大祓百鬼夜行⑧~夜想
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グリモアベースの片隅に、死人めいた青ざめた肌の男――ヴォルフラム・ヴンダー(ダンピールの黒騎士・f01774)が立っている。
猟兵の姿を認め、落ちくぼんだ灰眼を向けると、被っていた制帽を目深に引き下ろして。
「戦闘外の任務だ」
よく通る。
しかし、かけらの愛想もない声で、淡々と用件を語った。
「夜明けまで。現れる死者と語らい、『橋』を浄化してくれ」
男がグリモアを手のひらの上に掲げれば、あたりの様子が夜の景色へと一変。
「見ろ」と示した方を見やれば、煌々と月明かりが落ちていた。
光を浴びきらきらと輝くのは、その地を流れる名もなき川。
男が指さしているのは、その上をまたぐように掛けられた『まぼろしの橋』だ。
「カクリヨファンタズムの川には、ごく稀に、渡った者を黄泉に送る『橋』がかかると聞く」
橋に佇んでいると、『死んだ想い人の幻影』が現れる。
「現れるのは、すでにこの世にいない存在だ」
そうして夜が明けるまで一緒に語らえば、橋を浄化することができるのだという。
「夜明けが来たなら、死者とわかれ、戻ってこい」
対岸まで渡ってしまえば、おまえは『こちら』へ戻れなくなる。
そう告げる表情には、さして変化があるわけでなく。
ふいに、ひとりの猟兵が男に問うた。
「もしも、あなた自身が行くなら。誰が橋に立つと思うか」、と。
男はしばし沈黙した後に、言った。
「わからん」
それが、『心当たりが多すぎるから』なのか。
それとも、『思い当たる人物が居ないから』なのか。
どちらとも判じることができないまま、会話はそこで途切れた。
「では、送ろう」
制帽を引き下げるその様は、どこか死出への案内人のようにも見えて。
口をつぐんだ猟兵を見送り。
黄泉路へとつづく橋の元まで、転移を行った。
西東西
こんにちは、西東西です。
『カクリヨファンタズム』世界にて。
「死んだ想い人の幻影」とひと時を過ごし、「まぼろしの橋」を浄化してください。
プレイングボーナス……あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。
●『死んだ想い人の幻影』について
「すでに亡くなった方」を指定してください。
「人物像」「PCとの関係」「口調」など、いくらか説明があると助かります。
不明点、セリフ不足時は、MS判断で補う可能性があります。
大切な関係や記憶等を扱うシナリオとなりますので、今回は【アレンジ描写OK】のご許可を頂ける方のみ、ご参加頂けますと幸いです。
戦争シナリオのため完結優先。最小2名で受付終了します。
挑戦多数となった場合は、プレイング内容にて検討させて頂きます。
それでは、まいりましょう。
想い出や追憶で組み上げられた、郷愁の世界へ――。
第1章 日常
『想い人と語らう』
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POW : 二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。
SPD : あの時伝えられなかった想いを言葉にする。
WIZ : 言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
リステル・クローズエデン
【POW】
わかっていたのです。
向き合わなければいけないことも
今が、その時
『死んだ想い人の幻影』
リステルを造った博士
UDCアースの女性
姿はリステルと同じ。
服装は白衣にメガネ。
リステルの遺伝子提供者。
名前は、リステル・クローズエデン
「はじめまして。リステルを名乗る貴女。」
「はじめまして、リステル博士」
語るは、答え合わせ。
リステルがなぜ記憶喪失だったのか。
なぜ、つくられたか。
時に思い出される惨状は。
思い出してた惨状は博士の記憶。
造られた理由は邪神への復讐と対抗のため。
そして、そもそもリステルは思い出す記憶がない。
「許せとはいいません」
「許すつもりはありません」
「恨んでいませんから」
静かに語りは終わる
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リステル・クローズエデン(なんか青いの・f06520)は、『まぼろしの橋』へ向かってゆっくりと歩いていた。
まるで、故郷さがしの道の途中。
一歩、一歩。
これまで己が歩んできた道を、確かめるように。
(「わかっていたのです。失った記憶と、向き合わなければいけないことも――」)
橋の真中にたどりつき、歩みを止める。
失った欠片(ピース)を取り戻すなら。
「今が、その時」
目の前にあらわれたのは。
己と同じ姿をした、幻影だった。
――現れるのは、すでにこの世にいない存在。
グリモア猟兵の言葉が真実であれば、眼前にいるこの存在は、すでに命を落としていることになる。
面差しはリステルそっくりだが、身に着けているものがまったく違った。
月明かりを受け、闇の中にぼうと浮かびあがる白衣に。
すべてを見通すかのような、眼鏡越しのまなざし。
あらゆる世界を彷徨い、そこに生きる者たちを見てきたサイボーグは、かつて訪れた世界で、そういった恰好をする者を見たことがあった。
――UDCアースで、『博士』と呼ばれる存在。
リステルは自分とうりふたつの女性を見やって。
それが、己を造りあげた『生みの親』とも、『母』ともいうべき存在であったのだと、悟った。
鏡写しのごとく向かいあった二人の対話は、幻影の挨拶から始まった。
「はじめまして。リステルを名乗る貴女」
おだやかに告げる幻影に、リステルも応える。
「はじめまして、リステル博士」
応じたのを良しとしたのか、幻影は眼前の『子』を見やると、滔々(とうとう)と語りはじめた。
「私の名前は、リステル・クローズエデン。貴女をこの世にうみだした者であり、貴女の遺伝子提供者でもある」
リステルは、失った過去を語る女の言葉を、答え合わせのように聞いていた。
――脳裏に蘇る、『惨状』は何なのですか。
「それは、あなたの記憶ではなく、私の記憶です」
――どうして、この世にうみだしたのですか。
「それは、邪神への復讐と、対抗のために」
――なぜ私は、記憶喪失だったのですか。
「そもそも、貴女には。思い出す記憶など、存在しないのです」
カチリ、カチリと。
欠けたピースが埋まっていく。
しかし。
いざ完成したパズルを目の当たりにして、言葉をうしなった。
描かれていたものは、『己』ではなかった。
己という『個』は。
はじめから、存在すらしていなかったのだ。
「許せとはいいません」
しばし沈黙したリステルへ向け、『生みの親』は言った。
「許すつもりはありません」
じっと己を見つめる『母』の瞳を、真っ向から受け止めて。
「恨んで、いませんから」
リステルははっきりとした声音で、告げた。
母娘の会話は、そこで途切れた。
夜明けを迎えるには、しばし早い時間ではあったが。
ふたり、語らぬまま。
ただじっと、夜風に吹かれるまま、川の音を聞いていた。
大成功
🔵🔵🔵
ハルア・ガーラント
想い人は死後オブリビオンとなりわたし達猟兵の手で骸の海へ還った彼
生前の彼には逢ったことはない
期待と不安で胸が痛くて苦しい
逢って言いたいのはお礼
とはいっても彼には覚えのない事になるんだけど
わたし、あなたに助けて貰ったことがあって
お礼を言えてなかったから――ありがとうございました
「当然のこと」なんて言うのかしら
ふたり同じ世界の出身
彼はどんな場所に?
時代は違ったとしても聞いてみたい
わたしの故郷は小さな港町で……壊れた時計台と廃神殿が見所な位かな
最後は笑顔でお別れ
泣くのはその後でいい
そう、変わらない
彼の愛した世界が夜明けへと動き出していることも
たましいの在り様も
※想い人や行動は全てお任せ・アドリブ歓迎
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常のごとく不愛想なグリモア猟兵に見送られ、ハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)は橋の真中まで歩く。
背にある翼をひろげ、空を飛べばすぐだったが。
降りそそぐ月の光と、川の水音を聞いて、なんだか歩きたい気分になったのだ。
橋の欄干に手指をすべらせながら、靴音を確かめるように、歩を進める。
(「――こんなに静かな時間は、いつぶりだろう」)
静寂とはちがう。
自然の奏でる音だけに包まれた時間をかみしめるように、ハルアが天を仰いだ、その時だった。
ふっと、あたりに影が落ち。
視界の先に、『黒翼』を見つけた。
――あの日。ハルアを含めた猟兵たちの手で、骸の海へ還したシ者。
「ライブレッドさん……!」
黒翼の、青年の姿をしたオラトリオ。
耳の後ろには、真紅の薊。
広げた両翼は、身長を超えるほどに大きくて。
白と金を基調とした制帽と制服に身を包み、真紅の瞳をこちらへと向ける。
男は眉根を寄せたうえに、眼を細めて。
「お前は、誰だ」
いぶかるその表情を見れば、「まったく覚えがない」とわかりやすく書いてある。
期待と不安で、胸がつぶれるほどの痛みを感じていたハルアは、思わず「ふっ」と噴き出してしまった。
「……何がおかしい」
「いいえ、なんでもありません」と、挨拶が遅れたことを詫び、優雅に一礼して見せる。
「ハルア・ガーラントです。わたし、以前あなたに助けてもらったことがあって。その時、きちんとお礼を言えてなかったから」
――ありがとうございました。
なにげないひとことであったが、その言葉に万感の想いがこめられていることを、眼前の男は知らない。
助けられたのは、オブリビオン時の男であって。
ひとであった時の男ではないからだ。
厳密にいえば。
今、目の前にいる姿は『死んだ想い人の幻影』であって、ハルアの意識が生みだしただけの存在かもしれない。
(「それでも。きちんと、伝えておきたかったから」)
満足げにハルアが微笑めば、ライブレッドは『任務中に顔をあわせた娘』として、勝手に解釈したらしい。
「礼には及ばん。護衛兵としての任を果たしたまでだ」
その、かたくなな雰囲気が、どこかおかしくて。
「真面目なんですね」
ハルアがふたたびくすりと笑えば、男は押し黙り、赤の瞳でじっとにらんだ。
「お前は、どういったいわれで領地にいたのだ」
問われ、ハルアはしばし考えたのち、真実とすこしの嘘を、おりまぜて答えた。
「……わたし、あちこち旅をしていたんです。故郷は小さな港町で……。見どころといえば、壊れた時計台と廃神殿がある位で――」
貧しいながらも、清らかな生活を送っていた。
朝起きて、夜眠るまで、一日を無事に過ごせれば、それだけで十分で。
もしかしたら、時代は違うのかもしれないが。
ハルアは、男の故郷がどんなところだったかを、知りたいと思った。
「あなたの故郷は?」
男は、川の流れをたどり地平を見やって。
かつてを懐かしむようにまぶたを閉ざし、言った。
「……理不尽な死が、まかり通るような所だった。己の死の理由さえもわからぬまま、命が奪われていく」
――綺麗ごとで世は救えない。死した民は蘇らない。
ゆえに力を求めたと、男は言った。
『正しき主』を求め、『守護者』として民を護るのだ、と。
――望んだのだ。
――私の『遺志』は、だれにも負わせぬ、と。
幻影であっても変わらぬ生真面目さは、彼の生来の性格からくるものなのだろう。
男は、己の負った荷の重さを知っていた。
だからこそ、己の『後始末』を譲らなかったに、違いない。
夜の向こうに明けの光が迫るのを認め、男は制帽を被りなおし、娘を振り返る。
「任務に戻らねば」
その横顔は、いつか見た表情と、すこしも違わなかったから。
「ええ……。もうじき、夜が明けますね」
ハルアは今にも泣きそうになるのを懸命にこらえ、男に精一杯の笑顔を向けた。
「どうぞ、お元気で」
手を振るハルアを見届け、ライブレッドが黒翼を広げる。
「ハルア・ガーラント」
呼びかけた声に顔をあげれば、赤の瞳と視線がぶつかって。
男はかすかに口の端をもたげて、言った。
「お前の翼が。空と、自由とともにあらんことを」
男の翼が、見えなくなるまで見送る。
ハルアは顔を伏せながら、流れるままに涙をながし、欄干にすがりつくようにして泣いていた。
――いつかどこかで喪われた、いのち。
骸の海に還し。
そしてまた。
ゆめまぼろしとなって、はかなくきえた。
(「そう、すこしも変わらない。彼の愛した世界が、夜明けへと動きだしていることも。その『たましい』の、在り様も――」)
胸いっぱいに息を吸いこみ、昇る朝日を見あげる。
夜闇にしずんでいた草原に、さあっと光がさしこんで。
川面がいっせいに、キラキラと瞬きだす。
ああ、世界は。
こんなにも、うつくしい――。
橋が浄化され、燐光をはなちながら、消えていく。
ハルアは純白の両翼をひろげ、どこまでも自由な空へと、舞いあがった。
大成功
🔵🔵🔵