●精霊嵐
「ふと気が付けばいつの間にやら今年も既に七月頭。桜の季節もゴールデンウィークも梅雨すら超特急で置き去りに、目まぐるしく過ぎゆく日々の中で、なんだかちょっと生活に『弾幕』が足りないな…ってそろそろ思う頃合いでござるよね?」
別にそんな事はないと思われる。
ないと思われるが、とてもとても強引な前置きから、祓月・清十郎(異邦ねこ・f16538)は今回の事件に関わる諸々のあらましを語り始めた。
「お空と冒険のファンタジーな世界・ブルーアルカディアに、『竜のねぐら』と呼ばれる浮遊太陸(しま)があるんでござる」
その名に違わず、実に多種多様な飛竜(ワイバーン)の棲まう島で、大空を翔ける彼らにとってそこは故郷であり、疲れを癒す休息地であり、終の棲家でもあると言う。
「飛竜(かれ)らにとって素晴らしく居心地のいい場所なんでござろうなー。自然豊かで、風光明媚で、島の総人口より飛竜の生息数の方が断然多いくらいでござる」
そして、と清十郎は自身のグリモアをつっつく。
「そんな『竜のねぐら』が、オブリビオン――屍人帝国に目を付けられてしまったのでござる」
現在進行形でオブリビオンが島の天使核に干渉し、空の底へ落とそうとしているのだ、と。
幸い、島の天使核を暴走させるユーベルコードの完全発動には相応の時間がかかるため、それまでに事件の黒幕(おおもと)さえ倒してしまえば島の沈没は防げる筈だ。
「ただし、大きな問題が二つばかりあるんでござる」
一つ目は、島に現れた敵の先遣部隊も『天使核を操作する』ユーべルコードを使用できること。
流石に浮遊大陸に干渉するほどの力は無いが、例え猟兵であっても天使核を搭載した武器・防具を身に着けての立ち回りでは不利を強いられるかもしれない。
「ねぐらにも屍人帝国と戦える勇士達がたくさん居たんでござるけど、このユーべルコードがぶっ刺さってにっちもさっちも行かなかったんでござるな。『天使核文明』なんて呼ばれるくらい、この世界では天使核が必需品レベルで重要でござるから……その点、人種も技術も闇鍋上等・異世界連合軍な拙者(猟兵)達なら何とかなるでござろう」
二つ目は、『精霊嵐』と呼ばれるこの島特有の気象。
「有体に言ってしまえばそう、弾幕でござる。火の弾水の弾石つぶて。ありとあらゆる属性弾が雨嵐の如くわんさかわんさか。もちろん当たると痛いでござるよ」
本来は島の限られた地域でしか発生しえない天候(モノ)だが、オブリビオンが島の天使核を暴走させようとしている影響か、現在は『竜のねぐら』のほぼ全域が荒れ狂う精霊嵐の暴風圏。
「雲海(そら)の底に沈むのが先か、嵐が地表すべてのモノを瓦礫や荒野に変えるのが先か……そんな抜き差しならない状態でござるけど、それでも島の端っこに、如何にか暴風圏から免れた森(ばしょ)があったので、そこをスタート地点に島の中心部――辺りに居座る敵の先遣部隊を目指すんでござる」
弾幕をどのように攻略するのかは個々の猟兵の判断に委ねられる。全弾回避しながら進んでも良いし、敢えて全てを受け止めて真正面から突撃しても、爆弾(ボム)ですべてを消し去って進路を拓くのも有効だ。過程がどうあれ、最終的に敵部隊の元へたどり着けさえすればそれで構わない。
中々に大きな浮遊大陸(しま)だが、より詳細な敵の位置は森で待機している飛竜たちが知っているだろう、と清十郎は補足した。
この島で生まれ育った飛竜たちは、幾度とない精霊嵐(だんまく)に揉まれて空の飛び方を覚える。嵐吹き荒び、天使核のコントロールを掌握されているこの天変地異とも言える状況下において、彼らの翼はきっと頼りになる筈だ。
……が。清十郎はグリモアに触れながら何やら難しそうな顔をする。
「飛竜たちを良く知る先方のお話を聞く限り、何だかまぁー易々と道案内とかしてくれなさそうな雰囲気醸し出してるんでござるが……そこの所はアドリヴで頑張って欲しい感じでござる。ではでは――」
大切なのはフィーリングでござるよ、などと適当な事を言いつつ――ベースの景色が揺らいだ。
長谷部兼光
随分とお久しぶりになってしまいました。
●目的
・異常気象を潜り抜け、
・集団敵を蹴散らし、
・元凶を撃破する。
●備考
プレイングの受付は、どの章も冒頭文を追加してから以降になります。
第1章 冒険
『暴走する浮島』
|
POW : 飛来する瓦礫から仲間を守る。
SPD : 地形を足場にして最短距離を駆け抜ける。
WIZ : 危険な現象への対処法を講じる。
|
●餡子者(アンコモン)曰く
曇天にざわめく緑。警戒の色濃い飛竜達の唸り声。敵意をはらむ飛竜(かれ)ら視線の先を追うと、木々の隙間、遠くの方でちかちかと、煌めき爆ぜる精霊嵐(あらし)が見えた。
「おおっ、来たね物好き諸君。やあやあようこそ。絶賛沈没中・異常気象真っ只中の『竜のねぐら』へ」
のそり。そんな擬音を引き連れて、並みいる飛竜の群れを割って現れたのは、一際巨躯の……しかし古木の如く皺枯れた黒竜だった。
「いやいや違うよ。もうちょっと目線上でお願いします」
何処に居たのか、白い毛玉が老竜の首を伝い頭によじ登り、猟兵達へ会釈する。
「初めましてだね猟兵諸君。僕の名前はアン・ホワイト。何を隠そう僕こそが、種族を問わず職業(ジョブ)を問わず、この島の幾百の勇士達を束ねる大団長にして、いつの間にやらこの世界に紛れ込んでたSSRのモーラットさ!」
ふふんどうだい凄いもんだろうと初対面から偉ぶってくる自称大団長の白毛玉。だが猟兵側から察するに、その技量(レベル)は数値化すると限りなく1に近そうだ。敢えてアンの言い回しを借りるなら、SSRよりむしろUC(アンコモン)が妥当だろう。
「むむっ。何やらそこはかとなく失敬な雰囲気を感じるね。良いかい? 一番強い奴が組織の長なんて考え方は未開の時代の蛮族さ。トップに必要な資質は愛想とか、愛嬌とか、カリスマ性とか、神輿は軽いほうが良いとかそういう……んん?」
……よく考えてみると僕の素性は本題じゃないよね? このままでは話の雲行きまで怪しくなると感じたか、モーラットはごまかすように咳払いを一つ。
「兎に角、島の敵をやっつけに来てくれたんだろ? なら『話』は簡単だ。ここから飛び立つ飛竜たちの後を追えば、島の中心部に陣取る敵軍団(やつら)と接触できる。ただし――飛竜(かれ)らは君たちの道案内を素直にする気はさらさら無いよ」
どう言う事だろうか。
「つまり、これは『竜の試練』。彼らは君たちの案内人じゃなくて試験官なのさ。島が存亡の危機だからこそ、へちょいやつに労力割いて道案内なんかしてるヒマは無いわけだ。勇士(ぼく)達が戦えなくても、猟兵(きみ)達が来なくても、どうあれ飛竜たちは屍人帝国(てき)に挑む。自分たちのねぐらだからね。他人任せにはしないのさ」
『案内する気はさらさら無いが、後について来られるなら勝手にしろ』……猟兵の関与を歓迎するアンとは正反対に、飛竜たちはそう言うスタンスらしい。
「この島は豊かすぎるくらい自然豊かだからねぇ。けど元来自然ってのは過酷なもんさ。態々入り組んだり高低差あったりめんどくさい地形選んだり、敢えて高密度の嵐(だんまく)の中を突っ切ったりとかは平然とすると思うよ。加減とか忖度無しに」
どの飛竜の後を追っても敵部隊の元へは辿り着ける。ただし、そこへ至るまでの道程は個々の飛竜によってまるで違う。一か所に固まっての全滅を避けるための動きだとアンは言った。
「ここから先は大団長としてのアドバイス。猟兵(キミ)たちがそうであるように、飛竜たちも千差万別多種多様。それぞれ性格や好みも違う。だからそうだねー、辿る道筋(ルート)にも個性が出てくるって話さ。見た目火属性な飛竜なら火の玉や溶岩まみれの道を、水属性な飛竜なら水の弾や大河を上り、雷な飛竜なら雷雲を突っ切って、石属性なら石礫、鮫属性なら鮫まみれ、無属性ならやっぱり石礫って具合にね」
あらゆる属性のどの飛竜を選んでも道程の過酷さは変わらないが、自身の技能やユーベルコードに適したルートを選ぶ余地はあるようだ。
「はーいそれじゃ説明終わり。そろそろ僕らも勇士(なかま)達と合流しなくっちゃ。敵と戦うことは出来なくても、一般人の避難とか、やるべきことは山のようにだからね」
アンが黒竜の頭の上で跳ねると、それまでじっとしていた老黒竜は、微睡みを振り払うように皺と罅だらけの両翼を広げ、分厚い曇天(くも)を睨む。
「こんなおかしな空を見るの初めてだって、黒竜(クロ)さん言ってるよ。この島で一番長生きなクロさんがそう言う位なんだから本当にとんでもない事が起こりつつあるんだろうね……」
とにかく先遣隊の事は任せたよ。その他後顧の憂いはこっちで全部断っておくから。竜のねぐらの大団長は、離陸しつつある老竜の頭にしがみ付きながらそう言った。
「あいつらを潰してしまえさえすれば、天使核を扱う僕たちも自由に動けるようになる。もうね、そうなったら後は数の暴力で、この異変を起こした黒幕をボッコボコにしてしまおうよ!」
――果たして。己が為すべきことを為すために、アン・ホワイトと黒竜は飛び去った。
それを見届けた飛竜たちも気迫のままに咆哮し、怖じることなく精霊嵐へ飛翔する。
……ここで待っていても始まらない。飛竜たちの後を追おう。目指すべきものは禍つの風の先にある。
六島・椋
【骸と羅刹】
なあエスタ。とてもすごいことに気がついてしまった
鮫属性の飛竜なら鮫まみれ
つまり骨属性の飛竜なら骨まみれということになるのではなかろうか
なんとも素晴らしい
骨(かのじょ)に乗せてもらうというのに事故るとでも
ナガレ、頼みがあるんだ。あの竜を『追跡』してほしい
ナガレは骨だが飛べるからな(『空中戦』)。彼女はすごい
追ってもらっている間は、ナガレの邪魔にならないようにしつつ、
彼女の体の手入れをしよう(UC発動)
こうする間、彼女に傷はつくまいよ
嗚呼、この白い流線の麗しいこと
ああそうだなナス美味いよな(聞いてない)
エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
骨まみれなのはまぁ良いが
お前それでちゃんと飛べるのか?
前方不注意で接触事故はナシだぜ
オーケー、そんなら良いんだ
相棒がそわそわしてしゃーねぇんで骨
とか、それっぽいゴーストなタイプのヤツいるかぁね
いればソイツに付いていく
いなけりゃ他の適当なヤツ
まぁどんな道程だろーと俺らなら余裕余裕
俺ぁ初っ端から本気出していくぜ
オーバーロード、真の姿開放
ワタリガラスになって【空中浮遊】【空中戦】
当たり判定小さくして、
【第六感】が導くまま大空を縦横無尽よ
回避する隙間もねぇくらいの弾幕が来たら、
『鋭晶黒羽』発動
進行方向に向けて切り開く
どうだこの黒曜の羽、嘴の曲線
羅刹でも男前だがこの姿もイケてるだろ
……たまには生身の俺に興味持ってクダサーイ
「――なあエスタ。もしかするととてもすごいことに気がついてしまったかもだ」
白玉と老竜が飛び去ってしばらく。
空へ羽搏く属性(いろ)とりどりの飛竜達を眺めていた六島・椋(ナチュラルボーンラヴァー・f01816)は、ふと思い至ったとある理屈をエスタシュ・ロックドア(大鴉・f01818)に披露する。
「鮫属性の飛竜なら鮫まみれ……つまり、骨属性の飛竜なら骨まみれということになるのではなかろうか」
それは骨を愛する彼女にとって天啓にも等しい閃きだったろう。エスタシュ的にはそんな都合のいい奴が都合よくいるもんかよと軽く流したい所だったが、ほんの少し目線を空(うえ)に上げれば、本当に鮫属性っぽい姿の飛竜が鮫弾幕の中を泳いでいたので、恐らくそういう属性(やつ)も普通に居そうな予感がした。
エスタシュとしては道中の弾幕が何であろうと――何が出て来ようが突破する自信があったゆえ、ここはプレゼントを待ち構えている子供の如くそわそわしている相棒の提案に乗ることにした。
「とりあえず第一希望で、骨とか、それっぽいゴーストなタイプのヤツいるかぁね。あんまグズグズしても居られねぇから、見当たらなけりゃ他の適当なヤツを――」
「エスタ」
「どうした?」
「居た」
「マジかよ」
彼女の情報収集能力が成したのか、それとも類は友を呼ぶのか、エスタシュが少し目を離したその隙に、息もつかせぬ早業で、椋は無数の飛竜の中から目当ての骨竜(かれ)を見つけ出していた。
「……んん? ちょっと待て。こいつ本当に飛竜か? 見た目完全にお前の骨格人形じゃねぇか」
「それはそうだろう。何せ骨(かれ)は骨属性の竜なのだから」
胸を張って自慢げにエスタシュの疑問に答える椋。
「いや、お前も今しがたばったり出くわした完全初対面の奴だろ」
どこぞの博物館に展示されていた翼竜の化石がそのまま動き出したかのような……骨竜は、そっくりそんな姿形をしていた。
骨竜はぽっかり空いた真っ黒な眼窩で二人を一瞥すると、他の竜と同様、嵐に向かって飛翔する。このまま彼の後を追うのなら、想定通り、まず間違い無く骨まみれだ。
「……骨まみれなのはまぁ良いが、お前それでちゃんと行けるのか? 前方不注意で接触事故はナシだぜ?」
「それは無用な心配だ。何せ……」
椋が幽か指先を動かすと、それに応じてもう一つの骨竜――竜体骨格人形・ナガレが動き出す。
「骨(かのじょ)に乗せてもらうのだから、事故るなんて天地がひっくり返ってもあり得ない」
椋はナガレの背に移り、真白い骨(かのじょ)の骸(カラダ)を撫でた。
「ナガレ、頼みがあるんだ。あの竜を『追跡』してほしい」
肉体(カラダ)亡き海竜は、頷くように首を振り、音も無く陸を離れると、ゆらり空に揺蕩う。吹かれるままに『通り風』を靡かせて、椋は地に居るエスタシュへ空行くナガレの勇姿を披露した。
「見ての通り、ナガレは骨だが飛べるからな。夜の海も朝の空も曇天の嵐すら、彼女にとっては些細な区切りに過ぎない。どうだ、すごいだろう」
「オーケー。凄いっつうか、正直骨竜(あっち)もナガレ(こっち)もなんで飛べるのかさっぱりわかんねぇが、事故らないならそれで良いんだ。まぁ、どんな道程だろーと俺らなら余裕余ゆ――」
刹那。
何の前触れ一つなく、エスタシュ目掛けて骨の弾幕(あめ)が降り注ぐ。
しかし所詮はにわか雨。エスタシュは鉄塊剣を一薙ぎに骨の雨を弾き飛ばす。何が起きたか雨の軌跡を辿ってみれば、その大元には骨竜が。
「『すでに試練は始まっている。隙を晒そうものならば、この程度の不意打ちは容赦なく』……だそうだ」
「……椋。あいつの考えてる事、良く解ったな?」
「当然だろ。彼の骨(かお)を観ればすぐにわかる」
「成程。いや。わかんねぇ」
しかし、それは望む所でもあった。此方としても遊びに来た訳では無いのだ。試すというのなら、最初(ハナ)から本気で掛かるのが礼儀だろう。
エスタシュは腕に嚙みついた獣のしゃれこうべを放り投げ、不敵な笑みを浮かべると――己が真の姿を解放する。
その姿こそ黒曜の、威容を湛える大鴉。群青業火を身に纏い、風を焦がして空を灼き、瞬き一つの間に先行していた骨竜のすぐ隣へ。
競うように、竜は速度を上げた。
安全地帯の森を抜け、切り立つ崖をすれすれに、瀑布の飛沫を横切って、二人が飛び込み行く先は――白(ほね)の渦中。
「いやはやなんとも素晴らしい。ほらエスタ。向こうの方――あれは竜種の尾椎だろうな。それらが流星雨のように連なって、この曇天を鮮やかに彩っている」
「いや。雲の灰色と骨の白とで百歩譲っても『鮮やか』では無くないか」
「さらにそっち、腕だけの骨(かれ)らなんて、お茶目にもVサイン(ピース)をしてるじゃないか」
「あれピースじゃなくて目潰しの形だろ多分。気ぃ抜いたらマッハで突っ込んでくるぞ……ほら!」
案の定、突っ込んできた目潰し(ピース)を躱しつつ、エスタシュは小さく息を吐く。
「この嵐……椋にとっちゃ極楽かもしれないが……こっちにとっちゃ地獄だな」
「なんだ。それなら地元じゃないか」
「だからこそ、格好の悪ぃ姿を晒して里帰りなんざ真っ平だ」
烏の姿になろうとも、竜の導く骨(かれ)らは容赦一つなく、エスタシュへと襲い掛かる。
無軌道に犇めくそれら相手に計算など有りはしない。第六感の赴くまま、縦横無尽に空を飛び、骨と骨の僅かな隙間をすり抜けて、エスタシュは竜の後を追いかける。
骨の余白を抜ける都度、骨(あらし)の密度も上がっていく。先行く竜が意図的に困難な道を選んでいるに相違なく、遂に、これならどうかと言わんばかりに眼前へ現れる大骨塊。
みっしりと。隙間(にげば)なく――ならば、真正面から行くだけだ。
最高速度。群青色の地獄から、撃ち出されたのは黒風切り羽。無数の羽(やいば)を一点に搔き集め、真白の骨に突き立て、穿ち、切り開く。果たして、ワタリガラスは難なく試練を突破して見せた。
「どうだ、見てたか? この黒曜の羽、嘴の曲線。羅刹でも男前だがこの姿もイケてるだろ?」
会心の立ち回りから、エスタシュは自信満々に椋の応えを求めたが、
「ああ。そうだな。ナス美味いよな」
こいつ絶対烏の体色から適当に連想したろ。椋はエスタシュの話を聞いていなかった。
「うん。そっかー。ソーダヨネー……たまには生身の俺に興味持ってクダサーイ」
「わかってる。煮びたしか、それともカレーかという話だろう」
「全然違ぇ!」
……そもそもエスタシュが骨の嵐と激闘を繰り広げていた間。椋のやっていた事と言えば只管に、ナガレの手入れだ。
「いや。森を突っ切った時だろうか。中々面倒な場所に泥が跳ねていて。それを取るのに今まで難儀してたんだ」
椋の額には玉の汗。エスタシュと同じ道・同じ試練に立ち向かったはずなのに、本当にそうだったのかと疑うレベルで温度差が凄い。
――献身(シェード)。
黒い靄が椋自身と骨を覆う間、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
そのユーベルコードの発動条件は『非戦闘行為に没頭していること』。やり方が違うだけで、エスタシュとのやり取りも、ナガレへの手入れも、椋にとって弾幕(あらし)を突破するために必要不可欠なモノだった。
「こうする間、彼女に傷はつくまいよ。それに、無傷(ノーダメージ)で試練を突破できるなら、骨竜(かれ)としても文句はないだろう」
確かに骨竜は何も言わない。グリモア猟兵も弾幕の攻略は個々の判断に委ねられると言っていた。ならばこれも『有り』なのだ。
恐らく未だ道は半ばだが、労うように、椋は黒の靄が作る静謐の中でナガレの背をゆるゆると撫でた。どれだけ嵐が吹き荒ぼうと、それを邪魔する弾幕(ほね)はいない。
「嗚呼、全く。この白い流線の麗しいこと。なぁ、キミもそうは思わないか」
不意に。椋は骨竜(かれ)へそう話を振ると、二人の実力を認めてか、表情(かお)が無い筈の竜が幽か――綻んだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
草守・珂奈芽
おー、この世界の竜もカッコいいのさ!
あたしは翼だけ竜っぽいけど、いちおー弱くないから安心してよね!
あ、草化媛は抱っこして連れてくのさ
あたしは雷の飛竜についてくのさ
回避優先で行くけど、そのために色々工夫してくよっ
まず《召喚術》で雷雲の中の精霊さん達さ呼んで、助けてもらうつもり!
《天候操作》とか《属性攻撃》の応用で雷を逸らしたり掻き消したり、弱めてくれるだけでも助かるからねっ
掠るぐらいなら鱗と強化した晶石の羽衣で耐えてみせるのさ!
あと雷雲の中って雹や乱気流もあるらしーけど、
《念動力》さ使って姿勢制御したり多少の雹は弾いてくつもりなのさ
恐いけど、空を飛べるって楽しいし飛竜に負けてらんないかんねっ!
「おー、この世界の竜もカッコいいのさ!」
地水火風な正統派から、鮫やら霊やら謎で不可思議な変わり種まで。ずらりと集った飛竜達を見渡して、草守・珂奈芽(意志に映す未来・f24296)は心のままに感嘆の声を上げた。
けれど、感心ばかりしてはいられない。この景色が壮観であればあるほど、即ち敵集団(ゴール)までに至る道程も無数にあるという事。
さあてどの竜の後を追おうかと思案してしばらく。不意に、何処(いずこ)からの視線を感じた。
魔導人形・草化媛と共に振り向いてみれば、そこには飛竜の縦長の瞳。どうやら、興味津々に周囲を観察していたのは、猟兵(こちら)だけでは無かったらしい。両の瞳をまん丸くしたまま、金色の飛竜が珂奈芽に近づく。
ぱちり、竜の周囲で電気が爆ぜた。心の裡を読むまでも無く、それは彼なりの自己紹介だったのだろう。『俺は雷を操れるが、お前は一体何が出来る?』と。
「んー……あたしはねー、例えば……こーいう事が出来るよ!」
言って、意識を集中し、珂奈芽が変じて見せたのは――蛍石の竜鱗を纏い角を飾った、竜の如き姿。それは自身の内で微睡む可能性を目覚めさせたモノだ。
珂奈芽の変化を見届けた飛竜は、何やら余裕の表情で、自身の爪部を見せびらかす。おそらく――『自分の爪の方が鋭いぞ』と言いたいのだろう。
まだ不完全な変化故、そこの所を突かれると珂奈芽としても一寸弱いが、それはさておき、と軽めに受け流し、フローライトの翼を広げ、草化媛を抱えると、珂奈芽は改めて飛竜と言葉を交わす。
「あたしは翼だけ竜っぽいけど、いちおー弱くないから安心してよね!」
それはこの先の試練でわかる事、とでも云うように、飛竜は翼を大きく広げ、嵐の空へ翔び出した。有象無象の弾幕を振り切って、彼が征くのは迅雷の、さらにその彼方だ。
間近に走る稲光。黒雲の内は灰の空よりなお暗く、しかし地上の何処よりも明るい。縦横無尽に輝く光がいずれ落ちてくる前に、珂奈芽は雷雲の中の精霊たちへ呼び掛ける。
「精霊さん達、ちょっと助けて欲しいのさ!」
そんな珂奈芽の呼び掛けに応えて断り沈黙し、精霊たちはまるでばらばらの反応を返す。
……はしゃいでいる、と珂奈芽は感じた。この島の全土を覆う『精霊嵐』。黒幕のユーベルコードに充てられて、彼らが活性化したのがその原因の一つだろう。
兎も角応じてくれた精霊たちの協力で、頭上に光る雷の軌道を少々修正し、さらには必要とあらばこちらも雷を集めて放ち相殺させ、進路の安全を確保する。
「うーん、目がちかちかしてきたよ」
金の瞳を瞬かせ、瞼の裏に焼き付いた雷の軌跡を振り払う。しかし飛竜も意地悪く、羽搏くたびに音へ光へ舵を切る。そして珂奈芽が気付けば、避けるのも困難な弾幕(あらし)の中。
がくん、と突如の乱気流に翼を取られ天地の感覚を喪失し、大粒の雹が容赦なく全身を打つ。
それでも決して諦めない。瞬間的に思考し咄嗟、念動力で体勢を立て直すと、精霊達のささやかな電撃が雹を弾く。万が一にも離さぬように、草化媛をぎゅっと抱きしめて、可能な限りの天候操作で雷(ひかり)を弱め、それでも駄目なら自身と竜鱗と晶石の羽衣を信頼し、覚悟を決める。
「これが試練だって言うのなら、何とか耐えて見せるのさ!」
……交差は一瞬。雷は鱗を掠め、音も光も過ぎ去った随分後にじんわり衝撃を感じたが、鱗の数枚を焦がした程度でけがは無く――いいや。少し体がぴりぴりとするだろうか。
「恐いけど……空を飛べるって楽しいし、飛竜に負けてらんないかんねっ!」
珂奈芽の機転を窺っていた飛竜は、その言葉に目を細め、雷雲の中に消えた。
あるいは、試練に打ち克つ者が現れるかもしれないこの状況を楽しんでいるのかもしれない。
ここから先、嵐はさらに厳しくなるだろうが――終点まで、きっともう少しだ。
大成功
🔵🔵🔵
流茶野・影郎
久遠寺(f37130)と同行
困ったぞ、こういう時の技能はからっきしだ
何せ、戦闘屋だったからね
とは言え、誰かに運んでもらう時代でもないのなら努力はするさ
俺は石礫が激しいであろう石属性の飛竜についていく
あ、乗って良いんですね
それじゃ早速……
キャスター・イグニッション
『キャスター・スティンガー・ブレイク』
魔法陣を作って、飛んでいくる石礫の速度を落とす
後はまあいつものようにだね
飛んでくるものを避け、打ち払い、時に舞うように掻い潜る
まあこれでもエアライダーさ、まだまだ身は軽い
で、久遠寺生きてる?
もうちょっと楽な手はない?
生きてるようだな
そして楽な手は無いと
しょうがない、竜の上で構えるか
久遠寺・絢音
流茶野先輩(f35258)と
(たまにふざけて親分と呼ぶ。昔の呼び方)
モーラットいるんだ!?!?
私はガチの戦闘屋ではないから支援とかなら
でも竜に乗るのは初めてねえ
えっと、飛竜は……私をじーっと見てるあの子にしようかしら
(ハグロトンボのような翼の虫竜の前脚とハイタッチして)
私に襲い来るのは虫属性の大群ね
では、落ち着いて集中して……絡新婦の羽衣ッ!
虫は蜘蛛の糸に引っかかるものでしょ?
……あっ、虫竜ちゃん大丈夫よ!?君は食べないから安心して!
先生との約束よ。ほら、おやつがいっぱい飛んでるわよー
(なだめるように首を撫でて)
はーい、死んでないわよ
先輩も大丈夫ー?
楽に突破はさせてもらえないようねえ
「え!? モーラットいるんだ
!?!?」
弾幕より飛竜より何より、久遠寺・絢音(銀糸絢爛・f37130)が驚いたのはこの部分。
なぜだかみんな軽く流していたけど、あのモーラット一体何なのか。SSRとか言ってたし、何かのはずみで召喚されてきたのか、それとも神隠しで偶発的にこの世界へ流れついたのか。
――などと考えているとこんがらがってくるので、矢張り軽く流しておくのが正解かもしれない。
「困ったぞ、こういう時の技能はからっきしだ。何せ、戦闘屋だったからね」
そんな絢音のすぐ横で、流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・f35258)はどうしたものかと至極真剣に思案を重ねる。
「……とは言え、それが足を止める理由にはならないな。誰かに運んでもらう時でもないのなら努力はするさ」
いっそのこと、己のフィジカル一つで問答無用に踏破するのも選択肢に入ってくるかもしれない。
ともあれまずは飛竜を視る。望む属性(ルート)があるのなら、それ『らしい』飛竜の後をついて行けばいいと言うが、不思議なことにこれだけ無数の竜が居て、影郎の目当ての竜は見つからない。既に飛び去ってしまったか、それとも――。
「もしや……これか?」
ざわめく森の端の端。半ば打ち捨てられたように埋もれていた竜の石像に触れてみると、それは土を振り払い地を踏みしめ鳴動し……石の属性(はだ)を持つ飛竜が、そこに現れた。
「それじゃあ私は……こっちをじーっと見てるあの子にしようかしら」
絢音が指さしたその先は、石の竜が眠っていた森の端よりさらに奥。深い緑を影にして、大きな二つの複眼が。
指名されるとは思ってなかったのか――意外と弱気な気質なのかもしれない――おっかなびっくり現れた複眼の、その全貌はハグロトンボによく似ていた。
「虫竜(ドラゴンフライ)か……本当に何でもありだな」
呟いて、影郎は自身が選んだ石の竜を見遣る。いかにも重厚なその体躯。翼は有れど飛べるのか――そんな影郎の疑問を察したか、石竜は自ら翼を広げ、森の上空を二周三周と飛翔して見せた。
そうして見事に着陸もこなした後、大きなその身を屈めると、影郎へ、自身の背に乗る様促した。
「あ、乗って良いんですね」
思わず恐縮してしまった。それでは早速、と、竜の背に。
石だけあって少々ごつごつしているが、乗り心地はさほど悪くはない。
「私も、支援とかなら色々こなして来たけれど、ガチの戦闘屋ではないから、意外と……竜に乗るのは初めてねえ」
よろしく、と虫竜の前脚とハイタッチを交わし、絢音もまたその背に乗った。
それを確かめた虫竜は四枚の羽を開き、絢音を空の試練へと誘う。
「それじゃあ親分、また後で」
「ああ。暫しの別れだ。お互い無事に」
斯くして、石と虫、猟兵を抱くそれぞれの飛竜は、島の運命を変えるため、それぞれの弾幕(あらし)の中へ消えてゆく。
――流星雨、という単語が影郎の頭を過る。あれは要するに、超高速で地球に落ちる石の礫だろう。
ならば石の嵐(ここ)は、流星雨の只中か。大、小、破片、見飽きる程の石礫が、死を帯びた速度で過ぎ去り、また迫る。
石の竜が意図的にそうしているのだろう。石の礫がどれだけ彼の身体に当たろうと、彼は決してビクともしない。頑丈な体に任せて、このまま弾幕(あらし)を突っ切るつもりだ。
だが自ら背中に乗せた癖、この飛翔は影郎の存在をまるきり無視したものだ。きっと影郎が礫に当たって振り落とされても、竜は止まりはしないだろう。
「自分の身は自分で守れと。そう言う事か。ならば……」
キャスター・イグニッション。
自身の眼前に魔方陣を展開し、それを通過した石礫の速度を十分の一に落とす。
運動エネルギーこそ何より単純(シンプル)で脅威。だからシンプルに、その脅威を削ってやった。
人の手で御し切れる速度ならのものならば、避けるも容易、払うも容易、時に舞踊を演じるが如く掻い潜り、後はただ、徒手を持って、いつも通りに。
普段と差があるとするならば、ここが竜の背の上であるということくらいだ。
「まあ、これでもエアライダーさ、まだまだ身は軽い。これで不足だというのなら、気のすむまで打ち込んでくるといい」
言いながら、流麗に礫を捌き続ける影郎に、石の竜は称賛の咆哮を返した。
「この子の背に乗った以上、私に襲い来るのは……」
ごうと流れる風の中、僅かに混じり始める羽の音。秩序だったリズムを刻むその音は、鳥のそれとは程遠く、となると、やはり。
絢音は僅か苦笑する。想定通りだったことを喜ぶべきが、想定以上の大群が到来したことに呆れるべきか。
曇天(くも)を埋め尽くすその弾幕の正体は、無数の雀蜂だ。
「まぁ、虫と毒ってセットみたいなところあるわよね。出来れば蝶々とか、無害どころに来てほしかったけど……」
ごめんなさい、とでも言いたげに、虫竜の身体が揺れた。
解ってる。それじゃ試練にならないから、と絢音は笑い、目を瞑り、意識を集中する。
蜂の羽音が、ひどく近くに聞こえた。
――けれどまだ早い。
がちがちと、咢の叩く音がする。
――まだ早い。
無数の毒針(さっき)が、皮膚に触れようとするその直前。
――今!
「絡新婦の羽衣ッ!」
集中してからきっかり10秒。絢音の指先から放たれた蜘蛛糸が、無数の蜂を絡め取る。一網打尽だ。
「虫は蜘蛛の糸に引っかかるものでしょ? ――あっ、虫竜ちゃん大丈夫よ!?君は食べないから安心して!」
いい具合に決めたつもりだったが、まさか自分も、と予想外に虫竜が同様したので、絢音は宥める様に彼の首を撫でる。
「先生との約束よ。ほら、おやつがいっぱい飛んでるわよー……え? 試練中だから食べない? 真面目ねぇ」
そこの所は、昨今の生徒達に見習わせたいくらいだった。
「――で、久遠寺生きてる? もうちょっと楽な手はない?」
……おそらく偶然の産物だろう。岩の嵐と虫の嵐が同時に途切れたその間隙、お互いに、多少の言葉を交わすだけの時間があった。
「はーい、死んでないわよー。先輩も大丈夫ー?」
ここまで無事という事は、お互い赤点取った訳でも無し、だったらこのまま続行でしょうねぇ、と、絢音は影郎に答えた。
「生きてるようだな。そしてそうか……楽な手は無いと」
仕様がないと肩を竦め、影郎は竜の上で構える。
間隙の終りを告げるのは矢張り、礫と虫の大軍だ。
「わかってはいたけれど……お互い楽に突破はさせてもらえないようねえ」
本当に、ほんのわずかな時間だったが……二人は互いに頷き合うと、再び、己の『試練』と向き合った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
上野・修介
※アドリブ連携歓迎
自分たちの住処の存亡に関わるというならば、戦力にならない半端な猫の手など不要というのも道理だろう。
「委細承知しました。」
なんにせよ、元より半端をするつもりはない。
彼らの矜持に応える為にも、全身全霊で事に当たる。
調息、脱力、目付は遠くの山を観る様に。
飛竜の行く先を見据え、進行上の地形状況と障害を確認。
「推して参る」
付いていくのは石属性の飛竜。
自身の五体を以てその背中を追う。
UCは基本的に防御重視。
得物は徒手格闘。
スピードを落とさないようには回避行動は極力最小限に。
障害を避けきれないと判断した場合は瞬間的にUCを攻撃重視に切り替え、拳を叩き込んで破壊し対応。
吹かれざわめく緑の色が、より一層に大きく揺れて、みしり、と、すぐ近くから木々の倒れる音がした。
この森(ばしょ)も、もう安全とは言えないのかもしれない。『ねぐら』が空の底に沈むまで、そう多くの時間は残されていまい。
自分たちの住処の存亡に関わるというならば、戦力にならない半端な猫の手など不要と断じるのも道理だろうと上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)は飛竜達に理解を示す。
――故に。突如自身の頭上に影が落ち、その直後、高高度から飛竜が突撃を仕掛けて来ようとも、修介は動じない。
両掌を翳し、突っ込んでくる飛竜を素手で待ち構える。刹那、接触と同時に腕へ伝わる重さと衝撃。地を踏みしめているはずなのに、踏みしめたまま後ろに圧され、しかし拮抗し、遂には堪え切って受け止めた。
飛竜が唸る。修介は改めてその姿を確認すると、その大きな外殻(からだ)は岩の如く、そして武骨な全身は漏れなく罅や傷まみれ。
……この飛竜も、相当に『鍛えている』のだと修介は直感する。奇襲を仕掛けてきた意図は、仮に『半端な猫の手』が居たならば、試練の前にふるい落とすつもりだったのだろう。
翼を広げた飛竜は修介をぎょろりと一瞥し、そのまま視線を誘導するように、森の外を見遣る。
「――委細承知しました」
先ずは合格、という事だろう。抜き打ちの手荒い審査だったが……何にせよ、元より半端を晒すつもりもない。
どれほど困難な道行きであろうと……彼らの矜持に応える為にも、全身全霊で事に当たるのみだ。
石の飛竜の後を追い、森の外へと踏み出せば、そこは礫と岩壁に塗れた冷たい荒野。
見晴らしばかりは良かったが、動物も、植物も、命の気配は感じない。すべて弾幕(あらし)に追い立てられてしまったか。
修介と、飛竜以外は何もない。頼れるものは五体のみ。ならばここから先は、自分との戦いでもあるだろう。
グローブを填め直し、息を整え、先ずは脱力。視界は広く、遠くへ、俯瞰するように。
飛竜の行く先を常に見据え、同時に、地形の状況と障害物を把握する。
砂と土を掃くように、荒野に風が吹き抜けた。
「……」
静かすぎると、不意に思う。
――いいや。きっとこれは、嵐の前の……。
「推して参る!」
意を決し、修介が駆けたその直後、荒野が大きく悲鳴を上げた。
弾幕(あらし)が来たのだ。石も、岩も、砂も。無機物という無機物が横殴りに、徒党を組んで修介へと降り注ぐ。
それでも足は止められない。岩場だらけの不安定な進路(ルート)から、比較的走破しやすい道を見極めて、飛竜の後を追いすがる。少しでも速度を落としたら、恐らくそのまま置き去りだ。
岩か瓦礫か、前方からの飛来物。首を傾け、体をそらし、最小限の動きで回避する。
しかし荒れ狂う天候が、容易い弾幕(いわ)ばかりを運んでくるとは限らない。最小限の動きでは躱しきれない密度の礫を後から後から送り込んでくる。
だとしても、黙ってやられるつもりは無い。寄って集ってくるのなら、殴り返してやるだけだ。修介は己の拳で礫を払い、前へ前へと突き進む。弾幕の齎す痛みなど、あの飛竜の突撃に比べればどうという事はない。
――ほんの一瞬、視界の端で、石の竜が此方に振り向いた。
あの竜の気性上、こちらの身を案じての行動ではないだろう。何か仕掛けてくる筈だ。
……安全靴が踏む区域(いし)の質が変わった。瞬刻、眼前には、山肌からこそげ落ちたかの如き長大な岩壁と、ごとり、後方より幽かな異音。
第六感が告げている。そして、ここが『嵐』の渦中なら、『そう言う事』もあり得るかと即座に納得した。
――力は溜めず、息は止めず。特別な事は何もなく、総ては『基礎』の延長だ。
異音の正体は、風の向きも物理法則も完全に無視して迫る大岩塊。
修介は一度と後ろを振り返ることなく覚悟の紙一重で岩塊をやり過ごすと、拳を握り締め、
「意地は貫く!」
更に体ごと加速して岩壁に叩き込む。
真二つになった岩壁は、そのまま嵐に攫われ粉々に。
開けた視界の先には、不敵な表情(かお)の石の竜。
どうやら試練には、まだまだ先がありそうだ。
成功
🔵🔵🔴
バルディート・ラーガ
矢来の兄サン/f14904
おうおう、こりゃまた随分とおっかねエ空模様な事で。
立派な船よかア当たり判定の小さな身ひとつで飛んでく方が楽かしらン。
とくりゃア、兄サンもあっしの背エに乗って行かれやすかい?ヒヒヒ。
蛇の身とて天を奔れば、すなわち龍にございやす。
【天駆ける竜舞】の背に「羽織りマント」の兄サンを背負やア
黒布はためく忍者に騎龍、中々画になってンじゃねエかしら?
あっしめの鱗と渡したマント、いずれも「火炎耐性」の備えアリ。
ここは火竜サンの尻を追って火イの道へと向かいやしょ。
火弾の間を細身ボデーでスイと進み、避けきれねエ障害はお任せ。
これにて試練も上々……エッ?最後に末脚飛ばして差し切り先着を?
矢来・夕立
蛇さん/f06338
なんですかあの態度は。スカしやがって。こっちの東洋ドラゴンの方が強い。
…。強いので乗ってあげないこともないです。まあまあ楽しかったし。
火ン中通るみたいなんで蛇さんの外套を借りました。燃えないヤツ。
それ以外の障害は全部オレが排除します。
火砕物が降ってきたら痛いでしょ。それにこんな天気じゃ他に何が降るか分かったもんじゃない。
背中の上で荒っぽい動きをするかもですがお気になさらず。
最後に追い抜いてくれないかな…ナメられたままは気分が悪いし。見てみたいな、王道系火竜の吠え面…
あっ聞こえてました?いえ独り言ですんで気にしなくていいんですけど
ちょっと駆け足してみません?
広く大きな浮島の、ほんの小さな外れの森。数多の竜が唸り羽搏くその場所で、何より矢来・夕立(影・f14904)の目を引いたのは、炎の如き赤の飛竜。
他の飛竜より一回り大きな体躯。雄々しき両翼を寛げ、何に憚ることも事も無く、まるで君臨するように。悠然とそこに在るだけで周囲の大気が揺らぐ。
――陽炎。十数歩と離れていても、赤竜より発せられた熱を感じる。炎の如く、ではなく、それは炎そのものなのだろう。
王道中の王道。伝説や、冒険譚で語られるままのドラゴンの姿。
火竜は視線を返す様に、夕立を睥睨する。瞬き一つもしないまま、じいと凝視していたかと思えば数秒後。嘲るように小さな火(ブレス)を一つ吐き、弾幕(あらし)の空へ飛翔する。
『試練を突破できると云うのならその身で示せ』。火竜の鋭い瞳が、そう語っているように見えた。
が。
「――は?」
夕立は大分イラっとした。
大体あのスカした態度何なのか。危急の時は言え他人に取るべきものじゃないし、何よりあの不躾かつ不愛想な目つき。絶対自分を一番上に位置付けて、『愚かなる人間よ……』とか思ってる奴のそれに相違ない。
いっそ悠然と空飛ぶ火竜の尻尾目掛けて式紙の一つでも放ってやろうかと思ったが、バルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)と行動を共にしている手前、夕立は努めて冷静に。
冷静に、
冷静にあの竜どうしてやろうかと思案する。
「……おうおう、こりゃまた随分とおっかねエ空模様な事で」
そんな夕立の企みをよそに、バルディートが空を見遣れば、刻一刻と悪化し続けている嵐の様相。突風に洒落たハットを取られぬよう、自身の黒炎(て)を頭の上に置く。
「こいつぁ立派な船よかア、当たり判定の小さな身ひとつで飛んでく方が楽かしらン。兄サンはそこン所どう思いやす?」
そう夕立に訊きながら、バルディートは姿形を大きく、巨きく変えて、全長三十メートルを優に超えるであろう多腕の東洋龍に成ってみせる。
「そうですね。こっちの東洋ドラゴンの方が絶対強い」
「おや。突然のお褒め頂き光栄ってなモンですが、そりゃまた一体何処(どっち)の話で?」
「私的(こっち)の話です」
「成程。それじゃあ兄サンどうでしょう。あっしこれから嵐の中をちょいと一駆け。兄サンも。強ォいあっしの背エに乗って行かれやすかい?」
ヒヒヒ。と。姿形が変わっても、バルディートはいつも通りの軽薄さで、夕立を自身の背に誘う。
「……。強いので乗ってあげないこともないです。まあまあ楽しかったし」
「そいつぁ重畳。そうと決まればほら、こいつも」
バルディートは多腕の一つを動かして、黒い外套(マント)を夕立に渡す。
「道中は、そいつを被っといておくんなせぇ。いつも羽織ってるお月様が何かの拍子に焼け焦げたんじゃ、縁起が悪くていけねェや」
では遠慮なく、と夕立は何時も違う外套を身に着けて、常時(いつ)もと同じ眼差しまま嵐を見据える。
――さァさ準備は良いですかい? そうして東洋龍は飄々、空を行く。
森を抜け、そのまま威風堂々たる火竜を追えば、眼下には灰を晒す燎原。
空は赤く、雲は紅く、飛竜の進路は、正しく火中だった。
「――蛇の身とて天を奔れば、すなわち龍にございやす」
烈火・猛火・燐火に業火。煌々と、天の端から地の隅まで、総てを焼き尽くす炎の坩堝。
「おおっと、アチチ、掠めちまった。この姿、年齢(トシ)数ほど大きくなるんで。あっしもまだまだ成長期ってヤツでさァ」
多少の炎で、バルディートの鱗(からだ)を焼くことは出来ない。四方から押し寄せてくる火弾(ねつ)を躱し、緑の竜は嵐を渡る。
「この姿の背に羽織りマントの兄サンを背負やア、黒布はためく忍者に騎龍、中々画になってンじゃねエかしら? そう考えると失敗(しく)ったなァ。野生の絵師の一人でも引っ張って来りゃあ良かったカモで」
ちょいと風情にゃ欠けますが、ガラケーでパシャリと一枚いっときやすかい?
ごう、と、前方から、無数の炎がやって来る。それでもバルディートが軽口をやめないのは、それらを回避する自信があるからだ。
煮え滾るマグマが噴き上がる。弾幕? 弾幕ってこういうのじゃ無ェでしょうよ、と苦笑を零しつつ、飛沫のアーチをするりと抜けた。
「折角ですが、仕舞っておいた方が良いですよ。火砕物が降ってきたら痛いでしょ。それに、断(き)った火の粉の行き先までは、保証できませんから」
直上。嵐を照らしていた無数の炎弾(太陽)が落ちてくる。夕立は雷花を引き抜き、するりと龍の背の上に立った。
「少し。背中の上で荒っぽい動きをするかもですが。お気になさらず」
「おっと、そいつぁちょうどいい。最近どうもその辺りが凝ってたんで」
ならば存分に。夕立は三十一メートルの足場全てを使って、迫る炎を迎え撃つ。
赤い空に剣閃一つ軌跡が走れば、忽ち炎は真二つに。それでも弾幕(あらし)は見苦しく、火の粉を散らして爆ぜ消える。
それでも夕立は涼しい顔で、豪熱の太陽たちを竜檀する。バルディートから借り受けた羽織りマント、その耐火性能を持ってすれば、この程度の炎(あらし)など小雨に等しい。
それでも天変地異(さいやく)を気取るなら、こちらも災厄をぶつけるまでだ。朱く熱した雷花を休め、もう片方、炎弾に殺戮刃物を突き立て、砕く。青の炎(いろ)も赤の炎も、皆平等に掻き消した。
「全く。こんな天気じゃ他に何が降るか分かったもんじゃない」
「ひひひ。此処はドカンと一つ、隕石なんぞが降ってきたら……どうしやす?」
「そうなったら――その時に考えるまででしょう」
陽が全て落ちると、試練の終わりが近いのか、嵐が大分弱まった。
これにて試練も上々と、バルディートは笑う。此方の被害と言えば、精々ふさふさの尻尾の先が焦げたくらいだ。
しかし夕立としてはこのままでは終われない。
いいや別に終わってもいいのだが、それはそれとして終わりたくない。
「最後に追い抜いてくれないかな……ナメられたままは気分が悪いし。見てみたいな、王道系火竜の吠え面……」
そんな秘めたる本音(おもい)がぽろっと口から出て来てしまった。
「エッ? 最後に末脚飛ばして差し切り先着を!?」
その本音は、バルディートにとってはまさに寝耳に水の独り言。
「あっ聞こえてました? いえ独り言ですんで気にしなくていいんですけど。ええ。いや、いいんです。いいんです本当に」
「何だ兄サン、冗談で。まァ、そろそろ竜の尻も見飽きてきたし、あっしとしても吝かでは――」
「えっ」
「えっ?」
暫しの、間。そして。
「ちょっと駆け足してみません?」
「出来らァ!」
と最後の直線で、バルディートは駆け出した。
最高時速10200キロは伊達じゃない。火の玉火の海すり抜けて、緑の竜は慌てて飛翔する飛竜との距離をみるみる追い詰め――。
結果的に、誰より一番最初に竜の試練をクリアしたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アメリア・バーナード
※アドリブ連携OK
精霊嵐も凄いけど、道中もなかなか過酷ね……。
でも、そっちが私達を試すなら、受けて立つわよ。
キャバリアに搭乗するわ。
マイニングエンジン始動、最高速度。
地とか石とか土とか、その辺の属性の飛竜を追いましょう。
礫は装甲で弾き返して進むわ。
ビッグモールの重装甲なら何とかなるんじゃないかしら。
適時レーダーを気にしながら行きましょう。
これで何かあってもすぐにわかるわ。
もし大きな瓦礫や厚い弾幕が飛来したら、EPグラビティバレットをガトリングで撃ち出して迎撃。機体への被害を減らしましょう。
岩場が立ち塞がっても大回りはしないわ。
UC展開、ドリルで穴を開けて、直線最短距離で飛竜に追いついてあげる!
「精霊嵐も凄いけど、道中もなかなか過酷ね……」
風に吹かれて焦茶色の髪がそよぐ。森と外界(だんまく)の境界線、アメリア・バーナード(量産型キャバリア乗り・f14050)は先に試練へと飛び込んだ猟兵(なかま)達の姿を眺め、嘆息する。
「……でも、そっちが私達を試すなら、受けて立つわよ」
その言葉を聴いたか、地より動き出すのは苔むした土の塊――否。それもまた一匹の飛竜だった。のそりと動き出した地の竜は、のろのろと自身に付着していた土砂を振り落とし――それでも体が一回り小さくなった程度で、土の塊の見てくれは覆らなかったが――ゆっくりと森の外へ飛翔する。
他の飛竜と比較して、興奮しているとか、怒っているとか、そう言う様子は一切無く、島の危機にあっても、泰然自若をそのまま形にしたような……もしかするとこの竜は、他の竜より相当に年齢を重ねているのかもしれない。
だが、だからと言って、それで道中が楽にはなるまい。油断は禁物、それは百も承知している。
故にアメリアは、自身が持つ最高の装備で試練に挑む。それは即ち鉄の巨人、量産型キャバリア・ビッグモール。
巨大なる機械、ビッグモールを見遣っても、土の竜は動じない、むしろ手招きするような、人懐こい動作を交えて嵐の中へ誘おうとすらしてくる。
「マイニングエンジン始動、最高速度」
受けて立つ。この先何が在ろうとも、二言は無い。ビッグモールの性能を信じて進むのみ。
履帯が大地に足跡(ライン)刻む。土竜が案内した先は、巨大な渓谷だった。
谷底に流れていた河(みず)が干上がって、もうずいぶん経つのだろう。干乾びた道をいくら進んでも水源は見当たらず、代わりに流れてくるのは、土・岩・古木・化石に廃墟、それらがすべて含まれた無数の礫だ。
「地属性……大地に埋まってそうなものなら、何でもありって事ね……けど!」
この密度なら、回避できないことも無い。だが、ここは下手に動き回るより、ビッグモールの装甲を頼りに突っ込んだ方が良いだろう。
がつん、どすんと装甲越しに音がする。小石の接触する音は、雨音とよく似ていた。だが、これが嵐と言うのなら、こんなものは序の口だろう。
そんな予想がそのままに、石(あめ)の音を掻き消して、アラートが鳴り響く。即座レーダーを覗き込めは、そこには大きな飛来物。ビッグモールと同様の威容を持つそれらが、あり得ない速度で上流より接近してきたのだ。
あれは流石に受けきれない。ならばとアメリアはガトリングキャノンを前方へ、間髪入れずに撃ち放つ。
道が狭い、身動きがとりにくい。それは向こうも同じこと。相手がキャバリアと同等の大きさだというのなら、こちらの十八番だ。乱射・乱撃咲き乱れ、炸裂した弾薬(グラビティバレット)は、命中した対象を強制的に地へと縛り付ける。
火花が散った。大岩を、土塊を、廃墟を、立ちはだかるものを全て打ち砕き、砕き切ったその果てに――履帯は止まる。
渓谷の終点。あとはただ、高い崖がそびえるだけの行き止まり。
しかし土の竜は悠然と、進路を変えることもなく、ずぶりと壁に埋まり、出てこない。
「……ん?」
暫く待機していたが、いよいよ気になってレーダーを確認してみれば、なんとあの竜は、平然と地中を進んでいるではないか。
『ついてくる気があるのなら、山脈程度は抉って見せろ』とでも言うように。
「だったら望み通り……抉り抜いてあげるっ!!」
唸りを上げる駆動音。回転する螺旋。アメリアは、自身の闘気をビッグモールの両腕――一対のドリルに託して渓谷を掘削し、レーダー上の飛竜を追う。
――土の竜の進路は、地形も障害物も無視した正真正銘の……最短経路だったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
イージー・ブロークンハート
【焔硝】
こちとら迷子体質で野山に放り出され慣れとんじゃ走って追っかけるこれしきのことお!
【集中力】に【第六感】【見切り】を駆使して追っかける!胡麦がナビゲートもしてくれるから大丈夫だもん!(嵐の中森パルクールに若干涙目)
植物の竜か、見たことなかったや!かーっこいい!
こいつらが気ままに飛び回ってるとこ、絶対見たいよな、胡麦。
基本は追尾に集中!
降り注ぎ伸びる枝を胡麦の作った壁が防ぎ迫り上がるんで、足を引っ掛けて、胡麦の高さまで、ジャンプ!
全力を出した胡麦に何かあったら、多分体質(UC)が発動して、虹の橋まで助けに現れる。
まず味方も守れなきゃ、竜のねぐらだって守れないわけだし。
(アドリブ他歓迎です)
百海・胡麦
【焔硝】アドリブ歓迎
イージー殿!蔦が来てる!!左上空!
見たい見たいよ。幼い頃から焦がれ続けた
竜に逢えたんだもん!
「天人」…箒で空翔け
「息名」を綿(おさかな型クッション)に変化させ鞭を弾き
【仙術を駆使し、大声で道案内】
ほんと楽しそ
アタシも駆けたい、貴方たちのよう軽やかに!
綿を壁に刃に変化させ迎撃
花の刃を咄嗟に弾くと
貴方がくれた「風誘い」に目が留まる
そーだ
舞い上る貴方に向け
息名を伸ばし、風送れば巨大な彩雲の結界に
元が炎だ、風で煽りゃこの位
愛しい人の足となれ
そのまま緑の嵐へ「蜜霰」を撃ち込み
媒介に術発動
ほーら…砕けた欠片繋いで——空登る夢の橋!
そうね、こんなのは全力でやっと
憂いは貴方が断つと信じてる
――『植物の竜か、見たことなかったや! かーっこいい!』……と。最初の森から抜け出した、あの飛竜を追いかけて、一体どれくらい経ったろうか。
地を蹴って、前へ前へと、視界(かお)に撥ねた泥を拭いながら、イージー・ブロークンハート(硝子剣士・f24563)は樹(みどり)の海を掻き分ける。
『この島は豊かすぎるくらい自然豊か』……あのモーラットは確かにそんな事を言っていたが、それにしたって限度があると思う。
起伏に富んだ地形。空の色すら見えぬほど、伸び放題に伸びた草木。無数の羽虫の塊が悉く進路を塞ぎ、そこまでならばまだいいが、見たことも無い極彩色の鳥類につっつかれ、背後から血に飢えた肉食獣の唸り声らしきものが聞こえたあたりから、最早試練とは別口の脅威に片足突っ込んでいるのでは? という疑念を捨てきれない。
なんだか心が折れそうだ。
「いいやまだまだこちとら迷子体質で野山に放り出され慣れとんじゃ走って追っかけるこれしきのことお!」
実際前へ進むたび、数十秒間隔で折れているのだが、その都度瞬時に立て直し、イージーはただひたむきに駆け抜ける。
そう。第六感の赴くまま、緑の竜を目印に、今にも崩れ落ちそうな天然のトンネルを潜り抜け、枝葉に隠れた落とし穴を見切り、眠れる大蛇の尾を踏みつつも、息を整え集中し、底なしの崖を飛び越えて、イージーは今――。
「あれ? ここさっきも通らなかったっけ?」
そこはかとなく迷子になっていた。
視線を落とせば、そこには自分が刻んだであろう古い脚跡。疲労がどっと押し寄せて、これにはさすがのイージーも、目じりに若干の涙を浮かべて崩れ落ち――その刹那。
「イージー殿! 蔦が来てる!! 左上空!」
「えっ……? うおっ!?」
緑の海に百海・胡麦(遺失物取扱・f31137)の大声が木霊して、イージーは咄嗟、その場から飛び退く。
即座、涙の吹き飛んだ両の目で状況を確認してみれば、一瞬前までイージーが居たその地点には、獲物を捕らえようとうねりのたうつ緑の蔦。
もしも彼女の声が無かったら――イージーはこの樹海へやって来てから初めて深く息を吐き、緑の切れ目から小さく見える胡麦へ手を振った。
樹海の上空。緑の切れ目へと、胡麦は手を振り返す。
天人――愛い柔らかな箒に身を預け、胡麦が行くのは空の道。
吹き抜ける風、開けた視界。豊かすぎるほど危険(しぜん)に満ち満ちた樹海(げかい)と比べれば、なんと優雅な空の旅――などとはもちろん行かず、むしろ全域を俯瞰できる位置にいる事で、この弾幕(あらし)の異常さをよくよく観察する事が出来た。
……『樹海』そのものが蠢いている。気配が植物のそれでは無く、まるで動物が呼吸をするように。明確な意思を持つように。
緑がざわめく。葉擦れの音がする。がさがさ、ざわざわ、風が止んでも葉擦れは止まず、胡麦が瞬きをするたびに、地上の緑は大きく深く。溢れ、零れ――遂には空まで伸びてくる!
急成長した無数の枝葉の末端は、曇天(てん)まで届き、成長のみでは飽き足らず、音を裂いて撓り胡麦を打ち据えようと目論んだ。
直後、空を劈く打撃音。
「しまった……質感はともかく、デザイン的にはちょっと悪手だったかも」
しかし胡麦は寸前、自身のオーラ・息名を綿に変化させ、枝葉の鞭を凌ぎきる。
胡麦の盾となった息名――おさかな型のクッションに、ありありめり込んだ痛々しげな鞭の跡。立派に役目を果たしたとはいえ、形のせいで少しだけ、罪悪感を覚えつつ。
しかし樹海(あらし)は待ってはくれない。ひらひらと空に舞い散る花弁が刃に変じ、伸び切った枝葉たちを寸断しながら、四方八方無秩序に狂い裂く。
胡麦は負けじと息名を、時には壁、時には刃と自在に持ち替え、乱痴気騒ぎの花弁たちを鎮めてゆく。
枝葉を受け止め、花弁を払い、蔦を薙ぎ、途切れぬ嵐のその最中、不意に己の指先の、彼から貰った『風誘い』が目に留まる。
「――そーだ」
にまりと、胡麦笑う。
ぐるりと温を一回し。うるさい嵐を断ち切って、一瞬の静寂(しじま)を作り出すと、息名を地上へと伸ばす。
風誘いが操れる風量はほんの少しだけ。けれども元が炎なら、風に煽られた息名は忽ち燃え広がって巨大な彩雲の結界に。
――火種はついた。さぁ、愛しい人の足となれ。
身を屈め、跳躍し、時には退いて、やはり前のめりに。
タップダンスか千鳥足か、知れたものでは無かったが、当たらなければどうでもいい。
緑が激しく蠢いて、天と地上を寸断する。
胡麦は無事か、イージーが緑のほんの隙間から天を覗き込む。胡麦の姿が見えない。だが、ちらと一瞬見えたのは、曇天ならぬ彩雲(そら)の色。
それだけ知れれば十分だ。迫る枝を捕まえて、大樹を足場に跳躍し、一息に緑を振り切った。
視界が開けばこちらの物。空の彼方に彼女の姿を見出したイージーは、彩雲を辿って彼女の元へ駆け上る。
二人が揃えば訳も無い。風に誘われイージーは、差し出された胡麦の手を取、
ろうとしたその瞬間。
「えぇ……このタイミングでそれは無しでしょ……」
指と指が触れ合うその寸前で、イージーの足首に蔦が巻き付き、容赦なく樹海へと引き戻す。
「イージー殿!」
彩雲などお構いなしと、嵐は再び吹き荒れる。
それが自然の厳しさか、それとも竜の意地悪さか。いずれにせよ、そろそろ殺風景な道行には飽きてきた。
胡麦は蜜霰を手に、緑の嵐へ満遍なく、飴状の媒介を降り注ぐ。
「ほーら……砕けた欠片繋いで―——空登る夢の橋!」
あめが降り、空に架かるは唸化生。樹海すべてを覆うほどの、光り輝く巨大な虹の刃(アーチ)が顕現し、嵐(だんまく)全てが消し飛んだ。
ふぅ、と胡麦は虹の端で座り込む。
嵐が終れば虹がかかるもの。だからこれで、胡麦の全力(でばん)はお終いだ。
後にひらひら、虹を彩る様に、迷子の『花弁』達が降って来ても、彼女はただ、見ていることしかできない。
――しかし彼女は知っている。そんな時、硝子の剣が閃くことを。
「……危ない!」
花弁達が胡麦に触れようとするその瞬刻、まるでそれが必然であるかのように、イージーが彼女のすぐ隣に現れて、忽ち花弁たちを打ち払う。それまでの踏んだり蹴ったりなど、まるで嘘のように。
イージーは、胡麦に怪我が無いことを確かめると破顔して、
「まず味方も守れなきゃ、竜のねぐらだって守れないわけだし」
「……そうだね。憂いは貴方が断つと信じてる」
虹の上で二人は笑い合った。
――けれどもまだまだ試練は続く。
なにせあの緑の竜、植物ベースだからとにかく森でも樹海でも見えにくい。
今は多分あそこにいるよと胡麦が指させば、イージーが竜を見失った地点からそう離れてはいなかった。とてもとても見えにくいだけで、第六感的には、正しく追えていたのだ。
試練ゆえ意図的に隠れているのか、それとも意外とシャイな性質なのか。いずれにせよ――。
「こいつらが気ままに飛び回ってるとこ、絶対見たいよな、胡麦」
「見たい見たいよ。幼い頃から焦がれ続けた竜に逢えたんだもん!」
二人とも、まだ竜の全身をはっきり見てはいない。
ならば、しっかり見て見たいと思うのが人のサガ。
それなら行こうとイージーは再び走る。
それに気づいた緑の竜も、まるでかくれんぼを楽しむかのように、こそこそと移動しながら身を潜め……。
「……ほんと楽しそ」
――アタシも駆けたい、貴方たちのよう軽やかに!
天人が跳ねるように……曇天に空色の軌跡を描いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クーナ・セラフィン
弾幕不足ってどんな状況なのかにゃー。
中々スパルタみたいだけどもこちとら猟兵、試練なら越えていかないとね?
ヴァン・フルールに銀竜の姿に戻って貰い、多少の無茶できるよう身体能力強化のルーン記述した符を貼って共に飛竜を追う。
ついてくのは岩とか鮫とか実体のある弾幕が飛んできたり足場になりそうな物の多そうな属性の飛竜。
険しい悪路もダッシュで駆け抜け高低差も身軽さ活かし軽々突破、飛竜を見失わないように。
弾幕の大岩とかは見切ってオラクルで斬り払ったりUC活用して宙を跳ね弾幕蹴って躱す。
ほらもっと気合入れてと銀竜を応援したり飛竜の尾にタッチして余裕見せたり…試練楽しみながら突破目指すよ。
※アドリブ絡み等お任せ
「弾幕不足ってどんな状況なのかにゃー?」
そんな潤いが足りてないみたいに言われても。クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)はグリモア猟兵が口にした良く解らない文字列を試しにもう一回口に出してみた。
何というかナンセンス。おそらく大した意味など無いのだろう。その何か良く解らない胡乱さっぷりは過日の血斗死威とか上級生(カピバラセンパイ)に通ずるものがある。というか思い返してみればその依頼を斡旋してきた大元があの猫だった。
これはもう考えても絶対答えが出てこないと見た。なのでクーナは森に集った竜たちを見、改めて試練に臨む覚悟を決める。
並んだ顔のどれもこれもがみな違い、それぞれ違う『竜生』があるんだろう。そう思えばこそ、
「中々スパルタみたいだけどもこちとら猟兵、試練なら越えていかないとね?」
竜と島の運命を終わらせてしまうなんてとんでもない。猟兵として、為すべきことを為すまでだ。
クーナは竜槍・ヴァン・フルールを本来の姿――銀竜へと戻すと、魔術符に二枚分の身体強化のルーンを記述する。一枚は自分に、もう一枚は銀竜の背中にぺたりと張りって、これで多少の無茶も効くだろう。
そして肝心の、どの竜の後を追いかけるかだが、ここは岩とか地属性の竜が良いだろう。実体のある弾幕の方が、自分的には都合がいい。
「……ん? あれ?」
しかし。ヴァン・フルールと手分けして探してみても、どう言う訳だかそれらしい竜は見当たらない。
見当たらないのでそこらの竜を捕まえて、少々話を聞いてみると……。
「え? もう岩とか地属性の飛竜居ない? 大人気すぎてみんなもう行っちゃった? えぇ……?」
そうなってしまうとどうしよう。いきなり出鼻を挫かれた。
ううーんと腕を組み、作戦の修正を余儀なくされたクーナ。ああでもない、こうでもないと色々考え、辿り着いた結論が……。
「よし。じゃあ鮫で」
鮫だった。
第一希望は岩だったが、とりあえず、実体のありそうな弾幕ならそれでいい。そしてそれは鮫じゃなくても別に良いのだが、ここは自分の直感を信じてみることにする。
そしてクーナは鮫型飛竜――というか完全に空飛ぶ鮫だった――の後を追う。
鮫と言うからにはてっきり海なり湖なりを横断するのかと思ったが、そう言う事は一切なく、先ず第一に骨ばかりが敷き詰められた悪路の平原を、時折そこかしらから現れる骨(ボーン)シャークを砕きながら全力疾走し、雷光奔る天険を、軽やかなステップで飛び越えながら帯電(サンダー)シャークを断ち切って、無数に飛来する石シャークと虫シャークをいなしつつ、再び荒野の巨大石シャークを切り払い、活火山の間近、冷えた炎の溶岩シャークを蹴っ飛ばして、死の渓谷の最下層、マッドシャークを半身躱し、樹海の怪物、グリーンシャークをヴァン・フルールの一撃とオラクルの一太刀を持って斬り伏せる。
……何だろう。鮫の背中を追いかける道すがら、全員分の弾幕を、一人で一気に駆け抜けた気がしてきた。鮫の種類が豊富すぎる。
海千山千の鮫の群れを乗り越えて、それでもまだまだクーナには余裕があった。
ほらもっと気合を入れてと若干ばて気味な銀竜に体力回復のルーンを張り付けて、そろりと宙にステップを刻み、悪戯めいて軽く鮫にタッチして見せる。
どうにも滅茶苦茶な道のりだったが、それらを突破するコツは、何より楽しみながら行くことだ。
――だからそう。これが試練と言うのなら、今まさに眼前へと迫る鋼鉄機械化鮫軍団(あらし)も……楽しんで突破して見せようじゃないか。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『マインドゴーレム』
|
POW : 自爆型ゴーレム
自身が戦闘不能となる事で、【抱きついている】敵1体に大ダメージを与える。【自爆までのカウントダウン】を語ると更にダメージ増。
SPD : 全身兵器
【目からの魔力光線】【飛行腕による拘束】【飛行脚部の回転ドリル】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : マインドコール
【天使核操作信号】を放ち、戦場内の【天使核】が動力の物品全てを精密に操作する。武器の命中・威力はレベル%上昇する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
●激闘の痕跡
※次回断章7月17日(日)更新予定。
どれほど過程(ルート)が在ろうとも、至るべき終点(おわり)はただ一つ。
四方に散った竜たちが、再び集ったその場こそ、総ての弾幕(あらし)の中心点。あらゆる属性同士が暴れ、ぶつかり、拮抗し合ったその果てに生まれた凪の場所。
剣、銃、斧、槍、杖――おそらく勇士達の物であろう、無数の武器の数々が、墓標の如く地へと打ちつけられたその奥に、天使核(きかい)仕掛けの尖兵達は巣食っていた。
無機質な駆動音を伴って、無感情の瞳をこちらに向ける。生命を持たぬ存在であろうとも、空の底に落ちればオブリビオンに成り果てる。それがこの世界の理故に。
『精霊嵐ノ外部ヨリ、侵入者ヲ確認。解析』
『解析完了。ワイバーン、及ビ、イェーガート認識』
『黒幕(フィクサー)ヘ、対応ヲ求ム』
『カウント継続。浮遊大陸『竜ノネグラ』ノ沈没マデ、残リ――』
瞬間。無風の戦場に激情が奔る。お前達の御託など知らぬと、全ての竜が咆哮した。
嵐の内で吹き荒れる憤怒(あらし)。
しかし、幾多の怒りに曝されて、ブレスを浴び、爪で裂かれ、食らいつかれようとも、先兵たちはただ無感情に、無機質に。己が役目を遂行する。
『フィクサーヨリ新タナ命令ヲ確認』
『命令遂行。敵性存在ノ排除ヲ開始』
『容赦ノ必要:無。手段ノ制限:無』
『排除。排除。排除』
たとえその身が砕けようとも、死を恐れず、死を厭わず。
命令のまま瞬く無情の瞳、展開される飛行腕、駆動する螺旋、そして、律動する墓標。
何の躊躇の一つなく、ねぐらを守る為に揃えた刃の切っ先が、飛竜たちへと向けられて、ねぐらを落とす為に使われる。
――ならばこちらも躊躇する必要はないだろう。ゴーレム達を一機残らず蹴散らし……黒幕を引きずり出してやるまでだ。
上野・修介
※アドリブ連携歓迎
調息、脱力、戦場を『観』据える。
目付は広く、自身を含め周囲を俯瞰する如く。
お誂え向きに準備運動は済んでいる。
端からギアトップで短期決戦狙い。
立ち回りは基本ヒット&アウェイ。
体勢は蛇の様に低く、体幹と重心操作による移動方向偽装や地面を打撃することに急停止・急旋回を交えつつ刺さっている武器類を足場や遮蔽物、或いは投擲して牽制に利用しながら初動から常に動き回り、包囲と被弾、自爆を極力回避しながら殲滅。
極力コア部分を狙い、迅速に処理。
自身、或いは他の猟兵や飛竜が抱きつきによる自爆を回避できないと判断した時は、自分から組み付き、UCを用いて自爆する敵を他の敵へ即座に投げ飛ばして対処。
飛竜達の怒号が戦場に響き、無機質なゴーレム達は傍若無人に駆動する。弾幕(あらし)を超えた先にあるのもまた戦渦(あらし)だ。
飛竜のブレスが視界を横切り、折れた刃の破片が頬を掠めた。凪の一時はとうに過ぎ去り、最早精霊嵐の内側に安全圏などありはしない。
それでも、否、だからこそ修介は泰然と呼吸を整え、脱力し、戦場全域を広く『観』据える。飛竜達の羽搏きを、渦巻く武器(やいば)の軌道を、律動する尖兵達を、そして嵐の中に立つ自分自身すら。両眼に視える情報のみならず、重要なのは全ての事象を俯瞰するが如きその境地。
「コンディションは悪くない。お誂え向きに準備運動は済んでいる――アンタたちが引き起こした精霊嵐のお陰でな」
沈みつつある浮遊大陸(しま)の上。眼前にはその元凶の一端。長い時間をかけてやるつもりは無い。故に、ハナからギアトップの全開だ。
こちらへと迫って来た飛行腕を合図に、修介は駆ける。大蛇が地を這うが如く低い体勢で飛行腕をやり過ごし、降りしきる凶器の雨を潜り抜け、地を穿つ螺旋(ドリル)を飛び越えれば、周囲のゴーレム達の無感情な眼差しは、修介へと注がれた。
『運動性能ノ高イ個体ヲ確認』
『排除。排除』
無数の飛行腕、何条にも瞬く魔力光線、空を舞う刀身達に万華鏡の如く映り込む自分の姿。隙間の無い殺意。しかし修介は望む所と加速する。
走り続けながら、左右から挟みこむようにやって来る飛行腕を寸前避ける。同時、放たれた光線が数歩前の足跡を焼いた。どの攻撃も軽々と回避、とはいかない。少しでも気を抜けば、すぐにやられてしまうだろう。無感情で無感動なあの瞳、目の付け所は悪くない。
ならば、と修介は体の重心を僅か左に傾ける『フリ』をする。そうしてやると、上空より降る光線は大きく逸れ――ゴーレムの予測が、修介のフェイントに引っかかったのだ。更に予測を狂わせてやろうと、修介は震脚の要領で地を蹴りそのまま飛翔し、空に焼き付いた光線の軌跡を辿り、その先に居たゴーレムを殴り抜く。
それまで地をかけていた修介が、飛翔するとも想定していなかったのだろう。修介の拳は無防備なコアを捉え、打ち砕いた。
自壊破裂するゴーレムの爆炎を隠れ蓑に地へと帰還した数秒後。再び修介を捕捉した尖兵達が、更に苛烈に攻め立てようとするものの、修介は林立する武器(ぼひょう)を遮蔽物に身を隠し、盾と使って凌ぎ切る。
――誰の物とも知れぬ無名の刃達。縁やゆかりがあるわけではないが、侵略者に良い様に扱われているばかりでは不憫だろう。
「少しだけ……力を貸してもらうぞ……!」
修介は地に突き立てられた槍を一本引き抜いて、力のまま、尖兵目掛け投擲する。
一点、一穴、縫うように、嵐を裂いて槍が飛翔(と)ぶ。ゴーレムがその存在に気づいた時にはすでに遅く、伸ばした飛行腕(うで)を戻せずに、光線(しせん)で捉える事も出来ず、ならば槍(それ)そのものを支配しようと思考したその瞬間、槍はコアの中心を貫いて、尖兵の躯体は力なく、無機質な瞳は完全に沈黙する。
後はそれらの繰り返し。回避、停止、反転、攻撃。決して留まらず、虚実と緩急を織り交ぜて尖兵達の包囲を搔き乱し、そして一体一体迅速に処理をした。
そうして何体敵を屠ったか、不意に――試練の時と同じように――視界の隅にあの石の竜が映る。
石の竜もさるもので、頑丈な体を頼りに尖兵達と渡り合う。だが、飛竜の死角から、半壊したゴーレムの飛行腕が忍び寄り――。
危ない! と、そう叫ぶより先に、修介の体は動く。
飛行腕に竜の身体は掴ませない。強引に割って入ると爆発寸前のゴーレムに組み付いて、締め上げる。
『自爆シーケンス起動。カウント、10、9――」
熱を持つ飛行腕。電気部品がショートを起こしたような、あの嫌な臭い。だが、最後まで付き合うつもりは無い。
『2、1……』
「(――そこだ!)」
修介はがちりと組み付いた姿勢から一転、流れるような身のこなしで尖兵を軽々投げ飛ばし――寸前放り投げられたゴーレムは最早爆破停止することもままならず、多くの同胞を巻き込んで、ひときわ大きく爆ぜ散った。
礼か称賛か、石の竜は機嫌よく咆哮(こえ)を上げて、修介の死角を護るように飛翔する。
ならば、と修介も飛竜に背を預け、今一度の脱力を。
しかし、傀儡たちの包囲網(あらし)は未だ幾重にも。
……故に修介は駆け抜ける。全員全霊で嵐を打ち破る――そのために。
成功
🔵🔵🔴
エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
真の姿解除
鴉衣まとって【空中浮遊】【空中戦】
そうか、意気軒高でなによりだ
ほーん?
……俺の愛車の名前は?
オーケーいつも通りだな!
記憶力はともかく椋が張り切ってるんで俺ぁ援護に回ろうか
へいへい任せな
【怪力】でフリント振るって【なぎ払い】【吹き飛ばし】
椋や骨竜に抱き着こうとしてる奴ら片っ端からホームランだ
熱烈な抱擁は生身のが向いてるだろ
受けてやる気はさらさらねぇが
俺が抱き着かれそうになっちまったら【カウンター】
『群青業火』発動
そのいかにもな丸いの、耐熱温度はどれほどだ?
【焼却】してやる
俺の周囲まるっと【範囲攻撃】で焼き尽くす
最悪掴まれたら【怪力】で指をなんとか引っぺがせねぇかぁね
六島・椋
【骸と羅刹】
自分は今、多くの骨(かれ)らを目にできたので気力に満ち溢れている
今なら骨以外にも記憶力を発揮できそうだ
心電図ちゃん(自信満々)
先程の飛竜殿に助力を願おう
あれらを片付けるため共に戦っていただきたい
可能だろうか
引き続きナガレに乗りながらオボロと構え、「礼拝」を
我ら目的を同じくする身
であれば自分達だけでなく飛竜の彼も強化されよう
先に前に出てなるべく此方を狙わせる
腕を回避しながらオボロと共に迎撃
触れるなら骨になってからにしてほしい
ある程度腕を此方に集めたところで、エスタのもとへ飛んでいく
エスター、任せたー
腕の群れを押し付けたら、飛竜の彼と共に本体達を叩く
ナガレの美体で薙ぎ払う『範囲攻撃』だ
ぶつかり合う飛竜と尖兵達のその後ろ。弾幕(あらし)の内の戦(あらし)など、至極些末と云うように、骨がかたかた、人骨(オボロ)が笑い、蝙蝠骨(サカズキ)達が空に踊る。
「分かるかエスタ――自分は今、多くの骨(かれ)らを目にできたので気力に満ち溢れている」
竜の試練の道行きは、指から糸へ伝うほど、椋の心を震わせて、結果彼女の状態(コンディション)は最早完璧と言える境地に在った。
「そうか。最初から最後まであんだけ楽しんで試練突破したらそりゃそうだろうな。まぁ、意気軒高でなによりだ」
刺激的にゃ違いなかったが、こっちは大分忙しかったんだぜ? ――そう言いながら、エスタシュは再び羅刹(ひと)の姿に戻る。
「意気軒高……違うな。今の自分は明確に、それより高い次元に居る」
椋の言葉は事実なのだろう。その証拠に、ヨハまで宴に参加してきた。
「具体的に言うと?」い彼女が、もしかするともしかするのかもしれない
タンデムしたこともあるし、問題としては簡単すぎる部類だろうと、エスタシュが自身の愛車の名を椋へ問うてみた結果、彼女は自信満々に、
「心電図ちゃん」
「じゃあ俺がいつも担いでる鉄塊剣(こいつ)の名前は?」
「フリゲート」
「ならコイツ。この酒何て言うと思う?」
「らっこ殺し……うん。まさかここまで骨(かれ)ら以外の名前がすらすら出てくるとは……凄いな。自分でも驚きだ」
「ドヤるなドヤるな大体合って無ぇ……オーケー。わかった。いつも通りだな!」
だったらこっちもいつも通りの平常運転で行きますかぁね、とエスタシュは鴉衣を纏い、ゆっくり空へ離陸した。
「記憶力の方はともかく、そんだけ張り切ってるって事ぁ、あいつらを吹っ飛ばす策の一つや二つは有るんだろ?」
それは勿論。椋――では無く彼女の代わりにオボロが頷くと、椋は既に空で戦う骨の竜へ呼び掛けて、共闘を要請する。
「不躾かもしれないが、あれらを片付けるため共に戦っていただきたい……可能だろうか」
激戦の最中にあっても椋の言葉が届いたか、骨の竜はそれまで競り合っていた尖兵を一方的に弾き飛ばし、虚無の眼窩で椋達を見遣る。そして骨格(ほね)だけの翼を羽搏かせ、地上付近まで降りてきた。
「……成程。『試練を乗り越えたお前たちの要請を、無下に断る理由はない。喜んで我が力を貸そう』と」
「相変わらず、竜の方は一言も喋っちゃいないのに、良く解るな?」
「眼窩(め)だ。骨(かれ)の曇り一つない眼窩を見れば、考えていることも自ずと良く解る」
「……曇り一つないって言うか、眼球すら無ぇじゃねぇか」
エスタシュとしては喋ってくれないと動物(?)会話のしようも無いのだが、骨の竜の行動を見る限り、椋の翻訳は完全に合っているのだろう。ならば、とエスタシュはフリント片手、骨の竜と椋の援護につく。
「ナガレ。引き続き、頼んだ」
椋の指先(ゆび)に導かれ、今ひとたび、ナガレは戦禍(あらし)の空を行く。航路の先には無数の尖兵。今回ばかりは『献身』を捧げるのみでは嵐の先へ辿り着けまい。
傀儡が列を為して迫り来る。それでも椋の心に迷いあらず、必要なのは、骨(かれ)らに手向ける礼拝だ。
「――骨(きみ)たちのためなら、いくらでも力を増そう」
それは曇りなき本心。骨が在る程に、骨と共に――礼拝を捧げる度、椋(かのじょ)と骨(かれ)らは強くなる。
そう。骨(かれ)ら――即ち、骨の竜も。
肉(のど)も無く、皮(くち)もなく、音(こえ)も無く、それでもなお骨竜が吼えれば、精霊嵐(あらし)の内より竜種の尾椎の流星雨(あめ)が降る。
流星雨がもたらすのは礼拝(いのり)の恵み。骨があればあるほどに、骨(かれ)らもまた強化され、オボロの白掌が閃く度、すれ違う尖兵達が落ちてゆく。
骨の雨中では不利と判じたか、尖兵達は距離を取り、椋達目掛け飛行腕のみを発射(な)げて寄越す。
「触れるならせめて骨になってからにしてほしい」
とは言え、あの空洞上の外見では望み薄か。
全方位から飛行腕に囲まれようとも、精霊嵐(あらし)を経て礼拝を欠かさない今の椋にとっては物の数では無く。オボロがそっと撫でてやれば瞬く内に飛行腕の軌道はばらばらに、椋はそれらをからくり糸で縛り上げ、後方で待機しているエスタシュへ放り投げた。
「エスター、任せたー」
「へいへい、任せな!」
エスタシュは二度三度と素振りして感覚を調整すると、椋が投げて寄越した飛行腕の塊へ、膂力に任せフルスイングのフリントを叩き当てる。
打ち放たれた腕達は、バラバラになりながら精霊嵐(バックホーム)へと消えていき……あれでは物も掴めまい。
「エスター、二球目ー」
「おう。そっちに抱き着こうとしてる奴ら、かたっぱしからホームランだ。どんどん来い!」
まだまだ打ち足りないとフリントを弄び、二球三球、宣言通りバックホームへ送り込む。
椋も途中で興が乗ったのか、五球目六球目とカーブやフォークで投げて寄越し、それでも構わず打ちに打って10球目。
ついに待てど暮らせど塊(たま)が来ず。
エスタシュは塊の催促に、椋(ピッチャー)の元へと飛翔した。
不意に、残存する飛行腕の軌道が変わる。椋達を掴むのを諦めたか、ゴーレムが捉えたのはエスタシュの姿。
腕がエスタシュへと伸びる。しかしエスタシュは、受けてやる気はさらさらねぇよ、と、拘束される前に腕の一つを引っぺがして捻り上げ……。
「熱烈な抱擁は生身のが向いてるだろ」
轟、と地獄が燃え盛る。地獄の業火に当てられて、尖兵の表情が歪む。否。余りの熱に、ボディが溶解し始めているのだ。
「そのいかにもな丸いの、耐熱温度はどれほどだ?」
――焼却してやる。にやりと笑い、エスタシュがそう発すると、群青色の業火は残存していた周囲の飛行腕ごと、尖兵の全身を包んで更に激しく燃え上がる。そうして最後にはボディもコアも、腕部も脚部も、容(カタチ)全て灰と化し……敵がそこに在った証は消え失せた。
群青色の炎を逃れ、後に残るのは手段(て)を失った幸運な、しかし哀れな尖兵達。
それでも如何にか魔力光線を放ってこちらを近づけまいと抵抗するが、防御の薄さは否めない。
糸を繰るまま、椋は骨の竜と共にゴーレム達の攻撃を掻い潜り、息なき呼吸(いき)を合わせると、ナガレの美体と骨竜の雄姿、二つの骨が怒涛の如く尖兵達を薙ぎ払い、残らず地へと叩きつけた。
「『群青の炎、灰の一つすら残さぬとは、まさに見事な苛烈さよ』……と、骨竜(かれ)がエスタの事を誉めている」
「そいつぁ結構。俺には全く解らんが、嬉しくなること言ってくれるじゃねぇか」
「あと『茄子なら断然煮びたしよりカレー』だって」
「いや。急に翻訳精度疑うような情報ぶち上げてくんのやめろ」
「でもマジだって」
「えぇ? マジかよ……」
そんな談笑もほどほどに、エスタシュは地獄を滾らせ、椋は糸を繰りかえす。
戦(あらし)の終わりは、もうすぐそこだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
流茶野・影郎
久遠寺(f37130)と同行
なんか、沈没するとか言ってません?
とは言えゴーレム相手、まあ何とかするさ
解析と認識が出来るってことはある程度の自立性があるってことだ
こういうヤツにはこれが効く
『メキシカン忍法・疾風怒涛の歩み』
お前達が黒幕から何を命令されているか分からないが
視えず
聞こえず
只風が通り過ぎる中
対応できるセンサーを持っているとは思わない
そして機械っていうのは壊し方は簡単でね
地面に叩きつけて衝撃で壊せばいい
空中に浮いているならそれ以上の質量と勢いで潰すか反応できない速度で投げ飛ばすか
……自爆?
問題ないよ
俺が触れた以上、こいつらは俺を認識、判断することが出来ない
何かに間違って抱き着くさ
久遠寺・絢音
流茶野先輩(f35258)と
なんか不穏なこと言ってるわね
あと、黒幕とか言ってるわね
ひとまず、私の取れる方法はこれかな!
(掲げるのはタロットを模した絢音専用のイグニッションカード。女教皇のアルカナから顕現するのは黒き死の女神)
悪疫の風、こいつらの場合はコンピューターウイルスね。機械じゃなく魔術的なモノでも何らかの制御はされてるわけだからそこを病気にさせる……ってわけ
魅了や悪疫喰らって鈍った個体を電気の属性攻撃でトドメを刺していくわよ
飛行腕や足ドリルは呪殺弾で打ち落としつつ、魔力光線には闇の属性攻撃を乗せた全力魔法で対抗
高速詠唱で速射していくわよ
親分逃げてー!そいつ自爆しようとしてるっぽいけど!?
「――なんか、沈没するとか言ってません?」
影郎の聴き間違いでは無いだろう。とはいえ、己の身体を信じるならば、現状この島が急速に空の底へ下降している――という感覚は無い。本格的に沈み始めるまで、まだしばらくの猶予があるはずだ。
『フィクサーヨリノ指令(オーダー)ヲ遂行中。消去。掌握。敵対。排除。』
「なんか不穏なこと言ってるわね……あと、黒幕がどうとか」
オブリビオンが不穏な言動を取ることは珍しくないが、ここまで意思の疎通が出来そうにないといっそ清々しい。
どうしてやればいいものか、絢音は金の瞳を虚空に遊ばせ、暫し思案する。
……嵐の目、中心部は晴れているかもと思っていたが、初めの森で見上げた分厚い曇天はそのまま、空に蓋をするように横たわっている。
「……とは言えゴーレム相手、まあ何とかするさ」
覆面と戦闘服その身に纏い、揺らめく覇気を従えて、影郎は鋭い眼差しで尖兵達を見据え、
「ひとまず、私の取れる方法はこれかな!」
先手必勝と絢音はイグニッションカードを掲げる。
大アルカナを意匠化したそれが指し示すのは女教皇。そして、顕れた女教皇は、冥府の女神を喚ぶ。
梟の翼をもつそれこそ、絢音の精神の一側面にして、黒き死を齎すもの。
「――翔けろ、エレシュキガル!!」
梟の翼の羽搏きは、不可視にして悪疫の風を巻き起こし、美しく煌めく羽根が風に乗り、疾病と魅了を拡散する。
『センサー起動。解析。肺病、高熱、麻痺、激痛。アラユル『病』ノ存在ヲ捕捉。ナオ、ワレワレは有機物(セイブツ)ニアラズ。故ニ、悪疫ニヨルスペックノ低下ハ認メラレ――」
「……本当に、そう思う?」
学び舎の生徒達へ問いを投げるように、絢音は尖兵の一人へそう訊いた。
『解答ニ及バズ。各部駆動、解析・認識、正ジ、じじじ――」
突如。言葉にならぬ悲鳴(ノイズ)を上げ、切れかけの蛍光灯さながら丸い瞳を明滅させるゴーレム達。
その様相はまさしく病に冒され苦しみのたうつ有機物(ひと)の如く。夜の女王の叫びは、彼の躯体(からだ)の奥深くまで届いていたのだ。
「『悪疫の風』が運ぶのは、人を苦しめるモノだけとは限らないわ。あなたたちの場合は例えば――コンピュータウイルスとか」
『マインドゴーレム』という存在が、機械で動くモノであれ、魔術で動くモノであれ、何かしらの理で、何らかの制御はされているのだろう。ならばそこを乱す――病に冒してやればいい。
ぎちりぎちりと不協和音。どれだけ体が鈍ろうと、病(ウィルス)に抗い、下された命令のまま傀儡は動く。
しかしそんな躯体(カラダ)で、何を出来るはずも無く、絢音は柳の杖を一振り、広範囲を電気の渦に巻き込んで、尖兵達を深い眠りの底へ誘った。
病の拡散は悪風(かぜ)任せ。辛くも難を逃れたゴーレム達が、病の根源……絢音へと攻撃を集中させるが、絢音は迫る螺旋(ドリル)と襲来する飛行腕(うで)を呪殺弾で撃ち落とし、しつこく瞬く魔力光線(しせん)には、全力の、闇属性魔法(ブラックホール)で相殺して見せる。
休む間も無い高速詠唱。その間にも風は病を拡散し、ゴーレム達の動きが鈍る。
攻守の逆転。呪殺の弾は螺旋を止め、飛行腕を破壊し、遂には闇の魔法が降り注ぐ光全てを飲み込んだ。
「……無感情。無感動。しかし、無能力では無かった。状況を判断できるだけの優秀な性能が、逆に仇になってしまった――と」
「そう言う事。さすがは親分!」
苦痛にあえぐゴーレム目掛け、影郎は詠唱風車を放る。風車は一切の妨害なくゴーレムのコアを穿ち、爆ぜた。
『解析。解析。指向性ノ爆発手裏剣ト推定』
「正解。だが、解析と認識が出来るってことは、ある程度の自立性があるってことだ」
こういうヤツにはこれが効く。そう言いながら、影郎が疾風を纏えば、
『目標喪失。風速:強。捕捉不可。捕捉不能』
尖兵達の視界から消え失せる。
「メキシカン忍法・疾風怒涛の歩み――悪いがこれでも忍者なんだ。弱点は、躊躇なく突かせてもらう」
するりと。尖兵達の間を、一陣の旋風。
「お前達が黒幕から何を命令されているか分からないが……」
疾風は戦場を吹き抜ける幾つもの衝撃(かぜ)と混ざり合い、隠れ潜む。
「視えず、聞こえず、只風が通り過ぎる中、対応できるセンサーを持っているとは思わない」
影郎はゴーレムのごく間近でそう囁くが、彼らにそれは聞こえない。真横に流れる風の正体こそが、彼の見失った影郎(ひょうてき)だというのに。
「そして、機械の壊し方は存外に簡単でね」
風は誰にも気づかれず、するりとゴーレムの首根を掴むと、
「地面に叩きつけて、衝撃で壊せばいい」
気魄一閃、地面目掛けて投げ飛ばした。
投げ飛ばされたゴーレムは、何が何やらわからぬと、目を白黒に瞬かせ、状況を理解できぬまま、やがて暗くなると事切れた。
途切れることなく二つの風が走る。
天に居ようが地に居ようが、疾風が其処を通り過ぎれば漏れなく傀儡は損壊し、悪風が戦げば狂気の不協和音。
故に、傀儡たちに残された最後の手段は……最早手段も択ばぬ全方位の無差別攻撃。
狙いを付けず当りを付けず、ゴーレム達の全兵装が、見境なしに戦場を侵食してゆく。
「苦肉の策か。だが……」
「あー!! 親分逃げてー!そいつ自爆しようとしてるっぽいけど!?」
絢音の声に振り向けば、影郎のすぐそこまで迫るまぐれ当たりの飛行腕。
しかし影郎は冷静に、
「……自爆? 問題ないよ。俺が触れた以上、こいつらは俺を認識、判断することが出来ない」
まぐれ当たりの拳など、いともたやすくするりと潜り抜け、すれ違いざま、ゴレームに煌めく羽根を刺してやる。
「ほら、何かに間違って抱き着くさ」
果たして影郎の言う通り、疾風に判断力を奪われて、煌めく羽根に魅了された傀儡は、別の傀儡に抱き着き、爆ぜた。
嵐の内で二つの風が吹く限り、尖兵達は役目を果たせず――翻弄されて終るだろう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
イージー・ブロークンハート
【焔硝】
ば、爆発オチなんてサイテーー!
冗談はさておきほんとなんつーか島を沈めるには絶好の手段だぞ爆弾なんて!
【戦闘知識】からどこ切ったらいいか【見切り】、叩っ斬る!
ダメだこれ敵は倒せても島への被害が甚大なんだわ!
なあ、竜!協力してくれん!?壁とか迷路とかこう、アー!!喋ってる暇ない!胡麦ヘルプ!被害が出ないようまとめて片付けるぞ!
囮になって爆弾どもを惹きつけてほかに攻撃がいかんよう【かばう】。
胡麦たちがうまいこと一箇所に集めてくれたら、そいつらまとめて叩っ斬る。全部当てなくていい。パーツが胡麦の方に行くよう加減して、頼んだ!
…わはは、楽しそうに駆けてら。
(アドリブ他歓迎です)
百海・胡麦
【焔硝】アドリブ歓迎
爆ぜた?イージー殿!
「天人」で翔け「息名」の炎で敵を【吹き飛ばし】
隙に「平」の薬湯を呷り、力を補うが…伝う汗
足りない。数も多い…腹拵えといこか
猛き竜よ、御願い
貴方の緑で敵の足を鈍らせ、導きを
漏斗や迷路も好い。根で蔦で奴らを詰まらせて?
そうすりゃ後は――あの硝子の切れ味はとんでもないの
ふふ、そ。先刻見たでしょ
己も炎で惑わせ敵を縛ろう――今行くよ!
息名で欠片受取りゃ、がりりと喰らう
なぁるほど?抱く…も鍵
其れで腕、はははッ面白い!さすが貴方
狗に為れば疾く、噛み砕き【蹂躙】
残りは貫き焔で塵に。燃やすは敵のみ、傷つけさせぬ
此れはアタシの焔!
ね、駆けよ
貴方の隣、恐いもんなど一つもない!
『――機体損傷率90%オーバー。任務継続不可能。自爆シーケンス、開始。カウント、10・9……』
「えええ!? そんなちょっと待っていきなり!?」
何の前触れも無く。
硝子剣の閃きが、尖兵のコアを断ち切ったその直後。ゴーレムは何やら不穏音な台詞を吐き出して、剣の間合いに留まるイージーへと腕を伸ばす。
これはいけないとイージーは身を翻し離脱しようとするが、運悪く鎧の端を掴まれて、
『3・2・1……』
「いやいやいや! 今しれっと8と7と6と5と4のカウント飛ばしたでしょ!? 良くないんじゃないかなぁそう言うの!」
藻掻きながら、非難の言葉を投げかける。その言を聴いたゴーレムも、思う所があったのか、飛ばした5カウント以上の沈黙の後。
しかし。
結局。
『爆発(ファイア)』
「ば……爆発オチなんてサイテーー!」
衝撃と轟音、そして激しい光を伴ってゴーレムは砕け散った。が、その寸前、イージーは鎧を抓む飛行腕を染灯りで払いのけると、限界突破の全力疾走。如何にか胡麦の傍(あんぜんけん)まで逃げ果せ、爆風をやり過ごす。
「爆ぜた? イージー殿!」
「はっはっは! 心配は無用だぜ胡麦。オレならほら、ご覧の通り―――ちょっとシャレにならない位バッキバキに心が折れてる……マジで辛い……」
ちょっとしばらく待ってくれと、イージーは肩で大きく息をして、硝子の心(コンディション)を整える。
「……なんて、冗談はさておき、ほんとなんつーか島を沈めるには絶好の手段だぞ爆弾なんて!」
そうして、爆発の衝撃から秒速で立ち直ったイージーが空に目を向けると、其処にはまるで隙間なく、無数の飛竜と無数のゴーレムが刃を交える乱戦景。
猟兵の介入もあって飛竜達がやや優勢だろうか。しかし、飛竜がゴーレムを墜とす度、あちらこちらから轟音木霊し、大地が揺れる。
「ダメだこれ敵は倒せても島への被害が甚大なんだわ!」
爆心地の様相など、見れたものでは無いだろう。尖兵達(あんなモノ)をのさばらせておけば、自然豊かなこの島も、いずれ丸裸だ。
「なあ、竜! 居るんだろ!? 協力してくれん!? 壁とか迷路とかこう――!?」
あの恥ずかしがり屋の植物(みどり)の飛竜も、この戦場のどこかに居るのだろう。イージーは、あちらこちらと探してみるが……不運か必然か、その最中、ゴーレム達と視線(め)があった。
……猟兵(イージー)を認識し、ギラリと瞬く傀儡の瞳。
「アー!! 喋ってる暇ない! 胡麦ヘルプ! 被害が出ないようまとめて片付けるぞ!」
光線(しせん)を避け、飛行腕(うで)を払い、慎重にゴーレムの装甲を削りつつ、イージーは敵の隊列のど真ん中を駆け抜ける。派手に立ち回れば多くの爆弾(てき)を惹きつける事が出来るだろう。
無論、無数の熱烈な『視線』を惹きつけることになるが――胡麦と竜がいるのなら、其処は我慢のしどころだ。
「でも出来るだけ早く頼んだ!」
「それは勿論。イージー殿」
空に揺蕩う箒(あまびと)の上からゆるり、胡麦は地(せんじょう)を見下ろして、その掌中、自身の息名(ほのお)を弄ぶ。
イージーの背を追いかける傀儡たち。集めた視線も相当に、あれでは針の筵だろう。ならばと胡麦は息名をさかなの形に変え、傀儡たちの背に放つ。
夢中になって追いかけ回している側が、さらに追われているなどと、正真正銘、夢にも思わぬ事態(こと)だろう。
果たして、泳ぐさかなが傀儡たちに背に追いつくと、息名は彼らを遠慮なく吹き飛ばし、結界(おり)となってその道行を阻む。
ついでに此方に気付いた傀儡たちも、先手必勝吹き飛ばし、結界の中へと詰め込んで、嗚呼。それでも、一体何時になったら尽きるのか、爆弾たちは後から後からやって来る。
吹き飛ばし、押し込めて、その繰り返し、喉が渇く。消耗しているのだ。朱の瓢箪――平を開け、薬湯を呷り、力を補い……味を気にしている暇も無く、一筋の汗が頬を伝う。
傀儡の螺旋が結界を削る。『足りない』。数も多い。独りでは、縛っておけるのも限度がある。
故に、胡麦は緑の竜へと呼び掛ける。
「猛き竜よ、御願い。貴方の緑で敵の足を鈍らせ、導きを」
地上を俯瞰できる位置に居るからこそ、飛竜がすぐそこに居るのはわかっている。
「漏斗や迷路も好い。根で蔦で奴らを詰まらせて?」
姿を見せないのは、ひとえに迷彩色(はずかしがりや)であるが故。求めるならば、きっと力を貸してくれる。
「そうすりゃ後は――あの硝子の切れ味はとんでもないの」
風が戦ぎ、緑が揺れた。帰って来たのは嵐に曝され無秩序に騒めく木々のそれでは無く、胡麦の言葉に応えるような、柔らかな葉擦れの音。
『ここに居る』飛竜へ、胡麦はにこりと微笑んで、
「ふふ、そ。先刻見たでしょ」
――そして、緑が奔る。急成長を遂げる植物は、息名の結界を起点に、無数にあった戦場の爆発痕の尽くを覆い隠すと、緑の飛竜の意思の下、巨大な迷宮を形作り、傀儡たちを閉じ込めた。
其処には無論、イージーも。
……胡麦を乗せた天人は、緑の飛竜に導かれ、迷宮へと進入する。
突如出現した迷宮に、イージーは先の試練を思い出す。けれども今度の緑は敵じゃない。その証拠に、飛竜の仕業だろう、それはもう懇切丁寧に、花弁で作られた標識が、迷宮に囚われたゴーレム達の位置を指し示す。
故に後は走るだけ。ほどなくゴーレムと会敵したイージーは、彼らのコアを素通りし、飛行腕を弾くように断ち切った。
精度よりも斬撃(かず)を重視した剣閃は、傀儡の腕の悉くを不揃いのぶつ切りに、弧を描かせて胡麦の元へ運び込み、
「『腕』だ。おそらくこいつらは『相手を掴まないと、自爆できない』」
それこそが、大立ち回りからゴーレム達の機構を見切り、イージーが導き出した解だった。
「なぁるほど? 抱く……も鍵?」
即ちそれは、息名が変じる為に必要な喰事(ぎしき)のように。
「――其れで腕、はははッ面白い! さすが貴方」
がりりと、炎が傀儡のかけらを喰らう。
一噛み、牙が生えそろい、二噛み、極彩の光輪が迷宮を遍く照らし――息名の形が変貌する。
三噛み、狗がほえ立てて、四噛み、全てを噛み砕く。
牙は謡う。興味も失せたか、腹を満たした魔犬は焔を噴き上げ、全てを塵に返してゆく。
迷宮を傷つけず、イージーを護り、そこに在った傀儡のみを、総て。
傷つけず、傷つけさせず、燃やすは敵のみ。其れは胡麦の炎であるがゆえ。
斯くして、捉えるべきものが無くなった迷宮は解ける。
戦況(そと)はどうなったのかと顔を出した二人の視界に、飛び込んできたのは恥ずかしがり屋の緑の竜。
飛竜は礼をするように、こくりと一回頷くと、大きく葉根を広げて、空を駆ける。漸く、彼の全貌を見た気がした。
「……わはは、楽しそうに駆けてら」
「――ね、アタシ達も駆けよ。貴方の隣、恐いもんなど一つもない!」
そして二人は笑い合い、駆け出した。
……両手が武器でふさがっているのが残念だけれど。
それもきっと、もうすぐ――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アメリア・バーナード
※アドリブ連携OK
あんた達ねぇ。住処を荒らされて怒るのはわかるけど、血気盛ん過ぎよ。
島の勇士達も撤退しちゃったみたいだし……私達が加勢しないとね。
鈍重そうに見えてなかなか器用な事するのねー。
ビッグモールに乗って前衛に出るわね。
ドリルや装甲で武器を弾いて回れば、竜達への損害を減らせるし、共闘の意思も示せると思うの。
相手がUCを発動しようとしたら、私もまっすぐ突っ込むわね。
抱きつかれたと同時に、敵にめり込ませたドリルで装甲破壊を開始するわ。
……カウントする余裕があるの?
良いわ。ゼロになる前に核を抉り抜いて機能停止。自爆機能も無効化してあげる。
万が一失敗しそうなら追加装甲を脱いで脱出しましょ。
竜が吼える。荒ぶる怒りは幾らゴーレムを攻め立ようが収まらず、
竜が叫ぶ。どれほどの傷に塗れ、どれほどの血を流そうと、その眼はただ、ゴーレムを見据え、
……そんな殺意が渦巻く戦況を打ち破るように一際大きな銃声が鳴り響く。
「あんた達ねぇ。住処を荒らされて怒るのはわかるけど、血気盛ん過ぎよ」
耳を劈くように。アメリアはガトリングをわざと大袈裟にばら撒いて、飛竜達を窘める。
効果の程は如何程か、それで収まる竜も居れば、さらに怒る竜も居た。飛竜の性格は千差万別。これで丸く収まる位なら、住処が沈没間際にも拘らず、此方を試したりしないだろう。
「島の勇士達も撤退しちゃったみたいだし……私達が加勢しないとね」
しかし、竜たちのみでこの事態を解決できるなら、そもそもグリモア猟兵は依頼として扱うまい。
第三者(りょうへい)だからこそ、閉ざされた事象を切り開くことのできる選択肢(みち)があるはずだ。
「それにしても……」
アメリアはビッグモールのカメラ越しに、マインドゴーレムの性能(スペック)を確認する。自爆、ビーム、ロケットパンチとドリルキックに天使核の操作。鈍重そうな見た目の割に、中々器用な兵装(モノ)を載せている。
けれどそれはビッグモールも同じ事。
「前衛(まえ)に出るわ!」
第三者、されど傍観者ではいられない。窘めたからには、態度で示す。履帯を回しドリルを回し、装甲に任せ、飛来する武器の群れを弾いて強引に敵の陣形を搔き乱した。
仲間達が続々加勢していても、レーダーが捕捉する尖兵の数は未だ多く、螺旋(ドリル)の脚部にドリル腕部をぶつけて砕き、射出したアンカーチェインで一体敵を貫いて、遠心力のまま全方位に振り回す。
それを見ていた竜達は、アメリアを歓迎するように咆哮(こえ)を上げ、ビッグモールのバックアップに回ってくれる。
ビッグモールがガトリングを放てば同時に幾条のブレスも敵を薙ぎ、ドリルを翳せば地より蔦が伸びてゴーレムを拘束し、履帯で走れば大地が変じ、理想的な地形(コース)が出来上がる。
飛竜とキャバリア、縦横無尽に戦場を塗り替え、破砕するそのタッグに、追い詰められたゴーレムは最早手段を択ばない。
――レーダーに反応。直下に高熱源体。これは即ち捨て身の特攻か。
「いいわよ。だったらこっちも真正面から!」
地の竜が作り出した断崖を飛び降り、空中で接敵した二機(ふたり)はそのまま激しくぶつかり合う。がしりと、ビッグモールの頭部と右腕を掴む飛行腕。
悲鳴の如く警告音が鳴り響く。歪む映像、明滅を繰り返すスクリーン。それでも、操縦系統は死んでいない。
マイニングエンジン・フル出力。飛行腕の拘束を無理矢理に押し破り、左腕のドリルをゴーレムの胸部装甲に叩き当てる。飛び散る火花、砕け広がる装甲。しかし。
『6・5……』
「あら……まだカウントする余裕があるの?」
フル出力すら超えた120%。闘気を籠めたドリルはついに一直線、装甲を破断して、そのままコアに到達し、直後、どかんと大きな衝撃と土煙。
空中で争い合っていた二機が地上に衝突(つ)いたのだ。
もうもうと立ち込める粉塵。その奥のシルエットはひとつ。
土煙が晴れる。
果たして、抉り抜いたゴーレムのコアを掲げ、最後まで立っていたのはビッグモール。
ふう、とアメリアは息を吐く。各部チェック。異常なし。追加装甲はまだ保ちそうだ。
それならば。
再び履帯が動き出す。
――まだまだ。ゴーレム達を全て撃破するその時まで、エンジンを止める道理は無い。
成功
🔵🔵🔴
矢来・夕立
蛇さん/f06338
方針
蛇:UC封じ
矢:捕まえて起爆
蛇さんに先行してもらいました。
ミスって爆発しても吹き飛んで困る腕脚がないでしょ。
尾を切って逃げるとは思いませんでしたけど。面白かったですよ。
このガラクタどもだって両手が空いてりゃ拍手したに違いありません。
他の個体も捕まえてひとところに置いときましょう。
枷が外れたとき勝手に爆発するならそれでよし。
しなけりゃ手動で爆薬を撒いて逃げます。
ここは取っ掛かりのない空中とは違います。
罠は仕掛け放題。敵の動きも制限される。
地形の都合を差し引いたとしても、速さは竜の比ではない。余裕です。
百八十秒。きりのいい数字ですね。
インスタント麺でも持ってくればよかったな
バルディート・ラーガ
矢来の兄サン/f14904
ハハーン。竜のねぐらなる地に棲まうにゃア
いささか無機質に過ぎるボデーにございやすことで。
アレが敵サンの尖兵ちゅーワケですかい。
敵サンはデカい手エでホールドを狙って参りやしょう。
避けつ防ぎつ、上手く尻尾の先を掴ませッちまえばこっちのモン。
自爆カウントが始まりゃ「長い蛇の尾」をスパッと切って逃れやす。
蛇に蜥蜴に龍に竜、いずれもあっしめの一側面にて。ヒヒヒッ!
逃げるだけじゃアございやせン。ココで指すのは【咎めの一手】。
ひとたび腕から逃れッちまえば無力なワザ、と示してやりゃア
生じたる枷が自爆をガッチリと封じてくれやしょ。
さアて舞台は整いやした。兄サンの大立ち回りの番ですよう!
「……ハハーン。竜のねぐらなる地に棲まうにゃア、いささか無機質に過ぎるボデーにございやすことで」
夕立に貸し出していた装束をばさりと羽織り直すと、バルディートは盗品(せんりひん)に対してそうするように、生来鋭い眼差しで、尖兵達を品定め。
「アレが敵サンの尖兵ちゅーワケですかい。いやはや如何にも真面目(カタ)そうで。そこの所、矢来の兄サンはどう思いやす?」
身を屈め、飛来する大槌を軽い動作で避けながら、バルディートは夕立にそう訊いた。
「そうですね。見た目だけで言うなら、そこそこに丸っこくて、存外に愛嬌あるんじゃないですか」
「おやおや兄サン。マジですかい?」
「いいえ全く。ウソですよ」
夕立はさらり平然と。
そりゃあまァ、そうだろうと思っていやしたよ。放り投げられた夕立の解答に、バルディートはけらけら大袈裟笑って返した。
「それじゃアさっさと骸の海へ突っ返してしまいやしょ。味も素っ気もなさそうな、見渡す限りのゴーレムの満漢全席(フルコース)。今なら調理方法なんぞリクエスト受けつけておりやすが、如何で?」
「お任せで。お先にどうぞ。残り物には福があるとも言いますし。それにミスって爆発しても、吹き飛んで困る腕脚が無いでしょ」
こっちはこっちで色々と仕込んでおくので。そう言うと、夕立は踵を返して戦場全域の地形を観る。中々に、『仕掛け』甲斐がありそうだ。
「いやいや。幾つになっても痛いモンは嫌なモンで。それでも全身地獄(サラマンダー)になる前に、ま、上手いコトやってみせやしょう」
にやりと、あくまで軽薄に。炎の腕に牙(ダガー)を携え、バルディートは前へ出る。
「おっと危ない。これでもあっしはシャイなんで、そんな穴が開く程の熱視線で見つめられたら、どこぞの隙間に隠れてしまいますよう」
放たれた魔力光線を間一髪、近くに居たゴーレムを盾にやり過ごし、バルディートは押し寄せる捌いてゆく。
見てくれからしてやっぱりと、麻痺だの毒だの効かなかろうが、そこの所は力押し。牙を瞳に突き立てて、蹴り飛ばし、おまけとばかりに黒炎(うで)の変じた撓り広がる蛇鞭で尖兵達を打ち据える。
けれども勝手が過ぎれば押さえつけられるのが世の常か、鼻歌交じりに尖兵達を薙ぎ払おうと伸ばした尾撃が、無数在る飛行腕(うで)の一つに遮られ、戻らない。
「こりゃまたしっかりがっしりと。さしずめあっしはクレーンゲームの景品と言った塩梅で」
『自爆シーケンス起動。カウント開始』
「その前に、ちょいとした忠告なんでやすが、ここであっしの尻尾を解かないと、大変なコトに――」
「……10・9………」
「成程。解く気が無いと来たもんだ。それならそれで是非もナシ。このままあっしも潔く――なぁんて」
刹那。何の苦痛(おと)も無く、長い長い蛇の尾が、本体(バルディート)から切り離れ、後にはただ茫然と、抜け殻だけを握りしめる尖兵の姿。
「蛇に蜥蜴に龍に竜。いずれもあっしめの一側面にて。ヒヒヒッ!」
蛇(ヒト)の忠告は素直に聴くべきでやしたねぇと身も心も軽やかに、バルディートは笑う。
反対に、沈黙するゴーレム。『蜥蜴の尻尾切り』……そんな事態は想定していなかったのだろう。次にどうすればいいか、思索に耽るその隙を、バルディートが見逃すはずも無く。
「爆発、しないんですかい? まァ仕様もねぇや。倒せもせず、倒れもせず、ひとたび腕から逃れッちまえば無力なワザだと証明(バレ)ちまったんだ。立ち尽くすのも無理は無ェでしょうがねぇ」
そう言い包め、バルディートが口八丁、尖兵達を咎めれば、彼らはその身を焦がす黒炎蛇の枷に取らわれて、動けない。
「悪さをする手はお縄で縛っておかないと、ってなぁ、あっしが言えたクチでも無ェですが」
咎めて、縛って、出し抜いて、蛇の枷が敵を縛っておけるのはおよそ三分。後はお手並み拝見と、バルディートは尖兵達の身柄をまるっと夕立へ引き渡す。
「さアて舞台は整いやした。兄サンの大立ち回りの番ですよう!」
「まさか尾を切って逃げるとは思いませんでしたけど。面白かったですよ」
背中越し。尾の取れたバルディートの姿を、尖兵から引き抜いたばかりの雷花の刀身に映し取り、夕立は仕上げの準備に取り掛かる。
「このガラクタどもだって、両手が空いてりゃ拍手したに違いありません」
尖兵が操る勇士の武器。乱舞する剣を切り払い、放たれる銃弾を避け、降り注ぐ槍の雨を撃ち落とす。夕立はそのまま無遠慮に枷から逃れた尖兵達へ距離を詰め、自爆しない程度(ほどほど)戦闘力を奪った後、枷付きの個体と合わせひとところに集積する。飛竜達の背を追う事に比べれば、余程鈍くて楽な作業だ。
集積地点のひとところ。そこは深い深い落とし穴。向こうが雨の如く槍を降らせるのなら、此方は地の底に槍を揃え串刺しに。それでも浮かんでくるのなら、壁面びっしり仕掛け矢を。
天の太陽、地の溶岩。試練を経て、真っ当に踏みしめられる大地が恋しくなった――という訳では全くないが、折角なので、取っ掛かりの無い空中では出来ない手段(ワナ)を用いて尖兵達を沈めようと考える。何せこちらにはあらゆる属性の飛竜がいるのだ。紙技・文捕と合わせれば、どんな罠でも最短工期で敷設出来よう。
集積場(ガラクタおきば)にはまだまだ余裕がある。縄で引き寄せ、煙幕(けむり)で欺き、次々と底へ落として詰め込んで、最後に螺旋(ドリル)で地雷を踏み抜いた哀れな個体を突き飛ばし、時間を確認してみれば、残りはおよそ30秒。
夕立は穴の底を覗き込む。沈殿するゴーレムと、矢を浴びながらそれでも地上(そら)へと手を伸ばす幾つかの飛行腕。
世界がいくつ在ろうとも、墜ちたモノが最後に見せる動作に特段の変わり映えも無く、夕立は火薬を詰めた封泉を、幾つばかりか放り込み、そのまま穴に背を向けた。
ふわり。ゆらゆら。幾色の封泉が死の淵を彩って、飛行腕が焦がれた空に飛竜が舞う。
――残り零秒。枷の解けた個体が爆ぜ、その爆発にありったけの封泉(かやく)を巻き込み、最後は火竜が更なる業火をくべ……
刹那。けたたましい轟音と共に、落とし穴から天を衝かんばかりの巨大な火柱が噴き上がる。
炎が鎮まり、視界の端で、黒い炎が揺れる。
ヒヒヒ、と、バルディートはいつもの調子。
「丁度百八十秒。きりのいい数字ですね。インスタント麺でも持ってくればよかったな……」
一仕事終えた夕立は独りそう暢気に呟いて、もしバルディートに聴かれたら、聞いたことも無いような味のモノが出てきそうだと不意に思う。
……結末は、一々確認しなくてもわかる。小腹がすいたことよりも、バルディートの尾が千切れた事よりも、ひどく些細な事柄だ。
――遂に奈落の底から静観するモノは無く。何もかもが、灰と消えた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
クーナ・セラフィン
何かハードなルートだったけどもここがゴールかー。
いや黒幕とかバッチリ言っちゃってるから前哨戦だろうけども。
…だからこそ一体残さず倒して弾みつけないとね。
サメドラの近くで戦闘。
ここに来るまでの試練の盛沢山っぷりといいスリル大好きなんじゃ…と思うし、そんな竜には敵も殺到しそうだし?
翔剣士の身軽さ活かし敵の体も足場に利用して跳ねたり駆けたりしてゴーレムを翻弄。
銀竜は銀槍に戻して攻撃弾いたりしてタイミング計る。
敵の眼と四肢に警戒しつつ攻撃を回避、カウンターでUC発動して攻撃掻い潜りつつ切り刻んでやろう。
攻撃の激しさ増しても逆に冷静に。
あれだけの弾幕突破してきたし避けれる避けれる!
※アドリブ絡み等お任せ
「うーん……何かやたらハードなルートだった気がするけども。ここがゴールかー」
鋼鉄機械化鮫軍団を突破して、ガレオンクラスの超大型鮫弾幕を泳ぎ切り、まさか最後に待ち受けていたのが不可視の透明(インビジブル)シャーク弾幕だったとは。見えなくても触ることは出来たから最終的に踏みつけて何とかなったが――。
と。しばらく感慨にふけるのも吝かでは無かったが、ゴール地点には無数の尖兵。その上黒幕(フィクサー)がどうとか呟いているので、現状まだまだ中間地点の前哨戦だろう。ともすれば、こんなところで止まっても居られない。
『討伐対象:確認』
ぎょろりと、無感情な尖兵の瞳たちが、クーナへと向けられる。
「個人的にはキミ達よりも、キミ達の上役の方に興味があるね。だから悪いけど……一体残らず倒して弾みをつけさせてもらうよ」
なんにせよ、トロフィーとしても物騒だ。向こうが攻撃を仕掛けてくるその前に、クーナはルーンソードでまずは一太刀、すれ違いざまゴーレムを停止(フリーズ)させて、鮫の竜と合流する。
「サメドラゴン……引き続きよろしくね」
何度見てもその姿に竜成分が見当たらないのは置いといて、ここに来るまでの試練の盛沢山っぷりを思い出すに、この鮫(りゅう)は現状のようなスリルに満ち満ちた状況に慣れて、何より鮫属性に託けて、あらゆる属性に精通してそうなのも心強い。逆に敵の視点で考えれば、こういうタイプは厄介だろう。
そうしてクーナの予想通り、鮫竜がどこからともなく無数の属性とあらゆる異形の鮫たちを召喚し始めると、ゴーレム達の注目は必然、此方に注がれた。
先の試練と同じように、足場が増えるのは好都合。
――魔力光線が瞬く。クーナは突撃する銀竜を囮に跳躍し、八岐の鮫の背に隠れると、そのまま敵の陣形の後方へと回り込み、細剣オラクルで奇襲を仕掛ける。
「後ろまでは、やっぱり光線(め)が回らないんだね」
深々と装甲に突き立てたオラクルを引く抜くと、クーナの全身にすっぽり影が落ちる。飛行腕だ。50センチにも満たないこの身で捕まれば、待っているのは拘束どころか掌握(にぎりつぶし)だ。
しかし、この身ならばこそできる事もある。クーナは隙間だらけの躯体(ボディ)から、ゴーレムの内側に潜り込んで飛行腕をやり過ごし、そのままするり別方向から抜け出して、他人事のように。仲間の飛行腕が殺到し、圧縮されるゴーレムを氷(アイス)シャークの上で眺めた。
ひんやり涼しい氷シャークから離れるのを名残惜しいと思いつつ、爆発のルーンを刻んだ魔術符を四方八方にばらまいて、爆炎の中に雲隠れ。
敵の位置を把握し、此方の位置を確かめ、そうして打つ次の一手は真正面からの正攻法。
雲を突っ切り、敢えて視線の渦中に飛び込むと、散開していた銀竜(ヴァン・フルール)と合流し、銀槍の形に戻す。飛び交う光線(しせん)の僅かな隙間を潜り抜け、超えた先に立ちはだかるのは脚部の螺旋。
銀槍を構え、接触と同時に螺旋の切っ先を少しだけずらしてやる。そうすれば忽ちドリルは空回り、相手に心が無くとも、それに『視線』があるのなら、次の動きを読むのはたやすい。
「さあ――クーナの槍さばき、とくと味わうといい」
故にこその真正面。後は超高速の連撃で、ゴーレムの主要機関の全てを切り刻む。
流石に警戒され始めてきたのか、些かに敵の攻撃も激しくなってきたが、だからこそ冷静に。ゴーレムの頭を飛び越え、群れる飛行腕の上を跳ね、翻弄し、撃破する。
「あれだけの弾幕突破してきたし、避けれる避けれる!」
そうして隕石(メテオ)シャークが降り注ぎ…。
――いいや一体なんだそれ。
敵の攻撃よりもさらに意味の解らない隕石(メテオ)シャークの存在をとりあえず端におき……このくらい余裕で避けて見せないと、鮫ドラゴンに笑われる。
成功
🔵🔵🔴
草守・珂奈芽
すぐそこの嵐に元気な子達がいっぱいだからね、負ける気がしないのさ
みんな、もっと騒ぎたいなら力を貸してほしいのさ!
精霊さん達は基本自由に飛んでもらって、何人かだけ一緒に来てもらうね
乱戦の状況さ作って、その隙にあたしは本体狙いってスンポー
あの竜の子もこれぐらいの嵐なら平気っしょ!
あたし自身は《多重詠唱》の要領で草化媛を繰りながら突撃
翼は畳んでも《空中戦》に自信はあるし、魔力結晶で足場も作ってくのさ
それに無理に近付きすぎるつもりもないし
攻撃が手薄な辺りで精霊さんと攻撃開始っ!
あたしも神通力の《誘導弾》や《属性攻撃》で畳み掛けるよ
…これだけじゃジリ貧ってやつかもね
けど竜の子の一撃も期待してるからさ!
戦場に雷光が迸る。空を見上げると、幽か遠くに稲光を従え駆ける飛竜の影(シルエット)。あの金色の竜もまた、ゴーレム達と激闘を繰り広げているのだろう。
蛍石の翼が、綺羅と瞬きだけを残して解けゆく。珂奈芽が立つのは戦場(あらし)の目の最外縁。そこから半歩も後ろに下がれば、属性(だんまく)達が吹き荒ぶ暴風圏だ。
精霊嵐――精霊たちも相変わらず元気がいいなと珂奈芽は笑う。雷雲を突っ切った竜の試練のあの道中、中々に険しいものだった。モーラット曰く、楽な道程(みち)は無いという。ならばきっと、他の猟兵達が乗り越えてきた嵐もまた、元気(そう)だったのだろう。
故に。どれほど敵が居ようとも、珂奈芽は負ける気がしなかった。
「みんな! もっと騒ぎたいなら力を貸してほしいのさ!」
瞬刻。ごう、と文字通り、嵐(かぜ)の向きが変わった。押し合い、ぶつかり、消滅し合っていたあらゆる属性の弾幕達が、珂奈芽の言葉へ応じるように『目』の中へと流入する。
ここから先は最後の大乱戦。凪を気取っていた嵐が崩れ参戦し、すべてのものが燥ぐ精霊たちの熱狂(うたげ)に呑み込まれた。
しかし、元よりこのねぐらに住まう竜達は、今更そんな乱痴気騒ぎどこ吹く風と平然に、各々試練を乗り越えた猟兵達も承知の上で立ち回る。
ただ、恐らく試練などとは無関係に、凪の墓場の中心で、命ぜられるまま蹲っていた尖兵達のみが翻弄され、連携や隊列なども無茶苦茶に、すべては精霊嵐が浚い撹拌していく。
「まだまだ。これで終わりじゃないのさ……精霊さんたち!」
珂奈芽は戦乙女にも似た人形大の霊体達――騎士の現身――を創り出すと、嵐の中でも協力的な精霊たちに声をかけ、それに憑依してもらう。
斯くして装いを整えた群雄(せいれい)たちは、珂奈芽と共に疾駆する。
嵐に揉まれ、焦点の合わぬゴーレムの光線(しせん)が天地無差別に瞬く。珂奈芽は翠護鱗にそっと神通力(ちから)を通し、迫る視線の一条を無数の魔力結晶で弾くと、そのままそれを踏み台に空へ跳ぶ。
「たとえ翼は畳んでも、空中戦には自信があるのさ!」
結晶の位置と形はの意のまま、空に足場を生成し、天地の境を取り払う。
それでも天気は大嵐。弾幕(あめ)に紛れ、弾幕ならざるものが空を舞う事もあるだろう。剣、盾、斧と、尖兵達に操作された勇士の武器が結晶の小路に降り注ぐ。それに籠められているのは燥ぐ精霊たちとは違う、明確な殺意だ。
詠唱(くち)を休めず、疾走(あし)を休めず、草化媛を先頭に、空をかける。上へ上へと結晶(みち)を駆け上がり、そのまま一息飛び降りて、時には曲がり角に身を潜め、あるいは一気に滑って距離を取り、ついでにドリルと飛行腕を潜り抜け、それでもしつこい刃の残りを草化媛の紡いだ炎で落とせば、其処は全てを見通す、戦場の遥か上空。
殺意の終わり、嵐の外れ。珂奈芽は大きく深呼吸。誰も気づいていはしない。しぃと口に指をあて、草化媛についた土埃(よごれ)を払い、精霊達とうなずく。魔力を溜め、息を合わせて一斉に――。
「攻撃開始っ!」
限界突破の突破の全力攻撃。地水火風、それらすべての魔法の雨が、捉えた敵は逃がさぬと、嵐の空に縦横無尽の軌跡を描くと、槍を携えた精霊たちが追随し、ゴーレム達を貫いた。
確実にゴレームの数は減っている。しかし一体、また一体と落とし続けるその内に、ふと、遥か地上(した)に居るゴーレム達と目が合った。
攻撃の大元――珂奈芽を認識したのだ。そして見つかったからには……同型機(なかま)を盾に、損傷を度外視して、尖兵達が上空(こちら)へやって来る。
「分かってる……これだけじゃジリ貧ってやつかもね……」
ゴーレム達が飛行腕を上空へかざし、再び刃が風に混じる。
「けど!」
瞬間。
周囲が真白く染まる。珂奈芽は反射的に目を瞑り、この時何が起こったのか認識したのは、数瞬遅れの雷鳴が鼓膜を叩いた後だった。
瞼を空けると、眼前には金の飛竜。下を確認すれば焼け焦げたゴーレムが墜ちていた。
「その一撃を、期待していたのさ」
珂奈芽の言葉に、そうだろうと言わんばかり、金色の竜は大袈裟に偉ぶってみせる。
そうして、ばちり、ばちりと竜の周囲で電気が爆ぜる。
その瞳は、『まだやれるな?』と珂奈芽へ問いかけるように。
「……勿論さっ!」
光輝く金色の竜。珂奈芽もまた、草化媛と共に雷気を練り上げ……。
――幾重もの雷が、戦場を切り裂いた。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『征竜前線バスタード』
|
POW : 『葬竜極光』グローリア・レイ
【エネルギー充填完了のサイレン】を合図に、予め仕掛けておいた複数の【島を薙ぎ払う島底の砲門を開放。粒子加速器】で囲まれた内部に【エネルギーを収束、戦場に加速した荷電粒子】を落とし、極大ダメージを与える。
SPD : 『無命天使』マキナ・エンゼルズ
【島内部の倉庫】から、戦場全体に「敵味方を識別する【複数の機械天使兵】」を放ち、ダメージと【物量により萎縮と束縛】の状態異常を与える。
WIZ : 『撃竜嵐纏』ドラグバスター・テンペスト
【周囲を巨大低気圧の渦で覆う。外側を暴風、】【内部を稲妻で守り近づく物を粉砕する。】【粉砕した物を回収する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
●竜の天敵
※次回断章更新:7月21日(水)予定
※7月27日(水)でした。
斯くして、
精霊嵐の内の戦火《あらし》の終わり。
尖兵達の悉くが斃れ伏したその直後、突如として遥か
上空よりけたたましい
警報が鳴り響き、無数の極光が竜のねぐらへと降り注ぐ。
全てを葬る
破壊が奔る。ねぐらを苛む終わらぬ戦禍。その光芒の主こそ、分厚い曇天《ヴェール》より現れた尖兵達の
黒幕。巨大なるもう一つの浮遊大陸。
上空を窺っていた飛竜達が咆哮する。ねぐらの直上|《うえ》に我が物顔で陣取る
浮遊大陸の、その目論見を悟ったからだ。
……ひどくゆっくりとした
速度だが、間違いなく、あの島は徐々に徐々に下降を続け――竜のねぐらへ、『落ちて』来ている。飛竜と猟兵達の活躍に焦れたか、
ユーベルコードの発動を待たず、自らをぶつけてねぐらを空の底に
墜落とすつもりなのだ。
そうはさせじと飛竜が羽搏く。しかし
浮遊大陸は、そんな抵抗を見越していたかのように、
精霊嵐ならぬ
撃竜嵐を逆巻かせ、先の尖兵達とは比較にならない
物量の機械天使兵で
曇天を埋め尽くす。
奪われた制空権。無数の
障害物が飛竜の翼を遮って、その間にも
浮遊大陸はゆっくりと落ちてくる。相手の戦力は正真正銘浮遊大陸一つ分。猟兵が加勢をしたとして、それでも劣勢は免れず、
――しかし。その刹那。
彼方よりの砲音が、閉じた
戦線に穴を空ける。
飛空艇。号砲と共に現れた船団が横合いから戦線に突撃すると、其処から飛び出しだしたガンシップと動力甲冑達が制空権を搔き乱し、空翔ける剣戟と唸るチェーンソーが無命の天使兵を解体する。
それは。それらは、紛うことなく、
天使核を携えた竜のねぐらの勇士達。
「やぁ、来たよ。
猟兵達のお陰で、ようやく
勇士達も戦えるようになったんだ。一般の人たちも近くの島へ避難させ終えたしね」
轟く雷鳴と、異界の召喚獣が
撃竜嵐に抗う様を見遣りつつ、老黒竜とその頭の上にちょこんと乗った白毛玉――アン・ホワイトが猟兵達の元へ降りてくる。
「『征竜前線バスタード』。ウソか本当かはるか昔、対帝竜の為にガレオノイドを組み込み改造された意志持つ浮遊大陸《しま》……その成れの果てだってどこかで聞いたことあるよ。そのお話が本当だとすると、存在そのものが飛竜達の天敵だ。けど……」
ねぐら《しま》が吼える。猟兵達と共闘した飛竜達のみならず、島の全域――空を飛べるようになったばかりの幼竜から、死の淵で微睡んでいた老竜まで。総ての飛竜が空へと飛翔し、絶対的な
戦線に立ち向かう。
極光の薄明、空を埋め尽くす無命の天使。総てを拒む撃竜嵐。落ちてくる
戦線、落ち行く
ねぐら。翼があるのなら、ねぐらを放棄し尾を巻いて、空のどこかへ逃げ果せる事も出来るだろう。
――けれども竜は識っている。あれを打倒しなければ、空の何処にも安寧など無いことを。
戦闘などからきしの白餡子も、幾百の勇士達も、そんな飛竜達を誇り高く思っているからこそ、彼らと共に、最後の一瞬まで抗おうと覚悟を決めた。
「さあ、行こう。猟兵《きみ》たちと飛竜達と勇士《ぼく》達とで。
浮遊大陸と
浮遊大陸との総力戦だ!」
……そろそろ曇天も見飽きた頃合いだ。征竜前線を突破して、ねぐらの異変に
決着をつけよう。
上野・修介
※アド連携歓迎
「圧巻だな」
敵の浮遊大陸やその戦力に対してではない。
駆け付けた飛竜達と勇士達の覚悟に少々圧倒されてしまった。
「こちらも負けてられないな」
ならば俺も覚悟と意地を見せる。
今まで呼吸を整えながら練ってきた氣を内側でフル回転させる。
アン・ホワイトさんに自分と敵浮遊大陸の直線上から退避してもらように呼掛けて貰う。
「加減している余裕はないのでお願いします」
――為すべき事は元より変わらない
――敵を観定め、心を水鏡に
――然らば最速を以て最短を行く
小細工無しの真っ向勝負。
ぶち抜くならばど真ん中。
最大限まで増幅した氣を以てUCを起動し、持ちうる最速と渾身にてこの拳を叩き込む。
「一番槍、貰い受ける」
銃声。剣戟。魔術の光。飛竜の
息吹。
島の勇士と飛竜達。例え幾度塗り潰されようと、それでも決して消え果てず。
迎え撃つのは機械の天使。例え幾度抗われようと、それでも決して破らせず。
無命の天使が犇めく
前線に、数え切れない
覚悟が軌跡を描き、瞬く。
「……圧巻だな」
曇天を見上げた修介は、その光景に思わず息を呑む。
無論、天蓋の、
浮遊大陸やその
戦力に対してではなく、駆け付けた飛竜達と勇士達の覚悟に。少なからず圧倒されたと言ってもいい。
そして。だからこそ。
「此方も負けてられないな」
穏やかにそう呟くと、手首にテープを巻き付けた。あれが異変の大元ならば、自分自身の覚悟と意地を総てぶつけてやろうと
前線を観て、僅かの間、目を瞑る。
ただそれだけで、
ねぐらと
前線の鬩ぎ合う、戦の音が遥か遠くに聴こえた。体を掠める
戦闘の気配を
置き去りに、ただ
一時、ほんの一時、修介が向き合うのは、己の内で燃ゆる『それ』。
ぞわりと、
外側から鋭く、第六感が告げる無命の殺意。しかし修介は自然体のまま、避けもせず防ぎもしない。
殺意が迫る。それでも修介は微動だにしない。何故なら――。
無命の天使が、修介の命を奪ろうとしたその刹那。耳朶を打ったのはひどく鈍い接触音と聞き慣れた
咆哮……石の飛竜だ。彼ならそう
動いてくれるだろうと、そんな確信があった。
そして修介はゆっくりと拳を握る。調息。脱力。その神髄は、この時の為に。練り上げた膨大な『氣』を、体の
経絡でフル回転させ、満を持して眼を開く。あれだけ大きい
浮遊大陸だ。外し様も無いだろう。
「アンさん。これから俺は
島を叩きます。加減している余裕はないので――お願いします」
標的から視線を外さず、必要な言葉だけを短く
勇士たちの大団長に伝えた。
「オッケー解った。みんな、退避ー!」
大団長の号令により、修介と島の間の『射線』を開ける勇士達。
同時。鳴り響く
警報と、勢いを増す撃竜嵐。島の底に光が奔り、巨大な砲口が、修介を睨めつけた。だが。
「――為すべき事は元より変わらない」
退く道理がないと、寧ろ拳にありったけの
氣を篭めて、
「――敵を観定め、心を水鏡に……」
畏れも無く、迷いも無く、ただ在るがまま、
天蓋を見据え、
「――然らば!」
意を決し思い切り地を蹴って飛翔した。しかし竜を葬る
極光もまた、同じ射線を辿って煌めき、
「最速を以て最短を行く!」
二つの力が激突する。極光は
天使兵をも構わず呑み込んで降り注ぎ、氣は宣言通りの最短最速で
極光の渦の中を行く。
氣にぶつかって四方へ乱反射する極光。爆散する天使兵を横目で眺める暇も無く、修介は歯を食いしばって翔け抜ける。
……熱い。天と地、彼我の距離と此方の速度を考えれば、光に曝される時間もほとんど刹那の時間だろう。だがその刹那の時間が過ぎ去るのが、ひどく長いものに感じ――。
あとどれくらいか、どれだけの距離か。過りかけたそれらの思考を、修介は頭から振り払い、
進路だけを見る。決めた覚悟も、今までの鍛錬も、こんな光に屈するほどやわなモノじゃない。
故に修介は光の渦のその先へ、最大限に高めた渾身の
氣を、自身の持ちうる最高速度で突き出した。
「一番槍、貰い受ける――!」
小細工無しの真っ向勝負。
ぶち抜くならばど真ん中。
揺れる
天蓋。途切れる極光。
戦場に響き渡るのは、警報よりもなお大きい打撃音。
剥がれ落ちた岩壁が戦場に零れ――。
地から天へ。修介の拳が一直線に、
浮遊大陸を撃ち貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
島一つたぁ話がでっかくていいねぇ
相棒もここまでやる気に満ち溢れていて何より
今までの仕事で最長記録じゃね?
そんじゃやろーか、椋
引き続き鴉衣纏って【空中浮遊】【空中戦】
おーい椋、俺にもその黒いの来てんだが?
回復、マジで?
おっしゃ
視界が悪くても【激痛耐性】でぶつかりながら前進
寄って来る細けぇのは椋に任せた
こっちの姿も見えねぇんならちょうどいい
霧ン中でフリントぶん回して『羅刹旋風』
これでもかってタメておく
接敵したら【怪力】で振り下ろして攻撃
島を一丁両断できりゃ気持ち良いが、さてどうだろうか
敵の攻撃はサイレン聞こえたら流石に回避一択だな
椋、ヤベェのが来るぜ!
射線外の上空に退避してやり過ごす
六島・椋
【骸と羅刹】
この手の相手は得意じゃないが、今の自分にはやる気がある
引き続き飛竜殿と共闘と行こう
ナガレに乗って上空へ。君もすまないね、もう少しだけ頼むよ
とはいえ機械兵は数が多いな
UC発動
なんてことはない。ただ"眠く"なるだけだとも
すまんがこれあまり細かい調整が効かないんだ
回復とかなんかいい効果があるのでいい感じに頑張ってほしい
さて、自分だけぼさっとしているわけにもいかない
飛竜殿と共にUCの効きが悪い奴を狙いに行こう
眼球なくとも動ける
骨らの目であれば、この黒の中も行けるだろう
ナガレたちに攻撃してもらいつつ、自身も近いのを『解体』していく
夜ふかしサンどーこだ
聞けばわかる。ナガレに頼んで回避
「おうおぅ、島一つたぁ話がでっかくていいねぇ」
いつぞやの
白嶺もかなりのもんだったが、こいつぁ今までの仕事で最長記録じゃね? と、
征竜前線の威容を見上げるエスタシュは、怖れ一つ無く不敵に笑う。
「さあ。
最長記録の所はどうだったか。しかし、本音を言うとこの手の
相手は得意じゃないが……」
椋は落ちて来ている
脅威をほんの一瞥、愛しき骨らの
診察に意識を傾ける。どの骨格人形にも目立った外傷は無し。各部位の連携も滑らかで、先の戦闘からの
疲労は、殆ど無いと判じていいだろう。
「それでも退かず未だここに居るって事ぁ、やる気に満ち溢れてるって事だろ? あの
天井、どうしたって邪魔臭ぇもんな」
相棒がどう答えるかなど既に知れている。椋の応えを待たず、鴉衣を纏ったエスタシュが、一駆け
前線へと飛翔する。
「確かに。観光名所には程遠い……飛竜殿。引き続き共闘と行こう」
椋の言葉に続いて、滑らかな動作で腕を差し伸べ、骨の竜に共闘の握手を持ちかけるオボロ。チームスポーツでそうするように、骨竜はオボロの
白掌に自らの白掌を勢いよくタッチする。乾いた骨の二重音は了承のサインだ。
エスタシュの指摘通り、糸を繰る指先は左右とも冴えに冴えている。これならば、相手の
軍勢を絡め取ることも不可能では無い筈だ。
「ナガレ。君もすまないね、もう少しだけ頼むよ」
ねぐらに来てから働き通しのナガレを労って、椋は三度
骨の背に乗った。
「そんじゃやろーか、椋」
「ああ。行こう――コンロック」
「……いや。惚けてたわりには思いっきり昔話に引っ張られてるじゃねぇか」
……兎も角。向かうべきは無命の軍勢の先、降り注ぐ
薄明の大元だ。
島と島との
制空権が拮抗し合う最前線。此処から更に数メートル
上空に進入すれば、其処は最早退路無き敵の陣地。
どれだけ敵を払おうと、無命の軍は忽ち群がり、これでは幾ら時間を
浪費おうが、天蓋に辿り着けはすまい。
「――まあなんだ、そんなにせわしくすることもないんじゃないか」
故に椋は機械天使を睡臥に誘う。
じわりと沁みる黒い霧。かたかたと、骨の
音を纏うそれは深く静かに
戦場を覆い、隠匿する。
「なんてことはない。ただ『眠く』なるだけだとも」
囁くように、そう呟いた。
霧の中、聞こえてくるのは無秩序な駆動音。夜霧に触れれば無生物とて
故障は避けられず、無命の殺意は遠のいて、真っ暗闇の進路が開く。
「おーい椋? 俺にもその黒いの来てんだが?」
何処からかエスタシュの声と、鈍い打撃音が木霊する。
敵には深い眠りを、味方には心身の静穏と癒しを。霧は器用に敵と味方を識別するが、性質上視界不良だけは如何ともしがたい。
「すまんがこれ……あまり細かい調整が効かないんだ。回復とかなんかいい効果があるので、なんかいい感じに頑張ってほしい」
霧が晴れれば天使兵たちがまた動き出す。故に椋がこの闇の中で出来る事と言えば、相棒を信頼し、些事を全て放り渡すことのみだった。
「……回復? マジで?」
夜霧の中でにんまり笑うエスタシュの貌を、誰が確認できただろう。
確かにあっちこっちにぶつかったにしては、瘤の一つも出来てはいない。
ならばちょうど丁度良いと腕を鳴らしストレッチ。途中大槌か何かで殴られたような気もするが、気にしない。
「おっしゃ!」
ぶおん、と音を裂く程に、
鉄塊剣を振り回す。
心眼、などという言葉は興味の外だ。
一振り目。無茶苦茶に降った燧石の剣先は、何を断ち切る事無く空を切り、
二振り目。変わらず空を切ったフリントが、勢いのまま
旋風を帯び、
三振り目。出鱈目な剣の軌道が、偶然に天使兵を叩きのめした。
潰れた敵を蹴っ飛ばす。直後、余韻に浸る暇も無く、手の甲に何かしらの刃が刺さった。
向こうも同じ考えか、同士討ちすら恐れずに、槍やら剣やら暗中模索の乱痴気騒ぎ。
「……こっちの姿も見えねぇってんならちょうどいい」
撃たれ叩かれ刺されれば、打って叩いて刺し返す。
そもそもエスタシュにとって天使兵の頭数が減ろうが増えようが問題ではなく、『今』は腕とフリントが繋がってさえいればそれで充分。
走る
激痛を強引に押さえつけ、夜霧の齎す癒しを
活用い、エスタシュは強引に、意のままに、鉄塊剣を打ち振う。
そう。振う事ならいくらでも……だが。しかし。
「島を一丁両断できりゃ気持ち良いが、さて――どうしたもんか」
次から次へと、夜霧の中で何かが歪む音。どうやらエスタシュは元気にやっているらしい。
この夜霧と
静寂に浸り続けるのも悪くは無いが、自分だけぼさっとしているわけにもいかない。そも、エスタシュが派手にやり合ってるという事は、『効き』の悪い個体が居るという事だ。
「飛竜殿。
骨ならば、この深い霧の中でもきちんと見えているのだろう」
椋がそう呼び掛けると、ナガレのすぐ後方の夜霧の気配が濃密に、骨の翼が敵を薙ぎ払う音で返してくる。
矢張り。骨たる総ては
眼を亡くし、この霧より深い眼窩にて
外界を視る。故に、この程度の『黒』など晴天と大差なく、
骨の音。霧の奏でるそれではなく、これは飛竜が操る精霊嵐の一欠片。
椋も負けじと糸を繰る。かたりがたりと、白骨たちの大合奏。加速したナガレが薙いで払って突撃し、それを合図と夜闇に紛れたサカズキ組が縦横無尽に天使兵を苛んで、オボロも飛竜の用意した弾幕を足場に軽やか空を駆け、闇雲の剣戟を潜り、直上から撃ち落とすが如く蹴撃を見舞う。
「夜ふかしサンどーこだ」
椋自身も、余った糸で敵を引き寄せ、正中線にダガーの一突き。刃すら閃かぬ『黒』の中で、天使兵を解体してゆく。
骸と羅刹の百鬼夜行。天へと上りゆく程に、夜霧もまた深みを増して、天の使いを狩り尽くす。
しかし。覚めない眠りなど無いとばかりに。夜の外側から
目覚ましはけたたましく鳴り響く。
「――椋、ヤベェのが来るぜ!」
その響きこそ、極光のサイン。さしものエスタシュも
旋風を止めて急上昇。椋へと退避を促し、
「聞けばわかる。ナガレ。頼んだ」
椋もまたナガレを頼りに急降下。
二人が霧から脱したその直後、
征竜前線が瞬き光が奔る。
輝く光の上と下。骨竜は二人が間一髪で離脱したことを確認すると、翼膜すらない翼で飛翔し、エスタシュへ己が背中に乗るように促した。
「『その剣、少し借りるぞ』と。飛竜殿に考えがあるらしい」
椋が、飛竜の
眼窩に浮かぶ
骨の意思をエスタシュへ伝えた。
「フリントを? 一体どう言う――」
「『我が背でしかと踏ん張れよ。さもなくば地へと
墜落ちるのみだ』」
刹那。飛竜を中心に巻き起こる
骨の弾幕。吹き荒ぶ嵐は見る見るうちにフリントを覆い、張り付き、集積、収束し――やがて天を衝く程の超
巨大な刀身を形成する。
「『お前達が突破した骨の
精霊嵐の、その全てを
燧石に集めた』――いや。これは。まさか。何という……素晴らしい……」
「マジかよ! と言うか感心してる場合じゃねぇ。お前にとっちゃそりゃあそうかもしれんが、この重さ……うおっ!?」
息を呑む椋。歯を食いしばるエスタシュ。エスタシュの怪力を以てしても、気を抜けば、圧し潰されてしまいそうだった。
……だが、それだけの密度と
全長。これなら――。
「――ああ。俺にもようやく
骨の飛竜の考えてることが分かったぜ。
征竜前線をぶった切っちまえ……って。そうだろう?」
無数の天使兵が迫る。椋と骨達が
前衛に出て、攻勢を凌いでくれてるその間、エスタシュは全身が軋む音も置き去りに、中断された分がまだだったと、息を吸い、息を吐き、二度、三度。骨塊剣を引きずるように振り回し――。
「おらぁ
!!!!!」
怪力と、
羅刹旋風に任せ、征竜前線目掛け叩きつけるように振り下ろす。
戦場が震えた。
骨の刃がねぐらを覆う天蓋に深々と。めり込み、穿孔し、突き抜け、残獲する。
斯くして役目を終えた骨は砕け散り、未だ元凶は健在なれど。しかし確かに。
――そうして
征竜前線は、分かたれた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
草守・珂奈芽
竜も味方も来たんなら攻撃力は申し分なし
なら自由に飛べる空をあたしが作るのさ!
精霊嵐たち、魔力なら《限界突破》してでもあげるのさ!
あんなのなんか吹っ飛ばすありったけの力を貸して!
先に精霊さん達の力で《天候操作》、雨風と雷を抑えにかかるよ
その隙に大気や力の流れを見て、草化媛で白糸を紡いで
弱った嵐の中に精霊さん達と糸の嵐…ううん大海嘯ってのを起こすのさ!
味方は波に乗れるように、敵は波に飲み込むように
分かってるよね精霊さん達! 任せたのさ、竜と勇士のみんな!
破片の回収だってさせない、糸で絡め取って奪うんだから
この空にアンタの自由に出来る物なんかないのさ
竜も、精霊も、人も!
自由に飛べるのが空なんだから!
戦場の遥か
上空よりなお高く。
浮遊大陸に大きな
島影が落ちたと同時、彼方の
結晶を飛び降りた珂奈芽は、振り向きざまに
征竜前線を見た。
荒れ狂う
暴風と轟きのたうつ
稲妻を従えて、何もかもを破壊しようと我が物顔で
飛来してくるその姿。そこに精霊の気配は感じない。自ら吐き出した無数の
無命を、自らの
暴風と
稲妻で丁寧に解体し、粉砕し、咀嚼して、更に強く吹き荒れるおぞましき
撃竜嵐。正真正銘、これは純粋な厄災だ。空を侵食する異物。
空の世界に存在して良い代物ではない。
「なら、自由に飛べる空を――あたしが作るのさ!」
勇士と飛竜が抗って、拳は|天蓋を貫き、夜霧が敵陣を眠らせ、羅刹の旋風が
征竜前線を断ち切った。
この
戦場には、ねぐら総ての飛竜と、勇士と、そして
猟兵達が居る。
独りじゃない。けれど、自分にしか出来ない
役割は有る筈だ。
「精霊嵐たち! 魔力ならあたしの
限界以上をあげるのさ! だから! あんなのなんか吹っ飛ばすありったけの力を貸して!」
直後、
ねぐらから
弾幕が吹き抜ける。地水火風の正統派から、鮫やら霊やら謎で不可思議な変わり種まで……これまでまるで勝手ばらばらに動いていた
精霊嵐が――一期一会の親愛なる隣人たちが、一つになって撃竜嵐に立ち向かおうとしている。
その光景に珂奈芽は大きく微笑んで、くらりと一瞬、視界が霞む。言葉通り、精霊たちが遠慮なく『限界以上』を持って行った証拠だろう。
そうして微睡むままに
前線と
ねぐらの狭間を自由落下する珂奈芽。しかし地上へ激突する前に、雷の飛竜が翔けつけて、その背に珂奈芽を受け止めた。
大丈夫か、と飛竜の
唸り声にはそんな
心配が帯びていた。
「……なんのなんの! これくらい、なんてこと無いのさ!」
そう強がって頬を叩き、珂奈芽は草化媛を抱き寄せる。
精霊嵐が敵の
撃竜嵐を抑え込んでいるその隙に、もう一手。
大気を読み、
前線を覆う力の流れを辿り――勇士が、飛竜達が、全力で戦ってくれているからこそ、その
撃竜嵐を良く良く観察する事が出来た。
「――草化媛、縫封印式精製! 奏でよ漣、満たすは平静の調べ。凪の底へ沈め、万障の澱みよ!」
故に。草化媛は
白糸を紡ぐ。
全属性の
精霊力を縒った事象否定の白糸は、
戦場に縫い付けられるほど、相手の
理を曖昧に、一筋、二筋、寄せ集まって束になり、嵐の中で
白波を打つ。
撃竜嵐が弱まる程に、白波はより高く、激しくうねる。漣がやがて波濤に変じると、糸を伝い、幾重もの波濤に
精霊嵐の力が流れ込み、遂には
征竜前線を脅かすほどの大海嘯となって、撃竜嵐を飲み込んだ。
この雁字搦めを振り切るには
風速が足りない。荒波に
縛られた島はそう判断したのか、自身の
倉庫から天使兵を吐き出して、再び食事に取り掛かろうとする。が、無数の
大海嘯がその振る舞いを許さない。
勇士も、飛竜も、そして天使兵も。ひとかけらの
回収だってさせてやるものか。風に逆らい、稲妻を弾き、白糸が天使兵を絡め取り、混沌の海へと引きずり込む。
「この空に、アンタの自由に出来る物なんかないのさ!」
味方には凪の静謐を、敵には恐ろしき怒涛を。
珂奈芽は大海嘯を巧みに操り、飛竜達を援護する。
「さあ、ここから先は分かってるよね、精霊さん達! そして任せたのさ、竜と勇士のみんな!」
珂奈芽の発破に、
大団長が頷いた。飛竜達が羽搏いて、勇士達が武器を携える。
精霊嵐は順風。飛空艇の船団は
平静を為さんと凪の海を征く。
雷の飛竜も珂奈芽をねぐらへ下ろし、名残惜しそうに細い瞳を更に細めると、ここから先は俺たちの番だと威風堂々、
白糸の彼方の最前線へと飛翔した。
――珂奈芽は激突し合う二つの島の趨勢から、決して視線を逸らさない。
寄せては返す万物流転の白波が、
前線を退け、
ねぐらを護り……そして。
「竜も、精霊も、人も! 自由に飛べるのが空なんだから!」
刹那。
ありったけの
砲口が、全身全霊瞬いて、
征竜前線そのものを震わせた。
大成功
🔵🔵🔵
久遠寺・絢音
流茶野先輩(f35258)と
島の成れの果て…って言っても、宇宙よりは小さいわね
ええ、行きましょう先輩
先輩のパワーも頼りにしてるんだから
さっきの虫の飛竜を見つけ、少し震える前足を両手で取って元気づける
天敵が怖いのは分かるわ。私もそうだったの
でも…今は、立ち上がる時なの。大丈夫、私も一緒だし、他の飛竜や船もいるから
頭を撫でて、一緒に立ち上がる
いくよ!
さっきより状況はヘビー。でも、呼吸を落ち着けて…
雷の属性攻撃を纏わせた絡新婦の羽衣を放ち、襲い来る機械天使を一気に攻撃
2回攻撃で打ち漏らしも殲滅
それでもやってくる新手は生き残りは、雷属性の呪殺弾で落とす
親分!無茶はやめて!
(虫竜に頼んで助けに行く)
流茶野・影郎
久遠寺・絢音(f37130)と同行
デカいのが来たか……まあ宇宙でやり合うよりは全然小さい
行くぞ、ついて来い久遠寺
今回ばかりは君の魔術……いや手数が頼りだ
岩の飛竜に乗り、一直線に敵に飛び込む
ガレオンと久遠寺の援護はあるかもしれないがこっちも無傷とは限らない
「分かってるだろう? 一発デカいのを決めるために君が必要だ」
飛竜に囁き
命を預ける
サイレンが鳴るのがチャンスだ
どこでもいい、掴めるところまで運んでくれ
後は跳躍
決めるぜ必殺
『ルチャリブレ・ジ・エンド』
さて、浮遊大陸とやら質問だ
エネルギー充填時に他のエネルギーで内部から破壊された場合
充填されたエネルギーはどうなる?
まあ無事じゃないよな?
俺もお前も
ねぐらの空を覆う巨大な前線。
暴風と
極光をまき散らし、ゆるりゆるりと落ちてくる。それを如何にか止めようと、一駆け空に出たならば、行く手に待ち受けるのは夥しい数の天使兵。
恐らく。本来ならばこれはきっと、島の最後を告げる終末の光景なのだろう。しかし。
「デカいのが来たか……まあ宇宙でやり合うよりは全然小さいが」
「そうね……島の成れの果て…って言っても、宇宙よりは小さいわね」
荒れ狂う
戦場の只中で、二人は至極平静、
銀の雨が降る時代の日々を懐かしむように言葉を交わす。
択ぶべきものを択び、戦い抜き、無数の『宇宙』すら退けて、世界を護った。
だから今更、空から
浮遊大陸の一つや二つが降ってこようが、驚く道理は何処にも無い。
「行くぞ、ついて来い久遠寺。今回ばかりは君の魔術……いや手数が頼りだ」
覇気を纏った脚で一撃。影郎は迫り寄る天使兵を有無も言わさず蹴り抜いて、勢いそのまま石の飛竜に飛び乗った。
「ええ、行きましょう先輩。先輩のパワーも頼りにしてるんだから……あ、けど――」
ほんの少しだけ時間をくれないかしら。そう付け足した絢音の視線の先に、岩陰で、小さく震える虫竜の姿があった。
絢音の意図を察した影郎は頷き、石の竜と一足先に
戦場へ征き、
「さて、それじゃあ……」
影郎を見送った絢音は、驚かせないように注意を払いつつ、そろりと虫の竜へ歩を進めた。
飛竜の性格は千差万別。いざ無数にも思える天使兵と相対すれば、その物量に怖気づき、委縮してしまう者もいるだろう。ましてや相手が竜の天敵ならば猶更だ。
勇敢に立ち向かおうと思っていたのに……。虫の竜の複眼には、後悔と恐怖と自己嫌悪と――いろいろな感情が滲んでいた。
「……天敵が怖いのは分かるわ。私もそうだったの」
絢音は震える
前足を取り、寄り添うほどに近づいて虫の竜へ語り掛ける。
「でも……今は、立ち上がる時なの。大丈夫! 私も一緒だし、他の飛竜や船もいるから」
―――じいっと此方を見つめる竜の複眼が映すのは。或いは……昔の自分の
似姿だろうか。
諭すように。宥めるように。奮い立たせるように。絢音は飛竜を勇気づける。
竜の瞳から零れた大粒の涙。けれど涙を一粒流した後の瞳に
負の感情はひとつも見当たらず、絢音は彼の
頭部を優しく撫でた。
「さぁ……行くよ!」
……そして竜は、絢音と共に立ち上がる。
美しい四枚の翅が舞う様に羽搏き、ふたりは
戦場へと翔び出した。
「さっきより状況はヘビー、ね……」
空へと戻って早速、空を埋め尽くす無数の機械天使兵。怖じはしないが辟易する。
飛竜の背の上で、曇天のカンヴァスに
白妙月虹や
心宿ノ赤星の軌跡など描いてみるも、すぐさま
増援に塗りつぶされて、切りがない。
『大丈夫?』そう心配げに、飛竜の背が揺れた。
「……問題なし! あやねせんせーは平気ですとも!」
絢音は笑ってそう返し、暫し回避を竜に任せ、自身の呼吸を整える。
視点を遠く、視野を広く。金の瞳に数え切れないほどの天使兵を納め、カメラのシャッターを切るようにまばたいて、
――瞬間。右の指の先から、無数の蜘蛛糸が奔る。
「知ってる?蜘蛛の糸ってとっても丈夫なのよ!」
ふわふわとたなびく蜘蛛糸が、天使兵を絡め取り、雪花の如く花開き、重ね積み上げ帯となって――もう逃げられない。
そうして全力魔法の雷撃が、蜘蛛糸《いと》を伝って遍く駆け巡り、無命の軍団を焼き切った。
役目を終え、儚く千切れる蜘蛛の糸。けれども獲物はまだまだ数多く迫るが、絢音はすかさず左の蜘蛛糸でそれらを掌握し、
バチンと、電熱火花が咲き乱れる。
「敵の陣形が崩れたか……よし」
蜘蛛の糸が咲き乱れる戦場を潜り抜け、影郎は
一直線に
征竜前線を目指す。
勇士達も影郎のその動きに追随し、ロケットナイト達は背負うエンジンが焼き付くことも厭わず全力で進路をこじ開け、
飛空艇の船団が
残弾構わず敵軍へ砲火を浴びせる。
それでも道行は至難のもので、影郎も日本刀と長剣の二振りを手に、雲霞の如く押し寄せる天使兵を斬り伏せる。
「……っ!」
切り払った。そう思ったはずの天使兵の斬撃が
右腕を掠める。鋭く走る痛覚。日本刀の柄に血が滲む。
石の竜も影郎のダメージを察したか、速度を弱め、回避行動を取ろうとする。しかし影郎は、
「いや……そのままでいい。試練の時と同じだ。俺の
傷は気にするな」
馬を操る騎手がそうするように、影郎は竜の背で低く屈み、囁いた。
「分かってるだろう? 一発デカいのを決めるために君が必要だ」
――サイレンが鳴り響く。
前線の底の光が、禍々しく
大地を照らした。
影郎へ頷くかわり、時間が惜しいと飛竜はさらに加速する。
「……来たな。どこでもいい、掴めるところまで運んでくれ」
警報は告げる。島にとっての最大の脅威を。そして、影郎にとっての最大の好機を。
天を上る飛竜。喧しく耳朶を打つ警報。島底で発射の時を待つ
極光。
腕は動く。命は既に飛竜へ預けた。後は行くだけ。機を逃さずに、ぶつければいい――例え絶好の進路に、諦め悪く天使兵が立ち塞がっていたとしても。
『どうする?』飛竜の動揺が背から伝わる。
『気にするな』影郎の眼中はもう、天使兵を見ていない。何故なら――。
――刹那。天使兵が爆ぜる。絢音の
呪殺弾。
「矢張り……頼りになるな、久遠寺」
そんな呟きと微笑を竜の背に残して、影郎は
戦場を跳躍する。
投げ出した体。突き出した腕は
征竜前線の外縁の、切り立った岸壁を殴り掴み、
「さて、意思があるのかわからんが、浮遊大陸とやら質問だ」
練り上げた気を、島を掴む掌に集中する。
「エネルギー充填時に他のエネルギーで内部から破壊された場合……充填されたエネルギーはどうなる?」
掌から、影郎の気は断崖へ浸透し――即座
征竜前線が鳴動する。
響く警報は光を放つときの
音では無く。
ひび割れた四方の大地から、気と光が迸る。
「まあ無事じゃないよな? 俺もお前も」
解っていながら全力で、影郎は両掌を断崖に突き刺して、ありったけの気を送り込む。
『後は行くだけ』。脱出の余力など一切考えず――。
「必殺! ルチャリブレ! ジ・エーンド!!」
島が、爆ぜる。
「親分! 無茶はやめて!」
離脱した石の竜の背に影郎が居ないことを確認した絢音は、虫の竜に頼み込み、全速力で
爆発地点を目指す。
近寄るのに邪魔な
天使兵を、石の竜が抑え込み、虫の竜は懸命に空を駆ける。
ばらばらと砕け墜ちる島。それらが人か岩かの判別は、複眼だからこそついた。
飛竜は爆発の余波で吹き飛んだ影郎を救出する。
絢音は影郎を診た。傷だらけで、爆発の衝撃と、力を使い果たしたが故に微睡んでいる様子だが命に別状はなさそうだった。
征竜前線が零れる。終末の光景は、竜のねぐらでは無く
屍人帝国を送るための物だろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
イージー・ブロークンハート
【焔硝】アドリブ歓迎!
他勢に無勢に軍隊衝突、戦争とはこれ猟兵の本懐。
とはいえ、此度は剣にはやや分が悪そう。
戦った後にお家がボロッボロじゃ辛かろうもん。
嵐のような攻撃を受けて――UCを使用しよう。
作り上げるは今回はえた竜(なかま)の姿。
【結界術】で降り注ぐ災禍から島を【かばう】
竜は手伝ってくれるかな?くれたら、嬉しいな!
さあ胡麦、後方は任せて思うがまんま、やっちゃえーーー!!
隣で刃を振るえないのはちょっと物足りないけど、一緒に戦うのは剣を振るうばかり…えっ待って竜さんまってもしかして打ち上ッアーーー!!
胡麦の熱も後押しして、体が浮く。
目が合う。
しからばオレは下から――剣にて、交差の一閃!
百海・胡麦
【焔硝】アドリブ歓迎
ねぐら、大切な竜の
癒し心寄せる場所——失わせたくない
だね、護り抜こう!
紅灯華、命の焔を掌に。炎龍を繰るが本体は彼れ
雷か厄介だ——追いきれない
貴方の加護に頼るよ、イージー殿
しかし砕け襲うものは、この焔が呑んでやる
何処を補強するかを観察/見切り
嗚呼、きれいな、竜…それが貴方の焔
手が伸びる
ふふ、敵が操るなら己も嵐を
空駆ける狗を真の姿として顕在させ
白炎を宿し「風誘い・息名」に【魔力溜めて全力魔法】
万物を宿す嵐、どうか力を分けておくれ
破片で厚みを増させたなら弱い箇所であろう——彼処だ
風と瞳で貴方に伝う
さァ、あの人と
すべてを込める、上から跳んで叩き込む
アタシの命
綺麗な線…空昇る龍みたい
征竜前線落ちてくる。味方の攻撃で既に随分と削れているはずなのに、迫りくるその巨きさは、実感として雲間から現れた時の倍以上。
戦場の四方で火花が散った。どちらか有利か不利かなど、
現在判じるのは無用な事。戦が全て終わるまで、それらは容易く入れ替わる。
「他勢に無勢に軍隊衝突、戦争とはこれ猟兵の本懐。とはいえ――」
イージーは先の戦闘の影響で、刃毀れまみれの硝子剣と頭上の島を交互に見比べる。今回ばかりは剣の分が悪そうだ。
「ねぐら、大切な竜の癒し心寄せる場所――失わせたくない」
たとえいつか『寿命』が来て、竜のねぐらが空の底に落ちるとしても。それは『今』では無いだろう。胡麦は決然とした眼差しで、
浮遊大陸の骸を見据えた。
「そうだな。戦った後にお家がボロッボロじゃ辛かろうもん。これ以上の好き勝手は、捨て置けないな」
どれだけ粉々に砕けようと、硝子剣ならすぐ直るが、島の環境はそうもいくまい。それに剣が使えなくてもやりようはある。イージーは調子を診る様に、指先で手甲を軽く弾いた。
「だね、護り抜こう!」
胡麦は朗らかそう頷いて、思うまま天人を滑らせた。
――直後。ごう、と耳を打つ
嵐の音。間近で光る雷の音。すこし
島から離れるだけで、もう何処からが嵐の外側で、何処からが嵐の内側なのか分からない。
……否。内と外の区別など、端からありはしないのだろう。あるのはただ、破滅を齎す
征竜前線の
威容か。
吹き荒ぶ撃竜嵐。崩れた自身の岩壁も、潰えた無命の天使兵も、嵐の中に取り込まれ、ただただ翻弄されるのみ。
「――咲き開け」
天蓋に向けて、胡麦は自身の掌を翳す。
紅灯華。掌に纏い揺らめく命の焔。そして、其処より現れいづるのは白き炎龍。明々と燃える炎龍は、渦巻く嵐を掻き分けて、征竜前線そのものを燃やし包もうと接近するが、激しい雷に阻まれて、思うようには進めない。
雷そのものを燃やしてしまおうかとも考えたが、雷はまるで意思を持つように逃げ回り、瞬いては邪魔をする。実に厄介極まりない。
「けれど――」
炎龍の動きは阻まれて、自身も敵意が渦巻く嵐の中で立ち往生。それでも胡麦は――微笑んだ。
「貴方の加護に頼るよ、イージー殿」
地上ももはや暴風圏。雨の代わりに横殴りで岩が降り、雪の代わりにしんしんと
天使が降り積もる。
「うおっとっと!」
ひしゃげた天使兵を受け止め放り投げ、岩や小石を殴り抜き、イージーは染灯りの熱を感じ取る。どれだけ嵐に曝されようと、決して絶えぬ篝火のように温かく――強く強く染灯りを握りしめ、隕石の如く落ちてきたひときわ大きな岩壁を殴り抜いた。
「自由に、自在に……」
術で一番大切なのは、強くイメージをすること。
手甲の熱。隕石の衝撃。それらを転化した魔力から、作り上げるのは、雄々しく、誇り高い
竜の姿。
イージーが喚び出した九体の竜は、飛翔すると縦横に大きく広がって陣を敷き、それぞれを起点に
ねぐらの全域を覆うほど巨大な結界を展開する。
地、岩、鋼、水、緑――守りに長けた飛竜達も、結界の意図に気付き、誰ともなく息を揃え、
九体の竜を援護した。
やがて嵐が弱まり、
岩が弾かれ、空が凪いだ。そう。それは、竜ねのねぐらの全てを、降り注ぐ災禍から庇い――護るためのモノ。
そして――どんな黒雲の中でも胡麦の道行きを照らす眩い
焔に他ならない。
「さあ胡麦、後方は任せて思うがまんま、やっちゃえーーー!!」
胡麦を打ち据えようとうねり輝く雷光が、直前結界に阻まれ霧消する。
「嗚呼、きれいな、竜……それが貴方の焔」
おもわず胡麦は瑞玉杯の竜達へと手が伸びる。しかし――伸ばした手を見てはたと気づく。掌に在るのは命の焔。焔の先には白き炎龍。
一では進めず九では防ぐのが手一杯で。けれど合わせて十なら――護り、進める。だから。
「砕け襲うものは……この焔が呑んでやる」
白き炎龍が自在に嵐の中を翔ぶ。
岩を呑み、天使を包み、雷鳴など気にも留めず竜を滅ぼす撃竜嵐を喰らっていく。
竜が舞い、嵐が怖じる。胡麦は嵐から目を離さない。ただの自然現象では無く、オブリビオンが起こしているモノならば、其処に必ず何かしらの目論見が介在するはずだ。
上空に視線を走らせて、左右に思考を巡らせる。
そして。
「ああ、成程――ふふ」
目論見に気付いた胡麦は
空駆ける狗を顕在させ、さらに上へ上へと空を跳ぶ。
「――万物を宿す嵐、どうか力を分けておくれ」
敵が嵐を操るのなら、此方が精霊嵐に助勢を願っても卑怯とは言うまい。
風誘いに、息名に、白炎を宿すそれらに精霊嵐からの力が注がれる。
悪意無き、心地よさすら感じる力の奔流。ふたつの
白炎は全ての魔を消し去らんと・すべての味方を援けんと燃え盛り――。
「ガンバレー! 胡麦ー! いけー! やれー! そこだー!」
イージーは竜のねぐらから、はるか
上空で戦う胡麦にエールを送る。
前線が近づいているとはいえ、まだ結構な距離があるが、大丈夫。声には結構自信があった。
「まぁ本音を言うのなら、隣で刃を振るえないのはちょっと物足りないけど……一緒に戦うのは剣を振るうばかりにあらずという事で」
惜しい気持ちも確かにあるが、実を云うと気合を入れて
浮遊大陸一つ分の結界を張ったものだから、予想外に維持と消耗が激しく。気を抜くと下半身が生まれたての小鹿みたいになってしまう。もう心が折れてるかと言われれば折れてるし、それでも高速で立ち直ってるから折れてないと言えないことも無い。絶妙なバランスの上でイージーは何とか大地に立っていた。
撃竜嵐は全て防いでいるから良いもののこれでもし何かしら衝撃があったら――と。
足首に違和感。隣を見れば、いつの間にか緑の竜が居た。
「えっ? 何? 蔦? 竜さん?」
その本音を叶えるよ。緑の竜のいとけない瞳は百パーセント善意で輝いていた。
「えっ待って竜さんまってもしかして打ち上ッアーーー!!」
足首に巻き付いた蔦が撓って最大級の逆バンジー。
真っ逆さまになりながら、聞こえてきたのは鈴の音。
曇天には勿体ない、淡く光る柔らかな華の雨を潜り抜けると疲労も癒え、暖かな熱を感じた。
――『風誘い』の柔らかい風。
逆さの体勢を立て直し、硝子剣を引き抜いて、
征竜前線を見る。
緑の竜の力を借り、地より飛び出した茶の瞳が、琥珀色の瞳を覗く。
精霊嵐と共に、天高く跳ぶ琥珀色の瞳が、茶色の瞳を見つめた。
胡麦は目配せ、島の弱点は、回収した破片で急場しのぎに繕ったあの部分。
硝子剣が煌めいた。四方で散り行く火花の光を反射して、空を行く軌跡は空昇る龍のごとく。
全身全霊の
白炎が燃える。嵐にも、雷にも、その輝きは最早掻き消せず。
そして。天地上下の閃きが、一つに重なり――
曇天に、大きな
風穴を開けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アメリア・バーナード
※アドリブ連携OK
『征竜前線バスタード』……なんて大きさなの!
このままだと、島は雲海に叩き込まれてしまうわ!
あの暴風と稲妻の前じゃ、キャバリアなんて蟷螂の斧ね……。
でも制空権を取り返すための隠し技はあるわよ。
まずは安定した足場を見つけましょう。
あとは指先を向けて、天から光を降り注がせて、建物を直接攻撃するわね。
風の守りが渦状なら、その真上は薄いかもだし、流石に光までは雷で防げないんじゃないかしら。
もし防がれても、光は粉砕できないから、敵を強化することはないわ。
威力は心許ないかもだけど、ノーリスクで味方の支援射撃が出来るって訳。
空に焦がれて幾星霜。クロムキャバリアの住人を舐めないで頂戴。
クーナ・セラフィン
無茶苦茶だなーもう。
浮遊大陸丸ごとなんて派手に壊せる手段持ってない私にゃ少し荷が重い。
でもね、不安は全くないんだ。
明日の安寧を掴む為、必死に最後まで抗おうとする皆がいるなら…あんなのに負ける筈がない。
じゃあ、行こう。
飛竜達と共闘。近づく為サメドラ力貸してくれたら助かる…!
機械天使兵とか島からの砲撃はオーラ防御しつつ勘で見切り、身軽さ活かし回避し斬り払い魔力通した符で風起こして吹き飛ばしたりして退ける。
サイレン鳴ったら一気に急上昇をお願いして攻撃領域の外へと逃げつつ島へ一気に切り込む。
島に飛びつけたら後は全力でUCぶつけ壊してくだけさ。
敵倒せたら協力してくれた彼らにお礼を。
※アドリブ絡み等お任せ
「うわうわうわ。無茶苦茶だなーもう」
ビッグモールの小蔭に身を寄せて、クーナはため息交じりに
戦場を見上げる。
どこもかしこも暴風圏。その上
風速は増すばかり。そんな嵐の渦中で、小柄なケットシーが着の身着のまま立っていれば、帽子どころか全身持って行かれかねない。
「あの
征竜前線……なんて大きさなの!」
アメリアも、ビッグモールのモニター越しに墜ちてくる島を観測し、計器類に目を走らせる。
猟兵の活躍により、その
全長は削れ、
移動速度自体は落ちて来ているが、それでも未だ止まらず、衝突した時の損害は考えたくもない。
「……いえ。損害なんてモノじゃない。落ち切ってしまえば、確実にねぐらは
雲海の底ね……」
項垂れるように、アメリアは首を振ってビッグモールの外に出る。武装、装甲、そしてエンジンに異常は見当たらない。
しかし。一つだけ、問題があるとするならば……。
「あの暴風と稲妻の前じゃ、キャバリアなんて蟷螂の斧ね……」
目視しただけでわかる、
撃竜嵐の規模と理不尽さ。ドリル、ガトリング、アンカー。既存の武装で相手取るのは至難だろう。それに万一、ビッグモールそのものが回収されたら目も当てられない。
「こっちも事情は同じかな。浮遊大陸丸ごとなんて、派手に壊せる手段持ってない私にゃ少し荷が重い」
でもね、と、クーナは
銀槍を携えて、長靴で軽くステップを刻む。
「不安は全くないんだ。明日の安寧を掴む為、必死に最後まで抗おうとする皆がいるなら……あんなのに負ける筈がない」
嵐を切り裂く砲音。飛竜達が巧みに極光を躱し、勇士達の剣戟が、天使たちを
雲海に落とす。
戦場の何処を切り取っても絶体絶命の窮地は変わらず、なのに、彼らは誰一人として諦めていない。
「それじゃあ、行こう。お互い得手は通じないかもだけど……
隠し技、持っているんだろ?」
それは当然。アメリアはにやりと頷き、ビッグモールに再搭乗する。武装に有効手が無いとしても、
前線を目指すクーナを援護することは可能だろう。
ビッグモールがガトリングを構え、アメリアは鮫ドラゴンを駆るクーナの周囲を注視する。
……鮫ドラゴンに関しては、特に気にしないことにした。
斯くしてクーナを背に乗せて、鮫ドラゴンは空を泳ぐ。鮫の行く手、大波小波に押し寄せるのは雲霞の如き天使兵。
邪魔をするなら容赦はしないと鮫は大口開けて天使を丸齧り、口が足りぬと八岐のシャークを呼び出して、傍若無人の踊り食い。
岩石シャークがその身を盾に雷撃を受け止めつつ、クーナはその場で魔術符にアドリブの走り書き。剣撃槍撃紙一重でやり過ごし、風のルーンを刻んだそれを四方に展開、至近の天使兵を弾き飛ばす。
敵も近接戦の愚を悟ったか、今度は槍やら銃を持ち出して、遠間の距離から攻め立てる。陽だまりに身を包み、クーナも最低限のダメージで降り注ぐ弾の大半を躱して見せるものの、やはり多勢に無勢、
障害物をはらむ撃竜嵐もまた邪魔をして、鮫達の
鰭が止まってしまう。
どうしたものかと思索に耽りかけたその刹那。地上よりの
砲火が、天使兵を撃ち落とす。ガトリングはそのまま
進路を塞ぐ残骸を粉砕し、クーナと鮫は一瞬生まれた空の抜け道を、即座駆け抜ける。
的確に、進路を示すガトリング。なるほどそれが有効なのかと学習した鮫は鋼鉄機械化鮫軍団を呼び出して続き、幾条もの砲火が敵陣を貫いた。
猫のキャバリアの抵抗に業を煮やしたか、突如として
戦場に響くサイレン。
「急上昇を! お願い!」
島の底に灯る光。全速力の鮫は限界まで
極光の
射線を遡上すると、
前線よりさらに
高度く。直下で光が奔ったのはその数秒後だった。
ぎりぎりの逃走劇に、まずはほっと息を吐くクーナ。
しかし。
(「ガトリングが途絶えた
……?」)
地上を見下ろしてみても、あまりに遠すぎて、アメリアの安否はわからない。
此処から一旦
帰還れば、送り込んでくれた彼女の支援が無駄になる。
……進むしかない。クーナはアメリアの無事を信じ――征竜前線へ飛び移った。
耳朶を打つ複数の
目覚まし。長く眠っていた感覚もあるが、意識が途切れていたのは一瞬か。
アメリアはすぐさま
損傷を確認する。先程とは打って変わってどこもかしこも異常だらけ。追加装甲のお陰で致命的なダメージは無いが、これ以上機体は動かせそうにない。あの極光をまともに受けてこの程度ならば御の字か。
光の際で、クーナが
前線より高い高度へ到達するのが見えたから、役割は果たしたのだ。名誉の損傷と言っていい。
ビッグモールから脱出する。丁度狭い谷底、機体はその身を隠すように、不自然な形で半ば土に埋もれ……地の飛竜が護ってくれたのかもしれない。
ごう、と撃竜嵐が谷のすぐ上を過る。それでも谷の底、特にキャバリア周辺は凪のように穏やかで――。
意を決し、アメリアは微睡むビッグモールの、土砂を被った頭頂部に立ち、
自らの指先をぴしり、
曇天に蠢く征竜前線へと向けた。
がらんどうの建造物を、クーナは彼方へ此方へ駆け抜ける、無意味に入り組んで、そのくせ重要そうなモノは何処にも無く、さて、帰り道はどちらだったか。
「土足で入って悪いけど、ダンジョンを攻略してるヒマは無いんだ」
ヴァン・フルールに
白百合を纏わせて、クーナは思い切り、
地面を貫いた。
射程30センチの超一撃。どこが弱点かわからないなら、全部壊してしまえばいい。叩いて叩いて叩きまくり、たまらず
前線が震えた頃合いに、天使兵が駆けつける。
無命の機械兵が暴れるクーナを取り囲み、絶体絶命の窮地に陥って……しかしその時、文字通り天からの光明が敵を焼き、活路を開く。
先ほどの、精霊嵐の内の戦場と同じこと。
前線を起点に、嵐の守りが渦状なら、真上の守りは薄いだろう。島底にあれだけ
砲口をつけてるならなおさらだ。
アメリアの指先は征竜前線から決して離れない。どれだけ
風速が強かろうと、
前線のさらに上――天から降り注ぐ光にとっては意味がなく、荒れ狂う稲妻もまた、光を捉えるには遅すぎる。
曇天より差し込む真の薄明が、
前線の地表を焼き払う。これまでの光景とは逆に、天使たちが飛び立って、光から島を護ろうとするが、ドリルが孔を空けるように、光を浴びた天使は全て穿たれ消え失せて、破片の
回収もままならない。
これだけ無慈悲に照らしても、アメリアにはクーナには当たっていないという確信があった。
指先が向かうのは、あくまで『征竜前線』という、ねぐらの敵の、ただ一つ。
流石にそろそろ潮時か、アメリアの光と手分けして、目につくところは大体壊した。『雪華の騎士猫』という通り名に似つかず大分荒々しかった気もするが、たまにはそんな時もある。
光指す方へ。クーナが空へと飛び出すと丁度良く、
白毛玉を乗せた老黒竜が受け止めた。
ありがとう、とお礼を言うと、大団長だけが鼻高々と得意げに、老黒竜は淡々と黒い雷を操って、残存敵を打ち倒す。
クーナは改めて
前線見る。廃墟と化した地表に、最後の光が降り注ぎ……。
空の自由を塞ぐもの。世界も機構も違えども、島を睨むアメリアの脳裏をかすめるのは、『それ』の存在。
知らずのうちに、指先に力が入る。いつか、きっと。故郷の空も――。
「――空に焦がれて幾星霜。クロムキャバリアの住人を舐めないで頂戴」
一際大きな光が、征竜前線を突き抜けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
矢来・夕立
蛇さん/f06338
もとい、マップ兵器さん。
島までの道のりが厄介ですね。
式紙を撒いて避雷針にします。嵐の中も多少は通りやすくなるんじゃないですか?
それに近頃は治療の真似事もやれるようになりまして。
ものこそ【不審物】と呼ばれていますが、中毒性や副作用はありません。…オレの知る限りでは。
確かこちらの符などいいと聞きました。違法も合法もないでしょ知らない世界なんだから平気ですよ
道すがら他の飛竜にも適当にものを投げつけていきましょう。効果は最低限ですけど。
故郷を蹂躙された者には、復讐を行う権利がある。
これがどれだけ正しい怒りか。わざわざ部外者が言うことでもない。
誰在ろう、竜
が知っています。
バルディート・ラーガ
矢来の兄サン/f14904
再び真の姿にて。あっしめもそれなり長ァい体躯なれども
空飛ぶ大陸が敵となりゃア、スケールが一段違いやすねエ。
もっとも今から尻尾巻いて逃げるよな
我々じゃアございやせンぜ。
あーン?なンですかいその符は。違法だのなンだのと。
……んまア、今のは聞こえてなかッた事にしときやしょうかい。
使えるモンは使える時に使ッとくに限りやさア。ヒヒヒ!
避雷針頼りに翔んで暴風雨をくぐり抜け、動力部を狙いやしょ!
ご自慢の荷電粒子砲とドーピング・灼熱ブレスの真っ向一騎打ち…
ちゅーのはちいとばかし無謀やもしれやせンが。
我々は単騎じゃアございやせんで。好機は今ですぜ、飛竜の皆々様方!
「ははァ。成程。隕石なんぞ降ってきたらと道中謳った記憶がありやすが、こいつぁまた随分デカい奴が出てきたモンで」
味方の攻勢にさらされて、半ば砕けながらも軌道を変えずねぐらへ落ちてくる
前線。再び巨大な東洋龍の姿に変じたバルディートは、いやはやこれは圧巻と、心にもない感嘆の
軽口を吐き出した。
「あっしめもそれなり長ァい体躯なれども、空飛ぶ大陸が敵となりゃア、スケールが一段違いやすねエ」
大きさだけで見るのなら、さしずめ向うが象で此方が蟻か。
この
体躯で蟻ン子扱いたぁ一周回って新鮮で。バルディートは三十メートルを超える巨体で来ると、曲芸の如く宙を舞う。
「もっとも今から尻尾巻いて逃げるよな、
我々じゃアございやせンぜ」
生え変わったばかりの尾を自在に振って、さァてそれじゃあどうしやしょう、嵐の中で佇む夕立に訊いた。
「『その時』がまぁあっけらかんと来ちまいやしたが――」
「そうですね……」
夕立は思案するように、赤茶の瞳で暫し
戦場に吹き荒ぶ
撃竜嵐を眺め、
「じゃあ
初手はこれで」
徐に。突然。ぺたりと。バルディートの背に、とても奇抜で
貴重なデザインの呪符を張り付けた。
「あーン? なンですかいこの符は? 湿布か何かで?」
長い龍の首が、物珍し気に自らの背を覗き込む。
「そんなモノです。私事ですが、近頃は治療の真似事などもやれるようになりまして」
「そいつは結構。
儲けの手段が増えるのは、目出度い話でございやす」
などと合いの手を入れながら、張り付けられたその呪符は、
何処の世界から引っ張り出して来たのか、『訳アリ品』に詳しいバルディートすら見たことのないモノだった。
「ものこそ違ほ……
『不審物』と呼ばれていますが、中毒性や副作用はありません。無いです。ないと思います……オレの知る限りでは」
「あア、わかった。違法だのなンだのと、そうやって無駄に脅かして、こっちの緊張を解そうと。そういう矢来の兄サンお得意の
冗談なんでやしょう?」
「……」
「……えっ」
「そう。特に今張り付けたこちらの符など良いと聞きました。張るだけで攻撃力が上がるとか。後は医療用のナノマシンなどですね。それから、はい。ええ。違法も合法もないでしょ知らない世界なんだから平気ですよ。平気平気」
しれっと説明を続けつつ、夕立は諸々強引に押し切るつもり満々だった。
仮に、此処に居たのが一般人であったなら、見え隠れする常道ではない胡散臭さにしり込みをしていた所だが、
「――んまア、今のは聞こえてなかッた事にしときやしょうかい。使えるモンは使える時に使ッとくに限りやさア。ヒヒヒ!」
バルディートもまた
蛇の道は蛇側のドラゴニアンだったので、寧ろアクセル全開、上機嫌で夕立を背に乗せ、そして
不審物に乗っかった。
――爆ぜる雷光。無命の天使はより堅固な陣を組み、唸る
撃竜嵐が
風速のまま地を抉り、ねぐらを苛む。見上げれば、もう、すぐ近くまで
前線が落ちて来ている。
「島までの道のりが厄介ですね……」
ぼそりと。そんな夕立の呟きは即座嵐にかき消され……。
距離の問題ではない。
ねぐらが生き残ろうと必死に足掻いているように、
前線も目的を遂げる為なら死力を厭わず攻めてくる。
「中々どうして向かい風でやすけども……しッかと掴まってて下さいよウ!」
風の様子がどうであれ、怯え竦むのが性分であるはずもなし。二人は気にせず空を行く。叩いて壊して
解決なら、そうすればいいだけの話だ。
残骸が逆巻く
戦場の上。
蛇の尾が雑多に押し寄せる天使兵を薙ぎ払い、龍の多腕が飛来する岩石を受け止め握りつぶす。
「おお! こいつァ爽快! 体が軽い! まさしく
呪符様様で、こいつァどんなブツを練り込んだんでやしょう?」
「ああ。それは、きっとハッカだと思います」
実際の所は全く知らない。夕立は適当に
相槌を打ち、式紙・牙道で天使兵の眉間を貫いた。
文字通りこちらの『手』は足りている。不躾に飛び込んでくる残骸程度何とかなるが、
前線へ近付こうとするたびに、一々瞬く稲妻は鬱陶しい。周囲の飛竜や勇士達も、これのせいで攻めあぐねているようだ。
暴風の方はこのまま
バルディートに任せるとして、荒れ狂う雷を対処しなければ、このままぽつんと野晒しだ。
大暴れする龍に隠れ、夕立はそっと
蝙蝠達を放つ。
撃竜嵐に紛れた小さな蝙蝠たちは、風に翻弄されながら、ひらひら、健気に
前線へと羽搏くが、案の定、雷に打ち据えられて真っ黒焦げに落ちてゆく。
無意味な飛翔か、否、|彼ら身代わりに打たれたこそ進路は開く。
稲妻が絶え間なく降り注ぐその最内。
避雷針の群れを突っ切って、バルディートは征竜前線に肉薄する。暴風雨をくぐり抜け、
天使兵を躱し、脱落した岩壁を尾で叩き、途中流された勇士を助けつつ、辿り着いたのは己の
息吹の射程圏。
狙いは島の動力部。当りをつけて炎を蓄え、吹いてやろうと息を吸い込んだその刹那。雷鳴程にけたたましい
警報が鳴り響く。
一々合図を飛ばしてくれるとはお優しい。それならこっちは遠慮なく。嵐の先へ、バルディートは灼熱のブレスを解放する。
瞬刻。見下ろすように
前線も極光を打ち放つ。
激突する息吹と光。真っ向から二つの線が鬩ぎ合い、一進一退の一騎打ち。じわりじわりと炎を掻き分け、光がこちらへ降りてくる。
喉が焼ける。仕舞った。ちいとばかし無謀だったかもと胸中で呟いて、それでもこのまま、すごすご打ち負かされるのは癪だから、呪符を頼りに全力以上の力をかき集め、
灼熱が
極光に食らいつく。
光が爆ぜる。一騎打ちのその果てに、バルディートは息堰切って
呼吸をする。結果はブレスが島を撃ち抜いて、しかし、
動力部では無かったから引き分け、と言ったところだろう。
龍の身で、竜の天敵と伍したのだから上々と、そう満足する暇も無く、無慈悲に鳴り響く第二の
警報。
けれどもこちらの
灼熱は店じまい。逆さになっても溜息だって出やしないが、それでもバルディートはヒヒヒと、いつものように笑ってみせる。
「我々は単騎じゃアございやせんで――好機は今ですぜ、飛竜の皆々様方!」
全ての天使が地へと落ちる。
灼熱の息吹と極光の一騎打ち。
前線がそれへと熱中していたその隙に、
撃竜嵐を突破した無数の飛竜が、勇士が、精霊嵐が。征竜前線を包囲する。
「――故郷を蹂躙された者には、復讐を行う権利がある」
言いながら、夕立はありったけの『在庫』を空にばらまいた。
呪符、薬物、ナノマシン、魔石、果実――放り投げられた在庫は蝙蝠伝いに飛竜達へ行き渡る。バルディート程の効果は見込めないが、それでもこれだけの頭数、馬鹿に出来たモノじゃないだろう。
「これがどれだけ正しい怒りか。わざわざ部外者が言うことでもない」
精霊嵐と、勇士と、飛竜と、猟兵の――激闘を積み重ねたが故の
終末。
前線を壊せさえすれば総ては終わる。
壊せさえすればそれでいい。故に夕立とバルディートは――最後の
引鉄を
島に住まうすべての者たちへ委ねた。
精霊嵐が戦ぐ。飛空艇の全ての砲が島を狙い、勇士達は天使核の武器を手に―――そして飛竜達は、何に遮られることも無く、縦横無尽に空を翔ける。
「――誰在ろう、竜
が知っています」
刹那。総ての
覚悟が瞬いて――征竜前線は粉々に、大空から消え去った。
●蒼穹
「ありがとうね。僕たちの力だけじゃ、きっとどうしようも無かった」
アン・ホワイトは、黒い竜の頭上から、竜のねぐらに降り立って、猟兵達へ感謝した。
精霊嵐も撃竜嵐も過ぎ去って、ねぐらは再び、
平穏に戻る。
「ま、建物直したり、避難させた人を呼び戻したり、僕らはここからが忙しいんだけどね。でもそれが、生きてるって証さ」
老黒竜は同意するように一鳴きすると、その場で丸まり、寝息を立てる。
「クロさんも、飛竜達を代表してありがとうって。
飛竜素直じゃなくて。面と向かって言うの恥ずかしがるから。こういう時はクロさんがまとめるんだ」
飛竜達が謡う。
それにつられてふと空を見上げれば。
――どこまでも広い
蒼穹が広がっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵