立て、亡国の後継よ〜ドストニエル大公国首都侵攻戦
――我が祖国は今まさに滅びの淵へとずり落ちつつある。
敵味方の区別なく乱発された宣戦布告、無計画に立案された侵攻と伸びきった戦線、注げども注げども足りぬ兵と物資。そうした暴走としか称せぬ戦いの結果、この国はどうなった?
周囲全ては敵と化し、攻勢は愚か防衛線を維持するだけでも手一杯な有り様。それすらも腐った木戸を蹴破るが如く突破され、国土奥深くにまで侵略者たちが踏み入っている。それは最早戦争でなければ、戦闘ですらない。既に状況は首都制圧と言う『トロフィー』を目指し、一刻も早く、そして一ヘクタールでも多く領土を切り取らんとするゲームに成り果てていた。
無論、我らもただ黙って手を拱いていた訳ではない。あらゆる場所から戦力を掻き集めんと奔走し、従わせていた自治領にすらも半ば脅し同然の方法で協力を迫った。だが、その結果は……惨敗の一言。示威目的で派遣した通常編成の部隊は勿論、数多くの一線級の機体、そして何より貴重な戦略級のキャバリアすらも喪失したのだ。
その結果を耳にして、私は確信した。最早、我が大公国に勝機は無い、と。
今の我らに最良など望むべくもなく、最善は愚か次善を選べる余地すらない。
だが、そうだとしても。最悪だけは絶対に回避しなければ。
どのような形になろうとも、我が大公国と言う土台だけは遺してみせる。
例えそれが、あの怨敵にして悪魔の如き男……ミヒャエル・ハイネマンの手を借りる事になろうとも。
――焼き捨てられたとある手記より抜粋。
●戦後処理と敗戦手続きから始まる闘争
「Guten Tag、Kamerad? 先日の大祓百鬼夜行はギリギリであったものの、無事に勝てたようで何よりだ。さて、騒動の後始末も一段落した頃合いだろうが世に争いの火種は尽きまじ……申し訳ないが、またぞろ戦争の話だ」
グリモアベースに集った猟兵たちを労いながら、フランツィスカ・リュッツオウ(音速越えの叛逆者・f32438)はそう口火を切った。彼女は片隅に寄せられていたホワイトボードを手繰り寄せると、ペンを片手に説明を開始する。
「今回の舞台はクロムキャバリアがドストニエル大公国。詳しい説明はこれから行うが、端的に言えば『崖っぷち』状態、今まさに滅亡の瀬戸際にある国家だ」
ドストニエル大公国は『大』と名の付く通り、クロムキャバリアとしては比較的大きな勢力である。一対一であれば絶対的、二勢力相手でもなお優位、三か国が連携して漸く互角と言う、呼称に相応しい国力を誇っていた……そう、誇って『いた』のだ。
「事は大公国を支配していた公王のキャバリアがオブリビオンマシン化した事に端を発する。増幅させられた野心と征服欲の命ずるままに、公王は周辺諸国に対し宣戦を布告。実に五か国を同時に相手取って侵攻を開始したのだが……まぁ、はっきり言って自殺行為以外の何ものでもなかった」
一対一を五戦ならまだしも、一度に五つの国と敵対するとなれば兵も物資も足りる訳が無い。勢いがあったのは序盤だけで、気付いた時には既にどうしようもないほど押し込まれていた。国境の防衛線なぞとうに突破され、今は国土を蹂躙されている真っ最中。更には反旗を翻した属国や自治領の鎮圧にも失敗する始末である。
「このままだと敗北は確実。そう考えた一部の将校たちは最悪の事態を迎える前に戦争を軟着陸させるべく、公王に対するクーデターを画策している様だ」
戦闘力を完全に喪失し、首都を抑えられてしまえば最早打てる手は無くなるだろう。そうなれば意見は愚か、異議を呈する事も許されぬまま戦勝国に国土を解体されてしまう。そうなる前に公王を打倒し、飽くまでも国としての体裁を保ったまま停戦交渉を行う事がクーデター側の狙いだった。厳しい条件を突き付けられるだろうが、国そのものが無くなるよりかはマシだと判断したらしい。
「とは言え、公王を護る戦力は当然ながら厚い。疲弊しきったクーデター側では一矢報いる事すら難しいだろうな。そこで彼らは一計を案じた……戦後の待遇改善を条件に、反旗を翻した自治領勢力側から協力を取り付けたのだ」
もし交戦国のいずれから力を借りた場合、停戦を為し得たとしても後々までそれを理由に無理難題を吹っ掛けられてしまう。だが一方で自治領は建前上『身内』扱い、詰まりは『国内問題』の範疇に抑え込める。言葉遊びかもしれないが、この差は非常に大きい。
「彼らが白羽の矢を立てた相手は『ラインラント自治領』の『ミヒャエル・ハイネマン』中佐。戦争狂と渾名される人物で危険な気質の持ち主だが、手腕は確かなものがあるらしい。以前、大公国側の武力鎮圧に対して猟兵が介入したこともあったから、もしかしたら面識のある者も居るやもしれんな」
フランツィスカの問いかけに対し、眉根を顰めたり肩を竦める者がちらほら見受けられる。ミヒャエル・ハイネマン。目的があって戦うのではなく、闘争そのものを目的としている、手段と目的が逆転した狂人。確かにあの男ならば、これまでの遺恨云々よりも存分に戦える状況を優先するだろう。
「という訳でまず、諸君らには大公国の首都外延部で自治領側戦力と合流して貰う。その後、クーデター部隊の手引きで首都へと侵入。一気呵成に攻め入り、公王を討つ……端的に言えば、此度の作戦はそういった流れとなる」
今回の作戦は斬首戦術と呼ばれる、首脳部を狙い撃ちにした戦い方である。最小限の戦力で最大の効果を引き出せる反面、当然ながら難易度は極めて高い。ただでさえ国力が疲弊しきっているのだ、内輪揉めで徒に戦力を消耗したくないという意図なのだろう。
「まぁ、自治領側もクーデター部隊もその点でいえばプロだ。放っておいても己の任を果たすだろう。無論、助力すればよりスムーズに動くだろうがな」
公王の駆るキャバリアについては厳重に情報統制されており、性能などの詳細は不明だ。戦闘を通じて、それらについて調べる必要もあるかもしれない。
「ともあれ、やるべき事は単純だ。潜入し、掻い潜り、標的を討つ。それで一連の争乱が終わるかどうかは……まぁ、その国に生きる者次第だな」
そうして説明を締めくくると、フランツィスカは仲間たちを送り出すのであった。
月見月
どうも皆様、月見月でございます。
クロムキャバリアシナリオ、第二弾となります。
以前は大国の侵攻を受けた小勢力への救援でしたが、今回はその大国側視点のお話となります。鮮やかな勝ち方は誰もが知っていても、良い負け方を学んでいる者はそう多くは無いという訳で……。
それでは以下補足です。
●最終勝利条件
公王の駆るオブリビオンマシンの撃破。
(公王自身の生死は関係ありません)
●第一章開始状況
クーデター部隊の手引きにより首都近郊まで潜入した自治領側の戦力と合流。公王の座す首脳部を目指して隠密行動で接近する事になります。
ただしそれでも敵戦力の方が依然として多勢であり、かつ周囲にはサーチライトや警衛、監視装置などが配置されています。それらを掻い潜る策を講じる必要があるでしょう。
●二章以降
首脳部への接近に成功した場合、敵護衛部隊との接触は避けられません。速やかに敵キャバリアを排除しつつ、増援が来る前に公王とオブリビオンマシンの撃破を狙います。
●クーデター部隊について
国家を憂う若き将校たちが中心となった集団です。一個大隊規模のキャバリアを保有。頭数はそこそこですが質にばらつきがあり、首都防衛部隊と比べた場合やや見劣りします。
キャバリアについては希望があれば借り受ける事も可能ですが、性能的にはそこそこレベルです。格闘、砲撃、電子戦など希望があればある程度は選べます。
●自治領側戦力について
汎用型キャバリア『MRCA87C-サイクロプス』を主力とした二個中隊規模編成。指揮官のミヒャエル・ハイネマンは有能ですが、戦争好きな危険人物です。尤も、状況判断自体は理性的に下します。
彼については『嗤え、敗残者の王よ~ラインラント自治領緊急防衛戦(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=30083)』をご参照ください。
●進行・プレイングの受付について
プレイングにつきましては断章投下後に受付開始いたします。進行についてはプレイングの数にもよりますがゆっくり進行予定です。再送のお願いをする可能性も考慮して頂けますと幸いです。
それではどうぞよろしくお願い致します。
第1章 冒険
『警戒網突破』
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POW : 仲間を安全に行動させる為、敢えて自分が派手に動く
SPD : 周囲の地形を把握し、死角を利用しながら行動する
WIZ : レーダー装置やカメラを破壊し、敵の索敵を妨害する
👑7
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●叛逆を選んだ者たち
転移した猟兵たちが降り立ったのは、薄暗い廃墟地帯であった。時刻は夜にも関わらず周囲の灯りはまばらで人気に乏しい。星明りに目が慣れてみれば、建物の壁面に穿たれた弾痕や爆発の名残が見て取れる。恐らく、何らかのタイミングで襲撃を受けたまま破棄された区画なのだろう。身を潜めるにはうってつけだ。
ちらりと遠くへ視線を向ければ、点々と輝きを放つ街が見えた。あれこそがこのドストニエル大公国の首都にして、これから攻め入る敵の中枢部である。
「……やぁ、諸君。お早いご到着で誠に結構。久しぶり、あるいは初めましての者も居るのだろうか。私がラインラント自治領暫定統治者、ミヒャエル・ハイネマンだ」
と、そこで背後より声を掛けられる。振り返ってみると、痩せぎすの男が屈強な兵士たちを引き連れて佇んでいた。遠景の灯りを反射して照り光る眼鏡、その奥に見える瞳にはどこか危うげな熱が感じられる。
この男こそ、クーデター部隊によって招かれた油断ならぬ援軍の首魁だ。心なしか以前よりも厚みを増したシルエットを揺らし、男は戯けた様に肩を竦める。
「いやはや全く、戦後処理に大きく時間を食ってしまってね。一介の中佐が自治領の暫定統治者だぞ? 大出世と言えるかもしれんが、尻で椅子を磨くのは退屈で実に詰まらん。運動不足にもなろうというものだ」
それは冗談交じりではあるが、ハイネマンの本心もまた見え隠れしている。命の遣り取りを好むこの軍人にとって、書類仕事は『出来る』けれども『好きではない』分野なのだろう。彼は遠くから響く砲声に耳を傾けながら、現状について語り始めてゆく。
「大国の無慈悲な侵略に虐げられていた諸外国が団結して抵抗、最終的に首都で手を繋ぎ合う……と言えば聞こえは良いがね。その本質は誰が一番旨い部分をもぎ取るかと言う賞金レースだ」
腐っても鯛。大公国の国力は疲弊してもなお強大である。五か国で分割するにしても、出来るだけ大きく『パイ』を切り分けたいというのが全員の本音だろう。そして当然ながら戦後を見据えた場合、最初に首都を落とした国家の発言力が増大するのは明白。故に一番美味しいところを得ようと、各国は目の色を変えて進軍を続けていた。
「まぁ、そうなれば付近一帯の地図から大公国の名は消えるだろう。我々としては一向にかまわないのだがね。しかしそんな状況で、或る素敵なお誘いがあったのだよ」
――クーデターの招待状だ。
そう告げたハイネマンの表情は、とてもとても嬉しそうであった。
「他国に占領されれば、国家は併呑されて消滅する。しかし、我々はラインラント『自治領』。自治権は保証されている一方、分類としては大公国の一部という括りだ。そう、ここが重要なポイントでね?」
幸い、大公国側の戦力は死に体だが死んではいない。頭がすげ変わり、適切に戦線を整理できれば勝ちはせずとも持ちこたえる事も不可能ではない。膠着状態が長引けば、諸外国も算盤を弾くはずだ。どこで立ち止まるのが一番利益を得られるのか、と。
「そうなればこっちものだと、クーデター部隊は考えた。例えそれが……」
「……領土の割譲、莫大な賠償金、保有戦力の縮小。そして何よりも、煮え湯を飲まされた相手の手を借りる事も。国家としての枠組みを残せるのであれば、許容可能な代償だと判断したのです」
上機嫌に演説をぶっていたハイネマンだったが、その言葉尻を別の声が捉え引き継いだ。見れば、カーキ色を基調とした軍服に身を包んだ男が暗がりから姿を見せる。その胸に飾られしは大公国の略式勲章。それは彼がどちら側に立つ者なのかを示していた。
「初めまして、猟兵殿。私はドストニエル大公国のニコライ・サフォーノフ。階級や所属を名乗るよりも、クーデター部隊の隊長と言った方が分かりやすいでしょう。まずは皆さんの助力に深い感謝を示させて頂きます」
暗くて分かりづらいが、年の頃は高く見積もっても三十前後。実直そうな声音とよく鍛えられた体躯が相手の性格を物語っている。勝算がお世辞にも高いとは言えない作戦ながらも、どうやら捨て鉢の行動ではないようだ。
だが一方、ハイネマンとの相性は余り良いとは思えない。そんな疑念を感じ取ったのか、眼鏡の男は大仰に天を仰いで見せた。
「考えてもみたまえよ、諸君。将来有望な若人が憎き相手に頭を下げる。これもまたひとえに愛国心の為! 私は感動して感動してもう、胸を打たれてしまってねぇ……!」
そんな狂人に対し、猟兵たちの白けた視線が告げる――で、本音は?
「これまで散々好き放題してきた相手のトップを直接ぶん殴れる機会を、みすみす逃すわけがないだろう。それも先を競い合っている他の諸外国を尻目に、一足飛びでゴールへ直行だ。きっと楽しいし、スカッとすると思わんかね?」
ある意味で分かりやすい動機であった。だが裏を返せば、下手に小細工を弄さぬ分まだ信用できるとも言えるだろう。
「それに、だ。大公国が敗北すれば我が自治領とて影響を受けぬわけがない。泥舟と一蓮托生など御免被る……加えて、書類仕事には飽き飽きしていたところだ。久しぶりに暴れたくてねぇ?」
「とは言え、それはもう少し後の話です。流石にこの戦力で正面突破は単なる自殺行為、まずは公王の居る首脳部まで近づく必要があります」
それとなく協力者に釘を刺しつつ、ニコライが警備状況について説明し始める。
「首都は灯火管制が敷かれており、通常時よりも灯りに乏しく薄暗いです。これは我々に利するものですが、そのぶん警備も厳重化されています」
軍用犬を連れて巡回する警邏兵の増加、監視カメラの設置。更に高い建築物は屋上にサーチライトが展開されており、不審な存在が居ないか街中で目を光らせている。猟兵に求められる役割はそれら警戒網を潰し、首脳部まで接近する為のルートを切り拓く事だ。
「キャバリアのサイズは通常5メートルほど……大型トラックに載せたり、倉庫内部に隠すことが可能です。そうして我々が攻撃準備をしている間、敵に悟られないよう妨害をお願い致します」
「基本は隠密行動だが、陽動がてら派手に動くのも悪くは無い。ただその場合、偶発的な事故を装った方が懸命だろう。人為的な行動だと発覚すれば当然、相手の警戒度は一気に跳ね上がるはずだ」
ともあれ、相手にバレさえしなければ大抵の行動は止められないだろう。良きにしろ悪きにしろ、過去の一件も相まって各勢力とも猟兵に対する信頼は高かった。
勝利する為でなく、敗北する為の戦い。言葉にすれば奇妙なものだ。
だが、そうする事でしか守れぬ明日と言うものもこの世には存在する。
きっとこの戦いも、そうした事柄の一つなのだろう。
さぁ、猟兵たちよ。
亡国の定めを変えるべく、王の喉元へと迫るのだ。
※マスターより
プレイング受付は25日(金)朝8:30から開始いたします。
もし参加人数が多くなる場合にはキャパシティの関係上、別途プレイングの再送願い等をお送りさせて頂きます。
第一章は敵首脳部へと接近すべく、敵の警戒網を潰して頂きます。
巡回の兵士を倒す、監視設備を破壊する、事故を装って騒ぎを起こし注意を逸らす等、思い思いに行動して下さい。何かしら人手が必要な場合には、クーデター部隊や自治領側に協力して貰う事も可能です。
それによって各部隊が戦力を首脳部近くまで浸透させることにより、作戦が次の段階へと移行します。
それでは長くなりましたが、どうぞよろしくお願い致します。
ティオ・ブリューネ
任務了解っと
実働報告も滞ってるし頑張って任務達成してレポート上げないと…
さて、そのためにもまずは見つからずに共闘対象と奥へと向かってけばいいんだよね?
まずは、小型戦術飛晶を展開、念動力で各個操作しつつ、予定進路を先行するように動かして偵察と情報収集だね
警衛や監視機器を確認したらその周辺を一旦警戒、他に何もないようなら
アサルトホッパーの応用で警備の死角へ跳躍、無力化させてみよう
監視機器の場合機能不全になると応援がくることもあるから何らかの細工をクーデターメンバーにお願いしてみるかな
警備兵とかだったら念動力で昏倒させるのが一番早いかも
あ、「殿下」は目立つから今はまだ駄目っすよ?
●一にも二にも情報を
「ふむふむ、監視網の機能を低下させて道を切り拓けばいいのかな……任務了解、っと。実働報告も滞ってるし、頑張って任務達成してレポート上げないと。そのためにもまずは見つからずに共闘対象と奥へと向かってけばいいんだよね?」
そうして行動を開始したクーデター部隊と自治領軍を横目に見つつ、ティオ・ブリューネ(舞い射す光条・f31200)は説明された作戦内容を脳裏で反芻していた。キャバリアは強力な兵器だが、こうした隠密行動ではやはりその大きさがネックとなる。ステルス能力でもあれば話は別かもしれないが、そうでないなら一計を案じる必要があるだろう。
「すんなり素通しさせてくれるとは到底思えないし、まずは相手の位置を把握するのが先決かな。巡回する警邏兵に軍用犬、後は監視カメラに気を付けるべきだろうね。偽装されていると、この暗さじゃきっと分からないから」
どんな行動をするにも、まずは情報収集こそが基本にして大前提。それを怠って行動するなど単なる無茶無謀でしかない。そこで少女は懐から球体を三つほど取り出すと、宙へ向けて放り投げる。ふわりと音もなく浮かび上がったそれらは戦術飛晶と称される、ドローンの様な装備であった。本来はキャバリア用の装備だが、これは生身の人間でも扱えるよう小型化されたものだ。
(念動力で操作すれば余計な電波や音も発しない。大丈夫だとは思うけど、念には念を入れてね?)
そうしてティオは戦術飛晶を先行させながら、予定進行ルートをなぞる様に進んでゆく。視聴覚情報を共有可能なそれらは文字通り彼女の目となり耳となり、シンと静まり返った市街地の様子を届けてくれた。
(今が深夜だって事もあるんだろうけど、それにしたって人の気配が感じられない。滅亡の淵にあるっていうのも何だか頷ける雰囲気だね……っと)
そうして首都の状況を観察しながら慎重に歩を進めていた少女だったが、不意に足を止めるとビルの壁面へ身体を隠す。そっと戦術飛晶を通して様子を窺えば、二人組の兵士が通りを歩いているのが見えた。十中八九、警邏の兵士だろう。
(周囲に彼ら以外の人影は無し。監視機器もざっと見た限りではなさそうだね。幸い人数が少ない上、軍用犬も連れていないから余計な音を上げられる危険性も低い。となれば、だ)
唯一懸念点があるとすれば、兵士たちの手にする物々しい機関銃くらいか。この静まり返った街並みでは銃声が思った以上に良く響く。そのまま素通りさせてしまっても良いが、万が一の時を考えて無力化しておくに越したことは無いはずだ。
ティオが浮遊する結晶体へ意を籠めると、それらは音もなく動いて相手の頭上を取る。そうして歩き回る相手に合わせてジリジリと位置を調整し、そして。
「……いまっ!」
掛け声と共に少女の姿がビルの影から消えたと思いきや、兵士たちの頭上へと出現していた。その正体は戦術飛晶を介した空間跳躍である。猟兵は異常を感じた兵士が顔を上げるよりも早く念動力を放つと、呻き声すら上げさせる事無く意識を刈り取っていった。
「これで良し、と。警備兵だったから手早く済ませられたけど、監視機器だとこうはいかないだろうね。機能不全にすると異常を悟られるだろうし、クーデターメンバーに小細工をお願いしてみるかな」
気絶した兵士たちを手早く拘束しつつ、そう思案気に呟くティオ。ふと彼女は何かに気付くと、口元へうっすらと笑みを浮かべる。
「あ、『殿下』は目立つから今はまだ駄目っすよ?」
悪戯っぽく友輩へと釘を刺しながら、少女は引き続き監視網の無力化に勤しむのであった。
成功
🔵🔵🔴
ヴィリー・フランツ
心情・理由:明確な目標が有るとは言え内政干渉ものだな、若い猟兵達はちと複雑な心境か?
ま、俺は金が貰えれば関係ないがな。
手段:「中佐、お互い五体満足のうちに再会出来て嬉しい限りだぜ」
俺のタイフーンを無事に運んでもらう為に幾つか検問所を潰さにゃならんな、しかも隠密に、銃声も警報も鳴らさずにだ。
自治領側から何人か前回の顔見知りを借りていこう、ゴーグル型HMDの暗視機能も活用、輸送車両と連絡を取りながら道中の番犬付きの巡回兵、検問所の駐屯兵を処理するぜ。
他の猟兵の手前、なるべく格闘や非殺傷のパラライズガンを使うが、それにこだわってバレちゃしょうがねぇ、いざとなればレーザーや銃剣で手早く始末させてもらう
●戦友と共に夜を征く
(はてさて、明確な目標が有るとは言え内政干渉ものだな……最悪を回避するためとはいえ、若い猟兵達はちと複雑な心境か? ま、俺は金が貰えれば関係ないがな)
ゴキリと首を鳴らしつつ、ヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)は忙しなく動き回る兵士たちや仲間に視線を向けていた。国家の命運を第三者の立場から左右する。小勢力が乱立するこの世界の出身者でも無ければ、中々経験する事の無い感覚だろう。そう言った意味では金銭で関係を割り切れる傭兵はある意味で気楽かもしれなかった。とは言え、肩を並べて戦った相手であれば話は別だ。
「よう、中佐。お互い五体満足のうちに再会出来て嬉しい限りだぜ。元気そうで何よりだが、少しばかりふくよかになったか?」
「ははは、手足を失うどころか体重が増えて敵わんよ。これでは書類に殺されてしまうやもしれん」
懐かしい顔を見つけ声を掛けると、戯け交じりの言葉が返って来る。無能な味方は時として有能な敵よりもなお恐ろしい。多少性格はアレでも、指揮官が有能であるに越したことは無いと傭兵は職業柄身に染みていた。
「そこで折り入って頼みがある。俺の『タイフーン』を無事に運んでもらう為に幾つか検問所を潰さにゃならん。しかも隠密に、銃声も警報も鳴らさずにだ」
ヴィリーの駆るテンペスト社製キャバリアは装甲に重きを置いた拠点防衛向けの機体だ。それゆえ火力と防御能力に長ける反面、機動力を欠いていた。なので事前の運搬が重要となっているのだが、その大きさのせいで通れるルートが限られてしまっていたのである。
「ふむ……それで必要なものは何かね?」
「兵士を何人か借り受けたい。こういった作業は連携が肝でな、出来る限り顔見知りで固めたいのさ」
「分かった。部下たちも私と同じく戦闘に餓えていてね、存分に使ってくれ給え」
了承さえ取れれば後は行動あるのみだ。傭兵は愛機を運ぶ輸送車両と連絡を取りつつ、自治領軍兵士と共に先行する形で首脳部を目指して進んでゆく。道中、軍用犬を連れた巡回兵に遭遇するも、危なげなく無力化しながら着実に歩を進めていった。
「……ストップだ。最初の難関が現れなすったぞ」
だがある地点で傭兵は不意に手を上げ、友軍と車両を停止させる。その視線の先にあったのは、道を塞ぐように有刺鉄線が敷かれた簡易検問所だった。
「残念ながら、周りのルートは道幅が狭すぎて通れません。迂回は困難かと」
「ああ、分かってる。こうなりゃやるしかねぇな。悪いが、何人か横手に回ってくれ」
問いかけに対し、ヴィリーは手短に指示を下してゆく。それに従って兵士たちが暗がりへと消えて数分の後、バツンと言う音と共に検問所の照明が落ちた。別動隊が送電ケーブルを切断したのだ。騒めく敵の気配を感じながら、傭兵はゴーグル型HMDの暗視機能を頼りに踏み込んでゆく。
「なんだ、停電か? 首都でも電力不足とは何ともはや」
「滅多な事は言わん方が身の為だぞ。誰か、様子を見に……ぐぅっ!?」
相手が暗順応を得て視界を取り戻す前に、まずは一人背後から締め落とす。続けて異常に気付いた二人目へ非殺傷のパラライズガンを撃ち込み無力化。他方を見れば、その他の人員もほぼ同時に自治領軍兵士の手によって制圧されていた。
「検問所周辺、オールクリア。お見事ですね」
「そっちも鈍っちゃいないようだな。さて、用が済んだらさっさと通っちまおうぜ」
そうしてヴィリーは友軍と手分けして有刺鉄線を切断し、輸送車両の先導を再開する。だが、その表情に油断や安堵の色は無い。
(今のは上手くいったが、じきに連絡が繋がらない事に気付く連中も出て来るはず。そうなりゃ、不殺に拘る余裕があるとは限らねぇ)
土台、無血でクーデターなど端から難しいとは理解している。改めて覚悟を固め直しながら、傭兵は暗闇の中を進み続けるのであった。
成功
🔵🔵🔴
リジューム・レコーズ
…国政に関わるつもりはありません
オブリビオンマシンを破壊する事が私の任務ですので
人間の生活圏なら水の出入りする場所があるはず
水路を伝って内部に侵入します
水底を這って進めば視認され難くなりますし、軍用犬の嗅覚も水中には及ばないでしょう
呼吸に関してはウォーマシンの私にとって問題となりません
敵側も水中からの侵入を想定しているでしょうから、哨戒中のボート等が通り掛かった際には停止してやり過ごします
首都内に仕掛けるとは思えませんが機雷にも一応警戒しておきますか
侵入後は駆動系最大出力でサーチライトを破壊したり歩哨の兵士を無力化します
掴んで叩き付ける手荒な格闘術となりますが銃声を立てるよりは良いでしょう
●暗き水底より高みの輝きへと
(何処の国が敗北し、勝利し、何を得て何を失うのか……そういった国政に関わるつもりはありません。オブリビオンマシンを破壊する事が私の任務ですので)
傭兵が内政干渉を憂いつつ検問所を突破しているのと同じ頃、リジューム・レコーズ(RS02・f23631)は飽くまでも己に課せられた目的を揺らがせる事無く行動を続けていた。いま彼女が居る場所は地上ではない。人の生活圏であれば必ず存在する機構、詰まるは水路である。
首都の莫大な人口を支える為の上下水道用の用水路は非常に広く、やや大きいとはいえ人間大のサイズならば問題なく移動可能。その上、水に潜れば軍用犬の鼻からも逃れられる。また、上に覆いがされている場所もそれなりにあり、身を隠す場所にも事欠かなかった。
(それでも生身の人間であれば潜水用の余計な装備や、呼気等の泡で発見される危険もあるでしょうが、ウォーマシンの私ならば問題となりません)
元々彼女は酸素も重力もない宇宙空間での活動を想定した存在である。それに比べれば水中など何ら恐れるものではなかった。とは言え、そう全てが上手く運ぶとは限らないもので。
(これは……熱感知センサー? なるほど、やはり此方からの侵入も想定済みでしたか)
ふと、リジュームは用水路壁面に突起物が取り付けられている事に気付く。感知されぬよう注意しながら調べてみれば、それは熱源に反応するタイプの監視装置であった。用水路は絶え間なく水が動き回り、かつ閉所ゆえに薄暗い一方、水温は比較的一定だ。そうした特性に合わせたものなのだろう。
(首都内に仕掛けるとは思えませんが、この調子だと機雷を沈めていても不思議ではありませんね。一応警戒しておきますか……っと)
センサーに細工を施し終えた彼女は、ふと高速で接近する何かを察知する。水底へと速やかに沈んでやり過ごしてみれば、頭上を長方形の物体が通り過ぎてゆく。察するに哨戒中のボートか。
(無力化しても良いですが、連絡がつかなくなれば要らぬ不審を招く危険があります。ここは速やかに抜けてしまいましょう)
ともあれ、発見されなかったのであればそれに越したことは無い。そのまま水路を進んでいったリジュームは地図情報と照らし合わせて大まかな見当を着けると、メンテナンス用の梯子を伝い地上へと出る。狙うは建築物の上に敷設されたサーチライトだ。
「馬鹿正直に内部の階段を使う理由もありません。ここは一つ、登攀と参りましょう」
戦機はビル壁面の突起へ手を掛けると、持ち前の膂力を頼みにスイスイと音もなく昇ってゆく。時折窓から懐中電灯と思しき灯りが差し込むも、まさか外をよじ登っているとは思うまい。
斯くして大きな問題もなく屋上まで上がり切ると、そっと相手の様子を窺う。警戒人員の誰もがライトの先へと注意を払っており、周囲の警戒を怠っていた。不用心と誹る事は簡単だが、彼らの役割上無理ならざる事だろう。
「……こういう場合、灯台下暗しと形容するのは果たして妥当なのでしょうか?」
そんな徒然とした考えを零しながら屋上の淵に手を掛けると、リジュームは身体を引き上げ一気に距離を詰めてゆく。足音に気付いた兵士が何事かと目を剥くが、生身の反応は余りにも遅すぎた。
「何だ貴様、まさか何処かの工作い……っ!?」
「その質問に答える義務はありません」
鎧袖一触とは正にこの事。兵士は勿論、サーチライトも当たるを幸いに薙ぎ払われ、一瞬にして制圧が為された。銃声一つ上がらず、変化があったとすればライトの光が消えた事くらいだ。
そうして戦機は気絶した兵士たちの回収をクーデター部隊へ依頼すると、次なる目標へと向かうのであった。
成功
🔵🔵🔴
シキ・ジルモント
成程、軍用犬か
あまり気は進まないが仕事の為だ
狼の姿に変身して友軍より先行、ユーベルコードも併せて獣の聴覚や嗅覚を利用し先の様子を探る
見張りに発見されないルートを選び、友軍を首脳部まで誘導したい
見張りに道を塞がれているなら、退けてもらう必要があるが…
…そうだな、事故を装った小火でも起こしてみるか
市街地ならゴミが集めてある場所やゴミ箱がありそうだ
付近のゴミに火のついた煙草でも投げ入れて、消火作業の為に見張りにその場を離れさせることが狙いだ
ライターや煙草は同行する友軍に提供してもらう、誰かしら持っているだろう
自分では吸わないから持ち合わせが無い
作戦が終わったら一箱返すという約束で、少し借してもらおう
●獣にあらず、只人に留まらず
(成る程、軍用犬か……あまり気は進まないが仕事の為だ。とは言え、傷つける様な事態にならなければそれに越したことは無いがな)
灯りの乏しい建築物群の間を音も立てず駆け抜けながら、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は胸中でそう複雑気に独り言ちる。人狼としての御しきれぬ本能は無論忌むべきものだが、それはそれとして同族とも言える存在を相手取るのは気が進まぬのだろう。
(こうしてみると、その厄介さが身に染みるな。人類が古くから友とし続けて来たもの頷けると言うものか)
今の彼は普段の人型ではなく、大きな体躯の銀狼へと変じていた。暗くて目が効かぬ状況では、獣の聴覚と嗅覚は視覚以上に役立つものだ。しかし、それは軍用犬を引き連れている相手も条件は同じ。風の流れに乗って、こちらの匂いでも嗅ぎ付けられては堪らない。複雑なビル風の流れを読みながら、風上に立たぬよう注意する必要がある。
(流石に監視カメラまではどうしようもないが、仮に映ってしまったとしてもぱっと見は大型犬にしか見えないだろう。野良犬扱いというのも業腹な話ではあるが……っ!)
そうして着実にルートの安全確認をしていた銀狼だったが、曲がり角から顔を出したと思いきやすぐまた全身をひっこめた。そっと様子を窺えば、その先に見えるは軍用犬を連れた歩哨たちである。煙草を吹かしながら談笑しているのを見るに、休憩中かサボっているのだろう。ともあれ、いつまで屯しているのか分からないのは厄介だ。
(この道が通れないとなると、大きく戻って迂回しなければならない。さりとて倒すには数が多く、此処から距離もある。出来れば交戦は避けたいが……煙草、か)
一先ず人型へと戻り、シキはどうすべきかと思案する。倒せるかどうかに関しては是ではあるものの、一切の音を立てずにとなると即答は難しい。今の状況下では銃声一発、吼え声一つが命取りとなってしまう。別の方法を考える中、青年の視線は歩哨が燻らせる紫煙へと吸い寄せられてゆく。
「……どうかしたかい、猟兵殿? っと、歩哨が居やがるのか」
とその時、背後から声を掛けられる。振り返れば、後続の友軍兵士たちの姿があった。どうやら思案している間に追いつかれてしまったらしい。事情を察して舌打ちする兵士に対し、シキは渡りに船とある頼み事を口にする。
「済まないが、誰か煙草とライターを貸して貰えるだろうか。自分では吸わないから持ち合わせが無い。作戦が終わり次第、お礼として一箱返させて貰うがどうだろうか?」
「うん? まぁ持ってるし、礼なんざ無くとも渡せるが……ああ、成る程な」
申し出に一瞬訝しむ兵士だが、猟兵の意図を察してニヤリと笑みを返してくる。快く差し出された煙草とライターを受け取ると、シキは相手の死角を縫うように大きく回り込んでゆく。目指す場所は歩哨から少し離れた場所にあるゴミ収集箱。彼は煙草に火を点けると、詰め込まれた雑多なゴミの中へ放り込んだ。
(後は念のため、周りに吸殻でも落としてやれば……良し、これで良いだろう)
シキがその場を離れると同時に、悪臭と共にゴミ箱からブスブスと煙が上がり始める。まず異臭を嗅いだ軍用犬が吼え始め、それにつられて談笑していた兵士たちもまた異変に気付く。
「なんだ、いきなり吼えて……って、この匂いと煙、火事か!?」
「おいおい、煙草はちゃんと消してから捨てたのか? 上にどやされる前に消すぞ」
歩哨たちは慌てながらも消火活動を行うべく、手近な水源を探してその場より遠ざかってゆく。これこそがシキの狙い。偶然を装って小火騒ぎを起こし、それによって相手の注意を逸らしたのだ。加えて煙が視界を遮り、犬の鼻を利かなくさせるという副次効果もある。
「ただ、そこまで長引く物でもないだろう。鎮火する前に進んでしまうとしよう」
「オーケイ。それじゃあ、引き続き先導を頼んだぜ?」
そうして猟兵と兵士たちは浮足立つ歩哨たちを尻目に、更に奥地へと進んでゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
灯璃・ファルシュピーゲル
・SIRD一員で連携
・(暗視)装置使用
首脳部が狂うと悲惨の一言ですね…
先ずは協力者からの(情報収集)と軍での経験(戦闘知識・地形の利用)から敵の監視拠点に適した高所を把握
味方の陽動に乗じて、クーデター部隊の邪魔になりそうな監視を
消音器利用で狙撃し静穏重視で排除(スナイパー)
排除支援後はラムダさんの陽動に乗じ
敵の監視・通信施設等への受電・発電設備に潜入(忍び足)
指定UCで大量の粉状爆薬と金属ウールの塊を作成
爆薬粉を発電設備の吸気口に詰め、その後金属ウールを
受電キュービクルの中に投げ入れ短絡事故を装い破壊、
自家発を動かす様に仕向けて爆薬を吸引させて事故に見せ掛けて
爆破(破壊工作)を狙う
アドリブ歓迎
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動(計3名の予定)
あのハイネマンっつったっけか?危険人物って話だが…あーゆー何かが著しく不足していて、何かが著しく過多なヤツは、戦場じゃさして珍しくもねぇ。大抵1人か2人は出てくるモンだぜ。
さて、俺は戦場を見下ろせるビルの屋上等何カ所か高所の狙撃ポイントを設定、その一つに占位。消音器付けたSV-98Mを使用して、タイミング見計らっての狙撃を行う。狙うのは車両や施設の燃料タンクや弾薬だな。これらを誘爆させて事故を装った陽動を試みる。当然、バレない様に狙撃ポイントを移動して狙撃を繰り返す。
また、陽動行うのは自治領戦力が侵入する位置と正反対の地点だな。
それじゃ、ショウタイムだ。
ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に行動
ははぁ、いわゆるひとつの、呉越同舟、って奴でしょうかねぇ。この件が終わった後に、またひと悶着起きそうな感じですねぇ・・・なんとなくですけど。
さて、他のSIRDの皆様方が陽動攪乱を行うとのことで、わたくしも微力を尽くして貢献しましょう。
とりあえず適当な端末にアクセスし、各種警備システムにハッキングをかけ、上手い具合に侵入できたら、レーダーや監視カメラ等の索敵システムを混乱させます。更に可能だったら、自動操縦システムの付いた戦闘車両等を暴走させて事故を装います。
まぁこれらはいわゆる「陽動の陽動」ですね。後は他のSIRDメンバーがわたくしの作り出した状況を利用するでしょう。
●三者三様の陽動劇
「首脳部が狂うと下は悲惨の一言ですね……今回の場合はオブリビオンマシンが原因とのことでしたが、はてさてそれだけの問題なのかどうか」
「あー、あのハイネマンっつったっけか? 危険人物って話だが……あーゆー何かが著しく不足していて、何かが著しく過多なヤツは戦場じゃさして珍しくもねぇ。大抵1人か2人は出てくるモンだぜ、敵にしろ味方にしろな」
分散して行動している友軍の気配を朧げに感じながら、三つの人影が宵闇に包まれた街並みを進んでゆく。大公国側の惨状を思い起こして小さく息を吐く灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)の傍らでは、ミハイル・グレヴィッチ(スェールイ・ヴォルク・f04316)が肩を竦めながら相槌を打つ。戦争は正気にて為らず、大なり小なり狂気の淵に足を踏み入れる必要がある。軍人ならば命の奪い合いを、政治家であれば国家の命運を。それぞれの重責に晒され続ければ、タガの一つや二つ外れようというものだ。
「ははぁ、これも所謂ひとつの『呉越同舟』って奴でしょうかねぇ。この件が終わった後に、またひと悶着起きそうな感じですねぇ……なんとなくですけど」
味方だった相手が背中を撃つこともあれば、不倶戴天の敵と手を組むこともある。感情と利害が綯い交ぜになる事など戦場では日常茶飯事だが、その果てに平穏が待っていた試しがない。モニター越しにそう零すラムダ・マルチパーパス(ドロイドは電気羊の夢を見たい・f14492)の懸念もまた、そう大きく外れてはいないかもしれない。
「平和とは戦争の準備期間でしかない、ってのは誰の言葉だったかね。国同士、特に隣接した相手なんざ利害のぶつかる競争相手だ。仲良しこよしはまぁ無理だろうよ」
世知辛い話ではあるが、国家とはそんなものだとミハイルはこれまでの経験から身に染みていた。故にこそ、後腐れなく使える傭兵と言う職業が重宝されるのだから。ともあれ、今は国家論を論ずるよりも手を動かさねばなるまい。
「それでは事前の手筈通りに動くとしましょう。攻撃ポイントについてはクーデター部隊からの提供情報を元に割り出し済みです。狙撃に適した場所も幾つか目星をつけていますので、共有しておきます」
「監視網の機能低下と陽動……その為にもここからはそれぞれ単独行動です。一時であろうとも平穏を齎す為、わたくしも微力を尽くして貢献させて頂くとしましょう」
灯璃が仲間の情報端末へ各種データを転送し、それを元にラムダが再度これからの作戦について確認してゆく。そうして三人は手短に打ち合わせを済ませると、それぞれの役目を果たすべく散ってゆくのであった。
「……さて、と。これだけあれば一先ずは十分ですね。この世界の情報技術も悪くはありませんが、やはりAIとして遅れを取る訳には参りません」
そうして別れた三人の中で、まず最初に動いたのはラムダであった。先行した猟兵たちの活躍により拘束した大公国兵士たち。彼女は彼らの保有していた情報端末を掻き集めると、それを糸口として軍のネットワークシステムへと介入を開始する。第一目標は監視カメラを中心とした警戒機器の無効化だ。
(セキュリティに関しては腐っても軍規格、やはり厚みがありますねぇ。ただ、突破自体にはそこまで手間は掛かりませんが、これはまた用心深い設計のようで)
電子戦に対する備えは相手も当然施しているが、そうした分野ではスペースシップワールドが一つ頭抜きん出ている。如何に強固な護りとて、未来技術によって作り上げられたラムダに突破出来ぬ道理など無かった。問題なのは寧ろ、アクセス可能な領域の方だ。
(この付近一帯の設備についてある程度は掌握完了しましたが、その他の区画についてはアクセスそのものが出来ない……恐らく物理的にサーバーを区切っていますね、これは)
情報や機能を一か所に集約すれば、取り回しやすくなるのは言うまでもない。反面、そこを落とされると全システムが敵の手に渡ってしまう危険性も孕んでいる。大公国側は後者のリスクを重く見た結果、管理サーバーを区画ごとで分割する事により一部の不具合が全体へと波及しないよう対策を講じていたのだろう。有線は愚か無線すらも繋がっていなければ、ハッキングのしようもない。
「まぁ、一区画だけとは言え、レーダーやカメラを混乱させられたと考えれば悪くはありませんねぇ。となれば、第二目標の攻略に取り掛かると致しましょう」
尤も、此方側とて万事順調に行く等とは始めから考えていなかった。ラムダは思考を切り替えると、次なる一手を電子の海へ巡らせてゆく。狙いは自動操縦システムや遠隔操作機能を搭載した車両や兵器群である。
それらは外部から入力された電気信号に従い突如として起動。格納庫から急発進したり、巡回中に暴走を始めたりと、あちこちで事故を多発させ始めた。遠くから響いてくる衝撃音を感知しながら、彼女はアバターの瞳をうっすらと細める。
(陽動の本命は御二方ですが、先んじて手を打てるならそれに越したことはないはず。これは謂わば『陽動の陽動』ですね……後は各々でわたくしの作り出した状況を利用するでしょう)
そうして各種システムの状況を監視しながら、AIは仲間たちへと次のバトンを渡すのであった。
「随分と騒々しくなってきたな……ラムダの仕業か? 全く、派手にやるもんだぜ。だが、どれもクーデター部隊の移動ルートから外れた場所なのは上出来だ」
首都に乱立する建築物の一つ、その屋上。狙撃に適したその場所で腹這いの射撃姿勢を取っていたミハイルは、眼下で同時多発的に発生し始めた混乱を見てそう独り言ちる。字面こそ困った風だが、一方で口元には愉快そうな笑みが浮かんでいた。
「まぁ、相手が浮足立ってくれるってんなら願ったり叶ったりだ。それじゃあ、こっちも始めるとしますかね」
そうして傭兵が取り出したのはロシア製のボルトアクション式狙撃銃だ。銃口部に消音機が取り付けられたそれを肩と腕でしっかりと保持しながら、スコープ越しに混乱の渦中へと視線を合わせてゆく。
(あっちこっちで事故を起こしちゃいるが、炎上だの爆発だのってのは見当たらない……流石は軍用品、耐久性能は折り紙付きってか。ただ、それだとこっちとしちゃ困るんだよな)
仲間のハッキングによってあちこちで車両が暴走や衝突を起こしているが、一方で火の手が上がる気配は無い。今でこそ相手は右往左往しているものの、腐ってもプロの軍人である。この混乱もそう長くは続かないだろう。時間が経って冷静になれば、車両を調べて本当の原因に気付く可能性は決して低くない。ならば今ミハイルに出来る事は、少しでもこの騒ぎを長引かせることである。
(ビル風が少しばかりあるが許容の範囲内。欲を言えばスポッターも欲しかったところだが、流石に贅沢は言えねぇな。そこは経験と勘でカバーすりゃ問題ない)
狙うは車両の燃料タンクや可燃物を中心とした積み荷だ。距離はそれなりにあるが、この程度なら可愛いものだ。風向きなどを考慮してクリック修正を行うと、ガク引きしないようゆっくりと引き金へ力を籠めてゆき、そして――。
「それじゃ……ショウタイムだ」
銃声もなく、砲火もなく。炸裂した火薬のエネルギーによって押し出された弾丸が宵闇を一直線に飛翔してゆく。衝撃を全身で受け止めながら目標を睨み続けていると、一拍の間を置いてぼわりと橙色の輝きが咲き誇る。弾丸は狙い違わず燃料タンクを撃ち抜き、焔を生み出すことに成功したのだ。
「まずは一つ、と。さて、それじゃあさっさとずらかるとするか」
戦果を確認したミハイルは身を起こすと速やかに移動準備を開始する。今のを狙撃だと気付かれた可能性は低いが、狙撃手は臆病すぎるくらいで丁度良い。そうして得物を抱えて次の狙撃ポイントへと向かう傭兵の聴覚が、微かな銃声を捉えた。敵が使用する銃の音ではない。となれば、その発生源など一つだけだ。
「お、あっちも順調そうだな。さぁ、詰めの部分は任せたぜ?」
そうしてニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、ミハイルは宵闇に消えてゆくのであった。
「監視人員の排除を完了……この騒ぎであれば、準備が完了するまで発覚する事もないでしょう」
そうして傭兵が移動を開始したのと同時刻。ビルの影から高所へと向けたライフル、その銃口より硝煙を立ち昇らせながら灯璃は落下する人影を確認する。彼女は仲間とは正反対に、地上から高所の監視人員を狙って狙撃を繰り返していたのだ。クーデター部隊を捕捉しそうな位置の相手を優先して排除していたが、それも今ので最後。となれば、次の段階へと移行するべきだろう。
「とは言え、ここまで騒ぎが大きくなれば必然的に応援の人員も出張ってくるはず。一応、予定している進行ルートから外れてはいますが、人の目が増えればそれだけ発覚する危険性も増します……ならば、次はその『目』を潰すとしましょう」
そうして軍装の乙女は足音を忍ばせて夜の街を駆け抜けてゆく。目指すは監視・通信施設と言った敵の重要拠点だ。彼女は慌ただしく走り回る兵士たちを尻目に、迷うことなく受電設備と発電機の元へと向かう。視界と連携を断つ、それが彼女の狙いだった。
(流石に事故の処理に手一杯で、こちらの防衛などは頭に在りませんか。それならそれでこちらにとっては好都合です。普通の鍵程度なら、解錠するのにそう時間も必要ないでしょう)
工作具で鍵穴を弄ると、呆気ないほど簡単に扉が開く。大きなロッカーの様な見た目をしたそれらの内部には、発電所から送られてきた高圧電流を変圧する為の機械群が収められていた。これを破壊されれば電気が使用不可能となり、必然的に照明や通信と言った機能もダウンする。
「まだこちらの仕業であると悟られるわけにはいきません。飽くまでも短絡事故として装うには、これが最適ですね」
そう言って灯璃が取り出したのは粉末状の爆薬と金属ウールの塊だった。爆薬粉を発電設備の吸気口へ注ぎ込むと同時に、綿糸状の金属を変電機構へと放り投げて扉を閉める。電気と金属と言う組み合わせで何が起こるかなど言うまでもない。
作業を終えた猟兵がその場を離れると同時に、煙を上げながら変電設備がショートした。いきなり電気が消えた事により、施設の混乱に更なる拍車が掛かってゆく。
「今度は何だ!? 変電設備に車でも突っ込んだか、それとも電源ケーブルでも破断したのか!」
「慌てるな、自家発電に切り替えろ。これでは通信もままならん、復旧を急がせろ!」
そうした怒号に耳を傾けながら、己の目論見がほぼ達成するであろう事を確信した灯璃は躊躇う事無くその場より背を向けた。同じような施設は他にもまだ存在している。仲間の陽動が効いている内に、出来る限りの手は打つべきだろう。
(……狙い通り、発電機を動かすようですね。であれば、もうこれ以上この場に留まる必要もありません)
そんな猟兵の考えを証明するかのように、小規模な爆発音と赤々とした炎が夜空に向かって燃え広がるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
おっ中佐殿じゃんおいすー
これ終わったらさー連合国殴りにいかねぇでござるか?楽しいぜ?
警戒網に穴開ければいいんだろ?それならキャバリアよか国の大臣なりの情報と味方の合言葉と軍服くだちぃ
道中は調達した軍服と親しくなる特殊なパワーで敗走した味方っぽく誤認させて堂々と突破でござるよ!
ついでにこの地域担当の中級指揮官を丸め込もうぜ!相手が俗物なら戦後の地位や鼻薬を餌に、忠臣なら君側の奸の排除とかでっち上げて自分の仕事をお休みするようにお話でござる!この為に内部情報を集める必要があったんでござるねぇ!クーデター首謀者も別の大臣の仕業ってことにしておこう
うんうんこれから何かが通ってもそれは味方の部隊ですぞ
●油断ならざる敵味方
猟兵たちの活躍により、大公国側の警戒網は着実にその機能を喪失しつつある。それに伴い、クーデター部隊・自治領軍もまたそれぞれの戦力を浸透させてゆく。サフォーノフと共にそれら作業の陣頭指揮を執るハイネマンだったが、不意に背後から声を掛けられた。
「おっ、中佐殿じゃんおいすー。相変わらずイキイキしていて何よりでござるな。ねぇねぇこれ終わったらさー、大隊でも引き連れて連合国殴りにいかねぇでござるか? きっと楽しいぜ?」
「はっはっは、そちらも元気そう……と言うより、殺しても死ななさそうな手合いだったな、貴君は。さて、お誘いに関しては非常に魅力的だが、それについては遠慮しておこう。もう少し太ってからでないと駄目な気がするのだよ、なんとなく」
場違いなほど気の抜けた声に振り返ってみれば、そこに居たのはエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)であった。両者は軽口交じりに再会を祝しながら、現状についての情報を手短に共有する。
「現在のところ、作戦はスムーズに進んでいる……が、相手も馬鹿ではない。そろそろ違和感を覚え始める者も出て来るだろう。それを考えると、もう少しペースアップしたいところではあるな」
「ふーむ、要するに警戒網へ穴を開ければいいんだろ? それも出来る限り隠密に、だ。それならキャバリアよか……国の大臣なりの情報と味方の合言葉と軍服くだちぃ」
「……何をするつもりかね」
猟兵の申し出に対し狂人の眼鏡が怪しく輝く。一方の黒髭も口調こそふざけているが、目だけは笑っていなかった。不敵な笑みを浮かべながら、エドゥアルトは言葉を続ける。
「いっそのこと、この地域担当の中級指揮官を抱き込んじまおうぜ? 弱みや鼻薬を嗅がせるなり、偽の情報で丸め込むなりしてな。その為にも変装道具やら内部情報が欲しいって訳でござるよ」
それはもし成功すれば非常に効果的な反面、失敗した場合の影響も計り知れない。無論、黒髭の傭兵とも無事では済まないだろう。それを踏まえた上で申し出ているのだ。二人の視線が真っ向から混じりあうものの、それも一瞬。ハイネマンはクツクツと喉を鳴らしつつ、成り行きを見守っていたサフォーノフに嗤い掛ける。
「……だ、そうだ。手配は可能かね?」
「正気か、と問うまでもありませんか。分かりました、捕縛した兵士から装備と情報を取り纏めますので、少々お待ちを。ああ、それと……」
――最悪の場合、私の名前を出しても構いません。
呆れたように溜息を吐く大公国人だったが、程なくして装備一式を整えて渡してくれる。そうして気になる一言と共に、猟兵を送り出すのであった。
「いやー、参ったでござるよ。今日は厄日というか、このまま帰って寝たい気分ですなぁ」
「同感だが、報告だけはさっさと済ませておけよ。後でどやされるからな」
斯くして、友軍と別れて暫しの後。傭兵の姿は敵の小規模な駐屯地内にあった。事故に見舞われた風を装いながら、持ち前のコミュ力を駆使して堂々と侵入を果たしたのである。エドゥアルトは案内の兵士と別れると、そのまま諸々の現状報告と言う体で目的の中級指揮官の元へと向かう。
「失礼しまっす!」
「うむ、入れ」
そうして執務室へ入ると、中には恰幅の良い中年士官が居た。ちらりと階級章を見れば年齢の割に低い。それだけで相手がどんな手合いか察すると、笑みを浮かべながら歩み寄る。
「今日はあちこちで問題が起こっているな。全く、偶然にしては出来過ぎている」
「はははは……そりゃあ偶然じゃねぇからな」
嘆息する士官に対し、エドゥアルトの回答は単純明快。隠し持っていた銃器を取り出すと、相手の喉元へと突き付けた。
「なぁっ!? 貴様、何を……!」
「まぁまぁまぁ、まずは話を聞くでござるよ?」
目を剥く相手を黙らせながら、傭兵は口を開いた。俗物には利を、忠臣には義を。今回は前者向けとして、上の地位をちらつかせながらクーデターについてつらつらと掻い摘んで説明してゆく。無論、万が一を考えて首謀者は別の政府高官と言う事にしてだ。
「う、ううむ……それが本当なら良いが、だが、しかし」
迷ってはいるものの、相手の反応は悪くは無い。だが、あと一押しが決め切れない。口約束だけでは信用しきれないのだろう。そこでエドゥアルトはふと別れ際の言葉を思い出し、試しにぼそりと付け加えてみた。
「実は、サフォーノフ殿も協力していますぞ?」
「なに!? そうか……良し、ならばワシも腹を決めよう」
「お、本当でござるか! うんうん、それは重畳。これから何かが通ってもそれは味方の部隊ですぞ!」
思わぬ反応に一瞬面喰らいながらも、黒髭はそうとは悟らせず話を纏め切る。そうして幾つかの段取りを決めると、そそくさとその場を後にしてゆく。
(あのクーデター部隊の隊長、階級も所属も明かさなかったでござるが……実際のところ、何者でござるかね?)
そうして一抹の疑念を抱きつつも、懐柔の成功を報せるべく元来た道を戻ってゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
西院鬼・織久
この世界は我等が刃を磨く戦に事欠かないようです
不殺ばかりは不満ですが、餓えもまた我等の怨念を滾らせるとあれば是非もなし
先ずは狩場に向うとします
【行動】POW
戦闘知識を活かすため可能ならば事前に警備体制や人員、装備、監視システムの情報かそれに近い物の情報を得ておく
他の潜入がやりやすいよう警備の翻弄を念頭に行動
UC+怨念の炎の範囲攻撃で一角を爆破。継続して燃え続ける怨念の炎を撒き散らす
各所で同じ爆破を起こして陽動と思っていても対処せざるを得ない状態を作り人員を翻弄し自身は爆破と炎で作った熱源、瓦礫と炎の影を利用し潜入
発見されそうな時は先制攻撃で鎮圧して炎の中に放り込み救助にも人員を割くよう仕向ける
●焔煌々と、影もまた濃くなりて
「相も変わらず、この世界は我等が刃を磨く戦に事欠かないようです。不殺ばかりは些か不満ですが、餓えもまた我等の怨念を滾らせるとあれば是非もなし。先ずは狩場まで向かうとしましょう」
静寂は破られ、徐々にではあるが火薬の匂いが漂い始めた大公国首都。その空気を肌で感じながら、西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)は入り組んだ路地裏を走り抜けていた。頭の中には事前に聞き取った敵側の警備体制や装備、監視システムの情報が叩き込まれている。とは言え、そうしたものは緊急時用に二重三重と用意しているもの。参考しつつも、過信は禁物だろう。
であるならば、土壇場で頼みとなるのはこれまで積み重ねて来た経験と武人の直感だ。渦巻く混乱や焦燥感の流れを感じ取りながら、青年が目を付けたのはそれが比較的収まりつつある場所であった。
(他の猟兵が暴走させた車両が検問所に衝突したのですか……幸か不幸か、炎上などせずそのまま停止したみたいですね)
そっと様子を窺えば検問所と思しき小屋に軍用トラックがめり込んでおり、建物も車両も大きくひしゃげている。周囲を動き回っているのは現場検証を担当する兵士たちだろう。仲間の手抜かりを心配する気は無いが、相手もプロ集団だ。詳細を調べられて不審な点を見つけられるのは好ましくない。とは言え、馬鹿正直に乗り込んでゆくのも悪手である。
(幸い、今の時刻は夜。照明のお陰で陰影も生まれています。ここからでも十分に届き得るはず)
織久は物陰に身を隠したまま、事故現場へ向けて足元より黒々とした影を伸ばしてゆく。術者の意思に応じ変幻自在に蠢く其れが音もなく車両へ触れた瞬間、影を通して青年は焔を走り伝わせる。瞬間、中に残っていた燃料や電子機器へ着火、車両内部よりぼわりと炎を噴き上げた。
「っ、発火!? 退避、退避ぃっ!」
「誰だ、初期処理を担当したのはッ! 俺たちを殺す気か!」
慌てて飛び退き悪態をつきながら、鎮火させるべく水や消火材を吹きかける兵士たち。だが火の勢いは弱まりこそすれ、決して消えることは無い。それは只の燃焼ではなく、怨念を糧とする呪詛の一種。そう容易く燃え尽きてしまうものでは無かった。
(飽くまでも安全確認を怠ったと考えてくれたようですね。一先ず、此処はこれで良いでしょう。これならば次はもう少し派手に行っても良さそうです)
消火活動に付きっ切りとなった相手を尻目に、織久は次なる目標を探して移動してゆく。今のである程度の感覚は把握できた。今度はより大規模に行おうと、事後現場ではなく車両整備場そのものへと狙いを定める。
(飽くまでも他国の工作では無く、機械の不具合と思わせる。稼げる時間はそう多く無いけれども、此方の意図を隠す一助にはなるでしょう)
そうして先と同じように影を伸ばして怨念の炎で着火。数瞬後には断続的な爆発音と共に整備場が火の手に包まれる。中から大慌てで兵士たちが飛び出してくるが、先程とは規模が段違いだ。暫くは此処から離れる事は出来ないだろう。そうして炎と煙に紛れ、織久はその場を後にしようとする……が。
「待て、貴様。単なる市民では無いな。此処で何をしている?」
運悪く、騒ぎを聞きつけた歩哨と鉢合わせしてしまう。既に銃口を向けられており、話し合いで誤魔化せる余地は無い。となれば、青年の判断は速かった。
「殺しはしない……だが、この事を話される訳にもいかない。口だけは封じさせて貰おう」
「貴様、何を
……!?」
会話の最中に相手へ這い寄らせていた影を瞬時に実体化。拘束しつつ口元を覆うと、そのまま炎の中へと放り投げる。人手が居る故に救助はされるだろうが、火傷で会話や筆談も覚束ないはずだ。救助にも人手が割かれる故、一石二鳥と言えた。
「表沙汰にならないとはいえ、これもまた戦争の一つだ。悪く思うな」
そうして煌々とした輝きに背を向けると、猟兵は再び闇の中へと消えてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
三辻・蒜
戦場になるんだね、大きな国の首都なのに
こういうの、栄枯盛衰って言うのかな
監視カメラとかサーチライトとか、電源を潰して無力化できないかな
狙うのは野外用の発電機か変電設備、敵に見つからないようにギリギリまで近付くよ
見られてない隙に、出力を抑えた【羨望の光】を当ててショートしたように見せかけて壊しちゃおう
バレないで混乱してくれたなら、ついでに電話線とか通信機器も狙ってみる
ある程度やれたら別の区画でもやってみて、友軍の進入ルートから注意を逸らしたいな
チャンスがあれば敵の糧食もいただいちゃおうかな
野良犬か何かがやった感じに見えるように適当に散らかして
ちょっとお腹空いてたし、これくらいは別に良いよね?
●その輝きを認める者は無く
「戦場になるんだね、こんなに大きな国の首都なのに。一部の人が判断を間違えただけで……こういうの、栄枯盛衰って言うのかな」
広がる街並みは『大公国』という肩書に相応しく、幾つもの高層建築が密集して乱立している。だが一方で、夜である事を差し引いても人の気配は非常に希薄だ。そんな物寂しい雰囲気を感じ、三辻・蒜(緑眼の獣・f32482)はふとそんな呟きを零す。
しかし他方では、猟兵たちの攪乱策によって争乱の気配が高まりつつある。いずれこれが臨界へと達し開戦の火蓋を切るのだろうが、それはまだ先でなければならない。友軍の準備が整うまで、大公国側には混乱したままで居て貰う必要があった。
(監視カメラやサーチライトを無力化するのも良いけど、一つ一つ壊して回ってたら時間が足りないよね……電源を潰して一気に無力化できないかな)
先行した猟兵たちによる攪乱のお陰で兵士たちの注意がそちらへ牽きつけられているが、機械の目まではそうもいくまい。そうした人間の隙をカバー出来る事が機械の利点だが、相手取る場合には厄介極まりないと言える。故にそれらを一網打尽にすべく蒜が目星をつけたのは、変電設備が集中する一角であった。
(変電設備さえ破壊できれば、建物自体の電力供給を遮断できるはず。発電機も備えているだろうけど、それで監視網全ての電力を賄い切れるとは思えないし、取り急ぎそれを破壊出来れば十分だよね?)
そうしてフェンスに囲まれた設備群へと接近する蒜だったが、不意に人の気配を感じ取り咄嗟に身を低くする。ザリザリと言う足音に耳を澄ましてみれば、連れ立って歩く兵士たちの姿が視界に飛び込んできた。
「電気系統のトラブルに車両の暴走ねぇ……確かにおかしいと言えばおかしいがなぁ」
「こんなご時世だ。システムのバグなり経年劣化による事故を、これ幸いにと敵さんの責にしてるって言われても信じるぜ。ま、さっさと確認しちまおう」
どうやら似たような事故があったとの連絡を受け、確認のために派遣されてきたらしい。とは言え詳細までは伝わっていないのか、兵士たちの口振りは緊張感に欠けていた。だが万が一変電設備を改められてしまえば、事故を装って破壊しても不審を抱かれてしまうだろう。
(ちょっと難しいけど、やってやれなくもないかな。尤も、一度外したら次は無いだろうけど)
しかし、蒜には勝算があった。彼女は相手の視界へ入らない様に移動しながら、フェンス越しに拳銃を構える。利点としては二つ。彼女の武器から発射されるのは弾丸ではなく光線。その為、発砲音がせず静穏性に長けているという事。二つ目は出力調整によって光量と太さも調整可能という点だ。これならば金網越しにでも攻撃を届かせることが可能だった。
(狙うタイミングは開けた瞬間。外気に触れて壊れたとか、そう思い込んでくれるのがベストだね……よし、いまっ!)
そうして射角を調節しながら、兵士たちが変電設備の扉に手を掛ける様子を見守る。そうして半ば開き切った時、少女は引き金を押し込んだ。果たして、か細い糸の如く伸びていった熱線が内部の機械部へと命中。バチリとスパークを爆ぜさせながら燃え上がり始めた。
「うおっ、発火しやがった!? 定期点検でなにやってたんだ!」
「おい、施設の電気が消えてやがる。これ、俺たちのせいにはならんよな?」
幸い、此方の仕業だと気づかれていないようだ。途方に暮れる兵士たちを尻目に、蒜はその場を後にする。夜陰に乗じてそのまま電話線を切断するのも良いかもしれない。だがふと、くぅと胃が鳴き声を上げている事に気付く。
(今なら食糧庫にも入れるはず……ちょっとお腹空いてるし、本番前の摘まみ食いくらいは別に良いよね?)
斯くして、暫しの後。敵の施設よりそっと忍び出て来た蒜の両手には、大公国製のレーションがこんもりと抱えられていたのであった。
成功
🔵🔵🔴
フォルター・ユングフラウ
【古城】
己の脚で歩かずに済むのでな、乗り心地に関しては何も言うまい
…己の領地すら治められなかった我が、他人の戦争事情に首を突っ込むとはな
人生とは、奇妙なものだ
さて、では“穏便に”事を済ませよう
毒使い・医術・麻痺攻撃の技能を活かして遅効性の毒ガスを生成、封入したカプセルを使い魔の蝙蝠に持たせ建物内に余すところ無く散布する
騎士が職員共を回収して来れば、気付け薬で起こし、UCで速やかに傀儡に堕とす
精々働け
働き次第で、国の命運も変わるというものよ
…また悩んでいるのか
我の能力が役立つからこそ、呼んだのであろう?
我は兎も角、汝としては流血の未来を防ぎたい筈
悩むなとは言わぬが、電子頭脳に過負荷を掛けぬ様にな
トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
(生存しても責任追及免れぬ公王、統治者として不安なハイネマン、己が立案した作戦に思考演算負荷増大)
目下の課題は揺れの軽減ですね
窮屈はご寛恕を
乗り心地に不満は御座いませんか、フォルター様
外套下に片腕で女帝抱え
センサー情報収集と景色に融ける擬態機能で監視突破
嗅覚鋭い犬を特に警戒
監視情報集積する施設の一つに接近
昏睡後に起こし掌握した人員で一部警戒網を密かに麻痺
誤情報流すか
手引きした味方に情報を供出させ“業務”を引き継がせるか
二人の指揮官に連絡し方針を…
…忸怩たる思いです
人倫に悖る精神干渉も、それを貴女にさせたことも
貴女の能力活かし、この地で流る血を最大限減らす…
これは私の責任です
私の、罪です
●割り切れぬは情か利か
(……此度の作戦は成功にしろ失敗にしろ、完全な大団円というのは難しいでしょうね)
遠くから散発的な爆発音がうっすらと響き、他方へ視線を向ければ濃紺の夜空に橙色の輝きが見て取れる。各地で偶然を装い仕掛けられた陽動の気配を感じ取りながら、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はグルグルと思考を巡らせていた。
公王が乱心した主因はオブリビオンマシンによる影響である。だが、それを理解できるのは猟兵のみ。故にこそ、クーデターが成功した暁には公王の責任追及は免れ得ない。それに恐らく戦後は自治領と協力して停戦処理に奔走するのだろうが、よりにもよってそのトップはあのハイネマン。平穏無事に終わるとは到底思えなかった。
「……己の領地すら治められなかった我が、他人の戦争事情に首を突っ込むとはな。それも、どうであれ敗北が確定している国とは。人生とは、全く奇妙なものだ」
ウォーマシン故に表情も声音も変わることは無い。然れどもそこは付き合いの長さゆえだろうか。フォルター・ユングフラウ(嗜虐の女帝・f07891)の漏らした呟きは、不思議と仲間の思索と内容が重なっていた。
「っと、乗り心地に不満は御座いませんか、フォルター様。目下の課題は揺れの軽減ですね……窮屈はどうかご寛恕を」
「いいや、気にするな。己の脚で歩かずに済むのでな、乗り心地に関しては何も言うまい」
そうして言葉を交わし合う鋼騎士と女帝であったが、その距離は非常に近い。視点を引いてみれば、頭から被った外套でその巨躯をすっぽりと覆い隠しながら、トリテレイアが片手でフォルターを抱えていたのである。
見る者が見れば絵になる光景だろうが、恐らくそれは叶わないだろう。何故ならば、外套は単なる布で出来ているのではない。イカをモチーフとした欺瞞迷彩能力を持った隠密用装備だったのである。恐らく、外からは二人の姿が周囲の風景へぼんやりと溶け込んでいる様に見える筈だ。
「とは言え、これも万能ではありません。誤魔化せるのは視覚や熱、音のみ。軍用犬の嗅覚はこちらの存在を察知するでしょう。技術が発達しようとも、生き物の能力は侮れませんね」
「なに、その場合には我が何とかしよう。その為に、こうして共に行動しているのだからな」
そうして言葉を交わし合いながら進んでいた二人であったが、ある地点で足を止めた。一見すれば何の変哲もないビルだが、出入り口には銃を携えた警備員が佇んでいる。その正体は周囲の監視カメラやセンサーを取り纏めている情報集積施設だ。二人は姿を消したまま正面より建物へ踏み入ると、奥にある指揮所へと向かう。
「A-7、11、12番からの通信途絶。どうやら火災の熱で断線した模様。復旧は鎮火を待ってからとなります」
「D区画全域で停電が発生し、復旧の見込みは現在未定。カメラ類が全て停止した為、代替の哨戒員を送る」
中では複数のモニターを前に、職員たちが矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。他の猟兵たちの活躍が功を奏し、相手もリカバーに奔走しているらしい。画面とマイクに集中しており、此方側へ無防備に背中を晒している。このまま爆弾の一つでも投げ込んでやれば片が付きそうなものだが、今回のオーダーは飽くまでも隠密優先だ。
「さて……では“穏便に”事を済ませよう。なに、この規模であれば他の部屋も含めてすぐに済む」
そこでまず動いたのはフォルターであった。彼女は幾つかの小瓶を取り出して中身を手早く調合すると、幾錠かのカプセルを作り上げる。それを使い魔たる蝙蝠たちに掴ませ、方々へと遣わしてゆく。
「なに、C区画に不審な集団? いや、こちらには何も、映、って……」
彼らは音もなく職員たちの頭上を取ると、カプセルを投下。地面に触れたそれらから、無味無臭の気体が噴き出す。中身は遅効性の毒ガスだ。それらは徐々に職員たちの思考能力を低下させると、静かに意識を刈り取っていった。
「さて、いきなり通信が途絶すれば現場側に怪しまれよう。済まぬが、人員の回収を頼む」
「……はい、分かりました。少々お待ちを」
女帝の求めに対し、鋼騎士はやや間を置いた後に頷くと部屋の外へ姿を消す。程なくして戻って来た時には、両腕に数人の男たちを抱え込んでいた。床に並べられた職員たちを見渡すと、フォルターは気付け薬を取り出して与えてゆく。
「では仕上げだ……我にその身を、その心を委ねよ。首を垂れる事こそ、汝らの至福。背徳の悦びに震え、絶頂させてやろう」
毒が分解されて意識朦朧とした集団を前に、女帝は静かに歩み出ると蠱惑的に囁きかける。魔力の帯びた言の葉が耳朶を打った瞬間、並行して展開されていた魔方陣より術式が迸り、精神に対する拘束が付与されていった。
「さぁ、精々働け。汝らの働き次第で、国の命運も変わるというものよ。良くも悪くもな」
こうなればもうこちらものだ。効果時間内であれば、裏切りも離反も心配無用。他人に気取られる事無く、そのまま業務を続けてくれるだろう。職員たちはよろよろと立ち上がると、再びモニターへ向けて指示を出し始めてゆく。
「取り急ぎ、進行予定ルート周辺の監視網の停止を。誤情報を流すか、情報を引き出したのちに味方へ業務を引き継がせるべきか。まずは指揮官へ連絡し方針確認を……」
今後の動きについて検討を行っていたトリテレイアだったが、不意にその言葉が途切れる。何事かとフォルターが傍らへ視線を向けると、鋼騎士はアイカメラを明滅させながら手で顔面装甲を覆っていた。一目見て、その理由を察した女帝は小さくため息を零す。
「……また、悩んでいるのか」
「ええ、忸怩たる思いです……人倫に悖る精神干渉も、それを貴女にさせたことも」
トリテレイアの価値観には戦機械としての合理と騎士道としての理想が並立している。だが、感情の面では後者の割合の方が大きい。そしてその観点から言えば、此度の手段は到底許容できるものでは無かったのだ。
「我の能力が役立つからこそ、呼んだのであろう? 我は兎も角、汝としては流血の未来を防ぎたい筈。その考え自体は決して間違ってはおらんだろうに」
「確かにそうです。貴女の能力活かし、この地で流る血を最大限減らす。その為の策を考え、実行を求めたのは他ならぬ私自身です。故にこれは私の責任……私の、罪です」
フォルターが声を掛けるも、トリテレイアが抱く自責の念は晴れないらしい。一度こうなるとなかなか抜け出せぬと、女帝はこれまでの付き合いから知っていた。思案する様に瞳を閉じながら、彼女はこの場を後にすべく外へと足を向ける。
「悩むなとは言わぬが、電子頭脳に過負荷を掛けぬ様にな。それと、一つ付け加えるとすれば……汝の申し出を受けたのは我自身だ。その点を忘れるな」
掛けられた言葉はそっけなかったが、根底には確かな気遣いが籠められていた。それをどう処理するかは本人次第。黙したまま佇む友を背に、フォルターはその場を後にするのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
キリジ・グッドウィン
【特務一課】5人
暴走した公王様のおっ始めた戦争、護るためとはいえ敗戦確定で国民はどう思うんだか
ま、周辺五か国に切り分けられて盥回しみたいになるよりはマシなのかもな?
全部ぶっとばした方が性には合ってるが仕方ない
ま、フィジカル担当なんでハッキングは頼むわ源次。切り込むのはオレが
サギリサマや雪丸鳳花もいるし、殺しとか一応避けておく
グウェンドリンと共に二人が起こした小火騒ぎの陽動に駆け付けた兵の無力化。後ろから接敵し銃身で殴り気絶させる
そのまま他の敵にナイフで切り込み。急所は外すが逃げられないよう、もしくは口開く事が出来ねェくらいには
甘い事やって逆に事を大きくしない為に保険みたいなものだと思って動く
叢雲・源次
【特務一課】
戦後処理か…政治的駆け引きに心得は無いが、参戦した方が管理局としても都合がいいのかもしれん…局長、やり手ではあるな。
俺達で取れる手段は全て使う。その方向で構わんな。
では、特務一課…作戦行動を開始する。
キャバリアはクーデター部隊に運搬及び隠蔽を任せ、警邏の無力化を図る
『…インターセプター起動。』
索敵・警護・保守、それぞれのシステムに対してハッキング開始。
サーチライトやレーダーのシステムダウン、消火システムの無力化を図る
あとは迅速に、兵の制圧にかかる…各員、抜かるな
(混乱、動揺に乗じ、警備兵に対し一瞬の踏み込みからの峰打ちや当て身。無益な殺生は好まぬ心意気)
無駄に血を流すこともあるまい
グウェンドリン・グレンジャー
【特務一課】
戦後処理、なー……複雑なこと、あんまり、よく分かんないけど、力押し……で、いいんだよね
がんばろーね、黒玉姫。いい子で、運ばれるんだよ
お腹、減っても、勝手に、動いちゃダメ、だからねー
(腰からメキョッと生えた翼で音もなく飛行して)
遠目には、大きな鳥、としか、映らない……と、思いたい
源次に、ハッキング、おまかせー
サギリと、鳳花に、陽動は、まかせるー
そして、私は、キリジと、がんばるー
それじゃあ、頭数、増やしてっと……
(UC発動。召喚されるカラスの大群)
私は、念動力で、兵を、吹っ飛ばしたり、怪力……で、ちょっと後ろから、押したり
カラス達、に、兵、つつかせたり、犬、からかって、足止め、するー
サギリ・スズノネ
【特務一課】
※呼び方:名前+お姉さん、お兄さん
色んな世界があって、色んな人間がいて、色んな事情があるのです
だから深く考えるのはー目標をぶっ飛ばして、全部終わってからなのですよ!
というわけでまずは潜入なのです!
源次お兄さんがハッキングしている間に、他の注意を反らすのですよ
火ノ神楽で炎を鈴を出す――前に!
炎の明るさで見つからないように、周辺の建物の影とか良さそうな場所を情報収集
なるべく光が目立たない場所を選んで火をつけて逃げます
炎で人間の注意を、煙の臭いで軍用犬の注意を引けると良いのですが
やむを得ず見つかったら速攻でぶっ飛ばすのです!
相手の口に『鈴ノ小鳥符』を投げつけて塞いで、炎の鈴をぶつけます
雪丸・鳳花
【特務一課】
一歩自国から外に出れば、考え方も事情も変わるのだな
まるで映画の世界に入った気分だが、これも現実なのだな
ともかく!
ボクらはボクらに任された事を成功させよう!
仲間で協力して任務を遂行だ!
隠密行動か!
目立つのは得意なのだが、静かにするよう努力しよう!
空中浮遊で足音を消し、物陰に隠れながら移動だ
なんらかの注意を引かなければならない時は任せてくれたまえ
念動力で遠くの物を動かそう
偶発的に荷物が倒れたり、
それがたまたまボヤ騒ぎの炎の場所だったり、
たまたま引火して燃え広がっても不慮の事故だからね
兵の制圧は、そうだね
UCで拳に結晶体をまとい、高速移動で急接近して打撃で気絶させられないかな
●それぞれの為すべきことを
「戦力の六割方は攻撃発起位置まで搬送を完了。残るキャバリア及び人員も順次輸送を開始せよ」
「進捗ペースとしては概ね順調です。しかし、警戒側も異変に気付きつつあり。現状の隠匿可能予想時間は……」
当初、クーデター部隊らと合流した廃墟区画では変わらず兵士たちが慌ただしく動き回っている。だが、其処に集積されていた兵器や物資は半分以上が首都内部へと運び込まれていた。漏れ聞こえる報告通りスムーズに進んでいると言えるが、そもそもの兵力がそこまで多くないのだ。全ての作業を終えるまでまだまだ楽観視は出来そうにない。
「一歩自国から外に出れば、考え方も事情も変わるのだな。首都でのクーデターに停戦処理とは、まるで戦記映画の世界に入った様な気分だが……これも現実なのだな」
転送一番、そんな光景を目の当たりにした雪丸・鳳花(歩く独りミュージカル・f31181)は神妙そうな表情を浮かべる。画面越しや創作物では感じられぬ『本物』の空気が其処には存在していた。一拍遅れて姿を見せた残りの【管理局戦術作戦部特務一課】の面々もまた、事前説明とのすり合わせを行いながら現状を把握してゆく。
「はてさて、元を正せば暴走した公王様のおっ始めた戦争だろ。護るためとはいえ、敗戦確定で国民はどう思うんだか……ま、周辺五か国に切り分けられて盥回しみたいになるよりはマシなのかもな? 植民地だ何だのと、あんまり愉快な話も聞かねぇし」
「そういう意味では、こうして参戦した方が管理局としても都合が良かったのかもしれんな。戦後処理を始めとする政治的駆け引きに心得が無いゆえ、経験を積むには絶好の機会と言える……局長、やり手ではあるな」
キリジ・グッドウィン(what it is like・f31149)と叢雲・源次(DEAD SET・f14403)は事件背景と参戦の意図を考察しあっていた。彼らもまた、このクロムキャバリアに乱立する小勢力の一つに属している。それ故にこうした政変や国同士の交渉と言った物事も他人事ではない。猟兵としての責務は勿論だが、蓄積できるモノは可能な限り取り込みたいと言う事なのだろう。
一方、二人の話を聞いていたグウェンドリン・グレンジャー(Blue Heaven・f00712)はいまいちピンと来ていないらしく、小首を傾げながら疑問符を浮かべていた。
「戦後処理、なー……複雑なこと、あんまり、よく分かんないけど、取りあえずは、力押し……で、いいんだよね? 負けたら、元も子もない、し?」
「色んな世界があって、色んな人間がいて、色んな事情があるのです。何が正しくてどれが正義なのかなんて、後にならなければ分からないのですし。だから深く考えるのはー、目標をぶっ飛ばして、全部終わってからで良いのですよ!」
仲間の問いかけに対して、底抜けに明るい声で応ずるのはサギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう・f14676)。ハイネマンが好みそうな考えだが、それはそれである種の真理を突いている。万事塞翁が馬、何が最適だったのかなど後世にならなければ分からないものだ。
「ともかく! ボクらはボクらに任された事を成功させよう! まずはドンパチよりも、皆で協力して運搬作業を進めてしまおうか!」
「そっかー……がんばろーね、黒玉姫。今はいい子で、運ばれるんだよ。お腹、減っても、勝手に、動いちゃダメ、だからねー」
取りあえず、打ち合わせはこのくらいで良いだろう。パンパンと手を叩いて鳳花は話を先に進める。彼女の言う通り、まずは部隊を浸透させねばスタートラインにすら立てないのだ。それを受けて、グウェンドリンは己のキャバリアに輸送トラックへと乗り込む様に命じてゆく。これらが必要とされる場面はもう少しばかり後になるだろう。
「正直、全部ぶっとばした方が性には合ってるが仕方ない。無茶はするが無謀は無しだ。ま、フィジカル担当なんでハッキングは頼むわ、源次。切り込むのはオレがやる」
「ふむふむ、それならサギリは陽動を行うですよ。人目を集めるのはお任せなのです!」
互いに良く知る間柄だ、各々の得意分野など今更確認するまでもない。キリジやサギリの申し出に源次は暫し考えを巡らせると、小さく頷いた。
「……分かった。俺達で取れる手段は全て使う。基本的にはその方向で構わんな。では、特務一課……」
――作戦行動を開始する。
そうして五人はその宣言を皮切りとして、三手に散って行動を開始するのであった。
「源次お兄さんがハッキングしている間に、邪魔されぬよう他の注意を反らすのですよ。という訳で、火ノ神楽で炎の鈴を出す……その前に!」
そうして三手に分かれたうちの一つ、事前の申し出通り陽動役を任されたサギリは、鳳花と共に他の二班よりも先行していた。陽動の目的は勿論敵の注意を惹く事だが、考えなしに身を晒せば単なる自殺行為でしかない。故にまずは、下準備を行うに適した場所を探す方が先決である。
「これだけ暗いと、炎の明るさは思った以上に目を惹いてしまいますからね。注目されるのは火を点け終わった後で十分なのです」
「なるほど、まずは隠密行動か! 目立つのは得意なのだが、今回は静かにするよう努力しよう! もしもなんらかの注意を引かなければならない時は是非任せてくれたまえ!」
騒ぎを起こすだけ起こして、相手が駆けつけて来た時には既にその場を後にしているのが理想だ。その為にも早々に見つかる事態だけは避けたいところである。芝居がかった仕草を一先ず引っ込めつつ、鳳花は靴裏をほんの数センチ地面から浮かせることで足音を立てることなく通りから通りを渡り歩いてゆく。
「ふむ、ここなんてどうだろうか? 適度に外からは見えづらくて、火がついてもおかしくはなさそうだ」
そうして目星をつけたのは、無数のスクラップが山積みにされた一角。どうやら、この一連の騒動で使用不可能になった車両の仮集積場らしい。一つ一つのパーツが大きく入り組んでおり、かつタイヤを始めとする可燃物にも事欠かないだろう。
「ふむふむ、確かに丁度良さそうですね。これなら煙に加えて嫌な臭いで軍用犬の鼻も利かなく出来そうですし……それでは!」
条件さえ整えばもはや遠慮は無用である。その場で舞を踏み始めたサギリが神楽鈴をシャンと一つ鳴らす度に、鈴の形をした金炎が生じてゆく。それらがふよふよとスクラップの山へ潜り込むと、内部より音を立てて煙が上がり始めた。
「なんだか焚火みたいなのです。尤も、落ち葉どころか鉄すら燃やしてしまう炎ですけど」
「ともあれ、これで目的は達成だね! なら次の場所へ……っと、どうやら待ちきれない観客が居たみたいだ」
この調子ならそう時間も経たぬうちに勢いよく燃え広がってくれるだろう。その場を離れようとした鳳花だったが、不意に足を止めて残骸の影へと身を隠す。何事かとサギリもつられて視線を向ければ、こちらへ駆け寄ってくる兵士の姿があった。幸か不幸か、軍用犬付きだ。
「真っ直ぐ向かってきますね……どうしましょう、先手を打って速攻でぶっ飛ばすべきですか?」
様子から察するに立ち上る煙を見つけたのだろう。だが陽動としてはもう少し派手に燃えて貰う必要があった。幸いにも相手は兵士二人に犬が一頭、制圧できぬ相手ではない。札を取り出して訪ねて来る本坪鈴に対し、しかして男装の麗人は首を振る。
「それも悪くないけれど、避けられるなら避けた方がスマートさ。これだけ乱雑に積み上げられていたら、多少不安定でもおかしくは無い。そう……偶発的に荷物が倒れたり、それがたまたまボヤ騒ぎの炎の場所だったり、更には引火して燃え広がっても」
――飽くまで不慮の事故だからね?
そう言って彼女が指をパチリと鳴らすや、山を構成している部品の幾つかがまるで積み木遊びの如くすっぽ抜けた。するとバランスを崩した上部の鉄屑が、駆け寄って来る兵士たちの方へと雪崩落ちる。それは狙ったように猟兵の姿を隠すと同時に、一気に入り込んだ酸素を使ってぼわりと炎が噴き上がってゆく。こうなればもう、此方に気付く余裕などなくなるはずだ。
「さて、後の事はみんなに任せて退くとしよう! 引き際の潔さも一つの美しさなのだからね!」
「了解なのです! これ一つでは足らないでしょうし、余裕があればまだまだ燃やすのですよ!」
そうして次なる一手は仲間に託しつつ、二人は炎と煙に紛れてその場を後にするのであった。
「おい、水が足りないぞ! どんどん持って来い! 消防車はどうした!?」
「他の事故現場に行ったきりだ、あと三十分は掛かるってよ!」
そうして、先行した二名が放火をしてから暫し経過したのち。件の現場は紅蓮の焔が渦巻く鉄火場と化し、周囲では幾人もの兵士たちが消火作業に追われる姿があった。近くの水道からバケツで水を運んだり、消火栓からホースを引っ張ってきているものの、消しているのは単なる炎ではない。それらは豊富な燃料を糧として、水を浴びる傍から更なる火の手を伸ばしている。
「おおー……キャンプファイヤー、みたい。此処にいても、暑いねー」
「随分と盛大にやったな。まぁ、こんだけ燃えてりゃ多少派手に動いても紛れ込めるだろ」
そんな光景を、グウェンドリンとキリジは物陰より眺めていた。遠巻きにしているのだが、それにも関らず顔や手をジリジリと炙られる感覚に襲われている。敵にとっては災難だろうが、利用する側としてはうってつけの状況と言えよう。
「サギリと、鳳花も、ちゃんと動いてくれたし……私は、キリジと、がんばるー」
そうぼんやりとした声が虚空に溶け消えたかと思うや、骨の砕ける様な音が響く。見れば少女の腰元より鴉を思わせる漆黒の翼が一対、ふわりと羽を広げていた。グウェンドリンは音もなくそれを一打ちすると、上昇気流に乗って煙に覆われた空へと一直線に飛翔してゆく。煌々と輝く焔も相まって、その姿はほとんど夜闇と同化している。
「遠目には、大きな鳥、としか、映らない……と、思いたい、ねー。まぁ、これなら、心配ない? それじゃあ、頭数、増やしてっと……」
銃弾が飛んでこない事を確認したのち、グウェンドリンはひゅうと小さく口笛を吹く。甲高い音色が伽藍洞の街へと鳴り響き、ゆっくりと消えて更に一拍の後。ぞわりと、闇が動いた。否、正確にはそうではない。よくよく目を凝らしてみれば、それらは全て鴉である。百を超える群れが、彼女の呼びかけに応じて目を覚ましたのだ。
「みんな、普通よりも、大きいねー……これだけ、大きな街だと、餌もたくさん、あるのかなー?」
種類としては都市部に良く見られるハシブトガラスか。己の周囲に集った黒翼たちを見渡すと、少女はサッと手を振り下ろして合図を出す。言葉は不要、ただその動作だけで無数の鴉たちが一斉に兵士たちの頭上から襲い掛かってゆく。
「うん、なんだ……黒い、点? 舞い上がった灰じゃなくてあれは、鴉
……!?」
消火作業を行っていた兵士も迫る鳥群に気付いたものの、まさか自分たちを狙っているとは思いもしなかったのだろう。迫り来る嘴や爪に対し、ある者は水を撒き散らし、ある者は銃を構え、またある者は傍に待たせていた軍用犬を嗾けんとする。たちまち現場は混乱に包まれ、もはや消火どころの話ではなかった。
「地上は大火事、頭の上にゃ鴉の群れ。敵ながら同情するが、かと言って手を抜くつもりはねぇぜ。ただまぁ、今回はサギリサマや雪丸鳳花もいるし、血生臭い事は一応避けておきたいところだがな」
そんな惨状を油断なく観察し、キリジもまた此処が仕掛け時であると判断する。相手の視線は燃え盛る炎と空を舞う鴉に釘付けだ。己の背後を気にする余裕などない。そっと姿勢を低くしながら外延部の兵士へと忍び寄るや、後頭部をアサルトライフルの銃床で思い切り殴りつけて昏倒させる。後は物陰へと引きずり込んでしまえば一丁上がりだ。
「これを繰り返していきゃあ、そう手間も掛からず一網打尽に出来んだろ……って、そいつは流石に見過ごせねぇぞ?」
そうして二人、三人と続けて無力化してゆくキリジだったが、視界の端に捉えた兵士の行動に思わず舌打ちする。現状の人員では手が足りぬと判断した者たちが、応援を呼びに行くべくその場を離れようとしていたのだ。
自発的に来る分は大歓迎だが、出て行ってこの不自然過ぎる状況を伝えられるのは好ましくない。故に姿を見られる事も承知の上で、キリジはナイフ片手に躍りかかってゆく。
「何者だ、貴様!? もしやこの一連の異常事態は人為的な……!」
「おっと、それ以上は無しだ。今のところはまだ、な。甘い事やって逆に事を大きくしない為にも、少しばかり手荒くいくぜ」
咄嗟に放たれた弾丸を紙一重で回避しつつ、キリジは鋭刃を一閃して武器を弾き飛ばすと、機械由来の膂力を以て相手の喉を潰す。これで下手な事は喋れまい。
「そっちは、大丈夫そうー……?」
「ああ、問題ねぇ。いま片付いたところだ」
様子を見に来たグウェンドリンに対し、片手を上げて応ずるキリジ。そんな最中、いよいよ以て追い詰められた兵士たちの悲鳴が二人の耳に飛び込んで来る。
「クソっ、応援は! こんだけ騒ぎになっているんだぞ、誰か来るはずだろ!?」
「通信が……通信が繋がらないんだ! 人を走らせるにも、こんな状況じゃあ……!」
無線機を握りしめて右往左往する相手の姿に、彼らは残る一人の行動が成果を上げつつある事を知るのであった。
斯くして時は少しばかり巻き戻り、陽動組が行動を開始したのとほぼ同じ頃。仲間たちから少し離れた位置で単独行動していた源次は、大公国側から押収した情報端末を前に己もまた役目を果たさんとしていた。
「混乱を伝播させたいが、情報は共有させたくはない。注目を惹き付けるのが目的の一方、真意を悟られるのは厳禁……容易い事ではないがやり様は幾らでもある」
炎による陽動、釣られて集まって来た兵士の鎮圧。その二つと並行して敵のネットワークへとハッキングを仕掛け、連携や情報共有を断つこと。それが源次の担う役割である。彼は端末に腕時計型の戦闘補助デバイスを接続すると、それをマスターキーとして情報網へと侵入してゆく。
(インターセプター、起動……目標は索敵・警護・保守の各システム。監視網に対しては欺瞞情報を流し、機能効率を低下。サーチライトやレーダー装置については電力供給を断ち、強制的にダウン。まずは各々が十全に動ける状況を作り上げるのが先決だ)
猟兵の戦闘力は確かに強力だが、戦争の要は一にも二にも数である。こちらが目的を達する前に見つかってしまえば事態が泥沼化するのは勿論、作戦そのものが破綻しかねない。それを理解しているからこそ、源次はまず相手の眼と耳を潰してゆく。
(取り急ぎ、付近一帯の通信能力は掌握できた。後は早々に小火を消し止められぬよう、消火システムの無力化しておくべきか……)
無線を妨害して消防局との繋がりを断ちつつ、念には念を入れて見当違いの区画へと出動要請を掛けてしまえば、ほぼ九割方は作業完了と言って良かった。
ふと焦げ臭い匂いを感じてモニターより顔を上げてみれば、建物越しの空がオレンジ色に染め上げられている様子が見えた。その中に舞う無数の鴉を視認するに至り、源次は仲間たちもまた順調に作戦を進めている事を把握する。となれば、彼もまた次の行動に移らねばなるまい。
「あとは迅速かつ確実に、集まって来た兵の制圧にかかるのみ……各員、抜かるなよ?」
そうして自身も放火現場に踏み込んでみれば、丁度桃髪の青年がその場を離れようとする敵を打ち倒しているところであった。更には駄目押しとばかりに、一旦離脱していたサギリと鳳花も鎮圧戦へ参戦している。ここまで事態が極まれば、そう手荒な手段も必要ないだろう。
「いまは飽くまでも前哨戦。本番を前に、あたら無駄に血を流すこともあるまい」
そうして源次もまた手近に居た兵士の懐へと踏み込むや、当て身によって一瞬にして意識を刈り取ってゆき、そして――。
すっかり炎が燃え尽きる頃には、五人の手によって捕縛された兵士たちの山が築かれるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
ルイン・トゥーガン
おや、中佐はまだ生きてたんだねぇ。どこかでくたばってるもんだと思ってたよ!
しかも、また負け戦とは嫌になるね、まったく!
アタシのマリーネの搬送を頼むよ、後で必要になるから無事届けて欲しいねぇ
なに、その分は働くさね
こういう隠密作戦より強襲作戦のが慣れちゃいるが出来なくはないさ
戦場じゃ変に目立つこの容姿も使いどころはあるさね
難民装って検問所にでも近づくよ
どうせこの状況じゃ難民も兵士相手に花売って食いつないでる女も珍しくないだろうさ
そういうよくいる女を装う任務も慣れたもんさね
侵入さえできれば後はどうとでもなるもんさ。実際に花売る必要があるかどうかも怪しいね
こういうとこは内の警戒は外に比べりゃ緩いもんさ
●平時の美徳、戦時の甘さ
作戦から既に短くない時間が経過し、局面は中盤から後半へ差し掛かりつつある。ペース自体は順調だがそれと比例して大公国側の混乱も激しくなっており、そろそろ不自然さに気付き始めてもおかしくない頃合いだ。余り悠長に構えても居られないと言うのが指揮官たちの本音だろう。
「おや、中佐はまだ生きてたんだねぇ。どこかでくたばってるもんだと思ってたよ! よくもまぁ、大人しく書類仕事なんてしてたもんさ!」
そんな陣頭に立って直接作戦の推移を見守るハイネマンに対し、威勢の良い声を掛けたのはルイン・トゥーガン(B級戦犯指定逃亡者・f29918)だった。物言いは皮肉気だが、軍隊においては親しみを込めた挨拶の様なものだ。ニヤリと笑みを浮かべながら、男もまた鷹揚に応じる。
「ほう、貴君も駆けつけてくれたか。なに、紙切れ一つないと弾丸の一発すら動かせないのが組織と言うものなのでね。上に立つと否が応でもそれを思い知らされる。やれやれ、下に居た頃の方が気楽に戦えたものだ」
「そんでまた始めた戦争が負け戦とは嫌になるね、まったく! しかも『負かされる』んじゃなくて『負けさせる』とは何の皮肉だい!」
以前の防衛戦は飽くまでも勝つ為の戦いだったが、此度は敗北する事が最終的な目標となっている。ある意味で汚れ仕事とも言える作戦内容に、過去の記憶を刺激されたのかルインの表情は憤懣やるかたないと言った様子だ。
「まぁ良いさ。アタシのマリーネの搬送を頼むよ、後で必要になるからくれぐれも無事届けて欲しいねぇ……なに、その分はきっちり働くさね」
「ああ、任せ給え。貴君の働きにも期待しているとも」
そうして狂人に見送られながら、猟兵は単身夜の街へと繰り出してゆく。敢えて身を隠す様な動きはしない。彼女の目的としては、寧ろ敵に見つけられてからが本番なのだ。
(こういう隠密作戦より強襲作戦のが慣れちゃいるが、裏方仕事も出来なくはないさ。戦場じゃ変に目立つこの容姿も、時と場合によっちゃ使いどころはあるさね)
下手に小綺麗なままでは怪しまれると、ルインは打ち捨てられていた襤褸を拾い上げて全身を隠すように巻き付ける。すっぽりと頭まで被ってしまえば、見た目は難民か夜鷹にしか見えなかった。
隠密と一口に言っても姿を隠すだけが能ではない。見つかっても怪しまれぬ者に成り切るのも一つの手だ。故に彼女は自らの容姿を活かして無力な存在を装うと、まずは相手の懐へと潜り込むべく手近な検問所へと近づいてゆく。
「うん……? おい貴様、止まれッ! そこから動くんじゃない!」
果たして、ルインの姿に気付いた歩哨が銃を構えつつ怒声を飛ばしてくる。声音からは虚勢が透けて見えたが、敢えて怯えた様にビクリと肩を竦ませて見せた。
「す、すみません
……!?」
「その声は女、しかも子供か……? どうしたんだ、こんな時間に。此処は危険だぞ」
歩哨も予想外の相手に訝しみながらも、ほんの僅かに警戒を緩めたらしい。しめたものだと思わず浮かびかけた笑みを手で隠しつつ、傍目からはさも憔悴しきった手弱女に見えるよう意識して振舞ってゆく。
「普段寝起きしていた場所が炎で焼かれてしまい、行くところが無くて……兵隊さんには、その、良くして頂いていましたから」
「成る程な、事情は分かった。まぁ、問題は無いだろう。こっちへ来い、まずは珈琲の一杯でも飲んでいけ……しかし、モラルの崩壊も甚だしいとは泣けてくる」
兵士とは言え人の子だ。同情心を抱いた歩哨はそれ以上の追及をせずにルインを招き入れた。軍人としては甘いと言わざるを得ないが、一概に責めるのも酷と言うものかもしれない。猟兵は機を見て案内の兵士からそっと離れると、襤褸を脱ぎ去り身を隠す。
(こりゃ、実際に花売る必要もなさそうだ……こういうとこは外に比べりゃ内の警戒が緩い。侵入さえできれば後はどうとでもなるもんさ)
そうしてルインはまんまと相手の内部へと入り込むや、更なる情報を求めて息を潜めてゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
吉備・狐珀
虎視眈々と抜け駆けを狙う彼等に比べればハイネマン殿は信頼できる方ですけれど…。
相変わらずのご様子ですね…。
UC【百鬼夜行】使用
呼び出すのは天邪鬼。
天邪鬼は声真似が得意なのですよ。
天邪鬼に彼らの仲間の声で誘導したり、救援を呼ぶふりをさせる。時にはこちらの声も交えて、あたかも交戦している素振りを演出。
けれど、そこにあるのは猟兵達が用意した罠や私たちの進行する道から遠く離れた場所。
天邪鬼が彼らをおびき寄せている隙に私たちは迅速に移動するとしましょうか。
移動中に居合わせないとも限りませんから、その時は月代、みけさん衝撃波や砲撃で迎撃をお願いしますね。
リーオ・ヘクスマキナ
国家規模にまで事態を大きくするって意味では、通常のオブリビオンより傍迷惑だなぁ……
それに良い勝ち方は難しいけど、良い負け方はもっと難しい。大変だねぇ、今回の件は
というか、あのハイネマンってヒト
以前交戦したクロムキャバリア出身らしき猟書家を思い出すウォーモンガーっぷりなんだけど……ホントに信じちゃって良いのかなぁ
電撃魔術を付与した亜音速ゴム弾とサプレッサを銃器に装着して出撃
赤頭巾さんの得物の大鉈の刃は顕現の際に潰しておいてもらう
暗視しつつ、キャバリア搬送に使えそうなルート付近の歩哨や軍用犬を無力化しながら進行
ゴム弾や赤頭巾さんの鉈殴打等で弱らせ、「微睡みの茨」で眠るまで一時拘束、が基本スタンス
●声を偽り、獣を騙し
「国家規模にまで事態を大きくするって意味では、通常のオブリビオンより傍迷惑だなぁ……おかしいのは乗っている人じゃなくて機体だから、傍目から見れば性格が変わったようにしか思えないしね」
あちこちで頻発する爆発に、訳も分からぬままそこらじゅうを駆け回る兵士たち。この場所だけでなく首都を大きく超えた戦場も含めて、原因はたった一機のオブリビオンマシンなのだ。その影響力の高さを改めて目の当たりにしたリーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)は、しみじみとそう呟きを零す。
「それに良い勝ち方は難しいけど、良い負け方はもっと難しい。わざわざ負ける方法を考えている人なんてそう居ないだろうし……大変だねぇ、今回の件は」
「その上、失敗して喪うのは己の命だけは在りません。この国に住まう多くの人々、その命運さえも双肩に圧し掛かっているのです。指揮官殿が感じているプレッシャーは推し量るに余りありますね……」
傍らの仲間が漏らした言葉に、相槌を打つのは吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)だった。影響が大きいのは敵だけでなく味方も然り。此度の作戦が失敗すれば、そのままこの国は戦火に消える。然りとて、成功したとしても停戦交渉が上手くいくかもまだ分らぬのだ。徒に国内を混乱させ、破滅の引き金を自ら引いてしまう……という可能性も決して在り得ない訳ではない。
「んー、そういう意味ならあのハイネマンってヒト……以前交戦したクロムキャバリア出身らしき猟書家を思い出すウォーモンガーっぷりなんだけど、ホントに信じちゃって良いのかなぁ。より混乱を望みそうな性格だけど」
「虎視眈々と抜け駆けを狙う侵攻国に比べれば、ただただ純粋に闘争を望むハイネマン殿はまだ信頼できる方ですけれど……それ以外の部分はなんというか、相変わらずのご様子ですね」
リーオの懸念は至極全うなものだが、以前あの中佐と戦場を共にしていた狐珀は疑念を否定する。あの男は戦争狂であるが、一方で己なりの美学を持っている。それに背く様な真似は恐らくしないはずだ。尤も、油断ならざる友軍である点は否定しようがないのだが。
「まぁ、今は危ない味方よりも目の前の敵をどうにかするのが先決かな。頼りにしてるよ、赤頭巾さん?」
ともあれ、あれこれ悩んでいても仕方がない。思考を切り替えた少年が呼びかけると、虚空から滲み出るように赤い影が姿を現す。すっぽりと被った赤い布から覗き見えるは、獣の耳と爛々と輝く金の瞳。刃の潰された大鉈を携えた異形こそ、彼の身に宿る神威であった。
「ふむ、となればそうですね。ここは一つ、私も趣向を揃えてみると致しましょうか……生と死の狭間に彷徨うものよ 我に呼応し集結せよ」
仲間の異能を目の当たりにした狐珀は暫し考え込んだのち、ポンと小さく手を打つ。そうして言の葉に霊力を乗せて紡ぎ出せば、足元へ小さな影が幾つも飛び出して来た。小さな角を生やした妖怪たちは、キィキィと甲高い声を上げながら術者の足元を走り回っている。
「随分と数が多いね。彼らはいったい何者かな?」
「これらは天邪鬼、逆しまな言葉を操る鬼の一種です。そう言えば、御存じですか?」
――天邪鬼は声真似が得意なのですよ。
興味深そうに視線を向けて来る仲間に対し、狐珀はそう悪戯っぽく微笑を返すのであった。
「全く今日はなんて日だ。車両の暴走に通信障害、おまけに小火騒ぎ! 何処ぞが攻めて来たかと思いきや、監視所の連中は何も見ちゃいないとさ。おかしいだろ!?」
「確かにおかしいが、証拠がなきゃ偶然以上の事は誰も言えねぇよ。俺も変だとは思うが、下手な事を報告して見ろ。首が飛ぶぜ」
深夜で人気のない通りを、二人組の兵士が愚痴を零し合いながら歩いている。末端の者ですら只ならぬ空気を感じ取っているらしいが、猟兵側の隠蔽が功を奏し決定的な事態はまだ訪れていない様だ。彼らが周囲に銃口を巡らせながら歩いていると、ふと微かな声が耳朶を打つ。
『おーい、誰か来てくれ。こっちに怪しい奴が逃げて行ったんだ。手を貸してほしい』
狭い路地の奥から聞こえる声は大公国訛りの強い言葉だった。それを聞いた兵士たちは顔を見合わせると、ひそひそと囁き合う。
「あん? 怪しい奴だと……もしかして!」
「ああ、その可能性は高いな。証拠を見つければ大手柄だ。待ってろ、今行くぞ戦友!」
噂をすれば何とやら。美味しい場面に出くわしたと気色ばんだ兵士たちは、遠ざかる声を追うように路地裏へと飛び込んでゆく。その後ろ姿を見送りながら、物陰に隠れていた狐珀は満足気に頷いた。
「良し、上手くいきましたね!」
お察しの通り、兵士たちを誘った声は本物ではない。天邪鬼による声真似である。小鬼たちに訛りまで瓜二つの言葉を覚え込ませる事で、姿を見せることなく相手の動きを誘導したのだ。無論、おびき寄せられた先にあるのは手柄ではなく捕縛用の罠である。
「どうして中々、案外簡単にヒトってのは騙されてしまうものなんだね。まぁ、無駄に戦わなくて済むならそれに越したことは無いかな」
仲間の手並みに感心しつつ、リーオは赤頭巾と共にがら空きになった道を進んでゆく。幸い、大抵の相手は天邪鬼の声で遠ざける事が出来た。しかし、それが有効なのは言葉が通じる相手のみ。となると問題になるのは当然……。
「あれは……軍用犬、ですね」
「犬相手だと流石に言葉は通じないよねぇ。指示を出す合言葉とか知っていれば話は別だろうけど……いや、待てよ?」
軍用犬を傍らに控えさせた歩哨が数組、大通り中央に佇んでいた。兵士ならば兎も角、動物が相手では文字通り聞く耳を持たないだろう。どうしたものかと思案するリーオだったが、何かを思いつくと仲間へそっと耳打ちをする。それを受けて狐珀が天邪鬼に命じたのは、援護を求める兵士の声だった。
『た、助けてくれ!? やっぱり敵が侵入してたんだ! 誰か応援を、頼む!』
「っ、やはり居たか……待ちの時間は終わりだ。さぁ行け、行けっ!」
それを聞いた瞬間、歩哨たちは手綱を手放すや猟犬たちを解き放つ。獣の群れは牙を剥き出しながら猛然と殺到してくるが、ここまで全て猟兵側の狙い通りだった。
「うーん、まぁ動物に罪は無いからね。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してくれると嬉しいかな、って」
音もなく一頭、また一頭と。軍用犬が弾かれたように体を痙攣させると、ばったりと地面へ倒れ込む。セミオート式ライフルの銃口に消音機を装着したリーオが、電流を纏わせたゴム弾を当てる事で気絶させたのだ。犬に言葉が通じぬのならば、代わりに指示を出すよう仕向ければよい。そう考えた少年の策が見事に嵌った形となる。
「何だ、音もなく犬たちが……ごぉっ!?」
流石に相手も異変に気付いたようだが、時すでに遅し。大きく迂回する様に背後を取っていた赤頭巾が、大鉈を鈍器代わりとして相手を吹き飛ばす。痛みに顔を顰めつつも咄嗟に反撃を試みる歩哨だったが、勝負はその時点で既に決していた。
「あなたを呪いから解き放つ王子は居ない。そのまま眠りの中に堕ちて逝け……起きた頃には、良きにしろ悪きにしろ全部終わってるだろうからね」
アスファルトを突き破り、彼らの全身を拘束する刺々しい茨。それらは苦痛の代わりに睡魔を与えると、瞬く間に兵士たちを夢の世界へと沈めてゆく。斯くしてほんの数瞬の間に、歩哨と軍用犬は纏めて無力化されるのであった。
「これで一先ずは完了かな?」
「ええ、ここが通れるようになれば搬入ペースも一気に上がるはずです!」
この下準備を終わらせなければ、クーデターのスタートラインにすら立てない。リーオと狐珀は後続への道を確保しながら、更に先へと踏み込んでゆくのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
勘解由小路・津雲
国の事情がどうであれ、オブリビオンを倒すのみ。それにしても、前は上層部の様子までは分らなかったと思うが、結局真っ黒だったか。
当時からそうだったのか、あるいは? まあ今は作戦に集中しよう。
後鬼は目立つゆえ、後続のキャバリア部隊に任せるとしよう。それで警戒網をどう潰すかだが、おれは軍用犬に対処するとしよう。
まずは鳥型にした道具【式神】をあちこちに飛ばし、配置についたら今度は紙に戻し、道端の紙屑に擬態しよう。式神には少し【御神水】を浸しておく。
【御神水】とはいうものの、実際は呪術による毒。警戒中の犬が嗅げば、五感に【マヒ攻撃】を。
犬の鼻と耳がきかなければ、他のものが工作していても見つかるまい。
●気付かぬままに溺れゆく
「国の事情がどうであれ、猟兵としてはオブリビオンを倒すのみ。とは言え、だ。前は上層部の様子までは分らなかったが、結局のところすべて真っ黒だったか。当時からそうだったのか、あるいはキャバリアの影響か……?」
深夜の首都に降り立った勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)の脳裏に過るのは、以前参戦したラインラント自治領防衛戦について。大まかな事情こそ鎮圧部隊の指揮官から聞き取っていたが、その真偽を確かめるまでは至らなかった。だが今回、こうして直接大公国の中枢へ乗り込むに至り、相手の語っていた内容が真実であったことを彼は朧げながらに確信していた。
「戦争に合わせて街を変えたせいか、風の流れが澱み、水の巡りも芳しくなさそうだ。これでは国を正そうという気概も生まれまい。クーデター部隊が外に助力を求めたのも頷けるな。まあ、今は目の前の作戦に集中しよう」
風水的な観点から街の様子を評しつつ、陰陽師は己に求められる役割を果たさんと思考を切り替える。ちなみに現在、彼は仲間たちと離れ単独行動を取っていた。キャバリアに匹敵する戦力を誇る二脚戦車も、現在は目立つからと言う理由で別途運搬中。つまり、いまは真実独りきりである。
「それで警戒網をどう潰すかだが……生憎と機械は得手とは言い切れんし、手荒な真似もまだ控えた方が良さそうだ。となれば、俺は軍用犬に狙いを絞って対処するとしよう」
そう言って彼が袂から取り出したのは重ねられた紙の束。その一枚一枚が、鳥の姿をした式神である。津雲はそれらを選り分けると、瓢箪の栓を抜いて中の御神水を振りかけてゆく。当然湿り気を帯びて重みを増すが、行動に支障はないはずだ。
「見聞きした限り、どうやら陽動に火を扱った者が多い様だ。気温の低い季節でもないが、温まっているのであればそれを利用しない手もないだろう」
陰陽師は十分に水気を含ませると、式神の束を宙へと放る。ばらりと解けたそれらは普段よりも若干動きを鈍らせながらも、落下する事無くふわりと浮かび上がって方々へと散っていった。狙いは上ではなく下、地面そのものだ。
「濡れた紙は地面やゴミ箱などに良く張り付く。仮に視界へ入ったとしても、知識のない者が見れば単なる紙折り遊びにしか見えないはずだ。故にこそ、誰にも怪しまれることは無い」
それら一つ一つの所在をリアルタイムで把握しつつ、津雲は近くに軍用犬が通り掛かる瞬間をじっと待ち続ける。果たして、人とは異なる気配を感じ取った瞬間、彼は式神にしみこませた水分を揮発させ始めた。ただ水であれば蒸発したところで湿度が多少上がるだけだが、生憎とこれは普通の水ではない。
「名前こそ御神水とは言うものの、実際は呪術による毒だ。命を奪うような凶悪さこそ無いが、吸い込んだモノの五感を鈍らせる。人間相手では誤差の範疇な一方、犬の鋭敏な感覚ならばさてどうだろうな?」
果たして、式神の近くを通り過ぎた軍用犬は不快そうに鼻や顔を掻き始めた。とは言え、それも僅かばかりの事。違和感すら覚えなくなると、また兵士と一緒に見回りへと戻ってゆく。一見すれば何の変化も見られない。だが今暫くの間は、不審な臭いや音に気付く事は出来ないだろう。
「犬の鼻と耳がきかなければ、他のものが工作していても見つかるまい。全ての準備が整うまではもう暫くの時間が必要だ……何としてでも稼がせて貰うぞ」
物事と言うのは詰めの段階にこそ、最も注意を払わねば足元を掬われる。それに今こうしている間も、首都のどこかで仲間たちが行動しているはずだ。ならばせめてその一助にならんと、陰陽師は更に式神の散布範囲を広げてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
ティー・アラベリア
ごきげんよう、中佐殿。随分と、愉快な状況に愛されておいでですね♪
皆様ならば、ルート上にある対装甲班や前進観測班が陣取っていそうなポイント、もちろん目星をつけてますよね?
では、ちょっとお散歩がてら悪戯をして参ります
遮蔽魔術発生機構と反重力機構を起動
歩哨を順当に隠れたりビルの壁を歩いて躱したりしながらやり過ごしつつ、目星がつけられたポイントに接近致します
背後なり真上なり好位置につきましたら、対人同化妖精と鋭剣型短魔杖を使用して一気に無力化
そのまま浸食同化妖精で傀儡化し、こちらの駒にしてしまいしまょう
ああ、他は構いませんが、声帯を食べてはいけませんよ
ちゃんと定時報告は上げていただく必要がありますから
ペイン・フィン
久しいね、ハイネマンは
そちらの自治領は、どんな感じなのかな?
まあ、答えがどうであろうと、やることは一つ
自分は、怨念に寄って現われるモノ
だからこそ、今ここに居る
……次会うとき、それが、自治領で無いことを、祈ろうか
さて
今回やることは、シンプル
潜み、探り、影へ溶け込む
情報収集、索敵、聞き耳、第六感、偵察、暗視、視力と言った、感覚強化で周囲を探る
忍び足、闇に紛れる、迷彩、目立たないで溶け込み、行動
電気的な障害はハッキング、メカニック、ジャミングで
物理的な物は鍵開けで突破しようか
……此処も、負の感情が濃いね
だからこそ、自分は、影に隠れやすいけども
……願わくば、此処にいつか、晴れ間がさせば良いのだけど、ね
●戦火を憂い、戦場に遊べ
「……既に全部隊の出立は完了し、後は所定の位置へ着くのを待つのみか。やれやれ、これでようやく暴れられると言うものだ」
「ですが、まだ完全に終わってはいません。此度の作戦は初動が全てを左右します。此処で詰めを誤り、機先を制される事だけは避けねば」
「なに、その時はその時だろう。高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変に、だ」
既に当初の合流地点である廃墟からは粗方の物資と兵員が消え、首都へ向けて出立している。もはや此処に留まる理由もない。自分たちも移動すべく残った機材を撤収しながら、ハイネマンは待ち草臥れたと首を振り、それに対しサフォーノフが釘を刺す。そんな呉越同舟と言った様子の指揮官へと声を掛ける者たちが居た。
「ごきげんよう、中佐殿。随分と、愉快な状況に愛されておいでですね♪ まさかまた負け戦に身を投じるとは、戦争狂の面目躍如といった所ですか」
「本当に久しいね、ハイネマンは。トップ自ら、領地を開けているけれど……そちらの自治領は、あれから、どんな感じなのかな?」
その主はティー・アラベリア(ご家庭用奉仕人形・f30348)とペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)。両者ともに以前の自治領防衛戦に参加した者たちだが、その反応は正反対と言える。メイド服姿の奉仕人形はころころと愉快気に、仮面で素顔を覆った青年は若干の警戒を滲ませて。彼らの声音には眼前の人物に対する好悪がありありと透けていた。
「やぁ、諸君らも壮健そうで何より。素敵なお誘いを断るのは紳士的ではないのでねぇ、ついつい足を運んでしまった。留守についても大公国から鞍替えした者らが良くやってくれている。平和そのもので退屈過ぎる程だ」
先の戦闘時に投降した兵士たちはどうやら上手く自治領に馴染んでいるらしい。ハイネマンがこうして前線に居られるのも、人手不足が解消したと言うのも大きかったのだろう。その返答に一先ず納得しながら、ペインは念を押すように言葉を続ける。
「……それなら、良いのだけれど。どうであろうと、やることは一つ。自分は、怨念に寄って現われるモノ。だからこそ、今ここに居る……次会うとき、それが、自治領で無いことを、祈ろうか」
鋭い視線に対し、返答は無言の笑み。油断ならぬ相手だと青年が更に警戒を強める一方、どちらかと言えば波長の合うティーは親し気に話を引き継ぐ。
「ところ、で。皆様ならば、ルート上にある対装甲班や前進観測班が陣取っていそうなポイント、もちろん目星をつけてますよね? 下手に手を出せば厄介な事になりそうな手合い……そろそろ潰してしまいませんか」
それを聞いた瞬間、戦争狂の笑みがますます深まりを見せる。男がパチリと指を鳴らすや、すかさず部下が地図を広げて情報を共有してゆく。そのやり取りを見て、サフォーノフは思わず顔を覆って天を仰ぐのであった。
指揮官と別れてから、暫しの後。情報を得た猟兵の姿は首都奥深くに存在していた。彼らの目標は対機甲兵器打撃力を備えた警備部隊。下手に手を出してもリスクしかないとこれまでスルーしていたのだが、もうすぐキャバリア戦が始まる事を考えると事前に排除しておきたい相手である。
そうして夜の街を突き進む二人であったが、ハイネマンに対する印象と同じようにそのスタンスは好対照であった。
「いやぁ、何だかこういうきな臭い雰囲気も良いですねぇ。表面上はとっても静かなのに、硝煙や焦燥感が満ち満ちている。ふふっ、絶好のお散歩日和ですね♪」
「散歩日和かは、ちょっと、共感しにくいけど……確かに此処は、負の感情が濃い、ね。だからこそ、自分は、影に隠れやすいけども」
ティーは自前の熱光学迷彩と重力制御装置を組み合わせる事により、ビルの壁面へ垂直に張り付きながら鼻歌交じりに歩いている。熱による大気偏差で姿は隠しているものの、真下を行きかう歩哨のすぐ上を通るのはいっそ堂々としているとすら言えよう。
一方のペインは持ち前の鋭敏さと身体能力を活かし、出来るだけ気配を殺して闇から闇を伝ってゆく。相手の視線、注意、次の行動をつぶさに見切って死角へ入り込む技術は流石であった。仮にすぐ横を通り過ぎても、相手は風の揺らぎすらも感じ取れまい。
(この戦いの行く末が、どうなるのかは、まだ分からない……でも願わくば、此処にいつか、晴れ間がさせば良いのだけど、ね)
その為にも、この国はまず一歩を踏み出す必要がある。それが例え痛みを伴うとしても、行きつく先に幸福があって欲しいとペインは願う。そうして道中、迂回できないカメラなどを危なげなく処理しながら、二人は大きな足止めを食う事もなく目的の地点へ辿り着く事に成功した。
「固定式の大口径機銃に対装甲用誘導弾、隅に積まれているのは戦車用の地雷……なるほど、随分と物々しい装備ですね。あれならばキャバリアの一機や二機は破壊出来ましょう」
そっと奉仕人形が敵陣の様子を窺えば、警備用とは段違いの火力を誇る兵器群が所狭しと並べられている。戦力の輸送中にこれらとぶつかれば大損害は免れなかっただろう。そして、その危険はこうして今なお健在なのだ。
「警報なり、増援なりを呼ばれるのは、避けたいね……とりあえず自分は、あの兵器群も含めて、装備の無力化を、試してみようか」
「であれば、兵士の皆様はボクにお任せを。『おもてなし』は奉仕人形の嗜みですので☆」
猟兵たちは手早く互いの役割を分担しあうと、それぞれ行動を開始した。まずはペインが遮蔽物や物陰に姿を紛れ込ませながら、敵中へと忍び寄る。そうして十分に距離を詰めると、彼は懐からスマーフォンを取り出す。燕へと変形したそれをそっと放つと、そうとは分からぬうちに電子機器や無線能力を無力化してゆく。
(もしバベルを見つけても、ただの鳥だと思うはず……これなら、兵器に留まっていても、不自然じゃないし、ね?)
そうして気付かれる事無く陣地を一周すれば、下準備は完了だ。赤髪の青年がハンドサインで合図を出すと、それを受けて奉仕人形がふわりと浮かび上がる。彼は短剣型の短杖を取り出すと共に、躯体下腹部に存在する機構へと魔力を流し込み始めた。
「さてさて、それではボクも始めると致しましょう……これより御覧に入れますは、無情悲惨の傀儡劇。騎士たちの活躍にどうか祝福あれ☆」
そうして相手の頭上を取った瞬間、一気に急降下して奇襲を仕掛ける。まずは直下に居た兵士を切り伏せると、すかさず半透明状の何かが相手のうなじへと張り付いてゆく。これこそ彼が己の体内で生成した、対人用の人工妖精だ。
「っ!? なんだ、メイドだと? ええい、敵であることに変わらん。躊躇わずに殲滅を……」
「させ、無いよ……!」
突然の闖入者に兵士たちも咄嗟に応戦しようとするが、注意が一か所へ集中した隙を突き、息を潜めていたペインも襲い掛かってゆく。数の上では猟兵側の圧倒的劣勢だが、頼みの兵器群が使えぬのならば話は別だ。加えてティーの人工妖精もまた、徐々にだが猛威を振るい始めていた。
「気絶した方は傀儡化し、そのままこちらの駒にしてしまいしまょう。ああ、他は構いませんが、声帯を食べてはいけませんよ。ちゃんと定時報告は上げていただく必要がありますからね?」
彼らは単なる賑やかしでも数合わせでもない。同化した生体の神経を操り、意のままに操る侵食兵器なのだ。そうしてまるでゾンビ映画の如く、敵と味方の比率が入れ替わってゆき……程なくして、その場に居た兵士たち全てが妖精の支配下に置かれるのであった。
「さて、と。これで一通り片付きましたか。同化が切れる頃には全て終わっているでしょうし、一先ず此処はこれで問題ないでしょう」
「そう、だね……他の皆も、もうすぐ準備が、出来るみたい。自分たちも、そろそろ、合流しておこうか」
二人の活躍によって最後の難関も無事鎮圧され、それを待っていた戦力が次々と所定の位置へと移動してゆく。後は細々とした準備さえ完了すれば、いよいよクーデターの本格始動となる。青年と奉仕人形もまた次なる戦いの準備を済ませるべく、友軍の元へと急行するのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ファン・ティンタン
【POW】後先考えて
アドリブ可
御大とはあまり反りが合わないから会いたくはなかったのだけれど……ま、仕事だからね
精々、物語が私好みに転がるようにやらせてもらうよ
【混成合掌】
さて、【求煉】、【天華】は預けるから好きに目立っておいで
ただし、致命的な損害は避けること、OK?
求煉をキャバリアサイズで警戒線外周に解放
周囲の施設の一部(戦後を見据えて重要箇所は避ける)を破砕・捕食させて巨体を目立たせる
自らも混乱に乗じて別働し、電気系統の切断で敵勢力の継戦能力を削ぎにいく
頃合いを見計らい、求煉のキャバリア状態を解除
食べた瓦礫で嫌がらせしつつ撤退させる
食べた物もちゃんと返しておいで
元の形で、とはいかないけれどね
●偽りの巨影に城は空く
「個人的に御大とはあまり反りが合わないから、出来れば会いたくはなかったのだけれど……ま、これも仕事だからね。どんな形であれ、戦争が終わるのであれば手を貸そう」
遠くから響いてくる喧騒に耳を傾けながら、ファン・ティンタン(天津華・f07547)はそうため息交じりに呟きを零す。彼女がいま居る場所は首都内部でも無ければ廃墟区画でもない。大公国側が敷いている警戒線、その外周部ギリギリに白き刀の姿はあった。
「後は最後の調整を待つだけだろうし、少しばかり派手に暴れてもお目こぼしして貰えるだろうさ。精々、物語が私好みに転がるようにやらせてもらうよ?」
そう言ってファンが取り出したのは己の本体たる白刀と意思を持つ液体金属。刃を呑んだ黒緋色の鋼は鉄騎の姿を形成すると、ゆっくりと大通り上に立ちあがる。この状態であれば、操縦者が居なくとも自律的な行動が可能だ。
「さて、求煉。天華は預けるから好きに目立っておいで。ただし、致命的な損害は避けること。今回は一切合切を壊せば良いって訳じゃない……OK?」
友輩の問いかけに対し鉄騎はアイカメラを明滅させて了解の示すと、そのまま手近なビルへと手を掛ける。ボロリと崩れ落ちる外壁を絡め取り吸収するや、グンとそのシルエットが一回り程大きくなった。
そう、彼女の狙いは偶然を装った陽動ではない。明確な『脅威』の存在を以て、敵戦力を本来の目標である首都中枢から引き剥がさんと考えたのだ。
勿論、その間ファンも無為に時間を潰すつもりなどなかった。彼女は鉄騎が崩した建物から露出した電気系統のケーブルを切断し、着実に監視網の機能を削いでゆく。
大と小、柔と剛が齎す破壊。 流石にそこまで派手に暴れれば、警備の者たちも異変に気付き始める。
「おい、あれはキャバリアだよな。出撃連絡は来ているのか? 見た事も無い機種だぞ」
「いや待て、IFFに反応が無い……所属不明機、つまりは敵だッ!?」
訝しんだのも一瞬。それが友軍でないと分かった途端、大公国側は俄かに騒然となる。彼らは対装甲兵器用の装備を引っ掴むと、おっとり刀で出撃してゆく。だが、肝心要の戦力であるキャバリアの姿はどこにも見当たらなかった。
(ふむ……流石に怪しんで動かなかったか、はたまた首脳部の護りを固める事に専念しているのか。或いはみんな大分派手にやっているから、そもそも連絡がつかなかったと言う可能性も高そうだ)
ともあれ、ファンとしてはこの場で本格的な戦闘を開始するつもりなど毛頭なかった。幾ら派手にとは言え陽動は陽動。十分に注意を引き寄せられたのであれば、後は早々に切り上げるべきだろう。
「とは言え、大人しく引っ込むのもそれはそれで芸がない。少しばかり足止めをするとしようか。さぁ紅蓮、食べたものはちゃんと返しておいで。元の形で、とはいかないけれどね」
徒歩は当然ながら、バイクやジープなどに兵を満載して相手は此方へ急行しつつある。そのまま逃げる事も容易いが、一分一秒でも敵戦力を釘付けに出来るのであればそれに越したことはない。強烈な輝きを放つヘッドライトが視界に飛び込んできた瞬間、ファンは鉄騎に命じて取り込んだ瓦礫を吐き出させた。
「うわっ、なんだこりゃ!? 前が見えんぞ!」
鉄骨交じりのコンクリート、ガラス片、材木や雑多なガラクタ。そうした瓦礫を頭上より降り注がせることにより、車両群の勢いを減じさせてゆく。流石にタイヤがパンクした程度で行動不能になるほど軟ではなかろうが、それでも走行に支障が出るのは間違いない。
(この後も現場の調査に人手を取らせる事が出来れば最上だけど……きっと、それどころではなくなるだろうね)
開戦の刻までもう時間は無いはずだ。ファンは元の流体金属に戻った鉄騎より白刀を受け取ると、ノロノロと蠢く敵部隊を尻目に首脳部を目指してひた駆けるのであった。
成功
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第2章 集団戦
『MCK04SC-パラティヌス・スローター』
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POW : BSフレイムガン&RS-Sグレネードランチャー
【耐熱塗装を施した機体が装備する銃火器】から【対人用の広域火炎放射】か【対装甲榴弾】を放ち、【酸欠と火傷】もしくは【爆風】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : RBXSランスライフル&Sマイン&EPジャミング
【連射ビームと共に対人殺傷用鉄片と妨害電波】を降らせる事で、戦場全体が【情報封鎖されたキャバリアによる虐殺現場】と同じ環境に変化する。[情報封鎖されたキャバリアによる虐殺現場]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ : RSレッグガン&RS-Fポイズンソー
自身の【脚部対人機銃を掃射、精密狙撃の精度】を代償に、【複数の対人・対キャバリア用無人ユニット】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【対装甲機械刃と自爆、戦場に散布する毒ガス】で戦う。
👑11
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●何を失い、何を得るのか
「……猟兵諸君の活躍により、大公国側の監視能力はほぼ機能停止。そのお陰で無事に各部隊を所定の位置へ配備する事が出来た。とは言え、相手も木偶やカカシではない。時間を掛ければ掛ける程、露見の可能性は指数関数的に高まっているのだね?」
首都の一角、首脳中枢である公王邸を望む廃倉庫。ぱっと見、何の変哲もない其処の中には駐機されたキャバリアや兵士たちがすし詰め状態で蜂起の刻を待ち続けていた。内部に充満するのは焦燥感にも似た熱気。それをまざまざと肌で感じ取りながら、ハイネマンは愉快気に傍らのサフォーノフへと問い掛ける。
結論から言えば、猟兵たちは二人の指揮官が想定していた以上の活躍を見せていた。通信網や監視カメラの掌握から始まり、電力設備の破壊、火事や車両暴走によるマンパワーの漸減、果てに敵指揮官の懐柔まで。まさに八面六臂ともいえる活躍を、今この瞬間まで敵に確信させる事無くやってのけたのだ。
そうして得る事が出来た、絶好の好機。だが、それは時間と共に優位性が崩れて行ってしまう。ハイネマンであればいの一番に飛び出しそうなものだが、意外にも彼は大人しくしている。その態度は飽くまでも己は協力を求められた側、主体はクーデター部隊にあるのだと言外に示していた。
「……私は正直に言って、貴方を悪魔の様な男だと思っていました。無論、それは今も変わっていません。だが或る意味で、私はそれ以上の恩知らずなのではないかとも思ってしまうのです」
対して、主導権を渡されたサフォーノフは淡々としている。だがその所作の端々、言葉尻からは抑え込まれた複雑な感情が見え隠れしていた。クーデターという己の土台を全て投げ打つ行為に対して、或いはそれ以上の何かを恐れる気配が感じられるのは、果たして気のせいだろうか。
「では、此処で止めるかね? 私としては非常に残念だが、それも結構。猟兵諸君のお陰で表面上、我々は『まだ』何もしていないと言う事になっているのだから」
「いえ……それだけは、選べません。我々は停戦を為す為にこそ、こうして行動したのです。その代償としていったい何を支払う事になるのか、始めから覚悟していたのですから」
狂人の甘い誘いを断る言葉は、決して切れ味鮮やかとは言い難い。苦渋があり、苦悩があり、迷いがあった。しかしその上で、若き将校は自らが定めた答えを揺らがせることは無かった。それを聞き、ハイネマンは嘆かわしそうに首を振る。
「やれやれ……公私混同できぬ、否、公と私の境界線が無いと言うのも考え物か。まぁ、私としては暴れられればそれで良いのだがね」
それきり口を閉じると、自治領暫定統治者は後ろへと下がり口を閉じた。そうして全員の視線が集中する中、サフォーノフは兵士たちに向けて語り始めてゆく。
「我が戦友たちよ。まずは搬入作業を完遂してくれた事に、深い感謝を表します。本当にありがとう。ですが、これはまだスタートラインへ立ったに過ぎません。本番は此処から……我々はいまより公王邸へと侵攻し、これを可及的速やかに制圧。公王の確保を以て、この戦争を終わらせます」
先ほども時間との勝負だったが、次の戦いはそれ以上のスピード感が求められるだろう。時間が経てば経つほどに相手の援軍が殺到し、此方は敵中の真っただ中で包囲されてしまう。そうなればクーデターどころではない。反逆者として処刑台の露と消えるまでだ。
「敗北すれば死。座せば国家の消滅。そして本作戦が成功したとしても、待ち受けるは敗北の二文字。正しく八方塞がりでしょう。だがそれでもなお我々が立ったのは、最悪だけは回避せんと願ったため。故にそれ以外の結末を得られたならば……紛れもなく勝利です」
確信と共に力強く拳を握り締める指揮官に応じ、兵士たちも腕を振り上げて応ずる。彼らの気持ちもサフォーノフと同じだ。今さら怖気づくようであれば、始めからクーデターになど加担していない。
指揮官はその光景をゆっくりとも渡すと、静かに頷く。
「私が君たちに求める事は二つだけです。作戦の成功を、そして生存を。我々の求める未来は、この戦いの先にあるのですから。全部隊に通達。現刻を以て、攻撃目標『公王邸』に向け……」
――全軍、行動を開始せよッ!
その号令は、正しく開戦の狼煙となった。各潜伏場所から飛び出したキャバリアや兵士たちが、一斉に公王邸を目指して殺到し始める。砲撃や誘導弾、遠距離兵装による先制攻撃によって僅かばかりの警備部隊を蹴散らすや、広大な敷地内へと踏み込んでゆく。
公王邸は首都の中に在りながら、公園を思わせる青々とした芝生が広がっていた。一見すればのどかな光景だが、地面へ四角く切れ込みが入るに至ってその予想は裏切られる。
『緊急警報発令。大隊規模以上の未確認集団による攻撃が発生。防衛部隊は速やかに出撃せよ』
『使用兵装自由。捕虜の確保などは不要。速やかな脅威の排除を最優先とすべし』
地面に空いた穴から姿を見せたのは、漆黒の塗装が施された無数のキャバリアだ。恐らく、地下がそのまま護衛部隊の格納庫になっているのだろう。速やかに陣形を整えると、相手は躊躇なく銃口を向けて来る。その所作一つとっても、搭乗者の練度が窺い知れると言うもの。
『諸君、気を付けたまえよ。アレは対キャバリア戦は勿論、暴徒を始めとする対人鎮圧も視野に入れて設計されている機体だ。数々の流血を生み出した悪名高き虐殺者(スローター)、相手としては実に好ましいッ!』
待ってましたとばかりに先陣を切って突撃しながら、ハイネマンが嬉々として敵機体についての情報を共有してくれる。ある意味、様々な戦闘スタイルを持つ猟兵相手でも真価を発揮できるタイプと言えよう。
しかし……何ら問題は無い。
この場に立つは百戦錬磨の猟兵(イェーガー)。
ただの暴徒、ありふれた鉄騎、無謀な反乱者と見縊れば、痛い目を見るのは相手の方だ。
さぁ、猟兵たちよ。公王戦前のウォーミングアップといこう。
これまでひた隠しにしていた鋭き牙を、虐殺者へと見せつけるのだ。
※マスターより
プレイング受付は2日(金)朝8:30~開始いたします。ご参加人数が多い場合には、再送のお願いをさせて頂きます。
第二章は護衛部隊を相手取っての集団戦となります。戦場は所々に木々の生えた芝生地帯で、戦闘を行うには十分な広さがあります。キャバリアによるぶつかり合い、生身による戦闘も問題なく行えます。
またキャバリアを持っていなくても、クーデター部隊から機体を借り受ける事が可能です。加えて、クーデター部隊・自治領軍からも援護を受ける事も出来ます。
それでは引き続きどうぞよろしくお願い致します。
三辻・蒜
色々美味しいもの食べさせてもらったし、頑張って働かないと、だね
対人兵器も充実してるキャバリアが相手だし、味方と上手く連携しないと危ないかな
撃てる距離に近付き次第【羨望の光】で狙うけど、多分すぐに対人兵器を使ってくるよね
私はそれを迎撃しつつ一旦下がって、味方のキャバリアには攻撃に回ってもらえれば良いかな
敵機が対キャバリア戦に注意を引かれてきたら、私がまた前に出て撃ち始める、を繰り返す感じで
敵も素人じゃなさそうだけど、歩兵とキャバリアを常に同時に相手するのはキツイでしょ
毒ガスも使ってくるみたいだけど、私の身体なら大丈夫かな?
…成分分からないし、気持ち悪くなって吐くのは嫌だし、試すのは止めとこうか
ティオ・ブリューネ
敵機展開確認、さてと「殿下」ー、出番っすよ(異空間からフィラスティアを呼び出しつつ)
『ええい、黙れ小娘!貴様に呼ばれずとも余、自ら出向くつもりであったわ!』
うん、いつもの殿下っすね、それじゃ護衛部隊を何とかしつつ目標まで頑張ろうっ
かなりアタシの負担が増えるけど…戦術飛翔をS型O型をそれぞれ最大数展開、D型は遠距離戦処理が苦手な殿下のフォローとして2機程度展開かな…
殿下に敵機との戦闘処理を頼みつつS型で得た視覚情報を利用して敵機をマルチロックしてみよう
戦術飛晶からの間隔共有は電波同期じゃないから妨害は受けない…はず!
上手く行ったなら操作する全戦術飛晶からのフルバーストっ
奥までの道を開けてもらおう
●毒霧を破り、飛刃を墜とす
けたたましいサイレンが静寂を引き裂き、地面に走る亀裂からは物々しい武装を纏った虐殺者たちが姿を見せる。一瞬にして戦場へと変貌した公王邸を目の当たりにしながらも、蒜の表情には臆する様子など微塵もなかった。
「色々美味しいもの食べさせてもらったし、頑張って働かないと、だね。だけど、対人兵器も充実してるキャバリアが相手だし、味方と上手く連携しないと危ないかな……?」
腹ごなしは既に十二分。敵群と刃を交える準備は万全ではあるものの、かと言って真正面から挑むのは些か以上に無謀だろう。敵機は対キャバリアのみならず対人兵装も豊富な一方、こちらの武器は護身拳銃が一挺のみ。上手く立ち回らねば苦戦は免れぬ。
「味方のキャバリアと協力できれば良いんだけれど……」
「助力が必要ですか? ならばどうかお任せを……さぁて、それじゃあ『殿下』ー、出番っすよ!」
どうしたものかと思案する少女へすかさず助け舟を出したのは、同じく公王邸へと踏み込んで来たティオであった。流れる様な動作でパチリと指を一つ鳴らせば、周囲の空間が歪曲してゆく。その中心より現れしは、薄紫色の装甲を持つキャバリア。中近距離戦を得意とする彼女の愛機『フィラスティア』である。機体は起動を示すようにアイカメラを輝かせると、ぐるりと召喚者へ頭部を巡らせてゆき、そして。
『ええい、黙れ小娘! 貴様に呼ばれずとも余、自ら出向くつもりであったわ!』
「うんうん、いつもの殿下っすね。さっきまでは隠密優先だったけど、これからはその必要も無し。それじゃ、護衛部隊を何とかしつつ目標まで頑張ろうっ!」
女性らしさを思わせる合成音声が苛立ち交じりに響き渡った。その正体はキャバリアに搭載された戦闘補助AIである。この様なやり取りは日常茶飯事なのだろう。ティオはころころと笑いながらそれを受け流すと、コックピットへと身体を滑り込ませていった。
「これなら、問題はなさそうだね。それじゃあ、斥候役は任せて貰おうかな」
こうなれば後顧の憂いはない。蒜は愛銃を構えながら、芝生を蹴って手近な鉄騎へと近づいてゆく。サイズ差は実に三倍以上、それに比例した火力と装甲厚は正しく脅威である。だがそれ故に、関節部や弾薬スペースを始めとする脆弱箇所を狙う事は容易かった。
(片足だけでも使え無くなれば、損傷の大きさ以上に戦闘力が低下するはず。キャバリア同士なら小さな隙間でも、生身の人間にとっては十分すぎる的……!)
相手の側面へと回り込みつつ、瞬時に狙いを定めると蒜はトリガーを引く。刹那、先の妨害工作時とは比較にならぬ輝きが迸り、虐殺者の膝裏へと吸い込まれる。瞬間的に熱せられた命中箇所が内部より爆ぜると、ぐらりと巨躯が体勢を崩して膝を着いた。
『右脚部関節を損傷、歩行能力が四十二パーセント低下。成程、やはり敵戦力はキャバリアばかりではないらしい。だが、この機体相手に歩兵を出したのは迂闊だったな』
「っ!?」
しかし相手は両脚側面に増設された対人機銃を回頭させるや、追撃を防ぐ様に弾丸をばら撒き始めた。キャバリアに対しては異様に位置が低い兵装も、人間相手では丁度上半身を捉える高さ。蒜が咄嗟に身をかがめた瞬間、すぐ頭上を銃弾が通り過ぎてゆく。しかし、これは飽くまでも牽制に過ぎない。
『無人ユニットの展開と同時に毒ガスを散布。生憎、暴徒鎮圧用の催涙ガスなどではないぞ。微量でも吸い込めば呼吸器系を麻痺させる特別製だ。BC対策は十分か? 無ければ地上で溺れ死ぬが良い』
敵機の背部コンテナより射出され、高速回転しながら浮遊し始めたのは回転刃を備えた円盤状の自律戦闘ユニットだった。装甲兵器には機械鋸で、兵士には化学兵器を、そして必要であれば自爆により諸共を。それは効率よく敵を処分する為、極限まで機能を突き詰められた虐殺兵器である。
「私にとっては寧ろ汚染された空気の方が好ましいから、大丈夫かもしれないけど……成分分からないし、気持ち悪くなって折角食べた物を吐くのは嫌だな。うん、試すのは止めとこうか」
人工的に生み出された存在である蒜は相応の耐毒性を持つが、それも過信は禁物だ。踏み込み過ぎることなく瞬時に後退を選ぶ猟兵に対し、無人兵器たちは回転刃にて磨り潰すべく猛然と迫りくる。彼我の距離はみるみる迫り、あわや血霧と化すかと思われ……。
『……おっと、そうはいかないよ。この手の兵器の扱いなら、こっちだって自信があるからね?』
た、寸前。幾つもの煌めきが無人兵器へ襲い掛かったと思うや、自爆機能すら作動させる間もなく撃墜していった。見ればそれは正八面体や球状をした結晶体たち。ティオの操る戦術飛晶群である。
『かなりアタシの負担が増えるけど……戦術飛晶はS型とO型をそれぞれ最大数展開。D型に関しては、遠距離戦処理が苦手な殿下のフォローとして2機程度展開かな』
『小娘が、余計な気を回しおって。しかし、同じ浮遊型兵装ではあるが、随分とまぁ趣味の悪い性能だ。効率的と言えば聞こえは良いが、余の好む所では無いな』
搭乗者が展開する飛晶の種別を思案する一方、AIは相手の特性を分析し不快気な独白を零していた。対キャバリアと対人、両方に対応できるのだろうが、戦術パターンまで共通という訳ではあるまい。有効な行動を思考する一秒未満のラグ、それだけあればティオにとっては十分だ。
(戦闘処理自体は殿下が受け持ってくれるから、私はその間にS型を通して情報を収集……敵機をマルチロックしてみよう。戦術飛晶からの間隔共有は電波同期じゃないから妨害は受けない、はず!)
戦闘ルーチンと女性AIが敵味方入り乱れる激しい空中戦を行う一方、操縦者はコックピット内のモニター越しに無人兵器の一つ一つを補足してゆく。一機二機を撃墜したところで、すぐに追加が補充されてしまう。ならば狙うべきは同時攻撃による一網打尽。
(本来の機能じゃない分、消耗も激しい。だけど今の今まで温存して来たんだし、多少の無茶なら許容範囲内だよ!)
焼き切れそうになる神経を意志の力でねじ伏せながら、ティオが無人機全てにマーキングを施し終える。そうして最適なタイミングを見計らうや、全戦術飛晶から溢れ出したのは幾つもの光条。各機能を無視した強制的なエネルギー放出は覚悟していた通り負荷が極めて大きいが、その分威力も折り紙付きだ。白光が一瞬視界を塗り潰したのち、一拍の間を置いて飛び交っていた無人機が立て続けに空中で爆散していった。
『っ、これだけの数を一撃で……!? だが、そう連発できるモノでもあるまい!』
戦況を引っ繰り返す一撃に思わず面食らう敵機だが、すぐに思考を整え直すと突撃を敢行して来る。無事な左脚を器用に使い、狙うは突撃槍による白兵戦。相手の狙いは決して間違ってはいない。もしも誤算があるとすれば……。
「――もしかして、私の事を忘れていないかな。そっちも素人じゃないんだろうけど、歩兵とキャバリアを常に同時に相手するのはキツイでしょ?」
歩兵がいまだ健在であるのを失念していた事か。白光と爆炎を斬り裂き、戦場を掛ける新緑の閃光。それは死角よりもう一方の脚部を破壊し、敵機を転倒させる。咄嗟にアイカメラを巡らせてみれば、その先には構えた銃口より硝煙を立ち昇らせる蒜の姿があった。
『お、のれ
……!?』
『余所見をする余裕があると思うてか。近接戦を得手とする余に挑もうなどと、不遜極まりない。その傲慢の報いを受けるが良い』
歯噛みする敵機に対してAIは無慈悲に終わりを宣告すると、倒れ込んだ相手の頭部を踏み砕いた。途端に機体各部で小規模な爆発が発生し、堪らず搭乗者が外へと飛び出してゆく。とは言え、わざわざ追撃して相手と同じ場所まで堕ちる必要もあるまい。
『よーし、まずは一機っと。この調子で奥までの道を開けてもらおう!』
「連携さえしっかりと取れれば、やってやれない相手じゃなさそうだね」
ともあれ、幸先としては上々か。二人は引き続き連携を取りながら、公王の元を目指して敵陣を突き進んでゆくのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
エドゥアルト・ルーデル
拙者エドゥアルト、今キャバリアの中にいるの
全身を【ドット絵】に変換、【ハッキング】で近くの機体の制御システムに潜り込んで一体化したでござるよガッションション
おっとぉ?これサフォーノフ機じゃない?しかもサフォーノフ氏が乗った後?時間無いしこのまま行くしか無いネ
大将が最前線で活躍すれば味方の士気も上がり箔付けにも良い
拙者のアシストで性能も上がってグッド!具体的には人さながらの滑らかな動きが出来ますぞ!対装甲弾も手刀で受け流せちゃうかもネ
雑談ターイム!サフォーノフ氏はさ、普通じゃないでしょ
露助っぽい名前に露助っぽい国名、それに英雄程度なら名前出しても相手が裏切ってくれたりしないんだヨ
拙者の予想はー…
●汝の立つ寄る辺は何処か
「ふぅむ……キャバリア相手にゲリラ戦もまぁ悪くは無いでござる、が」
一歩引いた位置で戦場全体を俯瞰しながら、エドゥアルトは思案気に顎髭を撫ぜていた。戦況自体はクーデター・自治領合同部隊の奇襲によって流れを引き寄せる事が出来ている。だが相手も最高権力者の護衛を任された部隊、その練度もまた精兵と言って差し支えないもの。初撃を凌いで防戦に回りながら、虎視眈々と反撃の機を窺っている様だ。
「中佐の機体は……あー、もうあんなとこまで突っ込んでら。後続を置き去りにして良くやりますなぁ。よっぽと溜まってたのでござるな」
味方の動きとしてはハイネマンを筆頭とした自治領軍が楔の如く敵陣へと食い込み、それに一歩遅れてクーデター部隊が傷口を広げている……と言うよりも、突出したハイネマンのフォローを周りがしていると言った方が正しいか。
ともあれあの男の事だ、それも勝算あっての事だろう。そちらは一先ず放置するとして、エドゥアルトは手近に駐機されている僚機へと目を付けた。
「とりあえずはこの機体で良いでござるかな。フリーSOZAI『拙者』をキミの機体にインストールですぞ!」
どこぞの変身バンクばりに傭兵が全身をくねらせれば、身体の端から微細な正方形へと分解されてゆく。自らをドット状の電気信号へと変換し、味方キャバリアの制御システム内へと侵入させたのである。搭乗者からすればいきなりモニター画面に某配管工よろしく髭面の中年男が現れるのだ、面食らう事は必定だろう。
『もしもし、拙者エドゥアルト。今あなたのキャバリアの中にいるの』
「っ!? 何者かと思えば、猟兵殿ですか。てっきり敵のハッキングかと」
『おっとぉ? これサフォーノフ氏の機体じゃない? しかも既に乗った後?』
そうして搭乗者へ挨拶して見れば、其処に居たのは見知った顔。相手も驚いている様だが、エドゥアルトもまた予想外の人物を引き当てて目を丸くしていた。だがこれもある意味で良かったのかもしれない。
『時間無いし、このまま行くしか無いネ! 大将が最前線で活躍すれば味方の士気も上がり箔付けにも良い。ハイネマン殿を見習って、サフォーノフ氏もレッツゴー!』
「あれを見習うのは複雑ですが、一理あります。それでは我々も行くとしましょう」
ハイネマンは兎も角として、万が一サフォーノフが墜とされれば士気の崩壊は免れない。猟兵の支援を受けられるのであればそれに越したことは無いだろう。将校は機体を前線へ向かわせると、膠着状態に陥っている箇所を見つけて飛び込んでゆく。
『性能的には指揮官機らしく通信機能が強化されているけれど、それ以外は通常機と同じ? ダイジョーブ、拙者のアシストで性能も上がってグッド! 具体的には人さながらの滑らかな動きが出来ますぞ! 対装甲弾も手刀で受け流せちゃうかもネ』
相手の新手に気付いたのだろう。左手に装備した短機関銃で弾幕を張りつつ、肩部の速射砲の照準を向けて来た。間髪入れず放たれた砲弾が直撃軌道を描くも、機体は自然な動きで流れるようにマニピュレータを稼働させるや、払いのける様に攻撃を逸らしてゆく。
『なんだその動きは!? ジャイアントキャバリアでも中に納まっているのか!』
『当たらずとも遠からず、か……?』
目を剥く敵兵に苦笑を返しながら、背後で爆発した榴弾の勢いを利用し肉薄。そのまま組み伏せると手早く敵機を無力化していった。猟兵の支援込みとは言え、鮮やかな手並みだ。
『と、ここで雑談ターイム! 薄々思ってたけど、サフォーノフ氏はさ……普通じゃないでしょ?』
それを見た傭兵は飽くまでも軽い調子を維持したまま、モニター越しに問いを投げかける。先の工作時に抱いた違和感はここに来て明確な形の疑念へと変化していたのだ。
『露助っぽい名前に露助っぽい国名、それに英雄程度なら、仮に名前出しても相手が裏切ってくれたりしないんだヨ?』
「露助、と言うのが何者かは存じ上げませんが……それでは、猟兵殿は私が何者だとお思いですか?」
『ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。拙者の予想はー……』
逆に質問を返され、もったいぶった様子で答えを口にするエドゥアルト。それに耳を傾けながら、サフォーノフは機体の通信機能をそっと停止させるのであった。
成功
🔵🔵🔴
西院鬼・織久
人同士の戦で滅ぶなら我等が手を出す理由はありません
ですがオブリビオンの介在は別です
我等が狩るべき敵がいるならば、それは我等が戦、我等の狩場よ
【行動】POW
五感と第六感+野生の勘を働かせ乱戦状態でも瞬間思考力+戦闘知識を活かして状況を把握し敵味方の行動を読む
先制攻撃+UC+怨念の炎で最前列のコクピット付近を爆破、影の引き寄せ+怪力で勢いをつけて損傷部を串刺し、内部に怨念の炎を流し込む
操縦者が行動不能に陥らずとも内部機構を焼き払い操縦不能にする
一体が終わったら次の一体も同じように
攻撃の前兆や射線を見切り弾をUCで落としながら敵を別の射線に誘き寄せる、敵同士接近させ範囲攻撃で片付けやすくする
●大義名分あろうとも、為すべきは変わらず
「人同士の戦で滅ぶなら我等が手を出す理由はありません。善悪の理は横に置くとして、それもまた人の営みの一つ……ですが、オブリビオンの介在はまた別です」
戦端が開かれあちこちで爆発や轟音が鳴り響く戦場を前に、織久は精神を研ぎ澄ますように瞳を閉じる。人と人、或いはそれ以外の何かとの闘争ならば彼とて何も言うまい。それもまた生きる上で不可分の営みなのだから。しかし、既に終わったはずの存在が踏み込んで来るのであればその限りではない。
「我等が狩るべき敵がいるならば、それは我等が戦、我等の狩場よ。鉄騎纏わぬ身なれども、ただ追い立てる弱者と見縊るならば相応の対価を支払わせよう」
彼はカッと目を見開くや、一切の躊躇なく激戦の真っただ中へと飛び込んでゆく。周囲には機銃や散弾が飛び交い、爆炎が華咲く最前線。しかも相手はキャバリアのみならず対人戦も想定した機体だ。故にこそ、青年もまた初手から全力を叩き込まんとしていた。
「どれほど巨大であろうとも、所詮は人が操る物に変わりはない。であれば当然、其処を突くのが定石だろう」
赤黒い槍を取り出してクルリと手の内で一回しすれば、穂先は真っ直ぐに敵の胸部へと狙いを出さめる。全身の筋肉をバネとして投擲されたソレは、分厚い装甲で守られているはずの操縦席を深々と穿つ。
『っ、コックピット付近に被弾!? 生身で良くやるものだが、少しばかり無謀過ぎたな!』
敵機は手にした銃器のモードを瞬時に切り替えると、まるで剣でも扱うかの様に横薙ぎで振るう。それと共に銃口より吐き出されたのは、弾丸ではなく火のついた可燃式薬剤。銃器の火炎放射機能により、一瞬にして辺り一帯が炎に包まれてゆく。
『これで容易くは近づけまい。不用意に踏み込めば、瞬く間に炭と化すぞ』
「そうか。ならば、お前をそこから引きずり出せば良いだけの話だ」
余裕を見せる敵兵士だったが、既に織久は手を打った後であった。煌々と燃え盛る炎の間に伸びる、一条の黒い影。それは周りの輝きと比例するかのように濃度を高めるや、巨大な腕と化して敵を鷲掴みにして引きずり倒す。
「先の一撃でおおよその強度は測れた。これならば問題なく割断出来よう」
『なぁっ!?』
そうして手繰り寄せられる先に待ち受けるのは、大鎌を構えた猟兵の姿。敵が攻撃圏内へと入った瞬間、振り下ろされた切っ先が損傷個所を貫き、内部へと漆黒の炎を流し込んでいった。
「炎の扱いであれば我等にも一日の長がある。炎に焼かれた者らの立場を味わってみるが良い」
ケーブルや内部骨格を伝い、灼熱が鉄騎の内部を蹂躙し尽くしてゆく。モニターに表示されるダメージレポートに継戦能力の喪失を悟ったのか、操縦者は緊急脱出装置を作動させ機体から飛び出していった。一先ずキャバリアを破壊出来たのであれば、わざわざ追撃する必要もないだろう。
『生身でキャバリアを破壊する手合いが居るとは聞き及んでいたが、まさか実在するとはな』
『各員、認識を改めろ! 相手はただの暴徒どころか、キャバリアに互する戦闘力を持った兵士だ。対人機能に頼り切れば足元を掬われるぞ!』
だが、その様子を目撃した別機体たちが複数、織久を危険と判断し排除のために襲い掛かって来る。一機でも厄介だったが、今度は分隊規模だ。
(数が増えようが、やるべき事は変わらん。ただ、攻撃の前兆や射線はより注意深く観察する必要があるか。誤射の誘発、或いは範囲攻撃による殲滅も視野に入れるべきだろう)
地を蹴って銃弾や灼熱を避けつつ、そう素早く敵戦力と方針を分析する織久。一体一体潰していくのも悪くは無いが、取れる手は全て使うべきだろう。そうして彼は迫る鉄騎を屠るべく、再び真っ向から敵と対峙するのであった。
成功
🔵🔵🔴
シキ・ジルモント
敵の情報共有は助かる
…しかし、この状況で随分と楽しそうだな
周囲の友軍を援護しながら、敵キャバリアの性能を戦いながら更に調べる
戦闘時の動き方、武装や攻撃範囲、弱点はあるか
ひとまず足元まで飛び込めば回避面では多少の有利は期待できそうか
ユーベルコードを発動、増大した速度で側面に回り込みつつ接近
ビームは直線的だ、狙いを絞らせない為に動き続けて回避を試みる
鉄片がこちらに達する前に、敵の足元まで走り抜ける
すれ違いざま、脚の関節部分にハンドグレネードを放り込む
脚部を損傷すれば動きは鈍る
そのタイミングで別の脚部や、両腕部にも攻撃を仕掛け破壊を試みる
狙うのはあくまで機体の機能停止だ、パイロットまで殺す必要も無い
●鋼の威に挑むは獣の牙
「正直、俺の様なキャバリアを持っていない者からすれば敵の情報共有は助かる……が、しかし。この状況で随分と楽しそうだな。まぁ、前評判通りではあるが」
目の前で繰り広げられるキャバリア同士の戦闘を眺めながら、シキは思わずそう呟きを漏らす。彼は現在、戦闘開始と共に勢いよく突撃していった自治領軍のすぐ後方に陣取っていた。数の上では敵の方が多いものの、通信に耳を向ければハイネマンの高笑いが響いてくる。この調子であれば当面は問題なさそうだ。
(一先ずは見に徹しておくのが安全だろうな。忠告のお陰で不用意に挑むことは避けられたものの、詳細な性能自体は未だ把握しきれていない。本格的に挑むのは敵戦力を把握してからでも遅くは無いだろう)
索敵能力や稼働領域、武双に攻撃範囲、そして弱点。まずはそれらを探るのが先決だ。シキは屈む様に身を低くすると、勢いよく芝生を蹴り上げながら走り出す。鋼鉄と内燃機関による強大さに対抗するには、こちらも獣としての本能を解放せねばなるまい。爛々と瞳を輝かせながら、銀狼は得物の動きを観察してゆく。
(見たところ、機動力よりも防御に比重を置いた機体か? 全身に武装を纏っている以上、当然重量も増加しているはず……少しばかり、試してみるか)
大きく弧を描くように迂回して敵機の側面を取るや、シキはそのまま相手の足元目掛けて疾駆する。対する敵も高速移動する何かの存在に気付いたのか、アイカメラと共に手にしたマシンガンの銃口を向けて来た。
『なんだ、この速度は。バイクか、或いは車両か? どちらにせよ、キャバリア相手にはなぁッ!』
光学モードが選択された銃口からは、立て続けに短い光弾が解き放たれる。と同時に機体各部に取り付けられた炸薬装甲を起動、爆発と共に鉄片が撒き散らされてゆく。どちらも生身の人間であれば、容易く挽肉にしてしまえる威力だ、が。
(いや、問題ない。ビームの軌道は直線的な上、狙いをつけているのは飽くまでも操縦者だ。銃口の向きを見抜けば回避は難しくない。問題は鉄片だが……こちらは自分の脚を信じるしかないな)
曲線を描く軌道で相手の狙いを掻き乱し、シキは紙一重で熱線を躱してゆく。鉄片に関しても、殺傷範囲が地上へ届く前に駆け抜けんと試みる。果たして、幾つかの破片によって皮膚に傷跡を刻みつつも、彼は無事相手の足元へと辿り着くことに成功した。
『チィッ、うろちょろと這い回りおって!』
人もキャバリアも、己の真下が死角であることに変わりはない。たたらを踏む敵機を尻目に、銀狼は取り出したハンドグレネードのピンを抜くと、膝裏の関節部を狙って放り込む。装甲を破壊するには火力不足でも、内部からであれば十二分。数秒後、大気が圧縮されるような炸裂音と共に、結合部から煙が立ち登る。小さいと言うのも時と場合によっては利点となるのだ。
『ぐおっ、機体のバランスが
……!?』
「上半身が下がったか。物は次いでだ、行けるところまで行ってしまおう」
ぐらりと機体が傾き、それまで遥か頭上にあった部位が手の届く範囲にまで降りて来た。この好機を見逃すまいと、シキは相手の脚部を足場として敵の身体を駆け上がる。そうはさせじと丸太の如き腕が振るわれるが、其方に対しても拳銃射撃と手榴弾の組み合わせを駆使して動きを止めてゆく。
「とは言え、狙うのはあくまで機体の機能停止までだ。相手もただ己の職務に従っているだけだろうしな。パイロットまであたら殺す必要も無い」
そのままコックピットも通り過ぎ、頭頂部まで到達した銀狼。彼は踏み台がてらにバイザーで覆われたメインカメラを蹴り砕くと、そのまま宙空へと身を投げ出し、再び地上に舞い戻ってゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
灯璃・ファルシュピーゲル
・SIRD一員で連携
・自機キャバリア使用
精鋭ですか…お互い言いたいことは仕事の後でですね
まずは遮蔽とりつつ配置つき
敵味方の動きを把握(情報収集)
ミハイルさんに連携し指定UCを使用し
Mi-24ヘリに偽装した耐熱・強硬度の熱硬化樹脂剤満載の
散布ドローンを多数作成。
ヘリ部隊の戦闘機動に紛れ込ませて接近し
溶剤を敵の関節や火炎・ガス散布口に流れ込む様に大量散布
火炎放射や戦闘の熱で硬化し不具合を起こすように仕向ける(罠使い)
自身は(見切り)で回避し動き回りつつ
タンタル徹甲弾を指定UCで作成装填
動きが鈍ったり、クーデター部隊を狙う敵機
の頭部センサー・武装部位を狙撃(スナイパー・鎧砕き)し
支援する
アドリブ歓迎
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動(計3名の予定)
ふん、確かにキャバリアは強力だが、幾ら複数いるからってキャバリアのみで来るとはいい度胸だ。こっちの世界には、コンバインド・アームズって考え方はないのかねぇ。
なら、こっちも数で対抗してやらぁ。
UCで召喚したスペツナズやヘリで攻撃。まぁ流石にキャバリア相手じゃ火力不足は否めねぇが、目的は牽制と時間稼ぎだ。そうやって食い止めてる間に、灯璃やラムダが何か仕掛けるハズだ。それに、連中はいわば攻撃側ではなく防御側だ。となるとその任務上、例え歩兵1人でも無視するワケにゃいかないだろうしな。使えるアドヴァンテージは、目一杯利用させて貰うぜ。
※アドリブ・他者との絡み歓迎
ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に行動
今度はキャバリア部隊が相手ですか。何というかこう、わたくしの様なウォーマシンの立場からすると、まるで同族を相手にしている様な気が致しまして、少々気が引けますねぇ・・・
とまぁお喋りはこの位にして、始めましょうか。
前線よりやや後方に占位して、そこからUCを使用しての砲撃支援を行います。当然必中を狙っていきますが、必然的に距離が開いて弾着まで時間差が出てしまいますので・・・射程内にいるキャバリアのうち、何らかの理由で動きを止めている目標を狙います。恐らくその辺は、ミハイル様が何とかして下さるでしょう。弾種は・・・APFSDSが適当でしょうか。
アドリブ及び他者との絡み歓迎
●三位を以て単一を破る
「今度はキャバリア部隊が相手ですか。何というかこう、わたくしの様なウォーマシンの立場からすると、機体に自我は無いとはいえまるで同族を相手にしている様な気が致しまして、少々気が引けますねぇ……」
二倍強の差があるとは言え、外見上は非常に似通っているからだろうか。あちこちで縦横無尽に動き回る敵群をカメラに捉え、ラムダは複雑そうにそう独り言ちる。いよいよ本格的な戦闘が開始されるという事で、それまで単独で動いていた【特務情報調査局】の面々は再度合流を果たしていた。
「ふん、確かにキャバリアは強力だが、幾ら複数いるからってそれだけで来るとはいい度胸だ。こっちの世界には、コンバインド・アームズって考え方はないのかねぇ。戦車だって、時には一歩兵に潰されるってのにな」
「対人戦も想定した機体という事ですし、もしかしたら誤射を懸念しての判断かもしれませんね。しかし、精鋭部隊ですか……お互い、言いたいことは仕事の後でですね」
肩に東側製の汎用機関銃を担ぐミハイルの言葉に、灯璃が敵の事情を推察しながら相槌を打つ。近代戦における戦闘編成は歩兵、機甲兵器、航空戦力が密接に連携した諸兵科連合が基本だ。如何に強力な兵器とて、完全無欠とはいかないもの。その短所を補い合って然るべきなのだが、敵機はその特性上、歩兵との連携が難しいらしかった。
「とまぁお喋りはこの位にして、我々も始めましょうか」
「だな。相手さんが集団で来るってんなら、なら、こっちも数で対抗してやらぁ」
対して、猟兵側の兵科は豊富と言って良かった。灯璃は魔狼の名を冠するキャバリアへと乗り込み、砲を備えたウォーマシンが陣形後方に詰めている。そして傭兵が出した合図を切っ掛けとして、完全武装の歩兵を満載した戦闘ヘリが次々戦場へと姿を見せてゆく。小規模ながらも、正しくそれは諸兵科連合と称するに相応しい陣容であった。
「さぁて、まずは戦場を引っ掻き回すとするか。歩兵や戦闘ヘリの火力じゃ役不足は否めないが、目的は牽制と時間稼ぎだ。隙さえできりゃ、灯璃やラムダが何か仕掛けるハズさ」
三人の中で、まず真っ先に動いたのはミハイルだった。彼は兵士たちを分隊ごとに分けると、戦闘ヘリの支援攻撃と共に分散浸透させてゆく。小銃弾や搭載機銃程度で傷つくほど敵機の装甲も軟ではないだろうが、それでも律儀に脚部機銃で反撃を行っている。
(連中はいわば攻撃側ではなく防御側、それもすぐ後ろには国の最重要人物が眠りこけてやがる。となるとその任務上、例え歩兵1人でも無視するワケにゃいかないだろう。使えるアドヴァンテージは、目一杯利用させて貰うぜ?)
相手からすれば例え勝利したとしても、公王の元へ敵が踏み込めば任務を果たせなかった事と同義だ。それ故に単なる歩兵相手でも決して手は抜かない。だが裏を返せば、薄く広く散開する兵士を排除するために、通常以上のリソースが割かれる事も意味している。
『脅威にはなりえんが、無駄に数だけは多い……!』
『いちいち潰すのも面倒だ、「ポイズンソー」に刈り取らせろ!』
遂に業を煮やした敵群は苛立たし気に足を止めると、背部コンテナを解放する。内部より飛び出してきたのは、回転刃を備えた無人浮遊兵器である。キャバリア相手には刃で、兵士相手には毒ガスを。機能性のみが追及された非人道的な装備だ……が、しかし。
「……おやおや。着弾までの差をどう埋めようかと思いましたが、丁度良い塩梅に足を止めましたね。ミハイル様が作ってくださった好機、存分に活用させて頂きます」
それらが動き出すよりも前に、ひゅうと言う甲高い音が戦場に響き渡る。ハッと相手がメインカメラを巡らせれば、視界に広がるのは巨大な砲弾。刹那、見事に命中したAPFSDSが鉄騎を木端微塵に打ち砕いた。射線を辿ってみれば、その源はラムダの肩部に備え付けられし120mmカノン砲『M19サンダーロア』。
威力は絶大な一方、距離を取っているせいで発射から着弾までにどうしてもタイムラグが生じてしまう。だが幸いにも、傭兵の活躍によって必中を期す為の状況が揃ったのだ。薬莢を輩出し次弾を装填するラムダの姿に、敵群も打ち倒すべき優先順位を変更したらしい。
『敵歩兵の漸減は残存する無人兵器に任せろ! 本体は周囲へ火炎放射を放った後、あのキャバリアもどきを叩くぞ!』
周囲を火の海へと変えながら手にした銃器に炸裂弾を装填すると、虐殺者たちは一気に距離を詰めんと走り出す。こちらに向かってくる分には狙いやすい事この上ないが、相手の数が数だ。このままでは倒しきる前に取りつかれ、至近距離から銃撃に曝されてしまうだろう。
『その判断は決して間違ってはいませんが、自己判断能力のない無人機にその他の相手を任せたのは下策でしたね……偽装ドローン群は敵部隊の直上へ。搭載物の散布を開始してください』
だが不意に、彼らの頭上に影が差す。それは無人機に押し付けたはずの戦闘ヘリ……否、ヘリに偽装されたドローンである。灯璃が己の配下たちへ指示を出すや、彼らは一斉に攻撃を開始した。だが、吐き出されたのは弾丸や爆弾ではない。ざぁざぁと降り注ぐは液体。無論、単なる水である訳がない。
『な、なんだ……!? 機体の動きが、急激にッ!』
『関節部の可動域、各種兵装の射角が大幅に制限、だと? やつらめ、一体何を撒いた!』
始めは意に介さす突き進む鉄騎だったが、急速にその動きが鈍り始めた。まるで関節が錆びついたかの様に軋みを上げたかと思いきや、瞬く間に完全停止してしまう。
『耐熱・強硬度の熱硬化樹脂剤……端的に言えば、高熱に反応して凝固する接着剤のようなものです。自ら周囲に火を放ってくれたおかげで、予想以上に素早く効果を発揮しましたね』
こうなってしまえば最早こっちのものである。灯璃は高密度高延性のタンタルを使用した徹甲弾を得物へ装填するや、次々と敵機の頭部を撃ち抜いてゆく。それにラムダの砲撃も合わされば、殲滅速度は急速に上昇していった。
だが……それだけで事が済んでしまえば、相手部隊も『精兵』などと称されてはいない。
『各機、炸薬装甲を手動起爆! 爆風で硬化樹脂を取り除くと同時に、妨害電波を照射し敵ドローン群の操作を断て!』
『機動力の低下は免れんが、その分は無人兵器に補わせろ! 単なる的に成り下がるなど、他の者らに見られれば笑われるぞ!』
敵機の機体表面が立て続けに爆ぜたかと思うや、撒き散らされた鉄片が樹脂を削り割ってゆく。彼らは自機の損傷と引き換えに機体の操作を取り戻すと、強烈なジャミングを開始する。これがドローンに対して効果覿面であった。操縦指示が遮断された偽装ヘリたちは、たちまちの内にコントロールを失い墜落してしまう。
『なるほど、最高権力者の護衛を任されるだけは在りますね』
「流石に相手の無人兵器まで動けなくなるなんて、そう都合よくはいかないようですねぇ。毒ガスとは無縁ですけれど、あの刃は正直ぞっとしませんよ」
一方で、虐殺者側のドローンはそれ相応の対策が施してあるのだろう。依然として空中を飛び回りながら、猟兵たちへと迫って来る。灯璃が足を止めることなく精密狙撃で敵の頭部を吹き飛ばす一方で、ラムダもまた砲撃に加えて50口径チェーンガンによる弾幕を張ってゆく。
「チッ、完全にこっちの排除へ狙いを切り替えやがったか。全く、決断が速いなんてもんじゃねぇな。十全に動く為にも、あの邪魔っけな無人機を減らさなきゃならん」
背後への浸透をちらつかせることによって相手へ圧を掛けていたミハイルだったが、敵の方針が変化したことにより一時的にだが遊兵と化してしまう。無論、無人機の一部は依然としてこちらの歩兵たちを刈り取らんと張り付いている為、逆に足止めをされた形となっているのだ。
「確かにこの妨害電波じゃあ灯璃のドローンは動かねぇだろうよ。だがな、忘れたか? 本来の戦闘ヘリは当然だが、有人操縦だってなぁ!」
このまま回転刃と毒ガスから逃げ回っていても埒が開かない。そう判断したミハイルは必要な犠牲だと割り切るや、なんと戦闘ヘリに無人機へと吶喊する様に命じた。彼が運用する戦闘ヘリ『Mi-24』は兵員を輸送すると言う目的上、平均的なヘリよりも大型化している。つまりそれら質量はそのまま、激突時の破壊力へと転化されることを意味していた。
「相手だって無茶をしてるんだ、状態だって万全じゃねぇ。こいつらを始末さえすれば、後はどうとでもなる……そうだろ?」
空中で次々と紅蓮の華が咲き誇る。彼の言う通り、相手も十全とは言い難いのだ。こちらの策を破って来たのであれば、こちらも冷静に対処してそれを上回れば良いだけのは無いである。
そうして無人機が一掃されてしまえば、他二人の取れる自由度も格段に広まってゆく。
『先程までならばまだしも、現状の機動力に関してはこちらが上回っています。不用意に足を止めるような事が無ければ、補足される危険もないでしょう』
「サイズが小さい分まだ小回りが良くとは言え、わたくしもそこまで足回りに長けている訳ではありませんし……それなら、駄目押しにもう一つ手を打っておくべきですかねぇ」
大型突撃槍に搭載されたライフルから放たれるレーザーを避けつつ、つかず離れずの距離感を保って引き撃ちに徹する灯璃。高機動性が売りの機体ゆえそこまで危うさは無いが、絶え間なく攻撃され続けてはどうしても回避に費やす時間が増え、攻撃の機会を逸する事も多くなってしまう。
ならばとラムダは連装式マルチプルランチャーを煙幕弾へ切り替えると、瞬時に発射。敵群を中心として戦場全体を白煙で覆い尽くしていった。薄い金属片も煙に紛れ込ませており、これならば視覚だけではなくレーダー等の索敵機器も機能しないはずだ。
『くそ、機動力だけでなく位置情報までも……! 各員、密集し方陣を形成。どこから襲われても対処できるように構えろ!』
それは最適解と言うよりも、これしかないと『選ばされた』と言った方が良いかもしれなかった。密集し、中世の軍隊よろしく周囲へ突撃槍を突き出し陣形を組む敵群だったが、一方的に位置が割れている状態でそれは余りにも迂闊に過ぎるというもので。
『……今度こそ本当に「単なる的」、ですね。命までは取りませんが、機体はきっちり破壊させて頂きます』
白いヴェールを引き裂いて飛翔する弾丸。一射必中の一撃が次々と虐殺者たちを貫いてゆき、そして……。
――煙幕が晴れた後には、残骸と化した敵機が山を成しているのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
フォルター・ユングフラウ
【古城】
模擬戦でロシナンテⅣと戦ったが、実戦は初となるな
ふふっ、しかも相手はロシナンテⅣと素体が同じと来た
立ち塞がる凡愚共よ、我と、黒きThe Empressの威光をその目に焼き付けるが良い
これこそが真の女帝たる姿、とな
さて…騎士や他の者が動ける様に、我は囮に徹しよう
枯れる事無き勝利の桂冠の出力を最大まで上げ、姿を誇示する為に滞空
防御に全エネルギーを回して耐え抜き、攻撃はUCで行う
更に外部スピーカーをオンにし、威厳と鼓舞と共に、眼下で戦う仲間へと声を届けよう
この我が居る限り、何人も斃れさせぬ─とな
上から見守らせてもらうぞ、トリテレイアよ
正義という名の矛が、どこまでこの混迷を貫くのかを
トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
ロシナンテⅣ搭乗
Ⅳと同じ普及機ベースとはいえ
戦闘機械の悪しき側面映す鏡の様で複雑です
機体ワイヤー射出
ニコライ機有線通信
名で寝返った指揮官と作戦前の表情…
伏せた事情があるのでは、と
その因縁を私は存じません
ですが騎士として見過ごせませんでした
どんな決着を貴方が付けるのであれ
Oマシンの狂気という不純物は無き方が良いだろうと
大公の生存望むなら全力を尽くします
キャバリア用UCで従機足止めする敵蹴散らし
ご婦人を待たせる等言語道断ですね
普段とは逆…貴女の矛として埋め合わせをば
自機ハッキング直結操縦
追従性限界突破で実現する格闘運動性能で圧倒
異邦人なれど証明しましょう
パラティヌスの真価
そして
我が騎士道を
●敵に憂い、味方を想う
『敵対勢力に関しては二個大隊規模と同定。随伴の歩兵戦力も確認』
『現在、公王邸外延部にて交戦中なれど戦況は拮抗! 少数だが特記戦力と思われる存在が見受けられる。各員警戒されたし!』
戦闘開始から暫しの刻が経ち、護衛戦力側も徐々に初期の混乱から立ち直りつつあった。機体の質・数共に相手の方が上だが、此方側の士気の高さと猟兵と言う強力な個の存在より、戦況は互角レベルを維持し続けていた。
「模擬戦でロシナンテⅣと戦ったが、実戦は初となるな……ふふっ、しかも相手はロシナンテⅣと素体が同じと来たか。しかしまぁ、随分と趣の違う方向へと進化を遂げているものだ」
「傑作機と名高い『パラティヌス』の汎用性を示す一方で、扱う者や目的次第では如何様にも姿を変えてしまう……Ⅳと同じ普及機ベースとはいえ、戦闘機械の悪しき側面映す鏡の様で複雑ですね」
そんな戦況を眺めつつ、フォルターは薄っすらと笑みを浮かべながら傍らの鋼騎士へと話を差し向ける。一方のトリテレイアは女帝とは対照的に、嘆かわしいと言った様子で首を振っていた。
二人の会話はトリテレイアの扱う重キャバリア『ロシナンテⅣ』について。その機体は高い汎用性と拡張性を持つ量産型キャバリア『パラティヌス』をベースとしているのだが、奇しくも眼前に蠢く敵部隊も同じ機体を元にしたカスタム機だったのだ。一方は純白の騎士、片や漆黒の虐殺者。下手に共通点がある分、彼としても思うところがあるのだろう。
「必要は全てに優るとは言いますが、あの機体が求められる状況は想像したくありませんね……ともあれ、感傷はこのくらいにしてこちらも始めると致しましょう」
「汝はその前にやりたい事があるのだろう? ならば我は囮に徹しよう……立ち塞がる凡愚共よ、我と、黒き『The Empress』の威光をその目に焼き付けるが良い。これこそが真の女帝たる姿、とな」
嘆く友を横目にフォルターが前へ歩み出ると同時に、じわりと宵闇から滲み出るように一機のキャバリアが姿を見せる。敵機よりもなお昏く荘厳な乗騎へ乗り込むと、彼女はまず頭部に装備された王冠型の浮遊ユニットを起動させた。
『同じ地平線上に立っていては如何に目立つものも耳目を惹くまい。それに治める領土も既に無いとはいえ、青き血は得てして上より見下ろす存在であるからな』
重力を制御して引力の軛から飛び放たれると、機体はふわりと戦場上空へと浮かび上がる。彼女の狙い通り、その姿は敵味方問わず視線を一気に集めてゆく。すかさず敵群も突撃槍に内蔵されたレーザーライフルで対空射を行い始めるも、フォルターは王冠型ユニットの出力を上げ、機体の保有エネルギーを全て防御へと回してそれらを弾き返す。
『随分と派手なご登場だな。だが戦場で身を晒すなぞ、単なる自殺行為に過ぎん!』
『貫通せずとも良い。ガス欠になるまで攻め続けてやれ』
だが、如何に強力な護りとて有限である。故に相手は攻撃が通じない事を承知の上で集中砲火を浴びせてゆく。しかし、女帝は飽くまでも悠然かつ傲慢に睥睨するのみ。更には余裕を見せつけるかのように、外部スピーカーのスイッチを入れた。
『有象無象が数を揃えたところで、絶対的な一には敵わぬと知るがいい。そして友輩よ、案ずることなかれ。この我が居る限り、何人も斃れさせぬ』
虚仮脅しだと切り捨てる事は容易い。だが、戦場においてこの手の言葉は往々にして字面以上の効果を発揮するものだ。それを耳にしたクーデター部隊の兵士たちは、雄叫びと共に敵の戦線を押し返し始めた。
『詳しい事情は察するしかありませんが……為政者の威厳とは斯くあるべし、か』
『……それは公王殿の実情を知った上でのお言葉ですか、ニコライ様?』
その様子に目を見張っていたサフォーノフだったが、不意に通信が入る。何者かと確認すれば、声の主は愛馬に搭乗したトリテレイアだった。ご丁寧にも他者へ通信を傍受されぬよう、ワイヤーを介した有線接続という念の入れよう。それに対し、将校は肯否を濁したまま問いを返す。
『その判断に至った経緯をお聞きしても?』
『他の猟兵が懐柔策を試みた際、貴方の名を出すことで寝返った指揮官の存在。自らの立ち位置を明かさぬ振舞と作戦前の表情……もしや、伏せた事情があるのでは、と』
思えば、この将校が単なる一介の軍人であると思えぬ点が、作戦の端々で見受けられていた。それら一つ一つを繋ぎ合わせれば、或る程度の輪郭を浮かび上がらせることはそう難しくはなった。
『その因縁を私は存じません。ですが、騎士として見過ごせませんでした。詳細を説明する術を持ちませんが、彼の王の乱心には外的要因も含まれます。どんな決着を貴方が付けるのであれ、狂気という不純物は無き方が良いだろう、と』
――大公の生存を望むなら、騎士として全力を尽くします。
鋼騎士は敢えて明言を避けた。相手が明かさぬと決めている以上、それを無理に暴くのは無粋に過ぎるというもの。下手に突けば、円卓を割った故事をなぞる事にもなるだろう。故に現段階では、助力を表明するだけに留めたのは賢明だった。
対して、サフォーノフは一瞬だけ肩の力を抜くと、モニター越しにくたびれた様な笑みを浮かべて見せる。
『ここに来て、あのハイネマン中佐が何故これほどまで闘争に拘るのか、少しだけ分かりました。戦いは勝者と敗者が明確で、突き詰めてしまえば単純です。正直、あの御仁が羨ましい。ですが政治は……そうもいきません』
それはきっと、クーデター部隊の指揮官と言う仮面を脱いだ、彼の素の表情なのだろう。
『決着には常に「責任を誰が負うか」が付き纏います。それは政治と不可分であり……他者に裁かれるのであれば、せめて身内の手で。言ってしまえば、これはそんな我儘でもあるのですよ』
と、そこでサフォーノフに別に通信が入った。どうやら敵がまた勢いを盛り返したらしい。彼は非礼を詫びつつ接続を切ると、指揮官としての表情を被り直しながら戦線へと舞い戻ってゆく。それを見送りながら、トリテレイアもまた仲間の元へと馳せ参じる。
『……申し訳ありません、ご婦人を待たせる等言語道断ですね。戦線維持、誠に感謝いたします。普段とは逆の役割となりますが……貴女の矛として埋め合わせをば』
『なに、気にするな。それよりも、話はきちんと出来たのであろうな?』
鋼騎士の謝罪に対し問題は無いと鷹揚に応ずる女帝。トリテレイアは自らと機体を直接接続しながら、各種リミッターを解除してゆく。友の問いに対する答えは、非常にシンプルだ。
『ええ、お陰様で……益々、負けられなくなりました。さぁ、異邦人なれど証明しましょう。パラティヌスの真価を、そして』
――我が進むべき騎士道を!
そうして痩せ馬は巨大な騎兵槍を構えると、強烈な加速力を以て敵陣を穿つべく吶喊してゆく。常人では耐え切れぬGも、機械の身であれば問題は無い。鎧袖一触、直撃は勿論掠っただけの敵機でさえも、手足をもぎ取られて吹き飛ばされていった。
『全く、随分と熱くなりおってからに。だが、止める事などせん……駆けろ、蒼ざめた死の騎士達よ。そして捧げよ。その鎌で刈り取った全てを、この黒の女帝に』
勢いよく切り込んでゆく背中に嘆息しながら、フォルターは己に付き従いし人馬型侍従機を召喚。穿たれた孔をさらに広げるべく、後続を突撃させる。これで敵の勢いも幾分かは減じる筈だ。
(我は上から見守らせてもらうぞ、トリテレイアよ……正義という名の矛が、どこまでこの混迷を貫くのかをな)
そうした眼下の混沌を観察しながら、黒き女帝は大立ち回りを繰り広げる白蒼の騎士を見つめ、瞳を細めるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
キリジ・グッドウィン
【特務一課】5人
GW『(今回のキャバリア名、アドリブで)』で出撃
待たせたな『』、ランデブーだ。二重の意味でな
(コックピット:カルトゥーシュのコードをストレイナーに接続、反応良し。コンソールを叩きセットアップしながら源次の通信を聴き)
ハッ、要するに殺さなきゃ思いきりぶっ潰して良いって事だよなァ!さっきより単純で助かるぜ
推力移動で一気に駆け抜け接敵、懐に潜り込み先制攻撃に持ち込む
銃火器を操る為の動作が可能な角度には限界があるからよ、それとも限界以上に曲げてみるか?
グラップルで敵キャバリアを腕毎掴み爪からの電撃で動きを封じる
【使用UC】部位破壊により殺さない程度に相手の無力化を図る
グウェンドリン・グレンジャー
【特務一課】
※黒玉姫搭乗、もとい半ば融合したような形に
がんばろーね、黒玉姫。ガンバルゾー
私の、特技は……蹂躙。うん、みんなといっしょ。
(UC『Arianrhod』で召喚したパンジャンドラムをぎゅいんぎゅいんしつつ、Scáthachを構えて)
ふーむ、火炎放射かー。でも、それって、放った周辺、だけ、だよね
(ドレスのような翼を広げる機体。空中戦で素早く飛び上がり、上空から手近な機体目掛けて投げ付けたScáthachを脳波コントロールで縦横無尽に走らせ、着地と共にキャッチ)
大丈夫、大丈夫。機体の、足とか、手とか、狙ったから
それじゃあ、仕上げにこれ(パンジャン)
月の魔力、だから。命は奪わない
叢雲・源次
【特務一課】
(白鈴号の起動シークエンスに入りつつ都市を出る前の局長とのやりとりを思い出す)
『他所んちでやる事だから…ま、適当にね』
『そうか、分かった』
「…サギリ、『適当』にやるぞ。敵がオブリビオンの影響を受けている以上、相応の気概を持って臨む」※サギリとの複座式
※適当=その場における最も適した力加減
「特務一課所属機へ通達。視界に入る障害は全て撃破する。手段は問わん。」
※結論。全員ブッ飛ばす
(肉体とリンクした白鈴号が殲滅大太刀の柄に手をかける。瞬転、白亜の鬼武者が地を蹴り、虐殺者へ肉薄し居合にて胴を断たんと太刀を抜刀する)
「命までは獲らん。しかし、邪魔立てするならその限りではないと知れ。」
雪丸・鳳花
【特務一課】 ※サチコ搭乗
兵は神速を尊ぶという!
迅速に行動し、任務を遂行しよう!
来てくれ、サチコ!(指パッチンでキャバリア召喚)
今日のボクは戦場という名のステージの舞台監督さ!
仲間の行動や目的や意図を汲み取り、最適なサポートを約束しよう!
無数のキャバリアとの集団戦、敵と味方が入り乱れて事故でも起きかねない
空中浮遊で俯瞰で戦場を広く見よう
防衛部隊の搭乗者は練度が高いと聞く
敵の動きを把握し、複数での連携をさせないよう念動力で邪魔をしたり、
歌唱やダンスで敵の目を惹きつけ、味方が連携しやすい状況を作りたいね
【眠れる劇場の観客】で一瞬でも搭乗者を眠らせられれば、その隙に機体を無力化させる事も出来るかな
サギリ・スズノネ
【特務一課】
※白鈴号搭乗/複座型・源次お兄さんと一緒に乗るのです!
最悪の回避、上等なのです。
世の中はー生きてさえいれば何とかなるものですから!
合点なのです、お兄さん!ぶっ飛ばすのはー得意なのです!
サギリも全力でお兄さんと白鈴号をサポートするのですよ!
敵の攻撃から白鈴号を【火炎耐性】と【毒耐性】を込めた【オーラ防御】で守ります!
白鈴号も、皆さんもー、すげーやるのです!負けてられないのです!
あの飛んでるノコギリちょっと厄介ですね。毒ガスも困りますし。
火ノ神楽で炎の鈴を出して、ノコギリに向かってぶつけます。
毒ガスごと炎で燃やしながら【継続ダメージ】を与えつつ、毒を【浄化】するのですよ!
●鉄騎、並び立ちて暴虐を討つ
『我、敵特記戦力の増加を確認す。現状戦力では撃退は困難と判断。増援到着まで遅滞戦闘へと移行する』
『戦線を整理し、各部隊を密集させろ。各個撃破など愚の骨頂だ。限りある戦力は有効に活用しろ』
戦闘開始から短くない時間が既に経過し、奇襲の効果もまた薄れつつあった。友軍は初手で護衛部隊の漸減に成功していたものの、それでも数は今なお相手の方が優勢。その上増援を見込み、殲滅から防御へと戦術をシフトし始めている。このまま手を拱いていれば、時間切れになりかねない。
「……つまり、此処で一発派手に打ち込んでやる必要があるって訳か。待たせたな『イェレナ』、ランデブーの時間だ。二重の意味でな」
そんな状況下に姿を見せたのは五人の猟兵たち。キリジを始めとする【特務一課】の面々は素早く戦況を一瞥すると、それぞれの乗機へと乗り込んでゆく。
(カルトゥーシュをストレイナーに接続……反応は良好。システムセットアップ、オールグリーン。問題はなさそうだな)
キリジは操縦席へ飛び込むや、頸椎部に内蔵された端末とコックピットシートを接続。己と鉄騎が一体化する感覚に身を委ねながら、コンソールを叩いて機体を目覚めさせる。身を起こしたのは漆黒に紫を差した鋭角的なフォルムの機体だった。
ふとモニター越しに周囲を見渡せば、仲間たちの機体も順次起動し始めている。
『……兵は神速を尊ぶという! ならば迅速に行動し、任務を遂行しよう! さぁ来てくれ、サチコ!』
戦場の舞台に仁王立ち、天に向けて高らかに指を打ち鳴らす鳳花。その呼びかけに応えるかの如く周囲の時空間が歪むと、群青色の装甲が目を惹く流麗なキャバリアが出現する。まるで戦乙女を思わせるシルエットに取り込まれると、彼女は大仰の仕草と共に機体を立ち上がらせた。
『今日のボクは戦場という名のステージの舞台監督さ! 歌劇は主役だけ居ればいいと言うものでは無い……皆の行動や目的や意図を汲み取り、最適なサポートを約束しよう!』
『良い子で待っていられたかなー……? うん、よしよし。それじゃあがんばろーね、黒玉姫。ガンバルゾー』
その横で輸送コンテナから身を起こすのは、グウェンドリンが駆る射干玉と緋色が目を惹くキャバリア。まるでドレスを纏ったかのようなその姿は、鳳花の機体とはまた別種の女性らしさを感じさせている。また機体自体が意思を持っているのか、脈動する燐光に応じて身じろぎをしている様に思えた。
『最悪の回避、上等なのです。世の中はー生きてさえいれば何とかなるものですから! その為にもまずは、お仕事に忠実な警備員さんたちには退いて貰うのです!』
そして最後の一機には、サギリと源次が乗り込んでゆく。彼らの搭乗する『白鈴号』は操作系が操縦手と制御手の二つに分かれているという、キャバリアでも珍しい複座型である。純白の甲冑を纏った生体機の中で、源次はふと己が拠点を出る前に『局長』と交わした会話を思い起こしていた。
――他所んちでやる事だから……ま、適当にね?
自分たちは飽くまでも情報と経験を得るために参戦した部外者。他国の情勢がどれほど込み入っていようとも、深入りしすぎるのは危険である。概ね、言葉の裏に込められた意図はそんなところだろう。それらを踏まえた上で、小さく深呼吸した後に青年は言葉を吐き出した。
『……サギリ、「適当」にやるぞ。敵がオブリビオンの影響を受けている以上、相応の気概を持って臨む。過剰過ぎず、手を抜き過ぎず、適正な力でな』
適当と言う単語は昨今でこそ『手抜き』などと同義となってしまっているが、元を正せば丁度良い塩梅の事を差している。ならばその忠告通り、必要な物を得つつ、他国の事情に踏み込みし過ぎないように……。
『特務一課所属機へ通達。視界に入る障害は『全て』撃破する。人道に悖る内容でなければ、手段は問わん』
――全力で、護衛も公王もぶっ飛ばす。
そのシンプルな号令に本坪鈴は任せろと快哉を上げ、機械人の青年はニヤリと不敵な笑みを浮かべゆく。
『合点承知なのです、お兄さん! ぶっ飛ばすのはー、サギリも一番得意なのです!』
『ハッ、要するに殺さなきゃ思いきりぶっ潰して良いって事だよなァ! さっきより単純で助かるぜ。それじゃあ俺たちも始めるとするか!』
相手が護りを固めようが関係ない。こちらはそれを真正面から打ち砕くのみ。【特務一課】の面々は号令一下、激戦の真っ只中へと飛び込んでゆくのであった。
『さて、と。それじゃあ、開幕の前にまずは舞台を整えてしまおうか。無数のキャバリアとの集団戦、敵と味方が入り乱れて事故でも起きかねない。最初に戦場全体を俯瞰して、敵陣の情報を共有するとしよう!』
そうして敵と正面切ってぶつかり合う前に、先んじて動いたのは鳳花である。先の宣言通り、今回彼女は仲間たちの支援役に回ると決めていた。蒼と翠の輝きを放つ背部飛翔翼をはためかせるや、戦場上空へと飛翔してゆく。
眼下を見やれば、敵は相互に援護し合えるよう密集陣形を組んでいた。前方に向けて突撃槍を構える姿は、敵機の甲冑然とした見た目も相まって中世のファランクスを思わせる。確かに強力な布陣ではあるが、一方で完璧とは言い難い。
『ふむふむ、やはり背後に護衛対象が居るからかな。正面に対しては強くとも、側面と背後に関しては手薄だね。となれば!』
この状況下で背後を取ると言うのは現実的ではない。かと言って、真正面から突撃するなど自殺行為である以上、選択肢としては一つだけだろう。鳳花は操縦席内で意識を集中させると、機体を通してそれを増幅させ、そして。
『ん、なんだ……機体の水平度計が、傾いて、っぅおぉ!?』
『おい貴様、何をやっている! 隊列を乱すな!』
予想外の方向から見えざる衝撃波を受けた結果、ぐらりと一機が体勢を崩す。それはほんの些細な傾きに過ぎなかったが、なまじ密集していたことが災いした。範囲こそ狭いもののまるでドミノ倒しの様に機体同士が衝突し、相互連携に空白が生じたのである。
『っ、よし! 陣形の一角を崩せたよ! 尤も、ちょっと体勢を崩しただけだから、すぐに埋められてしまうけど……』
『はっ、一瞬でもありゃぁ十分だ。切り込むぞ、イェレナ!』
時間にすれば長くても精々数秒程度か。だが、猟兵であればそれで十分。仲間の言葉を聞いた瞬間、キリジは瞬時に機体の加速を開始させていた。出力を全てブースターへと回し一瞬にして最高速度まで到達するや、塞がれかけていた間欠目掛けて電流を纏わせた貫手を抉り込む。
『っ、今の一瞬を狙うとは!』
『銃火器を操る為の動作が可能な角度には限界があるからよ、こうも懐に飛び込まれちゃ狙いも付けにくいよなァ。それとも限界以上に曲げてみるか?』
相手も咄嗟に左手で握った銃器を差し向けようとするが、肘の部分を鷲掴みにして動きを制した。両者の出力が拮抗した結果、ギチギチとフレームの軋む音だけがマニピュレータを通して伝わって来る。だが、そうした均衡もそう長くは続かない。
『いまさら腕の一本程度、惜しむと思ったか! こちらはどれも耐熱仕様だ、蒸し焼きにしてやれ!』
『おっと!? 骨のある奴は嫌いじゃねェが、今だけは厄介この上ねぇな!』
このままでは埒が開かぬと悟った敵機は、左腕が使用不能になるのも構わずに身を捩ると、僚機と連携して銃口より火炎を放ち始めた。また同時に対装甲用の徹甲榴弾まで浴びせられるに至り、これには堪らずキリジも機体を飛び退かせる。
『直上に別の機体も補足! どうやらあれが斥候役の模様です!』
『小賢しいな。各分隊ごとに目標を設定。第一分隊は対空迎撃、第二分隊は地上の敵を牽制、第三分隊は無人機の制御に専念せよ!』
そうして何とか立て直す余裕を生み出すと、敵部隊はそれぞれ指示された目標に向けて攻撃を開始してゆく。上空の鳳花目掛けては脚部機銃による弾幕が張られ、地上では撒き散らされた燃焼剤により炎の壁が生じ、そしてその合間を縫って凶悪な回転刃を備えた無人機が飛び回る。一瞬にして更に強固な護りを作り上げるとは、流石は精兵といった所だろう。
『っと、とと!? 注目されるのは願ったり叶ったりだけど、視線だけでなく弾丸まで飛んでくるとはね。まぁ、戦場なんだから当たり前なんだけど……!』
『大丈夫―? 危なそうだったから、援護に来たよ』
鳳花は巧みに機体を操作して機銃弾を避け続けるものの、流石に無傷とはいかず蒼い装甲に弾痕が穿たれてゆく。どうしたものかと思案する仲間の元へ現れたのは、グウェンドリンの駆る黒玉姫であった。腰部の羽を思わせる飛翔ユニットによって中空を舞いながら、少女はじっと敵の動きを見やる。
『ふーむ、こっちに対する攻撃は、分散させて密度が下がるし。回転刃も、手は有ると、して……あと問題なのは、火炎放射かー。でも、それって、放った周辺、だけ、だよね?』
空中に浮遊する機体が増えた事により敵の狙いも二分割され、相対的に弾幕は避けやすくはなった。無人機もまた、味方の射線を塞いでしまう事を恐れてか地上付近に留まっている。となると、仲間が再度の攻勢を仕掛ける障害は撒き散らされている火炎放射と徹甲榴弾の二つ。
それをどうにかするには、キャバリア本体を叩く以外に方法は無かった。
『私の、特技は……蹂躙。うん、みんなといっしょ。上から、失礼するよー』
炎の壁は高くても数メートル程度。空中からであれば無視する事は可能だ。グウェンドリンが機首を巡らせて降下体勢へ入ると、右手に巨大な槍を構える。彼女はそのまま落下の速度をそのまま乗せて、長大な得物を投擲した。
『高度の利を生かしたか。だが見た限り、向かってくるのは単なる槍。確かに脅威だが……それも当たればの話だ。各機散開! 陣形に拘り過ぎて、要らぬ痛手を被るのも馬鹿らしい!』
散布されたのは単なる焔ではなく、火のついた燃焼剤だ。そうそうすぐに消えるものでは無い。故に相手は陣を解いても問題ないと判断し、槍の着弾予想地点より離れてゆく。その判断は決して間違いではない、が。
『優秀なんだろうけど、ね。ちょっとだけ、頭が固くなっている、かもしれないかなー。残念だけど、「Scáthach」はただの槍じゃないよ?』
クンッ、と。地面へ突き立つ直前、槍が直角に軌道を変えた。そのまま手近に居た敵機を貫くや、そのまま貫通して別の敵へ。まるで猟犬の如く、次々と鉄騎目掛けて食らいついてゆく。グウェドリンの言う通り、それは単なる巨大な槍に非ず。投擲者の脳波操作によって変幻自在に飛翔する魔槍である。
『殺しちゃ、だめだから、手足だけ貫いて……うん、これなら、問題ないかな。私は準備があるから、今のうちにどうぞー?』
『よーし、これなら問題ないのです! さぁ、サギリも全力でお兄さんと白鈴号をサポートするのですよ! GO、GO、GOなのです!』
相手も猟兵の攻勢に対してよく対応したものだが、遂に此処で致命的な隙を曝け出した。仲間の援護に待ってましたと飛び出していったのは、純白の武者機だ。思い切り地面を踏みしめ、生身の武芸者も斯くやと言う動きを見せる。
しかし、進路上で未だに燃え広がるは紅蓮の地獄。そのまま飛び込めば、如何にキャバリアとて無傷では済まないだろう。だが、サギリに臆する様子は無かった。
『焔の扱いなら、サギリだって負けていませんよ! 単に攻撃するだけじゃなくって、どうすれば火傷しないで済むかもバッチリなのです!』
灼熱領域へ足を踏み入れる直前、サギリは霊力を機体表層へ巡らせるや耐火性能を飛躍的に高めてゆく。火を扱う者が炎に焼かれるなど笑い話にもならない。故にこそ、彼女の護りによって白鈴号は煤の汚れ一つ付けることなく、敵の懐へ肉薄する事に成功した。
『っ、あちら側にも耐火能力を持った機体が居たか! だが、我らが白兵戦を不得手などと思うまいな!』
『その長大な突撃槍が飾りではないと言いたのか? だったら、行動で示してみるんだな』
鋭い穂先を突き付けられ、サギリから主導権を手渡された源次は挑発に応じて腰部に佩いた大太刀を鞘走らせる。正眼に構えられた刀身からはゆらりと陽炎が立ち昇り、鋼に紫電が迸ってゆく。これも当然ながら只の刃ではない。注ぎ込まれた電力によって高熱を帯び、切れ味を増す武者機の主兵装だ。
『弱者を嬲るのみと侮られるのも不愉快ではある。よかろう、我らが槍捌きをその身で味わうが良い!』
繰り出される刺突は確かに鋭く、速い。だが源次は機体を通じて齎される情報を左目のデバイスで瞬時に演算。その攻撃軌道を完全に見切るや、最低限の足捌きによってそれを紙一重で捌き切る。と同時に、彼は一旦大太刀を納刀。相手の踏み込みを利用し、相対速度が最大になる瞬間を狙い――。
『その間合い……戴くぞ』
正に電光石火。神速の居合によって相手の得物ごと機体を一刀両断にして見せた。鮮やかに上下を分断され、バラリと崩れ落ちる虐殺者。刀身を振って付着した機械油を払いながら、源次は残った敵に警告を飛ばす。
『安心しろ、コックピットは外している。こちらも命までは獲らん。しかし……邪魔立てするならその限りではないと知れ』
『人間一人育て上げるにも十年単位の時間が掛かる。戦争なり内戦で人口ピラミッドが崩れた例も多いらしいし、今後の事を見据えればこっちも流血は最小限に抑えたいところだしなァ』
その気迫に相手は一瞬だけ臆したように後退る。更には駄目押しとばかりに、再突撃の機を窺っていたキリジもまた仲間の後に続いて敵群へと襲い掛かった。爪付きマニピュレータで組み伏せるところまでは同じだが、今度は手首の部分に内蔵された銃器によるゼロ距離射撃を叩き込む。腕や足の接合部を撃ち抜かれ、こちらも戦闘続行は絶望的だろう。
『流血、か。この機体の名前くらい、貴様らも承知の上だろう。他人に流させることは無論、自らが流す事を厭う訳も無し!』
『はっ、そうかよ……!』
そこで戦意を喪失しなかったのは精鋭としての矜持か、これまで行ってきた任務に対する責任感か。敵群はそれまで温存していた無人機たちを動員し、キリジや源次を四方八方から襲わせてゆく。コックピット内に毒ガスが侵入してくる可能性はほぼ無いが、代わりに毒々しい煙が視界を閉ざす。それに紛れて自爆覚悟の突撃をされれば、流石に痛手を覆う事は免れないだろう。
『むむむむ! 白鈴号も、皆さんもー、すげーやるのです! サギリも負けてられないのです! とりあえずあの飛んでるノコギリちょっと厄介ですね。毒ガスも困りますし……よーし、全部燃やしてやるのです!』
であればと、一計を案じたのはサギリだった。彼女は機体を覆っていた霊力を護りから攻撃へと転化。金色の鈴火へと変えるや、周囲に浮遊する無人機目掛けて投擲する。着弾と同時に爆発しながら、内部より吹き荒れる毒ガスも高熱で浄化。大気に透明さを取り戻してゆく。だが、敵群は次から次へと補充の無人機を展開している。このままでは数の差が開く一方だと、本坪鈴が思わず歯噛みした――瞬間。
『それじゃあ、仕上げにこれを投入ー。大丈夫、大丈夫。この子はちゃんと真っ直ぐ走るはず……多分。まぁ、月の魔力、だから。命は奪わないので、のーぷろぐれむ』
銀の燐光を纏った何かが戦場へと飛び込んできた。鉄騎か、戦車か、爆弾か? 答えはどれも否。それは運命を司る車輪にして、或る英国紳士たちが紅茶をキメて作り上げた迷兵器。
『気にせず、とつげーき。ゴー、Arianrhod(パンジャンドラム)』
即ち、自走式爆雷である。それは狂ったように戦場を駆けずり回り片っ端から虐殺者を引き倒すと、その中心部で盛大に自爆する。爆発に巻き込まれた無人機は連鎖的に破壊され、毒ガスの霧も吹き散らされてゆく。無論、敵の機体とて無傷では済むまい。
『わ、我らは……我らは公王様の護衛部隊。こんな所で斃れるなど、許されは……!』
『事の善悪はともあれ、ボクはその忠実さに敬意を表そう。だけどどうか、この場で無為に命を捨てないでおくれ。キミの献身はもっと大きなところで発揮して欲しいんだ』
大半が戦闘不能になり地面へ倒れ伏す中、辛うじて生き残った機体がなおも抵抗せんと折れた突撃槍を構えた。機体各所から火花が散り、これ以上下手に動けば誘爆しかねない。だがそんな相手を止めるべく、すぐ側に舞い降りた鳳花がオープンチャンネルで呼びかける。
『今は納得できないかもしれない。ボクたちを恨むかもしれない。だけど、きっと悪い様にはしないから。キミも疲れたろう? ゆっくりと、お休みよ』
『な、にを……?』
ゆっくりと宥める様に紡がれる言の葉と共に、穏やかな子守歌が流れゆく。相手も気力が尽きかけていたのだろう。反駁しながらもとろりと瞼が落ち、次の瞬間にはかくりと首を垂れていた。微かに聞こえて来る寝息を確認すると、鳳花はほっと一息つきながら通信を切る。
『一先ず、この周辺はこれでお仕舞いかな?』
『みてェだな。まぁ、周りはまだドンパチやっているし、一旦はってトコだが……お疲れさん』
仲間を労いつつ、キリジは機体から脱出した敵パイロットたちへ戦場外に退避するよう促している。この様子ではわざわざ捕虜を取る余裕もないだろう。今なおあちこちでは戦闘が多発しているのだ、流れ弾に当たって全滅など不殺を心掛けた甲斐が無いというもの。
『その為にも速やかに作戦を終わらせねばな……特務一課、引き続き戦闘を継続する』
そうして五人は最低限の損傷チェックを終わらせると、再び戦闘へと身を投じてゆくのであった。
成功
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ヴィリー・フランツ
wiz
心情・理由:通常のパラティヌスかアマランサスかと思ったが、随分と血生臭い機体が出たもんだ、俺達には少々役不足だな。
手段:無人ユニットを止める、ドローンを射出し【電子対抗手段】を実行、無人機の無力化と増援阻止を
試みる。
後はRS一六式自動騎兵歩槍とクロコダイル速射砲による射撃戦、そんな脚の対人機銃程度でタイフーンの増加装甲をぶち破れると思ってんのか?
折を見て近接戦闘に移行、右手の一六式をハードポイントに引っ掛けRXバーンマチェーテを抜刀、盾を構えスラスター全開にして突撃!
先ずはシールドによる打突攻撃、その後マチェーテによる追撃を行う。
雑魚の相手してる暇はねぇ!さっさと公王の面を拝みに行くぞ!
ルイン・トゥーガン
はんっ、パラティヌス・スローターが首都に配備するよう機体かい
民をどう思ってるのか透けて見えるってもんだよ
おっ、ちゃんと届いてるね
アマランサス・マリーネ、出るよっ
ハッ、こういう輩の手管はよく知ってるよ
それにアタシに言わせりゃ機体機能に頼ってやってる時点は分かりやすくはあるね
おや、ジャミングかい。首都でジャミングとか、本当になにを考えてるんだか
だが悪手だね。ジャミング下での戦闘をアタシが出来ないとでも?
マリーネ乗りが元ズィガ帝国のどういう人間か知らないんだねぇ
公王邸や敷地外の市街地を上手く利用する位置取りで翻弄してやるさね
無人ユニットは左手の散弾バズーカやサブアームのサブマシンガンで対処するよ
●正道邪道、戦場にその境は無く
『左翼、損耗率が二割を超えなおも増加中! 正面と右翼は善戦していますが、それでも拮抗状態の維持が限界です!』
『ええい、死守だ死守! 時間さえ稼げば、首都外の駐屯地より援軍が来る! それまで何としても持ちこたえろ!』
戦況は中盤を超え、そろそろ後半戦に差し掛かろうかと言う頃合いか。クーデター・自治領連合部隊は猟兵の助力もあり、ジリジリと前線を押し上げつつある。だが逆に言えば、それでもなお戦線を維持しているのは護衛部隊の面目躍如といったところか。
『通常のパラティヌスかアマランサスかと思ったが、随分と血生臭い機体が出たもんだ。キャバリアの襲撃以外にも警戒してって事だろうが、俺達には少々役不足だな』
「はんっ、そもそもパラティヌス・スローターが自分の首都に配備するような機体かい。ありゃ、制圧した敵都市や拠点に投入される手合いさ。全く、民をどう思ってるのか透けて見えるってもんだよ」
とは言え、敵部隊が使用している機体は曰くつきの逸品だ。精鋭と言う肩書に偽りは無いのだろうが、その任務内容は機体カラー同様真っ黒と見て良い。重キャバリアのモニター越しに相手の性能を分析するヴィリーの傍らでは、ルインが輸送トラックの荷台に掛けられた布を引き剥がし、愛機の様子を確かめている。
「おっ、ちゃんと届いてるね。輸送途中に損傷した様子も無し、と。アマランサス・マリーネ、出るよっ!」
彼女もまた、赤紫と濃紺でカラーリングされた高機動機を起動し身を起させる。仲間の使う機体を見て、ひゅうと傭兵は口笛を吹いた。
『なるほど、アマランサスを使うのはそっちか』
『まぁ、そう言う事さね。幸か不幸か、ああいう輩の手管はよく知ってるよ。それにアタシに言わせりゃ、機体機能に頼ってやってる時点は分かりやすくはあるね』
表向きに出来ない汚れ仕事と言う点では、ルインもまた経験豊富だ。それ故に相手が何を仕掛けてくるかある程度の想像はつく。ともあれ、純粋なキャバリア戦において対人用の機能などそこまで役に立つものでは無い。
重武装の大型機と高機動を旨とするカスタム機がジリジリと間合いを図って仕掛け時を窺う中、敵部隊もまたその姿に気付き先んじて動いた。
『敵機確認、数は二! 数字の上では優っていますが、これまでの傾向を鑑みると……』
『ええい、頭数が足りぬならドローンを出せ。その為の無人兵器だろうが!』
敵部隊は牽制がてらに脚部機銃を乱射しながら、背部コンテナより回転刃を備えた無人兵器群を展開する。濛々と毒ガスを吐き出しているが、殺傷よりも視界を遮る狙いだろうか。苦肉の策だろうが、有効である事には違いない。
『俺の「タイフーン」は機動力に欠けるからな。ああいう小回りの利く手合いは得意じゃない……だからまずは、そいつらを止めるとするか』
そう言ってヴィリーがコマンドを入力すると、ふわりとプロペラを備えた物体が出現する。これもまたドローンの一種。しかしその役目は相手の様な敵の殺傷ではない。
『準備完了だ、ECMドローン展開! 敵ドローンの無力化と同時に、一六式自動騎兵歩槍とクロコダイル速射砲による制圧射撃を開始する!』
ドローンを起動させた瞬間、周囲一帯の大気が一瞬揺らめいた。すると敵の無人機が次々と統制を乱し、糸が切れた様に墜落し始める。ヴィリーの操っているドローンはECM、つまりは敵の電子機能を阻害する電波の放射能力を備えていたのだ。これにより、敵無人は軒並み行動不能に陥ってしまう。
そうして邪魔者を排除したと見るや、手にしたライフルと肩部の単装レールガンによる猛烈な射撃を加え、敵群を打ちのめしてゆく。
『でかい図体をして、電子戦まで得意としているとはな。しかし、それは此方も同じこと。条件をイーブンにまで持ち込ませて貰うぞ!』
命中した攻撃を炸裂装甲で辛うじて凌ぎながら、敵部隊もまたジャミング波を発生させ猟兵側のドローンを無力化してゆく。両軍の電子妨害が入り乱れ、下手をすればキャバリアのシステム系にも障害が出そうなレベルだ。
『やれやれ、そっちもジャミングかい。襲う側のアタシらなら兎も角、首都で忘我う電波をまき散らすとか、本当になにを考えてるんだか……だが悪手だね。ジャミング下での戦闘をアタシが出来ないとでも?』
しかし、ルインにとってはそんな状況など日常茶飯事だった。無線封鎖は勿論、電波を発さぬ機器の使用が禁じられるなど不正規戦では珍しくない。彼女は機体のバーニアを勢いよく吹かせると、大きく弧を描くように地面を滑ってゆく。
『マリーネ乗りが元ズィガ帝国のどういう人間なのか知らないんだねぇ。まぁ、表立って喧伝する様な話でもないけどさ……此処は一つ、実際に体験して貰うよ』
差し向けられた槍の穂先に沿って、短い光条が立て続けに襲い来る。しかし、急な加減速を織り交ぜた機動に追従できる程、相手の射撃性能は高くない。そのまま公王邸の敷地内を飛び出すや、周囲の建物を遮蔽物代わりとしつつ間隙から射撃を叩き込んでいった。
『相手はどうしたって後ろに居るお偉いさんを護らなきゃならないからね。場合によりけりだけど、あの手の機体で足が使えなくなったらお仕舞いだよ』
『なるほど、つまりこれで条件的には俺と同じってか。ドローンの心配もなくなったし、こっちも偶には近接戦闘でもしてみますかね!』
足を止めず常に動き回るルインの攪乱によって、敵部隊の連携は緩み切っている。ならば此処で流れを完全にもぎ取るべきだと、ヴィリーはライフルの代わりに山刀型ソードを引き抜いた。刀身を赤く過熱させながら盾を構えると、スラスターを全開にして吶喊してゆく。
『デカブツがこちらに来るぞ! 火力を集中させて押し返せ!』
『やっています! ですが、装甲が厚過ぎて
……!?』
ありったけの火力が重キャバリア目掛けて叩き込まれるが、ここで機体設計の限界が露呈する。なまじ対人用に装備を割いていたせいで、発揮できる攻撃力に限界があったのだ。通常の戦闘ならばまだしも、今回の様な重装甲機相手には心許なさ過ぎた。
『そんな豆鉄砲程度でタイフーンの増加装甲をぶち破れると思ってんのか? 雑魚の相手してる暇はねぇ! さっさと公王の面を拝みに行くぞ!』
壁と見紛う盾に強かに打ち据えられ、虐殺者の装甲がひしゃげる。其処へマチェーテが振り下ろされればあっさりと装甲は溶断され、機体は機能を停止した。相手も唯一抵抗できそうな武装である突撃槍を構えるも、すかさず横合いから海兵隊仕様のアマランサスが機先を制す。
『はっ、させると思っているのかい! この距離なら狙いも何もないしねぇ、行きがけの駄賃代わりに全部持っていきな!』
『な、ぁ
……!?』
展開したサブアームによるサブマシンガン、右手のアサルトライフルに左手の拡散バズーカ、更には肩部ミサイルポットまでも解放し、一斉射撃を叩き込んでゆく。この距離ならば妨害電波で誘導能力が停止していても問題は無い。果たして、強烈な爆炎と共に虐殺者たちは木端微塵に吹き飛ばされていった。
『こいつはすごいな。アマランサスの真骨頂を見せて貰ったぜ。ただ、殺しちまったのか?』
『そっちの火力も中々だね。さて、生き死にに関しちゃ、着弾の寸前に脱出ポットが排出されてるのが見えたよ。相手もプロだ、引き際は弁えてるさ』
互いの健闘を称え合いつつ、伽藍洞になった戦場を眺める二人の傭兵。その視線の先には以前沈黙を保ったままの公王邸が聳え立つのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リジューム・レコーズ
出てきましたか、オブリビオンマシン
搭乗者の練度も相応なようですね
ですが…来い!ディナ!
メインシステム、戦闘モード起動!
対人機関銃など避けるまでも無い
EMフィールドの守りがあれば十分遮断可能でしょう
自律兵器はイグゼクターの速射で撃ち落とします
無駄なんですよ!そんな攻撃は!
手間は掛けない!力で捻じ伏せる!
一気に間合いを詰めてブレイクドライバーで殴打し擱座させます
パイロットに用は無い!死にたくなければ降りろッ!
擱座した敵機へマンティコアと肩部アンカークローを突き刺しパワーオブザ・シールを発動
エネルギーを吸収し尽くした上で高速機動で引き摺り回して他の敵機と衝突させます
●弾き、穿ち、奪い、薙ぐ
「出てきましたか、オブリビオンマシン。これだけの攻勢を受けていてもなお持ちこたえているとは、搭乗者の練度も相応なようですね。流石は精鋭と言ったところですか」
じりじりと戦線を押し込みつつあり、戦況的にはクーデター・自治領側がやや優勢といった所か。だが、リジュームの表情には油断も慢心も浮かんでなどいなかった。言い換えれば奇襲からの攻勢を仕掛けたにも関わらず、まだ『やや』優勢止まりなのだ。混乱からの立て直しと反転攻勢の手腕は決して侮れるものでは無いだろう。
「ならば……来いッ! ディナ! メインシステム、戦闘モード起動!」
故にこそ、こちらも全力で挑む必要があった。猛々しい呼び声に応じ、近くの廃倉庫の屋根をぶち破って身を起こしたのは、各部に蒼い燐光を帯びた一機のキャバリア。それは相対した過去からの脅威と同じ存在であった。だがリジュームは臆することなくコックピットへ乗り込むと、己と機体を接続し各種システムを立ち上げる。
『目標、前方の二個小隊! これより戦闘を開始するッ!』
乗機より流れ込む濃密な憎悪を闘争心でねじ伏せると、リジュームは手近な敵群目掛けて機体を吶喊させた。生身の人間では不可能な急加速に対し、流石に敵部隊も急接近する鉄騎の存在に気付いたらしい。余りの速度を前にまずはその勢いを減じさせる為、咄嗟に脚部の機銃を差し向けると弾幕を展開してゆく。
『急速接近する敵影有り! 数は1、見た事もない機体です!』
『っ、なんという速さだ。ポイズンソーを出せ、速さには手数で対抗しろ!』
機銃射撃だけでは足らぬと、敵部隊は背部コンテナより自律式の無人兵器を次々と展開してゆく。機械の身であるリジュームにとって毒ガスなど然したる脅威ではないが、回転刃と自爆は中々に厄介だ。しかし、それに対する彼女の答えは非常にシンプルであった。
『キャバリア用ではなく、対人想定の機関銃など避けるまでも無い。EMフィールドを起動、出力は最大でなくとも構いません。ある程度の守りがあれば十分遮断可能でしょう』
それは小細工無しの正面突破。リジュームは周囲に電磁障壁を展開すると、襲い来る機銃弾の悉くを弾き返してゆく。彼女の言葉通り、生身の人間を撃つ為の兵装でキャバリアの攻撃すら受け止める護りを貫けるわけがない。
ならばと弾幕を抜けた先で無人機が待ち受けていたが、これとて物の数では無かった。
『どれも所詮、逃げる市民を追い立てる為だけの虚仮落とし! 無駄なんですよ! そんな攻撃は! 手間は掛けない! 圧倒的力で捻じ伏せる!』
唸りを上げて殺到する自律兵器群へリジュームはアサルトライフルを差し向けるや、二門の銃口から強烈な閃光が迸る。瞬間火力を追求したその武器は、コンマ以下の時間で無人機を殲滅。生まれた隙間へと機体をねじ込ませ、更に前へ踏み込んでゆく。
『なんだありゃあ、人間業じゃねぇ……!』
『呆けている場合か! 白兵戦闘、よう、ぃ……ッ!?』
相手も咄嗟に突撃槍を構えて迎撃準備を整えようとするも、それが却って不味かった。周囲をどやしつけた機体が指揮官であると目星を付けるや、彼女もまた得物を持ち替えて躊躇なく振り抜く。それは槍だ。だが、敵の様に鋭い形状ではない。螺旋を描くシルエットは正しくドリル。その名も対物掘削衝角剣槍『ブレイクドライバー』。強靭かつ、重厚な大質量武器である。
『パイロットに用は無い! 死にたくなければ降りろッ! これが最初で最後の警告だ!』
『ちぃぃ……っ!』
ひしゃげたキャバリアから操縦者が飛び出すと同時に、リジュームは機体後部と肩部に装着されたアンカーを擱座した機体に固定。ケーブルを通してエネルギーを吸収しながら、再度の加速を開始する。当然、そのすぐ後ろには敵機を繋いだままでだ。
『お、おい。こっちに向かってくるぞ』
『まさか、引きずったキャバリアをそのままぶつける気か!』
敵部隊が真意に気付いた時にはもう遅い。交錯と同時に僚機で跳ね飛ばされ、砕け散った部品が宙を舞う。たちまちの内に、敵陣は大混乱に陥る。
(このまま戦意を喪失するなら良し。でなければ、全て戦闘不能に追い込むまで!)
斯くしてリジュームは戦場を縦横無尽に駆け回り、散々に敵部隊を掻き乱すのであった。
成功
🔵🔵🔴
勘解由小路・津雲
よしよし、友軍からの支援で後鬼が届いた。こいつがいないと、キャバリアの相手は少々面倒なのでな。
【戦闘】
幸い、先の戦いで借りた武装(グラビティガンと曲刃)もある。呪法で強化した後鬼ならば、おくれはとるまい。
妨害電波は少々厄介……なのだろうな、普通の機体ならば。だが後鬼は式神を付与して動かしている。影響はほぼないか、あったとしても式神で補える。
で、あれば。逆に影響が出たふりをして、相手の不意を衝くこともできよう。
ただ対人用の鉄片とやらは本当に厄介だな。所々生えている木の陰で守りを固めてやりすごすとしよう。
後鬼は元々戦車ゆえ、乗ることも出来るのだろうが、ああ動かれては酔うのでね……。
●鬼の霍乱、鉄騎を翻弄す
「皆、随分と派手にやっているな。まぁ、これまで気を遣う隠密行動を強いられてきたのだ。その分、鬱憤も堪っていたのだろう。となれば、俺も加わりたいところだが……」
公王邸を中心とした戦場をざっと見渡し、思わず津雲はそう呟く。だがそれも無理のない事だろう。それまでの静寂からは一転、銃声や爆発音、鉄と鉄のぶつかり合う音がそこらじゅうで響き渡っているのだ。敵味方共に連携はしているが、それでも混沌と言う他なかった。
「よしよし、しっかりと送り届けてくれたか。対抗手段も無い訳ではないが、流石にサイズ差は如何ともしがたい。こいつがいないと、キャバリアの相手は少々面倒になるのでな」
そんな光景を横目に、津雲は手近に停まっていた輸送トラックの荷台を確認すると、覆われていたシートを引き剥がす。その下に鎮座していたのは武骨な二脚戦車だ。己が主の姿を確認すると、起動した二脚機はぴょんと荷台から降りて陰陽師へと付き従う。
「幸い、先の戦いで借りた武装もある。そのお陰で遠近共に対応可能なうえ、呪法で強化した後鬼ならば万が一にも遅れはとるまい」
元となった素体は砂塵舞う荒野から引き揚げたものだが、中身については別物と言って良い。憑依させた式神をOSとした上で、更にそれを呼び水として八将神の神威を籠めてある。これならばカタログスペック以上の性能を発揮してくれるだろう。
(さて、さて。準備も整ったのだし攻め掛かっても良いのだが、策も無しと言うのは些か芸がない。後鬼相手に相手が取りそうな手と言えば、脚部の機銃に炸裂装甲、それに……妨害電波か)
一先ずそっと木陰に身を隠しつつ、津雲は敵陣の様子を窺う。二脚機は確かに強力だが、サイズそのものはキャバリアよりも小さい。機動力を頼みとする此方に対し、きっと手数に長ける機銃や妨害電波を放ってくるはずだ。
(妨害電波は少々厄介……なのだろうな、普通の機体ならば。だが後鬼は式神を付与して動かしている。電子部品の類を考慮したとしても、影響はほぼないか、あったとしても式神で補えるだろう。で、あるならば……)
ある程度の方針は決まった。ならばあとは行動するのみ。陰陽師がシャンと小さく錫杖を鳴らすと、それを合図として二脚機が飛び出してゆく。当然ながら、それに気づかぬほど相手も甘くは無い。
『新たな敵機が接近! 小さいな、キャバリアじゃないぞ……小型の戦車か?』
『なるほど、あちら側もそろそろ戦力が払底したと見える。だが油断はするな! 牽制射と同時にジャミングを行い、動きを鈍らせろ!』
途端に迸る幾つもの光条と強烈な電磁波の嵐。前者については機敏な動きによって掻い潜る一方、全周囲に放射される不可視な波は回避しようがない。グラリと、まるでつんのめる様に二脚機の動きが鈍る。絶好の好機を前に、敵部隊は一斉に狙いを定め……。
『取ったッ!』
「……と、思うだろうな」
集中砲火が放たれる直前、急に滑らかな動きを取り戻すや、危なげなく攻撃を回避。そのまま敵の懐へと飛び込むと、重力砲と曲刃を振るって大立ち回りを繰り広げ始めた。これには護衛部隊も対応しきれず、たちまちの内に大混乱へと陥ってゆく。
(影響が出た振りをして油断を誘い、その隙を突いて一気呵成に畳みかける。よもや、ここまで上手くいくとはな。劣勢の中でさえ、所詮相手は寄せ集めだと言う先入観があったのか。まぁ、此方にとっては好都合だ。とは言え……)
重力球で押し潰し、弧を描く刃で斬り裂き。サイズ差を活かした立ち回りで、二脚機は敵中を跳ね回る。だが攻撃が命中する度、装甲表面に張り付けられた炸裂装甲が弾け、鉄片が撒き散らされてゆく。パチリと身を隠す樹の幹が弾け、陰陽師は思わず首を竦めた。
(この対人用の鉄片とやらは本当に厄介だな。これが生身の兵士や一般市民に向けられていたなど、全く以て恐ろしい。まぁ、俺の場合は後鬼に搭乗すれば良いだけではあるのだが……)
今でこそ式神による自律こそしているが、二脚戦車は本来有人を想定した兵器だ。強固な装甲に覆われた内部に入ってしまえば、鉄片如き恐れる必要は無いだろう。彼自身、その理屈は分かっているのだが。
(……ああも激しく動かれては、流石に酔うのでね)
これも人の姿を得たが故の悲喜こもごもか。そんなしみじみとした思いを抱く陰陽師の眼前で、粗方敵機を無力化し終えた二脚機が誇らしげに砲を振っているのであった。
成功
🔵🔵🔴
リーオ・ヘクスマキナ
……大抵のキャバリアはエネルギーインゴットで動いてるんだってね
じゃ、今回はコレの出番って事になるかな?
分霊兵の要領で複数を……って言ってみたいけど、キャバリアは初めてだし。まずは1機、お試しでお願いね?
ユーベルコードでの制御に専念する為に、赤頭巾の化身を解除
ペストマスク型ガスマスクを被りつつ、敵キャバリアに向けて局所的且つ集中的に赤い雨と風を降らせる
迷彩や障壁魔術で機械刃や機銃を凌いで時間を稼ぎつつ、敵機の内、1機のコントロールをUCで無理矢理掌握
掌握した機体のパイロットには「快く」降りて頂きつつ鹵獲
直接操縦は出来ないので、戦闘は赤頭巾さんに任せて周辺注意(と、応援)に専念するような形に
●赤き舞台で頭巾と踊れ
『残存戦力が三分の一を切りました! このままでは、防衛の維持も困難ですッ!』
『使える物は何でも使え。破損した機体とて、固定砲台くらいにはなる。何としてでも時間を稼ぐのだ!』
戦況とは張り詰めた糸のようなものだ。限界までは驚くほど柔軟に耐えるが、一度切れてしまえばもう戻らない。護衛部隊もそれを理解しているのだろう。己の不利を悟りながらも、いずれ来る『その瞬間』を少しでも先延ばしにしようと決死の抵抗を続けていた。
「ふーむ、壊れた機体でも何でも使って、か……そう言えば、大抵のキャバリアはエネルギーインゴットで動いてるんだってね。じゃ、今回はコレの出番って事になるかな?」
腕部や脚部を失ったキャバリアの群れを前に、木陰から様子を窺っていたリーオは思案気に顎を撫ぜていた。彼は敵の陣容を一通り眺め終えると、それまで己の傍らに控えさせていた赤頭巾の維持を解除する。代わりに取り出したのは、鴉の嘴を思わせる形状のマスク。それを顔面に取りつけると、呼気の漏れが無いか息を吐いて確かめてゆく。
「うん、問題はなさそうかな。さて、と。霊兵の要領で複数を……って言ってみたいけど、キャバリアは初めてだし。まずは1機、お試しでお願いね?」
リーオがくるりと指を回せば、ひゅうと湿り気を含んだ生温かな風が吹き始める。そよ風程度だったそれは徐々に勢いを増し、たちまちの内に梢を揺らす程の勢いへと変じていった。それに伴い小さな雲が生まれたかと思うと、敵部隊目掛けてぽつぽつと雨が降り注いてゆく。
『なんだ、雨……ってどういう訳だ、赤いぞ? 血に見たいに真っ赤だ』
『BC兵器か何かやもしれん。だが無駄な事だ。こちらは毒ガスも扱う機体なのだぞ。それらに対する防備とて当然施している。だが、やけに不安を覚えるのは何故だ?』
漏れ聞こえる会話の通り頭上を覆う雲も、降り注ぐ雨も、吹き荒ぶ風さえも。全てが真紅に染め上げられていた。だが、そうした視界不良により一層の注意を払ったが為だろう。ある一機がリーオの隠れている方角へ頭部を向けると、弾かれたように手にした銃器を向けてくる。
『っ、十時の方角に歩兵を視認! マスクをしてやがる、あれが仕掛け人か!』
「おっと、バレてしまったみたいだ。まぁ、どのみち姿を晒すつもりだったけどね?」
対人機銃の弾幕に飛翔する自律兵器群。瞬時に襲い掛かって来るそれらに対し、リーオは迷彩術式や障壁魔術を用いて狙いを逸らし、攻撃の嵐を走り抜けてゆく。幸い、一番のネックだった毒ガスも、ペストマスクのお陰で大きな影響もない。
そうして彼は赤い風雨が敵部隊へ十分に浸透したと判断するや、パチリと指を鳴らす。瞬間、起こった出来事は極めて劇的だった。
「悪いけど、無理にでも踊って貰うよ。例えそう命じられただけで、あなた自身に罪が無くてもね……!」
『な、なんだ、機体の制御が効かん!? システムに影響はないというのに!』
戦闘を行っていたキャバリアの一機が突然身動きを止めると次の瞬間、周囲に展開する僚機へと攻撃を仕掛け始めたのである。
そう、これこそが少年の狙い。これら赤き呪いは、燃料で稼働するあらゆる物品の制御を掌握する事が可能なのだ。その気になれば複数機の支配とて不可能ではないだろうが、今回は不慣れ故にまだ無し。取り急ぎ一機だけコントロールを奪うと、操縦者を強制的に排出させ、代わりに自身が乗り込む。
『さて、「快く」降りて貰った所で本番と行こうか。とは言え直接操縦は出来ないから、そっちは赤頭巾さんに任せて、俺は周辺警戒に専念するとしよう』
再度出現させた赤頭巾に操縦桿を握って貰いつつ、リーオはメインカメラを介して周囲の状況をつぶさに把握してゆく。幸い、相手は半壊状態のキャバリアばかり。多少操作に不慣れでも、五体満足なこの機体であればそう負けることは無いだろう。
そうして赤き戦場の真っ只中を、少年と赤頭巾は駆け抜けてゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
ファン・ティンタン
【SPD】似て異なるモノ
アドリブアレンジ可
さて、今度こそは大物同士の見せ場となるかな
求煉、存分に暴れておいで
【求煉鬼道】
どの世界でもそうだけれど、自身の常識を過信する者では猟兵を討つことは出来ない
科学と魔術、相容れぬ体系の闘争をこの機に学ぶと良いよ
電波妨害されようとも、魔力同調する求煉とのラインは途切れない
鉄片散布は求煉の巨体でカバーリング
ビーム兵装は的が小さい私が直々に対応、内に潜り込んで叩き斬っていこうか
敵機巨体は求煉で組み伏せ、機動力を優先的に削ぐ
脚の一本も食い千切り、推進機構の片側も斬れば十分か
人型機は格好いいけれど、態勢制御に難ありだよね
求煉は? この子は元々自在金属だからね、無問題
●真価を見せよ銀緋の鋼
『ええい、まだ増援は来ないのか! どれだけの時間が経ったと思っている!?』
『敵勢力による工作と思われる障害の影響です! 人員を割り当てて復旧に当たらせておりますが、この状況では……!』
戦闘開始から短くない時間が経過し、既に戦況は友軍の優勢へと完全に傾きつつあった。敵部隊の数も当初より大幅に目減りし、周囲に散乱する残骸の数の方が多いくらいである。そんな状況下でも職務を放棄せず継戦の意思を保っている点は、果たして愚直と笑うべきか忠勇だと賞賛すべきか。
「さて……今度こそは大物同士の見せ場となるかな。さっきは見せるだけ見せただけで、まともに戦いはしなかったからね。大丈夫、今回は途中で止めたりはしないさ」
そんな様子に紅の左瞳をそっと細めながら、ファンは掌を地面へと差し向ける。とろりと、服の裾より流れ落ちるは水銀を思わせる硬質なる輝き。その先端が地面へ振れた瞬間、少女の魔力を糧として爆発的に膨張。まるで間欠泉の如く天目掛けて噴き上がったと思いきや、瞬く間に鉄騎の輪郭を形成してゆく。
現れるは銀色がかった黒鉄に朱色を差した、鋭角かつ武骨なシルエット。意思持つ流体金属が形成せしその銘は『求煉』。突如として出現したキャバリアに、護衛部隊にもどよめきが走る。
『なんだ、液体の様な金属? それが形を成した、だと? サイキックキャバリアでも、その様な存在は聞いたことが無いぞ』
「どの世界でもそうだけれど、自身の常識を過信する者では猟兵を討つことは出来ない。まぁ、文字通り次元が違うのだから、それも無理のない事ではあるけれども。折角なんだ。科学と魔術、相容れぬ体系の闘争をこの機に学ぶと良いよ」
これまでの経緯から、この大公国が比較的科学方面に偏った国家であると推察出来ていた。もしこれがサイキックキャバリアやスーパーロボットを主軸に据えた国家であれば、まだ動揺は少なかっただろう。ともあれ、相手の無知はこちらの利でしかない。
「我慢しっぱなしだったんだ。中から一方的に命令を出されるのも、あまり愉快な気分じゃないだろう。さぁ、求煉……存分に暴れておいで?」
白き刀がそう告げるや否や、鉄騎は待ってましたとばかりに飛び出してゆく。それを見た護衛部隊は一斉に突撃槍を構えると、内蔵された光線砲から輝きを放ち始めた。
『ちぃっ、機銃程度で止められるとは思えん! レーザーで焼いてやれ! 万が一接近された場合は炸裂装甲を手動起爆しろ!』
『見たところ、遠隔操作型か? ジャミングも合わせて実施! 何としても止めろッ!』
たちまちの内に戦場を短い点線状の光が覆い尽くしてゆく。更には大気が揺らめくと同時に、強烈な出力の妨害電波が照射される。尤も、後者に関しては問題無いのだが。
(私と求煉の繋がりは魔力による同調……電波やジャミングだのという考え自体が見当違いなのだけど、訂正してあげる義理もないしね。ただ、レーザーだけはちょっと頂けないかな)
如何な流体金属とて、高熱で炙られれば蒸発は免れぬ。故にそれを止めるべくファンは単身先行すると、手近な敵機体を駆け登る。そうしてすらりと鞘走らせた己が刀身を振り抜けば、突撃槍が根元から両断された。
『っ、歩兵の接近を許したか! だがぁっ!』
操縦者も一瞬目を剥くものの、すぐさま我に返ると炸裂装甲を起爆させた。衝撃と共に四方八方へ撒き散らされる鉄の嵐。例え仮初の肉体とて、その一撃は致命に他ならない、が。
――ォォォオオオオッ!
迎撃の勢いが僅かに減じた隙を突き、間髪入れずに距離を詰めた鉄騎が虐殺者を組み伏せる。爆風も、鉄片も、まるで水面に沈む小石の如く吸収され、傷らしい傷を負うことは無い。そのまま脚部を引き千切って同化すると同時に、ファンも目敏く推進器を切り落としてゆく。
「歩行とは即ち、転倒の連続行為……人型機は格好いいけれど、やっぱり態勢制御に難ありだよね」
二足は地形の踏破性能に長ける一方、多脚や無限軌道と比べて安定性に欠ける。こうなってしまえば、取り急ぎ継戦能力は失ったと言って良いだろう。ふと、倒れた敵機のメインカメラが自らへ向いている事に気付いた少女は、ふと悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「おや、求煉はどうだって? この子は元々自在金属だからね、体積さえ気にしなければ無問題さ」
ついでとばかりに巨大なレンズを割り砕くと、白き刀は鉄騎と共に次なる相手へと挑み掛かってゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
ペイン・フィン
【路地裏】
成る程、虐殺者、ね
まあ、自分たちは攻め込んだ側
護る側がどんなモノを使おうと、文句は無い
戦争で扱われた以上、どれだけ血を流していても
そこには、そうせざるを得ない理由があったとも、認めるよ
自分は、ね
でも、染みついた血潮は、そこに込められた怨念にとっては
そんなことは、関係ない
苦しみを、悲痛を、怨嗟を晴らせと、声が聞こえる
故に、自分はそれらを壊すよ
コードを、使用
作られた虐殺現場から怨念を吸い取り、武器を強化
扱うのは、猫鞭"キャット・バロニス"
一振り9度、強化されて27度
鋼鉄を削り引っ掻く尾の攻撃
なぎ払い、殲滅し、さて
一つ残らず、壊していこうか
●如何な理念あろうとも、暴虐に変わりなく
『残存戦力、五分の一を切りました……首都外部隊との通信、以前として繋がらず』
『進退此処に極まった、か。だが、後退も降伏もしない。我らは国家の命を以て、ただ任を為すのみ』
戦闘開始からはや数刻。最早、趨勢は決したと言って良かった。当初はあれだけいた護衛部隊もその大半がスクラップと化し、数の上でもクーデター・自治領側の方が多くなっている。加えて、残存している機体はどれも傷だらけだ。
だが、相手の士気は衰えるどころかなお盛んである。なまじこれ以上ない程に負けている事が、却って腹を括らせてしまったらしい。そんな決死の覚悟を決める敵部隊を前に、ペインは飽くまでも普段の淡々とした態度を崩す様子は無かった。
「成る程……虐殺者、ね。まあ、自分たちは攻め込んだ側。護る側がどんなモノを使おうと、どんな手段を選ぼうとも、文句は無い、よ」
クーデター部隊も、護衛部隊も、至上の目標はやはり公王という存在である。その身柄さえ健在であれば、或いは奪取してしまえば。その時点でこの大公国の行く末が決まる。それを両者共に理解しているからこそ、忠義を捨てて叛逆し、悪逆を以て静寂を生んだのだ。そういう意味では、形振り構っていられぬ心情に指潰しも理解を示す。
「戦争で扱われた以上、どれだけ血を流していても、そこには、そうせざるを得ない理由があったとも、認めるよ。決して、奇麗ごとだけじゃ、済まないと……知っているから、ね」
それは善悪に非ず。戦争とは即ち『そういう』ものだ。こればかりは幾ら虚飾で飾り立てようとも、変えようのない事実である。兵士に何故殺したのかと問う事に、どれ程の意味が在ろうか。彼らはただ命令に従っただけの歯車に過ぎないのだから。
一方、護衛部隊の兵士はペインの真意を測りかね、突撃槍を突き付けながら問いを投げかけた。
『……言いたい事が今一つ見えんな。今さら時間稼ぎという訳でもあるまい。詰まり、お前は我々の行為が是であったと言いたいのか?』
「肯定とは、ちょっと違うけど。うん、そうだね。それが必要だったと、認めるよ。そう……」
――自分は、ね?
対して、赤髪の青年が返した答えはある意味で曖昧であり、そして何よりも明確だった。ペインの言葉が虚空へ溶けると同時に、兵士は周囲に降りる夜闇が濃密さを増したような錯覚を覚える。否、実際に地面より漆黒の何かが滲みだしているのだ。だが、モニターに視線を走らせるも、表示される数値は全て正常値を示している。
「『これ』は、機械で測れるような、ものじゃない。貴方たちの手で、生み出した……怨念、だよ」
『怨念、だと
……!?』
昏い霧は青年の周囲で渦を巻き、その体へと吸収されてゆく。だが、傍らの木々は小動もしていない。それがこの現象が物理法則に依らぬものだと明確に示していた。
「必要だったと、認めるけど。でも、染みついた血潮は、そこに込められた怨念にとっては、そんなことは、関係ない……苦しみを、悲痛を、怨嗟を晴らせと、声が聞こえる」
そうして怨念の奔流は一つのシルエットを形作る。それは九つの先端を持つ、一振りの猫鞭。どろりとした闇を滴らせる同胞を構えるや、問答は此処までだとペインは走り出す。我に返った護衛部隊も咄嗟に迎撃を開始するも、それは余りにも遅すぎた。
「故に、自分は……それらを壊すよ。一切合切、全部をね」
幾つもの光線を危なげなく回避した指潰しは、相手の懐へ飛び込むと同時に猫鞭を瞬時に三度振り抜いた。九の鉤爪を三度、つまりは二十と七回。一振り目で装甲を覆う炸裂装甲を引き剥がし、二度目で合金の板を斬り裂き、三度振るって内部のケーブルをズタズタにしてしまう。それはさながら、猫に弄ばれた哀れな鼠の様だ。
『炸裂装甲を、手動で起爆させているのに……!』
爆発と鉄片で引き剥がそうとするも、軽やかな身のこなしでペインはそれを掻い潜ってゆく。こうなってしまえば、もはや打つ手はなく。
「理屈や理性で解決出来たら……戦争なんて、起こらないだろうね」
青年の通った後には、鉄屑と化したキャバリアが点々と骸を晒すのであった。
成功
🔵🔵🔴
ティー・アラベリア
火力で吹き飛ばすのも吝かではありませんが、ここは精密作業といきましょう
反重力魔術を発現させ、無人ユニットを撹乱しつつ誘導致します
探信儀で敵機との位置関係を確認しながら無人ユニットを引き付け、敵機の至近で急制動をかけた後、垂直方向に回避
敵部隊の懐に無人ユニットを返却して差し上げましょう
僚機の放った無人ユニットを回避するなり迎撃するなりせざるを得ない状況を作り出し、その隙に直上から襲撃
97式の散弾、95式の誘導弾でさらに敵を揺さぶり、無人ユニットとの同士討ちと偃月杖を用いた白兵で敵を制圧致します
鎮圧用の機銃と無人ユニットでどうこう出来ると思った代償を払っていただきましょう
●最後の掃除は繊細かつ丁寧に
『三、四……五、と。残存戦力はたったこれだけか。しかもどの機体もボロボロと来たものだ』
『精兵の名が形無しだな。とは言え、此処で降伏するのも矜持に悖る。最後まで抵抗するとしよう』
公王邸を警護していた精鋭部隊は既にその姿を消し、残るは満身創痍のキャバリアが一個分隊程度。然れども、それらは決して折れることなく、公王の座す巨大な館の入り口を死守せんと隊伍を組んでいた。せめて数の差を埋めようと、周囲には無人機が気休め程度に浮遊している。
そんなある種いじましい光景を前にして、奉仕人形はふむと小首を傾げて思案してゆく。
「さて、と。あの程度であれば最大火力で吹き飛ばすのも吝かではありませんが……それも些か風情がありませんしね? ここは精密作業といきましょう」
彼ならば、この程度のキャバリアを一気に吹き飛ばす手段はある。だが敢えてそれを選ばず、ティーは優雅にスカートの裾を持ち上げてふわりと浮かび上がった。重力の縛めから解き放たれると、そのまま急加速を行い敵中目掛けて飛び込んでゆく。
『高速接近する対象を確認! 数は一、キャバリアではありません!』
『お出ましか。まずは無人機に相手をさせろ!』
相手も猟兵の姿を認めると、浮遊する殺戮ドローンを差し向けて来た。凶悪な回転刃を勢いよく唸らせながら迫る無人兵器に対し、ティーは薄く笑みを浮かべるや一転して身を翻し回避の体勢を取る。それはさながら、蝶と蜂の追いかけっこの様だ。
(速度、追尾性能、反応能力……なるほど、なるほど。大まかの性能は把握出来ました。では、そろそろ頃合いですね)
毒ガスを撒き散らしながら追い立てるそれらは非常に凶悪だが、飽くまでもティーは余裕を保ったまま。彼は無人機と鉄騎、そして己の位置を見極めるや、不意に垂直に飛び上がった。目標を見失った自律兵器の進路上に位置するのは、それを操っている当のキャバリア達だ。
「お掃除ロボットのようで可愛らしいですけれど、空気を汚すのは頂けませんね? という訳で、そっくりそのままご返却して差し上げます♪」
『チィッ!? 避けろ、散開だっ!』
このままでは正面衝突は免れない。護衛部隊が取れる選択肢は二つ。無人機を迎撃するか、それとも避けるか。果たして、一瞬躊躇したものの相手が選んだのは後者。ただでさえ少ない手数をこれ以上減らしたくなかったのだろう。とは言え、ティーとしては隙さえ出来ればどちらでも関係なかった。
「忠実な兵器のご帰還ですよ? ご主人様なら、きちんとお迎えしなきゃですね」
右手には追尾し追い立てる誘導弾を、左手には拡がり覆う散弾を。それぞれ性質の異なる魔弾を放つ杖を取り出すと、奉仕人形は敵部隊の直上よりそれらを叩き込んでゆく。一発一発の威力はそれなり程度だが、相手の動きを阻害するには十二分で。
『駄目だ、避けられんっ!?』
『腕部損傷……ッ。相手は人間大だ、脚部機銃でも十分の筈!』
正面衝突の結果、上半身を中心とした部位に深刻なダメージが生じてゆく。苦し紛れに唯一無事だった脚部機銃を乱れ打つも、すいすいとティーは器用にそれらを避けていった。彼の纏うメイド服は、変わらず埃一つないままだ。
「鎮圧用の機銃と無人ユニットでどうこう出来ると思われるとは、ボクも侮られたものですね。その代償はきっちりと払っていただきましょう」
そうして相手の陣形が乱れたのを確認すると、彼は三つ目の得物へと持ち変えた。それは偃月状の巨大な魔刃を発生させる、白兵戦向けの魔杖。大きく振り被られた刃は、まるで箒の様に見える。右へ左へと動くたびに、襤褸雑巾の如くキャバリアが吹き飛ばされてゆく。悪夢か冗談にしか思えぬ光景だが、これは紛れもない現実だ。
『こんな、馬鹿な……公王様、申し、わけ
…………』
果たして、ほんの数分の後に最後の護衛部隊は奇麗さっぱり掃き清められていた。後に残ったのは宮殿を思わせる公王邸と、内部へと続くキャバリアも通れそうなほど巨大な扉のみ。
「さて、と。芝生のお掃除も完了致しましたし……最後の荷物も片づけるとしましょう♪」
奉仕人形はふわりと地面へ降り立つと、そっと扉を押して隙間を作る。そこへするりと身体を滑り込ませると、一路玉座を目指して公王邸内を突き進むのであった。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『ネハシム・セラフ』
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POW : 天使の梯子
【自身が殲禍炎剣にアクセスできる状態 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : 廻転する炎の剣
【自身の翼から放たれた車輪状の炎 】が命中した対象を燃やす。放たれた【あらゆるものを焼き尽くす】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ : 聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな
自身が【歌うような機械音を発し、翼が輝いている 】いる間、レベルm半径内の対象全てに【炎のように輝く翼】によるダメージか【機械音】による治癒を与え続ける。
👑11
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●偽りの栄光、偽れぬ血筋
護衛部隊を排除し終えたクーデター部隊、自治領軍、そして猟兵の三者はそのままの勢いで公王邸へと雪崩れ込む。邸内はキャバリアが通れるほどに広く、高く、そして何よりも外の喧騒が嘘のように思えるほど静かだった。注意深くクリアリングをしながら回廊と思しき通路を通るも、警備の人間は愚か逃げる人影すらも見当たらない。ただただ、軍靴の響きと鋼鉄の駆動音のみが虚空へと消えてゆく。
そうして暫く邸内を進んだのち、辿り着いたのは広大な広間だった。半球状のドームを思わせる其処は極めて広く、キャバリアが数十機並んでもまだ余裕があるだろう。壁面には豪奢な装飾が施されており、天井を見上げればぽっかりと吹き抜けになった部分から夜空が見えた。恐らく、此処は謁見の間も兼ねた玉座か。その証拠に、視線を下へと下げれば精緻な細工で飾り立てられた椅子が見える。
『何と最早、これはまた見事なものだ。いったい、どれ程の税を注ぎ込んだのやら』
『見栄や虚仮脅しと言ってしまえばそれまでですが、これもまた外交です。我々はこれだけの力があるぞと言う、言外の誇示……尤も、こうなってしまえば寒々しい限りですが』
皮肉気なハイネマンの言葉に弁解の言を返しながらも、サフォーノフの語尾にも隠し切れぬ苦々しさが滲んでいた。と、その時、両者の会話に割って入る声がある。
「……なるほど。貴様らが姿を見せたという事は、余の兵が敗れたのか。嘆かわしいと憂うべきか、そちらの手管を賞賛すべきか。ともあれ、土足でようこそ、反逆者たちよ」
その源へ視線を向ければ、玉座の上。まるで始めからそこで待っていたかのように、老境へ差し掛かったと思しき男が腰を下ろしていた。その場所に座せる者など、この国にはたった一人しか存在しない。
「余が貴様らの探し求めていたこの大公国の王……アレクサンドル・サフォーノフである」
蓄えられた白い髭、深く刻まれた皴と重々しい声音。王侯に相応しい威厳は、一目で影武者などの類ではないと確信できる。だが一方で、その場に居た者たちの間にはまた別の衝撃が静かに走り抜けていた。そう――公王は今、家名を何と言ったのか。
自然と、周囲の視線がクーデター部隊の隊長へと集まる。この大公国軍人は初めの自己紹介時に何と告げて来た? 所属も階級も明かさず、ただ反逆の首魁であると名乗ったのみ。てっきり、万が一の情報漏洩を危惧しているのだと思っていたのだが。
そんな周りの疑念へ応えるかのように、若き将校は口を開いた。
『この馬鹿げた戦争を終わらせに来ました……父上。既に貴方を守る部隊は残っておりません。今もなお血を流し続ける同胞を救う為、どうか降伏を』
「愚言は止せ。余は哀しいぞ、ニコライ。よもや、末の息子が親に刃を向けるとは。軍人としてのみならず、人としての道義にすら反しておる。今ならばまだ、子供の悪戯で終わらせられよう」
その会話が何よりもの答え。この一連の決起は国家を憂う軍人の叛逆であると同時に、親を止めんとした子の決死行でもあったのだ。思い返せば、この将校が只者ではないと思わせる場面は確かにちらほらと存在していた。現に猟兵の中にも、公王との繋がりについて確信を抱く者が現れている。
そして、情報に乏しい猟兵が気付いたという事は必然――。
『ふむ、何だか視線を感じるな。いやはや全く、不思議な事だよ?』
より事情に詳しいハイネマンが気付かぬ訳がない。そう考えると、息子の前でその父親をぶん殴るだの何だの言っていたのか。厚顔無恥と言うレベルではないのだが、当の本人は集中する視線も何処吹く風とばかりに、涼しげに笑みを浮かべていた。
「……余は不思議でならない。何故、誰も彼も大公国が敗北するなどと嘯くのだ。我が国は遂に『殲禍炎剣を御しえる術』を手に入れたと言うのに」
だが、そんな微妙な雰囲気も公王の一言により一瞬にして雲散霧消した。それはいったいどういう意味か。その真意を問い質すよりも先に、ドーム上部の吹き抜けより差し込んだ炎の柱が玉座を飲み込んだ。すわ自害したのかと思うも、炎の中に浮かび上がったシルエットがその疑念を打ち払う。
『これこそが余の乗機にして、大公国が最強の剣。殲禍炎剣制御特化型キャバリア「ネハシム・セラフ」である』
姿を見せたのは、幾何学的な天使を思わせる機影。白に朱を差した装飾は聖性を感じさせ、正しく王が座するに相応しい機体であると言える。そして何よりも、『殲禍炎剣を制御する』という一点が何よりも強力だ。この世界の根幹を為す絶対的な破壊。確かにそれを手中に収めれば、百の国家を相手にしても負けはしないだろう。尤も……。
『父上。美辞麗句のプロパガンダは国民や敵にこそ聞かせるべきものです。自らがそれを信ずるなど本末転倒以外のなにものでもない。そこまで狂ってしまわれたのですか』
それが本当であれば、だが。やるせないと言った風に首を振るサフォーノフが、公王の言葉を真正面から否定してゆく。
『皆さん、あれは殲禍炎剣などではありません。公王邸上部に取り付けられた、パラティヌス・スローターの火炎放射技術を応用した作られた試作兵器です。威力こそ非常に強力ではありますが、本物には遠く及びません』
そう言われて見上げれば、吹き抜けの外延部に巨大な構造体の一部が見える。あれが先の炎柱を生み出したのだろう。そも、公王の言う能力が真実であれば、一連の戦争はとっくに大公国の勝利で幕を閉じているはずだ。
『確かに、あの機体は殲禍炎剣の制御を目的として建造されました。ですが、その試みはとうの昔に失敗しているのです。それでも、国威高揚には使えると父上が騎乗していたのですが……』
恐らく、その最中に機体がオブリビオンマシン化し、公王を狂気に蝕んでいったのだろう。詰まりは自らが吐いた偽りで己を騙してしまったのだ。その熱はいつしか周囲へと伝染し、この無謀とも言える戦いを引き起こした。軍人として首脳部から距離を置いていたサフォーノフは、辛くもその熱狂から逃れる事が出来たのである。
『実際に見ても信じられぬのか。良い、お前はまだ若い。余が自ら蒙を啓いてやろう』
『瞳を盲いておられるのは、いったいどちらですか!』
父と息子、両者の言葉はどこまでも噛み合わない。悲しいかな、これはクーデターという戦争であり、公王邸はその戦場なのだ。である以上、交わすべきは会話ではなく剣弾のみ。最早問答は意味を成さぬと悟った将校は、部下や猟兵たちへと呼びかける。
『我が父、否、公王アレクサンドル・サフォーノフに統治の器無し! 総員、彼の王を討ち取るべし!』
『さて、お墨付きも出た事だ。我々も存分にこれまでのお礼をするとしよう……可能であれば、クーデター部隊よりも先にだ。なに、こんな時の為の外部協力者なのでね?』
号令一下、両軍のキャバリアが公王機へと挑み掛かってゆく。これが正真正銘、この戦いの最終局面だ。
さぁ、猟兵たちよ。君たちは如何にして挑む?
圧政を敷く狂王を討ち、戦争を終わらせる為か。
ただ猟兵としての責務を以て過去を滅する為か。
そうせざるを得なかった父子の因縁を断つ為か。
正解などない。どの様な決着が正しいかなど、誰にも分からない。
故にこそ、どうか――己が信念と共に臨んでくれ
※マスターより
プレイング受付は9日(金)朝8:30~より開始します。
第三章は公王の駆る強力なキャバリアとのボス戦です。勝利条件としては飽くまでも『オブリビオンマシン』の撃破である為、公王の生死は問いません。ご自由に行動ください。
なお本シナリオにおける『ネハシム・セラフ』は『殲禍炎剣の制御に失敗し、代わりに火炎放射装置を使ってそれらしく見せていた』機体となります。ただし、威力は並のキャバリアであれば容易く破壊するほどなので、油断は禁物です。
また、火炎放射装置に対する妨害や損壊も可能ですが、頑丈に作られているため完全なる破壊や掌握は非常に困難です。
第一、二章と同様に、希望すればクーデター部隊や自治領軍の援護を受ける事が可能です。
それでは引き続きどうぞよろしくお願い致します。
三辻・蒜
事情を知らないままだったら、遠慮なくやっちゃってたかな
多少危なくても、何とかしてみよう
丸焼きにされないように、敵機の無力化を狙うよ
あの火を吐く翼、一つずつ【羨望の光】で潰していこう
頑丈そうだけど一か所を集中して狙ったり、上手く回り込んで根元を撃てば壊せないかな
こっちに向かって火を吐いてきそうなら、先端を狙い撃って逸らしたいね
殲禍炎剣擬きの方も警戒して、足を止めたら焼かれるくらいに思っておこう
一つでも翼を落とせれば戦いやすくなってくるはず、頑張ろう
戦争だからって全部殺す必要はないし、後味悪いのはなるべく避けたいよね
●翼を穿て、汝はただ人なり
「本来は善良だったのか、それとも元々そういう兆候があったのかは、分からないけど。事情を知らないままだったら、遠慮なくやっちゃってたかな。そうだね……多少危なくても、何とかしてみよう」
クーデター部隊指揮官と公王の遣り取りを見守っていた蒜は、そんな呟きと共に己が為すべき事の方向性を定めてゆく。これが単なる圧制者であれば全力を以て打倒するだけだが、裏事情を聞いてしまった以上はそうもいかない。仮に助けられたとしても公王の処遇は決して明るいものでは無いとはいえ、それでもやらぬ理由にはならなかった。
『只人の身で余に挑むか、娘よ』
「生憎とキャバリアの持ち合わせも、操縦する技術もないしね。結局のところ、こういう時は慣れたスタイルが一番だって相場が決まってるから」
ギロリと紅の複眼に射貫かれながらも、蒜は飽くまでも淡々とした姿勢を崩さない。彼女は掌に握られた旧型の護身拳銃を振り、何も問題ないと示す。これで油断でもしてくれればやりやすいのだが、相手も乱心すれども耄碌はしていないらしかった。
『良かろう。だが、侮る真似はせん。手を抜けば余の沽券にも関わるのでな。さぁ、精鋭と名高き護衛部隊を退けた実力、見せてみるがよい』
天使機が翼をはためかせると、その一枚一枚が小刻みに振動を始める。それはまるで歌声が如き調べを生むと同時に、高熱を帯びた様に輝きを放ってゆく。瞬間、閃光と共に強烈な熱波が広間へと吹き荒れた。
(分かってはいたけど、やっぱり殲禍炎剣頼みなだけの機体じゃない……っ! 丸焼きにされないように、まずはあの火を吐く翼を一つずつ潰していこう)
咄嗟に手近な柱を遮蔽物にして難を逃れながら、蒜はサッと敵機へ視線を走らせる。天使を模した装飾により一見すれば華奢に思えるが、少なくとも自らの発した高温に耐え切るだけの頑丈さは備えている様だ。仮にも公王の座すキャバリア、生半な造りではあるまい。
少女は熱波の間隙を見出すや否や、物陰から飛び出して暗緑の光条を天使機へと浴びせてゆく。だが一度撃った程度では、純白の装甲に煤の一つも付けられなかった。
(予想通り、凄まじく頑丈だね。それでもやり様は幾らでもあるはず。一か所を集中して狙ったり、上手く回り込んで根元を撃てば壊せないかな。足を止めれば殲禍炎剣擬きの方も狙ってくるだろうし、そっちも警戒しなきゃね)
しかし、その程度は織り込み済みだ。蒜は決して足を止めることなく走り続けながら、次々とレーザーを浴びせかけてゆく。少しでも有効打を叩き込める箇所、狙いやすい射角、戦うに適した位置を求めて駆け回る猟兵に対し、公王は翼の先端を差し向ける。
『獅子や狼ではなく、まるで鼠だな。だが、その一噛みが時として致命へ至る。故に浄化の焔で消し去ってやろう』
放たれしは赤熱化した翼による業炎。その威力は先の熱波などとは比較にならず、直撃すれば消し炭は愚か骨すら残るまい。ジリジリと肌を焼かれる痛みが全身を襲うも、少女の意識は別の場所へと向けられていた。即ちそれは輝きの向こう側、一瞬だけ見えた翼を構成する装甲の隙間。
(すごく、熱いけど……一つでも翼を落とせれば戦いやすくなってくるはず、だから)
――あと少しだけ、頑張ろう。
外界とは正反対に、心は静かに凪いでいる。蒜はスッと流れる様な動作で愛銃を構えると、躊躇なくトリガーを引く。瞬間、白き焔を切り裂き、矢の如く緑の閃光が伸びてゆき、そして。
『この状況で、軌道を逸らした、だと……?』
必滅の火炎は少女のすぐ横を通り過ぎていった。一方の天使機へと視線を向ければ、翼の一枚からぶすぶすと煙が上がっている。間一髪、土壇場で猟兵は己が狙いを果たすことが出来たのだ。信じられないと言った風に、公王は操縦席の中で目を剥く。
「まずは、一つ……戦争だからって全部殺す必要はないし、私だって斃れるつもりもない。出来る限り、後味悪いのはなるべく避けたいからね?」
蒜はひりつく皮膚の痛みを押し殺しながら、飽くまでも余裕を見せるように薄く微笑を浮かべる。彼女の戦い振りはキャバリアという存在に関わらず、猟兵の何たるかをこれ以上ない程に示すのであった。
成功
🔵🔵🔴
ヴィリー・フランツ
wiz
理由・心情:中佐ぁ、今回の依頼主が皇太子殿下だって知ってて黙ってたな?
まぁ、根っからの傭兵である俺にはその辺の事情は関係ねぇがな!
手段:殿下に言っておくが、努力はする。だが相手はコスト度外視の超高級機だ、勢い余って機体ごとブッ飛ばしても恨むなよ。
先ずは大層な火炎放射機を弱める、【スーサイダードローン】を505機全機発進させ取り付かせる、後は起爆させ放射口の閉塞や一部の燃料バイパスの切断させれば十分だ。
後は公王機、単純に全火力を叩き込めば良い、予備弾薬を含めライフル、レールガン、ミサイルと全てだ。
更にクーデター機も同様に撃ち込めば例え変な機械音で修復しても、それを上回る損傷を与えてやるぜ!
●天壌を穿つ焔、数多なる爆炎
『……中佐ぁ、今回の依頼主が皇太子殿下だって知ってて黙ってたな? 騙して悪いが、なんて話じゃないがちっとばかし趣味が悪いぞ』
先陣を切った猟兵に続けと、クーデター部隊・自治領軍もまた攻撃を開始してゆく。その様子を眺めながら、ヴィリーはハイネマンへ皮肉気に声を掛けた。対して、戦争狂は白々しく肩を竦める。
『ははは、それについては悪いとは思っているがね。ただ、当の本人が隠していたんだ。それを口外するのも無粋というものだろう?』
『はっ、どうだか……まぁ、良いさ。根っからの傭兵である俺にはその辺の事情なんざ関係ねぇ! クーデターだろうが親子喧嘩だろうが、報酬さえ貰えれば何でもやってやるよ!』
だが、ヴィリーにしてみれば男の本心が何であろうとも構わなかった。細かい事情など関係なし。報酬と引き換えに命じられた仕事をこなすのが傭兵の本分なのだから。
『だから……なぁ、殿下。先に言っておくが、出来る限りの努力はする。だけど相手はコスト度外視の超高級機だ、勢い余って機体ごとブッ飛ばしても恨むなよ? 殺すよりも生かす方が難しいんだからな』
しかし一方で、目的を果たした上で何かをするのも個々人の裁量だ。彼はサフォーノフへ通信を切り替えると、真面目さと不敵さの入り混じった笑みを浮かべる。対して、青年将校の表情は硬いままだった。
『……貴君の気遣いに感謝致します。だが、そのせいで要らぬ被害を受ける義理はありません。どうか、くれぐれも無理をなさらぬように』
『はっ、無理をしたぐらいでどうにか出来る相手なら良いんだがな!』
事情が事情だ、それも仕方がない事だろう。寧ろ、気丈な言葉を返せるだけまだマシと言える。そうしてウィリーは課せられた役目を果たす為、自らもまた前線目掛けて飛び出していった。
(さて、と。最大のネックは真上に陣取ってる御大層な火炎放射機だな。自由に動かれるとこっちの取れる手が制限されちまう……まずはアレをどうにかするのが先決か)
戦いは得てして上を取った者が勝つと言う。そういう意味では、常に頭上からの攻撃を気にしなければならない現状は好ましくない。
『とは言え、屋上に通じるルートは天井の吹き抜けだけ。悠長に登ってたら撃ち落とされるのが関の山だしな。であれば、此処は別動隊の出番って訳だ……ドローン展開、行ってこい!』
暴風の名を冠する重鉄騎、その背面ハッチが開いたかと思うや中から夥しい数のドローンが溢れ出す。実に五百機を超えるそれらは、黒い奔流と化して火炎放射装置へと殺到してゆく。だが相手も不穏な気配を感じ取ったのか、無人機群を撃ち落とさんと翼を差し向けて来た。
『おのれ。何をする気かは知らぬが、させると思うてか!』
『はっ、狂っててもアレを攻撃されちゃ不味いって事くらいは理解しているみたいだな。悪いが、無理やりにでも押し通らせて貰うぜ!』
相手が赤熱化させた翼より炎を解き放つ寸前、ヴィリーは乗騎を敵前に飛び込ませるやありったけの保有火力を叩き込む。火薬式ライフル、電磁投射砲、誘導弾。それらの大半は高熱により直撃する寸前で誘爆してしまうが、それでも爆風や衝撃によって相手の狙いを逸らす事に成功した。
そうしてドローン群は無事火炎放射装置の表面へ取りつくと、不意にピタリと動きを止め、そして。
『……完全破壊は確かに難しいだろうけどな、流石にこんだけの数だ。放射口の閉塞や燃料バイパスの切断を起こすには、十分過ぎる量だろうよ』
――強烈な閃光を伴い、瞬時に圧縮された大気が爆炎と共に広間内部を蹂躙した。
公王の懸念通り、あれは只の無人機ではない。その全てが内部に高性能爆薬を搭載した自爆攻撃機だったのだ。爆発はそれらの同時起爆によるもの。渦巻く焔の内部には未だ巨大なシルエットが見えるものの、幾ばくかの損傷を与えた事は確実だろう。その証拠に、天使機の複眼は呆然としたように頭上へと向けられていた。
『な、ぁ……っ』
『お前ら、今の内だ! お偉いさんが呆けている間にありったけの火力を叩き込め! 変な機械音で修復しようが、この数ならそれを上回れる!』
そして、そんな絶好のチャンスを見逃すようでは傭兵なぞやっていられない。ヴィリーは友軍にも発破を飛ばすと、連携して一斉射を叩き込んでゆく。天使機は防御態勢を取ることもなく、ただ攻撃を受け止め続けるだけだ。
(順調ではあるが……これも嵐の前の静けさってか?)
往々にして好事魔多し。傭兵はそんな相手の姿に、余裕よりも言い知れぬ不気味さを覚えるのであった。
成功
🔵🔵🔴
ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に行動
いやはや流石王族というか何というか、ここまでくるとスケールが違いますねぇ。親子喧嘩も同様で、傍迷惑とか近所迷惑という表現では追っつきませんねぇ。
まぁクーデターだろうと親子喧嘩だろうと、わたくし共のやるべき事には何の変化もないのですけどね。
とりあえず、ありったけの各種搭載火器で目標を攻撃し、向こうの目を引き付けます。ついでに、煙幕も展開して敵の視界を妨げるとしますか。
攻撃を受けそうになったら、UCを発動して敵の攻撃を無効化。まぁ引き換えにこの場から動けなくなりますが・・・そこが狙い目です。敵がわたくしに構ってるその隙に、ミハエル様や灯璃様が上手くやって下さる筈です。
灯璃・ファルシュピーゲル
SIRDで参加
因縁も未来も彼らの権利と責任ですが…
少なくとも今を生きないモノには権利は無いですね
まずは敵味方の動きを(情報収集)しつつ動き回り
火炎攻撃は予兆を(見切り)仲間に警告し回避。
敵が無差別状態になったら指定UCを発動して狼達を
四方から突撃、ヒットエンドランをさせて囮にし
仲間が仕掛ける方と逆側に敵の意識を誘導、
自身も敵頭部センサを狙撃(スナイパー)し支援
敵が火炎放射を始めたらUC:ツェアシュティーレン・フリューゲルを使用し誘導爆弾を味方に被害が無いよう端に投下し爆風消化。更にコンベンショナル・ストライク・ミサイルの縮小型を投下、火炎で防ぎにくよう運動エネルギーで翼の破壊を狙う
アドリブ歓迎
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動(計3名の予定)
俺らの目的はオブリビオンマシンの破壊で、公王の生死は関係ねぇ。だからヤツをぶっ壊したら、後は親子水入らずで好きなだけ語り合うといいさ。もっとも、その時公王が無事という保証もないがな。
遮蔽物を利用して相手に気づかれない様に接近。とはいえ、何もねぇ場所だからクーデター機やその残骸、吹き出す炎の陰に紛れて接近を試みる。
やれやれ、一歩間違えたら丸焦げのウェルダンになっちまうぜ。
射程内に接近出来たら、UCで攻撃。狙うは火炎放射装置の制御装置関係があると思しき付近。一時的にでも制御不能に持ち込めれば御の字だ。
それに、王様のケツ蹴っ飛ばせる機会なんて滅多にねぇしな。
●焔を断ち、天を制し、鋼を穿つ
「いやはや流石王族というか何というか、ここまでくるとスケールが違いますねぇ。持ち出してきたものが偽物とは言え、よもや『殲禍炎剣』とは。親子喧嘩も同様で、傍迷惑とか近所迷惑という表現では追っつきませんねぇ……」
先に挑み掛かった猟兵の手により火炎放射装置が爆破され、呆気に取られている天使機。その様子を目にしたラムダは思わず呆れた様に首を振る。この世界の人間ながら、一度は『殲禍炎剣』を掌中に収めたいと願う事だろう。だがその結果として首脳陣が狂気に侵されるなど本末転倒だ。付け入る隙が生じるとは言え、他国からしてみれば単なる厄介ごとでしかない。
『国と国、親と子、為政者と国民。因縁も未来も彼らの権利と責任ですが……少なくとも、今を生きないモノに権利は無いですね。公王の乗機がオブリビオンマシンとならなければ、そもそもこのような事態にはならなかったのですから』
「ま、俺らの目的はオブリビオンマシンの破壊だけで公王の生死は関係ねぇ。だからヤツをぶっ壊したら、後は親子水入らずで好きなだけ語り合うといいさ。もっとも、その時公王が無事という保証もないがな。こればっかりはそれこそ『責任』の話だ」
鋭い視線を敵機に向ける灯璃の言葉に、ミハイルは肩を竦めながら相槌を打つ。確かに元凶がオブリビオンマシンと言う外部要因ならば、まだ同情の余地もあるだろう。だが、それを知覚できるのは猟兵だけだ。自国を含めた六か国を戦乱に巻き込んでおいて、周辺諸国から御咎めなしはまず有り得ない。
「まぁ確かに、クーデターだろうと親子喧嘩だろうと、わたくし共のやるべき事には何の変化もないのですからね。さてさて、それではこちらも戦線に加わると致しましょうか」
ともあれ、まずはあの剣呑なキャバリアを黙らせなければ始まらない。そうして最初に動いたのはラムダであった。彼女は自身に搭載された兵装群の照準を相手に合わせるや、一斉に攻撃を放つ。損傷を与えると言うのは勿論だが、その狙いは仲間二人が自由に動く為の陽動と言う側面も大きい。
果たして、尋常なキャバリアであれば五回は破壊しきれる程の火力が公王へと襲い掛かる、が。
『……先の爆発程度で、よもや余が「殲禍炎剣」の制御を失ったなどとは思うまいな。いまだ健在たる必滅の剣、その威を知るがよいわッ!』
流石にいつまでも呆けているほど相手も耄碌していない。天使機から喝破の大音声が響いたと思うや、天井より巨大な火柱が地上へと降り立つ。その圧倒的な熱量は迫り来る砲弾を溶かし、誘導弾を自爆させていった。
「偽物とは言え、威力だけは侮れませんねぇ。こちらに向けられたら厄介ですし、ここは念には念を入れて視界を潰しておくべきでしょう」
「ったく、物陰に隠れていても肌が焼け付く様に痛ぇな……やれやれ、一歩間違えたら丸焦げのウェルダンになっちまうぜ」
戦機が展開した煙幕に乗じ、物陰から飛び出した傭兵がじりじりと距離を詰めてゆく。兎にも角にも、火炎放射装置に頭を押さえられていては自由に動く事すらままならない。とは言え爆破工作を受けてもなお稼働し続け程の耐久性があるのだ、そちらを攻めたとしても結果が出るまで余りにも時間が掛かり過ぎる。である以上、指示を出す側を狙うのが定石だろう。
『我が大公国は「殲禍炎剣」を御する手段を手に入れたのだ! この事実は決して揺らがぬ! 未だ信じぬ愚か者どもよ、その身を以て天の威を知るが良いッ!』
そして当の天使機はと言えば絶えず火炎放射装置から火柱を降らせており、正に狂乱と言う形容詞がぴったりの有様である。先の一撃は装置に異常がないかの確認も含めた示威行為だったのだろうが、そのせいで感情が高ぶってしまったらしい。自らの言葉で自家中毒を起こし、当たるを幸いに暴れ回っていた。
「……ぱっと見、相手さんも良い歳していたからな。そこに機体の影響を受けて、ってところか? 出来れば王様らしく大人しく座っていて欲しいんだが」
『理由が何であれ、自分から手の内を晒してくれるのは助かります。威力や射程範囲、攻撃間隔などの情報が無ければ、攻略の手立ても立てられませんから。ただ確かに、こうも暴れられては狙いをつける事もままなりませんね。で、あれば……』
相手が冷静さを失う分にはこちらの利ではあるのだが、それにしても限度がある。幾ら煙幕に紛れようと、無差別に炎を撒き散らされてはいつか直撃を喰らってしまうだろう。舌打ちするミハイルとは別方向から様子を窺っていた灯璃は、ならばと一計を案じた。
『Sammeln! Praesentiert das Gewehr! 仕事の時間だ、狼達(Kamerad)。煌めく破壊の焔に、光すらも捉える牙を突き立ててやりなさい』
ぞわりと、彼女の搭乗するキャバリアから漆黒の霧が溢れ出す。まるで黒き森を思わせるそれは煙幕と混じりあい、黒白の斑となって戦場を覆ってゆく。そしてその内部より次々と飛び出して来たのは、黒々とした毛並みを持つ狼の群れだ。それらは幾つもの小集団へと別れるや、四方八方より天使機へと襲い掛かる。
(相手が無軌道に動くのであれば、それに指向性を与えればいい。そうとは気取られないよう、群れの動きで相手の体勢や位置を誘導できれば……)
狼たちは敵の攻撃を引き寄せる囮であると同時に、こちらが攻撃しやすいよう誘導する役目も持っていた。徐々にではあるが撒き散らされていた炎が一定の範囲内へと収まってゆき、不規則だった敵の動きにも一定のパターンが生じ始める。通常時であれば不信感の一つも抱くだろうが、この状態の相手にそんな余裕などは無く……。
『やはり、制御機能を司るのは頭部でしょうか?』
「その可能性が高いな。『殲禍炎剣』は空の上にあるんだ、わざわざ下の方にセンサー類をくっつける理由もねぇだろうよ」
最適なタイミングを以て、灯璃とミハイルは同時にトリガーを引いた。一方から放たれるは装甲用徹甲弾、もう一方からは噴進煙を曳きながら対戦車ロケット弾が飛翔してゆく。それらは狙い違わず天使機の頭部へと命中するや、複眼状の頭部へ罅を走らせる。完全破壊とはいかないが、幾ばくかの損傷を与えられたはずだ。
「クリーンヒットの結果が罅だけってのはちと寂しいがな。戦車の装甲だって貫徹できる威力だってのに、どんな素材を使っているんだか。ともあれ、一時的にでも制御不能に持ち込めれば御の字だ」
使い終わった発射筒を投棄しながら、ミハイルは戦果の確認もそこそこにその場より離脱してゆく。今の一撃で相手の頭も冷えたはず。頭上の脅威が遠のいたとしても、直撃を受ければ一溜りもない状況に変わりはなかった。
『おのれ、余の機体に傷つけるとは……この機体は我が大公国の象徴、陰る事無き武威の具現。それを愚弄する事は国家そのものを毀損するに等しい。故にその行為、万死に値する!』
どうやら、猟兵側の狙いは一定の効果を上げたらしい。公王は忌々し気に吐き捨てながらも、火炎放射装置を起動させる様子は無かった。代わりに翼部を小刻みに振動させて旋律を奏でながら、輪を描く業火によってミハイルを追い立て始める。遮蔽物や煙幕、飛び散ったキャバリアの破片に身を隠しながら逃げ回るも、追撃の手が弱まる様子は無かった。
「そんなに大事なら、額縁にでも入れて飾っておけばいいものを……! だがこいつは不味いな、そろそろ逃げられるスペースが無くなって来たぞ。それに熱さだって馬鹿にならん」
炎は弾丸や爆弾とは違い、その場へ持続的に残り続けるものだ。故に回避した分だけ、周囲が灼熱に覆われてしまう。それに伴って広間の気温も急速に上がっており、唯一生身で動き回っている傭兵としては極めて過酷な状況になりつつあったのだ。
『どうした、逃げ回る事しか出来んのか! ならば、我が炎に焼かれるが良い!』
先程とは打って変わって巧みに退路を遮断しながら、着実に猟兵を追い詰めてゆく天使機。そうして完全に進路を制限し、必中を期して放たれた焔が傭兵目掛けて降り注ぐ。あわや、骨すら残らず消し炭かと思われた、寸前。
「上から居丈高に正面から挑んで来いとは、公王と言うのは随分とお偉いんでございますねぇ。良いでしょう、ならばこれで満足ですか? ……モード・ツィタデレ起動」
両者の間へ、暗緑色の戦機が割って入った。ラムダは床材を割り砕かんばかりに身を沈めるや、全身に電磁障壁を展開。反発と誘引の相反する作用を以て、迫りくる炎を弾き逸らしてゆく。そのお陰で、ミハイルは辛くも難を逃れる事に成功した。
『キャバリアモドキが、我が炎に耐えるだと……?』
「電磁防御フィールド、更に出力を強化。機体内エネルギーを優先的に供給。機能を耐熱能力へと特化させ、全て防ぎきります……その代償としてこの場から動けなくなりますが、まぁ問題はないでしょう」
だがそれも、己の持つリソース全てを防御へ回してやっと凌いでいるのである。攻撃は愚か、移動すらもままならない。しかし、ラムダに焦りの色はなかった。自分と同じように、今この瞬間相手の火力は全て自分へと向けられている。であるならば、その隙に仲間が上手くやってくれるはずだと信じていたからだ。
『炎を消すには一般的に水が用いられますが、それ以外の方法もまた複数存在します。窒素放出による酸素濃度の低下、粉末を散布して大気と遮断。そして、或いは』
果たして、その一手は頭上より齎される。火炎放射装置が機能し無くなれば、こちらもまた三次元的に戦えると言うもの。公王がハッと頭上を見やれば、いつの間に姿を見せていたのだろうか。巨大な爆撃機が蓋をするように公王邸上部に陣取っていた。
その要請者は灯璃。彼女は仲間が逃げ回って時間を稼いでいる間、着々と反撃の準備を整えていたのだ。彼女は淡々と、頭上の機影へと攻撃命令を下す。
『……爆発によって、大気中の酸素を一気に使い尽くしてしまうのも有効ですね?』
瞬間、ひゅるひゅるという風切音と共に投下された無数の誘導爆弾が広場へと突入。着弾と同時に起爆するや、その爆風を以て周囲を埋め尽くしていた炎を一瞬にして鎮火せしめた。その影響で辺りには濛々と土煙が立ち込め、ほんの数メートル先の視界すらも効かなくなってしまう。
『おのれ、何処だ! 何処に逃げた! 姿を見せいっ!』
「はっ、そんなに呼ばれたんじゃしょうがねぇ。足元を見てみな?」
苛立ち交じりに叫ぶ公王だったが、返って来た答えは予想以上に間近から。アイカメラを下へ移動させてみれば、既に対戦車兵器を構えたミハイルの姿が飛び込んで来る。更に視界の端では防御を解いたラムダが、遠方には次なる攻撃命令を下している灯璃の姿もある。
それは紛れもなく、一斉攻撃の直前と言った様相であり……。
「王様のケツ蹴っ飛ばせる機会なんて滅多にねぇしな、逃げ回ってばかりじゃ勿体ねぇ。そうだろ?」
『きさ、っ
……!?』
飛び出しかけた罵倒は凄まじい轟音に掻き消され。傭兵、戦機、鉄騎の三者から攻撃を叩き込まれた天使機は、堪らずグラリと体を傾がせるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ティオ・ブリューネ
えっと、とりあえず依頼内容はそのままでいい?
内情とかそういうのはアタシにはどうにもできないし、当初の内容通り、公王の無力化を頑張ろう
『小娘、貴様ときたま人間味が消えよるな…』
そうかな?
あ、殿下、一応回避動作の制御お願いね
さて、あの火炎兵器に関しては火力はすごいけど炎が自在に動いてくるって感じじゃなさそうだし、射線さえ塞げば被弾前に範囲から逃げられそう
D型を複数展開して射線上に展開できるよう準備しておけば対策になるかな
んー、でもちょっと処理機能上げておかないと全体的にきついか
ヴィジョン発動…併せて全戦術飛晶展開、S型からの観測情報を基に弱所と機動予測を作って…O型で各場面に合わせるように撃つっ
●余力なく、限界を超えて
一斉攻撃を受け、濛々と立ち上る爆煙の中へと姿を消した天使機。強烈な集中砲火であったが、これで終わるほど容易い相手ではあるまい。油断なく白い幕の向こう側を睨みながらも、ティオは先に交わされた会話を思い起こして小首を傾げる。
「えっと、取りあえず依頼内容はそのままで良いのかな? 内情とかそういうのはアタシにはどうにもできないし、取り急ぎオブリビオンマシンだけ倒せれば猟兵としては問題ないから……うん。当初の内容通り、公王の無力化を頑張ろう」
『ふぅむ、あの会話を聞いた後での感想がそれとは。小娘、貴様ときたま人間味が消えよるな……まだAIである余の方が情緒もあろう』
政治と私情の悲喜こもごもを目撃しながらも、少女の心が特に揺れ動いた様子は無い。そんな姿に普段は尊大なAIも思わず複雑げにぼやきを漏らす。とは言え、変に入れ込み過ぎないのも猟兵としては正しいスタンスと言えるだろう。
「そうかな……? あ、それはそうと殿下。アタシは戦術飛晶の操作に専念するから、一応回避動作の制御をお願いね?」
『ふん、まぁ良いだろう。どのみち、やるべきこと自体はそう変わらんからな。余としてもあの火力を侮るつもりは無い故、任せるが良い』
そうして少女と人工知能は思考を戦闘へと切り替える。先に交戦した猟兵のお陰で、まだ火炎放射装置の制御能力は完全に復旧していないはず。となれば一番の脅威は翼より放たれる灼熱の車輪だ。威力では劣るとはいえ、あれもキャバリアを融解させて余りある威力なのだから。
『余の敗北は、即ち大公国の敗北でもある……斃れる事など許されはしないのだッ!』
猟兵側の戦意を感じ取ったのか、爆煙を突き破って天使機が飛び出して来た。相手は背面に展開された翼状ユニットを振るわせるや、炎の環を幾つも形成。それぞれ異なる軌道を描きながらティオへと襲い掛かる。
(あの火炎兵器、火力はすごいけど炎が自在に動いてくるって感じじゃなさそうだし、射線さえ塞げば被弾前に範囲から逃げられそう。D型を射線上に複数展開しておけば、防ぎきれるとは思うけど……)
対して、少女は機体の操縦を一部AIに任せながら、攻撃の予測進路上に戦術飛晶を差し向けてゆく。それらは三機一組で三角形上の障壁を展開すると、両機の丁度中間地点で炎をシャットアウトする事に成功した。
「よしっ、これなら……!」
『何を喜んでおる。この程度は機能確認がてらの小手調べ……次からが本命よ』
手応えを感じ小さく快哉を上げるティオだったが、それも公王の冷徹な言葉によって裏切られる。次の瞬間、天使機より放たれた車輪の数は先の二倍近くにまで増えていたのだ。咄嗟に戦術飛晶を操って防御を試みるも、手数も速度も追いつかず、ジリジリと乗機を炙られてゆく。
『相手はこの国の本丸、一国の王なのだぞ! 出し惜しみをして勝てるほど容易い相手ではない!』
「うん、そうみたいだね。もう少し処理機能上げておかないと全体的にきついかな……使った後が酷いからあまり使いたくないんだけど、そうも言っていられないか」
回避を受け持つAIの叱咤に、ティオもまた覚悟を決めた。彼女は精神を研ぎ澄ませると、己が思考速度を急激に加速させてゆく。それは次世代存在としての異能。脳の処理機能をブーストさせることにより、一時的に兵器運用と情報処理能力を高めたのだ。反動として使用後に凄まじい頭痛や倦怠感に襲われるものの、後の代償よりも今この場をどうにかする方が先決だった。
「全戦術飛晶展開、S型からの観測情報を基に弱所と機動予測を作成……これもそう長くは持たないからね、短期決戦で行くよ!」
『む、急に動きが……何をしたのだ!?』
防御用のD型に加えて索敵用のS型も展開し敵の動きを収集。そうして得られたデータを元に攻撃を辛くも凌ぎきると、並行して反撃策も組み立てゆく。相手は強大だが、無敵ではない。炎輪を放ち終え、次の攻撃を準備するほんの一瞬の間隙を狙い澄ますや、温存していたO型による一斉射を放つ。
「この国がどうなろうとも、それが他国に渡ると危険だからね。きっちり破壊させて貰うよ!」
斯くして幾条もの光線は背部の翼へと吸い込まれると、先端部分を焼き落としていった。翼全体からすればほんの一部分ではあるが、それでも攻撃手段が削れたことには変わりない。そうして少女は異能の効果時間ギリギリまで、一進一退の攻防を繰り広げるのであった。
成功
🔵🔵🔴
リジューム・レコーズ
公王に用はありません
私の任務はその機体の破壊です
誰が乗っていようと同じ事…死にたく無ければ降りてください
さもなければ!
殲禍炎剣の代替となる試作兵器の威力は侮れませんね
ですがそれほど強力ならば、浴びれば自身も無事では済まないのでは?
近接戦闘に持ち込んでしまえば迂闊に使用できないでしょう
逃げ場に限りのある屋内空間でディナの速度から逃れる術なんて無い
放射される炎をEMフィールドで減衰させつつ、ブレイクドライバーとマンティコアのプラズマブレードで連続攻撃を加え続けます
それでも倒れないならばプラズマバーストを使用
纏わり付く炎諸共目標を吹き飛ばします
この至近距離で放てば直撃させられる!
●果たすべき使命、揺らぐことは無く
『全く……修復を進めてはいるが、こうも戦いながらでは遅々として進まぬか。だが、良い。勝利が今すぐか暫く後か程度の差でしかないのだ。故に何も問題はなかろうて』
既に戦端が開かれてから、暫しの時間が経過した頃。公王が駆る天使機は依然として健在である一方、それでも無傷とはいかなかった。主な攻撃手段である背部翼状ユニットには弾痕や熱線の跡が刻まれ、何よりも『殲禍炎剣』の制御を司る頭部に損傷を受けている。修復作業を進めて使用可能な状態にはなっているものの、どうやら照準系に不調をきたしているらしい。
『はっきり言って、公王に用はありません。私の任務は初めからその機体の破壊です。王だろうと奴隷だろうと、誰が乗っていようとも同じ事……死にたく無ければ降りてください、さもなければ!』
そんな最高の好機を見逃す程、リジュームは甘くなかった。搭乗者の戦意を現すかのように機体各所のセンサー類を蒼く輝かせながら、鋭角的なフォルムの鉄騎が天使機の前へと仁王立つ。
『さもなければ、なんだ? 脅しのつもりか。余を侮るのも大概にせよ。国家の上へ立つ者にとって、その程度の敵意殺意なぞ挨拶の様なものだ』
嚇怒とも言える気迫を前に、しかして公王もまた臆する様子は無い。それもひとえに海千山千の修羅場を潜り抜けて来た経験故か。尤も、リジュームとて今さら会話の一つ二つで解決できるなど思っていなかった。
『肉親の手前であろうと、手加減するつもりも出来る相手だとも思いません。此処は戦場、どうか覚悟して貰います!』
『大言壮語は誰にでも吐けるわッ!』
問答は此処まで、後は剣弾を交わすのみ。動いたのはほぼ両者同時だった。牽制も兼ねて火炎放射装置の照準を合わせて来る天使機に対し、猟兵は迷うことなく前へと飛び出してゆく。狙いは可能な限り彼我の距離を詰める事。間髪入れずに叩き込まれた炎柱を紙一重で避けながら、戦機は相手の懐へと踏み込んだ。
『確かに、殲禍炎剣の代替となる試作兵器の威力は侮れませんね。ですがそれほど強力ならば、浴びれば自身も無事では済まないのでは? 照準機能が低下している以上、近接戦闘に持ち込んでしまえば迂闊に使用出来はしないはずッ!』
『ッ、詰まらん小細工を弄しおって……!』
リジュームの選択は的確に相手の弱点を突いていた。『殲禍炎剣を制御した』という建前上、幾ら強力な兵器とて自機に組み込むことが出来ず、どうしても外部に設置する必要がある。それはそれで大威力化が出来ると言うメリットがあったものの、一方で己すらも誤射しかねないというリスクも同時に背負ってしまっているのだ。
『認めよう、確かにあの一撃は余のキャバリアとて耐え切れぬ。しかし、自らが発する炎であればその限りではない!』
これで頭上からの炎柱を気にする必要は無くなったが、それで終わりという訳ではない。天使機は翼状ユニットから灼熱の車輪を放つや、己ごとリジュームを炎で包み込んでゆく。自爆紛いの戦術だが、当然天使機の装甲は全て耐熱仕様。自らの炎に焼かれるようなヘマは在り得なかった。
『EMフィールド、出力最大! 出来る限り機体の温度上昇を食い止めつつ、こちらも白兵戦へと移行する! 殲禍炎剣制御特化型などと嘯く以上、まともな格闘用の兵装など装備してはいないでしょう!』
対する戦機の戦術は単純明快、電磁障壁による強引な肉薄である。もし此処で退けば火炎放射によって最悪の場合は戦闘不能だ。ジリジリと損傷が蓄積するとは言え、まだ足を止めての消耗戦をした方が勝算は高かった。
『そちらとしては一度仕切り直したいのでしょうが、そうはさせません。逃げ場に限りのある屋内空間でディナの速度から逃れる術なんて無い。どちらかが限界を迎えるまで、お付き合い頂きます!』
衝角剣槍で優美な装飾の施された装甲を叩き潰し、尻尾の如きテールアンカーに装着されたプラズマブレードが死角より天使機の翼を切り裂いてゆく。だが相手も絶えず炎の輪を放ち続けており、戦場の温度は急速に高まりつつある。
(如何に優秀な護りとは言え、温度の上昇までは防ぎきれない……予想以上に活動限界が近いですね。となれば、ここは大技を狙うべきでしょうッ!)
モニターに警告が走り、リジュームは機体温度が危険域に達したことを悟る。残り時間が少ない以上、こちらも最大火力を持つ切り札を切るべきだろう。彼女は得物を投げ捨て敵機へと掴み掛かるや、テールアンカーで彼我をがっちりとホールドしてしまう。
『なんだ、何をするつもりだ。まさか!?』
『ええ、御推察の通りです。この至近距離なら確実に直撃させられます……EMフィールド反転、超高圧縮荷電粒子を解放』
――砕け散れッ!
瞬間、凄まじい閃光が戦場に迸った。電磁障壁の反発方向を外から内へと変更。放出した荷電粒子を瞬時に圧縮する事で、凄まじい爆発を引き起こしたのだ。余りの威力に、吹き飛ばされる友軍機も出て来る……が。
『……驚きましたね。今の一撃を耐えますか』
『ク、ククク。流石に無傷とはいかないが、大公国の象徴と言う肩書は伊達ではない。余としても、そちらだけを吹き飛ばしてやろうと思ったのだがな』
爆心地の二機は健在。両者ともに高熱を受けて装甲が赤熱化しているが、行動不能には陥っていない。互いに互いの耐久力に呆れと驚嘆を漏らしながらも、戦機と公王は引き続き戦闘を続行するのであった。
成功
🔵🔵🔴
リーオ・ヘクスマキナ
さぁーて総仕上げだ
……記憶がないから実感も無いけど、親殺しってのはとても辛いらしいからね
そういう事にならないよう、まぁ上手いこと頑張ってみますか
2章での要領で、他の猟兵やクーデター側に注意が向いている間に、可能な限りギリギリまで接近
接近後は【ブリキの木樵】を「ヴェルメリオ・アヴァター」にてキャバリア級サイズで顕現
あくまでもUCでの召喚物な事を利用し、顕現と同時に翼へ剣斧や盾のパイルバンカーで不意打ちを仕掛ける
自身は木樵の背部武装ラックを足場代わりに、帽子を深く被って思考速度を加速しつつライフルで翼の関節部を狙う
さぁ、その傍迷惑な機体からそろそろ降りてもらうよ
この国の人達にも迷惑だしね!
●鋼の斧刃、天使の羽を断ち落とし
幾度もの戦闘を経た広間の内部は、煉獄も斯くやと言う様相を呈していた。攻撃の余波であちこちが溶解し、白熱した建材が白い蒸気を噴き上げている。壁に施されていた精緻な装飾はもはや見る影もなく、ちょっとした振動で崩れ去ってゆく。そんな熱波吹き荒ぶ戦場を前に、リーオは飽くまでも普段通りの飄々とした態度で佇んでいた。
「さぁーて、総仕上げだ。随分と酷い有様だけど、まだまだ公王様は元気なようで何よりかな。皮肉じゃなくて本当に……記憶がないから実感も無いけど、親殺しってのはとても辛いらしいからね」
彼には猟兵となる以前の記憶がない。故に、親しい相手を失うという事が一体どういった感覚と感情を齎すのかは分からなかった。だがそれでも、他者の心情を推し量ることならば出来る。共感は出来ずとも、その苦悩や葛藤の大きさを察することならば可能なのだ。
「そういう事にならないよう……まぁ、上手いこと頑張ってみますか。なに、きっと大丈夫さ」
だが、そう言った事情を汲んだ上で飄々としていられるのは、きっと彼の強みなのだろう。込み入った理由があるからと言って、こちらまで暗くなる必要は無い。飽くまでも普段通りに、それが十全に能力を発揮する為の秘訣なのだから。
(とは言え、のこのこ前に出て行っても消し炭にされるだけだ。ここはさっきと同じように、ギリギリまで接近しなきゃね?)
幸いクーデター部隊と自治領軍の数は依然として多く、かつ士気も高い。そちらの攻撃に紛れれば、生身の人間が動き回っても早々目立ちはしなかった。彼は噴き上がる蒸気を隠れ蓑としながら、冷え固まった残骸を飛び越えて進んでゆく。公王のキャバリアはあの見た目と攻撃方法である。こちらが見失う心配などなかった。
『どうした、貴様らは余の護衛部隊を打ち破った猛者たちなのだろう? それとも単なる偶然で得た勝利なのか! もしそうならば二度の幸運は無いと知れ!』
(よし、こっちの動きには気づいていないみたいだね。万が一見つかってたら、折角の隠密行動が無駄になるところだった……相手に言わせれば、これも運なのかな)
ふと、そんな徒然とした考えが脳裏を過ぎるのも余裕の裏返しか。リーオは十分に距離を詰めたと判断するや、パチンと小さく指を鳴らす。瞬間、彼のすぐ傍に金属で出来た木こり人形が現れると、瞬時に巨大化。一瞬にして、鋼の巨人が天使機のすぐ後へと聳え立つ。
「カモン、赤頭巾さん! 絶好のチャンスだ、竜巻みたいに派手に行くよォ!」
『背後に敵機の反応!? 馬鹿な、一体何処から……!』
クーデター部隊の相手に注力していたせいか、公王の反応が一瞬遅れる。振り返った相手の視界に飛び込んできたものは、巨大な剣斧と杭付きの大盾だった。防御する暇もなく強かに打ち据えられ、堪らず天使機はグラリと姿勢を崩す。見れば翼部の一つに亀裂が走り、内部機構が露出している。
「手持ちの銃器だと防御を抜けないだろうし、狙うべきはあそこなんだろうけど……!」
『ええい、離れよっ!』
木樵の背面武装ラックに乗り込んだリーオは、帽子を目深に被り直しながら其処を狙うもトリガーを引くまでには至らない。公王が機体を傾がせながらも、翼部から強烈な火炎を放ってきたからだ。咄嗟に杭打ち盾で防がせるも、射線が途切れてしまう。
『機体の外に陣取るなど酔狂な真似を。勇敢さと無謀をはき違えたか!』
「いやまぁ、キャバリアじゃないからこうするしかないんだけどね? まぁでも……デメリットばかりじゃないさ」
そのまま焼き払ってやろうと攻撃の手を強める公王だったが、既に木樵の上から猟兵の姿は消えていた。咄嗟に周囲を走査すれば、地上側に反応有り。咄嗟に飛び降りて灼熱を回避したリーオは、そのまま先の損傷部を狙える位置へと陣取ったのである。
「さぁ、その傍迷惑な機体からそろそろ降りてもらうよ。この国の人達にも迷惑だし、何より親子喧嘩ってのはもう少し微笑ましくなきゃね!」
今度こそ引き金が押し込まれ、短機関銃より無数の弾丸が吐き出されてゆく。それらは狙い違わず装甲板の亀裂へと吸い込まれると、内部を蹂躙。小規模な爆発と共に、その機能を停止させるのだった。
成功
🔵🔵🔴
シキ・ジルモント
友軍のキャバリア部隊に協力を頼みたい
相手は速く動く物を標的とする、まずは俺が奴の注意を引こう
周囲へ注意が逸れている間に、集中攻撃を叩き込んで欲しい
真の姿を解放して能力を上げ、敵の前へ駆け出し攻撃を回避する事に専念
(月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように変化、瞳は夜の獣のように鋭く光る )
キャバリアからの集中攻撃でダメージを受けて標的が変わるなら、その隙にワイヤーを飛ばして敵の機体に登ってしまおう
翼の付け根や動力を、近距離からユーベルコードで攻撃
反撃と共に軍への攻撃を妨害したい
オブリビオンマシンのみを破壊し、公王の生存を目指す
…公王が正気に戻り、戦いが終わった後であれば、父子の対話も叶うだろう
●飛ぶ焔鳥を落とすは群狼
「年老いた為政者、プロパガンダ用の機体……それだけ聞けば容易い相手にも思えるが、中々どうして手強そうだ。オブリビオンマシンの影響在りきとは言え、仮にも一国を治める王という訳か」
むせ返る様な熱気に思わず口元を覆いながら、広間へと踏み込んだシキは思わずそう呟かざるを得なかった。見れば広間の中央に陣取った天使機は、押し寄せるクーデター・自治領側の両部隊を相手に一進一退の攻防を繰り広げている。彼とて簡単には終わらぬだろうと思ってはいたが、公王の動きは此方の予想以上とも言えたのだ。
『おぉ、おぉぉぉ……! 愚か者どもが、目先の脅威にばかり気を取られおって。貴様らが翼へ拘泥している内に、損傷した頭部の修復が完了したわ。これで再び殲禍炎剣を振る事が出来る!』
頭上より突き立つ巨大な火柱。それらは次々と地上へ降り注ぎ、着弾地点を融解させてゆく。それには堪らず、攻め掛かっていた味方部隊も一旦身を退かざるを得なかった。
「先の様に取りつく事が出来ればまだ付け入る隙はあるだろうが、そこに辿り着くまでが問題だな……となれば、ここは素直に友軍の手を借りるべきだろう」
敵が撒き散らす熱量は先の虐殺者の比ではない。如何な脚力とて、単身では早晩捕捉されて消し炭となるのがオチだ。である以上、助力を仰ぐのは当然の帰結であった。彼の呼び掛けに対し、後方から牽制射を放っていた分隊が反応する。
『どうなされたか、猟兵殿?』
「済まないが協力を頼みたい。どうやら、相手は速く動く物を標的とするらしい。まずは俺が奴の注意を引く。そちらは奴の注意が周囲へ逸れている間に、集中攻撃を叩き込んで欲しい」
『危険な役回りを率先されるとは……いえ、こちらこそ感謝します。どうか援護はお任せを!』
幸い、分隊は要請を快諾してくれた。それを受けたシキは後顧の憂いが無くなったと、己の裡に抑圧されていた本能を解放してゆく。相手が理性を捨てて狂奔するのであれば、こちらもまた獣性を以て挑むのみ。銀狼は一瞬深く身を沈めるや、床を蹴って弾丸の如く飛び出していった。
『高速で動き回る物体……? おのれ、またぞろ生身で挑んで来たか。同じ手が二度も通用すると思うてかッ!』
猟兵の接近に気付いた公王は嚇怒の雄叫びを上げる。先ほど、生身の猟兵に奇襲を仕掛けられた事が余程腹に据えかねていたのか。グンと複眼を差し向けるや、頭上より炎の槍を発射した。対して、シキは変幻自在の軌道を以てプログラム仕掛けの照準を紙一重で交わしてゆく。
(今はまだ、回避に専念すべきか。この間に、クーデター部隊も態勢を整えるはず……!)
公王の苛立ちと比例するか如く、徐々に攻撃の間隔が短くなりつつある。攻撃準備が間に合うのが先か、銀狼が避け切れなくなるのが先か。ジリジリとした緊張は両者の間へと張りつめ、そして――。
『今ならば敵の防御ががら空きだ! 目標「ネハシム・セラフ」、撃ぇっ!』
果たして、結果は前者であった。友軍による一斉射が横合いより天使機へと叩き込まれ、派手な爆発を起こす。機体を揺るがす凄まじい衝撃に、思わず公王の注意もそちらへと引き寄せられてしまう。
『がぁっ!? おのれ、目を離した隙に小賢しい真似を……!』
「やはり、数と言うのは心強いものだな。さて、隙を見せた以上こちらも仕掛けさせて貰おう」
そうして頭上からの攻撃が途切れた一瞬を見計らい、シキは素早くワイヤーフックを投擲するや勢いもそのままに敵機表面を駆け登ってゆく。こうして密着してしまえば、まさか自分ごと撃ち抜きはすまい。とは言え、悠長に狙いをつけている暇もまた無いだろう。
(流石に動力部は外側からでは狙えない、か。ならば、攻撃すべき箇所はただ一つ)
重要機関は厚い装甲の奥深くに守られている。そこまで攻撃を届かせるのは至難の業だ。故にシキが目を付けたのは翼部の付け根部分。燃料供給用のパイプや操作ケーブルの破断であればまだ狙いやすかった。
「こいつも友軍に向けられる訳にはいかないからな。まずは翼から無力させて貰うぞ」
グイと装甲の隙間へ銃口をねじ込むや、とっておきの特注弾を解き放つ。拳銃としては規格外の破壊力が内部を蹂躙し、漏れ出た燃料が引火し炎を噴き上げる。射撃の反動を活かして灼熱から逃れると、シキはそのまま中空へと身を投じた。
「操縦席も狙えない事も無かったが……飽くまでも目的は機体の破壊だけだ。公王が正気に戻り、戦いが終わった後であれば、父子の対話も叶うだろうさ」
まずはその為に着実な一手を。銀狼は己の戦果を確認しつつも、追撃を受けぬよう素早くその場より一旦離脱してゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
西院鬼・織久
国の盛衰、道義、信念、どれも我等が気にかけるものではありません
我等は元より反逆者、我等が怨敵に反旗を翻すもの
怨敵の影あらば悉く屠るが我等の定め、我等が本望よ
【行動】POW
先制攻撃+UCに怨念の炎を付与した夜砥を忍ばせ範囲攻撃
周辺一帯を爆破し、飛び散る瓦礫と散布された怨念の炎で動く対象と熱源を増やす
五感と第六感+野生の勘で攻撃対象が移るタイミングを見切り、繋がった影の腕に紛れて夜砥を巻き上げ敵機に乗り上げる
夜砥を命綱代わりに巻き付け落下を防ぎ、損傷箇所に串刺し+UCを流し込み内部を爆破
反撃の兆候があれば機体の上を移動して回避、飛び道具なら自爆攻撃になるよう仕向ける
●白き翼、黒き焔
国の終わりが穏やかであった例など、歴史上幾つあるのだろうか。優美であったはずの公王邸が大広間は、今や暗澹たる様相を呈している。装飾は高熱に溶け、大理石の建材は砕け散り、玉座など既に跡形もない。その有り様は正に亡国と評する他なかった。
「国の盛衰、道義、信念……どれも我等が気にかけるものではありません。我等は元より反逆者、我等が怨敵に反旗を翻すもの。異邦の身の上で出来る事など、ただ武を振るう事だけでしょうから」
しかし、そんな光景を目の当たりにしてもなお織久が動ずることは無い。彼の至上目的は只、過去からの脅威を撃滅する事ただ一つ。言ってしまえば、それ以外は枝葉末節なのだ。青年は右手に槍を、左手には髪糸を取り出すや、臆することなく戦場へと踏み込んでゆく。
「故に……怨敵の影あらば悉く屠るが我等の定め、我等が本望よ」
程度の差こそあれ、この状況は今まで踏破して来た戦場とよく似ていた。即ち、其処此処に赤々と輝く無数の焔。これほど強烈な輝きならば、影もまたより一層の濃密さを得られるだろう。彼は未だ高熱を放つ残骸の間を縫いながら、足元より漆黒の影を放つ。
『ぐっ、今度は何奴か! レーダーに映らんだと!』
それは狂ったように火炎放射装置を作動させ続ける天使機へと到達するや、すぐ足元で爆発する。機械が感知できなかったのも無理はない。影とは無そのもの。無いものを探り出す事など不可能だ。況や、その中に紛れた極細の糸など感知できる道理はなかった。
「どの様な手段で我等を見つけ出しているのかは知らぬが、目視では限界もあるだろう。精々、瞳を凝らして虱潰しにするが良い」
影を実体化させ巨大な腕として相手を拘束する一方、織久は予め攻撃に仕込んでおいた怨念の炎を解放。撒き散らされた瓦礫も利用し、天使機の目を混乱させてゆく。これで通常のカメラ、動体検知、赤外線といったセンサー類は用をなさないだろう。
『影、なるほど影か。原理は分からぬが、よく考えたものだ。しかし、余の「ネハシム・セラフ」とは些か相性が悪いと言えるぞ』
だが、公王の反応は驚愕ではなく嘲りだった。相手は拘束されたまま、自身のすぐ近くへと炎柱を撃ちこむ。それにより撒き散らされるは莫大な熱量と、そして……光である。その余りにも強烈過ぎる輝きは影を濃くするどころではない。辺り一面を暴力的な白で塗り潰し、一瞬にして影の腕を消滅させてしまう。
『ははは、これこそ「殲禍炎剣」の力! 我が大公国を導く光明である!』
「……随分と上機嫌だな。だが、反逆者の長が言った通りだ。己の目を潰しているのにも気づかぬとは、哀れと言う他ない」
『なに……ッ!?』
高らかに快哉を叫ぶ公王だったが、それは直ぐ近くから発せられた声によって断ち切られた。複眼を周囲へ巡らせてみれば、なんと肩の上に猟兵が悠然と佇んでいたのである。
確かに火炎放射装置の一撃で影は消滅した。だが、同時に仕込んであった髪糸にとって光の量など関係ない。織久は攻撃の前兆を察知するとそれを巻き上げ、閃光に紛れて一気に敵機へ乗り上げたのだ。
「自慢の一撃を繰り出したければ好きにするが良い。尤も、その場合は貴様とて無事に済むとは思えんがな」
『き、さまぁッ!』
半ば理性を失っているとは言え、自爆を選ぶほど相手も愚かではない。猟兵を振り落とさんと機体を大きく揺さぶるも、命綱替わりの髪糸によって青年の身体はがっちりと保持されており、振り払われる様子は無かった。
「さて、先の爆発で装甲の一部が破損しているな。僅かばかりの間欠だが、穂先が通れば事足りる」
そうして織久はくるりと槍を振り被るや、純白に穿たれた微小な孔へと得物を突き立てる。途中で穂先が止まろうと関係ない。機体内部は暗闇であり、即ち影が満ち満ちているとも言え……。
「公王であろうと、貧者であろうと。何人たりとも死の影より逃れる事能わず」
瞬間、爆ぜ溢れた漆黒が装甲内部を蹂躙。戦闘能力の幾ばくかを強引にもぎ取ってゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
エドゥアルト・ルーデル
しってた
少佐殿の機体の肩に乗る!ここが一番見晴らしが良いんでね!お気遣いなく、戦闘機動もどうぞどうぞ
そしてクーデター各機に連絡、戦いたいだろう?フォローするから好きなだけ戦え
突撃する機体の肩の上でクーデター部隊に連携の指示を出しつつ【架空兵器】召喚、世界からダメ出し食らうので詳細はちょっと…20m弱人形で全身覆うでかい盾持ちですぞ
人形を火炎放射から狙われた味方の前に立たせて盾にさせますぞ!無人架空兵器ならいくら燃えても良い
時々盾で殴らせてもいいネ!質量は正義!
公王の生死は気にしませんぞ、首領のどちらかが討ち取ればいいでござろう!まあ拙者が殺しても別にいいが
生かしても後で死ぬようなもんだしな
ルイン・トゥーガン
依頼主が王子だろうが知ったこっちゃないよ
こっちは金が貰えればそれでいいさね
そういう事情に首突っ込んでまた昔みたいな目に逢いたかないしね!
……まぁ国のトップを撃ち落とせるなんて滅多にない機会で愉しくはあるがね
はん、殲禍炎剣の制御を謡うんなら高高度飛行や高速飛行でもやってみるんだね!
それが出来ないなら所詮は空に浮かんだ頑丈な的でしかないよ!
とはいえ、流石に公王機だけあって硬いねぇ。地上からのビームアサルトライフルじゃさして効かないか
核は流石に持ち込んじゃいないがアレなら……都市上空での使用許可は、下りないだろうがねぇ
スラスターを全開にしての短時間飛行で敵の上空を取って【FAE-13】をぶっ放すよ!
●愚者よ、危険領域にて踊れ
「クーデター部隊の隊長は、実はなんと公王の息子だったんだよ! ナ、ナンダッテー!? ……いやうん、知ってた♪」
あんまりにもあんまりな物言いである。だがそれは、いち早く裏事情を察する事が出来た者にのみ許される余裕とも表せるだろう。広間内部で繰り広げられる鉄と焔のぶつかり合いを良い笑顔で眺めるエドゥアルトだったが、一方でその横に姿を見せたルインは愛機の操縦席で憮然とした表情を浮かべていた。
『はんっ、依頼主が王子だろうが知ったこっちゃないよ。こっちは金が貰えればそれでいいさね。そういう事情に首突っ込んでまた昔みたいな目に逢いたかないしね! ……まぁ、国のトップを撃ち落とせるなんて滅多にない機会で少しばかり愉しくはあるけどさ』
政治は本音と建て前が入り乱れる謀略の園。況や、国際情勢は複雑怪奇なりとはよく言ったものだ。そんなものに手を突っ込めば火傷しかねないと、当然彼女も経験則で知っている。
だが同時にお偉方の都合で振り回されてきた過去から、そう言った相手に銃口を向けられる機会に魅力を感じるのもまた否定できない。目的さえ果たせば他の部分でとやかく言われないのが傭兵の良い点である。多少の私情を織り交ぜたところで問題は無いだろう。
「まー、その趣味の極北みたいな人種が友軍ツートップの片割れで御座るからなぁ。ねぇねぇ、そこんところどうなの中佐?」
『はははは、それは政治的に極めてセンシティブな問題なので、回答は差し控えさせて貰おうか。と言うか貴君、そんなところに登って良いのかね? これから最前線に突っ込もうと思っていたのだが』
すっかり政治家的答弁が板についたハイネマンは逆に黒髭へと問い返す。彼の姿はいつの間にかサイクロプスの肩上へと移動していた。命綱の様な物は見当たらず、激しい機動を行えば振り落とされかねないが当の本人は飄々としている。
「問題ないでござるよ。ここが一番見晴らしが良いんでね! お気遣いなく、戦闘機動もどうぞどうぞ!」
『ふざける余裕があるとは、頼もしいんだが頼りないんだか。ともあれ、仕事はきっちりこなさなきゃね。それじゃあ先に行くよっ!』
そんな仲間の様子に苦笑いを浮かべつつ、ルインは赤紫色の乗機を操って前線へと飛び込んでゆく。全身に増設されたスラスターを小刻みに動かしながら、距離を測りつつ様子を窺っている。
『はん、殲禍炎剣の制御を謡うんなら高高度飛行や高速飛行でもやってみるんだね! そいつが出来て、初めて掌握したって言えるのさ。それが無理なら、所詮は空に浮かんだ頑丈な的でしかないよ!』
『地を這う貴様らにわざわざ目線を合わせているのだと分からんとは、随分と図に乗ったものよ。余の慈悲に感謝しながら、大公国の礎となるが良いッ!』
矛盾を突かれたとしても、オブリビオンマシンと化した機体によって認識が歪められているのだろう。言葉による挑発に大きな効果は期待できないと判断するや、ルインは主兵装であるビームアサルトライフルによる射撃へと切り替える。それらは次々と天使機へ命中するものの、ダメージ効率は芳しくなさそうだ。
(全く、流石に公王の座上機だけあって硬いねぇ。わざわざ炎を武器にしているんだし、耐熱性能も低くはなさそうだ。となると、地上からのビームアサルトライフルじゃさして効かないか)
戦車は自身の砲に耐え切れるよう装甲を設計するとはよく聞くが、相手もその例に漏れていないのだろう。火炎放射装置の一撃は例外だろうが、生半な熱量では焦げ跡一つ付けられそうにない。有効打を与えるにはまた別種の攻撃か、それ以上の火力を持ってくる以外に方法はなさそうだ。
『どうした、逃げ回るだけでは勝てはせぬぞ? 奥の手の一つや二つ隠し持っているだろう! 見せてみよ、その全てを焼き尽くしてやろう!』
(うーん、核は流石に持ち込んじゃいないが『アレ』なら……ただ、使用した場合の被害と許可の事前申請がねぇ。いや、そんな悠長な事をやってる暇も無いんだけどさ)
お返しとばかりに降り注ぐ火柱を乱数回避で掻い潜りながら、ルインは操縦席で渋い表情を浮かべている。現状を打破するための手段は無い事もない。だが、それを為すには少しばかり時間と覚悟が必要だ。さてどうしたものかと彼女が思案していると、オープンチャンネルで威勢の良い声が飛び込んできた。
「誰も彼も、攻めるに攻められないって雰囲気ですなぁ。クーデター部隊だろうが自治領軍だろうが、自由に戦いたいんだろう? 良いでござるよ、拙者がフォローするから好きなだけ戦え!」
『猟兵諸君らばかり戦っていては我々の居る意味がないしな。さぁさぁ、派手に殺し合うとしよう』
そちらを見やれば攻めあぐねる友軍を尻目に飛び出したハイネマンと、その肩の上で檄を飛ばすエドゥアルトの姿が見える。本来、指揮官が前線突撃なぞ以ての外だ。だが、将の勇戦を見て兵士が勢いづくのもまた事実。
『下手人は貴様か、ハイネマンッ! たかだがフォートレスを墜とした程度で英雄にでもなったつもりか!』
『ははははっ! よく言うだろう? 一人殺せば罪人だが、千人殺せば英雄だと!』
しかし、それは成功すればの話だ。万が一将が討ち死にすれば軍そのものが瓦解しかねない。公王もそれが分かっているのだろう。標的をルインからハイネマンへと変えるや、火炎放射装置を今一度起動させる。戦争狂の乗機は相も変わらず旧式のサイクロプス。その一撃を防ぐことは愚か、回避するスペックとて持ち合わせてはいない。
故にそのままだと消滅は不可避、だったのだが――。
「……こういう場合にはアレでござるな。そう、20mくらいのサイズででっかいシールドを持ったアレ。いやなんか記憶力が怪しくなってきた中年みたいな物言いでござるけど、違いますぞ! 詳細を言っちゃうと世界からダメ出し食らうので、ね?」
絶体絶命の状況でもなお、黒髭の傭兵は相変わらずであった。エドゥアルトはニヤリと不敵な笑みを浮かべるや、頭上高らかに指をパチリと鳴らす。瞬間、通常のキャバリアを優に超える機影が出現。身の丈に匹敵する巨大シールドで真正面から火炎放射を受け止めた。
『な、なんだコイツは!?』
「いやだから、それには答えられないんでござるよ……うーむ。と言うか、もしかしたらこの戦場が一番危険かもしれませんなぁ。色々な意味で」
男は神妙な面持ちで肩を借りている暗緑の独眼機、ルインが駆る赤紫色の海兵隊仕様機、そして己が召喚した盾持ちの架空兵器を順繰りに見やる。何がとは言えないが、確かにデンジャラスやも知れなかった。
「まぁ大丈夫でござるよ……たぶん、きっと、メイビー。まぁ、燃えるとしたら拙者の無人架空兵器だけなので実際安心。炎上って怖いよネ!」
『訳の分からんことをごちゃごちゃと……! 狂人なぞ一人で十分だッ!』
猟兵を黙らせようと公王は火炎放射装置を乱射するが、架空兵器はよく耐えた。平均なキャバリアの優に四倍のサイズに加え、無人機であるが故に損傷を考慮する必要もない点は強力な強みである。
「デカい、硬い、重い! 機動力は無いけれどこの重厚感はロマンでござるよね。質量は正義!」
架空兵器は斜めに盾を抱えてジリジリと肉薄するや、大きく振り被ったそれを思い切り天使機へと叩きつけた。装甲がひしゃげ、堪らず相手の体勢が崩れる。今ので大破しないだけでも驚嘆だが、中の搭乗者まではそうもいくまい。
「公王は首領のどちらかが討ち取ればいいでござろう! まあ、拙者が殺しても別にいいが……生かしても、どのみち後で死ぬようなもんだしな」
『ぐっ、がは
……!?』
一瞬だけ、冷徹な表情を見せる黒髭。この国と同じように、公王の末路も既に確定している。ならばせめて、無関係な者が終わらせるのも後腐れが無いと言うもの。トドメを差そうとしたエドゥアルトは、横やりが入らぬよう通信機を切ったのだが……。
『よぅし、邪魔っけな火炎放射器が止まったね! 都市上空での使用許可は下りてないけど、地上付近ならまだ言い訳も効くだろうさ!』
仲間との情報共有を断ったのは不味かった。広間の天井付近を見やれば、スラスターを噴かして一息に飛び上がったアマランサスの姿が飛び込んで来る。肩に乗せる形で構えられたバズーカから覗き見えるのは、巨大な弾頭。
「あっこれアカンやつでは? 総員退避、退避ぃぃぃ!?」
『安心しな、余波程度ならキャバリアに乗ってれば耐え切れるよ……いや、生身は知らないけどね? そういう訳なんで、FAE-13発射!』
エドゥアルトの叫びも虚しく、トリガーが押し込まれた。放たれた弾頭は敵機を射程距離に捉えた瞬間に炸裂。内部の燃料を周囲へと撒き散らすと同時に、大気と混ざり合ったそれに着火する。刹那、強烈な高熱と爆轟が広間に吹き荒れた。ルインが放った弾頭、その正体は燃料気化爆弾と呼ばれる凶悪かつ強力な兵器だ。
果たして、事前に警告を受けていた友軍は防御態勢を取っており無事。黒髭も間一髪、大盾の陰に身を隠す事により難を逃れたらしかった。
「ば、爆発オチなんて最低でござる……」
『冗談が言えるなら大丈夫だね。それに悪いけど、まだ終わっちゃいないみたいだよ!』
仲間のぼやきに鋭い警告を飛ばすルイン。見れば高温で大気が揺らめくその奥に、翼を広げた機影が見て取れる。侮った心算は無いが、相手の耐熱性と頑丈さが予想以上だったらしい。
『余一人を討つのに、また大仰なものを。だが、耐え切ったぞ?』
腐っても一国の王という訳か。そう言って公王は天使機の翼部を広げさせ、己の健在を敵手たちへと知らしめるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キリジ・グッドウィン
【特務一課】5人
『イェレナ』で。
公王は狂気に飲まれたままその首落とすのが良いのか。
父親の首を献上して丸く収めなくちゃならねぇとか随分頭痛に悩まされそうな英雄だ。せめて「最小限」に留めてやるべきか
国交問題までは触れない任務だしオレ達には関係ないがな
だからあまり感情移入とかするモンじゃねぇぞ雪丸鳳花。知ったところで……ま、勝手にしろ
先制する為に敵の攻撃にも臆さず進み、痛みや熱さは激痛耐性である程度耐える
「『情熱』や『狂気』を理解出来ないからって物理的に感じろってか?」
ビームダガーによる切り込みと投擲による連続攻撃
最後の一本は投擲する際リミッター解除し、味方が大技を決める為の隙を作りだす
叢雲・源次
【特務一課】
目的はオブリビオンマシンの撃破、戦闘データ取得、及びドストニエル大公国に対し『貸しを作る事』だ。
事の顛末がどうあれ、あの機体を撃滅する事を第一とする。後は知らん…公王の倅が決着をつけるだろうよ。
「というわけだ…特務一課。オブリビオンマシンのパイロットである公王への引導だがそこまでは俺達の仕事では無い。各自相応にやれ」
サギリ、加減をして勝てる相手ではない…フル稼働、最大戦速で行く
(リミッター解除。自身への負荷を諸共せず、白鈴号は太刀を抜きエネルギーを収束。長大なエネルギーの刃を形成、一気に振り下ろし叩き落とさんとす)
「子が親にしてやれる事など限られてるだろうよ…後は好きにしろ」
グウェンドリン・グレンジャー
【特務一課】
(UDCアースのどの言語圏に近い文化なのかは予想が付いた。祖国の王室とも親戚関係にあった北の大国に極めて近いのだろう)
王様、息子さん、と、ちゃんと、話しなよー
……私達、は、ぶっ飛ばすだけ、だけど、ねー
そっち、が、天使、なら。こっちは、女神
この力、なら、黒玉姫ごと、使える……むしろ、私にとっても、この子にとっても、ある意味、真の姿
(UC発動。融合搭乗している黒玉姫ごと転身するのは、黒曜石の羽毛煌めく神鴉)
すばしこく、滅茶苦茶動く、敵……なら、体軀で、上回れば、いい
空中戦、で、先制攻撃。念動力、乗せた、羽ばたきで、炎に対抗
怪力と、神罰乗せた、脚で、すれ違いざまに、インファイトキック
サギリ・スズノネ
【特務一課】
※呼び方:名前+お姉さん、お兄さん
※キャバリア:白鈴号(複座型)搭乗
王様がどうなるか、どうするかは、家族が決める事なのです。
他人が何を言ったって、自分で決めなければ、ずっと後悔する事になりますから。
だからーサギリ達はいつも通り、ぶっ飛ばすだけなのです!
合点承知なのですよ、お兄さん!
サポートはお任せくださいなのです!
相手は炎がお得意のご様子。炎はサギリも得意分野なのです!
火ノ神楽で炎の鈴を出現。白鈴号の動きの邪魔にならない適度な距離に浮遊させておきます。
白鈴号への攻撃は、炎の鈴を盾状に並べてガード
それを越えた分を【火炎耐性】を込めた【オーラ防御】で防ぐのです!
雪丸・鳳花
【特務一課】
オブリビオンマシンは搭乗者を狂わせると聞くが、元の公王はどんな人物だったのだろうな
出来れば助けたいが、手加減などできる相手では無い
ボクの持てる全てをぶつけよう
歌うような機械音か
ならば!こちらも歌で対抗するしかない!
後方へ適度に距離を取り、敵や味方の動きを確認しながら攻撃や回避のタイミングを計る
サチコセイバーを念動力で遠隔操作して味方に合わせて同じ場所を狙って攻撃
敵の攻撃はオーラ防御と念動力を使った衝撃波でダメージの軽減を試みよう
UCの子守唄で一瞬でも眠らせられないか試そう
公王、貴方の為すべき事為さねばならない事は何だったのか
ボクはただの部外者だが、良ければいつか聞かせてくれないか
●任務と私情の狭間に挑め
『雰囲気的に、北の国っぽい、感じなのかなー……? 何処の国にも言えるけど、政治が関わると、どうしても複雑になるし。王様は、息子さん、と、ちゃんと、話しなよー……私達、は、ぶっ飛ばすだけ、だけど、ねー』
仲間たちと共に戦場へと踏み込んだグウェンドリンはふと、戦闘開始前に交わされた会話を思い起こしていた。見聞きした風俗や文化の端々から、この土地が凍土に覆われた然る国家と非常に似通っているのだと気付く。無論、世界が違うのだからそれも単なる偶然かもしれない。だが、同じ名を持つ為政者が辿った道を鑑みれば、不吉な予感を抱かざるを得なかった。
『オブリビオンマシンは搭乗者を狂わせると聞くが、元の公王はどんな人物だったのだろうな。元から抱えていた野心を増幅されたのか、それともゼロから染め上げられたのか。物語では得てして暗愚と決まっている。だけど、現実は……』
細かなニュアンスは異なれど、どうやらそれは鳳花も同じらしかった。公王邸の広間で繰り広げられる惨状。父と子、本来であれば同じ国の仲間同士で相争う闘争の坩堝を前に、彼女の口からそんな言葉が零れ落ちる。
鳳花の愛する歌劇はある意味で非常にシンプルだ。筋書きがあり、役割があり、善悪も明確。しかし翻って見るに現実はどうか。都合の良い機械仕掛けの神など、舞台上にしか存在しなかった。
『……今回の目的はオブリビオンマシンの撃破、戦闘データ取得、及びドストニエル大公国に対し「貸しを作る事」だ。事の顛末がどうあれ、飽くまでも俺たちはあの機体の撃滅を第一とする。後は知らん……公王の倅が決着をつけるだろうよ』
『果たして、公王は狂気に飲まれたままその首を落とされた方が良いのかね。我に返っても、それはそれで愉快じゃないだろうしな。それに父親の首を献上して丸く収めなくちゃならねぇとか、随分頭痛に悩まされそうな英雄サマだ』
そんな仲間の心情を察してか、源次やキリジが口を開く。二人の言う通り、【特務一課】を含めた猟兵たちは凄腕の傭兵という立ち位置である。ある意味、自治領軍よりも更に外側に居る存在と言って良い。
そんな一期一会の異邦人が他国の事情に踏み込み過ぎれば、往々にして良くない結果を残す。これは薄情だとか冷酷だとか、そういう話ではない。各々の領分を守るべきと言う意味だ。
『だからあまり感情移入とかするモンじゃねぇぞ、雪丸鳳花。事情を知ったところで、出来る事なんざ……まぁ、勝手にしろ。最低限、作戦目的を達成するなら文句は言わねぇよ』
『いや、勝手にされてもそれはそれで困るんだがな……ともあれ、そういうわけだ』
キリジの投げやりとも言える回答に嘆息する源次。だが心なしか、彼の口元にうっすらと笑みが浮かんでいるように見えたのは何故だろうか。次の瞬間にはもう表情は引き締められており、青年はこれまでと同じように仲間たちへと号令を下す。
『……特務一課。オブリビオンマシンのパイロットである公王への引導だが、そこまでは俺達の仕事では無い。身柄さえ確保すれば、後は当事者の問題だからな。各自、敵キャバリアの破壊を「相応」にやれ』
『合点承知なのですよ、お兄さん! サポートはお任せくださいなのです! そもそも、王様がどうなるか、どうするかは、家族が決める事なのです。サギリたちが、どうこうするものじゃないのですよ』
その言葉の真意を読み取れぬほど、彼らの付き合いは浅くない。サギリは威勢よく指示に応えながら、自らの言葉にうんうんと頷いていた。彼らに求められる仕事はキャバリアの破壊という一点のみ。である以上、それ以外の物事は己の裁量範囲である。つまり、不殺を目指すのとて別に自由なのだ。
『他人が何を言ったって、自分で決めなければ、ずっと後悔する事になりますから。だからー、サギリ達はいつも通り、全力でぶっ飛ばすだけなのです!』
『出来れば助けたいが、正直言って手加減などできる相手では無いだろう。だとしても、この物語の結末はまだ決まっていない……ならば、ボクの持てる全てをぶつけよう!』
そんな仲間たちの言葉に勢いを取り戻したのだろう。鳳花の声にもいつもの張りが戻って来る。彼女の言う通り、容易い事ではない。だが仲間たちとであればきっと成し遂げられると、彼女は確信していた。
斯くして、特務一課の面々は次々に本騒乱の最終局面へと雪崩れ込んでゆく。その中でも、まず先手を取ったのはグウェンドリンだ。彼女の視線は嚇怒の余り言葉にならぬ唸り声を上げる天使機と、狂ったように連射される火炎砲撃へと向けられていた。
『空を相手が握っているのは、ちょっとやだねー……そっち、が、天使、なら。こっちは、女神、だよ?』
制空権と評するのも正しくはないだろうが、頭上を火炎放射装置に抑えられ続けている現状は極めて宜しくない。三次元的な動きを抑制されると言う点では、確かにあれもまた一種の『殲禍炎剣』と言える。だが本物でない以上、その支配も絶対ではないはずだ。
『この力、なら、黒玉姫ごと、使える……むしろ、私にとっても、この子にとっても、ある意味、真の姿。紛い物程度で、閉じ込められる、だなんて、思わないで欲しいなー』
操縦席と融合し感覚を共有していた少女は、疑似神経系を通して己が異能を乗機の総身へと巡らせていった。漆黒のキャバリアはそれに呼応すると、己を掻き抱く様に身を捩る。
変化はまず、背中から始まった。装甲を割って伸びるは一対の黝翼。両腕がそれと同化すると同時に、脚部には鋭い爪が生じてゆく。そうして数瞬も経たぬうちに姿を見せたのは、キャバリアサイズの大鴉であった。天使の如き敵機とは、正に正反対とも言える姿である。
『すばしこく、滅茶苦茶動く、敵……なら、体軀と機敏さで、上回れば、いい。空を、返して貰うよ?』
『余の頭上を取るとは、何たる傲慢! 望み通り、撃ち落としてくれるわッ!』
大鴉はばさりと翼を一打ちして飛翔するや、天使機を頭上より強襲してゆく。威念を乗せた翼は羽搏きによって炎を払い相手を打ち据えると同時に、舞い散る羽をチャフ代わりとして火炎放射装置との通信を阻害していった。
『これで少しは、動きやすくなったかなー?』
『ああ、助かった。それじゃあ行こうぜ「イェレナ」。いつも通り切り込むから、援護は任せるわ』
そうして頭上の憂いが取り除かれるや、漆黒の愛機を駆るキリジが飛び出してゆく。仲間の援護によって頭上を気にする必要は無くなったが、かと言って気は抜けない。天使機が翼部から放つ車輪上の火炎は、十二分にキャバリアを融解させて余りあるのだから。
だが、キリジの踏み込む速度は衰えるどころか更に鋭さを増していた。迎撃される事など端から覚悟の上。来ると分かっているものならば、下手に避けるより多少強引にでも突破すべきだと彼は決めていたのだ。
『「情熱」や「狂気」を理解出来ないからって物理的に感じろってか? 年配者には悪いが、こっちはまだまだクールに行きたいお年頃でな。そういうのはノーセンキューだ』
攻撃の軌道を紙一重で見切り、巧みに機体を操って前へ前へと突き進むキリジ。だが、彼は感覚を愛機と共有している。装甲表面をジリジリと炙る熱量はそのまま搭乗者の脳髄へと流れ込み、激しい頭痛と化して責め苛む。しかし、青年はそれらを驚異的な精神力でねじ伏せ、あまつえさえ攻撃の合間を縫ってビームダガーを投擲していった。
『どうした、大公国最強のキャバリアって肩書はこんなもんかよッ!』
『舐めるでないわ、小童が!』
既に彼我の距離はもう僅か。これ以上の接近を許すまいと、天使機は限界まで炎輪を生成するや、複数方向より一斉に投射して来る。直進は勿論、左右上下に移動しても炎に巻かれる絶妙な間隔。かと言って退いてしまえば折角詰めた距離が無駄になってしまう。
どちらを選ばれても公王にとって損はなかった。キリジは敵機からほくそ笑むような雰囲気を感じ取り、僅かに眉根を顰める。相手の意図に乗りたくない。であれば、どうすべきか。答えは単純だ。
『言ったはずだぜ、援護は任せるってな……雪丸鳳花ッ!』
『ようやくボクの出番という訳か! 良いだろう、任せ給え! さぁ、聖炎に煌めき煉獄を貫く刃、サチコセイバーの威を見るが良いさ!』
仲間の力を借りればいい。キリジの叫びに応じ、燃え盛る火炎の中を飛翔して来たのは蒼き疾風。それは鳳花の意念よって操られし、流麗なる細剣である。それは黒い鉄騎を飲み込まんとしていた炎輪へ突き立つと、念動力によって内部から雲散霧消させていった。
戦闘開始と同時に後方へと距離を取った彼女は、敵味方の動きや攻撃のタイミングなどを観測し、逐次仲間たちへと共有していたのである。青年が恐れることなく吶喊することが出来たのも、この助力が大きかった。そうしていつでも動ける予備兵力として待機していた麗人は、ここぞと言うタイミングで行動したのだ。
『貴方は確かに強いかもしれない。だが、孤独だ。煌びやかな宮殿に座しながらも傍に臣下の姿なく、ただ独り虚ろな虚栄に縋るのみ。その果てに己が息子に刃を向けられるなんて、なんとも寂しい王様じゃないか!』
『一介の傭兵風情が王の在り方を語るか! 市井の民と玉座に座す者が見る景色は、絶対的に異なる。鴻鵠の志は燕雀に推し測れるものにあらずっ!』
炎を破った細剣が天使機の装甲へ深々と突き立ち、次いで懐へと肉薄したキリジが光刃による連続斬撃を叩き込む。如何に強靭な耐久性を持っているとは言え、既に度重なる攻撃を受けていた純白の鎧はそれによりボロリと鉄片を撒き散らしてゆく。
外見通り、相手に格闘専用の装備は無い。故にこうして距離を詰められる状況を長引かせたくは無いのだろう。天使機は単に焔を放射するのでは埒が開かぬと判断するや、翼を白熱化させて周囲の温度を急激に上昇させ始めた。これでは流石に留まり続けるのは厳しいと判断したキリジは、止むを得ず後退を選ぶ。
『単純な炎じゃなくて熱か……こいつはまた厄介だな』
『歌うような機械音か! ならば、こちらも歌で対抗するしかないけれど、これでは声を響かせようにもかなり騒々しいね……!」
攪拌される大気の唸りに交じって漏れ聞こえるのは荘厳なる旋律。鳳花は瞬時に、それが天使機より発せられるものだと看破する。見れば調べに合わせて溶けた装甲が蠢き、折角与えた損傷を塞ぎ始めていた。同じ芸能に立つ者として負ける訳にはいかぬと意気込む麗人だが、この状況では声を届かせるのも一苦労だ。
『自機を中心として広範囲を焦土戦術に変えつつ、並行して修復まで行うとはな。加えてこの熱波でグウェンドリンの羽も燃え尽き、電波攪乱の効果も半減しているだろう。サギリ、加減をして勝てる相手ではない……フル稼働、最大戦速で行く』
ならばと、動いたのは源次とサギリの駆る純白の鎧武者であった。瞬発力と炎に対する耐性であれば、この二人が仲間の中で最も長けているだろう。同乗者の呼びかけに対し、本坪鈴もまた紅蓮の地獄を前にしてもなお変わらぬ威勢の良さで応じる。
『焔の扱いなら、サギリは王様にだって負けないのです! 灼熱地獄もなんのその、無事に送り届けて見せるのです!』
そう言うや否や、彼女は機体へと霊力を巡らせて次々と炎の鈴を生み出してゆく。目には目を、歯には歯を、そして炎には焔を。装甲や障壁で耐えるのも無論有効だが、彼女は敵と同じものをぶつける事によって無力化を狙っていた。炎は既に燃焼しているが故に、焼かれることは無いという訳だ。
(……それに俺とて、炎に縁が無い訳でもないからな)
それと並行して、源次は己が胸元へと意識を集中させる。地獄と化した心の臓より溢れ出した蒼炎が、操縦桿を通して武者機が腰に佩く大太刀へと侵食してゆく。足を止めれば高温に焼かれ、頭上より降る火柱によって消し炭と化すだろう。必要なのは刹那を断つ一閃のみ。
『着剣……完了……此処が貴様の地獄と知れ』
『さぁさぁ、瞬きしてたらあっという間にお仕舞いなのです!』
僅かに武者機が体を沈めたかと思うや、その場から機影が掻き消える。二人は敵の支配領域へ足を踏み入れると、一陣の白風と化して距離を詰めてゆく。無論、公王とてそれに反応できぬほど衰えてはいない。
『無謀と勇敢をはき違えたか。我が剣は既にその鋭さを取り戻しておるわ!』
刹那、頭上より必滅の焔柱が撃ち出される。正確無比なその一撃は必中の軌道を以て武者機へと迫る。だが、こんな時の為にこそサギリは無数の炎鈴を生成しておいたのだ。本坪鈴は鋭く頭上へと視線を走らせながら、都合九十と四つの金火を機体上部へと展開してゆく。
『ぐ、ぅぅうううっ!? 確かに、強力、ですけどっ……こんなの、へっちゃらなのですッ!』
焔の奔流と幾層もの金鈴がぶつかり合い、周囲へ熱波を撒き散らしてゆく。それはさながら滝を傘で受け止める様なものだ。掛けられる圧力は想像を絶し、一瞬でも気を抜けば護りは崩壊するだろう。だが彼女は歯を食いしばりながら、己の全神経を集中させて攻撃の勢いを左右と後方へと受け流してゆく。
それはただ進むべき道を、駆け抜ける刹那を生み出さんが為。時間にすれば僅か数瞬、されど引き延ばされた感覚には永劫にも等しい石火の一幕。果たして、陽炎に揺らめく灼熱領域の中に未だ白き甲冑の姿はあった。
『馬鹿な、あの一撃に耐えただと
……!?』
『貴様にとっては驚愕かもしれんが、俺にとっては当然の結果だ。さぁ、次は此方から行かせて貰うぞ。サギリが己の役割を果たした以上、仕損じる訳にはいかないからな』
装甲の一部は溶解し、煤で煙り、決して無傷とは言えない。だが、問題は無かった。脚は大地を踏み貫き、手は得物の柄を握り締め、視線は相手を射貫いている。ならば、一太刀を振るうには事足りた。
源次は大太刀を鞘走らせるや、大上段へと構える。刀身に纏わりついていた蒼炎は周囲の熱量すらも収束させながら、長大な刃を形成してゆく。相手も咄嗟に火炎放射装置を再度起動させるが、紙一重の差で武者機の方が早い。
『操縦席は狙わん。だが、修復された分も含めて翼をもぎ取らせて貰う』
瞬間、振り下ろされた一閃がばっさりと天使機の翼を切り飛ばした。機体のバランスが崩れ機動力が低下すると同時に、攻撃の余波によって再び火炎放射装置との通信機能が不調を来たす。ほんの短い時間ではあるが、相手の攻撃能力は半減している。その好機を逃す理由などない。
『まだちっとばかり熱いが、さっきよりかは遥かにマシだな。さぁて、こいつはただの捨て鉢なんかじゃねぇッ!! ここが決め時だ、合わせろ!』
『オッケー……これでまた、自由に動けるね。さっきよりも、強烈なの、いくよー……?』
すかさず二の太刀三の矢となるべく、キリジとグウェンドリンが追撃を仕掛ける。地上では漆黒の機体がリミッターを解除したビームダガーを投擲しながら襲い掛かり、頭上からは弧を描くように翼を開いた大鴉が鋭い爪を剥き出しにしながら蹴撃を叩き込む。
これまでならばいざ知らず、今の状態の天使機にそれを防ぐ手立てはない。炸裂した光刃が装甲を粉砕し、落下速度を乗せた鉤爪が翼部を切り裂いていった。
『よもや、僅か一手で戦況を引っ繰り返すとは……だがァッ!』
一方で公王は何とか機体の制御を取り戻そうと躍起になりながら、せめてもの抵抗として炎輪を放たんとしている。超至近距離で放つそれは自機すらも損傷させかねないが、今の公王にその可能性を考慮する冷静さなどない。そのまま激情に任せ、攻撃を行おうとし……。
『今なら、きっと届くはず……! 公王よ、貴方の為すべき事、為さねばならない事はいったい何だったのか。実の子に反旗を翻されても尚、何を望み願ったのか。ボクはただの部外者だが、良ければいつか聞かせてくれないか!』
『……ッ!? それ、は……!』
鳳花の言の葉が遂に公王へと届いた。凛としていながらも心を解きほぐす様な温かみを伴った問いかけ。虚を突かれた老翁はそれにより一瞬だけ動きを止める。脳裏に浮かんだ情景はいったい如何なるものなのか。それはきっと、本人にしか分からぬのだろう。
――ォォォォオオオオオ……!
しかしそんな感傷すらも許さぬように、乗機である天使機の複眼が紅く輝く。飽くまでも主導権を握っているのはオブリビオンマシンだ。搭乗者が正気を取り戻す事など望んではいないのだろう。だが、それは余りにも無粋な振舞と言えて。
『使われる道具に意志が不要だなんて言いませんけど、ちょっとばかり空気が読めてないのですよ!』
『子が親にしてやれる事など限られてるだろうよ……お膳立てはしておいてやる。終わった後は好きにしろ。語らう時間程度はあるだろうからな』
そんな機体を黙らせるように、武者機の斬撃が飛ぶ。とうとう姿勢を維持できなくなり、敵機は広間の壁面へと弾き飛ばされる。だが相当な損傷を受けているにも拘らず、今なお蠢き続ける天使機。モニター越しに見える公王の表情は、嚇怒によって悪鬼さながらの表情だ。
『父上、貴方は
…………』
猟兵たちの戦いを固唾を飲んで見守っていたサフォーノフは、そんなかつての国家的象徴の姿へただただ悲し気な視線を向けるのであった。
大成功
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ティー・アラベリア
権威の象徴たる玉座と、美しく強大な敵手
大戦の幕引きに、これほど相応しい舞台がありましょうか
ええ、ええ。ボクの全力をもって解体して差し上げましょう
……意外ですか?
オブリビオンの排除は人類生残のための手段であって、目的ではございませんからね
察するに、公王陛下お一人の命で救われる命は数多あるでしょう
各ユニット、防御結界及び白兵支援妖精を盾として展開
火力支援班は全周を包囲し、92式と95式で敵の動きを制圧
打撃班は敵装甲の脆弱部に90式を集中射
敵装甲に破断が見えましたら火力支援の下解体班を突入させ偃月杖で切断致します
損害を考慮する必要はありません
ボク達は知的生命に奉仕するために作られたのですから
●全ては知性ある者の為に
優美だった外観は既に過去のもの。度重なる戦闘によって天使機の装甲や翼部には無数の斬傷と弾痕、亀裂が刻まれていた。瓦礫を跳ね除けながら身を起こすも、純白の塗装はあちこちが剥げて土埃に煤けている。だが追い詰められているにも関わらず、相手の戦意に衰えは無いらしい。
『まだだ、まだ……斃れはせぬぞ、敗れはせぬぞ。余が膝を屈すれば、即ち大公国の未来もまた閉ざされる。それだけは、断じて認めんッ!』
歪んでも尚、捻じ曲がっても尚、公王は王足らんとしている。それは余りにも盲目で現実の見えていない言葉だったが、その一点のみに偽りは無い。そんな敵手の姿に、ティーは思わずクスリと小さく笑みを浮かべた。
「権威の象徴たる玉座と、美しく強大な敵手。傷つき荒れ果てた姿すらもまた気高く……大戦の幕引きに、これほど相応しい舞台がありましょうか。ええ、ええ。ボクの全力をもって解体して差し上げましょう」
芝居がかった口調だが其処に籠る敬意は本物だ。彼が自分と同じ戦争に愉しみを見出す手合いだと考えていたハイネマンは、珍しいものを見たと言う風にモノアイを向けて来る。その視線に気付いた奉仕人形は戯けた様に片目を瞑って見せた。
「……意外だと思いますか?」
『正直に言ってしまえば、ね。貴君は敵と見做したならば、微笑みを浮かべたまま掃除してしまえるタイプだと思っていたよ』
「それも間違ってはおりません。ですがオブリビオンマシンの排除は飽くまでも人類生残のための手段であって、目的ではございませんからね。察するに、公王陛下お一人の命で救われる命は数多あるでしょう。ならば、その為に骨を折るのも当然ですよ?」
――ボクは奉仕する存在なのですから。
一見すれば矛盾も感じる在り様だが、それを前提としてみればなるほど、筋は通っている。他者や状況に左右されず、飽くまでも己の理によって動く。ハイネマンもそれに関しては大同小異である為、合点がいったように小さく鼻を鳴らしていた。
『ふむ……援護は必要かね?』
「では、ほどほど程度に。幸い、人手に関して心配は必要ありません。ボクの量産モデルはとっても強力ですからね♪」
戦争狂いの問いかけに奉仕狂いはにこやかに応ずる。瞬間、彼の左右に瓜二つの姿をした人形たちは現れた。違いがあるとすれば原型が金髪碧眼であるのに対し、量産型は銀髪紅瞳である点か。都合十人以上現れた同胞らを引き連れながら、ティーは友軍の支援砲火と共に戦場へと飛び込んでゆく。
「各ユニット、防御結界及び白兵支援妖精を盾として展開。火力支援班は全周を包囲し、92式と95式で敵の動きを制圧。打撃班は敵装甲の脆弱部に90式を集中射……真正面から馬鹿正直に挑むのは愚の骨頂です。まずは下拵えと参りましょうか?」
躯体保護を目的とした強固な魔力式防御結界と、近接攻撃支援も兼ねた妖精の護り。二重の防護を展開しながら、奉仕人形たちは三手に分かれる。一隊は天使の周囲を包囲しながら広範囲と誘導弾、二つの魔杖による飽和攻撃を行い相手の動きを封じ、その隙に別のもう一隊が装甲破砕用の魔杖から爆縮弾を撃ち込んでゆく。
奉仕人形全機には内臓式の念話機構が搭載されている事も相まって、一糸乱れぬ連携を以て天使機を追い詰めてゆく。だが、相手も為すがままの的に甘んじることは無かった。
『この動き、人ではないな……? ならば、呵責も躊躇も必要ないわッ!』
天使機は残った翼を振るわせるや、旋律による自己修復と共に周囲へ輝きを放ってゆく。如何に無機物で構成される身体とて、灼熱に曝されては無傷と言う訳にはいかない。高温によって服が溶け、人工皮膚が焼け爛れてゆく。思わず友軍から痛まし気などよめきが起こるも、当の猟兵自身は意に介した様子など無かった。
「損害を憂う必要はありません。ボク達は知的生命に奉仕するために作られたのですから。生身では為し得ぬ役目をこなすからこそ、その本懐も果たせましょう」
原型機の指示に従い、最後に残った一隊が吶喊。敵機へと張り付いた彼らは白兵戦用魔杖の先端に魔力刃を形成するや、自身が燃え上がるのも構わずにそれらを装甲へと突き立てていった。そうして彼らは既に穿たれていた損傷部を蟻の一穴とし、天使機を解体してゆき……。
「お召替えの時間ですよ、公王陛下?」
自分たちの融解と引き換えに、宣言通り天使機の装甲を無惨に引き剥がしてゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ペイン・フィン
【路地裏】
生憎、だけど
語られた問答のほとんど全て、自分には関係ない、かな
何が本当で、何が偽物で
隠された話が在って、思惑があって
互いにぶつかる正義があって、孕む悪があって
……うん、そうだね
その全部が、自分にとって、関係ないし、どうでも良い
自分を動かすのは、怨嗟の声
苦しみの、悲しみの、憎悪の、どうかこれで止まって欲しいという願いの負心
これまで通ってきた全ての戦場のそれを、解き放つとしようか
コードを、使用
同時に、真の姿を解放
仮面は赤く染まり、周囲に黒い血霧のようなモノを纏う
扱うのは、"名無しの禍惧枝"
強化したそれを、身体強化に物を言わせて、振るおう
勘解由小路・津雲
【路地裏】
これはこれは、この戦いは壮大な親子喧嘩だったか……と、茶化すのは勝った後にするかね。
まずはこの機体を破壊せねばな。
おっと、みんなも来ていたか。なかなかの難物を相手にせねばならぬゆえ、これは助かるな。
【戦闘】
相性的に、炎はどうも苦手でね。ここはひとつ、玄武にがんばってもらうとするか。【冬帝招来】を使用。
翼の攻撃を【後鬼】による【援護射撃】や冷気によって迎撃、相手の回復は凍結によって相殺するとしよう。
そうやってじわじわと破壊を狙う。
……父の葬儀になってしまっては、さすがのおれもからかう気になれんからな。「中身」には、無事でいてもらわないと。
ファン・ティンタン
【SPD】剣を砕く刃
【路地裏】
壮大な親子喧嘩、そこに理はなく徳もなく
そんな争いには、得てして第三者の鉄拳制裁が必要だ
さあ、猟兵と言う名の暴力機関の面目躍如だよ
【白刃の矢】
【天華】でも貫けなくはないけれど、それだけではグッドエンドには程遠い
【求煉】、面倒事を頼むよ、投げた後は色々と任せる
仲間の活躍中に敵機から距離を取り、求煉を巨大な刀剣状態へ変異
コレを【投擲】するのはちと骨が折れるな……仕方なし、【真の姿】へ
意識が、揺らぐけレど、全力ヲ込めれば、暴走スル余力も、なイ、ダロウし―――
求煉刃は着弾後、形態を本来あるべき拳の姿へ
(元ヨリ、コノ手ハ生ヲ掴ムタメニ……)
……ん、求煉、焼かれてだいぶ減ったね
●怨嗟謡う焔氷に飛べや鋼拳
「これはこれは、この戦いは壮大な親子喧嘩だったか……と、茶化すのは勝った後にするかね。身内同士の争いで荒廃した例など、歴史上枚挙に暇がない。他国まで巻き込んでいる以上、まずはあの機体を破壊せねばな」
眼前の惨状を表するならば、差し詰め『兵どもが夢の跡』とでも言うべきか。公王邸が広間、そこを飾り立てていた優美さや豪奢さはもはや見る影もない。装飾は熱により溶け落ち、壁には弾痕が穿たれ、床は融解して冷え固まったクレーターが点在している。そんな光景を前に、津雲は神妙そうな表情を浮かべていた。
「……生憎、だけど。語られた問答のほとんど全て、自分には関係ない、かな。何が本当で、何が偽物で、隠された話が在って、思惑があって。互いにぶつかる正義があって、孕む悪があって……」
「壮大な親子喧嘩、そこに理はなく徳もなく、繰り広げられるのは平行線の水掛け論のみ。となればそんな争いには、得てして第三者の鉄拳制裁が必要だ。さあ、猟兵と言う名の暴力機関の面目躍如と行こうか」
と、そんな陰陽師へ二つの人影が声を掛けて来る。それは彼と同じように広間へと姿を見せたペインとファンだ。頼れる仲間の姿に津雲は我知らず顔に笑みと安堵が浮かべながら、手を上げて呼びかけに応じてゆく。
「おっと、みんなも来ていたか。なかなかの難物を相手にせねばならぬゆえ、これは助かるな。確かに彼らの事情は悲惨だが、誰が一番悲惨かと言えば上に振り回される市井の民だ。こちらは余計なしがらみもない身の上、公王相手でも気兼ねなくいくとしよう」
「……うん、そうだね。彼ら親子の事情、その全部が、自分にとって、関係ないし、どうでも良い。でも、確かに……市井の民、か」
ある意味、猟兵と言う一歩退いた立ち位置だからだろうか。陰陽師の言葉には警戒こそあれど、過度な気負いはない。それは字面上指潰しも同じなのだが、青年の声音にはまた別種の重さと言うべき感情が宿っていた。
「……自分を動かすのは、怨嗟の声。苦しみの、悲しみの、憎悪の、どうかこれで止まって欲しいという願いの負心。無為に費やされた命が遺す、祈りの残響……これまで通ってきた戦場全てのそれを、解き放つとしようか」
拷問具として、猟兵として。悲惨な状況など幾つも経験して来た。だがやはり、戦争と言う災害はその質、量ともに他の事例とは一線を画する。市街地での隠密戦や公王邸での死闘は勿論、自治領での防衛戦まで含めて。自身が関わった戦禍、そこで掬い上げて来た感情を今この瞬間に開放してゆく。
「戦いに、犠牲は付き物だけど。それがどうしようもないと、理解もしているけど。だけど……彼らが納得してくれるかは、別の話だよ」
それは荒れ狂う渦だった。凄まじい奔流と化した感情がペインの身体へと流れ込み、その能力を強化してゆく。だがその数は百か、千か、或いは万か。一つ一つは微弱かもしれないが数が数である。ただ一つの身を器として受け止めるには、如何な拷問具とて荷が勝つ。その証拠に、じわりと仮面越しに血が頬を伝ってゆく。
しかし、ペインは自らの裡で暴れる感情を押し留める様に真の姿を発動。己の体躯を幼き体格へと変貌させながら、力の流れを何とか御する事に成功した。
「これで、良し。自分が、前に出る、から……援護はよろしく、頼む、よ?」
「相分かった。ただ、相性的に炎はどうも苦手でな。とは言え、だからと言って手を抜くつもりもない。ここはひとつ、玄武にがんばってもらうとするか」
そうして血の如き赤霧を纏いながら、弾丸の如くペインは飛び出してゆく。後背を託された津雲は熱気によって滲む汗を拭いつつ、手にした錫杖へと霊力を籠め始める。言葉通り、彼は水の気を得手とする術者だ。その為、高熱を操る天使機とは良くも悪くも相性が合致し過ぎていた。
「北方司る天の四神が一柱、水神にして冥界の守護者たる玄武。冬を統べるその力にて敵を討て! 炎翼纏いし鳥ならば、決して見知らぬ相手でもなかろうさ!」
その為、彼が頼みとしたのは得物にして友輩である玄き霊亀だ。注ぎ込まれた力を凍てつく風へと変換するや、吹雪も斯くやと言う勢いで吹き広げてゆく。それによって赤熱化していた戦場は瞬く間に白き霜へと覆われていった。
「流石に相手の元まで届かせるのは難しい、か。だが熱気と冷気が相殺しあい、総合的に見ればちょうどいい塩梅だろう……俺は術の維持で手一杯なのでな。後鬼、攻めに関しては任せたぞ?」
紅白に色分けされた戦場はある種の陣取り合戦を思わせる。領土を切り取られている真っ最中の国家、その命運を掛けた戦と言うのを考えれば皮肉的とさえ言えるだろう。そうして陰陽師が背後に控える二脚機へと指示を出す一方、白き刀は足元に広がる鋼色の流体金属へ視線を落としていた。
「天華でも貫けなくはないけれど、それだけではグッドエンドには程遠い。求煉、申し訳ないけれど面倒事を頼むよ? 投げた後は色々と任せるからね」
ファンが手を翳せば、鬼鋼は一振りの巨大な刀へと変じてその掌中に収まる。彼女はそれを握りしめて投擲体勢を取ると、全身へゆっくりと力を巡らせてゆく。元が全高五メートルのキャバリアを構築していた物体だ。その大質量を十全な力を以て投擲するには少しばかり時間が掛かる。彼は遠方の敵へ狙いを定めつつ、同じく術の維持に神経を傾ける仲間へ済まなさそうに囁いた。
「援護を任せきりにしてしまって悪いね。大きさが大きさだから、そう気軽に放り投げられるモノじゃなくて」
「なに、その分はこの後の働きに期待させて貰うさ……さぁて、ペインも始める様だぞ」
気にするなと鷹揚に応じながら、津雲はスッと目を細める。彼の言葉通り、凍土と業火を踏み越えた青年が、今まさに公王へと挑み掛かるところであった。
『先に続いて、またもや生身の兵で余の「ネハシム・セラフ」に挑もうと言うのか……! 先の者らを踏まえて炎を鎮めんとしている様だが、その程度の冷気なぞ貴様諸共蹴散らしてくれるッ!』
「残念だけど、それは無理、だよ……この感情は、然るべき報いを与える以外に、消えはしないのだから」
天使機はあちこちの装甲版が引き剥がされており、内部機構が露出してしまっている。まずは猟兵の接近を防ぎつつ、それらを塞がねばならないと判断したのだろう。相手は冷気による浸食の押し返しも兼ねて、翼部より強烈な熱波を放ち周囲の温度を引き上げてゆく。損傷を癒す清らかな旋律も相まって、その姿は正に天使と言って差し支えない、が。
「翼なら、自分の手にも……ある」
強化された身体能力で灼熱を耐え切るや、ペインは手にした得物を振るう。それは節くれだった枝状の骨。それもまたかつては翼だったものだが、受ける印象は相手側とは大きく異なる。
奪い啜ると言う一点に特化した枝骨。指潰しがそれを叩き込んだ瞬間、装甲へ刻まれる掻き傷は元より、じわじわと進んでいた敵機の再生がピタリと止まる。代わりに炎熱で炙られていた青年の痛みが、僅かながらだが和らいでゆく。攻撃と同時に相手が再生に使用していたエネルギーを吸収したのだ。
「自分にとっては、こっちの方が、よほど天使に思えるよ」
『ほざくがいい! 熱に耐えると言うのであれば、より直接的な方法で葬ってくれるわ!』
高熱だけでは猟兵を滅するに足りぬと判断した公王は背部の翼を展開。そこから車輪上の炎を生み出すと、ペイン目掛けて投擲する。戦闘開始当初よりか数は減ったとはいえ、それでもまだまだ多い。直撃を喰らえば如何に強化された肉体とて大火傷は免れないだろう。
「そいつに関してはこっちに任せて貰おうか。さぁ後鬼、出番だぞ。公王殿は随分と頭に血が上っておられるようだからな、御老体には冷や水でも被って冷静になって頂くとしよう」
だが、戦場の後方より巨大な氷柱が飛来したかと思うや、炎輪と衝突し凄まじい蒸気を上げながら勢いを相殺してゆく。老いし王が複眼センサーを向けると、視線の先には誇らしげに主砲を構える二脚機の姿があった。
『小癪な真似を……! その様なキャバリアモドキで挑むという行為そのものが、余に対する侮辱であると承知の上か?』
「余り擬きだの何だのと言われるのは心外だな。その擬き相手に攻撃を相殺されているのだぞ? 相手を貶めるのはそっちの自由だが、その分自分の品位も下げていると気付くべきだな」
苛立つ相手に対し、陰陽師は挑発交じりの皮肉を返す。そんな不遜な物言いが癪に障ったのだろう。天使機は苛立たし気に翼を振るうや、再び炎輪を投射して来た。しかし、それこそが津雲の狙いだった。
「ふむ、上手い具合にこちらへ炎をぶつけて来たな。ペインへ向けられたものを相殺するのは、正直言ってタイミングがシビアだったが……これならば撃ち落としやすい事この上ない」
業炎は凍土領域へと入った瞬間、目に見えてその勢いを減じさせる。そうして動きが鈍った所を、二脚機による凍気弾が立て続けに迎撃していった。仲間は機動力に長けたタイプ故、必然的にそれを狙う炎輪の軌道も不規則になりがちだ。それと比べ、こちらへ向かってくる分にはどれも直線的である。吹き荒れる冷気も相まって、どちらが好都合かなど言うまでもない。
「そして、余力さえ出来れば……こんな芸当も出来ると言うものだ」
炎輪と氷弾、二つのせめぎ合いは後者へと天秤が傾いてゆく。そうして機を見計らうや、津雲はひと際大きな氷柱を敵目掛けて発射する。それはキャバリアを刺し貫いて余りあるもの。当然ながら、相手も氷柱を溶かし尽くさんと炎を放つ、が。
『ぬおおおぉぉぉおおっ!? この衝撃、それに視界が……!』
大量の水分を高熱で一気に気化させる事で生じる化学現象。即ち、水蒸気爆発。至近距離で炸裂したそれは天使機の全身を打ち据えるのみならず、高温の蒸気によってセンサー類を無力化していった。
(奇しくも、相手の視界を封じる事が出来たね。こんな絶好の好機、恐らく二度目は無いだろう。ただ、こちらも少しばかり時間が足りないか。いまコレを投擲するのはちと骨が折れそうだし……仕方なし、多少の無理をするとしよう)
一気に攻め掛かるには最適な状況。だが、巨剣を構えていたファンは僅かに眉を顰めた。手にした得物を投擲するには、現状だと今暫くの時間を要する。だが力が溜まり切るのを待っていては、相手は蒸気を吹き散らして視界を取り戻してしまうだろう。
ならばと、彼女は己が真の姿を解放せんと決める。ただ、己が核を為す白刀では手もなく足もなく投擲には不向き。故に変ずるは自らの持つもう一側面について。
(意識が、少しばカり、揺らぐケレど。全力ヲ込めれば、暴走スル余力も、なイ、ダロウし―――)
真白き肌は褐色に染め上げられ、背部に伸びるは枝の如き翼の骨格。グンと身体能力が一段増した事により投擲に必要な力は補えたものの、同時に思考が本能とでも呼ぶべき何かに浸食されてゆく。それに主導権を取られる前に魔力を全て鬼鋼へと明け渡すや、彼女は大きく巨剣を振り被り、そして。
「後ハ……任セタ」
白き暗雲を引き裂いて、巨剣が飛翔を開始する。戦場を一直線に貫きながら、意思持つ金属が天使機目掛けて突き進む。その最中、刃は少しずつその形態を変化させ始めた。鋭い切っ先は丸まり、まるで指を織り込む様に曲がり、その果てに形成されしは巨大な握り拳。傍から見れば歪にも思える姿だが、不思議としっくりくるのは何故だろうか。
『接近警報……!? 馬鹿め、このタイミングで何かが来ることなど、余が想定せぬとでも思ったかッ!』
しかし、相手も見えぬからと言ってただ棒立ちのままではなかった。辛うじて生きていたセンサーを頼みとして攻撃を知るや、そちら目掛けて躊躇なく炎輪を放つ。如何な総身金属とは言え、炎に炙られて鋼拳も無事では済まぬ。ジリジリと揮発し、溶け墜ち、それでもなお勢いを減じさせる事無く敵機目指して、ひたすらに前へ、前へと。
『なんだこれは、巨大な拳だと!? おのれ、勢いが止まらんッ! だが、回避するにも距離が……!』
相手も向かってくるのが空飛ぶ拳だとは思わなかったのだろう。咄嗟に避けようと試みるが、時すでに遅し。拳は着弾の寸前、指を解いて掌を開き、そして。
――元ヨリ、コノ手ハ生ヲ掴ムタメニ。
がしり、と。天使機を鷲掴みにするや、勢いそのままに前面部の装甲をもぎ取っていった。それにより操縦席が外部へと露出し、目を剥く公王の姿が周囲の耳目へと晒されてゆく。
「っと、大丈夫だとは信じていたが、どうやら潰れてはいないらしい……父の葬儀になってしまっては、さすがのおれもからかう気になれんからな。『中身』には、無事でいてもらわないと」
「状況的には、あと一歩、だけど……逆に、気も抜けない、かな。流れ弾なんて、戦場では、珍しくもないだろうし。ここまで来て、戦死と言うのも、なんだか、ね?」
衝突の余波で水蒸気が晴れ、天使機の被害状況が露わとなる。機体中心部に収まる人影を見て思わず安堵のため息を吐く津雲の横では、ペインが依然として険しい表情を浮かべていた。ここからどう戦況を推移させ、落とし所を何処に見出すか。詰めを誤れば、これまでの戦いが水泡に帰しかねないのだから。
「……ん、求煉、焼かれてだいぶ減ったね。ありがとう、お疲れ様だよ」
その一方、普段の姿へと戻ったファンは呼吸を整えながら、戻って来た鬼鋼へと労いの言葉を掛ける。その総量は投擲前と比べて大分目減りしてしまっていた。また金属を取り込めば増えるだろうが、それでも無理をさせてしまったことに変わりはない。
半壊した天使機、満身創痍の友軍、そして徐々にだが熱気の退いてゆく戦場。
それらを前に、三人は決着の時はもう間もなくであることを確信してゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フォルター・ユングフラウ
【古城】
特等席たる操縦席から、存分に見せてもらおう
騎士道が手繰り寄せる未来を
ふむ…丁度良い具合に援軍が群れているか
ロシナンテⅣを支援するついでだ、UCで纏めて強化してやる
さて、手筈は整った
騎士が作り出した隙に乗じて接近戦を仕掛ける
大公国が最強の剣?
嗤わせる
そんな鈍ら、抜剣する必要も無し
鞘で叩き伏せてくれる
そちらも用意は出来ているか、では蝙蝠を託す
汝と我のUCが重なれば、不可能も可能になろう
さあ、往け!
Oマシンを妨害し、その隙に息子が父を生かしたまま止める事が出来れば…敗戦処理を行う大公国にとって最善、と語ったな
ならば、我もそれに賭けよう
あの戦争狂いが機嫌を損ねるかもしれぬが…まぁ、それはそれだ
トリテレイア・ゼロナイン
【古城】
アド連携歓迎
フォルター様、お力添えを戴けますか
あの顔を見た以上
私は彼や貴女に恥じる事無き騎士でありたいのです
機械音や炎、発射信号発する箇所を情報収集
機体格納銃器とライフルで味方機達と共に猛射
敵機の行動制限
距離を詰めます!
ロシナンテⅣハッキング
推進器限界突破したオーバーフレームパージ
殲禍炎剣擬きへの囮として射出
私に蝙蝠を!
乗機飛び降り
敵頭部背後へ駆けて怪力でしがみ付き
電子の海で決闘と参りましょう、Oマシン…!
アンカー伸ばし四肢や各部に突き刺し二重UCで制御争奪戦
ニコライ様、今こそ貴方の責務を果たす時です
そしてお父上の命は、必ずや!
敵機行動妨害、制御
一騎打ちの際に乗機が搭乗者かばうよう操作
●争乱の終わり、敗戦の始まり
「おぉぉ……ぐ、がぁ。在り得ぬ、在り得ぬのだ。余が敗北するなど、決して。余は、大公国は、あの忌まわしき『殲禍炎剣』を、制して……」
亡国の王、正しく相手の姿はそう形容するほかなかった。煌びやかな広間は破壊と焦熱によって蹂躙され、王が居るべき玉座は跡形もなく消滅している。代わりとなる天使機とて、十を超える戦闘を経て最早当初の神々しさなど微塵も残っていない。翼はもがれ、装甲は砕け落ち、操縦席すらも剥き出しとなっているのだ。それは最早、天使と言うよりも解体された家禽とでも言うべき有り様。
それでもなお、公王の思考には降伏や後退と言った選択肢は浮かんでいなかった。険しき形相で操縦桿を握り締め、周囲に群がるクーデター部隊、自治領軍、そして猟兵を睨め付けている。無論、それはオブリビオンマシンによる影響が大きいのだろう。しかし、貴き身分の人間がその様な醜態を晒し続けるなど、敵意よりも不憫さが勝ってしまい……。
『……フォルター様、どうかお力添えを戴けますか』
思考するよりも先に、トリテレイアは傍らの友へ思わずそう申し出ていた。それは極めて端的な一言だったが、何を意味しているのか分からぬほどフォルターも浅い付き合いではない。通信機越しに小さく息を吐く気配が伝わって来る。
『汝の望みが容易い事ではないと、承知の上なのだろうな?』
『はい。あの顔を見てしまった以上、私は彼や貴女に恥じる事無き騎士でありたいのです。それにこれは数値化不能な予感なのですが……もしかしたら私も、あの指揮官と同じ様な決断をしなければいけない時が来るのではないかと、そう思ってしまうのです』
それが何を意味するのかは定かではない。だが、言葉に込められた感情は確かに0と1で構成される電気信号以上のものだ。それを理解できるからこそ、酷薄なる女帝もまた微苦笑を浮かべるしかない。そう――仕方のない奴だ、と。
『良いだろう、我が友よ。特等席たる操縦席から、存分に見せてもらおう。汝の騎士道が手繰り寄せる未来をな。我が手を貸すのだ、生半可な結末は承知せぬぞ?』
『っ……ええ、無論です!』
目指すべき方針は決まった。だが、無為無策で突撃するのは禁物だ。相手は確かに死に体だが、それ故にある意味危険と言える。漏電、誘爆、流れ弾、自壊。下手に半壊状態だからこそ何が起こるか分からず、一手狂えばそのまま公王を焔の中へと墜としかねない。
『ふむ……丁度良い具合に援軍が群れているか。頭数が揃っているのは心強い反面、不確定要素でもある。ロシナンテⅣを支援するついでだ、纏めて少しばかり手を加えてやろう』
フォルターは天使機の様子を窺っていた友軍へ目を付けると、さっと乗機に腕を振るわせる。その指先から紅の液体が霧状に散布されたかと思うや、それら一粒一粒が蝙蝠へと変じて傷だらけの鉄騎内部へと潜り込んでゆく。
『っ、照準系、動作系の効率が上昇……機体の各種不調が是正されてゆく!』
『ほう、これは旧式乗りには有難い援護だ。もう一戦、なんとか行けそうだな』
蝙蝠たちは機構の中で元の液体へと戻るや、ワイヤーやケーブル、歯車や潤滑材の代わりとなって動作の精密性を飛躍的に向上させていった。ついでと言いながらも劇的な変化に、サフォーノフやハイネマンも喜びの声を上げる。これならば誤射の心配も幾分か軽減されるだろう。
『さて、手筈は整ったな。では……』
『我々も始めると致しましょう!』
女帝の言葉に応じ、鋼騎士が愛馬と共に飛び出してゆく。彼は各種センサーで素早く天使機の損害状況を把握しながら、まずは狙うべき箇所の割り出しを行う。頭上より降り注ぐ炎柱はこの状況下においても依然として脅威である。その発射指示が頭部複眼で行われていると見るや、トリテレイアはその箇所を瞬時に友軍へと共有。攻撃の指示を出す。
『頭部へ火線を集中させつつ、翼部や脚部へも攻撃を行い敵機の動きを牽制してください! その間に本機が距離を詰めます!』
「させぬ、させぬぞ! 『殲禍炎剣』は確かに我が手に握られているのだッ!」
支援射撃が開始されるのと、天使機が火炎放射装置を起動させるのはほぼ同時だった。しかし弾丸と電波、どちらが早く目標へ到達するかなど明白だ。故に頭部複眼が撃ち抜かれるよりも先に、極大の灼熱が蒼馬を飲み込んでゆく。
「ふっ、これがあるべき当然の帰結……っ、なんだと!?」
じゅうと金属が蒸発する音を聞き、獰猛な笑みを浮かべる公王。しかし、それは瞬時に驚愕へと変化する。溶け消えたはずの機体が、死角より攻め掛かって来たからだ。種明かしをすれば、蒼馬は着弾の直前にデッドウェイトとなる兵装をパージし、それらを囮にして攻撃を凌いだのである。
(上手く避けたつもりでしたが火力と装甲値は三割減、機動力に関しては半減ですか……状況的に良いとは言えませんが、作戦続行に問題はありません!)
とは言え、トリテレイアも無傷とはいかない。推進器を投棄した為に機動力が低下し、武器も幾つかが炎に消えた。至近距離で避けたとはいえ、装甲も熱に曝されてダメージが蓄積している。なればと、天使機は残ったエネルギーを翼へと集中させ、再び自機の周囲へ高熱を放ち始めてゆく。
「ぐぅぅ……この熱さこそ、我が威を示しておる! 未だ大公国最強の剣は折れてなぞ……ッ!」
『大公国が最強の剣? 戯けめ、その様な見窄らしい姿で最強などとは嗤わせる。そんな鈍ら、抜剣する必要も無し。断頭台すら過分だ。鞘で叩き伏せてくれる』
罅割れた旋律によって損傷部が修復を始めるが、その速度は余りにも遅い。その為、剥き出しの操縦席に座る公王もまた熱波に苛まれてゆく。こうなっては戦いを余り長引かせる訳にも行かなくなる。
鋼騎士が作った隙に乗じてフォルターも乗機を前へと出すや、鞘に納めたままの光刃剣を振るって叩きつけた。それは剣と言うよりも鈍器じみた使い方だが、今の相手にはこれくらいが丁度良い。
「おぉ、ぉぉ……操縦、席の、修繕よりも……通信機能の、回復、を……」
白蒼と漆黒、二機の鉄騎に打ちのめされ、更には高熱が公王の思考を蝕む。そんな中でも、老翁が望んだのは勝利と言うただ一点であった。もはや誰の為、何の為かも分からぬまま、相手は己の安全ではなく飽くまでも『殲禍炎剣』の掌握を優先したのだ。
『っ、このままでは……フォルター様、頃合いです。私に蝙蝠を!』
『ふむ、そちらも用意は出来ているか。では、我が眷属を託す。汝と我の異能が重なれば、不可能も可能になろう。さあ、往け! どの様な結末になろうとも、我がその行く末を見届けてやる!』
最早一刻の猶予もない。そう悟ったトリテレイアの叫びに、フォルターは瞬時に応じた。天使機目指して乗機から飛び出す鋼騎士の元へ、黒き女帝は先の蝙蝠を遣わせる。それらは友の内部へ潜り込むと、戦機としての能力を限界以上にまで引き上げてゆく。
(オブリビオンマシンを妨害し、その隙に息子が父を生かしたまま止める事が出来れば……敗戦処理を行う大公国にとって最善、と語ったな。戦いの中で弑すれば、他国に要らぬ勘繰りをされてしまう危険があるとも)
遠ざかる背を見送りながら、フォルターは戦闘前に聞かされた作戦内容をふと思い起こす。クーデターもただ達成すればよいと言う話ではない。公王を殺害しても成功には違いないのだが、国内の反発や諸外国から王位の正当性を疑われる危険もあった。
故に公王を捕縛し、飽くまでも公的な場で裁くのが大公国にとって一番良いと鋼騎士は説明していた。至極尤もな意見ではある。だが、その本音が見抜けぬ女帝ではない。
(全く以て甘い事だ。だが、悪くは無い。である以上は我もそれに賭けよう。懸念があるとすれば、あの戦争狂いが機嫌を損ねるかもしれぬという点だが…まぁ、それはそれだ)
ちらりと横目で友軍を見れば、何かを察したのかハイネマンは沈黙を保っている。底知れぬ不気味さを感じるが、邪魔をしないのであればそれで良い。いま重要なのは、騎士が本懐を遂げられるか否かなのだから。
(装甲板が高熱を帯びている……! 今はこれほど、機械の身に生まれ落ちた事を感謝した瞬間はありません。さぁ、電子の海で決闘と参りましょう、オブリビオンマシン……!)
一方、天使機へと取りつく事に成功したトリテレイアは、装甲をよじ登り頭部の後ろへと移動していた。装甲版は白熱し、もし生身の人間が降り立ったならば即燃え上がっている事だろう。操縦席の公王はまだマシだろうが、それでも時間的余裕は無いと見るべきだ。
彼は四肢やアンカーを突き立てがっちりと巨躯を保持するや、天使機の内部システムへとハッキングを開始する。だが当然ながら相手も攻性防壁、否、オブリビオンとしての破壊本能とでもいうべき勢いを以て浸食に抵抗してゆく。コンマ秒単位の攻防、それは一瞬にして数百手を以てせめぎ合い、主導権を奪い合う。
果たして、その軍配が上がったのは――。
「よしッ、機体の制圧に成功しました! ですが、これも持って二分弱……!」
「な、なんだ……うごかぬ。なぜだ、なぜなのだ、ネハシム・セラフよ
……!?」
鋼騎士側であった。ヴンと、まるで糸が切れたかのように天使機が停止する。だが、トリテレイアは依然として電子戦を続行しており、公王を捕縛するには余りにも時間が足りない。故にこそ、彼は叫ぶ。此度の争乱を終わらせるべく、苦悩と共に立ち上がった英雄へと。
「ニコライ様、申し訳ありませんが時間がありません! 今こそ貴方の責務を果たす時です! そしてお父上の命は、必ずや!」
『ッ!? ……済まない、猟兵殿。そんな役回りを、させてしまったな』
光明、葛藤、苦渋、焦燥。その呼びかけに様々な感情が将校の顔へ浮かんでは消えてゆく。しかし、それも一瞬だった。迷うと言う贅沢に費やす時間など無く、為すべき事は端から決まっている。
反逆者を率いし者は、必中を期して突撃銃を構え、そして。
『ドストニエル大公国が公王、アレクサンドル・サフォーノフ。この場、この瞬間を以て……その玉座より降りて頂くッ!』
「おぉ……ニコ、ライ……――――」
放たれた弾丸が、天使機の動力炉を貫いた。瞬間、行き場を失ったエネルギーが迸り、機体の各所で連鎖的に爆発が起こる。もはやそれを抑え込む頑強さなど、オブリビオンマシンは持ち合わせておらず……。
――巨大な閃光と熱波を伴う大爆発を以て、忌むべき天使は跡形もなく消え去るのであった。
「……まるで、夢を見ていたようだ。熱に浮かされた様な、荒々しい夢を。いや、忘れてくれ。老人の、単なる戯言だろう」
「父上……」
戦闘終了後、広間内部。まるで先ほどまでの熱気と喧騒が嘘のように静まり返ったその中で、老いた王は地面へと横たえられていた。機体が破壊された瞬間、遠隔操作された蒼馬が鋼騎士と公王を庇い、辛くも爆発の衝撃からは無事だったのだ。
だがそれを差し引いたとしても、公王の疲労は凄まじかった。戦闘中は常に神経を張り詰め、衰えた身体で機体を操り、被弾の衝撃を一身に受け続けていたのだ。衰弱するのも無理はない。
「……やるべき事は大方やったのだ、今さら私から口出しするつもりはない。後は好きにし給えよ」
周囲は兵士たちが取り囲んでいるが、乱暴な真似をする者は誰一人として居ない。ハイネマンもまた一頻り暴れて満足したのか、用は済んだとばかりに部下を引き連れてその場を後にしてゆく。それを見たフォルターは意外そうに眉を顰める。
「汝の事だ。てっきり、土壇場でテーブルを引っ繰り返すかと思ったのだがな」
「はははは、それも魅力的ではあるがね……だが、どうやら『今』じゃなさそうだ」
そんな不穏な言葉を残し、戦争狂はその場を去っていった。腹の底が読めぬ相手だと嘆息する女帝を横目に、トリテレイアは深々と公王へ頭を下げる。
「必要な処置とは言え、手荒な真似をしてしまいました。申し訳ございません」
「良い。寧ろ、良くやってくれたの。お陰で、最後の仕事が出来そうだ……のう、ニコライ」
最後。その単語に周囲の者が視線を走らせる中、公王は身を起こすと己が息子へと正対する。
「此度の一件は全て、余に責任がある。故にこの瞬間を以て余は王位を辞し、全ての権限を我が息子へと譲渡する……済まぬな、最後に渡せるものがこんなものになってしまって」
「いえ……謹んで拝命いたします、父上。どうか後事はお任せ下さい」
両者の顔に浮かぶのは、穏やかな笑み。もしかしたらここに来てようやく、王と後継者ではなく単なる父子として、彼らは向き合えたのかもしれなかった。それはきっと、二人にとって僅かばかりの救いとなったはずだ。
――斯くして、ドストニエル大公国で発生したクーデターは集結した。
これからは王権を譲渡されたサフォーノフが、国内外の争いを治めるべく奔走する事になるのだろう。それは茨に覆われた苦難の道であり、辛酸を舐める様な事態が数え切れぬほど待ち構えているはずだ。
だが、それでもきっと。彼らなら平和を掴み取り、次の世代へと手渡してくれるはずだ。
そんないつか来るであろう未来へ思いを馳せながら、猟兵たちは静かに戦場を後にするのであった。
大成功
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