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大祓百鬼夜行㉕〜届くことのない愛

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行


●私の愛は揺るがない
 しん、と。その声は空から降る雪のように心静かに響き渡った。
『愛しきUDCアース。
 あなたを思う、私の愛は揺るがない。
 だから、私は帰って来たのです』
 胸に抱く懐刀を愛おしく見るほおずき色の灯に、当然正気の色はなく。
 しかし不思議と、伴いそうな狂気の色にも染まっていない。

 ――どこまでも、愛する。
 懐刀「生と死を繋ぐもの」が掛ける時間は、只それを慈しむ時間なのだと言わんばかりに。

『愛するUDCアース、あなたを永遠にしたい。
 もう少し。あとひと刺しで、それが叶います』
 大地に向けるその言葉は、雪降る夜の愛の睦言のように紡がれる。
 そして。その瞳が、ゆっくりとこちらへ向けられた。

『猟兵たちよ。この愛を――止められますか』

●愛を、より深き想いを
「究極妖怪『大祓骸魂』が捕捉された。
 場所はUDCアース、東京スカイツリー。最上部であるゲイン塔の頂天に、それはいる」
 予知をしたグリモア猟兵、レスティア・ヴァーユは静かに告げた。
「それは、己の虞により、スカイツリーを中心にした東京上空に、カクリヨファンタズムを思わせる夢幻を作り出し、猟兵を待ち構えている」
 曰く、大祓骸魂の能力は、今回の戦争で発現された全ての能力の模倣――もとい根本とも言える雛形の行使である、と。

「数多あるそれらを、無手で捌き切るのは不可能に近い。
 だが、この大祓骸魂の行動理念は『愛』で出来ている。
 予知では、それらは猟兵の胸にある『愛』――それは愛と、個人では判断出来ないかも知れない、が。
 ただ、胸に抱く『既に、骸の海へと【別離した死者】について、夜が明けるまで語らえるだけの想い』があれば、大祓骸魂の攻撃は相殺出来ると判明した。
 ……その想いを、常に胸に抱き、心に紡ぎながら。戦いに赴いてもらいたい」

 予知をした猟兵は、一拍を置いて言葉を続けた。
「大祓骸魂の懐刀『生と死を繋ぐもの』の、最後の一刺し。
 本来、カクリヨファンタズムとUDCアースが、繋がりながらも決して届くことのないように。その刃が、UDCアースへと届く前に――『大祓骸魂』の討滅を願いたい。
 ――これが決戦となるだろう。どうか、よろしく頼む」
 予知をした猟兵は、そう告げて猟兵たちへと頭を下げた。


春待ち猫
 この度はご閲覧いただきまして、誠にありがとうございます。春待ち猫と申します。
 今回は、大祓骸魂との最終決戦となります。どうか宜しくお願い致します。

●プレイングボーナスについて
 プレイングボーナス…… あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。

 その想いは、今回大祓骸魂の攻撃と親和し、消し去る力を生み出します。
 今回は、既に骸の海へ――幽世に離ればなれになった相手への、その想いを胸に抱いての戦闘を推奨致します。

●補足情報
 大祓骸魂を救うことはできません。

●シナリオ進行について
 戦力過剰シナリオになるかと思われます。予めご了承いただければ幸いです。
 プレイングは、システム上の再送不可状態まで受付させていただきます。
 当方の作業時間、ならびに力不足の関係により、内容に問題の無いプレイングであっても流れてしまう可能性がございます。その際には何卒ご容赦いただければ幸いでございます。

 大祓骸魂のその願いは、どのような愛、想いであろうとも叶わないものなのだと。それを、突きつけていただければ幸いでございます。
 それでは、どうか宜しくお願い致します。
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第1章 ボス戦 『大祓骸魂』

POW   :    大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD   :    生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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リステル・クローズエデン
それもまた愛だとしても。
僕の、そして博士の道を閉ざすのならば。


・想い
リステル博士は、子供の頃、
UDCアースに現れた
邪神の関係者によって、
身内、家族、孤児院のみんなも失った。

一人生き延びた彼女は、
復讐のために邪神への対抗手段を
造り出そうとした。

その結果が僕。

博士の遺伝子情報から作られ、
機械とナノマシン、呪いと邪神の欠片
それらが合わさった戦闘機械。


けれど。


戦闘
視力、聞き耳で得た情報を高速思考で処理し
第六感もあわせて攻撃を見切り、
かわし、弾きながら間合いをつめます。

ユーベルコードを鎧無視攻撃と共に
放ち
敵の骸魂を切り裂いていく。




僕は、博士の………
母さんの守りたかった世界を守る

僕の道は、ここから切り開く




 リステル・クローズエデン(なんか青いの・f06520)の耳に、童歌が聞こえてくる。
 小さく、細やかで、可愛らしく。しかし、今対峙する『大祓骸魂』が象るその音と歌詞は、UDCアースという我が子に歌い聞かせる母親を想起させるものだった。
 大祓骸魂は歌う――己は、愛しき存在を『永遠』にしたいのだと。
 その童歌に、オブリビオン化した妖怪達が次々と群がるように集まってくる。皆が引き寄せられるように。各々が望郷に想いを寄せて馳せては、その存在と力を、より強固なものへと変えていく。
 どうしてこの歌に抗えよう。UDCアースを讃えるその歌は、願いは、想いは。
 そこで生まれた妖怪達、全ての賛歌。

「それもまた、愛だとしても」
 リステルは呟く。UDCアースへ語り掛けられる歌は、その瞳に宿す様々な愛は、恐らくどれもが嘘偽りなく本物であるのだろう。
 それでも――リステルは、その手に強く呪剣・黒を握り締める。
 リステルの身につけるタグが、戦場の更なる高みから降る月光に揺れた。自分が今まで記憶の縁としてきた、そこにある名前は、年齢は、誕生日は。
 自分ではない、違う存在のものだと分かって尚も。

 リステルは――否、タグの人物『リステル・クローズエデン博士』は。孤児院に身を寄せる一人の女の子だった。
 孤児院と言えども、彼女を取り巻く環境はささやかながらに、とても平穏なものだった。穏やかな幸福は、確かそこにはあったのだ。
 しかし――文字通りの神は、彼女にそれを重ねる事を許そうとはしなかった。
 ある日。ほんの些細な日常に現れた、誰も気付かない程度の空に涌き出た黒い染み。
 そこから呼吸するように現れた邪神の眷属は、少女の身内も、少ない家族も、孤児院にいた存在全てを、彼女という例外一つ残して皆殺しにしたのだ。

 ――生きている。それを少女が実感したのは、保護されて何ヶ月後であっただろうか。
 そこに涌き上がるものは、溢れんばかりの憎しみだった。幼い心に誓ったものは、ただひたすらの邪神に対する復讐だった。
 彼女は、あの時涌いた眷属の黒よりも遥かに深い、復讐心という闇色と共に成長し、その人生を邪神への対抗手段に捧げる事に決めたのだ。
 そして文字通り、人生全ての歳月を懸け、彼女は『ひとつ』のサイボーグを生みだした。

 己の遺伝子情報を捧げ、
 己の知識の全てを掲げ、
 己の身を呪いと憎き存在に委ねる事も厭わずに。

 ナノマシンを組み込んだ機械の素体を、呪詛と邪神の欠片で象った――戦闘機械。
 それが、今このタグを所持するサイボーグ『リステル・クローズエデン』。
 己が造られた理由も分からず、不意に蘇る脳裏の光景に苦しみ悲鳴を上げながら。何も無い記憶を探して世界中を渡り続けた存在。
 その結末は、
 彼女は、誰かの幸福ではなく『ただ復讐の為に生み出され』。
 目に浮かぶ光景は『己の物ですらもなく』。
 そもそも『全てに至る記憶すら、そもそも持ち合わせてはいなかった』のだと知らされて。

 それでも、尚。
 今、ここに――こうして大祓骸魂と対峙する、一人の猟兵。

「僕の、そして博士の道を閉ざすのならば」
『呪剣覚醒』――リステルの手にしていた、邪神の欠片から造られた剣が、決意を込めた呟きと共に一振の呪刀に変わる。
 その意を目に留めた大祓骸魂は、歌い紡いだ己の声を収めると、ゆっくりとリステルの姿を捉えた。

「いきなさい――『小さき者たち』」
 大祓骸魂が囁きかける。集まっていた妖怪の群れの中から、リステルへとおぞましい程の小さな和姫達がその身を省みることなく襲い来る。
 リステルは、己のスピネルアイと聴覚を頼りに、その進行方向を見切り真横に躱し、それでも飛び掛かって来た小さな姫妖怪を呪刀の峰で弾き飛ばす。
「こちらへ――小さき者たち」
 大祓骸魂の誘導するその力は、正面から相手にすれば決して勝てない。そう第六感から判断したリステルは、可能な限りの攻撃を回避に徹し、大祓骸魂へと距離を限界まで詰めると、勢い良く地面を蹴りつけ上空へと跳躍した。
「『幻影の刃、切れずの太刀』『真に斬るべき存在(モノ)のみを断つ』!」
 刃が月光にきらめいた。
 全身の自重を掛けたリステルの剣が、魂魄を纏うように光り輝き、大祓骸魂の真下へと振り下ろされる。
 周囲の妖怪を巻き込んだその一撃は、彼らの身に傷一つ付けることはなく。ただ、その骸となるオブリビオンのみを斬り裂いた。

「僕は、博士の……。
 母さんの守りたかった世界を守る」
 これは、その為の第一手。
 リステルは、大祓骸魂への更なる攻撃を加える為に呪刀・断を構え直した。
「……僕の道は、ここから切り開く」

 そして、相手への手応えと共に、力強く己に向けて呟いた。
 今――『僕は、ここに、いる』のだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
ア○連×

”愛”か…
最近、様々ないろの”愛”に触れていて
俺自身も抱いていて
正直、複雑な心境だが

世界を揺るがす”愛”を捧げるというなら
テメェを止める
大祓骸魂

(あァ、もし生と死…黄泉への道が繋がれば
直ぐに逢いにゆけるンだろうよ
けど
それは出来ねェ
俺が正しく護るべき世界は現世)

秘める想いは亡き主へ
まぼろし橋で邂逅し
真偽は分からずとも
”まぼろし”に逢う意味はあった
話を聞いてくれて
あっという間で
心は惑う

(…本当は
俺を置いていって欲しくなかった
貴方は今でも俺が一番尊敬する
憧れのひと)

感傷的に浸るなんざ、らしくねェよ
…俺が往く途は
俺にしか決められないのに

UC使用
複製の鏡で全部受け止め
鏡の破片は涙雨の如く降り注ぐ




『大祓骸魂』が、力無く落ちた手をゆっくり上げて、瞳を閉じ胸前に組み上げる。
 猟兵の攻撃による欠損を、文字通り心の『愛』で補うように埋めていく様を、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)はその概念の重みを知るかのように見つめていた。
「”愛”か……」
 クロウは呟く。静かにそして、思い知るように。
 この身に感じ取ってきたそれらの出来事は、斜面から雪の破片が崩れて起きた雪崩にも似ていた。人の心は止められず、そこにある様々な愛をクロウは見てきた。
 ある時はただ求められ、或いはこちらが求めても涙と共に振り払われた。誰かに起きた愛による心の崩れは、己が切掛けで起きたものであったことすらも。
 その影響は『ひと』が持つ心にしては、あまりにも荒ぶるものだ。止められる者は無く、容赦なく海の高波のように心を呑み込む。
 今回は。邪神すらも、その例外ではないのだ、と――。

「……世界を揺るがす”愛”を捧げるというなら」
 胸中に沸き立ち心を焼き尽くす、炎渦のような思いを抑えて。クロウは大祓骸魂へと対峙する。
「テメェを止める。――大祓骸魂」
 ――尊く、あるいは醜く、眩しくすら感じる強大な『愛』は。
 それを目的として振り翳す事だけは、決してあってはならないと。クロウは確信と共に、理解していたから。

 ゆっくりとそれを耳にしてから。閉じていた瞳を開いた大祓骸魂は、微笑みながら言葉を紡ぎ返した。
「ですが――それこそが、”愛”というものでしょう」
 瞬間、互いは理解する。
 意思疎通は、失敗したのだと。会話があるならば――それはもう、ここまでなのだと。

 大祓骸魂の左腕が空を薙ぐ。手に沿うように現れた、無数のどこかで目にしたカードと呼ばれた札から姿を見せたのは、三つ首の獅子、首無しの騎士。西洋の凶悪な妖怪達が、飛来するカードより上半身のみを顕わにすると、瞬時にその距離を詰めクロウへと襲い掛かる。
(あァ、もし)
 激しい衝撃音のみが響く――しかし、回避行動を取らなかったクロウは無傷。三つ首の獅子の頭一つが吹き飛ばされ、カードの端に火がついた。
(もし生と死……黄泉への道が繋がれば、直ぐに逢いにゆけるンだろうよ)
 心遠く、耳障りな雷撃にも似た音が奔るが、それもカードが自傷したのみに留まり、クロウに到る怪我はない。
 ――想い、耽る。そこにあるのは亡き主への秘めたる想い。

 とある戦場で、出逢うこと願い叶った。
 橋の上に立つ、麗しい銀の長髪をゆるやかにたなびかせた、穏やかな君。
 ずっと、話したいと願っていた。
 一晩が束の間と感じる程に、時間は容易く過ぎていく。
 しかし、既に亡き存在だ。目にした存在はまぼろしかも知れず――ただ『それでも良かった』良いと思えた。
 話をした。己の話を聞いてくれた。
 森羅万象を見通す存在は、その目にたくさんの絶望を悲しみをも見てきたはずなのに『……未来は誰にも分らぬよ』と。それでも、たおやかに目にした先の希望を告げる。
 聖人である彼は、理想を語るのではない。
 ただ、全てを見通して尚、その瞳に映る穏やかな、星のような希望を語る人だった――。

(……本当は。
 俺を置いていって欲しくなかった)
 心の呟きが、魂から溢れ出る。
(貴方は、今でも俺が一番尊敬する――憧れのひと)

 いつしか、大祓骸魂が放つカードは全て燃え尽きていた。
 打ち払われた衝撃を残す、最後の一撃の残響に。
 そこに、ふと、
『後は……託すと、決めたからの』
 ――彼から受けた、過去の願いが。
 今はその亡き主の声で、そっと己の耳に聞こえた気がして。

「……!?」
 そうだ、亡き主は言ったではないか。今は、己の意志が力となると。
 彼は願ったではないか。世を見つめ続けた彼が『この世界の安寧を願う』と。
「……ああ、出来ねェ。置いてってくれるななんて――言えねェよなァ……!」
 ――らしくない。感傷に浸るなど。
 己の征く途は。
 己にしか決められないのだから。

 矢先、クロウの身を護るように包み込んでいた気配が消えた。
 ――それでも、託された願いは、確かにここに。
 
(俺が、正しく護るべき世界は――この、現世)

 手札を燃された大祓骸魂が、ゆるりと右手で弧を描く。
 その上空に浮かび上がるは、懐刀『生と死を繋ぐもの』の数多の複製。そして、同時にクロウへと降り注ぐ、曇り鈍った短刀の雨。
 クロウも即座に、己のユーベルコードを紡ぎ、己の本体――百枚以上にわたる神鏡の複製を盾にする。
 真の姿であれば、本体一枚のみで全て防ぎ切る事も可能な神鏡。だが、今のクロウにはこれが手一杯。――しかし、故に。
 亡き主は、彼にあるその可能性ごと、今のクロウという存在を、心より慈しんでいたのであろう、と。

 無惨に割れ、砕け散る神鏡の残骸が、カクリヨの世界を映し出しては散らばり果てる。
 だが、それで終わりではない。
「……?」
 音なき一間。大祓骸魂は不穏と共に首を傾げ。
 刹那、床に散り落ちた破片は、爆ぜるように大祓骸魂の上空に集まると、一斉に銀の流光を伴い大祓骸魂へと降り注ぐ。
「――!!」
 大祓骸魂から、声なき悲鳴が上がる。
 その光景は、クロウにとって払うことの出来ない想いをそそぐ、涙雨のようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
…愛
その為にこうも大胆なことが出来るものなのだね
羨ましい

UCを使用して騎士を召喚し戦わせる
私は愛馬Tenebrarumに騎乗し、後衛へ
「黒薔薇忌」で怨霊を嗾けたり、「茨の抱擁」で敵を絡め取り吸血したりして支援を
私への攻撃は騎士がかばうか、馬に避けさせる
どちらも叶わない場合にはオーラ防御を
…怪我をしたら泣く自信がある

還らぬ想い人、か

居るよ、目の前に
私の婚約を笑顔で祝福したくせに、私の為に死んだ男が
…攫ってくれれば良かったのにね
互いが死んで漸くこんなことを口に出来るなんて皮肉なものだ
王座を望めぬ愛も恋も血族が許さなかったからだけれども

嗚呼、そうか
私も愛に生きれば良かったのかな

アレンジ、アドリブ可




「……愛」
 呟かれた声音は、まるで柔らかな大地に落ちた鈴のようだった。微かに響いた音色は、慈悲なく無為と言わんばかりに土に呑まれて力なく消え、そこには静寂だけが支配する。
 ラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)は、目の前の怪異――大いなる邪神の一柱『大祓骸魂』を、ただその概念のみで見つめていた。
 目の前の存在はただ『愛』故に、世界を一つ骸の海へ送るのだという。
 ラファエラは自分に愛を捧げる猛り狂った者たちを、浴びる程に目に留めては流してきた。その目はいつも、熱狂と呼ぶに相応しい、下賤でぎらぎら光りながらも泥のように濁りきっていた。
 しかし、その『愛』を謳う目の前の存在に、それはない。
 その瞳の中に狂気があるとするならば。それは恐らく彼女の『抱く愛』という概念そのものが『狂気』であるのだろうと。
「その為に、こうも大胆なことが出来るものなのだね。
 ……羨ましい」
 ――呟く。これ程までに、浅ましくない愛の狂気があることを、生きていた時分に己が知っていたならば。

『……騎士よ』
 そのユーベルコードに数多の言葉は不要だった。一言、それだけで、ラファエラの前に白銀の甲冑に身を包み、白馬を伴う騎士団長の霊が現れた。――それが今の、彼女の騎士。
 戦うこと、その概念は全て目の前の騎士に預けて。寵姫は愛馬Tenebrarumへと騎乗し、己の戦況が見渡せる後方へと下がる。
 ――己が示した全てを。その眼に留めるのは、高貴なる者のつとめゆえ。
 
 闇を纏った大祓骸魂が、差し伸べた指先より大量に溢れた己の虞を、波打たせるように二人へと叩き付ける。
 騎士は光魔法で生みだした夜空に差し込む陽光で相殺し、ラファエラを乗せたTenebrarumその範囲外を駆け抜ける。
 戦場に立つ。その恐ろしさが、ラファエラの胸を駆け抜けた。
 猟兵とは、斯くも恐ろしい場で戦いを繰り返し。
 そしてこのような戦場に――ずっと立ち続けなければならない程、哀しいものだったのか、と。

 騎士が振り降ろす剣先に宿る閃光を、大祓骸魂はその剣戟諸共、都市伝説と称されてきた『UDC-Null』である古和鏡で弾き返す。
 その騎士の隙を補い縫うように、ラファエラが金に趣を与えた華奢な手振鈴を鳴らし『鎮魂と云う名の傲慢』と共に、怨霊達を喚び起こす。
 そして、その行き先に大祓骸魂を指し示す側ら、ラファエラは真赤の血を好む深き闇の茨を大祓骸魂の影から生み出し、無数の棘をその身に突き立て拘束を狙い、次の騎士への新たな攻め手の隙へと変えていく。

 しかし。
 次の瞬間、二人の立つ足場の床が、爆発するような彼岸花の赤で染まった。大祓骸魂に絡んでいた闇の茨は、養分の全てを奪われたかのようにその場に枯れ果て床へと落ちる。
「――!?」
 驚きにラファエラが眼を見開けば、そこにある大祓骸魂の瞳に、初めて狂気に似た色味が宿るのを見た。しかし、数多の狂愛を見尽くしてきたラファエラは思う――そこには、やはり確かな理性と、愛が。

「そこにおられる西洋の死姫。あなたには、愛する存在(もの)はありますか?
 私のように――別たれたが故に愛おしく。離別して尚愛しいものはありますか?」
 狂い咲く彼岸花の上に立つ大祓骸魂が、更なる虞を己が力として纏い咲く。
 語り掛けて来たことに意があるとは思えず――それでも、ラファエラは答えずにはいられなかった。

「離別して尚――」
 ラファエラはその容を黒のヴェールと共に俯かせ、そして静かに視線と共にその顔を上げた。
「居るよ……目の前に。
 私の婚約を笑顔で祝福したくせに、私の為に死んだ男が」
 ラファエラの言葉に、大祓骸魂の片目が僅かに見開かれる。
 その言葉は――ラファエラ自身でも、泣きそうな声をしていると、思った。

 今でも、あの時の事を思い出す。
 あれは――まるで太陽のような男だった。
 婚約の事を伝えた時、彼はその白銀の兜を脱ぎ、一瞬の瞬きの後、笑顔と共にこちらに祝辞を述べたのだ。
 互いにずっと分かっていたのに。その刹那の瞬きに抱いた――互いの真の想いなど。ずっと、ずっと昔から。
「……攫ってくれれば良かったのにね。
 互いが死んで、漸く……こんなことを口に出来るなんて皮肉なものだ」
 騎士団長であった存在は、既にその透けた身を以て――何も答えることはない。

 あのとき、誰もラファエラに許しを与えようとはしなかった――王座を望めぬ愛など、恋など。
「……嗚呼、そうか」
 ラファエラは、目の前の『愛』を紡ぎ傾ける邪神を見つめて一つ呟く。
 ――私も、総てを捨てて、愛に生きれば良かったのかな――

「ならば……
 私の『愛』も分かるはず。私のUDCアースへの想いも、分かるはず」
 その想いに答え、まるで同意をするように。大祓骸魂が謳うように語り上げる。
「だが、な」
 微かな沈黙を置いて、ラファエラは告げた。
「――もう……時は、戻らないのだよ」
 自分で告げるその言葉に、悲しみに。絶望に。
 ヴェールに隠れた瞳は濡れたまま。

 麗しい乳白の手が鈴を振る。
 雷雨の下に落ちた雷光が、大祓骸魂を直撃した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

地籠・凌牙
【アドリブ連携歓迎】
俺の家族なー……一夜じゃ足りねえよ。
先生は優しいけど一気に構ってアピールされたら体がひとつしかなくてごめんねって泣き出す愉快な人だった。
上の妹はせっかちだけど家族想いで、上の弟は素直じゃねえが誰よりも真面目で、ちびたちは目に入れても痛くねえぐらい可愛かった。

だけど二度と逢えねえしそれは絶対に覆されちゃいけねぇ。
だからこそ多くの人を犠牲にしてまで帰るなんざ許されちゃならねえんだよなァ!!!

【指定UC】を使う。
【見切り・ダッシュ・スライディング】で敵が呼んだ妖怪たちを潜り抜け、【怪力】と体重乗せた【重量攻撃・捨て身の一撃】だ!
悲鳴上げようが【傷口をえぐる】ように殴り続けてやる!




 振り返ればあまりにも。それは嘘のように幸せすぎて、まるで一夜の夢幻のようだった。
 地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)は、オブリビオン化した妖怪達が集まり始めた大祓骸魂を前に、その時の言葉を心静かに思い返していた。
 ――『一晩を、語り明かす程の想いがあれば』と。
「……一夜じゃ、足りねえよ」
 グリモアベースで告げられなかった想い。ぽつりと、涙の代わりに言の葉が揺れ落ちた。
 大祓骸魂は、無言で凌牙を目にしていた。
『そこに愛はありますか――?』まるで、それを凌牙に問い掛けるかのように。
 場は虞に満ちながら、攻撃の無い不可思議なまでの沈黙を抱く。
 凌牙は静かに、己の言葉が空気に溶けて落ちていく侭に任せて、その心を紡ぎ始めた。
 想いの丈は、ゆったりとした時間の中で積み上げられてきた、今は亡き『幸福』について。

 それは、とある孤児院の話。
 凌牙が身を置いていた所は、決して裕福とは言えなかったが、代わりにそこには『家族』という絆があった。
 身は寒い時はあれども、顔を見合わせ微笑み合えば、心はいつも温かだった。
 凌牙が身を寄せるよりも先にいた『上の妹』は、まだ自分よりずっと幼かったのに、何より孤児院の家族を大事にしていた。
 同じく『上の弟』は、素直ではなくて好意を受け取るのを不得手としていたが、何よりも孤児院の事を、家族皆の事を、真面目に考えていた存在だった。
 そして、自分より後に来た、可愛らしく目に入れても痛くない、歳若い少年少女の『ちびたち』は。貧しい中でも、いつも何かの遊びを考案しては笑みを浮かべて。そして出来る限りの窮困な孤児院の手伝いを惜しむことはしなかった。
 笑い声の絶えない、本当にその言葉が似合う孤児院――その凌牙を拾った『親』とも言える院長は、全てにおいて優しい存在だった。
 優しすぎて、子供達が遊び構ってもらおうと、大挙で押し寄せられた末に、押し倒されれば「体がひとつしかなくてごめんね」と泣き出し、周囲から不思議さと共に愉快を沸かせて宥められ、そしてその皆の笑顔に微笑む人だった。
 当時は愉快な人だと思っていた。だが、静かに追想する今ならば、その言葉の意味が分かる――あの人は、きっと孤児院にいるひとりひとりへ向けて、その全てを『全身全霊を以て愛したかった』に違いない、と。

 だが――全ては、途切れた思い出だ。もう皆の笑い声を聞き、幸せを共にする事は叶わない。

「――ならば。私の気持ちも、分かりましょう?」
 凌牙が、大祓骸魂という虚空に口にしていた、もう向けるあてもない言葉達。
 それを、慈しむように大祓骸魂がそっと凌牙へ囁き掛けた。
 ――それは、愛だと。紛うことなき、自分と同じ、愛なのだと。
「……だけどよ」
 凌牙の握る拳から、その甘言を否定するように。一筋、涙のような血雫が落ちる。
「もう、それは二度と逢えねえし……それは――絶対に覆されちゃいけねぇ」
 他の、誰でもない凌牙の口が、その幸福の反意を叩き出す。

「だからこそ――多くの人を犠牲にしてまで帰るなんざ、許されちゃならねえんだよなァ!!!」
 
 己の振り返った過去は――決して、目前の敵のように、歪めてしがみ付く一夜の夢幻などではない。
 それは、凌牙が永劫その胸に刻みつけた、悲しみを伴う『二つとない、未来を指す星である』と。

 その決意を。その姿を――突然噴き上がる漆黒の靄が、嵐のように包み込む。
 現れたる姿は『穢れ』を喰らい呑み込み捕食を続ける、漆黒の竜。どのような力であろうとも、行使し立ち止まる事のない、胸の内に『誰かを苦しめるモノに報いを与える』誓いを宿した、ユーベルコードによる地籠凌牙の真の姿。
 対象は何れか――目の前の『大祓骸魂』以外に、何があるだろう。

 闇を思わせる力に満ちて、凌牙が大祓骸魂へと疾駆する。
 大祓骸魂を守るオブリビオン化した妖怪達が、質量作戦として、波のように襲い来るその隙間を掻い潜り。
 大祓骸魂から、正面に弾幕のように放たれた飴の形をした爆弾は、衝撃波と共にと火花を散らして凌牙を迎え撃つ。
 凌牙はそれに臆する事なく、最短距離である爆風の中へと身を投げた。
 瞬時に奪われた視界も気にせず、凌牙は黒煙の中を駆け抜ける。
 直撃すれば手足すら吹き飛ばすであろうその衝撃は、凌牙を前にして――まるで透明な壁に遮られるようにして、その身に届く前に消えていく。
 今、胸にひとつ。確かに伝わる温かなものがある――それは先、心に紡ぎ留めた凌牙の想いが、その身を、心を守り庇っているかのようだった。

「――!」
「喰らい、やがれぇ!!!」
 煤けた闇をより深い黒で削り取り、凌牙は大祓骸魂の懐へと辿り着く。振り翳した凶悪な爪を持つ竜の右腕が、力強さを伴い脈動し、異形の形を更に際立たせ放った一撃は。
 微か驚きに目を見開いた、大祓骸魂の胸元を大きく抉り取っていた。
「……」
 大祓骸魂の口から、言葉の代わりに大量の血が溢れ出る。
 それでも、凌牙はその鋭い竜の爪を止める事はない。
 何度も、何度も。己の拳に――その胸に、届かぬ星への焼けつくような怒りを、悲しみを。復讐者としての意と共に込め。
 凌牙は止める事なくその拳を叩き込み、大祓骸魂の胸に真赤な彼岸への徒花を咲かせ続けた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空葉・千種
ア○
同行者:空葉・十樹(f24405)

何を悩んでいるのか、ですか?
別離した人と言われても心当たりがなくてですね…

あっ、始めまして…奥様はバイオモンスターでしょうか?
奇遇ですね私もクォーターなんです

父方の祖父が世界大戦頃の科学者で
開発した生体兵器と駆け落ちしたのが我が家の始まりなんだとか

そんなわけで本来父方由来の能力で戦うはずだったんですが…
「あの能力は暴走しかねん!改造してやるからそっちの能力を使え!」
って叔母に無理やり強化人間にされまして…なんで視線をそらすんですか?

そんなわけなので、攻撃を相殺できないなりに頑張ろうと思います
父方の能力もこっそり使えるようになりましたし
それじゃあいってきます


空葉・十樹
ア○
同行者:空葉・千種(f16500)

久しぶり。親父・お袋
ジャスティス・ウォーのさなか、行方不明になった二人とここで会うってことはー…
やっぱ二人共死んでたんだな
(世界設定:ヒーローズアース参照)

まあ、私もあの戦いで右腕持ってかれたからな
ほんと、よく生き残れたと思うよ

あ、さっきの少女な?あれは我が兄の娘、
つまりは私の姪で…あんたらの孫だ

あの戦いの頃は生まれてもいなかったあいつが今では一端のヒーロー
末席とはいえ49だかなんだか、表彰もされてたんだぜ?
そんなわけで空葉家はまだまだ大丈夫ですっと

じゃ、私も千種の後を追って戦いに行くとするよ
だいぶ成長したとはいえ…まだまだツメが甘い青二才だからな!




 ――今までの戦況がここまでの苛烈を極める少し前。
 そこには、今や数多の妖怪達を呼び寄せる童歌を、ひとり物静かに歌い続ける『大祓骸魂』の姿があった。
 有象無象として集り溢れるオブリビオン化した妖怪達は、自らの心に響くその歌を、一緒になって歌い出す。
 皆が、心を一つにしている証明なのであろう。大祓骸魂の力によって、見る間に妖怪達の姿は力強く、そして心を映す目つきは禍々しくなっていく。
 一人の猟兵、空葉・千種(新聞購読10社達成の改造人間・f16500)が最初に場に転移したとき。偶然、視界を遮るものは何も無く、千種は大いなる邪神の一柱である『大祓骸魂』を正面にして。しかし、そこには驚きも恐怖も何も顔に出すことはなかった。
 むしろ、そこにあるのは悩みのみ。

「んー……」
 最終決戦を目前にして、溢れる虞を気にも留めずに、どこか上の空で千種の声が場に響く。
 それを耳にした大祓骸魂の瞳が、厳かに千種へと向けられた。
「……愛にもいたらぬその悩みは、何かの考え休むに似たりとも言いましょう。
 なにを、悩んでいるのですか?」
 それは余裕か、それとも些細な気まぐれか。言葉問い掛けてきた大祓骸魂に、千種はどこかもどかしそうに口にする。
「それが――さっき、グリモアベースで話に聞いた『別離した人』と言われても、全く心当たりがなくてですね……」
「……」
 何か、想定していた猟兵と違う――大祓骸魂が、思わずそこに沈黙を落とす。
 大祓骸魂が想像していた猟兵の光景と、千種の気配は大きく異なり。そして、当然ながら己が抱き届けに来た愛と比較するには程遠い。
 同時に、そこで初めて千種は目の前の存在が、今回の最終決戦の相手、大祓骸魂だと理解した。
 しかし、千種はヒーローズアース出身の猟兵であり――あの世界の思考基準で大祓骸魂を目にすると、

「あっ、始めまして……奥様は『バイオモンスター』でしょうか?」

 ――必然的に、こうなった。

 ひとえに、千種が悪い訳ではない。
 あのヒーローズアースの概念と、このカクリヨファンタズムとの世界イメージの相性は、もはや最悪と言っても良かっただけなのである。
「奇遇ですね、私もバイオモンスターのクォーターなんです」
「私は――『奥様』ではありません。
 私の愛は、UDCアースのみに注がれているのです」
 相手が意図してボケている訳でもないのだが、この大祓骸魂も最優先ツッコミ事項がそこにフォーカスされている――大丈夫なのか、この邪神。
「ああっ、すみませんっ。感じる威圧的にもう奥様だとばかり……!」
 同時に千種も、それに違和を感じることなく、大慌てで頭を下げて謝罪する。

 この瞬間。ここは戦場である前に、一瞬にしてとんでもないツッコミ不在空間と化したのである――。

「私の方は、父方の祖父が世界大戦頃の科学者で。
 自身が開発した生体兵器……祖母にあたる人なんですが、そちらと駆け落ちしたのが我が家の始まりなんだとか」
「生体兵器。私にも、骸の海からあふれた知識として、それは存在しています。
 ……深い『愛』ですね」
 そうして千種が語ったロマンスは、一応ながらきちんと大いなる邪神相手に『愛』と認定された。
 この大祓骸魂。けっこう、否かなり適応能力が高い。
「そんなわけで、本来はその父方由来の能力で戦うはずだったんですが……」
 そう、ここは仮にも最終戦闘の決戦場である。
 現在、大分ゆるゆるであるが。今から拳の一つも振るえば、きっと先程までのシリアス展開に取り戻せるに違いない――。
「そこで、叔母が『あの能力は暴走しかねん! 改造してやるからそっちの能力を使え!』って。
 私……無理やり強化人間にされまして……って、なんで視線をそらすんですか?」
 そこに愛はあるのだろうか。それは邪神であっても『愛』を知る大祓骸魂には聞くに堪えない、あまりにもせちがらい話であった。
 叔母にいきなり強化人間にされる。意思疎通なくとも、親愛故の暴挙であるなら『愛』であろうか。いや、それにしても。あまりにてらいも躊躇いもなさすぎるにも程がある。
 ――そのような家庭事情を予期せず聞いてしまった大祓骸魂の胸に、思わず愛に染まる以上の憐憫が湧いたとして、一体誰に咎められよう。
 むしろ。仮にもこの大いなる邪神に、憐情を抱かせるような千種はかなり只者ではない。

「そんなわけなので――」
 ふ、と。今までボケにボケ倒していた千種の気配が――静かに、善なるものへと翻る。
「攻撃を相殺できないなりに頑張ろうと思います」
 今までの意を全て切り替えるように。
 千種からふわりと沸いたのは、大祓骸魂への攻勢の意志。
「……。私は、大いなる神の一柱。
 さらには、このUDCアースを前にして、負けることはありません」
 千種の気配に、大祓骸魂の瞳がゆうるりと細められる。
 その目は、今。確かな殺害対象として、千種の存在を認知した。

「ああ、」
 それは、ほぼ同時――。しかし千種よりも、気持ち遅れてその場に姿を現した空葉・十樹(勝手に帰ってきたマッドサイエンティスト・f24405)は、先にその空間で、大祓骸魂ではない別の存在を見出していた。
「――久しぶり。親父・お袋」
 そこには、こちらに笑顔を向けている十樹の両親の姿。
 その身体がどこか透けて見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
「ジャスティス・ウォーのさなか、カクリヨじみたこの空間で、行方不明になった二人とここで会うってことはー……」
 それは――十樹がまだ齢22であった、1999年の7月。
『ジャスティス・ウォー』は、その瞬間、世界が滅ぶのではないかと言うほどの規模でヒーローズアースに発生した戦域だった。善神と邪神の出現に伴い、より強力な存在となっていたヒーローとヴィランによる、善悪の概念によって分かれ穿たれた、一大決戦。
 しかし、その戦いに参加していた十樹の両親は、その激戦の最中で忽然と姿を消した。
 十樹は、ヒーローの辛勝が確定した後の疲弊きしった世界で、音沙汰なく消えた両親を探しに探して。
 それでも、遺体一つ、遺品一つも見つけられなかった。
 以後――十樹にとって、両親の存在はずっと、手を伸ばしても届かぬような、宙に浮いた存在となっていた。
 あれから、二十年にわたる時間の中で。
 十樹は、ずっと二人はどこかで生きているかも知れないという希望を寄せて。また、生存は絶望的だという声を心の中で聞きながら。その二十年間を生きてきた。
 その両親と、大祓骸魂の作り出したカクリヨファンタズムの概念の中で出会う。
 その事実は――

「やっぱ、二人共死んでたんだな」

 ようやく腑に落ちたように十樹が頷く。
 目の前の二人は表情一つ変えずに微笑んだまま。
 しかし、それでもようやく。
 今、十樹は積年の願いの果てに、ようやく浮かび続けた一つの想いに、終止符を打つことができたのだ。
「まあ、私もあの戦いで右腕持ってかれたからな。
 ――ほんと、よく生き残れたと思うよ」
 自分の両親が、死んでいたのだ。ならば、自分が生き延びたのは、もはや偶発的な奇跡にも近いことだったのだろう。
 そう、思いに耽けかけた時。
 なにやら少し離れたところから、どこか間の抜けた少女と邪神のやり取りが聞こえてきた。

「あ、あの少女な? あれは我が兄の娘――。
 つまりは私の姪で……あんたらの孫だ」
 千種の存在を、両親は知らないままに消えた。
 ジャスティス・ウォーの時は、そもそも生まれてもいなかった。
 十樹は、積み重ねてきた心の中に、両親不在の空いていた隙間を強く感じ入ると同時に。
 今、この両親を前にして。
 それらが綺麗に埋められていく様を、感慨にも近く実感していた。

「あの戦いの頃は生まれてもいなかったあいつが、今では一端のヒーロー。
 末席とはいえ49だかなんだか、アースクライシス――ヒーローズアースの危機を救ったヒーローとして、表彰もされてたんだぜ?」
 今、遠目に大祓骸魂を相手に真面目にボケ倒している千種は、その性格とは想像出来ぬ『アースクライシス』と銘打たれた世界の存亡を掛けた戦争において。
 絶対的な勝利を収めた功労者49人の一人として『ヒーローズ・フォーティナイナーズ』の称号を手にしている。
 ――それが。
 目の前に、儚くも存在してくれている、両親二人の残した未来の証だ、と。
 それを思えば、十樹の口許が少し誇らしげな微笑をかたどった。

「そんなわけで――空葉家はまだまだ大丈夫ですっと」
 十樹は――それら二十年の軌跡を、ようやく。
 あのときから、ずっと時を止めていた両親に、ようやくそれを報告出来た。
 ずっと、ずっと伝えたかった。
 二人のお陰で、今確かに未来があり。
 そして、まだまだ。自分たちは生きていけると。

「じゃ、親父、お袋――私も、千種の後を追って戦いに行くとするよ。
 だいぶ成長したとはいえ……まだまだツメが甘い青二才だからな!」
 そして。先とは異なる不敵な笑みを別れの挨拶として二人に浮かべて。
 十樹は千種の元へ駆け出した。
 無数の世界に於いて、十樹の周囲で争いが終わる事はない。
 それでも、動く以上は――その全てに勝利してみせると言わんばかりに。

 千種と、そして戦うべき敵との距離を詰める十樹を相手に、大祓骸魂の手から弾き出されたおはじきが、無数の散弾銃の弾丸と化し二人に向かって打ち放たれる。
 一撃でも食らえば、それはガラス片として全方位へ弾け飛び、その身体を蜂の巣にすることだろう。
 しかし――二人が防御態勢を取る前に、おはじきの弾は、まるで水の中をたゆたうように相殺されて地に落ちた。
 それは、まるで十樹の『親愛』という、両親へ届けた想いに応え。何も知らない千種までをも、きちんと『自分たちの愛しき孫』として、敵の攻撃から守護しきったかのように。

「な、何だか良く分かりませんが助かりました……!
 よし、ユーベルコードで父方の能力もこっそり使えるようになりましたし、この生体侵食兵器で――」
「千種、その能力使うなって言っただろうがぁ!! 暴走したらどうするんじゃあ!!」
「ひゃぁああ! もう使ってしまいましたぁ!」
「おまえはぁー!! しょうがない、短期決戦でいくぞ!」
 千種へ向けていた視線が、鋭く大祓骸魂を捉え切る。
 十樹は己のユーベルコードを発動させ、その背には飛行可能な鳥の羽を。両腕の金属義腕には、胴体の肉が躍動しその腕を覆うように、その手を鋭い爪を持つ獅子へと変化させた。
「――っ!」
 十樹の脳が、悲痛な叫びを上げる。しかし、今は。今だけは十樹はそれに耳を傾けない。

 世界の危機は、脅威は終わらない。それでも、
 自分の存在も両親と同じく、この未来の一助となるように。

 ――それじゃあ、いってきます――。

 二人の猟兵は、ヒーローズアースの世界を背負うに恥じない姿で、数多の妖怪達が守りを固め、こちらを迎え撃たんと身構える大祓骸魂へと、躊躇いなくその身を躍らせた。

 そうしてこの戦端は、既に輝ける光と共に、切って落とされたのだ。
 ここから先の、あるべき未来に。絶対の勝利を目指して。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リゼ・フランメ
愛を想い続ける
その一途さは、時に命を奪う鋭さになるのかもしれないわね
けれどその思慕が、触れれば何であれ殺すというのならば
それは愛は死病の如きもの

貴女が誰からも忘れられたように
私には思い出せない、大切だった兄のような人がいる

吹雪の夜、揺れる儚い火は綺麗だと
人生という何時か終わる美を
幸せを与え合い、笑い合う温もりを
教えてくれた人

微笑んだあの温もりは
定かな記憶なき今も信じているの

愛しても
愛される幸せを求めぬ、悲しく痛んだ心
不変の永遠を求め、世界殺める罪咎を詠うその魂

本来の己が名も
緩やかな日常の幸福も
忘れ去った悲しき愛の骸歌へ

攻勢を見切りて避け
狙うは早業による後の先
破魔の深紅の焔宿す剣にて終止符を刻む




「――私は。この世界を、愛しているのです。
 人も、空も、大地も、星そのものを。分け隔て無く。その全てを愛しているのです」
 ダメージを蓄積させても、その瞳に狂乱の色は無く。響く『大祓骸魂』の声は、まるで凛と響く鈴の鳴る音を聞いているかのようだった。
 その想いに、再び同意するようにオブリビオン化した妖怪達が集まり始める。ゆっくりと、だが今にも猟兵達の眼前に迫る波のように。

「愛を想い続ける……」
 一番近くにて大祓骸魂と向き合った、リゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)は、言葉と共に圧力を増す虞を、確かにその身に感じ取っていた。
 しかし、それは大祓骸魂の最後の力となるだろう。リゼは凪のように、大祓骸魂へと言葉を贈る。
「その一途さは、時に命を奪う鋭さになるのかもしれないわね。
 けれどその思慕が、触れれば何であれ殺すというのならば」

 ――それは、愛は死病の如きものだと。

「……私は、この世界を昇華したいのです。
 ――聞き逃せません。猟兵」
 大祓骸魂のただ一言。
 それだけで、集まる奇異様々な妖怪達の中から『UDC-Null』として、妖刀の概念を持つ無数の刀がその鋒をリゼへと向けた。
 それらは人間と同じ太刀筋を以て、風切る音と共に一斉にリゼへと斬り掛かる。
 決して、一撃では全てを伏しきれない数。
 しかし、それらがリゼに己が刀身を届かせるよりも早く。
 その動きは、まるで海の波にでも呑まれるように。柔らかくも力強く、弾き返されるように地へ落ちた。

「――そこにも。私の想いを消し去る程の『愛』があるというのでしょうか」
 大祓骸魂が、ただ静かに言葉を洩らす。
 その問いに、リゼは静かに落ちた刀の一振に目を向け、呟くように言葉を置いた。
「貴女が誰からも忘れられたように……。
 私には――思い出せない、大切だった兄のような人がいる」

 過去。既に灰と共に雪に沈んだ、今は遠い故郷の夜。
 暖を取る、そのよすがとなる灯火は、吹雪く寒さを凌ぐにはあまりに弱く。
 しかし、それでも。この極寒に揺れる儚い火には意味があるのだと。それは、か細くも確かに人の心を温めるものであり。この存在は、透き通る程に綺麗で愛おしいものだからと――そう、とても優しくリゼに語り告げた存在がいた。
 人生という『何時かは終わる、その静謐ながらも鮮やかに燃える炎』を、確かな美しき存在として、教えてくれた人がいた。
 リゼは今――その彼と、寄り添い合う故郷の皆とで。その幸せを与え合い、笑い合うという。あのとき確かに存在していた温もりを、沈黙と共に振り返る。
 たとえ、いくら薄絹掛かった記憶であろうとも。
 そこには、己という存在に、数多の大切なものを教えてくれた人がいた事を――リゼは心の内に思い返して、呟くように相手へ告げた。

「微笑んだあの温もりは。
 定かな記憶なき今も信じているの」
 死して別れて尚『想い合う』――そこにあるリゼの心緒は、今。明瞭な想いとなって、この胸に。

「愛しても。
 愛される幸せを求めぬ、悲しく痛んだ心。
 不変の永遠を求め、世界殺める罪咎を詠うその魂」
 大祓骸魂の在り方を理解して、それを確信付けるように。聞きようではまるで謳い上げるかのようにリゼは続けた。
「本来の己が名も。
 緩やかな日常の幸福も。
 ……忘れ去った悲しき愛の骸歌へ」

「……だまり、なさい……。
 私は、私だけが、この愛を知っている。
 ――それだけが、私の」
 大祓骸魂が、リゼの言の葉を留めるように。
 己の言葉を半ばにして、振り袖を大きく揺らし振り払う。
 白生地に縫い込められた彼岸花の花びらが、空間に型を成し、一斉にリゼを取り囲むべく舞い散り始める。
 その花びらは鋭利な刃先。一度たりでもその身を包めば、一瞬にして咲くのはリゼの血の花であることだろう。
 リゼは、一直線に迫り来る花びらの雨嵐を最小限で躱し、その脇を駆けながら、己の身にする断罪刃『ゼーレ』に手を掛ける。
 そして、花嵐の尽きた至近にて。
 リゼは優美さを備えた己の刃に、真赤の紅玉の瞳を映し出す。
 ――其れに呼応し現れたのは、破魔と断罪を司る深紅の炎――。
 大祓骸魂の元を駆け抜けるように放つリゼの一閃。それは焔に胡蝶の幻影を散らしながら、妖怪達が盾になるのも間に合わず。
 一瞬にして、大祓骸魂の魂と罪を根底より斬り裂いた。

 大祓骸魂の身に受けたものは、致命傷となる確かな一筋だった。
『邪神』として真にあるべき根源は、替えの効く肉の器ではなく。その弱点は、己の存在を構築している邪悪という罪と心を支える魂そのもの。
 それらを炎と共に斬り裂かれた大祓骸魂の身体は、一瞬鬼灯色の瞳に虚空を映す。
「――」
 それでも大祓骸魂は、最後まで手にしていた懐刀『生と死を繋ぐもの』を、まるで祈り込めるように手放すことなく。
『そこにあった一つの愛』は、刃を見舞ったリゼに向け、その瞳に悲しみと僅かに揺れる光を湛えて微笑んだ。

「嗚呼……。消える、の、ですね……。
 それでも、聞いてください。猟兵。
 私は、それでも……何よりも……この世界を愛してい――」

 言葉は、最後まで空気を振るわすことは叶わなかった。
 邪神を象る根幹を失った身体が、揺らぎ霧のように散り霞む。
 そして、跡形も無くなる刹那。己の身から散りゆく霧と微かな虞が、駆け抜けるように空間を奔り――大祓骸魂は己の存在に終わりを告げた。
 最後に。
 己の残滓として、スカイツリー・ゲイン塔の上空全てを埋め尽くす程の、満開に狂い開く彼岸花を咲かせ残して――。

「……」
 この花々は、微かに残った大祓骸魂の虞の名残。時置かずして直ぐに消え去ることだろう。
 彼岸花の咲き誇る天上。
 夢幻の極みを示すここは、天国そして地獄ですらもない。
 ただ他でもない、大祓骸魂が望んだ現実――切に求め願ったUDCアースの中で。
 咲き誇り、そして鮮やかな色を残したままに散り消える華を。
 リゼと、戦い続けた猟兵達は、最後まで言葉無く沈黙と共に見つめ続けた。

 斯くして。
 大祓骸魂はUDCアースとカクリヨファンタズム。二つの世界のカタストロフは防がれた。
 大祓百鬼夜行は――猟兵たちの完全なる勝利によって、幕を閉じたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月01日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#カクリヨファンタズム
🔒
#大祓百鬼夜行


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト