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ようこそ転校生

#アルダワ魔法学園


●Porter
「よう、猟兵。異世界旅行の準備は万端かい?」
 猟兵達の拠点にして、揺らぎ移ろう小さな世界『グリモアベース』。その一角に、良く通った声が響く。
 声音につられて振り返れば、そこには不可思議なエネルギー体――グリモアを玩ぶ少女が一人。
 ……いいや、姿形は確かに十代半ばの少女だが、彼女が見せる大雑把な立ち振る舞いや勇ましい言動などは年頃の少女のそれとは程遠く、むしろ……。
「男っぽいって? はは! そりゃあそうだ。『オレ』は男だもの。多重人格者ってヤツさ。美少女の中の人が野郎(イケメン)でしたなんてのは良くある話だろう?」
 少女は――男は笑う。
「改めて、オレの名前はクロノ。刻乃・白帆(クロノ・アキホ)。ちょいとばかりの予知能力があって、嗜む程度にワープとか出来る、お前達と同じ猟兵さ」

●蒸気と魔法と学園と迷宮
 クロノがグリモアを高く翳すと、グリモアベースの景色が変わる。現れたのは蒸気に煙る、巨大な学び舎。
「今回お前達に赴いてもらうのは『アルダワ魔法学園』。蒸気と魔法の世界だ」
 蒸気機械と魔法で創造した究極の地下迷宮『アルダワ』。かつて世界を脅かしていた災魔(オブリビオン)達はこの迷宮に全て封印された。
 しかし、押し込められた迷宮から脱出を図ろうと狙う災魔も多く、それらを監視し、同時に災魔と戦える人材――『学生』を育成するため学園は迷宮の直上に建てられたのだと言う。
「災魔と戦う、学生って名前の戦士達。戦い抜いて生きてる内に引退出来れば、故郷で一生安泰の英雄扱いだって聞くぜ。そう、つまり本来なら学生達だけで災魔を上手く抑えられていたって事なんだが……」
 迷宮最下層に現れた『大魔王』の噂。それに呼応するように災魔達は凶暴化し、迷宮は刻一刻と姿を変える。学生達の実力だけでは対処しきれないケースが近年加速度的に増加しているのだ。
「そんな訳で、オレ達の出番だ猟兵。もう学校卒業してようが先月同窓会やったばかりだろうが今まで学校行ったことなかろうが爺様だろうが婆様だろうが関係ねぇ。今日から皆仲良く足並み揃えてピカピカの転校生だ。そんでもって愛校精神に満ち満ちたオレ達がこの学園の危機を救うのさ。どうだい? イカしてるだろう?」
 さあて、ここからがようやく本題だ。クロノがそう呟くと、グリモアは新たな景色――複雑長大な地下迷宮を映し出す。

●鋼のダンジョン
「誰が流したか知らないが、災魔の影響で変化したダンジョンの奥に、とってもレアなお宝が眠ってるだなんて噂が湧きやがった。学園を通じて、すでに探索禁止のお触れを出しちゃいるが……まぁ、品行方正な学生ばっかじゃないんだよ。困ったことに、腕の立つ奴ほどそう言うの守んねぇ」
 件のダンジョンは、数ある学園迷宮の一つ。罠も災魔も犇めいて、猟兵と雖も容易く踏破は出来ないだろう。そんな迷宮内で、もしも学生と災魔が遭遇すれば……。
「大惨事は避けられない。だからオレ達転校生が災魔を蹴散らして、先にダンジョンをクリアしちまう。迷宮の最奥には、迷宮構造を変化させてる元締めが居る。最終的にそいつを倒せば大団円って訳だ」
 迷宮を構成するのは鉄、鋼、ブリキ、チタン等の金属材質。一見頑丈に見えるが、長い間蒸気に曝されたように腐食、あるいは崩落している箇所も多いらしい。
 罠に関しては、『迷宮』と聞いて通常連想できるものは概ね揃っていると考えていい。
「矢が飛んできたり、槍が壁から生えてきたり、上から大岩転がってきたり、落とし穴だったり、他にも色々な。踏破するルートにもよるが、退屈しないだろうぜ」
 どのように迷宮を攻略するのかは、実際に現場へ赴く猟兵たちの判断に委ねられる。
 力技で攻略してもいいし、ショートカットを探しても良いし、競争相手の生徒達の行動を読んで出し抜くのも有りだろう。無論、その他の手段でも構わない。
「そうだな……とりあえず『書物の魔物』の群れがいるフロアを目指してみると良い。そこが丁度迷宮の中間地点だな。楽か苦か、早いか遅いかの違いはあれ、至る道は複数ある筈だ」
 アルダワ魔法学園世界において知は力。そのため、知識を集積した書物もまた強力な力を持つ。迷宮の知識を得るため、その知識を守る書物の魔物と戦う……この世界ではありふれた光景だ。
 最奥に近づくにつれ、迷宮は複雑さを増していく。書物の魔物達の保有する知識は、必ず迷宮攻略の糸口となるだろう。
「ただし。災魔の相手はともかく、迷宮攻略に関しては学生達に一日の長があるかもな……あんまりゆっくり探索しちゃいられねぇって事さ」

 ――この空気、この感触。
 ふと気が付けば、辺りは既に学園世界の迷宮内だ。
「さぁ、転校生デビューってヤツだ。いっちょ行こうぜ、猟兵!」


長谷部兼光
 初めまして。
 長谷部兼光(ハセベケンコウ)と申します。

●目的
 学生達に先んじて、
 1.迷宮を探索し、
 2.書物の魔物を倒し、
 3.ボスを撃破する。

●迷宮
 金属材質のダンジョン。罠あり、腐食・崩落箇所あり。
 それなりの数の学生たちが迷宮内に居ます。

●アルダワ魔法学園・補足
 ・アルダワ魔法学園の『学生』と言う身分に年齢制限はありません(迷宮内で出会う学生たちの年齢も恐らく様々です)
 ・学園の運営側も学生達も、猟兵の存在や現在の状況を把握しており、猟兵全員を『転校生』として迎え入れ、支援しています。
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第1章 冒険 『冒険競争』

POW   :    力技で迷宮を攻略する

SPD   :    速度を活かして迷宮をショートカットする

WIZ   :    競争相手の生徒達の行動を読んで出し抜き先行する

👑11
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松本・るり遥
何でだよ。何でそんなたやすく金品に目が眩む?
いや、どちらかと言うと名誉欲、自己顕示欲……か。

探索慣れしてる奴らに追いつくためには、まず手数。
オルタナティブ・ダブル。くそっこの名前恥ずかしいから好きじゃない!
もう一人の……というか。俺の中の「欠落」のうちの一つを呼んで、頼み事だ。
頼めるな?「優しくない俺」。
やなこった?何でだよ、言うこと聞けよ!?
兎角、探索には出れそうだ。
俺は怖いの危ないのは苦手だよ……二人、あるいはもっと多人数……手分けして迅速に近道を見つけよう。隠し通路がきっとある。風の音が妙だものな。ダンジョンとは言え階層も浅いし、管理用の通路とかあるのかもしれない。
さあ、探すぞ。


五箇・鈴丸
つまるところ、学生サン達より真っ先に目的地についてしまえば良かってことにゃろ?じゃあ最短コースをぶっちぎるにゃ!【SPD】

初手からマグロさん召喚にゃ!マグロさんの超特急たる速さで迷宮を踏破するにゃあ!
「邪魔にゃ邪魔にゃあ!!」
学生に遭遇したら、そのまま突撃にゃ!……きっと、実力のある学生サンにゃら、ただならぬ気配を察知したり、マグロさんの生臭さに気付いたりするんにゃない?まあ撥ねても…。
この迷宮にゃ、穴が開いてるところがあると……、でもそういうところってその先が近道になってたりするのが鉄板だにゃ!
「大穴なんてマグロさんにゃー関係ないにゃよ!」
罠だろうが穴だろうが発動する前に駆け抜けちゃうにゃ!



年齢、種族、多種多様な学生たちが右へ左へ松本・るり遥(不正解問答・f00727)とすれ違う。
 鋼の迷宮が増幅・反響させる無数の声や足音はいずれも忙しない様子で、まるで祭日のような賑やかさだ。
(「何でだよ。何でそんなたやすく金品に目が眩む?」)
 喧騒の只中で、るり遥は独り言つ。
 或いは、この学園の学生達には身分上衣食住の不安が一切無いと聞くから、名誉欲や自己顕示欲を満たすためのお触れ破りなのかもしれない。
 兎も角、迷宮を攻略しようという欲――情熱と、それを叶えるだけの経験値を有する彼らに追いつくにためは何より手数、頭数が必要だ。
「……オルタナティブ・ダブル」
 効果はさておき、この名称は恥しいから好きじゃない。他人に聞かれる可能性があるとしたら猶更だ。るり遥は周囲に人気が無い事を確認した後、ひっそりとユーベルコードを口遊む。
 直後、音も無くるり遥の背後に現れたのは、もう一人のるり遥。『優しさ』が欠落した、自身の別人格だ。
「迷宮探索、頼めるな?」
「――やなこった。一人で頑張れよ」
 にべもなく即答だった。
「何でだよ、言うこと聞けよ!?」
「ふん。『意気地ない』奴の頼みを聞くほど俺は『優しくない』んだよ。逆だろう? お前が俺を手伝えよ」
 ここで言い返しても揉めるだけだろう。手分けしてやれるのならまずはそれで構わない。『勇気のない』るり遥が譲歩して、一人(ふたり)は迷宮を探り始める。
「隠し通路がきっとある。風の巡り、風の音がどこか妙だものな。ダンジョンとは言え階層も浅いし、管理用の通路とかあるのかもしれない」
 探索開始からしばらく。『勇気のない』るり遥がそう所感を述べると、
「なるほど。勇気がなくても流石『俺』だ。管理用の通路かどうかは知らないが――」
『優しくない』るり遥は腐食した壁面にフックを叩きつけ、突き刺し、捲り、剥がす。そして現れたのは、新たな通路。
 そもそも刻一刻と姿を変える迷宮内に、長い間蒸気に曝されたような腐食・崩落箇所があるというのもおかしな話だ。迷宮構造を変化させられるなら、全ての路を腐食していない部品で揃えることも出来るだろう。
 つまり、あからさまな腐食箇所も隠し通路も最初からそういうモノとして意図的に配置されたと考えて相違ない。
「隠し通路が安全とは限らない、か。俺は怖いの危ないのは苦手だよ。ショートカットにはなるかもしれないけど……」
 るり遥が呟く。危険が伴うだろう。この先に進むのなら、何があっても怯まない度胸と、即断即決で駆け抜ける事の出来る素早さと、そして何より幸運が必要だ。
「俺達が開いたこの路、進むのか迂回するのか……さて、どうするんだ?」
『優しくない』るり遥は、仲間の猟兵にそう問いかけた。

「それは勿論、有難く使わせてもらうにゃ! こういうのってその先が近道になってたりするのが鉄板だにゃ!」
 どこから来て何処へ行くのか、五箇・鈴丸(荒城の猫・f03531)が余りにも自信満々にそう言い放つものだから、本当に大丈夫なのかとるり遥は彼女の身を案じる。
「つまるところ、学生サン達より真っ先に目的地についてしまえば良かってことにゃろ? じゃあ最短コースをぶっちぎるにゃ!」
 本当の本当に大丈夫だろうか。『優しくない』るり遥すら一瞬彼女の身を案じかけた。
「来て! マグロさん!」
 るり遥の心配をよそに、鈴丸はマグロさんを召喚し、出番が来たと勢いよく背ビレに跨る。
 鋼の迷宮に。
 魚が、有る。
 全長80㎝に届かない比較的小振りなマグロなれど、マグロさんは見紛う事無く立派なマグロだった。
「レッツゴーにゃ!」
 好奇心を燃料に、火の点いた鈴丸は止まらない。深海の如く薄暗い隠し通路をフルスロットルで駆け抜け抜ければ、あらゆるトラップが慈悲なく牙を剥く。が、全てはほんの一瞬過去の話。
 あらゆるトラップを紙一重で躱す鈴丸とマグロさん。ご機嫌な速度で疾走する彼女たちを次に待ち受けるのは、果ても知れぬ奈落へと続く大穴だ。
「大穴なんてマグロさんにゃー関係ないにゃよ!」
 ……並みのマシンやアニマルなら、どうしてもここで足を止めざるを得ないだろう。だがマグロさんに掛かればこんなものは障害たり得ない。なぜならば、そう! マグロさんは普通のマグロではなく、『浮遊するマグロ』だからだ!
 大穴の直上を遊泳し、勢い余って腐食壁を打ち破った鈴丸は、通常の路へと合流する。見事るり遥が発見した隠し通路を踏破したのだ。
 だがそれで鈴丸の激走は終わらない。後続の仲間達の為に、少しでも距離を稼がなければ。
「邪魔にゃ邪魔にゃあ!!」
「何!? 何あれ!?」
「魚が! 無機質な瞳がこっちを見てる!」
「おぎゃー!!」
「うぎゃー!!」
 突如出現したマグロになすすべなく吹き飛ばされる学生達。
 マグロは急には止まれない。急には止まれないので、この場合突撃を避けられない方が悪い。第一、真に実力のある学生なら、背後に迫るただならぬ気配や生臭さを察知して回避するのが筋と言うものだろう。此処でマグロの奇襲をやり過ごせないようなら、そもそも迷宮に挑むべきではないのだ。そこの所回遊魚的やさしさと理解してほしい。
 遭遇した学生の概ね半数を撥ね除けながら、一人と一匹は迷宮のさらに奥へと突き進む。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

犬曇・猫晴
同行者:織譜・奏(f03769)
甘いね奏ちゃん、探検は探検でも今のぼくらはイン◯ィ・ジョーンズだよ。
どんな罠でも難なく乗り切る、それがぼくたち冒険家さ!
ショートカット?とんでもない、真っ向勝負一択さ!

【POW】
飛んでくる矢でもなんでも、白刃取りよろしく掴んでやれば良いだけだよ。
奏ちゃんがさらっと避けてったもの全部起動して全力で楽しむよ
命懸け!前の世界では味わえなかったこれ以上ないアトラクションだね!

え?奏ちゃん以上の宝物は思いつかないなぁ

アドリブ歓迎


織譜・奏
同行者【犬曇・猫晴(f01003)】
わぁ、私こういうの大好きです!探検家みたいじゃないですか?
ショートカットを見つけて、うまく近道出来たらですね。それとも反対側からじゃないと開通しないとかありますか?

【SPD】
罠っぽいところは全部調べますね。あからさまに浮き上がった床や凹んでる壁、若干の隙間とか要注意。風の流れも気に留めます。
私はこれでも音楽に携わる身ですから、物音には敏感なんです。んんー、人の声が聞こえたらそちらに向かいましょうか。
ところで犬曇さん、宝物が本当にあるとしたら何が良いですか?私、新しい弦が欲しいなぁ!!(きらきらした目で訴える)

アドリブ歓迎



「わぁ、私こういうの大好きです!  探検家みたいじゃないですか?」
 織譜・奏(冥界下り・f03769)はぱぁっと顔を輝かせ、軽やかにステップを刻む。迷宮が伝えるその足音(リズム)は、まるで弦楽器を奏でているかの様だ。
「ショートカットを見つけて、うまく近道出来たらですね。それとも反対側からじゃないと開通しないとかありますか?」
 運が絡むだろうが、只管隠し通路を通って奥を目指すのも悪くない。
「甘いね奏ちゃん、探検は探検でも今のぼくらはイン何とか・ジョーンズだよ」
 ちっちっち、と指を振り、犬曇・猫晴(忘郷・f01003)は迷路の先を見据える。まだまだ中間地点にも届いていない道半ば。無論急がなければならないが、かと言ってこの状況を楽しまないのは損だろう。
「どんな罠でも難なく乗り切る、それがぼくたち冒険家さ! ショートカット? とんでもない、真っ向勝負一択さ!」
 何を恐れる事も無い。猫晴は威風堂々通路の真中を征く。
 奏は柔和に笑んで頷くと、猫晴の背を追い越して先行し、道中に潜んでいるであろう種々の罠に神経を尖らせる。
 あからさまに浮き上がった床やおかしな具合に凹んでいる壁と絶妙に距離を取り、不自然な風の流れを辿ってみれば、壁と床の狭間を走る亀裂から、こちらを覗く配管口らしきものが一つ。
 それがどんなモノなのかはわからないが、サムライエンパイアに曰く、触らぬ神に祟り無し。奏の第六感もそう告げている。
 ここまでの、奏のクリアリングは完璧だ。彼女の辿った道筋をトレースすれば、不意に罠が発動することも無い。
 が、どのようなルートで迷宮を攻略するのかは個人の自由。
 敢えて猫晴は彼女が避けた道を進む。あからさまに浮き上がった床を踏み込むと、天井の鋼が開き、文字通り槍の雨が猫晴目掛けて降り注ぐ。
 間一髪の回避と同時、猫晴は降ってきた槍を一本鷲掴み、一息つこうとおかしな具合に凹んでいる壁に寄りかかる。反対側の壁面から矢が放たれたのは、それから数瞬後の事だった。
「命懸け! 前の世界では味わえなかったこれ以上ないアトラクションだね!」
 努めて冷静、精妙に、手に持つ槍で矢を弾く。弾いた矢尻が配管口に吸い込まれると、猫晴は槍を放り、奏の手を取って一瞬、その場から離れる。
 直後に、轟音。
 配管口が破裂し、高熱をはらむ蒸気が辺りに立ち込める。近付けば確実に大火傷だろうが、ある程度距離を空ければ問題ない。
「んんー……人の声が聞こえます。犬曇さん。そちらに向かってみましょうか」
「奏ちゃん、良く聞こえるねぇ。蒸気の音がうるさくて、ぼくには全然聞こえないよ」
「私はこれでも音楽に携わる身ですから、物音には敏感なんです」
 奏は繋いだ手を引いて、猫晴を学生たちの声が聞こえる方向へと案内する。

「ところで犬曇さん、宝物が本当にあるとしたら何が良いですか? 私、新しい弦が欲しいなぁ!!」
 その道すがら、奏は金色の瞳をきらきらと輝かせ、猫晴に尋ねた。
「え? うーん……奏ちゃん以上の宝物は思いつかないなぁ」
 
 噴き出し続ける蒸気の影響か。
 迷宮内はとても――熱かった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

木林・アーノルド
わはは。
宝物があればごはんがたくさん食べられるのであって
宿のご主人もきっと楽になるのだな。
ならば先んじるのがきばやしというケット。

一寸先は闇
ともなれば!
きばやしの背丈(40cm)をも超えるこの長大なサムソ(小太刀)にて
壁と地面をこんこん(2回攻撃)と叩きながら進むのだな。
12回払いの甲斐ある業物なのだな。

これならきばやしの身軽さを発揮するまでもなく罠など完封なのであってー。
よしんば当たってしまったとしてもきっとそれは残像なのだな。

疲れたらお弁当のおにぎりを食べていくのだな。(ゆーべる)
きっと防御力が上がって探索の助けになる気がするのだな!

アドリブ的な物は歓迎する方向なのがきばやしというケット!



「わはは。宝物があればごはんがたくさん食べられるのであって、宿のご主人もきっと楽になるのだな」
 そう言う宝物(もの)は、いくらあっても困らない。何より異物混入とか気にしなくて良いのがとても良し。
 そんなストレートな物欲から学生たちに先んじる事も吝かでは無い木林・アーノルド(ねこすっぴん・f07188)は、自身の身の丈を優に超える長大なサム(ライ)ソ(ード)を優美に引き抜いて、進路上の罠の有無を検める。
 ちなみ彼の身長は40センチであり、サムソは人間が扱うところの小太刀である。
「一寸先は闇。ともなれば!」
 威勢のよさとは裏腹に、きばやしは慎重に壁や地面を二回ほど叩き、ばっちり安全確認しながら歩を進める。
「これならきばやしの身軽さを発揮するまでもなく罠など完封なのであってー。よしんば当たってしまったとしてもきっとそれは残像なのだな」
 それにしてもサムソが迷宮のあちこちを叩く音は中々に心地が良い。流石業物。これなら12回払いの甲斐もあったと言うものだ。
(「――はっ!? もしや宝物を手に入れれば今からでも一括払いに変更出来るのであって、後顧の憂いが無くなるのでは?」)
 不意に邪心が芽生える。サムソが無駄にメロディアスなのがいけない。
 仕掛けられた罠はそんな心の隙間を見逃さず、容赦なくきばやしに襲い掛かった。
 左右両壁から無数に生えた針山地獄。壁は一気に狭まって、閉じる。
 果たして、尻尾の先端の産毛数本を犠牲に串刺し圧殺機の魔手を躱したきばやしは……ゆっくり落ち着いて、おにぎりを頬張った。
 こういう時に焦ってはいけない。ご飯が喉に詰まるからだ。
 うめぼし、たらこ、おかか。三種の具材のおにぎりを平らげ、満腹になったきばやしは冷静さを取り戻す。アクシデントに見舞われてもリカバリー万全なのは出来るケットの証と言えよう。
 
 そして、罠を超え、一括払いの誘惑を振り切ったきばやしは……この迷宮に入って初めて路ではなく、『部屋』らしき、広大なフロアに到達する。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『書物の魔物』

POW   :    魔書の記述
予め【状況に適したページを開き魔力を蓄える】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    ページカッター
レベル分の1秒で【刃に変えた自分のページ】を発射できる。
WIZ   :    ビブリオマジック
レベル×5本の【毒】属性の【インク魔法弾】を放つ。
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蝶の如く。蜂の如く。
 いや。より正確に表現するのなら秩序だった蟲の如く、だろうか。
 無数に飛翔する書物の魔物たちはまるで人の心を『読み』、人の動きを『観察し学び取る』ように、学生達を追い詰める。
 人と本。眼前で繰り広げられる光景はあべこべだ。
 書物の魔物達にとって、迷宮に入り込んだ人間は解剖するべき資料でしかないのだろう。
 ……黙って見ている訳にはいかない。
 猟兵達はフロアへ乱入し、魔本の前に立ち塞がる。
 学生たちとて、ここまで辿り着いたのならその実力は確かなもの。こちらが魔本の相手を引き受ければ、それ以上の援護は必要ない筈だ。
 しかし……学生たちがフロアから全員退くまで、今暫くの時間が掛かるだろうか。
松本・るり遥
戦える奴には戦闘してもらうとして
俺は【目立たない】を使って様子見だ
痛え事は専門外だよ!
は?誰が腑抜けだよ、そうだよ怖えよ!もし見つかっても【逃げ足】とフックワイヤーで逃げるんだ、【時間稼ぎ】だ。

敵の技をよく見るんだ
敵の行動をよく見るんだ

技さえ、技さえ全て見ちまえば!
本は本らしく、人に読まれてろよ!!!って
【BAN】して後出しキャンセルしてしまえる、それが俺の声なんだ!

うえっ
ゲホッ
全力で叫ぶから喉が痛くて連射は、とても、できねえんだけどさっ……
ああ、怖えよ、頼むよさっさと終わらせてくれ。
危ない時には、俺の声が守ってみせるから。


ベルゼドラ・アインシュタイン
正直此処まで来るつもりはなかった
目的はダンジョンに眠るレアなお宝の噂だけ
まぁ、実在するかどうかは知らんから、この目で確かめたかっただけだし
無けりゃトンズラ、有れば掻っ攫っていけりゃ良い

窮屈な制服の襟元を緩めながら、魔物と退治する。

こんな魔物なんてさっさと片付けちまえ
俺はさっさと探索したいんだよ

【怪力】で攻撃を直接ダガーで受け流したりしながら
多くの魔物が視認できる範囲まで駆け出し
【ベルゼブブの鉄槌】で魔物を焼くしてやろう
ゴリゴリに【傷口をえぐる】で穿ってやるさ


犬曇・猫晴
同行者:織譜・奏(f03769)
そうかな?ぼくはそんな暑くないけど

ひぃふぅみぃ、こりゃ骨が折れるね。
本を焼く国はいずれ人を焼くっていうけど、あれは自分から破れてるからノーカンだよね?
うん、ノーカンノーカン。

あっははぁ、時間稼ぎをしてくれてる人がいるね。
ならそれに応えるのが公務員ってもんだ、元だけど。

【SPD】
集団戦で敵に近付くのは得策じゃない、格好の的だ。
フック付きワイヤーで1冊1冊引き剥がして、ダガーで各個撃破を狙うよ。

囮になってる人を追う個体が居れば、そっち優先で

アドリブ歓迎


織譜・奏
同行者【犬曇・猫晴(f01003)】
はー熱い暑い。蒸気のせいですかね?

広いところに出ましたね……ってわーっ本が!飛んでる!!ふぁんしーー!(めっちゃ楽しそう)
や、ちゃんとやりますってば!行きましょう犬曇さん!

【WIZ】
数が多いので、一気にやっちゃいたいところ。
犬曇さんはじめ、場にいる皆さんにも聞こえるようなら『蛮勇の戦歌』で戦闘力を向上させます!
勇猛なる者に届け私の歌声ー!(思いっきりシャウト)
逃げてる人がいればその人のほうに向かって声を出して、逃げ足向上を狙う

もし私の方に敵が向かってきたら全速力SPDで逃げ回ります。ひゃぁああ犬曇さん助けてーー!

アドリブ歓迎


三岐・未夜
「……るり遥、目を離すと危ない」

戦うのは好きじゃない。でも、腹から吐き出したその声がたまたま聞こえたから間に合った。
自分自身とるり遥を守るように、ぶわりと広がって猛るファイアフォックス。ゆらゆら揺らめく、心細く不安になるような黄昏色。

「紙の分際で動くなよ」

まして、自分の知り合いに傷を付けることは許したくない。
催眠術と誘惑で、ファイアフォックスがまるで誘蛾灯のように魔導書を誘う。範囲に広がったそれは、魔導書が僅かでも誘惑されようものなら一気に収束して本の群れを飲み込んで大きく燃え上がるだろう。
胸元、服の下で、ちりりと「おうちのかぎ」が鳴った。


錬金天使・サバティエル
「ここから先は通さないよ。」

ワイヤーや銃による牽制で学生達が逃げるサポートをしよう。
ワイヤーの早撃ちで魔物と学生の間を遮れば、少しは時間稼ぎになるはずだ。敵が空を飛ぶなら人が通れない高さの辺りは完全に封鎖してもいいかもね。

敵が書物の魔法であるならば火には弱いはず。突撃銃で火属性を付与した弾丸をばら撒いてやろう。


ジンガ・ジンガ
ねェー、チシキって売れる? おカネになンの?
俺様ちゃん、そろそろおサイフピンチちゃんでさァ
……まー、いっか。今日も元気におシゴトしまショ!

学生ちゃんと魔本ちゃんの間に割って入ってお相手を引き受けましょ
一人残らず出てってくれた方が、お宝云々のタメにも好都合だし

ヘイヘイ、魔本ちゃん!
俺様ちゃんらと遊ぼーぜ?
学生ちゃんはさっさと出た出た、ココは俺様ちゃんらにお任せじゃんよ

すとん、と地面にコートを落とし
身軽さを増して【シーブズ・ギャンビット】をおミマイ
【2回攻撃】でオマケにもう一つプレゼントってなァ!
お代は、この先のフロアへの通行権でいいのよん?

あ、後でコートはちゃんと拾うねェ
俺様ちゃんのお気にだもん


笹鳴・硝子
るりー(f00727)とみゃー(f00134)の状態によってシンフォニック・キュア
特に【毒】の状態は即時回復させるように

るりーもみゃーも一人で無茶するんじゃありませんよ
おねえさんが治してあげましょう
「♪カレーは美味い~~♪毎日でも美味い~♪だからエノキも入れて~」
こないだ団地の皆と食べたカレーは美味しかったですね
この歌ならこれ以上ない程共感できるでしょう?できますね?しなさい。最後まで共感しろ。
るりーの喉まで治りますよ?治らないなら共感が足りないんですよ、しましょうね共感。


木林・アーノルド
わはは。ついに宝の部屋に

うぬぬ?

身に迫るボス戦の危機に全身の毛がややぞわっとなるのがきばやしの真の姿!

●魔書の記述
大技の予感がするのだな。
きばやしの野生に訴えかけてくるこれは虫の知らせというやつ!
ならば隙をつき目立たないよう接近するのがきばやしの務めなのだな。
あわよくば開いたページを盗み見てくる抜け目ないケット。

危なくなったら一時撤退。無理なく戦うのが出来るケット。
(弁当を広げる)
しまった。さっき全て食べてしまっていたのだな!
つまり膨れたお腹は括るしかないのであって。
あわよくば効果はまだお腹に残っているかもしれないと一縷の望みで突撃するケット。

引き続きアドリブ等歓迎するのがきばやしというケット


セイス・アルファルサ
やっと追いついたよ。……ってもう戦闘始めてるのかい?
ダンジョンに行ったって聞いたから手助けに来たよ。夕食までには終わらせて一緒にご飯食べよっか

フーヂ(からくり人形)で前衛と連携して攻撃していこう。
仲間や自分に降りかかる攻撃はミレナリオ・リフレクションで防いでいくよ。時間が経てば経つほど相手の攻撃を【学習】して防ぎやすくなると思う

それともし範囲攻撃する人がいるなら敵が一つの場所に集まるように誘導していくね(戦闘知識4、フェイント2)

味方との声の掛け合いは大事だよね。それはしっかりとするね
アドリブは歓迎だよ

*宿屋「エストレーラ」の旅団員がいれば彼らと連携希望


五箇・鈴丸
厄介だにゃ、厄介だにゃ。毒は厄介だにゃ。
毒消しがあっても、消耗品を使っている間に戦列が乱れるのも、大変だにゃ。
学生サンたちに当たってしまっては、混乱して猟兵にも被害がでるかもしれにゃいにゃ。学生サンが後退するまで、毒の処理をするしかあるまいにゃ。【WIZ】

根には根を歯には歯を、数には数で勝負だにゃ!
魔書のビブリオマジックには、オレのユーベルコード、「イワシさん召喚」で対抗するにゃ。イワシさんは可哀想だけど使い捨ての傭兵。毒を喰らって死んでしまう運命なのにゃ…。

どっちの数が多いかはわからにゃいけど、学生サン達の盾になるのがオレら猟兵の役割でもあるんだにゃ。さっきは撥ねちゃったけども…。



逃げ惑う学生。踊り狂う魔本。その両方を交互に見遣り、ベルゼドラ・アインシュタイン(錆びた夜に・f00604)は嘆息する。
 正直な話、此処まで来るつもりはなかった。
 ベルゼドラの目的はダンジョンに眠るレアなお宝との対面のみ。噂でしかない秘宝の有無を、自身の眼で確かめてみたかっただけの話。
 宝が無ければ即トンズラ、有れば根こそぎ掻っ攫っていく腹積もりだったが、これでは退けず行けずの立ち往生。面倒くさいが邪魔する蟲(ほん)片さなければ、埒も明かない。
 ベルゼドラは気だるげに、窮屈だった制服の襟元を緩め、魔本と相討つ。
 怪力に物を言わせ、携えたscar(傷痕)を振るい刃の如き頁の波濤を掻き分け、より多くの魔本を捉えられるポジションを確保したベルゼドラは、躊躇無く蝿の王を召喚する。
「残念だったな、淑やかな女がみんな丸腰だと思うなよ」
 無数の業火弾がベルゼブブの鉄槌となって降り注ぐ。鉄槌は続々と塵芥を量産するが、それでも魔本はまだまだ無尽に跋扈して、在庫が尽きる様子は無い。
「……ちっ」
 耳を劈く爆音と、砕け舞い散る紙片の骸。ベルゼドラはそれに紛れ、生残する魔本の装丁(はいご)を取る。
「鈍い。どこに目つけてるんだ? いや……元々目なんて無いからこの様か」
 焼け焦げた装丁にダガーを突き立て、抉り、最後は無造作に打ち捨てた。
「俺はさっさと探索したいんだよ。こんな魔物なんてさっさと片付けちまえ」
 あんたの事だよ松本・るり遥。心の中でそう毒づくが、決して口に出しはしない。これまでの粗暴な口調も似たようなものだ。全ては誰の耳にも決して届かぬ独り言。表向きでは可憐な女性の皮を被り、あら、大丈夫かしらと胸中とは正反対の奇麗な言葉を吐き出した。
 
 大丈夫なことあるものか。今こちらは物音一つにも気を払い必死で目立たない努力をしているのだ。こっちに声を掛ける暇があるのなら敵の一冊でも倒してくれよ。
 ……などと、『勇気の無い』るり遥がそんな啖呵を切れる訳も無く。結局お互い心にもない愛想笑いを交わして、意思疎通している『風』を装った。
「おやおやそこの猟兵ちゃん。敵も味方も大騒ぎなのに、なんだか一人だけ腑抜けてない? 大丈夫?」
 見るからに軽薄そうな雰囲気を纏うジンガ・ジンガ(塵牙燼我・f06126)は、第一印象から全く外れぬ緩い調子でるり遥に訊く。
「は? 誰が腑抜けだよ、そうだよ怖えよ! 悪いかよ!」
「え? 全然? 怖いって思うのも、死にたくないって思うのも、全然フッツーの感情じゃん? 何が悪いの? むしろブシドートハシヌコトトミツケタリ―なテンションとか、俺様ちゃんでも若干引く案件だわ」
 あっけらかんとそう返すジンガ。るり遥は逆に面食らい、気付けば自分でも驚くほどあっさりと……自身の狙いをジンガに話していた。
「……もし見つかっても、フックワイヤーで逃げるんだ。逃げ足には自信がある」
「へぇ。面白そうじゃん。それ乗った! 俺様ちゃんが時間稼ぎしてやろうじゃん? そんじゃマァ……今日も元気におシゴトしまショ!」
 言うが早いか、ジンガは軽い準備運動の後に愛用のコートをすとん、と地面に落とし、一足、最大限に加速した。
「ヘイヘイ、魔本ちゃん! 俺様ちゃんらと遊ぼーぜ? そら、学生ちゃんはさっさと出た出た、ココは俺様ちゃんらにお任せじゃんよ」
 ダガーが創る長い長い一条の剣閃が魔本と学生達を明確に分かつ死線となり、魔本達の暴虐を許さない。
 この隙に早く逃げちゃいなよとジンガは学生達を急かす。一人残らず出てっいってくれた方が、お宝云々の為にも好都合だ。
「ねェー、チシキって売れる? おカネになンの? 俺様ちゃん、そろそろおサイフピンチちゃんでさァ」
 ジンガの軽口に魔本は応えない。ただ、インクの魔法弾で応酬するのみ。
「おやまァ見事な塩対応。つっけんどんなのも良いけどさ、折角チシキを持ってても、誰かに教えるクチがないなら宝の持ち腐れじゃねぇの?」
 折り返し。死線が再び弧を描き、初撃を逃れた魔本達を残獲する。
「沈黙は金だったっけ銀だったっけ? まぁいいや。オマケにもう一つプレゼントってなァ! お代は、この先のフロアへの通行権でいいのよん?」

「広いところに出ましたね……ってわーっ本が! 飛んでる!! ふぁんしーー!」
 鋼の空に飛ぶ本など、そうそう見られるものでもない。奏は満面の笑顔でその光景をたっぷり堪能していたが、不意にベルゼドラの視線を感じ、我に返る。
「ごほん。あー、あー。えー、えー」
 取り敢えず、落ち着き払って咳ばらいを一つ。シンフォニアたる自身の喉は快調だ。
「や、ちゃんとやりますってば! 数が多いので、一気にやっちゃいたいところですね。 行きましょう犬曇さん!」
「そうだねぇ。それにしてもひぃ、ふぅ、みぃ……」
 こりゃ骨が折れるねと、猫晴は早々に魔本の数を数えるのを諦めた。浮塵子(ウンカ)の如くとはよく言ったものだ。
「本を焼く国はいずれ人を焼くっていうけど、あれは自分から破れてるからノーカンだよね? うん、ノーカンノーカン」
 何れにせよ、あの魔本は人を襲う悪書。罪悪感を抱く必要はないだろう。
「あっははぁ、時間稼ぎをしてくれてる人がいるね。ならそれに応えるのが公務員ってもんだ……元だけど」
 孤軍奮闘するジンガの姿を認めた猫晴は、フック付きのワイヤーとダガーを携え、書物の海に近付いた。
 時間稼ぎを兼ねて立ち回るジンガは兎も角、囮役で無いのなら、集団戦で敵に近付くのは得策とは言い難い。猫晴はワイヤーを伸ばして敵を引き寄せ、孤立させた魔本を一冊一冊ダガーで丁寧に裁断し、幾数度その行程を繰り返してジンガの元へ辿り着き、合流した二人は縦横無尽に魔本の群れを相手取る。
「勇猛なる者に届け! 私の歌声ー!」
 勇猛なる者へ捧げよう。私の歌を、希望の未来を。
 シンフォニアの、奏の唄声は、それを聴くもの全てを奮い立たせる音の奇蹟だ。咲き誇る大輪の花の如く、彼女の謡(こえ)がフロア全域に浸透すれば、戦況は大きく猟兵有利へと傾く。が、
「ひゃぁああ犬曇さん助けてーー!」
 目は無く、口も無く、しかし耳はあったのか、魔本の群れの一部が彼女の口を塞ごうと追い掛け回し、刃の頁を斉射する。
「おいおいかわいいあの娘がピンチだゼ? 行ってやんなよ色男」
 ジンガは魔本を斬り払い、猫晴の背を小突く。
「良いのかい?」
 猫晴の言に、ジンガは問題ないぜと破顔する。
「あの娘の謡を聞いてから、俺様ちゃん過去ベストテンを更新するくらい滅ッ茶苦っ茶調子が良いし、それに向こうも――」
 ジンガの視線の先には、未だ逃げ回るるり遥の姿。あちらも謡の影響か、脚の調子が良いらしい、苦も無く魔本を撒いている。
 成程確かに二人とも大丈夫そうだ。猫晴はジンガに軽く礼をすると、踵を返し、奏の元へ駆ける。
「女の子が困る姿を識りたいのかい? ……やれやれ、やっぱり悪書だね。キミたちは」
「犬曇さぁん……!」
 先程までよりもやや乱雑に容赦無く、猫晴は魔本を破り棄て、奏を自身の後ろに下がらせる。
「もう大丈夫。怖い思いはさせないよ」

「……犬曇さん。やっぱり私、なんだかあついです……蒸気のせいですかね?」
「そうかな? ぼくはそんな暑くないけど」

「うーーん、厄介だにゃ、厄介だにゃ。毒は厄介だにゃ……」
 頭を抱え、サカナが焼けるほどの知恵熱を出しているのは鈴丸だ。
 仮に毒消しがあったとしても、それを使っている間に戦列が乱れる可能性がある。そうなれば立て直すのはきっと容易ではないだろう。
 流れ弾が学生たちに当たる可能性も考慮しなければならない。その場合もやはり混乱が起こり連鎖的に猟兵へ被害が波及するかもしれない。
 ……即ち。取るべき手段はただ一つ。学生たちの退避が完了する、もしくは治癒の得意な仲間が到着するまで、鈴丸が毒の処理を受け持つしか無いだろう。
 ただし鈴丸に『毒使い』的な知識は無い。
 ――ならばどうするか。
 決まっている。
 物理(サカナ)で解決するのだ。
「根には根を歯には歯を、数には数で勝負だにゃ! イワシさん達、力を貸して欲しいニャ!!」
 鈴丸の要請に応じ、集結する65匹のイワシさん。皆一様に精悍な顔つきをしている。それもそのはず。全員が(イワシの寿命的に)歴戦の傭兵だからだ。
 激突は最早避ける事の出来ない宿命か。かくしてイワシさん傭兵団と魔本の毒インク弾の運命が交差する。
 二つの運命が交差した結果、イワシさんの大半はその身を盾に毒を喰らって斃れるも、生き残った少数精鋭が魔本を打ち破り、文字通り死力を尽くして学生達を守り抜く。
 そして最終的に65体のイワシさん達の命は役目を果たし全て燃え尽きた。
 が、魔本の群れはいまだ健在だ。イワシさんたちはもう居ない。
 ――ならばどうするか。
 決まっている。
「アナザーイワシさん達、力を貸して欲しいニャ!!」
 もう一度召喚するのみ。
 何処の業界でも使い捨ての傭兵の命は安かった。
 ちなみにアナザーイワシさん達も力尽きた場合、今度はオルタナティヴイワシさんの出番となる。
「今のトコ、どっちの数が多いかはわからにゃいけど、学生サン達の盾になるのがオレら猟兵の役割でもあるんだにゃ。さっきは撥ねちゃったけども………」

 そう呟いた鈴丸の死角で、そんなの全然気にしてないぜ! と、サムズアップ決める男が一人。先程マグロさんに撥ね飛ばされながらも魔本のフロアに辿り着いた学生だった。
 ……タフである。実際これ位のガッツが無いと、迷宮探索などやっていられないのだろう。
 恐るべし。アルダワ魔法学園。

 鋼のフロアの上下左右、四方八方に金色線が迸る。ワイヤー生成装置『月の道』を中心に展開されるそのワイヤーは……。
「満月の道標(ミラーカット)。悪いがここから先は通さないよ。正確に言うなら、物理的に通せないし、帰さない。『ここ』はもう、私の巣の中だからね」
 錬金天使・サバティエル(賢者の石・f00805)そう言葉を続ける間にも、月の道は秒間13本の速度で線を紡ぎ続ける。
 ワイヤーが疾れば、その先端は巻き込むように魔本を貫きながらも伸長を続け、やがて壁床天井(いきどまり)へ到達し、そのまま魔本を打ち付け、縫い付け、磔る。
 魔本達の制空権は金色線に封鎖・侵掠され、最早学生達には近付けない。魔本達は当たり散らすようにサバティエルへ投刃と毒弾を集中させるが……。
「無意味だよ」
 サバティエルは翼から取り出した泥の霊(カーボン)を盾に魔本達の弾幕をやり過ごす。
 さらに泥の霊を地面に固定して、ワイヤーと合わせ足跡のバリケードを構築する。
 息つく間もなく身を屈め、散弾銃に弾丸を詰めると、敢えて狙いを付ずに魔本の群れへと撃ち放つ。
「さて……どうかな。これで少しは時間稼ぎ出来れば良いが……」

「わはは。ついに宝の部屋に!」
 満月の道標をひょいと潜り抜け、きばやしは満を持してフロアの探索を開始する。
「うぬぬ?」
 つもりだったが何やらそんな場合ではない様子。
 身に迫るボス戦の危機を敏感に察知し、きばやしはやむなく真の姿を解放した!
「……うん? どこら辺が変わったんだい?」
 なんだか見た目あまり変わってないような気がしたサバティエルはきばやしに尋ねる。
「よくぞ聞いてくれたのだな。何を隠そう全身の毛がややぞわっとなるのがきばやしの真の姿!」
「なるほど」
 何て簡潔で適切な説明だろう。納得しかなかった。
 そんな二人にやり取りをよそに、魔本の頁は独りでに捲れ、並々ならぬ魔力をその身に蓄える。
「きばやしの野生に訴えかけてくる。これは虫の知らせというやつ!」
 大技の予感にますます毛並みをぞわっとさせたきばやしは、魔力を蓄えている最中であるが故か動きの鈍くなった魔本の隙をついて、抜き足差し足接近を試みる。
 さほど目立たないように努めたおかげか、難なく魔本の記述を裸眼で覗き込める位置まで滑り込み、せっかくなので魔本の記述を盗み見たきばやしは、『ああなるほど』と書物の魔物の性質を理解する。迷宮の知識とは、『そう言う事』かと。
 瞬間、魔力の充填を完了したからか、それとも盗み見たことに激怒したか、魔本はきばやしの至近距離で頁を刃に変じ……。
「させない!」
 間一髪。正に神懸かり的なタイミングできばやしに迫る刃を逸らしたのは、セイス・アルファルサ(瓦落芥弄りの操り人形・f01744)繰る機械犬・フーヂだった。
「おお……! ご主人!」
「やっと追いついたよ……もう戦闘は始まってるようだね。ダンジョンに行ったって聞いたから追いかけて、手助けに来たよ……夕食までには終わらせて、一緒にご飯食べよっか」
 邪魔をするなと、魔本はインク毒弾をセイス目掛けて放つが、セイスはすぐ近くに落ちていた落丁魔本を拾い上げると、魔本と全く同一の魔法弾を放ち、8割相殺を成し遂げた。
「毒属性の魔法弾か……もしかすると使い勝手は結構いいかもね」
 狼狽えるという言葉は魔本に刻まれてないのだろう。魔本は即座頁を硬質化し投射する。が、それでもやはり同じこと。セイスは落丁本の頁を破いて放り投げ、飛来する刃の8割5分を叩き落す。
「無駄だよ。どれだけ魔力を練り上げようとも、『もうすぐ無意味になる』」
 セイスはフーヂを従えて、無表情のまま魔本の群れを睨みつける。
「これでも結構怒ってるんだ。うちの同居人を傷つけようとした落とし前、払ってもらうよ」

「むむ! 夕食と言えばご主人、きばやしはとてもとても重要な用事を思い出したのであって、ちょっと失礼するのだな!」
「重要な用事って?」
「三時のお弁当であって!」
「そっか。ごゆっくり」
「では!」

 戦闘を中座したきばやしは、フロアの隅っこでランチョンマットなどを広げ、早速お弁当にありつこうとする。しかし……
「しまった。さっき全て食べてしまっていたのだな!」
 何という事だろう、お弁当箱の中身は空っぽだ。
 これではまるで暗中模索の五里霧中。こうなれば膨れたお腹を括るしかないのかとそう覚悟した矢先、
「アーノルドー! ほっぺた―!」
「うぬ?」
 セイスの言葉に従って、ふと自分のほっぺたに触れて見れば、何やらぷにっともっちり感覚。
 指の先で抓んでしげしげ眺めてみるとそれは……お昼のお弁当(ごはんつぶ)!
 天の恵みは自分の頬に引っ付いていた。セイスに指摘されなければ最後までつけっぱなしだったかもしれない。
 お弁当を口の中に放り込む。お腹の中にまだ残っているかもしれないお昼ご飯の効果が復活したようなしないようなやっぱりしたようななんかそんな気がした。
 きばやしは現在絶賛活躍中・鈴丸のリザーブイワシさん(4代目)を眺めながら、せめて1匹、いや2匹、いいや5~6匹くらい同じケットのよしみで何とか譲ってもらえないかだろうかとほんのり思いつつも、セイスの元へ駆け出すのだった。

 視た。観た。診た。
 必死になって。格好悪く逃げ回りながら。それこそ眼力で本に穴が開くほど全力で見た。頁が捲られる速さも、インクが魔法弾に変わるための組成式も、刃が好むコースも。すべて覚えた。
 だから、ああ、やっと言える。るり遥は足を止め、息を整え、ようやく魔本と相対する。
 残存する全ての魔本がるり遥を見ている。魔力を練るために頁をめくる音。驟雨の如き魔法弾。あらゆる軌道でこちらに迫る沢山の刃のなんと恐ろしい事か。
 怖い。怖い。怯え、竦み、狼狽え、恐慌し――一線を越えた。
「本は本らしく、人に読まれてろよ!!!」
 怯える感情を全て乗せ、全力の悪態を放ち、そして全てはBAN(ノーゲーム)だ。
 インクも刃も全て掻き消え、後に残るのは焼けるような喉の痛みのみ。
「うえっ……ゲホッ……! 全力で叫ぶから喉が痛くて連射は、とても、できねえんだけどさっ……!」
 一仕事やり遂げたるり遥へ、いの一番に『報いた』のは、何より魔法の毒弾(ぜつぼう)。
 ――ああ。そうか。毒弾を受けながら、るり遥は悟る。こいつらは蟲だ。何もかもが欠落しているのだ。
 悔しさの欠落している蟲は一回のノーゲームなど何とも思わない。疲労が欠落しているのだから、ノータイムで反撃に転じるのも道理だろう。
 ならば。るり遥の目論見は全て無駄だったのか。

「……るり遥、目を離すとやっぱり危ない」
 否。そんな事は無い。聞き覚えがある声と炎が燈り、毒も、刃も、書物も、るり遥を苛む全てが焼け落ちた。
「未夜。お前…!」
「戦うのは好きじゃない。でも、腹から吐き出したその声がたまたま聞こえたから……間に合った」
 炎の主は三岐・未夜(かさぶた・f00134)。未夜が起こしたは自身とるり遥を守るように、ぶわりと広がり静かに猛る。ゆらゆら揺らめく、心細く不安になるような黄昏色は、今のるり遥にとってどうしようもなく心強かった。
「――紙の分際で動くなよ」
 だれとて自分の知り合いに傷を付けることは許したくは無いもの。蟲はその事を識っていようとも、決して解りはしないだろう。
 あらゆる全てが欠落していようとも、炎に誘われるのが蟲の宿命。本が持ちえぬはずの熱が一度その身に燈ってしまえば、後はただ、燃え広がるのみ。それでも蟲はひときわ明るい光を――狐火へと目指すのだ。
 刃が未夜の頬を掠める。だが、最後のあがきだ。踊り狂う紙片たちは狐火に殺到し、押し合い、圧し合い、そして燃え尽きる。
「まったく。るりーもみゃーも一人で無茶するんじゃありませんよ」
 やれやれ、と肩をすくめ、笹鳴・硝子(帰り花・f01239)は二人を見遣る。中々どうして、二人とも手のかかるご近所さんだ。
「毒に刃傷……お姉さんが来たからには、全部治してあげましょう。行きますよ。タイトル……カレーの歌」
「えっ」
「えっ」
 硝子は極めて冷静に変なタイトルを言うものだから、二人は空耳を疑った。硝子のイメージから察するに、本当は佳麗の歌とかそんな感じだろうか。
「♪カレーは美味い~~♪毎日でも美味い~♪だからエノキも入れて~」
 カレーの歌だった。
「こないだ団地の皆と食べたカレーは美味しかったですね」
 二人ともそこに異論はない。
「この歌ならこれ以上ない程共感できるでしょう?」
 そうだろうか。
「できますね?しなさい。最後まで共感しろ」
 共感どころか脅迫では。
「るりーの喉まで治りますよ? 治らないなら共感が足りないんですよ、しましょうね共感。まさか事ここに及んで『共感』が欠落してるとか言い出さないですよね?」
「そんな事……」
 と、るり遥の抗議を遮って、生き残りの魔本がしぶとく刃を解き放つ。
「ダッセェんだよ、存在しちゃいけねえだろそんなモン!!!」
 再びの、BAN。るり遥が本来連射できない筈のそれを連射出来た理由は言うまでも無く、喉の調子が戻ったからだ。痛みも先程までと比べたらとても軽い。体を蝕む毒もいつの間にか抜けていた。
「ああ、畜生。本当にカレーの歌で喉が直るなんて……」
「相手が怖いのも吹き飛んだ?」
 未夜が訊く。
「……訊くな。頼む。さっさと終わらせてくれ……危ない時には、俺の声が守ってみせるから」
「りょうかい」
 未夜は75体のレギオンを正体を召喚し、魔本達討伐の指令を下す。激しい空中戦を演じた後、概ね、相打ちになりながら双方が消滅してゆく。
「格好いいのか悪いのか。ちょっと判断に困りますね?」
 硝子は再び肩をすくめる。
 未夜の胸元、服の下で、黒い革紐にぶら下がる『おうちのかぎ』がちりりと鳴った。

 最後の学生が、フロアから退いた。これでもう何を慮る必要はない。
 完全に敵の攻撃を学習したセイスは、戦闘知識とフェイント技術を武器に、時にフーヂをけしかけ、時に敵の攻撃を完全に相殺しながら、残った魔本達を一か所に集める。
「やはり弱点は火……だろうな。火力で一気に葬ってしまおう」
 サバティエルは突撃銃に炎弾を装填し、ベルゼドラと未夜に呼び掛ける。
 わかったわとベルゼドラは即時無数の業火球を魔本の山にそそぐ。セイスの離脱を待たず焼いてしまったが、恐らく、きっと、彼の技量なら無傷で退いたのだろう。目の端にいっしゅん、きばやしと合流する彼の姿を見た。
 サバティエルは突撃銃と同時、ウィザード・ミサイルを業火にくべてさらに火勢を強め、最後に未夜の、黄昏色の炎が全てを消滅させた。
 広大なフロアに最早動く魔本の姿は無く。後にあるのは乱雑に散らかる血も流さない清潔な書物(むくろ)だけだ。

「トンでもなく散らかってっけど、お掃除完了ってヤツじゃん? ……てっ思ったけど、そういやまだまだ一番デカいやつが残ってたっけなァ」
 ジンガは愛用のコートを拾い、フロアの前方……迷宮の後半部を覗き込む。
 遠くから一瞥しただけで、真っ当に掛かれば前半部分から倍以上にウンザリする構造であることが良く解る。
 だからそう。迷宮攻略には『知識』と言う名の強力な助っ人が必要だ。

 猟兵は書物の山の中から、比較的損傷の少ない魔本を探し出し……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『錬金術ドラゴン』

POW   :    無敵の黄金
全身を【黄金に輝く石像】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    ドラゴンブレス
【炎・氷・雷・毒などのブレス】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    アルケミックスラッシュ
【爪による斬撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に錬金術の魔法陣を刻み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

※三章冒頭文章日曜追加予定

 書物の魔物に記載された迷宮の知識。
 成程、風情の無い言い方をしてしまえば、これは謂わば『攻略本』だ。
 この迷宮内に存在するあらゆるトラップギミックの解説、最短最速で最深部に至るためのルート案内。これでは複雑長大を誇る迷宮も一本道に等しい。
 ただ、肝心要なフロアボスの情報と、宝の有無が記載されていない所も……攻略本らしいといえばらしいだろうか。
 迷宮の攻略難度の高さを悟った学生達は、迷宮探索を続ける猟兵へ激励を残し、地上へと退いた。これで学生達の人的被害を心配する必要は考慮しなくて良いだろう。念の為、『攻略本』もこの一冊を残し全て処分した。
 ……迷宮後半部を進むのは、唯一、情報を共有した猟兵達のみ。

 何にせよ、種がバレてしまえばあっけない。猟兵達は然したる苦労も無く最深部へと到達すると、もったいぶったように立ちふさがる重厚な門をこじ開け、厳めしく鎮座する龍型の黄金像と対峙する。
 これが噂のお宝か。いいや違う。微動だにしないが、この石像からは魔本と同じ『匂い』を感じる。即ち、この龍こそが打倒すべき……災魔(オブリビオン)。
 ――突如、迷宮が鳴動し、周囲の景色が変貌した。
 猟兵達の眼前で鋼の壁がそそり立ち、路が別れ、天から矢の雨が降り注ぎ、地は奈落への大口を開く。黄金龍が今まさに迷宮を作り変えているのだ!
 いずこかで聞こえる災魔の咆哮。立ち込める蒸気の息吹(ブレス)。
 竜が迫る。あらゆるトラップが殺意を持って牙を剥き、増築され続ける迷宮は容易く猟兵達を分断するだろう。
 だが迷宮の知識を得た今なら、それらは多少厄介であっても致命的にはなり得ない。
 
 総決算だ。罠を跳ね除け、壁を打ち壊し、黄金龍に刃を突き付け……この迷宮を完全に踏破しよう。
錬金天使・サバティエル
敵が大物である以上、攻撃もそれなりに強力なはずだ。盾で受け止めて、そのままそっくり返してあげよう。
核融合のエネルギーすら溜め込める賢者の石の力を使えば、それくらいは容易いことだよ。


ジンガ・ジンガ
ワーオ……全身おタカラドラゴンちゃんじゃねーですかァ!
これは俺様ちゃんもハリキリボーイになるしかねェっしょ!

アタマに叩き込んだ攻略本の内容を反芻しながらトラップを【見切り】
他の猟兵ちゃんに気ィとられてる隙に
コート脱ぎ捨て【ダッシュ】でドラゴンちゃんの元へ
使えそうなら【地形の利用】もしつつ
詰めは【目立たない】よう【忍び足】で近付き
不意打ちのシーブズ・ギャンビット【2回攻撃】

【フェイント】【だまし討ち】上等
ブレス来そうならダッシュで範囲外へ【逃げ足】
お宝掴んで生き残ったヤツが勝ちじゃんよ!

そーいや、さっきの猟兵ちゃん(るり遥)来てっかな
どーせならお名前聞いときてェじゃん?
なんかのゴエンってヤツ!


犬曇・猫晴
同行者:織譜・奏(f03769)
おぉ……ダンジョンボスって感じがひしひしと伝わってくるね。
奏ちゃん、絶対に前に出過ぎないようにね。ぼくが護るから。
戦って、勝って、砕いて、お宝を持って帰ろう

【SPD】
敵の動き、指先一つまで見落とす事なく観察して必要最小限の動きで避けながら近付くよ
とはいえ、弱点らしい弱点は見当たらないし……。ブレスを吐く瞬間に上顎なり下顎を殴って口を閉じさせてみようかな

奏ちゃん、大丈夫?怪我してない?
負傷描写、アドリブ歓迎


織譜・奏
同行者【犬曇・猫晴(f01003)】
やっと大ボスまで来れましたね!頑張りましょう。
金のドラゴン……これ、金塊で出来てるとかないですかね!?砕いたら一攫千金のお宝とか!
あっでも金から血が出るってのもグロくて無理なのでやっぱいいです。

【SPD】
後方より『宿運の乱歌』で援護。
♪迷える守護者のドラゴンさん、金の禁じ手、溶かしてあげる。私の声と……みんなの力で!

ブレスは極力避ける、というか届かないような位置取りを心がける。射程に入りそうなら攻撃より防御優先で退避。
勝ったらあとは剥ぎ取りタイム!金貨を落としたりしないでしょうか(死体つんつん)

アドリブ歓迎


木林・アーノルド
迷宮奥にて
きばやしのケットアイが確と捉えたその輝き。
並び立つ金の龍と銀のマグロ
じゅるり。

まずは大人しくさせるのが肝要なのだな。
敵の動きを見切り機会を待って……


●無敵の黄金
うぬ?
固まったのだな?
今のうちに持って帰って売るのだな。

無謀にも黄金龍を運び出そうとするケット。

うぬぬ、これは無理なのだな。(毛繕い)
しかしご主人やノーラ殿が協力してくれているのであって
すぐ投げ出したとあっては……

ぬ?
きばやしはこの状況を動かす術を心得ていたような?
(猫の毛づくろいで黄金龍の摩擦抵抗を減らす)

果たしてきばやしのサムソローンの返済の行方はいかに__


最後までアドリブ連携等歓迎で突き抜けるのがきばやしというケット!


松本・るり遥
酷く頭が冴えてる。

(真の姿解放。ほぼ変貌は無い。瞳だけが、酷く鮮やかに瑠璃と金の瞳として輝く)

頭に入っているのは、「攻略本」内の様々な罠
仲間(駒)はいる。さっきの、五月蝿かったピンク髪も、きっといる。
俺が静かに隠れる間、時間稼ぎしてくれる面々は存分に。

敵味方の大戦闘が始まったのを見計らってから、フックワイヤーで部屋上部に移動。下方の方が猟兵も多いからな、結果的に『目立たない』って寸法だ。
構築するのは、最大サイズのレプリカクラフト。ドラゴンが仕掛けを踏んだなら、動きを封じて断頭台。その首、貰ってやるよ。

『俺』は疲れたから戦後は『腑抜け』に譲る
せいぜい利用した仲間に謝ったり心配したり慌てたらいい


ノーラ・モーリス
宿屋エストレーラのみんなと合流して戦いに参加するわ
ドラゴンにウィザードミサイルを放ってから
「遅くなってごめんなさいね、二人とも」
竜に対しウィザードミサイルを放ち応戦い
ブレスなどに対してはエレメンタルファンタジアで同じ属性魔法を放ち相殺を試みます
「黄金って熱でとけるのよね?運びやすいサイズ迄とかしてわけてみる?」

戦闘終了後
アーノルドのお宝探しに同行
「宝さがしって何だかワクワクするわね」
あった場合
「竜が宝を貯めるってアッチの世界では聞いてたけど、此方も当てはまるのね〜」
なかった場合
「まぁまぁ、ここ迄で来れた事が経験って宝って事にしましょ」

共闘アレンジどちらも歓迎です


セイス・アルファルサ
この竜、黄金だよね?だったらこれ価値あるよね。持ち帰ろう。

[戦闘]
迷宮の知識は【学習】済み。記載されずとも黄金竜について予想立てて【情報収集】することはできる。
ここは同じ迷宮だ。急にジャンル違いのボスが出るはずなんてないのだから。
戦闘中も行動パターンを【学習】するよ

僕はアーノルドのサポートに回るよ

近づくのに厄介なブレスは【オペラツィオもン・マカブル】で跳ね返すよ

[お持ち帰り]
黄金は人形に持たせるね。
アーノルドが摩擦抵抗減らしてくれるみたいだしそれを人形で引っ張ろうかな

二人がまだ宝探しするのなら先に黄金を持ち帰って宿で温かい料理でも作って待つね

ノーラ、アーノルドとの連携希望、アドリブ歓迎


ベルゼドラ・アインシュタイン
魔本の攻略内容は粗方頭に叩き込めたと思うがまぁ、どうにかなるだろ

罠等はできる範囲で【怪力】を乗せて力づくで壊して行けばいい
自分の身ぐらいは守れるだろう?何か飛んできても許せ

俺の攻撃手段だと本体へ安易に近付くのは厳しいだろうから
【ベルゼブブの鉄槌】は今回気乗りはしねぇが援護射撃として使おうか

地形に魔法陣が刻まれると後々厄介そうだから
爪の斬撃が飛んだ所に駆け込んでいち早く魔法陣を破壊していければ良いだろうか

もう宝が何だのどうでも良い、さっさとこんな迷宮攻略してやろうぜ


三岐・未夜
るり遥また危なさそうだしなあ。んー……仕方ない、僕も行く。硝子が混ざってもまだ怖いし……。
心配してるだなんて言う気もないが、まあ、それはそれとして。同じ団地の仲間と行くのは悪くない。
来い、レギオン。
手数の勝負。全てを縦横無尽に操作して、ドラゴンの気を引いてやろう。目障りな蝿でも、目や喉の奥に入ったら結構痛いよ。
まあ、怪我したら、したで。シンフォニアいるし平気でしょ。死ななきゃ安い。……痛いのは嫌に決まってるじゃん。
必要なら、他の誰かの援護にも回るよ。僕の攻撃に決定打になりそうなユーベルコードはないからね。手数は多いから、妨害と撹乱には向いてるけど。
って訳で、誰かあとよろしく。



酷く頭が冴えている。
 フックワイヤーを伸ばし、エリア上部――迷宮(せんじょう)全体を俯瞰できる位置にたどり着いたるり遥の双眸は、鮮やかな瑠璃と金の色に変じていた。
 頭の中に叩き込んだ種々のトラップのギミックは細部まで明瞭に。もう二度と引っ掛かることはないし、何より『とても参考になった』。
 だが、此処から意趣返しをしてやるのには少々時間が必要だ。その為に、あの五月蠅いピンク髪を含めた駒(なかま)を利用してしまおう。『非情』になった今のるり遥なら、躊躇なくそう行動出来る。
 迷宮攻略まであと少しという局面だ。必然気合の入る駒も多く、だからこそ猟兵一人が見えなくなっても目立ちはすまい。
 るり遥はその時が巡ってくるまで、一人静かに身を隠す。

(「るり遥また危なさそうだしなあ」)
 未夜はるり遥の姿が戦場から消失していることに気付く。魔本戦と同様に『勇気の無い』方の作戦だろうか。それとも『やさしさの無い』方が何か企んでいるのだろうか。いずれにせよ、彼の実力は兎も角、その気質には何処か危うい物をはらんでいるようにも思う。ふとした拍子に、さらにどこか欠落してしまうような……。
「んー……仕方ない、僕も行く。硝子が混ざってもまだ怖いし……」
 心配していると言う気もないが、さておき。同じ団地の仲間と共に行くのも悪くない。
「来い、レギオン」
 未夜は85機のレギオンを召喚し、迷宮内に解き放つ。
 るり遥を含む、散り散りになった仲間たちとの合流と、ドラゴンへの牽制。やるべきことは、まず二つ。

「やっと大ボスまで来れましたね! 頑張りましょう!」
「おぉ……ダンジョンボスって感じがひしひしと伝わってくるね」
 逆巻く角。外骨格の如く結晶を纏う鱗。。強靭に過ぎる四肢。
 新たに作り上げられた迷宮で、奏と猫晴は誰より早く再び黄金龍と相見える。
「金のドラゴン……これ、金塊で出来てるとかないですかね!? 砕いたら一攫千金のお宝とか!」
「どうだろうね? 錬金術は、もともと金を作り出すための研究だって聞いたこともあるけれど……」
「そうですね。わた――」
 不自然に、奏の言葉が途切れる。代わりに猫晴へ返って来たのは、乱雑乱暴な金属音。
 変化・律動を繰り返す迷宮が、二人を分断したのだ。
 猫晴の数歩先には、龍。強制的な単独戦を強いるつもりだろう。余りにも分が悪すぎる。
 だが、猫晴はこの状況に……ほっと安堵の息を漏らす。
「キミがぼくに狙いを付けたってことは、彼女は無事だってことだ。だから良いよ。ぼくは敢えて……キミの目論みに乗ろう」
 龍の爪撃が、迷宮を抉り魔法陣を刻む。
「あっははぁ」
 左の爪が剥がし、右の爪が地面を抉る。当たれば只では済まない連撃を、猫晴は培った経験――勘で紙一重に避け続けてみせる。それは猫晴の、生きる事への執着ともとも取れた。
 筋線維一筋の動きも見逃さず、必要最小限の動きで全てを見切る……洗練されたその体術は、先程のような広いエリアなら延々と爪撃を躱し続けられただろう。しかし、ここは迷宮。やがて猫晴は袋小路に追い込まれ、退くも進むも出来なくなる。
「行き止まりか……はは」
 何を笑う。龍は問うように唸る。
「いや。嬉しくて。確かにぼくは特別耳が良いわけじゃないんだけどね。でも、彼女の歌に関しては別だよ」
 直後。猫晴が背にしていた壁が崩れ、質量を持つ音波が黄金龍に押し寄せた。
 猫晴を救ったそれは宿運の乱歌。そして、それを奏でたのは……。
「良くぼくの位置が分かったね、奏ちゃん」
「ふふ。実は私、失せもの探しは大得意なんです」
 壊れた壁を乗り越えて、奏は猫晴の側に並び立ち、さらにそっと彼との距離を狭める。もう二度と、分断されぬように。
「迷える守護者のドラゴンさん、金の禁じ手、溶かしてあげる。私の声と……みんなの力で!」
 2度目の乱歌が迷宮を揺るがす。耳朶から溶けては溜らぬと、龍は大きく息を吸い込んだ。
「――体の大きさと目の位置が命取り……かな?」
 龍が呼気を息吹に変えようとしたその瞬間、音も無く竜の至近まで距離を詰めていた猫晴が、直下から竜の下顎を殴り抜く。強制的に口を封印され、行き場を失った蒸気(ブレス)は口腔に充満し、外へと爆ぜるように噴き出した。
「あっつつ……! ごめん。奏ちゃん、前言撤回するよ。この迷宮、やっぱり熱いや」
 下顎を抑え込んでいたせいで、蒸気に曝された右腕を覚ましながら、猫晴は言った。
「もう。そういう意味じゃないですよ」
 小さく呟き、奏はその歌声で猫晴の火傷を治療する。ともあれこれで、全ては分断される前に元通り。

「奏ちゃん、絶対に前に出過ぎないようにね。ぼくが護るから。戦って、勝って、砕いて、お宝を持って帰ろう!」
「……はい!」

「おおっと、アツいねェお二人さん。あんまりアッツイもんだから、俺様ちゃんさっき着込んだコートを即脱いじゃうじゃん?」
 陽気にコートを脱ぎ棄てて、ジンガは手に持つダガーを中空に放る。ダガーが宙を舞う間、ジンガは軽いストレッチで体を解し、
「位置についてェ……よーいドン! ってなァ!」
 ダガーをキャッチしたと同時、韋駄天の如き速度で龍へ駆ける。
 恐らく龍は未だ奏と猫晴だけを意識しているだろう。竜の背、その金鱗の煌きは、蒸気の外からでも良く見えた。 
「ワーオ……全身おタカラドラゴンちゃんじゃねーですかァ! これは俺様ちゃんもハリキリボーイになるしかねェっしょ!」
 蒸気に紛れ忍び寄り、ジンガが再び軽口を叩いたのは、龍の右腕を裂いた後だ。
「返すカタナ的なダガーでもう一発! 尾っぽをもらってくぜ? どうせ攻撃には使わないっぽいんだからいらないじゃん?」
 黄金龍がようやくその視界にジンガを捉えた時、彼の脚元には自身の物である金の尾が打ち捨てられていた。
 続けてジンガは再びダガーを振るい、龍は反射的に防御態勢をとるものの、放たれた刃は途中で引っ込んで、鱗に接触することは無かった。フェイントだ。
「かーらーのだまし討ち!」
 フェイントに吊られ防御の緩んだ胴体を、ダガーが堂々通過して、3撃目。龍が震える。
 ――さんざジンガに遊ばれて、これ以上の愚弄は許さぬと、龍の瞳に怒りが点る。龍が吐き出した蒸気のブレスは自身が作り上げた迷宮すら侵し、ジンガに伸びる。
「とと、俺様ちゃんの命ばっかはあげれねーですわ! お宝掴んで生き残ったヤツが勝ちじゃんよ!」
 ジンガはくるりと身を翻し、蒸気の追っ手を振り切る様に逃走する。攻略本のお陰で罠は全て見切っている。シーフのジンガからすれば、種の知れたダンジョンなど多少上等なアスレチックに過ぎない。が、蒸気をやり過ごしても、龍の追撃が終わる気配は無さそうだ。さて、どうするか。
「こっちだ。早く」
 そうジンガを呼び掛ける未夜の声と共に現れたレギオン達が、怒れる龍を総攻撃し、ジンガは一時龍の視界から逃げ果せる。
「手数では負けないよ。弱くても一機一機相手にするのは骨だろ? 目障りな蝿でも、目や喉の奥に入ったら結構痛いよ」
 未夜の言う通り、纏わりつく多数のレギオンを、龍は虫を振り払うように叩き除けようと格闘する。これでしばらくの時間稼ぎにはなる。
「ふぅ、助かったぜ。このまま逃げ続けてたら、俺様ちゃん足首の捻挫位はしてたかもしれないヤバいピンチだったっしょ!」
「まあ、怪我したら、したで。シンフォニアいるし平気でしょ。死ななきゃ安い……って、痛いのは嫌に決まってるけど」
「はは! 同感!」
 未夜はジンガへ簡単に、『其処』への逃走ルートを説明した。幸い、龍は今、頭に血が上っている。迷宮構造を変化させる思考は出来ないだろう。
 ある程度レギオンを撃墜し、視界の開けた龍は、再び未夜達の追撃を開始する。
 
 龍にしてみれば、罠の位置も迷路の構造も知れたもの。逃げる二人の身体能力がいくら優れていようとも、いずれは追い詰めて殺してしまえる。筈だった。
 だが。双腕を振るい二人を追って追い詰めたその先。自らの領域を王者の如く駆け抜ける龍の、その眼に飛び込んできたのは、自身の知識には存在しない、全く未知の罠(トラップ)。
「……油断したな。まさか自分のテリトリーで、自分自身が罠にかかるとは思ってなかっただろう? その首、貰ってやるよ」
 龍がるり遥の『罠』の存在に気付いた時にはもう遅い。勢いのまま踏み抜いた仕掛けは発動し、その巨躯を拘束すると、13立方メートルのギロチンが龍の頭上に出現する。
 降り注ぐ肉厚の刃を見てしまった竜が上げたのは、果たして悲鳴か咆哮か。ギロチンは迷宮を両断し、龍の頸にめり込むものの、それを断つまでには至らない。だが、致命に近いダメージではあっただろう。龍は頸から零れ出す蒸気で、その瑕を無理やり塞いでいるだけと見る。
「~♪! やるじゃん!」
「ちっ。仕損じたか。だが……」
 長い長い迷宮探索の終わりは見えてきた。ジンガは口笛を口遊み、『優しくない』るり遥は舌打ちする。

「ベルゼドラ! 居るんだろ。あとよろしく」
 そして未夜は、『団地の仲間』であるベルゼドラの名を呼んだ。

「……何だ。『優しくない方』は普通に出来るんじゃねぇか。」
 魔本の攻略内容は粗方頭に叩き込めたと思うがまぁ、どうにかなるだろ。
 誰も知らない独り言。ベルゼドラはゆるりと髪をかき上げて、蠅の王を召喚する。
「気乗りしねぇが……まぁいい。『援護射撃』だ。蠅の王様なら、蠅(レギオン)を守ることも気紛れにするだろうさ」
 ベルゼブブの鉄槌が、無数の業火球が、迷宮に刻まれた刻印を、黄金龍を……そして迷宮そのものを焼き払う。
 鉄槌が降りしきる迷宮で、ベルゼドラは龍に向けて歩を進める。
 視認出来る範囲の刻印はすべて破壊した。龍にも確実に入った感触がある。だが、途中から何か『妙』だ。
 死んだか逃げたか。業火球と共に爆心地へ到達したベルゼドラは黄金龍の『現状』を確認し、鉄槌を止める。
「ったく。こっちはもう宝が何だのどうでも良い、さっさとこんな迷宮攻略してやるって気分なのによぉ」
 ベルゼドラは息を吐く。龍はその身を、どのような攻撃も通さぬ無敵の黄金像に変えていた。
 やれやれ、と、この状況で空気も読めずに壁面から飛び出してきた棘を自身の怪力でへし折り、像に投げつける。が、当然像は傷つかない。
 何時までその姿でいるつもりか。どうあれ攻撃が通らないのならば手の出しようがない。精々休憩時間と割り切って、こちらも楽をするだけだ。
 純粋な火力だけでは打開できないこの局面、他の猟兵はどう出るか、その手並みを拝見するとしよう。
 ベルゼドラは物陰に隠れて一服し、黄金像に近づく猟兵達の様子を観察する。

「ぬ!?」
 どこからか飛んできた危なっかしい棘をぎりぎり躱し、きばやしのケットアイは焼野原に立つ黄金像を捉える。お魚の姿が見えない事に一抹の寂しさを覚えたが、兎も角今は諸々の経費の為、前に進むのみ。
「まずは大人しくさせるのが肝要なのだな。敵の動きを見切り機会を待って……うぬぬ?」
「なんだか既に大人しくなってるね?」
 セイスの指摘通り、何か既に大人しくなっていた。
「ご主人。これはチャンスなのであって。今のうちに持って帰って売っぱらうのだな」
「確かに。この竜、黄金だよね? だったら結構価値があると思うけど……ちょっと気が早いんじゃないかな?」
「しかしご主人! 善は急げと言うのであって!」
 きばやしは無謀にも黄金像を動かそうとするが、当然のように動かない。
 セイスやもうじき来るであろうノーラ・モーリス(自由を謳う魔女・f06864)が協力してくれるというのに、ここで諦めてはケットの名折れと言うものではないだろうか。
 さりとていい案は浮かばない。きばやしは毛繕いしながら頭を抱えた。
「……ぬ?」
 毛繕い?
 ……。
 ――じゅるり。きばやしはこの状況を動かす術を思い出す。
「とーう!」
 そういうわけできばやしは像に飛び掛かり、像の全身をくまなくぺろぺろ舐めた。黄金の石像なのに何故か鉄っぽい味がするのはきっと錬金術の秘奥義にかかわる部分なのだろう。
 そしてきばやしは摩擦抵抗を限界まで減らした黄金像を横に倒し、そのままローラーよろしくにころころと転がした。
「わはは! 頭脳の勝利なのだなご主人! きばやしはこのまま地上へと向かうのであって――」
「アーノルドー!」
「うぬ?」
「前ー!」
「ぬぅぅあ!?」
 トラップだ。不覚にも前方不注意だった。
 ちょうどいい具合に。
 奈落へと開いていた大穴が。
 すっぽり黄金像を飲み込んでしまった。
「ああぁ……きばやしのサムソローン一括返済の夢が虚空へと………」
 がっくりと項垂れるきばやし。さもありなん。
「いいや。アーノルド。これはもしかするとお手柄かも知れないよ」
 ――聞き慣れた足音が此方に近づいてくる。
 セイスはフーヂとイダーデを臨戦態勢に移行させると同時、きばやしを後方へ下がらせた。

 黄金のままならば奈落に落ちてしまう。虚無の如く広がる空間に爪を立てられる壁面などは存在せず。蒸気を吐き出したところでただ拡散するばかり。広大な空間に居るにもかかわらず、このままでは八方塞がりだ。故に龍は地上(そら)を目指すしかない。例えそこに何が待ち受けていようとも……。


 巨翼を羽搏かせ地上に帰還した黄金龍を襲うのは、ノーラの放ったウィザード・ミサイルだ。
「遅くなってごめんなさいね、二人とも」
 軽やかに会釈をしながら、ノーラは75本もの炎の矢を全力で徹底的に叩き込む。火花が咲き乱れて竜を圧し、追い詰められた龍は3人諸共葬ろうと灼熱の蒸気をまき散らす。
「イダーデ!」
 龍には竜を。セイスは迫る白煙を前にワイバーン型の機械竜、イダーデを従える。
 迷宮の知識は『学習』済み。魔本に記載されておらずとも、黄金竜に関する予想を立てて、『情報収集』することはできる。
「……ここは同じ迷宮だ。急にUDCとかジャンル違いのボスが出るはずなんてないのだから」
 そしてその情報の精度は、非常に高かったのだと実物を見て確信した。
「行くよ、ノーラ!」
 蒸気だろうが何であろうがそれがユーベルコードならば対処は出来る。完全に脱力したセイスは成すがまま蒸気に包まれるが、イダーデを介して完全に受け流しきり、精妙な指捌きで機械犬・フーヂを操り、龍の喉を食い破る。
「ええ。任せて」
 他方、ノーラは白煙に炎の竜巻をぶつけ、相殺する。
 蒸気のブレス。これを相殺するなら水をぶつけて徹底的に冷やすか、火炎をぶつけて一気に蒸発させるかだ。
 ただ、ブレスを吐き出すのが黄金の竜なら、今回は火の属性の方が相性がいいとノーラは判断した。
「黄金って熱で溶けるのよね? 運びやすいサイズ迄溶かして別けてみる?」
 ノーラの白く細長い指先が、龍を指し示す。そこから再び幾条もの火線が迸り、龍を焼いた。
 
「それは素晴らしい提案だね。金が熱しているうちに、私も一枚噛ませてもらおう」
 シールド・泥の霊を片手に、サバティエルは炎の竜巻が消失するのを待たず、龍へと突撃する。肉薄してきたサバティエルに、黄金龍は爪撃を見舞うが、盾の扱いに長けるサバティエルは危なげなくそれを防御し、そして『複製』する。
「いい技だね。借りるよ」
 ヤドリガミであるサバティエルは竜の爪撃、そのメカニズムを『本体の賢者の石』に記録し、再現する。
 金と鱗の破片が鋼の迷宮に飛散した。サバティエルの放った龍の爪撃が、龍の身を抉ったのだ。
 怖気る事無く龍は再び爪撃を繰り出すが、何回やろうと同じこと。サバティエルはいっそ淡々と、龍の爪を防ぎ、『複製』した爪撃で龍の黄金(こがね)を削り取る。
「只の金では、少しばかり賢者の石(わたし)に遠い。核融合のエネルギーすら溜め込める賢者の石の力を使えば、これくらいは容易いことだよ」
 最後にサバティエルは蒸気(ブレス)を突撃銃に装填し、黄金龍の口部目掛けて撃ち放った。
  
 猟兵達の攻勢に、さしもの龍も後退る。如何にか命を延ばすため、迷宮構造をいじくって、自身を鋼の迷路と大量の罠で覆い隠す。地の利はこちらにある。大勢はいつでもいくらでも立て直すことが出来る。そう息を潜め、一縷の望みに縋りついたその刹那。
「もう、いい。あんたの無意味な時間稼ぎにはいい加減うんざりだ」
 別段止めに拘るつもりも無かったが、龍が消耗激しいせいだろう。余りにも安易に龍の死角へ入り込めてしまったから、ベルゼドラはそのまま龍を傷『で』穿つことにした。
 ダガーの切っ先が、じわりと竜の心臓を突き破る。
「慈悲って奴だ。形だけはそのまま残しといてやるぜ。あんたの骸を欲してる奴は、どうやら多いようだからな」
 迷宮の鳴動が止まり、辺りは痛いほどの静寂に包まれる。
 ――そして錬金竜は、ベルゼドラに暗殺された。

「いいねいいね。瞳の色とおンなじで、性格もまるでさっきとは違って『人が変わったように』キメキメじゃん?」
「……」
 ジンガの軽口に、『優しくない』るり遥は無視を決め込む。
「俺様ちゃんの名前はジンガ・ジンガ。どーせならお名前聞いときてェじゃん? なんてーの?」
「……知らん」
「えっ!? つまり名無しの権兵衛ちゃん!?」
「『人違い』だって言ってるんだ。『腑抜けた方』は知らないが、『優しくない』俺がお前みたいなピンク髪に名前を明かす理由は無い」
「成程わかった。俺様ちゃんこう見えて意外とハクシキだから、そう言うのなんて言うか知ってるぜ? ええと、ほら……」
 ジンガは数秒思案し、
「つんでれ?」
「違う」
 違った。
(「あっ、すごい。テンションで優しくないるり遥を押してる」)
 思わず未夜はジンガに感心する。
「駄目だ。疲れた。こいつの相手は下手をすると竜より重い。俺は引っ込む。後は腑抜けの好きにすればいい……って待てよ!?」
(あ。押し切った?」)
 無理矢理他人格から主導権を渡された『勇気のない』るり遥は、『非情な』自分が仕出かした狼藉を、なんとかフォローしようと慌てたが、それでも、
「……松本・るり遥」
 控えめに、自身の名をジンガに返す。
「オッケーるり遥ちゃんね。それと……」
「三岐・未夜」
「そう未夜ちゃん! ばっちり覚えたぜ。ここで会ったのもなんかのゴエンってヤツ? これから長い猟兵生活、よろしく仲良くしようじゃん?」
 ジンガのペースにぐいぐいと巻き込まれつつ……るり遥と未夜は思わず顔を綻ばせた。

「ようやく全部終わったね。長かったなぁ。奏ちゃん、大丈夫?怪我してない?」
 猫晴は責務から解放されたように大きく伸びをして、奏の調子を慮る。
「はい! 大丈夫ですよ。勝ったらあとは剥ぎ取りタイム! 金貨を落としたりしないでしょうか?」
 奏は龍の骸を控えめに数度つついてみるが、特段そういう物は持ってない様子。
「だったら山分けしようか。何せ一応『金』だし、これだけの大きさならきっと……」
 セイスの提案を、奏は断る。加工された金貨の類ならともかく、龍を解体して金から血が出る様を想像すると、グロテスクで正直戴けない。。
「それなら私は少しだけ失敬しようかな。『錬金術』の名を冠している以上、個人的に少し興味があってね。出来ればサンプルが欲しいと思っていた所だ」
 サバティエルは龍の鱗を結晶ごとくり抜いて、しげしげと眺めた後、自身の懐にしまい込む。
「ノーラとアーノルドは如何する? お宝探しを続けるかい?」
「勿論であって! いや決してへそくりなど個人的な貯蓄を目論みたいわけではなく!」
「私ももう少し付き合うわ。宝探しって何だかワクワクするものね?」
「そうか。じゃあ僕は先に黄金を持ち帰って、宿で温かい料理を作って待ってるよ」
 セイスは二人に手を振って、一足先に地上を目指す。きばやしが龍の摩擦抵抗を極限まで減らしてくれたお陰で、見上げるほどの巨躯でも労無くフーヂとイダーデで引っ張ることが出来た。
 龍の素材を利用して、記念に何かしらのアイテムを作るのも良いだろう。
 ……無論、金を加工するために相応の金がかかってしまうが。

「……お宝。見つからないのだな。ぐぬぬ、結局噂話は嘘だったのだな……」
 暫しの間。きばやしとノーラが迷宮をいくら手分けして探してみても、目ぼしいものは見つけられない。
「まぁまぁ、ここ迄で来れた事が経験って宝って事にしましょ」
 宝の有無に見切りをつけたノーラがそろそろ戻りましょう、ときばやしの手を引くが、
「まだ! あともう少し探せば見つかるかもしれないのであって、」
「うーん、そうねぇ……でも、もうそろそろ帰らないと。折角セイスさんが作ってくれた料理が冷めてしまうわよ?」
「うぬぬぬ……無念っ!」
 殺し文句だ。お腹もなった。三時のお弁当がごはんつぶ一つだったことも相まって、そう言われると引かざるを得ない。
 ノーラはクタクタな様子のきばやしを抱きかかえ、一緒に迷宮最深部を後にした。


 結局、迷宮を踏破して猟兵達が入手したものは、龍の骸一つのみ。これも立派な戦果と言えようが、誰もが想像する様な財宝とも言い難く。
 ――いいや、得られたものはもう一つ。迷宮の外に近づくにつれ、それはどんどん大きく、そして騒がしく。
 その正体は、迷宮を踏破した猟兵達を讃える、掛け値無しの歓声だ。
 
 ……つまるところ、一言で言ってしまえば、とてもテンプレートでありきたりの言葉になってしまうのだが。
 しかし。まぁ。折角だ。貰えるものなら好き嫌いせず胸を張って貰っておこう。
 ……猟兵達が得たもう一つの物とは、即ち。

「――ようこそ、転校生」
 アルダワ魔法学園の学生達は、温かく猟兵を迎え入れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2018年12月26日


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 現在は作者のみ編集可能です。
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🔒
#アルダワ魔法学園


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト