アポカリプス・ランページ⑩〜書類を券に持ち替えて〜
猟兵達の獅子奮迅の活躍により、宇宙の幼生は大体破壊された。しかしそれがもたらした傷はまだ深々と残っていた。
「今回は宇宙センターにて働いている研究員達の更生が目標です」
そう言ってルウ・アイゼルネ(滑り込む仲介役・f11945)は猟兵達に資料を配り始めた。
ポーシュボスに精神を支配された研究員達は邪神に捧げるおぞましき研究を不眠不休で今も続けている。
研究以外のことに何の興味も示さないその異様さは宇宙の幼生を破壊するために宇宙センターに入り、その姿を垣間見た者達ならばすぐに理解出来るだろう。
何とかしてその狂気を取り除かなければ、彼らは邪悪な研究を延々と続けていく。それがもし完成に至ってしまったら、ポーシュボスひいてはフィールド・オブ・ナインの逆襲の口火になってしまう可能性がある。
それを防ぐためにルウが当たりをつけたのは、オブリビオン・ストームによる混乱の中で閉園してしまった遊園地だった。
風に揺られてギシギシ鳴ってる観覧車、電気が通らなくなって久しく回ってないメリーゴーランド、ネジが錆びて今にも崩れそうなジェットコースター、土埃を被ったステージ……。かつてとある音楽家が有志を募って建てたというその遊園地は遊ぶ者や整備士がいなくなった今でも何とか形は保っている。
ただこのまま行って遊べるか、と言えば確実に「否」である。
しかしこの地に幼少期から住んでいた者、遊んでいた者がこの場所を訪れたら、何らかの心情の揺らぎが生まれ、そこを突ければポーシュボスの魔の手から救い出すことが出来るのではないか……とルウは考えたのだ。
「今回は研究員をデスクワークから引っぺがし、研究内容を忘れさせることが最大の目標です。彼らの、邪神に囚われない生活を取り戻すため皆様の力をお貸しください」
そう言ってルウは在りし日の遊園地のガイドマップをテーブルの上に広げた。
平岡祐樹
この地はかつて、アナハイムの悍ましいアレとは違って楽しい遊園地でした。お疲れ様です、平岡祐樹です。
このシナリオは戦争シナリオとなります。1章構成の特殊なシナリオですので、参加される場合はご注意ください。
今案件にはシナリオボーナス「研究員の狂気を取り除く」がございます。
これに基づく対抗策が指定されていると有利になることがありますのでご一考くださいませ。
第1章 日常
『夢の国の跡地』
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POW : 園内を散策する
SPD : 遊具を修理してみる
WIZ : 在りし日に思いを馳せる
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月凪・ハルマ
思い出補正か……狂気に対してどの程度効果があるのか
けどまぁ、他にいい方法は思い付かないしな。やるか
◆SPD
そんな訳で、研究員たちを無理やり引っ張り出してきてみたが……
いやコレどの遊具も安全性ヤバくない??
特にジェットコースターとか、乗ったらそのまま
ゴートゥーヘル確実じゃない???
……しゃーない、ここは頑張って直すか
ヤドリガミとしても、道具がただ朽ちていくのは忍びないし
ちなみに、修理に協力してくれる人はいないかな
昔、ここに来たことがある人は相応に楽しい思い出だってある筈だ
その思い出がこのまま無残に朽ちていくとか、寂しくないですか
どの遊具でも構いません。直してまた楽しみましょう
それこそ、昔みたいに
外門の前に立った月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)は錆と風によって劣化した看板を眺める。
「思い出補正か……狂気に対してどの程度効果があるのか。けどまぁ、他にいい方法は思い付かないしな。やるか」
「なんで我々はこんなところに連れて来られたんだ」
「こんなところ来ても時間の無駄だろう」
「ちょうど研究がいいところだったのに……」
その後ろでは無理矢理宇宙センターから引き摺り出し、バスに押し込んで拉致してきた研究員達が不満の声を漏らしていた。
ただ自分達の脚では何日かかっても戻れないほど遠い距離を運ばれたことは理解しているようで、走って帰ろうとする剛の者はいなかった。
「はい、皆さん行きますよ」
そのことを良いことに、ハルマは研究員達の後ろに回るとその背中を押しながら強引に遊園地へ連れ込んだ。
しかし門の先に広がっていたのは聞いていたよりも酷い光景だった。
どれもこれも塗装は剥がれて錆だらけ、電球は割れネジは抜け落ち、とてもじゃないが電源を繋いでスイッチを入れた瞬間に崩壊しそうである。
「いやコレどの遊具も安全性ヤバくない?? 特にジェットコースターとか、乗ったらそのままゴートゥーヘル確実じゃない???」
オブリビオン・ストームによる惨劇に慣れてしまった研究員達は何の驚きも示さない。廃墟と化した遊園地を前に思わず唸ったハルマは背負っていた鞄をおもむろに地面に置いた。
「……しゃーない、ここは頑張って直すか。ちなみに、修理に協力してくれる人はいないかな」
突然の申し出に研究員達から困惑の声が漏れる。そんな反応が戻ってくることを予測していたハルマは中から工具を取り出しながら研究員達の目を見つめた。
「昔、ここに来たことがある人は相応に楽しい思い出だってある筈だ。その思い出がこのまま無残に朽ちていくとか、寂しくないですか?」
研究員のうち何人かが目を逸らし、顔を曇らせる。恐らくここに「楽しい思い出」を作るために遊びに来たことがあるのだろう。
「……だが、俺は日曜大工もやったことがない。強いて言えば、カゴをくっつけただけのバスケットゴール程度だ」
「それでいいんです」
唯一言い返してきた研究員に歩み寄ったハルマはその手にスパナを握らせる。
「どの遊具でも構いません。直してまた楽しみましょう。それこそ、昔みたいに」
あまりにも真っ直ぐすぎる眼差しに研究員はハルマとスパナの間で視線を往復させ、唇を噛みながら覚悟を決めたように頷いた。
成功
🔵🔵🔴
栗花落・澪
未成年な僕は研究員さんから見れば子供かもだから
無邪気さを利用して引っ張っていくね
いいから行こー!(【誘惑】)
というわけで遊園地着
別に乗りに来たわけじゃないからいいんだよ
皆でお散歩しよ
歩きながら【破魔】を乗せた【指定UC】を広げ
空間に立ち入った研究員の心を少しずつ破魔で【浄化】しながら
研究員達の手を引いて歩きます
遊園地ってさ、色んな思い出が詰まってるんだよね
恋人同士、親子連れ、単独旅行者もいるかもしれない
皆を出迎える可愛い着ぐるみ
出発を見送ってくれるキャスト達
今でこそボロボロだけど、かつては色んな人達の笑顔で溢れていた場所
貴方達も…なにか覚えは無い?
よかったら僕に聞かせて
貴方達の素敵な思い出
ゲームセンターの筐体や動物の乗り物の類のような、ギリギリなんとかなりそうな遊具を求めてハルマと研究員の1人が建物の中へ消えていく。
しかし残りの研究員達はそもそもする気がないか、聞く気がないかのどちらかであった。
「……もういい、こんな所で突っ立ってたって時間の無駄だ。適当にヒッチハイクでもして宇宙センターに……」
「そんなこと言わないで」
痺れを切らし、帰ろうとした研究員の袖を栗花落・澪(泡沫の花・f03165)を掴み、目をうるうるさせながら首を傾げる。
「別に乗りに来たわけじゃないからいいんだよ、皆でお散歩しよ?」
「で、でもな」
「いいから行こー!」
この研究員が見た目通りの歳ならそれぐらいの子供はいるだろうと澪は自分と同じくらいの身長を持つ……小学校高学年生を装い、その無邪気さを演じて強引に引っ張る。
「お、おい、大人を困らせるな、おい!?」
研究ばかりでろくに運動をしてこなかった研究員は全然効果のない抵抗しか出来ず、引きずられていった。
残りの研究員達も顔を見合わせた後、渋々澪達の後を追い始めた。どうやら偶然捕まえたこの研究員はそこそこ偉いのだろう。
「遊園地ってさ、色んな思い出が詰まってるんだよね」
澪が歩くたび、雲以外何も無かったはずの空からこの世のものとは思えぬ美しい花や破魔の光が降り注ぐ。
「恋人同士、親子連れ、単独旅行者もいるかもしれない。皆を出迎える可愛い着ぐるみ、出発を見送ってくれるキャスト達……今でこそボロボロだけど、かつては色んな人達の笑顔で溢れていたんだよね」
その様を見せられた研究員達の心を少しずつ浄化されていく。もう澪が手を離しても足を止めても、踵を返そうともしない。
「貴方達も……なにか覚えは無い? よかったら僕に聞かせて、貴方達の素敵な思い出」
帰ろうという意志を発さなくなった研究員達に、澪は微笑みながら振り返り、話しかけた。
「……昔ここで、将来を誓い合った女性がいた。オブリビオン・ストームに飲まれて、行方知れずになっちまったが……もし生きて一緒にいられてたら、お前みたいな子供と一緒に、ここに遊びに来れてたのかな……」
ここまで自分が引っ張ってきた研究員が涙を流し始める。泣いていることに気づいてないのか、目を擦ることなく一心に光を見つめるその姿を澪は黙って見つめた。
大成功
🔵🔵🔵
エリカ・タイラー
遊園地という施設は猟兵になってから知ったものですが、このマップにも夢・楽しい……など明るい言葉が躍っていますね。
そんな明るく楽しかった在りし日に思いを馳せてもらうには……。
ユーベルコード「マリオネット・フィールド」。
呪詛の形代でもある妖精のからくり人形で夢や希望に満ちた人形劇を披露し、研究員の狂気・おぞましい研究に費やした疲労や記憶などを吸収して浄化します。
「この世界はきっと再び輝くことができます。だから歩き出しましょう。行く先は私が照らします」
最大の目的は、この行動を成功させることです。
その為なら、ある程度の怪我や些細な失敗はやむを得ないものとします。
遡ること数時間前。
下手をすれば両手の指で数えられないくらい放置され、土埃が溜まったステージの裏側でエリカ・タイラー(騎士遣い・f25110)はガイドマップの写しを眺めていた。
「遊園地という施設は猟兵になってから知ったものですが、このマップにも夢・楽しい……など明るい言葉が躍っていますね。そんな明るく楽しかった在りし日に思いを馳せてもらうには……」
エリカは手で軽く払った床に写しを置くとそれを注意深く見ながら何やら作業をし始めた。
澪の先導によってステージに研究員達がたどり着く。
在りし日にはショーを見るためのベンチが置かれていたであろう広場にはその残骸らしき物のみが残っていたが、当のステージには真新しい垂れ幕がかかっていた。
明らかに昨日今日でつけられた物体に研究員達に動揺が走る中、ブザーの音とともに幕が開く。
「やぁ、みんな! 元気にしてた?」
露わとなった舞台袖から現れたのはこの遊園地のマスコットキャラクター達だった。残っているはずがない存在に研究員達が息を呑んだのは当然のことだっただろう。
「久々にショーが出来る、って聞いたから張り切っちゃってるよ!」
「今日のような日がくるって信じて、ずっとずーっと、練習してきたからね!」
その頃、エリカはステージの裏で地声や裏声を織り交ぜながらキャラクターの台詞を喋り、手を動かしていた。
なぜなら壇上のマスコットキャラクターの正体はエリカが作り上げた妖精のからくり人形。エリカが動かなければ、人形達も動かないからだ。
故にこのショーの成否はエリカ一人にかかっていた。
「さあみんな、あの頃を思い出して見てね!」
呪詛の形代でもある人形は本来の演目とは違えど当時のような夢や希望に満ちた劇を披露し始める。
その一挙一足に笑顔を浮かべる研究員から大宇宙の恐怖に触れたことによる狂気や、おぞましい研究に費やした疲労や記憶などが吸収され、浄化されていった。
これといったミスもないまま、ショーは終わりを迎える。最後のカーテンコールで初めて研究員達の前に姿を現したエリカは胸に手を当てながら、力強く宣言した。
「この世界はきっと再び輝くことができます。だから歩き出しましょう。行く先は私が照らします」
人形達と共に頭を下げると同時に幕が下ろされる。そしてそれがステージについても研究員達は離れようとせず、万雷の拍手を贈り続けた。
大成功
🔵🔵🔵