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【旅団】パリピ島の宴~パリピ島カオスアクアリウム

#キマイラフューチャー #【Q】 #旅団 #パリピ島の宴

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#旅団
#パリピ島の宴


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【これは旅団シナリオです。旅団「L.ion's Lab.」の団員及び友好旅団の団員のプレイングだけが採用される、EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです】

● パリピ島は今日もカオス
 キマイラフューチャーに浮かぶリゾート島・パリピ島。
 その昔島の一部が突然消えたという歴史を持つ島だが、それも今は昔。楽しいことが大好きなキマイラ達は、「島と一緒に消えたキマイラ達も楽しくやってるだろう」と納得していたのだという。
 そんなビーチリゾートアイランドも日は暮れる。ビーチのアクティビティを楽しんだキマイラ達は、突然響く奇声に目を輝かせた。
「ウエエエエエエエエエエイ!」
「「「「「ウエエエエエエエエエエイ!!!」」」」」
 パリピな重低音を響かせながら現れたギョロ目の深海魚達はフワリと宙に浮いている。まるで水中のように空中を泳ぎ回る深海魚達の姿に、キマイラ達は大喜びで写真を撮影したり動画を撮ったり。
 わちゃわちゃ楽しむキマイラたちとは裏腹に、空中を泳ぐ深海魚……パリピウオ達は目を真っ赤にするとキマイラ達に襲い掛かった。
「すげー! 「空中に変な魚が現れた件!」送信っと……って、何だ何だ?」
「何するんだよ!」
 慌てふためくキマイラ達を追い払うように、パリピウオ達は鼻先でキマイラ達をつつく。どうやらパリピウオ達は、突然現れたキマイラ達を縄張りを荒らす闖入者だと思ったようだ。
 山の方へ逃げ出したキマイラ達は、続々と山から降りてきた変なカニ達の姿にやっぱり慌てふためいた。
「ナンカーワカランガー」
「ワレラコソーコノシマノハシャー!」
「「「ハシャーン!!!」」」
 山の中から現れた金剛甲羅や世紀末覇者的な甲羅を持つカニ達も、キマイラ達を侵入者だと思ったのだろう。巨大なハサミを振り上げては追い払いに掛かる。
 突然現れたパリピな生き物達に、キマイラ達はとりあえず避難するのだった。

● グリモアベースのカオス最前線
「……てな訳で! グリードオーシャンのパリピ島とキマイラフューチャーのパリピ島……パリピ本島って呼ぶね。この2つがなんか変な具合に繋がちゃったみたいなんだ。皆で行って捕獲しよう!」
 おー! と腕を振り上げ盛り上がったリオンは、集まった猟兵達に虫取り網を配って回った。
「といっても、パリピウオ達は皆のことを知ってるからね。王子様やお姫様と話をすればすぐに大人しくなるはずさ。カニ達も今の皆なら捕まえるのはたやすい……はず! たぶん! きっと! ゼッタイ!」
 不安になるようなことを言うリオンは、パリピ島の地図を開いた。
「空中を飛び回るパリピウオ達を網で掬って捕まえて、バーベキューするも良し。なんかまた良からぬことを企んでるカニ達の陰謀を阻止するも良し。仲良くなったパリピウオ達と浜辺の散歩を楽しむも良し。パリピウオとパリピガニの抗争に介入して混ぜ返すも良し。捕まえた魚介類は海に返せばグリードオーシャンに戻るみたいだから、じゃんじゃん捕まえて海に返すも良し。カオスな冒険が君を待ーつ!」
 ずびしっと指を突きつけたリオンは、その指を海に迫り出すように建てられた休業中のレストランを指差した。
「まあ、カオスはごめんだよっていうのなら、ここでパラスさんがバー開いて皆を待ってるから行って話し相手にでもなってあげてよ」
 パラスがやっているバーのエリアは、カオスから守られた結界の中。カオスを肴に静かに飲むのもまた一興だ。交代要員の黒子が控えているので、バーの客としてではなくて一緒に飲むこともできる。捕まえた魚はここの厨房を借りて捌いて食べられる。もちろん炭火で焼くのもOKだ。
「暑い夏を乗り切るには、適度なカオスは必要不可欠な栄養素! 皆で楽しく乗り切ろう!」
 リオンは楽しそうに笑うと、パリピ本島への道を開いた。


三ノ木咲紀

 オープニングを読んでくださいまして、ありがとうございます。
 このシナリオは旅団シナリオです。うちのNPC全員出したかったので旅団シナリオにしました。
 そういう訳で、もしこのシナリオに参加したい! とおっしゃる方がいらっしゃいましたら、締切までに友好申請をお願いします。

 カオスシナリオの可能性は濃厚です。目印と背後の精神安定の為に、冒頭に記号をお願いします。
 プレイングではやりたいことをお書きください。ここに例を上げなかったことでもOKです。

◎ …… カオス上等! プレイングなぞ参考資料じゃ!
○ …… アドリブ歓迎! プレイングは重視するよ!
△ …… カオスとかいらん。

 記号が無い場合は○が選択されたとさせていただきます。
 ◎も、カオス度はプレイングと背後のテンションにより左右されます。カオスになりきらなかったらごめんなさい。予防線予防線。
 また、バーにいる間は◎は効果を発揮しづらくなります。
 お声がけがあれば、同背後の5人はお手伝いに馳せ参じさせていただきます。なければ出てきません。

 プレイングは8/27 8:31~8/28 10:00くらいまで。時期とかはずらせるので、なにかあったら連絡ください。
 また、再送をお願いすることもありますので、ご了承ください。予防線。
 それでは、良きカオスを。
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第1章 冒険 『ライブ!ライブ!ライブ!』

POW   :    肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!

SPD   :    器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!

WIZ   :    知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!

👑1
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

フィッダ・ヨクセム
○【バス停】

カオスな雰囲気は好きだけど
その光景を見てるだけもわりと好き
バーからでも騒いでるのが見えそうだし
兄貴のジルバと甘味もぐもぐタイムだ
なあパフェはでかいのが凄い良いと思わないか(パラスへ)
超甘党なので、フルーツ沢山アホほど盛られてるのは好みだ

俺様粗暴だけど、俺アンタの弟なんだッて
そろそろ兄貴の実感湧いた?
姿もだいぶ違うし似てねェとこ多いけど甘味好きな所は一緒だろ

つーかなにそれ……ぱらすー!俺様にもジルバと同じ奴ー!
パフェなら幾つでも食べれるから追加で!特盛で!(わくわく顔)

全部食べたら、ビーチへ
ついでだからリオンも探そうぜ
でも……キマフュに貝殻ッてあるのか?
貝殻よりカニ?ほう腕が鳴るな?


ジルバ・アイト
○【バス停】

弟のフィッダと参加
バーで甘い物とお喋りを楽しむぞ

「なあ、クリームソーダとチョコパフェってお願い出来るか? 特にパフェはトッピング多めで!」
とパラスに注文

(フィッダの質問に)
……そうだな、性格はこんなに違うのに、ほんとこういう所は似てるよな
これもかつての主の影響なのかな?
ま、細かい事はあんま覚えてないけどさ

おう、トッピング増し増しで凄く美味しいぞ!
(とっても美味しそうに食べながら)

食後は旅団へのお土産として貝殻を拾いたいな
グリードオーシャンの島と繋がったくらいだし、珍しい貝殻とか落ちてるかもしれないぞ

(リオンに会えたら)
「なあ、この辺りで変わった形や色の貝殻を見たりしなかったか?」



● パフェとソーダ
 早めにパリピ本島へとやってきたジルバ・アイト(落トシ者・f03128)は、バーのスツールに座るとカウンターのパラスにワクワク顔で尋ねた。
「なあ、クリームソーダとチョコパフェってお願い出来るか? 特にパフェはトッピング多めで!」
「クリームソーダとチョコパフェだね」
 頷いたパラスがパフェグラスを支度してしばし。出てきたクリームソーダとチョコパフェに、ジルバは目を輝かせた。
 細身のパフェグラスには、下からコーンフレーク、チョコアイス、ホイップクリーム、チョコババロア……と綺麗な層になって目を楽しませてくれる。一番上のトッピングはホイップクリームにチョコソースはもちろん、バナナにイチゴ、プリンにマカロンにアイスクリームにブラウニーと盛りだくさんながら、見事なバランスと見た目の美しさを忘れない。
「おお、これは豪華版だな!」
 早速長いスプーンでてっぺんのミントの葉とホイップクリームをそっと掬って口に運ぶ。爽やかなミントの風味が甘すぎないホイップクリームの味を引き立てて、続けて口に運んだブラウニーの甘さに口元がほころぶのが止められない。ホクホクとチョコパフェを楽しんだジルバは、突然勢いよく開いたバーのドアに思わず喉をつまらせた。
「よおーッジルバ! 待たせたな! 俺様登場ッてな!」
 ドアベルの音も高らかに機嫌よく現れたフィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は、満面の笑みを浮かべながらジルバの隣の席に座った。楽しそうな姿に手渡された水で発作を抑えたジルバは、少し涙目になりながらフィッダを見た。
「突然で驚いたぞ!」
 首を傾げるフィッダに、ジルバは思わず苦笑いを浮かべる。クリームソーダのストローを口に運べば、喉を通る爽やかな炭酸と少し溶けたアイスクリームの甘味が心地良い。ジルバの手元をじーッと見つめたフィッダは、首をぐるん! とパラスの方に向けるとクリームソーダに指を差した。
「つーかなにそれ……ぱらすー! 俺様にもジルバと同じ奴ー!」
「チョコパフェとクリームソーダだね」
 頷いてジルバと同じパフェグラスを用意するパラスの手元をじーッと見つめたフィッダは、視線を空にさ迷わせると頭の後ろで手を組んだ。興味なんて無いね、と言わんばかりに視線をあさっての方向に向けながらも、目はチラチラとパラスの手元へと向けられる。視線に気付いたパラスは、苦笑いしながらフィッダに問いかけた。
「何だい?」
「……なあ。パフェはでかいのが凄い良いと思わないか? 俺様、超甘党だからな。フルーツ沢山アホほど盛られてるのは好みだぞ」
「分かったよ。こっちの特大グラスにフルーツたっぷりだね」
「いいのか? さすがぱらす! じゃあ注文し直すぞ。チョコパフェいろいろ追加で! 特盛で! パフェなら幾つでも食べれるからな。気にするな!」
 目をキラキラさせてワクワク顔でオーダーするフィッダに、ジルバは思わず吹き出した。今は真の姿ではない筈なのに、見えないもふもふしっぽをブンブン振っているように見えるのは幻覚だろうか?
 笑いのツボに入ったジルバに、フィッダは頬を膨らませた。
「何笑ッてンだ? 俺様甘いのだいすきだと、そんなにおかしいか?」
「いや、おかしくはないぞ。むしろ楽しそうでいいなと思ったんだ」
「むう」
 頬を膨らませたままのフィッダは、少し機嫌を損ねたようにそっぽ向く。笑ってしまったのは失礼だったか。慌てて声をかけようとした時、フィッダの前にグラスが置かれた。
「特大パフェは作るのに時間が掛かるからね。先にクリームソーダを出しとくよ」
「おお! すごいなぱらすー! なんで俺様が今欲しいのが分かッたんだ?」
「なんとなくね」
 出されたストローを口にしたフィッダの表情から、不機嫌さが消える。ソーダを飲んでアイスクリームを頬張るフィッダに内心胸を撫で下ろしたジルバは、パラスに会釈で礼を伝えた。

● 兄と弟
 クリームソーダを飲み終わる頃合いを見計らったかのように出てきた山盛りフルーツチョコパフェに、フィッダは目を輝かせた。
 ジルバのグラスよりも一回り大きなグラスには、下からコーンフレーク、チョコアイス、ホイップクリーム、チョコババロア……とジルバと同じ構成なのがお揃いみたいでちょっとうれしい。縁の広がったパフェグラスには、文字通りてんこ盛りのフルーツとクリーム達が綺麗に盛り付けられていた。
 チョコアイスとブラウニーで土台を固めた周囲には、バナナにオレンジ、キウイにメロンにパイナップルと色々なフルーツがたっぷりのチョコソース掛けホイップクリームと一緒に盛られていた。うさぎのリンゴに目までついてる。
「おお……。俺様のパフェ、こンなに豪華でいいのか? ジルバは大丈夫か? 差がありすぎないか?」
「ん? おう、トッピング増し増しで凄く美味しいぞ!」
「ジルバのはケーキとブラウニーとマカロンが乗ってるからね」
「そうか! じゃあ安心していただきますだ!」
 早速スプーンを手に取ったフィッダは、ホイップクリームの玉座に女王様のように座った大粒のイチゴを掬い上げると口に運んだ。ホイップクリームの甘味が先に来て、噛みしめるとイチゴの甘味と酸味が口いっぱいに広がってお互いの味を引き立てあって、口の中がしあわせな味になる。その美味しさに目をキラキラ輝かせたフィッダは、スプーンを器用に使いながらフルーツと甘味のコラボレーションを味わった。
 トッピングを堪能し終えたフィッダは、のんびり味わうジルバのグラスに首を傾げた。
「……なあ。俺様粗暴だけど、俺アンタの弟なんだッて。そろそろ兄貴の実感湧いた?」
 旅団でも出た話題に、ジルバは腕を組んで考え込む。うーんと唸りながらしばらく真剣に考えていたジルバは、やがて両手を上に挙げた。
「……どうだろう。俺も兄弟がいたことがないからなー。兄貴の実感って言われても、どれが兄貴の実感なんだか分からないのが本当かな」
「まあ、俺様も弟の実感ッて言われてもよく分かンねェし……」
 長柄のスプーンを改めて手に取ったフィッダは、土台のチョコババロアを大きく掬い上げると、口を開けて頬張った。デコレーションをしっかり支えたチョコババロアは口の中に入れた途端とろけて、噛んでいないのに喉の奥に滑り落ちていくのは不思議でならない。
「姿もだいぶ違うし似てねェとこ多いけど、甘味好きな所は一緒だろ」
 フィッダの指摘に、ジルバは目を見開いた。同じくチョコババロアを口に運んで甘味を堪能したジルバは、笑みを浮かべると頷いた。
「……そうだな、性格はこんなに違うのに、ほんとこういう所は似てるよな。これもかつての主の影響なのかな? ま、細かい事はあんま覚えてないけどさ」
「主の影響があッても無くても、俺達が兄弟なことに、かわりはないからな!」
 我ながら満面の笑みを浮かべたフィッダに、ジルバも同じくらいの満面の笑みで頷いた。

● 貝殻を探して
 チョコパフェとクリームソーダを同時に完食したフィッダは、ジルバと一緒に外へ出ると砂浜を歩いた。
「なんか、旅団へのお土産として貝殻を拾いたいな。グリードオーシャンの島と繋がったくらいだし、珍しい貝殻とか落ちてるかもしれないぞ」
「おお、いいな! ついでだからリオンも探そうぜ。でも……キマフュに貝殻ッてあるのか?」
「それは分からないが……あ、いた。おおい、リオン!」
 猟兵達の転送の第二陣を終えたリオンに、ジルバは大きく手を振った。その声に気付いたリオンは、笑顔を浮かべると二人に駆け寄った。
「やあ! 二人ともどしたの?」
「なあ、この辺りで変わった形や色の貝殻を見たりしなかったか?」
「旅団へのお土産にしたいンだけど……貝殻よりカニ? のほうが腕が鳴るな?」
「貝殻ねえ……」
 うーんと考えたリオンは、カニの一言に顔を上げると山の方へと視線を向けた。
「この辺のビーチは整備されちゃっててね。貝殻は落ちてないよ。危ないからね。でも山の方は自然保護区? とかって言ってコンコンで出した自然の生き物? 達を放流したりしてるらしいよ。パリピガニは山の沢にいるサワガニの一種だし、行ってみると面白い貝が拾えるかも?」
「お、山か!」
「いいね! 行ってみよう!」
「なあ貝殻探し終えたらさ、またバーに来ようぜ。カオスな雰囲気は好きだけど、その光景を見てるだけもわりと好き。バーからでも騒いでるのが見えそうだし」
「そうだなー。どんなカオスなのか俺も興味あるぞー」
 フィッダの提案に、ジルバも頷く。目を輝かせたフィッダは、砂を蹴ると走り出した。
「よし、山まで走るぞ! 腹空かせないとまた甘いの食べらンないしな!」
「いいぞー! 砂浜を一緒に走ると、なんか兄弟って感じがするな!」
「じゃあおにーさんと競争だよーいどん!」
「あ、待て!」
 仲良く砂浜を走り出した三人は、川沿いの道を走って自然豊かな林道に入った。

● 宝箱の中には……
 貝殻を探して岩場を探し回ったフィッダは、木漏れ日の森に顔を上げた。そのほとんどが人工物で作られているキマイラフューチャーだが、こういった「昔懐かしい自然保護区」的な場所はアクティビティとして人気なのだというが、それも分かる気がした。
「さて、貝殻貝殻……」
「おーいフィッダ! 貝殻見つかったぞー!」
 呼びかけるジルバの声に顔を上げる。ジルバが手にした面白い貝殻に手を挙げたフィッダは、ふいに蹴飛ばした硬い物に視線を落とした。
「痛ッ……なんだ?」
 川の流れに引っかかっていたのは、小さな宝箱だった。まるでRPGの宝箱のようなデザインの小さな箱を振ってみると、中から小さな金属音とそうじゃない音が両方聞こえてきた。
「どうした?」
「なンか、宝箱見つけたぞ! 開けてみようぜ!」
 ワクワクしながら宝箱を開ける。中に入っていた白い貝殻を持ち上げようとした時、リオンの大きな声が響いた。
「あ、おーい! なにか見つかった?」
「わわっ!」
 慌てたフィッダの手の中から、弾かれたように貝殻が飛び出してしまう。そのまま川に落ちた貝殻は、手を伸ばす間もなく下流へと流れていった。
「あー……。何か入ってたのに」
「ごめんごめん」
「まあ、仕方ないよ。他を探そう」
「そだな」
 ジルバの取りなしに気分を切り替えたフィッダは、貝殻探しに没頭する。たくさんの貝殻を手に入れたフィッダとジルバは、調査すると言うリオンと別れるとバーへと帰っていった。
 ーーこれがカオスの始まりだと予測できた者は、現時点では誰もいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

藤崎・美雪

アドリブ絡み大歓迎

パリピ島って本島があったのか…
…控えめに見てもカオスの予感

まあ、私は粛々と浜辺でBBQの準備をするだけよ
というわけでBBQ用具一式持ち込みだ
…一応水着姿だが泳がないぞ

パリピウオとカニにてこずるようなら手を貸すが
もふもふ羊を呼ぶとロクな目に合わないだろうから
指定UCでしっかり食べられることが幸せだと双方に言い聞かせて無力化だ
さ、無力化したパリピウオやカニを遠慮なく捕まえたまえ
…あ、ちゃんと食べる分だけ獲るのだぞ?

さーてBBQの始まりだ
UDCアースから肉は持ち込んでいるが
メインは獲れたての海鮮だろうな
炭火でしっかり中まで火を通してから召し上がれ
あ、ちゃんと野菜も食べるのだぞ?


森宮・陽太

アドリブ絡み大歓迎

ふたつの世界が繋がってる時点で
十分カオスじゃねーかよ!!(絶叫)
…よし、パリピカニの陰謀阻止しつつ焼きガニ量産だ(即答)

というわけで指定UCでさくっとアスモデウス召喚
なあアスモデウス…この世界の平穏(?)のために
ちょっくらあいつら(カニ)、焼いてくれねえ?
納得してもらったら網を渡して投げてもらい
一網打尽にした上でこんがり獄炎で焼いてやるぜ
…何したかったんだ? こいつら

焼きガニできたらパラスのバーに持っていくぞ
ほれ、アスモデウスの獄炎でこんがり焼いた焼きガニだ
さしずめ、パリピガニの獄炎焼き、ってところか?
パラス(黒子でも可)うめえ日本酒あったらくれ
こいつで一緒に一杯やろうぜ


海神・鎮
【和魂】

口調は丁寧語、鏡命様と

両成敗。【UC:龍眼】で水の精霊達に派手に水柱を立てて貰い、此方に注意を。【歩法、槍術、手加減、水、演武、神楽、浄化】の属性攻撃に【ダンス、ラップ、注目】の属性攻撃を乗せ、戦闘。曲目は童謡のラップ調【通りゃんせ、あんたがたどこさ】

●バー
リオン様等、知人の方々に挨拶。マスターに手土産(魔獣の肉)を渡しオーダー。アカネ様には、リオン様から、お話は伺っておりますと丁寧に。
 有りますよ。人と精霊の橋渡し役になれればと。遣りたいことが無いのならば、一先ず、世界を回るのは如何でしょう? もし、人を救う気持ちが強ければ、医学者や薬師は如何でしょうと、リオン様に視線を遣る


ビスマス・テルマール

キマイラフューチャーで世紀末なカオスを経験した事(世紀末猟兵「HIBEDU」伝!!!参照)ありますが

似た匂いがしますね

世紀末覇者なカニさんも居ますし
いつぞやの世紀末カオスなノリで
カニさんらの暴走を止めましょうか
UC『早業』発動して『空中戦&推力移動』で駆け『第六感』で『見切り』『残像』で回避

光学蟹鋏に『属性攻撃(有情)&鎧無視攻撃&貫通攻撃』込めた『斬撃波』を『2回攻撃&切り込み』飛ばし

……このカニさんらやパリピウオさん達を『料理』しても問題無いなら、なめろう(他になめろうフライや、なめろうコロッケ等にしてバーに差し入れ)に

問題あるなら、そこは
止めときましょうかね

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
パリピ島…ここに訪れるのももう何度目か
しかも今回はグリードオーシャンじゃなくて本家キマフュー
こりゃーカオスな予感がしてきたぞー

さて、ビーチにはパリピウオ、山にはカニ
綾はどっちを相手したい?
なんかそんな理由で選ばれるカニが若干不憫だが
奇遇だな、俺も今日は魚よりカニが食いたい気分だ
金剛甲羅も世紀末覇者も俺はもう攻略済みだ!
さぁ、ちゃちゃっと狩って楽しいBBQタイムと洒落込むぞ!

無事カニをゲットしたら、持ち込んだ食材も使ってBBQ開始
せっかくだからリオンにも声をかけてみる
いわゆる男子会ってやつだ
そういえばリオンは料理も出来るんだよな?
焼きガニをふるまいつつ料理男子トークに花咲かせてみたり


灰神楽・綾
【不死蝶】◎
あはは、またここに来られるなんて嬉しいね
今年は行く機会は無いかなぁと思っていたから
…グリードオーシャンの戦争時に
ここ出身っぽいカニと戦ったりはしたけど

そうだねぇ、じゃあ山でカニ狩りがいいな
ほら、今年の夏休みはほとんどビーチで過ごしたじゃん?
実は山でのレジャーに飢えてたんだよねー
ふふ、俺もダークマターを纏ったカニの相手なら任せてよ
Emperorを構え、不敵な笑みを浮かべ、カニの群れへ突撃
そう、全ては美味しい食材の為に…

ん~っ、何度食べても美味しいねぇ
焼き立てぷりぷりカニをはふはふと頬張る
俺には参加出来なさそうなトークで盛り上がる二人を見つつ
男子会というか、内容が女子だよね…


エリシャ・パルティエル

ここがパリピ島のオリジナルってこと?
何よくわからないけど
ウェーーイ!って騒げばいいのよね!

葵桜ちゃんそんなこと言ったら
変な神様とかアイテムとか出てきちゃうわよ?
…まあ、その時はその時ね

あ、パリピウオの王子様とお姫様もいる!
もう離れ離れになっちゃダメよ?
え、一緒に泳ぐの?
でもあたし泳いだことないから…
葵桜ちゃん教えて!

うん、感覚は掴めてきたかも
葵桜ちゃんにパリピウオもありがと!
これでカナヅチ克服ね!

あとはほら、やっぱりBBQとか
みんなで美味しいもの食べなきゃね
リオン、スイカ冷やしといてね!

ダークマター料理は癖になるわよね
ギョロ目料理も作っちゃおうかしら
田中さん一緒に美味しい料理を作りましょうね


ユディト・イェシュア

パリピ島が繋がった…?
よくわかりませんが
生態系が崩れてはいけないので
深海魚もカニも捕獲しましょう
翼くん、頑張りましょうね(虫取り網を手渡しながら笑顔

そう、ここは翼くんにとってホームグラウンドみたいなものですよ
大丈夫、前みたいなことにはなりませんから(フラグ
あ、リュートくんも一緒に頑張りましょうね

リオンさんが虫取り網で取れるって言ってるんですから
狂暴なはずない…です…?
はっ、しかし勃発するパリピウオとパリピガニの抗争に
なぜか巻き込まれてませんか…?

確かにガラが悪いですね…
風紀を乱すわけにはいきません
翼くんもやる気ですね
その意気です
美味しい料理を食べる前の運動にはちょうどいいはず
頑張りましょう!


榎木・葵桜

パリピ本島…!
へぇぇぇ、じゃあ例によって魚介食べ放題なんだね!
ウェーイって盛り上がればいいんだよね!
なんか神様っぽい偉い何かいるの?!
パリピ的チートアイテムとかあるの?!
盛り上がったら胸もおっきくなる?!(まだ言ってる

おっけー、エリシャさん!
教えるとか偉そうなことはできないけど、私に捕まって!
足動かしてたら泳ぐ感覚つかめるよ♪
だいじょーぶ、いざとなったらパリピウオ達が助けてくれる!
今日でカナヅチとはおさらばだよー♪やったね!

もちろん、BBQもしっかりお手伝いするよ♪
はいはい!私、ダークマター料理食べたい!パスタとかスープとか!
無いなら作るまで…てことで、田中さんよろしく!(無茶振り


彩瑠・翼

パリピ島…オレのスタートってここからだったんだよね
…って、ここのアレコレ、虫取り網で捕れるようなものなの…?(疑惑
いや、この網どう見てもちっちゃいよ?
金魚すくいの網みたいな適当感がするよ?
ぜったいこれじゃどうにも…
(ユディトさんの笑顔に何かを悟った。やっぱり今日も修行なんだと)

(抗争にビビリ)
ていうかなんかヤクザ…じゃないのアレ?
虫取り網じゃ戦えないよ?!
もっと大きな……そ、そうだ、ここはイマジネーションだオレ、
今日の鎧は何でも捕獲できる大きな網が実装された強力鎧!
こ、これでどうだ!(全身に纏った鎧(※どう見ても大漁網)をぶんぶん)
うわぁん、ユディトさぁんも一緒に捕獲手伝ってぇ?!(涙目で


櫟・陽里

この夏やり残したことがある…そう、水着コンテスト!
エリシャの水着姿を見なければならない
過ぎゆく夏のラストチャンスをありがとうパリピ島!
情報によると海で泳いでるらしいから海岸に行きたい訳なんだが
初期位置が山の中だった

イカついカニに囲まれた件。

渡された虫取り網が活躍するわけか…おにーさんうざい!
ていうか多分どっかでおにーさんと鉢合わせて絡まれる気がする
成り行きで共闘しながら海岸を目指す気がする
いや!俺はなんかこう、良い雰囲気の中でエリシャに水着似合うよって言いたいわけでカニパニックコメディがしたいわけでは…
状況の収束をおにーさんに押し付けて単独離脱を試みるも
そうそう逃げ切れるもんじゃないかもしんない?


真宮・響


いつもは子供達や若者達と楽しむ所だが、今回は若い衆が楽しむのを眺めながら、パラスが設けてくれたバーでゆっくりしようかね。

パラスとは一度じっくり話してみたいと思っていた。同じ母親同士で若い人達を見守る立場だ。それに同じ母親同士だがパラスはアタシの母親世代だ。人生の先輩として色々聞いてみたい。

ああ、アルコールは酒豪とはいかないがある程度飲める。酸味のある方が好きだね。一杯、頂けないかね?

まあ、アタシもパラスも色々大変な経験をしてきて、色んな出来事に立ち会ってきた。これからも年上として若者達を見守っていきたい。そう思わないかい?


真宮・奏


いつもの私ならパリピウオやカニは捕まえて食べるところですが、話が通じるならお友達になってみたいです!!何だがパリピウオさんもカニさんも楽しそうですし。

なのでパリピウオとカニが争っているところに飛び込んで【衝撃波】で両者吹き飛ばして両成敗!!【存在感】を出しながら「喧嘩はダメです!!皆仲良く」と一喝。

喧嘩が収まったらパリピウオさんに丁寧に挨拶して遊びに誘います。絢爛のクレドでくるくる回転してパリピウオさんをダンスに誘います。蟹さんも一緒にどうぞ!!


神城・瞬


いつもの奏ならパリピウオや蟹は食べたいということなら話が通じる個体がいるなら交流した方がいいですよね。楽しそうですし。魚もカニも。

なので争っているパリピウオとカニに向かって【結界術】を展開してお説教。「争ってる場合ではないでしょう!!通りがかる人の迷惑になります!!」喧嘩をやめるようだったら結界術を解除。

そしてパリピウオに手荒な事をしたことを謝り、清光のベネディクトゥスを奏でて精霊を呼び出しながら精霊さんと楽しく遊んでいれば何もしないと約束。出来れば蟹さんも一緒に遊びたいですね。


月水・輝命
【和魂】

鎮さんと。
折角遊びに来たと言いますのに、お魚さんやカニさんが暴れて……喧嘩はめっ!ですの!
兎に角、喧嘩両成敗ですが……鎮さんは、何か案がありますの?
始まるラップバトルは、光を使った演出でサポートしますわね♪

その後はバーへ。
鎮さん達にはまだ話していなかったのですが、わたくしの本体には呪詛や怨霊がかなりありますの。
もし浄化出来たら。その後は何をしようか、全然思い浮かばなくて。
皆さんは将来やりたいこと、夢はあるか、ふと気になりましたの。
リオンさんにも聞きたいですわ。
「終わってから聞く話じゃろうに。私は変わらず輝命と居る位かのぅ」

医学者や薬師……! 世界を回りながらも良いかもしれませんわね。



● カクテル言葉の「希望」を胸に
 沈む夕日が水平線から最後の光を投げながら、海にせり出したバーを照らし出す。穏やかに凪いだ海を渡る風は心地よく、昼間はしゃいだ太陽を宥めていくようだった。
 バーに足を踏み入れた真宮・響(赫灼の炎・f00434)は、空中をふわりと飛ぶ深海魚達に目を細めるとスツールに腰掛けた。この状況を予知したグリモア猟兵は「アクアリウム」と表現したが、宙を飛ぶ深海魚は確かに水族館の水槽のようにも見える。
「あの深海魚は、このバーの中には入って来ないみたいだね」
「そうだね。有り難いことだよ。」
 グラスを磨く手を止めるパラスに、響はずらりと並ぶ酒瓶を見た。キマイラフューチャーの酒のことはよく分からないが、パラスは把握してるだろう。
「一杯、頂けないかね?」
「どんなのがいいんだい?」
「アルコールは酒豪とはいかないがある程度飲める。酸味のある方が好きだね」
「酸味のあるのだね。アンタ達は?」
 響と一緒に入店した真宮・奏(絢爛の星・f03210)と神城・瞬(清光の月・f06558)が、パラスの問に少し考えるとメニューを指差した。
「私はアイスティーで」
「僕も同じ物を」
「アイスティーだね」
 頷いたパラスは、手際よくドリンクを作る。先にアイスティーを出したパラスは、少し考えるとカクテルの支度を始めた。待っている間に窓の外に目をやった響は、海で泳ぐ若い猟兵達の姿に目を細めた。遠くではしゃぐ声が、風に乗って聞こえてくる。楽しそうな声はいつ聞いても心地よい。
「若い衆が楽しむ姿、ってのはいいもんだね」
「そうだね。若いのが平和でいられるのが何よりさ」
 頷いたパラスが出したのは、ダイキリだった。透明な真珠色のカクテルを手に取った響は、口に含むと頬を緩めた、口の中に広がるラムがライムの酸味と砂糖の甘味で柔らかくなり、味のバランスが絶妙で喉越しが心地良い。
「いい味だ。ーーパラスとは一度じっくり話してみたいと思っていたんだ」
「それは光栄だね」
「同じ母親同士で若い人達を見守る立場だ。それに同じ母親同士だが、パラスはアタシの母親世代だ。人生の先輩として色々聞いてみたい」
 真っ直ぐな響の言葉から逃げるように、パラスはスッと視線を逸らすと誤魔化すようにグラスを手にとった。アイスティーを飲みながら母の話に耳を傾ける奏と瞬の姿をチラリと見て嫉妬と後悔の入り混じったような目をしたのは一瞬だけ。すぐに表情を治めると、グラスを磨きながらぽつりと口を開いた。
「ーー生憎、母親といったって何もしてやれなかったさ。息子がまだほんの幼い時に、アタシに恨みを持つ連中にバーが襲撃されて、旦那が殺されてバーも破壊されて。旦那の実家に息子を預けて戦場に戻ったのは復讐のためさ。手前勝手なモンさ。そこから先は血生臭い戦場で、息子には金を送るばかりでろくに会いにも行かなかった。……こんないい子達を育て上げたアンタの方が、よほど母親らしいさ」
「そうかい」
「済まないね」
 ぽつり呟くパラスに、響は小さく首を横に振ると再びダイキリを口に運んだ。さっきよりも強く感じる酸味が、口の中を通り過ぎる。喉の奥を滑り込む間に響の脳裏に浮かんだのは、死んだ夫の姿。夫と出会って家を出て旅をして。夫と死別してからも、今まで色々なことがあった。浮かんでは消える思い出達と一緒にダイキリを飲み干した響は、グラスをカウンターに置くと一つ頷いた。
「旨かったよ。もう一杯おくれ。……パラスも一杯どうだい? 一緒に飲みたい気分なんだ」
「有り難く貰うとするかね」
 頷いたパラスが、同じカクテルを二杯カウンターに出す。カクテルグラスを手に取り掲げた響は、遠くの景色に目を細めた。
「まあ、アタシもパラスも色々大変な経験をしてきて、色んな出来事に立ち会ってきた。これからも年上として若者達を見守っていきたい。そう思わないかい?」
「ああ。アタシもそう思うよ」
 頷いたパラスが、グラスを手に取る。小さな音を立てて鳴らされたグラスの音を聞いた響は、変わる浜辺の雰囲気に振り返った。
 いつの間にか、砂浜で騒ぎが起きている。優雅に泳いでいたパリピウオ達が一箇所に集結し、山から降りてきたカニ達と対峙しているのだ。早速巻き起こるカオスの気配を察知した響が立ち上がろうとするのを、奏が押し留めた。
「母さんはここにいて」
「このバーは、僕と奏が必ず守ってみせますから」
「奏、瞬……。頼んだよ」
 力強く頷く二人が、浜辺へと駆け出す。頼りがいのある背中を見送った響は、繰り広げられるカオスの宴を静かに見守った。

● 守るべきもの やるべきことと やりたいこと
「おお奏に瞬。あの騒ぎを止めに行くのか?」
 バーを出た奏は、早速バーベキューの支度をする藤崎・美雪(癒しの歌を奏でる歌姫・f06504)に呼び止められ足を止めた。屋内にあるバーから直結している露天のバーベキューエリアには作り付けのバーベキューコンロがあり、いつでも炭が起こせるようにスタンバイされている。これからどんなカオスが巻き起こるのかは分からないが、このエリアも守らなければ。
「美雪さん! 美雪さんは止めに行かなくても?」
 同じく足を止めた瞬が、美雪に問いかける。何やら不穏な空気を漂わせる砂浜をチラリと見た美雪は、小さく肩を竦めると首を横に振った。
「……確かに、控えめに見てもカオスの予感しかしないな。だからこそ、私は粛々と浜辺でバーベキューの準備をするだけよ。……一応水着だが泳がないぞ」
「そう。美雪の料理、美味しいから楽しみにしてるわね」
「期待しててくれ」
 親指を立てる美雪に親指を立て返した奏は、瞬と頷き合うと再び走り出した。
 巨大なギョロ目をギョロリと光らせた深海魚達は、空中を水中のように泳ぎ回っては「ウエイウエーイ!」と言い交わしている。砂浜に現れたカニ達もまた、続々と集まっては何事か言い合っている。緊迫する雰囲気に、奏は眉をしかめた。
「一触即発ね」
「あそこにいるパリピウオ、前に来た時助けた王子様とお姫様では?」
 奏と共に駆け出した瞬は、特徴的な二匹のパリピウオの姿に指を差した。
 指が示す先をよく見ると、確かに見覚えがある深海魚だった。パリピウオ達の真ん中にいるのは、目立つ二匹の深海魚。ドレスのようなヒレをなびかせたお姫様とタキシードに王冠を頭に乗せた王子様だ。彼らは奏が直接助けた訳ではないが、確かに見覚えがある。
 パリピウオ達のロイヤルウェディングに立ち会った身としては、捕まえて食べるのは何となく気が引けた。
「確かに。間違いないわね。あのパリピウオやパリピガニ……お友達になってみたい!!」
「いつもの奏ならパリピウオやカニは食べたいと言うと思ったのですが……。意外ですね」
 首を傾げる瞬に、奏は頬を膨らませた。確かにパリピウオは美味しい。カニも絶品だ。あの時食べたカニグラタンやバーベキュー串の味を思い出すと思わず頬が緩んでしまうが、話が通じるなら話は別だ。
「だって、何だがパリピウオさんもカニさんも楽しそう」
「確かに。話が通じる個体がいるなら、交流した方がいいですよね。魚もカニも楽しそうですし。俺も手伝います」
「ありがとう瞬!」
 頷く瞬に、奏は嬉しくなって更に駆け出した。美雪が調理してくれる新鮮な魚介類でのバーベキューはとっても魅力的だけれど、ここはキマイラフューチャー。コンコンコンすれば美味しいものはたくさん出てくる世界なのだ。なら、友達になれそうな食ざ……深海魚やカニを無理やり食べることもない。顔を上げた奏は、変わる状況に足を止めた。
 いつの間にか現れた浮遊するギョロ目の巨大クジラが、沖合を優雅に泳ぎ回っている。そこへ向けて山から駆け降りた巨大な影を確認した奏は、鋭くバーを振り返った。
 予想以上のカオスだ。このままではバーがカオスの波に飲み込まれかねない。奏と共に立ち止まり状況を把握した瞬は、バーの前に結界を張った。
「このままでは、カオスにバーが飲まれてしまいます!」
「そうはさせないわ! 瞬は防御をお願い! 私は近づくカオスを衝撃波で迎え撃つ!」
「お願いします!」
 デッキからさほど離れていない砂浜に立った二人は、襲い来るカオスからバーとデッキエリアを守るべく得物を構えた。

● きっと願いは叶うはず
 時は少し遡る。
 少し早めにパリピ本島を訪れた榎木・葵桜(桜舞・f06218)は、沈む太陽の下に思い切り駆け出した。
「パリピ本島……!」
 今まで何度か訪れたグリードオーシャンのパリピ島とは景色が違うけれど、この南国ムード漂う海辺はどこか懐かしくて。大きな入り江になったビーチも、背後にそびえる山に森も、空中を泳ぎ回る深海魚だって何もかもが懐かしい。
 仲良くなった深海魚は、パリピ島では律儀に海の中にしかいなかったのに、ここでは空中を泳いでくれるなんてその時点でカオスなんじゃないかな?
 両手を広げて駆け出して、空中を泳ぐパリピウオ達と追いかけっ子しながら夏を思い切り楽しもう! という葵桜の姿に、エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は目を細めた。
「ふふ、葵桜ちゃん楽しそう」
「そりゃもう。だってパリピ本島でしょ?」
 ふふん♪ と笑みを浮かべた葵桜は、虚空からすちゃっと取り出したマイクを手に取ると、続々と集まってくるパリピウオに向けて叫んだ。いつの間にか周囲がライブ会場みたいになっているのは気のせいだろうか?
「じゃあウェーイって盛り上がればいいんだよね!」
「「「「「ウエーーーーーーイ!」」」」」
 重低音な声を上げたパリピウオが、葵桜のコール・アンド・レスポンスに空中で大きく跳ねてパリピ声で応える。深海魚相手に意思を疎通させた葵桜は、嬉しくなって更に続けた。
「例によって魚介食べ放題なんだよね!」
「「「「「ウエーーーーーーイ!」」」」」
「なんか神様っぽい偉い何かいるんだよね?!」
「「「「「ウエーーーーーーイ!!!」」」」」
「パリピ的チートアイテムとかあるの?!」
「「「「「ウエーーーーーーイ!!!!」」」」」
「盛り上がったら胸もおっきくなる?!」
「「「「「……」」」」」
「あ、ひっどーい!」
「まあまあ葵桜ちゃん落ち着いて。そんなこと言ったら、変な神様とかアイテムとか出てきちゃうわよ?」
 頬をぷう、と膨らませては両手を上げて抗議する葵桜は、ふいに何かを蹴飛ばす感触に砂浜にしゃがみ込んだ。ここは河口。何か川から流れてきたのかな? 思いながら手を伸ばした葵桜は、拾い上げた白い二枚の貝殻に目を輝かせた。
 手のひらほどの大きさの純白のホタテ貝が2枚、細い鎖で繋がっている。貝殻と鎖でできたそれに、葵桜は見覚えがあった。
「こ、これは人魚姫のビキニデザインによくある、憧れのホタテビキニトップ!」
 優美な曲線を描くそれを、水着の上からそっと胸に当ててみる。なんか大き……いやいや、これを身に着けていればピッタリになるくらいバストアップするに違いない。なんと言ってもここはパリピ島。パリピなチートアイテムならば、そのくらいの効果があって当然! いやあるに違いない! きっと!
「ねえねえエリシャさん! 見て見てこれ! じゃーんビキニトップ!」
「あら、かわいいわ葵桜ちゃん。今年の水着にも似合うんじゃないかしら?」
「ふふーん。いいでしょ。エリシャさんの水着もかわいいよ! でも……本当は見せたい人がいるんじゃないのーうりゃうりゃ」
「もう。からかわないの」
 葵桜が肘でうりゃうりゃとやれば、エリシャが恥ずかしそうにパレオを引き寄せる。頬を赤く染めたエリシャに、二匹のパリピウオが近づいてきた。

● パリピウオの情
「ウェーイ!」
「ウェーイ!」
 仲良く並んでエリシャに近づいてきたのは、パリピウオの王子様とお姫様だった。以前二匹のロイヤルウェディングを巡る陰謀に巻き込まれてカオスな内に解決したのを覚えているのだろう。仲良く並んで空中を泳ぐ二匹は、護衛と思しきパリピウオ達に囲まれながらエリシャを誘うように鼻先でつついた。
「あら、王子様とお姫様もいたのね。元気だったかしら? もう離れ離れになっちゃダメよ?」
「「ウエーーーーーーイ!!」」
 エリシャの言葉に、手をつないだ王子様とお姫様がヒレを大きく上げて仲良く空中一回転。寄り添い仲良しな様子に目を細めたエリシャは、しきりに海へと誘うパリピウオの仕草に水平線に目をやった。
 そこに浮かんでいるのは小さな島。妙にのっぺりした島は、最初からあそこにあっただろうか? と疑問に思う間にも、王子様とお姫様はエリシャをぐいぐい海へと押していく。
 ついに足首を波で濡らしたエリシャは、沖合の島を指差した。周囲を見渡しても、残念ながらボートのようなものはない。バーに行けばあるかも知れないが、王子様とお姫様はそれを許す様子もない。
「え、あそこまで泳ぐの? でもあたし泳いだことないから……葵桜ちゃん教えて!」
「おっけー、エリシャさん! 教えるとか偉そうなことはできないけど、私に捕まって!」
 貝殻ビキニトップを身に着けた葵桜が差し出す手を取ったエリシャを、王子様が鼻先でつつく。背中を押されるままに海へ入ったエリシャは、綺麗な海水に身を躍らせた。穏やかな海は波も静かで、海水は少し冷たいけれど泳ぐにはちょうどいい。夕暮れ時に近い海にはあちこち光るブイが浮かべられていて、なんだか幻想的だ。
 誘われるまま沖へ出てしばし。ついにつかなくなる足に慌てるエリシャは、立ち泳ぎしながら支えてくれる葵桜の手に安堵の息を吐いた。
「足動かしてたら泳ぐ感覚つかめるよ♪ だいじょーぶ、いざとなったらパリピウオ達が助けてくれる!」
「え、ええそうね」
「ウエーーーーーーイ!」
「さあ、泳ごうよエリシャさん!」
 王子様とお姫様に見送られたエリシャは、葵桜の誘いに思い切ってバタ足をしてみた。足で水を蹴る感覚は最初慣れないけれど、やっているうちにだんだん「水を掴んで蹴る」という感覚も分かってくる。手を離して腕の動きも加えてみれば、身体は少しずつ前に進んでいった。
「おお、エリシャさんすごいよ泳げてるよー。今日でカナヅチとはおさらばだよー♪ やったね!」
「うん、感覚は掴めてきたかも。葵桜ちゃんにパリピウオもありがと! これでカナヅチ克服ね!」
 沖合の島があった場所まで来たが、そこには何もない。島があったのは見間違いだったか? と思った時、足元が揺れた。
 突如浮上したのは、ギョロ目の巨大クジラ。クジラの背中に掬い上げられたエリシャは、慌てる葵桜の手を取った。
「うわっとと!」
「危ない! 大丈夫?」
「へーきへーき! ……ってエリシャさん浮いてる! このクジラ浮いてるよ!」
「ウエーーーーーーイ!」
 空に浮かんだクジラは、大きな声で一声鳴くと空中をゆっくり旋回する。海上に浮かべられたブイがキラキラ輝き、まるで星空みたいに見えた。
「何よくわからないけど、ここでウェーーイ! って騒げばいいのかしら?」
「うわー綺麗!」
 海の上を悠然と泳ぐクジラの背中から見た海に、星空のように浮かんだ光るブイ。目を輝かせたエリシャは、ビーチで起きる騒動に目を凝らした。

● パリピ山珍道中
 時は少し遡る。
 グリモアベースにギリギリで駆け込んだ櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)は、目の前に広がるであろう砂浜に思い切り駆け出そうと足を踏み込んだ。
「遅くなってごめんエリシャ! やっと仕事が終わっ……って?」
 砂を踏むはずだったビーチサンダルが踏んだのは、しっかりとした土と下り坂の傾斜。何とか転ぶのを回避してバランスを取った陽里は、広がる森の景色に目を見開いた。
「俺は海に行きたかったのに、なんで初期位置が山の中なんだよ!」
「あ、やっほー陽里さん! ……って、どしたの?」
 手をヒラリと振ったリオンが、楽しそうな笑みを浮かべては虫取り網を手渡してくる。反射的に受け取った陽里は、斜面の向こうに見える水平線に向けて思わず膝をつきがっくりとうなだれた。
「なんで初期位置が山の中なんだよ!」
「ジルバさんとフィッダさんと一緒に貝殻拾いに来たのさ。二人はもうバーに行ったけど、おにーさんは残ってフィールドワーク中! この辺がカオス特異点っぽいんだよね。ほら見て、綺麗な花が咲いてるよ?」
「研究熱心なのはいいけど! グリモアの出口は砂浜固定しとけ!?」
「そんなのおにーさんの勝手だもん」
 ぷう、と口元を膨らませるリオンにパンチの一つもかましてやりたいが、ぐっと堪えたのは褒められていい案件だと思う。膝を叩いて埃を落とした陽里は、立ち上がると砂浜に続く道を目指して歩き始めた。
「っと、おにーさんと漫才してる場合じゃなかった。早く行ってエリシャの水着姿を見たいんだよ俺は!」
「エリシャさんは海で泳ぐって言ってたよ? 青い水着が似合ってたよー素敵だったよーうりゃうりゃ」
「おにーさんうざい!」
 からかう気満々な目をしながら肘でグリグリやってくるリオンの肘を叩き返す。本気で思ってやってるのが本当にうざい。だがいい情報は手に入れた。エリシャは砂浜。山にはいない。ならばここに用は無いと陽里が砂浜に向けて歩き出そうとした瞬間、山頂方向から木々を薙ぎ倒しながら迫る気配に虫取り網を構えた。
「なんだ?」
「スタコラサッサッサノサー!」
 掛け声と共に現れたのは、巨大なカニだった。二本の脚が巨大化して垂直に立ったイカついカニが、つぶらな目を輝かせて甲羅から生えたイカ脚をツインテールになびかせながら森の道を駆け下りてくる。そのあまりの姿に一瞬目を疑った陽里は、リオンの脳天気な声に頭を一つ振ると虫取り網を構えた。
「わー、イカついカニだー」
「丁度いい、エリシャへの手土産にしてやる!」
「それいいね! おにーさんも手伝っちゃおう!」
「よし、捕まえるぞ!」
 ノリノリなリオンと一緒に虫取り網を構えた陽里は、一目散に走るイカついカニの足元に向けて虫取り網を薙ぎ払った。坂道を駆け降りるイカついカニの身体が宙を舞う。勢いのついたイカついカニは空中を3回転すると、すちゃっと着地して再び走り出した。
「って待て!」
「スタコラサッサッサノサー!」
 そのまま坂道を走り出すカニに一気に踏み込みジャンプした陽里は、背中に飛び乗るとイカのツインテールを掴む。そのまま仕留めようとした時、獣の咆哮が響いた。
「マテー! ニゲロー!」
「げ! なんだあれ!」
「あれは巨大な……クマ……? いやカニ?」
 山頂付近で立ち上がったのは、巨大なクマだった。ヒグマに似たフォルムのクマの体長は10メートルはあるだろうか。クマなのに背中からカニ足が生えているのは見なかったことにしてやる。一声吠えた巨大カニグマは、山頂から周囲を見渡すと陽里をーー否、イカついカニを猛然と追いかけてくる。
「いや! 俺はなんかこう、良い雰囲気の中でエリシャに「水着似合う」って言いたいわけでカニパニックコメディがしたいわけじゃねえんだよ!!」
 巨大カニグマの勢いに、イカついカニは恐れをなし更に勢いをつけて走り出す。砂浜へ向かう道から逸れそうになるイカついカニの動きを察知した陽里は、イカを引っ張ると砂浜へ向かうよう指示を出した。
「ええい! こうなったら! 俺はスターライダー! このイカついカニも乗りこなしてみせる! というわけでおにーさん、巨大カニグマは頼んだ!」
「え、ちょっとま!」
 慌てるリオンは綺麗にスルーした陽里は、イカついカニに騎乗したまま一路砂浜を目指して駆け抜ける。
 やがて砂浜に辿り着いた陽里は、猟兵達の驚きの視線をやり過ごすと一瞬でエリシャの不在を悟った。ここにいないなら、別の浜辺に行ったのかも。そんな期待を胸に、イカついカニを走らせるのだった。

● カオス登場
 時は少し遡る。
 空飛ぶ深海魚と喋るカニ。両陣営が砂浜で睨み合っているという楽しそうな状況に、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)もまた楽しそうな笑みを浮かべた。
「パリピ島……。ここに訪れるのももう何度目か。しかも今回はグリードオーシャンじゃなくて本家キマフューなだけに、こりゃーカオスな予感がしてきたぞー」
「あはは、またここに来られるなんて嬉しいね。今年は行く機会は無いかなぁと思っていたから」
 言いながら周囲を見渡した灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、訪れたカオスチャンスに嬉しそうに笑った。
 ここパリピ本島と呼ばれる島は、様々なカオスを生み出してきたグリードオーシャンのパリピ島と何となく似た雰囲気がある。だがそこはキマイラフューチャー。長く無人島となり人工物がほとんどないパリピ島と違い、綾の後ろには海に突き出すように設えられたオープンデッキと上品なログハウス風の屋内バーが岬のように海にせり出している。ここはカオス保護区とやららしいが、守りきれなければ影響は出る。タワーディフェンスゲームみたいだな、とチラリと思った時、状況が動いた。
 一触即発な雰囲気にじれたのか。背中一面に入墨のような模様を背負った親分カニは、パリピガニ戦線の最前列でシャキーン! とドスを振り上げた。
「ギョロメニハ ギョロメナリ! イデヨ! ギョロメノトウゾクガ……」
「スタコラサッサノサー!」
 言いかけた親分ガニの頭上を、巨大なカニが飛び越える。イカの脚をツインテールに靡かせたイカついカニは、華麗にカニの頭上を飛び越えてパリピウオとの間に着地すると、そのまま砂地を駆け抜けた。パリピガニもパリピウオも構わず駆け抜け、あっけに取られる綾達の脇をすり抜けたイカついカニを見送った親分は、一つ咳払いをするとパリピウオ達に向かい合った。
「ナンナノダ アレハ……コホン。アラタメマシテ イデヨ! ギョロメノトウゾク!」
「マテー! ニゲロー!」
 親分ガニの召喚に応えて現れたのは、巨大なカニ……を背負った巨大なクマだった。リオンを追いかけて砂浜に降り立った巨大カニグマは、四つ足で山から降りてきて最前線に立つと、大きな身体を見せつけるように立ち上がった。

● カオス最前線
 突然動いたカオスな状況に、森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)は即座に絶叫した。
「ふたつの世界が繋がってる時点で十分カオスなんだよふたつの動物繋げてんじゃねーよ!!」
 ぜーはーと肩で息をするのも無理らしからぬことだが、これも◎の定め。どこか既視感を感じるような気がしなくもなくはない光景に、ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)は大きく頷いた。
「キマイラフューチャーで世紀末なカオスを経験した事ありますが、似た匂いがしますね」
「てことは何だ? あの世紀末覇者なカニはキマイラフューチャーの伝統だとでも言うのかよ」
「まあ正確には、私が経験したカオスはカニではありませんでしたが」
「ああ、まあな。カオスってのはどこにでも湧いて出るものだからな」
 妙に悟ったような表情で腕を組み深く頷く陽太は、響く重低音に顔を上げた。
「ウエーーーーーーイ」
「「「「「ウエエエエーーーーーーーーーーイ!!」」」」」
 突如現れた巨大なクマガニに、パリピウオ達は大きな声で何やら叫んでいるが、パリピウオ達に味方する巨大な何かが現れる様子はない。沖合に目をやれば巨大なクジラが優雅に泳いでいるが、こちらに近づく様子はない。
 そんな状況に、梓は綾を振り返った。
「さて、ビーチ側にはパリピウオ、山側にはカニ。綾はどっちを相手したい?」
「そうだねぇ、じゃあ山でカニ狩りがいいな。ほら、今年の夏休みはほとんどビーチで過ごしたじゃん? 実は山でのレジャーに飢えてたんだよねー」
「山のレジャーですか。クマは山の神とも言われてますからね。熊肉のなめろうもチャレンジしてみたいです。熊肉なのでチタタプ言いながら叩くのが本式でしょうか」
「いやそれは何の呪文だよ何の!」
 ビスマスに裏拳ツッコミを入れる陽太の漫才をよそにワクワクしながらEmperorを構える梓に、梓は楽しそうに笑うと焔と零を呼び出した。
「なんかそんな理由で選ばれるカニが若干不憫だが。奇遇だな、俺も今日は魚よりカニが食いたい気分だ」
「キュー!」
「ガウ!」
「お、お前たちもか」
 梓の隣で、焔と零がそれぞれクマとカニへの期待に胸を膨らませている。睨み合っていたパリピウオとパリピガニの戦端が切って落とされる寸前、四人は一斉に割って入った。

● 交渉いろいろ
 巨大カニグマと真っ向対峙した陽太は、咆哮を上げながら四つ足で駆け寄ってくる巨体と相対すると詠唱を開始した。
 初期位置がシリアス保護区の近くだったため、自然と防衛することになったのはいい。このカオスの後には美味しいバーベキューが待っているのだから、カオスに巻き込まれてバーカウンターやオープンデッキがめちゃくちゃになってしまったら元も子もない。ならばどうするか。
「……よし、パリピカニの陰謀阻止しつつ焼きガニ量産だ」
 己の問に即答した陽太は、アスモデウスを召喚した。カオスシナリオで出てくると妙に交渉に重点を置きたがるアスモデウスは、周囲のカオスを見渡すと陽太の言葉を待った。
「なあアスモデウス……この世界の平穏(?)のために、ちょっくらあのカニ、焼いてくれねえ?」
 陽太が指差した先にいるのは巨大カニグマ。基本四つ足で唸っているため背中のカニが全面に見えてはいるが、あれはカニグマという生き物であってカニではないだろう。そんな駄々をこねたアスモデウスは、頬をぷう、と膨らませるとぷい、とそっぽを向いた。
「おい! そこ! 妙に細かくなるんじゃねえよ! クマがついててもカニはカニだろうが!」
「危ない!」
 焦る陽太に向けて突進してくる巨大カニグマの間に、ビスマスは割って入った。腕を交差させて防御姿勢を取るビスマスに態勢を立て直した陽太は、双槍を構えると巨大カニグマに向けて突き出した。
 裂帛の気合と共に放たれる一撃に、巨大カニグマは後方に飛び退き距離を取る。深々と突き刺した穂先はしかし、毛皮に阻まれ大したダメージを与えられない。突然始まった戦闘に、パリピウオはおろかパリピガニの大多数もあっけに取られて硬直した。
「ナ、ナンナンダ アノヘンナカニ……」
「フハハハハ! コレゾ パリピホントウニツタワル デンセツノ ギョロメノトウゾクガニ! サアトウゾクガミサマ! アノ パリピガニドモカラ コノシマノ ハケンヲ ヌスンデクダサイ!」
「ヨカロウ。ナラバマズ オ前達ノかおすヲ 我ニ捧ゲヨ!」
「ヘ?」
「オ前ノモノハ 俺ノモノ 俺ノモノハ 俺ノモノビーム!」
 きょとんとする親分ガニをよそに立ち上がった巨大カニグマは、大きく腕を広げると大きな咆哮を放った。響き渡る声は妙な節を付けながら「オ前ノモノハ♪ 俺ノモノ♪ 俺ノモノハ♪ 俺ノモノ♪」と歌っている。その声に導かれるように、周囲のカニ達からオーラが湧き出した。
 金剛甲羅、世紀末覇者、ダークマターといった名だたるカオスが歌と共にギョロ目の盗賊ガニに集まる。あれよあれよという間にパワーアップを完成させたギョロ目の盗賊ガニは、つぶらな瞳をギョロっとさせると再び前足を砂についた。
「フハハハ! コレコソガ 「金剛甲羅ヲ纒イシ 世紀末覇者ノ ダークマター」!」
「なんだそりゃ!」
 陽太のツッコミに、梓は楽しそうに笑った。ごった煮のような状況だが、パリピ島はこうでなくては。
「へえ。パリピガニの属性も持っているのか。だが、残念だったな! 金剛甲羅も世紀末覇者も俺はもう攻略済みだ! 焔、零、頼んだぞ!」
「キュー!」
「ガウ!」
 梓の檄に、焔が巨大カニグマに向けてに向けて炎を放った。金剛甲羅は全ての物理攻撃を無効化させるが、魔法攻撃に弱いのだ。炎がギョロ目の盗賊ガニに当たる寸前、ふいに立ち上がった。驚くべき素早さで立ち上がったクマの腹を焦がした炎はしかし、分厚い毛皮と皮下脂肪によりほとんどダメージを与えられない。
「何?」
「フハハハ! クマノ毛皮ハ 魔法攻撃耐性ガ 高イノダ!」
「ふうん? じゃあクマには物理が効くってことだよね?」
 言い終わる瞬間には、綾の姿は巨大カニグマの懐に飛び込んでいた。Emperorを構え袈裟懸けに斬り裂く綾の一撃はしかし、素早く蹲った巨大カニグマの金剛甲羅に弾かれる。表面を滑ったEmperorの勢いを器用に収めた綾は、砂地に着地するとすうっと目を細めた。
「なるほど? 攻撃によって防御を使い分けるんだね。あ、ダークマターは対処法知ってるから怖くないよ。……グリードオーシャンの戦争時にここ出身っぽいカニと戦ったりはしたけど、ここが本島っていうことは本家はこっちのカニなのかな?」
「……それにしても。なんで俺達はのんきな日常でガチバトルしてるんだろうな?」
「それがパリピ島のお約束なんじゃない?」
 梓のぼやきに綾が肩を竦めた時、白い影が戦場に駆け込んだ。

● ヤクザなんてなんぼのもの
 時は少し遡る。
 パリピガニとパリピウオが一触即発な雰囲気を漂わせるのを見守ったユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)は、ピリピリした空気を肌で感じながら首を傾げた。
「パリピ島が繋がった……? よくわかりませんが、確かにガラが悪いですね……。風紀を乱すわけにはいきません」
「ていうか、あの親分カニの模様。なんかヤクザ……じゃないのアレ?」
 ユディトに半ば隠れるようにして不安そうな声を上げる彩瑠・翼(希望の翼・f22017)の声に、ユディトは改めて目の前の抗争を見た。砂浜を二分するように海側と山側に展開した、ギョロ目の深海魚 vs 多種多様なカニの群れという構図は、確かにヤクザの抗争のように見えるし、親分カニの背中には桜の文様が入墨されている。
 だが、猟兵はヤクザ程度の小物にやられるような存在ではない。ヤクザを遥かに凌駕する実力を持っているのは、厳然たる事実。
 ということは、翼は小物相手に弱いものいじめにならないか心配しているのだろう。そう結論づけたユディトは、一つ頷くと翼に一番小さな網を手渡した。
「美味しい料理を食べる前の運動にはちょうどいい、ということですね。。頑張りましょう!」
「誰もそんなこと……って、ここのアレコレ、虫取り網で捕れるようなものなの……?」
 戸惑いの声を上げる翼に、ユディトは自然と口元に笑みがこぼれるのを止められない。この小さな網でさえ、今の翼が持てば強力過ぎる武器になり、修行にさえならないと言いたいのだろう。だが生憎、これ以上小さな網は持っていない。
「リオンさんが虫取り網で取れるって言ってるんですから、狂暴なはずないです。今の翼くんになら、この網を使いこなせます」
「いや、この網どう見てもちっちゃいよ? 金魚すくいの網みたいな適当感がするよ? ぜったいこれじゃどうにも……」
「大丈夫、前みたいなことにはなりませんから。あ、リュートくんも一緒に頑張りましょうね」
「おう! これであのカニや魚を捕まえるのか?」
 興味津々に虫取り網をいじるリュートに、使い方を教えてあげる。セミを取るのに良さそうな虫取り網をブンブン振り回して楽しそうなリュートに目を細めたユディトは、動く状況に自分の虫取り網を構えた。
「ギョロメニハ ギョロメナリ! イデヨ! ギョロメノトウゾクガ……」
「スタコラサッサノサー!」
 叫ぶパリピガニの親分を飛び越えて現れたのは、二足歩行する巨大なカニだった。ツインテールのイカ脚を靡かせながらユディト達の脇を走っていった背中に陽里が乗っていたのは気のせいだろうか? どんな時でも乗り物を乗りこなす姿に感心したユディトは、続けて現れた背中からカニ足を生やした巨大なクマに思わず言葉を失った。
 予知にはない新種のカニだ。さすがは◎。睨み合っていたパリピウオとパリピガニは、あまりの出来事に動けないようだ。今なら捕まえるのはたやすいが、このまま放置もまずいだろう。
 同じことを思ったのか、翼が慌てた声でユディトを見上げた。
「そ、そうだよ。このままなんでこんなことになったのか、調査……」
「よくわかりませんが、生態系が崩れてはいけないのでクマガニも捕獲しましょう。翼くん、頑張りましょうね」
 ユディトの言葉に、翼の目の色が変わる。ユディトの言葉を反芻しているのだろう。やがて何かを悟った目をすると、虫取り網を握り締めた。普段色々言っているが、決意を固めた翼は普段以上の力を出す。少年の成長は嬉しいものだ。
「結局、今日も修行なんだね……。うん、知ってた」
「あのクマを捌けばいいんだな。お安いご用だぜ! 来い、クロ!」
「え、まさかクマの脳味噌食べるとか言わないよね!?」
 砂浜に駆け出すリュートを追い掛け、翼も駆け出す。少年たちの背中を追って、ユディトもまた駆け出した。

● クマクマロデオ
 勢いで駆け出した翼は、迫る巨大カニグマの姿に思わず涙目になった。クマ出没注意のアート看板に出てきそうな精悍な顔立ちは、図鑑や写真で見たヒグマだろう。確かヒグマは時速50キロとか60キロとかで走ったっけ? つぶらなひとみがよく見るとかわいい。かわいいけど、その背中のカニ足は何なの!?
「こんなの虫取り網じゃ戦えないよ?! もっと大きな……そ、そうだ、ここはイマジネーションだオレ」
 詠唱する間もちびカニグマからは目を離さない。想像しろ。この状況をなんとかできる鎧を!
「今日の鎧はカニグマも捕獲できる大きな網が実装された……」
「わかりました! あなたはカニグマではなくカニとクマですね!」
「そうカニグマじゃなくてカニとクマを……ってしまった!」
 カニグマを捕獲できる網のついた鎧を想像していた翼は、ユディトの声に思わず想像を乱してしまう。カニグマっていう生き物じゃなくて、カニとクマ!? パリピ島なら背中からカニを生やしたクマだっているだろう。そんな先入観を持っていた翼は、膠着した戦場に駆け込むユディトの背中に目を丸くした。
 真っ直ぐ巨大カニグマに駆け寄ったユディトは、さっき魔法攻撃も物理攻撃も防いでいた強敵の、カニとクマの継ぎ目部分に虫取り網を突っ込む。そのまま全身を使ってカニとクマの隙間から何かを網で掬い上げたユディトは、全身を使ってその毛玉を砂浜に投げた。
「え? クマとカニの間から、小さいクマ?」
 ユディトが弱点を突き虫取り網で捕獲したのは、小さなクマだった。小さいと言っても体長は2メートルあるか。ぽおん! と引っ張り出されたクマは、砂浜をバウンドする。もふもふのクマは突然の出来事に辺りをキョロキョロ見渡していたが、やがて砂の匂いをかぐと真っ直ぐ駆け出した。翼の方に。
「え? なんでこっち来るの!?」
 いや、カニグマから逃げているだけかも知れないが。とにかく真っ直ぐ突進してくるクマの姿に、翼は慌ててジャンプした。
 鳥の羽のように大きくブンブンさせた網の下を、走るクマが行き過ぎる。どう見ても大漁網な鎧は下を通過するクマに引っかかり、引っ張られた翼を背中に乗せて一目散に走っていった。あまりのことに目を白黒させた翼は、何とかクマに跨ると助けを呼んだ。
「うわぁん、ユディトさぁん!」
「翼くん!」
「追うぞ! 乗れ!」
 そのまま連れ去られた翼を追って、クロノスに乗ったリュートとユディトが追い掛けてくれる。絡まった大漁網はユーベルコードを解除すれば解けるが、時速60キロほどで走るクマに振り落とされるのはたまったものではない。走るクマに騎乗した翼は、ここがパリピ島であるということを心から噛み締めた。

● 精神攻撃はお好き?
「コラー! ドロボー!」
「いやお前が言うな!?」
 親分ガニと陽太の声に我に返ったビスマスは、突然現れてはカニグマからクマを強奪して去っていくユディト達の背中を見送った。
 さっきのやり取りは一体何だったのか。ぷんすこ怒る盗賊ガニの姿に、ビスマスはため息をついた。パリピ島のカオスは初体験だが、ひょっとしてこれが通常運行なのか。以前カオスな戦闘経験を思い出したビスマスは、改めて巨大クマガニに向かい合った。
「世紀末覇者なカニさんも居ますし、いつぞやの世紀末カオスなノリでカニさんらの暴走を止めましょうか」
「そうだな。だが、どうする? 結局巨大カニグマは物理も魔法も防ぐんだろ?」
「何を手こずっておるのだ」
 ため息と共にオープンデッキのシリアス保護区から出てきた美雪は、巨大クマガニを前に動かないアスモデウスに事情を察すると小さくため息をついた。
「なるほど。カオス過ぎてツッコミが追いつかない訳か」
「ったく。カオスシナリオでアスモデウスがサクッと交渉に応じてくれねえこと忘れてたぜ」
「◎なのだから仕方あるまい。ああいう手合は精神攻撃が効くのだ。どれ、私が眠らせてやろうではないか」
 地味にメタなことを言いながら詠唱を開始した美雪が、もふもふの羊を召喚する。このもふもふもカオスな目にあいがちなのだが、さて今回はどう出るか。妙な好奇心と共に見守った陽太の前で、もふもふの羊が一斉に飛び立った。
「さあ、巨大カニグマとやら。おまえたちはこのカオスシナリオで都合よく現れた以上、しっかり食べられることが幸せなのだ。だから安らかに眠れ」
 もふもふの羊に包まれようとした巨大カニグマのカニは、くわっと目を見開くとクマの背中からジャンプした。残されたクマはもふもふから逃れようと一目散に駆け出す。その様子に、美雪はカニの姿に指を差した。
「分離したぞ! さ、遠慮なく捕まえたまえ」
 美雪の声に、陽太も目をこらす。クマの背中にしがみついていたカニは、クマとの間に隠していただろう深緑色の唐草模様の風呂敷をすちゃっと背負うと一目散に逃げ出した。あの風呂敷の中に入っているのはダークマターだろうが、逃走を見逃す陽太ではなかった。
「させるか!」
 森の中に逃げ込もうとするギョロ目の盗賊めがけて網を放り投げる。投網でカニを抑えた陽太は、まだその場にいるアスモデウスを振り返った。
「やれ、アスモデウス! こいつはカニだよな!?」
 陽太の交渉に、アスモデウスはしぶしぶといった感じで獄炎を吐き出す。こんがり焼きガニになったギョロ目の盗賊は、香ばしい香りを立てるとその場に力尽きた。
「……何したかったんだ? こいつ」
 いい感じに焼き上がったカニをつまみ上げた陽太に、美雪は肩を竦めて応えた。

● 大熊座 vs 蟹座
 カニとクマに分離したカニグマのクマの方に相対したビスマスは、砂を蹴り飛翔するとユーベルコードを詠唱した。
「物理攻撃が無効でないなら、これで!」
『Final build Bi!Bi!Bi!Biscancer! ビスキャンサー転送! 蒼鉛式生成戦術起動!』
 機械音と同時に放たれた光に包まれたビスマスは、召喚された鎧装を次々に身につけた。雷のエフェクトに照らされた鎧装が、ビスマスの体に自動装着されていく。
 蒼鉛鋼の身体が、海老と蟹の装甲に覆われていく。蟹座の守護を得たビスマスの上半身を覆う赤い装甲はつややかな輝きを持ち、甲殻類の力強さもよく表されている。肩口とベルト下部、そして兜にある黒い目がクマを睨みつけた。
「あなたの暴走、止めてみせます!」
 砂浜に立ちディメイション・チョップスティックを構えたビスマスは、反応しないクマに怪訝そうに首を傾げた。
 ビスマスの変身シーンに、クマは体育座りでワクワクしながら見入っていた。まるで毎週日曜日の朝にテレビに釘付けになる小学生のようなクマは、集まる視線に我に返ると四つ足で立ち上がった。
 構えるビスマスに猛チャージを仕掛けたクマは、巨体に似合わぬ俊敏さでビスマスの首を掴むとそのまま持ち上げた。
「くっ……!」
「あ、あれは伝説の、大熊座のハンギングベアーじゃねえか……!」
 陽太の驚愕の声に、ビスマスは目を開いた。このまま窒息させるつもりだろうが、そうはいかない。蟹鋏で腕を破壊し脱出したビスマスは、白いパレオを靡かせながら空を舞った。
 飛翔するビスマスを再び捕まえようと立ち上がったクマは、巨大な熊の手を振り回しながら攻撃を仕掛ける。がら空きになった胸元に、ビスマスは光学蟹鋏を構えた。
 突撃の威力を込めた蟹鋏が、袈裟懸けに振り下ろされる。魔法防御だけでなく物理防御にも優れていたクマの分厚い毛皮が深々と切り裂かれる。その巨体に、ビスマスは一旦距離を取った。
「なめろうにしてあげます!」
 ビスマスの声が響くのが早いか。一条の矢となったビスマスは蟹鋏と共に巨大なクマの心臓を貫き通す。
 毛皮を蹴り離れたビスマスに、クマの巨体が仰向けに倒れる。
 どう、と大きな音を立てて倒れたクマの姿に、ビスマスは大きく息をついた。

● バトルは終わり、そして……
 クマとカニが倒され、静かになった砂浜に一人と一匹が乱入した。島の周囲をぐるりと一周したイカついカニ……に騎乗した陽里は、倒れているカニとクマの姿にそっと目を逸らすとイカついカニを止めた。
「な、何か起きたみたいだけど……。まあいいや。ところで、エリシャ見なかったか? この島一周したけど姿が見えなくて」
「エリシャさんですか? そういえば姿が見えませんね」
 武装解除したビスマスが心配そうに周囲を見渡した時、にぎやかな声が聞こえてきた。巨大クマガニの中から救助されたクマに金太郎よろしく騎乗した翼と、翼を追っていた筈のユディトとリュートが黒竜に乗って仲良く並走している。どうやらパリピ本島を一周してきたらしい。
「……よし翼! あの砂浜まで競争だ!」
「ええ!? オレ、クマに騎乗するの初めてなのに!?」
「その代わり、俺はクロにユディト乗せてるからな! いくぜ!」
「これは気持ちいいですね。テルテルさんを思い出します」
 帰ってくるのを出迎えた猟兵達は、ふいに陰る月明かりに空を見上げた。さっきまで海上にいた巨大なギョロ目のクジラが、葵桜とエリシャを乗せ悠然と上空を一周するとふわりと砂浜に着地した。
「あ、皆揃ってる! やっほー! すっごいカオスだったね! ……で、なになに? これから胸をおっきくする儀式を始めるの?」
「「「「「……」」」」」
「あ、ひっどーい!」
「まあまあ葵桜ちゃん、落ち着いて」
 クジラから飛び降りるなり駆け出した葵桜に、全員が申し合わせたかのように一斉に目をそらす。ぷう、と口元を膨らませた葵桜を宥めたエリシャは、そこにいる猟兵に目を輝かせた。
「陽里! 良かった、来れたのね。お仕事お疲れ様」
「エリシャ! ごめん、遅くなって。その……」
「? なあに?」
 イカついカニから降りてエリシャの前に立った陽里が口を開いた時、忘れられていたパリピガニ達が動いた。
「コノ、ヨクモギョロメノトウゾクガニト クマヲ タオシテクレタナ! モノドモ、デアエーイ!」
 賑やかに語り合う猟兵達に、親分ガニがドスを振り上げて注目を集めようとする。さらなるカオスが巻き起ころうとした時、巨大な水柱が立った。

● 水柱と神楽舞
 どおん! と大きな音と共に立ち上がったのは、巨大な水柱だった。
 高さは10メートルはあるだろうか。見上げるほど大きいが、距離があるため全体の姿がよく見えた。
 細部はよく分からないがその水柱は特徴的な形をしていた。詰め襟の学生服のような上着に、足首を絞ったデザインの共布のワイドパンツ。凛々しい輪郭を彩る硬めの髪は長く、後ろ髪は首元で一つに括っていた。学生服風の上着の上から羽織った半々羽織は、右半分が無地、左半分が……。
「それ以上は結構。カオスのために危ない橋を渡るのは控えてください」
 立ち上がった水柱の手の上に立った海神・鎮(ヤドリガミ・f01026)は、水の精霊たちの立てた水柱をチラリと見上げると小さなため息をついた。確かに水柱は水柱だが水柱じゃない。それに初期位置が水柱の手の上というのはどういうことだろうか。
 巨大な水柱は、ゆっくりと砂浜へと歩み寄ってくる。その迫力に、ビスマスは思わず呟いた。
「あれが水柱……。とても格好良くて強そうです。クールな感じがしますね」
「あぁ。だがその実、抜けているところもあるのがご愛嬌で……って、そういうのはやめろといつも言っているだろうが!」
 美雪のツッコミを皮切りに、皆口々に言い募ろうとする。それらを黙らせるように水柱が十一番目の息で場を凪にする。放たれた新しい型に場がしんと静まり返った時、光が降り注いた。
 小さな機械音と共に、海の中から舞台がせり上がる。海面より1メートルほど高い場所までせり上がった広い舞台の上を横切るように、コの字の架台に設置された照明が舞台を次々照らし出していく。
 舞台裏で奔走した月水・輝命(うつしうつすもの・f26153)は、元から備え付けられていた舞台セットをマニュアル片手に起動させると、葛葉と共に合図を送った。
 跪いた水柱が、鎮を舞台に下ろして再び立つ。舞台に立った鎮を確認した輝命は、スポットライトを当てると瞬に目配せした。
 共にカオスからバーを守り抜いた輝命の視線に、瞬は頷くと精霊のフルートを吹いた。響く清浄な音色に誘われて現れた光の精霊たちが、瞬の周囲をくるりと回ると鎮の方へと飛んでいく。フルートの伴奏と光の演出に照らし出された鎮は、親分ガニに向けて視線を遣った。
 リズムを刻み神楽を舞う。調子に乗ったカオスを浄化するように響くフルートの音色と光を纏った鎮は、場の注目を集めると親分ガニに手を伸ばした。突然手を差し伸べられた親分ガニは、周囲をキョトキョトと見渡すとドスで自分を指した。
「オ、オレ?」
 優雅に頷いた鎮は、親分ガニを水柱の前の舞台に上げる。やっぱり挙動不審な親分ガニの周囲を、光の精霊たちがくるりと舞う。空気を読んだ親分ガニに向けて、鎮は歌い始めた。

「あんたがたどこさ」
「パリピサ」
「パリピのどこさ」
「山サ」
「お山のどこさ」
「シンデンサ」

 有名な童謡をラップ調に編曲した鎮の歌声が、親分ガニに問いかける。その問に答える親分ガニは、舞台の真ん中に立つと節に乗せて歌い始めた。

「クマノ シンデンニハ オタカラ アッテサ
 ソレヲ トウゾク ヌスンダナラサ
 ボウソウサ ユウゴウサ カオスサ

 ソレヲ インボーニ チョイト ツカッテ ネ」

「成程」
 氷点下の鎮の声に、ノリノリで踊っていた親分ガニがハッと我に返る。集中する視線にアワアワと両手を振った親分ガニは、仲間たちを舞台の上に呼び寄せると組体操でピラミッドを組んだ。
「ワレラコソー コノシマノハシャー!」
「「「「「「ハシャーン!!」」」」」」
「トウゾクガニハ イナクナッタケド マダ ショウブハ ワカラナーイ!」
「「「「「「ワカラナーイ!」」」」」」
「まだカオスが足りませんか」
「マダモ ナニモ パリピガニト パリピウオハ ナニモシテイナーイ!」
「「「「「「シテイナーイ!」」」」」」
 至極ごもっともな主張に鎮が眉間の皺をもみほぐした時、舞台に輝命が駆け出した。

● 戦う理由
「お待ちくださいませ!」
 爪をシャキーン! と立てて改めてパリピウオに戦いを挑もうとするパリピガニ達に、舞台に上がった輝命が語りかけた。
「折角遊びに来たと言いますのに、クマさんやカニさんが暴れて……。出番がなくて、さぞや寂しかったことでしょう」
「コノ シマノ クマガ イキナリ キョダイカ スルトハ オモワナーイ!」
「「「「「「オモワナーイ!!」」」」」」
「そうですわね。きっと誰もそんなこと思わなかったことでしょう。ですが喧嘩はめっ! ですの!」
「ハイソウデスカトハ ナラナーイ! モノドモ イクゾー!」
「「「「「「オー!!!!!!」」」」」」
 ピラミッドに積み上がったパリピガニ達が一斉に飛びかかってくる。輝命が防御に身構えた時、舞台上に人影が舞い込んだ。
「喧嘩はダメです!! 皆仲良く」
 一喝と共に衝撃波を放った奏は、襲い来る勢いそのままで吹き飛ばされるパリピガニ達を見送るとその場に凛として立った。
 吹き飛ばされたパリピガニ達は、存在感を顕にして注意を引きつける奏の姿によろりらと起き上がるとなおも爪を振り上げ襲いかかった。
「ワレラハ コノシマノ ハシャー! パリピウオニ ハシャノザハ ワタサナーイ!」
「「「「「「ワタサナーイ!!」」」」」」
「争ってる場合ではないでしょう!! 通りがかる人の迷惑になります!!」
 精霊のフルートを置き一旦ユーベルコードを解除した瞬は、奏を庇うように前に立つと結界を張った。
 奏に襲いかかるパリピガニ達が、結界術で絡め取られていく。身動き取れなくなったパリピガニ達に、輝命は語りかけた。
「どうしてあなたたちは、そんなに覇権が欲しいのですか?」
「タタカウノ スキダカラ イイジャナイカ!」
「「「「「「イイジャナイカ!!!」」」」」」
「まあ、その気持はわかりますが……」
 パリピガニの言い分に、輝命は困ったように首を傾げる。猟兵達の間にも、模擬戦と呼ばれる疑似戦闘をすることがある。模擬戦をする理由は様々だが、中には純粋に戦闘が楽しいという猟兵だっているだろう。パリピガニばかり責められるものではない。
「ソレニ クマノチカラ カリルカワリニ ホントウガニノ ミコノ オトシモノ サガスヤクソクガアルカラ タタカワネバ!」
「「「「「「タタカワネバ!!!」」」」」」
「困ったわね。……本島ガニの巫女の落とし物が見つかれば、戦う必要はないのね?」
「デモコノシマノ ハシャハ ワレラー!」
「「「「「「ワレラー!!!」」」」」」
 奏の確認にも爪を振り上げて答えるパリピガニに苦笑いを零した時、状況を変える声が響いた。

● 輪になって踊ろう
「うーん。なんかよくわかんないけどさ、戦うのが好きなら殺さない程度に楽しめばいいんじゃないかな?」
 砂浜に戻り腕を組んで頷く葵桜の声に、パリピガニ達の視線が集中した。突然集まる視線に慌てて周囲を見渡した葵桜に、翼が乗っていたクマがすり寄った。
「わわ! もふクマさん! なになに?」
「ソレ! ソノシロイノ!」
「え? これ? ふふん、かわいいビキニトップでしょう。とってもお気に入りなんだ。いつかこれに見合うくらい胸だっておっきく……」
「ソレカエシテ!」
「葵桜ちゃん。なんだかそれを探してたみたい。返したほうがいいんじゃないかしら?」
 エリシャの助言に、葵桜は頷くとビキニトップを外した。手渡された貝殻ビキニトップを受け取ったクマは、絡まった金具を器用にほどくとふたつに分離させた。そこに現れたのは、ビキニトップではない。嫌な予感がした輝命は、恐る恐る尋ねた。
「あの……。わたくしの思い違いでないならば、UDCアースの童謡でああいうのありませんでしたでしょうか? 確か……」
「「「「「森のくまさん……」」」」」
 そこにいる全員の注目が集まる中、翼を下ろしたクマはイカついカニに向けて歩み寄った。白い貝殻の小さなイヤリングを手渡されたイカついカニは、それを背中に乗せると光に包まれた。
 眩い光が収まった時、カニと二匹のイカは分離して砂浜に蹲っていた。白い貝殻の小さなイヤリングを身に着けた大きなカニは、手を差し出すクマに爪を乗せた。
「良かった。無事に呪いが解けたのね」
「これで、パリピガニ達も争う必要はなくなった筈です」
 感動する奏に、瞬も微笑んで手を取り合うカニとクマを見守った。一件落着の雰囲気が流れる空気に、奏はパリピウオ達に駆け寄った。
「さあ、これでもう安心ね! 改めまして、真宮・奏です。結界術で乱暴なことしてごめんなさい」
「神城・瞬です。パリピガニ達も、手荒なことをしてしまいましたね」
 パリピガニに歩み寄った瞬は、結界術を解除するとパリピガニ達に手を差し出した。仲直りの握手を交わす瞬とパリピガニ達の姿に嬉しくなった奏は、華麗にステップを踏んだ。
「さあ、踊りましょう! 鎮さんも一緒に。さっきのダンス、凄かったわよ」
「ありがとうございます。共に舞いましょう」
 奏の手を取った鎮は、舞台中央で軽やかにステップを踏み踊り出す。楽しげに踊る二人に合わせて瞬は音楽を奏で、輝命は光で演出する。
 つられて踊り出すパリピガニやパリピウオに合わせて踊りだした葵桜は、思い出したように宙を見上げると手を差し出した。
「水柱さんも一緒に踊ろうよ! もっと小さくなってさ!」
「「「「「「それはよせ」」」」」」
 一同の総ツッコミを受け、水柱が海へと還る。
 カオスな事態は収束し、楽しいダンスパーティーが始まるのだった。

● 宴の支度~女子卓いろいろ
 始まるダンスパーティーをほどほどで切り上げた美雪は、途中までしてあったバーベキューの支度を再開させた。
 パリピウオやパリピガニ達と和解して一緒に踊っている以上、食材として狩る訳にはいかない。だが、予想外に手に入った熊肉と盗賊ガニがあるから何とかなるだろう。
 一人で料理を始めてしばし。熊肉を解体していたリュートが肉の塊を手に駆け寄ってきた。
「美雪! 熊肉捌けたから持ってきたぜ! 残りは冷蔵庫? に入れといたから取りに行ってくれよな!」
「おお、ありがとう。料理ができるまで、踊ってくるといい」
「本当か? せんきゅー! ……待たせたな翼! 踊りに行こうぜ!」
「うん! ……ねえ、熊の脳味噌はちゃんと処分……」
「もちろん、ちゃんと取ってあるぜ! 翼も好きだなあ」
「ち、違うし! ほらユディトさんも行こう!」
「え。俺は踊ったことは……」
「音楽に合わせて体を動かしてれば大丈夫って、葵桜さんが言ってたよ!」
 喋りながら仲良くダンスエリアに駆け込む三人の背中に、美雪は眩しそうに目を細める。熊肉なんてさすがに解体したことはないから、普通に使えるのはありがたい。
 バーベキューの支度中、目の前で繰り広げられていたカオスな戦闘を思い出した美雪は、熊肉を串に刺す手を止めると遠い目で苦笑いをこぼした。
「パリピ島の本島というだけあって……控えめに見てもカオスだったな」
 カオスの原因は、パリピ本島のシンデンとやらに安置されていたチートアイテムを盗もうとしたパリピガニ達のやらかしらしいが、そもそもなぜパリピガニやパリピウオが本島にやってきたのかは結局謎のまま。
「まあ、私は粛々とバーベキューの準備をするだけよ」
「ごめんなさい美雪! 手伝うわ!」
 手を振って駆け寄るエリシャとビスマスに手を振り返した美雪は、水着の上からエプロンをする二人に包丁とまな板を渡した。
「おお助かる。なにせ大人数だからな」
「ふふ、美雪はずっとバーベキューの支度をしてくれていたものね。ありがとう」
「いやなに。料理が好きなだけさ」
 真っ直ぐな感謝の気持ちにくすぐったい気持ちで頬を掻く。ちょっと照れる美雪に、ビスマスは不安そうにカットされたカニを差し出した。
「パリピガニ達も皆で仲良く踊っていますが……このカニさんやらを『料理』しても問題無いでしょうか」
「あぁ、問題ないぞ。弱肉強食が世の掟、という世界観らしいからな。捕獲された時点で仲間意識は消えるらしい」
「そうですか。では安心して料理できますね」
「そうだな。……ビスマスさんはどんな料理を作るのだ?」
 手際よく串に玉ねぎを刺した美雪は、何の違和感もなく包丁を両手に1本ずつ手に取るビスマスに聞いてみる。美雪の質問に顔をぱあっと輝かせたビスマスは、ほぐしたカニ肉に軽やかに包丁を入れた。
「なめろうにします! カニ肉のなめろうなんて贅沢です。もちろんクマ肉のなめろうも」
「そ、そうか。熊肉って生で食べられるのか?」
 カニ肉は刺身でいけるが、そういうジビエはどうなのだろう。美雪の問に、ビスマスは静かに首を横に振る。
「熊肉は寄生虫がいるので、生食は良くありません。ですがなめろうフライやなめろうコロッケにしてちゃんと火を通せば、美味しく食べられる筈です!」
「そうか。楽しみにしてるな」
「はい!」
 楽しそうに頷いたビスマスが、早速クマ肉を叩き出す。軽やかな音に熱中するビスマスから離れた美雪は、エリシャが手に持つ闇の物体に息を飲んだ。
「エリシャさん。まさか、それは……」
「ダークマターよ。盗賊ガニが盗んだダークマターが消えずに残っていたから回収してきたの」
 あの風呂敷包みだろう。
「はいはい! 私、ダークマター料理食べたい! パスタとかスープとか!」
 一緒にダークマターを回収していたらしい葵桜が、明るく手を挙げる。楽しそうな葵桜に、エリシャも嬉しそうに頷いた。
「ダークマター料理は癖になるわよね。ギョロ目料理も作りたかったけど、今回は無理ね。でも熊肉があるから、それと合わせても……」
「エリシャさんは、またずいぶんダークマターを受け入れたものだな。以前はあんなに嫌がっていたのに」
「ふふ、誰でも最初の一口は緊張するものよ」
「ウエーーーーーーイ!」
 微笑むエリシャに、二匹のパリピウオが寄り添った。空中を飛ぶ王子様とお姫様に、エリシャは手を伸ばした。
「あら、王子様とお姫様。……ねえ、ひょっとしてあたしと葵桜ちゃんをカオスから避難させてくれたのかしら?」
「ウエーーーーーーイ!」
 ハイタッチして頷く王子様とお姫様に、葵桜は感極まったように抱きついた。突然の抱擁にギョロ目を白黒させるお姫様に、葵桜は頬ずりする。
「ありがと! あのクジラ、クマに対抗するための決戦兵器的なアレだったんだよね。それを使ってでも守ってくれたんだね! 本当に嬉しい!」
「ウエィ!」
「え、もっと踊ろうって? でもお料理の手伝いしなきゃ……」
「ふふ、いいわよ葵桜ちゃん。ここは三人いれば大丈夫」
「ほんと? ありがとう! ……てことで、田中さんよろしく!」
 いつの間にか召喚された田中さんが、大きく頷く。鎧の上から特製の割烹着を着込んだ姿は、違和感があるような無いような。
 駆け出した葵桜に目を細めたエリシャは、田中さんを見上げると柔らかく微笑んだ。
「田中さん。一緒に美味しい料理を作りましょうね」
「って、さっきパリピウオと普通に会話してなかったか……?」
 無言で頷いた田中さんは、エリシャと手分けしてダークマター料理を作り始める。楽しく料理していた美雪は、誰にともなく突っ込むのだった。

● 宴の支度~男子卓いろいろ
 無事にカニをゲットした綾は、美雪たちとは別卓でいそいそと料理を始める梓の手元を覗き込んだ。バーベキューコンロに炭を並べて焚付に火を入れると黒い炭が赤くなり、ほわんとした熱がふわりと漂う。まだ火が通っていないカニを網に乗せれば、パチパチと音を立てながら香ばしい香りが広がって。早速第一陣で焼けたカニを皿に盛った梓は、焼きガニを綾の前に置いた。
「ほらよ。他の串の用意とかまだかかるから、先に食っとけ。焔と零もほら」
「さすが梓。分かってるねぇ」
 漂う香りに頬がほころぶ。焼き立てアツアツのカニに醤油をひとたらししてハフハフ頬張れば、パリピガニ独特の濃厚だけどさっぱりしたカニの味わいが口いっぱいに広がって。
「ん~っ、何度食べても美味しいねぇ」
「本当に、何でこんなに美味しくなるんだろうな」
「キュー!」
「ガウ!」
 料理しながらつまみ食いしたらしい梓も、綾と同じテーブルでおとなしく料理の完成を待つ焔と零と一緒に深く頷く。頬についた醤油を親指で拭った時、梓は通りがかったリオンに手を上げた。
「おーい、リオン!」
「あ、梓さんと綾さんだ! 今日はおつかれさま! 特製のキンキンに冷えたスイカが切れたから持ってきたよー」
「お、うまそうだな! ついでだ、手伝って食ってけよ」
「え、いいの? やったー!」
「いわゆる男子会ってやつだ」
 得意げに胸を張った梓が、リオンに包丁とまな板を渡す。手際よく食材を切るリオンに、梓が感心ながら尋ねた。
「そういえばリオンは料理も出来るんだよな? 研究? とかで忙しそうなのにどこで覚えたんだ?」
「ふふーん。錬金術は台所から始まったって言われるくらい、縁が深いものだからね。魔法薬の調合も調味料の調合も、基本的には同じものさ」
「へえ。そんなものか」
「そんなものだよ。……ねえ、熊肉はどうやって食べる? バーベキュー串には刺すとして、ほかは何しよう?」
「魚肉ならともかく、熊肉が手に入ったのは予想外だからなぁ。だが要は牛肉や何かと同じなら……」
 喋りながらも手は止めずに料理トークに花を咲かせ、料理の種類がどんどん増えていく。試作品と言って出してくれた熊肉の焼き肉はこれまた絶品で。お手製の焼き肉のタレのニンニクはもう少し効かせた方が良かったとか、醤油ベースじゃなくて味噌ベースはどうだとか、綾のついていけない話題で盛り上がってるのを見てるのは楽しいものだ。だが。
「男子会というか、内容が女子だよね……」
「? 何か言ったか綾?」
「ん、いやなんでも」
「さあ、おにーさんと梓さんの初めての共同作業のお料理が完成だよ! 後は焼くだけ!」
「その言い回しやめろ!」
「キュー!」
「ガウ!」
 からかうようなリオンに、梓が間髪入れずにツッコミを入れる。同調するような焔と零に笑い声が響くテーブルに、パラスが声を掛けた。
「話し中すまないね。乾杯の飲み物は何が良いかい?」
「あ、パラスさんだー! おにーさんは冷えた生!」
「生だね。綾と梓は?」
「んー、そうだね~……」
 オーダーを取り終えたパラスは、メモに記入すると小さくため息をついた。
「まったく。小一時間、響と話し込んでたらずいぶんなカオスが巻き起こってたみたいだね」
「これくらいは別に……って、小一時間のことだったのか」
「なんか、三週間くらい掛かりそうだったよねぇ」
「ほんとほんと」
 しみじみ頷くリオンに、三人も同時に頷く。なんとなく共有した時間に、フィッダとジルバのにぎやかな声が掛けられた。
「ぱらすー! 俺様踊り疲れて喉乾いた!」
「俺も。乾杯の前に冷たくて甘い麦茶を貰えるとありがたいぞー。乾杯のドリンクはオレンジジュースがいいかな」
「あ、俺様も! ……へえ、バーベキューか。俺様は甘いもののほうが良いな!」
「いや、肉や野菜も食べなきゃダメだそー」
 たしなめるジルバに耳をふさぐフィッダ。そんな二人の後ろから、鎮が首に掛けたタオルで汗を拭きながらパラスに声を掛けた。デッキに帰ってきた鎮と輝命も、ダンスパーティーでいい汗かいたようだった。
「マスター。すみませんが、僕には甘くない麦茶をいただけませんか?」
「ふふ、鎮さんのダンス、素敵でした。わたくしも麦茶、頂戴できますでしょうか?」
「麦茶だね。乾杯はどうする?」
「姐さん、飲み物ふたつ貰ってく!」
 律儀に声を掛けていく陽里に手を上げて応えたパラスは、メモを取りながら頷くと男子卓に顔を上げた。
「オレンジジュースと麦茶と……。じゃあ、また後で」
「おう! ……ところで、リオンはカニグマ倒す間どこにいたんだ?」
「ん? バーで響さんと、ジルバさんフィッダさん兄弟と喋ってた!」
「へえ、あの二人、兄弟だったんだねぇ」
「って、俺達にカニグマ丸投げかよ!」
 立ち去った三人を見送った三人は、再び男子トークに花を咲かせるのだった。

● 乾杯!
 オレンジジュースと麦茶を手渡して再びオーダーを取りに戻ったパラスに、陽太は嬉しそうに手を上げた。
「よおパラス! うめえ日本酒あったらくれ。乾杯の後アスモデウスが獄炎焼きを作るからな。そいつで一緒に一杯やろうぜ」
「焼きガニは出ると思ってたからね。いいのを仕入れてあるよ。他にも色々持ってきたから、飲みたいのがあったら遠慮なくお言い」
「それはありがたい。飲み物まで手が回らなかったからな」
 美雪の声に振り返ったパラスの視線の先には、バーベキューエリア用のバーカウンター。こういうかゆいところに手が届くのは、さすがキマイラフューチャー。早速ドリンクをリクエストしたビスマスは、ふと周囲を見渡した。
「そろそろ乾杯ですが、エリシャさんは……」
「あそこにいるぜ」
 振り返った陽太の視線を追うと、少し離れたデッキで陽里と寄り添いながら海を見るエリシャの姿に笑みをこぼした。何を語っているのかは分からないが、すごく優しく親密な雰囲気が漂っている。飲み物片手に語らう場を邪魔するのは野暮というもの。しばらくそっとしておこう。そう思った矢先、ダンスパーティーから帰ってきた葵桜が明るい声を上げた。
「おーい、エリシャさん! 陽里さん! そろそろ乾杯だよー!」
「今行くわ葵桜ちゃん!」
 振り返りこちらに来る二人の姿に、思う存分踊った奏は目を細めた。
「いいな……」
「食事が終わったら、腹ごなしに夜の散歩にでも行くといいよ」
 奏のつぶやきを耳ざとく聞き取った響が、奏を覗き込みながら声を掛ける。響の言葉に顔を真赤にした奏は、慌てて大きく手を振った。
「だ、大丈夫よ。片付けくらい手伝いたいし、それに瞬だって忙しいし……」
「誰も瞬と、なんて言ってないよ」
「もう!」
「? どうしたのですか奏。そろそろ乾杯ですよ?」
「わ、分かったわ!?」
「どうしたんですか奏。顔が赤いですね。もしや熱でも……」
「大丈夫だから! ほら乾杯しましょう!」
 瞬の背中を押して席についた奏は、手渡されたドリンクを手に乾杯を待つ。
 乾杯の音頭で始まった宴は、遅くまで楽しく続くのだった。

● 宴のあと
 にぎやかな食事を終えた輝命は、鎮と葛葉と共にバーへと向かった。ドアをくぐると、そこには既にリオンの姿もある。グラスを掲げて挨拶するリオンに会釈した輝命の隣に座った鎮は、敬語を崩すことなく微笑んだ。
「マスター。今日はドリンクのサーブをありがとうございました」
「構いやしないよ。ところで、さっきから気になっていたが……。どうしたんだい? 今日はやけに改まってるじゃないか」
「いえ、お構いなく。……マスターに一つ、お願いがあるのですが」
「何だい?」
 磨いていたグラスを置いたパラスの前に、包みをそっと滑らせる。手で軽く持てるほどの包みを受け取るパラスに、鎮は静かに言った。
「アカネ様のこと、リオン様からお話は伺っております」
「……そうかい」
 それだけで何を言わんとしているのか察したパラスは、そっと視線を窓の外へと滑らせる。未だアルダワの自室に閉じこもっているアカネを思っているであろうパラスに、鎮は指を組んだ。
「それは、数種類の薬草に漬け込んで燻製にした魔獣の肉です。滋養強壮と気落ちに効果があります。差し出がましいとは思いますが、アカネ様に差し上げてください」
「ありがとう。必ず食べさせるよ。どう調理すればいいんだい?」
「普通の肉と同様に、スープなどに入れてお使いいただければ」
「わざわざ済まないね」
「アカネさん……大丈夫でしょうか?」
 心配そうにため息をつく輝命に、パラスは何か言いかける。喉元まで出かけた言葉を飲み込んだパラスは、小さく息をつくと首を振った。
「? どうされましたか?」
「なんでもないさ。アカネも早く立ち直って、未来を思えるといいんだがね」
「未来、ですか」
 呟いた輝命は、ふと表情を曇らせると小さく俯いた。様子がおかしい輝命を、葛葉は覗き込んだ。
「どうしたのじゃ? 気分でも優れぬのか?」
「いえ、大丈夫です。ただ……。鎮さん達にはまだ話していなかったのですが、わたくしの本体には呪詛や怨霊がかなりありますの」
「そうかい。それは……難儀だね」
「もし浄化出来たら。その後は何をしようか、全然思い浮かばなくて」
 輝命の告白に、パラスは深く頷いた。
「そうだね。荷物を背負っている間は我武者羅に歩いていればいいが、いざ下ろしてみるとどうすればいいのか、途方に暮れるのはよくある話さ」
 目を閉じるパラスに、輝命は小さく頷く。輝命はヤドリガミだ。本体を脅かす脅威が取り払われれば、理論上は永遠に近い命を持つ。その先に続く長い人生を考えれば、立ちすくむのは無理からぬ事。静かになる空気に慌てて顔を上げた輝命は、目を閉じ何事か考える鎮の横顔に尋ねた。
「皆さんは将来やりたいこと、夢はありますでしょうか?」
「夢、ですか」
「少し気になりましたの。鎮さんは何かありますか?」
「有りますよ。人と精霊の橋渡し役になれればと」
「人と精霊の……橋渡し……。素敵です。鎮さんなら、きっとできますわ」
「そうじゃな。その心根があるだけで、最初のハードルは超えたも同然じゃ」
 深く頷く葛葉に照れたように頬を掻いた鎮は、改めて輝命に向き合った。
「輝命様。遣りたいことが無いのならば、一先ず、世界を回るのは如何でしょう?」
「世界を……。猟兵として、ではなくてですか?」
「ええ。自分のために回るのです。そこで様々な経験をするでしょう。その時もし、人を救う気持ちが強ければ、医学者や薬師は如何でしょう」
「医学者や薬師……」
 目を見開く輝命に頷いた鎮の視線を受けたリオンは、グラスをコースターに置くと頷いた。
「いいんじゃない? それこそ、その心根があるだけで、最初のハードルは超えたも同然だよ」
「人の言葉を取るでない」
 ねめつけてくる葛葉に笑いながら肩を竦めるリオンに、輝命はぱあっと表情を明るくする。傷ついた人や苦しんでいる人に手を差し伸べ、立ち直る力になる。なんて素晴らしいのだろう。想像しただけで心が明るくなってくるのが分かった。
「医学者や薬師……! 世界を回りながらも良いかもしれませんわね」
「もし本気なら、いい医学部紹介するよ。まあどの世界をメインで活動するか、にもよるけど。薬の材料とかはどうしても現地調達が多くなるからね」
「ありがとうございます! ……リオンさんは、今後なにかやりたいことが?」
 首を傾げる輝命に、リオンはきょとんとした顔で自分を指差した。
「おにーさん? おにーさんは次の100年バースデーまでは自分探しの旅の途中さ。……ずっと心に思っていた研究課題が頓挫しちゃったからね。それに代わるものを探してる、いわば心の旅人なのさ」
「リオンさんらしいですわね」
 おどけたように手を振るリオンに、小さく微笑む。医学者という小さな光に想像を巡らせては頬が緩むのを止められない。そんな輝命に、葛葉は肩を竦めた。
「終わってから聞く話じゃろうに。私は変わらず輝命と居る位かのぅ」
「それが何より頼もしいです。いつもありがとうございます、お狐様」
「ふん」
 真っ直ぐな謝辞に、葛葉がふい、とそっぽを向く。その頬が照れたように赤くなっているのを目ざとく見つけた輝命は、なんだか嬉しくなって微笑んだ。
「さて。話し込んじまったが、何か飲むかい?」
 パラスの問いかけに目を見交わした四人は、それぞれのドリンクを頼むと再びの乾杯を交わし合うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

九十九・白斗
よう、パラス南の島でバーをやってるって聞いたんで遊びに来たぜ
南国っぽいカクテルを頼むぜ

 パリピ島で起こるカオスにツッコミでも入れながらパラスと話をして、うまく自然な感じで水着の話題に持っていけたら、海にでも誘ってみよう

バーを出たらカオスに巻き込まれるのかもしれないが、夏もそろそろ終わり

一緒に水着を着て海に繰り出すチャンスは今しかないだろう

バーが終わる時間に出ていくなら、夜の海を一緒に歩いて、空に浮かぶ満天の星や月を見よう

水着似合ってるな
きれいだ(ぼそっと)

聞き返されたら


いや、ほら、空を見てみな

月がきれいだぜ



● 月光浴
 宴も終わり、猟兵達がグリードオーシャンへと帰還した頃。
 一人バーの後片付けをしていたパラスに、九十九・白斗(傭兵・f02173)はスツールに巨きな腰を預けるとパラスを見た。
「よう、パラス。南の島でバーをやってるって聞いたんで、遊びに来たぜ」
「アンタかい。もう少し早く来りゃ、面白いモンが見れたのに」
「パリピ島のカオス、って奴だろう? 生憎俺は巻き込まれるのはごめんだからな。酒の肴に話を聞くくらいで丁度いいさ」
 肩を竦める白斗に、パラスも苦笑いで応じる。パラスはカオスに巻き込まれた訳じゃないだろうが、その様子は察するに余りあった。
「違いない。……何にする?」
「南国っぽいカクテルを頼むぜ」
 頷いたパラスがカクテルの支度をする間、静かな海を見渡した。ここで巻き起こったというカオスな宴の話を聞きながら、要所要所でツッコミを入れていくのもなかなか楽しい。なにせ予知とは違った生物が現れて、何故か森のくまさんをやらかしたというのだ。ツッコミを入れない方が間違っている。
 軽やかなシェイクの音が静まってしばし。出されたカクテルは鮮やかなレモン色をしていた。
「これは?」
「マイタイってカクテルさ。タヒチ語で「最高」って意味らしいね」
「最高、か。いい名前じゃねえか」
 パイナップルが添えられたカクテルを手にとった白斗は、同じカクテルを手にしたパラスと乾杯するとグラスを口に運んだ。口の中に広がるラムの風味とパイナップルベースのフルーティな味わいに頬が緩む。アルコールの度数も高く、飲みごたえも十分にある。
「旨いな。さすがは「最高」なカクテルだ」
「夏ももう終わりだが、こういうのもいいだろう」
 ゆっくりとグラスを傾けながら、言葉少なく時間を共有する。滑るように過ぎる時間にグラスを干した白斗は、視線を海へと向けた。凪いだ海から聞こえる潮騒が、開け放たれた窓から流れ込んできてバーの中に音楽のように響き渡る。
「夏の終りか。……なあ、この後砂浜でも散歩しないか?」
「いいね。片付けちまうから少し待ってな」
 頷いたパラスが片付けてしばし。二人で海へ出た白斗は、吹き抜ける夜風に目を細めた。空に浮かぶのは美しい月。星の光よりなお明るく輝く月の光が降り注ぐ波打ち際を、パラスは一人歩いていた。裸足でくるぶしまで海水に濡らして歩く後ろ姿に、白斗は口元を緩めた。
「海っていえば水着、似合ってたな」
「その話かい? あれは鍛錬用で、人様の前で晒すようなモンじゃないよ。そんな綺麗な体でもなし」
「いや」
 立ち止まり振り返り、眉間に皺を寄せるパラスに追いついた白斗は、隣に立つとぼそっと呟いた。
「きれいだ」
 耳元でささやく声に、驚いたように顔を上げる。ねめつけてくる視線を優しい目で見つめ返せば、ぷいとそっぽを向かれてしまう。
「アンタの目は節穴かい?」
「いや、ほら、空を見てみな」
 白斗が差す指に視線を上げれば、そこには美しい満月が浮かんでいる。欠けるところのない満月を見上げる横顔に、白斗は囁いた。
「月がきれいだぜ」
「……ああ、そうだね」
 小さく頷くパラスは、言葉の意味を知っているのだろうか。
 知らなくても良い。知っていたら逆に言えなくなってしまう。
 美しい月明かりに照らされた潮騒に包まれる空間で、二人は美しい月を静かに見上げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月20日


挿絵イラスト