ここにいないあなたへ
●ここにいないあなたへ
月がうすらと浮かぶ幽世の夜の海に、花火が打ち上げられる。
ひゅぅ、と軌跡を遺して咲いた瞬間に、耳に聴こえる涼やかな音彩。
それはいつかのあなたを、思い出してしまうような音だった。
●たしかにいたきみに
「カクリヨファンタズムで、不思議な花火を見にいきませんか」
鎹・たから(雪氣硝・f01148)は、雪と色硝子の瞳をぱちぱちと瞬かせる。
「水着コンテストの会場となったビーチに、妖怪親分達がとても綺麗な妖怪花火を用意してくれました。その花火は打ち上がった時、風鈴のような綺麗な音がするそうです」
職人が丹精込めて作り上げた花火はいくつも咲いて、その度に美しい音色を奏でるという。
「この花火の音は、カクリヨに辿り着けなかった、骸魂になってしまった妖怪達への冥福、弔い、鎮魂、祈りを込めたものなのだそうです。たからは、とても素敵なことだと思います」
花火を楽しんでもらったり、妖怪達に想いを馳せてくれたら。そして職人は、猟兵達の居なくなった大切な誰かのことを想うことも歓迎している。
お盆が近いですからね、とたからは呟いて、説明を続ける。
「花火は打ち上がると、誰でも乗ることが出来る空中階段にもなります。空を歩きながら、花火の音を楽しむこともできますよ」
会場はビーチ。空中階段以外にも、砂浜からは勿論、小舟に乗って海から見上げてその音色を聴くのも自由だ。
「夏休みです、皆さんも楽しみましょう」
季節外れの雪がちらちら降って、夏の夜の海を映す。
遅咲
こんにちは、遅咲です。
オープニングをご覧頂きありがとうございます。
●注意事項
現在運営中のシナリオ完結にめどがつき次第のプレイング募集となります。
お手数ですが、受付開始はタグ、マスターページ(雑記)をご確認ください。
断章掲載の予定はありません。
受付期間外のプレイングは全て流させて頂きます、改めて受付開始の際に送って頂けると幸いです。
お盆風のシナリオですが、音色にはしゃぐのも歓迎です。辿り着けなかった妖怪達もきっと喜びます。
また、亡くなった誰かを想うあなたを邪魔はしません。
夜のビーチであれば、割とどこでも出来る範囲でご希望の場所にお届けします。
遅い夏休みになるので、全採用はお約束できませんがそこそこ頑張ります。
合わせでご参加の場合は3名様がぎりぎり、書ききれるだけの受付になります。
お声がけ頂ければ、遅咲の担当するグリモア猟兵が誰でもお邪魔します。
(その場合、グリモア猟兵含む3名様です)
皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
第1章 日常
『猟兵達の夏休み2021』
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POW : 妖怪花火で空へGO!
SPD : 妖怪花火の上で空中散歩
WIZ : 静かに花火を楽しもう
👑11
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斑鳩・椿
【天狐】ミコト(f23042)と水着で
「音と光と火薬の香り…全てが合わさって美しい花が開くのね。」
思い出すのは亡き夫。
逃れられない事情で彼岸と此岸に分かたれた伴侶の冥福を祈ります。
今を生きる私にはもう際限無く心を寄せることは難しいけれど…忘れないでいることが悼むことになると信じて。
「…一人じゃ来ようと思わなかったわ。誘ってくれてありがとう。」
互いの過去は交わってこなかったけれど、これから先は何だって楽しんでいけるはず。
「あなたは何色の花火が好き?私は…橙色かしら。ふふ、ベタね」
「膝枕?なあに、外で甘えて…いいわよ、花火が上がっている間ならね」
小舟で会話をしたり甘やかしたりして過ごします
ミコト・イザナギ
【天狐】椿(f21417)と参加
呼捨てで話す
水着で参加
「この花火は涼やか心地よいですが、
郷愁を思い起こさせる音色もしますね」
失われたオレの記憶が亡き二人を偲んでいる
今だけは、アナタの存在を認めましょう、嘗てのオレ
ともあれ、それはそれ
今は傍らの椿と過ごすのひと時を心地よく過ごしましょう
妖怪花火
遥かな水平線
響き渡る祈りの音
そして傍らにいる椿だけを感じる世界へと
小さな舟に乗り込み、静かな波間に駆り出そう
「漣の音が心地良いですね。
椿に膝枕をして貰って、横たわりたいものです」
波打ち際の喧騒遠い小さな世界
空を仰ぎて波に花火に耳を傾け、
夜天に咲く椿の微笑みを共に楽しみ
佇むようなこの時に浸りましょう
静かな夜の海に、すうっと伸びてゆく一条の光。それが大輪の花を咲かせる瞬間、きよらで澄んだ音が奏でられた。
ほう、とため息をついた妖狐の隣。耳をすませたミコト・イザナギが、へぇ、と声をあげる。
「この花火は涼やか心地よいですが、郷愁を思い起こさせる音色もしますね」
どこか寂しくやわい音色に、斑鳩・椿も艶やかな微笑を浮かべた。
「音と光と火薬の香り……全てが合わさって、美しい花が開くのね」
褐色の膚が映える白のシンプルなクロスビキニの寵姫に、思わず目を奪われる妖怪達は勿論のこと、鍛えられた細身の肉体を黒紅の羽織りで彩るミコトへの黄色いひそひそ声もなかなかのもの。けれど彼らは、椿とミコトを一切邪魔することはなく。そんな妖怪達とすれ違いながら、女は鎮魂の音色に亡き夫を想う。
逃れられない事情で、彼岸と此岸に分かたれた大切な伴侶。口にはせず彼の冥福を祈る椿の姿に、ミコトもいつのまにか、思い出せずに居る誰かと誰かを偲んでいた。
喪われた男の記憶が、ぼんやりと霞がかった二人に祈りを捧げようとしている。ああ、ならば、と。
(今だけは、アナタの存在を認めましょう、嘗てのオレ)
――ともあれ、それはそれ。暫し偲んだあとは、傍らの寵姫とのひと時を心地よく過ごしたい。
岸辺に並んだ小舟のうちの一艘に乗り込んで、ミコトは椿へと手を伸ばす。
「お手をどうぞ」
「エスコートが上手ね」
仮面に隠れた眼差しの彩はわからずとも、その微笑みは識っている。青年の手をとって、椿は静かに小舟へと降り立った。
なおも咲き続ける大輪の夜花が、遥か彼方の水平線を映し出す。響き渡る祈りの音色と、傍らにいるお互いだけを感じられる世界はいっとう美しい。
「来て良かった、そう思いませんか?」
ミコトの問いに、そうね、と椿は返して、ぽつり。
「……一人じゃ来ようと思わなかったわ。誘ってくれてありがとう」
互いの過去は交わってこなかったけれど、これから先は何だって楽しんでいけるはず。ちりんと風鈴の音が鳴って、またひとつ、花が咲く。
「ねえ、あなたは何色の花火が好き? 私は……橙色かしら。ふふ、ベタね」
「いいじゃないですか、夜空によく映える色だ」
それまでとは違って、ふいにどこかあどけない笑みを見せた椿が愛らしい。ああ、ほら、とミコトが指差せば、彼女のすきな橙の光が煌いて。それにしても、と形の良い唇が動く。
「漣の音が心地良いですね。椿に膝枕をして貰って、横たわりたいものです」
「なあに、外で甘えて……いいわよ、花火が上がっている間ならね」
それまで並んで座っていた椿は少し位置をずらして、おいで、とミコトを膝へ招く。女の貌はいつもの艶やかなそれでいて、甘やかしたくてたまらない彼女の、大きな尾がふわふわ揺れる。
波打ち際の喧噪は遠いどこか、ちいさな世界で羅刹は空を仰ぐ。ミコトを見る椿の微笑みが、時折花火に照らされて。
「綺麗ね」
「……ええ、とても」
微睡みそうなほど佇むようなこのひと時に、二人、もうしばらく浸る。
大成功
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栗花落・澪
涼やかな花火の音色に耳を傾けながら
そっと目を閉じ暫しの祈りを
傲慢だってわかってる
無理なものは無理だって
仕方ない事だって…わかってる
それでもどうしても思うんだ
間に合わなかった人
気づいてあげられなかった人達
救いたかった
だから、申し訳なくて
僕の命は、沢山の犠牲の上に成り立ってる
だからこそ無駄にする気はないし、大切にしたい
けど…反面、本当にそれでいいのかって…思う事もあって
僕だけが生きてしまった
それは…罪なんじゃないかって
罪人の僕が生きて
救われない命があって
それが申し訳なくて…苦しい
他の皆には言えないけどね…悲しませちゃう
苦笑を零しながら花火を見上げ
そんな僕でも
彼らのために祈るくらいは、許されるかな
涼やかな澄み渡った音色が、夜の海を渡っていく。栗花落・澪は一人で砂浜と海辺の境目にぽつんと立っていた。
花火の音に耳をすませてそっと目を閉じる。大切な人達との楽しい花火もいいけれど、今はそっと手を組み、祈りたかった。
傲慢だということはわかっていて、無理なものは無理だって、仕方のないことだってわかっている。
(それでも、どうしても思うんだ)
琥珀の髪が夜風に流れる。色とりどりの光の華は次々に打ち上がって、硝子めいた音が輪唱のように響いていく。その度に、澪の心はひどく痛かった。
間に合わなかった人、気付いてあげられなかった人達。そんな彼らを救いたかった少年は、花のような笑みの裏で、重たい罪悪感に苛まれている。
このいのちは、沢山の犠牲の上に成り立っている。それを無駄にする気は一切ないし、大切に生きていこうと決めている。けれど、その反面。
――本当に、それでいいのかって、思うこともあって。
自分だけが生き延びてしまったのは、深く大きな罪なのではないだろうか。罪人の己がのうのうと生きて、今日もどこかで救われないいのちがあって、そんな理不尽が許されるのだろうか。
いつだってそれが申し訳なくて、時折息が出来なくなるほどに苦しい日があって。
ふいに頭に浮かぶ、大切な人達の顔。この痛みと悼みを言えずにいるのは、
「きっと、悲しませちゃう」
零した苦笑を知る者は、この場には居ない。見上げれば、きよらな音色と花火の煌めきが眩しかった。こんな僕でも、彼らのために祈るくらいは、
「――許されるかな」
誰にも言えない少年の秘密を、冥福の花火だけが視ていた。
大成功
🔵🔵🔵
壽春・杜環子
良ければ、たから様と小舟に
アレンジ大歓迎
静かな場所は、こうも落ち着いてしまいますの
こんばんわ、たから様。お昼間はとても暑うございましたから、冷たい物はいかがでしょう?
先程ね、桃のジュースを見つけたのですわ
余りに美味しそうで二つも買ってしまって……たから様にお会いできて良うございました
わたくしめは、こうも暗いとなんだが蔵を思い出してしまって…
蔵に入る前はひいさま…姫様と呼ばれていた、お嬢様の手元に居りました
わたくしめと違い髪は濡れ羽色で、物に優しい方で
ふふ、すみませぬ。わたくしめが万華鏡であった頃の思い出です
たから様は、思い出したい方はおられますか?
花火の音に混ぜて聞き手がわたくしめで良ければ、
夏の星空は控えめに息をしていて、大輪の華を咲かせる花火に主役を譲っているようだった。普通の花火ならば聴こえる派手な音も、どこか寂しい澄んだ音色に満ちている。
静かな場所は、壽春・杜環子の心を落ち着かせる。こんばんわ、と彼女が声をかけたのは鎹・たからで、おや、と羅刹はヤドリガミにお辞儀を返す。
「お昼間はとても暑うございましたから、冷たい物はいかがでしょう?」
「冷たい物、気になります」
杜環子の手元を覗き込むたからに、杜環子はふふ、と笑みをこぼす。両の手が持つ薄紅の液体が入った透明なカップは、時折花火の光を照らしている。
「先程ね、桃のジュースを見つけたのですわ。余りに美味しそうで二つも買ってしまって……」
会えてよかった、と差し出されたカップの片方を受け取って、たからもお礼をひとつ。二人並んでベンチに座って、ジュースを飲みながら空を見上げる。
「とても甘いですね。しっかりとした桃の味がします」
「ええ、喉が潤いますの」
美味しい、とは口にしないものの、どことなくやわらかな空気を纏うたからの姿に、よかった、と杜環子は呟いて。ふと、花火の光と音色が止む。
「次の花火の準備中でしょうか」
「かもしれませぬ。その間の星空も、美しいものですわね」
はるか遠くのささやかな光を眺めていれば、再び硝子のような音が奏でられて、光の花が夜を彩る。とても大切な人を思い出したから、杜環子は傍らの娘に話しかけた。
「わたくしめは、こうも暗いとなんだか蔵を思い出してしまって……」
その時の杜環子の言葉に何かを感じたのか、たからはまっすぐな瞳でヤドリガミを見た。
「では、夜が怖いですか? この暗さは、平気ですか?」
「そうですね……今はこのように、花火が美しいですから。たから様も居られますし」
ならよかったです、と羅刹は頷いて、杜環子の話の続きを促す。
「蔵に入る前はひいさま……姫様と呼ばれていた、お嬢様の手元に居りました」
乳白彩の自分とは違い、濡れ羽彩で、物に優しいお方。とても穏やかな微笑で、繊細な仕草のほそい指先。
「ふふ、すみませぬ。わたくしめが万華鏡であった頃の思い出です」
笑んだ彼女に羅刹は首を横に振る。素敵なお話を聞きました、と言葉にして、色硝子の目が瞬く。
「杜環子は、ひいさまのことがとてもすきなのですね」
万華鏡の瞳が色硝子とぶつかって、はい、とやわらかく頷いた。風鈴の音はりぃんりぃんと繋がって、その音に問いを乗せる。
「たから様は、思い出したい方はおられますか?」
花火の音に混ぜて、聞き手がわたくしめで良ければ、と。ふいに花火を見上げて、たからが返す。
「――はい。お母さんのような先生と、お父さんのような家族です」
そうして薄紅の甘露片手に、少女達の思い出話は暫く続いた。
大成功
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コノハ・ライゼ
花火を辿って空へ、天へ
涼やかな音に囲まれぐるり見渡せば上機嫌
猟兵やっててよかったー、ナンて思うと同時に過るのは
「あの人」にも見せたいという想い
死後を想うような宗教観や感性を否定こそしないケド、自分は持ち合わせてなくて
デモ失くした後にも残るモノがあるのは知ってるし、信じたい
もういない「コノハ」にこの景色は届かないけれど
残された「コノハ」なら、覚えていられるだろうか
いつか分かると諭された残された理由を知る時まで
それが、繋ぐ事になるだろうか
そうだといい、そうしたら躊躇わずこの身でもっと欲しがれる
思わず茫としていたコトに気付けば、そう結論付けて
コレも祈りのカタチと、また夜空の散歩へ
りぃん、りぃん。ちりん、ちりん。夜空に咲いた花火は澄んだ音と共に、淡く色づいた硝子のような空中階段を創りあげる。花火の光と音を辿って、コノハ・ライゼは空へ、天へ。
青年を囲む涼やかな音色は心地よく、海の上を歩いて空を泳ぐようにぐるりと見渡す。なんとなく上機嫌で鼻歌のひとつでも歌ってやろうか、なんて。普通の暮らしをしていれば、こんな景色にはなかなか出会うことも難しい。
「猟兵やっててよかったー」
薄氷の瞳に耀花の彩を映して、ヒトの耳で涼音を味わっているうち、ふっと同時に過ぎるのは、“あの人”にも見せたい、という想いだった。
グリモア猟兵は、これを喪われた者への弔いの音色だと言っていたか。青年は、死後を想うような宗教感、感性を否定するつもりはない。けれど、自分自身はそれらを持ち合わせてはいなかった。
(――デモ、失くした後にも残るモノがあるのは知ってるし、信じたい)
もういない“コノハ”に、この景色は届かない。けれど残された“コノハ”なら、覚えていられるだろうか。
自然と、あの人の言葉が思い出される。とっくの昔の、忘れてはいないのに、覚えていないような懐かしい声が蘇る。
いつか分かると諭されて、残された理由を知る時まで――それが、繋ぐことになるだろうか。
もしそうなら、いや、そうだといい。そうしたら、躊躇わずこの身でもっと欲しがれる。この手で掴んで、大切に仕舞ってやれる気がする。
ぼうっとしていたことに気付いて、そう結論づけた時、花火の光が青年の彩雲をより色濃く映す。階段と化した色硝子の足場に反射して、少しだけ眩しかった。
「コレも祈りのカタチかもネ」
コノハの足が、再び空中階段をのぼる。天へ、空へ。彼に伴うように、音は鳴る。
ここにいないあなたに、たしかにいたきみに届きますように。
花火の音色は、夜が深くなるまで優しく奏で続けられた。
大成功
🔵🔵🔵