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大祓百鬼夜行⑦〜†空を望むこと能わぬ堕天使†

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行


●降誕のとき

 いつとも知れぬほど昔、その場所には城があったとされている。崩れた石垣や柱のあとに微かな名残だけを遺して、今は一面金色のすすきが風に揺れるばかり。
 そんな城跡を見下ろして、今宵、滴り落ちそうに赤い赤い月がある。
『嗚呼、ついに、ついにこの日が訪れた』
 ぴしり、音を立てるようにして月にひとすじヒビが走った。枝を広げるようヒビ割れは広がって、欠片をこぼれ落ちさせながらまるで陶器の皿のように月は割れてゆく。
 その割れ目をこじ開ける様にして顔を出すのは黒い翼だ。月の割れ目の暗がりで一対の瞳が光る。
 羽ばたけば月光に黒い羽根が舞う。
 飛べぬ翼を持つそれは……ペンギン。サイズが規格外なのはご愛嬌。
『昏き冥界に繋がれながらこの日をどれだけ夢見たか……我が嘆きで我を裏切り堕天に至らしめたこの世界を虚無と暗黒で満たしてやろう……』
 どうやら不治の病のかたである。具体的には厨二病。
『……でも、折角生まれるのに誰も祝ってくれないってなんで……?私要らない子ってコト……?』
 しかもメンヘラと来たもんだ。
『もうまぢムリ……リスカしょ……』
 秒でメンブレ。せわしない。
 
 色々厄介なカタストロフの幼生が今まさに月から出てこようとしている。


● タイトルはメンヘラペンギンってルビを振りたい

「メンヘラ耐性高めの猟兵いないかな。俺と付き合うと皆メンヘラになっちゃうんだよねー、みたいなウザいノリでも今日なら許せる」
 グリモア猟兵、六条寺・瑠璃緒が死んだ魚の目をして藪から棒になんか言ってる。
「ああ、メンヘラ製造はしなくて良いよ。放っておいてもメンヘラだから。ていうかある意味放っておかないといけないんだけど、ねえなんで麗しの僕の初予知がこんなネタネタしいんだろう……?」
 頬杖をつき、何処か遠くを眺めながらやや支離滅裂。彼的にはもっとなんかこう、絵になる感じの予知がしたかった。なんか切ない心情系とか。ボス敵が美しい悪の華だとか。だって僕ってばスタアだし美少年だし以下略とか多分思ってる。
 こほん、小さく咳払いして、気を取り直した様に瑠璃緒はよそ行き用の微笑みを今更繕った。仕切り直しだ。気分的にはテイク2。
「カクリヨファンタズムでね、骸魂の影響で凶暴化した月が割れて、厨二病っぽくてメンヘラでペンギンなカタストロフの幼生が産まれ落ちようとしているんだ。まぁ主にメンヘラなんだけど」
 いきなり情報過多である。
「これを消滅させる為に皆には、その存在を完全に無視しながらお月見をして欲しい。月は今夜も美しい、カタストロフの幼生なんていやしない、って感じで楽しくね。だけど、その……相手がメンヘラだから……」
 無視。それは対メンヘラの絶対禁忌でありながら、危険をおして貫くならば唯一の対処法にして奥義。無論相手はメンヘラなので死ぬだの殺すだの言ってくる。メンヘラなので言うだけだけど。
「実際に危害を加えられることは無いんだけれど……あっ、スマホとか持ってる子は、気をつけてね。ちょっとタチの悪い幻覚とかはあるかもしれないから」
 瑠璃緒の背後にふわりと白翼が広がって、淡く光を放つ。光の向こうは満月のすすき野だ。
「行ってらっしゃい」


lulu
ごきげんよう。
週末はお酒が美味しいですね。IQ2。

厨二病からの即落ち2コマでメンヘラメイン。
メンヘラちゃんをガン無視するだけのシナリオです。
完結を目標にがんばります。

宜しくお願いいたします。
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第1章 日常 『月割れてるけどお月見しよう』

POW   :    全力で月の美しさを褒め称え、「立派な満月」だと思い込む。

SPD   :    賑やかな歌や踊りでお祭り気分を盛り上げる。

WIZ   :    お月見にふさわしいお菓子やお酒を用意する。

👑5
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旭・まどか
はぁ……、面倒な子
一時的に構って貰えて満足してもどうせすぐまた不安になるのに

その割には自分は変えようとせず
矛先を他人に向けてばかりいるのだから、どうしようもない

本人に治療の意思なく
処方に否定的な者へと差し伸べる手は無い

無視をし続ければ良いのでしょう?
掛けるべき恩情は何も無いから
何を言われようと知らぬ存ぜずを貫き黙って静かな夜を過ごす

そうだね、本でも持って行こうか
面倒そうだからスマートフォンは置いて
どうせいつも電源が入っていないから変わらない

お誂え向きに月を表題に掲げた絵本
たまにはこういうのを読むのも悪く無い
――案外教訓が散りばめられているから

嗚呼、良い夜だね
――雑音が少し、煩い気がするけれど


黒川・文子
まるくて大きな月ですこと。
わたくしめ一人でお月見をするのも寂しいでしょうか。
もっと愉快な仲間達を召喚致します。
わたくしめと同じメイドや執事に変装をした愉快な仲間達です。
見てください。あれが幽世の月です。

BGM―メンヘラの声―を流しながらお月見です。
わたくしめはお茶とお菓子を用意致しましょう。
普段から頑張っている愉快な仲間達へのお礼です。
喜んで頂けましたか?
皆の様子を見ていると戦争だと言う事を忘れてしまいますね。

BGMも盛り上がって参りました。
わたくしめもお団子を食べましょう。
月のように丸くてもちもちしたお団子ですね。
お上品な味でとても美味しゅうございます。
本日はとても楽しい日になりそうですね。


百鳥・円
あー、……これはアレですか?
切った手首から何かしらが生えてくるやつ
赤い宝石とかなら面白いですけど、そんな筈ないでしょーし
彼の言っていたとーりで良いですかね?
絡んできたらお返事する程度に留めておきましょ

こーら累、そういう哀しい視線は止めなさいな
目は口ほどに物を言うと言うでしょう

姉妹揃って月を眺めるなんて
当たり前のようで、初めてなんですよねえ
感慨深いというかなんと言うか
不思議な感じですね

割れた月を美しいと言えるのかは分かりませんが
共に眺めるのがお前で良かったですよ
不完全なわたしたちみたいじゃあないですか
星屑の瞳は何を語るのでしょうね

……そろそろ行きましょーか
メンヘラちゃんの手首が切れちゃう前に、ね


ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ歓迎
『』は裏声でメボンゴの台詞

ペンギンさんはどんなペンギンさんでも可愛いから構いたくなっちゃうんだけど我慢我慢
『メボンゴのほうが可愛いよ!』
そうだね!(ぎゅっ)

さてさて、お月見といえば甘味は欠かせないよね
じゃじゃーん! もちろんいっぱいありまーす!
クッキーにマフィンにチョコレート、そして
『お団子!』
小さなトランクから次々取り出し最後はメボンゴがお団子のパックを掲げる

この世界の月も綺麗だね
うん、完璧な満月っ!
『月といえば兎、兎といえばメボンゴ!』
よーし、一緒に踊っちゃお!
『わーい!』

スマホ持ってるけどどんな幻覚でも無視
ちょっとしたイレギュラーなんてショーには付き物
何があっても動じないよ!


キリジ・グッドウィン
ペンギンだとかうるせぇ知らねェ無視だ無視。海を知らないペンギンって事だろ若さってやつか……

生憎ご高説は心に響かないもんで、厨二トークを丸ごと聞き流しながらぼーっと月を眺める。
まるでつまらんサイレント映画でも眺めている気分だ
月見で一杯のつもりで少し呑むか。酔う感覚が無い代わりに一定量越えるとぶっ倒れるから一杯な

ちょっと前まで戦っていればよかった仕事ばっか足突っ込んでたのに
他者に対して理解しろだの考えろだのって。一人でもいいのに人を連れて歩いて……その横でそいつ等の選択を内心期待したりして無い物ねだりなのかもな
あ、そろそろ義足の方もメンテしねぇとな
終わった?んじゃ帰るか



『よく来たわね猟兵たち。我が聖誕に立ち会えることに感謝し、畏敬に打ち震えるが良い』
 訪れた猟兵たちの姿を見て割れた月からペンギンが囀っている。囀るというには若干声量も内容も可愛くない。
 見上げる猟兵たちから返る言葉はない。何故なら無視こそミッションである。
『え……ねぇ無視とか酷くない……?』
 いきなりメンヘラモード突入だ。ぴえんぴえん。厨二病の設定、要ったんだろうか。

「うわぁ……」
 しつこいバイブレーションに気づいた百鳥・円がスマホを取り出してものすごくぬるい笑みを浮かべた。ロック画面が大惨事。
【不在着信:73件】
【†黒き堕天使†からのメッセージ:ねぇ電話に出てよ】
【無視しないでくれる?】
【ねぇ、読んでる?】
【画像ファイル】
【こんなに切っちゃった……痛いよ……】
【構って構って構って構って構って構って構って以下略
 初手からまさかのフルスロットル。
 ジュジュ・ブランロジエが見た画面も同様だ。この画像ファイルたぶん開いたらダメなやつ。ロック画面通知はオフなのに何で……とか冷静なことを考えている円と、流石にちょっと同情しそうになってしまうジュジュである。
「どうされましたか?」
 声をかけるのは黒川・文子だ。彼女たちが何を目にしたか凡その予想はついたので、無視をしていろと目で語る。
「なんてことない、お友だちから週末の遊びのお誘いですよう」
『ねぇなんでコメントしてくれないの?見たよね、今見たよね?』
「私も!楽しみだよね、メボンゴ」
《うん!メボンゴ、どんなお洋服で行こうかな〜》
『あれ……届いてないのかな……』
 円とジュジュのスマホが無限に鳴り止まない。

 少し離れてその騒ぎを眺めながら、スマホを置いて来て良かった、と、旭・まどかは心底思う。どうせいつも電源が入っていないから持ち運ばずとも構わない。
『ねえ絶対に届いてるよね?どうして未読スルーするの……?』
 ペンギンはまだ向こうの面々に絡んでいる。
(「はぁ……、面倒な子」)
 声に出してやりたいのをぐっと飲み込む。これの呼び掛けに答えるなりしてこれの存在を認めてしまうとこのカタストロフの幼生はこの世に出てきてしまうのだ。
『そこの貴方!セーラー服の貴方!聞こえてるでしょ?』
 こういう手合いは実によく居る。一時的に構って貰えて満足してもどうせすぐまた不安になるのに、
『ねぇ、皆が無視するんだけど!お誕生日のお祝いして欲しかっただけなのに……』
その割には自分は変えようとせず、
『どうして?世の中はいつも私に意地悪するの?』
矛先を他人に向けてばかりいるのだから、どうしようもない。
『ねぇ返事くらいしてよ……死にたくなっちゃう……』
 明らかに病気なのである。それでいて本人には治療の意思など皆目なく、処方に否定的な者へと差し伸べる手は無い
『私のコト嫌いになったの?』
 (好きになったこと)ないです。
 あれこれ思索しながらまどかは実に忠実にグリモア猟兵からの依頼をこなしていた。即ち完全なる無視である。掛けるべき恩情は何も無いから、心が痛むこともない。
 まどかが月を見上げれば、ようやく声に振り向いてくれたかとペンギンが瞳を輝かせる。けれど薔薇水晶の瞳はこんなメンヘラな鳥には視線のひとつくれてやらない。
「嗚呼、良い夜だね」
 決して目線は合わせずに、明らかにひとり言のていで言ってやる。
「月も綺麗だ。絵本を読むにもちょうど良い」
 カタストロフの幼生などいない。月は割れてなどいない。だからこうしてのんびりと絵本を読むことが出来るのだ。そう主張してやったなら、後は静かに自分の時間を過ごすだけだ。
取り出すのは藍の空に月を浮かべた表紙の絵本だ。こういう子ども向けの絵本と言うのも案外教訓が散りばめられているから馬鹿にならない。
 頁を捲り、夜風に頬を撫でられながら、良い夜だ、とまどかは改めて思う。
『もうやだ……死にたい……』
 少々雑音が五月蠅いのだが。

『ひどい……どうして皆無視するの……』
「こーら累、そういう哀しい視線は止めなさいな」
傍らに連れ添う悪魔があまりにも痛々しいものを見る目をしているものだから、円はついつい諫めてしまう。目は口ほどにものを言うのだ。あんまり雄弁に語りすぎて無視しなかった判定されて依頼失敗世界崩壊とか困る。
『ねぇ、今リスカしてるの……』
 ペンギンが深刻ぶって囀った。尚、暗がりにいるから本当に切ってるのかどうかはよく分からないし、この飛べない鳥類の手羽を手首と言って良いのかもよく分からない。
『血が出てる……手首から赤い宝石が滴るの……生きてる証……』
 ひと昔前の言い方するとポエ散らかしてるというやつだ。でもまぁポエムにしたってそれを宝石と言うのはだいぶ厚かましいんじゃないだろうか。UDCアースだと消費者庁が黙ってない事案。
 グリモア猟兵が言った通りに無視しよう。累と視線を交わし、予定通りに月見をすることにする。
「姉妹揃って月を眺めるなんて、当たり前のようで、初めてなんですよねえ」
『ねえ、血が止まらないんだけど……(チラッ』
感慨深い、と言って良いのかわからない。形容しがたい気分であった。円と累とは常に共にある。そうして日頃から同じ景色を眺めている様でありながら、こうして同じ対象を眺めることだけを目的にしみじみと同じ時を過ごすのは何処か不思議な心地がした。
……派手に割れていて、今や謎のペンギンが顔を覗かせる月を一般的に見て美しいと言えるのかは分からないが。
「共に眺めるのがお前で良かったですよ」
『私このまま死んじゃうのかな……(チラッチラッ』
欠けたところなどない完全な満月でありながらひび割れた有様が、まるで自分たちの様だ、と円は思う。割れて砕けて、欠片が足りず不完全。そうしてそんな月を見上げる累の白い横顔をそっと伺う。長い睫毛の下に煌めく星屑の瞳は何を語るのだろう。月よりも妹の瞳をこそ、円は暫し眺めていた。
「……そろそろ行きましょーか」
ペンギンが何か囀り続けているが、たぶんまぁ他の猟兵が何とかするだろう。

「まるくて大きな月ですこと。皆様、あれが幽世の月です」
 文子がさながらツアーガイドの様に月を示してやったなら、八十人を超える小人たちがきゃいきゃいと黄色い声を上げてはしゃいだ。誰も皆メイドや執事の装いをした彼らは、文子が召喚した愉快な仲間たちである。
 倒れた石柱をテーブルの代わりに文子がお茶とお菓子を並べてやれば、月下のお茶会が始まる。これは普段頑張ってくれている彼らへの文子からの心ばかりのお礼なのだ。ゆえに文子は今日ばかりは甲斐甲斐しく給仕をして回る。
愉快な仲間たちはお団子に舌鼓を打ったり、「綺麗な満月」に瞳を奪われたり、お月見を楽しんでくれている。月が割れているとか、カタストロフの幼生がやたら羽をまき散らしているだとか、そんなのは気のせいである。愉快な仲間たちもその辺りは心得ている。
『ねえ……もう死にたいよ……』
 BGMが酷いのはご愛敬。
「皆の様子を見ていると戦争だと言う事を忘れてしまいますね」
『私かわいそうでしょ?私も混ぜてよ!』
《メボンゴの方が可愛いよ!》
 脈絡もなく主張してペンギンと文子の注目を受けるのはジュジュが連れた兎人形・メボンゴである。メンヘラであれどペンギンであればどんなものでも可愛いのだ。故に心が揺れそうになったジュジュの、自身を叱咤したい気持ちが叫ばせたものだった。
「そうだよね!」
『私のほうが可愛くない!?』
 ペンギンが何か言っているが、メボンゴを抱きしめながら浮気はしないと心に決めるジュジュである。本来一人二役の筈なのに、こういうときのメボンゴは何だか勝手に喋る。気がする。
《ジュジュ、お花見しよう!》
「お月見だよ!良いよ、お月見と言えば甘味は欠かせないよね」
 じゃじゃーん、と小さなトランクから取り出すのはクッキーにマフィン、チョコレート。それから主役はやっぱり、
《お団子!》
 透明パックに3本入り、よく見かけるあのタイプ。ジュジュが一本、メボンゴが一本手に取って、月を見上げながら、ぱくり。
「うん、美味しい!それに完璧な満月っ!」
『節穴じゃない?月割れてない?私頑張って割ったんだよ……?』
 見える?これ。黒い翼が月の裂け目から激しく主張している。
《月と言えば兎、兎と言えばメボンゴ!》
『邪魔しないでよ、この……兎!』
 忌々しげだが事実なので特に悪口にはなっていない。語彙力がない。
「よーし、食べ終わったら踊っちゃお」
 ジュジュは鼻歌混じりにご機嫌である。
《あっ、メボンゴ、このメイドさん知ってるよ!》
 手に持ったお団子でメボンゴが示すのは、彼らのやり取りを見守っていた文子だ。ジュジュが振り向けば、文子はメイド服の裾を摘まんで軽く腰を折る。
「お二人とはサクラミラージュの依頼でご一緒しましたね。その節はどうも」
「あっ、そうだよね! 薫子さん元気にしてるかな?」
「わたくしめは一度だけ映画を観に行きました」
《メボンゴも行きたーい!》
『誰その女、どこの女狐!私が入れる話をしてね!』
 皆の仲良しっぷりを見せつけられてペンギンのメンヘラのベクトルが要らない変化を遂げている。
『私だけを見て欲しいのに!』
 そもそも誰も見ていない。
「わたくしめもお団子を食べましょう。貴女もおかわりをいかがでしょう?」
「わぁ、嬉しい!いただいちゃおっかな!」
「お茶もありますよ」
『許さない許さない、貴方を殺して私も死ぬわ……!』
 愉快な仲間たちにも歓迎されてジュジュとメボンゴがテーブルを囲む輪に加わるのを、ペンギンが羽を掻きむしりながら見下ろしていた。

 賑やかな一団から離れた辺りに、ビビッドなピンクの髪を靡かせて月を仰いだ男が一人。割れた月にもそこに蠢く謎のペンギンにも無関心に、カットライムを落とした瓶のビールを一口呷る。男――キリジには酔う感覚がない代わりに、一定量を越えると突然倒れてしまう体質だ。一定量、には無論遠いが、用心の為に今日の月見酒はこれ一本にすることにしていた。
『世界がこんなに冷たいなんて……ハッ、これはまさか……試練……』
 その頃皆に無視され続けたペンギンが迷走した答えに行きついていた。メンヘラのくせに妙なところで心が強い。厨二病路線に戻るらしい。
『これは穢れた世界からの、無垢で高貴なる私の降誕への嫉妬と羨望による……洗礼』
しかも思考をいちいち口に出してくる。うるせェ知らねェ無視だ無視。
『そこの男、光栄に思うが良い。我が生誕を見届ける証人にしてやろう』
よくもまぁ数年後には黒歴史にしかならなさそうなことをつらつらと囀るペンギンである。多分海を知らないペンギンって事だろう、若さってやつか……とキリジはぼんやり月を見るのだ。
『……ねえ聞いてる?聞いてるよね?』
月の裂け目から無理やりに身を乗り出してきたペンギンとばっちりと目が合った。というか合わせて来やがった。
『ねぇ、何か言ってってば』
 それにしても、とキリジは思う。
『貴方も無視するの……?』
 少し前まではただ戦っていれば良い仕事ばかりに足を突っ込んでいた気がする。
『ひどいわ。そうやってこれまでも女の子を泣かせてきたのね』
 それがいつの間にか、他社に対して理解しろだの考えろだのと言われる仕事に手を出した。一人で済むところをわざわざ人まで連れ歩いて。
『死んでやるから!あんたのせいだから!!』
 他人にどこまでも興味がないと自覚している。他人のことなど知ったことではないし、勝手にしろと思っている。そこに不自由を感じたことも、改めようと思ったこともない。
『死ぬから!ねえねえ!本当に死ぬからね!?』
 なのに、この頃、隣に立ち並ぶ仲間の選択を一定の興味を持って眺めている自分がいるように思うのだ。その戦友が目の前の事象をどう受け止めて、何を重んじてどう対処するのか、何処か期待している節がある。言うなれば、ないものねだり、かもしれない。
『――』
『――……!』
 ペンギンが何か言っている気がするが、キリジにしてみればまるでつまらないサイレント映画でも眺めている気分だ。何なら前半の『そこの男~』以降ほぼ耳に入ってなかったりする。別にノイズキャンセリングしてるわけでもないのだが、スルースキルが高いので。
『化けて出てやるー!!!』
 割れた月が閉じ、ペンギンが断末魔とばかり叫んでいた時に、そういえば、のどうでも良さでキリジは義足のメンテのことを考えていた。
 ふと気づけばヒビも欠けもない満月がそこにある。
「……ん?終わった?んじゃ帰るか」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月15日


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト