大祓百鬼夜行⑳〜All or Nothing
●わたし電話だあいすき
トゥルルルル。トゥルルルル。
どこかで電話が鳴っている。
いや、それにしては大音量だ。
ああそうか、自分のスマホが鳴っているのだ。周囲全員が一斉にスマホを取り出して"非通知"の電話番号が表示されているのを目撃する。
「もしもし……?」
誰が掛けて来たのか確かめる律儀なモノも当然いる。
着信を拒否し、出なかったモノも当然いる。
「……もしもーし?」
『わたし、わたしらいじゅうさん!でんわにでてくれて、ありがとう!』
「……は?」
『まっていて。まっていて。ひかりのはやさでそちらにいくから!』
ぶつり。着信はそこで途切れてしまった。
トゥルルルル。トゥルルルル。
今度はスマホからの着信ではない。男は直ぐに気がついた。
電話ボックスから、その音は鳴り出しているのだと。
「……え?」
誰も音に気が付かないようで、電話ボックスに入る様子がない。
自分しか聞こえていないのだと、気持ち悪い気持ちになりながら男は電話ボックスの受話器を持ち上げて――。
『ほ ら き た よ』
耳元で囁く音が絡みつくように男の頭を突き抜ける。トマトのように弾けた何かが電話ボックスを真っ赤に濡らした。
生存するように動くモノは無し。絶命した個体は語らない。
受話器から妖怪が出現する事案が発生した。
●皆もわたしに電話をかけてね!
「なあ、電話の怪異。アンタ、知ッてるか?」
自分のスマホを揺らして、フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は尋ねる。
画面には、通話中の文字だ。繋がる先は"非通知"と表示されている。
「……俺様は現代に疎めなんでよく解らねェけど、普通知り合い同士が掛けるモンなんだろう?百鬼夜行が始まッてから点々と怪異が突然増えてんだッてよ。俺様が聞いたのが、"電話の怪異"なんだ」
通話を切って、スマホをしまう。
「今のは、"メリーさんの電話番号(090-2410-9679)"に掛けたモンだ。生憎何も聞こえなかッたが……まあそれはいい」
百鬼夜行開始後、UDCアースのビル街に一つの事象が起こったという。
その日はとても雨が降る日。落雷の音が耳を劈くほどの日だったという。
「"電気を操る妖怪の骸魂"に飲み込まれた妖怪が、自分の認知度を利用して電子ネットワークの中へ逃げ込んだそうだ。パソコンを遣う人間が居たとするが、通信網を伝ッて妖怪が通りかかッた場所は全て文字化けするし落雷が落ちれば周囲全域の電話が一斉に鳴る」
全て妖怪の仕業だ。小さな悪戯は人間に不快感を与えるものである。
一斉着信など、仕事中の人間たちには電話にまで至る悪戯と来れば、誰でもその電話主に文句をいいたくなるものだ。
「妖怪に憑いた骸魂は自分の認知度を熟知している。だから、電話を取ッた人間の元へ電子速度で飛んでいく」
おい、気づいたか?とフィッダは難しい顔をした。
気まずそうに直ぐに視線は反らしたが。
「電話に出た人間は"相手を認知している"ので、嬉しそう場所を指定して一方的に電話を切るらしい」
現代地球の大抵の人間がスマホを持っている為、"外に来てほしい"というようなことを伝えてくる。怪異を欠片でも信じてしまうモノは不思議と外へ出ていきたくなってある場所にたどり着くようにできているらしい。
それが電話ボックス――妖怪に誘われて電話に出て今の所回避できた人間がいない。
「……以上、大体が事件の大まかな概要だ。俺様たちは少し状況が異なるだろう?だから、彼らと同じにはならない」
猟兵は妖怪を認知しているので、まず催眠に合わないとフィッダは言うのである。
「俺様が掛けた通話のようにスマホには出てくれないようなんだが……おそらくは、"メリーさんの電話の概念"になりきッているこの敵は、電話ボックスからの呼び掛けになら返答すると思うんだ」
返答がある、つまり、妖怪は実体化してくる。
電話をかけて応答されなければ、妖怪は出てこない。
ネットワークを切断したり、電話ボックスを壊すだけでは、入り込んだ妖怪の非実体化を招くだけだ。
電話口から引きずり出して、斃さなければならない。
「……いいか、電話ボックスは壊すなよ?引きずり出して、戦闘に持ち込め」
街には点々と、電話ボックスが点在しているから相応な方法で相応に利用するといい。
「そうそう。今回の元の妖怪は舌がない為に喋らない。思念で語る鬼神の妖怪のようだけども、喋ッているのはあくまで飲み込んだ骸魂の方だぜ?
骸魂――雷獣。
落雷とともに現れる妖怪の一種で、雨の中だとよく悪さを働く存在の成れの果てだ。
現れた妖怪に、もしも犬のような耳がピンと立って見えるのならばそれが骸魂の色濃く出過ぎた要素である。
「電話したり掛けられたりしただけで殺されるとか溜まッたもんじャねえよなあ……」
タテガミ
こんにちは、タテガミです。
これは戦争依頼に属する【一章で完結する】依頼となります。
シナリオの天候は、雷雨か豪雨の中で想定されています。
プレイングボーナスは『電話ボックスを壊さないように、受話器から出てくる妖怪と戦う』。
――もしもし、わたし骸魂のらいじゅうさん。
いま、電話を聞いてくれるあなたに説明しているの!
わたしは、あなたが電話を掛けてくるまで外の世界にアクセスする事が殆どできない妖怪なの。今は、電話ネットワークの中に、隠れ潜んでいるの!「現代社会を破壊しうる力」を手にしたわたしを、放っておくのはよくないのではないかしら!
妖怪を認識してる人からの電話が欲しいの!
電話ボックスが目印よ、きっと探して。電話がほしいの!
そうしたらすぐにでも会いに行くから。
動かないでまっていてくれたらいいの、すぐに 殺 し に 行 く か ら。
という感じです。電話ボックスを探して電話を掛けるようにして下さい。
ボックスを探す行程を省き、電話をかけて"らいじゅうさん"と語ってもいいですが、おしゃべりしすぎると『殺しに行きます』という圧力を抑えられなくなり電話相手である猟兵以外にも被害をだそうと無差別に暴れだします。注意して下さい。
手傷を追わせると、電気を操り電話口からネットワーク世界へ逃げ出しますが、ボスの再出現は、"電話ボックスから電話を掛ける"ことで回収されますので、基本電話から始まるプレイングで大丈夫です。ご安心下さい。
雷獣(らいじゅう)さん=骸魂。凄くお喋り。幼稚。
ボス敵『赫絲童子』=鬼神の妖怪。思念以外で喋る舌がありません。
どちらかといえば、後者が話す場合は落ち着いた口調であることでしょう。
やりたいことはプレイングにぎゅぎゅ、と詰めて貰えますと助かります。
全員採用は行えない場合がある為、プレイングに問題が無くても採用を行えない場合が存在します。ご留意いただけますと、幸いです。
第1章 ボス戦
『赫絲童子』
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POW : 五鬼招来
【五体の鬼火】の霊を召喚する。これは【餓鬼に変身する能力】や【炎や武器】で攻撃する能力を持つ。
SPD : 焔環結界
【生者には見えぬ紅き糸を張り巡らせ、触れた】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ : 呪憎
攻撃が命中した対象に【身体を蝕む溶解毒】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【周囲への空気感染】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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リダン・ムグルエギ(サポート)
「餅は餅屋。後の戦いはお任せするわね
「お、今の映えるわね!ヒュー
キマフュ特有のノリの服飾師
見た人の五感を狂わす「催眠模様」の入り衣装を作って配る事で
仲間や一般人の防御底上げと敵の妨害を実施したり
依頼に即したなんらかのブームを生むことで敵に特定の行動を躊躇させたり
等を得意とする
「戦闘開始前に自分のやるべき仕事の準備を終えている」事が多い純支援キャラ
依頼本編では戦いの様子等を撮影・配信したり
キャーキャー逃げたり
合いの手を入れてたりしています
単独戦闘には不向き
ミシンや針、布等も所持
その場で他依頼参加者に合わせ衣装アレンジも
MSのセンスで自由に動かしてOK
エロだけは厳禁
トゥルリラ・トゥラリラ(サポート)
堕天使の四天王×殺人鬼、17歳の女です。
普段の口調は「女性的(私、キミ、なの、よ、なのね、なのよね?)」、戦闘中は狂える殺人鬼「私、相手の名前、呼び捨て、なの、よ、なのね、なのよね?」です。
性格は明るく無邪気ですが、殺人や殺戮は遊びとして認識している危険人物です。
【地の魔王】と呼ばれる魔王に仕えていて、その魔王に心酔しています。
実は語尾がおかしい事を気にしています。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●らいじゅうさんはどこにでもいくよ!
「こんなオフィス街で、なにをしてるというのかしら……」
リダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)は自分のスマホをカチカチと忙しそうに操作している。
経営する店の利益向上のため、現状把握は欠かせないことなのだ。
「まあ、このくらいの協力で良いならアタシはラクで良いんだけど、それでいいのよね?それしかないけれど?」
くるり、と振り返る先でにっこり笑ったのはトゥルリラ・トゥラリラ(鏖殺の堕天使・f31459)。
「うん、任せて!ネットのことはあまり詳しくないけれど、"殺す"とか"殺される"とか凄い話みたいだから、私がなんとかしちゃうよ!」
ウェーブヘアを揺らして、トゥルリラは電話ボックスをピッ、と指出す。
人混みの中ではない。オフィス街の端の方に備え置かれた、誰かの記憶に留まる事があまりないボックスだ。
「アタシがあの電話ボックスで電話する。あとはあなたに一任するから。映え優先で、キラキラ飛び回るようにしてもらえると良いのだけど」
自前のコネクションを使い、必要な小金は収集済み。
電話番号もまた、"恐怖の事柄"が起こる呪いの電話番号であることも、リダンはバッチリ確認済みなのだ。
「一応、背後の扉は締め切らないから。アタシが逃げ切れることが電話しても良い最低上限だから」
「はあい、わかっているのよ!疑わなくて大丈夫!」
トゥルリラは天真爛漫に、ぶぃ、と指を示して見せた。
何事もバッチリ!そんな満面の笑みを見たら、リダンも意を決して行わなければならないと短いため息が出るものである。
「ふうん。――分かったわ?交渉成立。アタシは映える動画と"いいね"が欲しいだけの服飾家だもの」
スマホを片手に、自撮りを開始。
配信画面の隅に●RECと赤い灯りを点滅させているのを確認して準備完了。
ちゃりんちゃりんと小金を入れて。
慣れた手付きで電話番号を入力し、耳に軽く受話器を当てた。
ぷ、ぷ、ぷ、ぷ、と短い音を確認し、リダンはそのまま喋り始める。
「アタシ、リダン。今配信中なんだけど、あなたはどちらさま?」
ぶつ、と短い受話器が取られた音。
『わたし、わたしらいじゅうさん!"メリーさんの電話"をしっているヒトなの?わあ、うれしいなあ!』
「雷獣さん。ねえ、姿を表すことが出来るって聞いたの。それは本当なのかしら、アタシの後ろに逢いたいってコがいるんだけど、来てもらえる?」
『いいよぉ、いいよお!らいじゅうさん、いますぐいくねえ~……』
通話越しに、ずももも、となにかが高速で迫ってくる音が聞こえてきてリダンはゆるりと耳から受話器を離して後退する。
"どきっ★街中で堂々とホラー体験してみた"の閲覧数は鰻登りにバク上がり中だ。
思わず来場者数に、リダンは満足気ににんまりと笑ってしまうのだが――。
『き た よ お』
電話越しから現実へ。
通話の情報を元に走り抜けて現れたのは"赫絲童子"。
鬼神の男はにんまりと余裕笑っていたが、現れた途端、リダンはその場から動けなくなる。
現れた瞬間の早業だ。
男は生者に見えない糸を展開しており、狭い電話ボックス内で縛り付ける。
『はりめぐらせたいとのあじはどうかな、わたしらいじゅうさん!きみがむがいなひとだということがわかってうれしいよ』
「……嬉しいというのはわからないけれど、攻撃する気が無いって分かってくれたなら本望ね」
でも。リダンはそう続ける。リダンの仕事は結界に囚われる事ではない――電話を掛けることまでで終わっているのだ。
「いらっしゃいませ!そのヒトは仕事が終わった今はいわば、一番最前線で良い映像を取ろうとする素晴らしきエンターテイナーなので!」
短い間トゥルリラは祈りを捧げていた。赤い翼に光の色を宿したその効果が、リダンに反映されている。
外からの攻撃を遮断している為、痛みのようなものが今のリダンにはないが――それでも、流血があってはことだと、トゥルリラは思うのだ。
きらきらと、輝く祝福を。それ以外には、裁きの痛みを。
赤い翼を広げ、ばさりと音を立てることで光の色は闇の色にで転じる。
「ほらほら、其処から早く出てきて。じゃないと――」
電話ボックスから飛び出してきた男が、明確な殺意を向けたトゥルリラへ駆けてくる。背の翼が何をしようとしてるかに興味も関心もないのか、繰る糸で縛り付けようとしてこようとしているのが見て取れた。
「残念なのよ、一歩遅かったのよね!」
『ええそうかなあ?らいじゅうさんの殺しの技がとどくほうがはやくな――』
しゅごぉおと強い闇の輝きが、男の体にぶつけられて悶えるように顔を歪めた。
一瞬仰け反る男に、トゥルリラは殺戮大鉈を手にずぃいと急接近して、鍛え抜かれた禍々しい大鉈で体を討つ。
半ば電脳体になっている妖怪は、霧散するように消えていく。
電話に入れた通話代が使い終わり、電波の上に実体化していた連続性が途絶えたのだ。腕や体を切り裂ききり、殺せたとはトゥルリラは思えない。
ただ、痛手は負わせたはずだと、自分の仕事の分喜ぶようににっこり笑った。
「――以上、現場からのレポートでした、まる」
見えない糸のせいで動けないリダンが救出されたのは、此処から数分後のことだ。
自分の体が何故動かないのか、その事を面白がってなにかのアイディアに活かせないかと考え始めたもので、トゥルリラが助けようとするのを"待って"のひとことで中断させたから、なのだが――。
成功
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グンヒルド・メリーン(サポート)
クリスタリアンの闇医者 × 悪魔召喚士、20歳の女です。
普段の口調は大人(私、~君、~嬢、だ、だね、だろう、だよね?)
時々 女性的(私、~君、~嬢、ね、よ、なの、なの?)です。
人命が最優先。カナズチ。 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
雲母坂・絢瀬(サポート)
ややおっとりめ、マイペース系関西弁女子ね。
臨機応変な柔軟さがモットーなんよ。
スキルやUCは使い時にはしっかり使うていく方針。
【見切り】【残像】【敵を盾にする】【フェイント】で相手を撹乱しつつ、間合いを詰めてからの【なぎ払い】が基本戦術やろか。
後は相手を【体勢を崩す】【武器受け】からのUCとかやね。
ヒットアンドアウェイ大事やね。
たまには【挑発】してもええかも。
UCは基本的には多数相手に【剱神楽】、とどめには【天狼】、牽制や巨大な敵相手には【白灼の殲刃】、無力化狙う時は【三弁天】【鬼薊】ってとこやね。まあ柔軟に、やわ。
基本お任せのアドリブ大歓迎でよろしゅうお願いします。
●らいじゅうさんはどこにでもいるよ!
電話番号は有効だ。
先にターゲットに接触したと報告を得て、グンヒルド・メリーン(たけのこ医者・f12254)はニンマリと笑う。
「妖怪の尻尾はもう掴んだと言っても良い。あとは喚び出して、薬でもなんでも頭に片っ端からぶちまけろ」
新薬のテスト、被検体がわりに呼びつければいいのではないか。
グンヒルドはこの騒ぎをお祭り騒ぎのなにかだと認識していた。
「ん、妖怪さん怪我したりしないやろか……」
雲母坂・絢瀬(花散る刃・f23235)はサバサバと切り込もうとする計画を聞きながら。生き方が違えばそういう考え方もあるのかと興味半分。呆れ半分で聞いている。
「大丈夫だろ、骸魂?とやらがべらべらやかましく病状を、現状を喋ると聞いた。医者としては喋るなら問題無いと思う」
元の妖怪が喋らない理由の方が気になるのが医者としての思うところだ。
――舌がない。
――一体何を過去にやらかした鬼神なんだか。
「なんにせよ、困る可能性のある患者がいるってことなら放って置かないのが医者だろ?」
「うん。適材適所、臨機応変。うちもその言葉すきなんよ」
二人が訪れた電話ボックスは、誰も居ない道の中で公演のど真ん中に存在した。
街の中の、小さな小さな公園の中央に。
「うちは、戦う方が慣れてると言えば、うん。お医者様には冷静さで叶わない部分の方があるやも……」
「大人を頼れるうちは、大人を死ぬほどこき使えばいんだよ」
グンヒルドは問答無用で電話ボックスの扉を開けて、受話器を外す。
「それに。これでも医者の努めと思えば楽しいもんさ」
小銭を入れて、電話番号を間違えず入力する。
コールは一度だけ鳴って、すぐなにかにつながった。
『――』
「……おや、電話に出たなら先に名を名乗っても良いんだよ?」
『わたし、わたしらいじゅうさん』
「そうだろうね。今どこにいるんだ、私なら此処に――」
『もう、い る よ 』
ずずず、と電話口から妖怪が飛び出して、出現と同時に5体の鬼火を展開する。
赫い――二人の猟兵がその存在が出没した時点で感じた言葉は、それだ。
角を生やし、電話越しに実体化した今回"メリーさん"を名乗り悪事を働く存在。
百鬼夜行に混ざる妖怪の一体(ひとり)――。
「それで間近の私をまず焼くって?はああ、医者を舐め過ぎだね」
狭い電話ボックスの中で、炎を投げつけられればそうも言っていられないが蒸気仕掛けの右腕でなんとか攻撃をカードする。
じゅう、と嫌な音を立てたがしゅぅうう、と蒸気を噴く方が高温だ。
あついあつい蒸気を顔めがけて拭き上げて、怯んだ隙にバツマークラベルの貼られた最新作をぶん投げる!
『な、なにするの!』
ぱりん、と体に何の液体が掛かり――じゅわじゅわと一気に腐敗していく様に男"赫絲童子"は目をみはる。
呪憎もなく、液体一つで成し得ることか。
『ひっどいなあ、ふくがめちゃくちゃじゃないか!』
五鬼招来。霊として喚び出した鬼火を餓鬼へと返事させ、共犯と思わしきもうひとりの猟兵へ鬼共は駆けて行く。
赫絲童子が行動を開始するのは、服の被害を確かめてから。
「炎一つ、それから小柄めな餓鬼が5体でうちをなんとか遊べると?」
妖魔が鍛え上げられたとされる妖魔殺しの刀"蘇芳一文字"を手に、異様な鋭さ、きらめきを手に。
絢瀬は砂を踏み、すれ違いざまに切り結ぶ。まずは、一体。
ぐぎゃああ、と電波のような音を吐いて消滅する個体。それに目を留めた次は呼吸するように二体目を斬る。
迅速な身のこなしの絢瀬は、残像を残すように餓鬼を翻弄するのである。
戦うことに慣れたものであろうとも、戦い方には本質的に"癖"というものがあり。
それは筋肉の運び方、足さばき――どれかから、うっすらとでも剣を扱うものなら把握できるもの。
「あと三体。仲間が討たれ斬られたなら、手段でわっとくるってええんやろ?」
でも残念。うちは、――集団で来てくれるように、要所要所に隙を置いてるだけなんや。背後で三体が同時に炎を纏わせた武器で殴りかかってくるのを気配で察し。
心を落ち着けて、絢瀬は振り返りざまに薙ぎ払い、餓鬼の――霊たちを散らす。
「そんで?うちは全部斬ってしまうよ?逃げる?それとも」
『さきにころすよ、くびをはねようね』
「――穿て」
静かな攻撃の初動は、フェイントが先に訪れた。
男が餓鬼をもう一度呼び出そうとしたのか、呪術を持ちようとしたのかわからないが。如何なる防御も関係ない。構え、駆けるは神速の――無塵流秘伝の参。
閃くはたた一度の突きにあらず。
それは――三段突き――――。
胸と腹その丁度間に向けて放たれたそれは、正確に三度穿った。相手は人間ではなく、妖怪――生きる年月は長いものだろう。
存在が認知された事で元の怪我に遺した傷はいつか癒えるかもしれない。
――人間より、相手は少しばかり頑丈のはずや。
――ちゃんと急所は外したハズ――――!
流血が翔ぶ、鮮血が舞う。
少し遅れて、息を吐く音に嗚咽が混ざった。
仰け反り、ぼたぼたと、明確な赫が地に踊る。
ひゅうひゅうと音を鳴らす、赫絲童子本来の声色が聞こえる気がした。
音にならず、声にならない。
「ほおれ。もうあっちに帰り。そないに体張らんでええんとちゃうの?」
『もういいいよらいじゅうさんかえっちゃうんだから!つぎよんだらぜったいぜーーったい、こわすからね!』
雷獣が語り、赫絲童子の体がかき消えるようにその場から消えていく。
通話時間の終わり。電話が切れれば、その存在は消えていく。
落雷が、近くに落ちた。
電気に紛れて、怪我を押して何処かへ逃げていってしまったということだろう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
エヴァンジェリ・マクダウェル
スマホ時代に電話ボックス使う事になるとはなぁ、ノックしておじゃましまーす
番号ポチポチ……もしもしメリーさん私ぜりぃさん、今電話ボックスで電子の海に出入り出来るあなたを羨んでるの
おいでませこんばんわ、ぜりぃさんとおよび?
話しつつノート片手に慌てずゆっくり炎をいっぱい浮かべてく、まだ撃たない
この炎?花火的なあれだよあれ、綺麗だろう?
攻撃は避けたり銃っぽい黒い塊ぶんぶんして受け流したり
ぷるぷるボディを過信して受け止めたり!
受け止めたら熱いな、痛いな?痛いんだが?まぁた毒的なあれかよ純粋物理にしとけよぉぎも゛ぢわ゛る゛い゛
うぇー……まぁもう十分かな
溜め込んだ炎、ウィザードミサイルを一度に全部ドーンだぜ
●狂人さんいらっしゃい
「あ、平和そうな電話ボックスみーっけ」
エヴァンジェリ・マクダウェル(鍵を持つ者・f02663)の捜索活動はやや時間がかかった。
事故物件のため閉鎖されていたり、使用中だったりと運が悪かったのである。
「全く。スマホ主流の時代において旧き良き電話ボックス使う事になるとはなあ」
だからこそ、見つけた電話ボックスに対して礼儀を払う。彼女は狂人なので、当然だ。コッツコツと軽くノックして、中からの応答は成しである事を確認。
スケスケのガラス仕様でも関係ない。
内側に不可視のモノ、音が無いことが重要なのだ。
「お邪魔しまーす」
狭い個室で、当たり前の顔をして受話器を外した。
白衣のポケットから小銭を取り出してちゃりんちゃりんといれていく。
トゥルルルル。トゥルルルル。がちゃ。
誰かが出た瞬間、流れるようにエヴァンジェリは喋りだす。
「もしもし通称めりーさん私ぜりぃさん、今電話ボックスで電子の海に出入り出来るあなたを羨んでるの」
『わたしわたし、らいじゅうさん。うらやましい?』
「凄く羨ましい。不定形生物になりたい」
『わかった!いまいくから、いまきたから、ほら』
ずずず、と受話器から煙のようなものが溢れはじめてエヴァンジェリは直ぐに受話器を離してその場を離れる。
電話ボックスの中が充満する前に、静かにボックスの外へ伸ばしていた自分の身体の一部の上をスライドするように動いただけなのだが。
ブラックタールボディをそれなりに楽しむ、元人間だったという旨を話すエヴァンジェリだ。
「おいでませこんにちは、あ、いやこんばんは?ぜりぃさんとおよび?」
ややボロボロな身体で鬼神"赫絲童子"は実体化して、口角を吊り上げた。
しかし、喋るのは、彼ではない。頭上でパタッと動く耳取り憑いた"雷獣"さんだ。
『こんにちはぜりぃさん、それはなにをひろげているの?』
「ん?これは私のノートだよ、今妖怪という名の怪奇現象を目にしているハズだから日記のように少しだけ書き留めようかなと」
探索者の日記の断片。とても不吉なものを連想するエヴァンジェリだが、赫絲童子の手元に赤い糸が絡みついているのを見つけて顔色を変える。
攻撃に使うもの、想いの詰まった呪詛の塊。指先一つで捕縛を可能にする糸の束が、十指の指からピアノを引くように広げられる。
「まあでも、筆記用具とか忘れたから書いてる気になってるだけなんだ」
片手に広げたノートには手書きで色々描かれている。
字はさほど綺麗ではないのだが、しつこく開いた事があるのがノートのページが撚れている箇所が点在していた。
文字列を指でなぞり、指先を勧めていくほどエヴァンジェリの後方に魔法陣が展開されて広がっていく。
ぼ、ぼ、といっぱい浮かべて、糸の襲来をのらりくらりと躱す。
――準備は順調。
『ぜりぃさん、そのほのおはなあに?』
「この炎?花火的なあれだよ、綺麗だろう?」
『きれいだね!きみもそれにまぎれてころされたら、とってもきれいになるとおもうよ!』
糸が当たらないとわかるや、赫絲童子は素手で掴もうと試みる。
単純だが、それが早いと思ったのだ。
「ころされるのは嫌かなあ、痛そうだし……ッ!」
敵の手が、身体を狙っていると分かった時点エヴァンジェリは短く武器を召喚するキーコードを呟いて最極の空虚で受け止めた。
黒い銃身の、ガトリングガンだ。ただし、形状が常に同一ではない。
武器もまた、ブラックタールのような特性を持っている。
『てがしずむよお!?』
攻撃が命中した場所を蝕む溶解毒を染み着けて、手を離そうとした矢先のことだ。
一であり全である空虚によって、敵の足を止める事が成功。
しかし、毒素の周囲への空気感染領域はじわじわと、広がっていく。
「まあまあ、手の一つくらい良いじゃないか……ごほ、ごほ。それにだ、手くらいなんなんだ。問題なのは、どう考えても喉を焼くようなこの汚染された空気だろ。
痛いな?痛いんだが?溶けてない?私と溶けるの?え?」
――まぁた毒的なあれなのかよ!
――純粋物理で殴ってこいよ、正々堂々裏をかいてぶん殴るから!
内心はとても騒がしい。
「ぎも”ぢわ”る”い”――うええ"え"え゜え゜」
気分を崩されれば流石の狂人といえど、解読不能な声を上げて叫びだす。
腹の中のものを吐き出せれば幾分かマシになるだろうが、今はそれをしている時間はないのだ。だから、とりあえず叫ぶことで留める。
「うぇー……まあ、もう十分かな、らいじゅうさん。長電話は流行らないし、今の時代はスマホ主流だからネットを壊されると知った現代人は恐ろしいんだと思い知れ」
十分に溜め込んだ炎を、全て一つに束ねて大きな大きなファイアーボールへと進化させる。
「まあ。私のロマン(銃)に手を出した時点で、ウイルスを取り込んだようなものだけどな」
『ちょっと、まっ――』
ずどん。身の丈よりもに3倍デカイ炎が頭上より落とされて、全部をドーンだ。
目標を絞った事により、勿論電話ボックスは壊れない。激しく燃えるウィザードミサイルの燃えるさまは、壮観であったと後にエヴァンジェリは語る。
「倒れた男は無事だろうか、ハッハッハ軟弱者め私を見習いたまへ」
何故か楽しげに笑っていたというのだから、狂人というものはわからない。
ただ、赫絲童子に憑いた骸魂は、崩れ落ちるようにその痕跡を消していた。
電子化する必要のなくなった妖怪は、意識を取り戻した後、幽世世界にそっと戻っていったという。
『わたし、わたしらいじゅうさん。■■おでんわするから、おはなししようね!』
データの残骸。通話履歴に壊れた文字列が記録されていた。
■■に入る言葉は、"また"だろう。怪異の存在を都市伝説の存在を誰かが信じる限り、この現象は終わらない――。
大成功
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