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電脳教団よりアイを込めて

#UDCアース

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#UDCアース


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●ネットワークの彼方から
「ようこそ、ヘケトの末裔による魔術教室へ。今宵もまた、共に世界の深奥へと触れていこうぞ」
 仄暗い講義室で仮面を被った男が慇懃に頭を下げる。スーツをきっちりと着込んだ男は良く通るバリトンで朗々と言葉を紡ぐ。曰く、これより忘れられし呪術の法を伝授する、と。
 しかし、講義室には彼以外の姿は存在しない。彼が語りかけるのは、最前列の席に設置されたビデオカメラ……、その先にネットワークで繋がった視聴者たちであった。
 投稿動画による魔術教室。大仰な編集や演出もなく、ともすれば地味なだけの映像講義。投稿サイトに設けられたコメント欄にもやはり懐疑的な声が多い。一方で投稿回数はそこそこの数があり、継続して視聴している者もそれなりにいるようだ。
 男の語る秘法はときに荒唐無稽で、そのたびに喧々とコメントが飛び交う。……だが、神秘を知る者が見れば気づくだろう。仮面の男が語る秘術は、確かな力を持つものであるということに。そして、一見目立たないブラックボードに描かれた図形や、男の語り口そのものがある種の暗示、洗脳の作用を持っていることに。
「……さて、この講義も随分と回を重ねた。そろそろ実践に移る頃合いだろう」
 その回の放送の終盤、仮面の男が厳かに宣言した。常とは違う、異様な雰囲気。『なんだ』『どうした』と流れるコメントも困惑の様相を呈する。
「ここに、我らが王の饗宴を! 血と臓物の献杯を! 学術の徒よ、いざ集いたまえ!」
 突然、熱に浮かされたように声を張り上げる男。仮面の奥の瞳が光り、洗脳の術式が完成した。ここではないどこか、画面で繋がった視聴者たちの中でも特に波長が合った者はたちまちにある種の衝動に駆られる。
『行かなければ』『参じなければ』『供物とならねば』
 いつ、どこに集まればいいのか。そういった情報は仮面の男からは語られない。しかしわずかに一瞬だけ、冒涜的な魔法陣と祭具が祀られた部屋の光景がカメラに映し出された。映像はすぐに元の講義室へと戻ったが、ただその一瞬だけで、術を受けた視聴者たちは目的地を魂に刻み込んだ。
 映像はもはや仮面の男ただひとりだけの講義室を映すのみ。画面の先のことなど窺い知れぬはずであるのに、男と視聴者たちは確かに人知れぬ言葉を交わし合っていた。
「そうだ! 我こそはという者はいざ来たれい! 我らが王に!」
『生贄を!』

●現実世界の此方より
「これも邪教にまつわる者が現代に適応しているって証拠か……」
 グリモアベースに集まった猟兵たちを前に、京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)は額を抑えて呻いた。彼が予知したのはUDCアースにおける邪神降臨の儀式。それも、ネット上の投稿動画を介しての犯行だった。
「問題の動画自体は現地UDC組織によってブロックが済んでいる。だけど、洗脳された視聴者たちは既に行動を始めてしまっているみたいなんだ」
 視聴者の特定はUDC組織が既に行っている。ただし、不測の事態を懸念していか、接触そのものは猟兵たちに任せると判断したとのことだ。
「視聴者の所在は把握できているけど、肝心の主催者……、邪教の信者の所在がまだ掴めていない。そこで、まずは視聴者たちに接触して儀式の場所を突き止めて欲しい」
 実際に儀式を行う場所が判明すれば仮面の男を見つけ出すこともできるだろう。伏籠はそう語りながら、猟兵たちに視聴者の情報を配っていく。
 彼らの追跡情報を確認すると、ある視聴者は秘密の儀式に参加する昂奮に浮かれていたり、また別の視聴者は他人を生贄として巻き込もうと画策していたりと、洗脳の効果や深度には多少の差異があるようだった。
「儀式現場を突き止めれば恐らく仮面の男と戦闘になると思う。戦闘準備も怠らないでくれ」
 逆に視聴者たちは身体能力的には一般人に過ぎない。猟兵たちの障害にはならないだろう。儀式現場に突入する直前に拘束してしまえばいい。
 こんなところかな、とあらかたの説明を終え、転移の準備にはいる伏籠。最後に彼は檄を飛ばして猟兵たちを送り出した。
「儀式が完成すれば被害は甚大なものになる。頼んだよ、イェーガー!」


灰色梟
 はじめまして、こんにちは、灰色梟と申します。

 今回はUDCアースを舞台とした冒険となります。
 文明の利器も使い方次第ですね。ネットワークを使った邪教の企みを阻止してください。
 視聴者に接触する以外にも捜査の方法を思いつけば、そちらでチャレンジしてみるのもいいでしょう。

 それでは皆さんの活躍を心待ちにしています。一緒に頑張りましょう。
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第1章 冒険 『SNUFF』

POW   :    生贄を物色する狂信者のSNSやスカウトに騙されたフリをする。生贄として囚えられた上で反撃の機会を窺う

SPD   :    ネットに流出した儀式の映像を元に儀式の場を割り出し、密かに潜入。生贄を救出する機会を窺う

WIZ   :    予知で得た情報を元に邪神信奉者に接触する。信奉者の仲間として儀式の場に参列した上で、反乱の機会を窺う

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

波狼・拓哉
適応してるのか、元からこういうものだったのか…UDCは不思議だね?まあ、どちらにせよ潰すんですけどね。
さて俺は邪神信奉者に接触して、仲間として潜入するかな。…どうせ彼らも生贄だろうしなぁ。波長があったってだけで殺されるのも何かあれだろ…
ヘケトの末裔とやらの情報収集をして信奉者に変装、コミュ力と言いくるめで他信者に付いて行くことを了承させる感じかな。後、生贄物色にも付き合って強そうな人…まあ猟兵を連れ込むの手伝ったりするか!逆に逃げにくそうな老人とかが引っかかってたら適当に言って連れて行かないようにとかもしよう。
(アドリブ絡み歓迎です)


花咲・桜華
SPD
ネットの情報ってネットにあるものだよね。
あの動画にもコメントかかれてそうだし、見つけるのは簡単そうだね。

会場を見つけたら、他の参加者に混じって潜入するよ!
【聞き耳】で周囲の呟いていることを聞いて、同じように呟いているフリをする。
演技だとばれないように【パフォーマンス】で演技力をあげよう。

人混みに紛れて、波をかき分けて、前の方へ進んでいくよ。
最前列の端っこに陣取れたらいいな。

大暴れしようとする猟兵がいたら、抑えるように合図を送ろう。
まだ、奴に会っていないのだから。
ばれるようなら奇跡の破壊者で無力化を狙うよ。



「やっぱりネットの情報はネットからだよね」
 UDC組織が用意したネットワーク設備が整った一室。革張りのデスクチェアに腰を沈めて花咲・桜華(桃色ワーウルフは深淵を覗いてやってきた・f04874)が軽快にキーを叩く。
 彼が探っているのはネットワーク上に残された邪教の手掛かり。仮面の男は肝心な情報を秘匿しつつ映像を作成していたようだが、それでも断片的な手掛かりであれば動画サイトや視聴者のSNSに散見できた。あくまで洗脳を受けただけの視聴者たちは、神秘の秘匿についてそこまで気を配っていなかったのだろう。
「どうです? 何か掴めましたか?」
 首尾よく調査を進める桜華の後ろから、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)が画面を覗き込む。拓哉は拓哉で視聴者たちの情報の整理を進めている。
 恐らく、視聴者たちでさえ生贄の候補になるだろう。拓哉はそう予想して調査を行っていた。
「うん、信者が使う聖句とか、ちょっとした合言葉なんかは拾えたよ。ただ、やっぱり儀式の場所そのものは見当たらないね」
「なるほど、あちらもそこまで迂闊ではありませんか」
 調査に区切りを付け、桜華は椅子の上で大きく伸びをする。すでに拓哉も資料をファイルにまとめ、視聴者との接触に出る準備に移っていた。
「ネット社会に適応したのか、それとも元からこういうものなのか。まあ、どちらにせよ潰すんですけどね」
「まずは主催者に会ってからだよ?」
「大丈夫、わかっていますよ」
 軽口を叩き合いながら二人は外へ向かう。UDC組織の施設を出発して、ネット上で約束を取り付けた視聴者の元へ。
 これから接触する視聴者は拓哉が目星を付けた相手。……他人を生贄にしようと物色しているヤバイ奴だ。

「やぁ、同士。お会いできて光栄です」
「こんにちはー! ボクも会えて嬉しいよ!」
 二人が接触した男は、一見して身なりのしっかりとした勤め人風の装いだった。物腰柔らかな拓哉と元気いっぱいの桜華に目を丸くしている。
「えーと、あなたたちが……?」
「はい、あなたと志を同じくする者です」
「今宵、我らの王に献杯を」
 困惑の表情を浮かべる男に二人は自分たちも信徒であると偽ってみせる。
 特に桜華は先ほどまでの天真爛漫ぶりを収め、厳かな信徒の表情で口上を述べている。その真に迫った様子に視聴者の男も信じる気になったようだ。ここはアイドルの面目躍如といったところだろうか。
「そ、そうか! では、これより王への供物を見繕わねば!」
「それなら俺に心当たりがあります。ここは任せてくれませんか?」
「本当か! 準備が良いな、同士よ!」
 仲間との合流を果たし、上機嫌な男。彼が提案する生贄探しを拓哉がやんわりと誘導する。
 生贄候補として猟兵を連れ込むか、あるいは理由をつけて生贄が見つからない形を作ってしまうか、いずれにせよ犠牲は少ない方がいい。もちろん、この男でさえも。
(今はこんなだけれど、波長が合っただけで殺されるってのもあれだよな)
 拓哉は心の内でため息をつく。男は桜華と神秘談義で盛り上がっているので怪しまれているということもないだろう。
 うまく視聴者のひとりと合流できた二人の猟兵。このまま彼と行動すればいずれ儀式の場所に辿り着くはずだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

空廼・柩
全く、魔術ならもっとアナログな手法を使えば良いのに
…って愚痴ってても何も始らない
UDCの対処ならエージェントにお任せ――ってね

先ずは得られた情報から邪神信奉者に接触しよう
他者を巻き込むタイプだったら接触も楽ではあるけれど
念の為、そいつを【影纏い】で追跡、儀式会場までついていこう
後は俺が動画に導かれた信奉者だって事にして、会場に参列すれば良い
他に参列した猟兵がいたら、共に反乱を起こす機会を窺う
行動さえ起したら後は狂信者を庇いつつ、会場から逃がすよ
しっかり逃げ終えたのを確認してから本格的な戦いに移るとしよう

――悪いけれど、あんたの企みも此処までだ
無辜の民を巻き込もうとした罪、その身で贖うに余り有る


楠瀬・亜夜
技術は使う者により良くも悪くもなるとはいいますが、これはまた随分と邪悪に染め上げたもので……
さて、秘法とやらは一体どんなものなんでしょうね。直接拝見させて貰うとしますか。(SPD)

他人を巻き込むのであればSNSなどで人集めをする視聴者も居そうですし
【情報収集】で関係しそうな情報をネットで軽く調べてみましょう。

集合場所などが分かったら身を隠して待ち伏せてみましょうか。
何があるか分かりませんからね、存在を感知されてない者は一人は
居た方がいいでしょう。
会場へ向かう視聴者たちを【追跡】技能を駆使して
身を隠しつつ尾行して会場を目指してみます。


アイ・ティー
どうも、アイです
樽に詰め込まれるようなことはあっても、邪神教団に詰め込まれるのは勘弁です
まあ、詰め込まれてしまうのは洗脳された人たちなんでしょうが…
めんどくさいけどどうにかしましょう

[SPD]ネット情報を元に儀式の場所を割り出し、潜入しましょう
【気怠いボディ】を使えば少しの隙間とかあってもにゅるっと入り込めそうですし
[早業]で素早く動いて[目立たない]ようにすれば気づかれずに
潜入することもできそうです
めんどくさいですけど

気づかれないのであれば、狙撃位置も確保しておきたいですね
スナイパーたるもの、こっそりしていてなんぼですからね



 ところ変わって某地方都市のオープンカフェ。そのテラス席にコーヒーカップを弄ぶ空廼・柩(からのひつぎ・f00796)の姿があった。彼ももまた、邪神信奉者と接触するために行動している最中だ。
 事前の情報収集により、彼も信奉者となった視聴者との約束を取り付けていた。上手く事が運べば、このカフェで合流後、儀式の現場に同行する手筈になっている。
「まったく、魔術っていうならもっとアナログな手法を使えば良いのに」
「……技術は良くも悪くも使う人次第と言いますが、こうも邪法に染めてしまうだなんて」
 小声で愚痴を零す柩。その呟きに応えて、彼が隠し持った小型のインカムからも、ほぅとため息が漏れる。
 楠瀬・亜夜(追憶の断片・f03907)はカフェ近辺にある雑居ビルの屋上から密かに柩の周辺を観察していた。不測の事態に備え、あえて信奉者にも接触しない伏兵としての役割を彼女は担っている。
 信奉者たちはまだ現れない。待ち伏せを続ける二人のインカムに気怠げな別の女性の声が流れる。
「こういうのって便利だけど、悪いヒトに使われるとめんどくさいよね……」
 伏兵となるもうひとりの猟兵。アイ・ティー(Indigo・f06537)もまた、離れた場所からカフェを監視していた。ブラックタールである彼女は自身の特性を活かし、およそ通常の人間では入りこめないような狭い場所に潜伏している。幸いUDCアースのコンクリートジャングルには彼女にうってつけの場所が多数存在していた。
「動画見たら洗脳されてたとかさぁ、めんどくさいけどどうにかしないと」
「ああ、愚痴ってても始まらないよな。……見ろ、おいでなすったぞ」
 自身に近づく人影を目敏く察知して柩が小声で警戒を促す。ついに来たかと、潜伏する二人も監視の視線を強めた。

「こんにちは、同士よ。準備はよろしいですか?」
「ああ、もちろんだ。待ちわびてたところだよ」
 信奉者らしき男に声を掛けられ、柩は行動を開始する。
(よし、宜しく頼むよ)
 ユーベルコード・影纏い。万が一にも信奉者を見失わないように、また、怪しい動きを見逃さないようにと、テーブルの下で追跡用の蝙蝠を召喚する。影を纏った蝙蝠は音もなく信奉者のマークを開始した。
 一連の動作を手早く済ませ、柩は何食わぬ顔で信奉者との会話を続けている。やはり、この信奉者もどこか熱に浮かされたような様子だ。
「それじゃ、さっそく行こうか」
「ええ、ええ。いざ、王のもとへ」
 席を立ち、二人は移動を開始する。大事なのはここからだ。事前に得た情報を武器に、柩は信奉者になりきるのであった。

「それじゃ、私は先に行くから。めんどうだけど、狙撃位置を確保しないと」
「はい、アイさんもお気を付けて」
 動き出した柩たちを追い、亜夜とアイも動き始める。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。直接拝見させて貰いましょう」
 亜夜は対象と十分に距離を取り、視覚情報だけでなくインカムからの音声も判断材料にしながら追跡を続ける。彼女の追跡技術もあってか、信奉者がその存在に気づく気配はない。
 一方で、アイはするすると隙間や物陰を渡っていく。ともすれば追跡対象よりもやや先行する形で進む彼女。狙撃位置を確保するべく、対象の移動先を推測して行動しているのだが、そんなアイの視線にやがてある建物が映った。
「多分、あそこかな」
 見るからに荒廃しつつある一棟の廃ビル。よくよく見れば、その入り口には追跡対象以外にも数人の集団が歩を進めつつある。
 あれも信奉者だろうか。彼らを一瞥しつつ、アイは廃ビルに潜り込んでいった。

●現実と電脳の境界線で
 その廃ビルの一室は異様な熱気に包まれていた。
 集まった邪神の信奉者は十人に満たない。しかし、彼らは口々にこれから起こる神秘の儀式への期待と憧憬を口走っていた。
 今ここには、信奉者以外の生贄となるべき人間はいない。そういった犠牲が出ないよう、猟兵たちが上手く言いくるめたのだろう。
 だが、だからこそか、信奉者たちは自身が生贄となることも辞さないとばかりに、冒涜的な儀式の完遂を心待ちにしている。
 生物の本能にさえ反した無秩序な興奮。それは部屋の奥から仮面の男が現れることで最高潮に達した。
「おお、学術の徒よ、我らが同胞よ! よくぞ集った!」
 芝居がかった身振りで男が信奉者たちに語り掛ける。彼の言葉に陶酔した視線を返す信奉者たち。その様子を男は満足げに見渡す……が。
「……貴様ら、何者だ?」
 正気の視線で仮面の男を見据える猟兵たち。その存在に仮面の男が気づいた瞬間、猟兵たちは行動を開始した。
「残念、隙だらけ」
 天井に潜んだアイが仮面の男にパルスレーザーを放つ。不意を打った一撃を躱すこともできず、レーザーは男の頭部に着弾。破砕音を響かせて仮面に罅が入る。
「なッ! 術式が!」
 驚愕の声を上げる男。仮面と連動していた洗脳の術式にも綻びが生じる。
「みなさん、こちらです!」
 すかさず部屋の外に潜伏していた亜夜が扉を開け放つ。それに呼応し、他の猟兵たちも動揺する元信奉者たちを半ば強引に部屋の外へと追い立てる。
「き、貴様ら! なんということを!」
「……悪いけれど、あんたの企みも此処までだ」
 追い縋ろうとする仮面の男を牽制し、柩がその眼前に立ちふさがる。
 間もなく信奉者だった者たちの避難も完了する。ついに猟兵たちは黒幕を追い詰めるに至ったのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『エージェント・アマガエル』

POW   :    はねかえる
【強靭な肉体 】による素早い一撃を放つ。また、【あらかじめ跳ね回る】等で身軽になれば、更に加速する。
SPD   :    いろいろつかえる
いま戦っている対象に有効な【エージェントひみつ道具 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    死亡フロッグ
自身の【死亡フラグをつい立ててしまう言動 】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 自称・ヘケトの末裔。そう名乗った男の顔から仮面がぼろぼろと崩れ落ちる。その下から現れたのは……。
「ゲココ、よもや曲者が紛れ込んでいようとは」
 きっちりとしたスーツから窮屈そうに姿を覗かせるアマガエルの頭部。それが魔術講師の正体であった。そのテノールボイスだけは変わらずに、憤懣やるかたない形相で喉を膨らませギョロリと眼球を動かす。
「だが、まぁいい。こうなれば貴様らを生贄にすれば良いだけのこと!」
 語気を強め、男が部屋の奥の扉に拳を叩きつける。一瞬の静寂。警戒する猟兵たちを尻目に、扉が乱暴に開かれる。
「ゲコ、ゲココ!」
 出てきたのは魔術講師と同じカエルの頭部を持った異形たち。その数、4人。
 魔術講師と合わせて5人のエージェント・アマガエルが猟兵たちの前に立ちはだかった。
「動画の効果も実証された! 我らが神の完全なる降臨は近い!」
「ゲコゲコゥ!」
 哄笑するカエルの輪唱が廃ビルに響く。ここで彼らを討ち滅ぼさなければネットワーク上の被害は留まることなく広がっていくだろう。
 油断なく構える猟兵たち。世界を守るための戦いが始まる――。
花咲・桜華
SPD
魚人ならぬ蛙人だ! しかも5匹! 面白い!
その動画も今日で打ち切りだよ。

「かえるぴょこぴょこ♪ ごぴょこぴょこ♪」
目立つようにジャンプをして、こっちを見た瞬間に【奇跡の破壊者】を発動。
閃光で目を潰した後に鎖で縛って、雷に撃たれてもらうよ。
動けないうちにダガーで斬り捨てる!

自分は動きを止めず、【地形の利用】や【ロープワーク】で攪乱と死角に入る。
死角に入ったら上からか【忍び足】で近づき、【暗殺】ダガーでズバッと!
近づいた後は【逃げ足】で離れるよ。

敵の動きを【見切り】つつ、相手にあわせて攻撃を行うよ!
当たらなければどうってことないんだ!



 猟兵と邪教徒が対峙する廃ビルの一室。そこはかつては集会のためのホールだったのだろうか、他の部屋よりも広い間取りで作られていた。
 利用する者もいなくなり、いまや朽ちかけた空虚な空間になり果てつつあるホールに、砕けた窓枠から夕暮れの赤光が差し込む。不意に風が吹き込み、室内に積もった砂が舞う。それを合図に、朱に染まる床を踏みつけ、エージェント・アマガエルたちが猟兵たちに飛び掛かった。

 猟兵たちに迫りくるアマガエルたちは懐に手を入れ、それぞれ得意とする武器を取り出す。先頭を走る一人(一匹?)が振るうのは風を切って撓る鞭状の武器だ。桃色に妖しく染まったそれは、まさしくカエルの舌のようであった。
「ゲコゲコ! もはや逃がさんゲコ!」
 エージェントの腕の振りに合わせて自在に蠢く鞭。その複雑怪奇な機動を見切るのは容易ではない。
 鞭を振り回して周囲を威圧しながら距離を詰めるカエル。その前に敢えて進み出る猟兵が一人。花咲・桜華(桃色ワーウルフは深淵を覗いてやってきた・f04874)だ。
「魚人ならぬ蛙人! 面白い!」
 気負わずに常と変わらない笑顔を見せる桜華。カエル側も進み出た彼を最初の獲物と定めたようで、頭部から突き出した眼球をぎらつかせている。
 刺すような視線に射られる中で桜華は……。
「かえるぴょこぴょこ♪ ごぴょこぴょこ♪」
「貴様……! ふざけているゲコか!?」
 リズムよくフレーズを口ずさみながら飄々とステップを踏んでみせた。ときには跳ねてすら魅せる桜華。その動きはリズムに乗りつつも、先を読まれない足運びを織り交ぜている。
 ゆえに、苛立ちと共に振り下ろされた鞭の一撃は、桜華の動きを潰すに至らなかった。真っ直ぐに振り落とされた攻撃を小さく横に回避した桜華はバネの如き勢いでカエルの懐に飛び込む。
「ボクの本気を見せてあげるよ!!」
「ゲゲコ!?」
 カエルが鞭を引き寄せて次の一手を放つより早く、桜華のユーベルコードが奔る。
 疾走を緩めずに桜華から放たれた閃光がカエルの視界を灼く。視覚を塞がれたカエルに、続く雷撃と鎖の束縛を避けることは叶わなかった。
「ゲ! 動けん!」
「わるーい動画も今日で打ち切りだね!」
 ホワイトアウトした視界が復帰したとき、カエルの目に映ったのは黒く濡れたダガーを抜き放つ桜華の姿だった。彼は飛び込んだ勢いのまま、拘束されたカエルエージェントを幾重にも斬りつける。
 一方的な攻撃ともいえる有利な状況。しかし、敵はひとりではない。
「そこまでゲロ!」
「……! っと、危ない!」
 怒気をはらんだ気配に跳び退く桜華。それより一瞬早く、別のカエルエージェントが拳銃のトリガーを引いていた。
 天井にワイヤーを撃ち込み、大きく高く急速離脱する桜華。敵の射程から逃れ着地した彼の肩口は銃創で赤く塗れていた。
「あいたた。次は当たらないようにしないとな」
 僅かに笑みを歪め傷口を抑え息を整える桜華。深い傷ではない。落ち着いて敵の様子を見れば、彼が斬りつけたカエルは拘束を逃れたものの既に息絶え絶えのようだ。
 よし、と頷き桜華は再び戦場に飛び込む隙を探す。戦いはまだ始まったばかりだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

空廼・柩
ヘケトの末裔…っていうからもしやと思ったけれど
蛙にスーツって中々シュールな絵面だね
ともあれ邪神復活なんてされたら仕事が増えるばかりだし
悪いけれど片付けさせてもらう
…じゃ、エージェント対決と洒落込もうじゃないか

眼鏡を外し、棺型の拷問具を手に
手繰り仕掛けるは【咎力封じ】
何人…いや、何匹?…まあ良いか
束になって仕掛けて来るなら寧ろ好都合
纏めて拘束を試み、雁字搦めにしてやろう
俺の拘束具は敵を縛るだけの物じゃない
振り回すと割と痛いしね

守りに関しても忘れていないさ
拷問具を盾として敵の攻撃に対して極力防御
他の猟兵も庇う位の気持ちでいく心算
勿論ただ防御するだけじゃない
お返しとばかりにカウンターもお見舞いしよう


楠瀬・亜夜
おっと……意外な正体を現しましたね(……ちょっと可愛い)。ともあれ、貴方達の計画はここで終わりです。そう簡単に神様に降臨されても困りますのでね。//まずは【クイックドロウ】を駆使し【先制攻撃】を仕掛けましょう。その銃撃で少しでも敵が怯んだらその隙に【knife vision】のよりナイフの展開、一気に敵へ浴びせかけて同時に【ダッシュ】で敵との距離を詰め、至近距離からナイフでの斬撃を行いましょう。//敵が秘密道具を持ち出してきたら使用される前に銃かナイフでの狙撃で破壊を試みてみます。



 水神ヘケト。エジプト神話に名を残すその神は、カエルの頭部を持つ女神であったという。邪教徒たちはあくまで『ヘケトの末裔』を自称しているに過ぎない。しかし、敢えてその名を選んだのは、やはり彼らの風貌ゆえなのだろう。
 神話の知識によりヘケトの姿形を知っていた空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は、エージェント・アマガエルの実物を前にしてもさほど驚かずに相対していた。
「しかし、蛙にスーツってのもシュールな絵面だね」
「……ちょっと可愛い」
 え? と柩が横を向けば、そこにいたのは楠瀬・亜夜(追憶の断片・f03907)だ。先の一言は思わず漏れた感想だろうか、彼女は柩の視線に気づくとすぐに咳払いして敵陣を睨みつける。視線は鋭く、しかし、ほんのちょっぴり頬が赤い。
「コホン。ともあれ、貴方たちの計画もここで終わりです」
「お、おう。邪神復活なんてされたら仕事が増えるばかりだしな」
 気を取り直して柩も武器を構える。彼は眼鏡を外し精神のスイッチを戦闘用に入れ替える。
 彼が手にするのは棺型の拷問具。対峙する敵エージェントに対して盾のように構えられたそれが地面に叩きつけられたとき、二人の戦闘は始まった。
「先制します」
 柩の拷問具が剥き出しの床面を叩き、大音響と共に埃を巻き上げる。その瞬間、素早く拳銃を引き抜いた亜夜がエージェントたちに射撃を開始した。愛用のカスタム・ハンドガンから放たれた鋼鉄の弾丸が邪教徒に殺到する。
「しまったゲコ!」
「グゲゲッ!」
 柩に気を取られた瞬間を狙ったのが幸いしたか、彼女の弾丸は見事に2人のエージェントに命中した。しかし、そのダメージだけでは敵の気勢は衰えていない。敵もまた、常人を逸した生命力を有しているのだ。
「おのれ、舐めるなゲロ!」
 そして、弾丸を逃れたエージェントが怒りに燃えて反撃する。そのエージェントが装備するのもまた拳銃。既に亜夜の位置は射程圏内。間断なくトリガーが引き絞られ殺意の弾丸が彼女に放たれる。
 響く銃声。しかし、その間に割り込む影が一人。
「俺のことを忘れないでくれよ!」
 拷問具を盾にした柩が亜夜と邪教徒の間に割って入る。構えられた拷問具に、亜夜へと直撃コースだった弾丸が吸い込まれていく。
 致命的な被弾を避ける猟兵。しかし、僅かに逸れていた数発の弾が二人の猟兵に掠り傷をつける。
「くっ……、少し時間をお願いします」
「よし、任せてくれ」
 柩の陰で亜夜がナイフを取り出す。ユーベルコード・起動。彼女は屈みながらナイフに力を注ぎこみ、機を待つ。
 一方で、彼女を背後に置いた柩は拷問具を構えたまま敵に突進する。
「ゲゲ、まずいゲロ!」
 応射があったのは僅かに数発。焦り声を上げるエージェントの手元では、拳銃が弾切れを起こしていた。装弾数の少なさが拳銃の弱点。こうなれば後退してリロードを挟むほかない。
 咄嗟に飛び退く拳銃を持った邪教徒。カエルの跳躍力で一息に距離を取る。
 だが、柩にとってそれも想定内。冷静に、冷徹に、狙った獲物へと棺型拷問具『餞』を振り下ろす。
「まずは一人、いや、一匹? ……まぁ良いか」
「ゲ……、ゲコ?」
 それは、すでに別の猟兵によって大ダメージを受けていた邪教徒だった。動きの鈍ったカエルに拷問具が振り下ろされ、彼を棺の中に『飲み込んだ』かに見えた。
 姿を消したかに見えた邪教徒。だが、柩が再び拷問具を盾として構え直したとき、その邪教徒の姿は確認できた。……全身を雁字搦めに拘束され、拷問具に括りつけられた格好で。
「ど、同胞!? 貴様、なんてことゲコを!」
 その悲痛な姿に沸騰する別の邪教徒。反射的に柩に飛び掛かる彼が取り出したのは巨大なハンマー。大きく振りかぶられたそれが直撃すれば『餞』もただでは済まない。
 だが。
「じゃ、よろしくね」
「ええ、お待たせしました」
 凛とした声が戦場に響く。同時に、邪教徒が構えたハンマーが頭部と柄とで両断された。
 瞠目した邪教徒が周囲を見れば、いつの間にか、彼を囲むように中空に浮かぶ無数のナイフたち。そして、『餞』の影からふわりと柩を飛び越えて姿を見せるひとりの猟兵。
「夢か現か幻か、その身で味わって頂きましょう」
 亜夜が言葉と共に邪教徒を指差す。瞬間、念力で操られたナイフの群れが邪教徒に襲い掛かった。
 前後左右から迫る凶刃を躱しきることはできない。次々とその体にナイフが突き刺さる。
 しかし、敵も然るもの。ならばとばかりに、邪教徒は柄のみ残ったハンマーで空中の亜夜に向かってフルスイングを繰り出す。
 ……だが、その一撃が放たれたとき、亜夜はすでに地上に降りていた。柩をジャンプして姿を見せたのも彼女の布石。空振りするハンマーを地面を滑るように掻い潜り、勢いのまま邪教徒をナイフで斬りつける。
「グ、ゲエ、ゲ……」
 至近距離からの斬撃は邪教徒にとって致命の一撃となった。苦悶のうめきと共に地面へと崩れ落ちる。
 ナイフを振り払い、後方宙返りで柩の陰に舞い戻る亜夜。拷問具を盾に油断なく立ちはだかる柩。
 これで戦闘不能となった邪教徒は2人。残りは3人だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

波狼・拓哉
カエルかー…オタマジャクシとかもいるのだろうか。まあ、気になるけどどうでもいいことだし殲滅と行きますか。
さてと、味方が前で暴れていてくれてるし俺は後ろから撃っとこう。いつも通りお願いしますねミミックさんと、化け撃ちな。空中を飛び回り攪乱しつつ撃ちまくりなー。
俺自身は目立たないように地形を利用しつつ、カエルどもが出してく道具を衝撃波を込め衝撃属性にした弾で撃って弾いて武器落とし辺りを狙っていくか。あくまでサポートに徹しようっと。
(アドリブ絡み歓迎です)



 陽が落ちつつある。
 窓から差し込んでいた夕日は、いまや紫色に染まり、室内に影を落とし始めていた。
 戦場は、元より廃墟。照明などという気の利いたものもありはしない。
 暗がりに沈みつつも、前線の猟兵たちとカエルエージェントは激闘を繰り広げている。

「さてと、これは動きやすい状況になってきたかな」
 ぶつかり合いの続く前衛から一歩下がった位置で戦場全体を見渡した波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)が呟く。
 これまで援護射撃に徹してきた彼に対する邪教徒のマークは薄い。その上、闇に姿が紛れつつあるこのタイミングは、攻勢を掛ける好機であった。
「よし、ミミックさん、いつも通りお願いしますね」
 影の中を走り、部屋の片隅に積み上げられた瓦礫の山の陰に潜り込んだ拓哉。
 彼は戦場の様子を窺い、相棒のミミックをそっと送り出す。
 彼の指示を受けた箱型の怪物は『擬態』の名が示す通り、宇宙戦艦の姿を模して宙に浮かんでいった。
 その様子を見守りつつ、拓哉自身も拳銃に衝撃作用を持つ弾丸を装填していく。
「あとはタイミングを計って、と」
 瓦礫からちらりと顔を覗かせる。幸い邪教徒はこちらの動きに勘づいていないようだ。
 彼が指示すればミミックはすぐにでも砲火を開くだろう。
「……そういえば、カエルがいるならオタマジャクシもいるのかな」
 エージェント・アマガエルたちの動きを観察していると、ふと、そんな疑問が拓哉に浮かんだ。連中、子供のころはオタマジャクシだったのだろうか。
 今の姿でさえ奇妙なことこの上ない彼らである。オタマジャクシ(ひょっとして手足がない?)ともなると、姿かたちを想像するのも難しい。
「気になる……、けど、まぁどうでもいいか」
 数瞬だけ顎に手を当てて思わず考え込んでしまったが、益体もない想像はすぐに頭から振り払った。ここは戦場、じっくり考えている暇もないのだ。
 折よく、味方の猟兵たちがミミックの射線から外れる。好機、来たれり。
「さぁ、化け撃ちなミミック……! 黄昏にその存在を刻みな!」
 刹那、擬態した宇宙戦艦から白光がほとばしる。
 完全に不意を打った光線は、邪教徒のひとりの眉間に突き刺さった。
 衝撃のまま、仰向けに倒れこむ邪教徒。焦げるような匂いがあたりに漂う。
「ゲゲコッ!? なんじゃありゃぁ!」
 さすがに敵もミミックを視認する。……空中に浮かぶ小型宇宙戦艦など、想像の埒外ではあったが。
 そのタイミングで、拓哉も物陰から飛び出した。
 ミミックは空中を飛び回り、邪教徒を攪乱しながら光線を放ち続けている。
「ええい、鬱陶しいゲコ!」
 業を煮やした邪教徒が自身の懐に手を入れた。状況に応じたひみつ道具――今回は投網型のアイテムだ――が彼の手に収まる。
「予想通り。そいつは使わせないよ!」
 再びの不意打ち。暗がりから放たれた弾丸が邪教徒の手に叩き込まれた。
 衝撃力を増強した弾丸は、その手に握られたひみつ道具を彼方に吹き飛ばす。
「き、貴様……!」
「よそ見してていいのかな?」
 咄嗟に拓哉を睨みつける邪教徒。その視線を受け流し、拓哉は飄々と指摘する。
「なに……をっ?」
 ジュっと肉が焼ける音がした。
 拓哉に顔を向けた邪教徒の側面、コメカミを貫通した光線が、室内を一瞬照らし出す。
 疑問の表情を浮かべたまま、横向きに倒れ伏す邪教徒。
 光が去り、暗闇に戻る部屋で拓哉は再び暗がりに潜り込む。
 素早く弾丸を再装填。次のチャンスを窺いつつ、ぽつりと呟く。
「残り、ひとりだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐藤・非正規雇用
へっ、そんなブサイクだから
仮面を着けてたのか!!

もう無理してカメラの前に出る必要はないぜ!
今日、俺に倒されるんだからな!!
両生類がドラゴンに敵うかよ。

ユーベルコード"甘露"で分身を生み出す。
敵がいくら素早かろうと、この物量はかわせまい!!
追い詰めて、分身と同時に攻撃を叩き込む。
「成敗!!」

倒した後は、カメラの前でポーズを決める。
「今日からは新番組、『イケゴニアン佐藤くん』を始めるぜ。check it out !!」



 ぐずぐず、と。
 倒れ伏した四人の狂信者たちの身体が崩れていく。
 それは、まるでビルそのものに捕食されるかのように。
 彼らが溶けていく間も、戦闘は続いている。

 ゆえに猟兵たちは、まだ気づかない。



 太陽はもう沈み切ったのだろうか。廃ビルの中は漆黒に閉ざされつつある。
 残るエージェントはたったのひとり。しかし、猟兵に囲まれた彼は逃げ出す素振りも見せず、いまだ泰然と佇んでいる。
「……フン、ここまでやるとはな。ゲコ」
 吐き捨てるように呟くエージェント・アマガエル。見た目では判別できなかったが、その声を聞けば猟兵たちも気づいただろう。最後に残ったのは、動画に出演していた男その人であった。
 邂逅した当初の激高した様子は鳴りを潜め、どこか達観した気配さえ見せるエージェント。目論見を崩されつつあるはずの彼は、いったい何を考えているのか……。
「ははーん、なるほど。お前が動画に出てた男(?)だな」
 油断なく邪教徒を取り囲む猟兵たち。その中から進み出るドラゴニアンがひとり。
 佐藤・非正規雇用(裏切りメガネ・f04277)が手にしたフォースセイバーの光に照らされて、闇の中に浮かび上がる。
 カエルの頭部を一瞥して口笛ひとつ、軽口を叩いて邪教徒を挑発する。
「へっ、そんなブサイクだから仮面を着けてたのか!」
「……やれやれ、ゲコ」
 それでも揺るがないエージェント・アマガエル。怒るどころか、ため息をつき、肩をすくめて非正規雇用に言い返す。
「審美眼に欠けるゲコな。仲間でも一番のイケメンと言われた私をブサイクとは」
「同じ格好に同じ顔。見分けなんかつかねえよ!」
「……囀るな。貴様のほうがよほど不格好だろうゲロに」
 心底呆れたような反応の邪教徒。皮肉で言ってるというよりは……、彼の美的感覚としては当然の感想のようだった。
 その言い方には非正規雇用もちょっとカチンとくる。
「ハァ? このイケゴニアンをつかまえて何言っちゃってるの?」
「自分で自分をイケメン扱いとは。滑稽ゲコゲコ」
「お前! ブーメラン刺さってるぞ!」
 喉を鳴らして笑う邪教徒。動画の主役を張っていただけのことはあるか、このエージェント、意外とナルシストなのかもしれない。
 突如として勃発した、自称・イケメン対決。非正規雇用は眦をあげてフォースセイバーを構える。
「まぁいいぜ。もう無理してカメラの前に出る必要もないんだ。なにせ、ここで俺に倒されるんだからな!」
「減らず口を! 爬虫類め!」
「誰が爬虫類だ! 両生類がドラゴンに敵うかよ!」
 そう言い放ち非正規雇用が一足飛びに邪教徒の懐に飛び込む。素早く振りぬかれたフォースセイバーが暗闇に光の軌跡を残す。
「ゲコゲコォ!」
 その一撃を大きく左に跳びはねて回避する邪教徒。
 まさに水を得たカエルの如く、その勢いは止まらない。左、右、後方……、縦横無尽に室内を跳ね回る。その身に蓄えられた運動エネルギーは如何ほどか。
 追いきれない! 目の前を通った影に非正規雇用が咄嗟に武器を振るってしまった瞬間、跳ね上がった邪教徒が天井を蹴り、猟兵の背後に回り込んで、強烈な蹴りを叩き込んだ。
「ぐはっ!」
「遅い遅い! もはや貴様は我が掌中ゲコ!」
 益々勢いに乗り、再び跳びはね回る邪教徒。
 非正規雇用は蹴撃につんのめり、地面に手をついてしまっている。
 しかし。
「……確かに速い。だが、いくら素早かろうが」
 体内で力を練り、薄く呼気を放つ。
 解き放つ能力。その間合い、34m。『ビルの一室を捕捉するには、余りある!』
「この物量はかわせまい!」
「ゲコゥ!?」
 現れたのは、非正規雇用の分身たち。いくつもの影が邪教徒に躍りかかった。
 元々突き出ていた邪教徒の目玉が比喩的にも飛び出る。単純な質量の壁に、飛び回る範囲さえ大きく制限されてしまう。
 そのスピードさえ封じてしまえば、もはや彼に非正規雇用の手から逃れる術はない。
「ゲゲコ! しまっ!」
「その隙、逃さん!」
 邪教徒が着地した位置。分身に囲まれて逃げる先がないポイント。
 硬直した彼に、非正規雇用本体と分身が前後から同時に攻撃を放った。
「成敗!」
 交差する影。二振りのフォースセイバーがクロスを描いて邪教徒を斬り抜ける。
 エックス字に残される光の傷跡。
 硬直し、僅かに痙攣する身体。そして、彼の膝が落ちる。
「ああ……、我らが、王、よ……」
 最後に何かを求めるように虚空に手を伸ばし、最後の邪教徒は倒れ伏したのだった。

 その様子を静かに見つめる非正規雇用。
 ……の姿をカメラに収める一体の分身。いつの間に。
 フ、とニヒルに笑みを浮かべてカメラを振り返る彼。
 画面の向こうにウィンクしながらサムズアップ。

「今日からは新番組、『イケゴニアン佐藤くん』を始めるぜ。check it out !!」

 提供はUDC組織でお送りします。チャンネル登録はコチラまで。
 なお、投稿予定日は未定となっております。あしからず。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『緑の王』

POW   :    暴食
【決して満たされぬ飢餓 】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【辺り一帯を黒く煮え滾る消化液の泥沼】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    巡り
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【消化液 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    慈悲深く
【激しい咆哮 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は多々羅・赤銅です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 激闘の末、猟兵たちはついに邪教徒を打ち倒した。
 邪新復活は未然に防がれ、事件は見事解決となる。

 ……そのはずなのに。

「ゲココ……、やはり、力及ばずか」
 最後に倒された邪教徒が呻きをあげた。暗がりに沈む男の表情は杳として知れない。
 地面を這うように手を伸ばしす彼を影が包んでいく。
「ならば、ああ、我らが王よ。我らの血を以て復活を……!」
 あれは、ただの影ではない!
 猟兵たちは気づいた。邪教徒の身体が文字通り『影に沈んで』消えていくことに。
 振り返れば、先立って倒したはずの他の構成員も室内から姿を消している。

 いったい何が……。

 辺りを警戒する猟兵たち。
 その背に悍ましい悪寒が降り注ぐ。邪教徒たちとは違う、恐るべき存在の威圧。
 感覚の鋭い者であれば気づくだろう。

 屋上に何かがいる、と。



 錆び切った扉を蹴破り、屋上に飛び出した猟兵たち。彼らを迎えたのは足に伝わる冷たい感触だった。
 視線を下に向ければ、どういうわけか屋上全体に足首が浸かるほどの水が張っている。
 陽は沈み、月明かりだけが照らす廃ビルの古池。
 その中心に、悪寒の元凶がいた。

「忘却の暗渠より、我は来たれり」

 ソレは痩せ細り、腹部に虚空を空けた人間に見えた。頭部には鹿の角を冠し、水に横たわるその下半身は四足獣の骨格を持っている。所々に覗き見える白骨は、その存在を苛む『終わらない飢餓』を象徴しているかのようだ。
「我が臣もその身を捧げたか。だというのに、この飢えはいまだ終わらない」
 オブリビオン・緑の王。忘れ去られた自然の化身とも、古き地母神の系譜とも語られる神性。邪教徒たちが奉じていたのは、飢餓のままに生命を貪る異形であった。
 異形の王は、しかし、悲しげに月に嘶く。
「もはや民なき王に何の意味があろうか。……嘆けとて、この身を蝕む衝動が癒えるはずもない」
 なればこそ。暗い瞳が猟兵たちを捉える。
「敵対者よ。そなたらを糧とし、我が哀のせめてもの慰めとしよう」
 水面に波紋が広がる。ゆったりと、しなやかに、異形が立ち上がった。
 電脳上から始まった今回の事件。その最後の戦いが、今始まる。
佐藤・非正規雇用
不完全な状態のまま召喚されたか……哀れな。
俺が今すぐラクにしてやるから、じっとしてろよォ!!

ユーベルコード"雲上人"で巨人を呼び出す。
敵の武器は辺りを毒沼に変えるようだが、
巨人の手に乗って回避するぜ。

そのまま接近して、巨人の剣で攻撃だ。
神をも凌駕する、我が一撃を受けよ!!

お前のツノもなかなかだが、俺のツノの方がイケてるぜ。

勝ち誇って、巨人と一緒にポーズを決める。


波狼・拓哉
…こんなこと敵に言うの何なんだけど、一種の敬意を持てるUDC久しぶりだわ。ちゃんと部下のことも分かってるとかすげぇ。まあ、それはそれとして忘却の暗渠には戻って貰うんだけどね?
さあ、化け変わりなミミック。空飛べるタイプの龍で行こうか。あの泥はやばそうだしね?隙を見て咆哮を放ちな。後行けそうなら相手の咆哮の相殺も。威力下げれたら御の字だけどね。
自分は衝撃波込めた弾で一瞬でも意識を奪えたら…いいなぁ。あんまり気にしなそうだけど。少しでもダメージ稼ぎたいし適当に撃つか。後はロープ使って地形を利用しつつ立体移動を心がけよう。沼に落ちないようにだけは気を付けないとね。
(アドリブ絡み歓迎)


楠瀬・亜夜
忘れられた王、物語の題材としてはこの上ない逸材ですがそれにしても
この威圧感……さすが王と呼ばれるだけはありますね
心臓を掴まれるようなこの感覚、恐怖……というよりは
底の無い哀しみ……空虚感……ああ、なるほど
私がやるべき事――それは――
王よ、終わらせましょう この悲劇を

【shadow hearts】により影蝙蝠を召喚、連携して戦闘を行います
蝙蝠に攻撃を仕掛けさせ【クイックドロウ】による連射で牽制を
それにより少しでも敵の気が逸れたらナイフを【投擲】し、更にナイフを片手に【ダッシュ】で一気に切り込み連撃を与えます

敵の消化液には特に注意を向けて
上着による振り払い、跳躍などで距離を取ります



 緑の王から広がった波紋が猟兵たちの足に届く。
 身震いするような威圧感。只人であればこの場に留まることさえ危険だろう。
 だが、猟兵たちは王の気配から敵意以外のものも感じ取っていた。
 胸中に生まれた想いを抱えつつ、彼らの戦いは幕を切る。

「……こんなこと敵に言うの何なんだけど」
 波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)がぽつりと言葉を零す。
 敵からは決して目を離さずに、手元では銃弾に力を篭めつつも、その言葉はどこか感嘆するかのような調子だ。
「一種の敬意を持てるUDCは久しぶりだわ。ちゃんと部下のことも分かってるとかすげぇ」
 偽りない、心からの感想だ。
 一方で、彼は周囲の観察に余念がない。ここは廃ビルの屋上。足元の水場を避けるのであれば、使えそうなのは屋内に繋がる扉の上か、給水タンクか。猟兵の身体能力であれば古びたフェンスでさえも利用できるか。ロケーションを考慮し、自身の手札を並べ、戦術を組み立てていく。

 その隣で緑の王と対峙する猟兵がもうひとり。
「ええ。忘れられた王、物語の題材としてはこの上ない逸材ですが」
 拓哉の言葉に楠瀬・亜夜(追憶の断片・f03907)も頷き、想いを馳せる。
 彼女の胸に去来する感傷。心臓を鷲掴みにするような感覚は、果たして恐怖によるものなのか。ほんの少し瞑目すれば、まったく別の感情が彼女の心に届く。
「底の無い哀しみ……、空虚感。……ああ、なるほど」
 視線の先に佇む緑の王。茫漠とした表情の真意はわからない。だが、亜夜の胸に訪れた衝動を信じるのであれば。
「私がやるべき事。それは……」

「気負うなよ、亜夜」
 真剣な表情でオブリビオンを見やる亜夜の肩をポンと叩き、佐藤・非正規雇用(ハイランダー・f04277)が一歩進み出た。
 彼は自身の顎に手を当て、緑の王を観察する。
 そもそもの話、邪教徒たちの当初の目論見はほぼ完全に防げているのだ。目の前の存在からは確かに明確な脅威を感じるが、それでも……。
「不完全な状態のまま召喚されたか……、哀れな」
 そう。もしも緑の王が完全な状態で召喚されたのであれば、その力はこんなものではないだろう。おそらく、この廃ビルそのものを飲み込むくらいは平気でやってくるはずだ。
 ならば、この好機に一気呵成に攻めるのみ!

「俺が今すぐラクにしてやるから、じっとしてろよォ!」
 裂帛の咆哮と共に非正規雇用の指が天を指す。
「王よ、終わらせましょう。この悲劇を」
 亜夜の外套がはためき、月下の水面に影を落とす。
「悪いけど、忘却の暗渠に戻って貰うね?」
 拓哉の傍らでミミックが宙へと跳びだす。

 三者三様。猟兵たちの意思が力となり、像を結んだ。
 指差された空間が歪み、鎧姿の巨人が躯体を現す。
 水面の影が実像を持ち、蝙蝠の姿で夜に羽ばたく。
 奇妙な箱が長大な龍へと変じ、敵対者を睥睨する。

「ほぅ」
 猟兵たちの呼び掛けに応え、現れた協力者たち。
 彼らを前に、虚ろな空気を纏っていた緑の王に感情の色が浮かぶ。
 王は興味深そうに猟兵たちの陣容を眇め、くつくつと喉を鳴らす。
「臣なき王に、従者を以て挑むか。なかなかどうして、諧謔を嗜むと見える」
 薄っすらと浮かんだ微笑に込められた意味は如何なるものか。
 ともすれば自虐的とも取れる発言に、拳銃を構える亜夜が応じる。
「いつだって、私たちは最善を尽くしているだけです」
 拳銃の照準はすでに緑の王を捉えている。彼女が引き金を引けばすぐにでも凶弾が放たれるのは緑の王にもわかるはずだ。
 それすらも頓着せず、王は両の手を広げ、猟兵たちに言葉を贈る。
 敢えてその感情を言葉にするのであれば、それは。

「興が乗った。足掻いて見せよ、猟兵」

 その言葉が開戦の合図となった。
 緑の王の周囲の水面が煮えたぎり、異様な蒸気を発する。
 ユーベルコードによる事象の浸食が始まり、屋上に張った水が瞬く間に消化液に作り替えられる。

「あぶねえな!」
 だが、易々とそれに捕まる猟兵たちではない。彼らはそれぞれに地を蹴り、宙に身体を躍らせた。
 毒沼を回避した非正規雇用はそのまま自身の召喚した巨人の手に収まり、剣を肩に担いで構える。彼の動きに同調する巨人……、雲上人も常識外の巨剣を同様に構えた。

「いくぜ! 神をも凌駕する、我が一撃を受けよ!」
 その巨躯からすれば、彼我の距離は一足で十分に足る。
 風を切る轟音。刹那の間もなく、巨人の剣が緑の王に振り下ろされた。

「不遜。その力、神に及ばず」
「……マジかよ」

 緑の王はその場を動かず。右手を伸ばして、巨剣の刃を掴み止めていた。
 あの細腕にどれだけの力があるのか。非正規雇用が渾身の剛力を篭めても、剣を振り切ることができない。
 両者動けず、均衡。しかし、そうしている間にも雲上人の足元が消化液に浸かり、異臭を放つ煙を上げる。この状況が続くのは、非正規雇用に不利。

「チッ! だが、動きは封じた!」
「仕掛けます。やりなさい、我が眷属よ」

 雲上人が剣に力を篭め続け、緑の王の動きを縛り付ける。
 その隙を狙って飛び出した亜夜が影蝙蝠を嗾けた。彼女自身も素早く照準を合わせ、拳銃を連射して援護する。
 数発の弾丸が緑の王に食い込む。が、通常の弾丸では敵は痛痒も見せない。
 亜夜とてそれは織り込み済み。本命は突撃する影蝙蝠!

「この程度で我を封じたつもりか? 笑止」
「なっ!」

 オブリビオンが大きな動きを見せたわけではなかった。むしろ、脱力したかのように軽く振るわれた左腕。それが触れただけで影蝙蝠が消化液の沼に撃墜された。
 動揺する間すらない。
 次の瞬間、亜夜の眼下で消化液が沸き立ち、一閃の影が彼女に向って突き刺さる。

「かはっ……!」

 腹部に感じた衝撃。遅れてやってくる鈍痛。
 空中でバランスを崩し、勢いを殺される。
 落ちる。まずい。煮えたぎる毒沼が迫る。
 その寸前。

「備えあれば憂いなし、ってね」
「……くっ、助かりました」

 拓哉が放ったロープが亜夜の下を滑り込み、フェンスと接続されて足場を作った。
 際どいところでロープを掴んだ亜夜。なんとか体勢を立て直して顧みれば、わずかに掠っただけで上着の裾が溶けてしまっている。
 もしも、落下して沼に飲み込まれていれば。その想像にぞっとする。

 一方で緑の王は巨剣に右腕を封じられつつも、ゆったりと拓哉に向って振り返る。
「さて、一瞬でも意識を奪えればいいんだけど……!」
 給水タンクの上。衝撃波を込めた弾丸を装填し、拓哉が拳銃を構える。
 正直、さっきの攻防を見た感じ期待薄だけど。と独り言ちつつもトリガーを絞る。
 放たれる弾丸。それが着弾すると、炸裂音とともに周囲に衝撃波をまき散らす。
「……それだけか?」
 緑の王にダメージは、ほとんどない。衝撃によって飛沫を上げる消化液を鬱陶しそうに左手で拭うのみだ。
 彼は撃ち込まれ続ける弾丸に嘆息した後、拓哉に顔を向けたまま息を吸い込んで。

「ウオォオオゥ!」
「ぐっ!」

 指向性を持った咆哮。破壊力さえ持ったそれが、給水タンクを文字通り吹き飛ばす。
 拓哉も咄嗟に回避しようとするものの、不可視の面となって襲い来る衝撃を見切るには間に合わなかった。
 苦悶の声をあげ、屋上から弾き飛ばされる拓哉。
 このままでは地上まで真っ逆さまだ。
「……やばっ!」
 視界は揺らぐが、幸いにも気絶まではしていない。
 意識を気合で持ち直し、手持ちのロープをフェンスに向って投げる。
「持ってくれよ……!」
 フェンスに絡まるロープ。
 拓哉の体重と咆哮で受けた衝撃がフェンスをギシギシと軋ませる。
 視界の端で、留め具がひとつ弾けるのが見える。
 それでも。

「……セーフ。なら、勝負はここからだ」
 現代技術の賜物。経年劣化しつつもフェンスはなんとか拓哉を支え切った。
 壁面に強かに体を打ち付けつつもロープを離さない拓哉。
 彼は屋上を見据え、猛然とロープを昇り始めた。

 視点を屋上に戻せば、その中心には緑の王が悠然と佇み続けていた。
 雲上人の剣も変わらず圧し掛かり続けている、が、既にその脚部は膝近くまで溶けてしまっている。
 長くはもたない。
 だが、拓哉に向けて放たれた咆哮は、緑の王が見せた初めての『隙』であった。

「今度は、逃しません」

 たとえ僅かなものであっても、亜夜はその隙を見逃さないし、見逃せない。
 不安定なロープの足場。拓哉に向けた顔が向き直るその前に細身のナイフを投擲。
 空を裂く刃。緑の王は見向きもせず、それを左手で掴み取る。
 だが、そのときにはすでに。

「ようやく捕まえました」

 投擲されたナイフの『後ろに続いて飛び掛かった』亜夜が緑の王に組み付いていた。
 当然、周囲には足場になるものはない。オブリビオンに振り払われれば、煮え滾る消化液に落ちるだけだ。
 それでも彼女は飛び、チャンスを掴んだ。

「娘よ、恐怖を知らぬか」
 緑の王さえ目を丸くする。彼女はついさっき、沼に落とされかけているのだ。
 だというのに危険を顧みずに強襲を仕掛けるのは、いかなる胆力によるものか。

「いいえ。やるべきことを知っているだけです」

 閃く刃。投擲されたものとは別のナイフが緑の王に突き刺さる。
 狙うは右肩。この神性に腱などというものがあるのかはわからない。
 だが、相手が抵抗するより早く、亜夜が突き刺したナイフで思い切り傷口を抉ったとき、非正規雇用は雲上人の剣に確かな手応えを感じた。

「むぅ……!」
「あとはお願いします!」

 緑の王の前脚が、僅かに折れる。そのタイミングで亜夜は離脱。残された足場に飛び移り、難を逃れる。
 再び、オブリビオンの右腕と雲上人の巨剣が競り合う構図。
 巨人の足は、もはや膝さえ溶けている。その手の上に乗り、非正規雇用はなおも気炎を吐く。

「ずっと押してるんだから、まだ『一撃』だよな!?」
「……貴様」

 呆れたような、感嘆したような、なんとも言えない感情を浮かべる緑の王。
 その右腕。剣を支える肩口に付けられた傷跡からは黒い液体が滴り落ちていた。
 抵抗は明確に弱くなっている。
 しかし、オブリビオンに他の攻撃手段がないわけではない。
 緑の王が息を吸い込む。非正規雇用を見つめ、放とうとするのは咆哮による衝撃。
 この距離であれば外しようがない。
 あの男を吹き飛ばしさえしてしまえば……。

「それ、一回見てるからね」

 涼やかな声。屋上に戻り、足場を確保した拓哉。彼は戦況を見切っていた。
 指示を伝えるのは上空で隙を探し続けていた、龍に変じたミミック。
 実のところ、この龍の形態が持つ特殊能力は『爆発する咆哮』のみだ。
 しかし、だからこそ。自身が一度受けた敵の咆哮に対抗するのは、出目のある賭けだと拓哉は踏んだ。

「さぁ、化け咆えなミミック……! その悲しみごと圧し潰してやろうぜ!」
「ウオォオオゥ!」

 相殺と言うには些か乱暴に。天から恐るべき音響が降り注いだ。
 ほぼ同時に放たれる緑の王の咆哮。
 しかし、それは非正規雇用に届く前に、ミミックの偽正・龍滅咆哮に押し込まれる。
 驚愕に目を見開くオブリビオン。ミミックの咆哮が耳に届くとともに、狂気を振りまく爆発が彼を襲う。
 そして、咆哮に背中を押され、非正規雇用が限界の力を篭めて刃を敵に押し込めた。

「もう一回言うぜ。我が『一撃』は神をも凌駕する、ってなァ!」
「ぐ、がぁ!」

 超重量による断裂。ついに振り切られた巨人の刃が消化液の沼に沈む。
 そこに残るのは、右側の角を失い、右腕が半ばから断ち切られた緑の王の姿だった。

 オブリビオンに刻まれた明確なダメージ。
 猟兵たちは残された足場にそれぞれ退避し、敵の様子を窺う。
 油断なく拳銃を構える亜夜。その視界の先で、緑の王は激昂するでもなくただ静かに自身の敵対者たちを見つめ返していた。
 戦場に訪れた、僅かな静寂。
 その中で、肩で息をしながらも非正規雇用が自身の右角をこんこんと叩いてみせた。

「お前のツノもなかなかだったが……、俺のツノの方がイケてるだろ?」
「……おかしな男だ」

 笑った、のだろうか? 夜の影に隠れ、本当のところはわからない。
 傷口から体液を零し続ける緑の王。片腕を失い、その戦力は大幅に減じただろう。
 オブリビオンの表情からは焦りなどは読み取れない。
 だが、戦局は確実に猟兵たちへ傾きつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マディソン・マクナマス
この距離はいい距離だ。敵さんの事情に耳を傾ける必要もねぇ、戦場の喧騒も風の音がかき消してくれる。静かでいい距離だよ……何も気にせず殺すには。

【SPD使用】
おじさんは猟兵達が屋上が戦場になると悟った時点で、一人他のビルの屋上へ向かうよ。他の猟兵達がドンパチやってる間に対UDC軽機関銃を屋上に設置して、前衛の支援に伏射で制圧射撃すっかな。
【巡り】でユーベルコードを無効化されるのは嫌だね。ユーベルコードは使わねぇで通常射撃に専念するか。
何らかの遠距離攻撃の気配があったら、即座に現場を放棄して逃げる。情けないが、傭兵は臆病じゃないと長生きできないんだ。


空廼・柩
あーあ、異形が更に異形じみてきたよ
派手にやられたもんだね
どう、まだ戦う心算?
…そう、じゃあ――

同じ化物同士、殺し合おうか

真の姿を解放、巨大で歪な狼男に変身するよ
更に【霄化】を纏って身体能力を強化
理性も削られるし、正気を保っているだけでも割としんどい
だからとただ蹂躙するだけの獣になる心算はない
咆哮をあげる事で薄れゆく意識を誤魔化して敵に向かう
俺を喰らいたいって云うならばどうぞ御自由に
…はいそうですかと身を差出す気はないし
消化液に浸っても激痛耐性で少しは保てる筈
叩き潰すも切り裂くも、この身ならば何でも御座れ
覚悟を決めたら出し惜しみはしない

――どっちが化物なのか分らないってくらい、派手に暴れてやるさ



 ユーベルコード。それは、世界の法則さえ覆す超常の能力。
 屋上を覆った『猟兵たちですら溶かす消化液』。もし、これが化学的な性質によるものなら、屋上の床そのものがとうに溶かされてしまっているだろう。
 だが、不完全な儀式の影響なのか、あるいは緑の王自身の意思によるものか、いずれにせよ消化液の効力はいまのところ屋上に限定されている。
 ゆえに、戦場が屋上から移る気配もない。

「悪くない。いい距離だ」

 緑の王と猟兵たちが対峙する戦場をマディソン・マクナマス(アイリッシュソルジャー・f05244)が見据える。
 老齢のケットシーのぼさぼさとした毛並みが吹き抜ける風にざわついた。
 ここは、戦場となっている廃ビルとは別の建造物の屋上。廃ビルよりも僅かに高層で、なおかつ援護射撃の有効圏内に位置するポイント。
 屋上が戦場になると悟った時点で、マディソンはこの建物に移動を始めていた。
 くたびれたコートに身を包み、地に伏せた彼が構えるのは無骨な機関銃。対UDC用に改造された銃身の重みが今は頼もしい。

「敵さんの事情に耳を傾ける必要もねぇ、戦場の喧騒も風の音がかき消してくれる」

 猟兵たちの大立ち回りも、ここから見ればまるで無声映画だ。
 映画と違うのは、こちらからちょっかいを出すことができるということ。
 そうだ。複雑なことではない。あとはタイミングだけだ。
 横っ面を殴りつける、最高の瞬間を待てばいい。

「ああ、静かでいい距離だよ……。何も気にせず殺すには」



 屋上一面に広がる消化液の沼。
 傷を負った緑の王だが、その姿は変わらず毒沼の中央に位置している。
 先の戦闘で給水タンクが吹き飛ばされてしまい、猟兵たちが利用できる足場は屋内に通じる小部屋の天井くらいしか残っていない。
 彼我の距離は、近いようで遠い。少なくとも近接戦闘を挑むのであれば、安全な足場から敵に向かって踏み出さなければならない。
 飛び出すには『覚悟』が必要だ。

「派手にやられたもんだね。どう、まだ戦う心算?」

 夜の闇に白衣を翻し、空廼・柩(からのひつぎ・f00796)が緑の王に問う。
 どのような答えが返ってくるのか。それはオブリビオンという存在を知る彼自身、すでに分かっている。
 だから、これは己のための問答なのだ。……今、必要な覚悟を決めるための。

「その問いに意味はない。我と貴様らは決して相容れぬ」

 にべもなく緑の王が応えた。何を今更問うのか、と言わんばかりに柩へと向ける目は冷たい。
 だろうね、と口には出さずに柩は瞑目する。瞼の裏に浮かぶのは自身に眠る『力』だ。
 使わずに済めばそれで良かった。彼にだってそんな思いはある。
 だが、この戦いを止めることはできない。はっきり言葉にしてまでそれを確認した。
 ならば、覚悟を決めるしかない。
 自分で逃げ道を塞いでおいてこれか、と自嘲気味の笑みを浮かべ、柩が目を開いた。

「……そう。じゃあ――、同じ化物同士、殺し合おうか」

 右手で顔を覆い、言い捨てた柩に変異が起きる。牙が、爪が、敵対者を狩るための武器が鋭く伸びる。強靭な四肢は恐るべき追跡者のそれか。白衣の下で肉体が隆起し、月光が人ならざる影を地に映した。
 空色の怪物、狼男。だがそれは種族としての人狼とは全く別の威圧感を放っている。
 すなわち、生命体の埒外にあるもの……、これが、柩の『真の姿』であった。

「ぐ、うぅ……!」

 人から外れた姿。柩の理性が削り取られ、正気そのものが千々に乱れていく。
 それでも、彼はただ周囲を蹂躙するだけの獣になるつもりはない。
 よく見ろ。思考しろ。敵は、一人だ。

「ウ、オォウ!」

 響き渡る咆哮。本能でも衝動でもなく、柩自身の意思で上げた鬨の声。
 叫びが指し示す先。そこに、緑の王がいる。
 四足獣の姿勢で足を折り、腿のバネにありったけの力を蓄える。

「来るか、獣よ」
「グルァア!」

 引き絞られた弓矢の如く、空色の狼が飛び出した。
 対する緑の王は、残された左腕を前に突き出し、柩を迎え撃つ。
 刹那の間もなく、衝突。
 質量のぶつかり合いが黒の沼に激しい波を生む。
 飛沫を上げる毒の水は、柩の身にも降りかかった。だが、今の彼は超常の存在と化している。消化液が彼の肉を焦がすが、耐える間もなく溶解するには至らない。

「グ、ゥ……、オォゥ!」
「痛みすらねじ伏せるか。なるほど、化け物と称するだけはある」

 柩を襲う激痛。それさえも振り切って、狼男が迫る。
 緑の王は隻腕。
 突撃とともに繰り出した右拳は受け止められた。
 思考を挟む暇もなく、左の爪をオブリビオンに突き立てる。
 守る術はない。鋭利な刃物のごとき爪撃が緑の王の胸を切り裂いた。
 緑の王の前脚が沈み込む。

「カ、ハ……、そ、れで終わりか!」
「! ガァッ」

 臓腑を抉る斬撃に口から黒い体液を零しつつも、緑の王が沈んだ体躯を跳ね上げる。
 まさにロデオの如く。片角に腹部を突き上げられた柩が宙に打ち上げられた。
 激しい痛みに柩の呼吸が詰まる。
 そして、両者の距離が開く。

「そいつぁ、ドンピシャだ」

 刹那、闇の中でマズルフラッシュが弾けた。
 隣のビル、マディソンの腕の中で軽機関銃が暴れだす。銃口から吐き出されるのは数えきれないほどの暴力の嵐。
 オブリビオンの意識は完全に柩に向いていた。視認することもできず、強烈な衝撃がその身体に叩き込まれる。

「ガフッ!」

 UDCに有効打を与えるべく改造を重ねた構造が生み出す破壊力と連射力。加えて、もはや緑の王自身も万全には程遠い。
 邪神が、突き刺さる弾丸の雨に苦悶の呻きを上げ消化液の中でたたらを踏んだ。
 ……そして、もうひとりの怪物はその隙を決して逃さない。

「ウオォゥ!」

 今度こそ、と。渾身の力で振り抜いた右の拳がオブリビオンの胸部を消し飛ばした。
 ぽっかりと穴の開いた胸を目を見開いて見下ろす緑の王。漲るばかりだった力が霧散し、屋上を覆っていた毒沼が消滅していく。
 彼が視線を上げれば、空色の狼男はいつの間にか姿を消し、膝をついた白衣の男が盛大に息を荒げていた。

「……此度はここまでか。やはり、我が身を苛む餓えは満たされぬ。だが、余興としては悪くなかった、ぞ」

 まるで砂の人形のように、緑の王が崩れ去っていく。
 消滅の間際でさえ、激情を浮かべることなく、静かにその神性は消えていった。
 残されたのは、真夜中の寒風が吹きすさぶ何の変哲もない廃ビル、そして仰向けになって大の字に倒れこむ柩だけだった。



 その後のことを少し語ろう。
 最後の一押しとなったマディソンはいつの間にか現場から撤退。今回の報酬を片手に行きつけの酒場で祝杯を挙げる姿があったという。
 大立ち回りを演じた柩は、無理が祟ったのかすぐさま医務室送りとなった。幸い、後遺症になるようなダメージではなく、あっさりと退院していったが。

 そして、今回の発端となった、邪教徒による投稿動画。
 UDC組織の尽力により、ネットワーク上に存在していた動画はすべて削除された。
 ……だが、もし、それより前にローカル環境に保存された動画があったとしたら?

 狂気の種は本当にすべて摘まれたのか。それは、誰にもわからない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月18日
宿敵 『緑の王』 を撃破!


挿絵イラスト