大祓百鬼夜行⑧〜あなたにそばに居て欲しかった
●千載一遇
汝、寿命を全うした者よ。
さぁ、この橋を渡るが良い。
……なんて声が聞こえるわけでもないが、命を堕としたものは、カクリヨファンタズムの川にかかる「まぼろしの橋」を渡り黄泉へと歩む。
つまり、この橋は本来、命ある者には見えてはいけないモノだ。
しかしながら時は百鬼夜行。
この橋を目にすることが叶ってしまうのだ。
もし死者と相まみえたなら心を大きく乱されるだろう。でももしかしたら思い残しを告げて心の重荷を下ろせるかもしれない。
さぁ、あなたは覚悟は決まっただろうか? 既に死していないかの人と今一度の邂逅を結ぶことに。
●グリモアベースにて
「逢いに来たよ――さてこれは、どちらが呟くんだろうね」
煙草の煙を彼方に吹いて、九泉・伽(Pray to my God・f11786)は猟兵達の顔を直視せぬままに続ける。
「カクリヨファンタズムの川に、黄泉へと続く橋がかかることがあって……そこに佇んでたら、死者との邂逅が果たせるんだってさ」
煙に煙を重ねグリモア猟兵は姿を暈かす。まるで幽霊のようだと言えば、彼は「死者に会うんだから似合いでしょ」と口元だけではぐらかすに違いない。
「邂逅を果たして、夜が明けるまで語らえば『まぼろし橋』は消失するよ。うん……そうやって橋を消してきて」
語らう時間は誰にも邪魔されない。出てくる「想い人」は悪意で歪められたりもしてないから、戦う準備もいらない。
漸く猟兵の方を向いた男は煙草をもつ手でグリモアに触れる。
「置いていかれんのは寂しいもんなの? 俺はわかんないから……まぁそれに限らず目一杯に話してくるといいよ」
そして送り出す、あなたが逢いたい誰かの元へ。
一縷野望
※既に受付を開始しております
※この依頼は戦争の為、最少人数で早期完結を目指します
執筆は明日13日の午前中からはじめ、2名様の採用で完結です
今後、同様の依頼をもう2本追加し、完結後に募集開始の予定です。流れたプレイングはそのままお送りいただいてOKです
(戦争の進行度や当方の時間がとれればもう少し頑張ります)
基本は先着順ですが
「想い人」を極力しっかりと再現したい為、プレイングの充実度を重視します
詳しくは下記の「●プレイングに記載して欲しいこと」をご確認ください
●プレイングボーナス
……あなたの「想い人」を描写します、夜が明けるまで語らって下さい
●「想い人」は死者です
死者であれば、恋人、親兄弟、友達、師匠……他、あらゆる関係の方が対象です。一方的に憧れていた人でも構いません
●プレイングに記載して欲しいこと
プレイングには【想い人とあなたの関係】【口調や考え方がわかる台詞例】をお願いします。その他、マスターに伝えたいことがあればなんなりとどうぞ、頑張って再現します
あとはあなたが「想い人」と為したいこともお願いします。フラグメント通りでなくてもかまいません、ご自由にどうぞ
●アドリブありが基本です
「想い人」の再現ですが「アドリブがダメ、プレイング通り希望」の方は冒頭に「×」をお願いします
その場合はプレイングから外れぬよう書くので文字数はアドリブありより少なくなります、ご了承下さい
では皆様のプレイングをお待ちしております
第1章 日常
『想い人と語らう』
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POW : 二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。
SPD : あの時伝えられなかった想いを言葉にする。
WIZ : 言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。
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誘名・櫻宵
サクヤ──現れた鬼姫の姿に胸が締め付けられる
艶やかな黒髪
意志の強い柘榴の瞳が私を射抜く
片方が折れた白黒曜の角は赤の牡丹一華が揺れる
凛と美しく遊女と堕ちて尚穢れない鬼姫
彼女が笑ってくれるのが嬉しくて
没落した家を再興しようと私に近づいた
私の初恋
息子を産んでくれた
私が勝手に戀をして
わかたれた路に絶望し喰殺した女
─貴方はしょうがない人
私が居ないと駄目なのね
なんて
叱り励まして
─この、駄龍!
とんでもない馬鹿力で打たれた
サクヤは今の私に失望してる?
己に宿る愛の呪に呑み込まれそうな私を
息子すら手にかけ
愛する者達すら喰らいそうと恐れる私を
あの頃のように励ましてくれる?
朝まで共にいて欲しい
ちゃんと歩むよ
私は護龍だ
●
寂寞に塗れた粗末な橋も、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が佇めば、百花繚乱の薄紅が咲き乱れる。
こうでなくてはならぬ。
何故なら逢いたい人は春を売る娼館の中でも常に美しく気高かった。相応しき舞台を誂えねば、其れが勝手に戀をしてわかたれた路に絶望し喰殺した己の誠意だ。
嗚呼いや、屁理屈はやめよう。事はもっと解りやすい筈。
「サクヤ」
艶やかな黒髪に何事にも折れぬ強い意志を宿した瞳は石榴の輝き。片方が折れた白黒曜の角に揺れる赤の牡丹一華の羅刹の姫。
並び立つならば枯れぬ咲き続ける櫻でなければ釣り合わない。
「――……」
艶やか、無邪気、裏がある……百花繚乱の様々な笑みを見せてくれた羅刹の姫だが、今は呼びかけても此方を見もしない。
血が出る程に唇を噛み野望が果てた悔しさに爆ぜたあの夜の表情の儘で、絢爛を身に纏い立ち尽くしている。
枷があろうが自由奔放に愛を謳う鶯。そんなサクヤは櫻宵に、身を焦がす戀と愛する人を貪り喰む甘美を、教えた。
そして今の櫻宵は、不安に充ち満ちた泥船。歩を詰める勇気すら佚している。
「サクヤ……」
愛していた、愛していた……折り重なる波に押しやられて海の底に沈んでしまってなお、なにも損なわれてはいない。
遊女と堕ちて尚穢れなかった誇り高き鬼姫よ、どうかどうか叱り励まして欲しい。あらゆるなにかに呑まれそうな私をどうか。
――貴方はしょうがない人。
私が居ないと駄目なのね、
なんて、
叱り励まして。
「…………」
思いが通じたか、不意に牡丹の香り濃密へと変じた。
振り返ったサクヤは櫻宵の元へと進み出る。そして翼めいた所作で翻した腕を躊躇いも容赦もなく振り下ろした。
「――この、駄龍!」
頬を叩くなどという生半可なものではない。
赤く飾られた爪は鉤と伸び、羅刹の名に恥じぬ逸脱した勢いは人の首なら飴のようにへし折れること請け合い。
本気で殺すつもりで打ったのか……。
溢れる血の筋をそのままに花びらが降り積もる橋に膝をついた櫻宵は、情けなくも口元を崩した。
サクヤは今冥府にいる、其処に共に逝こうと――……。
「本当に、不甲斐ない方」
吐き棄てられた言葉は氷よりなお冷たくて、睥睨の石榴は暖色なのにやはり凍てついている。
「私はあの時散々云った筈だわ、要らないって」
「それは……私に失望したから?」
櫻宵の血がついた手を見据えると鋭く振り下ろす。払われた飛沫が橋に細かく散り、まるで当時を捨てるよう。
「ええそうよ」
戸惑いもなく返す様は相も変わらず相手なぞお構いなしの凄絶さ。しかし此こそが卑しく身を開く己を奮い立たせた野心の現れ。
「なら、今の私は? 今の私にも失望してる?」
望まれし将来への重圧と息苦しさ忘れたくて愛に耽った。
媚びぬ遊女は、さて一体何処からが愛だったのか……?
「己に宿る愛の呪に呑み込まれそうな私を……息子すら手にかけ、愛する者達すら喰らいそうと恐れる私を……」
慰めを求め彼女の躰を通り過ぎる男達、始まりは確かにそ中の一人だった。いっそ今もそうならば、どうか……。
「あの頃のように励ましてくれる? 朝まで共にいて欲しい」
サクヤは櫻宵に翼を与え、己で人生を見定め決断する力をくれた。皮肉なことに路は違えてしまったけれど。
「本当に――貴方はしょうがない人ね」
大きな溜息にあいた白い胸元が上下する。強まる色香に頬を染めて、櫻宵はかき抱かれる儘に身を預けた。
「貴方は、私を喰らったのよ」
「――ッ」
だが容は、言葉の鋭利さに反して包み込む慈愛に充ちていた。朝焼けが遊女を紫に染め上げ、その中でなお赤く誇る牡丹一華。
「貴方は私の意志ごと、いいえ、他の全てを取り込んで“貴方”としたの」
貴方が私を気高いというのなら、貴方も気高いのでしょう。
貴方が私を己の野望に為凄絶ですらあったというのなら、やはり貴方も凄絶。
「何を恐れるの櫻宵。貴方の先には路があるというのに」
「…………ああ」
あの夜のように甘く、だがあの夜よりも傍らにいる。
「ちゃんと歩むよ。私は護龍だ」
大成功
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アウグスト・アルトナー
▼想い人
『ユーリ』享年15歳
明るく元気な悪戯っ子、ぼくの兄さん
長めの金髪
ぼくが持ち歩く髑髏の一つの主
ぼくは普段から兄さんの幻覚を見ているので、話すのは慣れっこ
▼台詞例
「だーれだ」(目を手で塞ぐ)
「グストが信じる道を行きなよ。僕はいつだって見てるから」
▼会話
……ユーリ兄さん?
もう、またそうやってぼくに悪戯するんですから
兄さん、今だから言いますよ
ぼくは、普段ぼくが見ている兄さんが、幻だって理解しています
もちろん、今の兄さんも
……足枷を緩めれば、虚実の区別がつかなくなりますが
兄さん、ぼくは本当にこのままでいいんですか?
……ええ。兄さんなら、そう仰ってくださると信じていました
これからもぼくらは一緒です
●
「だーれだ」
大人より繊細で華奢な指がアウグスト・アルトナー(悠久家族・f23918)の長い睫をくすぐり視界を遮った。
ひんやりとした体温は生者のものではない、然れどいつもは触れられない感触にアウグストは珍しく高揚を抱く。
「……ユーリ兄さん?」
「違うよー」
なんてふざけた声に哀しさが胸に注がれる。やはり死者と逢えるなんて与太話は……とか、もしかしたら想いが足りないのか……とか。挙げ句は「いつも逢ってるから」との強がり。
難しい顔をしているアウグストの視界が一気に開けて、淡くも輝く金髪の青年が視界いっぱいに破顔した。
「嘘、あたり」
「もう、またそうやってぼくに悪戯するんですから」
「へへへ」
10近く下の兄の名は『ユーリ』という。青年というにはまだ子供っぽい内に籠もりがちの己とは対照的な人。
ユーリは橋の欄干に身軽に飛び乗り腰掛ける。
「危ないですよ」
「大丈夫だって。グストは恐がりなんだから」
「兄さんがやんちゃすぎなんですよ……」
欄干に凭れて身を寄せると、いつもの幻想にはない冷えた熱が感じられて、胸に込みあげるものがある。
話すのは慣れっこ、死者であろうが驚いたりしない。もっと言うと心から冷静に振る舞えると思っていたのに……。
何時も携える三連の籠は、今は黒い布をかけ隠してある。でも中身の予想はつくのだろう、ユーリはちらと一瞥の後に空を仰いだ。
「グストは難しいことを考えすぎなんだよ」
「……だって」
自分の子供じみた声に驚いたのはアウグストの方だ。
その高ぶりは、普段から逢っている家族を『幻』と認めてしまうようで、ますますやるせない気持ちに陥る。
この邂逅を尊んでかけがえのないものとして定義すればするほど、いつもは孤独なのだと認めているようなもの。
「あー、もう、グースートー!」
軽い音をたてて欄干から降りたユーリは、正面に回り込むとアウグストの手を握りしめた。
「兄さん」
頬を膨らませて見据えてくる瞳は子供じみているのに、幼い頃に追いかけた頼りがいある兄だ。
「兄さん、今だから言いますよ」
聞いてくれますか? との裏側の願望を後押しするように、握ってくれる指に力がこもった。
「ぼくは、普段ぼくが見ている兄さんが、幻だって理解しています…………もちろん、今の兄さんも」
この兄といつもの兄は同じ。
「……うん、そうだね。僕は僕だ」
認められたら一瞬でアウグストの胸が寂寞に染まったが、まるで「見ろ」と言わんばかりに近付いてくる兄の表情は力づけるよう真っ直ぐに笑っていた。
「……足枷を緩めれば、虚実の区別がつかなくなるんですが」
「それで何か困ることでもあるの?」
率直な疑問には唇が凍り付き黙り込む。
骸骨を籠に入れ持ち歩き、幻の家族と対話するのがアウグストの安らぎだ。
つまり世間一般の“正常”から甚だしく逸脱している。でも逸脱者として生き続ける躊躇いも傍らにはあって……。
「兄さん」
顔を覆いたくても手のひらは兄に握られている。
だからこんなに情けない顔を見せなくちゃいけない。鉄面皮のエレガントに覆ったシークレットを!
「ぼくは本当にこのままでいいんですか?」
「…………」
ユーリの顔が遠ざかる。夜に沈んでいたから闊達さしか目立たなかっただけで、明けはじめた今、寂寞も絡んだ複雑な顔をしていたのだとわかる。
でも、相変わらず気丈に励ましてもくるのだ。
アウグストは答える代わりに震え解けかける兄の手を確りと握り返した。
――離れたくない。
「僕は僕だよ、グスト」
頬がふれあう距離、けれども存在感は最初より随分と薄れている。
「グストが信じる道を行きなよ。僕はいつだって見てるから」
こつんと当てられた額、兄は擽ったそうに破顔を見せた。兄が笑えばつられるのが弟だ。今だって変わらない。変わらなくて、いいんだ。
「……ええ。兄さんなら、そう仰ってくださると信じていました」
いつだって見ていて下さい、そうやって。
思いの丈を受け取って『想い人』は朝焼けに融け姿を消していく。
「これからもぼくらは一緒です」
自分と家族へそう口にしたならば、もう迷いはない。
大成功
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