大祓百鬼夜行㉕〜死命敬慕に花の散る
愛しい、愛しいUDCアース。
骸の海で永遠になりましょう。
これからなんてものを無くして、過去になりましょう。
わたしが愛したあなただけ。
それだけで終わってしまったなら、どれほど喜ばしい事でしょう。
「あなたを思う、私の愛は揺るがない」
何があっても。何をされても。何をしたって。
「だから、私は帰って来たのです」
あと少し。もう少しであなたの事が、手に入る。
なのに、どうして邪魔をするの?
●塔の上
「皆さまお疲れ様です! ついに大祓骸魂との最終決戦ですよ!」
幽世から現代へ、長く続いた雲路の果て。
東京スカイツリー最上部、アンテナが収容された巨大構造物。ゲイン塔と呼ばれる場所に此度の首級、大祓骸魂がいる。
究極妖怪にして邪神の一柱でもあるそれは、UDCアースを愛おしむあまりに世界そのものを滅ぼし永遠にしようとする凶悪な存在。気をつけて下さいねとキディ・ナシュ(未知・f00998)は真剣な面持ちで告げる。
「彼女は自身の膨大な虞によって、東京の上空そのものをカクリヨファンタズムのような空間へと変化させてしまいます。そして今回の戦いで見聞きした様々な戦い方で此方へと挑んでくるのだとか」
多種多様を極めた今回の戦い。混沌を極めて煮詰めた鍋の中のようでいて、最後には上空へとぶちまけられる。多くの妖怪達を従える最後の百鬼夜行はUDCアースを過去とするため。懐に忍ばせた刀で一刺しせんと、確実に殺せる時を待っている。
「今から向かえばまだ間に合います。倒せるはずです。それから、彼女は骸魂そのもの。確実に撃破をお願い出来ればと」
世界を滅ぼす愛、それに対して中途半端な温情などは不要。世界の存続を望む猟兵達とは絶対的に相容れない。全力で挑む方が誠実というものだ。
それから一つ、お願いがあるのだと人形の案内人は続ける。
「大祓骸魂は近くに咲いている幻朧桜を盾に動きます。出来ればどうか、樹々を傷つけずに戦って欲しいのです」
本来ならば今回の二つの世界とは関係がないはずであったのに、百鬼夜行を押さえ込む手伝いをしてくれた優しい花。強敵相手に、そのような事を言っている余裕があるのかは分からない。
だが今こうして大祓骸魂の元へ辿り着けたのは、幻朧桜の力があってこそだというのも事実だろう。敵にとってみれば忌々しい、こちらにとってみれば頼もしい、身動き取れぬ彼らをどうか傷つけずにいて欲しい。
「うまく言えませんが、仲間……ううん、戦友というものでしょうか。ひょっとしたら大祓骸魂が呼び出しただけの、幻かもしれません」
それでも。
誰かを、何かを大切に護る思いを捨ててしまったら。きっとそれは遠く海に還るべき骸魂と何ら変わりない。
よろしくお願いします、と頭を下げた人形の髪が一際大きく揺れて動く。
「それでは皆さま、行きましょう――二つの世界を救う為に」
●永遠を願うもの
「愛するUDCアース、あなたを永遠にしたい」
あとひと刺し。
懐刀を握りしめた少女が、薄紅の中で笑っている。願いを叶える事ができるのだと、その瞳は歓喜に満ちて昏く輝く。
それが猟兵達を見据えて、首を傾げれば。切り揃えられた黒髪がうつくしく溢れて、流れて。
「止められますか」
私の、愛を。
赤い番傘はくるくると回って、木々の間へと消えていく。
砂上
はじめまして、こんにちは。
砂上(さじょう)です。
今回の舞台はカクリヨファンタズム。大祓百鬼夜行の終幕。
一章のみで完結するシナリオとなります。
ラストバトルです! 格好良く楽しく行きましょう。
●プレイングボーナス…… 幻朧桜を傷つけないように戦う。
大祓骸魂は 幻朧桜の影に隠れるようにして移動します。
プレイングはどう思い、どう動くのかを分かりやすくお願いします。
技能はただ並べるのではなく、どう使うのかをきちんとご記載ください。
※ほぼ純戦です。格好良く決めてください。
※お花見シナリオとは無関係です。何方様も気にせずどうぞ。
※ 大祓骸魂を救うことはできません。
●受付等
受付は【29日(土)8:31〜21:00】までの受付となります。先着順ではありません。
遅くとも31日いっぱいまでで書けるだけ。場合によっては少数のみと、採用の確約は出来ませんが、お目に留まりましたらよろしくお願いします。
●それでは素敵なプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『大祓骸魂』
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POW : 大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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花房・英
ここに来たのは仕事だから、
…なのもあるけど
身勝手な感情でUDCアースを殺されたら困るんだよね
この世界が俺の居場所だから
だから、俺も身勝手な理由であんたを倒すよ
強大な力が肌を刺す、正直怖い
死にたくないし
蝶に毒を混ぜ込んで放つ
攻撃は勝手に追いかけてくれる蝶に任せる
誤って桜を傷つけないように、ハッキングで干渉して動きを補助する
それでも桜が傷つきそうなら、
俺自身が桜を庇いつつ、攻撃の隙を作れたら
クロで電子の障壁を展開して、桜を護りつつ大祓骸魂の隠れる影を減らしたい
戦場を共にする猟兵がいれば、俺はサポートに回る
時間稼ぎは苦手じゃない
俺だって揺るがないよ
この世界には、守りたいやつがいるんだから
●月下の誓い
独りよがりの愛が肌を刺す。
殺気というには鋭さ足りぬ、けれども危険だと花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)脳内で警笛は鳴り響いた。
百鬼夜行を引き連れる、少女の形をしたものが恐ろしいと叫ぶ本能。じわり、滲む汗が背を伝う。
「身勝手な感情でUDCアースを殺されたら困るんだよね」
死にたくない――そうだとも、分かっている。
だからこそ一歩踏み出し、彼は強い意志でそう告げた。
「どうして? 私以上に愛している人はいないのだから、私が愛しきってあげても良いでしょう?」
やわく返される声の言葉は分かっても、意味を理解するには程遠く。だから英の首は横に振られる他はない。
「この世界が俺の居場所だから」
紫の強い視線が、大祓骸魂を射抜く。
「だから、俺も身勝手な理由であんたを倒すよ」
今、彼が生きる理由はこの世界にある。だから過去になんて、されてたまるものか。
足元に咲き乱れていく、季節外れの真っ赤な彼岸花。その神智を超える逃れられない虞。だが英の裡から湧き出るのは膝を折らぬという心だった。強く握りしめた掌をひらけば、揺れる感情から生まれる蝶がひらりと飛び立った。
ノイズ混じりの青く光ってはためいて、百鬼夜行の妖怪達を飲み込んでいく。毒の含んだ鱗粉が踊れば、命奪わずとも彼らを無力化するに事足りた。
桜を傷つけようとする者がいればその腕を絡め取り、背を押して遠ざける。自動追尾を載せた蝶は望むままに戦場を飛び交い、英の意思のままに樹々を守って活路を開く。
電子の光が道となって大祓骸魂へ辿り着いたのなら――あとはほんの一歩だけ。
鱗粉から逃れるように幹の影に隠れようとした彼女を、弾く透明の盾。驚き、目を見開く少女の前にはシールドを展開する英の姿。先回りをされた? いや違う、追い込まれたのか。
そう思った時にはもう、大祓骸魂の姿は輝く青い羽撃きに包まれていた。一つ一つは頑丈な生き物ではない、払えば直ぐにでも消え去るようなもの。流し込まれる毒とて即再起不能になるものではない。
だが繰り手はその間にも姿を眩まして桜吹雪の中へと消えていた。頼もしい木々の一本に隠れて、蝶で正しく居場所を英は把握する。一撃で倒せる相手ではないけれど、弱らせて時間を稼ぐことならば苦手ではないのだから。
次へ、バトンが渡ればいい。倒すためのその一手を持つ誰かの元へ。ここで、世界を守ることこそが彼にとっての大事な願いだった。
――幸せになることを諦めたりしない。
月下、白薔薇咲く中で交わしあった誓い。年上のくせに、なんだか放っておけない優しいあの人。彼女の幸せが喪われてしまうのなら、きっと自分の幸せも消えてしまう。
だから揺らいでなんてやるものか。飛ぶ蝶操る回路は、時間が経つごとに冴えていく。
(この世界には、守りたいやつがいるんだから)
さぁ動け、走れ! どれほどの虞も彼を止める枷にはならない。
柔らかな笑顔のある今が、背を押す勇気を生むのだから。
大成功
🔵🔵🔵
ルーファス・グレンヴィル
#
ひらひらと舞う桜
花弁を空中で掴めば
ふ、と穏やかに笑った
今回の戦争じゃ
すげえ世話になったからな
ダチや仲間達と桜の下で花見もした
それはオレにとって守るべき思い出だ
だから、絶対、傷つけず守ってやるよ!
肩の上の黒竜と目合わせたら
お互い不敵に笑い掛けて
手にした花弁を宙へと放つ
さあ、行こうか、ナイト!
呼び声と共に槍へ変じた相棒を身構え
赤い番傘を持つ彼女を追い掛ける
桃色が舞い降る中
やって来た妖怪達と向き合って
お前らも巻き込まれただけだろ?
誰ひとりとして欠けさせねえ
ちゃんと救い出してやるよ
けどな、大祓骸魂
お前だけは絶対に倒す!
桜の花弁さえも避けて
狙うは一点集中で槍を穿つ
──そう、
止めてみせるよ
お前の、愛を
●護り手の宵竜
はらりはらりと幾つも落ちてくる花弁。
その一枚を、ぱしりと空中で捕らえたならば。ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)の顔に浮かぶのは戦場とは思えぬほどの、穏やかな笑みだった。
二つの世界跨ぐ大規模百鬼夜行。広い広い戦場で、敵の力を削いでくれた桜の樹々。友人や仲間達と遊んで食べてと、一時の癒しの場まで提供してくれた。予想外に穏やかな時間は、彼自身の守るべき掛け替えのない思い出ともなった。
――だから、絶対に。
そっと幹に触れる。樹皮から伝わるいのちの頼もしさに、今度はこちらが返す番だ。決して、傷つけさせたりなどするものか。
「守ってやるよ!」
だから安心してくれよと告げる言葉の明るさに、喋れぬ代わりと薄紅が舞う。
常ならば軽薄なばかりが乗る表情も、今日は意思の力を赤い瞳に宿し。肩の上に止まった相棒の黒竜へと視線を交わせば不敵に笑う。
握った手を開いて風に花弁を返し、遠く宙へと舞っていくのを見送ったのなら。
「さあ、行こうか、ナイト!」
呼び声に応えくゆる炎。小さな竜はその姿を槍へと転じる。強く手をつなぐようにその柄を握りしめたなら、駆ける先はただ一つ。くるくる番傘回して樹々の影へ消えゆく、虞の少女のもとただひとつ。
けれど、簡単には道は開かない。百鬼夜行の妖達はルーファスの行く手を阻むように飛び出してくる。舞い散る花弁と変わらぬような膨大さで、けれど彼は怯むことなく真っ直ぐに向き合って見せた。
「お前らも巻き込まれただけだろ?」
骸魂に呑まれただけならば彼らだって被害者だ。
それにまだ救えるのなら――ちゃんと、助け出してやる。
急ブレーキかけるようでいて、片足で踏み込む。けれど勢いは構えた槍に全部乗せ、思いっきり振りぬけば幾つもの妖が吹き飛んだ。ぐるりと回転するようにもう一歩、進み出した勢いで今度は体重を全部乗せた重量のままに突きを放つ。
衝撃で弾き飛ばした悪い魂のみがかき消えて、後は気の抜けたばかりの妖達ががんばってと声援で男の背を押したなら。駆ける、駆ける、駆けていく。
任しとけ! 返事代わりにぐるりと槍を回したなら穂先狙うはこの戦いの元凶――大祓骸魂。
「お前だけは絶対に倒す!」
竜が吠える。込められた信念の強さが空気を震わせ、歪な愛を打ち砕かんと赤の一対が少女を射貫く。狙い定めるはただ彼女が一点のみ。集中力を研ぎ澄ませて、降り行く花弁の一片すらも乗せぬ道を見つけたのなら、全力で槍を振りぬいた。
「止めるというのですか、この愛を!」
そうとも。世界に害をなすのであれば、例え本来尊ばれるべき感情であろうと止めてみせる。否、どこかに被害を出してしまうようなものは、絶対に止めなくてはいけない。
──止めてみせるよ。お前の、愛を。
だから、終わらせようか。
強き思いでゆらめく黒炎、共に開くは竜の顎。槍から喚び出されたナイトの一撃は大祓骸魂を盛大に燃やし、桜のもとから引きはがしたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
影朧を鎮める幻朧桜とはいえ、流石に大祓骸魂には効果はなさそうか
だが、効果があろうがなかろうが関係ない。俺にとっては身近なものだし、言われなくても守ってみせるさ
神刀の封印を解除――終の型【無仭】
森羅万象を断ち切るとも言われる刃、その真髄は『真に斬るべきものだけを斬る』力
そして、俺が今、此処で真に斬るべき相手は大祓骸魂ただ一人
強く集中して、浄化の神気を強く限界まで刀身に宿す
複製された懐刀は斬撃波で叩き落としながら、一気に切り込んでいく
大祓骸魂が幻朧桜を盾にしようとも関係ない。幻朧桜ごと大祓骸魂をぶった切る――因果を越える斬撃は、幻朧桜にはなんの傷も与える事はなく、大祓骸魂だけを叩き斬る
●郷愁に鋭刃
見上げる幻朧桜の大木は、こんな時でも懐かしくも頼もしい。
だが荒ぶる魂を持つ影朧を鎮める力があるとはいえ、流石に大祓骸魂を抑え込むのは難しいのだろう。それでも最後にこうして出てきてくれたのは、それでも何か協力したいと思ってくれたのかもしれない。強大なる邪神にして骸魂の元凶、その力が人へ害をなさぬように。
夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)にとってみればどちらでも構わなかった。例え彼らの力が及ばなくとも、故郷に咲く花だ。身近で、慣れ親しんだ薄紅を傷つけさせなどしない。
「有難う、ここからは任せてくれ」
言うや否や携えた刀を抜き放ち、彼は深く息を吸いこんだ。柄を強く握り込んで念じれば、刃に閉じ込めていた神力が溢れ出す。輝かしく光を放つそれは彼が使う型の最終型式であり、奥義。
森羅万象全てを断ち切るとも言われたこの刀――無仭の力を最大限に引き出すもの。強く集中すればより深まる清浄たる光。
限界まで引き上げたのなら、さぁ踏み出せ。
空気すら震わせるその力、甚大さを感じ取ったのか。警戒露わに懐刀が飛んでくるが、もう既に封印は解かれた後でしかない。
振るう一閃。放たれた衝撃波に乗るは悪しきを挫く力、飛んでくる全てを地へと払い落として鏡介はなお駆ける。真っ直ぐに、元凶たる少女の形をした大祓骸魂へその刃を届かせるために。
その速度、ただ迎え撃つには部が悪いと樹々の後ろへ少女は身を隠した。これならば斬れまいと笑うかのような作戦は、しかして剣士には通じない。
「この一刀で全てを断つ――終の型【無仭】」
丁度反対側、相手から見えぬ位置にて、鏡介が幹ごと斬り抜くは横薙ぎの一刀。光が薄く、鋭く、伸びていく。だが其れは切断される因果と物理法則を超え、どこまでも正確に大祓骸魂のみを斬りつけた。
瞬きほども無い、一瞬の早業。
驚愕に目を見開く彼女が、数歩後ろへとたたらを踏む。遅れて、こふりと血を吐いたのなら、そこへ追撃に二打目が叩き込まれた。
終の型【無仭】、その真髄は『真に斬るべきものだけを斬る』という特性。担い手がそうと思ったもののみへその鋭い鋒を閃かせ、悪しきものを必ず倒すと誓う鋭さで相手へと届かせる。だから幻朧桜にはこれっぽちも、傷がつくことはありえない。そよ風が一つ吹いたと言わんばかりに、無事な顔する桜の大樹はただ薄紅をちらちら散らすのみ。
「この……!」
「卑怯な手を使うからだろう」
三撃目は、投げつけられた懐刀の群れで阻まれた。けれど構わない。もう、逃げ込むことが無意味だと相手もよくよく分かっただろう。
番傘回るその背を、再び追いかけ彼は地面を蹴り付けた。踏み締める彼岸花も、肌を刺す虞の気配だって何を怯むことがあるだろうか。百鬼夜行だって、怖くはない。現に逃げるのはあちらで、こちらは既に追う側だ。
――全て守り通す。
真っ直ぐな青年の黒い瞳には、強い未来だけが映されていた。
大成功
🔵🔵🔵
冴島・類
形は十色と言えど
それを聞いた時…
UDCが言葉を返せるなら、なんと応えただろう
苛烈な其れを止める為、相手が幻朧桜をつかうなら
策を逆手に
花傷つけぬ為
接近し樹から引き剥がしてからしかける…と見せる為
飛ぶ攻撃を、瓜江と共に駆けながら
見切りでの軌道読み、残像での狙い散らし
大祓骸魂へ接近、己と相棒を繋ぐ糸を使い
絡め引き投げ距離を取らせたい
…が、叶わずとも本命は別に
これ程花弁舞うこの場でなら
春の力を、借りれよう
枯れ尾花を花弁に変え、幻朧桜の花弁に混ぜ
彼女が放つ技に咲く彼岸花を覆い
強化防止と意識を逸らした足元からの攻撃を
嵐を向ける先は、彼女のみ
この世に咲く数多の命の明日を終わらせる
終わりで完成する愛、なんて
●春の夢
愛の形は十人十色。
それがどんなものであろうと、頭ごなしに否定したくはないと冴島・類(公孫樹・f13398)は思う。
けれどもしも、愛しているから死んでほしいなんて問われたとして。この世界が言葉を返せたのならば、一体どんな応えだっただろう。
考えても仕方がないことだ。けれど、類も言葉を返さぬ筈の器物として長く生きたことがある。返したかった言葉だって、沢山抱えていた。
だから余りに苛烈で一方的な其の想いを、成就させようとは思えない。
「行こう、瓜江」
止めなければと指先から伸びる赤糸で繰るは頼もしき相棒。声をかけて地を蹴れば、真っ直ぐ向かうは大祓骸魂の元へ。
「邪魔をなさらないで下さいな」
けれどあちらとて彼らの静止を素直に受け止めなどしない。すっと、白く小さな指を類達に向けたなら配下たる妖怪達が、彼女が撒き散らす虞とともに乗って雪崩こむ。骸魂に飲まれた彼らの敵意は鋭い。だが数の多さで油断したのか動きは単純だ。跳躍して足場代わりに踏みつけ、飛び越え。鋭い懐刀が狙って来ようと、ひと所に止まらぬように動く類達が落とす影にしか追いつかぬ。
足下に咲き乱れる、彼岸花の赤を跳び越え一直線。若草の色が、幻朧桜の側に佇む少女の姿を捉えたならば翻るは絆の赤。彼女を通り過ぎるように駆ければ、類と瓜江を繋ぐ十本が大祓骸魂へぐるりと巻き付いた。
そのまま強く、二人で引けば小さな人影など簡単に桜から離せるだろう。だが、そうは簡単にあちらも従いはしない。
虞が形取る彼岸花にて強化された彼女が、その下僕達が。負けじと糸を引き返す。
ぐん、と手応えは一瞬均衡して、けれど多勢に無勢は明らかだった。
「あと一歩、残念でしたね」
鈴のように笑う少女の姿は愛らしく見えたが、放たれる力は怯んでしまいそうな程。こちらへと、季節外れの赤花が咲き迫る。
けれど手を離す訳にも、引く訳にもいかなかった。類は目を逸らす事なく、短刀を引き抜く。
「――いいえ、届いています」
銀杏色の組紐飾りが、揺れる。向けた刀身は風を生み出しながら薄紅の花弁へとその形を転じていく。
本来ならば、春の僅かな期間にしか扱えぬ技だ。だが、今この場。幻朧桜が咲き誇る地であれば、其の力を借りる事が叶うだろう。
そしてその読みは正しく作用し、今ここにて吹き荒れる。人の世を守ると願った桜の花弁達は混じり合い、悍ましい赤色を覆い尽くしていく。
優しい常春の色は力強く咲いて、ひととき。誰しもの意識をやわらかに奪い去る。
そうして、立ち尽くす大祓骸魂の足元からも、大きく春が吹き上がったのなら。彼女を今度こそ桜の側から大きく吹き飛ばしたのだった。
――もしも。
もしもこの世界が彼女の言葉を受け入れて、それを望んだとしても。
この世界に数多と咲く、かけがえのない生命達。それを全て身勝手に終わらせることで漸く完成する愛、なんて。
(ごめんなさい)
許容する事はどうしたって、出来そうに無いのだから。
どうか甘い夢のまま、春に埋もれておくれ。
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
ホント見事なまでのヤンデレねぇ
オレお花見し損ねたからさぁ、邪魔はお互いサマってコトで
避けて攻めるのもイイけど、時間はかけたくないねぇ
「Cerulean」へ口付けひとつ、細身の長剣へと変え
【天齎】による青空色を纏わせるわ
敵の動き見切り、幻朧桜に戦闘の余波がいくならかばい防ぐわ
大祓骸魂へ集まる妖怪たちは範囲攻撃でその呪縛を斬るとしましょ
大祓骸魂を追いつ幻朧桜を避ける動きと見せかけて
桜の影に隠れた所を樹ごと横薙ぎに払いましょうか
樹は傷付けず、大祓骸魂のその歪な愛のみを切断する様に
返す刃で2回攻撃、見えぬ傷口を抉って生命力を頂くわねぇ
そーゆーのもキライじゃないケド、ゴメン
アタシは喰う事のが好きなのヨ
●宴花に変わりて
握りしめた刃のひと刺しで、愛する世界を手に入れる。
相手や周囲の誰かのことなんて全くもってお構いなし。ただ一方的な愛を、歪んだ形で成就することだけが彼女の幸せと意義だ。
「ホント見事なまでのヤンデレねぇ」
昨今、ここまで徹底した子も珍しい。呆れと感心が入り混じった声でコノハ・ライゼ(空々・f03130)は溜息混じりにそう告げる。
「褒め言葉として受け取りましょう。ですので、どうかお引き取りを」
私達の邪魔をなさらないで。
言外に込められた気持ちをコノハは受け取って、けれど軽く肩をすくめて踏み出す先は一歩前。大祓骸魂がいる方へだ。
「オレお花見し損ねたからさぁ、邪魔はお互いサマってコトで」
本当は気ままに楽しく宴会が良かったんだけれど、こんなにも美しい花が咲いているなら良しとしよう。楽しく、そして美味しく頂けるなら妥協できる範囲だ。
それを敵対の意思ありと受け取った骸魂と、その下僕にされた妖怪達が男の元へと迫り来る。だが揺らめく雲が逃げる理由は一つもない。いつもの調子で駆け出したなら――さぁ、祝杯をあげようか。
指に絡む燻銀に口付け一つ落とせば、葉に滴った雫はその名に相応しい晴天の青空の色を纏った。すらりと伸びて、両手で構える長剣へと転じたならば間髪入れず振りかぶる一閃。突撃してきた幾つもの妖怪変化達が斬られ、骸魂の呪縛から解放されていく。
ころころ転げて、桜の下でほっと一息つく顔の彼らを横目に、樹々の後ろへふらりと逃げ込む少女の影を薄氷は逃さない。
「見かけによらず随分足が速いのね」
「今日この時をもう随分と待ち焦がれましたから。急いているのですよ」
追いかけ、辿り着くまであと一歩。けれど目の前でくるり、回る番傘は乱暴に小さな妖をぽんぽん跳ね飛ばし、勢いよく辺りへと降らせていった。百鬼夜行の雨霰、幻朧桜へとぶつかりそうなものを優先的に落とせば、再び開く距離。
鬼ごっこじみて、けれど阻む妖の数は一向に減りはしない。挙句桜を盾にされたのでは、障害物ばかりでこちらが不利だ。暮れのお日様のような瞳と目が合う何度目だったか。それはきっと、薄笑いと共に樹の影へ姿消すのと同じ数。
繰り返し、繰り返し――それで逃げ切れるなどと、甘い勘違いをさせるには十分な回数を重ね切ったのなら。
何度目かの隠れん坊。白い姿が見えなくなった瞬間に、コノハは構えた剣を大きく横へ薙ぎ払う。
何にも染まらぬ空は不定形、それは彼が切り裂くと思ったものだけを切断する。
だから正しく歪んで虞ばかりの、彼女の愛そのもののみへ深く刃が沈み込む。
「そーゆーのもキライじゃないケド、ゴメン」
姿は見えない。けれど手応えはあった。
確りと握り直した柄でもう一度。今度は逆方向へと強く一閃。吸い取る命は甘いような、苦いような。
なるほどこれが、彼女が長く溜め込んだ愛の味なのかもしれない。胸焼けがしそうなそれだけれど、きちんと美味しくいただきましょう。
「アタシは喰う事のが好きなのヨ」
桜の下で食べるその命、きちんと残さず最後まで。
向こう側へぱちりと片目瞑って見せたなら、駆けていく背が片目に映る。
それを追いかけ、再びの鬼ごっこのはじまりだ。
大成功
🔵🔵🔵
琴平・琴子
#
虎視眈々と狙うその姿、嫌いではありませんが
幻朧桜は何も悪くないというのに桜を盾にするなんて卑怯なのでは?
貴女の愛は、その卑怯の上で成り立っているようなものな気がします
手にしたペリドットのレイピアを花弁に変えて盾にして虞を弾き
ヒガンバナ、桜の隙間を通りぬける様にして相手の足元を切りつけます
そうしたら立てないでしょう?痛いでしょう?
貴女が盾にしようとした桜が受けたかもしれない痛みを受けて下さいませ
貴女の愛は歪んでいる
永遠なんてそんなものどこにも無いですよ
貴女の言葉に私はひとつも理解できない
限りあるからこそ、精一杯愛するのでしょう?
●愛に、相容れず
物陰から物陰へ、まるで獣の狩りのよう。
虎視眈々と機会を窺う様は、なるほど知恵のあるものがする事だ。使えるものを使うこと、それ自体は琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)だって嫌いじゃなかった。
けれども、それが卑怯であるかどうかはまた別の話だろう。何も悪くない、動けない幻朧桜を盾に使う。あまりに姑息な手段を、清く正しくあろうと背筋を伸ばす幼い少女はどうしたって受け入れ難かった。
「貴女の愛は、その卑怯の上で成り立っているようなものな気がします」
ぽつり、零す言葉に震えはない。例えどのような戦場だったのだとしても、琴子が自ら選んでこの場所に立っている。それは大祓骸魂にはない、純粋に輝く彼女の誇りのようでもあった。
「そうでしょうか」
けれど、迎え撃つ相手は長く生きすぎた。愛するものを永遠にしたいなどと、仄暗い感情を煮詰めて鈍に乗せる程に。
「大きくなれば、分かりますよ」
生きて大きくなれるかは分かりませんがと鈴転がすように笑ったのなら、琴子へと悍ましい虞を投げかける。
思わずと後ずさりたくなるような気配に――けれども、いいえ。彼女の足はいつだって前へ向く。凛と橄欖石のレイピアを構えたのならば、その刀身を白薔薇の花弁へと変化させて盾とした。
一瞬にて霧散する怖いばかりの圧を振り払って踏み出そう。真っ赤に辺りへ咲き乱れる彼岸花を跳び越えて、薄紅散らす樹々の間を分け入って。一陣の風のように素早く大祓骸魂へ接敵したならば、琴子は通り過ぎるようにその足元を切り裂いた。
痛みにバランスを崩すその影を、振り返って見つめる鋭い視線の色は深い緑。
「そうしたら立てないでしょう? 痛いでしょう?」
咎めるような声は年相応の潔白さ。舞い散る花びらに似て、他の何もまだ寄せない彼女の色はどこまでも澄んでいる。
顔を歪ませる虞の少女が盾にしたように、桜がもしも傷ついて声をあげたのなら。その痛みを彼女は分かってあげられただろうか。琴子であればきっと迷わず駆けつけるその声も、彼女はきっと分からぬままだろうか。
「ええ、痛いですね。けれど、過去になって全てを消して永遠になれば、これも瑣末な事ではありませんか」
答えは、返った言葉が全て証明していた。
きゅっと形の良い眉が寄る。怒っている、悲しい――いや、これは。
「貴女の愛は歪んでいる」
きっと虚しいという感情かもしれない。理解が果てなく遠く、分かり合えないことに感じる徒労感を琴子は幼いながらによく知っていて、けれど立ち向かう強さだっていつも心に持っていた。
ため息は、戦いの後にとっておく。だから吐き出す息のままに薔薇の花弁を振るう。
嵐のように吹き抜けるそれは、歪な愛を語る少女へ手向けの如く。
「永遠なんてそんなものどこにも無いですよ」
いつだって、物事は終わってしまう。
だからこそ、美しい。
その輝きが一瞬であるからこそ誰しもがきっと――愛おしいと思う筈だから。
大成功
🔵🔵🔵
水鏡・多摘
#
他の世界由来でも利用してくるのか彼奴めは。
利用なぞさせぬ。ここで終わらせてやろう。
移動は空中浮遊と空中機動で低空を飛行。
龍符に式神を降霊し背に乗せ周囲一帯の龍脈からエネルギーを吸収し蓄積。
探知はUCで召喚した停止の呪詛で形作った式神の群に捜索させ、発見するか破壊されるかで大祓骸魂の位置を突き止める。
尚式神にも幻朧桜を傷つけさせぬよう厳命。
移動中は常に警戒しつつ高速思考で情報を処理し奇襲に対応。
敵攻撃は結界で受け止めるか地面に逸らし桜へ流れ弾がいかないように対処。
攻撃は式神達に仕掛けさせ動きを封じ、蓄えたエネルギーで敵を囲い込む結界を構築。
閉じ込めたらその結界内に全力の破魔のブレスをぶち込む。
●憤りは堆積し
降り積む薄紅だけならば、常春の穏やかさのままでいれたであろうに。
幻朧桜の根元、広がる地面に咲き乱れるは彼岸の赤。
そして、樹々の影へゆらりと隠れるのは白い少女の形をした、大祓骸魂。
「他の世界由来でも利用してくるのか彼奴めは」
あれは邪神の一柱であるともいう。水鏡・多摘(今は何もなく・f28349)の裡、広がるはかつて水底へと喪った村の事。人の心の隙間へと入り込んで民を惑わし、滅びへと誘う者への怒りと無念、そして己への後悔ばかりが渦を巻く。
常ならば思慮深く、落ち着き払った振る舞いをする竜神の髭がさざ波のように震える。一度ならず二度までも、そして此度多摘にとっては三度目だ。どの命とて決して利用はさせぬ。
ここで、邪神の悲願は終わらせてやろう。
低く、地面すれすれを滑空しながら取り出すは龍符。悪しき者を打ち滅ぼせ、そう念ずるがままに周囲へ解き放てば、降りた式神が宿りて小さき翼竜達へと姿を変えた。彼らは大きく口開け、高く鳴き声を上げるかのようにしてこの場の霊力をぐんと吸い取っていく。
戦場としては好都合な場所であった。龍脈筋とよばれるエネルギーの大河、東京スカイツリーのあるこの場はその真上に立っている。その力の噴出、多摘の扱う術との相性は良い。索敵を、と命じれば符で出来た彼らのは半数が周囲へと素早くその姿を消した。
時間としては瞬き三度。簡単に破壊される式神の反応を察知すれば向かうはそちら。美しい薄緑の鱗に感じる虞――邪神の気配が濃くなる方へと竜神は飛ぶ。その速度に赤い花が散って、彼を止めようと飛来する刃は符が阻んで落とす。桜の木々を傷つけぬようにと、目まぐるしく計算された動きに一分の隙も無い。
何よりも強く、叡智を湛えるだけの過去は随分と前に置き去りにした。今はただ憎きものを根絶するために荒魂へと彼は化けたのだから。溢れんばかりの怒りはその身を浸すだろう。だが、そのような事だけに囚われていては勝てぬと多摘はよくよく知って、緑の瞳から理性の火が消えることもありはしない。
奴らに要らぬのは慈悲の心。それ以外は、爪も牙も怜悧に研ぎあげろ。そうして真白い姿を捉えたのなら彼の咆哮は号令となって、力を貯めた式神達が囲い込む。内へ向ける結界は、決して逃がさぬ憤怒の鉄壁であった。
「愛など、その口でほざくで無い!」
ぐわり、多摘の大きな口が開く。怒りで膨れ上がった神気が光と収束するさまは美しかった。大祓骸魂とてその心をUDCアースへの歪んだ愛に支配されていなければ、見惚れていたのでは無いかというほどに。
刹那、轟音が響く。だがそれは結界の中で確りと留まった。
全身全霊込めた破魔のブレスは、世界滅ぼさんとする邪神の体を焼き貫いたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
泡沫・うらら
#
ええ勿論
素敵な想い出を頂いた子やもの
傷付けさせませんよ
身動き取れん良い子を盾に、なんて
まるで小悪党の手法に浮かぶは冷笑いただひとつ
安い挑発に乗ってくれはる相手なら楽やったんに
残念ながら大将さんともなればそうともいかんね
根幹に愛情が有るからやろか
――嗚呼嗚呼なんて
おぞましい
凍えた指先向けるは彼女の足元
幾ら良い子の背後に隠れようとも
周囲を覆う湿気を排除する事は出来ないでしょう?
行動を制限出来たのなら十分
直接の一撃は得手とする方にお任せしましょ
飛び交う懐刀もなんのその
掌に浮かべた六華飛ばせば
浮力失いて地に落つのみと化す
愛しているから永遠に共に、なんて
なんて酷いエゴイズム
自己愛も此処まで来ると見事ね
●とけぬまま
猟兵達の攻撃避けて、薄紅の影へと駆けさる白い影。
くるりと赤い傘を眺めて泡沫・うらら(混泡エトランゼ・f11361)は息を吐く。
「たいした小悪党ぶりやねぇ」
身動きとれぬ、誰かへの助力をを惜しまぬ存在をそうして盾にするのだから。まるで三文芝居の悪役のよう。
ゆうらりと尾びれ揺らして、口元に浮かぶ笑み。けれど辛辣な言葉と底冷えのするような声が含むのは、侮蔑の色ばかりだった。
「ふふ、いいんですよ。誰にどう思われようと私の愛は本物ですから」
だから止まるわけにはいかないんです。
うららの冷ややかに笑う声に、大祓骸魂はさして気にする様子もなく。己の感情に心酔しきったままに言葉を返した。
流石に安い挑発に乗るような相手ではないようだ。そうであったなら幾分か楽であったのだろうけれど、まぁ最初から期待はしていない。流石は骸魂の元凶というべきか、それとも拗らせた想い故か。気が遠くなるほどの月日を経た愛は歪んで捻じれて、それでも芯は強く残っているのかもしれない。
(――嗚呼嗚呼、なんて)
悍ましい感情なのだろう。理屈も、理論も、全て投げ捨てられているならば言葉も通じない。
そんなものへ、理解など示したくは無い。
拒絶の代わりと伸ばす、白魚のような指は嫋やかに。舞い散る花弁にもよく似た色に染まる爪が示す先は大祓骸魂の足元、真っ赤に咲き誇る彼岸の花へ。
雪花が咲いて放たれたのなら、凍てつく冬が大地を氷らせる。甲高い音が鳴って、大気に含まれる水分が真白と変わった。
どれほど大祓骸魂が樹々を盾にしようとも、周囲に漂う湿度までは操れぬ。途端、不安定になる足場を一体誰が想像出来ようか。凍った着物の裾が、虞の少女の足を裂いた。真っ赤に散る色は、咲く花ともよく似ている。
足場の邪魔をして、その動きを疎外できればそれで良い。後は得意な誰かに任せましょうと人魚は薄紅の中を優雅に泳いで渡る。
野蛮な事は得意ではないのだと嘯くままに、生死を繋ぐ鈍すら六華で包んで地へ降らす。素敵な思い出をくれた良い子達を傷つけさせる訳にはいかないと、打ち漏らしの無いように全てを正しく無力化する。
さぁさ、捕らえられるものならどうぞ見せてくださいませ。独りよがりの愛情なんて目の粗い網に、引っかかるような間抜けでは無いですけれど。
「自己愛も此処まで来ると見事ね」
なんて酷いエゴイズム。
愛しているから永遠に一緒。過去になって、自分のものだけになってほしい、だなんて。
相手の気持ちなんてこれっぽっちも考えていないのだろう。その事にころころと、笑ううららの声はやはり冷ややかなままで。桜吹雪の中で尾びれを強く、蹴れば同じように花弁が踊っていた。
――嗚呼、だから。
この舞い散る薄紅の献身が、よほどと眩しく映るのかもしれない。
薄紅を目にすれば、固く結んだままの心がほんの少し、解けるような気もした。
大成功
🔵🔵🔵
夏目・晴夜
#
桜を傷付けたりなどしません
寧ろ守って差し上げますから、このハレルヤに尽くして下さいね
『赤い憎悪』にて赤百合を一帯に咲かせ、その花香で幻朧桜に協力して貰いたく
目眩しの桜吹雪や、時に激しく枝を揺らして敵が今どの樹に身を潜めているか合図をお願い致します
虞は妖刀で切り捨て、それが無理なら身を挺してでも外させぬよう留意します
外した虞が桜に当たって傷付けるかも知れませんので
尽くして貰うからには其れ相応のお返しは致しますよ
まあ無傷で済まないかもですが、今は気にせず
必ずや【呪詛】を込めた妖刀で【串刺し】【傷口をえぐり】【恐怖を与えて】差し上げます
私は愛ゆえにと自身を正当化する輩が大嫌いなのです
虫唾が走る程に
●赤咲く色は
赤が赤を塗りつぶす。
彼岸から、いのちの色へ。甘美なまでに芳しく、誰もが其の前に跪きたくなるような花香放つ赤百合。辺り一面に咲き誇って、虞の花を塗り替えていく。
その甘やかな香りが作用するのは、鼻を持つものだけではない。
「このハレルヤに尽くして下さいね」
光栄でしょう? そう笑って夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は近くにあった幻朧桜の幹を軽く撫でる。
この戦いで一度力を借りて、そして此度が二度目。ご協力をお願いしますねと告げるまでもなく、舞い散る薄紅がざぁと晴夜の身を周囲から隠し切った。
さぁ首魁の居場所はどこだろう。百鬼夜行の妖怪達の視界を誤魔化し、揺れる木々が導く先は三時の方向。それを疑うことなく、人狼の青年は地を蹴った。
赤を塗り替えたその気配に、気がついたか否か。飛んできた悍ましい気配で、晴夜の耳の後ろが逆立った。すかさず引き抜く妖刀で切り捨て霧散させたのなら足は止めない。攻撃をされたということは、こちらがやはり正しい道だと確信を強く持つ。
ざあざあ揺れる桜の導きで追いかけていく。自らに飛んでこない一撃も、案内をしてくれる彼らに当たらぬように切り裂いた。傷つけさせなどするものか、助力を受けているならば相応の礼はすべきだろう。いいや、寧ろ守って差し上げますから――褒めて、尽くして、この晴夜にどうか勝利の道行を!
虞に混じった刃がその身を裂いても、なお爛々と紫の瞳は鋭さを増す。斬って、斬られて、守って導かれる。
そうしてここに居るよとばかりに一際大きく揺れる枝の下へ、滑り込むように晴夜はその身を踊らせた。低く構えた刀、狙うは先は間違えない。ちらちと見上げれば、間違えようもない白い着物少女の姿。
彼女が、大祓骸魂が驚いて小さく息を飲むのを拾い上げて彼は薄く笑った。そのまま間髪入れず、手にした妖刀を食らいつかせてやる。
ひと突き。たった最後の一歩だと彼女が思っていたもは、晴夜の方が早かった。
「私は愛ゆえにと自身を正当化する輩が大嫌いなのです」
呪いのような澱んだ愛へ、嫌悪の呪詛を。
鋒に乗せた感情は獣の牙じみて、鋭く少女の腹へ沈んだまま離しはしない
手首捻って傷口を広げてやれば、着物が赤に染まっていく。其の様すら、ただただ虫唾が走る。愛が故に全てを台無しにしようとするなんて――本当に。昔から、大嫌いだった。
脳裏に浮かぶのはどの白か。愛を語って、一方的に何かを奪っていくのは一体誰だ。
足下に咲き乱れる花はどちらも赤くて、けれど香りの強さは百合の勝ち。ぼたぼたと落ちゆく赤が降り積む薄紅すらも上書きしては、なお続く命ばかりが確かに最後に立っている。
「貴女の愛は届きません。ここで、お終いです」
世界の最期を望む女に相応しい末路。愛する者へ届かない一手に、大祓骸魂の顔が恐怖に歪んだ。ずっと長い間夢見たものが、泡沫の夢と指先からこぼれ落ちていく。
どうして、あともう少しだったのに。
叶わない愛が、どんな形を取るかなんて、さぁ。どんなものだっただろうか。それを知っているのか、どうだったか。けれど今は関係ない。凪いだままの紫の瞳が、もう一度と刃を振るう。赤く飛び散った色は、いのちの香りがするけれど。
踊る薄紅や鮮烈な赤百合の香りの方が余程、愛されて生きるものの気配がしていた。
大成功
🔵🔵🔵
レイニィ・レッド
坊ちゃん/f14904
自分は死に損ないみたいなモンなんで
尚更転生には興味無ェ
あの人だってそうでしょ
でも自分も“もしも”を切り捨てられない
どこかで期待してるンでしょう
そのもしもが起こった時に
あの桜色の親しんだ世界が残っていないのは許せねェ
正しくねぇよ
坊ちゃんに言われなくてもそのつもりでした
最後までお付き合いします
桜は折らせねぇ
喪わせて堪るかよ
『赤い雨の問答』
奴の死角を潰す形で
できるだけ多く幻覚を産み奴の注意を引く
自分を無視出来ないように
意識し続けなければ致命的に成り得るよう
絶え間なく鋏を差し込む
いいですか
これは自分のためです
自分はヒーローじゃない
自分のためにテメェを鏖す
さあ、坊ちゃん
頼みますよ
矢来・夕立
赤ずきんさん/f17810
幻朧桜か。
転生なんか御免ですね。きっと赤ずきんさんも、アイツもそうでしょう。
しかし勝手なもので、今生どこかでまた逢えやしないかとも考えてしまう。
“もしかしたら”があるのなら、…
言わずとも分かりますね。最後まで付き合ってもらいます。
《闇に紛れる》。木陰に隠れる、乃至雨宿りとも言う。
気づいたところでオレを気に掛ける余裕はないでしょう。傘が足りないようですね。
この花は、此岸に生きる人間を救いはしないと思っていました。
人でなくなったもの。影朧だけを救うものだと。
…助力には必ず報いましょう。どうぞご清覧を。
彼女の悲願を殺します。この世界が、これからも生きていくために。
●色に想いを
薄紅落とすその樹々は、傷ついた魂を現世へ廻らせるという。
人によっては、死への恐怖に対する救いとなっただろう。だが自身を死に損ないと認識するレイニィ・レッド(Rainy red・f17810)にとっても、刹那的な生き方をする矢来・夕立(影・f14904)にとっても、あまり価値の感じられないものだった。死のその先、また命をくれてやろうと言われたってさしたる興味など湧きはしない。
けれど、それがもし自分にとって大事に思う誰かであるのなら。
逢いたいと、身勝手な事を考えが捨てきれないのだから現金なものだ。もしかしたらと桜の色を追い、もしも以前のように憎まれ口を叩く姿を見せてくれるのなら――悪くはないように感じてしまう。
「言わずとも分かりますね。最後まで付き合ってもらいます」
夕立の静かな言葉にレイニィも頷く。二対の赤が見つめる先は、虞の少女。
「坊ちゃんに言われなくてもそのつもりでした」
誰しも悲しみに沈んだままでは生きられない。不安ばかりの時に悪い方へとばかり考えるのに似て、期待なんていう感情もまた自制なんて出来るものではなかった。本人が望んでいないと分かっている、蜘蛛糸よりもか細いそれを掴もうなんて気も二人に在りはしない。
それでも尚消えないのは。それを見つめてしまうのは、彼と過ごした時間が楽しかったからだろう。
だから、そのもしもが起こった時に。あの桜色した友人の慣れ親しんだこの世界が、綺麗さっぱり身勝手な理由で無くなっているなど許せるものか。
そんなことは、正しくない。
「最後までお付き合いします」
正しいなんて、言わせてなるものか。
じゃきん、と錆びた鋏が音を立てる。地面を蹴りつけるのは二人いて、けれど走る赤は一つだけ。膨れ上がった殺気は桜吹雪に雨を降らす。
「――、アンタは『正しい』か?」
花は散らぬ、けれど雨粒は幾つもの影を生む。けぶる視界の中で湧き出る赤ずきんはどれもずぶ濡れだ。その手に持った鋏を鳴らしてレイニィとその幻達は大祓骸魂の元へとひた走る。
だが度重なる猟兵達の攻撃でズタボロになっても、彼女は想いを信じて笑みを浮かべていた。
「おかしなこと。愛以上に、正しい物なんてないでしょう?」
「質問に質問で返してんじゃねぇよ」
進路阻まんと真っ直ぐに跳び来る刃を毒づいて叩き落とす。生と死を繋ぐというならば、こちらだってて負けてはいない。あの世へ送る為の技量ならば、その刃が錆びるほどに重ねてきた。たかだか、たったひとつも殺せないような鈍如きに遅れは取らない。
けれど一歩踏み込み追い付いたと思えば桜の後ろへ、伸ばす腕が届くと思えば桜に向かって。差し込む鋏の半分はその先を逸らされた。だが赤ずきんとて樹を傷つけさせるつもりなど、毛頭ない。
(折らせねぇ――喪わせて堪るかよ)
慈善事業なんて柄ではない。ヒーローに憧れるような齢でもない。大多数の人間がどうだとか、そんな薄っぺらな言葉なんて吐く気もない。
ただ、未来がどこにも無い、ただの過去にされるなんてことは許容しがたかった。
湧き出る感情は正しく自分のためのもの。重ねた誰かを思う事も、もしもを願う事も、気に入らない相手へ刃を向ける事だって。そうすべきだと、都市伝説自身が思ったままに相手を刻んでばらして鏖す。
いくつもの赤い影。油断すればあっという間に切り刻まれることは目に見えていた。だから大祓骸魂も意識を逸らす事が出来ない。樹々の間を縫うように、いずれは相手の体力か気力が尽きる方が早いだろう。
そんな気の長い女の、悠長な思考が勝負の分かれ目となった。
(さあ、坊ちゃん――頼みますよ)
幻から繰り出される鋏は一度、二度。そして三つ目が着物の裾を切り裂いた後の事。
赤が、揺らめいた。
木陰で雨宿りをしていた男の姿は、目を凝らしても分からぬほどに闇夜へと溶け込んでいた。静かに引き抜かれた脇差の波紋がその色の光ったのは、降り止まぬ雨のせいか。それとも少女が咲かせた花の色か。
どちらであっても構わない。それで結果が覆ることもないのだから。再びその姿が消えてしまえば、そもそもが幻のようにしか見えなかっただろう。
あらゆる知覚から、男の姿は消失し。
「――傘が足りないようですね」
たったの、五秒。
それだけあれば十分だった。再び夕立が姿を現した時には、もう刃は深く少女へと突き刺さっている。背を貫く一撃に、番傘が音を立てて地面を転がった。雨に、薄紅が落ちていっては真っ赤に染まる。
小さな花弁。それは傷ついた過去ばかりを助ける花だと、ずっと思っていた。此方にいる生きた人間を救うことなく、ただ影朧になってしまった者達だけを癒すための存在なのだと。だから無縁なのだとばかりに、その存在は遠くにあるのだと思っていたのに。
影に生きる身と言えど、受けた助力に報いぬほど夕立とて礼儀知らずでは無い。
「どうぞご清覧を」
刃を引き抜いて、もう一度確かに差し貫く。人の形をした者の急所が人間と同じだとは分からない。その息の根を、歪な愛を殺すのなら入念に。刃を捻り、強く引き裂いたのなら。
悲願は、断ち切られる。
誰かの愛一つで終わるのではなく、命を奪う者達の振るった刃が数多の人を救う事だってあっていい。
そうして続いていくことこそが人生だ。停滞するだけなら、過去と変わりはしないのだから。数多の感情を抱いて、波打って、時にどうしようもないことで笑って泣くのが生きることだ。
先の事なんて分からない。けれど、まだ死んでいないのなら。
彼らの赤い瞳に、桜の花弁がくるくると踊る様が映る。崩れ落ちてもう動かぬ少女の姿の上で休んだそれが、いのちの色に染まっていく。
――この世界が、これからも生きていくために。
誰かの思いと引き換えに、その手を染める。
いつか終わりが来る、その時まで。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●終幕
どうして。
どうして私の愛は届かなかったのでしょう。
白い着物を真っ赤に染めて、赤い花に囲まれた大祓骸魂は彼岸へと旅立っていく。一方的な愛を抱えたまま、けれど鈍はもうひび割れて。誰も道連れに出来ぬままに彼女は遠い骸の海へと沈んでいく。
形あるものには終わりがあるとするならば、いつかこの世界もあちらへと行くのだろう。
けれどそれは今では無かった。生きようとする人々の意思が、守りたいと願う猟兵達の生き様が、まだ終わるべきではないと引き留めたのだから。
歪な愛よ、どうか深い海の底で――おやすみなさい。