの誰かの遺体。
 三岐・未夜(かさぶた・f00134)はその遺体の、虚ろで空を眺める両眼に触れ、そっと瞼を降ろしてやった。
「……兵士は一般人だから無力化だけにしろ、だっけ。無茶言うなあ」
 複数の世界を股にかける猟兵とて、当たり所次第ではたったの銃弾一発で呆気なく死ぬのだ。
 だからこそ、一際死に敏感な友人達を、未夜は放っておけない。
 けれども、そうだ。ただ、放っておいて欲しい時もある。そんな気分だった。
 だからホテルで団地のひとを見かけても、素知らぬ『体』を気取ったまま、ひとりで戦場に飛び込んだ。
「まあ、良いや」
 銃弾が、未夜の鼻先を掠める。
 それを気にも留めずゆっくりと立ち上がると同時、夜に傾き始めた黄昏のような、寂しい色の炎が戦場に現れ、揺らめいた。
「弾なんて飛んで来たって、溶かしちゃえばみんな一緒でしょ」
 孤独な炎は23に分かれ、或いは繋がり、燃える。
『照らせ。燃やせ。全てを』
 そう命じた主の意のままに、あらゆる技量を注がれた小さな炎は銃弾を呑み込むと、それを溶かし燃料としてさらに燃え盛り、主を護る大きな炎は銃火器爆弾の区別なく、火の内側で何が爆ぜようとお構いなしに、貪欲にすべてを食んで燃やし尽くした。
 この程度の弾雨(あめ)ならば、軒先に避難する必要も無いのだ。
 玄火の火が消える。それを見た兵士たちは鈍器、刃物を手に取り未夜へ迫るが、未夜はそれを柳切丸によって活性化した六感で悉く見切り、フェイントを織り交ぜながら逆に兵士たちを追い詰める。
 追い詰められた兵士が振り下ろした拳を当たり前のように受け止めて、未夜は彼らの耳元で囁いた。
「君たちが攻撃しなければ、僕も攻撃しない。本当だよ。だから、もう、終わりにしよう。君たちがここを去るまで、僕はここで何もせずに立ってるからさ」
 兵士の側から見れば、その言葉を裏付けるものは何もない。しかし彼らは未夜を信じるだろう。催眠・誘惑、そうなるように、未夜が仕向けているのだから。
 素直な子供のように兵士たちはそこから離れ、未夜は再び一人法師。
 今はこれでいいと真深くフードを被り直し、歩き出す。
 その振動で、りんと、武器飾りの鈴が鳴った。


「政治、宗教、地理……ふむ。よく分からんが、よほど戦うのが好きらしい。あれやこれやと理由をつけなければ戦えないとは、一般人も大変だな」
「理由を付けなきゃ戦えないってことは、理由を付けなきゃ仲良くも出来ないってこった。たっく、一般人が邪魔してくんじゃねぇよ。殺さねぇようにするのも手間なんだ」
「確かに、一理ある。こうなってしまえば、既に言葉は不要……と言う訳だ」
 ルイス・アケーディア(ストーンヘンジ・f08628)とルフトゥ・カメリア(Cry for the moon.・f12649)の二人は既に兵士たちに包囲され、四方八方、何処を見渡しても銃口が二人を睨んでいるという、破格の特別待遇を受けていた。
 二人とも特に迂回策をとっていなかったため、こうなることも織り込み済みで突き進んでいたが、それでもあまり居心地の良いものではない。
「つっても、戦場に立つ奴らに自分が永遠に死ぬ悪夢なんざ見させる訳にいかねぇし……」
 ルフトゥは頭を振る。相手がオブリビオンなら、容赦なくイマジナリーエンディングを叩きつけるのだが。
「此方が配慮してる間に、向こうはどうやら号令待ちだ。銃弾が飛んで来るまで3秒と無いだろう」
「マジかよ。早すぎだろ」
「俺達の落ち度だ。ここは観念して撃たせてやるしかないな」
 直後、無数の銃口が火を吐き出し、辺りにもうもうと硝煙が立ち上る。
 が、硝煙が晴れたその先にあったのは兵士たちの予想に反して、健在の二人。ルイスは変わらず地から浮遊したまま堂々と振る舞い、ルフトゥは巨大な鉄塊剣を盾に凌ぎ切る。
「撃たせてやるが、当たってはやらん……この世界にもポルターガイスト、と言う単語があるのだろう。概ねそれだ」
 燦爛たる宝物庫の管理者。自身の肉体と、周辺にある金属を含む物体を浮遊させ操るその能力をさらに念動力で増強し、ルイスは放たれた銃の弾道を変えたのだ。
「……おい。何発か流れ弾こっちに来たぞ。操るって割りには随分大雑把じゃねぇの?」
「いいや想定通りだ。手練れの猟兵なら弾けて当然の物は、態々軌道を変える必要も無いだろう」
「一応、誉め言葉として受け取っておくぜ」
 ルイスは静かに頷くと、ポルターガイストの支配力を更に強め、たちまち兵士たちの武器の一切を浮遊させ取り上げる。
「……仮に全ての武器が無くなったとして、争いが終わるとは思わないが。万一徒手で戦闘を続けるつもりなら、俺の出る幕では無いな」
「仕方ねぇ。それもさせねぇよ。ちょっと無効化させて貰うわ」
 ルフトゥはダガー形態の使い魔を振るい、己が手首の古傷を引き裂く。溢れ出た瑠璃唐草の熾火は兵士たちと猟兵を明確に分かち、それ以上の接近を許さない。
 地面を焦がす匂いがした。この炎は幻影では無く現実なのだ。不用意に触れようとすれば、全身火達磨は免れない。
 これは警告だ。ルフトゥとしても本当に焼き捨てるつもりは無いから、もし蛮勇で炎に突っ込む人間が居たら解除すつもりではいる。その場合でも、兵士の攻撃を受け止める自信はあるが、さて。
 ――幸いにもルフトゥの読み通り、兵士たちは警戒を解かぬもののじりじりと炎から距離を取る。
「それでいい。無駄な人死に出す気はねぇよ。それじゃあな」
「そう言う事だ。戦えない理由は作った。今日くらいは早めに帰るといい」
 尻込みする兵士たちを捨て置いて、二人を覆うネモフィラの炎は彗星の如く、戦場を流れゆく。


「やぁね、か弱い女に銃を向けるの?」
 不幸にも何かの拍子で戦場に紛れ込んでしまった淑やかな女性。
 ベルゼドラ・アインシュタイン(錆びた夜に・f00604)はそう言う仮面を顔に貼りつけて、前線を正面から堂々と通ろうとする。言うまでも無く、目的地は既にはっきりしているのだから、一々迂回する必要も無いだろう。直線距離が最短距離だ。
「戦場に長居できる訳ないでしょう? だから行かせてちょうだいね?」
 何ならエスコートの一つでも期待したいところだが、どうにもそれは望めそうにない。男(ケモノ)共の表情を見ればすぐわかる。
 先程道を譲ってくれた別勢力の兵士たちはとても紳士的だったが……この男どもには大した主義も主張も無いと見た。強盗か、精々火事場泥棒程度の矮小さだ。
「……なら。もういいや。面倒くせぇ」
 ベルゼブブを顕現させ、さらに兵士たちの死角に隠し持っていた三日月達を叩き起こし、けしかける。
「仕事だ、邪魔するやつは容赦なくぶった斬れ」
 血で動く処刑道具。ホテルに転移した時から、指先伝いに血液(エサ)はたっぷりと吸わせた。そのせいか何時にもまして酷く鋭利(げんき)で、少しばかり操作を誤れば人体程度は真二つだろう。
 瓦礫の廃墟に三日月二つが閃いて、兵士の皮膚を掠め、衣服を含む装備だけを引き裂いた。
「他人様の内戦に絡まれてる暇は無ぇんだよ。こちとらサクッと目的地に向かいてぇんだ」
 薄皮一枚裂かれた挙句、文字通り丸腰になった兵士は悲鳴を上げる。
「情けねぇな。こっちをひん剥こうとした癖に、自分がひん剥かれたらそのザマかよ」
 眼に殺気を乗せて睨んで竦ませ、怯んだ兵士たちの真中を、蠅の王を従えて、まるでそこを歩むのが当然であるかのように突っ切った。
 再び淑女を演じる間もなく、騒ぎを聞きつけた兵士たちが羽虫の如く駆けつけてくるものだから、それを鬱陶しく思った蠅の王が戦場に無数の業火球を降らせ、廃墟をさらに破壊する。
「他人様の内戦に絡まれてる暇は無ぇんだよ。こちとらサクッと目的地に向かいてぇんだ」
 一応、蠅の王とて不殺の意は汲んでいる………筈だ。兵士たちを狙わずとも、これだけの轟音と衝撃を引き起こせば本物の空爆と誤認して――これも立派な空爆に違いないが――付近の人気が掃ければしめたもの。
「しかしまぁ……何処も彼処も人の争いは止まねぇもんだな」
 ベルゼドラは煙草を咥え、悠々と空爆の真っ只中へ足を踏み入れた。


「途轍もなく派手にやってる方がいらっしゃいますね。あそこまでやれば三週くらい回っていっそ文句のつけようがないというか」
 ベルゼドラの引き起こした空爆を彼方から眺め、零落・一六八(水槽の中の夢・f00429)もそれはそれ、と我が道を行く。
「まぁ、殺しちゃいけねぇって言うんでしたら、できる限り見つからないのが一番でしょうね。王道のスニーキングミッション。絶賛継続中です」
 一六八は第六感を働かせ、使えそうな地形を探し出す。
「そうですねぇ……細い裏道メインに行ってみましょうか。万一見つかっても少人数で済むでしょうし」
 バーチャルレイヤーを現状に即したデジタルな迷彩柄に変え、忍び足でこそこそと。
 入り組んだ裏道は大通り以上に瓦礫塗れであり、堆積した埃から、長期間使用されていないと推察できた。
 悪路、と言うより険しい尾根を登っている気分なってくる。ここまで入り組んでいると野太刀を携行するのも一苦労だ。
 聞き耳を立てることも忘れずに、廃屋を挟んでちょうど反対側には何処かの兵士たちが屯しているらしい。
 道も途切れた。一旦廃屋を経由して表側に回らなければいけないようだ。
 あの険しい裏道を戻るのは気が滅入るし、無理くりどこぞ屋根に上って即撃たれたのではお話にもならない。
 兵士たちの会話が途切れて暫くの頃を見計らって、一六八は廃屋に侵入する。独り仮眠をとっていた兵士の前を難なく横切って、外へ出たその直後。偵察帰りらしい兵士に巡り合い。
「おっと!」
 即座放ってきた弾丸に苦無を合わせ相殺し、兵士の目が見慣れぬ武器を凝視したその瞬間に、一六八は姿をくらませた。
(「イナイイナイバア。まぁ、本当は目の前にいるのですけどね」)
 一瞬、目の前から消えたかのように錯覚させる消失錯視。真っ向から戦うつもりは毛頭ないので、兵士が自身の姿を見失ってる内に逃走する。
 そうして滑りこんだ家の中。何やら先に猟兵(なかまが)が居た。
 なので一六八は気紛れに、
「やあやあどうもこんにちわ。お加減どうですか? ここであったのも何かの縁です。あなたにだけ、とっておきの耳寄りの情報が……」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

クーナ・セラフィン
いきなり殺伐とし過ぎじゃないかにゃー、恐るべし。
どの範囲がオブリビオン絡みなのかは分からないけども頑張ろうにゃー。

まずは目的地に向かわないとにゃー。
小柄なケットシーの体を活かし隠れつつ邸宅へ向かう。
壁とか高い所へ上る場合はUCを活用。
また足音が鳴りやすそうな場所でも最小限にする為活用する。
ただの猫と言い張るにはちょっと厳しいだろうし見つからないように。
もし怪しまれたら駄目元で猫の鳴きまねして警戒逸らそうとしたり。
銃とかで狙われたらトリニティ・エンハンスで防御強化しつつエスケープ。

この世界の武器凄いなとか飛び交う手榴弾見て思ったり。
しかしどこの世界も争いは絶えないんだねー…

※アドリブ絡み等お任せ




「2000兆円はさすがに暴利過ぎると思うよ」
 一六八が持ち掛けてきた道案内の法外な値段に、異議を唱えるのはクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)だ。
 その最中、がらんどうの家屋の外で、がさりと不審な物音が。
 瞬間、ぴんと猫耳を立てたクーナは反射的に屋外から距離を取るが、その後特段何も起こらない。一瞬吹き抜けた風の悪戯だったのだろう。
「利息抜きの2000兆回払いなら……って」
 一息安堵して一六八との会話を再開しようと思ったら、彼の姿は何処にも見当たらず。
 何時の間にやら交渉は破談してしまったらしい。
「まー、うん。どの範囲がオブリビオン絡みなのかは分からないけども頑張ろうにゃー」
 気を取り直し、乱れた羽根付き帽子を整えて、目的地に向かうことにした。
 暫し留まっていた空き家を飛び出し、ぴょんと宙を跳ねてもう一段、朽ちたビルの壁を蹴り、街路樹の天辺から横倒しのバスを伝って、二階建ての屋根の上へ。
 見晴らしが良すぎて兵士たちに見つかりそうな場合は素直に地上へ戻り、足の踏み場もない瓦礫塗れの悪路との感動の再会だ。
 そこから小さな一歩を踏み出せば、体躯に全く見合わぬ大きな足音。ボリュームの出力が狂っているのは今更言うまい。
 クーナは今一度跳躍し、そのまま接地しないギリギリの高度を保って前進(ステップ)する。足の踏み場が無いのなら、踏まなければいいだけだ。
 それでも19回目のステップを終えたら、一旦悪路を踏まねばならない。
「……だれだ?」
 その時、がしゃりと出した足音が、こんな風に兵士を呼び寄せてしまうこともあるだろう。
「んにゃ~」
 そんな時は物陰に隠れて猫の(ネコだが)鳴きまねをすればいい。
「なんだ……猫か」
 姿を見られてしまえばただの猫と言い張るのは少し厳しいが、大体の兵士はこれで、
「そうか……猫か。猫……連れて帰ろうかな……」
「んにゃ!?」
 猫好きの兵士がいるのは反則ではなかろうか。
「ほらー、こっちおいで―。ビスケットだよー」
 普通の猫はビスケット食べないのでは。ともあれ地味に絶対絶命だ。
「おい。よせよ。どうせ飼ったところですぐまた野良に逆戻りだろう」
「……そうか。それもそうだよな」
 同僚の兵士が猫好きの兵士を諫めて、この場を離れ行く。危機は去った。
「……どうしようもないくらい殺伐とし過ぎじゃないかにゃー、恐るべし」
 クーナはひょいと物陰から顔を出し、周囲を確認する。
 特に異常は見当たらず、あるのはただ、地面に置かれた袋詰めのビスケットのみ。
「しかしどこの世界も争いは絶えないんだねー………ふーむ」

 内戦ならばさもありなん。猫好きの兵士たちは、それからすぐに他勢力の兵士に追い詰められ、絶体絶命の窮地に立たされる。
 けれども彼らが蜂の巣になる寸前に、白雪と白百合の銀槍が閃いて、火を噴く筈だった銃器たちが宙を舞う。クーナが助けに入ったのだ。
 すぐに姿をさらした自身へ注目が集まるだろう。ユーベルコードがあるとはいえ、この世界の凄まじい武器達を真正面から受け止める勇気はちょっとない。三種の魔力で防御を高め、一目散にエスケープ。
 ……いずれ儚い人生模様。けれどビスケットの『恩返し』に、このくらいは。

成功 🔵​🔵​🔴​

松本・るり遥
ごめん、ジンガ
足引っ張られてくれ
俺、ここに、行きたい
場違いでも

パーカーの下に組織支給の防弾装備
戦場には『優しくない』者が立つべきだ
うん
また後で


俺達の命を、どうぞ。

兵士共に人の心が残っているか
目立たず隠れ歌を吠ゆ
誕生祝い、聖歌、人気国際ヒーロー曲、
この場には滑稽な歌ばかり
戦火への軽蔑を込めて。
聞こえたなら、少しでも『笑って』貰おうか

笑うことも忘れた人でなし?
犬にでも噛まれて寝てれば良い
援護射撃要るかよ、じんが
嘲笑で武器を落とさせる
ダッセェな
死にたくねえんだろ、兵士共

聞き耳で周囲の気配は探りつつ
近過ぎる相手には
困った時はまずはライトで目を潰せ

やさ遥って何だ
『時雨』だ

ご褒美だ
向こうに未夜が見えたよ


ジンガ・ジンガ
なんで謝んの?
行けばいいじゃん
ガイド代はラーメンで良いや

懐かしい匂いがする
じんがの第三の故郷へようこそ、るり遥
この先は、優しいヤツにはあんま向かねェんだ
だから、どうか、

笑う時間はもう終わり
抱えたものは余りにも重い

敵の気配探り聞き耳
目立たぬよう地形を利用し
忍び足で共に

笑わぬ者には意識逸らしの瓦礫投擲
だまし討ちの先制攻撃

瓦礫や敵の足元を撃ち土埃で目隠し
手榴弾でもいい

敵の手には瓦礫投擲し武器落とし
接近後は銃での殴打やダガーの峰打ちで気絶狙い

貰っとくわ、やさ遥ちゃん
でも
その身体で無茶しやがったら許さねェから

やさ遥ちゃんが危ない時は
敢えて敵前に出て囮に
敵の弾見切り
全力ダッシュの逃げ足回避

そっか、覚えとく




「……ごめん、ジンガ。足引っ張られてくれ。俺、ここに、行きたい……場違いでも」
「え? なんで謝んの? 行きたいんなら行けばいいじゃん。ガイド代はラーメンで良いや。灯人ちゃんトコのヤツ」
 友を巻き込む気まずさからか、松本・るり遥(蛙鳴戦争・f00727)は苦渋の表情でジンガ・ジンガ(塵牙燼我・f06126)に加勢を頼むが、当のジンガは友のためならとあっけらかんに、一も二も無く引き受ける。
「懐かしい匂いがする。じんがの第三の故郷へようこそ、るり遥」
 ――なんて歓迎したいところだけど、とジンガは無造作にポケットへ手を突っ込んで、天を見遣る。
「この先は、優しいヤツにはあんま向かねェんだ。だから、どうか、」
 眼を背けたくなるような戦場に限っていつも、空は憎たらしいほど穏やかだ。
「うん。また、後で」
 るり遥は小さく頷いた。
 目を瞑り、イヤフォンから『奴』の好む音楽(おと)が流れれば、『勇気のない』るり遥は微睡みに落ちて、人格(ひと)が変わる。
「さ 俺達の命を、どうぞ」
 眼を開き、そして変りに浮上するのは『優しくない』るり遥。
「貰っとくわ、やさ遥ちゃん。でも、その身体で無茶しやがったら許さねェから」
「弱気だな。俺達が生きるか死ぬかは、もう既にお前次第だろう?」
「あー! もー! 本当に言葉の端々が優しくないわ、やさ遥ちゃんさー!」
 解っている。優しくはないが、ジンガに対する信頼は、確かにあるのだ。
 だから……笑う時間は、ここで終わりだ。

 目立たず、騒がず、聞き耳を立てて情報収集を怠らず、常に地形を把握し、二人一緒に忍び足。
 ジンガがいつも戦場でやる、朝飯前の基本行動。
 けれども今日は何時もとまるで事情が違う。抱えたものは余りにも重い。
 見慣れたはずの戦場(ふうけい)が、しかし今まで全く見たことの無い異境の景色に思える。
 異境だろうが魔境だろうが、どうあれ自分は絶対生き残る自身はある。
 だがもう、自分『のみ』が生き残るだけではきっと満足しないだろう。友の命を背負うと言うのはそう言う事なのだ。
 ……だったら、じっくりと慣れて行けばいい。また故郷が増えたと思えばいい。その為にも。
「――来るぞ」
 『優しくない』るり遥が敵を察知する。
 その為にも……ここは絶対切り抜ける。

 るり遥はがなり声で吠えるように歌を歌う。
 それは軍歌に非ず、行進曲(マーチ)に非ず。それは誕生祝い、聖歌、人気国際ヒーロー曲――およそこの場では滑稽と、そぐわぬものばかり。
 馬鹿なやつだと侮蔑されようが、それでも戦火への軽蔑を込めて叫ぶ。笑え、笑え、少しでもその心にヒューマニズムが残っているのなら。せめて一時全てを忘れ、笑い果てて痺れてしまえ。
 兵士と雖もやはり人の子。るり遥の歌を聴いた大半の『人間』は行動不能に陥るが、しかし、笑うことを全く忘れた『人でなし』もいるものだ。実際に、るり遥の視界内に、複数名。
「どうしようもないな。そういうやつは、猟犬(いぬ)にでも噛まれて寝てれば良い」

「依頼主のリクエストなら、俺様ちゃんも惜しげなく唸りを上げるぜ?」
 ジンガは手近な瓦礫を人でなしに放って自身に注目を集め、るり遥に注がれていた敵意を逸らす。
 そこから、だまし討ちに引っ掛かり、怒り狂う人でなしの乱射を見切ると、その足元へ旧友(アサルトライフル)を打ち込んで牽制し、麻痺した人間から失敬した手榴弾を放る。
 その衝撃で舞い上げた土埃を煙幕に相手の視界を悉く奪い、続けて煙幕越しに瓦礫を投げつけ、相手の携行火器を容赦なく叩き落とした。
「援護射撃要るかよ、じんが」
「ナイスタイミング。丁度切らしてたわ」
 土煙が晴れて即、るり遥は嘲笑して残りの銃(ガン)を吹き飛ばす。
 仕上げにジンガは上着を脱いで加速し、人でなしたちが近接戦に移行するその前に、縦横無尽と駆け抜けてダガーの峰をめり込ませ、るり遥に迫る最後の一人へと走る。
「勇気のない俺の見立ては間違ってない。お陰で防弾服も新品同然だ」
 るり遥の記憶消去銃(ボールペン)がひとでなしの目を潰し、間髪入れずアサルトライフルの銃床が、止めに意識を奪い去った。

「……というかやさ遥って何だ」
「優しくないるり遥ちゃん。もしくはやさぐれたるり遥ちゃん? いやだって、名前教えてくんないし」
「……全く。もういい。一度しか言わないぞ。俺の名は『時雨』だ。二度は名乗らん」
 ――『名無しの権兵衛』『ピンク髪』
「どうした? 何を呆けてる」
「――いや。我ながら随分遠くまで来ちゃったなぁーって。でも……そっか。覚えとく」

 りん、と、良く知る鈴の音。
 恐らく、未夜が近くに居るのだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

六島・椋
SPD
怪談か……骨の関係する怪談はないのだろうか
聞きたいところだが、そうもいかないだろうな

飛び交う景気のいい音と閃光を隠れ蓑に、
【目立たない】よう潜みつつ移動しようか
廃墟の建物に、見つかりにくそうな足場や【ロープワーク】でひっかけられそうな場所があれば利用する
先に行ってもらったオボロに引き上げてもらったり、結んだからくり糸を引っ掻けて登ったり
【早業】には少しばかり腕に覚えがある

兵士に見つかったら自分は【目立たない】まま、
人形のオボロの【存在感】で注意を【誘き寄せ】、目を盗んで抜けてしまおう
それが駄目なら、蝙蝠の骨格人形たちに兵士の顔へ張り付いてもらって、
離れるまでの【時間稼ぎ】をお願いしようか




 火線交わる街角のその隅で、六島・椋(ナチュラルボーンラヴァー・f01816)は遠巻きに、兵士達の小競り合いを観察する。
「怪談か……骨の関係する怪談はないのだろうか」
 この世界の日本には戦死者の怨念が巨大な髑髏となって化けて出る妖怪の伝承があった。中東(ここ)では果たしてどうだろう。
 訊いて回ってみたくもあるが、引っ切り無しに耳朶へと届く罵声や怒号が見事にその気持ちを滅入らせてくれる。あらゆる世界の言葉を難なく理解できる能力も、時と場合によっては考え物だ。
 ともあれ吹き荒ぶ戦火が自身の存在を覆い隠してくれるのなら、遠慮なく利用させてもらうまで。
 響く銃声、爆ぜる閃光、椋はそれらに紛れ込み、人知れず戦場を横断する。
 旅の御伴は蝙蝠骨格人形・サカズキ組に人体骨格人形・オボロの二組。それらを動かす繰り糸は、細くて太い命綱。
 既にこの場は修復が効かぬほどの廃墟と荒れ野。椋は意図的に、足場の不確かなとびきりの悪路を選んで進む。銃器弾薬防具に糧食と、兵士たちの携行する装備の重量は決して軽くない。立ち往生する、或いは踏破に時間のかかりそうな場所の利用は避けるだろう。
 だからそういう道をこそ自信の早業で突破する。途切れた路の向こう岸に、引っかけられそうな突起があればそこへ糸を絡めて空を跳び、
「オボロ。頼んだよ」
 より高所を登る必要に迫られれば身軽なオボロを先行させ、糸ごと自分を引き上げてもらう。
 不意に、兵士達と遭遇した場合もオボロの出番だ。椋自身は素早く身を隠し、オボロを囮として兵士たちの前に立たせると、それだけで兵士たちに大きな隙が生まれた。
『死体が転がる戦場』と『骸骨』の相性が良すぎるのだ。死の象徴であるそれが、どう言う理屈か動き回り、がたがたと笑うように顎骨を鳴らし、一歩、一歩と距離を詰めてくるその恐怖。
 そんなオボロを振り切って武器を構える恐い物知らずの兵士もいたが、次の瞬間その顔に、骨蝙蝠が貼りつけば、廃墟に絶叫が木霊した。
 骨格人形達の時間稼ぎは十二分。椋は窮地を恐怖に変えながら、最前線を突破する。

 ――この地方の怪談に新しく人骨と骨蝙蝠のバリエーションが加わったのは、それからすぐ後の事だったという。

成功 🔵​🔵​🔴​

虹結・廿
了解、任務を遂行します。

転移直後、すぐにUC【分隊編成】を起動、四体の意識を共有した義体を呼び寄せ、瓦礫の山と化した大通りを一気に駆け抜けます。
私達の小柄な体躯なら、瓦礫で遮蔽を取りやすいので。

兵士に発見されても進路上問題なければ無視。
多少の銃弾では、私達の機械化された身体は損傷を負いません。
進行の障害になる様なら、義体を一体囮にし、残りで進行。
やむえず、攻撃を行う時は【ヴァリアブル・ウェポン】を発動、【アサルトウェポン】に内蔵された弾丸を威力最低、高命中に設定し、武器や手足を狙い無力化を行います。

義体が尽きる前に到着したい所ですが、それが叶わない場合は建物に飛び込み、ルートを変更。




「了解、任務を遂行します。仮想義体を要請。意識をリンク、……完了。動作に支障無し」
 ともすれば酷く事務的な少女の声音。転移完了した虹結・廿(ですますプロダクション・f14757)は、自身と同一装備で意識共有された4体の義体を呼び出し、分隊の編成を終えると、躊躇なく銃声鳴り響く大通りを駆け抜ける。
 目的はあくまで兵士達との交戦ではなくゴールへの到達。悪路に塗れた廃墟の中で、それでも一番なだらかな道は人の通りが多い道。だから廿は可能な限り、最大限に兵士たちを無視して、最大速で突き進む。
 無論廿がいくら無視を決め込もうとも、戦場に犇めく兵士たちは彼女の事を放っておかない。アイドルを追いかけるカメラの如く、何十もの銃口が廿を射止めようと弾丸を吐き出す。
 この状況においてこそ、利用すべきは小柄な体躯という長所(アドバンテージ)。廿は大人では防塁としても使えない小規模な遮蔽地を経由して弾雨をしのぐ。
 それでもなお避け切れない数滴ほどの弾丸も、全く気にせずゴールを目指す。廿も義体もその大半はサイボーグ――機械なのだ。多少の被弾で怯む道理は無い。だが鬱陶しくはある。
 スタートからゴールまで、およそ4分の1の行程を突破。廿は1つ目の義体を分隊から離脱させて囮に残す。
 行程の4分の2。ひらひらと舞う吹雪の残花。道中、再び寄せ集まった兵士を躱すため、2つ目の義体を配置する。
 4分の3。地面を焦がした炎の跡。3体目と離別。
 ゴールまでおよそ数百メートル。前方に敵分隊を確認。
「障害は……取り除きます」
 接敵回避困難と判断した廿は、アサルトウェポンに内蔵された弾丸の威力を最低限に設定すると狙いを絞り、兵士達の武器と四肢へ攻撃を加え無力化を図る。四肢へのダメージは軽い打撲程度だ。数日痣が引かないだろうが、それ以上の後遺症は無いと断言できる。
 ……敵の増援の、足音が聞こえた。ここで自身の姿を捕捉されては面倒なことになる。兵士達から完全に姿を隠すその間、4体目に殿を頼む。

「……これだけ撃っても斃れない……まさか噂に聞く怪談の……?」
「馬鹿。真昼間から寝ぼけるな!」
「そうだ。それにこいつにはちゃんと首があるじゃねぇか」
 4体目と交戦し、動揺する兵士達の隙をついて――廿はゴールへと全速力で疾走する。


●ゴール、その先
 戦場を突っ切った全ての猟兵が合流し、これで漸く味方UDC組織の調査を引き継ぐ準備は整った。
 薄暗く、荒れ果てた地下室の、床に散らばる瓦礫を丁寧に取り除く。現われたのは地下へと続く階段だ。
 光源を携えて階段を降り、大人一人が通れる程度の道を暫く歩くと、更に広い通路へと合流する。
 光に照らされた壁や天井の造りが古い。元々大昔に何らかの目的で作られたもの――例えば寺院の隠し通路など――を、ラシェッド医師が再発見したのかもしれない。
 本来の通路は南北に伸びたものらしかったが、南へと通じる道は土砂で埋まり通行不能、必然、地図の北端の位置にあったゴール地点よりもさらに北へ進む。
 ……地下通路を歩いて十数分。路の終わりに見えてきたのは地上の光――鬱蒼と生い茂った森林の景色と、出口のすぐそばに横たわる白衣を纏った右腕欠損の白骨死体。
 
 何かしらの手掛かりはないものかと、猟兵達は着のみ着のまま放置された死体を調べた。

 白衣の裏側に縫いこまれた刻印。
 財布に入っていた身分証。
 ふやけ、乾いた手帳の署名。
 それらが示す骸の名は。
 
 ――ラシェッド。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『オブビリオンの秘密工場』

POW   :    兵器を直接破壊する。

SPD   :    兵器に関する資料を探し出す。

WIZ   :    関係者に兵器の詳細を聞き出す。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※次回冒頭文章追加水曜予定。
●遺言
【私だって最初からそんな荒唐無稽な話を信じていた訳では無い。だが、終わりの見えないこの戦禍、たかが一人の外科医がやれることなどどれほどあろう。だから私は、一か八か、藁にもすがる思いであの儀式を行った。もしも我々を救える者が居るのなら、誰であれ手を差し伸べてくれ………と。
 そして、私に喚ばれ『彼』は来た。生齧りの儀式が成功したことにも驚いたが、何より、彼の語る智慧の悉くが、私の希うもの、その物だった時の感動は今でも忘れられない。
 その後も決して平坦な道程では無かったが、私の夢が叶うのならばとその一心で同志を集め、彼と共にあの廃墟を修復・改築し……ようやくここまで漕ぎ着けることが出来た。
 全ての準備は整った。これで皆救われる。
 依怙贔屓になるかも知れないが、まずは私を頼ってくれた患者達を、】

 開いた手帳。
 滲み、霞む文字を追い、ようやく解読した事件の発端、その断片。
 オカルトに傾倒していたラシェッドが、儀式によって『何者か』を喚び出してしまったのは確からしい。
 だとすると、彼の失踪とその後流行る様になった怪談話を関連付けて考えていた味方UDCの推理は俄然信憑性を帯びてゆく。
 更なる情報を得たいところだが、大半の頁は薄い絵の具を引き伸ばしたように文字がぼやけてしまっているか、破り捨てられており判読は難しい。
 辛うじて文字を拾えそうなのが……彼が修復に関わったであろう廃墟の間取りと、最後に書かれた頁だ。

【……数日ぶりに意識を取り戻す。忌々しい。■じゃない■が■いた■を破棄する。
 いいや。今の『私』は確かに私であるはずだ。
 酷い文字だ。だが私の右腕は最早■■■■ない。
 これは違う。奴らのやっている事は、奴らの目指しているものは、私が夢見たそれでは無かった。
 私はただ、■■を失ってしまった人々に再びそれを、
 ■に負けない■■な■■を、
 ■を病んでしまった人に――ぎを齎して欲しかっただけなのに。
 彼らが人々に施しているそれは違う。
 何という事だ。
 この世に――はないのか。
 真に■を■■■■てくれるものは居ないのか。
 だれか、だれか、あの大量の■■を、そしてかれらをとめてくれ。
 
 嗚呼。
 わたしは、
 すがりつくべきかみを、
 まちがえた】

 ……どうやらラシェッド医師は最終的に『彼』とは相容れず、逃走を図ったが、叶わずここで朽ち果ててしまったようだ。
 何らかの理由で精神が参っているのか、それとも追い詰めれていたのか、読めない箇所を差し引いても文章は乱雑で、以前の頁と比較すると、まるで利き手ではない方の手で書いたかのように文字が汚い。この時点で自身の右腕を喪失していたのかもしれない。

 猟兵達は通路の外、森林の奥を見遣る。
 そこに聳え立つのは巨大な真白の建造物。工廠か、あるいは研究所の類だろう。これが修復された廃墟と言う訳だ。
 二階建て、地上の入口は表、裏、左右にそれぞれ一つずつ。二階部のみに備え付けられた窓は大小複数。
 何かしら呪術的な力で隠匿されていたのか、廃墟と化した街からは然程離れていないにもかかわらず、傷一つ見当たらない。
 
 手記の情報を基に、大まかな行動方針は、
 『這いずる手、首なし兵士――怪談話の真相究明』
 『恐らく存在するであろう一般人の捜索と、生存者がいた場合の救出』
 『召喚されたにUDCに従う、(元)同士達への接触』
 と言ったところか。
 怪談話は一階、一般人は二階、元同志たちは地下。医師の遺した間取りのお陰でどこに何があるのかおおよその見当はつく。
 全てを一人でこなそうとすると無理が出る。気になる事象をそれぞれ手分けして探索すれば、自ずと敵の企みも知れる筈だ。
 外に見張りは居ないが、敵のアジトに潜入するのだ。どう動くにせよ、最低限の心構えはしておくべきだろう。

 手帳を閉じる。
 時刻は15時丁度。
 災いの箱の中に待ち受けているものは……果たして。
※訂正(お手数おかけします)
×:二階建て、地上の入口は表、裏、左右にそれぞれ一つずつ。
〇:二階建て、地上の入口は東西南北に一つずつ。南が表、北が裏。
ベルゼドラ・アインシュタイン
哀れなこった、神に縋らなければならない程落魄れていたんかね
これまた面倒くせぇ置き土産を置いていきやがったって事か

戦場は抜けたから、またか弱い女を装って建物の中へ
久々にシーフらしいことするかぁ、と肩の骨を鳴らす

中を探索する為に目ぼしい棚等は【盗み攻撃】で漁る
何か手掛かりになる様なモノでも見付かればいいがどうだろう
ぁ?兵器に関する資料?自分では良くわからねぇけど
勘で大事そうなものだけはとりあえず他の猟兵に託しゃいいか

生存者がいる場合は取り敢えず
迷い込んだ体を装いながら話を聞いてみる
何かしら情報が聞き出せなくてもまぁ、救出に一役買うか


―これといって暴れられなくて、もどかしいのは暫しの辛抱だ。


ロウガ・イスルギ
アドリブ・連携歓迎

スニーキングミッションはまだ続く、か

一般人の捜索及び発見後の救出をメイン方針とする
あくまで人質化を防ぐためとこの事件の情報の生き証人確保のため
生存者こそが兵器に関する生きた資料と言うわけだ
人道的見解はどうでもいい……まあ救えるならそれに越した事はない、が

グレイプニルを使用し登攀、二階の大きい窓から内部観察しつつ
侵入を試みる
侵入後は一般人の捜索に務める
窓のある安全な部屋があるなら全員そこに集める

グレイプニルを【レプリカクラフト】で複製し全員に渡す
最悪の場合自力で窓から脱出する事を言い聞かせる
怪我人がいたらワイヤーで吊るして降ろすよう指示。脱出したら
森林に隠れるように言っておく



●2F 生存者捜索:1
「哀れなこった、神に縋らなければならない程落魄れていたんかね」
 15時20分。同情混じりにベルゼドラは嘆息する。誰もが彼を頼ったが、医師とて万能の存在ではない。ましてたったの一人きりなら猶更だ。だがそれでも皆を助けたいと願うのなら、神に縋りつくしか……自ら落ちぶれていくしかなかったのだろう。
「しかしまぁ、これまた……面倒くせぇ置き土産を置いていきやがったって事か」
 周囲を見回す。館内には瓦礫はおろか埃一つ見当たらず、突っ切ってきた街とは比較にならないほど整然としたものだ。研究室と思しき一角に踏み入ると、何処から調達してきたのか、静かに稼働する電子機器達が忙しなく瞬き、侵入者の事など知らぬふりで計算を続けているようだった。
 機械関係の知識に長じているわけでは無いが、素人目に見ても、恐らく最高クラスの環境が整っている事は察しが付く。
「UDC様々って奴かね。セキュリティは大分お粗末っぽいけどな」
 久々にシーフらしいことするかぁ、と準備運動代わりに肩の骨を鳴らし終えると、ベルゼドラは慣れた手つきで研究室を調べ始める。
 手始めにマウスを転がしてみるもののPCはロックされており、次に林立する棚を探すが、オカルトやUDCに繋がる物はなく、むしろそれらと対極にある様な機械工学関係の学術書ばかり。もしや思わせぶりで何もないのでは、俄かに落胆しつつ、鍵のかかった机の引き出しを怪力任せに開くと……。
「……ん?」
 そこには『祭具量産計画書』なる資料が。
 その資料によると、ラシェッド医師は、本人も気付いていなかったが元々UDCを単独で召喚するに足る『血筋』の持ち主だったらしい。だから生噛りの儀式で幸運にも、否、不幸にも『彼』を呼び寄せることが出来てしまったようだ。
 しかし医師は途中で『彼』及び同志たちと対立、医師を触媒として頼れなくなったため代替品……祭具が必要になったと。
「自らの命と神を奉じる確固たる意思。それこそが量産品で神を顕現せしめるための要である、ねぇ? ……こいつら、放っておいたらどんだけUDC喚び出すつもりなんだよ」
 祭具のメカニズムや邪教の考えなどベルゼドラの知った事ではない。が、とりあえず重要そうな情報なので失敬しておくことにする。
「後は……生存者だな。2F(ココ)に居るんじゃねぇかって話だが……」
 一応、それらしい場所の目星はつけている。ベルゼドラは外していたか弱い女の仮面を被り直し、研究室を後にした。
 ――これといって暴れられず、もどかしいのは暫しの辛抱だ。
 

 遠心力を味方につけたグレイプニルのフックを屋上に引っかけ、ロウガは純白の壁を登攀する。目指すは二階の大窓だ。
 難無く目的地まで辿り着いたロウガはそこから身を隠しつつ館内部を覗き込む。凛々しい青の瞳が捉えるのは、二階を探索する数名の猟兵の姿と、そうではない正体不明の白衣の男。
「スニーキングミッションはまだ続く、か」
 15時30分。極力音を立てぬように大窓を破り、館内へと侵入を果たす。辺りを警戒し、敵の気配が近くに無い事を確信すると、ロウガは速やかに生存者の捜索を開始する。
 小さい部屋から順に隈なく探し、周辺で残るのはあそこだけだろうと走る途中、研究室から顔を出したベルゼドラと接触する。聞けば目星をつけた場所は同じ地点。二度手間を避けるためにそのまま合流し、揃って目的の部屋へ乗り込んだ。
 内部――造りから病室のような印象受ける――に居たのはそれぞれ白色のベッドに横たわる10名前後の人々。
 年齢、性別、人種はバラバラ、皆患者衣らしき簡素な服装で、目を瞑っているが呼吸はしている様子だった。
 死んではいないならと、二人は手分け『患者』――ラシェッド医師の患者たちかどうかは不明だが――を起こして回る。
「ねぇ、ここで何が行われているか……知ってる話があったら教えてくれないかしら」
 ベルゼドラは淑やかな調子で、目醒めた患者の中でも一番体躯が良い男に尋ねた。
「……その前に教えてくれ。今は何年の何月だ?」
 ロウガが正確な日付を教えてやると、アイマンと名乗る男は驚愕した。語るところによると、3か月近く意識が無かったのだと言う。
 彼はあの廃墟で戦う、どこかの勢力の兵士らしかった。曰く、大怪我を負って戦場に取り残され、意識が朦朧とした後、気付けばこの施設に居り、結果的に一命をとりとめたと。だがその後すぐ再び意識を失い、気が付けば今に至る、と。
 他の患者も程度の差はあれ同様の境遇だった。
 命に関わる大怪我をし、
 ここで一命をとりとめ、
 そして長期間意識を失っていたと言う。
「もう戦いなくない。戦火から逃げ出したい。そう思っていたし、此処にいる皆もそうだろう。だからこの状況はある意味で救いだった」
「つまり、ここの連中がお前達の命の恩人ってことか?」
 ロウガが訊く。が、アイマンは顔を真っ青にしてロウガの言を即座否定した。
「それは違う! 奴らは奴らの目的のために、下心ありきで俺達を助けたんだ! あいつらは――」
 視線。一心不乱でこちらに語っていたアイマンの視線が、ロウガからもベルゼドラからも外れ、恐怖の色を帯びる。即ち……。
「……! 後ろか!」
 ロウガが振り返ると、目鼻の先には殺意の刃(ナイフ)。咄嗟ワイヤーで刃を受け止め弾いたその先で、何が可笑しいのか、白衣の男が不気味に嗤う。
 ベルゼドラはダガーを片手に、丸腰になった男の腹へ、消えぬ傷跡を付けてやろうとその切っ先を突き立てる。が、
「ククク……」
 男は痛がる様子も見せず、しかし不利を悟ったか、身を翻し遁走する。血の一滴も、零さずに。
「逃げたのなら追わないでおきましょう……斬った時の感触が妙だったわ」
「賛成だ。刃に籠っていたあの膂力。暗殺者染みた身の熟し。オブリビオンでは無いが人間離れしていた」
 あれが医師の元同志なのだろう。気にならないと言えば嘘になるが、彼らの対処は他の猟兵に任せ、ロウガ達は人質の救出を優先する。
「おい。怪我はないか? 今からお前達を脱出させる。まず……」
「あ。あー。おじさんたち、だれ?」
「……何?」
 ふざけて居る訳ではないらしい。いつの間にかこの部屋にいる患者達全員の精神が、7~8歳程度まで退行していた。
「大丈夫? 自分の名前、憶えてる?」
 ベルゼドラがアイマンにそう問いかける。返って来たのは『グラック』という、元の名前に掠りもしないモノ。
 ロウガも改めて患者達に名を尋ねると、アイマン同様全員、先程とは全く異なる名前を答えた。
 まるで先の戦闘を切欠(トリガー)に人が変わったように、
 ……いや、本当に変わっているのだとしたら。

 ――心を病んでしまった人に安らぎを齎して欲しかっただけなのに。

 邪神のやることだ。そんな願いを、元の人格を強引に眠らせて、後天的に新しい『別人格』を付与することで叶えようとしていたのか。
 ロウガは、何か手掛かりになればとベルゼドラから渡された資料を読み込む。
 目を引いたのは、『自らの命と神を願う確固たる意思』の一文。
「……無垢な子供に歪んだ教育を施し都合のいい手駒に変える。独裁者がよく使う手口だ。自分たちが用意したまっさらな人格に、刷り込もうとしていたな」
 患者たちはこの事件の生き証人であり、文字通り『彼』らの企み、兵器に関する生きた資料と言う訳だ。
(「酷い言い草かも知れないが……」)
 人道的見解はどうあれ、救えるならそれに越した事はない。
 さらに彼らをよく観察すると、右か左か手か足か、患者衣から伸びる四肢の何れかと胴の色が異なっていた。
 どうやらまだ秘密がありそうだが、調べるのは後回しだ。五体満足なら脱出に問題は無いだろう。
 ベルゼドラが病室の窓を叩き割り、ロウガはレプリカクラフトで複製したグレイプニルを患者たち全員に持たせる。造りは荒いが、人が掴まって簡単に千切れるほど柔な代物ではない。
 戦火が届かない、隠匿された森の中。皮肉な話だが、そこなら街より、此処より、現状一番安全だろう。
 15時40分。患者達を施設二階より脱出させる。一階を探索していた猟兵が何かを見つけたか、階下より伝わる微細な震動。館内には不気味な白衣も徘徊している。
 ロウガとベルゼドラは患者たちを護衛しつつ、一旦、森林の入り口……ラシェッド医師の骸がある地点まで引き返すことにした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

六島・椋
どうあれ救うため奔走した氏には敬意を表すよ
それが氏の"骨"だったのだろう
美しき君
時間が許すなら埋葬したいところだが

自分は真相を暴きに
接触や救出は他に任せる
後者は自分達の場合、怖がらせるだろうし……

人形共々【目立たない】ように進む
開かない場所は【鍵開け】、暗い場所があれば【暗視】
怪しい場所は【第六感】と【怪力】で調べる
何か見つけたら持っていこう

怪談等に遭遇、仕掛けてくるなら
人形たちに死角からの【暗殺】を頼む
残っているなら【二回攻撃】
上に【ロープワーク】で上手く使えそうなものあれば、回避や攻撃に利用する
更に危ない時は福音で回避
自分達は君らの仲間じゃあない、せめて白骨化してから勧誘に来てくれ

連携OK


零落・一六八
救ってやれるかもって傲慢な話ですねー。ははっ。
自分が成したいことを何かに頼るからそんなことになるんですよ。
まー、ボクは何かを救出したりだのは柄でもなければ向いてもいないんで、怪談話の調査にでも行きましょうかねー。
間取りを頭に叩き込み、【第六感】で1階のきな臭いところを【迷彩】と【忍び足】でこそこそっと調べてみましょうか。
【聞き耳】で気配を探ったりしつつ、同じ調査をしている仲間がいるならある程度協力もしましょう
万が一やばい状況になったら【逃げ足】で逃げます
必要とあれば情報を【盗み】したりもしましょうか
すみませーん、ボク、手癖悪いんでー。
こいつは後で共有しときましょうねー。

※アドリブ他との絡み歓迎


千桜・エリシャ
WIZ
グウェンさん(f00712)と

旅は道連れ世は情け――という訳で引き続き共に参りますわ
私たちは怪談話の真相究明へ
だって一番面白そうですもの!

私は先程と同じく常世蝶に先行と偵察をお願いしますわ
グウェンさんが調査している間は周囲の警戒を
怪しい場所を虱潰しに探っていきましょう
腕力が必要なところは私も協力しますわ!

噂は這いずる手と首なし兵士でしたわね
這いずる手の正体はラシェッドさんの手の気がしますわ
手記を見るに生前に失ったようですから、死霊術の類ではなさそう
ということは首なし兵士は…もしかして不可解な失踪を遂げた一般人の方が生贄に…?

そういえば怪談の目撃時間は夜でしたわね
急いだほうが良さそうですわ


グウェンドリン・グレンジャー
エリシャ(f02565)と

旅は、ミチヅレ、世は、ナサケ
一緒に、行くー
他の階、も、気になる……けど、階段より、怪談

【POW】
私……は【第六感】で、目星を、付けて、調べていく
開かない、ドア……や、棚、金庫、は【鍵開け】で、開ける
鍵、無いとか、開かない……けど、第六感で、絶対、怪しい……と、思ったとこ
腕力、で、こじ開けて、みる……

這いずる手、デュラハン、みたいな、兵士
手……は、お医者さん、だと、思う……
兵士は……元、患者?
本当……に、見つけたら、影の追跡者……に、追ってもらう……

UDC、医者、怪談……なんか、他人事……と、思えなくて……ざわざわ、する、なー
なんで、お医者さん、道を踏み外す、んだろ……


ドアクローザ・バックチェック
ラシェッド医師の右腕が失われている……か。
来る前に聞いた怪談、這う腕だったか、それと関連があるかもしれないな。
おそらく戦場の怪談話は、呼び出された『彼』による仕業だろう。
事態の収拾には、『彼』の正体に迫る必要がありそうだ。

私は一階を探ろう。
正面から入って、内部の構造は分からないが、他の猟兵と分担して片っ端から見て回るとしようか。
書類でも謎の器具でも、とにかく怪しげな物を調べて行こう。
もしも怪談そのものがいたならば、斬る……しかないだろうか。
逃げたり襲って来たりするようなら、剣刃一閃で、動かなくしてから調べよう。
『彼』の目的と怪談話の関連が分かれば、ひとつ前進だな。


雷陣・通
先攻飛び込み!
此処はまず早めに飛び込んで相手の動きをあぶりだす!

『前羽の構え』とかばうを併用しての先行行動
一階の脅威に対して防御に徹することで攻撃を知らせて、皆へ警戒を呼び掛ける
皆が動けば、後は攻撃だ見切りとカウンターを併用して二回攻撃で正拳から上段回し蹴りを見舞ってやる。
あれ?効かない?
なら属性攻撃とマヒ属性乗せて電撃攻撃だ!
「頭が悪いから探索は任せた! 俺はこういうのをやる!」


ジャガーノート・ジャック
【POW】

(ザザッ)
戦場というよりはホラーじみてきたな。

(ザザッ)
第2ミッションを開始、一階の探索を開始する。

首なしの兵士と這いずる手というのを探索しにいこうか。
敵勢力の一部だとすれば削いで置くことに越したことはない。

『Summon: Arms』作動。
召喚パーツは"レーダー探知機1機"及び"レーザーファンネル2機"。

"探知機"により目標を探知しつつ
内部へ潜入。
発見した対象は"レーザーファンネル"2機による熱線の照射で破壊を試みる。
(2回攻撃+スナイパー)

――元が人だとすれば、死を以てしても戦いからは逃れられなかったのだな。

本機の作戦概要は以上、実行に移る。オーヴァ。
(ザザッ)



●1F 怪談話の真相究明
 15時5分。ロウガとベルゼドラの生存者救出活動より、時間は少し遡る。

「……戦場というよりはホラー染みてきたな」
 白の建造物より、幽か漏れ響く機械音に、森の葉擦れと、ノイズ交じりの声が紛れ込む。声の主は、迷彩を解いたジャガーノートだ。
「第二ミッションを開始、一階の探索を開始する……首なしの兵士と這いずる手というのを探索しにいこうか」
 早速ジャガーノートは追加兵装(オプションパーツ)を召喚し、自身とリンクさせる。今回の内訳はレーダー探知機1機及びレーザーファンネル2機。
 探知機を起動したまま館内への侵入を果たし、そこから数歩程度歩いた時点で、ジャガーノートは足を止めた。
「探索、完了」
「ええ!? もう?」
 近くに居た通が驚きの声を上げる。
「間違いない。ミッションクリアに適合する『怪談話』の正体はこの大扉の内部にこそ存在すると思われるが……」
 倉庫、或いは格納庫に繋がっていると思しき大扉。しかし、目標があっさり見つかり過ぎるのが逆に気にもなる。ジャミング装置がある訳でもなく、まるで、誰かが扉の奥にあるものと猟兵を意図的に引き合わせたがっている様な……。
『怪談話』の正体が何であれ、少なくとも、今、大扉を開け放ってしまえば一階の様相が激変する予感はあった。現状、扉の中身を、一人二人の手で対処できるかは疑わしい。
 扉の先に挑むのは、こちら側の戦力が整ってからでも遅くは無いだろう。 
 時に待機もミッションの内と割り切って、ジャガーノートは暫し、開かずの大扉を監視する。


「一応、ボクは何かを救出したりだのは柄でもなければ向いてもいないんで、怪談話の調査にでも行きましょうかねー」
 二階へ上る猟兵達の後ろ姿を見送って、一六八は大きく伸びをする。
「救ってやれるかもって傲慢な話ですねー。ははっ。自分が成したいことを何かに頼るからそんなことになるんですよ」
 結局、望みを成し得ず命を失ってしまったのなら全ては水泡だろう。一六八の視点は冷酷だが、真実でもあった。
「どうかな。自分は、どうあれ救うため奔走した氏には敬意を表すよ。それが氏の"骨"だったのだろう」
 対照的に、椋は医師の心情へ理解を示す。憐れむべきは、彼の熱意を踏み台に、暗躍している連中が居ることだ。
「おおっと、意見が違えてしまいましたね。それではここから道も違えるとしましょう。別行動です」
 後の合流地点――どんと構える大扉の前――だけ軽く示し合わせると、一六八は迷彩と忍び足を駆使し、自身の第六感を頼りに単独でフロアの奥に消えた。
「美しき君。時間が許すなら埋葬したいところだが……」
 善良すぎた医師。最早末路が覆せぬものであったとしても、野晒しのままと言うのはあまりにも。
 けれど、先ずは成すべきことを成さねばならない。全てが終わるまで今暫く、彼にはあの場所で微睡んでいてもらおう。
「自分も怪談の真相を暴きに行こう。助けに来たのが骸骨じゃあ、怖がらせるだろうし……」
 かたかた、と骨格人形たちが同意めいた声を上げた。

 目立たないように一階の探索を続け、やがて椋が辿り着いたのは手術室と思しき場所。
 異常なまでに血生臭い。先端器具が所狭しと並べられたその部屋の中央、手術台の上には、仰向のけまま放置された首なし屍体があった。
(「これが徘徊する首なし兵、だろうか」)
 真っ先にそう考え、骨格人形達で牽制を仕掛けてみるが、屍体は微動だにしない。本当に、ただの、事切れた死体であるようだ。
 それでも不可解を告げる第六感を端に置き、椋は手術室の最奥にある扉の鍵を開ける。
 扉の先は、『火葬場』、いいや、ゴミ処理施設だろうか。大型の焼却炉の中を窺うと、燃え残った四肢や胴体らしき白骨が散乱していた。
 そこからは、人体、或いは人骨に対する当然あるべき配慮を感じない。生ゴミをそのまま炉の中に放り投げた。そんな有様だ。
「流石にこれを持ち帰るわけにはいかないね……」
 焼却炉に破棄された四肢も『這いずる手』ではなさそうだ。
 病室の首なし死体含め、間違いなく関連はあると思われるが……。
「これ以上は何もない、かな」
 取り敢えず。椋は踵を返す。
 得た情報を、合流地点へと持ち帰る為に。


「旅は道連れ世は情け――という訳で、引き続き共に参りましょう、グウェンさん」
「旅は、ミチヅレ、世は、ナサケ。一緒に、行くー」
 エリシャとグウェンドリンの一組も、本格的に一階の探索……怪談話の調査を開始する。
「他の階、も、気になる……けど、階段より、怪談、ね」
「ええ。だってそれが一番面白そうですもの!」
 廃墟を踏破した時と同様に、エリシャは常夜蝶を先行させ、偵察を任せる。エリシャ自身も、方々を調べるグウェンドリンへ脅威が及ばないようにと、周囲の警戒は怠らない。
「UDC、医者、怪談……なんか、他人事……と、思えなくて……ざわざわ、する、なー。なんで、お医者さん、道を踏み外す、んだろ……」
 ぽつりとグウェンドリンが呟いた。脳裏を過るのは、余命僅かな自分を哀れんだが為に、禁忌へと手を伸ばした父の姿。
 ラシェッド医師にせよ父にせよ、その問いの答えを持つものはもう居ない。彼らの行動にこそ答えは有るのかもしれないが、秘したまま亡くなってしまったという事は、軽々に暴き立ててはいけない想いがそこにあるのかもしれない。
 
 四方八方、怪しいところを虱潰しに探索した二人はやがて、機械(マシン)の整備室らしき場所へ行き着いた。
 そこで『何』を整備していたのかは検討もつかないが、グウェンドリンが設置されている棚や、金庫の鍵を開けると、小さな精密部品達が大量に顔を覗かせる。
 どれを取っても見慣れない奇怪の塊。もしかすると、この世界の現行技術より数世代先のテクノロジーが使用されているのかも知れない。
「これ、何、だろ?」
「さぁ、私にも見当は付きかねますが……随分と仕組みが複雑に見えますわ」
 グウェンドリンが首を傾げ、エリシャは部品の一つを手に取る。何かの部位だろう。節があり、折れ曲がる、掌に収まる程度の大きさの直方体。先端はやや丸みを帯びており、一言で言ってしまえば、これはまるで――。
 その名を口に出そうとした刹那、常夜蝶が激しく揺れる。敵の接近か、二人は身構えるが、それから数秒と経たぬうちに蝶は平静さを取り戻す。
 ……蝶の誤反応、はあり得ない。先程まで何かが二人の間近に潜んでいて、しかし何もせずに離れた……と考えるのが自然だろう。どこかから、行動を監視されているのかもしれない。
 いずれにせよ、粗方の探索は済ませた。二人は警戒を強めつつ、整備室から立ち去る。
 残る不審な個所と言えば――通が寄り掛かり、ジャガーノートが睨んでいたアレ位だろう。


 他の猟兵同様片端からフロアを見て回り、その末に資料室への侵入を果たしたドアクローザは、手当たり次第に蒐集された資料を読み漁る。
 正面から臆することなく堂々と館内へ入ったのに、出迎え一つ無いのは、敵側の余裕の表れと見るべきか。
「ラシェッド医師の右腕が失われている……か」
 来る前に聞いた怪談――這う腕。それと関連があるかもしれない。
「それに。おそらく戦場の怪談話は、呼び出された『彼』による仕業だろう。事態の収拾には、『彼』の正体に迫る必要がありそうだ」
 資料室にあったのは、古今東西の奇書・呪術書・そして同志たちが残したと思われるメモの類。森林全体を覆う隠匿の呪術についてや各UDCを呼び出すための予想必要生贄(コスト)量等、大半はろくでもない、あるいは真っ当に邪教らしい情報ばかりが記載されていた。
 黙々と資料に目を走らせる。結果『彼』に関する記述として気になる箇所が二つ。
『彼』はUDC由来の膨大な智慧を持つ『使者』であること。
 そして、他のUDCを呼び出そうとするのは、『彼』自身の願いであること。
「反則だな。他者の願いをかなえるために喚ばれた存在が、その全能力を自身の欲望のために使うなど」
 ともあれこれで『彼』の目的は知れた。本命の怪談話については未だ解らないが、残る答えは恐らく、例の場所にある。


「おおっすみんな! どうだ? 情報収集捗ったかー?」
 館内に侵入してこっち、特別大きな扉の前に立ち、大樹の如く一切そこから動かなかった通が、一階の探索を終えた猟兵達に成果を聞く。
 全員の収穫を列挙すると、
 ジャガーノートは大扉の先に潜む何某かの存在を。
 椋は手術室に放置された死体と焼却炉で焼かれた人骨の情報を。
 エリシャとグウェンドリンは未知の精密部品と謎の気配を。
 ドアクローザは『彼ら』が蒐集したUDCの情報と『彼』の目的を。
 そして、一六八は特に何もなし。
「えっ!? ボクだけ収穫ゼロなんですか!? それはなんと言うか、なーんか嫌だなぁ……」
「安心しろ一六八! 俺も収穫ゼロだぜ?」
「通さんは最初っから探索する気無かったじゃないっすかぁ!」
「ははは! 俺頭が悪いから、探索はみんなに任せてた」
 それに、狙うのなら大物の方が良い。通は背にしていた大扉へ向き直る。ジャガーノートの見立てが確かなら、分厚い扉の先には、嵐が待ち受けているのだろう。
「この大扉、鍵が硬くてたった一人の力じゃびくともしないぜ? どうしたもんか、いいアイディアがあるなら教えてくれ」

「そうだね。それじゃあ自分は腕力で」
「私も。非力な身ではありますが、腕力が必要とあらば協力しますわ!」
「うん。腕力、で、こじ開けて、みるね……」
「隠していましたが、実はボクも腕力には少々自信があるんです」
「力を溜める時間が貰えるなら、私もそれに付き合おう」
「Copy」
 満場一致だった。
 
 15時40分。猟兵達が力を合わせて大扉をこじ開け、通がいの一番にその先の真っ暗闇へと飛び込んだ。
 数度瞬きし、眼を暗所に馴らす。次第にうっすら見えてきた光景は――。
 
 肉屋の貯蔵庫の如く。
 宙に吊るされた無数の腕、脚と、
 等間隔に整列したまま蹲る首の無い兵士達。

 ――だれか、だれか、あの大量の兵器を、そしてかれらをとめてくれ。

 パチン、と、何処かで指の鳴る音がした。
 直後、一斉に怪談たちが目を覚まし、怒涛となって猟兵達へと襲い掛かる!
「いいぞ。わかりやすい。俺はこういうのをやる! 皆! 気を付けろ!」
 通は前羽の構えをとって、皆に警戒を呼び掛けながら、迫り来る怪談を絶対防御の意気でいなし続け、まずは敵の観察に回る。
「では、僕は静かになるまでドロンします。探さないでくださいね!」
 相手は首なし体無し。消失錯視が効くかは一か八かだったが、一六八へ攻撃が来ないところを見ると有効だったようだ。
 一六八は倉庫の角に隠れ潜んで怪談のラッシュアワーをやり過ごす。
 が、このまま収穫無しのまま逃げるのも癪だったので、怪談話の一片を、無理矢理掴み上げて盗み出した。
 一方倉庫の中央部。まるで10秒先の未来を見てきたかのように、椋は魔手を回避し跳び上がると、倉庫の天井にからくり糸をひっかけて、『手』の届かない高所へぶら下がる。
「自分達は君らの仲間じゃあない、せめて白骨化してから勧誘に来てくれ」
 さらにそこから、数には数をと骨蝙蝠のサカズキ組を操り、蝙蝠達は椋の指先が伝えるままに、飛び縋ろうとする怪談の群れを死角から急襲し、撹拌した。
 蝙蝠たちの狭間を縫って、エリシャは黒刀・墨染を引き抜き、這い回る手足を切っては捨てる。
「手首と言えど首は首。とはいえ、小粒なのは否めません。ですので……首なし兵士の手首足首(くび四つ)、全て頂戴いたしますわ?」
 斬、と暗闇に溶け込んだ墨染が、軌跡すら見せずに一瞬で兵士の首を全て奪う。
 転げ崩れる兵士を踏み台に、グウェンドリンは展開した黒い翼を蠢く腕へと叩きつける。そのまま生命力を吸収しようとするが、
(「命が、ない?」)
 だとすると、これは。やはり。
 念の為、倉庫から逃げ果せようとする腕の一体に影の追跡者を這わせ、グウェンドリンは交戦を続ける。何にせよ、先ずはこの怒涛を乗り切ってからだ。
「怪談そのものが向かってくるならば、斬る……しかないな」
 首なし兵士と蠢く腕、それらが無数に押し寄せてくるとしても、非武装ならば此方に分があるだろう。
 ドアクローザは機械太刀・ダブルシリンダーを起動させ、野生の勘で動きを見切ると、唸る機関の赴くままに、腕と兵士、諸共に両断する。
 途中ガチン、と刃が断ち切れない何かに接触し、ドアクローザは弾いたそれをつかみ取る。正六面体の小さい何か。壊れずの産物……祭具だろうか。だとしたら放置しておくわけにもいかない。ドアクローザはそれを掌に納めると、改めて、ダブルシリンダーを奔らせる。
「見た目に惑わされる本機ではない。これらが敵勢力の一部だとすれば、削いで置くことに越したことはない」
 ジャガーノートの追加兵装である2機のレーザーファンネルが薄暗い宙で弧を描く。
 探知機の示す座標に従って、天から地へと間断なく降り注ぐ熱線の一射一射は精妙・精密を極め、確実に怪談たちを沈黙させてゆく。
「皆動いたな! よし、俺もそろそろ……!」
 皆が怪談に対応した事を確認した通は前羽の構えを解き、防御から攻撃へと転じる。牙の如く組み付こうと迫る腕の群れを紙一重で捌き、動きの緩慢な首なし兵の攻撃を潜り抜け、カウンターに正拳突きからの上段回し蹴りを見舞う。が、
「あれ? 効かない?」
 ただの拳打・蹴撃では効果が薄いか、ならばと通は四肢に触れれば麻痺を引き起こす程に強烈な電撃を纏わせ、殴り抜く。と、
「あれ? 滅茶苦茶効いた!」
 今度は正反対に、たったの一撃で首無しが呆気なく崩れ落ち、どうやら『電撃』属性がピンポイントで弱点だったらしい。
 それを知ったらこちらのものだ。通が拳を突き出し、脚を蹴り上げる毎に、怪談たちは喜劇の様に舞い踊り、地へ沈む。

 猟兵達は、戦場の怪談を物理的に終わらせた。
 打撃で抉ったんだ怪談も、斬撃で斬り伏せた怪談も、気付けば全てが燃えて灰になっており、後に残るのは壊れずの祭具だけ。それとて、知識の無いものが見ればただの石ころとしてしか認識できないだろう。
「機密保持、か」
「そうみたいですねぇ」
 ジャガーノートの推測に、相槌を打ったのはそれまで隠れていた一六八。
 そろそろ終わったようなので、と、一六八は手に『腕』を伴って姿を見せる。
 一六八の手中で、大魚の如く大暴れする『腕』。
「どうです? 活きが良いでしょう? ボクも大概手癖は悪い方ですが、こいつには負けるかもしれません」
 一六八は『腕』を宙に放り投げ、即座、野太刀で叩き割る。発火、消失する直前、『腕』の中にぎっしり詰まっていたのは、グウェンドリンとエリシャが探し当てた未知の精密部品。
「これは言わば超高性能の義手ですよ。ほら、指先に穴が開いてます。最終的にはビームとか実装するつもりだったんじゃないでしょうか」

 ――私はただ、四肢を失ってってしまった人々に再びそれを。
 
 やはりそうですか。と、エリシャは先程回収した直方体を取り出す。これは、『指』のスペアパーツだったのだろう。
「幽霊の正体見たり、ですわね。死霊術では無いにせよ、這いずる手の正体は最初、ラシェッドさんの物ではないかと思っていたのですが……」
「私も、手……は、お医者さん、だと、思って、た」
 予測としては外れていたが、しかし別の意味合いでそれは合っていたのだろう、とドアクローザはエリシャとグウェンドリンに語る。
「つまり、最後の頁を書き込んだ時には、彼の右腕は何らかの理由ですでに義手(それ)だったのではないだろうか」

 ――酷い文字だ。だが右腕は最早信用ならない。

 人を襲い、這い回る腕。ラシェッド医師に装着されたその腕こそが彼を絞め殺し、その後独りでに逃げて研究所(ここ)へ帰還した。右腕欠損遺体の完成だ。
 突飛が過ぎるが、義手の現物を見てしまった後だとあり得るようにも思える。
「デュラハン、みたいな、兵士、も、元患者、じゃなくて」
「逆だろうね。こっちの方が新品の体だった、という事だろう。首から上が無いのは、替えの効かない部位だからかな」
 椋が答える。首なし死体も根本は義手と同一だろう。首無しを攻撃した際、糸を通して伝わる感触が『腕』とほぼ同じものだった。

 ――病に負けない強靭な肉体を、

 今にして思えば、手術台の上にあった死体の、その首から上は、古い体を離れ、新しい義体(からだ)に移し替えられたのかも知れない。
「夜中に腕や兵士が動き回っていたことに関しては、ラシェッドさんの元同志……運用していた方に訊いてみるしかありませんわね」
 小さく息を吐き、エリシャは桜色の瞳を閉じる。唯一、確証が無いだけで、訊かずともおおよその見当はつく。
「……これは、枷だろうな。何かを生かすためではなく、何を失っても最期の一瞬まで戦場に立たせ続ける為の、呪われた鎧だ」
 ジャガーノートはノイズの奥でそう、呟いた。

「あ、……」
 グウェンドリンは不意に言葉を零す。
 彼女の影が追跡している『腕』に、何者かが接触した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アシェラ・ヘリオース
WIS指定。『召喚されたにUDCに従う、(元)同士達への接触』

「聞き取りなら私も出向いた方が早いな」
スーツ姿で後衛を担当し、前衛達の活躍に従って侵入した。
聞き取りとなれば、周囲を警戒しつつ自分も出よう。

「皆の活躍でここまで来れた。この後も同じようにやろう」
各猟兵達から[コミュ力]で情報共有し、[戦闘知識]で情報を整理して[鼓舞]と冷静な指示出し。だが上官ではないので、各々の現場判断が最優先だ。

「貴方達に聞きたい話があります」
同志達に[礼儀作法]で情報収集。必要に応じ[殺気]や[念動力]による[恫喝]、[催眠術]を用いる。事態の危険性を考慮し、多少手荒くても情報を抜く。

【アドリブ、連携歓迎】


浅沼・灯人
【召喚されたにUDCに従う、(元)同士達への接触】
赤銅(f01007)と合流し地下へ
暗視と失せ物探しも得意だ
先導は任せろ。なんなら手ぇ繋いでやろうか?

……どうだかな、この手の宗教は沼が深い
神以外に救いを見いだせるやつがいるんなら、救おう

同士と思わしきやつらを見つければ接触前に腕を刀でぶっ裂く

さけ……いや、俺の血でもつけてろ
あとで治してく……いや違うぞ
脇差しの方だお前の打った方じゃねぇから違うからな

負傷者のふりで近付いて接触、情報を聞き出そう
大根演技もリアリティー付与すりゃなんとかなる
逃げ出したいようなら手を貸し
赤銅の血で救えそうなら身柄拘束
……他人に触れるのは苦手だが、少しくらい耐えてやらぁ


多々羅・赤銅
【(元)同士達への接触】
なあ。灯人(f00902)はどう思う?同士達、って、戻って来れっと思う?
思っても望んでも 結局現実が広がるだけだけどさあ。
報われて……いや
報いて、やりてえなあ

ま、無駄話は探索の邪魔だ邪魔。お静かにいこ。
探索不得意なんだよ。リードして。ふっは、今繋いだら邪魔だろ、帰りで良いよ。

治すのは任せとけだけど。ねえ今私がくれてやった刀で斬った?おん?違う?よし。
うはは、大根演技の怪我人に釣れるくらい正気がお陀仏してるか人が良いかのどっちかだってすぐ分かるじゃん。甲高い悲鳴つけとく?

UDCの影響で狂気に浸されているならば
私の血で濯げまいか
ワンチャンなら取っちめて血ぃぶっかけるんだけど



●地下 (元)同志達への接触
「なあ。灯人はどう思う? 同志達、って、戻って来れっと思う?」
 15時10分。多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)は、連れ立って地下フロアに降りた灯人へ尋ねる。
 赤銅同様、灯人もつい先ほど雨曝しの手記を読んだだけの部外者だ。あの断片化された文章から、医師の元同志達の心情を推し量る術はない。聞かれても困るだけの問いだろう。それはわかっている。
「思っても望んでも、結局現実が広がるだけだけどさあ。報われて……いや。報いて、やりてえなあ」
 それでも。胸の内に生じた言い表せぬ靄を、言葉として吐き出したかったのだ。
「どうだかな、この手の宗教は沼が深い。だが、もし……神以外に救いを見いだせるやつがいるんなら、救おう」
 赤銅の懊悩を受け止めた灯人は、肯定も否定もせず、ただ静かにそれを飲み込んだ。
 全ては元同志(かれら)の気質次第。この地で過度な期待を抱けば、恐らくきっと、ラシェッド医師のように。
「……ま、そうだな。無駄話は探索の邪魔だ邪魔。お静かにいこ。探索不得意なんだよ。リードして」
 と、いつもの調子を取り戻した赤銅に灯人は頷き、改めて地下階の造りを確かめる。
 手記によればここは元同志たちの居住区。地上よりも灯りが一段落されており、まさに隠れ家(アジト)と言った雰囲気で、周囲とは色合いの違う壁面、不自然に穴の開いた箇所のある天井部など、間取り図には記されていない隠し通路や隠し部屋などがあっても不思議ではない。
「暗視と失せ物探し、それに先導は任せろ。なんなら手ぇ繋いでやろうか?」
「ふっは、今繋いだら邪魔だろ、お構いなくって奴だ。帰りで良いよ」
 先頭は灯人、次が赤銅。それで、そちらさんはどうする? と、赤銅は振り返り、最後尾にいるアシェラ・ヘリオース(ダークフォースナイト・f13819)へ視線を向けた。
 先の戦場で猟兵達のフォローを担当したアシェラが研究所(ここ)に侵入したのは、先行隊から少々遅れての事。
 元同志と接触するなら聴取に長けた人間も必要になるだろうと判断。猟兵達と合流し、今に至る。
「皆の活躍でここまで来れたんだ。引き続き、各々の現場判断で同じようにやろう」
 スーツ姿でぴしりと決めて、アシェラは後方警戒の担当に就く。
「オッケ。それじゃ役割分担で行くとしますか」
 赤銅がにい、と笑って音頭を取り、3人は地下の探索を開始する。

 アジトに侵入して暫く。先頭を進んでいた灯人が通路の曲がり角で不意に足を止め、2人にここで待機するよう指示を出す。
 灯人が死角から先を窺うと、そこには間取り上の会議室のすぐそこ、通路の真中で頭を突き合わせ、何かを議論する白衣の男――おそらく元同志4人の姿が。
 聞き耳を立てたとしても、ここからでは会話の内容はわからない。接近する必要があるだろう。
 致し方ない。灯人は溜息一つ吐き出すと、意を決し、脇差で自身の腕を勢いよく斬り裂いた。
 赤銅(あいかた)の治癒能力を信頼していないと、こうも思い切りばっさりとはいけない。
「赤銅。悪いがあとであとで治してく……」
「治すのは任せとけだけど。ねえ今私がくれてやった刀で斬った? おん?」
「いや、違うぞ? 脇差しの方だお前の打った方じゃねぇから違うからな」
 灯人の申告通り、鼈甲刀には一滴の血飛沫も付着していない。のだ。が。
「ふーん、へー、なーんか怪しいなー。何せ顔が真っ青だし」
「いや……それはそうなのでは?」
 思わずアシェラが突っ込んだ。
 それはそうだった。
「うはは、解ってるよ。違うならよし。大根演技の怪我人に釣れるくらい正気がお陀仏してるか人が良いかのどっちかだってすぐ分かるじゃん。甲高い悲鳴(さけび)もつけとく?」
「さけ……いや、俺の血でもつけてろ。お前のと違って、大したご利益はないけどな」
 灯人は赤銅にわざとらしくならない程度、自身の血液を垂らし、二人揃って傷病者を装う。
「万一に備えて、私は此処で周囲の動きを見張る。可笑しな言い回しになるかも知れないが……武運を」
 通路の死角にアシェラを残し、二人は白衣達に接触を図る。
 さて……血液付きの大根演技がどこまで通じるか。

「おや」
「おやおや」
「おやおやおや」
「おやおやおやおや」
 負傷した灯人たちの出現に、白衣達は色めき立つ。
「またまたお客様か。やはり隠蔽用の結界の効果が落ちているのかねぇ」
「敷設してしばらく経つ。我々は機械分野に強くても呪術に関しては未だ素人。時間と共に劣化するのは致し方のないところだろう」
「そんな事はどうでもいい。ほら、そこの君たち、随分大きな怪我をしてるじゃないか。ほら。見せてごらん」
「あぁあぁ、可哀そうに。痛かったろうねぇ。苦しかったろうねぇ」
 気味が悪い。白衣の男たちは、本当に、心の奥底から、灯人達を心配しているようだった。
(「どう思う赤銅。こいつら、善人に見えるか?」)
(「いやぁ、言動はそれっぽく聴こえるけど、眼のギラつき加減がマッドのアレだわ」)
 赤銅のいう通り、白衣達が灯人の傷口に寄せる視線は慈悲、慈愛を通り越して狂気を帯びているように思える。
「……ならず者に襲われて、無我夢中でここまで逃げてきたんだ。もう、傷から先の感覚が無い。あんたら……治せるか?」
 試しに灯人はそう、瀕死の形相を作って懇願する。と。
「そうだねぇ。万事私達に任せて任せておきたまえ。立派に直してあげようじゃないか」
 
 治す。
 直す。

「――危ない!」
 白衣達の不審な挙動を見抜いたアシェラはダークフォースソードの刀身を伸長させ、白衣一人の腕部を射抜く。
 地に転げ落ちた腕部が零すのは、全身を駆け巡っているはずの血液ではなく、機械的な電流火花。
「ああやはり、君たちも地上の彼らの仲間なのだね。人の善意につけ込むなんていけないな。さっきもちょっと驚かそうと思ったら、お腹を刺されてしまってね」
 今日生身から替わったばっかりで、ちょっとはしゃぎ過ぎたかな。そう言って、不気味な笑いの男が衣服を捲る。そこにあったのは機械の躰。
 気色の悪い自己紹介の終わりを待たずに、アシェラは男へ赤光のフォースランスを見舞う。四肢に胴。頭以外の全ての部位を壁面に縫い付けたが、それでも男の笑いは止まず。
「あーあーひどい。あんまりだ。けどね。代替品ならいくらでもあるんだぜ?」
 突如地下階全体が振動する。あらゆる隠し通路が開通し、この場所へ無数の手、脚、胴体が流れ込んできた。
 男はダメージを受けたボディから頭部を離脱させ、再び新品の四肢を手に入れる。
「正解は、『人が良くて正気がお陀仏してる』、だったな。お子様ランチだって今日日そんな豪華じゃあ無いだろうに」
 祈酒を灯人に奢った赤銅が大業物・卵雑炊をくるりと回し、
「眉間に一発撃てば流石に止まるだろうが……面倒くせぇ。用があるのは頭の部分ときた」
 刀傷の癒えた灯人がアサルトウェポンのトリガーに指をかけ、
「想定外の状況……だが、焦る必要はない。出来る事だけをやろう」
 そしてアシェラはニ刀を手に指揮官としての貫禄(カリスマ)を発揮し、二人を鼓舞する。
 今はただ、眼前の怪異に立ち向かうのみだ。

「……他人に触れるのは苦手だが、少しくらい耐えてやらぁ」
 零距離から、灯人は竜化した自身の四肢を以って元同志の機械四肢を砕く。防御の出来ぬそのボディをストレートで吹き飛ばすと、更にドラゴンオーラを叩き込み爆破する。
「痛みは、ないんだろう。だったら景気よくだ!」
 爆炎を突っ切って、赤銅は刃を一閃、元同志の躰を真二つに機械(むくろ)の上を駆け抜ける。
「ああ。すまないが、手荒く行くぞ」
 そろそろ足の踏み場も無いだろう。黒王刃にて3人目の白衣を切った後、アシェラは黒刃に特大級のフォースを込めて、最期の一人に叩きつける。
 諸共地形が陥没し、それまで機能していた腕、胴は、余波に巻き込まれ消し飛んだ。
「おや。困った。一階の倉庫(きょうきゅうさき)の在庫が尽きたと見える。何という事だ。これでは手も足も出ないじゃないか」
 遂にパーツの供給が止まる。
 灯人はオーラの鎖を引っ張って、生きた生首を赤銅の前に転がすと、赤銅は生首に祈酒をかけてやる。
 もしもUDCの影響で狂気に浸されているならば、邪を払う自身の血液で濯げまいか。そう考えたが、男の性根は変わらない。
 UDCなど関係なく、拉げ歪んだ状態の精神が、男にとっての正常なのだ。
 ならば血の影響は、男が多少素直になる程度だろう。
「――貴方達に聞きたい話があります」
 生首状態の歪んだ男に、アシェラはそれでも礼儀を失せず、しかし、恫喝や催眠、搦め手を織り交ぜて尋問を仕掛ける。

 彼ら、いや、彼の目的は信者……兵士を増やし、さらに多数のUDCを召喚すること。
「我々は『あの人』のサポート役に過ないよ。四肢や体が不自由な人に新たな四肢を提供し、その見返りとして宗旨替えをしてもらう。ギブアンドテイクを断る人や戦争で心が止んでしまった人々の為に、『戦争に耐性のある、とても素直ないい子』の人格を後付けで付与する。期待の人材は、この国では目いっぱいいたからねぇ」
 怪談の正体は、拉致(スカウト)に奔走していた義肢、義体達だろう。
「恥ずかしながら、最初は苦難の連続でした。手術に失敗した患者さんを死なせてしまったり。付与した人格と前の人格が混ざり合って廃人になってしまったり、――嫌だな。そんな目で見ないでくださいよ。何でもそうです。過去の失敗があるからこそ、今に経験を生かすことが出来るのです。そういう意味では彼らもまた立派な殉教者でした」
 微塵も悪びれずに男は言う。この男は、それこそが最善だと信じているのだ。
「ラシェッド医師もだった。『あの人』を喚び、我々を集めてくれたとても素晴らしい、特別な『才能』の持ち主だったのに。どういう訳だか道を違えてしまった。何がいけなかったのかなぁ。必死で仲直りしようと思って。元の腕とは比べ物のならない性能の腕にサプライズで換装してあげたんだ。喜んでもらえると思ったのに、でもなぜだか一向に心の距離が縮まらない。なので最終的に、『素直』になって貰う事にしたのさ」

 ――私じゃない私が書いた頁を破棄する。

 恐らく彼らはそれが正義だと、強引に集めた患者達から同意を得ずに問答無用で四肢、肢体を提供していたのだろう。如何仕様も無い善意の押し売りだ。
「意思こそが重要なのです。強い意志が神を呼び、その神々こそが世界に救済を齎す。神を信じる意思を失い、その役目を『祭具量産計画』にとって変わられたラシェッド医師は、『あの人』に見放され――」
「もういい。もう十分だ」
 アシェラは尋問を打ち切る。
 これはもう、救えない。
 自身の肉体を躊躇なく捨て去るほどに、UDCの齎すオーバーテクノロジーに魅せられた彼らが正常なのか。
 それともUDCと関わって全く正気を保ったままだった医師が異常なのか。
 わからない。理解できるのは、医師の正の善意と彼らの負の善意が絡み合わさって、おぞましい事態が進行しているという、その一点だけだ。
 
 意味不能な言葉を口走る生首たちが、味方UDC組織としては未だ貴重な情報源なのは相違ない。
 囀る生首を回収し、アシェラ達は地下階を後にした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

三岐・未夜
【るり遥、ジンガと】
わ、え、……あー……るり遥、ジンガ……(まだ。その先は飲み込んだ家出狐)
………え。……あー、と、その、……ごめん(そんなに心配されてると思わなくて。これは流石に逃げ出せない)

まあ、真っ先に人助け選ぶ辺りるり遥らしいけど
あーやっぱ叫ぶよねーそうだよねー……知ってた
るり遥の声に付随するように【誘惑、催眠術、おびき寄せ、祈り】を行使し、一般人へ安心感と信頼を起こさせる形で自ら居場所を伝えてくれるよう、一抹の勇気を
音を鳴らせば其処まで助けに行くよ
歩けるひとなら自分で出ておいで

るり遥守る手は多い方が良いでしょ、ジンガ
敵がいればUC使用で【誘導弾、先制攻撃、属性攻撃、援護射撃】


松本・るり遥
未夜
やっと追いついた
連絡つかないと思ったら。
ほら、こっから三人行動!ジンガすっげ血の気引いてたんだぞ!

医師の、事も、気になるよ。善い人がどんなに踏み躙られたか。けど、残されてる人がいる事が、俺には、……きっとDr.にも、一番恐ろしい。
二階に行きたいーー行こう。

この人数が乗り込むんだ、コソコソする必要も無えだろ。
あーーー今から危ない事するほんとごめん。
「誰か!居ませんか!」
外敵がもし居たなら居場所を知らせる真似だろう。
『助かりたいか!生きていたいか!声は、上げられるか!!』
よく響いてくれImmortal、生き残りの心までどうか懇願が届け。
必ず聴き拾うから。

【聞き耳、救助活動、鼓舞】


ジンガ・ジンガ
よりによって、こンなトコに居るとは思ってなかったわよ
ってコトで、未夜ちゃん連行しまァーす!
……なにバラしてくれてンだよ、松本バカ遥

俺様ちゃん的には興味ねェっつーか
さっさとオサラバしてェンだけど
はいはい、るり遥そういうコトする!
知ってたァー!
未夜ちゃんまで!
それも知ってたァー!

なら、周辺警戒と室内戦は俺様ちゃんのシゴト
【聞き耳、情報収集】で音や残った資料を探り
敵が居たら【目立たない、忍び足】で【先制攻撃、だまし討ち】
開かない扉はオトメのヒミツで【鍵開け】
正攻法がダメなら『マスターキー』――ショットガンでドカンと開錠

あのね、俺様ちゃんからしたら
未夜も充分そーゆーのの対象なンっすけど
……まァ、いーや



●2F 生存者捜索:2
 15時5分。
 地下通路を歩いた時もそ知らぬふりをし、手記を読み終わったらすぐ森へ逃げ込んだ。
 一人ぼっちの未夜は、不気味な真白の工場を仰ぐ。ありもしない人目を避けるように背を丸め、フードをさらに深くかぶり、探索を強行しようと一歩踏み出す。が、
「……未夜! やっと追いついた。連絡つかないと思ったら」
「よりによって、こンなトコに居るとは思ってなかったわよ。ってコトで、未夜ちゃん連行しまァーす!」
 灰色だった周囲が俄かに色彩を取り戻す。どうやら2歩目を独りで刻む時間は、無くなってしまったらしい。
「わ、え、……あー……るり遥、ジンガ……!」
 言いたいことはあった。言わなければいけないこともあった。けれどもまだ。家出狐はその先をぐいと飲み込んで。
「ほら、こっから三人行動! ジンガすっげ血の気引いてたんだぞ!」
「そうそう俺様ちゃん真っ青で……って、なにポロっとバラしてくれてンだよ、松本バカ遥。配慮がないわーそういうトコ」
「………え。……あー、と、その、……ごめん。そんなに心配されてると思わなくて」
 これは流石に抜け出せない。観念して友人達の厚意を受け止める他ないだろう。
 ……温かくて、少しだけこそばゆかった。
「それで、ここからどうするの? 折角合流したんだもの。僕は二人に合わせるよ」
 厚意の炎に当たり、悴んだ精神をほぐした未夜が二人に訊く。
「俺様ちゃんは今回雇われだから。依頼主であるるり遥の方針に付き合うだけだし?」
 だったら。注がれた友人二人の視線を受けて、るり遥は決断する。
「二階に行きたい――いいや、行こう。医師の、事も、気になるよ。善い人がどんなに踏み躙られたか。けど、残されてる人がいる事が、俺には、……きっとDr.にも、一番恐ろしい」
「……そっか。そうだね。真っ先に人助け選ぶ辺りるり遥らしいや」
「よっし! 超スムーズに行先決定。そンじゃ行こうぜ出発進行!」
 そう言う訳で、ジンガは未夜の右腕をがっしり掴み、
「えっ」
「連行するって言ったじゃん?」
「言葉のあやじゃなかったの……!?」
「いいや。全然あやじゃないぞ」
「るり遥まで……!?」
 るり遥が未夜の左腕をぐいと掴む。
 未夜は2階まで安心・安全に連行された。

 館内2階。ロウガとベルゼドラが東側半分の探索を担当し、此方の割り当ては西側半分。半分だけとはいえ、機械の律動が響くその空間は、手記の図で想像していた以上に広々と、端から端まで探索するのは骨が折れそうだ。
「うーん。俺様ちゃん的には特に興味ねェっつーか。さっさとオサラバしてェンだけど。3人で手分けしてやっても結構時間かかりそうなやつだわコレ」
 分散するか纏まっていくか、ジンガはさてどうしたモンかとるり遥へ話題を振ると、るり遥の答えは単純明快だった。
「この人数が乗り込むんだ、コソコソする必要も無えだろ……あーーー、今から危ない事するほんとごめん」
 るり遥が大きく呼吸すると、ジンガの顔は徐々に驚愕の表情へと変わっていく。いやマジでやるやつ? 最終的にジンガの顔はそう語っていた。
「誰か!! 居ませんか!?」
 近くであれば他の環境音全てが聞こえなくなるほど、渇望の限りの声量を振り絞り、るり遥は西側半分とは言わず、2階全体に呼び掛ける。
 外敵がもし居たなら居場所を知らせる真似そのものだろう。
「はいはい、るり遥そういうコトする! 知ってたァー!」
「あーやっぱ叫ぶよねーそうだよねー……知ってた」
 それでも友人達にとっては突飛な行動足り得ず、想定の範囲内なのだから、持つべきものはやはり背を預けられるほどの信頼だ。
「もー、未夜ちゃんもなんか言ってやって? 下手すると敵に」
「うん――一抹だけでいい。勇気をだして! 音を鳴らせば其処まで助けに行くよ! 歩けるひとなら自分で出ておいで!」
 誘惑、催眠術、おびき寄せ、祈り。考えつく限りの技能を声に乗せ、未夜もまたありったけ叫ぶ。
「未夜ちゃんまで! それも知ってたァー!!!」
 釣られてジンガも叫び出す。友人だもの。きょうのジンガは何でも知っていた。
「助かりたいか!生きていたいか! 声は、上げられるか!!」
 響け、響け、不滅の声よ。生き残りの心までどうか懇願が届け。必ず、必ず聴き拾うから。
 未夜の祈りとるり遥の願い。二つの声音が調和して、あらゆる全てを揺るがせば、幽か、それに応える誰かの叫びが聞こえた。
 警戒役のジンガを先頭に、三人は駆ける。

 囚われの人々を助けようと駆ける三人に、立ちはだかるのは分厚い扉。幾度かドアを叩いてみれば、その中から人の声がする。
「やっと俺様ちゃんの活躍タイムじゃん? ここはプロのシーフの業を御覧じろってなモンよ」
 ならばこれが最終関門。ジンガはオトメのヒミツを携えて、手慣れた動作で扉の開錠に取り掛かる。
「あー」
 かちゃかちゃ。
「んー」
 がちゃがちゃ。
「おー」
 どんどん。
「あっゴメン。二人ともちょい下がって」

 バァン!

 絶対無敵のマスターキーが、(開錠できなくも無いが時間がかかりそうなので取り敢えず)錠そのものを粉砕した。
「どうよ? これが戦場傭兵(プロ)の業ってやつじゃん?」
「マスターキーっていうかそれショットガンだろ!?」
「でも、これ結果オーライだよ、るり遥」
「そうそう。重要なのはソコじゃんよ未夜ちゃん!」
 ともあれ扉を片付けた三人は、その室内へと足を踏み入れる。

 そこは病室でもなく、牢でもなく。
 例えるならウェポンラックに収納されている武器の様に。無辜の人間達が直立不動の状態で並べられ、拘束されていた。
 此処は一体何なのか。ジンガは目に付く資料を読み漁り、るり遥と未夜は囚われの人々の拘束を解いて回る。
「あんたたち、そうか、随分時間はかかったが、ラシェッド先生が助けを寄越してくれたんだな!?」
「……いいや……ああ」
 目の前の人々に、真実を語る『勇気』はるり遥になかった。
 けれども未夜は、今はそれが正解だと思う。真実が時に人の心を折ることもあるのだ。
 解放された人々は、しかし、直立不動の状態のまま、前のめりに倒れ込んで起き上がらない。
「……起き上が『れ』ないんだわ。このヒトたち、資料によれば生身の部分が首から上だけの、後はサイボーグだって」
 ジンガは頁をめくり、戻し、彼らの『起動方法』を探し出そうとする。
 起動方法は――。
「私の、指先一つだ」
 ぬるりと、全く知らない男の声。ジンガは即座、詳細不明の男に旧友(サブマシンガン)を叩き込むが、男は『死に絶えた水面に冥月の影を映すように』 全ての弾丸を回避する。
 トレンチコートに中折れ帽。スーツ姿で犬猫をあやす様に怪談……義手を抱える、場違いな格好のその男こそ『彼』であり――事件の黒幕。
 男がパチンと指を鳴せば、一般人たちの首から下が起動して、彼らの意志とは全く関係なく此方へ襲い掛かってくる。
「ああ、ああ! た、助け……!」
「助けるべき人間たちが襲ってきたぞ。さぁどうする。頭を撃てばそいつらは死ぬし、ともすれば四肢をもいで転がすか? 残酷だな。こいつらの痛覚はオンにしてあるから、ショック死してしまうかもな。さあ。どうする?」
 男は嗤う。嫌がらせの類ではなく。ただ、次の為のデータが欲しいだけなのだろう。
 ……しかし。男のその『嗤い』こそが、猟兵達に突破口を齎した。
「やることがテンプレ過ぎて笑いの沸点が超高い俺様ちゃんもつられて笑っちゃうレベルだわ。指パッチンで反応? 首から上が生身? だったら――」
「そうだね。るり遥。あとは頼んだ……ほら、るり遥守る手は多い方が良いでしょ、ジンガ」
「……あのね、俺様ちゃんからしたら、未夜も充分そーゆーのの対象なンっすけど。……まァ、いーや」
 どれより自分の命が大事と断じた男が、誰より身の危険も顧みず、何より先に最前列(まえ)へ立つ。
 夜に傾き始めた黄昏のような、寂しい色の炎が、陽の光より温かく皆を照らす。
「――わかってる、皆、死にたくなければ全力で嗤え!」
 るり遥の、ありったけの感情を篭めたがなり声。全身全霊を賭したヒューマニズムが――無辜の人間達を苛む機械の躰を強制的に麻痺させる。
「何だと――?」

●2F 合流
 刹那、男の背後目掛けて、複数の光条が瞬く。猟兵(なかま)達のユーベルコードだ。
「機械腕……つけられていたか」
 男は機械腕を握りつぶし、身を翻す。
 好機だ。仲間たちが男を牽制してくれているその間に、るり遥たちは一般人(サイボーグ)を運び出す。味方UDC組織なら、彼らを悪いようにはしないだろう。

 ――この世に救いはないのか。
 ――真に手を差し伸べてくれるものは居ないのか。
 ――だれか、だれか、かれらをとめてくれ。

 ……ラシェッド医師の、最期の願いが叶うまで……もう、あと少し。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『邪神エージェント』

POW   :    ハイペリア重殺術・獅子噛
【無拍子の踏み込みによる崩し技 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【重力加重付加の柔術の当身や投げ、関節技】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    銃声はただ一つ
レベル分の1秒で【6発の超高濃度UDC因子の刻印弾 】を発射できる。
WIZ   :    冥鏡死水(ダーククリアマインド)
【死に絶えた水面に冥月の影を映すように 】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は才堂・紅葉です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※次回冒頭文章更新水曜予定
●手を差し伸べるもの
 合流した猟兵達は逃げる男の後背を追いかける。
 館内でそれぞれが得た情報の共有を図りつつ、右に左に通路を走り、撃ち出された弾幕を潜り抜け、やがて男を追い詰めた。
「死に難く、従順で、死と共に邪神を喚ぶ狂信兵団。その橋頭保を、全く、完膚無きまでに破壊してくれたものだ」
 遮蔽物が一切無い、無機質でただ広大なだけのその空間。男は場のちょうど真ん中で足を止め、悠然と此方へ体を向けた。
「あの廃墟の有様を見ただろう。全ての原因は蒙昧な人間どもにある。世が平和でありさえすれば、ラシェッドが私を喚び出すことも無かった。四肢を失った人間に再び四肢を与え、病に蝕まれた人間を二度に病に侵されぬ体へ移し替え、劣悪な環境でも生きていける強い人格(こころ)を齎した。そんな我々が、世界の救済を求めてやまない我々が、悪であると謗られる理由など微塵もない!」
 そう大仰に、雄弁に語り終えた男は、しかし直後、酷く醜く顔を歪め、自嘲する。
「……なんてな。それっぽい御託を並べた『良い子』用のお説教だが、我ながら寒々しい。それでもラシェッドの集めた機械馬鹿どもには覿面だったがね」
 男は嗤う。他者に理想を騙る人間が、理想を信じているとは限らない。まして彼自身がオブリビオンなのだ。狂信も妄執も、全ては破滅に至るための手段でしかない。
「けどな。覚えておくといい。人が壊し、国が見捨て、されど神は何も為さず。善良な男の純真な願いに手を差し伸べるのが邪神(われわれ)しかいないという如何仕様もない残酷さ。それこそがこの世界を覆う狂気の本質なのだと、な」
 男はリボルバーのシリンダーに再び弾丸を込め直す。
 空間を侵食する無限の殺意。
 最初から逃げるつもりなど毛頭無く、自身にとって一番都合のいいフィールドへ此方を誘き寄せる心算だったのだろう。

「お前達さえいなければ、速やかにこの世界は狂気へと傾いていく。消えろ、猟兵。狂気に抗う正気など、幻想に過ぎないと教えてやる」
 一戦交えずとも理解できる、驚異的な技量を有した相手。
 しかし唯一付け入る隙があるとするのなら。
 それは、『彼が生噛りの儀式で不完全に召喚された』という、その一点の事実のみ。
アシェラ・ヘリオース
「なんとも嫌な相手だな」
あの男が語る狂気の本質は的を得ている。
だが、今この時にやるべき事は一つだ。
あの医師の無念にこそ報いを与えねばならない。

「5分ほど稼げるか?」
両掌の間にフォースを収束させ、【礼儀作法】で猟兵達に作戦を告げる。
怖ろしく危険な相手だ。
あの身のこなしは達人のそれだ。並大抵の攻撃は当たらない。この広所で奴を捉えるのは至難。防御困難な体術とあの弾丸も極めて危険だ。
まずは奴から広所の優位を奪おう。
オーラ防御と戦闘知識で凌ぎ、威力をチャージする。力が満ちれば【念動力】で浮遊し、奴の頭上から【黒点破】。奴には当らないだろうが、地に大穴を空ける事で戦場を狭く区切ろう。

【アドリブ、連携歓迎】


虹結・廿
世界とか、国とか、神とか、善悪とか、そういうモノは特に関係ありません。
貴方の排除が廿のオーダー。それだけです。

UC【分隊編成】を展開。
アサルトウェポンを斉射、相手の動きを牽制しつつ、攻撃を引き受けます。

廿は話をするのが苦手です。廿は考えるのが苦手です。廿は思いやるのが苦手です。
ですが、銃を打つのは得意です。

攻撃が当たらなくても良い、一撃で倒されても大丈夫。
換えは幾らでも。UC【分隊編成】【代替の効く躰】
得意な事は得意な人がやれば良いのです。

後はどなたかお好きにどうぞ。


廿は今、ラシェッド氏の願い(オーダー)で動いています。
人の願いは人が叶えます。神様は祈られていれば良い。
貴方は邪魔です。死ね。


奇鳥・カイト
弱いからこそ何かに縋るもんだ
そりゃそいつが悪いさ
だが、仕組んだ奴がいるなら話は別だ
放っとける訳ねーだろ

偶然合流したリシェリア(f01197)と共闘することに
何度か交流した間柄、俺よか戦い慣れんだろうけどな

「んな事ァ見りゃわかる
そっちこそ、怪我する前にとっとと下がれよ」

女子供に任せられるわけがない
もしもの時は体を張ってでも守りに行く

【咎力封じ】で拘束を行う
ちと相手してもらうぜ

[傷口をえぐる]ように体とセンス任せのフリーファイトで戦うつもりだ[地形の利用]しながら戦うのは得意なんでな

剣たぁまた便利そうだ
「まっ無い物ねだりなんかしてらんねぇか
──今の俺にゃ、これしかねぇからな」

【アドリブご自由に】


リシェリア・エスフィリア
頼ってしまった相手が、最悪だった
それがこういう結果になってしまうのが、この世界……
でもそれに頷いてしまっては、いけない

【奇鳥・カイト・f03912】と邂逅

何度か交流した顔なじみ、戦った所は見たことがないが出先がぶつかるのは偶然
……とはいえ、縁を温める余裕はなさそうな相手

「あいつは強い、よ。……カイト、無理は避けて」

彼が未だ戦闘には慣れきっていない様子なら武器受け、オーラ防御等で大きな一撃を貰わないようカバー

長剣を自在にふるう剣士の戦闘スタイル
自身の攻撃が及ばない様であれば
【魔法使いの記憶】を使用
「……なら、逃げ道を塞ぐ……」

氷の花を散らし、予測は出来ても回避できない状況を作り出す


雷陣・通
ラシェッドさん、あんたの声は聴いた
後は任せてくれ
そしてお前に言っておく!
お前は手を差し伸べたんじゃない、純真な願いにつけ込んだんだ!
それを許すわけにはいかねえ!
『ライジングスタイル!』真の姿を開放だ!

戦闘知識と相手の動きから戦闘スタイルを確認
父ちゃんから聞いた事あるぞ、ハイペリア重殺術だな?
ってことは無拍子――呼吸の間を狙ってくる
殺気を込めた残像をフェイントに相手の一撃を見切り
そしてもう一つのUC『手刀』で相手の右腕を叩き切る

「そうだな、確かにこの国では命は軽い」
でもな
「お前達が弄って良いほど、安いものじゃないんだ!!」


零落・一六八
ぶっはは!何を言い出すかと思えば!
あははは、あーもー、笑わせないでくださいよー。
善?悪?願いに手を差し伸べなかった?
心底どーでもいいですね!
ボクは今ちょっと気分がいいですよ。
これだから猟兵ってやつはやめられないっすね!
単純に気に入らないアンタみたいなのをぶっ飛ばせるんですから!

ここらは殺意も悪意も溢れてますね、とってもいい環境だ
嗚呼、腹ガ空イタ、全部食べてしまいましょうか
UCを使用し、腹を満たした呪詛と毒で血を吐きながらも止まらない
弾丸は両断、重殺術は見切り
捨て身の一撃で斬りつけ怪力で蹴り飛ばします
まぁ一人で戦っているわけじゃないんで
それ含めて"使えるものは全部使って"戦います

アドリブ大歓迎


ロウガ・イスルギ
アドリブ・連携歓迎

一つ聞きたい事がある……「どの辺」から御膳立てしていた?
テロリストの参戦、政府側と反政府側の武力衝突……
そもそも発端のデモ自体貴様らの掌上に運らされていたとしたら……

まあいい、ここが戦場ならば傭兵が負けるわけにはいかない

【真の姿】
今の処ステUP以外は特に変化なしで

「先制攻撃」「2回攻撃」「カウンター」を生かして
【魔狼縛縄】によるユーベルコード封じを狙う
最低でも攻撃力を減らす
「援護射撃」「武器落し」等も使用して戦闘をアシスト

戦場で傭兵が負けるわけにはいかない……が、
俺が勝つ必要はない。「俺達」が勝てば済む事だ。
……あの医師も一人でやろうとしなければいい物を……今更だがな。


六島・椋
狂気云々はどうでもいい
元よりひとつのことにしか関心がいかない身
世辞にも頭のいい方でもないしな
ただ、いまだ残るままの氏の遺骨を弔いたい
それだけだ

人形たちと各々、別方面から攻撃を仕掛けよう
【フェイント】や【騙し討ち】【二回攻撃】を不規則に混ぜる
簡単には見切らせてやるまい

飛び道具は面倒だな
隙を突くか、
人形たちに奴の視界を覆って【時間稼ぎ】してもらうかして
【ロープワーク】【早業】【盗み攻撃】で相手の銃を盗めないだろうか

難しそうであれば、盗みにいった自分に奴の意識を【誘き寄せ】、
オボロに【目立たない】方向からの【暗殺】を頼もう

奴の攻撃は【第六感】も使った福音で避けるか、
蝙蝠たちの【盾受け】で防いでもらう




「なんとも嫌な相手だな」
 射抜かれるようなプレッシャーに晒されながら、それでもアシェラは怯む事なく男を見遣る。
 あの男が語る狂気の本質は的を得ているのだろう。仮に猟兵が邪神とその眷属を一掃したとて、この世界は変わらず残酷であり続けるのかもしれない。
 だが、例えそうだとしても。今すべきはこの世界の行く末を憂う事ではない。
 今、この瞬間、真に為すべき事はただ一つ。
 即ち。彼の医師の無念にこそ、慈悲ある報いを。
「……5分ほど稼げるか?」
 両掌に純黒のフォースの収束・圧縮を開始したアシェラは、共に戦う仲間たちへ礼を尽くし、真摯な態度で自身の作戦の詳細を告げる。
 男が怖ろしく危険な相手だというのは周知の事実。某かの武術を修めているのか、銃の扱いも含め、あの身のこなしは達人のそれだ。然したる工夫も無しに並大抵の攻撃は当たるまい。ましてこの広所が彼の得意とする戦場だと言うのならば、このまま何の策なく戦闘を続けるのは悪手と言えるだろう。
 敵の得意分野に付き合う程お人よしでもない。
 故ににまずこの広所を何とかしたいところだが……アシェラは両掌で揺らめくオーラを見る。まだ足りない。まだ種火だ。今暫くの時が欲しい。
「俺としては問題ない。味方の援護の為に敵の足止めを買って出る……戦場では掃いて捨てるほどよくある話だ」
「此方も異議はありません。了解です」
 アシェラの要請を受けたロウガと廿は頷くと、二人は彼女へ届く射線を可能な限り塞ぎつつ、男目掛けて一直線に走る。
「こいつが『救いの手』になるか『裁きの縄』になるか、総ては貴様次第だ」
 全身に隈なく力を漲らせ、疾駆しながら、ロウガは複製した21本の念動式グレイプニルを宙へ放ち、
「任務遂行の為、仮想義体を要請。意識をリンク、……完了」
 廿が4体の義体を召喚する。
『……まさか噂に聞く怪談の……?』
 不意に、廿は戦場で接触した兵士の呟きを思い出す。あの兵士が真相を知っていたとは思わない。しかし全てが明らかになった今考えてみると、偶然にも真実を言い当てていたのだろう。
「世界とか、国とか、神とか、善悪とか、そういうモノは特に関係ありません。貴方の排除が廿のオーダー。それだけです」
 廿と義体達は50口径のアサルトウェポン・ミンチメーカーの銃口を男へ向け、グレイプニルの援護と共に、損傷を一切顧みず突撃する。
 しかし廿達の放つ弾丸の悉くを男は冥鏡死水の境地を以って躱し、そのまま即時廿への応酬にリボルバーのトリガーを引いて見せる。
 男が奏でた銃声はただ一つ。だが一つの銃声で放たれた6発の弾丸は、一撃一発で義体を倒し、残りの二発が廿の身を抉り、超高濃度のUDC因子がその身を蝕む。
 だが、それは単純計算で通常の威力の三分の一。廿は足を止めず、再度分隊を召喚・編成する。
 攻撃が当たらなくても良い、一撃で倒されても大丈夫。男に辿り着くまでどれほど義体を消費しようとも、その換えは幾らでも。
「廿は話をするのが苦手です。廿は考えるのが苦手です。廿は思いやるのが苦手です。ですが、銃を打つのは得意です」
「素晴らしい。その義体。その思考、私の理想の到達点はお前なのだろうな」
「同じ世界の物なら、コンセプトが似通ることもあるでしょう。ですが、貴方の理想(それ)と廿が一緒くたにされるのは心外です」
「そうか。それは残念だ」
 リボルバーの銃声が響けば、義体は全て除去され、廿は二発分のダメージを受ける。
 その都度廿は義体を喚んで前進し、銃が鳴って義体が斃れさらなる義体を呼び出し……その繰り返し。
 やがてダメージの許容量を遥かに超過した廿の義体は、精神(こころ)が幾ら折れずとも最早一歩も踏み出せず……。
 一つきりの銃声。六発の弾丸はその全てが正確に廿を貫き、廿は遂に前のめりで倒れ伏す。
 開けてしまったリボルバーの射線。アシェラは廿が見せてくれた男の動きを自身の戦闘知識で読み、オーラガードと持ち前の身のこなしで何とか凌ぐが、それもいつまで保つか。
(「まだ……厳しいか」)
 黒気の収束は不完全だ。あと、ほんの少しだけ……。
「それ以上は俺を倒してからにしてもらおう」
 がちん、と、念動グレイプニルの先端が男の足先数ミリ前に撃ち込まれ、地を捲る。
 空を裂き、蛇の如く男に殺到するグレイプニル。ロウガはさらにそこへ対UDC用アサルトウェポン・ブラフマーストラの弾雨(いぶき)を容赦なく差し向ける。
「一つ聞きたい事がある……『どの辺』から御膳立てしていた? テロリストの参戦、政府側と反政府側の武力衝突……そもそも発端のデモ自体貴様らの掌上で踊らされていたとしたら……?」
 もしやこの国で起こっている内戦の全てが。最悪を想定したロウガが男に訊くが、男は嗤い、
「それは買いかぶりが過ぎるというものだ」
 銃声。六つのグレイプニルが砕け、
「だが、知らずとは言えただの医師が私達を召喚しようとするのだ。政府か軍の偉い人間が『そう言うこと』を企んでいてもおかしくはないし」
 銃声。一二のグレイプニルが弾き飛ばされ、間もなく十八本目が念力を受け付けなくなり、
「この国で動く邪神の眷属が私だけとは限らない。あの、表向き平和な日本の有様を知っているだろう?」
 銃声。遂に二十一本全てが消失し、あまりの三発がロウガを苛む。
「人の数だけ貴様たちが召喚される可能性のある狂気、か。まあいい、どうあれ、ここが戦場ならば傭兵が負けるわけにはいかない」
「ふん。よく吼える。たかがその身一つ、ワイヤー一本。命を軽々しく捨てるのが傭兵の本質か」
 男の言う通り、残るグレイプニルは真打の一つきり。しかし男の言うように、ロウガは単身で戦場に立っている訳では無く。
 男がグレイプニルにかまけていたその隙に、召喚された『五つ』の義体全員が、全力で男の全身を掴み、離さない。
「なっ――!?」
「現義体の損傷率90%オーバーを確認……。新しい義体を要請……。人格データを移行……。完了…。現義体は動作を停止します……」
 伏した廿はそれを最後に事切れる。直後『五体目』の瞳に意思が燈り、それは新たな廿となった。
「そのまま。容赦なくです」
「ああ。『貪り食うもの(グレイプニル)』の名が伊達か、その身で確かめるがいい!」
 ロウガは廿以外の義体ごと男を捕縛・拘束し、守りの全てを無視する一撃を男に叩き込む。それでも男の体が麻痺しなかったのは、果たして運か実力か。
「戦場で傭兵が負けるわけにはいかない……が、俺が勝つ必要はない。『俺達』が勝てば済む事だ」
「その通りですね。得意な事は得意な人がやれば良いのです」
「……あの医師も一人で全てやろうとしなければ良かった物を……今更だがな」
 グレイプニル。義体。そして廿自身。その『時』が来るまで、拘束はまだ解かない。
「義体(からだ)を捨ててまで攻撃してこようとは……それがお前に課せられた対UDC排除の命令(オーダー)か?」
「? 廿は今、ラシェッド氏の願い(オーダー)で動いています。人の願いは人が叶えます。神様は祈られていれば良い」
 男の上に影が落ちる。遂に『それ』の収束が完了したのだ。
「貴方は邪魔です。死ね」
「5分。要請(オーダー)は完遂したぞ。そのまま決めろ!」
「――覚悟してもらおう……!」
 夕陽がそのまま落ちてくる。アシェラが最大限に収束・圧縮した黒気は緋よりも紅い赤光の剣を形作り、その刀身が男に接触するが、その力の奔流が暴れ狂うのは男の体のみに留まらず、戦場全域を駆け巡り、轟音と共に地へクレーターの如き大穴を穿つ。
 その衝撃で解けるグレイプニルと吹き飛ぶ義体。男は漸く解放されるが、黒気は未だ猛々しく。
「……細やかな制御は苦手でな。雑に行かせてもらう。全弾命中でなくとも構いはしない」
 間髪入れずフォースを眩く輝く赤光の槍に変え、その槍を120に分割し、放つ。
 槍は流星雨となってさらに大穴を広げながら男へと降り注ぐ。
 男の場所的な有利は完全に切り崩せた。
 本番は……此処からだ。


 赤光の流星雨に打たれ、或いは躱し、男は大穴の中で飛び跳ねる。雨の切れ目が次撃の合図だ。
「あいつは強い、よ。……カイト、無理は避けて」
「んな事ァ見りゃわかる。そっちこそ、怪我する前にとっとと下がれよ」
 リシェリア・エスフィリア(蒼水銀の魔剣・f01197)と奇鳥・カイト(燻る血潮・f03912)がこの場で邂逅したのは、全くの偶然だ。
 何度か交流した顔なじみ。平時ならば世間話の一つでも交わしているところだが、ああも禍々しい殺気を放つ敵が目鼻の先に居ればそうもいかない。
「さぁて。気圧されて、逃げ惑うならここに居る意味もねぇ。俺達も行こうぜリシェリア」
「……うん」
 短い雨宿りの時間も終わる。意を決し、二人は大穴(クレーター)に飛び込んだ。

 男の背後より、刺し貫くように放ったカイトの蹴撃は、しかし、『死に絶えた水面に冥月の影を映すように』容易く回避されてしまう。
 それでもカイトは、まぁそんなもんかと悪態を付いて、じろり男を睨めつけた。
「上から目線で嗤ってんじゃねぇ。弱いからこそ何かに縋るもんだ。そりゃ上っ面だけ見りゃそいつが悪いさ。だが、仕組んだ奴がいるなら話は別だ。放っとける訳ねーだろ」
「お節介だな。だが、それが猟兵(おまえ)達の、世界を渡り世界を救う、その行動理由なら、やはりここで消えてもらわなければならん」
「はっ、誰かに『手を差し伸ばす』、商売仇には不寛容ってワケだ」
 カイトは男へ嗤い返す。
 そんなカイトへ、男が無拍子で仕掛けるその直前。リシェリアは自身の本体片手に全身へオーラを纏うと、男の攻撃動作に割って入り、水銀の刃一閃、強制的に距離を取らせる。
「頼ってしまった相手が、最悪だった。それがこういう結果になってしまうのが、この世界……でもそれに頷いてしまっては、いけない」
「随分と含蓄のある言葉だ。『縋りついてきた者を破滅させる』……ふん。取り繕っているな。お前からは我々とは似ても似つかぬほどかけ離れているが、同じにおいがする」
 ……見透かすような男の言葉は、その実上辺だけを掬って吐き出しただけのただの挑発だ。乗る必要は無い。
 リシェリアは冷静に深蒼の両刃剣――自身の本体――を振るい、カイトを気に掛けつつも男への攻勢を緩めない。
 男の拳を躱し、放たれる銃弾を一合、二合。火花が生まれて消えゆく刹那に攻防はめまぐるしく入れ替わる。が、次第にリシェリアが押され始め、
 やがて僅か空いた剣戟の間隙、すかさず男は銃撃をそこに通す。
「危ねぇ!」
 人間体には目もくれず、本体へ肉薄するその悪意を、カイトは咄嗟、リシェリアの代わりに受け止めた。
「カイト……!」
 銃撃を引き受けたカイトは鮮血を零しながら、それでも決して膝はつくまいと意地を張って踏みとどまる。
「ってぇ……あいつは強いって言ったのお前だろ。俺の事気にしながら勝てる相手かよ。戦い慣れてんだろ? 俺の事は良い。意識を全部、あっちに集中させとけ……!」
「……わかった」
 改めて、リシェリアは男へ剣を向ける。それでいいとカイトは首肯した。リシェリアの意識全てを敵に回せば、そう簡単に遅れは取るまい。
「こっちもそうだ……女子供に任せっぱなしって訳には……行かねぇよな?」
 手枷。猿轡。拘束ロープ。カイトはそれら全てを一斉に放ち、手枷と拘束ロープが男を縛ると、すり鉢状に空いた大穴の地形を利用し、坂を下りながら加速する。
「剣たぁまた便利そうだが……まっ、無い物ねだりなんかしてらんねぇか──今の俺にゃ、これしかねぇからな」
 糸使いとしては少々外法だが、と、自身の拳に『糸』を使いバンテージの要領ででぐるぐる巻きに覆うと、持って生まれたセンスのまま突き出した拳を思い切り男へ叩きつけ、おまけとばかりに傷口を抉り朱を広げた。
「――――凍りついて」
 急速な温度の低下。飛び散る血液が全て凍てつき砕け舞う。リシェリアはカイトの拘束により僅か空いた銃撃の間隙、魔法使いの記憶を以って、蒼銀の杭を無数の精巧な氷細工の花弁に変える。
「逃げ道を塞ぐ……」
 戦場を覆う、無尽の氷花。
 この密度なら――予測は出来ても回避は困難だろう。


 厳冬の如く、凍てついた大穴の戦場(フィールド)。
 氷花を掻き分け男へ奇襲を仕掛けるのは、椋が繰る骨格人形達だ。
『狂気云々はどうでもいい。元よりひとつのことにしか関心がいかない身。世辞にも頭のいい方でもないしな』
 がたがた、とオボロが口を動かすと白い闇の何処かから椋の声が響く。
 人形達から伸びる糸の先は氷花が全て覆い隠し、椋の姿は、まるで知れない。
『ただ、いまだ残るままの氏の遺骨を弔いたい。それだけだ』
「骸が骸を弔うとは、笑えないな」
『それはそうだろう。自分が其方を笑わせる気は一切ないからね』
 声が途切れると、人形たちとは全く関係のない位置から、氷花のカーテン越しに男目掛けてナイフが投擲される。
 男が僅かでもナイフに気を取られれば、骨格人形達は音も無く距離を詰め、オボロとサカズキ組が交差するように男を奇襲した。
 男は骨格人形の攻撃の大半を冥鏡死水の境地で躱し、投擲されるダガーから椋の位置を推察すると、当たりを付けて銃弾を撃ちだす。
 その射撃はかなり精密で、放たれた弾丸は完全命中ならずとも、椋の頬や指先を掠めれば、超高濃度UDC因子がそれだけで椋の精神を蝕んでいく。
 (「飛び道具は面倒だな」)
 椋は繊細な糸捌きで人形たちに指の先から新たな命令を吹き込む。目的を変じた人形たちは更に攻撃を強め、男に主の正確な位置を気取らせない。やがて人形たちは氷花同様男の視界を塞ぐように、男の最至近で舞踊を披露し、
「その銃、悪いけど貰い受けるよ」
 吐息交じりの小さな呟きと共に、舞台の袖から現われた椋は、人形たちに見蕩れる男に古びたダガーを突き刺して、その後即時離脱する。
 ダガーの痛撃と引き換えに、今度こそ椋の位置を割り出した男は、彼女の心臓目掛けて一寸の狂い無く銃を撃つ。が、椋は『まるで10秒先の未来を見てきたかのように』その攻撃を察知し、蝙蝠骨格人形・サカズキ組を盾として六発の銃弾を全て防御した。
 その後、男が弾倉への給弾に意識を移したその刹那、ダガーで襲撃を仕掛けた際にリボルバーへ巻き付けたからくり糸をぴんと引っ張って回収する。独りでに宙へ飛び立った銃に男の視線をおびき寄せ、意図的に作り上げた完全な死角からオボロの白掌にて男の暗殺を試みる。
 白掌が男に触れる。だが、男は器用に急所を外させ、返す刀でオボロを噛み殺そうと肉薄する。
 愛しき骨たちを破壊させる訳には行かない。椋は瞬間全力で操り糸をすべて引き、紙一重で男の必殺圏からオボロを逃した。


「ラシェッドさん、あんたの声は聴いた! 後は任せてくれ!」
 人形達と入れ替わり、雷陣・通が前に出る。
「そしてお前に言っておく! お前は手を差し伸べたんじゃない、純真な願いにつけ込んだんだ! それを許すわけにはいかねえ!」
「こちらとて。猟兵に垂れる頭など、一切持ち合わせてはいない」
 男への怒りを具現化したように、ばちり、ばちりと火花を吹いて空気が焼け、やがて通は超高圧の紫電を纏う。
 それこそが通の真の姿。即ち――。
「ライジングスタイル!」
 迅雷と化した通は、ただの一足踏み込むと、音すら焦がす神速で男の懐へ辿り着き、その正中線へ有無も言わさぬ五連突きを見舞う。が、冥鏡死水に至るまで業を練り上げたその男は、柳の如きしなやかさで通の拳をするりと捌き、
「フルコンタクト空手『紫電会』。面白い。空手で世界を救えるか?」
 男は無拍子の踏み込みから重心を崩し、掴み、地面と言う名の最大最強の凶器に通を叩きつけようと腕を攫うが、
「その動き……父ちゃんから聞いた事あるぞ、ハイペリア重殺術だな? ってことは無拍子――呼吸の間を狙ってくる――なら!」
 その体捌きと、かつての父の教えから男の業を探り当てた通は前羽の構えを取り、今度は逆に男の掌を赤子のそれと言わんばかりに難無く払い除けた。
「やるな。だが無意味だ。仮に私を倒しても、この国の構造は何一つとして変わらない。今だって猟兵と邪神の全く与り知らぬところで、無辜の誰かが銃弾に倒れているだろう。狂気だよ。滅んでさっぱりした方が、幾らかマシというものだ」
「……そうだな、確かにこの国では命は軽い。俺達に出来ることは酷く限られている……でもな」
 時に裏をかき、時に真正面から。防御と攻撃が幾重にも重厚に交差して、拳と拳がぶつかり軋む。
 純化した業の応酬の中で、通は一手、何食わぬ顔で殺気を込めた残像のブラフを仕掛ける。結果、ほんの数秒程度の小さな、しかし雌雄を決するには余りにも大きな相手の虚を掴み取り、
「お前達が弄って良いほど、安いものじゃないんだ!!」
 安い挑発はいらない。空手で世界を救うのだ。
 迸る紫電を従えた手刀が、真に鋭利な銘刀の如く、銃を探す男の右腕を切断した。


「ぶっはは! 何を言い出すかと思えば! あははは、あーもー、笑わせないでくださいよー」
 一六八はシリアスな戦場の空気に合わせ、一応TPOを弁えて、それなりに大人しくしているつもりだったが、男の言を思い返すたび、如何にも笑いを堪え切れない。やはり自然体が一番と体を揺らし、更に苦無を投げつけた。
「善? 悪? 願いに手を差し伸べなかった? ボクとしては心底どーでもいいですね! ほんと、今ちょっと気分がいいですよ」
 投げた苦無が弾かれたとて気にも留めず。
 野太刀を抜く。先程勢いで義手(へんなもの)を斬ってしまったが、その切れ味はいつも通り。一点の陰りも見られない。
「これだから猟兵ってやつはやめられないっすね! 単純に気に入らないアンタみたいなのをぶっ飛ばせるんですから!」
 漸く笑いが収まった一六八は戦場、いや、都市の廃墟、いいやこの国全体を見わたすように周囲を眺め、静止する。
「ここらは殺意も悪意も溢れてますね、とってもいい環境だ」
 耳を傾け静かに聞くものは、死して死に切れぬ者達が唱える限り無き怨嗟。
「嗚呼、腹ガ空イタ、全部食べてしまいましょうか」
 残留思念を、怨霊を、悪意を。この地に存在する『負の存在』たり得るものを全て食み、糧とし、一六八は限界を超えた力を自身に宿す。
 ……一六八は通の様に正道を歩む性質(タチ)では無いが、それでもたった一つだけ、彼の言葉に頷ける箇所がある。
 それは、『命は安くない』という、その一言。
 命と等価交換に遺された負念(つめあと)を集積し、その莫大に積み上げたコストで思い切りぶった切ってやろう。
 一六八は男へ疾駆する。男の無拍子を相殺すると同時、無傷の筈の自身の口から相当量の血液をまき散らし、冥鏡死水を身体能力に任せて破ろうとすれば、神経の一本に至るまで呪縛が絡みつき、男の体術を躱す度、正体不明のウィルスが全身に回り、内側から腐敗を促進した。
「愚かな。研究所(ここ)で、そしてあの廃墟で何人死んだと思っている。お前の腹(レベル)で消化できる量ではない。数十秒と持たず逆に食い破られておしまいだ」
「……だったとして」
 肉体を保つための装置であるArterieが悲鳴をあげる。
 それでも一六八は、分裂しそうな四肢を気合で縫合し、野太刀を構えた。
 アシェラが作った孔。廿の覚悟。
 ロウガとカイトが施した封印。
 リシェリアの氷花。
 椋が強奪した銃。通が切断した男の右腕。
「アンタの言葉を聞く必要がどこにあるんです?」
 それら全てを踏み台に、一六八は男を斬穫し、その後刹那の間すら与えず、怪力を込めた脚をくれてやる。
 大穴の深部に居た男は外まで吹き飛ばされ、そこで一六八の全力は尽きた。
 見えない以上その後の保証はできないが……。
「……まぁ、他のヒト達がうまい事やってくれる……でしょう。多分。きっと。後は……お好みでどうぞ」
 大穴の最奥で、一六八は大の字に寝転び……目を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 戦場の縁まで飛ばされた男は、残った左腕で懐から正六面体の祭具を2つ取り出すと、それを自身の血に浸し、聞くも悍ましい呪文を唱えた。
 すると男の呪文に応えた祭具は禍々しい光を放ちながら融解し、消失する。召喚が成されたのだろう。
 光が引いた後。祭具がその存在と引き換えに骸の海から喚び出したものは、男の右腕とリボルバー。
 ……成程、こういう芸当が出来るからこそ、『人の体を機械の体へ気軽に置き換える』発想を持っていたのだろう。
 しかしこれは、不完全に召喚された存在の、急場凌ぎの緊急召喚――応急処置に過ぎない。
 いくら見た目が元に戻ろうとも、此処まで猟兵達が与えたダメージまでは……消せはしない。
ドアクローザ・バックチェック
この世界の残酷さがラシェッドを追い詰めたこと、私は忘れない。
忘れない、ためにも、ここで我々が消えるわけにはいかないな。
消えるのは貴様だ。

さて、これから使う技には多少なりとも隙が生じる。
だから、まずは全身を闘気で覆って【オーラ防御】を行おう。
次に、ブレイドエンジンを起動。エンジンをふかして【力を溜め】ていく。
準備が整ったら、戦況に合わせて移動しつつ狙いを定めよう。
戦況を一歩引いた視点で見ながら、タイミングを伺えるのも、遠距離から狙えるこの技の利点だ。
敵と味方の動きを見ながら、いい位置取り、タイミングを見定めて、衝撃波を放とう。

猟兵としての矜持にかけて、最後の願いだけは叶えてみせる。


ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
断じて否。
貴様が本機たちが居なければと宣うならば、本機もその逆を唱えよう。
"貴様らさえいなければ狂気など訪れなかった"。
或いは彼も真っ当で善良な医師の侭だったろう。
故にこそ、"Juggernaut(破壊)"の名の下に砕け散れ、邪神。

(ザザッ)
SPDを選択。

銃弾はホログラム・デコイ及びステルス迷彩での視覚的撹乱と本機のスピードを以て回避を試みる。
(目立たない+迷彩+残像+フェイント+早業+ダッシュ)

――レオパルド・起動。
巨大機械兵器の"腕部搭載の電磁レーザー"を腕ごと、25㎥最大サイズにて召喚。

ロックオン完了。外しはしない。
(操縦+スナイパー)

消し飛べ、狂気。
(ザザッ)


クーナ・セラフィン
そんな狂気はどこの世界でも同じ、だけどね。
善も悪も狂気もすべての可能性は心より出づるものなんだから。
この世界が他と違う所があるとするならそれを加速させようとするキミ達(邪神)が在る事。
…はっきり言うなら。お前のような理想を嗤い貶めるようなのが一番不愉快だ。

可能なら周囲と連携、援護に回る。
できるならまずUCの花弁と吹雪で敵の視界を潰す。
花弁は沈まず、水面に揺蕩い月の影を遮り幻を映させるもの。
そんな状態で正しく予想できればいいよね。
獅子噛にはトリニティ・エンハンスで防御力強化、体格差を利用しすり抜けるか敢えて吹き飛ばされ衝撃を逃がす。
隙あれば突撃槍で狙い澄まし串刺しにしよう。

※アドリブ連携等お任せ




 男が自身の体を取り繕っているその間に、クーナは動けない一六八を担いで大穴――戦場の外まで運び出す。
「今は喋るのもつらいだろう、だからお礼の言葉はいらないよ。いいよいいよ大丈夫。だいじょぶだから。私は救助料2000兆円貰えればそれで満足だからね」
 白々しく明後日の方向を向きながら、何かを誤魔化すようにぺろぺろと毛繕いをした。
「それ暴利じゃないっすかねぇ!?」
 利息抜きの2000兆回払いでどうだろう。
 ……なんて、冗談だよとクーナは人懐こい笑顔を残し、辛うじて命に別状は無さそうな一六八の状態を確認すると、愛槍ヴァン・フルールを携えて、未だ斃れぬ災禍の元へと走り出した。

「この世界の残酷さがラシェッドを追い詰めたこと、私は忘れない」
 力強く振りぬく我流剣術。高速移動に特化した歩法。身体能力を強化する闘気。機迅一刀流の極意をもって、ドアクローザは機械太刀・ダブルシリンダーを縦に一閃。しかし男も然るもので、コート・スーツは易々と斬らせても、刃を許すのは薄皮一枚が精々だ。
「いいや。すぐに忘れるさ。麻痺すると言った方が正しいか。一々息を吸って生きていることなど、平時では思い出しもしないだろう?」
 新調した古めかしいリボルバーで、男はドアクローザを至近から撃つ。
 太刀が間に合わない距離。ドアクローザはオーラサポーターの力も借りて、急速に全身を闘気で包み防御する。激痛。侵食。闘気がそれらを水際で食い止めているうちに次手を打たなければならない。
「忘れない、ためにも、ここで我々が消えるわけにはいかないな。消えるのは貴様だ」
 お気に入りのスニーカーに闘気を注入し、目にも止まらぬ超高速の足撃で、ドアクローザが思い切り男を蹴り飛ばして距離を作れば、接地する時間を待つのも煩わしいと、再び吹き飛ぶ男へ一切の暇を与えずクーナとジャガーノートが追撃に動く。
「キミの言う狂気はどこの世界でも同じ、だけどね。善も悪も狂気もすべての可能性は心より出づるものなんだから。」
 こんな趣向はどうだい、と、クーナがヴァン・フルールを翳せば、巻き起こるのは雪混じりの花吹雪。
「この世界が他と違う所があるとするなら、それを加速させようとする邪神(キミ)達が在る事……はっきり言うなら。お前のような理想を嗤い貶めるようなのが一番不愉快だ」
 舞い散る風花はリシェリアの魔術師の記憶――氷花達と合流し、一つの渦となって更なる凍気と幻惑を孕む。
「気が合うな。私も狂気を容易く振り払い、或いは侵されたとしても立っていられるお前達が不愉快で仕様がないんだ」
 口論の続きは銃口でと言わんばかりに、男はクーナへ銃の狙いを定めるが、発射しようとしたその直前、射線に突如、何処から現れたか異形の大鎧――ジャガーノートが立ち塞がった。
「断じて否。貴様が本機たちが居なければと宣うならば、本機もその逆を唱えよう。"貴様らさえいなければ狂気など訪れなかった"」
 男はクーナから狙いを変え、ジャガーノートへ銃を放つ。が、六発の銃弾は全て彼の体をすり抜け虚空へ消えた。
『その』ジャガーノートは、召喚されたホログラム・デコイが映す虚像に過ぎないが為に。
「或いは彼も真っ当で善良な医師の侭だったろう」
 渦に混じって、砂嵐。本物のジャガーノートは廃墟を踏破した時の様に光学迷彩を起動し、氷と花のいずこかに、その巨躯を潜ませる。
 それでも男は椋の時同様、不条理と形容できる領域まで研ぎ澄まされた直感を照準に、不可視のジャガーノートへ銃弾を当てて見せた。
 戦力に不足があるのなら。ジャガーノートは更なるホログラム・デコイを召喚すると徹底的な視覚的撹乱を行い、光学迷彩を纏う自身の身体能力もフルに引き出して四方を疾駆し、真の位置悟らせない。
 男がその位置を完全に把握したのは、恐らくジャガーノートが肉弾戦の距離まで接近した後だろう。
 ジャガーノートは姿を現す。それは、彼を視認する全員への警告だった。
 巨腕砲台を地面へと叩きつける。放たれた大爆炎が大穴(せんじょう)を飲み込むが、辛くも爆炎を躱した男は跳躍し、上空へと退避する。
「故にこそ、"破壊(Juggernaut)"の名の下に砕け散れ、邪神」
 ジャガーノートは叩きつけた巨腕砲台をそのままパージすると、四肢にレーザーブレードを展開し、レッグバーニアを吹かせ彼へ肉薄する。
 対する男は『死に絶えた水面に冥月の影を映すように』、
 ……否、回避も防御もままならず、完全に無防備な状態で徹底的に斬り裂かれた。
「花弁は沈まず、水面に揺蕩い月の影を遮り幻を映させるもの。どんなに達人だったとしても、そんな状態じゃ、やっぱり予想は難しかったみたいだね」
「貴様――っ!」
 全ては風花が仕組んだまぼろし。炎・水・風の魔力で自身の守りを固め、ちゃっかりジャガーノートに乗っかっていたクーナもまた飛び立つと、宙を漂う男を銀槍で串刺し、そのまま強制的に地上へ帰還させる。
 帰還後の先手は男の獅子噛。
「おっとっと!」 
 クーナの姿勢をあっけなく崩し、文字通り必殺の当身を打ち込むが、どういう訳だか『全く摩擦抵抗が働かないように』男の掌は滑り、必殺の威力が殺された。
 クーナは威力の減じた掌を敢えて受け、小柄な体を生かし、流れのまま吹き飛ばされることで更に威力を削ぎ落す。

 ――頃合いだ。
 クーナの(もしかしたら廃墟で会ったねこなのかもしれない)離脱を確認したドアクローザはダブルシリンダーを水平に構える。
 ブレイドエンジンの起動から稼働、そして臨界に至ったのがこの瞬間。餓えた獣の様に唸る機関、位置取り、タイミング、二人の戦闘を見守りながら力を溜め、溜めに溜め込んだそれを解放するのは今しかない。
「……猟兵としての矜持にかけて、彼の、最後の願いだけは叶えてみせる……!」
 一念。一心。
「届け、刃!」
 刃の届かぬ遠間から、虚空を断ち切るドアクローザの一振りで、吹き荒ぶのは斬撃が生み出す衝撃波。
 一気に解放されたそれは正しく大嵐そのものだ。放たれた銃弾は翻弄される芥の如く宙を舞い、男の体を錐揉みに、氷細工の花を揺らし、花の吹雪をさらに散らせ、それでもあり余ったエネルギーが空へ昇り、濡れ紙を破るよりも簡単に天井を崩落せしめた。
 狂気も、殺気も、戦場を覆っていたものが一時全て退いて、大嵐の『目』は宵闇空へ至る。
 そして、『目』より来訪するのは全長25メートルはあろうかという、巨大機械兵器の右腕。
「レオパルド、起動。ロックオン完了。外しはしない」
 ジャガーノートが喚びだし操縦する右腕、その電磁レーザーの発射口が輝き、
「消し飛べ、狂気」
 光が。戦場を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
グウェンさん(f00712)と

ここまで来て首がなかったら気落ちしてしまうところでしたわ
手首なんかじゃ満たされませんもの
――あなたの御首、いただきますわね

グウェンさんと連携しますわ
私は地上からお相手して差し上げます
挟み撃ちですわ
攻撃を予測されようと二人同時は無理でしょう?
私もグウェンさんと同じく闇属性の剣閃の嵐をぶつけますわ
二人で暗いところへ引きずり込んでやりましょう
そうして隙が生まれたなら呪詛乗せた刃で首を斬り落としてしまいますわ

随分とお喋りな方ですこと
そう…では狂気には狂気でもって――
その首に花を咲かせて、ラシェッドさんへの手向けの花にして差し上げましょう
そうすれば少しは浮かばれるかしら…


グウェンドリン・グレンジャー
エリシャ(f02565)と

お医者さん……の、想い、別のもの……で、踏み、にじ、られる……
ホントに、パパ、みたい
死なない、身体と、丈夫な、心臓……でも、普通に、生きられ、なければ、意味、ない……のに

【POW】
Raven's Roarの一撃……に、全部を、賭ける……
【生命力吸収】【属性攻撃】【捨て身の一撃】【盗み攻撃】を、乗せる……
生命力を、盗む。属性攻撃は、闇。
エリシャと、アイコンタクト、して、同時に、攻撃
目には目を……深淵から、来たもの、には同じく、暗い力、ぶつける……

ダメージは【激痛耐性】で対処、可能な、限り【第六感】で、予測、【空中戦】で回避
重殺術、上方向……に、飛んで、抜ける




 光に満ちる空間を、二つの闇が切り進む。
 闇たちの水先案内を務めるのは春宵に揺蕩う常夜の蝶々。そして蝶が告げる警告は、先刻のそれと全く等しく。
 光が注ぐ中心点。レーザーの消失より先に、轟と飛び出す男の影。
 エリシャは男の拳を太刀の刃で滑らせて、焼け焦げたその相貌と対面する。
「まぁ! とても凛々しいお姿で。ここまで来て首がなかったら気落ちしてしまうところでしたわ。手首なんかじゃ満たされませんもの。ですから――」
 ――あなたの御首、いただきますわね。そう、とても軽やかに微笑んだ。
 洒落や冗談の類ではない。幾百か、幾千か、かつて首を斬り落とした者たちの怨念を纏ったエリシャは、その命の刹那瞬刻を吹き荒れる桜花に変えて、黒刀・墨染の斬撃と共に烈風を巻き起こす。
 氷花と雪華、そして桜花の花吹雪。正しく百花繚乱の饗宴は、男の殺意すら糧に尚狂い咲く。
 男は色鮮やかな花弁達を散らそうと、鈍色の引き金に指をかける。しかし直後、漆黒の羽根が風を切り、男の腕を貫いた。
「お医者さん……の、想い、別のもの……で、踏み、にじ、られる……ホントに、パパ、みたい」
 黒羽の射手。いつもより少し陰を帯びたグウェンドリンは常夜蝶を見つめると、幽かに、けれど力強く頷き、自身も華凛な三種の蝶を喚ぶ。
「合理一辺倒の医者たちが、神を信じない訳じゃない。奴らは誰よりも、手の施しようが無い現実を垣間見る。だからこそ、そんな現実を打ち破るために、超自然的な何かに縋りつきたくなる時もあるだろう……邪神(こっち)としては、いい上客だ」
 男は嗤う。狂気よりも凄惨さよりも何より、その有り方は悪徳だ。
「死なない、身体と、丈夫な、心臓……でも、普通に、生きられ、なければ、意味、ない……のに」
「お前も、きっとそうだろう。仮に『それ』を施した者がお前の親ならば、愛しの我が子がオブリビオンと戦うことなど望んでいる訳では無かったろうに」
 狂気の先兵が何を知る。いいや。もしかすると彼の、骸の海に沈む前の残滓が、何処かの何かとグウェンドリンを重ね合わせているのだろうか。
 黒羽が中断した銃声の続きを、男はグウェンドリンに放つ。
 血肉に食い込み、叫び出したくなるほどの激痛を吸収し芽吹こうとするUDC因子。それを強引に抑え込むと、グウェンドリンは第六感を働かせ、地を蹴って空へとび、寸前獅子の重牙を回避する。
「……随分と、お喋りな方ですこと」
 グウェンドリンへの追撃を妨害するエリシャの剣。真黒の闇が刃となった、光を呑み込む一刀は、技量に長じているはずの男に回避を許さず、いとも簡単にその身を斬り裂いた。
 ……これまで仲間たちがダメージを蓄積させてきた、その要因が大きいのも確かだろう。だが。
「先程から、動きに精彩を欠いていますわね。まさか手加減している訳ではないでしょう? 今の斬撃も、お得意の冥鏡死水なら容易く回避できたでしょうに。それとも、何か……この局面で使えない理由があるのかしら?」
 思い返せばこの男、アシェラの黒撃槍を避けるのにも難儀していた。そして先のグウェンが撃ち出した羽。今の一刀。
 繰り出す人間も違えば術理も違う、それら攻撃の共通項は唯一……『闇』の属性を帯びていたこと。
『死に絶えた水面に冥月の影を映すように』……理屈はクーナが語っていたものと同じだ。冥月の影すら遮る完全な暗夜では、水面は死すら映せない。
「……狂気には狂気でもって――その首に花を咲かせて、ラシェッドさんへの手向けの花にして差し上げましょう」
 墨染に、彼の魂を喰ませる道理は無い。ただ、少しでも浮かばれて欲しいと思う。
 大太刀を幾重に振るえば、飛沫く男の血と共に、咲いては散りゆく紅い花。百弐拾の斬撃が極夜を誘い、弐百四拾の剣閃が闇夜を造りだす。
「グウェンさん!」
「わかって、る、わ。エリシャ……目には目を……深淵から、来たもの、には同じく、暗い力、ぶつける……」
 エリシャが見遣るグウェンドリンは、天に開いた大穴の更に先。星が瞬く宵の空から加速降下し、極夜を経て、闇夜へ至った鴉の刃(つばさ)は、迸る闇と共に全てを賭したグウェンドリンの覚悟を積載し、男目掛けて一直線に特攻する。
 果たして黒翼の強襲は徹底的な破壊と共に男を抉ってその生命力を簒奪し、
 首の下まで闇に沈んだ男の、その頸を、
「お覚悟を――!」
 エリシャは呪詛の奔る刃で一閃。
 黒幕の首は、宙を舞う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

多々羅・赤銅
おおそうかそうか
テメエが諸悪の根源か

馬鹿言え
世が平和だったら平和だったでどうせテメエは面白半分に呼ばれる。唆す。そうだろ?
だからここでテメエと世界の縁を斬る
テメエが弄んだ人間の、情熱の結晶にして神髄でな
刀一振り。刮目する価値はあるぜ?
はーい、援護よろしくぅ灯人

多々羅赤銅 参る。

地を蹴り一気に接敵、速く、たゆまず、斬撃見舞い、時に下がり、立て直す、時を待つ。
UDC因子は体に流れる聖者の血と呪詛耐性が清めて流すーーつまり普通の銃弾だな!痛えわ!

無拍子の踏み込み
ああ其れを待ってたんだ
灯人に庇われることを見据えている
驚きもせず、滑らかに攻撃に移る

良い男だろ?
死に絶えな。

ともひとぉ
手無事?手。


なら安心


浅沼・灯人
お前の救いも、世界の狂気も知ったこっちゃねぇ。
目の前で苦しんで、救いを乞うやつらを絶望に落とすことが正義なら、
そいつを俺達が叩き壊してやる。そんだけだ。

いくぜぇ赤銅、舞台は整えてやらぁ。
銃撃は銃口の向きで読み、此方も銃で応戦。
赤銅が前に出られるようにサポートに徹する。
こっちも早撃ちは得意なんだ。クイックドロウ、スナイパー、使える技は何でも使う。

奴の決め技が赤銅に行きそうならかばって前へ。
痛かろうが歯ぁ食い縛って食いついてやらぁ。
おら!隙作ったぞぶっ込め!

いい女に痕つけてもらえんだ。
骸の海で自慢しな。

手?この通り、無事だよ。
ひらりと振って見せてから
お疲れさん、帰るか。


三岐・未夜
【冬星】

こんなの、理解出来ないし、したくない
誰より踏み躙った癖に
胃が重くて、何だかぐるぐるする
気持ち悪くて、こわくて、腹立たしかった

ふたりが動きやすいよう弾幕を
【誘惑、催眠術、おびき寄せ】で自分を囮に、回避しながら九尾扇で遊撃

……ふたりとも、怒ってる
当たり前だ、こんなの
許したくない

るり遥!!(気を取られて、)
(悲鳴)(UDC因子に撃ち抜かれた身体の中で、「神様」がざわめく。暴れる。「神様」が、時を喰う)(がりがりと魂の削られる痛み)

ッ、ぃ、あ"、あぁあ"ぁぁあっ!!!

(咆哮)(撃て)(弾幕を途切れさせるな)(許すな)(痛みを捩じ伏せろ)(撃て!!)

「神様」でも何でも良い
許したくないから、力を


ジンガ・ジンガ
【冬星】
あぁ、そういう

神とか人とか国とかドクターとか
ほんと、心底どうでもいい
狂気も正気も邪神も猟兵も
そんなモン、じんがにはカンケーない

そうやって食い物にする
食い捨てようとする
善意も悪意も知ったことか
とばっちりを受けるのはいつだって食物連鎖の一番下だ
お前らみたいなのが、じんがから全部奪うんだ

フェイントで体勢崩し2回攻撃
隙を見て武器を落とせ
だまし討ちで銃弾を叩き込め
遮蔽物が無いなら、弾丸も崩し技も見切って逃げろ

冷静さを欠いた頭を現実に引き戻すのは
己の感情を優先した代償
指先から冷えていく感覚
込み上げる吐き気
次いで、赤く染まる視界

思考が戻るより先に身体が動く
言葉を紡ぐ労力すら惜しい

お前だけは、必ず殺す


松本・るり遥
【冬星】
(怒りが、勇敢の代替えとなる事もある)
(『るり遥』の瞳が、青金のほむら)

『お前が踏みにじった
あの人の正義も、あの人の怯えも、あの人の優しさも、ーー全部、全部!!』
この侮蔑を絶やさない
打ち込み続ける
攻撃を落とす、援護射撃をする

(それでもここには隠れる場所も無く)
(突如目の前に現る邪神に対応できず息が止まる)
(痛みと重力に呻き、這い蹲る)
(噎せる。喉を潰される)

俺だって多分頭はロクでも無い
このザマでも
一歩も引きたくねえもんな

残念だったな
俺の眼付けは
「声」はトリガーじゃない

血反吐はいて、ざらつく嘲笑侮蔑
その目玉から貫いてやるよ
『なあ 頭ん中 腐ってる?』

神でも何でも
窮鼠らしく噛み付いてやるよ




 辛くも闇を脱した男の体は、宙に放り出された頭を掴み、兜を被るが如くそれを装着する。
 男が首を右に捩じり、左に伸ばし、そして真正面へ戻した時に、その両眼が見据えていたのは、不敵に笑い刀を回す女の姿。
「おおそうかそうか。テメエが諸悪の根源か」
「……そこまで大したものではない。喚ばれなければ、染み出てくることも無かったのだ。根源を辿るなら、やはり今を生きる人の業に行き着くだろう」
「馬鹿言え。世が平和だったら平和だったでどうせテメエは面白半分に呼ばれる。唆す。そうだろ?」
「その通り。空虚も情念も願望も、それを埋めようと欲すれば必ず狂気(われら)に至る。よくできた構造だろう?」
 男は歪に嗤う。出来過ぎて、寒気の走る話だ。
「……だからここでテメエと世界の縁を斬る。テメエが弄んだ人間の、情熱の結晶にして神髄でな。刀一振り。刮目する価値はあるぜ?」
 繰々回す指を止め、得物を鞘からすらりと引き抜く。通称・卵雑炊。その真の銘は大業物――。
「『多々羅・赤銅』、参る」
 意気を吐き、地に足形をくっきり刻むほど強く踏み込んで肉薄し、男の胴にまずは一太刀。
 応急処置の召喚と同じことだ。首を斬られた存在が、再びそれを被り至極平静なように振舞って見せても、消耗までは隠せない。
 赤銅は男の殺意を掻い潜り、たゆまず斬撃を馳走して、時に危機を察して距離を取り、また詰める。
 消耗激しい男とて、黙って圧倒されるほど易くはない。闇夜に隠されていた冥月が再び輝きを取り戻し、刀を避けると、銃の眼が赤銅を捉える。
 赤銅は咄嗟、地を舐めるように低く低く腰を落とし、
「はーい、援護よろしくぅ灯人!」
「おう。任せとけ」
 そして赤銅の背後から男目掛けて飛来するのは、灯人が放つアサルトウェポンの高密度射撃。
「お前の救いも、世界の狂気も知ったこっちゃねぇ。目の前で苦しんで、救いを乞うやつらを絶望に落とすことが正義なら、そいつを俺達が叩き壊してやる。そんだけだ」
「ふん。鬱陶しいな。お互いに」
 殺せるならば形など拘らない。武器の形状も、戦術も。
「こっちも早撃ちは得意なんだ。いくぜぇ赤銅、舞台は整えてやらぁ!」
、使える技は何でも使う。出し惜しみが出来る相手ではない。
 クイックドロウの精密射撃。灯人は敵の殺意の向きを読み、それを遮る様に殺意を放つ。
 一つきり響く男の銃声を、幾度にも響く自分の銃声で撃ち落して拮抗状態を作り上げ、そこから押し切るためにドラゴンオーラを投げつけ男を爆破し、更に超高温の息吹(ほのお)で躊躇なく灼焼する。
 男の銃弾が自身の体を射抜こうと、灯人は決して攻撃の手を緩めない。赤銅が自在に動けるのならそれでいい。
 だから獅子の大口が、彼女を噛み砕こうと迫ったその瞬間、
「ああ、其れを待ってたんだ」
 驚くでもなく、怖じるでもなく、赤銅は微笑する。灯人が躊躇一つ無く前進し、自身を庇ってくれることを確信していたが故に。
 体に浸透する当身。直前まで炎を噴いていた灯人の口から、夥しい量の血液が噴きだす。地球上では有り得ない程の重力を付加して繰り出されたそれは、最早体術の枠に収まるものではない。
 痛い。苦しい。だが。いかに血を素通りさせようと悲鳴だけは噛み殺す。
『取った』。食いついてやった。そして赤銅は絶対に喰らわせない。
「おら! 隙作ったぞぶっ込め!」
「そりゃ勿論。どうよ。狂気(ねむけ)が醒めるほど良い男だろ?」
 赤銅の全身を隈なく巡る血液は、穢れを清める祈酒。 体に撃ち込まれたUDC因子は芽吹かず、蝕むものがただの銃の痛みのみなら、
「――死に絶えな」
 刀を扱う手に狂いなく、赤銅は滑らかに一閃を放ち、
「息を呑むほどいい女に痕つけてもらえんだ。骸の海で自慢しな」
 拳の距離。零の間合い。灯人は崩れ落ちそうになる脚を竜に変えて無理矢理支え意気を吐き、同じく竜化した拳で男を穿つ。
「ち――っ!」
 二人の攻撃を立て続けに受けた男は旗色が悪いと判断したか、身を翻し、距離を開けるように退いた。
「ともひとぉ。手無事? 手」
 赤銅がじぃっと灯人の手を見つめ、尋ねる。
 男を倒したわけではない。未だ気を抜く事は出来ないが、二言三言、言葉を交わす余裕はあるだろう。
「手? この通り、無事だよ。悪いな心配かけちまったか」
 灯人ひらひらと何げなく振って見せる。
 赤銅を護った竜の掌。確かに多少の疲労は見えるが、大事は無さそうだ。
「そ。なら安心」
「ああ。それじゃお疲れさん、さぁ帰るか……と言いたいところだが」
 灯人は男が退いた方向を見遣る。
 ――手を繋いで帰るには、もう少しだけ時間がかかりそうだ。


 怒りが、勇敢の代替えとなる事もある。
 眼前の男を睨む『るり遥』の瞳が、青金のほむらとなって燃え盛り、攻撃(ぶべつ)の炎を決して絶やさない。
「お前が踏みにじった! あの人の正義も、あの人の怯えも、あの人の優しさも――全部、全部!!」
 罵声を浴びた銃弾は、宙で弾かれ爆ぜて消える。然しものUDCも、一方的に嘲笑されたくはないと見える。
 ならばこのままずっと、たかが一つきりの銃声など、あらん限りのがなり声で覆い隠してしまえばいい。

「あぁ、そういう」
 ジンガはぽつりとそれだけ呟いた。
 そこに先程までの軽薄さはない。いつもは多い口数も嘘のように押し黙り、有るのはただ、この男を手に掛けてやるのだという、どす黒の意識のみ。
「神とか人とか国とかドクターとか。ほんと、心底どうでもいい。狂気も正気も邪神も猟兵も、」
 そんなモン、じんがにはカンケーない。
「ほう、ならば何に激怒する。義憤か、私怨か、それともただの狂犬か貴様」
「……そうやって食い物にする。食い捨てようとする。善意も悪意も知ったことか。とばっちりを受けるのはいつだって食物連鎖の一番下だ」
 お前らみたいなのが、じんがから全部奪うんだ。
「なんだ。良く解っているじゃないか」
 縦横無尽に駆け抜ける。男の声は愚か、がなり声も聞こえない。今まで得たものに目もくれず、今まで見てきたものがそうさせる。冷酷に残酷に、その存在を死に至らしめる殺意だけを振るい抜く。

「……ふたりとも、怒ってる……当たり前だ、こんなの。許したくない……!」
 男の目論見など未夜には理解出来ないし、したくもない。
 誰より踏み躙った癖に。ああ、胃が重くて、何だかぐるぐるする。気持ち悪くて、こわくて、腹立たしい。
 それでもこの悪寒から逃げてしまえば如何にもならない。何も変えられない。
 まずは破魔を混めた水の矢を百三十ほど撃ち出して、二人を援護すると同時、ゆめのはしを手に間断なく遊撃を仕掛けつつ、自身の存在をあからさまに男へ知らせ、おびき寄せようと試みる。
 矢を絶やしてはいけない。動きを止めてはいけない。弾幕に隙が生まれれば、それだけ男の思う壺だ。
 ……しかし。

「如何にも、勘違いだったか。二階の武器庫でお前達と邂逅した時は、些か厄介な相手だと思ったものだが……」
「――!」
「全を奪われるのが希望だったな」
 男はジンガの刃をあっさり躱す。無拍子の踏み込み一つでるり遥に辿り着くと、刹那その防御を崩し、次の瞬間地に叩きつけた。
 息が出来ない。上から押し潰すような重力が体を起こすことを許さない。るり遥が投げられたのだと気付いたのは、余りにも奇麗すぎる戦場の夜空を認識して数拍後の事だった。
「実験体(サイボーグ)達の動きを止めた声……これで止まるか」
 男がるり遥の首に手を伸ばす。いやな音が聞こえた。それまで騒がしかったがなり声はぴたりと止んで、後はただひゅうひゅうと息が通って、出ていくのみ。
「るり遥!!」
「腕を止めて、余裕だな」
 るり遥が倒れた動揺。一瞬開いた弾幕の穴。男はそれを見逃さず、未夜へ六発の銃弾を放つ。
「……っ! ああぁあ!」」
 良い様に的にされ、肉体に突き刺さった銃弾から侵食を開始するUDC因子。
 未夜の中に封じられた『神様』と干渉し合うのか、悲鳴(こえ)にすらならぬ慟哭(こえ)と共に神様がざわめき、暴れ、未夜の寿命(とき)を、魂を喰らう。
 叫んで、叫んで、弓矢は途絶えた。
 
「人の業が破滅を呼ぶ。わかりやすく可視化するなら、こういうことだ」
 ジンガの虚を突いて、一瞬の間に男が造り上げた地獄。
 冷静さを欠いた頭を現実に引き戻すのは、己の感情を優先した代償。
 指先から冷えていく感覚。愛用のダガーは愛想をつかしたようにまるで手に馴染まず。
 込み上げる吐き気。数度嗚咽するが何も出てこない。何も持っていないと言いたいのか。
 赤く染まる視界。何より見たくなかった光景を、銀の両眼はお前が犯した罪から目を逸らすなと苛むように見せつけてくる。
 思考が戻るより先に身体が動く。感情が応報を望んでいる。
 言葉を紡ぐ労力すら惜しい。
 ジンガは疾る。
 放たれた銃弾を瞬時見切って武器を弾き、馴染まぬダガーを無理くり従え二連撃。此処まで意図的に注目させた刃をフェイントに、震える銃身のショットガンでだまし討つ。
 けれどそこまでだった。男は三撃目の刃を繰るジンガの手元を叩きダガーを落とすと、四撃目の腕を絡め取って小手返し。
 関節を極められたまま追い詰められたジンガは生きたいという執念――生への渇望を喚び出すが、
「お前は、ラシェッドと同じだな」
 渇望は酷く簡単にあしらわれてしまう。
「何もかも独りで背負おうとする男の相手など、何より容易い。あれの本質が今のお前である限り、いくら叫ぼうが届かんよ」
 そんなことはわかっている。だが、この男を倒さずに、どうして二人に顔向けできよう。
「とどめだ」
 獅子の牙が、全てを終わらせようとジンガに迫る。

「――なあ 頭ん中 腐ってる?」
 ごぼりと何かが噴き零れるような音だった。
 侮蔑(こえ)ともとれぬ嘲笑(おと)だった。
「残念……だったな……俺の眼付けは……『声』、は、トリガーじゃない」
 青金のほむらは未だ消えず。瀕死のるり遥の死線が、『視線』が、男の視界を貫き、ジンガの窮地を救う。
(「届いているよ……届いているさ……そうだろ? 未夜……!」

「ッ、ぃ、あ"、あぁあ"ぁぁあっ!!!」
 咆哮。
 レギオン。心火。儚火。玄狐。玄火。どれでもいい。未夜が今出せる全てを吐き出して、男とジンガを切り離し、護る。
 友が危機に晒されているのに、たった独りで戦っているというのに、こんな痛みがなんだと言うのだ。
 撃て。撃て! 弾幕を途切れさせるな! 許すな! 痛みを捩じ伏せろ! 撃て!!
「『神様』でも何でも良い。許したくないから、力を!」
 未夜は『神様』半身を明け渡す。その瞬間、未夜の作るすべての『弾幕』の威力が数段跳ね上がった。
 呪縛が呪縛が体を蝕んだ。全身から血が噴きだした。毒が半分になった意識を冒す。それでも別にいい。命を喰らいたければ喰らえばいい。
 その代わり、今は。この瞬間だけは、狂神の寵愛を、皆に。

「俺だって多分頭はロクでも無い。だからわかるよ。このザマでも、一歩も引きたくねえもんな」
 神でも何でも、窮鼠らしく最後まで噛み付いてやるよ!
 黄昏色の狐火に、喉を癒されたるり遥は未夜同様、呪縛も血も毒を無視してそう独白する。

 俺の我儘にラーメン一杯で付き合ってくれた。
 僕を灰色の世界から無理くり引っ張り上げてくれた。
 だから、お前の、きみの『番』が来たからって、だれが『『ジンガ』』を見捨ててなんかやるものか。

「馬鹿な――!」
 りん、と三つの鈴がなった。
 生への渇望が執念を取り戻す。先程の苦戦が嘘のように男を抉り、壊し、翻弄する。
『神様』の恩恵と、世界への不満を打破する力に背を押されたジンガはよくよく馴染んだダガーを男の心の臓腑に突き刺し、
 そして最後は旧友(リボルバー)の力も借りて、
「お前だけは、必ず殺す……!」
 
 ――最後に響いた銃声は、やはりただの一つきり。

●願い
 かくして男は消え果てる。
 夜の帳が下りようと、結局戦火は収まらず、未だ廃墟は狂気の坩堝。
 そんな光景を見続ければ、何かに縋りつきたくなっても可笑しくないのかもしれない。
 猟兵達は死して尚それに晒され続けた医師の骸を回収し、手厚く葬ることにした。
 戦火があったからこそ彼は願い、しかし善意は歪められ、利用され、結果多くの犠牲者が生み出されてしまったのは揺るがしようのない事実。
 彼の魂の行きつく先に安息はないのかもしれない。それでも。
 
 彼の最期の願いはかなえた。
 それが――せめてもの餞になりますように。
 誰ともなく。
 そう、祈った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月13日
宿敵 『邪神エージェント』 を撃破!


挿絵イラスト