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星戀ロマンス

#カクリヨファンタズム #戦後

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#カクリヨファンタズム
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#戦後


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●水中にて星に願う
 カクリヨファンタズムに数ある神社の中でも、其処は特に珍しい神社の一つであった。
 一見、ただ湖が広がるばかりだけれど、湖のほとりにある鳥居をくぐれば水底にある大社へと繋がるのだ。
 水中といえど、其処は神域に近い場所。水中であろうとも、息も出来るし衣服が濡れるようなこともない。そんな大社でこの時期に行われるのは星戀祭、現代地球で言うところの七夕である。
 所々に飾られた笹に願いを込めた短冊を飾り、星に願いを送るのだ。
 勿論、境内には星戀祭で集まる参拝客を目当てにした屋台が幾つも並び、縁日のような賑わいを見せていた。
 ここで売られているものは全て魔法の力が働いていて、水中であっても陸と変わらず飲んだり食べたりが楽しめる。だからりんご飴だってあるし、かき氷やたこ焼きもある。頼んだ通りの物を作ってくれる飴細工だって。
 水中でもりりんと音の鳴る風鈴や、ぷかぷか浮かぶ風船を手にした子ども達が楽しそうに駆けていく姿も見えるだろう。
 ぐるりと縁日を楽しんで、最後に願い事を書いた短冊を吊るす。
 それは一人で来たって、誰かと来たってきっと良い一日になるだろう。
 そう、そうなるはずなのだけれど。

●グリモアベースにて
「骸魂に飲み込まれてしもた妖怪がな、この星戀祭に現れるんよ」
 大した害はないのだけれど、それでも放っておけばカクリヨファンタズムの崩壊につながる可能性があるのだと、八重垣・菊花(翡翠菊・f24068)は猟兵達に話し掛けた。
 現れるのは美しい女性の姿をした妖怪達で、この祭りで何をしているのかと言うと。
「皆の願いや悩み事を聞きたいらしいんよ」
 それは恋バナだって、今日の夕飯を何にしたらいいだろうか? という些細なものでもいいらしい。
「お話がしたいんやろね、それで出来たらその内容が相談事やったらなお良しって感じっていうか」
 放っておいても害はなさそうに思うやろ? と菊花が笑う。
 けれど、放っておくとどうやら願いが書かれた短冊を勝手に見て、その願いを叶えようとするらしいのだ。
「解決、願いを叶える、でもそれは無差別で手段を問わへんもんになるやろね」
 そうなっては、何が起こるか予知ですら追いつかないだろう。
「せやよって、ちょっと珍しい水中でのお祭りを楽しんでもろて、相談されるのが大好きな妖怪とお話してきて欲しいんよ」
 ぱん、と菊花が柏手をひとつ。ゲートを開く為に、手の中に現れたグリモアに触れた。
「ほな、あんじょうよろしゅうにな!」
 いってらっしゃい、と菊花が微笑んだ。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
 こちらはカクリヨファンタズムの戦後依頼となっており、二章で完結するシナリオです。
 水中から七夕を楽しむひと時をお届けに参りました、イベシナ気分でご参加ください! 一章だけのご参加も歓迎しております。

●各章の受付期間について
 恐れ入りますが、受付期間前のプレイング送信は流してしまう可能性が非常に高くなっております。各章、断章が入り次第受付期間(〆切を含む)をお知らせいたしますので、MSページをご覧ください。
 また、スケジュールの都合によっては再送をお願いする場合がございます。なるべく無いように努めますが、再送となった場合はご協力をお願いできればと思います。

●第一章:冒険
 水中にある、とある大社で行われる星戀祭にご参加いただきます。
 普段着でも浴衣でも、お好きなご衣裳でどうぞ! できることは縁日を楽しむことと、短冊に願いを書いて笹に吊るすこと。
 屋台はそれこそ色々ありますし、新し親分の影響で現代地球で出るような屋台だってあると思いますので、皆様がそれぞれの縁日を楽しんでいただければ嬉しく思います。
 水中ですが、息はできますし飲食に影響はありません。水の中で息ができる、泳げる種族の方達も普段と変わりなくお過ごしいただけます。
 屋台や浴衣をお任せも大丈夫です、何か色々考えます。
 POW/SPD/WIZは気にせず、思うように楽しくお過ごしください。

●第二章:集団戦と言う名の相談タイム
 どこからともなく女性の妖怪達が現れて、あなたの相談に乗ってくれます。ネタでもシリアスでも惚気でも大丈夫です、プレイング内容になるべく沿うように妖怪達がお話してくれることでしょう。
 相談内容の返答がどんなのでもいいよ! ネタも歓迎だよ! という方はプレイングの冒頭に⭕️を付けておくといいかもしれません、POW/SPD/WIZは気にしなくて大丈夫です。

●同行者について
 同行者が三人以上の場合は【共通のグループ名か旅団名+人数】でお願いします。例:【七3】同行者の人数制限は特にありません。
 プレイングの失効日を統一してください、失効日が同じであれば送信時刻は問いません。朝8:31~翌朝8:29迄は失効日が同じになります(プレイング受付締切日はこの限りではありません、受付時間内に送信してください)
 未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『水咲之社』

POW   :    丁寧に御参りする

SPD   :    美味しいものをお供えする

WIZ   :    式神の手伝いをする

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●星を希う
 カクリヨファンタズムのとある場所、底にある小さな石さえも見えるほどに澄んだ湖。覗き込めば立派な大社が水中に建っているし、揺れる笹の葉に飾られた短冊に、大社の境内に並ぶ屋台が水の中に揺れているのが見えるはず。
 水の中にある大社へはほとりにある大きな赤い鳥居をくぐれば、すぐにでも足を踏み入れることができるだろう。
 見上げる空はゆらゆらと揺らめいてどこか幻想的で、きっと小さく息を零すだろうけれど呼吸の心配をする必要はない。其処は神域に近い場所、陸と同じように過ごすことができる水の中の大社。
 どなた様も遠慮なく、どうぞ星戀祭をゆるりと楽しんで――。
津崎・要明

水中神殿か、美しい眺めだ。
同じ水中でも先日仕事で訪れたダストブロンクスとは全く違う。
だが、此処もまた歪む世界なのだ。

屋台で買い求めたたこ焼きを突きつつ、ビールを呑む。
独りの時の定番だ。
なんとなく七夕の伝説を思い出し、胸に手をあてて暫し考える。俺は最近ちゃんと働いてるだろうか。恋に落ち・・・の部分は微妙かつ複雑だが、気になるひとがいる。

いや、
そもそもここに来たのは、猟兵としての仕事を全うする為だったはず。
ならば、真剣に取り組もうではないか。

でもやっぱり、と短冊を受け取り
「真面目に頑張るので、これからも彼女と仕事ができますように。
あと、もうちょっと頼れる大人になれますように」
枝に結ぼう。



●ふらりのんびり
 鳥居をくぐって踏み出した先は水中で、津崎・要明(ブラックタールのUDCメカニック・f32793)は思わず目を瞠る。
「水中神殿みたいだ」
 UDCアースで見るような水中の神殿は遺跡だけれど、ここは違う。生きた水中の神社、カクリヨファンタズムという不可思議がまかり通る世界ならではだな、と要明は止まってしまった足を再び動かした。
「美しい眺めだ」
 ぽこぽこと水面に向けて泡が浮かんでいく中を歩けば、大社の境内に屋台が並んでいるのが見えた。
「同じ水中でも、ダストブロンクスとは全く違うね」
 先日仕事で訪れた、ヒーローズアースのとある地下迷宮。汚染水に塗れたそこと、神域であるこの場所を比べるのは烏滸がましいが、要明にとってはベクトルは違えどどちらも歪む世界だ。
「ん、たこ焼きとビールが売ってる」
 流れるような動きでたこ焼きを買い求め、ビールを手にした要明が境内の端に寄る。
「たこ焼きとビール、これぞ縁日の定番だよね」
 独りであれば必ずこのセット、というほど要明にとっては馴染みのあるビールを一口。
「味はちゃんとビールなんだよね」
 UDCアースで飲むものと何ら遜色ない琥珀色の液体、湖の水と交わらないことが不思議だと思いながらもう一口。喉を潤したなら、今度は外はカリカリ中はふわとろ、とろりとした濃い色のソースとマヨネーズが綺麗なコントラストを生んでいるたこ焼きだ。
 ふわふわの鰹節に青のりが掛かったたこ焼きを爪楊枝に刺して、ふうふうと息を吹きかける。
「……水中でもこうやっていれば冷めるのかな」
 疑問は残れど、いざ一口。
 はふ、と口から熱を逃がしつつ、味わうたこ焼きの美味しいこと。
「あー、最高……」
 一つ二つと胃の中に収めつつ、視界の端にちらりと映った笹の葉に意識を向けた。
 思い出すのは七夕の伝説、諸説あるが恋にうつつを抜かしたせいで仕事を疎かにした為に、愛しい人と一年に一度しか会えなくなったというもの。胸に手を当て、自分もちゃんと働いているだろうかと考える。
 恋に落ち……という部分では微妙かつ複雑だけれど、気になるひとがいるのだ。
 自分よりも年下の、かわいい――。
 そこまで考えて、緩く首を横に振ると残ったたこ焼きを口の中に放り込む。
「そもそもここに来たのは、猟兵としての仕事を全うする為だったはず」
 ならば、真剣に取り組もうじゃないかと要明はすっかり食べ尽くしたたこ焼きのパックと空のカップをゴミ箱へと捨て、挙動不審な妖怪はいないかと辺りを見回し、境内を歩いた。
 途中、お兄さんも短冊を吊るしていかないかと声を掛けられ、断ろうかと思ったけれど無下にするのもと受け取る。
「……せっかくだし」
 うん、と頷いて短冊にさらりと筆を滑らせる。
『真面目に頑張るので、これからも彼女と仕事ができますように。あと、もうちょっと頼れる大人になれますように』
 欲張りすぎてないはず、と書いた文字を確かめて笹へと吊るす。
 見上げた空は、ゆっくりと暮れようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スピーリ・ウルプタス

浴衣お任せ☆

兎にも角にもまず大社へ御礼に伺いますっ
私のような身が水中をこれほど自由に楽しめる日が来るとは…ありがたや(拝み)

さて短冊…生命在る皆様の願い、というのがどういうものかとても気になりますが
大丈夫です私存じております。ぷらいばしーというものを侵害するのはヒトとしてご法度だと!
なので屋台へ繰り出しましょう♪

色々眺め楽しみつつ
たこ焼き、ヤドリガミ生 初!
意気揚々と頬張りましたら、口の中が大変なことになりましたっ
成程…これが、口内ヤケド!
手ずから作って下さった物、大切に熱さも堪能しながら
痛みと程よい歯応えと濃厚ソースが素敵ハーモニー…(うっとり
(フゥフゥして冷ます、という事を知らない変人)



●初めての
 樺茶色に縞模様の入った浴衣に茜色の帯を結んで、スピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)は湖のほとりに立つ鳥居を見上げる。
「私のような身が水中に入れる日が来ようとは……」
 黒い瞳に水中への淡い期待と万が一の期待を秘めて、スピーリがカランと下駄を鳴らす。
「……素晴らしい」
 鳥居をくぐったその先はゆらゆらと揺らめく水中で、思わず感嘆の吐息が零れた。
 あちこちを見渡して、まずは大社に祀られる神へお礼の言葉を述べなくてはと本殿へ足を向ける。水の中だというのに、陸と変わらず歩ける不思議にわくわくとした表情を浮かべて本殿の前に立つ。
 郷に入っては郷に従え、二礼二拍手一礼をきっちりとこなしてスピーリは手を合わせ、禁書……書物のヤドリガミたる己が水中で自由に楽しめることへの感謝を伝えて顔を上げた。
「さて、星戀祭……七夕でしたか」
 七夕と言えば短冊に願いを書いて笹に飾るのが定番、いつか書物で読みましたと短冊の揺れる笹に向かって歩きかけ……足を止めた。
「これはもしや、ぷらいばしーとやらの侵害になるのでは……?」
 正直生命在る皆様の願いというのがどういったものなのか、死ぬほど気になるけれど。己が短冊に願いを書いて笹に飾る時にチラッと見えてしまったりするのはしょうがないのでは? なんて思ったりもしたけれど。
「いえいえ、プライバシーの侵害はヒトとしてご法度!」
 ここは大人しく屋台に繰り出しましょう♪ と、スピーリが屋台に向かって歩き出す。
 それに、自分の願い事は、ねぇ? なんて口元に笑みを浮かべながら華やかな屋台を冷やかしていく。そして、ふわりと香ばしい匂いに足を止めた。
「たこ焼き……たこ焼き!」
 これが噂のたこ焼き、と目を輝かせて注文すると、出来立て熱々のたこ焼きが舟皿に盛って出される。おお……と小さく呟いて、邪魔にならない場所で食べようと境内の端へ寄った。
「では、ヤドリガミ生初のたこ焼き……いただきます!」
 爪楊枝でぷすりと刺して、いざ!
「……っつ、あつ、あふ、ふ、んんん」
 熱々のたこ焼きを冷ますことなく丸っと一つ頬張ったスピーリが、はふはふと口から熱気を逃がしつつなんとか飲み込む。
「これがたこ焼き……! そしてこれが、口内ヤケド!!」
 初めての痛みです! と、スピーリの瞳が今日一番の輝きを見せた。
「ひりつく痛み……あっ皮が、皮がべろりと!」
 初めての口内ヤケドをじっくりと堪能しつつ、スピーリが次のたこ焼きを爪楊枝で刺す。
「手ずから作ってくださったたこ焼き、やはり熱々の内に食べるべきですよねっ!」
 カリッとした歯触りから溢れ出る熱々のとろりとした得も言われぬハーモニー、そこに痛みと濃厚ソースが絡み合って――。
「素敵ハーモニー……」
 上気した頬を押さえつつ、うっとりと熱々たこ焼きを食べ続けるスピーリに敵はいないも同然! いうて味方もいないのだが。
 ご機嫌なスピーリがたこ焼きを食べ終わる頃には、水中から見上げる空は薄暗く一番星が浮かんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月詠・黎
【月猫】


ふむ、海の中で祭の催しか
何とも不思議な感覚で
思わず視線を散らしもするが
――噫、樂しみだな

陸とも空とも違う彩
陽光を鏡の様に、其れでいて蒼と混ざるか
…綺麗だ

俺の欲しい物と聞かれて
思い浮かんだのは風鈴
有ると夏が涼しくなると聞いたが真か?

にゃあと鳴き声が耳に届けば
おや、此処にも猫がいるのか?
鳴き声の先は風鈴屋
ほう、猫の聲で鳴く風鈴とは畏れ入った
そうだな買って行こう
社で揺らすのも一興だろうか

揺れ鳴く猫はみいに預け
手を繋ぎ、指を結んで歩み之く
俺もみいと手を繋ぐのは心地好いぞ
愛し猫の心知らずして咲い
偶に揺れ鳴く猫へ耳を傾けて

さあ、次へ之くぞ
屋台のどれもが新鮮で月色を惹く
隣にみい、お前がいるなら尚更


猫希・みい
【月猫】

黎くん、黎くん
お祭りだって
ふふ、楽しみね

海の中ってこんな風になってるんだ…
陽の光がきらきら揺らめいて綺麗ね
屋台もいっぱいあって、楽しそう!
黎くんは何か欲しい物はある?

にゃあにゃあ、鳴き声が聞こえてくる方へ
歩みを進めていけば風鈴屋さんが
わあ…っ
すごい、猫の鳴き声がする風鈴なんてあるのね
私たちといえば猫だもの
これ、一つ買っちゃいましょう

にゃあにゃあ、鳴き声を引き連れて歩く
繋いだ手に力を込めて
大好きな、愛しい人と繋ぐ手は心地良い
黎くんと手を繋いで歩くの、好きよ
精一杯のアピールをしてみる
…伝わらない、よね
まだまだめげないんだから!

お祭りを見て回って
黎くんと一緒なら
どこだって、いつだって楽しいわ



●水中にて、にゃあと鳴く
「黎くん、黎くん」
 大きな湖を前にして、猫希・みい(放浪猫奇譚・f29430)が月詠・黎(月華宵奇譚・f30331)の名を呼ぶ。ぴこぴこと動くみいの猫耳に笑みを浮かべつつ、どうしたのかと問い掛けた。
「こんな大きな水の中でお祭りだって」
「ふむ、湖の中で祭の催しか」
 そっと覗き込んでみれば、確かに揺れる水の中に大社と屋台が見えた。
「ふふ、楽しみね」
「――噫、樂しみだな」
 でも、水の中に足を踏み入れるのは少し怖いから、手を繋いでほしいとみいが願う。その可愛らしい願いを聞き届け、黎が手を繋ぐと、二人して鳥居をくぐった。
 瞬間、陸の世界から水底の世界へと変わり、みいが感嘆の声を零す。
「わあ……! 湖の中ってこんな風になってるんだ……!」
「何とも不思議な感覚だな」
 陸とも空とも違う彩、けれど見上げれば水面に反射する光が鏡のように美しく、それでいて蒼と混ざって透明な世界のよう。
「……綺麗だ」
「うん、陽の光がきらきら揺らめいて綺麗ね」
 普段では体験することのない世界を二人で楽しんで、あちらこちらへ視線を向ける。
「黎くん、あっちに屋台がいっぱいあって楽しそう!」
「見に行くか?」
 うん、と頷いたみいと共に黎が屋台の並ぶ境内へ足を向けた。
「黎くんは何か欲しい物はある?」
「俺の欲しい物?」
 そう問われ、黎の頭に思い浮かんだのは風鈴。涼し気な音を立てる、夏の風物詩とも言える硝子細工だ。
「そうだな……風鈴が気になるな」
 風鈴、とオウム返しに口にしたみいに笑って、黎が言葉を続ける。
「有ると夏が涼しくなると聞いたが真か?」
「涼しく……なるのかな? 音がこう、ちりんって涼しさを感じるから、気分的に……?」
 でも、もしかしたらカクリヨファンタズムの風鈴だったら、本当に涼しくなるかもしれないね、とみいが笑った。
「そうか、それならば風鈴を探すとしようか」
 屋台の並ぶ入口に差し掛かった瞬間に、にゃあにゃあ、と猫の鳴き声がして、二人で辺りを見回す。
「猫の鳴き声、よね?」
「そうだな、どこかに猫がいるのか……水中にも猫がいるのか?」
 にゃあにゃあ、にゃあにゃあ、聞こえる鳴き声を道標にして進めば、辿り着いたのは風鈴屋であった。
「わあ……っ」
 猫の鳴き声だと思っていたものは、全て風鈴から聞こえる音。
「ほう、猫の聲で鳴く風鈴とは畏れ入った」
「すごい、猫の鳴き声がする風鈴なんてあるのね」
 お気に召しましたかにゃ、と聞くのは風鈴屋の店主で、猫の耳と尻尾を持つ妖怪。なるほど、この妖怪が作るから猫の鳴き声がするのかと二人で顔を見合わせた。
 それから、どの風鈴がどの声で鳴くのかと聞き比べては笑顔を咲かせる。
「黎くん、私たちといえば猫だもの。これ、一つ買っちゃいましょう」
 今年の夏はこの風鈴を下げて過ごすのよ、とみいが楽しそうに風鈴をつつく。
「そうだな、ひとつ買って行こう」
 そこからは、あれでもないこれでもない、こっちの風鈴には猫耳が付いている、あっちの風鈴にはミルクティー色の猫が描かれてる、と真剣な表情で風鈴を選ぶ。最終的にはミルクティー色の猫耳が付いた風鈴に決めて、みいが受け取ったそれを大事そうに持って、時折鳴かせてはくすくすと笑った。
「社で揺らすのも一興だろうか」
 森の奥、忘れられた社で鳴く風鈴はきっと心を和ませてくれるはず。
 それも素敵ね、と笑ったみいの手を繋ぎ、指を結んで屋台を覗きながら歩く。
 繋いだ手にそっと力を込めて、みいが大好きよ、愛しい人、と胸の奥で囁く。心地良い気持ちのままに、みいが精一杯の気持ちを伝えようと顔を上げた。
「あのね、私、黎くんと手を繋いで歩くの、好きよ」
「俺もみいと手を繋ぐのは心地好いぞ」
 いつもの、みいが大好きな笑顔を浮かべて言う黎を見て、ああこれはちっとも伝わってないのだわ、とみいがこっそりと息を零す。そんな愛し猫の心を知らぬまま、黎が揺れて鳴く猫の声に耳を傾けて笑った。
 今は伝わらなくとも、きっといつかと夢見て萎んだ気持ちを膨らませ、みいが俯きかけた顔を上げる。
「黎くん、次は何を見よう?」
「次はあちらへ之くぞ」
 屋台のどれもが新鮮で珍しいと、黎がみいの手を引く。
「黎くん、私ね。黎くんと一緒なら、どこだって、いつだって楽しいわ」
 見上げた先には真白の月が揺れていて。
「俺もだ、隣にみい、お前がいるなら尚更」
 薄闇に暮れる空の下、水底で二人の笑い声が猫の鳴き声と共にさらさらと響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・理彦

煙ちゃんと(f10765)

縁日には何度か行ったことはあるけど流石に水中ってのは初めてだねぇ。
(去年二人で合わせてあつらえた浴衣で)
屋台もあるし少し見て歩こうか。
(食べ物や遊興の屋台を見回っているとりんと涼やかな音が聞こえて)
わぁ、風鈴だ。水中だけどちゃんと音が聞こえてさらに涼やかだねぇ。
ふふ、風鈴が気になる?見ていこうか。
(煙之助が風鈴を選ぶのを柔らかく見つめて)
ん、それが気に入った?じゃあ、それを買って帰ろうか。縁側に吊るしてまた一緒に聞こう。

七夕と同じって聞いたからやっぱり最後は短冊にお願い事を書いて笹に吊るそう

『長生きできますように』
少しでも長く一緒にいたいから。


吉瀬・煙之助

理彦くん(f01492)と
(浴衣は去年の浴衣コンテストのイラスト参照)
水の中でお祭りなんてすごいね…っ
普通に歩いたり会話も出来るなんて
お祭りどんなものがあるか楽しみだね、理彦くん

水中で食べ物が浮かないって不思議だね
あ、理彦くん見て…風鈴があるよ
水の中でも音が聞こえるなんてすごいね
うちの庭の池の中でも鳴るのかな…?

えっと、どれにしようかな…
うん、この狐の絵柄が入ったのにする
理彦くんと同じ茶色の毛並みで可愛いからね♪

いっぱい楽しめたし、最後に短冊を飾って帰ろうか
僕が書いたのは理彦くんには内緒…

『少しでも長く理彦くんと一緒にいられますように』



●風鈴の音は泡にのせて
 湖のほとり、大きな赤い鳥居を前にして、吉瀬・煙之助(煙管忍者・f10765)が源氏鼠のような地色に白梅の咲く浴衣の袖を揺らす。
「水の中でお祭りなんて、すごいね……っ」
 鳥居の向こう側の水の底を見遣れば、確かに揺れる水中に大きな社と並ぶ屋台が見えた。
「縁日には何度か行ったことはあるけど流石に水中ってのは初めてだねぇ」
 黒地に椿の咲く浴衣を着た逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)が同じように覗き込み、こいつは不思議だと笑う。
「一見は百聞に如かず、論より証拠。さっそく行ってみるとしようか」
 理彦が片足を上げて、せーので行こうと煙之助を誘った。
「わかった、せーの、だね」
 頷いた煙之助に笑い、二人で息を合わせてせーの、と鳥居の向こうへ足を踏み入れた。
 こぽり、と泡が天へ向かって登っていく。ぱちぱちと瞳を瞬いて、理彦と煙之助が顔を見合わせる。
「本当に水の中だね」
「すごいもんだねぇ」
 きょろきょろと辺りを見回し、恐る恐る境内に向かって足を踏み出す。
 特に水の抵抗もなく陸を歩くかのように水中を歩けることに、煙之助が感嘆の声を上げる。
「普通に歩いたり会話も出来るなんて」
「服も濡れてないし、不思議なもんだ」
 あれこれと喋りつつ、陸での動きと変わりないことを確かめると、だったら水中のお祭りを楽しもうと二人が笑って屋台へと足を向けた。
 見慣れた屋台から見たことのない屋台まで、端から端まで堪能しようと向かい合わせにずらりと並ぶ屋台の片側に沿って歩く。
「水中で食べ物が浮かないって不思議だね」
 ころんころんと鉄板の上でひっくり返されているベビーカステラを眺め、煙之助が水の中なのにと自分の手を目の前で振ってみた。
 水の中で手を動かすような抵抗感を僅かに感じ、改めて自分が湖の中を歩いているのだと不思議な気持ちになる。
「それを言うなら、喋っていても口の中に水が入ってこないし息も出来るんだからねぇ」
 神域の加護だと聞いたけれど、まるで魔法のようだと理彦が笑う。笑いながら、りんご飴やいちご飴の紅の美しさに目を惹かれたり、水中でかき氷、とやっぱり不思議な気持ちになったりしながら煙之助と共に屋台を冷やかした。
「煙ちゃん、射的だ」
「水中で……?」
 弾の勢いはどうなるんだろう、と眺めていれば、なんとも不思議な速度で進むコルク弾が商品を倒しているのが見えた。
「意外と遊べるものなんだねぇ」
「ほんとだね……。あ、理彦くん見て……風鈴があるよ」
 ちりりん、と独特な音が聞こえて煙之助が理彦の袖を引く。
「わぁ、風鈴だ。水中だけどちゃんと音が聞こえてさらに涼やかだねぇ」
「水の中でも音が聞こえるなんてすごいね」
 もしかして、うちの庭の池の中でも鳴るのかな……? こてん、と首を傾げて煙之助が風鈴と理彦を見遣る。
「どうだろうねぇ、ここは加護の力で陸と変わらないように過ごせるみたいだから……ふふ、風鈴が気になる? 見ていこうか」
 池の中で鳴らなくても、縁側に吊るせば鳴るしね、と理彦が笑った。
「えっと、どれにしようかな……」
 屋台に所狭しと吊るされた風鈴を真剣に見つめ、あれでもないこれでもないと選ぶ煙之助を柔らかな光を湛えた瞳で眺め、理彦が狐の絵が描かれた風鈴を指先で鳴らす。
「あ、それ」
「ん?」
 理彦がつついた風鈴をじぃっと眺め、煙之助がうん、と頷く。
「この狐の絵柄が入ったのにする」
「これが気に入った?」
「うん、理彦くんと同じ茶色の毛並みで可愛いからね♪」
 だから、これにするよと微笑んだ煙之助に、理彦も同じように笑みを浮かべて頷く。
「じゃあ、それを買って帰ろうか」
 池の中でも音が鳴るか試して、駄目なら縁側に吊るして一緒に聞こうと囁いた。
 ちりん、と鳴る風鈴を手に、二人が屋台を巡り最後は短冊にお願いごとをしていこうと、笹が飾られた近くにいる人が配る短冊を受け取る。
 お互い内緒、と背を向け合って短冊に願いを書いて、それでもなんとなく近い場所へと吊るす。
『少しでも長く理彦くんと一緒にいられますように』
『長生きできますように』
 だって、少しでも長く一緒にいたいからね、と願いを込めて。
「あ、理彦くん見て」
 ほら、と煙之助が水上を指さす。
 空がゆっくりと暮れて、一番星がゆらりと揺れているのが見えた。
「水中から見る空も、綺麗なものだねぇ」
 きっと、きみと一緒に見ているから余計に。
 顔を合わせて微笑むと、願いを吊るした短冊がゆらりと揺れて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天杜・乃恵美
【天杜2】◎
UCでノエミ/モニカに分裂
おにいちゃん/兄くん(理生)と縁日
浴衣は2019年JC準拠

◆モニカ:病み銀髪技師
兄くん、射的を手伝ってほしいな
銃が長くて、台も高いしさ…

そう、台に押さえつけて…んっ
あぁ、もう少しっ…えい、えいっ…!

うぅ、掠りもしない…(ぐすん、ひっく)
柔らかくて素敵そうだったのに、あのクマ
すまないね、ノエミ…

えっ?兄、くん…ありがとう…♪(きゅん)
…手を繋いでくれないかな、愛しの兄くん…?

◆ノエミ:無垢金髪巫女
おにいちゃん、わたあめ買ってっ!
はむ、んっ…えへへ、あまぁい♪

あれ?モニカちゃん…よしよしっ(なでり)
わ、おにいちゃんだっこしてくれた☆
はい、あーんっ♪(にこにこ)


天杜・理生
【天杜2】◎
浴衣で妹たちと縁日

水の中の神域とは幻想的だな。
はしゃいで迷子になるなよ。
ふたりともしっかり手を繋げ。

ノエミは何が欲しい?
うん、わたあめか。祭りらしくていいな。
ほら、好きなのを選んでおいで。
おいしいかい?ふふ、それはよかった。

うん?なんだ、モニカ、射的か。
頑張ってみるといいさ。
はは、残念だったな。
ノエミがモニカを慰めている間に、僕もやってみようかね。
モニカ、ハレの日にいつまで泣いているんだ。
ほら、行くぞ。これはお前が持て。
モニカが狙っていたクマのぬいぐるみを押し付けて
ノエミを抱き上げる。

くれるのかい?
じゃあ、あーん。うん、甘くてうまいな。
ありがとう、ノエミ。
さぁ、次はどこがいい?



●おにいちゃんといっしょ!
 カクリヨファンタズムのとある湖のほとり、大きな鳥居の前で白地に青の花を咲かせた浴衣を身に纏った天杜・乃恵美(天杜・桃仁香と共にありて・f05894)が兄……そう、兄として生きる天杜・理生(ダンピールのグールドライバー・f05895)を見上げる。
「おにいちゃん、いくよ」
「ああ、いいよ」
 藍色の浴衣に身を包んだ理生が乃恵美の言葉に頷くと、乃恵美が力を開放していく。
「モニカちゃん、きて!」
 金色の髪が揺れ、青い花びらが舞い散ってひと際強い光が乃恵美を中心に放たれる。
「……モニカちゃん!」
「呼んでくれてありがとうね、ノエミ」
 光がおさまると、そこには乃恵美のもう一つの人格であるモニカが黒地に蝶の舞う浴衣を纏って佇んでいた。
「これで一緒にお祭りにいけるねっ!」
 ね、と乃恵美が理生を見遣れば、理生が穏やかに微笑む。
「それじゃあ、三人で水中の祭へ行くとしようか?」
「楽しみだね、ね、モニカちゃん!」
「水の中、興味深いね」
 三人揃って鳥居をくぐり、水底の祭へと足を踏み入れた。
 ぱちりと目を瞬けば、そこはもう水中で目の前には大きな大社があり、境内には笹の葉が飾られて水の中で揺れている。大社までの道を飾るかのように屋台が並び、見覚えのあるものや初めて見るような屋台までと幅広い。
「水の中の神域とは幻想的だな」
「水中で息ができる仕組み……解明したいところだね……」
「うーん、多分不思議な力だと思うっ!」
 乃恵美の言葉は正しく、カクリヨにおける神秘と魔法の力のようなものが働いてのこと。
「今は解明よりも、祭を楽しむのがいいんじゃないかな?」
「兄くんとノエミが言うなら……そうだね」
「うんっ! あたし、モニカちゃんとおにいちゃんとお祭りを楽しみたいっ!」
 ね、と笑った乃恵美に、理生とモニカも頷いて。
「はしゃいで迷子になるなよ。ふたりともしっかり手を繋げ」
 はーい、とお返事をした二人が手を繋ぎ、その少し後ろから理生が歩く。
 水の中で陸と差ほど変わらぬ動きが出来るのはやっぱり不思議だったけれど、それよりも可愛い妹たちが笑顔を浮かべているのが何よりも理生にとっては大事なこと。
「ノエミは何が欲しい?」
「うーんとねぇ……」
 少し悩んで屋台を見渡し、乃恵美がきらりと目を輝かせる。
「おにいちゃん、わたあめ買ってっ!」
「うん、わたあめか。祭りらしくていいな。ほら、好きなのを選んでおいで」
 はい、と小銭を渡してやると、乃恵美がモニカの手を引っ張って綿あめの屋台へ向かう。白い綿あめに、青、赤、黄色、様々な色の綿あめが所狭しと並んでいる。
 うんと悩んで薄紫色の綿あめに決めて、乃恵美が嬉しそうに齧りつく。
「はむ、んっ……えへへ、あまぁい♪」
「おいしいかい? ふふ、それはよかった」
「うんっ♪ はい、モニカちゃんとおにいちゃんにも!」
 あーん! と、笑顔で差し出されたそれを断ることなく、モニカが一口齧り、理生がその横から齧る。
「ん……甘いね」
「うん、甘くてうまいな。ノエミはどうして紫にしたんだい?」
 乃恵美であれば、水色を選ぶのではと思っていたので、理生が問う。
「えっとね、あたしとモニカちゃんの目の色を混ぜたら紫色になるでしょ? それにおにいちゃんが着てる服の色にも紫色が多いなぁって思って」
 えへ、と笑った乃恵美の頭を理生とモニカが撫でた。
 ご機嫌で綿あめを食べる乃恵美の横で、モニカが理生を見上げて浴衣の袖をくいっと引っ張る。
「うん?」
「兄くん、射的を手伝ってほしいな」
 どれ、と射的の屋台に向かうと、確かにモニカには銃が長くて台が高いように思えた。
「まずは頑張ってみるといいさ」
 うう、と唸りながらもモニカが上半身を台に乗せるようにして銃を構え、狙いをつけて引き金を引く。コルクの弾は水中だからか、ややゆっくりと飛んで……外れた。
「あぁ、もう少しっ……えい、えいっ……!」
 手持ちの弾を全部使い切り、モニカがしょんぼりとした顔で銃を台へと置く。
「うぅ、掠りもしない……柔らかくて素敵そうだったのに、あのクマ……」
「はは、残念だったな」
 うう、ぐすん、と泣きだしたモニカに気付き、乃恵美がモニカの頭をよしよしと撫でた。
 その様子を眺めつつ、僕もやってみるかねと理生が銃を手に取る。試しに一発撃ってみて、銃の癖と弾の軌道を確かめると、モニカが狙っていたクマに向かって引き金を引いて――。
「モニカ、ハレの日にいつまで泣いているんだ。ほら、行くぞ」
「兄くん……」
「これはお前が持て」
 手にしていたクマのぬいぐるみをモニカの両腕に押しつけ、理生が乃恵美を抱き上げた。
「えっ?兄、くん……ありがとう……♪」
「わ、おにいちゃんだっこしてくれた☆」
 二人して理生に胸をときめかせつつ、次はどこへ行こうかと並ぶ屋台を見遣る。
「その……手を繋いでくれないかな、愛しの兄くん……?」
 はぐれても拙いかと、理生が乃恵美を抱いていない方の手で差し出された手を掴み、歩き出す。
 ゆっくりと日が沈み、境内の灯篭に灯りが点いて。
 星戀祭はまだまだこれから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

松永・絲織
玲士郎さん(f29308)とお出かけです
せっかくの縁日です。浴衣を着て参りますよ
少し華やかなものを……、いつも和装なのであまり変わりはないかもしれませんが

「玲士郎さん、浴衣とても似合ってますよ。落ち着いた色合いがとても素敵です」

まあまあ、縁日が初めてだなんて。ではお任せください、今日はバッチリエスコートしますね
やはり、縁日といえば屋台です!
焼きそばやかき氷など色々ありますが、私のおすすめはベビーカステラです
早速買って……どうぞ召し上がれ(一つ摘まんで差し出し
「はい、あーん」

っは、そ、その!
先ほどのは特に意図したわけでは……
はぅ、恥ずかしい(食べさせてもらいつつ

さ、さぁ、他には何を食べましょうか


鰐淵・玲士郎
【POW】絲織くん(f25783)と一緒
浴衣の絲織くんの隣を歩くんだ、せめて幾らかでも釣り合うよう僕も男性物の浴衣を着よう。渋い色のをね。
「ありがとう。絲織くんはとても綺麗だよ」

縁日か。絲織くんには心得があるかな?
恥ずかしながら、僕は縁日に行ったことがなくてね。
ふむ、ベビーカステラ。聞いたことがないが、カステラというのだから甘いのだろうね。
……絲織くん。それは直接食べるように言っているのかい?
「……あーん」
食べるが。その、これはちょっと恥ずかしいな。いい歳した男がしてもらっていいことなのかい?
「……返礼しよう絲織くん。あーん、だ」
無自覚でやったかもしれないので同じ気持ちを味わってもらおう。



●浴衣の袖を揺らめかせ
 折角のお祭りなのだから、浴衣を着て行こうと思います。そう言った松永・絲織(うきぐも・f25783)に合わせ、浴衣を着てきたのは間違いではなかったな、と鰐淵・玲士郎(ダーティグレイ・f29308)がしみじみと思う。
 浴衣姿の絲織の横を歩くのだから、せめて幾らかでも釣り合うようにと思った自分を褒めてやりたい、なんて考えつつ、隣に立つ絲織を見遣る。深緋の地色に白い縦縞が入った、椿が咲いた浴衣に黒い帯。帯には蜘蛛の巣模様が入っていて、帯締めの飾りには蝶が揺れていた。
 華やかで、絲織に似合っていると伝える為に口を開こうとすると、先に絲織の笑顔が弾ける。
「玲士郎さん、浴衣とても似合ってますよ。落ち着いた色合いがとても素敵です」
 麹塵色の浴衣はしじら織りで、締めた帯は黒。シンプルだからこそ着る者を引き立てるデザインは玲士郎によく似合っていた。
「……ありがとう、絲織くんはとても綺麗だよ」
 思い掛けず褒められたことに少し照れつつも、玲士郎が絲織の浴衣を……いや、絲織自身を褒める。絲織は浴衣を褒められたのだと嬉しそうに笑みを零していたけれど。
「この湖の底で縁日が行われているのか」
「不思議ですね、確かにほら……」
 絲織が指さす先は湖の中、透き通るような水は覗き込んだだけで底まで見えた。
「大社と屋台が見えるね」
 それに、短冊が飾られた笹も。
 百聞は一見に如かず、とばかりに二人は湖のほとりに立つ鳥居をくぐる。一歩踏み出した先はもう水の中で、なんとも不思議な世界が広がっていた。
 確かに水の中なのに陸と変わらぬように動けるし、息だって出来る。不思議なことだと二人で笑って、それから境内に並ぶ屋台を見遣った。
「縁日か。絲織くんには心得があるかな?」
「心得ですか?」
「……恥ずかしながら、僕は縁日に行ったことがなくてね」
 初めてなんだ、と秘密を打ち明けるかのように玲士郎が囁くと、絲織が少し驚いたように目を瞬かせ、それからにっこりと微笑んだ。
「ではお任せください、今日はバッチリエスコートしますね」
「よろしく頼むよ」
 張り切る絲織に柔らかく目を細め、玲士郎が彼女の隣を歩く。
「縁日といえば屋台です!」
「屋台」
 境内の端から端まで、向かい合わせに並ぶ屋台は確かに壮観だ。
「焼きそばやかき氷、綿あめにりんご飴など色々ありますが、私のおすすめはベビーカステラです」
「ふむ、ベビーカステラ。聞いたことがないが、カステラというのだから甘いのだろうね」
 カステラと言われて思い浮かぶのは長方形のカステラだけれど、ベビーというからには小さいのだろうかと玲士郎が僅かに首を傾げる。
「丁度あそこに……玲士郎さん、あれがベビーカステラですよ」
 ころんとしたフォルムの焼き菓子が鉄板の型の中で焼かれていて、丁度型から外しているところが見えた。
 甘い香りが漂って、水中でも匂いがわかるのだなと玲士郎がベビーカステラを眺めていると、絲織が早速出来立てのベビーカステラを買い求める。
 小さな紙袋いっぱいに詰められたそれを受け取って、絲織が一つ摘まんで玲士郎に差し出した。
「さ、玲士郎さん。どうぞ召し上がれ」
「……絲織くん。それは直接食べるように言っているのかい?」
「出来立てが一番美味しいんですよ! はい、あーん」
 是非とも出来たばかりのベビーカステラを食べてほしいという絲織の厚意と、差し出す彼女が可愛らしいのも相まって、玲士郎が覚悟を決めて口を開く。
「……あーん」
 もぐ、と口を動かせば、広がる甘味になるほどカステラだと思う。
 思うのだけれど、これはちょっと恥ずかしいなとも思う。
「もう一つ食べますか?」
 きっとそんなことは微塵も考えていないだろう絲織がもう一つ、と差し出すのも無心で食べて、それから絲織の手にある紙袋からベビーカステラを一つ、玲士郎が摘まむ。
「……返礼しよう絲織くん。あーん、だ」
 無自覚でやったであろう彼女に、同じ思いをしてもらおうかと玲士郎が指先を彼女の唇へと寄せる。
「っは、そ、その!」
「うん?」
「その、先ほどのは特に意図したわけでは……っ」
「ああ、勿論わかっているよ」
 わかってはいるけれど、それはそれとして容赦はしないのだ。
「はぅ、恥ずかしい……」
 頬を赤くした絲織が、ままよと差し出されたベビーカステラを食べた。
「わかってもらえて何よりだよ。その、嫌ではないけれど……僕もいい歳をした男だからね」
 はい、と頬を赤くしたまま絲織が頷く。
 食べさせる楽しみというのもあるけれど、それはまだ少し早いので。
「さ、さぁ、他には何を食べましょうか」
 赤い頬のまま、絲織が玲士郎を見上げる。
「そうだね、ゆっくり見て回ろうか」
 二人でベビーカステラを摘まみながら、ね? と、玲士郎が微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
雲珠兄ちゃん(f22865)と! ◎
ユカタとかないのでこのまま!

竜宮城!鯛やヒラメ……(探す)(いない)(ざんねん)
ふふー、きれーだねえ。(カメラぱしゃー)(水中なのに壊れねーの、ふしぎ!)

だねー、もっと行ってる気がしてたや
あははふ。ならこれって心中した後なんだ。天国なのかな。すてきなところ!
兄ちゃんおごってくれんの?ならさ、ラムネ買ってくれる?いっしょに飲もー!

ラムネ飲んで、ひもくじ引いてー
カタヌキ!ふふふ、おれ得意なんだぜ、力加減!
でーきた!へへ、兄ちゃんほめてほめてー!

タンザク。願い事書いて吊るすんだね?
でっかく丁寧に、『いい人みんなが幸せになりますように』!
もちろん雲珠兄ちゃんもだぜ!


雨野・雲珠
弟分のトヲル君と!/f18631 ◎
※去年の浴衣着用

なんて美しいお社でしょう。
竜宮城みたい(スマホで景色パシャー)
鯛やひらめは海のお魚ですからねえ

二人で依頼って心中以来では?
今日は俺が何か買ってあげたいです。
仮にも兄貴分ですから!(どやさ!って顔)

りんご飴買って、射的して…
あ、カタヌキしましょう!
何度かやったことがあるんですけどこれ難、あっ。あー…
わぁ、トヲルくん上手…本当にお上手です!
やった!すごいすごい(なでる)

俺の大切な人たちのさいわいまでトヲルくんが願ってくれるなら、
俺はこう…死角を突いていきます(さらさら)
『トヲルくんが幸せでありますように』
…この子に悪いことが起きませんように。



●兄貴分と弟分
 大きな湖のほとり、赤い鳥居を前にして茜崎・トヲル(白雉・f18631)と雨野・雲珠(慚愧・f22865)が湖の中を覗き込む。
「本当に大社が見えますね……!」
「すげーねえ、屋台も見える!」
 屋台の軒を飾る横幕が水の中でひらりと揺れて、赤や黄色に青にピンクと水中で踊っているかのようだった。
「早く近くで見たいです!」
「おれもー!」
 雲珠が身に纏う、紺色地の絞りの浴衣に金魚の尾のような兵児帯が水の中に入ったらどうなるのだろう、とトヲルがこっそりわくわくしつつ、せーので鳥居をくぐる。
 とぷん、と水に沈む感覚の後、そこは美しい水底の世界であった。
「なんて美しいお社でしょう……! 竜宮城みたい」
 懐から取り出したスマホでパシャリと風景を撮りつつ、雲珠が瞳を瞬かせる。
「竜宮城! 鯛やヒラメ……」
 竜宮城といえば鯛やヒラメの舞い踊りだと、トヲルが忙しなく視線を動かして、いないな、ざんねん……と視線を雲珠に戻してパッと顔を綻ばせた。
「鯛やヒラメはいないけど、金魚はいた!」
「鯛やひらめは海のお魚ですからねえ……えっ、どちらに?」
 トヲルの言葉に雲珠も視線を彷徨わせるけれど、金魚は見えない。はて? とトヲルを見れば、彼はにこにこ笑顔で雲珠を見ている。
「……もしかして、俺ですか?」
「せいかーい! 雲珠兄ちゃんの浴衣の帯、金魚みたい」
 思った通りだ、とトヲルが嬉しそうに笑ってスマホを雲珠に向けるので、今日一日は桜ではなく金魚でもいいかと雲珠が頬を緩ませた。
「水中なのに壊れないし写真とれちゃうの、ふしぎ!」
「何かこう……良い感じの不思議な力がきっと」
 働いているんでしょうね、と言いながらスマホを仕舞い、からんと下駄の音を鳴らしながら歩き出す。
「そういえば、二人で依頼って、心中以来では?」
「だねー、もっと行ってる気がしてたや」
 桜の木の下で心中ごっこをしたのも去年の話、そう思うと確かに久しぶりだし……あれ、これってもしかして心中した後に見てる夢かも? なんて思ったら面白くなってしまって、トヲルが笑う。
「あははふ。ならこれって心中した後なんだ。天国なのかな。すてきなところ!」
「大丈夫、生きてますよ。そういえばあの時はトヲルくんが奢ってくださったんでしたっけ。今日は俺が何か買ってあげたいです、仮にも兄貴分ですから!」
 輝かんばかりのドヤァ……っ! という顔に、また楽しくなってしまってトヲルがあははえへへと笑って、兄ちゃんがおごってくれるなら、ラムネが飲みたいとねだった。
「勿論です!」
「楽しそー、ラムネ飲んでひもくじ引いてー」
「りんご飴を買って、射的もして……」
 あれこれとやりたい事を思いついた順に上げ、目に付いた屋台を雲珠が指さす。
「あ、カタヌキしましょう!」
「カタヌキ! ふふふ、おれ得意なんだぜ、力加減!」
 渡されたのは千鳥の形をしたカタヌキと爪楊枝、用意されている椅子に座って、二人でちまちまと型を抜いていく。
「何度かやったことがあるんですけどこれ難、あっ。あー……」
 喋って気を抜いてしまったことが敗因か、雲珠のカタヌキは千鳥の足が崩れてしまう。方や集中していたトヲルはといえば、最後まで綺麗に型を抜くことができて、得意気に雲珠へと顔を上げた。
「でーきた! へへ、兄ちゃんほめてほめてー!」
「わぁ、トヲルくん上手……本当にお上手です! すごいすごい!」
 褒めて、と差し出された頭をよしよしと撫でて、俺の弟は器用……! と、雲珠が満足そうに笑った。
 上手にカタヌキ出来たご褒美です、と雲珠がラムネの瓶をトヲルに渡し、しゅわりとした甘さを二人で楽しむ。
「水の中でラムネを飲むのも不思議で面白いですね、口の中にラムネだけが入ってきて、美味しい」
「しゅわしゅわでおいしいねえ、兄ちゃん」
 ラムネの瓶を片手に練り歩き、りんご飴を分け合って。射的の弾の進みが陸と違うところに、水中なのだと感じてみたり。屋台を端から端まで堪能して、最後に短冊を吊るす笹の前にやってきた。
「タンザク。願い事書いて吊るすんだね?」
「はい。折角ですし、何か願っていきますか?」
 んー、と暫し悩んで、トヲルが短冊に大きな文字を書き連ねる。
『いい人みんなが幸せになりますように』
「でーきた! 雲珠兄ちゃんは?」
 その願い事を横目で見遣って、雲珠がほっこりと笑みを浮かべる。
「とても素敵な願い事ですね! そうですね……俺の大切な人たちのさいわいまでトヲルくんが願ってくれるなら、俺はこう……死角を突いていきます」
 さらり、と手慣れたように筆を動かし、雲珠が書いた願いは。
『トヲルくんが幸せでありますように』
 この子に、悪いことが起きませんように。そんな願いを滲ませた一文だった。
 笹の葉に揺れる短冊に願いを託し、二人で隣り合わせになるように結ぶ頃には空がゆっくりと夜の帳を下ろそうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
POW◎
浴衣の見立て希望します。懐には買ったばかりの藤柄の扇。

思わず湖のほとりから覗き込んでしまうわ。
まだまだ短くとも猟兵をしてきたので世界によってはそれまでの常識は通じない、というのはわかるのですが、水中とは。

縁日はいつもなら占いの卓を出すけど、折角の水中のお祭りですもの楽しまなくては。
それに件の骸魂にのまれた方々が悩みを聞いてくださるそうですから、私がカードを引く事もないでしょう。
屋台を巡りたいのですが飴一つで満足しちゃうぐらい、あまり量が食べられないんですよね。だから流して歩くだけ。でも目移りしちゃう。
短冊に願いを託すには私は迷いの中。今は悩む時だと思うからしっかり考えておかなければ。



●藍色に煌く
 白地に藍色のマーガレットが咲く浴衣に身を包み、紺青色の帯を締めた夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)がそっと湖のほとりに立つ鳥居の奥を覗き込む。
「世界によってはそれまでの自分の常識が通じない、というのはわかるのですが、水中とはまた……」
 猟兵として様々な世界を見てきたけれど、水中でのお祭りは初めてです、と藍が覗いた先に見える大社と揺れる屋台の横幕に思わず口元を押さえる。
 けれどこれも経験、と気を取り直し藤柄の扇を片手に鳥居をくぐった。
「まあ……!」
 くぐった先に広がる世界は水の中、けれど息は出来るし浴衣も濡れていない。不思議に満ちた加護ね、と思いながら境内に並ぶ屋台を眺める。
「占いの卓は……ないみたいね」
 藍自身、縁日があれば占いの卓を出すのだけれど、この祭にはどうやら出ていないらしい。もし出ていれば、ちらりと覗いてみたかったのだけれど――。
「と、今日は折角の水中のお祭りですもの、お仕事は少し忘れて楽しまなくてはね」
 それに依頼の内容にあった骸魂にのまれた方々が悩みをきいてくれるらしいのだ、そうならば藍がカードを引くこともないはず。
「悩みは人に話せば軽くなることもありますし」
 私は占いで導くけれど、骸魂にのまれた彼女達はきっと思った言葉を紡ぐのだろう。
 それを聞くのも楽しいかもしれないと思いつつ、藍が屋台を冷やかすように歩き出した。
「気になるものは色々あるのですが、飴ひとつで満足しちゃうぐらい、あまり量が食べられないんですよね……」
 りんご飴も大きすぎて、でもいちご飴なら……なんて目移りしながら次の屋台を見遣れば飴細工の屋台で、思わず足を止める。そこには金魚や薔薇、鳥や兎の飴細工が並んでいた。
「綺麗ですね……!」
 透明な飴に色が入って、まるで本物のように見えて、藍が感嘆の吐息を零す。
 何か作ろうかね、と声を掛けられて、思わずペンギンと答えると店主が手で飴を伸ばして串を差し、指先で捏ねて握り鋏でパチンと切り込みを入れていく。
 あっという間にペンギンの飴細工が出来上がり、藍が小さく拍手をして、飴細工を受け取った。
「ありがとうございます、なんて可愛らしい……!」
 お代を払って、手にしたペンギンの飴細工を眺めて歩き、短冊がたくさん吊るされた笹を目にして立ち止まる。
「願い……ですか」
 短冊に託すにはまだ迷いの中で、でも今は悩む時だと思うから。
「……しっかり考えておかなくちゃ」
 だからその時まで、願いを書くのはお預けで。
 ふわりと笑って、ペンギンの飴細工と共に再び歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【兄妹】◎
浴衣お任せ
お面被る

水の中でお祭りたァ幻想的じゃねェか
隣にいるのがお前じゃなきゃもっと趣あったな残念だわー
勘違いすンなよ
オイ、引っ張るな話聞けや!

水中でも普通に行動出来て驚く
久しぶりにギャグコメ兄弟の会話
ロシアンたこ焼き購入し食べる

ん(舌の火傷気にせずカイトに出来立て食わせる
ハズレ引いてやんの、バーカ(舌出しニヤリ

次にヨーヨー釣りへ

絶対テメェには勝つ!
お兄サマは手加減しねェよ(大人気ない

腕捲りし気合十分
上手く引っ掛けて釣る
勝敗お任せ
最後に短冊を飾る
風鈴の音に耳澄ます
カイトの願い事を盗み見る

な、ちぃっと見ただけだろ!
それに(その願い事は俺が叶えるンだよ

表に「未知の経験沢山したい」
裏には、


杜鬼・カイト
【兄妹】◎
浴衣(男物)

息もできるし、濡れてもない
これで水の中なんて信じられないな
それはともかく兄さまとのデート。嬉しくないわけがない
兄さまもそうでしょう?え、そんなことない?
ふふ、照れちゃって~。兄さまってばかわいいー

たこ焼きをふはふと食べる
あ、辛ッ!?

よーし、ヨーヨー釣りは負けません
集中。焦らず正確に
勝敗お任せ

短冊を飾るのはいいけど、願いごとどうしようかな
『兄さまとずっと一緒にいられますように』
これでいいか。短冊を笹に飾る
……あれぇ、兄さまもしかしてオレの短冊盗み見てません?
やだー、兄さまのえっちー!

なんとなく、願い事を書いた短冊を笹に飾る気になれなくて、こっそり白紙の短冊とすり替えておく



●兄弟水入らず
 深紫色の浴衣に深紅の帯を締め、根付を差す。粋な男前だと自負する杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の横で、深紅の浴衣に深紫色の帯を締めた杜鬼・カイト(アイビーの蔦・f12063)が兄と揃いの根付を差して笑っていた。
「本当に陸と変わらず過ごせるのかな?」
「行ってみりゃわかることだろ? ま、水の中に大社があって、縁日をやってるってのは本当みたいだぜ」
 大きな湖のほとり、赤い鳥居の向こうの水底を覗き込めば、ゆらゆらと揺れる水の中に確かに大社の建物が見えたし、屋台の横幕が揺れているのも見えた。
 懐から取り出した狐の面を付け、クロウがカイトを見遣る。
「行くぞ」
「あ、待ってよ兄さま!」
 置いていくぞとばかりにクロウが鳥居に向かって足を踏み入れるのを追いかけ、カイトも鳥居をくぐり抜けた。
「わぁ……! 本当に息もできるし、濡れてもない!」
 これで水の中だとは信じられないとカイトが手足を動かすのを横目で見つつ、クロウも身体の動きを確かめて境内にずらりと並ぶ屋台に視線を移した。
 水の中でお祭りたァ幻想的じゃねェか、思わず口元が緩んでしまったのをカイトが目敏く見つけてニマリと笑う。
「兄さまもオレとのデートが嬉しいんでしょう?」
 オレはすごーく嬉しいよ? とカイトが言うと、クロウが鼻先で笑ってみせた。
「隣にいるのがお前じゃなきゃ、もっと趣あったな残念だわー」
「ふふ、照れちゃって~。兄さまってばかわいいー」
「勘違いすンなよ」
「ええ~?」
 オレが嬉しいんだもの、兄さまもそうに決まってるでしょ、とばかりにカイトが笑ってクロウの手を引っ張る。
「行こ、兄さま!」
「オイ、引っ張るな! 話聞けや!」
 はいはい、なんて流されて、盛大に溜息を零しながらクロウが引っ張られるままに歩いた。
「見て、兄さま! ロシアンたこ焼きだって」
「へェ、勝負するか?」
「勝負? オレが勝ったらお願い聞いてくれる?」
 勝負だもんね? と、カイトがにこにこしながらクロウを煽る。
「いい度胸じゃねェか、絶対泣かす」
「決まりだね」
 ロシアンたこ焼きを一皿買って、じゃんけんで先攻後攻を決めたなら、いざロシアンたこ焼き勝負!
「オレが先だね、えーっと……これにする」
 指さしたたこ焼きをクロウが爪楊枝で刺して、カイトの口元に向けた。
「ん」
「あーん、んふっあつっ」
 ニヤニヤと笑うクロウを涙目で見つつ、あーんをしてくれたのはこれの為かとカイトが口の中の熱をはふはふと逃がしながら抗議する。
「何言ってるかわかんねェなー」
「あつ、さましてから、はふ、食べさせて、ふ、んっ!?」
 びくん、とカイトが肩を揺らす。
「どうした?」
「ん、辛ッ!? あつ、辛ッ!」
 熱い、辛いと繰り返すカイトを眺め、ロシアンたこ焼きの当たりを引いたのだとクロウが理解する。
「ハズレ引いてやんの、バーカ」
 舌を出してニヤリと笑い、初っ端で当てるか? と、クロウが煽り返しながら自分はちゃっかりと冷ましたたこ焼きを口に入れて、美味しいともう一度笑った。
「うう……酷い目にあっちゃったよ」
 口直しにとイチゴ味のかき氷を食べながら、カイトが唇を尖らせる。
「無謀にもお兄サマに勝負を挑むからだろ?」
「次は絶対勝つから! ヨーヨー釣りで勝負だよ、兄さま」
 視線の先にあったヨーヨー釣りの屋台を指さし、カイトがクロウを引っ張っていく。
「よーし、ヨーヨー釣りは負けません」
「言ってろ、絶対テメェには勝つ!」
 お兄サマは手加減しねェよ、と笑って腕捲りをしたクロウがこよりを手にした。
 一方、後がないカイトはこよりを持って、真剣な表情で水面に浮かぶヨーヨーの輪ゴムを見ている。
「そこだっ!」
「ここですっ!」
 勝負を掛けたのは同時、さて勝敗は――。
「オレの勝ちだね、兄さま!」
 両の手の指にヨーヨーを四つ下げて、カイトが満面の笑みを浮かべてクロウを見る。
「チッ、ロシアンたこ焼きと合わせて引き分けだな」
 渋い顔をしたクロウの手には三つのヨーヨー、帰ったら誰かにやるかと考えながら水の中で静かに弾むヨーヨーで遊びながら屋台を冷やかしていく。
 その後も射的だカタヌキだと勝負を続け、結局引き分けに落ち着いた二人は短冊が飾られた笹の前に立っていた。
「折角だ、吊るしていくか」
「それはいいけど、願いごとどうしようかな……」
 眉間に皺を寄せながら、うんうんと悩んでカイトがさらりと筆を走らせる。
『兄さまとずっと一緒にいられますように』
 これでいいか、とカイトが呟くと同時に、風鈴がちりんと鳴って。
「水の中でも風鈴って聞こえるんだね」
 ここが特別なんだろうけれど、カイトが思わず風鈴の音がする方を見遣った。
 それにつられるように視線を遣れば、クロウの目にはカイトの願い事が見えて。
「……あれぇ、兄さまもしかしてオレの短冊盗み見てません?」
「な、ちぃっと見ただけだろ! それに……なんでもねェ」
 その願い事は俺が叶えるンだよ、とは言葉にせず、クロウも短冊に願いを書き連ねる。
『未知の体験を沢山したい』
 カイトが見ているのを知っていて、そう書いた。
 それから、カイトが笹に短冊を飾っている間に、裏にこっそりと――。
「ン? お前短冊の色がさっきと違わねェか?」
「気のせいじゃない?」
 そう言って笑うカイトに首を傾げながらもクロウが短冊を吊るし、その間にカイトがさっき書いた短冊を浴衣の袷に仕舞いこむ。吊るしたのは、白紙の短冊。なんとなく、願いごとを書いた短冊を飾る気になれなかったのだ。
 短冊の重みで揺れる笹の葉と陽が沈んで水上に覗いた星だけが、それを見ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

サヨ!気を確かに!
水が苦手過ぎる可愛い巫女を抱き鼓舞し進む
大丈夫、私がついているよ
しがみつく腕も震える姿も可愛らしくて堪らないけれど
きみには笑っていてほしい

如何なる神域なのだろう
見てご覧、心地よい場所だよ
サヨの浴衣は宛ら人魚のようで微笑ましい
私は浴衣は持っていないよ
今度サヨに選んでもらおうかな
次は浴衣を着てきたいよ

水底の縁日なんて新鮮で楽しいね
何を食べる?

りんご飴を頬張る巫女は可愛い
私にもひと口くれるの?
とんと跳ねた心臓と染まる頬を隠して林檎を齧る
まるで禁断の味だ

短冊に標す願いは決まっている

─何時までもサヨと一緒に
きみに倖を齎せるように、と

そうだよ
サヨに倖を齎すのは何時だって私でありたい


誘名・櫻宵
🌸神櫻

沈むぅ!!カムゥ!
半泣きでカムイにしがみつき、抱っこされたまま進まざるを得ないわ!
大丈夫とわかってても怖いのは怖いのよ!
寄り添えば、優しい神の優しい声や温度が堪らなく愛しくて
これを口実にもっと甘えたくなる

とても綺麗ね
私のは白い闘魚の浴衣!
カムイは来てこなかったの?
じゃあ今度私が選んであげる!

縁日の空気と神の熱に恐怖も薄れていくわ
私、りんご飴が食べたい!
甘酸っぱいりんご飴は美味しいわ
私を抱えてくれてる神に、あーんと食べさせてあげる
幾らでも禁断を食べさせたいわ

短冊に願いを記すのね
…私の願いは秘密
あなたの隣にずっと
生きていたいなんて…言えないわ

カムイったら
ほんとにかぁいい神様ね!
…私は幸せよ



●願い事
「む、無理よぅ」
 白く可憐な浴衣に身を包み、まるで闘魚の尾鰭のようにふわりと兵児帯を結んだ誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)がふるふると首を横に振る。
「サヨ、大丈夫だから」
 それを宥め、水の中の縁日はきっと美しいよと朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)が湖の底を指さす。
「見てご覧、大社の境内に屋台が並んでいる」
「……ほんとだわ」
 屋台の横幕が誘うように水の中で揺れて、櫻宵が目を瞬かせる。
「大丈夫、私が手を繋いでいくよ」
「……無理ぃ」
「では、こうしよう」
 良いことを思いついたとばかりにカムイが微笑んで、渋る櫻宵を軽々と抱きあげる。
「しっかり掴まっておいで」
「カ、カムイ!?」
 慌てふためく櫻宵をよそに、ほら、とカムイが大きな鳥居をくぐり抜ける為に足を踏み出した。
 瞬きの後、あっという間に二人の身体は水の中で、櫻宵はぴしりと身体を固くする。
「沈むぅ! カムゥ!!」
 見る間に桜色の瞳に涙が溜まって、ぎゅうっとカムイの首にしがみつく。
「サヨ! 気を確かに!」
 ここは他の神とはいえど神域、溺れるようなことはないのだとカムイが説いて、ほら君の綺麗な浴衣も濡れてはいないし、息もできているだろう? と水が苦手すぎる愛しくも可愛い巫女を優しく抱きしめ、時にあやし、時に鼓舞しながら顔を覗き込む。
「うう、大丈夫とわかってても、怖いものは怖いのよ!」
「ああ、サヨ、サヨ。怖がる君も可愛らしくて堪らないけれど、私はきみには笑っていてほしい」
「カムイ……」
 甘く優しい声にぴたりと寄り添えば愛しさがこみ上げて、もう少し甘えたままでとカムイを見上げた。
「如何なる神域かはわからないけれど、見てご覧。心地よい場所だよ」
 少し歩こうか、とカムイが櫻宵を抱き上げたまま歩を進める。
「サヨの浴衣はまるで我が同志のようだね」
 白い人魚のようで美しいよ、と褒めれば櫻宵が笑みを浮かべてレースで飾られた袖を揺らす。
「私のは白い闘魚をモチーフにした浴衣なのよ。カムイは着てこなかったの?」
「私は浴衣を持っていないからね」
「あら、それなら今度私が選んであげる!」
 一緒にお買い物に行きましょう? と櫻宵が目を輝かせると、それならお願いしようかなとカムイが微笑む。
「では、次にお祭に行くときはサヨの選んでくれた浴衣を着るとしよう。ところで少しは慣れたかい?」
「ええ! ……もう少し」
 まだ怖いの、と櫻宵がすりりとカムイの胸へ頬を寄せる。
 んん、私の巫女が今日も可愛い! もうずっと抱き上げていようかと考えながら、カムイは櫻宵を横抱きにしたまま屋台を巡ることにした。
「水底の縁日も新鮮で楽しいものだね。サヨ、何か食べたいものは?」
「私、りんご飴が食べたい!」
 縁日の空気と非現実的な美しさ、そしてカムイの甘い熱に恐怖心も大分薄れて、櫻宵がパッと顔を上げてりんご飴の屋台を指さした。
 お姫様抱っこをされたままりんご飴を受け取って、薄い紅色の飴をりんごと一緒にじゃくりと齧る。甘くて美味しいとはしゃぎながら、もう一口と齧る櫻宵が可愛くてカムイの頬は緩みっぱなしだ。
「甘酸っぱくて美味しいわ」
「サヨが嬉しいと私も嬉しいよ」
「私もカムイが嬉しいと嬉しいわ」
 お揃いね、と笑った櫻宵がりんご飴をカムイへと差し出して、あーんして? と瞳を柔らかく細める。とん、と跳ねた心臓の音を隠すように、カムイが櫻宵へと問い掛けた。
「私にもひと口くれるの?」
「幸せのお裾分けよ。ほら、あーん」
 りんごのように赤く染まる頬を隠して、差し出されたりんご飴を齧る。それは甘くてほんのり酸味があって、まるで――。
「禁断の味のようだね」
「ふふ、カムイとなら幾らでも」
 禁断の味を一緒に味わいたいわ、と櫻宵が蠱惑的な眼差しをカムイに向けて微笑んだ。
 りんご飴を二人仲良く分け合って、一通り屋台を巡って短冊の重みでしなる笹の前へとやってくる。
「この短冊に願いを記すのね」
 笹の近くには机があって、座って短冊に願いを書けるようになっていた。
 櫻宵を椅子へと座らせ、カムイもその隣に座る。用意されている短冊を互いに手にし、願いはと視線を交わす。
「……私の願いは秘密よ」
 儚げに笑って、カムイの瞳から短冊を隠すようにして筆を走らせた。
『あなたの隣でずっと一緒に生きていたい』
 なんて、どうしたって言えない願いを書いた短冊を見えないようにそっと裏向ける。
「私が短冊に標す願いは決まっているんだ」
 愛おし気に櫻宵を見遣って、カムイが隠すことなく願いをしたためる。
『何時までもサヨと一緒に、きみに倖を齎せるように』
 それを見た櫻宵がきゅん、と胸を高鳴らせ、ふにゃりと頬を緩ませる。
「サヨに倖を齎すのは何時だって私でありたい」
「カムイったら、ほんとにかぁいい神様ね!」
 願いを書いた短冊を二人で吊るし、視線と共に指先も絡ませて。
「カムイ」
「なんだい、私の可愛い巫女」
「……私は幸せよ」
 嘘偽りのない言葉を口にして櫻宵が笑えば、カムイが絡めた指を優しく握りしめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒瀬・ナナ
【夢塔古書店/3】

水の底の神社でお祭りなんて、想像しただけでわくわくしちゃう!
折角だから浴衣(見た目の詳細はMS様にお任せします)を着て、さらささんと和さんと一緒に。
迷子にならないように気をつけて、いざお祭りへ!

水の中にも屋台があるなんて不思議ね。
あつあつのたこ焼きとかもあるのかしら?
わぁ!お花の飴細工!食べるのが勿体無いかも。でも食べちゃう!
お土産にも買って行きたいわね。
たくさん買って花束みたいにしちゃう?

短冊への願い事は【良い出会いに恵まれますように。】
さらささんと和さんに出会えたように、これからも素敵な人達と縁が繋がったらなぁって。

それからもうひとつ。【ふたりの願い事が叶いますように。】


樹・さらさ
【夢塔古書店/3】

水底の神社とは。なんて素敵な場所だろう。
折角なので色々楽しませて貰おうか。
浴衣(見た目はお任せします)で、同行のナナ嬢と野々瀬君と。
出来るだけ固まっておこうか、はぐれたりしたくないからね。
屋台が賑わっているな、火が使えてるのが不思議だが…。
ああ、あれは飴細工か。繊細な細工が美しい。
花の形のものがあれば、3人分買ってしまおう。折角だからね、皆で同じものを食べてみたかったんだ。

二人の興味があるものも買ってから、淡緑の短冊を手にして。
さて、何を書こうか。
願い事…か。改めて考えると意外と難しいな。
暫く悩んで、書いた願いは【これからも私らしく在る事が出来る様に】
小さくて、大きな願いさ。


野々瀬・和
【夢塔古書店/3】

水底のお祭り…なんだか不思議で、とても素敵ですね。
折角なので俺も浴衣(見た目はお任せします)を着て、ナナさんとさらささんについていきます。
見上げた空が揺らめいて、とても綺麗で思わず見惚れます。
ああ、賑わっているからはぐれないようにしないとですね…すみません。

あつあつの食べ物も気になりますし、かき氷も気になります。
飴細工、繊細で本当に素晴らしいですね。
確かに食べるのがもったいないですけど、頂きましょう。
折角だからお土産にもいくつか買っていきませんか?

願い事は…【健やかに過ごせますように】かな。
大切な人たちが健やかで幸せに暮らせますように、願いを込めて笹へ吊るします。



●屋台巡りと繋ぐ縁
「さらささん、和さん、見て!」
 白地に緑の縦縞が入り、赤い色待宵草が咲いた浴衣に深い宵色の帯を締めた黒瀬・ナナ(春陽鬼・f02709)が湖のほとりに立つ大きな鳥居の向こうを指さす。
 指の先に視線を遣れば、湖の中に大社と並ぶ屋台の横幕が水に揺れているのが見えた。
「水底の神社とは、なんて素敵な場所だろう」
 青藍の色地に青竹色の太めストライプが目を引く浴衣白のしわ兵児帯をひらりと結んで、襟元には刺繍リボンの半衿でさり気ない可愛らしさを仕込んだ樹・さらさ(Dea della guerra verde・f23156)が刺繍を指先で撫でて微笑む。
「水底のお祭り……楽しみですね」
 青碧の色地に麻の葉模様が入った浴衣に根岸色の帯を締め、赤い組紐の根付を差した野々瀬・和(片隅で紡ぐ春・f33209)がそわりと目を瞬かせ、ナナとさらさを見遣った。
「水の底の神社でお祭りなんて、想像しただけでわくわくしちゃう! この鳥居をくぐったら、水底の大社へ行けるのよね?」
「そう聞いていますね」
「百聞は一見に如かず、確かめに行くとしようか」
 さらさの言葉に賛成! と、ナナと和が笑って、三人で鳥居をくぐった。
 くぐり抜けた先は水の底、見上げれば空がゆらゆらと揺らめいていて、和が思わず小さく口を開けて見上げてしまう。
「ふふ、綺麗ね」
「あ、すみません。つい……」
 水底のお祭りは盛況で、人も妖怪も多く見受けられた。
 はぐれないようにしなければいけないのに、立ち止まって空を見上げていたことがほんの少し恥ずかしくなって、和が視線を戻す。
「謝ることなんてないさ、素敵な景色に目を奪われるのは当然のことだからね」
「そうよ! こんなに素敵な景色だもの、誰だって見惚れちゃうわよ」
 二人の笑顔に思わず和も笑って、ありがとうございますと目を細めた。
「でも、迷子にならないように気を付けるのは大事よね」
「出来るだけ固まっておこうか、はぐれたりしたくないからね」
「そうですね、はぐれないように……万が一はぐれたら、あの笹の前で待ち合わせしましょうか?」
 でも、できるだけはぐれないようにと三人で固まって、境内にずらりと並ぶ屋台を目指して足を踏み出した。
「水の中にも屋台があるなんて不思議ね」
「よく賑わっているな、火が使えているのが不思議だが……」
「ここの祭神の加護……なんでしょうか、それともカクリヨでは普通のことなのかもしれませんが」
 三人で首を傾げ合いながらも、ナナがきっとそういうものなのね! と納得して、熱々のたこ焼きはないかしら? と、屋台を見回す。
「たこ焼きなら、ほらあそこに」
 さらさが指さした先に、タコの絵が描かれた横幕が見えて、ナナがきらりと瞳を輝かせた。
「たこ焼きだわ!」
「ふふ、水中でたこ焼きを食べるなんて中々ないからね、食べて行こうか」
「いいですね、あ、かき氷もありますね」
 熱々の食べ物も、冷たいのも、甲乙つけがたいと和が楽しい悩みを口にする。
「かき氷もいいわよね! ……どっちも気になるわね」
 味もだけれど、水中で食べたらどうなるのか、というのも。
「では、たこ焼きのあとでかき氷を食べようか」
 真剣な顔をするナナと和に笑って、さらさがまずはたこ焼きだと屋台へ向かった。
 それぞれたこ焼きの舟皿を手にし、屋台から少し外れた場所で顔を突き合わせてたこ焼きに爪楊枝を刺す。
「すごいわ、水の中なのに熱々……!」
「ふーってするとちゃんと冷めますね」
「陸とあまり変わりないっていうのは本当のようだね」
 それに、このたこ焼きはとても美味しいと、さらさが笑う。
「そうね、食べ物が美味しいのはいいことだわ!」
「はい、外はカリっとしていて、中はとろり……美味しいです」
 ひとつひとつ堪能するようにたこ焼きを食べ、満足そうな笑みを浮かべて空になった皿をゴミ箱に捨てる。次はかき氷だと、ナナがふわふわのかき氷を売っている屋台の前で立ち止まる。
「色んな味がありますね」
 店先に見本と共に置かれた味が書かれた札を見て、和がメロンにイチゴ、と視線を移す。
「抹茶にレモン、マンゴーにグレープ、ピーチもあるわ」
「これだけあると迷ってしまうな」
 それでもなんとか味を決め、先ほどと同じ場所でかき氷に舌鼓を打って。違う味をシェアしたりなんかして、思う存分縁日のかき氷を楽しんだ。
「あつあつも、ひんやりも、どちらも美味しかったですね」
 和の言葉にさらさが頷き、ナナがこれが屋台の醍醐味よね、と笑った。
 ぶらりと屋台を冷やかすように三人で歩いていると、わぁ! とナナが感嘆の声を上げる。
「見て、お花の飴細工!」
「ああ、あれは飴細工か」
「飴細工……もっと近くで見てみませんか?」
 飴細工の屋台へ近寄れば、幾つもの飴細工が串にささって立てられているのが見えた。
 金魚やカエル、猫や犬などの動物、それから見慣れないけれど可愛らしい妖怪の飴細工に、ナナが惹かれた花の飴細工が所狭しと飾られている。
「綺麗……!」
「繊細で本当に素晴らしいですね」
「繊細な細工を作るところを間近で見る機会があるとは、嬉しいね」
 飴細工職人が和の頭に咲いたような桜を作って見せると、思わず三人が小さく手を叩く。
「見事だね、三人分買ってしまおうか」
 さらさが揃いの飴細工を買い求め、二人に渡す。
「ありがとう、さらささん! 食べるのが勿体無いかも……でも食べちゃう!」
「ありがとうございます、なんだか食べるのがもったいないですけど、いただきます」
 二人が喜ぶ顔にさらさも顔を綻ばせ、折角だからねと頷いた。
「お土産にも買って行きたいわね」
「いい案です、いくつか買っていきませんか?」
「そうだね、皆にも見てほしいし買っていこうか」
「たくさん買って、花束みたいにしちゃう?」
 きっと綺麗よ! と、ナナが弾けるような笑顔を浮かべ、花の飴細工を買い求めた。
 お土産も手にしたし、短冊に願い事をしにいこうと再び歩き出す。笹の近くには机があって、短冊と筆が自由に使えるように置いてあった。
「さて、何を書こうか」
 淡い緑の短冊を手に、さらさが悩ましいなと考える。
「わたしはこれ!」
『良い出会いに恵まれますように』
 さらさや和に出会えたように、これからも素敵な人達と縁が繋がったらと願いを込めて。
「俺は……」
『健やかに過ごせますように』
 大切な人たちが健やかで幸せにくらせますように、そんな願いを込めて。
 そんな二人の願いと想いを聞いて、さらさが筆を走らせる。
『これからも私らしく在る事が出来る様に』
 小さくて大きな願い、けれど一番自分らしい願いだとさらさが笑う。
「二人とも素敵な願いだと思うわ!」
 さっそく吊るしましょう、と三人並んで短冊を飾って。
 そうっとナナがもう一つ短冊を吊るす。
『ふたりの願い事が叶いますように』
 こっそり飾って、満足気に微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
浴衣で参加(詳細お任せ)

今年も夏祭りの季節がやってきたんだねぇ
去年はいっぱいお祭りに行ったなぁと思い出す
お祭りといえば屋台の美味しい食べ物
さて今日は何を食べようかな~

あっ、あの綺麗なの何だろう
向かったのは飴細工の屋台
あまりにも精巧だから、食べ物じゃなくて
雑貨屋さんか何かなのかなと思った

へぇ、ここに無いものも作ってくれるんだ
じゃあ俺は紅い羽根の蝶々がいいな
あはは、梓はそう来るだろうなと思った

出来上がった、今にも飛び立ちそうな蝶の飴細工に感動
すごい、羽の模様も細かく再現されてる
これが食べられるだなんてすごいねぇ
勿体ないけど…いただきまーす
梓も食べないの?なら俺が食べちゃうよー(あーん


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
浴衣で参加(詳細お任せ)

ああ、俺は祭りに行く度にお前に何かを奢っていたことを思い出すぞ…
日に日に食欲が増している気がする綾
今年もあれやこれやとねだられるんだろうな…(もはや悟りの境地

へぇ、名前は聞いたことあるが実物は初めて見たな
料理は好きな俺だが流石にここまでリアルなものを
作るのは無理だろうな…もはや料理というかアートだし

じゃあ俺は…赤いドゴランと、青いドラゴンを頼む
モデルはずばりこいつらだ!
相棒竜の焔と零をじゃんっと店主に見せて

…おぉぉぉ…!!
す、すごい、まさに焔と零そのものだ!
こんなに可愛い焔と零を食べるだなんて俺には出来ない…
コラコラ!齧りつこうとするな!



●思い出をもう一つ
 大きな湖のほとりに赤い鳥居が一つ。
 鳥居を見上げているのが乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)で、鳥居の奥に見える湖の中を覗き込もうとしているのが灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)である。
「でかい鳥居だな」
「梓、梓、鳥居の向こう」
 水底を指さして、綾が梓の浴衣の袖を引っ張った。
「ん?」
 綾が指さす向こうを覗き見れば、水中に大社と屋台の横幕が揺れているのが見える。
「本当に湖の中に大社が建ってるんだな」
「屋台も見えるよ」
 今年も夏祭りの季節がやってきたんだねぇ、と綾がしみじみと呟く。
「去年はいっぱいお祭に行ったなぁ」
 思い出すのは屋台の美味しい食べ物、花火に綺麗な海の思い出。
「楽しかったよねぇ、梓」
 ね? と綾が梓を見遣ると、梓が微妙な顔をしているのが見えた。
「ああ、俺は祭りに行く度にお前に何かを奢っていたことを思い出すぞ……」
「そうだっけ?」
 しれっととぼける綾を見遣り、日に日にこいつの食欲が増している気がする、と梓が眉根を寄せる。
 いや、食べてもその分動くからいいのだけれど。美味しそうに食べるから、ついあれもこれもと食べさせてしまうのだけれど。
「……甘やかしすぎてるのか?」
 いやいや、一度に奢る分は幾らまでって決めてるし。大丈夫、のはず。
「梓ー? どうしたの、ぼーっとして」
「あー、いや、何でもない」
 行くか、と鳥居の先を指させば、綾が楽しみだねぇと頷いた。
 二人揃いの浴衣を翻し、鳥居をくぐった先はまるで別世界のようで、綾が小さく歓声を上げる。
「本当に水の中だねぇ」
「水の中なのに、息も出来るし喋れるし、身体も濡れてないな」
 色の見え方も特に変わりがなく、綾の着る黒地に赤の縦縞しじらが入った浴衣も、締める赤い帯に白いつまみ細工の根付が揺れるのも、先ほど陸で見たのと同じままだ。
 勿論、綾から見た梓もそうで、白地に黒の縦縞しじらが入った浴衣に締める黒い帯に赤いつまみ細工の根付だって、遜色がない。
「不思議だね。そんな不思議な水中で食べる屋台のお味はどんなのかな~」
 何を食べようかな、と屋台に向かって歩き出した綾に、今年もあれやこれやとねだられるんだろうな……と、梓は既に悟りを開いたお坊さんのような気持ちで綾の後ろを追いかけた。
 たこ焼き唐揚げフライドポテト、食べ盛りの男子が必ず買いそうな物を食べ歩き、りんご飴を齧る。もちろん、支払いは梓で。
「あとは何食べようか?」
「お前……まだ食べるのか」
「だってイカ焼きも食べてないし、フランクフルトも食べてないよ?」
 焼きそばは持ち帰って夜食かな、と言う綾をマジでよく食べるな……という目で梓が見遣った。
「ほら、食べる子は育つっていうじゃない」
「これ以上育たないだろ? ……育たないよな?」
 どうかな~? なんて笑う綾が、ふと見つけた屋台を指さす。
「あっ、あの綺麗なの何だろう?」
 綺麗なの? と、首を傾げつつ見てみれば、そこには飴細工の屋台が見えて梓がへぇ、と目を瞠る。
「名前は聞いたことあるが、実物は初めて見たな」
「あれ、何?」
「飴細工っていって、飴を熱いうちに捏ねたり切ったりして色々な形にするんだ」
「面白そう、見に行こうよ」
 手にしたりんご飴をじゃくじゃくと食べきってゴミ箱に捨てると、綾が飴細工の屋台の前に立った。
「綺麗だねぇ」
 あんまりにも精巧で綺麗なものだから、思わず食べ物じゃなく雑貨屋さんか何かと最初に思ったのは内緒。金魚に猫に、カナリアと随分と幅広い飴細工が飾られていて、思わず蝶を探してしまう。
 欲しい物がなければお作りしやしょうか、と店主が声を掛けてくれて、綾が目を瞬かせる。
「へぇ、ここに無いものも作ってくれるんだ」
 こくりと頷いた店主に、それじゃあ紅い羽根の蝶々がいいと綾が言う。
「じゃあ俺は……赤いドゴランと、青いドラゴンを頼む」
 モデルはずばりこいつらだ! と、梓が相棒竜の焔と零を召喚して店主に見せた。
「あはは、梓はそう来るだろうなと思った」
「綾だって蝶だろう」
 軽口を叩きながら、店主が手際よく飴を綺麗な形に整えていくのを眺める。その職人技ともいえる妙技を見つめ、これはもう料理というよりはアートだな、と梓が思う。
 ある程度の料理であれば自分で再現もするが、さすがにこれを作るのは無理だ。
「すごい、羽の模様も細かく再現されてる」
 まずは先に出来上がった、今にも飛び立っていきそうな蝶の飴細工に綾が目を細める。
「これが食べられるなんて、すごいねぇ」
 色々な角度から眺め、出来栄えを堪能しているうちに今度は竜の飴細工が出来上がって、受け取った梓が本物の焔と零と見比べている。
「……おぉぉぉ……!! す、すごい、まさに焔と零そのものだ!」
 子どもの手のひらサイズ程の飴は確かに梓の相棒竜そのもので、感動に打ち震えていた。
 お礼を言って代金を支払って、二人ですごいすごいと笑って歩く。
「俺の蝶そのものって感じ、勿体ないけど……いただきまーす」
 紅い翅をぱきんと齧って、本当に飴だと綾が楽しそうに食べていく。あっという間に食べてしまった綾を見て、梓が真剣な顔で呟いた。
「こんなに可愛い焔と零を食べるだなんて俺には出来ない……」
「梓は食べないの? なら俺が食べちゃうよー」
「コラコラ! 齧りつこうとするな!」
 あーんと開いた綾の口から飴細工を逃がしつつ、梓はいつ食べようかと悩むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

岩元・雫
◎偃月

誰かと共に澄んだ水を往くなんて、何だか変な感じ
水を翔るまどか、一寸ペンギンっぽい
普段は空を翔んで居るから、当り前かもしれないけれど
おれが泳ぐよりずっと速いや

好き、とは
言っては為らない気も、するけど
おれも、今は
幽世の事、……嫌いじゃ、無いよ

七夕だなんて懐かしい
願い、有るには有るけれど
手を尽くした後への保険程度よ

……馬鹿
然う云うのは本人に言えっての
其様な事、何処かの誰ぞに――
短冊になんて、願わないで頂戴
叶えるのは、おれ達でしょう?

決めた
おれ、「まどかが好きに居られます様に」って書くから
あんたは別の願い書きなさい


ほら、甘味でも探しに行こう
存分に付き合ってあげるから
……沢山、遊びましょ
此れからも


百鳥・円
【偃月】◎

わ、凄い。水中なのに呼吸が出来ます!
これならしずくくんと一緒に泳げますね

見てみて!
すいすいっと泳ぐと例えるよりかは
水中を翔び回るようなカンジですけれども

んふふ、ペンギンですかあ
共に泳げたなら楽しそうですん

カクリヨの雰囲気ってなんだかすきです
賑やかですけれど、優しい静けさを感じるような
じんわりとした温度を感じる気がしますの
ふふ。それはよかった

短冊といえば、七夕ですかね
願いごとがありますか?

わたしはね、
大切なひとたちと一緒にいたい
その中に、しずくくんも居ます
これからもいーっぱい遊びたいなあ、なあんて

……、今なんかジーンと来ちゃいました
『しずくくんの憂いが減りますように』

こっちにしよーっと



●おれの願い、わたしの願い
 透き通る湖のほとりに、二人。足を尾にした彼と、獣の耳と角、それから翼をもつ乙女が立っていた。
「なるほどなるほど、この鳥居をくぐると水の中の大社にいけるのですね!」
 面白いと思いませんか、しずくくん。
 百鳥・円(華回帰・f10932)の紅玉と蒼玉の瞳が瞬いて、岩元・雫(亡の月・f31282)は黄玉の瞳で見つめ返す。
「おれはこのまま泳いでも行けそうだけどね」
「確かに! でも一緒にくぐった方が面白そうじゃないですか」
 だから一緒に行きましょう、そう笑って円は雫の手を取ると大きな鳥居を躊躇うことなく、くぐり抜けた。
「わ、凄い。水中なのに呼吸が出来ます!」
 すう、と息を吸い込んでも水は入ってこず、空気だけが肺を満たしていく。ならば吐く息は? と細く息を吐いてみるけれど泡にはならず、円が不思議ですねと雫を見遣った。
「誰かと共に澄んだ水を往くなんて、何だか変な感じ」
「初めてですか? なら、わたしが最初のお相手ですね」
 光栄です、と笑って手足を動かす。
「これならしずくくんと一緒に泳げそうですね」
 境内の入り口、誰の邪魔にもならない場所で円が石畳を蹴る。翼を使い、加速したり方向転換もお手の物だ。
「見てみて! どうですか?」
「まどか、一寸ペンギンっぽい」
 普段は空を翔んでいる彼女が水を翔ける姿は弾丸のようで、それが少しだけペンギンのように見えたのだ。
「んふふ、ペンギンですかあ」
 確かに、すいすいっと泳ぐというよりは水中を翔び回るようなカンジですけれども、と円が笑う。
「しずくくんも、ご一緒にどうですか?」
 共に泳げたなら、きっと楽しそうだと言われては雫もその尾をゆるりと動かすより他にない。暫し二人で水中を泳いで、境内の入口へ戻ってくる。
「楽しかったですね!」
「まどか、おれが泳ぐよりずっと速いや」
「しずくくんはとっても優雅でしたよ」
 屋台でも見て回りましょうか、と円が歩き出す。その横を雫がゆらりと泳ぎ、不思議な縁日を楽しむことにした。
「現代地球と変わりないような屋台ですね」
 たこ焼きに焼きそば、焼きとうもろこしにりんご飴、かき氷にラムネのドリンク。新し親分の影響なのか、カラフルな炭酸ドリンクの上にソフトクリームがのっているものまである。
「しずくくん、わたしあれが飲みたいです!」
 桜色のソーダの上にラムネ色のソフトクリームをのせ、琥珀糖で飾ったドリンクを円が指さした。
「おれのことは気にせず飲みなよ」
 食事も要らぬ怪の身だ、けれど生きる者には必要だろうと雫が促す。
「では遠慮なく!」
 ハート型の琥珀糖をマシマシにしたドリンクを屋台の店主から受け取って、円が目を輝かす。
「綺麗ですね」
「うん、おれも綺麗だと思うよ」
 きらきらで、しゅわしゅわなドリンクに刺さったストローを銜えてちゅう、と吸えば円の頬が嬉しそうに緩む。その顔を見れただけ、このドリンクには価値があるなと雫が小さく微笑んだ。
 屋台を冷やかすように歩き、円がソフトクリームを食べながらくふりと笑う。
「カクリヨの雰囲気ってなんだかすきです」
「うん」
「賑やかですけれど、此処みたいに優しい静けさを感じるような……じんわりとした温度を感じる気がしますの」
 柔らかい円の声に、雫が頷く。
 同じように好きだとは言っては為らない、そう思うけれど。
「おれも、今は幽世の事、……嫌いじゃ、無いよ」
 呟くように言った言葉は本心で。
「ふふ、それはよかった!」
 空になったドリンクのカップをゴミ箱に捨て、円が短冊が揺れる笹を指さす。
「短冊です! 短冊といえば、七夕ですかね。しずくくんは願いごとがありますか?」
「七夕だなんて懐かしいな。願い、有るには有るけれど……手を尽くした後への保険程度よ」
 ふむふむ、と雫の言葉を聞いて、円がぱちんと小さく手を叩いた。
「なら、願いごとをしていきましょう!」
 折角ですから、と笹の近くに用意された机に向かい、短冊と筆を手に取る。
「わたしはね、願いごといっぱいあります! でもそうですね、短冊に願うなら、大切なひとたちと一緒にいたい……でしょうか?」
 その中に、もちろんしずくくんも居ます、と円が短冊に筆を走らせながら言う。
「これからも、いーっぱい遊びたいなあ、なあんて」
「……馬鹿」
「えっ馬鹿ですか?」
 そうじゃなくて、と雫が円の書いた短冊を取り上げる。
「然う云うのは本人に言えっての。其様な事、何処かの誰ぞに――短冊になんて、願わないで頂戴」
 目をぱちくりとさせた円に、言い聞かせるように瞳を覗き込む。
「叶えるのは、おれ達でしょう?」
 ふあ、と円が小さく唇を開いて、それから嬉しそうに笑う。
「……、今なんかジーンと来ちゃいました」
 照れたような、はにかむようなその笑顔に雫も笑って。
「……決めた。おれ、『まどかが好きに居られます様に』って書くから」
 あんたは別の願いを書きなさい、と雫が短冊と筆を手にして願いを記す。
 はぁい、と素直に頷いて、円が新しい短冊に手を伸ばす。そうして、こっちのお願いししよーっと、と笑ってもう一度さらりと筆を走らた。
『しずくくんの憂いが減りますように』
 なんて。
 さっと見られないように短冊を吊るせば、雫も短冊を吊るし終えて円の方を向く。
「ほら、甘味でも探しに行こう。ドリンクだけじゃお腹が減るでしょ」
「美味しそうなの、ありますかね?」
「見つかるまで付き合ってあげるから」
 だから、沢山遊びましょ。
 今日だけじゃなくって、此れからも――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

紫藤・燈
ほた(f12120)と一緒に

賑やかである音はどこか遠く
見上げた先に揺らぐ星の灯に
覚えた感情はどこか不安にも似る

ほた、あんまりはしゃぐと転ぶよ

見上げられた瞳と視線が通えば溜息を吐く様に
あちらこちらと忙しない彼女を
猫だか犬だかに重ねてみれば
知らずと表情が緩んでしまう

引かれる手には逆らわず
呆れた様な、その反面愉しげに
カラカラ重なる下駄の音が心地良く想うのは確かで

全部買っていけば?

残ったら土産にすればいい
食べ途中の綿あめをどうぞと寄せて
ああ、ほんと甘やかすのが癖になっている

問いかけに落とした視線は悪戯っぽく
届かないであろう位置へ短冊を結ぶのは勿論
不満そうな娘は宥める様に一つ撫で
おそらく願いは同じだろう


紫藤・蛍
燈くん(f12119)と一緒

紫陽花柄の浴衣でくるり
一つに纏めた髪が跳ねるように揺れる

ね、ね、屋台見よう?
燈くんの袖を引っ張って
良い香りに見上げる瞳は
キラキラ食い気MAX
クレープ、かき氷、りんご飴…どれにする?
目移りして選べない

ふふ、パパとママにお土産ね

燈くんのも美味しそうだなー…半分こ!だめ?
ふわふわの綿あめにパクっと
燈くんにはほたのクレープをお裾分け
美味しいも幸せも半分こ

笹に結ぶ短冊飾り
願うのはやっぱり家族の幸せ

ねぇ燈くんはなんて書いたの?
兄の願い事が見えなくて
むぅ、と抗議するのも一瞬
撫でる優しい手にゆるり笑む

本当はね、見なくても知ってるの
きっとほたと一緒なんだって
叶いますようにとそっと願う



●水中にて灯る
 白地に紫陽花が咲く浴衣、結んだ紫色の兵児帯は背で可愛らしく揺れている。
「どう? どう? 似合う?」
 くるりとターンを決めた紫藤・蛍(蛍火・f12120)の一つに纏めた髪に差した簪が、跳ねるように揺れた。
「似合ってるよ」
 兄である藤・燈(ダンピールのゴッドペインター・f12119)が紫色の瞳を柔らかく細めて、褒めてと雄弁に語る彼女の瞳に笑みを向けた。
「水中のお祭、楽しみだね!」
 この鳥居をくぐればいいんだよね? と、蛍が興味深げに鳥居を見上げる。
「そうみたいだ、見てご覧」
 つい、と指先を湖の水底へ燈が向けて、蛍の視線がそちらに向く。ゆらり、と水の中で揺れる大社に屋台の横幕、確かに水中にあるのだと蛍が瞳を瞬かす。
「燈くん、行こう!」
「こら、引っ張るなって」
 待ちきれないとばかりに蛍が燈の手を引っ張って、大きな鳥居をくぐり抜ける。あっという間に二人は水底の世界に到着し、蛍が小さく声を上げた。
「わぁ……!」
 そこは紛うことなき水の底で、時折こぽりと泡が天に向かって上っていく。
「本当に水中だ」
 見上げた先はゆらゆらと揺れる水面、もうすぐ落ちる陽を反射するようにきらきらと光っている。きっともうすぐ星が輝きだすだろう、なんとなく覚えた感情はどこか不安にも似ていて――。
「ね、ね、屋台見よう?」
 早く、と急かすように燈の袖を蛍が引っ張って、意識が戻される。
「ほた、あんまりはしゃぐと転ぶよ?」
「大丈夫!」
 根拠のない自信を口にして、燈を見上げる蛍の瞳は屋台から漂うお腹が空いてくるような香りにキラキラと輝いていて。一番星を探すまでもないな、と胸の内で小さく笑って燈が屋台を見ようかと頷いた。
 食い気が最高潮に達している蛍からすれば、目に映るもの全てが美味しそうで忙しなくあちこちに視線を向けている。下駄の音をからんと鳴らし、はしゃぐ蛍に溜息を零しつつも何かに似ているなと考えて、ふと気付く。
「ああ、犬……」
「え? 何か言ったー?」
「いや、何も」
 そうか、犬に似ているのだとたまに見掛けるポメラニアンに姿を重ねれば、ぴったりと合ってしまって知らずと表情が緩んでしまう。引かれる手をそのままに、呆れたように見せつつも内心ではそんなことを考えては愉し気に蛍の百面相を楽しんだ。
「ううん、クレープにかき氷、りんご飴に綿あめ……ソフトクリームも美味しそう! 燈くんはどれにする?」
 すっかり目移りしてしまって選べなくなった蛍が、燈を見上げてお伺いを立てる。
 それがまた、飼い主を見上げるポメラニアンのようで、燈は笑わないように咳払いをしつつ答えた。
「全部買っていけば?」
「えっ、全部いいの!?」
「残ったら土産にすればいい」
 パパとママにお土産ね、燈くんったら天才……なんて呟く妹に小さく笑って、まずは綿あめからと燈が手早く買い求める。
「綺麗な綿あめ!」
 パステルカラーの青、ピンク、紫の層になった綿あめに蛍が楽しそうに笑って、じゃあ自分はクレープ! と、たっぷりの生クリームとカスタード、それから苺が綺麗にトッピングされたクレープを買った。
 からころと下駄を鳴らし、手にした戦利品を食べ歩く。
「燈くんのも美味しそうだなー……ほたのと半分こ! だめ?」
 期待に満ちた瞳に駄目とは言えず、食べかけの綿あめを蛍へと差し出す。
「どうぞ」
「やったぁ!」
 ぱくりと齧りつく蛍の幸せそうな笑みに、甘やかすのが癖になっているなと内心で少し反省しつつも、この笑顔が見れるならば悪くはないと思ってしまう。
「はい、燈くんも!」
 差し出されたクレープを齧れば、美味しいでしょうとまた笑みを零すのだ。
「美味しいも、幸せも半分こだよ」
「ああ、そうだな」
 ぺろりと綿あめとクレープを食べきって、またふらりと屋台を巡る。
 りんご飴とベビーカステラはお土産に、たこ焼きはどうしよう? なんて相談していると、蛍があっと声を上げた。
「見て、ラーメンもあるよ!」
「本当だ、小さい器だけどラーメンだな」
「燈くん、ラーメン好きだったよね?」
 食べる? と言う彼女の瞳は、ほたも食べたいと雄弁に語っていて。
「半分こするか」
「する!」
 醤油味のラーメンを二人で半分こして、すっかりお腹も満たされた。
「最後に短冊を飾りに行こうよ」
 お土産の袋を手にし、蛍があそこと笹の揺れる方を指さす。
 笹の近くに用意された机に向かい、二人さらさらと短冊に筆を走らせる。真剣な表情をした蛍の願いは、やっぱり家族の幸せ。書き終わり、笹に吊るそうと燈を見遣る。
「ねぇ、燈くんはなんて書いたの?」
 問いかけには答えず、燈は蛍の届かないような位置へと短冊を結び、悪戯が成功したような瞳を彼女へと落とす。
「もう、それじゃ願い事が見えないよ」
 ぷう、とむくれた頬を優しく撫でられて、つい蛍の頬が緩む。そのまま蛍も短冊を吊るし、二人で揺れる笹の葉を眺めた。
 本当は見なくてもわかってる、きっと願いは一緒なのだから。
 願い事が叶いますように、そう願いながら見上げた水面には星が瞬いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

波瀬・深尋
キトリ(f02354)と

藍色の浴衣に身を包み
まずは屋台を散策へ

周りの景色に
視線をきょろきょろさせてる様子が可愛くて
つい頬は緩んでしまうけど
優しい眼差しを君に向けつつ
キトリ、何か食べたいのあるか?
俺は、飴細工が気になるけど
リボンとかお前に似合いそうだろ
ほら、と笑いながら差し出して
余ったら何でも食べるから
我慢せず好きなの頼めよ
もちろん、かき氷もたこ焼きも食べようか

星に縁がある俺たちだからな
星を戀うのは欠かせないよ

やがて書き連ねる願い事
キトリが内緒なら俺も内緒な
唇に指を添えて愉しげに笑った

忘れっぽい俺だけど
キトリのことも
過ごした日々のことも
全部、大切にしたいから
(大切な君との日々を忘れないように)


キトリ・フローエ
深尋(f27306)と
浴衣を着ていくわね

すごーい!
揺らめく景色にそわそわ心を踊らせつつ
視線はあちらこちらを行ったり来たり
大きなみんなの食べ物は一口でお腹がいっぱいになるけれど
今日は深尋がいるから安心ね!
差し出された飴細工はとっても可愛くて
食べてしまうのが勿体ないくらい
でも、お言葉に甘えて小さな欠片を口に
いつになく甘くて美味しく感じられるのはきっと
深尋が一緒にいるからね
かき氷もたこ焼きも美味しそう!
一口頂いてもいい?と笑って

星を戀うお祭り
とっても素敵な名前よね
あたしには大きな短冊に小さな文字を綴る
お願いごとはね、…内緒!

(…あたしはとっても小さいけれど、それでも
あなたを照らす星になれますように)



●一番星に
 大きな湖のほとりにそびえ立つ赤い鳥居を見上げ、キトリ・フローエ(星導・f02354)がひらりと蝶のような翅を羽ばたかせて波瀬・深尋(Lost・f27306)に向かって振り返る。
「見て、深尋!」
 小さな身体いっぱいに楽しいを詰め込んだように、沢山のフリルが施されたミニドレスのような花色の浴衣に身を包んだキトリが、小さな指先を湖面へと向けた。
「何か見えたか?」
 星が瞬く夜のような藍色の浴衣に、藤黄色の角帯を締めた波瀬・深尋(Lost・f27306)がキトリの横に顔を並べ、指の先を辿る。その先には水中にある大社がゆらりと揺れて、並ぶ屋台の赤や黄色の横幕やのぼり旗が見えた。
「本当に水の中に大社があるのよ!」
 勿論、屋台も! と、キトリが瞳を輝かせる。
「それじゃあ、実物を見に行こうか」
 鳥居をくぐれば水中の大社に行けると、案内をしてくれた子は言っていた。
 キトリをエスコートするように手を差し伸べれば、小さな手が深尋の人差し指に触れる。視線を交わして、どちらからともなく笑みを浮かべると、二人で大きな赤い鳥居をくぐり抜けた。
 くぐり抜けた先は確かに水中で、思わず顔を見合わせる。
「すごーい! 本当に水の中だわ!」
「陸と変わらないように息も出来るし動けるのに、不思議だな」
 つい、と指を動かせば水中の抵抗感はややあるものの、ほとんど普段の動きと変わりない。動きを確かめる深尋の隣で、キトリが底から溢れ天へと向かう泡に目を奪われたり、陸とは違う揺らめく景色にそわそわと翅を揺らして、今にも飛び出していきたいくらいのわくわくを抑えたりと忙しない。
「キトリ、屋台を見に行こうか」
「ええ、勿論よ!」
 境内の石畳を挟むようにして並ぶ屋台は数も多く、キトリが視線をあちらこちらに彷徨わせる。その様子が可愛らしくて、つい深尋の頬が緩んでしまう。
「深尋は何が食べたいのかしら?」
「キトリ、何か食べたいのあるか?」
 同時に出た言葉に二人で笑い、それぞれが少し悩んでから食べたいものを言い合う。
「俺は、飴細工が気になるかな」
「あたしはそうね、かき氷もたこ焼きに……ううん、もう少し悩むことにするね」
 大きなみんなの食べ物はキトリには大きすぎて、ほんの少しでお腹がいっぱいになってしまうから。
「先に深尋が気になる飴細工を見に行こうよ!」
 キトリの言葉に頷いて、深尋が飴細工の屋台で立ち止まる。
「わ、すごく綺麗ね」
「リボンとか、お前に似合いそうだな」
 今日の浴衣に合わせたような、花色の薄いリボンはまるでキトリの翅のよう。リボンの形の飴細工を手に取って、お代を渡してキトリの方へと差し出す。
「ほら」
「こんなに綺麗で可愛いのに食べられるなんて、なんだか勿体ないくらいね」
 でも、お言葉に甘えてと本物のリボンにしか見えない飴細工の端っこを小さな口でパキンと齧る。
「甘くて美味しいね」
 いつになく甘くて美味しいのは、きっと深尋が一緒にいるからね。
 そう言って、口の中のしゃりっとした甘さにキトリが蕩ける様な笑みを浮かべる。それが嬉しくて、深尋も目を細めてリボンの先を齧る。広がる甘さに頷いて、キトリと一緒にいるからだな、と笑った。
「さ、次はキトリの番だ。余ったら何でも食べるから、我慢せず好きなのを頼めよ」
 まるでキトリの懸念を見抜いたかのような深尋の言葉に、キトリがぱちりと目を瞬かせる。
「そう、そうね、深尋が一緒にいるからね!」
 遠慮なく頼むぞ、と意気込んで、キトリがたこ焼きが食べたいと指さした。
 舟皿の上に行儀よく並んだたこ焼きにはとろりとしたソースとマヨネーズ、ふんわり踊る鰹節に青のりのアクセント。
「一口頂いてもいい?」
 そう笑ったキトリに、絶対に熱いから、と深尋が半分に割ってふうふうと冷ましてくれる。
「んん、美味しいね!」
「ああ、美味しいな」
 たこ焼きに舌鼓を打ったなら、今度はかき氷だとキトリが翅をぱたぱたと翻す。
「味は何がいい?」
「ええっと……これ!」
 キトリが選んだのはまるで一番星が出る頃のような空色をした氷の上に、黄色の小さな星型ゼリーが鏤められたかき氷。小さなスプーンに氷とゼリーをのせてもらって、ぱくりと食べれば広がるのは程よい甘さとレモンの酸っぱさ。
「甘くって酸っぱくって、美味しい!」
 星のゼリーはレモン味だったのね、とキトリが頬を緩ませる。
「ほんとだ、甘酸っぱくて美味しい」
 時折、キトリに氷を差し出しながらも、言った通り深尋がぺろりと平らげてくれた。
「ごちそうさま!」
「美味しかったな、また食べよう」
「勿論よ!」
 二人笑顔で境内を歩き、揺れる笹の葉の前で立ち止まる。
「星を戀うお祭り、とっても素敵な名前よね」
「星に縁がある俺たちだからな、星を戀うのは欠かせないよ」
 そうだろう? と、深尋がキトリに視線を遣れば、ええ! とキトリが微笑んだ。
 深尋が近くの机に置かれた短冊と筆を手に取ると、手の小さな種族の為、一回り小さな筆があって、キトリが喜んで同じように手にする。短冊は大きかったけれど、文字を綴るには問題ないのだ。
 互いに見えないように願いを記し、顔を上げる。
「書けた?」
「ええ! でもお願いごとはね、……内緒!」
「はは、キトリが内緒なら俺も内緒な」
 唇に指を添え、愉し気に深尋が笑った。
 揺れる笹の葉に短冊を飾って、二人で眺める。
 忘れっぽい俺だけど、キトリのことも過ごした日々のことも、全部大切にしたいと願いを込めた深尋の短冊が揺れる。
『大切な君との日々を忘れないように』
 その少し上の方で、キトリの短冊がくるりと回る。
『あなたを照らす星になれますように』
 あたしはとっても小さいけれど、それでもと願うキトリの心が寄り添うように、ひらひら、くるり。
 いつの間にか陽は落ちて、揺れる空には一番星が輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬古・戒
【箱2】◎
……ども浴衣っす
店頭で悩んでたら店員さんに拉致られ断れなくて、な…おねーさんによるトータルコーディネート、だ、はは
水の中で息できる、んだよ、な
…手、離すなよ?内緒の話…実はカナヅチだから、入るとき若干怖…
いや、断じて怖いとかソンナコトハてちょわわわばかぁ!

うはぁ屋台すげ
ねー財布さーん、かき氷のブルーハワイ買って?見て見て、舌青くなった
飴細工でウサギ作って貰お
ラファンみたいなウサギひとつお願いしまーす
一緒に食う?飴は噛んじゃう派
指輪ってさぁ…変に意識するじゃんくそッ
短冊……内容公開処刑じゃん?一緒にいたいとか結婚とかそーゆーの…恥ずかしくて書けねぇわぁぁ何考えたぁぁ!?
無病息災て書く!


ラファン・クロウフォード
【箱2】◎浴衣で参加。戒の大人びた浴衣姿に、ぽやーっと見惚れる
口を開けばいつも通りなとこが可愛いらしく愛おしい
照れてソワソワ、浴衣デートだなっと満面の笑み
水は俺も少し苦手。戒の手を握れば苦い思い出は綿飴みたいに溶けて笑顔が残る
戒を抱き上げて鳥居をくぐる。びっくりさせれば怖さ忘れるかなと。お詫びに奢る
手を繋いで屋台を散策。かき氷はイチゴ味。戒のも味見。紫の舌で大笑い。戒といると笑いが絶えない
飴細工の技に目を輝かせ、スイとレンへの土産に赤ベコを2個頼む
硝子細工の屋台で指輪を手に取る。蜻蛉玉の中で咲く青い睡蓮の花
戒の左の薬指に付けて購入。まだ早い?
短冊には、戒の願い事がかないますように、と迷わず書く



●消えぬ炎と水の中
「……ども浴衣っす」
「……!?」
「おい、ラファン、ラファ……死んでる」
 死んでない、とラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)が言おうとしたけれど、出た声は呻くような唸り声ともつかない声だった。
 それもこれも、言い訳をさせてほしい。目の前の可愛い彼女でもある瀬古・戒(瓦灯・f19003)が、普段は男に間違われるような恰好を好む彼女が、いやそれはそれで似合っているし好きなのだけれど――浴衣を着ているのだ。
 白地に黄色の縦縞はレトロモダン風で、青い花が咲く浴衣に白と金の市松文様の帯、帯締めには赤い飾り紐を締めている。髪は短いなりにアレンジが施され、白と黄色と青の花飾りが付いていた。
 ……ほぼほぼ俺色では? ってならないか? 俺はなる。ちなみに、そういう彼は黒地に藍色の縦縞で白い角帯に兎の根付を付けているのでほぼ彼女色である。
「……やっぱ似合わない?」
 店先で悩んでいたら、有無を言わさぬ勢いの店員に拉致られ、厳選された二つの浴衣がいつの間にか目の前に並んでいたのだ。
 青地に白い花が咲く浴衣と、今着ているもの。いつもであれば青い方を選ぶのだけれど、なんとなく思い浮かんだ顔に白地の方を選んだら、あっという間に帯と飾り紐と髪飾り、下駄とセットで合わせられていた。
 買わないという選択肢などなかった、と戒はあの日を思い出して遠い目をする。
「違う、似合ってるから見惚れてたんだ」
 戒の悲し気な顔に我に返ったラファンが、首がもげそうになる勢いで横に振る。
「マジで?」
「マジだ」
 人の言葉を喋られるようになったラファンが、改めて可愛いと囁くように笑った。
「誤解がとけたところで、行くか」
 ラファンが目の前の大きな鳥居を見遣ると、戒がその先に広がる湖に若干怯んだ様子を見せる。
「水の中で息できる、んだよ、な?」
「そのはずだ」
 躊躇う戒が内緒話をするように、ラファンの耳元でごにょりと囁く。
「手、離すなよ? ……実はカナヅチで」
「怖いのか? 俺も少し苦手だが、大丈夫だろう」
「いや、断じて怖いとかソンナコトハ……って」
 思い切ったようにラファンが怖がる戒を抱き上げて、鳥居に向かって一歩を踏み出す。
「ちょわわわ、ばかぁ!」
 お姫様ダッコ!? お前、心の準備! と言うよりも早く、あっという間に水の中だ。
 水中は涼し気で、でも触れる体温は暖かくて。じわりと伝わる温度が苦い思い出を綿あめのように溶かして、ラファンが平気だったな、と笑った。
 このまま屋台を巡りたいところだけれど、戒が暴れるので仕方なく下ろし、それからそっと手を繋いでむくれた顔の戒を見遣る。
「びっくりさせれば、怖さも忘れるかなって」
「その点に関しちゃ、お前の言うとおりだけど!」
「お詫びに好きなもの奢るから」
 機嫌を直して、と屋台に向かって歩き出す。
「うはぁ、水の中の屋台とか、すげ」
 水中なのに、本当に普通に屋台が並んでいるし、湯気だって見える。
「ねー、財布さーん」
「俺が本日の財布だ」
 ンフ、と笑った戒が、かき氷が食べたいとねだって屋台の前で立ち止まった。
「俺はねー、ブルーハワイがいい」
「俺はイチゴ味を」
 青と赤のかき氷を二人でつつき、戒が舌をぺろりと見せる。
「見て見て、舌青くなった?」
「なった、俺も赤くなった?」
「なった」
 色の変わった舌に笑って、今度は味見だと言っては相手のかき氷を奪って笑う。
「アッハ、ラファンの舌、紫色じゃん」
「言っておくが、戒もだぞ?」
 二人で同じものを食べていたのだから、当たり前なのだけれど。
 紫色の舌がおかしくて、二人で舌を見せ合いながら大笑いをして。ああ、二人でいれば笑いが絶えないのだなと、ラファンがしみじみしながらかき氷を食べきった。
 その後も屋台を冷やかし、かき氷で冷えた分温まろうとたこ焼きを食べたり、見たことのない屋台を眺めたりと楽しんで。
「ラファン、飴細工がある!」
 戒が指さす先にはまるで硝子細工かと思うほどの緻密な細工がされた、飴細工の屋台が見えた。
 興味津々といった風に近寄って、飾られた飴細工を見る。この水中を今にも泳ぎだしそうな金魚に蛙、ペンギンに猫に犬、咲き誇る花々と多彩だ。
「ん-、ウサギ作って貰お」
「ウサギ?」
「そ。すいませーん、こっちの彼みたいなウサギひとつお願いしまーす」
 はいよ、と笑った店主が熱い飴を伸ばして切って、あっという間に白兎を作り出す。
「すごいな。じゃあ俺は赤ベコを二つ頼む」
 赤い飴を練って作り出される赤ベコは、戒の鬼火であるスイとレンにお土産だとラファンが受け取った。
「自分のないじゃん、一緒に食う?」
 俺は噛んじゃう派、と戒が兎の耳を齧る。反対の耳を貰って、口の中で転がして甘くて美味いと笑う。またふらりと歩けば、今度は飴細工ではなく硝子細工の屋台が見えて、ラファンが足を止めた。
 目を引いたのは青い睡蓮の花を閉じ込めた蜻蛉玉の指輪。戒が口を挟む暇もなくラファンがそれを買うと、迷わず戒の左手薬指へと嵌めた。
「おま、お前、指輪って」
 変に意識するじゃん、しかも左手薬指じゃん、くそッ! と、照れ隠しに悪態をつく戒に、ラファンが囁く。
「まだ早い? ……予約」
「くそぅ……」
 唸りつつも指輪を外さない戒の手を取って、再びぶらぶらと歩き笹の葉の前で立ち止まった。
「短冊……公開処刑じゃん?」
「何を書くつもりなんだ」
 内緒に決まってんだろ! と叫ぶ戒を横目に、ラファンが綴るのは『戒の願い事がかないますように』であった。
 戒はといえば、一緒にいたいとか結婚とかそーゆーのは恥ずかしくて書けないだろ、とまで考えて、わぁぁ! と自爆する。それからキッと顔を上げて『無病息災』と書いたのだった。
 書けない願いは俺が叶えるから、と囁くラファンにグーパンチを喰らわせるのはすぐのこと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神坂・露
レーちゃん(f14377)。
●群青が基調。白帯の無地浴衣。ぽっくり。

レーちゃんが驚くくらい大人っぽくしてみようかしら。
楽しみだわって思ってたらレーちゃんの方が上だった。
浴衣と雰囲気のギャップが…すっごくいいわ!なにそれ♪
仕草も普段と違うから余計に可愛いわ!凄く可愛いわ!!

…って。あれ?もう行っちゃうの?待って~。
今回は抱き着くのが勿体ないから少し距離を置くことにする。
だって…すっごく貴重なんだもの。その色と柄を選ぶの。
レーちゃんは不思議そうにしてるけど気にしないわ。

美味しそうな食べ物を一緒に食べて。食べ合いっこして。
お互いに気に入ったお面被って。あっちこっち行って。
…えへへ♪楽し~。楽し~♪


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)。
●白基調。琉金柄の浴衣。帯は青色。下駄。

湖の前で待ち合わせる。予定の場所に誘った露の姿がない。
どうやら私が少し早く来てしまったようだからのんびりと待つ。
来たら来たで目を丸くされた。何か落ち度でもあっただろうか。
「水中なのだろう? 淡水魚の柄はおかしくないと思うのだが?」
不思議な表情をしていたので一回転しつつ露へ発言してみた。
…笑顔で身悶えるように身体を震わせているのか理解できない…。

妙な露は放置し湖の中へ。水中に鎮座する社か…面白い場所だな。
屋台のお面を購入し露が食べたいと指さす食べ物を食べて楽しむ。
む?食べ残しが頬についていた?なら指で取ってくれ。
何故舐めとるんだ。全く。



●鳥居の前で待ち合わせ
 カラコロと下駄の音を響かせて、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)が湖のほとり、大きな鳥居の前で立ち止まる。
「ここで間違いないはずだが……」
 ふう、と小さく息をはいて、やはり一緒に来るべきだっただろうかと、この場所で待ち合わせを提案してきた神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)を思う。
 絶対に浴衣よ! と意気込んでいた露のリクエストにより、いつもはゴシックなドレスに身を包むシビラも今日ばかりは浴衣姿。
 髪をゆるりと結い上げ、白地に赤と白の模様を持つ琉金柄の金魚が泳ぐ浴衣に青色の帯を結び、白い帯締めを締めたいつもとは違う装いで、首元に覗くフリルレースの半衿がシビラの白い肌を一層引き立てていた。
 ぼんやりと赤い鳥居と、その奥に見える水底の大社を眺めていれば、後ろから聞こえるのはしゃらしゃらと鳴るぽっくりの鈴音――。
 レーちゃんが驚くくらい大人っぽくしてみようかしら、そう考えて露は群青色をした無地の浴衣に白い帯を締めていた。
 浴衣に柄がない分、帯は花が咲いたような大人可愛い変わり結び。これならきっと、レーちゃんも驚くわ♪ そう思っていたのに、実際に待ち合わせ場所へ着いて驚かされたのは露だった。
「レーちゃん……! すっごくいいわ! なにそれ~♪」
 目を丸くして驚く露に、何ぞおかしなところでもあっただろうかとシビラが首を傾げる。
「何か落ち度でもあったか?」
「ない、ないわよ~! そうじゃないの、そうじゃないのよ!」
 相変わらず露はよくわからん、という顔をしつつ、シビラが湖を指さす。
「今日の出掛ける先は水中なのだろう? 淡水魚の柄はおかしくないと思うのだが」
 不思議な表情をしたままの露に向かって言いつつ、金魚がよく見えるようにとくるりと回った。
「もう! レーちゃんったら可愛いわ! 凄く可愛いわ!!」
 普段とは仕草も違う彼女に、露が感極まったように瞳をキラキラさせて抱き付こうとして踏み止まる。笑顔で身悶えるように身体を震わせる露に首を傾げ、体調でもよくないのかと問い掛ける。
「どうした? 気分が優れないのか?」
「うう、気分は最高潮だし体調だってすっごくいいわ! でも、今日はレーちゃんに抱き付くのは我慢なの……!」
 だって浴衣が着崩れちゃったら大変だもの、と真剣な顔をして言う露に、元気ならいいかと踵を返すとシビラが鳥居に向かう。
「行くぞ」
「あっ、待ってよレーちゃん~!」
 大きな赤い鳥居をするりと潜り抜ければ、そこは水中の世界。ふわりと水に髪が揺れているのに、濡れてもいないし息だってできる。
「綺麗ねぇ、それから、とっても不思議ね~♪」
「水中に鎮座する社か……面白い場所だな」
 そしてシビラはとっても綺麗で可愛い。いつもは黒を基調としているのに、今日は白を基調としているし、何より水の中で泳ぐような金魚の柄が特段珍しい。貴重なワンショットだわ……と呟いて、思う存分心の中のシャッターを切った。
「何してるんだ、屋台を見に行かないのか?」
「行くわ! レーちゃんと一緒に見るわ!」
 ぴょんっと飛び跳ねて、露がシビラの隣を歩く。
 カクリヨの屋台は現代地球とほぼ変わらぬラインナップの屋台が並び、時折見たことのない屋台があって立ち止まってはこれは何だ、あれは何だと聞いては好奇心を満たす。
 特にシビラの興味を引いたのは綺麗に彩色されたお面で、顔の半分を隠すものから全てを隠すものまでと幅広い。狐をモチーフにした物や、猫や兎などがあって、和風の模様は浴衣にもよく合うように思えた。
 気になったものを一つ買って、頭の横にくるようにちょこんと付ければ、露が似合うわと手を叩いて喜ぶ。
「あたしも買っちゃおう、レーちゃんと色違いにしちゃおうかしら~」
 シビラが赤い模様ならば、露は青い模様だと面を手に取って買うと、シビラと同じように頭に付けた。
 お揃いが嬉しくてはしゃぐ露を連れて、屋台を巡る。
「レーちゃん、あたし焼きそばが食べたいわ!」
 美味しそうにじゅうじゅうと音を立てる焼きそばの屋台の前に立ち、一つくださいなと露が声を掛ける。渡された焼きそばを手に、二人境内の端で焼きそばを食べて、美味しいと頬を緩ませた。
「レーちゃんは何か食べたいものないの?」
「そうだな……かき氷か、りんご飴か」
「半分こすればどっちも食べられるわ♪」
 ね? と笑った露に頷いて、りんご飴を半分こにして食べる。じゃくりという音と共に齧って、その甘さとりんごの僅かな酸味との味わいに舌鼓を打った。
「あ、レーちゃん。ここに飴が付いてるわ」
「む? 食べる時についてしまったか? なら指で……」
 取ってくれ、と言おうとした瞬間には、もう露がシビラの頬に付いた赤い飴の欠片を舐め取っていた。
「うふふ、甘いわ~♪」
「何故舐め取るんだ。全く……」
 だって美味しそうだったんだもの、と悪びれもせず笑う露に溜息を零しつつ、シビラがりんご飴を齧る。
 その後も、あっちへ行って、こっちへ行って。
「……えへへ♪ 楽し~、楽し~♪」
 ねえ、とっても楽しいわね、レーちゃん。
 そう笑って、露がシビラの手を取って。
「ああ、そうだな」
 はぐれるよりかはマシだと、シビラが露の手を握る。
 まだまだ屋台を巡るわよ~、と張り切る露がシビラの手を引っ張って歩き出す。
 星戀祭はまだまだこれから、だって一番星が見えたばっかりなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

湖底に佇む大社
水面に煌めく月星の灯りに包まれる様はとても神秘的で
この世界を優しく見守るよう

折角だから浴衣を仕立ててもらったの
優しい水色に水草と白い蓮花が浮かび
その合間を赤い金魚が泳ぐ
どう、似合うかしら?
ヴォルフの浴衣もとっても素敵

屋台でわたあめやりんご飴を買って
二人並んでそぞろ歩く
行き交う人々の表情も楽しそうで
戦争を乗り越えた平和な一時を噛みしめて

短冊に書いた願いは
「平和になった世界で、ヴォルフやみんなと幸せに暮らせますように」
……儚くも切なる願いは、時に踏み躙られ辛い思いもしたけれど……
それでもやはり願わずにはいられない
あなたのその優しい笑顔と、いつまでも共にありたいから……


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

去年の夏に、二人でグリードオーシャンの海底教会を訪れたことがあるが
この世界にもこんな場所があったのだな
清浄なる水に守られた社は荘厳にして美しい

水中とはいえ、普段通り呼吸も会話も食事もできる
境内の賑わいはこの世界が平和になった証
折角の機会だ。存分に楽しもうじゃないか

俺も「ゆかた」なるものを着てみたのだが……
紺一色の極々シンプルなデザインではあるが
おかしくはないだろうか?
ヘルガの浴衣姿も、とても綺麗だ……

短冊に込めた願い
口にはせずとも、想いはきっと同じだ
「ヘルガと共に、平和な世を築き幸せに暮らしたい」
お前の悲しみを拭い去れるように
そして、俺を救ってくれたその笑顔を
いつまでも守りたいと願って



●短冊に願いを寄せて
 ゆっくりと陽が傾きかけた大きな湖のほとり、大きな赤い鳥居の奥を覗き込み、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)がヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)の名を呼んだ。
「ヴォルフ、見て」
 愛しい妻の声に、ヴォルフガングが彼女の視線の先を辿る。
「水中に神殿……? のようなものが見えるな」
「大社と言うのですって」
 現代地球の日本やカクリヨに多く見られる神様を祀った場所、洋風に言えば神殿と言っても差し支えないだろう。
「屋台も見えるのよ」
 大きな建物の更に下方、鮮やかな横幕が水の中で揺れているのが見えた。
「楽しみね」
 そう言って笑うヘルガは、水色地に水草と白い蓮花が浮かぶ合間に赤い金魚がゆらりと泳ぐ浴衣を纏い、白い帯を締めた姿。
 じっと見つめれば、少し恥ずかしそうに似合うかしらと微笑んだ。
「ああ、よく似合っている。とても綺麗だ……」
 いつもと違う和装のヘルガは可憐で、思わず見惚れてしまうほど。
「ふふ、ヴォルフの浴衣もとっても素敵」
「そうか?」
 ヘルガが着ると言ったので、自分も浴衣を着てみたのだが、慣れぬ衣装でどうにもぎこちない動きになってしまうのだ。
「シンプルなデザインではあるが、おかしくはないだろうか?」
 確かに至ってシンプルな紺一色の浴衣だけれど、しじら織りの浴衣は品があってヴォルフガングによく似合っていたし、結んだ白の角帯がまた彼を引き立てていた。
「おかしくなんてないわ、本当に素敵よ」
 ヘルガの言葉を信じるように頷き、そろそろ行こうかと妻の手を取る。
 そうして、そのまま水中の大社への道である、大きな鳥居をくぐり抜けた。
「まぁ……なんて綺麗……」
 揺れる水の中の世界は海とはまた違った美しさがあり、ヘルガが思わず声を零す。
「去年の夏に、二人でグリードオーシャンの海底教会を訪れたことを思い出すな」
 カクリヨにもこのような場所があったとは……と、ヴォルフもヘルガの手を繋いだまま湖の中の世界を見遣った。
「清浄なる水に守られた社は荘厳にして美しい」
「ええ、ここは清らかな力に満ちているわ」
 だからこそ、水中でも呼吸ができるし会話も、食事もできるのだろう。
「この賑わいはこの世界が平和になった証なのだろうな」
 ならば、今は思う存分楽しもうとヴォルフガングがヘルガに微笑んだ。
 手は繋いだまま、境内にずらりと並んだ屋台を眺めながら二人で歩く。
「ヴォルフ、大きな綿あめだわ」
 ヘルガが指さしたのはカラフルな綿あめで、大人の顔が隠れるほどの大きさのもの。一つ買い求め、二人で食べ歩く。
「この天辺の部分はヴォルフの瞳の色ね」
「それなら、この部分はヘルガの花の色のようだ」
 視線を交わしては笑い、甘い綿あめに舌鼓を打つ。
「甘くて美味しいわ」
「たまには悪くないな」
 君と食べる甘いものは格別だから、とヴォルフがヘルガに囁けば、ヘルガが擽ったそうに笑った。
 綿あめをすっかり食べ尽くし、今度はりんご飴がいいわとヘルガが真っ赤なりんご飴を一つ手にして、じゃくりと音をさせて食べる。
「見て、ヴォルフ。皆とても楽しそうだわ」
「ああ、平和そのものだな」
 カクリヨの為に戦ったことは記憶に新しく、守り切った笑顔がここにあるのだと、二人微笑む。カランコロンと下駄を鳴らし、時折顔を寄せ合っては笑い声を響かせて屋台を楽しんだ。
「ヴォルフ、短冊に願いを書くんですって」
 それを笹に吊るして星に願うのが、星戀祭の習わしなのだとか。机に用意されている短冊を手に取って、二人それぞれに想いを込めて願いを綴る。
『平和になった世界で、ヴォルフやみんなと幸せに暮らせますように』
 儚くも切なる願いは、時に踏み躙られ辛い思いもしたけれど、それでも願わずにはいられないのだとヘルガが筆を置く。
『ヘルガと共に、平和な世を築き幸せに暮らしたい』
 口にはしないけれど、想いはきっと同じはずだとヴォルフガングが短冊に記した願いを視線でなぞる。愛しい妻の悲しみを拭い去れるように、俺を救ってくれたその笑顔をいつまでも守れるように――ただそれだけを望んで短冊を笹に吊るした。
 ヴォルフガングの横で、ヘルガも黙ったまま短冊を吊るす。視界の端に映る彼の優しい笑顔といつまでも共に、そう願う。
 笹の葉に揺れる短冊を、いつの間にか浮かび上がった月星の明かりが優しく照らす。
「とても神秘的ね」
 見上げれば水面に煌く明かりが揺れて、優しく湖を包んでいるのが見えた。
「そうだな」
 そっとヘルガの手を握り、ヴォルフガングが水に揺れる短冊を眺め、甘えるように寄り添ったヘルガが彼の視線の先を追う。
 視線の先で揺れるのは、二人が吊るした短冊。
 どうか、願いが叶いますように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千家・菊里
【楽4】浴衣お任せ
水中でお祭とは、妙も涼もあって佳いですね
それに屋台も盛沢山とは、また楽しく充実した一夜になりそうで
(呻く伊織はさらりと流し)
さぁ何から参りましょうか、清史郎さん

冷やしラムネで乾杯も良いですし
敢えて熱々蛸焼というのも乙です
ふふ、清史郎さんの蛸焼愛も熱々ですね(?)
後は締めパフェならぬかき氷も欠かせません
おや、伊織も分かって来たようですね(林檎飴も無論)

飴細工はお土産にも良さそうですね
では俺はまんまる白狐な飴を

(後はのんびり笹と星眺め)
俺達も何か書いてみます?
伊織が品行方正になります様に、とか(善意の笑顔)

仕方ないですねぇ
では此処は――
(天の星々の様に輝く日々を
と満足げに短冊へ)


佳月・清宵
【楽4】浴衣お任せ
水に溺れる滑稽は無し
代わりに祭の風情にゃとことん溺れて良しと
――最高だな
一人また煩悩に溺れてる奴もいるが
(まぁお陰で今宵も飽く事なく
遊興と佳景に浸れそうだと笑い)

偶にゃ酒以外も悪かねぇか
(ラムネ乾杯に乗り)
此程の舞台で姫君どころか蛸焼相手に熱い想いを語る美丈夫たァ、やってくれるな清史郎
(話も味も有難く愉しみ)
ったく、星以上にてめぇらの目の方が輝く勢いだな

飴細工も見事なもんで(自分はお任せで一つ)
留守番組も喜ぶだろうよ
――並ぶと一層食い辛くなるだろうがな?

ああ、そういう願掛けなら俺も心を込めて書いてやるぜ?(悪い笑顔)

(短冊は柄でもないと言うも
書く姿眺め其々の成就を星に馳せ)


筧・清史郎
【楽4】浴衣お任せ

普段の祭りも心躍るが、また違った珍しい赴きで良いな
ふふ、屋台も勿論余す事なく楽しもう(微笑み
ああ、菊里、参ろうか
甘味はやはり特に欠かせない(きり

ラムネで乾杯後
たこ焼きもとても好きだ
鰹節踊る様が愉快で、まんまる愛らしい
だが熱々で侮れぬところもまた、味わい甲斐がある
それに何より、美味だ(謎に語りつつはむり
ふふ、清宵もひとつどうだ?

締めかき氷も甘い盛り付け増し増しで
林檎飴も勿論だ(微笑み
飴細工は、使い魔の氷雨似の狐さんを見つけて

ふむ、では俺も菊里に倣い…伊織に春が訪れますように、とかだろうか(同じく善意の天然笑顔
俺の願い事は、そうだな
心の平穏と楽しい今が、永く続くように――とでも


呉羽・伊織
【楽4】浴衣お任せ
水面も星空も空気もキラキラしてて、浪漫ちっくで良いよネ
なのに俺達はまた白一色…そしてこの色気より食気…!

(浴衣美人に目移り
…する間もなく屋台目移り組を追い!)
食気に完敗…じゃなくて良い夜に乾杯!
ホント色んな意味で熱々だな!(瞬く間に消える蛸焼に笑いつつ有難く頂き)
ハイハイ、デザートの林檎飴も忘れずな~
(全制覇コースを悟った顔)

あ、飴といや雛亀細工とかも頼めるかな?
(はっしまった
可愛すぎて食べられない~!
と細工の完成度に胸中で悶えたのは秘密)

さて、後は星も満喫しないとな~
って余計なお世話!

今に見てろ~!
(とか言いつつも短冊には――天川にも霞まぬ程、輝かしい思い出が続くようにと)



●屋台巡りと星への願い
「ほう……立派な鳥居だな」
 興味深げに湖のほとりに立つ大きな赤い鳥居を見上げているのは、花色の地色に白い桜模様と扇文が入った浴衣、今様色に花菱模様が入った帯を粋に着こなす筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)だ。
「これをくぐると、水の中の大社に行けるそうですね」
 清史郎をにこやかに眺め、千歳緑の地色に千寿菊の模様が入った浴衣、金茶のラインが入った生成りの角帯に差すのは狐の面を模した根付といった装いの千家・菊里(隠逸花・f02716)で、鳥居の向こう側、湖の奥底を指先で示す。
「ああ、確かに見えるな」
 指の先には水の中で揺れる大社と縁日で並ぶ屋台の数々が確かに見えて、黒檀の地色に灰薄紫色のよろけ縞が入った浴衣を着こみ、濃紅の角帯を締めた佳月・清宵(霞・f14015)が腰から下げた瓢箪徳利を撫でる。
「本当に水の中に大社があるんだな」
 しかも星戀祭の真っ最中で屋台が並んでいるとなれば、この二人が行かないわけがないんだよな……と、半ば諦めの境地で鳥居の前に立つ男、呉羽・伊織(翳・f03578)は鉄紺の地色に流水文を浮かべた浴衣、紫紺の帯には二重叶結びの飾り紐という出で立ちで小さく息を零した。
「こんな浪漫ちっくなロケーションなのに、俺達はまた白一色……紅はどうしたんだ?」
 女っ気がないことを嘆いていれば、鳥居をくぐろうとする三人に置いて行かれそうになって、伊織が慌てて追いかける。追いかけた先は紛うことなき水中の世界で、思わずぱちりと目を瞬いた。
「水に溺れる滑稽は無し、代わりに祭の風情にゃとことん溺れて良しと」
 最高だな、と清宵が目の前を浮かび上がっていく泡を目で追いつつ小さく笑う。
「ああ、清宵の言う通りだな。普段の祭りも心躍るが、ここはまた違った珍しい赴きで良いな」
 ずらりと並んだ屋台を眺め、清史郎がにこにこと笑みを浮かべる。
「水中でお祭とは、妙も涼もあって佳いですね。それに屋台も盛沢山とは、また楽しく充実した時間になりそうで」
 ね、と菊里が清史郎に微笑み掛けた。
「ふふ、屋台も勿論余す事なく楽しもう」
 全力で、そんな声が聞こえた気がして、伊織は浴衣美人を目で追ってせめてこの心を慰めようとした視線を秒で戻す。
「この……色気より食気……!」
「ん? 屋台を目の前にして、他に何があるんだ?」
 心底不思議そうな顔をした清史郎に清宵が笑い、伊織に言う。
「煩悩に溺れてるのはお前だけってことだな」
「食気もある意味煩悩だろ!」
「では、俺達は俺達の煩悩を満たしにいくとしましょうか。さぁ、何から参りましょうか、清史郎さん」
 呻く伊織をさらっと流し、菊里が何が食べたいかと清史郎に問うた。
「ああ、菊里、参ろうか。そうだな……甘味はやはり、特に欠かせない」
 きりっとした表情を清史郎が浮かべれば、浴衣の女性から華やかな視線が飛ぶ。
「騙されてる……こんなきりっとした顔をしてはいるけど、食い物の事しか考えてないってのに……!」
「てめぇも本当に飽きないな」
 お陰で今宵も飽きずに遊興と佳景に浸れそうだと笑いながら、清宵が清史郎と菊里の後姿を追い掛けるように歩き出す。
「く……っ」
 完全にいつものパターンだ、と思いながらも伊織がその後に続いた。
「冷やしラムネで乾杯も良いですし、敢えて熱々たこ焼きというのも乙です」
「それなら、先にラムネだな」
 爽やかな甘味で喉を潤せば、たこ焼きが無限に食べられる気がする……という清史郎の希望の元、まずはラムネを買い求める。
「偶にゃ酒以外も悪かねぇか」
 酒の方が好みだが、偶には悪くないと清宵もラムネの瓶を持つ。
 四人揃ってラムネを持てば、瓶の向こうに揺れる仲間の姿が見えて思わず笑みが零れて。
「それじゃ、食気に完敗……じゃなくて良い夜に乾杯!」
 伊織がラムネの瓶を軽く三人の瓶にぶつけると、硝子の涼し気な音が響いた。
「ああ、やはりラムネはしゅわしゅわで甘くて、美味しいな」
「どこか懐かしい味と言いますか……こんな日にはぴったりですね」
 すっかりラムネを空にすると、瓶を返して次はたこ焼きだと清史郎が張り切る。まんまるのたこ焼きが載せられた舟皿を受け取って、香ばしいソースの香りにとろりと目を細めた。
「また女子の視線を感じる……こんな儚げ甘やかな表情だが、考えてるのはたこ焼きの事だぞお嬢サン方……」
 越えられない顔面偏差値の壁を感じつつ、伊織がブツブツと呟く横で、厳かに清史郎が唇を開く。
「俺はな、たこ焼きもとても好きだ」
 しみじみと感じ入った声に、伊織が知ってるケド……という顔を向ける。
「まずはこの鰹節が踊る様が愉快だろう? 見ているだけで楽しい気持ちになれるというのに、たこ焼きの形はこのようにまんまるで愛らしいのだ」
 ほら、と舟皿の上のたこ焼きを見せて、言葉を続ける。
「だというのに、熱々で侮れぬところもまた、味わい甲斐がある。可愛らしい形と香ばしい匂いで俺達を油断させ、冷まさずに齧れば口内やけどの危険性もあるというのに、何故冷めぬうちから食べたいと思うのか……それは何より、たこ焼きが美味だからだ……」
 もう途中から何を言っているのかな? と思っていたけれど、伊織がソウダネ、と相槌を打つと清史郎が満足した様に笑って、たこ焼きを口の中に放り込んだ。
「ふ、あついが、やはりびみ……」
「ふふ、清史郎さんのたこ焼き愛も熱々ですね」
 黙って清聴していた菊里がくすくすと笑って、自分も手にしていた舟皿のたこ焼きを爪楊枝で刺して齧る。
「ホント色んな意味で熱々だな!」
「此程の舞台で姫君どころかたこ焼き相手に熱い想いを語る美丈夫たァ、やってくれるな清史郎」
「ふふ、清宵と伊織もひとつどうだ?」
 くつくつと笑いながら、清宵が清史郎の話を愉しみ、勧められるままにたこ焼きの味を愉しむと、伊織も瞬く間に消えていくたこ焼きに笑って、ありがたく口にした。
 熱々のたこ焼きを食べた後に何を食べるかといえば――そう、かき氷である。
「後は締めパフェならぬ、かき氷も欠かせません」
「ハイハイ、デザートのりんご飴も忘れずな~」
「おや、伊織も分かって来たようですね」
 りんご飴も、勿論食べますよと菊里が笑みを浮かべる。
 その笑みに、あっこれ屋台全制覇コースでは? と気が付いたが口にはせず、悟ったような笑みを貼り付けて伊織が菊里と清史郎の後ろを歩く。
「最初っからわかってたことじゃねぇか」
「そうだけどさ!」
 清宵の零す笑いに苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、それでも楽しそうならそれでいいかと伊織も笑った。
「む、ここのかき氷は色々と増し増しにできるそうだぞ」
「いいですね、増し増しでいきましょう」
 清史郎の言葉にすかさず乗るのは菊里で、伊織と清宵は普通でいいと首を横に振る。
 だって、彼の増し増しといえば生クリームにチョコレートソースアイスクリームにはちみつと追いホイップクリーム増し増しの、更にできれば練乳もかけたい増し増しなのだ。
 食べてもいないのに口の中が甘くなった気がして、清宵は腰に下げた徳利の酒を飲む。その間に、清史郎がかき氷のフレーバーを決めて、増し増しの呪文を唱えた。
「うむ、この黒蜜きなこにソフトクリームを載せてホイップクリームと追い黒蜜増し増しの、練乳がけの上に追いホイップクリームきなこがけで頼む」
 かき氷屋の店主は清史郎を二度見したけれど、プロなので聞き返すことなく注文通りの増し増しかき氷を手渡す。
「なんと美味しそうな……」
 うっとりする清史郎を横に、伊織と清宵は取り敢えず視線を外した。
「見てください、清史郎さん。俺のはイチゴのかき氷にソフトクリームフルーツホイップクリームを載せて練乳をかけ、更に追いアイスですよ」
「おお、菊里のかき氷も見事だな!」
 うわぁ……という顔をした伊織と清宵を置いてきぼりにし、二人は増し増しトッピングのかき氷を完食する。食育とは。
「満足……というやつだな」
「ええ、ですがまだまだ食べたい物がありますから。りんご飴とか」
 これからですよ、ああ、これからだな、とにこやかに話す二人の後ろを食べてもいないのに胸やけを起こしつつ、伊織と清宵が歩いた。
「あ、飴といや飴細工の屋台もあるんだっけか」
「ん、伊織は飴細工の屋台が気になるのか?」
 思わず言った言葉を清史郎が拾い、伊織に向かって振り向く。
「ぴよこと亀の飴細工も作ってもらえるのかって思ってな」
「いいですね、飴細工。お土産にも良さそうですし、寄っていきましょうか」
 確かあちらに、と菊里が案内するままに付いていけば、そこには繊細な細工が施された飴細工が幾つも並んでいるのが見えた。
「見事なもんだな。これなら留守番組も喜ぶだろうよ」
 清宵がその出来栄えに感嘆の声を零し、お任せで一つくれと頼むと、あれよという間に清宵が被るお面のような狐が一匹。
「オレは雛と亀の細工を頼めるかな?」
 伊織の要望にだってさらりと応え、黄色いぴよことまん丸可愛い亀の飴細工が出来上がる。可愛すぎて食べられない~! と、伊織が人知れず胸中で悶えたのは秘密であったが、並んだ二匹の飴細工に食べられないんだろうな、と三人が察していたのは余談である。
「職人技というやつだな」
 その妙技に目を瞬かせつつ、清史郎が使い魔の氷雨に似た狐を見つけて手に取った。
「お土産はこれとこれ、俺はこちらを」
 精巧な花の形をした飴を幾つかと、まんまるな白狐の飴を手にして菊里が満足気に笑う。りんご飴やベビーカステラも手に入れて、ほくほく顔で短冊が吊るされた笹の葉の前に四人が並んだ。
「俺達も何か書いてみます? 伊織が品行方正になります様に、とか」
「ふむ、では俺も菊里に倣い…伊織に春が訪れますように、とかだろうか」
「ああ、そういう願掛けなら俺も心を込めて書いてやるぜ?」
 善意で満ち溢れた笑顔で菊里と清史郎が言えば、清宵が悪い顔をして話に乗る。
「余計なお世話!」
「仕方ないですねぇ」
 笑いながら、それならば自分の願いを書きましょうか、と短冊に願いを記し、それぞれがばらばらに短冊を吊るす。
『天の星々の様に輝く日々を』
『心の平穏と楽しい今が、永く続くように』
『天川にも霞まぬ程、輝かしい思い出が続くように』
 短冊に願いなど柄ではないと断った清宵が、彼らの願いを知らぬままにいつの間にか暮れて星が瞬く水面へと其々の成就を願った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

君影・菫
【nyx3】浴衣はお任せ

ふたりとも浴衣よう似合うねて
すみれ色に映して
うちも褒められてゆうるり咲う

はわ、水の中に続く社なんてすごいなあ
お祭り聞いて煌めく眸
ほんまや息出来とる

縁日と機嫌よく足音鳴らしてぱたぱた
りんご飴も気になっとるけど千織のいちご飴美味しそやな
な、みんなでいっしょにあれ食べよって
たこ焼き屋をゆび指して
ふーふーして食べる!

飴細工…
わ、ちぃ
ノエルがおる、ノエルがおるよ
すごいねえ
なあ、菫色の桜は作れる?
ふふ、千織も桜なんねとほわり

願いごとは迷わずに
『またみんなといっぱい遊べますように』
次をたくさん願う綴り、わがまま、願い
ふふ、ちぃも千織もいっしょならきっと叶うやなて
うれしげに笑み転がして


宵鍔・千鶴
【nyx3】浴衣お任せ

水の中の社で過ごせるなんてね
浴衣でだって普通に前に進めるし

千織も、菫も似合っているよ
美人さんだ
普段の着物の装いともまた違った雰囲気だし

縁日へそぞろ歩いて
千織のいちご飴美味しそう
りんご飴なら食べたことある

菫は…たこ焼き、食べよう!
熱いからふーふーしてな

俺は飴細工が気になるかも
おにーさん、この猫とそっくりに出来る?
使い魔猫を喚び出して見本を
職人さんの手で生まれる猫にわくわく見守り
桜も良いね、お土産にしたい

願い事迷うけど
暫し悩んだまま
ふたりの願い事を聴けば思いついたように
じゃあ、俺は
『皆の願いが叶って永いときを一緒に過ごせますように』
折角だから、少し欲張ってみて良いかな?


橙樹・千織
【nyx3】
浴衣お任せ

二人とも、浴衣とっても似合っていますよ

はわぁ…水中に立派なお社が
お祭りも開かれるだなんて…世界は広いのですねぇ

さてさて、早速お祭りを楽しみましょうか
お二人は何処から行きたいですか?
私は…いちご飴にしようかしら
ぱりぱりの飴と甘酸っぱい苺が美味しいのですよ

あぁ、たこ焼き
香りがそそられますねぇ
火傷しないように気をつけて食べなくては

あらまあ!すごいです!!
ノエルさんそっくり
すみれ色の桜も綺麗ですねぇ
……八重桜とか、出来たりしますか?

願いごと?そうですねぇ…
『みなさんともっと楽しく過ごせますように』
でしょうかねぇ
ふふふ、願いごと叶うと良いですねぇ
それぞれの願いを聞き、ふわり柔く笑む



●猫と桜の飴細工
 からころと下駄の音を響かせて、三つの足音が湖のほとりに建つ大きな鳥居の前で止まる。
「大きな鳥居やねえ」
 白地に菫と瑠璃色のよろけ縞、その上に桜が咲いた浴衣に白い帯を結び、菫の花飾りが付いた帯締めを締めた姿で君影・菫(ゆびさき・f14101)が鳥居を見上げる。
「水の底に大社が見えますよ」
 水底を指さす橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)は生成り地に橙色や柑子色の牡丹や椿の咲く浴衣に、千歳緑の兵児帯を大輪の花のように結んだ姿で、くるりと二人に向かって振り向いた。
「本当だ、水の中で揺らめいているのが見えるね」
 濃藍の色地に星を鏤めた様な金の模様と桜文が浮かぶ浴衣に、黒に紅の献上柄が入った帯を結んだ姿で覗き込んだ宵鍔・千鶴(nyx・f00683)がふわりと微笑む。
「わくわくしてしまうなあ」
 水中のお祭やなんて、と菫の瞳が期待に煌く。
「水中ですのに、息も出来るし水にも濡れないらしいですしねぇ」
「濡れてしまっては、二人の素敵な浴衣が台無しになってしまうからね。千織も、菫も、よく似合っているよ」
 美人さんだ、と千鶴が微笑むと、菫と千織が嬉しそうに笑う。
「ちぃかて、よう似合うてるよ。千織の浴衣も素敵やな」
「ありがとうございます。お二人とも、とっても似合っていますよ」
 普段と違う装いは目に鮮やかで、夏はこうでなくてはと三人の頬が柔らかく緩む。
「そろそろ行こうか」
 いざ、水中のお祭へ。
 三人揃って鳥居をくぐり抜ければ、そこは不思議な水中の世界で。
「きちんと息が出来るね」
「ほんまや、息出来とる」
 水中で息ができるのが面白いと、千鶴と菫が深呼吸をして笑う。
「はわぁ……水中に立派なお社が。本当にお祭も開かれているなんて……世界は広いのですねぇ」
「はわ、水の中に続く社なんてすごいなあ。お祭も長いこと続いてるんやろね」
 見慣れぬ景色に菫と千織が顔を見合わせ、社と境内に続く屋台へと視線を移す。
「水の中の社で過ごせるなんてね。浴衣でだって普通に前に進めるし」
 ほら、と千鶴が前へ進み、僅かに感じる水の抵抗に本当に水の中なのだなと目を瞬かせた。
「さてさて、早速お祭りを楽しみましょうか。お二人は何処から行きたいですか?」
「縁日、屋台……! どれも気になるけど、りんご飴やろか?」
「いいね、りんご飴なら食べたことがあるよ」
 パリパリの飴と、少し甘酸っぱい林檎が丁度良くて美味しかったのだと千鶴が思い出す。
「ではりんご飴屋さんに行きましょうか」
 からころ、からころ、と少しはしゃいだ下駄の音を鳴らし、三人で並ぶ屋台へと足を向けた。
「美味しそやな」
 真っ赤なりんご飴がずらりと並び、その横にはいちご飴も並んでいる。菫と千鶴は初志貫徹とばかりにりんご飴を買い求め、千織は少し悩んでいちご飴に決めた。
 三人の手には大きさの違う紅が一つずつ、さっそく一口齧ればじゃくりという音と共に口の中に広がる甘酸っぱい味。
「パリパリとしゃくしゃくが合わさって、美味しいね」
「甘酸っぱくて、止まらなくなってしまうな」
 じゃくじゃくと菫と千鶴がりんご飴を食べる横で、千織がぱり、といちご飴を齧った。
「いちご飴も、ぱりぱりの飴と甘酸っぱい苺が美味しいのですよ」
 りんご飴とはまた違った甘酸っぱさがあるのだと、千織が頬を緩ませる。
「千織のいちご飴も美味しそうだ」
「千織のいちご飴美味しそやな」
 二人揃って出た言葉に聞いていた千織が笑い、菫と千鶴がりんご飴を齧りながら笑う。
「お土産に買うていこかな」
「そうしようか、この大きさなら帰ってから食べたって、ね?」
 ねー、と笑って、りんご飴を食べきった二人がいちご飴を買うのを千織が微笑まし気に眺めた。
 次は何を食べようかと、またゆるゆると歩き出すと菫が二人の顔を手招いて、悪戯っ子のように微笑む。
「菫?」
「な、みんなでいっしょにあれ食べよ」
 千鶴の問いかけに菫がさした指の先には、蛸の絵が描かれた横幕が水の中に揺れている。
「あぁ、たこ焼き。香りがそそられますねぇ」
「たこ焼き、食べよう!」
 ふわりと漂ってきた香りに、一も二もなく二人が頷いた。
 いそいそと舟皿に盛られたたこ焼きを受け取って、爪楊枝を三本貰う。
「火傷しないように気をつけて食べなくてはですよ」
「そうだよ、熱いからふーふーしてな」
 千織と千鶴からのアドバイスを受け、菫が弾けた様に笑う。
「ふーふーして食べる!」
 焼きたてのたこ焼きは本当に熱いので、外側を冷まして一口、とろりとした中を冷まして一口と、少しずつ三人で食べる。
「熱いけど、美味しいなあ」
「ソースとマヨネーズ、鰹節に青のりがまた良いんですよねぇ」
「うん、熱すぎず冷まし過ぎずで」
 はふはふとたこ焼きを頬張って、あっという間に舟皿一杯のたこ焼きが消えていく。ご馳走様でした、の声が仲良く重なって、次は何にしようかと笑い声が小さく響いた。
「俺は飴細工が気になるかも」
「飴細工……どんなのか、うちも見たいんよ」
「では、次は飴細工の屋台に行きましょうか」
 ゆるゆる歩けば見つかるだろうと、他の屋台を冷やかしながら歩けば、まるで硝子細工のように美しい飴細工の屋台に行き当たる。
「はわ、本物みたいやなあ」
 所狭しと飾られた飴細工は、今にも水中を泳ぎだしそうな金魚から、花びらを落としそうな咲き誇る花、親指ほどの大きさのペンギンや猫、犬や狐と多彩だ。
「おにーさん、この猫とそっくりに出来る?」
 そう問い掛けて、千鶴が使い魔である猫のノエルを喚び出して見せる。
 あいよ、と頷いた店主が黒い飴を熱して伸ばし、すいすいと形を整えていく。鋏で切り込みを入れ、また伸ばし赤い飴を足してくるりと巻いて、あっという間に鍵しっぽを揺らす黒猫の出来上がりだ。
「わ、ちぃ。ノエルがおる、ノエルがおるよ」
 すごいねえ、と興奮気味に菫が言うと、じっと出来上がるのを見守っていた千鶴もノエルと飴細工を交互に見てノエルだ、と呟く。
「あらまあ! すごいです!! ノエルさんそっくり」
 はい、と渡された飴を何度も眺め、ありがとう、素晴らしいよと千鶴が店主に礼を言う。
「なあ、菫色の桜は作れる?」
 わくわくとした声音で菫が訪ねれば、店主が笑って紫色の飴を熱し、桜の形の花びらを何枚か作っていく。それを緑の飴を伸ばして作った茎に飴を接着剤のようにして貼り付け、雄蕊と雌蕊を付ければ桜の飴細工の完成だ。
「すごいねえ、ほんまに菫色の桜や」
 受け取った桜を眺め、嬉しそうに菫が微笑む。
「すみれ色の桜も綺麗なものですねぇ……! 八重桜とか、出来たりしますか?」
 千織の言葉に勿論、と店主が頷いて先ほどと同じ工程で今度は桜色の飴を使って薄い花びらを生み出していく。幾重にも重なる花びらの桜を集め、枝を模した飴に付けると店主が千織に差し出した。
「ありがとうございます……!」
「ふふ、千織も桜なんね。八重桜も綺麗やねえ」
「食べるのがもったいないくらいだ」
 そうして、はたと気付く。こんなに綺麗な飴細工、勿体なくて食べられない……いつまでも飾っておけないのかしら、と。思わず店主に問えば、食べてくれれば嬉しいけれど、飾っておいても大丈夫だと笑っていた。
 なんでも、ここの神様の加護があるので大分と長持ちするのだとか。透明な袋に飴細工を入れて貰って、お土産に桜の飴細工を幾つか買って三人がほくほく笑顔で屋台を離れた。
 残るは短冊への願い事だと、短冊が揺れる笹の葉の前で顔を突き合わす。手にした短冊に筆で願いを書きつけて。
『またみんなといっぱい遊べますように』
 迷わずにそう書いた菫が笑うと、千織も笑顔を浮かべて筆を走らせる。
『みなさんともっと楽しく過ごせますように』
 それまで何を書こうかと悩んでいた千鶴が、二人の願い事を見て手を動かす。
『皆の願いが叶って永いときを一緒に過ごせますように』
 それを見て、また二人が笑う。
「ふふふ、願いごと叶うと良いですねぇ」
「ふふ、ちぃも千織もいっしょならきっと叶うな」
「欲張ってしまったけれど、三人分だから、きっと」
 叶うよ、と千鶴が微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
【XXX・3】
灰の浴衣纏い
コノハも似合うな、浴衣姿

水底に拡がる世界は
斯くもキレイなモノなのか

屋台では食べ物だけじゃなく
遊びも楽しめるんだな

勝負、してみるか

俺が買った暁には
チーズホットドッグと
クレープを奢ってくれ

射的は自信がある
サイバーアイで獲物との距離推し量り
本気で当てよう
負けず嫌い発揮して

コッペリウスも手慣れてるな
銃の扱いに覚えが?
…管狐はカワイイが
運ばせると趣旨が変わるので
今日は留守番願おうか

無骨な手で水風船は釣り難い
ふたりとも器用だな
綺麗な土産の数々
蝙蝠の子も喜びそうだ
俺は何もやれず済まないが

輪投げは勢い余って
在らぬ所に飛んで行く
負けた侭では居られないな
乗った
もうひと勝負しようじゃないか


コノハ・ライゼ
【XXX・3】
紺の浴衣に洋装合わせ

まさしく神秘的ってヤツねぇ
綺麗な景色に祭の空気
何方にも惹かれ燥ぎ

うんうん、やっぱ食べ歩きは醍醐味ヨネ
勝負の声に待ってましたとばかりの賛同
とことん楽しまなくちゃ!

と、勢い込んだのも束の間
射的の銃を構えれば笑顔が固まる
ナンて言うか、苦手じゃナイのよ?ちょっと相性が悪いd……
ちょっとナンで当てれるのよぉ
ねぇ、くーちゃんに運んでもらうのはダメ?
影から管狐を出そうとしたり引っ込めたり

投げ輪も似たようなモノデスヨネ
水風船釣りの繊細な動きなら
まあ、無難なトコだけど
あら、お土産ならコレも綺麗ヨ。持ってく?

恐るべし祭屋台……と惨敗嘆きつつ
たこ焼き食べたいからもう一勝負しましょ!


コッペリウス・ソムヌス
【XXX・3】
水の中でお祭りなんて珍しい光景だね
其々らしい浴衣は似合ってて素敵だと思う
さぁ存分に楽しむとしようか
美味しいものを賭けて皆で勝負
オレはカキ氷とリンゴ飴が好きかなぁ

射的は似たような形のガジェットも使うけど
銃の扱いは可もなく不可もない感じで
ふたりの遣り取り見てる方が楽しかったかも

水風船釣りはちょっと興味深いね
沢山取れたひとが勝ちで良いのかな?
気になる綺麗な絵柄は
肩に乗せてる蝙蝠のライラへ手土産代わりに
持ちきれないくらい取れたら良いね

輪投げはシンプルだからこそ中々奥深そうだ…
勝負の行方は終わるまで
分からないほど燃えたりしない?
勝敗はなんであれ皆でわいわい
遊んだり食べたりとても楽しかったよ



●縁日遊戯
 キラキラした薄氷の瞳で、紺のシンプルな浴衣に赤紅色の角帯型ベルトを締めて、生成りのストールを首に巻いたコノハ・ライゼ(空々・f03130)が大きな鳥居の奥に佇む湖の水底を覗き込む。
「水の中に大社が見えるって、不思議ねぇ」
 ずれたキャスケットの位置を直してコノハが振り向くと、藍墨茶の色地の浴衣に一本独鈷の柄が入った黒帯を締めたジャック・スペード(Jスペード️・f16475)が、どれ、と鳥居の奥を見遣った。
 サイバーアイがピントを合わせるように動き、ジャックの脳内に情報を送り込む。
「屋台も見えるな」
「水の中でお祭をしてるそうだからね。それにしても、二人とも其々らしい浴衣で似合ってるね」
 二人の浴衣姿を褒めながら、コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)が鳥居を見上げた。
「これをくぐれば、水中の社にいけるっぽいよ」
 鳥居を境目にして此方側と彼方側になっているのだろう、コッペリウスがそう言うと互いの浴衣のここがいい、を言い合っていたコノハとジャックが顔を見合わせる。
「百聞は一見に如かずだな、行くか」
「そうだねぇ」
 カクリヨの神秘を体験してみようか、と三人で鳥居の向こうへ足を踏み入れた。
「水底に拡がる世界は斯くもキレイなモノなのか」
「まさしく神秘的ってヤツねぇ」
 水底でありながら、透明に近い水は空からの光を何処までも通してキラキラと光っている。綺麗な景色に祭の空気とくれば、はしゃいでしまうのも仕方のないこと。
「水の中でお祭りなんて珍しい光景だね」
 人と妖怪が半々くらいだろうか、尾のある者も足のある者も、どちらも持たぬ者だって楽しそうに屋台を冷やかしている。
「食べ物の屋台が多いように思うが、遊びも楽しめるんだな」
「そうね、ココから見えるだけでも射的に投げ輪、水風船釣りが見えるわね」
 ほら、とコノハが指さすと、二人が視線を向ける。度の屋台でも、子ども達が楽しそうに勝負をしているのが見えた。
「勝負、してみるか」
「イイね、折角だもの、とことん楽しまなくちゃ!」
「勝負っていうからには、勝者にはご褒美があるのかな?」
 勝者、ご褒美、という言葉に三人の目がキラリと輝く。
「俺が買った暁には、チーズホットドッグとクレープを奢ってくれ」
「アタシが勝ったらたこ焼きねぇ」
「オレはカキ氷とりんご飴が好きかなぁ」
 話が決まれば後は早いもの、まずはすぐそこに見える射的で勝負をしようといそいそと台の前に立つ。一発目は練習だと、三人並んで射的の銃にコルクの弾を詰めた。
 まずは射的には自信があると自負するジャックが、サイバーアイを用いて獲物との距離を推し量り、引き金を引く。
「ん?」
「わ~」
「なるほど水中……」
 コルクの弾がポン! と小気味のいい音を立て、ジャックが狙った獲物に一直線に走る。……走るのだが、常よりもその速度が遅いのだ。
「速度が遅いだけで軌道と威力は変わらないようだな」
「コルクだからなのかな?」
 どうなのだろうか、とコノハが射的屋の店主を見れば、さて? というように笑うばかり。けれど、確かに弾は獲物スレスレを飛んでいくのが見えた。
「角度を修正すればいけるな」
 お次は誰が? とジャックが視線を送ればコノハが銃を構えて――それまで浮かべていた笑顔が固まった。
 そして、固まったまま狙いを定めて引き金を引く。ゆるゆると飛んでいくコルクの弾は、当たるまでもなく見当違いな方へ飛んでいく。
「コノハ?」
「イヤね、ナンて言うか、苦手じゃナイのよ?ちょっと相性がわる……」
 苦手なんだな、と思いはしたが二人は口には出さなかった。
 そして、そっとコッペリウスが銃を構えて引き金を引いた。
「ちょっとナンで当てれるのよぉ」
「やるじゃないか。コッペリウスも手慣れてるな、銃の扱いに覚えが?」
「似たような形のガジェットも使うけど、銃の扱いは可もなく不可もなくだよ」
 運が良かったみたいだとコッペリウスが笑うと、残りは四発あるのだから総合的に的を落としたものが勝ちだと話が決まる。
「ねぇ、コレもしかしなくてもアタシってばハンデもらってもよくナイ?」
 射的が絶望的だと悟ったコノハが、本格的な勝負が始まる前に食い下がった。
「くーちゃんに運んでもらうのはダメ?」
 自分の影から管狐である黒狐をひょこっと出して、二人に見せる。
「…管狐はカワイイが、運ばせると趣旨が変わるので今日は留守番願おうか」
「あと四発あるし、ね?」
 二人の言葉に、ダメかぁ……と項垂れつつ、くーちゃんを引っ込めた。
 さて、結果はといえばサイバーアイで細やかな調整を入れたジャックがその後しっかり四発の弾を当て、第一回射的大会の優勝を掻っ攫っていった。
 二位は二回当てて二回外したコッペリウスで、三位は結果は言わないけれどコノハであったことを記しておこう。
「ではまずはチーズホットドッグを奢ってもらおうか」
「ハイハイ、任せてネ!」
 半ば自棄になりつつも、三人分のチーズホットドッグをコノハが買って、二人に渡す。
「いただきます」
「ありがとう、いただきます」
 出来立てのチーズホットドッグを齧れば、唇を尖らせていたコノハの機嫌も一気に直って、次の勝負は勝つからネ! と盛大なフラグを立てた。
 ぺろりと平らげると、次の勝負は何にしようかと屋台を見て回り、投げ輪をしようと三人で輪っかを持って得点の高い場所を狙って投げた。
「投げ輪も似たようなモノデスヨネ」
 ノーコンとは言わないが、何がどうしてそうなるのかというほどコノハの投げた輪っかが外れるのだが、なんと今回は仲間がいたのでコノハの機嫌は悪くない。
「こういうのを勢い余ってというのだな」
 ジャックであった、彼が投げる輪っかは軌道は正確なのだけれど彼の言う通り、勢いが付き過ぎていた。
「輪投げはシンプルだからこそ奥が深いね……」
 良くもなく悪くもなくな結果だったコッペリウスが勝者となり、今回は俺が奢ろうとジャックがりんご飴を三つ買って二人に手渡す。じゃくじゃくと甘酸っぱいりんご飴に頬を緩ませ、次はどうしようかと屋台を巡る。
「あ、水風船釣りなんてどう?」
 これならコントロールはそこまで関係ないし、無難だろうとコノハが提案すると、三人でこよりを手にして水風船が浮かぶ水槽の前にしゃがんだ。
「綺麗な柄が多いんだね、沢山取れたひとが勝ちで良いのかな?」
 綺麗な絵柄の水風船を釣って、肩に乗せている蝙蝠――ライラへの手土産代わりにしようとコッペリウスが張り切る。
「あら、お土産ならコレも綺麗ヨ。持ってく?」
 順調に釣り上げているコノハがお勧めの水風船を見せながら、次の獲物を狙う。
「ふたりとも器用だな。これは中々……難しくないか」
 ジャックの武骨な手では釣り難いのか、悪戦苦闘して何とか一つを釣り上げようとしたところでこよりが切れた。
 結果、コノハとコッペリウスが同点でジャックの負けと相成った。
「オレはさっき買ったから、選ぶ権利はコノハに譲るよ」
「たこ焼き! たこ焼きを食べるわよ」
 ウッキウキでコノハがたこ焼き屋の前に立つと、ジャックが笑いながら舟皿を受け取ってコノハとコッペリウスに渡す。
「ン、熱いけど、これがたこ焼きなのヨネ」
「外はカリカリで中はとろり、蛸も大きくて美味しいね」
 お土産も貰えて、たこ焼きも奢ってもらってなんだか悪いな、とコッペリウスが笑う。
「ふたりと蝙蝠の子が喜ぶならいいさ」
 しかし負けっぱなしでは性に合わないとジャックが考えていると、コノハがもう一勝負しましょ! と誘いをかけた。
「乗った、もうひと勝負しようじゃないか」
「勝負の行方は終わるまで分からないほど燃えるものだしね」
 次に勝った人が優勝でもいいくらい、と三人で笑って次の勝負へと繰り出すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルフレッド・モトロ
カクリヨのお祭に姉御(f09037)を誘った!
水中は俺の得意分野だしな
手を引いて姉御をエスコートだ!

…と気合を入れたはずが
旅団の仲間に声を掛けている姉御を見て驚いた
あ、あの姉御が
普通に女物の浴衣を着ている!?
しかも可愛い!まじか!!


どうしよ
どうせ男モン着てんだろと思ってたから不意打ちを食らった
ソワソワしちまって短冊に書く願いが全然思いつかんので姉御の願いをチラ見

んー別に俺が願わなくても皆健康だし、だいたい息災だし、俺は何食っても美味いと思うし

うん、俺は既に幸せなんだな
なら「この幸せが続きますように」だ

よく見たら姉御も自分の願いがほとんど無ぇじゃん

…よし
「姉御の願いが見つかりますように」も追加だ


桜田・鳥獣戯画
「菊花!」(遠くからハイタッチのジェスチャー)

アルフレッド(f03702)と
水中の社に生身で行けると聞いて!
クローゼットの奥にあった古い金魚模様の浴衣を着ていく
若い頃に着ていたものか、少々幼いがまあよし
…ははは、アルフレッドにはつんつるてんだと思われそうだな

短冊に願いを、か
今の自分が理想的すぎて願いが特にないな!
何か書かねばならんのか? では

・旅団の皆の心身の健康
・疎遠になった皆の息災
・美味いものが食べたい
・アルフレッドが親父さんに会えますように

あとは水咲之杜の風景を堪能する 絶景であろうな
水中での呼吸を試すべく、ふっと空気を吐いたりしてみたい
アルフレッドにもやらせる



●しあわせを願う
 カクリヨのお祭、屋台、金さえ払えば食べ放題。
 この図式が脳内で出来上がったので、迷いなくアルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)は桜田・鳥獣戯画(17歳・f09037)を祭へと誘った。
 何より、水中は海産系キマイラたる自分の得意分野であるし、何なら手を引いてエスコートだって可能だろう。
「完璧じゃねぇ?」
 まあ、アルフレッドの考えを余裕で飛び越えていくのが鳥獣戯画という女なのだが。
 わくわくした面持ちで、待ち合わせたグリモアベースで彼女を待つ。そういや去年は男物の浴衣を着ていたのだっけか、今年もきっとそうなのだろうな、と思いつつ、どんな格好であっても俺がエスコートをするには変わりないぜ! と気合を入れた瞬間であった。
「菊花!」
 鳥獣戯画の声だ、とそちらを見れば、同じ旅団の仲間であり今回ゲートを開いているグリモア猟兵に鳥獣戯画がエアーハイタッチのジェスチャーをしている、至って彼女達にとっては普通で微笑ましい光景。
「あ、姉御ー!」
 思わず叫んでしまったのは、何故か。
 あの! 姉御が! 普通に女物の浴衣を着ている! アルフレッドの脳内からはエスコートはこうやってこう、という算段がすっかり綺麗に消え去って、なんで? どうして? 姉御可愛い、まじか! 可愛い! で溢れていた。
「いやすまん、待たせたな」
 女物の浴衣は着付けが面倒でいかん、と言いながら鳥獣戯画がアルフレッドの前に立つ。
「あね、姉御、浴衣」
「ああ、これか! クローゼットの奥にあったのを見つけてな! 若い頃に着ていたものでな、少々幼いかもしれんが」
 まあよし! と着てきたのだと彼女は言った。
 生成り地と薄藍の色地がバランスよく切り替えられた浴衣、アクセントのように揺れる水草模様の中に赤と白の金魚が泳いでいる。締めた帯は藍色で、白い帯締めがまるで水紋のように見えた。
 黙り込んでしまったアルフレッドに、鳥獣戯画が首を傾げる。
「……ははは、やはりつんつるてんか?」
 めっちゃ似合うって言え、という琥珀の眼差しを背中に感じ、惚けていたアルフレッドが首を勢いよく横に振った。
「いや、ちが、めっちゃ似合ってる!」
「そうか! それならばよかった。そろそろ行こうか」
 ありがとう、言わねば殺すという視線、お陰で事なきを得ましたとアルフレッドが胸を撫で下ろす。そうして、二人はゲートを通り大きな湖の前に出た。
「なるほど、この鳥居をくぐるのだな」
 行くぞ、と躊躇いなく鳥居をくぐり抜けていく鳥獣戯画を追って、アルフレッドも鳥居を抜けて――。
「本当に水の中だな!」
「どうなってんだ?」
 呼吸も陸と変わらずできる、吸って吐いてを鳥獣戯画が繰り返しているのを見て、聞いてはいたが実際に体験すると違うんだなとアルフレッドがしみじみ思う。
「ほんと息どうなってんだ?」
「見ろ、アルフレッド! すっごい息を吹くと泡が出るぞ! 普通に息をしている分には出ん! そうか鼻から泡がぽこぽこ」
「それ以上はダメだと思う、姉御」
 そうか! という鳥獣戯画がアルフレッドにも泡を出すように言うと、言われるままにアルフレッドが肺一杯に息を吸い込んで一気に吐き出した。
「おお! すごいな!」
 ぼこぼこと大きな泡が水上へ浮かんでいくのが楽しいのだろう、鳥獣戯画が手を叩いて喜んでいる。
「いやー面白いな、いかん、ずっと遊べそうだが屋台が私達を呼んでいる」
「食べ歩きしないとな」
 カランコロン、と下駄の音を鳴らして横を歩く女の肩がいつもより華奢に見えて、アルフレッドの胸が高鳴る。どうにもソワソワする気持ちをなんとか食べ物でごまかして、鳥獣戯画の隣を歩いた。
 たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、まずは粉物と麺類からだと食べ歩き、主食の後はおかずだと唐揚げにポテトフライ、焼き鳥にイカ焼きと順当に制覇していく。
「さて締めだが」
「デザートだな、姉御」
 さすがアルフレッド、話が早い! と、鳥獣戯画が手にしたのは綿あめにりんご飴であった。
「かき氷は?」
「無論、これらを食べ切ったらだな!」
 有言実行である、デザートの締めはソフトクリームがのったかき氷で冷たい、美味い、と言い合って、食べ終わるころには短冊が揺れる笹の葉の前だった。
「願いごと、願いごと……」
 食べてる最中はそうでもなかったのに、食べ終わったらどうにもソワソワしてしまって短冊に書く願いが浮かばない。困った、とアルフレッドが鳥獣戯画が短冊に勢いよく書いている願いごとをちらりと見遣る。
『旅団の皆の心身の健康』
 んー別に俺が願わなくても皆健康だし。
『疎遠になった皆の息災』
 だいたい息災だし、まあ縁がどっかで繋がるかもだしな。
『美味いものが食べたい』
 俺は何食っても美味いけど、姉御とならもっと色んなところで美味いもの食いたい。
「うむ、今の自分が理想的すぎて願いが特にないな! だが願いとは他の者の幸せを願うのでも構わないはず」
 そうして、最後に鳥獣戯画が短冊に記す。
『アルフレッドが親父さんに会えますように』
「あ、姉御……!」
「叶うと良いな!」
 そう笑って、鳥獣戯画が短冊を吊るす為に笹の葉の方へと立った。
「うん、俺は既に幸せなんだな」
 思わず浮かんだ笑顔に、アルフレッドが短冊に筆を走らせる。
『この幸せが続きますように』
 これでよし、と筆を置きかけて、よく考えれば鳥獣戯画も自分の願いをほとんど書いていないことに気が付いた。
「よし」
 もう一枚短冊を手に取って、さらりと筆を動かす。
『姉御の願いが見つかりますように』
 これで完璧、とアルフレッドも短冊を吊るす為に鳥獣戯画の隣へと立つのだった。
 どうか、皆の願いが叶いますように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽


本当に大丈夫なのか…?
全身水浸しになったりしないか…?

湖の前で引ける腰
ぐいぐいと指を引っ張るのは
早く行きたいと言わんばかりの水の精霊、紬
意を決してとぷんと沈めば
成程どうして、波打つ毛皮はさらさらのままだ

こういった感覚は
何度経験しても慣れないものだな
何せ水は苦手な性質
半獣の身故にどうしたって克服はしきれない

けれど
はしゃぎあっちへこっちへ
泳ぎ回る紬の嬉しげな様子を見れば
無理を通した甲斐もある

紬、おいで

手にした短冊
己の願いは託さないけれど
お前の事ならば

──紬が、立派な一人前の精霊になれますように

手元を覗き込む紬が小さく首を傾げる
柔く綻んで彼女の水髪を指の腹で優しく撫ぜ

頑張ろうな
(強くなろう、共に)



●水中にて咲く花
 湖のほとりに立つ鳥居を見上げ、本当に大丈夫なのだろうかと華折・黒羽(掬折・f10471)が不安気に鳥居の先を見遣る。水面には大社が見えて、確かにこの先にあるのだと解るのだけれど――。
「本当に大丈夫なのか……? 全身水浸しになったりしないか……?」
 思わず口から突いて出た言葉は黒羽の本心で、どうにも水の中というのに対して腰が引けるのだ。
 そんな彼の指をぐいぐいと引っ張るのは、彼と共にある小さな勿忘草色をした水の精霊、紬であった。
 早く行こうと言わんばかりに引っ張られては、黒羽もこれ以上腰を引けさせている場合ではない。覚悟を決めて、紬に引っ張られるままに鳥居をくぐり抜けた。
「わ……本当に濡れていないのだな」
 確かに透き通る水の中なのに、息も出来るし喋ることもできる、時折波打つ自身の毛皮はさらりとしたままで。
「不思議な感覚だな」
 どうにも慣れぬ感覚だけれど、何せ水が苦手な性質ゆえ、そこは仕方ないと諦めて。
「半獣の身故、どうしたって克服は……」
 しきれるものではないけれど、楽し気に水の中を泳ぎ回る紬を見れば、無理をした甲斐があったものと自分を鼓舞する。
「紬、おいで」
 名を呼べば、するりと泳いで紬が黒羽の肩に乗った。
 彼女を乗せたまま、屋台でも冷やかそうかと歩き出す。何か食べようかと紬を見れば、綿あめに興味津々の様子。
「水中で綿あめ……」
 やはり不思議だなと思いつつ、小さめの綿あめを買って二人で食べる。甘いそれは紬も気に入ったようで、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
 綿あめを食べながら屋台の通りを抜け、短冊が多く飾られた笹の前に出る。近くに設置された机には短冊と筆が用意されていて、短冊を一枚手に取る。
 己の願いを託すことはないけれどお前の事ならばと、黒羽が筆を手にして短冊に願いを込めた。
『紬が、立派な一人前の精霊になれますように』
 流れる様な美しい文字を紬が覗き込み、なんて書いてあるのかと小さく首を傾げる。その仕草が可愛らしくて、黒羽は紬の水髪を指の腹で優しく撫でた。
 もっと、とねだるように擦り寄る紬に柔らかく微笑んで、何度か撫でてから短冊を笹の葉へと飾った。
 水の中、黒羽が書いた短冊の周りを紬が踊るようにくるくると回る。
「……頑張ろうな」
 強くなろう、共に。
 そう願いを込めて、黒羽は短冊と紬を眺めて笑みを零した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

飛砂・煉月
有珠(f06286)と

息が出来る水の中なんて何か懐かしいね有珠
今度はもうひとりの友人も誘おうかなんて
でも今は少し独り占めしたくて

浴衣は去年仕立ててもらった
彼岸花の赫と夜の黒の装いに花火打ち上がる纏い
ホントだ色、対だ
有珠も似合ってるよ、キミは綺麗だね

縁日、有珠は何したい?
指された林檎飴
もしかして、なんて期待は胸に
じゃ食べよってへらりと笑ってどれにしよーかなって覗く
ハクはオレと一緒のやつな
ん、林檎飴美味しいよなって
此方も誤魔化したのか、気づかない振りをしたのか

あ、願い事もしてく?
『少しでも多く永く、有珠と一緒に過ごせます様に』
命短くとも希う
結び叶うなら
それからキミの色々な顔も見れます様には裡に秘め


尭海・有珠
レン(f00719)と

そうだな、また三人で出かけるのも良い
懐かしいな、あのときは水着だったな
けれど今日は浴衣。また違った気分で楽しめる

浴衣は白地に青い牡丹
色合い、対称的になったな
レンの良く似合ってる、かっこいいね

縁日に来たら、目についたものに手を出そうと思ってたんだが、と視線を巡らせて
林檎飴で止まる
あれが食べたい
赤に惹かれたのは、多分レンの瞳の印象が色濃く残っていたからなのは自分だけの秘密
甘くて美味しい林檎飴、好きなんだ、と笑ってちょっとだけ誤魔化してしまうけど

願い事、そうだな……
『レンと一緒に楽しいことを沢山できますように』かな
出来れば、君の笑顔がもっと見れますように、と心の裡で付け足して。



●こいねがう
 広い湖のほとりに立つ大きな鳥居の前で、飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)が指をさす。
「有珠、水の底に大社が見えるよ」
 その声に、尭海・有珠(殲蒼・f06286)が指の先を辿って視線を遣れば、揺れる水の中に大きな大社が建っているのが確かに見えた。
「本当だ、水の中の大社か……この鳥居をくぐれば行けるのだろう?」
「そう言ってたね」
 案内役の言葉が嘘な訳はないし、百聞は一見に如かずだよと煉月が有珠に手を差し出す。その手の平に自分の指先をのせれば、優しく手を引かれて二人鳥居をくぐり抜けた。
 鳥居の先は見えていた向こう側とは違い、清らかな水の中で二人して顔を見合わせて目を瞬く。
「息が出来る水の中なんて、何か懐かしいね有珠」
「そうだな」
 思い出すのは去年のグリードオーシャンでの出来事、もう一人の友人と訪れた島で遊んだ記憶。
「今度はもうひとりの友人も誘おうか」
 なんて口にするけれど、今は少しだけ君を独り占めしたくて、それを笑顔でごまかした。
「また三人で出かけるのも良いな」
 懐かしい、と有珠が口にして、あの時は水着だったと笑みを浮かべる。
「そうだったね、海だったし」
「今日は浴衣だから、また違った気分で楽しめるな」
 そう言って、有珠がじっと煉月の浴衣を見つめて、自分の浴衣と対のようだと呟いた。
 煉月の浴衣は黒地に彼岸花の赫と花火が打ち上がる装いで、月色の帯を締めたもの。
 有珠の浴衣は白地に青い牡丹が幾重にも咲いた装いで、瑠璃色の帯に金魚の飾りが付いた帯締めを締めたもの。
「ホントだ。色、対だ」
 まるで揃いで誂えたようだと、二人で笑って。
「レンの良く似合ってる、かっこいいね」
「有珠も似合ってるよ、キミは綺麗だね」
 絡む視線は水の中でも温かくて優しくて、手を繋いだまま二人で屋台に向かって歩きだす。
「縁日、有珠は何したい?」
「そうだな……縁日に来たら、目についたものに手を出そうと思ってたんだが」
 どうしようか、と視線を巡らせて、不意に有珠の動きが止まる。
「有珠?」
「レン、あれが食べたい」
 有珠が指さしたのは赤い赤い、真っ赤なりんご飴。
 ぱちりと同じような赤い瞳を瞬かせ、もしかして、なんて期待に膨らむ胸を抑えつけながら煉月が頷く。
「じゃ、りんご飴食べよっか」
 へらりと笑って彼女をエスコートして、りんご飴の屋台の前で立ち止まる。
「どれにしよーかな」
 りんご飴を覗き込む煉月を横目でそっと眺め、本当は、赤に惹かれたのは多分レンの瞳のせいなのだけれど、それは自分だけの秘密にしようと有珠が小さく頷いて、自分もりんご飴を選ぶ。
 レンのような透き通るような、それでいて赤くて紅くて赫い、りんご飴。
「そんなに好き?」
 熱心に赤いりんご飴を見つめる有珠に、何をとは言わず煉月が問い掛ける。一瞬どきりと胸が弾んだけれど、それを隠すように有珠が頷く。
「ああ、甘くて美味しいりんご飴、好きなんだ」
「ん、林檎飴美味しいよな」
 そう、お互い笑ってごまかして、りんご飴を手に取った。
「アイツにも土産で買っていくか、オレと一緒のやつ」
「きっと喜ぶ」
 お土産は袋に入れて貰って、二人りんご飴を片手に持ってまたゆるりと屋台を歩き出す。時折齧るりんご飴の音はじゃくりと響いて、美味しいと二人笑みを零す。
「甘いのに、少しだけ甘酸っぱくて、美味しい」
「そうだな、飴がパリっとしててりんごがサクっとしてて」
 そうして、また少し黙って、りんご飴を齧る。
 美味しいね、また食べよう、なんて話しながら屋台を抜けて辿り着いたのは短冊が飾られた笹の前。
「あ、願い事もしてく?」
「願い事か……そうだな、していこうか」
 笹の葉の近くにある机に向かい合わせに座って、短冊と筆を手にして何を願おうかと考える。少しだけ考えて、有珠がすっと筆を動かす。
『レンと一緒に楽しいことを沢山できますように』
 うん、これが一番の願い事。
 出来れば、君の笑顔がもっと見れますように、と心の裡でそっと願って、願いごとを短冊に書く煉月をちらりと見遣った。
 そんな有珠の視線に気付くことなく、煉月は短冊に願いを記す。
『少しでも多く永く、有珠と一緒に過ごせます様に』
 命が短くとも、そう、希う。
「有珠は書けた?」
「ああ、書いた」
 それじゃあ笹に飾ろうか、と立ち上がって沢山の短冊が揺れる笹の枝に短冊を結び付ける。
 ああ、どうかこの短冊が結び叶うなら。
 キミの色々な顔も見れますように、と胸の裡に秘めて煉月が楽しそうに短冊を結ぶ有珠を柔らかな瞳で見つめた。
 笹の葉が水に揺れる、天を仰げば星々が美しい光を湛えて水面にキラキラと光っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『胡毒蝶の艶女・遊々』

POW   :    颶風の舞
【舞うように扇を煽ぐこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【凄まじく毒々しい竜巻】で攻撃する。
SPD   :    伽日良の鐵
【サソリのようにうねる尻尾(麻痺属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    蠱惑の銀煤
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【翅】から【出た鱗粉を吸うと敵を魅了し混乱させる攻撃】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●水中相談室
 すっかり日は暮れて、境内の灯篭や提灯がぽわりと灯る。柔らかな灯りは水の中の世界を優しく照らし、水底から天へ向かう泡が蛍のように光った。
 それはまるで、星が空へと還るかのよう。
 神秘的な光景に見惚れる者や、星に願いを託す者がいる中で動き出したのは『胡毒蝶の艶女・遊々』達である。
『おやまぁ、なんだか悩みがおありの様子。こんな祭の夜にどうなすったのでしょう?』
 蝶の翅をひらりと羽ばたかせ、水の中を踊るように飛んでは悩みがありそうな者の前で優し気な笑みを浮かべて、皆一様にこう言うのだ。
『さぁさ、悩みはわらわに打ち明けて? わらわでよければ助けになりまひょ?』
 その言葉に裏はなく、ただ純粋に相談に乗りたいのだろう。
 どんな相談内容であっても、彼女達なりに真剣に答えてくれるはず。……勿論、たまにとんちきな答えも混じっているのだけれど。
 悩みある者はその大小に関わらず、彼女達に打ち明けてみてはどうだろうか。
 きっと、悩みを相談した後には心が軽くなっているはず――。
猫希・みい
【月猫】

とっても綺麗な光景だね
黎くんの方が綺麗だけど…なんて、えへへ

相談を聞いてくれるみたい
私、ちょっと行ってくるね!
れ、黎くんは待ってて?
秘密の話があるの!
と意気込んで

あの、あの
相談に乗ってくれる、んですよね?
私の話を聞いてください!
実は好きな人が居て…
ちらっと遠くに居る黎くんを見てから
どうやったら両想いになれるか
相談に乗って欲しいんです!

彼は優しくて綺麗で私には勿体ない人だって
わかっていても、両想いになりたくて
アピールしても全然通用しないんです

ふむふむ
わかりました!やってみます!
ありがとうございました!

黎くん、お待たせ!
黎くんも相談を聞いてもらってたの?
ふふ、お互い良い結果になるといいね


月詠・黎
【月猫】
◎(素の口調は現在対みいのみ)

柔らかくあかり灯る水の世界
蛍が如き泡は空へと還る儚き標
俺なぞと比べる迄もなかろう
みいは不思議な事を云う

ほう、相談
みいは聞いて欲しい秘密が有るのだな
では俺も他で話のひとつでもして来ようか
又、後でな

不意に声を掛けられ咲う
ふふ、悩んでる様に見えたかの?
では訊かせて貰えぬか
お主が思う愛と戀の違いを
我には解らぬのだ
否、解らなくなったが正しいかのう
何処へ置いてきてしまったのやら

どの様な返答も途のひとつとして耳馴染ませ
暫しの付き合いに感謝を
優雅な礼を残し纏を翻して

お帰り、みい
俺は相談より意見を聴いていた
…そうだな
今日と謂う時も噺も佳き物に成れば好い
では帰ろうぞ、猫の社へ



●猫の相談、月のお悩み
 淡い光を纏った泡が空へ向かおうとするのを見上げ、猫希・みい(放浪猫奇譚・f29430)がふんわりした耳をぴこりと動かして指先を伸ばした。
 触れた泡は二つに分かれ、踊るように水面へと上っていく。
「とっても綺麗な光景だね、黎くんの方が綺麗だけど……」
 ちらりと月詠・黎(月華宵奇譚・f30331)を見上げ、なんてね、とみいが笑う。
「蛍が如き泡は空へと還る儚き標、俺なぞと比べる迄もなかろう」
 みいは不思議なことを云うのだな、と黎が穏やかな笑みを浮かべた。
 本当なのに、と思ったけれど彼の笑みがやっぱり綺麗だったので、みいは口にせずに黙って柔らかな灯りに照らされる黎を見ていた。
 視界の端に、ちらりと蝶の翅を持つ女性が目に入る。あれが相談を聞いてくれる妖怪、とみいが黎の袖を引っ張った。
「黎くん、あの人」
 言われて見れば、早速誰かを捕まえて話し込んでいるようで。
「相談を聞いてくれるみたい。私、ちょっと行ってくるね!」
「ほう、相談」
「れ、黎くんは待ってて? 秘密の話があるの!」
「みいは聞いて欲しい秘密が有るのだな。では俺も他で話のひとつでもして来ようか」
 また後でと促され、うん! と元気よく返事をしたみいが駆け出した。
「あの、あの」
『どうなさったの、可愛いおひいさん』
「相談に乗ってくれる、んですよね?」
 真剣な顔をして見上げた彼女に、『胡毒蝶の艶女・遊々』がぱちりと瞳を瞬かせ、そうよと笑った。
 私の話を聞いてくださいと言う彼女に頷いて、遊々が聞かせて頂戴なとねだる。
「あの、私……実は好きな人が居て……」
 ちらり、とみいの視線が黎へと向く。つられて遊々の視線もそちらに向いて、あの殿方ねと算段を付けた。
「どうやったら両思いになれるか、相談に乗って欲しいんです!」
『恋バナね、素敵。勿論相談にのりましょう』
 星戀祭の夜にはぴったりだと、遊々が頷く。その頼もしい笑みに安心した様に、みいが言葉を紡ぐ。
「彼は優しくて綺麗で私には勿体ない人だってわかっていても、両想いになりたくて」
『あら、おひいさんはとっても可愛らしいわ。それに好きな殿方と両想いになりたいと思うのは自然なことですもの』
 何にもおかしくないわ、素敵ねと遊々が笑う。
「でも、アピールしても全然通用しないんです……!」
 好きって言っても通じていないっていうか、とみいがしょんぼりしたように視線を下げた。
『一緒にいるのが当たり前になっているのねぇ』
「う、そうかもしれないです……」
『アプローチの仕方を少し変えてみたらどうかしら、押してダメなら引いてみるとか……あとはそうねぇ、特別な日に告白してみるとか?』
「ふむふむ、押してダメなら引いてみる……!」
 特別な日、やっぱりクリスマスとかバレンタインとか誕生日とかかしら、とみいが意気込む。
「わかりました! やってみます!」
『頑張ってねぇ』
「ありがとうございました!」
 なんだか心が軽くなったみたいと、みいが黎の待つ方へと向かった。
 さて、みいが相談に乗ってもらっている間に黎がどうしていたかといえば――。
『男前さん、悩みのありそうな顔だねぇ』
 不意に掛けられた声に自分の事とは思わず、黎は辺りを見回す。
『ふふ、お前さん以外にいないでしょ?』
「……我か」
 自分であったとは、と黎が笑う。
「ふふ、悩んでる様に見えたかの?」
『そうねぇ、わらわには見えたわね』
 ふよふよと、水の中を浮く遊々が頷いた。
「では、訊かせて貰えぬか」
 一拍置いて、黎が言葉を紡ぐ。
「お主が思う愛と戀の違いを」
『愛と戀? 貴方の悩みはそれなのね』
「……我には解らぬのだ。否、解らなくなったが正しいかのう」
 何処へ置いてきてしまったのやらと、艶やかに息を零し、黎が憂いたように唇の端を僅かに持ち上げた。
『難しく考えなくても良いんじゃないかしら』
「難しく?」
『そうよ。貴方にだって好きなものはあるでしょう?』
 そう言われれば、確かにそれは自分の中にある。
『きっと貴方はちょっと忘れてしまっただけなのよ』
 切欠があればきっと解るわ、と遊々が笑う。
『因みに、愛と戀の定義なんて星の数ほどあるけれど、わらわはねぇ』
 戀は手放せなくて、愛は手放せるものよ、と悪戯っ子のような顔で言った。
「……大事なものなのにかの?」
『必要だったらねぇ、そうねぇ。でもできたら手放さずに大事にしたいわね』
 しみじみとした優しい声に、それも途の一つかと黎が耳を馴染ませる。
「礼を言う、参考になった故の」
 優雅な礼を遊々に向け、黎がその場を離れた。
「黎くん、お待たせ!」
「お帰り、みい」
 みいの満足そうな笑顔に、黎が頬を綻ばせる。
「黎くんも相談を聞いてもらってたの?」
「俺は相談より意見を聴いていた」
 意見、とみいが繰り返すように呟く。
「ふふ、お互い良い結果になるといいね」
「……そうだな」
 無邪気な笑みに癒されながら、今日という時も、噺も、佳き物になればいいと黎が僅かな願いを込めて頷く。
「では帰ろうぞ、猫の社へ」
「うん!」
 にゃあ、と鳴く珍しい風鈴をお土産にして――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
◎⭕️
……そういえば相談できる悩み事ってあったかしら?
悩み事はあるけど、今は悩む事に意味がある期間だと思うのよね。だからどう相談したらいいのかもわからないのよ。
悩みというよりは困った事ならあるけど。
ちょうど星の巡りもあって、占う際の直感が鈍りがちなことぐらいかな。幸い時折直感が戻ってくるから仕事には支障は出てないけど。自分の事はあまり見えないんだけどね。
流石にユーベルコードの相談は出来ないし……あ。
例えば、例えばですよ?大型のもふもふ動物を召喚できるとしたら何がいいかな?
むしろ何が似合うと思う?もっふりするならどんな子がいいかしら?
(だんだんズレ始めてる内容に気が付かず、食い気味になっていく)



●相談と言う名の女子会
 ふわふわと浮かんでは上っていく淡い光を眺めながら、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)はそういえば、と思い出す。
「私、相談できる悩み事ってあったかしら?」
 悩み事は確かにあるのだけれど、今は誰かに相談するよりは自分の中で悩みを見つめ、思う存分悩む事に決めたのだ。
 そうする事に意味があると思ったから。
「だけど、そうするとどう悩みを相談したらいいのかしら……」
 ううん、と悩んでから、困ったことでもいいのかも、と思いつく。
「ちょうど星の巡りもあって、占う際の直感が鈍りがちなこと……」
 ううん、でも幸いなことに、時折直感が戻ってくるから仕事に支障は出ていない。それに星の巡りが変われば元に戻るし……と唸っていると、ふよふよと水中を泳ぐように飛んできた『胡毒蝶の艶女・遊々』が藍を見つけて話し掛ける。
『あらあら、何かお困りごと? わらわ、相談に乗る?』
「ううん、流石にユーベルコードの相談は出来ないし……あ」
 ふと顔を上げれば、遊々が笑みを浮かべて藍を見ていた。
『何でも相談に乗るわよぉ?』
「……あの、例えば、例えばのお話なのですけど」
 藍の言葉に遊々がうんうんと頷く。
「大型のもふもふ動物を召喚できるとしたら何がいいかな?」
『大型のもふもふ動物、いやだ絶対可愛いわよそれぇ!』
 想像したのだろう、きゃ、と笑って遊々も何がいいかしらと考える。
『もふもふってやっぱり触り心地? 触り心地よねぇ?』
「ええ、触り心地です」
 毛足のふわふわした大型動物……ほわわん、と二人の脳内に候補が幾つか浮かんでいく。
『猫いいわよ、猫』
「猫もいいですね、ああ、でもひよこも捨て難いです」
『おっきなひよこってだけで可愛いわよね……!』
 熊は? それならパンダでは? 大きな狼もきっと素敵よ、なんて話が盛り上がって、結局決まらないことに気が付いて二人顔を見合わせた。
「むしろ何が似合うと思う?」
『似合う……そうねぇ、貴女の髪色と合うのは狼だと思うのよねぇ』
 なるほど、確かに一理あると藍が考える。
「では、もっふりするならどんな子がいいかしら」
『もっふり……ひよこもペンギンも捨て難いわね』
 わかるわ、と深く頷いて、藍と遊々が固い握手を交わした。
「では、この場合は……?」
 だんだん話がズレ始めているけれど、もふもふ会議に夢中な二人が気付くことはなく、最終的に満場一致で『呼びたいもふもふ動物全部呼べばよくない?』と相成ったのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

津崎・要明

憧れても憧れても、手の届かないものがある。
そんなの俺の人生では当たり前のことだけど、やっぱちょっとキツいなって思う時がある。
出来る事を少しずつやって来たつもりなんだけどね。

本当はもっと効率的に動くべきなんだろう。
でも目の前に助けたい人や許せない奴がいれば、無視できない。

俺なんてちっぽけな存在で、手の届く範囲だって広くない。
今の仕事(猟兵)に就いて、これで出来る事が少しは増えるって思ってた時もあった。
でも、そんなには変わらないんだ。情けなくなるよ。

本当は人を勇気づけなきゃならない立場なのにな。

聞いてくれてありがとう、遊々さん。
え?短冊?
・・・大丈夫だよ、自分の中じゃ優先順位が決まってるんだ。



●その背を押して
 少し浮かれた縁日の空気の中、津崎・要明(ブラックタールのUDCメカニック・f32793)が光る泡を眺めて立ち止まる。そうっと手を伸ばせば、届く前に泡は要明の指の先を通り抜けて水面へと向かっていった。
 憧れても憧れても、手の届かないものがあることを思い出してしまって、小さく溜息を零す。
「そんなの俺の人生では当たり前のことだけど」
 それでもやっぱり、ちょっとキツいなって思う時だってあるのだと、要明は思う。
「出来る事を少しずつやって来たつもりなんだけどね……」
 きっと、少し暗い顔をしていたのだろう、そんな彼に『胡毒蝶の艶女・遊々』が声を掛けたのだ。
『あらお兄さん、何か悩み事でもあるのかしら?』
「悩み……そうだね、悩みなら沢山あるかもしれない」
 そんならわらわに話してご覧な、と遊々が言うので要明は頷いて彼女に話し出す。
「俺は猟兵なんだけど」
『そうみたいねぇ』
 遊々が時折挟む相槌に頷きながら、要明が話を続ける。
「もっと効率的に動くべきなんだろうって思うんだ、でも目の前に助けたい人や許せない奴がいれば、無視できない」
『猟兵さんだったら、当たり前のことじゃないかしらねぇ。普通の、そうねぇ……わらわがむかぁし見た何の力を持ってない人間だって、同じようにしてたわ』
 懐かしそうな目で遊々が言って、それから? と話を促す。
「でも、俺なんてちっぽけな存在で、手の届く範囲だって広くはなくて。猟兵になって、これで出来る事が増えるって思ってた時もあったけど――」
 でも、そんなには変わらないんだと吐き出すように言って、要明が情けないなと笑った。
『本当にそう思うの? わらわは貴方がどんなことをしてきたかは知らないけれど、きっと貴方がいたことで助かった人がいるのでしょ?』
「……それは、いると思う」
『だったら、わらわは充分すごいことだと思うのだけれど。でも、貴方の望みはその上なのねぇ』
 停滞せずに上を目指そうとするのなら、それは間違いなく成長に繋がるはずだと遊々が要明の背を撫でた。
「……本当は人を勇気づけなきゃならない立場なのにな」
『たまには力を抜くことも大事よぉ』
「聞いてくれてありがとう、遊々さん」
 とろりとした笑みを浮かべ、遊々がそうだわ、と手を叩く。
『短冊に願っていけばいいわ』
「え? 短冊?」
 だってそういう日だもの、という言葉に要明が笑って小さく首を振った。
「……大丈夫だよ、自分の中じゃ優先順位が決まってるんだ」
 それだけは間違えないんだ、と要明がどこかすっきりとした顔で水面に向かって飛んでいく光を見上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

波瀬・深尋
キトリ(f02354)と

お前が相談受けてくれるのか?
俺たちの話も聞いてくれよ

ほら、キトリから先にどうぞ
俺は聞かないように離れてるから

本当は相談なんて言われても
咄嗟に思い浮かぶものはなかった
でも、

ちらりと相談中の君の後ろ姿を
ひどく穏やかな表情で見詰め

キトリとの思い出を忘れることが
話が噛み合わなくなることが
こんなにも恐ろしくて

大事にしたい、大切にしたい
──君のことが好きだから、

声を掛けられて我に返る
悪い、相談終わったか
じゃあ、次は俺の番
あ、キトリも傍に居てくれよ
指の腹で優しく君を撫でて微笑む

キトリを幸せにしたいから
どうしたら叶うのか聞きたいんだ

──俺の手で叶えたいから
アドバイスだけ貰えたら嬉しいよ


キトリ・フローエ
深尋(f27306)と

お祭り、とっても楽しかったわね!
なんて話していたら噂の蝶々さん達
あたしが先なの?
考えるけれど
すぐには思い浮かばなくて

蝶々さんの耳元で内緒話みたく聞いてみるわ
…あのね
“好き”の違いを教えてほしいの

だいすきなお友達はいっぱいいるわ
もちろん、彼(深尋)のこともだいすきよ
でも…皆へのだいすきと
彼に対するだいすきは
何だか少し違うような気がして
蝶々さん、わかるかしら?

深尋、あなたの番よ
…どうしたの?
撫でる手が擽ったくて
いつもよりうんと優しい
言われるままに傍で
あなたが紡ぐ言葉に瞬いて
返る答えに耳を傾ける

(あなたがわたしを想ってくれるだけでも幸せなのに
それ以上の幸せを願ってくれるなんて)



●きっと幸せ
 揺れる短冊を眺めていると、辺りからぽうっと光る泡が空へ向かうのが見えてキトリ・フローエ(星導・f02354)が小さく歓声を上げる。
「わあ、とっても綺麗……!」
 まるで蛍のようだと思いながら、波瀬・深尋(Lost・f27306)もその景色を眺めて頷く。
「深尋、お祭、とっても楽しかったわね!」
「ああ、楽しかったな」
 二人で食べた屋台の味も、書き記した短冊も、全てが楽しかったと二人で笑っていると目の端にふわりと浮かぶ蝶の翅を持つ女性達が様々な人々に声を掛けているのが見えた。
「深尋、あの人達かしら?」
「そうみたいだな」
 そっと視線を向けながら、二人内緒話をするかのように小さな声で話す。
「よし、こっちから話し掛けてみるか」
 深尋がすっと前に出て、蝶の翅を持つ女性――『胡毒蝶の艶女・遊々』に向かって口を開いた。
「お前が相談を受けてくれるのか?」
『はぁい? ええ、ええ、そうよ! わらわに聞かせてくれるのかしら?』
「ああ、良かったら俺たちの話も聞いてくれよ」
 勿論よ、と笑った遊々を手招くと、深尋が指先でキトリの背を優しく押した。
「ほら、キトリから先にどうぞ」
「あたしが先なの?」
「ああ、俺は聞かないように離れてるから」
 お先にどうぞ、と促して深尋がキトリの傍を離れる。
『あら、可愛らしいお嬢さんが先にお話を聞かせてくれるのね』
「は、はい! ええと……」
 遊々の言葉に頷きつつも、相談事なんてすぐには思い浮かばなくてキトリが言い淀む。
『慌てなくていいのよぉ、ゆっくりどうぞ?』
「あ、ありがとう!」
 一つ思いついたことを聞いてみようと、キトリが遊々の耳元へと顔を寄せ、誰にも聞こえないようにそっと話し出す。
「……あのね、『好き』の違いを教えて欲しいの」
 恋バナかしら、と遊々はピンと来たけれど、せっつくような真似はせずに話の続きを促すように頷く。
「だいすきなお友達はいっぱいいるわ。だいすきな物だってたくさんあるの」
 それから、とちらりと深尋へと視線を遣って。
「もちろん、彼のこともだいすきよ」
 でも、とそっと視線を遊々に戻してキトリが眉を下げる。
「彼に対するだいすきは、何だか少し違うような気がして……」
 でも、それがどう違うのかがわからないのとキトリは視線を落とした。
「蝶々さん、わかるかしら?」
『それって、なんだかいつも彼の事を考えてしまったり?』
「……そう、そうね」
『たまに彼を見てると胸の辺りがきゅっと切なくなったり?』
「どうしてわかるの?」
 もうそれって恋よ、と言いたいところをぐっと堪えて、遊々は優しい笑みを浮かべる。
『きっとねぇ、あなた以外はわかってるんじゃないかしら』
「えっ」
『でもそれって、人から聞くのじゃだめなのよ。自分で自分の好きの気持ちを見つけないといけないの』
 どうして彼だけ特別に見えてしまうのか、よく考えてと遊々が笑った。
「自分で見つける……あたしの気持ち」
 ぼんやりと胸の奥が温かい。なんだか少しわかった気がして、キトリは深尋と交代する為に彼を呼んだ。
「深尋、あなたの番よ」
「相談終わったか?」
 そう問いながら、本当は相談なんて言われても咄嗟に思い浮かぶものはなかったなと思う。でも、相談中のキトリの小さな背中を見詰めながら、彩られたキトリとの思い出を忘れることが、話が噛み合わなくなることが、酷く恐ろしくなった。
 そうでなければ、戦えないというのに。
 忘れたくない、大事にしたい、大切にしたい――君のことが、好きだから。
「…どうしたの?」
「ああ、悪い」
 ぼんやりと沈みこみそうになった意識を戻して、こちらを見るキトリに何でもないと答えてみせた。
「じゃあ、次は俺の番」
「うん、あたしは離れてるね」
「待って」
 呼び止められ、深尋の指がキトリに触れる。
「キトリも傍に居てくれよ」
 指の腹がキトリの頬に触れ、優しく撫でた。
「わかったわ」
 撫でる指先がいつもよりうんと優しくて擽ったかったから、キトリは思わず笑って深尋の肩へと腰を下ろす。
『次は貴方の番ね、わらわに聞かせてくれるかしら?』
「勿論。俺、キトリを幸せにしたいんだ」
 思いがけず出た自分の名前に、キトリが吃驚したように目を瞬かせる。
「だから、どうしたら叶うのか聞きたいんだ」
『……それ、わらわじゃなくって、彼女に聞いた方がいい気がするけど』
 遊々の視線を受けたキトリは顔を赤くして、首を横に振る。
「うん、でもこれが俺の相談だから」
 俺の手で叶えたいから、アドバイスだけ貰えたら嬉しいという男に、遊々はそうねぇ、とふわりと揺れて笑う。
『ずうっと一緒にいてあげればいいわ』
 それだけ言うと、これ以上は野暮だもの、と遊々が深尋の肩に乗るキトリを見遣る。
 だって貴方は見えないだろうけど、その子もう充分幸せそうな顔をしているんだもの。
 言葉にはせず、お邪魔様と笑って翅を揺らして飛んでいく。
 あなたがわたしを想ってくれるだけでも幸せなのに、それ以上の幸せを願ってくれるなんて。
 ああ、それはなんて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
続いてのお悩みは~こちら! いえす、兄ちゃん(f22865)とー!

すげー、髪の毛霧みたいー!

んふふ。だれかに話せるなら、なやまねーって話!ね。
んー?おれねえ、悩まないからなー。(白痴でいるのはもーやめたんだけどね)

んーんー……そうだ!いまねえ、おれんち素敵ガーデンがあるの。庭ね。
桜の木が何本かあって、たまに夜に花畑ができたりすんのね。素敵でしょ。
それ見てたらさ、おれもなーんか植えたくなっちまって。なんかない?

兄ちゃんも。こーんなレベルの困りごととかでいいんだぜ!ど?なーい?
(ふむふむ聞いてます)ほへー、ナス……ナス餃子とかどーお?皮がナスなの。
あー、家庭菜園もいいなー。


雨野・雲珠
トヲルくんと!/f18631 ◎

わぁ、お爪綺麗。
恥ずかしながら悩みの尽きぬ身ですが、
ひとさまに話せるようなものはあまりなくて…
トヲルくん、何かあります?

お庭の手入れ!すてきすてき、
土に触ると落ち着きますしね…※桜
トヲルくんの暮らしがすこしずつ整ってく様子が嬉しいです
言いませんけど

うーん、そういうことなら……あ!
近所のお爺様の畑を手伝ってるんですけど、
夏野菜の収穫が旬を迎え始めまして。
はい。…すごく、すごくいただくんです。
ナスとキュウリを…そろそろしし唐もくる…
おすそ分けしても消費が全然追いつかなくて。
お勧めの献立があったら教えていただけませんか。

えっ、皮がナスってどうやって?
作り方を詳しく…!



●ガーデニングと夏野菜
 ぽわぽわと光っては水面に上っていく泡を眺め、雨野・雲珠(慚愧・f22865)と茜崎・トヲル(白雉・f18631)が瞳を瞬かせる。
「本当に蛍みたいです……!」
「綺麗だねー!」
 ぽこぽこと浮き上がる泡は尽きることなく、幾つも空に向かっていく。それをきゃあきゃあと楽し気に見ていると、二人の視界の端をゆらりと泳ぐ蝶の翅を持つ女性の姿が映った。
「すげー、髪の毛霧みたいー!」
「え、あっ本当です。わぁ、お爪も綺麗で……!」
『あらぁ、わらわのこと? わらわのことよね、ありがとう、嬉しいわ』
 うふふ、褒められちゃったと近寄ってきたのは『胡毒蝶の艶女・遊々』で、何か悩み事ある? 聞くわよぅ、と二人に向かって笑う。
「悩み、ですか」
『ええそう、悩み。困りごと、そういうのを聞きたいの』
 解決するかはわからないけれど、相談に乗りたいのだと彼女は言った。
「続いてのお悩みは~こちら! ってやつだー!」
「はい、俺も見たことがあります!」
 と、そこまで言ってから雲珠がううんと悩んだような声を出す。
「恥ずかしながら悩みの尽きぬ身ですが、ひとさまに話せるようなものはあまりなくて……」
「んふふ。だれかに話せるなら、なやまねーって話! ね」
『自分で解決しちゃう派なのねぇ、それはそれでいいと思うわ。でもわらわは相談されたいの』
 何かなぁい? と問われ、雲珠がトヲルを見遣る。
「トヲルくん、何かあります?」
「んー? おれねえ、悩まないからなー」
 何も考えないのはもうやめたけれど、と口にはせずにトヲルが笑う。
「ん-ん-……そうだ!」
「何かありました?」
『なぁに? なぁに?』
 そわそわとした雲珠と遊々を前にして、トヲルがあった! と頷く。
「いまねえ、おれんち素敵ガーデンがあるの。庭ね」
 それはもう素敵な庭なのだと、トヲルは語る。素敵ハウスの説明から始まり、桜の木が何本かあって、夜になるとたまに花畑が出来たりするのだと満面の笑みを浮かべる。
「ね、素敵でしょ?」
「すてきすてき、すてきです……!」
『いいわねぇ、一軒家。夢のマイホームなのねぇ』
「そう、それでね。それ見てたらさ、おれもなーんか植えたくなっちまって」
 なんかいいのない? とトヲルが遊々に問うた。
「お庭の手入れ! 土に触ると落ち着きますしね……」
 桜の精なので、土とは馴染みがいい雲珠がうんうんと頷く。
『ガーデニングってやつよねぇ、いいわよねぇ。それなら季節のお花も素敵だし、一緒に住んでるヒト? ヒトじゃない? 彼女の好きなものとかどう? あと、お花が咲いたら誰かに見せたくなって、更にはあげたくなっちゃうだろうから』
 貴方の好きな人が好きな花を植えるのも、きっと素敵と遊々が言う。
「あっそれいーね! すっごくいい!」
 帰ったら聞いてみようとトヲルが笑う。その横で、雲珠はにこにこと話を聞いていた。
 弟分たるトヲルの暮らしが少しずつ整っていくのが、とても嬉しかったので。
「兄ちゃんも。こーんなレベルの困りごととかでいいんだぜ! ど? なーい?」
 言われて、確かに深刻な話でなければ色々とあると雲珠が思い出す。それこそ、本当にどうでもいいことから、ちょっと切羽詰まった困りごとまで。
「うーん、そういうことなら……あ!」
 思い出した、とばかりに雲珠の顔が輝く。
「俺、近所のお爺様の畑を手伝ってるんですけど、夏野菜の収穫が旬を迎え始めまして」
『あっ待って。わらわその話のオチが読めちゃったんだけど』
「え? わかるもんなの?」
 深刻な顔をした二人の間で、トヲルだけが首を傾げている。
「すごく、すごくいただくんです」
 沈痛な面持ちをした雲珠に、遊々も似たような表情を浮かべて、大変ねと頷いた。
「えっお野菜いっぱいもらえるの、いいことじゃないの?」
「トヲルくん、いっぱいが毎日だとどうなると思いますか?」
「すっごくいっぱいになる……?」
 その答えに花丸満点をあげながら、雲珠が深く頷く。
「はい、すごくいっぱいになるんです。ナスとキュウリ……そろそろしし唐もくる……」
『キュウリは一日放っておくと、すごく大きくなっちゃうのよねぇ』
 大きくなったキュウリだって全然食べられるけれど、ただでさえ多い物が大きくなったらさらに大変なのだ。
「おすそ分けしても消費が全然追いつかなくて。お勧めの献立があったら教えていただけませんか」
『そうねぇ、キュウリは胡麻油と塩で和えて胡麻振るだけで美味しいと思うけど』
 アレンジとしてそこにツナとマヨとめんつゆを和えても美味しいし、ツナをささ身にしてもいい。大きいキュウリを炒め煮にするのもいいわよぉ、と遊々が笑う。
「なるほど……!」
 心のメモ帳に刻み付けていると、それまで黙って聞いていたトヲルがほへー、と声を上げた。
「ナス……ナス餃子とかどーお? 皮がナスなの」
「えっ、皮がナスってどうやって? 作り方を詳しく……!」
 そのまんま、ナスの薄切りに餃子の肉種を包んで焼くだけだとトヲルが言う。
「あら、美味しそうねぇ。ナス、胡麻油で焼いて砂糖醤油に漬けるのもいいわよ」
 すりごまをたっぷり入れるのがポイントなのと言って、遊々がナス食べたくなっちゃうわねと呟いた。
「キュウリにナス……あー、家庭菜園もいいなー」
 ガーデニングにお料理に、夢の広がる相談室はその後も暫く続いたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天杜・理生
【天杜2】◎⭕️

そうだな。
昼とはまた違った趣なのがまたいい。

なんとなしに空を見上げていたら視界に入ってくる美女。
はて、悩みごとねぇ。何かあったかな。
どうだい、お前たち。

打ち明けられる妹たちのなんともかわいい相談に
くつくつ喉を鳴らしながら笑ってそれぞれの頭を撫でる。

ああ、そうだなぁ。
相談したいことといえば、僕もひとつ。
いやね、妹たちがかわいくて、ついつい気がついたら
撫でてしまっているんだが、どうしたらいいだろうね?
なんてな。

抱きついてくる妹たちをふたりとも受け止めて
またよしよしと頭を撫でる。


天杜・乃恵美
【天杜2】◎⭕️
引き続きノエミ/モニカに分裂

◆ノエミ
えへへ、ほんとにステキなおまつりだねっ♪
あ、アレがよーかいのおねえさんかな?

ふぇ?おなやみ…。(チラッ)

…あのね、おねえさんみたいにおっきくなりたいっ
そしたら、おにいちゃんとだきゅだきゅできるもん♪
どうすればいいかな?(ジェスチャーで背と胸を作りつつ)
きゃは、くすぐったいよぉ♪(ぎゅむ)

◆モニカ
ああ、兄くんは目一杯抱きしめたいね♪
(無邪気なノエミに対して、恋する乙女の顔でチラ見)

相談かー
身長やサイズには拘らないけど、そうだね…
ステキな和服美人になるコツはあるかい?
兄くんは和風好みでね、もっと悦んでほしいんだ…♪
んっ、兄くんってば…♪(ぎゅむ)



●可愛い妹達といっしょ!
 天杜・理生(ダンピールのグールドライバー・f05895)に抱っこをされたまま笑みを浮かべるのは天杜・乃恵美(天杜・桃仁香と共にありて・f05894)で、クマのぬいぐるみを抱えながら理生と手を繋いで笑みを浮かべているのが乃恵美から別たれたもう一つの人格であるモニカだ。
 三人で淡く光る泡が天へ向かうのを眺めては綺麗だと笑い、泡をつついてみてはまた笑顔を咲かせた。
「えへへ、ほんとにステキなおまつりだねっ♪」
「そうだな」
「素敵なお祭に三人でこられて、よかったね♪」
「ああ、昼とは違った趣なのがまたいい」
 可愛い妹二人が喜ぶのなら、来た甲斐があったと理生も小さく微笑む。それから、ふと水面を見上げれば視界の端に捉えたのは翅をひらりとはためかせ、飛ぶように泳ぐ美しい女の姿。
「おにいちゃん、なにみて……あ、アレがよーかいのおねえさんかな?」
「どうやら、そのようだね」
 自分への視線に気が付いたのか、翅を持つ美女――『胡毒蝶の艶女・遊々』がひらりと三人の元へ舞い降りる。
『あら、素敵なお三方。わらわに相談事はなぁい?』
 悩み事でも困り事でも、なんでも聞くわよと遊々が笑った。
「はて、悩みごとねぇ……何かあったかな」
 ううん、と理生が小さく唸って、腕から乃恵美を下ろして可愛い妹二人に視線を向ける。
「どうだい、お前たちは何かあるかい?」
「ふぇ? おなやみ……」
 そう言われ、乃恵美がモニカをちらりと見遣る。その視線に応えるようにモニカが頷くと、乃恵美が意を決したように遊々に向かって言った。
「あの、どんなおなやみでもいいの?」
『いいわよぅ、わらわに答えられることなら、なぁんでも』
 にこにこと微笑む遊々に、それならばと乃恵美がぎゅっとこぶしを握り締めて可愛らしい唇を開く。
「……あのね、おねえさんみたいにおっきくなりたいっ」
『わらわみたいに?』
 こてん、と首を傾げた遊々に、うんうんと大きく頷いてから乃恵美が言葉を続ける。
「そしたら、おにいちゃんとだきゅだきゅできるもん♪」
「ふ、おやまぁ」
「ああ、兄くんは目一杯抱きしめたいね♪」
 ねー、と乃恵美とモニカが顔を見合わせてから、理生を見上げる。無邪気な瞳と恋する乙女のような瞳に、理生が笑って二人の頭を撫でた。
「ね、だからどうすればいいかな?」
 こーんな感じで背が伸びて、こーんな感じでお胸が出てて、と乃恵美がジェスチャー交じりに問う。
『うふふ、あらあら可愛らしいお悩みねぇ』
 ふよふよと浮いたまま、遊々が微笑ましそうに笑ってから、そうねぇと話し出す。
『やっぱりそこは、好き嫌いなく何でも食べて、大きくなる……しかないんじゃないかしらねぇ?』
「う……すききらい……」
「そうだね、何でも美味しく食べれば大きくなれるよ」
 ダメ押しのように理生にも言われてしまえば、好き嫌いなく食べるしかないと乃恵美が眉間に皺を寄せつつも、がんばる! と頷いた。
『そちらのお嬢さんはどうかしら?』
「アタシ? 相談、相談かー。身長やサイズには拘らないけど、そうだね……」
 モニカがううん、と考えてから、パッと顔を上げる。
「そうだ、ステキな和服美人になるコツはあるかい?」
 遊々を見上げてモニカが言う、確かにモニカから見て遊々は和服ではないけれど和風な美人と言えるだろう。
『和服が似合うようになりたいなら、そうね、姿勢かしらねぇ?』
「姿勢?」
『帯を締めれば背がぐっと伸びるでしょう? あれを普段から意識してるとねぇ、姿勢が綺麗になるのよ』
 着物を着ていて猫背では、着物の魅力が半減してしまうでしょう、と遊々が言えばなるほど、とモニカが頷く。
「モニカはどうして和服美人になりたいんだい?」
 理生がそう問い掛けると、モニカが理生を見上げる。
「だって兄くん、和風好みだよね? だから、もっと悦んでほしいんだ……♪」
「それなら、あたしもわふくびじんになりたいっ!」
 可愛いことを言う、と理生がくつくつと笑って二人の頭を撫でた。
『可愛い子たちねぇ』
「そうだろう? 自慢の妹たちなんだ」
『あなたは悩みはないのかしら?』
 そうだな、と少し考えて理生が遊々に視線を向ける。
「相談したいことといえば、僕もひとつ」
『あらぁ、何かしら。何でもどうぞ!』
「いやね、妹たちがかわいくて、ついつい気がついたら撫でてしまっているんだが……どうしたらいいだろうね?」
 なんてな、と笑った理生に遊々が笑う。
『いやぁね、それ悩みじゃなくって惚気だわ』
「ふふ、これも悩みの一つだよ」
 そう言って理生が可愛い妹二人を見遣れば、二人が瞳をきらきらとさせて理生に抱き着いた。
 そんな二人を抱きとめて、その可愛らしさに頭を撫でる。
「んっ、兄くんってば……♪」
「きゃは、くすぐったいよぉ♪」
 撫でてくれるのが嬉しくて、二人がまた理生に抱き着いて。
 幸せな悩み事は尽きないわねぇ、と遊々が笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

五百崎・零

え、お悩み相談?
戦ったりしないの?
……ふーん、まあ、死にたくはないもんね。

自分、悩みとかあったかなあ……。
顎に手をやり、考えてみる。

あ、悩みってわけじゃないんだけど、話聞いてくれる?

自分って一度死んでるっぽいんだよね。
でも、その記憶が全然ない。
なんなら、死ぬ前の自分のこともよく知らない。
なんで死んだんだろう?
誰かに恨まれてた?
なんでまた生きてるんだろう?
誰かに想われてた?
って、こんなこと考えてもしかたないから、あんまり考えないんだけどさ。

えーと、つまり何が聞きたいかっていうと……。
昔の、一度死ぬ前の自分を思い出すことって今生きてるオレにとって重要なことだと思う?



●記憶
 水の中、ふわり、ひらりと光を受けて泡が水面に向かっていく。
「綺麗なもんだね」
 滅多に見られない光景を充分に楽しんで、それからよーし戦うか! と五百崎・零(死にたくない死人・f28909)が泡と一緒にふわふわと浮いている『胡毒蝶の艶女・遊々』の前に立った。
『あら、貴方も何か悩みがあるの? わらわに相談してみない?』
「え、お悩み相談?」
 なんで? と首を傾げた零に、遊々も一緒になって首を傾げる。
「戦ったりしないの?」
『そういう個体もいるけれど、わらわは相談に乗りたいのよねぇ』
 何かない? と聞いてくる遊々に、よくわかんないけど、まあ死にたくはないもんね、と思いながら零が悩み事かあと顎に手をやって考える。
「自分、悩みとかあったかなあ……」
『困りごとでもいいわよぉ』
 そう言われて、あ、と顔を上げた。
「悩みってわけじゃないんだけど、話聞いてくれる?」
 勿論、と頷いた遊々に、それじゃあと零が話し出した。
「自分って一度死んでるっぽいんだよね」
『猟兵の子、そういうの結構あるみたいよね』
 大変よね、なんて骸魂に飲み込まれた妖怪が言うのちょっと面白いなとは思ったけれど、零はそのまま話を続けることにした。
「でも、死んだ時の記憶が全然ない、なんなら、死ぬ前の自分のこともよく知らない」
 どうして死んでしまったのか、その理由がわからない。
 事故に遭ったのか、誰かに恨まれていたのか。
『……不安?』
「うーん、不安っていうか……なんでまた生きてるんだろうって」
 誰かに想われてた? 何か未練でもあった? 死ねない理由があった?
「って、こんなこと考えてもしかたないから、あんまり考えないんだけどさ」
 ふ、と左手首の切断されたような継ぎ接ぎの傷跡をなぞる。
「あー、えーっと、つまり何が聞きたいかっていうと……」
 少し言い淀む零を促すように、遊々が頷く。
「……昔の、一度死ぬ前の自分を思い出すことってさ」
『ええ』
「今生きてるオレにとって重要なことだと思う?」
 わかんないんだ、オレには。
 そう呟いて、零が遊々を見た。
『わらわ、難しいことはあんまりわからないんだけどねぇ、貴方が今だけでいいなら思い出さなくったっていいんじゃないかって思うのよねぇ』
「今だけ?」
『そう、今の自分でいいなら、別に。過去があるから今があるなんて言うけど、過去がないなら今からを作る方が重要じゃなぁい?』
 ふよふよと浮いたままの女が言うのを、零は黙って聞いている。
『でもねぇ、過去の自分が必要になったら』
 その時は思い出してもいいんじゃないかしら、と遊々が笑った。
「そっかあ、それくらいの気持ちでいいんだ?」
『わらわはいいと思うけど?』
 もう一度、そっかあ、と言って零が蛍のように光る泡が空へ向かうのを眺める。
 自分の記憶くらい頼りない泡だけれど、綺麗だと思いながら――。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●もふもふしたいの
 ヤドリガミとして生を受けてから、初の体験尽くしであったスピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)は、ご機嫌な笑みを浮かべて口内火傷を舌先でつついて遊びながら下駄をカラコロと鳴らす。
「水中で見る蛍のようですね」
 ぷかりと水底から現れて淡く光りながら水面へと浮かんでいく泡を眺め、これがワビサビ……? とわかったようなわからないような気になっていた。
『そこの貴方』
「はい? 私でしょうか?」
『ええ、そうよ、貴方』
 声を掛けられて振り向くと、水の中をふよふよと浮かぶ『胡毒蝶の艶女・遊々』がスピーリを見下ろしていた。
『貴方、何か悩み事はなぁい? わらわに相談してみないかしら』
「相談してよいのですか」
 遊々の言葉に食い気味に返事をすると、軽く上半身を引いた遊々がええ、と頷く。
「そうですか、聴いてくださいますか」
 おもむろに下駄を脱ぎ、スピーリが人の邪魔にならぬ場所で正座する。その姿勢につられて、遊々も何となく男の前に正座した。
「実は私、生まれてこのかた……存在理由も多分にあるのですが、動物様をもふれた事がほとんど無く」
『もふもふ』
「はい、もふもふです」
 スピーリの言葉の響きは真剣そのものなので、遊々もちょっと丸くなりかけた背筋を伸ばす。
「お相手の動物様が少々特殊な、知能を有する動物様だった際には、ここぞとばかりに全力でもふれはしましたが」
 あの時の感触を思い出し、スピーリが思わず相好を崩す。そうして、絞り出すような声で言った。
「あの幸せを……もっと、味わいたく……っ」
 ヤク決めた一歩手前みたいな反応だったけれど、相変わらず言葉の響きは真剣だった。
『もふもふ中毒なのねぇ……』
 中毒になるほどもふもふもできていないのだけれど、もふもふ渇望症といったところだろうか。
「ええ、隙あらばと思うのですが……一般的に道端でお遭いするような、犬様や猫様には、どうしても逃げられてしまうのです」
 憧れるのは手を差し伸べて、その手にすりすりと寄ってきてもらいことなのだけれど、そんなことになった試しは一度もない。
「好かれるにはどのようにすればよいですかねぇ」
『あれ、ちうるってあるじゃない?』
「ちうる」
 猫まっしぐらなあのパウチの。
『ああいうのを上げてから撫でさせてもらったりできないのかしら』
 要はギブアンドテイクである、撫でさせてやってもいいがちうるを寄越せ、だ。
「なるほど……ちうる……」
『ちうる好きじゃないこもいるけど、そこは運よ』
「なるほど、私チャレンジしてみます!」
 ふぁいと、なんて言葉を貰ってスピーリは帰ったらちうるを買いに行こうと心に決めた。
 しかしながらスピーリが猫に避けられるのは存在理由2割、猫に引っ掻かれたいという隠しきれない欲望のせいが8割なので、多分ちうるだけ食べられて終わりだろう。
 猫によるちうるカツアゲが行われるのは近い未来の事。しかしそこには、それでも何か幸せそうな顔をしたスピーリがいるので、円満なカツアゲ現場となるのは間違いなかった。
スピーリ・ウルプタス
⭕️

相談してよいのですか(食いつく変人)
聴いて下さいますか(正座)
生まれてこのかた…存在理由も多分にあるのですが、私、動物様をもふれた事がほとんど無く
お相手の動物様が少々特殊な、知能有する動物様だった際にここぞとばかりに全力でもふれはしましたが
あの幸せを…もっと、味わいたく…っ(真剣

一般的に道端でお遭いするような、犬様や猫様には、どうしても逃げられてしまうのです
手を差し伸べあわよくばすり寄っていただきたいのですが…
好かれるにはどのようにすればよいですかねぇ
(己がちょっと独特な性格なのは自覚あるものの、“変態”の自覚はナシ。『さぁっ引っ搔いてもいいですよ!』と爛々としているのが怖がられている様)



●もふもふしたいの
 ヤドリガミとして生を受けてから、初の体験尽くしであったスピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)は、ご機嫌な笑みを浮かべて口内火傷を舌先でつついて遊びながら下駄をカラコロと鳴らす。
「水中で見る蛍のようですね」
 ぷかりと水底から現れて淡く光りながら水面へと浮かんでいく泡を眺め、これがワビサビ……? とわかったようなわからないような気になっていた。
『そこの貴方』
「はい? 私でしょうか?」
『ええ、そうよ、貴方』
 声を掛けられて振り向くと、水の中をふよふよと浮かぶ『胡毒蝶の艶女・遊々』がスピーリを見下ろしていた。
『貴方、何か悩み事はなぁい? わらわに相談してみないかしら』
「相談してよいのですか」
 遊々の言葉に食い気味に返事をすると、軽く上半身を引いた遊々がええ、と頷く。
「そうですか、聴いてくださいますか」
 おもむろに下駄を脱ぎ、スピーリが人の邪魔にならぬ場所で正座する。その姿勢につられて、遊々も何となく男の前に正座した。
「実は私、生まれてこのかた……存在理由も多分にあるのですが、動物様をもふれた事がほとんど無く」
『もふもふ』
「はい、もふもふです」
 スピーリの言葉の響きは真剣そのものなので、遊々もちょっと丸くなりかけた背筋を伸ばす。
「お相手の動物様が少々特殊な、知能を有する動物様だった際には、ここぞとばかりに全力でもふれはしましたが」
 あの時の感触を思い出し、スピーリが思わず相好を崩す。そうして、絞り出すような声で言った。
「あの幸せを……もっと、味わいたく……っ」
 ヤク決めた一歩手前みたいな反応だったけれど、相変わらず言葉の響きは真剣だった。
『もふもふ中毒なのねぇ……』
 中毒になるほどもふもふもできていないのだけれど、もふもふ渇望症といったところだろうか。
「ええ、隙あらばと思うのですが……一般的に道端でお遭いするような、犬様や猫様には、どうしても逃げられてしまうのです」
 憧れるのは手を差し伸べて、その手にすりすりと寄ってきてもらいことなのだけれど、そんなことになった試しは一度もない。
「好かれるにはどのようにすればよいですかねぇ」
『あれ、ちうるってあるじゃない?』
「ちうる」
 猫まっしぐらなあのパウチの。
『ああいうのを上げてから撫でさせてもらったりできないのかしら』
 要はギブアンドテイクである、撫でさせてやってもいいがちうるを寄越せ、だ。
「なるほど……ちうる……」
『ちうる好きじゃないこもいるけど、そこは運よ』
「なるほど、私チャレンジしてみます!」
 ふぁいと、なんて言葉を貰ってスピーリは帰ったらちうるを買いに行こうと心に決めた。
 しかしながらスピーリが猫に避けられるのは存在理由2割、猫に引っ掻かれたいという隠しきれない欲望のせいが8割なので、多分ちうるだけ食べられて終わりだろう。
 猫によるちうるカツアゲが行われるのは近い未来の事。しかしそこには、それでも何か幸せそうな顔をしたスピーリがいるので、円満なカツアゲ現場となるのは間違いなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉瀬・煙之助

理彦くん(f01492)と
わ、すごいね天女みたい
悩み、悩みかぁ…理彦くんは何かある?

うーん、僕はすぐに思いつかないから
先に理彦くんの悩みから相談する?
悩みだから聞かない方がいいよね
(少し離れて後ろを向いて耳を塞ぎ)
理彦くんがなんの悩みを持ってるか、ちょっと気にはなるけどね…
ほんとなら僕に相談してほしかったり…

あ、理彦くん相談終わった?
じゃあ次は僕の悩みかな
恥ずかしいから、理彦くんも耳塞いで後ろ向いててねっ
えっと、僕の悩みは理彦くんの次の誕生日に
何を送ったらいいかなって相談かな
参考にできたらいいなぁって

相談に乗ってくれたらお礼を言うよ
ありがとうね、参考にさせてもらうよ


逢坂・理彦

煙ちゃんと(f10765)
悩み相談で満足してくれるならありがたいことだね。
煙ちゃんを危ない目に合わせなくて済む。

悩み相談…そうだね。七夕のお願い事にもかかってくることなんだけど。煙ちゃんと少しでも長くいたいからさ。『長生き』したいなって。
何かアドバイスとかあったら教えてほしいな?
あーでも煙草に関しては辞めたくはないんだよぬ…煙ちゃんが煙管のヤドリガミってのもあって…その…煙草を吸うと出先でも煙ちゃんを感じられるからついね。

煙ちゃんの悩みは…俺には秘密?
ふふ、了解。じゃあ聞こえないようにしっかり耳を塞いでおくね。
(きっと俺に関わる事なんだろうなぁなんて表情を緩めて)



●煙に巻いて巻かれて
 とぷんと日が暮れた水の中は真っ暗になるのかと思いきや境内に灯りが点いて、なんとも幻想的で美しい風景を生み出していた。
 水底から浮かび上がる泡がその灯りを受け、蛍のように淡く光りながら水面へ上っていくのが何とも美しい。
「綺麗だね」
 吉瀬・煙之助(煙管忍者・f10765)が思わず呟くと、その隣に立っている逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)もそうだね、と頷く。
 暫し二人でその不思議な灯りを楽しんでいると、光の泡の中を踊るように飛ぶ……この場合は泳ぐと言った方が正しいのだろう、翅の生えた美女が見えた。
「わ、すごいね。天女みたい」
「水の中で天女が見れるとはね」
 煙之助と理彦が笑いながらそう言うと、天女だと言われた女がふよふよと二人の元へ寄ってくる。
『こんばんは、わらわは天女じゃないけれど、何か相談事はなぁい?』
 悩みとか、相談事とか、と彼女――『胡毒蝶の艶女・遊々』が言った。
「悩み、悩みかぁ……理彦くんは何かある?」
 すぐには思い浮かばなくて、煙之助が理彦を見遣る。
「悩み相談……そうだね」
 悩み相談で満足して骸の海へ還っていくのなら、ありがたいことだ。だって煙ちゃんを危ない目に合わせなくて済む、と思いながら理彦が考える。
「なくはないかな」
「本当? 僕はすぐに思いつかないから、先に理彦くんの悩みから相談する?」
 煙之助の言葉に理彦が頷くと、悩みなのだから自分は聞かない方がいいだろうと煙之助が少し離れて後ろを向き、耳を塞いだ。
 その姿にふわりと笑って、理彦が遊々に向き合う。
「七夕のお願いにもかかってくることなんだけど、煙ちゃんと少しでも長く一緒にいたいからさ。『長生き』したいなって」
 ふふ、と理彦が目尻を下げて首を傾げる。
「何かアドバイスとかあったら、教えて欲しいな?」
『長生き、長生きねぇ。わらわ、健康的な生活が一番の近道って聞いたことあるわ』
 健康的、と言われて理彦がほんの僅かだけれど視線を逸らす。
「あー……その、煙草に関しては辞めたくはないんだよね……その、彼」
 煙之助の方をちらりと見遣ってから、理彦が遊々に視線を戻す。
「煙ちゃんが煙管のヤドリガミってのもあって……その、煙草は」
 辞められないのだと理彦が困ったように笑う、それは嗜好品としてだけではなく、煙草を吸うと出先で彼と離れ離れになっていたとしても煙之助を身近に感じられるからで。
『やぁね、惚気も含まれてたわ』
 遊々がくすりと笑って、それなら少し控え目にして早寝早起きすること、腹八分目に運動もねぇ? と笑う。できるかな、でも一緒にいる為ならやろうかな、と理彦が考えて頷いた。
「煙ちゃん、もういいよ」
 ぽん、と煙之助の肩を叩いて理彦が言う。
「あ、理彦くん相談終わった? じゃあ次は僕の悩みかな」
 耳を塞いでいる間、ずうっと何にしようか考えていたので、考えはそれなりに纏まっている。
「あの、恥ずかしいから理彦くんも耳塞いで後ろ向いててねっ」
「煙ちゃんの悩みは……俺には秘密?」
「う、うん」
 秘密? と問われ、煙之助が少し躊躇ったけれどほんのり頬を赤くして頷いた。
「ふふ、了解。じゃあ、聞こえないようにしっかり耳を塞いでおくね」
 頭のてっぺんに付いている狐耳をぺたんと塞いで、きっと俺に関わることなんだろうなぁ、なんて頬を緩ませ尻尾を楽し気に揺らして背中を向ける。その姿をしっかり確認してから、煙之助が遊々の方へと駆け寄った。
「お待たせ、ええとね、僕の悩みなんだけど」
『気にしなくて大丈夫よ。彼の事~?』
 遊々が後ろを向いて尻尾を揺らしている理彦をチラッと見て、煙之助へ視線を移す。
「えっ何でわかるの?」
 わからない訳がない、と思いつつ遊々は笑うだけだ。
「その通りなんだけど、僕の悩みは理彦くんの次の誕生日に何を送ったらいいかなって相談かな」
 参考にできたらいいなぁって、と笑う彼はなんだか可愛らしくて、遊々は何がいいかしらと考える。
『彼、煙草吸うんでしょ? 煙管とかは?』
「あ、それは……自分の本体を」
 やだぁ、もうそれ以外使えないやつじゃない、可愛い~と遊々は思ったが照れながら言う彼には言わなかった。
『それなら、ちょっと軽めの刻み煙草をオリジナルブレンドで作っちゃうとか?』
「自分で配合するってこと、だよね?」
 そうよ、と頷くと、煙之助がそれもいいかもしれないと瞳を輝かせた。
「ありがとうね、参考にさせてもらうよ」
『うふふ、どういたしましてよ。末永く仲良くしてらしてねぇ』
 理彦の元へ向かった煙之助に笑って、遊々がふわりと光る泡と共に飛んでいく。
「相談できたかな?」
「うん、参考になったよ」
 二人でふわふわと笑って、どちらからともなく手を繋ぎ水面を見上げる。
 見上げた先には、柔らかな光と水面に映る月と星。もう少しだけこのままでと、繋いだ手を離さずに――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
【XXX・2】⭕️

悩みを聞いてくれるのか?
最近の妖怪は優しいんだな
コノハの悩みも気になる所だが――
ああ、輪になって話すのも面白いな
何かのカウンセリングみたいだ

俺は、そうだな
本を読むのが苦手なんだ
特に小説が読めない

鐵のゆびさきは頁を追うのに向かないし
想像力も余り無いので
だから描かれた情景や登場人物の心境が
なかなか頭に入って来ない
私小説なら読めるんだが

どうすれば克服できると思う?
或いはお勧めの本を教えてくれ
特定のジャンルでも良い
何か一冊、頑張って読破してみよう

コノハの悩みも、らしいな
女性の好むものの噺は勉強になる
後学のためにも、俺も耳を傾けておこう
新作が出来た暁には是非
俺にも味見させてくれ


コノハ・ライゼ
【xxx・2】◎

こーゆーの献身的っていうのかしら
ま、アナタ達が優しいままでいられるようたっくさんお話聞いて貰いましょーか
ジャックちゃんのお悩みも気になるし、ナンなら輪になって話す?ナンて冗談も言いつつ

店で料理やデザートやお酒を出すンだけど、メニューのアイディアが追い付かなくってネェ
アナタ達みたいなカワイイ女性のご意見、頂けるかしら
味や色や形は?素材にこだわる派?コラボ商品やテーマのあるモノはドウ?等々
ジャンルとかも全然問わないわ
アイディアの元は多い方がイイんだもの!

ジャックちゃんらしい悩みねぇ、ナンて聞きながらも
ソチラのお話も参考にメモ取ったり
ふふ、話を聞くのも仕事の内だから、コレも勉強ってネ



●お悩み座談会
 夜になれば水の中は暗いのかと思えばそんなこともなく、月と星の明かり、それから境内にずらりと灯った灯籠の光が幻想的な美しさを見せていた。
「綺麗だな」
「ほーんと、陸じゃ見られない景色ってヤツよね」
 ジャック・スペード(Jスペード️・f16475)とコノハ・ライゼ(空々・f03130)が灯に照らされて水面に上っていく泡を突いて、楽し気に笑う。空を見上げていれば、天に向かう泡に紛れて翅の生えた女達がふわり、ゆらりと水の中を飛ぶようにしているのが見えた。
「彼女達がそうなのか?」
「ん-、そうみたいね?」
 顔を見合わせながら話をしていると、ゆらゆら翅を動かして彼らの前に女――『胡毒蝶の艶女・遊々』が舞い降りる。
『あらあら、何か相談事? 相談事があるならわらわに聞かせてくださいな』
 解決できるかはわからないけれど、どうぞ聞かせてくださいな、と艶やかな女は二人に笑った。
「悩みを聞いてくれるのか?」
『ええ、ええ、わらわの望みはそれだけよ』
「こーゆーのを献身的っていうのかしら」
 骸魂に飲み込まれてしまった妖怪にも色々あるのねとコノハが笑い、それならたっくさんお話聞いて貰いましょーかと手を叩く。優しい妖怪達が優しいままで骸の海へと還れるように、とジャックが頷いた。
「ジャックちゃんのお悩みも気になるしね」
「俺はコノハの悩みも気になるところだが」
 そう? ああ、と顔を見合わせたところで、コノハが良いことを思いついたと笑みを浮かべる。
「ナンなら輪になって話す?」
「ああ、輪になって話すのも面白いな」
『輪になって? うふふ面白そうね、椅子のあるところに行きましょ』
 こっちよ、こっち、と遊々が二人を手招くので付いていってみれば、休憩所のような場所に出た。
「丁度いいな」
「こんな場所もあったのね」
 勧められるままに座って、三角形の形になった三人が顔を寄せ合う。
「何かのカウンセリングみたいだな」
「お茶会かもネ」
 飲み物の一つも用意すればよかったかしらとコノハが考えていると、遊々がわくわくとした顔で唇を開く。
『誰からお話してくださるの?』
「では、俺から相談しようか」
 遊々の願いに応えて、ジャックが口火を切った。
「俺は本を読むのが苦手なんだ」
『本?』
「ああ、特に小説が読めない」
 と言うのにも理由があって、何せウォーマシンであるジャックの身体は機械であり、その手は銃の引き金を引くことに特化している。それに、鐵の指先は本の頁を捲るのには向かないのだと頬を掻く。
「この通りなものでな、想像力もあるとは言い難く。だからか、描かれた情景や登場人物の心境がなかなか頭に入って来ない」
 ただ、想像力をあまり必要としない私小説であれば読める、と付け加えて遊々に問い掛けた。
「どうすれば克服できると思う?」
 難しい質問かもしれないが、何か突破口でも開ければとジャックが二人を見遣る。
「ジャックちゃんらしい悩みねぇ」
『そうねぇ、貴方は戦うことの経験なら人一倍ある……のよね?』
「そうだな、あるとは思う」
『それなら、共感できそうなお話を選んでみるのはどうかしら? 戦闘を扱った小説とかなら自分の経験から引っ張って来れると思うのだけれど』
 どう? と遊々が首を傾げる。
「なるほど、自分の体験と重ねるところから理解するということか」
 それもありかもしれないと頷いて、もう一つとジャックが言葉を発する。
「よければ、お勧めの本を教えてくれないか。特定のジャンルでも良い」
 アドバイス通りの本を読んだら、自分が選ぶことのない本を読んでみたいのだ。
『うふふ、それなら妖怪が出てくる本をお勧めするわ』
 いつか読んでみてねと遊々が笑うと、今度は貴方の番よとコノハをの方を向いた。
「アタシの悩みね、アタシは店で料理やデザートやお酒を出すンだけど、メニューのアイディアが追い付かなくってネェ」
『お店をしているのね?』
「ソ、無国籍のバルよ」
 バル? と遊々が首を傾げたので異国風の居酒屋のようなものよと簡単に説明する。
「だからね、新メニューの参考にしたくって。アナタみたいなカワイイ女性のご意見、頂けるかしら」
『あら、嬉しいわ。うふふ、喜んで』
 では早速、とばかりにコノハが開いていたメモ帳にペンを走らせながら質問を飛ばす。
「味や色や形は?」
『美味しいのがいいわ、色は綺麗なもの、形は蝶々が好きよ』
「素材にこだわる派?」
『自然のものが好きだわ』
 ふむふむと答えを書き記し、コノハが楽しそうに質問を重ねていく。
『コラボ商品やテーマのあるモノはドウ?』
「コラボはよくわからないけれど、季節を感じられるものは好きね」
 イイわ、すっごくイイわ、と嬉しそうにしながらコノハがアイデアを膨らませていく。
『ふふ、わらわはお役に立ったかしら?』
「ええ、といっても! アイディアの元は多い方がイイんだもの!」
 今すぐ帰って試作品を作りたいくらいよ、とコノハがご機嫌で答えるのをジャックも興味深そうに聞いている。
「女性の好むものの噺は勉強になる」
「アタシ達じゃ出てこないアイディアが出てくるものネ」
 話を聞くのも仕事の内だから、コレも勉強ネとコノハが頷く。
『美味しいものができるといいわねぇ』
「新作が出来た暁には是非、俺にも味見させてくれ」
 モチロン! とコノハが次作への意欲をみせて、楽しそうに笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
◎捏造歓迎
カイトと別れた後

カクリヨ戦争で装置に花を捧げた時に邂逅
遊々は”俺”(真の姿の俺)と創造主の宿敵

…”お前”は俺のコトを知らねェとは思うが
俺は一度、お前に出逢ってるンだわ
遊々
”俺”や創造主はお前のコトを知ってるらしいケド、
出てこれねェから代わりに俺が
俺の悩みっつーか…お前のコトが訊きたい

創造主達の故郷、天上の世界…高天原
草木や鳥の囀り
睡蓮が咲き匂う豊穣
そこに今の遊々の姿になる前の妖の彼女もいた
”俺”と同じで創造主が得意とする篠笛の音が好き

俺もその音色を懐かしく感じたのが合点いったぜ
他は?
創造主サマは心優しい妖にはそれ相応に接してたンだなァ

じゃァ最後に
なァ
お前は永遠の戀はあると信じてるか?



●知っているのに知らぬ君
 共に来ていた弟と別れ、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)が蛍のように舞い浮かんでいく泡を眺める。その泡と踊るかのように翅を揺らして泳ぐ女――『胡毒蝶の艶女・遊々』を見つけたからだ。
 思いだすのは先のカクリヨでの戦争、散花の守りと呼ばれる装置に花を捧げた時に邂逅した女。
「遊々……」
 お前は『俺』と想像主の宿敵だ、きっと今の『お前』は俺のコトを知らねェだろうけれど。
 小さく零した息が、そのまま光る泡となって上っていく。それを見つけたのだろう、クロウが見つけた遊々が彼の元へ舞い降りたのだ。
『貴方、どうしたの? 悩み事がおあり?』
 ああ、ほら。あの時会ったアイツとは話す言葉も違う。違う個体なのだと、クロウが顔を上げて遊々を見た。
「ああ、俺は一度、お前に出逢ってるンだわ。遊々」
『わらわに? ……そう、わらわではない、わらわなのね』
 骸魂に飲み込まれた妖怪が違えば、それは違うものにもなるだろう。
「『俺』や想像主はお前のコトを知ってるらしいケド、出てこれねェから代わりに俺が……悩みっつーか、お前のコトが訊きたい」
『そう、それが貴方の望みなら、いいわ』
 お話しまひょ、と遊々が笑った。
「高天原を覚えているか?」
 創造主達の故郷である、天上の世界の名をクロウが口にする。
 豊かな草木、美しい鳥達の囀り、幾つもの水連が咲き辺り一面に芳しき匂いが漂う、豊穣の地。その地に、今の遊々の姿になる前の妖たる彼女も居たのだ。
『どうだったかしらねぇ……わらわ、とんとその辺は覚えてないの』
 こてん、と首を傾げた彼女に、それでも今の遊々の姿になる前の彼女の面影があった。
「篠笛の音は? 好きじゃないか?」
 篠笛、と聞いて彼女の瞳がぱちりと瞬く。
『ええ、わらわ、篠笛の音色は好きよ。聞くと踊りたくなるの』
 手にした薄絹の扇をひらりと舞わせ、遊々が笑う。
 篠笛の音色、それは創造主が得意とするもの、『俺』も好きな音。
「そうか、俺もその音色を懐かしく感じたのが合点いったぜ」
『貴方も好きなのねぇ、踊りたくはならない?』
「舞をさすのは吝かじゃねェけどな」
 俺よりも、お前が踊る方が綺麗だとクロウが目を細めた。
「他は? 好きなものや、好きなことでもいい」
『好きな……そうねぇ、飛ぶのも踊るのも好き、あとは……銀色』
 銀色、それは創造主の髪色だと、クロウは思う。
『優しい人も好き。どうしてかしら、貴方と話をしていると自分の好きなことを思い出せるの』
「そうかい、それは何よりだぜ」
 創造主サマは心優しい妖にはそれ相応に接してたンだなァ、と胸の裡でくすりと笑って。
「じゃァ最後にもう一つ」
 こくりと頷いた女に、男が問うた。
「なァ、お前は永遠の戀はあると信じてるか?」
『手放さなければ、ずっと手の中にあるわ』
「……そうか」
 それだけ言って、クロウの視線が僅かに地面に落とされる。
 どうしてか、遊々はその頭を撫でなければいけない気がして、そうっと慰めるように撫でた。
 それはクロウが顔を上げるまで、続いたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

瀬古・戒
【箱2】◎⭕
悩み…な
ヒトは悩む生き物だし俺だってそらあるけど…内緒
俺は妖怪のおねーさんとちょっとアッチ行く!盗み聞きすんなよ!

俺が28で、ヤツが21で7歳差
高校生と小学生くらいの歳の差だもん
疑ってねぇけど、若いし……気の迷いとか…ないかなて不安になる時は無い訳じゃない
胸も、男って大半は大きい方が好きなんじゃねーの?デカイと邪魔だし身体特徴について悩んだ事はなかったけど……俺、ないもん…どーしようもないじゃん
アイツも大きい方が好きなん?て、たまに、思うつか、まぁ、ほら、夏だし?
…前に俺のどこが好き?って聞いたら全部とかゆーし…全部て?平らも含め?わっかんねぇ

ん?え?ラファン…巨乳になんの???


ラファン・クロウフォード
【箱2】◎⭕️
戒に聞かれないように内緒話で相談する
戒の願い事を叶えたいが、俺にはどうにもならない願い事
その言葉を口にすると、爽やかでかっこいい戒が、蜜を含んだ花のように可愛い戒が 獰猛な猛獣の視線になり喉で唸る
ワイルドな彼女の視線もたまらなくシビれる
自分の胸に両手をあてて
戒の胸を大きく育てる方法はあるのだろうか?
世界で一番、俺の大好きな胸だ!!、と叫んでも信じてくれない
筋トレに付き合わせようにも、野生の勘で逃げられちまう
きっと、戒は大きな胸が好きなんだ
俺が大きくなればいいのか?(自分の胸をぺしぺし)
未来について、あんま考えてなくて悩みが少ないのかも
未来に幸せはないと思う
幸せは、今、ここにある



●育てればよかろうなのだ
 ぽわぽわと光る泡が水面に向かうのを、瀬古・戒(瓦灯・f19003)とラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)が仲良く並んで見ていた。
「綺麗だなぁ」
「そうだな」
 陸の蛍とも、ウミホタルとも違う輝きに暫し見惚れていると、その泡の隙間を縫うように翅を揺らして泳ぐように飛んでいる女性が見えた。
「あれが噂の相談を聞いてくれる妖怪か」
 ラファンが言うと、戒がその女性――『胡毒蝶の艶女・遊々』に向かって手を振る。
「おーい!」
 あら、と言う風にこちらを見た遊々に、戒がこっちこっちと手招きをすれば、大人しく遊々が近寄ってきた。
『わらわに御用? もしかして悩み事があるの? 聞くわよ』
 悩み、と言われて戒とラファンが顔を見合わせる。
「戒は悩み、あるのか」
「悩み……悩みな」
 ふっと戒がラファンから視線を外す。
「ヒトは悩む生き物だし、俺だってそらあるけど……内緒」
「内緒」
 俺には言えない悩み……! と、なんとなくショックを受けつつラファンが戒を見つめた。
『それはいいんだけど、わらわに相談してくれるの? くれないの?』
「ラファン、俺は妖怪のおねーさんとちょっとアッチ行く! 盗み聞きすんなよ!」
 あら、悩みを聞かせてくれるのね! と、遊々が機嫌よく戒に連れ去られるまま、離れた場所へ向かう。置き去りにされたラファンはちょっぴり捨てられた犬みたいになっていたけれど、自分も戒には言えぬ悩みを話すかと顔を上げた。
『それでそれで? 貴女のお悩みはなぁに?』
「俺、さっきのとその、恋人なんだけどさ」
 うんうん、と相槌を打つ遊々に促され、戒が続きを話す。
「俺が28で、ヤツが21で7歳差」
『え~いいじゃない、姐さん女房ってやつじゃない』
「でもさ、高校生と小学生くらいの歳の差だもん」
 疑ってはいないけれど、ラファンは若いから。もしかしたら自分の事を好きなのは、一時の気の迷いだったりしないかなと不安になったりもするのだ。
『でもどう考えてもべた惚れだったじゃない。さっきの見た? 捨てられた子犬みたいな顔してたわよぉ』
「うぐ……いやでも、ほら……胸も、男って大半は大きい方が好きなんじゃねーの?」
『わらわ、男じゃないからわかんない』
 それもそうだな、と戒が頷けば遊々も頷く。
「いやでもさ……デカイと邪魔だし身体特徴について悩んだ事はなかったけど……俺、ないもん……どーしようもないじゃん」
『無いなら無いで育てたら?』
「育てる」
 どうやって? だって俺ほら、この通り絶壁なんだけど。言ってて悲しくなってきたな、と思いながら戒が溜息を零す。
「アイツも大きい方が好きなん? って、たまに、思うつか、ほら、夏だし?」
『あ~水着?』
 こくん、と戒が頷いて遊々を見る。こいつ結構あんな。
「それに、前に俺のどこが好き? って聞いたら全部とかゆーし……全部て? 平らも含め? わっかんねぇ……」
『わらわもわっかんないけど、あの子多分だけど』
「うん」
『貴女が男でも好きって言うと思うのよねぇ』
 マジで? マジで。
『今度聞いてみたら?』
「聞いたら聞いたで余計わっかんなくなんねぇ……?」
『胸が付いてるから好きってわけじゃないでしょ、多分』
 そこは多分なんだな、と戒が笑った。
 一方、巨乳好きだという冤罪を受けていたラファンも戒が相談をしている隙に、違う遊々を見つけて内緒話のように相談をしていた。
「俺には可愛い彼女がいるんだ」
『初っ端から惚気てくるじゃないの』
 あっちで相談してる子なんだが、と言われてそっちを見る。凛々しい美女じゃない、と言えばそうだろうと満足そうにラファンが頷く。
「俺は戒の願いを叶えたいが、俺にはどうにもならない願い事なんだ」
『どんなの~?』
「その言葉を口にすると……爽やかでかっこいい、だけど俺の前では蜜を含んだ花のように可愛い戒が、獰猛な猛獣の視線になり喉で唸る」
『隙あらば惚気混ぜてくるし情報量が多い~、どうせそんな視線も良いって言うんでしょ』
 その通りだった、ワイルドな彼女の視線も最高に良いとラファンが頷き、ゆっくりと自分の胸に両手を当てた。
「戒の胸を大きく育てる方法はあるのだろうか?」
『セクハラ?』
 違う、と重々しくラファンが被りを振る。
「俺は本気なんだ……戒にな? 戒の胸が世界で一番、俺の大好きな胸だ!! って叫んでも信じてくれないんだ」
『伝える気概は褒めたい』
「控え目な胸を気にしているようだから、筋トレに付き合わせようにも野生の勘で逃げられちまうし」
『筋トレで付くのは胸じゃなくて筋肉だと思う、わらわ』
 深く息を吐いて、ラファンが目を伏せた。
「きっと、戒は大きな胸が好きなんだ……」
 そうはならんやろ、遊々の脳内にでかでかと浮かんだ言葉であったが、彼女は黙っておいた。
「ハッ、俺が大きくなればいいのか……?」
 自分の胸をぺしぺしと叩き、これを……巨乳に……! と、真顔で言うので、遊々は戒の方に向かって叫んだ。
『ねぇ、貴女の彼氏豊胸するつもりっぽいんだけどぉ?』
「ん? えっ?」
 驚いたような顔をした戒が、ラファンの方へ駆け寄る。
「えっラファン……巨乳になんの??? 雄っぱいじゃん……」
「戒が望むなら吝かじゃない」
『キリッとした表情で言うことじゃなくなぁい?』
 取り敢えずの誤解を解くために、ラファンは巨乳好きではないこと、どんなお胸より戒のお胸が好きですと宣言することになったのはこのすぐあとのこと。
 数少ない悩み事がこんなにも可愛らしいのは、きっと未来についてあんまり考えていないから。
 だって、未来に幸せはないと思うから。
 幸せは、今、ここにあるのだとラファンは満足気に戒の手を握って笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

飛砂・煉月

有珠(f06286)と

ぽわり灯る柔かな明りの中で
あっは、噺かー
ふたりなら云えない事も
ひとりなら零せる気もして
相談、各々で行ってこようか

ひらり翅のキミへ
――蓋を、少しだけ開こう
オレ、少し特殊な狼で好きな人ほど美味しく見えるんだ
だから恋はずっと苦しい事だと思ってて
実際逃げ出し事もある
でも今似た感情を抱いてる相手は
苦しくも怖くもないし、むしろ安心してる
笑ってほしい、一緒に笑いたい
ね、恋ってひとつじゃないのかな?

合流時に映る眸の蒼
変だな好きな色が上手く見れない
でも想いと自覚は、言葉にしない秘密
誤魔化す様に有珠は相談出来た?
困り顔さえ――可愛いだなんて酷いかな
オレはね、うん
晴れたというか解った方、かな


尭海・有珠

レン(f00719)と

話好きな蝶の翅のお姉さん達のとこへ行こうか
そうだな、一先ず別れて其々に
話が終わったら合流な、また後で

悩み…という程のものではないんだが
一緒にいて、胸があたたかくなったり、楽しかったり
笑っていて欲しかったりする人がいる
いっとう大切な友達だからだと思うんだが
時折、何か胸につっかえた様な感覚になる
…恋愛でもそうなのか?
知識としては色んな形があるというのは知ってるんだが
私は、師匠しか愛したことがないから
それ以外の形が自分の中にあるかなんて分からなくて

合流後
どんな悩みだったのか、とは訊くのも良くないか
少しは晴れたか?
私は…余計によく分からなくなったかもと困り笑いを浮かべるしかない



●恋と愛について
 ぽわぽわ、ふわり。
 水の中を漂う淡く光る泡が、天を目指して上っていく。
「綺麗だね」
 飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)が零した言葉に、尭海・有珠(殲蒼・f06286)がこくりと頷く。それから、あれ、と水中を指さした。
「彼女が話好きな蝶の翅のお姉さん達だな」
「あっは、噺かー」
 どうしようか、と互いに視線を合わせる。
「……相談、各々で行ってこようか」
 ふたりなら言えないことも、ひとりなら零せる気がして煉月がそう提案する。
「そうだな、話が終わったら合流な」
 また後で、と有珠が言って翅を揺らして泳ぐお姉さん――『胡毒蝶の艶女・遊々』の方へ向かっていった。
「オレも行くとしようか」
 ゆっくりと上を見上げて歩けば、向こうから煉月を見つけたのだろう、ひらりと翅を羽ばたかせて遊々が舞い降りる。
『いい夜ね、ところで貴方、何か相談事はなぁい?』
「こんばんは。うん、聞いてくれる?」
 煉月の返事に、勿論と答えて遊々が頷いた。
 有珠は遠くの方へ行った、ならばこの話はオレとひらり翅のキミだけしか聞いていない。すっと瞳を閉じる。
 ――蓋を、少しだけ開こう。
 閉じた瞳を開いて、真っ直ぐに遊々を見た。
「オレ、少し特殊な狼で好きな人ほど美味しく見えるんだ」
 秘密を打ち明けるような声に、遊々が耳を傾ける。
「だから恋はずっと苦しい事だと思ってて、実際逃げ出し事もある」
 好きなのに食べたいだなんて、地獄のようで。
「でも今似た感情を抱いてる相手は……苦しくも怖くもないし、むしろ安心してる」
 食べたいという感情よりも、笑ってほしい、一緒に笑いたい――そんな感情の方が大きくて。
「ね、恋ってひとつじゃないのかな?」
『恋って、人の数ほどあるのよ』
 それって、好きになった人の数ほどあるってことじゃない? と遊々が言う。
『それに、そうね。好きな人ほど美味しく見えるのに、今そう思っているかもしれない相手は美味しくは見えないの?』
「……そう思うより、一緒に笑いたいって思うんだ」
『ふふ、じゃあそれは……』
 恋じゃなくて、愛なのかもしれないわね、と遊々が笑った。

 その頃、煉月から離れた場所で遊々に話し掛けた有珠も同じように悩みを聞いてもらっていた。
「悩み……という程のものではないんだが」
 そう前置きをして話出した内容を、遊々は時折頷きながら聞いている。
「一緒にいて、胸があたたかくなったり、楽しかったり……笑っていて欲しかったりする人がいる」
 あら、と遊々が笑みを浮かべる。話す有珠の表情がふわりと和らいだからだ。
「いっとう大切な友達だからだと思うんだが」
『えっ』
「えっと、何かおかしなことを言っただろうか」
『あ、ううん、何でもないの、どうぞ続けて?』
 きょとんとした顔で、それでも続けてと言われたので有珠は素直に話を続ける。
「……思うんだが、時折、何か胸につっかえた様な感覚になる。何故だろうか」
『え~~、うーん、そうねぇ……』
 自分で気付いた方がいいのかしら、でも言われないとこの子ずーっと気が付きそうにないような気がするのよねぇ、なんて心の中で葛藤を繰り広げ、最終的に言うことに決めた遊々が小さく咳払いをして有珠に告げる。
『それって、好きな人だからじゃないかしら?』
「? ああ、彼は好きな友達だが」
『そうじゃなくって、恋愛的な意味で?』
「……恋愛でもそうなのか?」
 有珠がそわり、と指先を動かす。
「知識としては色んな形があるというのは知ってるんだが、私は、師匠しか愛したことがないから」
 それ以外の形が自分の中にあるかなんて、分からなくて、と有珠が下を向いてしまう。
『恋愛でもそうよ、胸につっかえた様な感覚は、そうね』
 きっと特別好きってことよ、と遊々が楽しそうに翅をひらめかせて笑った。

 相談相手に礼を言って、二人はお互いに向かって歩き出す。近付くにつれて、相手の瞳の色が見えて、でもなんだか上手く見れなくて、誤魔化すように互いに笑った。
 どんな悩みだったのか、と言葉にしようとして、互いに聞かれたくなくて離れたのに聞くのはよくないか、と有珠が言葉を選んで問い掛ける。
「少しは晴れたか?」
「オレはね、うん。晴れたというか、解った方、かな」
 煉月が笑いながらそう言って、想いと自覚は言葉にしない秘密だからと胸の裡で呟く。
「有珠は相談出来た?」
「ああ……出来たのだが」
 歯切れの悪い彼女の言葉に、煉月が首を傾げる。
「私は……余計に分からなくなったかも」
 両眉を下げながら笑った彼女が可愛くて、でもそんな風に思うのは酷いだろうか、とも思いつつ煉月がそうかと頷いた。
「でも、相談して良かったと思っている」
 これからどうなるのかは分からなかったけれど、それでもきっと。
 きっと、何とかなるのではないか、君の瞳を見ていると思うから。
「……帰ろうか」
「そうだな」
 一緒に帰ろう、と。
 そう言って、二人下駄の音を鳴らして歩いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百鳥・円
【偃月】◎

ぼうっとした灯りって哀愁を感じますねえ

う〜〜ん、悩みごと
つい先日まで、似たお仕事をしてたのですよね
相談を受けることが多かったのです
いざ相談を!となると悩んでしまいますね

しずくくんは、何かあります?
おやや、重なった

悩み、わたしの悩みごと………あ、
つい最近の出来事というか自覚というか
将来的にやりたい事が、い〜〜っぱいになったんです
今までは先のことなんて望みが無かったのに
これって、ある種の悩みごとじゃあないです?

悩み、って言うのに、なんだか晴れやかですけれどね
んふふ!そういうものがあってもいいでしょう?

ひとに何かを告げるのも、いい経験ですねえ
お話を聞いてくださってありがとーございました!


岩元・雫
◎偃月2

柔らかな光は、何だか心が落ち着くけれど
灯籠流しの様で、一寸だけ、皮肉

今晩は。…悩み事、ねえ
嘗ては終ぞ、言えない侭だったから
今は、何から悩めば良いのかも
何から言えば良いのかも、見当が附かない
まどかは?
おれは…
噫、ひとつ有った

囁く悩みは隣には聞こえぬ様
友達がね、本人に言えば良い事を、言わないで「叶えられたら良いな」で済ませちゃうの
別に、無理に変わって欲しい訳じゃない
言いたく無いなら其れで良い
おれが、話して貰える者で在りたいだけ
だから、あなた達への御相談は
「如何したら話術が上達するか」
聞くのに慣れたおねえさん方に、ぴったりの悩みでしょう?

御土産の相談でも乗って貰いながら、話術を盗ませて頂戴な



●わたしの悩み、おれの悩み
 ぽわぽわ、ふわり。
 ふわふわ、ぽわり。
 灯籠や提灯の灯りに照らされて、泡が柔らかな光となって水面へ飛んでいく。それは幻想的で美しい光景だけれど、どことなく物悲しさもあって。
「ぼうっとした灯りって哀愁を感じますねえ」
 百鳥・円(華回帰・f10932)がそう笑えば、岩元・雫(亡の月・f31282)も頷いて言葉を紡ぐ。
「柔らかな光は、何だか心が落ち着くけれど。灯籠流しの様で、一寸だけ、皮肉」
「ああ、だから哀愁を感じたのかもしれませんねえ」
 さすがしずくくん、と円が視線で光を追って頷いた。
「あ、見てください、しずくくん」
「ん? なに?」
 あれ、と言われて雫も水面を見上げれば、浮かぶ光の中を踊るように泳ぐ蝶々のような女達が見えた。
「悩みごとを聞いてくれるというひとたちですかね」
「悩み事……」
「う〜〜ん、悩みごと。つい先日まで、似たお仕事をしてたのですよね」
 相談を受けることが多い立場だったので、自分の悩みとなると、と円が目を閉じる。
「……悩み事、ねえ」
 はてさて、嘗ては終ぞ言えない侭だったから、今は何から悩めば良いのかも、何から言えば良いのかも見当が附かないと雫も円と同じように目を閉じた。
 目を閉じて考えてみるものの、いざ何かあるかと考えても意外と出てこないもの。二人はぱちりと目を開けて、女達――『胡毒蝶の艶女・遊々』を見上げながら、うんうんと唸る。それを上から見つけたのだろう、ふよふよと翅を揺らして遊々が二人の元へとやって来た。
『どうなさったの? そんなに難しい顔をして。何か悩み事? わらわに聞かせてくれないかしら』
 悩み事がないから悩んでいたのだけれど、とは言えず円は曖昧に笑って誤魔化しつつ、雫を見遣る。
「しずくくんは、何かあります?」
「まどかは?」
「おやや、重なった」
 ふふ、気が合いますねえ! と、朗らかに円が笑う。
『仲良しさんなのねぇ』
「ええ、とっても!」
 素敵ね、と笑みを浮かべた遊々に、あ! と円が小さく叫ぶ。
「あった、ありました、わたしの悩みごと」
『あら、なぁに?』
「つい最近の出来事というか自覚というか、将来的にやりたい事がい〜〜っぱいになったんです」
 うふふ、素敵ねと遊々が頷く。
「でしょう? 今までは先のことなんて望みが無かったのに、今はありすぎて困っちゃうくらいなんです! これって、ある種の悩みごとじゃあないです?」
『うふ、うふふ、そんなに楽しそうなのに、悩み事なの?』
 悩みと言うにはあまりにも晴れやかなその表情に、遊々が笑う。
「んふふ! そういうものがあってもいいでしょう?」
『ええ、とっても素敵! それなら、どれからやればいいかゆっくり考えるのがいいわ』
「ゆっくりです? 急がなくても?」
『そうよ、急いでしまったら、勿体ないでしょう?』
 なるほど! と今度は円が笑う番。
「ひとに何かを告げるのも、いい経験ですねえ。さ、次はしずくくんの番ですよ!」
 お話をきいてくださってありがとーございました、と言いながら、円が雫の方を見遣る。
「おれか……噫、そういえばひとつ有った」
 ちょいちょい、と遊々を手招きし、雫が内緒話をするように耳元へ囁く。
「友達がね、本人に言えば良い事を、言わないで『叶えられたら良いな』で済ませちゃうの」
『あら、それはお友達としては歯痒いわねぇ?』
 でしょう? と雫が頷く。
 けれど、別に無理に変わって欲しい訳じゃないのだと、雫は言う。
「言いたく無いなら、其れで良い。でも、おれが、話して貰える者で在りたいだけ」
 だから、相談なのだけれど。
 その真摯な瞳に、何でも相談して頂戴なと遊々が頷く。
「如何したら話術が上達するか。聞くのに慣れたおねえさんに、ぴったりの悩みでしょう?」
『うふふ、あらあら、お上手ね。ええ、ええ、勿論よ! わらわで良ければどうしたらいいのか教えてあげるわ』
 可愛らしくもいじらしい相談に、遊々が大きく胸を張った。
『まずは人のお話をようく聞くことだと思うの。聞き上手は話し上手って言うでしょう? よくよく聞いて、それからこちらが話すのよ』
 なるほどね、と頷いて、雫が遊々の耳元から唇を離す。
「じゃあ、お土産の相談に乗ってくれない?」
 そのついでに、話術も盗ませて頂戴な、と雫が口元に笑みを浮かべた。
「なんですか、お土産の相談ですか?」
「そうだよ、まどかも一緒に聞こう」
 輪になって、話を聞いて。
 きっとそれだけでも、心がどこか軽くなるものだから。
 待っててね、いつかきっときみに話して貰えるおれになるから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

君影・菫
【nyx3】◎

はら…泡が光って空に還ってく
ふふ、ここが水の中なん実感するわ

…悩み、相談
単語はピンとは来なかったけど
聞きたいことならあって
みんな各々相談して来よかって暫しのお別れ

なあなあ、ヒトとモノの親子って
他から見たら変だったりするんかなあ?
無垢なすみれ色を向けて返る音を待つ
以前なら気にならなかった他者の目
聞いてみたくなったのは、またひとつヒトに近付いたから
――ほんとは、
おかしくてもええんやけど
ほんの少だけ、そんな事無いと言の葉にして欲しくて
ふふ、変なうちて話を聞きながら変化に咲う

合流すれば折角やし各々誂えて貰った浴衣の感想聞いてかん?
ふたりがどう褒められるのか聞いてみたいし
なんて、童女のおと


橙樹・千織
【nyx3】◎

泡が…
ふふ、幻想的ですねぇ
見上げてゆるゆら尻尾を揺らす

悩み相談ですか
ええ、それぞれにしましょうか

悩み、ねぇ…
空に還る光をぼんやりと眺め

…打明けた時、相手が離れていってしまうかもしれない秘密
そんな秘密を大切な人に打明けるなら、あなたはどうしますか?
いつ
どこで
どういう風に?
見上げていた視線をゆるり蝶へと戻す
瞳の柔らかな橙に紅を携えて

それとも…
離れたくない、離したく無い存在ならば
秘めたままで、いるべきかしら
それはそれで信頼していないように思えてしまうから
したくないのだけれど…

合流すればいつものようにふわりと笑んで
浴衣の?
ふふ、いいですねぇ
どんな感想がもらえるかしらねぇ?


宵鍔・千鶴
【nyx3】◎

星みたいに天へと向かう泡を
そっと見送って

きみとは一期一会の仲だろう
ならば、と打ち明けること

もし、きみが、
大切な相手から、己を殺して欲しいと
懇願されたなら…
受け入れる?其れとも望むならばと
…自分の手で殺す?

手に掛けたならばその後自分は如何する?

俺はその答えを昔からずっと探してる
…ずっと考えてる
何が正しかったか、なんて
結局誰にも解らないのかもしれないけれど
…聴かせて、きみなりの考えを
きっとどんな解答でも、俺は胸を焦がすんだろう

約束の場所へ合流すれば少し安堵の表情で
あ、浴衣の感想、良いね
素敵に誂えて貰ったんだ、
ね、似合ってる?二人も可愛いよな、
なんて無邪気にくるりとお披露目を



●秘密と、内緒
 ぷかぷかと浮かんでいく光る泡を指さして、君影・菫(ゆびさき・f14101)が笑う。
「はら……泡が光って空に還ってく」
「泡が……ふふ、幻想的ですねぇ」
 山猫の尻尾をゆらりと揺らし、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)が水面を見上げる。
「まるで星のようだね」
 宵鍔・千鶴(nyx・f00683)が光る泡にそっと手を伸ばし、指先をかすめた泡を見送った。
「ふふ、ここが水の中なん実感するわ」
「ずっといると忘れてしまいそうですね」
 水の中にもすっかり慣れて、と千織が菫と顔を合わせて笑う。くすくすと囁くような軽やかな声が届いたのだろう、蝶の翅を揺らして『胡毒蝶の艶女・遊々』達がふわり、ゆらりと三人の前に舞い降りた。
『ふふ、楽しそうねぇ。わらわ達にもお話聞かせてくだしゃんせ』
『悩みごと、困りごと、どんな相談でも聞かせてねぇ』
 ふわふわ、ゆらゆら、遊々達が笑う。
「悩み相談ですか」
『ええ、何かなぁい?』
「……悩み、相談」
 すぐにはピンと来なくて、菫が少し考える。
『聞きたいことでもいいわよぅ』
「あ、それならうち、あるわ」
 思いついたように菫が言うと、千織と千鶴に視線を送る。
「な、みんな各々相談して来よか」
「ええ、それぞれにしましょうか」
「ああ、俺もそれで構わないよ」
 悩み事、相談事、それはきっと内緒の話も含まれるはずだから。
『じゃあ、貴女はわらわと』
「ええ、よろしくお願いしますね」
『貴方はわらわとねぇ』
「よろしく」
 千織が遊々と共に少し離れた場所へと向かうと、千鶴も同じように反対方向へと向かう。
『それじゃあ、聞かせてもらいまひょ』
 残った菫に、遊々が笑った。
 じゃあさっそく、と菫が遊々に向かって唇を開く。
「なあなあ、ヒトとモノの親子って、他から見たら変だったりするんかなあ?」
 無垢なすみれ色が遊々の紫水晶のような瞳を覗き込み、返ってくる音を待つ。
『ヒトとモノ? ヒトと妖だって親子になったりするんだもの、おかしくはないんじゃなぁい?』
 わらわはそう思うけど、と遊々が答えれば、菫がパァ、と顔色を明るくしていく。
「ほんとに?」
『ほんとよぉ、わらわ嘘つかないもの!』
 そんなら嬉しいなあ、と菫が笑って話を続ける。
「以前なら他人の目は気にならんかったんやけど、最近はちょっと気になってな」
 聞いてみたくなったのは、きっとヤドリガミたる菫がまたひとつヒトというものに近付いたからだろう。
「――ほんとは、おかしくてもええんやけど」
 誰がおかしいと言ったとて、千鶴が親子だと言ってくれるならそれだけでいいのだけれど。
 ほんの少しだけ、自分達ではない誰かにそんな事無いと言の葉にして欲しくて。
『わらわでよかったら、いくらだって言うわ。ねぇ、何にもおかしくないのよ』
「ふふ、ありがと」
 変なうち、今までは思わんかったのにねえ、こんなに嬉しいん。
 花が咲くように笑んで、菫と蝶が鮮やかに綻んだ。

『さぁさ、悩みを教えて?』
「悩み、ねぇ……」
 そう言われてもなかなか、と思いながら千織が空に還ろうとする光をぼんやりと眺める。それにつられたように、遊々も隣でその風景を見上げた。
 そのうち、胸の裡で言葉が纏まったのだろう千織がそっと唇を開く。
「……例えば、ですけれど」
『ふふ、例え話でもいいわよぅ』
「打ち明けた時、相手が離れていってしまうかもしれない秘密。そんな秘密を大切な人に打ち明けるなら、あなたはどうしますか?」
 いつ、どこで。
 どういう風に?
 大切な人に、ずっと隠している秘密を打ち明けるなら――。
 水面を見上げていた視線をゆるりと蝶へと戻し、千織が真っ直ぐに紫水晶のような瞳を柔らかな橙に紅を携えて見つめた。
『わらわは……そうねぇ、自分の覚悟が出来た時に』
 相手が離れてしまっても、それでも話す覚悟ができたなら。
『自分の一番大事にしてる場所で』
 悔いの残らぬように。
『いつも通りに話すかしらねぇ』
 何一つ飾らぬ自分で。
「……誠実、なのですね」
『貴女がそうだから』
「私が? でも、打ち明けずに秘めたままでいるべきかと悩んでいます」
 離れたくない、離したくない存在ならば。いっそ秘めたままで――。
「でもそれはそれで、相手を信頼していないように思えてしまうから、したくはないのだけれど……」
『ふふ、ほら。貴女が誠実なのよ』
 くすくすと遊々が笑って、そうでしょうかと千織が首を傾げる。
『いつか言わなくてはいけないのなら、貴女の覚悟が決まった時に』
 それまでは、秘めていてもいいんじゃなぁい? と、遊々が泡を指先でつついた。

「……俺ときみとは一期一会の仲だろう」
『そうねぇ、わらわ達は満足したら還るものね』
 違うわらわ達が現れることはあれど、今ここで、貴方の話を聞くのはわらわだけだと遊々が頷く。
「ならば……」
 少しだけ躊躇ったそれを捨て、千鶴が顔を上げた。
「もし、きみが」
 真っ直ぐに遊々の瞳を見つめ、己の手を握る。
「大切な相手から、己を殺して欲しいと懇願されたなら……受け入れる?」
『難しいことを聞くのねぇ』
 ふ、と微笑んで遊々が閉じた目を開く。
『わらわなら、きっと……受け入れてしまうでしょうねぇ』
 静かな声音だったけれど、きっとそうなのだろうとわかる、芯のある声だった。
「なら……望むならばと、自分の手で殺す?」
『他の誰かに殺されるくらいなら、わらわが殺すわ』
 大切な相手が望むなら、もうそれ以外の方法がないと言うのなら、きっとわらわは殺してしまうと遊々が千鶴を見遣る。
「では……手に掛けたならば、その後自分は如何する?」
 俺はその答えを昔からずっと探しているのだと、千鶴が深く息を吐く。
「……ずっと考えてる、何が正しかったか、なんて」
 きっと解りはしないし、誰にも正しい答えなんて解らない。
「……聴かせて、きみなりの考えを」
 どんな答えであっても、俺は胸を焦がすのだろうけれど。
 懇願するような響きであったかもしれない、遊々は言葉を紡ぐ為に再び唇を開く。
『大切な相手の望むように』
 共に死んでと言うのなら死にましょう、生きてと言うのなら生きましょう。
『どちらの道も地獄ならば、どちらを選んでも変わらないでしょう?』
 共に死んでも、生きている限りずっと罪を背負っても、続く道は変わらないのだと遊々は言った。
「そう、そう……だね……」
 そうかもしれないね、と千鶴は顔を上げ、光る泡を見上げた。

 相談が終わると、三人三様の顔をして約束した場所へと合流する。
 二人の顔を見た千鶴は少しほっとして、柔らかな笑みを浮かべて手を振った。
「相談、ちゃんとできた?」
「ええ、できましたよ」
「俺もしてきたよ」
 解決はせずとも、泡ひとつ分くらいは心が軽くなったはず。
「あ、そうやわ。折角やし誂えて貰った浴衣の感想も聞いてかん?」
 二人がどう褒められるのか、聞いてみたいのだと菫が笑う。
「浴衣の? ふふ、いいですねぇ」
「あ、浴衣の感想、良いね」
 遊々達に手を振れば、何かしらと集まってきてくれる。
「どんな感想がもらえるかしらねぇ?」
「楽しみやね」
『なぁに、まだ相談事あった?』
 何でも聞くわよと遊々達がひらり、ふわりと踊るように浮かんで。
「素敵に誂えて貰った浴衣のね、感想を聞きたいんだ」
『あら、そういうのわらわ好きよ。三人ともよく似合ってるしねぇ』
 ねぇ、と遊々達が頷き合う。
「よかった、二人とも可愛いよな」
『貴方のも素敵よ?』
 踊る蝶達が、きゃあきゃあと楽し気にお披露目だと三人を真ん中に立たせる。その中央で、浴衣を見せ合う様にくるりとターンを決めて皆が笑った。
 秘密と内緒を抱えたまま、それでも楽しい星の夜を三人で――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

⭕️

水底にも星空があるんだね
瞬く美しい光景に微笑み抱える巫女に頬擦りする
昔幼いきみによくそうしていたように

サヨ、歩ける?
ならもう少しこうして抱えていこう
きみに頼られるのは嬉しいよ

可愛い巫女の髪を撫でてから蝶の娘に問いかける
私の巫女は水が苦手すぎるんだ
どうしたら怖くなくなるだろう?
怯え震える姿を見るのは私も心が痛く苦しいからね
それに、夏になる
水辺で遊ぶ機会も増えるだろうから
ずっと私が抱えて手を繋いでいるのもいいけれど…
泳げたらもっと楽しいだろう
私はサヨの笑顔がみたいのだ
きみが笑顔でいられる世界がいい

ありがとう、蝶の娘よ
サヨ
参考になったね

大丈夫、怖くない
私はそばに居るよ
きみを決して、離さない


誘名・櫻宵
🌸神櫻


願いを託した後はまた神の腕の中
首に手をまわして落ちぬようしかと掴まる

本当ね、星空の底にいるようだわ
触れる頬が擽ったくて懐かしい
…本当は歩ける、気がするけど
もっとこうしていたくて否と答えるわ

相談にのってくれるの?
も、もう!カムイったら!そんな恥ずかしいわっ
…水が怖いのは溶けてしまいそうだから
私と私の境目が水にとけて無くなってしまう
冷たい水に沈められた、幼い頃の折檻も関係してるのかしら
思い出してまたカムイにしがみつく

私だって、夏の海を楽しみたいのよ?
水遊びもしたいわ

…頑張るわ
助言をありがとう蝶々さん
うん、カムイ
私の神様がずっと、そばに居てくれる
だから大丈夫よ!
水恐怖症を克服してみせるわ!



●克服大作戦!
 短冊に願いを託した後、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は再び朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)の腕の中にいた。
「サヨ、見てご覧」
 ぎゅう、と落ちぬようにカムイの首に掴まっていた櫻宵が、彼の声に導かれて顔を上げる。
 視線の先には水中の灯りに照らされて、淡く光る泡たち。それらが天を目指してぽわりと飛んでいくのは、とても綺麗な風景で。
「水底にも星空があるんだね」
「本当ね、星空の底にいるようだわ」
 ぷかぷか、ぴかぴかと瞬くような美しい光景にカムイが微笑んで、手の中にいる愛しい巫女へと頬を擦り寄せた。
「ふふ、擽ったい」
 その擽ったさは懐かしい、あの日を思い起こさせるよう。
「幼いきみに、よくこうしていたね」
「ええ、擽ったくて優しくて、とても好きだったの」
 視線を交わし、互いに笑みを浮かべる。
「サヨ、歩ける?」
 そろそろ歩いてみてはどうだろうかと、カムイがそっと櫻宵に問う。
「……まだ、歩けないわ」
 本当は歩ける、気がするけれど。もっとこうしていたくて、大好きな神様の腕の中にいたくて、わざと否と答えた。
「なら、もう少しこうして抱えていこう」
 きっとこの小さな嘘は神様にはお見通しだっただろうけれど、巫女に頼られるのが大好きな神様はそっと知らない振りをする。そうして、可愛い巫女を腕に抱きあげたまま、暫しの間水底の星空を楽しむ為に歩き出した。
 ゆっくりと水面を見上げながら歩いていると、蝶の翅を持つ美女達が光る泡を楽しむようにふわり、ふわりと水の中を飛んでいるのが見えた。
 そのうちの一人、『胡毒蝶の艶女・遊々』が二人を見つけ、ひらりと舞い降りる。
『こんばんは、ねぇ貴方たち、何か相談事はなぁい? 悩みごとや困りごと、わらわに聞かせてくださらない?』
「相談にのってくれるの?」
『ええ、それがわらわの望みなの』
 パッと櫻宵がカムイを見れば、大きく頷いて相談に乗ってもらおうかと笑った。
「実はね、私の巫女は水が苦手すぎるんだ」
 可愛い巫女の髪を撫でながら、カムイが遊々に相談ごとを話し出す。
『そうなの? 水が怖いの?』
「……ええ、水はどうしても」
『お湯は? お湯だったら平気?』
「得意ではないけれど、お風呂に入る程度なら……」
 そうなのねぇ、と遊々が頷く。
『きっと、たくさんの水が苦手なのね』
 しみじみと遊々が言うのを、そう、そうなのと櫻宵が首を縦にぶんぶんと振って同意する。
「どうしたら怖くなくなるだろう? 怯え震える姿を見るのは私も心が痛く苦しいからね」
「も、もう! カムイったら! そんな恥ずかしいわっ」
『うふふ、嬉しいくせに~』
 もう! と頬を赤くする櫻宵に遊々がにこにこして、それを見てまたカムイが笑みを浮かべる。
『水が怖い理由は自分でわかるのかしら?』
 そう問われると、櫻宵がカムイの首に回した腕をぎゅう、と強めた。
 宥めるように櫻宵の髪をカムイが撫で、何とか落ち着いた櫻宵が意を決して唇を開く。
「……水が怖いのは溶けてしまいそうだから。私と私の境目が水にとけて無くなってしまう……そんな風に考えてしまうの」
 きっと、冷たい水に沈められた幼い頃の折檻も関係しているのだろうと、櫻宵が息を零してカムイにしがみつく。
『でも、今日は水の中に来れたのでしょう? それってすごい進歩だとわらわ思うのよ』
 頑張ったのねぇ、と遊々が櫻宵を褒めれば、頬がほんのりと赤く染まって。
「カムイがね、いてくれたから……こうやってぎゅってしてくれていたら、なんとか平気なの」
「私にしがみついてくるサヨは可愛いのだけれど、夏になるだろう? 水辺で遊ぶ機会も増えるだろうから」
 そうなると、こうやって抱きかかえていては楽しく遊べないのではないかと心配なのだ、とカムイが言う。
「私だって、夏の海を楽しみたいのよ? 水遊びもしたいわ」
「勿論、ずっと私が抱えて手を繋いでいるのもいいけれどね」
 迷惑どころか、望むところなのだから。
 それってwin-winなんじゃない? と思いはしたけれど、本人達は克服したいのだから言葉を飲み込んで。
『そうねぇ、とりあえずビニールプールから始めてみたらどうかしら?』
「びにーるぷーる」
「子ども用の?」
『今どきのは大人が入っても充分広いのがあるんですって』
 新し親分が言ってたから、多分本当よと遊々が言う。
『浅いものなら、そんなに怖くはないかもでしょ? 勿論、そこの彼氏やお友達にも手伝ってもらってねぇ』
 なんなら、ビニールプールの底に丸い綺麗な石とか仕込んで、宝探しとかしたり。
『水が怖いって気持ちを、水の中って楽しい、に上書きできたら、少しはなんとかなるんじゃないかしら』
 ね? と笑った遊々に、なるほどとカムイが頷く。
「……頑張るわ、皆と夏を楽しみたいもの。助言をありがとう、蝶々さん」
「私からも礼を言う。ありがとう、蝶の娘よ」
『うふふ、お役に立てたなら嬉しいわ! 相談してくれてありがとうねぇ』
 ひらり、と遊々が二人の元を飛び立っていく。
「サヨ、参考になったね」
「うん、カムイ。帰ったらおっきなビニールプールで皆で遊びましょ」
 ぎゅう、とカムイに抱き着いて櫻宵が笑う。
「大丈夫、こわくない。私はそばに居るよ、きみを決して離さない」
「ええ、私の神様がずっとそばに居てくれるんだもの」
 だから大丈夫よ、と櫻宵がカムイを見上げた。
「水恐怖症を克服してみせるわ!」
 櫻宵の決意は固く、カムイもその意気だと腕の中の巫女を鼓舞するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千家・菊里
【楽4】◎
悩み?
伊織はさておき、特に思い当たらぬというのも逆に悩ましいものですねぇ(能天気)

そうだ、仕事後にかき氷のおかわりを頼む際、今度は何を増し増し盛り盛りにして頂くか、相談宜しいですか?
たこやきは変わり種も良いですねぇ

あ、成程
もし盛り切れずとも、その時はおかわりのおかわりを頂けば良いですよね(即すっきり)

後は、ええ――やはり伊織の素行不良、ですね(不意のまがお)
一向に懲りず、玉砕ばかり繰り返す悪癖ってどうすれば治るでしょう?(善意2)

澄み渡る空の天川の様に、伊織が清く輝く日は――いやある意味、玉砕の涙でいつもキラキラしてますね?

ふふ、まぁ如何な結論でもめでたしめでたしと致しましょう(?)


筧・清史郎
【楽4】⭕️

悩み、か
俺は箱で在った為か、人の感情の機微が分からない
故に悩みが思い当たらないが…菊里と清宵もか
強いて言えば、悩みがない事が悩みだ(真面目に

ああ、菊里、俺もそれは悩ましい
かき氷…どの味にすべきか
盛って貰うものも悩むな
たこ焼きも追加したいところ

だが、その解決方法を俺は知っている
どれも全て頂き、全部盛りにすればいい事をな
(雅な笑顔で、秒で自己解決

なのでやはり、悩みがない事が悩みか
悩みが生じれば、人の感情が分かるかもしれない(振出し

という事で、悩める友の伊織を後押し
伊織は男前だが、なのにまだ来ぬ春によく悩んでいる(悪気無し
友が悩んでいる事が悩みだ(善意

ふむ…成程(遊々の返答に真剣にこくり


佳月・清宵
【楽4】◎
生憎と愉しくもねぇモンは持たぬ主義――仮に何ぞ浮かぼうが、酒で綺麗さっぱり流れるんでな

(のらりくらりと適当並べつつ
食気祭のおかわりに肩竦め)
おい、悩み相談どころか完全に二人の世界で完結して如何する
贅沢な悩みたァ、この事ってか

(と笑いつつ、何ぞまた喚く伊織見て)
ああ、助けようにも手遅れな輩なら一人いたな――此奴の煩悩は手強いどころじゃねぇぜ?

お前(遊々)達を除けば、憐れにも微笑み掛けてくれる織姫の一人も無し――品行方正のひの字も覚えられぬたァ、ほとほと困ったもんだよなァ
どう躾りゃあ、ちったァまともになると思う?(善意の上に畳掛ける悪乗り)

噫、愉快愉快
悩み暮れるよか笑い晴らす方が余程良い


呉羽・伊織
【楽4】◎
ハハハ――いや~オレはキミ達のお陰で悩みが一杯ヨ?

例えば
エンゲル係数ヤバくない?とか
食す当人より外野が胸焼け!とか
いや全盛りにおかわりのおかわりって何なの何倍の何杯!?とか

浴衣美人に声掛ける暇もない、この深刻なツッコミ不足…
嗚呼、心優しい美女サン、どうか可哀想なオレに愛の手を~!

…おい喧しいぞ性悪狐(清宵)
口も悪けりゃ性格も極悪、躾が要るのはソッチだろ!
遊々と天然達を妙な方向に毒すな~!
善意が…つらい…!

この悪縁絶って美女と良縁結ぶにゃどうすれば…って上手くないぞ菊里ー!
うっ、天川より寧ろ無自覚モテ男(清史郎)の笑顔と余裕が眩し…!

全く、頭抱えたり腹抱えたり悩みも笑いも絶えぬこって!



●悩みごとより笑いごと
 きらきら、ふわり。
 灯籠や提灯の灯りに照らされた泡が淡く光って、水面へと上っていく。
「これは……中々に雅だな」
 筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)が水面を仰いで呟くと、千家・菊里(隠逸花・f02716)も同じように見上げて見事ですねぇ、と笑みを零す。
「いい酒の肴になりそうだな」
「偶には酒から離れられないのかよ。いや、でも綺麗だな」
 佳月・清宵(霞・f14015)の言葉に呉羽・伊織(翳・f03578)が呆れたように噛みついて、すぐに綺麗な光景に眦を下げた。
 暫しの間、蛍のような、星のようなそれらを眺めて四人で笑い合う。そうしている内に、光る泡と共に踊るように飛び交う蝶の翅が生えた美女がいることに気が付いた。
「あんなところに美人サンがいる!」
 勿論気が付いたのは伊織で、幻覚でも見ているのかと三人が伊織の示した先を見れば、本当に彼が言うところの美女が居たので、幻覚ではなかったのだなと三人が優しい目で……一人は笑っていたが、伊織を見た。
「バカにしすぎじゃナイ??」
「そんなことはないぞ、お手柄だな伊織。恐らく、あの女性が悩みを聞いてくれる妖怪だろう」
 清史郎にそう言われ、そう? と笑みを浮かべる伊織を清宵はチョロいなと思って見ていた。
「なんか失礼な視線を感じるケド、まぁいい! 早速あの美女に相談に乗ってもらおうぜ」
 なんてことを言っていたからだろうか、こちらから行くまでもなく、伊織いうところの美女――『胡毒蝶の艶女・遊々』が四人の元へと舞い降りたのだ。
『わらわを呼んだ? 相談事があるのかしら、うふふ、わらわに聞かせて頂戴な』
 悩みでも、困りごとでも、なんでもいいの、と遊々は言う。
「悩み、か」
 ふむ、と清史郎が考え込む。
「俺は箱で在った為か、人の感情の機微が分からないところがあってな。故に悩みが思い当たらないのだが……」
「悩み、悩みですか。伊織はさておき、特に思い当たらぬというのも逆に悩ましいものですねぇ」
「生憎と愉しくもねぇモンは持たぬ主義でな――仮に何ぞ浮かぼうが、酒で綺麗さっぱり流れるんでな」
 三者三様、考え方や理由は違えど、同じように悩みが浮かばないと顔を突き合わす。
「菊里と清宵もか」
 悩みがないというのも、困ったものだなと清史郎が笑う。
『えぇ、四人もいるのに悩みがないの?』
「伊織はあると思いますよ?」
 菊里が笑顔で伊織の方に振り向いて、ねぇ? と微笑む。
「ハハハ、ハハハ。いや~オレはキミ達のお陰で悩みが一杯ヨ?」
 決して! 女性問題じゃないからな! という気迫を見せつつ、伊織が引き攣った笑みを浮かべて言う。
「へぇ、例えば?」
 あるのか? と言わんばかりの清宵の声に、あるヨ! と叫んで伊織が遊々に視線を向けた。
『あら、貴方は悩みがあるのねぇ、ふふ。わらわが聞くわよぅ』
 遊々がキラキラとした瞳で伊織を見て、どうぞと促す。
「まず、エンゲル係数がヤバくない? ってことが一つ!」
『エンゲル係数』
 だって聞いてくれるかい? ええ、ええ、聞くわ、と話しながら、伊織がエンゲル係数――家計の消費支出に占める食費の割合――についてぶちまける。
「とにかくめちゃくちゃ食べるの、特にこの二人!」
 伊織が清史郎と菊里に視線を遣れば、清史郎がほわっと笑みを浮かべ手を振り菊里はおやおや、という顔をして笑う。
「あんな霞しか食ってないような顔して、食べる量がえげつないんだよ。食す当人より外野が胸焼け!」
『でも、よく食べるのは健康的じゃない?』
「健康的の範囲を超えてると思うヨ!? いや全盛りにおかわりのおかわりって何なの? 何倍の何杯!?」
 食べ過ぎは健康を害しマス! と高らかに伊織が謳う。
「ははは、腹を壊したことはないぞ?」
「ええ、自分たちが食べられる分量しか食べていませんよねぇ」
 ねー? と清史郎と菊里が顔を見合わせて首を斜めに傾ける。
『うふふ、健康的で可愛いわね』
「ちょっと!? オレの相談だぜ美女サン!」
『ええ、だってお腹壊さないんでしょ? 吐いたりもしないんでしょ?』
 それはそうだけれど、限度ってものが! と言う伊織の肩を菊里がポンと叩いた。
「伊織、伊織の相談を聞いていたら俺も相談を思いついたんです。少し変わってもらってもいいです?」
「え? そりゃイイけど」
 にこにこと笑った菊里が伊織と場所を交代し、遊々に相談を持ち掛ける。
「俺の相談なのですが」
『ええ、ええ、聞かせて頂戴な』
 その返事に菊里も笑みを浮かべ、唇を開く。
「仕事後にかき氷のおかわりを頼もうと思うのですが」
『おかわり』
「はい、その際に今度は何を増し増しで盛り盛りにして頂くか、一緒に考えていただいて宜しいですか?」
 ちょっとー!? と、伊織の声が聞こえたが菊里は聞こえない振りをした。
「ああ、菊里、俺もそれは悩ましい」
 悩みがないことが悩みだと、真面目に考えていた清史郎が顔を上げて菊里の隣に並ぶ。
「かき氷……度の味にすべきか、盛って貰うものも悩むな」
「ええ、ここは女性の意見も聞いてみようかと思いまして」
 まずは先ほど自分達が食べたかき氷を伝え、これの他に何がいいかと遊々に問う。
『本当に増し増しの盛り盛りね』
「ああ、美味かったぞ」
 聞いているだけで口の中が甘くなってきた気がするリターンズに、清宵がそっと腰に下げた酒を口にした。
『黒蜜きなこで和風にしたなら、今度は洋風にしてみたらどうかしら? マンゴーのかき氷にソフトクリームとホイップ載せて追いマンゴーソース増し増し&果実のマンゴーも増し増しで』
 フルーツ盛り盛りスペシャルマンゴーかき氷、美味しそうじゃない? という遊々の言葉に、清史郎の瞳が輝く。
「それは……絶対に美味しいだろうな……!」
「では、俺は?」
『今度は和風にして、抹茶かき氷に小豆とソフトクリームを乗せて黒蜜ソース追加の生クリームトッピング、上から抹茶を振って貰ったらどうかしら?』
 粒あんとこしあん、両方トッピングも戦争がおきなくて良いと思うの、と遊々は重々しく頷いた。
「さすが、女性の細やかな配慮は違いますねぇ」
 うんうん、と菊里も頷き、それから憂いのある笑みを浮かべる。
『どうしたの? だめだった?』
「いえ、駄目なんてそんなことはありませんよ。でも、まだ他にも食べていない味があると思うと……」
「菊里」
 清史郎がキリっとした表情で名を呼び、重々しく頷く。
「だが、俺はその解決方法を知っている」
「本当ですか」
 ああ、と雅な笑みを浮かべ清史郎がその一言を放つ――!
「どれも全て頂き、全部盛りにすればいい事をな」
「あ、成程。もし盛り切れずとも、その時はおかわりのおかわりを頂けば良いですよね」
 ええ~~~みたいな顔をして、遊々が伊織と清宵を見遣った。
 無理、諦めろ、というジェスチャーが返ってきて、遊々がもう一回ええ~~~って顔をした。
「ではたこ焼きは変わり種も食べるということで」
「そうだな、たこ焼きも追加しよう」
 屋台制覇に乗り出さんとする二人に肩を竦め、それまで酒を飲んで眺めていた清宵が清史郎と菊里に声を掛けた。
「おい、悩み相談どころか完全に二人の世界で完結して如何する」
「おや、悪いことをしてしまったかな」
「すみません、つい」
「全く、贅沢な悩みたァ、この事ってか」
 彼らの言葉に、遊々がそうよ~! わらわが悩みを解決するのよ! なんて頬を膨らませる。
「どうよ美女サン、浴衣美人に声を掛ける暇もない、この深刻なツッコミ不足……」
『ごめんなさいねぇ、わらわちょっとだけ気持ちが分かった気がするわぁ』
「嗚呼、心優しい美女サン、どうか可哀想なオレに愛の手を~!」
 なんて、伊織が遊々の手を取った。
「ああ、助けようにも手遅れな輩なら一人いたな。此奴の煩悩は手強いどころじゃねぇぜ?」
 アンタの手を取ってるその男の事だが、と清宵が皮肉気に言ってみせる。
「……おい喧しいぞ性悪狐、口も悪けりゃ性格も極悪、躾が要るのはソッチだろ!」
 彼女の手を放し、伊織が清宵に食って掛かるが、相手にもされず地団太を踏んだ。
「そうなると……ええ、やはり伊織の素行不良、これが相談事ですね」
 不意に真顔をみせて、菊里が遊々に困ったように言う。
「ああ、俺もやはり悩みがない事が悩みだ。だが、悩みが生じれば人の感情が分かるかもしれない……となると、俺も伊織についての相談になるな」
 チョット!? 二人とも!? 伊織の声は完全にスルーされ、善意しかない相談事が始まった。
「伊織は男前だが、なのにまだ来ぬ春によく悩んでいる。俺としては、友が悩んでいる事が悩みだ」
 善意その壱の、鮮やかなストレートパンチが綺麗に伊織に決まる。
「ええ、一向に懲りず、玉砕ばかり繰り返す悪癖ってどうすれば治るでしょう?」
 多分善意その弐の、抉るようなアッパーカットが追い打ちを掛ける。
「お前達……遊々を除けば、憐れにも微笑み掛けてくれる織姫の一人も無し。品行方正のひの字も覚えられぬたァ、ほとほと困ったもんだよなァ。どう躾りゃあ、ちったァまともになると思う?」
 善意の上に畳み掛ける悪乗りが伊織を襲う――!
「ヤメて! 俺のライフはとっくにマイナスよ!」
『仲良しさんたちなのねぇ』
「これを仲良しで済ます!? うう、この悪縁絶って美女と良縁結ぶにゃどうすれば……」
『やぁだ、切る気なんてないくせにぃ~』
 きゃらきゃらと遊々が笑って、伊織が項垂れた。
「ふふ、澄み渡る空の天川の様に、伊織が清く輝く日は――いやある意味、玉砕の涙でいつもキラキラしてますね?」
「く、上手くないからな、菊里ー!」
『うふふ、貴方は本当にいい縁が欲しいと思えば、きっと手に入れられるわよぉ』
 今はこうやって、馬鹿やっている方がきっと楽しいのね、と遊々がくすりと微笑んだ。
「そうだな、俺もそう思うぞ、伊織」
「うっ、天川より寧ろ無自覚モテ男の笑顔と余裕が眩し……!」
 清史郎の笑顔に眩しそうに目を細め、その様子にまた菊里が笑って。
「噫、愉快愉快。悩み暮れるよか笑い晴らす方が余程良い」
「全く、頭抱えたり腹抱えたり悩みも笑いも絶えぬこって!」
「ふふ、まぁ如何な結論でもめでたしめでたしと致しましょう」
「はは、綺麗に纏まったなぁ」
 楽し気な声が水底に響く。遊々も四人の笑い声に、にっこりと笑みを浮かべ――。
 悩み事がないのが一番よねぇ、と頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)。
ここが水中の中だということを忘れてしまうような景色だ。
気に入った茶を飲みながら暫くゆっくりと眺めていたい。

悩みか。特にはない。しかし断るのもなんだか気がひけるな。
さて。どうしたものか。悩みな…。ふむ。
「妖怪も茶を飲むだろうか? …最近、珍しい茶葉を探していてな。
この世界の茶を教えて貰いたい。紅茶でなくてもいいんだが」
とりあえず茶のことを私の悩みとして発言。女妖怪に相談しよう。
各世界の茶は以前から興味はあったことだ。これはこれでいいだろう。

「ふむ…。なるほどな。…この店がいいのか…」
カクリヨ世界の茶は不発酵茶の文化に近いらしい。とても興味深い。
「助かった。参考にさせて貰おう」


神坂・露
⭕️レーちゃん(f14377)。
綺麗ね。水中だと灯篭もこーなるのね。
え?困ったことの相談に乗りたいの?あるわあるわ♪
「あのねあのね。レーちゃ…この黒い子なんだけどね~」
あたしに冷たいところがあることなんかをお姉さんに話すわ。
「頬すりとか膝枕とかは、まだしてくれないのよ! 酷くない!」
寄ってくる猫さんにはしっかりする癖に…って頬を膨らませるわ。
『猫が勝手にしてくるんだろう』って言われて抱きしめて抗議する。
だって。あたしだって猫さんみたくすっごくしたいのよ。
「どうすれば、猫さんみたくできるかしら、かしら?」
沈黙した後でレーちゃんから一言。
『この子のこういう部分をなんとかできないか』ってなんでぇ~?



●困っていない、困りごと
 シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)の腕にくっ付いていた神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が、あ! と声を上げる。その声につられ、シビラが露の視線を追えば、灯籠や提灯が次々に灯っていくのが見えた。
「綺麗ね、水中だと灯籠もこーなるのね」
 けれど、綺麗なのはそれだけではなく、灯りに照らされた泡が水面へと向かう光景は、まるで蛍が一斉に空へ向かって飛んでいくかのよう。
「ここが水中の中だということを忘れてしまうような景色だ」
 こんなに綺麗な景色ならば、どこかに座ってお気に入りのお茶を飲みながら暫くの間ゆっくりと眺めていたい――なんてシビラの願いは口にする前に露の声に搔き消される。
「あっレーちゃん! あの蝶々の翅のお姉さん、とっても綺麗だわ」
「……あれが悩みを聞いてくれる妖怪じゃないか?」
 そうなの? と露がシビラに視線を遣り、もう一度蝶々の翅を持つ女性――『胡毒蝶の艶女・遊々』に視線を向けた。
「あ、こっちに来たわ!」
 露の言葉通り、遊々が翅をゆっくりと羽ばたかせ、踊るように二人の目の前に下りてくる。
『うふふ、可愛い子達。ねぇ、何か相談事はなぁい? 悩みごとでも、困りごとでも、わらわに聞かせてちょうだいな』
「え? 困ったことの相談に乗りたいの?」
『そう、そうよ。相談に乗りたいの!』
「それならあるわ、あるわ♪」
 露が笑ってそう言うと、遊々が嬉しそうにくるりと露とシビラの周囲を泳ぐ。
『あら、嬉しいわ。聞かせてくれる?』
「もちろんよ♪」
 露の相談に嫌な予感を感じつつ、かと言って止めることもできず、シビラは黙って聞いてみることにした。
「あのねあのね、レーちゃ……この黒い子なんだけどね~」
 早速嫌な予感が的中したな、と思いながら口を出すと倍になって返ってきそうだと口を噤む。
「あたしにちょっと冷たいのよ! あたしはだーい好きなのに!」
『あら、そうなの?』
 そうよ~、と露は言うけれど、見た感じそうでもなさそうよ、と遊々が話を促す。
「えっとね、頬擦りとか膝枕とかは、まだしてくれないのよ! 酷くない!?」
 そういう露はシビラの腕にしっかりと掴まっていて、遊々はそっとシビラに視線を向けた。
『ええっと、猫の話? 貴女の話?』
「あたしの話よ! 寄ってくる猫さんにはしっかりする癖に……あたしにはしてくれないの~~!」
 ぷくっと頬を膨らませた露に、シビラが呆れたように言う。
「それは猫が勝手にしてくるんだろう」
「それでもよ! あたしにもしてほしいの~」
 だってだって、あたしだって猫さんみたくしたいのと、シビラをぎゅっと身体ごと抱きしめて、露が抗議の声を上げる。
『……してあげたら?』
「断る」
「なんでぇ~? うう、どうすれば、猫さんみたくできるかしら、かしら?」
 僅かな沈黙の後、シビラが唇を開く。
「この子のこういう部分をなんとかできないか?」
『そうねぇ、ちょっと難しいかしらねぇ……? いっそ本当に猫になってみたら? カクリヨになんかそういう薬とかあるわよ、きっと』
「……あたしが猫になればいいのね~♪」
 パッと露が顔を輝かせ、シビラを見て笑った。
『貴女は何かないの? ……今の以外で』
 そう言われ、シビラが悩みか……と考える。特にはないのだけれど、断るのもなんだか気が引けて何かないかと引っ張り出してみることにした。
「私は紅茶が好きなのだが、妖怪も茶を飲むだろうか?」
『飲むわよ、わらわも美味しいお茶は好きよ』
 ほう、とシビラが頷く。
「最近、珍しい茶葉を探していてな。この世界の茶を教えて貰いたい、紅茶でなくてもいいんだが」
『そうねぇ、この世界のお茶でよく飲まれているのは現代日本でもよく飲まれている緑茶ねぇ』
 それから、日本茶を紅茶にしたもの。これもそれなりに流通しているのだという。
「ほう、紅茶を日本茶の茶葉で作るのか」
 興味深いな、とシビラが頷く。
『うふ、いいお店教えてあげるわねぇ』
 他にもお茶が一杯あるわよ、と遊々がお勧めのお店を教えてくれた。
「ふむ……。なるほどな、この店がいいのか……」
 この湖から大して離れていない場所のようで、帰りに寄るのも可能だろうとシビラが判断する。
「助かった、参考にさせて貰おう」
「レーちゃん、さっそく行ってみましょうよ~♪」
『いいお茶が見つかるといいわねぇ』
 二人揃って遊々に礼を言えば、どう致しましてと遊々が再び光る泡を追う様に飛んでいく。
「楽しみね、レーちゃん♪」
「ああ、思わぬ収穫だった」
 じゃあ、お茶屋に寄って返りましょ、という露に腕を引かれてシビラが歩きだした。
 悪くない一日だったと、笑いながら――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルフレッド・モトロ
姉御(f09037)と歩いてたはずが
いつの間にか綺麗な姉さんがたに囲まれちまった

は?悩み?無い無い!!


いやある
そこの鳥獣戯画っつー姉御のことだ

何度か共闘してるうちに
姉御のために何かできることはないかと考えることが増えた

姉御は食事をトリガーに人格が入れ替わるらしいんだが
別人格の記憶が有ったり無かったりする
何度か食事に誘って法則性が掴めないか探ってたんだ

ところが最近
姉御と飯行くことそのものが楽しみでな
「あー俺、完全に姉御に惚れたなー」って…

役に立ちたいとかカッコつけて
結局エゴ丸出しでダッセーよな

つか姉御と俺の間に色恋とか不要なんだよな
姉御だってきっとそう思ってる…

ああ
俺はどうしたらいいんだぁ…!!


桜田・鳥獣戯画
引き続きアルフレッド(f03702)と

困った、悩み事が特にない
この蝶の美人、相談せねば強引に願いを叶えにかかるらしい
アルフレッド! 何かないか!

…いや待て、これはプライバシーに関わることだな
耳をふさいでおく! 存分に相談するのだ!!

ちゃんと旅団を大事にしておるのに、なぜ私と遊んでくれるのだろうな
良い若者だ
きっと良い伴侶を見つけ、たくさん子どもを育ててゆくのだろう
そうなると私と遊んでいる暇もあるまい
少々寂しいが、未来を託すには頼もしい男だ

…そうだな、すこし寂しいな

少しだけ、奴の口元が自分の名を呼ぶように動いた気がした
気のせいではあろうが微笑んで返す

うむ! 今日はさっきのりんご飴を買って帰ろう!



●青年の悩みごと
 短冊を吊るしてから少しした頃、境内に並ぶ灯篭や提灯に火が灯る。どういった仕組みなのかは分からなかったけれど、次々に灯る光景は中々に幻想的で、桜田・鳥獣戯画(17歳・f09037)がほう、と息を零した。
「見事なものだな」
「水の中でこういうの見たこと無いから、なんつーか新鮮だな」
 アルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)がそう言って並ぶ灯りに目を奪われていると、今度はその灯りに照らされて泡が淡く光り出す。それは次々に水面へと上っていって、まるで蛍か星明かりのようだった。
「屋台を堪能した上に、こんな豪華なおまけがあるとは」
「はー……綺麗だな」
 そんな話をしながら歩いていたのだが、何故かいつの間にか蝶々の翅を生やした美女に囲まれていた。
 え、なんで? と首を傾げる暇もなく、美女――『胡毒蝶の艶女・遊々』達が笑みを浮かべて二人に話し掛ける。
『うふふ、なんだか悩みのありそうなお顔ね』
「なんと、そんな事が分かるのか」
「姉御、悩みあるのか?」
「いや、ない! 悩み事が特にない!」
 きっぱりと言い切った鳥獣戯画に、遊々達がないの? 悩み事ないの? わらわ達に相談することないの? と騒ぎ出す。
「アルフレッド、この蝶の美人、相談せねば強引に願いを叶えにかかるらしい」
「えっ拙いじゃないかよ、どうするんだ姉御」
 うむ、と真面目な顔をして鳥獣戯画がアルフレッドを見遣った。
「アルフレッド! 何かないか!」
「は? 俺!? 無い無い!!」
 無い、と三回目を言おうとして、ふっとアルフレッドが黙る。
「どうした? あったか?」
「……あった」
 あったとも、今隣にいる鳥獣戯画っつー姉御のことなんだが。
 そうは口に出さず、相談事を思いついたと言えば鳥獣戯画も心得たもので、がっつりと耳を塞いでちょっとした距離を取った。
「プライバシーに関わることだからな! この通り私には聞こえん、存分に相談するのだ!!」
「ありがとな、姉御」
 何言ってるか聞こえん! という声を受けながら、アルフレッドが改めて遊々達に相談ごとがあると持ち掛ける。
『あら、あら、聞かせて頂戴な、貴方の悩みごと』
『わらわ達が相談にのってさしあげまひょ』
 嬉しそうに寄って来た遊々に向け、アルフレッドが話し出す。
「俺の相談ってのはあそこで耳塞いでる姉御のことなんだが」
 うんうん、と相槌を打ちつつ、遊々達が彼女をちらっと見遣った。
 耳を塞いだまま、ノリノリで踊り出してるわねぇ、と思いつつアルフレッドに視線を戻す。
「姉御とは何度か共闘してるんだが、なんつーか、いつの間にか姉御の為に何かできることはないかって考えることが増えて」
『あら、ラブじゃない?』
『ラブね』
 口々に遊々が囁いて、続きを待った。
「姉御は食事をトリガーにして人格が入れ替わるらしいんだが、別人格の記憶が有ったり無かったりするんだ」
 尚、人格は全て同じ性格の為、日常生活において何も支障がないという稀有な多重人格である。
「それで俺、何度か食事に誘って法則性が掴めないか探ってたんだ」
 純粋に記憶を取り戻す為に誘っていたはずだった、けれど。
「姉御と飯に行くことそのものが楽しみになってて」
『ラブよ』
『確定よ』
「あー俺、完全に姉御に惚れたなーって……」
 きゃあ、と遊々達がざわめく。だって新鮮な恋の話なのだ、相談の醍醐味である。
『それで、何か問題あるの? どうやって告白しようとかそういう?』
「いや、役に立ちたいとかカッコつけて、結局エゴ丸出しでダッセーよなって……」
 思ってたんと違う。という顔をして、遊々達が顔を突き合わせる。
『甘酸っぱい話が聞けるものじゃない? これ違わない?』
『違うわねぇ……青年の苦悩だったわ』
 ぼそぼそと身内で相談をする遊々を気にせず、アルフレッドは胸の裡を吐露していく。
「つか、姉御と俺の間に色恋とか不要なんだよな」
『えっどうして? あっても困らないでしょ』
「姉御だってきっとそう思ってる……」
『やだこの子人の話聞いてない~~~』
 なんだか俄然応援したい気になってきて、遊々達はアルフレッドを慰めつつ、ちらっと鳥獣戯画に視線を遣った。
 視線を受けた鳥獣戯画であるが、めちゃめちゃダンサブルに踊っていた。
 けれど、踊りながらも彼女はきちんと考え事をしていたのだ、勿論そこで相談をしているアルフレッドについて。
 ちゃんと旅団を大事にしているのに、何故か自分と遊んでくれる良い若者。多分多方面からモテているに違いない。きっとそのうち、良い伴侶を見つけ、たくさん子どもを育ててゆくのだろう。その時はぜひ近所のおばちゃんとしての立ち位置を確保したい。
 しかしそうなると、自分と遊んでいる暇はないだろうな、少々寂しくはあるけれど、未来を託すには頼もしい男だと、ヘッドバンギングばりに頷いて、それからふと気付く。
 どうして、少し寂しいなんて思ってしまったのか。
 ああ、でもそうなったら、私は少し寂しいのかと考えて、ちらっとアルフレッドを見る。彼の口元が自分の名を呼ぶように動いた気がして、まぁ気のせいだろうとは思いつつ微笑んで返す。それから、またヘッドバンギングをしながら帰りにりんご飴買って帰ろう! なんて考えていたから、彼女は見ていなかったし聞いてもいなかった。
 アルフレッドの瞳に一瞬宿った恋慕の情も、俺はどうしたらいいんだぁ……! という魂の叫びも。
『当たって砕けたらよくない?』
『告白しちゃいなさいよ、どうしたらいいんだぁじゃないわよ』
 なんて、遊々達に迫られていたことも。
 一進一退の恋模様、いつか実る時がくるのかどうかなんて――きっと、お星さまでも知らないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月19日


挿絵イラスト