大祓百鬼夜行㉓〜虚構スキャンダル
●顔が良いと聞いたので
光る階段から虞知らずが降りて来る。
左右に並ぶスマホ、正面に止まらないカメラ、頭上にドローン。死角なしのステージに吹き荒れるのはめくるめくゴシップ記事。
「ヒトは噂が大好きやん? ワイちゃん流行り大好きやん? ゴシップなスキャンダルはスリルでショックでバズるやん? あと猟兵さんら顔面偏差値高いやん? 何しても大体絵になるんありがたい話やでホンマ撮れ高たかいわぁ」
眩しいスポットライトは都合よく色を変え、御殿のセットはいい感じに切り替わる。
「と言うわけで! よくぞ生き残った精鋭たちよ!(略)ワイちゃんが今から、スキャンダルを撮りに行ったるで!」
きらめくミラーボールを頭上に、踊り出しそうな音楽を背景に、どっと溢れ出したハートが画面を埋め尽くした。
●揉み消したらこっちの勝ちよ
「何かとんでもないのが出て来たから、口説き落として来てくれないかしら?」
ベルナルド・ベルベット(薔薇々・f01475)は茶目っ気たっぷりのウインクで説明を端折ろうとした。が、そうは問屋が卸さない。なんて??? という顔をした猟兵たちに、真っ赤な男は気を取り直してンフフと笑う。
「まずは大祓百鬼夜行の戦い、お疲れ様ね。いよいよ全ての親分たちも発見できたワケだけれど――アナタたちに相手をして貰うのは、新し親分『バズリトレンディ』よ」
見たコもいるでしょうけれど、まあ賑やかで虞知らずな親分ね、とベルナルドはくすくす笑う。
「一応骸魂には取り込まれているはずなのだけど、虞知らず過ぎて何も影響を受けていないのが素直にすごいところだわ。……おかげであの親分は大祓骸魂と戦えるよう、その『虞知らず』を授けてくれるらしいの」
――そしてそのために新し親分は、猟兵たちのスキャンダルを狙っているのよ。
なんでや。
たぶんそんな雰囲気になった。一切構わずベルナルドは続ける。
「相手にしてもらう新し親分は『バズり形態』という状態なのだけれどね」
あったでしょう今までの親分にも形態別。当然のように言われるがまずそんな頓珍漢な形態はなかった。もっと割と命懸けだったし猟兵も命懸けだった。
「まあ、ざっくり言うと画面の向こうの観客が色んな意味で盛り上がればそれで良い、どんな内容だろうがそれが虚偽のスキャンダルだろうが撮れ高がたっぷりあればそれで良い。かつ猟兵はだいたい顔が良いからウケが良い……そういう訳よ」
どういうわけだ。疑問符を浮かべまくった猟兵たちに、深く考えたら負けよ、と真っ赤なオネエがにこやかに言う。そう、負けるわけにはいかないのだ、どれほど頓珍漢でも、これは勝負なのだから。
勝敗を決めるのは画面の向こうにいる観客だ。いささか無理があろうが、盛り上がる展開があればそれでいい。
「新し親分はどんな状態でもスキャンダルにするつもりだけど、あちらがでっち上げる前に、アナタたちがスキャンダルを作ってしまえばいいのよ」
例えばずっと好きだったと告白しだすとか。
壁にドンしてバンするとか(顔のアップは撮れ高がとても高い)。
突然「ごめん俺好きな奴がいるんだ……」と振り始めるとか。
かつうちの恋人可愛いを全面に押し出してスキャンダルどころかおめでとうにするとか。
攻勢に出れば新し親分もさすがに驚いてたじろぐだろう。男女問わずときめき方は乙女のそれになるので、全力で口説いて貰って構わない。
気が乗らない、あるいは戸惑うなら様子を見るのも一手だ。その場合新し親分が攻勢に出て、男女問わず何かやたら口説いて来るので、赤面したり最後のどんでん返しを狙ったり、自身の反応で観客を味方につければいい。
「とにかく新し親分よりも、画面の向こうの観客がぐっと惹きつけられるスキャンダラスな展開をアナタたちが作るの。そうると『バズ』って、バズリトレンディ御殿……その空間にたくさんのハートが出現するわ」
そのハートで猟兵たちは更に有利になる。ついでにハートが増えて行くほど親分の攻略が進んでいるので目安にすることもできる。最終的に猟兵たちの得たハートが多ければ、猟兵の勝ちだ。
「シチュエーションは御殿のほうが頑張って合わせるから、アナタたちの自由よ。夕暮れの教室で、図書館で、星空の下で……アナタたちが得意なところで、素敵なシーンを演出して、口説き落として――存分にバズって来て」
トンチキとは言え油断はしないよう。ハートの代わりに薔薇の花を散らして、案内人は猟兵たちを送り出した。
柳コータ
お目通しありがとうございます。柳コータと申します。
こちらのシナリオは一章で完結する『大祓百鬼夜行』の戦争シナリオとなります。
ワイちゃんを口説いたり口説かれたりする戦いです。どう見てもほぼギャグです。
※先着順ではありません。
●案内
プレイングボーナス……バズリトレンディよりもバズる事で、より多くのハートを集める。
ワイちゃんを口説く・口説かれることでハートがとても集まります。そして勝ちます。耳に触れてはいけません。
上手く行くとたぶん『ワイちゃんを攻略してみた』とかいう動画になっています。
キャラクター的に絶対行かないけど行ってみたい方は案内人に放り込まれたことにしてどうぞ。「顔が良ければ戦力よ。顔が良いと思ってなくても良いから安心して頂戴」
●ワイちゃん攻略
こんなシチュエーションや台詞でときめきを誘う! をどうぞ。
好感度ゲージはほぼハート量です。ワイちゃんとてもノリがいいです。
本命いるから口説くなんて…! という方は惚気ると良いと思います。
お相手が猟兵さんの場合、具体的な描写が欲しい場合はお相手と一緒に来られると助かります。判断に迷うとそっと見送ります。
●受付
公開後、翌日の8時半から受付を開始し、最低でもその日の日付が変わるまでは受け付けています。
詳しくはMSページ・タグで随時お知らせします。忘れなければTwitterでもします。
達成可能数+α程度になりますので、全採用ではありません。
達成数を大幅に越した場合はほぼ同じ内容のシナリオをご案内するかもしれません。
少数採用につき、問題のないプレイングでもお返しする場合がございます。ご了承下さい。
以上、お目に留まりましたら、よろしくお願い致します。
第1章 ボス戦
『新し親分『バズリトレンディ』バズリ形態』
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POW : HPAH
単純で重い【ハンマーパイナッポー&アッポーハンマー】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : タピオカボディ
自身の肉体を【もちもちのタピオカ】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
WIZ : いいねストーム
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【ハートマーク】で包囲攻撃する。
👑11
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雅楽代・真珠
『誘惑』すれば良いのでしょう?
僕には容易だ
恋に落としてあげる
愛させてあげる
ばずりとれんでぃだけ?
そんな訳がない
画面の向こうの者たちも僕は落とすよ
当然でしょ?
場面は
桜の木の下にしようか
桜吹雪が吹いて
咄嗟に閉じた瞳を開いたら
偶然目が合うんだ
可愛くも儚い僕からお前は目を離せない
僕は微笑むだけでいい
それだけで恋に落ちる
誘惑され、みなが僕を愛する
恋する気持ちを心のままに吐露することを許すよ
ごめんね
お前の気持ちには応えられない
泡沫の恋
いとけなくも悲しげに微笑んで(視聴者には最大アップで放送)
お前たちの心に刻んだ恋心へと爪を立てる
僕への恋を忘れられないものにしよう
嬉しいでしょう?
想い続けることは許してあげる
●REC『びいどろ金魚に振られたい』
煌びやかな御殿を囲むのは無機質な眼差しだ。
どのカメラも画面も無遠慮に黙って覗き込むばかりで、礼のひとつもしやしない。その向こうにいる視聴者は如何程か知れないけれど。
躾がなっていないね、と呟く代わりに雅楽代・真珠(水中花・f12752)は長い睫毛を伏せて、すいと上げた。たったそれだけで画面の向こうの視聴者が声なく騒めく。次いで澄んだ真白の尾鰭を揺らし御殿の真ん中に立てば、御殿自体が驚いたようにぱかんと真珠にスポットライトを当てた。
ここで何をすべきかなんて、そんなことは当然承知している。無数の眼差しを桜色のびいどろが水面を撫でるように見渡した。
「『誘惑』すれば良いのでしょう?」
僕には容易だ。囁く声すら誘惑だった。不似合いな御殿のBGMはあっこれじゃない失礼しましたと鳴り止んで、音量を全力で上げた視聴者がどれほどいたろう。真珠は耳に残る声で、画面の向こうの者たちの傾聴を許した。
「恋に落としてあげる。愛させてあげる」
ふわり、水の中を泳ぐように白の衣を揺らし、御殿の真ん中で真珠は正面のカメラを指差した。ここでの一部始終を捉えるカメラには、この御殿の主たるバズリトレンディの虞知らずなシールがぺたりとしてある。そういやあの人どこ行ったんだろう。視聴者のコメントが流れた瞬間、管理者コメントがスッと流れる。『シッ、今ええとこや黙っとき』――撮ってた。全力でミュートして撮ってた。
「ねえ、ばずりとれんでぃ」
そしてバレてた。真珠はカメラに混じった虞知らずに首を傾ぐ。
「お前だけじゃない。画面の向こうの者たちも僕は落とすよ。――当然でしょ?」
瞬間、ブワッとハートが御殿に舞い上がった。埋もれるように新し親分たる虞知らずもカメラを置いて立ち上がる。
「いやいやいや皆気が早いんやって! まだこれオープニングやで! みなさんこんにちはー、ワイちゃんですとか言うてるアレやで! でももう神回間違いなしやしワイちゃんもうっかり全力で●RECしてしもたわ! ごちそうさまです!」
既に真珠の雰囲気にごっそり呑まれた御殿に上がって、さっきのサムネにしてええやつ? などと聞き出す虞知らずの傍らで、御殿はくるりと雰囲気を塗り替えた。
「遅いよ」
「えっ」
そこにあるのは僅かに霞んだ春の青。舞う桜吹雪。満開の桜の下に、かわいいひとが佇んでいる。
「えっ御殿切り替えはやっ。ワイちゃんが頼んでもちょい時代遅れ感満載の残念な感じにしかせえへんやんめっちゃ綺麗やん」
画面は真珠と桜だけを美しく切り抜いた。ちょおカメラ、ワイちゃん無視かい。無視である。需要と供給は満たされなければならない。
ごう、と強い春風が吹いた。花弁が雪のように光のように舞って、真珠は咄嗟に目を閉じる。
――そうして開いて、目が合った。
「……あ、」
狼狽えたのは彼女のほうだ。まさかあの綺麗なびいどろの瞳に、自分が映るなんて思っても見なかった。
言葉はない。声もない。ただ、今にも桜に攫われてしまいそうな、儚くて可愛いひとが、そっと微笑む。
桜の花弁がぶわりと舞った。それは場面に合わせた『ハート』で間違いはなく、画面の向こうの誰かが、そして彼女が恋に落ちた合図。そう思わせるには、充分だった。
許すよ。散るばかりの桜の中で、かわいいひとが告げることを許してくれる。それは恋だと教えてくれる。
「ワイちゃん、あんたのことが――」
「……ごめんね」
口にした想いは、水面を揺らすような儚い声で遮られた。
「お前の気持ちには応えられない」
ぱちんと泡沫が消えてゆくように、咲いた恋心は散ってゆく。
なお、真珠のいとけなくも悲しげな微笑みは最大アップで視聴者に届けられている(恐ろしい勢いで視聴者数が伸びている)。蕩けるような微笑みは柔らかいのに、画面の向こうの恋心ごと抉るように、かわいいひとは酷く優しく泡沫の恋を教えた。
桜色がじわりと滲む。
「待っ……」
「待たないよ。……嬉しいでしょう? これでお前は、僕への恋を忘れられない」
叶うより、叶わぬ恋のほうが余程心に爪痕を残す。例えそれが虚構でも、今跳ねた鼓動は全て真珠の華奢な指に握り潰されるように、溢れる花弁と散ってゆく。
何も言えなくなった虞知らずに、画面の向こうに真珠はもう一度だけいとけなく微笑んだ。
「想い続けることは許してあげる」
どっと溢れ出した桜花弁のハートは画面を埋め尽くし、『びいどろ金魚にふられたい』動画が一瞬のうちに拡散された。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
∞
何をどう安心しろと…?
だが転送されて来たからには仕事だと自分に言い聞かせ親分に向き直って
…いつのまにか無駄にムードのある夜景が目の前に現れて脱力する
どうするべきかと迷い、一度は親分の攻勢を受け入れる
こう褒められるのはどうにも慣れず落ち着かないが…
誰にでもそんな事を言うものではないと、思わず本気で嗜める
しかしやられっぱなしは癪だ、反撃に出る
相手を見つめて、おあつらえ向きの壁やら木の幹やらに相手の背を追い込み、腕で閉じ込め…壁ドン?バン?ああ、これがその技か
「…成る程、覚悟は出来ているんだろうな?」
「獲物が自ら飛び込んできたんだ、遠慮なく取って食わせてもらうとしよう」
…冗談だ、あまり人を揶揄うな
●REC『人狼のイケメンの反則技』
正直なところ、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は自分の顔の造形について深く考えたことはあまりない。美形かと言われれば首を横に振るし、イケメンと褒めそやされても居心地が悪い。そもそも武器や技と同じく、造形美の基準など人によって違うものだ。つまり『顔が良ければ戦力』と言われたこの仕事、己で計りかねる自分の領分ではないと回れ右をしかけたところで。
場所が。悪かった。すごく。
案内人の手が充分届く位置にいたシキは、自分で良いと思っていなくても良いから安心しろと、放り込まれるように転送されたのである。
(何をどう安心しろと……?)
不意のことに崩した体勢を立て直して、シキは降り立った場所で癖のように周囲を確認する。
「よくぞ生き残った精鋭よ!」
まず真ん中にいてよくわからない武器を持ち仁王立ちしているのが新し親分――バズリトレンディ。あらゆる身なりの意味はわからないがとりあえず殺気はないので一度目を逸らす。「聞いて!!」
煌びやかな御殿の周囲には聞いていた通りのスマホやカメラがずらりと並び、その全てが稼働しているようだ。やろうと思えばその全てを撃ち抜くことも難しくはないが、それはどうにも今の仕事にそぐわない。「聞かなくてもええからせめてワイちゃん見て!!」
「……すまない、現場の把握に手間取った」
「見てくれたし謝ってくれたわええひとやん! いやいや全然ええで……ってせやないねん!!」
はい御殿! 仕事しいや!
虞知らずの声が響けば、煌びやかな御殿は一瞬にして様相を変える。
その気配にシキも改めて身構えた。そう、これは仕事なのだ。来てしまったのであればこの頓珍漢な仕事もやり遂げるしかあるまい。そう、体に力を込めたのだけれども。
――そこに現れたのは、無駄にムードのある夜景だった。
シキは脱力した。なんだこれはと声も出なかった。目が据わった。眼下に広がるのは美しき夜景。まるでトレンディドラマのワンシーンのようなそこに、戦闘態勢が馴染むわけもない。
「何をどうしろと……?」
今度はついに口に出た。致し方ない。目の前の虞知らずは楽しそうに笑って迫って来るのだから。
「いやぁホンマに兄さんええ顔しとるわ。ワイちゃん流行りの呼吸がビビっと来るで。鋭い眼光! 美しき銀髪! そこに最高にイカした狼耳たぁワイちゃんもびっくりなほどフックだらけや、引っかからんほうが無理ってもんやでホンマ(個人的の意見です)」
息つく間もなく虞知らずはつらつら言葉を並べて見せる。たぶん割とただの素である。けれどもそう褒められるのに慣れてはいないシキにとっては、戸惑うには充分だった。
落ち着かなげに視線を逸らしてしまえば、虞知らずはずいずいと距離を詰めた。
「ワイちゃん兄さんのことやったら、本気で誘惑してもええで?」
迫る。見上げる。画面の向こうがざわついたように、場違いなハートが飛び交った。けれども。
「……誰にでもそんなことを言うものではない」
眉を顰め、声を低めて。つい本気で嗜めたシキに、より多くのハートが溢れた。夜景がちょっと赤い。
「ワイちゃん、兄さんにやから言うてんで?」
「……ほう」
虞知らずが距離を詰めたのに、シキはひとつ息を吐く。ペースが握られっぱなしでは、癪だ。反撃に出ねば勝てぬ。――そう、これは勝負で、『仕事』なのだから。
「成る程」
「へっ」
詰まった距離を敢えて更に詰めるように、シキは前へ出る。逸らしていた視線を合わせ直せば、たじろいだように虞知らずの瞳が逸れた。またシキが一歩進む。彼女が一歩逃げる。一歩、一歩。
「覚悟は、出来ているんだろうな」
「ぴぇ……」
ついにその背が逃げられぬ壁まで追い詰めれば、――ドンッ。腕で閉じ込めるように、その顔の両側に腕をついた(壁にちょっとめり込んだのは、壁ドンだかバンだかの力加減がわからなかったせいだ)。
「獲物が自ら飛び込んで来たんだ、遠慮なく取って食わせて貰うとしよう」
更に一つ低い声が、彼女の耳元に落とされる。
瞬間、どばぁと夜景が真っ赤なハートで埋まった。ちょっとだいぶこわい。ついでに虞知らずの動きも固まって止まった。
その様子と目に痛い真っ赤なハートの山に、シキは勝敗を察する。軽く息を吐いて、慣れぬ態勢を解いた。
「……冗談だ、あまり人を揶揄うな」
軽く頭をぽすりと撫でて、離れる。その瞬間にまたハートが溢れて虞知らずはぴええええんと叫ぶしかできなくなっていたけれども、シキは珍しい戦意喪失の仕方だな、くらいにしか考えてはいなかった。
大成功
🔵🔵🔵
ティア・メル
【海朋】
わわっかぁいい子が居るんだよ
ねえねえ、何してるの?
遊ぶなら混ぜてー?
るんるんで近付くけれど
雫ちゃんの混乱をまずは解かなきゃねっ
ばずるっていうのが鍵らしいんだよ
だからぼくと雫ちゃんで、あの青髪のかぁいい子を口説こう!
そうしたらきっとたくさんばずる気がするんだよ
雫ちゃんが綺麗だから気になるのはわかるんだけど
わたしを置いてけぼりにしないで?
雫ちゃんが王子様みたいなんだよ
かっくいーね
負けてられないや
もう片方を取り首を緩く傾け顔を覗き込む
引き寄せた手にそっと唇を寄せ
上目遣いでおねだりしちゃう
…もっと、君のことをぼくに教えて?
んふふ、雫ちゃんも素敵なんだよ
――さあ、わたしを選んでくれるでしょう?
岩元・雫
【海朋】
一寸待って一寸待って
おれわかんない、なにもわかんない
お願いだから説明して
おれを置いてるんるんで変な生き物に近寄らないで危ないから
……ッスーーーッ
オーケー分かった、やる事は理解した
合わせるから好きにして……
其の子ばかり見てないで、わたしも見てよ
其様な言葉と共に、青髪のおんなに微笑み掛ける
甘い毒を紡ぐきみの背後から、ひょこりと顔を出して
此れでも世渡り上手だったの
彼女、顔は綺麗なのだし
素直に褒められるだけ易しいわ
そっと手を取って、膝を折って、詞は飽く迄真摯に
素敵なあなたと、もっと御話がしたいの――駄目?
上目遣いで、強請って
噫、ティアも御上手ね
目配せで褒める
――さあ、わたしを選んで呉れるよね?
●REC『ふつくしかわいいに口説かれてみた』
口説いて来てくれない? へのティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)の返しはご機嫌ないいよー! だった。
正直深いことは考えていなかった。何か面白そうだと思ったし、ちらりと見かけた虞知らずな新し親分が、随分『かぁいく』見えたから。楽しそうだと乗り込むのに、宇宙を開拓したみたいな顔で話を聞いていた仲良しの、岩元・雫(亡の月・f31282)の腕をきゅっと掴んだまでのこと。
辿り着いた煌びやかな御殿は見慣れなかったけれど、きらきらしているから、目当ての子はすぐに見つかった。
「行こ、雫ちゃんっ」
「え」
「わわっ、ほら見て、かぁいい子が居るんだよ」
まるで小動物でも見つけたみたいに、ティアは弾んだ足取りでバズリトレンディ――虞知らずのその子に近づいてゆく。
「アッもう新手さんなんちょお待ってワイちゃんのHPはもうゼロよ! とか言ってられんわよくぞ生き残っ 「ねえねえ、何してるの?」 聞いて!!」
「遊ぶなら混ぜて混ぜてー?」
虞知らずの口上をばっさり遮って、ティアはるんるんと近づいてゆくのだけれども。
「一寸待って一寸待って。おれわかんない、なにもわかんない」
その軽快な足取りを雫は止めた。結構精一杯止めた。月光を閉じ込めたような尾鰭がギッッと急ブレーキを掛ける。
そもそも仕事の説明を受けているときからさっぱり入って来なかった。何言ってんだこいつってこんな気持ちなのだろうなと理解した。理解したのはそれだけで、他は全くわからない。
というか何だろうあの生き物。触っちゃいけない丸い耳とか首に巻いたUMAとか、手に持ってる林檎とかパイナップルとか主に言ってることとか本当に意味がわからない。
「お願いだから説明して。おれを置いてるんるんで変な生き物に近寄らないで危ないから」
「ふふー、雫ちゃん混乱してるね!」
「しない理由がどこにもなくない?」
混乱しながらも、雫の手はティアの腕を掴んで離さない。あの変な生き物が虞知らずなら、この桃色の彼女だって虞知らずだ。けれどもティアは楽しそうにくすくす笑ってから、弾んだ足取りのままで雫に向き直る。「ワイちゃん放置!?」放置である。画面はたぶん二人のほうが死ぬほど映える。
「じゃあ、雫ちゃんの混乱をまずは解かなきゃねっ」
満面の笑みで頷いて、ティアは人差し指をぴっと立てた。ぱちんと可愛らしいウインクはばっちりカメラ目線である。
「ぼくによる雫ちゃんのための説明たーいむ!」
「おれこっちだけど」
「えっとね、ばずる? っていうのが鍵らしいんだよ」
「ばず……」
「だからぼくと雫ちゃんで、あの青髪のかぁいい子を口説こう!」
「なんで」
「そうしたらきっと、たくさんばずる気がするんだよ!」
「……、…………スーーーッ」
なるほどわからんの境地で、雫は細い息を吐いた。画面の向こうでスーーーッの弾幕コメントが追随した。精・神・統・一。
「オーケー分かった、やる事は理解した」
「ほんとっ?」
ぱあっと喜色満面になったティアにいささか既に疲れた様子のままで雫は頷く。わからなくてもやるしかない。何故ならやらねば終わらないからだ。
「合わせるから、好きにして……」
「わかった! じゃあばずりにスタートだよっ。おーいっ」
たたっと軽い足音で駆け寄ったティアが、改めて虞知らずの彼女に声を掛けた。
「えっワイちゃん入ってええの? 顔面偏差値足りんくない?」
半ばスクショに精を出し掛けていたバズリトレンディは、改めてティアと雫、異なる色彩が鮮やかな二人を見比べた。
「ふつくしいと可愛いの天国やー! 語彙力仕事せんけどお姉さん? お兄さん? 美人さんやでホンマ。頭の先から尾っぽまでどこ撮っても綺麗やん? ああ〜指先もええな〜最高にええな〜もうええしか出て来んやつやでこれ」
やっとハイレベルすぎる造形美を愛でて良いとあって、虞知らずは喋るほどどんどん加速して早口になってゆく。
「……ね」
それを遮ったのは、蕩けるようなティアの声だった。
「雫ちゃんが綺麗だから気になるのはわかるんだけど……わたしを置いてけぼりにしないで?」
わたしと遊ぼうよ。あまく、いとけなく微笑んで、ティアは虞知らずを誘う。それはまるで、甘い毒。聞くだけでも鼓動が跳ねるような音に、画面の向こうからのハートがわさっと増える。
「駄目。其の子ばかり見てないで、わたしも見てよ」
勿論ティアだけには留まらない。その後ろからひょこりと顔を覗かせて、雫は零れるように微笑み掛けた。戸惑っていたとて、雫は世渡りは上手かったほうだ。合わせると言ったなら、その言葉に間違いはない。微笑み掛ける相手はいまだに変な生き物に見えるが、顔だけ注視すれば綺麗なのだ。そこを素直に褒められるだけ、易しい遊戯で仕事だろう。
「ぷぇぇ……」
静かな魔性の月とあまいあまい、飴玉のような声。そのふたりに挟まれて、虞知らずはすっかりたじろいだようだった。よくわからない声をあげておろおろしている。ワイちゃんどっちも見たい。どっちも見れる視聴者は惜しみないハートを二人に送っている。
「素敵なあなたと、もっと御話がしたいの――駄目?」
雫の手が、虞知らずの左手を取った。膝を折って見上げれば、まるで満月がふたつ見つめるような瞳が視線を捉えたいと強請る。
「……もっと、君のことをぼくに教えて?」
ティアの手が、虞知らずの右手を取った。引き寄せた手にそっと唇を寄せれば「ぴょえぁ」と奇声を上げた彼女に、上目遣いでおねだりをする。愛らしい仕草と眼差しに、魅了するような声音が重なれば、二人の背後を惜しみないハートが埋め尽くした。
あわわわわと左右を見比べて、すっかりまともに喋れなくなった虞知らずを確かめながら、二人はそっと目配せを交わす。
(噫、ティアも御上手ね)
(んふふ、雫ちゃんも素敵なんだよ)
交わした視線で、次の声はうたうように重なった。
――さあ、わたしを選んで呉れるよね?
――さあ、わたしを選んでくれるでしょう?
溢れ出したハートが御殿を埋め尽くす。ついでにぱったりときめきKOされたバズリトレンディも埋め尽くした。
●
「……で、バズるってこれでよかったの?」
「んにー? ハートいっぱいだから、いいんじゃないかなあ? 雫ちゃん、王子様みたいでかっこよかったよっ」
真っ赤に染まるほど溢れたハートをひとつ拾ったところで(拾えたらしい)、ティアはまだ回り続けるカメラに気づいた。
「雫ちゃん雫ちゃんっ」
「今度はなに?」
「ほらこのカメラ見て見てっ」
くいくいと引っ張られて、雫も溜息混じりにティアの隣に並ぶ。そうすると、画面いっぱいにふたりの顔が視聴者へ映し出されたようだった。
「みんなーっ、かぁいかったよ、ありがとう!」
「しょうがないな……。――またね」
大成功
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