大祓百鬼夜行⑤〜天上の花嫁
●婚礼行列
――朱い赫い鳥居の連なる石階段、そこを歩む婚礼行列を見かけても、決して足を止めてはいけないよ?
いいや、そもそも『竜神の霊山』に踏み入れてしまった事がお前の不幸だ。
一つ、この霊山は絶対道に迷う。
二つ、先に進むには、絶対に数千本の『連ね鳥居』の中を進まねばならない。一度外に出てしまったら最後、里には生きて戻れぬと心せよ。
それだけでも厄介なのに三つ目があるのだ、すまないねぇ。
白い白い曼珠沙華が鳥居のあちこちに咲き誇るんだがね、鳥居の内側には婚礼行列が進んでいるんだよ。
よくよく見ればわかるのだが、花嫁も仲人も付き添いも両親も嫁送りの親戚も、全て全て花嫁衣装に身を包んだオブリビオンだ。
まるで花そのものとでも言いたげな、白い曼珠沙華を連れた花嫁達は霊山の霊力を身に浴びて、恐ろしい竜の力を得ているのだ。
やはり『竜神の霊山』の石階段をのぼってしまったことが全ての誤り、諦めなさい。
●グリモアベースにて
比良坂・彷(冥酊・f32708)は天井に向けて煙りを吐く。レトロなシャンデリアが暈かされ周囲も一段暗がりへと近付いた。
「千本鳥居をあがる婚礼行列。お婿さんはだぁれ? なぁんて」
左耳の上の真っ赤な彼岸花を弾き薄ら笑い。
「これの白いの咲かせてるお嬢さん方がお相手なんだって、まぁあんたらが行ったらこの色に染まるんだろうけどねぇ」
朱色の千本鳥居の中で、有象無象に現われる『白花曼珠沙華』の群れ。
彼女らを排除するのが此度の猟兵達の仕事となる。
「実は敵のユーベルコード自体は補助的なもんでさ、彼女らの攻撃自体は懐刀での単純な斬りつけ。ただ竜神の力を得てるからさァ、甘く見ると指を飛ばされたりすっから気をつけて」
まぁ埒外だし生きて帰れば問題ないでしょうけど、とグリモア猟兵は付け加える。
「そのまま気が済むまで殺しあってくるのでもいいし、竜らしく『逆鱗』が実装されてるから、そこに触れての一撃おだぶつ狙いもありっちゃあり」
書家の汗ばみ、學徒兵の制服シャツを引っ張って、晒した首元傍の鎖骨を示しふれた。
「『逆鱗』の場所はここ、どの個体も同じとこにあんのよ」
触れれば竜の霊力から切り離されて、一撃の元に倒せるのだ。
「とはいえさァ、おめめギラギラさせて『逆鱗』『逆鱗』って狙っちゃァ相手も莫迦じゃねェしわかっちゃうから」
仲間と守りあったり、透けた狙いを読んでカウンターなんて危険も大いにあり得る。
「俺なら返り討ちすらご褒美だけどねぇ、あんたらはそうでもないでしょ?」
その辺りに知恵を廻らせて攻撃するか、いっそ『逆鱗』狙わず力推しか、はたまた別のやり方か……そこはもう個々で好きにすればいい。
送りだそうと開く扉は片手間、新しい煙草を咥えとることに意識を向ける彷は、付け足すようにこう言った。
「そうそう、自分を騙して生きてたりする人は気をつけてねぇ……そこにつけ込むような真似もしてくんだってさ」
一縷野望
※オープニング公開時点で受付を開始しております
※早期完結を目指す為、採用数と文字数は控えめです
先着順ではありませんが、戦争依頼なのでプレイングをため込まず進める為、早い方が採用率は高いと思います
血みどろ、負傷描写が基本のシナリオです。そういうのがお好きな人にお勧めします
(敗北のみを目指すと不採用となりますのでご注意を)
●このシナリオの楽しみ方、以下からお一つどうぞ
【1】か【2】を冒頭にお願いします
書き忘れた場合は内容で判断します。判断が出来なかった場合は流します
花嫁衣装の『白花曼珠沙華』達は懐刀を手に斬りかかってきます
【1】ひたすら戦う
共に血まみれになりましょう
お好きなようにプレイングを書いて下さい
敵は鎖骨傍に『逆鱗』を持ちますが、狙いが露骨だと攻撃を合わせられたり、仲間が庇ったりしてきます
如何に『逆鱗』にふれるか、またはふれる振りして利用するか、いっそ無視して力推しか……他、色々楽しんで頂ければ幸いです
【2】心情寄りテイスト、トラウマゴリゴリ系
アドリブがだめな人は冒頭に【×】をお願いします(膨らましにくい為文字数が更に控えめとなります)
敵のWIZユーベルコードの「雨空に浮かぶ月」の『虚実が入り混じった状況』が鳥居の中に構築されます
『あなたが目を背けている真実、自分を騙していること、欺瞞』などを記載願います
花嫁はそれらを囁き貴方の心を食い物にして懐刀を突き立ててきます
入り交じる『実』が貴方の心を苛むでしょう。痛みに浸ってもいいし心を立て直しても構いません
逆鱗に触れれば戦闘は終了です、こちらを選んだ場合は触れる工夫は特に不要です
●補足情報
カクリヨファンタズムのオブリビオンは「骸魂が妖怪を飲み込んで変身したもの」です。飲み込まれた妖怪は、オブリビオンを倒せば救出できます。
以上です、プレイングをお待ちしています
第1章 集団戦
『白花曼珠沙華』
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POW : 喪服の婚礼行列
【喪服の婚礼行列】を披露した指定の全対象に【静かに佇み行列を見届けたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD : 彼岸花が彩る花道
非戦闘行為に没頭している間、自身の【進む道に狐火の提灯】が【灯され】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
WIZ : 雨空に浮かぶ月
【天気雨】を降らせる事で、戦場全体が【虚実が入り混じった状況】と同じ環境に変化する。[虚実が入り混じった状況]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
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夜鳥・藍
【1】
まずは一気に鳴神を投擲からの念動力操作でどこでもだれでもいいので当てます。
あててしまえば竜王を召喚出来ますし、そちらの雷撃がメイン。
と見せかけて、さらに私自身が青月を構え突っ込んでいきます。できるだけ早く、可能なら念動力での自信を操作に加速、その鎖骨の逆鱗を一突き。
以降は鳴神の念動力操作の攪乱を込みで隙あらば逆鱗狙いで斬りこんでいきます。
曼殊沙華の花嫁行列は、まるで葬列のようで。
なぜかはわからなけれど、私はそれを否定したい。
彼岸への渡りなんて嫌、嫌い。
諦めるのは慣れてきってるけど、生きる事すら諦めるのは私の、私が生まれた意味をなさないから。
●
夜闇に沈まぬ朱に凭れ、夜鳥・藍(kyanos・f32891)は1回だけ大きく息を吐いた。
花嫁めでたきべっぴんさん――そんなハレは欠片もなくて、曼珠沙華の群れはまるで葬列のよう。
曼珠沙華が死人花という俗名を持つせいか、それとも理由は他にあるのか。なぜだかわからないけれど、藍の胸中には否定が詰まる。
己の深層に潜る旅は此処でお仕舞い、ああ石段踏みしめる足音が近い。眼下でちらつく幽玄なる灯りを合図に、藍は鳴神を掲げ持つ。
粛々とした歩み、二つの蒼眼の中少しずつ大きくなる花嫁の群れめがけて、藍は鳴神を放った。
ヒュッ、と風切り音が置き土産、闇に馴染む漆黒の三鈷剣の尾へ無言で視線を結びつける。
「……当たりなさい」
口元の呪詛は果たして鳴神の勢いを奪った。そうして出会い頭の花嫁に切っ先を確実に当てる。
同時に藍は打刀を支え持ち一気に駆け下りていく。鳥居の中を青白い燐光の軌跡が糸を引き、蜂の巣つついた騒ぎの集団に到達した。
喫驚に浮き足立つ群れの前に、地を揺らす巨体が突如現われ咆吼をあげた。一瞬の稲光が重なる朱の鳥居と女らの姿を浮かび上がらせる。
全ては藍の狙い通りだ。
青月の切っ先が最前列の花嫁の逆鱗に吸い込まれていく。ほの蒼い燐光が浮かべた女の容は口惜しさと怒気に満ちあふれていた。だが藍は意に介さずに手元を返して肉ごと浚う。
「あぁあああああ!」
嗟歎に塗れた悲鳴をあげて、己の花弁めいた腕を力なく翻し女は倒れ伏した。色めき立つ女達の切り込みを青月で止め身をかがめ避け躱す。
「……く」
倒れた素振りで斬り祓われた足首に藍は思わずしゃがみ込んだ。同時に曼珠沙華が今を盛りと誇るように、無数の腕が握った刃が横に縦に振れて藍の肩や頬に次々と血の筋を刻み入れる。
「――
…………」
俯けばだくだくと血が垂れた。
少しずつ近付く彼岸に対しての嫌悪が鎌首をもたげてきた。そう、それこそがこの葬列を否定したい根源である。
怜悧な意識で機を伺い、群れの足の隙間より手繰り寄せた鳴神を確認する。
今だ、来い。
そう念じれば、三つ叉は女のうなじを刺し貫いた。
すかさずつんのめる女の逆鱗を狙い斬り祓った。横への軌跡で上手く掛かればとの狙いは叶い、密集し藍をいたぶっていた花嫁が更に二人霧散する。
――諦めるのは慣れてきってるけど、生きる事すら諦めるのは私の、私が生まれた意味をなさないから。
全てを倒した鳥居の向こう、此岸へと、藍は石段を歩み出す。
大成功
🔵🔵🔵
ルーファス・グレンヴィル
【1】
目前に迫る婚礼行列を前に
綺麗だな、とは思ったけれど
──悪いな
静かに佇む、なんて
オレらのガラじゃねえんだよ
肩の上の黒竜が飛び立つ
にたりと意地悪く笑い合って
さあ、オレと一緒に遊ぼうか!
負傷する事も厭わずに
ぎらついた紅蓮の瞳で敵を見据え
引き抜いた双子鉈で斬り掛かる
さすが竜神の力
一瞬でも気を弛めると
此方が殺られちまいそうだな
でも、簡単には殺されねえよ
どれだけ血塗れになろうと
オレは立ち止まらねえ!
逆鱗を狙ってる事なんて
おくびにも出さず大声を放つ
血塗れになるのだって愉しいからな
得物を構えて地面を蹴り
ちらりと目だけで
相棒竜に合図を送って
黒竜が敵の目前に飛び出し
気を引いた瞬間を狙えば
手は鎖骨傍の逆鱗へ
●
鷲爪が肩を蹴ったら其れが合図。
ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は最前列の花嫁の喉を斬り裂いた。
「──悪いな。静かに佇む、なんてオレらのガラじゃねえんだよ」
はしりと手首を掴まれて胴体に刃が食い込むまでは一瞬。カウンターにはむしろ喜色を浮かべ手を差し伸べる。
「さあ、オレと一緒に遊ぼうか!」
腹からの血で汚れた石階段踏みにじり、紅蓮の双眸にて白の群れを全て射貫く。
気が済むまで殺し合おう、綺麗との一匙の賛辞を全て血と闘争に塗り替えて!
同時に、禍々しき哄笑浮かべ宙返り、勢い借りて刀を外しついでに背後を囲む面々を薙ぎ払う。待ち構えたDragonが翼で弧を描きルーファスを害する腕を残らず裂いた。
「もっとオレを充たしてくれんのか?」
荒ぐ息、チカチカする視界、上昇する体温……下腹部に触れたら双子鉈の片割れがべっとり血にまみれた。
「さッ……すが竜神の力、なぁ?」
賞賛は女を通過しDragonへ。
指先でくるり双子鉈の風車、女の首から耳を掠めひと筋入れた。しかし意にも介さずと二人の女が縦と横の一文字にてルーファスに十字架を与う。
「これくらいじゃ痛くもねえよ」
だくだくと流れる血を指で掬い舐め取ってから双子鉈の腕をクロス。十字には十字と、開く勢いで斬り飛ばす。
しかしがら空きの背は恰好の的だ、突き立てられた刀は剣山の如く、刃の花を生かす水はルーファスの命。
「く……ッ」
斬り爆ぜた肉が潤み痛みが腕の力を奪ったか、鉈が手を離れ宙をむなしく円にくりぬいた。
「おっと……いけねぇ」
つかみ戻すと幾度も握り振りなおす。握力蘇れとの足掻きに獲物の末路を見いだして、女どもは合図と共に四方八方よりの猛攻開始!
「……どれだけ血塗れになろうとッ……オレは立ち止まらねえ!」
ところで、
合図は女達の専売特許ではないのだ。
まぁさておき。
まず、Dragonが間に割り入り羽ばたきで押し返しを試みた。だがもはや無駄なこと、無情の容が醜い嘲りに染まりさんざめく笑い声。
――直後、盤面はひっくり返る。
つ。
「余所の男に触らせていいとこじゃねぇよな?」
「!」
逆鱗なぞり血で汚す。
瞠目し屈辱で震える女の胸へ鉈を刺せばあっさり霧散。
伝染した怒りと途絶えた霊力に戦慄く女どもへ、満身創痍なんぞ嘘の様にしこたま廻し舞わして蓄えた暴力を一気に解き放つ。
「てめェらが動く限り、何度でも何度でも相手してやらぁ!」
ああ、淑やかなる悲鳴と責め苛む声が何処までも心地よい。
――。
骸と血に変えた女どもを足元に、ルーファスは銀の蓋を翻した。夜闇を焔の煌が照らすは一瞬、煙草に移ったならば、其処はまた静寂と夜闇に支配される。
ルーファスは戦闘狂、そして、その場凌ぎ戯れ言遣い――今宵は其れで充分だ。
大成功
🔵🔵🔵
ミネルバ・レストー
【2】
ねえ、ねえ
どうしてあなたたちにはお見通しなの?
念願の「好きな人の花嫁」になってしあわせなはずのわたしが
本当は「自分をだましてる」ってこと
あの人はわたしに貞淑な妻を求めるけど
わたしの本質は戦いの中でこそ輝くもの
真の姿なんて晒そうモノなら、頭を抱えて嘆いちゃうわ
嫌われたくないから、愛されたいから、大人しくしてるけど
……やめて、やめてよ
言われなくたってわかってるんだから!
人の心をさんざもてあそんだ報いは受けてもらうわよ
わたし、やられっぱなしは主義じゃないの
【絶対零度の口撃】で放つは罵詈雑言の限り
あの人が聞いたら、卒倒しちゃうかもね?
動きを封じたら、逆鱗にそっと触れて
――はい、お返し
アドリブ歓迎
●
やけに湿った小雨はまとわりつくようだ、目の前の女のように。
「ねえ、ねえ、どうしてあなたたちにはお見通しなの?」
相手を打ち払うのは諦めて防戦に徹するミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は鼻の頭に皺を寄せた。
……随分と人間に近付いたものだ、こんなに生々しい表情を出せるだなんて。
「念願の『好きな人の花嫁』になってしあわせなはずのわたしが本当は『自分をだましてる』ってこと」
なんだってこいつらは『花嫁』なのだ、皮肉が過ぎる。
『あなたが見せてくれたのよ、内側の本当を』
振り上げた刃が月光浴びて、ミネルバの血が燐光を放った。しゅ、と風切り音で打ち下ろされた先は左手の薬指。
「やめて」
なんて厭らしい狙いをするのだろう、覆い隠しただだた後ずさるのみだ。
『本質を封じ込めて演じているのね』
『庇護欲をそそるミネルバを』
「……どう、かしらね」
投げ出すように鳥居に凭れた娘の薄ら笑いは、自嘲。
「あの人はわたしに貞淑な妻を求めるけど、わたしの本質は戦いの中でこそ輝くもの」
嘘つきと罵る女の頬を錫杖で叩き飛ばしたら手に掛かる重みに心が高揚する。
『どうして隠すの?』
再びの左薬指狙いに腸が煮えて力任せに刀を掬い上げる。蹌踉けた女の胴体へロッドをぶち込めばますます心に熱が充ちた。
思わず浮かんだ毒々しい笑みが後ろめたい。あの人がいなくて良かった、こんな表情(もの)は、絶対に見せられない。
『生き生きしてるわね』
『『『『ほんとうのあなた』』』』
「……やめて、やめてよ」
嫌われたくない、愛されたい――あの人を失望させたくないから大人しくしてる、けど。
『真実を見せたら離縁ね』
『そうして愛する人を一生騙し続けるの?』
「言われなくたってわかってるんだから!」
もう沢山だ!
ああ確かに嘘をついている! 何時かは暴露されるやもしれぬ、その時二人は……。
「いい加減黙りなさいよ」
心臓の位置に溢れかえる不安は未確定で非現実。嬲られ真実だと“騙された”
「ペテンはどっちよ、行き遅れ。あんた達こそ相手がいない結婚ごっこでしょ?」
そもそもが、口撃を得意とする自分がやられっぱなしだなんて展開がおかしいのだ。首を縮める花嫁達、既に効果は波及しているものの、罵り文句が止らない。
「みんな花嫁さんなんておてて繋いで仲良くゴール♪よりお花畑じゃないの。莫迦みたい」
あの人が聞いたら、卒倒しちゃうかもね? なんて苦笑いが出来るまでには立ち直った。やられっぱなしは主義じゃないの、だからやることは決まってる。
『…………』
言い返そうと必死の花嫁達だが、唇の自由すら奪い去っている辺りミネルバの怒りの深さがわかろうもの。
「――はい、お返し」
けれど、触れた指はそっと綿菓子に触れるように、淡い。
瓦解する花嫁達に背を向けて、ミネルバは薬指をさすり此岸へと歩き出すのであった。
大成功
🔵🔵🔵
秋山・小夜
アドリブ・絡み歓迎 ※血にまみれて戦う方を選びます。
花嫁衣装、綺麗ですよね~。まぁ、血に染めさせていただくんですが。しょうがないですよね、戦いなんですから。
右手に妖刀 夜桜、左手に二〇式戦斧 金剛を展開し、UC【桜月夜】を発動して遠慮なく殺戮します。
(可能なら、使用していない武装を使用してUC【千本桜】を発動し、多くの敵を攻撃できたらいいなと思います。)
夜桜や金剛で近接攻撃を仕掛けつつ、離れたところから向かってくるやつには金剛を投げたり射撃したりで対処しようかなと思います。
最近暴れたりないですからね、本気で暴れさせていただきますよ。
●
狐火の提灯がチラリチラリと瞬くように近付いてくる。
白装束の花嫁衣装の群れを秋山・小夜(歩く武器庫・f15127)は柔和な微笑みで出迎えた。
「花嫁衣装、綺麗ですよね~」
先に動いたのは『白花曼珠沙華』のひとりだ、提灯を投げ捨て懐より抜いた刀で小夜に斬りかかる。
「嫁入り前のお嬢さんがはしたないですね」
狙い通りに。
行列を止め攻撃に移った時点で、彼女らを守る絶対の防壁は破かれる、さぁ闘争をはじめよう!
にぃと唇の片側だけを吊り上げて、敢えて斬撃を肩で受け止める。代わりに左手一本で易々取り回す『二〇式戦斧 金剛』にて、行列の群れへご挨拶の一撃。
銃口が火を噴く頃には、小夜の漆黒の狼へ毛色を変じている。血が滴る右腕に握りしめた刀もすっかり夜の虜だ。
大火力の熱に晒された最前列は、土手っ腹に拳二つの穴を穿たれ倒れた。抜けた弾丸は真っ直ぐに連なっていた娘らの衣類と肉を焦がし手傷を負わした。
(「さすが竜神の力、これだけで倒しきることは出来ませんか……」)
とはいえ逆鱗を隠すように刀を構える女達を前に触れに行くのも手間だ。それよりは――。
夜桜を横に翳し持ち石段を思い切り蹴り飛んだ、放物線の落下の儘に連なる女どもをクビキリ。曼珠沙華の花弁めいた腕は金剛を攻勢盾にて吹き飛ばす。
「まぁ、その純白は旦那様の色ではなくてあなたの血に染めさせていただくんですが。しょうがないですよね、戦いなんですから」
『あなたも無事ではないようだけど』
確かに、小夜の背中はやたらめったらに乱暴無数な斬り傷が穿たれている。
「想定の内ですよ……ッ、そんなことは」
お喋り中も無尽の疾力にてお喋り花嫁の元に到達し喉刺し、豊かな尻尾が返り血で染まった。引き抜くついでに横に半月、右から斬りかかる女を薙ぎ払う。
どぉっと倒れる二体の花嫁。
それぞれが一刀両断で処されたように見えるが、実際は埒外の速度で斬撃は十数回重ねられている。
――逆鱗に触れぬなら物量で押し切るまで。
『……あっち』
『ええ』
数を減らされた花嫁狐は目配せで小夜を鳥居の元へと追い込んでいく。一歩外に出れば永久の迷宮に浚われると知っての策だ。
『お覚悟を』
残る五名で躙り寄る花嫁達……より僅かに先に、小夜はあろうことか夜桜を頭上に放った。
『!』
一瞬驚くも、諦め勝負を捨てたのだと察した。口元を得意げに醜く歪め、それぞれ急所を狙い刺す。
しかし刃は小夜の皮膚を掠めるに留まった。
「いざやいざや 見に行かん」
パッと一面、桜の花びらが現われてひとつひとつが命脈絶ちの石つぶての如く花嫁の臓を抉り血肉を散らす。
と。
再び鴉羽色の刃を編んだ夜桜が石畳に刺さる。小夜はそれを鞘に収め背を向けた。
「……曼珠沙華よりは季節に近いですよ」
さくらさくらと鼻歌交じり、動かなくなった女を尻目に小夜は石階段を降りていく。
大成功
🔵🔵🔵
榎本・英
【2】
嗚呼。私を覗くのかい。
私を陥れようとする囁きが聞こえる。
耳に纏わりついた声が離れてはくれない。
私を晒せと唆す。
私の偽りとは、私自身である。
私の文も私の心も私自身も何もかもが偽りである。
私は、私の事実も、本心も
何時如何なる時だって身の裡に飼い続け
今は亡き誰かの代わりに筆を握った。
作家とは孤独だ。
人は何故生まれて、何処に還るのか
人は何故生きたいと口にするのか
私の筆は、凶器でもあり
言の葉と云う刃でもある
それに滅ぼされた者はどれだけいるのだろう。
誰かの代わりに、或いは誰か自身となって書き続けている私は
既に、榎本英と云う物語の
住人になっているのかもしれないね。
そんな物語は、今すぐに塗りつぶそう。
●
月光を吸った鳥居の朱が、榎本・英(優誉・f22898)の手のひらを仄赤く染めた。
「……嗚呼」
面をあげれば提灯を翳した無情の眼差しが列をなす。
「私を覗くのかい」
その声は“心を隠す秘密主義者”“赦されたがる罪人”“虚ろ嘯く詐欺師”“その他”さぁどれだ?
『心の腑を晒してご覧なさい』
『大丈夫、誰にも聞こえないわ、雨音で』
「こんなに小雨なのにかい」
耳の下に食い込んだ刃より纏わりつく声の方が憂鬱だ。
『そう、あなたは……』
「作家から語りを奪わないでくれないか」
緩くも毅然と英は眼鏡越しの瞳を眇めた。
「私の偽りとは、私自身である」
一度唇にのせたなら英も虚実に適応完了、女の手首を容易く取って反転させる。
「私の文も私の心も私自身も何もかもが偽りである」
『今の台詞は真実ね』
「違えば、どれだけ素晴らしかっただろう」
鳥居に凭れて雨空を仰ぐ。闇にそそけ立つ白き喉仏が動き、更に白い紙巻きが口元に添えられた。
「私は、私の事実も、本心も……」
火のない煙草が無味乾燥な感触を唇に与え続ける。
「何時如何なる時だって身の裡に飼い続けた」
『そうやって嘘をばらまいたのね、此の指で』
手首を掬いあげた花嫁が刀を突き立てるのも悠長に構え片手でマッチを擦った。
ぽ、と煙草を命を得た刹那、短刀を握った女の顔が焼け爛れて膝を折る。
ゆらゆらと、周囲に煙草の焔を連れて、英は泥の底めいた眼差しで陰鬱に続けるのだ。
「今は亡き誰かの代わりに筆を握った」
誰? との問いには、白を引っ掛けた口元を僅かに下げるのみ。近付く女を次々に焔で灼いて遠ざけて、漸く一回目の紫煙を肺腑から吐き出した。
「作家とは孤独だ」
今は物理的に遠ざけいている。普段は心に柵をたて格子から覗く誰か達を眺めている。
「人は何故生まれて、何処に還るのか……人は何故生きたいと口にするのか」
嗚呼、被害者の嗟歎が脳裏に蘇る。
綴った紙にインクを吸わせて顕わしたというに、英からは決して消えやしないのだ。
否、むしろ。
彼らは望んだのか、文字にされて永遠に遺される事を。
ハハッ、と干からびた笑いと共に己の指先に視線を遣わせた。
――私の筆は、凶器でもあり、言の葉と云う刃でもある。それに滅ぼされた者はどれだけいるのだろう。
「……」
煙草が尽きた、女も随分と数を減らしている。
石段に落し白を踏みにじっていると背中が熱く爆ぜる。尖る感覚が痛みだと実感した刹那、鳥居の影より刺した女の悦に入った笑いが響いた。
『あなたは誰? 乗っ取った人になりきる前のあなたを知りたいわ』
「聞かなくてもわかっているのだろう?」
女は何も言わない。代わりに無感情めいた瞳の上の眉だけを顰めてみせた。狐の嫁入りは通り雨、そろそろ雨が止む。
雨が止んでも、英の真実は暴かれきらず、然りとて虚は変わらず傍らにのたくっているのだ。
何も変わらない。
だから――。
「誰かの代わりに、或いは誰か自身となって書き続けている私は……」
煙草をもう一本費やす手間も不要だ。
「既に、榎本英と云う物語の住人になっているのかもしれないね」
花嫁衣装から零れる鎖骨に触れた。すると女は被害者のあげる悲鳴と何一つ変わらぬ憐れさで崩れ落ちる。
「そんな物語は、今すぐに塗りつぶそう」
――嗚呼、此処でも終われなかった。
大成功
🔵🔵🔵